インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板
その名は矢口真里。
- 1 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月21日(月)02時41分38秒
- 一通り構想がまとまりつつあるので、ちょっとした小説を……
こっぱずかしいので、下げて書くつもりです。
- 2 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月21日(月)02時42分18秒
- 部活を引退した俺はすることもなく、漫然と時を過ごしていた。
大学進学するつもりだし、そろそろ勉強モードに切り替えなければいけない。
そんな俺に事件が起こった……
部活生活を飾ったインターハイよりも衝撃的な事件だ。
「あ、あの……おいらと、つ、付き合ってくれない……?」
見たことのある子だった。
学年一ちっちゃいことで有名な――口が達者なことでも――あの子だった。
その名は矢口真里。
- 3 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月21日(月)02時42分53秒
- 「おーい、真里ー、帰るぞー」
俺と彼女はクラスが違う。俺がA組で、彼女はC組だ。
「う、うん……ちょっと待ってて……」
彼女の動作はひどく遅い。口が達者だということで有名だが、
俺の前ではその姿は微塵もない。
「なーにやってんだよ! 早くしろ!」
「ごめんなさい……」
……いつものことだった。
すぐに謝る……まるで「ごめんなさい」が口癖のようだった。
「今日は……どこ行く?」
「あ、えーと……そうだね……どこ行こうか?」
……あのね。
挙句の果ての自主性も見られない。付き合っていて疲れる。
……かく言う俺もどーやって付きあっていけば分かっていないのだが……
「この辺じゃなぁ……とりあえず、喫茶店でくっちゃべるか……」
「うん……」
- 4 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月21日(月)03時04分15秒
- 「……ってわけよ」
「そうなんだ……」
とりとめのない会話……彼女は相槌しか打っていない。
こちらに話し掛けることがあまりないのだ。ひたすらこちらの話を聞いている――真剣に。
「……でどーよ? 最近周りがうるさくねーか?」
「う、うん……『よかったね』とか『うまく行ってる?』とか……」
……しまった……
最近、とゆーかこのところ『うまく行っている』わけがない。
ギクシャクしていて沈黙でいる時間が最初に比べて目立つようになってきた。
「…………」
「……」
気まずい雰囲気が流れる。
もうすでにアイスティーは氷だけになっている。
わけもなく、くるくるとストローで氷をかき混ぜる。
がちゃん!
「わ、わわっ!」
「何こぼしてんだよ――だいじょぶか……?」
「…………」
……大丈夫じゃないと目が訴えている……
俺はバックからウェットティッシュを取り出した。
「トロいんだよ。アホ!」
「……ごめん」
……やっちまった。
別にいじめるつもりで言ったわけじゃないのだが……
俺はすぐに「アホ」って口に出る性格なのだ。
- 5 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月22日(火)01時56分50秒
- 「なあ……俺に気、使ってるのか……」
「ん、そんなことないよ……」
「あのさ……言いたいことがあるなら、言ってくれよ……」
「うん、ゴメンね……」
……こっちが「ゴメンね」したくなってきた。
彼女のひたむきな瞳に負けて付き合うことになったが、
このままだと、俺が潰されそうだ。
「きょう、時間あるか?」
「門限までに帰れれば大丈夫だよ。バイトもないし」
「なら、ちょっと付き合ってくれないか?」
「――えっ?」
「すぐに終わるよ」
そう――すぐに終わる。
何もかもが……今までの時間も、何もかも。
- 6 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月22日(火)02時06分07秒
- 「わぁ……」
「どうだ? 綺麗だろ?」
俺が連れてきた場所はこの辺りで一番高い高層マンションの屋上だった。
車のライトがイルミネーションの川を作り、100万ドルの夜景を――
いや、10万ドルぐらいの夜景を見せている。
「きれー……」
「だろ? 最後に見せたくってさ」
「さ――最後……?」
「そう、最後だよ」
…………
ビル特有の強風が俺たちをなぶるように吹き付ける。
ただ静かに……
「もう、終わりにしよーや。俺、疲れたわ」
「…………」
「…………」
どうして相手を傷つけるような別れ方しか出来ないんだ……
もっとオブラートに包むように別れが出来ないんだ……
「……っ……っ……」
彼女は肩を震わせていた。
泣いているのは見ないでも分かった。
- 7 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月22日(火)03時31分22秒
- どくん……どくん……
脈打っているあたしの心臓。
聞きたくなかった言葉……
「あたし……」
「あたし……」
言葉にならない気持ち。
全てが靄がかかったようではっきり掴めない。
どくん……どくん……
いけない――このままだと……
「何言ってんだよ! おいらだって疲れたよ!」
はじける――
「どーやって付き合っていいかなんて、おいらだってわかんねーよ!
友達に話を聞いたり本読んだりしたってさっぱりだよ!」
「…………」
やっちまった……
でも、紡ぎ出る言葉は止まらない。
「つーかね、悪いのはおいらだけじゃねーんだぞ!」
「ぎ――逆ギレしてる……?」
「そ、そうじゃねーよ! ただ、何で……OK出したりしたんだよ?
どうしておいらと付き合おうとしたんだよ……」
- 8 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月22日(火)03時38分42秒
- 俺はびっくりした。
あの真里が……人が変わったように突っかかってきていたから。
「そりゃ……かわいいから……」
「かわいい……?」
彼女の頬に朱がはじける。
「……わりぃ。そんだけ」
「そ――それだけぇ!」
「他には……そうだな……」
「な、悩んでんじゃねーよ!」
ばんっ!
い――痛ってぇ!
思いっきし、足を踏むんじゃねーよ!
「そもそも、『あの子』がはっきりしねーからこんなことになるんだよ!」
「は……?」
「おいらが見かねて出てきたんだよ! 情けない『あの子』のかわりに!」
何が……どうなっているのか、分からなかった。
『あの子』? 真里はここにいるし……
「あー! ここまで来たら説明してやるよ! おいらの名前は『真里』だよ」
「……は?」
「つくづく察しの悪い男だね……だから、この身体には二人の真里がいるってことだよ」
……よく……分からん
真里が二人いる……?
- 9 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月22日(火)04時18分15秒
- 「『あの子』は自分の人格の中にもう一人の自分――つまり、おいらを見つけたんだよ」
「二重……人格?」
「そーゆーことだよ。まあ――こんな風になってもう10年以上経つけどな」
二重人格……
俺は茫然とその言葉を頭の中で浮かべた。
……よくわかんねぇな。
「……何か拍子抜けしちまった……」
「別れる気もなくなっただろ? まさかこれでも……」
俺は慌てて首を横に振った。
これが……口の達者な『真里』の方だ。
……周りのイメージは『真里』が強いけど……
「とりあえず、『あの子』の真里に変わってくれねーかな?」
「いいよ……って言いたいけど……一度入れ替わるとなかなか戻らないんだ」
「今じゃねーとダメなんだ! 何とかできねーか?」
「……キスして」
- 10 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月23日(水)00時18分44秒
- !!
キ、キスかよ……また、何で……
「強いショックがあると、おいらは『あの子』と入れ替われるチャンスがあるの。
さっきだって『別れる』って言われてショックを受けたからおいらがでてきたんだよ」
「だったら、何もキスしなくても……おどかすとか」
「何言ってんだよ! あの子が……まあ、いいや……そもそも、どうやっておいらをおどかすの?」
「……分かったよ」
どくん……どくん……
わずかに潤んだ双眸とほんのりと頬を染めた『真里』に顔が近づく……
「ちょ――ちょっと待った!」
俺の身体を押しのけたのは『真里』だった。
顔だけではなく、耳まで真っ赤にして俯いている。
「その、あの……」
「お、お互いキンチョーしてんだからさ……じらすなよ」
俺は強引に『真里』の身体を抱き寄せると唇にかすめるようなキスをした。
「……真里?」
とりあえず、呼びかけてみる。
俯いたままの真里は……ゆっくり顔を起こした。
伏せ目がちに、キスの感触を確認するように口許を手で押さえている。
「……あ、あたし……代わっちゃったんだ……」
「…………」
彼女は深く後悔しているようだった。
- 11 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月23日(水)00時46分32秒
- あたしは――そう、『あたし』は全てが終わった。
とうとうバレてしまった。
ひた隠しにしてきたこの事実を。紗耶香だけが知っている事実を――
一番隠したい人に……バレてしまった。
「…………」
「…………」
多分、最後のキス――この人とできる最初で最後のキスだった。
でも、あの時……『あたし』じゃなくて『おいら』にしてた……
そう……『あたし』じゃないんだ……
「……ごめんね」
あたしは「ごめん」が口癖だ。
気が付くといつも口に上っていた。
悪い癖だから直そうと努力していた……
「アホ」
「――えっ?」
どくん……どくん……
先ほどと違った鼓動が高鳴る。
「俺は二重人格とかよく分からない……でも、真里の気持ちが分かった……」
「…………」
「どうすればいいんだ……? 俺は……?」
答えは一つだった。
やり直して欲しかった……ううん、二人でちゃんと――
「……どうすればいいんだろ?」
あ、しゃがみこんじゃった……
どーして、いっつもあたしはこんな答えになるの――?
『おいら』みたいに好きなことが言えないの――?
「分かった! とりあえず――」
「そ、そうじゃないの……」
「えっ……? うわぁ!」
どさっ……
あたしは抱きついていた……その後のことは何も考えていなかった。
- 12 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月23日(水)01時25分24秒
- もたれかかってきた彼女を俺は唖然としながらもしっかりと受け止めた。
初めて受け止めた彼女は――か弱い力で必死に俺の服を握りしめた。
「……真里……」
「あの、あの、あのね……あたし……嫌われたくないの……」
必死に弁解しているようだった。
その姿は「ごめん」と謝るいつもの姿よりも……必死に何かを謝っていた。
「こんなあたしだけど……ドジでノロマで謝ってばっかりで……
二重人格だけど……それでも好きになったんだ!」
「…………」
「あなたがちゃんと答えてくれて……嬉しかったんだ……」
…………
いたたまれなくなって――俺は彼女を抱きしめた。
学校で有名な『彼女』ではなく――俺のことを好きになってくれた『あの子』を。
「あー……わりぃ……なんて言えばいーんだろ……」
「…………」
彼女はふるふると頭を横に振った。
俺の胸に顔を埋めたまま、ずっと首を横に振りつづけた。
「……なあ……俺がこんなことゆーのもなんだけどよ……」
とくん……とくん……
早鐘のような鼓動が俺にも――彼女にも伝わっている。
「これからお互い、好きになるようにやっていかねぇか?」
- 13 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月23日(水)02時04分44秒
- 何を言われているのか分からずに――あたしは彼の顔を見上げた。
彼はそっぽを向いて困った顔をしていた。
その顔がとてもかわいくて……かっこよくて……
「…………」
あたしは彼のぬくもりに包まれたまま、静かに頷いた。
嬉しかった……言葉に表せないほど、切ないほど――
「え、あ、その……あ、あたし、何すればいいのかな……」
彼は少しだけ頬を赤く染めると、小さな声で囁いた。
「……キスとか……どう?」
…………
真っ白だった。ホントに目の前が真っ白になった。
これ以上ないってくらい心臓がドキドキしてる。死んじゃうかもしれない。
「さっきは……その、『真里』とだったから……俺は……『あの子』の真里と……」
「わ、わかった……キス、する!」
困ったように頭をかいている彼は……優しい瞳でこちらを見透かした。
どーしよ……どんな顔してるのかな……あたし……
「……ん……」
重なった――
何か胸の辺りがぎゅっとして……苦しいな……
でも……気持ちいい……
キスってこんな感じなんだなぁ……
「……なあ……」
「…………」
「がんばろーな……」
もう一度、抱きしめてくれた彼に――あたしはちゃんと答えられた。
「うん……」
- 14 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月23日(水)02時12分11秒
- 第一章 >>2-13
いやー、書いてみるとすごい順調だな(わら
とりあえず第一章が終わりですかね。
なんか二人ともまどろっこしーなぁ……
あちこちに設定を散らばせているので、その辺りは二章からひっぱりだします。
「妊婦〜」と違ってうまくいかないんですけど……どうでしょうか?
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月23日(水)18時40分01秒
- >やぐじぇねさん
おもしろいです。
はじめは矢口がドジでノロマなので、?、と思いましたがこのような展開とは
思いませんでした。
第二章も期待してます(やぐじぇねさんと同様にsageます)
- 16 名前:河原裕也 投稿日:2000年08月24日(木)00時17分24秒
- おもしろいっすね。僕にはとてもできねぇっす。
頑張って下さいねぇ。
- 17 名前:名無しチビンバ 投稿日:2000年08月24日(木)00時49分53秒
- うむ、面白いです!
- 18 名前:厚底を履いたヤマンバ 投稿日:2000年08月24日(木)01時30分38秒
- 全く予想しない展開だったのでめちゃ面白かったです。
ドジでノロマで謝ってばかりの矢口・・・すげー萌えました。
- 19 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月24日(木)01時46分29秒
- たくさんのレス、ほんとにありがとうございます!
これだけみんなが読んでくれるとこっちも書く気が湧くってモンです(わら
これから第二章を上げるんで……楽しんでください。
- 20 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月24日(木)01時48分24秒
- 「なあなあ! 最近どう?」
「うん……うまくいってるよ」
あたしは胸を張って紗耶香に答えた。
小学校時代からの友人で――あたしが最も頼りにしている人。
それでいて――
「へえ! 『あたし』がそんなこというよーならほんとに大丈夫みたいだな。
でも――取っ付きにくいところがあるからな……あいつは」
「あはは……言えてる」
あたしが二重人格であることも知ってる。
それだけじゃない。彼と同じ陸上部に所属していたし、二人とも仲がいい。
あたしが今こうして幸せなのは――紗耶香のおかげなのだ。
「挙句の果てに口悪いしね――すぐに「バカ」とか「アホ」とか言うだろ?」
「……でも、あたしを受け入れてくれたからね……やさしいよ」
「あたしからも言っておくから。あんまり刺激すんなってな」
あれから彼はいろいろ聞いてきた。
二重人格について少しだけ勉強したらしかった……
あたしはちょっとずつ怖くなってきた。
彼に偏見を持って欲しくなかったから。
「ねえ、真里。あたしはね、二重人格になった理由を話すべきだと思うよ。
あいつはそれぐらいであんたを捨てたりするような男じゃないよ」
「…………」
「それに……あんたの場合は特別だしね。嫌な思いする前に言った方がいいぞ」
さすが紗耶香……付き合いが長いからあたしが何考えてるかすぐに分かっちゃうね。
あたしもそーだと思う。
嫌な思いをする前に話したほうが……でも、あたしにも考えがある。
(お前に免じて『おいら』は出てこないでガマンしてんだぞ!)
