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the SAGA Morning Musume。
- 1 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年02月10日(土)11時06分19秒
- とうとうココで復活。
さようなら2ch。今までありがとう。(●´ー`●)
最初っから読みたい時は、
http://www.geocities.co.jp/MusicHall/5606/962347858.html
を読んで、更にその後、
http://www.interq.or.jp/yellow/hiuga/morning/novel/saga.html
を読んでくださいね。
メチャメチャ長いけど(笑)。
所連絡は、
http://www.geocities.co.jp/MusicHall/5606/
で行う事がありますので、
いちようちょこっとCHECKしてください。
- 2 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年02月10日(土)11時16分26秒
- ではちょこっと潜伏。準備中。
- 3 名前:名無し読者 投稿日:2001年02月10日(土)14時57分31秒
- おお!やっと復活
期待sage
- 4 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年02月10日(土)17時03分34秒
- 注釈として。
作中で使われている、
ソニー歴3月の時点で、
大体時制として、2000年5月くらいの感触です。
外見的にも、その頃のものに近いと思ってください。
((0^〜^0)がまだ髪短くなかったり。)
あと、この頃はまだ( ´ Д `)と(0^〜^0)が、
あまり仲良くない設定ですので……。
- 5 名前:ROM 投稿日:2001年02月13日(火)05時38分32秒
- こちらに引っ越したんですね。
ではROMることにいたします(w
期待sage
- 6 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年02月15日(木)19時11分44秒
- 市井は、広瀬さんに駆け寄った。
広瀬さんは、相変わらず、
私の目を見るときだけは、
すごく優しそうだった。
私は広瀬さんに、
すぐに洞窟を受けて手当てをしようって言ったんだ。
でも、広瀬さんは受け入れなかった。
自分はどうやったってもうすぐ死ぬ。
自分は、あなたに最後の別れを言うためだけに、
こうして生きていたんだ。
言うだけのことを言ったら、
あとはもう死ぬだけだ、って。
市井はわけもわからないまま、
泣き続けたんだ。
広瀬さん、死なないで、って。
そんな市井の頭を優しくなでながら、
広瀬さんは言った。
- 7 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年02月15日(木)19時12分25秒
- 広瀬さんは昔、
ファンハウスで騎士をやっていたんだ。
そして、クラウンとの戦争が起こった。
広瀬さんはファンハウスの王子の部隊につけられた。
その王子ってのがまだ12、3歳でね、
初陣だったらしいよ。
- 8 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年02月15日(木)19時13分07秒
- 王子ははっきり言って弱かったって。
マトモに剣術も魔法も使えなかったし、
兵法もわかっちゃいなかった。
それは王様達もわかっていたらしいから、
まぁ、広瀬さんは、護衛だったんだよ。
その王子の。
- 9 名前:ガンツ 投稿日:2001年02月17日(土)22時31分13秒
- 更新まってます!
- 10 名前:Hruso 投稿日:2001年02月21日(水)23時12分13秒
- 移転したのですね。
頑張ってください。
- 11 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月01日(木)02時01分51秒
- でも、王子は初陣でワクワクしていたのかどうか、
無謀に突っ込みたがったんだよね。敵陣に。
広瀬さんは必死に王子を止めたらしいけど、
結局逆らえず、敵陣に突撃する事になった。
あとは……わかるよね。
その王子は、死んでしまったんだ。
敵に首を跳ねられた。
- 12 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月01日(木)02時02分37秒
- 広瀬さんは、その責任を取って、
殺されることになった。
だけど、逃げた。
やっぱり人間、殺されたくは無いからね。
その頃の広瀬さんって、
かなり人を殺して逃げたらしいよ。
しばらく各国を逃げ回ったすえに、
広瀬さんは市井の村へ来た。
そして、市井私に剣術を仕込んだ。
広瀬さんが一番やりやすい仕事が、
剣術指南だったのは、
わかると思うんだけれども。
- 13 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月01日(木)02時04分12秒
- 広瀬さんは言った。
きっと、報いだったんだって。
責任逃れで人を殺した自分は、
こういう死に方をしても仕方ないんだ、って。
広瀬さんは、刀をよこすように言った。
血まみれの刀を、
広瀬さんに渡すと、自刃した。
市井は何故か、止める事ができなかった。
ずっと、ただ、見つめていた。
泣きながら。死にゆく広瀬さんを。
介錯も無かったから、
案の定苦しんでいたけれど、
そんな姿さえも、黙ってみているだけだった。
ただ、確かに、泣いていたことだけは、覚えている。
- 14 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月01日(木)02時04分42秒
- 「ま、そう言うわけ。」
市井は一通り話終えると、
なっちの方を見た。
……気持ちよさそうな顔で、眠っている。
「寝ちゃったか……。」
市井はひとりごちた。
それに答えるように、
なっちは言った。
「ムニャムニャ……。もう食べられないべさ……。」
「……ハァ。」
市井は布団を被った。
相変わらず外では、
戦いの音が響いている。
女の悲鳴が聞こえたような気がしたが、無視して寝た。
- 15 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月01日(木)02時21分30秒
- −
- 16 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月01日(木)02時23分35秒
- 「BITCH!!」
アヤカは刀を瞳の頭へ向かって振り下ろした。
速い、速い。
ひとみはそれを辛うじて避ける。
危険な予感。
(これは無茶だ……。)
本気でそう思った。
アヤカと自分の腕の格が違う事は、
既にわかりきっていた。
実際、紗耶香にくらべて自分が劣るとは、
ひとみ自身考えてはいなかった。
しかし、アヤカは違う。
これに勝てる気が全くしない。
「どうしよう……!!」
そうひとみが言ったときだった。
- 17 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月01日(木)02時24分17秒
- 「退却!!」
女の声が響いた。変な声だ。
妙に高く、アニメのような声。
少し考えて、その声が相手の部隊の隊長である事に気付く。
気を失っていなかったギザの兵士達が、
そこらに転がっている、
アヤカに気絶させられた味方を馬に乗せ、
次々と去ってゆく。
「?」
ひとみはそんな様をぽかんとした表情で見ていた。
あまりの異常な事体に、
相手がビビッたのか。
アヤカはアヤカで、
恐ろしい顔つきで逃げゆくギザの兵士を見ていた。
あっという間に、
ゼティマの兵士達は、居なくなった。
残されたのは、アヤカと、ひとみと、
そこらに転がる気絶させられたゼティマ兵、
僅かばかりの平常な兵士。
