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パイロット紗耶香
- 1 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)03時29分44秒
- 第2作目を書きます。
- 2 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)03時30分17秒
- 飛行場から少し離れた所に透き通った綺麗な海が見える場所に二人はいた。
開戦前からのベテラン下士官パイロットの市井紗耶香。
そして、開戦後に配属された新任士官の石川梨華。
「遠くまで来ましたね。」
市井は石川よりは年上なのだが、階級は石川の方が高い。
そのため、市井は石川に対して敬語を使う。
「今までは、比較的順調に来ましたけど、
これからは敵の反撃も厳しくなってきますよ。
石川さんには、これからもあたし達を引っ張っていけるように
まだまだ頑張っていただかないと♪」
- 3 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)03時30分56秒
- 石川は、いいとこのお嬢様といった感じの面持ちを持った新米士官だった。
まだこの部隊に配属されて日が浅いが、
士官ということを表に出さず、
また、ベテランの市井たちの話を謙虚に聞き、
指揮官として何たるかを教わっていた。
「石川さんの後ろには、あたし達や、裕ちゃ・・中澤や、矢口がいます。
いざという時は、あたし達が守りますから、安心してください。
石川さんは、あたし達ベテランに比べればまだまだですけど、
確実に腕は上達してますよ。」
市井は石川に言った。
「ありがとうございます。」
石川も答える。
- 4 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)03時31分37秒
- 背後から声がした。
「いち〜ちゃ〜ん。」
後藤だ。
後藤は市井の小隊の2番機として、開戦以来ずっと市井と一緒である。
市井はそんな後藤に対して、上官と部下という関係以上の
愛情を持っていた。
「いち〜ちゃ〜ん、いち〜ちゃんに会いたいっていう人がいるよ〜。」
その後藤が、一人の人物を連れてきた。
市井の目にその人物が入る。
「紗耶香!」
「なっち〜!」
久し振りの再会だった。
なっちと呼ばれた人物は安倍なつみという人だった。
かつて市井が新人パイロットだった時に、空中戦の何たるかを教えてくれた人物だ。
安倍は市井より先輩だが、気が合った二人は何時の間にかお互いをあだ名や、
下の名前で呼ぶようになっていた。
- 5 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)03時32分23秒
- 「元気だった〜?なっち!」
「元気だべさ〜。しばらく教育部隊に配属されていたから、腕が鈍っちたべ。」
仲良く話す市井と安倍に、ちょっとした嫉妬を感じた後藤は会話に入り込んだ。
「いち〜ちゃん、この人知ってるの〜?」
おおよそパイロットらしからぬ話方。
そんな後藤に市井が怒る。
「その呼び方は、みんながいる時はやめなさいって言ったでしょ!」
「だって〜・・・。」
渋る後藤。
- 6 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)03時32分53秒
- 「石川さんに紹介します。この人は、・・・。」
市井は、安倍が自分の師匠であること、
そして友人であることを紹介した。
「よろしくお願いするべ〜。」
石川と握手をする安倍。
ちょっと無視された感じの後藤はすねている。
『ぶ〜・・・。いち〜ちゃん、あたしを無視してる〜・・・。』
「そういうわけだから。よろしくね。」
後藤のそんな気持ちを知ってか知らずか、
市井は後藤に声をかけた。
「・・・・よろしくお願いします・・・。」
『後藤すねてるよ・・。ぷっ!』
市井にとって、そんな後藤がほほえましかった。
- 7 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)03時33分36秒
- その日の午後は出撃だった。
第一小隊
一番機:石川
二番機:吉澤
三番機:加護
第二小隊
一番機:中澤
二番機:矢口
三番機:辻
第三小隊
一番機:市井
二番機:後藤
三番機:保田
第四小隊
一番機:安倍
二番機:飯田
三番機:平家
この12機での出撃の命令が下りた。
偵察機の報告では、
敵基地の戦闘機はだいぶ増強されていた。
『今日の戦闘は派手になるかな〜。』
市井は思う。
- 8 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)03時34分24秒
- 出撃して約30分。
『そろそろ敵さんが出てくる頃かな〜。』
実戦で鍛え上げられた市井の感がそう訴える。
まさにその直後だった。
『いた!』
市井が敵戦闘機の編隊を発見した。
石川の戦闘機を追い抜き
『敵発見』の合図を送る。
