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娘達の宴

1 名前:ま〜 投稿日:2001年01月10日(水)21時57分08秒
どうも。
「ま〜」です。
新しい小説を書きます。今回はシリアスです。
よろしくお願いします。
2 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月10日(水)21時59分59秒
普段は青板で小説書いてますが、今回は赤板でいかせて頂きます。
3 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月10日(水)22時00分37秒
中澤は旗艦『みょうこう』の艦橋から目の前に広がる海を見ていた。
『これがうちらの最後の航海になるかもしれへん・・。』
一人つぶやく。

「出港準備整いました。」
艦隊航海参謀の石川の高い声が艦橋に響く。

その声を聞いて中澤は静かに命令を下した。
「出港・・。」
4 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月10日(水)22時01分10秒


話は二年程前にさかのぼる。
日本の誇る自衛隊。
最近は女性幹部も増え、男女平等社会に近づきつつある。
それでもまだまだ女性の数は、男性に比べて少なかった。
そんなある日、自衛隊の女性達で集まるパーティーが東京都内の
某ホテルで開かれることになった。

「ここやな〜?」
「うん。」
中澤の独特の関西弁に、矢口が答えた。

中澤は海上自衛隊第三護衛艦隊の副司令官だ。
いっぽうの矢口はその副官である。
年齢は10歳ほど離れているが、仲がいい二人はプライベートの時は
敬語は使わない。

その二人がホテルに到着したのは
パーティーが始まってすでに30分ほど過ぎてからだった。

「あ〜、暑っ!」
営団地下鉄赤坂見附の駅から徒歩で5分程度のホテルだが、
夏の熱帯夜に5分程度歩くだけでも
背中に滝のように汗をかく。
「う〜、暑い・・。」
5 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月10日(水)22時01分49秒
「やっと着いたで・・。」
案内状に書いてあったルームに到着すると
来賓として来ていた自衛隊幹部や国会議員たちのほとんどは帰っていた。
「裕ちゃん・・。えらい人の話聞きたくないからって・・、
一応自分の階級を考えたほうがいいんじゃん?」
矢口が言う。
「ええんよ!所詮うちはエリートちゃうから。」

中澤の防衛大学校の卒業席順は
よく言って『中の下』だった。
にもかかわらず艦隊副司令官になれたのは
彼女が護衛艦艦長に就任してからの発揮した手腕である。
もちろん『女性でもなれる』という宣伝もあったかもしれない。
しかし彼女のリーダーとしての実力は自衛隊幹部が認めるに充分の能力だった。
6 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月10日(水)22時02分46秒
「あの〜、中澤一佐でいらっしゃいますか?」
「そうやけど・・?」
パーティー会場の隅で水割りをあおる中澤に一人の女性が語りかけてきた。
すこし茶色い髪の毛、やる気のなさそうな顔。
でもその女性は女の中澤が見ても『かわいい』と言える顔をしていた。

「自分は後藤真希一尉。中澤さんに憧れてました!」
『はぁ?またか・・。』
エリートでないにもかかわらず艦隊副司令官になれた中澤に『憧れてます』と言う
女性はいままでにたくさんいた。
最初のうちは嬉しかったが、何度も言われるといやになってくる。

「あ、ありがとな・・。」
すこしつっけんどんに言う。
 
「エリートでもないのにそんなに出世できてすごいです!!」
中澤は飲んでいた水割りを噴出しそうになった。
面と向かってそこまではっきり言った人は中澤の知る限りいなかった。

「失礼なやつやな・・・。」
中澤が言う。
「す、すいません・・・。」
謝る後藤。

「でも、そこまではっきり言ったんは、あんたが始めてや。」
笑顔で言う。
「・・・・。」
下を向く後藤。
「気に入った!!自分おもしろいで!名前なんていったっけ?」
中澤は後藤の頭をポンポンたたいた。

「はい!後藤真希です!所属は舞鶴基地です!」
「おっ!?舞鶴か。うちの所属も舞鶴や!こんど一緒に飲もうや!」
中澤は、この一見ただのかわいい子だが、意外と大胆な後藤が気に入ったらしかった。
「はい!ありがとうございます!」
7 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月10日(水)22時03分23秒
立食バイキング形式の食事を取りに行ってた矢口が中澤のところに帰ってきた。
「裕ちゃ〜ん。この肉おいしいよ〜。・・・。?」
フォークで肉を口に運びながら矢口は中澤の横にいる女性に気づく。
 
「誰・・?」
中澤が楽しそうに一人の女性と話しているのは珍しかった。

「ああ、矢口。この子は後藤真希。おもしろいで。」
「後藤真希一尉です。よろしくお願いします。」

中澤がそれまでのいきさつを話すと、ついつい矢口も笑ってしまった。
「すごいね〜。裕ちゃんに面と向かってそんな事言う人初めて〜。」
「やろ?」
すこし照れる後藤。

「あの〜・・。」
「なんや?」
「階級あるのに・・、裕ちゃんとか・・。」
中澤より階級が下の矢口が『裕ちゃん』と呼ぶのが不思議だったらしく
後藤が尋ねた。

「ああ、プライベートはええんや。だから後藤も『裕ちゃん』でええよ。」
後藤はすこし驚いた。
そんなざっくばらんな人は見たことが無い。

「呼べないですよ・・。」
答える後藤。
「なんや〜。さっきまで大胆だったくせに。よし。命令や。うちのこと『裕ちゃん』って呼べ。」
「はぁ・・。裕ちゃん・・。」
もじもじと答える後藤。
「よっしゃ!」
8 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月10日(水)22時40分32秒
保田と安倍に出てきて欲しい
9 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月11日(木)00時08分26秒
「ごっち〜ん!」
自分を呼ぶ声がして振り向く後藤。
その顔が笑顔になる。
「よっすぃ〜!!」
よっすぃ〜と呼ばれた女性は吉澤ひとみと言う女性だった。

「久しぶり〜!一年ぶりくらいかな〜?!」
仲良く抱き合う二人。

「なんや〜。うち焼もち焼くでぇ〜。」
後藤の背後から中澤が言う。

「あっ!すいません。」
後藤が中澤のほうを向いて謝った。
「ええんよ〜。それより誰やぁ〜?」

後藤が吉澤のことを説明した。
自分と吉澤は高校の同級生であり、今は海上自衛隊と
航空自衛隊で所属は違うが、一緒に女性自衛隊幹部を目指していること、
吉澤がパイロットをしていること等。

「そうなんや・・。ええな〜。同級生とかが近くにいて。」
「はい!」
後藤と吉澤が答えた。

「それにしても中澤さんと会えて光栄です。」
りりしく敬礼する吉澤。

「ええんよ。こんなところで敬礼せんでも。」
「?」
吉澤も中澤のざっくばらんな性格に少なからず驚いたようだ。
そんなやり取りを、にこにこ笑いながら見つめる矢口。
10 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月11日(木)00時09分27秒
そこで後藤が吉澤の後ろに一人のおとなしそうな女性がいるのに気づいた。
「・・?」

「あの・・。石川梨華と言います。」
その声の高さに吉澤を抜かした三人が驚く。

「あっ。紹介します。石川梨華って言って、ついさっき仲良くなりました。」
笑顔で吉澤が石川を紹介した。

「あ・・、あの・・、石川梨華です。来週から第三護衛艦隊の参謀になります・・。」
おどおどして自己紹介する石川。

「へ?第三艦隊の参謀?」
思わず中澤と矢口が見詰め合ってしまった。
「うちらの艦隊じゃん。」
そんな二人のやり取りをよそに後藤が中澤と矢口を紹介した。
「こちらが中澤裕子さん。それから矢口真里さん。」

後藤が二人を紹介して三秒ほどしてから石川が素っ頓狂な声をあげた。
「へ?中澤さんって・・。第三艦隊副司令官の??」
「そや!」
間髪いれず中澤が言った。

「すっすっすっす、すいませんでしたぁ〜!」
顔が真っ赤になる石川。

『ええんかな〜・・、こんな子が参謀で・・。』
疑問に思う中澤だった。
11 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月11日(木)00時10分18秒
「相変わらずのボケぶりね。石川。」
中澤たちが声がした方向を見ると一人の女性が立っていた。
「保田圭二佐です!よろしくお願いします!」

「お?あんたが保田圭か?噂は聞いとるで。」
「ありがとうございます。でも中澤一佐ほどではないです。」
保田も中澤と同じでエリートでないにもかかわらず出世した数少ない
女性幹部の一人だ。
現在は第二護衛艦隊の参謀をしている。

「なんや〜。失礼なやっちゃな〜。今日は失礼な人間ばっかりやな〜。」
中澤は後藤の方を見て言う。
後藤がすこし照れる。

「まあよろしく頼むで。」
中澤と保田の二人が握手する。

「ところで・・。」
吉澤が口をはさむ。
「梨華ちゃ・・、石川とお知り合いなんですか?」

「そうね。あたしと石川は中学校からの仲なの。」
保田は石川と中学校の先輩後輩の仲だったことを説明した。
内気で人見知りをする石川は、学校でいじめられていたのだ。
その石川を助けたのが保田だった。
石川は徐々に保田に対して心を開いていった。
そして内気な性格も直っていった。
もっともそれは『以前に比べればまし』程度ではあったが・・。
高校を卒業する時に
自分の性格を直したいが為に防衛大学校に入学したのだった。
もちろん防衛大学校に行った保田に憧れているという理由もあったのだが
それは誰にもいえなかった。

「ボケてるけど、頭はいいですよ。それはあたしが証明します。」
保田が言う。

「まあ、あんたが言うくらいやから大丈夫やろ。
それにしても・・・、ここには変わり者しかおらんのかいな?」
中澤は自分のことを棚に上げて言った。
12 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月11日(木)00時12分27秒
笑い声を上げる彼女達の裏から声がした。
「あ〜、見てみぃ〜、のの!うちより小さい人おるで!」
「ほんとだ〜。」

「あの〜。身長いくつですか?」
ぽんぽんと背中をたたかれた矢口が振り返る。
そこには自分と同じくらい背の低い童顔な二人がいた。

「はぁ?145だけど・・。」
素直に矢口が答えた。

「やったで。のの。うちの勝ちや!うちより小さいのおったで!」
「よかったですね。」
小さい二人組みがこそこそ話す。

「なんだよ〜!あんたたち!失礼だな〜!」
矢口が怒る。
そこで中澤が三人のやり取りに気づいて言った。
「なんやいまさら。さっき言ったやろ。失礼なやつばっかりやて。」

「すいません!うち!加護亜依いいます!」
「辻希美れす・・。」

「あんたら小さいんやな〜。」
「「はい!!」」
中澤の言葉にすばやく反応する二人。

「でもこの人よりはおおきいです!」
そう言うと加護は矢口を指差した。

「も〜〜!!」
「ええからええから。かわいいやん。こいつら。」
怒り出す矢口をなだめる中澤。

「あ〜!中澤さんや〜!うち奈良出身なんです!」
矢口の後ろにいた中澤を見つけた加護が大声を出した。

「お?うち京都出身や!近いな〜!よろしくな!」
「はい!」
「それにしてもちっちゃいな。」
「うちら戦車のっとります。戦車乗るんは小さいほうがいいんです。」
13 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月11日(木)00時12分58秒
「こら!あんたらまた誰かに失礼なこと言ってない?」
小さい二人組みの後ろからすこしぽっちゃりした女性と背の高い女性が現れた。
「あっ!隊長ぉ〜!」
加護と辻がぽっちゃりした女性に敬礼した。

