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ハローステップ

1 名前:ハローステップ 投稿日:2000年08月10日(木)10時22分30秒
桜の花びらは惜しみなくひとみに降り注いでいた。
「ヒロインみたい・・・・」
両手を広げ、桜のシャワーを全身に浴びながら、ひとみは
新しく始まった生活に胸を躍らせる。
“私も女子高生か・…”
ふと、足元に目をやる。ま新しい靴と、おろしたての靴下。
“結構、ルーズな女の子いたなあ…私もルーズにすれば良かった・・”
少しの後悔がよぎるが、すぐに消えた。
2 名前:ハローステップ2 投稿日:2000年08月10日(木)10時23分02秒
「別にいいか。まだ、3年もあるんだもんね・・・」
ひとみは顔を上に上げると、桜の木々を見つめる。
〜 ファイトー セイ!!  ファイトー セイ!! 〜
かすかに聞こえる、少女の高い声。
“初日から、クラブやってるところもあるんだ”
校門を出ようとしたひとみは、足を止め振り返る。
同時に今まで聞こえてこなかった、数々の声が耳に届いた。
演劇部の発声練習・ソフトボール部のノック・吹奏楽部の音合わせ
どれもが美しく、そして純粋な音… しかし、ひとみの顔は
少し暗い。
“バレー部ないんだよね・・・たしか・・・”
3 名前:ハローステップ3 投稿日:2000年08月10日(木)10時23分41秒
〜 エーイ〜!!  エーイ〜!!〜
今までの声とは違う、突き抜けるような声が沈んだひとみの中に響いた。
“なんの声だろう? 不思議な感じ。”
自然に音の方向を目で追う。そこは体育館の隣からだった。
自然とひとみの足はそこに向かった。大きく掲げている看板
「武道館か・・・」
半分開いている開き戸から、中の様子をうかがう。
4 名前:ハローステップ4 投稿日:2000年08月10日(木)10時24分18秒
〜ピシャ!!〜
竹刀の乾いた竹を打ちつける音がこだまする。
〜 面ッ 面ッ メ〜ンッ!!!〜
整えられた姿勢と甲高い声。
“剣道部だ・・・結構、部員多いんだなあ”
30人前後の部員が一斉に行っている打ち込みの姿は、個人競技でありながら、
全員の心が一つにまとまっている印象をひとみに与えた。
“また、あの頃みたいに燃えられるのかな?”
じっと、ひとみは練習風景を眺めていた。明らかに先程とは違う強いまなざしで。
5 名前:ハローステップ5 投稿日:2000年08月10日(木)10時24分59秒
「チョット・・ゴメン。」
後からの声でひとみは振り返る。そこには一人の少女がいた。
「中に入りたいんだけど・・・」
すぐさま、ひとみは少女の持っていた大きな袋に気付く。
「すいません!!! 気付かなくて…」
勢いよく頭を下げるひとみ。
「いや、別にいいんだけど… 新入生?」
戸惑いの中、質問をされるひとみ。
「えっ!? ・・あ…ハイッ!! ハイッ!! そうです!! 新入生です。」
「見学なの?」
「イヤッ!! そんなにかしこまったものじゃなくて…」
ひとみはやっと、顔を少女に向ける。
6 名前:ハローステップ6 投稿日:2000年08月10日(木)10時25分52秒
“・・・キレイな人だなあ・・・”
キリッとした口元・意志を強く抱いた瞳・シャープな顔立ち・整えられた眉。
“美少年みたい・・・”
短くそして、きっちりと分けられた髪型からきた印象かもしれない。だが、
それでも美しい顔立ちをしていた。
「覗いてたんだ・・」
少女は微笑みながら話しかける。笑顔もさえも凛々しさを備えていた。
「そうです。チョット、覗いてたんです。」
「もし、よかったら、入部してね!!  それじゃあ・・」
軽いウィンクをひとみに残して、少女は武道館へと足を踏み入れようとする。
「・・あのっ!! 楽しいですか?」
「ふえ?」
「・・・剣道って楽しいですか?」
「・・・スッゴイ 楽しいよ。」
満面の笑みで少女はひとみの問いに答えると、武道館の中へと入っていく。
7 名前:ハローステップ7 投稿日:2000年08月10日(木)10時26分29秒
〜 遅れてすいませ〜ん!! 〜
〜 サヤカ〜何してたのよ〜 もう基礎錬終わったぞ〜 〜
先程とは一変して、どこにでもいるような女子高生の笑い声が響く。
「剣道か・・・・また、燃えてみようかな・・・」
ひとみは自分に言い聞かせるように呟くと、武道館を後にする。
「め〜〜ん!!」
見よう見真似の剣士は桜のカーテンを斬ってゆく。
ページは静かに始まりを刻んでいく。
8 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月11日(金)14時57分14秒
剣道モノとは珍しいですね、続き頑張ってください。
9 名前:ハローステップ8 投稿日:2000年08月11日(金)16時59分12秒
〜 キーン コーン カーン コーン 〜
長い数学の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り渡る。
「え〜 では、今日の授業はコレまで。最後の問題は宿題にする。」
〜 ぇ〜〜 〜
まだ、学校や授業、そして周りのクラスメート達とも慣れていない環境
のせいか、嘆きの声は小さかった。聞こえていたのであろうが、反応を
することもなく、教師は教室を去る。
“お腹空いたな〜”
4時間目終了のチャイムは、昼食の時間を知らせるチャイムでもある。
しかし、その時間は少しばかり、ひとみの体内時計とは異なっていたようだ。
ひとみは、すぐさま机の横にかけていたリュックから、ランチボックスを取り
出そうと下を向いた時、綺麗に磨かれた靴が目に入る。
10 名前:ハローステップ9 投稿日:2000年08月11日(金)16時59分47秒
「・・・石川さん?」
靴の主を確かめようと、上を見上げたひとみの目に入ってきたのは、
美しくまっすぐ伸びた髪と細身の身体、それでいて見事なプロポーション
を兼ね備えていた一人の少女。梨華だった。
「吉澤さん・・・一緒にお昼食べない?」
持てる限りの勇気を振り絞っていることは、ひとみにも容易に分かる。
「え・・・あっ・・うん。食べようか。」
「それじゃ!!・・・・それじゃあ、外で食べない?」
「そうだね。天気も良いし、外で食べようか。」
そう言うと、椅子を立つひとみ。少し、照れた笑いを見せる梨華。
二人は、互いの歩幅を気遣うぎこちない姿で教室を出ていった。
11 名前:ハローステップ10 投稿日:2000年08月11日(金)17時00分38秒
穏やかな春風、気持ちの良い空気。それは二人の昼食を更においしくする
スパイスとなった。
「ベーグル好きなんだ、吉澤さん」
「むぐ?」
食事の合間の不意をつく質問に、ひとみはベーグルを喉に詰まらせる。
慌てて、ミネラルウォーターを口に含む。
「う・・最近、ハマッてるんだ。おいしいんだよ。」
「ふ〜ん・・・」
「石川さんは手作りなの? お弁当?」
「えっ!? ・・・うん。」
「珍しいよね〜 手作りなんて、感心しちゃう。」
恥ずかしそうにうつむく梨華。ひとみは更に梨華に話しかける。
「石川さんは何中学だったの?」
「南中学・・・って聞いたことある。」
「うそ! 南中学なんだ〜 私 南第二中学だったんだ〜」
12 名前:ハローステップ11 投稿日:2000年08月11日(金)17時01分23秒
「そうなんだ〜。私の中学からこの高校入ったの私一人なんだ。」
「私のところは、10人いるのかな〜 でも、少ないほうだよね。」
二人は食べる手を止めて、話に集中していく。
「進学校だからね、この学校。周りは中学からの人も多いから・・・」
「そうっ!! 中学から上がってきた人はもうグループがあるもんねぇ〜」
「勉強も大変だし、チョット学校も遠いし・・・・クラブは出来ないかな。」
「石川さん、クラブ何やってたの?」
「テニスをやってたんだけど、どーしよーかなーって悩んでるんだ。」
顔に少し影が落ちた梨華の手をひとみは突然、掴む。
「ダメだよ!! 頑張るべきだよ!!」
突然のひとみの行動に、驚く梨華。一瞬、呆気にとられる。
「やっぱり、クラブ活動は大切だよ。今は帰宅部多いけどさ、頑張ろうよ。」
「・・・吉澤さんは何クラブに入るの?」
「バレーだったんだけどさ…、バレー部ないんだよね。この学校。」
13 名前:ハローステップ12 投稿日:2000年08月11日(金)17時02分09秒
「でもね、やりたいクラブはあるんだ!!」
そう言うと、おもむろに両手を上下に振るひとみ。
「剣道?」
懸命なひとみのジェスチャーに梨華も応える。
「そうっ!!! たまたまだったんだけど見てたら、スゴク面白そうだったんだ。」
目を輝かせながら、梨華に話しかけるひとみ。その顔を見ていると、
梨華の顔からも影が消えた。
〜 キィ〜ン コーン カァ〜ン コーン 〜
「いっけな〜い!! お昼休み終わっちゃった!!」
慌てて、昼食の片付ける二人。
「あっ! まって、吉澤さん。」
急いで教室に戻ろうとする、雰囲気を割く梨華の声。
「どうしたの? 石川さ・・・」
そっと、ひとみの顔に手を当てる梨華。ひとみは思わず、緊張する。
口元に手が止まると、梨華は笑って、その手をひとみの目の前に出す。
「ベーグル・・・」
話に熱中する余り、食事に意識が回っていなかったひとみ。
思わず、恥ずかしさで顔が赤くなる。
それを自らの口に持っていく梨華。
「あっ・・・」
声を漏らすひとみ。
「早く行こっ 吉澤さん。」
「待ってよ〜 石川さ〜ん!!!」
光さすなかを二人は駆け抜けていく。
14 名前:まいのすけ 投稿日:2000年08月12日(土)11時08分04秒
サイコ―っす!!
剣道着バンザイ!よっすぃ〜バンザイって感じっす!!