- 9 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)03時35分07秒
- 敵編隊の高度は市井たちの編隊より1000メートルほど高い。
『敵の高度は高いし、数も多い・・。』
敵の編隊は30機。
自分の編隊は12機。
高度も高い。
条件はすべて敵のほうが有利だだ。
『さて・・・、どうしようかな・・。高度を取って敵の後ろに回りこむか・・。』
考える市井。
その市井の機体の横をスピードを出して追い抜く機が一機。
石川の機体だ。
『続け!』
敵機を視認した石川が全員に合図を送る。
『敵の下にもぐりこむ?いい度胸だな・・。』
石川の意図が分かった市井は思う。
『石川指揮官の腕、見せてもらいましょう♪』
- 10 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)03時40分09秒
- どんな不利な状況に陥っても市井は抜け出せる自信があった。
それだけの腕を持っているからだ。
それはおそらく石川を除いた全員が思っているだろう。
この部隊の腕前はそれほどのものだった。
『まだまだ・・・。』
敵機はまだ自分達に気づいてない。
いくら自分の腕前に自信があるとはいえ、
敵に上方からかぶられたら、苦戦は免れないだろう。
市井は、自分の背中に冷たいものが流れるのを感じる。
ふと後ろにいる、番機の後藤を見る。
普段と表情が変わらない。
『相変わらず大物だな〜、後藤は。』
敵機に近づくまでの数秒の時間が何時間にも感じられる。
敵はまだ気づいていない・・。
単縦陣で敵の下に入り込む・・。
完全な死角だ。
「いまだ!」
- 11 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)03時56分55秒
- 石川を先頭に敵編隊の下から一気に突き上げる。
敵は完全に虚を突かれた。
機銃が下から敵編隊を襲う。
翼が吹き飛ぶ。
ガソリンタンクに直撃を食らった機は一瞬にして炎に包まれる。
炸裂弾を含んだ機銃弾の威力は強大だった。
一発で機体に大穴が開く。
下から敵編隊の上方に突き抜けた市井たちは、一気にドッグファイトに入った。
「後藤、やられるなよ!」
市井の機体はダッシュする。
同じ性能の機体のはずなのにダッシュのスピードが違う。
後藤が遅れる。
『あぁ〜ん・・。待ってよ、いち〜ちゃん・・・。』
泣き言を言ってはいるが、開戦以来ベテラン市井と編隊を組んできた後藤だ。
スティックを倒し、スロットルを絞り、敵機の後を取る。
炸裂する機銃弾。
燃え上がる敵機。
すでに敵の数は半数以下になっていた。
- 12 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)03時57分40秒
- 『三つ目!次!』
次々敵機を落とす市井。
その市井に勝負を挑んでくる敵がいる。
『いい度胸じゃない!負けないよ!』
敵を引きずり込んで縦の巴戦に持ち込む。
お互いがお互いの後を取ろうとする。
その時、市井の酸素マスクが外れた。
『やばっ!でも付け直してる暇は無い!』
強烈なGがかかり、目の前が暗くなる。
『やばい・・。やられる・・・。』
失神しそうになる。
根負けしたのは敵機の方だった。
敵機は旋回を解いた。
『いただき!』
敵機が照準の中で大きくなる。
必中距離だ。
外すわけが無い。
『悪いね・・。』
炎に包まれる敵機。
- 13 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)03時58分51秒
- 空戦は終わっていた。
敵は何時の間にか、いなくなっている。
味方機が集まって来た。
『後藤は?』
いつも最初にそれを確かめる。
後藤は自分の後にいた。
『よかった〜♪』
敵の損害は20機以上。
味方は・・、全機無事だ。
圧勝だった。
まだ味方の腕前は、敵よりも上なのだろう。
量で圧倒してくる敵には、個人の腕前で対抗するしかない。
『もし、自軍の練度が下がってきたらどうなるのだろう・・・。』
今はいい。
全員の腕前が抜群だからだ。
でも、そのうち・・・。
- 14 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)03時59分32秒
- 基地に帰ってから市井は石川に尋ねた。
「なんで石川さんは、不利な状態を分かっていながら、敵の下にもぐりこんだんですか?」
「あの状態で敵の後ろに回り込もうとしても、気づかれるかと思って・・。
なら、いっそのこと敵の視界の悪さを使ってと思いまして・・・。ダメでしたか?」
不安な表情で聞き返す石川。
「いえいえ、立派な指揮振りでした。これからもよろしくお願いします。」
市井の答えに石川は明るい笑顔を見せた。
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月15日(日)04時05分39秒
- う、やたら詳しい・・・坂井三郎とか知ってる?もしかして・・・
- 16 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)09時11分43秒
