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ourdays

1 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月01日(火)23時27分48秒

大人小説っ!!
……と思ったが、知り合いに見せたら「こんなん、中高生の恋愛やで」と云われてしまった。最近の十代は進んでいるのだなあ。

ゆったりとした更新を希望。
では、行きます。
2 名前:吉澤ひとみ(1)−1 投稿日:2000年08月01日(火)23時30分18秒

深夜1時。
レッスン場には、私一人だけが残っている。
エビアンを飲みながら、夏先生がくれた、レッスンビデオを見ていた。

プッチモニの3人のなかで、私だけが、歌もダンスも1人遅れていることは、自分でも自覚している。2人に追いつく、まではいかなくても、恥ずかしくない程度には上手くやりたい。
汗で濡れて重くなったTシャツを着替えて、もう一度、『青春時代123』の振り付けを、一通り流してみる。
保田さんには、身体の中で、細かくビートをきざむようにアドバイスを受けた。けど、振り付けを追っかけるだけで精一杯の私には、まだ保田さんみたいに動くことが出来なかった。

(ああ、もう3時だ)

少しも上達しない自分自身にイライラする。
明日は、このスタジオに7時に集合だ。あと4時間ほどしかないけど、ソファーで仮眠を取ろう。
寝る前に、夜食のベーグルを食べて、喉がつまった。エビアンを飲もうとして、もう空っぽだったことに気付く。
薄暗い廊下を歩いて、ジュースの自販機に向かった。
3 名前:吉澤ひとみ(1)−2 投稿日:2000年08月01日(火)23時31分15秒

途中、スタジオから光が漏れているのが見えた。
(編集の人が残業でもしてるのかな?)
扉が開いて、中から、夏先生が出てきた。
(あれ? もう帰ったと思ったんだけど)
声をかけようと思ったけど、その中に見えた、もう1人の人物にビックリした。
(──つんくさんだ)
どうして、こんな時間に、スタジオにつんくさんがいるんだろう。明日は、普通にダンスレッスンをするはずで、レコーディングの予定は入っていなかった。

(ま、余計な詮索はしないでおこうっと。私は、私のことで精一杯なんだから)
扉が閉まって、その前を、見つからないようにそろそろと歩いた。
立ち聞きするつもりなんてなかった。
スタジオの中から漏れてきたつんくさんの言葉を聞いてしまい、足が動かなくなったんだ。

「プッチモニな、一ヶ月限定で、4人に増員するつもりなんや。すっごい話題になるで、ホンマ」

(4人? ……ののちゃんが、限定で入るのかな?)
確かに、バイセコー大成功の方なら、ののちゃんが入ったほうが、サマになるのかも知れない。これからのテレビ出演は、そっちを歌うのかな?

違った。私の予想は完全に外れていた。
4 名前:吉澤ひとみ(1)−3 投稿日:2000年08月01日(火)23時32分30秒

スタジオの中には、結構沢山の人がいるようだった。大半は、アサヤンの撮影クルーだった。深夜、スタジオに集まって、娘。メンバーたちには秘密の撮影をしてたってことみたいだ。

「一ヶ月だけですけど、よろしくお願いします」

今夜は、何度もビックリしたけど、その声を聞いたときの驚きが、一番だった。
心臓がドクドク鳴り出し、息を吸い込めなくなって、何度も浅い呼吸を繰り返した。
私は、立ち聞きがバレてしまう、ってキケンにも気づかず、大きく身を乗り出して、スタジオの中を覗き込んだ。

中性的な、ショートカット。
力のある目と、魅力的な笑顔。

(──市井、紗耶香さん)

市井さんが、プッチモニに、一ヶ月限定で復帰する?

私は、震える足を引きずって、レッスン場へと戻った。
5 名前:吉澤ひとみ(1)−4 投稿日:2000年08月01日(火)23時33分25秒

電気を消して、ソファに寝転がる。
真っ暗の天井を見ていると、いろんな思いが頭をよぎった。

モーニング娘。メンバーたちの中で、市井さんとごっちんは、半ば、公認のカップルだった。そのことは、きっと、スタッフも、つんくさんも、みんな知っている。
今、市井さんをプッチモニに復帰させることで、プッチモニをどう変えていくつもりなんだろう。

(どうして、こんなに憂鬱なんだろう)
(ごっちんを、取られるって思ってるのかな)
(私は、……私のことは、別にいいんだけれど)

ぐるぐると、思いは堂々巡りし、結局、一睡も出来ないまま、朝を迎えてしまった。

市井紗耶香と、娘。メンバーたちが再会を果たす、歴史的な朝を。
6 名前:市井紗耶香(1)−1 投稿日:2000年08月01日(火)23時34分31秒

留学の準備は、着々と進んでいた。
現地での受け入れ先も決まり、いよいよ出発を二ヶ月後に迎えた、7月の中頃。
アップフロントから、連絡が入った。
私と事務所で交わした契約についての話がある、と云うことらしく、私は電車に乗って、指定された場所へ向かった。

待ち合わせの場所について、驚いた。
いきなり、テレビクルーが、私を撮影し始めたのだ。
(これは、アサヤンの人たち?)
イヤな予感がした。
私は、アップフロントの代理人の肩書きが入った名刺を受け取って、挙動をいちいちカメラに収められながら、話を聞いた。

「その話、初めて聞きます。納得出来ません」
「それは、そうなんですけど、でも、もう決まりなんですよ。申し訳ありません」
まだ若手っぽいエージェントの彼は、何度も私に頭を下げた。
彼の話の内容とはこうだ。

──市井紗耶香を、八月中頃から一ヶ月、プッチモニに限定復帰させる、と。
7 名前:市井紗耶香(1)−2 投稿日:2000年08月01日(火)23時36分17秒

どうも、アサヤンが、八月を娘。特集と決めたそうで、その目玉企画にするらしい。
相変わらずアサヤンは、何か爆弾を用意したがる。
(なんて感心してる場合じゃないや)
いろいろと話を続けているうちに、これはどうしてもやらないといけないことになりそうだ、と思い始めていた。

そもそも、事務所とは三年間の契約を交わしており、まだ私は、アップフロントに所属していることになっていた。勝手に事務所の意向を無視すれば、損害賠償を請求されかねない、と暗にほのめかされた。
「──その代わり、留学に関しては、事務所側も最大限、協力させて頂きますから」
「……分かりました」
いろんなコトを思ったけど、決心した理由の一つに、
(また、後藤と一緒にいられる)
ってコトがあった、ってのは、否定できないんだけど。

娘。メンバーと合流する予定の日の前日夜遅く。
つんくさんと、夏先生にスタジオで会った。
これから一ヶ月の予定について、話を聞いた。
今日、明日程度の、短期間のレッスンで、新曲をモノにしないといけない。
だんだん、気持ちが引き締まってゆくのを感じる。
娘。でいるってのは、自らの存在を焼くことだ。現実から遮断された世界で、私は、もう一度、生命のある人形になる。
8 名前:市井紗耶香(1)−3 投稿日:2000年08月01日(火)23時38分35秒

そして、翌日、朝。
別室に待機していた私に、ADさんからの指示が入った。
「モーニング娘。さん、楽屋に全員集合しました」
今日は、ダンスレッスンの予定だ。
私は、アサヤンのカメラクルーを引き連れて移動しながら、最初に、みんなになんて云おうか考えていた。

(うーっす。市井紗耶香でっす。一ヶ月だけの限定復帰になっちゃっいました)
こんな感じが、ライトでいいかな?

アサヤンのスタッフが、カメラを抱えて、先に楽屋に入っていく。

「なんだあ? なんなのー?」
「なんや、このノリ懐かしいなあ」
やぐっちゃんや裕ちゃんの声が聞こえてくる。
照明さんたちのセッティング作業も終わり、私は、中に飛び込む体勢を作った。

だけど、感極まったのか、マネージャーのキャシーさんが、ひそひそ声で云うつもりだったのだろう──フライングで、思いの外大声で云った言葉に、私は固まってしまった。
「みんな驚かないでね。市井紗耶香さんが、モーニング娘。に復帰することになりました!」
おいおい、それじゃあ、意味が違ってくるじゃんか。私は一ヶ月間だけの限定で、復帰するんだぞ。
私は、楽屋に飛び込んだ。
一番に、後藤と目があった。
「市井ちゃん……」
「後藤……」
「市井ちゃんッ!」
後藤は、始め、驚愕の目で、そして、あっという間に、顔を涙でぐしゃぐしゃにして、私に飛びついてきた。
9 名前:市井紗耶香(1)−4 投稿日:2000年08月01日(火)23時47分33秒

「市井ちゃん市井ちゃんッ、嬉しい、すごく嬉しいよ。もう辞めるなんて云わないよね。絶対、云わないでよ。私、プッチ頑張ったよ。これからは、市井ちゃんも一緒だよね。ずっとずっと、一緒だよね」
あ……。マズイ。タイミングを失った。

キャシーを睨む。
彼女も、しまった、と思ったのだろう、さりげなく、私から目をそらした。

メンバー全員が、喜びのかたまりみたいな表情で、私と後藤を見ていた。私は途方に暮れた。

いや、吉澤だけは、戸惑いのような表情を見せていた。
その時は、まだ、吉澤の顔色の意味を深くは考えなかった。
目の前で、子犬のようにはしゃぎながら、私の私服を涙と鼻水でべちゃべちゃにしてしまった後藤に、どう事情を説明したものか、と、そればかりで頭が一杯だった。

娘。以外の関係者全員に、箝口令がしかれた。
一ヶ月のタイムリミットぎりぎりまで、期間限定復帰であることを隠しておいた方が、よりインパクトが強いのではないか、ということになってしまった。
(ったく、人の気も知らないで)
胃の痛い一ヶ月になりそうだ。

アサヤン、娘。スペシャル一発目。
『怒濤の新展開。市井紗耶香、衝撃の大復帰!』
そのスクープは、文字通り、翌日、日本全国を駆けめぐった。
10 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月01日(火)23時48分54秒

狛犬ッス。
つー訳で、今回は、市井と吉澤とで、交互に視点を変えていきます。これは、私が、三角・四角関係を書くときに使うやり方で──つまり、市井・後藤・吉澤の3人三角関係で、話は進んで行きます。

メインストーリーは「市井は、どちらかを選ぶ」です。
どっちを選ぶかは、まだ、決めてません(笑)。

では。また次の機会に。
11 名前:I&G 投稿日:2000年08月02日(水)01時54分35秒
待ってました!!(やったー新連載)
市井、後藤、吉澤の三角関係、めっちゃ楽しみです。
これでまたつづきが気になる毎日に(笑)
12 名前:越後屋 投稿日:2000年08月02日(水)02時37分42秒
祝!新連載!!

楽しみにしてます。
13 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月02日(水)03時35分35秒
狛犬さんの連載待ってました。
市井、後藤、吉澤ですか。いいですね〜。この3人好きっす!
14 名前:まいのすけ 投稿日:2000年08月02日(水)12時50分42秒
三角関け〜い!!
気になりますな・・・。
15 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月02日(水)23時11分31秒
前回の、

>アサヤン、娘。スペシャル一発目。
>『怒濤の新展開。市井紗耶香、衝撃の大復帰!』。
>そのスクープは、文字通り、翌日、日本全国を駆けめぐった。

は、

>そのスクープは、文字通り、放送の翌日、日本全国を駆けめぐることになる。

に読み替えておいて下さい。
本放送は、時系列でいえば、まだまだ先ですね。
16 名前:吉澤ひとみ(2)−1 投稿日:2000年08月02日(水)23時12分33秒

私は、メンバー内での市井さんの人気について、再確認させられた。
三ヶ月ほど前、一緒に娘。として活動していた時は、私はもう右も左も分からない状態で、周りを見る余裕なんて無かったんだけど、今なら分かる。
飯田さんは、市井さんにべったりで、ごっちんと火花ちらし気味だし、保田さんも、年下の市井さんのセンスに一目置いているようで、わざわざ意見を聞きに行くのだ。

それにしても気になるのは、市井さんの一ヶ月間の限定復帰が、メンバーに伏せられていることだ。
スタッフや、市井さんは、一体どういうつもりなんだろうか。

「それじゃ、ね、今日は、紗耶香のダンスレッスンを重点的にやるから」
夏先生が、プッチモニのメンバーを集めて云う。まずは、基本的なところから、と夏先生が言いかけて、
「あ、もう大体の形はマスターしてきましたから」
と市井さんはこともなげに云った。
「3人のパートは大体分かったんで、4人になってからのフォーメーションの変更点だけ教えてください」
「分かった。さすがだね。じゃあ、これは4人とも変わるところだから、みんなで一緒にやろうか」

