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中澤講師の恋愛談義
- 1 名前:第1回 投稿日:2000年10月07日(土)03時01分31秒
- えー、今日から始まりました、恋愛談義。
わたくし、講師の中澤裕子です。
っちゅーか、堅苦しいことなしでいきましょう。
この講義ではあたしが恋愛についてお話しするわけなんやけど、
それだけやと解りにくい部分もあると思うんで、
毎回助手に少し手伝ってもらって、話しの例を作ってきます。
それを見ながら、皆さんと一緒に恋愛について考えましょうってことです。
うちの助手は12人居てますから、登場人物とテーマついては、
皆さんの希望にもできるだけ応えようと思います。
希望する登場人物が居てはったら言うてくださいね。
今日は1回目の講義なんでこれで終わります。
次回のテーマは(告白)、登場人物は後藤、吉澤です。
どちらがどちらに告白するか、想像膨らませて期待しててください。
では、また次回。
- 2 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月07日(土)10時18分38秒
- いちごまとかさやまりとかも入れて欲しい。
いちかおとかも。
- 3 名前:ティモ 投稿日:2000年10月07日(土)10時42分27秒
- わぉ〜!
すっごい楽しみです。
- 4 名前:第2回 投稿日:2000年10月07日(土)22時48分59秒
- えー、今回の講義は、前回予告した通り告白です。
登場人物は後藤真希と吉澤ひとみ。
その他にも出ますが、主役はこのふたりです。
ふたりともバレー部で青春の汗を流す高校1年生の少女です。
長い前置きはさて置き、とりあえず話しを見てみますか。
- 5 名前:(告白) 投稿日:2000年10月07日(土)22時50分04秒
- 6限目の授業も終わり、あたしはバレー部の部室に急ぐ。
(遅刻すると先輩うるさいからな〜)
カバンに教科書を適当に詰め込み、友達の挨拶も適当にかわして、あたしは廊下を走り出した。
周りの景色が溶けてるみたいに見えたけど、あたしにはそれを面白がる余裕もない。
たった数冊の教科書入りカバンが、やけに重く感じる。
(あ〜もう!なんでこんなに重いの〜・・・)
先輩より先に部室に入ってないと、いろいろ言われる。
少しくらい許してくれてもいいのにな・・・
そう思いながらも走ってる自分が、少し情けなかった。
「イタッ」
「キャッ」
廊下の曲がり角を曲がると、誰かにぶつかった。
(や、やばい!とりあえずあやまっとこう)
「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけで・・・あ!」
「あ〜!な〜んだ、ヨッスィーか〜」
「な〜んだじゃないよゴッチン!人にぶつかっておいて・・・」
「ゴメン、ゴメン!あ、ほら!急がないと間にあわないよ!」
「ホントにもぅ〜!」
あたしたちは、一斉に走り出した。
- 6 名前:(告白) 投稿日:2000年10月07日(土)22時51分13秒
- 先輩が来る前に、あたしたちはなんとか部室へ滑り込めた。
「も〜ゴッチンホントに痛かったんだからね!」
「だからゴメンって謝ってるじゃん。それにヨッスィー大丈夫って言ってたしね」
「あ、あれは知らない人だと思ったから・・・」
「ふ〜ん、知らない人なら痛くないんだ〜」
「も〜、いじわる〜」
「あはは、ごめんごめん」
あたしはヨッスィーの頭を軽くポンッと叩いて、部活用のジャージに着替えはじめた。
「も〜・・・」
まだ渋っているみたいだけど、いつもの笑顔になったヨッスィーを見て、少しホッとする。
「そういえばゴッチン、まだ市井さんのこと引きずってる?」
(い、いきなりだなぁ・・・)
「ん〜・・・もう大丈夫かな。でも、時々あの人は自分の夢のために頑張ってるし、
あたしももっと頑張らなきゃな〜って考えて励まされるけどね」
「そっか」
「どうしたの?」
「うぅん、なんとなくね」
「変なヨッスィー。あはは」
下を向いて俯いているヨッスィー。
(なんか元気がないや。どうかしたのかな・・・)
「さあ、体育館行くよ、ヨッスィー!」
「あ、うん・・・」
- 7 名前:(告白) 投稿日:2000年10月07日(土)22時51分55秒
- 体育館に着くと、私たち一年生はまずネットをセットする。
「も〜、なんで一年だけが準備するんだろ。みんなでやれば早いのにぃ〜・・・」
「またそんなこと言ってる。先輩たちに聞かれたらうるさいよ、ゴッチン!」
「そうだけどさ〜。ちょっと早く生まれたくらいでいばんないで欲しいよね〜」
「ゴッチン!」
「はいはい。それにしても重いぃ〜!」
あたしたちは重さに負けず、素早くセットし終えた。
「おはよ〜」
(あ、先輩だ)
『保田先輩、おはようございます!』
あたしたちは一斉に挨拶を返す。
(部活動でおはようってのもなんか変だよな〜)
「もうすぐ試合なんだから、気合い入れていくよ!」
『ハイ!』
そうこうしているうちに他の先輩も登場して、間もなく練習がはじまった。
練習中もあたしは、ヨッスィーの元気がないとこばっかりが目に入ってきた。
(どうしたんだろ・・・)
今日のヨッスィーは絶対変だ。さっきもあんなこと聞いてきたし・・・
「あ、危ない!」
あたしはとっさに叫んでしまった。
保田先輩の打ったレシーブが、ヨッスィーに向かっていってたから。
「キャッ!」
ボールはヨッスィーのお腹に当たった。
「大丈夫!?」
あたしは練習相手を置き去りに、ヨッスィーへと駆け寄った。
「ヨッスィー大丈夫??」
「もぅ〜だらしないな〜。練習中にボーっとしてるからだよ。
後藤、保健室に連れてってやって」
「は、はい・・・」
ヨッスィーの片腕を肩にまわして、あたしたちは保健室へと向かった。
- 8 名前:(告白) 投稿日:2000年10月07日(土)22時53分10秒
- 体育館と保健室。いつもなら近いはずなのに、
ヨッスィーを肩に背負っている分だけやけに遠く感じる。
「ヨッスィー、大丈夫?」
「う・・・ぅ・・・」
「もうすぐ保健室だからね、がんばって」
あたしはヨッスィーに負担をかけないように気を使いながら、できるだけ急いだ。
(保健室、保健室・・・あった!)
あたしははっきり言って、保健室とは縁がない生活をしていた。
ここに来るのは、身体測定とか内科検診とかの時だけだ。
ケガも病気もない、健康なあたしだった。
「先生〜」
保健室の扉を開けるとすぐに、あたしは先生を呼んだ。
(いないのかな・・・)
返事がなかったから、とりあえずヨッスィーをベッドに寝させる。
「ちょっと待っててね、今先生呼んでくるから」
「ゴッチンごめんね・・・」
「うぅん、全然いいよ」
あたしは職員室へ向けて走り出した。
(職員室、職員室・・・)
職員室はすぐ近くにあった。
「失礼します!」
一応一礼して、中に入る。
(うわぁ〜・・・)
あたしは職員室の堅苦しい雰囲気がキライだ。でも、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
担任の先生を見つけて、保健の先生の居場所を訪ねる。
「あぁ、あそこにいるよ」
(いた!)
「先生〜!」
「あら、どうしたの?」
「先生、友達がバレーの練習中にお腹にボールが当たっちゃって・・・
今保健室に寝かせてあるんですけど、すぐ来てもらえますか」
「わかった、すぐ行くわ」
- 9 名前:(告白) 投稿日:2000年10月07日(土)23時09分24秒
- 「少し休んでれば大丈夫。あなた、側についてあげて」
「あ、はい」
「じゃあ、先生はちょっと用事があるから」
「あ、はい。ありがとうございました」
先生は出て行ってしまった。
「ヨッスィー、大丈夫?」
「うん・・・ゴッチン、ごめんね・・・」
「うぅん、いいよ」
「ゴッチン、実はね・・・」
「ん?」
「実は・・・」
(なんだろ・・・)
「ゴッチンは市井さんのこと好きだったんだよね」
「そうだよ」
「あたしね、ゴッチンから市井さんのことで相談を受けた時、胸が苦しかったの」
「え・・・?」
「あたしもね、はじめはなんでかわからなかった。
その時は友達を取られるのが嫌なんだな〜って思ってたんだけどね」
「・・・・・」
「・・・・・」
しばらく無言が続いた。重苦しい空気が目に見えないけど、身体ははっきりと感じてる。
あたしはなにを言っていいのか、わからなかった。
- 10 名前:(告白) 投稿日:2000年10月09日(月)02時47分16秒
- 「ゴッチンは・・・」
先に沈黙を破ったのは、ヨッスィー。
「ゴッチンはいつも元気だよね。友達も多いし、勉強はできないけど」
「こらっ!ん〜、たしかにそうだけど・・・」
「あたしね、そんなゴッチンが羨ましかったんだ。
ほら、あたしって身体あんまり強くないし、友達もゴッチンほどいないし・・・」
「そんなことないよぉ」
「うぅん、いいの。とにかくゴッチンが羨ましくて、憧れてたんだ。
そんなゴッチンが市井さんの相談をあたしにしてくれた時、
嬉しかったんだけど、少し苦しかった」
「・・・・・」
「後から考えると、憧れてるゴッチンが人の物になっちゃうのが嫌だったんじゃなくて、
嫉妬してたんだな、あたし」
「・・・・・」
「今日部活の前に、ゴッチンあたしにぶつかってきたでしょ?」
「・・・うん」
「ぶつかってきたのがゴッチンだってわかった時、あたし少し嬉しかったんだ。
変だよね、痛かったのに嬉しかったなんてさ。あはは・・・」
ヨッスィーの目には、涙が浮かんでいた。
(かわいい・・・)
素直に思えた。いつもと違うヨッスィーの顔。
あたしと逢う時は、いつも無理して笑顔を作ってたのかな。
「あたしね・・・好きなの・・・どうしようもないの・・・
あたしのこと、キライにならないで・・・」
後から後から流れ出る涙を、ヨッスィーは止めることができなくなっていた。
「ヨッスィー・・・」
あたしはベッドに座り、ヨッスィーの頭をさすってあげた。
「キライになんかならないよ・・・」
「ホントに?」
上目遣いで涙を隠すようにあたしを見ているヨッスィー。
「うん」
精一杯の笑みを込めて、返事をした。
「ありがと・・・」
「あたしこそ、ごめんね。全然気づいてあげられなくって・・・」
「うぅん」
「少し寝たほうがいいよ」
「うん、ありがと」
また無言の時間が少し。でも、今度は全然重苦しい空気じゃない。
あたしはヨッスィーの手を握り、ヨッスィーは安心して目を閉じている。
(改めて見ると、ヨッスィーってかわいい顔してるよね・・・)
- 11 名前:(告白) 投稿日:2000年10月09日(月)02時48分01秒
- 「そろそろ校門閉まるわよ。後藤さん、吉澤さんを送って行ってあげてね」
「あ、はい」
「顧問の先生とバレー部の生徒たちには、私が言っておいたから。
そのまま部室戻っても大丈夫よ」
「ありがとうございます」
先生が戻ってきたのは、結局下校時間ギリギリだった。
「ヨッスィー、大丈夫?」
「うん」
「じゃあ、行こうか」
「うん」
「気をつけて帰るのよ〜」
『はい』
外はすっかり陽が落ちて、空は紅く染まっていた。
部室への道が、やけに遠く感じる。
あたしとヨッスィーは、何を喋っていいのかわからなかった。
ふっと見たヨッスィーの横顔は、紅く染まっていた。
もうその目に涙はなく、少しふっ切れたようにも思えた。
部室に着き、あたしたちは無言で着替え、ヨッスィーの家の方向に歩き出した。
「もう大丈夫だから」
「うぅん、心配だから着いていく!」
あたしは強引に着いていく。それは心配だからじゃなくて、あたしの素直な気持ち。
「ねぇヨっスィー・・・、手をつなごうか」
「え・・・う、うん」
あたしはヨッスィーに手を差し出し、それをヨッスィーが取る。
(あ、ヨッスィーの手、暖かい・・・)
「ヨッスィーの手って暖かいね」
「ゴッチンの手、冷たすぎるよ〜」
あはははは・・・
ふたりして、照れくさそうに笑った。
「うん、やっぱりヨッスィーは笑顔が似合うよ」
「え・・・ありがと・・・」
「あ、せっかく可愛いんだから、うつむかないで」
「そ、そんな〜・・・」
「あはは・・・」
「あははは・・・」
- 12 名前:(告白) 投稿日:2000年10月09日(月)02時49分59秒
- 「あ、家もうすぐだから」
「そうなの?結構近いね」
「ゴッチン、あのね」
「ん?なに?」
「今日言ったこと、忘れちゃってもいいから」
「え?」
「あたし、気持ち話せただけでも嬉しかった。
そして聞いてくれたゴッチンがすごく嬉しかったの。
それに、手をつないでくれた。もう満足だから」
「ヨッスィー、目をつぶって」
「え?」
「はやく!」
「あ、うん・・・」
ちゅっ・・・
「あ・・・」
「あたしもね、嬉しかったよ。ヨッスィーがあたしのこと想っててくれてたのを知って、
すっごく嬉しかった!じゃあ、またね!」
「うん、ありがと。バイバイ!」
「バイバ〜イ!」
あたしはあたしの家に向かって走り出した。
ヨッスィーの姿が見えなくなると、あたしは走る足を遅め、歩き出した。
(ヨッスィーのくちびる、柔らかかったな・・・)
今日あったことを、少しずつ思い出してみる。
部活に急ぐあたし。ヨッスィーにぶつかっちゃったんだっけ。
市井さんのことを聞くヨッスィー。部活中も元気がなかった。
ボールに当たったヨッスィーを、あたしが保健室へ運んだ。
ヨッスィーがあたしのことを想っていてくれたことを聞く。
ヨッスィーの涙。ヨッスィーの顔。
(あ、かわいい・・・)
夕暮れ。
横顔。
帰り道。
触れた手と手。
そして、キス。
(ヨッスィー・・・)
どうやら、あたしのほうが惚れてしまったようだ。
- 13 名前:〜第2回 投稿日:2000年10月09日(月)02時50分46秒
- どうでした?告白したのは吉澤ひとみ。されたのは後藤真希でした。
友達から恋人へのパターンですね。あたしはどっちかって言ったら否定派なんやけど、
まあ、これもありやな・・・
憧れが恋へと変わるのは、そう珍しくないらしいです。
だいたい根本的には同じやろうしな。
今回は告白される側の視点でしたね。
さて次回。次回はこのふたりに加えて、メインとして石川梨華が登場します。
おたのしみに〜!中澤裕子でした。それではまた次回。
- 14 名前:ティモ 投稿日:2000年10月09日(月)09時21分10秒
- ここの小説、すっごい好きです。
次回も楽しみ〜。
- 15 名前:〜第3回 投稿日:2000年10月09日(月)23時10分53秒
- さてさて、3回目の今回は、石川梨華がメインです。
そしてテーマは「片思い」。切ないね〜この響き。
前回の後藤・吉澤もサブとして出ますんで、よろしくね。
それでは、はりきってどうぞ〜
- 16 名前:(片想い) 投稿日:2000年10月09日(月)23時15分33秒
- (最近ひとみちゃん、元気ないな・・・どうかしたのかな・・・)
あたし、石川梨華は同じクラスの吉澤ひとみちゃんに、恋してます。
最近ひとみちゃんは元気がないので、あたしは心配です。
「ひとみちゃん、大丈夫?元気ないみたいだけど・・・」
驚いたひとみちゃんが、驚いた顔でこちらを振り返りました。
「うぅん、大丈夫だよ梨華ちゃん」
「何かあったら相談してね」
「うん、ありがと」
無理に作った笑顔を見せてくれたひとみちゃんが、愛おしくて仕方がないのでした。
授業中も、ひとみちゃんが気になります。
「えー、じゃあここのところを・・・吉澤」
(ひとみちゃん・・・)
「はい。えーと・・・y=23です」
「正解ですね。そうするとここが・・・」
(ひとみちゃんすごいなー・・・)
「・・・となって、これを計算すると、答えは・・・石川。石川?」
「梨華ちゃん、指されてるよ」
「え?あ、はい。えーっと・・・すいません、聞いてませんでした」
「ぼーっとしてるな。ちゃんと聞いとけよ、ここテストに出すからな」
「はい、すいません・・・」
あたしはひとみちゃんに気をとられてて、数学の問題を答えられませんでした。
でもいいんです。解らなかったら、ひとみちゃんに聞くから。
(ひとみちゃん、あたしの気持ち気づいてるかな・・・)
気づいて欲しい反面、気づかれるのが恐いです。
気づかれたら避けられそうで・・・
こんなあたし、変ですか?
- 17 名前:(片想い) 投稿日:2000年10月09日(月)23時20分18秒
- ここのところ、あたしはよく夢を見ます。
幼いころの、公園で遊んでる夢。
出てくるのは、あたしとひとみちゃん。
「ねえねえ あたしひとみちゃんだいすきなんだ」
「あたしもりかちゃんすきだよ」
「じゃあけっこんしちゃおっか」
「う〜ん おおきくなったらね」
「やくそくだよ」
「うん やくそく」
ふたりは砂場に大きな山を作って、その上に棒を立てました。
「ひとみちゃんがわすれませんように・・・」
「りかちゃんとけっこんできますように・・・」
ふたりは小さな棒切れにむかって、お祈りをしています。
次第に陽は暮れてきています。
あたしたちは、帰るところを探してさまよっています。
「おかあさ〜ん・・・」
「おかあさん どこにいるの?」
ふたりは泣きながらお母さんを探し歩いてます。
いつもここで目が覚めます。
(また見ちゃった・・・)
幼なじみのひとみちゃん。大好きだったひとみちゃん。
あたしの想いは、あの頃から変わってませんでした。
(ひとみちゃん・・・もう忘れちゃってるよね・・・)
- 18 名前:(片想い) 投稿日:2000年10月09日(月)23時50分39秒
- 今日のひとみちゃんも、元気がありません。
お昼休み。あたしはおもいきって、ひとみちゃんを誘ってみました。
「ひとみちゃん、ご飯一緒に食べない?」
「うん、いいよ」
「あたしね、最近小さい頃の夢見るんだ」
「小さい頃?」
「うん。あたしたちが3歳か4歳でね。公園で遊んでるの」
「ふ〜ん」
「ねえ、ひとみちゃん。最近元気がないよ。なんかあった?」
「ん〜・・・ちょっと悩み事があるんだけどね」
(あ、やっぱり・・・)
「あたしでよかったら相談のるよ」
「うん、ありがと。でもいいんだ。
あたしがどうにかしなきゃいけないことだから・・・」
「そっか。がんばってね」
「ありがと」
(あたしじゃだめなのかな・・・)
無言で食べ続けるひとみちゃん。あたしもなにも言えなかった。
(なにか言わなきゃ・・・)
いろんな言葉が浮かんでは沈み、あたしは言葉を飲み込むばかりでした。
「あ、そうだ。この間の数学の問題。梨華ちゃんちゃんと憶えた?」
「この間・・・?」
「ほら、あたしの後に梨華ちゃん指されて・・・」
「・・・あ、憶えてない」
「先生テストに出るって言ってたじゃん。教えてあげるよ」
(ひとみちゃんがあたしの心配してくれてる・・・)
「うん、ありがとう。教えて」
結局、あたしは肝心なところだけは隠し続けてしまいました。
でもいいんです。あたしはひとみちゃんとこうして話せるだけで・・・
- 19 名前:(片想い) 投稿日:2000年10月10日(火)00時33分40秒
- またあの夢を見ました。
いつもと同じ夢。
「ねえねえ あたしひとみちゃんだいすきなんだ」
「あたしもりかちゃんすきだよ」
「じゃあけっこんしちゃおっか」
「う〜ん おおきくなったらね」
「やくそくだよ」
「うん やくそく」
ふたりは砂場に大きな山を作って、その上に棒を立てました。
「ひとみちゃんがわすれませんように・・・」
「りかちゃんとけっこんできますように・・・」
ふたりは小さな棒切れにむかって、お祈りをしています。
すると、突然小さな棒切れが倒れてしまいました。
「ひとみ〜、帰るわよ〜」
「は〜い。りかちゃんばいばい」
「ひとみちゃんばいばい」
(あれ?ひとみちゃん帰っちゃうよぉ・・・)
あたしのお母さんは、その後いつまでたっても現れませんでした。
「おかあさ〜ん どこにいるの〜? えーん・・・」
(ひとみちゃん、ホントに帰っちゃったのかな・・・)
はっとしてあたしは目が覚めました。
(ひとみちゃん・・・)
嫌な予感が振り払っても頭をよぎります。
- 20 名前:(片想い) 投稿日:2000年10月10日(火)00時34分44秒
- 今日のひとみちゃんは、いつもと違って元気です。
(なにかいいことあったのかな・・・)
ひとみちゃんに笑顔が戻ったのは喜ばしいことなんだけど・・・
あたしの中でなにかが引っ掛かっていました。
「ひとみちゃん、今日は元気だね。いいことでもあったの?」
「わかる?あたしね、恋人ができたんだ」
(え!?)
あたしは倒れそうになるのを我慢して、笑顔を作ります。
「ホントに〜?おめでと〜」
「ありがと。梨華ちゃんにも心配かけちゃったしね。もう大丈夫だよ」
(・・・!?)
「心配って・・・もしかしてこの間言ってた悩みってそのこと?」
「うん、そうだよ」
もう限界でした。あたしはその場に倒れ、気を失ってしまったみたいです。
・・・・・・・・・。
「梨華ちゃん!梨華ちゃん!」
目の前にうっすらとひとみちゃんの顔が見えます。
「梨華ちゃん!大丈夫!?」
「あ、ひとみちゃん・・・あたし・・・」
「梨華ちゃん急に倒れちゃったんだよ」
「あ、ごめん・・・ちょっと保健室で休んでくる・・・」
「うん、そうしなよ。あたしも着いてってあげるから」
「うぅん、大丈夫」
これ以上ひとみちゃんの前にいたら、あたしは泣きだしそうでした。
「大丈夫じゃないよ。ほら、つかまって」
ひとみちゃんが強引にあたしの腕を肩にまわし、あたしを抱き起こしました。
「・・・ありがと」
- 21 名前:(片想い) 投稿日:2000年10月10日(火)00時35分41秒
- 保健室には、誰もいませんでした。
ひとみちゃんはあたしをベッドにそっと寝かせます。
「先生呼んでくるね」
「うぅん、少し横になれば大丈夫だと思う。それよりひとみちゃん、少し側にいて」
「う、うん・・・ホントに大丈夫?」
「うん、大丈夫」
授業開始の鐘がなって、保健室のまわりは風の音しか聞こえませんでした。
「ひとみちゃん、ごめんね」
「うぅん、いいよ」
「前にあたし子供の頃の夢をよく見るって言ったでしょ?」
「うん」
ベッドのすぐ横に窓があって、寝転がると空が見えます。
青い空に白い雲が浮いていて、とても奇麗でした。
「ひとみちゃん憶えてるかな・・・あたしたちね、砂場で遊んでいるの」
「砂場・・・」
「うん、砂場。それでね、あたしとひとみちゃんは約束するの」
「約束・・・」
「なんて約束したか、憶えてる?」
「・・・小さい頃だしな〜。憶えてないよ」
「そっか・・・」
「ごめんね」
「うぅん、いいの。あたしね、今でもその約束守ってるんだよ。
ひとみちゃんが忘れちゃった約束。うふふ・・・」
「・・・・・」
(そっか〜、忘れちゃってたんだ・・・)
「あたしね、ひとみちゃんのこと好きだったんだ」
「え?」
「小さい頃からず〜っと、ひとみちゃんのこと好きだったの」
「・・・・・」
「でもね、もういいの。あたし悔しいから、小さい頃の約束、教えてあげない」
「・・・ごめんね」
「うぅん、いいの。その代わり、その恋人とがんばってね」
「うん、ありがと・・・」
(これでいいのよね・・・これで・・・)
- 22 名前:(片想い) 投稿日:2000年10月10日(火)00時38分59秒
- その夜、あたしは電気もつけずベッドに横になっていました。
夜の闇はあたしを完全に飲み込んで、あたしは暗闇にひとりぼっちです。
(ひとみちゃん・・・淋しいよぉ・・・)
「梨華〜、夕飯できたわよ〜」
部屋の外から、お母さんがあたしを呼びます。
「いらない・・・食べたくないの」
「あら、病気かしら。どこか具合でも悪いの?」
「うぅん、大丈夫だから」
「そう?具合悪かったらすぐに言いなさいよ」
「うん・・・」
お母さんの優しさが、余計にあたしをひとりぼっちにさせます。
「ご飯食べないなら、先にお風呂入っちゃいなさい」
「うん・・・」
あたしはタオルを持って、お風呂に向いました。
(これでよかったのよね・・・あたし、間違ってないよね・・・)
誰も答えはくれませんでした。
階段を下りて、左へ。つきあたりの扉を開けます。
服を脱いで、バスタブへうずくまりました。
胸の奥がひどく痛みます。苦しくて、壊れちゃいそうでした。
(ひとみちゃん・・・)
あたしは、いつの間にか涙がこぼれ落ちているのに気づきました。
止めどなく涙は流れ続けます。
(そっか、あたし泣きたかったんだ・・・)
お風呂で、あたしは泣き続けました。
誰にも邪魔されない、水の多い個室で・・・
- 23 名前:SOL 投稿日:2000年10月11日(水)04時43分39秒
- うーなんかかわいそすぎるぞ!
- 24 名前:(片想い) 投稿日:2000年10月11日(水)08時49分15秒
- お風呂から出て、自分の部屋で冷静に考えてみました。
(ひとみちゃん、明日も普通に話してくれるかな・・・)
(友達としてのひとみちゃんも失くしちゃうのかな・・・)
(それは絶対に嫌。でも・・・)
また流れてきそうになる涙を、ぐっとこらえます。
(明日が恐いな・・・)
- 25 名前:(片想い) 投稿日:2000年10月11日(水)08時50分15秒
- 翌朝、あたしは急いで学校に行きます。
(とにかく、あたしから話そう)
ひとみちゃんが来る前に学校に行って、ひとみちゃんを待ちます。
(また笑ってくれるかな・・・)
「おはよ〜」
「あ、ひとみちゃん!ちょっとお話しがあるの」
「え?」
「ちょっときて・・・」
「あ、うん・・・」
あたしたちは人気のない、体育館の裏へ行きました。
「あのね、ひとみちゃん・・・昨日言ったこと、忘れて欲しいんだ」
「え?」
「あたしね・・・友達としてのひとみちゃんも失くしちゃうの、嫌なの。
また一緒に笑ってお話ししたいの」
「うん・・・」
「友達のひとみちゃんまで居なくなっちゃったら、あたし・・・」
また涙がこぼれそうになるのを、必死の思いで我慢しました。
「大丈夫だよ。あたしはいつでも梨華ちゃんの幼なじみだから」
「ホントに?」
「うん、ホントだよ。あたしも友達の梨華ちゃんが居なくなるのは嫌」
(友達の・・・ま、いっか・・・)
「ありがと!じゃあ、お礼に小さい頃の約束、教えてあげる・・・」
あたしはありったけの笑顔を作って、ひとみちゃんの耳元に囁きます。
「あたしたちね、結婚しちゃおうって・・・」
- 26 名前:第3回〜 投稿日:2000年10月11日(水)08時56分22秒
- 切ないですねぇ。片思いやったのは石川梨華。
今回は告白してしまう片思いでした。
後藤でてへんやないかってゆう厳しいつっこみはせんといて。
あたしかて忘れとったんやから(笑
今回は友達から恋人ってパターンじゃないです。石川はもともと好きやったんやからね。
>>2さん
いちごま、さやまり、いちかおですね?わかりやした!
>>ティモさん
ありがとうございやす!
がんばりますので、応援してやってくださいね。
>>SOLさん
全部が全部うまく行くとは限らないんですよね。
それも恋愛ということで(w
さて、お待たせしました!次回は市井紗耶香と後藤真希がメインです。
次回をお楽しみに!中澤裕子でした。それでは。
- 27 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月11日(水)18時49分26秒
- 2作とも上手いですね。ただただ感心。
個人的にはいしごまを読んでみたいかも。
- 28 名前:ムーミン 投稿日:2000年10月11日(水)20時31分46秒
- わ〜い、いちごま大歓迎!!万歳!!
あと個人的にさやりかが見てみたいなぁ。
- 29 名前:中澤講師 投稿日:2000年10月12日(木)04時02分23秒
- 本日は休講です。
いちごま難しいわぁ〜・・・
- 30 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月12日(木)06時06分45秒
- たまには講師もからんでいこうよ。(わら
個人的にゆうまり希望。
- 31 名前:〜第4回 投稿日:2000年10月13日(金)00時04分43秒
- こんばんは〜中澤裕子ですぅ。
4回目の今日は、待望のいちごま!いちごまやで、いちごま!
設定は・・・そうやな、現実にできるだけ近づけたいんやけどな・・・
難しいわ、これ。
そんなわけでできたテーマが、(初恋)です。
どうなることやら・・・
- 32 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月13日(金)00時05分21秒
- 「市井ちゃ〜ん、宿題教えて〜」
「またぁ?たまには自分でやれよ〜」
「だってぇ〜、あたし全然解んないんだも〜ん」
「もぉ〜しょうがないなぁ。ちょっと見せてごらん」
(やった〜)
あたしの家と市井ちゃんの家は、昔から家族ぐるみのつきあいをしている。
だから、あたしと市井ちゃんは3つ離れてるけど、大の仲良しだ。
てゆうか、お姉ちゃんみたいな物なのかな。
(市井ちゃん頭いいなぁ・・・)
「ほら、ここはこうなるワケだから・・・聞いてる?」
「え?あ、うん!聞いてるよぉ」
「じゃああたしさっきなんて言った?」
「えーとね・・・あ、ごめん!ホントは聞いてなかった・・・」
「もぉ!教えてやんない!」
「ごめん、今度はちゃんと聞くからさ〜。教えてぇ〜」
「いつもこうだもんな〜。ホントにちゃんと聞いてるんだよ?」
「うん、ありがと」
本当は、勉強なんてどうでもよかった。
市井ちゃんに遊んでもらいたかっただけなんだ。
「そうだ!ねぇ市井ちゃん」
「ん?」
「今年の夏休み、どっか遊びに行こうよ」
「どっかって?」
「そうだなぁ、海とか買い物とか遊園地とか・・・」
「ん〜、後藤が宿題ちゃんとやったら考えてもいいかな〜」
「ホント?ホントに?あたし、宿題やる!続き教えて!」
「単純だな〜後藤って。そこがまたカワイイんだけどね」
あたしは市井ちゃんが言った言葉を一言一句聞き逃さないほどに集中した。
おかげで宿題もすぐに片づいた。市井ちゃんさまさまだ。
- 33 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月13日(金)00時57分59秒
- 「ねぇ、さっきの続きだけどさ」
「あ〜、夏休みの話し?」
「うん!どっか行こうよぉ〜」
「ん〜、どっかねぇ。後藤はどこに行きたい?」
「あたしねぇ、海行きたい!海行って肌焼きたいんだ」
「その歳であんたねぇ・・・。肌汚くなるよ。他のところにしよう」
「え〜・・・」
(市井ちゃん、コギャルキライなのかなぁ・・・)
本当はどこでもよかった。市井ちゃんと遊びに行けるなら・・・
「じゃあねぇ・・・遊園地行こう!ジェットコースターとか乗りたいな〜」
「遊園地ぃ〜?後藤もまだコドモだねぇ」
「もぉ〜、あたしもうコドモじゃないもん!」
「はいはい、後藤はもうオトナだったね」
「そうだよ〜。あたしもう中3だよ〜。立派なオトナだもん」
(もぉ〜、市井ちゃんいっつもコドモってバカにして・・・)
「じゃあ市井ちゃん決めてよ〜」
「え?そうだな〜・・・」
(市井ちゃんが行きたいとこどこだろ・・・)
「あ、後藤このCD聴いたことある?」
「え?どれ?」
「これだよ、このCD」
(あれ?)
「ん〜、ないよ」
「聴いてみなよ。きっと気にいるよ」
「ホントに?じゃあ借りてみる」
(あれれ?)
「うん、絶対気にいるから」
「うん、ありがとう!」
(ま、いっか)
「それでさ・・・」
話しを代えられたことに、あたしは気づかなかった。
結局、その日はそれ以上夏休みの話しはしなかった。
- 34 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月13日(金)05時53分41秒
- なぜだ。市井ちゃん。
- 35 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月13日(金)22時40分33秒
- 家に帰って、あたしは借りたCDを聴いてみる。
(・・・英語だ)
市井ちゃんは、あたしに洋楽のCDを貸してくれた。
(わかんないよぉ・・・)
英語なんてチンプンカンプンだ。
これは英語を勉強しろってことなのかな?
あたしは勝手な解釈をしながらも、とりあえず聴いてみた。
(市井ちゃんこうゆうの聴いてるんだ〜・・・)
メロディアスな音楽の上に、滑らかだけど理解できない言葉が流れる。
音楽のことなんて全然わからないから、
あたしは歌詞と曲のフィーリングで好きな歌が決まる。
ベッドに身を投げて天井をぼーっと眺めていた。
あたしの耳には、すでに音楽は入ってなかった。
(あ、夏休みの話し忘れてた)
あたしはここにきて、やっと思い出したのだった。
(市井ちゃんどこに行きたかったのかな〜・・・)
開けっ放しの窓からうっすら月が浮かんでるのが見えた。
(明日また市井ちゃんに聞いてみよう)
風が入ってきて、カーテンが揺れる。
6月の夜は、まだ少し肌寒い。
あたしははっとして、まだ英語の音楽が流れていることに気づく。
(・・・やっぱ歌詞わかんないとつまんないや)
あたしは停止スイッチを押し、邦楽のCDに代えた。
聴き慣れた言葉が流れて、ほっとしたあたしが可笑しかった。
(あたしもまだコドモだな・・・)
- 36 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月13日(金)22時41分12秒
- 「ねぇ、ヨッスィーは今年の夏休みどっか行くの?」
学校のお昼休み。教室でふたつの机をくっつけて囲む。
今日のお弁当は・・・あ、ハンバーグだ!
「家族で海行くって言ってたかな・・・」
「海か〜いいね〜」
「ゴッチンはどっか行くの?」
「あたしはまだ決まってないよ。
市井ちゃんとどっか行こうって話しはしてるんだけどね」
「・・・市井さんと?」
「うん、そうなんだ」
「そっか・・・」
(あれ?ヨッスィー元気なくなっちゃった・・・)
ヨッスィーのお弁当は・・・ベーグル!?
「ヨッスィーまたベーグル食べてるのぉ〜?」
「うん。これ美味しいんだよ〜。食べてみる?」
「うぅん、固そうだからいいや・・・」
「そう?美味しいのにな〜」
そういえば昨日もベーグル食べてたっけ。
「毎日ベーグルで飽きないの?」
「全然飽きないよ。そぅとぉ美味しいもん」
ベーグルを食べる時のヨッスィーの顔は、にやけてて面白い。
そんなヨッスィーを見てるあたしも、自然と頬が緩んでくる。
あたしはこの和んだ空気がすっごく好きだ。
「あとこののほほん茶もかかせないのよね〜」
食べている時のヨッスィーは、今日も幸せそうだ。
- 37 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月13日(金)22時42分20秒
- 「ねえ市井ちゃ〜ん、どこ行くか決めた〜?」
今日も市井ちゃん家に上がり込み、あたしは昨日の話しをする。
「後藤が決めていいよ。どこ行きたい?」
「え〜。だってあたしが決めると市井ちゃん文句言うじゃん」
「だって後藤がコドモっぽいところばっかり言うんだもん」
「あ〜、またコドモって言う〜」
「あはは、ごめんごめん」
市井ちゃんはいつもこうやってあたしをいじめて楽しんでいる。
「じゃあねぇ〜・・・海行こっか」
「市井ちゃん昨日イヤだって言ってなかった?」
「あれ、そうだっけ?」
「もぉ〜、行くのイヤなの〜?」
「そんなことないって。海でいい?」
(もぉ〜、勝手なんだから・・・)
「うん、いいよ」
「じゃあ決まりね!」
(どうしたんだろ。いつもと違う・・・)
あたしがこんなことを考えていることも知らずに、市井ちゃんはアルバムを広げだした。
「後藤この写真憶えてる?」
そう言った市井ちゃんが指さした、一枚の写真。あたしは泣いていた。
そんなあたしと手を繋いで、市井ちゃんは笑ってる。
「え〜・・・憶えてないよぉ」
「そうだよね〜。後藤この時まだ3つだよ」
気がついたら市井ちゃんがいつも側にいた。
市井ちゃんが側にいることが、自然になっていた。
「この頃の後藤かわいかったな〜・・・」
「ど〜せ今のあたしはかわいくないですよ〜だ」
「そんなことないよ。今も後藤はカワイイよ」
「ホントに?」
「うん、ホント」
(やっぱり今日の市井ちゃん、変だ・・・)
その他にも、モノゴコロもつかない幼い頃の写真から
まだ憶えているつい最近の写真まで一通り見せられた。
「どうしたの?こんな写真見せて・・・」
「たまにはね・・・」
「ふ〜ん・・・」
- 38 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月15日(日)22時51分35秒
- (絶対今日の市井ちゃん、絶対変だったよね・・・)
自分の部屋に戻っても、あたしの頭の中は今日の市井ちゃんばっかりだった。
(急にアルバムなんか見せちゃって・・・どっか行っちゃうみたいじゃん)
あたしははっとして、思わずベッドから飛び起きた。
(市井ちゃん、どっか行っちゃうの?)
(でも市井ちゃん何も言ってなかったしなぁ・・・)
今日は曇っていて、月が見えない。
あたしは片づけもしてない本棚を漁り、古いアルバムを探しだす。
(あった)
あたしのアルバムにも、幼い頃の市井ちゃんは載っていた。
小学生の市井ちゃんと、幼稚園生のあたし。
小学校に入学したあたしの手をとる、上級生の市井ちゃん。
中学の入学式で初々しい制服姿の市井ちゃんと、少しオトナになったあたし。
あたしの入学式の時にはもう、市井ちゃんは立派な中学生だった。
市井ちゃんの高校入学を一緒になって自分のことみたいに喜ぶあたし。
やっぱり市井ちゃんがいることが自然だ。
片手で市井ちゃんを隠してみると、やっぱり違和感がいっぱいある。
あたしの隣は市井ちゃんじゃなきゃダメなんだ。
市井ちゃんがいなくなることなんて考えられなかった。
(市井ちゃん・・・いつかはいなくなっちゃうのかな)
そう考えるだけで、あたしは涙が浮かんでくる。
その時、あたしの気持ちがいつもと違うことに気づいた。
(あれ?胸が痛い・・・)
それはいつものお姉ちゃんを想う気持ちとは、あきらかに違っていた。
(なんだろ、これ・・・)
あたしはワケもわからないまま、痛む胸を抑えて眠りについた。
- 39 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月15日(日)22時52分11秒
- 「ねぇヨッスィー。あたしね、市井ちゃんのこと考えると胸が痛むんだ。
なんでだろうね」
お昼休み。今日もヨッスィーはベーグルとのほほん茶。
「・・・恋・・・じゃない?」
「恋!?」
思わず出した声があまりにも大きかったため、教室中は一瞬止まってしまった。
「あ、ご、ごめん」
教室の時は動いて、いつもの騒々しさを取り戻す。
(あたしが市井ちゃんに恋?)
「だ、だって市井ちゃん女のコだよ」
「市井さんのこと考えると胸が痛むんでしょ?あたしもそうゆうことあるんだ。
でね、あたしも恋って気がついたの」
「ヨッスィー好きな人いるの〜?」
「まぁね〜」
「誰?誰?」
「内緒〜」
「もぉ〜。ま、いいや。頑張ってね」
「・・・うん、ありがと」
「そっか〜、あたしのも恋なのかなぁ・・・」
(市井ちゃんに恋かぁ・・・)
「市井さんならわかる気がするな〜・・・」
「そ、そうだよね?市井ちゃんああ見えてカッコいいとこあるし・・・」
「・・・とにかく、頑張ってね」
「うん、ありがと」
- 40 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月16日(月)12時14分43秒
- 初恋ってなんか悲しいイメージがあるんだけど気のせい?
きのせいでありますように・・。
読者のひとりごとです。作者さん邪魔してすみませんでした。
- 41 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月16日(月)23時14分17秒
- ヨッスィーに言われて気がついた、あたしの恋。
市井ちゃんに逢うのもなんだか照れくさくて、
それから数日は市井ちゃん家には行けないでいた。
(市井ちゃん、今頃何してるかな〜・・・)
市井ちゃんに逢いたい。でも今逢ったら恥ずかしくて顔も見れなそうだ。
この数日だけだけど、離れてみて市井ちゃんの存在の大きさがはっきりとわかった。
あたしは市井ちゃんが必要なんだってはっきりと思えた。
(このままじゃいけない・・・)
あたしが市井ちゃんから離れちゃってるよ。このままじゃいけないよね。
(今から市井ちゃんに逢いに行こう)
あたしは部屋にある電話を手に持って、ひとつ深呼吸をした。
(よしっ!j
ためらう手に喝を入れて、市井ちゃんのケータイの番号を、
ひとつひとつ丁寧に押した。
1・・・2・・・3・・・4・・・カチャッ
「あ、市井ちゃん?後藤だけど。明日休みだし、今から行ってもいい?」
「うん、いいよ。あたしも後藤に話したいことあるんだ」
「じゃあ今から行くね〜」
「うん、待ってるよ」
カチャッ・・・
(市井ちゃんに逢いに行くぞ〜)
あたしの心は舞い上がっていた。
「お母さ〜ん、市井ちゃんのとこ行ってくるね〜」
- 42 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月16日(月)23時15分01秒
- 市井ちゃん家までは、少しかかる。
自転車のペダルをこぐあたしの足は、次第に速くなっていく。
街灯と月明かりに照らされて、夜の道があたしの行き先を知っているみたいだ。
(市井ちゃんの声、そういえば久しぶりに聴いたな〜・・・)
さっきの電話の声を、もう一度思い出す。
(「うん、いいよ。あたしも後藤に話したいことあるんだ」)
カワイイ声してるよね〜、市井ちゃんって。
そう言えば市井ちゃんの声って昔からあの声だっけ。
昔はもっと幼い声だったよね・・・
(え?話したいこと?)
話したいことってなんだろ。
あたし後藤のことが好きだったの・・・とか?
(キャーッ!!)
あたしって何ひとりで妄想してるんだろ。そんなワケないのにねぇ。
でも、もしそうだったらどうしよう。
・・・もちろん、つきあうよね。
そんなワケないか。あははは・・・
(話しってなんだろ・・・着けばわかるか)
今考えてもわからない。
あたしのペダルをこぐ足は、一層速くなっていた。
- 43 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月17日(火)23時19分53秒
- なんだかイヤな予感がするが・・・
どうなる市井・後藤!?
- 44 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月18日(水)01時50分36秒
- 「こんばんわぁ〜、お邪魔しま〜す」
勝手に上がり込んで、市井ちゃんの部屋へ。
市井ちゃんの部屋は階段上がってすぐのところだ。
「よぉ後藤。はやかったじゃん」
「まぁね〜」
今のところ大丈夫そうだ。いつも通り話せそうな感じがする。
「最近全然来なかったじゃん。どうしてた?」
「ちょっと学校の方が忙しくてさ〜」
「へぇ〜、ちゃんと勉強してるかい?」
「してるよぉ〜。あたしも市井ちゃんと同じ高校狙ってるんだ」
「・・・そっか」
市井ちゃんの笑顔、どことなく淋しげだ。
「どうしたの?市井ちゃん。元気ないよ」
「うん・・・あのさ、後藤は夢とかある?」
「夢?ん〜・・・特にないかな。あはは・・・」
「あたしはね、あるんだ」
「へぇ〜、どんな夢?」
「あたしさ、昔から歌うの好きだったじゃん?」
「うん」
「だからさ、歌手になりたいな〜って」
「そうなんだ」
(へぇ〜、市井ちゃんが歌手にねぇ・・・)
「うん。それとね、自分でも歌を作れるようになりたいんだ」
「ふ〜ん・・・」
「あたし最近洋楽ばっかり聴いてるじゃん?」
「うん」
市井ちゃんが何を言おうとしているか、あたしは理解できなかった。
ただ夢を話したいだけ?それをなんで淋しげに話すの?
- 45 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月18日(水)03時45分14秒
- 「やっぱり音楽を勉強するなら外国かなって思うんだ、英語も勉強したいしさ」
「・・・・・」
「あたし、留学する」
「い、いつ?」
「今年の夏休みから・・・」
「・・・どのくらい?」
「2年・・・3年・・・もっとかかるかもしれない」
「なんで?」
「え?」
「なんでもっとはやく話してくれなかったの?」
(市井ちゃん・・・突然すぎだよ・・・)
「・・・あたし自信、決心がついてなかったんだ」
市井ちゃんは下を向いて、あたしの顔を見てくれない。
「それに・・・あたしが言ったら後藤、止めたでしょ?」
「うん・・・」
「後藤に止められるとあたし、行くのやめちゃいそうだったから・・・」
「今止めるよ!行かないでよ!」
「ごめん、もう決めたんだ・・・」
「イヤだ!行かないで!!」
あたしはコドモみたいに泣き叫んでいた。市井ちゃんが、あたしの頭を抱いてくれた。
あたしはもう涙を止めることができなかった。
「後藤・・・お願い、わかって・・・」
「なんで・・・なんでなのよ・・・」
あたしの頭をなでてる市井ちゃんの手は、すっごく優しい。
でも、それがあたしを止められなくさせる。
「後藤・・・」
「もういい!」
あたしは市井ちゃんの手を振りほどいて、離れた。
「市井ちゃんなんかキライだ!」
「後藤・・・」
部屋のドアを開けて、階段を走り下りる。
そのまま市井ちゃん家の玄関の扉を開けて、夜の道へと出た。
- 46 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月18日(水)22時55分02秒
- 「なんでなの・・・」
泣きながら歩く。
「市井ちゃんの・・・バカ・・・」
淋しく響いた。
「市井ちゃん・・・」
気がつくと、幼い頃に市井ちゃんとよく遊んだ公園まで来てた。
ブランコが街灯に照らされて、淋しく浮かび上がる。
行くあてがなかったあたしは、そのブランコに引き寄せられた。
(市井ちゃんと遊んだブランコ・・・)
座ったけど、漕ぐ元気はない。
あたしはぽつんと座っているだけだった。
(もう市井ちゃんとは逢えないのかな〜・・・)
街灯にひとつ照らされたブランコに座っていたあたしは、余計に淋しさが募る。
でも、もう涙は止まっていた。
(キライなんて言っちゃったよ・・・)
後悔。
ホントは好きなくせに・・・
(市井ちゃんをキライになんてなれないよ・・・)
ブランコに立って、勢いよく漕ぎ始めた。
(ごめんね、市井ちゃん・・・)
(ごめんね・・・)
- 47 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月19日(木)10時23分54秒
- らぶりー後藤・・。
- 48 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月19日(木)23時56分25秒
「後藤!!」
「え?」
公園の入り口。市井ちゃんが息を切らせてる。
(市井ちゃん・・・)
「もぉ〜、あちこち探したんだよ!」
「・・・ごめんね」
落ちついたあたし。素直に言えた。
「うん、いいけどさ」
呼吸を調えながら、あたしの隣の空いたブランコに座る。
あたしは立って漕いだままだ。
「市井ちゃんはさ・・・そうとう考えたんだよね。
自分の夢のためにがんばろうってさ・・・
あたしなんか想像もつかないくらい、ひとりでいっぱい考えたんだよね・・・」
「後藤・・・」
勢いのついたブランコ。その勢いに、あたしも乗って言う。
「昔から市井ちゃん、歌うの好きだったもんね・・・」
「・・・うん」
「あたし、歌ってる市井ちゃんも好きだよ」
「ありがと・・・」
少しずつ月が隠れる。街灯だけじゃ、ホントに淋しい。
「さっきキライなんて言っちゃったけどさ・・・
あれ、嘘だよ。あたし市井ちゃん好きだもん」
「わかってるよ」
あたしが乗ったブランコは止まらない。
「わかってないよ市井ちゃん。あたし、市井ちゃんを恋人にしたいくらい好きなんだから・・・」
「え?」
思った通りの反応。市井ちゃん驚いてるよね・・・
- 49 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月19日(木)23時57分08秒
- 「あたしね、市井ちゃんのこと考えると胸が痛いんだ。
痛いから・・・考えないようにしようとした」
「・・・・・」
あたしのブランコは勢いを増す。
「でもね、市井ちゃんのこと考えないようになんてできなかったよ。
だってさ、あたしと市井ちゃんは昔から一緒だったもん・・・」
「・・・・・」
一緒に遊んだ、思い出のブランコ。
あの頃からこんな風に好きだったのかなぁ・・・
「それで最近友達に聞いてみたんだけどさ。これが恋なんだってさ・・・可笑しいよね」
いけない、また涙が出てきそうだ。
泣いたままじゃ市井ちゃんの顔見れないよ・・・
「・・・今度はあたしが白状する番だね」
「え?」
あたしのブランコが止まり、今度は市井ちゃんのブランコが勢いよく動き出す。
「あたしもね・・・いつからだろ、後藤ばっかり気になってたんだ」
「市井ちゃん・・・」
「昔みたいに妹みたいな気になり方じゃなくてさ。
でも、後藤に気づかれたら離れていっちゃいそうだったから・・・言えなかった」
(市井ちゃんもあたしのことを・・・)
シンとした夜の公園。
市井ちゃんの声とブランコの音だけが、あたしの耳を支配する。
- 50 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月20日(金)01時55分36秒
- なんだか凄くいい感じの小説ですね、頑張ってください。
- 51 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月20日(金)21時54分43秒
- 「だからさ、後藤に止められると、あたし余計辛いんだ・・・
後藤が・・・大好きだから・・・」
「市井ちゃん・・・」
(ずるい・・・)
市井ちゃんずるいよ。
そんなこと言われたら・・・あたし、止められない。
無言でブランコをこぐ市井ちゃん。
何も言えないあたし。
ふたりだけの公園。
ふたりだけの夜。
「あたしさ・・・いつか大きくなって戻ってくるって約束する。
だから・・・」
「待っててなんかあげないもん。
市井ちゃんなんか外国でもどこでも行っちゃえばいいんだ」
「・・・・・」
市井ちゃんのブランコが止まる。
悲しげな市井ちゃんの目。
「その代わり・・・帰ってきたら絶対に有名になって逢いに来てよ」
「後藤・・・」
「あのコあたしの幼なじみなんだよ〜って自慢できるくらい大きくなって帰ってきてね」
「・・・ありがと」
「大好きだよ、市井ちゃん」
「後藤・・・あたしもだよ・・・」
涙が渇いたあたしの目は、真っ赤に腫れていた。
そんなあたしの顔を、雲の間から月が覗き込んだ。
夜の暗さが少し薄らいだ。
- 52 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月20日(金)21時55分25秒
- 言いたいことを言えたふたり。
小さな頃からずっと一緒だったふたり。
自分の決めた道を進む市井ちゃん。
自分の道すらも見つからないあたし。
(そっか、あたしずっと市井ちゃんにくっついてただけなんだ)
今初めて気づいたよ。こんなあたしを導いてくれてたんだね。
大好きな市井ちゃん・・・ありがと。
無言でブランコをこぎ続けたふたり。
飽きた頃に、市井ちゃんのブランコが止まる。
「後藤、家に自転車置きっぱなしだったよ」
「あ、そうだ!忘れてた・・・」
「そのまま飛び出してったもんな。そのお陰ですぐ見つけられたんだけどさ」
笑う市井ちゃん。まぶしいよ・・・
「いいや、今日家に泊まっていきなよ」
「うん・・・」
「じゃ、行こう」
「うん」
あたしの手をとる市井ちゃん。
あたしは少し照れた。
小さい頃は自然に手を繋いで歩けたのにな・・・
- 53 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月20日(金)21時55分59秒
- 市井ちゃんの小さな部屋に、お布団がふたつ。
懐かしい匂いがするお布団。
「電気消すよ」
「うん・・・」
小さい照明がひとつ。
お互いの顔も見れないくらい、小さい明かり。
「後藤さぁ、オトナになったよね」
「そうかなぁ〜」
「うん。そして、これからもあたしが想像つかないくらい
オトナになってくんだろうな〜・・・」
「オトナになっても、あたしはあたしだよ」
「うん、そうだね」
はっきりとは見えないけど、市井ちゃんが笑ってるように感じた。
市井ちゃん偉いよね。あたしの前じゃ涙見せないもん。
泣いてばかりのあたしとは大違いだよ・・・
「そうだ。前に貸したCDあるじゃん?」
「うん」
「あれね、あたしが洋楽を聴くきっかけになったCDなんだ」
「ふぅ〜ん・・・」
「あれ、あげるよ」
「でもあたし英語わかんないよぉ・・・」
「ふふふ、勉強しなよ。そうすればそのうちわかるようになるさ」
「そうかなぁ・・・ありがと」
このふたつのお布団が、今のふたりの距離なのかなぁ・・・
もっと縮めたいよぉ・・・
- 54 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月21日(土)23時35分47秒
- 「ねぇ市井ちゃん」
「ん?」
「そっちのお布団に行っていい?」
「ん?いいよ」
市井ちゃんのお布団に潜り込む。
・・・ちょっと狭いかな。
「さっきほめたばっかりなのに。後藤はやっぱりまだコドモだな」
「いいもん。あたしまだコドモでいい」
久しぶりにふたりして笑った気がする。
オトナの市井ちゃんと、まだまだコドモなあたし。
やっぱり、ずっとこのままがいいな・・・
「市井ちゃん・・・」
「ん?」
「なんでもない」
「ん・・・」
名前を呼ぶだけで、幸せになれる気がした。
名前を呼ぶだけで、もっと近づく気がした。
名前を呼ぶだけで・・・
(市井ちゃん・・・)
「大好き・・・」
- 55 名前:ムーミン 投稿日:2000年10月22日(日)01時13分22秒
- めっちゃ良かったっす。
中澤先生ありがとう〜〜!!
