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a little bit
- 1 名前:あるみかん 投稿日:2000年11月12日(日)21時29分20秒
- 赤版で長めで重いのをやっているので短めでお手軽な雰囲気のものを書いて行きたいと思います。
ということでまず、加護中心の話です。
むこうとは全く切り離して読んでいただければ幸いです。
- 2 名前:あるみかん 投稿日:2000年11月12日(日)21時30分48秒
- あ、青に書いたつもりなのになぜか赤版に・・・・・・
でも・・・・・・とりあえず立てちゃったのでこっちでスタートします。
- 3 名前:子供の言い分 投稿日:2000年11月12日(日)21時32分34秒
- よっすぃーは今日もかっこいい。
皮のスカートに紫のノースリーブ。15歳やのにむちゃ大人っぽい。それにくらべて……
はあ、と声になるくらい大きなため息をつく。うちの衣装はなんやねん。襟もとのピラピラしたフリルと赤いチェックのスカートを見る。今日もロリロリ(少女趣味ていう意味らしい、中澤さんが教えてくれた。)全開や。まぁキャラ的にしゃーないっていえばしゃーないんやけど、気にくわへん。
原因はわかってる。今日は雑誌のグラビア撮影や。
「いや、ホント吉澤と石川は絵になるねえ。」
向こうでよっすぃーと梨華ちゃんが2ショットでポーズをとっている。
ムカッ。なんやねん、なんやねん、なんやねん!!うちじゃ絵にならんいうんかい!!
と言ってはいるけどホンマはうちもわかってんねん。梨華ちゃんとよっすぃーはほんまに絵になってる。それにくらべてうちとよっすぃーはいいとこ仲のいい姉妹。下手すりゃ日少女一人とそれにじゃれつくマスコットや。
悔しい。早く大きくなってよっすぃーの横に並びたい。お母さんは、もうちょっとしたら亜依は背が伸びるわよっていうけど今すぐおおきくなりたいねん。
なーんて思ってると撮影が一段落したみたいや。よっすぃーは飲み物を受け取るとパイプイスに腰掛けた。隣はあいてる。ダッシュや、うかうかしてると梨華ちゃんに先を越される!!
- 4 名前:子供の言い分 投稿日:2000年11月12日(日)21時33分20秒
- って、し、しまった〜。やっぱり距離的に無理があったか。ちゃっかり梨華ちゃんはよっすぃーの隣の席をゲットしていた。一足遅かったか……
近くにきたうちに気が付いてよっすぃーは顔を上げた。
「座りたいの?かわろっか?」
アホ、よっすぃー。よっすぃーが立ってうちが座っても意味ないねん。がっかりした表情でうちは言った。
「いい……よっすぃーも疲れてるやろうし……」
「そう?……あ、そだそだ。」
ポムポムとよっすぃーは自分の膝の上を叩いた。
「先着1名様に限り。スペシャルシート!!」
え……?
なんや?
うちがきょとんとしているとよっすぃーはもう一度同じように膝の上を叩いて「おいで」といった。
ちょこんとその上に乗っかる。重くないかなとよっすぃーの顔色を伺う。
「加護はちっちゃいからへーきへーき。でも、そのうち大きくなっちゃうだろうなぁ。」
よっすぃーの手がうちの腰にベルト代わりにまわされてもたれた背中から暖かさが伝わってくる。
……もうちょっと子供のままでも悪くないかもしれへんな。
了
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月13日(月)02時48分25秒
- あ、なんかいい感じ
- 6 名前:子供の言い分2 投稿日:2000年11月15日(水)20時50分15秒
- 「お父さん、あれなにやってんのん?」
うちはテレビを指差して聞いた。なんや、1位指名がどうのこうの、今年の巨人は投手を中心にどうこうとか、なんとか大学の選手に人気が集中だのいっている。
「ああ、ドラフト会議や。」
テレビを見てぽりぽりお菓子を食べながら「ドラフト」っちゅうもんを説明してくれた。要するにあれやな、チーム決めするときにあの子がええとかこの子がええとかいう話し合いのことらしい。
自分達のチームのメンバーを自分達で決めるんか……
なんてええ方法何やろう!!
うちは自分の思いついた提案の素晴らしさに酔った。早速明日、中澤さんに提案や!!
- 7 名前:子供の言い分2 投稿日:2000年11月15日(水)20時50分50秒
- 「ドラフト?」
なにいうねんこの子は、という顔を中澤さんはした。
「へい!ドラフトです!!」
うちは自分の考えを説明した。泊りがけの仕事のとき部屋はいっつも勝手に割り振られたもんや。新人4人がセットにされるんはしゃーないにしても2人ずつのときは必ずよっすぃーと梨華ちゃん、うちとののちゃんや。別にののちゃんが嫌なわけや無いけどたまにはうちもよっすぃーとサシ(1対1という意味らしい。中澤さんが教えてくれた。)で語り合いたいねん。それに、よっすぃーと梨華ちゃん、最近怪しいって噂で持ちきりや。これは、なんとかせなあかん!
「ん、ええかもなぁ。」
予想通り中澤さんは快諾してくれた。名目上はよりメンバー同士の交流が深まるようにっていうことやったけどホンマは矢口さんを指名してイチャイチャしようっていう下心が見え見えや。
- 8 名前:子供の言い分2 投稿日:2000年11月15日(水)20時51分51秒
- 「ほな、早速みんな楽屋に集まってることやし、来週からのツアーの部屋割り決めよか。はーい、みんなちゅうもーく!!」
パンパンと手を叩いてみんなに話を聞く態勢を取らせる。
「………っていうわけや、みんなわかったな?」
趣旨を説明しおわるとくじ引きで指名順を決める。幸い誰も反対してへんからスムーズに進む。通常の会議と違って指名するものとされるものがダブっているのがややこしかったけど細かいことは気にせず臨機応変に対応したらええんや、と中澤さんは言いきった。どうやら、自分が矢口さんをゲットできればそれでええらしい。ま、ええわ。うちの指名順は6番目や。ま、かちあったらくじ引きで運の勝負や。けどこうみえてもダテに商店街の福引をお母さんとやり倒したわけやない。がんばるで。
「ほな、まず石川。」
中澤さんが梨華ちゃんを指す。
「……よっすぃー…」
それじゃ、いつもと一緒やんけ!ちょっとは流れってモノを考えて遠慮せんかい!!と突っ込みたかったけどしゃーない。勝負は勝負やからな。まあ、梨華ちゃんがよっすぃーを指名するんは予想しとったけどな。
- 9 名前:子供の言い分2 投稿日:2000年11月15日(水)20時52分37秒
- 「ほい、石川は吉澤な。じゃ、次、ごっちん。」
「よしこ。」
むむっ。これも予想しとったけど確率1/3やったら当たりクジを引き当てる自信はある。実質うちら3人のうち1人は通称不幸少女梨華ちゃんやから、実際の所は1/2やろう。
「おー人気あるなー吉澤。じゃ、次な辻!」
「よっすぃーがいいです。」
3人連続のよっすぃーの指名におおーっという声が起こった。なんや、ののちゃんもよっすぃーかい。うちのこと指名してくれるとおもてたのに、そんなにうちとの同室はいややったんか……と自分のことはそっちのけでののちゃんのよっすぃー指名はショックやった。
しかし、ヤバイ、ヤバイぞー。ハロモにのカラオケコーナーを見て分かるようにののちゃんは必ずおいしいとこをもってくんや。さすがのうちのクジ運も暗雲立ちこめてきた。
「えー、じゃ辻も吉澤……と。」
1つの名前しか出てないんやからかかんでもわかるんやけど律儀に中澤さんは楽屋にあったホワイトボードに指名した人とされた人の名前を書き込んでいく。
「ほい、それじゃ………矢口!!」
- 10 名前:子供の言い分2 投稿日:2000年11月15日(水)20時53分21秒
- わかっとるやろうな、といわんばかりの目で中澤さんは矢口さんを指す。自分の名前を言えといいたいんやろう。しかし、矢口さんは満面の笑顔で、
「よっすぃー!!」
と言い放った。ガーンという音が聞こえてきそうな程中澤さんはショックをうけてるみたいやった。ショックなんはうちも同様でさすがに1/5を引き当てる自信は無い。いや、1/5ならまだしもここまでよっすぃーに人気が集中してるくらいや。ノーマークやったけど安倍さん、飯田さん、保田さんかて油断できへん。あかん!なんとかしなきゃ!
「ちょーっと待ってくれるかっ?」
うちが言い出す前に中澤さんが口を開いた。中澤さんもなんとしても矢口さんをゲットしたいらしい。
「こ、こんだけ集中すると思わんかったからくじ引きの数たらへんねん。順番ちゃうけど先に吉澤!あんた先言い!」
- 11 名前:子供の言い分2 投稿日:2000年11月15日(水)20時54分07秒
- クジゆうたってあみだクジなんやから線書き足したらええだけやん、と思ったけれど黙ってよっすぃーの様子をうかがった。
よっすぃーは困ったようにメンバーを一通り見まわすと視線を止めていった。
「わたし………加護がいい。」
うお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
うちは万歳サンショウ(運動会でならった)をして踊り狂った。
あっはっはー!そやそや、忘れとった。ドラフトには逆指名っちゅう素晴らしいものがあったんや!!高校生はできんとかホンマは色々制限あるらしいけどそんなん娘。には関係あるかい!!ライバルたちのこの表情!!勝つってことはなんて気持ちがええんやろう。安倍さん、飯田さん、保田さんも悔しそうな顔をしてる。やっぱしよっすぃー狙いやったんや、いやいや危ないとこやったわ。戦いに名乗りをあげることすらできんかったんには同情するけどま、うちのせいやないしな。
それにしても笑いがとまらん。
あははっ!
あははっ!
アハ―――――――――――バンザーイ!!バンザーイ!!バンザ……
………………………
「お、お父さん……亜依が……寝ながら大笑いしてるんだけど………どうしましょ……」
スポーツ新聞をめくりながら面倒くさそうに答える。
「……ほっとけ。」
- 12 名前:あるみかん 投稿日:2000年11月15日(水)20時56分15秒
- >5さん どうもありがとうございます。調子に乗って第2弾(笑)
勝手に加護父、加護母を登場させてしまいました。実際はどんなひとなんだろう・・・
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月15日(水)21時59分42秒
- 最高っす(笑)
加護ちん、本当にかわいいなぁ。
あるみかんさんの書くお話はすごく面白くて大好きです^^
- 14 名前:あるみかん 投稿日:2000年11月18日(土)09時42分26秒
- >13さん さらに調子に乗って第3弾の加護・吉澤コンビです。楽しんでいただければ。
- 15 名前:子供言い分3 投稿日:2000年11月18日(土)09時43分43秒
- 「亜依、明日も早いんだろ。もう、寝なさい。」
いつものようにお父さんはお菓子を食べてはスポーツ新聞を片手にテレビを見てる。なんや、自分やて早いくせにうちだけ寝かせようとする。今日のワンダフル、いまどき恋愛心理の特集やったからちょっと見たかったんやけどな………ま、12時にはみんな寝るからその後そおっと見ればええわ。
- 16 名前:子供言い分3 投稿日:2000年11月18日(土)09時45分25秒
- 「こんにちはっ。チャーミー石川でーす。」
ああ、眠いわ。結局最後まで見てしもうたから睡眠不足や。幸いこのコーナーはうちの出番無いからちょっと楽屋で寝てこよう。
「あ、駄目駄目。加護ちゃんいてくんないと。」
うちが行こうとするとスタッフの1人が慌てて止めに入ってきた。なんやねん。
ふと周りを見るとののちゃんも矢口さんもおる。後藤さんも次のカラオケまで出番待ちのはずでいつもならさっさと睡眠中なのにだるそうに起きている。眠いんやけど、っていうとまあまあ…となだめられてオレンジジュースを渡された。うちはガキかっちゅうねん。あ、でも美味しいわ。
「えー、このコーナーはモーニング娘のおねえさま方に色々なことにチャレンジしてもらおうというコーナーです。」
おお、梨華ちゃんもなかなか板についてきたやん。と呑気に傍観する。
「さてっ!!今週は……なななんと〜ラブシーンに挑戦しちゃってもらいます!!といっても男の人相手だとファンの皆さんもショックでしょうからぁ、今回お手伝いしていただくのはミニモニの皆さんと、カラオケの司会だけじゃ寂しい後藤さんです!!」
ぶーっとうちはジュースをはいた。
ゲホッゲホッ………ひぃ……ゼェ……、ハァ……か、果汁は鼻にきたらめちゃつらいねんで。ってそんなことはどうでもええんや。なんやっちゅうねん。
- 17 名前:子供言い分3 投稿日:2000年11月18日(土)09時46分58秒
- ……おいおいなんでみんなそんな素直に行ってしまうんや。
うちが躊躇してるとミニモニリーダーの矢口さんが「仕事だから、ね。」と言ってきた。変に駄々こねて子供やと思われるんは嫌やったから渋々従う。
クジで中澤さんにののちゃん。保田さんに後藤さん。飯田さんに矢口さん。うちの相手は安倍さんや。比較的マトモな人があたってよかったわ。中澤さんは「さすがに、中学生には下手なことできへんしな。」と悔しそうに言った。一体、矢口さんがあたったら何するつもりやったんやろう。我がリーダーの貞操(女の子にとってとても大切なもの。と中澤さんが教えてくれた。)が守られたことにうちはほっと胸をなでおろした。
「それでは、皆さんの御健闘をお祈りしつつ………フェードアウ……」
台本どおり梨華ちゃんがエセ欽ちゃん走りで消えようとすると「ちょっと待ちいや!!」と中澤さんが呼びとめる。
中澤Vs石川はここ最近のお約束や。
「なにがフェードアウト〜や。なんでいつもいつもうちらだけやらなあかんねん。チャーミーもやれっ。」
「そんなぁ〜。」
へいへい。それで。チャーミーはできませ〜ん、やろ?ええからさっさと進めようや。うち眠いねん。
- 18 名前:子供言い分3 投稿日:2000年11月18日(土)09時47分50秒
- ところがここからの展開が違った。
「………わかりました…」
さも、中澤さんが恐いので仕方なくという雰囲気をかもしだしながら梨華ちゃんはうなづいた。
「よっしゃ、やっぱこういうんはみんなで仲良くやらんとな!!」
満足そうに中澤さんは頷いて定位置に戻る。
ま、マンネリせんようにこういう展開もありなんやろうな。
………ん?みんなで?
それぞれペアの人間が隣につく。うちはどうもすっきりせん頭を抱えながら安倍さんの隣につく。
スタッフが大声で言う。
「吉澤のコーナーの撮り終わったんで今入りマース。」
あ、よっすぃーや!ちぇけらっちょの撮影でおらんかったからうち寂しかったんやで!!わーい、遊んで遊んでっ!!
うちはこっちこっちって手招きする。なのにスタッフになにか説明を受けながら歩いてきたよっすぃーはまっすぐ梨華ちゃんの隣にいった。
- 19 名前:子供言い分3 投稿日:2000年11月18日(土)09時49分23秒
- !!!!!!!!!!!
うかつやった。うちらは10人やから、必然的に余った梨華ちゃんのペアはよっすぃーになる。最初から全員でやることになってたらこうはならんかったはずやのに。
うちが拳を握り締めていると、ぬけぬけと「私も急に言われて困っちゃってるんだ、よっすぃー……仕事だから仕方ないよね」という梨華ちゃんの声が聞こえてきた。
…おのれ、石川
この確信犯め!!
このままひきさがってたまるかいっ!!
- 20 名前:子供言い分3 投稿日:2000年11月18日(土)09時50分21秒
- うちが握り締めた拳を振りかざし2人の所に行こうとするとものすごいちからがうちを押さえつけた。
「駄目よ、加護ちゃん。もう、本番なんだから自分の位置にいないと。多分30分くらいで終わるからトイレは我慢しよう、ね?」
違うんや!!離してくれ!!じゃないと、よっすぃーがぁ、よっすぃーが―――――!!
「それじゃ、本番行きますね。」
うちの心の叫びを全く無視してカメラが回り始める。
「最初はキスシーンだって、加護ちゃん。」
どんどん安倍さんの顔が近づいて来る。その頭越しの後ろによっすぃーと梨華ちゃんの顔が見える。
こっちからみると後ろ向きのよっすぃーの顔に梨華ちゃんの顔が近づいている。
……うちの方をチラッと見ると梨華ちゃんは勝ち誇ったような笑みを浮かべて目を閉じた。
ぴったり重なる2人。
よっすぃ―――――――っ!!(涙)
長い!長すぎるっちゅうねん。
やめて―――――――っ!!
て―――――――っ!!
―――――――っ!!
――――!!
……………………
- 21 名前:子供言い分3 投稿日:2000年11月18日(土)09時51分15秒
- 「お、お父さん……亜依が……寝ながらうなされて涙流してるんだけど………どうしましょ……」
スポーツ新聞をめくりながら面倒くさそうに答える。
「……ほっとけ。」
- 22 名前:あるみかん 投稿日:2000年11月18日(土)09時54分32秒
- すいません。2、同様の夢オチ(突っ込まれる前に突っ込んでおこう)
しかし、この2人のコンビの話ってあんまりみないんですがどうなんでしょう?仲良さそうに見えるんですけどね。
もう1個の方は夜更新します。
- 23 名前:ばね 投稿日:2000年11月18日(土)13時10分42秒
- 楽しいですね、コレ。笑った。ほのぼのもいいなぁ。
いっそのこと、『娘。十夜』みたいな夢オチメインのネタ小説にしちゃってもいいんじゃないか、とか思ってみたり。
この二人は、いしよし炸裂だった「I wish」のP.V撮影密着の回の『アイさが』で、じゃれあってたことがありました。一瞬、加護、ほんとに吉澤のこと好きなんじゃないか?とか思えてしまったほどの甘えっぷりで。(w
- 24 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月18日(土)15時38分15秒
- いしかごも見たいな
- 25 名前:13 投稿日:2000年11月18日(土)21時36分31秒
- 面白い〜っ!
おのれ、石川。に、爆笑してしまいました。
加護ちゃんとよっすぃーと梨華ちゃんの三角関係って素敵すぎ。
あー、楽しかった♪
もう1つの小説の更新も楽しみにしてます。
- 26 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月18日(土)21時49分01秒
- 吉澤&加護、めちゃいいです。
こういう話好きです。
とくに加護が石川にライバル意識を燃やしてるとことか、なんかかわいらしい。
- 27 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月19日(日)20時33分30秒
- 面白いです、また書いて下さい
- 28 名前:あるみかん 投稿日:2000年11月23日(木)23時19分57秒
- 心配でしたが、吉澤&加護コンビを暖かく受け入れてくださって嬉しい。
「娘。十夜」は読みましたが、正直文章力に脱帽。見習いたいですね、また夢オチ使うかもしれませんがご了承ください・・・
加護はよく動いてくれるので書きやすいですね。石川との話は考えときます。
というわけで子供の言い分吉澤視点。
- 29 名前:子供の言い分〜side H 投稿日:2000年11月23日(木)23時21分46秒
- 頭が痛い……。
絶対風邪だと私は確信した。でも、グループ単位活動で少々の風邪くらいでいちいち休んでいてはキリが無いのでなんとか薬でごまかしながら乗り切っていく。
「大丈夫?よっすぃー……楽屋、今誰もいないからちょっと休んできたら?」
梨華ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。おせっかいでやだなって思うときもあるけどこういうときはありがたい。
「そうする……」
素直にその言葉に従い楽屋に向かう。ドアをあけると梨華ちゃんのいったとおり誰もいない。もちろんベッドなんかあるわけないから2人がけのソファーに身を投げ出す。
ふぇ〜、マジきつい……
熱のせいか薬のせいかはわかんないけどボーっとするのでとりあえず目を閉じてみる。
ガチャリ。
私が目を閉じたすぐ後にドアの開く音がする。誰だろう?
「ののちゃんのあめもらおーっと。」
………加護だ。
- 30 名前:子供の言い分〜side H 投稿日:2000年11月23日(木)23時22分32秒
- ばれないくらいうっすらと目をあけて確認する。辻のカバンを勝手にガサゴソ探っている。
「あった、あった。」
目的のものを見つけると吉澤にようやく気が付いたようで視線を向けたのできゅっと目を閉じた。
「ありゃ、よっすぃーいたんや。」
起きようかなと思ったけれど思いとどまる。元気なときならどんなときでもちょっかいをだしてきてからんでくる加護はかわいいんだけど体調不良となると話は別だ。さっきだって「ほんと調子悪いから」っていってるのに「そぅとぅ?」とネタを振られきっちりアクションまで付けて返してしまった。体に染み込んできた芸人根性が哀しい。
「よーっすぃー。ねとるん?」
そうです、そうです。寝てるんです。だから、おとなしく飴を持って行って下さい。頼むから今だけそっとしといてよ……飴をとったのは内緒にしておくから……
切実な願いもむなしくずんずん加護が近づいて来るのを感じる。
……ああ、これ以上私になにをさせようっていうんだよ〜。
- 31 名前:子供の言い分〜side H 投稿日:2000年11月23日(木)23時23分27秒
- フワッ。
あれ?あったかいや……
あ……加護の着てたジャケット、かけてくれたんだ…。
「はよ、よくなってな……」
耳元で小さく呟くのが聞こえた。
……じ――――ん……
ああ、私こういうの弱いんだよね。なんかめちゃめちゃ加護をぎゅーって抱きしめたい衝動に駆られたがぐっとこらえる。
……が、嬉しさをこらえきれずつい口元がゆるんでしまった。
「………」
「………?………なんや!!よっすぃー起きとるやんかっ!」
がばっと思いきり加護がダイブしてきた。
ゲホッ……まともに胸元に加護のヘッドバッドを食らう。
あ、頭に続いて胸まで痛………
……助けて。
fin
- 32 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月24日(金)15時49分26秒
- リングの101です。
早速読ませてもらいました。
マジでおもしろかったです。
ファンになりそう。(w
- 33 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月26日(日)03時35分07秒
- おもろいぞ。吉澤&加護コンビ。
- 34 名前:あるみかん 投稿日:2000年11月26日(日)15時01分10秒
- >32さん 読んでくれてありがとうございます。こっちはお気楽にかけて楽しいです。
>33さん このコンビめちゃ書きやすいんですよ。ていうか加護がネタにしやすくて。
- 35 名前:読んでる人 投稿日:2000年11月26日(日)23時57分03秒
- あいかわらずいい落とし方をなさる・・・
ほんと笑える
- 36 名前:いずのすけ 投稿日:2000年11月28日(火)22時10分43秒
- 吉澤と加護、めっちゃかわいいです!
- 37 名前:あるみかん 投稿日:2000年11月29日(水)01時15分29秒
- >読んでる人さん 笑える、はこの話には最高の誉め言葉です。ありがとう
>いずのすけさん 加護って「めっちゃ」っていうのがめっちゃ似合う。この2人ってなんかテレビで見てて楽しくなる。
そして更に調子に乗って一本。
不幸続き&夢オチ続きだったのでちょっと幸せになってもらおう(w
ちょっと、ですが。
- 38 名前:子供の言い分4 投稿日:2000年11月29日(水)01時18分05秒
- 久々に今日、明日2日間のオフや。
「お父さん、何読んでんのん?」
お父さんのはいつもどおり寝転がって新聞を読んでる。せやけど、その新聞が一回り小さいんからなんでやろと思って聞いてみる。
「ああ、競馬新聞や。」
いつもとちゃうのはそれだけやなくて、テレビは見ないで赤い鉛筆片手に新聞に数字を書き込んでいる。なんや面白そうやからうちものぞきこんでみる。
『ひとみ杯3歳S・芝1600m』て書いてある。よっすぃーとおんなじ名前やん。あ、それにこのカタカナの文字は馬の名前やな。ありゃ、フラッシュアイボンにプリンセスリカ………ゴマキングまでおる。
ますます興味がでてその下を見る。なんかようわからん丸や三角がついてる。カタカナは馬の名前やてわかったけどこの印はなんなんやろうか?
「ああ、それは予想や予想。」
◎が本命で○が対抗……と順に教えてくれる。一見ばらばらについてるように見えた記号の◎○のほとんどはプリンセスリカとゴマキングに集中している。ロボカオリンなどといういかにも怪しげな馬にさえ△が3個はついてるのにアイボンはかろうじて×が一個あるだけや。
- 39 名前:子供の言い分4 投稿日:2000年11月29日(水)01時19分36秒
- 「これで、きまりやな。」
幾つも書きこんだ数字のうちのひとつをマルで囲む。
「がちがちのレースやからな。プリリカ-ゴマキの馬連1点買いやな。」
「どういう意味なん?」
詳しいことはよう分からんかったけど要するにひとみ杯に勝つんはプリンセスリカかゴマキングのどっちかやっていうことらしい。なんかむちゃ気分悪い。
「なぁなぁ、これは?」
フラッシュアイボンを指差す。
ああ、とお父さんは笑う。
「それは無理やな。ほれ、単勝でも万馬券や。」
「マンバケン?」
「100円が一万円になるってことや。」
「すごいやん!!」
なんや、そんなすばらしいものがあったんや。これは明日にでもゲーノーカイは引退やな。新聞見て競馬するだけでお金が増えるなんて。
うちがそういうとお父さんは亜依はかわいいなーといって頭を撫でる。
「そんな上手い話あるわけ無いやろ?」
「へ?なんで?」
「楽して100円が1万円になるなんて奇跡やろ?つまりそれぐらい可能性が無いって事や。」
可能性がない。
うちは急に哀しくなってきた。ぽろぽろ涙が溢れてくる。
- 40 名前:子供の言い分4 投稿日:2000年11月29日(水)01時20分14秒
- 「おいおいっ。」
なんでうちが泣いてるのかわからんお父さんはおろおろしていた。
「ああ、そっかそっか、アイって名前がついてる馬のこと弱い言われたから腹がたったんか?ごめんごめん。」
お父さんなりになんとかうちの機嫌をとろうと画策している。
「よし、わかった。よし、明日一緒に行こうか、馬を見に、な。」
うちかてもう中学生や、いつまでもお父さんを困らせるわけにもいかん。涙を拭って笑顔で答えた
「うん!!」
- 41 名前:子供の言い分4 投稿日:2000年11月29日(水)01時21分58秒
- 次の日お父さんは約束どおりうちを競馬場に連れてきてくれた。
うーん、楽しい。ルールはよう分からんけど大人の遊びの仲間入りしたみたいで嬉しかった。
ひとみ杯は最終レースやった。
朝からきてるといいかげん流れも分かってくる。
なんでも、1レースから波乱も無く本命の馬が買っているらしく、見かけと違って堅実派のお父さんは着実にお金を増やしているみたいや。次のレースは今日一番の硬いレースでお父さんはもっている資金のほとんどを大本命プリリカ-ゴマキに投資するらしい。勝つんはうれしいけど目の前で「ひとみ杯を制したのはゴマキ―――――ングっ!!」なんて聞かなきゃいけないのかと思うと複雑な気分や。
ちょっと待っといてなといわれて窓口にいったお父さんが帰ってきた。
「ほい。」
といって手渡された紙には、Dフラッシュアイボン-100円と書かれている。
「なに、これ?」
「昨日のお詫びや。」
ほんまはあかんのやけどな、お母さんに亜依にはかわしたらいかんて釘刺されてるんやけど内緒やで、と笑っていった。
……めっちゃ嬉しくなって思いきりお父さんに飛びついた。
- 42 名前:子供の言い分4 投稿日:2000年11月29日(水)01時22分55秒
- 「最後やからゴール前で見るか。」
次々と馬が入ってくる。
「……とフラッシュアイボンはっと…」
来た!茶色や黒色の馬が並ぶなかアイボンは白い鬣をなびかせている。白い体が一際はえている。うん、なかなかかっこええやん。隣の漆黒のプリンセスリカ……栗色のゴマキング……負けたらあかんで!!
その時、こんなにも晴れ渡っているというのに、うちの顔に冷たい雫が落ちてきた。
一つ二つ……会場がざわめく。みるみる雨脚が強くなり音を立てて水が降り注いだ。
「ゲッ!やばいぞこりゃ。」
お父さんの顔が青ざめる。
そんなことはおかまいなしに高らかにファンファーレが鳴り響き、ゲートインした。
「この雨じゃ……」
なんか言ってるお父さんの声はスタートの瞬間の歓声にかき消されてよくきこえんかった。
雨がなんやねん。いけっアイボン!!走るんやアイボン!!
晴れの日があるからそのうち雨も降るんやからなっ。
・
- 43 名前:子供の言い分4 投稿日:2000年11月29日(水)01時24分59秒
- …………………………
「みんな、今日はうちのおごりや。」
「どしたんや加護〜えらい気前がええなあ。」
年下に奢ってもらうわけには……と最初遠慮していたわりにはしっかり局の食堂では一番高いものを頼んでる。ま、今日のうちは機嫌がええからかまへんけどな。
「よっすぃー、よっすぃー。」
「うん?」
ゆで卵をほおばってるよっすぃーがこっちを向く。
「これ見てみて。」
うちはどうだといわんばかりに1枚の写真を取り出した。
こういうときは子供の特権や。レースが終わった後、大波乱の戦いを見事ものにしたフラッシュアイボンと無理やりお願いして写真をとらせてもらった。
- 44 名前:子供の言い分4 投稿日:2000年11月29日(水)01時26分05秒
- 「へぇ……」
うちの手から写真を受け取るとにこにこして眺める。
「どや!よっすぃーの夢の白馬の王子様やで。さすがに乗せてはもらえんかったけどな。」
なんだ、なんだと周りのメンバーも寄ってくる。
へへん、これでよっすぃーうちにメロメロなはずや。
よっすぃーは周りの視線も気にせずうちを抱っこすると耳元でささやいた。
「アホ。」
へっ?なんでや?なんでアホなんや。
「背中に番号つけてる馬に乗ってる王子様なんてやだよぉ。」
おかしくてたまらないといった風に、でも笑うのをがまんしているのか体が震えているのが伝わってくる。
「でも嬉しい。アリガト。」
ほんの一瞬やけどよっすぃーの唇が頬に触れた。
うーん、なんやようわからんけど……喜んでくれてはいるみたいやしなぁ……?
………ま、いっか。
FIN
- 45 名前:あるみかん 投稿日:2000年11月30日(木)23時30分25秒
- とりあえず、吉澤&加護シリーズ第5弾。
で、これでいったん加護一人称ものは置いといてと・・・
- 46 名前:子供の言い分5 投稿日:2000年11月30日(木)23時31分37秒
- 「何読んでるの?」
「ドラえもん」
ののちゃんが声をかけてきたときちょうど最後のページを読み終わった。
「読む?」
「うん」
ドラえもん読むなんて子供やて思うかもしれんけど、空き時間に読むには適当な長さやから。と言い訳してみるけどホンマはめちゃ好きやねん。
「面白かった?」
「面白かったで。ジャイアンが大活躍やったわ。」
「ジャイアンか〜、そういえば亜依ちゃんジャイアンみたいだもんね」
「へ?」
「頼り甲斐があって裏表が無くって、いつもリサイタルしてるし」
「そぉ?」
一瞬、え?ておもたけど言われてみるとあんまり悪い気はせーへんな。
ジャイアン、うんなかなかええやん。
裏表が無くて、頼り甲斐があって、(歌が下手っていうんがちょっと気になるけどな)
名実ともにガキ大将。普段は好き放題やってるけど映画になると美味しいシーンはもっていく。素晴らしいやんか。
- 47 名前:子供の言い分5 投稿日:2000年11月30日(木)23時32分11秒
- 「ののちゃんはじゃあドラえもんだね」
「へへ……」
うちがそう言うとののちゃんは嬉しそうに笑った。
頭の中でドラえもんの格好をして「どこでもドア〜」っていってるののちゃんの姿が浮かぶ。
「何話してんのぉ?」
うちらがマンガをはさんでキャーキャーやってると後ろからぬーっとよっすぃーが現れた。
「モーニング娘のみんなをドラえもんに例えてるんだよ。」
ののちゃんが説明する。
「へぇ、面白そうじゃん。あたしは?」
「しずかちゃん!」
みんなのアイドル(てうちのなかのアイドルっていう噂もあるけど)、みんなに愛されるよっすぃー。お風呂好きなよっすぃー。きれいなよっすぃー。
ののちゃんは「そぉかな…」ってブツブツ悩んでたけどそんなん無視や無視。
「本当?なんか、うれしいな〜」
笑いながら照れたように頭をかく。あ、喜んでくれてる。うちも嬉しい…
- 48 名前:子供の言い分5 投稿日:2000年11月30日(木)23時32分54秒
- 「なになに?なにやってんの?」
うちが幸せに浸っているとまたもや後ろから誰かがぬーっと現れた。この声は梨華ちゃんやな。
「モーニング娘のみんなをドラえもんに例えてるんだよ。」
ののちゃんがうちとよっすぃーと自分のキャストを説明する。
「え〜、じゃあ、私は?私は?」
興味津々と言った様子で梨華ちゃんが尋ねてくる。
「のび太」
うちは即答した。
うむ。我ながらナイスキャスティングやな。
ちょっとおとぼけているところといい、まのぬけているところといい。
結構ずぼらなところといいまさに適役やんか。
おう、主役やで?梨華ちゃん、おいしいわ!
うちは自分の考えに満足して笑みを浮かべた。
- 49 名前:子供の言い分5 投稿日:2000年11月30日(木)23時34分02秒
- ところが
「……」
水を打ったように場は静まり返っている。
なんでや?
「私……やっぱりみんなの足手まといなのかな」
梨華ちゃんが泣きそうな顔でこっちを見ていた。
おいおい〜、何泣いてんねん!シャレやん!お遊びやん!ただの軽口やん!
「……な〜んてね」
おどけてみたけれど全く効果が無い。「私は不要」「もうやめる」とかブツブツ繰り返している。
ひえ〜、そうやった…このひとは冗談がまともに通じる相手や無かった。
見かねてののちゃんがフォローしようとしてくれる。
「落ち込まないでよ、梨華ちゃん。のび太がいろんな失敗するからこのマンガは面白いんだし」
「し、失敗……」
こら〜、ののちゃん!!全然フォローになっとらんやんけ!!
ああ、もう世話がやけるわ。
- 50 名前:子供の言い分5 投稿日:2000年11月30日(木)23時35分17秒
- 「そういう意味やないねん。ほら、この漫画よく読んでみ?のび太ってすごく心優しいと思うよ。」
ピクリ
梨華ちゃんがちょこっと反応した。
「そ…うかなぁ」
「そうそう、それにうちのジャイアンかていつもはのび太いじめてるけどいざとなると必ず助けるやろ?」
ピクリ
梨華ちゃんがまたちょこっと反応した。
「そ…うだねぇ」
「そうそう、みんななんだかんだいいながらのび太のこと大好きやねん。」
梨華ちゃんの顔がぱあっと輝いた。
「そうだね!ありがとう。なんか元気出てきたよ」
ガッツポーズまでしてる梨華ちゃん。
- 51 名前:子供の言い分5 投稿日:2000年11月30日(木)23時36分07秒
- ああ、よかったよかった。やっぱうちが元気な梨華ちゃんが好きやで。
「いろんな失敗とか苦労をしても」
うんうん。元気だして、梨華ちゃん。
「最後にはしずかちゃんと結婚できるんだもんね。うれしい!よっすぃーっ!!」
なぬ―――――――っ!!
うちのよっすぃーに梨華ちゃんが思いきり抱きついた。
しかも、よっすぃーまで調子に乗って
「よし、じゃあ気晴らしにタケコプターでも出して貰ってジュースでも買いに行こうか」
「うん!!」
幸せそうに腕まで組んでる。ののちゃんまで「はーい、タケコプター!!」なんて言ってる。
なんでや、なんでや!!なんでこうなんねん!!
チキショ―――――――――――!!
「どしたんや?加護そんな恐い顔して。」
怒りMAX最高潮のうちに中澤さんが話しかけてくる。
「うるさい!!行くぞスネ夫!!」
「……なにがスネ夫や!!」
ゴキィ!!
うちの脳天を激痛が見舞った。
……なんでこうなんねん。
- 52 名前:あるみかん 投稿日:2000年11月30日(木)23時38分35秒
- 次は保田さん主役の話やります。タイトルは「パワーバランス」
- 53 名前:ま〜 投稿日:2000年11月30日(木)23時47分52秒
- 面白い!
あいぼん最高♪
保田主役も期待してます!
- 54 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月30日(木)23時59分09秒
- おかしいぃー!(ワラ
中澤=スネ夫がナイス!!
ドラミはなっちかなぁ? 体型が(ワラ
- 55 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月02日(土)00時13分06秒
- ヤッスーは誰になるだろう?
- 56 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月02日(土)00時53分47秒
- なんだかんだ言って、加護ちんは梨華ちゃんのこと好きなんだよねー。
娘。たちが仲良いと嬉しいですね♪
あるみかんさんが書く小説は、人間の弱さと優しさがうまく描かれてて感心させられます。
新作楽しみにしています^^
あるみかんさんの書くいちごまも読んでみたいなー。
- 57 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月02日(土)15時36分02秒
- 保田さん主役の話の前にどうしようかなと思っていた吉澤視点の子供の〜シリーズ1本あげ。
引き続き保田主役編スタート。
>ま〜さん ご期待に添えるかどうか心配ですががんばります。
>54さん ちなみに、後藤は出来杉クン、保田はのびたのママかなと思っています。
>55さん 誰っていうのは相手がってことでしょうか?
>56さん いちごまは書いてみたいですが作品数も多くて上手な方も多いのでプレッシャー・・・
独立したものじゃなくてエピソードとして取り入れる形でやってみようかと思ってます。
- 58 名前:子供の言い分〜side H(2) 投稿日:2000年12月02日(土)15時37分04秒
- これは、夢だ。んなことはわかっていた。
だって……加護が大きくなってるんだもん。
ていうかアタシよりでかくないですか?
「よっすぃーっ。」
サイズは変わったのにやることはちっとも変わっていない。私の名前を呼ぶと思いきり抱きついてくる、いや加護のほうがでかいので正確には抱きしめられているといった方が正しい。
ウグ……苦しい。丁度加護の胸のあたりに私の顔が埋まるような格好になる。
息が出来ないって、マジで。
……しかしまあ、ちっちゃいときも胸は大きかったけど(むかつくことに私よりも)パワーアップしてる、こいつ。
女子校だし、こんな顔してるから女の子に告白されたことは何回かあるけど私自身は断じてレズじゃない!!……と思っていたけれど加護の胸の感触になんだかどきどきしてきた。おいおい、大丈夫か私。ひとみ、君はそんな奴じゃなかったはずだぁ。やめておけ、今引き返せば間に合うはずだ。
- 59 名前:子供の言い分〜side H(2) 投稿日:2000年12月02日(土)15時37分44秒
- 「触ってもいい?」
!!!!!!!
そういったのは確かに私の声。なんてことをいいだすんだ……あんたは……って私か。
なんてこといってるうちにどこからか都合よく出てきたベッドの上に倒れこんでいる。
ていうかいくら夢でももうちょっと話の展開ってもんがあるでしょうに。なんでいきなりこうなるんだよぉ……ってこの夢見てんの私なんだよね……
「加護………」
「よっすぃー……」
自分でも驚くくらい優しい声で加護を呼ぶ。加護も、ささやくような甘ったるい声で私を呼ぶ。さっきまで別人だったはずの夢の中の自分はいつのまにか本当に私になっていて、体が熱くなってくる。
………駄目だ…めちゃくちゃかわいい……
加護の衣服に手をかける。
……うわ、すごい色っぽい下着、私なんかついこの間までスポブラだったというのに……
「電気消して……」
……私は、加護を抱きしめたまま右手だけを伸ばして蛍光灯から下がった紐を引っ張った。
もう………
レズでもいいっす……
- 60 名前:子供の言い分〜side H(2) 投稿日:2000年12月02日(土)15時38分25秒
- 「ひとみっ!!いつまでねてんの!!いい加減起きなさいよ。」
いまどきギャグマンガでもやらないだろうというフライパンをたたきながら娘を起こすという光景。それを本当にやっている我が家っていったい……
「は〜い。」
とりあえず返事だけしておく。
それにしても……
なんちゅう夢を見るんだ私は。
加護、ごめん。と心の中であやまる。
しかし、それにつけてもあれってやっぱ隠されたもう一人の自分てやつだよね。
私ってやつは……ご都合主義だし、展開はオヤジくさいし、おまけに相手は女で……
自分でいってて辛くなってきた。
……ま、少なくともロリコンじゃなかっただけマシ…だよね。
なんて、なんちゅう言い訳をしてるんだろう、私。
FIN
- 61 名前:パワーバランス 投稿日:2000年12月02日(土)15時40分11秒
- 今年もあの季節がやってきた。
人によって楽しみでもあり、憂鬱にもなるあの季節が。
「ねぇねぇ、今年は何をお願いするの?」
「プラダの新作バッグ!!」
おいおい、加護。あんた遠慮ってもんを知りなさいよ。もっと子供らしい発想は無いの?