続きを期待してます。
15 名前:ハローステップ13 投稿日:2000年08月13日(日)12時39分29秒
「1・2・3・4………10・11・12。 12人か…」
「去年よりは少ないですけど、かお先輩の時よりは多いですね。」
武道館に一列に並んだ、緊張しきった顔の数々。
向かいに仁王立ちしている、長身の少女が顔を数える。
隣にいる短髪の少女は優しい顔で緊張しきった少女達を見つめていた。
「かお先輩 そんなに恐い顔してると、新入生がビビリますよ。」
「いいの!! 剣道の基本は礼儀なんだから。」
そう言うと、突然、竹刀を思い切り床に振り下ろす。
〜 ピッシ〜ン 〜
静まりきった武道館内に乾いた音が響き渡る。
整列した少女達の背筋が一瞬にして伸びた。
「ちゅうも〜く!! 新入生注目〜!」
初めから中央にいる長身の竹刀の持ち主に注目しているのだから、
新入生達には変わった変化はない。
16 名前:ハローステップ14 投稿日:2000年08月13日(日)12時40分17秒
「私がこの剣道部の主将の飯田圭織です。ようこそ剣道部へ!!」
新入生をあれだけ威圧しておいて、“ようこそ”という言葉は不釣合い
であるが、新入生達にはそこまで頭が回らない。圭織主将は言葉を続ける。
「他の部員達の自己紹介は後にして、先ず、新入生達の自己紹介。初め!!!」
そういうと、右端の新入生を見つめる。
「え?・・・」
狐につままれたような顔をする新入生の少女。
「“え?”じゃなくて〜 自己紹介でしょ!! 自己紹介!!!」
〜 ピッシ〜ン 〜
再度響き渡る竹刀の音。
「ハイッ!!! ××××・・…」
“やっばいとこ来ちゃったかな〜”
横で行われる新入生の自己紹介を耳にしながら、ひとみは向かいに一列に並んだ
剣道着に身を包む上級生達に目をやる。
“真ん中の人、あの人が主将なんだ… 確か、飯田さんだっけ。”
自己紹介を、うんうんと頷きながらじっと見つめる圭織に目をやる。
“綺麗な髪だなあ すごい美人だし… でも、性格キツそうなんだよね〜”
手入れの行き届いた長い黒髪、大きな瞳に剣道着は恐いくらい似合っていた。
17 名前:ハローステップ15 投稿日:2000年08月13日(日)12時40分50秒
“横の先輩達も凛々しいなあ〜”
整列している他の上級生達をひとみは見渡す。
その時、微動だにしない上級生たちの中に見覚えのある顔を見付ける。
“あっ! あの人・・・”
その顔は圭織の隣にあった。威圧する圭織とは正反対に新入生達の自己紹介を
聞く顔は、どこか優しさを携えている。
“私が武道館で話をした人だ。”
ひとみが見つめるその顔も、新入生の自己紹介の声の主を目で追っている。
“確か、サヤカって呼ばれてたけど…でも、本当にキレイ”
じっと、見つめるひとみ。すると、視線の相手と目が合う。
しかし、様子が違う。相手が目線をそらさないのだ。
“やだっ!! 先輩に見つめられてる… ”
一向に視線をそらせる気配がない。ひとみはうつむき、チラチラと
見つめるが、視線をそらさない。
“もしかして、先輩も私のこと覚えててくれてるのかな?「あの時のカワイイ
新入生だ」とか思ってたりして…”
18 名前:ハローステップ16 投稿日:2000年08月13日(日)12時41分43秒
〜 パッシ〜ン 〜
「ホラッ!! 次の新入生! なにボケッとしてるの〜 自己紹介・自己紹介!!!」
圭織の声が、再度とぶ。
「むぇ?」
とっさに出た言葉に上級生達のクスクスという笑い声が生まれる。
“もしかして、私の番・・・”
見つめられた理由も容易に説明がついた。
「スイマセン!! え〜と… 吉澤ひとみ!! 15歳。剣道は初めてですけど頑張ります!!」
みるみる、ひとみの顔は赤くなった。上級生に笑われた恥ずかしさと、自分の勘違いの
情けなさがこみ上げてくる。
“やっちゃったな〜・・・・”
もう、上級生達を見渡す余裕などなかった。
「××××です!! 一生懸命頑張ります!!!」
一番左端の少女が最後の自己紹介を終える。
「は〜い!! じゃあ、今度は2・3年生の自己紹介するね、じゃあ…」
大きく頷くと圭織は上級生の整列の一番右側を覗き見る。
「2年生の×××・・・・」
姿勢がよく、伸びきった声で上級生達は自己紹介を始める。
19 名前:ハローステップ17 投稿日:2000年08月13日(日)12時42分20秒
先程の恥ずかしさが残るひとみであったが、声の主を目で追った。
一人々々自己紹介を終えていくうちに、視線の主が口を開く。
「2年生の市井紗耶香です。一緒に頑張って強くなりましょう!!」
“市井紗耶香先輩か・・・”
ひとみはその後の上級生の声の方向を見つめなかった。
紗耶香の顔をただ、見入っていた。
「は〜い!! とりあえず、自己紹介はそのくらいにして、早速、始めようか。」
最後の上級生の自己紹介が終わると、圭織は横にいる紗耶香をみる。
紗耶香も圭織の顔を見つめ、コクリと頷くと前に出る。
「じゃあ、剣道を中学時代にやってた人、手を挙げて。」
新入生達は自信なさそうに、頭よりも少し高く手を上げる。
〜 パッシ〜ン 〜
「意思表示はハッキリする!!」
「かお先輩、そんなに怒らないでくださいよ〜 えっと1・2・3・4…7人ね。」
紗耶香は圭織をなだめながら、新入生の手を上げた人数を数える。
20 名前:ハローステップ18 投稿日:2000年08月13日(日)12時42分50秒
「剣道着は持ってきてないよね… じゃあ、今手を上げた7人は部室にある竹刀
を持って、素振りを見せてくれる…かお先輩見てくれます?」
圭織を見上げる紗耶香。圭織はうんと頷く。
「それじゃあ、残りの5人は紗耶香がみるのね。」
「いいですか? かお先輩。」
「いいよ。 は〜い、じゃあ新入生そう言うことだから。用意して〜。」
〜 ハイッ!! 〜
勢いよく返事をした、先程手を上げた7人は駆け足で部室に向かう。
“まあ、中学からやった人は多いよね…”
ひとみは同じ1年生でありながら、取り残された気分を味わっていた。
「それじゃあ、残った1年、チョットこっちに来て〜。」
〜 ハイ! 〜
先程の声よりは少しばかり力のない返事で紗耶香の周りにひとみ達は集まる。
「全然やったことないんだよね、多分。」
紗耶香の問い掛けに、統一されてない弱い返事が返る。
21 名前:ハローステップ19 投稿日:2000年08月13日(日)12時43分24秒
「もっと、返事は元気よくしないとダメだよ。」
〜 ハイ!! 〜
紗耶香の指摘によって、やっと返事らしい返事が返ってくる。
「じゃあ、竹刀の持ち方からかな。 部室から竹刀を、一人一本持ってきて。」
〜 ハイッ 〜
先程の1年生と同じように駆け足で部室に向かう、ひとみ達。
“久しぶりだな〜 この感じ。”
忘れかけていた、クラブの雰囲気を思い出し、ひとみの心は上気していた。
22 名前:I&G 投稿日:2000年08月13日(日)13時03分21秒
これ、いい!!
市井と吉澤というのがいいねー。
このまま市井X吉澤でいってほしいけど、いしよしになってしまうのかな?
できるかぎり、「いちよし」でお願いします。
23 名前:あつし 投稿日:2000年08月13日(日)22時19分27秒
最高っす
24 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月14日(月)01時47分54秒
元剣道部としては期待せずにいられない。
25 名前:まいのすけ 投稿日:2000年08月14日(月)11時38分35秒
続きが楽しみ・・・。
26 名前:ハローステップ20 投稿日:2000年08月15日(火)12時21分05秒
「それじゃあ、竹刀を両手で握ってみて。」
部室から戻ってきた一年生達を確認すると、紗耶香は早速練習に入る。
1年生たちは思い思いの握り方で竹刀を握る。
「まあ、最初はそうなるよね…… 竹刀には正しい持ち方があるから、
まずはそれを覚えてもらうから。」
おもむろに傍らにある竹刀を前にいる一年生に見えやすいように上に
掲げながら紗耶香は握った。
「いい? みんな。竹刀は時代劇なんかと違って、握るときに間隔を
あけるの。こういう感じね。」
“なるほど。間隔をあけるのか”
ひとみは紗耶香の手を見よう見真似で持ち方を変えていく。
「そうそう、みんな上手上手。次は足だけど・・・・」
一つ一つを丁寧に基礎から教えていく。
27 名前:ハローステップ21 投稿日:2000年08月15日(火)12時21分50秒
“これは思っていた以上にキツイ・…”
ふらつく体、一点に集中しない竹刀の先。既に体力的には悲鳴を
上げていた。ひとみはちらりと横を見る。他の1年生達も同じような状態
が伺えた。
「今みんなが構えているのが基本姿勢。これは一番大切だから
忘れないようにしてね。それじゃあ、素振りをしてみようか。 ハイッ!!」
〜 ふらん 〜
勢いのいい掛け声とは正反対に、竹刀を振る音は力ない。
「降ったあとは竹刀をちゃんと止めてね。こういう感じで…」
〜 ブゥウワァン 〜
「ピタッと止めること。分かった?」
“ウッソ〜”
ひとみだけでなく、恐らく1年生が瞬時にこの思いを抱いたであろう。
想像だに出来ない音が聞こえた。本当に同じ竹刀から生み出される音とは
考えられないほどの勢い。
28 名前:ハローステップ22 投稿日:2000年08月15日(火)12時22分34秒
「ハイ。じゃあ、3回振ってみようか。」
〜 ふらん ふらん ふらん 〜
意気込みは違うのであろうが、音に違いはない。
じっとその素振りを見つめる紗耶香。その顔には優しさは見て取れるものの
それ以上に鋭い眼差しの方が特徴的である。
すると突然、紗耶香が1年生達の方に近づいていく。
瞬時に1年生達の表情がこわばる。
“チョット待ってよ〜。”
ひとみは他の1年生よりも緊張は強かった。明らかに自分の方に近づいている
のが分かったからだ。
「吉澤。」
「ハイッ!!!」
「チョット、振ってみて。」
「ハイッ!!!」
〜 ふらん 〜
29 名前:ハローステップ23 投稿日:2000年08月15日(火)12時23分31秒
「う〜ん…えっとねえ…」
ひとみの後ろにおもむろに回る紗耶香。ひとみの竹刀に手を添える。
「吉澤は右手の力がチョット強いから、竹刀が左に流れてるのね・・・だから」
〜 ブゥワン 〜
「意識的に左を強くするようにすればまっすぐになるから。」
手を添えられたまま、ひとみはなすがままに素振りをする。
「それを頭の中に入れて、やっていって。練習していけば自然に直ると思うから。」
ひとみの右肩から顔を出す形で紗耶香はアドバイスをする。しかし、ひとみの方が
幾分か紗耶香よりも背が高い。それが災いして、紗耶香から漏れる息がちょうど
ひとみの首筋と耳の裏にかかる。
“ヒャ!! くすぐったい…”
反射的に体を小さくしてしまうひとみ。それを紗耶香は不思議がる。
「大丈夫? 吉澤。」
「はぁ・・・・大丈夫です。 先輩。」
“先輩、優しい言葉かけられると、息が耳にかかって…”
「本当? それならいいけど、さっき言ったことを注意してね。」
30 名前:ハローステップ24 投稿日:2000年08月15日(火)12時24分09秒
紗耶香はひとみの後から離れ、再度1年生を前に見るような場所に戻る。
“先輩、本当にやめてくださいよ〜 力が抜けちゃう。”
「ハイッ!! じゃあもう一回やってみて〜」
〜 ふらん ふらん ふらん 〜
“だめだ〜 まだ力が入らない・・・”
ひとみは一生懸命に竹刀を振るが、抜けた力を取り戻すのは
至難の技となっていった。
「吉澤〜 力入れないと、気を抜いちゃあダメだぞ〜。」
「ハイィ!!」
“力を入れろって言われても、力抜けさせたのは先輩なんですよ〜”
そんなことを思っていても口に出すことは出来なかった。
31 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月15日(火)22時00分15秒
いちよしいいね、絵になる2人だ。
32 名前:まいのすけ 投稿日:2000年08月16日(水)05時40分25秒
なんか、よっすぃ〜がカワイイす。
33 名前:ハローステップ25 投稿日:2000年08月21日(月)11時40分25秒
「よ〜し!! 全員集合〜!!!!」