市井さんは、3人のパートを、すべて把握してきていた。これには驚いた。
市井さんに話を聞くと、プッチモニに復帰することを知らされたのが一昨日で、それから夏先生に資料を送ってもらって、覚えた、ということだった。
17 名前:吉澤ひとみ(2)−2 投稿日:2000年08月02日(水)23時13分42秒

……って、驚いている場合じゃなかった。
まだ、3人バージョンでさえ、満足に出来なかったのに、フォーメーションや、歌のパートが変わってしまったのだ。私は混乱して、何度も通し練習をストップさせてしまった。
「吉澤さん、視線、何度かあしもと追っかけたよ。慣れたら、前、見ようね」
市井さんに、指摘されて、顔に血がのぼる思いだった。
4人の中で、一番すぐに形になったのは保田さんだったんだけど、その次は、もう市井さんだった。周りを見る余裕が出てきた、ってことだ。

「それじゃ、これから30分あげるから、自主練しといてよ。そのあと、通しでやるからね」

夏先生は、フロアを出ていった。
「えー、もう分かんないよ〜」
ごっちんが音を上げる。
見ると、市井さんの服のすそを引っ張って、駄々をこねるように、指導を要求している。
「もう、後藤は相変わらずだなあ」
市井さんが、じゃあ、最初からやってみ、と促して、ごっちんは、踊って見せている。

「ごっちん、さっそく甘えてるよ」
保田さんが、私のそばで、小声で囁く。
確かに、ごっちんは、誰かに教えてもらう、ってことをあんまりやらない。夏先生やつんくさんには別だけど。
うん。今日のごっちんって、滅多に見られない甘えんぼごっちんだ。
18 名前:吉澤ひとみ(2)−3 投稿日:2000年08月02日(水)23時14分36秒

「保田さん。ちょっといいですか?」
「ん、なに? 30分しかないよ」
「ごっちんと、市井さんて、その……そんな関係、ええと、レズ……なんですか? 私、そういうの、なんか良く分からなくて。私とこれまで遊んだりしてる時は、ごっちんに、そんな様子はなかったのに」
「ん〜」
保田さんは、難しい顔をして、
「あの子たちはね、女の子が好き、っていうんじゃなくて、お互いが、かけがえのない存在なんだよね。見ていて、微笑ましいけどさ、痛々しく思うこともあるよ。どっちかが男だったら、それでもうすべての問題は解決なのにね」

そういうもんか。

ごっちんの表情は、あくまで、幸せ一杯、って感じだけど……でも、市井さんは、ごっちんがはしゃげばはしゃぐほど、つらそうな表情をすることがある。
私は、無邪気なごっちんが羨ましい。
(性差をとおりこして、それほどまでに想われるのって……それほどまでに想えるのって、どんな気持ちなんだろうね)

私はダメだ。
私は、そういう結びつきに対して、根本的な拒否感がある。見た目と中身が違う、ってよくいわれることがあるけど、あれは混乱しているのだ。
私は、人と、どうつきあっていいのか分からない。
19 名前:吉澤ひとみ(2)−4 投稿日:2000年08月02日(水)23時16分05秒

この世の春、といった風情のごっちんは、目を見張るような集中力をみせ、あっという間にダンスをマスターしてしまった。
私も、保田さんに教えてもらい、なんとか一通り踊れるようになった。
夏先生が、じゃあ、通しでやるよ、と云い、青春時代123をCDラジカセにかけた。

『♪急がなきゃ、間に合わんDay』

今回のフォーメーションでは、後ろに位置することが多くなった。後ろから見ると、市井さんのダンスの完璧さが分かった。つられて、ごっちんや、保田さんの動きまでが変わったように思う。改めて、市井さんがプッチモニで果たしていた役割の大きさを思い知らされた。
(私が、市井さんの代わりになれるようにプッチで頑張る、だなんて、すごい思い上がりだったんだなあ)
ちゃんと踊れれば、ちゃんと歌えれば、それで終わりじゃなかったんだ。

『♪地球を見てみたいー』

市井さんと、ごっちんが、前後を入れ替わる。

『大・好・き!』

ごっちんは、市井さんをちらっと見て、はにかむように云った。すぐに、真っ赤になった。

うわあ……こっちまで赤面するよ。

ちら、と保田さんを見ると、保田さんもやれやれ、って感じで、笑っていた。いつもは厳しい夏先生まで、なんか仕方ないなーって顔をしていた。

『♪青春時代なんだよー』

今度は市井さんの番だ。
市井さんは、いたずらっぽくニヤッと笑うと──なんと、ちょっと横を向いて、正面から見えない方の目でごっちんにウインクして、『大好き!』ってやった。またもやごっちんは真っ赤になった。
私はもうおかしくておかしくて、笑ってしまった。身体のこわばりがとれて、踊るのが楽になった。
これは、確かに、いいカップルだ。メンバー全員が、応援しているのも良く分かる。
いい雰囲気で、レッスンは終わった。
すでに、明日にでも本番行けるような完成度だった。
これが、つまり、市井紗耶香さんの実力なのだ。
20 名前:市井紗耶香(2)−1 投稿日:2000年08月02日(水)23時17分11秒

ダンスレッスンは、一応、順調に終わった。圭ちゃんは全然問題ないし、ごっちんも、まあ踊れてるんだけど、やっぱ心配なのは、吉澤だった。
(まあ、私もサマーナイトの頃は散々だったから、偉そうにはいえないんだけどさ)
一度、じっくり練習を見てあげた方がいいかも知れない。
……っていうか、みんな気付いていないんだろうか。吉澤は、あやうい感じがする。
プッチのラジオを聴いていた時も思ったんだけど、彼女は、どこか、身構えている。違う自分を作って、本当の気持ちを隠しているみたいな……。
私がいる間に、彼女のことも、なんとかしてあげたい、って思う。

さて、今日は、アサヤン、娘。スペシャル、一発目のトークと歌の収録だ。
ゲストは、プッチモニ。まず、3人だけで登場して、あのもったいぶったVTRを流して、私の復帰を大々的に発表する。そして、私が登場、って流れだ。
『そうなんです。プッチモニ、4人体勢、大決定なんです!』
今日は、客を入れていない。静かに、収録は進行してゆく。
『その、増員されるメンバーとは……』
ダダダッ。

つんくさんの声で、
『──市井紗耶香』
『プッチモニへの増員、それは、モーニング娘。から脱退した、市井紗耶香、その人だったんですッ! くう〜〜ッ』
21 名前:市井紗耶香(2)−2 投稿日:2000年08月02日(水)23時18分05秒

ADさんが、登場の合図をする。私は、スモークをくぐって、スタジオに入った。
司会の矢部さんが、私を呼ぶ。
「市井紗耶香さんでーす」
「ども、帰ってきちゃいました」
頭を下げ下げ、4人が一列に並んだ。
岡村さんが、
「帰って来ちゃいましたか」
私の言葉に続けて云う。
「なんで繰り返すねん」
「ええやんか。帰って、来ちゃいました!」
「もうええがな」

矢部さんが、進行用のファイルを開いて云う。
「どうですか? 休んでいた間、何してました」
「ずっと勉強してましたよ」
「へえ〜。で、どうして復帰しようと思ったですか?」
「まあ、それなりにいろいろと」
「そう、いろいろと!」
カメラが、岡村さんをとらえる。
「なんで大声出すねん。しかも、たいしておもしろうもない」
「おもろない云うな」
岡村さんは私の前をうろうろ歩いた。
「でも、あれやね。市井さん」
「はい」
「もう辞めるとか云うたらあきませんよ」
うっ。

私は、黙り込んだ。
「なんでそこで黙るねん」
矢部さんがつっこむ。
岡村さんは、おやおやあ、と叫び、私に詰め寄った。
「まさか、まさかー、ですよ。もしかしてぇ、市井さん、また辞めるいいだすつもりやないでしょうね」
「岡村さん、変なこと云わないでください」
後藤が、本気口調で云う。
「市井ちゃんは、絶対辞めないです」
「そうですよ。今度紗耶香が辞めるとか言い出したら、岡村さんのせいですよ」
圭ちゃんも、マジ顔で云う。
「なんやねん。怒らんでもええやんか」
吉澤は、一言もしゃべらなかった。なんだか、私の顔色をうかがっているようにも思えた。
22 名前:市井紗耶香(2)−3 投稿日:2000年08月02日(水)23時19分25秒

ふう。
収録を終えて、楽屋に入る。1人、ため息をついた。こんな、胃の痛い日々が、これから一ヶ月続くんだろうか。

「市井さん」
急に話しかけられて、ビックリした。誰もいないと思っていたのに、先客がいたみたいだ。
「今日は、大変でしたね」
「ん〜、そうだね」
「私、知ってます。市井さんが、一ヶ月たったら、またプッチモニ辞めちゃうってこと」
吉澤は、夜中にスタジオでつんくさんたちと会った時、たまたま、居残ってダンスの練習をしていたこと、立ち聞きしてしまったこと、なんかを話した。
「だから、市井さんの限定復帰の話が、こんなことになっちゃって、私も驚いているんです」
そっか。話が出来る仲間がいたよ。
「そうなんだよ。ひどいって思うっしょ? スタッフが黙ってろ、って云うんだよ。そもそも、キャシーが悪いんだよ。もう」
23 名前:市井紗耶香(2)−4 投稿日:2000年08月02日(水)23時20分26秒

私の愚痴をうんうん、と聞いていた吉澤は、自分のカバンから紙袋を出した。
「ベーグル食べます?」
「え……うん」
紙袋の中から、一個、取り出す。
「半分こです」
左右に引っ張って、二つにちぎる。
「ああっ」
キレイに分かれなかった。
吉澤は、大きな方をじっと見つめて、
「はいッ」
そっちを私の鼻の前に突き出した。
「早く、早く受け取ってください」
目をぎゅっ、と閉じて、ベーグルを握り潰さんばかりにしっかと握っている。
「あの……小さい方でいいよ」
「こういうのは縁起物ですから」
「……そお?」
もぎゅもぎゅもぎゅ、と吉澤のベーグルを食べた。
「ゆで卵もあります」
「吉澤ってさ、いつも、こんなの持ち歩いてるの?」
「そんなことはありません」
2人で並んで、ゆで卵を食べる。
「市井さんに元気になって貰おうと思って、持ってきました」
うーむ。
「そっか、ありがと」
「元気になりました?」
「うーん、それは……」
「私のでんぐり返し見ます?」
「それはいいよ」
吉澤は、困ったような表情になった。
「あ、あのさ、私も、吉澤のこと、よっすぃーって呼んでいいかな?」
「え、いいですよ」
「私のこと、紗耶香でいいよ。市井さんって、なんかくすぐったい感じだし」
「はい。分かりました、紗耶香さん」
吉澤は──いや、よっすぃーは、笑顔になった。
なんだか……後藤が2人になった気分だった。
24 名前:市井紗耶香(2)−5 投稿日:2000年08月02日(水)23時21分14秒

4人バージョンの歌録音やら、番組収録やら、雑誌取材やらで、忙しく毎日は過ぎていった。
久々に、後藤と同じ部屋で眠った。
朝、先に目が覚めた。時計を見ると、六時半だ。
今日は、ゆったりめで八時集合なので、まだ時間がある。
コーヒーメーカーをセットして、テレビをつけた。
いきなり、私の顔アップが映っていて、驚いた。

『そうなんですよ。昨日のアサヤンで、発表されたんです』
私の復帰のことを軽部さんが云っていた。
そっか。あの収録の放送は、昨日だったのか。
『元々、復帰させる予定だったってことはない? だから、プッチモニは3人で始めたとか』
大塚さんが云う。
『そうなのかも知れません。とにかく、これは大ニュースですよねえ』
『案外、また辞めちゃうんじゃないの?』
大塚さんの言葉に(……するどい)と思った。

「ん……市井ちゃん、起きたの? おはよ」
ゆるみきった寝起きの顔。
「コーヒー入れたよ。もう起きる?」
「うーん、市井ちゃんと一緒に寝るー」
「よしっ」
後藤の横にダイブする。
そのまま後藤に抱きついて、くすぐってやる。
「寝るなあ、起きろー」
2人で、しばらくの間、じゃれあう。
25 名前:市井紗耶香(2)−6 投稿日:2000年08月02日(水)23時22分16秒

コーヒーのいい匂いが、部屋の中にいっぱいになった。
私は起き出して、コーヒーカップを手に、後藤の元に戻る。
「ほら、もう充分寝たでしょ」
コーヒーを飲みながら、4人体制でのプッチモニについて考えていた。4人で踊ると、どうしてもよっすぃーが遅れてしまうのだ。それを、本人が結構気にしている。
後藤もモソモソ起きてきて、コーヒーを飲んでいる。私の顔を見上げて、
「なんか、違うこと考えてる〜」
服を引っ張って、云う。