サンタ母orサンタ父が泣いちゃうわよ。
そう、世間ではどこもかしこも2週間後に控えたクリスマスムード一色。
辻は辻でプレステ2がどうこう言っている。
はあ…私もあのくらいの年のときは無邪気に喜んでたもんよ。
クリスマスの過ごし方。
『家族と家でケーキを食べてサンタさんに……』
『友達とホームパーティーとかやりたいです』
『ファンのみんなと……』
……別にそれはそれで楽しいんだけどね。
こんな風に応えつづけて、はや何年。
ぶっちゃけた話、ものごころついてから…
…というか、つまりは生まれてからの年数と恋人イナイ歴の年数が仲良く肩を並べている私。
世に言うお年頃だというのに。
はぁ……なんか寂しいなあ
- 62 名前:パワーバランス 投稿日:2000年12月02日(土)15時41分05秒
- 「恋人欲しいなあ」
「どしたんや?なに?圭坊」
「へっ?」
裕ちゃんがいつの間にやら隣に来て私の顔を覗きこんでいた。
「なんや大きいため息ついて。寂しいとか恋人欲しいとか」
ななななななっ!!
どうやら私は知らず知らずに声に出してしまっていたらしい。
こりゃいよいよ末期症状だね。
ふん、笑いたけりゃ笑えばいいさっ!寂しい奴だと笑うがいい。
ところが、裕ちゃんは私と同じかそれ以上のため息をついた。
「わかる、わかるでぇ〜。裕ちゃんも寂しいねん」
「はあ……」
「恋人欲しいなぁ」
「まあ……」
「いや、ほんまに」
「はあ……」
- 63 名前:パワーバランス 投稿日:2000年12月02日(土)15時42分01秒
- いまさら否定するのもなんなので適当に相槌を打つ。
延々こんなやりとりをしてると本気で鬱になりかねないので話題を変えよう。
新曲の話題でも振っとこうかな。
「ほな、うちらで付き合うか」
…………
…………
「へ?」
たっぷり10秒は間をおいて私は加護のドナルドダックに引けをとらないほどの奇声を発した。
「お、圭ちゃん!その顔おもろいで〜」
「え?そお?」
爆笑する裕ちゃんに大して怒りもせず対応する大人な私。偉いぞ保田圭。
じゃなくて!!
んなことどーでもいい!
- 64 名前:パワーバランス 投稿日:2000年12月02日(土)15時42分55秒
- 「なによ、付き合うって?」
「付き合うは付き合うやろ。そのまんまの意味や」
「私と?」
「そや」
「裕ちゃんが?」
「そや」
ていうか、
なんでそうなるわけ?
私は疑問をそのまま口にする。
すると裕ちゃんは人差し指を一本立ててチッチッチッと左右に振った。
「ええか?圭坊。人が人と付き合うのは大きく分けて二つの理由があんねん」
ここでそれは何?って聞いてあげないと裕ちゃんが怒り出しちゃいそうなので仕方なく尋ねてみる。
「ふふーん、聞きたいいんか?しゃーないな」
はいはい、聞きたいです、聞きたいですよ。
- 65 名前:パワーバランス 投稿日:2000年12月02日(土)15時43分36秒
- 「ひとーつ!人が人を愛するときっ!!」
ふむふむ。そりゃそうだ。しかし、私は裕ちゃんを愛してるなんて言った覚えは無いし言われた覚えも無い。となると?
「そしてっ!!」
裕ちゃんはにやりと笑った。
「需要と供給が一致するときや!!」
…………
…………
「へ?」
- 66 名前:パワーバランス 投稿日:2000年12月02日(土)15時44分24秒
- 再び私はたっぷりさっきの倍ほど間を置いて奇声を発した。
「ま、つまりあれやな、私は恋人が欲しくて圭ちゃんも欲しい、だがしかしなにせこの忙しさ、私も圭ちゃんも出会いの機会が無い。で、私と圭ちゃんが付き合う、となるとどや?お互い需要と供給が一致してるやろ」
そうだろうか。
「……つーか裕ちゃんも私も女だと思うんですけど」
「贅沢言うたらあかん」
贅沢…だろうか?
かといって絶対的に否定する材料も見つからず、反論する根拠も無いように思えた。
こうして、
なんだかよくわからないが
私は裕ちゃんと付き合うことになってしまった。
つづく
- 67 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月03日(日)02時14分42秒
- うはははは、中澤すげー説得の仕方だな。それでパワーバランス(笑)。
保田も感じ出てるし、これまたおもしろくなりそう。というか、おもろい!
- 68 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月03日(日)03時44分34秒
- 確かに姐さんすげー説得の仕方だ。
でもそれで付き合ってしまう保田がかわいい。
- 69 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月03日(日)23時24分49秒
- >67さん 感じが出てるっていうのは嬉しいですね。
こういうパロディの文章書いてるとき、下手するとただオリジナル小説の名前変えただけになっちゃうのが一番恐いですからね。
>68さん 保田(本物)もここのところめっちゃかわいいので自分の中で赤丸急上昇。
- 70 名前:パワーバランス 投稿日:2000年12月03日(日)23時26分45秒
- 私と裕ちゃんは付き合っている(らしい。)
らしいっていうのは別に以前となーんにも変わらないからだ。
フツーに「おはよー」って挨拶して、
フツーに仕事して、
フツーに世間話して、
たまに帰りにCD見にいったりご飯食べたりする。
なんてことはない。
ためしに裕ちゃんに「別になんもかわんないねー」と聞いてみたら
「なんや、抱きしめてちゅーでもして欲しいんか」といわれ思いきり首を左右に振った。そしたら裕ちゃんも「あ、そ」っていう感じだったのでホッとした。どうやらこの点に関してはお互い需要も供給もないらしい。よかったよかった。
- 71 名前:パワーバランス 投稿日:2000年12月03日(日)23時27分55秒
- 「保田さん」
「ん?なに?」
にこにこして石川が近付いてきた。
「クリスマスの日なにか予定あります?」
「クリスマス?」
これまでの私なら、「友達と食事にでも行こうかと思ってるけど」と答える所だが思いとどまる。
一応付き合ってるわけだからイベントくらいは人並みにこなすものではないだろうか。
「よっすぃーと私の家でパーティーやろうと思って誘ったら、どうせならみんな誘ったらっていうんですよ」
「ふーん」
よっすぃー、石川と二人きりになるのを避けたな…と思ったけれど口には出さない。
ちょっと考えている私の様子に何故だか石川の瞳がキラキラと輝いた。
「あ……もしかしてぇ」
「?」
「もうっ、このこのっ!保田さんてばいつのまにっ!」
「はぁ?」
一人で盛り上がる石川に身を引く。
なんだってこんなに嬉しそうなんだろう。
- 72 名前:パワーバランス 投稿日:2000年12月03日(日)23時28分54秒
- 「そういえば、その指輪、新しいのですよね。それも買ってもらったんですか?もしかしてっ!」
私の右手にしている指輪を指差す。
どうやら、石川は私がクリスマスは恋人と過ごす予定で、指輪もその人に買ってもらったと思っているらしい。
「自分で買ったんだけど」
20歳になるのを記念して自分へのご褒美で買ったんだけどメンバーにいうのもなんなので黙っていた。
「もう!隠さないでくださいよ〜」
……別に何も隠しちゃいないんだけど。
でも、この手の誤解すらこれまでされたことがなかった私……なによ、嬉しいじゃない。
ちょっとした優越感。
恋人がいるというこの余裕。
そして何かを隠していると思わせるミステリアスな部分。
ん〜…カ・イ・カ・ン(…私キャラ変わってないか?)
気分もいいし今日はショッピングでもして帰るとするか。
「じゃあね、石川」
まだあれこれ聞きたそうな石川を退けて私は帰ることにした。
- 73 名前:パワーバランス 投稿日:2000年12月03日(日)23時29分28秒
- 街を歩くと華やかなイルミネーションで彩られた光景が飛び込んでくる。
店頭には綺麗に飾り付けられたツリー、サンタの格好をした店員。
もうすぐ、クリスマスなんだなと今更ながら実感する。
ふと私の目がサンタクロースの人形の隣に並んでいたガラスケースに引きつけられた。
銀色のクロス型のピアス。
裕ちゃんによく似合いそうだ。
……ふむ。
「すいません。これ、見せてもらえますか?」
水色の小さな四角い箱にかかった真っ白なリボン。
家に帰ってしげしげと見つめた。
裕ちゃん、喜んでくれるかな。
どんな顔してくれるかな。
なんだかすごく、
クリスマスが楽しみになってきた。
つづく
- 74 名前:ま〜 投稿日:2000年12月04日(月)00時30分41秒
- やっす〜がかわいい・・♪
- 75 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月04日(月)01時12分47秒
- ゆうやすイイ感じ!裕ちゃん視点もお願い申す!!
- 76 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月04日(月)01時17分24秒
- やばい、やっすーにマジ惚れしそう
- 77 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月04日(月)13時26分46秒
- よしかご、おもしろかったっす。夢の中で問答してるのとか。
パワーバランスのほうも良いね、ありそうな感じで。
- 78 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月04日(月)16時11分18秒
- 圭ちゃんメッチャかわいい!
梨華ちゃんも、なんかいい味出してるね〜。
めちゃくちゃあんな行動しそうだもん。(w
- 79 名前:TKO 投稿日:2000年12月04日(月)17時54分12秒
- いやー、圭ちゃんむちゃむちゃいいですねぇ。
ホント最近、実物圭ちゃん(?)もちょーかわいいですよね。
イチオシになりそうな勢いです。
あるみかんさん、がんばってください。
- 80 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月04日(月)23時16分24秒
- わ、レスがたくさん。やっぱ圭ちゃん大人気(ワラ
>ま〜さん ほんと冗談抜きでここんとこかわいいと思います。
>75さん オーダーお受けしました。ちょこっと待ってくださいね。
>76さん 惚れましょう惚れましょう。そして、誕生日を祝いましょう。
>77さん あんなに何個も書くつもりじゃなかったんですが、書きやすくてわらわらと書いちゃいました。
>78さん お、目の付け所がいいですね〜。石川は次回作で登場。
>TKOさん 圭ちゃん、自分の中でも他メンバーをごぼう抜きして今好きなメンバーベスト3にはいってますよ・・・
- 81 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月05日(火)00時21分48秒
- 「カンパーイ!!」
心地良いグラスの音ときれいに重なった10人の声があがる。
ま、当然と言えば当然だけどねぇ。流れ的に。
クリスマスイブ、最後の撮りを終えた後10人揃って石川の家にやって来た。
「いや〜このシャンパン上手いわ〜」
フライドチキンをつまみに裕ちゃんはガンガンアルコールを口にしている。
みんなもすごく盛り上がって楽しそうだ。
あーあ、いつ渡そうかなあ。
コートのポケットに入れてあるプレゼントにチラッと視線を送る。
ベランダのところでは上手く吉澤を連れ出した石川の姿が目に入る。がんばれがんばれ。
「てゆうかぁ、裕ちゃんからあたし達にプレゼントとか無いわけ〜?」
んんっ?
- 82 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月05日(火)00時22分38秒
- 矢口の高い声が耳に入ってきた。
「プレゼントぉ?」
裕ちゃんが眉をひそめる。
「あのなぁ矢口。大体ケーキ10人分買わされて、フライドチキンも全部買わされてこの上プレゼントも出せっちゅうんかい。」
「え〜、もぉしょうがないなあ…はい!」
「え……?」
矢口がおもむろにピンク色にラッピングされた箱を裕ちゃんに差し出した。
「はい、裕ちゃん。プレゼント」
裕ちゃんはきょとんとした顔で矢口を見つめている。
「いつも奢ってもらってばっかりだからお礼。あけてみてよ」
口調はぶっきらぼうだけどそういった矢口の顔はほのかに紅潮していて私の目から見てもかわいかった。
周りのみんなもなになにといって注目している。丁寧に裕ちゃんが包みをあけると手帳みたいなのが出てきた。
- 83 名前:しまった、タイトル変えるの忘れてた。 投稿日:2000年12月05日(火)00時23分54秒
- 「これ、こないだ私が欲しいっていうた奴やんか……」
「高かったんだぞー」
「矢口ぃーっ!!」
裕ちゃんが思いきり矢口を抱きしめる。
「めっちゃ嬉しいわー。ほんま生きててよかったわホンマ。お返しに熱い抱擁を〜」
「ゆ、裕ちゃんっ!!苦しいってば、ちょっとぉ〜」
「これさえあったら何もいらんわ。ありがとっ!矢口」
裕ちゃんは本当に心から嬉しそうだった。
……なんか渡しにくくなっちゃったなぁ。
「お菓子足らなそうだからちょっと買ってくるよ」
私はコートと財布を掴んで立ちあがった。
- 84 名前:パワーバランス 投稿日:2000年12月05日(火)00時24分43秒
- 外に出ると流石にコートを着ていてもかなり寒い。
手袋もしてくればよかったなあ。掌を擦り合わせて息を吹きかけてみたけれどやっぱり指先が冷たくてポケットの中に手を突っ込む。
左ポケットの中の小さな箱が手にあたる。
私はそれを取り出した。
あーあ、自分で使おうかな……
いつのまにか私は大きなため息をついていた。
「おーい待ってや〜」
後方から耳慣れた関西弁の声が聞こえる。
「裕ちゃん?」
「いやーさむっ!」
白い息を吐きながら近づいて来る。咄嗟に私は箱を後ろに隠す。
- 85 名前:パワーバランス 投稿日:2000年12月05日(火)00時25分23秒
- 「ど、どうしたの?」
「いや、シャンパン飲んでしもうたからお酒買おうと思ってな」
「ああ」
今日はどうせ泊まりになるだろうからあれじゃ足りないだろうなと納得した。
「だったらあたしが出るときに頼んでくれればよかったのに」
「ま、そうなんやけどな」
そういうと裕ちゃんはにかっと笑ってバッグから何かを取り出した。
……え?
「メリークリスマス!!」
勢いよく私の方に裕ちゃんの腕が突き出される。
その先にはちょっとくしゃっとなった白い紙袋。
「あー、やっぱ無理やりカバンに突っ込んだからこんななってしもうたわ」
「裕ちゃん?」
「みんながおるとこで渡すと自分にもよこせとかうるさいからなあいつらは。圭坊がコンビニ行くんやったらちょうどええわと思って追いかけて来たんや」
裕ちゃんはたしか今日ほんとに小振りなハンドバックだったはず。相当無理して突っ込まれたと思われる包みはかなり変形していた。バツが悪そうに包みをしばらく整形していたけれど諦めたように裕ちゃんは笑って、何を思ったか包みをバリバリと破く。
- 86 名前:パワーバランス 投稿日:2000年12月05日(火)00時26分03秒
- 「ほい!」
ふんわりした感触が私の首の辺りを包む。
「カシミヤやで〜あったかいやろ?」
私は何かいわなきゃって思ったのに何故か言葉が出てこない。
けど、裕ちゃんはただ優しく微笑んで私を見ていた。
私も裕ちゃんの顔をじっと見つめる。
「裕ちゃん……」
私がそう呼びかけるとふいに裕ちゃんの顔が真剣な表情になった。
「ありがと……これ私から」
後ろに持っていた箱を裕ちゃんの方に差し出す。
裕ちゃん、喜んでくれるかなぁ。私の心臓はガラにもなくドキドキしていた。
- 87 名前:パワーバランス 投稿日:2000年12月05日(火)00時26分45秒
- 「よ、よかったぁ……」
「……へっ?」
裕ちゃんは何故か真剣になっていた表情をほっとしたように緩ませた。
……よかったって?普通は嬉しいとかいうもんじゃないのか?どういうこと?
私から貰えてよかったってことだろうか?
「圭坊めっちゃめちゃ真剣な表情してるから……」
「???」
なんだろう。訳ワカンナイ。
「プレゼントはア・タ・シとか言われるんかと思うてビクビクしとったわ!!」
「…………」
「ん?なんや、圭坊……ってなにすんねん!!ウガッ!!」
私は裕ちゃんを思いきりぶん殴った。
………ていうかなんでドキドキじゃなくてビクビクなのよあんた。
でも、
とりあえずはメリークリスマス!!
FIN
- 88 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月05日(火)00時28分34秒
- というわけで大分はやいですがメリークリスマス!(ハヤスギ
そして
一日早いですが保田圭様
お誕生日おめでとう!!
今後もますますのご活躍を期待しております。
- 89 名前:Q 投稿日:2000年12月05日(火)00時40分13秒
- おー、ほぼオンタイムで読んでしまった!
ここのヤッスー最高でした!
ラブラブだけでなくて落ちツキで面白かったっすー。
次のシリーズ、いしごまorいちいし希望!
- 90 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月05日(火)01時47分42秒
- いやいやいや、追いかけてきてプレゼント渡したときには
おおっと思ったけど、裕ちゃんそりゃ酷いって(笑)。
それにしてもヤッスーかわいいね。
- 91 名前:ばね 投稿日:2000年12月05日(火)02時04分12秒
- 珍しくほのぼの&幸せそうな圭ちゃんだ!と思ったら、やっぱりヤッスーはそんなオチ…。
でも、このオチでマイナスにならないのがすごいな。逆にポイントアップな感じが。(w
裕ちゃんのタラシっぷりがまたいいですねぇ。
私もいしごま(またはごまいし)読みたいです。
- 92 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月05日(火)14時24分21秒
- やっぱり圭ちゃんカワイイなぁ〜。(w
今回のもすごいおもしろかったです。
今度はどの組み合わせだろ?
期待大!!
- 93 名前:TKO 投稿日:2000年12月05日(火)16時57分00秒
- おつかれさまです。いや〜、いいですねえ。
しかし、個人的にはもうすこし二人の「おつきあい」の続きが
見たい気もしますねぇ。
圭ちゃんモノ、ぜひまた書いてください。
- 94 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月05日(火)23時00分47秒
- マジ惚れしそうっていうか、した。
圭坊誕生日おめっとさん。まだ一時間早いけどね。
- 95 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月05日(火)23時23分28秒
- ほんわかした(?)いいオチですねー(笑)
リクエストしてもいいですか?
よしいし、いちごま読んでみたいです。
- 96 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月06日(水)03時11分46秒
- いやー 圭ちゃんかわいいっすねー(本物もかわいいよ)
さすが保田モノの話しは普通には落ちないですね。
でもばねさんのいうとうりマイナスでない所がいいね。
「お付き合い」の続きor圭ちゃんシリーズお願いします。
圭ちゃんの誕生日おめでとー。
- 97 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月06日(水)23時26分43秒
- あと1時間で圭ちゃんの誕生日が終わってしまう。
もう一度おめでと―――――――――っ!
>Qさん 早速のレスどうも。いしごまって最近人気あるみたいですね。どの辺りからくるんだろう?あんまり二人で話してるのを見たことがないのですが。
でも、後藤の話ほとんど書いたこと無いのでちょっとかんがえてみます。
>90さん 最初思いついたときはお誕生日記念でひたすらハッピーな展開にしようと思ったんですが、どうしてもオチをつけたくて・・・・・・
>ばねさん いしごまかー。2人とも私の中ではボケキャラなのですが、どういう展開になるのだろう?
今のシリーズ(またシリーズ化するんか・・・)書ききったら考えます。
>92さん 吉澤、加護。中澤、保田。という妙(?な組み合わせが続いたので次は王道(wいっときます。
>93さん 裕ちゃん視点での続編を3として考えてます。保田モノは書いててかなり楽しい
>94さん ついに惚れましたか・・・・・・それもマジに。なんか書いた甲斐ありますよ。
>95さん この次のパワーバランス2は1にちらっと出てきた石川が主役です。組み合わせはリクエスト通りです(笑
>96さん 続きは3でやる予定ですが2とも関連させようと思ってます。
- 98 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月06日(水)23時28分30秒
- 「やっすーださんっ!!」
コートを着込んで既に帰り支度をしている保田さんに私は声をかけた。
「何?なんかいいことでもあったの、石川」
きゅるっとマフラーを巻いて、手袋を嵌めながら保田さんはこっちを向いた。
保田さんの趣味とはちょっと違うマフラー。誰から貰ったのか、私知ってるんだ。
「それって、今付き合ってる人に貰ったんですよね?」
私がマフラーを指差してそういうと保田さんはどきっとした表情。うん、当たり。
「そ、そうだけどさぁ……」
小さな声でもごもごと答える。けど、嫌そうじゃない。
「ずばり、聞きますけど、付き合うきっかけってなんだったんですか?」
思いきって私は聞いてみた。やっぱり直属の先輩の例は参考にしたいもの。
「きっかけ……ねぇ…」
保田さんはちょっと照れたように言いよどむ。でも、この手の事って実は話したかったりするものだから、私はめげずにじーっと答えを待つ。するとようやくポツリと口を開いた。
「需要と供給が一致したからかな」
「は?」
どういう意味だかよくわかんなかったので聞き返すと、過去ログを読みなさいとだけいって帰ってしまった。………とりあえず読んでみよう。
(お手数ですが、意味の解らない方は石川と一緒にこのスレの62〜66をお読みください)
- 99 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月06日(水)23時29分40秒
- なるほど……需要と供給ね。学習!
よっすぃーにクリスマスのプレゼントはちゃんと渡せたけど、その後もなかなか進展しない。思いきっていっちゃおうかなって思ったけどいざとなると勇気が出ない。
でも…先輩にならってチャレンジしてみようかな。
もう他のメンバーは引き上げてて、残っているのはよっすぃーと私だけ。
この部屋には今2人っきりだ。
よし!
「よっすぃー」
「どしたの?梨華ちゃん」
鏡に向かって髪を整えてるよっすぃーの隣に座る。
「人と人とが付き合う時ってどういうときだと思う?」
「なになに、クイズ?」
私の質問をナゾナゾかなにかと勘違いしたのかうーんと唸って考え込んでる。別にクイズじゃないんだけど。けど考えてるよっすぃーもかわいかったので横顔を見守る。
- 100 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月06日(水)23時31分08秒
- 「なんかアバウト過ぎてよくわかんないよ。教えて」
降参降参といって両手を上げたので私はにこっと微笑んで講義する。
「あのね、えーと…一つはね、誰かが誰かを愛するときで」
「うんうん」
よし、聞いてくれてるぞ。興味持ってくれてるみたい。
「もう一個はね、需要と供給が一致する時なんだって」
「…ふーん」
驚くでもなく反論するでもなくよっすぃ−はきょとんとした顔をしている。
あれ、なんか反応悪いなあ。
でも、とにかく先に進めないとっ!
- 101 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月06日(水)23時31分49秒
- 「よっすぃー……今付き合ってる人とかいないよね?」
「え?いないけど……」
「私もいないの」
「はあ……」
よしっ!!
「じゃあ、恋人欲しいなーとか思う?」
「恋人?」
「うん、欲しいっ?」
「どっちかっていうと欲しいかも」
「それ、欲しいって事だよね?」
「うん、そうだね」
「私も欲しいんだ」
「あ、そうなんだ」
よーし順調順調。
- 102 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月06日(水)23時33分27秒
- 「一緒だね、よっすぃー」
「?……そうだね?」
私はよっすぃーを見つめてにっこり微笑んだ。
よっすぃーもつられてにっこり微笑んでくれる。
顔を見てると恥ずかしくなってきたので俯いて目をつぶる。
というわけで、……
……せえの!
「よっすぃーっ!私達付き合おうよ!」
言った!ど、どうかな?私はゆっくりと顔を上げる。
「……え…とぉ?あれ?」
よっすぃーは戸惑ったような顔をしていた。
「駄目……かな?」
「いや、じゃなくて、それってつまり梨華ちゃんが私と付き合いたいって事だよね?」
もちろんそうだけど、よっすぃーはなんでそんなこと聞くのかな?
とりあえずコックリとうなづく。答えを聞くのが恐くてよっすぃーの顔が見れない。
少しして、俯いている私の上からよっすぃーの声が振ってきた。
「あ、うん……OKだよ」
「え……?」
思わず私は自分の耳を疑った。今……OKって言ったよね?確かに!
や、やった―――――――――!!
ありがとう、保田さんっ!!
やっぱり持つべきものは人生の先輩よね!!
こうして私は
よっすぃーと付き合うことになった。
つづく
- 103 名前:95 投稿日:2000年12月07日(木)00時43分52秒
- あるみかんさん、好きだー!!(笑)
リクエスト通りで嬉しさで胸いっぱいでございます♪
よっすぃーがかわいいっ。
続き楽しみにしてまーす。
- 104 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月07日(木)03時45分18秒
- 95さんと同じく自分も同じく好きだー!!
圭ちゃんも好きだー!!
では続きを待ってます
- 105 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月07日(木)04時56分43秒
- 声を大にして言おう、あるみかんさん好きだ〜!!
- 106 名前:いずのすけ 投稿日:2000年12月07日(木)10時10分45秒
- 圭ちゃんだいすき!!
あるみかんさんだいすき!!!
続きが楽しみっす。
- 107 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月09日(土)02時00分45秒
- みんな最高よ(笑)
- 108 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月09日(土)10時43分15秒
- 皆様ありがとうございます(笑)
つまりみんな圭ちゃんを愛してるっていう事ですね。
しかし、主役なのに誰からのラブコールのない石川・・・・・・・
にしても誕生日のせいか保田の小説増えてるみたいなので嬉しいな。
- 109 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月09日(土)10時45分51秒
- 私とよっすぃーは付き合っている(夢じゃない。)
思わずスキップしそうになるくらい足取りも軽い。
こんなに上手くいくなんて思わなかったな。保田さんに感謝感謝っ!
付き合い始めて2日目。このところ仕事が立て続けだったけど明日は久々のオフ。
なかなかラッキー、グッドタイミング。どこか一緒に行きたいな。
そうだ、映画なんかいいかも。ちょうど見たいのもあったし。
よっすぃーはごっちんとなにか話していたけどちょうど終わったみたいだったので近づいて声をかける。
「梨華ちゃん」
優しく私に微笑みかけてくれる。いつもと変わらない笑顔だったけど、昨日からは私だけの特別なものだと思うとすごく嬉しい。
「明日二人で映画でも行こうよほら、キャメロンディアスのやつ」
「え?明日?」
よっすぃーは困った表情を浮かべた。
- 110 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月09日(土)10時46分53秒
- 「あ、ごめん……さっきごっちんとその映画、見に行く約束したんだ」
「え……?」
内心当然OKしてくれると思っていたので一瞬言葉を失った。
「どうして?」
私の口がひとりでに喋っている。
「どうしてって……ごっちんに誘われたから。まだ予定入ってなかったし」
胸がズキンと痛む。
「梨華ちゃんも、一緒に行く?」
付き合い始めて初めて遊びに行くんだよ?
……私、よっすぃーと二人でデートしたいんだよ?
よっすぃーはそう思わないの?
休みの予定くらい先に相談してくれてもいいじゃない。
あ……ヤバイ…私、嫌なこと言っちゃいそうだ。
- 111 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月09日(土)10時48分01秒
- 「……いい」
かろうじてそれだけを音にして発すると私はくるりと向きを変えてお手洗いのほうに向かった。
追いかけてくれるかなって思ってゆっくりめに歩いてみる。
でも、
私はすんなり誰に邪魔されることも無く目的地に到着した。
再び戻るとそのまま収録に突入し、ほとんど言葉をかわすこともなく私は次のタンポポのラジオ収録に向かった。結局よっすぃーとはあの後話すことができなかった。
ようやく全ての仕事を終え、家に着いたころは体中が疲労しきっていた。
お風呂に入るとすぐさまベッドにダイブする。
枕元に置いた携帯の画面が目に入る。
来て……ないな。
寝転がったまま携帯を手に取る。
メール、打とうかな。なんて打とう?
「今日はおつかれさま!」ていうのもなんだし
「明日は楽しんできてね」じゃなんか嫌味っぽいし
「アイ――――――――ン!!」じゃよっすぃーも返答に困るだろうし
あーあ
昨日は「おやすみ」って打つだけで幸せだったのに
大好きなよっすぃーと付き合ってるのに
なんで、
なんでこんなに
胸が苦しいんだろう。
なんで泣きたくなるんだろう。
- 112 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月09日(土)10時49分26秒
- 結局、私は一日どこにもいかず家でゴロゴロテレビを見てオフを過ごした。
なるべくごっちんとよっすぃーが今ごろどうしてるのかっていうのは考えないように……ってそう思ってる時点で既に考えてるんだから矛盾してる。
こんなことなら一緒に行けばよかった。
テレビの画面の方に視線を戻すと私の耳に電子音が響いてくる。
携帯の着信だ!
急いで私は携帯をとって通話ボタンを押した。
「あ、石川?元気かー今、年長組で飲んでんねん!!いやー、楽しいわっ」
陽気な声が聞こえてくる。
「こら、ちょっとなーに裕ちゃんイタ電してんのよ!!みっちゃん!とりあげてっ!」
後ろのほうで保田さんの声がする。
ガチャガチャという争う音の後、平家さんが「ごめんね〜邪魔してっ。もうかけさせんから」とすまなそうに言った。
「いえ、いいんです。それじゃ」
プチッと切ボタンを押す。
「……お風呂はいろーっと」
誰もいないけど私は不必要に大きな声でそういうとバスルームに向かった。
パラパラ雫が降り注ぐ。顔のあたって頬を伝い次々と落ちていく。
蛇口をひねってシャワーを止めたのに、
私の頬には雫が伝いつづけていた。
- 113 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月09日(土)10時50分32秒
- 昨日は一日なんにもしなかったのに体がだるい。
適度に動いたほうが疲れないっていうのは本当なんだ。
楽しそうに話をしてるよっすぃーとごっちんの姿が目に入る。
なんの話してるのかな、昨日のこととかだろうな、きっと。
私も仲間に加わればいいんだけど足が向かない。
ちらっと視線を送ってみたけど気付いてくれない。
寂しいよ、よっすぃー。いっぱい話したいのに、なんで近くにいけないんだろ。
「どしたの?」
私の肩にポンと手が置かれた。振りかえると保田さんが心配そうな顔をしている。
「晴れてカップルになったのに浮かない顔だねー」
保田さんには上手くいったその日に早速お礼の電話を入れたから既によっすぃーとのことは知ってる。
なにかと気にかけてくれてるんだなって改めて実感する。
「あー、喉かわいたなっ。石川ジュース買いにいこ!」
私の腕を掴むと廊下に出て自販機のあるほうに向かう。
周りにみんながいるから話しにくいと思って連れ出してくれたらしい。
- 114 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月09日(土)10時51分41秒
- 「何にする?」
自分の分の缶コーヒーを買った後コインを投入してボタンを押すように促す。
すいません、といってコーンポタージュのボタンを押す。なんかそんな気分。
「で?どうしたの?」
プシュっという気持ちのいい缶を開けるおとが響く。
私もとりあえず開けて一口飲む。あ、振るの忘れちゃった。
縦に振れなくて仕方なく横にくるくる回す。
「保田さん……また質問していいですか?」
「ん?なあに?」
「オフのときとかってどう過ごしたいなって思います?」
「どうって……そうだな普段忙しくて出来ない、家の掃除とか」
「……デートしたいなって思いません?」
「へっ?まあ、思う……かなあ?でも絶対ってこともないし、他になんか用があれば仕方ないし、また今度でもいいかなって思うかな?」
コーヒーは保田さんにはちょっと熱かったらしくふうっと一回息を吹きかけている。。
「相手は会いたいって思ってるかも知れないですよ」
すると、保田さんはクスッと笑う。
「思ってない思ってない。会うときは会うし、会わないときは会わないって感じだもん」
私は、会いたい。よっすぃーと会いたい。
- 115 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月09日(土)10時52分23秒
- 「寝る前、声聞きたいなーって思いませんか?」
「声?うーん、夜聞くと夢ん中に出てきそうだからね〜。別になんか用がある時とか暇なときなんとなくかけたりって感じだよ」
「相手は声が聞きたいって思ってるかもしれないですよ」
すると、保田さんはまたクスッと笑った。
「ないないっ!!大体用が無いのにかかってくるときはロクな内容じゃないからね。せいいぜい酔っ払って……」
私はすごく………声が聞きたい。
「なんか……すごく気があってるんですね…」
「そお?」
そう。すごく、すごく
「まあ、その辺が需要と供給が一致してるっていうとこじゃないですかね」
おどけたような保田さんの声。
- 116 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月09日(土)10時53分16秒
- ………なんだ、やっとわかった。
ぴったり一致してる、需要と供給。
欲しいものと与えるもの
与えられるものと欲しかったもの
「あ……れ?石川?」
調和のとれたふたつのパワーのバランス。
だから一致する需要と供給。
求めるもの、求められるもの
でも、
私は、もっとたくさんたくさん、一杯欲しくて
私ばっかり思いが強くて、私ばっかり欲張りで、要求だらけで
胸が痛い、ズキンズキンする。
どうしてって?
- 117 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月09日(土)10時53分54秒
- …簡単なこと。
なんてことはない。
ちっとも需要と供給が一致してなんかないからだ。
胸が、イタイ。苦しい。
涙が溢れ出してきて床にポトリと落ちた。
「石川、ちょっとぉ……どうしたのよ…」
なんでこんなことに気付かなかったんだろう。
私……馬鹿だ。
つづく
- 118 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月09日(土)13時38分31秒
- やっぱ圭ちゃん、いいわ。マジ惚れ続行中だよ。
それにしても石川……。泣け! 圭ちゃんの胸の中で。
泣いて泣いて泣いて泣いて、気が済んだら笑え!♪
そして再び吉澤を取り戻すんだ!!
- 119 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月10日(日)02時11分55秒
- 梨華ちゃんの気持ちわかりますねー。
自分の気持ちのほうが1gでも重いと不安になるもんね。(by古内東子)
よっすぃーとうまくいくといいな。
- 120 名前:ばね 投稿日:2000年12月10日(日)02時30分26秒
- 可愛そうなんだけど、思考が同じところをぐるぐる回ってて、ちょっとバカっぽいな、石川。(w
…でも、そういうところも好きよん。
それにしても、相変わらず圭ちゃん人気高いですねぇ。誕生日限定なんだろうと思ってたんですが。(w
- 121 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月10日(日)02時59分10秒
- バランスってむずかいしいね
圭ちゃんの成人を祝って姐さんのようにメンバー10人斬り(?)読みたい。
あるみかんさん、圭ちゃん 好きだぞー!!
- 122 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月10日(日)15時26分55秒
- 思ったより長くなっちゃったなあ・・・・・・
>118さん 石川主役なのに出番の多い保田・・・・・・このシリーズの3で再び登場予定だったりしますが。
ほんと、最近自分の書くもの必ずといっていいほど保田さんが出てる・・・
>119さん おおっ古内とは、誰より好きなのに〜♪とか好きでしたよ(古い)
でもこういう恋愛のジレンマってあると思うんですよね。
>ばねさん その一人よがりな所が石川の魅力だと思ってんですが、どうでしょう?
保田人気が誕生日限定でないことを祈ります。
>姐さんのメンバー10人ぎりってなんか元ネタあるんですか?保田でやるとどうなるんだろう?
年少組との絡みが想像つかなかったり・・・・・・
- 123 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月10日(日)22時54分49秒
- 「何、話って?二人だけで話したいって」
保田さんに頼んでよっすぃーを呼び出してもらう。なにか言いたそうだったけど保田さんは私の頭を軽く撫でると何も言わずに席を外してくれた。
「でもよかった、私もちょうど……」
「よっすぃー!!」
「は、はい!?」
なにか言いかけてたみたいだけど決心が鈍らないうちに私は口を開いた。
よっすぃーは私の顔を見てぎょっとしてる。
随分たくさん泣いたから、きっとひどい顔だ。
「どうしたの?梨華ちゃん……」
こんな顔、見られたくない。私は顔を背けた。
「……別れよ、よっすぃー」
「ええっ!?」
- 124 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月10日(日)22時56分03秒
- 驚いたよっすぃーの声。私を自分の方に向かせようとする。
「な、なんで?突然……」
顔を見たら決心が揺らいでしまいそうだから私は必死でよっすぃーを見ないようにする。
「私、なんか悪い事した?」
ううん、よっすぃーは悪くない。
「誰かになんか言われた?」
ううん、誰が悪いわけでもない。
何を言っても首を振ることしかしないのによっすぃーは根気よく尋ねる。優しい声で。
「わかった……」
よっすぃーが小さく呟くのが聞こえた。
「でも、理由だけ教えてくれない?そしたら、明日からまた仲良く出来るから」
なにか言わなきゃいけない。そう思うのに、
涙が溢れてきてむせかえりそうになる。
「だ……って……別れたくないけど…駄目なの……」
「駄目ってどうして?」
「だって」
だって
「需要と供給が一致してないんだもの!!」
- 125 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月10日(日)22時57分10秒
- 言いきったあと、また涙がブワッと溢れてきた。
「………は?じ、需要と供給?なにそれ?」
よっすぃーはぽかーんと口を開けて体中から『?』マークを発している。
「駄目なの!私、欲張りだから……」
一度言葉を発すると堰を切ったように感情が次から次へと毀れ出す。
「お休みの日はよっすぃーと二人っきりでいたい!
誰かの次じゃ嫌!
寝る前にはよっすぃーの声がちょっとでもいいから聞きたい!
朝会ったらおはよって笑って欲しい!
辛いことがあったときは、ぎゅーって抱きしめて欲しい!
毎日、すきって言って欲しい!」
それに、それに……
- 126 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月10日(日)22時58分32秒
- 馬鹿だ、私。
よっすぃー、きっとあきれてる。
これで私達は……終わりだね…
「あ、あのねぇ梨華ちゃん………」
一気に言葉を吐き出して脱力した私の肩にそっと手が置かれた。
「その……需要と供給がどうとか私にはよくわかんないんだけど……だから要するに…」
涙で霞んだ視界の向こうによっすぃーの顔がぼんやり見える。
「梨華ちゃん、私のこと好きでいてくれてるんだよね?」
よっすぃーの頬がほんのり紅潮している。
私はこっくり頷く。好き、大好き。
- 127 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月10日(日)23時00分30秒
- よっすぃーは照れくさそうに笑った。
「上手く言えないけど……え〜と梨華ちゃん言ってたじゃん。人が付き合うときはどうこうって。需要と供給ってやつともうひとつ」
「もうひとつ?」
もうひとつ……あ……
「誰かが誰かを愛するとき!!」
「よ……」
「それにぃ……」
答えようとした私をよっすぃーが遮る。
「そもそも私、需要と供給が一致するとかで梨華ちゃんと付き合おうって思ったわけじゃないからねっ……需要と供給がどうとか意味わかんなかったもん」
私はよっすぃーがOKの返事をくれたときの様子を思い出した。
戸惑った表情のよっすぃー
舞い上がってた私
ロクによっすぃーの反応も見てなかった。
私……ホント馬鹿だ。
- 128 名前:パワーバランス2 投稿日:2000年12月10日(日)23時02分08秒
- 「これ、今度のお休みのとき行こ?」
よっすぃーは私の目の前に何かのチケットを出した。
「あ……」
見たかった映画の前売り券。なんで?
「ごっちんとは違うやつみたんだ。だから、一緒に行こうね」
そういうとよっすぃーは私を引き寄せるとぎゅーっと抱きしめた。
あったかいよっすぃーの腕の中。
「その……全部は無理かもしれないけど、需要の方にもなるべくお答えできるように……努力…するね…」
最後のほうはほとんど聞き取れないくらい小さな声。
でも私には十分するくらいだった。
いつか、ホントに一致する日が来るかもしれない………でも
アンバランスも、悪くない……かな?
FIN
- 129 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月10日(日)23時04分53秒
- ・・・・・・・
・・・あ、あま――――――――――っ!!
いつもならネタで落とすのに・・・
読んだ人砂吐くんじゃないだろうか。すいません。
- 130 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月10日(日)23時49分08秒
- きゃ――――っ。ホントにあま―――――いっ。
そぉーとぉ、オッケーだと思います
2人が甘々で、心置きなく私も幸せに眠れます(笑)
また幸せなの読ませてください(^-^)
- 131 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月11日(月)01時39分39秒
- 今はじめて、あるみかんさんのこの書き物を見させていただきましたっ!
もう・・笑えた笑えた・・。得にパワーバランスの落ちにはやられました。(笑)
石川×吉澤の甘さもよかったです!!良かったのですが・・ここらで一つ
市井×後藤もいって欲しいかなと・・。あの、話の中のエピソードでも全ッ然
いいのでお願いしますっ!! 気が向いた時にでもぜひぜひ・・・。
- 132 名前:いずのすけ 投稿日:2000年12月12日(火)00時52分17秒
- 石川・・・、吉澤・・・、かわいいじゃないかっ!!
圭ちゃんも素敵だ!!
あるみかんさんも素敵だあ!!!!!
- 133 名前:Q 投稿日:2000年12月12日(火)02時33分28秒
- 微笑ましいいしよし、サイコーです。
あるみかんさんサイコーです。
次待ってまーす!
- 134 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月15日(金)00時17分24秒
- >130さん 二人とも幸せになって終わるのは自分の中では珍しいパターンだったりするのですが、(なんか恥ずかしいし)
喜んで頂いて嬉しいです。
>131さん 市井後藤は今考えてる長めのやつ(しかも暗い・・・)で書こうかと思ってます
>いずのすけさん 読み返すと何気に圭ちゃんが美味しい役だったりしますね。
>Qさん 最近メディアのほうでも(東京1週間とか)この組み合わせ押しみたいですね。
てなわけでパワーバランス3スタート。
- 135 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月15日(金)00時18分41秒
- この世に生を受けて27年。
なんだかんだで四半世紀以上を生きてる訳やから人生経験はそこそこあるほうやと思う。
「あの、中澤さん…相談があるんですけど」
ほら、またこの裕ちゃんを頼ってくるものが一人。しゃーないな、いっちょ力になってあげましょう。
「なんや、石川」
一時期私のことを恐がっている節もあったけどこのところやけに頼りにしてくれる。なんかしらんけど間接的に石川の恋路に一役買っていたらしい。上手くいってるみたいやから安心してたんやけど、なんかあったんやろか?
