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OVER
- 1 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月10日(木)23時09分54秒
- いちごまです。(もうあきた?すいません)
ゆっくり更新するので良かったら読んでください。
- 2 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月10日(木)23時17分07秒
- 最近後藤が冷たい。
「ねぇ、後藤聞いてるの?」
「んぁ?聞いてるよ〜」
うそばっか。あんたが雑誌見ながら人の話聞けるわけないでしょ。
そんなに器用じゃないくせに。
「それよりさ〜、このページのよっすぃ、超可愛くない?」
今日発売の雑誌。表紙は、プッチモニ。私のいない、プッチモニ。
「やっぱり髪短い方が似合ってるよね〜、絶対」
そしてまた雑誌を私から取り上げて吉澤のページに目を落とす。
吉澤は雑誌の中で屈託のない笑顔を見せている。
それを嬉しそうに見ている後藤。
- 3 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月10日(木)23時22分58秒
- あきれ果てた私は思わず「もう、いい。」
背中を向けてベッドの端まで移動してしまった。
『ヤバ・・・私、すねてる子供みたい』
そう思ったけどもう引き返せない。
「・・・・・・」
沈黙。
『なんだよ、なんか言えよ〜。気まずいじゃんよ〜!恥ずかしいじゃんよ〜!』
そんなこと思ってると後ろで少し物音がして、いきなり私の背中に何かが張り付いた。
ガバッ!
「イチーちゃんっ!」
後藤だった。
ピッタリと張り付いた“それ”はゴロゴロと私の背中に顔を擦りつけてる。
「ヤキモチ焼いちゃって〜。も〜、可愛いんだからぁ」
- 4 名前:Hruso 投稿日:2000年08月10日(木)23時23分41秒
- 飽きる事なんてないです。
頑張って下さい。
- 5 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月10日(木)23時30分35秒
- 思わず顔が赤くなる。
「う、うるさいよっ」
背中に張り付いた後藤をなんとか離そうともがいてみる。
でも後藤は離れない。私のおなかに回した手にギュッと力がはいってるのがわかる。
もがいて離すのを諦めると、じんわり、後藤の柔らかさを感じた。
ぽわんとした胸の感触の下から後藤の鼓動が伝わってきた。
「ドキドキドキ・・・・」
なんだか私まで、ドキドキする。
後藤と付き合ってもう半年近く経つけど、まだ後藤の鼓動にときめいてしまう。
顔は火照ってくるし、ドキドキは止まらない。
後藤とキスをする時はまだ少し緊張するし、後藤を抱いた時は今でも感動する。
後藤と過ごす毎日はずっと新鮮なままだった。
泣きたいくらい後藤が好きだった。
・・・私は。
- 6 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月10日(木)23時36分15秒
- いつからだろう?後藤が、私が横にいなくても眠れるようになったのって。
付き合ったばっかりの時は、泣きながらよく電話してきたっけ。
「イチーちゃんがいないと眠れないよう。」
そう言われて夜中に後藤の家までタクシーをとばした日もあった。
後藤が眠るまでずっと、受話器ごしに話をしてた日もあった。
- 7 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月11日(金)00時01分38秒
- 一緒に寝ている時も
「イチーちゃんが先に寝なよっ!」
「なんで?」
「イチーちゃんの寝顔見たいから」
「なにそれ。早く寝ないと明日しんどいよ。後藤、また収録中にぼーっとするでしょ?」
「しないよっ!まだ寝ない〜」
「なんで?」
「だって・・・勿体ないじゃん」
「??何が?」
「せっかく一緒にいられるのに・・・寝ちゃったら」
「・・・・・・」
「寝て、起きたら、また別々でしょ?」
後藤がそんな可愛いこと言うから私まで寝られなくなっちゃう。
結局手をつないでずっと二人で喋ってたっけ。
明け方近くなると後藤は我慢できなくなってウトウトするのに、私が
「もう寝なよ」
と言っても
「やだ・・・起きてるもん」
そんなわがままを言う。
でも私が頭をよしよし撫でてやったらすぐにスースー寝ちゃって。
可愛かったなぁ、あの頃の後藤。