「ども!安倍なつみと言います!この子らの保護者みたいなもんだべ!」
『べ?』
語尾に『べ』がついて話す女性の出現に、そこにいたみんなが驚いた。
今どき語尾に『べ』を付けて喋る若い女性がいたとは・・・。

「ごめんなさいね〜。この子、田舎の出身だから。」
背の高い女性が場の雰囲気を察知してかフォローを入れた。

「田舎って失礼な!かおりだって大して変わんないじゃん!!」
「なによ〜!」
「なんだべさ〜!」
言い争いを始めた二人に頭を抱える中澤。
『なんなんよ・・。この二人は・・。』
14 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月11日(木)00時26分01秒
なんだか、感動巨編の予感が・・・・

ところで、名無しさん=ま〜さん、でいいのかな?
15 名前:ま〜 投稿日:2001年01月11日(木)00時59分11秒
>>14さん
ありゃま。こりゃ失礼。
普段違う板に書いてるんで、間違えてしまった。
教えてくれてサンキュウです。
16 名前:ま〜 投稿日:2001年01月11日(木)00時59分46秒
「飯田さん!」
そこで吉澤が「かおり」と呼ばれた背の高い女性に声を掛けた。
「あ〜!よっすぃ〜!何やってんの?」
飯田は吉澤の上官にあたり
同じ航空隊でパイロットをしている。

「何やってんのじゃないですよ・・。階級高い人がいるんだから敬礼でも・・。」
「あっ・・。そうね・・。飯田圭織と言います!・・ほら、なっちも・・。」
『なっち』と呼ばれた女性も敬礼する。
「すいませ〜ん!よろしくお願いします!」

『なんなんよ・・。自衛隊には変な女しかおらんのかい・・?』
またも自分を棚に上げて小声で言う中澤に
「類は友を呼ぶ。」
保田が一言。
17 名前:ま〜 投稿日:2001年01月11日(木)01時00分30秒
その後、加護と辻が「りんね」「あさみ」と言う同僚を連れてきたり、
飯田が「平家みちよ」という同僚を連れてきたりした。

フォーマルな立食パーティーは、この13人によって宴会場と化していた。

大笑い、どつき合い、怒鳴りあい。
ホテルの立食パーティーとは思えない騒ぎようだった。

中澤は久しぶりに楽しんだ気がした。

「よっしゃぁ〜!二次会行くでぇ〜!」
「お〜!」
中澤が叫ぶと他の12人が
ノリのいい悪いはあるが、叫び声をあげた。

二次会・三次会・・・。朝まで飲んだ。
そのほとんどの女性達は、翌日にはまたばらばらとなり任務に戻る。
それまでの、せめてものわずかな時間を彼女達は楽しんだ。

「また、このメンバーで飲もうや!!」
すっかり明るくなった空の下で全員が再会を祈って別れていった。

わずか二年後に、彼女達に重い運命が待ち受けているとも知らずに。
18 名前:ま〜 投稿日:2001年01月11日(木)01時52分08秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


それから彼女達は時間の許す限り13人で会った。
会うたびに思い切り飲んだ。
彼女達は自衛官だ。
危険な任務を持っている。
平時とはいえ何時殉職するかわからない。
そのためその日その日を楽しんだ。
特に13人で会ったときは翌日腰が立たなくなるほど遊んだ。
日本中にばらばらに散っている彼女達が全員で会えるのは
年に数回だけだった。
それでも彼女達には充分だった。

「ごっちん〜!」
「裕ちゃ〜ん!」
「みっちゃ〜ん!」
「あいぼ〜ん!」
いつしか彼女達は階級の差を越えてあだ名で呼び合うようになっていた。

そんなある夏の日。
13人が出会ったパーティーから二年後の夏の事だった。
19 名前:ま〜 投稿日:2001年01月11日(木)01時52分48秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「暑〜・・。」

石川県の小松基地。
第6航空団306飛行団の拠点。

「暑い・・・。」
重くて厚いパイロットスーツ。
そのパイロットスーツに身を包んで
平家はパイロット待機室にいる。
そこに二人の女性が入ってきた。

「みっちゃ〜ん。」
彼女に声をかけたのは飯田だった。
「かおり。」

「今日はスクランブル待機でしょ?」
「そうなんや・・。まったく・・、いやんなってまうで・・。」
「今日あたり、来そうですよね。」
ぼやく平家に吉澤が話し掛ける。

クーラーが効いてるとはいえ、パイロットスーツを着ていると暑い。
「そやな・・。」
平家がだるそうに答える。
20 名前:ま〜 投稿日:2001年01月11日(木)01時53分39秒
ここ数ヶ月どうも『北方の大国』の様子がおかしい。
1年前からその国の経済状態がおかしくなった。
それ以来、政権がころころ変わり、また、内乱が起き始めた。

冷戦の終結以来減っていた日本海での正体不明航空機の領空侵犯が増え始めたのもそれからだ。
平家も、飯田も、吉澤も、毎日のようにスクランブルで出撃した。
航空自衛隊の戦闘機が正体不明機に近寄ると、それは帰っていく。
毎日のようにそれ繰り返す。

いつしか『北方の大国』が自暴自棄になって日本に責めてくるのではないかとの憶測が流れ始めた。
それでも国民のほとんどは「だいじょうぶだろう」と思っている。
しかし自衛隊はそうはいかない。
何があるか分からない。
そのためにいつでも待機していなければならなかった。
21 名前:ま〜 投稿日:2001年01月11日(木)01時54分30秒
「どうしたの?いつもの平家さんらしくない。暗いな〜。」
吉澤がいつもと同じように明るく振舞う。
「う〜ん・・、なんか今日はいやな予感がするんや・・。」
「そうだね・・。なんか圭織もいやな予感がする・・。」
なにやら怪しい雰囲気をかもし出す飯田。

「な、なんや〜!圭織!人が落ち込んでるのに〜!」
「そうですよぉ〜。飯田さん。」
「あははは!ごめんごめん!」

「大丈夫だよ。」
「大丈夫だって。」
吉澤と飯田が平家をなだめる。

その時、待機室に放送が入った。
「正体不明機4機!スクランブル!」

「あ〜・・、やっぱりや・・・・。」

「大丈夫だって。いつもどおり!」
「そうそう。気をつけて行ってらっしゃい!」
笑顔で見送る二人に
「へいへい・・。行ってきます・・。」
そう答えてヘルメットを取ると、滑走路に向かって走っていった。

それが二人が見た平家の最後の姿だった。
22 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月11日(木)15時52分28秒
面白いな。
やすいしにはならないの?
23 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月11日(木)17時39分25秒
つーかこれって裕ごま?
どうでもいいんですけど、市井は出ないみたいだね……。
24 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月11日(木)20時00分04秒
>>23
戦死したんじゃない?
25 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月11日(木)20時04分24秒
保田にはいきて欲しいな
26 名前:ま〜 投稿日:2001年01月11日(木)23時09分57秒
>>22さん
ありがとうございます。
今回の小説では、ちょっと無いと思います。
>>23・24
すいません。今回は恋愛物じゃないんで・・。
普段は恋愛物を書くんですけど。
市井は出ないかな・・・、基本は現メンで。
>>25
さて・・。どうしましょうか・・。
27 名前:ま〜 投稿日:2001年01月11日(木)23時11分27秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


中澤の携帯に呼び出しがかかった。
「なんなんや・・。もう・・・。」
携帯に出る。
「ああ・・、ああ・・・。分かった。」
ぶっきらぼうに答える中澤。

非番で舞鶴基地の近くで昼真っから中澤は飲んでいた。
「まったく・・。」
中澤は携帯を切ると手にしていたビールを飲み干した。

「裕ちゃん?どうしたの?」
同席していた、同じく非番の後藤が話し掛ける。
電話の主は矢口だった。
中澤は非番だったが、今日は矢口は非番じゃない。
「ん〜・・。待機やから基地に戻って来いやって。」
不機嫌な中澤。
「まったく確かに今はピリピリしとるけど、酒くらいええやろ・・。」

ビールが空になったグラスをテーブルに置くと中澤は立ち上がる。
「さて・・、帰るかな。」
「え〜・・。まあしょうがないか・・。」
すこしふてくされる後藤。

「またな♪」
「うん♪」

金を払うと中澤は出て行った。
『はぁ〜・・。あたしも呼び出しかかりそうだな・・・。』
後藤がそう思うのと携帯電話が鳴るのは、ほぼ同時だった。
28 名前:ま〜 投稿日:2001年01月11日(木)23時12分04秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「え?出撃なんですか?」
保田は上官に言われた言葉に耳を疑った。

『第二護衛艦隊は佐世保を出港し日本海に向かえ』
それが保田の所属する第二護衛艦隊に出された命令だった。

『戦争でも起きるの?まさかね・・・。牽制するためかな?』
常に冷静沈着な保田でも未来までは
読みきれることができない。

それでも優秀な彼女は着々と出航の準備を整えていった。
29 名前:ま〜 投稿日:2001年01月11日(木)23時13分03秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


北海道上富良野にある陸上自衛隊第二師団駐屯地。
陸上自衛隊主力戦車90式戦車の横で、同僚相手にものまねを披露している加護。


「あいぼ〜ん!」
「あっ!りんねさんにあさみさん!」
りんねとあさみが加護に駆け寄ってきた。

「ハァハァ・・・。待機してろって。」
りんねが加護に言う。

「あれ?ののちゃんは?」
「トイレいっとるで〜。」
「そうなんだ・・。はやく戻ってこないと・・。」
「どうしてなん?」
りんねの言葉に反応する加護。
「何かありそうだよ・・。」
「・・・。」
周りにいる同僚達にも動揺が広がる。
30 名前:ま〜 投稿日:2001年01月12日(金)00時20分01秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


平家は急いでヘルメットをかぶり、パイロットスーツのジッパーを上げながら
自分の機体に向かって走る。

自分が乗るF-15Jイーグルの暖機は終わっている。
タラップを駆け上がってマスクを装着した。
「ほんじゃ、行ってくるよ!」
機体に取り付いている整備員に笑顔で言う。

「グッドラック!」
にっこり笑う整備員に言われると。
平家はうなずいて僚機に「OK」の合図を送る。

滑走路まで出ると、平家は一気にスロットルを上げる。
後ろから押し出されるような感覚。
アフターバーナー付きのエンジンが青い光を放つ。

以前の自衛隊の主力戦闘機、F-4EJの半分程度の滑走距離で離陸する。
31 名前:ま〜 投稿日:2001年01月12日(金)00時21分01秒
平家は一気に高度5000メートルまで駆け上ると
敵味方不明機のいる方向に管制塔に従って向かう。
後ろには僚機が一機ついてくるのを確認する。
『はぁ〜・・。いややな〜。』
平家は先ほどパイロット待機室で感じた
いやな予感を思い出した。