- 18 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月01日(木)02時26分56秒
- (一体なんで突然……。)
ひとみは疑問に思った。
そんなひとみに、アヤカは冷たく言い放った。
「夜は、寝ろ!」
そう言うとアヤカは、
力強い足取りで店へと向かって戻って行った。
「……。」
ひとみと配下の兵士達は暫く呆然としていた。
やがてひとみはある事に気がついた。
「あ、飯田さんいない……。」
少し考え込む。
そして、重大な事実に気が付く。
「……飯田さん、さらわれちゃったんだ……。」
事の重大さはすぐには理解できなかった。
- 19 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月01日(木)02時41分47秒
- -----
- 20 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月01日(木)02時42分10秒
- 「うっ……。」
佳奈は地面に這いつくばりながら、
顔を見上げた。
視界に入ってくるのは、飽きれた表情で、
こちらを見下ろす、つんく。
右手には、短めの剣を持っている。
「なんやねんお前ら。よくそんなんで暗殺計画言うていられるな。」
そう言うつんくの口調は、明らかに不機嫌だった。
佳奈はつんくの顔から目をそらし、左右をみやる。
優と麻衣も、同じような姿勢で這いつくばっている。
- 21 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月01日(木)02時42分34秒
- つんくがここの所ゼティマに帰っていないことには、
わけがあった。
エイベックス皇帝松浦勝人の願いで、
dreamに、修行を仕込んでいたのだ。
王女石川梨華が倒れた話は、
つんくには届いていなかった。
松浦が握りつぶしたのだ。
佳奈達には、何故松浦がそんな事をするのかが、
理解できなかった。
しかし松浦は何も語ろうとしなかった。
- 22 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月01日(木)02時42分45秒
- 実戦による修行において、
佳奈は最初から、
つんくに勝てるつもりで戦ってはいなかった。
しかし、それなりの勝負をするくらいはできると思っていた。
しかし実際は違った。
3人で束になってかかっても、
とても相手にならないでいた。
こちらの攻撃は、1度もまともに相手には当たらなかった。
つんくが強いのではなく、
自身が弱いのだということを、実感していた。
- 23 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月01日(木)02時43分15秒
- 「ま、まだまだ……!」
佳奈は言うと、ゆっくりと立ちあがった。
それに続いて、麻衣と優も、
ゆっくりと立ちあがる。
つんくは、ニヤリと笑い、言った。
「そうや。まだまだこれからや。
こんなんでヘバってもらったら困る。
やっちゃえ。まず、やっちゃえ。」
つんくが剣を構える。
それにあわせて、
佳奈は、地面に落ちた斧を拾うと構える。
優は剣を、麻衣は槍を、
それぞれ構えた。
いっせいに3人は、つんくに飛びかかった。
- 24 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月06日(火)18時32分55秒
- 「おはようだべさ。アヤカちゃん、
ニンニクラーメンチャーシュー大盛だべさ。」
「はいよ!」
「……。」
朝っぱらからそんなもん食べるのか?
紗耶香はそう思ったが、
口には出さない。
朝の、ラーメンアヤカ亭。
9:55AMは、開店5分前だ。もっとも、
あまり厳密に決まっているわけでは無いのだが。
なっちは、そんな時間までしっかり眠っていた。
- 25 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月06日(火)18時33分20秒
紗耶香と言えば、
2時間ほど前に起き、
店の仕込みを手伝っていた。
一宿の礼だった。
ダニエルという大女が、
野菜を切るのを手伝っていた。
元々朝には強い紗耶香にとっては、
さほど大変な仕事ではなかったが。
- 26 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月06日(火)18時33分43秒
- アヤカの話によると、
戦いは昨日一杯で終わったらしい。
ギザの軍勢が、
ゼティマの将軍を捕らえると、
そのまま退却し、
仕方なくゼティマ軍も、
本城に引いたと言う。
その将軍がどうなるのか、
紗耶香は気になっていたが、
そればかりはアヤカにもわからないらしい。
恐らく、何らかの身代の取引が行なわれるであろう、
とのことなのだが。
- 27 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月06日(火)18時34分01秒
- 戦いが無いのなら、と、
紗耶香はすぐにでもギザへ渡るつもりだった。
本当は、朝食を済ませたら、
すぐにでも出るつもりだったが、
一応、同じくギザへ行くと言うなっちをまつことにしたのだ。
しかし、なっちがここまで起きるのが遅いと思ってはいなかった。
思わぬ足止めを食った紗耶香は、
少し苛ついていた。
- 28 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月06日(火)18時37分56秒
- なっちは紗耶香の姿を見つけると、
ドテドテと歩き紗耶香の元へ来、
同じテーブルの椅子へ座った。
「おはよう紗耶香。もう起きてたんだ。」
なっちの、『もう起きてたんだ』という言葉に、
紗耶香はあきれる。
しかしココで文句を言っても仕方が無い。
紗耶香は早速本題に入る。
「今日、コレからギザに入ろうと思うんだけど、一緒に行く?」
- 29 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月06日(火)18時38分13秒
- 「うん!いく!」
なっちは嬉しそうに言った。
気楽そうなその表情を見ていたら、
紗耶香の不機嫌も多少和らいだ。
「じゃ、朝食べ終わったらすぐ行くよ。」
「わかった。」
兆度そこへ、
レフアがニンニクラーメンチャーシューたっぷりを運んできた。
「すぐ食べるからね!」
なっちは言った。
言われなくても速いのはわかっている。
どうかおかわりだけはしないで欲しい、
そう紗耶香は祈った。
- 30 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月06日(火)18時38分37秒
- 今日はココまで。
- 31 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月06日(火)18時57分44秒
- 「つまり……。
圭織はさらわれたのね?」
保田は言った。
怖い顔つきは、
真剣だからなのか、元々か。
ひとみはそんな保田の顔を直視できなかった。
うつむき下を見たまま、言う。
「ゴメンなさい……。私のせいで……。」
「仕方ないわ。
戦いの上でこういうことは充分あり得るもの。
圭織が囚われたのは圭織自身の責任。
それに……。」
保田は肩をすくめ、言った。
「アヤカを怒らせたんじゃ、相手が悪いわ。」
- 32 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月06日(火)19時00分01秒
- ひとみは言った。
「保田さんは……知ってるんですか?
あの……ラーメン屋の……。」
保田は答える。
「昔同じ施設で育ってたからね。
ルルも一緒に。」
「へぇ……。」
そこで、話題が途切れる。
- 33 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月06日(火)19時00分21秒
- 「ま、あんまり気にしなくていいわよ。
圭織の事は、私が絶対になんとかするから。
怖かったでしょう?