内なる囁き――
それは紗耶香と並ぶほどのあたしの『パートナー』の声だった。
(ごめんね。『あたし』じゃないと彼が……おびえちゃうから)
(おいらだって話したいんだぜ? 気持ちを共有してるってこと……忘れないでくれよ)
(…………)
そのことは『あたし』だって分かってる。
あたしが二重人格の話題にあまり触れないのは――こーゆーことだからだ。
気持ちを共有していること――
- 21 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月24日(木)01時50分06秒
- 「真里!」
「! ……あっ」
「『パートナー』と話をしてたのか……いきなり入られたら分かんないよ」
「ご、ごめん……」
あたしの姿を見て紗耶香はため息をついたみたいだった。
「すぐに謝るクセを直しなさいって言ってるでしょ?」
「ごめん……ってあ、だって、クセなんだもん……」
「おーい! 真里!」
後ろから聞こえた声に――あたしの心臓は早くなった。
まだ慣れない、彼の声。
「天気がいいから屋上で飯食わねーか?」
「はーい」
はっきり返事したつもりでも……どこがぎこちない。
紗耶香はにこにこしながら彼と話を始めたようだ。
「おっす」
「わりぃけど真里、借りてくぜ」
「好きにしてちょーだい。真里の権利はあたしにねーもん」
「……真里のかわいさの一部でもおめーにあったらなぁ……」
あっ……いつもどおりの言い合いだ。
喧嘩しているわけじゃない。彼と紗耶香のコミュニケーションみたいなやつだ。
こうしてるとホントに仲がいい……あたしがちょっと嫉妬するぐらい。
「真里! このバカ早く連れてって!」
「はいはい……行こ」
彼は紗耶香に向かって舌を出してバカにするように手を振っていた。
あたしは……少し大きめのお弁当袋を抱えた。
- 22 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月24日(木)02時13分24秒
- 「はい。おべんと」
「……さんきゅ」
最近の日課になっていた。
真里の作ったお弁当を食べること。
トロい彼女が一生懸命作るものだから――嬉しかった。
でも――
「あ、相変わらず、たくましい腕前で……」
「ご、ごめん……」
俺の胃が心配だった。
弁当の端の方にあった黒ずんだ物体(?)を取り上げた。
……原型もねーじゃんか……卵焼きの……
「本を見ながら挑戦してんだけど……なかなかうまくいかなくて……」
「そーゆー問題じゃなくて火が強いだけじゃあ……」
つい、ポロっと言葉に出てしまう。
「いや、でも……ありがとう。食べられるだけ嬉しいよ」
「…………」
俺はどんなものでも食べなければいけなかった。
彼女は――こちらをずっと見ているのだ。
そのまなざしはとても真剣で……一途すぎて……
(メシ食ってる気がしねぇー……)
「あのさ、そんなに見られると食べにくいんだけど?」
「あ! ご、ごめん……」
「一緒にご飯食べようとして作ってくれたんだろ? だったら一緒に食べようぜ」
「うん……」
さすがにご飯だけはちゃんと炊けていたので、
俺は卵焼き(の成れ果て)と一緒に口に放り込んだ。
「あのね……」
「ん?」
「…………なんでもないよ」
……俺は食べる手を止めた。
それに驚いたのか、彼女は少しだけ肩を震わせた。
「言いたいことははっきり言おうって決めただろ?」
「う、うん……あのさ……」
ぐっと小さな手を握り締めて――彼女は俯いた。
「ごめん……ちょっと、代わる……」
俺の前で――彼女は彼女でなくなっていた。
- 23 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月24日(木)02時44分49秒
- 俯いたままだった彼女は……静かに顔を起こした。
違う――彼女の瞳の強さがそれを物語っている。
「よう……『おいら』と逢うのは……二度目だな」
「…………」
俺は黙っていた。
悔しかったのだ……どうして『あたし』の方が言いたいことを言えないのか……
俺に落ち度があるのか……
「そんな切羽詰まった顔すんなよ。嫌いか? 『おいら』のことが?」
「そうじゃねぇよ……」
自然と口調が厳しくなる。
明らかに自己嫌悪に陥っていた……
「……分かってやってくれねーか?」
「『あたし』はお前と逢っている時、精一杯背伸びしてんだ。
おいらが……出てくる機会がいくらでもあるほど、ドキドキしてる……」
「…………」
『真里』の言いたいことは分かっている……
そんなことわざわざ言われなくたって……
「お前に言われなくたって分かってる! これは俺と真里との問題だ!」
「そ、それはどーゆー意味だ!」
「二重人格について……俺は調べた……」
つまらない授業をサボって俺は図書室に行った。
慣れない調べごとに時間がかかったが……収穫はあった。
だが――どれもが残酷な現実を伝えるものばかりだった。
- 24 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月24日(木)03時06分08秒
- 「二重人格に陥る人間は……ある程度カテゴリー分け出来るそうだ。
控えめでおとなしい性格。自己主張が乏しい性格……」
「それは……」
「それと、幼い頃に虐待を経験していると二重人格になる可能性があるそうだ……」
全てがつらい事実だった。だが、目を背けられない事実だった。
真里には直接聞けないことだ――だが、『真里』は違う。
俺の求めている真里じゃないから……聞ける。
「人格が分裂していることは……まだよく解明されていない。
俺の付け焼刃な知識じゃ何も分からない……」
「…………」
「でも、お前は真里じゃない……不完全な真里の一部だ。統合されていない――」
俺の言葉が途絶した。
小さな肩が……震えていた。
手に持っていた小さなフォークがアスファルトをかき鳴らす。
「バ、バカヤロー!!」
寄りかかりながらも、『真里』は俺の胸倉をつかみ上げた。
双眸には……我慢できない涙がこぼれ始めていた。
「あんたは……あんたはそんな風においらを見てたのかよ……」
「…………」
「何も分からないくせに……おいらとあたしのことを何も知らないくせに……
そんな偏見を持っておいらたちを見てたのかよ!!」
俺は何も言い返さなかった。
『真里』の言葉は堰を切ったように続く。
「おいらが嫌われるのは……我慢できる。でも……あんたのやってることは、
あたしも傷つけていることに気づかないのかよ!」
「…………」
「何か言えよ……何か言い返せって言ってんだよ!! バカヤロォ……」
- 25 名前:厚底を履いたヤマンバ 投稿日:2000年08月25日(金)00時43分22秒
- あ、涙でそう・・・最近涙腺がもろくなって。歳はとりたくないね・・・
- 26 名前:厚底を履いたヤマンバ 投稿日:2000年08月25日(金)00時44分23秒
- あ〜!!すんません!!あげちゃった!!
- 27 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月25日(金)02時01分59秒
- >>27
毎度毎度ありがとうございます!
涙が出そうになってくれるとは……俺もびっくり(わら
別に上がっちゃってもいいっすよ。ちょっと恥ずかしいかな……(わら
- 28 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月25日(金)02時03分02秒
- >>25
……間違えちゃった(にがわら
- 29 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月25日(金)02時05分04秒
- 『真里』は崩れ落ちるように手を離した。
俺は……ぼんやりと成すがままになっていた。
「おいらたちを受け止めることが出来ると思ってた……
どんな偏見も気にせずに付いてきてくれると思ってた……
でも、それは間違いだった……」
俺の目を『真里』を凝視していた。
その姿が……真里と重なったように見えて、胸が痛くなった。
「……さいてぇだよ……」
言葉のタブーを突き破った『真里』は一瞥もくれずに立ち去った。
かける言葉が……ない。
「……さいてぇだよ……」
(……最低だよ……)
二人の声が――聞こえないはずの声が聞こえたような気がした。
一つではない、二つの声が――
「…………くそおっ!」
がんっ!
やり場のない怒りが支配する。
どうすればいいのか……分からなかった。
今は何も考えたくなかった。
何もかもがどうでもいい……
「……おい……」
「…………」
不意に呼び止められて……虚ろに振り返る。
そこには紗耶香が立っていた。
- 30 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月25日(金)02時07分16秒
- 『おいら』は夢中で校内を走っていた。
さっきからずっと話しかけてくる『あたし』を無視して……
行き先はどこでもよかった……立ち止まれなかった。
「…………」
階段を下り、今度はつづける……
このまま意識が飛んでしまえばいいんだ。
おいらがいなければ『あたし』は幸せなんだ……本来の、主となる人格の『あたし』が……
(いい加減にしてよ!)
泣き声交じりのヒステリックな声もおいらを止められない。
ただ……階段は限界がある。
誰もいない踊り場に来ておいらは足を止めた。
苦しい……メチャクチャ苦しいけど……そんなものでは拭えないホントの苦しさが……
身体から抜けない。
(……勝手に決めてるのは……あたしたちだよ。二重人格であることを嫌がって、
逃げてるのは あたしたちだよ……)
(こ――ここまできて、まだあいつの肩を持つ気かよ! あいつは――)
(黙って話を聞けないの!?)
…………
(あたしたちは……元から一つの人格じゃないでしょ。矢口真里っていう身体をした
入れ物に全く別の中身が二つあるだけ……そうじゃないの?)
(…………)
(あたしと気持ちを共有しているって……どんな時でも一緒にいるんだもん。
互いが影響を受けるのは当たり前だよ。だから――同じ人を好きになる可能性も……)
『あたし』が言いたいことは痛いほどよく分かる。
当たり前だ……誰よりも深く『あたし』を知っているのはおいらなのだから。
(それに中澤先生のカウンセリングを受けた時に言われたこと……覚えてるでしょ?)
忘れるわけがない……
おいらの存在を邪魔なものと判断しないで言われた、あの一言を――
(だいじょぶやで。あんたの中におるもう一人の自分は……いや、もう一人の自分やないな。
全く別人や。ただ、お互いが影響を与えあって似たもん同士を作ってるだけや。
ホンマにすごいで。一人の身体に二人の意識がいるんや。悲しむことなんかあらへん。
胸張って自慢してええぐらいや……)
- 31 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月25日(金)02時09分20秒
- 静かにこちらを見つめる紗耶香の目は――穏やかだった。
ただ、何も言わずに俺の横に来た。
「……見てたのか……?」
「いや、泣きながらここを抜け出したのが……『おいら』だったことしか分からなかった」
俺は驚かなかった。
そうだよな……紗耶香なら真里のことも知ってて当然だよな。
きっと、俺みたいな先入観も、偏見もないんだろーな……
「……あたしが真里のこと知ってても驚かないね。聞いたの?」
俺は首を横に振った。
「……あの子ね、ずっとあんたに憧れてたんだぜ。一年近く……」
「…………」
「インターハイ予選で最下位に終わって……あんたと一緒に泣いてた……」
「それは『真里』じゃねぇだろ……真里のほうだ……」
「……アホ。泣いてたのは『真里』の方だよ」
俺は耳を疑った。
『真里』が……そう言えば、学校では『真里』の評判のほうが有名だ。
おとなしい真里は……あまり聞かない。
同時に俺は――コクられた状況を思い出した。
「あ、あの……おいらと、つ、付き合ってくれない……?」
目の前が真っ暗になった。
あの時、俺の前にいたのは……『真里』だった。真里じゃない。
もし、あれが真里に頼まれたものじゃなくて……『真里』の本心だとしたら?
ずっと押し隠してきた『真里』の気持ちだとしたら?
「……探しに、行く!」
- 32 名前:厚底を履いたヤマンバ 投稿日:2000年08月25日(金)20時54分34秒
- なるほど!!(勝手に納得)
ビックリの連続だ!!(勝手に驚愕)
昔はオリジナルのキャラが出てくる小説は嫌いだったけど、
これはいい!!大ヒットです。
サゲ!!
- 33 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月26日(土)00時13分09秒
- >>32
もう、ホントにすみません(わら
そんなに絶賛していただけると書いててだいぶ救われます。
納得行かないところもあるのですが……
がんばって書くので変わらずご愛顧下さい。
- 34 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月26日(土)00時14分49秒
- おいらはずっと悩んでいた。
あいつを好きになったことを。それでも、ずっと好きだった。
……紗耶香の友達に雰囲気を持った男がいた。あいつだった……
(おいらが最初に好きになった……それは事実だよな?)
(……そう。あたしがあと。影響を受けたのはあたし……)
でも、あいつが見ているのは……俺じゃない。
『あたし』だ。おいらのことはまるで眼中にない。
それよりも……邪魔者のような扱いだ。
(でも、好きなんだ……誰にも止められないぐらい好きなんだ……)
(……あたしを憎むぐらい?)
(それは違う……憎しみじゃない。嫉妬だよ)
正直言えば、この身体を乗っ取っておいらだけのものにしたいと思うことさえあった。
(でも、それはあたしも同じ……どこかで『おいら』を邪魔だと思ったこともある……)
(お互い様だよ……ありとあらゆることが、お互い様なんだよ……)
殴り合いの喧嘩も出来ない。
裏切ることも出来ない。
殺すことすら出来ない……
(苦痛……だね。あたしたちが、ここに二人いることが苦痛だね)
(…………)
身体が二つないことがこれほど辛いことだとは思わなかった。
まるで違う意識が二つ――喧嘩はあったけど、お互いを苦痛だと感じたことはなかった。
(どうすればいいんだ……おいらは……)
(…………)
- 35 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月26日(土)00時16分20秒
- どこだ……どこにいる……
校内を駆けずり回って探しても真里が――『真里』がいない。
息が上がっていた。
部活で嫌というほど走りこんだ身体は――すっかり落ち込んでいた。
(くそ……なんてヤワな身体と神経してんだよ……)
二学年のフロアーを探していると、見慣れた影が目の前をよぎる。
あいつは――
「あ、センパーイ!」
「妹……」
妹と言っても俺と血を分けた妹じゃない。
紗耶香を姉と慕う陸上部の後輩――真希だった。
「お久しぶりです。元気でしたか?」
「ああ、まあな……それより、真里を見なかったか? C組の矢口真里」
「そーいえば、センパイ。聞きましたよ……付き合ってるんですよね?」
「ああ。とにかく見かけたか?」
真里は少し考えるような素振りを見せた。
「さっき、ものすごいスピードで階段のぼってく人を見かけましたよ。
ちっちゃい女子だったから、もしかしたら真里さんかも……」
「どこの階段だ?」
「えーと……」
話を聞くと割と近いところだった。
まだ、いるかもしれない。
「じゃあな!」
「あ、ちょっと、センパイ……」
- 36 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月26日(土)00時26分21秒
- >>35
訂正です。
真里は少し考えるような素振りを見せた。
↓
真希は少し考えるような素振りを見せた。です。
ああ、恥ずかしい……
真里を探しているのに真里がしゃべってどうする……
- 37 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月26日(土)00時45分11秒
- 俺は階段を駆け上がっていた。
言い訳をする気はないが――俺は短距離アスリートだから持久力には自信がない。
だが、息が完全に上がっても止まるわけには行かなかった。
「はあはあ……」
謝らないと――俺が謝らないといけない……
気づかない俺が愚かだった。真里には二つの人格がいる。
なら、そのどちらとも包み込まないとダメだということだ。
単純な問題だったのに……
「そう、単純な問題だよ……なのに、どうして気がつかなかったんだ……」
邪魔だったのかもしれない。
もしかしたら、『真里』に嫉妬していたのかもしれない……
俺よりも真里といる存在だから……
階段を上りきるとそこは踊り場になっている。
誰もいない……ただ、別の屋上に通じているだけだ。
直感を信じるしかない……
「……真里! どこにいる!?」
たまらず、声を張り上げる。
階段を歩いている人間には聞こえているだろう。
そんなことはどうでもいい……今は……真里に逢いたい。
逢って一つでも謝りたかった。
- 38 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月26日(土)01時17分08秒
- ……!?
あいつの声だった。
(どうするの? 話をしたいの……?)
(…………)
よく分からなかった。
文句言ったけど、合ってくれるだろうか……
それとも別れを告げるために探しているのかも……
(自分の気持ちを大事にしたら? 好きになったのはあなたよ。
あたしだって好きだけど……あなたが好きになる権利もまた、あるはず)
「逢いたいよ……謝りたいよ……大好きだよっ!」
知らないうちにおいらは声を出していた。
ホントはおいらが悪いに決まってる。
話をしてないんだから分かるわけがない……おいらとあたししか分からない問題だから。
(なら、話し合えばいいだけだね……一番大事なのは気持ちだよ。
「好きだ!」って言う気持ちが何よりも一番大事だよ……)
おいらは声を頼りに扉を開けた……
- 39 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月26日(土)01時43分21秒
- んがんっ!
い――痛ってぇっ!
寄りかかっていた扉が急に開いて俺は思いっきり頭を打った。
呼吸を整えようと一休みしていた不意をつかれたショックもあった。
「な……何しやがんだ! いってーじゃねー……」
俺は頭を押さえながら、絶句した。
真里だった。
俺と同じように驚いた様子だった。
「あっ……」
「あっ……」
まさか、こんな風になるとは思わず、俺は小さく声を上げることしかできなかった。
ただ、『真里』は違った。
「あ……あ……」
「? あ?」
「逢いたかったよー!!!!」
『真里』はあっさりと俺の胸に飛び込んできた。
訳がわからずに戸惑ったが、小さな身体をしっかりと受け止める。
「ちょ、ちょい待ち! 『真里』の方だよな……?」
胸の中で彼女は何度も頷いて見せた。
しゃくりあげそうになるのを必死で止めようと俺の制服を握っている――
「…………」
俺は『真里』の髪を撫でてやった。
だいぶ落ち着いてきたのか、『真里』はぽつりと囁いた。
「……ごめん……」
素直な『真里』を見るのは……初めてだった。
口の達者な『真里は』は――簡単に引く性格じゃない。
「…………」
信じられない光景に俺はひたすらたじろぐばかりだった。
- 40 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月26日(土)01時44分56秒
- んがぁぁっっ!