首をふるふる振ってその思いを振り払った。
『大丈夫やん。いつもと同じやし。それに4機程度ならなんとかなるやろ・・。』

管制塔からは敵味方不明機は4機と言っている。
『大丈夫大丈夫・・。』
平家は自分に言い聞かせるように言った。

平家の正面ヘッドアップディスプレーの下にあるモニターが四つの光点を映し出していた。

平家は不明機に交信した。
内容は『貴機は日本の領空を侵犯している』と言うものだった。
それに対する不明機の返事は、
ミサイルだった。
32 名前:ま〜 投稿日:2001年01月12日(金)00時21分42秒
平家は瞬時にミサイルをかわすことに成功した。
平家の体に強烈なGがかかり、パイロットスーツが自動的に
圧力を掛け、平家の下半身に血液が集中するのを遮る。

僚機のほうは、平家ほど幸運ではなかった。
いや、それよりも『腕』が足りなかったのかもしれない。

平家の後方で空中に一つの赤く、明るい花が咲いた。

『まずい・・。』
平家は思った。
「不明機に攻撃を受けた!反撃の許可を!」
管制塔に尋ねる。

数秒後、管制塔からは反撃の許可が出た。
その間にも平家は絶妙の腕で『敵機』の攻撃を回避する。

許可を得ると同時に平家はスティックのボタンを押す。
軽い衝撃と共に、機体下面からAIM−9スパローミサイルが発射される。

数秒の後にどうやら外れたらしいことが平家には分かった。

だんだん肉眼で『敵機』が見えてくる。
平家は気づいた。
33 名前:ま〜 投稿日:2001年01月12日(金)00時22分22秒
敵機は8機いたのだった。
広い日本海でレーダーに写らないのは不可能だ。
そのため、敵機は2機づつでペアを組み、
お互いが接近して2機で1機に見せる技を使っていた。
平家の顔が青ざめる。
『しまった!中東とかではよく使われる技だって、本で読んだのに!』
1対8
勝敗は明らかだった。

それでも平家は必死の反撃をする。
残ったミサイルAIM−7サイドワインダーを全発発射した。
敵編隊の中で、3つの光が見えた。
平家のレーダーから光点が3つ消える。

怒り狂ったかの様に、敵機からミサイルが迫る。
迫り来るミサイルは5発。
平家はそのうち4発をかわした。
しかし最後の1発はかわしきれなかった。

機体が爆発する瞬間、平家の頭に浮かんだのは
あの2年前の夏の日のパーティーだった。
34 名前:ま〜 投稿日:2001年01月12日(金)00時23分26秒
「味方編隊、全滅・・・・・。」
パイロット待機室に放送が入った。

待機していた飯田と吉澤は頭の中が真っ白になった。
「みっちゃん・・・・。」
「平家さん・・・。」
二人は同時に声を出していた。

さっきから感じていた不安はこれだったのか・・。
二人が悟った。
35 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月12日(金)01時10分09秒
う〜ん、続きが気になる・・・

名張の歌姫、日本海に散る・・・
36 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月12日(金)15時40分31秒
エリートの現めんは誰?
37 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)00時09分16秒
どうも、作者のま〜です。
暗そうな話でもうしわけありません・・。
普段は恋愛コメディー物を書くんですけど、
今回はちょっと挑戦ということでおゆるしくらさい。
>>35さん
レスありがとうございます。平家は出そうか迷ったんですけど、
迷った挙句、まっさきに死んでしまいました・・。
>>36さん
エリートですか?そうですね、あんまり考えてなかったんですけど、
まあ消去法で、パイロットしてる平家・飯田・吉澤。
それから後藤ってとこです。
38 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)00時10分00秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


会議室にどよめきが起きた。
防衛出動。
その言葉には重みがある。
その言葉は戦争を意味する。

いままで体験したことの無い事態。
中澤がハンカチで額をぬぐったのは
クーラーの効きが悪いだけが理由ではなかった。
立て続けに、用意されていた水をあおる指揮官もいる。
ベテラン艦長たちが青い顔をする。

「戦争になっちゃうんですか・・?」
横にいた参謀の石川が中澤に話し掛けた。
会議中。そのために私語が厳禁なのは石川も重々承知している。
しかしながら話さずにはいられない。
さすがの中澤も動揺が隠せない。

一人の士官が何が起きたかの説明を求めていた。
そこで中澤と石川の耳に入ったのは
「パイロット平家みちよ戦死」の報告だった。
39 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)00時10分35秒
ガタンッ!!
中澤は思わず椅子を大きな音を立てながら立ち上がってしまった。

石川も中澤も信じられなかった。
彼女が戦死するとは・・。
彼女は中澤と同じでざっくばらん、それでいて優しく、話せば面白い。
その平家が、まっさきに戦死するとは。
中澤はかつて平家に
『みっちゃんは最後まで生き残りそうやな!』
と言った言葉を思い出していた。
横では石川が大粒の涙を流していた。

最後に
「本日、日本と『あの国』とは事実上交戦状態に入った。」
と言う、上官の言葉は中澤には届かなかった。
40 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)00時11分07秒
「裕ちゃ・・・。中澤司令官。防衛出動って本当!!??」
会議に入れなかった副官の矢口と後藤が
息を切らして中澤のもとに走ってきた。

その答えは中澤からは返ってこなかった。
その代わりに二人が聞いたのは
『平家の戦死』だった。


「つまり・・。戦争なんだね・・・。」
後藤の問いに、石川が無言で頷く。
「そうか・・・。」

「みっちゃんの仇やな・・・。」
小さな声でつぶやく中澤の声を三人は聞き逃さなかった。
41 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)01時23分44秒
敵の動きは速かった。
すでに侵攻する準備は整っていたのかもしれない。
一つの艦隊が北海道に向かっていた。

日本も米国も、ある程度の動きは察知していた。
しかしながら、まさか内乱が起きてるような国に、他の国を
しかもわざわざ海を渡ってまで日本に侵攻してくるとは思っていなかった。
明らかに甘かった。

多くの揚陸艦を従えた艦隊が北海道に迫っている。

ただちに北海道、東北を中心とした航空自衛隊・米国空軍の航空機が
空襲に向かう。
もちろんのこと敵も多くの戦闘機を繰り出し反撃する。
しかしながらあまりの敵の多さに、効果的な空襲が掛けられない。

日本近海に空母を伴った米海軍の艦隊がいるが、
なにしろ北海道だ。
牽制の為に近くにいることはいるが、まだ距離がある。

沖縄、グアムを中心とした米海兵隊も出動する。

日本・米国の注意力は北海道に注がれていた。
42 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)01時24分17秒
北海道日本海側沿岸部では、敵の上陸に備えて
陸上部隊と、対艦誘導弾の部隊を集結させている。

上陸しようとする敵に次々攻撃を加えた。

空襲と対艦誘導弾の攻撃により、だいぶ敵の数を減らしはしたが、
めげることなく敵は北海道に上陸してきた。

北海道内陸部でも陸上自衛隊が集結しつつあった。

かつての災害・テロを教訓として、
日本の危機管理も少しは上達していたかもしれない。
警察、自衛隊、各自治体で民間人の退避を始めていた。
それでも大きな混乱が起きた。

役人、警官、自衛官でも、逃亡する者が相次いでいる。
その中でも、勇気を奮って現地にとどまり、
避難民の誘導をする。
内陸へ。
また、本州へ。
43 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)01時26分03秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「出撃だって・・。あいぼん・・。」
辻が顔を青くして加護に話し掛ける。

「だいじょうぶやて!うちがおる!」
「ははは・・。」
相変わらず元気な加護に対して、辻が引きつった笑いを見せる。

「しょうがないな・・。よっしゃ!」
どこから持ち出したか分からないが、加護が白のスプレー缶を出した。
「見てな〜。」
加護は辻の戦車に大きく『のの専用』と書いた。
「ちょっ・・・、あいちゃん・・。」
「どやっ!かっこええやろ!」
おろおろする辻に加護が胸を張る。

「これじゃ目立っちゃうよ・・。」
「大丈夫やて!よ〜し。そんなら・・。」
加護は自分の戦車に取り付いて
『あいぼ〜ん専用』と書く。
「どや!」
「ぷっ・・!」
思わず辻が笑い出す。

「やっと笑ったやん!」
加護が辻の頭を背伸びしてなでた。

「ありがとう・・。あいちゃん。」
44 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)01時26分35秒
「なにやってんの・・。出撃だってのに・・。」
りんねとあさみがやって来た。
彼女達はパートナーで一緒の戦車に乗っている。

「見てみい!かっこええやろ!」
『のの専用』『あいぼ〜ん専用』と戦車に書かれているのを見て
驚きというよりも、あきれた顔をするりんね。
「まずいんじゃない・・。目立つし・・。」
あきれるりんねに対して、あさみが予想外の反応をした。
「かっこいい・・・♪」
「はぁ?」
思わず声を上げてしまうりんね。

「あたしたちもやろうよ!」
「へ?」
「やろやろ!」
呆然とするりんねに対して、やるき満々のあさみ。

数分後、りんねとあさみの戦車には『北海道と馬の絵』が出来上がっていた。
「かっこいいじゃん・・・!」
「かっこええ・・。」
にま〜っと笑うあさみ。
「けっこう絵心あるんだね・・。しらなかった・・。」
45 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)01時27分32秒
「なにやってるべさ?」
これからピクニックにでも行くかのような雰囲気の四人を見つけた安倍がやって来た。

「あっ!隊長ぉ・・・。やばっ!」
加護が自分の戦車にした『悪戯書き』を隠そうとした。
辻の戦車に落書きしたのも加護なのだが、
自分の戦車の落書きだけを隠そうとするあたりが加護らしい。
もちろんのこと、加護の小さい体で
『あいぼ〜ん専用』の文字は隠せるわけは無いのだが。

「ありゃりゃ?なにかな〜これ?」
安倍が戦車の悪戯書きを見つけた。
「なになに?『あいぼ〜ん専用』?『のの専用』?何これ?」
「い、い、いや・・。すいませ〜ん!直ぐ消します!!」
加護が必死に謝る。
それに対する安倍の反応は意外だった。

「いいじゃん・・。」
「は?」
「いいな〜それ!」
「は?」
「なっちも書こうかな・・。」
「へ?書くんでしたら手伝いますぜ!!」
加護がすかさず言う。

「あの〜・・。怒らないんですか・・?」
りんねが安倍に問いただす。
「怒る必要ないべ!いいっていいって!自分が乗るやつでしょ?」
「はあ。」
「わかりやすくて良いや♪」
「はぁ・・・。」
46 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)01時28分23秒
「じゃあ、もうすぐ出動するから。よろしく頼むべ!!」
「はい!」
「じゃあね〜。」
そう言うと、安倍は踵を返して去っていった。


『あれくらいかまわないべ・・。死なないでいてくれれば・・。』
『なっちはこれからみんなに死ねって命令するかもしれないんだよ・・・。』
きゃいきゃい騒ぐ四人を背にして、
大粒の涙を流す安倍だった。
47 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)01時29分33秒
それから一時間とたたないうちに、
安倍率いる、加護たちの戦車大隊に出動命令が下った。
上陸してきた敵の陸上部隊を迎え撃つのだ。

