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BAR Fairy Tale
- 1 名前:道化師 投稿日:2001年02月02日(金)00時52分32秒
- 今夜も都会の片隅の小さなバーの窓に明かりが灯る。
『BAR Fairy Tale』
そこはちょこっといい話が聞けるという、少し変わったお店。
今夜はどんなちょこっといい話が聞けるのでしょうか?
カランカラン…
「いらっしゃい…」
おや? 誰か入って来たようですね。
どうやら、今宵もちょこっといいお話が聞けそうです。
それでは、少しだけ店内に耳を傾けてみましょうか。
- 2 名前:道化師 投稿日:2001年02月02日(金)00時56分03秒
- 青板のみなさま、初めまして。道化師といいます。
赤板の方で、長々としたものをやらせていただいてます。
今回から始まる話は、それぞれのメンバーの思い出話などを想像で書きたいと思います。
だから、実際はなかったことばかりになるので、ご了承ください。
それでは、さっそくこの人のお話から言ってみましょう。
- 3 名前:道化師 投稿日:2001年02月02日(金)00時57分20秒
- 「こんばんは、マスター」
まだ若い感じの女性がカウンターに座った。
年は10代後半といったところだろうか。
「おや、市井さん。今日はお一人ですか?」
マスターはグラスを拭きながら、市井と呼ばれる女性を見て言った。
――そう、市井紗耶香である。
「うん」
「何にします?」
マスターがグラスを拭くのを止め、市井の前に来て言った。
「じゃあ、いつもので…」
市井がそう言うと、マスターは紅茶を入れ始めた。
「今日はどうしたんですか?」
「ちょっと、マスターに話を聞いてもらいたくって」
「おやおや、何かいいことでもあったのですか?」
「うん、ちょっとだけ……ね」
市井は顔をほんのりと赤くして微笑んだ。
「そうですか。それじゃ、聞かせていただきましょうか」
マスターが紅茶を市井の前に置いた。
市井は紅茶を一口だけ飲んで、話を始めた。
- 4 名前:道化師 投稿日:2001年02月02日(金)00時59分21秒
- 「はあ〜…。今年も今日で終わりか…」
私はカレンダーを見ながら呟いた。
「今年もいろいろあったな〜。新メンも入ったし、TVのレギュラーも増えたし…。
いや〜、充実した1年だったねぇ…」
今年の出来事が頭の中を駆け巡った。
随分と昔のことなのに、ついさっき経験してきたような、そんな気がする。
「ピンチも大変だったけど、やって良かったし。うん。けど、今年はやっぱ、
卒業が1番大きかったかなぁ……。さすがにみんな驚いてたけど、ずっと前から
決めてたことだし、それにこのままじゃ、ファンのみんなに悪いしなぁ…。
そういや、あの日、みんな泣いてたっけ…」
私はビデオを取り出し再生した。
「懐かしいなぁ…」
私はぼんやりと画面を眺めた。
画面の中ではメンバーが花束を持って、それぞれ言葉と一緒に私にお別れの
あいさつをしている。
みんな涙を流しながら……なっちと私を除いて。
- 5 名前:道化師 投稿日:2001年02月02日(金)01時03分52秒
- 「そうそう、これこれ…やっぱ、何度見てもかわいいねぇ、後藤。
ホント、子供みたい…ふふっ…。ダイバーの時もこうやって泣いてたなぁ…」
私は微笑みを浮かべたまま、ビデオを止めテープを入れ替えた。
「う〜ん……これは…そっか、まだ武道館の前だったもんね、さすがに実感
わくわけないか…。でも、この番組のおかげで、私は私としての道を
歩き出せたんだっけ…。かあさん、か…」
私はぼ〜っとしたまま、ただ見ていただけだった。
そして、最後に私からのコメントの場面になった。
「そうそう、この時はそれぞれにコメントを考えたんだった」
メンバーの目から涙が溢れてきている。
「はあ〜…」
(あれ? なんで私が泣いてるんだ? もう、未練はないはずなのに…)
いつのまにか、私もみんなと一緒に泣いていた。
TVの中の私の声はあんなに元気なのに…。
- 6 名前:道化師 投稿日:2001年02月02日(金)01時06分49秒
- 『なんで泣いてんだ?』
「あはっ、あはははは…」
私のコメントが終わって、みんなが涙ぐんでいるシーンで、不意に貴さんが
辻になりすまして言った。
その言葉は、私の心にちょっとグサっときた。
(いくら、ファンの前では泣かなかったっていっても、メンバーやスタッフの
前では泣いたんだよな〜…。後悔してんのかな…。みんなと逢えなくなるから?
それとも…)
そんなことを考えていると、余計涙が止まらなかった。
私は涙を拭いてベッドの上に座った。
「そっか…、新メンも随分成長してんだ…。裕ちゃんも大変だろうな〜、
辻と加護の相手するの。裕ちゃん、子供苦手だからねぇ。あっ、けど、今は矢口か…」
私はニヤニヤしながらメンバーの顔を思い浮かべた。
- 7 名前:道化師 投稿日:2001年02月02日(金)01時08分18秒
- 「プッチも確実に大きくなってんだよね。もう、私が知らないくらいに…」
音楽雑誌をパラパラとめくる。
そこには私のいない、別のプッチモニが載っていた。
「みんなに負けないように頑張んないとな〜」
私はベッドに座ったまま窓の外を見た。
「今日は曇りか…。どうせだったら、雪でも降んないかな…」
私は立ち上がって窓を開けた。
窓を開けた途端、勢いよく風が入って来た。
一瞬にして、部屋のほんわかムードが失われた。
「寒っ…、やっぱ冷えるね、冬は」
私は窓を閉め、時計に目をやった。
「9時半か…。みんな今頃何やってるんだろ? う〜ん…………って、
紅白のリハ中か…。去年も大変だったんだよな〜…」
- 8 名前:道化師 投稿日:2001年02月02日(金)01時09分25秒
- 私はケータイを手に取り、液晶を見た。
「…ったく、誕生日なんだから、ちょっとは連絡よこせっての!」
私はポイっとベッドの上にケータイを投げた。
しばらく、無言の状態が続いた。
何をするというわけでもなく、雑誌をパラパラとめくってみたり、
なんとなくギターを弾いてみたりした。
「はあ〜…。暇だなぁ……」
私がふうとため息をついて、部屋を出ようとした時――
ラ〜ララララ ラ〜ララ〜♪
ケータイが鳴った。
「えっ?」
私は急いでケータイを手に取り、液晶に目をやった。
- 9 名前:道化師 投稿日:2001年02月03日(土)05時57分14秒
- そこには『後藤真希』の文字があった。
私はちょっと期待しながら電話に出た。
「もしもし」
『あ! 市井ちゃん?』
「市井ちゃんって、他に誰がいるんだよ」
『あのさあ、今、何やってんの?』
「いや、何やってんの? って。後藤こそ何やってんの?」
『えっ? ………』
後藤は予想してなかったであろう反応に戸惑い、口を閉じた。
しばらくすると、なんか変な音が聞こえてきた。
耳を澄まして聞いてみると、何やら周りから人の話し声が聞こえてくる。
「後藤! 聞こえてる?」
『……えっ? あっ! うんうん、聞こえてる、聞こえてるよ!』
「で、何やってんの? 今」
- 10 名前:道化師 投稿日:2001年02月03日(土)05時59分31秒
- 『ん〜とねぇ、今、NHKホールにいるの』
「紅白? 大変だねぇ、相変わらず…」
『そういや市井ちゃん、今日、誕生日だったよね?』
後藤はこっちの話も聞かず、かなり焦った様子で話題を変えた。
「そうだけど。まさか、忘れてたとか?」
私はわざとイジワルっぽく言ってみた。
『い、いや、もちろん覚えてるよ!』
「ふ〜ん、じゃあ、なんで焦ってんの?」
『うっ……』
後藤は気まずそうにして黙り込んでしまった。
(さすがに、ちょっと言い過ぎたかな…)
「ま、いいや。みんなに連絡よこせって伝えといて」
- 11 名前:道化師 投稿日:2001年02月03日(土)06時06分35秒
- 『…うん、わかった。じゃあ、今から行くよ』
「ちょっ、今から…って、紅白は? ちょっと、後藤! 後藤って!」
『…ブチッ……ツーツー…』
「あっ、後藤! ……」
電話は一方的に切られた。
「…ったく、何なんだ、一体。おめでとうの一言ぐらい言えっての」
私はケータイを切り、ストラップの間に指を通して、ブラブラと揺らしながら
液晶を見つめた。
どんなに見つめても、ケータイが鳴る様子はなかった。
「誰か電話してよ、こんな日くらいさ…」
でも、やっぱりケータイは鳴らない。
- 12 名前:名無し読者 投稿日:2001年02月03日(土)13時08分07秒
- これっていちごま? だったらうれしい。
- 13 名前:名無し読者 投稿日:2001年02月03日(土)18時29分44秒
- いちごま!?
私も嬉しい。
- 14 名前:道化師 投稿日:2001年02月03日(土)23時23分32秒
- >12&13さん
初めまして、ヨロシクです。
やっぱ、市井ちゃんと言ったらごっちん、ごっちんといったら市井ちゃんですよね!
今回はズバリ、『市井×後藤』です。
宣伝になりますが、赤板に「THE PRINCESS OF MERMAID」というタイトルで
こっちも『市井×後藤』でやってます。
もし、赤板を覗く機会があったら見てみて下さいね。
さて、長話もなんですから、続きいきます。
- 15 名前:道化師 投稿日:2001年02月03日(土)23時25分40秒
- コンコン…
不意にドアをノックする音がした。
「何? 勝手に入っていいよ」
私はケータイを見つめながら、少しふてくされて言った。
ガチャ…
ドアが開く音がしたが、私は音に反応もせずにケータイを見つめていた。
「はあ〜…。なんで、こんな日に生まれたんだろう…」
私は鳴らないケータイを見つめながら呟いた。
どんなに待っても、やっぱりケータイは鳴らなかった。
(そういや、さっき、誰が入って来たんだろう?)
私が振り向こうとした瞬間――
- 16 名前:道化師 投稿日:2001年02月03日(土)23時27分44秒
- むにゅっ……
突然目の前を覆われ、視界が暗くなり、首の後ろ辺りにむにゅっとしたものが触れた。
(ん? むにゅっ? むにゅっ……ってなんだ?)
私は確認しようとして、目の前を覆っているものを払いのけようとした。
が、どうもこの感じは人の腕らしく、なかなか外れようとしない。
私はなんとかして上を見上げようとしたが、思ったよりも力強く、
やっぱり私の力じゃ外れそうにもなかった。
私は必死にもがくが、腕はビクリともしない。
それどころか、だんだんきつくなってきているような気がする。
私は腕を外すのを諦め、力を抜いた。
私が抵抗するのを止めたのを悟ったのか、少し締め付けが緩くなった。
「だ〜れだ?」
ふと頭の上から声がした。
- 17 名前:道化師 投稿日:2001年02月03日(土)23時30分08秒
- 聞き覚えのある声だった。
いつも聞きなれていた声で、なんとなく懐かしい感じがした。
(裕ちゃん? けど、裕ちゃんはこんなに力が強くないはずだし、胸も…)
「だ〜れだ?」
今度は左の方から別の声がした。
(なっち?)
無駄な抵抗とはわかっていつつも、また腕をどけようと試みたが、
その度に締め付けが強くなり、相変わらず腕はビクリともしなかった。
「だ〜れだ?」
「だ〜れだ?」
「だ〜れだ?」
「だ〜れだ?」
次々と私の周りで声がした。
しかも、それぞれ別の声で、それぞれ別々の方向から聞こえてきた。
- 18 名前:名無し 投稿日:2001年02月04日(日)00時05分10秒
- ……もうなんだか泣きそうです……
早すぎ?(w
- 19 名前:道化師 投稿日:2001年02月04日(日)23時18分20秒
- >名無しさん
どうも。まだ、早いっすね〜。もう少ししたら、泣ける(? 泣いてる)
シーンに入るので、もうちょっと待って下さいね。
では、続き、どうぞ〜!
- 20 名前:道化師 投稿日:2001年02月04日(日)23時20分34秒
- (矢口? かおり? 圭ちゃん? 最後は…石川、吉澤、辻、加護かな?)
私は何かもの足りないような気がして、周りを見てみようとした。
でも、顔を動かすことすら厳しい状況で、私がやろうとしたことは
ムダの一言で終わった。
「――!?」
不意に私の頭の上から、何か温かいものが触れた。
いきなり頭をグリグリされた。
しばらくしたら、何かくすぐったいものが頬に触れたので、
それが顔であることがわかった。
「…だ〜れだ?」
さっきまでの声と違い、すごく切ない感じがした。
この声が誰なのかはわかってるけど、しばらくはこのままでもいいなと思った。
しばらくして、また声が聞こえてきた。
- 21 名前:道化師 投稿日:2001年02月04日(日)23時21分05秒
- 「おめでとう。早く20歳になってや」
「おめでとう、紗耶香」
「オメデト! 紗耶香」
「おめでとう!」
「よっ、17歳!」
「おめでとうございます」
「市井さん、おめでとうございます」
「ハッピーバースデーです」
「おめでとうございます」
嬉しかった。
すごく懐かしかった。
目には見えないけど、誰が誰だかを知るのに十分だった。
みんなの言葉は私の心の奥深くを刺激した。
不意に私の頬を熱いものが伝っていった。
泣いてんのかな…、私。
- 22 名前:道化師 投稿日:2001年02月04日(日)23時23分00秒
- その瞬間、ふと、私の目の前を覆っていた腕が緩くなり、
私はやっと目を開けることができた。
腕はそのまま肩の上まで降りてきて、後ろから私に抱きつく形となった。
「ハッピーバースデー、市井ちゃん」
私の耳元で優しい声がした。
その声に反応して私が振り返ると、そこにはいつも見慣れていた顔があった。
「後藤…、みんな……」
目を開けると、みんなが花束やケーキを持って私の周りを囲んでいた。
「…ったく、なんでみんないるんだよ〜」
私は必死に涙を拭きながら、照れくさいのを隠した。
後藤は私から離れて、みんなと一緒に並んだ。
「けどさ、なんでここにいんの?」
私は向き直って言った。
「だいたい、今はリハ中じゃなかったの?」
私は裕ちゃんを見た。
「あぁ〜、ま、気にしない気にしない。それより…」
裕ちゃんがそこまで言うとみんな一斉に私の周りに詰め寄って来た。
- 23 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月05日(月)03時51分48秒
- やっぱごまの「市井ちゃん」はいいね〜
- 24 名前:道化師 投稿日:2001年02月06日(火)06時29分26秒
- >23さん
どうもです。
いいですか?「市井ちゃん」←これ、普段言ってるから何とも言えませんが。
でも、彼女の言い方はイイ感じ♪ です(なんのこっちゃ!?)
さて、続きです。
- 25 名前:道化師 投稿日:2001年02月06日(火)06時33分22秒
- 「せ〜の!」
「ハ〜ッピバ〜スデ〜トゥ〜ユ〜♪ ハ〜ッピバ〜スデ〜トゥ〜ユ〜♪
ハ〜ッピバ〜スデ〜 ディ〜ア さ〜やか〜→♪ ハ〜ッピバ〜スデ〜トゥ〜ユ〜→♪
……イェーイ!!」
裕ちゃんが音頭を取ると、みんな一斉に歌い出した。
歌い終わると、どこからともなくクラッカーを取り出し天井に向けて鳴らす。
みんな笑顔で、いつもの娘。がここに集合! って感じだった。
私の目には、また涙が溜まっていた。
「おめでと〜! 紗耶香」
みんなが次々と花束を私に差し出す。
私は受け取って、腕一杯に抱えた。
「みんなありがとう。……もう、みんな大好きっ!」
私は涙を流しながら笑顔を作った。
しばらく、涙は止まらなかった。
私は受け取った花束をベッドの上に置いてみんなと話し始めた。
「紗耶香、元気だった?」
矢口が私の手を取って言った。
「うん、元気だよ…。矢口も相変わらず元気そうだね」
「うん! 今はミニモニ。もあるし、結構充実してるからね」
「あれ? 矢口、タンポポはどうなってんの?」
矢口が自信満々の顔で言うと、かおりが不機嫌そうな顔をして口を挟んだ。
- 26 名前:道化師 投稿日:2001年02月06日(火)06時37分08秒
- 「まあまあ…落ち着きや、ちょっと。それより、ケーキでも食べようか。
せっかく、後藤が作って来たんやし」
裕ちゃんがかおりをなだめながら、ケーキを取り出した。
「いやぁ、別にそれほどでもないよ…。そんなに、期待しないでね」
後藤は顔を真っ赤にして、頭をかきながら照れている。
「ほらほら、開けるよ!」
裕ちゃんはナイフを取り出し、今か今かと待っている。
「ほないくで…」
裕ちゃんが箱を開けた。
「うわぁ〜……」
箱が空いた瞬間、みんなが感嘆の声を上げた。
「見事!」としか言いようがないほど、ケーキ職人も顔負けのきれいなケーキが
出て来た。イチゴのたくさんのったショートケーキだ。
デコレーションもきれいで、ケーキには『HAPPY BIRTHDAY!
SAYAKA』と書かれたチョコが付いている。
いつも話は聞くんだけど、正直言って、後藤がここまで上手いとは思ってなかった。
だから、私はほんの少しの間固まってしまった。
「どうしたの……? もしかして、気に入らなかった………?」
後藤が心配そうな顔で私を覗き込んだ。
「後藤、アリガト」
そう言って、私はいきなり後藤に抱きついた。
- 27 名前:道化師 投稿日:2001年02月06日(火)06時41分07秒
- 別にさっきの仕返しというわけでもないんだけど、なんとなく嬉しかったから
抱きついてみた。
「あっ、市井ちゃん…」
そしたら、後藤の顔はさっきより赤くなっていた。
さっきは自分から抱きついてきたくせに、こっちから抱きつくとおろおろする
後藤ってちょっとかわいい。
ナンダカンダで、やっぱ慣れてないのかな? こんなの。
このままいるのもいいかなと思ったが、後藤がかわいそうなので離れた。
「さ、食べよ」
「うん」
後藤はちょっと落ち着いたみたい。
私はちょっと残念だけど…。
だって、後藤ってなんかいい匂いがするからさぁ…。
私が机の方を見ると……って――
「ええええぇぇぇぇぇ!!」
部屋中に私の声が響いた。
その声に反応して、みんなが私の方を振り向く。
「あれ? どうしたん、紗耶香?」
裕ちゃんが私の顔の前で手を振った。
「あら〜……」
私の中の時間はしばらく止まった。
- 28 名前:道化師 投稿日:2001年02月06日(火)23時16分39秒
- 「大丈夫だよ、市井ちゃん。また、同じの作るからさぁ…」
後藤が私を慰めながら私の肩に手を置いた。
「けど、一口でいいから食べたかったなぁ…」
私は指をくわえながら、空になった箱を見つめた。
でも、どんなに見つめても、そこからケーキが出て来るはずはなかった。
結局、ケーキは食べれなかったけど、その分、久々にみんなと
楽しい時間を過ごせた。
「さて、そろそろ戻らんとな…」
ふと、裕ちゃんが呟いた。
「えっ、もうそんな時間?」
私が時計に目をやると、時計は11時30分をさしていた。
「あっ、そうだ!」
加護が突然、何を閃いたのか、手をポンと叩いた。
「どうしたの? 加護」
矢口が加護に言った。
「あのぅ〜ですねぇ〜、市井さんもぉ〜、市井さんもぉ〜一緒に行きませんかぁ?」
加護が上目使いで、もじもじしながら言った。
「そうだよ! 紗耶香も来ればいいじゃん」
矢口が加護の提案に賛成して言った。
- 29 名前:道化師 投稿日:2001年02月06日(火)23時20分10秒
- 「ね、そうしよ!」
「そうですよ!」
みんなが次々と口を開く。
けど、どんなにみんなに誘われても、私は首を縦には振らなかった。
いや、振るわけにはいかなかった、と言った方がいいかもしれない。
私は夢を叶えるために、自分で卒業を決めたんだ。
けど、今ここで、今ここでみんなと一緒に行ったら、またモーニング娘。に
戻りたくなってしまう。
だから、みんなと一緒には行けない。
「…ゴメン。行けない」
私はうつむいたまま、みんなの顔を見ずに言った。
「どうして?」
矢口が私の両腕を掴む。
「どうして、行けないのよ!」
「私は……私は、もうモーニング娘。じゃないんだよ! だから、だから…」
いつのまにか、私の目には涙が溜まっていた。
- 30 名前:道化師 投稿日:2001年02月06日(火)23時25分09秒
- みんなに言ったというより、自分に言い聞かせていると言った方が
正しいのかもしれない。
ただ、こうすれば、自分自身にケジメがつけられるような気がした。
「ホントは……ホントは私だって行きたいよ。けど、それじゃ、
何も変わらないじゃない! 私が卒業した意味が無くなっちゃうんだよ!」
矢口は掴んでいた両手を離し、だらんと下に降ろした。
私は震えたまま、必死に涙をこらえた。
沈黙が部屋中を覆った。
みんな、期待を裏切られたような顔で私を見ている。
「…そうや、紗耶香はもうウチらとは違う。紗耶香は紗耶香の道を
歩き始めたんや。そうやろ、みんな?」
裕ちゃんが私の前に立ち、みんなを見た。
みんなが首をゆっくりと縦に振った。
「けど……」
矢口は涙目で私を見た。
「この6カ月、一体、何を学んできたん? それとも、何も成長しない
まんまやったんか? みんな、紗耶香がいなくなってから、それぞれ
努力してきたやろ」
- 31 名前:道化師 投稿日:2001年02月07日(水)23時32分10秒
- 「でも……」
パアアァァァン…
乾いた音が部屋中に響く。
「いい加減にせい! 後藤だって……後藤だってなあ、ちゃんと紗耶香から
離れることができたんや! なのに、矢口がそんなことでどないすんねん!!」
裕ちゃんが矢口の肩を強く掴んで言い聞かせた。
「裕ちゃん……」
後藤は涙をポタポタと落としながら、その光景を見ている。
「ウチらはウチらでせなあかんことがあるやろ! 紗耶香にもせなあかんことが
あんねん! ただ、方法が違っただけで目指すところは同じはずや。な、紗耶香?」
裕ちゃんが私を見る。
私は声も出さずに首を縦に振った。
「裕ちゃんには………裕ちゃんには、私の気持ちなんてわかんないよ!」
矢口は頬を押さえたまま、部屋を飛び出して行った。
「矢口!」
「矢口さん!」
私と裕ちゃんと後藤を除いて、みんな矢口の後を追って出て行った。
裕ちゃんは少し後悔しているような顔で立っている。
- 32 名前:道化師 投稿日:2001年02月07日(水)23時34分05秒
- 「矢口……」
私は矢口を追うことができないまま、その場に立ち尽くした。
「裕ちゃん…」
「いいんや、これで」
「けど……。やっぱ、マズイよ、このままじゃ…」
私は矢口の後を追おうとした。
けど、その場から動くことができず、追うことはできなかった。
「行かないで、市井ちゃん…」
声に反応して振り返ってみると、後藤が私の腕を引っ張っていた。
「後藤…」
「行かないで、市井ちゃん…」
後藤は涙を流しながら私を見ている。
「しゃあない、紗耶香のために矢口を慰めに行くか…」
裕ちゃんはそう言って、部屋を出て行こうとする。
「そうや、そろそろ時間やから、手短に済ますんやで」
裕ちゃんはドアの前で立ち止まり、私にウインクをして出て行った。
(さすがに、ここはなんとかしないといけないんだよね…)
私は肩を落とし、ため息をついた。
(よし! やるぞ)
私は振り向いて後藤を見た。
- 33 名前:道化師 投稿日:2001年02月07日(水)23時35分44秒
- 「ご、後藤、とりあえずさ…………座ろ…」
苦し紛れに出たセリフだった。
後藤は涙ぐんだままうなずき、私の手を離した。
私と後藤はテーブル越しに向き合って座った。
しばらく沈黙が続いた。
後藤は涙は止まったものの、まだ落ち着かないみたいだ。
こうやって、泣かれるのは意外と苦手だ。
どうしていいのかわからないまま、私は後藤を見ていた。
気のせいか、後藤を見ているうちに胸がドキドキしてきた。
後藤にも聞こえているんじゃないかっていうくらいに、ドキドキはデカくなる。
(ちょっと待て、なんで私が緊張してんだ?)
後藤は相変わらず、うつむいたまま目頭を押さえている。
「随分……随分と、大きくなったんだね、後藤…。もう、私の知らないくらいにさ…」
私はテーブルの上で手を組み、口を開いた。
「市井ちゃん…」
後藤は顔を上げて私を見た。
- 34 名前:道化師 投稿日:2001年02月07日(水)23時56分53秒
- 「きっとさ、あれからいろんなことがあったと思うんだ…。
後藤にも、みんなにも……もちろん、私にもさ…。
ただ、矢口の場合は、あれから完全にフッ切れてなかったんじゃないかな。
私と矢口は同期だからね」
「うん…」
「でも、後藤は……後藤は、ちゃんとフッ切れていた…」
「違う……」
後藤がゆっくりと小さな声で呟いた。
でも、私は聞き取ることができないまま話を続けた。
「けど、私は、まだ完全にはフッ切れていないんだ…。
怖いんだよね、なんか。ホントにこれでよかったのかな〜って」
私は笑顔を作って後藤を見た。
「後藤は強いね、ホント。私も見習わなくっちゃ…」
「違う…………違うよ市井ちゃん!」
後藤が私の言葉を遮った。
- 35 名前:道化師 投稿日:2001年02月07日(水)23時59分02秒
- 「私……私、フッ切れてなんかない…。いっつも、寂しかった…。
市井ちゃんが出てってから、毎日、みんなの知らないところで泣いて…」
「後藤…」
さっき、やっと止まった涙が、また後藤の目から溢れ出している。
「私もやぐっつぁんと一緒なんだよ。だって、私にとって市井ちゃんは…」
「後藤はさ、言葉ではそう言っているけど、ちゃんとフッ切れてんだよ」
私は後藤の言葉を遮った。
後藤の言葉の続きを聞くのは、なんとなくいけないような気がしたから…。
「今は、久々に逢ったから、そう思ってるだけ。だってさ、
ちゃんと私がいなくても何でもできるようになったじゃん。
ラジオとかさ、新メンの世話だって…」
「でも、それは…」
- 36 名前:道化師 投稿日:2001年02月08日(木)00時00分40秒
- 「そういえばさあ、昔、後藤にこんなこと言ったよね。
曲ができた時は、まず最初に後藤に聞かせてやるって」
私は後藤の言葉を無理に遮って話題をそらした。
「うん…」
「その約束さ、もうすぐ守れそうなんだ。だから、今度また逢おうよ」
後藤は黙り込んだまま私を見ている。
「どうしたの? 後藤」
私は後藤の顔を覗き込んだ。
涙がポタポタと音を立ててテーブルに落ちる。
私は後藤の背後に回り込んで、後藤にそっと抱きついた。
やっぱり、後藤はいい匂いだ。
「市井ちゃん……」
後藤の耳がまた赤くなっている。
「私さ、娘。を卒業して、初めて気づいたことがあるんだ…」
私は後藤の耳元でささやくように言った。
後藤が振り返って私を見る。
私の胸のドキドキがだんだん速くなる。
緊張して、後藤の顔を見れそうにない。
- 37 名前:道化師 投稿日:2001年02月08日(木)00時01分41秒
- (ダメだ。やっぱ、言うのやめとこう…)
「どうしたの? 市井ちゃん」
「…ううん。何でもない、やっぱや〜めたっ!」
私は首を横に振って後藤から離れた。
「なんか、気になるなぁ…」
「気にしない気にしない…っと」
私は笑ってごまかした。
いつのまにか、後藤の涙も止まったみたいだ。
「そうだ。来年も初詣に行こうよ、二人でさ」
「うん」
「その時に、さっきの続きを教えてやるよ」
「うん」
私達は顔を見合わせてにっこりと微笑んだ。
「だから、頑張って、紅白とレコ大に行ってきな!」
「わかった」
「また、直前にメールいれるよ」
そう言って、私はケータイを取り出し、ウインクをした。
- 38 名前:道化師 投稿日:2001年02月08日(木)00時05分03秒
- 「ねえ、市井ちゃん」
後藤が改まって、私を見て言った。
「何?」
「行く前に、お願いがあるんだ…」
そう言って、後藤は目を閉じ、しばらくしてまた目を開けた。
「キス………してくれないかな。そしたら……そしたら、
きっと頑張れるような気がするんだ…」
(はい??? 何を言い出すんだ、いきなり!?)
私は突然のことに気が動転した。
(いくらなんでも、そりゃないっしょ。だって、私と後藤は……)
想像してみたら、私の顔が熱くなってきた。
たぶん………いや、きっと耳まで真っ赤になってると思う。
「ダメ……かな? やっぱり…」
後藤が泣きそうな顔で私を見る。
「い、いや……別にダメとは…」
(はっ!? 何を言ってんだ? 私は。…………え〜い! もう、どうにでもなれ!)