「うん、よっすぃーのコトなんだけど」
「なんでよっすぃーがここで出てくるのよ。いつの間に、よっすぃーって呼ぶようになったのよ」
「後藤は、よっすぃーと仲良さそうじゃん。いつも一緒に行動してたんでしょ? きっと、タイプが似てんだよね」
「うん? 嫉妬? 焼きもち? めらめら?」
ニタニタ笑って、私の顔を見る。

「いやあ、後藤とどこまで同じか、一回、よっすぃーにお願いしてみようかな、って思って」
がっし、と強い力で、後藤が私の腕をつかんだ。
「その冗談は笑えねッス」
まずい。すごく痛いぞ。
「さて、そろそろ朝ご飯かな」
「ごまかしてもダメッ。ちょっと、ここに仰向けになりなさい」
「なんでだよー」
今日も、2人は平和でした。
26 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月02日(水)23時25分09秒

うーん、全然大人小説じゃなーい。むしろいちごまじゃん。
まあいいや。
では。
27 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月02日(水)23時41分33秒
吉澤の市井に対する気持ちがどうなるか気になります。
いちごまではあるんだけど、なんか読んでていちごまを素直に味わえない。
たぶんそれは俺が吉澤びいきだから。
28 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月02日(水)23時53分54秒
いやいや、さいこーです。
29 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月02日(水)23時58分06秒
頑張ってください。
まず発想が面白いですね。
実際にこういう展開になったらどんなにいいことか・・・
おっと、また妄想癖が(w
30 名前:undefined 投稿日:2000年08月03日(木)00時36分16秒
おもしろーい!
さすが狛犬さん。。。
期待してまっせ!
31 名前:まこと 投稿日:2000年08月03日(木)11時59分42秒
もうめっちゃ最高です〜!
後藤かわいいですね。そして市井ちゃん男前!
そして圭ちゃんもいい感じ、二人を最も理解してるって感じがいいです。
あと、よっすぃ〜は、微妙・・・。でもかわいいですね。

これからの展開も楽しみにしてます。
では。
32 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月03日(木)21時14分16秒

ゆったりと進めていくはずなのに、
どうして、毎日更新しているんだろう。
33 名前:市井紗耶香(3)−1 投稿日:2000年08月03日(木)21時15分10秒

(私を、置いていかないで。私も、一緒に連れて行って……)
途中から、夢だってことは気付いていた。私はもう子どもじゃないし、あれは、ずっと昔の話なのだ。
なのに、どうして、こんなに涙があふれてくるんだろう。
(1人で、眠ったからかな)
ぼんやりと、豆球を眺めている。
窓の外に、夜は未だ深い。

娘。を脱退してからは、ずっと1人で眠っていたのにね。一度、人肌を思い出しちゃうと、ダメだね。

(あのとき、私は、分かってた。……あの人は、もう、戻ってくるつもりはないってこと)
小学生の私。
普段と変わりない様子で、玄関を出ていく背中。
でも、私には分かったのだ。
(──置いていかないで)
その言葉は、声にならなかった。
私は、あとで、何度もその光景を夢に見た。
いつも、のどがひりついて、声が出ないのだ。

(──置いていかないでよう)
いつも、私は、心の中で、叫ぶのだ。
34 名前:吉澤ひとみ(3)−1 投稿日:2000年08月03日(木)21時15分53秒

紗耶香さん効果は、絶大だった。
プッチモニのCDは、再び売れ初め、売り上げは、八十万枚を突破した。このままいけば、百万に届くだろう。
ラジオにテレビに、忙しい日々が続いた。

「あ〜あ、もう、私、一生分のウソついちゃったよ、きっと」
紗耶香さんは、私と2人っきりになると、決まっていろんなことをぼやいた。私は、紗耶香さんと共通の秘密が出来て、単純に嬉しかった。
ごっちんは、前みたいに遊んでくれなくなったし、紗耶香さんは、ごっちんの彼氏(?)みたいなものだから、3人が揃うと、私は、いつも席を外した。
1人指相撲をしたり、源じいの役作りをしたりして、1人で遊んだ。

「ねえ、よっすぃー。前から思ってたんだけどさ」
雑誌の写真撮影で、ごっちんと保田さんが、カメラの前でポーズを取っている。私と紗耶香さんは休憩していた。2人っきりの場面で、紗耶香さんが、珍しく愚痴じゃないことを云った。
「ほら、私、あと2週間チョットで、プッチ、辞めちゃうじゃん? でさ、一回、よっすぃーのダンス、きっちり見ておきたいんだよね。近くで見てるとよく分かるんだよ。よっすぃーの悪いクセとかさ」
「あ、はい。お願いします」
願ってもない申し出に、私は二つ返事で了解した。
「明日、仕事、昼からじゃん? 今晩、遅くまでいいよね? 例のスタジオ、マネージャーさんに頼んで、とっておいてもらったんだ」
なんだか、ウキウキしてきた。
紗耶香さんと、2人で、夜中のレッスンだ。
35 名前:吉澤ひとみ(3)−2 投稿日:2000年08月03日(木)21時18分41秒

「市井ちゃんッ」
撮影が終わったのか、ごっちんが紗耶香さんに飛びついてきた。
「ねえねえ、今日、これで仕事終わりだよね。市井ちゃん、これから遊ぼうよ」
「ええー?」
紗耶香さんは、露骨にイヤそうな顔をした。
「あーっ、なんでそんな顔するの。私と遊ぶの、ヤなの?」
「……そんなことはないけど」
雲行きが怪しくなってきた。

私は、紗耶香さんに、両手を小さく振って、後藤さんと一緒に居てあげてください、みたいなニュアンスで、唇だけを動かした。
紗耶香さんは、片目を閉じて、右手を顔の前でゴメン、って感じで立てた。
ごっちんは、紗耶香さんの首にかじりついていて、気付かないようだった。
「分かったよ。なにして遊ぶ?」
「やったー」
スキップしているごっちんを連れて出ていく紗耶香さんを見送る。

保田さんが、すすすっ、と横に寄ってきて、
「なにアイコンタクトしてたのよ?」
ひやかすように云った。
私は、なるべく笑顔を作って、
「いえ、なんでもないです」
と答えた。
保田さんは、微妙な表情で、私を見ていた。
36 名前:吉澤ひとみ(3)−3 投稿日:2000年08月03日(木)21時19分40秒

(スタジオは、もう押さえてるんだから、今日は特訓の日にしよう)
保田さんと別れて、私は、いったん自宅に戻った。着替えとレッスンビデオと夜食のベーグルを持って、タクシーでスタジオに向かった。
とりあえず、シャワー浴びて、服を着替えて、気分一新、フロアに戻る。
──と、先客がいた。
紗耶香さんと、ごっちんだった。
(ありゃまあ……)
2人は、昨日、私が寝てたソファに座って、イチャイチャしていたのだ。

ええと、覗きをするつもりは無かったんだけど、後学のために、少し、様子を見てみることにした。

(私は、今、レズレズのシーンを目撃しています)

ドキドキしながら、展開を待ったのだけど。
それは、行為と呼べるものでさえなかった。お互いの体温を感じあっているかのように、2人はただぴったりとくっついていた。
時々、紗耶香さんが、すっごく優しい表情で、ごっちんに話しかける。すると、ごっちんはとろけるような表情になる。2人で見つめ合って、たまに、頬をこすりあったりして……お互いへの思いやりに満ちていて、なんだか、その光景は、とても悲しく感じられた。

(まるで、捨てられた子どもたちが、お互いを慰め合っているみたいだ)

涙が出てきた。
彼女たちは、この世界に、2人だけしかいないのだ。だから、互いを見つめ合っていないと、途端に、独りぼっちになってしまう。一人っきりの恐怖から逃れるために、抱きしめあっている。

それは、私が知ってるコミニュケーションとは、全く異質なものだった。
37 名前:吉澤ひとみ(3)−4 投稿日:2000年08月03日(木)21時20分23秒

……私は、娘。メンバーになる半年ほど前に、ムリヤリ女にさせられている。相手は、その頃付き合っていた年上の人だった。
その行為が、別段乱暴だった訳でもないんだけど、私には無慈悲な仕打ちのように思われた。それまでは支え合っていた関係だったはずなのに、2人の関係の間に性が入るだけて、それはケダモノめいた行為に堕ちてしまう。

私は、人に、失望していたのだった。

(──でも)

彼女たちは、違うのかも知れない。
むしろ、同性だから、昇華される関係、っていうのも、あるのかも知れない。

と、窓から覗いていた私と、紗耶香さんと目があった。あまりにも向こうが自然に視線を合わせてきたので、動けなかった。

紗耶香さんは、私を確認して、ニヤッ、と笑うと、

うっとりとしているごっちんに、
あろうことか、

……あろうことか、

ええと、

ごっちんを上向かせて、唇を重ねて、右手を××××の×××に××いて、××××××みせたのだ!!

はううっ、と、ごっちんが、甘い吐息を漏らす。

紗耶香さんは、どういうつもりなのか、もう一度、私に笑いかけた。
38 名前:吉澤ひとみ(3)−5 投稿日:2000年08月03日(木)21時21分08秒

私は、頭に血がのぼった。
怒りからなのか、それとも、嫉妬からなのかはその時は分からなかった。
(全然、悲しい光景じゃない。これじゃあ、男となにも変わらない。醜い。2人は醜い。紗耶香さんは、ヒドイ人だ)
くらくらと目眩がして、金縛りが解けた。私は、紗耶香さんを睨み付けて、その場から離れた。

(ヒドイ、ヒドイ、ヒドイ、ヒドイ)

私は、頭の中で、2人を罵倒した。
そうしないと、心が壊れてしまいそうだった。
そうだ。少しでも、心が動いた私がバカだったのだ。
純粋な関係なんて、この世界にあるものか。
2人は、倒錯的な関係を楽しんでいるだけなんだ。

シャワー室に、飛び込んだ。
帰るにしても、あまりにも動転していて、少し気分を落ち着ける必要があった。
何度も、深呼吸する。
どれくらい、そこにいただろうか。
1時間は、じっとしていたような気がする。

「よっすいー? 元気?」

紗耶香さんが、おでこをポリポリかきながら、シャワー室に入ってきた。

「私はいいです。もう終わったんですか?」
「あっ、その言い方、すごくトゲがあるなあ」
「私には、分かりません。やっぱり、あんな関係、おかしいです」
「ええと、あのさあ」
紗耶香さんが、私の肩に手を乗せる。
「やめて下さい。そんな、ごっちんをあんなことした手で」
「え〜、手は洗ったんだけど」
「触らないでください」

私の中に、ごっちんを羨ましい、って思う気持ちはあった。だから、ここまでかたくなになったんだろう。
39 名前:吉澤ひとみ(3)−6 投稿日:2000年08月03日(木)21時21分38秒

その証拠に、
「ああっ」
「じっとして」
紗耶香さんに、そっと抱きしめられて、動けなくなった。
全然、力の入っていない、優しい抱擁。
振り払おうと思えば、いくらでも出来るはずなのに、身体に力が入らなかった。

「ヘンなことは、しないよ。こうするだけで、すごく癒されるんだ。ほら、私、よっすぃーの体温と呼吸と、心臓の音、感じてるよ。あったかいよ。よっすぃーはどう?」
「……あったかいです」
「ね? 別にさ、いろんなことする必要ないんだ。こうしているだけで、癒されるんだよ。私も、今、よっすぃーに癒されてるんだ」
「紗耶香さんも、ですか?」
「うん。よっすぃーのお陰だよ」

──キスしたい。

それは、激烈な欲求だった。
紗耶香さんは、この独りぼっちの世界で、初めて見つけた他人だった。私は、1人で、凍えていた。紗耶香さんが、私を、あたためてくれた。
もっと、もっと一つになりたい。
40 名前:吉澤ひとみ(3)−7 投稿日:2000年08月03日(木)21時22分11秒

最初に、一線を越えたのは、私。
(紗耶香さんは、ごっちんのモノなんだから)
分かってる。
でも、気がつくと、紗耶香さんの肩をつかんで、
「よっすぃー、ちょっと!?」
今、このチャンスを逃したら、私は、また、長い間、1人になってしまう。そんな強迫観念めいた思いが、私を、衝動的な行動にかりたてた。

ゴメン。ごっちん、本当に、ゴメン。

紗耶香さんとのキスは、涙が出るほど、せつなくて……心が震えた。

「よっすぃー?」
「紗耶香さん……」

死ぬほど、後悔した。
自分を抱き締めて、泣いた。

だって、紗耶香さんは、私のそばに居てくれる訳ないのに。なのに、こんなに、心が満たされる経験をしちゃったら、もうダメだ。

私は、弱くなった。

もう、1人では生きていけない。

なのに、私のそばに居てくれる人はいないんだ。

(私は、独りだ)