北海道には日本に数少ない大きな平原がある。
戦車戦に適した地形だ。
もっともそれは敵にも言える。
本来ならうまく地形を利用して、反撃するところなのだが、
なにしろ時間が無い。

彼女達が乗る90式戦車はこういった平原での戦車戦に適した戦車であった。
重装甲。強力な火力。
逆を言えば、山岳地帯が多い日本では使用し辛い戦車ではあるが。
しかしながら彼女達に選択の余地は無い。
与えられた兵器で最大限の効果を上げるように努力するのが
彼女達の仕事だった。

もちろん日本国、日本国民とその財産を守るために。
そのために彼女達は命をかける。

陸上自衛隊が誇る第二師団が各駐屯地から集結した。
48 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月13日(土)12時44分23秒
安倍はエリートじゃないの?
49 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)17時10分18秒
>>48さん
そうですねぇ〜。エリートかな?
うん。たぶんそうです。ハイ。(w
50 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)17時10分50秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


第二護衛艦隊は舞鶴に近づいていた。
佐世保からの道のりで、何度か空襲を受けた。
それでも海上自衛隊が誇る抜群の対空戦闘能力で次々に敵機を打ち落としていった。

『入港するのかな・・?』
艦橋で司令官の後ろに立ちながら
保田は考える。
『入港しないとまずいような気がする・・。』
しかしながら、艦隊は燃料と弾薬をかなり消費している。
燃料と弾薬の尽きた艦艇などただの鉄の箱に過ぎない。

「司令官。入港したらいかがですか?」
保田が司令官に助言した。
51 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)17時11分31秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


そのころ日本海で哨戒中だった第三艦隊は
敵の航空機と交戦中だった。

第三護衛艦隊の編成は護衛艦8隻からなっていた。
旗艦はいささか旧式ながら『はるな』
これには第三艦隊司令官が乗船し、艦隊の指揮をとる。
いっぽう中澤は艦隊副旗艦とも言うべき『みょうこう』で副司令官の役割を果たす。
副官の矢口や、参謀の石川も『みょうこう』に乗船していた。

中澤の乗る『みょうこう』は抜群の対空戦闘能力を誇る。
イージスシステムと呼ばれるレーダーが敵編隊をキャッチすると
各艦にデータを転送し、一番効率のいい対空戦闘を自動的におこなう。
一度戦闘に突入すると人間はほとんどすることが無い。
完全に機械化された艦艇。
その艦艇からつぎつぎと対空ミサイルが発射される。
敵編隊は対艦ミサイルを発射する間もなく撃墜されていく。
52 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)17時12分06秒
「楽勝ですね・・。」
石川がつぶやいた。

中途半端な空襲で自衛隊の艦隊がやられるわけがない。
そうでなくても海上自衛隊の対空戦闘能力は世界有数といわれている。
にもかかわらず敵は少数の航空機により波状攻撃をかけてきていた。

「でも・・。おかしいですよね。」
石川が中澤に問いかける。
「うちもそう思うで・・。やられるのが分かってて来てる・・。」
「気になりますよね。」
「まさか・・、罠?」
矢口が言う。
『敵機に気を取られているうちに・・。下か?!』
中澤が気づいた。

「矢口!旗艦に連絡や!潜水艦に注意するべきだって!」
中澤がそう言った瞬間だった。
旗艦のほうで大音響と共に大きな水柱が上がった。
53 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)17時12分35秒
うかつだった。
敵編隊に気を取られているうちに忍び寄った敵潜水艦が攻撃してきたのだ。
旗艦である『はるな』が真っ二つに折れ、
前半分後ろ半分がそれぞれゆっくりと沈んでいく。

護衛艦に限らず、近代戦闘艦艇は防御が弱い。
迎撃能力・攻撃能力は強力なのだが、
装甲は無いに等しい。
そのため一度被弾するともろいのだ。

また一隻、護衛艦が敵潜水艦の餌食となる。

「まずい!」
旗艦が真っ先にやられたのは痛かった。
指揮系統がばらばらになる。
それぞれの護衛艦が統制を乱して敵潜水艦を探す。

中澤は瞬時に判断した。
「うちは副司令官の中澤や!いまからうちが指揮をとる!言うこと聞けよ!!」
ひどく乱暴な言い方だったが、いちいち言い回しを考えている余裕など無い。

隊列を乱していた味方護衛艦群に規律が戻る。
中澤はてきぱきと指示を出した。
対空戦闘は『みょうこう』に任せて、他の艦は潜水艦を探すようにした。

最後尾にいた護衛艦が敵潜水艦を発見し、
これを攻撃して撃沈した。
54 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)17時13分34秒
やっとの思いで敵潜水艦を撃沈したものの
第三艦隊は旗艦を含めて2隻の護衛艦を失っていた。

作戦目的も無く出撃したのも痛かった。
敵艦隊が出てきているわけでもなく、
防衛するシーレーンがあるわけでもない。
にもかかわらず、司令官は出撃命令を出した。
その結果が2隻の護衛艦の損失だった。

「帰るか・・。」
「帰るんですか?」
中澤の判断に
「そや、このまま日本海をうろうろしていてもしょうがあらへん。
いったん帰って、ミサイルと燃料を補給したほうがええと思う。」

「そうですね・・。私もそう思います。」
石川が答えた。
「よし。とりあえず沈んだ味方艦の乗組員を救助したら寄港するんや。」
こうして第三艦隊は味方乗組員を救助すると
舞鶴に戻ることになった。
55 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)22時51分03秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


保田が所属する第二艦隊に
第三艦隊が旗艦を失って、後退しているという情報が入った。

「救援に行く!」
保田の上官である艦隊司令官が言った。
「えっ!?」
保田は耳を疑った。
燃料も弾薬も欠乏しつつある。
味方を援護しているどころではない。

「司令官!まず先に補給をしたほうが良いと思われます。」
保田は思わず進言していた。
それに対する司令官の返事は保田の考えとは正反対だった。
「いや。まず味方を救出しないと!」

確かに味方を救出する努力と勇気は必要かもしれない。
しかしながら、それは自分の艦隊が戦闘能力があってこそだ。
このまま進撃しても、いずれ弾薬が切れる。
それに第三艦隊は大丈夫のはずだ。
なにしろ中澤たちがいる。
彼女達なら、いかなる危機に陥っても
切り抜けられると保田は信じている。
「第三艦隊は大丈夫です。中澤副司令なら切り抜けられます。」
56 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)22時51分42秒
「なにを根拠にそんなことを言う?!」
司令官は自分の考えを否定されたために不機嫌になっているようだった。
「根拠・・?」
確かに根拠は無い。
ただ保田が信じているだけだ。
それにしても、弾薬に不安がある。
「しかし!弾薬が不足しそうです!」
思い切って保田は言う。

「大丈夫だ!」
司令官はただそれだけしか答えなかった。
もはや感情的になっている。
「なにが大丈夫なんですか?!それこそ根拠を教えてください!」
保田も半ば、むきになっている。
しかしこの保田の発言は司令官の神経を逆なでしただけだった。
「だまれ!女のくせに!!」

「・・・・・・・・。」
保田は黙ってしまった。
『それをいっちゃあ、おしまいよ・・。』

『それにしても、石川たち・・。大丈夫かな・・。』
57 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)22時52分26秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


中澤が司令官代行となって後退してくる第三艦隊に
第二艦隊から連絡が入った。
『我、援護に向かう』

「援護に来てくれるんはありがたいけど、そんな余裕あるんかね?」
中澤は矢口に問い掛けた。
「たぶん無いと思います・・。」
「そやろ・・。圭坊はどうしてるんやろ?」

「それから・・。矢口。もう敬語使わんでええで。めんどうやから。」
『圭坊・・。』
58 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)22時53分13秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


中澤の不安は的中していた。

度重なる敵の空襲により、対空ミサイルが底をつき始めた。
『まずい・・。』
保田は思う。
どんな知力を用いても、
どんな精神力によっても、
底をついたミサイルを増やすことはできない。

「ミサイルの残弾は、あと一回戦ぶん程度しかありません・・。」
一人の幕僚が悲壮な表情で報告する。
ミサイルが無ければ、いかに優秀なシステムも役に立たない。

『だからあのとき補給してれば・・。』
そう思っても口には出せない。
その時、司令官の目に保田が映った。
「・・。何か言いたそうだな?」
「いえ・・。」
本当は言いたいことなど山ほどある。
それでも上官にそんなことを言うわけにはいかない。

「きさまがさっき、もっと強く進言していればな・・。」
『はぁ?』
保田は司令官の言葉に耳を疑った。
あれだけ人の言うことを否定しておいて、
いまさらそれは無いだろう。

『はぁ〜、あたしは上官に恵まれなかったね・・。』
唇を噛み締める保田。
59 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)22時54分11秒
「敵機来襲!大編隊です!」
オペレーターが悲鳴をあげた。
充分なミサイルがあれば迎撃できたであろう。
しかし、足りない。

各護衛艦が最後の対空ミサイルを発射する。
そのすべてが命中しても、すべての敵機は落とせない。

発射したミサイルは、敵編隊の半数近くを叩き落した。
そこまでだった。
敵編隊が対艦ミサイルを発射する
レーダーに映る無数の光点。
敵の対艦ミサイルを打ち落とすためのミサイルももはや残っていない。

『あたしもいよいよここまでかな・・。』
接近する対艦ミサイル。
各艦のバルカンファランクスが火を噴く。
次々とミサイルを叩き落す。

しかしそれもすべてのミサイルを打ち落とすことはできなかった。
大音響と共に
一番敵に近かった護衛艦が爆発する。
次々にその護衛艦にミサイルが命中する。
最後にひときわ大きな爆発が起きると
護衛艦は消えていた。
60 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)22時55分08秒
一隻減ることは、それだけ防御砲火がへる。
それに被弾率も高まる。
ふたたび他の護衛艦が被弾する。
爆沈。

とうとう保田の乗艦する『こんごう』にもミサイルが命中した。
「うわっ!」
艦がぐらりと大きく揺れると
保田はバランスを崩して倒れそうになる。
それでもなんとか耐える。
もう一発が命中する。

「お・・・。」
こんどは耐えられずに床に倒れこむ。
保田は冷静だった。
『みんな・・、無事かな・・・?』

もう一度大きな爆発。
『石川・・。あんたは大丈夫だよ。
あたしより上官に恵まれてるからね・・。生き残るんだよ・・。
じゃあね、みんな・・。先に帰ってるからね・・。』

保田がそう思った瞬間、大音響と共に
保田の人生は停止した。
61 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)22時57分57秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「第二艦隊、通信途絶・・。」
オペレーターからの報告が入る。

「・・・・・・・・・。」
全員が黙り込んでしまった。
石川は目から大粒の涙がこぼれている。

「石川・・。あんた特に圭坊と仲良かったもんな・・。」
「・・・・。」
「辛いのは分かるで・・。でもうちらも辛いんや・・。」
中澤の目も赤い。
もちろん矢口もだ。
中澤はそっと石川を抱きしめる。