上げたのはいいけどなんじゃこりゃ!!!!
ちょっとつまり気味です。
ぜんぜん納得いかん……
すいません。今度はがんばります。
- 41 名前:厚底を履いたヤマンバ 投稿日:2000年08月26日(土)11時47分37秒
- 『真里』と真里の葛藤が非常に面白いです。素直になる『真里』にも萌えます。
やぐじぇねさんが納得してなくても私は充分楽しんでます。
これからも頑張ってください。
- 42 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月28日(月)04時43分39秒
- 「おいらが……おいらが出てきたのは『あたし』が小学生になった時だった」
全部話そうと思った。
この人なら、理解してくれるはず……いや、分からなくてもいい……
誰かに抱きつづけたこの苦悩を話したかった。
「ただね……出てきた理由が分からないんだ……
さっき言ってた……虐待されていた経験は全然ないし、イジメられたこともない。
確かに『あたし』は控えめで自分の意見を言わない子だけど……全然言わないわけじゃないだろ?」
「…………」
「おいらが出てきてから……両親はあちこちの精神科医を訊ねまわってたよ……」
おいらにとって……ツライ時期だった。
訳の分からない治療を施されて――死ぬかもしれない恐怖があった。
『あたし』にとっての治療は『おいら』にとっては死になるかもしれなかった。
「でも、ここの高校の付属医大にかかった時に……あるカウンセラーに会ってから、
そんなことをするのをやめた……「あたし」の強い反対もあったから……」
「……誰だ? 『真里』を救った人は……」
「この高校の卒業生……中澤先生って言う人。あの人は……おいらの存在を認めた」
「存在を認めた……?」
「『おいら』が『あたし』の分離した人格の一つじゃないって言ったんだよ……
つまり、一人の身体の中に完全に別の人格が二つあるってこと……」
彼は黙って下を向いていた。
「だから、二重人格っていう言い方はホントは間違えてる。
重なりはない。全く別の……人が二人いるんだからさ」
おいらの話に彼は顔を上げなかった。
その姿は……激しく後悔しているように見えた。
- 43 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月31日(木)01時57分07秒
- をや……昨日のログが消えてるよ……
上げなおさないといかんね……どーしてだろ?
厚底表示もねーし……まあ、いいか。
- 44 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月31日(木)01時58分35秒
- 『真里』を見ることが出来なかった。
自分のふがいなさよりも――自分の間違いよりも――
『真里』を消そうとしていたその自分が許せなかった。
鼻腔が熱くなる――
視界が歪む――
「お、俺は……お前に……何をすればいい……」
はっきりと言ったつもりだが、声にならなかった。
喉が震えて、言葉が止まる。
「ち――ちょっと! 泣いてるの……?」
「…………」
「ま、待ってよ。これじゃおいらが悪人みたいじゃん……」
泣くつもりはなかった。
涙を流すことで同情を引く気はこれっぽっちもなかった。
でも、涙が……止まらなかった。
「……こっちを向け!」
『真里』は俺の顔をつかんでこちらに無理やり向かせた。
それでも俺は視線を『真里』に向けることが出来なかった。
「あのなぁ……普通はおいらみたいな女の子が泣くもんだろ?
男のお前が泣いてどーすんだよ……」
「……すまない……俺はお前を……傷つけた……」
「何言ってんだよ! おいらは構わないよ。こんな風だと
誤解も多いからね。慣れっこなんだ」
屈託のない笑顔を振りまいている『真里』は……かわいかった。
その笑顔が……俺を重くしていた。
- 45 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月31日(木)02時00分11秒
- 「なあ……おいらはいじめてるわけじゃないんだけど……」
「わ……わりぃ……」
「……でも、嬉しい……」
『真里』は微笑んだ。
「おいらのこと……「あたし」のことだけど、真剣に考えてくれたんだ……
それだけでも嬉しい……どちらかをちゃんと見ててくれたんだ……」
「俺は……」
「何も言わないの!」
『真里』は俺の唇に指を当てた。
笑顔が……「あたし」の笑顔と重なった。
「ねえ……許して欲しい?」
「……俺のやったことが許されるなら、何でもやってやるよ」
「言ったね! じゃあ質問!」
「……カンケーねーこと以外ならちゃんと答えてやる」
『真里』は再び顔をこちらに向けた。
透き通る瞳は――何者でもない、俺の姿を映していた。
「……「おいら」と「あたし」どっちが好き?」
「…………」
「黙らない! ちゃんと答える!」
つくづく――『真里』には勝てない。
無邪気な顔をしてする質問じゃねーよ……
「……両方だよ。それじゃダメか?」
『真里』が――近づいた。
両手を伸ばして――導かれるように彼女はくちづけた。
「あはは……「おいら」とファーストキスだぁ……どんな味した?」
「……初めてじゃねーだろ?」
「この前のはキスっていわない。挨拶みたいなもんよ」
内心、俺の心臓はバクバクいっているのに……
『真里』にはそれがまるでなかった。ホントにケロっとしている。
「ねー、ファーストキス、どんな味がした?」
「味なんかしねーよ」
「んじゃ、も一回する?」
「あー、味がしました! えっとな……」
考える……実際には味なんてしたわけがない。
でも、なんか言っておかないと……
あ、思いついたけど……こんな恥ずかしいこといいたくねー……
「……『真里』の味がした……ってこんなバカなこと言わせんな!」
……彼女がおなかを抱えて笑ったのは言うまでもない……
真里と『真里』……
俺は二人を好きになった。
でも、実際にそれは……ほんのわずかの時だった。
- 46 名前:名無しチビンバ 投稿日:2000年08月31日(木)02時03分15秒
- 第二章 >>20-45
とりあえず二度目の二章上げ(わら
三章の触りが出来ているんで今日上げちゃいます。
明日は……『妊婦〜』のほうにしようか悩んでたりする(わら
- 47 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月31日(木)02時05分14秒
- 第三章
「おっはー!」
「……よう……」
最近、俺の朝はにぎやかだった。
低血圧の俺を一発で目覚めさせてくれる存在がいた。
真里――いや「真里」だった。
「今日もいい朝だねー……っておい! 立ったまま寝てんじゃねーよ」
「…………あ?」
「全く……このネボスケが朝練にちゃんと出てたのが奇跡に思えてきたよ……」
「うっせーな。俺は引退してんだからカンケーねーんだよ」
ガレージの奥から自転車を引っ張り出してくる。
部活を引退する前は学校まで走っていたのだが……
「おらー! 早くしないと遅刻するぞー!」
「あーあーはいはい。お前は乗ってるだけなんだから黙ってなさい」
「と・に・か・く! ホントに急がないと間に合わないよ。だって……今、8時20分だもん」
「な――何!!!!」
がたがたと乱暴に自転車を転がす。
『真里』が乗ったことを確認して――たまに気づかない時がある――、
大きく息を吸い込んだ。
「しっかり捕まってろよ……ほら! 行くぞ!」
「GO!」
陸上部にいるだけ、足にはかなりの自信があった。
軽快にペダルをこぎつづける。
「お……今日はいつになく飛ばしてんなー!」
「バカヤロウ……今日は卒業後の進路を提出する日だろーが!」
「あー! すっかり忘れてたー!」
「何でもっと早くおこさねーんだよ……」
同じ学校の制服がまばらに見えてくる。
ただ、そのメンツが遅刻の常習の奴ばかりで不安をいっそうかきたてる。
「昨日は真里だっただろ! おいらのせーじゃねーよ!」
「進路は真里だけの問題じゃねーだろーが……」
「た、確かにそーだけど……」
最近、真里と『真里』は一日交代で俺と逢っている。
どちらから始めるかで揉めていたが……
今のところ、平穏は保たれているようだ。
- 48 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年08月31日(木)02時06分52秒
- 「おーっ! すっげー! 間に合ったよ!」
「ま、まあな……ホントに……よく……間に合ったな……」
「おっはよ!」
「おっす。紗耶香」
「今日は……そっか、『真里』の日だね。……っておい。何をそんなに疲れてんだよ?」
やぶ睨みの紗耶香に何も言い返せないぐらい俺はヘトヘトだった。
まさか……こんなにも体力が落ちるのが早いとは……
「こいつがバッカだからねー。遅刻しそうになっちゃった」
「てめえは……乗ってるだけだから……いいじゃねーか……」
「何回ケータイに連絡入れても起きないのが悪いんだろ!?」
「……連絡入れたときは俺もとっくに起きてたよ!」
…………
「朝からラブラブモードに入らない! ほら、チャイム鳴るよ!」
「はーい! んじゃね……あ、ちょっと――」
下心のある笑みを浮かべている『真里』が手招きする。
何をやろうとしているのか……すぐに分かってしまうところが彼女らしい。
が……
「こ――ここでやるのはちょっとマズイ……」
「なに照れてんだよ? んじゃ……ほら!」
俺の頬に軽くキスしてから駆け出す。
「今日はおいらがおべんと作ったからな! 購買でパン買ったりするなよ!」
「お――お見通しですか……?」
「とーぜん。わかってるね!?」
「わあったよ……」
満足そうに『真里』は頷いて教室に駆け出した。
「だいぶお互い恋人らしくなってきたね……結構結構」
「……綺麗にまとめてんじゃねーぞ……」
- 49 名前:河原裕也 投稿日:2000年08月31日(木)12時26分17秒
- 相変わらずおもしろいっすねぇ・・・・・。僕の方も早く書かないと・・・。
- 50 名前:厚底を履いたヤマンバ 投稿日:2000年08月31日(木)22時36分07秒
- ついに第三章!!ほんと面白い。最近、真里の出番が少ないですね。
逆に『真里』の出番が多いことが少し引っかかって嫌な予感に早代わり。
ハッピーエンド希望だけど、そううまいこといくのやら・・・
ますます楽しみです!頑張ってください。
河原裕也さんも。
- 51 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月01日(金)02時32分27秒
- >>50
ぎくっ! さすがにちゃんと読んでいらっしゃるようで……(わら
別に意識して真里を書いてないわけじゃないんですよ。いや、ホントに。
すぐに出てきますから……多分(にがわら
- 52 名前:厚底を履いたヤマンバ 投稿日:2000年09月01日(金)12時07分16秒
- プレッシャーをかけるようで申し訳ないんですが、今はこれを一番楽しみにしてます。
っていうか、いまだに第二章の最後の文章が脳裏に焼き付いて嫌な方、嫌な方に
考えてしまいます。これからもいろいろ余計なことを言ってしまうと思いますが、
あんまり気にしないでください。めちゃめちゃ楽しんで読ませていただいてます。
- 53 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月03日(日)03時06分14秒
- 「……で、結局、お前は進学希望で出してきたわけだ」
「うん。おいらは別に興味ないんだけど……『あたし』がどうしても
人間の精神の勉強がしたいんだって。おいらのこともあるんだろーけど」
少し小さい弁当を頬張りながら、『真里』は言った。
困ったことに『真里』の弁当はすごく出来がいい。
普通は真里の方がうまいは……と想像しがちだが。
こうして見ると食べる素振りまで彼女と違う。
本当に別の人間だ――真里の姿をした別の誰かだった。
「うっ!」
「……はしたねーな……女のクセにがっつくから喉に詰まらせんだよ……」
「…………(ごくごく)」
あのよ……喉を鳴らして飲むな……
「ぷはぁ! 危なかった……それよりどーするの? 進学にしたの?」
「……お前って自分が出てない時以外全く話し聞いてねーんだな……」
「えっ!? まさか進学するの?」
「…………」
どうも『真里』には俺はバカに映るらしい。
他人からも変わらないリアクションを取られるが……
「一応、国立志望」
「ふーん、国立に行くんだぁ……こ、国立ぅ!?」
「私立はちょっとな……お金高けーし。無理に私立に行くのヤなんだよ。
だったら国立でもいいかなぁって……」
「だってだって……国立って3教科だけじゃ無理でしょ?」
「俺の志望してるところはな……でも、なんとかB判定でてるし……」
それを聞いて『真里』は変な目で俺を見た。
額と額を合わせてくる。
「ね、熱は……ないよね?」
「おかげさまで。一応、お前よりは成績いいから」
「そっか……」
「そゆこと」
「…………」
をや……この態勢は……
目の前に『真里』……しかも、瞳が潤んでるし……
「……ん……」
今日、何度目かのキス……
数はもう分からない……
『真里』は……すでに俺の中で大きなウェイトを占め始めていた。
- 54 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月03日(日)03時27分32秒
- 『あたし』は不安になっていた。
今日の担当は『あたし』――真里だ。
彼に逢えるのが嬉しくて嬉しくて仕方ないはずなのに……どこかでそれを嫌がっていた。
理由は分かってる。
『あたし』は嫉妬している……『おいら』に。
彼女はあたしの出来ないことを簡単にしてしまうからだ。
たとえどんな状況でも。
「おい……だいじょぶか?」
「う、うん……」
学校が早く終わり――進学校はこの時期になると午前中だけの授業が続く――、
あたしと彼は地元の図書館に来ていた。
机を並べて――向かい合って勉強しているのだ。
「体調でも悪いのか?」
「そんなことないよ……昨日寝たのがちょっと遅かったから……」
「何時ぐらい?」
「……五時、ぐらいだったかな?」
「ご、五時だって!!」
大声を上げてしまい――彼は真っ赤になりながら周囲に頭を下げた。
司書の人が睨んでいるけど……気にしないでおこうっと……
「何でそんな時間まで勉強してたんだよ……?」
今度は小声で彼は聞いてきた。
「ちょっとね……あたし、頑張って勉強することに決めたんだ」
「でもなぁ。寝る間を割いてまで勉強する時期じゃないぜ。模擬は来月だし……」
「いや……あのね……」
「ん?」
「…………何でもないよ」
どうして言えないの……? 『真里』のように……
彼が行く国立の大学を目指すって……一緒に勉強して、キャンパス歩きたいって……
でも、その一言があたしには……どうしても言えない。
ばかばかばかばかばかばかばか…………ホントにあたしってばか……
「ふう……少し休憩入れるか? 図書館の側にファミレスあるし」
「ちょっと……おなか減った」
「おっしゃ。んじゃ、決まりだ」
- 55 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月03日(日)03時53分39秒
- 俺は彼女――真里との仲が進展していることが嬉しかった。
今まで自己主張がゼロだった彼女が――「おなかが減った」って言った。
些細なことだ。ものすごく些細なことだったが……俺にとってはすごく嬉しかった。
「いらっしゃいませー! 二名様ですかぁ?」
「ああ――って紗耶香じゃんか!!」
「なんだ、あんたか……ってことは……真里も一緒?」
「……まあね」
紗耶香がここでウェイトレスしているなんて全く知らなかった。
部活を引退してからバイトをするとか言ってたのは覚えてるが……
さすがに仲がいい真里は知っていたらしい。
紗耶香の姿を見ても驚きは――少しあったらしい。
「あれ? 今日は……バイトじゃないって言ってたじゃん」
「シフトが変わってね、今週からこの時間もやることにしたの。
お二人さんと違ってあたしにゃやることないからね」
「へっ! きたねーよなー。スポーツ推薦の枠を使って大学入るの」
「あれ? もしかして、嫉妬してんの?」
「ばーか! 俺は使わなかっただけだよ! 行きたい大学じゃねーからよ!」
紗耶香は早々に進路を決めている。
当たり前だった――走り幅跳びのインターハイで準優勝しているぐらいだ。
引く手あまた……無様に最下位で終わった俺と違うのだ。
「とっとと席を紹介してくれよ。真里が腹減らしてんだからよー」
「あ、あたしは別に……」
「ほら。これメニューだから。その辺の空いてる席にどーぞ」
ちっ……かわいくねー奴。
紗耶香に真里の100分の1でもかわいさがあればもっと男が寄ってくるのにな。
せめて妹の――真希ぐらいかわいけりゃなぁ。
「なんか落ち着いて話せる雰囲気じゃねーな……店、変えるか?」
「い、いいよ……そんなことしなくって。相手が紗耶香だし」
「そうか……まあ、真里がそーゆーならいいんだけど」
俺たちはとりあえず窓側を陣取った。
外から見える光景は……まだ、日に満ちていた。
- 56 名前:厚底を履いたヤマンバ 投稿日:2000年09月03日(日)12時15分06秒
- 真里のほうが料理上手そうなのに『真里』のほうが上手いってとこが笑える。
相変わらず萌えです。今日はちゃんとサゲ忘れないようにします。
- 57 名前:名無しチビンバ 投稿日:2000年09月04日(月)02時13分13秒
- ここには妊婦見に来てたけど、すごく面白いよ作者さん。
いやぁ〜、二人の真里に妹が真希!羨ましいぞ彼氏!!
