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A×××A

1 名前: 投稿日:2000年09月02日(土)03時33分52秒



    「もうすぐ会えるよ」
2 名前: 投稿日:2000年09月02日(土)03時35分55秒


     ASUKA
3 名前: 投稿日:2000年09月02日(土)03時38分16秒
白い部屋。
白いベッド。白い小さなテーブル。白い背もたれの無い椅子

病室のようなその部屋の中央で少女は立ち尽くしていた。
小柄で病的なまでに白い肌をしたその少女は、目の前の状況を把握でできずにいた。

銃を片手に少女を見つめたまま立つ、白衣を着た長髪の女の人。
見覚えのある女の人。
でも、よく知らない女の人。
その足元にうつぶせに倒れた若い男の人。
見覚えのある男の人。
よく知っている男の人。

握り締めていた左手を開くと、赤い色をした飴玉が体温と手汗で溶け、手の平にくっついていた。

 『毎日、あんな味も素気も無いもんばっかじゃつまんないだろ?』

みんなには内緒だぞ、といって飴玉をくれたおにいさん。
包み紙ごと口に入れて顔をしかめた私を見ながら大笑いするおにいさん。

とても優しかったおにいさん。

あの明るい笑い声はまだ耳に残っていたはずなのに。
あの優しい笑顔はまだ目に焼き付いていたはずなのに。
目の前にある現実が、一瞬にして、すべてを真っ赤に塗りつぶしてしまった。
4 名前: 投稿日:2000年09月02日(土)03時39分45秒
その「赤」の中にも僅かな救いを見出そうと、手の平の「赤」に縋るように目を向けた。しかし、その「赤」はその視線から逃れるかのように手の平から転がり落ち、
いつの間にか、足元にまで達していたより強大な「赤」に飲み込まれた。

その瞬間、堰き止められていた感情が一気に流れ込んできた。
「うぅ・・・」
少女が唸るような声を出すと部屋の空気が震えだし、
椅子やテーブルがガタガタと音をたてはじめた。
感情の高揚とともに振動は激しさを増し、あらゆる感情は、ゆっくりではあるが確実に殺意へと収束していった。
そして、少女が眼光を女に向けた瞬間、女は少女の目の前にライターを翳すと素早く火を点けた。

少女の視線がライターの炎に釘づけになり、部屋の振動がぴたりと止まった。
次第に少女の表情が薄れていき、再び感情が封じこめられていった。
女は、完全に殺意が消えたことを確認すると、ライターをゆっくりと左右に揺らしながら、
ぶつぶつと何かを呟きだした。
少女は、炎に合わせて目を動かしながら、その言葉を聞いていた。
声はよく聴き取れないのに、何故か内容は完全に理解出来ているような不思議な感覚だった。
しばらくその声を聴いていると、五感がとても心地よい感覚に支配された。

不意につぶやきが止み、ライターの炎が消された。
すると、少女の目の前が暗転した。
不思議と恐怖や不安は一切なかった。
逆にその暗闇にも居心地のよさを感じていた。
その場所をしばらく漂っていると、遠くの方であの女の声が聞こえた。

 「おいで」

その声は、とても優しい声だった。
少女はゆっくりと声のする方向へ歩き出した。
母に導かれる子供のように。
5 名前: 投稿日:2000年09月02日(土)04時51分37秒
20世紀最後の年。
関東地区において新型兵器の使用によるものと思われる大規模な爆発があった。

僅か半世紀前の悲劇を無縁な過去としか認識していない多くの人々にとって
あまりにもショッキングな出来事であった。
当然その波紋は、日本のみならず、かつてその勢力を二分し世界を恐怖に陥れた
二つの軍事大国を含め、全世界に広がっていった。
首脳の交代直後であることに加え、続発する軍事関連の諸問題により
国民の中央政府に対する不安が高まっていた中でのこの出来事に、
北方の大国Aは崩壊寸前の危機を迎えるほどに国内情勢が悪化していた。