「じゃ、じゃあさ、目を閉じてくれる?」
「はい…」
後藤がゆっくりと目を閉じた。
- 39 名前:道化師 投稿日:2001年02月08日(木)00時08分14秒
- (つ、ついにやってしまった……。なんで、こんなことになってしまったんだ!?)
私は目を閉じたままの後藤を前にして、しばらく頭の中を整理してみた。
けど、何も思い当たる節なんて見当たらなかった。
これってさあ…………やっぱ、裕ちゃんの影響か?
後藤は目を閉じたまま、手を胸の前で組んでいる。
私は顔を後藤の顔に近づけた。
(な、なんか変な気持ちだな…)
後藤の頬には涙の跡が残っている。
化粧もボロボロだ。
ま、そんなに気にならないけどね…。
(それにしても、後藤って、中学生のくせに意外と色っぽいな…………って、
何言ってるんだ、私は!?)
私はフルフルと首を振り、後藤の唇を見た。
口紅のせいなのか、とても瑞々しくて、思わずプニュって押してみたくなる唇だ。
触れたら、とても気持ちよさそうな気がする。
(よ、よし………い、いいいい、いくぞ!)
私はぎこちない動きをしながら、後藤の肩に触れた。
- 40 名前:道化師 投稿日:2001年02月08日(木)00時09分35秒
- そして、後藤の唇の位置を確認しながら、少しずつ、少しずつ顔を近づける。
(ホントに、これでいいのか……?)
私はそっと目を閉じた。
そのまま、後藤の唇と重なりあう………………………はずなのだが…。
ラ〜ララララ ラ〜ララ〜♪
嬉しいのか悲しいのか、まるで狙ったかのようなタイミングでケータイが鳴った。
(――!? ケータイだ。でも、どうしよう…)
「ケータイ、でていいよ」
後藤が口を開いた。
私は目を開け、後藤から手を離し、ケータイを取った。
相手は裕ちゃんだった。
あまりに遅いので、電話して来たのだろう。
部屋に呼びに来られるよりは、断然こっちの方でよかったかも。
さすがにこんなところを見られるのは…………ね。
- 41 名前:道化師 投稿日:2001年02月08日(木)00時11分13秒
- 「はい」
『紗耶香、まだか? そろそろ時間やねん』
「もうちょっと待っててくんない?」
『せやなあ、あと2、3分ならええけど…』
「わかった」
私はそう言ってケータイを切り、再び後藤と向き合った。
私がうなづくと、後藤は目を閉じた。
(…………ホントにいいの?)
私は後藤の肩に手を掛け、少しずつ顔を近づけた。
私は目を閉じ、唇ではなく、左頬にキスをした。
触れた瞬間、後藤の柔らかい肌の感触と髪のいい匂いがした。
2、3秒の時間が過ぎる。
私は目を開けながら、後藤の柔らかいほっぺから口を離した。
後藤は目を開けたまま、ぼ〜っとしている。
「続きはさ、仕事が終わってから………ね」
私は顔を真っ赤にして、後藤を見た。
- 42 名前:道化師 投稿日:2001年02月08日(木)00時15分38秒
- 「今度は、ちゃんとココにしてやるよ」
そう言って、私は後藤の唇に指を当てた。
「うん」
後藤は頬をほんのりと赤く染めて、にっこりと微笑んだ。
「じゃあ、ちゃんとTVをチェックしてね」
突然、後藤は私の頬ににチュッとした。
「あっ…」
私は一瞬体が硬直した。
後藤はすぐに私から離れて、立ち上がって部屋から出て行った。
そして、部屋は私一人だけになった。
「…っかし、これでよかったのかなぁ………?」
私はベッドで大の字になって、天井を見た。
「これで、よかったのかもね……」
私は頬に手を当てた。
- 43 名前:道化師 投稿日:2001年02月08日(木)00時21分21秒
- 「…で、その後、どうしたのですか?」
マスターが話の途中で口を挟んだ。
「その後ですか? 約束どおり、一緒に初詣に行きましたよ」
市井が嬉しそうな顔で話す。
「そうですか。では、一生に一度しかこない、17歳の誕生日を私にも祝わせて下さい…」
そう言うと、マスターはシェイカーを取り出して、カクテルを作り始めた。
手際よくカクテルを作ると、市井の前に置いた。
「これは?」
市井がグラスを見て言った。
カクテルは上から淡い蒼と紅でグラデーションになっている。
それはまるで、私と後藤を表しているかのように思える。
「私からのプレゼントです」
「でも…」
「お代は結構ですよ。いい話を聞かせてもらったお礼みたいなものですから。
あ、そうそう、アルコールは入っていませんから大丈夫です。
さあ、飲んでみて下さい」
- 44 名前:道化師 投稿日:2001年02月08日(木)00時22分48秒
- 「じゃあ…」
市井はグラスを手に持ち、口を近づけた。
そして、そのまま口に含んだ。
「お味はどうですか?」
「おいし〜い…」
市井は目を見開いて声を出し、そのまま、もう一口飲んだ。
「マスター、これの名前は?」
市井はグラスを手にしたまま、マスターに問いかけた。
「名前ですか? そうですねぇ『with You』とでも、つけましょうか」
そう言って、マスターはにこりと微笑んだ。
ラ〜ララララ ラ〜ララ〜♪
突然、携帯の着メロの音がした。
「あっ、ちょっとゴメンなさい…」
そう言うと、市井は携帯を取り出し電話にでた。
「もしもし………あ、うん、わかった…………それじゃ、また後で…」
市井は携帯を切った。
- 45 名前:道化師 投稿日:2001年02月08日(木)00時26分13秒
- 「お友達ですか?」
「うん、さっき言ってた彼女。これから、逢うことになってるんです」
市井は笑顔で答えた。
「もしかして、曲を聞いてもらうんですか?」
「へへっ……。その通りです」
市井は頭をかきながら照れ笑いをした。
「曲のタイトルを教えていただけませんか?」
「タイトルは『君のそばに…』……このカクテルと同じ名前です」
「そうですか。奇遇ですね」
「ええ、ホント。じゃあ、行きますね、そろそろ…」
市井は席を立った。
「曲、今度、ぜひ聞かせて下さいね」
「はい。カクテル、ありがとうございました。おいしかったです」
「いえいえ、そんな大したものじゃありませんよ」
「ごちそうさまでした。じゃあ、また来ます」
市井は深々と頭を下げ、笑顔を見せてからバーを後にした。
その顔は自身に満ち溢れた、清々しい笑顔だった。
- 46 名前:あとがき その1 投稿日:2001年02月08日(木)01時03分55秒
- はあ〜……。終わってしまいましたねぇ。
とりあえず、初モノで初の完結。なんか短かったです。
…というのも、これから先、ちょこっと忙しくなるので、いっそのこと
一気に掲載しようと思ったわけです。
だから、今日で、え〜っと……15? ですか? まあ、そのくらいやっちゃいました。
この話、最初はもっと短くなる予定だったんですが、いつの間にか長くなってしまいました。
自分的には短編として書いたつもりです。
で、結果として、短中編になったようです。
ラストは途中、え〜と、矢口が出て行くところ辺りに思いつきました。
なんかね、最初に『市井×後藤』と言いながら、いつの間にか流れが
『市井×矢口』になりかけてて、ホント、裕ちゃんに救われたって感じです(笑)
この後に、出て行った後の話……途中の
>「そうだ。来年も初詣に行こうよ、二人でさ」
>「うん」
>「その時に、さっきの続きを教えてやるよ」
>「うん」
この部分を最後まで出さなかったので、これを言う場面を考えているのですが、
まだやるかわかりません。ま、一応書いてはいるんですけど…。
だって、本編にあまり関係ないですからねぇ。
- 47 名前:あとがき その2 投稿日:2001年02月08日(木)01時09分01秒
- 今回は「市井紗耶香編」でした。
サブタイトルは『1年の最後の日に…』とでもしておきます。
なかなか、タイトルをつけるのは難しいもので、誰かいいタイトルつけて
くれないかな〜って思ってるんですけどね(苦笑)
話的には、最後の方のキスシーンはあまり入れる必要がなかったような、
あったようなって感じです。
話の中で、市井ちゃんが
>これってさあ…………やっぱ、裕ちゃんの影響か?
って言ってるけど、ホントは「作者のイタズラか?」
にしたかったくらいです。
自分でもどこでこんな風に話が進んだのかわかりません(爆)
けど、これでよかったのかも…。
このタイトル「BAR Fairy Tale」ですが、元ネタは、プッチモニダイバーの
「バー ゴッキー」です。
今はもうやらないみたいですが、個人的には大好きなコーナーでした。
で、本来なら冒頭にあったような話にならないといけなかったんですけど、
最後の方では、ホントにいい話? みたいな状態で。
でも、もう終わっちゃったぞ……っと。どうしようもないですね。
最後に、12:名無し読者さん 13:名無し読者さん
18:名無しさん 23:名無しさん
その他、ここまで読んでいただいた皆さん、ありがとうございました。
これは短編集としてやっていくつもりなので、まだまだ続きますす。
一応、今書いているのは、モーニング娘。で「1番ちっちゃい人」のお話です。
これは、まだまだ序盤〜中盤の始めぐらいしか書けてません。
なのになぜか、ラストの場面が既に決まっているという変な話。
いや〜、途中はどうしよ〜!! って迷ってます。
まだまだ、先は長いですね。これからも、よろしく願います。
それでは、また次のちょこっといい話が聞ける日まで…。
そのときは、またこの「BAR Fairy Tale」にお立ち寄りください。
- 48 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月08日(木)01時46分54秒
- やっぱいちごまはいいね〜・・
個人的には続きの初詣がとてつもなく見たいんですが・・(w
気が向いたら載せて頂けたら嬉しすぎです。
- 49 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月08日(木)08時41分26秒
- いちごまスゴイ泣けました。
今度、さやまり書いてくれませんか?
- 50 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月08日(木)09時05分34秒
- いちごまの心温まる"ちょこっといい話"に感動。
作者さんの赤板のいちごまも楽しく読ませて頂いてます。
次作の「1番ちっちゃい人」のお話にも期待大です。
- 51 名前:道化師 投稿日:2001年02月09日(金)23時22分43秒
- >48:名無しさん
どうもです〜。
…と、いうわけで、早速掲載しちゃいます。
あのですね、都合により、バーを出て行った後から話は始まりますが、
まあ、気にせずに読んでみて下さい。
詳しい事は、また「あとがき」で書きます。
>49:名無しさん
泣けましたか…。嬉しいです。
書いてるとよくわかりませんが、やっぱ、読むとそうなんですかねぇ。
『市井×矢口』これは、今少しずつ書いています。
なんとなく、ここまでの通過点になるような話になると思いますが、
掲載したときは、是非感想をお聞かせくださいな。
これは、次回の「1番ちっちゃい人」のお話の後になると思います。
しばらく待っててくださいね。
>50:名無しさん
自分でも疑問なのですが、ホントに“ちょこっといい話”になっていたでしょうか?
なんか、あんまり自信がないんですよ。
けど、お気に召していただいて光栄です。
次回作はハイテンションな方達に頑張ってもらいます。
- 52 名前:道化師 投稿日:2001年02月09日(金)23時28分10秒
- さてさて、これから始まる物語は「BAR Fairy Tale」を出た後の話。
電話の相手との約束を果たした後から、物語は始まります。
タイトルは
『君のそばに…』
そう、彼女が書いた曲と同じタイトルです。
では、彼女達の様子を見てみることにしましょう。
- 53 名前:君のそばに… 投稿日:2001年02月09日(金)23時30分03秒
- 「………どう、だった?」
私はギターを置いて、後藤の顔を見た。
「…うん。すっごくよかった……」
後藤は涙を浮かべながら、にっこりと微笑んだ。
「よかった…」
私は後藤の言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。
後藤は立ち上がって、私の隣に座った。
「ねえ、市井ちゃん」
「何?」
「この曲さあ、なんていうの?」
「ああ、ゴメンゴメン。まだ言ってなかったね」
私は座り直して、後藤の目を見た。
…と、思ったけど、やっぱ恥ずかしかったので後藤の目を見るのをやめた。
だって、愛の告白みたいじゃん………って、単に思い込みが激しいだけか?
だから、少しうつむき加減で、斜め下を見ながら話し出した。
「この曲はさ、大切な人のことを思って書いたんだ。さっき、
歌ってるのを聞いててわかったと思うけど、どんなに離れていても、
あなたと私はいつも一緒だよ…っていう歌詞なんだよね」
- 54 名前:君のそばに… 投稿日:2001年02月09日(金)23時31分07秒
- 「…うん。なんか、私のことを歌ってるみたいだった…」
(私のこと…??? ま、いいや。続けよっと…)
「だから、この曲はね……大切な人の前でしか歌わないことにしてるんだ…」
私は顔を上げながら言った。
「それって…」
後藤が目をキラキラ輝かせながら、次の言葉を待っている。
「大切な人に対する私のいろんな想いが込もっているんだ。
だから、曲名は『君のそばに…』ってつけたんだ…」
私は言い終わってから後藤の顔を見た。
「………って、どうしたんだよ急に? 泣くなよ………もう…」
後藤は涙をボロボロ流しながら、顔を伏せている。
いつものように、大声を上げて泣きはしなかったものの、やっぱ、
見てて辛いというか何というか…。
私ってば、相変わらず後藤に泣かれるのは苦手みたい。
「しょうがないなあ…」
私は後藤の体を起こして、後藤の頭を私の胸に押し付けた。
(相変わらず進歩してないな〜、市井は。って言われてもしょうがないの!
だって、こーする以外、他に知らないんだよ〜! こういう時ほど、
近くに裕ちゃんいたら……って思う。…マジで)
しばらくの間、後藤の頭を撫でてやったら少しは落ち着いたみたいだ。
- 55 名前:君のそばに… 投稿日:2001年02月09日(金)23時31分57秒
- 「ホント、あのときと一緒だね。これじゃ…」
「…思い出してた……」
後藤が涙を拭きながら喋る。
「何を?」
「今年の初詣…」
「初詣?」
「…うん。ほら、あのときさあ、市井ちゃん言ってくれたじゃん…」
あの日の出来事が頭の中を駆け巡る。
- 56 名前:君のそばに… 投稿日:2001年02月09日(金)23時33分11秒
- ガランガラン………パンッパンッ……
鈴を鳴らし、手を合わせる。
(どうか、今年もいい年でありますよーに…)
私は目を開け、チラリと横を見た。
まだ、後藤は目を閉じ手を合わせている。
しばらく待つと、後藤が目を開けた。
「随分長かったね。何をそんなにお祈りしてたの?」
「えっ? ……内緒、だよ」
後藤が顔を真っ赤にして言った。
(また、なんか変なことお祈りしたんじゃないだろうな……)
私は態度でこそ表さなかったものの、心の中ではため息をついていた。
「そういう市井ちゃんは?」
「私? そりゃ〜もう、今年も後藤と一緒にいられますよーに…ってね」
私が両手を組んでそう言うと、後藤が突然笑い出した。
「何がおかしいのよ?」
「ははは……。だって、お祈りしたことって、人に言っちゃいけないんだよ。
なのに、市井ちゃんったら……あはは…」
「へっへ〜ん! 残念でした〜。ホントは別のことをお祈りしたんだよ〜だ!」
私はあっかんべーをしながら笑った。
「あっ! だましたな、この〜!」
私は急いで手を挙げて追ってくる後藤から逃げた。
- 57 名前:君のそばに… 投稿日:2001年02月09日(金)23時35分59秒
- 後藤が後から必死に追いかけてくる。
私は笑いながら逃げるが、あっさりと後藤に捕まった。
「捕まえたっ! もう離さないぞ!!」
後藤が私の背中に飛びついた。
「相変わらず速いね、後藤は…」
傍から見れば子供と変わらないのだが、これはこれで楽しかったりする。
私達はお互い顔を見合わせて思いっきり笑った。
「そういえばさあ、市井ちゃん」
後藤が背中越しに話しかけてきた。
「何?」
「昨日の続きさあ、教えてくれないかな…」
「あ、あれ……」
一瞬顔が引きつった。
(あれは、単に一時的な感情であって、本来後藤と私は……いや、
それじゃ納得しないか…。う〜ん、参ったなあ…)
「とりあえず、どこかに座ろ…」
私達は移動して、どこか知んないけど適当に階段に座った。
(結局、私も一時的な感情に流されるしかないのかな…)
「じゃあ、話すよ…」
私は手を組み、ゆっくり口を動かした。
私が言い終わると、いきなり後藤が抱きついてきた。
「ちょっ、ちょっと後藤!?」
- 58 名前:君のそばに… 投稿日:2001年02月09日(金)23時37分50秒
- 「ああ…。あれね……」
「ねえ、あれさあ、もう一度……言ってくれないかな…」
後藤が涙目で私を見つめる。
(ううっ……。だから、それは卑怯だってばぁ〜……)
「もう、一度……?」
後藤がゆっくりうなずく。
「しょうがないなあ…。ホントにあと一回だけだからね。私だって、
すっごく恥ずかしかったんだから…」
私ってば、どうも、とことん後藤の涙には弱いみたいだ…。
私は頭をかきながら、後藤から視線を外した。
私は目を閉じて呼吸を整え、ゆっくりと目を開けてもう一度後藤の顔を見る。
けど、涙目の後藤を見ながら話すのは辛いので、どこか遠くを見ながら
話すことにした。
あのときと同じように、ゆっくりと口を動かす。
「後藤は、私にとって大切な人なんだ…。だから、いつまでも私と……」
私が言い終わる前に、突然後藤が私の視界に現れた。
そして、後藤の顔がだんだん近づいてきて、そのまま私の口を塞いだ。
「……んっ…」
一瞬、全身に衝撃が走る。
- 59 名前:君のそばに… 投稿日:2001年02月09日(金)23時38分39秒
- そうかと思えば、今度は全身の力が抜け、淡く心地よい感覚に包まれる。
以前味わった裕ちゃんの時と違い、優しくて別に変な感じはしなかった。
ゆっくりと後藤の顔が離れていく。
「約束…したよね……。今度はココにしてくれるって…」
後藤が私の唇に指を当てる。
(や、やられた……。いつの間にこんな娘になったんだ…?)
完全に私と後藤の立場は入れ替わっていた。
あれほど消極的だった後藤が、いつの間にか主導権を握るようになっていた。
(もしかして、後藤に遊ばれてる………?)
そんな考えが、ふと頭の中をよぎった。
…が、そんなことより、別のことが私の頭の中を駆け巡っていた。
(私……ホントに後藤に恋…しちゃったのかな………? そんなまさか…。
いや、でも…)
「ご、後藤はさ、私のこと……どう思ってるの?」
茫然とした状態で、口だけがぎこちなく動く。
どんなに頑張っても心の動揺は隠しきれなかった。
- 60 名前:君のそばに… 投稿日:2001年02月09日(金)23時39分45秒
- 「もちろん……」
頬を赤くした後藤が私に抱きついてくる。
「市井ちゃんは……大切な人だから、いつまでも一緒にいて欲しい…」
(あ、あれ??? なんで…なんでだろう……頬が熱いよ…)
私の目からは涙が溢れていた。
後藤が言った言葉は、あの日私が言った言葉……そして、今日
また言いかけていた言葉…。
あのときと同じ言葉を、今度は後藤が私に言った。
「後藤……」
後藤が私の顔を後藤の胸に押し付ける。
私はギュッと後藤を抱き締めた。
しばらくして顔を上げ、今度は私から後藤にキスをした。
「市井ちゃん…大好きだよ……」
- 61 名前:君のそばに… 投稿日:2001年02月09日(金)23時40分48秒
- 「はあ〜…。今日も寒いな〜…」
私は悴む手を暖めながら空を見た。
「ねえ、市井ちゃん。今日も行くの?」
私の横で後藤が少し嫌そうな顔をして言った。
「あったり前じゃん! 私も頑張らなくっちゃね。ほら、早く行くよ!」
「えっあっ…。ちょ、ちょっと待ってよ!」
私はギターを抱え、後藤の腕を引っ張りながら歩きだした。
後藤は慌てて私に追いつき、腕を組み直して一緒に歩く。
「今日は、どんな歌を歌うの? もちろん、あれ歌ってくれるんでしょ?」
「あれ? 後藤も一緒に歌えばいいじゃん」
「う〜ん…。それもいいけど、やっぱ、市井ちゃんが歌わないとダメなの!」
「ワガママだねぇ、このコは…」
私は笑いながら後藤の頬をつっつく。
後藤は嬉しそうな顔で私を見る。
「ほらほら、急ぐぞ!」
「だから待ってってば〜!!」
私達は寒空の下を駆け出した。
今日もギターの音と二人の歌声が夜空に響く。
- 62 名前:あとがき… 投稿日:2001年02月09日(金)23時56分33秒
- さて、どうだったでしょうか?
…って、すっごっく読みにくいですね…(苦笑)
というわけで、場面わけをやっておきます。
53〜55:「歌い終わった後で…」
56〜57:「初詣の思い出」
58〜60:「思い出した後に…」
61:「それから数日後…」
となっておりますが、やっぱりわかり辛いですよね。
今回のは、構成ミスです。けど、話はいい感じでいったと思います。
でも、結局はキスか!! ってね。仕方ないですよぉ…。
約束の部分なんですから…。勘弁して下さい(涙)
もっと、爽やかに終わらせたかったのですが、この二人ですから…(謎)
……これでよかったんですかねぇ?
ちょっと後悔してるのは、文章の途中になぜか空欄が…。
次回からは気をつけます。
さて、次回から始まりますは、先日予告した通り「ちっちゃい人」のお話。
今度は最初からヤバイです……とだけ、言っておきます。
- 63 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月10日(土)02時39分53秒
- いや十分爽やかでしたよ。やっぱいちごまは萌えるシーンがなきゃ(w
- 64 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月10日(土)09時30分02秒
- ひさしぶりにいちごまで感動したよ。。。
- 65 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月10日(土)13時00分23秒
- 甘〜い、いちごま、ご馳走様でした。
でも、作者さんの甘系のいちごまもっともっと食べたい気分です。
次作の「1番ちっちゃい人」は誰とからむのでしょうか?
楽しみだなぁ〜。
- 66 名前:道化師 投稿日:2001年02月12日(月)01時09分19秒
- >63:名無しさん
最後は爽やかですね(苦笑)
『市井×後藤』って、ある意味そうなんですかねぇ…。
そういや、「(w」って、どう意味なのでしょうか?
もしよろしければ教えて下さい。すっごく気になってるんで。
>64:名無しさん
感動……それは心の叫び…。はい、チャーミー石川です!(爆)
気にしないで下さい…。
この二人で感動したっていうのは、最近この手のネタがないからでしょうか。
次回作もお願いしますね。
>65:名無しさん
おそまつさまでした。
この二人だったら、どこへでもいけそうな気がする……。
リクエストの『市井×矢口』の時にも、ちょこっとだけカラミそうです(裏話)
「1番ちっちゃい人」といえば……? そう、あの方です。
それでは、次のお話にいっちゃいましょ〜→!!
- 67 名前:道化師 投稿日:2001年02月12日(月)01時10分55秒
- 今夜もいつも通り、小さなバーの窓に明かりが灯る。
さて、今夜はどんな人がやって来て、どんなお話をしてくれるのだろうか…。
カランカラン…
「いらっしゃい…」
どうやら、今日もお客さんが入って来たようですね。
それでは、今宵もそのお話に耳を傾けてみましょうか。
- 68 名前:道化師 投稿日:2001年02月12日(月)01時12分44秒
- 金髪でコギャル風のファッションをした女性がカウンターに座った。
見るからにド派手なそのファッションは、ちょっと引いてしまう気がするが、
彼女はそれを感じさせない不思議な魅力を持っている。
厚底ブーツを履いているのでよくわからないが、おそらく背はものすごく
低いのではないのだろうか。
そのせいか、イスの上にちょこんと座る姿はなんか可愛らしい。
「こんばんは」
「こんばんは、お嬢さん。今日はお一人ですか?」
マスターはグラスを拭きながら彼女を見て言った。
「はい」
彼女は笑顔で答えた。
「何にします?」
マスターがグラスを拭くのを止め、彼女の前に来て言った。
「あの〜、オレンジジュースとかって……あります?」
「ええ、もちろん」
マスターはビンを取り出し、氷の入ったグラスに注ぎ、ストローを刺して
彼女の前に出した。
- 69 名前:道化師 投稿日:2001年02月12日(月)01時14分09秒
- 「今日はどうしたんですか?」
「……ここって、お話を聞いてくれるんですよね?」
彼女はもじもじしながら、上目使いでマスターを見ながら言った。
「はい」
マスターはにっこりと微笑んだ。
「よかった〜…」
彼女はホッと胸を撫で下ろして、ジュースを飲んだ。
「あの、紗耶香……いえ、市井と言う女性から聞いて来たんですけど…」
「もしかして、矢口真里さんですか?」
「はい」
「なるほど…。話に聞いたとおり、小柄で可愛らしい方ですね」
「いや、それほどでも…」
矢口は顔を赤くしてうつむいた。
「それじゃあ、早速聞かせていただきましょうか」
「は〜…。なんか恥ずかしいな〜…。じゃ、いきますよ…」
矢口はストローで氷をかき回しながら話を始めた。
- 70 名前:道化師 投稿日:2001年02月12日(月)01時18分56秒
- はい。今回は導入部までです。
これで「1番ちっちゃい人」の正体がわかりましたよね。
……って、最初からバレバレやん!
次回から本編に入りますが、出だしは何て言えばいいのだろう…?
う〜ん…。とにかく次回までのお楽しみということで。
- 71 名前:名無し読者 投稿日:2001年02月12日(月)04時40分08秒
- (w、というのは、(笑)、と同じ意味。
(わら、(ワラ、(藁、(和良、などもあるが、これらは厨房に対する煽りにもなって
しまうので、(笑、(w、が無難でしょう。
というか、厨房の意味もわかんなかったりする? ネット歴浅い?ってか、2ちゃん行ったこと
ないとか・・・?
- 72 名前:道化師 投稿日:2001年02月12日(月)23時10分16秒
- >71:名無し読者さん
な〜るほど…。よくわかりました。
>厨房の意味もわかんなかったりする?
その通りです。まったくわかりません。
なんか、他のところで「やぐちゅー」とかあるけど、さっぱりです。
>ネット歴浅い?ってか、2ちゃん行ったことないとか・・・?
確か、2年半くらいだと思いますが…。2ちゃんねるは最近知りました。
でも、なんか変な感じですね。あそこ。
じゃ、続きいきますか。
- 73 名前:道化師 投稿日:2001年02月12日(月)23時21分16秒
- 「ホンマにええんやな?」
「…………うん」
私はそっと目を閉じた。
鼓動がだんだん速くなっていく。
周りに聞こえているのではないかと思うくらい、私の胸はドキドキしていた。
私はじっと相手を待った。
頭の中でいろんな想いが駆け巡る。
あんなことやこんなこと、想像するだけで顔が熱くなっていく。
そうこうしている間にも、私の胸の高鳴りはさらに大きくなっていく。
耳が熱い。
目を閉じていても、私の顔が赤く染まっていくのがわかった。
私はそのままの状態でしばらく待つ。
――が、何も起きない。
(もう、何やってるのよ! はやく〜!!)
焦らすに焦らされ、我慢しきれなくなった私は、うっすらと目を開けた。
その瞬間――
「んっ!? …………」
まるで狙っていたかのようなタイミングで、唇と唇が重なり合った。
- 74 名前:道化師 投稿日:2001年02月12日(月)23時21分58秒
- 私は目を大きく見開く。
一瞬、私の体は硬直して、次第にその硬直が解けていく。
何が起こったのかわからず、私はただ茫然としていた。
私が状況を把握するには、しばらくの時間が必要だった。
状況を把握したときはまだキスの途中だった。
激しいけど、優しくて甘いキス。
相手は、実はかなりのテクニシャンだったりする。
唇を重ね合わせたまま、私は相手の背中に腕をまわす。
ちょっと細身の体だけど、私を抱いてくれるには十分だ。
相手は私をギュッと抱き締めてきた。
甘ったるい香りが鼻をかすめる。
私はその香りに酔いしれていた。
そして、私は再び目を閉じた。
- 75 名前:道化師 投稿日:2001年02月12日(月)23時24分34秒
- 「………ねえ、起きて下さぁ〜い! 矢口さぁ〜ん!!」
私を呼ぶ声がする。
「…矢口さぁ〜ん! 起きて下さぁ〜い!!」
(なによ! 今、いいところなんだから話しかけないで!!)
「矢口さぁ〜ん! 朝ですよぉ〜!!」
(さっきから何なのよ〜、全く…。私は今………………ん??? 朝?
何言ってるの? 今は夜のはずでしょ?)