- 58 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月04日(月)04時17分01秒
- >>57
レスつけていただいてありがとうございます!
確かに彼氏は羨ましいですけど……疲れそうですね。
書いてて器用な男だなぁ……などと思ってます(わら
老婆心ながら、真希は彼氏の妹じゃなくて妹分ですね。
紗耶香の後輩であり、彼氏の後輩ですから。
混同しそうなので、今度からは「妹分」と書きます。
- 59 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月05日(火)03時55分55秒
- 勉強は彼に教えてもらっていた。
あたしの成績は彼に遠くおよばない。古典であったり、英語であったり……
でも、一つだけ、彼に教えられることがあった。
「……ってこと。分かった?」
「なるほど……このときの天皇の息子がこいつで――次の天皇はこいつ?」
「そう。分かってるね。もうだいじょぶだよ」
「やっと分かった……はぁ、なるほどねー」
歴史――日本史に関して、あたしは彼の成績を上回っている。
自慢するわけじゃないけど……学年でも一ケタをキープしている。
「学校で教わったり、用語集を読んだりするより、ずっと分かりやすいよ」
「ありがと。あたしも――ちょっと自信ないんだけどね……」
「そんなことねーよ。俺は日本史キライだけど真里のは聞いてると面白いよ」
「じゃあ……今度は英語教えてね」
図書館の机はあたしたちだけの空間を作ってくれた。
誰も邪魔できない空間……あたしだけの空間。
彼はあたしの話を一生懸命聞いているし、あたしも真剣に話を聞く。
つらいはずの勉強も何もつらくなかった。
「んじゃ、ここの英文訳してみて」
「えーと……ここがこうで……そこの修飾部が……」
「そうそう」
「それで……こことここが接続語で繋がって……意味が対比して……」
……困った……彼がじっと見るから力が入んないよ……
息がかかりそうな距離にあたしの思考回路がパニックしちゃうよ。
「…………」
「あのね……そんな泣きそうな顔で状況を伝えないよーに」
「……分かんなくなっちゃった」
彼はため息をついた……顔が笑ってるよ。
やっぱり、好きなんだな。彼のこと。
すっごい些細なことだけど、その姿を見て幸せ感じてる……
- 60 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月05日(火)04時29分10秒
- 「今日は早く寝ろよ。この時期に体調崩してもしょーがねーぞ」
「分かってるよ。そんなに何度も言わなくったって」
「お前がいないと日本史わかんねーし……その、心配なんだよ」
…………
最初、何を言われたのか分かんなくって……ぼんやりした。
それから、分かって――頬の辺りが熱くなった。
「そ、そんなに露骨にはずかしがんなよ! 俺まで照れるだろーが……」
「……ごめん」
「ごめんてゆーな……慣れちまったけど、お前は何も悪くねーだろーが」
…………
「マジな話、あんま無茶すんなよ。俺に追いつこうとするのは分かるけどさ……
一人で頑張るなよ。俺がいるからさ……一緒にがんばろーな」
「…………」
また顔が赤くなる……
ダメだ……ドキドキしちゃう。『真里』が出てくるぐらい……
出てこないけど……今日は出させないつもりだもん。
「お前ってホントに分かりやすい性格してるなー」
「紗耶香にもよくからかわれる。でも、直んないんだもん……」
「ま、お前のかわいいトコってそこだしな――って言ってるそばから赤いし」
「や、やめてよ、もう!」
あたしは自然に――彼の腕をこづくことができた。
その一瞬であたしと彼の距離が――縮まる。
あたしの手は……彼の手を捕まえる。
勇気が必要だった。めいっぱいの。
「……ごめん」
「おいおい……手をつかんでおいて謝るなよ……」
「あのね、いつもあなたが『手をつなぐ?』って聞いてくれるから……
でもね、あたしがしたいと思った時に……してないから……」
「わけわかんねーよ。言いたいことは分かるけどよ」
「だからね……手がつなぎたいの」
ドキドキがとまらない……
自分の言いたいことなんか紗耶香なら簡単に言えるのに……
彼にはすごく体力がいる。エネルギーがいる。
それでもあたしは彼が好きなんだ……誰よりも……
- 61 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月05日(火)04時35分27秒
- なんかむっちゃ背中がむずむずゆってるぞ。今回(わら
「妊婦〜」のリバウントじゃねーけど、めちゃめちゃアマアマだなぁ。
たまにはいいか……毎回は俺が耐えられん(わら
- 62 名前:名無しチビンバ 投稿日:2000年09月05日(火)18時22分12秒
- メチャメチャ面白いっす。作者さんがんばって!
- 63 名前:ミラクル矢口 投稿日:2000年09月05日(火)19時50分03秒
- やぐじぇねさん始めから読ませてもらってますが
むっちゃ真里(両方に)萌えちゃいます。
自分にもこんな学生時代があったんだなぁと思ったりって、自分は男子校でした
でも、共学でもこんな子いなかっただろうなぁ。
- 64 名前:ミラクル矢口 投稿日:2000年09月05日(火)19時50分50秒
- すいません、あげちゃいました・・・
- 65 名前:厚底を履いたヤマンバ 投稿日:2000年09月06日(水)00時02分10秒
- やっぱり『真里』も真里もいいっす!!
おとなしい真里が自己主張するようになったとこや、
強気な『真里』がすこし素直になったとこなんかはたまりませんね!!
やっぱり甘甘はいいです。
- 66 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月06日(水)00時51分35秒
- ををっ! こんなにレスがついてる!
いやいや、みなさんありがとうございます。
俺の小説読む人はコテコテなのが好きみたいですね(わら
>>63
ミラクル矢口さん! レスありがとうございます!
初めから読んでいただいてホントに嬉しいです。
書いてて俺も懐かしいなぁと思ってます。
ここまでアマアマなのは……あんまり経験ないっす(わら
- 67 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月06日(水)00時53分33秒
- 真里を家まで送ってから……
俺は漠然と考えていた。最近、自分の周りをぐるぐる回る問題だった。
控えめな真里と――積極的な『真里』
二人の存在は今の俺を支える大きなものだが……
この関係はいつまで続くのだろうか……
長いこと、考えていたことだった。
俺はどちらとも好きだし……二人一つで、それが矢口真里という存在だと思っている。
どちらが欠けてもダメなことはよく分かっている。
でも……
「ふう……世の中でもこんなことで悩んでんのは俺ぐらいだな……」
近くのコンビニで文房具とジュースを買っていく。
店を出ると……どこかで見た自転車が通り過ぎる……
まさか……
どくん……どくん……
俺の心臓が早鐘のように脈打つ。
あの自転車は……あの自転車は……
ききっ!
「……あれ? もしかして……」
掛けられた声に刹那、胸が痛んだ。
忘れもしないこの声は……やっぱりあの人だった。
「あれあれあれ!? 久しぶりじゃないの!」
「……おっす」
目の前にいたのは今年卒業した一つ上の先輩だった。
そして……陸上部のヒロインとまで言われた先輩だ。
……俺は動揺を押し殺すのだけが精一杯だった。
「忘れちゃったの!? あたしのこと?」
「と、とんでもないですよ!!」
「じゃあ、名前呼んでみて!」
「……なつみ先輩でしょ」
- 68 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月06日(水)01時22分43秒
- 「……で、どうして俺がこんなことしなくちゃならないんです?」
「いいでしょお? どーせお互い家が近いんだから」
「そりゃそうですけどね……なんで俺が自転車こがなきゃいけないんです?」
ママチャリをこぐ俺の後ろには――なつみ先輩がいた。
俺の息は坂を登ったときに切れているが、原因がそれだけじゃないこともわかってる。
「おーおー! 相変わらず体力あるわねー!」
「俺、ちょい前に引退してるんですよ。これでも落ちまくってますよ」
「そう言えば、そんな時期だねー。あたしらいなくなってからどうなのよ、紗耶香とはさ……」
また始まった……
恋沙汰が――とりわけ、他人のが――大好きななつみ先輩だ。
絶対に聞いてくると思った。
「あいつとは何もありませんよ。それに俺、彼女いますから」
「知ってるわよー。確か……矢口真里ちゃんとか言うんだってねー」
「な――なんで知ってるんですか!」
「紗耶香から聞いてるわよ。あの子はあたしの妹みたいな子だから」
……そうだった。
女子陸上部の走り幅跳びの系譜はちゃんと繋がっている。
なつみ先輩から紗耶香へ。そして妹分の真希へ。
全てが俺に絡んできている。祟られているといっても差し支えない。
「でも、あなたが紗耶香の友達に手を出すとは思わなかったわよ」
「何言ってるんすか。紹介されたの紗耶香からですよ。
それに『絶対に断るんじゃねー!』って首まで締められたんすから……」
「あっそ……なら、いいんだけど……はぁ」
……なんだ? 今の乾いた笑いみたいなのは……
「んじゃ、そろそろ家なんで失礼します。後は自分で帰ってください」
「冷たいわねー。あ、そだ。ごちそうするからさ、家に来ない?」
「……旦那さんはどーするんです?」
なつみ先輩は――すでに結婚している。
大学一年になったと同時に二つ上の同じ陸上部の先輩と結婚した。
俺の面識がないはずの先輩だった……普通ならば。
「だいじょぶよ。単身赴任中だからね。北海道までついていけないし」
「でも、今日は帰らせていただきます。明日学校ありますし……」
俺は……背を向けた。
なつみ先輩の顔を見るのが辛かった。
- 69 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月06日(水)02時18分48秒
- 「……はい、おまちどさん」
「…………」
「そんなにむくれない! 料理うまくなったんだから食べてよ!」
自分が情けなかった……
押しの強いなつみ先輩を振り切れなかったこともそうだが……
何より、やっぱりついてきてしまう自分が情けなかった。
「メシだけ食ったら帰らせてもらいます」
「分かってるって……ねえ、何であたしと話をする時にそんなに不機嫌なのよー!」
「そんなことありませんよ……」
「あ……そか。まだあのこと気にしてんだ……」
…………
「あたしって無神経だからね……ごめん」
「あ、謝らないで下さいよ……」
「ホ、ホントに……ゴメンね……」
……泣いてる?
マジかよ!? なつみ先輩……泣いてる?
「あの、俺、その……」
「ふっふっふ……引っかかった! ねえねえ! びっくりした?」
……からかわれている?……
思い出した……この人はいつもそうだ。
俺がオロオロするをの見るのが大好きな人だった……
「……やっぱり帰ります」
「あー!! ちょい待ちなって。ジョーダンよ。ジョーダン」
「そろそろ――真里から電話かかってくるんですよ。
この時間にいつも連絡とってますから」
これは本当だった。
夜の9時ごろに真里は必ず電話をしてくる。
それがメールであったりする日もあるが、
今日はお互いに「宿題」を出したからそのことで電話をする約束になっている。
「……ゴハン、食べてってよ……」
「…………」
「あたしね、最近ずっと一人でゴハン食べてるの。
帰りにあなたがいたから……騒いじゃったけど、寂しいんだわ、今」
「……俺は旦那さんの代わりじゃないです」
俺はポーターのバックを取り上げると席を立った。
テーブルに載っている色とりどりのサラダがなんか眩しかった。
静かに流れる沈黙……
なつみ先輩は俯いていた。
「……わかりましたよ。これだけ作ってくれたんですから
食べますよ。その代わり――食べたらすぐに帰りますから」
- 70 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月06日(水)02時22分39秒
- むぅ……思った以上に話がデカくなってきて俺もビックリだ(わら
当初の予定よりもずっと長い話になりそうです。
彼女を出す予定はなかったんですけどね……
- 71 名前:河原裕也 投稿日:2000年09月06日(水)22時18分07秒
- 彼のカバンはポーターっすか。細かいっすね(笑)。
- 72 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月07日(木)02時40分00秒
- >>71
やっぱり高校生のバックといえばポーターでしょう!(わら
少なくとも俺はそうでした。
正直、意識して書いたわけじゃないんですけどね。何となくです。
- 73 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月07日(木)03時13分49秒
- 「ねえねえ! おいしいでしょ?」
「……うまいですね……」
「やった! これでもちょこっと主婦してた時期があんだから」
なつみ先輩は嬉しそうに笑っていた。
何も変わらず俺に微笑んでくれる――邪気のない笑み。
あのことを……全く気にしていないようだった。
「……ねえ、真理ちゃんとはどこまでいったの?」
「食事中ですよ。先輩」
「別にいいじゃないの……かわいい後輩の彼女のこと聞いたってさ」
かわいい後輩……か。
やっぱりダメだ。言葉尻を取って卑屈になっている。
だから俺は子供っぽいってなつみ先輩に言われるんだよ。
「特に何もありませんよ。今は順調ですけど」
……逢った時は順調じゃなかった。
いろいろ喧嘩したり、軽蔑したりした。
つい最近のことなのに……だいぶ前に感じる。
「キスぐらいはしたでしょ?」
「…………」
「ま・さ・か……してないとか言うんじゃないでしょーね?」
「それぐらいはしてますよ!」
だんまりを決め込もうとしたにもかかわらず、反射的に言い返してしまう。
それから――俺は真っ赤になった。
「ふふ……相変わらずカワイイじゃないの」
「い、いいじゃないですか……なつみ先輩も食べてくださいよ」
すると、彼女は視線を向けた。
すっ――と、切ない瞳で見透かすようにこちらを見る。
「あのさ……さっきから何で、なつみって呼んでくれないの? 昔はそうだったじゃん」
「……俺にとってはやっぱり先輩ですよ。学校が終わっても」
「…………やっぱり気にしてるんだ……あのこと……」
俺はいたたまれなくなって視線を外した。
この場から帰りたいという欲求がむくむくと出てくる。
「……あたしのせいだもんね。やっぱり」
「ち、違いますよ!! 俺だって……その、興味あったし……」
「先輩の命令だって言ったから……やったんだもんね」
明るかった食卓は再び、静まり返った。
やっぱり会うんじゃなかった――俺は漠然とそんなことを思っていた。
- 74 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月07日(木)03時46分20秒
- 「あいつの初恋の人?」
「そう……どんな人と初めて付き合ったのかなぁ……」
彼からもらった「宿題」を終えたあたしは一息つこうと紗耶香に電話していた。
一日一回は……あたしは紗耶香と電話している。
彼が一番多いのは当然だけど……次はやっぱり紗耶香。あたしの大切な友人だ。
「うーん……」
「ほら、お互い幼馴染みだし……知ってる?」
「やっとそんな話題が出るまで二人が進展したんだってちょっと感激だな」
「ちゃ、茶化さないでよ……知ってるの?」
思わず、息を飲む……
誰なんだろ? あたしよりカワイイ人なんだろーか……
「ごめん……実は……あたし」
「えっ! えっ……えっ!」
「……なわけねーだろ。慌てるんじゃねーよ」
「ちょ、もう! ふざけないでよ!」
あー……すっごいドキドキした。
もし紗耶香だったら……あたしどうしてたか分かんないよ。
怒ったのかな……ううん、違うな。きっと……嫉妬してたかも……
「……あいつの初めて付き合った人は……あたしも分かんない」
「やっぱり? 誰が最初だか分かんなそうだしね」
「…………」
「……どうしたの?」
紗耶香は電話越しに重い沈黙をよこしていた。
何か……知ってる?