- >15さん
あっ・・・。ばれてしまった・・。
し〜・・・・。
内緒内緒。
- 17 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)09時15分14秒
- 「いち〜ちゃ〜ん。」
自分を呼ぶ声が聞こえる。
この呼び方をする人は一人しかいない・・・。
「こら!後藤!その呼び方はダメだって言ったでしょ!」
「え〜・・。」
また渋る後藤。
「でもねでもね、聞いて!あたし2機も落としたの〜!」
「そうだべ〜。後藤の戦果はなっちが確認してるべ。」
安倍が言う。
「へへへへ♪」
ご機嫌な後藤。
市井は近づいて後藤の頭をなでてやる。
「よしよし、よくやった♪」
「へへへへへへへへ♪」
市井に褒められて、ますますご機嫌の後藤。
『後藤かわいいな♪これからも一緒に頑張っていこうね。』
照れ隠しなのか、市井は心の中で言った。
「いや〜。でも後藤はいい腕だべさ。さすがだべ。」
「へへへへへ♪」
ますますご機嫌な後藤。
- 18 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)09時16分52秒
- 「しばらく実戦から遠ざかってたから、なっちは腕がなまってるべ・・。
この地域の事も良く分からないし、なっちが慣れるまで、いい2番機がほしいべ・・。」
安倍の言葉に市井は不安を覚えた。
不安は的中した。
「後藤を、なっちの2番機に貸してくれないべか?」
- 19 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)09時18分21秒
- 翌日の出撃の編成はいつもと違っていた。
第一小隊
一番機:安倍
二番機:後藤
三番機:平家
第二小隊
一番機:中澤
二番機:矢口
三番機:辻
搭乗員待機所にある黒板に書いてある。
いつもは、市井の二番機の後藤は今日は安倍の二番機だった。
「ごっちん。今日は市井さんの二番機じゃないね。」
「うん・・・。」
吉澤の言葉に、元気なく答える後藤。
「でもさ、ごっちん。今日は市井さんの師匠だった人のお供じゃん。
市井さんに内緒で、腕前上げるチャンスだぞ♪」
「そうだね・・。そうか、そう思えばいいか・・。」
「元気だしな、ごっちん!」
「うん・・。」
- 20 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)09時19分03秒
- 今日の第二小隊の隊長として出撃する中澤は、
そんな後藤を見て少し考えた。
『ごっちん元気ないな・・。』
ふと市井のいる方を見る。
市井は石川と打ち合わせをしていた。
『やっぱあかんな・・・。後藤は市井の下にいたほうが・・。』
そう思った中澤は市井に話し掛けようとした。
「おーい、紗耶・・・。」
市井を呼ぼうとしたときだった。
- 21 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)09時20分08秒
- 「裕ちゃ〜ん!」
中澤が呼ばれた。
「今日はなっちと一緒に出撃してくれるんだべ!
やっぱり、ここに不慣れななっちのために司令官がそうしてくれたべかな?」
「そうや。今日はうちがいっしょやで!心強いやろ!」
安倍に話し掛けられた中澤は、つい市井と後藤の事を忘れてしまった。
そこに市井が来た。
- 22 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)09時20分52秒
- 「後藤をよろしくお願いしますよ。なっち♪」
市井が安倍に話し掛ける。
安倍はちょっとすまなそうな顔で市井に答える。
「なっちは二人のこと考えずに、つい言っちゃったんだけど・・。
その・・、後藤のことなんだけど・・、
二人は開戦の時からのコンビじゃん。やっぱり無理だったら・・・。」
「・・・そんなこと無いよ。後藤だって、あたしの下だけじゃなくて、
いろいろな人の技術を吸収して、大きくなるべきだよ・・、うん。」
市井は安倍にというよりも、自分に言い聞かせるように言った。
「それが後藤のためだよ。」
ちょっとさびしそうな市井だった。
- 23 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)09時21分26秒
- 「頑張ってね。後藤。」
コクピットに座る後藤に話し掛ける市井。
「・・・・・・・・。」
何も言わない後藤。
しばらくしてやっと後藤が口を開く。
「今日はいち〜ちゃんがいないから寂しいなぁ〜・・・。」
「ばかっ!ほんの2時間くらいじゃん!何言ってるの!」
『本当はあたしだって寂しいんだよ!後藤と一緒じゃないから・・。あたしの気持ちも分かれよ!』
「元気で行ってきな!」
市井は優しく後藤のほほにキスをした。
「うん!」
「そうそう!その調子!」
- 24 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)10時06分00秒
- 6機の戦闘機は出撃していった。
今日の出撃が無い市井は搭乗員待機所にいた。