- 8 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月11日(金)00時08分06秒
- ・・・そうだ。後藤が一人で寝られるようになったのって・・・私が脱退を発表した夜からだ。
私のおなかに回した手がフッと緩む。
「どしたの?イチーちゃん」
後藤が不思議そうに私の顔を覗いている。
後藤の真っ直ぐな目に、なんとなくばつが悪くて目を逸らしてしまう。
「なんでもない」
また不思議そうな顔をしたと思ったら、私に張り付いていた後藤がパッと離れて
鏡で髪型を直しはじめた。
「もう帰るの?」
私が不服そうにそう言うと、後藤は
「うん、明日も撮影あるから。プッチの」
そう言って帰り支度を始めた。
- 9 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月11日(金)00時12分35秒
- 『今日はまだキスもしてないのに・・・』
そんな私を後目に、後藤はさっさと鞄を持ってドアに向かった。
「じゃーね、また来るから」
私は慌ててベッドから飛び降りて後藤の傍に寄った。
首に腕を回して、キス・・・
「ダメ」
あっさりと拒否される。
- 10 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月11日(金)00時21分24秒
- 「・・・なんで」
「今日はダメ」
「だからなんで?」
「今日は・・・風邪ひいてるから。」
「・・・・・・」
「・・・風邪が移るといけないから」
明らかに不服そうな私から目を逸らして後藤はドアのノブに手をかける。
「後藤!」
私は少し乱暴に後藤の肩を掴んだ。
後藤の目は少し怯えたような、泣きそうな目になった。
いつからだろう。
後藤の目は私に何も語りかけてくれなくなった。
するり、と私の手をかわして振り返り、
「・・・それじゃーね」
パタン。
閉まるドアを見つめて私はしばらく立ちすくんだ。
『なに言ってんの。バカじゃない。風邪なんて・・・』
- 11 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月11日(金)00時24分17秒
- 悲しいお話になってしまいそうです。
ところで気付かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、文中にいくつか
既存の音楽の詩、内容を引用させていただいてます。
これからもたまに出てくると思います。
見つけてみてくださいね〜。
- 12 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月12日(土)11時42分31秒
- 風邪がうつるといけないからキスはしないどこって言ってた
考えてみればあの頃から君の態度は違ってた
ああ、やっぱり悲しいお話になっちゃうのかなあ(;;)
- 13 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月13日(日)00時40分16秒
- 最近レンタルビデオにはまってる。
特に一昔前のイギリス映画をよく見るようになった。
最近の私は、どうもダメだ。
娘。を卒業した時にあった目標がぼやけてきてる。
何がしたいのか、何をしていいのか、そんなことがだんだんわからなくなってきた。
それというのも後藤に夢中になりすぎたせいかもしれない。
後藤と一緒にいると何もかもどうでもよくなってしまう。
一生、二人で居られればいいや。そんなことを考えてしまう。
ホント、ダメだ私。
ファンと約束したことも忘れて後藤に夢中になってる。
そんな時、映画は私に夢を取り戻させた。
映画を見てる時には後藤のことが忘れられた。
どこかに置き忘れた“夢”がもう一度輪郭を取り戻す。
今の私には映画が、夢との間を取り持つ最後の手綱だった。
- 14 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月13日(日)00時48分19秒
- 今日もレンタルビデオ屋に足を運ぶ。
見慣れたビデオの背表紙を指でなぞって、今日はどれにしようかなと悩んでみる。
その時、ふと耳にある曲が入ってきた。
この曲・・・
♪何も語らない 君の瞳の奥に愛を探しても
言葉が足りない そうぼやいてた君をふっと思い出す
この曲・・・後藤と私のこと歌ってるみたいだ・・・。
♪今となれば 顔の割に小さな胸も
ははは・・・あいつの場合は顔の割に大きな胸・・・
♪少し鼻にかかるその声も
うん。後藤の歌声って少し鼻にかかったような、甘い声で・・・
♪数えあげりゃキリがないんだよ 愛してたのに・・・