初陣なのに、死にかけたんじゃあ。」
「……。」
ひとみは顔を上げない。
しばらく黙り込む。
「ま、アンタはまだ15になったばっかりなんだから、
無理はしないで……。」
そう保田が言いかけたときだった。
「子供扱いしないで下さい!!」
ひとみはそう吐き捨てると、
クルリと振り向いて駆け出した。
あっという間に、保田から見えなくなった。
保田は暫く黙っていたが、
やがて口を開きボソッと言った。
「子供扱いされて怒るのは子供なのよ。」
- 34 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月06日(火)19時01分04秒
- 今日はココまで、の間隔が短かすぎですな(藁
- 35 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月15日(木)19時45分43秒
- 「ちょっと!通れないってどういうことよ!」
紗耶香はゼティマ兵に突っかかった。
「吉澤様の命令です!
暫くの間、ココは封鎖するって……。」
「なによそれ!
なんでもう戦いは終わったのに、
そんなことすんのよ!」
紗耶香はやはり機嫌が悪いのか、
これでもかと言う勢いで兵士につっかかる。
なっちはそんな紗耶香をオロオロ見ている。
- 36 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月15日(木)19時46分03秒
- 「その、吉澤ってヤツ!呼んできなさい!」
市井は言った。
兵士は困ったような顔をする。
「吉澤様はもう本城へ帰還なされたので、
ここにはいません。
国境警備隊長の、中西様を呼んできます。」
そう言うと兵士は、
砦の中へ引っ込んで行った。
「フン。」
紗耶香は不機嫌そうにこぼした。
- 37 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月15日(木)19時46分23秒
- 中西と言う女は、
筋肉質なその体型からわかる通り、
いかにも戦士と言った感じの外見だ。
紗耶香と中西は、20分間散々言い争った。
しかし結局、
関所を通ることはかなわず、
紗耶香となっちは、
仕方無しにゼティマへ戻ることになった。
- 38 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年03月15日(木)19時46分40秒
- ここまで。
- 39 名前:牛乳詩人 投稿日:2001年03月23日(金)13時19分29秒
- ゼティマ軍とギザ軍の衝突から三日が経ったある日のことだった。
保田は書類整理の仕事に没頭していた。
人手不足の為、浪人を雇い入れる募集をしていたのだ。
「彩っぺがいなくなってから剣術専門の人がいないんだよね……。
剣騎士団をいつまでもはたけさんには任せておけないし……。
吉澤じゃちょっと力不足だし……。
聖騎士団もなぁ……。裕ちゃんと稲葉さんは外れられないし……。
とはいえアミとか伊吹なら吉澤の方がマシ……。
いやむしろ私の方がマシ……。って私には斧騎士団があったし……。
やっぱり誰か強い剣士が欲しいなぁ……。
誰かいないかなぁ……。」
言いつつ書類をパラパラッと見る。
ふと一枚の書類が保田の目を捕える。
-
尾見谷杏奈 14歳
特技:剣術 槍術
学歴:ソニー帝国立大学付属少年士官学校卒
職歴:無し
自己PR:絶対活躍します。保証します。勝てそうです。
-
「……こいつはボツ。」
保田は履歴書を破り捨てた。
- 40 名前:吟 投稿日:2001年03月24日(土)02時13分43秒
- 「ふぅ……。」
飯田が捕われてから三日が経つ。
ギザからの連絡は無い。
「まさか殺されたりは・……。
そんな……まさかね……。」
しかしこうも連絡が無いと、
保田自身不安になっていた。
事実その不安な空気は、
ゼティマ全体に広がっていた。
辻と加護には、
未だ飯田のことを隠していた。
もしそんなことを子供、
特に辻が知ったらどうなるか。
想像するのも怖かった。
なにより今一番怖いのは、
飯田圭織の死というザラついた感触。
それは確かな予感を、
皆に感じさせていた。
「どうしようも無いか……。」
保田と中澤は、
飯田の救出の為にギザへ乗り込むことを提案していた。
しかしはたけはそれを許さなかった。
敵の本城に飯田が捕われているとすれば、
潜入して助け出すことなどできるはずも無い。
とはいえ、先の戦いで受けた被害のことからも、
すぐに攻め込む戦力は無い。
何も手を打ちようが無かった。
ギザの方から、
飯田の身柄と引き換えに、
何かしらの要求が来るのを祈るしか無かった。
- 41 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年04月04日(水)01時00分19秒
- 「これが今回の志願者ね?」
保田は言った。
城門前には、
屈強そうな戦士が幾人も並んでいる。
「はい。で、どうやって選ぶんですか?
募集は3人ぐらい、でしたよね。」
書類を片手に抱えた柴田は言った。
「私と手合わせをしてもらうわ。
ある程度モノになりそうなのを残す。
ま、即戦力はいないだろうから、
将来性を重視して、ね。」
「ふーん。」
- 42 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年04月05日(木)01時18分22秒
保田は何人もの戦士と戦った。
しかしその中には誰一人として、
安田に叶う者は無かった。
大人と子供のけんかのように、
軽くあしらわれてしまった。
「情けないわね。次、43番!」
言われると、
43番の戦士が現れた。
「43番。尾見谷杏奈。14歳です。」
「あぁ、帰っていいわ。」
「えっ!?」
「なんとなく嫌だから。」
「しかし!それではここに来た意味が……。」
「るさいわね!さっさと去ね!」
「何よブス。」
- 43 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年04月05日(木)01時19分01秒
尾見谷が言ったときだった。
保田は懐からナイフを一瞬で取り出すと、
いきなり尾見谷に向かって投げつけた。
「んが!」
ナイフは尾見谷の額に直撃し、突き刺さった。
「私語は慎みなさい。
やむなくナイフを投げつけることになるわよ。」
言っている保田に、あきれかえる柴田。
「柴田。北上を呼んできて、回復魔法かけてあげて。」
- 44 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年04月07日(土)01時54分02秒
- 尾見谷を回復させ、強引に返した保田は、
さっさと次の戦士の審査を行おうとした。
しかし……。
「なによ!誰もいないじゃないの!」
「みんな怖くなって帰っちゃったんですよ……。」
「フン!根性無しね!
やむなく婦女暴行しちゃいましたぁじゃ無いっての!