もう一方の大国Bも国民の不安は高まるものの、
もとの情勢の安定性と国柄として国民に擦り込まれてきたあきれるほどの愛国心によって、
それほどのダメージをうけることは無かった。
6 名前: 投稿日:2000年09月02日(土)04時53分02秒
この両国の情勢の差が災いした。
完全なる地位の確立を目論んだ、下心丸出しの過剰な支援活動を提案し続けるB国と、
大国としてのプライドか、頑なに拒否し続けるA国という状況が続き、
両国の関係は目に見えて悪化していった。

しかし、このときの両国の状態を見て、この状況はすぐに終わりを告げるであろうと、
誰もが考えていた。あまりにも優劣がはっきりしていたからだ。
だが、その期待は見事なまでに裏切られた。
近年、軍事的なことも含め、さまざまな面で頭角を表しはじめた日本の隣に位置するC国が、
A国に対するあらゆる側面での協力を発表し、A国もこれをあっさりと受け入れた。
この挑発的なA国の行為にB国は怒りをあらわにしたが、
この意図の見えない上、本来の力が未知数であるC国の存在の為か、
最終的な手段に訴えるまでには至らなかったものの、
既に修復不可能なところまで来てしまった事態は、
二度と使われてはならない言葉によって形容された。

「冷戦」

B国国営放送のニュースを通し世界中に広がったその言葉により
人々は、再び実体の無い、いつ終わるとも知れない恐怖に支配されることになった。
7 名前: 投稿日:2000年09月02日(土)04時54分49秒
爆心地を見下ろすように聳え立つ高層ビル。
首都の壊滅から数年。
比較的被害の少なかった地下街や小規模な商店などは、
早くから営業を再開し、それなりの活気は取り戻しつつあったが、
大規模な建築物に関しては、予てから計画されていた首都機能の移転がこれを期に
実行され、企業なども国からの援助では、経営の建て直しがやっとで、
ほとんどが、瓦礫の撤去を行うこともできないような状態であった。
そのためそのビルの存在は、かなり異様なものであった。
さらに夜ともなれば、暗闇にそこだけ明るく浮かび上がり、その不気味さを
際立たせていた。
8 名前: 投稿日:2000年09月02日(土)04時56分22秒
そのビルの上層に位置する広い部屋の窓際にぽつんと置かれたデスクで、
中澤は、上からの様々な指令がびっしりと書かれた文書に目を通していた。
彼女に与えられた使命は「アーミー」と呼ばれる旧市街の治安維持を名目につくられた組織を指揮し、政府の推奨するある「計画」を遂行することである。
よって、その文書に書かれている指令とは、そのほとんどが「計画」の中で発生した
先の爆発事故の証拠隠滅、つまりは後始末に関することや、「計画」の遂行を急かす
ような内容のものばかりであった。
その「計画」のために与えられた膨大な予算を眺めながら、溜め息をついていると、
デスクの正面にある部屋のドアが開き、細身の女性が勢いよく入ってきた。
「遅くまでご苦労様です。大佐殿!」
デスクの前まで来ると、そう言って、ビシッと敬礼をした。
中澤はチラッとその姿を見ると、すぐに文書に視線を戻しながら呟いた。
「なんや、みっちゃんか・・・」
9 名前: 投稿日:2000年09月02日(土)04時57分44秒
「なんやねん!その態度は! ひとがせっかくどうせこんなご時世やから、