武道館に圭織の声が通りすぎる。上級生達は練習を一斉に止め、圭織の元へと
集合する。
「ハイ!! 一年生。今日はココまで。じゃあ、かお先輩の方に行って。」
〜 ハイッ!!! 〜
紗耶香の指導を受けていた1年生達も、その言葉で一斉に走って、集合してゆく。
少し遅れて紗耶香が最後に集団に加わる。しかし、その場所は他のメンバーとは
違う。圭織の横であった。
「今日の練習はココまで。1年生にとっては、ちょっとキツかったかもしれ
ないけど、そのうち慣れていくと思うから。頑張ってついてきて欲しいの。」
練習前の厳しい一面とあいまって、その言葉はとても優しさに満ちているように感じた。
「それじゃあ、紗耶香。いつものヤツ。」
「はい。 全員、黙想〜〜〜!!!」
一斉に目をつむり、下を向く上級生達。ひとみ達は呆気に取られる。
“これは、マネしないといけないのかな・・・”
1年生立ちも誰ということもなく、目をつむり下を向く。
先ほどの竹刀の乾燥した音が過ぎ去り、いまの武道館に音は一切なかった。
34 名前:ハローステップ26 投稿日:2000年08月21日(月)11時41分17秒
「やめ〜〜〜!!!」
〜 ありがとうございました!!!! 〜
紗耶香の言葉が合図となって、全員が深々とと頭を下げ、力のこもった声を放つ。
少し遅れたテンポで、第一陣の波よりも小さいながらも声が響いた。
「それじゃあ、掃除は1年全員と2年のB組がやってね〜。」
「分かりました。かお先輩。 1年生とB組集合〜!!!」
圭織が武道館の横にある、更衣室へと足を進めると同時に、紗耶香の元気の良い声が
武道館を包んだ。
“やっぱ、掃除はやるんだ…”
中学時代からクラブ活動をしていたひとみであったが、いまの疲労感からか、
練習の終了後のことに考えは回っていなかった。
「それじゃあ、掃除の説明をするから、1年生はちゃんと聞いておいてね。まず、
モップで床を拭いて・・・」
“でも、市井先輩って2年生なのに、いろんな事任されてるんだな〜”
ひとみは説明に耳を傾けながら、疑問が頭を巡った。
35 名前:ハローステップ27 投稿日:2000年08月21日(月)11時42分04秒
確かに、圭織が主将なのだから、様々な指導をするのは理解できる。だが、
2年生である紗耶香がどうして、圭織のサポート的な役回りを演じているのかは
分からない部分だった。
“元々、2年生が副主将か何かするっていう伝統なのかな…それなら来年は私が・・”
「で拭き終わったら、元の場所に戻して終わり。それじゃあ早速、始めようか。」
〜 ハイッ!! 〜
1年生が一斉に武道館の隅にあるロッカーに向けて走り出す。約、1名を除いて。
「吉澤〜 なにボーっとしてるの? 掃除するよ。掃除!!」
「ぬあぁ!? ハイッ!!」
“ヤッバ〜 全然聞いてなかったよ〜”
すぐに1年生立ちの背中を追う。
「今年の問題児は吉澤だな〜〜抜けてるもんね〜」
後から紗耶香が2年生達と談笑する声が聞こえる。
“何か、イヤなイメージついちゃったな〜”
その声を背中に受けながら、ひとみはロッカーへと向かっていく。
36 名前:ハローステップ28 投稿日:2000年08月21日(月)11時43分05秒
「よ〜し、こんなもんかな。1年生ご苦労様。掃除は終了。」
〜 おつかれさまでした!!! 〜
一列に並んで1年生達は礼をして、更衣室へと重い足取りで移動していく。
ひとみも例外に漏れず、疲労に満ちた体を動かしていた。
“やっぱ、久しぶりに体動かしたから、ガチガチになってるな・・・”
更衣室に辿り着くと、ひとみは汗にまみれた体操服から体を解放していく。
3年生達の姿はもうない。他の1年生達もゆっくりとした手つきで体を
解放して、併設しているシャワールームへと入っていく。
“さすが、一流学校。シャワーがついてるんだよね〜。”
ひとみは妙に感動を覚えながら、シャワーを浴びに向かう。
すでにシャワールームからは幾つかのシャワーの音が聞こえる。
向かいの棚に着替えの服を入れると、ひとみは下着を体からはずしていく。
「・・それにしても、明日の筋肉痛がキツイぞ〜。」
「まあ、仕方ないよね。初日だから。」
「ホント。久しぶりに運動・・・・。」
そこでひとみは話の相手が誰なのかに気付く。先ほどまでずっと、自分たちを
指導していた伸びやかな声。紗耶香である。
37 名前:ハローステップ29 投稿日:2000年08月21日(月)11時43分57秒
「アッ!! 市井先輩!!! おつかれさまです!!」
「あ〜 おつかれさま。 結構キツそうだね。」
「いやあ・・最近、運動してないもんで…。」
「まあ、慣れだから、慣れ。1週間もすれば、なんともなくなるよ。」
緊張しているひとみとは対称的に紗耶香はシャワーの準備をしながら、会話を進める。
しなやかな紗耶香の肢体をただ、見つめるひとみ。
「ちょっと、あんまりジロジロみないでよ〜。」
「あっ…すいません。」
「ヤッパリ、変かな・・・・」
下を見る紗耶香。
「そんな事ないですよ!!! ホラッ!! CMでも篠原涼子さんが着てたりしてましたし、
最近は女の子でも多いですよ。ボクサーパンツ。」
「そうだよね〜 みんなビックリするんだよ。ボクサーパンツ履いてると。」
“イヤ、でもこう見てると、本当に美少年みたいだよね・・・”
ボクサーパンツにスポーツブラジャー。そこには女としての美しさではなく、
中性的な美しさがあった。
38 名前:ハローステップ30 投稿日:2000年08月21日(月)11時44分46秒
“あれ!? なんかドキドキしてる・・・”
「どーしたの? 吉澤・・・」
急にうつむいたひとみを不思議がる紗耶香。その原因が自分にあることなど
知りもしない。
「なんでもないです・・・なんでもないです。」
急に気恥ずかしさに襲われて、ひとみは急いでシャワーに入る準備を始める。
下着を脱ぎ、紗耶香に背を向けタオルで全身を包む。
「お先にシャワー浴びます。」
「ホントに大丈夫?」
紗耶香を横切りシャワーへ向かおうとするひとみの、あらわになった肩を掴む。
「心配しないでください。大丈夫ですから。」
振り払うかのようにひとみはシャワー室へと向かっていく。
“先輩のせいだっていうのが、本当に分かってないのかな…。”
少し、紗耶香の行動がいたづらっぽく見えるのだった。
39 名前:I&G 投稿日:2000年08月21日(月)16時12分36秒
更新されていてかなりうれしい。
それにしてもスポーツブラ&ボクサーパンツとは(笑)
確かに市井には似合っているかもね。
40 名前:Unknown 投稿日:2000年08月21日(月)17時55分59秒
楽しみにしてます。
いちよしさいこーっす。
41 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月21日(月)20時02分44秒
う〜ん、これから先がすごく楽しみ。
42 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月21日(月)20時51分31秒
市井の前ではよっすぃも可愛いな。
43 名前:ハローステップ31 投稿日:2000年08月23日(水)13時42分43秒
〜 シャッ 〜
シャワーはそれぞれ、厚いビニールのカーテンが出入りを支配していた。
ひとみはシャワーを浴びるため、中に入ると、カーテンを閉め、タオルを
体から離し、カーテンのサッシに投げかける。そして、ゆっくりと赤と青の
蛇口を回していく。少し勢いは弱いが、シャワーがひとみを濡らす。
「ツメッ!!!」
春とは言え、まだ肌寒さが残る。水のほうが強い勢力をもったシャワーに
ひとみは思わず声を上げた。
「アハハハ 吉澤〜 ホント間が抜けてるな〜。」
“横のシャワー、市井先輩が使ってるんだ・・・”
恥ずかしさが込み上げてきたと同時に、おかしさに襲われ、ひとみの顔は
思わずほころぶ。
〜 ジシャーーー 〜
シャワーの勢力をなんとか、操作しひとみは体についた汗と埃、そして、疲労も
落としていっていた。
44 名前:ハローステップ32 投稿日:2000年08月23日(水)13時43分58秒
♪今日がとても〜 フ〜フフ〜〜ン〜〜♪
心地良さから、ひとみは無意識に鼻歌を口ずさむ。体を包んでいた不純物は
徐々に消え去る。
「吉澤〜 あゆ好きなの?」
向かいから、ひとみに向かって声が投げかけられる。
「市井先輩。どうして分かるんですか?」
「あんたさあ〜 歌ってたじゃん。あゆ。」
「いつです?」
「・・・いつって、さっき・・・まあいいや。私もあゆ好きなんだよね。」
「ホントですか!! 先輩!! あゆって良いですよね。特に歌詞が・・・・」
「吉澤ってさあ・・・もしかして、あんまり歌上手じゃないよね・・・」
「スゴイ!! 先輩!!! どうして分かるんですか!! そうなんです。音痴なんですよ。」
「・・・みかけはクールだけどぬけてるなあ・・・」
「先輩!? 何か言いましたか〜?」
「イヤ!! こっちのこと。こっちのこと。」
45 名前:ハローステップ33 投稿日:2000年08月23日(水)13時44分49秒
「あの、市井先輩。 質問して良いですか?」
「へぇ? 別に良いけど。」
シャワーの音に紛れながら、ひとみの声が紗耶香に届く。
「先輩は、副主将か何かなんですか?」
「あ〜 ヤッパリそう思うよね・・・・。」
「“思うよね”って事は違うんですか?」
「私は2年生でしょ。主将とか副主将は3年の先輩がやるのよ。」
確かに紗耶香の指摘は正しい。だが、ひとみの疑問は深まる。
「でも、いつも飯田先輩の横にいましたよね・・・・。」
「あれは、かお先輩たってのお願いなの。先輩には逆らえないでしょ。」
「はぁ… でも、どうして市井先輩なんですか?」
「好きなのよ、かお先輩。私のことが。」
「ほぇへぇ?」
不意をつかれた、突然の重大発言。ひとみは驚嘆の声を上げる。
「アハハハ そういう“おねえさま”っていうヤツじゃなくて、私の剣道に対する
姿勢とか、礼儀作法とか、恥ずかしいけど、気に入ってるのよ。」
46 名前:ハローステップ34 投稿日:2000年08月23日(水)13時45分41秒
「なるほど!! そう言うことですか!! ビックリしましたよ。突然…“好き”って・・」
「ゴメンゴメン。ビックリさせちゃったね。だから、かお先輩は私に色々練習の指導
を任せたりしてくれるんだ。」
「そうだったんですか…。」
一瞬、戸惑ったものの、ひとみには圭織の考えがよく理解できた。
今日1日だけの体験であったが、紗耶香の剣道に対する姿勢や1年生に
対する教え方などは優しさに溢れ、そしてとても情熱的なものだった。
“市井先輩は別格なんだ…でも、そんな雰囲気を出してないんだよね。”
そのような特別な位置にいることは、部活動の中では珍しい。そして、
3年生にとっては、時に“ナマイキ”に映ることもある。しかし、ひとみ
が感じたように紗耶香はそれを鼻にかける部分が微塵もない。
“市井先輩ってかっこいいなあ・・・”
体にシャワーを浴びながら、ひとみは紗耶香の魅力を感じていた。
47 名前:ハローステップ35 投稿日:2000年08月23日(水)13時46分44秒
〜 カラゥッツ 〜
何か軽い箱が床に落ちるような音がしたと同時に、ひとみは足先に小さな
感触を感じる。シャワーに顔を向けていたひとみは足元を見つめる。
“なんだ? ミニシャンプーのいれものじゃ…”
〜 シャッ 〜
一瞬、ひとみは何が起きたか分からなかった。だが、音の出所に顔は向けていた。
しかし、事態が全く分からない。そこには確かにブルーのナイロンカーテンが
かかっていたはずである。ひとみの目には青色が迫ってくるはずなのであるが、
そこに青色がない。あったのは先程まで壁を隔てて会話をしていた主であった。
「吉澤〜 コッチにミニシャンプー転がってこなかった?」
「・・・・・。」
「吉澤って・・・」
「キャーーーー!!」
呆然としていたひとみが事態を把握したとき、叫び声がこだまする。
慌てて紗耶香がひとみに近づき。口を塞ぐ。
「シーーー!! 吉澤!!! 落ち着けって!!!」
口を塞がれ、耳元で紗耶香の声を聞きながら、ひとみはウンウンと頷く。
48 名前:まいのすけ 投稿日:2000年08月24日(木)15時45分55秒
んん〜〜!!