……あら?まだ残ってるわ。」
保田の視線の先には、二人の女がいた。
「あなた達、名前と受験番号は?」
女二人は続けて答えた。
「183番、安倍なつみ。」
「184番、市井紗耶香。」
- 45 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月07日(土)10時14分53秒
- 二人合わせて*******
- 46 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年04月12日(木)18時16分29秒
- 「皇帝……。一体何を考えておられるのですか?」
エイベックス帝国宰相五十嵐充は言った。
「つんく様が我が国に来て、もはや一週間が経とうとしています。
しかしその間のゼティマから彼への連絡は全てこちらで握りつぶしています。
さすがにゼティマの方も少しずつ疑いはじめております。
それにつんくさんはつんくさんで、
いつまでここに留まるつもりなのでしょうか。」
……玉座に座る松浦は、
五十嵐の目を見ずに言った。
「もう少しだ……。今つんくに帰られたら、全てが台無しなんだ……。」
「どういうことですか?」
「つんくが本国に居るかぎり、ギザは行動を起こさない。
ギザの尻尾を掴むにはギザが行動を起こしてもらわねばこまる……。」
「しかし……。」
「つんくには呪法をかけてある。
……あいつは魔力がロクに無いからな。ゼティマのことなんてすっかり忘れているよ。
……dreamの修行なんてのは、名目に過ぎない。」
「……。」
「ギザをゼティマは先日衝突したらしいな。
そしてゼティマの騎士がギザに捕らえられた。……好都合だ。
ギザの尻尾を掴めるかもしれない。」
松浦は不適に笑った。心底不機嫌そうに。
- 47 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年04月12日(木)18時17分07秒
- 「あぁ!吉澤さん、来たんですか。」
「うん、辻。……どう?王女は。」
「相変わらず……。」」
ゼティマ王国本城東の塔。
第一王女石川梨華の部屋。
梨華が地下牢で倒れているのを発見されてから、
4日が経とうとしていたが、相変わらず意識を取り戻すことはなかった。
魔術による延命措置により、命に危険こそはないが、植物状態だった。
「……どうしてこんなことになったんだろうね。」
ひとみは言った。
まさか梨華がこんなことになるなんて思っていなかった。
ギザとの戦闘から帰還後、
しばらく経って聞かされた梨華の件は、
ひとみに大きなショックをもたらしていた。
「このままなら、死ぬことは無いらしいんですけど、
目が覚めることも……。」
辻が言うと、部屋の中にはいやな空気が流れた。
- 48 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年04月16日(月)03時44分37秒
- 「なっち!久しぶりじゃない!!」
「圭ちゃんも!三年ぶりだべさ!!」
なっちと保田は再会を喜び合った。
「でも、なっちがどうしてここに?」
保田は言った。
「それに、その人……。」
その人、とは当然紗耶香である。
先ほどからひどく不機嫌そうな、剣闘士風の女。
「市井紗耶香って言うだべ。旅先で知り合ったべ。」
なっちは嬉しそうに言った。
しかし……。
(市井紗耶香……!!)
保田と柴田は、目を大きく見開いた。
「し、柴田、ちょっと……。」
保田と柴田は、少し紗耶香達から離れて、
ひそひそ話をはじめた。
「柴田……。市井紗耶香って……。」
「アレですよね……。しゅうさんを倒した……。」
「そして後藤の……。」
後藤の騒いでいる元凶。
あまりの後藤の騒ぎに、
とうとう先日りんねとあさみは過労で倒れてしまっていた。
「マズいですよ……。もし王女に会うことがあったりしたら……。」
「ましてウチで雇うなんて絶対ダメよね……。」
「どうするんですか……?」
そう言っているところに、紗耶香が近づいてきた。
「あのー。」
「ハ、ハイッ!?」
あわてる保田と柴田。
「何さっきからコソコソ離してるんですか……?」
市井が不思議そうに訪ねる。
「な、なんでないわよ!!
そ、そうね!!じゃ、とりあえず剣抜いてもらいましょうか。
テストをはじめるわ!!」
「わかりました。」
そう言うと、市井は剣を抜いて構えました。
「いつでもかかってきてください。」
そう言う市井の構えには、すでに一分の隙もなかった。
「ど、どうするんですか保田さん……。」
柴田が保田にささやいた。
「……こうなったら徹底的にたたきつぶすわ……。」
「そ、そんな……。」
「なっちの友達みたいだけど、そうも言ってられないし……。」
「でも……。」
「なに?」
「しゅうさんにも勝ってる人に大丈夫なんですか……?」
「あんまり私をナメるんじゃないわよ。
しゅうさんなんて私の足下にも及びはしないわ……。」
そう言うと保田は、城門の壁に立てかけてあった斧を手に取り構えた。
「柴田もなっちも、危ないからちょっと離れててね。」
- 49 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年04月16日(月)03時45分14秒
- この量を一度に投稿できるのは嬉しい……。
- 50 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年04月16日(月)03時57分29秒
- 「スカイドライヴ!!」
保田は突然思いっきり高くジャンプすると、
思いっきり腕を振り抜いて、
手に持っていた斧を紗耶香に向かってブン投げた。
「!!」
紗耶香はそれを飛び跳ねてすんでの所でよける。
「ヨーヨー!!」
続いて保田は、どこから取り出したのか、
小さな手斧を避けたところに、投げつける。
それも一つや二つではなく、軽く五、六本。
斧は全て鋭い回転を含みつつ市井の元へ飛んでゆく。
「うわっ!!」
上半身をそらし、避ける、避ける、避ける。
「!!」
避けきれない斧を刀で次々と打ち落とす。
しかしあまりの鋭い威力の連発に、
市井の力がついていかず、
最後の斧をたたき落としたとき、
市井は刀を手放してしまい、
刀はヒュルヒュルと音を立て後ろへ飛んでいった。
(まずい……!)
市井は焦りを感じるが、それどころではない
保田の攻撃はなお止まない。
「アクセルターン!!」
保田は言いながら、走って市井の方へつっこんできた。
体を思いっきり回転させ、一撃を加えようとする。
「んご!!」
市井は伏せでかわす。
(一体何個斧持ってるのよ!!)
「薪割りスペシャル!」
「電工ブーメラン!」
「一人時間差!」
「ブレードロール!」
「高速ナブラ!」
「シヴァトライアングル!!」
保田はどこかで聞いたことのある技を連発する。
武器のない紗耶香は、それをすべて避けるのがやっとだった。
しかもギリギリで。
(……この人……私を殺す気だ……。)
市井は額を冷や汗が流れるのを感じた。
(武器を拾わないと……殺される!)