姐さんがまた上からいろんなこと押し付けられて大変なことなってんちゃうかゆうて、
心配して来てやったにもかかわらず、『なんや、みっちゃんか・・・』って
なんやねん! 特に『か・・・』ってなんやねんって、とうっ!」
一方的に捲くし立てたかと思うと、文書をサッと奪い取った。
「やっぱり来とるやないの。どれどれ・・・」
そう言いながらデスクに腰掛け、読みはじめた。
そのあまりの素早さに中澤は、文書を持った手のまま呆然とみっちゃんと呼ばれた女性を眺めていた。
10 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月02日(土)22時07分19秒
おっっ!大作の予感!
全員出てくるのかな?期待してます。
11 名前:Endorphin 投稿日:2000年09月03日(日)00時01分28秒
最初の少女の部分が今後どう絡んでくるか楽しみです。
裕ちゃんは、大佐なのね。
12 名前: 投稿日:2000年09月03日(日)03時28分22秒
どうも。よろしくお願いします。
難しいジャンルを選んでちょっと後悔。
改行も失敗してるし。
13 名前: 投稿日:2000年09月03日(日)03時31分14秒
彼女の名は平家みちよ。政府がこの「計画」の監視役として送り込んできた人物であるが、何故か今では中澤の一番の理解者であり、協力者となっている。
「あららー、すごい金額やなー。また金額上がってるで。上のご老人たちもずいぶん焦っ
てるみたいやね。あの事故だけでもきっついのに、世界がこんな状況になってしもうたからなー」
「B国との例の取引も少し間を置いた方がいいかもしれんな・・・」
中澤は椅子から立ち上がり、窓の外の暗闇を見つめながら独り言のように呟いた。
「そうやね。しっかし、今まで結構大っぴらにやってたけど、上もよう気付かんもんやね」
「スパイのあんたが思いっきり裏切っとるからやないかい・・・」
「まあ、そうなんやけどね。それにしてもあのB国は上手かったね。
あれじゃ、誰が聞いても、あの爆発はA国がやった思うわ。
日本も早くはっきり言わんと、やけくそなって今度は本当に攻撃されるで」
大変なことをやけに楽しそうに話す平家に呆れながら振り向くと、平家はいつの間にか
中澤の席に座りデスクの上に足を投げ出していた。
「自業自得だ。もし、この計画がやつらの思い通りに進んだとしても、やはり
日本は世界のトップにはなれない。考えが浅はか過ぎる」
中澤は、平家の足をどかしながら言った。
14 名前: 投稿日:2000年09月03日(日)03時34分33秒
「あいかわらずきついなー姐さんは。そんなやからあの子達がなかなか懐かへんねんで。
やっぱりお父さんのことこだわってんちゃうか? 気持ちはわからんでもないけど、
あの子達が悪いわけちゃうねんから・・・」
「そん・・・」
中澤が反論しようとした時、デスクの上の電話が鳴った。
中澤が出ようと手を伸ばした時には、既に平家は受話器を耳にあてていた。
「はいはーい、・・・おう、平家さんやで」
その人望と実力でこの計画の事実上のナンバー2の地位を確立している平家であるが、
本人の希望もあり、特別な肩書きなどは無く、アーミーを含めたこのビルの人間の間では
「平家さん」で通っている。