「ねえ、真里。初めて付き合った人なんて今となってはあんまり関係ないことだよ。
昔のことなんだから……それに、あんたは人の世話より自分の方が先よ」
「やっぱり?」
「あいつは自分のことをちゃんとできる奴だけど……真里はそうじゃないでしょ?
それに、あんまり過去のこと聞いたりするのはあんたもイヤでしょ?」
「……確かに……」
あえて、あたしはそれ以上その話題に触れなかった。
しつこいのは紗耶香が一番嫌うし……今さら昔のことを引っ張り出してきて
落ち込む自分が――何よりイヤだった。
でも……どうして黙ったんだろ……
やっぱり後で電話して聞いてみようかな……
- 75 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月08日(金)02時17分40秒
- 「……俺は後悔してないです……あの時は先輩の命令でしたけど……今は後悔してないです」
「…………」
「あの後……紗耶香にしこたま怒られましたよ……どーしてつっぱねなかったってね……」
俺は……中学生の時からなつみ先輩に憧れていた。
陸上部のヒロインって言われるほどかわいかったけど……それだけじゃなかった。
周りの人には厳しかったけど、俺にはいつも優しく接してくれた。
二つ上の先輩なのに――俺だけはいつも同等に扱ってくれた。
「一時の気の迷い……とは言わないわ。あの時あたしは――」
「落ち込んでいただけです。あの時、旦那さんと喧嘩して……
俺だって同じ立場にいたら同じことしてたと思います」
「…………」
「確かに……あの時のことを思い出さないようにしてるかもしれません。
でも、捨てられない思い出です。あの時、俺は……なつみ先輩が好きでしたから」
……言ってしまった。
長かった……この一言を言えるまで俺はとても長い道のりを歩きつづけたような気がした。
でも、今は違う。それは絶対だった。
「……ありがとう……」
「いえ……なつみ先輩は陸上部男子の憧れの的でしたよ。
俺に声を掛けてくれると……周りの先輩からどやされてばっかりでしたよ……」
「あなたが一番お気に入りの後輩だったの。かわいかったし……
何よりあたしたちの言うことをよく理解していた。後輩の中では抜きん出てたからね」
「そ……そうだったんですか……?」
「あたしの引け目を差し引いても……周りの人も同じだと思うわよ」
pipipipipi……pipipipipi……
俺のケータイだ……ん? やっぱり真里だな。
「だあれ?」
「ああ、真里で――――」
俺の目の前にはなつみ先輩がいた。
こんなに近くで見たのは……あの時以来だった。
ケータイは鳴りつづている……
「…………」
電気が走ったように俺の身体は硬直していた。
今の状況が理解できずに頭が真っ白だったが――冷静などこかが真実を告げていた。
してはいけないことをしていると……
……俺は……ケータイに出なかった。
- 76 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月08日(金)02時27分35秒
- 何か書いてて昼メロみたいになってきちゃってるな(わら
そろそろ軌道修正しないと……
- 77 名前:名無しチビンバ 投稿日:2000年09月08日(金)02時29分26秒
- ショック!
先輩の命令でやったて、どうするどうなる。
- 78 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月09日(土)02時43分41秒
- 「…………」
「……ねえ……起きてる?」
「…………はい……」
……寝れるわけがなかった。
二度としないと決めた過ちは……再び繰り返されてしまった。
あまりにふがいない自分に笑いたくなってくる。
「……ごめんね」
耳元で聞こえるなつみ先輩の声は……甘かった。
どこかで聞いたそのフレーズは――俺をいっそうドン底へ叩き込む。
「あたし……何やってんだろうね……ホントにね……」
「ええ……俺たち、何してるんでしょうね……」
再び……なつみ先輩と一緒になった俺は抜け殻のようになっていた。
自分という人間に激しい嫌悪感を覚えながらも――このようになってしまったことへ
まるで反省がなかった自分を見つけた――繰り返してしまったのだから。
「……ゴメンね……」
「それ以上謝らないで下さい!! もう……謝らないで下さい……」
俺は椅子に掛けてあったワイシャツを乱暴に着こんだ。
視界が緩んだ――目頭が熱くなる――
「俺は……何をやってんだ!! 真里がいるのに……真里がいるのに……
何をやってんだよ!! こんなところで……」
「…………」
「悲しませないって約束したのに……護るって約束したのに……
俺は何をやってんだよ!! 何一つ守れてないじゃないか!!」
叫んだって事実は消えない……
なつみ先輩に怒鳴ったところで事実は変えられない……
あまりにも軽率すぎる自分に愛想を尽かしただけだ。
「これじゃ守れるわけないじゃないか!! 何年も前のことなのに……
どうして突き返すことができないんだよ!!」
「……ごめん……あたしが軽率すぎたね……」
「…………」
俺は寝室を出た。
……まっすぐ家に帰ればよかったと今頃になって間抜けなことを考えていた。
- 79 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月09日(土)03時40分23秒
- 逃げるように家から出た俺は……目的もなく歩いていた。
家に帰る気はなかったし――ましてや、勉強する気などこれっぽっちもなかった。
なぜか――無性に真里の声が聞きたかった。
「……俺にそんな資格はねぇよ……」
誰が見てもそうだろう――過去にあったことは理由にならない。
自分を制御できずにたやすい方向に流れてしまった自分だけに罪がある。
何もかもが……どうでもいい。
ケータイは切っていた。
あの出なかったときから……電源を切っていた。
あの時は――真里が邪魔だったのだろう……
「…………」
タバコの自販機が目の前にある……
俺は無造作にお金を入れると銘柄も決めずに適当にボタンを押した。
陸上にタバコは天敵だったが――引退してしまった今は関係ない。
そばに見えた公園にたどり着くとベンチに座り込んだ。
「…………」
久しぶりに吸ったタバコは……喉を焼くようだった。
それでも胸のつかえは消えない。罪悪感で潰されそうだった。
「おい……こんなところで何してんだ……」
どこかで聞いた声がしてはっと顔を上げた。
息を切らした……紗耶香だった。
風呂から出て時間が経っていないのか、それともずっと探し回ってたのか……
自慢のショートヘアは少し濡れぼそっていた。
「……タバコ吸ってんだよ……」
「そんなことを聞いてんじゃねーよ! タコ! 真里が半べそかきながら
『電話が繋がらない!』ってゆーから探してたんだよ!」
「そうかい……そりゃご苦労なことだ……」
「……っ!」
ばちんっ!
有無言わさない一発が飛ぶ……
紗耶香が平手を見舞うのは中学以来だったかもしれない……
- 80 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月09日(土)04時00分41秒
- よしよし! だいぶ本筋に戻ってきたな。
でも、ちょっと中だるみしてきてるなぁ……がんばってみます。
ラストは自分の中では完成してます。あとはそこへ突っ走るだけでしょう。
この辺で投げ出さないで、最後までお付き合いくださいませ(わら
- 81 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月09日(土)19時35分07秒
- 野暮用で今日は無理です(T_T) すみません。今日はiモードから失礼しましたm(_ _)m
- 82 名前:厚底を履いたヤマンバ 投稿日:2000年09月09日(土)20時53分06秒
- 久々に来れたと思ったらえらい事になってるじゃないすか!!
浮気はだめっすよ、浮気は・・・
ラスト楽しみにしてます。私は次いつ来れるか微妙なんですが、
その間、気になって仕方がないです。
- 83 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月11日(月)01時36分21秒
- >>82
久しぶりのレスありがとうございます!
最近姿をお見かけになっていなかったのでやめてしまったのかと思いましたよ(わら
やっぱり……一波乱起こさないと面白くないでしょう!
そこでなっちに白羽の矢を立てました。俺は嫌いじゃないんですよ、なっちが(わら
でもまあ、そろそろ三章も終わりですかね……
- 84 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月11日(月)01時41分06秒
- 紗耶香はそのまま俺の胸倉をつかんだ。
その手が……震えている。
「何なんだよ……お前のその態度は何なんだよ!!」
「…………」
「真里を紹介した時に……約束したこと、忘れてんじゃねーのか……」
……忘れるわけがない。
真里を守ること。悲しませないこと。簡単に別れないこと……
あれこれ口が酸っぱくなるほど言われた。
紗耶香は……真里の母親のようだった。
「何をしてたんだ……? この時間までお前は何をしてたんだよ……」
「…………」
「答えねぇつもりかよ!!」
そのまま手を離さない紗耶香はシャツが破れるぐらい自分に引き付けた。
きらきら光る瞳にははっきりと怒りがこもっている。
「……なつみ先輩のところだ……」
「…………」
「真里を送った後に偶然会ったんだ……それからメシを作ってくれるって言って……」
紗耶香の手が……離れた。
「……寝たのかよ……」
「…………」
「また、昔みたいに先輩のなすがままになって……寝たのかよ……」
…………
「……何をやってんだよ……フラフラして……何してんだよ……」
紗耶香は額を手で隠すようにしてからため息をついた。
泣いているようにも見えた……
「……真里に言えない……こんなこと……こんな間抜けなこと……」
「…………」
「黙ってなさいよ……あんたも……」
はっきりと吐き捨てた紗耶香はおぼつかない足取りで俺の前から去ろうとした。
俺が腰を浮かせようとすると――静かに言い放った。
「……あたしに近づかないで……」
まるで俺と紗耶香が恋人同士みたいな言葉を残して……静かに去っていった。
……俺は何もできなかった。
- 85 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月11日(月)01時51分36秒
- 第三章 >>47-84
思い切ってここで切ります。
最後の方はドロドロしましたが……その辺の解答編は四章でやると思います。
多分、五章が終章になる……といいな(わら
それとこれ以上、メンバーの人間を出すつもりはありません。
書いてて誰が誰だか分かんなくなるときがたまにありますので……
- 86 名前:厚底を履いたヤマンバ 投稿日:2000年09月11日(月)14時00分55秒
- 今日も来ることができました。雨なので・・・
やめるなんて・・・とんでもない!!
ここに来れない時は気になってしょうがなかったですよ。
っていうかやぐじぇねさんてテニス部所属してたんですね。
私はいまだに続けていますが。今日もテニスの予定が入っていたんですが、
雨がすごいです、今日は。
しかし、ますます四章が楽しみです。どう終わるのかもほんと気になります。
これからもガンバです!!
- 87 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月12日(火)03時52分23秒
- >>86
厚底を履いたヤマンバさんまでテニスをやるとは……
俺は中学に軟式テニス部に一年半ほど所属し(わら
高校はお遊び程度に軟テ部に入りびたり(入部はしてない)
大学は硬式テニスサークルに入り、かつ二ヶ月でユーレイと
長続きしない巡りの悪いスポーツですけど……
見るのもやるのも大好きなんです。ジツは。
今日はちっとばかり出かけてきたんで疲れてます。
明日はバイトもないんで上げますね。
「妊婦〜」も書きたいとか思ってるんですけど(わら
- 88 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月13日(水)00時31分16秒
- 第四章
「……どう?」
「…………んまい!」
屋上で真里の作ってくれる弁当を食べるのが日課になりつつある。
そして、『真里』の作るものほど……というわけではないが、真里の弁当は日を経るごとに
美味しくなっていた。
「よかった……最近ね、火の強さを調節することを覚えたんだ」
「…………」
……前言撤回。
まあ、変わらず日々を送っていた。
「そうそう……あたしね、模試の結果が返ってきてね……」
「ん? ああ、大手予備校の模試だっけか……」
「ほら! 見てよ!」
……すごい……
俺と付き合い始めてから……折れ線グラフが急激に右上がりになっている。
特に英語の偏差値の上がりかたが目を見張る……
「進学調査の時に出した第一希望の大学に初めてB判定が出たんだよ!」
「頑張ってたからなぁ……ある意味当然の成績だな。でも、よく頑張ったな」
俺はよしよしと真里の頭を撫でてやる。
彼女は頬を赤らめながらもにこにこしながら頷いた。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「ここの……最後に書いてある大学って……俺の第一希望のトコじゃん」
ばっ!
真里はさらに顔を赤くして模試の結果を取り上げた。
その場にぺったりと腰を落としてしまうほどだ。
……なんだぁ?
「こ、こ、これ……はね! あのね、ええとね……」
「…………」
「ほ、ほら! あたしって受ける大学少ないから……最後まで埋めようとして……
大学思いつかなかったから……書いてみただけ! うん……」
「いや……ならいいんだけどさ……」
くそ……俺の顔が赤いに決まってる。
そんな態勢でいるんじゃない……
俺はそっぽを向いて注意した。
「あのよ……上のワイシャツのボタン止めてくれ。その……ブラジャーまる見えなんだけど……」
……真里が胸を押さえて逃げようとしたのは言うまでもない……
- 89 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月13日(水)00時57分59秒
- 「あ! 紗耶香」
「…………」
チャイムが鳴ってからあたしは紗耶香に会った。
こっちを見て……一瞬顔がこわばったように見えたけど……驚いたのかな?
「お、相変わらずラブラブだねー。ゴハン食べてたの?」
「うん……」
「…………」
あれ……?
彼は紗耶香を見ても何も言わない……どーしたんだろ?
「……おっす」
「ああ……」
紗耶香の声の掛け方もどこかぎこちない。
最近の二人はよそよそしい。顔を合わせても昔みたいに言い合いをしなくなった。
ホントに形式だけの挨拶だけしかしない。
……喧嘩でもしてるのかな?
「んじゃ、あたしこれから音楽だから……移動教室だから行くね」
「うん……そうだ! アルバム持ってきたから帰りに返すね」
「ああ」
……行っちゃった。
「……ねえ……」
「ん?」
「……ごめん。何でもないよ……」
すると――彼はあたしの頭を軽く叩いた。
「謝らない。それに言いかけたことは……最後まで言う約束だろ?」
「うん……」
彼に頭を撫でられながら――彼の最近のブームみたい。頭を撫でるの――、
あたしはぽつぽつ話し始める……気になっていたことだし……
「紗耶香とさ……最近、仲良くないよね?」
「……ちょっとな」
「喧嘩でもしたの?」
「…………」
彼は唇を噛んだまま黙っていた……
「……そんなもんだ。あいつはヘソ曲げるととことん頑固だから……
心配すんな。しばらくすれば機嫌よくなるから」
「ならいいんだけど……あたしも……そのさ、力になれないかな……?」
「だいじょぶだよ……でも、心配してくれてさんきゅな」
……いつものあたしなら納得できたかもしれない。
でも、なんだか……今回はそんな感じがしない。いやな感じがする……
彼の表情は曇ったままだ。
……やっぱり紗耶香に聞いてみようかな……
- 90 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月13日(水)01時35分36秒
- ……きっと何年経ってもこうして変わらぬ気持ちで……
……過ごしてゆけるのね。あなたとなら……
あたしは自宅で紗耶香から借りたアルバムを聞いていた。
ドリカムのベストアルバム……紗耶香のドリカム好きは彼も知っているぐらい有名だ。
何でも、今年の卒業生が歌う曲が何を隠そうドリカムの「未来予想図U」になった。
あたしはこの歌が一番好き……カラオケに行っても必ず歌う。
この歌詞にあるような恋愛がしてみたい……と思っていた。
「でも……ちょっとは叶った、かな?」
会う時は、最初は緊張してたけど……今はだいぶ緊張しなくなった。
会った時に何を話していたか覚えてないことがなくなった。
ここまで来ると……欲が出てくる。
ずっと一緒にいたくなる……
手を繋いでいたくなる……
キスしたくなる……
……ずっと心に描く未来予想図は……
……ほら、思った通りに叶えられてゆく……
あたしの未来予想図は彼と同じ時を過ごすこと……
でも、一緒にいるだけだと……最近は苦しいんだ……
同じ事をして、同じこと考えてないと……不安になるんだよ……
「……ダメだ。全部彼に任せちゃ……あたしも頑張らないと……」
机に置いてあるケータイを見る。
そうだ……紗耶香に電話してみようかな。
彼と仲悪い理由もちょっと聞いてみたいし……やっぱり二人は仲良くないとね。
「あ、紗耶香。あたしだけど」
「うん。どうした?」
「大した用じゃないんだけどね……ちょっと聞いていいかな?」
「あたしが分かることだったらね。勉強のこと聞かれたって答えらんないよ」
「あはは、違うよ……あのさ、彼と……喧嘩でもしてるの?」
- 91 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月13日(水)01時40分09秒
- 久しぶりに真里を書いたけど……ちょっとキャラが違うよーな……
忘れてるわけじゃないんだけどね……
本筋に話を戻しているんで書いてる気がします。
こりゃ、書いてる俺も面白いなぁ……(わら
- 92 名前:あつし 投稿日:2000年09月13日(水)19時27分20秒
- はやくつづきをみたいっす
- 93 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月14日(木)02時30分19秒
- >>92
あつしさん! レスありがとうございます!