私は疑問を解くために、ゆっくりと目を開けた。
(眩しっ!! 何なの? この光は…)
「あっ! やっと目が覚めたみたいですねぇ。よかったぁ〜…」
誰かが私を見下ろしている。
だが、目が慣れていないのと逆光のせいもあって、誰なのか判別できない。
(誰? なんでこんなに眩しいの? 今は夜のはずなのに……。
あっ、そうか…きっと、ライトの明かりね…)
私は再び目を閉じることにした。
「……また寝ちゃいましたぁ。仕方がないですぅ……。
ああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
(何? 何が起こったの?)
私は思わず目を開けた。
- 76 名前:道化師 投稿日:2001年02月12日(月)23時28分16秒
- ここで問題です。
「矢口真里を呼んでいるのは誰でしょう?」
ヒント1:声は鼻声っぽいです。
ヒント2:半デコです(←これでわかるのだろうか?)
正解は次回発表します。
- 77 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月13日(火)01時35分30秒
- これはあの子ですね?
つ…さんですね?
- 78 名前:道化師 投稿日:2001年02月13日(火)23時11分08秒
- >77:名無しさん
それでは、正解を発表します。
「辻さん」ではなく「加護さん」でした〜!!
辻ちゃんは半デコではありませんから。
残念でした。また、次回頑張って下さいね。
- 79 名前:道化師 投稿日:2001年02月13日(火)23時16分06秒
- そこには疲れているのか、肩で息をしている加護がいた。
「えええぇぇぇっ!? なんで加護がいるのよぉぉぉぉ!!
私の目の前には裕ちゃんがいて、私は裕ちゃんとこうやって…………ん?」
私は下を見た。
そこにあったのは、裕ちゃんの体ではなく、誕生日に裕ちゃんから
プレゼントされた抱き枕だった。
「あれれれれ??? …………」
私は茫然としていた。
「どうしたんですかぁ? 矢口さん」
加護が不思議そうな顔をして話しかけてきた。
しかし、私の耳には届いていなかった。
(今は夜なんだよねぇ…。で、私は裕ちゃんと二人っきりで
ショッピングをして、レストランに入って……)
私の顔がだんだん熱くなってくる。
「あっ! 矢口さん、どうしたんですかぁ? 熱でもあるんですかぁ?」
加護が私の顔を見て慌てだした。
(う〜ん。…けど、今は朝で、私はベッドの中にいて、抱きまくらを抱いていて…)
長い自問自答の末、ようやく一つの答えが出た。
- 80 名前:道化師 投稿日:2001年02月13日(火)23時17分59秒
- ………夢。
そう、私が今まで見て聞いて感じていたもの全てが、全部夢だったのだ。
けど、一つだけ疑問が残った。
(確か、私はあのとき、裕ちゃんに指輪をプレゼントされて……)
………?
「ああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
私は思わず叫んでいた。
「ど、ど、ど、ど……どぉ〜したんですかぁ!?」
加護はさらに慌てている。
私は改めて右手を見た。
薬指にはちゃんと銀色に光る指輪がはめられていた。
「や、や、やややややぁ〜ぐちさん! ど、ど、ど、ど、どどぉ〜したんですかぁ!?」
加護はおろおろしながら、頭を抱えたまま私の前でぐるぐる回っている。
(あれは……夢? それとも…)
私はそこで思考回路をストップさせた。
(ま、いいか、後で考えよっと。それより…)
「ねえ、加護」
「ななななななな何でしょうか」
加護はおろおろしながら、次第にいつもの表情に戻っていく。
- 81 名前:道化師 投稿日:2001年02月13日(火)23時19分55秒
- 「なんで、アンタがここにいるの?」
「…………」
加護は目を点にしたまま、ただ茫然と立ち尽くしている。
「ああああああああっ!!」
加護が突然大声で叫んだ。
「…………うるさあああああぁぁいっ!!」
私は加護の叫び声よりも、さらに大きな声で怒鳴った。
普段は怒らない私でも、さすがに起きてすぐは耐えることができなかった。
それほど、加護の声は大きかったのだ。
いつもハロモニで辻と叫んでいるから、一応慣れていたつもりなんだけどね…。
「ったく、なんなのアンタは!」
「思い出しましたぁ〜」
加護は何事もなかったような顔で言った。
「だったら、いちいち騒ぐんじゃないの!」
「ゴメンなさい…」
加護はバツが悪そうな顔をしてうつむいた。
さすがに、ちょっと厳しかったかなぁ……。あはっ、あははははは…。
「で、何なの? 一体」
「えっとですねぇ〜、だからぁ〜、中澤さんがぁ〜、中澤さんがぁ〜…」
加護は相変わらず、もじもじしながら喋る。
- 82 名前:77の人 投稿日:2001年02月14日(水)00時20分06秒
- あ〜!!加護ちゃんか〜。
『ミュージックエンタ』のI WISHで辻ちゃんがちょっと
でこっぱちだったから…残念です。
- 83 名前:道化師 投稿日:2001年02月14日(水)00時44分09秒
- >82:77の人さん
スミマセンねぇ。でも、私の中では「半デコ=加護ちゃん」のイメージが強いんです。
けど、ののも後々出てきます。とだけ言っておきましょう。
>49:名無しさん
例の件ですが、結構長くなりそうな感じです。
- 84 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月14日(水)06時35分07秒
- どうも49っす。
長くなっても、いいですよ
- 85 名前:道化師 投稿日:2001年02月15日(木)04時29分04秒
- >84:49さん
わかりました。
では、続きです。
- 86 名前:道化師 投稿日:2001年02月15日(木)04時30分39秒
- 「はっきり喋りなさい!」
「はいっ! えっとぉ〜、中澤さんがぁ〜、中澤さんがぁ〜…………………」
加護はまたも凍りついた。
「お〜い、加護〜……。ダメだこりゃ…」
私は加護の顔の前で手を振ってみた。
けど、加護の目の焦点は全く合っていなかった。
「仕方がない、電話するか…」
私はふうとため息をついて、ケータイを取り出した。
「えっと……、裕ちゃんのはっと…」
私は裕ちゃんのTEL番を検索して電話をかけた。
「…………あっ、裕子?」
『おう! 裕ちゃんやで。どないしたん、矢口?』
「加護が来てさあ、なんか裕子が用があるって言うから…」
『ああ〜…。そうやった、今日暇かな〜思ってな』
「別に何もないけど…。どうしたの?」
『ん? ちょっとなあ…。じゃ、後で逢おうか』
「うん、わかった」
私は電話を切り、再び加護に目をやろうと振り返った。
- 87 名前:道化師 投稿日:2001年02月15日(木)04時32分15秒
- 「どうしたんですかぁ? 矢口さん」
「わあああぁぁぁ!!!!」
私は悲鳴を上げ、思わず後ろに飛びのいた。
どうやら、加護はあの後元に戻って途中から私のすぐ後ろに立っていたらしく、
そのまま終わるのを待っていたようだ。
「な、なんでそこにいんのよ! アンタは!!」
「なんでって言われましてもぉ…。矢口さんを待ってるからじゃないですかぁ〜」
「だからって、何も私の後ろに立っていなくてもいいじゃないの!」
「すみません…」
加護が泣きそうな顔で私を見る。
ホントは何も悪気のない加護を責めるのはいけないことだということは
わかってるけど、なんとなくやってしまうんだよね…。
「で、思い出したの?」
「はい」
加護はさっきとは打って変わって、笑顔で答えた。
「けど、もう終わっちゃたからいいよ、もう」
「そうですかぁ…」
加護は残念そうに肩を落とした。
- 88 名前:道化師 投稿日:2001年02月15日(木)04時33分40秒
- 今回は、作者体調不良によりここまでです。ゴメンなさい。
- 89 名前:道化師 投稿日:2001年02月16日(金)00時28分17秒
- 「じゃあ、矢口さんさよなら」
「さ、さよなら…」
加護は手を振りながら部屋を出て行った。
「結局、何だったんだ……?」
私は朝っぱらから、妙に疲れたような気がした。
いや、気のせいじゃないかもしれない…。
「はあ〜…。顔でも洗うか」
私はケータイを置いて、洗面所に向かった。
ナンダカンダやっているうちに、時刻はもうすぐ10時になろうとしていた。
「ヤバっ! 急がないと、裕ちゃんとの約束に間に合わない!!」
私は急いで身支度を済ませて部屋を出た。
今日の服装は、赤いワンピースに黄色いストール、そして、
プーさんのポーチを持って……靴? もちろん、厚底18cm!!
ちょっと、大人っぽく仕上げてみました! ……って、誰に言ってるんだ私は!?
- 90 名前:道化師 投稿日:2001年02月16日(金)00時30分30秒
- 私は走って待ち合わせの場所に向かった。
もう結構慣れたもので、厚底で走っても転ばないようになった。
待ち合わせの場所に着くと、そこには既に裕ちゃんがいた。
「遅れてゴメン」
私は顔の前で手を合わせながら裕ちゃんに近づく。
「ええってええって。呼び出したのは私の方やし」
裕ちゃんは笑顔で迎えてくれた。
「で、話って何なの?」
「まあまあ、そんな焦らなくてもええやん。とりあえず、どっか行こっか」
裕ちゃんは私の手を取って歩きだした。
「どこに行くの?」
私は手を引っ張られながら、裕ちゃんの後をついて行く。
「着いてからのお楽しみ!」
裕ちゃんは嬉しそうに言った。
私は早足で裕ちゃんに追いつき、裕ちゃんと腕を組んだ。
「おっ♪ いつになく大胆やねぇ。矢口も、やっと私の愛をわかってくれたんやなぁ…」
裕ちゃんがニヤけながら私を見る。
- 91 名前:道化師 投稿日:2001年02月16日(金)00時34分39秒
- 「な〜に言ってんの! そんなわけないじゃん!」
少しだけ声が震えていたけど、裕ちゃんにはバレてないみたい…。
ホントは顔が真っ赤になりそうなくらい嬉しいんだけど、ここは
あえて悪女になってみた。
「なんや、違うんか…。でも、いつかきっとわかってもらえるはず!
よし、頑張るで〜!!」
裕ちゃんはガッカリしたかと思うと、急に張り切り出した。
そんな裕ちゃんを見るのが、意外と楽しかったりする。
メンバーといるときは違うけど、二人きりになったときは、
いつもこんな感じだ。
子供みたいにいっつもじゃれあっている。
……といっても、勝手に裕ちゃんの方からくっついてくるわけで。
決して、私の方から近づくことなんて…………ないこともないか…。
- 92 名前:道化師 投稿日:2001年02月16日(金)00時36分26秒
- と、いうわけで、目的地に着くのですが、それはまた次回…ということで。
- 93 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月16日(金)04時25分33秒
作者さん頑張って!
久々にやぐちゅー発見!
うれしいなー!
- 94 名前:道化師 投稿日:2001年02月16日(金)23時53分45秒
- >>93 名無しさん
>久々にやぐちゅー発見!
『矢口×中澤』ですか? う〜ん、最近浮気していますね(笑)
あんまり期待しないで下さいね。でも、頑張りま〜→す!!
- 95 名前:道化師 投稿日:2001年02月17日(土)00時01分43秒
- 「さ、着いたで」
着いたところは遊園地だった。
「うっわぁ〜! 久しぶりに来た〜!!」
私は大はしゃぎで入場口へと走り出した。
「ホラホラ、あんまりはしゃぎ過ぎると転ぶで!」
裕ちゃんが後ろから叫ぶ。
「へーきへーき! ……………ああぁぁぁっ!!」
バタァァァァァン……
私は見事に転んでしまった。
「言わんこっちゃない…。大丈夫か? ケガは?」
裕ちゃんは走ってきて、私に手を差し伸べた。
私は手を取りながら、自分の体を見た。
「大丈夫……みたい…」
不思議な事に、どこもケガしていなかった。
なんで……?
- 96 名前:道化師 投稿日:2001年02月17日(土)00時03分26秒
- 「お…重い……」
不意に私の下から声が聞こえた。
私は声に驚き、慌てて飛び退いた。
「ゴメンなさい!」
私はすかさず謝った。
「大丈夫ですよ、やぐ………コホンっ…お嬢さん」
私の下敷きになっていたのは、くまの着ぐるみを着た人だった。
くまさんは頭を押さえながら、立ち上がって言った。
「おケガはないですか?」
「は、はあ…。ホントに大丈夫なんですか? くまさん」
くまさんはよろけながらも、ガッツポーズをとって見せた。
「そうだ! こんなものはいかがですか? おーい!!」
くまさんはそう言って、誰かを呼んだ。
すると、ひつじの着ぐるみを着た人が走ってきた。
「はい、や……痛っ! お、おじょーさん!」
ひつじさんは痛そうにして、風船を差し出した。
- 97 名前:道化師 投稿日:2001年02月17日(土)00時36分35秒
- よく見ると、くまさんがひつじさんの足を踏んでいた。
「アリガト♪ ひつじさん」
私は笑顔で風船を受け取った。
私よりも小さいくまさんとひつじさんは、私に風船を渡すと
どこかに行ってしまった。
「よかったね! や〜ぐちっ!!」
声と同時に、私の体に腕が絡みついてきた。
「わわわっ! 裕ちゃん!?」
いきなり後ろから抱きつかれたので、一瞬、何が何だかわからなくなった。
私は慌てて裕ちゃんから離れる。
「なんや? さっきは矢口の方からくっついてきたのに…」
裕ちゃんは指をくわえながら、残念そうに私を見る。
「さっきと今のは違うでしょ!」
「別にええやん、ちょっとくらい。減るもんやないんやから…」
「そういう問題じゃない!」
「そんな怒んなさんなって。ホラ、入ろか」
裕ちゃんは急に普通に戻って私の怒りを受け流した。
- 98 名前:道化師 投稿日:2001年02月17日(土)00時39分31秒
- はい。くまさんとひつじさんの中身はな〜んとなく想像がつきそうな感じですねぇ。
特に○×□なんかそのままだし…。
ということで、次回まで…。
そうそう、来週は更新が滞る事がありますがご了承ください。
- 99 名前:ガンツ 投稿日:2001年02月17日(土)17時40分00秒
- この人たちは・・・か・・・とつ・・・さんですね?
このままやぐちゅ〜でいってほしいな〜・・・。
- 100 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月19日(月)23時56分29秒
- 待ってまーす!
- 101 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月20日(火)05時01分12秒
- 2月20日AM5時
青板の上位6スレが全て中澤主役…幸せだ。しかもほとんどやぐちゅー
- 102 名前:道化師 投稿日:2001年02月21日(水)23時18分21秒
- 久々に更新です。
>>99 ガンツさん
初めましてですね。
>か・・・とつ・・・さんですね?
ピンポ〜ン♪ あいののの二人です。
これからしばらくはこの感じで進みます。
>>100 名無しさん
やってきました〜!! またせてゴメンなさい。
>>101 名無しさん
2月21日 PM11時
このスレが好きな数字の「14」にありました。
さて、久々の続きです。
- 103 名前:道化師 投稿日:2001年02月21日(水)23時21分41秒
- 中に入ってすぐに、観覧車へと向かった。
「やっぱ、遊園地に来たら、一度はこれに乗らんとなぁ♪」
裕ちゃんは嬉しそうな顔で私の腕を引っ張っていく。
「………やだな〜…」
私はぼそっと呟いた。
「何か言った?」
裕ちゃんは聞こえないフリをして、どんどん歩いていく。
ホントは、私が高いところが苦手なのを知ってるくせにさ…。
結局、私はムリヤリながらも観覧車に乗るハメになってしまった。
ゆっくりと地面が離れていく。
私は最初のうちだけ下を見て、後はなるべく遠くを見ないようにした。
でも、足はガタガタ震えている。
恐怖で私の胸のドキドキがデカくなっていく。
そして、ゴンドラが一番上に来たときに悲劇は起きた…。
ガタン………………………しーん…
急にゴンドラが揺れ、そのまま動かなくなった。
- 104 名前:道化師 投稿日:2001年02月21日(水)23時23分49秒
- これって、ひょっとして………。
想像したくもない出来事が起きてしまったのである。
――そう、止まっちゃったの……………………。
「いやあああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!! 助けてええええぇぇぇぇっ!!!!!」
私は涙を流しながら思いっきり叫んだ。
「大丈夫やって。矢口」
裕ちゃんが耳を押さえながら私の肩に手を置く。
「いやああああぁぁぁっ!!!! まだ死にたくなああぁぁぁい!!!」
私は首を振りながら叫びまくる。
「ホラ、もうこれで大丈夫やろ…」
そう言って、裕ちゃんは私を抱き締めた。
私は裕ちゃんに抱き締められると叫ぶのを止めた。
少しだけ安心したような気がした……ほんの少しだけど。
「……ひっく………うん……」
私はなんとか泣き止んだものの、まだ裕ちゃんの腕の中でガタガタと震えていた。
それを感じ取ったのか、裕ちゃんが私の背中を撫でてくれた。
- 105 名前:道化師 投稿日:2001年02月21日(水)23時25分49秒
- 「もう、大丈夫やで…。なあ、矢口…」
「なに?」
「下を見てみたらどうや? めちゃ×2キレーやで」
「や、やだ…。怖くて見れない」
私は裕ちゃんの胸に顔を埋める。
「しゃーないなぁ…。だったら、おまじないをしてあげるわ。
勇気が出るおまじない。せやから、ちょっとの間、目を閉じてじっとしててや」
裕ちゃんが私の体をゆっくり離して、私の目を見ながら言った。
「う、うん…」
私はゆっくりと目を閉じた。
けど、何も起こらないまま時間だけが過ぎていく。
「ほいっ! もう目を開けてもええで」
私は恐る恐る目を開けた。
「ん!? …………」
こ、このパターンは…。
- 106 名前:道化師 投稿日:2001年02月21日(水)23時29分15秒
- >こ、このパターンは…。
どうしましょ。これから…ってとこで終わります。
きっと、どこかに出てきたんじゃないですかねぇ?
では、また次回まで…。
- 107 名前:道化師 投稿日:2001年02月22日(木)23時29分50秒
- 目を開けた瞬間、裕ちゃんの顔が迫ってきて、私の唇を塞ぐ。
そして、ゆっくりと裕ちゃんの顔が離れていった。
夢と同じ出来事が現実となった。
いつもは無理矢理されて、イヤに感じるキスもなぜだか今日はそんな気がしない。
やっぱ、あの変な夢を見たせいかな…?
裕ちゃんの顔がボヤけて見える。
私の目は虚ろなまま裕ちゃんを見ていた。
いつの間にか、さっきの余韻を味わっていたみたいだ。
やっぱ、あの変な夢のせいだ………。
「ホラ、これでもう大丈夫やろ?」
裕ちゃんはウインクをして見せた。
私の耳がだんだん熱くなっていく。
顔もたぶん真っ赤になってると思う。
裕ちゃんの言葉とは裏腹に、私の胸のドキドキは、別の意味でデカくなっていった。
このままじゃ、裕ちゃんの顔をまともに見れないよ〜!!
「ぜっ…、全然平気じゃないよ!」
私は裕ちゃんと顔を合わせないように遠くを見た。
- 108 名前:道化師 投稿日:2001年02月22日(木)23時30分37秒
- 今、裕ちゃんはどんな顔をしているのだろう?
きっと、笑顔で「やったね♪」とか心の中で思ってるんだろうなぁ…。
私はゴンドラが地上に着くまで裕ちゃんの顔を見なかった。
裕ちゃんがいろいろと話しかけてきたけど、私はただ返事をしただけだった。
外を見ている間、私の胸はずっとドキドキしっぱなしだった。
降りてからも、ドキドキは止まらなかった。
その後、裕ちゃんにお化け屋敷とかジェットコースターとか、
私の苦手なモノばかりを選ばれて無理矢理連れていかれた。
私はどこに行ってもずっと悲鳴を上げっぱなしで、なんか裕ちゃんだけが
楽しんでるって感じだった。
でも、最後のメリーゴーランドはとても楽しかった。
あれだけだね、私が楽しめたのは…ホント。
その日は他に何事もなく、一日が終わった。
結局、用事の「よ」の字も聞かないまま別れたんだけど、一体なんだったんだろう?
気になるなぁ…。
- 109 名前:道化師 投稿日:2001年02月22日(木)23時31分24秒
- 数日後――。
ここ数日前から、なんか視線みたいなのを感じるようになった。
気味が悪いので、裕ちゃんに相談することにした。
「最近さあ、なんか人に見られてるっていうか、そんな気がするんだ…」
「私に?」
裕ちゃんがニヤっと笑いながら、裕ちゃんを指さした。
「違う! 裕ちゃんじゃなくて、なんか別の人…」
「う〜ん……。そりゃきっと、矢口がカワイイからとちゃうん?」
裕ちゃんはしばらく考えたフリをした後で笑顔で言った。
「もう! マジメに答えてよ!」
私は裕ちゃんをポカポカと叩く。
もちろんマジじゃなくて、遊び半分程度だけど。
「わかったわかった」
裕ちゃんは痛そうなフリをする。
「それって、…やっぱ、ストーカーとちゃうんか?」
「ストーカーって…、あの?」
「そう。まあ、しばらくは様子を見んことにはわからんけど…」
「ええええぇぇぇ!! ヤダよ矢口。ストーカーなんて!」
私はテーブルをバン! と叩いた。
- 110 名前:道化師 投稿日:2001年02月22日(木)23時32分21秒
- こちらも、しばらくお休みになります。
読んでくださる方、スイマセン。
- 111 名前:名無し読者 投稿日:2001年02月26日(月)01時54分43秒
- 待つ身はツラ〜イ!(←期待してるからね)
- 112 名前:道化師 投稿日:2001年02月27日(火)23時31分31秒
- 「よし! だったら、今日から私と一緒に帰ればええやん。な、そうしよ♪」
裕ちゃんが握り拳を作って言った。
「…とかなんとか言って、実は裕ちゃんなんじゃないの? 矢口の後をつけてくるの」
私は疑い深い目で裕ちゃんを見る。
「なっ…、なんやのその目は!? だいたいなぁ、そんなわけないやん。私やったら、
いつでも近づいてくやんか」
裕ちゃんは慌てながら言った。
「ホラ、こうやって…」
そう言うなり、裕ちゃんは私を抱き締めてキスを迫ってっくる。
「わかった、わかったから…」
私はイヤイヤ言いながら裕ちゃんの顔を手で押し退けた。
「けど、誰やろな……一体」
急に裕ちゃんがマジメな顔をした。
普段はなかなかお目にかかれない貴重なカットだ。
だって、私といるときはいっつもさっきみたいな感じだからね……。
…というわけで、私は今日から裕ちゃんと帰ることになった。
- 113 名前:道化師 投稿日:2001年02月27日(火)23時33分43秒
- 「お待たせ♪」
私は声に反応して振り返る。
そこには、妙に笑顔の裕ちゃんがいた。
とは言っても、いつも笑顔なので「いつも以上に」と
付け加えといた方がいいかもしれない。
裕ちゃんは私が振り返ると、すぐに私の手を取った。
「さて、帰りますか」
「う、うん…」
そして私達は歩きだしたんだけど…。
初めのうちはちゃんとした道を通ってたんだけど、いつの間にか
人気のない通りに入ってて……。
「裕ちゃん、駅と方向違うよ」
私は少し不安がりながら言った。
「大丈夫やって。ちゃんと駅に着くから」
「ホント……?」
「ホントホント♪」
裕ちゃんは笑顔でどんどん歩いていく。
私は裕ちゃんに引っ張られながら歩いた。
- 114 名前:道化師 投稿日:2001年02月27日(火)23時35分28秒
- ホントに大丈夫? な〜んか裕ちゃん企んでるような気がするんだけどなぁ…。
この前の遊園地みたいにさ。絶対、私を怖がらせて遊んでるよね…。はあ〜…。
私は深くため息をついて立ち止まった。
そして首をうなだれた。
「どうしたん? 矢口」
裕ちゃんは私がついてこないのを感じ取ると、立ち止まって振り返った。
そして、私の方に近づく。
「ねぇ、誰かに見られてるような気がするんだけど…」
私はゆっくりと顔を上げ、震えながら後ろの方を指さした。
裕ちゃんはキョロキョロと周りを見回して私の顔を見た。
「ん? 気のせいちゃう? 私は別に何も感じひんけどなぁ…」
裕ちゃんはそう言って私の頭をポンポンと叩いた。
「ま、大丈夫や」
「なんで?」
「そりゃ、私と一緒にいるからに決まってるやん。だから、何も心配せんでええで」
裕ちゃんはまた私の手を取って歩きだした。
- 115 名前:道化師 投稿日:2001年02月27日(火)23時41分01秒
- 久々の更新です。こちらも、赤板と同じ形式に。
>>111 名無しさん
>(←期待してるからね)
いや〜、期待されちゃいました(笑)
どうですか? 5日ぶりですよ。まあ、ね、その……。はあ〜…。
これからも頑張ります。今後もヨロシクです。
- 116 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月02日(金)02時54分37秒
- 待ってました。
気になる視線の先は・・・クマさん・ひつじさんだったりして(w
- 117 名前:道化師 投稿日:2001年03月08日(木)00時26分18秒
- あれから結構歩いた後で、突然裕ちゃんが立ち止まった。
私も立ち止まって、裕ちゃんの横に並んだ。
「どうしたの? 一体」
私は裕ちゃんの顔を覗き込む。
「あ、あれ………」
突然裕ちゃんはガタガタ震えだし、向こう側を指さした。
「なに?」
私は手を離し一歩前へ出て、裕ちゃんが指さしている方を見た。
しばらく目を凝らして見てみたけど、周りが薄暗いせいで何も見当たらなかった。
「何も見えないよ」
そう言って、私は裕ちゃんを見た。
「あれ? 裕ちゃん……?」
私が振り返ると、そこには裕ちゃんの姿がなかった…。
(えええぇぇぇぇぇっ!? ゆ、ゆ、ゆ、裕ちゃんは?)
私は必死に裕ちゃんを探した。
…けど、裕ちゃんを見つけることはできなかった。
(ど、どうしよぉ……。これじゃ家に帰れないよぉ…。裕ちゃ〜ん…)
私はだんだん不安になり、遂に泣き出してしまった。
そして、その場に座り込んだ。
- 118 名前:道化師 投稿日:2001年03月08日(木)00時27分19秒
- どれくらい時間が過ぎたのだろう。
私はあれからずっと、涙ぐんだまま座り続けていた。
ずっと待ち続けているけど、裕ちゃんが現れる様子はなかった。
「…ひっく……。ひっく……」
(このままじゃダメだね…。なんとかして帰ろう…)
私は顔を上げ、涙を拭いて立ち上がった。
「…矢口さん………ですか……?」
私が顔を上げると、妙にかん高い女の子の声がした。
私は声がした方を向いた。
「矢口さん…ですよね……?」
ピンクっぽい服装をした女の子が恐る恐る近づいてくる。
(この声は……)
「石川…?」
「やっぱり、矢口さんだ」
石川は私ということがわかると笑顔で走ってきた。
- 119 名前:道化師 投稿日:2001年03月08日(木)00時39分05秒
- 「石川、なんでこんなトコにいんの?」
「家がこっちなんですよ。矢口さんこそ、どうしてこんなところにいるんですか?」
「え? いや、それは……」
とてもじゃないけど、裕ちゃんに置いてかれたなんて言えないよな〜……、やっぱ。
「いや〜、道に迷っちゃって…」
私は頭をかきながら、苦笑を浮かべて言った。
「それは大変ですね。じゃあ、私が送っていきましょうか?」
石川って、意外と鈍いんだね、こういうの…。
だって、私が帰る方向は全く違うのに……。
「じゃあ、お願いするよ」
こうして、私は石川に無事、駅まで送ってもらった。
ホント、裕ちゃんドコに行ったんだろ?
- 120 名前:道化師 投稿日:2001年03月08日(木)00時46分02秒
- 久々に更新。しかし、困ったことが……。
>>116 名無し読者
気になる謎は謎のままで(笑)
まあ、いずれ明かされることになるでしょうが…。
それまで待っててくださいな。
>>49 名無しさん
「市井×矢口」完成しました。
けど、どうしましょう? まだ「1番ちっちゃい人編」が終わってません。
いっそのこと、こちらを連載開始してもいいかもしれないですけどね…。
- 121 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月08日(木)07時34分10秒
- 49っす
市井×矢口完成したんですか?
できれば、連載開始して欲しいっす。
でも、無理なら「1番ちっちゃい人編」が
終わってからでも、構いません
- 122 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月09日(金)00時32分27秒
- 再開ですか?「市井×矢口」できれば話が終わってからで、おねがい!
石川があの場にいたのは偶然か、はたまた・・・
姐さん突然きえたりしないでくれよ(涙
- 123 名前:道化師 投稿日:2001年03月09日(金)04時19分45秒
- >>121 名無し(49)さん←勝手に命名してゴメンなさい。
わかりました。始めましょう! というわけで、黄板に立てちゃいます。
…と思いましたが、やっぱやめます。
理由はですねぇ。このシリーズだからです。
かなり迷ったんですけど、やっぱ、待って下さいな。
>>122 名無し読者さん
>「市井×矢口」できれば話が終わってからで、おねがい!
そうしますね。
>石川があの場にいたのは偶然か、はたまた・・・
偶然です。ホントにただ家が近くだったからという設定です。
けど、普通はそんなにうろうろしてないはずだから、やっぱり…?
