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Say hello to your lover...
- 1 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)03時24分29秒
- TV局。
姉ちゃんの、控え室。
俺は、時間が空いていたので、
遊びに来ていた。
「姉ちゃん、何見てるの?」
姉ちゃんが何やら、手にとって眺めている。
覗き込んで見た。
……女の人の写真。
正確に言うと、市井さんの写真だ。
- 2 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)03時25分45秒
- 「な、なんでもないよ!!」
姉ちゃんは、慌てて写真を後ろに隠す。
……もう遅いっつの。
「また市井さんの写真?」
「う、うるさいわね!!」
「姉ちゃんって一応女じゃなかった?」
「ほっとけ!!」
……時間は、呑気に流れている。
- 3 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)03時26分18秒
- 「市井ちゃんと連絡途絶えてもう1年か……。
今頃何してるんだろ……。」
「勉強でしょ。大学受けるらしいし。」
「そりゃわかってるけど……。」
「市井さんは姉ちゃんと違って理知的だから。」
「……殺すよ?」
姉ちゃんは、言うや否や、
鉄拳を飛ばしてきた。
「いてぇっ!!」
「だまれクソ坊主!!」
「うわ!!暴力女!!」
「うるさい!!!!」
ドタドタドタ。
部屋を、駆け抜け、外へ出る。
- 4 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)03時27分06秒
- 「キャッ!!」
「うわっ!!」
誰かとぶつかる。
……女だ。
見覚えのある顔。
……相方だった。
「ソニン……。」
「痛いわねぇ……。」
「ごめん……。」
そこへ、後ろから姉ちゃんがやってくる。
「あら、ソニン。ごめんなさいね。
このアホが……。」
俺の頭を、思いっきり殴る。
……いつか復習しようと誓った。
「いえ、いいわよ。
随分二人とも元気いいのね。」
「ハハハ……。」
- 5 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)03時29分29秒
- 「そろそろ、時間だから。
ユウキ、もどってね。」
「わかった。」
俺は、後ろを振り返り、
おもいっきり姉ちゃんに『イーッ』っとしてやって、
それからスタスタと歩いて行くソニンへ付いていった。
姉ちゃんは、俺にむかって中指を立てている。
フン。別にどうだっていいさ。
ソニンと二人で、TV局の廊下を歩いた。
- 6 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)03時32分30秒
- 家に帰ると、
姉は既に帰ってきていた。
様子が、おかしい。
俺と、目を合わそうとしない。
目は、赤く腫れている。
一体、何があったのか。
期になったが、非常に聞きづらく、
聞けなかった。
その日は既に夕食を済ませてあったし、
夜も遅かった。
結局、そのまま寝てしまった。
- 7 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)03時36分44秒
- 次の日、
俺はTVを見て驚愕した。
芸能関係のコーナー。
なにやら、ただ事でない雰囲気。
今朝のトップニュース。
それは……、
『市井紗耶香、ロス市内で交通事故死。』
俺の脳味噌から、何かが消えた。
穴が、開いた。
姉ちゃんは、その日いつまで経っても、
部屋から出てこなかった。
- 8 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)03時41分04秒
- 「トラックの運転手が……よそ見運転で突っ込んで来たって……。
ぅぅ……。紗耶香……。まだ17だったのに……。」
TVの中で、中澤さんがインタビューに答えている。
姉ちゃんと、それに加護も、
ショックのあまり寝こんでいるらしい。
その場にいるのは、中澤さんと、それと飯田さんと保田さんだけだ。
3人とも、ものすごい顔で泣いている。
……何故、こんなことになってしまったのだろう。
- 9 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)03時47分14秒
- 市井紗耶香は、確かに死んでしまった。
ひどく暑い、夏の出来事だった。
不本意のまま、彼女は17年と半年の人生を、終えた。
運命とは、残酷でもありうるものなのだと、
その経験が教えてくれた。
強烈な、後味の悪さを残して。
- 10 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)03時49分28秒
- 市井さんの死後、
少ししか経たないうちに、
姉ちゃんはまた仕事を再開した。
しかし、心から姉ちゃんが笑う事は二度となかった。
そして、1ヶ月も経たないうちに、
姉ちゃんは心労で倒れた。
その年のうちに、
モーニング娘。は解散が決まった。
みんな、姉ちゃんほどではないにしろ、
とても活動を続けられる状態じゃなかった。
- 11 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)03時52分52秒
- 市井さんとは、どれだけ重要な存在であった事だろうか。
姉ちゃんにとってだけではない。
モーニング娘。の他のメンバーにとっても。
世間一般の人々にとっても。
かつて、これほど他人にショックを与えた死者が、
どれほど居たと言うのか。
彼女はまだ17歳だった。
しかも、自信、希望に溢れていた。
これからだった。
それなのに、