次回も期待してまっせ。
- 56 名前:なかざー 投稿日:2000年10月22日(日)01時56分21秒
- >>55はん
まだあんねん(w
もうちょっと待っとってや〜
- 57 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月22日(日)23時14分45秒
- それから一ヶ月後、市井ちゃんが留学する日。
空港には、市井ちゃんの家族とあたしん家の家族が、市井ちゃんの見送り。
「元気でやるんだぞ」
「時々手紙頂戴ね」
「頑張ってね」
「頑張れよ」
「うん、ありがと」
お互いの家族が、市井ちゃんに応援と別れの言葉を送る。
あたしは顔を上げられなかった。
市井ちゃんの顔を見たら、涙が出てきそうだ。
「ほら、真希ちゃんも何か言ってやって」
市井ちゃんのおじさんに背中を押された。
「う、うん・・・」
- 58 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月22日(日)23時15分29秒
- その時、市井ちゃんが乗る飛行機の搭乗の案内を告げるアナウンスが流れ出した。
「後藤・・・」
もうダメ・・・
あたしは泣いていた。
「市井ちゃん・・・これ・・・」
一通の手紙。
前日の夜に書いてきた物だった。
「うん、ありがと」
「市井ちゃん・・・がんばってきてね・・・」
「おぅ、がんばる。後藤もがんばれよ」
「うん・・・
市井ちゃん・・・」
あたしは市井ちゃんに抱きついた。
ごめんね市井ちゃん。もう涙は見せないつもりだったのに・・・
「そろそろ行かなきゃ・・・ごめんね後藤」
「うん・・・」
あたしは市井ちゃんの元を離れる。
最後に見た市井ちゃんの顔・・・
目には、少しだけ涙。
「じゃ、行ってくる。みんな元気でね!」
- 59 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月22日(日)23時16分26秒
- 市井ちゃんへ
留学がんばってネ!応援してるよー!!
でもやっぱしさみーしーじょ。。。
学校帰りとか行くばしょがなくなっちゃったりするし。。。
市井ちゃんの声がきけなかったりするとさびしいです。
やっぱ市井ちゃんって大きいんだネ。
話は変わるんだけど、いろいろそうだんにのってくれてありがとうネ。
けっこういろいろ市井ちゃんには話きいてもらってたもんね。。。。って
うえーん×2ヤダョー!!
これからどうするのさぁー!まあガンバルッキャないんだけど。。。
はぁー。ふぅ〜。う゛ーん。
おぅ〜し!!ガンバリマス!
だから市井ちゃんも夢かなえてネ!
おたがいガンバロウネ!
ps 本当にありがとう・・・・いつまでもいいねえちゃんだ!
後藤真希
- 60 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月22日(日)23時17分04秒
- 飛行機の中。後藤から貰った手紙を読んでみる。
(ふふふ・・・かわいいな後藤・・・)
汚い字。相変わらずだな〜・・・
「はぁ〜・・・」
ホントに来ちゃったんだな・・・
がんばらなきゃなぁ〜・・・
さっきまで我慢していた涙が、ふいにこぼれ落ちた。
(あれ・・・)
やっぱり淋しい・・・
自分が決めたこととはいえ、後藤と離れるのは・・・
(ごめんね後藤・・・ありがと)
(ありがと・・・後藤もがんばれ・・・)
- 61 名前:(初恋) 投稿日:2000年10月22日(日)23時27分01秒
- 「行っちゃった・・・」
涙が止まらない。
「真希帰るわよ」
「あたし寄ってくとこあるから」
「そう・・・じゃ、先に帰るわね」
「うん」
お互いの両親たちは、市井ちゃんの見送りを終え帰って行った。
あたしは・・・ホントは寄るところなんてない。
ひとりになりたかった。
しばらく空港のロビーで泣いた。
涙が止まるころ、あたしはタクシーで家の近くまで帰る。
(市井ちゃん・・・)
あたしは思い立って、市井ちゃんと遊んだ公園まで歩いた。
ふたりがお互いを理解できた場所へ。
ブランコに乗って、あの夜と同じように立ってこいだ。
留学に行った市井ちゃん。おいてけぼりなあたし。
それでもあたしはあたしだ。
いつまでも市井ちゃんに頼っていられないもんね・・・
市井ちゃんがんばってね。初めて心から思えた。
今まではやっぱり行って欲しくなかったんだね・・・
市井ちゃんがんばってね、あたしもがんばるから。
あたしは少しオトナになろうと思った。
だって、次に市井ちゃんと逢った時、コドモだと困るもんね。
「よぉ〜し、がんばるぞ!」
ひとりの公園に淋しく響いた。
でも負けない、あたし決めたんだもん。
「市井ちゃん、がんばれ〜!」
- 62 名前:第4回〜 投稿日:2000年10月22日(日)23時28分24秒
- はぁ〜・・・切ないわ・・・
紗耶香は今がんばってると思いますんで、応援したって下さい。
それにしてもいちごま難しいわねぇ。
名作が多いだけに難しいんやで・・・
>>27さん
ありがとうございます!
いしごまですね?考えてみます。
>>ムーミンさん
さやりか・・・実際にはあんまり絡みなさそうやなぁ・・・
>>30さん
あたしスか?恥ずかしいわ〜(w
でも矢口とならえぇかもな・・・
>>34さん
なぜやろ。市井ちゃん。
>>40さん
いつかの平家ちゃんも言っとったで?
初恋は実らへんから初恋なんやて・・・
>>43さん
すいません、予感通りとなってもうた(w
>>47さん
後藤はえぇね。何考えてるかわからんのが・・・
>>50さん
ありがとうございます!がんばらせていただきます!!
>>ムーミンさん
ごめんな〜もうちょっとあってん。
今度こそ終りやからな〜
さて、次回ですが、私情ながら忙しい毎日を送ってるこの頃。
講義のペースが落ちてしまうと思われます。
でも、ちゃんとやるから見たってな〜
次回は・・・ごめんな〜未定やねん(w
決まり次第、発表します。では。
- 63 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月29日(日)22時58分34秒
- がんばれ。応援してる。
ちなみに自分はさやまり希望。切ないやつ。
ごめんなさい、勝手なことばっかり言って。
- 64 名前:なかざー 投稿日:2000年10月29日(日)23時34分46秒
- さやまり・いちかお・いしごま・さやりかスか・・・
>>63
応援どうも〜♪
さやまり行っちゃいましょうかねぇ(w
せやけど、どんなシチュエーションで書けばえぇんやろな・・・
ちょっと時間くださいね(w
- 65 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月31日(火)22時30分40秒
- さやまりがんばってください。
- 66 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月04日(土)18時26分07秒
- 更新待ってます
- 67 名前:〜第5回 投稿日:2000年11月07日(火)00時34分50秒
- さて、始まりました恋愛談義。
今回は一番リクエストの多かった矢口と紗耶香のお話しです。
同期追加メンバーのこのふたり。
まぁ、いろんなことがあったんとちゃうかな・・・
あたしはこのふたりが内面も外面でも一番化けたかな〜って思ってんねんけどな。
どうなんやろ。
それでは、はりきってどうぞ〜
- 68 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月07日(火)00時35分47秒
- きっかけはささいなこと。
きっとあたししかワカラナイんだ。
だから、もしあたしの気持ちが変わったなんて知られたら・・・
コワっ!恐いなぁ〜・・・
- 69 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月07日(火)00時36分29秒
- (あたしの気持ちが気づかれませんように・・・)
祈る反面、気づかれることも少し期待してる。
だって、それがもしウマイ方向へ進んでくれたら・・・
そんなこと、あるはずないか。
少しでも考えた自分が恥ずかしかった。
(紗耶香・・・)
大好きな紗耶香。
ひとつ歳下の、しっかりしたオンナノコ。
- 70 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月07日(火)00時38分17秒
- その日から、バイトの時間はハラハラの連続だった。
あたしが唯一紗耶香と一緒に居られる時間なのにな〜。
この喫茶店は、あたしが散歩しててたまたま見つけたところだ。
たまたまバイトを募集してて、たまたま受かっちゃって・・・
そしてそこに紗耶香がいたんだ。
今はフツーに話せてるけど、最初はぎこちなかったなぁ。
お互いの名前を呼ぶ時だって、『さん』付けだったし。
今じゃ『紗耶香』『矢口』って呼び合ってるけどね。
とにかく、あたしが紗耶香を意識し始めてからは、大変だった。
ぎこちなくなるのがイヤだったけど、
それを意識すればするほどぎこちなくなっちゃうんだ。
例えば、紗耶香って呼ぶだけでも顔が紅くなっちゃったり・・・
反対に矢口って呼ばれてもなっちゃったっけ。
そんな時紗耶香は「どうした?」「具合悪い?」とか聞いてくれたんだ。
恥ずかしかったけど、すっごく嬉しかったよ。
- 71 名前:どうも。 投稿日:2000年11月07日(火)00時44分13秒
- さやまりリクした者です。
カンゲキっす!!ありがとうございますっ!!
矢口→市井が自分的に一番ツボなんだ〜!!
- 72 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月07日(火)03時04分13秒
- さやまりは癒し系だね
- 73 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月07日(火)23時15分58秒
- 「矢口〜、明日空いてる?」
バイト終了後、更衣室で紗耶香とふたりっきり。
「え?あ、明日?」
「うん、明日。都合悪い?」
「い、いや、別に大丈夫だけど?」
「よかった〜!明日一緒に買い物行かない?」
紗耶香からの誘い。断れるはず、ないじゃん。
「うん、いいよ」
「じゃ、明日の11時にここで待ち合わせね」
「うん」
(紗耶香と買い物かぁ〜)
ひとりだったら、飛び上がって喜びそうだ。
でも、今は目の前に紗耶香がいる。
そんなことしたら怪しまれるよな〜・・・
「どうした?矢口。顔紅いじゃん。具合でも悪い?」
(え?)
あたしははっとして鏡を探す。
手にした鏡に映ったあたしは、確かに紅くなっていた・・・
「え?いや、ほら、ここ暑いんだよ」
「そうか?ま、具合悪いんじゃなかったらいいや」
あたしは紗耶香のこのいい意味でずぼらなところも好きだ。
「じゃ、また明日ね。寝坊すんなよ〜!お疲れさま〜」
「うん、お疲れさま〜」
- 74 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月07日(火)23時16分53秒
- 紗耶香とふたりで買い物・・・
ふたりきり?デートじゃん!
(やった!紗耶香とデートだ〜)
帰り道。
気がつくと顔を紅くしてひとりでくすくす笑っていた。
周りの人のあたしを見る視線で気づいた。
また顔が紅くなった。
恥ずかしいなぁ・・・
でもいいんだ。
明日は紗耶香とデートだから。
・・・多分、紗耶香はデートだとかは思ってないんだろうな〜。
明日もぎこちないようにしなきゃ。
気づかれちゃったら全部がお終いになっちゃいそうだもんな。
はぁ〜、いつまで続くんだろ。
紗耶香と離れるのはイヤだし、でも言えないし・・・
・・・苦しいよ。
- 75 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月08日(水)22時59分34秒
- ジリリリリリリリリリリリリ・・・カチッ。
朝9時に目覚ましが鳴った。
「うぅ〜・・・ん。よし!」
勢いよく飛び起きて、タオルに向って行く。
まずはシャワーを浴びた。
その後朝食をとって、洗顔をする。
キレイになったところで、メイク開始。
紗耶香とデートなんだからキレイにしてかなきゃね。
いつもより気合いの入ったメイク。
・・・って言っても普段と変わんないんだけどさ。
メイクが終った頃には、時計の針は10時20分を指していた。
少しはやいけど・・・行こっかな。
「行ってきま〜す」
あたしはゆっくり歩いて行くことにした。
通りがけの道は、いつも歩く道なのになんだか新鮮だった。
(こんなところにこんな家あったっけ)
(あ、この店オシャレ〜!今度来てみよう)
などなど、いつも目に入ってるはずの物も、目新しい。
・・・浮かれてるのかな。
いかんいかん、落ちついてかなきゃ怪しまれる。
深呼吸をひとつ。
「よし!」
それでも気合いだけは抜けていなかった。
- 76 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月09日(木)16時03分37秒
- 矢口がんばれ〜
がんばって市井をゲットしろ〜
- 77 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月09日(木)22時57分37秒
- カランカラン。
喫茶店のドアが音を立てて開く。
「いらっしゃいま、な〜んだ矢口か。今日バイト入ってたっけ?」
ウェイトレスの圭ちゃんが店番をしていた。
「いや、今日は紗耶香と買い物に行くんだ。その待ち合わせ」
「そうなんだ〜。いいなぁ。たまにはあたしも連れてってよ〜」
「また今度ね。ほら、お客さん呼んでるよ」
「あ、は〜い」
圭ちゃんはお客さんの方へ歩いていった。
あたしは適当な席につく。
ちらっと腕時計を覗き込んだ。約束の11時までまだ10分近くある。
「ご注文は?」
圭ちゃんが注文を取りに来た。
「う〜ん・・・いいや。水をちょうだい」
「水だけ?待ち合わせに使うのはいいけど、営業妨害はしないでね」
さりげなく毒を吐く圭ちゃん。
「しないよぉ〜。いいや、水自分で持ってくるよ」
「あ、そんな意味で言ったんじゃないって。いいよ、あたし持ってきてあげる」
本人に悪気はないらしいけど・・・
「はい、水」
「ありがとう」
「紗耶香来ないねぇ。何時に待ち合わせ?」
「11時」
「アンタはやいって。何はりきってんのよ」
「別にはりきってなんか・・・」
さらっと痛いところをついてきた。恐いなぁ・・・
「そろそろ来るんじゃない?」
「うん・・・」
- 78 名前:名無し@都合により 投稿日:2000年11月09日(木)23時38分14秒
- やはりどの小説でも、保田の毒舌は外せないな(藁
- 79 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月10日(金)23時01分59秒
- カランカラン。
「いらっしゃ、なんだ紗耶香か〜。矢口もう来てるよ」
「はやいな〜。どこ?」
「うん、あっちの席」
「ありがとう」
目の前に紗耶香が姿を現わす。
ジーンズにシャツ、その上にジージャンを羽織ってる。
ボーイッシュって言葉がぴったりだ。
「どのくらい待った?」
「じ、10分くらいかな」
「何はりきってんのさ。あたしと買い物に行くことがそんなに嬉しいのかい?」
イジワルな笑顔を見せる紗耶香。
「そ、そんなこと・・・」
あるけど・・・
「ま、いいや。どこ行く?」
「どこでもいいよ。紗耶香いい店知ってる?」
「う〜ん・・・じゃあ駅前のデパートにでも行ってみる?」
「うん、いいよ」
紗耶香と一緒ならどこでも・・・
- 80 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月10日(金)23時02分57秒
- バスに乗って、駅を目指す。
昼間のバスはあんまり混んでなくていいな〜。
のんびり揺られていられるもんね。
隣に紗耶香がいるけど、近すぎて顔を見れないから、窓の外を眺める。
それでも頭の中は数センチ横のオンナノコのことで頭がいっぱいだ。
「・・・ち・・・矢口!」
「・・・え?」
「何ぼーっとしてんのよ。そろそろ着くよ」
「あ、うん」
頭の中の紗耶香に気をとられて、現実の紗耶香を忘れてた。
次第に人の多い方へ進んで、大きい建物の前で止まった。
「さ、行こっか」
「うん」
お金を払ってバスを降りる。
駅前はやっぱり混雑していた。
「お腹空いたねぇ。先に何か食べる?」
「うん」
うんしか言ってないよ。これじゃ怪しまれるじゃん。
せっかくのデートなんだから、もっと楽しまなくちゃ・・・
焦れば焦るほど、不自然な言葉が浮かんでは消えていった。
「何食べたい?」
「う〜ん・・・紗耶香は?」
「あたし?う〜ん・・・矢口の好きな物でいいよ」
「う〜ん・・・特にないなぁ」
「あたしも。じゃあファーストフードで軽く済ませちゃおっか」
「うん、それいいね」
このささいな会話で、久しぶりに自然な笑顔が戻った気がした。
- 81 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月11日(土)02時54分43秒
- 矢口純粋ですね、いい感じです。
- 82 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月11日(土)23時15分50秒
- 「矢口ってさぁ、身体小さいけどよく食べるよね〜」
「え?」
「だってほら、あたしのより多いじゃん」
「そ、そうかなぁ・・・」
「そういうとこ、あたしの幼なじみのコによく似てるんだよね〜」
「ふぅ〜ん・・・」
「そいつ普段はぼーっとしてるクセにさ、いざ食べる時になるとすごいんだよ。
矢口と一緒でさ」
「矢口ってそんなにすごいかなぁ・・・」
「あはは、冗談だって。そんなにすごくもないよ」
「ホント?」
「うん。でもあたしよりは食べるよね。小さいのに」
「もぉ〜小さい小さいって・・・どうせ矢口は小さいです!」
「あ、ゴメン。怒った?」
「ふん〜だ!」
「ゴメンってぇ〜。でもあたし、そんな矢口カワイイと思うよ」
「・・・ホントに?」
「うん。ギュってしたくなっちゃう」
「わぁ〜うれしいかな。でも、それってほめられてんのかなぁ・・・」
「ほめてるんだよ。そんなに気にすることじゃないよ」
「・・・うん。ありがと」
紗耶香がギュってしたくなるのなら・・・
今あたしが小さいことを気にしなくなったのは、この時の紗耶香のおかげだ。
- 83 名前:T.N 投稿日:2000年11月12日(日)05時26分01秒
- 楽しく、読ましていただいておりますが、是非とも講師の裕ちゃんも登場で、彩裕なんてのは...
- 84 名前:T.N 投稿日:2000年11月12日(日)05時27分10秒
- 楽しく、読ましていただいておりますが、是非とも講師の裕ちゃんも登場で、彩裕なんてのは...
- 85 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月12日(日)17時25分41秒
- 面白いです、頑張ってください。個人的には27の方と同じでいしごま読みたいです、けど
ちょっと厳しいかな、吉澤の立場もあるし
- 86 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月12日(日)23時36分39秒
- 「さて、行こっか」
「うん」
「先に矢口の方見ていいよ」
「じゃあねぇ・・・こっち」
あたしが少し先を歩いて、紗耶香を誘導する。
あたしの斜め後ろに紗耶香がついてくる。
このままずっとついてきてくれればいいのにな〜・・・
変な想像が思い浮かんで、恥ずかしくなった。
(ヤバイ、顔紅くなってないかな・・・)
思えば思うほど、顔に血が昇っていく。
悪循環だ。
「矢口どうした?顔紅いよ?」
「うぅん、なんでもないよ」
「そう?具合悪くなったらいつでも言ってよ」
「うん・・・」
具合悪いなんて言ったら帰れって言われそうだよ。
実際具合なんてどこも悪くないしさ。
それどころか、良すぎて困るくらいなのにね。
心配してくれる紗耶香に悪い気がした時、エスカレーターに乗った。
- 87 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月12日(日)23時37分37秒
- 「何階?」
「え〜っとね、4階かな」
「ギャル系のショップかな?」
「うん」
「矢口そういうの好きだよね」
「紗耶香はキライなの?」
「キライじゃないけどさ〜。自分が着ても似合わなそうだから」
確かにボーイッシュな格好をしてる紗耶香には似合わなそうだ。
「うん、似合わなそう」
「あ、ちょっとショック」
「あ、ゴメン。でも似合わなそうなんだもん」
「どうせあたしは似合いませんよ〜だ」
「さっきのお返しだよ〜。キャハハ・・・」
(ずっとこの時間が続けばいいのになぁ・・・)
「さ、4階着いたよ。どっち?」
「うん、こっち」
また紗耶香を誘導して、あたしの目的地へと向った。
約1時間。あれこれ迷った結果、1着の服と1足の厚底ブーツを買った。
「矢口ぃ〜、長すぎだよ〜・・・」
「ゴメンゴメン」
始めはついて歩いてくれてた紗耶香も、後半は近くのイスに座って待っていた。
そんな紗耶香を見て、あたしの買い物は長いって自分でも思ったよ。
「じゃ、次は紗耶香の方行こう」
「よし!じゃあこっちね」
- 88 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月13日(月)23時21分23秒
- 紗耶香の選んだ店は、カジュアルな服が多いショップだ。
そう言えば動きやすい服が好きだって言ってたっけ。
紗耶香はスカートよりもジーンズが似合うもんね。
そして、そんな紗耶香があたしは好きなんだよ。
「どれにしよっかな〜・・・」
「迷ってるの?」
「うん、ちょっとね・・・」
「試着してくれば?矢口が見てあげるよ」
「そう?じゃあ試着してみるよ」
そう言って紗耶香は、何枚かの服を持って試着室へ向った。
あたしもそれについて行って、紗耶香がカーテンを開けるのを待つ。
「ねぇ矢口、これどうかなぁ」
カーテンが開いて、1枚目を試着した紗耶香が現れた。
「このチェックの色カワイイと思うんだけどさ〜」
「うん、似合ってるよ」
「ホント?えへへ・・・。じゃあ次着てみるね」
「うん」
再びカーテンが閉まる。
あたしと紗耶香の間にある、この1枚の布。
すっごく薄いはずなのに、すごく厚い壁のように感じる。
そして同時に、あたしと紗耶香は遠く離れてるようにも思えてくるのが悔しかった。
1枚の布の向こうにいるオンナノコが、愛おしくてたまらなかった。
- 89 名前:名無し@都合により 投稿日:2000年11月14日(火)22時32分37秒
- やぐっさん一途やね〜、ほんま。
- 90 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月14日(火)22時56分21秒
- 「紗耶香はさぁ・・・好きなコとかいるの?」
「え?どうした?いきなり・・・」
1枚の厚い壁の向こうから、動揺したような声が聞こえる。
「う〜ん、なんとなくね」
「・・・いるよ」
「そ、そうなんだ・・・どんなコ?」
聞かない方がよかった・・・
けど、勢いで出ちゃった言葉は引っ込められない。
あたしの意志とは別の誰かが発せさせた気がした。
「ん〜とねぇ・・・いつも近くにいてね・・・
あたしが居なきゃなんにもできないようなやつでさ・・・」
「うん・・・」
「放っておけなくて、いつもあたしがなんとかしてやらなきゃって思うんだ。
気がついたら好きになっちゃってて・・・」
「そうなんだ・・・」
いつも近くにか・・・あたしじゃない。
羨ましい。
紗耶香を独り占めできるそのコが羨ましくて仕方がなかった。
「これはどうかな」
カーテンを開けて、紗耶香が着ている服を整える。
「このプリントどう?おもしろくない?」
「うん、おもしろいね。カワイイよ」
「そうでしょ?う〜ん、迷うな〜・・・じゃ、次ね」
「うん・・・」
- 91 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月14日(火)22時56分55秒
- 「紗耶香はさぁ・・・好きなコとかいるの?」
「え?どうした?いきなり・・・」
1枚の厚い壁の向こうから、動揺したような声が聞こえる。
「う〜ん、なんとなくね」
「・・・いるよ」
「そ、そうなんだ・・・どんなコ?」
聞かない方がよかった・・・
けど、勢いで出ちゃった言葉は引っ込められない。
あたしの意志とは別の誰かが発せさせた気がした。
「ん〜とねぇ・・・いつも近くにいてね・・・
あたしが居なきゃなんにもできないようなやつでさ・・・」
「うん・・・」
「放っておけなくて、いつもあたしがなんとかしてやらなきゃって思うんだ。
気がついたら好きになっちゃってて・・・」
「そうなんだ・・・」
いつも近くにか・・・あたしじゃない。
羨ましい。
紗耶香を独り占めできるそのコが羨ましくて仕方がなかった。
「これはどうかな」
カーテンを開けて、紗耶香が着ている服を整える。
「このプリントどう?おもしろくない?」
「うん、おもしろいね。カワイイよ」
「そうでしょ?う〜ん、迷うな〜・・・じゃ、次ね」
「うん・・・」
- 92 名前:なかざー 投稿日:2000年11月14日(火)22時59分19秒
- 同じのが2個出よった・・・
91は無視してな〜
- 93 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月14日(火)22時59分56秒
- 「矢口は?好きなコいるの?」
「・・・え?あたし?」
「うん」
「あたしは・・・あたしもいるよ」
「どんなコ?」
「そのコはね・・・歳下なんだ。でもしっかりしてて・・・
あたしよりもオトナっぽいんだよ」
(何言ってるんだろあたし・・・)
「へぇ〜、矢口コドモっぽいとこあるもんね」
「うん・・・それでね、いつも決まった時間しか逢えなくて・・・
そのコと逢える時間をいつも楽しみにしてるんだ」
(ダメだよ・・・バレちゃうよ・・・)
「ふぅ〜ん、矢口カワイイじゃん」
「・・・いつも優しくしてくれるし・・・たまにいじわるもするけどさ。
そのコのこと考えると胸が痛いんだ。苦しいんだよ・・・」
(・・・もう止まらないや)
気づいて欲しかったのかもしれない。
どっちにしても、紗耶香はあたしのとこには来ないから・・・
いっそのこと、キライになってくれれば諦めがつくかもしれない。
楽になれるかもしれない。
あたしからは紗耶香をキライになんてなれないから。
- 94 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月15日(水)23時41分37秒
- 「これはど・・・矢口?」
「・・・え?」
「どうしたの?泣いてるじゃん」
涙が流れていた。紗耶香が曇って見えた。
「でも・・・そのコね、他に好きなコがいるんだって・・・
あたし・・・そのコのこと好きで好きでたまらないんだよ」
「矢口・・・」
「ねぇ紗耶香・・・あたしどうすればいいのかわからないよ・・・」
「・・・ちょっと待ってて」
そう言うと紗耶香はカーテンを閉めて、元の服になってすぐに出てきた。
試着した服を戻して、あたしのところに戻ってきた。
「さ、行こう」
「ど、どこに?」
「いいから。ついて来て」
「う、うん・・・」
紗耶香があたしを誘導して、どんどん進んで行く。
いろいろなショップを横切って、フロアのはじの方へ進んで行く。
(・・・化粧室?)
目に入った文字。
- 95 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月15日(水)23時42分28秒
- 紗耶香が中に入る。あたしもついて行く。
一番はじの個室をノックして応答がないのを確認した紗耶香は、ドアを開けた。
「入って」
「え?え?」
「いいから入ってって」
「う、うん・・・」
言われた通りに紗耶香が選んだ個室に入る。
後から紗耶香も入って、鍵を閉めた。
「泣いていいよ。あたしの胸、貸してあげる」
「さ、紗耶香・・・」
「泣きたい時は、我慢しないで泣いた方がいいんだよ」
「・・・ありがと」
あたしは紗耶香に抱きついて、泣いた。
紗耶香はあたしの頭をなでてくれてた。
紗耶香の優しさが、余計にあたしの涙の量を増やした。
言いたかった。
でも言えなかった。
紗耶香の優しさが痛くて言えなかった。
痛くて痛くて、また涙が増えた。
- 96 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月15日(水)23時43分17秒
- 「・・・ありがと、もう大丈夫だよ」
紗耶香から離れて、目をこすった。
「矢口・・・ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ」
「なに?」
「矢口はさ、夢とかってある?」
「夢・・・今は特にないよ」
「あたしさ、小さい頃から歌手になりたかったんだ」
「ふぅ〜ん」
(そっか、紗耶香は歌手になりたかったんだ・・・)
「それでね、最近いろんな音楽聴いててさ、
自分で歌も作りたいって思うようになってきたんだ」
「そうなんだ。すごいね」
「うん・・・だからね・・・留学することにしたんだ」
「え?いつ?」
「今年の夏休みから」
「え・・・もう少しじゃん。どれくらい?」
「わからない・・・
すぐ帰ってくるかもしれないし、当分帰ってこないかもしれない」
「そ、そっか〜・・・」
紗耶香の夢。
あたしの想いは重荷になっちゃうよね。
- 97 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月15日(水)23時44分53秒
- 「でもね、あたしは絶対帰ってくるよ。
もっと大きくなって、デビューする。約束するよ」
「お、言ったな〜?」
「だからさ、矢口には応援してて欲しいんだ」
「応援するよ!」
「ありがと」
「それにしても、そんな大事な話しをトイレでするなんて・・・
紗耶香って面白いよね」
「そ、それは矢口が泣いてたからじゃん」
「あ、矢口のせいなの?そんなこと言うとまた泣いちゃうぞ!」
「ごめん、それだけはやめて・・・」
「ひどいなぁ。キャハハ・・・」
「あはは・・・」
ふたりでトイレを出て、いろいろなショップを横切った。
エスカレーターの近くまで来た時に、紗耶香が乗った。
「あ、あれ?服はいいの?」
「うん、いいよ」
あたしも慌てて乗って、紗耶香のとこまで歩く。
「ごめんね、矢口が泣いちゃったから・・・」
「いいんだって。実はあんまり気にいったのなかったから」
「・・・ありがと」
「ん?」
「なんでもないよ〜だ」
- 98 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月16日(木)22時47分00秒
- 1階まで降りて、デパートを出た。
近くのゲームセンターにプリクラの台があるのを発見した。
「ねぇ矢口、プリクラ撮ろっか」
「お、いいね〜。撮ろう撮ろう」
ゲームセンターまで歩いた。
今度はどっちが誘導するでもなくて、ふたり並んで。
留学しちゃう紗耶香との最後の写真になるかもしれないんだよな・・・
本音はやっぱり行って欲しくないよ。
でも・・・でもね。
あたしは紗耶香が好きだからこそ、応援するんだ。
好きだからこそ、頑張って欲しいんだ。
そう思うと、我慢できそうな気がするんだよ。
プリクラの台の前にふたり並んで、お金を入れた。
「どのフレームがいいかなぁ」
「できるだけ広いほうがいいんじゃない?」
「そうだねぇ。じゃあこれかな」
紗耶香が選んだのは、プーさんのフレーム。
「あ、これ文字入れられるんだって。どうする?」
「紗耶香選んでいいよ」
「う〜ん・・・じゃあシンプルに今日の日付けにしとくね」
「うん、いいよ」
「タイマー機能はオンで・・・よし、いくよ」
「うん・・・」
『3・2・1』
カシャ。
- 99 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月16日(木)22時47分47秒
- 夕暮れの紅が、切なく車窓を覗き込んだ。
あたしと紗耶香は無言で帰りのバスを過ごした。
言いたいことは言えないままだ。
言えない方がいいと思った。
あたしはずっと紗耶香の友達だけど、それでもいいんだ。
だって、紗耶香はがんばるって言ってるんだから。
今日撮った日付入りのプリクラは、一生の宝物だよ。
あたしが紗耶香を好きになった記念。
紗耶香を応援する約束をした証。
忘れないように大事にとっておくよ。
だから紗耶香もさ、これを見て応援してる人がいるってこと、忘れないでね。
ダイスキダヨ・・・
- 100 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月16日(木)22時52分16秒
- バスが停車した。
夕焼けに染まる紗耶香の顔がまぶしかった。
「まだバイトは辞めないんでしょ?」
「うん、まだ辞めないよ」
「よかった」
「うん」
残り少ない、紗耶香と過ごす時間を大切にしよう。
あたしが好きになった、紗耶香と過ごす時間。
もしかしたらもう逢えないかもしれないしね。
うぅん、絶対逢えるよ。
そしてその時紗耶香は自分の夢を叶えてるんだよね。
あたしの気持ちは、その時に言わせてもらうよ。
それまでは友達として紗耶香を応援するんだ。
「じゃ、あたしこっちだから。また泣きたくなったら言ってよ。
いつでも胸貸すからさ」
「うん、ありがと。もう大丈夫だよ」
「また明日ね」
「うん、バイバイ・・・」
「バイバイ」
- 101 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月16日(木)22時52分49秒
- それから半月後、紗耶香と過ごす最後のバイトの日。
大切に大切に過ごしてきた、最後の日。
バイトが終った後、3人で別れを惜しんでた。
紗耶香は少し淋しそうだ。
「ねぇ紗耶香。留学して淋しくなったらいつでも電話してきてよ」
「うん、ありがと。矢口もね」
「うん」
「紗耶香が居なくなると淋しくなるよ」
圭ちゃんも紗耶香を慕ってるんだね。
「あたしも圭ちゃんに逢えないのは淋しいよ」
「手紙ちょうだいよ」
「うん、落ちついたら書くね」
「あ、矢口にもちょうだい!」
「うん、わかった」
あたしはもう泣きだしそうだった。
圭ちゃんの目も潤んでた。
紗耶香は・・・淋しげな笑顔だ。
「紗耶香、がんばってね」
「ありがと。圭ちゃんもね」
「うん」
- 102 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月17日(金)00時25分09秒
- 最後はさやまりになりますよね…?
矢口の片思いじゃなく……。
- 103 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月17日(金)01時20分39秒
- >>102
読んだかぎりじゃ幼なじみの子を好きみたいだけど?
- 104 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月17日(金)23時41分32秒
- 「・・・紗耶香」
「・・・」
「ごめんね紗耶香・・・あたし・・・」
(もうダメ・・・)
泣いちゃった。涙を止められなかった。
「ごめんね・・・ホントは笑って送りださなきゃイケナイのにね・・・
やっぱり紗耶香が居なくなるのは淋しいよぉ・・・」
「矢口・・・」
紗耶香は、あたしの頭を優しく抱いてくれた。
また紗耶香の胸を濡らしちゃったよ。
ダメだね、あたし。
「紗耶香・・・がんばってね・・・応援してるからね・・・」
「うん・・・ありがと」
3人は、固まって外に出た。
初夏とは言っても、夜の風はまだ寒かった。
人通りの少なくなった街。
街灯だけが照らしてる、薄暗い道。
まだはっきりとは見えないあたしの前途を見ているようだ。
先を見ることができた紗耶香。
置いていかれるのは当たり前だね。
「じゃ、紗耶香。元気でね」
「うん、圭ちゃんもね」
「矢口はまた明日ね」
「うん」
「バイバイ」
『バイバイ』
- 105 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月17日(金)23時42分16秒
- あたしと紗耶香の家は、途中まで同じ方向だ。
圭ちゃんには悪いけど、最後にふたりきりになれてよかった。
「紗耶香・・・さっきはゴメンね」
「うん、いいよ」
気がついたら、紗耶香と普通に話せてた。
留学の話しを聞いてからかな・・・
もっといっぱい話したかったけど、しょうがないよね。
「ねぇ矢口。これ、あげるよ」
「なに?」
「あたしの大好きな人のCDだよ。聴いてみて」
「うん、ありがと」
「考えてみたらさ、あたしと矢口がバイトに入った時期って一緒だったよね」
「あと圭ちゃんもね」
「うん。でもさ、矢口と一緒にバイトしてる方が多かったじゃん?」
「うん」
「今までありがとうね」
「うぅん、あたし紗耶香に甘えてばっかりだったね。歳上なのにさ」
「そんなことないよ。あたしだって矢口に甘えてたとこ、あるよ」
「そうかな・・・」
「そうだよ。見えなかったかもしれないけど、矢口に助けられたとこいっぱいあるもん」
「そっか・・・」
- 106 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月18日(土)23時35分21秒
- ふたりの分岐点が見えてきた。
ここから先は、もう一緒には歩いて行けないんだね。
「ホントにがんばってね」
「うん、がんばるよ」
「デビューできたら逢おうね。いつになるかわかんないけどさ」
「あ、ヒドイなぁ」
「キャハハ・・・」
「あはは・・・」
「紗耶香・・・ありがとね」
「うん、こちらこそ」
「元気でね」
「矢口もね」
「バイバイ・・・」
「バイバイ・・・」
あたしは振り向かないと決めた。
紗耶香の背中を見ちゃうと、追いかけちゃいそうだから。
目の前に広がる、あたしの道。
真っすぐ歩いて行けば、いつかまた紗耶香に逢える気がしたから。
- 107 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月18日(土)23時36分53秒
- ふたりの分岐点が見えてきた。
ここから先は、もう一緒には歩いて行けないんだね。
「ホントにがんばってね」
「うん、がんばるよ」
「デビューできたら逢おうね。いつになるかわかんないけどさ」
「あ、ヒドイなぁ」
「キャハハ・・・」
「あはは・・・」
「紗耶香・・・ありがとね」
「うん、こちらこそ」
「元気でね」
「矢口もね」
「バイバイ・・・」
「バイバイ・・・」
あたしは振り向かないと決めた。
紗耶香の背中を見ちゃうと、追いかけちゃいそうだから。
目の前に広がる、あたしの道。
真っすぐ歩いて行けば、いつかまた紗耶香に逢える気がしたから。
- 108 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月18日(土)23時37分35秒
- 家に着くと、もう8時を過ぎていた。
紗耶香に貰ったCDを聴いてみよう。
カワイイ袋に入ったCDを取りだして、ジャケットを見た。
「ドリカムの・・・LOVE LOVE LOVE・・・」
CDをコンポに入れて、再生ボタンを押す。
聴いたことのあるメロディが流れて、あたしは歌詞を見つめた。
- 109 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月18日(土)23時38分14秒
- 〜ねぇ どうして すっごくすごく好きなこと
ただ 伝えたいだけなのに ルルルルル
うまく 言えないんだろう・・・
ねぇ せめて 夢で会いたいと願う
夜に限って いちども ルルルルル
出てきてはくれないね
ねぇ どうして すごく愛してる人に
愛してる と言うだけで ルルルルル
涙が 出ちゃうんだろう・・・
ふたり出会った日が
少しずつ思い出になっても
愛してる 愛してる ルルルルル
ねぇ どうして
涙が 出ちゃうんだろう・・・
涙が 出ちゃうんだろう・・・
LOVE LOVE LOVE 愛を叫ぼう 愛を呼ぼう
LOVE LOVE LOVE 愛を叫ぼう 愛を呼ぼう〜
- 110 名前:(小さな恋) 投稿日:2000年11月18日(土)23時38分45秒
- そっか、紗耶香もあたしのこと応援してくれてるんだよね。
あたしの好きな人は紗耶香だってこと知らないで・・・
愛を叫ぼう、か・・・紗耶香、大好きだよ。
紗耶香に嫌われないように、あたしは強くなろうと思った。
だって、いつも泣いてばっかりだと迷惑だしね。
今度はあたしが紗耶香の相談にのってあげられるようになろう。
今までゴメンね。
がんばってね紗耶香。
あたしもがんばるからね。
・・・ありがと。
- 111 名前:第5回〜 投稿日:2000年11月18日(土)23時41分04秒
- 矢口カワイイわ・・・
ホントの恋をすると一途になるもんやで、きっと。
>>65-66さん >>71さん
ゴメンな〜、待たせてもうたな〜。
期待にそえる物かわかれへんけど、違ったらゴメンな〜。
>>72さん
なんかこのふたりはシットリしてはる気がすんねんけどな〜。
どうなんやろ。
>>76さん
矢口は進んで身を引きました。
その方が紗耶香のためやと思ったんでしょうね。
>>78さん
せやなぁ、圭ちゃん出すと毒吐いてまうなぁ(w
>>81さん
矢口はほんまは純粋なコやで・・・きっと(w
>>83さん
彩っぺとあたし?せやなぁ・・・考えときます。
>>85さん
後藤と石川ですね。パターン変えてまえばできそうやけど・・・
>>89さん
そんな矢口がカワイイねんで。
>>102さん
ゴメンな〜、前のとつじつま合わせると紗耶香は後藤になってまうねん。
両想いを期待してたんなら、素直に謝ります。ほんまごめんなさい。
>>103さん
フォローどうも〜
最近本業の方が忙しうて、一気に書かれへん。
せやから、うちも今回は消化不良みたいな感じもしてんねん。
次頑張るから、応援したってください。
ほな。。
- 112 名前:FANTASISTA 投稿日:2000年12月02日(土)00時55分00秒
- 新しい話が読みたいので期待上げ。
- 113 名前:〜第6回 投稿日:2000年12月05日(火)23時13分33秒
- ご無沙汰ぶり!
少々間が開いてもうたけど、やらせてもらうで。
前回に引き継いで、矢口が主役です。
相手は・・・まぁ、気にせんと(w
ほな、いってみよか。
- 114 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月05日(火)23時14分43秒
- Dear 紗耶香
元気でやってるかい?矢口は元気だよ。
紗耶香が居なくなった日本はなんだか淋しいよぉ。
でもガマンするよ。紗耶香もがんばってるんだしさ。
矢口も負けないぞ!ってね。
それと、応援してくれた紗耶香には悪いんだけどさ・・・
矢口はあきらめることにしたよ。
だって、そのコ、今は夢しか見れないみたいだしね。
矢口はそのコを応援することにしたんだ。
ありがとね。
そうそう、一緒に働いてたあの喫茶店ね、
最近経営者が変わったみたいなんだ。
バイトの矢口と圭ちゃんはそのままなんだけど、店長さんが代わったよ。
今度の店長さんはね・・・
- 115 名前:FANTASISTA 投稿日:2000年12月06日(水)02時27分56秒
- やった! ついに来たぞ!(w
- 116 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月06日(水)23時02分35秒
- 「矢口ぃ〜、チュウさせてぇな」
「イヤです!やめてください!」
「そんなこと言わんと、な?1回だけやから」
「イヤ〜〜〜」
逃げ回るあたし。
追いかける店長。
呆れ返る圭ちゃん。
喫茶店とは思えない風景だ。
「店長ぉ〜そろそろお店開ける時間ですよ〜」
「もうそんな時間かいな?しゃあないなぁ、矢口またあとでな〜」
圭ちゃんの助け船。
店長は名残惜しそうに、ドアの鍵を開けに行った。
「矢口、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫・・・」
「朝からこんなんじゃ疲れちゃうでしょ」
「うん・・・」
プレートを"OPEN"に代えて、店長は戻ってきた。
「せや、もっと交流を深めるために、店員の間で敬語禁止な」
『えぇ!?』
「うちのことも店長呼んだらあかんで。呼んだら辞めさすからな」
「じ、じゃあなんて呼べば・・・」
「せやなぁ、裕ちゃんて呼んでや〜」
- 117 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月06日(水)23時23分21秒
- おっ、講師御自ら登場だ〜
- 118 名前:いずのすけ 投稿日:2000年12月07日(木)09時48分57秒
- 中澤講師がんばってください!!
- 119 名前:(愛のカケラ) 投稿日:2000年12月07日(木)23時26分52秒
- 『いらっしゃいませ〜』
今日ひとりめのお客さんを迎えた。
「なぁ矢口、前はもうひとり店員居てはってんやろ?」
「は・・・あ、うん」
「もうひとり入れた方がえぇんかなぁ」
「て・・・裕ちゃんが決めることでしょ」
敬語からタメ口に、急に変えるのは難しいな。
「そうなんやけどなぁ・・・どないしよ」
今すぐに紗耶香の居た場所を無くすのは、正直イヤだ。
「圭ちゃんはどう思う?」
あたしと同じ考えでいて欲しいと祈りつつ、圭ちゃんにふった。
「あたしは・・・もう少し様子を見てからでいいと思うけどな〜」
よかった、圭ちゃんも同じみたいだ。
「じゃあもう少しこのままで行こか」
あたしに空いた紗耶香の穴はどれくらいで埋まるんだろうね・・・
- 120 名前:(愛のカケラ) 投稿日:2000年12月07日(木)23時27分37秒
- あんまりこまないこのお店は、ウェイトレスふたりでも十分順調だった。
忙しくはなかったけど、暇でもない。
紗耶香が居た頃はよく暇だってぼやいてたっけ。
「矢口ぃ〜、ランチセットあがったから持ってって〜」
「は〜い」
メニューと水を運び、オーダーをとって、出来上がった料理を運ぶ。
会計をして、手が空いたら掃除をして、それ以外は店員同士の雑談。
気軽にやっていけるから、あたしも紗耶香も圭ちゃんもこの店が好きだった。
(紗耶香、今ごろ何してるかな・・・)
手が空くたびに紗耶香のことばかり考えちゃうよ。
ダメだね、あたし。
「ねぇ矢口、紗耶香から手紙きた?」
手が空いた圭ちゃんがあたしに聞いた。
「え?あ、うん。圭ちゃんは?」
「あたしんとこにもきたよ。元気でやってるみたいだね」
「うん・・・」
「いいな〜夢かぁ。あたし何やりたいんだろ・・・」
「紗耶香はそれを矢口たちよりはやく見つけたんだよね。
矢口も圭ちゃんも、紗耶香に負けないようにがんばらないと」
「うん、そうだね」
- 121 名前:(愛のカケラ) 投稿日:2000年12月08日(金)22時52分26秒
- 「なになに?なんの話しや?」
て・・・裕ちゃんも暇そうに話しに割り込んできた。
「前にここで働いてた人のことを・・・」
「ほぉ、そういえば、なんで辞めたん?」
「そのコ、夢を叶えるために留学に行ったんだよ」
圭ちゃんが説明する。
圭ちゃんって当たり障りのないタメ口の使い方、ウマイよね。
「夢かぁ。あたしも夢あってんけどな〜・・・なかなか叶わんもんやで。
せやけど、それに向って努力することはえぇことや、うん」
裕ちゃんは、遠いところを見つめていた。
「裕ちゃんの夢ってなんだったの?」
「ん?まぁ・・・、それは聞かんといて」
笑ってごまかす裕ちゃん。気になる。
「あんたら夢はないんか?小っちゃいことでもえぇで」
「今は・・・特にないかな〜」
と、圭ちゃん。
「あたしも特に・・・」
特にないよな〜・・・
紗耶香はやっぱりすごいよ、こんなにはやく見つけちゃうなんて。
- 122 名前:(愛のカケラ) 投稿日:2000年12月08日(金)22時53分30秒
- 「なんや、ないんかい。まぁ、ゆっくり見つけてったらえぇんとちゃうかな。
まだ若いんやし、焦る必要もないで。そういうあたしもまだ若いんやけどね」
「なんで自分でフォローしてんのさ。裕ちゃんって歳いくつ?」
圭ちゃんって、馴染むのもはやい。
「・・・26」
「フォローする歳でもないじゃん」
「せやけどな、この歳で管理職してるとな、自分より若いコと働くことが多いねん。
なんかもう、それほど若くないように思えてきて・・・」
「そんなことないよ。そりゃ10代のコと比べれば・・・」
おいおい圭ちゃん、それはフォローのつもりかい?
「26はまだ若いよ、ね?矢口」
「え?あ、うん、若い若い!」
ふいにふられたから、ついそのまま口に出てしまった。
「ほんまか?なんか実感こもってへんような感じがすんねんけど・・・」
「そ、そんなことないよぉ。裕ちゃんまだ若いって」
「まぁえぇわ、ありがとね」
その日は結局、店員同士の雑談をメインに閉店の時間を迎えた。
- 123 名前:なかざー 投稿日:2000年12月09日(土)23時00分54秒
- タイトル変わってもうた(汗
(愛のカタチ)がほんまの方ね。
- 124 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月09日(土)23時02分13秒
- 「矢口ぃ〜お別れのチュウ〜」
「イヤだぁ〜」
「じゃ、あたし先に帰るわ。お疲れさま〜」
「あ、圭ちゃん待って、矢口も・・・」
圭ちゃんはさっさと出て行ってしまった。
(裕ちゃんとふたりきり・・・コワッ!なんかコワイよぉ〜)
「なぁ矢口、あたしのことキライなんか?」
「そ、そんなことないけど・・・」
「それならチュウしてくれたってえぇやん」
「それとこれとは別だって!」
「なんや冷たいなぁ・・・」
・・・なんとか諦めたみたいだね。
「なんでそんなにキスしたいの?」
な、なにを聞いてるんだあたしは。
「ん?せやなぁ・・・矢口がカワイイから」
「え・・・」
「うそやで。あたしのキスは挨拶みたいなもんやねん。
ほら、外国だと挨拶変わりにキスしとるやろ」
「ここは日本だよぉ」
「あたしはワールドワイドな人間やから」
ワケわかんないよ。
- 125 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月09日(土)23時02分43秒
- 「せやけど、矢口がカワイイいうのはほんまやで。
抱きしめたい思うもん」
(・・・紗耶香にも言われたっけ)
「ほな、帰るで」
「あ、うん・・・」
不思議な気持ちに囲まれたまま、裕ちゃんの後についてお店を出た。
「気ぃつけて帰るんやで」
「うん、裕ちゃんもね」
「アホ!いくつや思とんねん!ほな、また明日な。お疲れさん」
「お疲れさま〜」
不思議な気持ち、まだ残ってるよ。
なんだろう・・・
前にもあったような・・・
・・・翌朝。
「矢口ぃ、おはようのチュウ〜」
「イヤだってぇ〜」
少しもあきらめてないじゃん・・・
- 126 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月10日(日)00時48分42秒
- お♪この展開はもしかして…
- 127 名前:りるる 投稿日:2000年12月10日(日)03時11分16秒
- いやよいやよも好きのうちって感じで、
矢口の気持ちが裕ちゃんへ・・・
続き待ってま〜す!
- 128 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月10日(日)03時41分04秒
- 姐さん、相変わらずやな
- 129 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月10日(日)22時56分08秒
- 「なぁ、明日休みやろ?みんなで遊ばへん?」
いつもの喫茶店業を終えてからの更衣室。
「どうせ暇やろ?」
「それは裕ちゃんのことでしょ?」
間髪入れずに、圭ちゃんは相変わらずだよ。
「あたしは別にいいよ。矢口は?」
「矢口も大丈夫だけど」
「ほな、どこ行く?」
「どこって別に・・・裕ちゃん行きたい所ないの?」
「あたしは来たばっかやし、この辺わからへんのよ。
なんかおもろいとこないんか?」
「おもしろいとこねぇ・・・」
今はデパートだけはイヤだな・・・思い出が崩れちゃいそうな気がするから。
- 130 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月10日(日)22時57分39秒
- 他の所・・・
「そうだ、裕ちゃん家なんてどう?」
「え?」
「あ、いいねぇ〜、そうしよう」
「あかんて!ほんま、勘弁してぇ〜」
「言い出しっぺは裕ちゃんなんだからね〜」
「そうそう、責任取ってよ」
「責任て・・・」
こんな時の圭ちゃんは頼もしいよ。
「ちょっと遊びに行くだけだからさ、ね?」
「・・・しゃあないなぁ。なんも出ぇへんで?」
「どうぞ、おかまいなく〜」
「はよ帰って掃除しとかな・・・」
「待ち合わせはここでいい?」
「えぇで。朝の10時くらでえぇか?」
『うん』
「ほな、また明日。お疲れさん」
『お疲れさま〜』
- 131 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月10日(日)22時58分18秒
- 裕ちゃん家かぁ、ちょっと楽しみだよ。
どんなとこ住んでるんだろ。
普通のアパートとかかなぁ。
意外とマンションだったりして。
どんな部屋なのかな。
普段は散らかってるみたいだね、掃除しとかなきゃってことは。
意外とずぼらだったりするのかな。
あたしも・・・人のこと言えないよな〜。
いつもと違う感じがした夜の道。
いつもは使わない歩道橋なんか昇ったりしてみた。
いつもより月が近く、優しく感じた。
ふんわりした気分で、明日の裕ちゃんのことばかり考えながら帰った。
- 132 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月10日(日)23時05分36秒
- イイ感じ!
- 133 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月10日(日)23時07分34秒
- 裕ちゃんの部屋に、期待!どんなのだろう!意外と大金持ちの、お嬢様なんてのは・・・
- 134 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月11日(月)23時04分48秒
- プルルルル・・・
誰だよ、こんな朝早くから・・・
「・・・もしもし」
「あ、矢口?もしかして寝てた?」
圭ちゃんか。朝から元気だね。
「うん・・・」
「ゴメンね〜」
「うん、いいよ。どうしたの?」
「あたしさ、どうしてもはずせない用事入っちゃって今日行けくなったから」
「えぇ?」
「裕ちゃんにもそう言っといてね」
「・・・うん」
「襲われそうになったら大声出して逃げるんだよ」
笑いながら言ってる・・・けど、笑いごとじゃないよ。
「うん」
「じゃ、また明日バイトで」
「は〜い、バイバーイ」
ピッ!
- 135 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月11日(月)23時05分30秒
- どうしよう、やっぱり行ったほうがいいのかな。
ちょっと恐い気もするけど、裕ちゃん用意して待ってるだろうしな〜。
う〜ん・・・いいや、行くだけ行ってみよう。
そう決めると、タオルを持ってバスルームへ向った。
髪を乾かして、朝食を食べる。
洗顔して、メイクタイム・・・
あれ?前にもこんなことあったような・・・
ま、いっか。
そろそろ出たほうがいいかな?
「行ってきま〜す」
- 136 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月11日(月)23時06分11秒
- 休日にバイト先に向うのは、いつも変な気がするなぁ。
今日はドキドキとワクワクが混ざってる感じだよ。
恐いけど、楽しみ。
あたしさえ気をつけてれば、きっと大丈夫・・・だよね、うん。
変に気合いが入った気がして、少しおかしかった。
お店までは、歩いて15分くらいで着く。
いつもと変わらない風景、いつもと同じ道。
それでもこの時間は新鮮だった。
昨日の歩道橋に指しかかる。
「う〜〜〜ん、よし!」
軽くのびをして、勢いよく階段を駆け登った。
初夏の日差しが、心地良くあたしを刺す。
なんとなく気分のいい日だ。
誰かに教えてあげたい、そんな気分だよ。
でも、一体何を教えるんだ?
- 137 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月12日(火)01時11分29秒
- 今日は、ここまでですか?明日も宜しくです!楽しみに、しています!
- 138 名前:FANTASISTA 投稿日:2000年12月12日(火)02時04分04秒
- 続きが見たい…
- 139 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月12日(火)23時43分08秒
- 喫茶店が見えてきた。
あたしはチラっと、短針と長針が9時52分を指した腕時計に目をやった。
(・・・少し早かったかな?)
