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娘。短編集

1 名前:S.S 投稿日:2001年02月08日(木)22時31分39秒
娘。たちの恋愛短編集です。
基本的に男女の恋愛ものなんですけどご了承下さい。
2 名前:ロケット花火 投稿日:2001年02月08日(木)22時36分21秒
暗闇の中で、ゆらゆらと微かなろうそくの炎が揺れる。
しゃがれた薄気味悪い女の声が、どこからともなく聞こえてきた。
「じゃあ、お婆さんはどうしたの?と言うと、その男の子は、ゆっくりと
こちらを向き・・・・・・」
突然、女は大きな声で叫んだ。
「お前が殺した!」
キャーキャーと女の子たちが、一斉にはじける。
四方八方に悲鳴が続くなか、部屋の明かりがパッとついた。
そこには、興奮のおさまらないジャージ姿の女の子たちと缶ジュースと
お菓子の袋が散らばっていた。
皆布団に寝転がって、夏定番のこわい話に興じていたのである。
3 名前:ロケット花火 投稿日:2001年02月08日(木)22時47分23秒
電気をつけたのは、人一倍こわがりの梨華だった。
「なんで、電気つけるのよ」
さっきまでしゃがれ声の女を演じていたひとみは、少しムッとしていた。
「だ、だって、こわいじゃない。もう、止めよ」
梨華はおどおどしている。
「せっかく面白くなって来たのに・・・・・・」
ひとみが不満顔で何か言おうとすると、部長でしっかりものの真里が割って入った。
「はいはい、こわい話はこれぐらいにして・・・・」
真里は立ち上がると、司会者気取りで皆を見回した。
「さて、私たちテニス部、ラグビー部の、夏の合同合宿も明日で無事終わります」
4 名前:ロケット花火 投稿日:2001年02月08日(木)22時54分07秒
ここは、高校の合宿所。海と山に囲まれて、自然にあふれ、しかも都会にも
ほどよい距離で居心地のいい立地条件である。
建物もどこか外国のリゾート地のような雰囲気が漂っている。
合宿中自炊しなくてはならないのは大変だけど、皆夏にここに来るのを毎年
楽しみにしていた。
廊下には、クラブごとの合宿の日程表が貼ってある。
彼女たちの前の週には、水泳部と剣道部が合同合宿をしていた。
中庭では、皆のユニフォームが物干し竿で夜風に揺れ、更衣室には、ラケットや
ラグビーボールがきちんと整頓して置いてあった。
5 名前:ロケット花火 投稿日:2001年02月08日(木)23時00分15秒
厳しい合宿ももうすぐ終わりだと思うと、なんだか名残おしい。
夜の海の静かなさざ波が、部屋の中まで聞こえてくる。
「我が弱小テニス部は、花形ラグビー部のおまけ程度と思われがちですが・・・・
ま、実際、そんなもんだね」
真里が言うと、皆くすりと笑って顔を見合わせた。
ラグビー部は花園にも出たことがある伝統ある部であるが、テニス部は全然
パッとしないのだ。
「私たち、3年生は、この合宿を最後に、引退することになります」
6 名前:ロケット花火 投稿日:2001年02月08日(木)23時06分33秒
皆は枕にアゴを乗っけながら、真里の話をふんふんと真面目な顔で聞いていたが、
その顔が、だんだんニヤけてきた。
「ということで、明日は恒例のテニス部、ラグビー部合同の花火大会」
真里が言ったとたん、ひとみが口をはさんだ。
「そう!夏、夜の海、花火、シチュエーションは最高!この状況で、いかに
好きな子を落とすか・・・・」
はしゃぐひとみを真里が制した。
「その前に、誰にいくか確認しておこうか」
と言い、真里は最初に、右端にいた真希を指さした。
7 名前:ロケット花火 投稿日:2001年02月08日(木)23時11分13秒
「じゃあ、ごっちんから」
「ええ、私から?」
真希は困っている。
「ごっちんなんか、もう聞かなくてもわかってるよ。山下くんでしょ」
ひとみが言うと、皆がヒューヒューと真希を冷やかした。
毎年の恒例の女の子たちだけの、告白大会。
テニス部の女子には、なぜかラグビー部の男子に片思いしてる子が多い。
毎年の合同合宿もラグビー部ときまっている。
だから、この夏合宿目当てに入部する子がいると噂されるほどだ。
8 名前:ロケット花火 投稿日:2001年02月08日(木)23時17分17秒
「じゃ、次、よっすぃーは?」
「え!私は・・・・」