その、圧倒的な思いに、涙はあとからあとから流れ続けた。
41 名前:市井紗耶香(3)−2 投稿日:2000年08月03日(木)21時23分10秒

調子にのりすぎた。

怒った目で、私を睨んで、よっすぃーは扉の向こうの暗闇の向こうに消えた。
「どうしたの?」
ごっちんが、トロンとした目つきで、私を見上げている。
そうだよな。まずいよな。
本当は、ここで、よっすぃーのダンスの特訓をするはずだったのに。
多分、よっすぃーは、私が来られなくても、1人でトレーニングするつもりだったんだ。
そのはずが、先回りしていた私たちが、こんなことしてんだもの、そりゃあ怒る。うん。

「ゴメン、後藤。急用思い出した。今日は1人で帰ってよ」
えーっ、と不満の声をあげる後藤をムリヤリタクシーに押し込んで、私はスタジオにとって返した。

まだ、よっすぃーは建物内にいるみたいだった。

「よっすぃー? 元気?」

いた。
シャワー室で、うなだれるように座り込んでいた。
(あちゃー、悪いことしたなあ)
私は、なんとか場をなごませようと四苦八苦しながら、それに気付いた。

彼女は、なんだか、昔の私に似ている。

すべてを拒否して、自分の周りに壁を作って、ただあがいていた子どもの頃の私。
本当の自分を見つけられるまで、とても苦労したし、自分自身を、ひどく痛めつけた。
42 名前:市井紗耶香(3)−3 投稿日:2000年08月03日(木)21時23分57秒

よっすぃーは、触られるのが怖いんだ。
だから、触れられない。
彼女は、人を怖がっている。
なのに、1人が怖くて、だから、道化になるんだ。

それが、同情なのか、自分でも分からない。
気がつくと、よっすぃーを、抱きしめていた。

「ヘンなことは、しないよ。こうするだけで、すごく癒されるんだ。ほら、私、よっすぃーの体温と呼吸と、心臓の音、感じてるよ。あったかいよ。よっすぃーはどう?」
「……あったかいです」

よっすぃーの心に、手が届いている実感がある。
同時に、いけない、これ以上進んではいけない、って警報が鳴っているのを感じる。
ここで、引き返さないと、どちらかをひどく傷つけることになる。

「ね? 別にさ、いろんなことする必要ないんだ。こうしてるだけで、みんな、癒されるんだよ。私も、今、よっすぃーに癒されてるんだ」
「紗耶香さんも、ですか?」
「そう、よっすぃーのお陰でね」

ぶるるっ、とよっすぃーの身体が震えた。
泣き出しそうな表情で、よっすぃーは私の肩をつかんだ。
「よっすぃー、ちょっと?」
私は、抵抗した。
でも、よっすぃーは、全身で、助けて欲しい、って悲鳴をあげていて、私には、それが敏感に感じられて、

(ゴメン。後藤、本当にゴメン)

これっきりにするから、今は、ゴメンね。
43 名前:市井紗耶香(3)−4 投稿日:2000年08月03日(木)21時24分32秒

よっすぃーの唇は、とても冷たくて、
よっすぃーのキスは、がむしゃらに求めてくるようなキスで、

「よっすぃー?」
「紗耶香さん……」

よっすぃーは、自分を抱きしめて、泣きじゃくっていた。
私は、激しく後悔した。
私が、昔、経験した気持ちを、彼女にも与えてしまった。

知らないままの方がいいことも、この世界にはあるんだ。
なのに、彼女は、きっと、知ってしまった。
その気持ちを教えたのは私。

私と、彼女は、どこか似ている。

分かってる。
よっすぃーが、今、何を求めてるのか。
何をしてあげるのが、一番、彼女のためなのか。

(なんで、こんなことが、すぐに分かっちゃうようになったのかな私)
44 名前:市井紗耶香(3)−5 投稿日:2000年08月03日(木)21時25分47秒

あとは、一歩、踏み出せば、いい。
もしくは、一歩、引いてしまって、明日からは、また普通の関係に戻れば。
後藤の顔が、脳裏に浮かんだ。
やっぱ、ダメだ。よっすぃーには悪いけど。

私は、震えているよっすぃーから、身体を離した。
よっすぃーは、はっ、と私の顔を見て、それから、すべてを諦めたように、うなだれた。

「紗耶香さん、ごめんなさい。ありがとうございました。後藤さんを、大事にしてあげて下さい」
顔をあげて、よっすぃーは、ムリヤリ笑顔を作った。

私は、罪悪感の塊を抱えながら、背を向けようとして、
よっすぃーは、ぐちゃぐちゃに表情を歪ませて、私の服のすそをつまんで、

(──置いていかないでよう)

本当に小さな声で、囁いた。

その言葉に、私の中の何かが弾けた。
45 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月03日(木)21時26分30秒

今日の分、終わりです。
明日こそ、更新しないぞ!!
46 名前:越後屋 投稿日:2000年08月03日(木)21時38分27秒
両手に花。すばらしい、市井ハーレムだ・・・。

47 名前:I&G 投稿日:2000年08月03日(木)22時27分47秒
あ〜よっすぃー
「いちごま」もいいけど「いちよし」もいい・・・。
48 名前:ちーと 投稿日:2000年08月03日(木)22時55分50秒
この話は真希ちゃんをはさんだ三角関係だとよそうしていたので、ちょっと驚きです。かなり期待してますよ。私は常に真希ちゃんひいきで読んでますんで、この話は痛くなりそうです。続き頑張ってください!
49 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月03日(木)23時55分59秒
うわぁ・・・マジ面白いです。
かなり凄い展開!
マイペースで頑張ってください。
勿論毎日見たい気持ちはありますけどね。
50 名前:サンジ 投稿日:2000年08月04日(金)00時04分11秒
よっすぃーびいきです。だからよっすぃー・・・!
51 名前:まこと 投稿日:2000年08月04日(金)10時09分34秒
市井ちゃんが、よっすぃーのこと後藤みたいだって、思いだした時点で、
何となくこうなるだろうな〜とは思っておりましたが、
それにしても面白すぎます。
市井ちゃんはこれからどうするのでしょうね。
これからの展開が、楽しみ楽しみです。
ゆっくりと頑張っていってください
52 名前:まいのすけ 投稿日:2000年08月04日(金)15時39分54秒
ど〜〜なっちゃうんスかぁ!!(ワラ
よっすぃ〜にも幸せになって欲しいが
いちごまは譲れんし・・・
気になる気になる・・・・・・
53 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月04日(金)17時51分36秒
面白いです。
この4人でラジオやってたらなぁと少し思いました。
なんか楽しそうだし。
これからの展開が楽しみです。がんばってください!!
54 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月04日(金)23時40分25秒

う〜む。
これから、どうなるんだろう……。
では、ゴー!
55 名前:後藤真希(1)−1 投稿日:2000年08月04日(金)23時41分13秒

ここ2、3日、市井ちゃんとよっすぃーの様子がおかしい。
ううん、違う。私と一対一で話をするときは普通なんだ。
でも、市井ちゃんとよっすぃーがツーショットになると、途端に空気がおかしくなる。

どうしたものか、と、ここは第三者の圭ちゃんに相談することにした。
プッチモニダイバー収録の前に、圭ちゃんに、少し早く来てもらう様、連絡を入れた。相談したいことがあるから、でも、市井ちゃんとよっすぃーには秘密にして、と電話で話すと、圭ちゃんは、重たい感じで、うん、分かった、と云った。
そこはかとなく、圭ちゃんも気付いてるんだ。きっと。

「あ、ごっちん、おはよ」
「圭ちゃん、おはよー」

早めに来たつもりだったんだけど、もう暗い顔の圭ちゃんが先に来ていた。
楽屋で、2人っきりになって、
「ねえ、圭ちゃん、相談ってのは、市井ちゃんと、よっすぃーのことなんだけど」
圭ちゃんは、身構えて、うん、って返事した。
「市井ちゃんと、よっすぃーってさ、なんか、最近、仲悪いんだ。2人、目も合わさないし、会話なんで全然ないんだよね。雑誌の取材とかでさ、一列に並んで座るんだけど。したら、絶対に、端っこ同士に座るんだよ」
圭ちゃんは、どもりながら、そうかな〜、とか云った。
「そうだよ。絶対に、2人、ケンカしてる。……でも、きっと、それって私のせいなんだ」
どうしてそう思うの? と圭ちゃんは、私に尋ねる。
56 名前:後藤真希(1)−2 投稿日:2000年08月04日(金)23時42分05秒

「だってさ、よっすぃーと私って親友じゃん? これまでは、いつも一緒にいたのにさ、市井ちゃんが帰ってきてからは、全然遊ばなくなっちゃったから、きっと、市井ちゃんに対して怒ってるんだ」
うううむ、と圭ちゃんは、腕を組んで考え込んでしまった。

それにね、と私は続ける。
「私さ、市井ちゃんに、その、よっすぃーと仲良くするな、って云っちゃったんだ」
じゃれあいながらの会話の中で出た言葉だ。
そのときの場面を思い出して、顔に血が昇ってくるのを感じた。
「いや、ええと、その、ヘンな意味じゃないよ。その、なんていうか、えへへへ」
ううん、照れるぜ。

「プッチモニとしてもさ、その、メンバー間で仲が悪いと、困るしさ、で、なんとかしたいなあ、ってんで、圭ちゃんに相談しようと思ったんだ」
こんなこと、にやけながら話ししても、説得力ないよなあ。
でも、圭ちゃんには、ちゃんと相談の内容が伝わったみたいだ。マジメな──それこそ、怒っているかのような──表情で、私の話を聞いてくれていた。
そして、いきなり、私の頭をがしがしと撫でた。
「ちょっとー、痛いよ。圭ちゃん、なにすんのよ〜」
「ごっちんは、こんなにいい子なのに……って思ってさ」
紗耶香は、一体、何してんだ、って、怒った口調で続けた。

圭ちゃんも、プッチモニのこと、すっごく心配してくれてんだ。そうだよね、4人でプッチモニなんだから。
「私はいい子だよ」
ほめて貰えると、嬉しいな。
よし、市井ちゃんと、よっすぃーが仲直り出来るように、ガンバろう。
そしたら、市井ちゃんにも、頭を撫でてもらえるかもね。
うふふふっ。
57 名前:市井紗耶香(4)−1 投稿日:2000年08月04日(金)23時42分53秒

へその収録に向かう地下鉄の中で、私は、よっすぃーと一緒になった。
「あ、ども」
「はい」
お互い、目も合わせない。
はたから見ると、そっけなく映るだろうか。
でも、こうして隣りに立ってるだけで、よっすぃの体温や心臓の鼓動を感じている。彼女も、同じように思っているだろうってことが、手にとるように分かる。

電車内の扉の前にいるんだけど、お互い、両端に位置してるし、並んで、2人、むしろ顔をそむけあうように立ってるから、まるで他人同士のようだ。
(よっすぃーが、まさか、あんなことになるなんて思わなかったよなあ)
2人が、肉体的に関係したのは、一夜限りだったけど、私の中で、よっすぃーに関する何かが、決定的に変わってしまっていた。
愛情、ではない。
彼女を見捨てておけない、そんな気持ちだ。

それを知られると、きっと彼女は傷つくのだろうけど。
(でも、もう、分かってしまってるのかも知れない)
よっすぃーは、ひどく不器用だけれど、ひどく大人びている。よっすぃーが、遠くから私とごっちんがじゃれてるのを見て、微笑んでいたりすることがある。その時のよっすぃーの笑顔は、透明で、とても悲しく見える。

ちら、とよっすぃーの顔を見ると、向こうもこっちを見ていて、慌てて視線をそらした。
(よっすぃーって、控えめだよなあ)
自分を出すことに、慣れてないのだ。だから、テレビやラジオでは逆に暴走してしまう。
「あ、あのさ、昨日、後藤にさ『最近、よっすぃーと仲悪いんじゃないの』って云われちゃったよはははは」
「私も、ごっちんに『お願いだから、市井ちゃんと仲良くなってよね』って云われました」
うーん。後藤は、私たちのことを、どう見てるんだろう。
58 名前:市井紗耶香(4)−2 投稿日:2000年08月04日(金)23時43分31秒

駅についた。
まだ時間があった。どちらからともなく、構内のイスに座った。
よっすぃーが、カバンの中から、紙袋を取り出し、私に差し出した。
「ん」
紙袋に手を突っ込んで、ベーグルを一個取り出す。
よっすぃーも、自分の分を取り出して、ちぎって食べ始める。
私は、ミネラルウォーターのフタを開けて、一口飲む。んで、よっすぃーに渡す。
彼女も一口飲む。

「最近、ベーグルは、1人で買いに行ってたんです。でも、今日は、ごっちんと一緒に買いにいきました」
ふーん、と思う。ベーグルがのどにつまって、よっすぃーから受け取ったミネラルウォーターで流し込む。
「ごっちん、私に気を使って、いろいろと話しかけてくれました。私、ごっちんを裏切ってるのに、だから、私は、こんなに優しくしてもらえる権利なんてないのに」