- 51 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年04月16日(月)04時05分47秒
- 「スカイドライヴ!!」
保田は突然思いっきり高くジャンプすると、
思いっきり腕を振り抜いて、
手に持っていた斧を紗耶香に向かってブン投げた。
「!!」
紗耶香はそれを飛び跳ねてすんでの所でよける。
「ヨーヨー!!」
続いて保田は、どこから取り出したのか、
小さな手斧を避けたところに、投げつける。
それも一つや二つではなく、軽く五、六本。
斧は全て鋭い回転を含みつつ市井の元へ飛んでゆく。
「うわっ!!」
上半身をそらし、避ける、避ける、避ける。
「!!」
避けきれない斧を刀で次々と打ち落とす。
しかしあまりの鋭い威力の連発に、
市井の力がついていかず、
最後の斧をたたき落としたとき、
市井は刀を手放してしまい、
刀はヒュルヒュルと音を立て後ろへ飛んでいった。
(まずい……!)
市井は焦りを感じるが、それどころではない
保田の攻撃はなお止まない。
「アクセルターン!!」
保田は言いながら、走って市井の方へつっこんできた。
体を思いっきり回転させ、一撃を加えようとする。
「んご!!」
市井は伏せでかわす。
(一体何個斧持ってるのよ!!)
「薪割りスペシャル!」
「電工ブーメラン!」
「一人時間差!」
「ブレードロール!」
「高速ナブラ!」
「シヴァトライアングル!!」
保田はどこかで聞いたことのある技を連発する。
武器のない紗耶香は、それをすべて避けるのがやっとだった。
しかもギリギリで。
(……この人……私を殺す気だ……。)
市井は額を冷や汗が流れるのを感じた。
(武器を拾わないと……殺される!)
- 52 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年04月16日(月)04時06分23秒
- 「あー鬱だ。死にてぇ。」
後藤は背中をボリボリかきながら言った。
「あーいらつく。マジで。退屈。
つーか何でりんねとあさみいないわけ?超イラつく。」
ここ三日、後藤の八つ当たりによって、
過度の疲労にあったりんねとあさみは、過労で倒れていた。
「市井ちゃん……。何してんのかなぁ……。」
まさか今外で、保田と死闘を繰り広げていることは、
知る由も無かった。
- 53 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年04月16日(月)04時07分23秒
- 「うわーすごいべ圭ちゃん。
テストでここまでやるだべか。はぁー。」
なっちは感心していた。
しかしそこへ柴田がやってきて言った。
「あの人……殺される……。」
「!?……どういうことだべか?」
「……保田さん……メチャメチャ本気です……。」
「えっ!?」
なっちは困惑した。
「なんで圭ちゃんが紗耶香を殺す必要があるだべさ!?」
「実は……。」
柴田はなっちに一連の成り行きを話した。
- 54 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年04月16日(月)04時08分20秒
- 訂正です。
51は間違いです。順番的には、50,53,52の順番になります。
投稿失敗しました。失礼しました。
- 55 名前:吟 投稿日:2001年04月24日(火)23時41分19秒
- 「トマホーク……あっ!」
保田が素手で腕を振る。
……手斧が底を突いたらしい。
無理もない。既にゆうに五十本は投げた。
(今だ!)
紗耶香は攻撃が止んだのを見越して刀の方へ飛び退き、拾った。
一気に間合いを詰める。
「そっちにはもう武器は無い。形勢逆転ね。」
紗耶香は言った。
「形勢逆転?どこが?」
言うと保田は懐からナイフを取り出し、紗耶香に向かって投げた。
「!!」
市井はあわてて避けるが、
油断していたため、かすり、頬を血が伝う。
「……!」
絶句する市井に保田は駆け寄る。
どこからともなく、杖を取り出す。
上段に構え、攻撃態勢。
「脳天割り!!」
杖が勢いよく振り下ろされる。
「んご!」
紗耶香はかろうじて避けるが、
そこへ間をおかずに第二撃。
「抜刀ツバメ返し!!」
- 56 名前:吟 投稿日:2001年04月24日(火)23時52分15秒
- 例えば死と生の狭間には走馬燈のようなものが流れると言うが、
紗耶香の頭の中はまさにそれで。
それはつまり、保田の抜刀術の速さは、
市井の処理できる範疇を遙かに超えていて、
要するに展開としては、仕込み杖からの斬撃が、
紗耶香を捕らえて、胴からまっぷたつにいって、
哀れ市井紗耶香は16年の生涯を閉じて、
終了、サヨウナラ、となることを、
一瞬で想像してしまった紗耶香は、
頭の中で、これまでの16年間が、
ものすごい集中力で思い出されていた訳で、
紗耶香の頭の回転速度は、通常の何万倍にもなっていたっぽい感じ。
ただ、こればかりは保田にも紗耶香にも想像が付いていなかったのは、
保田が放った剣を、何者かが手刀で叩き落としていたことで、
保田の仕込み杖は、ポキッっていういい音を建てて、
先端が地面に落ちましたとさ。
そして、その手刀を放ったのは、
まぁ賢明な方なら判っていただけたと思うけど、
後藤真希であったわけで、
真希の手刀の前に、剣はスイカ同然でしたとさ。
ちなみに後藤真希は、つい三分前までは、
城内の自室で、ブーたれておったわけで、
それはつまり、真希は一瞬にして、
この現場までやってきたわけでして。
しかも市井の命が危険にさらされていることを、
真希が知り得る根拠なんてどこにもなかったのだから、
これはもう愛としか言いようがない次第。
- 57 名前:吟 投稿日:2001年05月02日(水)14時19分24秒
- 「やっと……逢えたね。」
後藤は言った。それはもう目を潤ませて。
寝不足なのも忘れて。これまでに見せたことのない程の笑顔で。
「え……?」
市井はといえば、何がなんだかさっぱり判らず、
頭の中ではサッパリ妖精が扇子を広げて飛び回っていた。
「ご、ごと……。」
保田が何かを言いかけた。
後藤の肩に手を触れようとするが……バチッ!
「痛ッ!」
保田の体を電撃が走り抜ける。
(これは……魔力……?)