心変わりを責めてもむなしくて
・・・・・・。
後藤に、会いたい。
急にそんな思いが頭をよぎる。
会いたい。今すぐ。
会って・・・抱きしめたい。
気付くと私は携帯のリダイヤルボタンを押してた。
- 15 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月13日(日)00時51分27秒
- 今日は、ここまで。
小説って難しいですね。
悲しい話になりそうですが、救いのない話ではないと思います。
良かったら最後まで読んでみてください。
最後はまだまだだけど。
- 16 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月13日(日)04時24分37秒
- いつもは後藤が会いたいって感じなのに、市井ですか。
なんか私的には新鮮でした。
期待してます。頑張って下さい。
- 17 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月13日(日)21時52分30秒
- なるほど、「OVER」とはその事だったんですね。
- 18 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月14日(月)01時05分27秒
- トゥルルル・・・トゥルルル・・・
三回目の呼び出し音が鳴ったとき、急に『やめときゃよかった』という思いが
浮き上がってきた。
何やってんだろ、私。
後藤、今仕事中じゃん。
あいつが頑張ってんのになんで私、電話なんかしてんだろ。
迷惑かけてる、私。
後藤の重荷になってる。
『やっぱり切ろう』そう思った瞬間、受話器が取られた。
- 19 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月14日(月)01時10分02秒
- 「もしもし?」
後藤の声。
心なしか明るく聞こえる。
少し安心して、フッと息を吐く。
意を決して声を出した。
「もしもし・・・」
一瞬の間があって
「・・・イチーちゃん?」
声のトーンが落ちた。
その声を聞いて、落ち込んでしまった。
『やっぱり電話なんかしなきゃよかった・・・』
しかし、もう電話は繋がってしまってるのである。
- 20 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月14日(月)01時16分43秒
- 「・・・どうしたの?」
「ん、いや別に用事という用事は・・・」
その時だ。後藤の後ろでかすかに聞き慣れた声がした。
「(市井さん?わ〜、久しぶり!市井さ〜ん!元気ですか〜?)」
一番聞きたくない声。
「(吉澤です〜。わ〜、何、どうしたの?)」
「ちょっ、ちょっとよっすぃ!」
「(なによ〜。私は話しちゃダメなの?ごっちんばっかりずるいよ〜)」
「そうじゃないけど・・・」
「(市井さ〜ん。今ごっちん、私の家に泊まりに来てるんですよ〜。市井さんも来ませんか〜?)」
「・・・・・・」
「(・・・市井さ〜ん?)」
サイアクだ。
私は力無く携帯を切った。
- 21 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月14日(月)01時21分35秒
- ・・・後藤、今日仕事だって言ってたじゃない。
遅くまでレコーディングがあるって言ってたじゃない。
そう言って私と会うの断ったんじゃない。
なんで吉澤といるの?
なんで?なんで?なんで?
ねぇ・・・なんで・・・?
私はふらふらとビデオ屋から出て歩き始めた。
家に着いて、ドア閉めたら涙がじゃあじゃあ出た。
もう、お終い。
もう、お終いだよ、後藤。
- 22 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月14日(月)01時27分35秒
- 今日はここまで。
>4
>12
>16
遅くなりましたがレスありがとうございます。
なんだか人に読んで貰ってると思うとやる気がでますね。
>17
その事だったんです。
好きな歌なんで。
- 23 名前:十六夜の月 投稿日:2000年08月14日(月)01時39分51秒
- 「OVER」私も大好きな歌です。
なんか、同じ時間帯に書いてるようで(笑)
でも、ぴんぐさんの方が全然うまい〜〜!!
楽しみにしてます。
頑張ってください。
- 24 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月14日(月)23時27分41秒
- 「OVER」って誰のうた?
