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ラーメン保田亭〜短い番外編〜

1 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月03日(火)02時41分48秒
日暮れ頃になると真里となつみは海岸沿いに差し掛かり、
二人はずっと無言で歩き続けていた。
太陽が水平線に消えて辺りが暗くなる頃には、
周りの風景は民家もない寂しい所になっていた。
「・・・随分遠くまで来ちゃったね・・・。」
真里が呟く。
2 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月03日(火)02時42分20秒
「でもね、あたしこれで良かったと思うんだ。」
真里は吹っ切れた様な笑顔でなつみの方を見つめる。
でもなつみは俯いたままでいる。

(・・・・・・。)
「今夜は月が明るいから、ほら、海がすごく綺麗。」
振り返ると二人の背中から丸い月が顔を覗かせていた。
水面に映った満月が、波に反射してキラキラ光る。
柔らかい光が二人を照らし出していた。
「・・・少し疲れた?そこで休んでいこうよ。」
真里はなつみの事を気遣って優しく微笑みかける。
なつみは無言でそれに頷く。
二人は見晴らしの良い小高い丘の頂にちょこんと腰を下ろした。
リー、リー、リー・・・・聞こえるのは小さな虫の鳴き声だけだ。
3 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月03日(火)02時42分56秒
「静かだね、なんか別世界って感じ。」
(・・・・・・。)
二人の間に沈黙が続いた。
真里は月を眺め、なつみは波間に映る月を眺めていた。
やがて夜の冷えた風が、なつみの首に巻いた黄色いリボンをなびかせる。

(くしゅっ)
「なっち、寒いんでしょ。でもこうすれば大丈夫だから。」
真里はそう言ってなつみを自分の膝の上にのせ、
上着のポケットに手を入れたまま、なつみを優しく抱いた。
4 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月03日(火)02時43分38秒
(なんか恥ずかしいよ。)
「女の子同士だもん、気にすることじゃないよ。」
そう言いながらも真里は少し照れくさそうだ。
なつみも少し頬が紅潮している。

「なに気にしてんだ、あたしはぁ〜。」
真里は自分で突っ込んでみたが、余計に恥ずかしくなってしまう。
バタバタと手のひらを団扇にして火照った頬を扇ぐ。
5 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月03日(火)02時44分12秒
「あ〜、バカみたい。」
自分の頭叩きながら何度も自分に突っ込んでいる。
それに対してなつみは焦点の合わない瞳でただ海を眺めている。
真里もなつみの態度に気づき、直ぐに黙ってしまった。
やがて虫の声も聞こえなくなり、二人の間に音のない時間が流れる。
空を見上げると月は随分と高いところに上ってしまっていた。
6 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月03日(火)02時44分51秒
「あのね、なっち」
(あのね、真里。)
なつみと真里は同時に口を開いた。
「なっちから言ってよ。」
(真里から言ってよ。)
ハモる、二人の声。
「アハハハハ・・・。」
(くすっくすっ。)
二人の重い空気が一瞬和らぎ、ニッコリ笑って真里が言う。
「なっちが笑うの久しぶりに見た気がするよ。」
(そうかなぁ?)
「じゃぁ・・・なっちから。」
一つ大きな深呼吸をしてからなつみがささやく。
7 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月03日(火)02時45分32秒
(なんかさぁ、月を見ていると故郷を思い出すんだ・・・。)
今にも消えそうな声。
真里は一瞬、涙がこぼれそうになるのをこらえる。

真里はここ最近のなつみの辛く重い心情を痛いほど感じていた。
だからこうしてなつみを連れ出し、少しでも心を和らげてあげようと
彼女なりに考えた行動だった。

「なっちは昔言ってたよね、月もなっちのこと笑ってるって」
真里は敢えて明るく切り出し、続ける。
「でも、あたしはそうは思わない。
 ほら、見てよ優しさに溢れているよ。」
8 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月03日(火)02時46分05秒
(・・・・。)
「上手く言えないんだけどね、きっと故郷のお母さんも同じ月を見てて、
 なっちと同じ事考えてると思うんだ。なっちガンバレーって。」
いつにも増して真里は饒舌だった。
「だからね、なっちが思ってる以上に故郷は近くて・・・・。」
しかしそれ以上言葉が出なくなってしまう。
真里は気持ちを言葉で伝えられないもどかしさに堪えきれず泣き出してしまった。
「・・・ごめんね・・・本当にごめんね・・・。」
真里は涙声で謝り続ける事しか出来なくなってしまった。
なつみの瞳からも涙が溢れ出す。
(・・・ううん、いいの。・・・ありがとう・・・。)
なつみはありったけの気持ちで感謝の言葉を返す。
真里はなつみを強く強く抱きしめ、
なつみもまたそれに答えるように真里の胸に顔を埋める。
(・・・本当に・・・ありがとう・・・。)
9 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月03日(火)02時46分45秒
「・・・じゃぁ、大事な話聞いてくれる・・・。」
こぼれ落ちる涙を拭うことなく、真里は真剣になつみを見つめた。
(・・・なぁに?)
なつみは優しく真里に微笑みかける。
「・・・最近ね・・・聞こえなくなったの・・・。」
(・・・何が?)
「・・・なっちの声。」
なつみは言葉を失った。
つい先程まで自分を励ましてくれた真里の口からそんな言葉が出るとは
夢にも思わなかった。
(どうして・・・さっきまで・・・)
「あたし達が出会ってもう長いし、大体何を言おうってのは判るんだけどね
でもはっきり聞き取れないのは本当の事なの・・・。」
10 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月03日(火)02時47分38秒
(でも・・・でも・・・。)
なつみは本当は自分の声が未だ真里には聞こえていないなんて
とても信じる気にはなれなかった。
「カオリも言ってた・・・なっちの声が聞こえないって。
普段は明るく振る舞っていたけど、本当は毎晩泣いてたんだよ・・・。」
(・・・なんで・・・なんでなのよ・・・。)
再び大粒の涙がなつみの頬を幾筋にも伝った。

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