「救出に向かおう・・。」
62 名前:ま〜 投稿日:2001年01月13日(土)22時58分41秒
一時間後、保田たちの第二艦隊が通信を立った場所に来ていた。
そこには何も残っていなかった。

ただ、かつては艦艇だったと思われる破片が波に彷徨っているだけだった。

「圭坊・・・。」
「保田さん・・。」
「圭ちゃん・・。」
艦橋で三人がそれぞれつぶやく。

もちろん三人だけではない。
他の乗組員も、また他の護衛艦でも同じような景色が見られた。

同期、友人などが第二艦隊にいた者も多かった。
全員が無言だ。

「全員。第二艦隊の乗組員に敬礼。」
中澤が命令すると、すべての乗組員が非の打ち所の無い敬礼をする。

「帰るで・・・。」
63 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)00時27分18秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


北海道では陸上自衛隊と敵上陸兵力との戦闘が始まっていた。

敵の作戦はいつも決まっている。
ロケット弾や長距離砲を耕すように撃ちまくる。

兵力は互角、装備においても引けは取らない。
異なるのは実戦経験だけだ。
両軍は正面から激突した。

敵も味方もまずは長距離砲によって攻撃する。
日本本土にもかかわらず
制空権は完全に日本にあるわけではない。
ひっきりなしに敵機が飛んでくる。

味方も必死に迎撃するが、なんとも数が少ない。
米空軍の援軍まちといったところだ。
ウェーキーや、グアム経由でぞくぞくと日本に援軍が到着しつつある。
それでもまだ絶対数が足りない。
64 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)00時27分53秒
大音響とすさまじい衝撃。
安倍の率いる戦車大隊は敵の長距離砲撃に耐えていた。
こちらも敵軍に向かってMLRS等のロケット弾を打ち込んでいる。
自衛隊はやや小高い丘の上に陣取っていた。

敵の長距離攻撃が一時やんだ。
安倍は悟った。
『来るべ・・。』

「戦闘準備。」
安倍が命令を下す。
指揮下の戦車が動き出す。
もちろん『のの専用』『あいぼ〜ん専用』『北海道と馬の絵』が
描かれた戦車も続々と前進を開始した。

その直後、遠くに砂煙を上げつつ前進してくる戦車団が見えた。
安倍が命令を下すと、自衛隊の戦車は
二手に分かれて敵軍を包囲するように動く。
65 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)00時28分34秒
加護たちは、安倍と共に敵に突撃する。
次々と敵戦車を破壊していくが、
同様に味方の戦車も破壊されていく。
ほぼ互角の戦いを繰り広げる。

「右や!」
「左!」
「後退なのれす!」
右に、左に、敵味方の戦車が入り乱れる。

突撃を開始して10秒と経たないうちに
辻の戦車が敵戦車を一両破壊する。

加護は辻の戦車についていくことにした。
二両で一緒ならば、大丈夫かもしれないという判断だった。
加護の戦車の脇で砲弾が土煙を上げる。
ねらいを定めると加護も敵戦車を一両破壊した。

一方の辻は他の戦車にねらいを定めると
120ミリ砲を発射する。
敵戦車の前面に大穴が開く。
ぶるっと、悶えるように敵戦車が震えると大爆発する。
66 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)00時29分06秒
辻は撃ちまくった。
面白いように敵戦車を破壊する。
再び狙いを定めると、その戦車に引導を渡す。
訓練で今まで見せたことが無いほどの抜群の命中率。
もともとセンスはある辻。

そのセンスは自信に繋がる。
しかしこの時の辻は完全に、自信が慢心に変わっていた。
67 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)00時29分51秒
辻は波に乗っていた。
いくらでも敵を撃破できる気がしていた。
誰でも一度は経験があるだろう。
何でもできる。いくらでもいける。
そんな気がするとき・・。
調子に乗って、我を忘れてしまうとき・・・。
辻の精神状態は、まさにそんな状態だった。

「行くのれす〜!」
少し舌っ足らずの辻の声が戦車内に響く。
120ミリ滑空砲が火を噴くと
また一両敵戦車を破壊する。

「のの・・。調子に乗りすぎやで・・。」
加護がつぶやいた。

明らかに辻の戦車は味方の戦車団から突出していた。
危なすぎる。
加護が叫んだ。
「のの!危ないで!!」
しかし、乱戦の中、度重なる振動が加護の無線を使用不能にしていた。
「こんな時に!!」
68 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)00時30分48秒
辻の戦車がまた一両、敵の戦車を破壊した。
そのまま他の敵戦車に目標を定めると、辻は追う。

目標の敵戦車を破壊した直後、
その破壊された戦車の後ろから、自分の戦車に確実にねらいを定めた
敵戦車の存在に、辻が気づいた。
すでに遅かった。
「!!」
声にならない悲鳴をあげる辻。
自分の失態を悟る。

敵戦車の砲塔に閃光がひらめいた瞬間、
辻の戦車の前面に大穴が開いた。

0.5秒後、辻の戦車は跡形もなく吹き飛んでいた。
69 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)00時31分42秒
「のの〜〜〜!!!」
加護は一部始終を見ていた。
おそらく、そうなるであろうことも予想がついた。
予想ができただけに、それを止める事ができなかった自分が悔しい。

「・・、よくも・・、よくもののを・・!!!」
加護の戦車が一気にスピードを上げて、辻をこの世から消し去った敵戦車を追う。
出しうる最大の速度で追う。

加護の戦車の周りで砲弾が炸裂する。
加護はまったく気にすることなく突撃した。
ねらいを定めると、
「発射!」
加護は叫んだ。
砲弾は誤ることなく、辻を葬り去った戦車に命中した。
大爆発する敵戦車。

「やったで・・、のの。ののの仇は討ったで・・。」
一瞬全身の気が抜けた加護。
自分の戦車が左側面から他の戦車に狙われているのに、加護は気づかなかった。

敵戦車の砲塔に閃光がひらめく。
加護を激しい衝撃が襲う。
70 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)00時32分14秒
加護は思った。
『あかん・・、やられた・・・!』
目をつぶる。

目を開けてみると、加護は自分が五体満足なのに気づいた。
「あれ・・?」
衝撃が襲ってきた方向を見て、加護は何が起こったか理解した。

加護の戦車の横で、味方の戦車が煙を上げていた。
側面に『北海道と馬の絵』が描いてある戦車。
見覚えがある絵。
直後、その戦車は爆発した。

「りんねさん・・、あさみさん・・・?」
71 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)00時33分14秒
りんねは見ていた。
辻の戦車が破壊され、その仇を討つべく突進する加護を。
「あさみちゃん!あいぼんがやばいよ!」

あさみの操縦により、りんねの戦車が加護の戦車を追う。
りんねは見た。
加護が辻の仇を討とうとする瞬間を狙っている敵がいる。
「あさみちゃん!左!!」

あさみはこの時、理解していたのかもしれない。
自分の身にこれから何が起きるのかを。
りんねとの付き合いは長い。
口で言わなくても分かる。

あさみは加護の左に、自分達の戦車を操る。
加護が辻の仇を討った直後、りんねが言った。
「あさみちゃん。ごめんね・・。」
「分かってるって・・。いいよ・・・。」
あさみが答えた瞬間、
閃光と激しい衝撃が二人を襲った。


「りんねさん・・?あさみさん・・・?」
加護は一瞬理解できなかった。
いや、正確には理解しようとしなかった。
理解したくなかった。
りんねとあさみが自分をかばって戦死したことを。

「・・・・、い、い、いやぁぁぁぁぁ!!」
72 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月14日(日)00時40分31秒
なんか・・・
73 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月14日(日)01時47分11秒
続きに期待〜

ところで航空の飯田、吉澤は何に乗るのかな?
まさか二人でファントムとか・・・・
74 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)02時04分00秒
>>72
なんか・・暗い話でしょ・・。
ちょっと一度こういったものを書いてみたかったんで。
>>73
いや、F-15に乗ります。
75 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)02時04分54秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「テイクオフ!!」
ここ数日で何度聞いたか分からない管制塔からの指示で、
飯田と吉澤のF-15のペアが滑走路をける。
今日だけでも3回目の出撃。
出撃しては戻り、また出撃・・。
休む暇も無い。

飯田は思い出す。
出撃する前に整備員が言った言葉。
『すいません・・。燃料補給が間に合いませんでした・・。半分も無いです・・。』

「帰って来れるかな・・・。」
飯田が独り言を言った。
「帰れますよ。って言うか、帰ってきましょうよ。」
多くの仲間が戦死している。
「いままで帰って来れたんですから。」
「そうだね・・。」
吉澤の励ましの言葉にけなげに答える飯田。
しかし飯田は分かっていた。
空戦が長引けば燃料が足りなくなることを。
76 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)02時06分16秒
「敵機発見!」
隊長機のレーダーが敵機を捕らえた。
その数は約30機。
一方の味方機はわずかに6機。
それが第6航空団306飛行隊の最後の6機だった。

各機がおのおのの目標を定めると、
ミサイルを発射した。
合計24発。

AIM-7スパローはセミアクティブホーミングミサイルだ。
自機のレーダーが誘導しなければならない。
しかしながら敵のミサイルが迫る。
チキンレース。

1機、また1機、味方のF-15がミサイル誘導をあきらめて
機体を翻す。
得てして、こういう時は逃げたほうが負けだ。
飯田と吉澤は反転しなかった。

反転した4機のうち、3機が敵のミサイルに捕らえられて、空中に華を咲かせた。

その間にも、味方のミサイルが敵の戦闘機を打ち落とす。
77 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)02時06分56秒
敵機は半減していた。
味方も半減している。
しかしながら数が違う。

両軍の編隊が接近して、ドッグファイトに入った。

「くっ!」
吉澤がスティックを引くとGがかかる。
その強烈なGに気を失いそうになりながらも、
必死にスティックを操った。
うまく敵ミサイルをかわすと、
敵の戦闘機にサイドワインダーミサイルを叩き込む。

一方の飯田も、Gに耐えながら20ミリバルカン砲を敵機に打ち込む。
ハイテクな戦闘機は、人間に耐えうる最大限の苦痛をパイロットに与えた。

二人とも何機の敵機を打ち落としていたか、もはや分からなくなっていた。
78 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)02時07分28秒
敵編隊は去っていった。
敵にとっては、損害を考慮する必要があまり無い。
日本の自衛隊の方が圧倒的に数が少ないからだ。
少しづつでも数を減らせば、敵にとっては有利になる。

「帰っていった・・・。」
「ふぅ・・・。」
飯田と吉澤はため息をついた。
パイロットスーツは緊張のための汗で完全に湿っている。
結局のところ、味方は二人しか残らなかった。

「帰りましょう・・・。飯田さん・・・。」
吉澤が飯田に話し掛ける。
返事が無い。
「飯田さん!?飯田さん!?」
「大丈夫・・・。」
やっと飯田から返事が返ってきた。

「びっくりしましたよ〜。怪我でもしたのかと思っちゃいました。」
「怪我はしてない・・。でも・・。疲れた・・。」
「そうですね・・。疲れましたね・・。帰ってシャワーでも浴びましょう・・。」
パイロットスーツのジッパーを少し下げて、パタパタ扇ぐ吉澤。
しかしながら飯田からの返事は無い。
「飯田さん・・?」
79 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)02時08分04秒
「帰れない・・。」
「はぁ?」
飯田の返事に吉澤が素っ頓狂な声を上げる。