「あのっ、私……実はよっすぃーと付き合ってるんですけど」
はいはい、知ってますよ。あれだけべたべたしてたら普通わかるって。
「私、よっすぃーのこと好きで……そのぉある程度需要と供給も一致しつつあるとは思うんですが……」
ふむふむ、それでなんや?
「どうしても、次のステップに進めないんですっ!!ほっぺにチューどまりなんですっ!!」
- 136 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月15日(金)00時19分20秒
- 石川は拳を握り締めて力説した。
……次のステップねえ…つまり、なんや
「唇にチューしたり、それ以上のことがしたいっていうことか?」
「やだあっ!!中澤さんっ!!」
石川は顔を真っ赤にすると私を思いきりパシーンとはたいた。
「なにすんねん!!痛いやろっ!」
「あ、す、すみませ〜ん」
ヒリヒリする頬を押さえながら石川を睨み付ける。
いつもならここで切れるとこやけどせっかく頼りにしてきてくれてるんやからここは大人にならんと。怒りをぐっと押さえつけて平静を保つ。
「ええか、石川。よう聞くんやで」
「はいっ、中澤さん」
素直に返事する石川。ちょっといい気分やな。
「二人の中が進展するにはな、愛がある時、需要と供給があるとき、それともう一個かかせない要素あんねん」
「ええっ!そうなんですか!教えてください」
- 137 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月15日(金)00時20分11秒
- 石川が食い入るように私を見つめる。もうちょっと焦らしたいとこやけどまあええやろ。
一呼吸置いて言った。
「外的要因や」
「……は?」
石川は呆けた顔をして絶句していた。ちょっと言葉が難しかったようやな。
「外的要因、つまり環境やな」
「はあ、あのもう少しわかりやすく説明してもらえますか?」
「そやな……たとえばや、親同士の決めた許婚とかって第三者によって仕方なく結婚てなことになるやろ?本人の意志はほとんど関係あらへん。それから、出来ちゃった結婚もそうやな。子供が生まれてしまうから籍いれなあかんとか。これも外的要因、環境のなせる業や、わかるか?」
「………なんとなく…」
「つまり、そうせざるを得ないとか、なんとなくそうなってしまうっていう環境が必要やって事や。俗に言う環境に流されてしまうってやつやな」
「なるほどっ!!」
石川の瞳がきらんと光る。
「つまりっ!よっすぃーにムラムラッとくるような薬かなんか飲ませてラブホテルに行っちゃえばいいって事ですね!!」
「アホか!!」
さっきのお返しと言わんばかりにぱこーんと石川の頭をはたく。
なんでどつき漫才やってんねん。
- 138 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月15日(金)00時20分49秒
- 「全く、催淫剤やらラブホやら近頃の若い子は何考えとんねん」
「だ、だって〜中澤さん」
結構痛かったらしく涙目で石川は訴える。
「ええか、そうやなくてな、もっと簡単に言うとムード作りが大事やって事や」
「ムード……ですか?」
「そや。例えば一緒に遊園地にいってデートして最後に観覧車でも乗るとするやろ?きれいな風景、デートで縮まった2人の距離、そして2人だけの空間。こんだけ条件が揃ったら自然に周りの環境に流されて……」
ぐぐっと石川に顔を近づけて寸前で止める。
「はれてめでたしめでたし、念願のちゅ〜や」
「さ、最高です!!」
石川は明らかに尊敬の眼差しを浮かべていた。
よかったよかった。やっぱ人の役に立ついうんはええもんやな。
- 139 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月15日(金)00時21分27秒
- 「じゃあ、早速がんばってみます!!ありがとうございました!!」
「がんばりや。私でできることやったらなんでもしたるから」
さあて、ほな帰ろうかな。そう思った私の肩を石川が力強く掴んだ。
「本当ですか!!なんでもですかっ!!」
一瞬私は自分の軽口を後悔した。けど中澤裕子たるもの一回ゆうたことを取り消すわけにはいかん。
「ええで、なんや?」
「今度のオフのときWデートしてください!」
「は、はぁ?」
なんでそうなんねん!!私は即座に聞き返す。
「だって……やっぱり上手く行くかどうか不安なんで……見守ってて欲しいっていうか、アドバイスして欲しいっていうか……」
そう語る石川は私に『NO』という言葉を失わせるほどの迫力やった。(そんなによっすぃーとしたいんかい……)
こうして私は
石川の
『よっすぃーと○○するぞ大作戦』(石川命名。……なんで伏字にすんねん…)に
無理矢理参加させられることになってしもうた。
つづく
- 140 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月15日(金)01時04分58秒
- あるみかん、マジ最高!!
あんたの才能に惚れたぁーっ!!!
責任とってよね・・・。(w
- 141 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月15日(金)01時23分35秒
- ふふふ・・・。楽しい♪
Wデートかぁ。いいなぁ。よっすぃーとうまく○○出来るといいね♪
裕ちゃんと圭ちゃんも!?
- 142 名前:グェン 投稿日:2000年12月15日(金)15時29分48秒
- サイコー! サイコー!
石川がかわいー!!
圭ちゃんもサイコー!!
自分も今石川書いてるんですが、上手くいかないので参考になりますっ
っつーかその前に完全に楽しんじゃってるんですけどね(w
- 143 名前:いずのすけ 投稿日:2000年12月15日(金)19時19分23秒
- いしかわー!!!
がんばれよ。見守ってるよ。(笑)
- 144 名前:超超超超イイ感じ。 投稿日:2000年12月16日(土)07時00分41秒
- すっごいおもしろいです〜
みんなキャラがしっくりハマる感じだし、
どの娘。の視点でもちゃんとおもしろい所を引き出せてると思います。
まさに超超超イイ感じ。。。
- 145 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月16日(土)15時40分41秒
- 昨日のMステは周りのゲストはかなりひいてたけど結構面白かった。
よっすぃーがあんま(ていうかほとんど)喋れなかったのが残念。
>140さん 才能じゃなく妄想力(んなものあるのか?)です(笑 責任を持ってオチ付けます。
>141さん 第3話は姐さんが主役ですからね。乞うご期待・・・・・・?
>グェンさん 石川は結構いろんな役に置けるので話が膨らみますね。グェンさんの作品もぜひ読ませていただきます。
>いずのすけさん リングの方にもご感想ありがとうございます。これっくらい軽い雰囲気の話が書きやすいんですがまた重いのを近々やるのでよかったら読んでください。
>144さん どうしても押しのメンバーに視点が偏りがちですが、それぞれいいところを出していきたいですね。
- 146 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月16日(土)15時44分05秒
- 「……ていうかなんでこの4人な訳?」
「それをゆうてくれるな」
「で、なんで遊園地に来るわけ」
「深く聞かんといてや」
「……まぁ、来ちゃったものはしょうがないけどね」
諦めたように圭坊はため息をついた。
この季節の遊園地はかなり肌寒く、正直言って私も相当こたえていた。
とりあえずは無難なカートやらメリーゴーランド(女ばっかりで乗るのもどうかと思うけどな)をこなしていく。
「よっすいー、手冷たいよぉ」
数歩先を歩いている石川が吉澤と手をつなごうとしている。
「あ、じゃあこれ、はい!」
「……」
吉澤はポケットからカイロを取り出して石川に握らせている。
石川、カイロにあえなく敗れる。
- 147 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月16日(土)15時45分03秒
- 「何ぶつぶつ言ってんのよ裕ちゃん」
さすが自称寒がりだけあって圭坊の防寒はコートにマフラーに手袋と完璧。感心感心。
「なに乗りましょうか中澤さん」
前方の石川が振りかえって私にアドバイスを求めてくる。
そやそや、今日はこのために来たんやったわ。
「ほな、そろそろあれいっとこうか」
この遊園地の目玉である全国で高低差がナンバー1とかいう絶叫マシーンを指差した。
作戦通りやで、と石川に眼で合図するとコクリと頷く。
この手のものに乗って一緒に恐怖体験をすることによってぐっと相手を身近に感じることが出来る。それに、恐怖によって高まった感情は過敏になって、その後の空気にぐっと流されやすくなるもんや。
う〜ん、我ながら素晴らしいな。
「えー……恐いよぉ、よっすぃー」
「大丈夫だって、ね」
こらこら石川、唇の端っこが微妙に笑ってるで。たいした大根役者っぷりやなあ。
- 148 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月16日(土)15時45分47秒
- 「裕ちゃん……やっぱあたしも乗らなきゃ駄目?」
「裕ちゃんにひとりで乗れっていうんか!寂しいやないかー」
「……わかったわよ」
渋々圭坊も承諾する。
ガチンと音を立てて安全ベルトが降りる。
……これはなかなか、
恐いやん…
き、
キャ――――――――――――――
………ハア、ハア
こ、恐かったわ、結構。
「恐かったね……ちょっと気持ち悪くなっちゃった」
石川がしっかり吉澤の手を握っている。吉澤のほうもまんざらでは無さそうや。
よしよし。
- 149 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月16日(土)15時46分26秒
- 「ちょっとここで座ってて。あったかいものでも買ってくるね」
優しく石川をベンチに座らせる。こりゃ石川が惚れるんも無理無いかもしれんな。
「裕ちゃん……あたしもちょっと行って来る。」
「ん?そうかぁ、ついでにコーヒー買ってきて」
「わかった」
連れ立って売店の方に向かっていく。二人が視界から消えたのを確認すると石川の隣に腰をかけた。
「ばっちりですねー、中澤さん!!」
おいおいあんた気分悪いんちゃうかったんか。歯切れのいい口調で石川が笑う。
「これで、観覧車に乗ればOKですねっ」
「………だから、シロートはあかんちゅうねん」
ホンマついてきてやってよかったわ。
- 150 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月16日(土)15時47分05秒
- 「は?」
自信満々の石川に観覧車のほうを見るように促す。
「ええか?この間話したのはあくまで例えばの話や。臨機応変にその場その場で対策を練らないかん」
「と、いいますと?」
「見てみ、あの長蛇の列。それに加えてあの観覧車の大きさ、角度」
「はあ……」
「女4人で並んだら間違い無く相乗りになるで。運良く二人ずつになったとしてもあの観覧車ほとんど側面ガラス張りで周りから丸見えや。吉澤のことや周りを警戒するに違いない」
「そ、そんなぁ〜……じゃあ、一体どうすれば」
「はっはっはっ!あれや!」
指をぴーんと伸ばして少し大通りからは外れた所にある黒い建物を指差した。
- 151 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月16日(土)15時47分55秒
- 「ホラーハウス……ですか?」
「そや、よく聞くんやで?あそこやったら中も狭いし必然的に二人ずつ進むしかあらへん」
「はい」
「真っ暗闇の中、頼れるのはお互いだけ」
「はい……なんかドキドキしてきました」
「そやろ?そこで次々と二人に振りかかる仕掛けの数々」
「はいっ」
「『きゃー、よっすぃーコワーイ!!』と抱きつく!そしてや…」
「そして……」
「うるうるした瞳で見つめたらええねん。あとはなる様になるわ」
「中澤さん……」
見よ、この羨望の眼差し。すっかり私の信者やな。
「お待たせ―」
そうこうするうちに二人が戻ってきた。さあ、勝負やで!石川。
つづく
- 152 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月17日(日)01時35分18秒
- どきどきわくわく・・・。どーなるんだろ♪
よっすぃーは相変わらず優しくて梨華ちゃんが羨ましいっす。
しかし梨華ちゃんの女優ぶり、ちょっと抜けてていいなぁ(笑)
- 153 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月17日(日)02時16分32秒
- ダブルデートという事は、石川は裕ちゃんと圭ちゃんが付き合っている事は
知っているのですね?
石川の暴走(?) 吉澤の鈍感 めっちゃいいかんじ
やすゆうの方も気になる。
- 154 名前:シーマ・ノブナガ 投稿日:2000年12月17日(日)03時19分51秒
- 圭ちゃんの性格が細かく描写されてて
かなりいい感じです。
いしよしの方も気になりますけど
やっぱりやすゆうの方が気になりますね。
圭ちゃんに愛の手を!!
そして石川の暴走に期待!!
- 155 名前:ぉg 投稿日:2000年12月17日(日)03時57分38秒
- いじわる言っちゃうと保田は暑がりだよな。
本に書いてあった。
- 156 名前:いずのすけ 投稿日:2000年12月17日(日)04時54分58秒
- 吉澤、石川をうけとめてやってくれ(笑)
- 157 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月17日(日)23時42分47秒
- >152さん 吉澤ファンなのでどうしてもいいやつに書いてしまう(笑最近圭ちゃんもかなり好きなんですけどね。
>153さん 本当は知らないっていう設定にしたかったんですがエピソードをいれるタイミングがなかったので知ってることにしちゃいました。
(当日まで誰がくるかわかんないみたいな)
>シーマ・ノブナガさん 圭ちゃんは誰と絡ましても結構面白いかもと最近強く思う。娘の中では唯一甘い話が考えにくい(と自分は思う)な性格なんでどう落とそうか考えるのも楽しいです。
>ぉgさん ありゃ、すいません。勉強不足で。新作吉澤主役みたいなんで嬉しいです。
こんなとこでいうのもなんですが、がんばってください。
>いずのすけさん レスありがとうございます。基本的にこのシリーズはみんな幸せハッピーエンドをめざしてるので。
- 158 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月18日(月)01時15分12秒
- 「えー…あたし先に行くんですかあ?」
先頭で行くことをいやがっている吉澤に睨みを利かせる。
「こういうときはリーダーは後からいくもんや、登山の時とかもそうやろ?一番後ろでみんなの安全を確かめながら進む重要な役割なんやから。」
渋々中に入っていく吉澤に従う石川にそっと耳打ちする。
「うちらはゆっくりいくから」
「何話してんの?」
圭坊が不信な顔をして覗き込んでいた。っとやばいやばい。
「なんでもないでっ!」
そうこうするうちに2人の姿は闇の中へと消えていきほっと一安心。やれやれ、世話がやけるわほんまに。
私がしてやれるのはここまでや。後は自分でがんばるんやで石川。
「裕ちゃん?入らないの?」
「いや、入る入る。いこいこ」
入るに決まってるやんか。2人がどうなるのか保護者として見届けたい、
というよりは他人様の濡れ場(?)なんてそうそうみれるもんやない。
散々世話してやったんや、それぐらい見ても罰はあたらんやろう。覗き趣味というなかれ。
なんだかうかない顔の圭坊の腕を引っ張って中に入っていく。
- 159 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月18日(月)01時16分14秒
- たかが遊園地のお化け屋敷と舐めてかかってたけどこれはなかなかのもんや。
本物じゃないとわかっているけれどひんやりとした空気、小さな蝋燭の明かりしか頼れない暗闇、怖いわこりゃ結構。石畳の順路をゆっくりと歩いていく。
「結構……雰囲気あるねぇ」
黙っていると不安になってきたので隣の圭坊に話し掛ける。
「……あ、うん」
なんだか歯切れの悪い返事が返ってくる。圭坊も結構こわいんかな、もしかして。
肘のあたりをがっちりとつかまれている。
この分やとあの2人も上手くいってることやろう。
「キャ――――――――――!!!」
などと思いに耽っている傍から、前方から高らかな悲鳴が聞こえてくる。
うーん、なかなかかわいい悲鳴や。ええ調子やで、石川。
呑気に歩いていると私達の横から突然白骨の手が飛び出してくる。
「ギ、ぎょえ―――――〜〜〜っ!!」
驚いて声を上げようとする前に耳を劈くような怪音がこだました。
- 160 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月18日(月)01時17分26秒
- 続けざまに反対方向からも白骨化した手が出てくる。
「ひギャーーーーーーーーーーーーーー」
またもや、私の真横から怪音が発せられた。
「……なんちゅう声出すねん!!怖いやろ!!」
圭坊がさらに力を込めて私の腕を掴んでくる。
立て続けの超音波に鼓膜がなんだかおかしくなってるような気がする。
ちっとは石川を見習えっ。もうちょっと声のあげようもあるってもんやろ。
ってこんなモタモタしてたらあいつらのラブラブシーンを見逃してしまうやんか。
はやる気持ちとは裏腹にへたり込んで動こうとしない圭坊に痺れを切らす。
「すぐ、戻ってくるからここで待っといて!!」
「え、うそ裕ちゃん!!待ってよお」
- 161 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月18日(月)01時18分15秒
- 悲鳴を頼りに駆け足で前に進み、墓石の影からそっと様子を伺う。
「キャ――――――ッ!」
あ、いたいた。目標発見。
「怖いよぉ」
めっちゃ計画どおりやん。
「大丈夫だよよっすぃーっ!!梨華がついてるからっ」
………え?
「クスン、梨華ちゃん……ありがとう」
ひょこっとばれないように顔だけ出す。
「よっすぃーのこと、大好きだから……私が守ってあげるね」
「梨華ちゃん……」
ふだんからきらきらした目を涙でいっそう輝かせた吉澤の瞳を見つめ石川が顔を近づけている。
まあ、
ちょっと予定とは違うけど
結果オーライ……やな?
ええなあ、若いもんは。。。などとしみじみしてしまう。
- 162 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月18日(月)01時18分57秒
- さ、帰るか。
自分の好奇心と責任感を満足させ一息ついたところではたと思い出す。
そや!圭坊置き去りにしてたんや。あかんあかん!
慌てて引き返す。
ずっと目を開けていると暗闇にもだんだん慣れてきて、さっきと同じ場所でうずくまっている圭坊を発見した。
その肩に軽く手を置く。
「ごめんごめん。じゃ、出ようで」
こういうときは軽い冗談で場の雰囲気を変えるのが鉄則や。
「そんな怖がらんでも大丈夫やって。圭ちゃんも負けないぐらい怖い顔してるから」
で、ここで「ムーカーツークー!」ってパンチ!!
- 163 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月18日(月)01時19分35秒
- ……あら?
予想に反して圭坊は俯いたまま反論しない。それどころか、私の上着をしっかりつかんでいる。
「圭坊……?」
そおっとしゃがんで下から覗きこんでみる。
目をきゅっと閉じていてその瞼がかすかに震えている。
よく見るとうっすらと睫毛が濡れている。
唇はリップグロスのせいかもしれんけど暗闇の中でも妙に艶っぽい。
あ……そういえばこのマフラー私があげたやつやんか……
今日…してきてくれたんやなぁ……
暗闇のせいかはっきりと自分の呼吸と圭坊の呼吸の音だけが伝わってくる。
相変わらず圭坊の手は私の上着をしっかりと掴んでいる。
なんか……
なんというか……
…………
めっちゃかわいいやん……
- 164 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月18日(月)01時20分32秒
- ゆっくりと圭坊に顔を近づける。
ああ、待て待て。何考えとんねん。
大体や、うちらは需要と供給がたまたま一致しとるだけで
そのぉ、なんや
こんなことはしたら……あかんような……
でも
………ああそうや、あれやあれ。
そんなんがなくたってなそう、なんとなくそういう環境になってるからや。そうや!!そうなんや!!
環境に……流されてしまうって……やつや。
目を閉じて一気に唇を近づけた。
- 165 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月18日(月)01時21分02秒
- 「キャ―――――――――――ッ!!」
今日一番の悲鳴と同じにバッチーンという音が鳴り響いた。
「痛いやんか!!なにすんねん!!」
「それはこっちの台詞よ!!人がこんだけ怖がってるっていうのに驚かそうなんていい根性してるじゃない!!」
人を置き去りにする上に脅そうなんてサイテー!!と叫んで圭坊はダッシュで出口の方に向かっていった。
- 166 名前:パワーバランス3 投稿日:2000年12月18日(月)01時21分38秒
中澤裕子の恋愛論一部改正。
環境に流されてしまうとき
改め
お互いが環境に流されるとき……やな。
FIN
- 167 名前:おまけ 投稿日:2000年12月18日(月)01時23分11秒
- おまけ。
ああ、圭坊のやつ思いっきり引っぱたいたなあ。
まだ痛む頬を摩りながらベンチに座った。
「おー痛い痛い。ひどいで圭ちゃん」
「なーにーがひどいよ。当たり前でしょ、人を怖がらせようとした報いよ」
「だから、誤解やって。置き去りにしたんは謝るけど、恐がらせようとしたんちゃうで」
「でも、急に近付いてきたじゃない!!」
「だから違うって」
「なによ、じゃあ何しようとしたのよ?」
「ちゅーしようとした」
「なに誤魔化そうとしてんのよ」
自分にだけはキスしないと思いこんでいる(まあ実際そうやったんやけど)圭坊はまるで聞く耳を持たない。正直にいうてるっちゅうに。
ムキになって怒る圭坊。キリッとしてええやん。
- 168 名前:おまけ 投稿日:2000年12月18日(月)01時23分49秒
- 「ったく……ところで石川達どこいっちゃったんだろ?」
「さあ?ま、ええんとちゃう?」
上手く話題が変わったのですかさず便乗する。
「じゃあ帰ろ………」
立ちあがろうとする圭坊の手を握る。
「急がんのやったらこれから一杯やらへんか?ちょっと感じのいい店があんねん。ええムードなんやでー」
「……ふーん…」
しばらくじいっと私を見ながら考える風にした後にこっと笑った。
「OK。二十歳になったことだしね」
「よっしゃ、決まり!!好きなだけ飲んでええで。なんならうち泊まってったらええし」
「裕ちゃんがそんな気前のいいこというなんてさ、変なのー」
なんとかご機嫌も直ったみたいでおごりとわかると圭坊はさっさと歩き出した。
まあ、なんてゆうか
ぼちぼちいこか、まずは土台作りからってね。
本当にFIN
- 169 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月18日(月)01時27分30秒
- ということでパワーバランスシリーズ(になってしまった)はこれで一幕終了っと。
青のほうで新しいのはじめさせていただきました。リングの続き使おうかと思ったんですが
かなり長くなりそうなんで別スレ立てさせて頂きました。
暗い&重い&長いの三重苦の上・・・・・・
こっちはこっちでまた軽いの書ければなと思ってます。
- 170 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月18日(月)02時18分17秒
- >圭ちゃんも負けないぐらい怖い顔してるから
ゆーちゃんそれは禁句だって! でも笑った
石川、やったね!
怖がってる圭ちゃんかーわいぃ
とりあえず需要と供給で付き合っているゆうやすだけどお互いホントの気持ちは
どうなんだろうね。続きOR番外編があればうれしいいな
がんばれ圭ちゃん!がんばれゆーちゃん!がんばれあるみかんさん!!
- 171 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月18日(月)20時06分40秒
- 圭ちゃんかわいすぎ!
マジかわいい!!
あるみかんさん最高!!!
- 172 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月18日(月)23時59分33秒
- やたっ!青板のほうで新作書き始めたんですね。
これは探しに行かないと!!
怖がるよっすぃーがかわいすぎるっ。○○は出来たのでしょーか?
圭ちゃんと裕ちゃんも一応ハッピーエンドで良かった良かった。
ところで新曲の「愛する人よ〜」のところ、1番と2番で石川、吉澤と歌ってるけど
すごいかわいくって、何度聴いてもにやけてしまう私です^^
- 173 名前:いずのすけ 投稿日:2000年12月19日(火)20時49分35秒
- やはり圭ちゃんやった(笑)
圭ちゃんにカメラの使い方教えてあげたいわ。
よっすぃ〜もかわいい。
パワーバランスシリーズおもしろかったっす!!
- 174 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月21日(木)00時36分49秒
- >170さん なんだかんだで圭ちゃんのことは悪く思ってない(というか需要が増えつつある)裕ちゃんをイメージしていたのですが、
ちと書ききれなかった感もあり。がんばれのエールありがとうございます。やる気が起きますよ、ほんと。
>171さん 誉め過ぎですって。でもありがとうございます。圭ちゃんの小説ほんと増えましたよね。ひとさまのが読めて嬉しい限り。この人気が続きますように。
>172さん 青のほうは山場に持ってくまでの前置きが長く読者さんも苦痛かも・・・色恋沙汰(笑メインじゃないし。(要素はあるけど)
テレビではなかなかフルで新曲やってくんないのでよっすぃーの「愛する人よ」が聞けなくて哀しいです。
>いずのすけさん たびたびのご感想ありがとうございます。励みになりホントありがたいです。
パワーバランスも気が付けばシリーズ(単発の予定だったんですが)。こういうのは書きやすいです。
さて・・・この次・・・ふと思いついた話はとんでもない組み合わせなので保留。
せっかくリクエストをいくつかいただいてるんでその中から書ければと思っていますが。
- 175 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月21日(木)01時56分40秒
- 170でーす
>ふと思いついた話はとんでもない組み合わせなので保留。
おおっ!! あるみかんさんのすばらしい妄想力(誉め)に期待。新しい波を起こしてください。
自分のリクが採用されることを期待しつつ あるみかんさんサイコー!!
- 176 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月21日(木)22時32分49秒
- >175さん
とんでもないと思っていた矢先に青板で同士を見つけ(というかその組み合わせ)を勇気付けられた(笑)
しばらくしたら書いてみようと思ってみたり。
こっちでは爽やかなものを書きたいと思っています。
- 177 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月22日(金)01時53分02秒
- 素人でごめんなさい
青での連載の題名を教えていただけないでしょうか?
どうしても分かりません。
あなたの作品、とても好きなので他のも読みたいです。リングは読みました。
- 178 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月23日(土)02時09分51秒
- >>177
チャイルドプラネット
http://www.ah.wakwak.com/cgi/hilight.cgi?dir=blue&thp=977064496&ls=50
- 179 名前:あるみかん 投稿日:2000年12月23日(土)07時45分01秒
- >177さん どうもありがとうございます。178さんがご親切にリンクをはってくださいました
>178さん わざわざありがとうございます。感謝。
小説あぷろだの方に作品を上げてくださった方ありがとうございます。
この場を借りてお礼を申し上げます。
- 180 名前:crow 投稿日:2000年12月27日(水)05時49分52秒
- 全部一気に読ませてもらいました。
いや、マジでおもしろい!すごいっす、あるみかんさん。
吉澤×中澤書かれるんですか?ぜひお願いします!!
自分が書いたの以外のこの二人の小説が読んでみたい・・・。
やすゆう、めっちゃ良かったです。いしよしも・・・。
あるみかんさんが書く中澤好き。
- 181 名前:177 投稿日:2000年12月31日(日)05時51分46秒
- >>178
教えていだだいてありがとうございます。
お礼が遅くなった事をお詫びします…
>>179
読ませていただきました。めちゃくちゃ面白いです。
話しの設定がしっかりしていて、次はどんな展開になるんだろうと
ワクワクさせられます。ただの娘。小説になってない所がいいです。
甘々小説も好きですがこういう小説も好きです。頑張って下さい。
- 182 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月02日(火)03時31分28秒
- >181さん 読んでくださってありがとうございます。
最初の設定が死なないように頑張ります(笑
パラレルもんは苦労させられますね。
- 183 名前:コバルト小説を書こう 投稿日:2001年01月06日(土)00時49分05秒
- 爽やかな(ワラものを書こう、
と思いコバルト小説なのりのもんを、さらっと。
crowさんの小説に触発され書きたくなったものをやらせて頂きます。
設定、及び話の展開に無理な部分もありますが、ご容赦くださいませ。
- 184 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月06日(土)00時50分09秒
- 外、寒そうだなぁ……。
楽屋の窓から通りを行き交う人々を眺めた。歩道の真ん中で手を擦り合わせながらチラシを配る金髪の少女の姿が目に入る。しまった、手袋持ってくればよかったなぁ、私も。
私の前の窓ガラスもいつのまにか息のかかった所だけ白くなっている。
「だーかーらっ。気にすること無いって!!裕ちゃんは誰にでもあーいう言いかたするの」
「でも……」
目にうっすらと涙を浮かべる梨華ちゃんと困り顔の矢口さん。
こういうのは苦手だ。一人じゃ埒が開かなくて、矢口さんが来てくれたことにほっとしたのもつかの間。すっかり落ち込んだ梨華ちゃんの復活の兆しはいまだ見えず。
「悪いのは自分だってわかってるんです……だから」
「石川ぁ……」
「とりあえず、顔洗ってきますね」
力無く笑って、梨華ちゃんは逃げるように部屋を出て行った。
「まいったなぁ、もう」
ぽりぽりと頭を掻きながら矢口さんは眉を寄せた。
旧メンバーと新メンバーの確執。単なるマスコミや視聴者に対しての話題提供とは笑えない雰囲気がこの所、顕著になっていた。
- 185 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月06日(土)00時50分58秒
- 「お互い考えてることは一緒なんだけどなあ……」
矢口さんはなんとかみんなで仲良くしようと頭を悩ませている。
「はあ……」
気の利いたことのひとつでも言ってあげたいんだけど、事実私も割合無難につきあっているとはいえ、一線を引いている感は否めない。
「てゆうか矢口的にはよっすぃーしかいないと思うんだよね」
「は?」
突然自分が引き合いに出されて、なんのことかわからず私は素っ頓狂な声を出した。
矢口さんが椅子に腰掛けたので私も向かいに座る。
誰が飲んだのかわからない空き缶、読みかけの雑誌を横にどけてテーブルに肘をつく。
「私しかいないってどういうことですか?」
矢口さんは外国映画の探偵がやるような顎に手をやるポーズでうーんとうなった。
「私もそうだったけどさ、育ってきた環境も見てきたものも考えてることも違う人間がいっしょにやっていくことって大変だと思うわけ。特にアタシ達みたいな年齢も出身ももちろん性格もばらばらな女の子10人が心から仲良くやっていくのって中々出来るもんじゃないっていうのはわかるんだ」
その通り。ご明答。意義なーし。
- 186 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月06日(土)00時51分49秒
- 「特に……」
そこまで流暢に話していたのに矢口さんは急に言いにくそうに口をつぐむ。
全部言われなきゃわからないほど私は馬鹿じゃないし、矢口さんに言いにくいことを無理に言わせるのはもっと嫌だ。
「中澤さんと……ですか?」
こくりと小さく頷く。
「裕ちゃんのことどう思ってる?」
「どう思ってるって……」
モーニング娘のリーダーで、年齢は27歳で、ネールアートが好きで、矢口さんのことが好きで…………って矢口さんはこんなことを聞いてるんじゃない。
「ちょっと……苦手です」
ひとまわり年が違うし、おまけにモーニング娘のオリジナルメンバー。
もっとも、自分の認めた人間以外には壁を作っている印象を受けるのは私の僻みかもしれないけど。
レッスンしていたって私達は一生懸命やっているけど、売れない時代から死に物狂いでやってきた中澤さんにしてみれば手を抜いてるように思えるかもしれない。
考えてコメントしてるつもりだけど、社会経験もある中澤さんにしてみれば何を言ってるんだろうと思うかもしれない。
プライベートの恋の話をしていたって大人の中澤さんにしてみれば、ガキの相手なんかしてられないって思うかもしれない。
話し出した勢いで私は胸のうちを洗いざらい矢口さんにぶちまけてしまった。
- 187 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月06日(土)00時52分30秒
- 矢口さんは最後まで私の話をじっくり聞いた後「そんなことないよ」と言って向かいから隣に移動した。
ちょっと言いすぎちゃったかなと思ってフォローしてみる。
「嫌いってわけじゃないんですけど……」
「裕ちゃんはちゃんとよっすぃーたちと向かい合ってると思うよ。ただ表現がちょっとストレートすぎるだけで。ホンネで接してくれてるよ?」
座っていてもかなり高さが違うので若干前かがみになって目線を合わせる。
「矢口に言ったみたいに正直に言ってみなよ」
「出来ませんよっ!そんなこと」
ぶんぶんと手を振りながら私は慌てて否定する。
「中澤さんみたいに本音をずばずば言えるようなやつじゃないですよ、私。それにわかってくれるわけないじゃないですかぁ」
「そおかなあ?同期の子達には本音で付き合えてると思うけどなあ……それにさ……」
「それに?」
「きっとよっすぃーが最初に垣根をなくしちゃえば、きっと他の子達もできるとおもうんだ」
だからか。私はさっきなんで矢口さんが私しかいないって言ったのかようやく合点がいった。
- 188 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月06日(土)00時53分09秒
- 「手始めに、『裕ちゃん』って呼んでみるとか」
「え〜!?」
無理っ、無理っ!!絶対無理。今の現状でどうやったって。話しかけるだけでも相当なもんなのに。
「とにかくっ!!」
私は矢口さんの肩をぐっと掴んだ。
「無理ったら無理です。同年代ならまだしも、理解できるとは思えません。れっきとした壁があるんですよやっぱ」
「裕ちゃんだってよっすぃーくらいのころは同じような悩みを抱えてたはずなんだよ?わかりあえるはずだよ」
「わかんないですよ!!」
少々力が入って強めの口調になった所為なのか矢口さんは黙り込んでしまった。
せっかく矢口さんは私達のためを思っていってくれてるってのに……
「う〜ん……つまりぃ本質的にわかればいい訳で、それには…同世代ねえ……」
すっかり悩んでしまう矢口さん。挙げ句の果てに年齢の所為なんかにした自分の浅はかさが嫌になった。まあ、半分は本音だとしても、だ。
- 189 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月06日(土)00時54分01秒
- 「よし、わかった!」
ポーンと手をたたくと唇がくっついちゃいそうなくらい顔を近づけて私の目を見つめた。
うわ〜……どアップの矢口さんだぁ…かわいいなあ、なんて。
「目とじて」
「へっ!?」
こ、この距離で目閉じろって……そんな…まさか……
でも、矢口さんなら……
「……ってよっすぃー、別に唇は突き出さなくていいんだけど…」
「は、はいっ」
顔にカアッと血が上るのがわかった。
動揺を誤魔化そうと、素直に指示どおりに再び目を閉じる。
「唐突だけど、矢口超能力があるの」
「はぁ……超能力ですか………ってはあ!?」
「目開けちゃ駄目!!」
「は、はいっ!!」
と、唐突だけどどころか、とんでもないんですけど矢口さん。この展開無理がないっすかぁ?
まあ、でもほかならぬ矢口さんの頼みとあっては吉澤ひとみ嫌とは言えません。
- 190 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月06日(土)00時54分48秒
- 「えへへ……アタシさ、実は昨日ね超能力の本読んでね、ちょっとためしてみたかったんだ」
つまり……にわかじこみの興味本位って事ですね……って思ったけれど口に出すとまた厄介なことになりかねないので言われたとおりにすることにした。
「えー、今からよっすぃーを過去の世界にとばします」
もう、どうとでもしてください。
「私が合図したらその瞬間、裕ちゃんの過去に行くの」
中澤さんの……過去?
「さ、全身の力を抜いて……楽にして」
うぅ……ほんとにやるんだ。
力を抜いてぇ……
「心の中をまーっしろにして」
まーっしろに……
「そう……そしたらゆっくり目を開けて……ゆーっくり」
ゆ……っくり
「指の先を見て、そう……そうだよ」
あ…………れ?
- 191 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月06日(土)00時55分55秒
- ―――――――――
『大丈夫、2日たったらちゃんと帰って来れるからねー』
矢口さんの声が妙な不協和音を奏でながら鳴り響いた。
――――――――ィン……
指先が突き出される瞬間世界から音が消えた。
まったくの無音。
そして、すべての映像が消えた。
そして、
私の体が消えた。
〜to be continued〜
- 192 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月06日(土)01時09分44秒
- すごい。なんか世界に引き込まれました。
これからどうなる!?
- 193 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月06日(土)13時27分01秒
- 先がめっちゃ読みたい!
面白すぎる」
- 194 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月06日(土)15時42分06秒
- やっぱりあるみかんさんは天才なんですね・・・。
今回のもめっちゃおもしろそう!!
- 195 名前:黒猫 投稿日:2001年01月07日(日)17時01分19秒
- うおー!!
すっごい面白そう!
先がすごい気になる
- 196 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月09日(火)00時06分02秒
- 続きが気になる
- 197 名前:うでたまご 投稿日:2001年01月09日(火)10時19分48秒
- 赤板復活してる♪
青板に夢中で全然気がつきませんでした。不覚。
学生時代の裕ちゃん、きっとかわいーんでしょうね。
でも今よりももっととんがってる気がする(笑)
あるみかんさんの描く裕ちゃんはどんな人なんだろ?…期待。
- 198 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月09日(火)23時22分55秒
- 何も無い空間に点が現れる。
やがて2つ3つとその数が増え、点と点が線になる。
そして2つ3つとその線が増え、線と線が面を形作る。
そうしてようやく、ノイズ交じりの映像が現れる。
時折点滅を繰り返し、そのうち、その間がゆっくりになって。
やっとのことでくっきりとしたビジョンが浮かび上がった。
けれども頭のどこかしらがぼやけている。
………頭、痛い。
それに………
なんか、臭い……んだけどぉ……
- 199 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月09日(火)23時23分58秒
- 血液が流れるごとにズキンズキンと痛みを繰り返す後頭部を摩る。
私の真横にはブルーの所々に煙草の焦げ跡の在るポリバケツ。
半分破れかけたワレモノ注意のシールの貼られたダンボール。
周辺を漂う、物が腐って熟成された独特のにおい。
うえ〜……
たまらず私は口に手を当てると、立ちあがって咳き込んだ。
なに?なに?一体どうしたっていうんだ〜!?
確か私は、矢口さんと話をしていて、言われたとおりに目を閉じて………
混乱する自分を必死で押さえながらなんとか今の状況を整理しようとする。
『よっすぃーを過去の世界に……』
『裕ちゃんの過去に……』
まさか、んなアホな。
私の記憶の最新情報が指し示す現状は到底私の理解の範疇を超えていた。
こう見えても私は結構リアリストなんだから。超常現象(?)で説明をつけるのは頂けない。
冷静になろう……例えば………
- 200 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月09日(火)23時24分52秒
- ―
・
・
・
………何も思いつかない。
とにかくこんな所でずっといるのは健康にも精神衛生上もいいわけがない。
レストランかなにかの裏口らしき場所から表通りとおぼしき方向に向かって私は歩き出した。
あーあ、大体なんだってこんな寒空の下をノースリーブで歩かなきゃいけないんだ。
テレビ用衣装の紫色のニットに包まれた体をすくませる。
そうだよ、寒くて寒くて、汗ばんでるじゃない。
……あれ?
私はピタリと立ち止まった。
なんで?寒く……ないんですけど。
生地は厚手とはいえノースリーブの上にパンツルック。なのに全然寒くない。むしろ蒸し暑くさえ感じている。
慌てて上空を見上げてみる。
確か6時ごろだったはずだからすっかり暗くなってたはずなのに、空はまだ明るくてうっすら夕焼け色を帯びている。その上、もくもくした入道雲。
これじゃ………まるで夏だよ……
- 201 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月09日(火)23時26分27秒
- う、う、うわ――――――!!
落ち着かなきゃって何度も言い聞かせていたはずなのに私はたまらず走り出した。
とにかく、とにかく誰かに会わなきゃ、だ。
狭い路地を抜け表通りに飛び出す。
ドン!!
「った〜……なにするんや!!どこみて歩いてんねん!!」
アイタタタタタ……わき目も振らずに飛び出した私は通りを歩いていた人に思いきりぶつかってしまったらしい。
「す、すみません!!」
よろよろと起きあがりながらたった今ぶつかった人物を観察する。
……なんだコイツ。
再放送で見た金八先生のクラスの不良少年のようなリーゼントに短ラン。ブカブカのズボン。一昔前のいわゆるヤンキーファッションというやつだ。まるでコントを見ているようで一瞬吹き出しそうになるのをこらえる。
「もぉ、まーくんだって前見てなかったんやから」
隣にいた彼女らしき少女が諌める。
これまた一体どんなロットで巻いたらそうなるんだろうっていうくらいに大きく巻いた前髪(ちょい前の工藤静香さんみたいだ)にぺったんこの学生鞄。
「まあ、かわいい顔してるから許したるわ」
「あ、浮気はゆるさんでっ」
「そんなことするわけないやろ。俺はチャコ一筋やで」
カッカッカッと笑いながらカップルは去ってゆく。
ていうか、まんま夫婦漫才のようだ。
- 202 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月09日(火)23時27分06秒
- 「大丈夫かー?」
気の良さそうなおじさんが声をかけてくれる。
「大丈夫です。すみません、ありがとうございます」
「気にせんでええで。なんの、ナンノ南野陽子や!!」
………は?
「あら、おもしろなかったか?おかしいなあ、息子が今流行ってるって教えてくれたんやけどなあ」
苦笑いをしながらおじさんは去っていく。
というか、意味がわからなかったんです……
新手のギャグだろうか?と私は首をひねる。さっきからこんなのばっかり……
うん?
ようやく私は気が付いた。コントをやってるんじゃなくて、会う人会う人みんなが関西弁喋ってるんだ。道行く人の会話に耳を傾けるとあっちもこっちも関西弁の嵐。
嘘っ。私東京にいたはずなのにっ!!
「す、すみません!!交番何処ですか?」
買い物帰りと見える女の人をつかまえて場所を聞く。あっちよ、と指差された方向に私は全速力で駆け出した。
- 203 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月09日(火)23時27分56秒
- あった!
お馴染みの紅いランプが見えて私は息も絶え絶えに中にいたおまわりさんに詰め寄った。
「あのっ!!」
「ん〜どうしたんや?」
こっちはこんなに焦っているっていうのにお巡りさんはテレビを見ながらのほほんとお茶を飲んでいる。テレビはオリンピックの出場選手のインタビュー風景を映し出している。
「ここ……何処ですかっ?」
よくやくお巡りさんは体をこっちに向ける。体がずれてテレビ画面が全面私の目に入った。
「どこって……京都やけど?」
まだあどけなさの残る年若いお巡りさんはきょとんとした顔で私を見る。
……き、京都?