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月14日(月)23時48分31秒
- 身スチルです。マジレス。
- 26 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月18日(金)01時24分53秒
- 続き希望
- 27 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月20日(日)02時22分25秒
- あれから3日間、後藤からは連絡がなかった。
4日目、後藤の携帯から着信があった。
お風呂から上がって気が付いて、かけなおそうかと思ったけどやっぱりやめた。
その後、3日続けて電話があった。
その時は出られる状況にあったのに、出なかった。
私からかけ直すこともしなかった。
次に話すのは、確実に終わりの時だろう。
そういう思いが私に連絡を取らせなかったのだ。
電話を避けても後藤の心は戻ってこない。
そんなことは痛いほどわかってた。
私が避ければ避けるほど、どんどん後藤の心が吉澤の方へ傾いていくのもわかってた。
でもどうしようもない。
後藤の声を聞くのがツラかった。
- 28 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月20日(日)02時25分58秒
- それでも、いつも私の思いは同じ。
『後藤に会いたい。』
こんな状態になってもまだ後藤を求めてる自分に嫌気がさした。
後藤と最後に話してから10日が経ったある日、とうとう私は後藤の電話に出る決心をした。
- 29 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月20日(日)02時30分20秒
- 「・・・もしもし」
「もしもし」
10日ぶりの後藤の声。
泣きたいほどせつなくて、痛かった。
「・・・元気?」
「・・・・・・」
「・・・あのさぁ」
「・・・・・・」
「あのさ、」
「何?」
「私たち・・・もう、」
「・・・・・・」
「もう・・・お終いにしない?」
「お終い・・・」
「もう、きっとダメだよ・・・だから・・・お終いにしよう」
「・・・・・・」
「・・・泣かないで」
「・・・・・・」
「泣かないでよ、イチーちゃん」
「・・・・・・」
「ごめんね・・・」
「謝るなよ・・・」
「ごめん・・・泣かないで」
- 30 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月20日(日)02時34分02秒
- 受話器を握って、声を殺して泣いている私に最後まで「泣かないで」と言い続けた後藤。
なんだか受話器ごしに抱きしめられているような気がした。
とても、とても穏やかな声。
後藤、いつの間にそんなに強くなったの?
いつの間に私のことそんなに優しく包めるようになったの?
泣かないで、って私のこと包みながら・・・
どうして・・・後藤も泣いてるの?
- 31 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年08月20日(日)02時40分36秒
- 久しぶりに書きました。
旅行に行ってたもので。
>23
十六夜の月さんの小説、読ませていただきました。
おもしろい!紗耶香おっとこまえ〜。
頑張ってくださいね。
でも私は全然ぜんぜん上手くないですよ。
ホント、ありがとうございます。
>24,25
カラオケで歌ってみたら「OVER」じゃなくて「Over」でした。
失敗。でもミスチルです。
>26
遅くなりました。
これからさくさくっと仕上げますんで。
- 32 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月20日(日)23時53分51秒
- 後藤はなんで泣いてんの?やっぱり2人は別れないほうがいいよ。
- 33 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月27日(日)20時19分29秒
- ううう……。気になります。
市井ちゃんの弱い部分って、あんまり書く人いないけど
絶対あると思うんで、(あたりまえか)すごくこのお話キます。
- 34 名前:24 投稿日:2000年09月05日(火)22時00分09秒
- この曲、友達がカラオケで歌ってるのをきいて思い出しました。
私がミスチルで一番好きな歌でした。この曲ってアルバムの歌ですか?
よかったらアルバムのタイトル教えてくれませんか?
- 35 名前:読んでる人 投稿日:2000年09月05日(火)22時47分51秒
- 「cross road」とか「innocent world」とか入ってるやつ。
なんか青っぽかったような気がする。
- 36 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月05日(火)23時07分13秒
- >>34
「Atomic Heart」ですね。「Over」はラストの曲です。
- 37 名前:34 投稿日:2000年09月10日(日)22時43分24秒
- 35,36さん、教えてくれてありがとう。さっそくCD屋さんへ。
この話、続き気になりますね〜。ハッピーエンドがいいな〜
- 38 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月17日(日)19時41分17秒
- 続き読みたいです。
- 39 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月15日(日)18時27分18秒
- 続きお願いします!!