本を読んでる。
本を読むのをやめる。
腕時計を見る。
また本を読む。
また本を読むのをやめる。
洗面所に行く。
うろうろうろうろ・・・。
「紗耶香!」
背が高く、黒髪の綺麗な女性が怒る。
飯田だ。
「・・・・・・・。」
市井は元気が無い。
心ここにあらずといった感じだ。
「紗耶香・・・。まるで子供の帰りを待つ親みたいだよ〜。」
飯田に注意される。
『そうだよ・・。』
市井はふてくされる。
まだ出撃して1時間ちょっとしかたってない。
『帰ってくるまで後1時間くらいかなか・・。』
- 25 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)10時06分54秒
- 「無理しないほうがいいですよ・・。」
心配した石川が言った。
「帰ってきたら安倍さんに言って後藤さんを返してもらったほうがいいですよ。
お二人はいいコンビだったじゃないですか。」
「そうだよ、そのほうが二人のためだって。」
石川だけでなく、飯田にも言われる。
「気心の知れた部下なんて、そうそう見つかるもんじゃないですよ。」
『そうだね・・。』
二人に言われた市井はやっぱり後藤を帰してもらおうと思い始めていた。
「帰ってきたぞ〜!」
見張り員の声が聞こえる。
『帰ってきた!後藤!やっぱりあたしと組もう!』
市井は急いで滑走路を目指して走っていく。
遠くからエンジン音が聞こえてくる。
市井はいち早く滑走路に行き、帰還してくる編隊を見上げた。
そして気づいた。
- 26 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)10時07分45秒
- 『一機足りない!』
誰かが叫んだ。
「第一小隊の二番機がいない!」
「二番機が足りないぞ〜!」
「どうした二番機は!」
皆が口々に叫ぶ。
『第一小隊の二番機は・・・、二番機は・・・。』
市井は頭の中が真っ白になった。
- 27 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)10時08分26秒
- 滑走路に着陸してくる編隊に必死に駆け寄っていく市井。
誰がどう数えても5機しか戻ってきてない。
出撃した時は6機。
いないのは・・、帰ってこないのは・・。
着陸して、滑走する第一小隊一番機に駆け寄る。
『後藤〜!後藤〜!』
後藤がいない。
後藤が帰ってこない。
後藤が帰ってきてない。
- 28 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)10時08分59秒
- 滑走路の端で一番機が駐機する。
先頭の機体から額に出血している安倍が降りてきた。
駆け寄る市井。
安倍がうつむいて言った。
「ごめん、紗耶香・・・。ごめん・・・。」
- 29 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月15日(日)12時13分40秒
- 後藤〜〜!!
続きが気になる〜〜!!
- 30 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月15日(日)13時02分23秒
- 続き気になる・・・。
おもしろいっす。
- 31 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月15日(日)15時02分50秒
- 鳥肌たって泣いちゃったよ・・・。
すっげぇ展開がうまい。
- 32 名前:ティモ 投稿日:2000年10月15日(日)17時36分05秒
- これ好き〜!
- 33 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月15日(日)19時50分46秒
- なんてところで止めるんだ・・・
続きが気になる。
- 34 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)23時02分41秒
- 「一瞬の出来事やった・・。」
集まってきた人たちの中で最初に口を開いたのは中澤だった。
「見張りを厳にして、敵地上空に入ったんや・・。
そん時、敵機が上空から降ってきて・・・。後藤は・・・・。」
搭乗員待機所に皆が揃っていた。
後藤が帰ってこなかった。
確かに今は戦争中だ。
毎日のように誰かが帰ってこない。
櫛が一本一本抜けるように、
一人、また一人いなくなる。
そんな状況に慣れていたかもしれない。
しかし後藤は特別だった。
市井との名コンビ。
その性格から、部隊みんなのマスコットのようなものだった。
その後藤が帰ってこなかった。
『未帰還』
その文字が大きく全員にのしかかる。
- 35 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)23時03分21秒
- 「よくも後藤を・・・。」
「くそう・・・・・・・。」
皆が口々に言う。
「後藤の仇をうってやろうよ!」
「そうだ!後藤の仇だよ!」
興奮する吉澤と飯田。
市井が口を開いた。
「いくら復讐だ復讐だって言っても勝てないよ!