後藤の体からは、謎のシールドが発せられていた。
「ずっと、逢いたくて、逢いたくて、病気になるかと思ったよ……。
ねぇ……市井ちゃん……。」
バタッ。後藤はその場に倒れ込んだ。
「ん?え?」
市井は訳もわからずに立ちつくすばかりだった。
- 58 名前:吟 投稿日:2001年05月02日(水)14時21分07秒
- 「えーと、安倍なつみを魔術講師役として、
市井紗耶香を『第二王女剣術指南役』として、
今日から雇うことが決定しました。
みなさん、よろしくしてあげてください。」
保田は壇上から言った。壇の下には、
げんなり顔の騎士達。
壇の上には保田の他に、
紹介を受けた、新たな魔術講師役安倍なつみと、
第二王女剣術指南役市井紗耶香。
そして市井紗耶香の横で、
市井紗耶香の腕に自らの腕を絡め、
ぴったりとくっついている、後藤真希。
まるで恋人のように、ベッタリとくっついた様は、
後藤だけでなく、市井もまんざらではなさそうだ。
ともかく、それを見てあきれているのは、場にいる全員であった。
「知っての通り、我が国は現在ギザと交戦中にあります。
ギザ皇国の主流部隊は魔導騎士であるのは知っての通り。
よって、魔術に長けた安倍さんと共に、対策を練っていきたいと思います。
また、市井さんには、第二王女真希様の、
剣術指南と共に、剣士としても、活躍してもらうことを期待しています。
何か質問はありますか?」
保田の問いかけに、三人が手を挙げた。
中澤、はたけ、柴田。
「じゃ、はたけさん、どうぞ。」
「あぁ。」
はたけは立ち上がった。
市井の顔を見て、言う。
「そちらにいる女。市井……って言ったな。
この場にいる人間は全員知っている通り。しゅうを倒す程の強者だ。
王女の剣術指南役とは勿体ないんじゃないか?
今、うちには剣騎士団長が居ない。どうせだったらそこに……。」
はたけが言ったときであった。
「……ノーザンウィンド。」
後藤は呪文を唱えた。はたけを思いっきり睨み付けながら。
突如、場の空気が凍りついた。
すると、どこからともなく、冷たい風が吹いてきた。
「え?」
はたけが何か反応を示す前に、
強烈な冷風がかまいたちとなり、はたけの体を切り裂いた。
「うぐぁぁぁぁぁっっ!!」
血まみれになり、倒れるはたけ。
「……で、何か言いたいこと在りますか?」
後藤は言った。
「ありません……。」
弱々しく答えるはたけ。
柴田は斉藤に耳打ちした。
「……王女って、あんな魔法使えたっけ?」
「いや、絶対使えなかったと思うんだけど……。」
- 59 名前:吟 投稿日:2001年05月02日(水)14時21分37秒
- 保田が咳払いをした。
「えーでは次行きます。裕ちゃん、どうぞ。」
中澤は立ち上がると、苛立った様子で言った。
「圭織はどうなっとんねん!
もう一週間ぐらい経つで!いい加減相手の反応が無いんや!
無理に攻め込んででも助け出すべきやろ!!」
「しかし、今のうちの戦力でギザと総力戦を行えば、ただでは済みませんよ。」
そう言うのは、信田。
「関係あるか!圭織の命がかかっとるんや!!」
「国民全員の命だってかかってるんです!」
「なんやてコラ!」
信田につかみかかろうとする中澤を、稲葉があわてて抑える。
そんな様子を無視して、保田は言う。
「現在ギザには、毎日使節を送っていますが、
相変わらず反応はなく、書状を相手方皇帝に届けることすらできていません。
そろそろ限界だと考えますので、
攻め込むのもよいのではないかと、個人的には思っています。」
「そうや!圭織をこれ以上危険な目にあわせられるか!」
そう中澤が言ったときだった。
円卓の間に、番兵が駆け込んできた。
「ギザから書状が届きました!!」
「なんやて!ちょっと貸せ!」
中澤は番兵に駆け寄り、書状を奪い取った。
-
飯田圭織を返して欲しければ、ギザ皇国、○○村東方の砦へ来い。
何人で来てもかまわないが、雑兵風情は無駄に命を落とすだけだと思え。
後藤真希は必ず来い。さもなければ、飯田圭織の命は無い。
ギザ皇国皇帝 倉木 麻衣
-
- 60 名前:吟 投稿日:2001年05月09日(水)00時11分24秒
- 「……ごっちん。今すぐ行くで。支度しいや。」
中澤は、引く低いトーンで言った。
「えー。市井ちゃんが行くなら行くぅー。」
「……しゃーないな。姉ちゃん、来てもらうで。」
中澤は市井を見た。
「わかってる。もちろん行くよ……。」
「よし、じゃあ行くメンバーは……。」
「私も行くわ。」
保田が立ち上がる。
「よし。あんまり沢山で行っても危ない。コレぐらいで……。」
中澤がそう言った時だった。
「私も行きます!」
入り口の方から声がした。
全員が入り口の方へ目をやった。
……入り口には、矢口が立っていた。
「司祭?どうして……。」
吉澤が言う。
矢口はスタスタを部屋の中へ入ってきながら言った。
「ハッキリと言うと、コレは完全に罠です。それは判っています。」
そう言う矢口に中澤は疑問を投げかける。
「判ってるって……何や?」
矢口は首を振りながら言う。
「それは私にも判りません。ただ、何かの罠があることは間違いないです。」
「せやかて……。」
「だからって行くことを辞めるわけには行かないでしょう?」
「……まぁな。」
「相手には誰か、非常に強い魔力、しかも闇の魔力を持った人間が居ます。
それに対抗するには、光の魔法が使える人間がいないと……。」
「光の魔法やったらウチや稲葉が使えるで。聖騎士なら誰だって……。」
「そんな中途半端な魔力じゃ無いのと一緒。」
「中途半端……!」
少しムッとする中澤。
「とにかく、裕ちゃん達だけじゃ危ないです。私も行きます。」
「……わかったわ。じゃ、行くメンバーを確認するで。
ウチ、矢口、ごっちん、圭坊、それと……。」
「紗耶香でいいです。」
「よし、紗耶香。この五人でエエな。出発はすぐや。
すぐに用意せえ。全員、ウチらが居ない間城の守りは頼むで。
指揮はたけさん頼みます。」
「あぁ。」
「よし、絶対に圭織を助けるで!!」
- 61 名前:吟 投稿日:2001年05月09日(水)00時23分17秒
- その頃を同じくしてだった。
石川の部屋のドアを鈴音と麻美が叩いた。
「王女……具合はどうですか……ってまだ寝てるか。」
「麻美……。王女大丈夫なのかな……。」
「さぁ……。早く良くなってくれればいいんだけど……え!?」
「えっ!?」