ひとみは思い切って告白した。
「生田くん!」
その名を聞いて、皆は、えー、と驚きの声を上げた。
さっぱりしてサバサバしてカッコイイタイプのひとみが選んだにしては、
生田は地味でパッとしないやつだからだ。
「もう、長いんだよね」
梨華は実は前からしっていた。
「あ、余計なこと言うんじゃない!」
ひとみが慌てて梨華に布団をかぶせたので、皆は笑い転げた。
プハアッと布団から顔を出したとたん、梨華に指名が来た。
9 名前:ロケット花火 投稿日:2001年02月08日(木)23時21分05秒
「じゃ、次は梨華ちゃん」
と真里。
「えっ?」
「梨華ちゃんの番」
皆、興味津々の顔で梨華を見つめている。
「え、私、私は・・・・」
口ごもる梨華に、皆の顔が迫ってくる。
もう絶対に言わないわけにはいかない雰囲気だ。
しかたなく梨華は、蚊の泣くような声で告白した。
「・・・・今井くん・・・・」
「えー、あんなのがいいの?」
ひとみが驚いて声を上げた。
「よっすぃーは、ずっと幼なじみで傍にいすぎてるから、わかんないのよ」
「そんなもんかねえ・・・・」
ひとみはしきりに首を傾げている。
10 名前:ロケット花火 投稿日:2001年02月08日(木)23時24分31秒
梨華にとって、今井は憧れの人だ。
男っぽくてかっこいいだけでなく、優しくて思いやりがあるのも知っていた。
いつも彼と親しく話をしているひとみが、梨華にはずっと羨ましかった。
今井を好きなことをひとみに言い出せなかったのは、きっと今みたいに
不思議がられるのがわかっていたからかもしれない。
同じ頃、ラグビー部の使っている部屋からは、とっくに明かりが消えていた。
波の音がするばかりだ。
日中のハードな練習に疲れて、上半身裸のまま、グガーグガーと安らかに眠っていた。
真っ黒に日に焼けた、その健康的な寝顔。
11 名前:ロケット花火 投稿日:2001年02月08日(木)23時29分53秒
女の子たちがしている秘密の話など、つゆ知らず・・・・。
皆の告白がひととおり終わると、真里が宣言した。
「じゃあ、みんな明日の花火までに、好きな子に告白するのよ」
「えーっ」
思わず小声を出した梨華に、ひとみが念押しした。
「するのよ」
「・・・・・・・・」
梨華は思った。
終わる恋なら、始まらない恋の方がいい・・・・。
12 名前:ロケット花火 投稿日:2001年02月09日(金)19時04分54秒
翌日、午前中の練習が終わると、テニス部の女子たちはテニススコートのまま、
わいわいオシャベリしながら台所で昼ゴハンを作っていた。
もうこれが合宿最後の昼食だ。
梨華はふと料理する手を休めると、おタマを持ったまま窓の外を見た。
合宿所の外は林になっている。
そこの小道を、ラグビー部の男の子たちがちょうど戻って来るところだった。
厳しい練習の後らしく、皆びっしょり汗をかいて、白と紺のラガーシャツも、
土で黒く汚れている。
その中に、ひときわ目立つ今井の姿が見えたので、梨華の胸は高鳴った。
13 名前:ロケット花火 投稿日:2001年02月09日(金)19時07分18秒
「あ、戻って来た」
「どれどれ」
ひとみが横に来たとたん、梨華が突然顔をふせた。
「何」
「目が合った・・・・気がした」
ひとみはやれやれという顔をすると、いきなり大声で彼を呼んだ。
「オーイ、今井ー」
「!」
梨華は顔をふせたまま、ハッとした。
突然呼ばれて、今井は台所の方を見た。
「梨華ちゃんが、あんたと話したいって!」
「!!」
顔をふせたまま、梨華は息を止めた。
今井は何のことかわからずに、眉をひそめてけげんな顔をしている。
いたたまれなくなって梨華は、思わずひとみのひじをつねった。
14 名前:ロケット花火 投稿日:2001年02月09日(金)19時09分45秒
「イテー!」
大きな声を上げると、ひとみも負けずにつねり帰してきた。
「いたーい」
2人はつねり合いながら、なんだか笑い出してしまった。
そのまま2人は段々窓際から遠ざかって、台所の奥へとひっこんでしまった。
声をかけられたような気がするものの、見えなくなっていった2人のおかしな
行動に小道にいたラグビー部員たちは、首を傾げた。
「何だよ?」
「さあ?」
当の今井も首をひねる出来事だった。

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