- 40 名前:雨のち晴れ 投稿日:2000年10月15日(日)20時33分30秒
- Overを小説にして頂けるとは…
最高です(>_<)/~~
ただ、歌が歌なだけにプレッシャーも相当なものでしょう。
今度ぜひ、『いつの日にか二人で』バージョンもお願いします。
- 41 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年11月21日(火)07時11分31秒
- 今日、イチーちゃんとお別れした。
受話器越しに、あたしに気付かれないように声を殺して泣いているのがわかって
うそだよ、って。
うそだよ、イチーちゃん。大好きだよ。って言いたかった。
絶対に、絶対に泣かないで完璧にお別れしようと思ってたのに、気付くとあたしの
目からも涙がこぼれてた。
まだまだ弱いな、あたし。
イチーちゃんにあんなに酷いことしたのにまだ自分がかわいいなんて。
まだイチーちゃんと一緒にいたいなんて。
- 42 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年11月21日(火)07時15分38秒
- もしあたしがイチーちゃんと出会わなかったら、あたし達は将来
どんな二人になってたんだろうね。
たとえば、あたしは結構幸せな二児の母で、
イチーちゃんはもう海外で立派にアーティストになってて。
イチーちゃんはそれが出来る人。
自分の夢を追うために必要な強さを持った人。
だから、私にそれを邪魔する権利はないよね。
- 43 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年11月21日(火)07時16分31秒
- イチーちゃんはあたしに恋をしてくれた。
本当に大切に思ってくれた。
あんなに優しく抱かれたのは、初めてだったよ。
イチーちゃんがあたしを呼ぶ優しい発音も、呼び捨てにする照れたのもすき。
イチーちゃんがあたしにするキスのやり方もすき。包みこまれるような長いキス・・・。
イチーちゃんがあたしにする甘い顔も厳しい顔も大きなあくびも全部、すき。
こんなに人を好きになれるなんてね。
きっともう二度とないよ。
イチーちゃんはあたしの大切な人。
だからイチーちゃんの未来は潰したくないの。
後藤がいるから、って夢を忘れてほしくない。
夢を持ったイチーちゃんに惚れたんだから。
だから・・・お別れね。
- 44 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月21日(火)16時07分31秒
- ごとお〜〜……(涙)
さげでやるんですか?
- 45 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年11月21日(火)20時55分26秒
- 後藤と別れてから1週間が経った。
今、私は空港にいる。
6:38発の飛行機に乗って、私はロンドンに旅立つ。
あれからの私は自分で言うのもなんだけど、人が変わったように行動を始めた。
事務所に頼んでロンドンのボイストレーニングの先生にアポを取り、
通う学校を決め、住むところを確保して。英会話はまだちょっと不安だけど
まぁそれは向こうに行ったらなんとかなるだろう。
ホントに・・・何にも考えられないくらいに、いろんなことを考えいろんな人と話した。
立ち止まって、後藤のことを考えてしまわないように。
少しでも動きを止めてしまうとすぐに後藤の顔が浮かんできて
泣きそうになった。
でもそのおかげで今こうして旅立つ準備ができたんだ。
後藤との別れは確実に私を強くした。
- 46 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年11月21日(火)20時56分25秒
- 6:00・・・
そろそろ搭乗口に向かわなくては。
重いスーツケースを引きずって歩く私の後ろから聞き慣れた声がした。
半年前まで毎日聞いていた声。
「さやかっ!!」
矢口だ・・・!