京都って……
半ば放心してしまった私の瞳に先ほどから映し出されていたテレビ画面のスーパーが飛び込んでくる。
『ソウルオリンピック特集』
- 204 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月09日(火)23時28分48秒
- 「あ、あの……」
「ん〜どうしたんや?」
「オリンピックって……シドニーじゃなかったですか?」
「はぁ?なにゆうとんねん。ソウルや、ソウル」
私は全身の血が下がっていくのを感じた。
交番の壁に飾ってあるカレンダーを見る。
どこかの島のビーチ風景が映し出された写真のしたに日付が並んでいる。
そうして、おそるおそるそのカレンダーの年号に視線を移した。
『1988年』
私は
若干15歳にして
絶望という気分を味わった。
- 205 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月09日(火)23時29分50秒
- 交番をふらふらとした足取りで立ち去った。
その場で卒倒しなかった自分を誉めてあげたい。
当ても無くさまよっているうちに日が暮れてしまう。
……お腹がすいた。そういえばお昼収録の合間にパンを食べたっきりだ。
矢口さん、どうせなら鞄も一緒にとばしてほしかった。いや、せめて財布くらい持たせて欲しかった。
気が付くと河川敷をとぼとぼと歩いていた。
下に下りる階段を見つけなんとなく降りてみる。
橋桁の下まで歩くとドラえもんの空き地に置いてあるような土管があって私はそこに座った。
膝の上に置いた手の甲にポトリと雫が落ちる。
……どうしよう。
一端零れ落ちると後は次々と止めど無く涙が流れ落ちた。
うろ覚えながら二日で帰れるとか言ってたけどホントかどうかわかんない。
知らない土地。知らない時代。おまけになんにも持ってない。
誰一人知らない所で頼る人間もいない。
単純計算してこの時代の私はまだ3歳のはずだから、到底私が吉澤ひとみだなんてわかってもらえないだろう。
助けて………
誰か………
だ……れ……
- 206 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月09日(火)23時31分00秒
- カコーン!!
「痛い!!」
土管に突っ伏した私のこれまた後頭部を何かが直撃した。
「あれっ!!誰かあたったん!?」
さっきまで流してた涙に加えて新たに痛みがそれを助長した。
「すいません!!」
「ッ痛………」
ああ、こういうのを踏んだりけったり、泣きっ面にハチっていうんだ。
私は足元にカラカラ転がった空き缶を拾い近づいて来る人影を追った。
まったく缶を投げ捨てるなんてどんな奴だ。じっくり顔を見てやる。
「なんかムシャクシャしてて、人がおる思わんでつい投げてしもうて……」
若い女性の声。なんか、どことなく聞き覚えのあるような……
河川敷をランプをつけた車が通りすぎる。
その瞬間、暗がりでうっすらとしか見えなかった声の人物の顔がくっきり照らし出された。
- 207 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月09日(火)23時33分48秒
- 「な……な……」
私は例えるなら餌を欲しがる金魚のようにぱくぱく、あわあわと口を動かして声にならない声を発していた。
制服だっ……!!
それにっ
髪の毛黒いーっ!!
眉毛細くないっ!!
しかも、
しかもースッピンだぁ――――
けれども、けれども、紛れも無くその顔は、私のよく知るその人だった。
「中澤さん……」
to be continued
- 208 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月09日(火)23時53分07秒
- 裕ちゃんの中学時代よく知らない上に1988年もよくわからないのできっと突込みどころ満載でしょう。。。
広い心で読んでいただければ幸いです。
このスレは短編用だったはずなのになんか長くなってしまった。ようやく裕ちゃん登場。
ちょっと余計なもの書きすぎたかも・・・・・・
>192さん こういう世界観で書くのいつもと違って書いてて楽しいです。なんでもアリって感じで
>193さん ありがとうございます。がんばってテンション持続できるよう励みます。
>194さん いや、誉め過ぎですって。リクエストなどこのスレで色々貰ってるのにこんなん書いててすいませんて感じです。
>195さん 今回も、おいおいそれでどうなるねん。という微妙なところでコンティニューにしててすいません・・・
>196さん ★付きでありがとうございます。次回更新は、青の方あげた後だと思います。
>うでたまごさん こっちもよんでくれて本当にありがとうございます。
青のほうもちょうど裕ちゃん登場シーンで、かたや向こうは大人、こっちは子供。ちゃんと書き分けられるだろうか心配だったりします。
まだいつ終わるかわからないけど、これが終わったら今度こそリクエスト頂いたもの書きます・・・
- 209 名前:猫 投稿日:2001年01月10日(水)00時10分27秒
- 更新されてる!
もう最高です!
中学生の裕ちゃんって?めっちゃ先が気になります!
ただ京都は、関西弁ではなく?京都弁じゃないのかな?
裕ちゃんの関西弁は、社会人(OL)になって大阪に出て来て覚えたものでは?
まあ、こんなことどうでもいい事なのですが!とにかく頑張って下さい!
- 210 名前:うでたまご 投稿日:2001年01月10日(水)10時12分14秒
- うわっ。すごいところで続く…だ。
時折入ってる時代的ギャグが好きです。
1988年…私はしっかりいてました(苦笑)
- 211 名前:名無し 投稿日:2001年01月12日(金)22時54分11秒
- まだかな?
- 212 名前:crow 投稿日:2001年01月13日(土)03時20分11秒
- 中学時代の中澤さんか・・・めっちゃ可愛いだろうな・・・。
ということで、期待して待ってます!!
- 213 名前:177 投稿日:2001年01月14日(日)05時28分48秒
- ナンノ…南野陽子「秋からもそばにいて」を思い出しました(w
時折入ってる年代ギャグがいいっす!
福知山行った事あるんですが、河川敷があってその情景が浮かんできました。
中学時代の裕ちゃん…う〜ん想像出来ないな〜(w
続き楽しみにしてます!
- 214 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)14時22分08秒
- 「南野陽子のナンノこれしき」を思い出してしまいました・・。
当時ニッポン放送で日曜の夜11:30〜やってたような気がする。
高校受験の勉強しながら聞いてた記憶があります♪
あ〜、思わず懐かしいことを思い出してしまいました♪
つづき来たしてますぅ〜。
- 215 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)19時26分18秒
- >214
>つづき来たしてますぅ〜。
つづき期待してますぅ〜。です・・。
うち間違いました・・。鬱だ・・・。
- 216 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月14日(日)20時18分06秒
- 中澤さんだ。
制服だっ!髪黒い!スッピンだ!………ってしつこいぞ私。
けどけどっそんなことよりも、だ。
…………若い。
なんて言うとご本人及びファンの人達にぶん殴られそうだけど、今の中澤さんがフケてるってことではなく、単純に目の前の中澤さんが若いって事だ。
こんな所で会えるなんて。
「中澤さーん!!」
「おわっ!?な、なんやねん??」
何一つ確証の無い不安定な状態。例え相手が誰であれ知っている人間に会えたことがこの上なく嬉しい。
「ちょ……一体なんや、離してや―――」
気が付くと両手をばたばたさせながら中澤さんは私の腕の中でもがいていた。
は!!
やばい。思わず思いきり中澤さんに飛びついて抱きしめてしまっていた。
「すみません!!」
慌てて腕を離すと、息をハアハア切らしながら思いっきり不信な顔で私を見上げる中澤さんがいた。
「いきなりなんなんや!?そりゃ缶ぶつけたんは悪かったと思うけど。それに、なんで私の名前知ってんねん?」
- 217 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月14日(日)20時18分53秒
- しまった。
思わず名前を叫んでしまったが今が本当に過去の世界だとすると当然中澤さんは私のことを知らない算段になる。
となるとさぞかし怪しい奴だと思われたに違いない。
「あんた、誰?どっかで会った?」
正直に『未来から来たあなたの後輩でーす』といったところでこの状況。到底信じてもらえるとも思えない。しかし、ここで逃げられたりしてしまっては飢え死にとまではいかないまでもこの見知らぬ街で一文無しの状態で2日間当ても無くすごすはめになってしまう。
「あ、それそれっ、それ見たんですよ」
「へ?」
私は中澤さんの制服の胸元についたネームプレートを指差した。
「ああ、これ」
なんとか納得してくれた模様。自分の機転にちょっと関心。えらいぞ、ひとみ。
「ったく……変な奴やな。大体こんな時間にこんなところでなにしてんねん」
幸い私が同じ年頃の女の子とあってか、少しだけ警戒心をといて話しかけて来た。
うーん、なにしてるっていわれてもなあ。
「……帰るに帰れない事情がありまして」
「ふーん……事情……か」
興味深そうにジロジロと私の顔を見る。さっきまで泣いてたので涙の後が乾ききっていないので目元を軽く拭う。
- 218 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月14日(日)20時19分43秒
- 「そう言うあなたもなんでまたこんな時間にこんな所に」
「……ちょっと帰りたくない気分なんや」
「でも、家の人心配するんじゃ……」
「今日から私以外、旅行中で誰もおらん。夏季講習で置いてけぼり」
中澤さんて、たしか決してヤンキーではなかったはずなので夜遊びというわけでも無さそうだ。(制服だし)
「よいしょっと」
鞄を地面に置くと中澤さんは私の座っている土管の上に腰を下ろした。
「あの……」
なんだかよくわからないが私と話す気になってくれたらしい。それはいいんだけど、一体何をどう切り出せばよいのやら。
「わかった、あんた家出やろ」
「へ?」
悩んでいた私の耳に『家出』という単語が飛び込んでくる。
「標準語喋ってるとこみると、東京から転勤を命じられたお父さんに泣く泣くついてこざるをえなくて」
なんだ、なんだ、なんなんだー?
「親しい友人とも恋人とも引き裂かれて、挙句の果てに家を飛び出した!!どう?当たりやろ?」
- 219 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月14日(日)20時20分55秒
- 「………」
なんちゅう想像力だろう。今彼女が見てるドラマの設定なのだろうか?
なーにいってるんですかぁ、と突っ込みたい所だったけれどいたって彼女の顔は真剣そのものだった。
あまりにも発想がぶっ飛んでいて私はぐうの音も出なかった。が、
グウ
……
あ。
「あ、あははははははっ」
土管をパシンパシン叩いて笑い転げる中澤さん。
「なんや、お腹すいてるん?もしかして?」
最悪なタイミングでグウの音をあげた自分のお腹を恨みながら赤面する。
しばらくしてようやく笑いが収まった様子の中澤さんはふっと力を抜いた表情になった。
「……いく所あるん?」
左右に首を振る。あるわけない。
その次に続いた言葉はまさに私にとって天の助けだった。
「ウチ来る?すぐそこやから」
もちろ……
グウ
……………
私の口に代わって返事をしてくれるお腹クン。
ああ、なんて正直な子なんだろう。
再び中澤さんが大爆笑したのは言うまでも無い。
- 220 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月14日(日)20時21分36秒
- 「いただきます!!」
よく考えると初対面(中澤さんにとってみれば)の人間にのこのこ付いてきて自宅に上がりこんだ上にご飯までご馳走になるなんて、なんてずうずうしい奴なのだろう。
などという遠慮も食卓に並べられた料理を見て吹き飛んだ。
ご両親とも旅行中と聞いていたのに何故だかテーブルの上にはまるで私が来るのを予期していたかのように二人分の食器ときれいに盛られた食事が並んでいた。
「ああ、名前まだ聞いてへんかったな。私は中澤裕子」
「あ、私はよしざ……」
と言いかけて口をつぐんだ。待てよ。何かの本で読んだことがあるんだけど同じ時代に二人の人間が存在すると歴史が変わってしまうからできるだけ過去の自分と関わったりしてはいけないとかなんとか。だとするとこの場で吉澤ひとみと名乗ってしまうのはまずいんじゃないだろうか?
「え?なに、ごめん。よう聞きとれんかった。よし……の次なにって?」
「よしざ……」
うわ〜どうしよう。
「吉澤村山ひとみです」
「……」
アホか私。間に名前挟んだだけじゃないかあっ!!ああ、せめて吉崎とか吉阪くらいの頭がまわらなかったんだろうか。
- 221 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月14日(日)20時22分20秒
- 「……なんか、長くて覚えにくい名前やな」
「はあ……」
「めんどくさいからよっしーでええな」
サラダに盛ってあったトマトを掴んで口に運びながら中澤さんはそう言った。こういうところはあんまり変わってないんだなあ。
「よっしー、ですか」
空腹がある程度満たされてきたのでゆっくりとごはんを噛み締めながら私は思考を巡らせた。よっしー…ねえ…でも、まあどうせなら
「しー、じゃなくてすぃーにしてもらえますか?」
「すぃー?よっすぃー、でええの?なんか細かいなあ。東京の人間ていうのはそうなん?」
東京の人間ではないんですけどね。正確に言うと。でも、わざわざ埼玉ですと言い直すのもなんだったのでそのまま聞き流す。
かくいう中澤さんもどうやら空腹だった様子で制服のまんまで食事をしていた。
「年は?」
「15歳。中学三年生です」
今更自己紹介って言うのもなんだか変な感じ。
「なんや、同い年やん」
ふわっと中澤さんの表情が和らぐ。
あ……こんな顔、見たこと無いな。それに、
今まで気付かなかったけどすごく自然に話せてる。どうしてかなあ?
- 222 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月14日(日)20時23分16秒
- 私の知ってる中澤さんてどっちかというと警戒心が強くて、人当たりは悪くないけど親しくなるまで結構な時間がかかって、って感じなのに。
同い年の気安さからかまるでそんな感じがしない。
いつしか私もすっかりリラックスしていた。
ちゃっかりお風呂まで頂いてしまい、パジャマ代わりにジャージを借りる。
『どういう事情かわかんないけど、こうと決めたら頑張るべき』と言ってあれこれ中澤さんは追及したりしなかった。
中澤さんの家で、中澤さんの服を着て、不思議な気分で私は中澤さんの自室に案内された。
「先に寝ててもええで。ちょっと歯磨いてくるね」
そう言い残されて中澤さんの自室にひとりっきりになった。
「えーっとぉ……寝ろって言われてもなあ」
部屋にはベッドが一つ。それに、その上に枕がふたつ並んでいた。
そういえば、ここに来たときも思ったんだけど、用意されていた二人分の食事といいこの布団といいもしかして今日は誰かが泊まりに来るはずだったんじゃないだろうかとふと思った。
- 223 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月14日(日)20時24分17秒
- それはそうとしてちゃんとお礼を言ってから寝たい。とりあえず彼女が戻ってくるまで待っていようと私はベッドに腰掛けた。
壁に貼られた私のよく知らないアイドルのポスター。
ベッドの脇に置かれた『12星座で占う彼との相性』と銘打たれたセブンティーン。
梨華ちゃんたちとときどき読んでる雑誌だ。
「そんなんとっくに卒業したわ。あたらんあたらん」
とちらりと横目で見るだけで通りすぎていく中澤さん。なんだ読んでたんじゃないですか。
ちょっぴりおかしくて思わず笑ってしまう。
本棚には同じような雑誌のバックナンバーと漫画に小説が並んでる。端っこにある少し背の高いのは恐らくアルバムだろうけど流石に勝手に見るわけにはいかないし、結局最初に手に取ったセブンティーンをパラパラとめくった。
「あれ?」
はらりと雑誌の間から何かが落ちる。
体育祭かなにかのときのものだろうか、体操服の男の子。
うわ……これってやっぱあれだよねえ。
あっちゃー、と思って慌ててもとの所に戻す。こういうのはやっぱ見ちゃ悪いもんね。
なんか居心地が悪くなってしまったので中澤さんの勉強机の方に移動する。
受験生らしく参考書が置いてあるのかと思いきやキャラクターの置物に音楽テープ。
私の机と大差ない。それに、かわいいフォトフレームに入った写真。
中澤さんと仲良さそうに腕を組んだ髪の長い女の子。それに、その後ろに写っているのはさっきの写真の…
- 224 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月14日(日)20時25分01秒
- 後ろでガチャリとドアを開ける音がした。
「まだおきとったんや」
私はフォトフレームを持ったまま振りかえる。
すると何故だか中澤さんは大慌てで私の所に来てそれを取り上げた。
「ゆ、言っとくけどっ、友達の写真やからな友達の写真!!」
聞いてもいないのにそう言うと机の上に前を下に向けてフレームを置く。
「はあ……」
その目にもとまらぬ素早さにあっけにとられてしまう。実の所雑誌に挟んでる写真も見てしまったから否定した所でちっとも説得力がないんだけど、うなづく。
トゥルルルルルル……
その時電話のベル音が響いた。
「ちょっとごめんな」
そういって中澤さんは、壁掛けの受話器を取った。
「もしもし中澤です。……あ、うん私」
どうやら電話の相手は友達のような感じ。聞く気があるわけじゃないけどこの広さの部屋なら意識しなくても聞こえてくる。
「今日はごめん。ちょっと体調悪くてうつしたら悪いし………あ、うん。ずっと寝てたからもうほとんど平気や……うん…うん………それじゃ、また明日」
ガチャリと受話器を置いた中澤さんの背中がなんだか寂しそうに見えた。
- 225 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月14日(日)20時25分45秒
- 「あの……体調悪いんですか?」
そういう風には見えなかったけどもしかしたら無理させていたのかもしれない。
「もう寝よ」
けれども中澤さんはその質問には答えてくれなかった。
「奥は入りや」
布団の端をめくって中に入るように促される。ああ、そうだ。お礼言わなきゃ。
けどな、どうも他人行儀になっちゃうんだよね、こういうのって。
中澤さんに一番喜んでもらえる方法といえば……
「今日は、色々ありがとうございましたっ!」
えいっ。
「うひゃあっ!?なななな、なんやねんっ」
あ、あら?
気が付くと中澤さんは頬を押さえて飛びのいていた。
- 226 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月14日(日)20時26分34秒
- ………ほっぺにキスしただけなのに、そんな。
「あんた、そういう趣味なんか!?」
見た目にもそうとわかるぐらいに耳まで真っ赤になっている。
「いや、あの……趣味というわけでは」
あなたがいつもやってることじゃないですか。
「だったらなんでいきなりキスするねん」
「まあ、なんというか、メンバー愛というか」
「なんやそれ?」
これもあなたがいつも言ってることじゃないですかあ。
「うーん、つまり仲間とかに対する親愛の情のあらわれみたいな意味ですね」
「……」
こんなの日常茶飯事で果ては12歳の加護にまで平気でキスしてる中澤さん。
なのに、目の前の中澤さんはたかだかほっぺのキスで真っ赤になっておろおろしてて、
………かわいかった。
「……東京では変な事がはやってんねんな」
別に流行ってはいないんだけどこれ以上変に警戒されたら嫌なので私はベッドにもぐりこんだ
- 227 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月14日(日)20時27分55秒
- 二回ほどカチャカチャと音がして部屋が暗くなる。
隣に中澤さんが入ってくる。(けど、随分端っこにいるのはやっぱり大分警戒されてるからね…)
「ホンマ、変な奴やな」
「そうですか?」
「大体同い年なんやから敬語で喋らんでええやん」
「え……でも」
「それに、仲間とか親愛の情とかいうんやったら、うちのことも裕ちゃんでええで」
暗がりの中で中澤さんがどんな顔で言っているのかはわからなかったけど、どこか照れくさそう。
「なかま……」
「おやすみ、よっすぃー」
ドクン、ドクン
心臓が鼓動を打つペースがいつもより少しだけ早まっているのを感じた。
「おやすみ………裕ちゃん」
はじめて口にする『裕ちゃん』は自然に『ゆー』って伸ばせなくて妙に『う』をはっきり発音してしまって……ちょっぴりぎこちなかった。
to be continued
- 228 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月14日(日)20時43分59秒
- 巷では中澤VS中澤が囁かれている中これを書いているのは複雑な気分。
>猫さん 京都弁て思ったんですけどよくわからなくて大阪弁と書き分けられそうに無かったので関西弁でくくらしていただきました。
関西弁もかなり怪しいですけどね。福知山のことももっと書きたかったんだけど知識不足。
>うでたまごさん 1988年、かなりうろ覚えの中書きました。その頃はやってたものを取りいれて世界観をもたせたいのですが。
この頃のアイドルってキョンキョン(て今でもいうのかな?)とか工藤静香、南野陽子あたりでいいんでしょうか?
ジャニーズは誰当たりなんでしょう?
>211さん 書き始めると結構一気に書いちゃうんですが。とりあえず続きです。
>crowさん 青のほうも気になる展開になってますね。裕ちゃんの書き方というか口調が上手いんで見習いたいです。
>177さん 『すきよ、すきよーはなれないーでー』って奴ですね。懐かしい・・・
そういえばまだベストテンとかあった頃でしたっけ?今まだあったらどうなってるんでしょう。
>ま〜さん 南野陽子のナンノこれしき・・・・・・いいネタだ。この後小説の中でちょこっと使わせて頂いてもよろしいでしょうか?
お返事待ってます。
よっすぃーが過ごす過去での一日目の夜が終了。残り1日半というとこですね。
こっちの方が書きやすいので先にあげてしまいました・・・・・・
青の方もぼちぼち書きます・・・・・・
- 229 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)21時53分57秒
- 1988年の時点で「南野陽子ナンノこれしき」がやってたかどうかちょっと自信が無いです・・。
でも、たしかその頃に、日曜夜11:30〜ラジオでやってました。
そのころはTMNとか、工藤静香とか、ジャニーズでは光ゲンジが流行ってたかな?
洋楽は、BonJoviがNewJerseyを出した頃で全盛期でした。
個人的には、a-haがニューアルバムを出した記憶がすごく残ってます。
「You are the one.」と言うシングルがギャッツビーのムースのCMソングに
使用されていたんで・・・。
あんまり参考にならないかも知れませんが、当時の記憶です。
というわけで、続き期待してます♪
- 230 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月14日(日)23時15分23秒
- 本当に最高です!
めっちゃ面白いです!
裕ちゃんの純情なところも可愛い!
裕ちゃんの中学生の恋も・・・!
これは、小説には、関係ないですが裕ちゃん中1の時から2つ上の先輩と
付き合って、学校内でもかなり有名人だったらしい!
楽しみに更新待っています!
過去は、後1日半ですが、現在は、よちゅーで長編にして下さい!
めっちゃ面白いのでおねがいします!
巷の中澤VS吉澤はきにせずに!
- 231 名前:名無し 投稿日:2001年01月15日(月)01時03分32秒
- 中澤リーダーはどこかで「自分のは正確には京都弁ではない」と
言っていたから、そんな気にしなくてもいいと思いますよ。
それに、関東人の自分には細かいニュアンスの違いはわからない……
- 232 名前:うでたまご 投稿日:2001年01月15日(月)01時20分36秒
- さすがに中学生の裕ちゃんはまだかわいーですね(笑)
1988年…、私もけっこううろ覚えだったりするんですが
まーさんが書かれてるようにジャニーズは光ゲンジですかねぇ。
中澤ねーさんは面食いだから誰のファンだろう?
大沢みきお?いやだなー。でも、かぁくん(諸星)というのも違うかなぁ。
あとは、渡辺美里とかBOWY、レベッカ、バービーボーイズとかですかね。
そうだ。おニャン子もまだ流行ってた気がします。
セブンティーン読んでましたよう。ポップティーンとかも。
あと別マとか。紡木たく、いくえみ稜も流行りました。
長いだけであまり参考にならないかも…(汗)
でも、楽しみにしてるのでガンバって下さいね♪
- 233 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月15日(月)23時49分11秒
- >ま〜さん 情報提供ありがとうございます。日曜夜11時半・・・いいですね。日付的にも時間的にも。
謹んで頂きます(笑)裕ちゃんがジッタリンジンが好きだったのは知ってるんだけどこれって12年も前じゃないような気がするし
一体彼女は何を聞いていたんでしょうね。
>230さん むむう、2つ上の先輩かあ。最初にわかってれば使ったんですがとりあえずちょこっとネタばらしになっちゃうのですが
一応この中3の裕ちゃんが好きなのは同い年の男の子の設定です。
あと、タイトルの通り「君がいた・・・・・・」なので過去メインの話なのでそのまま現在の長編は難しいんですが
終わったら外伝的な感じで考えてみます。
>231さん 方言て難しいですよね。メンバー内でも中澤と加護の違いを出すのに一苦労。心の中は関西弁で考えて喋るのは標準語。どっちも関西弁なのは中澤にしてるんですが結構ごっちゃになってる・・・
>うでたまごさん なるほど、渡辺美里とかすきかもしれないですね。
紡木たく、いくえみ稜ははやってたとは思うんですが読んだ事が無いんで今度漫画喫茶でも言ってチャレンジしてみます(笑)
色々教えていただきありがとうございます。
- 234 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月18日(木)17時28分37秒
- 紡木たくのホットロードは超感動ものだよ!
是非読んでみてください。
- 235 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月20日(土)01時05分03秒
- >名無し読者さん ホットロードですね。読んでみます。漫画は結構好きなんですが少女漫画(でいいんですよね?)ってあまり読んだ事が無いので。
ANNでまたもや中澤VS吉澤っぽい発言があったみたいですが(聞いてないので詳しく知らないけど)この話が浮かないといいなあと切に願います・・・
- 236 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月20日(土)05時13分09秒
- いやいや、これはそんな二人が吉澤のタイムとリップを通して、
互いに心を開けるようになるまでの話なのです。
って一読者のくせに「です」とか言い切っちゃって、全然違う構想だったらどーしよ(笑)。
まあ別にANNもVSって訳でもなかったし、気にすること無いと思いますよ。
そんな二人を、あるみかんさんの力で、うまく付き合える様にしてあげて下さい。
- 237 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月20日(土)21時34分38秒
- >名無し読者さん 「です」って言いきっちゃっていいですよ。その通りですから。
最初に銘打った通りこれはどこまでも爽やかな(?)青春小説を目指してますから
大ドンデン返しは無いと思いますから。
というか、本編よりかなり時代風景で遊んじゃって脱線してるんですよね・・・
- 238 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月20日(土)21時38分07秒
- う……あ、あ、あっつーいっ
うっすらと眼を開けると部屋はすっかり明るくなっていた。
薄いカーテン越しにはかなり強い日差しが差し込んできている。
はあ、暑い暑い。
私は大きなあくびをひとつして寝返りを打った。
う、うわっ。
目の前に中澤さんのどアップ。テレビだったら完全にピンぼけの距離だ。
ひゃー……
雑誌の撮影なんかでくっついたりすることはあってもこんな間近で見るのは初めてだ。
私が暑くてどけたのかはたまた中澤さんなのか布団はすっかり乱れきっていて肩から上半身はすっかり露わになっていて呼吸するたびに微妙に上下するのがわかる。
こりゃ、お宝画像とかいうやつじゃないでしょうか?
大体どっきりの寝起きシーンにしたって中澤さんはすぐ起きちゃってたからなあ。
スウスウという心地良さそうな寝息が聞こえてくる。
よく寝てる……。
壁掛けの時計をちらっと見るともう10時を過ぎていた。
- 239 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月20日(土)21時39分10秒
- ごっちんも言ってたけど「この年っていうのはいくらでも寝れるんだよ」っていうのに納得。私も寝ようと思えばもう一寝入り余裕でできるし。
でも、
なんとなくもったいないような気がして中澤さんの顔をまじまじと見つめた。
うっすら開かれた唇から白い歯がちらっと覗いてる。
私は気が緩むとついついぽかーんと口を開けてしまってよく注意されるけど、こうしてみる中澤さんはあどけなくてかわいらしい。
そぉっと唇に指を近づける。
パチッ
突然中澤さんの瞳が開かれた。
至近距離で見つめていた私とばちっと眼があってしまう。
「………」
「お……おっはー」
きょとんとする中澤さん。そして
- 240 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月20日(土)21時40分19秒
- 「な、なんやねん!!」
瞬く間に体を反転させて向こうを向かれてしまった。
もしかして、またいらぬ誤解(?)をされてしまったみたい。
「いや、ただ寝顔がかわいいなあと……驚かせてすみません」
下手に取り繕わず正直に答える。
まあとにかくそろそろ起きなきゃと上体をおこした。
私がベッドから出ると中澤さんもそれに続く。
「さっきのなに?」
「さっきのって?」
「おっはーっていうの、それも東京の流行りなん?」
「流行りといえば流行りですけど……振りもあるんですよ、こういう」
正しい『おっはー』のやり方をレクチャーする。過去で未来のことをいったら歴史が変わっちゃうっていうけど、これくらいなら大丈夫だろう。もしだめだったらしんごママごめんね。
「……あ、そういえば学校は?」
「日曜日くらい休ませてや。まあ、来週から短期の夏季講習やから平日も午前中だけなんやけどね」
覚えたてのおっはーを披露する中澤さん。はっろーも教えてあげたかったけど安倍さんの著作権を考えてさすがに黙っておいた。
- 241 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月20日(土)21時41分05秒
- 朝食兼昼食をすませたると既に時計は正午を過ぎていた。
昨日ああは言われたものの私は相変わらず敬語で、中澤さんと呼びかける。
覚えているのか忘れているのか特に中澤さんも追及しなかった。
どうやら家族が帰宅するのは明日の夜になるらしく、他に当てがないならいてもかまわないということだ。
もちろん当ての無い私、素直に好意に甘えることにする。
日曜日らしいまったりとした時間を中澤さんと過ごしていると玄関の呼び鈴が鳴った。
「新聞の勧誘やったらいややから一緒に来てよ」
「はあ、いいですけど」
中澤さんなら『いらん』と一括できるんじゃないかとちょっとだけ思う。
「はいはーい」
面倒くさそうな中澤さんと玄関に向かった。ガチャリとドアを開ける。
「あ……」
「裕ちゃん」
「おう、もう起きて平気なのか?」
ドアの先には男の子と女の子が立っていた。どこかで見たことがあるような……
「ごめんね、急に来ちゃ悪いかなって思ったんやけど昨日おみやげに持ってこようと思ってたシュークリーム。せっかくやからお見舞いがわりにと思って。賞味期限今日までみたいだから食べてよ」
さらさらのロングヘアがかわいらしい女の子は白い箱を中澤さんに差し出した。
- 242 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月20日(土)21時41分49秒
- あ。
思い出した。この子中澤さんの机に飾ってあった写真の子だ。それに、
「お前が遊びの約束断るなんてよっぽどちゃうんかって心配で。俺まで来ちゃってわりいな」
照れくさそうに頭をかく男の子。机の上、それに雑誌の写真。……多分この子が中澤さんの好きな子なんだろう。好きな子にお見舞いに来てもらえるなんて幸せだなあ。このっ!!
私はにやつきそうになるのを必死でこらえた。
恥ずかしいのか中澤さんは下を向いている。
「ほんとごめんね裕ちゃん、急に来ちゃって。でも、どうしても直接話したいことが会って。昨日泊まりに来れなかったから……その……あのね」
「ごめん」
中澤さんは俯いたままそう言った。
「わざわざ来てもらってありがと。もう大丈夫や。けど、今ちょっとイトコがきてるから明日にしてや」
イトコ?イトコって?
一瞬誰のことをいってるのかわからなかったけど周囲の視線が自分に注がれているのを感じる。………私のことか?
「そ……っか」
女の子は残念そうにつぶやくとちらりと男の子を見る。
男の子は黙って小さくうなづいた。
「ほな、出直すわ。お大事にな、中澤。あと、ありがとな」
- 243 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月20日(土)21時42分47秒
- 二人が帰った後も中澤さんは俯いたまま。
「中澤さん?」
あまりに嬉しくて固まっちゃってるんだろうか?それとも照れているのかなあ?
私はそっと肩に手を置いてみる。
中澤さんの小さな肩は小刻みに震えていて、
きれいに磨かれた廊下にぽとりと雫が落ちた。
涙を流す中澤さんをどうしていいのかわからない私はただ見守った。
とりあえずリビングに連れて戻りソファーに座っても一向に泣き止む様子は無い。
なにか声をかけたほうがいいんだろうか?
でもなんて?
梨華ちゃんのときも結局矢口さんにまかせてしまった不甲斐ない私。
けど、ここには今私しか居ない。
- 244 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月20日(土)21時43分37秒
- …………
「……どうぞ」
テーブルの上に置いてあったティッシュの箱から一枚取り出し中澤さんに手渡す。
我ながらなんて間抜けな行動なんだろう。
中澤さんは無言で受け取るとチーンと鼻をかむ。
ごみ箱にぽい。
また、一枚手渡す。
チーン
ポイ
手渡す
チーン
ポイ
そんなにかむと鼻の下の皮がむけちゃうんじゃないだろうかと心配し始めた頃に中澤さんはぽつりと口を開いた。
「昨日、アイツに話しがあるって呼ばれたとき、むちゃどきどきした」
アイツっていうのはきっとあの男の子のことだろうと私は思った。
- 245 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月20日(土)21時44分39秒
- 「好きなやつがおる、どうしたらええんやろう?そう聞かれた。アホやな私……それでも自分のことちゃうかって思った」
「………」
「その名前聞いたとき、ショックな反面。やっぱりなって思った。親友の私からみてもあの子はほんまに優しくて、かわいくて、ええ子やから……しゃーない、って
だから、私は言った。告白したらええやん。親友のお墨付きや、絶対上手くいくからって」
中澤さんの目から一際大きな粒が毀れておちた。
「なのに、いざとなると聞くのが嫌なんや。親友面して、内心嫉妬でどろどろや。嘘突いて、仮病使って約束破って、わざわざ心配してきてくれたんを追い返して」
サイテーや…と消え入りそうな声、胸がキリキリ痛む。
すいません……私、無力で
おまけに鈍くて。
悔しくて私は唇をかみ締める。
すうっと中澤さんの手が伸ばされる。
そして、掌を上向きにひらひらと上下して「もう一枚」と言った。
私は、
その手をぐっとつかんでがむしゃらに中澤さんを抱きしめた。
「……鼻水、つくで」
「いいんです」
きゅうっと私は中澤さんの頭を引き寄せた。
いいんです。
私にはなにもできないから
(それに、これ中澤さんのTシャツだし)
という台詞は言わないで置いた。
- 246 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月20日(土)21時45分35秒
- しばらくして落ち着いた様子の中澤さんは、立ちあがって台所のほうに歩いていった。
「のみもん何がいい?」
という声が聞こえてくる。
あれだけ涙を流したら、喉もかわくっていうものなんだろう。
「一緒でいいです」
テレビはグルメ番組からゴルフの番組に切り替わっていたけれど、お笑い番組とかを見る気分でもなかったからそのまま眺める。
「お待たせ」
トレイに二つのマグカップを乗せて中澤さんが戻ってきた。
テーブルに置くとリモコンを掴んでチャンネルを切り替える。
「食べてええで」
テレビの画面を見つめたまま中澤さんは白い箱を指差した。
さっきの女の子がもってきたやつだ。
中澤さんはなにもいわず、マグカップを手にふうふうとやっている。
冷房をいれているとはいえなんだってよりによってホットなんだろう。
「あの……」
声をかけようとして私はやめた。
中澤さんはふうふうとやるばかりでちっとも口をつけずただぼんやりとしていた。
- 247 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月20日(土)21時46分52秒
- 「シュークリーム苦手やねん、食べてええで」
バナナは知ってるけど、そんなこと聞いたこと無い。
けど、その白い箱と湯気の立つマグカップを見てまたすごく胸がいたんだ。
そしてあの女の子の無邪気な笑顔が急に腹立たしくなって、
箱を掴んだ。封を切って一つ口に運ぶ。
ろくにかまないで飲み込む。クリームの甘さが口の中に残る。
つづけざまにもう一個掴んで無理矢理口に押し込む。
……チキショー!
うっ!
ゲホッゲホッ
「なにしてんねん!?」
ごほんごほんと噎せかえる私の背中を中澤さんは慌てて摩っている。
むせてむせて、うっすらと涙がにじんでくる。
それでも私はシュークリームを口にいれる。
せめてこれを中澤さんの前から早くなくしてしまいたい。
それぐらいしか出来ないから。
4個入りのシュークリームを三つ食べて気持ち悪くなった
封を切ると4つ並んだシュークリーム。
……あと一個だ…
伸ばそうとした私の手を中澤さんがとめた。
「……太るで、あほ」
残った一個を中澤さんは手に取った。
しばらくながめてぱくっとかぶり付いた。
「ちょっと皮が硬いわ」
唇の端にちょこっとクリームをつけてにこっと笑う。
「裕ちゃん、嫌いなんじゃなかったの?」
私もつられて笑った。
- 248 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月20日(土)21時47分46秒
- 私達は夕飯の買出しついでに(といっても私は無一文なので実質中澤さんの奢りだけど)近くをぶらついた。
容赦無く照りつける太陽に歩いているだけ汗が流れ落ちてくる。
けれど、そんなことはおかまいなしに私達は歩いた。
そして、いろんな話をした。
まるで昔からの友人のように、馬鹿みたいに。
そうして夢を語り合った。
私は中澤さんの夢がかなう事を知っていたけれど知る知らない関わらず
目の前の彼女にとってそのことはあまり意味をなさないことに思えた。
「あんたの方が大きいんやから持ってや」
「え〜〜」
二人分には少々買いすぎた感のあるスーパーの袋を押し付けあって、結局持ち手を片方ずつ持つ。
「大丈夫やって一本ぐらいわからへん」
友達と飲む、親にナイショのビール。
正直苦くって美味しいとは思えない。だけど
「うへっ!にが―――」
しかめっつらの中澤さんを見ていたら少しだけ苦さが和らぐ。
ほろ酔い気分でお風呂に入る。
- 249 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月20日(土)21時48分52秒
- あっという間に時間が過ぎて、11時台も半ばを過ぎようとしている。
私達はベッドの上で一緒に別冊マーガレットを読んだ。
そういえば、辻と加護は一緒にりぼんだかなかよしだか読んでたなと思っておかしくなる。
「なに笑ってんねん。こんな泣けるシーンで」
ムッとした顔で睨んでくる。ごめんごめんと急いで謝る。
『さて、続いてのおハガキを紹介しマース』
つけっぱなしのラジオから女の子の声が聞こえてくる。
『えーっと、東京都のラジオネームかーくん最高さんからのお便りです。ナンノちゃんこんにちは。いつも楽しみに聞いていますっと。アリガト――』
パラリと中澤さんは次のページをめくる。
『ところで、ナンノちゃんに相談があります』
いつの時代も似たようなことやってるんだなあ
『実は……私の好きな人が、大の親友のことを好きなのを知ってしまいました。しかも、彼女もかれのことが好きみたい。一体、どうすればいいのっ。教えてナンノちゃん!!』
ピタリ。
中澤さんの手が止まる。
- 250 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月20日(土)21時49分29秒
- 『うーん……これは難しい質問ね。かーくん最高さんの気持ちを考えると……かれのことを好きな気持ちと応援してあげたい気持ち、それに親友を裏切りたくない気持ち……』
ああ、くそっ。かーくん最高さん、会ったことは無いがなんて間の悪い質問をするんだ。
『そうだな、でも辛いけど逃げてるだけじゃ解決しないと思うな』
そっと中澤さんの様子をうかがう。まるで凍りついたように真剣に耳を傾けている。
『えっと……ちょっと考える時間ください。その間一曲聞いててください。南野陽子で秋からもそばにいて、です』
イントロが流れ出す。
プチっと私はラジオを消した。中澤さんは何も言わず何事もなかったように漫画に目を戻した。
「ちょっと早いけど、もう寝よか。明日は早起きしてどっか出かけよ」
そうやって漫画を閉じて笑う中澤さんはどこか寂しそうだった。
10時過ぎまで寝ていたからちっとも眠くなかったけれど私は黙って布団にもぐりこむ。
昨日と同じくカチャカチャという音がして部屋が暗くなる。
- 251 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月20日(土)21時50分49秒
- 私が奥で中澤さんが手前。同じ位置だけど昨日よりほんの少し距離が近くなったのは私の気のせいかな。
そう思いながらゆっくりと目を閉じる。
「よっすぃー……」
すぐ近くに聞こえる中澤さんの声。
「いろいろ、ありがとな」
そう言ったあと、私の頬を柔らかい感触が包んだ。
な、
な、
なんだ―――――っ!?
私はびっくりして目を開けた。
「メンバー愛……やったっけ?」
頭まで布団にもぐりこんでいる中澤さん。
「……ホンマ、東京もんの考えることはようわからんわ」
きっとそのときの私は昨日の中澤さんに負けず劣らずまっかっかな顔をして頬を押さえていた。
心拍数が最高潮にあがって当分眠れそうに無い。
「逃げてるだけじゃ駄目……か」
「えっ?」
ぽそりと呟くのが聞こえる。
来週から
ダイバーのリスナーからのハガキ、もっと真剣に読もうと思った。
to be continued
- 252 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月20日(土)21時54分32秒
- 雪で飲みに行くのを中止。ひまだ・・・・・・あまりにも。一気に書いてしまった。
それにしても、時代ネタを使わせていただいた皆さんありがとうございます。
書いてて楽しいですね。その分寄り道が多くなりいたづらに文章が長くなってますが。
中澤、吉澤の過ごす最後の一日&エピローグまでもう少し。
来週あげれればと思ってます。
- 253 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月21日(日)00時24分39秒
- すごい・・・超いい・・・。
裕ちゃんめっちゃかわえ〜〜〜〜〜〜〜〜!!