次の電車がホームに入って来る。
「私って、悪い子なんですよ、きっと」
「え、なんだって?」
どっと、電車から、人が押し出されてきて、
よっすぃーは、何を思ったのか、その人混みの中に歩いていってしまう。

(あ……)

彼女を、見失った。
一体、なんなのだろう。
私は、慌てて、よっすぃーを探した。なかなか、彼女は見つからなかった。
(駅から出ちゃったのかな?)
彼女の行動の意味が分からない。私は、駅の端から端まで歩いた。
地下鉄の駅の外、背の高い鉄格子の向こう側に、きらびやかな地下街が見える。
(駅から出てたんだ)
よっすぃーは、鉄格子のあちら側に、立っていた。
59 名前:市井紗耶香(4)−3 投稿日:2000年08月04日(金)23時44分27秒

「もう、どうしたのよ一体、ちょっと待っててよね」
急いで改札に回ろうとして、
「紗耶香さん、これまで、ありがとうございました」
よっすぃーは深々と、頭を下げた。
「え? なに、なによ?」
「私、本当は、悪い子なんですよ。紗耶香さんが、心配してくれるのをいいことに、甘えてたんです。頼りない女の子を装って、ごっちんから、紗耶香さんを取り上げてた。そんな、悪い子なんです」
「よっすぃ、どうしたのよ一体」

鉄格子に取りつく。

「いい? 待っててよ、そこから動かないでよ」
「紗耶香さん、そこで、私の話を聞いてください」
そっと、鉄格子ごしに、私の手を握ってきた。
あったかい、って、小声で、よっすぃーは呟いた。

「私、本当は、強いんですよ。これまで、1人で生きてきたし、これからも、1人で生きていけます。でも、ごっちんは、そうじゃない。彼女は、本当は、とても女の子らしくて、傷つきやすいんです」
「それだったら、よっすぃーだって同じじゃん」
「私は平気です」
じゃあ、なんで、顔は笑ってるのに、そんなに悲しそうなのさ。分からないとでも思ってるの?
60 名前:市井紗耶香(4)−4 投稿日:2000年08月04日(金)23時45分23秒

「紗耶香さんにはごっちんが、ごっちんには紗耶香さんが必要なんです。だから──」
私の手を握るよっすぃーの力が強くなった。
よっすぃーは、顔を伏せて、その場で、小さく嗚咽し始めた。
「本当に、嬉しかったです。私は1人じゃないって、教えてくれて、嬉しかった。私が大好きになったのが、紗耶香さんで、本当に、良かった。……でも、どうして、……どうして……」
よっすぃーの声は、どんどん小さくなって、聞き取りにくくなったけど、
どうして、紗耶香さんは、ごっちんのものなのかな。私と先に出会ってくれなかったのかな──そう、聞こえた。

「さよならです」

よっすぃーは顔をあげた。
ぎゅっ、と歯を食いしばったその表情には、固い決意が込められていて、私は、
「待って、待ってよ、よっすぃー」
「もう、私に優しくしないで下さいね。紗耶香さんの全部は、ごっちんに注いであげて下さい」
握っていた手を、そっとほどいて、
最後にキスして欲しかったけど、そんなことされたら、またきっと、くじけてしまうから、やめます、と、あの淋しそうな笑顔で云って、よっすぃーは背を向けた。

私は、茫然と、その場に立ち尽くしていた。

「ねえ、紗耶香。ちょっとあんたに話があるんだけど」
へその収録が終わって、圭ちゃんに呼び止められた。
最初から、ケンカ腰だった。
「ふーん、なによ」
自然と、口元に笑みがこぼれた。
ケンカなら、買うよ。今日は、機嫌が悪いんだ。
戦闘開始。
61 名前:後藤真希(1)−3 投稿日:2000年08月04日(金)23時46分21秒

今日のへそ収録は、なんだかキナ臭かった。
市井ちゃんは、なんだか落ち込んでるみたいだし、よっすぃーは、元気がカラ回りしている。圭ちゃんも、何かを思いつめたような感じで、プッチモニ全体の空気がビリビリしていた。
いつもはクールがウリの私が、場を盛り上げちゃったよ。
まったく、みんなプロ意識が足りないんだから。もう。

収録が終わって、よっすぃーと一緒に帰ろうと思ったんだけど、なんか用事があるから、って先に帰ってしまった。
なら、市井ちゃんと一緒に帰ろうと思ったんだけど、圭ちゃんが何かを話しかけて、どこかへ行ってしまった。
う〜ん、1人じゃ淋しいじゃんかよ〜。

市井ちゃんと圭ちゃんって、なんの話をしにいったんだろう? 私とかよっすぃーには話せないことなのかな?
もしかして、恋ハナ? って、圭ちゃんの?
プププ……。
いや、笑っちゃ失礼だ。圭ちゃんも、もう二十歳になる、立派なレディだからね。
(いや、もしかしたら、市井ちゃんの恋話かも知れないぞ。それは許せん)

私は、市井ちゃんと圭ちゃん、どこに行ったかな……って、TV局の中をウロウロと歩いた。
62 名前:保田圭(1)−1 投稿日:2000年08月04日(金)23時47分07秒

私は、本気で怒ってたんだ。
紗耶香は、よっすぃーにちょっかいを出している。そんな確信があった。
ごっちんは、相変わらず、ラブラブモード全開で、紗耶香にまとわりついている。つまり、紗耶香は、ごっちんのことは曖昧にしたまま、よっすぃーとふたまたかけてるってことだ。

「ねえ、紗耶香。ちょっとあんたに話があるんだけど」
へその収録が終わって、紗耶香を呼び止めた。
「ふーん、なによ」
紗耶香は、好戦的に口元に笑みを浮かべて、振り返った。なんでもいいから、暴れ回る相手を探していた、そんな表情だった。
(へえ、上等じゃん)
気分が高揚してくる。2人で話出来るところに移動しようか、って提案して、今の時間帯には誰もいない、仮眠室へ向かった。

「紗耶香さあ、あんた、よっすぃーに手ぇ出してるでしょう?」
単刀直入に聞いた。
「なによ。手を出す、っていろいろあるけど、圭ちゃんは、どんなことを云ってるのかな?」
ヘラヘラ笑いながら云う紗耶香の胸ぐらをつかみたくなってきた。
「紗耶香、あんたね──」
「全部だよ。よっすぃーの全部を頂いちゃいました」
「え? ……なんだって?」
「よっすぃーを抱いた、って云ってるの。それが聞きたかったんでしょう?」
あ、ヤバイ。キレそうだ。
63 名前:保田圭(1)−2 投稿日:2000年08月04日(金)23時47分56秒

「あんた、ふざけてるの?」
「ふざけてないよ〜」
はい、キレた。
紗耶香の頬を平手打ちした。
「私は、マジメに云ってるの! 紗耶香、あんた、おかしいよ。どうしたのよ一体?」
紗耶香は、自分の頬を押さえて、その場にへたり込んだ。やりすぎたかも、とも思ったが、謝罪するつもりもなかった。
「──私さ、プッチ、あと2週間で辞めるんだよね」
え……?
言葉の意味が、しばらくの間、理解出来なかった。

「紗耶香? 今、なんて??」
「本当は、復帰するつもりなんてなかったんだ。事務所が、私の留学の条件として、プッチモニに一ヶ月だけ限定で復帰しろって」
なに? それは、つまり……、
クラクラと、目眩がした。
ええっ? なんで、じゃあ、また、紗耶香はいなくなっちゃうってこと?
しばらくの間、頭が真っ白になってたんだけど、
なんとか、気を取り直して、
「……紗耶香、それってひどくない? なんで、メンバーにそのこと黙ってるのよ」
「仕方ないでしょう!! 事務所が、そうしろって云うのよ。私に、命令するの。私に、どうしろっていうのよッ」
ヒステリーのように、紗耶香は叫んだ。
彼女も、深く悩んでいたのだ。それだけは分かった。
紗耶香の荒い息と、私の沈黙は、長い間、続いた。
64 名前:保田圭(1)−3 投稿日:2000年08月04日(金)23時48分49秒

「……よっすぃーはね」
呟くように、紗耶香は云う。
「よっすぃーは、最初から、知ってたんだ。私の限定復帰のこと。だから、番組とかで、限定復帰を隠さないといけないから、いろいろとイヤな思いして、よっすぃーに愚痴こぼしてたんだ。そしたら、なんとなく……」
どうして、そこでなんとなくなのか、理解出来なかったけど、まあ、それなりの理由があるのだろう。

そして、これは、私の失敗なんだけど。
私は、よっすぃーのことと、紗耶香の再脱退のこととで、二重にショックだったせいで、
ううん、言い訳は出来ない。

もう1人の気配を気付くことが出来なくて、
だから、最悪のタイミングで、それを、
彼女に、
知られてしまったんだ。
65 名前:後藤真希(1)−4 投稿日:2000年08月04日(金)23時49分55秒


あれ?
なにが、起こったんだろう。
私は、一瞬、意識を飛ばしていた。

あれ?
私は、市井ちゃんと、圭ちゃんの姿を探して、
仮眠室の前まで来て、

2人が、言い争ってる声を聞いて、
やめさせようとして、

「紗耶香さあ、あんた、よっすぃーに手ぇ出してるでしょう?」
「よっすぃーを抱いた、って云ってるの」

なんだろう。市井ちゃん、何を云っているんだろう。

「本当は、復帰するつもりなんてなかったんだ。事務所が、私の留学の条件として、プッチモニに一ヶ月だけ限定で復帰しろって」

「よっすぃーは、最初から、知ってたんだ。私の限定復帰のこと。だから、番組とかで、限定復帰を隠さないといけないから、いろいろとイヤな思いして、よっすぃーに愚痴こぼしてたんだ。そしたら、なんとなく……」
66 名前:後藤真希(1)−5 投稿日:2000年08月04日(金)23時51分03秒

あれ?
どうしたんだろう。
何を云ってるのかは分からないのに、涙が出てくるよ。
前が、見えない。
立って、いられない。

倒れ込むように、仮眠室の扉を開ける。

「後藤」
「ごっちん」

驚いたような、2人の表情。
どうして、そんな顔してるの?
私、なんか、マズいこと、聞いちゃったかな?

どこかから、聞こえる、低いうなり声。
ああ、これ、私の声だ。

市井ちゃんの顔を見ていたら、自然に、ふぅっ、とすべてが理解出来た。
何も知らなかったのは、私だけで、
何も知らないで、自分だけで、幸せな世界を作ってしまっていて、

大きく、深呼吸を一つ。
落ち着け。後藤、落ち着くんだ。
67 名前:後藤真希(1)−6 投稿日:2000年08月04日(金)23時51分54秒

市井ちゃんは、また、いなくなっちゃう。
市井ちゃんは、よっすぃーのことが、好き。

「あの、さ、後藤……」
市井ちゃんは、私にオロオロと近づいてきて、でも、なにも云えなくて、ただ、黙っていた。

「私ってバカだよね。なんにも知らないで、市井ちゃんが苦しんでたことも、全然知らないで、はしゃいでたんだ。これじゃあ、昔と一緒だよ。私、なんにも成長してないよ」

私、ずっと泣いてるや。話しながら泣いてるから、ちゃんと言葉と気持ち、市井ちゃんに伝わるかな?