いくら興奮しても飛行機はそれ以上の性能は出せないんだよ。
興奮すればするほど、まともに戦えない。
そうなったら、自分達が帰って来れないよ!
復讐なんて考えはやめな!」
市井が冷静な口調でそういうと、搭乗員待機所から出て行った。
- 36 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)23時04分08秒
- 「紗耶香冷たい・・・。」
「後藤はいつも紗耶香と一緒だったじゃん・・・。」
「ひどいよ・・・。」
吉澤や加護たちが口々に言う。
辻は今にも泣き出しそうだ。
それを見て中澤は言った。
「あんたら本当にそう思ってるん?」
皆は何を言ってるんだろうという目つきで中澤を見る。
「あんたらは・・・、あんたらは・・、紗耶香が・・。本当に辛いのは紗耶香なんだよ!」
- 37 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)23時05分46秒
- 搭乗員待機所を出た市井は後藤の部屋へ向かっていた。
いままでの出来事が市井の頭の中で反芻する。
『いち〜ちゃん♪』
後藤の声が聞こえてくる気がする。
市井は後藤の部屋に入った。
ここは戦場だ。
いつ命を落としてもおかしくない搭乗員。
皆、荷物は少ない。
洗面用具、下着等の着替えくらいだ。
市井は後藤の荷物を見て驚いた。
「こいつ・・、なにこんなにいっぱいの荷物・・・。」
後藤のバックを次々開けてみる。
いろいろ入ってる。
「戦場にこんなに物は必要ないだろ〜・・・。何やってんだか・・。」
「あれ?これあたしのブラシじゃん・・。無くなったと思ってたのに・・。」
「ん?これあたしのシャツじゃん!あのやろ〜。」
「あたしの物ばっかりじゃん!何やってんだよ!もう!帰ってきたら承知しないぞ!」
「帰ってきたら・・・?帰ってきたら・・・・・・・。」
後藤はどんな激戦でも必ず自分の後にいた。
どんな時でも必ず一緒にいた。
そんな後藤に自分は肉親以上の愛情を持っていた。
それはきっと後藤も一緒だったろう。
『今日はいち〜ちゃんがいないから寂しいなぁ〜・・・。』
後藤・・・・。
どこほっつきあるってるんだよ。
帰って来いよ・・・。
「もう後藤を放さないから、戻ってきてよ〜!!」
今になって後藤が帰ってこないことに対する感情が湧きあがってきた。
後藤・・。
「後藤〜!!」
わずか2時間程度離れただけで、
それが永遠の別れとなってしまった。
- 38 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)23時06分49秒
- それから一月後、
被弾して重傷を負った市井は
内地へと療養のために帰って行った。
市井がいなくなった頃から戦争はより一層激しくなっていった。
次々と仲間を失った。
吉澤を撃墜した敵機を追って行ったきり、帰ってこなかった石川。
加護は味方基地上空で、
矢口と辻は味方攻撃隊護衛中に
保田は敵基地上空で散った。
安倍は被弾して燃えながら敵艦に突っ込んだ。
飯田は整備不良が原因の事故で殉職した。
平家は基地が奇襲攻撃にあった時、
周りの人が止めるにもかかわらず、無理やり出撃して
滑走中に機体が被弾炎上した。
「自分は絶対落とされへん」と言っていた中澤も
たまたま輸送機で移動中に輸送機が撃墜されて帰らぬ人となった。
- 39 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)23時08分06秒
- 何とか傷が癒えた市井は前線復帰した。
そして撃墜数を増やしていった。
しかしながら、戦争は終わった。敗戦という形で・・。
市井は翼を失った。
- 40 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)23時09分34秒
- 戦争が終わって40年以上が過ぎた。
市井は、かつて激戦を繰り広げた場所にやってきた。
平和だ。
あの激しかった戦いの跡はまったく残っていない。
わずかながらここに飛行場があった事だけは分かる。
その程度だった。
何も無かった。
しかし市井には見えていた。
『いち〜ちゃ〜ん♪』
笑いながら自分に駆け寄ってくる後藤。
微笑みかける石川。
『今まで何やっとたんや!遅いで紗耶香!』
中澤が怒る。もちろん顔は笑っている。
安倍が、飯田が、吉澤が、辻が、
加護が、平家が、矢口が、保田が、
微笑みかける。
市井は大きな声で言った。
「みんな!紗耶香は帰ってきたよ!」
完
- 41 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)23時12分55秒
- 作者でございます。
読んでいただきありがとうございました。
中には気づいた人もいると思いますが(15さんとか)、
この話は、実話に基づいて書きました。
- 42 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)23時18分06秒
- ネタをばらすと、この話は坂井三郎と言う旧日本海軍のパイロットの話なんです。
坂井三郎氏と、その部下の本田敏秋氏の話を市井と後藤に置き換えて作りました。
先日、その坂井三郎氏が84歳の生涯を閉じられたのを機会に、
昔の本を読んでいると、この二人の関係が、市井と後藤にダブったので
書いてみました。
そういうわけで、
撃墜王坂井の話を、パクって・ごほっごほっ!・・、失礼、モチーフにして
書かせていただきました。
- 43 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)23時20分29秒
- 最後は急に終わらす形となってしまいましたが、
読んでくださった方々、ありがとうございました。
ただの自己満足小説みたいで、申し訳ありませんでした。
- 44 名前:15 投稿日:2000年10月15日(日)23時26分55秒
- 「半田飛曹長の涙」ですか・・・やっぱり。読んだ瞬間分かりました(ワラ
この話は僕も大好きですが一番哀しいお話ですね。ま〜さんは一体おいくつ?