- 124 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月09日(金)07時29分37秒
- 49っす
わかりました。「1番ちっちゃい人編」が
終わるまで、待ちます。
- 125 名前:道化師 投稿日:2001年03月12日(月)06時11分33秒
- あれから一週間経ったけど、別に何も起こらなかった。
裕ちゃんも消えることはなく、最後までちゃんといた。
この一週間、裕ちゃんと一緒に行動していたせいだからかもしれないけど…。
でも、何も起こらなかったんだから、とりあえずは一安心かな。
「さ、今日も終わったっと…」
私はいつものように支度を終わらせて裕ちゃんを待つ。
しばらく待つと裕ちゃんが走ってきた。
「遅いぞ、裕子!」
「ゴメンゴメン」
裕ちゃんが顔の前で手を合わせる。
「あのなぁ、矢口」
「なに?」
「今日は一人で帰ってくれんか? 用事ができてもうたんや」
裕ちゃんがバツの悪そうな顔をして言った。
「え〜!!」
「ホンマにスマン。今日は誰かと一緒に帰るとええわ」
裕ちゃんが周りをキョロキョロ見回す。
「おっ! ちょうどええ所におった。お〜い! 加護〜!!」
裕ちゃんが手を振りながら加護を呼ぶ。
「なんですかぁ〜?」
加護が振り向いて、こっちに近づいてくる。
- 126 名前:道化師 投稿日:2001年03月12日(月)06時13分56秒
- 「あんな、加護」
「はい?」
加護が首を傾げながら返事をする。
「今日、暇か?」
「暇ですけどぉ、どぉしたんですかぁ?」
「だったら、今日矢口と帰ってくれんか?」
「別にいいですよぉ…」
加護がうなづきながら言った。
「そうか、ほなヨロシク頼むで」
そう言って、裕ちゃんは加護にウインクをした。
加護もウインクを返した。
な〜んか、この二人怪しい気がする…。
絶対、何か企んでるよ……。
「ちゅ〜ことで、今日は加護と帰るんやで、矢口」
裕ちゃんが私の頭を撫でる。
「う、うん…」
私はとりあえずうなづいた。
「それじゃ、また明日」
裕ちゃんは私のほっぺにチュッとした。
「さよ〜ならぁ〜、中澤さぁ〜ん!」
加護が手を振りながら言った。
裕ちゃんは笑顔で手を振りながら行ってしまった。
「さ、帰りましょぉ。矢口さん」
「そうだね」
…というわけで、私は加護と帰ることになった。
- 127 名前:道化師 投稿日:2001年03月12日(月)06時16分35秒
- 私と加護は普通に駅に向かって帰った。
加護は途中、いろんなものを見るたびに「きゃ〜きゃ〜♪」騒いでた。
私の腕を引っ張りながらいろんなトコを指さしはしゃいでいた。
でも、途中で急に静かになって、私はホッとした。
だって、ねぇ…。
「矢口さんはぁ、どぉ〜してぇ、ミニモニ。を作ろぉと思ったんですかぁ?」
さっきまで無口だった加護が突然口を開いた。
「え? なんでって、そりゃ、目立つためよ!」
私は片手を腰に当てて、空を指さしながら答えた。
「じゃあ、なんで背がちっちゃいんですかぁ?」
うっ……。
子供は気楽でいいよねぇ、ホント…。
「かぁ〜ごぉ〜?」
私の声が少しずつ大きくなる。
「なんですかぁ?」
相変わらず何も考えてないみたいだね…。
はあ〜…。
「人には聞いていいことと、聞いちゃいけないことがあるのよ。わかる?」
私は加護に顔を近づける。
しかし、加護は首を傾げるだけで何もわかっちゃいないみたいだ。
「じゃあ、せっかくだから覚えとくといいかもね」
私は人差し指を立てて言った。
「はい。わかりました」
加護は笑顔で返した。
ホントにわかってんのかなぁ…?
「じゃあ、好きなものは何ですかぁ? あっ、嫌いなものも教えてくださいぃ。
それからぁ……」
この後、私は延々と加護の質問攻めにあう羽目になった。
はあ〜…。
加護と一緒に帰ったのは失敗かもしれない…。
…まあ、賑やかでよかったんだけどね。
- 128 名前:道化師 投稿日:2001年03月27日(火)23時37分45秒
- それからしばらくの間、裕ちゃんは何かと理由をつけていつも断るので、
結局私は他の子たちと一緒に帰った。
ある日の夕方、いつもと同じように裕ちゃんを待っていた。
「おっそ〜い!!」
私は腰に手を当て、頬を膨らませた。
「ゴメンゴメン。さ、今日は久々に一緒に帰れるで」
いつものように遅れてきて、いつものように顔の前で手を合わせる。
けど、今日は違うみたいだ。
「ホントに?」
どうも最近の出来事を振り返ってみると、ついつい疑ってしまう。
「ホントホント」
「やった♪ 今日も断られたら、矢口どーしようかと思ったよ」
「さ、どこか寄ってこか?」
そう言って、裕ちゃんは手を差し出してきた。
私は裕ちゃんの手を取った。
「うん。それじゃあ…」
今日は無事に裕ちゃんと帰れそうだ。
よかった…、ホント。
- 129 名前:道化師 投稿日:2001年03月27日(火)23時39分24秒
- しばらく歩いて、近くの喫茶店に入った。
一通り注文を済ませて、私は裕ちゃんに最近のことを聞いてみることにした。
「けどさあ、どうしたの? なんか最近忙しそうだけど」
「えっ? あ、うん。まあ…」
裕ちゃんはちょっと慌てながら答えた。
「今度な、作詞に挑戦するんやわ」
「えっ!? スゴイじゃん!」
私は思わず声を上げ、立ち上がってしまった。
「あ……」
回りを見渡すと、周りの人が私を冷ややかな視線で見つめていた。
私は顔を紅くしてすぐに席に座った。
「それでな、つんくさんにいろいろと教えてもらってて…」
「それでかぁ…」
「そういうこと」
私が納得したのを確認すると、裕ちゃんは話題を切り替えた。
「で、どうやった? いろんな子たちと帰ってみて」
「お待たせしました。紅茶とコーヒーです…」
私が答えようとしたときに、ウェイトレスがやってきて注文したものを置いた。
- 130 名前:道化師 投稿日:2001年03月27日(火)23時41分21秒
- 「どうも」
私は頭を下げ、紅茶を受け取った。
「ご注文は以上でよろしいですか?」
「はい」
答えを聞くと、ウェイトレスは伝票を置いて会釈をして行ってしまった。
「で、どうやった?」
裕ちゃんはコーヒーに砂糖を入れ、スプーンで掻き回しながら言った。
「う〜ん、別に何ともないけど…」
私はカップを口に近づけながら答えた。
「別に…って。何かないんか?」
私の答えを聞くと裕ちゃんは困ったような顔をした。
「そうだねぇ…、加護に質問攻めにあったり、辻には買い物に付き合わされたり、
吉澤は妙にぎくしゃくしてたし、石川には『どんな服がいいですか〜?』って
聞かれたり…。まあ、そんなもんかな?」
「ほ〜…なるほどねぇ……」
裕ちゃんは頷きながらコーヒーを飲んでいる。
- 131 名前:道化師 投稿日:2001年03月27日(火)23時43分30秒
- 「あ! そういえば、なんか変な視線を感じなくなったんだよね。
なんでだろ? ま、いっか♪」
「視線……か…。そりゃそうやわな…」
裕ちゃんが何か言ったような気がしたけど、よく聞こえなかった。
「何か言った?」
「いや。別に…」
裕ちゃんは平然とした顔で言った。
「ごっちんのときは大変だったよ。なんか『千葉まで行こう』って言い出してさぁ」
「千葉………そういうことか…」
「なんか私の方が一緒に行ってあげてるって感じだったよ」
「ごっちんも一人じゃ行きづらいのかもな」
「そうなのかなぁ…」
(やっぱり、ごっちんは紗耶香に逢いたかったのかな…?)
「で、結局どうなったん?」
「『遅くなるから』って言って、無理矢理帰ったよ。だってねぇ…」
「そうか…」
- 132 名前:道化師 投稿日:2001年03月27日(火)23時45分15秒
- そこまで言うと、しばらく沈黙が続いた。
なんか裕ちゃんの顔が怖くて上手く話を切り出せなかった。
裕ちゃんは何かを頭の中で整理しているみたいだった。
「もしも…、もしもな、私が『娘。をやめる』って言い出したらどうする?」
しばしの沈黙を破ったと思ったら、急に裕ちゃんはおかしなことを言い出した。
「何言ってんの? もしかして、やめる……とか…?」
なんだか、急に不安になってきた。
だって、裕ちゃんがいなくなるなんて想像もできない。
いつだって、裕ちゃんは私の側にいて、私を支えてくれている。
いや、私だけじゃなく、モーニング娘。を引っ張ってくれているんだ…。
それなのに、まさか裕ちゃんの口からこんな言葉が出て来るとは思ってもみなかった。
いつも、「私はやめない。最後まで残る!」って言ってるのにさ…。
- 133 名前:更新記 投稿日:2001年03月27日(火)23時55分18秒
- 久々の更新です。最近なにかと忙しくって…。すみません。
さて、ここから先、ちょっとマジメなお話になります。
もしかしたらネガティブ路線に入ってしまうかもしれません。
まあ、どうなるかはまた次回、ということで。
- 134 名前:道化師 投稿日:2001年03月29日(木)02時21分31秒
- 「冗談や、冗談。そんなわけないやろ」
裕ちゃんは笑って話を流した。
「ただ、もしそんな日が来たらどうなるのかなぁ…って思って」
「そのときは…」
「そのときは?」
裕ちゃんが私の目を見つめる。
決まっている…。
そんなの決まってるよ。
私は何としても裕ちゃんには残って欲しい。
だから、私は必死の思いで裕ちゃんを止めるだろう…。
今までとは違う。
私には明日香やあやっぺや紗耶香を止めることができなかったけど、
裕ちゃんのときならできそうな気がする。
…いや、きっとできる。
私は…、私は……。
「そのときは『やめないで!』って訴えるよ。だって……」
- 135 名前:道化師 投稿日:2001年03月29日(木)02時22分45秒
- だって、裕ちゃんはモーニング娘。にとって必要なヒトだから…。
それだけ?
ホントにそれだけなのかな…?
裕ちゃんは…、裕ちゃんは……。
「だって?」
「ううん。なんでもない…」
私はここまで出かけているのを飲み込んだ。
私にとって、いつの間にか裕ちゃんの存在は大きくなっていた…。
他のメンバーの中で一番だ。
それほど、裕ちゃんがモーニング娘。に与えている影響って大きいと思う。
裕ちゃんがリーダーでホントよかった。
裕ちゃんがいたから、私はここまで成長できたのかもしれない。
もちろん、紗耶香の存在も大きいけどね。
- 136 名前:道化師 投稿日:2001年03月29日(木)02時24分48秒
- 「アリガト♪」
裕ちゃんは笑顔で言った。
いつもの裕ちゃんの笑顔だった。
「けどさあ、どうしたの? 急に」
「私にもな、いつかは来るんかなぁって思って…。それに、
矢口の想いを聞いてみたかったんや」
裕ちゃんがガラス越しに見える雑踏を眺めながら話し出した。
「私は、元からいたメンバーやんか」
「うん」
「最初、結構怖かったやろ? 正直…」
「まあ、ね。あの頃はそうだったけど、すぐに仲良くなったし…」
「今の子らがどう思ってるかはわからんけどな…」
そう言った裕ちゃんの目はどこか淋しそうだった。
「だいじょ〜ぶだって。みんな裕ちゃんのことを頼ってるよ」
私は励まそうとして言ったつもりだったけど、逆に裕ちゃんの目は
悲しみに溢れていった。
「そうか? 明日香が離れて、あやっぺが離れて、そして…」
「紗耶香が卒業した…」
「そうや。みんな、私を頼ってくれているって思ってた…。
辛いこととかあったら相談してくれるって思ってた…。けど…」
裕ちゃんは目を閉じ、肘をテーブルについて頭を抱えた。
- 137 名前:道化師 投稿日:2001年03月29日(木)02時27分14秒
- 「みんな私を置いてった…。私は取り残されたんや…」
裕ちゃんは頭をふるふると横に振りながら言った。
鼻をすする音が聞こえる。
テーブルには大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「裕ちゃん…」
私は裕ちゃんの肩にそっと手を置く。
そして、裕ちゃんの右手にハンカチを手渡した。
「でも、でもな…それは違ったんだって、この前やっとわかった…」
裕ちゃんは顔を上げ、ハンカチで涙を拭きながら言った。
「みんな、自分のやりたいことを見つけたんやなぁ…って……」
「裕ちゃんはさ、すごいよ…」
私は裕ちゃんの言葉を遮るように、テーブルを見つめたまま喋り出した。
「矢口……?」
「いつも、みんなのことを考えててさ…。矢口にはたぶん無理だと思う…。
今、ミニモニ。やってるじゃない。けど、怒れないんだよね。
裕ちゃんみたいにビシッっとできないの…」
私には裕ちゃんのようなリーダーシップは取れない。
馴れ合いの、形だけのリーダーでしかすぎないんだ…。
- 138 名前:道化師 投稿日:2001年03月29日(木)02時30分50秒
- 「…けど、それが矢口らしさやないんか? 私はそう思うよ…」
さっきまで涙ぐんでた裕ちゃんは落ち着いたようで、いつの間にか
聞き役になっていた。
「うん…。でも、今のままじゃダメだと思う。加護と辻が成長
できないんじゃないかなぁ…って。親バカじゃないんだけどさ…」
「案外そうでもないんやないかな…」
裕ちゃんは首を傾げながら言った。
「どういうこと?」
「私はいつでもビシッと言ってきたわけやないやろ? 私が言ったのは
基本的なことが守れてないときやったやんか。けど、どうや? それでも、
みんなちゃんと成長してる。なんでやろなぁ?」
「それは……」
途中で言葉が詰まってしまった。
「みんなナンダカンダ言われなくても、ちゃんとわかってるんや。
言葉では上手く説明できひんけど、感覚ってゆーか、そんなもんを
肌で感じ取っているはずや。あの子らはまだ幼いから仕方ないんやて。
これから先、ちゃんとしてくるはず…。だから、心配せんでもええ」
私はホントにメンバーのことをわかってないのかもしれない…。
もっと、加護と辻を信頼してみようかな…。
- 139 名前:道化師 投稿日:2001年03月29日(木)02時32分37秒
- 「うん…」
「今は難しいかもしれないけど、これから先、矢口には娘。をまとめてくれる
ような存在になってもらわんとな。どうも、一人じゃ辛いときがあるんでね」
裕ちゃんはそう言ってウインクをして見せた。
「まとめる…?」
「そうや。怒らなくてもいい。矢口は、矢口のやり方でみんなをまとめれば
いいんや。矢口なら、きっとできるばず」
「うん…。アリガト、裕ちゃん…」
そうだ…。
私は私のやり方でやればいいんだ…。
おかげで、なんか随分と楽になったような気がする。
アリガト……裕ちゃん…。
「さ、そろそろ行こっか。結構遅なってもうたからな」
裕ちゃんの言葉で窓の外を見てみると、いつの間にか外は暗くなっていた。
空には星空が広がり、月は眩しいほど輝いていた。
私たちは勘定を済ませて喫茶店を後にした。
- 140 名前:更新記 投稿日:2001年03月29日(木)02時37分54秒
- 「矢口真里編」も残すところ、あと少し。
- 141 名前:道化師 投稿日:2001年03月30日(金)00時32分25秒
- 「あちゃ〜…。随分遅くなったなぁ…」
私は時計を見ながら言った。
「送ってこか? それとも、なんならこのままウチに来るか?」
裕ちゃんは一瞬ニヤリと笑みを浮かべた。
「ど〜しよっかな〜」
私は空を見上げ、笑いながら言った。
もちろん、いじらしく、ね。
「ま、それもいいかもね♪」
しばらく焦らした後に、そう言いながら、私は裕ちゃんと腕を組んだ。
「そのかわり、ちゃんと家には連絡してな。親御さんに余計な心配をかけると
いかんからな」
「わかった」
私は早速ケータイを取り出し、親に裕ちゃんのトコに泊まることを伝えた。
親も裕ちゃんのことを知ってるので、快くOKしてくれた。
「よし! 今日は眠らせないから♪」
裕ちゃんはOKが出たのを確認すると、急に目の色を変え、拳を作って言った。
しまった…忘れてた……。
- 142 名前:道化師 投稿日:2001年03月30日(金)00時33分48秒
- 私はもう一度ケータイを取り出し、親に電話した。
「あ、お母さん? やっぱ、帰るよ。なんか急に都合が悪くなったんだって」
私はワザと声を大きくして言った。
「あっ、じょっ、冗談やて、冗談…」
裕ちゃんは慌てながら私からケータイを奪い取った。
「あ、お母さんですか? さっきのはですね………ん?」
裕ちゃんは耳に当てていたケータイを顔の前に持っていき、液晶を見た。
「やぁ〜ぐぅ〜ちぃ〜…」
ケータイを持つ裕ちゃんの右手がプルプルと震えている。
そう、さっきのは芝居だったんだ。
ホントはかけたフリをしていただけ。
裕ちゃんって、意外とだまされやすいんだよね。
しっかり者のように見えてさ…。
- 143 名前:道化師 投稿日:2001年03月30日(金)00時35分29秒
- 「へっへ〜ん♪ いつものお返しだよ〜!」
私は急いでその場から逃げた。
「よくもだましたな〜! 待て〜!!」
裕ちゃんが後ろから走ってくる。
私はそんなにマジで逃げる気はないのでスピードを落とし、すぐに捕まってあげた。
「捕ま〜えたっ!」
裕ちゃんが後ろから抱き着いてきた。
「どう、焦った?」
私は頭越しに見える裕ちゃんを見上げながら言った。
「あたりまえやん。めっちゃドキドキしたわ…」
「へへへ…。でも、ちゃんと愛してくれるんでしょ?」
私は笑顔でおねだりしてみた。
まあ、半分冗談まじりだけどね。
「もちろん。矢口の満足いくまで愛してやるで♪」
裕ちゃんは目をキラキラと輝かせながら言った。
(ま、いっか…。一晩くらい)
「じゃあ、早く行こ♪」
私は裕ちゃんの手を取って走り出した。
- 144 名前:道化師 投稿日:2001年03月30日(金)00時38分06秒
いつまでも、裕ちゃんはリーダーであって、私にとっての裕ちゃんは、
頼れるお姉ちゃんみたいな存在で。
紗耶香とは違う存在なんだけよね。
…って、過去にしがみついてもしょうがないか。
あのときは何とも思わなかったんだけど、いつの間にか裕ちゃんを好きに
なったのかな?
それか、ただ裕ちゃんにもて遊ばれてるだけなのかもしれないね。
まあ、どっちでもいいか、そんなの。
今は結構楽しい。
ミニモニ。もナンダカンダでうまくいってるし。
私はリーダーとして、きっとうまくやっていけると思う。
だって、裕ちゃんのお墨付きだからね。
でも、もうちょっと叱ってもいいかな…。
- 145 名前:道化師 投稿日:2001年03月30日(金)23時04分39秒
- 翌日――
「「ピンチなと〜きぃ〜♪ 助けても〜ら〜い〜た〜い〜とき♪ どおし〜…」」
「うっるさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!」
私はさっきから踊り続けている加護と辻を怒鳴りつけた。
「なんや矢口。別に怒らなくてもええやん。楽しいやんか、これ」
裕ちゃんは私がキレたのを不満そうな顔で見ている。
なんでかっていうと、これが裕ちゃんの曲だからだ。
『27』っていって、そのままの裕ちゃんを歌った曲らしい…。
二人で考えたみたいだけど…。
ああ…。
昨日思ったことは、やっぱ間違いだったのかもしれない…。
なんか、このままだと自信失くしそうだよ。
「矢口、そんなに肩を落とさないで、な」
裕ちゃんは私の肩をポンポンと叩いた。
「そうですよ、矢口さん」
「一緒に踊りませんか? 楽しいですよ♪」
加護と辻はなせか私を励ましてくれた。
ったく、誰のせいで頭が痛いのやら…。
はあ〜…。
- 146 名前:道化師 投稿日:2001年03月30日(金)23時06分26秒
- 「はあ〜…。なんとかならないでしょうかねぇ…」
矢口は深くため息をつき、肩を落とした。
「けど、子供は元気な方がいいですよ」
マスターは笑顔で言った。
「それはそうなんですけどぉ…」
「そういえば、ストーカーみたいなのってどうなったんですか?」
マスターがグラスを拭く手を止めて言った。
「ああ〜…、あれですか? あれ、実は裕ちゃんだったんですよ。
正確には裕ちゃんじゃなくて、石川と吉澤と辻と加護なんですけどね。
後から聞いた話だと、なんか裕ちゃんが石川たちに『矢口を目標に!』
みたいなことを言って、なんか私から学ばせようとしてたみたいなんですけどね」
「それって、ある意味すごい迷惑ですね…」
矢口とマスターは苦笑いを浮かべた。
「驚いたのが、遊園地で着ぐるみとか着たりして、いろんな所にいたってことです。
なんか、完全に裕ちゃんにハメられたって感じです。でも、楽しかったから
よかったんですけど」
「けど、それだけの価値が矢口さんにあったということではないんでしょうかねぇ」
「そうだといいんですけどねぇ…」
そう言って、矢口は微笑んだ。
- 147 名前:道化師 投稿日:2001年03月30日(金)23時08分12秒
- Trurururururu… Trurururururu…
ケータイの着信音が鳴り響く。
「あ、すみません…」
矢口は急いでケータイに出た。
「裕ちゃん? どうしたの? ……うん………うん、わかった…じゃ」
矢口は手短に話を済ませてケータイをしまった。
「どうしました?」
「なんか、急に仕事が入ったみたいで…」
「大変ですね…」
「ええ。けど、楽しいですからね」
「おっと、忘れるところでした。これをどうぞ…」
マスターはグラスを取り出し、いい匂いのする飲み物を注いだ。
色はベージュのような感じの色で、少し炭酸も入っているようだ。
「これは何ですか?」
「特製のフルーツジュースですよ。あなたを見てると、南国というイメージが
湧いてきたものですから」
矢口はゆっくりとグラスを口に近づける。
そして、ゆっくりと飲んでいった。
「どうです?」
「甘いんだけど、さっぱりしててすごく美味しいです」
そういって、矢口は笑顔を見せた。
- 148 名前:道化師 投稿日:2001年03月30日(金)23時09分08秒
- 「気に入ってもえらえて光栄です。今度はさっきのお二人も連れて来てくださいね。
きっと、喜ぶと思いますから」
「はい、そうします。それじゃあ、ごちそうさまでした」
矢口は深々とおじぎをした。
「いえいえ、こちらこそ」
マスターは顔の前で手を横に振った。
矢口はにこりと微笑んだ後、店を出ようとした。
カランカラン…
「そうそう、矢口さん」
「なんですか?」
出て行こうとしていた矢口は立ち止まって振り返った。
「加護さんと辻さんは矢口さんにとってどんな存在ですか?」
「……二人ともかわいい妹ですよ」
一瞬、何か考えた後に矢口は言った。
「そうですか…。じゃあ、お仕事頑張ってくださいね」
「はい♪」
矢口は満面の笑みを見せ、振り返ってから店を出て行った。
外には春の息吹を感じさせる優しい風が吹き始めていた。
- 149 名前:道化師 投稿日:2001年03月30日(金)23時11分02秒
- 「……なるほどぉ…」
「もうちょっと頑張らないといけないね…」
バーのすみにあるテーブルで話し声がする。
サングラスとコートという、いかにも怪しい服装の小さな男性の格好をした二人が
話し合っていた。
二人はちょっと大きめのグラスを両手で支え、ストローを口にくわえていた。
「ねえ、あいちゃん」
「なにぃ? ののちゃん」
片方の呼びかけにもう一人が応える。
名前をから察するに、例の二人だろう。
「今度さ、矢口さんの歌も考えようよ。でね、曲名は……」
「うん、それでいこぉ! きっと、矢口さんも喜ぶはず!!」
二人はガッツポーズをとった。
そして、二人は店を出ようとした。
「あ、マスター」
出ようとして加護は振り返って言った。
「なんでしょう?」
「今日はありがとうございましたぁ」
「ましたぁ」
加護がお礼を言うと、続けて辻がお礼を言った。
カランカラン…
そして、小さな二人組は出て行った。
「これでいいんですかねぇ…?」
「ええ。これでいいんですよ…。これから先の時代を作るのは彼女たちなんですから…」
「それにしても、145って…?」
「ああ、矢口の身長のことですよ」
店内には加護と辻を笑顔で眺めるマスターと麗しき女性の姿があった。
- 150 名前:あとがき… 投稿日:2001年03月30日(金)23時14分47秒
- 今回はどちらかというと失敗………終わった後でいうのもなんですが…。
これは、別の話への布石っぽくなってしまいました。
今だから言えることなのですが、意外と「矢口×中澤」って難しい…。
ちょこっといい話どころか、普通の話になってしまいました(苦笑)
もっと、勉強せねば! って思います。マジで。
ホントは、もっと第三次追加メンバーを出したかったんですが、
例の出来事で話の展開が急に変わってしまいました。
ストーカー事件からこういう展開になるとは作者である私も想像できなかったです…。
ゴメンなさい。
なんか期待していただいてた方にはホント申し訳ないです。
この二人の話はもっと別の感じで改めて書きたいですね。
けど、単なるラブコメにしかならないでしょうけど。
切ない系はちょっと厳しいです。
だって、この二人ですから(笑)
「矢口→中澤」この図式が成り立たない限り厳しいですね。
現段階では「矢口←中澤」ですから。
でも、次のやつは大丈夫!! 期待してもOKです。
単なる自画自賛にすぎなかったらゴメンなさい。
さて、次回は今回の話よりも随分前の話です。
- 151 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月31日(土)02時15分14秒
- 何をおっしゃる作者さん、イイ話でしたよ。
そんな自分に厳しいあなたが自画自賛される次回作、キタイしてますYO!?