「妊婦〜」のほうではスレッドの上げなおしをしてくださって感謝しています。
あくまでこの作品は「妊婦〜」を書いているうちに矢口を主人公にした話を書きたい!
と思って作り上げた作品です。原点はやはり「妊婦」です。
こちらの方も読んで頂いているようで……ほんとにありがとうございます。
やっと後半になったところですが、これからもよろしくおねがいします。
- 94 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月14日(木)02時57分15秒
- 「…………」
「あんなに仲良かったじゃん……最近二人ともよそよそしいじゃん。だから……」
「別に……喧嘩してるわけじゃない……」
紗耶香が意地になっているのが分かる……
そして、喧嘩をしていないという言葉がウソでないことも分かる。
「じゃあ、何で……」
「こんなことホントは言いたくないけどさ……あたし、あいつと距離を置こうと思ってんだ。
男子の中じゃ一番仲いいのは認めるし、部活でもそうだったから……」
「あたしに……気を使ってるの?」
「……まあね。あたしがあいつと仲良く話してるの見て、真里は何も思わないの?」
……それはない……
あたしと話す時と紗耶香と話す時の彼は全然違う。
余分な力が抜けているのは紗耶香の方だ。
彼の自然体は、あたしよりも紗耶香のほうが多いことは……あたしでも分かる。
「……でもね。それはやっぱり別だよ。紗耶香はあたしの親友だから……」
「別じゃないんだって……」
「やっぱ……彼のことが好きなんだ……」
「…………」
紗耶香は押し黙っていた。
気にしてたことだった。それは付き合い始めてからじゃない。
もっともっと……高校で紗耶香と彼に出会ってからずっと気にしていたことだった。
そう――ずっとずっと……
「……ごめん……」
「……ぷっ!」
「? ??」
「あははっ!……それは真里の思いすぎだよ! 確かにあいつとは仲がいいけどね、
好きになるとか付き合うとかはまた別だよ」
「ホントに……?」
「あたしの性格知ってるでしょ? もし、あたしが本気であいつのことを好きだったら、
真里を紹介しないで……自分でアタックしてるだろ?」
確かにそうだ……紗耶香の性格を考えれば。
でも……他人のために自分を殺してしまうことができるのも、また、紗耶香の性格だ……
「まあ……だからあいつと距離を置いてるの。それは向こうも了解してるから。
お互い不慣れなことしてっから……喧嘩してるように見えるんだろうね」
「…………」
違う……だったら彼はあたしにそのことを言うはずだ。
紗耶香は隠す理由になるだろうが、彼からすれば――隠す必要のないことだ。
明らかにウソをついている……彼も、紗耶香も……
あたしは……どうすればいいんだろう……
- 95 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月14日(木)03時42分32秒
- pipipipipi……pipipipipi……
「……もしもし」
「あたし……紗耶香だけどさ。ちょっといいか?」
俺は絶え間なく動かしつづけてきたシャーペンの動きを止めた。
気分を変えようと……冷めたココアを口にする。
「ああ、いいぜ……急に電話かかってきたから……ちょっとびっくりした」
「そんなことするために電話したんじゃねえよ」
「で……何か用があるんだろ? じゃなきゃ……かけてこねーもんな……」
ぐっと紗耶香は自分を抑え込んだようだった。
さすが……いい記録が出なくても人前で愚痴一つ言わない我慢の女と言われただけある……
「真里が……あたしたちがぎくしゃくしてるのを気にしてる……
適当に流しておいたけど……あんたもうまく流しておいて」
「…………なあ……」
「? 何だよ?」
ふと浮かんだ言葉が……あまりにも紗耶香に相応しくなくて笑いそうになった。
でも、今は――この言葉以外に見当たらない。
「……さんきゅな」
「な――な、何を言ってんだ! お前のためじゃねーよ! 真里のためだ……」
「分かってるって……でも俺は……何をやってんだろーな……」
…………
「その……さ。あの時はあたしもちょっと言いすぎた……一応、謝っとく」
「……何か変なモンでも食ったんじゃねーのか?」
「ちげーよ! あたしはさ、なつみ先輩とあんたが……いろいろあって、
あんなことになった理由が何となく分かるけどさ、真里は……」
「…………」
「そりゃ、やったことはサイテーだぞ。浮気ってやつだし……
でも、あたしも同じ立場だったら……わかんないって思ったら……
あの時ひどいこと言い過ぎたなって思っただけだ……そう! 思っただけ!」
…………
「あれから……なつみ先輩は何も言ってこないんでしょ?」
「何回か電話があって……居留守使った。それ以来かかってきてねえ……」
「もう一度聞くね……あんたはなつみ先輩よりも真里のことが好きなの?」
俺は即答した。
この答えだけは――悩まない。絶対的な答えだ。
「ああ。それだけは間違いない。真里といるだけでも……ほんとに嬉しいんだ。
無性に抱きしめたくなるし……」
「……ならだいじょうぶだな。ま、反省してるようだし、今回はあたしだけの胸に
しまっておいてやるよ。またこんなことすんなよな!」
「しねーよ! なつみ先輩とは……もう、会わねえから……」
- 96 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月14日(木)03時48分12秒
- のぅ……間違えて上げてしまった。
だいぶクライマックスに近づいてきてるな。
今はちょうど「嵐の前の静けさ」みたいなもんか。
そろそろこの作品の一番書きたいところが迫ってる。
うーん……俺は書いてて楽しいぞ♪(わら
気が付くとそろそろ100が近づいてる……
そんなに来てるのか……この作品は……
- 97 名前:河原裕也 投稿日:2000年09月15日(金)10時03分13秒
- やっぱおもしろいなぁ。
僕の方は今、頭がドラクエ使用なので書く気になれません(笑)。
まぁもうすぐ一段落するのでまた書き出そうかなぁ。
- 98 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月16日(土)00時34分59秒
- >>97
河原裕也さん。レスありがとうございます♪
俺はドラクエ使用の頭がすでに終了したので順調に書いてます。
待ってるよ……続きが読みたくてうずうずしてんだから(わら
早い復活願ってます。それとこれからもよろしくお願いしますね。
- 99 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月16日(土)01時12分01秒
- pipipipipi……pipipipipi……
紗耶香と電話を終えてから程なく電話がかかってくる。
「はいはい?」
「あの……あたし、真里……」
自信がなさそうな声は明らかに真里だった。
いつもよりも不安げな声に俺の心臓は少し早くなった。
「どした? 勉強してて何かわかんないトコでもあったのか?」
「ううん……そうじゃないんだけど……かけても電話が繋がらなかったから
ちょっと、どうしてるのかなって思って……」
「ああ、紗耶香と電話してたんだよ。ほら、お前が喧嘩してるみたいなこと言ってたから……
あいつが気を利かせてかけてきたんだよ」
「…………」
……地雷を踏んだのか……?
電話の向こうで静かになった真里に俺はちょっと冷や汗をかいてきた。
「……俺……まずかったか? 紗耶香と電話してちゃ……」
「ううん、違う……違うんだけど……あのね、こんなこと、どうかと思うんだけどね……」
「…………」
「……あたしのこと……その、スキって言って……」
電話の真里は……『真里』よりも大胆な時がある。
俺の姿が見えないせいなのか……自分の姿を隠せるせいなのか……
「…………」
「ホントはすごく不安なの……分かってるよ。紗耶香のことは何も思ってないのは分かってるよ……
でもね……あたしじゃ紗耶香みたいに安心感を与えられないのかなって……」
「…………」
「……ゴメンね……ホントにゴメンね……でも……でも不安なの……
ココロがぎゅってなって……苦しいんだよ……
お願い……今だけで言いから……あたしだけがスキって言って……」
ぐすぐすと鼻をすする音が響いてくる……
弱気な真里の姿が思い浮かんで……後ろから抱きしめたくなる衝動に駆られる。
- 100 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月16日(土)01時12分37秒
- 「ごめん……俺がせいだ……ずっと紗耶香はいつもどおりに接してきたから……
真里がそんなに悩んでるなんて気づかなかった……」
「…………」
「紗耶香と……少し距離を置いてみるよ。あいつにも頼んでみる……
でも――俺は真里だけのことが好きだ……いつでも、どこでも……」
……いつでも、どこでも……
どこかで自分に言い聞かせている姿があった。
これからは……いつでもどこでも……俺は真里だけを見る……
「あ、ありがと……ちょっと……楽になったよ……」
「心配事があったらすぐに俺に相談してくれよ……
そんなことでお前のことをキライになったりしねえからさ……」
「うん……うん……」
いつもの真里に……戻った。
少なくとも――俺はそう思っていた。
- 101 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月16日(土)01時48分39秒
- 「……で……どーしてお前がいるんだよ?」
「知らねーよ。あたしだって呼び出されたんだから……」
夕方のファミレス……
なぜか俺は紗耶香と一緒にいた。
紗耶香のバイト先とは違う場所だが……そこにはまだ真里がいない。
「何か変なこと言ったんじゃねーだろな?」
「言ってねーよ。俺は……ちゃんと真里が好きだって言ったし……」
「ふーん……なら、いいだけどね。でも、呼び出したはずの真里がこねーじゃんかよ」
「……あいつ学年委員やってるだろ? それの会議が延びてるってさっき連絡あった。
もうそろそろ……お! 来た!」
俺が軽く右手を上げると息を切らせた真里が軽く会釈した。
ひどく急いでいたみたいで顔を真っ赤にしていた。
「ご、ごめ……ん……委員会が……長引いちゃって……」
「落ち着いてからしゃべんなさいよ……ほら、あいつの隣に……」
「う、うん……」
真里の呼吸が整ってからとりあえずドリンクバーを頼んだ。
各自が飲み物を取りに行って――とりあえず一段落した。
「で……どうしたの? いきなりこいつとあたしなんか呼んで……」
「こいつ呼ばわりかよ……」
「あ、そうだね……」
真里はオレンジジュースを口に含んでから飲み下した。
なんだかその姿も愛らしくてかわいい。
「…………」
「ん? どーしたんだ? そんなに言いにくいことなのか?」
「うん……あのね、はっきり言うから……二人とも怒らないで聞いて……」
真里は若干視線を落としてぽつぽつと話し始めた。
俺は……心にイヤな靄がかかってきたような気がした。
「……まず初めに……あたしね、紗耶香みたいに彼とうまくやっていけないみたい……」
「…………」
何を言われているのか……初めは分からなかった。
心臓の鼓動だけが嫌味なほどの速度で打ち始めていることだけが……伝わる。
「だからね……あたし、彼と別れようと思う」
…………
…………
…………
- 102 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月16日(土)02時04分00秒
- 「真里!! あんたいい加減にしなさい!!」
何も言えなかった俺の代わりのように……紗耶香は声を張り上げた。
周りの客が振り返っているようだったが、それを無視して続ける。
「あたしがこいつと仲良くするのみて嫉妬してるんだったら……それは違うだろ!!
この前言ったじゃんか!! こいつと……距離を置くって……」
「怒らないで聞いて……お願いだから……」
紗耶香よりも真里の方がずっと冷静だった。
真里は……俺のほうを見た。
その瞳は――『真里』の持つような強い光を放っていた。
「あたしね……決めたんだ。勉強して行きたい大学に合格するって……
このまま一緒にいたら……あたしは最後まで頼っちゃうと思うの。
だからね……自分でいるためにもあたしは……結論を出したの」
「それは……『真里』も合意してることなのか……」
真里は……静かに頷いた。
「紗耶香が……彼のことを好きじゃないのも分かってるし……
彼があたしのことを好きなのも分かってるよ……
あたしが……紗耶香みたいな性格だったらうまくいったのかもしれない……」
「…………」
「分かってくれるよね? あなたなら……一緒にいてくれたあなたなら……」
「ウソをつくのが……ヘタなんだよ……真里……」
俺は……喉の奥に染み付いた声を絞り出すように呟いた。
彼女の肩を持って俺は問いただす。
「わかんねぇよ! 一緒にいたからこそ、わかんねぇんだよ!!
何を見たんだ? 何をカン違いしてるんだ? 答えろよ!!
俺と紗耶香が何でもないことはこの前証明しただろ!?」
「…………」
「わかんねぇよ……全然わかんねぇんだよ!! 答えてくれ!
俺にはそんなとって付けたような理由じゃ納得できねぇぞ……」
真里は視線を外した。
大粒の涙が……俺の手を濡らす。
「ここまで来たのに……そんな理由で納得できるかよ!!
俺は真里が好きなのに……俺がいないと不安だって言ってくれたよな?
今の俺もそうなんだよ!! 真里の顔を見ないと……声を聞かないと……不安なんだよ……」
「…………」
「答えてくれ! 何をカン違いしてるんだ? 何を考えてるのか……ちゃんと話してくれよ……」
- 103 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月16日(土)02時08分52秒
- 今日はこの辺にしておきます。
執筆速度がメチャ早でちょっと驚いています。
まあ、その分ちょっと乱雑ですが……
明日辺りで四章の終了です。
やっぱり終章は五章のようですね。
100GETは作品でした(わら
ついにこのスレも100を超えました……これが一番ビックリかも。
- 104 名前:ミラクル矢口 投稿日:2000年09月16日(土)20時49分04秒
- むちゃくちゃ気になるっす!!
早く続きを!!
でも、読んでてなんか自分の別れたときを思い出しました、全然違うけど・・・・
- 105 名前:河原裕也 投稿日:2000年09月16日(土)22時56分26秒
- 触発されました(藁
よーし、オレも書くぞ・・・・・・・。
- 106 名前:河原裕也 投稿日:2000年09月16日(土)23時01分51秒
- あ、またあげてる・・・・・・。すいません・・・・・・。
- 107 名前:厚底を履いたヤマンバ 投稿日:2000年09月16日(土)23時14分38秒
- ああ・・・やっぱりしばらく来ない間にえらい更新されてる・・・
すごいドキドキします。っていうか別れるって真里が言い出すなんて!!
どうなるんでしょうか、気になります。
もう暇になったので毎日チェケラッチョ♪します。
お互い好きなのに別れなきゃいけないって辛いですよね。
楽しみにしてます。
河原さんのも待ち遠しいです。
- 108 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月16日(土)23時28分48秒
- おおっ! レスの山♪ みなさんありがとうございます。
>>104
ミラクル矢口さん! レスありがとうございます!
別れたことを思い出すなんて……俺は書いてて思い出したよ(わら
別れて引きずるのはやっぱり男! そして後悔するのも男!……だと思ってます。
>>105
俺の作品なんかで触発されるなんて……ありがとうございます!