つづき、楽しみにしてます!
- 254 名前:名無し娘 投稿日:2001年01月21日(日)03時45分56秒
- 本当に最高です!
裕ちゃんの過去を盗み見している気分になります!
どっかにも書いてありましたが、続編でぜひ伝外もおねがいします!
- 255 名前:うでたまご 投稿日:2001年01月21日(日)08時12分37秒
- 私もホント最高だと思います!!
時代ネタいっぱい散りばめられてて、構成大変だったでしょ?
あるみかんさんはよく知らないはずなのに、すごいなぁ。面白かったです(笑)
無理して食べるよっすぃー最高
- 256 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月21日(日)14時41分15秒
- >253さん 次で一応『君がいた夏』は完結する(はず)ですがよかったら感想またください。
今までのと雰囲気変えてみて小道具をたくさん使った実験的な作品なので。
シュークリームに漫画にラジオにそして最後にココアも登場する予定(笑)
>254さん 短い話になると思いますがなんとなく外伝の構想はあります。
この次に前々からリクエストを読者さんからいただいてたいしごまでもやろうかと思ってるので
その後になるか先になるかわかりませんがお待ち頂ければと思います。
>うでたまごさん 数々の情報提供ありがとうございます。あんま生かしきれなかったような気が・・・
ここの板は10代の方が多いみたいなので(違うかな?)わかってもらえるかなと心配しつつネタをいれてみました。
ラストは一応まとまってはいるんですが・・・・・・吉澤の気持ちをどこまで持っていくかだけ悩んでいたりします。
リトルビットといいつつ完全に中篇とかしたこのスレ。
短編、ギャグもんもまたやりたいかも。
- 257 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月21日(日)15時11分13秒
- いしごま+さやまりって出来ません?
- 258 名前:グェン 投稿日:2001年01月22日(月)18時53分28秒
- ふぅ〜。一気に読んじまったぜ。
あるみかんさんサイコー!!
よっすぃーもねぇさんもかわいいっす。
次で完結かぁ・・・。
- 259 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月24日(水)00時41分54秒
- いつもながらあるみかんさんすごいっす。
パワーバランスの続編ってのはもうやらないんですか?
ゆうやす読みたいッス。
- 260 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月25日(木)21時39分24秒
- >名無し読者さん メインメンバーが石川(珍しくサイコじゃない、しかも主役)、後藤
吉澤、市井なのでちょっとさやまりはむずいかも。すみません・・・
>グェンさん 読んで頂いてありがとうございます。
こんなストレートでわかりやすい裕ちゃんはいかがなもんでしょう?
今回で完結です。
>名無し読者さん パワーバランスの続編、やるとしたら保田→石川→中澤と視点がかわっているので
バランス的には(タイトルにこだわると)吉澤視点のいしよしメインになっちゃうと思うんですよね。
- 261 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時16分26秒
- ふわぁ、と私は大きなあくびをした。
結局、眠れたのは何時だったんだろう。
あのあと私はすっかり目が冴えちゃって中澤さんの寝息を恨めしく思いながら目を閉じていた。
おまけに目が覚めると、昨日のお返しといわんばかりに中澤さんは私の顔を見つめていて
私が慌てふためく様子を笑っていた。まったく……
くやしかったからつかまえて顔を近づけると、慌てふためいた中澤さんに一応満足する。
出かけようとはしゃぐ彼女を見ながら、昨日ちらっと聞いたことを思い出す。
「そういえば、午前中夏季講習じゃ……」
「一日くらいええねん」
「……一応受験生じゃ」
「大丈夫大丈夫。まあ、親が帰ってきたらこうもいかんからこれが最初で最後や」
- 262 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時18分06秒
- 最後。
私はその言葉にハッとした。
ここにきてから今日で二日目。
矢口さんは確か2日で戻るって言ってたっけ。
「ん?どうしたんや?出かけよ」
「あ……うん。今行くよ」
じれったそうに玄関口で待ちかねる中澤さんを追いかける。
最後。
最後の日。
中澤さんと過ごす、最後の日。
早く帰りたいって思っていたはずなのに私の胸はどこかぽっかり穴が開いたようだった。
お母さん、お父さん、弟達、仲間達に会いたいのに。
なんでなんだろう。
- 263 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時21分43秒
- 中澤さんが母親からもらったという遊園地のチケットを手にゲートをくぐる。
お世辞にも大きいとはいえなかったけれど一通りの乗り物はあって、片っ端から乗りまくった。
平日だけれど、休み中の為かなかなか活気付いている。
「なあ……」
「何?」
観覧車の中で、それまではしゃいでいた中澤さんは急に静かに話し始めた。
「私、嫌なやつやろうか?」
「え……?」
「頭ん中じゃわかってんねん。笑顔で祝福せなあかんて。
アイツの話を聞いたときに告白できんかった時点でもう私の出る幕や無いって」
静かに、淡々と彼女は語った。
「ま、魅力あらへんからしょうがないかぁ」
「あるよ!」
- 264 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時25分02秒
- 声を張り上げて私は言った。
けど、中澤さんは力無く笑うだけだった。
私じゃ、彼女を勇気付けることは出来ないんだろうか?
ここも……もしかしたらホントは私なんかじゃなくあの女の子、
あるいは……あの男の子といくつもりだったのかもしれない。
同い年になって、
仲良くなったつもりなのに、
結局私じゃ駄目なんだろうか。
気付くと私は中澤さんの肩をつかんでいた。
「そんなことない!頼り甲斐があるしっ、きれいだしっ
意地っ張りだけどホントは繊細で傷つきやすくてっ、優しくて……」
お世辞なんかじゃない。本当に、本当にそうなんだから。
私にはわかってる。
- 265 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時25分48秒
- 「よっすぃー……」
「それに気付かない奴が馬鹿なんだ」
あの男の子は馬鹿だ。
あの女の子も馬鹿だ。
なのに、中澤さんは彼のことが好きで。彼女のことを大切に思っていて。
私は、こんなに中澤さんのいい所を知っているっていうのに。
あ……
れ……?
「よっすぃー、もうええよ。ありがとう。そう言ってくれる人間がいるだけで何か出来そうな気がするから」
なんだ、私
あの子達に嫉妬してたんだ………
観覧車が頂上まで達して再び地上に戻るまで、私達はただ黙って流れる景色を見ていた。
- 266 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時26分24秒
- そう大きくない遊園地は朝一からきたせいもあってすっかり制覇してしまった。
少し早いけれど遊園地を後にする。
そのまままっすぐ家には帰らずぶらぶらと河川敷沿いを歩いた。
腕時計を見ると針は5時少し過ぎを指していた。
私がこっちに来たのは……6時少し前だっただろうか。
カランカランと缶の転がるおと。
数m前を行く中澤さんがさっきから蹴飛ばしてる音だ。
私は小走りに追いかけてそれを奪う。
「あ、こらっ」
なにすんねんと奪い返しに来る。
「あ……っ」
勢いあまって思いきり中澤さんが蹴飛ばした缶は前に転がっていって、前方にいた人にあたった。
「すみませ……」
謝ろうとした中澤さんの言葉が詰まる。
- 267 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時27分31秒
- 「おいおい、気をつけろよっ、中澤―」
「あ、裕ちゃん。今日学校サボったやろ。しょーがないな、明日ノート見せたげるね」
「また甘やかしたらあかんちゅうに」
「え、でも……」
あの二人だった。しかもその二人の手はしっかりとつながれていた。
「あ、っとこれはっ!」
慌てて手を離したけれど、中澤さんがしっかり見てしまったことは間違い無いだろう。
中澤さん……
「あ…のさ、裕ちゃん、昨日言おうと思ったんやけど……」
「よかったやん!!おめでとう」
えっ!?
「裕ちゃんの千里眼なめたらあかんで。なんでもお見通しなんやから」
中澤さんは笑顔で女の子の肩を叩く。
「うちの親友泣かしたら裕ちゃん黙ってないからな!!大切にしてや」
男の子の胸をポーンとはたく。「ったく中澤にはかなわねえな」と彼は笑って女の子に向けて肩を竦める。
- 268 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時28分16秒
- 「ほな、お邪魔虫は消えるわ。また明日なっ」
すっと彼らの横を通りすぎて、中澤さんは刑事映画のラストシーンのように後ろ向きでバイバイと手を振っていた。
「サンキューっ中澤っ!!」
男の子は、ぶんぶん手を振ってその背を見送っていた。
幸せそうな笑顔で
幸せそうな女の子の肩を抱いて
私は中澤さんが蹴っていた缶のそばにいって思いきり彼に向かって蹴飛ばした。
見ず知らずの女の子に、突然缶を蹴りつけられた彼はびっくりして私のほうを見ていた。
「バカヤロー!!」
お腹のそこから叫んで私は駆け出した。
その声に驚いて振りかえった中澤さんの手を強引につかんで全速力で走った。
悔しくて、腹が立って、がむしゃらに走った。
夕刻を過ぎても太陽はジリジリと照りつけていたけれど、川沿いには心地良い風が流れていて私の目から毀れてきた雫はその風にのって運ばれていくようだった。
- 269 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時32分15秒
- 私達ははじめて出会った橋桁のしたの土管の上で並んで腰を下ろしていた。
「まったく、なんであんたが泣くねん」
中澤さんは自分より大きい私の頭を撫でる。
昨日あんなに泣いた彼女は……もう泣いていなかった。
傷ついてるはずなのに、今にも泣き出したいはずなのに、
おめでとうって笑っていった中澤さんは、最高にかっこよかった。
なのに、感情の赴くままに行動した私は本当に子供で、情けなかった。
「ごめんなさい……」
「何が?なんもよっすぃー悪いことしてへんやんか」
中澤さんは私の涙を指でぬぐいながら微笑んだ。
「それにな、ショックはショックやけどそう落ち込んでもないねん」
私の前髪を掻き揚げて中澤さんはコツンと額をくっつけた。
「一緒に笑ったり、怒ったり……こうして代りに泣いてくれる奴がおる。
せやから……結構幸せな気分なんや。ホンマやで?
あんたに会うまではわからんかった。
今はまだ、自分の気持ちにしっかり整理がついてないとこもあるけど、
またあの子らと心の底から馬鹿笑い出来そうや
だから……んっ?」
- 270 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時33分18秒
- 私はもう少しだけ中澤さんと近づきたくて
もう少しだけ中澤さんと触れ合いたくて顔を寄せた。
中澤さんは一瞬体を硬くさせたけれどそっと私に腕を廻して抱きしめてくれた。
触れるだけの幼いキス。
中澤さんの唇は少し震えていたけれど、
もしかしたら震えていたのは私だったのかもしれない。
- 271 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時33分52秒
- ……ふいに
体の何処かが締め付けられるような感覚。
一瞬頭の中にノイズが混じる。
あ……これは……
- 272 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時36分31秒
- ゆっくり唇が離れる。
「……これも……メンバー愛なん?」
彼女の頬はほんのりと紅潮していて、
瞳は熱に浮かされたように潤んでいた。
違う、違うよ、裕ちゃん。
それもあるけど、でもねこの気持ちは……
ねえ、裕ちゃん違うんだよ?
そう言いたいのに、
中澤さんの顔は段々不鮮明になって
涙のせいなんかじゃなくどんどんぼんやりしてきて
抱きしめている感覚が無くなってきて
この気持ちを叫んでいるはずの私の声すら聞こえなくて
嫌だ、嫌だ、待ってよ。
まだ伝えていないのに。
それなのに……
- 273 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時37分11秒
- 完全に音が無くなって、
そして
ノイズ交じりだった映像が
完全に消えた。
何も無い真っ暗な空間。
『ありがと。大丈夫、また会えるよ………思いが消えないかぎり』
◇
◇
◇
- 274 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時38分03秒
- 「よっすぃーっ!!よっすぃー!!」
私を呼ぶ声。一つじゃなくてそれは幾重にも重なっている。
頭が痛い。もうちょっと寝ていたいな。
だけど、あんまりしつこく私を呼ぶので、渋々思い瞼を持ち上げた。
「よっすぃーっ!!」
目を開いたとたんきれいにロールされた金色の髪が飛びこんできた。
「よ、よかったぁ〜気が付いて……」
「矢口さん……?」
ソファーに寝かされた私の胸元で矢口さんはしゃくりあげて泣いていた。
一体なにがどうなったのかさっぱり事態が飲み込めなくて私は辺りを見まわす。
保田さん、飯田さん、安倍さん……それにごっちん、梨華ちゃん加護ちゃん辻ちゃんまで。
「ごめん、ごめんねっ。矢口がふざけて指突き出したらよっすぃー後ろ向きに倒れちゃって……それで全然動かなくなっちゃって」
「大丈夫?よっすぃー……」
梨華ちゃんが心配そうな顔でのぞきこむ。
「あ、うん。大丈夫だよ」
ズキンズキンと頭の後ろ側は痛んだけれど私はなんとか体を起こす。
- 275 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時38分33秒
- 「わざわざ来てくれたんですか、みんな」
「あったりまえじゃん。あーでも驚いた。矢口がよっすぃーがよっすぃーがって泣きながら呼びに来るんだもん」
飯田さんがくしゃくしゃと私の頭を撫でる。
それがくすぐったくて私は思わず声をあげる。
それに安心したのか、辻、加護が足元にまとわりついてくる。
保田さんが差し出したハンカチで矢口さんは涙を拭い、その肩を安倍さんが優しく撫でる。
「心配させやがって〜」
ごっちんはごっちんで私の後ろから羽交い締めにする。
私の、大切な仲間達。
そして、ドアの開く音がした。
「うん?お、なんや!!目、覚めたんか!!」
いっせいにみんなの視線が注目する。
「あー、こらこら、チビども。吉澤困ってるやろ。ほら、どいたどいた」
1歩1歩近づいて来る足音。
残念そうに離れるごっちんたち。
その向こうに彼女は現れた。
- 276 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時39分55秒
- 「ほい、あったかいココアや。とりあえずこれ飲んであったまり」
差し出された紙コップを受け取って私は彼女の瞳を見つめた。
まっすぐ、まっすぐ。
「うん?なんや、吉澤。なんか裕ちゃんの顔についてるんか?」
けれども、
中澤さんはもう、焦ったりもしなければ
頬を赤らめたりもしなかった。
「あ……ら!?な、なんやなんや?痛いんか!?ちょ……どうしたんや?」
ぽとりと紙コップの中に雫が落ちたけれど私はかまわず口をつけた。
涙はしょっぱくて青春の味なんて誰かがいってたけど
ココアはとても甘かった。
- 277 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時40分43秒
- 「吉澤……?」
頬に触れる中澤さんの指先は様々な色彩で彩られていて
微妙な色加減の瞳の中には私が写っていて
きりっとひかれたアイラインに紅く艶っぽい唇。
それにさらさらとした金色の髪が流れて
すごく綺麗だなと思った。
- 278 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時41分17秒
- また、私の日常が戻ってきた。
あの灼熱の太陽の下での二日間が本当だったのかは今でもわからない。
けれど、これだけは確かなこと。
私はあの日、あの1988年の夏に
15歳の中澤裕子に恋をした。
それだけは嘘じゃない。
だって、そうじゃなければ
この気持ちの行き場がないから
そして、私は……
- 279 名前:君がいた夏 投稿日:2001年01月25日(木)23時41分56秒
- 「なにやってんねん、はよせな置いてくで!!」
いつのまにかみんないなくなっていて楽屋は私が最後の一人になっていた。
しびれをきらして迎えに来た中澤さんが入り口で待っている。
まったく、と溜息をつきながら出て行こうとする彼女に向かって叫んだ。
「待ってよ!!……裕ちゃん!!」
中澤さんは、一瞬ぽかんとした顔をすると照れくさそうに髪をかきあげて笑った。
「ほら行くで、よっすぃー……!」
END
- 280 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月25日(木)23時46分44秒
- というわけで、吉澤、中澤編完結です。
数々の情報を提供してくださった皆さん、南野陽子さん(笑)ありがとうございました。
なんだかんだいいつつこっちを先に書いてしまった。やっぱ、同時連載はキツイ・・・
今度こそ長編の方進めて、
その後ぼちぼち新しいのをやろうと思いますのでまたよかったら読んでやってください。
- 281 名前:トーア 投稿日:2001年01月25日(木)23時53分49秒
- 最高でした。
最後の場面は少し泣きかけたし(笑)。
次回作も楽しみに待ってます。
- 282 名前:うでたまご 投稿日:2001年01月26日(金)00時10分06秒
- いい話でした…じ〜ん。
あるみかんさんの書く娘。たちはみんな優しくて温かいですね。
もう完ぺき、あるみかんさんのとりことなってる私でございます(笑)
パワーバランスの続編、吉澤視点のいしよし話読んでみたいです。
なんたって、ここのよっすぃーホントに良い子なんだもん。
梨華ちゃんと甘々をぜひっ^^
- 283 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月26日(金)01時07分41秒
- あ〜泣けた。
過去読んだ娘。小説の中で一番好きです。
素敵なお話をありがとう。
- 284 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月26日(金)02時06分15秒
- 泣きました。ホントにいい話だ。感動しました。
私も283の名無しさんと同じく、娘。小説の中で
これが一番好きです。
- 285 名前:Hruso 投稿日:2001年01月26日(金)02時09分37秒
- 感動でした。
15歳の裕ちゃんは可愛かった上に、
中澤さんのような強さも持っていていままでにないキャラですね。
自分もパワーバランスのいしよし、また読みたいです。
- 286 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月26日(金)12時55分24秒
- 今まで吉澤が好きではなかったけど、この吉澤はよかった。
ラストの締め方も好き。
- 287 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月27日(土)23時49分20秒
- >トーアさん ラストが先に浮かんでそこまでどう引っ張っていくか、っていうのが
課題でした。ラストシーン気に入っていただけたでしょうか?
>うでたまごさん ここの吉澤がいい子なのは作者が吉澤ファンだからです(笑)
基本的に嫌いなメンバーはいないんでそれぞれのいい所を描いていきたいです。
>283さん こちらこそありがとうございます。かきながら自分でも楽しめたんで
書いてよかったなと思ってます。
>284さん 今までいくつか小説を書いたけど、オチというオチもなく大ドンデン返しも無い
作品だっただけに心配な点がありました。けど、そういっていただけて本当に嬉しいです。
>Hursoさん 本当のところ15歳の中澤裕子はどんな人だったんでしょうね?
今持っている彼女のイメージを少しだけ柔らかく、幼くしてかいてみました。
>286さん ラスト、ちょっと真面目に読んじゃうと自分でもてれくさいんですけどね(笑
でもあれはあれでよいかな、と
いしごま中篇になりそうなんでちょこっと短目のを。
で、パワーバランス4の大体の話は考えたんですが・・・
正直前作と雰囲気が違うんで少々苦戦中。
はっきりいって・・・
甘い、死ぬほど甘い。しかもコネタもほとんどなく。そして
・・・・・・ちょっとだけエロい。
それでもいいんでしょうか?
- 288 名前:名無しあるみファン 投稿日:2001年01月28日(日)02時58分12秒
- ええいいですとも!
どこまでもあるみかんさんについていきますさ。
&青版の方も泣けますな・・・。
- 289 名前:うでたまご 投稿日:2001年01月28日(日)22時35分32秒
- 私も大賛成っす!!
甘々はっぴー!ちょっとエロもおっけー♪
>それぞれの良いところを書いていく…
それって素敵ですね。あるみかんさんの人柄が偲ばれますね^^
ちなみに私はいしよしごまファンでございます♪
- 290 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月29日(月)23時15分16秒
- ご快諾ありがとうございます。
ということでパワーバランス4(結局やるんかい!!)
ただし今回はお互いのバランスっていう意味のパワーバランスにあらず。
ちなみに押し娘。は、吉澤(何回も書かなくてもいいって感じ)、加護、保田。
- 291 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年01月29日(月)23時28分19秒
- 夢の中で、私はサルになっていた。
仲間達とジャングルの中の木々を飛びまわって遊ぶ。
喉が乾いてしまったから川に下りて水を飲む。
今度はおなががすいてきた。
高い急斜面があって、その向こうにバナナが見える。
ソレが食べたいから私は斜面をよじのぼる。
ズルズルズル
だめだ。
妙につるつるしたその斜面をどうしても登ることが出来ない。
だけど私は何度も繰り返す。
何度目かにようやく細長い棒が置いてあるのに気が付く。
私はそれを手にして、するすると上に伸ばす。
えいっ、と力を込めて横に振るとバナナが落ちてきた。
そして私はバナナを口にする。
お腹が一杯になったら今度は眠くなってきた。
そうして私は一日中、来る日も来る日も本能の赴くままに行動するんだ。
- 292 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年01月29日(月)23時29分27秒
- 窓から射し込む日差しが顔にあたるのを感じた。
私はゆっくりと瞼を開く。
もう、朝が来ちゃったんだ。
なんだか喉が乾いていて私はベッドサイドに置いてあったペットボトルに手を伸ばす。
外気にさらされていた液体は少し生ぬるかったけど、乾いた喉を潤すには十分だった。
「……よっすぃー、起きたの?」
眠そうに目を擦りながら彼女は体を起こした。
「うん、まだ早いけど。寒いよ、ちゃんと布団かけてないと」
露出した彼女の肌がなんだか寒そうで私は布団をかけ直そうとした。
「いい。こっちのほうが」
私の後ろに彼女の手が廻される。
細い指が私の背中を滑り落ちる。
「梨華ちゃん……」
- 293 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年01月29日(月)23時30分06秒
- 半分起こしかけた体を梨華ちゃんの体ごとベッドに後戻り。
私はクスリと笑う。
「なに笑ってるの、よっすぃー」
自分のことを笑われたと思ったのか、ちょっとむくれた顔で梨華ちゃんが私を睨む。
ごめんごめんと私は慌ててあやまる。
「ちょっと夢の内容を思い出しちゃって」
「……なんの夢?」
私を見つめる梨華ちゃん。きっと自分の夢だっていわれるのを期待してるんだな、
って思うとかわいい。
「サルになる夢」
「え?サル?」
きょとんとした後、さもおかしそうに笑い出す。
「へんなのー」
「梨華ちゃん笑いすぎ」
そういって私は彼女の唇をふさぐ。
- 294 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年01月29日(月)23時30分39秒
- 私達は眠る。
喉が乾いたら何かを飲んで
お腹がすいたら何か食べて
おかしかったら笑って
抱きしめたいときに抱きしめる。
そういえば、
最初は大変だったっけ。どうしていいかわかんなくて
キスして抱き合ったはいいけどそこで二人とも固まっちゃって
年上だから私がリードしなきゃいけないのに、とかいう梨華ちゃんに
バレーだって初心者同士のパス練習はなかなかうまくいかないんだしと
わけのわかんないフォローをした私。
そのときの私達と試行錯誤のうえ、ようやくバナナをゲットしたサルの映像が重なる。
覚えたての行為にまるで新しいオモチャを見つけた子供みたいに夢中になる。
- 295 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年01月29日(月)23時31分09秒
- 「時間……まだ平気だよね」
唇を離すと梨華ちゃんが吐息混じりの声で呟く。
「遅刻しちゃうよ……」
けれど私はその腕をふりほどくことが出来ない。
きっと今の私達は
人間かサルかって言ったら
間違い無くサルの方が近いんだろうな。
つづく
- 296 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月29日(月)23時35分00秒
- 今売れてるある芸能人の本を立ち読みして妙にサルの表現が頭に残って使ってしまった。
そして、たいした山も無くつづく・・・
しかし、前作と雰囲気違いすぎ。タイトル、設定はつながってるけど半分別物かもしれません
- 297 名前:ぉg 投稿日:2001年01月29日(月)23時59分07秒
- >>296
変える事も時には必要かも。
自分がやりたいように、が一番。
- 298 名前:いずのすけ 投稿日:2001年01月30日(火)00時04分11秒
- 裕ちゃんとよっすぃーのお話良かったです。
泣けたよ。ありがとうね、あるみかんさん。
今度のもがんばってね。ちゃんと読むから。
- 299 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月30日(火)01時52分12秒
- ま、掲示板での連載ってのが、かなり特殊な形態だし、
いろいろやってみていいんじゃないでしょか。
しかしサルってのはなんだか生々しい。
さて、なんのバランスなんだろう。
- 300 名前:あるみかん 投稿日:2001年01月30日(火)23時57分58秒
- >ぉgさん なるほど。変える事も必要・・・・・・か。
同じようなの書くと結構表現方法もマンネリ化しちゃいますからね。
やりたい事は色々あるんですがいかんせん筆が追いつかない。
>いずのすけさん こちらこそありがとうございます。中澤吉澤の話は書いてる最中
ホント楽しかったんで自分でもよかったなと思ってます。
>名無し読者さん HPとかでやると作業が結構手間で・・・掲示板でやるスタイルは
自分にあっているのかも。生々しいですかね、やっぱ。なんてったって飯○愛の本で
思いついた話だから・・・
- 301 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月31日(水)04時33分31秒
- おっと〜いいっすねこういうのも。
続くって事は続くんすよね(?
楽しみっす
- 302 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月31日(水)17時00分13秒
- パワーバランスの続編始まったんですね!
保田さんと中澤さんのその後も気になりますが・・・。
出て来られますかねぇ?ていうか!お願いしますっ!!
- 303 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月31日(水)17時02分38秒
- 中澤さんと保田さんのその後も気になったりします。
また登場させて頂けますか?
パワーバランスシリーズ大好きです!これからも頑張って下さい!
- 304 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月31日(水)17時03分49秒
- って!二重カキコしてしまいました!!
ミスです。ごめんなさい。(泣)
- 305 名前:うでたまご 投稿日:2001年02月01日(木)02時01分09秒
- こちらも更新されてる…すごい創作力だ。感心。
読むほうは嬉しいけど、あるみかんさんの体力は大丈夫なんでしょうか?
向こうと同時進行してるのに混乱しないのも素晴らしいっす。
よっすぃーのフォロー、むちゃくちゃで笑える(笑)
- 306 名前:グェン 投稿日:2001年02月02日(金)22時46分41秒
- 裕ちゃんが優しいとなんだか嬉しい。
「君がいた夏」よかったです。
パワーバランス4も楽しみっすね! 続くんですよね!?
エロさ加減が自分には丁度良い。
微笑ましいですな〜〜〜
- 307 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月03日(土)01時07分44秒
- >>221
中澤はトマト食わない……。
- 308 名前:あるみかん 投稿日:2001年02月03日(土)23時26分49秒
- >301さん 続きます。長さは前作と同じ位の予定です。そのへんもバランスを保って
ということで(笑)
>302〜304さん いえいえ。レスありがとうございます。中澤と保田も出す予定です。
>うでたまごさん お気遣いありがとうございます。心より感謝。よっすぃーの台詞は
某知人の話を参考にしました(オイオイ)
>グェンさん ご感想ありがとうございます。甘いの&エロ(?)いのは苦手なんで
どう落とそうか悩んでおります。
>307さん トマトも嫌いだったんだ・・・勉強不足すみません。
トマトをレタスか卵にチェンジ!
- 309 名前:ガンツ 投稿日:2001年02月04日(日)19時26分17秒
- パワーバランスの続編がはじまってる!おもしろいです!
笑いあり、泣きありのあるみかんさんの小説は見る価値ありすぎです!
- 310 名前:ま〜 投稿日:2001年02月04日(日)20時31分45秒
- パワーバランスシリーズだいすっき!
続き期待してます♪
ちなみに、ナンノこれしきネタ、使ってもらって感謝してます♪
- 311 名前:あるみかん 投稿日:2001年02月08日(木)01時10分24秒
- >ガンツさん パワーバランス、最初の1本を書いたときはまさか4まで続くとは・・・
4は終始まったり(?)気味で前3作品で入れてたオチがうまくつけられなかったのが
心残りです。
>ま〜さん ナンノこれしきネタ提供ありがとうございました!こちらの方こそ
本当に感謝してます。ホントのところどんなラジオ番組だったのか知りたくなっちゃいました。
- 312 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年02月08日(木)01時12分52秒
- 「こらっ!!何時やと思てんねん!!」
「す、すみません!!」
楽屋に入るなり跳んでくる中澤さんの声。
しまった。
あの後、眠るつもりなんか無かったのに気が付くと予定時間を大幅に上回っていた。
中澤さんのこめかみに血管が浮き出ているのが見える。……相当怒ってる。
梨華ちゃんと並んで次のお言葉を待つ。
「ごっめーん、遅くなって」
高らかに響くおなじみの声。安倍さんのご登場。
「なっち……あんたなあ。ったくどいつもこいつも」
さらにヒートアップする中澤さんは血管が切れちゃうんじゃないかとちょっと心配になる。
「裕ちゃん、とりあえず着替えなよ。時間無いよ」
私達のことが気になっていたからか中澤さんもまだ普段着のままだ。
みかねた保田さんが声をかけてきた。
中澤さんは言い足りないといった感じだったけど渋々着替えに入る。
- 313 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年02月08日(木)01時13分54秒
- 梨華ちゃんが横目でちらっとこっちを見て「怒られちゃったね」と小声で言う。
「だね」と肩を竦める。
私達も用意された衣装に着替えに入る。
タートルネックのセーターを脱いでピンクのキャミソールにチェンジしようとする梨華ちゃん。
あ……ヤバ
「あれ?それ、どうしたの?」
目ざとい加護が真っ先に気が付いて、梨華ちゃんの鎖骨のちょっと上辺りを指差す。
幸い他のメンバーはちょっと遠巻きにいてこっちの様子は気に留めてない様子。
「えっ?あ、ああこれ?こ、これはね〜虫、そう虫に刺されちゃって!」
「ふーん……アイドルはおはだが大事だから大切にしないと」
梨華ちゃんの肌に残る跡。あれは間違い無く今日の朝の印だ。
いつも跡は絶対つけないでって言ってるのに、私の胸の少し上にくっきり赤い跡。
怒ったら、よっすぃーもつければ?なんていうからついついムキになってお返ししてしまった。
あくせくする梨華ちゃんが妙にかわいくて後ろから小声で囁く。
(虫じゃないくてサルでしょ?)
肘で私のみぞおちを軽く押す。
「バナナじゃなくてベーグルの好きな変なお猿さんだけどね」
視線を交わして笑う。
私達二人の間だけで通じる秘密のやりとりみたいでどきどきする。
- 314 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年02月08日(木)01時15分28秒
- なんてモタモタしてるうちに私達が最後になってしまった。
慌てて出ようとしたらドアの前で中澤さんが仁王立ちで立ち塞がっていた。
バナナっていう言葉に反応したのかなあ?でも、それにしては顔つきが険しかった。
「あ、あのぉ……なにか?」
おずおずと梨華ちゃんが口を開く。
「なにか……やないやろ!!」
突然怒鳴りつけると梨華ちゃんの腕を強引に引っ張った。
私はあまりもの迫力に、1歩も動けずに居た。
「これで収録行く気か!?仕事をなんやとおもてんねん!!」
「あ……の、これは」
梨華ちゃんはなにか言いかけたけど口をつぐんだ。
考えてみたら子供だましな言い訳が通じるわけもなく、見る人が見ればその跡がなんなのかは一目瞭然に決まってる。
- 315 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年02月08日(木)01時16分29秒
- 「悪いことやとは言わん。でもな、最近……特に石川、仕事中も吉澤のほうばっかり気にとられてちっとも集中してへん。そういうんは廻りにも影響するんや」
中澤さんは巻いていたストールを解くと梨華ちゃんの首にかけて、跡を見えないようにした。
「ダメやっていう権利は私には無い。けどな……何が大事なことなんかよう考えるんやで」
そう言った中澤さんはの目はどこか哀しげで、怒られるよりもっと辛かった。
トントンとノックの音がしてドアが開く。
「早く来いって」
ひょこっと保田さんが顔だけ突き出してそう言った。
今にも泣き出しそうな梨華ちゃんの肩をそっと抱いて保田さんの前を通過した。
中澤さんはそれ以上何も言わず見送っていた。
「ごめん……私が悪いのに」
「よっすぃーのせいじゃないよ……よっすぃーのせいじゃ」
一言もなにもいえなかった自分の不甲斐なさが情けなくてしょうがない。
何が大事なことか考えろ……か。
中澤さんに言われたことを心の中で繰り返した。
でも、いくら考えても彼女の言うことはあまりにも正論で私はなにひとつ梨華ちゃんを元気付ける言葉が出てこなかった。
- 316 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年02月08日(木)01時17分27秒
- 収録ははっきりいって最悪だった。
梨華ちゃんはミスをしないように頑張りすぎてるのが裏目に出て、トークも歌もボロボロだった。その上、中澤さんにいわれたせいかもしれないが、ちっともこっちを見てくれない。
「ちょっと休憩入れてもらっていいですかね?」
予定が押し気味だというのに中澤さんがそう言った。
スタッフの人達も煮詰まった空気を変えたいといった感じだったのですぐさまOKサインがでる。
「裕子―、もう疲れたのぉ?」
矢口さんのいれる冗談にいつもなら「また年寄りやいいたいんか!!」と掛け合うのに中澤さんは曖昧に微笑むだけだった。
「すみません……ちょっと頭冷やしてきます」
え……?
そう言ったとたん梨華ちゃんは現場を駆け出していってしまった。
追いかけなきゃ。
そう思ったけど言って何を言えばいいのか私にはわからなくて、すがるような気持ちで中澤さんを見た。
けれども彼女はたださっきと同じように
「大事なことは何か考えるんや」
と繰り返した。
そしてまた、矢口さん達と話し始めてしまう。
- 317 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年02月08日(木)01時18分27秒
- ……梨華ちゃん。
頭が真っ白なまんま梨華ちゃんを探す。
行き先っていってもトイレと楽屋くらいしかない。
「梨華ちゃん!!」
勢いよく私は楽屋のドアを開けた。
そこには机に突っ伏している梨華ちゃんがいた。
とりあえず彼女の姿を見つけてほっとしたけど状況は変わらない。
こんなとき、きっと中澤さんだったら気のきいた台詞の1つも出てこようものだけど私はありきたりの台詞しか思い浮かばない。
「あのさ……元気出してがんばろうよ。中澤さんは別に私達が付き合ってるのがいけないっていってるんじゃなくて、もっと付き合い方を考えろ、っていうか他のこととも両立してバランスよく付き合えっていってるんだよ。大事なことを考える。それはきっとこういうことなんじゃないかな?」
「わか……ってるよ、うん……」
そう頷くのに梨華ちゃんは一向に顔を上げてくれなくて、彼女の髪をそっと撫でた。
「ね。大事なこと考えなきゃ……だからもう泣かないで。中澤さんだって」
「違うの、よっすぃー。そうじゃないの」
「違うって?なにが?言って、梨華ちゃん」
少しだけ顔を上げた梨華ちゃんのしたに置いてあった彼女の手は涙でぬれていた。
- 318 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年02月08日(木)01時19分24秒
- 「私ね、またよっすぃーを困らすこといっちゃうよ」
「困らす?」
私は大人じゃないしなんの力も無いかもしれない。
けど、これだけは言える。
「だったら…ここで梨華ちゃんがいってくれない方がヤダ」
子供っぽい言い方。だけどこれが本心だから
梨華ちゃんはゆっくりと顔をあげて私を見つめた。
「だって、私よっすぃーが一番大事なんだもの。何が大事かって何度考えてもやっぱりよっすぃーがすきだから…だから。ね?困っちゃうでしょ?なんて答えていいかわかんないよね…ごめんね、よっすぃー」
こんな梨華ちゃんいつか見た。そうだ、あの時だ。付き合って間も無い頃お互いの気持ちに自信が持てなかったとき。でもね、梨華ちゃん今は違うよ。
だから私は言う。
「私も同じだよ。けどね、こうも思うんだ。私も梨華ちゃんの好きな私でいられればいいなって」
「私の好きな……よっすぃー?」
- 319 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年02月08日(木)01時21分02秒
- なんだか…あー、上手く言えない。
「私、梨華ちゃんの歌や声……笑った顔が好きだよ。……これじゃ答えになってないかな?」
中澤さんが言った大事なことっていう意味はきっと違うと思う。
仕事、友達、恋人を上手く調和させることなんて出来そうも無いもの。
けど、これが私達だから。
お互いにいつも
「あなたの好きな自分でいられればいいね」
梨華ちゃんが笑う。
私達は二人ともあちこち未完成で不安定な存在。
だから、二人で
ずっと支えあっていければいいよね。
-
- 320 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年02月08日(木)01時22分56秒
- ・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
「おーい、裕ちゃん。なんか言ってあげなくていいの?」
楽屋の脇で控えてる裕ちゃんは、ギョッとした顔で振りかえった。
「な、なんやっ?」
「結構二人ともめげてたみたいじゃん。フォローしとけば?」
「聞いてたんか。ったく……」
裕ちゃんは悪戯を見つけられた子供みたいに決まりの悪そうな顔をする。
「これ以上は私が口出しすることやあらへんからな」
「ふーん……」
「……なんか言いたそうやな、圭坊」
威嚇するようにギロリとにらむ裕ちゃん。
「損な役回りですねえ、おねえさん」
「ほっといてくれ。世の中いろんな人間がおるからこそ上手くまわってるんやから」
「いろんな人間ねえ」
「そ、完全なものなんか何も無い。いろんな感情や、いろんな個性があるからこそ
互いになんだかんだでバランスがとれんねん」
なんだかその妙に悟りきった裕ちゃんを崩してみたくなる。
「なるほど、じゃあ、少々の予想外なことやそのバランスを崩すようなことがあっても大丈夫ってこと?」
「なかなか飲み込みがええやん。そうや、そういうこと。ま、もっとも私は大人やからな、キスマークつけておろおろなんてことはないけどなー」
「ていうか、その心当たりが無いでしょうが」
「へ?」
いつもそうだ。
年齢のせいだけじゃないけれど裕ちゃんはいっつも私より一枚上手で
悔しいからたまには一泡吹かせてやりたくなる。
ね、裕ちゃん。貴方が思ってるバランスが崩れたらそのときどうしてくれるのか。
- 321 名前:パワーバランス4 投稿日:2001年02月08日(木)01時32分45秒
- 「裕ちゃん」
「ん?なんや」
「私さ」
裕ちゃんの目を見てにかっと笑う。
「多分、裕ちゃんが思ってるよりは裕ちゃんのこと好きだと思うよ」
「はぁ?」
呆気にとられて口を開けて固まる裕ちゃん。
よしよし、こういう顔見たかったんだよねー。
という私の期待……
「そりゃ奇遇やな。私も多分あんたが思ってるよりはあんたのこと好きやで」
な、な、なななななななな!!
そして恐らくはさっきの私と同じ笑顔で言ってのけた。
「……ってかぁ?……」
なんていいながら裕ちゃんはちょっぴり照れくさそうな素振りを見せて、
私達は同時に吹き出した。
そうだね、裕ちゃん。
こうやって、私達はきっと小さい、大きい変化や、山あり谷ありな人生なんだろうけど
お互いのいるこの世界で生きてるんだから。
そして、今のところほんの少しのあなたの笑顔に
私は満足しちゃってるわけですから。
END
- 322 名前:あるみかん 投稿日:2001年02月08日(木)01時36分48秒
- 一応このシリーズは保田にはじまり保田で締めてみました。
4はお互いのバランスだけでなく周りの人や環境などとのバランスというか上手く
やっていくことの難しさみたいなのを書きたかったんですがちょっと消化不良。
次は今度こそ石川、後藤、吉澤メインのものやりたいと思います。
- 323 名前:某 投稿日:2001年02月08日(木)03時00分01秒
- 消化不良、初めて見えたかも。
今までは気にならなかったけど。
ところで、あるみかんはモー板で書く気はないの?
やっぱああいう空気は苦手かな…煽りとかもたまにあるからね。。。
- 324 名前:Q 投稿日:2001年02月08日(木)10時14分14秒
- いいっすねー、あるみかんさん、ホントすごいっす。
なんか愛情溢れてますよねー。
いしよしごま、期待してますよー!!
- 325 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月08日(木)15時47分21秒
- 消化不良かなぁ?
結構良かったと思うんだけど。
- 326 名前:あるみかん 投稿日:2001年02月10日(土)17時24分19秒
- >323さん 中盤で一言保田に喋らせて、付箋をしいとけばよかったかなと思ってます。構成が悪くて最後の締めが生きてない。率直なご意見ありがとうございます。
モー板って2chとかのことですよね?かくきが無いわけじゃないけど、これ以外にも
青板で長編やってまして、やるとしてもそれが終わってからでしょうか。
>Qさん いしよしごま、初(だと思う)の学園モノになる予定です。
今度は自分でも納得できるものがかければいいなと思います。
>325さん ありがとうございます。でもなんとなーくすっきりしないんですよね、書いた後。
4作の最後としてはしまりがなかったような。次はがんばります。
- 327 名前:3-three- 投稿日:2001年02月14日(水)23時21分19秒
- 5時間目の英語の授業は嫌い。担当は私のクラス担任の先生。
英語自体はそんなにキライじゃないし、先生の性格もキライじゃないんだけど
後ろに入ってる授業が無いから、ついつい先生の話が長引いちゃって、
あの瞬間を逃しちゃいそうになるから。
「それでは以上で終わりです。また来週な〜、みんな」
よおっし!
「ちょ……梨華ちゃん?今日買い物行く……」
「ごめん、あゆみちゃん!また後で」
私は学生鞄を掴むと駆け足で廊下を進んで階段を下っていく。
『廊下走るな』っていう文字が目に入る。ごめんなさい、明日は守りますから今は見逃してくださいね。
急いでシューズを履き替えて校門へ向かう。
少し……遅くなっちゃったけど、間に合ったかな?