振り返った私の顔に押さえきれない笑顔が広がった。
「やぐちぃ〜〜〜〜!!」
思わず周りの人が驚いて振り返るぐらいの声が出てしまった。
私と矢口は慌てて同時に口をふさいだ。
その様子がおかしくて、顔を見合わせて笑った。
ひとしきり笑った後、矢口は懐かしそうな目で話し始めた。
- 47 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年11月21日(火)20時57分14秒
- 「久しぶりだねぇ・・・」
「うん。久しぶり」
「2ヶ月ぶりぐらい?」
「うん。そうだ、後藤の誕生日以来だから・・・2ヶ月ぶり」
久しぶりに口にした後藤という名前に、思いのほか、心が痛んだ。
その動揺を気付かれないようにとびっきりの笑顔で私は話を続けた。
「あの時さぁ、圭ちゃん!おっかしいの。握手会で・・・」
「紗耶香」
急に矢口が真面目な顔で私を見つめた。
矢口はきっと私と後藤が別れたことを知ってるだろう。
その事を今、口に出されたらきっと私は泣いてしまう。
旅立つ決心を、無くしてしまう。
「・・・なに?」
矢口の真面目な顔から、思わず目を逸らしてしまった。
さっきのとびっきりの笑顔がまだ残っていて、ひきつった笑顔になってしまう。
きっと今私は悲痛な顔をしてるだろう。
矢口の顔が見られない。
哀れみの表情を浮かべて 一言でも声をかけられたら もう涙が止まらないような気がした。
お願い、何にも言わないで。
- 48 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年11月21日(火)20時57分57秒
- 「元気そうで良かったっ!」
想像してた声のトーンより1オクターブ高い声で矢口はそう言った。
なんだか拍子抜けして、矢口の顔を見た。
そこには今までと変わらない満面の笑顔。
「ん?どうしたの、紗耶香?」
あっけに取られてる私を見て不思議そうな矢口。
私はまた笑ってしまった。
「なになに?なんだよ〜も〜」
いきなり自分の顔を見て笑い出した私を見て、矢口は少し不満そうに
プーッと頬をふくらませた。
矢口はいっつもそうだ。
私の気持ちを何個も先回りして考えて、いつも私が辛くないように
振る舞ってくれる。大切な、大切な友達。
「なんでもないよ」
私は涙目になりながらも笑った。
- 49 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年11月21日(火)20時58分55秒
- ピピッ。
腕時計のアラームが鳴る。
6:20。
そろそろ本当に搭乗口に行かなくちゃいけない時間になった。
「あ、そろそろ行かなきゃ・・・」
「え?もう?」
「うん、矢口と話してたらすぐに時間が経っちゃう。」
「そっか・・・」
矢口の顔が急に曇る。
何か言いたそうな顔だ。
「どうしたの?」
「うん・・・」
寂しがってくれてるのかな?
そう思った私は思いっきり矢口の頭を抱きしめた。
「またすぐ会えるよっ!」
「うん・・・」
暗い声を聞いて頭を離す。
やっぱり暗い顔。
「・・・どうしたの?」
すこし不安になって声をかける。
すると、なんだか申し訳なさそうな顔をして矢口は話しはじめた。
- 50 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年11月21日(火)20時59分43秒
- 「後藤の・・・ことなんだ・・・」
一瞬空気が止まる。
矢口の口から出た、その名前にまた気持ちが荒れていくのがわかる。
「・・・・・・」
一瞬の沈黙の後、矢口が意を決したように口を開く。
「紗耶香さ、後藤と別れたんでしょ?」
私は何にも言葉を出せなくなった。
「後藤を・・・恨んじゃダメだよ」
「・・・・・・」
「あれはね、あの子なりに一生懸命考えた結果だから」
「・・・・・・」
「後藤もね、まだ紗耶香のこと・・・」
頭が真っ白になった。なのに顔は火照ってる。
「紗耶香のことをさ・・・」
たまらず声が出る。
「だって吉澤・・・」
「よっすぃー?よっすぃーは全然関係ないよ。」
「吉澤のことが好きだって・・・」
「んなわけないじゃん。後藤はあんなに紗耶香しか見えてなかったのに」
「だって・・・」
「後藤はね、紗耶香が夢を追ってる姿が好きなんだよ。弱ってる紗耶香を
見るのが辛かったんだよ。」
その一言で全てを理解した。