う〜ん、待つしかないよね。
待つのはキライじゃない。
お店の前にある3段しかない階段に座った。
あたしたちは休日でも世間はまだ木曜日だから、少しせわしない。
全然知らない人を観察してるのもおもしろいと思った。
いろんな人にいろんなストーリーがあって、それを想像してると飽きない。
「なんや、矢口はやいな。もう来とったんかいな」
「あ、裕ちゃんおはよ〜」
「おはようさん。ほな、チュ・・・」
「あ、そうそう!」
「な、なんやねん」
「圭ちゃんどうしてもはずせない用事が出来て来れないって」
「ほんまに?う〜ん、残念やなぁ」
・・・一瞬だけ目が光ったように見えたのは、気のせいなのかな。
- 140 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月13日(水)02時11分05秒
- ゆーちゃんの目がキラーッと光って獲物を捕らえたようですね。
気をつけろ矢口
襲っちゃえゆーちゃん
- 141 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月13日(水)22時56分17秒
- 「ほな、行くで」
「うん」
気分のいい日、誰かと並んで歩くのも気持ちよかった。
隣にいるのは、裕ちゃん。
ちゃんと前を見て歩いてるよ、偉いね。
「なぁ矢口」
「ん?なぁに?裕ちゃん」
「な、なんや急に優しくなったりして。なんか気持ち悪いで」
「そう?フツーじゃん」
「まぁえぇわ。今日は何時ぐらいまで居られるん?」
「そうだねぇ・・・夕方ぐらいまでかな」
「夕飯は食べて行かへんの?」
「その時の気分しだいかな〜」
「はっきりせぇへんなぁ」
「まぁいいじゃん。その時に考えればさ」
「せやけどなぁ・・・」
「なに?裕ちゃんなんかおごってくれるの?」
「ア、アホ!あたしかて金ないゆうねん!」
「な〜んだつまんない」
「つまんないて・・・矢口なぁ・・・」
他愛のない会話とあたしの気持ちが、いくらでもはずむ。
- 142 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月13日(水)22時56分49秒
- 「裕ちゃん家って近いの?」
「もうそろそろ見えてくるんちゃうかな」
(な〜んだ、結構近いんじゃん)
喫茶店から5分くらい歩いたかな。
どんな家なんだろ。この辺だとマンションなのかな?
ワクワクがドキドキよりも強くなってきたよ。
「ほら、あれがそうやで」
「え、どれどれ?」
「あれや、あのコンビニの隣の・・・」
「お〜、あれがそうか〜」
何階建てだろ・・・一目じゃわからないくらいのマンションだ。
まだキレイだから、新しい感じがする。
「コンビニでなんか買ってく?」
「ん、えぇわ。飲み物ぐらい用意しとるから」
「ホントに?ありがと〜」
- 143 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月13日(水)22時57分44秒
- 「ねぇ裕ちゃん、何階?」
「7階」
「もしかして階段で昇るの?」
「そうやで〜、がんばらな」
「うっそぉ〜!毎日大変だねぇ」
「嘘や嘘。ちゃんとエレベーターついてんねんで」
「そうだよね、7階まで階段だとねぇ・・・」
「そんなんやったらあたし住まへんわ。エレベーターこっちやで」
「あ、うん」
エレベーターかぁ。いいとこ住んでるよ。
家賃高そうだね。いくらなのかな・・・
「ねぇ裕ちゃん、家賃どのくらい?」
「8万5千円」
「や、矢口のバイト代・・・」
「その代わり結構住み心地いいんよ」
「そうだよね〜、コンビニも職場も近いし」
いい暮らししてるなぁ・・・
チン。
エレベーターのドアが開いた。
- 144 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月14日(木)03時05分10秒
- エレベーターか・・・
気づかなかったけど、おもいっきり個室じゃん。
どうか裕ちゃんが変な気起こしませんように・・・
そうだ!なんかしゃべってれば変な気も起きないよね。
なんかしゃべらなきゃ・・・
こんな時にかぎって、話題が思い浮かばない。
裕ちゃんからも話してこないし・・・
何か考えてるのかな?
チン。
「ついたで」
心配するほどでもないくらい、7階はあっという間だった。
- 145 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月14日(木)23時16分17秒
- 「わぁ〜、ここが裕ちゃんの家かぁ」
「あんまりジロジロ見んといて」
「あ、いい匂い。これ裕ちゃん家の匂いなんだね」
「コ、コラ!匂いなんてかいでへんとさっさと入りや」
「うん。おじゃましま〜す」
裕ちゃんの部屋、別に汚れてた風には見えないけどなぁ。
テーブルとベッド、ソファとテレビと・・・
必要のない物が省かれた、裕ちゃんらしい部屋だと思った。
「その辺に適当に座っててな」
「うん」
テーブルの横に座布団が置いてあったから、そこに座った。
改めて周りを見渡してみる・・・
(あたしの部屋とはずいぶん違うよ)
「紅茶でえぇか?」
「あ、うん、なんでもいいよ」
「砂糖とか入れはる?」
「うん」
- 146 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月14日(木)23時17分53秒
- 少しして、キッチンから紅茶を持った裕ちゃんがむかいに座る。
カップをひとつ、あたしの前に置いて、隣に砂糖。
「ありがと〜」
熱い紅茶に砂糖を溶かして、少し冷ます。
「ねぇ裕ちゃん」
「ん?なんや?」
「裕ちゃんここにくる前って何をしてたの?」
「・・・せやなぁ、大阪でOLやっててん」
「OLかぁ。なんで辞めちゃったの?」
「この間、あたし夢あったって言うたやろ?」
「うん」
「それな、まだ持ってんねん。
大阪でOLやってる時に、このままではあかんと思てな」
「うん」
「とりあえず東京に行こう、でもこの歳でフリーターは出来へんやん?」
「・・・そうだね」
「せやから、今の仕事を始めたんよ」
「そっか〜、その夢、やっぱり聞いたらまずい?」
- 147 名前:りるる 投稿日:2000年12月14日(木)23時33分15秒
- 裕ちゃんとうとう矢口をお家に捕獲成功?
二人っきりだしな〜。続きが気になる・・・
しかも今ANNで裕ちゃんが矢口の話をしててますます気になる!(わら)
続き待ってます〜。
- 148 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月15日(金)00時12分15秒
- いいぞ!みんなもANN聞いてるのね・・・やっぱり!
- 149 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月15日(金)23時27分54秒
- 「・・・えぇよ、話したる」
「ありがと」
「あたしな、昔から歌うことが好きでな」
「うん」
「単純やから、その仕事をしたい思たんやろうな。
今もそのまま歌手になりたいんや」
(・・・あ)
「紗耶香と一緒だ・・・」
「紗耶香?」
「あ、ゴメン、この間話した、前に働いていたコ」
「あぁ、紗耶香言うんや」
「うん、そのコも今がんばってるんだよ」
「あたしもがんばらねばなぁ・・・」
「矢口、応援するよ」
裕ちゃんも・・・紗耶香もね。
「・・・ありがとな」
少し照れ臭くて、少し冷めた紅茶に口をつける。
前を見ると、裕ちゃんも同じようにしてたから、また少し照れた。
- 150 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月15日(金)23時28分43秒
- ぐぅ〜〜〜
あ、お腹鳴っちゃった。
「あはは!矢口カワイィー!」
「もぉ、笑わなくたっていいじゃん!」
「そろそろお昼やし、どこか食べ行くか?」
「うん、いいよ」
「ファミレスでえぇか?」
「うん、どこでもいいよ」
裕ちゃんが立ち上がって、あたしもそれに続いた。
「ファミレス近くにあんの?」
「さっき見えへんかた?」
「う〜ん、覚えてないなぁ」
「すぐ近くやで」
チン。
またエレベーターに乗った。
今度は全然焦らないでいられた。
- 151 名前:777 投稿日:2000年12月16日(土)00時02分24秒
- 料理作らず、ファミレス行く、所が中澤ぽくて、好き!
頑張って下さい!
- 152 名前:なかざー 投稿日:2000年12月17日(日)00時00分56秒
- 今日は休講やねん。
ほんまゴメンな・・・
- 153 名前:Hruso 投稿日:2000年12月17日(日)03時18分59秒
- せんせー本人が登場してたとは。
続き期待しております。
- 154 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月17日(日)22時46分04秒
- 平日とは言っても、お昼時のファミレスは込んでいた。
「何名様ですか?」
「ふたりやけど」
「おタバコはお喫いになられますか?」
「いや、喫わへんで」
「少々お待ちくださいませ」
「なんや、えらい込んどるな」
そう言って裕ちゃんは中を覗く。
「込んでるねぇ」
背広を来た、サラリーマン風の人が多かった。
「喫煙席でよろしければすぐにご用意出来るんですけど」
ウェイトレスさんが戻ってきた。
「矢口えぇか?」
「うん、いいよ」
「ではこちらへどうぞ」
窓際の席に案内された。
- 155 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月17日(日)22時46分45秒
- 「なんでも頼みや」
「え?おごってくれるの?」
「おごらへんよ〜。なんでおごらなあかんの」
「なぁ〜んだ、つまんない」
ちょっと期待したのにな〜・・・
「ケチ・・・」
「ケチて・・・しゃあないなぁ。
ほんならデザートくらいならおごったるよ。食べるやろ?」
「うん、食べる!」
「その代わり、あとで1回チュウさせてな」
「え゛・・・じゃあいい」
「あはははは、冗談やって」
「・・・・・」
本気で言いそうだよ。
- 156 名前:いずのすけ 投稿日:2000年12月18日(月)01時02分29秒
- 本気ですよね?
- 157 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月18日(月)02時36分58秒
- たぶん・・・ねぇ?
- 158 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月18日(月)22時51分24秒
- 「矢口ってさぁ」
「ん?」
「カラダ小っちゃいのに結構食べんねんな」
「そ、そうかなぁ・・・」
(・・・あれ?)
前にも言われた気が・・・
「裕ちゃんが少ないんじゃない?」
「そんなことないで。あたしが普通やって」
「う〜ん、そうなのかなぁ・・・」
あ、紗耶香だ。
「なんでそんなに食べてんのに大きくならへんのやろうなぁ」
「そんなの矢口は知らないよぉ〜」
「気にしてはんの?」
「そうでもないけどね」
「えぇねん、矢口は小っちゃいままで」
「なんか変な言われ方」
「大きくなってもうたら矢口ちゃうもんな」
「それってほめられてんのかなぁ」
「ほめてんねんで」
「まあいいや。ありがとね」
- 159 名前:猫 投稿日:2000年12月19日(火)00時56分53秒
- やぐちゅーいいですね!
この二人の会話大好きです!
本当にこんな会話してそうです、このふたりは!
- 160 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月20日(水)00時20分07秒
- 他愛のない雑談を交しながら、あたしも裕ちゃんも食べ終わった。
「デザート食べるやろ?」
「うん」
「何にすんの?」
「う〜ん、ちょっと待ってて・・・」
「はよ決めや〜」
「う〜ん、イチゴパフェ」
「すいませ〜ん」
裕ちゃんが店員さんを呼んだ。
「イチゴパフェとアイスコーヒー」
「かしこまりました」
伝票を持って、店員さんは去っていった。
「裕ちゃんはデザート食べないの?」
「甘いのあかんねん」
「ふ〜ん・・・」
- 161 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月20日(水)00時21分03秒
- 「お待たせしました、イチゴパフェとアイスコーヒーです」
目の前に置かれたイチゴパフェ。
裕ちゃんの前にはアイスコーヒー。
店員さんもよくわかったね。
「なぁ矢口、あれ圭ちゃんちゃうか?」
「え?どれどれ?」
「ほら、あそこの・・・」
「あ、ホントだ。何してるんだろ」
圭ちゃんは、あたしの知らないオンナのコと一緒だった。
「あんまりいい空気やないなぁ」
「どうする?話しかけた方がいいのかなぁ」
「う〜ん、ほっといた方がえぇやろ」
「そうだね、なんか話ししてるみたいだしね」
圭ちゃんはそっとしておいてあげよう。
- 162 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月20日(水)00時28分47秒
- ちょっと、こない間に更新してた!
これから又、ちょくちょく越させていただきます!
頑張って下さい!
- 163 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月20日(水)01時14分39秒
- なかざーせんせいお待ちしておりました。
>圭ちゃんは、あたしの知らないオンナのコと一緒だった。
おっ 圭ちゃんの方も何かあるのですね?知らないオンナノコ誰だろう???
- 164 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月20日(水)22時53分14秒
- 「食べ終わったん?」
「うん」
「ほな、帰るで」
「うん、ごちそうさま〜」
「デザートだけやで」
「ケチ!」
「そんなん言うんやったらデザート代も払わへんよ」
「あ、ウソだよウソ!裕ちゃんはケチじゃないよ、うん」
「あはは、矢口カワイイなぁ。心配せんとき、払ったるから」
「ありがと〜」
「とりあえずあたしが立て替えとくな」
「うん」
あたしはひとりで外に出る。
知らない街。
頼りにできるのは裕ちゃんだけだ。
圭ちゃんもいたけど・・・今はとりこみ中みたいだしね。
- 165 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月20日(水)22時54分30秒
- 「はい、お金」
「サンキュー」
あ、またあの不思議な気持ちだ。
「とりあえず家帰るで」
「うん、いいよ」
来た道を、裕ちゃんと並んで帰る。
(手・・・つなぎたいな)
自然に思った。
う〜ん・・・言っちゃおうかな。
言わないでつないだらビックリするんだろうな〜。
つないじゃおっか。
でもそれでチュウとか言われるかもしれないし・・・
・・・大丈夫だよね。
よし、言おう。
「ねぇ、裕ちゃ・・・」
着いちゃったよ。
- 166 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月21日(木)23時10分39秒
- 「なんや?どないしたん?」
「え?あ、え〜と・・・そうだ、コンビニ寄ってかない?」
「なんか欲しい物でもあるんか?」
「う、うん」
「えぇよ、行ってき」
「うん」
あたしはコンビニのドアを押した。
(欲しい物なんてないのになぁ)
どうしよう、何か買ってかないと変だよね。
とりあえず雑誌のコーナーに来てみたけど・・・
あ、この雑誌久しぶりに買ってみようかな。
手にしたのは女性用ファッション誌。
この際なんでもいいや。
手にした雑誌を買って、外に出た。
「なんや、欲しい物って雑誌やったんか」
「う、うん。家の近く売り切れてたんだ」
「ほな、行くで」
「うん」
- 167 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月25日(月)23時00分06秒
- 3回目のエレベーター。
今度は全然緊張してないよ。
だって、裕ちゃんを信用してるもん。
それに、もしされそうになっても、今なら・・・
な、なにを考えてるんだあたしは。ダメダメ!
裕ちゃんはバイト先の店長で、友達なんだ。
「なぁ矢口・・・」
「ん?な、なぁに?」
「なに動揺してんの。
圭ちゃんと一緒におったコ、どっかで見たことあらへんか?」
「え?う〜ん・・・」
「しかもつい最近見た気がすんねん」
「わかんないなぁ・・・この辺に住んでるんじゃないかな。
それでたまたま見かけたとか」
「そういうんやないねんけどなぁ。
なんか、もっとこう・・・思い過ごしやったんかなぁ」
「んー、矢口は知らないと思う」
「まぁ、えぇか」
「うん!気にするな裕ちゃん!」
チン。
- 168 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月27日(水)00時23分21秒
- 「さ〜て・・・どないしよ」
再び裕ちゃんの家。
「ねぇ、裕ちゃんってどんな雑誌読むの?」
「せやなぁ・・・あそこに置いてあるやつぐらいやな」
そう言ってソファの横に束ねてある雑誌を指さす。
「ちょっと見てみてもいい?」
「別にえぇけど、矢口が読むようなのはないで」
「うん、いいよ。どんな雑誌を読んでるのか見たいだけだから」
ソファに腰かけて、一番上になっている雑誌を手に取った。
パラパラっとめくって、流し読んでみる・・・
それに載ってるモデルさんは、みんなオトナっぽい格好だった。
う〜ん、確かにあたしはこんなの着ないからなぁ・・・
そういえば裕ちゃんもこんな感じの格好してるね。
「なぁ、矢口が買うてきた雑誌、見てもえぇか?」
「うん、いいよ」
コンビニの袋から雑誌を取り出して、テーブルの上に置いた。
「はい」
「サンキュー」
- 169 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月27日(水)00時25分45秒
- 裕ちゃんはあたしの買ってきた雑誌。
あたしは裕ちゃんの家に置いてあった雑誌。
ふたりして変な読書会。
あたしは2冊目に手を伸ばした。
「矢口ってこういう雑誌読んでんねんな」
「うん」
「服装とかそのまんまやもんな」
「カワイイでしょ」
「ギャルやけどな。矢口が着るともっとカワイイで」
どういう意味なんだろ・・・
「あっ!」
ひとりのモデルさんに目が止まった。
「ねぇ裕ちゃん!ちょっと!」
「ど、どないしたん?」
裕ちゃんがあたしの隣に座る。
「このコじゃない?今日圭ちゃんと一緒にいたコって」
「どれどれ?あ、ホンマや!えっと・・・飯田圭織?」
「このコだよね?」
「そっか、どっかで見た気がしたんは、この雑誌でやったんか・・・」
- 170 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月27日(水)02時31分08秒
- おおっ! かおけいか?圭ちゃん登場に期待。
矢口とゆーちゃんほんとにこんな会話してそうだね。
- 171 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月27日(水)23時24分50秒
- 「それにしても、カワイイなこのコ」
「うん、そうだね。背も高いし」
「ホンマにこのコやったんかなぁ、よう似てはるけど・・・」
「明日圭ちゃんに聞いてみれば?」
「せやな、それしかないやろうし」
でも・・・圭ちゃん教えてくれるかな。
そういえば、圭ちゃんのプライベートなことってあんまり知らないや。
紗耶香もそうだったけど、バイト先で知り合って、仲のいい友達になって・・・
裕ちゃんもそうなんだよね。
なぜかいちばん仲良くなれそうな気がする・・・
「裕ちゃんはさ、恋人とかいなかったの?」
「な、なんやの?いきなり・・・」
「う〜ん・・・なんとなく」
「・・・おったで。大阪に住んでる時に」
「ふぅ〜ん・・・フラれたんでしょ」
「ア、アホ!フッたんでもフラれたんでもないっちゅうねん!」
「じゃあなに?」
「仕方なかったんや・・・」
あ、聞いちゃまずかったのかな・・・
「不思議やなぁ・・・」
「え?なにが?」
「矢口にならなんでも話してしまいそうやねん」
「・・・・・」
- 172 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月28日(木)00時53分43秒
- 「矢口は恋人、居てへんの?」
「いないよ・・・」
「好きな人は?」
「・・・いたんだけどね」
紗耶香がね。
「・・・すると、今はフリーやねんな?」
「うん・・・」
「アカンでぇ、若いんやから恋のひとつでもせな」
「う〜ん、したいんだけどねぇ」
「相手がおらんってか?」
「うん」
「・・・あ、あたしやとダメなんかな」
「え?あ、う〜ん・・・」
「い、いや、冗談やって」
「あぁ、うん・・・」
一瞬ドキッとしちゃった。
裕ちゃんが恋人かぁ・・・いいかもね、おもしろそうだし。
歳は離れてるけど、紗耶香と似てる部分も多いしね。
あれ?あたし、紗耶香の代わりを探してるのかな・・・
- 173 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月28日(木)02時17分50秒
- おお!ついにいったか裕ちゃん!
続き楽しみっす!
- 174 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月28日(木)06時11分07秒
- うむ、まだ矢口は市井への気持ちも残ってるんだな。
それじゃ二人とも辛いところだねえ〜。
- 175 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月28日(木)22時57分28秒
- 夕暮れ。
結局帰ることになった。
裕ちゃんとご飯一緒に食べたいけど、暗くなると危ないからって。
その代わり、裕ちゃんが待ち合わせだった喫茶店まで送ってってくれる。
「ねぇ裕ちゃん」
「ん?なんや?」
「手、つなごっか」
「どないしたん?」
「う〜ん、なんとなく」
「まぁ、えぇけど・・・」
裕ちゃんが手を差し出して、あたしはそれを握った。
とても暖かくて、とても柔らかい。
とても優しくて、とても心強い。
「裕ちゃん」
「ん?」
「今日は楽しかったよ。ありがとね」
「こっちこそ、楽しかったで」
「また遊べるかな」
「遊べるやろな」
「今度は遊園地とか行こっか」
「えぇよ」
- 176 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月28日(木)23時20分28秒
- 喫茶店が見えるところまで来た。
手を離すのが少しイヤだった。
「ほんじゃ、矢口。また明日な」
「うん、また明日」
裕ちゃんから手を離した。
行き場を失くしたあたしの手。
おもいっきり高くあげて、大きく横に振った。
「バイバ〜イ」
「うん、バイバイ」
裕ちゃんは振り向かないで行ってしまった。
暗くならないうちに、あたしも家に帰ろう。
まだ温もりが残る、あたしの手。
消えちゃわないように、そっとポケットにしまった。
- 177 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月30日(土)00時20分01秒
- 翌日・・・
「おはよ〜ございま〜す」
「あ、矢口おはよ〜」
「おはよう、矢口。ほな、チュウ・・・」
「イヤだぁ〜やめろよぉ〜」
「相変わらずだねぇ、このふたりは」
ホントに変わんないよ、裕ちゃん。
「あ、そうだ。裕ちゃんほら、昨日のこと圭ちゃんに聞かないの?」
「せやせや。なぁ圭ちゃん昨日の昼間ファミレスにおったやろ?」
「え?あ、そうだっけ」
「そん時一緒におったコ、もしかして飯田圭織いうコとちゃう?」
「う〜ん・・・圭織とは一緒にいたけど」
「モデルさんやろ?」
「うん。なんで知ってんのさ」
「あたしと矢口、そのファミレスに行ってんよ」
「そうなんだ。声かけてくれればよかったのに」
「いや、なんか話し込んでるようやったから」
「どんな知り合いなの?」
「う〜ん、昔からの友達。紗耶香ともね」
紗耶香とも・・・
「そ、そうなんだ」
あたしの知らない紗耶香を知ってるのかぁ、いいな〜・・・
「さ、そろそろ開店やで〜」
- 178 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月30日(土)00時22分53秒
- その後、飯田圭織ってコの話題も出ないまま、数日がすぎた。
閉店作業も終わって、いつもの更衣室。
「ふたりとも、今日もお疲れさん」
「裕ちゃんもお疲れさま〜」
「あのさ裕ちゃん、ちょっと話しがあるんだけど・・・」
圭ちゃん、ちょっと沈み気味だよ。
「ん?どないしたん?」
「あたし、明日どうしても休ませて欲しいんだ」
「理由は・・・言えへんのか?」
「うん、ゴメン・・・」
「・・・しゃあないな。今回だけやで?」
「うん、ありがと」
「ふたりだけやと営業も大変やし、お店ごと休みにしてまうか。
その代わりに今度の休業日には開店するで」
「矢口は、いい?」
「うん、いいよ」
「ふたりともゴメンね、ありがと」
「えぇって。なぁ、矢口」
「うん」
- 179 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月30日(土)16時51分52秒
- パリンッ!
(え?)
「あかん、花瓶割ってもうた・・・」
あ、その花瓶・・・
「まぁ、また買うてくればえぇか。
どうせ古くなってたんやし、丁度よかったんちゃうかな」
「・・・ヒドイよ」
「ん?矢口どないしたん?」
「裕ちゃんヒドイよ・・・」
「や、矢口・・・?」
ヒドイよ裕ちゃん・・・
「その花瓶・・・紗耶香が持ってきてくれたヤツなのに・・・
いくら裕ちゃんでも、そんなのヒドすぎるよ・・・」
割れちゃったのはしょうがないけど・・・そんな言い方はヒドすぎるよ!
「そりゃ裕ちゃんは紗耶香のこと知らないかもしれないけどさ・・・」
「矢口・・・」
「裕ちゃんのバカ!」
あたしはお店を飛び出した。
- 180 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月30日(土)16時52分22秒
- 「裕ちゃんのバカ・・・」
飛び出してきちゃったけど、行く宛はなかった。
戻れないよ、あんなこと言っちゃったし。
第一、裕ちゃんがヒドイこと言ったからいけないんだ。
紗耶香のこと知らないからって。
知らないからって・・・
そっか、紗耶香が持ってきたってことも知らないんだ。
知ってたらあんな言い方しないよね、裕ちゃんは。
(ど、どうしよう、戻ってちゃんと話ししなきゃ・・・)
戻れない。
裕ちゃんと顔合わせられないや。
(ゴメンね裕ちゃん、知らなかったんだよね・・・)
あたしのバカ!
(ゴメンね・・・)
- 181 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月30日(土)16時52分52秒
- 結局帰るしかなかった。
(どうしよう、明日休みだし・・・)
休みを挟むと余計顔合わせずらくなるよ。
(電話、しよっかな・・・)
なんて切り出せばいいんだろう。
(う〜ん、なんとかしなきゃ・・・)
なんにも浮かばない。
バイトにもいけなくなっちゃうし、
それよりも裕ちゃんと話しできなくなるのがイヤだよ。
(う〜ん・・・裕ちゃん・・・)
プルルルル・・・プルルルル・・・
ケータイが鳴ってる。
圭ちゃんからだった。
「もしもし?」
「あ、矢口?あたしだけどさ」
「うん、どうしたの?」
「ちょっとすぐ来て!裕ちゃんが大変なんだよ!」
「え?う、うん!すぐ行くよ!」
裕ちゃんが大変なんだよ!
裕ちゃんが・・・
圭ちゃんの言葉が、耳に強く残ってる。
- 182 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月30日(土)16時53分31秒
- 走った。
とにかく走った。
あたしのせいで、裕ちゃんが大変なんだ。
裕ちゃんに謝らなきゃ。
謝ってちゃんと話ししなきゃ。
転んだ。
「いったぁ〜・・・もぉ〜」
厚底なんてはいてくるんじゃなかった。
起き上がって、また走った。
夜で人が少ないけど、たまにすれ違う歩いてる人に笑われてる気がした。
笑われたっていい。
裕ちゃんのとこに行かなきゃ・・・
- 183 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月30日(土)17時26分17秒
- めちゃ先がよみたいです!
- 184 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月31日(日)00時01分06秒
- 「裕ちゃん!大丈夫?」
「あ、矢口早かったねぇ」
「圭ちゃん、裕ちゃんは?」
「あっちのシートに寝かせてあるよ」
「裕ちゃんどうしたの?」
「もう大変だったんだよ。あの後お店にあるワイン開けて飲みだしちゃってさ」
「ワ、ワイン?」
「ほら、そこにビンが転がってるでしょ」
「あ・・・こ、こんなに?」
「うん」
小さめのワインのビンが、4本も・・・
「ねぇ矢口、裕ちゃんも知らないで言っちゃったんだからさ・・・」
「うん、わかってる」
「じゃあ、許してやってよ」
「うん、ちゃんと話ししないで飛び出しちゃった矢口がいけないんだしね。
あとでちゃんと話しするよ」
「じゃ、あとお願いね。裕ちゃんの家矢口しか知らないし、あたしこれから用事あるから」
「う、うん。またね」
「お疲れさま」
- 185 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月31日(日)00時02分26秒
- 「う、うぅ〜・・・」
「あ、裕ちゃん」
少しつらそうなうめき声。
あたしのせいでこんなにお酒飲んじゃって・・・
ゴメンね裕ちゃん。
「圭ちゃん、あたしあかんねん・・・」
「え?」
あたしのこと圭ちゃんだと思ってるのかな。
「思い出のコには、どうやっても勝たれへんねん・・・」
「ゆ、裕ちゃん・・・」
「矢口・・・ゴメンな・・・」
「裕ちゃん・・・」
「矢口・・・好きやで・・・」
「・・・うん」
うすうすとは気づいてた。
いつもキスしたがるのも、あたしだけだったし。
あたしが聞いたらなんでも話してくれた。
そして、あの時に冗談だって言った告白。
あれはホントは冗談じゃなかったって。
心のどこかで、全部気づいてたんだ。
- 186 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月31日(日)00時03分10秒
- 裕ちゃんの寝顔、初めて見た。
肌キレイだよね、裕ちゃんって。
時がたつのも忘れて、裕ちゃんの寝顔を見入ってた。
「くしゅっ」
「あ・・・」
裕ちゃんがクシャミした。
すっごくカワイイ。
「ほら裕ちゃん、こんなとこで寝てると風邪ひいちゃうよ」
「うぅ・・・や、矢口、帰ったんちゃうかったんか?」
「圭ちゃんから電話があって戻ってきたんだよ。裕ちゃんが大変だって言うから」
「そ、そうか・・・矢口、ゴメンな・・・」
「うぅん、裕ちゃんは知らなかったんだもん、しょうがないよ」
「許してくれるんか?」
「うん」
「ありがとな・・・」
「うん・・・」
- 187 名前:名無し君 投稿日:2000年12月31日(日)00時24分24秒
- いい感じ!!
中澤の風引き希望!弱い中澤希望!
矢口の看病希望!可愛い矢口希望!
- 188 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月31日(日)00時39分11秒
- やぐちゅーですね!
頑張って下さい!
いちやぐなちゅー!なんてむり?
祐ちゃんの過去になっち登場なんて!
>187
同感
- 189 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月31日(日)08時27分36秒
- ぐはっ!めちゃくちゃ面白いです。
なんかこの話しって全員がどこかで繋がってるのがいいですね。
いろんな視点で話しが見えるっていうかね。
そんな映画があったのを思い出しました。題名とか思い出せないけど…
気が向いたらなっちを出して下さい。
- 190 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月31日(日)16時34分52秒
- 「裕ちゃん、帰ろう」
「ゴメンな、こんな遅くなってもうて」
「うぅん、いいんだよ」
ヨロヨロと裕ちゃんが立ち上がった。
(ア、アブナイなぁ)
やっぱり送って行った方がいいね。
「ほな、矢口、気ぃつけて帰んねんで」
そんなにヨロヨロなのに、ひとりで帰るつもりなのか・・・
「送ってくよ、裕ちゃん」
「大丈夫やって」
「そんなヨロヨロじゃ、矢口心配で帰れないよ」
「・・・ゴメンな」
「裕ちゃんさっきから謝ってばっかりだ」
「あ、ゴメン・・・」
「ほら、またぁ・・・」
「・・・ありがとな」
- 191 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月31日(日)16時35分27秒
- 暗くなった道を、裕ちゃん家までを歩く。
どちらからでもなく、手をつないでる。
またあたしの手に戻ってきたよ、この温もり。
「・・・なぁ矢口、あたしなんか変なこと言うてへんかった?」
「ん?気になる?」
「ごっつぅ気になる・・・」
「う〜ん、教えてあげない」
「イジワルやなぁ・・・」
教えてあげないもん。
あたしのことを好きって言ったなんて。
(ちゃんと酔ってない時に言ってくれるまで、教えてあげないよ〜だ)
あたしの気持ちは、自然と裕ちゃんに傾いていた。
さっきまでわからなかったけど、あたしは裕ちゃんのことが好きなんだ。
今ははっきりとわかるよ。
だって、裕ちゃんがこんなにも愛おしいんだもん。
紗耶香のことも好きだけど、今はもう大切な友達だ。
つないだ裕ちゃんの手から、こんなに幸せが伝わってくるんだから。
「矢口は、紗耶香ってコのこと好きやったんやな・・・」
「・・・うん」
「今も・・・か?」
「うぅん、今は他の人を好きになったよ」
もちろん、裕ちゃんのことだよ。
- 192 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月31日(日)16時35分59秒
- 「そっか・・・」
(あ、裕ちゃん沈んじゃった・・・)
つないでる手の力が弱まった。
でも、まだ秘密にしとくんだ。
裕ちゃんがちゃんと言ってくれるまで。
「なぁ矢口・・・」
「ん?」
「あたしな・・・大阪帰ろう思てんねん・・・」
「え?」
(帰るって・・・)
「あたしにも好きなコがおってな。そのコに迷惑ばっかりかけてもうて・・・」
「迷惑って・・・」
「このままではあかんねん。そのコ、他に好きなコいるみたいやし・・・
あきらめるしかなさそうや」
「・・・・・」
「これでえぇねんな、きっと・・・」
「・・・・・」
「矢口・・・なんか言ってぇな」
「・・・・・」
- 193 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月31日(日)16時36分54秒
- 「・・・ホントにいいの?」
「え?」
「ホントにそれでいいの?」
「や、矢口・・・」
「夢もそのコのこともあきらめて、裕ちゃんはホントにそれでいいと思うの?」
「・・・しゃあないねん」
「しょうがなくなんてないよ!」
知らないうちに声が大きくなっていた。
「そんなに簡単にあきらめられるような気持ちだったの?」
「・・・簡単やないねん!」
つないだ手と手が、自然と離れる。
「簡単な気持ちやないからあきらめなあかんねん・・・」
「ウソだ!夢だってそのコのことだって、あきらめられないくらい好きじゃないんだ!」
「あたしやってあきらめるのはツライねんで・・・
せやけど、そのコのこと考えると・・・」
- 194 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月31日(日)16時37分24秒
- 「ホントに考えてるの?そのコの気持ち、ホントに知ってるの?」
(あ・・・)
涙が出てきちゃった。
あたし、また泣いちゃってる。
「・・・・・」
「裕ちゃんがいなくなったら、矢口はどうすればいいの?」
強くなるって決めたのに・・・
ダメだね、あたし。
「矢口・・・」
「裕ちゃんと会えなくなっちゃったら、矢口生きていけないよ!」
「・・・・・」
「矢口だって、裕ちゃんのこと好きなんだから!」
言っちゃった・・・
- 195 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2000年12月31日(日)16時38分48秒
- 「・・・気づいてはったんやな」
「うん・・・」
「あかんな、矢口に隠し事できへんわ・・・」
裕ちゃんがあたしの涙を拭ってくれた。
「そんなことないよ・・・」
はっきりわかったのは、さっき聞いたから。
また手と手がつながった。
安心できる、この温もり・・・
裕ちゃんの家へ向かって、また歩き出す。
「初めて矢口見た時からな、あ、このコカワイイな思うてな・・・
そのうち矢口のことしか考えられへんようになってもうてたんや・・・」
「裕ちゃん・・・」
「いつ頃から気づいてたん?」
「あのさ、裕ちゃんがさっき酔って寝てたでしょ?」
「うん・・・」
「その時にね、裕ちゃんが「矢口、好きやで」って言ってたんだ」
「ホ、ホンマか?」
「うん。それで、あぁ、やっぱりな〜って思ったんだ」
「言うてもうててんやな・・・」
「なんとなくはわかってたんだけどね・・・」
「そっか・・・」
あのコンビニが見えてきた。
- 196 名前:なかざー 投稿日:2000年12月31日(日)16時41分36秒
- あかん、焦っても年内終われへんわ・・・
というワケで、今年の講義はここまでです。
お付き合い下さった皆様、ホンマありがとな。
また来年もがんばらせて戴きますんで、よろしゅう。
ほな、よいお年を!
- 197 名前:名無し 投稿日:2000年12月31日(日)17時47分04秒
- 今年は、楽しませて頂きました!
やぐちゅーとても面白かったので・・・急いで終わらせないで下さい!
長編でないのですか?楽しみにしているのですが・・・
- 198 名前:やぐちゅー大好き! 投稿日:2001年01月01日(月)00時37分08秒
- おもしろいですな!
頑張って下さい!
おいらも長編」希望します!
- 199 名前:なかざー 投稿日:2001年01月01日(月)23時27分45秒
- 一日挟むだけやのに改まるってのも変やな(w
今年もヨロシク!
ほな、はじめるで〜
- 200 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2001年01月01日(月)23時28分38秒
- チン。
エレベーターに乗っても、お互い手は離さなかった。
確認できたお互いの気持ち。
もう話さなくても全部わかる気がした。
裕ちゃんはあたしのことが好きで、あたしは裕ちゃんのことが大好きなんだ。
もうこれ以上はいらない。
あ、でもひとつだけ・・・
「ねぇ、裕ちゃん」
「ん?」
「・・・・・・・・・」
「なんや?聞こえへんよ」
裕ちゃんが耳を近づける。
「・・・・・・」
「なんやの?」
チュ。
「あ・・・」
「裕ちゃん・・・大好きだよ」
「・・・ありがとな」
チン。
- 201 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2001年01月01日(月)23時29分12秒
- 「もう遅いから、今夜は泊めたるよ」
「うん、もともとそのつもりだったんだけどね」
「カワイイなぁ、矢口・・・」
「でも、襲ったりしないでね?」
「あはは、襲わへん襲わへん」
「ホントかなぁ」
「大丈夫やって。裕ちゃんを信用しなさい」
「ホントに?信じてるからね」
「まかしとき」
これだけ言っておけば大丈夫だよね。
裕ちゃん好きだけど、襲われるのはイヤだ。
「先言うとくけど、ベッドひとつしかないで?」
「えぇ〜!?う〜ん、しょうがないなぁ。じゃあ、一緒に寝るか」
「添い寝かぁ。大丈夫かな・・・」
「な、なにが大丈夫かななの?」
「いや、独り言や。気にせんといて」
「気になるってぇ〜!」
ホント、気になる。
- 202 名前:名無し 投稿日:2001年01月02日(火)02時13分48秒
- ホント、気になる〜!
てか、ゴウゴウ裕ちゃん(w
- 203 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月02日(火)06時06分58秒
- マジ気になりますね!
楽しみだ!”
- 204 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2001年01月02日(火)23時04分35秒
- (わぁ〜、フカフカだぁ〜)
羽毛布団っていうのかな、これ。
柔らかくて、暖かい。
裕ちゃんみたいな布団だ。
「ほな、電気消すで」
「うん」
ひとつのベッドに、ふたつの身体。
裕ちゃんの身体も温かいよ。
「なぁ矢口、ひとつだけ聞いてえぇか?」
「うん、なぁに?」
「あたし、紗耶香ってコの代わりなんかな・・・」
「え?」
「あたしな、最初そのコの代わりでもえぇと思たんや。
矢口と一緒にいられるんならな・・・」
「・・・・・」
「せやけどな、それじゃあかんねん。
あたしはそのコのことを好きな矢口を好きになったんやから」
「うん・・・」
「なぁ、あたしは中澤裕子として矢口真理を愛してもえぇんか?」
- 205 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月02日(火)23時22分07秒
- あら、リアルタイム?
楽しく読ませて頂いてます。
・・ただ矢口の名前、字が間違ってますよー・・・。
- 206 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月02日(火)23時43分31秒
- >187
同感!上海の一人旅見てなかざーのイメージが変わった!
作者さんお願いします!めっちゃ楽しみにしています!
- 207 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2001年01月03日(水)00時55分11秒
- 「あたしもね・・・あたしも最初はそうなのかなって思った。
裕ちゃんの中に紗耶香を探してるのかなって・・・」
「やっぱり・・・」
「でもね・・・やっぱり違ったよ。
そりゃ紗耶香と裕ちゃん、似てる部分もあったけどさ・・・」
「・・・・・」
「裕ちゃんはやっぱり裕ちゃんだった。
あたしは他の誰でもない、中澤裕子を好きになったんだよ」
「矢口・・・」
布団の中で、裕ちゃんがあたしの手を握った。
あたしもそれに応えるように、強く握り返した。
「矢口・・・ありがとな」
「裕ちゃん、大好きだよ」
「あたしも・・・好きやで」
チュ。
「あ・・・」
「さっきのお返しや。さ〜て、これ以上してもうたら嫌われてまう。
我慢できるうちに寝とくで。おやすみ」
「うん・・・おやすみなさい」
(ありがと・・・)
- 208 名前:(愛のカタチ) 投稿日:2001年01月03日(水)00時56分06秒
- 「おはよ〜ございま〜す」
「あ、矢口おはよ〜」
「おはよ〜矢口。はい、おはよ〜のチュウ〜」
「うわぁ、やめろよぉ〜」
「ほらほら、いつまでやってんの。さっさと開店準備はじめるよ」
「なんや圭ちゃん、店長みたいやん・・・」
「だって裕ちゃんが遊んでるんだもん」
「遊んでるて・・・なぁ、矢口」
「さぁ、開店準備、開店準備!」
「なんや、つれないなぁ・・・」
変わらない風景。
変わらない関係。
たったひとつ変わったのは、心がつながったこと。
あの大切にしまった手の温もりは、もう消えることはないだろう。
温かくて、しっかりと確認できる、あたしと裕ちゃんの愛のカタチ。
「なぁ、やっぱりもうひとりバイト入れた方がえぇんちゃうかな」
「そうだねぇ、この間みたいにひとり休むってなると大変だしね」
「うん、矢口もそう思うよ」
「ほな、張り紙出しとくで」
「うん」
あたしは、裕ちゃんが大好きです。
- 209 名前:第6回〜 投稿日:2001年01月03日(水)00時56分51秒
- やっぱり矢口はカワイイなぁ。
紗耶香がおったらどうなってはったんやろ・・・
イジワルな発想はさておき、年をまたいだ第6回も無事終わりました。
>>FANTASISTAさん
あんま期待せんといてくださいね(w
>>117さん >>いずのすけさん >>126さん
どうでした?御期待に応えられたならえぇんやけど・・・
>>りるるさん
矢口のイヤはホンマは喜んでそうや(w
>>128さん
愛情表現は変わらへんのよ。
>>132さん
どうも!
>>133さん
意外とフツー過ぎる部屋でした(w
>>137さん
ありがとうございます!
>>140さん
どっちやねん!(w
>>148さん
木曜10時はお決まりやね。
>>777さん
料理は作らへんよ。どうもです!
>>Hrusoさん
また登場する予定やで。どうも!
>>156-157さん
どうなんやろね。
>>猫さん
ホンマは・・・わからへん(w
>>162さん
ども!がんばります!!
>>163さん >>170さん
一応企画はしてはります。
>>173さん
どうやったでしょうか?
>>174さん
結果が出たあとのレスやけど、紗耶香はいい友達やって。
>>183さん
どうでした?
>>187さん
風邪はひかへんかったけど、弱かったで(w
>>188さん
なっち登場も考えてはります。
>>197-198さん >>206さん
長編ですか・・・ちょっとだけ時間を。
>>202-203さん
襲わへんよ?(w
>>205さん
ホンマや・・・指摘どうも
さて、次回は少し変わったコンセプトで、サラッといきます。
ほな、また次回に逢いましょう。
- 210 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月03日(水)07時43分35秒
- やぐちゅ〜ホント大好きです。
でもさやまりはもっともっと大スキなので、この矢口の心情の変化に
納得がいかない・・・。矢口には裕ちゃんと付き合っていてもずっと
紗耶香のことを想っていてほしかった・・・。
・・・作者者さん、ひとりごとなんで気にしないでください。・・・
- 211 名前:まちゃ。 投稿日:2001年01月03日(水)18時30分08秒
- なちごま希望…。
- 212 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月05日(金)17時16分51秒
- やぐののというのはどうでしょう?あまりないと思いませんか?
- 213 名前:なかざー 投稿日:2001年01月05日(金)22時49分50秒
- >>210 さん
せやなぁ、読者さんの好みに合わせるのは難しいで・・・
期待通りにいかなくてゴメンな。
>>まちゃ。さん
なっちと後藤・・・イメージ沸いてきたで(w
>>212 さん
矢口と辻なぁ。
できそうやけど・・・ちょっと時間ください。
- 214 名前:〜第7回 投稿日:2001年01月05日(金)22時50分49秒
- さて、今回の主役は今までは脇役だった保田圭。
恋愛というよりは、友情の話しやな。
お相手は留学前の紗耶香です。
ほな、いってみよ。
- 215 名前:(call my name) 投稿日:2001年01月05日(金)22時51分27秒
- プルルルル・・・プルルルル・・・ピッ
「もしもし」
「あ、紗耶香?あたしだけど」
「圭ちゃん?どうしたの?」
「いやぁ、別に用はないんだけどさ・・・今大丈夫?」
「うん、荷物の整理してて、一休みした頃だよ」
「あのさ、紗耶香もうすぐ留学行っちゃうじゃん?」
「うん」
「その前にもう少し話しておきたいな〜と思ってさ」
「あ、わかったぞ!もしかして圭ちゃん、あたしがいなくなって淋しいんだな?」
「そ、そんなことは・・・まぁ、それもあるけど」
「圭ちゃんとはずっと仲よかったもんねぇ」
「そうだねぇ・・・いつからだっけ?こんなに仲よくなったのって」
「う〜ん・・・思い出せないよ」
「あはは、あたしも」
「圭ちゃんにはずいぶんお世話になっちゃったね」
「あたしこそ!紗耶香には世話になりっぱなしだったよ」
「圭ちゃんとはいい意味でライバルでいられた気がするよ」
「うん、あたしも紗耶香にいい刺激もらってた」
- 216 名前:(call my name) 投稿日:2001年01月05日(金)22時52分01秒
- 「圭ちゃん・・・」
「ん?」
「今までホントにありがとね」
「ちょっと紗耶香!そんなもう会えないような言い方はやめてよ!」
「うん・・・ゴメン」
「あたしも矢口も後藤も、圭織だって紗耶香の帰りを待ってるんだからさ・・・」
「圭織か・・・」
「・・・もしかして、圭織には言ってないの?」
「・・・うん」
「紗耶香は、それでいいの?」
「う〜ん・・・よくはないんだけどさ。圭織、今すっごくうまくいってるじゃん?
あたしがここで出て行ってそんなこと言っちゃったら、
重荷になっちゃいそうな気がするんだ・・・」
「紗耶香・・・」
「圭織に会ったらさ、圭ちゃんからうまく言っといてよ。
あたしもがんばるから、圭織もがんばれって」
「それはいいけど・・・圭織きっと怒るよ」
「うん・・・帰ってきたら、いくらでも文句聞くよ」
「・・・うん、わかった。なんとかうまく言っとくよ」
「サンキュ」
- 217 名前:(call my name) 投稿日:2001年01月06日(土)23時00分45秒
- 「後藤、淋しがってるでしょ」
「うん・・・」
「あのコも紗耶香がいないと何もできないコだからねぇ」
「そうだね・・・でも、きっと後藤は成長するよ」
「紗耶香は・・・ずっと一緒だった後藤と離れちゃうのは淋しくないの?」
「淋しいよ・・・でもね、この間話ししたらさ、ちゃんとわかってくれたよ」
「あの後藤が?」
「夜の公園でね、お互いの言いたいことを言い合って、それで後藤はわかってくれたんだ」
「そっか・・・」
「うん。アイツ、あたしの知らないうちにオトナになってたみたい」
「ふぅ〜ん、あたしにはそう見えないんだけどなぁ」
「あはは、それに圭ちゃんもいるしね。後藤のこと、よろしく頼むよ」
「え゛〜・・・う〜ん、後藤の教育は大変そうだからなぁ・・・」
「なにかイケナイことしたら、叱ってやるだけでいいからさ」
「まぁ、それくらいなら・・・」
「よろしくね」
「うん・・・」
- 218 名前:(call my name) 投稿日:2001年01月06日(土)23時01分15秒
- 「矢口もずいぶん淋しがってたねぇ」
「矢口ってさ、あぁ見えても実は弱いコなんだよね」
「ふぅ〜ん、あたしにはそういう部分見せてくれないんだけどねぇ・・・」
「それは矢口が強がってるからじゃないかな。
何か困ってそうな時、圭ちゃん話し聞いてあげてよ」
「矢口から話してくれれば、あたしも聞くよ」
「多分・・・矢口からは話そうとはしないと思う」
「じ、じゃあ・・・」
「でもね、そのままにしてたら内側にため込んじゃって矢口倒れちゃいそうなんだよ。
あのコには、誰か悩みを話せる相手が必要なんだ」
「あたしが聞いて、矢口は話してくれるかな・・・」
「大丈夫、圭ちゃんにだったらきっと話すよ」
「う〜ん・・・」
「優しく聞いてあげてね?圭ちゃん時々キツイこと言うから」
「ちょっとぉ〜、それどういう意味ぃ?」
「あはは、冗談だって冗談」
「どういう冗談なんだか・・・」
- 219 名前:(call my name) 投稿日:2001年01月08日(月)00時39分00秒
- 「あのさ、紗耶香・・・」
「ん?」
「紗耶香は今、好きな人っている?」
「・・・うん、いるよ」
「そっか・・・」
「どうしたの?恋の悩みでもあんの?」
「い、いやぁ、別にないんだけどさ」
「???」
「い、いいねぇ、青春!って感じでさ」
「け、圭ちゃんなんか変だよ?」
「そう?あたしいつもこうじゃない?」
「う〜ん・・・まぁいいんだけどさ〜」
「誰?あたしの知ってる人?」
「・・・うん。ゴメン、圭ちゃんでも誰かは言えないよ」
「う〜ん、聞きたいけど・・・まぁいいや。その人にはちゃんと好きって伝えた?」
「うん・・・留学の話しもちゃんとしたよ。でも、待っててくれないんだってさ」
「他に好きな人がいたとか?」
「うぅん、両思いだったみたい。でもいいんだ、あたしもヒドイことしちゃったから」
「・・・なんか意味深なんだね」
「少しね・・・」
- 220 名前:(call my name) 投稿日:2001年01月08日(月)00時39分39秒
- 「あ、もう11時か。ゴメンね、長電話しちゃって」
「うぅん、全然。
あたしこそ、圭ちゃんに頼みごとばっかりしちゃって・・・」
「いいんだよ。全部できるかわかんないけどさ」
「うん・・・」
「淋しくなったら、いつでも電話してね」
「うん、ありがと」
「紗耶香」
「ん?」
「お互い、ずっといい友達でいようね」
「うん、そしていいライバルでもね」
「うん・・・」
「・・・圭ちゃん」
「ん?」
「・・・ありがとね」
「うぅん・・・今度は会うのはいつになるかなぁ・・・」
「わかんない・・・けど、必ず戻ってくるよ。約束する」
「うん、待ってるよ」
「それじゃ・・・」
「うん、バイバイ・・・」
「バイバイ・・・」
・・・ピッ
- 221 名前:第7回〜 投稿日:2001年01月08日(月)00時40分24秒
- ちょっと短すぎましたかね?
電話による、圭ちゃんと紗耶香の会話でした。
ホンマ、このふたりはえぇ関係やったんやろなぁ。
さて、次回はちょっとだけお時間を戴きましてから始めたいと思います。
候補はふたつあんねんけどな。
期待せんと待っといてもらえたら、嬉しいです。
ほな、また次回。
- 222 名前:〜第8回 投稿日:2001年01月11日(木)22時44分03秒
- 大変長らくお待たせしました。
誰も待ってへんって?それは言わんといてぇな。
さて今回は、さんざん悩んだあげく、あたしの話しやねん。
矢口と会う前につきおうてた相手との話しです。
まぁ、予想通りやと思うけどな(w
- 223 名前:(約束) 投稿日:2001年01月11日(木)22時46分38秒
- (矢口・・・今日もカワイイわぁ・・・)
あかん、気ぃ抜くと矢口に見とれてまう・・・
せやけど、えぇねん。
矢口とこんな関係になれたんが、あたしは嬉しいんや。
「ねぇ裕ちゃん」
「ん?」
「裕ちゃんが大阪でつきあってた人って、どんな人だったの?
やっぱり矢口に似てたりする?」
「なんやのいきなり」
「う〜ん、ちょっと気になったんだけどさ」
「・・・・・」
「あ、話したくなかったら話さなくてもいいよ」
「・・・あかんなぁ、矢口にはなんでも話してまう」
「やったぁ!ねぇ、どんな人だった?」
「せやな、あたしが大阪におった頃にな・・・」
- 224 名前:(約束) 投稿日:2001年01月11日(木)22時47分12秒
- あれは・・・四年ぐらい前やったかな。
あたしは京都の片田舎から夢やった大阪へと、引っ越してったんや。
もちろん、仕事も前もって決めてはったんやけどな。
OLやったんよ、こう見えても。
始めの内はとにかく淋しかってん。
友達も近くにおらんかったし、会社の人とも浅いつきあいやし・・・
親に電話して泣きそうになったこともあったんやけどな。
せやけど、自分で決めた道や。
がんばらなあかん思て、なんとか一年、無事に終わったんや。
入社二年目の四月。
新しくあたしのおった部署に来たコがいてな。
・・・そのコはアルバイトやってんけど。
一応二年目っちゅうことで、あたしがそのコの面倒みることになってな。
まぁ、それが一番最初の出逢いやったなぁ。
今でも鮮明に覚えてんねんで。
初々しい顔。
大きくて少しつりあがった目。
シュッとした鼻。
可愛らしい唇。
痩せ気味の体形。
小さい身長。
彼女の名前は・・・
- 225 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月12日(金)04時06分34秒
- おお、最近講師自らの活躍が多くなって嬉しいっすね。
しかも今回は昔の恋人、秘められた過去(笑)!
- 226 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月12日(金)10時55分00秒
- 今回初めて読みましたが、面白いっす!