麻美がドアを開けると、部屋の中は、真っ暗になっていた。
「王女……?」
鈴音が石川のベッドに寄る。
布団が妙にペッタンコになっている。
「!?」
鈴音が布団に思いっきり手を突く。
そこには、人間の感触はなかった。
……空っぽだ。
鈴音は振り向いて言う。
「居ない!?」
「えぇっ!!」
二人は驚く。
「とにかく誰かに知……らせ……な……。」
「あれ……り……ん……。」
二人はその場に倒れ込んだ。
石川の部屋のドアは独りでに閉じると、
鍵が独り手に、ガチャリという音を立てて閉ざ
- 62 名前:吟 投稿日:2001年05月09日(水)00時24分01秒
- >>61
された。
- 63 名前:Hruso 投稿日:2001年05月09日(水)01時02分52秒
- 久々に見たらかなり展開している。
後藤の力は愛の力ってことですか?(笑
- 64 名前:吟 投稿日:2001年05月12日(土)08時04分55秒
「ここがその砦か……。」
中澤は言った。二階建ての石造りの砦は、
あまり人が多くいるわけでもなく、
地理的にもそれほど重要ではないと思われる場所にある割に、
やたら大きかった。
保田が口を開く。
「それにしても不気味だわ……。
ギザとの国境沿いの関所にも、
誰も警備が居なかった……。」
それに続く矢口。
「手はずは整っているんだよ……。
多分、この砦で何かが起こる……。」
更に市井。
「まぁ、あんまり話し込んでても意味はないよ。
どの道つっこむしか無いんだ。入ろう。」
市井は一人でスタスタと歩き出した。
それにくっついて後藤がついてゆく。
矢口は中澤を見るが、
中澤がやれやれと言った感じで首を振ったのを見ると、
市井達に続いて歩き出した。
さらに保田が後ろを着いてゆき、
最後に、中澤。
市井が入り口の扉を開く。
「!!」
途端に、何やら障気が吹き出してきた。
それは、あまり魔力の無い市井や保田にも判るほどであった。
「市井ちゃん……。怖いよ……。」
「……大丈夫だよ……。市井がついてるから……。」
そんな二人のやりとりに中澤。
「おぅおぅラブラブでございますねぇ。」
と、半ばヤケ気味。
しかし市井達は、それを流す。
保田と矢口も、あえて無視。
「入るよ……。」
市井と後藤が、先頭を切って砦の中に入った。
- 65 名前:吟 投稿日:2001年05月12日(土)17時30分31秒
- 砦の中にはいると暫くは、細長い廊下が続いていた。
そしてしばらく進むと、
ガランとした、縦横それぞれ20M程の部屋に出た。
一人ずつ、部屋に入る。
先頭の市井と後藤、続けて矢口、保田、最後に、中澤。
中澤が入った途端、ガチャリという音が後ろ聞こえる。
慌てて後ろを見ると、入ってきた部屋の扉が閉められている。
「……どういうこっちゃ!!閉じこめられたんか!?」
中澤は言った。
「誰かが……居るね……。」
矢口が言った。
……暗がりから、20人ほどの、
黒いローブを纏った男が現れた。
「……!!
どうやら穏便に交渉するつもりは初めから無かったらしいわね。」
保田が言う。
「わかりきっていた事じゃない。」
と市井。既に鞘から刀を抜いている。
見方全員が身構える。
すると、ローブを纏った男達の一人が、口を開いた。
「まぁまぁお待ちなさい。」
喋った男は、どうやらこの集団のリーダーらしく、
一人だけ、違った色の、紅いローブを纏っていた。
- 66 名前:吟 投稿日:2001年05月12日(土)17時32分22秒
- 「なんや。圭織を返してもらいに来たんや。さっさと圭織に会わせろや。」
中澤が言う。男はそんな様子を気にもとめずに、言う。
「飯田さんを帰す条件はただ一つです。」
保田が問いかける。
「……金?」
男は答えた。
「いいえ。それはただ一つ。我々との賭けに応じて頂くこと。」
市井。
「賭け?何を賭けて、何で勝負するのよ?」
男は続ける。
「勝負は当然、リアルバトルですよ。
刀で斬りつけるも、魔法で攻めるも。
賭ける物が、少々複雑ではございますがね。」
保田が苛立って言う。
「で、その賭ける物って何よ?」
男は答えた。
「……こちらが賭ける物。それは当然分かり切っていることと思いますが、飯田さんです。では、そちら、ゼティマの方々に賭けて頂く物。
それはですね。つまり、王女、後藤真希さんですよ。」
中澤は言う。
「なんやて!」
男が答える。
「まぁ矛盾した話であるのは当然のことですよね。
一介の騎士と一国の王女を天秤に賭けるのですから。
でも、あなた方はこの申し出を断ることは出来ないはず。」
男の言うことは的を射ていた。
今ギザの最高責任者である中澤だけは、この誘いを断れない。
もし、はたけやまことであれば、
この申し出にも応じはしないのかもしれないのだが。
「でも……なんのために後藤を……。」
と市井。男は答える。
「あなた方は知らなくても良いことなのですが、特別にお教え致しましょう。
そちらのお嬢さん、後藤真希さんは、極めて強力な魔力を持っていらっしゃる。
我々ギザには、なんとしても必要な力だ。」
保田は驚く。
「後藤が……?後藤にそんな力が……?」
後藤は、少なくともつい三日前までは、魔法はてんでダメだった。
それがここ数日、市井と共に過ごすようになって以来、
別人のような魔力を発揮している。
しかし、昔から魔法も剣術もダメダメだった後藤を知っている、
中澤や保田には、男の言うことも信じがたかった。
「私の名前は尾城九龍。
ギザ皇国の宰相を務めさせて頂いている者です。お見知り置きを。」
市井は後藤に向かって囁いた。
「後藤を賭けるなんてそんなことできないよ。」
後藤が答える。
「別に良いよ。だって、市井ちゃんは絶対に私のために、
勝ってくれるもん。」
後藤がほほえむ。
「……わかった。頑張るよ。」
と市井は笑顔を返した。
- 67 名前:吟 投稿日:2001年05月12日(土)17時33分09秒
- 中澤が言う。
「わかった!その賭け、受けようやないか。
で、誰と誰が戦えば良いんや。」
中澤の問いかけに、
尾城はニヤリと笑い、言った。
「雑魚は連れてこないように伝えてありましたよね。
まずはテストだ。
ここにいる二十人の魔導師全員を倒して頂こう。
では、……グッドラック。」
言うと尾城はマントを翻し、次の瞬間姿を消していた。
同時に、魔導師達は魔法の詠唱を始めた。
「戦闘開始や!」
中澤は叫んだ。
- 68 名前:吟 投稿日:2001年05月13日(日)05時38分27秒