- 51 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年11月21日(火)21時00分28秒
- 「『私とイチーちゃんは違う場所でしか叶わない夢を持ってるから』って
『だからお別れしなきゃ』って」
「・・・・・・」
「泣きながらさ、笑顔で言うんだよ、あいつ」
「・・・・・・」
「1週間前だっけ?別れたの。・・・この1週間、後藤みんなの前で
めっちゃ明るくてさ。いつもボーっとしてるくせに、やけにみんなを
テキパキ仕切ったりして、メンバーもみんな驚いてて。だからさ、
平気かと思って言っちゃったんだ。『明日紗耶香がロンドンに旅立つ』って」
「・・・・・・」
「紗耶香、後藤に言ってなかったんだね。」
「・・・・・・」
「後藤、すっごく取り乱しちゃって。自分から別れたくせにいきなり
『イチーちゃんに会いたい』って泣き出して・・・」
- 52 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年11月21日(火)21時01分04秒
- 《ポーン・・・まもなく6:38発、278号便が・・・・》
場内アナウンスが鳴り響く。
矢口の声を振り切って言った。
「・・・もう行かなきゃ。」
「紗耶香、ちょっと待って」
「ごめん矢口。ありがとう。・・・ばいばい」
「待って、もうすぐここに・・・・」
まだ話を続けてる矢口を置いて私は搭乗口に向かった。
6:30。もう時間はない。
あと、一分でも立ち止まってると、私をロンドンへ向かわせる気力も
なくなってしまいそうだった。
そんなことできない。
私の夢のためにも。
私の夢を救ってくれたあいつのためにも。
- 53 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年11月21日(火)21時01分46秒
- ゲートに入る直前、背中から私を呼ぶ声がかすかにした。
どんなにざわついてる空港内でも、その声は聞き逃さない。
愛しい、大切な、あいつの声。
心が震える。
「・・・イチーちゃんッ・・・」
涙が零れないように、悲痛な顔を見せないように、唇をかみしめて
私は振り返った。
そこにはボロボロ泣いてる、あの頃と、出会った頃と同じ後藤がいた。
愛しい、愛しい私の後藤。
「イチーちゃん・・・」
肩で息をしながら、子供みたいにボロボロ涙をこぼしてる。
私は、弱い自分に戻ってしまわないように、精一杯の強い自分を気取って
後藤に笑顔を見せた。
『ばいばい、後藤』
後藤は、一瞬驚いたような顔になって、それからゆっくり
涙でボロボロになった顔をくしゃくしゃの笑顔にした。
『ばいばい、イチーちゃん』
ボロボロ涙を流しながら、満面の笑顔で手を振る後藤を
背に、私はゲートをくぐった。
- 54 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年11月21日(火)21時02分21秒
- 後藤の涙も笑顔も全部、いつか思い出になるだろう。
多分私は忘れてしまうだろう、そのぬくもりを。
愛しい後藤、さよなら。
言葉にならない悲しみを乗り越えて、私は自分の夢へと旅立った。
- 55 名前:ぴんぐ 投稿日:2000年11月21日(火)21時08分30秒
- 終わりです。
読んでくれてありがとうございました。
しばらくずっとほったらかしにしててごめんなさい。
違う小説を書いてたので・・・。
時間が空いたので当初思ってた最後とちょっと違ってしまいました。
ハッピーエンドを期待してた方すいません。
今日は紗耶香が辞めてから丁度半年なんだそうで。
ええい、今日中に上げちゃえ!と思って強引に終わらせてしまいました(笑)
- 56 名前:ムーミン 投稿日:2000年11月22日(水)00時21分56秒
- マジ泣けるのです。
「作者さん、感動をありがとう!」
っと声を大にして言いたいのです。
- 57 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月22日(水)00時44分51秒
- 最初はこの野郎ぐらいに思ってたのに・・(作者さんのことね)笑
うぅ・・私も感動致しました・・。
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