柱の影に隠れてじっと待つ。
あ、聞こえてきた。
いつもの掛け声。
きびきびしてて、それでいてどこか思いやりの感じられる。
ファイト、っていう声の後に続く声。
そしてその集団の先頭を駆けていくあなた。
ジャージ姿もさまになっている。
- 328 名前:3-three- 投稿日:2001年02月14日(水)23時23分12秒
- 「今日も…………ス・テ・キ」
そしてまた、だんだんと声が小さくなっていった。
ああ、今日も見られた。梨華幸せ〜
「……梨華ちゃん、梨華ちゃんてば!!」
「へ、へっ!?」
振返ると呆れ顔のあゆみちゃんが立っていた。
「何が、ス・テ・キなの。中学生に」
「中学生っていったってひとつしかちがわないよ」
うちの学校は中高一貫とはいっても校舎が違うんだからそうそう会うチャンスも無い。
親友の(本人には違うって言われたけど冗談だよね?)柴田あゆみちゃんは、
一見私と同じのんびりやさんて感じだけどなかなかどうして頼り甲斐があったりする。
けど、いくら彼女でも貴重な機会を喜んでる私を止める権利なんてないんだから。
私は、ちょっと強気に睨み返す。
- 329 名前:3-three- 投稿日:2001年02月14日(水)23時24分21秒
- 「とにかくステキだよ、ね?」
「梨華ちゃん……」
「なあに?」
「今更いうのもなんだけどね」
「だからなあに?」
「うちの学校って」
「うん?」
ハアッ、と大きな溜息をつくあゆみちゃん。
「……女子校なんだけど」
そんなことは、いまさら言われなくてもわかってる。けどね
「私のよっすぃーへの愛は止められないの」
「……………」
そうなんです。
石川梨華、16歳。
よっすぃーこと吉澤ひとみちゃんに向かって
ちょっと危険な恋愛街道爆進中!……なんです。
- 330 名前:3-three- 投稿日:2001年02月14日(水)23時25分25秒
- 「それはいいけどどうするの?冬物最終バーゲン行く?行かない?」
「行きたいけど、でも練習も見たいしなぁ」
ランニングが終わったら体育館でトレーニングのはず。
堂々と見に行くのは気が引けて、今までは登校姿とランニング姿、それにせいぜい
中高同時開催の体育祭くらいで我慢してたんだけどこの間の体育のときとっておきの
スポットを見つけてしまった。
「実はね、体育倉庫に穴があってしかもその前におあつらえ向きに跳び箱が置いてあるの。
その隙間から中がバッチリなんだよね。というわけで、買い物はまた今度!」
「梨華ちゃん…そういうの何て言うか知ってる?」
「知ってるよ、『恋は盲目』でしょ?やだーあゆみちゃんてば!」
自分で言ってはずかしくなっちゃったよ。
私はあゆみちゃんにバイバイと大きく手を振って体育館に向かった。
早く行かなきゃ、ランニングから帰ってきちゃう。その前に忍び込まなきゃね!!
「……じゃなくて、そういうのは『ストーカー』っていうんじゃないのかなぁ」
- 331 名前:3-three- 投稿日:2001年02月14日(水)23時27分02秒
- 体育倉庫の扉に近づくとそこが数センチほど開いていた。
もしかして誰かいるのかな?だとしたらすべて台無しだよ。
私はそうっと扉に手を掛ける。
得てしてこういうものって立て付けが悪くて引っかくような音を伴って重々しく開くものだけど、幸いするりと簡単に動いた。
体の側面が通りぬけられるくらいに開き、するりと中に滑り込む。
雑然と並べられた用具の間を潜り抜け目的の場所を探す。
あ、あった。
この間マットを整頓しようとして登ったときに偶然見つけた場所。
審判用の台を中段まで登ってとなりの折り重ねられたマットに飛び移る。
拍子に埃が少し舞ったけれど気に留めず、身を前に乗り出し、わずかに光がこぼれるところに視線を合わす。
……うわあ、バッチリ。
そうこうするうちに複数の足音と話し声が聞こえてくるのがわかった。
どうやら帰ってきたみたい。
おのおのボールを取ってサーブ練習がはじまる。
よっすぃーは……居た!!
- 332 名前:3-three- 投稿日:2001年02月14日(水)23時28分04秒
- もう3年生で卒業を来月に控えているよっすぃーは自分ではうたないで後輩の女の子に
サーブの出し方を教えていた。面倒見がいいな、よっすぃー。ちょっと妬けちゃうけど。
ああっ!でも手なんか握っちゃダメだよ!
こらっ!離して、離してってば〜
ピピーッと笛の音がなって今度は二手に分かれての練習になる。
女の子の手からはなれてホッと一息。
もう、よっすぃーってば誰にでも優しいんだから。
レシーブ練習みたいなものがはじまって、あちこちでボールが飛び交う。
あ、よっすぃーのところに来たよ!
がんばって!よっすぃー!とれるよっ。
ラッキーなことによっすぃーは私に近いサイドのほうにやってくる。
そう近い、近いって………
あ、ああっ!どんどんどんどん近づいて来る。
近づいて……
- 333 名前:3-three- 投稿日:2001年02月14日(水)23時29分07秒
- ダ―――――ン!!
物凄い音が壁に響く。ボールを追いかけてきたよっすぃーが壁に激突してしまった。
「キ、キャッ!!」
私は驚いて思わず後ろに飛びのく。
あ……ら?
重心がずれたことでずるりとマットがすべる。
ぐらり、と視界が斜めになって…
お、落ちるっ。
でもここで声を出したら覗いてたのがばれちゃうよ。
ここはガマン、ガマンよ梨華!!(以上コンマ5秒のうちの思考)
「い、いったぁ〜〜〜〜〜〜い!!なにすんのよ!!」
へっ!?
私……声出してないのに…なんでぇ?
「ッツツツゥ……ったく人が昼寝してるっていうのに誰、邪魔すんの?」
マットの裾野からあらわれた人物はしかめっつらで頭を撫でながらこっちをにらんでいた。
- 334 名前:3-three- 投稿日:2001年02月14日(水)23時29分47秒
- 「なに!?今の声?どうかしたのっ」
ガラリと倉庫の扉が開かれる。
しかめっつらの人物は私と壁の穴を交互に見ると、眠そうなあくびをひとつ。そして
「フワァ…もう覗きやるんなら人の邪魔しないで静かにやってよね静かに」
両手を上に上げて伸びをすると枕代わりにしていたらしい鞄を持つ。
「さ、そろそろかえろ―ッと。お邪魔さまでした!」
呆気にとられている人垣をかき分けて出て行く少女。
ぽかんとした表情で私を見ているよっすぃー。
マットの上で尺取虫みたいな格好で固まっている私。
神様、あなたはそんなに私がおキライですか?
- 335 名前:3-three- 投稿日:2001年02月14日(水)23時30分44秒
- 「だーかーらー、もう泣くのやめようよ梨華ちゃん」
「だって、だってあんなのじゃ絶対よっすぃーに変な子だって思われちゃったよ。
ううん、それぐらいならまだいい。覗き趣味のストーカーだって思われたかも」
「……そのとおりだと思うけど」
「ひ、ひどいよっあゆみちゃん」
「苦しいってば!梨華ちゃん。冗談だよ冗談」
「こんなときに冗談なんてっ」
あれからどうやって家に帰ったかわからない。私はとにかく泣いて泣いて泣いた。
人間の成分のほとんどは水だっていうけれど、私はきっと脱水症状で死んじゃう。
お母さんが心配するから学校には来たけどあゆみちゃんの顔を見たとたんまた涙が止まらなくなってしまった。
ずっとずっと気付かれないように思いつづけてきたよっすぃーへの気持ち。
それなのに……
そう、それもこれもあれもついでにあの事も、
「あの子のせいだよっ」
あの子が大声出したりしなければ、覗きなんていわなければサイアクの事態になってならなかったのに。
大体、あんなところで昼寝なんて、それにあの様子だとどう見ても随分前からあそこにいた感じだ。授業をサボって昼寝なんて不良に決まってる。
- 336 名前:3-three- 投稿日:2001年02月14日(水)23時31分45秒
- 私がそう力説してるとあゆみちゃんは一通り聞き終えた後私の肩をポンポンと叩いた。
「気持ちのやり場が無くってその子にぶつけたいのはわかるけど」
とてもじゃないけどよっすぃーの姿を見に行く気にはなれなくて私は帰り支度をはじめる。
窓からぼんやりと外を眺めるとバレー部が校門の前を通りぬけていくのが見えた。
ああ、よっすぃー、私にはもう見つめることさえ許されないのかな。
門から目を反らしグラウンドの方に視線を落とす。
次々と下校していく生徒達。
みんな、楽しそうだね。
でも私は不幸……
ん?
「ああ――――――っ!!」
「なに?今度はどうしたの梨華ちゃん」
- 337 名前:3-three- 投稿日:2001年02月14日(水)23時32分32秒
- 見覚えのある姿を指差して、私は叫んだ。
あの子だ、昨日の子だ。
「あ、なんだ中等部の後藤…さんだったかなぁ?」
「ええっ?あゆみちゃん知ってるの?」
時代劇風に言うと、ここで会ったが百年目。とでもいうところだ。
「知ってるも何も梨華ちゃんの方が知ってるんじゃないの?」
はぁ?という感じであゆみちゃんは首をかしげる。
私が何も答えないのがわかると仕方が無いと話しはじめる。
「かわいいし、結構目立つ子だから有名だよ。昔はちゃんと来てたみたいだけどここ一年くらいは学校来たり来なかったりで。深夜の繁華街をよくうろついてるっていうのも聞くけど」
……やっぱり不良さんなんだ。
「私が噂話とかに疎いのは知ってるでしょ?」
なのに、なんで私のほうが知ってるとか言うんだろう。
「それよりも、梨華ちゃんの好きな吉澤さんの幼馴染だよ」
え、え
「え〜〜〜〜!?」
よっすぃーの幼馴染、あの子が。
そう聞いて私はいてもたってもいられなくなってしまった。
- 338 名前:3-three- 投稿日:2001年02月14日(水)23時33分19秒
- 「あ、それにね……」
「ごめん、あゆみちゃん!先帰ってて」
「ちょ……梨華ちゃん!」
昨日から走ってばっかりだ。
下校する生徒達の間をかいくぐってあの子の後姿を探す。
表通りに出た所で辺りを見渡すとちょうど向かって右側のバス停でちょうどやってきたバスに乗り込もうとしている少女を見つけた。
「後藤さん!!」
一瞬足を止めて振返ったけれど一瞥しただけでバスに乗ろうとする。
「待って!」
「ちょっと?」
強引に彼女の手首を掴んだ。
バスの運転手が面倒くさそうにこっちを見ている。
「すいません、彼女先生に呼ばれてるんで言っちゃってください」
「はあ!?」
返事もせずに運転手が前方を向くと目の前でドアが閉まった。
特有の排気音をたてながら走り去っていく。
- 339 名前:3-three- 投稿日:2001年02月14日(水)23時34分07秒
- 「……あのさ、痛いんだけど」
ハッとして私は自分の手元を見た。
強引に引っ張ったせいか少し彼女の手首は赤くなっている。
「ご、ごめん!」
慌てて手を離す。
普段どっちかっていうと気持ちばっかり先走って行動が後手にまわるタイプなのに、(好きな人をこっそり見ることしか出来ないくらい)頭より先に体が動いてしまった。
「で?なんか用なの?先生ってウソでしょ」
さっきのあゆみちゃんの話を聞いていたから引きとめたいいけど私は内心ビクビクしていた。
けど、目の前の彼女は面倒くさそうではあったけれど決して怒っている風には見えなかった。
「昨日、会ったでしょ?覚えてない?」
「昨日〜?うーん、なんだっけ?後藤記憶力悪いんだよねー」
「……体育倉庫で昼寝してたでしょ?」
「え?なんでしってんの?……あっ!」
ようやくひらめいたとパッと顔を輝かせる。
「バレー部の練習覗いてた子だ!!」
- 340 名前:3-three- 投稿日:2001年02月14日(水)23時35分38秒
- 思い出したのが嬉しいのか機嫌良さそうに笑う。
「違うよ!!大体あなたがそういうことあそこで言うからよっすぃーに誤解されたんだから!!」
「へ?よっすぃー?」
次のバスを待つ生徒達が後ろに並び始めたけれど私の話に興味を示したのか通りのはじによける。
「そうだよ……よっすぃーに、よっすぃーに変態だと思われちゃったよ……」
せっかく止まっていた涙がまた少しにじんでくる。
「ちょっとちょっとぉ、それが私のせいだって言うわけ?」
なんか違うような気もしたけど私はコクリとうなづいた。
「はあ。で、私にどうしろっていうの?」
あゆみちゃん曰くその目で見られると末代まで呪われそうな気がする(ヒドイ!)目で私は彼女を見た。
「わかった、降参。要するによっすぃーに上手く話しとけばいいってことでしょ?」
「うん!!」
そしてまた彼女は例の面倒くさそうな表情を浮かべた。
「じゃあそれが終わったらもういちゃもん付けてこないでね。人間関係ゴタゴタしてるのキライだから」
言い終えたときに丁度バスが来た。
けれどそのバスには乗らずに、下校ラッシュの長い列の中に溶けて消えていった。
- 341 名前:あるみかん 投稿日:2001年02月14日(水)23時41分38秒
- 今回はここまで。
軽め、明るめ、そしてオーソドックスに(笑
8時台の学園ドラマのノリで書いてます。サクサクいけて書きやすいですね。
年齢設定を変えたくなかったので友達役にメロンの柴田さんに登場していただきました。
同い年じゃなかったかも・・・しれませんがどうかお見逃しください。
- 342 名前:名無し読者 投稿日:2001年02月14日(水)23時52分13秒
- 梨華ちゃん怖い(笑)
でも・・・、かわいい。
いや・・・、怖い。
普段もこんな感じなのかなぁ・・・。
- 343 名前:うでたまご 投稿日:2001年02月15日(木)01時29分33秒
- さ、最高(笑)梨華ちゃんっ。
気持ちばかりが先走っちゃって、でも本人は至ってマジメなところが笑えます。
年上なのに全然年上っぽくないとこがまたかわいいし。
ふーむ。ごっちんとよっすぃーは幼馴染なのかぁ。
イヤ実はくだらない相関図を勝手に作ってまして、あるみかんさんの小説も
参考にしてたりするんで…(笑)
- 344 名前:Q 投稿日:2001年02月15日(木)13時00分52秒
- なんかマジでやってそう、りかっち(笑)
仲良しのメロン柴田まで出してくるところなんて、
さすがです、あるみかんさん!
- 345 名前:あるみかん 投稿日:2001年02月18日(日)23時26分26秒
- >名無し読者さん レス遅くてすみません。久々に明るくてドタバタ気味の石川は
どんなもんでしょう?さすがに覗きまではやってないと思いますが(笑
>うでたまごさん パラレルとはいえあまり現実とギャップが出ないようにと書いてるんですが
いかんせん設定を変えないとどうしようもないときもあり四苦八苦してます。
>Qさん 娘内で役柄的にあてはまる人間が思いつかなかったんですよね。
以前、仲がいいとか、守ってくれた〜なんてことを言ってたような気がするんで
登場させて見ました。
- 346 名前:3-three 投稿日:2001年02月18日(日)23時50分29秒
- 彼女、後藤さんの言葉を全面的に信用したわけじゃないけど、かといって他に頼るものもない私。次の日、やっぱり憂鬱な気分で登校していた。
昨日は結局よっすぃーを見ることが出来なかった。
明日は学校お休みだから、今日も会えなかったら月曜日まで会えない。
こんなんじゃサイアクの週末になっちゃいそうだ。
あ〜あ……
「あの、おはようございます」
うな垂れて歩いていた私の上の方から、張りのある声が降ってきた。
いいなぁ、人生楽しそうで。
「オハヨ……」
どよ〜んとした顔で上を向く。
「先輩」
……え?
う、うそっ!?
よ、よ、よ、よ
よっすぃーだ―――――――!!
私はあまりに驚いて、金魚みたいに口をパクパクさせた。
- 347 名前:3-three- 投稿日:2001年02月18日(日)23時51分53秒
- 「昨日はすみませんでした」
ぺこりと頭を下げるよっすぃー。そんな姿も最高!…じゃなくてっ
なんだってあやまっているんだろう。
「すみませんでしたって?」
きっと私の声は震えてる。初めて話すっていうのに。
あー、ちゃんとボイストレーニングしておくんだった。
「ごっちんから聞きました」
「ごっちん?」
聞き覚えのない名前に私が首をひねると、よっすぃーはしまったという顔をして
「後藤真希です。昨日先輩と一緒にいた。ついニックネームで呼んじゃって。わかんなかったですよね、すみません」
どうやら『ごっちん』というのは後藤さんのニックネームらしい。
不良さんにしてはずいぶんお茶目な愛称だなぁ。
「わざわざ先輩が倉庫でマットのダニの駆除をしてくれてたっていうのに邪魔しちゃって。
でも知りませんでしたよ、ダニって暗闇で静かにしなきゃ退治できないって」
「へ?」
ダニ?暗闇で静かに退治〜?私だって知らないよそんなこと。
「へ?って違うんですか?……じゃあ一体何を……」
よっすぃーの表情が曇る。
「ううん!!そう、ダニよ!ダニ退治してたの!アレはホント小さいのに性質が悪いから!」
……あの子、よりによってこんな言い訳しなくたっていいじゃない。
朝から大声で『ダニ』を連発する自分が悲しくなったけど、それでもよっすぃーに覗きと思われるよりはマシだと思ってダニ退治の少女という肩書きに甘んじることにする。
- 348 名前:3-three- 投稿日:2001年02月18日(日)23時55分03秒
- 「とにかくすみませんでした。あやまらなきゃって思って待ってたんです」
待ってた…よっすいーが私を……
私を……私だけを……
「先輩、先輩?」
ハッ!
いつのまにか違う世界にいってしまっていた。
ダメよ梨華!このチャンスを逃しちゃ。
「気にしないで、全然。それより……」
それよりも、言わなきゃ。今言わなきゃ。
ゴクリと息を呑む。
「私、高等部一年の……石川梨華」
私、多分真っ赤だ。
けど、まだ単なる上級生としか映っていないよっすぃーに私の名前を知って欲しかった。
「石川梨華さん、ですね。私は」
よっすぃーの口からこぼれる私の名前。
体の中を電気が走りぬけたみたいな衝撃。
それにね、
もう知ってるよ、よっすぃー。
あなたの名前も、誕生日も、血液型も、好きな食べ物も
ずっとずっと前から。
けど
「吉澤ひとみです。どうぞよろしく」
にっこり笑うあなたの顔を見たらなんにも言えなくなっちゃったよ。
- 349 名前:3-three- 投稿日:2001年02月18日(日)23時59分15秒
- ……華ちゃん
り…か…
「梨華ちゃんてば!!」
キーンと私の耳が鳴る。
「あゆみちゃん!声大きいよぉ。耳が痛くなるでしょっ」
お昼休みになって私はあゆみちゃんと一緒にお弁当を食べていた。
「あのねえ、さっきからプチトマトつかんで戻してつかんで戻して……食べるか残すかどっちかにしてよ」
お箸の先を見ると何回もつかまれたせいで表面がちょっとぷよぷよしているトマトがあった。
「あ、食べる食べる」
慌てて口の中にほうりこむ。
トマトのほどよい酸味が広がっていく。
甘酸っぱい……そう、まるで初恋の味のような……
「もぉ〜さっきからぼーっとしたりにや〜って笑ったり、なんかあったの?」
なんかあったって……
あったよ、ありましたよ!
- 350 名前:名無し読者 投稿日:2001年02月19日(月)00時00分26秒
- ダニ!!最高です(笑)
っていうか、ダニ・・・(笑)
よっすぃーデータ−を網羅しているリカちゃん。
さすがだなぁ。
あるみかんさん!!最高におもしろいです。
更新楽しみにしてますね。
- 351 名前:3-three- 投稿日:2001年02月19日(月)00時00分53秒
- 「フフ……聞きたい?聞きたい、あゆみちゃん?」
「……別に」
「ウソ!聞きたいでしょぉ?聞いてよー」
「ハイハイ。聞きたい聞きたい」
素っ気無いんだからあゆみちゃん、て思ったけど今日の私はこれくらいじゃめげない。
私は喜び勇んで昨日からのことの顛末をあゆみちゃんに報告した。
「でも、結果的にはよっすぃーと近づけたからごっちんに感謝かな〜」
よっすぃーとの誤解がとけたら(新しい誤解を生んだような気もするけど)急にあの子に親しみが沸いてくる。不良さんはちゃんと約束を守ってくれるって本当だったんだ。
「その後藤真希のことなんだけど…」
てっきり一緒に喜んでくれると思ってたのに、なぜかあゆみちゃんは歯切れの悪い口調になった。
「どうしたの?あゆみちゃん」
「ううん、やっぱなんでもない。気にしないで」
気にしないで、といわれても……気になるよ、普通。
しつこく私が尋ねるとあゆみちゃんは渋々口を開く。
「昨日言いそびれたんだけどね、後藤さん吉澤さんの幼馴染で……」
それは聞いたよ、昨日。あゆみちゃん、一体何を戸惑ってるんだろう。
「あ、でもあくまでも噂だからね噂。根も葉もない」
「もういいから早く言ってよ」
のんびりやの私も、遠まわしな言い方に苛立ってあゆみちゃんをせかす。
- 352 名前:3-three- 投稿日:2001年02月19日(月)00時02分31秒
- 「それをいいことに吉澤さんをふりまわしてるっていうか…その、つまり
たぶらかしてて、もてあそんでるって聞いたことあるんだよね」
「……もてあそんでるって」
「何度も言うけどホントにただのウワサだから、ね?」
頭の中が直接殴られたみたいにガーンとなった。
人の噂に振りまわされたり、それを鵜呑みにするのはよくないけれど
かといって一度思ってしまったことを関係ないと片付けてしまっては
私のよっすぃーへの気持ちが嘘になってしまうような気がした。
「確かめてくる」
「確かめてくるって…梨華ちゃん?」
時計をちらりと確認する。まだ休み時間は30分近くある。
食べかけのお弁当に蓋をすると私は立ちあがった。
いつも行動が一歩出遅れてしまいがちな私だけれど、反面頑固で
こうなると止められないことを知ってるあゆみちゃんは黙って見送ってくれた。
つかつかと歩いて高等部の校舎を出ると、渡り廊下を抜けて中等部に足を踏み入れる。
- 353 名前:あるみかん 投稿日:2001年02月19日(月)00時05分22秒
- >名無し読者さん リアルタイムでレス頂きありがとうございます。
ダニとゴキブリとシロアリで悩んだのですが(なんちゅうことで悩んでるんだ。
ダニに落ち着きました。
でも実際マットってダニの巣窟だと思うんですよね。駆除してもらわないと(笑
- 354 名前: 3-three- 投稿日:2001年02月19日(月)00時07分01秒
- 去年まで自分もここの校舎に通っていたとはいえ、ほとんど見知らぬ生徒たちが行き来する空間は居心地が悪かった。
手近な生徒を呼びとめる。
「後藤真希さんのクラスってわかるかな?」
何人か聞かなきゃわかんないかもという予想ははずれその女生徒はすんなりと彼女のクラスを教えてくれた。あゆみちゃんの言ってたとおり結構有名人らしい。
教えられたクラスに行って彼女の姿を探すが見当たらない。
「後藤〜?今日来てたっけ?ちょっと待ってくださいね」
親切な子が周りの女の子達に聞いてくれる。
「学校来るには来てたんですけど……あ、そうだ。多分保健室でさぼって寝てるんだ」
なんでも、彼女は学校に来てはいても半分くらいはどこかで昼寝しているらしい。
もっぱら昼休みは保健の先生も食事であけている保健室のベッドが彼女の指定席らしい。
私も何回か中学時代あそこにはお世話になった。
保健の先生はやさしいけど大雑把な性格で、もしサボリが見つかったとしてもうるさくはいわないだろうと想像できたのでまさに恰好の昼寝スポットかもしれない。
もっとも私はそういう目的で利用したことはないけれど。
保健室に入り、ベッドの前にしきられたカーテンをゆっくり開くと、心地よさそうに寝息を立てる彼女がいた。
- 355 名前:3-three- 投稿日:2001年02月19日(月)00時08分37秒
- 「ねえ」
軽く揺するとうっとおしそうに顔をしかめる。
もう一回強めにゆすってみる。
「保健室は病気の人が寝るところだよ」
「……っさいなあ」
こ、怖いっ!!
思いきり「機嫌が悪いです」という顔で彼女は重々しく瞼を上げた。
私の顔をじろりと見る。
「なに?またあんた?」
声をかけたはいいけど私はすっかり言葉を失ってしまう。
凄みを利かせた顔。……は顎が外れそうなほどの大あくびで崩れ去った。
ようやく人心地がついた私は本来の目的を思い出す。
「聞きたいことがあるの。よっすぃーのこと」
「は?まだなにか文句があるの?ちゃんと言われたとおりに誤解といておいたつもりだけど。どうしろとは言われなかったから適当に理由作ったんだけど。そこまで責任ないと思うんだけどなあ」
「違うよ、そのことじゃなくて。あなたと……よっすぃーの関係について聞きたいの」
「幼馴染」
「そうじゃなくて……!!」
「あーあ、またか。めんどくさいなぁもう」
横になっていて乱れ気味になった髪の毛をくしゃくしゃと手でときながら起きあがる。
- 356 名前:3-three- 投稿日:2001年02月19日(月)00時09分41秒
- 「えーと、誰だっけ?先輩」
「石川梨華よ」
「そ、じゃあ梨華ちゃん。つまりよっすぃーのこと好きなんだ?」
ドキンと心臓が脈を打つ。
けれど彼女のどこか斜に構えた態度にごまかすのがいやで私は向き直る。
「……そうだよ。好き」
「でぇ、アレでしょ?私とよっすぃーがデキてるとかデキてないとか。アタシがよっすぃーのことたぶらかしてるとかどうとかいうのが聞きたいんでしょ?」
「デキてるとはいってないよ!」
「まあ、いいやどっちでも」
この手の質問はうんざりだという口ぶり。
きっと私以外の人にも興味本位や、同じのようによっすぃーのことを好きな子達に聞かれたんだと容易に想像できた。
「いい?もうこれで最後にしてよね。他の子でもしおんなじようなこと思ってる子がいたら説明しといてよ。確かにアタシ、よっすぃーに好きだっていわれたけどさぁ」
よっすぃーに、好きだって……言われた?
頭でそう考えるよりも先に私は叫んでいた。
- 357 名前:3-three- 投稿日:2001年02月19日(月)00時10分11秒
- 「ウソ!よっすぃーがあなたを好きなんていうわけないもん!あなたが思わせぶりな態度取ったりして振りまわしたんでしょっ?」
「あー、またこうだ。いいかげんにしてほしいよね、思いこみも。
事実はそうなんだから。それに、告白された時にちゃんと断ったよ。
そういう風には思ってないって。大体、アタシそういう趣味ないから
だから、好きなら好きでがんばってよね。応援するよ〜、なんてね」
私はいい、私のことなら。けど、自分の好きな人のことを侮辱されて。
「嘘、嘘!よっすぃーの優しさにつけこんでるだけでしょ?」
「いいかげんにしてよね!」
そう言うと強引に私の手を引いた。
「ちょ……何するのっ?」
私の言葉をまったく無視してぐいぐいと腕を引張る。
保健室のドアを乱暴に開けて私を連れてどこかに早足で歩いていく。
つかまれた腕から彼女の怒りが伝わってくる。
すれ違う子達は皆それぞれのおしゃべりに夢中で、一種異様な雰囲気をかもし出しているであろう私達に気づきもしない。
- 358 名前:3-three- 投稿日:2001年02月19日(月)00時11分28秒
- 「ここで待ってて」
階段を上って、3階の廊下の終点まで連れてこられると、私を置いて彼女は近くの教室のひとつに入っていった。
キョロキョロと辺りを見まわす。
廊下の突き当たりでその先にはめったに使われない視聴覚室があるだけで周囲には人がいない。
ああ、やっぱりここで殴られたりしちゃうのかな。
そうよ!きっと今なにか道具を取りに行ってるんだ。
ナイフとか、焼入れのタバコとか。
私の胸のうちに嫌な映像が浮かび上がる。
お父さん、お母さん、梨華はもう生きてお目にかかれないかもしれません。
最後に……よっすぃーとお話できてよかった……
目を閉じて両手を合わせてお祈りする。
- 359 名前:3-three- 投稿日:2001年02月19日(月)00時12分01秒
- 「なにやってんの?」
「あれ?石川……さん?」
きょとんと私を見ているよっすぃー。
あーん、また変な子だと思われちゃったよぉ。
「ま、いいや。もう昼休み終わっちゃうから早くしよっと」
「どしたの、ごっちん?用があるからって珍しい。それに石川さんまで」
状況が飲みこめず私はただ成り行きを見守るしかなかった。
「この子、よっすぃーの事が好きなんだって」
え、
え、
え―――――――!!
なんてこというのぉっ!?
心の準備が〜
「え……あの……ぉ、その、なんていうか」
よっすぃーはびっくりした顔をしてしどろもどろになっている。
私だってもう世界がぐるぐるまわって倒れてしまいそうだ。
「でね、私とよっすぃーの事が気がかりでしょうがないらしいんだけど」
あたふたしている私達をまるでおかまいなしと言わんばかりに淡々と語る。
「ごっちん?」
よっすぃーがその言葉に反応して肩が強張ったのがわかった。
- 360 名前:3-three- 投稿日:2001年02月19日(月)00時13分05秒
- 「よっすぃー、私ね」
「ごっちん……」
さっきまでの舞い上がった気持ちがなぜかスーッと引いていく。
ヤダ。
なんかとてつもなくイヤな予感がするよ。
「よっすぃーのこと大事な友達だと思ってる。それ以上の感情はないから」
きっと時間にしたら1秒にもならない。
けど、確かにその瞬間は存在した。
よっすぃーの瞳は一瞬何もうつさなくなって、灰暗いそこに沈みきった後
哀しそうに笑った。
「うん、私もごっちんの事大事な……トモダチだって」
休み時間の終わりを告げるチャイムの音にパン、という乾いた音が吸収された。
- 361 名前:3-three- 投稿日:2001年02月19日(月)00時13分51秒
- 「ッターッ!何すんのよ!!」
生まれて初めて人を思いきり叩いた。
痺れるような感覚が掌に残っていて、目の前には頬を押さえた後藤真希がいた。
「ヒドイよ……こんなの」
こんなのってないよ。
私は流れ落ちてくる涙を止めることができなかった。
私の気持ちをこんな形で知られてしまったこと。
ショックはショックだけどそんなことはたいした問題じゃなくて、
あの時、あのよっすぃーの瞳をみた瞬間、突き付けられた紛れも無い真実。
確かに彼女は後藤真希のことが好きで。
『友達』と言われたよっすぃーは酷くきずついていた。
私よりもずっとずっと傷ついて。
- 362 名前:あるみかん 投稿日:2001年02月19日(月)00時15分58秒
- 今回はここまでです。
さくさくっと早めにあげていければと思ってます。
- 363 名前:177 投稿日:2001年02月19日(月)02時49分02秒
- こんな所でやめるなんて・・・あるみかんさん恨み〜ます〜(w
早く続きを!!!!!
- 364 名前:うでたまご 投稿日:2001年02月19日(月)12時42分32秒
- おっしゃ!よっすぃーのために叩いた梨華ちゃん、かっこいーぞっ。
(そんな私は後藤押しなのに)
ダニ…、そうですね。確かにダニが一番適当かと…。
ダニ…(笑)
- 365 名前:ガンツ 投稿日:2001年02月19日(月)16時32分46秒
- 最高だ!!!吉澤のために後藤を叩いた石川。最高だ!
このままだといしよしかな?
大期待!!!
- 366 名前:あるみかん 投稿日:2001年02月21日(水)00時59分56秒
- >177さん 話しのノリとしては非常に書きやすいので、出来るだけさくさくっと(しつこい)
いきますので、よろしくお願いします。
>うでたまごさん ぱーんて叩くっていうアタリが8時台に放送してる学園ドラマなつもり
だったりするのですが、どんなもんでしょう?青の方の話では出来ないことを(ダニとか)
やりたいなと思ってます。
>ガンツさん タイトルが3threeなだけにこのまんまにはならないのですが、今のところ
考えてる最後としては、半分はご期待に添える・・・・?かと思いますが。
- 367 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時08分23秒
- 結局、泣きはらした顔ですぐに授業に出ることはできずに、遅れて入った教室には既に先生が来ていた。
こういうとき普段真面目に出席している優等生の肩書きは役に立つものであまりうるさくはいわれず、何事も無かったかのように授業が再開した。
席に着こうとすると、何か言いたそうにこっちを見ているあゆみちゃんと視線が合う。
私はスッと横に反らした。
勘のいい彼女のことだから何か私にあったことくらいは一目瞭然だろう。
けど、今話してしまったらまた泣き出してしまいそうだから。
先生の講義は耳を素通りして、ペンだけが黒板に連なった文字を機械的にノートに書き写していていった。
授業が終わっても私はぼんやりとペンを握り締めたまま黒板を眺めていた。
『もう消してもいい?』という日直の子の声でやっと私はノートを閉じてペンケースをしまった。
あゆみちゃんが申し訳なさそうに近づいて来る。
「ごめん、今日一緒に帰れないんだ。中等部の子にちょっと頼み事されてて」
「大丈夫だよ。アリガト」
私も正直今日の所はそのほうがありがたかった。
私がにっこりほほえむのを見て安堵の溜息を漏らすとあゆみちゃんはひらひらと手を振って出て行った。
- 368 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時09分12秒
- 教室にはまだ何人かの生徒は残っていたけれど、お世辞にもあまり勤勉だとはいいがたいうちの校風からして何をするというわけでもなく、とりとめのない話に花を咲かせている。
午前中の体育で使ったジャージが加算された分多くなった荷物を持ち上げると、のろのろと教室を出る。
今日もよっすぃーは部活かな。
もう3年生で引退してる筈なのに毎日練習に参加しているよっすぃー。
心からバレーが好きなんだな。
心から彼女のことが……
「石川さん」
校門を出ようとした所でいきなり名前を呼ばれて驚いて声の方向を見る。
「あ、びっくりさせちゃってすいません。クラスがわからなかったんでここで待ってました」
シルバーのシンプルな車体の自転車に寄りかかったよっすぃーが私のほうに微笑みかけていた。
「あの、少し時間あります?」
様子を伺うような眼差しで尋ねるよっすぃーに私はただブンブンと首を縦にふった。
自転車の前に備え付けられた籠を「どうぞ」と指差す。
そこに荷物をいれてということなんだろう。
おずおずと手に持っていた鞄を差し出すと、丁寧に受け取ってカゴの中に入れてくれた。
- 369 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時09分56秒
- 「ぶ、部活じゃないの?今日は」
自転車を押し始めたよっすぃーがどういうつもりなのかわからなくてとりあえず言葉をつなぐ。
「3年は基本的には自由参加なんですよ。今日はお休みにしました」
「そうなんだ」
目的もないまま歩き始めた私達はまわりよりも随分ゆっくりなペースで進んでいく。
それっきりしばらくお互い何も話さずに自転車のカラカラという音だけが響く。
よく考えたら私とんでもないことをしたんだ。そういえば、
よっすぃーにしてみたら突然好きだとか言われて(正確には言ってないけど言ったも同然)
そしたらいきなり女の子を叩いて、挙句の果てに叩いた本人の方が泣き出して逃げちゃったんだモノ。
どうしようと思い悩んでいたらよっすぃーが先に口を開いた。
「あまり悪く思わないでやってくださいね」
「え?」
「彼女、ごっちん、あれはあれなりに本人の優しさなんですよ」
傾いてきた夕日がちょうどよっすぃーの顔を照らしてどんな表情をしてるのかよく見えない。
「よくわからない」
「フフ……そうですね。ちょっとわかりにくいのかもなぁ。ごっちんてば」
小さな声で呟いただけのつもりだったのに、よっすぃーには聞こえちゃったみたいだ。
- 370 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時10分48秒
- 「わからないよ。だって、あんな……あんな言いかたしなくたって。あれじゃよっすぃーが」
「カワイソウ、ですか?」
キイとブレーキ音をともなって自転車が止まる。
しまった。私……
顔を上げると横断歩道があって歩行者用の信号が赤ランプを点している。
「気持ちが無いのにその人を傷つけるのがいやで、曖昧な態度で接してるのが本当に優しいって事なんでしょうか?かわいそうって同情したりして。ごっちんはちゃんと私の気持ちに対して答えをくれました。逃げないで正面からきちんと向き合って。正直すぎちゃって、よく誤解されたりするんですけどね」
信号が青に変わり、流れ始めた人の群れに従って歩を進める。
渡った先を右に曲がって駅前まで続く並木道を背景に私はよっすぃーの横顔を眺めた。
「それでも、私が勝手に好きなんですよ。バカでしょ?」
反射角をかえて光を受けたよっすぃーはすごくキレイだった。
次に何を言うのか私にはなんとなく想像できた。
それが私の欲しい答えではないことがわかったけれど、不思議といやな気分にはならなかった。
- 371 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時11分30秒
- 「……だから、すいません。今は」
「うん」
うやむやにすることだってできたはず。だけどよっすぃーはちゃんと私の気持ちに対して答えてくれた。
曖昧な態度の方が相手を傷つけるって知ってるからだ、きっと。
歩くペースがさらに遅くなったよっすぃーは散々言いよどんでようやく言った。
「そう言っておいてずるいと思うんですけど、これからも時々こうやってお話しませんか?」
心底言いにくそうなよっすぃーがかわいらしくて思わず私はクスリと笑う。
きっとこれも彼女の本心。
「友達からよろしくお願いします、なんてダメかなー?」
「あ、そのっ、よろしくお願いします」
差し出された私の右手を握ろうとして片手を自転車から離した瞬間、車体が傾いて大きな音を立てて倒れた。
「あちゃ〜」
きまりわるそうに頭をかくよっすぃーと目が合って
「うーん、先行き不安だね〜」
二人して笑った。
- 372 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時12分02秒
- 結局、電車通学の私は駅についたところでよっすぃーと別れた。
とりあえず『友達』になった(なんか変な感じだけど)私はよっすぃーに、友達同士なんだから敬語をやめることと名前で呼んでくれることを約束してもらった。
よっすぃー、梨華ちゃん……かぁ。
色々あったけどこれだけでもかなりの収穫かも。
明日あゆみちゃんに報告しよう。
今日の昼休みごっちんに会って(よっすぃーがごっちん、ごっちんっていうので移っちゃったよ)、それでよっすぃーと会って……
あ。
私あの子のこと思いきり殴っちゃったんだ。
結構、痛かっただろうな。
よっすぃーのいう優しさの意味やあの子の言ったこと少しだけ分かったけれど全面的に肯定したわけじゃない。やっぱり傷ついたことに変わりは無いんだもの。
よっすぃーは梨華ちゃんならごっちんともいい友達になれるよ、とか言ってたけどそうそうすぐには思えない。
だけど、叩いちゃったことだけはあやまったほうがいい気がした。
- 373 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時12分45秒
- 休日明けの月曜日になると私は授業の合間をみはからってごっちんの教室をたずねた。
「今日は、お休みみたいですよ。この時間にこなかったらまず来ないですから」
中等部は私達より1時間ほど授業が少ないから、確かに残りたった一時限のためだけに来るとは思えなかった。
こないだ来たときも感じたけど彼女はきちんと最初から授業を受けていることの方が稀らしい。こんなことで大丈夫なんだろうか。
「でも、真希のヤツさすがにさっきの課題出さなかったらやばいと思うんですよね」
「なあに、それ?」
単純な疑問からそれをたずねると世話好きと見えるその女生徒はあれこれ教えてくれた。
なんでも、今日の授業でくばられたテキストはかなり大事なものらしい。
「また吉澤さんが届けてくれるだろうから大丈夫だとは思うんですけど」
「え?よっすぃー」
振ってわいて出た名前に現金な私の耳は即座に反応を示す。
「ええ、吉澤さん近所だからって届けてくれるんですよ、いつも」
よくよく考えたら幼馴染って言うんだから引越しでもしない限りもちろん隣近所だ。
んー、なるほどね。
「ねえ」
「ハイ?」
私は女生徒の肩をがっちりと掴んだ。
「私、吉澤さんと会う予定があるからそのプリント渡しといてあげるよ」
「え、でも教室近いし、それに先輩高校……」
「いいからっ」
少々強引な手つきでプリントを受け取ると私はツカツカと歩き始めた。
- 374 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時13分30秒
- 大体、
友達になったっていったからってそもそもがクラブも違えば学年も校舎も違う。
なかなかきっかけが無い限り会う機会も無いというものだ。
あの子に謝ることも出来るし。
プリント片手に昨日教わったよっすぃーのクラスに足を向ける。
ひょこっと顔を覗かせると幸いよっすぃーは教室で友人の何人かと談笑しているところだった。
私の姿を見つけると人懐っこい笑顔を向けて手を振る。
「どうしたの?梨華ちゃん、何か用事?」
ホントだったらここで『あなたに会いに来たの、それが用事じゃダメ?』と上目遣いで言いたい所だけどさすがに引かれちゃうとイヤなのでそれはまた次回以降にしようと思う。
「さっき、ごっちんのクラスに行ってね、これ預かってきたんだけど」
「ん?プリント?」
手に持ったプリントを見せる。
「これ、ちゃんと提出しないと卒業できないかもしれないんだって」
「えっ?マジで?じゃあ届けてあげないとなぁ、んーでも困ったな……」
「どうしたの?」
プリントをしげしげと見つめたままよっすぃーは困り顔。
「先週末休んだから今日はみっちり最後まで練習付き合いたいんだよね。来週末は試合が控えてるし、……練習終わってからだと届けるの遅くなっちゃうしな……」
よっすぃーは首をひねって考え込む。
- 375 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時14分09秒
- ちらっと見た感じプリントの内容は、なかなか骨の折れそうな感じだったから確かに早く届けてあげた方がいいと思われた。けど、後輩思いのよっすぃーはすっかり両方の板ばさみで困り果てていた。
「私、届けてあげるよ!」
私はまかせなさい、と胸を張ってそう言った。
どうせ私帰宅部だし、授業が終わったらまっすぐ家に帰るかあゆみちゃんとぷらぷらするくらいしか予定なんて無いもの。
それになにより、よっすぃーのお役に立てるとあらば喜んで、って感じだよ。
「でも、全然方向違いますよっ。私適当に行きますから大丈……」
「いーから、いーからっ。任せてよ。ね?」
半ば押し切るような形でよっすぃーを承諾させると、彼女の家までの道のりと住所を教えてもらった。割と大きな高層マンションだからすぐにわかるだろうっていうことだった。
ちゃっかりご近所というよっすぃーのおうちも教えてもらう。
ついでに見て来ちゃおうかな。よっすぃーの生家が見れるなんて〜
あ、あくまでもつ・い・でだからね。そこのところヨロシク!って私一体誰に向かっていってるんだろう。
- 376 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時15分01秒
- とにかく放課後になるまで待った私はプリント片手に、ごっちんの家へと向かった。
よっすぃーは、普段はトレーニングも兼ねて自転車で通学しているらしいけど、学校からは結構離れていて雨の日なんかはバスを使ってるらしい。そういえばごっちんもこないだバス停に並んでる所をつかまえたんだったっけ。
いつもと違う車窓からの風景が流れていく。ほとんどがうちの生徒で占められた車内は若い女の子らしい活気があふれている。
目的の停留所を告げるアナウンスが聞こえてブザーを押した。
そこで下りる人間は私だけだったので私がタラップから体を地面に下ろすとすぐさま後ろで扉が閉まる。
えーと、コンビニコンビニっと。あった!