先が気になってるから……頼むよ(わら
>>107
厚底を履いたヤマンバさん! 毎度のレスありがとうございます!
ドキドキしてるみたいっすねぇ(わら
でも、5章はもっとドキドキさせるつもりです。
ってゆーかこれから上げるのを読んできっとさらにドキドキするのでは……
一応、今日で4章は終わりにします。
- 109 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月16日(土)23時29分56秒
- ぐしぐしと目をこする……
真里は俯いたまま、話し始めた。
「……二人に聞くよ……ずっと気になってたんだよ……」
「…………」
「何を隠してるの……? あたしに分からないところで……何を隠してるの?
それも二人だけしか知らない秘密だよね……?
最初はね、あたしに黙って二人が付き合ってるのかと思ったの……」
「でも、すぐに違うって分かった……それに無理だって思った。
あたしといる時間が多いから、隠れて紗耶香に会うなんて無理だもん。
でもね……あたしに言えないことを紗耶香は知ってる……」
「…………」
「彼の……何か大切なことを紗耶香は知ってるの。昔の思い出とかじゃないよ。
最近のこと……ねえ! 何を隠してるの? 二人だけの隠し事って何なの!?」
……ついに来てしまった。
いつか言わないといけないと……どこかで思っていた。
でも、どこかで話さないで済ませようと……思っていた。
「…………」
「今日は答えてくれるよね……あたしは……それで二人を呼び出したの。
ゴメンね……別れるとかいって……でも……」
「…………」
「話してよ……紗耶香でもあなたでもどっちでもいいから……話してよ!!」
紗耶香は……俯いたまま唇を噛んでいた。
もともと紗耶香は関係ないことだ……これは俺だけの問題なのだから……
「……全部話す……」
- 110 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月16日(土)23時31分00秒
- 「真里の言うようについ最近のことだよ。短縮授業の頃で、図書館で勉強してた頃だから……
一ヶ月も前じゃない……」
「…………」
紗耶香は……何も言ってこなかった。
真里を納得させるには本当のことを話さなければいけないと悟ったのだろう。
「真里を家まで送ってから……その帰り道で俺は……なつみ先輩に会ったんだ」
「…………」
「なつみ先輩は……俺の一つ上の先輩だ。中学の頃も知っているし……
陸上部の中でもすごい人気のあった先輩なんだ……」
真里は……黙って話を聞いていた。
俺は腹をくくった。ここまで来たら……逃げることはできない。
「その……俺はなつみ先輩と中学の時に……付き合ってたわけじゃないけど……
一回だけ関係を持ったことがある。あの時は……なつみ先輩が今の旦那さんと大喧嘩して……
俺は先輩命令だって言われて……なつみ先輩を抱いた……」
「…………それは……昔の事でしょ……?」
「昔のこと……そうだな。昔のことだ。でも俺は……あの時、先輩の命令で抱いていなかった。
俺は……なつみ先輩が好きだったから……初恋の人は……なつみ先輩だった」
俺は真里から視線を外した。
ここから先は――ひどく残酷な話になる。
涙でぐしゃぐしゃになるだろう真里の顔を見ることが……出来ない。
「そのなつみ先輩に会って……俺は自宅でメシを食わせてもらった。
旦那さんは北海道の方へ単身赴任しているからいなかった。
俺は……旦那さんと仲が悪いんだ。俺より三つ上の先輩だから面識はないはずだけど……
あの夜のことを聞かれて……俺は旦那さんと取っ組み合いの喧嘩をしたことがあるから……」
「…………」
「それから……俺は……自分の意志でなつみ先輩を……
先輩の誘惑があったことは否定しない。でも……俺は……」
真里は泣かなかった。
ただ茫然と……俺の話を聞いているだけだった。
- 111 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月16日(土)23時31分49秒
- 「一度だけ……ケータイの電源を切って出なかったことがあっただろ……?
あの夜なんだ……あの時俺は……真里よりもなつみ先輩を……選んだ」
「…………」
「そのあと、真里が紗耶香に俺が電話に出ないって言ったんだよな?
紗耶香は俺を探してて……なつみ先輩の家を飛び出した俺を……たまたま見つけたんだ」
なつみ先輩を抱いた後に……俺が激しく後悔をしたことは話さなかった。
それで家を飛び出したと言っても何もならない……関係を持ったことには変わらないのだから。
「黙ってろって言ったわけじゃない……きっとこの事実を話したら真里が悲しむって……
だから、紗耶香はずっと黙ってたんだよ……俺と紗耶香が喧嘩しているように見えたのは……
紗耶香が俺に愛想を尽かしてただけなんだ……」
「…………」
「……最低な奴だよ。いつか話そうって思ってても……いざって時に話せないんだ。
俺の横にいる真里の笑顔がなくなるのが一番怖かった。
後悔したんだ……あの時取った俺の行動に……俺は後悔したんだ……」
真里は……静かに席を立った。
バックを持つと……俺を見ないで足早に店を立ち去った。
「待てよ!!」
俺は……駆け出した。
何も考えていない……それでも駆け出すしかなかった。
- 112 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月16日(土)23時33分01秒
- 動きが鈍い真里に追いつくのに……時間はかからない。
俺はその小さな腕を強引につかんだ。
「待ってくれ!」
「……お願いだから離して……」
真里は立ち止まったまま静かにそう言った。
決してヒステリックに叫んだりしない。
「信じてくれ……あの時は誰が見ても俺が悪いよ……
でも、本当に俺がすきなのは……やっぱり真里なんだよ……」
「…………」
「真里がいないと不安になるのは……ウソじゃない。
一緒にいてくれるだけでもいいから……話を聞いてくれるだけでもいいから……
これから絶対に寂しい思いはさせない。悲しませたりしない……
だから! たった一度でいい……俺にチャンスをくれ……」
俺は……後ろからやさしく真里を抱きしめた。
包み込むようにいだいた真里は……震えていた。
「……あたしね……怒ってないよ……一回ぐらいはあると思ったよ……
まして初恋の人なんだから……しょうがないよ……」
「…………」
「違うの……あたしがね……別れようって言ったのは……
イジワルからじゃないんだよ? ホントなの……あたし決めたんだ……」
真里は……俺の身体から抜け出した。
その瞳にはいつも以上に光で満ちていた。
「このままあなたと一緒にいたら……あたしはあたしじゃなくなっちゃう……
ずるずるとあなたにすがってると……自分を見失っちゃうんだよ」
「…………」
「自分を見失うこと……『真里』がいるあたしにとってそれは……危険なことなんだ……
『真里』は誰も変えられないはっきりとした意識を自覚しているけど……
あたしは違う。誰かの影響を受けると……意識が簡単に変化しちゃうの……」
- 113 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月16日(土)23時34分46秒
- 「何を……言ってるんだ……?」
「ごめん……あたしもずっと黙ってたんだ……あたしの意識のコト……
あなたと付き合ってから……あたしは『真里』との境目がなくなりつつあるの」
「…………」
「今は一日ごとに『真里』とあたしは会ってるよね……?
付き合うまであたしと『真里』はそんなに激しく入れ替われなかったの。
でも、最近は……激しく変わったせいだろうね……意識が勝手に変わっているときがあるの」
「たまに『真里』じゃない日があったでしょ? それはね……あたしの意識を強くさせるためなの。
出ている時間が長いほど自分の意識は強く保たれるから。
でもね……あなたと会うと……あなたの影響を強く受けすぎて意識が逆に弱くなるんだ……」
「…………」
「ホ、ホントは……ごめん……ごめん……」
真里は……涙で言葉を詰まらせた。
それでも俺は……ただ突っ立って話を聞いているしか出来なかった。
「ホントは……ね……別れたくないよ……別れたくないんだよ……
スキって何回言っても足りないぐらい……あなたのことがスキなの……
自分のやりたいことやるために大学に行くなんていうのは……建前だよ。
ホントは同じ大学に合格して……同じキャンパスを手を繋いで歩きたいんだ……」
「…………」
「……ごめん……ホントにごめん……ホントにごめんね……」
真里は……俺の真横を通り過ぎた。
声をかけることが……できなかった。引き止めることが……できなかった。
- 114 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月16日(土)23時35分45秒
- 家に帰っても――俺は何も出来ずにぼんやりしていた。
真里の意識がなくなる……それはすなわち真里という人格の死を表していた。
矢口真里という入れ物に二つの人格……ただ違う人格が二つあるのとは違う。
そんな単純な問題じゃないのだ……それが分かっていなかった。
「…………」
俺は何が出来るだろうか……
真里は俺と会うことで自分の意識を希薄にしてしまう……
なら『真里』とだけ逢っていればいいのか……そんなことはできない。
真里が会いたいと思う気持ちが強くなることは……自分をなくすことになりかねない。
「くそっ! 俺はどうすればいいんだ……!」
真里も『真里』も……俺の中ではどちらも一緒だ。
両方とも好きだ。二人がいないと……俺は絶対にイヤだ。
pipipipipi……pipipipipi……
ケータイが鳴る……
!!
「真里! 真里か?」
「……っく……っく……」
すすり泣く声が聞こえた。
確かにその声は……確かに真里だった。
「真里! 何があったんだ? おい!?」
「どぉしよう……真里が……真里が……」
「……『真里』の方だな。どうした! 落ち着いて話してくれ!」
「視えないの……真里の姿が……矢口真里の意識の中から……真里の姿が視えないの!!」
- 115 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月16日(土)23時43分30秒
- 第四章 >>88-114
大量UPで第四章の終了です。宣言通り次の五章が最終章になりそうです。
ちょっと急いで書いたせいか矛盾している箇所がいくつかあると思いますが……
ごめん、その辺は目をつぶって下さい(わら
それと……18日から学校が始まります。
そのためにネットに繋ぐ時間が急激になくなります。
ほぼ毎日UPしてきましたが、これからは週に三回できればいいほうになると思います。
終章にきて時間がかかると思いますが……暇を見てUPするのでこれからもよろしくお願いまします。
- 116 名前:河原裕也 投稿日:2000年09月16日(土)23時52分09秒
- 早大門ならぬ早レス(ワラ
学校っすかぁ。大変ですね。
なんつうか読んでいて凄く切なくなってきます。第5章楽しみに待っています。
- 117 名前:厚底を履いたヤマンバ 投稿日:2000年09月17日(日)00時13分02秒
- ああ・・・恐れていたことが・・・
なんかこの小説って感情移入しやすいのは私だけでしょうか?
久々の『真里』登場も悲しい登場ですね。
学校大変でしょうが、頑張ってください。
週3で充分ですよ。ゆっくりやってください。気長に待ってます。
- 118 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月18日(月)01時28分51秒
- >>116-117
レスありがとうございます!
この小説は……俺が夏休みを利用して書こうと思ったものです。
だから、後期の講義が始まる前には終わらせようと思ってました。
決めた時間内に小説が書き終わらないのが納得いかないので……
昨日、寝ずで仕上げちゃいました(わら
ラストまできっちり書いてます。
そんでもって今上げちゃいます(わら
これが夏休みの最後の課題です。
では、どーぞ。
- 119 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月18日(月)01時30分12秒
- 第五章
「……ここだな……」
「うん……」
俺は学校を休んだ。行く気になれなかったし……
何よりやることがあった。
「ここの研究所にいる精神科医の……中澤とか言う奴に会えば何か分かるのか?」
「分かんない……でも、その辺の病院へ行くよりもずっといいと思う。
おいらのことをずっとよく知ってるから……」
『真里』は……いつもの元気が鳴りをひそめていた。
寝ていないせいなのか……疲れが表情ににじみ出ていた。
「どうだ……? 相変わらず『視えない』のか……」
「うん……こんなこと……一度もなかったんだ。
おいらの意識の中に誰もいないことなんて……一度もなかったんだよ……」
「落ち込むのはまだ早いだろ……まだ真里の意識がなくなったわけじゃないんだ……
専門家に話を聞いてみないと……分からないだろ?」
俺は研究所の入口の受付に顔を出した。
「すみません……ここの研究所に中澤裕子さんという精神科医がいらっしゃると聞いたんですが……」
「はい。確かにいらっしゃいますけど。ええと……失礼ですがどちらさまで?」
すると、後ろにいた『真里』が中年の受付に頭を下げた。
「矢口真里と言えば取り合っていただけると思います。
少し前に……中澤先生のカウンセリングを受けていたことがあって……」
「ああ、そう言えばどこかで……分かりました。
たぶんこの時間だと……研究所の自室で寝ていると思います。
どうぞ、そのまま入って行って構いません。3階の所にネームプレートがありますから」
「すみません……じゃ、行こうか……」
…………
「すげーな……顔パスじゃん。俺は『アポイントメントはありますか?』
とか聞かれるのかと思ってたよ」
「あらかじめ言っておくけど……中澤先生ってちょっと……変な人なの。
会ってビックリするだろうけど……あんまり気にすんなよ」
マンションのような作り。
3階の中ほどの扉のネームプレートに見つける……「中澤裕子」の名前を。
ピーンポーン……
- 120 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月18日(月)01時30分58秒
- 「…………誰もいないのかな? 返事がねぇぞ」
「そうだった……こうしないと……ダメだと思う」
がんがんがんっ!
「おい! おいらだよ! 矢口真里だよ!
ちょっと相談があんだけど……出てくれねーか?」
『真里』の取った行動に……俺は唖然とした。
扉を蹴り飛ばしたのだ……ノックではなく。
周囲に大音声で響き渡ったが、部屋から出てくる研究者はいない。
「お、おい……もっと静かに呼んだ方がいいんじゃねーかな……」
「この人いっつも居留守使う人なんだ。しかも……自分で診察する日を決めてるのに
忘れてたりすることもあるから……ええいっ! このやろぉ!」
どがんっ!
蹴破る勢いで『真里』は思い切り扉を蹴り直した。
ここに来ているときはいつもそうしているせいなのか……
よく見ると扉は所々ヘコんでいる。
「……俺だったらこんなことされたら絶対診察しねーな……」
「こーでもしねーとここを開けてくれねーから。
おいらだってちゃんと出てきてくれるんだったらこんなことしねーよ……」
がちゃ……
「なんやの……さっきからばったんばったん……もう少し静かに人を呼べんのかい……」
俺の前に出てきたのは……
めちゃめちゃ寝起きの女性だった。寝グセで乱れた髪に手を当てたまま大欠伸している。
……この人でほんとにだいじょぶだろーか……
- 121 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月18日(月)01時31分57秒
- 「……ってわけなんですけど……」
俺はこれまでの事情を洗いざらい話した。
にもかかわらず……なんなんだ、この関西人は……
研究室の机に日本酒なんて置いてあるか、普通?
「なるほど! よー分かったで……カレシが浮気したことにショックで
真里の人格が雲隠れたってことや……せやろ?」
「…………そうですね……」
……俺は正直『真里』の眼を疑いたくなってきた。
肩まで揃えた茶髪のショートヘア。研究員という割には……もういい歳かもしれない。
ふてぶてしい挙句にやる気のない態度……人違いじゃないのだろーか……
「まあ、ええわ……今出てる人格は……『真里』の方やな?