市井ちゃん好きー
早く戻ってきて、後藤を幸せにしてあげてね。
矢口と裕ちゃんも早く甘々になって欲しいです。
- 227 名前:(約束) 投稿日:2001年01月12日(金)16時52分12秒
- 「ふわぁ〜・・・ぁ」
(眠いわぁ・・・)
口に手を当てて、大きなアクビ。
(なんで朝こんなにはやいんやろなぁ)
今に始まったことやないのに、あたしはいつもぼやいてまう。
二年目いうても、まだまだペーペーや。
うるさい先輩OLの指導がやっとなくなったんはいいけど、
雑用なんは相変わらずやろな。
「ほな、朝礼を始めます」
(へいへい)
部長さんの一言と共に、みんなが自分のデスクの前に立つ。
「今日から新入社員が入ります」
部長さんの横に、緊張してはる若い人らが立ってはった。
(懐かしいなぁ・・・もう一年経つんやな)
「えー、まずは自己紹介からやな。一番右の君から。なんか一言も添えてな」
「はい!名前は・・・」
あたしも去年やったで、これ。
結構緊張すんねんな。
(もう二度とやりたくないわ、これだけは)
順に紹介してはったんやけど、あたしが教えることはないやろ思てたんやな。
全然聞いてへんかってん。
せやけど、最後のコが紹介する時だけ、あたしは気を取られた。
「えっと、安倍なつみです。一生懸命がんばるので、よろしくお願いします」
(このコ・・・カワイイやん)
「えー、安倍君の教育は・・・中澤、頼むわ」
「は、はい!」
- 228 名前:(約束) 投稿日:2001年01月12日(金)16時53分17秒
- 「中澤、ちょっと」
「はい」
部長さんに呼ばれた。
「安倍君はアルバイトやから、雑用でえぇねん。
中澤が今やってはる仕事を、教えたってな」
「ざ、雑用をですか?」
「そうやで。中澤かていつまでも雑用ではいられんやろ。
安倍君がひとりでできるようになったら、中澤にはデスクに座ってもらうで」
「はい」
「ほんじゃ、よろしく頼むわ」
「はい、がんばります」
(あたしがデスクに・・・)
少し嬉しかった。仕事らしい仕事ができるようになるんやから。
(こりゃさっさと叩き込んで、はよひとりでできるようなってもらわんとな)
意気込んで、彼女の元へ。
「えーっと・・・」
「安倍なつみです。よろしくお願いします」
「あ、中澤裕子です。自分、アルバイトなんやって?」
「はい」
「歳はいくつなん?」
「16です」
(わ、若いなぁ・・・)
「仕事言うても雑用やから、そないに堅くならんでもえぇんやで」
「はぁ」
「じゃ、まずはお茶汲みからや」
「はい」
あたしとそのコは、給湯室に移動した。
- 229 名前:(約束) 投稿日:2001年01月12日(金)23時17分32秒
- ジリリリリリリリ・・・・・
「あ、お昼休みや。安倍さん、お昼はどうすんねん?」
「中澤さんはどうするんですか?」
「あたしは食堂行って食べんねんけど」
「じゃあ、あたしもお供します」
「よっしゃ、ほな、サイフ持ってさっそく行くで」
「はい!」
あたしとそのコは、いつも一緒に行動してた。
っちゅうか、そのコがあたしについてきてはったんや。
まぁ、始めはしゃあないんやろうけどな。
エレベーターで、地下に行った。
「ここが食堂やで。あそこで食券買うて、あっちに出すんよ」
「はい」
食券売り場の前には、仰山並んではった。
(まぁ、いつものことやな・・・)
「・・・こんでますね」
「いつもこんなんやで」
「はぁ・・・」
ふたりで行列の最後尾に並んだ。
「なぁ、安倍さんてどこから来はってん?」
「北海道からです」
「あぁ、なるほどね。標準語やねんけど、少しだけ訛りがあんねんな」
「そ、そうですか?」
顔を紅らめて、うつむいてもうた。
(このコ、ホンマカワイイねんなぁ)
- 230 名前:(約束) 投稿日:2001年01月12日(金)23時18分05秒
- 「中澤さんは、出身も大阪ですか?」
「ちゃうよ。あたしは京都の片田舎に住んでてん」
「京都ですか?わぁ、憧れますぅ」
「あたしが住んでたんは安倍さんが描いてる京都とはちゃうで。
もっと田舎の方やねん」
「あの・・・さん付けじゃなくていいですよ」
「せやけどなぁ、呼び捨てっちゅうわけにもいかへんやろ」
「じゃあ・・・なっちって呼んでください」
「なっちか。えぇな、そうするわ」
「はい」
「なっちも、裕ちゃん呼んでえぇで。
それと、そないに堅苦しい敬語喋らんでもえぇって。もっと気ぃ楽にしてぇな。
あたしも去年入社したばっかりやねんで」
「で、でも・・・」
「えぇねんって!
歳はそりゃ離れてはるけど・・・せやなぁ、姉さんみたいな感じでえぇかな」
「はぁ・・・じゃあ、お言葉に甘えて・・・」
そうこう言うてるうちに、あたしらの番が回ってきた。
「なっち何食べるん?一緒に買うたるよ」
「えーっと・・・なっち、裕ちゃんのお薦めのモノがいいな」
(裕ちゃんか・・・嬉し過ぎるで)
「おっしゃ、せやったら定食モノやな。う〜ん、お好み定食にしとくか」
「お好みって、お好み焼き?」
「そうやで?」
「お好み焼きとご飯を一緒に食べるの?」
「せや。関西じゃフツーやで」
「ホントに?う〜ん・・・じゃあそれ食べてみるよ」
「ほんなら、決まりやな」
お好み定食の食券をふたつ買うた。
- 231 名前:(約束) 投稿日:2001年01月13日(土)22時55分31秒
- そんなこんなで数ヶ月。
なっちは覚えも早いコやったから、順調に教え込めた。
そして、社内でのあたしとなっちの仲も、順調に進んで行ってた。
ジリリリリリリ・・・・・
「はい、お疲れさん。今日もようがんばったな」
「うん、裕ちゃんもお疲れさま」
「なぁなっち、今日これから何かあるん?」
「うぅん、何もないよ」
(おっしゃ!)
「せ、せやったらあたしと何か食べに行かへんか?」
「うん、いいよ」
長かった・・・社外でも会いたい思ってたんやけど・・・
せやけど、何度も誘おうしたけど口に出せへんかった。
あたし、意外と臆病やったんやな。
「ほんじゃ、退社準備したらロビーに集合な」
「うん」
あたしからしたら、初めてできた社内の親しい友達やった。
歳は離れてんねんけど・・・そんなん関係あらへん!
社内では姉妹みたいに話してんねん。
社外に出ても同じやろ。
バッグと上着を持って、タイムカードをスキャンして、一階ロビーに降りた。
退社する波が忙しく通り過ぎる中で、あたしはなっちを待っていた。
「裕ちゃ〜ん」
同じとこから降りてくるのに、なんで時間違いよるんやろなぁ。
「ゴメン、待った?」
「いや、さっき降りてきたばっかりやで」
- 232 名前:(約束) 投稿日:2001年01月13日(土)22時56分01秒
- 「ねぇ裕ちゃん」
「ん?」
「なっちねぇ、こっちにきて裕ちゃんが初めての友達なんだ」
「そ、そうなん?」
「うん。だからね、敬語じゃなくていいよって言われた時、すっごく嬉しかったんだよ」
「そうなんや」
「うん」
(えぇコやなぁ)
自分が次第に魅かれてるのに気づいたんは、丁度その頃からやったかな。
なっちには、接する人を引きつける何かがあったんやと思う。
一生懸命なのと健気さが滲み出てはって・・・純粋って言葉がぴったりやな。
あたしは、自分が今までにしてきた厭らしいことを恥じた。
同時に、このコともっと仲ようなりたいと思い始めてた。
「なぁなっち、何食べ行く?」
「う〜ん、なっちまだこの辺のことわかんないから、裕ちゃんにお任せするよ」
「おっしゃ、任しとき!美味い店つれてったるで!」
「うん!」
仲ようなれれば・・・救われる気がしたから・・・
「行こっ」
「あ、ち、ちょっと・・・」
なっちはあたしの手をとって、軽やかに歩きだした。
あたしは少し照れてもうた。
(・・・悪くないな)
- 233 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月14日(日)05時21分08秒
- まさか裕ちゃんの過去の人がなっちだったとは…
名前はってとこで彩っぺの名前が出てくると思ってました
いや実に面白い展開です。なっちが今の裕ちゃんの店に来て
ひと悶着あるといいな〜という希望を言ってみました
マジで面白いですわ、ほんま。
- 234 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月14日(日)05時32分06秒
- おいら”不幸なひと(みっちゃん)”だとおもった。
- 235 名前:(約束) 投稿日:2001年01月14日(日)22時58分44秒
- 「そっちやない、こっちやで」
手を引いて、なっちを誘導したった。
(このコの将来も、あたしが導いたる)
今思うと、勝手な妄想やったなぁ。
せやけど、そん時は本気やったと思う。
「着いた、ここやで。居酒屋やけど、ここの焼き鳥美味いねんで」
「わぁ〜、美味しそうな匂いするねぇ。なっちもうお腹ペコペコだよぉ。はやく入ろ」
引き戸を開けて、ふたりでのれんをくぐった。
「いらっしゃいっ」
地元の人しか知らんこの店には、客もそれほどおらんかった。
テーブル席に座った。
「なんでも食べ、今日はおごったる」
「ホントに?そんな、悪いよ・・・」
「えぇってえぇって、誘ったんはあたしやねんから」
「わぁ〜い、裕ちゃんありがと〜」
なっちの笑顔がたまらなく嬉しかった。
「じゃあねぇ〜・・・う〜ん・・・」
「どないしたん?」
「なっちこういうとこ初めてだから、頼み方わかんないよ」
「あはは、ほんなら、あたしが適当に頼んでもうてえぇか?」
「うん、おねがい」
「オッチャン、適当に八本ずつ、あと生中ひとつと・・・なっち何飲む?」
「う〜ん、オレンジジュース」
「あとオレンジジュースひとつな〜」
- 236 名前:(約束) 投稿日:2001年01月14日(日)22時59分15秒
- 「美味しい!裕ちゃん美味しいよ!」
「せやろ?もっと食べてえぇで〜」
(食べてるなっちもカワイイで・・・)
あかん、生中三杯目終わってもうた。
今日は酒が進むわぁ。
あはは、なっちの笑顔が酒の肴になってもうてんねんな。
最高の肴や〜。
(なっち〜)
「オッチャ〜ン、生中もうひとつ追加な〜」
「裕ちゃん、飲み過ぎだよ〜」
「そうか?これで最後やから」
「裕ちゃんさっきもそう言ってたよ?」
「そうやったっけ?あはは・・・」
「もぉ〜・・・ホントにそれで最後だよ?」
「わかってるって、ホンマに最後やって」
次はいつ一緒にこれるかわかれへんねん。
せやったら、一緒に居られる今、思いっきり飲んだる。
「ほら裕ちゃん、ビールきたよ」
「おおきに!」
- 237 名前:(約束) 投稿日:2001年01月14日(日)22時59分57秒
- 「お酒飲んでる時の裕ちゃんって幸せそうだね〜。
なんかなっち羨ましくなってきちゃったよ」
「ホンマ?なっちも飲むか?」
「うぅん、お父さんが飲んでたのを一口もらったことあるけど、
なっちは苦くて飲めないよ」
「美味いのになぁ・・・」
「それに、なっちまだ未成年だよ。
未成年にお酒勧めて、裕ちゃんイケナイんだ〜」
「せやったな・・・」
「ど、どうしたの?急に暗くなっちゃって」
「あたしとなっち、そんなに歳が離れてたんやな〜・・・」
「・・・なっちはあんまり歳の差感じないよ」
「なっちは優しいコやなぁ」
「そ、そんなことないよ」
「・・・・・」
「裕ちゃん?」
「あかん、ちょっとトイレ行ってくるわ・・・」
「うん・・・」
・・・・・・・・。
- 238 名前:(約束) 投稿日:2001年01月14日(日)23時42分43秒
- ・・・・・・・・・・・・?
(はっ!!)
気がついたんは、自分家のベッドの上やった。
(あたた・・・アタマ痛っ)
頭痛がひどい。
(あかん、完璧に二日酔いや・・・)
昨日は・・・なっちとご飯食べに行って・・・
(あれ?どないして帰ってきたんやろ・・・)
思い出そうとすると、頭に響く。
(あたた・・・思い出せへんわ)
酒で記憶をなくすのは、久しぶりやった。
そないに飲んだっけ・・・
(はっ!!)
時計を見ると、7時48分。
(あかん、遅刻してまう!!)
急いで顔洗って、簡単にメイクして、スーツ着て・・・
(ん?)
なんか置いてあるで・・・置き手紙や。
--裕ちゃんへ
お母さんが心配するから、なっちやっぱり帰るよ。
また明日会社でね。
なっちより--
なっち、ここに来たんか・・・
- 239 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月15日(月)06時03分01秒
- なんだか、これが「過去」の話なのは切ないね。
- 240 名前:(約束) 投稿日:2001年01月15日(月)22時42分31秒
- 「裕ちゃんオハヨー」
「あぁ、なっちか。おはようさん」
「なっちね、昨日は楽しかったよ」
「あたしも楽しかったで」
遅刻ギリギリ滑り込めた。
今日もカワイイわ、このコ。
(せやけど・・・)
思い出せへん部分が、やけに気になりよる。
なんかしてもうたんか・・・
「なぁなっち・・・」
「ん?なぁに?裕ちゃん」
「・・・また行こうな」
「うん!」
なんとなく聞けへんかった。
直感的に、聞いたらあかん気がした。
(せやけど、なっちは普通やし・・・大丈夫やろ)
「あのな・・・」
「ん?」
「あたし、実は昨日のことよう覚えてへんねん。
なんか変なことせんかった?」
- 241 名前:(約束) 投稿日:2001年01月15日(月)22時43分01秒
- 「・・・覚えてないの?」
「あ、うん・・・ビール四杯目くらいからかな」
「帰りのことも?」
「うん・・・」
(あかん、なんかしてもうてる)
なっちの反応を見て、ビビッときた。
「・・・・・」
「もしかして・・・なっちになんかしてもうた?」
「・・・うぅん、なんにもなかったよ」
「ほ、ホンマか?」
「うん」
何か引っ掛かんねんけど、どうやら大丈夫やったらしい。
「よかったぁ、ホンマにまた行こうな」
「うん・・・」
急に元気なくなってもうた。
(どうしたんやろ・・・)
気になったけど、それ以上は聞けへんかった。
「さぁて、今日も一日がんばろな」
「・・・うん」
- 242 名前:(約束) 投稿日:2001年01月15日(月)22時43分44秒
- お昼休み。
いつものように食堂で、なっちとふたりで昼食をとってた。
「・・・・・」
(あかん、いつもは喋るのに、今日は無言で食べてはる・・・)
朝から急に元気がなくなってもうてんねんな。
なっちから元気とったら、ただのカワイイコやで。
「なぁなっち、どないしたん?なんか悩みでもあるんか?
裕ちゃんが聞いたるで」
「・・・うぅん、大丈夫」
「大丈夫言うたって、いつもみたいな元気がないやん」
「・・・・・」
「それとも、どっか具合でも悪いんか?」
「・・・裕ちゃん」
「ん?」
「裕ちゃんってファーストキスはいつだった?」
「な、なんやの?」
なっちの意図が読めへんかった。
元気がないのと、ファーストキスとは関係あるんか?
「いいから答えて」
「せ、せやなぁ、中学の頃やったかな・・・」
「なっちね・・・昨日だったんだ」
「え?」
「でも、裕ちゃん覚えてないんだよね」
「あ、あたし?」
(・・・したっけ?)
- 243 名前:(約束) 投稿日:2001年01月15日(月)22時45分04秒
- 「裕ちゃんがね、昨日なっちのこと好きだって言ったんだよ」
「ほ、ホンマに?」
「うん。それでね、なっち困ってたらね、キス・・・されちゃった」
「・・・ファーストキスやったんか?」
「うん・・・」
(最悪や・・・)
「ゴ、ゴメンな。酔っぱらっててワケわからんようなってもうててん」
「覚えてないんだよね・・・」
「ホンマ、ゴメンな」
「うぅん、もういいよ。でもね、なっちホントは嬉しかったんだよ。
裕ちゃんに好きって言われて、キスされて・・・」
「え?」
「あれは全部、お酒に酔ったはずみだったんだよね・・・」
「・・・・・」
(嬉しかった?あたしとキスできたんが、嬉しかった?)
少なからずとも、なっちもあたしに好意を持ってくれてはったんや。
(なんとかせな・・・)
あたしはなっちのことが好きや。
今までは思わへんかったけど、今は恋人のようになれたらいいなって思う。
(せやったら・・・いっそ言うてまうか、シラフで好きやって)
言うても嫌われへんのやったら・・・
- 244 名前:(約束) 投稿日:2001年01月16日(火)00時29分38秒
- 「なぁなっち」
「なぁに?」
「あんな、そん時は確かに酔うてもうてて覚えてへんねん、ゴメンな」
「うん・・・」
「せやけどな、言うたことはホンマやで。あたしはなっちのこと、好きやねん」
「ウソ・・・」
「ウソやない。今は酒も飲んでへん、シラフや」
「・・・ホントに?」
「ホンマや。信じてぇな」
「・・・なっち、嬉しいよ」
「せやったら、つきおうてもらえるんか?」
「・・・でもね、ちょっと考えさせて」
(な、なんでやねん)
好きやったんちゃうんか?
あかんな、先走り過ぎたみたいや。
「ま、まぁそうやろうな。女同士やし・・・」
「うぅん、そういうのじゃないんだ」
「せやったらなんで・・・」
「なっちね、ちょっとだけ時間が欲しいの」
「わ、わかった。返事待ってるで」
「うん・・・」
- 245 名前:(約束) 投稿日:2001年01月16日(火)22時59分22秒
- その日から、なっちと顔合わすんが辛かった。
あたしの気持ちは知ってるはずやのに、平然としていられるなっちが不思議や。
あたしは・・・戸惑うことばっかりやのに・・・
せやけど、仕事は仕事。
そんなんを理由に休むワケにもいかんし、辞めることも出来へん。
なっちと顔を合わせてる限り、あたしの気持ちは変わらんのはわかっていた。
それだけに、辛い。
(まだ返事くれへんのやろか・・・)
「ねぇ裕ちゃん、次はどうしたらいい?」
「せ、せやなぁ、空の湯飲み回収してきて」
「うん!」
順調に仕事を覚えたなっちは、指示を与えるだけでできるようになった。
あとは仕事の順番を覚えさすだけや。
(はぁ・・・辛いわぁ)
こんなに胸が痛むんは、久しぶりやな。
学生の頃以来かもしれんなぁ。
「裕ちゃん、次は?」
「コピー機の紙が無くなってへんか見てきてぇな」
「うん!」
なっちは順調にこなしているのに・・・
(あたしは何しとんのやろ・・・)
憂鬱や。
- 246 名前:(約束) 投稿日:2001年01月17日(水)01時46分30秒
- ジリリリリリ・・・・・
「あ、退社の時間だ。裕ちゃん今日もお疲れさま」
「ん・・・」
「どうしたの?裕ちゃん元気ないよ?」
無邪気というかなんというか。
「そ、そんなことないで」
「ホントに?具合悪いんじゃない?なっち心配だよ」
「・・・理由は知っとるはずやで」
「え?」
「なぁ、いつになったら返事くれるん?」
「う〜ん・・・」
「なっちは優しいコやから傷つけたくないとかっていうんはわかんねんけどな。
こんなん生殺しやで。裕ちゃん辛いわ・・・」
「う、うん・・・」
「イヤならイヤってはっきり言うてくれたほうが、まだ助かるわ」
「イ、イヤじゃないけど・・・」
「ならなんやねん!」
(あかん!)
つい強い口調で出てもうた。
悪い癖やで・・・
「裕ちゃん・・・そんなに苦しんでたんだね。
なっち、全然気づいてあげられなかった・・・ゴメンね」
「え、えぇねんけどな・・・」
「裕ちゃん・・・ゴハン、食べ行こっか」
「・・・えぇで」
- 247 名前:(約束) 投稿日:2001年01月17日(水)23時52分36秒
- なっちが率先して、あたしの先を歩いた。
もちろん、手は繋いではる。
着いたんは・・・あたしが教えたった居酒屋や。
前に座った席を選らんで、なっちは座りはった。
「裕ちゃん・・・ゴメンね」
「や、やっぱり・・・」
「あ、違うよ。苦しませちゃって、ゴメンねっていう意味」
「あ、そっちかいな」
「なっちもね、結構苦しかったんだよ。
そりゃ裕ちゃんとずっと一緒にいられれば楽しいけどさ」
「ほ、ほんなら・・・」
「待って、最後まで聞いて」
「あ、ゴメン・・・」
「実はね、なっち、ずっとここに居られるんじゃないんだ」
「・・・!?」
「お父さんの仕事が終わったら、また北海道に戻らなくちゃいけないんだよ。
なっちだって裕ちゃんとつきあいたいって思うよ・・・でもね・・・」
「・・・・・」
「そうすると、裕ちゃんとの思い出が今以上に増えちゃうでしょ?」
「・・・うん」
「そうするとね・・・裕ちゃんとの別れが、ホントに辛くなっちゃうんだ。
なっち、そんなのガマンできないよ・・・」
「なっち・・・」
(そんな理由があったんか・・・)
- 248 名前:(約束) 投稿日:2001年01月17日(水)23時53分17秒
- 今気づいた。
苦しんでたんは、あたしだけやなかった。
いや、なっちの方が数倍・・・数十倍苦しんでいたんや。
(アホや・・・あたしはアホやわ)
苦しんでたんに気づいてあげられんかったんは、ホンマはあたしの方やった。
苦しめてたんもあたしや。
(ホンマにアホやな、あたしは・・・)
「それだったら、今のままの方がいいかなーって思ったんだ」
「・・・なんで言うてくれへんかったん?一言言うてくれれば・・・」
「言ったら・・・言ったら裕ちゃん悲しむでしょ?」
(このコは・・・)
「なっち・・・」
このコは全てを自分独りで背負おうとしてはる。
「なっちだってホントは裕ちゃんと一緒にいたいよ・・・
今さら北海道になんて帰りたくないよぉ・・・」
なっちの大きな目から、大粒の涙が流れた。
「・・・・・」
あたしは黙ってなっちの頭を抱いてやった。
「裕ちゃん・・・」
「泣いてえぇで」
店の人らから変な目で見られてはるけど、そんなん関係ない。
「なっちは今までようガマンしてきたんや。
もうガマンすることないで。思いっきり泣き」
「裕ちゃん・・・ありがと」
なっちは静かに、声も出さずに泣いていた。
- 249 名前:(約束) 投稿日:2001年01月18日(木)23時06分17秒
- 「なぁなっち、明日は休みやんか」
「うん」
「今日は家泊まっていかへんか?親御さんにはあたしから言うたるから」
「うぅん、なっちから連絡するよ」
もうこれ以上の追求はせぇへん。
もうこれ以上、なっちを苦しませたくない。
このコを・・・守ってやりたかった。
結局、居酒屋では何も食べへんかった。
顔馴染みのおかげか、オッチャンが何も言わへんでくれたんは幸いやったな。
手は自然と繋がってた。
(この小っちゃい手で、このコは全てを背負おうとしてはったんやな・・・)
「ねぇ裕ちゃん」
「ん?」
「この間酔ってて言ったやつ、今なっちに言ってみて」
「酔ってて言ったやつって・・・好きやってやつか?」
「うん、それ」
「えぇんか?」
「うん!」
「なっち、好きやで」
「裕ちゃん、なっちも大好きだよ」
「なっち・・・」
それだけで嬉しかった。
(ありがとな)
- 250 名前:(約束) 投稿日:2001年01月18日(木)23時06分52秒
- 「もうひとつだね」
「もうひとつ?」
「ほら、酔ってて覚えてなかったことだよ」
「う〜ん・・・はっ!ほ、ホンマにえぇんか?」
「うん、なっちもして欲しい」
ゴクッ・・・
思わず喉鳴らしてもうた。
そん時は酔ってて記憶にないんやけど、シラフでオンナノコにキスするんは初めてや。
「裕ちゃん、お願い・・・」
なっちは目をつぶって、少し上向きになった。
「ほ、ほんじゃ・・・」
静かに唇を合わせた。
「ん・・・」
なっちの吐息が静かに聞こえた。
(舌は・・・入れたらあかんよな・・・)
オンナノコの唇って柔らかいわぁ。
なっちの初めてのキスも二回目のキスもさせてもらった。
もうそれだけで十分や。
「裕ちゃんの唇って柔らかいんだね〜。なっち、なんか気持ちよかったよ」
(あかん、そんなこと言われたら・・・)
「そ、そんならもう一回するか?」
「う〜ん、またあとでね」
「せ、せやな・・・」
(う〜ん、残念)
オンナノコ同士のキスも、えぇもんやな・・・
- 251 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月19日(金)00時03分53秒
- らぶらぶですなぁ
- 252 名前:(約束) 投稿日:2001年01月20日(土)00時16分00秒
- 「お母さんがよろしくだって」
あたしの部屋。
なっちが電話を終えて、戻ってきはった。
「裕ちゃんのこと、なんて言うたん?」
「ん?恋人の家って」
「え!?」
「ウソだよ〜。友達の家に泊まるって」
「そ、そうやろな」
はっきりとした言葉には出さないけど、もうつきおうてるみたいなもんやな。
あたしはもうこれで十分や。
「ねぇ裕ちゃん、明日大阪案内してよ」
「ん?えぇで」
「わぁ〜い、裕ちゃんと初デートだね」
「デ、デートかいな」
「うん!」
「思い出・・・増えるで。えぇんか?」
「うん。もうどっちにしても、なっちは裕ちゃんと別れるのが辛いよ。
だったら思い出、たくさんもらってくことにするよ」
「・・・いくらでもつきおうたるで」
「うん、ありがと!」
- 253 名前:(約束) 投稿日:2001年01月20日(土)00時16分43秒
- その夜は、お互いのことについて話した。
「なっち、ひとつ聞いてもえぇか?」
「うん、なぁに?」
「答えたくなかったら答えへんでえぇで。なんで高校行かんと働いてはるん?」
「う〜ん、なっちね、夢があるんだ」
「夢?」
「うん。小さい頃から歌手になりたいって思ってるんだ」
「歌手かぁ」
(・・・あたしと一緒やで)
忘れてた夢を、思い出した。
「それでね、もう少ししたら東京で一人暮らしするために、今お金貯めてるんだよ」
「・・・高校、行きとうないんか?」
「う〜ん、そりゃ行きたいけどさ。
北海道にいた頃の高校辞めてから、他の高校に行きたくなくなっちゃってさ」
「そっか・・・」
「裕ちゃんは夢、ある?」
「ん、なっちと一緒やで」
「ホントに?わぁ〜、なんか嬉しい!」
「せやけどなぁ、今の状況やと難しいで・・・」
「そんなことないよ。なっちはがんばれば夢は叶うと思うな〜」
確かに、あたしはなんの努力もしてへんかった。
「せやなぁ、時期がきたらがんばってみるで」
「うん、お互いがんばろうよ!」
「おっしゃ!」
「約束だからね!」
「うん」
あたしの中のなっちが、前よりも大きくなった。
- 254 名前:(約束) 投稿日:2001年01月20日(土)00時17分36秒
- 電車で一時間で、道頓堀に行ける。
密集したデパートやらアメ村やらに連れてったった。
途中で迷ってもうたけど、なっちが方向に強くて助かった。
「ゴメンなぁ、裕ちゃん、実は方向音痴やねん」
「うぅん、おかげで楽しかったよ」
帰りの電車。
もうすっかり陽が暮れてはった。
「なぁなっち・・・」
「なぁに?裕ちゃん」
「いつ頃北海道に戻るんか、わかれへんのか?」
「う〜ん、お父さんの仕事次第だからねぇ。なっちにはわかんないよ」
「そっか・・・」
(長引けばえぇなぁ・・・)
そうすれば、もっといろんなとこに連れてったれる。
なっちがえぇ言うんやから、思いっきり思い出を詰め込んだるねん。
「なっち・・・好きやで」
「ゆ、裕ちゃんどうしたの?」
「ん?別にぃ〜・・・」
「・・・なっちも好きだよ」
電車の窓から差した夕陽で、なっちの顔が紅くなってはった。
前にも後にも、これが大阪で最後のデートやった。
- 255 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月20日(土)05時30分54秒
- 二人がすごく良い感じなだけに、やっぱり切ない。
- 256 名前:(約束) 投稿日:2001年01月21日(日)00時23分31秒
- 「裕ちゃん、今日はホントにありがと。なっち、すっごく楽しかったよ」
「あたしもや。楽しかったで」
自然と繋がれた手。
もう照れ臭さなんかなかった。
「また行こうな」
「うん!」
駅から遠ざかって、人通りの少ない方へ歩いて行く。
(次の休みにも、どっか連れてったるからな)
それが今のあたしに出来る、精一杯のことやから。
「あ、そうだ」
「ん?どないしたん?」
「裕ちゃん、ちょっとこっち来て」
「ど、どこ行くんや?」
人通りの少ない路地から、人の気配も感じられない裏路地に入った。
(な、なにするんやろ・・・)
「裕ちゃん、キスして」
なっちは目を閉じた。
「・・・うん」
あたしは唇を重ねた。
三度目のキス。
今出来る最高の、愛を確かめる方法やった。
「ありがと」
「こちらこそ」
「じゃあ、裕ちゃんまた明日ね」
「おう、また明日会社でな」
- 257 名前:(約束) 投稿日:2001年01月21日(日)00時24分05秒
- 「どういうことなんですか!」
翌日。
会社で朝一から怒鳴り散らしてるあたしがいた。
「せやから、安倍君の親御さんの都合で急に北海道に戻ることになったんやと」
「そんな、急過ぎますわ・・・」
(なんでや!なんでそんなに急やねん・・・)
「まぁ、淋しいんはわかる。せやけどな、会社は馴れ合いの場やないねんで」
「・・・わかってます」
「中澤にはまたしばらく同じ仕事をしてもらうけどな」
「・・・はい」
仕事所やなかった。
(なんで何も言わずに・・・)
・・・言えへんかったんやろな。
(それにしても急過ぎやで)
なっちにとっても急過ぎたんやろ。
(せめて一言くらいなんか言わせてくれたって・・・)
これ以上責めたらあかん。あのコかて苦しいんや。
なっちの気持ちは、痛いほどわかってるはずや。
あたしはそうなった運命を呪いながら、その日の仕事を過ごした。
家に帰ると、ドアに何か挟まってはった。
(ん?なんやろ・・・)
・・・ピンク色のカワイイ便せんやった。
(・・・!なっちか?)
それ以外に心当たりがなかった。
便せんを取り、鍵を開けて部屋に入った。
バッグをほうり投げ、なっちからの手紙をハサミで丁寧に開けた。
- 258 名前:(約束) 投稿日:2001年01月21日(日)00時24分37秒
- --裕ちゃんへ
突然だけど、明日北海道に帰らなくてはいけなくなりました。
短かったけど、裕ちゃんと一緒にいれたこの半年間、すっごく楽しかったよ。
初めて居酒屋に連れてってもらったこと。
裕ちゃんは覚えてないんだけど、告白されて、キスされたこと。
ファーストキスだったんだぞ〜!
裕ちゃんが酔ってない時に告白してくれたこと。
その返事をなっちができなくて、裕ちゃんずいぶん苦しませちゃったよね。
ホント、ゴメンね。
そして、返事できない理由話したら、裕ちゃん許してくれたね。
あの時は居酒屋で泣いちゃってゴメンなさい。恥ずかしかったでしょ?
裕ちゃん優しいから、なっちの頭を抱いてくれてたよね。
すっごく温かかった。
その帰り道に、裕ちゃんが酔ってない時にやり直してもらった、告白とキス。
なっちが今まで生きてきた中で、一番嬉しかったです。
裕ちゃんの温かさ、今でもなっちの口に残ってるよ。
次の日に連れてってもらった、ドウトンボリも、ホントに楽しかったよ。
なっち田舎の生まれだから、あんなに人がいっぱいいる所、初めてだったよ。
またいつか行けたらいいね。
裕ちゃんの夢、絶対叶えてね。あたしもがんばって歌手になるよ。
そしていつか、一緒に歌えるようになろうよ。
約束だからね?
最後に、今まで本当にありがとうね。
物覚えの悪いなっちに、わかりやすいように仕事を教えてくれた裕ちゃんはスゴイよ!
実は、初めて逢った時から裕ちゃんのこと、好きでした。
だから、裕ちゃんの顔見ちゃうとなっち帰れなくなっちゃう。
手紙だけでゴメンなさい。
お体に気をつけて、がんばってね!
それじゃ、バイバーイ。
安倍なつみ--
- 259 名前:(約束) 投稿日:2001年01月21日(日)00時25分09秒
- (なっち・・・)
ゴメンな・・・
あたしもかなり苦しませてたよな・・・
今度逢う時には、絶対守ったるからな。
あたしなんか、なっちの1割も優しくなんてないで。
仕事かて、なっちが物覚えよかったから順調やったんや。
全然スゴクなんてないんやって。
約束、守ったるからな。
気がつくと、あたしは涙でボロボロやった。
便せんに、あたしの涙とは違う濡れた部分を見つけた。
(辛かったんやろな・・・)
なっちの涙が染み込んだ便せんを、あたしはそっと引きだしに閉った。
- 260 名前:(約束) 投稿日:2001年01月21日(日)00時25分42秒
- 妹のような恋人は、あたしの目の前から突然姿を消した。
目の前には、白い封筒。
あの会社におっても、あたしはなんの努力もできへんやろ。
チャンスは自分で掴みに行くモンや。
意気揚々と出社したあたしは、部長の席に一直線に進んだ。
「部長、中澤裕子は本日をもって、この会社を辞めさせてもらいます」
「な、なんでや!自分急過ぎやで」
「理由はその封筒の中身に書いてありますんで」
「・・・もうえぇ、さっさと出てきや」
「今までホンマにありがとうございました!失礼します!」
(あとは・・・)
自分のデスクの引きだしに入ってる、自分のモノだけそっと抜き取った。
(これでよし!)
これでもう、この会社に未練は無い。
(やっぱり、東京の方がチャンス多いんかな・・・)
大阪より東京の方が動きやすいやろうな。
本屋に立ち寄り、東京方面の賃貸情報誌を買った。
(なんや、東京って高いやんな・・・)
貯金でしばらくは持つやろうけど、はよ仕事先探さなあかんな・・・
コンビニに寄って、履歴書を買う。
東京方面での仕事は、東京の就職情報誌を見ればえぇやろ。
先に住む場所やな。
部屋に戻って、引きだしの中にある便せんを覗きこむ。
(なっち、約束・・・きっと守るで)
机の上にある、賃貸情報誌を漁り始めた。
- 261 名前:第8回〜 投稿日:2001年01月21日(日)00時33分53秒
- まだ若い頃のなっちの出演でした。
なんか夢=歌手にばっかりなってもうてるけど、その辺は見逃してな。
近々、最近のなっちが登場するかもしれんで。
>>225 さん
その方がやりやすいねんな〜。なんでやろう。
>>226 さん
ありがとうございます!紗耶香の話しもっとやりましょうかねぇ。
>>233 さん
その線、実は考えてました(w
なっちは多分戻ってくるで。
>>234 さん
それも考えたんやけど・・・みっちゃんはまた今度な。
>>239 さん >>225 さん
切ないですよね。せやけど、なっちは過去の人だけじゃ終わらへんよ。
>>251 さん
それだけに別れが切なくなってまうんですよね。
さて、次回は・・・まだ未定です。
ほな、またお会いしましょう。
- 262 名前:FANTASISTA 投稿日:2001年01月21日(日)02時21分26秒
- なんかこーゆーシチュのなっちってよく合うね…
出てくるってコトはやはりやぐなっちゅーになるということですか?(わら
ゆーちゃんの想いの強さはなっちのほうが強そう。並々ならぬ決意がいいカンジ。
続編が気になりますって言うか…未定ならそのまま続きを書いて欲しい(わら
- 263 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月22日(月)05時48分35秒
- なっちの・・・夢に向かう強さ、みたいなものが、裕ちゃんに
会社を辞める決心をさせたのが、二人の前向きないい関係を表
しているようでよかったです。側にいなくても、お互いの存在
があるから強くあれる、という感じで。
- 264 名前:なかざー 投稿日:2001年01月25日(木)22時58分30秒
- >>FANTASISTAさん
うちの勝手なイメージやけど、なっちって淋しい感じがすんねん。
出てくる所は、そうですな、今現在に入り込む予定です。
ありがちやけど、それが書きやすそうやから(w
いきなりってのもあれやから、1個クッション挟んでからいかせてもらいます。
>>263 さん
そうですな、なっちがおるから喫茶店で店長をしてる中澤がいてる。
そして矢口を好きになってしまうのですね。
きっと中澤はもうなっちとは逢えないと思たんかもしれません。
ワンクッションに紗耶香と圭織の話しでもしようと思てるんですが、どうでしょう。
- 265 名前:無し。。。 投稿日:2001年01月27日(土)00時13分15秒
- 再開するんですねっ!感激っす!!
- 266 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月27日(土)03時19分06秒
- へい、ワンクッションに期待してます。
やっぱりこの世界での、それぞれの日常を見てみたいですからね。
もちろん、なっちのその後も大いに気になりますが。
- 267 名前:233 投稿日:2001年01月27日(土)03時48分56秒
- 紗耶香と圭織の話し読みたいです
なっちと中澤の方も気になるけど、こっちも気になります
全員がどこかで繋がってるのがとても面白いです
- 268 名前:なかざー 投稿日:2001年01月29日(月)15時44分33秒
- >>無し。。。さん
はい、一応再開致します。
>>266 さん
ご期待頂き、本当に嬉しく思います。
せやけど、がっかりせんといてな〜(汗
>>233 さん
始めは繋げようとか思てへんかったのが本当です(w
ご期待にそえるかどうかわかりませんが、がんばります!
- 269 名前:〜第9回 投稿日:2001年01月29日(月)15時46分31秒
- 前述した通り、今回は圭織と紗耶香の話しです。
ゆっくりの更新になると思いますが、読んで戴けると嬉しいです。
ほんじゃ、いってみよか。
- 270 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年01月29日(月)15時48分06秒
- 紗耶香を好きだと気づいたのは、一昨日の昼頃だ。
それまではフツーの友達。それからは・・・
フっとした瞬間に、紗耶香のことがいつもと違って見えた。
恋は恐ろしい。
今まで紗耶香と過ごした時間が、急に愛おしく思えてくる。
そして、これから紗耶香と過ごす時間を思うと、嬉しくてたまらない。
(紗耶香・・・あなたは今、何を考えてるの?)
「圭織ぃ、何ボーっとしてんの?」
「・・・・・え?」
「せっかく遊んでるんだからさ、もっと話ししようよ」
「え、あ、ゴメン」
「うぅん、いいんだけどさ」
(カオのこと考えてくれてた・・・のかな?)
嬉しい!舞い上がってしまいそうだった。
「圭織ってさぁ、ボーっとしてる時って何考えてんの?」
「う〜ん、カオもわかんないんだ」
「あはは、宇宙と交信してるんじゃない?」
「そうかもね、あはは・・・」
わからないはずはないんだけど・・・
色々なことを考えすぎて、収集がつかなくなっちゃうんだ。
でもね、ひとつだけ言えるのはね。
最近多いのは、紗耶香、あなたのこと。
- 271 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月30日(火)03時44分37秒
- そっか、最初は繋げるつもり無かったんですか。
そうだろうな、最初は中澤講師が12人の助手を使ってリクに応えてく
オムニバスって形式だし、それで繋げていったら、だんだん人物関係
も複雑になっていって、難しくなってくだろうし。
まあ、繋がっちゃったもんはしょうがないんで(笑)、中澤講師、
頑張って下さい。応援してます。
とりあえず読んでる方は、お蔭で凄く面白いです。
- 272 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年01月30日(火)22時49分09秒
- もしもカオが死んじゃったら、紗耶香悲しんでくれる?
悲しんでくれるよね?
だってカオ、こんなに紗耶香のこと好きなんだから。
カオは紗耶香がいなくなっちゃったら、すっごく悲しいよ。
悲しくて、悲しくて・・・カオ、死んじゃうかもしれない。
「・・・でさぁ、圭織はどう思う?」
「え?う〜ん・・・ゴメン、聞いてなかった」
「またぁ?圭織ちょっと最近ボーっとする回数増えたんじゃない?」
「そ、そうかなぁ」
「そうだよぉ。圭織と話してると独り言言ってるみたいで淋しいよ」
淋しい?紗耶香、淋しいの?
「紗耶香ゴメンね、カオ、ちゃんと紗耶香の話し聞くよ。絶対聞くから・・・」
「か、圭織?そんなに真面目にとらなくても・・・」
「うぅん、確かにカオ、ボーっとしすぎだよね。紗耶香淋しくさせちゃったよね。
ホントにゴメンね。カオのことキライにならないでね」
「圭織・・・キライになんてならないよ」
「よかった・・・」
紗耶香に嫌われちゃったら、あたしホントに生きていけない。
紗耶香の話しちゃんと聞かなきゃ。
「圭織・・・どうしたの?今日なんか変だよ?」
「カオはいつもと同じだよ」
「そう?それならいいけど・・・あ、圭ちゃん来たよ!圭ちゃ〜ん、こっちこっち」
窓の外から圭ちゃんを手招きする紗耶香。
「ゴメ〜ン、待った?」
ファミレスのドアを開けて、カオと紗耶香の席に圭ちゃんは座った。
カオと紗耶香のふたりきりの時間は、あっさりと終わった。
- 273 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年01月30日(火)22時50分27秒
- 紗耶香・・・なんでそんなに愛おしいの?
カオはあなたの顔を見てるだけで幸せだよ。
そして、声を聞けたらもっと幸せになっちゃう。
紗耶香はすごい。
だって、カオをこんなにも幸せな気持ちにさせてくれるんだから。
「ね?圭ちゃんもそう思わない?」
「うん、確かにね」
紗耶香と圭ちゃんが楽しそうに話してる。
カオと話す紗耶香ってこんなに楽しそうだったっけ?
「・・・リ」
ちょっとだけ、圭ちゃんに嫉妬しちゃう。
「カオリ!」
「え?なに?」
「大丈夫?さっきからボーっとしっぱなしじゃん」
紗耶香が、カオの心配してくれてる。
「紗耶香の言う通りみたいだね」
「な、なにが?」
「圭織がボーっとし過ぎるってこと。なに考えてんのさ」
「別に〜、なにも・・・」
圭ちゃんも心配してくれてるのかな。
カオってそんなに心配かけてる?
「まぁ、圭織がボーっとするのは今に始まったことじゃないけどさ」
「それでもここ数日結構増えてるんだって、圭ちゃん」
「そ、そうかなぁ。カオ、そんなにボーっとしてる?」
『してるしてる』
そんな、ふたりで同時に言わなくても・・・
- 274 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年01月31日(水)22時58分42秒
- いつも3人で行動してるね、カオ達って。
たまには紗耶香とふたりっきりでどっか行きたいな。
そしたらカオ、死んじゃってもいい!
あ、でも死んじゃったら紗耶香に逢えなくなっちゃうから、やっぱりイヤだな。
紗耶香が一緒に死んでくれるなら別だけど・・・
(・・・何考えてるんだろ)
自分で自分がバカバカしく思えた。
「じゃ、行こうか」
「え?」
(どこに?)
紗耶香が立ち上がって、カオと圭ちゃんを促す。
「え?じゃないよ。圭織が見たいって言ってた映画、見に行くんでしょ?」
「あ、そうか」
「もぉ〜、自分で言ったことぐらい覚えててよ〜」
「あはは、ゴメンゴメン!」
圭ちゃんって、なんかお姉さんみたいだ。
「行くんでしょ?」
と、紗耶香。
もちろん、紗耶香のお誘いを断るはずがない。
「うん、行く!行くよぉ〜」
3人揃ってファミレスを出て、3人揃って並んで歩いた。
でも、カオはやっぱり・・・
(・・・やっぱり紗耶香とふたりっきりがいいな)
・・・ゴメンネ圭ちゃん。
- 275 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年01月31日(水)22時59分14秒
- カオと圭ちゃんは昔から友達だった。
そして、紗耶香は圭ちゃんが紹介してくれた。
それからは、どこかに行く時は3人いつも一緒だった。
たまに紗耶香の幼なじみの後藤もついてきたけど・・・
映画を見た日、待ち合わせのファミレスまでの帰り道。
お昼過ぎの待ち合わせだったから、もう陽も落ちかけていた。
(・・・帰りたくないよ)
紗耶香と別れなきゃいけないのがイヤだった。
大好きな人と、ずっと一緒にいたい。
(フツーだよね)
うん、普通だと思う。
「・・・でさぁ、あのシーンで主人公が・・・」
「そうそう、だから・・・」
紗耶香と圭ちゃんは映画の話しで盛り上がってる。
カオも話しに入りたいけど、きっかけが掴めない。
「・・・だよね。圭織はどう思う?」
「え?あ、うんカオはね・・・」
紗耶香が話しを振ってくれた。
やっぱり紗耶香はカオのこと、気にかけてくれてる。
嬉しい!
「・・・ってワケじゃないんだけどさ、でも・・・」
もしかして、紗耶香もカオのこと・・・
(・・・そんなワケないじゃん)
紗耶香は友達に優しくしてるだけなんだ。
- 276 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月02日(金)15時36分05秒
- 紗耶香、圭ちゃんと別れてからひとりきりでの帰り道は、淋しかった。
落ちかけた陽が淋しさを増してた。
(次は・・・次はいつ逢えるのかな)
紗耶香にはいつも隣にいて欲しい。
カオも、いつも紗耶香の隣にいたい。
叶わない願いなのかな・・・
うぅん、カオがもっとがんばれば、紗耶香はきっと振り向いてくれるよ。
だってこんなに好きなんだから。
言葉じゃ言い表せないから、もどかしい気持ちでいっぱいになる。
「・・・好き」
うん、大好き。
「・・・紗耶香」
声に出すと、幸せな気持ちになれる。
この気持ちを伝えられたなら、きっとすっごく幸せになれるんだろうな〜・・・
(でも・・・)
ダメって言われるのが恐い。
恐いから言えないんだ。
(・・・いくじなし)
カオは意気地なしだ。
- 277 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月02日(金)15時36分46秒
- 家に着いても、考えるのは紗耶香のことばっかり。
カオは一人暮らしだから、余計に考える時間が増えてきちゃう。
テレビもケータイの電源も切って、街の灯に合わせた明るさで、いろいろ考える。
これまでのことや、これからのこと、親しい人のことも。
その時間も、最近は紗耶香に奪われた。
紗耶香のことで頭がいっぱいになって、他のことを考える余裕がなくなってきた。
恋は盲目、とはきっとこのことなんだ。
でも、カオは全然困らないし、むしろ幸せになれるからいいんだ。
そりゃ苦しくなったりもするけど・・・
(紗耶香、今ごろ何してんのかな〜)
ご飯を作った。
(学校の宿題でもしてるのかな)
「いただきます」
(あ、紗耶香も今ごろきっとご飯食べてるよね。カオと一緒だ)
少し嬉しくなった。
(今度一緒に夕飯食べよう)
「ごちそうさま」
(紗耶香も食べ終わったかな?)
お風呂にお湯をはった。
(紗耶香って恋人・・・いないよね、こうして遊んでるし)
バスタブにうずくまった。
(紗耶香)
胸が痛かった。
(紗耶香・・・)
涙がこぼれた。
- 278 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月02日(金)17時06分28秒
- ののが矢口に片思いの、ののやぐ希望。
- 279 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月04日(日)00時14分25秒
- それから数日間、紗耶香からの連絡はなかった。
圭ちゃんからの電話もなくて、ひとりぼっちは淋しかった。
(カオから誘ってみようかな・・・)
ケータイのメモリで、紗耶香を探した。
・・・こういう時に限って誘う口実が見当たらない。
(う〜ん・・・)
ご飯食べに行かな〜い?・・・ちょっと不自然かな?
大体、紗耶香は実家に住んでるんだから。
あのさ、ちょっと話したいことがあるんだけど・・・話したいこと?
話しはしたいけど、特別話したいことなんてない。
会いたいんだ・・・おもいっきり不自然だよぉ。
なんかないかなぁ、自然な口実。
う〜んう〜ん・・・
プルルルル・・・
あ、着信・・・紗耶香だ!
「もしもし?」
「あ、圭織ぃ?あたしだけど、今空いてる?」
「うん、大丈夫だけど」
「じゃあさ、今から遊ぼうよ。時間ぽっかり空いちゃってさ」
「う、うん、いいよ」
「じゃあ例のファミレス集合ね」
「うん、すぐ行く!」
ピッ!
カオはこんなに悩んだのに、紗耶香は簡単に誘った。
- 280 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月04日(日)00時14分56秒
- (やっぱり圭ちゃんも来てるのかなぁ・・・)
来てるよね、3人はセットみたいな物だし。
カオから誘わない限り、きっと紗耶香とふたりきりにはなれないと思う。
圭ちゃんのことはキライじゃない。
昔からの友達だし、好きって言ってもいいと思う。
けど、今のカオにとってはちょっとジャマに感じる。
(ゴメンネ、でも・・・)
カオは紗耶香とふたりっきりでお話ししたりしたいんだ。
今度はカオから、自然な口実を作って誘ってみよう。
3人でも、紗耶香と逢えないよりはいいもんね。
お気に入りの洋服に着替えて、簡単にメイクを済ませた。
(もう来てるのかな)
歩いて10分くらいで着く道を、走った。
こう見えても、カオは学生の頃、学校で一番走るのが早かったんだ。
好きな人は待たせたくない。
だって、待ってるのってつまんないもん。
紗耶香にそういう思いは、できるだけさせたくない。
だからカオは走って行くんだ。
紗耶香が待ってるあのファミレスまで。
- 281 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月04日(日)00時15分27秒
- 「はぁ、はぁ・・・」
走ったおかげで、数分で着くことができた。
「・・・ふぅ」
呼吸を調えて、紗耶香が待つファミレスに入った。
(えーっと、紗耶香は・・・)
まだ来てないのかな?
紗耶香の姿は、どこにも見当たらない。
圭ちゃんも来てないみたいだ。
わかりやすいように窓際のテーブルを選んで、中で待つことにした。
(はやく来ないかな〜)
正直言って、待ち遠しかった。
数日ぶりに聞けた、紗耶香の声。
そして、数日ぶりに見れる紗耶香の顔。
逢えなかった日の数だけ、紗耶香への愛しさが募る気がした。
カオの頭の中は、今は紗耶香ばっかりなんだ。
もうすぐいっぱいになって、紗耶香のこと以外は考えられなくなりそう。
紗耶香のことを考えてる時は、幸せな気分になれる。
それと同時に、どうしようもない現実を見せられて、切なくなる。
切なくて、苦しくて、涙が出そうになってきちゃうんだ。
(どうしてこんなに好きになっちゃったのかなぁ・・・)
・・・また胸が痛い。
- 282 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月04日(日)01時24分00秒
- カオリってばすっかり恋する女の子に…。
実際カオリって恋するとホントにこうなりそう(笑)
- 283 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月04日(日)23時12分42秒
- 「・・・遅い!」
たった十数分が、永遠に近く感じる。
それだけ楽しみで、それだけ待ち遠しいってことなのかな。
店員さんがオーダーをとりに来た。
でも、先に頼んじゃうのも悪いから、断った。
「何してんだろ・・・もぉ〜」
もうすぐ手が届くのに、じらされている感じだ。
やっぱりカオ、待つのはキライ。
だって、不安になるから・・・
来なかったらどうしようって考えちゃうから。
(来れないなら電話ぐらいくれるよ)
わかってても恐い。
気を紛らせようと、窓の外を見つめた。
(あのコの服カワイイな〜)
お昼ご飯の時間からはずれているせいか、外を歩いてる人は少ない。
太陽は少し西に傾きはじめていた。
大きい雲が遠くから流れてくるのが見えた。
雲の下を、小鳥が飛んでる。
小鳥は降りてきて、カオの目の前を通り過ぎた。
その先には・・・紗耶香がいた。
紗耶香はドアを開けて、カオが待つテーブルに向かってくる。
「ゴメン、待った?」
「うぅん、さっき来たばっかり」
・・・カオは嘘つきだ。
- 284 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月04日(日)23時13分29秒
- 「あれ?圭ちゃんは一緒じゃないの?」
「圭ちゃんは部活で忙しいんだってさ」
「そ、そっか」
(ってことは・・・)
紗耶香とふたりきりだ。
そう思うと、なんだか少し緊張してきた。
「そう言えばさ、圭織とふたりだけで遊ぶのって初めてかもね」
「そ、そうだね」
(ど、どうしよう、なにか話題を・・・)
あれほど望んでたことが実際に起きたのに、なんでこんなに焦ってるんだろ。
夢って急に叶っちゃうと、焦っちゃうモノなのかな。
とにかく、今は紗耶香とふたりきりなんだ。
もっと楽しまなきゃ!
「圭織さぁ、今はなにもしてないんだよね?」
「うん」
実際、実家からの仕送りで生活してる。
ホントはバイトとかもしなきゃいけないんだろうけど・・・
「じゃあさ、ちょっとこれ見てよ」
そう言って紗耶香が出したのは、一冊のファッション誌。
- 285 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月05日(月)01時06分43秒
- いちかお好きなんで期待してます。いちずな飯田がいい感じです。
いちかお切ないのが多いので密かにハッピーエンドを願ってます。
- 286 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月05日(月)23時43分02秒
- 「なに?」
「圭織、モデルとかやってみる気、ない?」
「モ、モデル?」
「うん!」
(な、なんで?)