- 152 名前:道化師 投稿日:2001年04月02日(月)00時10分29秒
- >>151 名無し読者さん
毎度ありがとうございます。
けど、やっぱ、悔しいですね。自分の文章力の無さがあらわになった作品ですね、ホント。
立ち話もなんですから、それじゃあ、始めましょうか。
- 153 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月02日(月)00時13分01秒
- 今夜もいつものように小さなバーの窓に明かりが灯る。
さて、今夜はどんなお話が聞けるのだろうか。
カランカラン…
「いらっしゃい…」
マスターがグラスを拭きながら、入口の方を見る。
黒装束を身にまとった男がカウンターに座った。
「こんばんは。マスター」
男は帽子を取ってマスターに話しかける。
顔の左半分は白い仮面で覆われていて、その下がどうなっているかはわからない。
「お久しぶりですね」
「ええ。随分と…」
「今日はどうなさったんですか?」
「マスターの話を久々に聞いてみたくてね」
マスターが男の前にコーヒーを置く。
「そうですか…。それじゃあ、つい最近聞いたお話をして差し上げましょう……」
マスターがグラスを拭きながら話し始めた。
- 154 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月02日(月)00時13分57秒
最初の出逢いは普通だった。
友達でも何でもなく、ただのオーディションのライバル。
名前も知らないし、お互いに興味はなかった。
オーディションの合格が決まって、二人は友達となり、今では……。
それは、少し目立たない女の子ととても小さな女の子の恋物語。
時は遡って、1999年4月――
- 155 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月02日(月)00時17分13秒
- 「はあ〜…。疲れた〜」
一人の女の子がドスンとイスに座った。
イスに座るなり、背もたれにもたれながら体を伸ばす。
「お疲れ♪ 紗耶香」
少し普通より小さな女の子が隣に座る。
「お疲れさま、やぐっちゃん」
市井は体を起こし、右手を上げて応えた。
そして、そのまま二人はテーブルにうつ伏せた。
「おっ、二人ともどうしたの? もう、あがり?」
保田が入って来ながら市井と矢口に話しかけた。
「あっ、圭ちゃん」
市井と矢口は保田の声に反応して顔を上げた。
保田は二人と向かい合う席に座った。
「どう? 今度の曲のフリ、覚えた?」
保田が二人の顔を見ながら言った。
「ま〜だまだだね…」
市井はお手上げのポーズをしながら答えた。
「私も…」
矢口は首を横に振った。
- 156 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月02日(月)00時24分30秒
- 「そういう圭ちゃんは?」
市井が言った。
「私? 全然。ホント、難しすぎるよ、これ…」
保田も両手を広げ、お手上げといった感じである。
三人は顔を見合わせて微笑んだ。
「でも、コレが踊れたら、超カッコイイと思うんだけどな〜」
市井は肘をテーブルに突き、上を見上げながら言った。
「そうそう、間奏のところとかさぁ」
「うん。夏先生みたいにできたら、どんなに楽か…」
矢口と保田もうんうんと頷きながら上を見上げる。
「はあ〜…」
三人はガラス越しに見える、背が高くスラリとした女性を見ながらため息をついた。
ガラスの向こうでは、他のメンバーが夏先生の指導の下、必死に新曲のフリを覚えている。
鏡に映るメンバーの動きは、やはり夏先生に比べると劣るものがあった。
まあ、相手はフリを考えた人だから仕方ないと言えば仕方ないのだが…。
「さて、そろそろ行かないと…」
保田はしばらく休んだ後で、テーブルに手を突いて席を立った。
「そうだね…」
「はあ〜…。なんか気が引けるな〜…」
市井と矢口はイヤイヤながらも席を立ち、再びガラスの向こう側に戻って行った。
- 157 名前:更新記 投稿日:2001年04月02日(月)00時29分00秒
- 今回はここまでです。
1999年4月――といえば……そう、あの曲です。
今回はここからスタートするんです。もちろん、あの方も登場します。
- 158 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月02日(月)04時38分03秒
- あの方がどう絡んでくるのか、非常に楽しみです。
- 159 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月02日(月)23時59分14秒
- それから二時間後――
パンパンッ…
「はい、今日はここまで。続きはまた明日、お疲れさま」
夏先生が手を叩きながら練習をストップさせた。
「は〜…、やっと終わった〜…」
飯田が床に座り込む。
飯田は袖で額の汗を拭いながらその場に寝転んだ。
「でも、まだまだ頑張らないとね、かおり」
安倍が肩で息をしながら上から飯田を見下ろす。
そして安倍は飯田に白いタオルを手渡した。
「サンキュ♪ なっち」
飯田は笑顔でタオルを受け取り、そのタオルで顔を拭いた。
飯田は一通り汗を拭くと、床に大の字になって寝転んだ。
「この曲さあ、今までにない曲だよね」
飯田が天井を見つめながら安倍に話しかける。
「うん。なんか、爽やかな夏って感じの曲だね♪」
安倍はタオルで顔を拭きながら言った。
「くうぅ〜……。でも、かおりはもうちょっと楽に踊りたいな〜…」
飯田は苦痛の表情を浮かべながら体を伸ばす。
「それは無理っしょ………っと…」
安倍も床に座り込み、飯田と同じように体を伸ばした。
「みんな〜、もう帰ってええで〜。また明日な〜。お疲れさま〜」
中澤が大声で部屋中にバラバラになって座り込んでいるメンバーたちに声をかける。
中澤が声をかけると、それぞれ帰る支度を始めた。
- 160 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月03日(火)00時02分34秒
- 所変わって、ここは更衣室――
「さ〜やかっ♪」
矢口が市井に声をかけた。
「ん〜? なに?」
市井が上着に首を通しながら、矢口を見る。
「この後さぁ、ちょっと練習に付き合ってくれないかな?」
「練習? 別にいいけど…。なんで?」
市井は上着を着ると、バッグを肩にかけた。
「ちょっとわからない所があって…」
「別に私なんかじゃなくって、他の人でもいいんじゃ…」
市井は既に準備を終わらせて、今にも帰ろうとしている。
「紗耶香じゃないとダメなの!」
矢口が妙に力を込めて言った。
(な、なんか、断ってはいけないような気がする…)
「わ、わかった…」
市井は軽くため息をついてバッグを肩から下ろした。
「アリガト♪」
矢口は笑顔で市井の手を取って歩きだした。
- 161 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月03日(火)00時07分28秒
- 再びレッスンルームへ――
既に他のメンバーは帰ってしまい、ここには市井と矢口の二人だけになっていた。
矢口と市井は横に並んで、お互いのフリを確認しあっている。
途中まで順調に進んでいくのだが、あるところで矢口の動きが止まってしまった。
「…で、この続きがよくわかんなくって……」
矢口はその少し前からもう一度繰り返した後、わからなくなったところで
腕の動きが止まってしまう。
「ここは、こうやって……」
市井は矢口の後ろに回り込んで矢口の手を取り、ゆっくりと丁寧に教える。
「ほら、わかった?」
一連のフリを終わらせた後で、市井は鏡に映る矢口の顔を見て言った。
「な〜るほど…。よし、もう一度やってみよう!」
矢口は頷きながら、頭の中でもう一度さっきの動きを整理した。
市井は矢口から離れて、矢口の横に立った。
市井に教わったところを繰り返し練習する矢口。
市井の指導がいいのか、それとも矢口の覚えが早いのかはわからないが……。
いや、市井の指導がよかったからか、矢口はスムーズにフリを踊れるようになった。
- 162 名前:更新記 投稿日:2001年04月03日(火)00時13分34秒
- >>158 名無しさん
あの方は非常に重要な役として登場します。
…とはいうものの、お互いが考える人が一致してないと話が通じないですけどね。
まあ、たぶん一致しているでしょう。
さてさて、あの曲の正体が少しずつ見えてきたようですね。
『爽やかな夏』といえば………そう、今でも大人気のあの曲です。
このPVでちょこっとだけ↑の2人のツーショットを見ることができますね。
- 163 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月03日(火)02時46分30秒
- 水場→濡れ場?ふと脳裏をよぎった(w
- 164 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月04日(水)05時14分05秒
- 「そうそう♪ で、次はクルッとターンして…」
市井が手を叩きながらリズムをとる。
矢口はそれに合わせてターンしようとする。
「ほいっと………あ、あれっ?」
矢口の体がフラつく。
「危ないっ!!」
矢口の体が一瞬宙に浮いたかと思うと、すぐに空中から姿を消した。
矢口は足を滑らせて見事にコケたのである。
市井は矢口をかばおうとして、すかさず下に滑り込む。
(間に合えっ!!!!!!)
バタァァァァン…
二人は絡まったまま床に倒れ込んだ。
「あいたたた…」
矢口は床に手を突いて顔を上げ、すぐに市井を見た。
市井は矢口の小さな体を包み込むような形で下敷きになっていた。
しかし、矢口はその状況がうまく飲み込めていないようで、そのままの状態で
市井に声をかける。
- 165 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月04日(水)05時20分57秒
- 「大丈夫!? 紗耶香?」
「…う〜ん。頭打ったけど大丈夫…………………あ…」
市井は頭を押さえながら体を起こした。
(ん? ……)
起こしたはいいが、右手が何かに触れているような感じがしたので市井は視線を移した。
なんと! 市井の右手は、大胆にも矢口の小さな胸を掴んでいた。
(あ…………)
一瞬、市井の頭の中が白くなる。
そんな市井の頭の中は関係ないかのごとく、市井の右手が思わずピクリと動く。
「きゃあっ!?」
矢口は肩をすくめて声を上げると、すばやく市井から飛び退いた。
そして背中を向け、そのまま自分の胸を押さえた。
「ゴ、ゴメン……」
「べ、別に気にしなくていいよ。た、ただの事故だし…。それに、紗耶香は私を助けようとしてくれたんだから…」
二人は背中を向け合わせ、もじもじしながら言った。
そのまま二人は黙り込んでしまった。
妙に緊張した空気が二人を包み込む。
- 166 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月04日(水)05時23分36秒
- (さ…、触っちゃった…)
市井はドキドキしながら、自分の右手を見つめる。
(初めてヒトの胸に触れたけど…)
市井はさっきの感触を思い出すかのように、じっと指先を見つめ、ゆっくりと指先を動かしてみる。
(こんな感じ……だったかな…?)
そこに何かがあるというわけではないのだが、なんとなくやってしまうものだ。
そして、ポカンと口を開けたまま少し上を見上げた。
(…やぐっちゃんの胸……柔らかかったなぁ…。それに、私のより大きかったし…)
そう考えながら、自分の胸を触ってみる。
手のひらとの間にはわずかな空間ができていた。
先ほど感じた矢口の胸の感触を、自分の胸では感じる事ができなかった。
(一年って、いろんな意味でデカいね…)
市井は肩を落とし、軽くため息をついた。
(けど、もう一度触ってみたいなぁ…………)
市井の顔はいつの間にかニヤけていた。
おまけに、市井の両手の指先は自然に動き出していた。
(はっ…!? いかんいかん! こんなときに何を考えてるんだ?!)
市井は正気に戻ると、フルフルと首を振った。
- 167 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月04日(水)05時26分12秒
- (さ…、触られた……?)
矢口の頬の辺りが徐々に紅く染まっていく。
矢口は頬を押さえながらうつむいた。
(初めて他人に触られたよぉ……。どーしよぉ…)
矢口は自分の胸に手を当てる。
ドクン………ドクン……ドクン…ドクン…
矢口は鼓動がだんだん速くなっていくのを感じた。
(気のせいじゃなかったら……確か、揉まれたよね…?)
矢口は自分の手を見つめ、先ほどの出来事を思い出しながら、そっと自分の胸を
揉んでみる。
(…………………)
そのまま矢口は止まってしまった。
(……べ、別に、気持ちよくともなんともないや…)
矢口は今の行動をちょっとだけ後悔した。
- 168 名前:更新記 投稿日:2001年04月04日(水)05時38分34秒
- 二人の心境に微妙に変化が見られてきたような、まだ見られないような…。
まあ、なんとかなるでしょう。
だって、ここはまだ話の序盤にすぎないのですから。
>>163 名無し読者さん
全く関係なかったですね…。けど、あのPVは市井ちゃんが目立ちまくってます。
その頃から市井ちゃんも目立ち始めたので、何か関係があるのかもしれません。
ホント、爽やかでいい曲です。
- 169 名前:むこうのひと 投稿日:2001年04月04日(水)06時41分39秒
- いつも読んでます。
- 170 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月04日(水)19時05分03秒
- 赤も青も両方読んでます
こういう感じの話好きなので期待してます
- 171 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月09日(月)22時07分14秒
- やっぱさやまりはいいっすねぇ
- 172 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月11日(水)13時52分07秒
- さっきから、ずっと沈黙の状態が続く。
ただでさえ何もない無機質な空間が、さらに静かに感じた。
「あ、あのさ…」
ついに矢口が沈黙を破った。
「な、なに!?」
突然の言葉で、市井の声が思わず裏返った。
「れ、練習しないと…」
つられて矢口の声も裏返った。
「そ、そうだね…」
二人はぎこちない会話を交わした後、ゆっくり立ち上がってお互いを見た。
市井も矢口も顔を見合わせた瞬間、真っ赤になって顔を背けた。
(な…、何をそんなに意識しているんだ!? しっかりしろ、矢口!!)
矢口は自分に喝を入れた。
(さっきのは気にしない…。うん。気にしちゃダメだ…)
市井は胸に手を当てふうと一息ついて、もう一度矢口を見た。
「じゃ、じゃあ、さっきの所からやろっか…」
「そ、そだね…」
二人は気を取り直して練習を再開した。
- 173 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月11日(水)13時54分21秒
- さっきと同じように横に並び、鏡に映るお互いの姿を確認しながら練習する。
「えっと…、どうだったっけ? ここ」
矢口がフリを確認しながら市井を見る。
市井は矢口に近づいてフリを教える。
「ここは…こうやって……」
市井の手と矢口の手が触れる。
「あっ……」「あっ……」
二人は同時に言葉を発した。
そのまま、二人の動きが一瞬止まる。
「ねぇ、続きは?」
矢口は無理に冷静さを装って言った。
「あっ……ゴ、ゴメン…。…で、こう回って…」
市井は我に返ると慌ててフリを続けた。
(平然でいられるわけないじゃん…。さっきのせいで……。もう、なんで
こんなことになったんだよぉ〜!!)
矢口は心の中で悲鳴を上げた。
二人の動きが余計ぎこちなくなる。
(ひぃ〜ん…。意識しすぎて顔が見れないよ〜!!)
市井のドキドキがさらにデカくなる。
それからずっと、二人は何度も同じところで引っ掛かった。
あのハプニングが起きたところだ。
そう、さっき矢口が転んだ、ターンをするところである。
そこから先はどうもお互いに意識してしまって、上手く踊れないのだ。
何度もつまづいているうちに、夜は8時を過ぎていた。
「さ、紗耶香…今日は、もう終わりにしよっか…」
矢口が口を開いた。
「う、うん…。そうだね…」
二人は相変わらずぎこちない会話を交わして、今日の練習を終わることにした。
帰るときもぎこちなく挨拶をして別れた。
- 174 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月11日(水)13時56分25秒
翌日――
帰ってからも昨日のことで眠れなかったのだろうか、二人の目の下にはクマができていた。
二人はなるべくお互いを意識し合わないように練習に取り組む。
そして、昨日のハプニングが起きたところに差しかかる。
「あっ!」「えっ!?」
市井と矢口だけが見事に転んだ。
「大丈夫!?」
メンバーが二人の元に駆け寄る。
「あいたたた…」
矢口がゆっくりと体を起こす。
「いつつつつ…」
市井は頭を押さえながら体を起こした。
「ケガは?」
中澤が二人に聞いた。
二人は首を横に振る。
「ったく、なんで二人して転ばなあかんねん…」
中澤は頭を抱えて二人の顔を見た。
「二人とも、今日は調子悪いんとちゃうんか?」
- 175 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月11日(水)13時57分20秒
- 「そ、そんなことないよ!」
矢口が慌てながら言った。
「大丈夫…」
市井は力のない声で言った。
「とにかく、しばらく休んでな」
「大丈夫だって! ホラ……」
矢口は急に立ち上がって元気であることを示そうとしたが、立ち上がった瞬間に
へなへなと床に座り込んだ。
市井はぼ〜っとしたまま、どこか遠くを見ている。
「無理やんか、ホラ…。圭坊、かおり、二人を連れてってやって」
「わかった」「うん」
保田と飯田は頷き、それぞれ市井と矢口を背負って部屋の外まで運び出した。
- 176 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月11日(水)13時58分07秒
- 「大丈夫? 矢口」
飯田が矢口に声をかける。
「…うん。なんとか……」
矢口はまだフラついているのか、声にいつもの元気がない。
「紗耶香は?」
保田が市井の顔色を見ながら言った。
市井は何も喋らず、ゆっくりと首を縦に動かした。
「うんって…、全然ダメじゃん。とにかく、今日はゆっくり休んで」
「わかった…。ゴメンね、圭ちゃん…」
市井はやっとの思いで口を開いて言うと、そのまま目を閉じた。
保田はしばらく市井の顔を眺める。
「疲れてたんだね…。無理する必要はないのにさ…」
保田は矢口の方を見た。
矢口も市井と同じようにすやすやと眠っていた。
「さて、私たちは戻ろっか」
「そだね」
保田と飯田はレッスンルームに戻っていった。
- 177 名前:更新記 投稿日:2001年04月11日(水)14時05分58秒
- お待たせしました。再開です。
>>169 むこうのひとさん
今後もよろしくお願いしますね。
>>170 名無しさん
赤の方は現在滞っていますが、近いうちに再開します。
それまで待ってください。
>>171 名無しさん
今回は泣いてもらいます。「痛め」ってやつになるのかな?
- 178 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月12日(木)04時51分32秒
- 痛めになるんですか?ツライっす。
でも最後まで読むっす。
- 179 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月13日(金)16時50分23秒
- それから数日間、二人はワザとお互いを避けるようにして、それぞれ顔を合わせることも
口を開くこともなかった。
「最近あの二人、一緒にいるトコを見ぃひんけど、何かあったんか?」
中澤が市井と矢口を指して言った。
「さあ?」
石黒が首を横に振る。
「ま、しばらくしたら、いつもみたいに戻るんじゃない?」
「それもそうやね…」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
ある日の夕方――
「はい、お疲れさん。今日はこれで終わりや」
「お疲れさま〜」
「またね〜」
この日は早めに仕事も終わり、みんなそれぞれ帰っていった。
市井が帰ろうとしているところを矢口が呼び止める。
「あのさ、紗耶香…」
「なに?」
「話したいことがあるんだけど…。ちょっと、いいかな?」
矢口は深刻そうな面持ちで言った。
「いいよ。別に…」
市井は淡々と応える。
(ついにこの日が来たか…。もうしばらくの間は、顔を合わせたくなかったのに…)
市井はいろいろと考えながら、矢口と一緒に帰ることにした。
- 180 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月13日(金)16時53分04秒
- 二人は無言のまま歩く。
二人の距離は離れすぎもせず、くっつきすぎもしなかった。
別に二人の間は普通の距離であった。
ただ普通と違ったのは、変にお互いを避けているくらいだった。
しばらく歩くと、小さな公園が見えてきた。
さすがにこの時間帯になると、人の姿はあまり見えなかった。
「ここでいいよね…」
矢口がゆっくりと口を開いた。
市井は何も言わず、ただ頷くだけだった。
二人はブランコに腰掛けた。
しかし、二人とも顔を合わせようとはしない。
「あのさぁ、紗耶香…」
矢口は市井の顔を見た。
「なに?」
しかし、市井は矢口の顔を見ようとせず、遠くを見つめたまま応えた。
「最近、…なんかおかしくない?」
「別に」
市井は相変わらず、淡々とした口調で応える。
その視線はどこというわけでもなく、ただ遠くを見ていた。
- 181 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月13日(金)16時54分56秒
- 「じゃあ、なんで私を避けるの!? 今だってそう、最近の紗耶香……なんか冷たいよね」
矢口は声を大きくして言った。
その声はどことなく震えているような感じだった。
「………………」
市井は無言のまま遠くを見ている。
「私のこと、……嫌いになったの?」
矢口の目から涙が溢れ、そのまま泣き出してしまった。
「………そんなこと、ないよ…」
市井の声は震えていた。
「じゃあ、なんで?!」
「……怖かったん…だ…。やぐっちゃんに…嫌われたんじゃないかって…。だから…」
市井も涙ぐんでいた。
「だって、……あんなことがあった後だし…」
「私は…、私は紗耶香のこと嫌ってないよ…」
二人は顔を見合わせる。
「私もさぁ、ホントは……ホントはやぐっちゃんのこと…好きだよ…。
いつだって、一緒にいたいし…、帰るときだって一緒に帰りたかった…。
でも、怖かったんだ………。やぐっちゃんと顔を合わせるのが…」
- 182 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月13日(金)16時56分09秒
- 市井はそのままうつむいた。
「紗耶香…。もう、大丈夫だよ…」
矢口が市井の頬にそっと手を触れる。
「やぐっちゃん…」
市井は顔を上げ、矢口の目を見つめた。
市井の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。
同じように、矢口の顔も涙でぐちゃぐちゃになっていた。
市井は矢口の柔らかい手に触れ、そっと目を閉じた。
「紗耶香……」
矢口は自分の手に触れている市井の手を見つめる。
しばらくその状態が続き、そして二人は立ち上がり、お互い向き合った。
そのまま二つの影が重なり合った。
- 183 名前:更新記 投稿日:2001年04月13日(金)17時07分00秒
- 「二人の出会い編」はこれで終了です。
出会いのきっかけは、ほんのささいなこと…。
相手を意識し始めたときから、この物語は始まったのでした。
>>178 名無しさん
「痛め」っていうのは私が勝手に思っているだけで、
実際読んでみるとそうではないのかもしれません。
だから、読み終わった後に、「痛め」か「甘め」か判断してくださいませ。
- 184 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月14日(土)02時47分04秒
- 出会い編の次は、「痛め」か「甘め」なのか
はたまた濡れ場があるのか(w
と、かってな妄想をしつつ続き待っております。
- 185 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月14日(土)03時48分09秒
- 痛かろうが甘かろうが、どちらにしても楽しみにしています。
- 186 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月16日(月)12時09分43秒
- それから数日間、二人はワザとお互いを避けるようにして、それぞれ顔を合わせることも
口を開くこともなかった。
「最近あの二人、一緒にいるトコを見ぃひんけど、何かあったんか?」
中澤が市井と矢口を指して言った。
「さあ?」
石黒が首を横に振る。
「ま、しばらくしたら、いつもみたいに戻るんじゃない?」
「それもそうやね…」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
- 187 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月16日(月)12時10分57秒
- ある日の夕方――
「はい、お疲れさん。今日はこれで終わりや」
「お疲れさま〜」
「またね〜」
この日は早めに仕事も終わり、みんなそれぞれ帰っていった。
市井が帰ろうとしているところを矢口が呼び止める。
「あのさ、紗耶香…」
「なに?」
「話したいことがあるんだけど…。ちょっと、いいかな?」
矢口は深刻そうな面持ちで言った。
「いいよ。別に…」
市井は淡々と応える。
(ついにこの日が来たか…。もうしばらくの間は、顔を合わせたくなかったのに…)
市井はいろいろと考えながら、矢口と一緒に帰ることにした。
二人は無言のまま歩く。
二人の距離は離れすぎもせず、くっつきすぎもしなかった。
別に二人の間は普通の距離であった。
ただ普通と違ったのは、変にお互いを避けているくらいだった。
- 188 名前:訂正 投稿日:2001年04月16日(月)12時12分48秒
- >>186 >>187
思いっきり被ってます。ミスです。だから読まないでください。
- 189 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月16日(月)12時14分15秒
- 翌日の午後――
「ちわ〜→っス!!」「っはよ〜→ん!!」
二つの声が同時に響く。
その声に反応して、メンバーたちが一斉に振り向いた。
「よっ! お二人さん」
保田が市井と矢口の元に歩み寄ってきた。
三人は仲良く喋りながら奥へと入っていく。
「なあ?」
「なに?」
「一体、何があったんや? あの二人」
「さあ? けど、よかったじゃない。いつもの二人に戻って」
「ま、それはそうやけど…」
中澤と石黒が三人を見ながら言った。
- 190 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月16日(月)12時15分15秒
- それから一カ月くらい後――
「最近の市井さあ、なんかカワイくなってない?」
「うんうん。俺もそう思う!」
「けどさあ、矢口だって負けてないぜ!」
「だよな」
ファンの間では、市井と矢口の最近の変化について盛り上がっていた。
もちろん、このことは娘。たちの間でも話題になっていた。
- 191 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月16日(月)12時16分51秒
- 「なあ、紗耶香…」
「なに? 裕ちゃん」
「最近、何かええことでもあったんか?」
「べっつに〜。いつも通りだけど」
市井が中澤の質問をはぐらかそうとする。
「そうか? なんや、最近キレイになったから、つい…」
「つい?」
「恋でも……したんちゃうかぁ? ってな」
中澤がニヤけ顔で市井を見る。
「そっ、そんなわけないじゃん! 私だって、女の子なんだからキレイに
なりたいんだもん! 化粧の一つくらい覚えるのは当然じゃない!!」
市井は声をデカくして、顔を赤くしながら言った。
「ま、気のせいだったらええんやけどな。気のせいだったら…」
中澤はニヤニヤしながら、市井の怒りを押さえるように口の前で手を振り、
市井から離れていった。
(もしかして、バレたのかなぁ…。それはないと思うけど……どうだろう?)
市井は小さくなっていく中澤の後ろ姿を見送りながら頬に手を当てた。
- 192 名前:更新記 投稿日:2001年04月16日(月)12時23分09秒
- 話は進んで一ヶ月後。彼女たちの関係は……?
なんとなく気付かれ始めたような、そうでもないような…。
>>184 名無し読者さん
>はたまた濡れ場があるのか(w
濡れ場……ですか…。う〜ん…、どうしましょう(笑)
>>185 名無し読者さん
楽しみにしていてください。
- 193 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月17日(火)02時20分58秒
- 濡れ場なんてイラナイYO!?
キレイになった二人に幸あれ・・・
- 194 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月17日(火)03時49分48秒
- 二人のラブラブっぷりがもっと見たいっす!!
- 195 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月17日(火)12時32分51秒
- 同じ頃――
矢口も石黒と似たような話になっていた。
「まりっぺ…」
「なーに?」
「アンタ、最近キレイになったね〜」
石黒が笑顔で矢口を褒めた。
「アリガト♪」
矢口が笑顔で応える。
「もしかしてさぁ…、恋でもしてる?」
一瞬、石黒の顔がニヤける。
「ぶっ!! なっ、なんでそうなるの!?」
矢口は思わず飲みかけの紅茶を吹き出してしまった。
「な〜んてね。っていうつもりだったんだけど…。どうやら、図星だったみたいね…」
石黒は苦笑しながら矢口を見る。
矢口は焦りながらテーブルを拭いている。
「どうなの? どんな人? カッコイイの? 今度、私にも紹介してよ。etc.」
石黒が次々と質問を並べる。
「えっ? いや、別にカッコイイとか、そんなんじゃなくて…」
矢口の声がだんだん小さくなる。
そのままうつむいて、矢口の声は聞こえなくなった。
- 196 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月17日(火)12時36分15秒
- 「え!? じゃ、じゃあ、女?」
矢口はうつむいたまま顔を赤くした。
「ホントに!? まさか、まりっぺがそっちの線だったとは…」
石黒は驚きを隠し切れないといった顔で矢口を見ている。
「でも、別に普通の友たち! うん……。普通の…友たちだよ」
矢口は自分に言い聞かせるようにして声を大きくするが、やはり最後の方は
小さくなっていた。
「ま、別に相手が女でも構わないんだけどね。だってさぁ、女の子って
恋をする度にキレイになるって言うでしょ? だから、どんな恋でも
たくさんした方がいいと思うよ」
「うん…」
矢口は頷いた。
「ま、応援してるから頑張りなよ」
石黒は矢口の肩をポンポン叩きながら言った。
「あ、あのさぁ…」
矢口が顔を上げて何かを言い出そうとしている。
「だ〜いじょ〜ぶだって、ちゃんと秘密にしとくよ。だって、私のカワイイ妹の
ためだもんね」
そう言って、石黒はウインクをして見せた。
- 197 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月17日(火)12時53分08秒
- 「あ、アリガト…」
「さて…と。そろそろ練習に戻るとするか。まりっぺは? もう少しここにいる?」
石黒は席を立った。
「うん。そうする…」
「じゃ、早めに戻ってきなよ」
そう言って、石黒は行ってしまった。
石黒がいなくなったのを確認すると、矢口は肩の力を抜いてテーブルの上にうつ伏せた。
(はあ〜…。なんでバレたんだろ? けど、相手が誰かはバレてないよね…)
矢口は顔を押さえながら上を見上げた。
「何してんの?」
上を見ると、飯田が矢口を見下ろしていた。
飯田は不思議そうな顔をしている。
「べ、別に何もしてないよ!」
矢口は慌てて体勢を元に戻した。
「ふ〜ん…。だったらいいんだけど。あ、そろそろ練習再開するって」
飯田は別に気にしてるわけでもなさそうで、矢口の言葉を聞くと、彼女なりに理解して
普通に話を続けた。
矢口はそんな飯田の行動を見て、内心ホッとした。
「わかった。すぐ行く」
矢口は席を立って、飯田の後をついて行った。
- 198 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月17日(火)13時39分45秒
- こちらでも動きがあったみたいで。
それにしても感がいいというか、なんというか……。
>>193 名無し読者さん
散々引っ張ってますけど、実は、濡れ場っていうのは考えてないんです。
ゴメンなさい。
>>194 名無し読者さん
そうですねぇ…。でも、幸せな時間というものは長くは続かないものなんです…。
- 199 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月18日(水)03時58分40秒
- 幸せな時間は長くは続かない??