イイ感じっすねぇ〜!!
49 名前:匿名希望 投稿日:2000年08月25日(金)00時52分15秒
師匠早く続きを・・・
50 名前:サンジ 投稿日:2000年08月25日(金)03時56分03秒
ああおもろいなー・・・これ。
51 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月25日(金)13時37分10秒
んんん!?一体何が起こったんだ?
続きをお願い!
52 名前:ハローステップ36 投稿日:2000年09月04日(月)10時16分23秒
「なんか、チカンが来たみたいに叫ばないでよ〜」
「す・・すいません・・・。」
落ち着きを取り戻したひとみを確認して、紗耶香は塞いでいた手を離す。
「シャンプー転がっちゃったでしょ? 多分、こっちに来たと思うんだけど。」
「あの…確かに転がってきましたけど・・。」
「どこ行っちゃった?」
下を向き、シャンプーのありかを探す紗耶香。
「イヤ!!!」
「だから〜 そういうのを見に来たわけじゃないのよ。」
思わず足を内股にし、身を少しかがめるひとみを、紗耶香は呆れ顔で見つめる。
“見に来たんじゃないって言われても、先輩、恥ずかしくないのかな〜”
いくら女同士とはいえ、裸を見られることに抵抗感がない者はそうはいない。
それも、面識はまだないに等しい人物であるならなおさらである。ひとみの行動は
至極当然なのであるが、紗耶香の振舞いをみていると、ひとみ自身もどちらの行動
が適切なのか判断出来ずにいた。
53 名前:ハローステップ37 投稿日:2000年09月04日(月)10時17分08秒
「おかしいなあ〜確かにあると思うんだけどな〜」
そんな風にひとみは考えていることなどお構いなしに紗耶香はシャンプーを探す。
ひとみはただ、硬直して紗耶香の行動を見守る。しかし、次第に雰囲気に慣れてきた
のか、紗耶香をまじまじと見つめ出す。
“市井先輩って、スゴク綺麗な体してる・・”
しなやかに長い手、そしてそこから末端へと向かうと細く、まるで武道をやっている
と思えない指。水にぬれた髪は艶やかな黒さを際立たせ、後に束ねられている。
“私も、あんな体になりたいな〜”
このように思うのは、ひとみだけではないだろう。誰もが思う願望である。
「お!! あった!!」
ひとみの物思いは紗耶香の発見の言葉で終了を迎える。それと同時に紗耶香の手が
ひとみの両足の間に伸びる。一瞬、ひとみは息を飲む。
紗耶香が身をかがめているため、ひとみの足のつけねにちょうど紗耶香の顔がくる。
“え!? 市井先輩… ちょっと・・・・”
声を出そうにもあまりの驚きから、そこまで頭が回らない。
54 名前:ハローステップ38 投稿日:2000年09月04日(月)10時17分41秒
「やっと、見つかった〜。」
紗耶香は体を起こし、ひとみと同じ目線になる。
「吉澤、ゴメン ゴメン 」
「い・・・いえ! そんなことないです。」
「ちょうど頭洗おうと思ってたら、手が滑っちゃってね。・・・・それにしてもさあ、」
「はい? なんですか?先輩。」
すると、ひとみは紗耶香の目線が自分の目を見ていない事に気付く。明らかに下だ。
「アンタ、栄養が身長にしかいってないんじゃないの?」
「はい?」
「だから〜〜。」
おもむろにひとみの右の乳房を指でピンではじく。
「キャ!!」
「な〜に、カワイイ声だしてんのよ〜」
紗耶香は笑顔でひとみを見る。ひとみもやっと意味がわかったのか両手で乳房を
隠す。
「どうも、お邪魔しました。それじゃあね。」
紗耶香は手を振り、ひとみに背を向けてシャワーのカーテンを開ける。
「案外、毛深いんだね。」
カーテンが閉められると同時に、ひとみはすぐに下を向く。
「エッチ〜〜〜!!!!」
シャワー室に叫び声がこだまするなか、剣道部員としての1日が終わろうとしていた。
55 名前:ハローステップ39 投稿日:2000年09月04日(月)10時18分28秒
「それじゃあ、行って来ます。」
「ひとみ、シップ貼ったほうがいいんじゃないの?」
「いいよ、お母さん。シップ臭くなっちゃうから。」
「でも、見るからに辛そうよ。」
「大丈夫だから、お母さん。じゃあ、行ってくるね。」
ドアを閉めてはみたものの、実際のところ、ひとみの体はムリがきていた。
「やっぱり、運動してなかったから、キツイな〜。」
予想はしていたものの、筋肉痛は全身から湧いてきた。歩くスピードも
自然と遅くなる。極力、体を動かさないようにしているために滑稽さが
みてとれた。
「よっすぃ〜!!! なに変な歩き方してんの〜!!!!」
後からの声に反応して、ひとみは振り向く。
「あ・・ごっちん。おはよう。」
「どうした、どうした〜 全然元気がないぞ〜。朝はちゃんと食べないとダメだぞ〜。」
「いや、そうじゃないの。筋肉痛で体が…。」
56 名前:ハローステップ40 投稿日:2000年09月04日(月)10時19分16秒
「あれ〜 ウチの高校バレー部ないじゃん。」
「剣道部入ったんだ・・・・。」
いつもよりも、遅い歩調で近くの駅へと歩く二人。話はひとみの筋肉痛の原因となって
いったのは、ごく自然な成り行きだったのだろう。
「め〜ん!! とか言ってるの?」
「まだ全然、そんな段階じゃないんだけどね。」
「先輩とか、恐いんじゃないの? 竹刀とかで殴ったりしない?」
「ごっちんさぁ〜 いまどき、そんな部活は女子高じゃあないよ。」
「それじゃあさあ、先輩からレズられたりしなかった?」
「ごっちん、頭悪すぎるよ。よくそれでウチの高校合格できたよね〜。」
「そんな風に言わないでよ〜 で、どうなのホントのところは?」
駅へついても二人の話題は変わらない。
「だからさ〜 マンガ読み過ぎだって。ごっちんは・・・・」
「そんなこと言いながら、“お姉さま〜”とか言いたい先輩とかいるんじゃないの?」
「え!!?」
57 名前:ハローステップ41 投稿日:2000年09月04日(月)10時20分07秒
「あ〜怪しいぞ〜どんな先輩なの? ねえ よっすぃ〜ってば!!」
〜 パンパロパロ パンパンパン パロパロパンパンパン 〜
「ほら!! ごっちん。 電車来たから乗らないと。」
ひとみは話題を変えようと、一人先に電車に乗る。
「ちょっと、待ちなよ〜 よっすぃ〜。 どんな先輩なの?ねえ」
だが、ひとみは返事をしない。
「よっすぃ〜? よっすぃ〜ってば・・・・」
「おはようございます!! 市井先輩!!」
先に急いで乗ったひとみの前には同じ制服。竹刀をカバーにいれ、横に携えた
少女がいた。紗耶香である。
「あ!! おはよう 吉澤。 この駅の近くに住んでるんだ。」
「はい!! 歩いて15分くらいのところに家があるんで・・・。」
「よっすぃ〜ってば!!!!!」
後ろから聞こえる大きな声でひとみはもう一人の存在を思い出す。
「あ、ごっちん・・・」
「“あ”じゃないよ〜 どうしたの・・・・」
58 名前:ハローステップ42 投稿日:2000年09月04日(月)10時20分49秒
声をかけたが、ひとみが返事をしなくなった理由が分かる。
「よっすぃ〜 誰なの?」
「吉澤の友達?」
矢継ぎ早にひとみに質問がぶつけられる。
「私と中学時代からの友達の後藤真希さんです。ホラッ ごっちん挨拶して。」
「始めまして。後藤真希です。」
いつもの真希の雰囲気ではない事はひとみにも分かった。
「2年生の市井紗耶香です。よろしく。剣道部で吉澤とは知り合ったの。」
そういうと、紗耶香は突然、真希の髪の毛に手を伸ばす。
突然の出来事、真希は固まる。そして、ひとみも同様だった。
「染めてるんだ・・・。」
「はい・・・・・。」
「勿体無いなあ〜 綺麗な髪の毛してるのに。黒のほうが絶対似合うよ。」
呟くと、紗耶香は髪から手を離す。
「吉澤、大丈夫? 筋肉痛とかなってない。」
一連の行動に呆気を取られていたひとみ、紗耶香の質問に驚く。
59 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月04日(月)17時18分47秒
紗耶香の何気ない行動が愛の種を撒き散らしてるんだな。
罪作りなやっちゃ!