あまりにも唐突で、あまりにも突飛した話しだった。
「なんでカオがモデルに?」
「ほら、圭織って背ぇ高いし、スタイルだっていいじゃん」
「そ、そんなことないよ・・・」
「うぅん、あたしはそう思うよ。羨ましいもん」
「あ、ありがとう」
カオは照れた。
他の誰でもない、紗耶香に褒められたのが嬉しかった。
「でも、なんで急に?」
「う〜ん、前から思ってたんだけどさ。
昨日買った雑誌にたまたまモデル募集の広告が載ってたんだ」
「ふぅ〜ん、そうなんだ」
「それとさ、あたしがシンガーソングライター目指してるっての、知ってるでしょ?」
「うん」
紗耶香が前から言ってる、将来の夢だ。
カオはそれを応援してる。
「あたしがもしうまくいってデビュー出来たとしてさ、
その時に圭織が芸能界にいたら、心強いかな〜って」
「でも、もしカオがモデルになっても、うまくいくとは限らないよ」
「大丈夫!圭織ならきっとうまくいくよ!」
「う〜ん・・・、ちょっと考えさせて」
「そうだね、今決めるのは難しいよね。ゆっくり考えてみてよ」
「うん・・・」
- 287 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月05日(月)23時43分49秒
- その後、他愛もないお喋りは延々と続いた。
ファミレスから出てどこかに行こうって話しも出たけど、結局居座った。
カオが緊張が解かれたのは、紗耶香が来てから30分くらい経ってからだった。
ふっと気がつくと、いつも3人でいる時と変わらない紗耶香が、目の前にいた。
(そっか、ふたりきりでも紗耶香は紗耶香なんだ・・・)
安心した反面、少しだけ残念だった。
カオは、カオとふたりきりの時にだけ見れる紗耶香を期待していたのかもしれない。
特別に感じているのは、もしかしたらカオだけなのかもしれないって思った。
好き≠愛されるじゃないことを、初めて知った。
うぅん、心のどこかでははっきりとわかっていたはずなんだ。
でも、カオは現実を見ないようにしていた。
そんな意気地なしなカオは、それでも自分の中で膨らむ紗耶香の存在を愛し続けた。
いつか見れるかもしれない、カオの前だけの紗耶香を探して・・・
気がつくと、外は夕方になっていた。
「結局、夕方まで居座っちゃったねぇ」
「うん。ファミレスからしたら迷惑な話しだよね」
「あはは、そうだよね」
(夕食・・・誘ってみようかな)
ちょっとだけ勇気を出してみる。
「迷惑ついでにさ、ここで夕食、食べて行かない?」
「うん、いいよ」
(やった!)
もう少し、紗耶香と一緒の時間を過ごせるよ。
「ちょっと家に電話してくるね」
「うん」
カオと紗耶香の仲が少しだけ進展した気がした。
- 288 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月06日(火)00時10分41秒
- 「お待たせ〜」
「大丈夫?お母さん、怒ってなかった?」
「大丈夫だよ〜。あたしもうそんな歳じゃないって」
「そっか、よかった」
「じゃあ、メニューもらおっか」
「うん」
この後も他愛のない話しが続くだろう。
そして、これ以上カオと紗耶香の仲も発展しないと思う。
でもいいんだ。
これだけの長い時間、紗耶香と一緒に居られたことがすっごく嬉しいから。
カオが知らなかった紗耶香の話しだっていっぱい聞けた。
カオのことだっていっぱい話せたから、知ってもらえたはずだ。
紗耶香にとっては沢山の友だちの中のひとりなのかもしれない。
それでもいい。紗耶香とこうやって話せることが幸せに思えるから。
「そっちも美味しそうだね、ちょっと食べさせて?」
「うん、いいよ。あ、紗耶香の方も美味しそうだよ〜」
「じゃあ少しあげるよ。はい」
「ありがと〜」
(サヤカ・・・カオハイマ、スゴクシアワセダヨ)
- 289 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月06日(火)22時55分21秒
- 楽しい時間は、終わってみれば短かったように感じる。
6時間という時間さえ、数十分しかなかったように思えた。
「ゴメンね圭織、急に誘ってこんな時間までつきあってもらっちゃってさ」
「うぅん、いいんだよ。カオも楽しかったし」
「ホントに?じゃあさ、圭ちゃんには悪いけどまたふたりだけで遊ぼうよ」
「うん!」
外はもうすっかり暗くなっている。
仕事を終えて、くたびれながら帰る人が多いように見えた。
「あ、そうだ。モデルの話し、考えてみてね。イヤだったらやらなくてもいいから」
「うん、考えてみるよ」
「じゃあ、またね、圭織」
「うん、バイバイ、紗耶香」
「バイバイ、気をつけてね」
「紗耶香もね」
「ありがと」
名残惜しかった。
紗耶香も少し名残惜しそうに見えた。
でも、今日はもうお別れなんだ。
「じゃあ・・・バイバイ」
カオからきりだした。
「バイバイ」
紗耶香も手を振った。
同時に後ろを振り向いて、同時に帰り道を歩き出した。
- 290 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月06日(火)22時55分52秒
- 「モデル・・・かぁ」
バスタブにうずくまって、ヒザを抱えた。
(紗耶香の夢・・・一緒に見れるかも)
紗耶香と一緒にお仕事できるんだったら、きっと楽しいんだろうな〜。
でも、ホントにカオはモデルになんてなれるのかなぁ。
モデルさんって言ったらスタイルよくなくちゃダメなんだよね。
紗耶香はカオのこと、スタイルいいって言ってくれたけど・・・
お風呂場にある鏡に、自分の身体を映してみた。
(胸だって大きくなんかないし・・・)
ウエストだって・・・細くもない。
(でも紗耶香はカオならなれるって言ってくれたよ)
そう、確かに紗耶香はそう言ってくれた。
(オーディンション、受けるだけ受けてみよっかな・・・)
受けるだけなら・・・うん。
紗耶香の言ったこと、信じてみよう。
ダメで元々、受かったらお仕事ができるんだからいいじゃん。
それで紗耶香がデビューできたら、一緒にお仕事できるんだ。
(よし・・・がんばってみるか)
- 291 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月07日(水)12時09分12秒
- 紗耶香がくれたファッション雑誌の、モデル募集のページを探した。
「えーっと、応募に必要なのは・・・」
履歴書と、全身・バストアップの写真・・・
(履歴書はコンビニにも売ってるよね)
コンビニに走って、履歴書とボールペンを買った。
すぐ近くの写真屋さんで、全身・バストアップの写真も撮ってもらった。
家に戻って、緊張しながら履歴書に必要事項を書いた。
履歴書についてた封筒に、応募先の住所を書いた。
そしてそれに2枚の写真と履歴書を入れて、封を閉じた。
郵便局に行って、必要分の切手を買った。
切手を貼って、ポストに・・・
(どうか、よろしくお願いします)
祈りながら投函した。
(あとは結果を待つだけか・・・)
待つのはキライだ。
だって、ドキドキするから・・・
- 292 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月07日(水)12時09分52秒
- 数日後、あのファッション雑誌名義の封筒がポストに入ってた。
「う〜ん・・・」
テーブルの上に置いた封筒。
「う〜ん・・・」
開けるのが恐かった。
(イクジナシ・・・)
ひとりじゃ開けられそうもなかった。
(どうしよう・・・)
「・・・そうだ!」
紗耶香に開けてもらおう。
ケータイの紗耶香のメモリを探して、躊躇うことなく通話ボタンを押した。
- 293 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月07日(水)12時10分30秒
- プルルルル・・・プルルルル・・・ピッ!
「もしもし?」
「あ、紗耶香?」
「圭織ぃ?どうした?」
「あのさ、モデルの件なんだけど・・・」
「あ、考えてくれた?」
「うん・・・実はもう履歴書とか送ったんだ」
「え?は、はやいねぇ」
「それでさ、今日その結果が届いたんだけどさ・・・」
「ど、どうだった?」
「まだ開けてないんだ。恐くて開けられないよ。紗耶香、一緒に見てくれないかな」
「あはは、いいよ。どうする?あのファミレスでいい?」
「うん」
「じゃあ、3時頃に集合ね。圭ちゃんも誘う?」
「う〜ん、できたら紗耶香だけがいい・・・」
「オーケー、じゃ、またあとでね」
「うん」
ピッ!
- 294 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月07日(水)12時11分06秒
- (3時頃・・・まであと20分もあるよ)
いてもたってもいられない気持ちで、ソワソワしてる。
気持ちを落ち着かせるために、少し散歩しながら行くことにした。
・・・よく晴れた、いい日。
芝生だらけの公園に入って、ベンチに腰掛けた。
(・・・そう言えば、紗耶香ともここ来たっけ)
もちろん、その時は圭ちゃんもいた。
3人でベンチに座ってただただ話しをしたり、追いかけっこをしたり・・・
あの時もこのくらいいい天気だったっけ。
懐かしいなぁ、もう1年くらい経つんだ。
その頃はまだ紗耶香のこと、ここまで好きじゃなかったんだよね。
ただの友達でしかなかった紗耶香が、こんなにも大きい存在になってる。
紗耶香のことを想うと、時々胸が痛くなるんだ。
でもね、紗耶香を好きになったこと、カオは全然後悔してないよ。
例えこのままずっと友達でしか居られないとしても・・・
「あ、痛い・・・」
この締めつけられる痛みも、今では愛おしくなってる。
ただ、切なくて涙が出そうになるのは変わらないけど・・・
腕時計に目をやった。
「・・・そろそろ行こっかな」
カオは立ち上がって、今の紗耶香に逢うために思い出の公園を離れた。
- 295 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月07日(水)23時41分41秒
- 「圭織〜」
ファミレスが見える頃、紗耶香が向かい側から走ってきた。
「はぁ、はぁ」
「だ、大丈夫?走ってきたの?」
「はぁ、はぁ・・・ふぅ。うん、ちょっと遅れそうだったからね」
「そんな、少しくらいならカオ待ってるのに」
「うぅん、いいんだよ。それより、結果、持ってきたよね?」
「う、うん」
「じゃ、中入ろっか」
「うん」
前と同じテーブルが空いてたから、紗耶香はそこを選んで座った。
カオもその向かい側に座って、カバンから出した封筒をテーブルに置いた。
「これ?」
「うん、これ」
「・・・先になにか飲み物注文しよっか」
「うん・・・」
紗耶香も少し緊張してるみたいだ。
メニューを開いて、店員さんを呼んだ。
「圭織なににする?」
「う〜ん、アイスティー」
「じゃあ、アイスティーふたつ」
- 296 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月07日(水)23時42分19秒
- 店員さんがアイスティーを持った。
「・・・・・」
「・・・・・」
少しの間、無言でアイスティーを飲む。
「・・・あのさ」
先に沈黙をやぶったのは、紗耶香だった。
「圭織が自分のタイミングで封を開けなよ」
「・・・うん」
カオのタイミングで・・・カオの決心がついたらってことだよね。
目の前には紗耶香がいるから、ひとりの時よりは遥かに心強いのは、確かだ。
「もし・・・もしダメだったら、紗耶香、カオのこと慰めてね」
「や、やめてよ、見る前からそんな話し。大丈夫、きっと受かってるよ」
「うん・・・ゴメン」
アイスティーを一口。
(・・・よし!)
「紗耶香、開けるよ」
「うん・・・」
中の書類に注意しながら、封筒の上の部分をそーっと破いた。
・・・ゴクッ
中には白い書類が数枚。
多分、一番上にあるのが結果が書いてある書類だよね。
静かに中の書類を引き出して、封筒の隣に置いた。
- 297 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月07日(水)23時43分08秒
- 「・・・圭織!」
「う、うん」
上の一枚だけを取って、静かに開いて・・・
「やっぱりダメ!紗耶香見て」
紗耶香の方に向けて、その書類を開いた。
カオは目をつぶって、下を向いていた。
「・・・・・」
「さ、紗耶香?」
「圭織・・・自分の目で見てみなよ」
「え?う、うん・・・」
カオのドキドキは頂点に達していた。
そーっと目を開けて上を向き、恐る恐る書類を自分の方へ向ける。
「・・・・・!!」
「圭織・・・おめでとう!」
「紗耶香・・・」
「受かったのに泣いてちゃダメだよ、ほら、笑って笑って!」
「うん・・・」
嬉しくて・・・嬉し過ぎて、涙が出ていた。
紗耶香はカオの頭を抱いて、優しくなでてくれた。
「圭織、二次審査もがんばってね。圭織ならきっと受かるよ」
「うん・・・アリガト」
- 298 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月08日(木)23時07分47秒
- <じゃあカオリちゃん、今度はカッコヨクネ>
「・・・・・」
あれから数ヶ月。
カオは二次審査の面接にも受かって、紗耶香の言った通り、モデルになれた。
今では専属モデルじゃなくて、いろんな雑誌に出させてもらえるようになった。
これであとは紗耶香がシンガーソングライターでデビューするのを待つだけだ。
それはよかったんだけど・・・
<もうちょっと上向いて>
「・・・・・」
紗耶香のために始めたお仕事のせいで、紗耶香に逢えなくなっている。
紗耶香と圭ちゃんもバイトを始めたみたいだ。
カオが時間が空いた時に電話すると、すぐ留守録に切り替わる。
紗耶香と話しすらできない日々が、もう何日も続いている。
<そう、いいねぇ、カッコイイヨ>
「・・・・・」
やめちゃおうとか思う時もあった。
そういう時は紗耶香のことを考えて、がんばろうと思い直したりしている。
一目でいいから、紗耶香に逢いたい。
一言でいいから、紗耶香の声が聞きたい。
〜 ガンバレ 〜
その一言で、カオは死ぬ気でがんばれるのに・・・
<カオリちゃん、次はカワイクいってみようか>
「・・・・・」
なにやってるんだろ・・・
- 299 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月08日(木)23時08分38秒
- 休みが欲しいって事務所の社長さんに言ったら、もう少しだけガマンしろって言われた。
どうしてもって頼んだら、一日だけ空けてもらえた。
ホントは今すぐがいいんだけどな・・・
でも、カオのわがままで他の人の予定を狂わすワケにはいかないから、仕方がない。
家に帰って、カレンダーにマルをつけた。
紗耶香に逢いに行く日。
まだ一週間以上も先だけど、それまではがんばれそうな気がする。
(今から電話しといた方がいいのかな)
ケータイに目をやった。
留守録が入ってた。
ピー・・・
「もしもし圭織?市井だけど・・・
忙しいみたいだけど、がんばってる?
最近いろんな雑誌で圭織が見れて、嬉しいよ。
・・・また電話するね、バイバイ」
(・・・紗耶香)
声を聞けばがんばれると思ってたけど、余計に逢いたくなった。
今まで抑えつけてた想いが、一気に膨らんだ。
どうしようもなくて、枕に顔を埋める。
「・・・・・」
(痛いよ・・・)
泣き疲れて、いつの間にか眠っていた。
- 300 名前:名無し読者 投稿日:2001年02月08日(木)23時13分04秒
- ここまで一途だと応援したくなりますね・・・・・
- 301 名前:なかざー 投稿日:2001年02月08日(木)23時14分42秒
- 珍しく途中レスします。
>>271 さん
そうやねん、繋げる気はなかったんけどな。
繋げてみたらおもろいかな〜って・・・(w
まぁ、機会があったら繋がってへんバージョンもやってみまっせ。
>>278 さん
それ考えてましたわ。
実は少しだけ書いてたりもしてます。
>>282 さん
今回は、圭織やから思てることをメインにしてみました。
ボーっとしてばっかやもんな、圭織は(w
>>285 さん
せやなぁ・・・切ない方へ行ってもうてる(汗
最後はある意味、ハッピーかもしれへん。
- 302 名前:なかざー 投稿日:2001年02月08日(木)23時16分15秒
- >>300 さん(get!)
うちの講義、一途な人多いねんな。
マンネリ奪回に別パターンやってみるか・・・
- 303 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月09日(金)23時12分56秒
- プルルルル・・・プルルルル・・・
目が覚めた。
(・・・ケータイ鳴ってる)
液晶には、事務所の電話番号。
・・・出なかった。
迷惑がかかるのは、十分わかってる。
でもこんな気持ちのままじゃ、お仕事なんてできないよ。
(ゴメンナサイ)
クビになるのを覚悟して、ケータイの電源を切る。
今すぐ紗耶香に逢いに行こう!
時計の短針は、午後3時を指していた。
紗耶香のバイト先は、圭ちゃんから聞いている。
お客さんとして行けば、きっと迷惑にはならないよね。
泣き疲れた顔を洗って、ラフな服に着替えた。
靴を履いて部屋を見回したら、カレンダーが見えた。
(・・・カオはもう、待てないよ)
ドアを開けた。
雨が降っていた。
- 304 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月09日(金)23時13分32秒
- 傘に当たる雨の音が、淋しさを募らせる。
(はやく・・・はやく逢いたい)
自然と速足になっていた。
あの角を曲がったら、2つ目の信号を左に曲がる。
少ししたらいつものファミレスが見えてくるから、そこをまっすぐ。
もし逢えたら、何を話そう。
話したいことは沢山ある。
モデルのお仕事の話しや、あっちの世界の話し。
最近あったことから、これからのことまで。
この間行った、あの思い出の公園の話しもしよう。
(・・・あれかな?)
喫茶店らしき看板が見えてきた。
(もうすぐだ)
歩くスピードが、さらに速まった。
- 305 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月09日(金)23時14分07秒
- カランカラン。
「いらっしゃいま・・・圭織・・・今日はお休み?」
「・・・うん」
「そっか・・・あ、そこの空いてる席に座ってて、今水持ってくるから」
「うん・・・」
働いてる紗耶香もカッコイイな〜。
・・・嘘ついちゃった。
「はい、水」
「ありがと・・・あのさ、紗耶香」
「なに?」
「バイト終わってからでいいからさ、話しがあるんだけど・・・」
「込み入った話し?」
「・・・うん」
「わかった」
「あとね、今日お休みっていうの、実は嘘なんだ。紗耶香に逢いたくて、サボってきちゃった」
「・・・ちょっと待ってて」
「え?あ、うん」
紗耶香は奥の方へ行ってしまった。
- 306 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月11日(日)00時05分51秒
- 入れ替わりに、圭ちゃんが出てきた。
「圭織じゃん。仕事、がんばってる?」
「うん、ぼちぼちかな」
「やっぱり大変なんでしょ?忙しそうだし」
「うん。圭ちゃんは暇そうだね」
「そうなんだよね。ここ、あんまりお客さん来ないんだ」
「楽そうでいいじゃん」
「あんまり暇過ぎてもねぇ。時間過ぎるの遅く感じるしさ」
制服じゃない服装の紗耶香が、奥から出てきた。
「じゃあ圭ちゃん、あとよろしくね」
「なに?紗耶香帰っちゃうの?」
「うん、今日は早退。店長には言ってきたから」
「いいなぁ〜、あたしも帰りたいよぉ〜」
「今度代わりに入るからさ。今日はがんばってよ」
「・・・まぁいいや。じゃ、気をつけてね」
「サンキュ!またね」
「圭織もお仕事がんばってね!また電話するよ。バイバイ」
「バイバイ」
カランカラン・・・
- 307 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月11日(日)00時07分20秒
- 「圭織、お仕事サボったりしちゃダメだよ」
「うん・・・バイトって圭ちゃんとふたりだけ?」
「うぅん、もうひとりいるんだけど、今日はお休み」
「そっか」
「で、話しってなに?」
「うん、実はね・・・」
雨は強さを増していた。
傘がふたつ並んで、カオと紗耶香の距離もいつもより離れている。
「カオね、紗耶香と一緒にお仕事できるから、モデルになろうと思ったんだ」
「うん」
「でもね、実際は違った。
紗耶香がこの世界に入ってくるのはもっと先になっちゃいそうだし、
それまで紗耶香とも逢えない生活が、これからもずっと続きそうな感じなんだ」
「・・・・・」
雨と傘が邪魔をして、紗耶香の顔がはっきり見えない。
いつもは広く感じる歩道も、傘がふたつ並ぶと狭く感じる。
でも、紗耶香との距離は、決して近くはない。
友達。
恋愛対象。
カオを無意識のうちに支配してる。
憎らしいけど、大好き。
いつもと違うけど、いつもと変わらない。
新しい紗耶香を発見できると、すごく嬉しい。
そんな紗耶香は、カオにとって大きく存在している。
今のカオにとっては、紗耶香が全てなのかもしれない。
- 308 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月11日(日)00時08分02秒
- 「・・・好きなんだ」
「・・・・・」
「紗耶香が好きで、大好きなんだ」
「圭織・・・」
言うしかなかった。
言わないと、いつまでも変わらない気がした。
「大好きで・・・どうしようもないんだよ・・・ねぇ、紗耶香。カオはどうしたらいいの?」
イジワルな質問。
紗耶香は困るに決まってる。
立ち止まって、傘を下ろした。
頬を伝う雨が、異様に冷たく感じた。
「・・・・・」
紗耶香の傘が、カオの頭の上にきた。
「風邪ひいちゃうよ・・・」
「カオは待ってるしかないの?未来の紗耶香とお仕事ができても、今の紗耶香と逢えなきゃイヤだよ!
もっと逢ったり、もっと話したりしたいんだよ・・・」
「・・・圭織、ゴメン」
「え?」
「あたし、圭織があたしのことそんな気持ちで想ってくれてるの、全然知らなかった。
辛かったよね・・・苦しかったよね・・・ホントにゴメンネ・・・」
「・・・紗耶香」
紗耶香が悪いんじゃない。
勝手に好きになって、勝手に苦しんだのはカオだ。
紗耶香はそんなカオにも優しかった。
- 309 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月11日(日)02時00分56秒
- どきどきする〜。紗耶香はどう答えるのかなぁ?
- 310 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月11日(日)22時38分51秒
- 紗耶香の身体が半分、雨で濡れてるのに気づいた。
カオは無言で傘を押して、自分の傘をさした。
「ゴメン・・・カオ、イヤなヤツだよね・・・」
「うぅん・・・」
「優しいね、紗耶香って」
「・・・そんなことないよ」
何も言えない重い雰囲気が、カオと紗耶香を覆った。
無言のまま、歩き出した。
(紗耶香との関係、このまま終わっちゃうのかなぁ)
そんなのイヤだ。
それだったら友達のままでいい。
でも、一度好きになったらそれも難しいのかもしれない。
雨音が少しずつ弱まってきているのを感じた。
「・・・ねぇ圭織」
「なに?紗耶香」
「あのさ・・・ひとつだけ・・・ひとつだけ圭織の言う通りにするよ」
「え?」
「そしたらさ、前みたいに友達のままでいて欲しいんだ」
「紗耶香・・・うん、わかった」
ひとつだけ・・・
「じゃあ・・・キスしたい」
- 311 名前:名無し読者 投稿日:2001年02月12日(月)07時44分40秒
- う、それはある意味残酷でもあるぞ、市井。
- 312 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月12日(月)23時07分20秒
- 「・・・う、うん。いいよ」
夢にまで見た、紗耶香とのキス。
目をつぶって、上向きになってカオを待つ紗耶香。
少しだけ震えてる・・・
カオのために無理してくれてるんだね・・・
・・・そんな姿見せられたら、できないよ。
「ゴメン、やっぱりいいや」
「え?」
「カオは紗耶香のこと、諦めるよ。友達として、これからもよろしくね」
「圭織・・・」
「紗耶香さぁ、1年くらい前に行った家の近くの公園、覚えてる?」
「うん・・・」
「この間たまたま行ってさ。いろいろ思い出してたんだ。
あの頃はまだこんなに紗耶香のこと好きじゃなかったんだよな〜って」
「・・・・・」
「うん、フツーの友達だった。それがちょっとしたきっかけで・・・
カオも覚えてないくらいちょっとしたきっかけで、こんなに好きになっちゃってさ」
「うん・・・」
「忘れる。好きになったこと、がんばって忘れてみるよ」
「・・・ありがと」
- 313 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月12日(月)23時07分52秒
- 「あ、でもやっぱりひとつだけ・・・」
「な、なに?」
「できるだけ、カオを待たせないこと」
「え?」
「できるだけ早く、紗耶香はデビューできるようにがんばること。
これだけ約束して欲しいんだ」
「・・・うん、約束する」
「紗耶香、がんばってね」
「ありがとう、圭織をあんまり待たせないようにがんばるよ」
「うん!」
雨はもうやんでいた。
晴れ間から虹が覗いていた。
「じゃあ、カオ、これから事務所行って謝ってくるから」
「圭織・・・がんばってね」
「うん、ありがと。バイバイ」
「バイバイ」
後ろを振り向いて、逃げるように走った。
最後の涙を紗耶香には見られないように・・・
- 314 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月12日(月)23時08分29秒
- 怒られたけど、なんとかクビにならずに済んだ。
その代わりに、カレンダーのマルにバツを重ねることになった。
忘れるために、お仕事に集中した。
がんばったおかげで、いっぱいお仕事を貰えるようになってきた。
そんな忙しい日々の中、圭ちゃんからの電話があった。
プルルルル・・・ピッ!
「もしもし」
「あ、圭織?今大丈夫?」
「うん、休憩中」
「あのさ、ちょっと話したいことがあるんだけど・・・次のお休みいつ?」
「う〜ん・・・電話じゃダメ?」
「うん、直接逢って話した方がいいと思う」
「そうだねぇ・・・明後日は夕方からだから、その前なら大丈夫だよ」
「じゃあ、明後日のお昼くらいに、いつものファミレスに来て」
「うん、わかった」
「じゃあね」
「うん、バイバイ」
ピッ!
・・・話しってなんだろう。
- 315 名前:ふぁーすと。 投稿日:2001年02月13日(火)14時54分11秒
- 毎回楽しませていただいています。
特に<約束>には、感動してしまいました。
いちごま等、紗耶香の話は多いですが、
なっちの話のリクエストが少ないのでこれから期待しています。
希望としては、なちかお、なちまり、なちごま、なちかごなどです。
- 316 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月13日(火)23時03分44秒
- ピピピピッ!ピピピピッ!ピピピピッ!・・・カチッ。
「う〜ん」
目覚まし時計を止めて、大きく背伸びした。
今日は圭ちゃんと待ち合わせの日だ。
紗耶香も来るのかな?
忘れるって言ったけど、そう簡単には忘れられない。
でも、前ほど紗耶香の支配力も強くなくなってきている。
・・・ちょっと楽しみだ。
プルルルル・・・プルルルル・・・ピッ!
「もしもし」
「あ、起きてるね。12時くらいにファミレスね」
「うん」
「じゃあ」
ピッ!
あと30分か・・・
- 317 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月13日(火)23時04分36秒
- 「そっか・・・」
「うん、帰ってきたらいくらでも文句聞くってさ」
「うん・・・」
「でもさ、紗耶香も悪気があって何も言わなかったんじゃないんだよ。
圭織のためを思って・・・」
「うん、わかってる」
十分過ぎるほど、わかってるよ。
「圭織・・・紗耶香のこと好きだったんだね」
「うん」
素直に、ためらうことなく頷いた。
「ねぇ圭ちゃん」
「ん?」
「紗耶香さ、留学行くっての、結構急に決めたよね」
「うん」
「それってさ、もしかしたら、カオのせいなのかもしれない」
「え?」
「カオがさ、できるだけ早くカオと同じ世界に来るようにって、約束させちゃったんだ」
「・・・それって全然悪いことじゃないと思うよ」
「・・・うん。でも、紗耶香がいなくなって淋しい思いをしている人、結構いると思うんだ。
カオも圭ちゃんも含めてね」
「そうだね・・・でも、紗耶香はいつかは留学しようと思ってたみたいだよ。
遅いか早いかの違いで、いつかはそうなっていたんだと思う」
「そっか・・・紗耶香、ホントにデビューできるといいね」
「うん、そうだね・・・」
- 318 名前:(thinking of you) 投稿日:2001年02月13日(火)23時05分10秒
- 思い出の公園。
思い出のベンチに座るカオ。
あの頃の気持ちに戻るのは、まず無理だと思う。
でもね、できる限り近づけることはできるはず。
もうカオの前だけの紗耶香を求めたりはしなくなっているから・・・
お仕事だって今はカオ自身、楽しんでやれてる。
これなら紗耶香がデビューするまで待っていられそうだよ。
今紗耶香は、カオとの約束を果たそうとがんばってくれている。
このままがんばり続ければ、きっと早く一緒にお仕事できるようになるよね。
もし・・・もし紗耶香がデビューして、その時にまた好きになっちゃったら・・・
その時は改めて告白しよう。
だって、好きな気持ちはしょうがない。
カオはその気持ちに嘘はつきたくないから。
その時まで、この忘れられない気持ちは、大事にしまっておくことにしよう。
それまでは・・・
「さてと、カオもお仕事に行くか」
それまでカオは、紗耶香を応援する、掛替えのない友達のひとりでいようと思う。
- 319 名前:第9回〜 投稿日:2001年02月13日(火)23時06分34秒
- まず、途中辺りがやっつけ仕事になってもうてることを、お許しください。
結末が浮かんで、いてもたってもいられへんようなってもうた(w
さて、今回の圭織には、他の3人と違って未来があります。
その未来の話しはまた別の機に譲るとしましょう。
>>309 さん >>311 さん
紗耶香がホンマにいい友達でいるために、色々考えた結果ですわ。
・・・やっぱりちょっと残酷やったかな(汗
>>ふぁーすと。さん
丁寧なご感想、ありがとうございます!
ホンマ嬉しいわ・・・
なっちはまだ設定が少ないから、応用は効くと思いまっせ。
さて、次回はなっちが中澤・矢口の元に飛び込んできます。
テーマはズバリ、(トライアングル)。
ちょっと時間かかる思うけどな・・・
ほな、また次回。
- 320 名前:あるみかん 投稿日:2001年02月14日(水)00時50分25秒
- 飯田さんの描写が新鮮な感じで、すごく爽やかな読後感が残りました。
こういう余韻や読者にその後の展開の想像の余地を残しておく話っていいですね。
- 321 名前:ふぁーすと。 投稿日:2001年02月16日(金)15時30分06秒
- まちに待った<トライアングル>今から本当に楽しみです。
なっちとゆうちゃん共に歌手の夢を持って東京の喫茶店で
どうやって出会うのでしょうか?
夢はあきらめないでいてほしいものです。
なちまりの関係もどうなるか、わくわくしています。
以前書いておられた設定にちかくなるのでしょうか?
>>なっちがおるから喫茶店で店長をしてる中澤がいてる。
>>そして矢口を好きになってしまうのですね。
>>きっと中澤はもうなっちとは逢えないと思たんかもしれません。
余談ですが、私がなっちの好きなところは、
本人にはかわいそうですけど、
努力の塊のような娘で、(それがもうちょっと結果につながればと思うのですが・・・。)
どん底からはい上がろうとする姿が美しいと思うからです。
なっちがよく口にする言葉で「強くなりたい」とありますが、
周りから見てると、どうしてもほっとけないキャラです。
- 322 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月16日(金)22時18分51秒
- やっとなちやぐゆうが読める
さやかおの話しでなちストーリーが熟されたというか・・・
なちストーリーも気になってたのですごく楽しみです
- 323 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月17日(土)00時06分14秒
- 待ってました!
楽しみにしています!
- 324 名前:なかざー 投稿日:2001年02月17日(土)23時04分15秒
- >>あるみかんさん
小説って終わり方が難しいと思うんやけど、満足していただけましたか?
圭織って変やけど、純真っぽい気がすんねん(w
>>ふぁーすと。さん
そうですね、前に言った通りの設定でやらせていただきます。
ただ、多少強引になってもうたけど・・・
そうやなぁ、なっちは努力がにじみ出てる感じやな。
なっちにはいろんなことに挑戦してもらいたいと思てます。
>>322 さん
>>323 さん
あんまり期待せんといてな(w
今回あんまり自信ないねん。
講義は明日からになります。
更新スピードは相変わらず遅い思うけど、よろしくな〜
- 325 名前:〜第10回 投稿日:2001年02月18日(日)23時19分21秒
- どーもー!チャーミー石川で〜す!
中澤さんが忙しいため、記念すべき今回はチャーミーがお送りしまーす。
そう言えば、チャーミーはまだ1回しか登場してないんですよ〜。
もっと出番欲しいな〜・・・チャーミーじゃダメなんですかねぇ・・・
でも、あいぼんやののよりは出てるからいっか。
それじゃ、先輩方の健闘を祈りつつ、フェードアウト・・・
- 326 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月18日(日)23時20分16秒
- 「や、矢口ぃ〜大変やで!!」
「ん?どうした裕ちゃん」
いつも通りお店を営業していたら、昼食から戻った裕ちゃんが慌てて入ってきた。
「まぁ裕ちゃん落ちついて。はい、水」
「お、サンキュ〜!・・・ふぅ」
「で、何が大変だって?」
「せ、せや!なっちが・・・なっちが来よる」
「え?なっちって、あのなっち?」
「そうや、前に話したった、あのなっちや」
「なんでぇ?全然連絡取ってなかったんでしょ?」
「そうやねんけど・・・大阪に共通の知り合いがおってな。
あたしはそのコとは今も連絡取ってんねん。それでさっき電話したら・・・」
「電話したら?」
「なっちがこっちに引っ越しして来はるらしいんや。
そんで、その友達があたしのこと話したら、逢いに行く言うてはったらしい」
「へぇ〜、いいじゃん。久しぶりの再会じゃん」
「そ、そうやねんけどな・・・」
「ねぇ裕ちゃん。なっちとはもう終わったんでしょ?」
「・・・多分な。ちゃんとした言葉はなかったけど・・・あたしは終わった思てるで」
「じゃあいいじゃん」
「せやけどなぁ・・・なっちはそう思てへんかもしれんで」
「矢口のこと話せば?つきおうてるコがおんねんってさ」
「・・・せやな、矢口がそう言うんなら・・・逢ってみるか」
- 327 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月18日(日)23時20分47秒
- 「ところで裕ちゃん、いつ逢うの?」
「・・・今から来はるらしいで」
「えぇ!?」
それはあまりにも急な展開だ。
あまりにも驚いて大きい声を出してしまった。
「い、今から・・・ここに?」
「・・・・・」
裕ちゃんは黙って頷いた。
「ど、どうしよう・・・矢口まで緊張してきちゃったよ」
「せ、せやからあたしも焦ってんねん」
「なにかあったんですか?」
さっきの大きい声で、あたし達の様子が変なのによっすぃーが気づいたようだ。
バイトに入ったばっかりのよっすぃーは、ちょっとしたことでも気になるらしい。
「あ、よっすぃー。あのね、これから裕ちゃんの昔のコイビトが来るんだってさ」
「来るって・・・ここにですか?」
「そうやで・・・」
「そ、それって・・・」
よっすぃーが少し困った顔であたしを見た。
実は、よっすぃーはあたしと裕ちゃんがつき合ってることを知っていた。
あたしもよっすぃーがゴッチンってコとつき合ってるのを知っている。
でも、裕ちゃんはよっすぃーが知っていることを知らない。
「いいんですか?」
裕ちゃんに聞こえないように、よっすぃーは小声で言った。
「大丈夫でしょ、昔のコイビトなんだから」
あたしも小声で、よっすぃーに耳打ちを返す。
いろんな意味で、よっすぃーはいい友達だ。
- 328 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月18日(日)23時21分19秒
- 「なぁ、何話してるん?あたしも入れてぇな」
「なんでもないよ。それより裕ちゃん、どうするの?」
「せやなぁ、とりあえず逢うだけ逢ってみるか・・・」
「そうだね、矢口もそれがいいと思うよ」
「・・・なぁ矢口、心配ちゃうんか?」
裕ちゃんがあたしの耳元で問い掛ける。
よっすぃーも知ってるのに、隠そうとしてるのがカワイイね。
「心配だけど、矢口は裕ちゃんのこと信じてるから」
あたしも耳元にそっと囁いた。
「矢口・・・カワイイなホンマに・・・チュウしたるで」
「だぁ〜!よっすぃーが見てるでしょ?キスはふたりだけの時って約束じゃん」
「せ、せやな、今はガマンしとくか・・・」
「あのぉ〜・・・」
「な、なんや?」
あたしと裕ちゃんの変な行動に、よっすぃーが横やりを入れた。
「中澤さん、あたし達はどうしてればいいですか?」
「せやなぁ、フツーにしとってえぇと思うで。何も気ぃ使わんでえぇ」
「そ、そうですか?事情知っててフツーにってのも難しいですよね、矢口さん」
「そうだよね〜、よっすぃー」
「な、なんやのふたりして・・・あぁそうかい、あたしをイジメてそんなに楽しいかい!」
「あはは、冗談だよ裕ちゃん。矢口がよっすぃーに仕事教えてればフツーに見えるでしょ」
「あ、そうですね。矢口さんお願いします」
「うん、まかせといて」
「なんか勝手に話しが進んどる・・・ま、えぇわ。頼むでふたりとも」
「うん!裕ちゃんもがんばってね」
「はい!中澤さんもがんばってください」
- 329 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月18日(日)23時50分43秒
- どきどきどきどき…。
わくわくわくわく(笑)
- 330 名前:MAKU 投稿日:2001年02月19日(月)00時04分43秒
- 始まった!始まった!
待ってたのだ!
- 331 名前:ふぁーすと。 投稿日:2001年02月19日(月)02時06分39秒
- ついに待望の<トライアングル>が始まった。
今回は自信が無いとのことですが、頑張ってください。
予想してたこととはいえ、ゆうちゃんの、「あたしは終わった思てるで」
の言葉はちょっと辛いものがありました。
- 332 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月19日(月)02時30分48秒
- とうとうなっちと再会か・・・
でもなっちが悲しい思いをするんだろうな
ううっ可哀相になってきた
- 333 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月19日(月)17時08分37秒
- なっちって悲しい思いするのが
定番になってきてるよね。
確かに似合うけどさ。
ちょっとかわいそうかも。
- 334 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月19日(月)23時02分16秒
- それから30分くらい・・・
「なんだよ裕ちゃん、全然来ないじゃん」
「来るはずやねんけどな」
「忙しくて来れなくなっちゃったんじゃないですかねぇ」
「そうなんかなぁ〜・・・」
裕ちゃんがちょっとガッカリしたように見えた。
「裕ちゃんそんなに逢いたかったの?」
「ちゃ、ちゃうよ。楽しみにしてたんやのぅて・・・
あ、あれや、来る言うてたんが来れへんようなったっちゅうのがな・・・」
「何焦ってんの?」
「あ、焦ってへんよぉ・・・あかん、やっぱ矢口には嘘つかれへん。
ゴメンな、裕ちゃん実は楽しみにしとった」
「ほらぁ〜」
「何年ぶりかに逢うんやで?そら楽しみにもなるわ」
「嘘つかなくたっていいのにさ」
あたしは少し悄気た"フリ"をした。
「ホントのこと言うたら矢口が嫉妬するん思たんや。ホンマ、ゴメンな?」
もちろん、よっすぃーには聞こえないように耳元で、裕ちゃんは謝った。
「う〜ん、どうしよっかなぁ〜」
「矢口ぃ〜」
「そうだねぇ、今度ご飯おごってくれるなら許してあげるよ」
「な、なんやのそれ・・・」
「あ、じゃあ許してあげないよ?」
「・・・しゃあないな、1回だけやで?」
「やった〜、ラッキー♪」
「あたし奥にいるから。それっぽい人が来たら声かけてな」
「うん、わかったよ」
裕ちゃんは更衣室の方に歩いて行った。
そして。
カランカラン・・・
お店のドアが音を立てて開いた。
- 335 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月19日(月)23時02分48秒
- 「いらっしゃいませー」
入ってきたのはひとりのオンナノコ。
凛とした目で、人懐こそうな笑顔がカワイイ。
それでいて、どこか淋しそうな空気を持っていた。
「こんにちは」
女の子は挨拶をして、空いてる席に座る。
そして、お店の中をキョロキョロ見回している。
(もしかして・・・)
このコが?
(・・・間違いない)
変に確信できた。隣を見ると、よっすぃーも頷いた。
あたしはとりあえず、いつもと同じように水とメニューを持って行く。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
「あ、あのー・・・」
来た!
「はい?なんですか?」
「こちらに中澤さんという方が働いてますよね?」
「中澤ですか?少々お待ちください」
あたしは裕ちゃんを呼びに行く。
裕ちゃんは更衣室にいた。
「裕ちゃ〜ん、来たみたいだよ」
「矢口・・・」
なんか元気がない。
久しぶりに逢えるのに、裕ちゃんは深く沈んでいる。
- 336 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月19日(月)23時03分21秒
- 「・・・イヤなの?」
「ちゃうねん、あたしかてめっちゃ逢いたいで。
せやけどな・・・なんか緊張してもうて・・・アカンわ」
両手で顔を覆い隠した。
「なにをそんなに緊張してんの?」
「なぁ矢口・・・もしも・・・もしもやで?
なっちの頭ん中に昔のあたしがいて、思い出やからやっぱり美化されとるやろうな。
今のあたしがそれからあまりにも遠いモノやとしたらなっちはどう思うん?
やっぱり幻滅するんやろうな・・・あたしはそれが恐いねん」
「裕ちゃん・・・」
確かに、好きな人やモノは思い出の中で美化される。
それは矢口も一緒だし、なっちだって例外じゃないと思う。
でも・・・それはしかたないよ。
「裕ちゃん・・・きっと大丈夫だよ」
あたしは根拠のない肯定をするしかなかった。
「せ、せやけどな・・・」
「それじゃあ、裕ちゃんはなっちを信じてないってことになるんだよ?」
「・・・・・」
「もし矢口がなっちだとしたら、そんなのイヤだよ。悲しすぎるよ」
「・・・そうやな、あたしやってイヤやもんな。
おっしゃ、あたしはなっちを信じてみるで。別に恋人に戻ろう言うワケやないしな」
「うん、その調子!」
「ダメやったらダメ、そん時や。矢口、ありがとな」
「うぅん、矢口は矢口の思ったことを言っただけだよ」
「それじゃ、行ってくるで」
「うん、行ってらっしゃい」
出て行く裕ちゃんの背中を見つめていた。
(・・・!)
・・・背筋がゾクっとした。
(なんだろ今のは・・・)
イヤな予感がする。
- 337 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月19日(月)23時29分15秒
- うー、どうなるんだろ?
矢口のイヤな予感は当たるのか?続き期待してます。
- 338 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月19日(月)23時43分55秒
- 先が・・・めっちゃ気になる!
- 339 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月20日(火)00時29分30秒
- また〜いい所でやめるなんて・・・
一体どうなるんだろう?早く続きが読みたいっす!
- 340 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月21日(水)04時10分20秒
- あたしは裕ちゃんのあとについて、なっちの待つフロアへ移った。
「矢口さん、どうします?」
「そうだなぁ・・・とりあえず教えてる"フリ"して見てよっか」
「そうですね、気になりますしね」
あたしとよっすぃーは、裕ちゃん達の話しが聞こえる位置で、"フリ"をしていた。
裕ちゃんがなっちの元へ歩いて行く。
なっちは立ち上がって、今にも泣きそうな感じだった。
「なっち・・・久しぶりやな」
「うん・・・」
「元気やったか?」
「うん・・・」
少ない言葉の中にも、ふたりの感情が見え隠れしている。
あたしにはその感情を読み取ることができなかった。
あたしの知らない、あたしの耳には聞こえない言葉を、ふたりは持っていた。
「・・・矢口さん?」
「ねぇよっすぃー・・・ホントにこれでよかったのかなぁ・・・」
あたしはなぜか泣き出しそうになっていた。
このふたり、逢わせてはいけなかったのかもしれない。
そのことに今やっと気づいた。
(逢わせちゃいけなかったんだ・・・)
「裕ちゃん・・・逢いたかったよ・・・」
「なっち・・・」
「裕ちゃ〜ん・・・」
なっちが泣き出して、裕ちゃんの胸に飛びついた。
裕ちゃんもそれを快く受け入れている感じだった。
「なぁなっち・・・奥の部屋、行こか」
「うん・・・ゴメンネ」
ふたりは寄り添って、あたし達の横を通り抜けて行く。
すれ違う時、裕ちゃんはあたしと目を合わせてはくれなかった。
- 341 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月21日(水)04時11分02秒
- 見たい。
ふたりが中で、何をしているのか見たい。
聞きたい。
あたしの聞くことのできない言葉で話す、あのふたりの会話を聞きたい。
知りたい。
なっちの今の気持ち、裕ちゃんのホントの気持ち。
不安でしょうがなかった。
見える場所にいれば、あたしはこれほど不安にならないでいられたと思う。
信じてないのは、ホントはあたしの方なのかもしれない。
裕ちゃんとなっちが更衣室に入ってからの十数分間。
あたしにとっては永遠にすら感じる時間だった。
早く出てきて欲しい。
出てきて、裕ちゃんに「大丈夫やで」って言ってもらいたい。
「矢口さん・・・きっと大丈夫ですよ!」
「よっすぃー・・・ありがとう」
でも、よっすぃーの優しい言葉も効かない。
(裕ちゃん・・・早く出てきてよ・・・)
カチャ。
更衣室の扉が音を立てて開いた。
きっとあたしのお願いが、裕ちゃんに届いたんだ。
- 342 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月21日(水)04時12分16秒
- 「や、矢口・・・」
あたしは扉のすぐ側にいたから、裕ちゃんの目にはすぐ止まった。
・・・自分じゃわからなかったけど、あたしの顔は悲しみで染まっていたんだと思う。
「・・・大丈夫や、心配することはなんもあらへん」
裕ちゃんは、あたしの頭を優しく撫でてくれた。
「なぁ矢口、吉澤も呼んできてくれへんか?ちょっと話しがあんねん」
「うん」
よっすぃーはお客さんが入ってきてもわかる位置で、待機していた。
「よっすぃー、裕ちゃんが話しがあるんだって。行こ」
「あ、はい」
あたしとよっすぃーは裕ちゃんのとこまで並んで歩いた。
「お、来たな。ほんじゃ、なっち、自己紹介したって」
「うん」
(自己紹介?なんで?)
あたしは不思議に思ったけど、声には出さなかった。
「安倍なつみ、19歳です。裕ちゃんには昔お世話になってました」
「お世話て、そんな大したことしてへんけどな」
「うぅん、そんなことないよ。いっぱいお世話になりました」
「な、なっちぃ」
慌てた顔して、裕ちゃんはあたしの方を気にした。
あたしはと言うと、裕ちゃんにとっては嬉しくない目をしてたはずだ。
- 343 名前:ふぁーすと。 投稿日:2001年02月21日(水)10時18分05秒
- 自己紹介とは、もしかして一緒に喫茶店で働くのか?
こうなると、なちまりの関係もますます気になります。
ところで、大阪にいたときのなっちは16歳。
今のなっちは、何歳でしょうか?
- 344 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月22日(木)04時01分33秒
- 「ま、まぁ、そんなことはどうでもえぇねん。
そんでな、なっちはこっちに引っ越してきたんはえぇんけど、まだ職がないんやって。
せやから、しばらくはここで働いてもらうことにしたわ」
「よろしくお願いします」
なっちは軽く、頭を下げた。
「ふたりとも、仲良ぅしたってな」
「・・・裕ちゃん、ちょっと」
「な、なんや?」
あたしは裕ちゃんを、なっちからは見えない場所へ呼び出した。
「どういうつもりなの?矢口には裕ちゃんの気持ちが見えないよ」
聞こえないくらいに声を控えて、でも強く問いかける。
「仕事ない言うんやからしょうがないやろ」
「だけど、ここに置かなくてもいいじゃん!何か紹介してあげるとかさ」
「あたしにそんなコネないわ」
「そんなこと言って、裕ちゃん、ホントはなっちと一緒にいたいだけなんじゃないの?」
「・・・矢口、ホンマに怒るで」
「だってさぁ・・・」
「あのー・・・」
なっちが突然割って入ってきた。
「ここで働くのが迷惑だったら、なっち他の所で探すよ」
「迷惑ちゃうって。なぁ?矢口」
「う、うん、迷惑じゃないよ」
(ズルイ!)
本人を目の前にして、言えるワケないじゃん!
「ホントに?よかった〜。えーっと・・・」
「あ、矢口真里です」
「矢口さん。よろしくね」
「・・・こちらこそ」
あたしは渋々、認めるしかなかった。
- 345 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月22日(木)04時02分06秒
- なっちが通いだしたのは、翌日からだ。
「おはよーございまーす」
(・・・カワイイじゃんかちくしょ〜)
でも、あたしは絶対に負けないよ!
バイトにしても、裕ちゃんにしても、負けるワケにはいかないんだ。
こうなったら、とことん勝負だよ、なっち!
「矢口さん、おはよ」
「"さん"とか付けなくてもいいよ」
「そう?じゃあ矢口、おはよ」
「おはよう、なっち」
「今日からよろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
ところで、なっちはあたしと裕ちゃんのこと知ってるのかな。
「なっちトロいけど、いろいろ教えてね」
う〜ん、この感じだと知らないと思っていいのかも。
「うん、矢口もわかんないこと多いけどね。わかることは教えるよ」
「おぅおぅ、ふたりとも仲良ぅやってんな」
(何が仲良くだよ、まったく)
問題の張本人の登場。
「はぁ〜・・・」
「なんや矢口、朝からため息なんかついて。どないしたん?」
(おぃおぃ)
誰のせいでこうなってると思ってるんだろ。
- 346 名前:ふぁーすと。 投稿日:2001年02月22日(木)12時12分29秒
- >ところで、大阪にいたときのなっちは16歳。
>今のなっちは、何歳でしょうか?
すいません。ちゃんと読んでませんでしたね。19歳ですね。
3年間どうしていたか?話をふくらませることができますね。
またいずれ、ふくちゃんも出してくださいな!
さて本編ですが、なちまりが、ゆうちゃんが嫉妬するくらいにらぶらぶに、
なったらゆうちゃんはどうするのでしょうかねえ?
でも、なちまり共にゆうちゃんへの思いが強いからむつかしいかな?
とにかく今回のキーポイントは、ゆうちゃんが握っているでしょう!
楽しみにしています。
- 347 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月23日(金)00時01分55秒
- 「そんじゃ、矢口は吉澤教えてるから、なっちはあたしが教えるわ」
「うん、わかったよ裕ちゃん」
「なんや矢口、今日はエライ素直やな」
「そうかなぁ、普通じゃん?」
(しばらくは様子を見よう)
それがあたしの出した決断だった。
今はとにかく裕ちゃんを信用して、様子を伺う。
「矢口さん、今日もお願いしますね」
「うん、まかせろよっすぃー」
あたしより背が高いけど、よっすぃーを妹みたいに感じていた。
妹?う〜ん、違うな・・・
妹よりも遠いけど、友達よりも近い関係。
なんて言うんだろ、この関係は・・・恋人?
(そ、そんなんじゃないよ)
だって、お互いの恋人の存在を知っているし、応援している。
とにかく、いい関係なんだ。
「ねぇ矢口さん、あのふたり、大丈夫なんですかねぇ」
さすがよっすぃー、あたしのことを心配してくれてるらしい。
「う〜ん、矢口もちょっと心配だけどさ。でも今は様子を見るしかないと思うんだ」
「・・・そうですね、ちょっとはっきりしませんもんね」
「うん!さぁ、仕事、仕事!」
「はい!」
- 348 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月23日(金)00時02分35秒
- 裕ちゃんがなっちに、特別優しくしてる風には見えない。
なっちだって、多少は甘えたりはするけど、それっぽい素振りは見せない。
(う〜ん・・・)
はっきりしないなぁ。
今夜は裕ちゃん家に行って、いろいろ聞いてみよっかな。
問い詰めれば、本当のこと話してくれるだろう。
そう、いつものようにね。
「なっちは相変わらず覚えが早いねんな」
「そんなことないよ。裕ちゃんの教え方がうまいから、なっちはすぐ出来るんだよ」
ふたりの会話は、今度はあたしにもしっかりと聞こえた。
あの耳に聞こえない言葉では話してなかった。
それだけで、どこか安心していた。
「じゃあ、次は美味いコーヒーの入れ方や。まず、豆を・・・」
「・・・うんうん、それで?」
熱心なのは、いいことだ。
「よっすぃー、うちらも負けないようにがんばろう!」
「や、矢口さんどうしたんですか?変に気合い入っちゃって・・・」
「ん?そうかな。でも、仕事をがんばるのはいいことだよ」
「・・・そうですね、あたしも安倍さんには負けないようにがんばります!」
「うんうん、その調子!じゃあ今日はレジの使い方からいこう」
そういえば、圭ちゃん最近休み多いなぁ。
- 349 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月23日(金)00時03分11秒
- その日の閉店時間を迎えた。
「ねぇ裕ちゃん、これから行ってもいい?」
「ん?あぁ、えぇよ」
なっちとよっすぃーは夕方に帰ったから、今はふたりきりだ。
「矢口、行くで」
「うん、行こう裕ちゃん」
裕ちゃんが当たり前のように手を差し出して、あたしはそれを握った。
あたしにとって今、一番落ち着く温もりだ。
それがもう自然だったし、無くなるなんて考えもしなかった。
でも・・・もしかしたら奪われるかもしれない状態にある。
なっちだ。
個人的にはキライじゃない。むしろ、カワイイし、好きな方だと思う。
でも今、なっちは敵なんだ。
(負けるもんか!)
意気込んだあたしの手は、無意識に力が入っていた。
「ど、どないしたん?」
「え?」
「いや、手・・・」
「手?・・・あ、うぅん、なんでもないよ」
- 350 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月23日(金)16時12分52秒
- 今の矢口はまさしく「センチメンタル南向き」がピッタリですな。
- 351 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月23日(金)23時13分07秒
- あのコンビニが見えてきて、裕ちゃん家が近いことを告げる。
「なぁ矢口、今日は泊まって行けるんやろ?」
「えー、どうしよっかな〜」
「ち、ちゃうんか?」
「だって、裕ちゃんなっちと怪しいしさ〜」
「怪しいて・・・」
(どうした裕ちゃん、ほら!)