「ゴメンね。よっすぃーが、私の代わりに、市井ちゃんを助けていてくれたんだね。私、こんなだからさ、プッチの仕事ばっか一生懸命になってて、市井ちゃんのこと、気づいてあげられなかったよ。私、ダメな子だよ」
68 名前:後藤真希(1)−7 投稿日:2000年08月04日(金)23時53分15秒

もっと激しく泣きたい、って衝動がわきあがって来て、大きく息を吸い込んだ。市井ちゃんと圭ちゃんが、慌てて、私をなだめようとして、

大丈夫だよ。私、いつまでも子どもじゃないし。

くううっ、と歯を食いしばって、耐えた。

涙は止まらなかったけど、精一杯の笑顔を作って、

「市井ちゃんのこと、大好きだけど、さよなら」

それだけは云えた。
そこまでで、限界だった。私は、走ってその場から逃げだした。
69 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月04日(金)23時54分55秒

今日は、ここまででございます。

ワタシ的には恒例の、原稿用紙換算。
今日までで80枚。
火曜日から書いてるから、4日間でこれなら、
まあ上出来。
では、また。
70 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月05日(土)00時01分50秒
ホントっっっ!いつもお疲れ様です。
実はまだ読んでないのですが、更新してくれた喜びです。
では、読ませていただきます。有難う!
71 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月05日(土)00時09分40秒
更新されてる‥‥嬉しい!本当にお疲れさまです。
それにしてもどうなってしまうのごっちんも市井ちゃんも‥!!
思わず眠気もぶっ飛びました、本当に。
72 名前:70です 投稿日:2000年08月05日(土)00時11分21秒
読んできました!!最高です!
どうなっちゃうんでしょうか・・・楽しみです。
どうでもいいことですが、保田の「はい、キレた」で笑っちゃいました(w
73 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月05日(土)00時47分35秒
市井・・おまえってやつわ・・
74 名前:さやかと愉快な仲間たち 投稿日:2000年08月05日(土)01時07分09秒
好きっちょ、好きっちょ、チェケラッチョ。
75 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月05日(土)01時31分13秒
ああ・・・市井むかつく・・・吉澤びいきだから、市井むかつく。
76 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月05日(土)01時42分22秒
どっちも好き
77 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月05日(土)02時18分57秒
いや〜!やっぱ最高におもしろいですね。
また今日も更新お願いします!!
78 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月05日(土)02時39分26秒
くわ〜、切ねぇな〜。
これからどうなってしまうんだ?先が全く読めない。
面白くて一気に読んでしまった。惹き込まれる話しです。
頑張って下さい!!
79 名前:まいのすけ 投稿日:2000年08月05日(土)09時42分20秒
更新しないとか言っといて・・・(ワラ
んん、修羅場ってますなぁ・・・ハッピーエンドになるんすか?
80 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月05日(土)23時24分01秒
ハッピーエンドには……どうだろう?
>>77
今日も更新だなんて、ガクーッ!
ならば、ゴー!
81 名前:保田圭(2)−1 投稿日:2000年08月05日(土)23時25分47秒

「そのさ、いろいろ云いたいことはあるけど、とにかく、追いかけてあげなよ」
紗耶香も、私も、ごっちんが走っていった方向を見つめながら、しばらく茫然としていた。
「後藤を、追いかける?」
紗耶香が、力無くつぶやく。
「私が、またプッチ辞めちゃうってこと、知られちゃった。よっすぃーのことも、隠してたってこと、みんな。……会って、どうしたらいい? なんて話したらいいの?」
紗耶香は、おどおどと云った。
こんな紗耶香を見るのは、久々だ。
紗耶香は、怯えていた。

(ダメだ、こりゃあ。長期戦だな)
「分かったよ。とりあえず、座りな」
紗耶香は、おとなしく、私の云うことに従った。
「まずさ、紗耶香、プッチ辞める、って話、ホントなんだよね?」
こっくり、と頷く紗耶香。
「それは、事務所とかつんくさんとかは、知ってる、と。ううん、むしろ、向こうの指示なんだね」
「うん」
さっきまでの威勢はどこに行ったのか、紗耶香は悄然とうなだれている。
(それが、問題のひとつ目だ)
82 名前:保田圭(2)−2 投稿日:2000年08月05日(土)23時26分28秒

「で、さ。よっすぃーとごっちんのことなんだけど」
紗耶香の身体がびくん、と震える。
「ごっちん、追いかけないんだったら、それはそれでいいかもね。こんな形でだけど、決着ついた訳だから、じゃあ、これからはよっすぃーひとすじで」
紗耶香は、のろのろと首を左右に振った。
「今日のお昼に、よっすぃーにフラれちゃった」
「はあ……?」
(問題のふたつ目は、またややこしいな)
ごっちんとよっすぃーはタイプが似てるって思ったけど、紗耶香をふるのも同じ日とはねえ。
いや、考えてみれば、こっちの方が、話は簡単なのかも知れない。

「紗耶香、じゃあさ、今、決めなよ。どっちにするか」
「……え?」
紗耶香が顔をあげる。その目に精気はまったくない。さすがに、打ちのめされてしまったんだろう。
「ハッキリ云ってさ、ごっちんもよっすぃーも、紗耶香のコトが嫌いになったって訳じゃないじゃん? 話聞いたら、どっちも、遠慮してるだけなんだよね。ならさ、これから、どっちか決めた方に会いにいけばいいんだよ」
紗耶香は、私が云ってることを理解出来ないのか、しきりに首をひねっていた。
「私の云ってること、分かる?」
「……?」

「どっちを選ぶ、って聞かれたら、なんて答えるつもりなんだよッ!」
いい加減イライラしてきて、紗耶香に怒鳴った。
紗耶香は、ビクッ、と身体をケイレンさせて、叱られた犬のように小さくなった。あーもう。
83 名前:保田圭(2)−3 投稿日:2000年08月05日(土)23時27分48秒

私は、優しい声で、
「紗耶香にとって、必要な人って誰?」
「必要なヒト……? そりゃあ……」
紗耶香は黙った。

わあああッ、紗耶香、泣き出しちゃったよ!
こーゆー場面、私は慣れてない。どうしていいのか、分からない。
オロオロしている私に、紗耶香は頭の上で手を振って、大丈夫、あと3分だけ泣かせてくれたら復活するから、って云った。
私は、どうすることも出来なくて、座って、紗耶香が泣きやむのを待った。

きっちり3分泣いて、紗耶香は恥ずかしそうに、顔をあげて、舌を出した。赤くはれている目尻をくしゃっ、とゆがませて、小さく微笑んだ。
私は、なんとなく紗耶香から目をそらした。
私にフェロモン出してどうするんだよ。

(紗耶香って、強いからなあ。だから、基本的に紗耶香が必要とする人、ってのは、本当は、いないのかも知れない)
(紗耶香は、だから、求められることに敏感だし、必要とされていることを、恋愛感情だ、って勘違いし易いんだよね、きっと)
(だからさ、紗耶香って、自分が好きな相手じゃなくて、自分を求めてる方に行っちゃいかねないんだ)

「いい? 紗耶香」
私は、紗耶香の肩に手を置いて、
「間違えないでよ。紗耶香が、必要な人を選ぶんだよ。こっちの方が可哀想だから、とか、こっちの方が、紗耶香を必要としているから、って理由で選んじゃダメだよ。これは、紗耶香がワガママになっていい問題なんだからね」
「……うん」
どこまで、私の話を分かったのだろうか。
紗耶香には、誰かを求める、って概念自体が無いんじゃないかって気がしてきた。
不安だ。

「分かったよ、圭ちゃん。これから、1人に決めて、その人に会いに行くよ」

私の前だと、紗耶香はこんなに素直で可愛い子なのにね。なんで、こんなに色恋沙汰で問題起こしちゃうんだろう。

「圭ちゃん、ありがとう。また相談にのってね」

紗耶香は、走って、さっきごっちんが出ていった扉を飛び出していった。

やっぱり、不安だ。
84 名前:吉澤ひとみ(4)−1 投稿日:2000年08月05日(土)23時28分52秒

明日から、また、ハロプロのツアーが始まる。
娘。メンバーのほとんどは、当日、直接会場に行くんだけど、私は、別の都合があって、先にホテル入りしていた。

湯舟につかって、大きく、ため息をついた。
今日、やっと、紗耶香さんにさよならが云えた。
迷って迷って迷ったけど、ガンバった。
ガンバって、紗耶香さんと、お別れ出来た。
(紗耶香さん……)
また、視界がゆがんできたので、お湯に顔をつけて、顔をぷるぷるさせて、涙を洗い流した。
今日は1人になってから、一体、何回泣いただろう。

(今日はガンバれたけど、明日はガンバれるのかな)

バスタオルを巻いて、バスルームから出る。湯上がりで、身体はホカホカしてるけど、どこか、うすら寒かった。
(紗耶香さんの手、あったかかったな)
私の身体のどこかに触れてくれたら、また、あったかい力がそこから流れてくるのにな。
想像してみて、顔が赤くなった。
紗耶香さんが、違うところを触った時のことを思い出してしまったのだ。
(違ーうッ。今は、その時のことを考えてるんじゃなーい)
自分の頭をポカポカと殴る。
85 名前:吉澤ひとみ(4)−2 投稿日:2000年08月05日(土)23時29分59秒

帰ってくる途中で、ベーグルを買った。つい、いつもの感じで、2個買ってしまった。
(夜食は1個で良かったんだけどね)
紗耶香さんと、私が2人で写っているフォトスタンドの前に、もう1個のベーグルを置く。お供えだ。

髪をといていると、携帯に着信が入った。
バイセコーの着メロは、ごっちんからだ。

「ごっちん? 今日は1人で帰っちゃってゴメンね」
『ううん。大丈夫。よっすぃー、もう寝てた?』
「今、シャワーから出たところ」

なんだか、ごっちんの声に力がなかった。
なにか、あったんだろうか?
エビアンを口に含む。

「市井ちゃんをね、今、ふってきちゃったよ」

ぶあーっ、て水を吹き出してしまった。
そのまま、咳き込んだ。

「はあ、はあはあ……なんで、そんなことを」

『よっすぃーと市井ちゃんって、付き合ってるんだよね。市井ちゃん、よっすぃーを抱いた、って云ってたし』

凍り付いた。
混乱して(そ、それはじゃな)と、源じいで返しそうになって、慌てて自制した。

『市井ちゃんが、脱退するって話も聞いちゃったし』

あ……もうダメです。頭が、オーバーヒートしました。なにも、考えることが出来ません。
黙り込んでいる私に、ごっちんはしゃべり続けた。
86 名前:吉澤ひとみ(4)−3 投稿日:2000年08月05日(土)23時31分14秒

『よっすぃー、ありがとね。私、市井ちゃんが、苦しんでたこと、気付いてあげられなかったからさ。市井ちゃんを、支えてくてれたんだよね』

『私、ダメな子なんだ。市井ちゃんに頼ってばっかで、なんにも助けてあげられなかった。市井ちゃんが、よっすぃーを選んだのは、当然だよ』

ごっちんは、電話の向こうで、泣いているみたいだった。
でもさ、でもさ、私も、昼間、さよならをいってきたばっかなんだよ。

私は携帯を耳に当てたまま、どうしていいか分からず、部屋の中をウロウロしていた。

「今、どこにいるの。これから、そっち行くよ」
『今日は、もういいよ。でさ、これからのことなんだけど、よっすぃーにお願いがあるんだ』

「……お願いって、なに?」

「もう、さ。プライベートで、私、市井ちゃんには逢えないからさ。ムリじゃない範囲でいいんだ。市井ちゃんのこと、いろいろお話しして欲しいの。今日の市井ちゃんは、どうだったか、とか。……だって、もう、私、市井ちゃんといつも一緒には居られないし……』
「そんなこと云われても、困るよ」
『うん、迷惑だってことは分かる。でも、でもさ……』

また、ごっちんは泣き始めた。

こっちだって、もう、プライベートでは会わないつもりなんだよ。私から、紗耶香さんの手を振り払ったんだから。さっきまで、私だって泣いてたんだから。

(これから、紗耶香さん、どうするつもりなんだろう)

きっと、ごっちんを追いかけて来てくれるよ、って思う。
ごっちんはね、今、混乱してるんだ。
紗耶香さんのプッチ脱退の話とか……ええと、私のせいなんだけど、私と紗耶香さんの関係の話とか聞いちゃったから。

そう云って、ごっちんを励ましてあげたかったけど、
でも、私は、何も云えなかった。

ごっちんが、ひどく羨ましかったから。
87 名前:吉澤ひとみ(4)−4 投稿日:2000年08月05日(土)23時31分53秒

私は、これから、1人で生きていく。
多分、毎日、紗耶香さんのぬくもりを思い出して、なんとか自分をなぐさめて、歩いていかないといけないんだ。

でも、ごっちんの人生には、紗耶香さんがいる。
多分、今のごっちんの寂しさも悲しみも全部、紗耶香さんと共有すべきなんだ。

(なんだか、私、疲れたよ)

『よっすぃー、泣いてるの?』

私も、携帯を持ったまま、泣いていた。
「ゴメン、電話、切るね」

両耳を押さえて、しゃがみ込んで、泣き続けた。
ようやく、紗耶香さんと離れる、ってことが、どういうことか、分かってきた。
それは、果てしなく、独りだ、っていうことだ。

わあああああっ

初めて、大声を出して、泣いた。
(紗耶香さん)
(紗耶香さん)
泣いて、泣いて、泣き疲れた。
88 名前:吉澤ひとみ(4)−5 投稿日:2000年08月05日(土)23時34分00秒

いつの間に、寝てしまったのだろう。
誰かが、部屋をノックしていた。

(ごっちん、結局来てくれたのかな?)

寝起きだし、さっき、あんな電話の切り方をしたから、気が重い。

私は、外に誰がいるのか確認することもせず、ドアのロックを外した。

「よっ」

私は、扉の前で、立ち尽くしていた。
どうして、彼女が、そこにいるのか、理解できなかった。
もう充分泣いたはずなのに、涙が、あとからあとから流れた。

私は、今、彼女に抱きついてもいいんだろうか?
もう一度、彼女の体温を、直接感じてもいいんだろうか?