とゆうことは・・・
続きが恐いよ〜
- 200 名前:道化師 投稿日:2001年04月18日(水)10時26分08秒
- ↑のやつは
「感」→「勘」の間違いですね(^^;
- 201 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月20日(金)13時56分49秒
- それから三カ月――
二人は別人のようにキレイになっていき、ファンの間での人気も赤丸急上昇の存在となった。
もちろん、市井と矢口の関係も、なんとかバレずに今のところ順調であった。
「帰ろ♪ 紗耶香」
「うん。矢口、今日さぁ、ドコに行く?」
「え〜とねぇ…」
いつの間にか、市井は矢口のことを「やぐっちゃん」から「矢口」と呼ぶようになり、
その仲はさらに深まっていったようである。
二人は仲良く喋りながら帰っていった。
さすがに、みんなの前では腕を組むのはやめているみたいだが…。
- 202 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月20日(金)14時06分02秒
- そんな二人を遠くから見ている二人がいた。
「なあ?」
「なに?」
「最近あの二人、さらに仲良くなってへんか?」
「さあ? 気のせいじゃない?」
石黒はワザと知らんぷりをした。
「なあ、あやっぺ…」
「なに?」
「なんか、あの子らのこと知ってるやろ?」
中澤が疑い深い目で石黒を見る。
「あれ? 裕ちゃん、まだ気づいてなかったの?」
「はい??? どういうこと?」
中澤の目が点になる。
「ま、私の推測だけど、あの二人できてるわよ」
石黒が人差し指を立てて言った。
「はあ?! 何を言っとんねん!んなわけないっしょ。だいたい、女同士やで…」
中澤の声がだんだんデカくなる。
「以外と鈍いんだね〜、裕ちゃん。最近の子たちは進んでるんだから。
もちろん、あの二人も例外じゃないんだよ。例えば……」
石黒は最近の若手事情を大まかに話した。
「けど、それじゃ…」
中澤は不安そうな顔で腕を組んだ。
「でも、私に言わせれば、まだ恋に恋してるって感じかな」
「恋に…恋してる……?」
中澤は石黒の言葉を自分に言い聞かせるようにもう一度呟いた。
「そ。女同士の恋でも問題はないと思うんだけど。まあ、しばらくは
見て見ぬフリをしてるのがいいかもね」
「そんなもんなんか?」
中澤は目を大きく見開いて石黒を見た。
「そんなものなの。まあ、私も一応、経験者だからね♪」
そう言って、石黒はウインクをして見せた。
「え? そうやったんか?」
中澤がポカンと口を開けたまま石黒を見る。
「なんて顔してんの。さ、今日はどこに飲みに行くの?」
「おお、そうやった……」
中澤は我に帰ると、仕度を終わらせ石黒と事務所を出た。
- 203 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月20日(金)14時08分49秒
- 市井と矢口はというと――
「懐かしいな〜」
「ホント」
あのときの公園にいた。
「あのとき…」
「紗耶香がいたから…」
二人は見つめ合う。
しばらくそのままの状態が続く。
ゆっくりと二人が近づく…。
「はあ〜…。なんか恥ずかしいね」
市井がふうと息を吐いて言った。
「あはははは…」
二人は笑って、ブランコに腰掛けた。
「そういえばさぁ、紗耶香」
「なに? 矢口」
「もうすぐさぁ、追加オーディションじゃん」
矢口が遠くを見る。
- 204 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月20日(金)14時10分24秒
- 「どんな子が入ってくるのかなぁ…」
「さあ? まだわかんないよ」
「もし……、もし、その子たちが入ってきたら、教育係とかつけられるのかな…」
「だろうね…」
「きっと、私たちになるんだろうなぁ…」
「けど、それがどうしたの?」
市井が矢口の方を見る。
「もしかしたら、こうやって逢うことも減ってくんじゃないかな〜、ってね」
矢口はブランコを漕いで言った。
矢口の顔にはいつもの笑顔が見えなかった。
「そんなわけないじゃん。いつだって逢えるよ、きっと」
市井が笑顔で言った。
「そ、だね」
矢口は「ぴょん!」とブランコから飛び降りて言った。
市井の言葉を聞いて、矢口の顔にほんの少しだけ笑顔が戻った。
「アリガト♪ 紗耶香」
矢口は振り返って、笑顔を見せた。
- 205 名前:更新記 投稿日:2001年04月20日(金)14時17分38秒
- 「予感」
この予感が的中しなければいいのですが…。
>>199 名無し読者さん
この話は今までのツナギになる話ですから…。
- 206 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月21日(土)02時53分29秒
- ついにあの子がやって来ますか〜(w
面白い展開になりそうなんで、非常に楽しみです!!
- 207 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月21日(土)03時08分48秒
- 何か嫌な予感がする・・・
今後の展開を期待
- 208 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月23日(月)16時25分19秒
- 追加メンバーオーディションの結果、予定の9人としてではなく、
8人での再スタートを迎えた。
見事オーディションに合格したのは、14歳の金髪少女「後藤真希」であった。
そして、市井は自ら後藤の教育係を買って出ることとなる。
新生モーニング娘。としての新曲「LOVEマシーン」の売上も好調で、
シングルとしては異例のロングヒットを遂げた。
それから、市井、保田、後藤の三人のユニット『プッチモニ』ができた。
デビュー曲『ちょこっとLOVE』は話題と、最近のモーニング娘。の勢いの
せいもあってか、こちらもロングヒットのシングルとなる。
さらにプッチモニは、ラジオのレギュラー番組もスタート。
そのせいか、市井と矢口はプライベートの時間で一緒にいる時間がだんだん減り、
次第にその時間は失われていった。
- 209 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月23日(月)16時28分07秒
- 「さ〜やか♪」
矢口が今にも帰ろうとしている市井に声をかける。
「どうしたの? 矢口」
市井は振り返って矢口を見た。
「今日さあ、帰り……どうかな〜と思って」
少し言いにくそうな顔で矢口は市井を見た。
「ゴメン。今日はちょっと…」
市井はバツの悪そうな顔をして、矢口から視線をそらす。
「??? 何かあるの?」
「う、うん…」
言葉を詰まらせながら市井が言う。
そのとき――
タッタッタッタッ…
いかにも「急いでます!」とでもいうような勢いで足音が聞こえてきた。
足音の主はだんだん二人に近づいてくる。
- 210 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月23日(月)16時28分51秒
- 「市井さ〜ん! 待たせてすみませ〜ん!!」
慌てて走ってきたのは後藤だった。
「…と、いうわけなんだ」
市井は苦笑しながら人差し指で頬を撫でた。
「じゃあ、仕方ない……か…」
矢口は残念そうな顔をして肩を落とした。
「あれ? どうしたんですか? 矢口さん」
後藤は何がなんだかわからないような顔で矢口の顔を覗き込む。
「あの〜、もしかして、私……お邪魔でした?」
後藤が背中を丸くしたまま、少しずつ後退りをする。
「やっ、別にそんなことないよ」
矢口が慌てて手を横に振りながら答えた。
「じゃ、矢口。ゴメンね、ホント…」
市井は顔の前で左手を立てた。
「いいっていいって。今度埋め合わせしてくれれば」
矢口は無理に笑顔を作って応えた。
「それじゃ」
「うん…」
ほんの僅かな時間だが、市井と矢口は見つめ合う。
そして、二人は頷いて微笑んだ。
そんな風景を後藤は不思議そうに眺めていた。
(やっぱり、私……邪魔、だったのかも…)
- 211 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月23日(月)16時30分35秒
- 「気を付けてね! ごっちん」
矢口は市井から視線を外し、後藤に目をやって、人差し指を立てながら言った。
突然の言葉に驚いた後藤は、頭に「?」マークを浮かべながら矢口の顔を見た。
「じゃないと、いつ紗耶香に襲われるかわからないぞ!」
そう言って、矢口が今にも襲いかかるような勢いで両腕を大きく広げた。
後藤は一瞬、ビクっと肩をすくめ、怯えるようにして市井の背中に隠れる。
「な〜んてね♪ そんなに怖がらなくてもだいじょ〜ぶだって。ね? 紗耶香」
矢口は笑顔に戻って、再び市井に視線を戻した。
「あっ、当ったり前じゃん! 何言ってんだか、矢口は」
慌てて市井が答える。
市井の言葉を聞くと後藤は安心したのか、また市井の横に並んだ。
「じゃあ行こっか。後藤」
市井が後藤の顔を見る。
「はい♪」
後藤は満面の笑みで市井を見返した。
- 212 名前:更新記 投稿日:2001年04月23日(月)16時42分18秒
- ついに真打ち登場!!(なんのこっちゃ!?)
これから、一人をめぐっての戦いが……な〜んて感じじゃないですけど(笑)
しかし、「市井ちゃん」じゃなくて「市井さん」と呼ぶ時期もあったんですねぇ。
今じゃ想像もつかないけど…。
>>206 名無しさん
ついに来ちゃいましたね〜。
…といっても、この時はまだ少女です(意味不明)
純粋なんですよ。
>>207 名無しさん
嫌な予感……もう、すでにヤバくなりつつあるような…。
まあ、気長に見守りましょう(笑)
- 213 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月24日(火)02時36分49秒
- いつ、後藤の市井への呼び方が「市井さん」から「市井ちゃん」へ変わるのか?
その瞬間が楽しみです。(w
- 214 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月24日(火)03時01分04秒
- 「市井さん」新鮮でのあり違和感を感じてしまう・・・
- 215 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月24日(火)12時31分44秒
- 「さよ〜ならぁ〜♪ 矢口さ〜ん!」
後藤が大きく手を振る。
「バイバイ…」
矢口は無理に笑顔を作って、だんだん遠く離れて行く二人を見送った。
後藤は最後まで後ろを向きながら手を振っていた。
それから矢口は再び中に戻った。
- 216 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月24日(火)12時33分58秒
- 「はあ〜…」
矢口は肩を落とし、ため息をつきながらイスに腰掛けた。
(最近の紗耶香はごっちんと一緒で、私とはさっぱり…。私のことなんて、
もう……必要、ないのかな…。なんか、このままじゃ……)
矢口の頬を熱いものが伝っていった。
「もう…、ダメなのかな……」
矢口はテーブルにうつ伏せ、顔を横にして頬をテーブルにくっつけた。
頬を伝ってこぼれ落ちた涙がテーブルに滲んでいく。
「はあ〜………」
矢口は再びため息をついた。
「何がダメなんや?」
矢口の背中越しから声がした。
「――?」
矢口が顔を上げると、そこには中澤がいた。
「どうしたんや? 矢口」
中澤はイスに腰掛け矢口を見る。
「別に…」
矢口は必死に涙を拭きながら答えた。
- 217 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月24日(火)12時35分18秒
- 「はあ〜…」
矢口は肩を落とし、ため息をつきながらイスに腰掛けた。
(最近の紗耶香はごっちんと一緒で、私とはさっぱり…。私のことなんて、
もう……必要、ないのかな…。なんか、このままじゃ……)
矢口の頬を熱いものが伝っていった。
「もう…、ダメなのかな……」
矢口はテーブルにうつ伏せ、顔を横にして頬をテーブルにくっつけた。
頬を伝ってこぼれ落ちた涙がテーブルに滲んでいく。
「はあ〜………」
矢口は再びため息をついた。
「何がダメなんや?」
矢口の背中越しから声がした。
「――?」
矢口が顔を上げると、そこには中澤がいた。
「どうしたんや? 矢口」
中澤はイスに腰掛け矢口を見る。
「別に…」
矢口は必死に涙を拭きながら答えた。
- 218 名前:訂正 投稿日:2001年04月24日(火)12時38分43秒
- おろ? ダブリですね…(苦笑)
>>217 は飛ばしてください。
- 219 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月24日(火)12時44分32秒
- 「そうか…。最近、矢口が元気ないから、どうしたもんかな〜と思ったら、
こういうことだったとはね…」
中澤は顎を手で撫でながら言った。
「こういうことって、どういうこと?」
「矢口……アンタ、紗耶香のこと……」
中澤は心配そうな顔で言った。
「べっ、別に、紗耶香とはなんでもないよ! なんでも…」
矢口が焦りながら手を横に振る。
しかし、途中で声が小さくなってしまった。
「隠さんでもええんやで…」
中澤が矢口の肩にそっと手を触れる。
「隠してなんか……。ホントになんでもないん…」
矢口はわざと声をデカくした。
それはまるで、自分の感情を押し殺しているようだった。
そんな矢口の意思とは裏腹に、再び矢口の目から涙が溢れてくる。
「――!? なんで、なんで泣いてんだろうね。私…」
矢口は一瞬目を大きく見開いた。
そして、今まで押し殺してきた感情が一度に溢れてきたのか、矢口の顔は一気に
涙でボロボロになった。
- 220 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月24日(火)12時46分43秒
- 「なんで……なんで…」
矢口はそのまま顔を伏せた。
力ない声と鼻を啜る音だけが周りに響く。
「矢口………私じゃ…私じゃ、矢口の力になれへんのか?」
(何を言ってるんや、私は!? あんなに同性愛なんか否定していたはずやのに…)
言葉を発した直後に、中澤の心の中で葛藤が生じた。
中澤は心の動揺を隠し切れないのか、目を大きく見開いたまま、うろたえ始めた。
そして、中澤の顔色がだんだんおかしくなっていった。
「裕ちゃん…。ゴメン……」
矢口は顔を上げ、涙を拭きながら言った。
「い、いや……、私の方こそどうかしてる。今のは忘れて……な?」
そう言うと、中澤はフラフラと席を立ち上がった。
「スマンな、矢口…。今日の私、なんかヘンやわ…」
(あかん…。どないしたんや、裕子!? アンタは男が好きなはずやろ!
なのに、どうしてあんなことを…)
中澤は頭を抱え、よろけながら歩いていった。
「裕ちゃん……」
矢口は足取りがフラつく中澤の後ろ姿を見送った。
- 221 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月24日(火)12時48分10秒
矢口の中で少しずつだが、感情に変化が起きていた。
しかし、それは僅かな感情の変化で、矢口自身は、まだこの変化に気付いていなかった。
今は決してまだ気付くことのない、友情よりも深く、恋というよりも愛に近い感情…。
そして、いつかは大きくなっていく、中澤への想いに……。
- 222 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年04月24日(火)13時04分35秒
- ごっちんに続いて、裕ちゃんも参加!!
そして、この時から彼女の中の歯車が狂い始めたのでした。
次回の話は約2ヶ月後……。
そう、誰もが喜ぶあの季節が到来するんです。
>>213 名無しさん
そうですねぇ……。あっという間に変わってしまいます(笑)
しかも、表記の仕方が「市井ちゃん」じゃなくなります!!
>>214 名無し読者さん
今となっては二度と聞くことができない言葉ですからね。
私も執筆しながら違和感を感じました。
- 223 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月25日(水)02時39分40秒
- 中澤姉さんが参戦ですか!!
しかも、どうやら矢口の心は姉さんへ・・・。
もう、さやまりはダメなのかな〜。(悲)
- 224 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月25日(水)13時05分42秒
- 12月某日――
「いち〜→ちゃん♪」
「ん? なんだよ、急に変な声出しちゃってさあ」
後藤が市井の肩に手を掛け、市井の背中越しに顔を出して言った。
それに対して、市井は二の腕をさすりながら肩をすくめる。
「もう12月だねぇ〜」
「そうだね」
市井は後藤の甘ったるい声とは対照的に淡々とした声で喋る。
「ごとーが娘。になって3ヶ月になるんだねぇ〜」
「もう、そんなになるんだ…」
(もう、半年経ったのかぁ…。早いね…)
「そーだよ。あっという間だよ。いち〜ちゃんと出逢ってから、もう3ヶ月なんだねぇ。
早かったな〜」
後藤が嬉しそうに話す。
そして、市井の腕にしがみつき、市井の顔に頬ずりをした。
「いち〜ちゃん、もうすぐさあ、何の日か知ってる?」
- 225 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月25日(水)13時08分36秒
- 「そのくらい知ってるよ。クリスマスでしょ?」
そう言いながら、市井は指先でぷにょぷにょしている後藤の頬をつついた。
「あったり〜→☆ でさあ、今年のクリスマス、いち〜ちゃんと過ごせたらな〜…って……」
後藤はつつかれながらも笑顔で市井に甘えている。
(もう、そんな季節なんだ……)
後藤は市井に一生懸命話しかけるが、市井の頭は別のことでいっぱいだった。
市井はどこか上の空で後藤の話を聞いていた。
「ねえ、いち〜ちゃん!」
「ん? なに?」
市井は突然の後藤の大声で我に帰った。
「いち〜ちゃん、ちゃんとごとーの話聞いてる?」
後藤が頬を膨らませながら腰に手を当てる。
「聞いてるよ。ちゃんと」
市井はそんな後藤を見て何も反応を示さず、ただいつものように淡々と答えた。
「ホントぉ? じゃあ、どうする?」
市井が一瞬首を傾げる。
- 226 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月25日(水)13時11分34秒
- 「……どうするって?」
しばらく考えた後に市井は言った。
「ホラぁ、聞いてないじゃない! ぷんぷん!!」
後藤が頬を膨らませ、唇を尖らせてそっぽを向いた。
「ゴメンゴメン…。ちょっと、考えごとをしててさ…」
市井が顔の前で手を合わせる。
後藤はそんな市井を横目でチラリと見ると、急に態度を変えた。
「じゃあ、許してあげる♪」
「アリガト」
(ったく、調子のいい娘だねぇ、ホント…)
市井はそんな後藤をかわいらしく感じていた。
「でね、いち〜ちゃん――」
後藤が市井から離れ、ちゃんと座り直してから言った。
「……うん、考えとくよ…」
市井は無理に笑顔を作って答えた。
しかし、その声はどことなく元気がなかった。
(クリスマス…か……。私はどんな夜を過ごすのかな…)
- 227 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年04月25日(水)13時27分57秒
- 誰もが喜ぶであろう季節「クリスマス」
果たして、この夜を市井は誰と過ごすのでしょうか……。
>>223 名無しさん
そんなわけないですよ。矢口は今のところ紗耶香のことが一番なんですから。
ただ、裕ちゃんだけが変わってきたんです。
裕ちゃんの中で「矢口真里」という存在が、友達というラインを越えてしまったんです。
だから大丈夫ですよ。
- 228 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月25日(水)14時10分13秒
- 市井、なんで考えておく必要があるんだ。
お前には矢口がいるだろ!(涙
- 229 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月25日(水)21時20分45秒
- いや…これはこれで…
- 230 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月26日(木)02時20分27秒
- やばい!!後藤がめっちゃかわいい!!
やっぱり後藤の「いち〜ちゃん」は反則でしょう!!(w
矢口〜、負けんなよ!
- 231 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月26日(木)12時13分58秒
- 翌日――
「どうしたの? ごっちん」
「ゴメンね。急に」
「いいよ。別に…」
仕事が終わって、後藤は矢口を呼び出していた。
矢口は「なんだろう?」と思いつつも、後藤に逢いに来た。
「あのね、やぐっつぁん…」
「な〜に?」
後藤はもじもじしながら何かを言いたそうにしている。
「やぐっつぁんはぁ、いち〜ちゃんのこと……どー思ってるの?」
「はい!!!??」
矢口は突然の後藤の言葉に驚き、目を大きく見開いた。
「ど、どう…って?」
矢口の声が裏返る。
その口調から、明らかに動揺しているのがわかった。
(…ったく、急に何を言い出すんだ、この娘は!? そ、そりゃあ…私は、
紗耶香のことを好きだけどさぁ……。…ってゆーより、付き合ってるし…)
- 232 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月26日(木)12時15分15秒
- 「いち〜ちゃんのこと……好きなのか? ってこと…」
そこまで言うと、後藤は顔を真っ赤にしてうつむいた。
(う〜ん…。参ったね、こりゃ…。あくまでも紗耶香とのことは秘密だし。
バレるような発言はヤバいしね…)
「紗耶香のこと?」
「うん…」
矢口の問いかけに、後藤はうつむいたまま答える。
「好きだよ」
「えっ…?」
矢口の言葉に反応して、後藤は顔を上げた。
「けど、好きっていうのは、他のメンバーと同じってこと。後藤も好きだし、
裕ちゃんやあやっぺ、なっちにかおり、そして、圭ちゃんもみ〜んな大好きだよ。
まあ、紗耶香もそんな感じかな」
矢口は笑顔で話を続けた。
(うまい! 今のはうまかったぞ、矢口!! これで大丈夫! …なはず……)
矢口は心の中でガッツポーズをとってはしゃぎ回った。
- 233 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月26日(木)12時16分50秒
- 「よかった……」
矢口の言葉を聞くと、後藤はホッと胸を撫で下ろした。
(へ??? どーゆーこと?!)
「てっきり、やぐっつぁんはいち〜ちゃんと……」
「そんなわけないじゃん。ははははは……」
矢口が笑ってごまかす。
「じゃ、じゃあ、チャンス……あるんだよね…?」
突然、後藤が目の色を変えて一歩前に歩み寄った。
そして、瞳をキラキラさせながら胸の前で手を組み、どこか遠くの空の果てを
見つめている。
さしずめ、天に祈りを捧げる女神……もとい、少女というところか…。
(チャンス……って、もしかして…)
一瞬、嫌な予感が矢口の脳裏を横切る。
(こ、こりゃ、ホントに大ピンチかも…)
矢口は人差し指で頬を掻きながら苦笑した。
- 234 名前:ぷち 投稿日:2001年04月26日(木)13時31分15秒
- 矢口〜〜!
市井をしっかりつかまえとけよ〜〜!!
- 235 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年04月26日(木)14時44分24秒
- どうやら、もう一波乱ありそうです…。
>>228 名無しさん
きっと、市井ちゃんは心が優しい人なんです。だから、後藤を傷つけたくないと…。
まあ、優柔不断ともいいますが…。
>>229 名無しさん
これはこれで「OK」ですか? だって、「市井×後藤」……だからとか…?
だとしたら、それだけでも、このシーンの価値はあったということですね。
>>230 名無しさん
やっぱり反則ですか? でも、この二人が揃ったら、やっぱり「いち〜ちゃん♪」でしょう。
この様子がなんとなく目に浮かんできます(爆)
>>234 ぷちさん
これはもう、応援するしかないですね。「ファイト! 矢口!!」って。
ぷちさんって、なんか某ユニットの名前みたいな感じですね。
別に深い意味はないです…(反省)
- 236 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月27日(金)02時25分21秒
- この先、後藤の大攻勢があるのかな?
優柔不断な、市井ちゃんはどうなるのか!?(w
- 237 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月27日(金)13時25分00秒
- 後藤は相変わらず、遠くを見つめながら瞳をキラキラさせている。
…と思ったら、今度は何かを思い詰めたように表情を変えてうつむいてしまった。
(ん……? 今度は一体なんだ?)
矢口が後藤の様子をじっと見つめる。
しばらくして、後藤が口を開いた。
「やぐっつぁん!!」
辺りに後藤の声が響き渡る。
まるで何かを決心したような、そんな口調だった。
自分自身を奮い立たせているような、そんな感じの力強い声だった。
「ごっちん……目が怖い…」
矢口が苦笑を浮かべながら、心なしか引いているように見える。
後藤の瞳は何かに燃えているような真剣な眼差しだ。
「私……私、負けないから!」
「は、はあ……」
矢口は後藤の発言の意味がよく理解できず、ただ応えた。
(一体、何に負けないんだ???)
- 238 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月27日(金)13時27分05秒
- 「いち〜ちゃんは、いち〜ちゃんは……譲らないから!!!!」
「え゛〜!!!???」
後藤の声よりも大きな声が辺りに響く。
矢口は愕然としたままその場に立ち尽くしている。
矢口の嫌な予感は見事に的中し、後藤が矢口に対して宣戦布告を仕掛けてきたのである。
(え゛〜!!!! ちょっと、一体ど〜なってんのよ! ごっちんって、ホントに紗耶香の
ことが好きだったのぉぉぉ!!? ど〜しよ。このままじゃ、やっぱマズイよね…)
矢口は市井とのことを話す決心を固めた。
「あ、あのね、ごっちん…。紗耶香のことなんだけど…」
矢口が後藤の顔色を見ながら、身長に話を切り出す。
「やっぱ、やぐっつぁんも、いち〜ちゃんのこと……」
後藤は今にも泣き出しそうなほど、その大きな瞳に涙を溜め、ふるふると振るえながら
矢口の目を見つめる。
「も、って……。じゃなくて! 紗耶香とわた…」
矢口は後藤の勘違いを正そうと声を張り上げて言った。
「わかりました! 勝負です!!」
しかし、後藤は最後まで矢口の言葉を聞かず、矢口の言葉を遮った。
そして勝手に解釈して、いきなり勝負を挑んできた。
- 239 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月27日(金)13時28分35秒
(ちょ、ちょっとちょっと、ごっちんって、こんな娘だったっけ? 普段と違って
熱血じゃん…)
矢口はそんな後藤を見て、一瞬うろたえる。
「い、いや、勝負じゃなくて……」
矢口は熱く燃える後藤の熱を冷まそうとする。
「それだけです! じゃあ、負けませんから!! さよなら!!」
しかし、それは逆に後藤の熱をヒートアップさせるハメになった。
後藤は力強く捨て台詞を残して去っていった。
「ちょ、ちょっと、ごっちん!!」
矢口は後藤を止めようと声をかけるが、後藤の耳には全く届いていない。
「ったく、なんでこんなことになったのよ…」
矢口はへなへなと地面に座り込んだ。
「とにかく、なんとかするっきゃないか…」
矢口は深くため息をついた後で、立ち上がって市井のところに向かうことにした。
「紗耶香……信じていいんだよね…」
矢口は胸に手を当て、目を閉じて何かに祈るように呟いた。
- 240 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年04月27日(金)13時30分02秒
それからの数日間、別に後藤は怪しい行動を見せることもなく、いつものように
矢口と接していた。
矢口はほんの少しだけ用心しながら、後藤と同じくいつものように過ごしていた。
(結局、あのときだけか……。あれって、マジだったのかなぁ…?)
- 241 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年04月27日(金)13時37分24秒
- そして、話はいよいよクライマックスへ…。
市井はどちらを選ぶのでしょうか?
次回は12月23日――そう、運命の日の前日です。
>>236 名無しさん
「優柔不断な、市井ちゃん」は次回、ある決断を下します。
さて、その決断とは……?
- 242 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月28日(土)01時55分36秒
- 優しい市井ちゃむは、どのような決断を下すのか!?
作者さんが「ある決断」と言っているところに、新たな期待感が・・・
- 243 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月28日(土)02時51分52秒
- 市井ちゃんが選ぶのはもちろん矢○ですよね?
- 244 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月01日(火)09時55分14秒
- 12月23日――
「いち〜→ちゃん♪ な〜に? 用って」
「あ、あのさ……」
市井は後藤に何かを伝えようとしているが、うまく話を切り出せない。
「ど〜したの? 一体。なんか、顔コワイよ」
後藤が市井の顔を覗き込む。
「ゴメン。後藤…」
しかし、市井は後藤と目を合わせず、ただうつむいたまま謝った。
「そんな、いきなり謝らないでよ。何がゴメンなの?」
「クリスマス……なんだけど…」
市井は目を閉じ、下唇をきつく噛み締めて握り拳を作り、ゴクリと喉を鳴らした後に言った。
そして、ゆっくりと目を開いた。
「ダメ……なんだ…」
後藤がポツリと呟く。
さっきまで笑顔だった後藤の表情が凍りつく。
感情をなくした人形のように、眉一つ動かない。
「……うん…。ゴメン…」
市井は再び目を閉じてうつむいた。
- 245 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月01日(火)09時55分53秒
- 「ダイジョーブだよ! ごとーはコレくらいじゃ泣かないんだから!!」
かと思うと、後藤は無理に笑顔を作り、ガッツポーズを作って言った。
その一言で、市井は目を開けて顔を上げた。
「後藤……」
(ホントに……ホントにこれでいいのか? 市井!? 私がやっていることは……)
市井は唇を噛み締めながら、自分が選択したことを後悔した。
たとえそれが正しいことであったとしても、市井にとって、今の選択は間違いのように感じた。
「だから………だから……」
後藤の目から涙がぽろぽろと零れてくる。
市井は何も声をかけることができず、ただ後藤を見つめることしかできなかった。
「……うわあぁ〜〜ん!!!!」
今まで堪えていた感情が一気に込み上げてきたのか、後藤の瞳から涙が一気に溢れ出てくる。
赤ちゃんのように声を上げ、顔をぐしゃぐしゃにして滝のように涙を流す。
零れ落ちる涙は頬を伝い、首を伝って、後藤の着ている服を湿らせていく。
後藤は涙を拭こうとせずに、ただ泣き叫んだ。
- 246 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月01日(火)09時56分44秒
- 「ゴメン……後藤…」
市井はそんな後藤を見ているのが辛かった。
市井にとって、たとえ相手が誰であろうと涙は苦手なものの一つであった。
「でも……ぐずっ…でも、これからも、ごとーのことを好きでいてね!」
張り上げた後藤の声が震える。
「うん…」
「ごとーはぁ、ずっと、ず〜っと、いち〜ちゃんのことが好きだから!
いち〜ちゃんはぁ、ごとーの全てだからね!!」
それは、今の後藤自身の市井に対する張り詰めた想いを込めた言葉だった。
「アリガト……」
市井は後藤の顔を胸に押し付け、ギュっと抱きしめた。
後藤は市井の胸の中で思い切り泣き叫んだ。
その姿は、まるで母親にすがりつく子供のようだった。
(これで……これで、いいんだ…)
瞳から零れた一筋の光が市井の頬に弧を描いた。
- 247 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年05月01日(火)10時07分09秒
- 訂正:「込めた」→「こめた」のミスです。全く別の字ですね(苦笑)
そして市井は後藤の元を去っていく…。
明日の夜を共に迎えるのは……もう、おわかりですね。
>>242 名無し読者さん
「ある決断」……実はここでは下しません。
ということは……? なんかイヤな予感がする…ということになりますね。
>>243 名無しさん
今のところ、そういうことになりますね。
ただし……いや、これ以上言うのはやめておきましょう。
- 248 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月02日(水)02時23分07秒
- 何かダイバーの市井ラストを思い出した(涙
それはそうと、「なんか」ではなく
すごくイヤな予感が・・・
- 249 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月02日(水)02時51分29秒
- 「ある決断」が怖いな〜
作者さんの言い回しから、自分が考えていたのとはまったく違うもののようだし・・・
続きが気になる〜!!