はっきりと否定して欲しかった。
でも、その後の言葉は聞けなかった。
「ねぇ裕ちゃん、ホントのところ、なっちとはどうなの?」
「どう言われてもなぁ、昔の恋人やで」
「今は?」
「今は・・・違う・・と思う」
「思う?」
「もちろん、裕ちゃんには矢口がおるし、今なっちと付き合おうとは思わへんで」
「なっちの方が・・・?」
「そう、ホンマのところ、わからへんのや」
チン。
エレベーターを降りて、裕ちゃんの部屋へ入った。
- 352 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月23日(金)23時13分48秒
- 「裕ちゃんにその気がないなら聞いてもいいよね」
「な、なにを?」
「なっちと久しぶりの再会をした日のこと」
「・・・あぁ、えぇよ」
あたしは裕ちゃんが少し躊躇ったのを見逃さなかった。
やっぱり何かあったのかもしれない・・・矢口には知られたくないことが。
「あの日、なっちが泣いちゃって・・・更衣室に行ったよね?」
「あぁ、行ったで」
「その時裕ちゃん、矢口と目を合わせてくれなかった・・・なんで?」
「・・・先に言うとくで、あたしは矢口が好きや。それはわかってるやろ?」
「うん・・・」
痛いほどわかってるつもりだ。
そして、あたしも裕ちゃんが好きだ。
だから気になるし、本当のことを知りたい。
「矢口やから、ホンマのこと言うで。
あの時な・・・なっちが泣いてあたしに抱きついた時・・・ちょっとだけ思い出してもうたんや。
矢口と知り合うずっと前、まだなっちと付き合ってた頃をな」
「うん」
- 353 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月23日(金)23時14分38秒
- 「それでな、女の子でも人前で泣くんはやっぱり恥ずかしいやろ。
そう思ったあたしは、ふたりだけで更衣室に行った。それはえぇな?」
「うん・・・」
「矢口と目ぇ合わされへんかったんは、その時に思い出してもうたことが後ろめたかったからや」
「あぁ、それでか」
納得はできない・・・けど、理解はできた。
「更衣室の中、なっちはしばらく泣いてはった。あたしも慰めるんに必死やったわ。
そのうち泣きやんできたなっちは、それまでのこととか話してくれてな」
「うん」
「そんで、引っ越したはえぇねんけど、働き先がない言うて・・・
ほんならうちで働けばえぇって言うたんや」
「うん」
「最後に・・・」
裕ちゃんは、一度言葉を飲み込んだ。
「更衣室から出る前に、なっちがキスして言うたから・・・キスした」
「!?」
「でもな、あたしはほんの軽い気持ちやったんや、挨拶程度のな。
その後にどうこうしようなんて、全然思てへんかったんよ」
「・・・・・」
あたしは言葉を忘れたみたいに、喋ることができなかった。
でも、頭の中では言いたいことが、水道の蛇口をいっぱい捻ったみたいに、溢れ出していた。
あの時のイヤな予感は、見事に的中していたんだ。
- 354 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月23日(金)23時15分26秒
- 「・・・なんでだよ!」
やっと出た言葉だった。
「ゴメンな、せやけど・・・」
「そんなの・・・」
あたしは裕ちゃんが喋るのを、遮った。
「そんなのヒドイよ!」
「なぁ矢口、頼むからわかって・・・」
「イヤだ!ワカンナイよ!」
「や、矢口!」
ドン!
裕ちゃんが止めるのも聞かないで、あたしは裕ちゃん家のドアを開けた。
「裕ちゃんなんかダイキライだ!」
捨て台詞を吐いて、あたしは通い慣れた道へと飛び出した。
「裕ちゃんなんか・・・裕ちゃんなんかもう知らないんだから」
涙が出てきちゃった。
ダメだなぁ、こういうとこは変わってない。
まだまだ強くなれないや。
(・・・ツライヨ)
信用していた相手に裏切られた。
流れ出る涙と同時に吐き気さえしてきた。
(「あたしにはほんの軽い気持ちやったんや」)
さっきの裕ちゃんの言葉が、リフレインしていた。
(軽い気持ちで、キスなんかできちゃうの?)
裕ちゃんにとってのキスって、そんなモノだったの?
- 355 名前:チャーミー 投稿日:2001年02月23日(金)23時59分00秒
- >>329 さん
チャーミーもドキドキです。どうなるんですかねぇ・・・
>>330 さん
待っててくださったんですか?感激です!
>>ふぁーすと。さん
そうですねぇ、これからはどうなるかわかりませんよー(w
安倍さんの歳、合ってますよね?(汗
>>332-333 さん
今回は悲しい役かもしれませんけど、安倍さんにとっていい役もあるって話しですよ。
>>337-338-339 さん
ゴメンナサイ、そういうつもりじゃなかったんですけど・・・
>>350 さん
「恋人が泣いたら・・・」って歌ですか?
そうですね、うん、言われてみるとチャーミーもそう思いました。
えーっと、今回の講義はいつもより短めだそうです、ゴメンナサイ。
- 356 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月24日(土)04時16分47秒
- 短い講義は、イヤ!イヤ!
やぐなちゅ-いいよ!
- 357 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月24日(土)23時40分37秒
- プルルルル・・・プルルルル・・・
ケータイが着信を報せた。
あたしはひとりで、泣きながら帰ってた時。
プルルルル・・・プルルルル・・・
(どうせ裕ちゃんだろ。絶対に出るもんか!)
プルルルル・・・プルルルル・・・
しつこく受話を促す音が響いている。
あたしはカバンからケータイを取り出して、ディスプレイを覗いた。
(・・・あれ?よっすぃーだ)
ピッ!
「もしもし・・・」
「矢口さん・・・泣いてるんですか?」
「え?」
もしもし、の一言で、よっすぃーにはわかったらしい。
「今どこですか?」
「・・・もうすぐお店の前を通るよ」
「今から行きますから、お店の前で待っててください!」
「よ、よっすぃー、ちょっと・・・」
プー、プー、プー・・・
今から来るって、よっすぃーが。
裕ちゃんに裏切られて淋しかったあたしは、よっすぃー待つことにした。
- 358 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月24日(土)23時41分11秒
- よっすぃーの家は、お店からそう遠くはないらしくて、すぐに来た。
それでも走ってきてくれたよっすぃーは、息が切れてる。
あたしは胸がキュッとなるのを感じた。
「ハァ、ハァ、矢口さん、ハァ、ハァ・・・」
「よっすぃー・・・ゆっくりでいいよ」
あたしは一段上がったお店のトビラの前に腰掛けてた。
そしてよっすぃーは、あたしのその隣に腰を下ろした。
あたしの涙は止まっていた。
「矢口さん、なんかあったんですか?」
「うん・・・ちょっとね」
「中澤さん・・・ですか?」
「・・・うん」
隠しはしなかった。隠したって、よっすぃーにはわかっちゃうだろうから。
「よかったら・・・話してもらえませんか?」
「・・・うん」
それまでの経緯、あたしの感情、それを入り混ぜて、何も隠さないで話した。
その間、よっすぃーは黙って聞いてくれた。
「ねぇよっすぃー、矢口はどうしたらいいのかなぁ・・・」
全部話した後、最後によっすぃーの意見を求めた。
「矢口にはわかんないんだ・・・このまま、裕ちゃんを好きでいてもいいのかな・・・」
少しの間、沈黙。
あたしはよっすぃーの答えを求めて、よっすぃーはそれに応えようとする答えを探していた。
- 359 名前:ふぁーすと。 投稿日:2001年02月25日(日)00時52分19秒
- 今回の<トライアングル>は、矢口の視点から描かれていますが、
なっち、ゆうちゃんの視点からの話も難しいですけど、織り交ぜて欲しいです。
前の<約束>も、ゆうちゃんの視点で主に描かれていたので・・・。
頑張ってください。
- 360 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月26日(月)00時17分16秒
- 「矢口さんは・・・」
語尾を少し空けて、よっすぃーは続けた。
「上手く言えるかわからないですけど、矢口さんは、本当に中澤さんを好きなんですよね?」
「うん、好きだよ」
「中澤さんも、それは同じだと思います」
うん、それはわかってる。
わかってるつもりなんだけど・・・
「あの・・・ちょっといいですか?」
「え?な、なに?」
「ちょっとだけ、目を閉じていてください」
「え?う、うん・・・」
目を閉じた。
(何するんだろ・・・)
目の前を暗やみが覆い、時折通り過ぎる車の音だけが、耳に入った。
見えないことの不安、目の前にいるはずのよっすぃーが見えないだけでも、淋しい感じがする。
(!?)
ふいにあたしの唇に柔らかい、優しい温もりが伝わった。
実はこれが初めてじゃないんだけど、それにしても急だったから、驚いた。
そして、優しい温もりは、そっと離れた。
「きっと、こんな感じだったんだと思います」
- 361 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月26日(月)00時18分04秒
- 「中澤さんは、きっと矢口さんだから全部話したんだと思いますよ」
「え?」
ちょっとだけ、意味がわからなかった。
「安倍さんとキスしたことに後ろめたさを感じていて、それでも矢口さんを信用してたから、
きっと中澤さんは隠さないで話したんだと思います」
「う〜ん・・・」
「矢口さんを信用していて、矢口さんに許してもらいたかったから・・・
そうじゃなきゃ、中澤さんは言わなかったと思います」
「・・・そっか」
やっとわかった。
よっすぃーのキス、そしてその答えに、あたしは納得した。
あたしとよっすぃーのキスだって、軽い気持ちじゃないけど、それほどまでの重みを持っていない。
恋人たちがするそれじゃないし、でも、決して軽いモノでもなかった。
きっと裕ちゃんにとって、なっちとのキスは、きっとこれだったんだよ。
でも、裕ちゃんはそれでも罪の意識を感じて・・・話してくれたんだ。
あたしは裕ちゃんをもっと理解するべきだった。
もっと信用して、許してあげるべきだったんだ。
そういえば、いつか裕ちゃんが「あたしのキスは挨拶みたいなもんやねん」って言ってたのを思い出した。
あたしとするキスとは違う、別のキスを、裕ちゃんは持っているんだ。
それはあたしも一緒なんだけど。
「矢口さん、あたしは、矢口さんはこのまま中澤さんを好きでいてもいいと思いますよ」
そしてよっすぃーは、一番最後にはっきりとした結論をあたしにくれた。
「・・・うん、矢口もそう思ったよ」
あたしは「正解だよ」という解答を、よっすぃーに渡した。
- 362 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月26日(月)00時18分40秒
- キスをしたことは別として、裕ちゃんの気持ちがなっちに行ってないって思えた。
それをわからせてくれたのは、今ここに駆けつけてくれた、よっすぃー。
「よっすぃー、ありがと」
「いいえ、矢口さんのためなら」
あたしはこの、頼りになる後輩が好きだ。
あたしは全然頼りにならない先輩だよ。よっすぃーゴメンネ。
ただひとつ、どうしてもわからないことがあった。
「ねぇよっすぃー、じゃあさ、なっちはどうなの?
なっちも同じ気持ちでキスしてって言ったのかなぁ」
「それは・・・」
少し間を置いて、続けた。
「すいません、あたしにはわかりません」
「そっか、そうだよね・・・」
「やっぱり・・・様子を見てみるしかないと思います」
「う〜ん・・・」
なっちがもしその気なら、あたしは戦う。
そして、絶対に負けない。
そうじゃなかったら・・・きっともっと仲良くなれると思う。
「当分はそうするしかないか、うん」
変な決意が沸いてきた。
遠くの空に、星がひとつ流れた気がした。
- 363 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月26日(月)22時50分40秒
- 翌日。
「や、矢口ぃ〜、来てくれたんやな」
「うん。あのさ裕ちゃん、昨日はゴメンネ。矢口、全然裕ちゃんのことわかってなかったよ」
「わ、わかってくれるんか?」
「全部じゃないけどね。今回は、まぁ、許してあげるよ」
「矢口ぃ〜」
裕ちゃんはあたしに抱きついてきた。
周りによっすぃーと圭ちゃんがいるのに。
「ゆ、裕ちゃん、みんなが見てるよ」
あたしは小声で、裕ちゃんの耳元に囁いた。
「えぇねん、あたしが抱きつくくらい、今に始まったことやない。今さら驚かへん」
(あぁ、そっか)
変に納得して、ちらっと周りを見てみると、圭ちゃんは呆れ顔で見ていた。
よっすぃーは笑顔で、「よかったですね」って言ってくれてるようだった。
あたしはよっすぃーに向かってピースサインを作った。
よっすぃーも小さく、ピースサインを返してくれた。
「ほら、遊んでないで、ちゃんと仕事しなさいよ!」
圭ちゃんは相変わらず、店長みたいだった。
- 364 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月26日(月)22時51分20秒
- 数日間、なっちを見張ってみたけど、それとわかる素振りは見えなかった。
あたしとなっちの仲は、前よりはよくなっていた。
だから、ふっとした切っ掛けを見つけて、聞いてみた。
「なっちってさ、好きな人とかいるの?」
言ったあと、もっと遠いところから探ればよかったと後悔した。
「う〜ん、いるよ。矢口は?」
「矢口もいるよ。ねぇ、なっちの好きな人って北海道にいた頃の人?」
「うぅん、違う」
「じゃあ、こっちの人?」
「うん・・・」
少し恥ずかしげに頬を赤らめて、なっちは俯いた。
「・・・なっちね、昔から好きな人がいて、今も変わってないんだ」
あたしはなっちの言葉を反芻して、しっかりと飲み込んだ。
でも、驚いたりはしない。だって、予想はしてたんだ。
「そうなんだ、ふぅ〜ん」
なっちには、能天気に「ガンバッテネ!」とは間違えても言えない。
「矢口は?近くにいる人?」
「うん、すっごく近くにいる人だよ」
濁すことなく、あたしは言った。
そしてそれは、同時に宣戦布告とも言える意味合いもこもっていた。
ただ、なっちはそれを知らないんだろうけどね。
「そうなんだ〜、なっちは応援するよ。矢口、ガンバッテネ!」
・・・少し、心が痛かった。
いつかちゃんと言って、正々堂々と戦おう。
そうしないと、あたし、卑怯者で終わっちゃいそうだ。
そしてその戦いが終わったら、あたしはなっちと、仲良く笑って話せる関係になりたい。
だって、あたしはなっちのことが、それを抜きにすれば好きだから。
- 365 名前:(トライアングル) 投稿日:2001年02月26日(月)22時51分51秒
- あたしの好きな裕ちゃんは、このお店にいる。
裕ちゃんの昔の恋人もこのお店にいて、今でも裕ちゃんのことが好きだ。
現時点ではあたしの方が有利だ。
そして、あたしにはよき相談相手もいる。
でも、思い出の数と過ごした時間は、なっちの方が多い。
先の長い戦いになりそうだけど・・・でもあたしは負けない。
隣にいる、なっちに目を向けた。
その目は澄んでいて、引き込まれそうな印象を受けた。
(カワイイじゃんか、ちくしょう)
と、とにかく、あたしはなっちには負けない!
裕ちゃんはあたしの恋人だ!
決意を露にはしなかったけど、この小さな身体は闘志でいっぱいだ。
「なっち〜、ちょっと来てくれへんか〜」
「は〜い」
裕ちゃんが仕事の用事で、なっちを呼び出した。
なっちが裕ちゃんの方へ向かって行く背中を見つめてた。
「・・・・・」
あたしは人さし指と親指を立てて、ピストルを作った。
それをなっちに向けて・・・
「バン!」
打った。
「勝負だ・・・なっち!」
- 366 名前:第10回〜 投稿日:2001年02月26日(月)22時55分04秒
- いかがでしたか?今回はここまでですけど、矢口さんと安倍さんの対決は続きますよ!
チャーミーはよっすぃーの役が好きです。え?聞いてないって?
そんなぁ、言わせてくれてもいいじゃないですかぁ。
これからいろいろな人が、このお店に集まってくる予定です。
>>356 さん
ゴメンナサイ、もう終わってしまいました・・・
>>ふぁーすと。さん
それはまた別にやってみたいと思ってるみたいですよ。
まだ安倍さん主観の回がないですからね。
さて、次回の講義なんですけどぉ・・・まだ決まってないみたいなんです。
あ、いつものことなんですよね。そうなんですよぉ〜。
だから、少しだけ待って欲しいなぁ〜。
それじゃ、今回はここまでです!チャーミーでした!
チャオ〜
- 367 名前:〜第11回 投稿日:2001年03月04日(日)23時01分31秒
- どうもー!チャーミー石川でーす!
今回も石川が講義させていただきまーす。
さて、今回は、矢口さんとひとみちゃんの、少し切ないお話しです。
少し短めに、スパッといってみましょー!
それでは、石川はこの辺で、フェードアウト・・・
- 368 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月04日(日)23時04分24秒
- 『いらっしゃいませー』
あたしの声と、もうひとりの声が重なる。
貼り紙を見て、ここのバイトを決めたんだってさ。
あ、圭ちゃんの学校の後輩?
ふぅ〜ん、カワイイじゃん。
え?あたしがこのコの教育係すんの?圭ちゃんじゃなくて?
いいねぇ、がんばっちゃおっかな。
浮気?大丈夫、浮気なんてしないよ。
あたしは今、裕ちゃんだけなんだからさ。
アイシテルヨ、裕ちゃん。
あ、キスはふたりっきりの時だけって言ったでしょ。
約束破ったらキライになっちゃうかもしんないよ。
・・・うん、バイト終わったら裕ちゃん家行くよ。
その時にネ・・・
- 369 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月04日(日)23時04分58秒
- 「ゴッチ〜ン、早くしないと電車乗り遅れるよ〜」
「ち、ちょっと待ってぇ」
「ほら、急いで!」
「あ〜んヨッスィーーー」
よく晴れた土曜日の午後。
期末テストも終わって、久しぶりにゴッチンとデート。
テスト期間中はさすがに誘えなかったなぁ。
・・・ゴッチンは関係ないって言ってたけど。
(・・・ん?)
一瞬、何かが目に止まった。
(・・・なんだろ)
少し戻って見てみた。
・・・貼り紙?
(バイト募集、か)
バイトかぁ。そろそろピンチだしな〜・・・
「ヨッスィー?どうしたの?」
「ん?」
やっと追いついてきたゴッチン。
「このお店、バイト募集してるんだってさ」
「ふぅ〜ん、バイトしたいの?」
「う〜ん、今ちょっと苦しいんだ。ゴッチンと遊ぶお金も少ないし・・・
バイトしてみようかな〜と思ってさ」
「あたしも今月ピンチだけどね」
「じゃあ、ゴッチンも一緒にバイトやろうよ」
「えぇ〜、あたしはいいや」
「なんでぇ〜?」
「だって・・・面倒くさそうだし」
「あはは、ゴッチンらしいや」
あたしは貼り紙に書いてある電話番号をケータイに入れた。
「さて、ゴッチン急ごう!」
「あ、ヨッスィー待ってぇ〜」
あたしとゴッチンはまた走り出した。
- 370 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月04日(日)23時05分32秒
- その日の夜、真剣にバイトについて考えてみた。
(バイトしちゃうと、ゴッチンと遊ぶ時間も少なくなっちゃうんだよね・・・)
当面の問題はそれだ。
今はゴッチンを最優先して過ごして行きたいけど・・・
お母さんがもっとおこずかいくれれば済む話しなのになぁ。
でも、それは無理に近い。
弟達もいるし、今が限界だってのはわかってる。
(そうなると・・・)
やっぱりバイトするしかないんだよな〜。
ゴッチンと遊ぶために、お金を稼ぐ。
(う〜ん、これしかないか〜)
決めた。ゴッチンには明後日学校でちゃんと話ししよう。
明日さっそく電話して、他の人が入らないうちに面接してもらおう。
初めてのバイトに、少し緊張してきた。
(まだ電話もしてないのに・・・変なの)
- 371 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月05日(月)01時26分14秒
- なんか吉澤、かわいいな。
- 372 名前:すなふきん 投稿日:2001年03月05日(月)22時11分02秒
- 期待してます♪
- 373 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月06日(火)03時30分46秒
- 翌朝、ケータイのメモリからあのお店を探す。
プルルルル・・・プルルルル・・・
(ヤバイ、緊張してきた・・・)
プルルルル・・・カチャッ!
「はい、喫茶モーニングです」
「もしもし、あの〜、そちらでバイトしたいんですけど」
「はい、少々お待ちください」
「は、はい」
保留音が耳元で、爽やかに流れてた。
(ん?)
さっきの人の声、どっかで聞いたことある気が・・・
う〜ん、誰だっけ。
「はい、お待たせしました。バイトですか?」
「あ、はい」
「じゃあ面接しますので・・・すみません、お名前とお歳をお願いします」
「吉澤ひとみ、15歳です」
「高校生?」
「はい」
「じゃあ・・・これからとか空いてます?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ写真はいいですから、一応履歴書を持って・・・
そうですね、3時頃にお店の方に来てください」
「はい、わかりました」
「では、失礼します」
「はい、失礼します」
履歴書かぁ、買ってこなきゃ。
あたしはその足で、コンビニへ向かった。
- 374 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月06日(火)03時31分19秒
- 午後3時、少し前。
お店の前まで来たけど、やっぱり面接って緊張するよ。
履歴書の書き方、間違ってないかなぁ。
採用してもらえるかな・・・
いろんな不安があたしを取り巻いてくる。
(え〜い、ひとみ、がんばるのよ!)
自分で自分の背中を押した。
カランカラン。
「いらっしゃいませー」
「あの、バイトの面接で来たんですけど・・・」
「あ、はい、そちらの席におかけになってお待ちください」
「は、はい」
あたしより背の低いコが働いている。
高校生以下は不可だから・・・同じ歳なのかな?
そのコに指定された席に座って、店長さんが来るのを待っていた。
「あれぇ?吉澤じゃん」
「え?あ!保田さん!」
「バイトしたいって、もしかして吉澤?」
「はい。保田さん、ここでバイトしてるんですか?」
「うん、かなり前からね」
「なんや、圭坊の知り合いなんか?」
奥からもうひとり、一番歳が上に見える人が出てきた。
「うん、学校の後輩だよ」
「へぇ〜、偶然やなぁ、知らんかったんやろ?」
「はい・・・全然」
「圭ちゃんの後輩なら、面接なんて必要あらへんな」
「え?」
「採用、したるで」
「ほ、ホントですか?」
「あぁ、ホンマや。がんばるんやで」
「はい、よろしくお願いします!」
あたしは保田さんがバイトしていたのと、馴染みやすそうな店長さんに感謝しながら、
深々と頭を下げた。
- 375 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月06日(火)03時31分50秒
- 「え〜っと、名前なんやったっけ?」
「吉澤ひとみです」
「吉澤さんは、いつから働けるん?」
「えーっと・・・」
いつからでもいいよね、もうすぐ夏休みだし・・・
「いつからでも」
「じゃあ、明日からでもえぇか?」
「はい、大丈夫です。
あ、でも、一応学校があるんで、夏休みまでは学校が終わってからでいいですか?」
「えぇよ。何時くらい?」
「夕方の5時には入れると思います」
「ほんじゃ、明日の夕方5時から、よろしくな」
「はい、がんばります!」
「じゃ、今日はもう帰ってえぇで。お疲れさん」
「はい、失礼します」
カランカラン。
バイト、決まったよ。
ゴッチンには最初に考えた通り、明日学校で報告しよう。
(よ〜し、がんばるぞ!)
スキップしたい気持ちで、その日は家に帰った。
- 376 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月06日(火)23時43分36秒
- 「ゴッチン、あたしバイト決まったよ」
学校へ登校後、一番始めに声にした。
「え?あのお店?」
「うん!」
「へぇ〜、よかったねぇ」
「うん、ありがと」
クラスが違うから、朝はあんまり話しできないんだよな〜。
「あのさ、ひとつ言っておいた方がいいと思うんだけど・・・」
「ん?なに?」
キョトンとした目で、あたしの顔を覗き込んだ。
「あたしがバイト始めちゃったら、ゴッチンと一緒にいられる時間が減っちゃうと思うんだ」
「う〜ん・・・そうだねぇ」
「でもそれはさ、ゴッチンと遊ぶお金を稼ぐためだからね」
「そうなの?あたしは全然大丈夫だよ」
「慣れてきたら、ゴッチンのために休みとるからさ」
「うん、そしたら遊びに行こうね、ヨッスィーのおごりで」
「え?そ、そんなぁ〜」
「アッハァ、冗談だよ、冗談」
「ホッ、ちゃんとワリカンで遊びに行こうね」
「うん」
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン
「あ、ホームルーム始まっちゃう!ゴッチン、また後でね!」
「うん、またねぇ〜」
- 377 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月06日(火)23時44分08秒
- 今日からバイト開始。
ゴッチンは少し遠回りになるけど、夏休みまでは毎日送ってくれるって言ってる。
なんだか幼稚園まで送ってもらう、お母さんと幼い園児みたいだったけど、あたしは嬉しかった。
それだけゴッチンと一緒に居られる時間が増える。
なによりも、ゴッチンがあたしと一緒に居たいって思ってくれてるのが、嬉しかった。
学校からお店までは十数分かかるけど、あたしには数分に感じた。
それだけこの時間を大切に、重要に思ってるってことなのかな。
いつものように、他愛のない会話が弾んで、あっという間にお店が見えてきた。
「じゃあヨッスィー、がんばってね」
「うん、ありがと。終わったら電話するよ」
「待ってるよ〜。じゃ〜ね〜」
「うん、バイバ〜イ」
ゴッチンはお店を通りすぎて、ゴッチンの家の方向へ歩いて行った。
(さ〜て、がんばるぞ!)
カランカラン。
「おはようございま〜す」
バイト初日、緊張しながらも、あたしはお店のドアを開けた。
「おはよ〜」
まず迎えてくれたのは、あたしよりも背の低いコだった。
「あ、おはようございます!吉澤ひとみです、今日からよろしくお願いします」
あたしは深々と頭を下げた。
「うん、こちらこそ。あたしは矢口真里、よろしくね。じゃあ、奥の方に店長いるから」
「あ、はい、失礼します」
言われた通り、奥の方には店長さんがいた。
- 378 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月06日(火)23時44分45秒
- 「おはようございます!」
店長さんは、奥の部屋で何か書類を見ていた。
「おぅ、おはよう」
そう言って立ち上がると、あたしの方に近づいてきた。
「えーっと、まずはあれやな、この店の説明や」
「はい」
「まぁ、見てもわかると思うけど、この店は喫茶店や。大して客も入らんけどな」
冗談なのか、少し笑みを浮かべながら、その人は説明を続けた。
「そして、あたし、中澤裕子が一応この店の店長やねんけど、あたしのこと店長呼んだらあかんで。
それがこの店の決まりや」
「え?じゃあなんて呼べば・・・」
「ん〜、みんなは裕ちゃん呼んでくれてはるけど・・・まぁ、好きなように呼んだらえぇわ」
「は、はぁ・・・」
(う〜ん・・・やっぱり中澤さんって呼ぶのが自然かな)
ちょっと変わった店長だと、あたしは正直に思った。
「それとな、ホンマは敬語も禁止なんやけど、まぁ、入りたてやと無理やろうから、
少しずつ慣らしたったらえぇ」
敬語も禁止かぁ。
堅苦しいのが苦手な人なのかもしれない。
「矢口ぃ〜、ちょっと」
さっき入り口近くにいたあのコが、中澤さんに呼ばれた。
矢口さんはあたしのすぐ隣に並んだ。
「吉澤の教育は全部矢口に任せてあるからな。ほんじゃ、あと頼んだで」
「うん、まかせろ裕ちゃん」
中澤さんはまた元の位置に戻って、さっきの書類を眺め始めた。
- 379 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月06日(火)23時45分35秒
- 「吉澤さんは学校だとなんて呼ばれてんの?」
「えーっと、"ヨッスィー"って呼ばれてます」
「よっすぃーかぁ、いいね、矢口もこれからはよっすぃーって呼ぶよ。いい?」
「はい、いいですよ〜」
あたしの方が背が大きいから、矢口さんはあたしを見上げる感じで見ている。
なんか・・・カワイイなー・・・。
「矢口さんは、おいくつなんですか?」
「ん?矢口は17だよ」
(と、歳上かぁ・・・しかも2つも)
歳下とはいかないまでも、せめて同い歳くらいだと思っていたから、驚いた。
「あ、もしかしてよっすぃー、矢口のこと歳下だと思った?」
「い、いえ、そんなことないですよ」
「いいんだよ、正直に言っても。慣れてるから」
「・・・本当は同い歳くらいかな〜って」
「あはは、やっぱりね」
「でも、その割にはオトナっぽいかな〜って思ったんですよ」
「ホントにぃ?気ぃ使ってんじゃないの?」
「いえ、本当ですよ。なんて言うのかなぁ、セクシーっていうか・・・」
「ホントに?セクシーかぁ、嬉しいなぁ」
矢口さんは、本当に喜んでいるみたいに見えた。
そして矢口さんの笑顔で、あたしはすぐに馴染めそうな気がしてきた。
- 380 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月06日(火)23時46分22秒
- そして、あたしのバイト初日は終わった。
今日教えてもらったことを頭の中で何度も繰り返しながら、更衣室で着替えをしていた。
「よっすぃーはさ、夏休みになったら朝から入るの?」
あたしの隣では、矢口さんが着替えている。
「う〜ん、多分、そうなると思います。てんちょ・・・中澤さんに聞いてみないとわからないですけど」
「裕ちゃんどうなのさ」
矢口さんの向こうに座っている、中澤さんに目を向けた。
「せやなぁ、吉澤がそれを希望してるんなら、そうしてもらうけどな」
「はい、開店から入りたいです」
「じゃあ、決まりだね。矢口も開店から入ってるんだ、よろしくね」
「こちらこそ、お世話になります」
「お世話って、そんな大したこと出来ないけどさ」
着替え終わった矢口さんは、なぜかあたしと同じくらいの身長になっていた。
(・・・あ、厚底か)
ちょっとコギャルっぽいけど、この人だとイヤな気がしない。
あたしも着替え終わって、3人一緒に更衣室を出た。
「それじゃ、吉澤、明日もよろしくな」
「はい、同じ時間でいいんですよね?」
「そうやな、今日と同じくらいの時間に来てくれたらえぇよ」
そう言いながら中澤さんは、店内の電気を消して、ドアを開けた。
「じゃあよっすぃー、また明日ね」
「はい、また明日」
矢口さんと中澤さんは家の方向が同じなのか、ふたり一緒に帰り始めた。
あたしはひとり、自分の家の方向へと歩き出した。
夏とはいえ、夜の風は肌寒く感じる。
一呼吸置いて、あたしはケータイを取り出し、ゴッチンのメモリを表示した。
- 381 名前:やぐ×2 投稿日:2001年03月07日(水)14時18分28秒
- 中澤教授(あ、前回と今回はチャ−ミー教授か)講義受講させてもらってます。
それぞれの講義がリンクしているのがすごくおもろいです。
学生の頃はよく講義サボってパチンコいってたりしましたが、この講義はサボれません
続き期待しております。
- 382 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月07日(水)16時35分16秒
- 脱退…か…
- 383 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月07日(水)22時42分15秒
- ゴッチンと逢えるのは、朝のHR前と昼休み、そしてバイト先へ向かうまでの道だけ。
だから、言いたいことは、その時に全部話すようにしている。
それでも後から、これ言っておけばよかったなーってことが、結構沸いてくる。
その度にメモをとるワケじゃないから、それもすぐ忘れちゃうんだけど・・・
最近の話題は、やっぱりバイトのことが多かった。
あたしにとって初めてのバイト、ゴッチンにとっては未経験ゾーンだ。
「ねぇヨッスィー、バイトって楽しい?」
帰り道、あたしにとってはバイト先へ向かう道。
自然に繋がれた右手と、カバンが重い左手でバランスが上手く取れない。
「う〜ん、まだ始めたばっかりだから、よくわかんないよ」
「そっかぁ、そうだよね。でもさ、最近のヨッスィーは楽しそうだよ」
「そう?自分じゃわかんないけど、楽しんでるのかもね」
「いじめられたりしてない?」
「うん、大丈夫だよ。そうそう、あのお店ねぇ、保田さんもバイトしてるんだよ」
「え?圭ちゃんが?ふぅ〜ん、偶然だねぇ」
ゴッチンは学校から出ると、あたしの前でも保田さんのことを圭ちゃんって呼ぶ。
市井さんと保田さん、そしてゴッチンは、昔からの知り合いだったらしい。
それでも学校では保田さんって呼ぶように、保田さんがゴッチンに言ったんだって。
そうじゃないと他の生徒に示しがつかないって。保田さんらしい。
でも、いくら学校から出たっていっても、あたしの前で言ってたら同じだよ、ゴッチン。
「あー、もう着いちゃったよー。意外と近いんだねぇ」
ゴッチンも、あたしと同じこと思ったみたい。
「近いよね。あっという間に着いちゃうよ」
「そうだねぇ。じゃあヨッスィー、今日もがんばって!」
「うん、ありがと。気をつけて帰ってね」
「うん、またね〜」
「バイバ〜イ」
- 384 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月07日(水)22時42分48秒
- ゴッチンが見えなくなるまで見送ると、あたしはバイトに気持ちを切り替える。
「さ〜てと・・・今日もがんばろう!」
ちょっと意気込んで、目の前のトビラを開けた。
「おはようございま〜す!」
「あ、よっすぃー」
今日もあたしを迎えてくれたのは、矢口さんだった。
「矢口さん、おはようございます」
「うん、よっすぃーおはよう」
「あのー、矢口さんって、いつもこの辺にいるんですか?」
「え?なんで?」
「だって、昨日もあたしが来た時に、矢口さんここに・・・」
「あはは、いつもじゃないけど、よくいるかもね。
今日はよっすぃーがそろそろ来るんじゃないかなーと思ってさ」
「え?ま、待っててくれたんですか?」
「う〜ん、どうなんだろうね」
「・・・・・」
(矢口さん、ワケわからないですよ・・・)
ただ、なんとなく思わせぶりな態度には見えた。
でも、それが何かは、やっぱりわからなかった。
- 385 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月07日(水)22時43分25秒
- そんなあたしの疑問も、仕事が始まるとすぐに消えた。
今はそんなささいなことより、眼前の仕事を憶える方を優先したから。
中澤さんは、相変わらず奥の方でなにかしていて、お店の方にはあまり出てこない。
「ねぇよっすぃー、ひとつ聞いてもいいかな」
「な、なんですか?」
思わず吃ってしまった。
だって、矢口さんの目がキラキラしているから。
「あのさ、今日来る時に一緒に来たコいるじゃん?」
「み、見てたんですか?」
「見てたって言うかさ、見えちゃっただけなんだけどね。
あのコさ、よっすぃーの友達?」
「う〜ん、そうですね、友達です」
言う必要もないだろうから、あたしは隠すことにした。
「そのワリには仲よかったんだよね、友達以上って言うのかなぁ。
見えなくなるまで見送っちゃったりしてさ」
「うっ・・・」
す、するどい。
「ホントに、ただの友達?」
やっぱりオンナノコは、この手の話しに敏感だ。
そして、物凄く興味を示す。
「う〜ん・・・絶対に他の人には言っちゃダメですよ?特に保田さんには・・・」
「うん、大丈夫。こう見えても、矢口は口固い方だから」
あたしは、本当のことを話した。
変に思われちゃうかもしれないけど、矢口さんには嘘をつけそうにない。
- 386 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月07日(水)22時43分57秒
- 「ふぅ〜ん、そういう仲なんだ」
「はい・・・やっぱり、変ですか?」
「うぅん、全然変じゃないよ。矢口だって・・・」
「なんや、話しばっかりしてないで、ちゃんと仕事せんかい」
矢口さんの言葉は、中澤さんに断ち切られた。
「あ、ヤバイ!よっすぃー、仕事しろだって」
「は、はぁ・・・」
(「矢口だって・・・」?)
矢口さんもなにかあるのかなぁ。
あたしはその言葉の先が気になって、しかたなかった。
中澤さんが目の前にいる今は、聞けないよな〜・・・
その場は一先ず、矢口さんに合わせておいた。
「矢口さん、これどうするんですか?」
「ん?あぁ、よっすぃーこれはね・・・」
中澤さんは、あたし達が仕事を再開したのを見届けて、また奥の方へと戻っていった。
「矢口さん、さっきの続きですけど・・・」
中澤さんの方を気にしながら、あたしは小声で矢口さんに聞いた。
「え?あー、う〜ん・・・またあとで話すよ。今は仕事しよう」
「はぁ・・・はい、わかりました」
ガッカリしたけど、後で話してくれるって言うから、今はガマンしよう。
仕事を覚えるのも大事だしね。
- 387 名前:チャーミー 投稿日:2001年03月07日(水)22時49分29秒
- >>371 さん
そうなんですよぉ、ひとみちゃん、すっごくかわいくって・・・
>>すなふきん さん
ありがとうございます♪
>>やぐ×2 さん
ダメですよ、講義さぼっちゃ〜(笑
ありがとうございます、がんばりまーす!
>>382 さん
そうなんですよね・・・中澤さ〜ん、辞めないでください〜い(涙
ところで、この講義名もおもいっきり中澤さんの名前なんですよね。
続けてもいいのかなぁ・・・
- 388 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月07日(水)22時52分04秒
- 同じように抜けた市井くんが未だにいたるところで登場してるんだし
いいんじゃないのかな?
- 389 名前:すなふきん 投稿日:2001年03月07日(水)23時18分33秒
- 続けて欲しいです!
- 390 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月08日(木)00時58分03秒
- そりゃもう、この面子を従えて講義できるのは中澤講師しかいない! ・・・(涙)
- 391 名前:やぐ×2 投稿日:2001年03月08日(木)22時10分05秒
- またサボってしまうから中澤講師じゃないとダメです。(笑
- 392 名前:チャーミー 投稿日:2001年03月09日(金)00時03分13秒
- >>388 さん
市井さんも明日香さんも、石黒さんもいっぱい出てますもんね。
>>すなふきん さん
今すぐには辞めませんよー。
>>390 さん
そうですよね、やっぱり中澤さんじゃないとダメですよね。
>>やぐ×2 さん
中澤さんじゃないとサボっちゃうんですね(笑 ダメですよぉ〜!
やっぱり中澤さんがまとめてくれないと、まとまらない気がします。
この講義はまだいいですけど、現実に沿って書かれてる方は大変ですね・・・
- 393 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月09日(金)00時04分30秒
- その後も、その話しはあたしの方からは聞けず、数日が過ぎていった。
あたしもその話しのことは、すっかり忘れていた。
矢口さんが教えてくれるおかげで、バイトの方は順調に過ごせていると思う。
そして、いつもと変わらないバイト終了の時間。
「よっすぃーお疲れー」
「矢口さん、お疲れさまです」
「よっすぃーさ、今日これから暇?」
「はぁ、大丈夫ですけど」
「それじゃさ、ご飯でも食べに行かない?」
矢口さんの誘いは、突然だったから驚いた。
「ご飯・・・ですか?」
「うん!ふたりでさ、行こうよ」
断る理由がなかった。
「いいですよ」
「やったー!」
矢口さんは、本当に万歳をして、喜んでくれた。
(なんか、カワイイ人だな〜・・・)
あたしの顔も、自然と笑顔になっていってることに気がついた。
「何食べに行く?」
「矢口さんにお任せしますよ」
「ホントにぃ?う〜ん、どうしよっかな〜」
「ほんじゃ、あたしは用事があるから先に帰るで。矢口、あとはよろしくな」
「うん、裕ちゃんまた明日ね」
「中澤さん、お疲れさまでした」
- 394 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月09日(金)00時05分09秒
- 結局、無難なところでファミレスになった。
お店からそう離れていないところまで、ふたりで歩いている。
いつも誰かとふたりで歩く時って、隣はゴッチンばっかりだから、
こういう時って手持ちぶさたの右手の行き場に困る。
「ねぇよっすぃー、お店、もう慣れた?」
「はい、矢口さんのおかげで、結構慣れてきたと思います」
「あは、そんなぁ、照れるじゃん」
矢口さんの仕草は、たまらなくかわいかった。
「でもさ、よっすぃーも憶えがいいと思うよ。あたしが入った時なんかさぁ・・・」
「えー、そうだったんですか?」
「うん、大変だったんだから。それでね・・・」
矢口さんは、自分の失敗談を話してくれた。
「だからさ、よっすぃーはホント、憶えがいいんだと、矢口は思うよ」
「そうなんですかねぇ・・・う〜ん、やっぱり矢口さんのおかげですよ。
矢口さんがいるから、あたしは失敗しないでいられるんだと思います」
「まぁ、矢口の時はつきっきりで教えてくれる人がいなかったからね」
見上げる矢口さん。
つい子供を見るような感覚になっちゃいそうになる。
「中澤さんは、教えてくれなかったんですか?」
「裕ちゃんはね、最近来たばっかりなんだよ」
「そうなんですか?」
「うん」
星も見えない夜空。
通りを灯す街灯。
- 395 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月09日(金)00時06分02秒
- いい匂いがする、矢口さんの髪の毛。
長くてカールのかかった、矢口さんの睫毛。
小さい顔に大きい、矢口さんの目。
耳、口、首、肩、胸、腕、手の平、指。
なんだか矢口さんが愛おしかった。
でもそれは、ゴッチンのとは違う、別の感覚。
「矢口さん、あのぉ・・・」
「ん?なぁに?」
「あ、いえ、なんでもないです」
「なに?気になるじゃん。遠慮しないで、なんでも言ってよ」
「それじゃ・・・手、繋いでもいいですか?」
「え?な、なんで?」
「い、いえ、あの、そういう意味じゃなくて・・・あ、ほら、あたしいつもゴッチンと手を繋いで
歩いてるから・・・なんていうか、その・・・」
しどろもどろだ。
自分でも何を言っているか、わからなくなっている。
「あはは、矢口はゴッチンの代わりか。いいよ、あたしの左手も淋しがってるみたいだから」
「え?矢口さんの左手、いつも誰かと繋いでるんですか?」
「うん」
頷いて、矢口さんはあたしの右手を、自分から繋いでくれた。
ゴッチンとは違う種類の、暖かい温もりが伝わってきた。
あたしはなぜか、ドキドキしている。
そのドキドキが手を伝わって、矢口さんにわかっちゃうんじゃないかと、心配してしまった。
- 396 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月09日(金)00時07分10秒
- 手を繋いでから数分、ドキドキもまだおさまらない。
あたしは無口になって、矢口さんの話しに頷いているだけだった。
それとは別のところで、あたしはさっきのことを考えていた。
矢口さんの左手の、本当の行き場所だ。
(あたしの知らない人なのかな・・・)
もしそうだとしたら、いくら考えても答えは出ないけど・・・
「ついたね」
そう言って矢口さんは、あたしの手からスルッと手を抜いた。
抜け落ちた温もりが、異様に惜しく感じる。
その左手で、矢口さんはドアを開けている。
店員さんに案内されて、適当な席に座った。
さっきよりはおさまっていたけど、まだドキドキしていた。
座っていると、矢口さんとの身長差も、それほど感じない。
「なににしよっかな〜」
相変わらず無口なままのあたしは、黙ってメニューとにらめっこをしていた。
「・・・よっすぃー?」
「は、はい?」
「どうしたの?さっきからあんまり喋らないじゃん」
「そ、そうですか?」
「うん」
「ちょっと考え事をしてて・・・」
「・・・悩み事?」
優しく聞いてくれた矢口さん。
- 397 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月09日(金)23時03分15秒
- 「いえ、悩みじゃないんですけど・・・ちょっと気になることがあって」
「なに?」
「ひとつ、聞いてもいいですか?」
「うん、いいよ」
「あの、さっき言ってた、左手の人って・・・」
「あ〜、そのこと?気になるの?」
「はい」
正直に答えた。
「教えて欲しい?」
「はい」
「誰にも言わない?」
「はい、言いません」
「あのね・・・」
矢口さんは、少し間を置いた。
「実はね、矢口の左手の人って裕ちゃんなんだ」
「な、中澤さんですか?」
あたしはつい、大きい声で繰り返してしまった。
「よっすぃー、声大きいって」
「あ、すいません・・・」
周りを伺いながら、矢口さんが人さし指を口のとこに持っていった。
それにしても、矢口さんと中澤さんがつきあってたなんて・・・
- 398 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月09日(金)23時03分45秒
- 「裕ちゃんにも言っちゃダメだよ?」
「はい・・・」
矢口さんは、中澤さんとつきあうことになったきっかけを話してくれた。
初めてバイトに行ったあの日、そう言えば矢口さんと中澤さんは一緒に帰っていた。
数日前に矢口さんが言いかけたことも、きっとこのことだったんだ。
胸の支えが取れた。
でも、どこか認めたくなかった。
そして同時に、はっきりと浮かんだ、ふたつの文字。
好き。
あたしは矢口さんのことを、好きなんだ。
ゴッチンと同じで、でも違う種類の、好き。
その気持ちを持ち合わせながら、どうやって矢口さんとつきあっていけばいいんだろう。
隠し通すことは難しいかもしれない。
だって、あたしはすぐに、気持ちを伝えたがるから。
ゴッチンに対しての後ろめたさも、もちろんあるよ。
「はぁ〜、食べた食べた、もうお腹いっぱいだよ」
「・・・・・」
声を聞いただけで、顔が赤くなった。
このままだと矢口さんを見れない。
(ど、どうしよう・・・)
意識すればするほど、ますます顔は赤くなっていく。
- 399 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月09日(金)23時04分19秒
- 人通りの少なくなった歩道。
いつの間にか月が覗いている。
よく見えない、矢口さんの顔。
手は矢口さんの方から繋いでくれた。
またドキドキしているよ。
でも、こんなとこゴッチンに見られたら、大変だよね。
なんて言い訳したらいいんだろう。
止めどなく溢れ出る、好きって気持ち。
手から伝わっていたらと、つい心配してしまう。
そうやって悟られたとしても、あたしはそれに気づけない。
(だったら・・・)
自分から伝えたい。
そして、どうすればいいか、一緒に悩んで欲しい。
一度そう思ってしまうと、方向転換するのは難しい。
今のあたしは、その方向に真っすぐ突き進もうとしている。
「矢口さん・・・変なこと言いますね」
「な、なに?」
「あたし、吉澤ひとみは、矢口さんのことを好きになっちゃいました」
「えぇ!?」
繋がった手に、矢口さんの緊張が伝わってきた。
- 400 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月09日(金)23時04分57秒
- 「だ、だって、よっすぃーにはゴッチンが・・・」
「そうなんですけど・・・矢口さんにも中澤さんがいますし・・・でも、好きになっちゃったんです。
あたし、どうしたらいいと思いますか?」
「う〜ん・・・」
矢口さんは、真剣に悩んでくれているみたいだ。
数分間、その場に立ち止まっていた。
「・・・とりあえずさ、お店まで戻ろうよ」
「はい・・・」
・・・あたしはもしかしたら、いけないことをしているのかもしれない。
ゴッチンとは別れる気はないけど、でも矢口さんが好きだ。
言ってしまってから気がついて、後悔した。
言わなかった方が、うまくやっていけたかもしれない。
言ってしまったから、矢口さんとの仲がギクシャクしてしまうかもしれない。
後悔した。
好きって言葉を軽く使っていた自分に、腹が立った。
「う〜ん・・・」
「・・・・・」
矢口さんはホントに考えてくれているみたいだ。
あたしは、涙が出そうになっていた。
下唇を噛んで、ぐっとこらえた。
- 401 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月09日(金)23時44分17秒
- 言っちゃう吉澤もすごいけど、真剣に考えてやる矢口も偉いね。
こういうのも良い関係だね、この二人。
- 402 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月10日(土)23時32分28秒
- 矢口さんはお店の鍵を開けて、そっとトビラを開けた。
中は真っ暗だったから、電気をつけた。
明るい場所であたしの顔を見た矢口さんは、優しい顔をしてくれた。
きっとあたしの目に涙が溜まっているのが、わかったんだと思う。
「矢口さん、あの・・・さっき言ったこと、忘れてください」
「その前にさ、矢口の考えも聞いてよ」
「・・・はい」
出口に一番近い席にふたりで座った。
「実は矢口もね、よっすぃーのこといいな〜って思ってたんだ。
なんて言うのかな、この気持ちを言葉に表したら、好きになるんだと思う」
「・・・・・」
「だからね、忘れられないよ、よっすぃーが好きって言ってくれたことは。
でも、ふたりとも恋人がいるじゃん?」
「はい」
「よっすぃーはさ、ゴッチンのこと、大切に思ってるんでしょ?」
「はい、とても」
「うん、あたしも裕ちゃんのこと、大切に思っているんだ。だから・・・」
矢口さんは、言葉を選んでいるようだった。
「ふたりはこれ以上、近づかない方がいいんだと思うだ。ツライけどね」
それが矢口さんの答えだった。
- 403 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月10日(土)23時33分07秒
- 「よっすぃー」
「はい?」
「・・・よっすぃーって目、大きいよね」
「そ、そうですか?」
「うん。お人形みたい。なんか、吸い込まれそうな気がするよ」
矢口さんを目の中に留めておけたなら、これほど悩まなくても済んだかもしれない。
「もっとよく見せてよ」
「は、はぁ・・・」
矢口さんがあたしの目に、物凄く近い位置まで近づいてきた。
同時に、矢口さんの顔がすぐ目の前に・・・
「な、なんか恥ずかしいです・・・」
「そう?じゃあ、ちょっと目を閉じてみて」
「はい・・・」
素直に目を閉じる。
次の瞬間、口元に優しい温もりを感じた。
(・・・キス?)
あたしは思わず目を開けて、確認してしまった。
矢口さんも目を閉じて、あたしに口付けしている。
- 404 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月10日(土)23時33分45秒
- 少しして、矢口さんが離れた。
「これくらいなら、してもいいと思うんだ。それほど重い意味じゃなければ・・・
そうじゃないと・・・矢口もツライよ」
「・・・・・」
涙が出た。
嬉しくて、とても切なかったから。
「あ、ゴメン!ビックリした?」
「・・・ちょっとだけ」
「このことは、ふたりだけの秘密だよ」
「はい、もちろん」
矢口さんが優しく、あたしの涙を拭ってくれた。
その優しさに、また涙が溢れそうになる。
「じゃあもう遅いから、今日は帰ろ」
「はい・・・」
元通りにイスを直して、あたしが出るのを待って、矢口さんは電気を消した。
トビラを閉めて、鍵をかけた。
「矢口さん、あの・・・」
「ん?」
「・・・ありがとうございました」
「うぅん、いいんだよ。矢口も自分の気持ち言えたから、すっきりしてるんだ」
そう言った矢口さんは、いつもと同じ笑顔になっていた。
「また明日、お仕事教えてくださいね」
「うん、もちろんだよ」
「それじゃ、失礼します」
「うん、ばいばい」
あたしは後ろを振り向かないように、家路に着いた。
唇に残る、優しさを噛みしめながら・・・
- 405 名前:(好きだから・・・) 投稿日:2001年03月10日(土)23時34分16秒
- 気持ちの整理をつけるには、もう少し時間が必要だと思う。
でも、矢口さんの優しさに報いるように、がんばらなきゃ。
翌日も、その次の日も、それまでと変わらない関係でいられた。
そしてこれからも、この関係を保っていかなければいけない。
それはとても切ないんだけど・・・
「矢口さん、これはどうすればいいんですか?」
「ん?どれどれ?あー、これね。これはねぇ・・・」
矢口さんが困っていたら、あたしは一番に駆けつけよう。
矢口さんが悩んでいたら、あたしも一緒に悩んであげよう。
そしてあたしは、いつでも矢口さんの味方でいてあげる。
でもそれは、友達として、後輩としてのあたしだ。
「ふたりとも、仲えぇなぁ。妬いてまうで」
「あはは、裕ちゃんなんだよそれー」
矢口さんがそれを望んでいる限り、あたしはそれを崩さないように努力する。
「矢口さん、中澤さんと、がんばってくださいね。あたし、応援してますから・・・」
「うん。よっすぃーも、ゴッチンと仲良くね」
「はい」
「悩みとかあったら、矢口に相談しなよ」
「はい、矢口さんも、あたしでよかったら相談してくださいね」
「うん」
あたしは、矢口さんが大好きだから。
- 406 名前:第11回〜 投稿日:2001年03月10日(土)23時36分49秒
- >>401 さん
そうなんです、このふたりはいい関係なんですよぉ。
あたしもそんな相手の人が欲しいな〜・・・
みなさん聞いてください!
次回は石川も出られるんですよー!
いやぁ、もう出られないかと思ってたんですけど、よかったー。
ちょっとだけ時間が空くんですけど、待っててくださいね
では、チャーミー石川でしたー
チャーオー
- 407 名前:やぐ×2 投稿日:2001年03月11日(日)00時10分16秒
- 講義サボらずに出席しました。(藁
次の講義も楽しみにまってます。
- 408 名前:チャーミー 投稿日:2001年03月13日(火)02時09分40秒
- >>やぐ×2 さん
ありがとうございまーす♪
次回はチャーミー出演!がんばりますね♪
- 409 名前:〜第12回 投稿日:2001年03月13日(火)02時10分48秒
- 毎度ー!元気にしてました?講師の中澤です。
さて、今回の主役は、チャーミーこと石川梨華ですわ。
前回まで代わりに講師やっとってくれた石川ですが、どうなってまうんやろ。
ほんじゃ、はりきってどうぞー
- 410 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月13日(火)02時11分20秒
- これはまだ、誰にも話したことがありません。
うん、幼なじみのひとみちゃんにだって一度も。
あたしと、その相手の人(覚えていてくれれば)の、ふたりだけの秘密。
その人との出逢いは、本当に偶然でした。
大人っぽくて、恰好よくて、優しくて・・・
それでいて、どことなく淋し気に、いつも遠いところを見ているあの人の瞳に、
あたしはいつしか、その人に憧れを抱くようになっていました。
これはまだ、誰にも話したことがありません。
- 411 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月13日(火)03時20分03秒
- チャーミーはシアワセになれるのかな?なってほしいね。
- 412 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月13日(火)23時39分10秒
- 初めての出逢いは、普通のCD屋さんでした。
あたしはひとり、暇を弄んでいたんですけど・・・
お気に入りのアーティストのCDを買おうかどうか悩んでいたんですけど、
気がついたらあの人が、あたしのが隣にいました。
正直に言うと、その時点であたしは惚れてしまっていたんだと思います。
いわゆる一目惚れ。
あたしはその人のことが、気になってしかたありませんでした。
そのうちにあの人は、あたしが買おうか悩んでいたCDを手にとって、
あたしの隣から動こうとしました。
「あ・・・」
「え?」
あたしは自分の意志とは無関係に、声を出してしまいました。
「なに?」
「あ、いえ、なんでもないです。ゴメンなさい」
「そう?じゃあ・・・」
「あ、あの・・・」
今度はあたしの意志。
「ん?」
「そのアーティスト好きなんですか?」
「うん、好きだよ」
「あたしもなんですよぉ」
ただ、もう少しだけその人の近くにいたかっただけなんだと思います。
でも、見ず知らずのあたしに、急にそんなことを言われても、困るだけですよね。
その時のあたしは、そんなことには全然気がつきませんでした。
「・・・あ、そうなんだ」
「あの・・・ご、ご迷惑でなければ、もう少しお話ししてもいいですか?」
「う〜ん・・・いいよ。どうせ暇だし」
「あ、ありがとうございます!」
「あはは、お礼言われるほどのことじゃないよ」
そうだ、名前聞かなきゃ・・・
「あの、あたし石川梨華って言います」
「梨華ちゃんか、いい名前だね。あたしは市井紗耶香、よろしくね」
- 413 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月13日(火)23時40分28秒
- 「立ち話もなんだからさ、喫茶店かどっか、行かない?」
「は、はい!」
「じゃああたし、これ買ってくるから」
そう言って、市井さんはレジの方へと歩いて行きました。
その後ろ姿に、なぜかあたしは安心を憶えました。
(市井さん・・・)
「じゃ、行こうか」
「はい!」
先を行く市井さんの姿は、やっぱり凛々しかったです。
喫茶店は、すぐ近くにありました。
「喫茶モーニングか・・・ここでいい?」
「はい、どこでも」
カランカラン。
一段上がったドアは、音を立てて開きます。
「いらっしゃいませ」
ウェイトレスさんの声が、店内に響きました。
市井さんが窓際の席に座ったので、あたしはその向かい側に座りました。
「梨華ちゃんだっけ」
「はい」
向かい合って座ってるけど、照れてしまって市井さんの目が見れません。
「あのさ、なんであたしに話しかけたの?」
「え?」
あたしにとっては、意外な質問でした。
- 414 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月13日(火)23時41分27秒
- 「いえ、あのー・・・
さっき市井さんが買っていたアーティスト、あたしも好きだったから・・・」
「それだけ?」
「はい、嬉しくって、つい・・・」
あたしは恥ずかしくって、俯いてしまいました。
「ふぅ〜ん・・・」
目線だけを上に移すと、市井さんは頬杖をついて、あたしを見ています。
「嘘でしょ」
にやっと笑って、市井さんは言いました。
「あのアーティストって、そんなに売れてはいないけど、有名じゃん。
あたし以外にもあのCDを見ている人は多いと思うよ。
それなのに、敢えてあたしを選んだ理由・・・教えて?」
「選んだなんてそんな・・・」
・・・市井さんは、あたしの気持ちに気がついているのでしょうか?