(紗耶香さん……)

照れたように、頬をポリポリとかいて、今日、泊まっていっていいかな? と、彼女は云った。
89 名前:ASAYAN予告 投稿日:2000年08月05日(土)23時34分47秒

さて、次週のアサヤン。

一ヶ月前、某所にて、

つんく「プッチモニな、一ヶ月限定で、4人に増員するつもりなんや」

そ〜なんです。
実は、市井紗耶香は、一ヶ月のみの復帰だったんです。

『茫然』
矢口「ええっ、じゃあ、また、紗耶香、いなくなっちゃうの?」

『激昂』
飯田「なんでだよ、なんで、もういいじゃん。娘。にずっといたらさ」
中澤「ちょっと待ってえな。あんたら、それ、知っとったんか?」

『号泣』
辻「……(うつむいて、何度も目をこすっている)」

そして……

次週、モーニング娘。スペシャル、運命の最終章!
究極の衝撃的大展開大団円大決着、なんです〜〜〜〜〜〜!

エンディングテーマ「青春時代123」のプロモ(4人バージョン)が流れる。

カッ(効果音)
赤い背景に『END』のテロップ

(岡村の声「また辞めるいいだすつもりやないでしょうね」)
(後藤の声「市井ちゃんは、絶対辞めないです」)
90 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月05日(土)23時36分41秒

わはは。やっちゃいました。
どーなるんだろうね。これからね。
では。

「明日こそ、更新しないぞ!」(←っていうか、次は最終回だな)
91 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月05日(土)23時40分58秒
あ、あなたという人は、どこまで読み手の心をくすぐれば気が済むんですか?
罪な人です。私はもうあなたの虜。
92 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月06日(日)00時15分06秒
う・・・ん。面白い。
今の所どっちのハッピーエンドか全く見当つかないぞ!
こういう所も作者さんの上手い所なんだろうな・・・
>89 のASAYAN予告も、なんか実際こういうことがあったら
やりそうで恐いし。
・・・ま、最終回はじっくり待ちます。頑張ってください。
93 名前:まいのすけ 投稿日:2000年08月06日(日)00時22分31秒
はわわわ・・・
どうなっちゃうんだろう・・・
気になるなぁ・・・
94 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月06日(日)00時44分49秒
こうきましたか。先が全く読めないです。
最終回、どうなるか楽しみにしてます。
95 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月06日(日)03時58分53秒
いや、すごいね。狛犬さん。
ホントに。
毎日、更新されてるかな?って楽しみに見てるよ〜。
でもごっちん・・・可哀相・・・(T_T)
96 名前:越後屋 投稿日:2000年08月06日(日)06時00分40秒
そうなりましたか・・・。
ってか、まだなんかあるのかな・・・。
ありそうだなといっておこう。
いや、むしろあってほしい。
97 名前:まこと 投稿日:2000年08月06日(日)07時32分18秒
もう、いったいどうなるのでしょう?
うわ―めっちゃ気になりますよ。
てゆーか、あそこで止められてるのは読者としては、つらすぎます。
ごっちんはどうなっちゃうのかな?
98 名前:とーしゅん 投稿日:2000年08月06日(日)22時39分06秒
気になるっすぅぅぅぅぅ。
早く、続きをっ!
はぅわぁ・・・ごっちぃん・・・ T_T
99 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月06日(日)23時41分19秒
はぅぅ…続きぃ…
100 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月07日(月)00時04分55秒

100ゲット!!
「明日は更新しない」って云ったから、零時を回ってから来ました。
101 名前:保田圭(3)−1 投稿日:2000年08月07日(月)00時07分02秒

(あれから、どれくらい時間が流れたのだろう)
朝日を眺めながら──こうやって、朝日が昇るのを見ているって体験も、久々だ──徹夜明けの頭で、ぼんやりと思った。
堤防沿いのコンクリートに、並んで座っている、よっすぃーも、さっき買ってきた缶コーヒーを飲みながら、ぼーっと、波を見ている。

紗耶香の脱退を10日後に控えた朝、プッチモニの4人、……私、よっすぃー、そして、紗耶香とごっちんは、名古屋の宇奈月公園海岸に来ていた。
私たちからずっと離れて、波打ちぎわを、紗耶香とごっちんが、並んで歩いている。
紗耶香は、ごっちんに、最後のお別れをいうんだ、って云ってた。
(結局は、こうなっちゃったんだね。最初から、分かっていたことだけどさ)

2人は、どんな話をしているんだろう。
ここから見える2人の表情は、どこまでも穏やかで、ただ、海岸散策を楽しんでいるかのようにも見える。

紗耶香と共にあった、長くて短かった一ヶ月、いろんなことがあった。
紗耶香が入ったことで、プッチモニは確実に進化した。
一番、変わったのは、よっすぃーだろう。
彼女は、よく笑うようになったし、自然に話しが出来るようになった。
まだ話題の中心になって話すのが慣れないせいか、それとも伝えたいことが沢山あるせいか、話題が飛びまくって、ついていけないこともあるけど、それはまあ、圭織で経験済みだし、私たちのグループは、それなりにうまくやっていた。

「圭ちゃん、なに考えてるの?」
よっすぃーが、まだ慣れていない『圭ちゃん』って名を、呼びにくそうに云う。
私は、よっすぃーに、曖昧に笑いかける。

私は、そのとき、3日前のことを、思い出していたんだ。
102 名前:保田圭(3)−2 投稿日:2000年08月07日(月)00時07分38秒

「また相談に乗ってね」
紗耶香はそう云って、部屋を出ていった。
夜遅く、紗耶香の携帯に電話をしたけど、電源が切れていた。
朝方、紗耶香の自宅に電話すると、昨日のうちに、名古屋に向かった、って答えが返ってきた。明日の、ハロプロの会場だ。

(紗耶香は、外泊か……)

娘。のメンバーのほとんどは、今日の午前中に、東京から名古屋まで移動となる。前日に名古屋入りするメンバーに会いにいったのだとすれば……、

少し、意外だった、と云えなくもない。

私は昨日のうちに整理しておいた荷物を持って、集合場所へと向かった。

「圭ちゃんおはよ」
「ごっちん、早くないよ」

集合時間から、5分ほど遅れて、ごっちんが来た。
これで、紗耶香とよっすぃーを除いたメンバー全員が、揃った。

「それじゃあ、行きましょうか」

マネージャーさんの運転で、ミニバンは出発した。
103 名前:保田圭(3)−3 投稿日:2000年08月07日(月)00時08分18秒

道中、紗耶香とよっすぃーの話題は、出なかった。みんな、薄々、おかしな空気に気付いているみたいだ。
ごっちんは、普段と変わらない様子で、辻とお菓子を食べたり、眠ったりしていた。

お昼前、会場のレインボーホールに到着した。
紗耶香とよっすぃーは、もうリハーサルスタジオに入っている、とのことだった。
「じゃあ、プッチのメンバーとはここで」
裕ちゃんが、ハロプロのメンバーと最終打ち合わせするわ〜、プッチの2人は先にリハーサルスタジオに入っといてな、と、にが笑いしながら云った。ずるい。

気分も重く、スタジオの扉を開けようとして、ごっちんがするりと先に中に入った。すわ、修羅場リターンか?

「市井ちゃん、よっすぃー、おはよ〜」

「後藤、おはよ。ちゃんと起きれた?」
「ごっちん、お早う」

自然に会話を交わす、3人。
なんか、心臓に悪い。
(なんで私ってこんな役どころなんだろう)
天井を仰いで、運命を呪った。

ハロプロでは、紗耶香は、プッチモニのコーナーだけの限定出場となる。今回の目玉は、あの『ちょこっとLOVE』の復活だ。
それはそれで、素晴らしいことだ、とは思うんだけど──この、微妙なトライアングルに囲まれてしまった私の立場ってば理不尽……とか思う。

「ね、後藤、ちょっといいかな」
紗耶香が、ごっちんを外に連れ出す。私は、ドキドキしながら、よっすぃーの様子をうかがう。
そのよっすぃーは、自分のダンスのチェックに一心不乱状態で、別に紗耶香とごっちんを気にする感じはなかった。
(私は気にするよ、すごく)
しばらくして、2人は戻って来た。
ごっちんは、なんだか、少しブルーになっているようにも見える。
104 名前:保田圭(3)−4 投稿日:2000年08月07日(月)00時09分15秒

「ね、圭ちゃん」
紗耶香が手招きしている。
……今度は私か。
「私さ、私の口から、メンバーのみんなに、今度の限定復帰のことと、月末には抜けちゃうこと、伝えたいんだ。もうね、マネージャーさん経由とかで、私のことをみんなに云われたくない」
(ああ、こっちの問題もあったんだね……)
紗耶香は、そんなことを考えていたんだ。

まあ、もうプッチの4人は、このことを知ってるんだし、いいんじゃないかなあ。
「で、さ。今日、みんなに云いたいんだ。最終リハーサル終わって、みんなが楽屋に帰ってきて、着替えるとき。そんときくらいしか、スタッフ追い出して、娘。たちだけになれないからさ」
「うん、分かった。私も協力するよ」
紗耶香って、強いなあ。
状況を、自分から作っていくからね。
……やっぱり、紗耶香には、プッチ辞めて欲しくないよ。私だって、淋しいんだからね。
105 名前:保田圭(3)−5 投稿日:2000年08月07日(月)00時11分55秒

紗耶香の言葉に、最初に反応したのは、圭織だった。
「ちょっと待ってよそれ。何がなんだか、分かんないよ」
圭織は紗耶香に詰め寄って、肩をガクガクと揺すった。
紗耶香は、小声で「ゴメン、今まで黙ってて」とつぶやいた。圭織は涙声で、なんで、なんでだよ、ってずっと言い続けていた。

一番、激しく怒るだろう、と思っていた裕ちゃんは、座ったまま、動かなかった。
いや……泣いていた。
肩を震わせて、歯を食いしばっていた。辻が寄り添って、心配そうに、手を握っていた。その辻も、赤い目をしていたんだけど。
なっちが、私たちを振り返って、

「ねえ、あんたたちは知ってたみたいね?」
挑まれるように、云った。
ごっちんとよっすぃーは、それだけで萎縮してしまったみたいだ。ここは、私が出るしかないんだろうな。
「私たちが知ったのも、最近なんだ。アサヤン得意の演出みたいだね。紗耶香も、事務所から口外禁止を命令されてたみたい。だから、紗耶香を責めないであげて」
「市井ちゃんは、悪くないよ」
ごっちんも、私に加勢する。

なっちは、ううん、ううん、と首を振りながら、

「だって、だって……私、ホントに嬉しかったんだよ。紗耶香が戻ってきてくれて。みんな、いなくなるばっかだって思ってたのに、帰って来てくれる娘。もいるんだって。なのに、なのにさ──」
ひーん、と19歳らしくない、子どもみたいな泣き声をあげて、なっちは泣いた。
紗耶香は、なっち、ごめんね、だますつもりはなかったんだ、って云いながら、なっちの肩を叩いた。なっちは紗耶香に抱きついて、号泣した。
106 名前:保田圭(3)−6 投稿日:2000年08月07日(月)00時12分41秒

加護は、っふぇ〜、っふぇ〜、としゃっくりみたいに息を吸いながら泣いている。紗耶香は、きっと、新メンバーの彼女たちにも、この一ヶ月でいろいろ教えてあげてくれてたんだろうな、って思う。矢口が、泣き笑いみたいな表情で、加護の頭を撫でている。
矢口もお姉さんになったんだな。

石川は、ただオロオロしている。
彼女は、まだ、感情を出すのがヘタなんだよね。私は、彼女の教育係なんだけど、紗耶香みたいに、上手に心を開かせることは出来ないんだ。でも、
(石川、おいで──)
私の手招きを見て、石川は、走り寄ってきた。
彼女は、自分の感情を持て余している。それが、手に取るように分かった。紗耶香と過ごしたこの一ヶ月で、私も成長したんだろうか。
「石川、泣けば、楽になるよ」
頭を抱いて、囁いてやる。途端に、石川は、ふええええええっ、と一番大きな声で、泣き始めた。びっくりした。一瞬、メンバー全員が、泣くのをやめて、石川を見たくらいだ。
(ああ、紗耶香ってメンバーに愛されてるなあ)
誇らしい気持ちで思う。

でも。
このもやもやした気持ち──怒りを、どこに持っていけばいいんだろう。
私は、私の無力さを、恨む。
現状を、なにも変えられない、自分の非力さを憎む。
(強くなりたい)
紗耶香みたいに、現状に立ち向かっていける、力と勇気が欲しい。
107 名前:保田圭(3)−7 投稿日:2000年08月07日(月)00時13分45秒