「帰れないの・・。燃料が無いの・・。」
「へ・・?さっき補給したんじゃ・・?」
「間に合わなかったの!!」
飯田が声を荒げた。
激烈な空中戦が、彼女の機体の燃料を多量に消費させていた。

「そ、そ、そんな・・。」
どうしていいか分からない吉澤。
「そ、そうだ!脱出してください!パラシュートで!」
「・・・・。」
飯田からは返事が無い。

「いい・・・。」
「何言ってるんですか!!!一緒に帰りましょうって約束したじゃないですか!」
「ごめんね・・。あたしもう疲れちゃった・・・。」
飯田のコクピットの燃料計の針は『EMPTY』を指していた。
80 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)02時08分42秒
「ごめんね・・。ごめんね・・。」
涙声であやまる飯田。
「飯田さん!!飯田さん!!」
吉澤の悲鳴に似た呼びかけは飯田の耳に届かなかった。

がくっと飯田の機首が下がる。
角度がだんだん急になってくる。
「飯田さん!!飯田さん!!!」
必死に飯田の機体を追う吉澤。
海面が迫る。

「ごめんね。よっすぃ〜・・。みんなに伝えて・・。かおりは頑張ったって・・。」
「いやです!そんなのいやです!飯田さん!!」
そう言った直後、飯田の機体は海面に激突した。


「いいださぁ〜ん!!!」
吉澤の耳で飯田の最後の言葉が何度も何度も繰り返された。
『ごめんね・・・。』

海面では大きな波が、飯田の存在した跡をかき消していた。
81 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)02時09分21秒
背後に敵編隊が再び迫っていた。
吉澤のレーダーが悲鳴を上げる。
レーダーが映し出す光点の数は先ほどの敵の倍はいた。

「いいださん・・。いいださん・・・。うわぁぁぁぁ!!」
普段は仲間にクールと言われている吉澤。
その綺麗な顔は、鬼のような形相になっていた。
もはや冷静な吉澤ではない。

機体を翻すと、背後に迫っていた敵編隊に最大速力で突撃していく。
管制官の『逃げろ』という言葉は吉澤の耳に届かなかった。

数十倍の敵機に突撃する吉澤。

日本海の空に一輪の華が大音響と共に咲いて散った。
数多くの道連れと共に。
82 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月14日(日)03時51分41秒
はあ・・最近なにを見ても泣いちゃいますよ・・・
加護には3人の分まで生き抜いてほしいです。
83 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)14時23分24秒
>>82さん
ありがとうございます。
久しぶりに泣けるものを書いてみようと思って、
思いつくままに書いてます。
84 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)14時24分28秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「よっすぃ〜・・?」
「どうしたんや?」
北のほうを見て一人つぶやく後藤に中澤が声をかけた。

「ん・・。なんでもない・・。なんだかよっすぃ〜に呼ばれた気がして・・。」
後藤の言葉に不安を感じながらも中澤は明るく振舞った。
「なんや?赤い糸かなにかか?ええのぉ〜。」
「そんなんじゃないって!!」
後藤がむくれる。

「よかった!いつものごっちんに戻って。」
「も〜・・。」

「裕ちゃ〜ん!行くよ〜!」
中澤の背後から大きな声が聞こえる。
矢口だ。

「それじゃあな。ごっちん。」
「うん・・。帰ってきてね。裕ちゃん・・。やぐっつあんと梨華ちゃん連れて・・。」
「あたりまえやろ!うちが今まで帰ってこなかったことあったか?」
「そうだね・・。うん!」
「ごっちんも危ないとこには近寄らんようにな。」
わしゃわしゃ後藤の頭をなでる中澤。
中澤の言葉は後藤にとって嬉しかったが、
戦争中に自衛隊の人間に向かって言うセリフではない。

「あはっ!」
思わず笑う後藤。

「じゃあな!」
「うん!」
去っていく中澤の背中が遠く見えた。
85 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)14時25分50秒
中澤は旗艦『みょうこう』の艦橋から目の前に広がる海を見る。
目の前の海面には海上自衛隊の獰猛な護衛艦が軒を並べていた。
『これがうちらの最後の航海になるかもしれへん・・。』
一人つぶやく。

「出港準備整いました。」
艦隊航海参謀の石川の高い声が艦橋に響く。

その声を聞いて中澤は静かに命令を下した。
「出港・・。」

「行くで、矢口。石川・・・。ぜったい帰ってこような・・。」
「うん!」
「はい!」
二人が答える。
二人も理解していたかも知れない。
帰って来れないかもしれないことを。
86 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)14時27分43秒
艦橋で中澤は報告を受けた、
飯田や吉澤の所属する飛行隊が全滅したことを。
『さっきごっちんが感じたのは、このことやったんか・・。』
保田も帰ってこなかった。
安倍たちの安否もまだ分からない。
『こんな戦い・・。はよ終わらせたい・・・・。』


敵は本腰を入れたようで、
とうとう大軍をもって本格的に日本本土に侵攻すうようだ。
米軍の援軍が航空部隊を除いて遅れているため、
一気に日本を占領し、既成事実を作るつもりらしい。
北海道の上陸支援をした艦艇まで合流し、
揚陸艦、輸送艦、それに巡洋艦、駆逐艦、フリゲート艦等、
30隻以上の艦艇を以って侵攻してきた。

中澤たちの第三護衛艦隊はこれを迎え撃つために出撃する。
わずか6隻の艦艇、しかも手負いの艦隊で・・。

第一護衛艦隊は太平洋で米艦隊と合流、
第四護衛艦隊は九州近海でシーレーンの護衛にあたっている。
韓国軍も国境情勢が微妙で動けない。

第三護衛艦隊は出港した。
目標は敵上陸予想地点の新潟沖。
87 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)14時28分28秒
「やっぱり新潟沖ですか?」
石川が尋ねる。
「そや。首都東京を突くなら新潟からが最短距離や。」
「そうだね・・。」
矢口が答える。
「日本海は仮想敵が多いのに、防御が薄いんや・・。
うちなら、新潟近辺に上陸する。」

中澤はそのまま横滑り的に司令官になっていた。
いまさら司令官を変える時間的余裕もはない。
88 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)22時48分31秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


加護は突撃を続ける。
辻が、りんねが、あさみが命を落とした。
加護はすべて自分のせいだと思っていた。
まるで自分を撃ってくれといわんばかりに
敵の真っ只中に突っ込む。
敵を見かけたら片っ端から砲弾を叩き込んだ。
命中しようがしまいがかまわない。
完全に逆上していた。

その目の前に一両の味方戦車が現れた。
「?!」
安倍の戦車だった。

加護はようやく冷静さを取り戻した。
ふと気づくと、敵の戦車はほとんどいなかった。
89 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)22時49分07秒
安倍率いる戦車大隊は集結していた。
数はだいぶ減っている。
敵は必ずまたやってくはず。
安倍は戦力の建て直しをするつもりだ。

停車した戦車から加護が降りてきた。
彼女は安倍の姿を見つけると、
目を真っ赤にして駆け寄ってきた。
「安倍さ〜ん・・・!!」
思い切り抱きついた。
安倍の胸に顔をうずめる。

「安倍さん・・!うちが悪いんです!
うちのせいで、ののもりんねさんもあさみさんも
みんな死んじゃったんです・・!!」
安倍は大泣きする加護の頭を優しくなでながら言う。
「加護は悪くないよ・・。誰も悪くない・・。戦争がいけないの・・。」

「えっくえっく・・・。」
加護の嗚咽は止まらない。
「しっかりしな・・。」
90 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)22時49分43秒
「みんな加護の涙なんて見たくないよ・・。だから泣き止んで・・。お願い・・。」
安倍の説得によって、やっと涙が止まる。
「はい・・・。わかりました・・・・。」

「元気出して!ね!」
笑顔で安倍が言うと、
やっと加護の顔に笑顔が戻った。
ぎこちなく、目を真っ赤にした笑顔だったが、
しっかりした笑顔だった。

「これからもよろしくね。」
「はい!」
安倍と握手を交わすと、加護は再び自分の戦車に戻っていった。
91 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)22時50分46秒
輸送部隊から燃料弾薬の補給を終えたちょうどその時、
偵察部隊から再び敵戦車団が迫っているという情報が入った。
安倍が命令を下すと、すべての乗組員が自分の戦車に乗り込む。
もちろん加護も自分の戦車に乗り込んだ。

敵の戦車団が平原の向こうから現れたとき
安倍は自分の目を疑った。
数が味方の倍ほどいる。
どうやら敵は主力をぶつけてきたらしい。
安倍は決意した。
「後退する!」
問題は逃がしてくれるかどうかだ。

敵戦車団は全速で迫ってくる。
『まずいべ・・・。』

敵の砲弾が次々に付近に命中してくる。
まだ少し距離があるために、ほとんど命中してはいない。
92 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)22時51分36秒
このままでは後退もできない。
やむを得ず反撃する。

安倍の戦車が、加護の戦車が、すべての戦車が反撃に出る。
再び戦車どうしの乱戦が始まる。
基本的には味方の援軍がくるまで耐えればいいのだが、
これだけ数が多いとそうもいかない。

その時、安倍の戦車が被弾した。
「やばっ!」
キャタピラがやられた。
安倍の戦車は動けなくなってしまった。
そんな安倍の戦車を見た敵戦車が安倍を狙う。
「まずい!!」

安倍を狙っていた戦車が突如爆発した。
「へ?」
隣に加護の戦車がいた。
「加護ちゃん・・ありがとう!」
しかし、安倍は分かっていた。
いくら味方が援護してくれても、
キャタピラがやられた戦車は時間の問題だと。
93 名前:ま〜 投稿日:2001年01月14日(日)22時52分50秒
脱出する手もある。
しかしこの乱戦の中脱出しても、助からないであろう。
加護も理解していた。
それでもなんとしても安倍を助けたかった。
これ以上仲間を失いたくない。
加護は安倍を助けるのに必死だった。

それでも限界がある。
とうとう安倍の戦車が被弾した。
再び被弾する。
「安倍さん!」

「だめだべ・・。なっちも・・。みんな・・。」
安倍がそう思った瞬間、安倍の戦車が爆発した。

「安倍さん・・。安倍さん・・。うわぁ〜〜!」
とうとう安倍まで戦死してしまった。
自分が頼っていた仲間達が消えてしまった。

加護が逆上する。
『もう、誰も死ぬのはいやや!』
加護の戦車は突撃していった。

その加護の戦車も、とうとう被弾した。
『もういやや・・。もう・・。』
加護の意識が途切れた。
94 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月15日(月)01時13分05秒
うう、勝てるのかこのままで・・・
米軍は何をやってる・・・
95 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月15日(月)13時56分56秒
ま〜さんの小説、大好きです。
頑張ってください。
96 名前:ま〜 投稿日:2001年01月15日(月)23時43分30秒
>>94さん
米軍は・・・、ちんたらしてます・・。
>>95さん
ありがとうございます!
頑張ります!
97 名前:ま〜 投稿日:2001年01月15日(月)23時44分20秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