もちろん、それだけが理由ではありませんでした。
それはほんの、切っ掛けの一部に過ぎません。
「もしかして・・・」
「え?ち、違いますぅ」
気がつくと、あたしは必死に否定してしまいました。
「違うの?な〜んだ、あたしはてっきりこのCDを貸して欲しいから、
手に取ったあたしに話しかけたんだと思っちゃった」
「え・・・あ、実はそうなんですよぉ。あたしおこづかい少なくって」
「あ、やっぱりぃ?」
少しだけ、拍子抜けした気分でした。
- 415 名前:やぐ×2 投稿日:2001年03月13日(火)23時54分01秒
- はぁ、はぁ、…講義に間に合った。
中澤教授、まだ始まったばっかりですよね?
チャーミー、大事なのは「間」だぞ、「間」。
- 416 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月14日(水)02時43分42秒
- ハア、ハア、遅れちゃったか・・・まだ始まったばっかり? フウ。
それにしてもチャーミー、宗教だかセミナーだかの勧誘みたいな誘いかただな。(笑)
- 417 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月14日(水)23時54分43秒
- 「梨華ちゃんってさぁ・・・」
「はい?」
「カワイイよね」
「そ、そんなことないですぅ」
「なんて言うのかなぁ、オンナノコっぽいって、よく言われない?」
「よく言われますけど・・・そうなんですかねぇ、意識してないんですけど・・・」
「それじゃあ自然に滲み出てるんだね。梨華ちゃんっていくつ?」
「14歳です」
「あたし、梨華ちゃんと同じくらいの妹みたいなヤツがいるんだけどさ、見習わせたいよ。
あたしも人のこと言えないんだけどさ、あはは・・・」
(市井さんの照れ笑い、カワイイなー)
市井さんの妹になれたら、どんなに幸せなんだろう・・・
あたしはそのコのことが、羨ましくなりました。
「いいですね」
「ん?なにが?」
「市井さんの妹みたいなコが、羨ましいです」
「そ、そう?」
「うん、とっても羨ましいです」
素直な気持ちを言いました。
「あ、ありがとう」
今度はホントに照れたように、市井さんは苦笑しました。
あたしはまた、市井さんの新しい顔を見ることができました。
- 418 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月14日(水)23時55分22秒
- 適当に頼んだアイスコーヒーとレモンティーを、ウェイトレスさんが持ってきてくれました。
外では夏の陽射しが、サンサンと歩道を照らしていて、暑そうです。
店内はクーラーが効いていて、心地よい体温を保っていてくれています。
それでも汗をかいたグラスは、静かに水滴を落とすのでした。
「久しぶりだよ」
「なにがですか?」
「こういうところで、ふたりっきりでお茶するの」
「そうなんですか?」
「うん、しかも、相手が梨華ちゃんなんて、今までで一番かもね」
「そ、そんなぁ、恥ずかしいですぅ」
「あはは、恥ずかしそうにする梨華ちゃんって、また一段とオンナノコらしいよ。カワイイね」
「・・・・・」
あたしは恥ずかしさで、何も言えなくなってしまいました。
そんなあたしを、市井さんは微笑ましく見ていました。
それを見てあたしの顔は、また赤くなっていきます。
「梨華ちゃんって、モテるでしょ」
「全然モテないですよぉ。あたしまだ、つきあったこととかないんです」
「ホントにぃ?」
「ホントですよ」
「意外だなぁ」
あたしをモテルって言ってくれたってことは・・・
少なくとも、市井さんの好みに当てはまるってことですか?
嬉しくなって、また赤面してしまいました。
相変わらず、グラスは静かに水滴を落としています。
- 419 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月15日(木)23時47分38秒
- その時、市井さんのケータイが呼び出しを告げました。
「ちょっとゴメン」
「はい・・・」
「もしもし?圭織ぃ?どうした?」
(圭織?)
また新しいオンナノコの名前が、市井さんの口から出てきました。
「あ、考えてくれた?」
(お友達なのかなぁ・・・)
「え?は、はやいねぇ」
(もしかしたら、妹みたいなコかも)
「ど、どうだった?」
電話中の市井さん。
「あはは、いいよ。どうする?あのファミレスでいい?」
左手を真っすぐに伸ばして、「ゴメンネ」ってしてくれました。
「じゃあ、3時頃に集合ね。圭ちゃんも誘う?」
あたしは手を振って、「お気にせず」って返します。
「オーケー、じゃ、またあとでね」
ピッ!
- 420 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月15日(木)23時48分09秒
- 「ゴメン、ちょっと用事入っちゃった」
「えぇ、大丈夫ですよ」
「どうしよう、ケータイバンゴウ交換しとこっか」
「はい、おねがいします!」
あたしのケータイに市井さんのメモリ、
市井さんのケータイにあたしの名前が、それぞれ入力されました。
「このCD、録音終わったら電話するよ。それからでいい?」
「はい」
「それと、ここ、おごってあげる」
「え?そんな、悪いですよぉ。誘ったのはあたしなんですから・・・」
「いいっていいって、あたしも楽しかったしさ。また話ししようね」
「はい、あたしも楽しかったです。本当にありがとうございました」
「あはは、最後まで梨華ちゃんっぽいよ。それじゃ、またね」
「はい、さようなら」
市井さんは伝票を持って、レジでお勘定を済ませて、走っていきました。
あたしも外に出て、市井さんの後ろ姿を見送っています。
(・・・また逢えるんだ)
それが嬉しかったんです。
(今回はCDの貸し借りだけど、その後も逢えるようになりたいなー・・・)
あたしは暑い陽射しの下、自然と笑みがこぼれてしまいます。
さっきのレモンティーのグラスのように、
あたしの汗も静かに浮き出て、流れ落ちていきました。
- 421 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月16日(金)23時35分04秒
- お家に帰って、あたしは市井さんのメモリを出しました。
眺めてるだけでも、なんか幸せな気分になれるんです。
「はぁ・・・」
自然とため息が出てしまいました。
頭の中では、今日の出来事が何度もリプレイされています。
(市井さん・・・)
こうなっちゃうと、もう他のことが考えられません。
再びケータイのディスプレイを眺めました。
ボタンひとつで、市井さんの声が聞けるけど・・・
あたしにはその勇気がありません。
今は市井さんからかかってくるのを待つしかありませんでした。
(いつかけてくれるんだろ・・・)
録音が終わってからって言ってたから、明日かもしれません。
もしかしたら、忙しくて今週はもう無理かもしれません。
どっちにしても、あたしは待つことしかできないのでした。
「・・・市井さん」
胸が痛くて、苦しくて、切なくて涙が出そうになりました。
市井さんの顔を思い浮かべようとしても、モヤがかかったようにはっきり見えません。
悔しくて、また切なくなります。
そして、今度は涙を止めることができませんでした。
誰にも見られてないんだけど、涙を隠すように枕に伏せました。
涙は静かに枕に染みて、あたしの頬を湿らすのでした。
- 422 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月16日(金)23時35分34秒
- 次の日も・・・その次の日も、市井さんからの連絡はありません。
あたしはベッドに寝そべって、途方に暮れていました。
少しだけ開けた窓の隙間から、風が入ってきました。
カーテンがふわっとなびいて、あたしの視界を遮りました。
それをよけるように、寝返りを打ちました。
顔のすぐ横にはケータイが置いてあります。
履歴を見ても、市井さんのメモリはあの日の一件しかありません。
(・・・まだかなぁ)
あたしの中の市井さんは、あの日のまま動きません。
そればかりか、市井さんはもう、あたしに話しかけてもくれませんでした。
昨日までは憶えていたあの声も、あたしは忘れてしまっていたのです。
それなのに・・・あたしの中の市井さんは、どんどん膨らんでいきます。
膨らんで膨らんで、あたしの心は市井さんで埋め尽くされそうです。
「市井さん・・・」
名前を口にしたら、少しだけ嬉しくなりました。
「市井さん」
名前を口にしたら、とても切なくなりました。
(もう忘れられちゃったのかなぁ・・・)
あたしからは電話することができないから、それを確かめることはできません。
もし忘れられちゃっていたとしても、あたしはこのまま、ずっと待ち続けるのでしょうか。
「市井さん・・・逢いたいよぉ」
気がつくと、涙が出ていました。
- 423 名前:やぐ×2 投稿日:2001年03月16日(金)23時39分31秒
- かわいいなぁ〜 チャ〜ミ〜
- 424 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月18日(日)00時56分21秒
- プルルルル・・・プルルルル・・・
(・・・ん?)
プルルルル・・・プルルルル・・・
どうやらあたしは、知らないうちに眠ってしまっていたようです。
(・・・あ、電話)
プルルルル・・・ピッ!
「もしもし・・・」
「もしもし梨華ちゃん?市井だけど」
「・・・あ、はい!」
「寝てたの?」
「うん、少しだけ・・・」
「ゴメンネ、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「あのCDさ、録音終わったから、もういつでも貸せるよ」
「あ、はい、すいません・・・」
「あはは、梨華ちゃんは相変わらずみたいだね。いつにする?」
「え?」
「え?じゃなくてさ、逢う日だよ、CD貸す日」
「あ、いつでもいいです」
「そう?じゃあ・・・明日とか、大丈夫?」
「はい、空いてます」
「じゃあ明日のお昼1時頃、あの喫茶店で」
「はい、わかりました」
「じゃあ、また明日ね」
「はい、失礼します」
ピッ。
- 425 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月18日(日)00時56分55秒
- 久しぶりに聞いた、市井さんの声。
そう、市井さんの声は、こういう声だったんですよね。
これでまた、あたしの中の市井さんは話しかけてきてくれそうです。
それよりも、明日また市井さんに逢えること。
嬉しくて・・・なぜか切なくなりました。
(・・・なんでだろ)
それは多分、逢いたかった市井さんに逢えるからだと思います。
そして、その市井さんが好きだから・・・
開けっ放しの窓から、黄色い月があたしを覗いていました。
満月まではまだ遠いけど、夜に光を与えてくれます。
(市井さんも見てるのかな・・・)
同じ月、同じ星。
同じ夜空の下、あたし達は繋がっているはず・・・
そう思うと、嬉しくなります。
(明日はどの洋服着て行こっかな〜)
お気に入りの洋服を何着か、ベッドの上に置いてみました。
「やっぱりこれかなぁ」
ピンクのノースリーブのワンピと、帽子のセット。
(ヒールの少し高い、でもすごくカワイイあのサンダルも履いて行こ〜っと)
まるでデートの前日みたいに、あたしは張り切っていました。
(明日は晴れるかなぁ・・・)
どうせなら、お天気がいい。
少しだけ見える星を確認して、お風呂へと向かいます。
- 426 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月18日(日)00時57分38秒
- ジリリリリリリリリリリ・・・・・!!!!
(う〜ん・・・)
目覚まし時計が、起きる時間を告げています。
・・・リリリリリ カチッ。
「ふわぁ〜ぁ・・・」
アクビをひとつして、両腕をおもいっきり伸ばします。
「ん〜っ・・・っと」
カーテンを開けると、青い空が広がっていました。
名前も知らない鳥が、あたしを爽やかな気分にしてくれます。
今日は市井さんと逢える日。
昨日決めたお気に入りの服に着替えて、髪もキレイに梳かしました。
メイクをして・・・
(どのくらいしていけばいいんだろう)
オトナっぽくなく、コドモ過ぎないように・・・
(う〜ん、このくらいかな?)
結局いつもと同じくらいに、自然な感じにおさまりました。
(・・・うん、大丈夫だよね)
帽子をかぶって準備が終わると、緊張の気持ちが大きくなっていきます。
少しだけ早めに出て、気持ちを落ち着かせることにしました。
「お母さん、出かけてくるね〜」
決めていたサンダルを履いて、晴れた青空の下を歩いて行きました。
- 427 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月18日(日)00時58分12秒
- やっぱりお天気の方が気持ちいいですね。
待ち合わせの喫茶店は、市井さんと出逢ったCD屋さんの近くにあります。
そのCD屋さんは、あたしの家から歩いて5、6分で行けちゃうんです。
それだと早すぎるから、少しだけ遠回り。
あたしは反対方向に向かって、歩き出しました。
途中までが学校への通学路で、角を曲がると駅までの道。
その先を曲がると、右側にカワイイお店がいっぱいあるデパートが見えてきます。
デパートが真横に来たら、今度はデパートに背中を向けて歩きました。
しばらく歩くとあの公園が見えてきて、あたしはベンチに腰を下ろしました。
「すぅ〜・・・はぁ〜・・・」
大きく深呼吸を、ひとつだけ。
お陽様の強い陽射しが、あたしを強く照らしています。
(帽子かぶってきてよかった〜)
休日のお昼頃。
ジャングルジム、ブランコ、鉄棒、滑り台、砂場。
さっきまで子供たちの遊んでいた跡に、無造作に放置された遊具が転がっています。
きっとお昼ご飯のために、お母さんとお家に帰ったんでしょうね。
(そう言えば・・・最近あの夢見ないなぁ・・・)
あたしの大好きな、幼なじみのひとみちゃんの夢。
ふたりともまだ幼いんですけど、ここで遊んでいるんです。
本当にあったことの夢。
今思えば、この時のあたしはきっと市井さんで満たされていたんだと思います。
「う〜んっ・・・っと」
大きい伸びをひとつして、あたしは待ち合わせの喫茶店へと向かいました。
- 428 名前:やぐ×2 投稿日:2001年03月18日(日)01時03分41秒
- チャ〜ミ〜の胸の鼓動がこっちにも伝わってきそうです。
- 429 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月19日(月)02時09分37秒
- さっきの公園からもうしばらく歩くと、あのCD屋さんと喫茶店が見えてきます。
腕時計は12時30分を指していました。
(・・・ちょっと早かったかなぁ)
まだ少しだけ時間があったから、あたしはCD屋さんを覗くことにしました。
あのアーティストのCDが置いてあるフロアへ。
(今日はこのCDを、市井さんから借りれるんだ)
そのアーティストを好きだったことと、CDを見ていた偶然に感謝します。
だってそのおかげで、今日こうしてこれから市井さんと逢えるんですから。
しばらく他のCDも見て回って、約束の時間が近づいてきました。
それを意識したら、今までおさまっていた緊張がまた膨らんできました。
あたしはまた、大きく深呼吸をしてみたんですけど・・・
緊張がおさまる感じはしませんでした。
(どうしよう・・・)
時間がなかったので、そのまま行かなければなりません。
このままで行って、市井さんの前で笑えるでしょうか・・・
とにかく、あたしはすぐ近くの喫茶店へと向かうことにしました。
- 430 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月19日(月)02時10分09秒
- カランカラン。
「いらっしゃいませ」
待ち合わせの喫茶店。
市井さんはまだ来てないみたいです。
あたしは窓際の、市井さんが来たらすぐにわかる場所に座りました。
腕時計はすでにお昼の1時を回っています。
(・・・どうしたのかなぁ)
それから5分くらい、あたしはボーっとして市井さんを待ちました。
しかし、市井さんが現れる気配はありません。
(忘れられちゃったかな・・・?)
緊張していたのも忘れて、あたしは本気で心配し始めてしまいました。
(来れなくなっちゃったのかなぁ・・・)
ネガティブな思考が、あたしの頭の中を支配しています。
(もしかしたら、途中で事故とかにあって・・・イヤッ!)
自分の考えたことが恐くなって、あたしは顔を覆いました。
想像するだけで・・・泣き出しそうです。
(市井さんが事故に・・・あたし、どうしたら・・・)
「遅れてゴメ・・・梨華ちゃん?」
「!?市井さん・・・えぇ〜ん・・・」
突然目の前に現れた市井さんに、あたしは安心したんですけど・・・
度を超えてしまって、泣き出してしまったんです。
「ど、どうしたの?」
「市井さ〜ん・・・」
市井さんの胸を借りて、あたしはしばらく泣き続けました。
腕時計は1時37分を指していました。
- 431 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月19日(月)02時10分45秒
- 「大丈夫?」
「はい・・・ゴメンナサイ」
なんとか涙を止めて、元の席に戻りました。
「どうしたの?」
「いえ、あの・・・その・・・」
市井さんが事故にあったんじゃないかと思って心配しただなんて・・・
後から考えると、すごく突拍子のないことですよね。
恥ずかしくて、顔が赤くなっていくのがわかります。
その顔を両手で覆いながら、あたしは理由を話しました。
「・・・・・」
市井さんは黙って、あたしが話し終わるまで聞いていてくれました。
「・・・なんです。だから、すごく安心して・・・急に涙が出てきちゃったんです。
ホントにゴメンナサイ、突然泣き出しちゃって・・・」
「・・・ありがと」
「え?」
「あたしのことを、それだけ心配してくれたってことだよね?」
「え・・・あ、はい。そうなんですけど・・・」
「ビックリしたけど・・・うん、嬉しいよ。ありがと」
「いえ・・・そんな・・・」
お礼を言われて、また顔が赤くなっていきました。
- 432 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月19日(月)23時35分35秒
- 始めに泣いちゃったおかげで、その後はリラックスしたままお話しできました。
市井さんのいろんな顔が見れて、あたしの中の市井さんも表情を増やしていきます。
「・・・でさ、あたしがそう言ったらそいつがね・・・」
「あはははは、そうなんですかぁ?」
「うん、だからあたしはさ・・・」
なんだかすごく素直に笑えてる気がします。
でも、さっきからずっと市井さんばっかり話しているんです。
市井さんの言う冗談は面白くて、あたしは笑ってばかりでした。
「あのさ、梨華ちゃんの話しも聞かせてよ」
「あ、あたしのですか?」
「うん」
「あたし・・・面白いこととか言えないと思いますよ?」
「うぅん、なんでもいいんだよ、梨華ちゃんの話しならね。
梨華ちゃんのこと、もっと知りたいんだから」
ドキッとして、少し恥ずかしくなりました。
「う、う〜ん・・・じゃあ・・・」
何をお話しするか迷ったんですけど・・・
最近学校であったこととか、身近なお話しをしました。
うん、特に面白くもないお話しなんですけどね。
「・・・だったんです」
「うんうん、それで?」
「それであたしも・・・」
何でもないお話しを、市井さんは楽しそうに聞いてくれました。
- 433 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月19日(月)23時36分07秒
- 今までのあたしなら、2回目の人とこんなに話せなかったと思います。
それなのに、一目惚れして、あたしから声をかけました。
喫茶店でお話しをして、また逢う約束をしました。
そして今、こうして市井さんとお話ししています。
今は、自分でも積極的だなぁって思えるんです。
相手が市井さんだから?
う〜ん、そうですね、市井さんだからだと思います。
「あ、そうそう。はい、これ」
バッグをごそごそして取り出した、1枚のCD。
「これ渡さなきゃ、今日逢った意味ないもんね」
「あ、はい、ありがとうございますぅ」
そうなんですよね・・・
市井さんにとって、あたしはただのお友達。
今日はCDを貸すために、こうしてお逢いしてくれているんですよね。
そのCDを渡してくださったってことは・・・
今日はもうお別れですか?
「じゃあそろそろ・・・」
(やっぱり・・・)
「どっか行く?」
「え?」
意外な言葉でした。
でも、とても嬉しい言葉。
- 434 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月19日(月)23時36分55秒
- 「いや、ここばっかりってのもつまんないじゃん?」
「・・・えぇ、そうですよね」
「あ、お金ない?」
「いえ、大丈夫です」
「あはは、じゃあ、行く?」
「はい!」
「どこ行こっか」
「う〜ん・・・どこでもいいですよー」
(市井さんと一緒なら、どこでも・・・)
「どこでもか・・・じゃあさ、映画でも見に行こうか。見たい映画あるんだ」
「いいですよ。行きましょう〜」
ふたり同時に立ち上がって、今度はワリカンで、お会計を済ませました。
カランカラン。
音を立ててトビラが開き、市井さんと並んだまま歩き出します。
歩いている間も市井さんはお話しを続けて、あたしはそれに笑っています。
こうやってふたりで歩いていられることが嬉しいんです。
楽しそうに話している市井さんの顔・・・とても輝いていて、眩しく感じました。
あたしにはない輝き、あたしにはない表情。
あたしが市井さんに見つける物は、あたしにはない物ばかりなんです。
(やっぱり憧れちゃうな〜・・・)
あたしの考えなんか知らないで、市井さんは楽しそうにお喋りしています。
- 435 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月21日(水)00時45分18秒
- 落ちかけた夕陽。
映画館の前。
たった今見終わった映画の、大きい看板の前を通り過ぎました。
同じ映画を見ていた人達が帰る波。
思ったよりも人が入っていたことを、この時初めて知りました。
市井さんと逸れちゃいそうなほど、大きい波でした。
「あ、梨華ちゃん、そっちじゃないよ」
「!?」
なんと、市井さんがあたしの手をひいて、誘導してくれたんです。
市井さんに触れたのは、それが初めてでした。
あ、今日泣いた時に胸を借りましたっけ。
でも、あの時は夢中だったので、憶えてないんですよぉ。
市井さんの手は暖かくて優しくて、とても嬉しい感触でした。
心臓がドキドキしていて、音が聞こえないかと心配になってしまうくらいです。
幸い周りの人がザワザワしていたから、多分聞こえてなかったと思います。
なんとか人込みを抜け出して、一息つきました。
「凄かったね。あんなに込んでるとは思わなかったよ」
あたしはドキドキしすぎて、応えられませんでした。
改めて意識して、あたしの視線は繋がれた手へ。
「ん?・・・あ、ゴ、ゴメン!」
手を繋いでいたことを忘れていたのか、市井さんは慌てて手を放します。
「あ・・・」
名残惜しさに、つい声に出してしまいました。
- 436 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月21日(水)00時45分50秒
- 「あ、あの・・・」
「ん?」
「もう少し・・・迷惑でなければ、もう少しだけ手を繋いでいてもらえますか?」
「え?」
「いえ、あの・・・人込みでちょっとドキドキしちゃって・・・落ち着くまででいいんです」
苦し紛れの言い訳でした。
「・・・うん、いいよ」
市井さんは優しい笑顔で、あたしの手を握ってくれました。
「大丈夫?」
「はい・・・」
「・・・このまま歩こっか」
「・・・はい!」
「なんかこうして手を繋いで歩いているとさ、幼い頃を思い出すよ」
「そうですね・・・」
「この間あたしの妹みたいなヤツの話ししたじゃん?」
「はい」
「アイツともさ、昔こうやって歩いてた気がするよ」
「そうなんですか・・・」
「うん・・・」
「・・・・・」
「・・・なんか食べに行こっか」
「・・・はい!」
紅い夕陽がふたりの影を、そっと繋げてくれました。
- 437 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月21日(水)00時46分44秒
- 近くのラーメン屋さんに行きました。
なんか、市井さんらしいな〜って思いました。
せっかくだから、市井さんと同じ物を注文しました。
ふたりで、何も話さないで食べました。
何か話そうとしたんですけど、何を言ったらいいかわからなかったんです。
だから、ただ黙々と食べ続けました。
「・・・美味しい?」
市井さんが沈黙を破ってくれました。
「はい、美味しいです!」
「よかった〜、連れてきたかいがあったよ」
本当に嬉しそうに、市井さんは笑っています。
なんだかあたしも嬉しくなってきちゃいました。
「今度また、一緒に来ようね」
「はい!」
市井さんがくれたその言葉で、お腹いっぱいになった気がします。
またひとつ、約束ができました。
- 438 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月22日(木)00時07分35秒
- 外は入る前よりも、少しだけ暗くなっていました。
車道を走る車も、小さくライトをつけながら走っています。
待ち合わせの喫茶店まで戻ることになりました。
もう手は繋いでないけど・・・
約束が嬉しくて、あたしは少しはしゃいでいました。
「梨華ちゃん、どうしたの?」
「え?」
「なんか嬉しそうだね」
「わかりますぅ?」
「うん。なんか楽しそうだよ」
「えへへ、あのですねぇ・・・」
あたしは今日、市井さんと一緒に過ごしました。
最初は喫茶店。いきなり泣いちゃったりしたけど・・・
いろいろお喋りできて、楽しかったです。
そして映画館。あたしはあの映画のタイトルを、ずっと忘れないでしょう。
だって、市井さんと一緒に見た映画なんだから。
でも、肝心な内容の方はというと・・・緊張であんまり憶えてないんです。
だって隣に座っていたのが、市井さんですよ?
最後にラーメン屋さん。美味しいラーメン屋さんに連れてってもらいました。
そして、また一緒に来る約束もしてくれました。
- 439 名前:(歳上の人) 投稿日:2001年03月22日(木)00時08分06秒
- 「あはは、そんなことで喜んでもらえるなんて、あたしも嬉しいよ」
「ホントに行きましょうね?」
「うん、行こうね」
ホントは市井さんと行けるなら、どこでもいいんです。
どんなに不味いお店だって市井さんと一緒なら、きっと美味しく感じちゃうかも。
市井さんの存在が、あたしにとって美味しい調味料なのかもしれませんね。
「あ、それとCDなんだけどさ、返す時に電話くれればいいよ」
「はい!じゃあ、今度はあたしから電話入れますね」
「うん」
今度はあたしから。
あたしから電話をかける勇気を持たなきゃ。
そうしないと、もう逢えなくなっちゃうから・・・
「今日は楽しかったよ、ありがと」
「いいえ、こちらこそ楽しかったです!ありがとうございました」
今日は本当に、市井さんと一緒に過ごせて楽しかったです。
多分、今日のあたしは世界中で一番幸せな日を過ごせたんだと思います。
まだ2回目だけど・・・
あたしの心は市井さんに独占されちゃいました。
「じゃあ、またね」
「はい、失礼します・・・」
(「またね」・・・か)
市井さんとあたしは、別の帰り道を歩いて行きました。
(市井さん・・・うふふ)
自然と笑みがこぼれちゃう自分に気がつきます。
あたしは市井さんに、恋をしちゃいました!
「よぉ〜し、がんばるぞぉ〜!」
- 440 名前:第12回〜 投稿日:2001年03月22日(木)00時09分26秒
- とりあえずここで一区切りさせてもらいます。
まぁ、前編ってとこですわ。
後編もすぐに始まらせたいんやけど、最近思うように出来へんくなってもうてる・・・
>>411 さん
シアワセになれるんでしょうかねぇ。結果は後編で。
>>やぐ×2 さん
ほんまに応援ありがとうございます!
ご期待に添えましたかどうか・・・(汗
>>416 さん
あれが石川の精一杯の誘い方やったんでしょうねぇ(w
ほんじゃ、また次回お逢いしましょう。
- 441 名前:やぐ×2 投稿日:2001年03月23日(金)00時56分51秒
- 後編ではもっとポジティブなチャ〜ミ〜になれるんでしょうか。
教授もいろいろと大変でしょうから、マイペースで講義続けてください。
- 442 名前:なかざー 投稿日:2001年03月25日(日)22時50分31秒
- ゴメンナ。
うまいこと出来へん。
せやから、もう少しだけ休講続くわ。
ホンマに、ゴメン。
- 443 名前:やぐ×2 投稿日:2001年03月26日(月)00時24分48秒
- のんびりと待っております。
マタ〜リといきましょう。
- 444 名前:なかざー 投稿日:2001年03月29日(木)23時24分23秒
- ホンマごめんなー。
ちょこっと再開してみるわ・・・
- 445 名前:〜第13回 投稿日:2001年03月29日(木)23時24分59秒
- 石川&紗耶香の後編です。
さ〜て、どうなることやら・・・
- 446 名前:(あはは) 投稿日:2001年03月29日(木)23時31分34秒
- お家に帰って、さっそくCDを取り出しました。
キレイに扱われてるCD。
傷ひとつありませんでした。
あたしも傷がつかないように、そっとオーディオに入れて、再生。
心地よいメロディーが流れてきました。
それは優しくて切ない恋の歌。
そして同時に市井さんが思い浮かびました。
「〜♪」
この歌を聞くたびに、あたしは市井さんのことを考えちゃいそう。
それはとても嬉しいこと。
でも、とても切ないことでもあります。
(市井さん・・・この想い、届かないんですか?)
言っちゃいたい。
その反面、やっぱり知られるのが恐いです。
(届けてはイケナイんですか?)
まだ2回しか逢ってないですけど、あたしはこんなに市井さんが好きです。
これからもっと逢っていけば、もっともっと好きになってしまいます。
その中で、あたしはこの想いを告げていいのでしょうか?
伝えてOKをもらえればいいけど・・・
断られちゃったりしたら、もうお友達には戻れないかもしれません。
(そんなのイヤ!)
それならば・・・隠し通してずっとお友達で居られる方が幸せかもしれません。
でも、お友達としてでも市井さんに逢える限り、あたしの想いは変わらないでしょう。
それどころか、もっと募っていきそうです。
そして今よりも、もっともっと苦しくなっちゃいそう・・・
(どうすればいいの?)
誰も答えてはくれませんでした。
- 447 名前:(あはは) 投稿日:2001年03月29日(木)23時32分07秒
- MDを買ってきました。
それにCDを録音しました。
これでまた、市井さんに逢えるんですけど・・・
(・・・恐い)
答えはまだ出ていませんでした。
もしかしたら、このCDを返しちゃったらもう逢えないかもしれません。
だってあたしと市井さんの関係って、このCDの貸し借りだから・・・
そうなってしまわないように、言うんだったらこのCDを返す時に言わなきゃ。
でも、言ってしまったら・・・
最悪の事態が、あたしの頭の中でグルグル回っています。
(もう少し・・・もう少しだけ借りててもいいよね)
答えが出るまで。
(・・・答えなんてあるのかな?)
それが正しいなんて答え、あるはずありませんでした。
誰にも相談できなくて、ひとり悩み続けました。
(どうすればいいの?)
わかりません。
(ねぇ、どうしたら・・・)
わかりません。
(・・・・・)
・・・・・。
- 448 名前:(あはは) 投稿日:2001年03月31日(土)00時19分33秒
- ある日、お散歩にでかけました。
考えても考えても、答えの出ない答えを探して歩きました。
幼い頃によく連れてきてもらった、あの公園まで来ました。
「どうすればいいのかなぁ・・・」
虚しく響きました。
ベンチが空いていたので、そこに座りました。
「あぁ〜あ〜・・・」
見上げた空は、青くてとてもキレイです。
白い雲が風に吹かれて流れていました。
この空の下のどこかで、市井さんは今日も笑って過ごしていることでしょう。
それなのにあたしは・・・
「なんか・・・情けないなー・・・」
午後の陽射しはとても強くて、あたしを元気づけてくれてる気がしました。
でもそれが、反対にあたしを淋しくさせます。
上を向いたまま、目を閉じました。
「・・・・・」
閉じた瞼の脇から涙が溢れ落ちました。
「・・・・・」
あたしはそれを拭うこともしないで、ただ、目を閉じていました。
風がそっと涙を乾かして、あたしを慰めてくれました。
「・・・市井さん」
逢いたい。
(せめて、もう一度だけでも・・・)
逢う気になればすぐにだって逢えるんですけど・・・
臆病なあたしは、そのことさえも忘れていました。
どうしたらいいのかわからずに、しばらくそのまま泣き続けました。
- 449 名前:(あはは) 投稿日:2001年03月31日(土)00時20分12秒
- 少しだけ泣いて、少しだけスッキリしました。
答えは相変わらず出てないんですけど・・・
ケータイのボタンを押して、市井さんの名前を表示しました。
ピッ。
耳元でコール音が鳴り響いてます。
1回・・・2回・・・3回・・・4回・・・ガチャ。
「もしもし、梨華ですけど・・・」
「ただ今、電話に出ることができません・・・」
「え?あ・・・」
喋り始めたのは、市井さんではなくて市井さんのケータイでした。
あたしはすぐに切ボタンを押して、ケータイをしまいました。
(市井さん、忙しいのかなぁ・・・)
あたしの都合だけじゃないですもんね。
勢いだったにしても、せっかくかけれたのにと、ガッカリしました。
(あぁ〜あ〜・・・どうしよっかな〜)
よく晴れた日の午後。
(しょうがない、もう少し、歩いて回ろっか・・・)
もう少しだけお家の外に居たい気分でした。
あたしはゆっくりと、前を向いて歩き出しました。
- 450 名前:(あはは) 投稿日:2001年03月31日(土)00時20分54秒
- 市井さんとふたりきりで見た、映画館。
市井さんと一緒に食べた、ラーメン屋さん。
通り過ぎる風景に点々と、市井さんとの想い出が詰まっています。
市井さんと初めて逢った、CD屋さん。
そして、市井さんと沢山お話しをした喫茶店。
(・・・少しだけ寄っていこうかな)
そう思ったあたしは、喫茶店のドアに手をかけました。
カランカラン。
「いらっしゃいませー」
(え?)
驚いたのは、とても聞きたかった声だったから。
「あ、梨華ちゃん」
「い、市井さん・・・」
「あはは、驚いた?あたしさ、ここでバイト始めたんだ」
「ば、バイトですか?」
「うん。まだ始めたばっかりだけどね。まぁ、とりあえず空いてる席に座ってよ」
「はい・・・」
逢いたいと思ってた人に逢えました。
嬉しいはずなんですけど・・・
(どうしよう・・・)
あたしは戸惑ってしまいました。
- 451 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月31日(土)02時54分47秒
- ここの、いちいしは最高に良い感じです。
- 452 名前:(あはは) 投稿日:2001年03月31日(土)23時43分45秒
- (えっと・・・空いてる席・・・)
お店のほとんどの席が空いてます。
あたしの他に、お客さんが2組だけ。
市井さんと話す時にいつも座る、あの窓際の席に座りました。
テーブルの上に置いてあるメニューを手に取りました。
でも、あたしの目線は自然と市井さんを探してしまいます。
(バイトかぁ・・・)
あ、だからさっき電話に出れなかったんですね。
市井さんに少し申し訳ないなぁと思いました。
市井さんの他にも、このお店に店員さんは2人いました。
どの人もあたしより3つから4つくらいしか違わないような、若い人。
あたしの目線は市井さんを探し当てて、しばらく留まっています。
「・・・ん?」
あたしの目線に気がついたのか、市井さんはあたしの方へと歩いてきました。
(ど、どうしよう・・・何を話したらいいの?)
まだ答えは出ていませんでしたから、どういう方向へ話しをしていいのかもわかりませんでした。
あたしの想いなどは知らずに、市井さんはあたしのすぐ隣にまで来てしまいました。
「えーっと、あのー・・・」
「ご注文はお決まりですか?」
優しい笑顔で、市井さんはあたしの顔を伺っています。
そっか、市井さんはお仕事中なんでした。
「え?あ・・・はい、アイスティー」
- 453 名前:(あはは) 投稿日:2001年03月31日(土)23時44分26秒
- 「お待たせしました」
市井さんがアイスティーを持ってきてくれました。
そして、そのままあたしの向かい側の席に座ります。
「あ・・・」
「ん?」
「お仕事の方は大丈夫なんですか?」
「うん。今はお客さんがそんなにいないからね。大丈夫だよ」
「そうですか・・・あの、ゴメンナサイ」
「え?」
「ここでバイトしてるって全然知らなかったから・・・お邪魔になっちゃうかなーって」
「あぁ、気にしないでいいよ。そりゃお客さんが来たら仕事に戻るけどね。
ここ、そんなに人来ないし」
「そうなんですか?」
「うん。特に今の時間帯なんかはそうかな。
だから、梨華ちゃんとこうやって話ししてる方が暇を感じなくていいかもね、あはは」
「・・・・・」
本当にいいんですか?
あたしが市井さんの側にいてもお邪魔じゃないんですか?
「聞いた?」
「え?」
「ほら、この間貸したCD」
「あ、はい。もうMDにも録音しちゃいました」
- 454 名前:(あはは) 投稿日:2001年03月31日(土)23時45分18秒
- 「あぁ、それで電話くれたんだ。ゴメンネー、見ての通り、バイト中だったんだ」
「あ、いえ、大丈夫です。
それより、ここで逢えるなんて思ってなかったから・・・CD持ってきてないんです」
「あ、別にいいよ。今度またお茶でも飲みながらさ、ゆっくりお話しでもしようよ」
「はい!」
市井さんに誘われると、つい返事してしまいます。
まだあの答えも出てないのに・・・
カランカラン。
「あ、ちょっとゴメンね」
「はい」
「いらっしゃいませ〜」
お客さんが入ってきて、市井さんはそっちの方へ行ってしまいました。
あたしは肩の力が抜けた気がしました。
やっぱり市井さんと向かい合って話すのって、まだ緊張します。
(いつになったら慣れるんだろ)
あたしが市井さんを好きでいる限り、ずっと慣れることはないのかもしれません。
市井さんはあんなに気軽にお話ししてくれるのに・・・
(なんでもっと上手にお話しできないんだろ・・・)
あたしは少し悔しくなりました。
目線の先では、市井さんがお客さんにコーヒーを運んでいます。
- 455 名前:(あはは) 投稿日:2001年03月31日(土)23時46分23秒
- 「ん?あ、もう帰るの?」
目の前のアイスティーも飲み終わっちゃって、あたしは席を立ちました。
「はい」
「ゆっくりしてけばいいのに」
「あ・・・えーっと、これからちょっと用事が入っちゃってるんです。ゴメンナサイ」
(ウソツキ・・・)
用事なんてありません。
ただ、これ以上市井さんの側にいると、苦しくなっちゃいそうだったから。
「そうなんだ。気をつけてね」
「はい、市井さんもお仕事がんばってください」
「うん、サンキュ」
別れ際の市井さんは、いつも優しい笑顔であたしを見送ってくれます。
あたしはその笑顔を、とても愛おしく思いました。
「それでは、失礼します・・・」
「うん、バイバイ」
カランカラン。
ドアに手を掛けて、手前にそっと引きました。
一段下がった歩道へ降りて、歩き出しました。
背中に感じた市井さんの視線に振り返らないように、真っすぐ前を向いて。
少しだけ長くなった陽が、いつもより遅めに落ちかけていました。
季節は移ろい始めているのに・・・
変われないあたしが悔しくて、また泣いてしまいそうでした。
- 456 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月01日(日)03時20分51秒
- いちいしいいっす♪
- 457 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月01日(日)23時45分30秒
- お家でひとり、市井さんのことを考えるあたしがいます。
渡せなかったCDは、再びオーディオの中。
言い出せなかった言葉は、あたしの心の引き出しの奥底へ。
(このまま友達として、市井さんを見られるのかな・・・)
とても自信がありません。
(ガマン・・・できる?)
・・・できないと思います。
(どうするの?)
どうしよう・・・
答えはふたつ。
この想いを告げるか・・・
友達のままでいるか。
1/2。
正解なんてないから、あたししか選べない。
答えを出せないなら、引き出しから取り出すことはないと思います。
それはとても苦しいこと。
でも、言い出す勇気もないあたしには、仕方ないと思って諦めるしかありません。
(市井さん・・・)
心の奥底の引き出しにあるあの言葉が、あたしの胸をとても強くノックしました。
痛くて苦しくて・・・
締めつけられる胸の痛みに、あたしはまた泣き出してしまいました。
- 458 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月01日(日)23時47分24秒
- 恐いのは、ダメだった時。
市井さんは優しいから、お友達のままでいてくれると思うけど・・・
あたしの方がダメなんです。
変に意識しちゃったりするから、それまでと同じようには話せなくなりそうで。
あたしからは誘えなくなっちゃうし、逢う回数も段々減ってきちゃって・・・
そのまま知らない人に変わってしまうかも。
それを考えると、初めの一歩が踏み出せなくなってしまいます。
「なんとかなる・・・のかなぁ・・・」
楽天的な考えがどうしてもできません。
それができたらならば、どれだけ楽になれるんでしょうか・・・
いつまでたってもネガティブなあたし。
いつまでたっても前に進むことができません。
誰かにそっと、背中を押してもらえれば・・・
でも、あたしのそばには誰もいません。
結局あたしひとりで進むしかないんです。
相手が市井さんじゃなかったら、市井さんに相談できるのに・・・
(あ〜ぁ〜、なんで市井さんを好きになっちゃったんだろ・・・)
あたしは市井さんに声をかけた理由なんて忘れちゃって、そんなことまで考え出しました。
ヒトメボレ。
それが市井さんに声をかけた理由なんです。
そして、今まででイチバン勇気を出せた理由でした。
- 459 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月01日(日)23時52分38秒
- 「・・・梨華ちゃん?」
「・・・ん?あ、ゴメン、考え事してたの」
「大丈夫?」
「うん・・・」
幼なじみで、昔からのお友達で、大好きなひとみちゃん。
今日は久しぶりに、ひとみちゃんのお家へ遊びに来ました。
「悩みがあるんだったら相談してよ?解決はしてあげられないかもしれないけど・・・
一緒に悩むことならできるからさ」
「うん、ありがと・・・」
でもこんな悩みをひとみちゃんに相談していいのかなぁ・・・
(う〜ん・・・)
その時のあたしは苦しくて、誰かに助けて欲しかったんです。
少しだけでもいいから、他の人の意見を聞きたかったんです。
「ねぇひとみちゃん・・・」
「ん?」
「もしも・・・もしもだよ?好きな人ができたら、ひとみちゃんどうする?」
「う〜ん・・・告白しちゃう・・・かなぁ。伝えなきゃ始まらないしね」
「そっかー。じゃあ、その相手の人が知りあってまだひと月も経ってなかったら?」
「う〜ん、その人のことは、どのくらい知ってるの?」
「え?・・・あ、もしもの話しだよぉ」
「あぁ、そっか、ゴメンゴメン。じゃあ、どのくらい知ってるとして?」
(ひとみちゃん、優しいなー)
- 460 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月01日(日)23時53分16秒
- 「う、う〜ん・・・その人の性格とかはだいたいわかってるんだけど・・・
逢ってる時以外はなにしてるか全然知らないとして・・・」
「そうだねぇ・・・」
真剣に考えてくれてるひとみちゃん。
一緒に悩んでくれてます。
そういえば、ひとみちゃんは昔からそうでした。
他人事でも一緒に悩んでくれたりして・・・
「それでも気持ちを伝えちゃうかな」
「でもダメだった時とか全然知らない人になっちゃいそうで、恐くない?」
「恐いかもね。でもさ、あたしはやっぱり気持ちを伝えなかったら後悔しちゃうと思うんだ」
(後悔・・・かぁ)
「結果が出てないで後悔するよりも、出た結果に後悔する方が、あたしはいいと思う」
「そっかー・・・」
うん、確かにその通りだと思う。
出てない結果をあとから出そうとしても、その時には遅すぎたなんてなったら・・・
それだったら結果を出して、ダメだったら後悔した方がいいのかもしれません。
もしかしたら成功することだってあるかもしれないですし・・・
「どう?力になれた?」
「うん!」
「ガンバッテね」
「うん・・・ありがと」
(ひとみちゃんに応援されちゃった・・・)
少し複雑な気持ちでした。
- 461 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月03日(火)00時01分27秒
- 背中を押してくれたのは、結局ひとみちゃんでした。
あたしはそれに応えるためにも、勇気を出さなければいけません。
決断の時。
あたしの答えはもう決まっていました。
あとはその通りに行動するだけ。
(・・・よし!)
市井さんのメモリを表示して、ありったけの勇気を振り絞って通話ボタンを押しました。
コール音が耳元に響きます。
1・・・2・・・3・・・4・・・カチャ。
「はい」
「もしもし、梨華ですけど・・・今大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。あたしも今、梨華ちゃんに電話しようかなーって思ってたとこ」
「そ、そうなんですか?」
「うん。明日のお昼前とか空いてる?お昼ご飯一緒に食べようよ」
「はい!」
「じゃあ明日のお昼前に、あのCD屋さんで」
「CD屋さんですか?」
「うん。あ、ほら、喫茶店はあたし働いてるじゃん?なんか普段は行きづらくてさ」
「そうなんですか?では明日のお昼前に、CD屋さんで」
「うん。じゃあ、また明日」
「はい、失礼します」
ピッ。
- 462 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月03日(火)00時01分57秒
- 決戦の時は、明日のお昼前。
市井さんに返すCDとありったけの勇気を持って行かなきゃ。
悩むだけ悩みました。
涙だって、もう枯れてしまうほど出しました。
もう迷いはありません。
あとはこの気持ちを、上手に伝えるだけ。
(う〜ん、なんて言えばいいんだろ・・・)
好きです。
(それだけ?)
簡単過ぎるかなぁ・・・
"好き"じゃくくれないくらい、あたしの気持ちは大きいはず。
でも、それ以外に言葉が見当たりません。
きっと"好き"よりももっと大きい"好き"なのかな。
「好きです」
言葉にしちゃうと、少し照れてしまいます。
「市井さんのこと、好きです」
ふいに涙が頬を伝って落ちました。
あれだけ泣いたのに・・・
(まだ残ってたんだ・・・)
胸がキュッと締めつけられました。
市井さんの前では、もう泣けません。
また泣いてしまったら嫌われちゃうかもしれないから。
あたしはガマンしないで、泣き続けました。
明日、涙が出てしまわないように・・・
- 463 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月03日(火)00時02分37秒
- お昼前。
市井さんと初めて出逢えたCD屋さん。
あのアーティストのCDが置いてあるラックの前。
あたしがその場所に向かうと、市井さんもその場所に居ました。
「・・・おはよう」
「おはようございます」
「じゃ、行こうか」
「はい・・・」
なんだか少し元気がないみたいだけど・・・
市井さんが先を歩いて行ったので、あたしはそれに着いていきました。
(どこに行くんだろ・・・)
一言も話さずに市井さんは歩いていました。
あたしも何も言えずに、ただ着いて行くだけでした。
(今日の市井さん・・・なんか変だよぉ)
あたしは思いきって、聞いてみることにしました。
「あ、あのぉ・・・」
「着いたよ」
「え?」
そう言って立ち止まったのは、あのラーメン屋さんの前でした。
- 464 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月03日(火)00時03分19秒
- 「約束したじゃん?また来ようねって」
そう言った市井さんは、いつもの市井さんに戻っていました。
「よかったよ、約束守れて」
「・・・?」
市井さんの表情は、確かにいつもと変わらない笑顔でした。
でも、言葉が少しだけ暗く感じたのは気のせいなのかなぁ・・・
そして、こんなに急いで約束を守ろうとしてるのは・・・
「・・・どうしたの?」
「・・・あ、いえ、なんでもないです」
その場にいるのを忘れて、あたしは少し考え込んでしまっていました。
(う〜ん・・・気のせいかな)
そう思い直して、市井さんのあとに続いてノレンをくぐりました。
店内はあの時と変わらない、食欲を擽るような匂いでいっぱいでした。
あたしも市井さんも、あの時と同じ物を注文しました。
そう、思い出の味。
「梨華ちゃん、食べながらでいいから聞いてくれる?」
そう言った市井さんの顔は、この場にあわない真剣な顔でした。
「・・・なんですか?」
あたしは少し躊躇しながらも、なんとか聞く態勢を作りました。
「あたしね、歌手になるのが夢なんだ」
「・・・はぁ」
なぜ今、そんな真面目な顔して夢の話しをするのか。
あたしは理解に苦しみました。
- 465 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月03日(火)00時03分50秒
- 「自分で歌を作ってさ、自分でそれを歌って、いろんな人に聴いてもらいたいんだ」
「そうなんですか・・・」
「そのためにもさ・・・音楽を勉強するために、留学、することにしたんだ」
「・・・留学・・・ですか?」
「うん」
あたしの視線は、市井さんの目を見つめていました。
市井さんもあたしの目を見ているみたいだけど・・・
それよりもずっと遠い所を見ているようでした。
「いつですか?」
「今年の夏休みから・・・」
「そ、それってもうすぐじゃないですか!?」
思わず大声で叫びながら、立ち上がってしまいました。
周りのお客さんの視線が痛く感じます。
そんなことよりも、市井さんがもうすぐあたしの前からいなくなってしまう・・・
「うん。だから、梨華ちゃんにお別れを・・・」
「やめてください!」
「り、梨華ちゃん・・・」
「お別れなんて、あたしそんなの絶対イヤです!」
もう周りのことなんて気にしてません。
もうすぐ市井さんと逢えなくなってしまう・・・
(そんなの、絶対にイヤ!)
- 466 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月03日(火)01時20分29秒
- 私もイヤです!!
- 467 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月03日(火)03時05分08秒
- 僕もイヤです!!