「なあ、みんな。このことは、知らんフリしとこうな」
落ち着いたのか、裕ちゃんが、みんなに云った。
「どうせ、またアサヤンで、『衝撃の事実』とかいってカメラ回すやろうから、せいぜい、驚いた演技したろやないの」
そうだそうだー、と矢口が赤い目をこすりながら、叫ぶ。

「よーし、すっごく怒ってみせるよ」
と圭織。
「辻は、泣きます」
そーかそーか、ののちゃんは偉いなあ、と裕ちゃんに頭を撫でられて、エヘヘ、と笑う辻。

「そういう訳や、紗耶香。ウチらは、みんな、紗耶香の味方やからな。なーんも、心配する必要あらへんで。ウチもどれくらい娘。にいれるか分からへんけどな、ウチがおる間は、紗耶香は、いつまでも娘。の仲間やからな」
「タンポポも、紗耶香のこと、いつまでも仲間だと思ってるよ。そうだよね?」
圭織は、石川や加護を見て、うんうん、と云わせた。
「ホントに、ありがとね。私、みんなのこと、大好きだよ」
紗耶香は……やっぱり泣きながら、云った。ワガママばっか云ってゴメンね、とも。

矢口は、辻と加護を両側に連れてきて、ミニモニは、市井紗耶香を応援しています、と叫んだ。せーの、ミニモニー、と例のポーズを決めた。
それを見て、紗耶香は笑った。
うんうん。紗耶香は幸せモノだよ。

「よっし。じゃあ、今日は、紗耶香の送別会や。ホテルに戻って、夜の11時にウチの部屋に集合な」
えー、明日、ハロプロ本番なのにー、と矢口が冗談っぽく不満の声をあげる。
紗耶香は、いいよいいよ、そんなこと、明日の本番を優先してよ、とか云ったけど、
「なに云うてんねや。紗耶香とコンサート、どっちが大事や思うてんねん」
裕ちゃんの一声で、紗耶香の送別会は決定した。
108 名前:保田圭(3)−8 投稿日:2000年08月07日(月)00時14分51秒

午前5時。裕ちゃんの部屋。
チビッコたちは、自分の部屋に帰らせている。
起きているのは、夜に強い裕ちゃんと、私と圭織。
なっちは、ふらふらしながら、まだ起きている。よっすぃーとごっちんは、裕ちゃんのベッドで仲良く夢の中だ。

「ね、紗耶香」
私は、紗耶香を部屋の隅に連れて行って、コソコソと耳打ちで話しした。
(昨日は、よっすぃーと、一緒にいたんだよね?)
(うん)
紗耶香は、うなづいた。

(ごっちんには、ちゃんと、話ししたの?)
(う〜ん、実は、まだなんだ)

紗耶香は、顔を伏せて云った。ごっちんには、なんて説明したらいいのか、分かんないよ、って呟いた。
(こーゆーのはさ、ちゃんとしないとダメだよ。つらくてもさ、曖昧にするのが一番ダメ。これは、お姉さんからのアドバイスだと思って聞いてよね)
紗耶香は、まだ決心が付きかねているのか、ぶつぶつと何事かを呟いていた。
109 名前:保田圭(3)−9 投稿日:2000年08月07日(月)00時15分40秒

私は、ここに来る途中で、車の中から見た海岸のことを思い出した。
(ね、紗耶香。海、見に行っておいでよ。ごっちん連れてさ)
(海……?)

私の数少ない恋愛経験からいわれてもらえば、海では別れ話が自然に話せるのだ。ははは。
(とにかくさ、しっかりと決着をつけないと、卑怯だよ。紗耶香、分かった?)
(うん……分かった。ごっちんに、ちゃんと、お別れを云うよ)

そうと決まれば、話は早い。私は、紗耶香に海までの道筋を云って(一本道だから、迷いようがないんだけどね)先に外に出して、ごっちんを起こした。
「外で紗耶香が待ってるから、行きな」
寝起きのごっちんに耳打ちする。
寝覚めの悪いごっちんは、でも、しゃきん、となって、慌てて部屋を出て行った。

裕ちゃんは、私に目配せした。
(そっちの問題は、頼んだで。大変やろけどな)
(まあね。なんとなく、裕ちゃんの苦労が分かったような気がするよ)
アイコンタクトを飛ばし合う。

よっすぃーが起きてきて、私も連れて行ってください、と云ってきた。
そうだね、よっすぃーにはその権利があるもんね。じゃあ、一緒に行こうか、と後から、紗耶香たちを追っかけることにした。
110 名前:吉澤ひとみ(5)−1 投稿日:2000年08月07日(月)00時16分35秒

水平線が、明るくなってきた。
私と圭ちゃんが、海岸に着いたとき、先に行っていた2人は、波打ち際を歩いていた。

(紗耶香さん)
私の思いは、3日前の夜に戻っていた。

あの夜。
紗耶香さんか、私の部屋を訪ねて来てくれた、夜。

私は、紗耶香さんに抱きついて、泣いた。
紗耶香さんはやっぱりあったかくて、泣くことってこんなに気持ちいいんだ、って思った。

紗耶香さんは、少し早いけど、ちゃんとお別れを言いに来たんだ、って云った。
何年も、外国に行ってるから、私は、よっすぃーのコト、見守っていてあげられないけどさ、だから、好きな人、早く見つけなよ、って。
私は、ずっと、紗耶香さんのことが好きです。って云ったら、ありがとうね、今のよっすぃーは、そうなんだよね、と紗耶香さんは、少し淋しそうに、つぶやいた。

中途半端なままでさ、離ればなれになっちゃったら──心を残したままだったら、いつまでも引きずるから、だから、今、一杯泣いていいよ、って。

最後の夜のことは、忘れない。
よっすぃーのことも、大好きだよ、って云ってくれたから。「も」ってのが少し(かなり)気になったけど。
半分以上は、同情なんだろうな、とも思うけど、それでもいい。紗耶香さんが、私のことをちょびっとでも思ってくれている。それだけでいい。
もう、思い出す必要がないってくらい、いっぱい、あったかい気持ちをもらった。
111 名前:吉澤ひとみ(5)−2 投稿日:2000年08月07日(月)00時17分42秒

朝まで、いろんな話をした。
紗耶香さんの、脱退することになった、ホントの気持ちも聞いた。

2人で、最後のベーグルを食べた。
しょっぱくて、おいしくなかったけど。

そして、朝、部屋を出るとき、迷って迷って迷ったけど、最後に、あれをお願いした。
後藤にはナイショだよ、イタズラっぽく笑って、紗耶香さんは、少し照れながら、私に、

……。

ううん。これは、大切な思い出。
私の、心の中だけに秘めておくのだ。

紗耶香さん。
淋しいけど、淋しくないよ。
私の記憶の中に、紗耶香さんがいるみたいに、
紗耶香さんの中に、私の思い出も残っているんだ。
それは、とても素敵なことだ。
112 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月07日(月)00時17分59秒
一体どうなるんだろ?まるであだち充ワールドだ・・・・
113 名前:吉澤ひとみ(5)−3 投稿日:2000年08月07日(月)00時18分25秒

「よっすぃー、なに考えてる?」

圭ちゃんに声をかけられて、私は我に返った。

ああ、朝日が昇ってくる。
私は、目を細めて、2人を見やった。
ごっちんにも、さよならを云うつもりだ、って紗耶香さんは云ってたけど、
ごっちんの表情といい、紗耶香さんの表情といい、あれはどうみても「お別れ」じゃなくて「約束」だよね。

やっぱり、少しだけ、妬けるよ。

紗耶香さんが帰ってきたとき、私は、どんな大人になっているだろう。
その時、もう一度、紗耶香さんは、私のことを好きになってくれるだろうか。
114 名前:吉澤ひとみ(5)−4 投稿日:2000年08月07日(月)00時19分18秒

2人の姿が、太陽の光に溶けて、見えなくなる。
「よっすぃー!?」
圭ちゃんが、驚いたように、私を見る。
どうしたんだろう、と圭ちゃんを見ようとして、視界がグニャグニャだってことに気付いた。
ああ、また泣いてたんだ。
「海がまぶしくて、ちょっとめまいしちゃった」
笑って、圭ちゃんに答える。

静かな海面は、朝の光を浴びてキラキラと光っていた。
2人は、手をつないで、幸せそうに、並んで歩いていた。

私は、涙を手のひらでぬぐって、いつまでも光る海を見ていた。

(END)

115 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月07日(月)00時20分59秒

はい〜、終わり終わり〜♪
たいしたネタバレもないんですが、エンディング隠し連続投稿、行きます。

116 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月07日(月)00時21分32秒

こんなエンドになっちゃいました。
終わってしまえば、王道ですな。
117 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月07日(月)00時22分22秒

今日の、アサヤンスペシャル第1弾、
最高でした。ビデオに録画したけど、3倍だった。失敗。
118 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月07日(月)00時23分47秒

たいして書いたつもり無かったんたけど、原稿用紙換算したら、
120枚だった。なっがいな〜。いつものことだけど。
119 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月07日(月)00時24分56秒
おお〜〜〜う! ENDですか!
いや〜、楽しかったです!久々に充実した感じがしました!
隠し投稿も楽しみにしてます、頑張って!
そして、お疲れ様でした!
120 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月07日(月)00時25分57秒

今回も、みんな救われた、とは思うんだけど、どうでしょうね?
全員が幸せになることは、現実には不可能なんだけどさ。
物語なら、どっかに、救いが欲しい。絵空事なんだから、どこまでも
現実を踏襲しなくても……とか個人的には思うです。
121 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月07日(月)00時27分56秒

これで、終わりですな。
最後になりましたが、このような発表の場と、容量をお借りさせて頂けた、
fire7さんに、大感謝します。ありがとうございました。
では。
122 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月07日(月)00時30分28秒
お疲れ様です。
123 名前:ちーと 投稿日:2000年08月07日(月)00時37分43秒
市井ちゃんはよっしーを選んでしまったんですか。真希ちゃんびいきの私にはかなり
痛いですね〜。でも、いちよしも新鮮でいいかも。
124 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月07日(月)00時39分28秒

あ〜、ちーとさん、ちょっと、あっちで解説します……。

125 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月07日(月)00時39分35秒
市井は残酷な人間ですね。人を惹きつけることがやたら上手くて、
でも市井の目は一つのモノをずっと見ているわけではない。
市井を必要としてる人間はたくさんいても、市井は誰も必要としてない。
126 名前:I&G 投稿日:2000年08月07日(月)00時42分23秒
終わってしまった。(残念)
でもすごくよかったです。お疲れさまです。
最後までどちらをとるかわからなかったですよ。
今日はASAYANもよかったし、小説にも満足できたし、良い日だな。
127 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月07日(月)00時49分59秒
お疲れ様でした。
また、泣いてしまいました。
128 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月07日(月)01時34分10秒
久々に書いて下さってありがとうございました。

「期間限定復帰」という設定は斬新ですね。なかなか思い付きません。
読んでてこの前の「長州力」を思い出してしまいました(わら
(「ブランクを感じさせない」って所も似てるし)

だからこの話くらいの復帰なら、現実にもあってもいいのではないかと(爆
129 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月07日(月)03時47分26秒
よっすぃーかわいそうだ・・・
130 名前:まいのすけ 投稿日:2000年08月07日(月)11時26分03秒
よかった、痛い終わり方じゃなくて。
よっすぃ〜も、よかったよかったと思う。
何だかんだでいちごまだったし。

お疲れ様です。楽しませてくれて、ありがとうございました。
131 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月07日(月)13時13分07秒
よっすぃ〜と自分がかぶりすぎてて切なかった。
泣けました。素敵なお話をありがとうございました。
132 名前:ちーと 投稿日:2000年08月07日(月)13時26分06秒
私の書きこみ、なんであんな変なとこにあるんや?狛犬さん、
ちゃんと話の結末はちゃんと分かってるんで大丈夫です。あの書きこみは、
ラストを読む前の物ですんで。
133 名前:まこと 投稿日:2000年08月07日(月)13時58分17秒
これだけの小説を短期間に書き上げられる狛犬さんはすごいです。
すごいきれいな終わり方でしたね。感動しました。
よっすぃ―にはまた違ういいヒトを見つけてほしいです。
134 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月07日(月)19時13分05秒
題名と内容がピッタリマッチしてますね。
♪昨日〜 涙、流して〜 今日も〜 泣いていた〜♪
ラストはいいですね〜 よっすぃ〜視点onlyだったのは
最高に感動できました。
135 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年08月09日(水)00時10分26秒
作者の義務として、あぷろだ小説、整形してあげとこうって、
思って覗いたら、もうどなたかが、あげて下さっていた! 早ッ!!

どなたか存じませんが、ありがとうございました。
136 名前:サンジ 投稿日:2000年09月17日(日)02時52分50秒
狛犬さんの小説好きっす。・・・・logさんのもね。
logさんはここの馴れ合い・・嫌いなんかな。

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