- 250 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月02日(水)13時08分55秒
- 12月24日、クリスマスイブ――
この日は久しぶりに、市井と矢口はプライベートの時間を過ごすことができた。
…とはいっても、仕事の後ではあるが。
しかし、ここ最近全くといっていいほど一緒にいることができなかった二人にとって、
この日は何よりも嬉しい『クリスマスプレゼント』そのものであった。
街並を彩るイルミネーションは年を重ねるごとに、だんだん派手になってきている。
街角ではサンタの格好をした人たちがケーキを売り、それを買って帰る父親の様子も見える。
街中はカップルたちで溢れているが、少し変わった二人組もたまにチラホラと…。
もちろん、この二人も例外ではなかった。
傍から見れば、ただ女の子が二人歩いているだけにしか見えない。
が、普通と少し違ったのは、この二人が恋人同士であったこと。
しかし、他人がそんなことを知る由もなく…。
- 251 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月02日(水)13時10分25秒
- 市井と矢口は寄り添いあって、腕を組んで歩いている。
そう、まるで、本物のカップルのように。
「はあ〜…。クリスマスかぁ…」
市井が手を温め、夜空を見ながら言った。
「どうしたの? 急に…」
矢口が突然の発言に驚いて、市井の顔を見上げた。
「え? だってさあ、まさかこんな形で迎えるなんて思ってもみなかったからさぁ…」
「そりゃ、確かに…」
矢口がうんうんと頷く。
「そういえば、今日はよく後藤と一緒にならなかったねぇ」
矢口がいじらしく言った。
「うん…。だって、今日は大切な日だからさぁ…。ちゃんと断って来たよ」
しかし、そんな矢口の言葉に動揺する事もなく、市井は当たり前のような顔で言った。
「断って…ってことは、もしかして、後藤に誘われた?」
矢口の表情が少しだけ曇る。
「えっ、いや、まあ、その………うん。け、けど、ちゃんと断ったよ」
市井は焦りながら身振り手振りを付け加えながら答えた。
「……後藤を泣かしちゃったけどね…」
市井はちょっと後ろめたげにうつむきながら言った。
- 252 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月02日(水)13時13分07秒
(やっぱり……あれはマジだったのか…)
矢口は心の中でため息をついた。
「でも、今日は矢口と一緒にいたいんだ」
市井が心を落ち着かせて言った。
「ホント?」
矢口はさらに疑い深い目で市井の目を見つめる。
「うん。ホント」
矢口はその言葉を聞いてホッとした。
しばらくの間、二人はいろんな所を歩き回った。
そして、いつの間にかあのときの公園に来ていた。
二人が始まるきっかけとなった、あの場所に。
- 253 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年05月02日(水)13時25分13秒
- 今回は更新量が少ないです。ゴメンなさい。
そして、これからの連休中は怒涛の更新ラッシュ!!
…といっても、別に更新量が多くなるとか、そんなものはありませんのでご了承下さいませませ。
>>248 名無し読者さん
個人的には武道館ライブをイメージしたのですが、まあ、感じ方は人それぞれですからね。
言われてみれば、ダイバーでもいいような…。
予感、的中しないといいですね……としか言えません。
>>249 名無し読者さん
名無し読者さんの考えていたものが気になります〜→!!
終わったときにでも教えて下さい。
続きも気になるところですが、まあ、気長にいきましょう。
- 254 名前:ぷち 投稿日:2001年05月02日(水)17時23分41秒
- う〜ん・・・
さやまり好きとしては、嬉しい展開だけど、
ごま、かわいそうだなぁ・・・
- 255 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月04日(金)01時25分36秒
- 「ここから、始まったんだね……」
市井がブランコのチェーンに手をかける。
「うん…」
矢口がブランコに座り市井を見る。
「……怖かったん…だ…。やぐっちゃんに…嫌われたんじゃないかって…。だから…」
矢口が感情を込めて言った。
心なしか、その瞳は潤んでいるように見える。
「だって、……あんなことがあった後だし…」
続けて矢口が言った。
「私は…、私は紗耶香のこと嫌ってないよ…」
矢口に続いて市井が言う。
こちらも感情を込め、顔を横に振りながら涙を浮かべる。
そのまま二人は顔を見合わせた。
あのときの出来事を、入れ替わった状態で思い出すように繰り返した。
半年前のあの日の夕方に起きたことを、あの日と同じように同じ場所で。
- 256 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月04日(金)01時28分07秒
- 「…な〜んて頃もあったんだよね」
「そうだね」
二人は顔を見合わせたまま微笑んだ。
「何もない小さな公園だけど」
「何もなかったから、こうして今の私たちがある」
「紗耶香……よくわかんないよ」
「そう? 私にはよくわかるんだけどな〜」
二人は公園を見渡しながら言った。
「あの頃はさあ、毎日が幸せだったね…」
矢口が遠くを見ながら言った。
「毎日紗耶香と一緒で、家族以上の存在みたいだった…」
「今でもそうじゃん」
「そうかな?」
矢口は顔を市井の方に向けながら言った。
「そうだよ。今も昔も、私と矢口は変わらないよ。あの頃からずっと…」
市井が遠くを見ながら答えた。
「もう、昔とは違うよ。だって……」
そこまで言うと、矢口の言葉が止まった。
矢口は視線を落とし、下唇を噛み締めた。
- 257 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月04日(金)01時30分58秒
- 「ねえ、紗耶香?」
そして視線を上げ、市井の瞳を見た。
「なに?」
市井が矢口の方に振り向く。
「今のウチらって、一体何なのかな…?」
どことなく淋し気な表情で矢口が市井を見つめる。
「恋人」
市井は膝を曲げ、矢口に顔を近づけながら言った。
「そして、大切な人…」
市井が矢口の頬に手を触れる。
しかし、矢口は何も反応を示さず、目を閉じてゆっくりと首を横に振った。
いつもの笑顔は完全に消え、その表情は悲しみに溢れていた。
重い空気が二人を包み込む。
しばらくして、矢口が市井の手をゆっくりと頬から離しながら口を開いた。
「紗耶香にはさあ、やっぱ、私よりも後藤の方がお似合いだよ」
突然、矢口は普段の二人からは想像もできないようなことを言い出した。
「急に何を言い出すの?!」
市井は矢口の手を握り返し、納得いかないような顔で声を上げた。
「この三カ月、紗耶香は私に何をしてくれた? いっつも後藤後藤…って、
私のことなんか全然気にしてくれなかったじゃない!!」
矢口はブランコのチェーンを強く握り締め、市井の目を見る。
「それは……」
市井は途中で口を閉じた。
- 258 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年05月04日(金)01時34分56秒
- 久々の深夜の交信……更新(苦笑)
>>254 ぷちさん
嬉しい展開が嬉しくない展開になっていってます。
ゴメンなさい。喜んだ直後なのに…。
- 259 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月04日(金)03時16分28秒
- ハッピークリスマス!!・・・とはいかなそうですね。
- 260 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月04日(金)23時32分05秒
- 「ホラ、今だって何も言い返せない! 結局、私なんて……」
矢口の声が今にも泣き出しそうな声になる。
市井は何かを言い出そうとしているが、まだ声にならない。
「私なんて…もう、どうでもいいんでしょ!!」
涙ぐんだ瞳が市井の目をきつく睨みつける。
「それは違う! 私はいつだって、矢口のことを!!」
市井の声がデカくなる。
まるで、何かに訴えかけるような力強い声だった。
「…でも、何もしてくれなかった……。いつもそうだった。私は後藤の次…」
チェーンを強く握り締めていた矢口の手が緩くなる。
「矢口……」
市井はどう声をかけたらいいのかわからないまま、ただそう呟いた。
「……紗耶香が教育係にならなかったら、こんな想いをしなくてよかったのに…」
矢口は視線を下とす。
そして、チェーンから手を離してうな垂れた。
パァァァン…
乾いた音が凍える冬空に響き渡る。
市井は立ち上がって、矢口の頬を思い切りはたいた。
矢口は頬を押さえながら市井をキッと睨んでいる。
市井は正気に戻ると、はっとした表情を浮かべて、矢口の頬を叩いた右手を左手で押さえた。
- 261 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月04日(金)23時33分39秒
- 自己満・・・(略
自意識過・・・(略
- 262 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月04日(金)23時34分43秒
- 「それだけは…、それだけは言っちゃダメだよ! 後藤だって必死なんだよ!
みんなに追い付こうって、毎日…。だから私は! それを、そんな風に言う
矢口なんて…」
市井は拳をって最初は力強く言ったが、途中から声が小さくなっていった。
「……矢口…なんて…?」
矢口が市井を見つめる。
その瞳には、何とも言えない冷たさがあった。
まるで、何かを決心しているかのような強い意志を込めた瞳だった。
「矢口……なんて…」
市井は何かを言いたそうにしていたが、矢口から視線をそらしそのまま口を閉じた。
「だったら、なんでそうやって言ってくれなかったの? 私は少しでもいいから、
紗耶香の言葉が聞きたかったのに……なんで…」
矢口の目から涙が溢れ、頬を伝ってポタポタと音を立てて地面に落ちる。
「ゴメン……」
市井は何も言えず、ただ謝るだけだった。
――その瞬間、矢口の中である感情が壊れた。
「……もう、終わりにしよう…。紗耶香…」
その声は凍りつきそうなほど冷たく、低い声だった。
もう、矢口の目に涙は見えなかった。
- 263 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月04日(金)23時44分06秒
- 「え…?」
市井は目を大きく見開いている。
「元の二人に戻るの…。今までのように、単なるメンバー同士としての二人に…」
「イヤ……。私はイヤ! そんなのイヤ! だって、矢口は私にとって…」
市井が声を上げて訴える。
「違うわ、紗耶香。今のあなたにとって、大切な人は……もう私じゃない…」
しかし、虚しくも市井の言葉は矢口の心に届かなかった。
「そんなことない! 私は矢口がいないとダメなの! いつだって、矢口がいたから
頑張れたの! ……矢口ぃ…。ねぇ、お願いだから私を見捨てないで!
矢口がいないと…私、ダメなのぉ……」
市井が涙をボロボロ流しながら泣き崩れ、その場に座り込んだ。
市井は声を上げて泣いた。
しばらくの間、市井の泣き声だけが冬の寒空に広がった。
「…私、嫉妬していたのかもしれない…」
ふと矢口が口を開いた。
「え…?」
市井が顔を上げる。
「紗耶香が羨やましかった…。自分のやりたいことを見つけて、それに一生懸命な
紗耶香が…。私とは違ったの。だから、そんな紗耶香に惹かれていったの…」
矢口が市井の前に座り込む。
- 264 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年05月04日(金)23時49分41秒
- >>259 名無し読者さん
そうなんです。ゴメンなさい…。
>>261 名無しさん
自己満足。ふざけんな!
自意識過剰。何考えてんねん!
という感じでしょうか? どうせだったら、案内板の方で言ってくれませんか?
- 265 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月05日(土)03時50分56秒
- 矢口の中の市井への気持ちは変化してしまったのか・・・?
それとも無理をして・・・
- 266 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月05日(土)23時54分00秒
- 「矢口……」
「私、こう見えても、自分じゃ何もできないんだ…。いつも周りの顔色ばかり見て……。
強そうに見えるけど、ホントは弱いんだよ…。でも、紗耶香と出逢って変われたの…。
紗耶香と出逢って、私強くなれた…」
矢口の目にはまた涙が見えた。
「私と……出逢って…?」
一瞬、市井の涙が止まる。
「うん…。だから、紗耶香と出逢えてよかった…」
市井は何も言わず、ただ矢口を抱き締めた。
しばらくそのままでいたが、矢口が市井の腕を掴んでゆっくりと体を離した。
市井の腕を掴んだまま、矢口と市井は向かい合う形になる。
「だからね、ここでサヨナラするの…。今までの自分に……。そして、
あの日の思い出たちに…」
「……ま…………リ………」
市井の口がゆっくりと動く。
微かに聞こえるその声は、弱々しくて今にも消えてしまいそうだった。
「初めてだね…。真里って呼んでくれたの…」
矢口の顔に一瞬だけ笑顔が戻る。
しかし、その笑顔はどこか淋しげな悲しい笑顔だった。
- 267 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月05日(土)23時58分00秒
- 「でも、もう遅いよ…。ウチらはここでサヨナラしないといけないの…」
矢口は目を閉じ、首を横に振りながら言った。
「私には……私にはできないよぉ…」
市井の目からまた涙が溢れ、市井の顔はボロボロになる。
「紗耶香…。これからはさ、別々の道を歩いていくの。だって、ウチらは
そうすることを選んだんだから…」
「私には……私には無理だよぉ…」
市井は矢口の肩を強く掴み、体を引き寄せようとする。
「ううん…。できるよ…。これから紗耶香は、自分だけの道を歩いて行くの…」
矢口が首を横に振った。
そして、市井の目を見つめ、優しい声で市井の心に語りかける。
「自分だけの……道…?」
「紗耶香には夢があったよね…」
「うん…」
市井は頷いた。
「紗耶香はさ、こんなところで足踏みしてちゃいけないんだよ…」
「私は…、私は足踏みしてるなんて思ってない!! だって…、だって、私にとって
真里との日々は幸せだったの! 真里がいたから、私は……私は…」
- 268 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月06日(日)00時01分11秒
- 矢口は泣き崩れた市井をそっと抱き寄せた。
「私ね、紗耶香に渡したいものがあるの…。私と紗耶香だけの二人の絆みたいな、
そんな思い出たちを詰めたの…」
矢口は市井をゆっくり離すと、プーさんのポーチの中から小さな銀色のケースを
取り出した。
「ホラ……見える? 紗耶香…」
そう言って、矢口はケースを開いた。
「これ……」
市井はケースの中を見つめる。
そこには月の光に輝くシルバーのピアスがあった。
よく見ると、『M』という文字と『S』という文字が刻んである。
「ホントはね…、これからもずっと一緒にいようね…って意味を込めて作って
貰ったんだけどね…」
そう言って、矢口は『M』の文字が刻まれたピアスを取り出し市井の耳につける。
「これは私と紗耶香との思い出に…。もう、二度とやってくることはないけれど、
あのときの気持ちを忘れないための…」
「真里……」
「なんて顔してんの。これからは、ちゃんと、ごっちんの面倒を見てやるんだぞ!」
「うん…」
矢口は一瞬怒ったような顔を見せるが、またいつものような優しい笑顔に戻った。
- 269 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年05月06日(日)00時04分33秒
- クリスマスプレゼントのはずだったのに…。
>>265 名無し読者さん
答えは最後にわかります。そのときまでお待ちください。
- 270 名前:ぷち 投稿日:2001年05月06日(日)15時27分10秒
- 矢口ぃぃぃいいい!!!(号泣)
- 271 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月06日(日)23時27分27秒
- 「そして、これは私の分…」
矢口が『S』の文字が刻まれたピアスを手に取ろうとしたとき、市井が矢口の手を
押さえてピアスを手に取った。
「紗耶香……?」
矢口は視線を上げ、市井の顔を見る。
しかし市井は何も喋らず、じっと矢口の目を見つめ返す。
そして、ゆっくりと矢口の耳につける。
「私はね、ホントは真里みたいになりたかった…」
市井がピアスをつけながら言った。
「真里はさ、いっつも元気じゃない」
「へへへ…。そうかな…」
矢口が照れ笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「私は真里の笑顔が大好きだったんだよ。私もそんな風に笑っていたかった…。
これからは私も頑張らないとね」
そう言って、市井は涙を拭いて笑顔を見せた。
(ずっと……ずっと、このままでいたかった…。でも、ここで私は変わらないと
いけないんだ…)
- 272 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月06日(日)23時30分33秒
- 「最後にお願いがあるんだ…」
市井がゆっくりと口を開いた。
「なに?」
「キス……してくれないかな…? 私が愛した人との最後の思い出と、これからの
自分への気持ちを切り替えるために…」
「うん……」
矢口は頷いた。
二人はそっと目を閉じ、ゆっくりと顔を近づける。
そして、二人の唇が重なり合う。
甘くて切ない、恋の味……。
決して、普通では味わうことのできない味…。
(私、なんとなくわかったような気がする…。あやっぺの言ってたこと…)
(私は真里のことを忘れない…。ずっと……ずっと、忘れない…。だって、
この人は……大切な人だから…)
(私は、紗耶香がいたから強くなれた…)
(真里がいたから…。私は…)
(あなたが――)
(いたから――)
二人の目から一筋の涙が零れた。
- 273 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年05月06日(日)23時37分38秒
- 物語の都合上、今回はここまでです。
恋とは時には儚くて脆いものなんですね…。
はあ〜…。ホントにこれでよかったのでしょうか……?
>>270 ぷちさん
紗耶香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!(号泣)
- 274 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月07日(月)02時01分59秒
- 二人は別々の道を歩いて行くのですね(涙)
- 275 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月08日(火)01時51分08秒
- 成長したな矢口…
- 276 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月08日(火)12時53分28秒
- 「…とまあ、こんなお話です」
マスターが拭き終わったグラスを置いた。
「……なんか、悲しい話ですね…」
男は首を横に振り、コーヒーに口をつけた。
「そうでしょうか? 私はこれでよかったと思いますよ」
「それはなぜです?」
男が視線を上げる。
「たとえ別れることになったとは言えど、お互いに何かしらの影響を受け成長していったんです。だから、この後の二人はさらに大きくなっていった…」
「心も体も……というわけですか…」
「そうですねぇ…」
マスターが頷く。
「この後の二人の成長ぶりはご存知でしょう…。ねぇ、つんくさん…」
- 277 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月08日(火)13時00分20秒
- マスターがそう言うと、男は仮面を取りサングラスをかけ直した。
「ええ。よく知ってますよ…。けど、オレは市井を……あの子を止めることはできなかった…」
男――つんくは下を向き、目を閉じて頭を抱えた。
「大丈夫ですよ。あの子ならきっと…」
マスターはつんくを見た。
「そうですね。じゃあ、これから、仕事に戻らないといけないんで…」
つんくは席を立ち勘定を払おうとしている。
「大変ですね、あなたも…」
「な〜に、カワイイあの子らのためですよ。もちろん、自分のためでもあるんですけどね。
それじゃ、失礼します」
カランカラン…
つんくは笑顔で出て行った。
- 278 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月08日(火)13時41分28秒
カランカラン…
「おや? またお客さんですか…」
黒装束を身にまとった男がカウンターに座った。
「こんばんは。マスター」
男がマスターに話しかける。
顔の左半分は白い仮面で覆われていて、その下がどうなっているかはわからない。
「いらっしゃい…。おやおや、これはこれは…」
マスターは男の顔を見ると、急に態度が変わった。
この男、マスターにとって重要な人なのだろうか。
「どうでした? 先程のお客さんは」
「ええ。あの人のためにもよかったと思いますよ」
「それはよかった…」
マスターの言葉を聞くと、男は笑みを浮かべた。
「ところで、あの続きって気になりませんか?」
「実は気になってたんですよねぇ…」
「では、少しだけお話しするとしましょうか…」
そうですね…。
あれから一ヶ月くらい後の話になります――
- 279 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年05月08日(火)13時46分56秒
- 一ヶ月……。そう、例のお祭りユニットです。
今回の話はこのままじゃ終われません(なんのこっちゃ!?)
>>274 名無し読者さん
別々の道を歩くことになっても、二人が目指した場所は同じはず…。
>>275 名無し読者さん
まさにその通りですね。大人になってくれました。。。
- 280 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月09日(水)02時22分20秒
- 続きが聞けるとは・・・よかったっす!!
それにしても、つんくさんの後に来た客は・・・!?
- 281 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月09日(水)12時46分02秒
「さ〜やか♪」
「お! どうしたの? 矢口」
「今日からまた一緒だね〜。へへへ…」
そう言って、矢口は市井と腕を組んだ。
「いつも一緒じゃん」
「何いってんの! 今日からはごっちんとも別々、ウチらだけでしょ」
矢口の言葉には、なぜか力がこもっていた。
「かおりもいるって…」
市井は呆れ顔で、頭を掻きながら言った。
「でも、心配なんだよね…。後藤、ちゃんとやれてんのかな……」
「だ〜いじょ〜ぶだって! ごっちんは裕ちゃんに任せておけば」
心配そうな顔をする市井に、矢口はガッツポーズをとって見せた。
「さ、久々に楽しみましょっか♪」
「それはいいけどさぁ、矢口…」
「なに?」
「あのときのこと、覚えてる?」
「もちろん。なんで?」
矢口は当たり前といったような顔で言った。
「いや、別に…」
矢口の言葉を聞くと、市井はそれ以上何も言わなかった。
「変な紗耶香」
矢口は不思議そうな顔で市井の顔を見つめる。
- 282 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月09日(水)12時48分16秒
- 「ったく、仕方ないな〜。ちょっとだけだよ」
市井はふうとため息をついて言った。
「ホント!? やったね♪」
矢口は市井の言葉を聞いて飛び上がった。
(…ったく、どっちから別れ話を切り出したんだかわかんないよ。これじゃ…)
「どうしたの? 深刻そうな顔をして」
「気にしない気にしない」
市井は笑ってごまかした。
「ん〜…。なんか隠してない?」
矢口はさらに不思議そうな顔で首を傾げた。
チュっ…
「あ!」
矢口は頬を押さえる。
「へっへ〜ん! 貰っちゃった♪」
市井は笑いながら言った。
「こら〜!! 私にもさせろ〜!!!!」
矢口は逃げ回る市井を追いかけた。
(私は紗耶香が好きなんだよね〜、ナンダカンダで…。ゴメンね、裕ちゃん…)
- 283 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月09日(水)12時51分05秒
「…っくしゅん!」
「どうしたの? 裕ちゃん。風邪?」
後藤が中澤の顔を覗き込む。
「いや、風邪とは違うと思うけど…」
中澤が鼻を啜り、指で擦りながら言った。
「ま、それよりも、後藤は早く体を治してな」
そう言って、中澤は後藤の額に手を置いた。
「うん…。アリガト…」
(ったく、他人の心配よりも自分を心配しろっての…。それにしても…。
やっぱ、誰かウワサしてんのかな? 矢口か?)
いつの間にか後藤はすやすやと寝入ってしまったようだ。
「はあ〜…。大変だわ、こりゃ…」
中澤は少しだけ市井の気持ちがわかったような気がした。
中澤が後藤の寝顔を見守る。
すやすやと気持ちよさそうな顔で眠る後藤を、何も言わずじっと見つめる。
「う〜ん……」
中澤が後藤の寝顔を見ながら唸った。
「こりゃ、カワイイかも……」
中澤は、さらにちょこっとだけ市井の気持ちを理解できたような気がした。
「…いてぃ〜しゃん……むふふ……」
「ん? …なんや、寝言か……。しかし、どんな夢を見とんのや、この娘は……」
よだれを垂らしながら幸せそうな顔で眠る後藤を見て、中澤は少し呆れた。
「やっぱ、大変かもな…」
中澤は少しだけさっき思ったことを後悔した。
- 284 名前:小さな恋物語 投稿日:2001年05月09日(水)12時54分10秒
あれから、矢口は少しだけ中澤のことが好きになり、市井はまだ気付いてませんが、
少しだけ後藤のことが気になっているみたいです。
もちろん、当の後藤に関してはまだまだそんな気持ちはないみたいですが……
…いや、あるのかもしれないですね。
まあ、この続きは彼女自身が語ってくれるでしょう…。
彼女? ですか。
それはもちろん、市井紗耶香さんですよ。
いずれ、彼女自身が話してくれるはずです。
そのときを待ってください…。
「私が知っているのはここまでです…」
男はコーヒーを一口だけ飲んだ。
「じゃあ、楽しみにしておきましょうか」
「ええ…」
男は目を細くして微笑むと席を立った。
「これから暑くなりますね」
「ええ、もうすぐ夏ですから…」
マスターが外を見ながら微笑んだ。
「では、また…」
カランカラン…
男は帽子を取り、頭を下げて、ドアを開け外に出て行った。
外には爽やかな風が吹き始めていた。
- 285 名前:あとがき… 投稿日:2001年05月09日(水)13時00分14秒
- 終わってみてから、まず一言……。
やっぱり「痛め」じゃなくて、「甘々」でしたね…(苦笑)
まだまだ勉強不足でした。ゴメンなさい。
自分で「痛め」と思ったのは、途中で「市井×矢口」じゃなくなるからです。
ついでに、別れのシーンもあるし…。
ホントはもっと別の別れ方を考えていたんですけど、途中でやめました。
だから、結果的に「甘々」になったわけです。
さて、本題に移るとして…。
この話は最初から提示しておいた通り、前の2話と何らかの形でリンクしています。
「どこが?」って言われても困るんですけど…。
まず、なぜ物語のスタート時期を99年4月にしたのかといいますと、ちょうどこの頃から
「市井×矢口」が目立ち始めたからです。
PVを見れば、一目瞭然ですね。
「真夏の光線」……なんとなく、この二人にも合うような合わないような…。
けど、この曲は今回の話の中ではあまり意味はないんです。
ただ、時期的にこの曲の存在が必要であったわけで。
この話のメインでもあるカップリング。
今回の主なカップリングは、もちろん「市井×矢口」ですが、物語を進める上での
重要なカップリングとして「中澤×石黒」があります。
中澤はあくまでもノーマルな恋愛観を持つ女性。
石黒は様々なタイプの恋愛経験をしてきた女性として登場します。
そして、矢口に大人の女性としてアドバイスをします。
この二人はこれ以外にも、別の視点(メンバー)から見た市井と矢口を表す役割も
ありました。
対して、あまり『重要じゃなかった存在だったのは、安倍・飯田・保田の三人。
物語の序盤から中盤にかけてしか登場しませんでした。
嵐を呼ぶ少女「後藤真希」
彼女はただ純粋に市井のことが好きでした。そして、いつしか師弟愛が恋に変わって
しまったのです。
しかし、どこをどう間違って熱血キャラになったのかはわかりません。
恋愛ってコワイものですね……(反省)
- 286 名前:あとがき… 投稿日:2001年05月09日(水)13時05分31秒
- そして、今までの三作品を通して、すっかりお馴染みになってしまったあのシーン…。
そう、キスです…。
なんか、「他にパターンはないのか!」とツッコミたくなるでしょうが、勘弁して下さい。
他にないんです。ギュっと抱きしめる、ぐらいしか思いつかなくて…。
まあ、ね…。今後もいろんな形で出てきそうです。
たとえば、
のの:「ねえねえ、あいちゃん。キスってどんな味?」
あい:「ん〜…。よく、レモンの味って言うけどなぁ…。試しにやってみよか?」
のの:「…う、うん」
(チュっ…)
あい:「ん〜…、あんま美味ないなぁ〜。レモンの味なんかせえへんで」
のの:「(ドキドキドキドキ…)」
あい:「どないしたん? のの」
のの:「なっ、なんでもないっ!!(タッタッタッ…)」
あい:「ちょっ、ちょい待ち! …なんや、マズイことでもあったんかいな……?」
みたいに。
なんかダメですね。このままじゃ…(苦笑)
最後のおまけのシーン。
あれは入れても入れなくてもよかったのですが、ただ、別れた後でも、結局この二人は
変わっていなかったということを伝えたかったので入れました。
だから、本編中の矢口にとってのお邪魔虫・後藤と市井が離れ離れになり、なおかつ
市井と矢口が一緒になる時期(三色ユニット)を選んだんです。
ちょうど、裕ちゃんも別々ですしね。
この話、ホントは短編でないといけないはずなのに、またしても中〜長編に。
う〜ん…短編は書こうと思えば書けるのですが、どうしても話が膨らんでしまいます(苦笑)
……っていうことは、今回の企画、失敗じゃん?!
まあ、気にせずにいきましょう(爆)
それじゃ、またちょこっといい話が聞ける夜にお会いしましょう。
そのときは、またBAR Fairy Taleにお立ちより下さい。
- 287 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年05月09日(水)13時17分04秒
- 「市井×矢口」も今回で終わりました。
次回は……と、いきたいところなんですが――
>>241 に「ある決断」という言葉があります。しかし、本編中では語られませんでした。
あの夜に起きた、もう一つのお話を話すことに致しましょう。
>>280 名無し読者さん
続きといってもほんのちょこっとだけだったんですけどね(苦笑)
つんくさんの後に来た客は、ご想像にお任せします。
さあ、名無し読者さんが思い浮かべたのは、一体誰なのでしょうか?
- 288 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月10日(木)02時02分34秒
- ひとまず、お疲れ様でした!!
そして次の話ですが、ここでやっと「ある決断」が語られるんですね!?
楽しみに待つとしますか。
- 289 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月10日(木)14時58分10秒
- おっと…、言い忘れるところでした。
実はあの話、まだ続きがありましてね……。
どうです、聞いてみますか?