60 名前:I&G 投稿日:2000年09月05日(火)01時48分18秒
これが更新されてると、幸せなんだよな〜。

それにしても、とうとう後藤が登場か。どうなるか、楽しみです。
61 名前:Unknown 投稿日:2000年09月05日(火)01時55分11秒
市井がいーっすねー!
女子高っていいなぁ(爆)
62 名前:ハローステップ43 投稿日:2000年09月09日(土)13時43分51秒
「あ…はい。運動をヤッパリ、してなかったものですから、少しは・・・」
「そうなんだ…マッサージとかしないとね。練習の後は体を休めないと。」
「はい。わかりました。」
「それと、筋肉つけといてね。あんなに細い体だと、竹刀持つだけでも大変だから。」
「分かりました。」
ふと、気付くと、紗耶香の後に数名の同じ高校の制服がひとみは見えた。恐らく、
紗耶香の友人なのであろう。もう少し話をしたい気持ちがあったが、ひとみは
胸にその思いをしまいこむ。
「市井先輩。それじゃあ、部活で。」
「うん。それじゃあね。」
ひとみが気をきかせているのが分かったのか、紗耶香もその言葉に呼応して、後の友人達
の方を向き直した。ひとみも少し、紗耶香に距離を置くように車両内を移動する。
「ねえ、よっすぃ〜。」
ひとみにも予想できた真希の質問。当たり前のように真希の口からついて出る。
「さっきの先輩。市井先輩だっけ? 剣道部の先輩なの?」
63 名前:ハローステップ44 投稿日:2000年09月09日(土)13時44分44秒
「うん。そうだよ。」
「どんな人?」
「どんな人って言われても、私も昨日、初めて話したからよくわかんないよ。」
「どんな話、したの?」
「まあ、剣道初心者の私に剣道の基本的な動作の説明とか、必要な知識とか…。」
ひとみは薄々、真希の態度が違う事には気付いていた。初対面の人の事をあまり、
根掘り葉掘り聞いたりはしないタイプであるにも関わらず、真希はしきりに紗耶香
の事を聞こうとする。
「あのさあ・・・」
「なに? ごっちん。 まだ聞きたいことがあるの?」
「さっき、さあ。市井先輩、よっすぃ〜に“筋肉つけろ”って言ってたよねえ。」
「うん。言ってたけど?」
「なんでさあ。よっすぃ〜が細い体だっていうのが分かるの?」
「それは、昨日・・・・。」
その瞬間、ひとみは言葉を途切れさせる。昨日の練習後の出来事が頭をよぎった。
64 名前:ハローステップ45 投稿日:2000年09月09日(土)13時45分40秒
シャワーの音・市井先輩・自分・生まれたままの姿・一つの空間・二つのカラダ…
たとえ、事故と説明したところで、真希は分かってくれないだろう。そして、
分かってくれるとしても、言ってはいけない、自分だけの秘密の出来事。
「ねえ、よっすぃ〜 どうしてなの?」
返事をしないひとみを真希が不思議な顔で覗きこむ。ひとみも一人の世界から抜け出す。
「うな? だから…それはねぇ・・・・なんて言うのかなあ。上手い人は分かるのよ。」
「ジャージを着てて、細いって分かるの?」
「まあ・・そういうことだよ・・・。」
「“市井先輩、私の体を見てください”とか言ったんじゃないの?」
ひとみは真希の推理力にこの日だけは、感心した。
「も・・ホント、ごっちんはマンガの読み過ぎだよ〜。」
〜 まもなくー ××公園前 ××公園前―  〜
「あっ!! ごっちん。降りないと。ホラ、早くしよ。」
「あ〜 待ってよ〜 よっすぃ〜 もうちょっと、聞かせてよ〜。」
その日、1日。真希は朝の出来事の張本人について、ひとみに問いつづけた。
そして、翌日、真希の髪は他の生徒と同化していた。
65 名前:ハローステップ46 投稿日:2000年09月09日(土)13時46分40秒
〜 ピュィーーーー。 〜
「はい。集合〜。」
乾いた笛の音に続いたのは、女子高では珍しい男の野太い声。当たり一面に咲いていた、
言葉の花は消え、声の元へと少女達は集まっていく。
「よ〜し。今日の体育はバレーボールをやる。いいか、まずグループに分けるから、
今から言うメンバー毎に集合しなさい。まず、Aグループは・・・・。」
次々と呼ばれる名前を聞きながら、ひとみは考えを巡らせていた。
“クラブはないのに、バレーやるんだ…不思議な学校だなあ…”
そんな思いに駆られながら、ふと、目に入ったのはグラウンドの向かいのもう一つの
同じ集団。自分たちよりも明らかに行動が機敏であった。
“2年生か、3年生の先輩達だ…あれ?”
そこにひとみは見慣れた姿を見付ける。目をひく長身、ひときわ長い黒髪。圭織である。
“やっぱ、飯田先輩目立つなあ〜 なにウンウン頷いてるんだろ…”
3年生達はいち早く、授業にとりかかっていた。じっとその動きに目を走らせるひとみ。
「一緒だね。吉澤さん・・・。」
「ぬぁ? あ・・梨華ちゃん。」
66 名前:ハローステップ47 投稿日:2000年09月09日(土)13時47分50秒
ひとみの心を授業へと戻したのは、梨華の声。昼食を食べてからというもの、
なにかと、ひとみと梨華は行動を共にする事が多かった。次第にひとみは“石川さん”
ではなく、“梨華ちゃん”と呼ぶようになっていたが、梨華は相変わらず、
“吉澤さん”とひとみを呼んでいる。
「Cグループだって。聞いてなかったでしょ?」
微笑みながら、梨華はひとみを見つめる。
「あ・・うん。ありがと。教えてくれて。」
「何みてたの?」
「向こうの先輩達に剣道部の先輩がいたから…。」
「もしかして、飯田先輩?」
「あれ!? 梨華ちゃんどうして知ってるの?」
「以上のグループに分かれて、各自練習をするんだ。それじゃあ、練習を始めてくれ。」
ひとみの疑問は最後の声でかき消され、解消されなかった。しかし、ひとみの疑問
は頭の中で巡り巡る。
67 名前:まいのすけ 投稿日:2000年09月09日(土)15時40分38秒
続きが気になるんすけど・・・?
気持ちが何処に向いてるのかが、知りたい。
68 名前:ハローステップ48 投稿日:2000年09月10日(日)18時02分45秒
「ねぇ、梨華ちゃん。梨華ちゃんってば!!」
体育の合間もひとみは先程の梨華の言葉が気にかかる。
「なに? 吉澤さん?」
「梨華ちゃんさあ…どうして、飯田先輩のこと知ってるの?」
「実は、飯田先輩は私と同じ中学出身なんだ。その頃から有名だったんだよ。」
梨華は小さい声ながら、笑顔でひとみの質問に答える。
「剣道で?」
「うん。剣道は強かったなあ〜。いろんな高校から推薦が来てたっていう噂だったし…。」
「“だったし”? 」
「それとね…これは本当にウワサなんだけど・・・。女の子が好きっだっていう・・・」
「レズ〜!!!!????」
口に出した瞬間、ひとみは今、自分が本来していると思われている事を思い出す。
それと共に、数多くの視線が自分に向けられていることを感じる。
“ヤバッ!! 今、体育の時間だった・・・”
隣の梨華も唖然とした顔でひとみを見ている。
69 名前:ハローステップ49 投稿日:2000年09月10日(日)18時03分49秒
「レズ・・・レズ〜ブ!! レシーブ!!! はい!! レシーブ!!」
取り繕った言葉に周りが納得したかどうかは分からないが、視線は元の状態に
戻っていく。それを確認して、ひとみはすぐさま、梨華の言葉の真偽を確かめる。
「梨華ちゃん!! それホント!!??」
「吉澤さん・・・ビックリしたよ〜・・。」
「ねえ、飯田先輩の話はホントなの?」
「う〜ん・・・ 私もテニス部の先輩から聞いた話だから、なんとも言えないけど・・・
あれだけ美人だと、スゴク男の子からもててたんだけど、全然相手にしてなかったのね。」
「・・・・うん・・・。」
ひとみは固唾をのんで、次の梨華の言葉を待つ。
「それと・・・、これは言っていいのかな・・・付き合ってたっていう、女の子がいたの。」
「それって梨華ちゃん。相手の女の子聞いたことある?」
「うん・・・でも、これは絶対ウソだと思うよ。」
「誰々? 梨華ちゃん!! ねえ!!」
「吉澤さん。剣道部の2年に市井紗耶香先輩って言う人いるよね。」
70 名前:ハローステップ50 投稿日:2000年09月10日(日)18時04分28秒
梨華の口から出た名前。ひとみは一瞬、意味が理解できなかった。
「それって、もしかして・・・。」
「うん。市井先輩なの。」
「市井先輩も、同じ中学だったの?」
「ううん。市井先輩は違う中学校なんだけど、ウチの中学は剣道部が弱いから
飯田先輩の相手になる人いなっかったんだ。だから、市井先輩がいた中学に出稽古
っていうのかな? 行ってたらしいのね。そこで、出会って・・・。」
「付き合い始めた・・・。」
「飯田先輩って、さっきも言ったけど剣道強かったから、別の高校行くだろう
って言われてたんだけど。進学校のココに入学決めたのは、市井先輩と約束したから
だって、チョット、ウワサになったんだよね。」
ひとみは梨華が、ウワサ好きなどではないタイプだという事は分かっている。
それが余計に圭織についての話の信憑性を高めていた。
「梨華ちゃんはどう思ってる?その話?」
「そうだなあ・・・単なるウワサじゃないかな? 私はそう思うよ。でも・・」
71 名前:ハローステップ51 投稿日:2000年09月10日(日)18時06分02秒
「でも?」
「飯田先輩って私達の中学だったら、“飯田先輩”とか、“圭織先輩”とか呼ばれて
たんだけど、市井先輩は特別な呼び方してるっていうウワサが、なんだかリアル
だよね〜。」
恐らく、梨華にとっては、ひとみの思いを和らげようとした言葉なのであろうが、
ひとみにとっては、更に深い疑問を残す。
“そう言えば・・・”
それはひとみ自身も気になっていたことだった。剣道部の中で、紗耶香だけは圭織を
“飯田先輩”とも“圭織先輩”とも呼んでいない。“かお先輩”と呼んでいる。
そして、紗耶香が言っていた“かお先輩は私が好きなの”という言葉。
「飯田先輩って梨華ちゃんから見て、“その気”があると思う?」
「・・・私、文化祭の実行委員やってた事があって、その時、飯田先輩も実行委員で
その時おぼえてるのは、すごく優しかった事かなあ。」
〜 ピュィェーーーー!!  〜
2度目の乾いた音が鳴り響く。
「よ〜し!! 今日はこれくらいで終了!! みんな、ボールを片付けるんだぞ!!」
72 名前:サンジ 投稿日:2000年09月10日(日)19時22分55秒
なんかおもろいぞ。マジで。
すっげぇ続きが気になるぞ・・・。
73 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月11日(月)00時19分50秒
面白いんだけど・・・
いしかおメインにして欲しいってのはワガガマかなあ・・・。
74 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月11日(月)00時34分42秒
この市井めちゃくちゃ男前やわ〜〜。
どうせだから他のメンバーも出して
市井×他メンバーってのはどうよ???