目印といわれたコンビニの脇にある道を折れ曲がる。
茶色の壁の高層マンションはすぐにそれらしきものが見つかった。
念のため入り口のマンション名と手に持ったメモに記された名前を合致させる。
大丈夫。どうやらここみたい。
敷地内に入りエントランスに向かう。
管理人らしきおじさんは私に一瞥だけくれるとすぐさま新聞に目を戻した。
マンションによくある入り口で部屋番を押し呼び出すためのキーが備え付けられてあった。
なにも考えずに来たけど、相手がいなかったら中に入れないわけで、その時はまったくの無駄足になってしまう。
我ながらバカだなあ。
とりあえず来ちゃったんだからそれはその時に考えよう。
ルームナンバーを押そうとボタンに指をかけた瞬間隣の自動ドアが開いた。
「あれっ?どしたの」
- 377 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時15分49秒
- 目的の人物はいかにもさっきまで寝てましたーって感じのトレーナーとジャージで姿を表した。
いきなり声をかけられてびっくりしたけど、それは向こうも同じみたいで固まって立ち尽くしてしまっている。
「が、学校今日休んでたでしょ?」
「へ?ああ、さっき起きたから結果的には休んだことになるのかなー」
さっきって……もう日が傾こうっていう時間だというのに。
私は半ば呆れ果てて彼女を見つめた。
「悪いけどどいてくれない?」
買い物帰りらしいスーパーの袋を抱えた中年の女性が鬱陶しそうに私を睨みつけている。
すみませんと軽く頭を下げてキーの前からどく。
女の人が手馴れた手つきでキーを押して中に入っていくのを見送る。
「それで、まさかここの知り合いがたまたまいるってわけでも無さそうだし。私に何か用があるんだよね。言っとくけど、例えよっすぃーに振られたからって逆恨みだけは勘弁してよね〜」
「違うよっ」
半分あたってるけど。(よっすぃーに振られたってところは)
- 378 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時16分40秒
- 私は鞄から預かってきたプリントを取り出すと彼女に向かって差し出した。
「これ、届けにきた。よっすぃー来れないから代りに」
「よっすぃーの代りに、って……」
私からプリントを受け取るとしばらく黙り込んで、にやっと笑った。
「ふーん、そういうことか。この後藤真希を口実に使うとはなかなかやるじゃん」
「!」
一瞬ギクッとしたけれどすぐさま私は態勢を立て直そうとする。
それはあながち間違ってはいないけれども本題ではないもの。
「まあ、とにかくお腹減っちゃったからさ、そこのコンビニまで付き合ってよ」
おろおろしている私をおかしそうに見るとさっさと歩き出してしまう。
仕方なく私は彼女の後にしたがった。
仲良くお買い物っていうのも変な感じがしたので彼女が物色している間、雑誌のコーナーで適当なファッション誌をパラパラとめくる。
「お待たせ」
小分けにされて二つの袋をもった彼女は店を出るなりその袋のひとつから何かを取り出す。
「アチチッ、あー案外あついんだな、コレ」
取り出した肉まんをはふはふと頬張りながら同じ袋にもう一度手を突っ込む。
「食べなよ。一応お礼。バス代にもなんないだろうけど」
私の分らしい肉まんを差し出すと返事も聞かずに手に握らせた。
- 379 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時17分27秒
- 手に持って物を返すわけにもいかず私は同じように肉まんにかぶり付いた。
コンビニとマンションの間は幾ばくも無くて半分も食べていない所でたどりつく。
並んで肉まんを頬張りながら歩く若い女の子二人の姿、あんまり胸を張って歩けるものでもない。
ちょっと恥ずかしいかも。
「せっかくだから寄ってけば?」
このままここではい、さようなら、で一人で肉まんを食べるのもイヤだったから私はコクリと頷いた。
概観から思ったよりも中はマンションにしては天井の高いゆったりとした作りで、築10何年かはたっているのかもしれないけど、なかなかキレイな佇まいだった。
「ココ」
初めて訪れる他人の家ってやっぱりドキドキする。
鍵を開けたことから中には誰もいないのはわかったけれど習慣で「おじゃましまーす」なんて言ってしまう。
「ちょっと散らかってるけど、そのへんにテキトーに座ってよ」
電気がともって中の様子が明らかになる。
リビング、それに台所、よく見えないけど奥には多分寝室ともう一部屋くらいといったところか。
いたって普通、普通なんだろうけど。なんか違和感があった。
- 380 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時18分13秒
- テーブルの上に置かれたファッション誌に小さなマニキュアの小瓶。
こないだ出たばっかりのあゆのアルバム。
「くつろいじゃってよ。どうせ親帰ってこないから」
わかった。
家庭の匂いがないんだ。
当たり前のように思っていた我が家の日常風景を思い浮かべる。
「なんか飲む?っていってもコーヒーくらいしかないけど」
コンビニで買ってきたらしいカップ麺の封を切りながら尋ねる。
曖昧にうなづくと彼女はマグカップにインスタントコーヒーの粉を入れて自分のカップ麺と並べてお湯を注ぐ。
中学生なんだからさすがに一人暮しって事はないだろうけど。
クリーム色のマグカップを受け取りながら室内に目を走らせる。
「親なら一応いるよ。父親だけね。もっとも、どこにいるのかはよく知らないけど。ああ、うちの親ってば割と有名なルポライターなんですよ。年中あちこち飛びまわってて」
カップ麺の上に割り箸をのっけてテーブルに置くと私の隣に腰を下ろしてテレビのスイッチを入れた。
- 381 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時18分43秒
- 順にチャンネルを切り替えていくけどちょうどどこも番組のはざまらしくCMばかりが流れていた。NHKに至ってはチャンネルをあわそうともしないのが、なんだからしいなと思った。
「おかげさまで自由だよ〜。卒業さえすればなんにも言わないだろうし。エスカレーター式の学校に入れてるあたりなかなかよく考えてるよね」
好奇心でじろじろと室内を見た胸のうちを見透かされたみたい。
はぐらかすように私はコーヒーをすすった。
傍らでずるずるとカップ麺を食べる音が聞こえてきた。
「悪いけど、これから出かけるからそれ飲んだら帰ってね」
「出かけるの?コレから?ダメダメっ」
「なんでよ」
あっけらかんと語る彼女を制して私は言った。
「さっき渡したプリント明日出さないと卒業できないかもしれないんだよ」
たしかプリントを渡してくれた女の子がそう言ってた筈だ。
これだけはちゃんとしてもらわないと私もお使いの用をまるでなしていないもの。
「えー、こんなのやってたら夜中になっちゃうよ。どうしても行かなきゃいけないのに」
「だめったらだめ!!とにかくちゃんとやってよね」
「……なにムキになってんの」
気が付くと私は拳を握り締めて力説していた。
カーッと頬が紅潮する。
- 382 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時20分27秒
- 「おせっかい」
クスクスと笑いながらカップ麺を置いた。
「な……」
せっかく心配したのに。この言われよう。もおっ
ここはひとつ先輩らしくなにか言ってあげなきゃ
「でも、アリガトね」
なのに、思いも寄らない先制パンチをくらってしまった。
(―――正直すぎて)
よっすぃーの声が頭の中でリピートする。
「昨日は、ゴメン」
するりとごく自然に私の口からこぼれおちた。
「なにが?」
「この間、痛かったでしょ?」
「ああ、忘れちゃってたよ」
屈託無く笑う彼女を見ているうちに、もやもやした胸のうちが晴れていく感じがした。
ほんとはもっと言うべき事があったんだろうけど、なんだかどうでもよくなってしまう。
- 383 名前:3-three- 投稿日:2001年02月22日(木)12時21分40秒
- 飲み終えたコーヒーのお礼を言うと私は帰る前にもう一度念押しする。
「ちゃんと、課題やるの忘れないで」
「わかりましたよ、そいじゃね」
玄関口で手を振るごっちん。
悔しいけどたしかにちょっとだけかわいかった。
- 384 名前:名無し読者 投稿日:2001年02月24日(土)05時10分14秒
- みんないい子やね〜。青春、て感じですな。
- 385 名前:うでたまご 投稿日:2001年02月24日(土)11時15分29秒
- わー、いっぱい更新されてる♪
ごっちんはいい子だったんすね。
実際、娘。が演じそうな青春学園ドラマっぽいっす。
あと私的にはコバルト文庫系も思い出しました。
- 386 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月10日(土)11時37分14秒
- 初めて読みました。
パワーバランスシリーズ最高です。
中澤の卒業は、あのカップルにどんな影響を与えるのでしょうか?
青春ドラマも好きです。
- 387 名前:あるみかん 投稿日:2001年03月11日(日)15時37分44秒
- 遅れ馳せながらレスをさせていただきます。
>384さん 「君がいた夏」に引き続く青春小説(笑 イメージ的には月曜日の8時
からやってる学園ドラマといったところでしょうか。
>うでたまごさん コバルトはほとんど読んだ事無いんですが、少女小説(にはいるか
どうかわからないけど)講談社X文庫(?)の十二国記シリーズはめちゃくちゃ好きです。
娘でやってみたいけど元ネタ知ってるヒトじゃないと説明が多くて大変そうなんですよね。
>386さん 中澤さんのことは寝耳に水って感じでいまはまだなんとも自分の中で消化して
ない感じです。小説の中でそういった要素が入るとしてももう少し先になると思います。
パワーバランスの中では、話しの結論(?)としていろんな変化にたいしてもお互いにちゃんと
なんだかんだで調和されてくんだってことを出してるので、山あり谷ありでも幸せになれるん
じゃないでしょうか(なんて自分のフィクションに解説してみたり(笑))
- 388 名前:3-three- 投稿日:2001年03月11日(日)15時39分15秒
- こんなことしたらまたおせっかい、なんて言われるだろうけど乗りかかった船ってヤツで
きちんと彼女が課題を出したのかどうか気になった私は、次の日の授業が終わると
よっすぃーと連れ立ってごっちんのクラスを訪れた。
「ええっ?まだ来てない〜!?」
卒業できないとあれば、さすがのあの子だって来ざるを得ないだろうと高をくくっていたけれど、まさか来てないなんて。
よっすぃーの顔を見上げると「やっぱり」と呟きながら半ば諦めの表情を見せていた。
「とりあえず電話してみるよ」
ポケットから携帯電話を取り出す。
アドレス帖からダイヤルして、トゥルルルルっていう呼出音がかすかに聞こえる。
そして同時に近くで軽やかな着メロが…って、あれ?
「はーい、もしもーし。後藤で―ス」
電話を耳に当てたよっすぃーの真後ろから能天気な声がこだました。
「……ごっちん」
「ごめんごめん。電話代無駄になっちゃった。声かけようと思ったんだけどついクセで出ちゃってさ」
「そんなことよりっ、ちゃんと出したの?」
ケラケラと笑うごっちんとよっすぃーの間に私は割って入った。
そうだ。それを確かめるためにきたんだから。
私に責任なんてこれっぽっちもないけど、自分の知り合いが卒業できないなんてことになったら後味が悪いもの。
- 389 名前:3-three- 投稿日:2001年03月11日(日)15時40分24秒
- 「あ、一応」
「一応って……」
まるで他人事のようにごっちんはさらっと言いのけた。
「あせったよ〜起きたらもう日が傾いてるんだもん。さすがの後藤もはらはらしちゃった」
さっき起きたって…そういえば昨日だってそんなこと言ってた。
一体この子どういう生活をしてるんだろう…
「ま、あとは神のみぞ知る?っていうんだっけ。じゃ、そういうことで私帰るから」
よくみると彼女は学生鞄すら持っていなくって明らかに私物のショルダーバッグを担いでいた。
「ごっちん!待ってよ。大体最近全然学校に……」
「ごめんっ、よっすぃー急ぐからまたねっ」
彼女はそれだけいうとさっさと私達を置いて踵をかえしていってしまう。
よっすぃーは追いかけていこうとしたけれど時計をちらりと見て、悩ましげに眉を寄せた。
そういえばもう部活の始まる時間だ。昨日、後輩達が試合前で今週は絶対に顔を出さなきゃって言ってた筈。
でも……彼女のことも気になるんだろうな。
私……
「私、追いかけてくる」
- 390 名前:3-three- 投稿日:2001年03月11日(日)15時41分21秒
- 「え、梨華ちゃん?」
よっすぃーの返事を待たずに私はごっちんの後を追った。
好きな人の不安を取り除いてあげたいっていう気持ちと、恋のライバルに世話を焼くことの矛盾を感じないわけにはいかなかったけど、それでもやっぱり私自身気になるものは気になるもので。
またしても『廊下走るな』の文字をシカトする。
「待って、待ってってば」
これじゃまるで時代劇の捕物シーンだ。
下校する生徒の群れをかきわきてひた走る。
こう見えても足は遅いほうじゃない。全力で走ったら校舎を出てすぐの所で彼女に追いついた。
「もう、待ってって言ってるのに」
「私も急いでるって言ってんじゃん」
彼女はちらっとだけ目を向けたけど構わずすたすたと歩いていく。
ムムッ、でもこれくらいじゃめげないもん。
黙々と歩みを進める彼女に並んで歩く。
駅に辿りついたら、ごっちんは料金表も見ずなれた様子で切符を買う。
「ちょ……」
するりと改札口を抜けていく彼女を慌てて追う。
- 391 名前:3-three- 投稿日:2001年03月11日(日)15時41分57秒
- 電車通学の私は定期だから幸い姿を見失うことは無かった。が、
「あのさ〜どこまでついてくんのよ」
「え……」
ふっと上を見るとお馴染みのピンクのマークにタイルの壁。
「ご、ごめんっ」
よく考えたら私だって女の子なんだから女性トイレに入って全然OKなのに、咄嗟に
私はトイレを飛び出してしまった。
なにやってんだろ、私。
かといってこのまま帰るのも変だし入り口近くで彼女が出てくるのを待つ。
1分、2分……
随分遅いなあ。
お腹でも壊しててそれで慌ててたのかな?だとしたら悪いことしちゃったかも。
そう思い始めた頃ようやく彼女が姿を表した。
「まだいたの」
「まだいたの、って…そのカッコ」
トイレから出てきたごっちんはすっかり普段着に着替えていてデイバッグを肩からかけていた。恐らくあの中には今日数時間しか袖を通していない制服が突っ込まれているのだろう。
- 392 名前:3-three- 投稿日:2001年03月11日(日)15時43分07秒
- 「あ、やばっ、次の電車逃したら15分待ちだ」
言うや否やホームへの階段を一段飛ばしで軽やかに駆け上がっていく。
「あーん、もぉっ」
そりゃパンツルックのあなたはいいけど。
きっとお母さんに見られたら怒られちゃうな、それに下着見えちゃうよ…
と思いながらも私は彼女にならって一段飛ばし。
発車のベル音。
「きゃっ」
私が車内に乗りこんだのとドアが閉まるのがほぼ同時で、小さな悲鳴を上げた。
ハア、ハア
切れ切れになった呼吸を整える。
「ほら、無理なご乗車はおやめくださいとか言われちゃってる。うちらのことだね」
同じように少しだけ呼吸を荒くしたごっちんがそう言った。
下校ラッシュに重なっているから座席はすっかり埋まっていた。
私達は混雑した入り口付近から少し中に入ったところに落ち着く。
そこで、私ははっと気が付いた。
「……しまった。逆方向だ」
何も考えずに乗っちゃったけど私の家とは反対の方向だこの電車。
- 393 名前:3-three- 投稿日:2001年03月11日(日)15時43分57秒
- 「次で降りれば?」
「いいよ、もう。どうせ帰宅部だし、用事があるわけじゃないし」
「ヒマ人」
「な……」
反論しようとしたけど言葉が出てこない。
ところが以外にもごっちんはそんな私をほほえましそうにみていた。
「ま、いいや。どうせ次の駅で降りたってUターンして家帰るだけなんでしょ?
一緒に来る?」
「は?い、一緒にって」
「ふふん、要するによっすぃーが私のこと心配してるのが気になるんでしょ?
一体何やってるんだろうって。ついてくれば?」
そのまま電車は私達を乗せたまま快調に走りつづけ、5つ目の停車駅でごっちんは
網棚にあげていたデイバッグを降ろした。
あ、ここで降りるんだ。
……ってここって。
私達がおりた駅はこの界隈でも指折りの繁華街。
「え、あの……?」
なれた様子で歩く彼女に私はただついていくしかない。
- 394 名前:3-three- 投稿日:2001年03月11日(日)15時45分57秒
- そしてあろうことかどんどん怪しげな地域に足を踏み入れていく。
ひえ〜〜〜、まさかっ、世に言う不良さんたちの溜まり場ってヤツに連れていかれてるんだわ私。そうよ、きっとそう。
薄汚れたビルの地下に向かった階段の前でごっちんは立ち止まる。
この地下で待ちうけていた男達に私は、私は……
「なにやってんの?さっさとおいでよ」
地下への階段を素通りすると歩行者天国の大通りの方に歩いていった。
あら?
どうやら裏道を抜けただけのよう。
「待って、待ってったらあ」
なぜか急にペースの上がった彼女を追いかけていくと
「ごっち……」
「市井ちゃん!!」
「うわっ」
- 395 名前:3-three- 投稿日:2001年03月11日(日)15時48分02秒
- そこには、まるで飼い主を見つけた小犬みたいにじゃれつくごっちんと、ギターを小脇にたずさえた少女がいた。
「アハッ、市井ちゃん。今日はバイト早番でしょ?学校終わって速攻来ちゃった」
「ホントに〜?昨日夜中までいて、ちゃんと行ったのぉ?」
「行った、行った行きましたよ。ちゃーんと宿題もやったし」
まあ確かに間違ってはいないけど真実でもないような気がする。
「あ、ダメじゃん!またハンバーガー食べて。ちゃんとゴハン食べなきゃ」
「はいはい。でも面倒くさいしさ」
「だーめ。じゃ、後藤がなんか作ってくるからさぁ」
私の存在などまるで無視でどんどん会話が進んでいく。
ごっちんの頭を軽く撫でながら市井ちゃんと呼ばれた少女は私の存在に気が付いて視線を向けた。
「珍しいね。後藤の、友達?」
ここまで爽やかに笑えるものかというくらい爽やかに少女は微笑んだ。
友達…うーん、友達、なのかな?
知り合いには知り合いだけど。学校の後輩って答えるのが無難だろうか。
私が答えあぐねているとごっちんはにやにやと笑った。
- 396 名前:3-three- 投稿日:2001年03月11日(日)15時49分07秒
- 「市井ちゃんのね、ファンを増やそうと思って。ね」
ほら、こっちこっちと私を手招きすると沿道のモニュメントの小脇にちょこんと腰掛ける。
やれやれと肩を竦めながら市井さんはギターを手に取った。
「じゃあ、とりあえず歓迎の一曲…」
ポロンと一度音を鳴らすと心地良いギターの音が流れてきた。
声を張り上げて歌っているわけではないけれど、その音にのせた彼女の歌は、ちょっと
くすぐったいような甘酸っぱい感じがして。
一曲歌い終えた瞬間、私は知らずに思い切り拍手していた。
上手い、とかすごいとかそんな陳腐な言葉しか出てこなくてただ手を打ちつづけた私をあたたかく見守った市井さんは続けてギターを奏で出す。
そのメロディーが流れ始めるとごっちんはたちあがって市井さんの横に移動して、ハーモニーを口ずさむ。
その二人の姿は、ホントに絵になっていて綺麗だった。
- 397 名前:3-three- 投稿日:2001年03月11日(日)15時49分40秒
- まだまだ残っていたそうだったごっちんを半ば無理矢理市井さんは帰らせた。
いつもワガママし放題っていう印象の彼女は市井さんにだけは頭が上がらないみたいで渋々承諾してとぼとぼと駅までの道のりを歩いていた。
「なんだ、そんな趣味が無いとかいって自分だってそうなんじゃない」
やられっぱなしだった私は発見した彼女の弱みにここぞとばかりに突っ込む。
「な、な、何言ってんのっ。市井ちゃんはそんなんじゃないもん」
焦った様子がおかしくって私はクスリと笑う。
「ったく……でもさ、イカスでしょ?市井ちゃん」
「うん」
シンガーソングライターを目指しているという彼女の曲、音楽のことはよくわからないけどステキだった。それに
「ごっちんもよかったよ。歌上手いんだね」
「エッヘン!そりゃそうだよっ。だてにバイトしてお金溜めてボイトレなんて言ってませんて……って、あ!」
機嫌よく話していた彼女は突然しまったと口を塞ぐ。
「どうしたの?」
「今の絶対市井ちゃんに言わないでねっ。いい?約束」
「言わないでねって、どうして……」
- 398 名前:3-three- 投稿日:2001年03月11日(日)15時50分19秒
- あ!!
そうか。
ほとんど毎晩市井さんの歌を聴きに来ている彼女がバイトしてボイトレいく時間なんて昼間しかない。生真面目そうに見えた市井さんがそんなことを許す筈も無く、そのことを黙っていてほしいんだ。
中学三年生の年相応なかしこまった態度がすごくかわいく私の目にうつった。
「いいよ。そのかわり……」
「そのかわり?」
「また聴かせてね」
市井さんの歌を。
あなたの声を。
- 399 名前:名無し 投稿日:2001年03月12日(月)01時02分15秒
- 更新待ってました!
ここで市井ちゃんが登場ですか。
役者は揃ったのかな?
- 400 名前:うでたまご 投稿日:2001年03月13日(火)00時58分17秒
- 市井ちゃんだぁ♪
そういえば、あるみかんさんのこんな幸せ(?)な感じの
いちごまって初めて読む気が…。
よっしゃ!続きが楽しみです。
- 401 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月14日(水)00時57分05秒
- いちごま〜
後藤可愛い!!
あるみかんさん偉大です。
- 402 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月15日(木)02時42分39秒
- やぱいちごま最高・・・
- 403 名前:あるみかん 投稿日:2001年03月16日(金)06時57分50秒
- >399さん そうですね。タイトル名の通りメインは石川・後藤・吉澤の3人です
が市井ちゃんが加わってまたちょっと一波乱というところですね。ちょっとお約束
っぽい登場の仕方ですが(笑
>うでたまごさん うーん、そうかもしんないです。青の方では決して幸福な関係
とはいえないですからね。というか後藤がらみの話ってほとんど書いたこと無いんですよ、実は。
>401さん なんだかんだで愛されるよっすぃーというこれまでの作品と違い、今回は
愛されるごっちん、な設定。かわいくうつってるなら御の字です。
>402さん 『ほのぼの』という言葉がこれほど似合う組み合わせってなかなかないん
じゃないでしょうかね。
で、ですね。
前々から作ろうかなんて言っていた保存庫もどきを一応作ってみました。
といってもほとんどが今までのものをつらつらと並べているだけですが・・・
下がってる方のもう一個のスレの方に一応、一度だけリンク貼っておきます。
- 404 名前:3-three- 投稿日:2001年03月17日(土)13時58分15秒
- 「梨華ちゃんさー、最近帰るの早すぎ」
繁盛期のデパートさながらの勢いで帰る準備をする私をあゆみちゃんが引きとめた。
それもそのはず、ここ何日かよっすぃーの顔も見ずに速攻帰っているんだもん。
だって、だって!バレンタインなんだよ、あゆみちゃん!
連日連夜研究と練習を重ねたチョコレートケーキを渡すんだから。
女子校とはいえ誰にも上げないのはさみしいからって朝からあちこちでチョコレートの交換がおこなわれている。
私も去年まではそうだったんだけど今年は違うぞっ。
よっすぃーのためだけに作ったチョコレートケーキ。
どうせ学校ではたくさんの子からもらうだろうから、そこで渡しちゃったらその中にうずもれてしまう。
だから、私はよっすぃーの家に言って直接手渡すことにした。
部活にいってから帰ってくるよっすぃーはいつも大体8時くらいに家につくはず。
一応普段のお礼の意味を込めてあゆみちゃんに「感謝」とホワイトチョコで書いてあるチョコを渡すと(いまどきこんなの買うやついるんだと馬鹿にされた)速攻家においてあったケーキを取りに帰った。
そして。。
- 405 名前:3-three- 投稿日:2001年03月17日(土)13時59分20秒
- 私はよっすぃーの家の前にいる。
よっすぃーの自転車はまだ止まっていないから帰ってきてないみたい。
2月中旬の寒さは厳しくってダッフルコートにマフラー、手袋に帽子までかぶった完全防備の私の肌もキリキリと痛む。
でも、よっすぃーを待ってるってことを考えていたらそんなのはへっちゃらだ。
誰かを思って待っているって素敵なこと。
だんだんと指先の感覚とかがぼやけてきても、心の中が温かいから大丈夫。
けど、よっすぃー遅いなぁ。
もう9時回っちゃってるよ?
お父さんお母さん心配しちゃうじゃない。
ポツリ。
唯一、外気に触れていた私の顔を冷たく何かが濡らした。
ポツリ、ポツリ
音も無く静かに落ちてくる。
- 406 名前:3-three- 投稿日:2001年03月17日(土)13時59分52秒
- あ……
ゆき……だ。
真っ白な雪の粒か次々と空から舞い降りてくる。
キレー…
きっと恋人達はこの雪を、自分達を祝福してくれているかのようにそのみに受けとめているんだろうな。
同じ空の下で。
傘を持ってなかった私の茶色いコートが段々と白くなっていく。
天気予報では雪だるまマークなんて出ていなかったから。
よっすぃーも持っていないんだろうな、それに自転車だし。
夜の雪道は滑りやすくて危ないよ、早く帰ってこなきゃ。
早く…
- 407 名前:3-three- 投稿日:2001年03月17日(土)14時00分32秒
- 時計を見るともう10時をすぎていた。
いくらなんでも、遅いよぉ…
一体、どこで誰と…
誰と?
あ……
ようやく私は自分の早合点の気が付いた。
どうしてよっすぃーが部活が終わったらまっすぐ帰ってくるなんて思ったんだろう。
こんなバレンタインの日に。
よっすぃーのことを好きなひとなんかほかにもたくさんいて、もしかしたらその中の一人と今ごろ食事でもしてるのかもしれない。
あは……っ、おばかさんだなぁ、梨華ってば。
スウと体の中が冷えていく。
寒い、寒いよぉ。
せっかくラッピングしたケーキの箱もすっかり雪まみれで。
やばい、泣いちゃいそうだ。
でも、そんなのほんとに惨めになっちゃうから、だから絶対に泣くもんか。
けれど、どんどん涙が溜まっていくのを感じていた。
「何やってんの!そんなとこ突っ立っちゃってさっ」
- 408 名前:3-three- 投稿日:2001年03月17日(土)14時01分57秒
- えっ!?
雪の中に一際目を引く真っ赤な傘。
健康そうな肌をほんのり上気させた少女は私にその傘を差し出した。
「バカだねー傘もささないで。雪まみれじゃんか」
ぽふぽふとミトンの手袋で私についていた雪を軽く払う。
その接近した横顔が私の視界に入る。
あれ?この子泣いて…る?
「うん?なんかついてる、私?」
どうしてそんなこと思っちゃったんだろう。視線に気付いた彼女は泣いてなどいなくていつものちょっととぼけた感じの表情だった。
「ごっちんこそ、何してるの?」
「何してるの…って、ここうちの近所なんだけど。ちょっとコンビニでも行こうかと」
あらかたの雪を払い終えたごっちんは私の手を握るとくるっとUターンして歩き出した。
「な、なにっ!?」
「なにってウチ行くんだよ、私んち」
「なんで?」
なんだってごっちんの家に行くなんて事になるんだろう。もしかしたらもうすぐよっすぃーが帰ってくるかもしれないっていうのに。
「なんでって、こんなとこ突っ立ってたら風邪引くでしょう」
「だってっ」
「よっすぃーなら帰ってこないよ、今日は」
「え……」
- 409 名前:3-three- 投稿日:2001年03月17日(土)14時02分43秒
- よっすぃーが、帰ってこない。
「あー、コラコラっちょっとちょっと〜」
ずっとガマンしてた涙が、地球の重力にもう逆らうことが出来ずに
ポロポロ、ポロポロ次々と毀れ出す。
「う、うえーん」
これじゃ幼稚園児だ。しかもこんな年下の恋のライバルの前で。
それが情けなくって、なおさら泣けてきちゃう。
「ああ、もう、勘弁してよ〜。ったくしょうがないなあ」
ずるずると強引に私の手が引っ張られる。
けれど、私にはもう逆らう気力も無くて。
少し積もりかけた雪道には、一人分の人の足跡と、2本の引きずられた一直線の足跡が残っていた。
- 410 名前:3-three- 投稿日:2001年03月17日(土)14時04分06秒
- 「へっ!?合宿中〜?」
すっかり濡れてふやけてしまったケーキの箱をコタツの上のピンク色の箱の隣に置いて私は叫んだ。
「そ、合宿中」
スポーツにも力を入れているうちの学校には合宿用の宿泊施設が在る。先日の試合、地区予選に勝って見事本線に出場を果たしたバレー部は、今週の頭から許可をとって合宿をしているらしい。
「なんで教えてくれなかったよ」
そうとわかってればちゃーんと学校で渡せたのに。
「あのねえ、なんで私が会いもしない人間にわざわざよっすぃーは合宿中ですよーなんてお知らせしなきゃいけないわけ?大体そんなだから満足に渡すことも出来ないんだよ」
彼女の言葉とコタツの上の貧相なケーキの箱の映像が私の胸に突き刺さった。
「なによ…」
ふと、その隣のピンク色の箱が目に付く。真っ白なリボンにハートのシール。
「自分だって渡せなかったくせに!!それ、市井さんにあげるつもりだったんでしょ?」
感情の赴くままに言い放った。
てっきり言い返してくるだろう。そう思ったのに、ごっちんはうなだれて
「とりあえず、シャワーでも浴びてくれば?風邪引いちゃうし」
さっき、彼女に会ったとき、私なぜだか『泣いてる』って思ったんだ。
- 411 名前:3-three- 投稿日:2001年03月17日(土)14時05分00秒
- 「あの…」
「あー、腹減ったー!」
私に背を向けると両手を上げて大きな伸びをした。
あやまるきっかけを失ってしまった私は、仕方なく彼女の言葉に従いバスルームに向かう。
ああ、でもやっぱり…
ボフっ!!
リビングに引き返そうとした私の顔面に何かが直撃した。
「服乾かしとくからさ、とりあえずそれ着てよ」
広げてみるとオレンジの派手なジャージの上下。
そう語る彼女の眼はテレビの画面に向かっていてこっちを向いてはくれなかった。
ヤツアタリだよね、完璧に。
シャワーを浴びてじょじょに体温が戻ってくるとようやく私はゆっくりと考えることが出来るようになった。
それに。
お腹がへったって言ってたけどコンビニに行くところだったんだっけ。
それを私がいたから引き返して…別にコンビニに寄った後私を連れてくればよかったのに。
でも、それじゃきっと私、ついてなんかいかないだろうから。
それなのに私。
彼女を傷つけた。
ちゃんと、あやまろう。ちゃんと。
きゅるっと蛇口を閉めてバスルームを出ると適当なタオルを手にとってジャージに着替え、リビングに向かった。
- 412 名前:3-three- 投稿日:2001年03月17日(土)14時05分42秒
- よしっ、あやまるぞー
息をゆっくりと吸い込む。
「なかなかおいしいじゃん、これ」
……は?
「まあちょっと甘すぎるような気はするけど、甘党の私にはぴったりって感じかな」
口の周りについた小さなケーキの残骸をぺろりと舌なめずり。
コタツの上には紐解かれたリボンと箱の残骸が乗っかっていた。
「な、なんで食べてるのよぉっ」
「お腹へったから。またコンビニいくのめんどくさいし」
あっけらかんとして彼女は言った。
「そうじゃなくってっ、どうして食べちゃうのよぉ」
「だってさぁ、ケーキはナマモノなんだから明日になったらだめなんだよ。
それにどうせまた作るんでしょ?自分で食べたり捨てるよしかマシだと思うんですけど」
それにしたって、せめて一言食べていいとかさ、なんかあるってものじゃないかなあ?
も―――――!!
- 413 名前:3-three- 投稿日:2001年03月17日(土)14時06分27秒
- 「あっ、梨華ちゃん!?」
ジャージに着替えた私は自分で言うのもなんだけどすばらしいフットワークでコタツの上のピンクの箱を手に取る。
「あ゛〜〜〜〜〜〜!!」
手早くラッピングを外して中に入ってた手作りっぽいトリュフをぽいっと口の中へ。
そして一言。
「なかなかおいしいよ、これ」
「……」
「ちょーっと私には苦いかな。大人の味って感じだね」
もう一個口の中に入れて今度はゆっくり味わう。
最初驚いて、固まっていた彼女の顔がやがてゆるむと、溜息混じりに微笑んだ。
「あーあ、結構自信作だったのにな。ま、いっか」
そんな彼女の様子に私も思わず笑う。
『ま、いっか』か。
そうだね、私少なくとも悪い気分じゃない。
こんなへんてこなバレンタインも、
あなたの言葉を借りればそんなのも、まあいいか。
- 414 名前:あるみかん 投稿日:2001年03月17日(土)14時08分38秒
- 季節はずれですね〜。というのもホントはバレンタインに、せめてホワイトデーに
会わせてやりたかったんですが間に合いませんでした。ちゃんと書こうと思うと思
いのほかに長くなってしまい。。。あと2回くらいで終わると思うのですが。
- 415 名前:けいすけ 投稿日:2001年03月17日(土)19時52分29秒
- あるみかんさんこんばんは!
一気によませていただきました。すっごくよいです!!
むっちゃ気にいっちゃいました。
更新まってます!
- 416 名前:うでたまご 投稿日:2001年03月19日(月)21時53分36秒
- よっすぃーの出番が少ない…(悲)
実は梨華ちゃんとごっちんメインってお話だったりして?
二人の気持ちがそれぞれうまくいくことを祈りつつ、続きを待ちます^^
- 417 名前:あるみかん 投稿日:2001年03月20日(火)00時33分31秒
- >けいすけさん こんばんは。読んで頂いてありがとうございます。
短編集と銘打ちながら途中から中篇ばっかになっちゃってますけど(笑
短くまとめるのってなかなか難しくて。。。
>うでたまごさん バランスよく3人を書いていきたいんですけどどうも二人以上を
同時に動かすのは難しいですね。
それにしても、よっすぃーの出番が少ないのは、今まで書いたものの中ではかなりレアかも(汗
- 418 名前:3-three- 投稿日:2001年03月20日(火)00時35分29秒
- 「とりあえずさ、家に電話しなよ」
結局、自分のトリュフも何個かつまんだ後、ごっちんはコードレスの電話機を
私に差し出した。
「え、電話?なんで?」
「あのねー、服無理やり乾かしたとしても、もう帰れないでしょうが」
時計を見ると確かに遅い時間ではあるけれど、電車もバスもまだあるし、道すがら
携帯で連絡すればいいやって思っていたんだけど。
私がそう言うとごっちんは、横を向いて「これだからお嬢様は」と小さく呟いて
(本人は聞こえないように言ったんだろうけどバッチリ聞こえちゃったよ!)
こういった。
「大体、いい年頃の娘がさ、こんな日にこんな時間に石鹸の香りプンプンさせて
帰ったら普通、あ、コイツ…って思うでしょうが。アタシも電話かわってあげるから」
確かに。いくらのほほんとした私の親でもさすがに黙っちゃいないだろうし。
「意外と気が回るんだね」
「……意外が余計」
手渡された受話器で家の番号をダイヤルする。
3回目のコール音の後、電話口に出たのはお母さんだった。
- 419 名前:3-three- 投稿日:2001年03月20日(火)00時36分59秒
- 「あ、うん私。ごめんね、連絡遅くなって。……うん、そう友達の家に来てるん
だけど雪がひどくて……友達?後藤さんていう子。女の子だよぉ。え、知らない
って?あゆみちゃんぐらいしか?こうみえても私結構交友関係広いのよっ。
だーかーら、ホントだってば」
予想外に厳しいお母さんの追求。
自分の娘がそんなに信用できないのかな…
哀しい。。。
「貸して」
「えっ!?」
私の手から受話器を奪い取ると、ごっちんはしっかりとした口調ではなしはじめた。
「はじめまして。後藤真希と言います……
ええ、学校の後輩で石川先輩にはいつもお世話に。
今日もいろいろ相談に乗って頂いてて。
……ええ、うちは構わないんです。
今、父が仕事で家を留守にしているものでこちらも泊まって頂ける方が…
父ですか?父は…」
少しだけ電話口から漏れている母親の声はだんだんと勢いをそがれ落ち着いてくる様子が伝わってきた。
「はい、それじゃ梨華さんにかわりますね」
再び渡された電話からこぼれる母親の声は先ほどとは打って変わっていた。
『梨華、くれぐれもそそうのないようにね。真希さんも寂しいでしょうにしっかりして。あんたでもいないよりはマシだろうからちゃんと力になってあげるのよ。
あー、それにしてもあのルポライターの後藤さんの娘さんとはね〜』
最後に、『お父様にもよろしくってお伝えしといてね』と念押しされようやく私は解放された。
- 420 名前:3-three- 投稿日:2001年03月20日(火)00時38分16秒
- 「お父様にもよろしく、だって」
「あっそ」
ついさっきまではそんな風じゃなかったのに急に素っ気無くなったごっちんの態度に私は戸惑った。
「あんな親でも名前くらいは役に立つもんだね」
吐き捨てるようにそういうと、髪の毛をくしゃくしゃと掻き揚げながら、プチッとテレビの電源を切った。
「もう寝よ。暖房つけててもなんか寒いしさ」
私の問いかけを拒否するように彼女は洗面所にいって未開封の歯ブラシを一本投げてよこした。
シャコシャコという音だけがリズミカルに響いて、私は横目でごっちんを見たけれど彼女の視線は鏡に映った自分自身にのみそそがれていた。
寝室に行ってベッドにもぐりこむ、ごっちん。
枕元に置いてあった目覚し時計を勝手にセットさせてもらい、その隣に入る。
けれどもやっぱりごっちんは黙ったまんま。
なんで、今まで気付かなかったんだろう。
自由気ままに生きていて、一人で大丈夫、なんてようで、本当は…
私の方に向けられた背中が、ひどく寂しそうで、
なんでそうしたのかはわからないけれど、
私は思わず後ろからそっと彼女を抱きしめた。
「……だからさ、私はそういうケは無いっていってるじゃん」
「ちょっと寒いだけだよ」
後ろを向いた彼女がどんな顔をしていたのか私にはわからなかったけれど、彼女の背から伝わってくる体温は、あたたかかった。
- 421 名前:3-three- 投稿日:2001年03月20日(火)00時40分50秒
- 散々悩んだ末に、私はよっすぃーに専門店のチョコチップ入りベーグルをあげた。
ひとにあげた(結果的に、だけど)ものと同じモノをまたあげるのはなんかイヤだったし、なによりよっすぃーはどっちかっていうと淡白な味のものが好きだというごっちんのアドバイスもありそういうことにした。
バレンタインデーをすぎていたせいもあって、あまり緊張することも無く、部活に行く前のよっすぃーを捕まえて手渡した。
一瞬驚いてたけど、私の好きなとびきりの笑顔を浮かべると「ありがと」って受け取ってくれた。
その上中身が好物のベーグルだって分かると遠慮がちに「部活の前でおなかすいてて…今一個食べてもいーい?」なんて聞いてきて。
私がコクリと頷くと嬉しそうにベーグルにかぶりつくよっすぃー。
大成功!なんじゃないかな?よかったぁ〜。
すっかり浮き足立ってスキップしそうな勢いで帰っていた私の目に、バス停が飛び込んできた。
そういえば、私はよっすぃーに渡せたけれど、ごっちんはどうしたんだろう?