――そうですか…。
じゃあ、お話しすることにしましょう――
- 290 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月10日(木)14時58分56秒
- 「雪だ…」
矢口が夜空を仰ぎ、手のひらを広げて前に出す。
ふわっ……
小さな雪の結晶が矢口の手のひらにふわりと舞い降りてくる。
矢口は舞い降りてくる雪を追うように視線を移す。
しかし、手のひらに触れたと思った瞬間に、その雪は解けてしまう。
「キレイ……」
矢口は手を下ろし、再び夜空を仰いだ。
「うん……」
市井も夜空を仰ぎ見る。
そして、ゆっくりと矢口の肩を引き寄せる。
「――!?」
矢口は突然の出来事に一瞬驚き、視線を夜空から市井に移した。
そして、市井の横顔を見つめながらにっこりと微笑む。
市井は矢口の視線に気付くと、顔を矢口の方に動かし笑顔で返した。
「綺麗だね…」
市井が左手を広げ、再び夜空を仰ぐ。
「うん」
矢口は頭を市井の肩に預け、視線を夜空に移した。
二人は寄り添いあったまま、舞い降りる雪を眺める。
音もなく、はらはらと舞い降りる雪が二人を包み込むように降り注ぐ。
静寂と白い光が辺りを包んだ。
- 291 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月10日(木)15時00分25秒
- 「む゛〜……」
「どうしたの? 急に変な声出して」
矢口が市井の顔を見る。
「いや、ね。なんでさっき降ってくんなかったのかな〜、って思ってさぁ」
「さっき?」
矢口は首を傾げた。
「うん。さっき…」
市井はそう言って、空を睨みつける。
矢口は首を傾げた後で、市井と同じように夜空を仰いだ。
「雪……ねぇ…」
矢口は頬を膨らませながら市井に視線を移す。
「どうせだったらさあ、もっとロマンチックなキスの方がいいじゃん」
空を睨みつけた後で、市井は笑顔で振り向いた。
(な〜るほど……そういうことか♪)
何を思いついたのか、急に矢口が不敵な笑みを浮かべた。
「紗耶香……」
そして、目を閉じ一歩前に歩み寄る。
市井は何も言わず、矢口の意図を理解して、矢口の肩に手を掛けた。
「アリガト…」
そう呟いて、市井はそっと唇を重ね合わせた――
- 292 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年05月10日(木)15時10分43秒
- …というわけで、マスターの話が終わった直後からスタートです。
さっきまでとは打って変わって、ほのぼのとした雰囲気です。
何だったんだ? 今までのは!? って感じですね。
さて、「ある決断」――
いや〜、きっと在り来たりなんでしょうけど、一応読んでみて下さい。
キーワードは『虹』です。
>>288 名無し読者さん
どうもです。今回はさらに長くなって……読む方も疲れたでしょう、きっと。
お疲れ様でした。
まあ、もうしばらくの間お付き合い下さいませ。
- 293 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月11日(金)02時18分16秒
- ほのぼの大好きなんで問題なし。(w
- 294 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月11日(金)03時37分15秒
- 一段落ついた、ということで御疲れ様でした。
ここは読後に、あぁ〜イイ話だった。と思わせるところが素晴らしい!?
ってanother storyが終わってから言うべきだったかな。
- 295 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月11日(金)10時14分48秒
- 「虹」?何かよけい解らなくなったような・・・(w
- 296 名前:KEI 投稿日:2001年05月13日(日)01時10分41秒
- お疲れさまでした。
とってもいい話だったので、新たなる作品を楽しみにしています。
- 297 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月13日(日)15時47分45秒
- 新作期待♪
- 298 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月14日(月)12時34分54秒
- ――とまあ、これは先程の続きです。
しかし、今回の話のメインはこの二人じゃありません。
少し時間は戻って、別の場所でのお話です。
それでは、続きを語るとしましょうか――
- 299 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月14日(月)12時37分17秒
- 「はあ〜…。寒いねぇ〜。まだかな? いち〜ちゃん…」
後藤が悴む手を温めながら周りを見渡す。
同じように誰かを待っている人がちらほらと…。
けど、それぞれ待ち合わせの相手が現れて、次々とその数は減っていく。
「はあ〜…。いいな〜、みんな幸せそうで」
後藤が手を温めながら、カップルたちを羨ましそうな目で眺める。
「う〜ん…。いち〜ちゃんも早く来てくれないかなぁ……」
後藤はマフラーで口の周りを覆って空を仰いだ。
「いち〜ちゃん、ナニやってんだろ? こんなにカワイイ娘が待っててあげてる
ってのにさ……」
後藤は自分の発言に微笑みながら頭を掻いた。
あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか、後藤と同じように待っていた人たちも、
いつの間にかいなくなり、街の雑踏の中でポツンと後藤だけが取り残された。
「じゃあさ、ツリーの下で待ち合わせだよ!」
「うん」
「絶対だからね! 約束だよ!!」
「おう、約束!」
- 300 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月14日(月)12時38分19秒
- 後藤の頭の中で市井と交わした約束が何度も繰り返される。
「はあ〜…。待つってのは、辛いもんだねぇ〜…」
後藤はうつむき、目頭に薬指を当てた。
一人淋しい想いを紛らわすかのように、笑顔を作りながら。
ふわっ…
不意に後藤の頬に冷たいものが触れた。
後藤はその感触に反応するように顔を上げて空を仰いだ。
「ゆ……き…?」
後藤は手のひらをそっと差し出す。
「雪だ…。ホワイトクリスマスかぁ…」
なんとなくほんわかな気持ちになった後藤は、空を仰ぎながら微笑んだ。
吐いた息が真っ白になって空に昇っていく。
さっきまで不安で淋しかった気持ちもいつの間にか薄れていた。
- 301 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月14日(月)12時39分58秒
- さらに時間は過ぎて11時50分。
日付は間もなく25日になろうとしていた。
先程まで人で溢れていた通りも人気がなくなり、カップルたちもポツンポツンとしか
見当たらない。
後藤は髪やコートに雪を被って、雪の降る中で一人たたずんでいた。
しかし、あれからずっと市井は現れなかった。
後藤は、刻々と時を刻んでいく時計台を見上げる。
「いち〜ちゃん……。ごとーはもうムリだよ…」
後藤の瞳から涙がポロポロと零れ、紅く染まった頬を濡らした。
時計台の針が動き、0時を告げようとしていた。
「だって……もうすぐ、クリスマス終わっちゃうんだもん…。さびしーよ、
いち〜ちゃん…」
後藤は顔の下半分を両手で覆い、目を閉じた。
目を閉じると、溜まっていた涙が、先程の涙の跡をなぞるように流れた。
そして、ゆっくりと目を開け、涙目で時計の針を見つめた。
『 泣かないでこんな夜なのに
一人きり膝を抱えて
待っていて駆けつけてくから
午前0時の鐘が鳴る前に 』
どこからともなく歌声が聞こえてくる。
時計台の針が0時を差し、歌声が終わるのと同時に鐘の音が夜空に鳴り響いた。
- 302 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年05月14日(月)12時55分21秒
- 雪の降る中、市井を待ち続ける後藤。
しかし、むなしくも鐘は0時を告げてしまいました。
はたして、市井は現れたのでしょうか?
>>293 名無し読者さん
ほのぼのは、あっという間に終わってしまいました。
これからしばらくは、しっとりとした雰囲気(なんか間違ってるかも…)にお付き合い下さい。
>>294 名無し読者さん
どうもです。
>あぁ〜イイ話だった。
それはたぶん、バッドエンドであったとしても、何らかの形でフォローをしているからでしょう。
だって、悲しい話はイヤですからね。
>>295 名無し読者さん
ラストのところで、なんとなくわかったのではないでしょうか?
この歌詞とタイトル、わかる人にはわかる、といった感じでしょうか。
>>296 KEIさん
どうもです。けど、今回のはやっぱ微妙ですね。ホントにこのままでよかったのかな〜…と。
まあ、第1話を書いてしまった時点で、この展開にしないといけなかったんですが…。
>>297 名無し読者さん
新作、というほどのものではないですよ。だって、今回の話は、ある意味「いちごま派」のためのフォロー編
ですからね。あと、本編で書ききれなかった、というのもありますが……。
- 303 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月16日(水)02時26分31秒
- いちごま派としては、フォロー編は本当にありがたいです。
- 304 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月16日(水)15時10分53秒
ギュっ…
突然、後藤は背後から優しく、そして力強く抱きしめられた。
「メリー…クリスマス……」
そして、いとおしい人の声が後藤の耳元でそっと囁かれた。
後藤はハッとして目を大きく開き、ゆっくりと声のした方に振り向いた。
そこには、癒されるような、そんな眼差しと笑顔で後藤の顔を見つめる顔があった。
「いち〜ちゃん…」
嬉しさのあまり、再び後藤の目から涙が零れる。
「ギリギリセーフ……かな?」
後藤の顔色を覗き込みながら市井が言った。
「ア・ウ・ト………な〜んちゃって♪」
後藤は一瞬沈黙した後に付け足して言った。
そして、急に「プっ!」と吹きだして笑った。
「あっ…、やったな〜! うりうり」
市井は一瞬呆気に取られたが、いつもの笑顔に戻って後藤の頬をぷよぷよ突付く。
- 305 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月16日(水)15時17分20秒
- 「はははははははは…」
雪の中、まるで子供のようにはしゃぐ二人。
後藤はさっきまで泣いていたのが嘘のように、声を上げて笑っている。
「あっ!」
後藤は声を上げて、何かに気付くと座り込んだ。
「ナニ……これ?」
後藤は細長いケースを手に取って市井の顔を見上げた。
「そ、それは……」
(真里に渡せなかったやつだ…)
市井は右手を伸ばしかけたままの状態で固まっている。
「ねえ、いち〜ちゃん…」
後藤はすっと立ち上がって市井と向かい合った。
「これ…、やぐっつぁんに渡すはずだったんでしょ?」
いつになく真剣な表情で市井の目を見つめる。
「あっ、いや…その………」
市井は視線をそらして、慌てながら何かを言おうとしている。
- 306 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月16日(水)15時19分32秒
- 「ごっ、ゴメン後藤!」
市井は目を閉じたまま頭を下げ、頭の上で手を合わせた。
「ごとーに謝らないでよ!!」
一瞬辺りが静かになる。
後藤はケースを手にしたままプルプル震えている。
「なんで…ずずっ……なんで、ここにあるの?! なんで、いち〜ちゃんはやぐっつぁんに渡さなかったの!? なんで! なんでよぉ……うぅっ…」
声を震わせながら張り上げる後藤の声に市井は顔を上げた。
「後藤……」
「これじゃ…やぐっつぁんがカワイそーだよぉ……。いち〜ちゃんはやぐっつぁんのこと、好きじゃないの?!」
張り上げられたその声は、感情の起伏に呼応して裏返る。
後藤はそのまま言い放つと、膝から崩れ落ちた。
寒空に後藤の鳴き声が響き渡る。
「後藤………聞いてくれる?」
市井が後藤の前に座り込んで、ケースを握り締める後藤の手を取って言った。
その声はすごく落ち着いていて優しい声だった。
しかし、その声は後藤の鳴き声に掻き消されてしまう。
「そのままでいいから、聞いて欲しいんだ…」
市井は後藤の耳に届いていないのがわかっていながら話を続けた。
- 307 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年05月16日(水)15時29分00秒
- 悪戦苦闘の上、なんとか更新(苦笑)
まあ、今回はがんばりました(なんのこっちゃ!?)
…って、はう! 改行してない……。
それはともかく、市井ちゃん到着です。
しかし、本編の方とリンクしているので、ちょっとだけテンションダウンです。
>>303 名無し読者さん
いや〜、別にどうってことないですよ。自分のためでもあるんですから。
- 308 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月16日(水)17時47分08秒
- 49です
レス遅くなってすいません。
さやまり、良かったです(感動)
作者様本当にありがとうございました。
- 309 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月17日(木)14時54分38秒
- 「矢口とさ、ケンカ……しちゃったんだよね。だから、結局それは必要なくなっちゃったんだ…。
きっと、天罰だよね。私が欲張りなことしちゃったからさ…。今だから言えることなんだけど、
矢口のことがさあ、好きだったんだ……。ううん、付き合っていたと言ってもいいかな。
でも、それも、もう昔の話…」
途中から遠くを見ていた市井の視線は、いつの間にか白く染まった地面を見ていた。
「知ってた…。いち〜ちゃんとやぐっつぁんは、なんとなくそんな気がしてた。
でも、それって欲張りなのかな? いち〜ちゃんは、ごとーに教育係として
接してただけなんでしょ? だったら、神サマは不公平だよ……」
後藤はだいぶ落ち着き、さっきまでの涙も止まっていた。
「…もしかしたらさ、今夜、市井は後藤に遇えなかったかもしれないんだ……」
「うん…」
「だから、市井は罰を受けても当たり前だったんだよ…。こんなにカワイイ娘が、
私のことをずっと待っててくれてるのにさ…」
市井が後藤の体を引き寄せる。
後藤は引き寄せられるままに市井に体を委ねる。
市井はそのまま腕を後藤の背中に回し、ギュっと抱き締めた。
「信じてた…」
後藤が市井の耳元でそっと囁く。
- 310 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月17日(木)14時56分24秒
- 「たとえ来ないとわかってても、ごとーはいち〜ちゃんを信じてるよ…。
だから、いち〜ちゃん、もう、そんな悲しい顔をしないで…」
「後藤……」
「ごとーはいち〜ちゃんのことが、ずっとずっと好きだからね…。
世界中の誰よりも、いち〜ちゃんのことが好きだからね……」
涙ぐんだまま後藤が言った。
そして、そのまま後藤は市井にギュっと抱きついた。
市井は抱き締めていた腕を緩め、右手で後藤の頭を優しく撫でた。
後藤の髪に降り積もった雪が市井の手に触れる。
冷たいはずの雪も、なぜか市井には冷たく感じられなかった。
感覚が麻痺しているのかはわからないが、ただ、今はそんなことよりも、
後藤が信頼してくれることの方が市井の中では大きくて、冷たさとかそんなものは
どうでもよかった。
「アリガト、後藤…。でも、今はまだ、好きとか嫌いとか、愛してるとか愛してないとか、
そんなんで後藤を見ることはできない。けど、いつか……いつか、そんな風に
後藤を見れる日が来たらさ、そのときはちゃんと伝えるよ。だから……だから、
もう泣くなよ…。後藤は泣き顔よりも、笑っている方がカワイイんだからさ…」
震える肩をポンポンと叩きながら市井が言う。
「うん…」
後藤は必死に涙を拭って笑顔を作りながら頷いた。
- 311 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月17日(木)14時57分13秒
- 「だって、今夜はクリスマスだろ?」
「うん…」
「だったら、こんな暗い話はもうおしまい。もっと楽しくいこーよ」
「うん…」
「クリスマスは、人々が幸せになれる日なんだからさ」
「うん…」
「さ、もう泣き止んだ? ゴメンな、後藤。心配かけてさ…」
「もう、大丈夫」
後藤はすくっと立ち上がって笑顔を見せた。
『 Ring bells through the window.
I wish you smile for me.
Sing a song, all together.
la la la la ...... 』
市井が立ち上がると鼻歌まじりで歌う。
- 312 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年05月17日(木)15時05分00秒
- 大好きなその笑顔 曇らせてゴメンね…
そんな気持ちです。
これで、なんとかテンションは戻りそうですね。
>>308 名無し読者(49)さん
こちらこそすいません。
今読み返してみたら、「小さな〜」は連載開始から1ヶ月以上やってたんですね……。
どうりで長く感じたわけだ(苦笑)
- 313 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月18日(金)02時32分43秒
- いちごまには、やっぱり笑顔がよく似合います
- 314 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月21日(月)17時04分41秒
- 市井が立ち上がると鼻歌まじりで歌う。
「ねえ? なんて歌ってるの?」
後藤は英語を理解できなかったのか、頭の周りに?マークを浮かべながら言った。
「ん? さあ、なんて言ってるんでしょう? フフフ…」
市井は「はは〜ん…」と笑みを浮かべながら、もう一度歌う。
「ん゛〜…スマイル? ウィッシュ? フィッシュ?? ソング? ラララ…?」
後藤がうんうん唸りながら首を傾げる。
「あ゛〜! ギブっ!!」
口を大きく開いて、後藤が髪をかき上げ頭を掻いた。
「ったく、しょ〜がないな〜。早い話、いっしょに歌おうよ! ってこと」
市井はそんな後藤の行動を楽しみながら言った。
(ホントは別の意味もあるんだけどね…)
「そーいやさあ、私らにクリスマスソングなんてあったっけ?」
市井が人差し指を立てて頬に当てながら言った。
「あるよ〜。聖なる鐘が響く夜」
「それはタンポポじゃん。じゃなくて、娘。にってこと」
「う゛〜…………ない」
後藤が口を尖らせながら答える。
「ま、いっか…」
市井はあっさり諦めたかと思うと、いきなり片膝をついて、右手を差し伸べた。
- 315 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月21日(月)17時05分56秒
- 「さ、お姫サマ、どこへ行きましょうか?」
「えっ? ヤダ、いち〜ちゃんったら♪」
後藤が頬を押さえながら、向こうを向いて顔を紅くした。
「化粧がボロボロだけどね…」
「何かおっしゃいました? いち〜ちゃん…」
後藤の大きな耳がピクリと動く。
『いち〜ちゃん』と言ったその声には、どことなく殺気が感じられた。
「いえ…、何も言ってませんよ。白雪姫」
市井は顔をヒクつかせながら言った。
(危ない危ない……危うく殺されるところだった…)
「いや〜ん! 白雪姫って……もう!」
バシッ! ……バタン
後藤が左手で頬を押さえながら、右手で市井を思い切り叩き落とした。
市井は思いっ切り地面に突っ伏している。
「あれっ? いち〜ちゃんどーしたの?」
後藤は目を点にして市井を見下ろしている。
「つつつつ……。ただ単に雪で白くなってるからなのに…。この馬鹿力…」
ゆっくりと体を起こし体勢を整えながら、今度は後藤に聞こえないようにぼやいた。
- 316 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月21日(月)17時07分06秒
- 「じゃあ、カラオケ♪」
後藤が満面の笑みで市井の手を取る。
「はいっ!? か、カラオケ?」
後藤の予期せぬ発言に、思わず市井の声は裏返ってしまった。
「そ♪ だってぇ、いち〜ちゃんさぁ、ごとーと一緒に歌いたいんでしょ?」
「いや、確かにそんな風に歌ったけどさ。でも、他に行きたいところとかないの?」
市井は慌てて立ち上がり、後藤の左手を両手で握った。
「けど、もう12時過ぎちゃったよ。他に開いてそうなお店ってないじゃん」
後藤が周りを見回しながら言う。
市井も後藤と同じように辺りを見回す。
「ね?」
後藤が笑顔のまま、市井の反応を今か今かと待っている。
「た、確かに…」
市井は苦笑を浮かべながら、肩を落とした。
「じゃあ、カラオケで決まりだね♪ よぉし! 今夜は寝かせないぞぉ〜!!」
後藤が市井と腕を組み、反対の方の手でガッツポーズを取る。
(いや…、後藤、その発言、なんか間違ってるから…)
市井はそう言おうとしたけど、途中で止めた。
「じゃあ、行きましょうか? カワイイカワイイお姫サマ」
市井と後藤は肩を寄せ合いながら歩き出す。
- 317 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年05月21日(月)17時19分17秒
- 思い込みの激しい市井ちゃんに一言。
…と思いましたが、今日で一年ですね、はやく帰って来てください。
>>313 名無し読者さん
ですよね。彼女たちには、いつまでも笑っていて欲しいですね、ホント。
- 318 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月22日(火)02時59分19秒
- ほんと早いものでもう1年ですね(1日ずれたけど・・・)
早く戻って来ないとみんなに忘れられるぞ〜!!
- 319 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月22日(火)15時01分28秒
- 『Iwish』を聞きながら読み返してみました。
とても情景が合っていてイイです。
続き頑張ってください。
- 320 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月24日(木)07時59分28秒
- ここの後藤はかわいい!
ほのぼのしてていい感じですね
- 321 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月24日(木)12時35分11秒
- 「あのね、いち〜ちゃん」
歩きながら後藤が市井に話しかける。
「なに?」
「これ、後藤からのプレゼント」
「ん? なんだ一体」
後藤の一言に市井は振り向いた。
一瞬にして後藤の顔が市井の顔に近づいてくる。
思わず市井は目を閉じてしまう。
次の瞬間――
チュっ…
市井の唇に温かいモノが触れた。
(ご、後藤、なんて大胆な…………ん? この感触……なんなんだ? 一体)
市井はゆっくり目を開ける。
目を開けると、市井は何回か目をパチパチさせた後で視線を自分の唇に移した。
「あ、あれっ? 何? これ…」
市井は自分の唇の辺りを指差しながら後藤を見る。
- 322 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月24日(木)12時41分35秒
- そこにあったのは、後藤の唇ではなく、四角いような丸いような……
とにかく、小さな箱だった。
その箱を後藤が市井の唇に押し当てている。
正確には、押し当てているのではなくて、たまたま市井の唇が触れたのだった。
「何だと思う?」
後藤が微笑みながら市井の目を見る。
「ハコ……?」
「はずれ〜。正解は…」
後藤が小さな箱をゆっくり開ける。
開かれた小さな箱の中から、どこかで聞いたことのあるメロディーが流れてくる。
「この曲……」
市井は目を大きく見開いたまま、口をポカンと開けている。
しばらくしてその顔は笑顔になり、市井は思わず後藤を抱き締めていた。
「さんきゅ〜♪ 後藤」
「い、いち〜ちゃんっ!?」
後藤は突然のことに顔を紅くして、おろおろしている。
小さな箱――オルゴールの中から、夢のひとかけらを乗せた音楽が夜空に広がる。
真っ白な世界の中で、そこだけが淡い光に包まれた。
- 323 名前:〜更新記〜 投稿日:2001年05月24日(木)12時53分22秒
- ラストシーンをどうするか悩んでます。
う〜む゛……しばしお待ちを。
>>318 名無し読者さん
彼女は2〜3年は休むって言ってましたから、気長に待つしかありませんね。
でも、はやく見たいですね。きっと、一回りも二回りも成長して帰って来てくれますよ。
だって、市井紗耶香なんですから!
>>319 名無し読者さん
ありがとうございます。私も音楽に乗せて読んでみました。
なんか、意外と早く読み終わってしまったので、ちょっと悲しいです…。
残り1シーンですけど(予定では)、最後まで頑張りたいと思います。
>>320 名無し読者さん
ありがとうございます。
全編的にほのぼのを目指したいんですけど、この小説は涙のシーンが多くなってしまいます。
ついでにキスシーンも…(苦笑)
- 324 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月29日(火)13時42分09秒
- 「もしさあ、市井が来なかったらどうするつもりだったんだ?」
「ん〜と……」
後藤が人差し指を頬に当て、空を見上げながら黙り込む。
「…ずっと待ってた」
そして、市井を見ながら微笑んだ。
「ずっとって……」
市井は言葉を詰まらせ、視線を後藤に移した。
一瞬の沈黙の後で市井が口を開く。
「来ないとわかってても?! そんなの、バカだよ!?」
市井は声を張り上げて後藤を怒鳴りつける。
「言ったでしょ。ごとーはいち〜ちゃんを信じてるって」
しかし、後藤は市井の怒声を気にもとめず、降り注ぐ雪を見上げながら話を続ける。
「信じ続ける限り、想いは届くんだよ。きっと…」
そう言って、後藤は微笑んだ。
「……カだよ…、ホント…」
「え?」
市井の声を聞き取ることができなくて後藤は聞き返した。
「バカだよ、ゴ等! ホント、大バカだよ、オマエ!!」
突然市井は笑い出し、後藤の頭をポンポンと叩き出した。
(バカ……。なんてバカなんだろう、あたし……)
- 325 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月29日(火)13時44分01秒
- 「い、イタイよ、いち〜ちゃん!」
後藤は背を丸め、頭を押さえながら市井を上目遣いで見る。
(泣いてる? いち〜ちゃん…)
市井の目にはキラリと光るモノが見えた。
それが涙かどうかはわからないが、市井は何かを隠すために笑っているように思える。
「バカだなあ、後藤。ホント、大バカだね…ハハハハハハ……」
後藤は思ったことを口にしようとせず、ただ市井に合わせて笑っていた。
そうした方が、なんとなくいいような気がしていた。
- 326 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月29日(火)13時44分42秒
- 「さ、そろそろ行こっか」
「うん♪」
市井と後藤は再び手をつないで歩き出す。
ふと、どこからともなく鈴の音が聞こえてきた。
「あ!」
後藤は鈴の音に反応して、パッと顔を上げる。
「どうしたんだよ、急に?」
「なんでもない。ヘヘヘ…」
後藤の目には夜空に描かれた流線型の光の軌跡が映った。
一瞬にして消えてしまったので本当かどうかはわからないけれど、後藤の心は幸せに満ち溢れた。
しかし、後藤は今目にしたことを笑顔でごまかした。
「変な後藤」
市井は後藤の発言に疑問を抱きながら、後藤を見る。
(サンタさん、アリガト。サイコーのプレゼントだよ…)
「早く行こ〜よ! ホラ、早く早く!!」
「あっ、コラ! そんなに引っ張んなって!!」
後藤は市井の手を引っ張りながら走り出し、市井もつられて走り出す。
そして、少し静かになった街の中へと消えていった。
舞い降りてくる真っ白な天使たちは、いつまでも聖なる夜を祝福していた。
- 327 名前:another story〜I wish〜 投稿日:2001年05月29日(火)13時46分24秒
- ――ここから先は私も知りません。
この続きは、きっと誰も語ることはないと思います。
ただ、彼女たちは幸せな夜を過ごしたのではないでしょうか。
だって、今宵はホワイトクリスマス――特別な夜ですからね。
- 328 名前:あとがき… 投稿日:2001年05月29日(火)13時48分42秒
- はい、おしまい。
…というわけで、いかがでしたでしょうか?
今回は原点に帰って「市井×後藤」(マジっすか!?)
まあまあ、気にしない気にしない(笑)
個人的にはちょっと切ないいちごま、というものを書いてみたくて。
まあ、終盤になるとテンションが変わってしまうんですが。。。(苦笑)
雪の降る中で、いつまでも市井のことを待ち続ける後藤。
そして、ありがちな展開……。
諦めかけた瞬間に現れると、思わず………って感じを出したかったんですけど、
これまた勉強不足。。。。。。
さてさて、最初に出したキーワード『虹』ですが、わかった方はたくさんいらっしゃるでしょう。
途中にも出ていましたしね。
『虹』はアーティスト名でした。某有名ロックバンドの名前です。
そして、作中に出てきた歌詞は、タイトルと同名の曲『I wish』
有名な曲なので知ってる方も多いはず!
「ある決断」とは――
もう、おわかりでしょう。市井は矢口とも後藤ともクリスマスを過ごすことにしたんです。
でも、片方とは意外な結末を迎えてしまった……。それを物語の途中で
少し引きずっています。
これもまた、ありがちな話。
オルゴールから流れてきた曲は、きっと市井が大好きな曲だったのではないでしょうか。
まあ、一人一人感じるものが違いますからね。ご想像にお任せします。
- 329 名前:あとがき… 投稿日:2001年05月29日(火)13時52分53秒
- そして、ホントに恒例となってしまったキス。
(ヤバイ……ワンパターン化している…)
ただし、今回は対人ではありませんでした。
ホントはね、ホントはこうしたかったんですが――
「あのね、いち〜ちゃん」
「なに?」
「これ、後藤からのプレゼント」
「ん? なんだ一体」
チュっ…
「ごとーのファーストキス……」
耳まで真っ赤にしてうつむく後藤。
(うっ…、カワイイ……。こっちまで照れてしまうじゃん)
市井も顔を赤らめてうつむいてしまう。
みたいに。ね? これは絶対ダメでしょ? この場合。
だって、このときの後藤はあくまでも「純粋な少女」という設定なんですから。
これはまたの機会に…ということで。
最後に。
あの夜、市井が矢口に渡すことのできなかったプレゼントは、後日、ちゃんと
渡すことができたそうです。
中身? それは二人に聞いてみてください。そこまでは私にもわかりませんよ。
(なんていい加減なヤツなんだ…)
それじゃ、またちょこっといい話が聞ける夜にお逢いしましょう。
そのときは、またBAR Fairy Taleにお立ちより下さい。
- 330 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月29日(火)19時28分16秒
- いい話をありがとう。
- 331 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月30日(水)04時11分21秒
- 原点回帰することは良い事です。
ある意味いちごまはすべての原点ですからね〜(w
くっそ〜!!「虹」はわかったけど「ある決断」はあとがき読むまでわからんかったよ〜
- 332 名前:道化師 投稿日:2001年05月30日(水)13時35分32秒
- 今回はレスのみ。
…というより、「ゴ等」って何だ? 雰囲気ブチ壊しですね(苦笑)
バカはオマエだよ! って感じです。
>>330 名無し読者さん
どういたしまして。こちらこそ、最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回書いたときも、またお願いします。
>>331 名無し読者さん
そうですね。私がこちらの世界へ入るきっかけとなったのは「いちごま」ですし。
ホントの意味で、私にとって全ての原点です。
「ある決断」……わかりませんでしたか。でも、あとがきでわかったからよかったかな?
う〜ん……まだまだ力不足でしたね。。。ゴメンなさい。
しばらくお休みしようかな〜……と思ってます。
まあ、2〜3考えているのはあるんですけど、まだまだ形になってませんし。
脱退関係は書くのは辛いですね〜、精神的に。裕ちゃんのを形にしながらかなり思いました。
おまけに腕もまだまだ未熟ですし。
しかし、季節外れの話っていうのも、ちょっと違和感あったかな〜……(笑)
ま、終わったものは仕方ないですね。最初は年末の話でしたし。
夏の話とか……あ゛〜、どうしましょ…。
- 333 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月04日(月)20時24分39秒
- 赤の続きを期待してみたり・・・・・
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