75 名前:まいのすけ 投稿日:2000年09月11日(月)02時23分28秒
展開が・・・!!
登場人物の気持ちが何処向いてるのか、わからない。気になる!!
76 名前:ハローステップ52 投稿日:2000年09月14日(木)11時54分19秒
授業が終わった後も、ひとみは梨華が話してくれた内容が一体事実かどうかなのか、
という疑問が頭を巡る。別に、恋愛は自由なのであるから、例え、同姓であったしても、
気にしなくても良いのであるが、なぜかひとみは圭織と紗耶香の答えが知りたかった
“本当に飯田先輩と市井先輩って、付き合ってるのかな? 確かにあの二人だったら・・・
でも、どうしてこんなに気になってんだろ?“
「吉澤さん・・・大丈夫?」
「むなぁ・・・? 梨華ちゃん・・」
突然の問い掛けに、ひとみは声の主の名を呼ぶだけしか出来ない。
「もう、お昼だよ・・・チャイム聞こえなかった?」
「ぇえ・・・イヤ、聞こえてたよ!! お昼食べようか。一緒に食べようよ、梨華ちゃん。」
「食べようっていっても・・・。」
ひとみは梨華が自分を見てない事に気付く。そして、その目線がやや自分の下にある
事に気付き、その目線をたどる。そして、梨華が言葉を濁した理由を知る。
「授業道具、片付けてないよ・・・それに数学は3時間目・・・。」
「あ・・ああ!! そうだよね。うん!! そうだよね。そうそう。そうなんだよ・・・」
取り繕う言葉に、もはや文法は込められていなかった。
77 名前:ハローステップ53 投稿日:2000年09月14日(木)11時54分54秒
急いで机の上においてある、授業道具を片付けるひとみ。
それとともに、横に掛けておいたランチボックスをとると椅子から腰を上げる。
「どうする? 今日も外で食べる?」
そんな、恥ずかしさを隠そうとするひとみの行動を、梨華は優しく微笑みながらみつめる。
「うん、そうだね。そうしようか。」
動揺の訳を聞かずに、ひとみのペースに合わせる。
「それじゃあ、行こうよ。グランド。」
教室の出入り口へと足を進め始めたひとみの少し後を歩く梨華。二人にとっては既に
一緒に昼食をとることは日常の一部へとなっていっていた。
〜 トゥ トゥ トゥ 〜
廊下を歩く二人の後ろから、テンポの速い靴音が近づく。そして、次第にひとみ達に
接近してくる。
「よっすぃ〜〜!! チョット待ってよ〜〜!!」
靴音が止むと共に、距離に不釣合いな大きさの声が響き渡る。自分のことを呼ばれて
いたことは分かるが、それよりも驚きのほうがひとみの気持ちを支配した。
「こなっ!!!!!!」
「ひなぁ!!!!」
反射的に後ろを向くと同時に、横にいた梨華も同様の仕草をしている事に気付くひとみ。
そして、同時に声の主が誰なのかも確認する。
78 名前:ハローステップ54 投稿日:2000年09月14日(木)11時55分24秒
「ごっちん!!!! ビックリさせないでよ〜〜!!!!!」
声の主は観なれた顔だった。少し強い調子でひとみは、名前を呼ぶ。
「やっと、見付けた〜!! この前から、お昼によっすぃ〜のクラスいってるのに、
よっすぃ〜いないから、今日はダッシュで来たんだよ〜!!」
当の本人は、自分のやったことが驚かせるような行為ではないと思っているらしく、
いつもの調子で話しかける。
「あ〜!!そうだったんだ!!」
と、ここでひとみは、強い視線に気付く。隣で不思議そうに二人を見ている。もう一人の
驚いていた人間。梨華である。唯一この雰囲気を飲み込んでいない事をひとみは思い出す。
「梨華ちゃん、そう言えば初対面だよね?」
「ぇえ? ・・うん。」
「紹介す・・・」
「初めまして。同じ1年生の後藤真希です!よっすぃ〜とは、中学が一緒で家も近所なんだ。」
ひとみが紹介をする前に身を乗り出して、真希は梨華の前に立ち、自己紹介を始める。
少し、真希の勢いに圧倒されながら、梨華も
「初めまして。1年生の石川梨華です。吉澤さんとは同じクラスです。よろしく。」
と、落ちついた口調で真希の自己紹介を返す。
79 名前:ハローステップ55 投稿日:2000年09月14日(木)11時55分59秒
「梨華ちゃんでいいよね?」
初対面ながら、真希は臆することなく、梨華に同意を求める。
「うん。いいよ。」
その同意を聞くと、今度はひとみの方に顔を向け、開口一番。
「お昼食べようよ!!」
ひとみ自身、真希が言ってくる言葉は予想できたが、ここまでストレートに聞いてくる
とは思ってもいなかった。
「え!? いいけどさあ。グラウンドで食べようかなとおもってたんだ?」
そう言いながら、視線を梨華に向けるひとみ。暗に二人で食べようとしていたということ
を真希に知らせる。梨華も小さく
「うん」
と呟くと、首を立てに振る。
「OK OK!! 全然OKだよ!! 梨華ちゃん、一緒に食べて良い?」
あまり、人のことを気にしないようであるが、真希はひとみとの二人だけの空間を
作ることを嫌った。梨華も会話の輪へ入るように、しきりに話しかける。
「うん。いいよ。一緒に食べた方が美味しいしね。」
言葉だけなのか、本心からの言葉なのかはわからない。ただ、ひとみには梨華が少なく
とも、真希を嫌っているようには見えなかった。
80 名前:ハローステップ56 投稿日:2000年09月14日(木)11時56分34秒
4月も中旬にさしかかると、春というよりも初夏と言う証言の方が適切な表現となる。
心地よい日差しの中で、3人はそれぞれの昼食を取りだし、口へと運んでいた。
「でさぁ〜 よっすぃ〜 剣道部の方はどうなのよ。」
「また〜 ごっちん。 最近、そればっかりじゃない?」
昼に会うことがなかったが、ひとみと真希は通学をよく、共にした。
そして、近頃、真希が尋ねてくる事は決まっていた。
“「よっすぃ〜 剣道部はどうなのよ」”
今まで、クラブのことなど聞いてこなかった、真希がクラブ活動を話の話題にすること
にひとみは、違和感を感じた。それは、ほぼ毎日繰り返された。
「今日も朝、話したけど、まだ竹刀を振ってるだけかな。防具をやっと買ったけど、
まだ、1回くらいしかつけてないよ。」
質問には、答えるひとみであったが、それが真希のきたいとは違うことも分かっていた。
「よっすぃ〜はいいから、先輩はどうなのよ。」
“やっぱりね…”
心の中でひとみは自分の考えの正しさを確認する。真希が剣道部のことをしきりに聞く
ようになったのは、電車で紗耶香と出会ってからの事だった。おそらく真希は剣道部自身
に興味があるのではないのだ。そう、一人の先輩について知りたいのだ。
81 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月14日(木)22時17分38秒
更新されてる、
後藤も参戦するのかな・・・
82 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月14日(木)22時27分45秒
おもしろい。ぜひ、参戦してください。
83 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月15日(金)17時17分07秒
どうなんだ!?市井は飯田とつきあってたのか!?
後藤も参戦かぁ。なんかすごいことになりそう。
84 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月15日(金)18時15分36秒
市井をめぐる三つ巴いいですね。
85 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月15日(金)18時35分30秒
後藤、市井ねらいと見せかけて実は吉澤を巡って市井に対抗心を燃やしてるってのはダメっすか?