こんな簡単に、運命のいたずら如きに、
永遠に命を奪われてしまうとは。
俺は、市井さんの無念を思い、
心から、涙した。
- 12 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)03時56分02秒
- 夢を見た。
幻想的なお花畑の真中。
市井さんが、腰掛けている。
そして回りには、
たくさんの人々が居る。
姉ちゃんは、一番近くで市井さんに寄り添っている。
他のモーニング娘。のメンバーや元メンバー、
つんくさんやら、お母さんやら、親戚やら、友人やら、
何やらいっぱい、その周りに居る。
楽しそうに、笑っている。
俺は、その輪にゆっくりと近づいていった。
- 13 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)04時01分57秒
- すると、市井さんを囲んで居た周りの人間が、
皆それぞれ、明後日の方向を向いて、
歩き出していってしまった。
方向はまちまちだが、
それぞれ、色々な邦楽へ。
市井さんに、背を向けて。
皆、笑顔を浮かべ、輝いた目で。
俺がある程度市井さんに近づくと、
市井さんと目が合った。
そういえば、みんな市井さんの元を離れていってしまったのに、
ひとりだけ、残っている。
姉ちゃんが、市井さんにピッタリとくっついて、
離れようとしない。
- 14 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)04時02分46秒
- 市井さんは俺の目を見て言った。
「大丈夫。みんな、いつかは乗り越えられるから。君も含めてね。」
市井さんはそういうと、
姉ちゃんの髪にやさしくてをあて、
なでながら、姉ちゃんの顔を見下ろした。
姉ちゃんの顔は、ひどく悲しそうだ。
市井さんもまた、
そんな姉ちゃんを悲しそうな目で見つめている。
「この娘だけは……。」
市井さんは言った。
「この娘だけは、一人で歩き出せないみたいだね……。」
- 15 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)04時07分16秒
- 俺は黙って市井さんの話に聞き入った。
「それだけ私を思ってくれているってのは嬉しいけど、
この娘のためにならないよ……。」
「……。」
「ユウキ君。」
「は、はい……。」
俺ははじめて口を開いた。
「助けて上げてね。
後藤……真希のことを。
この娘は、やさしすぎる。」
「……わかりました。」
俺がそう言うと、
市井さんは、ニッコリ笑った。
そして、夢の中の景色は、歪み出した。
気が付けば、俺は現実に引き戻されていた。
ベッドの中で寝転がっている自分。
枕元は、ひどく濡れていた。
- 16 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)04時20分21秒
- そして、3年ほど月日は流れた。
姉ちゃんも、少しは傷が癒えたのか、
最近は笑顔も見られるようになってきた。
芸能プロのひとから、
姉ちゃんをタレントとして復活させないかという話も、
弟の俺には寄せられたが、
姉ちゃんに届ける前に断っておいた。
姉ちゃんは家に、引きこもったままだ。
でも、それも仕方のないこと。
市井さんがもうこの世にいない以上、
時間の流れだけが、姉ちゃんの傷を癒せるのだから。
- 17 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)04時21分01秒
- 夏が来る度、俺は思い出す。
市井さんが死んだ夏の事を。
市井さんを愛した人達は、
みな、悲しい現実を少しづつ乗り越えた。
姉ちゃんは、まだまだ時間がかかりそうだが、
俺は、そんな姉ちゃんの手助けを、
少しでもできたら、と思う。
市井さんとの約束を果たすためにも。
- 18 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)04時21分40秒
- 蒸し暑い自分の部屋の中。
姉ちゃんが来ている。
俺のベッドに、グテンと寝転がって、
ダラダラしている。
このことに関しては、
多分市井さんの死はあまり関係ないだろう。
元々、こういう姉だ。
蝉の音がひどくうるさい中、
俺達は二人で、単純な時間の繰り返しの中を過ごしていた。
- 19 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)04時22分20秒
- ラジオから、放送が流れてきている。
蝉の音でかき消されないように、
少し音量は大き目だ。
ラジオの放送で、
DJがハガキを読んでいる。
「えーと、次の曲は、
座間市R・N『もんちっち』さんのリクエストで、
浜崎あゆみ。『Far away』。
これは彼との思い出の……。」
プチッ。
「……。」
俺は、無言でラジオの電源を切った。
そして、すっと立ち上がり、
部屋の出口のドアの前に立って、
姉ちゃんに言った。
「何か飲み物欲しい?」
「コーラ。」
俺はそれを聞くと、
ドアを開けて、そしてゆっくりと閉めた。
相変わらず、蝉の音がうるさかった。
- 20 名前:吟遊詩人 投稿日:2000年11月14日(火)04時29分55秒
- とりあえずこれで終了です。
読みきりとなりますか。
設定はいちごまなのに市井を殺してしまうし、
いちごまは全然出てこないし、
しかもユウキ視点と、またまた異端ですね。
もうちょっと辺り障りのないものを書けないのでしょうか自分は(藁
- 21 名前:名無しさん 投稿日:2000年11月14日(火)08時35分05秒
- いちーちゃん死んじゃイヤだ〜・・(号泣)
俺もコーラ・・・・・。
- 22 名前:名無しさん 投稿日:2000年12月13日(水)03時57分02秒
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