- 468 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月03日(火)08時11分02秒
- 俺もイヤ!!!!(ダダッコ
- 469 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月03日(火)10時30分10秒
- オイラもイヤだーーーーッ!!!(ジタバタ
- 470 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月03日(火)23時11分19秒
- 「梨華ちゃん・・・出ようか」
「・・・はい」
お勘定を済ませて、お店の外に出ました。
「少し・・・歩こっか」
「・・・・・」
あたしの返事を待たずに、市井さんは先を歩いていきました。
あたしはそれに、ただ着いて行くだけ。
その間、一言の会話もありませんでした。
あたしはどうすれば市井さんがそばに居てくれるようになるのか、
その方法だけを考えていました。
少し歩いて、市井さんが立ち止まったのは、あの公園の前。
「・・・ベンチ、座ろっか」
「はい・・・」
同時に座りました。
そして、しばらくの沈黙。
お互いにどう話していいのかわかりませんでした。
(どうすれば・・・)
言葉が浮かんでは、消えていきました。
「あのさ・・・」
先に沈黙を破ったのは、市井さんでした。
「なんか不思議だよね。
逢うのはまだ4回目なのに、ずいぶん前から友達だったみたいでさ」
「・・・そうですね」
- 471 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月03日(火)23時11分48秒
- 「あの時梨華ちゃんが話しかけてくれなかったら、こんな風にはならなかったんだよね」
「・・・・・」
「あたし、梨華ちゃんと逢えてよかったよ。ありがと」
「いえ・・・そんな・・・」
いろいろなことを思い出しました。
あたしが見ていたCDを偶然手にとった市井さん。
あたしはそのCDよりも市井さんの存在の方が気になってました。
そして、思わず出てしまった声。
それに気づいてくれた市井さん。
今まででイチバン勇気を出せたあたし。
市井さんはそれに、優しく応えてくれました。
いろいろな偶然が重なって、こうしてあたしは市井さんと出逢えました。
「あたしも、市井さんとお友達になれて、ホントによかったです」
「・・・ありがと」
急な展開で仲良くなれたふたり。
相手が市井さんじゃなかったら、きっとこうはいきませんでした。
相手が市井さんだったから、きっとうまくいけたんだと思います。
(相手が市井さんだったから・・・)
「ホントに嬉しかったよ」
「・・・・・」
「だからさ、梨華ちゃんにはどうしても、ちゃんと伝えておきたかったんだ」
「え?」
「何も言わないで消えちゃうんじゃなくて、ちゃんと話しておきたかった」
「・・・・・」
「あたしの夢も、気持ちも・・・」
- 472 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月03日(火)23時12分27秒
- 止められませんでした。
だって、あたしには市井さんの夢を止める資格なんてありません。
「あの・・・さっきはゴメンナサイ。急だったからあたし・・・」
「あぁ、うん、いいよ。気にしないで」
「あたし・・・市井さんを応援します。市井さんが作った歌も聴きたいです」
「うん・・・ありがと」
「・・・がんばってくださいね」
「うん」
「あ、それとこのCD・・・」
あたしはバッグに入ったCDを取り出しました。
「これ・・・梨華ちゃんにあげるよ」
「え?」
「あたしと梨華ちゃんが出逢ったきっかけだもんね、このCD。
あたしはもうMDに録っちゃってあるから、梨華ちゃんが持っていていいよ」
「・・・じゃあ、これはまだ借りておきます」
「え?」
「市井さんが帰ってきたら連絡ください。あたしこれ、返しに行きますから」
「・・・うん」
頷いた市井さんの笑顔。
眩しくて、なんだか目にしみてきちゃいました。
「・・・・・」
あたしは出てくる涙を、抑えることができません。
- 473 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月04日(水)04時38分26秒
- いちりかもいいもんですなぁ
- 474 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月05日(木)00時48分50秒
- 「ホントに・・・がんばってください」
「梨華ちゃん・・・ありがと」
「市井さん・・・」
市井さんはあたしの頭を抱いてくれました。
2回目に逢った、喫茶店。
あたしったら急に泣き出しちゃったりして・・・
市井さんはあの時もこんな風に抱いてくれました。
優しくて暖かい。
できればずっとこうしていたいって気分にさせてくれます。
泣いちゃったついでに・・・
「あたし、市井さんのこと好きでした・・・」
「え?」
「初めて逢った時から、ずっと好きでした・・・」
「梨華ちゃん・・・」
「大好きでした・・・」
想いを告げる時、きっとあたしは泣き出してしまいます。
だからこのままお別れの涙に紛れさせました。
「あたし、ずっとずっと応援します・・・市井さんが大好きだから・・・」
「・・・ありがと」
後から溢れ出る涙で、市井さんの胸は大きく湿ってしまいました。
でもそれは、あたしが市井さんに残した愛のしるし。
すぐに消えてしまうかもしれないけど・・・
市井さんの心にはきっと残っていてくれると思います。
- 475 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月05日(木)00時49分31秒
- 思い出の数は少ないけど、とても大きい。
両手じゃ抱えきれないくらい大きい。
市井さんの優しさ。
あたしの弱さ。
泣いてばかりじゃ、次に逢った時に嫌われてしまいそう。
(強くならなきゃ・・・)
強くならなきゃ。
せめて好きな人の前じゃ泣かないくらいに・・・
(・・・あはは)
伝えたかった気持ちを伝えられました。
その答えは、市井さんが帰ってくるまで保留。
今の時点じゃ答えを貰えないことが、かえってあたしの気持ちを楽にしました。
(あはは・・・)
あたしは市井さんの胸で泣きながらも、心の中では笑うことができました。
なんとなく清々しくて、気持ち良くさえ感じられました。
この気持ちも、市井さんに伝えたい。
そして、気持ち良く市井さんとお別れしたいです。
次にお逢いする時も、気持ち良くお逢いできるように・・・
パッと市井さんの腕から頭をはずし、市井さんの顔を見つめました。
「梨華・・・ちゃん?」
突然のあたしの行動に、市井さんは少しビックリしていたみたいです。
この目にちゃんと、市井さんの顔を焼き付けておかなきゃ・・・
- 476 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月05日(木)00時50分07秒
- 「市井さん」
「は、はい」
「あたし、市井さんと出逢えて、ホントによかったです」
「うん・・・」
「市井さんのことを考えると、胸が苦しくて・・・
なんで好きになっちゃったのかな〜とか思った時もあったんですけど・・・」
「・・・・・」
「でも、市井さんを好きになれて、ホントによかった。
ホントに・・・がんばってくださいね。そして、絶対帰ってきてください」
「うん、がんばる。絶対帰ってくるよ。約束する」
また涙が出てきそうになるのをグッとガマンして、あたしは市井さんの目を見続けました。
その目はあたしなんかじゃなくて、もっと先を見つめている・・・
いつも感じていた遠い目は、ずっと将来に向かっていたんだ・・・
今はっきりとわかりました。
「あの・・・」
「ん?」
「握手・・・してもらっていいですか?」
「うん!」
あたしは右手をそっと出して、市井さんがそれを力強く握る。
それは恋人じゃなくて、友情を誓う握手みたいだったけど・・・
その優しさ、暖かさは変わらないと思います。
- 477 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月05日(木)03時13分02秒
- ちゃむってばまた約束しちゃって・・・(泣
市井らしくて良かったです。
- 478 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月05日(木)04時36分36秒
- いや〜、すばらしいですな。
いちいしの組み合わせが、こんなにはまるとは思いませんでした。
最後はとても清々しい感じがしました。
- 479 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月05日(木)23時00分55秒
- 「CD、大切にします」
「うん」
「今までホントに、ありがとうございました」
「うん、こちらこそ」
お互いに最後の言葉を、飲み込んだままでした。
あたしは市井さんのため、そしてあたし自身が前に進むために、
あたしからその言葉を切り出す勇気を出しました。
「・・・サヨナラ」
「うん、さよなら・・・」
永遠じゃないけど、次がわからないお別れの言葉。
お互い別の道を歩き始めました。
もしかしたら、二度と逢えないのかもしれないお別れ。
うぅん、そんなことない。
市井さんは絶対帰ってきてくれるって、約束してくれたんだ。
あたしはそれを信じることにします。
だから、淋しくないなんて言ったら嘘になるけど・・・
市井さんが帰ってくるまでには、もっともっと強くならなきゃって思ったんです。
そのために、あたしもがんばらなきゃ。
市井さんが約束を守るためにがんばっているのと、同じように。
あれから一年・・・
あたしは少しでも強くなれたのでしょうか。
- 480 名前:(あはは) 投稿日:2001年04月05日(木)23時01分25秒
- 「お母さ〜ん、ちょっとお散歩してくるね〜」
意気揚々とドアを開け、お散歩への一歩目を歩みだしました。
外はとてもいいお天気で、気持ちがよくて、思わずお散歩でもしたくなっちゃう。
まず向かったのは、公園。
緑が生い茂っていて、太陽もおもいっきりあたしを照らしてくれます。
公園までの道はとても短くて、簡単に着いてしまいます。
(・・・♪)
ベンチが空いていました。
「う〜ん・・・っと」
太陽に向かって、大きく伸びをしました。
そう言えば・・・あれからもう、一年も経つんですね。
大好きなひとみちゃんにも恋人ができちゃって・・・
あの時、あたしはひとみちゃんに涙を見せないように、がんばれました。
あたしは少しだけ、あの頃よりも強くなれたのかもしれません。
「市井さん・・・がんばってるかな〜」
今は市井さんのことを考えると、笑みがこぼれてきます。
あの時のことは、誰にも話していません。
あたしと市井さんの、ふたりだけの秘密。
市井さんのことを思い出したついでに、あの喫茶店に行ってみることにしました。
市井さんと沢山お話しした喫茶店で、市井さんが働いていた喫茶店。
一段上がったお店のトビラに手をかけました。
カランカラン。
「いらっしゃいませー」
「え?」
驚いたのは、とても愛おしい声だったから。
「ん?あ、梨華ちゃん!」
「え?・・・あ、ひとみちゃん!!」
- 481 名前:第13回〜 投稿日:2001年04月05日(木)23時02分13秒
- ここまでで石川&紗耶香のお話しは終わりです。
紗耶香は結局夢を追って行くんやなぁ。
石川も強く、ポジティブになろうとしてる。
ん〜、えぇことや。
>>451 さん
>>456 さん
>>473 さん
どうもです!ありがとうございます!
>>466-469 さん
アカン!ガマンして待ってるんやで!
>>477 さん
その約束が動力源のひとつとなって、彼女はがんばってくれると思います。
ども!
>>478 さん
スンマセン、もうちょっとだけありました(汗
過去にリクエストがあって、いざやってみると相反する性格なだけに、
意外とやりやすかったです。
さて、次回は・・・いつも通り未定です。
っちゅうか、少しばかりお休みを戴きたいと思います。
ほんじゃ、また次回お逢いしましょう。
- 482 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月07日(土)15時07分02秒
- とてもさわやかな、物語でした。
読んでて嬉しくなってしまうような。
りかさや、いいかもしんない。
おやすみですか。再開を楽しみに待ってます。
- 483 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月14日(土)00時01分05秒
- いちいし、爽やかなのが似合うですね。
講義の再開、待ってます
- 484 名前:講師なかざー 投稿日:2001年04月18日(水)23時38分35秒
- >>482 さん
どうも、ありがとうございます!
紗耶香関係の話しはどうしても別れになってまうから、せめて別れ際をせめてキレイに
させたろうかなぁ、と(w
>>483 さん
どうも、ありがとうございます!
ボチボチで再開したいと思います。
せやけど、毎日更新は出来ません。ゴメンな。
- 485 名前:〜第14回 投稿日:2001年04月18日(水)23時40分23秒
- どうもー、講師中澤です!
さて、今回の主役は圭織となっち。
同年代で故郷の同じふたりのお話しです。
では、はりきってどうぞー
- 486 名前:(雨) 投稿日:2001年04月18日(水)23時40分53秒
- 雨・・・
降りやまない雨。
どこかに忘れてきてしまった傘・・・
(まいったなぁ〜・・・)
ここんとこ降り続いてる雨。
タクシーを拾うお金もなくて、濡れて帰るカオ。
家まではそう遠くないけど、やっぱり濡れるのはイヤだ。
お仕事が終わって、電車で帰ってきて、駅の出口で傘を持ってないって気がついた。
ビニール傘を買うのも勿体ないくらいの距離だったから、雨の中を走り出したんだけど・・・
いつもは近く感じる距離なのに、今日は異様に遠く感じるよ。
(あ〜・・・ビショビショだよ・・・)
「圭織?」
「え・・・?」
名前を呼ばれた気がして、声がしたと思う方を振り向いてみた。
「あー、やっぱり圭織だぁ〜!」
「・・・な、なっち?」
そこに居たのは、その身体には少し大きいと思えるくらいの傘をさした、なっちだった。
立ち止まって雨に濡れるカオを、自分のその大きい傘に入れてくれた。
「久しぶり!」
「う、うん・・・」
「こんなとこで圭織と逢えるなんて、なっち思ってもなかったよ」
カオも珍しくお仕事が早く終わったのに、まさかなっちに逢うなんて思わなかったよ。
「うん・・・」
「どうしてた〜?元気してるの?」
「うん・・・なっちは?」
「なっちも元気だよ」
すっごく久しぶりの再開。
そして、あまり嬉しくない再開。
- 487 名前:(雨) 投稿日:2001年04月18日(水)23時41分26秒
- 「圭織この辺に住んでるの?」
「うん、もうちょっと行ったとこ」
「へぇー偶然だねぇ、なっちも最近この辺に引っ越してきたんだよ」
「ふぅ〜ん・・・」
カオの方が身長が大きいから、傘を持ったなっちの手が辛そうに上がっているのに気づいた。
「・・・持つよ」
「え?あ、うん、ありがと」
なっちの手から、カオに手渡された。
「あ、なっち今バイトしてるんだけどさ、近くだからちょっと寄ってかない?」
「え?そんな、悪いよ」
「大丈夫だって、一緒に働いてる人も、いい人ばっかりだから」
「いや、そういう問題じゃなくてさ・・・」
「行こ」
「あ、な、なっち・・・」
カオが止めるのも聞かずに、なっちは勝手に歩き出した。
なっちの傘はカオが持っているから、ついて行かないワケにはいかなかった。
(・・・ふぅ)
ビショ濡れの服がなっちを濡らさないように気をつけながら歩いた。
それでも傘をさしててそんなに広くもないから、限界があるけどね。
しばらくぶりの再開ってことと照れ臭いのが邪魔して、何を話していいかわからなかった。
なっちも同じらしくて、話題を探しているみたいに見えた。
カオはしばらく、なっちが話しかけてくれるのを待っていた。
傘に当たる雨の音が、ふたりの沈黙を煽っているようにも感じる・・・
- 488 名前:(雨) 投稿日:2001年04月18日(水)23時41分58秒
- しばらく無言のまま、歩き続けた。
見慣れた風景が目の横を通り抜けて、カオの家に向かう道を通り過ぎた。
(やっぱり・・・行かなきゃマズイよなぁ・・・)
何も言わないで、黙って歩き続けた。
さっきよりも雨が強くなった気がした。
「ここだよ」
そう言ってなっちが立ち止まったのは、紗耶香がバイトしてた喫茶店の前だった。
「え?こ、ここ?」
「うん」
よりによって、こんなとこで働いているとは・・・
紗耶香がバイトしていたのと同時に、圭ちゃんも働いているんだよね。
「はい」
「え?」
なっちが手を差し出していて、カオはその意味がわからなかった。
「傘」
「あ・・・う、うん」
傘を手渡して、なっちはそれを器用にクルクル丸めて、傘立てにストンと挿した。
「さ、入って」
「うん・・・」
(圭ちゃんがいませんように・・・)
なぜかカオはそう祈っていた。
カランカラン。
なっちが一段上がったドアを開けた。
「ただいま〜」
「おかえり〜」
・・・圭ちゃんの声だ。
「あれぇ?圭織じゃん!どうしたのぉ?」
「・・・よっ」
カオは圭ちゃんに、少し苦笑いで挨拶をした。
「あれぇ?圭織と圭ちゃんって知り合いだったの?」
「え?なっちと圭織って知り合いだったの?」
ふたりで顔を合わせて驚いてる。
カオからしたら、なっちと圭ちゃんが同じところで働いているってのが不思議なんだけどさ。
- 489 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月22日(日)19時36分22秒
- センセ、おかえり。マターリ講義待ってますよ。
- 490 名前:(雨) 投稿日:2001年04月25日(水)23時27分01秒
- 「あはは、なんか不思議だねぇ」
「まぁまぁ、立ち話もなんだからさ。空いてる席に座ってよ、圭織」
「う、うん・・・」
圭ちゃんに言われて店内を見回したけど・・・空いてる席だらけじゃん。
とりあえず一番近い席に座った。
「何か飲む?」
エプロンをつけたなっちが、カオの席にオーダーをとりに来た。
「えーっと・・・じゃあ、ホットコーヒー」
「うん。ちょっと待っててね、すぐ持ってくるから」
「うん」
なっちは奥の方へと歩いて行った。
入れ替わりに圭ちゃんが、カオに対面する形で座る。
「圭織となっちって、どういう知り合いなの?」
「カオが北海道にいた頃の、友達なんだ」
「へぇ〜、そう言えば圭織はこっちに来る前は北海道だったんだっけ」
「うん」
「ホント、偶然だよね。東京はこんなに広いのにさ〜」
「うん・・・」
「お待ちどうさまー」
奥の方からなっちが、銀色の丸いおぼんに白いカップを乗せて、歩いてくる。
白いカップをカオの前にコトッと置くと、カオの隣に腰を下ろした。
「なんの話ししてるの?」
「東京は広いのに圭織となっちが偶然逢えたのは、奇跡だよね〜って話し」
「ちょ、ちょっと圭ちゃん・・・」
「そうだよね、ホントに奇跡だったら、なっち嬉しいな〜」
・・・奇跡ってのは言い過ぎだと思うよ、カオは。
- 491 名前:(雨) 投稿日:2001年04月25日(水)23時27分33秒
- 腐れ縁?
うん、きっとそんな感じ。
生まれた病院が一緒で、生まれれた日もたった二日違い。
それを知ったその日から、なっちはカオにベタベタだったよ。
学校行くのも、授業で移動する時も、トイレに行く時も、給食食べる時も・・・
帰る時だって、もちろん一緒だった。
おかげで他に親しい友達もできなくて、いつも隣はなっちばっかりだったんだ。
「懐かしいねぇ・・・」
「う、うん・・・」
嫌いってワケじゃないんだけど・・・なんかね。
ツライんだ、ちょっと。
「そうだ!」
圭ちゃんが何か思い付いたみたい。
「なっちさぁ、もうあがっちゃっていいよ」
「え?」
「ほら、せっかく逢えたんだからさ、ふたりでどっか行って遊んで来なよ」
(コラコラ、何を言い出すんだこの人は・・・)
第一、仕事をそんな簡単に抜け出すなんてなっち自身が・・・
「い、いいの?」
(おいおい・・・)
「いいっていいって、裕ちゃんにはあたしから言っておくよ」
「じゃあ・・・うん、圭ちゃんありがとう」
(・・・ってカオの意志は?)
「圭織、ちょっと待っててね。なっちすぐ着替えてくるから」
「う、うん・・・」
・・・はぁ。
- 492 名前:(雨) 投稿日:2001年04月25日(水)23時28分06秒
- まだ雨は降り続いている。
見てる分にはいいんだけど、外を歩かなきゃイケナイ日なんかにはイヤだ。
傘をさしててもカオは背が高いから、足下が濡れちゃったりするしね・・・
「お待たせー。行こうか」
「う、うん・・・ホントに大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。言ったっしょ?ここで働いてる人達はみんないい人だって」
(確かにいい人過ぎて、カオにはちょっと迷惑だよ・・・)
思ったことを口に出来ないのは、今も昔も一緒だった。
「じゃあちょっとコーヒー代払ってくるよ」
「いいよ、誘ったのはなっちなんだから。ここはなっちがおごるよ」
「そんな、悪いよ・・・」
「大丈夫だよ」
その一言を置いて、なっちはさっさとドアの方へ向かっていった。
「・・・う〜ん」
押し付けられるお節介。
逆に気を使っちゃうから、カオはあんまり好きじゃないんだ。
なっちの性格から、自然にそういうことしちゃうんだろけど、カオはそれが苦手。
でもなっちにはそんなこと言えないから、その関係は昔から変わってない。
傘をさして、なっちがカオに手招きした。
「・・・・・」
黙って頷いきそれに従って、なっちの傘に入り、さっきみたいにカオが傘を持った。
これも気を使った証拠だ。
- 493 名前:(雨) 投稿日:2001年04月25日(水)23時28分41秒
- 「どこ行く?」
しばらく歩いてお店が遠く見えるようになった頃。
「なっちの家、来る?」
「う〜ん・・・いいの?」
「うん!」
断るのも変だと思ったから、無難な返事を選んだつもりだった。
「あ、こっち」
なっちの誘導でふたり並んで、なっちの家を目指した。
雨が一段と強さを増して、傘に当たると心地よいリズムを作りだす。
8ビートとか16ビートよりももっと細かい、そして早いリズム。
音に気をとられ始めると、他のことが見えなくなってくる。
「・・・り」
「・・・・・」
「圭織ってば!」
「え?なに?」
「もぉ〜、なっちが言ったこと聞いてなかったでしょ」
「あ、ゴメン、全然聞いてなかった・・・なに?」
「う〜ん・・・もういいよ、大したことじゃないから」
「ホントにゴメンね」
「・・・圭織、変わってないねぇ」
「そう?」
「うん。気がつくと昔からボーっとしてて・・・なんだか嬉しくなっちゃったよ」
「変なの〜。カオがボーっとしてるとなっちは嬉しいの?」
「うん、昔に戻れた気がして、嬉しいよ」
戻りたくない。
カオは戻りたくないんだよ、あの頃には・・・
- 494 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月28日(土)19時11分45秒
- 圭織となっち!期待。
- 495 名前:真希 投稿日:2001年04月30日(月)16時04分59秒
- うぅん、イイですねぇ、、、。
なんか面白いっす!いちーちゃんがやたらナイスガイ(?)なトコとか最高!(w
ヨッスィーもかわいいし、アタシもいい感じに書いてくれてて嬉しいっす〜。これからも頑張ってくださいね〜。
- 496 名前:(雨) 投稿日:2001年05月02日(水)16時41分18秒
- 「ここだよ」
5階建てくらいのキレイなマンションの前。
白くペイントされた壁が、ほんのり清潔感を醸し出している。
「はい、傘」
「あ、うん」
カオはさしている傘を閉じて、地面で傘についた雨を払い落して、なっちに渡す。
「ありがと」
その傘をなっちはキレイに折り畳んで、左手に持ち直した。
「3階だよ」
「うん」
なっちが先に階段を上がって、カオはその後に続く。
外を降る雨のリズムに合わせて足を動かせば、なっちの歩く速さが遅く感じた。
っていうか、なんでカオはなっちの家に、ワザワザ来てるんだっけ。
お仕事終わって電車に乗って、駅に着いたら傘がないことに気づいて・・・
走ってたら声をかけられて、なっちがそこにいて・・・
なんだかんだで強引に、喫茶店、そしてなっちの家へと連れてこられた。
断りきれないカオもいけないのかもしれない。
少しだけ、足が重くなった気がする。
2階の踊り場を抜けて3階へと上る頃。
「そういえば圭織って、今何してるの?」
上からカオの顔を見下ろしながら、なっちが笑顔で聞いた。
「ん?カオは今、雑誌のモデルのお仕事してるよ」
「へぇー、モデルさんかぁ。すごいねぇ」
「そうでもないよ・・・」
カオがモデルのお仕事をしているのは、また紗耶香と逢うため。
- 497 名前:(雨) 投稿日:2001年05月02日(水)16時41分51秒
- 3階までの階段を上り終えて、今度はコンクリートでできた廊下を少しだけ歩く。
階段側から数えて5つ目のドアの前で、なっちは持ってたバッグから鍵を取り出し、ドアを開けた。
「さぁ、入って。少し散らかってるけど・・・」
「う、うん・・・お邪魔しま〜す」
ワンルームの少し広めの部屋に、テーブルとベッドだけが目を惹いた。
それ以外はさっぱりしていて、散らかってるって表現は間違っている気がした。
なっちがベッドに座ったから、カオはなっちから離れた方のテーブルの横に腰を下ろす。
それは別に意識していたワケじゃなくて、自然とそうなってしまったんだけど。
「・・・ホント懐かしいよね」
「・・・うん」
不自然な空気。
何か話す内容を必死で探さなきゃイケナイこの空気が、カオは嫌いだ。
「先に北海道を出てったのは・・・なっちだったね」
「うん・・・」
「その後にね、少しして、なっち北海道に戻ったんだよ」
「え?そうなの?」
「うん」
それは全然知らなかった。
だってカオが北海道を出たのは、なっちが大阪に行って数ヶ月後だったから。
「そしたら圭織が居なくてさ・・・すれ違っちゃったんだね」
「そっか・・・」
再び訪れる、重い空気。
濁ったスペースの上に、黒い雲がズッシリと腰を下ろしているようだった。
ただ、外に降る雨が忙しくアスファルトを打ち付ける音だけが、虚しく響いている。
- 498 名前:(雨) 投稿日:2001年05月02日(水)16時42分27秒
- 「何か聴く?」
「え?あ、うん・・・」
この空気に耐えきれなくなったのか、なっちが音楽を流そうとする。
「なんでもいい?」
「うん」
テレビの横の小さいコンポの再生ボタンを、なっちはそっと押した。
・・・・・。
ドラムから始まる音楽が、雨の音を打ち消すように流れ始める。
〜独りぼっちのこの街で、ひっそりと息をしている
上等な 青空うらはらに、まるで死んだ小鳥のようよ〜
ボーカルの幼く感じる声に乗せられた詩が、なんだか痛く胸をつつく。
〜奪われて行く太陽を、早く取り戻さなくちゃ
8度7分の 高熱が、襲いかかるその前に…〜
〜ときめく胸が、痛むから……
夢を追うのも、疲れて……
give your power of love…〜
ただ切なくて、やるせなくて・・・
それでも耳に入るこの歌を遮ることは出来なかった。
ただ、何も話さずに聞き入っていた。
- 499 名前:(雨) 投稿日:2001年05月02日(水)23時08分35秒
- 〜ときめく胸が、痛むから……
遠い、遠い、あの街で
かぞえきれないKISSを 送ってよ Oh my darling
give your power of love〜
そう言えば、このボーカルも北海道出身なんだっけ。
カオは遠い遠い、生まれ育った北海道の街を思い出す。
〜明日 世界が終わっても……
歌い続けて見せるから
あきらめきれない夢を かなえてよ Oh my darling
give your power of love
to give your power of love 〜
そして、なっちが歌手になるのが夢だって言ってたことも、思い出した。
(そっか・・・)
なっちは夢を叶えるために、東京に出てきたんだ。
そして今、ここでこうして頑張っているんだね。
そう、紗耶香が留学しちゃったように・・・
それなのにカオは・・・
(ゴメンね、なっち)
自分で自分のことが恥ずかしくなった。
ただ否定だけを続けているカオは、なっちの気持ちなんて全然わかってなかった。
- 500 名前:(雨) 投稿日:2001年05月02日(水)23時09分06秒
- 〜忘れかけてた 遠い記憶 風が かき乱すように
流れ去る 透明のあなたの夢を 見ていた〜
コンポのディスプレイの数字が切り替わって、別の音楽が流れ始める。
その音楽の詩は、カオの心を大きく揺らす。
〜夜空に浮かぶ 氷の月は
つま先から ふるえだして
限りなく 白い雪の ジオラマになる……〜
(忘れかけてた遠い記憶・・・白い雪のジオラマになる・・・か)
浮かんだのはもちろん、北海道。
そして、いつも隣になっちがいた、あの頃。
今思うとそれは決してイヤな思い出じゃない。
それなのに、なんでカオはあんなに忘れたがって、思い出したくなかったんだろ・・・
〜口には だせない 恋をしていたね……
たくさんのウソは いつか誰かを傷つけたの……
青い涙が 胸につたり うつろな瞳は 崩されて
伝えられない あの冬の the new fallen snow〜
軽快に、そして確実に、カオの心をつつくその歌は流れ続ける。
なっちがいなくなる日、涙したことを思い出した。
『ありがとう』
その一言を言わせてくれなかったなっちに、カオは後ろめたかったのかもしれない。
〜口には だせない 恋をしているね……
たくさんのウソは あの人を いつか壊して……〜
- 501 名前:(雨) 投稿日:2001年05月02日(水)23時09分51秒
- 〜忘れかけてた 遠い記憶 風が かき乱すように
流れ去る 透明のあなたの夢を 見てた
限りなく 白い雪の ジオラマになる……〜
いつしかカオの気持ちはそれまでとは打って変わって、安堵感に満ちていた。
神様の悪戯でなっちと出逢えたこと、そしてなっちと一緒の時間を過ごせることに感謝している。
カオは昔から、なっちと一緒にいると楽しかったんだ。
〜空がわれて……光が差しても……
二人過ごした 最後の夜は……〜
二人過ごした最後の夜は・・・
〜忘れられない あの冬の the new fallen snow〜
忘れられないよ。
雪が降り積もっていたあの日、いつもと変わらない日だった。
でも、結果それがなっちと逢った最後の夜。
「なっち・・・」
「ん?なぁに?圭織」
「うぅん、なんでもない・・・」
「???」
ありがとう、神様!
別れの言葉もお礼も言えなかったけど、その代わりにこうして出逢わせてくれたんだ。
「なっち、出掛けよっか」
「え?え?」
「ほら、行くよ!」
「ちょ、ちょっと待って・・・」
カオは立ち上がって、ドアの方へと歩いていく。
ドアを開けると、青い空が覗いていた。
気持ちいい青空の下、カオとなっちは昔話に盛り上がりながら、笑顔で歩いた。
それはいつも隣でなっちが笑っていた、あの頃と同じように・・・
- 502 名前:第14回〜 投稿日:2001年05月02日(水)23時10分28秒
- さて、今回は恋愛ではありません。
昔と変わらない友情を持っていたなっちと、友情の気持ちを取り戻した圭織。
この講義も全体が繋がってはるんで、こういうんもちょくちょく出していきますわ。
恋愛を期待してはったみなさん、ホンマゴメンな。
>>489 さん
ども!マターリいかせてもらいますわ。
>>494 さん
このふたりは友情となってしまいました。スンマセン。
>>真希 さん
ごっつぁん見とったんか(汗
そういえば、最近ごっつぁんの出番って少ないかも(w
うぃうぃ、がんばりまっせー
そんじゃ、また次回お逢いしましょう。
- 503 名前:〜第15回 投稿日:2001年05月10日(木)02時18分21秒
- どうもー、講師の中澤で〜す。
今回はカワイイカワイイ矢口と辻のお話しです。
さて、どうなることやら・・・
- 504 名前:(散歩道) 投稿日:2001年05月10日(木)02時18分52秒
- (もぉ〜、裕ちゃんなんか知らない!なっちなんかのどこがいいの?
そりゃ目は大きいし、カワイイけどさ・・・
でも、あたしだって裕ちゃんのこと好きになったんだからね)
テクテクテク・・・
(なっちよりも後だけど、なっちよりも裕ちゃんが好きなんだから!
それなのに裕ちゃんってば・・・)
テクテクテクテク・・・
(ン?)
誰かにつけられてる・・・?
(そんなワケないか。
それにしても、なっちもなっちだよ!あとから来て裕ちゃんを好きだなんて言われたって・・・
あ、でも先に好きになったのはなっちか。あたしの方が後なんだっけ。
うぅん、そんなの関係ないよ!絶対にあたしの方が裕ちゃんを好きなんだから!)
テクテクテクテクテク・・・
(・・・・・・)
やっぱりつけられてるのかも。
こ、恐いよぉ〜。
(裕ちゃ〜ん助けてーーー!)
うしろを見るのも恐かったから、走って逃げた。
これで追いかけてきたら完ぺきにつけられてる!
雨なんか降ってて傘さしてるから、早く走れないよぉ〜。
しかも走る時に限って、アツゾコなんか履いてる・・・最悪だ。
数メートル、十数メートル走った。
それでもまだうしろの気配は全然消えないから、やっぱりつけられてるみたいだ。
「はぁ、はぁ。ま、まってくださーい」
「え?」
オンナノコの声だ。
- 505 名前:(散歩道) 投稿日:2001年05月10日(木)02時19分27秒
- 立ち止まってうしろを見てみると、あたしと同じくらいの背のコが、小さな傘と一緒に近づいてきた。
「はぁ、はぁ・・・」
「な、なに?なんか用なの?」
見た目から言って、このコはあたしより歳下だと思う。
そりゃ、背の高さは同じくらいだけど・・・
「えーっと、あのぉー・・・」
「なに?」
「あのぉー、そ、そのクツどこで買ったんですか?」
「え?あ、これ?駅前のクツ屋だけど、どこにでも売ってるよ。それだけ?」
「うーん、あのぉー・・・」
モジモジする仕草が幼く思えた。
「あ、あたしとお友だちになってください!」
「はぁ?」
突然の申し出に、しばらく意味を掴めないでいた。
だって、あたしはこのコの名前すら知らないんだ。
「それでさっきから追いかけてきてたの?」
「はい!」
「う〜ん・・・ねぇ、歳いくつ?」
「13さいです」
(はぁ、中学生かぁ〜・・・)
「あのねぇ、あたしはこう見えても高校生なんだけど」
「え?てっきり同じくらいのとしだと・・・あ、ゴメンナサイ!」
「別にいいんだけどさ」
(慣れてるからね)
- 506 名前:(散歩道) 投稿日:2001年05月10日(木)02時20分00秒
- 「それでもいいです。お友だちになってください」
「お友達ねぇ・・・」
まぁいっか。
裕ちゃんはなっちとお店にいるし、あたしは今日お休みだから暇だしね。
「う〜ん、キミ、名前は?」
「辻希美です」
「辻ちゃんか。いいよ」
「え?」
「お友達、なってあげるよ。あたしは矢口真里って言うんだ、よろしくね」
「あ、ありがとうございます!」
辻ちゃんは小さな傘ごと頭を深々と下げて、お礼を言った。
「それで、お友達になったけど、これからどうするの?」
「そうですねぇ、どっか遊びに行きましょう!」
「どこに?」
「えーっと・・・えーっと・・・矢口さんはどこに行きたいですか?」
「辻ちゃんが行きたいとこでいいよ」
「え?うーんとぉ、えーっとぉ・・・」
そのまま辻ちゃんは考え続けて、5分くらいが経った。
その間傘に打ち付ける雨の音と、時折走り去る車の音だけが周りを包む。
・・・特に遊びたいこともなかったってワケだね。
「そうだ!どこかすわれるとこ行って、お話しでもしましょう」
「お話しねぇ・・・いいよ。じゃあ、ファミレスにでも行く?」
「はい!行きましょー!」
近くにファミレスがあったから、ふたりでそこに行くことになった。
- 507 名前:(散歩道) 投稿日:2001年05月10日(木)02時20分32秒
- 「どうでもいいけどさ、辻ちゃん、お金持ってんの?」
「はい、少しならもってますよ」
「少しって、どのくらい?」
「そうですねぇ・・・」
ファミレスの前で、辻ちゃんはお財布の中身を確認している。
キャラクター物の可愛らしいお財布だ。
「うーんと・・・383円ありましたー」
「・・・ギリギリかな。じゃ、入るよ」
「はーい」
おごってあげてもよかったけど、あたしも今月ピンチなんだよね。
多少の出費でも痛い。
傘を折り畳んで備え付けのビニール袋に入れて、中に入る。
あたし達は真ん中より少し窓側寄りのテーブルに案内された。
「辻ちゃん、何飲む?」
「えーっとぉ・・・矢口さんはなににしますか?」
「矢口?矢口はねぇ・・・アイスティーかな」
「じゃあ辻はぁ・・・オレンジジュースにします」
(・・・聞いた意味あんのかな?)
ウェイトレスさんを呼んで、ふたり分の注文を告げた。
「さて・・・何の話しする?」
「そうですねぇ・・・なんのお話ししましょうか」
・・・なんかさっきから、同じようなことを繰り返している気がするんですけど。
- 508 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月12日(土)01時42分55秒
- かみあっていないのに、お似合いの二人(w
先が楽しみ。
- 509 名前:(散歩道) 投稿日:2001年05月15日(火)23時58分28秒
- 「そうだねぇ・・・なんか聞きたいこととかある?」
「ききたいことですかぁ?えーっとぉ・・・えーっとぉ・・・」
(聞きたいことなんてないのかな?)
いくら待っても何も出なそうだったから、あたしから聞くことにした。
「・・・矢口が聞いてもいい?」
「はい!いいですよー」
「じゃあねぇ・・・なんで矢口に話しかけたの?」
ちょっとイジワルな質問だと自分でも思った。
でもね、正直ちょっと気になってたんだ。
「そうですねぇ・・・矢口さんがかわいかったからです」
「ホントにぃ?ホントのこと言っていいよ」
「ホントのことですかぁ?ホントはぁ、矢口さんがぁ、辻と同じくらいのとしだと思ってぇ」
「うん、それはさっき聞いたよ。でもさ、同じくらいの歳のコなんて、いっぱい歩いてたじゃん?」
「そうですかぁ?」
「歩いてたって。そんな中で、どうした矢口だったの?別に誰でもよかったとか?」
「そ、そんなことないです。矢口さんじゃないとダメでした」
「なんで?」
「うーんとぉ、それはですねぇ・・・」
少しだけ沈黙。
これって・・・今考えてるんじゃ・・・
「矢口さんが着ているふくが、おもしろかったからです」
「お、おもしろい?」
「はい。辻のまわりにはそういうカッコーしてる人っていないですから」
あ、そっか。
あたしは辻ちゃんと同い歳くらいに思われてたんだっけ。
- 510 名前:(散歩道) 投稿日:2001年05月15日(火)23時58分58秒
- 「それでぇ、辻もそういうカッコーしてみたくてぇ・・・」
「ふぅーん、辻ちゃんの周りにはこういう人、居ないんだ」
「うーんとぉ、おねえちゃんが似たようなカッコーしてるんですけどぉ、やっぱりちがいました」
「へぇー・・・」
どう違うか気になる所だけど・・・まぁ、聞かないでおこう。
運ばれてきたアイスティーとオレンジジュース。
とりあえず一口だけストローで飲んで、次は何を聞こうかと考える。
あたしは初めて逢った人とでも気軽に話せる方なんだけど、それは相手も話し上手な場合が多い。
辻ちゃんは・・・お世辞にも話し上手とは言えないかな。
というか、話したそうなんだけど、話しが浮かばないみたい。
(さ〜て、何聞こうかな?)
「あのぉ、矢口さんはどこに住んでるんですか?」
「ん?矢口?」
入店から20分、やっと辻ちゃんからの質問。
「矢口はねぇ、この近くに住んでるよ。辻ちゃんは?」
「辻も近くに住んでますよ」
「へぇー、そうなんだ。今日は学校はお休み?」
「はい、お休みです」
「お友達は?」
「う〜ん・・・今日はみんなようじがあるって」
「ふぅ〜ん・・・」
もしかして、友達いないのかな?
別に意識しなくても、そういう考えが頭にふっと浮かんできてしまう。
そんなこと聞けやしないし、聞かれるのもイヤだろうから、アイスティーと一緒に飲み込んでしまった。
- 511 名前:(散歩道) 投稿日:2001年05月15日(火)23時59分42秒
- 外は雨がまだ降り続いているみたいだ。
手元に置いてある傘の水滴は、もうとっくに乾いてしまっている。
効き過ぎていない冷房は、あたしと辻ちゃんの間の空気を軽く湿らせた。
そして他愛のない会話で、さっきよりはお互いの距離は縮まった。
それでも元々近いのは身長差くらいで、年齢のギャップは感じざるを得ない。
永遠に縮まることのない距離。
それはあたしと裕ちゃんの間にも言えることなんだ。
「・・・それでぇ、辻はぁ・・・」
「へぇー、矢口もねぇ・・・」
「そうなんですかぁ?すごいですねぇ」
「あは、ありがと。だからね・・・」
正直言って、カワイイと思う。
あたしの中学1年生の時も、こんなんだったのかなぁ。
自分よりも確実に幼い目の前のコに、なぜか安堵感を憶えた。
(裕ちゃんもこんな感じであたしを見てるのかな・・・)
あ、じゃあ裕ちゃんがこのコを見る時って、どうなるんだろ。
さすがにあたしと同じってことはないよね。
今度お店に連れてってみようかな。
なんだか面白くなってきたよ。
「ねぇ、今度あたしがバイトしてるお店に来なよ。面白い人いっぱいだよ」
「ホントですかぁ?はい!行きたいです!」
裕ちゃんに逢わせた後に、感想を聞くのも忘れないようにしなきゃ。
なっちや圭ちゃん、よっすぃーにも感想聞いてみたいなー。
- 512 名前:(散歩道) 投稿日:2001年05月16日(水)00時00分17秒
- 「あのぉー、ひとつだけおねがいがあるんですけどぉ、いいですか?」
「ん?何?」
「あのぉ、辻のこと、ののってよんでくれませんか?」
「いいけど・・・なんでののなの?」
「えっとぉ、辻が小っちゃい時に自分の名前の希美って言えなくて、のの、ののって言ってたんですよぉ。
それでぇ、今でもののって言われてるんです。矢口さんもお友だちだから、ののってよんでほしいです」
「うん、いいよ」
"のの"だって。
やっぱりというか、なんだか異様に幼く感じるよ。
当たり前か、小学校から上がったばっかりだもんね。
「それじゃ、ののはこれからどうするの?矢口はせっかくの休みだからどこか行こうと思ってるんだけど・・・」
「そうですねぇ・・・ののも矢口さんといっしょに行っていいですか?」
「それはかまわないけど、どこに行くかわかんないよ?」
「いいですよー、ののは矢口さんといっしょならどこでもいいです」
「・・・?」
(なんか意味深な気が・・・)
気のせいかな。
「そ、それじゃ、とりあえず出よっか」
「はーい」
キャラクター物のあのお財布を取りだして、ののは自分の飲んだジュースの分、テーブルにお金を置いた。
あたしはそれを受け取り、自分のお財布に入れて、レシートと傘を持って会計カウンターへと向かった。
「矢口さーん、かさわすれてますよー」
ののがあたしの傘と自分の傘を持って、あたしの後ろにぴたっとくっついた。
「お、サンキュ」
こんな小さいコにでも、慕われるのは悪い気しないね。
- 513 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月18日(金)23時11分24秒
- ののちゃんかわいー。。
- 514 名前:迷子。 投稿日:2001年06月14日(木)04時25分52秒
- 良いお話ですね。
全体的にストーリーが続いているのに感激っす。
・・・いちごま&よしごま の時間差が混乱しているのですが(泣)
作者さん良かったら全体的な経過をお教しえ下さい。m(_ _)m
では、お馬鹿な読者でした。
続きに期待、ではチャオー
- 515 名前:読者 投稿日:2001年06月25日(月)04時20分23秒
- 毎日出席しているのですが、本日も自習なのでしょうか?
中澤教授、講義の方切に希望申し上げます。(笑)
- 516 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月28日(木)02時53分09秒
- 同上。
- 517 名前:講師なかざー 投稿日:2001年06月28日(木)03時42分11秒
- みんな、ホンマゴメン!
15回の途中まで書いてあったんやけど、そのハードディスクが死んでまいました。
かなりショックです。鬱や・・・
至急書き直す次第なので、もう少々だけお待ちください・・・
>>514 迷子。さん
市井と後藤の話は、後藤と吉澤の話の1年前くらいになります。
後付け後付けの繰り返しで時間錯誤してしまってますが、どうか目を瞑ってください(w
- 518 名前:(散歩道) 投稿日:2001年07月01日(日)04時43分00秒
- 外を飾るのは、まだ降りやまない雨の雫たち。
あたしたちはその雨の中を歩くために、それぞれの傘を取りだして、さす。
「矢口さん、どこ行くんですか?」
「う〜ん、まだ決めてないんだ。少し歩こっか」
「いいですよー。歩きましょー」
行く宛もなく歩き続けるのも、たまにはいい物だね。
例えこんな幼くて小さいコでも、隣に誰かがいるのは嬉しい。
(カワイイな〜・・・)
パッと見だけじゃなくて、仕草や表情にまで幼さがあり、見る者の気分を和ませる。
それを自然に出せるのののことを、少し羨ましくさえ思えた。
(あたしもこんな雰囲気出せればなー・・・)
きっと裕ちゃんのことを虜にさせられるに違いない。
・・・ポタッ。
のの傘の先から落ちる雫が、あたしの肩に当たる。
気がつけば、ののはあたしのすぐ近くにまで来ていた。
「ちょ、ちょっとのの!もう少し離れなさい!」
「なんでですかぁー?」
「ののの傘の雨が矢口に落ちてくるんだよ。傘さしてるんだから少し離れなさい」
「はーい・・・」
少し悄気た声と顔で、ののは渋々離れた。
(そうそう、これくらいの距離なら雨も当たらないよ)
「・・・のの?」
落ち込んだように暗くなってしまったののが気になって、その顔を覗きこんだ。
- 519 名前:(散歩道) 投稿日:2001年07月01日(日)04時43分45秒
- 「・・・そうだ!」
「な、なに?」
あたしが驚いている間に、ののは自分の傘を畳み始める。
「なにしてんの?濡れちゃうじゃん!」
「こうすればいいんですよー」
そう言ってののは、決して大きいとは言えないあたしの傘に入ってきた。
「ちょ、ちょっと!」
「えへへ、こうすればぬれないです」
濡れないって言うか・・・ねえ。
「さー行きましょーか」
あたしが傘を持っている方の肘に、ののの手がスルッと入ってくる。
「行きましょうって・・・」
「行かないんですか?」
「いや、そうじゃないけど・・・これで?」
あたしは目線を組まれた腕に向けて、アピールする。
「イヤですか?」
「イヤとかそういうんじゃなくてさ・・・恥ずかしいじゃん?」
「だいじょうぶですよ!だれも見てないですから」
そういう問題じゃないと思うんだけどなあ・・・
「さあ、行きましょー」
「・・・うん」
ま、いっか。
- 520 名前:(散歩道) 投稿日:2001年07月01日(日)04時44分20秒
- それでも3分も歩くと、組んでる腕のことなんか忘れてくる。
裕ちゃんやよっすぃーに見られても、このコなら大丈夫そうな気がするのは、なんでかなあ。
きっと幼くて、あたしの恋愛対象には見えないからかもね。
「ここ、ちょっと寄ってみようか?」
「いいですよー」
通りがけのカワイイ雑貨屋さんに立ち寄るために、お店の前で傘を折り畳んで、傘立てにさす。
ののも同じように傘立てに傘をさすと、再び腕を組むために手を伸ばした。
(・・・あ!)
あたしはあたし自身がその手を待っていたことに気がついた。
ほんの数分なのに、それが当たり前になっていたことに、びっくりした。
あたしのそんな驚きも知らずに、ののも当たり前のように腕を組み、お店の中へと進んで行く。
(う〜ん・・・)
正直、ちょっとだけ不思議な気分だった。
腕を引っ張られながら、色々なカワイイ雑貨を見ながら、不思議な気持ちが湧いてくるのを感じた。
でもそれが何なのかは、靄がかかったようにわからなかった。
「矢口さん、これカワイイですねぇ」
「え?あ、うん、カワイイねえ」
「あ、こっちのコレもカワイイですよ!」
「うん、カワイイね」
無邪気な子供。
自分より遥かに歳下の、幼い女の子。
今日声をかけられて、数時間前に逢ったばっかりなのに・・・
愛おしさを感じずにはいられなかった。
カワイイ雑貨、カワイイ女の子、なんだか上の空なあたし・・・
- 521 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月01日(日)13時54分27秒
- ののかわいいいです。それに翻弄されている矢口がなんか見てて楽しいです。
ほんとに再開されてうれしいです。
- 522 名前:(散歩道) 投稿日:2001年07月04日(水)03時46分22秒
- その雑貨屋さんでは、ほんの十数分いただけで、何も買わなかった。
「また来ましょうね、矢口さん」
「・・・あ、うん、また来ようね」
「どうしたんですか?元気ないですよ?」
「え?そ、そんなことないよ?うん」
「そうですか?それならいいですけど・・・」
(こんな小さいコでも、心配するんだ・・・)
・・・心配させちゃダメだよね、こんな小さなコに。
「よ〜し!じゃあ次はどこ行こうか」
「ののは矢口さんといっしょならどこでも行きますよ」
「あはは、そう言ってたね。じゃあ次も歩いて決めよっか」
「そうしましょー」
傘立ての傘を取りだして、あたしは自分の傘を開く。
それを待っていたかのように、ののがあたしの傘に入ってきて、腕を組む。
あたしはそれを極自然に、無抵抗に受け入れた。
「よし、行こっか」
「はーい」
愛おしいけど、恋愛対象ではない。
幼いこのコに対しての、母性愛的な感情なんだ。
うん、そういう気はきっと起こらないはずだよ。
だってあたしには裕ちゃんがいるんだ。
そう言い聞かせて、そう決めつけて、あたしは今日一日を過ごすことにした。
それはこのコを心配させないように元気を出すためってことと、何かが恐かったからだった。
- 523 名前:(散歩道) 投稿日:2001年07月04日(水)03時46分52秒
- 雨が降っているせいで、辺りはずっと同じような明るさだった。
時計を見たらもう4時30分を回ったところだった。
「ののはまだ帰らなくても大丈夫なの?」
「だいじょうぶですよー。まだ矢口さんといっしょにいたいです」
(一緒にいたいです・・・か)
さっき意識してしまってからというもの、このコの言動が一々引っ掛かる。
勘違いかもしれないし、ただの自意識過剰なだけなのかもしれない。
それでもあたしにはこのコの言葉のひとつひとつに深い意味があるように思えた。
「でも、歩いてばっかりも楽しくないんじゃない?」
「そんなことないです。ののは矢口さんといっしょにいれれば楽しいです」
あたしが自意識過剰じゃないとしたら、物すごく露骨に言葉に出しているんだよね。
まだ決定的な言葉はないにしても、これだけ素直に言えるののが羨ましいよ。
「矢口さんは楽しくないんですか?」
「ん?そんなことないよ」
「ホントですか?わーい、うれしーですー」
「あはは・・・」
背丈がほぼ同じだから、横を向くとすぐののの顔がある。
ののはあたしの目をしっかりと見て喋るから、思わず目を逸らしてしまう。
そして、顔が赤くなってないかと気にして、後ろを振り返ったりしてしまう。
その度にののも後ろを振り向いて、あたしが何を見たのかを確かめようとする。
幼くて無邪気なののは、あたしの考えていることなんか全然わからない素振りを見せる。
あたしはそれを見て、ホッとして、また前を向いて歩くのだった。
- 524 名前:(散歩道) 投稿日:2001年07月04日(水)23時23分41秒
- 「雨の日にお散歩か・・・」
「なんですかー?」
ポツリと呟いた独り言に対して、ののが聞えなかったよぉって顔であたしを覗き込む。
「ん?雨の日にお散歩するのもたまにはいいなーって思ってさ」
「そうですねー。でも晴れた日のほうがぜったいきもちいいですよ」
「あはは、そうだね」
「そうですよー」
本当はお店を探すために歩いているんだけど、これといったお店がないから、歩いている。
たまたまだけど、それがお散歩になって、歩くことが目的に変わっていた。
「あのー・・・」
「ん?なぁに?」
のののテンションが少し落ちたように見えた。
同時に、少し緊張しているようにも思えた。
「矢口さん・・・あのですね・・・」
「なに?どうしたの?」
「今何時ですか?」
「え?あぁ、えーっとね・・・」
腕時計を覗き込むと、デジタルの液晶がPM5時12分を示している。
「5時10分を回ったとこだよ」
「あのですね、ののはもうすぐ帰らなきゃいけないんです」
「あ、そうなの?」
「はい。でも、帰る前に矢口さんにきいてほしいことがあるんです」
「なに?」
「あのですね・・・そのぉー・・・」
- 525 名前:(散歩道) 投稿日:2001年07月04日(水)23時24分47秒
- 「ののは矢口さんが好きです」
「うん、矢口ものの好きだよ、妹みたいだし」
「そうじゃないんです!ののは矢口さんとずっといっしょにいたいんです!」
「・・・のの」
あたしのあれは、自意識過剰なんかじゃなかったらしい。
ののは本当にあたしに好意を持っていてくれて、素直にそれを表現していたんだ。
「ののじゃ・・・ののじゃダメですか?」
「のの・・・ありがとう、矢口もののと一緒にいたいよ、楽しいし」
カワイイし、和むし、背も同じくらいだし・・・
「そ、それじゃあ・・・」
「でもね・・・」
あたしはののの言葉を遮って、続けた。
「でもね、矢口には恋人がいるんだ。その人のことは、世界でイチバン好きなんだ・・・ゴメンね」
(裕ちゃんよりは好きになれないんだ・・・)
「そうですか・・・」
「でも本当に嬉しかったよ、ののに好きって言われて」
「・・・ひぐっ」
え?
「ひぐっ・・・えぐっ・・・ごめんなさい、なみだが出ちゃいました・・・」
「のの・・・」
あたしはいつか紗耶香がそうしてくれたように、ののの頭を抱いてあげた。
背丈が同じくらいだから様にはならないかもしれないけど、精一杯の優しさを込めて、抱いてあげた。
- 526 名前:(散歩道) 投稿日:2001年07月04日(水)23時26分26秒
- 「ごめんね・・・友達じゃ・・・ダメかな」
「えぐっ・・・えぐっ・・・」
「ののが矢口の顔なんかもう見たくないって言うんならしょうがないけど、またののと一緒に歩きたいんだ」
「ひぐっ・・・ホントですか?」
涙目のまま、ののはあたしの顔を覗き込んだ。
「うん、本当だよ。今度は晴れた日に、一緒にお散歩しようよ」
「えぐっ・・・はい!・・・ひぐっ」
涙は止まらないけど、でもののは笑顔を見せてくれた。
あたしはそれが嬉しくて、またののの頭を優しく抱いた。
「それにさ、約束したじゃん?矢口の職場に連れてくって。ののさえよければ、また遊ぼうね」
「・・・ふぁい」
衣服越しに、ののの嬉しそうな声の返事があたしの胸に響いた。
あたしはそのまま、ののが自身で離れるまで、抱き続けてあげた。
「すみませんでした、ないちゃって・・・」
「うぅん、大丈夫だよ。矢口の方こそ、ゴメンね」
「コイビトがいるならしかたないです。ののはあきらめます。でも、矢口さんはお友だちです」
「うん!友達だよ!」
「あ・・・」
「ん?・・・あ、晴れた」
ふたりの間を表すかのように、雨が止んで、雲が流れて、少し紅く染まった青い空が覗いた。
「それじゃ、ののはもう帰ります」
「うん、気をつけてね」
「はい!」
「今度電話するよ。そしたら遊ぼうね」
「はい、まってます」
「またお散歩しようね」
「はい、おさんぽしましょー」
「それじゃ、バイバイ」
「さよーならー」
ののは、元来た道を帰り始めた。
あたしはののが振り返る度に、その場で手を振って見送る。
ののも大きく手を振って、あたしに笑顔を見せてくれた。
「さてと・・・」
ののが見えなくなるまで見送ると、あたしも帰り道を定めて、歩き始めた。
今度はこの道を、ののと歩こう。
そしてあのお店に連れてってあげよう。
楽しくお散歩が出来る散歩道を考えながら、あたしは歩き続けた。
周りをキョロキョロ見回しながら歩いていると、夕焼けがキレイなことに気がつく。
立ち止まって空を仰いだら、一番星と一緒に虹が出ていた。
ののも見てるんだろうなーって思ったら、なんだか笑顔がこぼれてきた。
そしてあたしは、ののと遊べる次のお休みの日を数えた。
- 527 名前:第15回〜 投稿日:2001年07月04日(水)23時27分13秒
- えーっと、まず、更新が止まってもうてゴメンなさい。
愛しの矢口とカワイイカワイイ辻のお話でした。
お似合いやけど、矢口は苦労しそうやわ(w
>>508 さん
確かに噛みおうてへんね(w
せやけどお似合いなんは、なんでやろうな
>>513 さん
そうやねん、辻はめっちゃカワイイねん(w
>>514 迷子さん
簡単に言うてまうと、紗耶香が出てる話は、他の話の約一年前。
前にも言うたけど、時間錯誤が生じてる場面もあります、ごめんなさい(w
>>515 読者さん
ホンマにごめんなさい・・・
>>516 さん
同じく、ごめんなさい・・・
>>521 さん
無邪気というかなんというか・・・(w
待たせてゴメンな〜
さてさて、お次の講義なんやけど・・・
そろそろ加護も出したらんとなって考えております。
いつも通り時間はかかるので、期待せんとお待ちください。
では、また次回。
- 528 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月08日(日)14時40分15秒
- むっちゃあったかい気持ちになりました。
この二人いい関係が続いて欲しいですね、友達として。
- 529 名前:K 投稿日:2001年07月26日(木)08時12分18秒
- ちょっと裕ちゃんこんなところで何やってんのよ!
しかも最近更新してないじゃない!!まぁいいけど・・・
それよりこの話おもしろいね!全部読んじゃったわ!!紗耶香モテモテだわね・・
そんなことより、私も告白されたいんですけど!!!
裕ちゃん何か考えてよ!!
それじゃ、保田圭でした。
ps ドラマ見てるわよ
- 530 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月15日(水)00時24分29秒
- 頑張ってね。
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