86 名前:まいのすけ 投稿日:2000年09月17日(日)15時31分25秒
石川が目だって出てこないですね。(ワラ
87 名前:ハローステップ57 投稿日:2000年09月18日(月)19時45分08秒
「先輩達は飯田先輩を中心に毎日、スゴイ一生懸命練習してるよ。」
真希の意図がどこにあるのか分かっていながら、意識的にひとみは話をその核心へと
むけない。ちょっとした悪戯心などで割り切ることの出来ない感情。それは、どこか
嫉妬にも似たものだった。
「もう〜 分かってるくせに〜!! 市井先輩はどうなの?」
我慢比べは真希の負けのようだ。思わず自分の本心をさらけ出してしまう。しかし、
予測していた真希の心であったが、ひとみはどこか純粋にそんな真希を笑うことが
できない。だが、それは真希には知られることはない。
「市井先輩? 1年生を教えることも多いけど、練習もやってるよ。飯田先輩と市井先輩
は、我が剣道部の武蔵・小次郎だからねえ。やっぱりレベルが違うよ。」
差し障りのない説明。しかし、ひとみは忘れていた。もう一人話を聞いている人物がいる
事を。
「中学時代から強かったらしいよ、二人は。だからなのかなあ、ウワサになったのは…。」
ひとみが“しまった”と思う前にそれは起きた。ひとみを真ん中として座っていた、
3人のベンチの重心が一気に動き出す。シーソーであれば瞬時に傾くような勢い。そして、
ひとみの目の前を黒が覆う。
「梨華ちゃん!!! なに? ソレ!? ウワサって何?」
88 名前:ハローステップ58 投稿日:2000年09月18日(月)19時45分45秒
一瞬のうちに梨華の眼前には真希の顔が飛び込む。
「キャ!!」
当然の梨華の反応。だが、真希は一向に構うことなどない。
「梨華ちゃんて、市井先輩の事知ってるの? もしかして、一緒の中学!?」
まくし立てるように真希は続ける。梨華はその勢いに圧倒されるしかない。
「・・ううん。 一緒の中学じゃあないんだけどね。飯田先輩が…」
「ねえ!! ウワサって何? どんな話聞いたの!?」
間髪入れることなく返される真希の言葉。しかし、止めたのは梨華ではなかった。
「ごっちん〜!! そんなこといいじゃんか〜。」
目の前の真希の体を押すような形で、ひとみは梨華と真希の間にもう一度自分の
スペースを作る。
「ちょっと、よっすぃ〜 いいところだったのに〜。」
ぷっくと頬を膨らませ、真希は残念そうにひとみを見た。
「あんまり、ウワサなんかを知りたがるもんじゃありません。」
“よくこんなこと言えるな…”
自分自身の無節操さが妙にひとみは恥ずかしかった。しかし、それを悟られまいと
している。
89 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月18日(月)20時21分12秒
おっ。すごくラッキー。
ハローステップさんの更新楽しみにしてました。
90 名前:ハローステップ59 投稿日:2000年09月19日(火)11時15分09秒
しかし、ここでも予想外の事が起こる。
〜 クッフ クフクフクフ… 〜
何事かとひとみは音の方向へ顔を向ける。そこには猫背にして、一生懸命、声を殺そうと
している一人の姿が見えた。
「梨華ちゃん…?」
「フフフ・・ゴメンね・・・いや、吉澤さん。さっき必死に私に聞いてたのに…フフフ・・
今、後藤さんに注意してるの見ると・…おかしくて・・・クフクフクフ。」
まだ、ひとみに後ろを向くほどの無神経さはない。そして、突き刺すような視線を
感じないことなどもありえなかった。思い出したかのようにひとみはランチボックスを
見つめる。そして、食べかけだったベーグルをおもむろに手に取る。
「やっぱり、ベーグルって美味しいよね・・・・・」
〜 ・ 〜
「で・で・で!!! どんなウワサなの? 市井先輩のウワサって…」
時間はまた動き出す。スグに真希は身を乗り出して、再度、梨華の視界を独占する。
「う〜ん…絶対にウワサだと思うよ。実はね…」
さきほどと同じ語り口で、梨華は真希に話し始める。ひとみはベーグルを頬張りながら、
その後に襲ってくるであろう、真希の言葉の嵐をどう防ごうか考えをめぐらせていた。
91 名前:ハローステップ60 投稿日:2000年09月19日(火)11時16分01秒
〜 ピッシーン!!  ピッシーン!! 〜
徐々に近づく竹刀の音が、ひとみの心を憂鬱にさせる。まさか、こんなに部活に足を
踏み入れることが辛いことになるなどと、考えもしなかった。
“はぁ…どうしよ・…聞けるはずないじゃんか・・・”
そう思えば、思うほど、真希の昼の言葉が鮮明に思い出される。
「聞いてきてよ。よっすぃ〜!!」
「とぁな!!??」
あまりに単刀直入な問いかけ。言葉に詰まるひとみ。
「剣道部なんだから、“せんぱ〜い!! 飯田先輩とラブラブなんですか?”って聞けば言いじゃん。」
そう。確かに聞くのであればそれで良い。だが、一般的ではない同姓同士の恋愛をそう
簡単に尋ねて、また、相手がすんなりと答えてくれるなどということはありえない。
「なんで、私が聞かないといけないの?ごっちん聞いてきなよ。」
「私、電車でしか会ってないんだよ。初対面に近い人にそんな事答えるわけないじゃん。」
確かに正論。それだけにひとみは返す言葉が見つからない。
「・・だからって、私が聞く理由もないじゃない。ごっちんが知りたいだけでしょ!!」
92 名前:ハローステップ61 投稿日:2000年09月19日(火)11時16分55秒
最も正論。しかし、本心とは違う。だが、これを論破するほどの説明が真希にできる
はずがないとひとみは感じていた。真希のお願いもここで終わるはずだった。
「・・・分かった。」
終了の幕がおりるものだと、ひとみは感じる。
「ごっちん。聞き分け良いなあ。それでこそ・・・」
「私が聞く!!」
「そう、それで万事丸く収まる・・・・って、ねぁ!!??」
選択肢が二つあるのを忘れていた。多くの人間は一方を選ぶだろう。だが、
真希は違った。
「市井先輩に“飯田先輩とラブラブですか?”って聞く。」
確かに正しい問題の解決の仕方ではある。ひとみも驚いたものの、納得しかけた時、
「“よっすぃ〜がウワサで聞いたって言って話してくれた”って言う。」
真希は諦めていなかったのだ。ひとみに依頼することを。
「チョット!! それはダメだよ!!」
明らかに、もし真希の口から紗耶香に伝われば、紗耶香はひとみを今までとは違う目で
見ることになるだろう。そして、そのウワサを知っていながら、話をしないひとみに
不信感を抱くことは十分にありうる。
93 名前:まいのすけ 投稿日:2000年09月19日(火)14時27分37秒
おお!!
二人の関係が聞き出せるのかな。
・・・石川の笑い方にちょっと恐怖を感じてしまった。(笑
94 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月20日(水)03時43分20秒
こまかい事だけど、同姓になってるよ。
95 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月21日(木)23時35分07秒
スポーツものですね。しかも、吉澤主役で。更新がたのしみだ。
96 名前:ハローステップ62 投稿日:2000年09月25日(月)11時24分48秒
ひとみは悩んだ。しかし、悩んだところで良い解決策が浮かんでくるものではない。
もはや、選択肢はなかった。ひとみは納得できなかったが口を開く。
「分かったよ〜」
ひどく力ない言葉。しかし、それは真希の顔を変貌させるには十分過ぎた。
「もしかして、聞いてくれるの!!?? 市井先輩に?」
“もしかして”などという言葉など必要ない。100%それしかないのだから、
「うん・・聞いてみるよ…。」
相変わらず、力ない返事。しかしそれとは対照的に真希は力強くひとみの手を握る。
「約束だよ!! 指きり!!!」
今時、指切りなんてとひとみは思ったが、口に出すのはやめた。言ってしまえば、また
真希が何を言い出すか分からない。このまま紗耶香のクラスへ乗り込んで行く事も考え
られなくはない。真希に従うと、手が上下に揺れる。その感覚の中でひとみは、どのよう
に紗耶香に尋ねるべきかということに思いは移っていった。
〜キーン コーン コーン コーン キーン 〜
「あー!!! ヤバイ!! 昼休憩終わっちゃう!! 早くしないと!!!!」
97 名前:ハローステップ63 投稿日:2000年09月25日(月)11時25分34秒
真っ先に駆け出したのは真希。すでに自分の目的が達成されていたせいなのか、足取りは
軽い。後を追うように、ひとみと梨華も続く。
「吉澤さん…。」
走るひとみの横から、息の乱れた声が聞こえた。顔を向けるひとみ。
「・・どうしたの・・ハァ 梨華ちゃん・・」
「…聞いたら、私にも教えてね。」
もしかすると、一番真相を知りたがっていたのは彼女なのかもしれない。
しかし、こうなってしまった以上、もう進むしか道はなかった。
〜・・・・・・〜
遅い足取りでも、前進している事にかわりはない。うつむいて歩くひとみの目
にコンクリートの3段の階段が入る。その先には武道館の入り口。
「はぁ・・・・」
ため息。その息は、ひとみのまわりを取り囲んでいるようで、さらに暗い気持ちにさせた。
〜プァェン  プァェン 〜
“こんな感じだと、飯田先輩に何言われるかわかんないよ。”
自分に気合をいれるため、ひとみは頬を手で叩く。少しだけ、肩の力が抜けた気がした。
しかし、だからといって、事態は変わらない。
「遅れてすいませ〜ん!!」
精一杯出した声が武道館に響き渡った。
98 名前:ハローステップ64 投稿日:2000年09月25日(月)11時26分33秒
既に練習は準備運動を終え、本格的な稽古に入るところだった。練習内容を説明している
らしく、圭織を中心にして、部員が集まっている。長身なので、部員の中でも頭一つ、
圭織は抜け出ているの。すぐにひとみは事情を察する。
「遅いぞ〜!! 吉澤〜!!!」
部員への説明を止め、圭織が声を上げる。
「すいません!! スグ用意してきます。」
他の部員のも一斉に向きを変えて、ひとみに注意を注ぐ。大きな声で返事したものの、
注目されると、恥ずかしさがこみ上げる。そして、声を出した圭織の方を見る。
一直線にひとみを見つめるその視線。入部直後からその視線をみてきたものの、未だに
慣れることが出来ない。
“恐いな〜 飯田先輩の目・・・ 睨まないで欲しいんだけどな〜。”
「ホラ!! 吉澤!! ボケっとしない。早く着替えてきなよ〜。」
少しうつむいたひとみにかけられる、もう一つの違った声。声の主は顔を見なくとも
分かった。しかし、敢えてひとみは前を向いて、声の方向に目をやる。
いつもなら、笑顔で見ることが出来た顔。だが、今日のひとみには“使命”がある。
99 名前:まいのすけ 投稿日:2000年09月26日(火)14時03分31秒
聞き出して欲しいけど、それはそれで恐いっす。(笑
100 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月01日(日)23時37分48秒
更新お待ちしております。
101 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月03日(火)02時33分41秒
これ好きなんだけど続きはまだかな
102 名前:ムーミン 投稿日:2000年10月10日(火)01時14分14秒
どうちちゃったんでちゅか?
もうあきちゃったんでちゅか?
103 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月14日(土)17時57分53秒
続を…
104 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月17日(火)00時51分28秒
作者さん忙しいんですかねぇ?
105 名前:ハローステップ65 投稿日:2000年10月21日(土)18時50分45秒
じっと見つめる圭織の横に、その顔はあった。ひとみを叱りながらも、優しさに満ちた
響き。紗耶香も他の部員と同じようにひとみを見つめている。しかし、ひとみはその顔
を直視するほどの勇気が今日はなかった。
“始まる前が一番聞きやすかったんだけどな〜この雰囲気だと、ダメだ・・・”
もろくも、最初の作戦は崩れ去る。急ぎ足で更衣室へと向かうひとみの頭の中
では、聞き出すタイミングしか考られていなかった。
〜 ギチャク 〜
古びたドアを開けると、そこには幾つもの、大きな正方形のロッカー・・・更衣室も
シャワー室と同様に、まだ、古びた匂いを感じさせてはない。
ひとみは矢継ぎ早に制服を脱ぎ棄てると、大きな巾着袋のような袋の中から、胴着を
取りだし、着替えていく。部活に入った直後よりも、明らかにそのスピードは早い。
「っと、これでOK・・・」
そう呟くと、ひとみはロッカーから少し離れた場所にある、鏡へと足を運ぶ。
部活動と言っても、やはり、女子高生。身だしなみはもっとも気になる事であった。
少し乱れた、髪の毛を軽く手で整える。手を動かしながら、ひとみは鏡の中の自分の
目を見つめる。
106 名前:ハローステップ66 投稿日:2000年10月21日(土)18時59分10秒
“ホントに聞けるかなあ〜 頼りない顔してるよね〜”
「ちい先輩・・・ 飯田先輩と・・仲が良いですね・・・」
少しばかりの練習のつもりで、口に出した言葉。だが、その言葉にも頼りなさが伝わる。
「市井先輩って・・・飯田先輩との事、どう思ってるんですか?」
“これじゃあ、ジェラシー感じてるみたいだなあ・・・”
「市井先輩って、もしかしてレズですか〜?」
“ダメだ、バカ丸出しだ・・・。”
「市井先輩と飯田先輩って、友達以上の関係ですか?」
「吉澤って、面白いこと聞くね〜。」
“ウン・・ これだ!! これなら自然だし、ヘンには思われないだろうし!!”