早めに起きて一度家に帰らなきゃと思った私は熟睡してるごっちんのために、一応一時間後に目覚し時計をセットして出てきたけれど、きっとあのぶんじゃ起きてなんかいないだろう。
気付くと私は家とは反対方向の電車に乗っていて、市井さんの歌を聞いたあの町へと向かっていた。
- 422 名前:3-three- 投稿日:2001年03月20日(火)00時41分31秒
- 記憶を辿りながら彼女がいた場所のあたりを探したけれどそれらしき姿は見つからない。諦めかけて帰ろうかなっていう時に、路地裏からなにか争うような声が聞こえてきた。
「だからっ、もう来んなって言ってるだろっ!」
「そんなのアタシの勝手じゃんか!市井ちゃんのバカ!!」
な、なんなのぉ、一体!?
「キャッ」
恐る恐る顔を覗かせた私に勢いよく誰かがぶつかってきた。
「ごっちん!?」
呼びかけた私の声を無視して、彼女は大通りのほうに駆け出していく。
路地に残された市井さんの顔とごっちんの後姿を交互に眺めたけれど私は、市井さんにぺこっと一礼すると大通りに向かって走った。
スカートのことなんて気にせずに私はとにかく、走って走って、ようやく駅の手前で彼女を捕まえた。
「な……んなのよお、あんた」
彼女の息遣いが絶え絶えなのは走ったからだろうって思ったけれど、そうじゃなくて、大粒の涙をぽろぽろと零して、泣きじゃくっていた。
「なんだか、追いかけてばっかりだね私」
「……見ないでよこんな顔」
「じゃあ、見ない」
うつむく彼女の頭を抱えて私は胸元に抱き寄せた。
そんな私達をとおりを行く人達がちらちらと興味深そうに眺めていたけれど、彼女が泣き止むまでずっと、私はそうしていた。
- 423 名前:3-three- 投稿日:2001年03月20日(火)00時42分59秒
- 「バレンタインの日にね」
落ち着いた彼女はぽつりと話しはじめた。
「市井ちゃんにチョコレートを渡しに行ったんだ。絶対に他の人よりも早く、一番に渡したくって。学校サボって市井ちゃんのバイト先にチョコもって」
私は彼女の話を聞きながら市井さんの働いている喫茶店に一目散にかけてゆくごっちんの姿を思い描いた。市井さんのことを思いながら大事そうにピンク色の箱を抱えていくごっちん。
「はい、ってチョコを出したら真っ先に『後藤、学校は?』って言うから、今日はサボりだよって答えた。市井ちゃんのお昼休みまで適当に時間潰してるねって。でも、市井ちゃん真面目な顔で『ダメだろ、ちゃんと学校行かなきゃ。どうせ連絡なんていれてないだろうから無断欠席なんてことになったら高校行ってからの印象も悪いぞ』なんてムードもへったくれもないからついムキになって」
きっとごっちんは私が聞いていても聞いていなくても関係無いだろう、そう思ったから私はあえて相槌を打たずただ黙って彼女を見守った。
「今更一日くらい大丈夫だよ、って言っちゃったんだ。そしたら急に市井ちゃんの顔が険しくなって……」
急に彼女の口調が沈みこむ。
「どういうことだよ、ってしつこく聞くから……私…思いきって言った。
実はボイトレ通ってるって。親のお金じゃなくてそのために自分でバイトしてレッスン代払ってるんだよって。市井ちゃんと一緒に…ずっと一緒に歌いたいんだよって、アタシ本気で歌いたいんだよって…なのにっ!!」
止まっていた涙がまたごっちんの眼からあふれだした。
「遊び半分でそんなことするなって…そんなので学校も行かないなんてサイテーだって…そんな、やつからのチョコなんかいらないって…」
最後の方はもうほとんど聞き取れなくて、ただ彼女の泣き顔だけが私の心をしめつけた。
- 424 名前:3-three- 投稿日:2001年03月20日(火)00時43分36秒
- 次の日から、いや正確に言うとバレンタインの日からだけど。
ごっちんは全く学校に来なくなった。
2、3日ならいつものことだよって心配していなかったよっすぃーも流石に顔色を変えて
私達は毎日のようにごっちんの家を訪れていた。
けれども決まって彼女は不在で、私達はむなしく往復するだけだった。
あの街にも何度か足を伸ばしてみたけれど、ごっちんはおろか市井さんの姿もとらえることができず途方にくれていた。
「やっほー、梨華ちゃん!今日も愛しのよっすぃーと一緒にご帰宅じゃん。やけるね〜、このこのっ!」
「そんなんじゃないよ!!」
一足先に授業が終わって迎えに来てくれたよっすぃーを見て言ったあゆみちゃんは私の剣幕に驚いていた。
「梨……華ちゃん?どうしちゃったの?なんか…変だよ」
はっと我にかえり自分の言動に気付く。
変って?
……たしかに変だ。以前なら小躍りしながら喜んでいたはずなのに。
相変わらずよっすぃーのことは好きなのに。
黙りこくった私をあゆみちゃんはしばらく見つめた後、穏やかに微笑んだ。
「ふむ…さしずめ憧れの王子様よりも近所のワルガキのよさに気付いてしまったってとこか」
「…はあ?」
意味深な台詞を残したまんまあゆみちゃんは「邪魔者は消えるわね〜」なんて言いながら去っていった。
- 425 名前:3-three- 投稿日:2001年03月20日(火)00時44分28秒
- 「さて、と行こうか梨華ちゃん」
「うん」
残念ながら後輩達はこの間の試合で負けてしまい、しばらくのオフ期間に突入したため、よっすぃーはまっすぐに私とバス停に向かった。
自転車もこのところ自宅で休養中らしい。
バス停近くのボードに無造作に張られた「急募、パート・アルバイト」のチラシが私の目を引く。
「あっ!」
「どうしたの?梨華ちゃん」
そうだ、バイトだ。なんで気付かなかったんだろう。
ごっちんには会えなくても、市井さんのバイト先ならはじめて会ったときに教えてもらってるから知っている。少なくともそこに行けば市井さんには会える筈だもの。
バス停から電車の駅に進行方向を変え、ガタゴトと列車に揺られながら市井さんのバイト先に向かった。お願い、いてくれます様に…
木製のシックな看板のお店のドアを開けると「いらっしゃいませ」と出てきたのは、蝶ネクタイを締めた市井さんだった。
「あれっ、たしか後藤の友達の…石川梨華ちゃん、だっけ?そちらは」
いつもなら爽やかに「こんにちはっ」なんて笑顔でいうだろうに、よっすぃーは直感的にごっちんと市井さんがただの知り合いってワケじゃないと感じたんだろうか?
挑戦的な瞳で市井さんを睨みつける。
「真希とは幼馴染です。でも…それだけじゃありませんから」
ふうん、とよっすぃーの姿を眺めて
「どうやら、お客さんてわけじゃなさそうだね。もうすぐバイト終わるからちょっと待っててくれるかな?」
そういって、店の奥へと消えていった。
- 426 名前:あるみかん 投稿日:2001年03月20日(火)00時46分24秒
- 今日はここまで更新させていただきます。
- 427 名前:177 投稿日:2001年03月20日(火)01時45分05秒
- またもやいいところで・・・(w
う〜んこの四角関係?はどうなるのやら
読んでてワクワクするよ。ラストがどうなるのかいろいろと考えてしまう
続きお願いするっす!
- 428 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月20日(火)20時21分45秒
- 挑戦的な態度をとるよっすぃーが良いです。
後藤は幸せものだなぁ(w
- 429 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月21日(水)05時03分34秒
- んん、いつのまにか後藤をめぐる・・・。
近所のワルガキはほっとけないからねえ。
三人がどう出るか楽しみ。
- 430 名前:あるみかん 投稿日:2001年03月21日(水)14時53分22秒
- >177さん いつになくゆうるりと話が進んでいますが一応最後まで書き上げたんで
アップします。予想通りになりました?
>428さん 一応主役は石川なんですが、まるで後藤が主役みたいですね(笑
>429さん 展開が唐突すぎないかと危惧してたんですが、『いつのまにか』って
言葉を聞いて少し安心。3人それぞれをちゃんとまとめられているでしょうか。。。
- 431 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)14時54分52秒
- 「で?私にどうしろって言うの?」
ここじゃなんだから、と場所を変えて近くの別の喫茶店に入った市井さんは静かに言った。
「学校に行かないことを正当化しろってそういいたいの?」
「そうじゃありません!」
憤る私とは裏腹に市井さんは至って冷静で注文したコーヒーにミルクを一滴たらす。
「私だって、気持ちはわかるよ?誰だって楽しい事をしてたほうがいい。現に私もそう。
高校行かないでバイトして、好きな音楽をやって生きてる。夢を追いかけてね。でもね勘違いしちゃいけないんだ」
「勘違い?」
「そう。夢っていうのはねみんなそれぞれ違うものだし、一人一人が持ってなきゃいけないもの、そうじゃない?」
私は市井さんの言葉をひとつひとつゆっくりと飲み込む。
夢はそれぞれのもの、うん、それは間違ってないと思う。
私が頷くのを確認すると市井さんは続ける。
「後藤はね、その私の夢の姿に自分を重ねてるだけなんだ。寂しさ、虚しさ、孤独、そんな現実からの逃避のためにね。そんなのは後藤のためにならない」
「な……」
フウと息を吹きかけて市井さんは一口コーヒーを口にする。
その仕草は一見自然なようで、でも違うって私は思った。
違う、絶対に違うよ、市井さん。
あなたは誤魔化してるんです。本当の気持ちを。
ふるふると拳が震えるのを感じた。
- 432 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)14時55分40秒
- 「そ……れってイケナイことですか?」
「え?」
キッと顔を上げて市井さんの顔を直視する。
「他人の夢に自分を重ねるっていけないことですかっ?そのヒトと一緒に生きていきたいっていうのがそのヒトの夢なんだったらそれでいいんじゃないですかっ?なぜ、それが夢じゃないっていえるんですか?勝手に……他人の夢を決めつけてるのはただのあなたのエゴです!大体……」
静かな喫茶店中に私の声は聞こえているんだろうけど、一度溢れ出した感情を押しとどめることは私には出来なかった。
「あのごっちんの歌を聴いて遊び半分だなんて本気で思ってるんだったら、はっきりいって市井さん音楽のセンス無いですよ!」
いつのまにか私は立ち上がって演説していたみたいだけれど、言い終えたらとたんに力が抜けてへなへなと座りこんだ。
何秒かの沈黙の後市井さんは冷めかけたコーヒーを一気にあおって言った。
「いずれにしろ、再来週にはロスに行っちゃうんだ私」
……ふぇ?ろ、ろす〜?ロスってあのアメリカの?
突然降ってわいた単語に私の頭はパニック状態に陥った。
「前々からね、お願いしてた先生とようやくコンタクトできることになってね。音楽的にも幅を広げるいい機会だと思って、思いきって行くことにした」
そんな市井さんをよっすぃーは最初から最後まで終始無言で見詰めていた。
市井さんは私とよっすぃーをかわるがわる見た後に、優しく微笑んだ。
「でも、よかった。後藤のことこんなに大切に思ってくれてる人間がいて。それじゃ」
コーヒー代を伝票の上に置くと脇においてあったギターを抱えると、そのまま店を出て行った。
- 433 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)14時56分11秒
- 「帰ろう、梨華ちゃん」
「よっすぃー?」
ずっと黙っているよっすぃーになんて言おうかって考えてた矢先に、彼女は上着とマフラーを羽織って席を立とうとした。
よっすぃーの頼んだアイスティーはほとんど口のつけられないまま並々と残っていた。
「帰るって、ごっちん探さなくていいの?」
せっかくこの町まできたんだから近辺をちょっと歩いてみようと思ってたんだけどな。
「昨日、外からマンション見たら明かりが点いてたし、管理人のおじさんもちゃんと見かけたって言ってたから大丈夫だよ」
「そんなぁ」
一体どうしちゃったんだろう、よっすぃー。
昨日まではそれでも絶対に会うまでは安心できないなんて言ってたのに。
「今、会ったら……絶対嘘ついちゃうから、私」
よっすぃーは切なそうに眉をひそめた。
言葉の意味を理解することが、私には出来なかった。
けれど、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。
- 434 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)14時56分58秒
- う〜ん
う〜ん
あ〜ん、どうしよ。
え〜っとぉ
はぁ〜……
「……梨華ちゃん、さっきから一人でうなってて気持ち悪いよ」
「よしっ、やっぱやろう!」
ガタン!!と立ち上がった拍子に後ろに引かれた椅子が大きな音を立てる。
「わっ!と、突然たたないでよっ」
卒業式の予行演習をやってるよっすぃーを待とうかとも思ったけれど昨日の感じだとごっちんを探す気は、しばらく無いみたいだった。
けど、私は彼女を探そう、そう思う。
私はあゆみちゃんに別れを告げて駅に急ぐ。
大体いくらアウトローな人間だからっていったって人生の節目節目には参加するのが道理って物でしょう。先輩としても、後輩を卒業式の予行練習や式そのものには引っ張ってでも出さなきゃいけないもんじゃないだろうか?
畏まった表情で卒業証書を受け取るごっちんの姿もみものかもしれないし。
っと、またまた思考が脱線しちゃった。
- 435 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)14時57分42秒
- さて今日はどこを探そう?
市井さんにはアルバイト先で会えたけど。
そういえばごっちんもバイトしてるとかいってたなぁ。でも、具体的には何も聞いてないし、この広い東京で探し出そうなんて雲を掴むに等しい。
私はバイトっていうものをしたことがないけど、きちんと自分で働いてレッスンに通ってるなんて偉いな。
レッスン…音楽教室…そっか!
駅前の電話ボックスに入ってタウンページを引っ張り出した。
あ、しまった。普段は携帯しか使わないから(ほとんど使ってないけど…)テレカを持ってない。
泣く泣く千円札をそなえつけの販売機に投入し105度数のカードを購入する。
えーい、ピポパ、と最初は、『アイ音楽スタジオ』ね…
「もしもし、ちょっとお尋ねしたいんですがそちらに……」
- 436 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)14時58分18秒
- 「えっ!!本当ですか!!そちらにっ、ええ…ええ、ありがとうございます!!」
途中、とか「借金の取り立てなら自宅か会社にすればいいんじゃないの」とか「なによ、あなた探偵か何か?」おまけに「あ、でもこんなアニメ声の探偵なんかいるわけないわよね」(涙)なんてことも言われたけれど、何十件めかの当たり先で確かに後藤真希という生徒がいますという回答が帰ってきた。
しかも、今ちょうどレッスンに入ったところで一時間ほどで終わる予定だと言う。
急いで場所を確認すると私は電車に乗りそこへと向かった。
教えられた場所は市井さんのバイト先よりもひとつ手前の駅で、五分ほど歩くと、6階建てのビルの中腹に縦書きで書かれた目的地の看板を発見した。
教えられた終了時刻よりも15分も先についたのに、走ったってしょうがないのに私はそのビルのエントランスに向けて走った。
ここに、ごっちんがいる。
やっと、やっと見つけたよ。
最後に見たごっちんの顔は、涙で濡れていたよね。
私がここに来ているのを知ったら、あなたは一体どういう顔をするのかな?
驚くだろうな、うんきっと驚く。
けど、少しは喜んでくれるかな?心配かけてごめんね、とか。
そう思うとなんだか楽しくなってきた。
だって私、出会ったときからいつもいつもあなたに振り回されっぱなしで、いいかげんで危なっかしくて気ままなあなたから、眼が離せないんだもの。
- 437 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)14時58分51秒
- 定刻を10分ほどすぎた頃、彼女は、いつものような少し眠そうな顔をして現れた。
「ごっちん!!」
その瞳は私の姿を止めると予想通りに大きく見開かれた。
「梨……華ちゃん?」
なんでここに?ていう疑問をごっちんが体中で問いかけていたから、私はここに来るまでの経緯を説明した。
「……マジで?」
エレベーターホールの備え付けの椅子に腰掛けて話を聞いたごっちんからは、すっかり眠気が飛んじゃったみたい。
「でも、安心した。元気そうで」
私はにっこりと笑いかける。
そんな私にごっちん、あなたはなんていってくれるのだろうか?
ねえ…
「……ていうか、なんなの?こないだといい」
- 438 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)14時59分55秒
- 「いいかげんやり過ぎだよ。よっすぃーに気に入られようと思って私のことをあれこれ詮索したりする気持ちわかんなくもないけどさ」
え…?
「はっきりいって、そこまでやると恐いって。それに、あんまり意味無いと思うよ。そういうことしても。かえって自分の首しめるだけ…」
「…がうよぉ」
そうじゃない。
彼女の言葉が私の心臓を直接打ちつけているかのように突き刺さる。
なんで、わかってくれないんだろう?
理解してもらえない怒り、そしてどうしようもない哀しさが一挙につきあげてきた。
「正直…最初はそういう気持ちもあったかもしれない。でもね、今は違うの」
「違うってなにが?単に探偵ごっこが楽しかったの?相当ヒマだね〜梨華ちゃんも」
「違うよっ!!」
私の剣幕にごっちんは開きかけた口をキュッとつぐんだ
。
「……に決まってるでしょぉ」
「はい?」
膝の上で握り締めた拳にぽつりと涙の雫が一粒落ちた。
「あなたが好きだからに決まってるでしょ―――――――っ!!」
- 439 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時00分25秒
- 真新しいビルの壁と、ぴかぴかに磨かれたフローリングの床に、
実によく、私の声は響いた。
- 440 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時01分32秒
- きちんと聞いてみたらなんてことはなかった。
姿をくらますつもりでもなんでも無くて、勤めていた先の店長さんが体調を崩して、かわりに毎日お店にいってたいたこと。プラス
携帯はただ単純に忙しくて面倒だから充電するのを怠っていただけらしい。
周りの注目を一身に集めてしまった私を呆気に取られた後、ごっちんはおお慌てで連れ出して近くの公園のベンチに私を座らせた。
「……まだティッシュいる?」
手持ちのティッシュはとっくに使いきってしまい、ごっちんは、街頭のなんとかローンとかプリントされたティッシュを何個かもらってきて私に差し出した。
「多分、これで間に合う……と思う」
恋愛ドラマだったら、真珠のような涙をキラーンなんて流すんだろうけど、鼻水をともなった私の涙は、どっちかというとドロドロっていう描写の方が近い。
なりふりかまわず鼻をかむ私の隣に残りのティッシュを置くとごっちんは、どさっとベンチに身を投げ出す。
「はあ〜、私ってヒトを驚かすのは得意らしいんだけど、その逆っていうのはなれてないんだよね…」
きっと、それはさっきの私の大絶叫のことを指してるんだろうけど。
私だって驚いてる。
なんてことを言っちゃったんだろう。ワケわかんないよ〜、私ってば。
でも、これだけははっきりしてる。
私、ごっちんが好きだ。それも、すごく、すごく。
- 441 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時02分36秒
- 私はごっちんの瞳を見つめて、今度は落ち着いて静かにこう言った。
「あなたが好きだから、だからすごく心配だったの」
また『私はそのケは無いってば!』ってどやされるかと覚悟してた。でもそれでもいいって思ったから。
ごっちんは、しばらく、言葉を飲み込むように俯いた後、私の掌に自分の手を乗せた。
「ごめん、ね。心配させて」
その彼女の表情はまるで叱られた子供のようにしゅんとなっていた。
泣いているのは私のほうなのにね。
「バイトのこともあるけど、ホントはね」
「うん?」
「たくさん練習したかったから。歌いたかったから。それで、市井ちゃんを驚かしてやろうと思ったんだ。私も遊び半分じゃなくて本気で歌が好きなんだよって。中学卒業したら高校には進まないで本格的にやろうと思ってる。ボイトレの先生にも最近ほめられたんだよ〜、後藤に足りなかった熱意ってものが加わって荒削りだけどいいもの持ってるって。
この分だと市井ちゃんもイチコロかな〜、なんて。今のコースとりあえずあと3週間で終わるから、そしたら市井ちゃんに聞かせて……」
「2週間!?」
このあいだ、再来週にはロスにたつと言っていた市井さん。
ごっちんが市井さんに会いに行く頃には、彼女はもう日本にはいない。
きっと、彼女は自分からごっちんに知らせるなんてことはしないだろう。
そしたら、ごっちんは……
- 442 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時03分15秒
- 「どしたの?梨華ちゃん」
疑問符を浮かべながら私の顔をのぞきこむ。
市井さんが行ってしまうという事実を知ったらごっちんはどうするだろうか?
……決まってる。
彼女を縛ることが出来るものなんてなにもないんだもの。
彼女は自由で、まっすぐに、迷いもせずに市井さんの後を追っていくんだろうな。
けど、そしたら。
会えなくなる。
私が今、市井さんのことを告げてしまったら、もうごっちんには会えなくなるかもしれない。彼女にとって私などなんの枷にもなりはしない。
『絶対嘘ついちゃうから、私』
そう言って苦しそうに眉をひそめたよっすぃー。
やっとわかった。
どうしてあなたがそんなことを言ったのか、なぜごっちんを探すのをやめたのか。
- 443 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時04分20秒
- 「ねえ、梨華ちゃんどうしたの?」
無垢な顔で問い掛ける彼女を放したくなくて。
生き生きと語る彼女が
束縛されない、真っ白な羽を持った
そんな貴方のことを好きになったから
「市井さん、ロスに行くんだって、それも再来週」
「……え」
次の瞬間、彼女は体を乗り出して私の肩をつかんでいた。
「なにっ、それ!?どういうこと?聞いてないよ」
「向こうで、音楽をやるって。しばらく…日本には」
「そんな……」
私が冗談を言ってるのではないとわかると、つかんでいた肩を離し、ガックリとうなだれた。
「そ……っか、そういうことかぁ。アタシ、迷惑なんだね市井ちゃん。きっとわかったらついてきちゃうと思って、それで…アハ…い…ちいちゃ…」
見た目にもわかるほど肩を震わせて、浮かべた笑顔は痛々しくて。けど
「でも、いいお話だもんね。応援してあげなきゃ。ああ、でも私そんな大人じゃないから…あ、あのさ、こんなこと頼んでずうずうしいんだけどね、市井ちゃんにあったらね、がんばってって伝えてくれないかな?あと…」
「イヤ」
- 444 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時05分10秒
- ピシャリと、短く私は彼女に言い放った。
「私ごっちんのことが好きなのになんでそんなことしなきゃいけないの?それに」
「…梨華ちゃん?」
「そんなのらしくない。ヒトのこと考えて我慢したりなんてしないくせに。気持ち押し殺すの苦手なくせに。気を遣うなんてそんな言葉知ってるのかなっていうくらいだし、ぽんぽんぽんぽんキツイこと平気で言うし。はっきり言って性格破綻してると思うし」
「あ……の梨華ちゃん、ヒドイ言われようなんですけど…」
「ごっちんの、バカ―――――――!!」
でも、私はそんなあなたを好きになってしまった真性のおばかさんだね。
◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇
- 445 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時06分15秒
- エスカレーター式とはいえ卒業式を間近に控えた校内はなんとなく、誰もがなにかとの別れ、そして新しい出会いを期待している、そんな予感がただよっていた。
「今日、放課後空いてる?」
学校の手前で、横断歩道の信号待ちをしていると、シルバーの自転車に大きな紙袋を乗せたよっすぃーが尋ねてきた。
避けていたわけではないけれど、よっすぃーのクラスの卒業文集づくり、とかでなんとなく予定のあわなかった私達は久しぶりに一緒に帰ることになった。
私はよっすぃーの気持ちを加味せずに勝手なことをしてしまったんだ、あの後、一人になって私は自己嫌悪に陥った。
電話口で黙って私の話を聞いたよっすぃーは穏やかな声で「そっか…」と言った後「ごめんね」と呟いた。謝るのは私のほうなのに。どうしてなんだろう。
それに、あれほど連絡くらいはって念押ししておいたのに、相変わらずごっちんの携帯電話は「電波が届かない所にいらっしゃるか電源が入っておりません」を繰り返すばかり。
「ちょっと寄り道しよう」
そう言って駅の反対側であまりウチの生徒がいかない喫茶店に入ったから、てっきりその話をするんだろうなって思った。
でも
- 446 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時06分54秒
- 「はい、気に入ってもらえるかどうかわかんないけど」
よっすぃーはちょっと照れくさそうに鞄から何かを取り出して私の前に置いた。
「あ……私、に?」
なんで?なんでぇ?
ふいにお店に飾られたいまどき珍しい日めくりカレンダーが目にとまった。
あ、そっか。
「ホワイトデー!」
女子しかいないうちの学校はバレンタインデーにお互いチョコの交換で終わってしまうけれど世間では3月14日はホワイトデーなんだった。
ということは朝よっすぃーが持ってた紙袋の中身はバレンタインにイヤっていうほどもらったチョコレートのお返しなんだろうな。
「ひょっとして忘れてたでしょ、梨華ちゃん。しがない中学生なのでたいしたものじゃないけどね」
「よっすぃー…開けていい?」
頷くよっすぃーの前で丁寧に包みを解くと掌サイズのオルゴールが顔を覗かせた。
「あ……」
「本当はね、ちゃんとホワイトデー用のラッピングしてもらいたかったんだけど、さすがに私も女の子だからちょっと恥ずかしくて。他の色とか曲も悩んだんだけど、梨華ちゃんのイメージってこんな感じかなって思って……」
暗にちゃんと私のことを考えて選んだんだよって気持ちが伝わってきて、いつもはクールなよっすぃーが照れまくってるのが嬉しくて、私は掌でそっとオルゴールを包み込んだ。
- 447 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時08分08秒
- 私の思惑とは違い、よっすぃーはごっちんのことを尋ねてはこなかった。
もっとも、ここ最近の彼女しか知らない私よりもずっと詳しいんだから聞くことなんて無いからかもしれないのだけれど。
でも無理しているのかと思えばそうじゃない。
よっすぃーは何かふっきったような、そんな感じで、それに前よりもまたちょっと大人っぽくなったように思えた。
夕食を終えて部屋に戻ると私はオルゴールのネジを巻いて、その音色に聞き入った。
これ、なんていうんだっけ?
知ってる曲なんだけど…タイトルが思い出せなくて、でも懐かしいその音色がここちよく私を包み込んでくれる。ここちよく…
「ちゃらちゃちゃちゃらちゃ、ちゃちゃちゃらちゃ…」
…私が気持ちよく浸っていると、突然携帯から「ハバネラ」がオルゴールの音を掻き消して鳴り出した。
無愛想でかわいくない低音。……今気付いた、私趣味悪いかも。
なんて思いながら携帯を手にとるとその液晶画面に映し出された文字に目を見張った。
『後藤真希』
- 448 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時09分06秒
- 「ごっちん!!」
どこにいたの?なにしてたの?そんな感情が渦巻いて私をかき立てる。
そんな私を迎えたのは彼女のすっとぼけた声だった。
「あのさ〜、電話取るときはもしもしでしょ、梨華ちゃん」
「う…も、もしもし〜」
「アハハハ、今更言ってどうするのぉ、梨華ちゃんおかしー」
「そう?…じゃなくって!どこにいるのよ」
「梨華ちゃんちの前」
「そう、梨華ちゃんちの……え!?」
梨華ちゃんちってつまり私の家ってこと?
私の動揺を楽しむかのようにごっちんは続ける。
「玄関の前にいるから、ちょっと出てきてくれる?じゃ、待ってるから」
「あ、ちょっとっ」
一方的に切られた電話からはツーツーという機械音だけが流れている。
すぐ来いって言ったって…もうしょうがないなあ。
気まぐれな彼女は着替えてるうちに帰ってしまうかもしれない。
仕方なく私は部屋着にコートだけを羽織って部屋を出た。
お母さんたちに見つかったらまたなんやかんや追求されそうだからばれないようにそうっと玄関の扉を開ける。
3月とはいってもまだまだ肌寒くて外気に一瞬身を震わせたけれどかまわずとおりに向かう。
- 449 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時10分29秒
- 「や、お久しぶり」
私の家の門に背中をもたれかけて彼女は右手を軽く上げた。
「お久しぶりって……」
会ったらとことん色々聞こう、そう思っていたのに。ごっちんが元気な姿を見たらそれだけでもう半分はどうでもよくなってしまった。よかった、よかった、無事で。
「とにかくここじゃなんだから…このへんどっか無い?」
もっと早く連絡をくれていたら適当なお店にでも入ったのだろうけど、さすがにこんな半分寝巻きみたいな格好では入れないし。
私は公園と呼ぶには少し狭いけれど、近くの集合住宅の中にある広場に歩いた。
歩いているうちにだんだんと気持ちの整理がついてくる。
「大体…なんで私の家が分かったの?」
「名前も学校も分かってればいくらでも調べようがあると思うけど?大体、都内のスタジオ片っ端から調べ尽くして私を探し出したヒトの台詞とは思えないな」
「う…」
閑静な住宅地を抜けていくと、控えめの照明にうっすらと照らし出されたブランコとシーソーだけがぽつんと置かれた広場に辿りつく。
「わー、懐かしいなぁ」
ごっちんは嬉しそうにブランコに飛び乗ると勢いをつけてこぎはじめる。
仕方なく私はその隣のブランコに腰を下ろす。
- 450 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時11分58秒
- 「大体…」
「うん?よく聞こえない」
すっかりこぐことに夢中になった彼女は話半分と言った感じ。
「大体、どこいってたの?携帯の電源も入れなくて」
大き目の声で私は尋ねる。
「携帯?ちゃんと電源いれてたよ。充電もしてたし」
「じゃあ、どこにいたのっ!?」
一際大きくブランコが揺れて彼女は前に向かって飛んだ。
「ちょっとブラジルまで」
「そう、ブラジルに…ぶ、ぶらじる〜!?」
ブラジルって、そんなちょっと行くようなところだろうか?
だって地球のほぼ反対側だよ?まさか旅行ってワケでもあるまいし。
「そんなびっくりした顔しないでよ」
よっ、と着地すると体操選手みたいに両手を上げて決めポーズなんて取ってる。
びっくり、するよ、普通。
「まったく、あのガンコ親父。説得するのにこんなに時間かかると思わなかったよ」
「え?」
- 451 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時12分47秒
- いつも飄々と物怖じなんかしないで話すごっちんはなんだか言いにくそうに話す。
「まあ、わからないでもないけどね。久しぶりに娘が、しかもいっつも反抗ばっかしてる娘がわざわざブラジルまで会いに来たかと思えば今度はロスに行かせろ!だもんね」
「ごっちん……」
ルポライターをやっていると聞いていたごっちんのお父さん。彼女達親子の間にどんなことがあったのかはしらないけれど、少なくともお父さんの驚きようは手に取るように分かる。
「散々好きなこと言い合って…喧嘩して…クス、直接怒られたりしたのって何年振りだろう。あーあ、ムカつく!!でも…」
晴々とした表情であなたは笑う。
「すっきりした!!」
わかってたんだ。こうなるって、けど誰もあなたをとめることなど出来ないんだよね?
一呼吸置いて、ごっちんはゆっくりと言葉をはきだした。
「アタシ、ロスに行く」
「うん」
「市井ちゃんと行こうと思う」
「うん」
「ただ、その前にちゃんと梨華ちゃんに会って言いたいことがあったから」
汚れるのも構わずにごっちんは私の前にひざまづいてじっと私の瞳を見つめた。
はじめてみる彼女の真剣な眼差しに私は引きこまれる。
- 452 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時13分34秒
- 「私って、こんなだからみんな最初は面白がって好奇心で近づいて来るんだけど、そのうち呆れてさってっちゃう」
ほんの少し寂しそうな影が落ちる。
けれど、もうその影に怯えることはないんだろうな。あなたはしっかりとまた光る羽を手に入れたんだから。
それは私ではないけれど…
夜の公園は静かでまるで世界中に私とごっちんだけしかいないのかもしれないって錯覚に陥りそうになる。
「梨華ちゃんもそうだと思った。それに私と正反対。絶対あわねーって」
私もそう思ったもの。よっすぃーはなんでこの子が好きなんだって。
「真面目で優等生で」
…そうかなあ?
「ネガティブで」
たしかに
「思い込み激しくて」
うん
「ときどき暴走しちゃったり」
そうかも
「妄想癖強くて」
……
「粘着質で」
……
「ストーカー1歩手前って感じで」
「あ、あのねー!ちょっと言いす…」
「でも楽しかった!……ありがとう」
- 453 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時15分57秒
- ダメだ。
台風みたいに私の心をかき乱して。
でもこんな笑顔を見せられたら私の負けだもん。
「もっと、早く出会えてたらよかったね。そしたら…」
「ごっち……」
ずるいよ、ごっちん。
でもその次の言葉を聞いちゃったら私はどうなっちゃうんだろう?
とっくに私はあなたにふられてるっていうのに。
「梨華ちゃん」
私の名を呼ぶと、ごっちんの顔が少しずつ近づいてくる。
私はゆっくりと目を閉じた。
ふんわりとした感触が私の唇におとずれる。
柔らかくてふんわりした、そうふんわり、ふわふわ。
ふわふわ、ふわふわ…
……ふわふわ!?
眼を開けると茶色い毛むくじゃらの物体が私にぴったりと押しつけられていた。
- 454 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時17分02秒
- 「?????????!!」
「あははははっ、今キスされるーとか思ったでしょ?」
ケラケラと笑いながらごっちんは茶色い物体を私からいったんはなすと、はいっと握らせた。
「…テディベア?」
「そ。ホワイトデーだよん。一応結果的には梨華ちゃんのケーキ食べちゃったわけだしね」
最後の最後まで、ほんとに振りまわされっぱなしだよ。
まったく!!
「ひどいよ!ごっち……」
一言文句言ってやんなきゃ!!
そうやって開きかけた私の唇は、またしても柔らかい、けれど今度はしっかりと温度をもったものに塞がれた。
「あ……」
「……これからスキンシップの国に行くんだから市井ちゃんもこれくらいは目をつぶってもらわないとね。あ、あとね、市井ちゃんからの伝言!!音楽のセンス無いってゆうのはキョーレツだったって。今にそんなこといえなくしてやるからなー、だってさ!」
こうして、春一番というにはかわいすぎる季節はずれの台風みたいな彼女は、通りすぎていった。
- 455 名前:3-three- 投稿日:2001年03月21日(水)15時17分49秒
- エピローグ
4月がきて高校生になったよっすぃーは当然のように高等部のバレー部に入った。
そして私はバレー部のマネージャーになった。
よっすぃーと話してるうちに純粋に私もがんばってる部員の子達を応援してあげたいなって思ったからだ。
「ねえ、梨華ちゃんひとつきいていい?」
いつものように私の鞄を自転車のカゴにのせてカラカラと押すよっすいーはふいにそう尋ねた。
「なんでごっちんに市井さんのこと教えたの?だって梨華ちゃんも…」
よっすぃーに直接私のごっちんに対する思いを伝えたことは無かったけれど、なんとなく一緒に過ごすうちに気付いたんだと思う。
「なんでって……そうね」
あのときの私はそんな理由なんて考えてなんかいなかった。
「ごっちんのことは好きだったけど……けどね、多分一番好きだったのは市井さんといるときのごっちんだったからかもしれない。そんなの矛盾してるのにね。バカだね私」
「ほんと」
「え」
てっきりそんなことないよって言ってくれると思ったのに。
え〜ん、バカだなんてヒドイよぉよっすぃー。
「でもそういうとこが好きだけどね」
へっ!?
突然強い風がふいてきてスカートがバタバタとひらめいた。
「あー、でもライバルは手強いからね。なんてったって私が惚れてたヤツだから」
どうやら、
まだまだ私の周りを吹き荒れる嵐は通りすぎてないみたいです。
END
- 456 名前:あるみかん 投稿日:2001年03月21日(水)15時22分15秒
- お、終わった・・・やっと・・・
長かった・・・
一応いしごまというリクエストにお答えするつもりではじめたこのお話なんですが
これが限界でした(笑)いしごまじゃないだろー!っていう突っ込み多数あるでし
ょうが。。。
本当はもっと短いお話だったんですが石川の心の移り変わりを自然にするにはこの
長さが必要かなあなんて思いまして、こんなだらだらと長い話になってしまいました。
しばらく青の方に専念して、またなんか書けたらいいなと思ってます。
読んでくださった方々ありがとうございました。
- 457 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月21日(水)16時05分42秒
- 最高です・・・(感涙
また頑張ってください。
- 458 名前:まちゃ。 投稿日:2001年03月21日(水)16時09分41秒
- この分だと市井ちゃんもイチコロかな〜、なんて。今のコースとりあえずあと3週間で終わるから、そしたら市井ちゃんに聞かせて……」
「2週間!?」
2と3どっちが正解?
- 459 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月21日(水)21時25分48秒
- うぉもしろーーーーいっっ!!!!
あるみかんさん、ありがとう>( ● ´ ー ` ● )
- 460 名前:177 投稿日:2001年03月21日(水)21時54分01秒
- 爽やかな気分とは今ある状態の事を言うんだろうか・・・
いやいや〜楽しませてもらいました
どの登場人物にも好感が持てて、読んでて清々しかった
これの続きなんかがあると面白いんじゃ・・・と思ってしまふ
もちろん新しい人物が出てきて嵐が吹き荒れるんですが・・・
気が向いたらお願いしますです・・・青の方も期待してるっす!
- 461 名前:まちゃ。 投稿日:2001年03月21日(水)23時14分04秒
- 青の方のスレってなに?
- 462 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月21日(水)23時56分24秒
- お疲れ様でした。
これからまたゆっくりと読み返します。
- 463 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月22日(木)15時07分15秒
- お疲れ様でした。読後感が爽やかでホント良かったです。
石川のキャラも凄い可愛くてよかったです。
というか・・やっぱり市井って海外に行く運命なんすね(泣
そしてそれを追っかけるごま。最高っす!
海外での二人のラブラブっぷりを願っております(w
っつーか市井はちゃんとごまの事好きだったのかな・・・いや好きに決まってる。実は一緒に歌っててメッチャ嬉しかったに決まってる。
全く素直じゃないんだから・・ブツブツ
- 464 名前:うでたまご 投稿日:2001年03月23日(金)18時19分16秒
- 未来を感じさせるような余韻のある終り方でいいですね♪
でも最初、よしいしだとばかり思ってたので最後の展開にはびっくりしました。
ホント良かったです。
お疲れ様でしたー。
- 465 名前:あるみかん 投稿日:2001年03月24日(土)14時02分41秒
- >457さん ありがとうございます。長いのはちょっとエネルギーがキレぎみなんで
一応スレの原点に返って短いのをやりたいなと思ってます。
>まちゃさん あ、直すの忘れてました。3週間が正しいです。最初2週間にしてたん
だけど再来週旅立つ市井ちゃんと確実に会えないことを強調したかったので3週間に
アップ直前に書き換えたんですよ。
>459さん 途中ちょっと中だるみしちゃったかなと思いましたが、面白いといって
いただけて嬉しいです。爽やか、なんてったって月曜8時のドラマがコンセプトですから(笑
>まちゃさん 青板のほうで「チャイルドプラネット」っていうのを書いてます。
>462さん ありがとうございます。でも読み返したらすごい誤植だの矛盾だのみつかり
そうな気が・・・
>463さん 市井って海外に行く運命・・・たしかに。でも別れないで追っかけるって
ところがミソだったりするんですが(笑 threeということで市井の書きこみがちょっと
足りなかったかもしれないですがちゃんと大丈夫です(何がだ。。。)
>うでたまごさん でも最後にはよしいしの空気を匂わせつつ終わってるので予想は半分
は当たってますよ。しかし今回の話しは途中から結構難産でした。
>177さん これの続きじゃなくて今回の話のプレストーリーみたいなネタがちょっと
あるんで、もしかしたら書くかもしれないです。
- 466 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月22日(日)14時17分05秒
- 続編or新作まってます!!!
- 467 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月22日(火)15時06分46秒
- 圧縮されなくてよかった。
青の方が終わったらまた続き書きますよね?
- 468 名前:チャーミーブルー 投稿日:2001年05月27日(日)16時21分43秒
- 初めて読ませていただきました!(遅いって
最高でした!!!!!
- 469 名前:no name 投稿日:2001年06月19日(火)01時44分34秒
- 青の方が終わったら続き書きます?
とりあえず保全sage
- 470 名前:no name 投稿日:2001年07月22日(日)01時48分02秒
- もうここでは書いてくれないのかなぁ、残念。
>>469
誰もつっこんでくれないなぁ・・・
- 471 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月22日(日)02時36分23秒
- >>470 保全かよ!!(w
紫板 花束〜ブーケ〜 読んでみそ……
- 472 名前:LVR 投稿日:2001年07月24日(火)01時49分35秒
- >>471
助かりました。
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