ちなみにぼくは22才ですが・・・
- 45 名前:ま〜 投稿日:2000年10月15日(日)23時36分04秒
- >15さん
やっぱり分かりましたか♪
自分は28歳です。
ちなみに、市井と後藤以外は
半田飛曹長=安倍なつみ
西沢広義=中澤裕子です。
- 46 名前:!? 投稿日:2000年10月15日(日)23時45分15秒
- 感動・・もう今半泣き状態です。
またなんか書いて下さい、泣きそう。
- 47 名前:15 投稿日:2000年10月15日(日)23時53分38秒
- あ、やっぱり年上の人でしたか。自分よりまさか若い人ではないだろうと
思ってましたが。僕は父がこの本が好きだったので小6の頃よく読んでました。
で、石川が笹井中尉ですか?(まったく知らない人ごめんなさい)
- 48 名前:ま〜 投稿日:2000年10月16日(月)00時00分26秒
- >47
そうです。笹井中尉=石川です。
この人は、誰にしようか悩みました・・。
- 49 名前:ま〜 投稿日:2000年10月16日(月)00時01分16秒
- >46さん
ありがとうございました。
感動できるものを書きたかったんで・・・。
- 50 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月16日(月)01時34分39秒
- 感動できる話を有り難う。
- 51 名前:ミラクルン 投稿日:2000年10月18日(水)08時04分52秒
- 久しぶりに涙がこぼれました。
ぜひ、原作の方も読んでみたいと思います。
ありがとう。
お疲れ様でした。
- 52 名前:小娘 投稿日:2000年10月27日(金)02時20分55秒
- 自分も、坂井三郎氏、好きでした…。市井ちゃんという共通点があると、好きなものの
ツボって、似てくるんでしょうか…。ちなみに、私は、24歳です。
漫画ですが、新谷かおる氏の「砂漠の薔薇 デザート・ローズ」も、おすすめっス。マリー=後藤、ヘルガ=市井かなあ…なんか違う…。
- 53 名前:52小娘 投稿日:2000年10月27日(金)02時22分24秒
- 同新谷氏作品の「エリア88」と間違えました…失礼。(どっちも好き)
- 54 名前:ま〜 投稿日:2000年10月29日(日)22時22分36秒
- >小娘さん
「エリア88」は自分も好きでしたよ。あれは名作でしたね。
新谷かおる氏のシリーズはいろいろ読んだな〜。
「ファントム無頼」とかも好きだったし・・。
若い人は知らないかな?