納得したのか、ひとみは大きく頷いたあと、鏡に背を向け、剣道場へ歩き出そうとする。
しかし、ここで、気付く。鏡への質問で返事がしたことに。
「前々から、ウワサなのは知ってたけど、聞く人間がいるとは思わなかったな〜。」
幻聴ではない。確実に誰かが答えている。そして、その相手もひとみには分かる。
ゆっくりと、ひとみはドアの右を見る。そこには、胴着を着て、壁に少しもたれた、
ひとみが真相を問いただしたい、相手がこちらを見ている。
107 名前:ハローステップ67 投稿日:2000年10月21日(土)19時11分26秒
「・・いつから、いたんですか?」
真っ先に出た言葉は当たり前と言えば、当たり前の質問だった。
「“もしかしてレズですか〜?”ってところかな・・・。」
“使命”は意外な終わりを迎える。自分があれほどまでに気を揉んでいた事がウソ
の様に、尋ねたいことは紗耶香へと伝わった。しかも、予期せぬ形で。
「胴着の着方教えたんだけど、かお先輩が“着方が分からないかもしれないから”
って、言うもんだから、来てみたけど、上手に着てるじゃん。」
「ありがとうございます。」
純粋に喜ぶべきなのだが、それよりも重大なことが目の前にはある。ひとみは
上の空で聞いていた。
「知りたい?」
ひとみの心境など、全くお構いなしのような、紗耶香の声。
「えッ!!???」
「鏡の前で練習してたって事は、知りたかったんでしょ?私とかお先輩がレズかどうか?」
一瞬、呆気に取られたひとみに追い討ちをかけるかのような、紗耶香の問い掛け。
ペースは完全にひとみにはない。
108 名前:ハローステップ68 投稿日:2000年10月21日(土)19時27分05秒
「レズだなんて・・・・そんな・・・。」
少し、恥ずかしそうにうつむくひとみ。紗耶香の視線が痛いほど分かる。
「中学時代、かお先輩がウチの中学に出稽古に来てて、それから知り合ったの。
まあ、ウワサを知ってるんだから、この話は知ってるか。」
ひとみは返事をしない。紗耶香も返事を待っている様子はなく、言葉を続ける。
「ウチの中学の剣道部は県でもトップクラス。もちろん、全国でも知ってる人が
多かったんだけど、そこでも、かお先輩は強かった・・・勝てる部員は多分、いなかった
と思う。」
更衣室には二人しかいない。言葉が途切れると、これ以上ない沈黙が包み込む。
「でも、やっぱり、他の中学からの出稽古だから、ウチの部員も良い顔して、迎える
人ばっかりじゃなくて、イジメとまではいかないけど、嫌がらせがあったんだ。」
「いやがらせ・・・?」
ひとみは、言葉を反復するしかなかった。
「でも、かお先輩って、強いじゃない? 全然へこたれなくて、剣道やってた・・・
その姿見てて、思ったんだ・・・強いだけが剣道じゃないって。かお先輩は精神的にも
剣道で鍛えられてた。私は凄い、その姿に憧れたんだ。」
「市井先輩がですか?」
目の前にいる紗耶香も、ひとみにすれば、強い人である。そんな紗耶香から、そんな
言葉が出てくることが、ひとみにはとても不思議に感じられた。
109 名前:ハローステップ69 投稿日:2000年10月21日(土)19時50分27秒
「“私もかお先輩みたいに強くなりたい”って思ったの。だから、勇気振り絞って、
声かけたんだ。“飯田先輩みたいに強くなりたいんですけど”って・・・始めは、ホント
緊張したよ〜。いつも、怒ってるみたいな顔してるじゃん? だけど、かお先輩は
凄く優しく答えてくれたの“じゃあ、私と一緒に強くなろう”って・・・」
話を聞くことが、ひとみには段々、重荷になっていく。答えはもう出ているはずである。
しかし、紗耶香は話すことを止めない。
「で、それから、剣道について、色々教わったの。どんどん私も強くなった。だけど、
かお先輩とは一緒に団体戦に出ることは出来ない。一緒の中学じゃないからね。チーム
メイトとして、剣道がやりたいって思うようになったとき、県大会の団体戦があったの。
私もメンバーとして、2年生だけど選ばれて、一生懸命頑張ったんだけど、結局、準決勝
で負けちゃったのね・・・。全国大会行こうって、頑張ってただけに、ショックだったんだ
けど、その時、かお先輩が私を抱きしめて泣いてくれたの。」
「飯田先輩がですか・・・・。」
ひとみは既に固唾を飲んで、紗耶香の話を聞いていた。
110 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月22日(日)09時38分24秒
わーい、更新されてる
111 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月22日(日)14時12分50秒
久々の更新だ!嬉しい、抱きしめてどうしたんだ?
112 名前:SOL 投稿日:2000年10月24日(火)01時40分43秒
おおっ久しぶり更新!
完結目指してがんばってください。
113 名前:ハローステップ70 投稿日:2000年10月25日(水)10時58分45秒
「“よくやったよ・・・”って涙声だったんだけど、慰めてくれたの。ウチの中学のどの
部員よりも泣いて、私を慰めてくれたんだ。その時、“絶対にかお先輩と一緒に剣道
がしたい”って思ったの。だけど、かお先輩は中学で剣道止めるつもりだった。
親が勉強にうるさくて、推薦も沢山来てたんだけど、進学校のココが志望校だし、
この学校も剣道部はお遊び程度だから、やらないつもりだったんだけど・・・」
「“だけど・・・”」
「私が“剣道一緒にやりたい”って言ったら、笑顔で“じゃあ勉強いないとね”
って・・・あとで聞いた話だけど、結構、親とももめたらしいんだ。家出までしちゃ
ったらしくて、なんとか親を説得して剣道続けてるみたいなんだけどね。そういう
点では、かお先輩は私にとっては大切な人。だけど、吉澤達が思ってるような、
感情はないよ。」
ひとみは胸が少し、軽くなった気がした。何故だか分からない。どこかで、その答え
は予想できたし、そして、期待もしていた。しかし、どうして、そんな思いを抱いた
のかは、分からない。
「…なんだか、変な事聞いちゃってすいませんでした。」
ひとみは深く、紗耶香に頭を下げる。
114 名前:ハローステップ71 投稿日:2000年10月25日(水)10時59分18秒
「いや、ウワサがあるって言うのは知ってたんだけどさ〜 否定しても、私がしても
説得力ないじゃない。だから、ワザとしてなかったんだけど、これで吉澤がウワサが
デマだって事を証明してくれるしね。」
軽くひとみにウィンクをする紗耶香。
「ハイッ!!! まかせてください!! 絶対にそのウワサをデマだって事を広めます!!」
ひとみは笑みで紗耶香のウィンクに答える…が、
「あのさ〜 もしかして、その事で遅刻したんじゃないよね?」
今度はひとみが答える番となる。しかも、一番、聞かれたくなかったこと。
「いや〜…あの〜 その…」
“はいそうです”とも答えられない。思わず言葉が詰まる。
「チョット、吉澤〜 もしかして・・・」
「練習行って来ます!!!!!」
〜  ギュチャキ  〜
ドアを勢いよく開ける音とともに、走ってその場からさる一人の姿。
「アッ!!! よしざ・…ったく、も〜。」
答えは聞けなかったが、その行動が全てを物語っていた。
115 名前:ハローステップ72 投稿日:2000年10月25日(水)11時00分16秒
“やっぱりね〜 レズなんて、ありえないと思ってたんだよね〜”
更衣室に入ったときの顔がウソのように、ひとみの顔には曇りが見られない。
「吉澤!!! 遅刻なのに、なんで笑ってるの!!!」
圭織にとっては、当然の怒りであろう。事態を知らないのであるから。
「すいませ〜ん!!」
ひとみは必死に顔をこわばらせようとするが、張り詰めた緊張の糸が切れてしまうと、
どうにもならない。顔を下に向けて、走る。
「遅刻したんだから、今日の吉澤は、特別メニュー!!!」
〜 パッスゥイ〜ン 〜
竹刀を強く叩く音。圭織は本気のようだ。
“理由は飯田先輩にもあるのに〜”
そんな事を言えるはずもない。
「ホントに気にしてたみたいだな〜。」
そんなひとみの後姿を笑いながら見つめる紗耶香。
「確かに、私は“その気”がないんだけど・・・。」
どうやら、ひとみは全ての答えを聞いたわけではないようだ。
116 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月25日(水)21時25分57秒
市井はその気がなくても飯田は・・・
続き楽しみにしてます。
117 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月25日(水)22時06分14秒
>>116
コラ!!思ってても言ったらメ!!ですよ!!
118 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月31日(火)22時12分26秒
あげっ♪
119 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月08日(水)00時02分04秒
あげー
120 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月12日(日)20時27分48秒
催促あげ
121 名前:Hruso 投稿日:2000年11月12日(日)23時29分01秒
期待大あげ
122 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月16日(木)00時59分24秒
もちあげ
123 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月30日(木)03時10分35秒
続き読みたいぞ。
124 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月06日(水)14時42分59秒
続きが読みたいです。つーわけで期待あげ
125 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月07日(木)02時46分27秒
超期待大!というわけであげ。
126 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月12日(火)02時24分50秒
3個ある板の中で、これが一番お気に入りなんだけど…
127 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月15日(金)18時55分12秒
お〜〜。初めて読みました。
人間関係が複雑で面白いすね〜。
いちよしがどうなるのかが凄い気になります。
作者さんなんらかのリアクションを・・。
128 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月16日(土)23時23分30秒
今はちょっと、いろいろあって書けません。申し訳ないです。
続きは書く気があるので、勘弁していただきたい。
2ヶ月もほっておいて、いうセリフではありませんが。
129 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月17日(日)05時23分11秒
返事が聞けただけでも嬉しいです
いつまでも待ちますので、書ける環境になったら更新お願いします
130 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月20日(水)01時25分41秒
待ってますんでー、また書けるようになったら更新してくださいねー。
131 名前:Hruso 投稿日:2001年01月28日(日)03時28分15秒
続き待ってます。
頑張ってください。
132 名前:たーぼ 投稿日:2001年03月04日(日)00時39分24秒
まだかな、、、つづき、、、
133 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月04日(水)02時59分12秒
続き期待してます。
134 名前:真理 投稿日:2001年04月27日(金)00時40分58秒
うぅむ、いいねぇこのお話。
ストーリーもいいし、なによりも
「キャラ」が立ってるというかな?
良い感じの雰囲気出てるね。
気になるところをあえて言うなら、
普通部活で「武道館」とは言わないかな?
作者さんが考えてる練習場は高校なら
「体育館」。設備が整った学校なら
「道場」とか「剣道場」もあるかも。
あ、それとも「武道館」と言う施設を
借りて練習してるのか?
もしそうなら愚か者の戯言と流しておくれやす(汗
後は擬音語が少し不自然かも。
でもよっすぃ〜の慌てたときの
受け答えはいい感じっす。
イロイロ忙しいかもしれないけど、
頑張って続けてほしいっす。
駄文失礼しました!
135 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月29日(日)19時34分13秒
>>134
自分、細かいなーーー(w
136 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月01日(火)00時28分15秒
上がってたから更新したのかと思っちゃったよ・・・・
137 名前:no name 投稿日:2001年06月05日(火)22時24分45秒
↑同じく… 
期待させないでくれ〜 (T_T)

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