中澤率いる第三護衛艦隊は敵艦隊に接近していた。
数が恐ろしいほど違う。
『米軍がいれば・・。せめて他の護衛艦隊がいれば・・。』
これからたったの6隻で、50隻にも及ぶ敵艦隊を迎え撃つのだ。

「正面から行くのは危険です。」
石川が進言する。
「うちもそう思う。側面から行くしかないやろ。」

数が少なく、それに艦艇の修理も終わっていなかった。
先ほどの戦いの後、舞鶴に入港して、
燃料弾薬の補給を受けたとはいえ、直ぐに出港。
態勢は万全ではない。
98 名前:ま〜 投稿日:2001年01月15日(月)23時45分00秒
「敵機来襲!」
レーダー員が悲鳴をあげる。
敵艦隊と遭遇する前に、航空機にやられてしまったのでは話にならない。
「対空戦闘用意。」
中澤が命令を下した直後、再びレーダー員が声を上げた。
「後方より、味方機接近!」

乗組員の目が一気に後方に注がれた。
後方、はるか彼方に、味方機が引く飛行機雲が見える。
勝ち目が無いような戦いに向かう彼女達を、守ってくれる航空隊がいる。

航空自衛隊も余裕があるわけではない。
消耗に消耗を重ねて、稼動できる航空機は開戦前の半分以下だ。
それでも守ってくれる。

「ありがと・・。」
聞こえるはずは無いのだが、中澤は味方機に向かってつぶやいた。
99 名前:ま〜 投稿日:2001年01月15日(月)23時46分45秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「ご無理を申し上げまして、申し訳ありませんでした。」
後藤は航空自衛隊の幹部と連絡を取り合っていた。
中澤の艦隊を航空自衛隊に援護してもらうように頼んだは後藤だった。
最初は数の不足を理由に断られた。
しかし、しつこいくらいに頼み込んだ結果、少数だが、援護してもらえることになった。

『みんな戦ってるんだ。あたしにも出来ることしないと・・。』

『みんな・・、帰ってきてね・・。』
100 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月16日(火)01時37分32秒
流れをぶち壊すようですみませんが,相手は中・露・朝ですか?
それとも謎?
101 名前:ま〜 投稿日:2001年01月16日(火)21時53分21秒
>>100さん
一応、露です。ハイ。
中・朝も、最初は考えました。でも数は多くても、
性能と侵攻する能力を考えると、露しか思いつかなかったんです。
102 名前:ま〜 投稿日:2001年01月16日(火)21時54分14秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「敵艦隊発見!」
オペレーターが報告する。
「さて、始まりやな・・。」

敵は、完全に中澤たちの艦隊をなめているのか
接近してくるそぶりは無い。

「攻撃開始!」
各護衛艦から轟音と共に対艦ミサイルが発射される。

中澤たちの作戦としては、
敵艦隊のミサイル射程ぎりぎりで攻撃をし、
敵を引きづり出しては各個撃破していく戦法をとる。
作戦といっても、数が違いすぎるために
これしかない。

その間に航空部隊で揚陸艦等の上陸部隊を攻撃する。
つまり中澤たちは囮の役割を果たすのだ。
「囮言うても、数少ないからね〜・・。」
103 名前:ま〜 投稿日:2001年01月16日(火)21時54分57秒
味方が放った対艦ミサイルはほとんどが撃墜されたらしかった。
それでも何発が命中している。
敵も反撃のミサイルを放ってくる。
敵の射程ぎりぎりのため、敵のミサイルは少ない。
まずは、すべての敵ミサイルは打ち落とした。

敵に多少は損害を与えただろう。
一度全速で敵の射程から離れる。
ころあいを見て、再び射程に入って攻撃する。
同じ事を何度も繰り返す。
少しずつ、少しずつ敵に損害を強いる。

もちろん味方も無傷というわけにはいかない。
104 名前:ま〜 投稿日:2001年01月16日(火)21時55分43秒
1隻の護衛艦に敵のミサイルが命中する。
ミサイルなどの弾薬を満載していた格納庫に命中したらしい。
1発の命中で大爆発を起こす。
大きな音と共に、無数の破片が飛び散る。
搭載していたヘリが、どんな力が加えられたかは分からないが、
とんでもない方向に飛ぶ。
轟沈だ。

「くそっ・・・!」
中澤がつぶやく。
味方が減ると攻撃力が弱まる。
それに比例して防御力も弱まる。
105 名前:ま〜 投稿日:2001年01月16日(火)21時56分35秒
しかし、こちらもただやられている訳ではない。
敵に少なからず損害を与えている。

すでに数隻の敵艦が脱落しているようだ。

しかし、まだ反転するのはもちろん
敵の主力の注意を引き付ける事もできない。

「しかたあらへん・・。敵の前に出るか・・?」
「危険です・・。」
中澤の問いに石川が答える。
「そやな・・。」

なかなかうまく敵を引きづり出せない。
いっそのこと、突撃してかたをつけたい。
精神力を使う。
それでも耐える。
106 名前:ま〜 投稿日:2001年01月16日(火)21時57分06秒
「発射。」
この日、何度目か分からない命令を下す。
轟音と共にミサイルが飛んでいく。
一方、敵からのミサイルも飛んでくる。
そのミサイルに向かって、対空ミサイルが発射される。
激しいミサイルの撃ち合い。

再び大音響と共に、味方の護衛艦が爆発する。
数発の命中で、完全に戦闘能力を失う。
被弾した護衛艦は隊列から落伍する。
しかし、それを助けている時間は無い。

その間にも、またミサイルが飛んでくる。
負けずと撃ち返す。
107 名前:ま〜 投稿日:2001年01月16日(火)21時57分39秒
引いては近づき、引いては近づき。
繰り返す。
敵艦隊の数隻をすでに落伍させている。
沈める必要は無い。
敵の損害を増やし、侵攻してくる意図を挫けばいい。

言うのは簡単だが、それを実行するのは数千倍難しい。

再び味方護衛艦が被弾する。
今度の損害は軽微で済んだようだ。
108 名前:ま〜 投稿日:2001年01月16日(火)22時32分32秒
「敵艦隊!およそ半数!こちらに向かってきます!」
とうとう業を煮やした敵が、艦隊をこちらに振り向けてきた。

「勝った・・・。」
この瞬間、中澤は勝利を確信した。

戦闘艦艇をこちらに振り向けさせれば、
あとは護衛が減少した敵艦隊を航空部隊が攻撃してくれる。

「反撃しつつ後退する!!」


敵艦隊は全速で中澤たちの艦隊に向かってきた。
一方の中澤たちの艦隊は全速力は出せない。
損傷艦艇がいるためだ。
かと言って、見捨てるわけには行かない。

「損傷艦艇を守りつつ後退!」
てきぱき命令を下す中澤。
109 名前:ま〜 投稿日:2001年01月16日(火)22時33分14秒
全速で迫る敵。
このこうるさい艦隊を一気に叩き潰し、血祭りに上げてやろうと考えているらしい。
精神力の勝負。それに中澤は勝った。

次々敵ミサイルが飛んでくる。
こちらも対空ミサイルを撃ち返す。

もうこちらから敵艦隊を攻撃する必要はあまり無い。
敵の注意さえひきつけておけば良いのだ。

中澤は矢口に命令して、航空自衛隊に出撃を要請した。
防御が薄くなった敵の揚陸部隊をたたくように。
110 名前:ま〜 投稿日:2001年01月16日(火)22時33分51秒
東北地方、北関東を中心とした航空自衛隊の基地から次々航空機が出撃する。
攻撃部隊を援護するF-15戦闘機。
半世紀近くも前に原型機が初飛行を行ったにもかかわらず、
今だに多くの国々で使われているF-4の改良型。
対艦ミサイルを装備しているのは、正式採用されてから日の浅いF-2支援戦闘機。
いささか旧式ながら現役のF-1戦闘機。
そして、米軍の航空機も支援に向かう。
これらが日本海の敵艦隊を目指す。

敵も援護のための戦闘機を繰り出す。
F-15と敵戦闘機との空中戦が始まる。
その間を縫って、攻撃部隊が進む。

F-1・F-2が対艦ミサイルを発射する。
数が減少した敵艦隊から、対空ミサイルが発射された。
味方の航空機も落とされる。
それでも再び対艦ミサイルを発射する。
命中。

この瞬間、敵の勢いは失われた。
111 名前:ま〜 投稿日:2001年01月16日(火)22時34分28秒
次々敵艦にミサイルが命中し始めた。
揚陸艦に命中すると、搭載している戦車などが空中に吹き飛ばされる。
戦闘艦艇に命中すると、弾薬が誘爆を引き起こし、大爆発を起こす。

航空部隊の攻撃が成功しているとの情報が中澤たちの艦隊に入ってきた。

「やったで・・!」
第三護衛艦隊は、今だに引き付けた敵艦隊と交戦中だった。

敵艦隊の主力は後退するだろう。
護衛しなければならない艦艇を見捨ててしまっているからだ。

「この戦い。うちらの勝ちやで。」
「やったね!」
「やりましたね!」
石川、矢口を初めとする艦橋の幹部達が、次々歓声を上げる。


その時、轟音と、激しい衝撃が中澤たちを襲った。
112 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月17日(水)01時35分38秒
うう〜、戦いも終焉ですかね。

待ってろ中澤!
俺が今から、97式艦攻で助けに行くから!!^^
113 名前:ま〜 投稿日:2001年01月17日(水)22時28分30秒
>>112さん
マニアックなレスをありがとうなのれす。(w
114 名前:ま〜 投稿日:2001年01月17日(水)22時29分10秒
激しい衝撃に、中澤をはじめ、艦橋にいた幹部が床に倒れ込む。

『しまった!!』
敵弾が命中した。

見えざる大きな手に掴まれたかのように、がくっと速力が落ちる。
同様に、他の護衛艦も被弾する。
轟音と衝撃。
前甲板にある、127ミリ砲が爆発する。
ひときわ大きな閃光と共に、砲塔が空中高く舞い上がる。
敵の対艦ミサイルが薄い装甲を打ち砕く。

「飛行甲板損傷!」
「後部煙突被弾!」
次々と損害が報告される。
しかし、次の報告が中澤の顔を青ざめさせた。
「機関部被弾!」

その言葉は、自分の乗る艦が航行不能に陥ることを意味していた。

艦尾に開いた破孔から、大量の海水が浸入する。
甲板では、炎がヘリ用のガソリンに引火し、爆発する。
艦の命運は尽きた。

付近では味方護衛艦が爆発する。
115 名前:ま〜 投稿日:2001年01月17日(水)22時29分54秒
中澤は判断した。
「艦長。全員に退艦命令を。」
艦長が頷くと、艦内に退艦するように放送した。