- 55 名前:ま〜 投稿日:2000年10月29日(日)22時23分54秒
- 番外編として、小話を書きます。
- 56 名前:ま〜 投稿日:2000年10月29日(日)22時24分29秒
- 『くっ・・!』
声にならない声をあげる市井。
ペダルを踏み込み、スロットルを絞る。
操縦桿を引く。
強烈なGが掛かり、機体が急旋回をする。
大地と空が逆転し、
一気に敵機の背後に回りこんだ市井の機体。
両翼の機銃が火線が延び、それが敵機に吸い込まれる。
『ふぅ〜、今日の2機目!』
周りを見渡すと、敵機の姿はほとんど消えている。
周囲にいるのは味方機ばかりだ。
- 57 名前:ま〜 投稿日:2000年10月29日(日)22時25分37秒
- 『今日も勝ちだな。』
つぶやく市井。
その時、すっと市井の機体の左右に並ぶ機体がある。
中澤と保田の機体だ。
『やりますかい?』
市井が手信号で中澤と保田に合図する。
『やろうぜ!』
『やろうよ!』
二人が笑いながら合図を送る。
3機の機体は、敵飛行場に向かっていった。
- 58 名前:ま〜 投稿日:2000年10月29日(日)22時26分17秒
- その日の午前中、市井は中澤と保田に話を持ちかけた。
「ちょっと面白いこと思いついたんだけど。」
「なんや?」「何?」
二人が反応する。
「あたし達の部隊って、あきらかに敵より技量がいいよね?」
「あったりまえやんか!うちらは最強やで!」
中澤がにやりと笑う。
「そうだけど、なんなの?」
保田が怪訝そうな顔で市井を見る。
「ちょっとやってみたいことがあるんだけど・・。耳貸して・・。」
- 59 名前:ま〜 投稿日:2000年10月29日(日)22時27分00秒
- 「おもしろそうやん!」
「やってみよ!やってみよ!」
中澤と保田は市井の提案に乗った。
「じゃあ、今日の午後の出撃で!」
「よっしゃ!」
三人は、ニヤニヤしていた。
- 60 名前:ま〜 投稿日:2000年10月29日(日)22時27分35秒
- 「いち〜ちゃん・・、何かたくらんでるでしょ・・?」
出撃前に後藤が話し掛けてきた。
「別に・・・。」
そっけなく振舞う市井。
「絶対何かたくらんでるよぉ〜・・。」
後藤はふてくされる。
「しょうがないな〜・・。」
市井は後藤の耳元で
先ほど中澤と保田に提案したことを話した。
「え〜〜!!!ばれたら大目玉だよ!」
「し〜・・。声がでかい!」
市井が後藤の口をふさいだ。
『って言うか、撃墜される危険性とか考えないのかね、こいつは・・。』
苦笑いする市井。
「まあ、そんな訳だから、空戦後は別々ね♪」
「ぶ〜・・。」
またふてくされる後藤。
- 61 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月29日(日)22時56分54秒
- やった!またあの二人が見れる!!
- 62 名前:15 投稿日:2000年10月29日(日)23時22分06秒
- 太田ニ飛曹が保田なんて・・・
3の文からだと、矢口だと思ってました。
- 63 名前:ま〜 投稿日:2000年10月30日(月)07時37分58秒
- >61さん
はい、ちょこっと登場です。
>15さん
がびょ〜〜ん!
鋭すぎる・・・、これだけの文章で分かるとは・・。(藁
それからすいません、確かに3の文を読むと、矢口ですね・・。
なんとなく書いてしまったので、気にとめなかったんです・・。
すいません。確かにおっしゃるとーりです・・・。
- 64 名前:ま〜 投稿日:2000年10月30日(月)07時38分40秒
- その日の午後の出撃。
空中戦が終わった後に、三機は集まった。
『行くよ!』
三機は大胆にも敵飛行場の上空にやってきた。
敵は空中戦での敗北のため士気が落ちてるのか、
対空砲を撃ってくる気配は無い。
敵飛行場上空3000メートル。
- 65 名前:ま〜 投稿日:2000年10月30日(月)07時39分21秒
- 三機は敵の飛行場めがけて急降下をはじめた。
敵飛行場がぐんぐん大きくなってくる。
旋回性能は抜群だが、
急降下性能のあまり優れない機体のバランスを取る。
市井は操縦桿を引いた。
すっと、市井の機体が上昇に入る。
中澤と保田も操縦桿を引き、市井の機体に追従する。
糸で結ばれているかの如く、三機は縦旋回に入った。
回る。
三機の編隊は、まったく崩れない。
さらにもう一回転。
猛烈なGが三人の体を襲う。
Gの影響で体中の血液が足のほうに流れる。
目の前がやや暗くなる。
そしてさらにもう一回転。
三機編隊での連続空中三回転。
大技を終えた三機は水平飛行に入る。
- 66 名前:ま〜 投稿日:2000年10月30日(月)07時40分03秒
- 足に流れた血液が頭部に戻ってくる感覚。
三機の編隊は空中回転を終えた後も、
まったく崩れていなかった。
お互いを見て、にやりと笑う三人。
市井が他の二人に向かって、一本指を立てる。
『もう一回やろ!』
『よっしゃ!』
『いいね!』
手で合図を送る。
『今度はもっと低い高度で!』
- 67 名前:ま〜 投稿日:2000年10月30日(月)07時41分08秒
- 2000メートルの高度を取っていた3機は、
再び急降下をはじめた。
高度500メートルで、
もう一度、連続編隊宙返りを3連続で行う。
敵の兵士か、パイロットかは識別できないが、
市井の目には、敵の人間達が唖然としながら
三人の妙技に見入っているのが見えていた。
『やっり〜!』
市井は、中澤と保田を見る。
二人とも歯を見せて笑っている。
市井は二人に向かった親指を立てた。
- 68 名前:ま〜 投稿日:2000年10月30日(月)23時47分19秒
- 「お前らの技量がいいのは分かってる!