いろいろ聞きたいんやけど……ええか?」
「ああ、おいらを調べてあたしが助かるんだったらここで服だって脱いでやるよ」
「よう言った! ほな、さっそく……」
いきなり『真里』の上着に手をかけた俺は中澤先生の手をつかんだ。
「……っ! 何すんねん!」
「ふざけんなよ……こっちは真面目に相談にきてんだよ……
とりあえず検査をやってその結果を教えてくれ。時間がねーんだよ」
「……冗談も通じへんのか……せやから、真里がウチに閉じこもったりするんや。
怒りたきゃ怒りゃええねん。そんなことしたって彼女は戻ってきぃへん……」
……なんて奴だ……
偏屈にも程がある……こんなデリカシーのカケラもない奴が精神科医かよ……
「まあ、原因は調べんでもだいたい分かってんやけどな」
「!」
「だまっとったことを話せばいいだけのことや。聞きたきゃ話すで……聞くか?」
「お願いだ! それが何かの手がかりになるかもしれないんだ!」
すると……彼女は目を鋭くさせた。
こちらを気後れさせるほど目だ……なんなんだよ、この人は……
「……『真里』は席を外してくれへんか? 赤の他人の方が話やすいことやから」
- 122 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月18日(月)01時34分08秒
- 『真里』はあっさりと部屋から出て行った。
その顔が浮かないことは見て取れたが……俺は声をかけることが出来なかった。
おそらくこの人が話す内容は……残酷すぎるのだ。
真里にとっても……『真里』にとっても……
おそらく、俺にとっても……
「……それじゃ話そうか……あ、なんやその冷蔵庫にビールが入ってるから飲んでええよ」
「こんな昼間っから酒を飲む気はないです。それに……未成年ですし」
「何言ってんねや! どうせ学校フケて来てんやろ? カンケーないわ」
「それに……飲みたいと思いません……酔っていられる場合じゃないですから……」
…………
「ふん……真面目なのはいいけどな……カレシのあんたにとっても酒でも飲まへんと……
やってられんと思うで……これから話すことは矢口の家族にも言ってへんからな……」
「…………」
「まあ、矢口が……二重人格なのは知ってるな……
それと……多分、こう聞いてるはずや……矢口真里って言う入れ物に全く別の人格がいると……」
「せやけど……それはウソや」
- 123 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月18日(月)01時34分53秒
- 俺は……彼女の話をただ聞こうと努力した。
個人的な感情は一切殺して……これからどうすればいいかだけに徹することにした。
「……大したモンや。必死に我慢してるな。偉いで……
まあ、矢口は典型的な二重人格者や。自分の「陰」と「陽」がはっきり出るタイプ……
ただ別人格は一つしかない。多重人格者じゃないってことや」
「…………」
「あいつが別人格を意識するようになったのは小学生やったらしい……
それまでの生い立ちを聞いても……二重人格になるようなことは起こってへん」
「でもな……ひっかかることがあるんよ。
矢口は幼稚園時代から将来の夢が……歌手になることやったらしいんや」
「女の子なら誰もが描く……夢じゃないですか?」
「そうやな。でも……両親はどうも彼女の意思を尊重して……かどうか分からんが、
子役オーディションに何度も出させたらしいんや」
……分からない……
それがどうして二重人格になることになったのか……理由が分からない。
「……親バカって奴や。結局、矢口は……受けた全てのオーディションに落選したらしいで。
それから……矢口は急に控えめな性格になったらしい。それが……小学生の頃や」
待てよ……
そんなことが……そんなことがあるのか……
「そうや……矢口が二重人格になった理由……それはオーディションに落ちたショックなんや。
大きなものも受けたらしい。落選の理由を聞けるところもあったらしくて……
そこでこう言われたことがあるらしいんや……『控えめで優しい雰囲気の女の子が有利』だと……」
- 124 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月18日(月)01時36分08秒
- 「うちらからしたら大した理由やあらへんやろ……?
けど……ガキの頃の矢口にとっては……えらいショックやったんやろうな……
それをたまたま聞いたんやろう……そして思ったんや。『控えめで優しい女の子』を作ろうと……」
「ちょっと待ってください……『控えめで優しい女の子』を……作ろうとした?
それを言うなら逆だろ? 主たる人格は……『あたし』のほうの真里だって……」
彼女は……デスクの上にあった飲茶楼を一気飲みした。
大きく息を吐き出すと……珍しく視線を落とした。
「……カレシにとって一番伝えるのがツライ内容は……そこなんよ」
「…………」
「でも、はっきり言っとこ……真里は別の人格が二つあるわけやない……二重人格なんや。
ここまではええやろう……なら、どちらかの人格が主たる人格かってことや……
結論を言えば……『真里』の方が主の人格で、真里はそこから別れた人格なんやよ」
…………
「事例は少ないんやけど……二重人格の別の人格が主の人格を乗っ取って、
主の人格の代わりに人格を形成をする場合があるんや……
矢口の場合はまさにそれに当たる……思い当たる節はないか?
重要なところでは……『真里』が出てきてなかったか……?」
…………出てきていた。
最初にコクられたとき……初めてキスした時……息苦しくて別れを告げたとき……
自分が二重人格だと告げたとき……俺をはじめて好きになったのも『真里』が先だと聞いた……
いずれも重要なところでは……真里ではなく、『真里』が出てきていた。
「……何も言わんでええ……その顔見ればよー分かるわ……
そしてカレシが一番知りたがってることは……これからのことやな」
- 125 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月18日(月)01時36分58秒
- 俺は……半ば諦めていた。
無理だ。この事実が本当なら――おそらく、間違いない――覆すのは絶対に無理だ。
「二重人格って言う不安定な状態が……カレシと出逢うことで一時的に安定したんや。
あんたは二人の真里にとって絶対的な心の安らぎになったんやよ」
「…………」
「そのせいやね……主の人格――『真里』に本来の力が戻ってきて、分離した人格――真里を
飲み込み始めた。詩的に言えば……コーヒーの中の角砂糖が溶け始めたみたいなもんや」
「カレシがどっちの『真里』にホレていたのかは聞かへん……
でもな、あんたのしてきたことは間違いやない。正しいことしてきたんやよ。
真里の人格は……もうすぐに統合される。
カレシの説明で『真里』が真里の存在を『視えない』って言ってたことがそれを証明してる」
「…………」
「主たる人格の『真里』が別の人格を意識できないほど統合されているってことや。
はっきり言うで。『真里』は本来の真里を取り戻し始めているんや」
……素直に喜べない……喜べるわけがない……
こんなに残酷な事実があるだろうか……こんな納得できない終わり方があるだろうか……
「……これからのことなんて……ホントはなんもあらへんよ。
今、カレシが矢口と別れたとしても無駄や……矢口の意識には常にあんたがおるからな……
ここまで来たら人格が統合されるのは時間の問題や」
「…………」
「何度も言うで。あんたのしたことは正しかったんや。誰も間違えているなんて思ってへん。
二重人格で苦しんでいる人もおるんや……むしろ、矢口みたいなのは例外中の例外や。
あんたは矢口を救ったんや! もっと胸張ってええんやよ……」
…………
「……どうだった? 何か助かりそうなこと言ってたか?」
「…………」
「なあ……顔色悪いぞ、だいじょぶか……? 中澤先生に……何を言われたんだよ?」
俺は……『真里』を力いっぱい抱きしめた。
潜り込むように彼女の首元に顔を埋める。
「ちょ、ちょっと……どーしたんだよ!」
「……もう……何がなんだかわかんねぇんだよ……」
泣き言しかいえない自分に……つくづくむかついた。
どうしようもない……何も出来ない……
ただ、それだけが現実として俺に襲いかかってきていた。
- 126 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月18日(月)01時38分11秒
- 「……そうだったんだ……」
研究所を出て……俺と『真里』は近くの公園にいた。
あの先生から聞いた話を洗いざらい話した。
話すことに許可は得ている。もう治療を施す必要が――ないからだろう。
「両親は……あの頃受けたオーディションのことはほとんど話さないんだ。
気を使ってたんだな……おいらがかたっぱしから落ちたから……」
「……真里が出てくることは限りなくゼロに近いらしい。
もしかしたら……もう一生現れないこともあるそうだ……」
「…………」
『真里』はずっと落ち着いていた。
俺の話を聞いてもほとんど取り乱さなかった。
それは……どこかで覚悟していたせいかもしれない。
「……なあ、聞いていいか……?」
「…………」
「おいらたち……やっぱり別れるのかな?
やっぱり……あなたは真里が好きだから……おいらより『あたし』の方が好きだから……
だから……おいらと別れるのかな……?」
……見抜かれていた。
俺は……真里が好きだった。『真里』よりも……好きだった。
「…………」
なんと答えていいのか分からない……
答えの出しようがなかった。
「おいらは……好きだよ。大好きなんだ……ずっとずっと好きだったんだ……
真里に気持ちが傾いているあなたを見ても……やっぱり好きだった。
喧嘩をしてても好きだった。何をしてても好きだった。
言葉で言い尽くせないほど……好きだった」
「…………」
真里は……俺に背を向けた。
「……でも、今のあなたは違う。おいらは真里の代わりになれない。
なるつもりもないんだ……だから……答えは一つだよ」
このまま……放っておいていいのか……真里』を行かせていいのか……
俺は……『真里』も好きじゃなかったのか……
いや、違う……真里だけが好きだったんじゃない。『真里』だけが好きだったんじゃない……
二つで一つの「矢口真里」が好きだったんだ!
「…………一つじゃない!!」
- 127 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月18日(月)01時39分10秒
- 俺は……立ち去ろうとする『真里』の右手を捕まえた。
「……一つじゃない……俺が……『真里』を好きになればいい……」
「な、何言ってんだよぉ……好きな人を忘れるなんて……簡単じゃないんだよぉ……」
『真里』は……涙をこらえようと肩を震わせていた。
俺は……その肩を抱いた。
「俺は……真里の方が好きだった。それは……たぶんそうだと思う。
でもな、『真里』がいなかったら……俺は真里のことを好きになってないと思うんだ。
だからもし……『真里』がいなくなって、真里がいても……今と同じことをしてたと思う」
「…………」
「同じなんだ。真里も『真里』も……同じ矢口真里っていう「存在」なんだ。
だからどっちが好きだとか、どっちが有利だとかそんなのはないんだよ……
今……やっと分かったんだ……」
そう――やっと分かったんだ……
言葉に出来ない感覚を……つかめたんだ。
「……都合よすぎだよ……」
「ああ。俺は自分勝手な人間だよ。なつみ先輩と寝ちゃうし……
真里がいなくなったら『真里』を好きになればいい……関係ない。同じなんだから。
同じ人をまた好きになるだけだ」
「……ははっ……ずるいね……」
「ずるいもんかよ……俺を好きな人がここにいる。俺が好きな人がここにいる。
だったら理由はいらない。このまま……付き合えばいいんだ」
俺は再び『真里』を――いや、完全な真里を抱きしめた。
絶対に離さないと決めた……誰にも渡さないと決めた……
それが彼女の中の別の人格であっても……もう渡さない。
本当の意味で俺はひとりの人を好きになることができた……
その名は矢口真里……
- 128 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月18日(月)01時39分56秒
- 「おいっ! 起きろっ!」
「…………」
「ねーってば……コラァ! 起きろぉっ!」
「…………ん……おはよ……」
「今日から後期の授業だろ? 急がないと……一限の講義に間に合わないよ!」
「……分かってるよ……分かったからキンキン声を張り上げるな……」
「ったく……一人暮らし始めたおいらの家に潜り込んできて……
ここはあなたの仮眠室じゃないんだからね!」
「へいへい……いいだろ……毎日来てるわけじゃねーんだから……」
「週に5回近くも来てればほとんど毎日じゃねーかよ!!」
「あっちゃー……ごめん、失敗しちゃった……」
「なんで目玉焼きが出来ないかなぁ……ここまで焦がす方が難しいぞ……」
「文句があるなら自分で作る!!」
「そーします。ついでだからなんか作ってやるよ。何食いたい?」
「……またこの曲かよ? 好きだなー、ドリカム」
「まあね、紗耶香の影響もあるけど……吉田美和って歌うまいじゃん」
「そりゃ認めるけどさ……でも、なんでまたこの曲なんだよ?」
「よく分かんないんだけど……なんかさ、この歌の歌詞っておいらたちみたいじゃない?」
……卒業してからもう三度目の春……
……相変わらずそばにある同じ笑顔……
「……三度目の春じゃねーよ。まだ二度目じゃんか」
「細かいことは気にしない! 雰囲気とかさ……おいらは好きなの……」
「まあ、相変わらずそばにあるのは真里の笑顔だけどよ」
「へへっ……」
……きっと何年経ってもこうして変わらぬ気持ちで……
……過ごしてゆけるのね。あなたとなら……
……ずっと心に描く未来予想図は……
……ほら、思った通りに叶えられてゆく……
「……未来予想図か……真里の未来ってどんなやつだろーな」
「さあね……分かんないけど……未来予想図なら一つだけある」
「何だそりゃ? やっぱり精神科医になることか?」
「ううん……おいらの未来予想図は……あなたと同じ時を過ごすことだよ」
FIN
- 129 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月18日(月)01時55分41秒
- 第五章 >>119-128
まさかの一日で一章上げ。
これで一応フィナーレです。多分まとめのところをクリックした方がいいですね。
長かったですけど……一応完成です。
ラストについては様々あるかと思いますが……感想ぜひとも聞きたいですね。
好評なようならば再びチャレンジしてみようかと……大それたこと考えてます。
あー! これでやっと「妊婦〜」に集中できるよ(わら
それとこの小説を最初から読んでくださった……
厚底を履いたヤマンバさん、河原裕也さん、ミラクル矢口さん、
あつしさんにはこの場を借りてお礼を言いたいと思います。
本当にありがとうございます。
それと……少しでも見てくれた人、ロムっているだけで全部見てくれた人にも
ここでお礼を言いたいと思います。本当にありがとうございます。
もともと執筆速度が遅い俺を支えてくれたのはまぎれもなく読んでくれた皆さんです。
たくさんレスがつくともっといいものを書きたい! って思えるんです。
そうするといろいろアイディアが浮かぶんですよ。こーしたほうがいいとか……
また、挫折が多い俺を支えてくれたのも皆さんのレスでした。
投げずに最後まで書けて本当によかったです。ちょっと自信になりました。
では……今度は「妊婦〜」の方で書きたいと思います。
本当に皆さん、ありがとうございました。
- 130 名前:ミラクル矢口 投稿日:2000年09月18日(月)03時49分59秒
- お疲れ様でした。
夜中仕事から帰ってきて何気なく来てみたらあらまぁ一気に
最期までいちゃってるじゃないですか!!
とても面白かったです。終わり方がハッピーエンドのようなそうでないような
感じがしましたので続編を構想中なのでしょうか?期待してます。
ちなみに妊婦〜のサンクスは私の書いたものなのですがやぐじぇねさん
のこの作品に触発されてまた・・・・なんて思ってしまいました。
続ききたいしてます。
- 131 名前:厚底を履いたヤマンバ 投稿日:2000年09月18日(月)21時58分19秒
- ほんとうにお疲れ様でした!!
いろいろビックリさせられました。私はこういうはっきりしたテーマがある
小説が好きなので読んでてとても楽しかったです。
続編是非チャレンジして欲しいです。その時は必ず応援させていただきます。
「妊婦〜」のほうも楽しみにしてます。
これからも頑張ってください。
- 132 名前:河原裕也 投稿日:2000年09月18日(月)23時05分16秒
- お疲れさまです。正直ここに来るのが楽しみで仕方なかったです。
妊婦のほうも頑張って下さい。
- 133 名前:ずっとロムってた人 投稿日:2000年09月19日(火)02時45分49秒
- 良かったよ!
今は少しお休みになって気が向いたらまた書いてください。
お疲れ様でした。
- 134 名前:やぐじぇね 投稿日:2000年09月20日(水)00時51分11秒
- やっとネット出来ると思ってきたら……たくさんのレス♪
ありがとうございます。急いで仕上げてしまってちょっと雑なんですが……
これはこれで気に入ってます。
はっきりとしたラストはもともと書こうと思ってなかったんですよ。
ちょっとぼかして……その人なりにエンディングを描いてくれたらと……
続編ですが……書くつもりはありません。
これでこの話は完全に完結です。その後の矢口やカレシは皆さんで想像して下さい。
全く別の話は構想中……といえば、構想中ですが(わら
しばらくは133さんの言われるように休んで、また気が向いたら書くつもりです。
やっぱり俺は「妊婦〜」を書くのが好きです。ここはやっぱり中心であり、原点ですから。
とはゆーものの……ラストの仕上がりに苦戦中。
今週中にはUPしたいと思いますが……ネットに繋げられるか心配ですね……
Converted by dat2html.pl 1.0