「みんなも退艦するように・・。」
中澤は艦橋内を見回していった。

「司令官は?」
「裕ちゃんは?」
皆が問う。
「うちはええ・・。」

「な!何言ってんの?裕ちゃん!一緒に脱出しようよ!」
矢口が中澤に詰め寄った。

「うちはええ。これだけ味方を死なせといて、うちだけ生き残るわけにはいかん。」
甲板で起きた爆発が中澤の顔を赤く照らす。
116 名前:ま〜 投稿日:2001年01月17日(水)22時30分31秒
「裕ちゃん!何言ってんの!」
なおも矢口が詰め寄る。
その後ろで石川が小さな声で言った。
「中澤さんが残るなら、あたしも残ります・・。」

「な!何言うてん!みんな退艦しなって!」
「いやです・・。あたしも残ります。」
再び石川が言った。

「・・・・。それならあたしも残る・・。」
矢口も言う。
「自分も・・。」
「わたしも!」
艦橋にいた幹部が次々後に続く。

「なに言うてんよ、みんな・・。責任取るのはうちだけでええ!」
117 名前:ま〜 投稿日:2001年01月17日(水)22時31分21秒
ふと中澤は気づいた。
誰も退艦していない。
艦内にいる一兵士から、艦橋にいる幹部まで、一人も退艦していない。
「みんな・・、何やってんよ・・。」

「裕ちゃんが好きなんだよ。」
「へ?」

「みんな、あれだけの大軍相手にこれだけ戦えたんだもん。」
「そうですよ。」
「司令官のおかげです。」
矢口と石川だけでなく、幹部の皆が口々に言う。
全員が何かを悟ったかのような満足げな笑顔だった。

「みんな・・。アホばっかりやな・・・。」
中澤の目が赤くなる。
118 名前:ま〜 投稿日:2001年01月17日(水)22時32分14秒
「みんな・・、ありがとな。こんな時やから、エリートでも無い、うちが司令官になれた・・。」
艦橋内の全員が中澤の言葉に耳を傾ける。

「そんなうちについてきてくれて・・。」
「私達も中澤さんの下で働けて、光栄でした。」
石川が全員を代表したかのように言う。

中澤が皆に向かって敬礼した。
艦橋内の全員も、敬礼する。
その敬礼は、非の打ち所が無いものだった。

「みんな・・。本当にありがとう。」

中澤がそこまで言ったとき、灼熱した塊が艦橋に飛び込み、
そこにいた全員を跡形も無く吹き飛ばした。
119 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月18日(木)00時40分27秒
うぅ、みんないなくなっていく・・・
切ない・・・

実は市井がアメリカに留学してて、米軍として出てくるとか?
120 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月18日(木)02時57分43秒
うぅぅ、姐さん!?
泣いたよマジで、こうゆう場面に弱いんだよな〜、俺。

まだ、無事なのは・・・
121 名前:ま〜 投稿日:2001年01月19日(金)00時05分41秒
>>119さん
なるほど・・・、そういう手もありましたね・・。<市井留学
>>120さん
泣いてくれてありがとうございます。
122 名前:ま〜 投稿日:2001年01月19日(金)00時06分19秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「第三艦隊旗艦、通信途絶・・。」
舞鶴の基地司令部室内に重い言葉が響き渡った。

『裕ちゃん・・、やぐっつあん・・、梨華ちゃんも・・。』
全員が悲壮な面持ち。
静まり返った司令部室内で、嗚咽が聞こえる。
『嘘つき・・。帰ってくるっていったじゃん・・・。』
123 名前:ま〜 投稿日:2001年01月19日(金)00時07分03秒
「ミサイル接近!」
司令部内に悲鳴が響く。
「高射隊は?!」
「敵航空機と交戦中!」
「どこから来た!?」
「近海からの敵潜水艦からと思われます!」
室内に怒号が飛び交う。
「迎撃!」
「間に合いません!!!」
オペレーターと司令官との会話は、悲鳴に近い物があった。

ミサイルは敵潜水艦から放たれた物だった。
最前線の目障りな基地を破壊するために。
「全員退避!!!」
司令官が命令すると、室内の一人を除いた全員がパニック状態になり出口に殺到した。

人の波に逆らうように、一人動かない人間がいる。
後藤。
『裕ちゃん、約束破ったよね・・。だから後藤も約束破る。危ないところから逃げない・・。』

直後、すさまじい衝撃と共にコンクリート製の天井が崩れ落ちてきた。
そのなかで一人冷静な後藤。
『裕ちゃん。よっすぃ〜。梨華ちゃん。やぐっつあん・・。みんな・・・。
後藤も後から行くから。ちょっとだけ待っててね・・・。』

再び激しい衝撃。
舞鶴基地司令部は消し飛んだ。
逃げた人と、逃げなかった人も一緒に・・。
124 名前:ま〜 投稿日:2001年01月19日(金)23時25分07秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


後世、『第二次日本海海戦』と言われたこの海戦を契機に、
戦いは転機を迎えた。
新潟近辺に上陸を試みた敵艦隊だったが、
中澤たちの奮戦、そして自衛隊と米国空軍の反撃により、橋頭堡も築くことも出来なかった。
次々と米軍の援軍が到着し、日本海では敵艦隊は壊滅、
北海道では米陸軍が逆上陸を果たし、日本本土から敵は一掃された。

敵国の首脳が『一部の軍部が勝手にやったこと』と表明した。
しかしながらこれだけの組織的な攻撃が『一部の軍部』だけでは不可能なのは明らかだ。
当然のことながら日本や米国を初め、多くの国々がその声明に対して、激しい非難を浴びせ、
損害賠償等を求めた。
もちろんそんな物が戻ってくることは無い。
それに失われた多くの命も・・。
125 名前:ま〜 投稿日:2001年01月19日(金)23時25分57秒
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


激しかった戦争が終わりを告げてから
約一年が経っていた。

北海道にある小高い丘。
そこには日本海を向いて、小さな慰霊碑が立っている。
唯一生き残った彼女が私財をはたいて、散っていった仲間達の為に立てたのもだ。

夕日を背にして、一人に背の小さい女性がやって来た。
彼女は松葉杖をついている。
片方の手にあるビニール袋を重そうに、ゆっくりゆっくり歩いてくる。
慰霊碑を前にして、彼女は座り込んだ。
「みんな・・・。」


彼女自身、あの爆発の中でよく生きていたと思う。
重傷を負ったが、後から来た米軍に助けられた。

当初、意識も無く、生と死の間を彷徨ったが、
どうにか意識は取り戻した。
目が覚めた時、夢の中で、仲が良かった仲間達が
『こっちに来たらあかん!』
そう、言ってた事だけが頭に残っていた。

彼女は、一生背負っていかなければならない
傷を負ってしまった。
体にも、
そして心にも。
126 名前:ま〜 投稿日:2001年01月19日(金)23時26分36秒
「みなさん・・。あたしだけ生き残ってしまいました・・。」
彼女はそう、慰霊碑につぶやきつつ、
ビニール袋から紙コップを出すと、
『12人分』をその慰霊碑の前に置いた。
そして、ひとつ、自分の前に置いた。

「ごめんなさい・・。」
自分を合わせて13人分のコップに酒を注ぐ。

「そっちに行っていいですか・・・・?一人はいやです・・・。」
127 名前:ま〜 投稿日:2001年01月19日(金)23時27分14秒
『あかん!!』

突然彼女の近くで声がした。
この声の主はよく知っている。
聞き間違えるはずも無い、中澤の声。
「なっ!中澤さん!!?!」
きょろきょろ見回してみるが中澤はいない。
『あかんで・・、あんたは生き残ったんや・・。』
再び中澤の声。

「でも!もういや!」
『だめだよ・・。』
今度は優しい安倍の声が聞こえた。
『だめだよ、せっかく生き残ったんだから・・・。』
『そうだよ・・。何のためにあたし達が・・・。』
りんねやあさみ達の声もする。
『そうなのれす!』
辻の声も。
128 名前:ま〜 投稿日:2001年01月19日(金)23時28分33秒
「でも・・。みんな・・。」
『何、弱気なこと言って!ヤグチより背が大きいくせに!』
矢口の笑い声もする。

他の散っていった仲間達も口々に言う。
『せっかく生き残ったんだから』と。

「でも生き残っても・・いい事なんて無いです・・・。」
とうとう彼女は泣き出した。
座り込んで、うつむいて、
その目からは大粒の涙がこぼれ落ち
地面に小さな水溜りを作る。
129 名前:ま〜 投稿日:2001年01月19日(金)23時29分29秒
『いい事かどうかは、うちらは知らん。』
中澤の声が聞こえた。

『ええか・・、死ぬのは簡単や。いや、簡単とは言わへん。
自分から死を選ぶのも、それは大変な決意が必要やろ・・。
生きていくということは、もっと辛いと思う。
それでもあんたには生きてほしいんや・・。せっかく生き残ったんやから。』

彼女はまだ俯いたまま嗚咽を続ける。

『これからうちが言うことは、とっても大変なことやと思う。
でも、散っていったうちらからの遺言だと思って聞いて欲しい。』
130 名前:ま〜 投稿日:2001年01月19日(金)23時30分14秒
『やっと戦争が終わって、みんな復興に必死や。
この戦争のことなんて、綺麗さっぱり忘れたがっている。
でもな、うちらは忘れてもらってはいややなんや・・・。
うちらが、どうやって生きて、なんの為に、何を守ろうとして、
そして死んでいったか、みんなに伝えて欲しいんや・・。』

「・・・・・・。」

『あんたのその小さい体には、つらいかも知れへん。
でもこれは、うちら全員、いや、うちらだけやあらへん、
この戦いで散っていった人間全員の願いなんや。』

返事は無い。
「・・・・。」
『お願いなのれす。』
『あんたにしか出来へん。』


「・・・・・。」
彼女は顔を上げた。
その目はまだ赤かったが、さっきまでの目つきと違っていた。
あきらかに、何かを決意したような目。

「わかりました・・・。」
『よっしゃ!』
131 名前:ま〜 投稿日:2001年01月19日(金)23時30分59秒
『お願いね。』
『頼んだよ。』
『よろしく!』
『頼んだで。』
『頼むのれす。』
中澤の声に続いて、
平家、保田、飯田、安倍、矢口、石川、吉澤、
後藤、辻、りんね、あさみ達の声が聞こえてくる。

「わかりました。」
彼女の顔に笑顔が戻る。

『やっと笑ってくれたね。』
『さて!そんじゃま、せっかく酒もあることやし。飲むかい!』
『そんじゃ、加護のこれからの人生にかんぱ〜い!』



戦いが終わり、娘達の宴が始まる。




132 名前:ま〜 投稿日:2001年01月19日(金)23時32分10秒
どうも、作者でございます。
読んでいただいた方、ありがとうございました。
133 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月20日(土)02時42分06秒
読まして頂きました、ありがと〜(感涙
134 名前:名無しさん 投稿日:2001年01月20日(土)15時57分03秒
アイボンがんばれぇ〜〜〜。


135 名前:名無し読者 投稿日:2001年01月22日(月)00時23分05秒
おつかれさまでした。
青板の「パイロット紗耶香」に続いて「娘達の宴」も切ない終わり方。
う〜ん、泣けます。
136 名前:Hruso 投稿日:2001年02月20日(火)12時26分20秒
戦争ものって分からないネタとかあるんだけど、
でもこれは面白かったです。
加護、がんばってみんなの分も生きてくれ。

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