「で、どうしたん? ・・・は!? ノゾミが連れ去られた!?」
それを聞き、中澤は受話器をひったくった。
「中澤だ。どういうことだ! 報告しろ」
報告を受けながら中澤は、平家を見た。
平家は小さく頷くと部屋を出ていった。
恐れていたことが現実になってしまった。
「・・・わかった。わたしもすぐそちらへ向かう」
受話器を置くと、倒れるように椅子に座り、頭を抱えた。
「なんでやねん・・・」
何に対して発せられたものなのか、ふいにこぼれたその言葉は、
所在もなく部屋の中を漂っていた。
15 名前: 投稿日:2000年09月05日(火)02時27分36秒
湿った部屋の中にいた。
(どこだ?ここ・・・)
部屋を見まわしてみる。
小さな窓から射し込む明かりだけなので、あまりよく見えない。
あしの足りない椅子から立ち上がり、窓を開けてみた。
外ではまだ粉末状の硝子屑がキラキラと降っていた。
しばらくそれを見つめていると、硝子交じりの風が吹き込んできた。
硝子は両目にやさしく突き刺さり、ツメタイ痛みが走った。
16 名前: 投稿日:2000年09月05日(火)02時29分50秒
ボーン、ボーン

突然、背後から音がして振り向くと、部屋の隅に古い時計が積み上がっているのが見えた。
音は確かにこの中から聞こえてくる。
時計の山を掻き分けて、その音の主を探した。
邪魔な時計を掴んでは後ろへ放り投げた。
その度に時計達は悲鳴をあげ、悲しそうな目でこちらを見つめた。

やっと見つけた音の主もやはり時計だった。
相変わらず音は鳴り止まず続いており、短針が秒針を何度も追い越しながらまわっていた。
それをみてはっとした。
(そうだ。待ち合わせをしてたんだ。はやく行かなくちゃ)
急いで部屋を出ようとすると、首の無い猫が足にじゃれついてきた。
仕方なくそれを抱き上げると、廊下へと出た。
17 名前: 投稿日:2000年09月06日(水)07時47分40秒
しばらくまっすぐ行くと、廊下は二手に分かれていた。
(どっちにいけばいいんだっけ?)
迷っていると、後ろの暗闇から白いワンピースをきた少女が歩いてきた。
少女は猫を受け取ると持っていた首をつけた。
すると猫は、少女の腕からするりと逃げだし、片方の廊下の奥に消えていった。

少しの間があって、何かが潰れる音がした。
お礼を言うと、少女はにっこりと微笑んだ。
少女と別れ、もう一方の廊下を進むと誰かの話し声が聞こえてきた。
どうやら突き当たりのドアの奥からのようだ。

ドアを開けると、そこはさっきの部屋より少し広い部屋だった。
その一番奥に置かれたソファーによく知っている人が腰掛け何やら喋っていた。
「・・・て、すぐ後のブレイクするトコ、次の出だしでドラムだけズレちゃってんのよ。
あの子何回やっても・・・」
最初は遠過ぎてよく聞こえなかったが、近づくにつれ聞き取れるようになってきた。
更に近づいていくと、彼女の頭上に誰かがぶら下がっているのが見えた。
丁度ねじれていて顔が見えない。
「・・・だから、いっそのことここのブレイクやめて、ギターソロから直接サビに
・・・って、ちょっと」
(たしか、あの子は・・・)

「紗耶香!」
18 名前: 投稿日:2000年09月08日(金)04時45分53秒
すぐ目の前で声がして、はっと我に返った。
そこは、いつもバンドの練習に使用しているスタジオの待合室だった。
正面へ視線を向けると、テーブルを挟み、向かい合うように座っている声の主へと
徐々にピントが定まっていき、やっと脳がその人物を認識した。
「あ、圭ちゃん・・・」
「あ、じゃないよ! 何ボケボケしてんのよ! 
今までの話しも聴いてなかったんでしょ! しっかりしてよ、ライブ近いんだからさ。
チケット捌くの矢口に頼んじゃったから、あの子またシャレになんないほど客連れてくるよ。
あんな大勢の前でもうみっともない演奏できないでしょ!」
「そうだね・・・」
そのテンションの高さに圧倒されながら、力なくそう答えると、
圭は大きな溜め息をつき、さらにテンションの上がった声で喋り始めた。
「あーもう! ホントにしっかりしてよ! 時間無いんだから!
ただでさえ覚えの悪い後藤で手一杯なのに、紗耶香がそんな調子でどうすんのよ!
あっ! 後藤はどうしたのよ! 深夜の料金が安い時間にやっとスタジオ使って練習できる
ってのに遅刻しやがって! あの子が来なきゃ、紗耶香のギターも無いじゃない! 
なんでこんな時期にギターの練習なんかしてんのよ? 
そんなもん自分のドラム完璧にしてからすればいいじゃない!
あっ!雨降ってる!芯折れた!コーヒー不味い!」
よほどテンパっているらしくいろんなものに当り散らしている。
(ごめんね、圭ちゃん。いつも世話かけちゃって。
どうしても、二人でマスターしときたい曲があるんだ・・・。
それにしても、後藤遅いな・・・。どうしたんだろう?)
いつのまにか、待合室にいる他のバンドの服装にまでけちをつけ始めた圭の声が
耳鳴りで遠ざかっていくのを感じながら、窓の外の雨を眺めていた。

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