だが、二度とこんなことをするな〜!!」
帰還した三人は、案の定基地司令に大目玉を食らった。
誰が基地司令に言ったのかは分からないが、
後藤のへらへらしている顔を見ると、
誰が喋ったのかは大方察しがついた。
「いち〜ちゃ〜ん、怒られちゃったね♪」
へらへら笑いながら後藤が市井に駆け寄って来る。
「ばかっ!どうせ後藤が喋ったんだろ!」
「知らないも〜ん♪」
中澤と保田はそんな二人を微笑ましく見ていた。
- 69 名前:ま〜 投稿日:2000年10月30日(月)23時48分11秒
- 「敵機来襲〜!!」
翌日の午前中、見張り員の声が基地中に響き渡った。
『まずい!奇襲攻撃か?』
全員の顔に戦慄が走る。
「敵機単機!高度500!」
再び見張り員が叫んだ時、
『なぜ単機?』
市井の中に疑問が湧いた。
- 70 名前:ま〜 投稿日:2000年10月30日(月)23時48分52秒
- 敵機は、あっという間に基地上空に達していた。
皆が戦闘機に搭乗する間もなかった。
しかしながら敵機は物凄いスピードで基地上空に突入してくると、
何かを飛行場に投下して、
飛び去ってしまった。
『?!?』
全員が何が起きたか分からなかった。
てっきり敵の奇襲攻撃かと思っていたが、
敵機は攻撃もせずに帰っていった。
- 71 名前:ま〜 投稿日:2000年10月30日(月)23時49分29秒
- とりあえず、全員が敵機の投下していったものを眺めながら、
何がおきたのかさっぱりわからない状態だった。
味方の兵が、慎重にそれを拾いに行く。
爆発物ではないようだ。
「いち〜ちゃ〜ん!」
後藤が何か紙のようなものを持って市井の元へ駆け寄ってきた。
「敵が落としていった物だって。」
それは敵機が投下していったものだった。
- 72 名前:ま〜 投稿日:2000年10月30日(月)23時50分43秒
- 『昨日の編隊宙返り、まことにお見事。
次に来られる時は、緑のマフラーをしてこられたし。』
敵機が投下していったものには、そう書かれていた。
- 73 名前:ま〜 投稿日:2000年10月30日(月)23時51分55秒
- 「敵にも冗談が通じる奴がいるんじゃん。」
市井は呟きながら、その紙を中澤と保田に見せた。
「次回は容赦しないってことやな♪」
「そういうことみたいね♪」
三人は笑っていた。
そんな三人に後藤が申し訳無さそうに言う。
「それからさぁ〜・・、いち〜ちゃん、裕ちゃん、圭ちゃん、
基地司令が呼んでるって・・。」
「「「げぇ〜〜・・・・。」」」
それはまだ、戦争が恐るべき消耗戦の一途をたどる、
ほんの2ヶ月ほど前の出来事だった。
パイロット紗耶香番外編 終り
- 74 名前:15 投稿日:2000年11月01日(水)00時14分54秒
- お疲れさまでした。
実は一番最初の話もあのレスつけた時に内容は
だいたい気づいてましたけど、内緒って言われたので
黙ってました(ワラ
次回作も期待してますのでがんばってください。
- 75 名前:ココス轟 投稿日:2000年12月11日(月)06時48分00秒
- 知ってる人にはたまらない作品ですね。
(岩本徹三著書「零戦撃墜王」もおもしろいですよ。)
- 76 名前:いずのすけ 投稿日:2000年12月13日(水)10時08分34秒
- おもしろかったっす!!
原作も読んだことあったので。
またおもしろいもの書いてくださいね!
- 77 名前:ココス轟 投稿日:2001年03月08日(木)02時33分27秒
- ま〜さんどこいったなかな?
次の作品、あるなら見たいんですが・・・
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