- 「メガホーク!!」
保田が幾つも斧を投げる。
一つ、二つ、三つと、
魔導師達に向かって飛んでゆき、当たる。
魔導師達は、次々と倒れてゆく。
「楽勝楽勝!!」
余裕の保田の元へ、敵の魔法による火炎弾が飛んでくる。
「圭ちゃん危ない!」
矢口が言うと保田はそれに気が付き、
火炎弾を避ける。
「フンッ!流石にこの数じゃ簡単にはいかないみたいね。」
そこへいつの間にやら呪文の詠唱を終えた中澤。
「圭坊!矢口!避けとりぃや!ライトニング!!」
中澤が言うと、敵達の周りを、
様々な色の光の霧のようなものが、覆う。
「……!」
しかし、魔導師達はあまり反応していない。
元々対した魔力を持っていなくても、
聖騎士にはなれるのだ。実際、中澤の魔力だって、
それほど優れているわけではなかった。
そんな中澤の放ったライトニングは、
光の魔法の中でも下位に属する魔法である。
魔法に抵抗のある魔導師には効くはずもない。
「……効いてないね。」
と保田。
「そんなヘボイ魔法じゃ無理だよっ。
魔法ってのは……こう使うの!」
言いながら矢口は、手を振りかざし、
詠唱をぶつぶつ呟く仕草を一瞬で済ませ、
敵の方へと向け、言った。。
「セクシービーム!!」
矢口の手から、まばゆい閃光が帯状に、
敵へ向けて飛んでゆく。
敵の中の一人の、体を貫いた。
あわれ標的にされた敵は、一瞬で絶命する。
「……すごいな……。さすが司祭さんは違うわ……。」
と中澤は、呆気にとられる。
- 69 名前:吟 投稿日:2001年05月13日(日)05時40分12秒
- でてくる魔法や技がわかりづらい、と言う方のために、
解説を作りました。よかったら見てください。
http://www.geocities.co.jp/MusicHall/5606/magic.html
- 70 名前:吟 投稿日:2001年05月15日(火)17時50分58秒
- 「アーメン。」
矢口は十字を切ると続けざまに、
「セクシービーム!セクシービィーム!」
セクシービームを連発。敵を次々と潰してゆく。
「……すごいね。市井も負けてらんないや。」
市井は言うと、刀を抜き、
敵に飛びかかっていった。
一人、二人、と斬る。
「あと三人!!」
中澤が言った。
「任せて!太陽風!!」
後藤が魔法を唱える。
光系と風系の複合魔法だ。
「ぐわぁぁぁぁ!」
「うわぁぁぁ!」
「あああぁぁ!」
残りの三人も、一気に絶命した。
「よし。」
と後藤。
「なんつー威力や……。」
中澤は半ば呆れ気味だ。
「ていうか裕ちゃんだけ何にもしてないよ?」
と保田。
「るっさいわ!!」
と中澤が返す。
「とにかくさっさと進もう。」
と矢口。
「奥にはもっと強いのが居るのかな?」
と後藤。
「多分ね……。」
と市井。
- 71 名前:吟 投稿日:2001年05月15日(火)17時52分42秒
- そのまま奥に進んでゆくと、
階段につく。五人はそれを上がり二回へ。
程なく、先ほどと同じくらいの大きさの部屋に出る。
「また、何か……いるね。」
と矢口。
奥からは、ゴリラの大群が現れた。
「辻!!なんでこんなとこにおんねん!!」
「違うでしょ……。」
お約束の中澤のボケに突っ込む矢口。
ゴリラたちは言う。
「てへてへ。うまそうづら。」
「てへてへ。やっちゃっていいづらか?」
それを聞いて中澤。
「やっぱ辻じゃん。てへてへって。」
「……。」
その頃ゼティマ城。本物の辻。
「へっくしょんっ!!」
「なんや?どうかしたんか?」
「う〜ん。なんか、今、辻、すっごい侮辱された気がする……。」
「ハァ……?」
所戻ってギザ領内砦。
「まぁ、辻に似ているモンスターを斬るのはいたたまれへんけど、
これも圭織のためや!覚悟せぇ!!」
「裕ちゃん辻にすっごく失礼だよソレ。」
「てへてへ。ブッコロヌづら!!」
ゴリラの大群が襲いかかってくる。
「へっ!雑魚ゴリが!」
- 72 名前:吟 投稿日:2001年05月15日(火)17時56分49秒
- ……五分後。
部屋の中のゴリラたちは一矢報いることも出来ず、
全滅していた。
「さ、行くで。」
「うん。」
中澤達は奥へと進んでいった。
中澤達が姿を消すと、
そこへ、尾城がどこからともなく現れた。
「……サンプルは揃った。クク……。楽しみだ。」
- 73 名前:吟 投稿日:2001年05月16日(水)01時05分58秒
- 「なんやここ……。随分広い部屋やな?」
中澤は言った。
「そうだね。それに、壁の材質とかも他と違う。大理石だよこれ。」
と市井。
「なんとなく、ボスが出そうな気配だね。」
と後藤。
「……ていうか、出てきたね。」
矢口。
奥の方から、何人もの人間がゾロゾロと現れた。
お姫様のようなヒラヒラのスカートを身に纏った茶髪の女。
白銀の鎧に身を包んだ金髪の女騎士。
皮鎧に身を包み東洋剣を持った黒髪の剣士。
やたらと大量に武器を仕込んでいるのかジャラジャラ音を立てながら歩く女騎士。
ローブの下に厚底靴を履いている司祭風の金髪の女。
「あれって……。」
と市井。
「まさか……。」
と保田。
「ウチら……。」
と後藤。
「だよね……。」
矢口。
「チッ。ふざけたことしてくれるやないかい。」
中澤。
そこへ再び、尾城が現れる。
「一人ずつ戦って頂きます。どちらかがギブアップするか死ぬまで戦う、
勝ち抜き戦です。そちらの出す順番は自由ですが、
こちらとしては、矢口、保田、中澤、後藤、市井の順番で出したいと思います。
強さはまぁ、あなた達とほぼ互角になっていると思います。試作品ですけれどね。」
「なんやねんこいつらは。」
「あなた達の戦いのデータを元に作り出したモンスターですよ。
本物と戦うのはちょうど良い実験になる。」
「ふざけよって……。」
- 74 名前:吟 投稿日:2001年05月16日(水)01時43分53秒
- 「どうしよう裕ちゃん。最初は矢口だって。誰が戦う?」
保田が問いかける。
中澤即答。
「ウチがいくわ。」
「変なことしないでよ……」
と本物矢口。
中澤が尾城に言う。
「ウチが行くわ。」
尾城が答える。
「そうか。じゃあ、行け。矢口。」
偽矢口と中澤が、それぞれ一歩ずつ前に出た。
中澤が剣を構えると、
偽矢口も杖を構える。
「行くで!」
中澤は剣を上段に振り上げ、
一気に偽矢口に向かって突進した。
「……ライトニング。」
偽矢口魔法を放つ。
「……クッ!」
光の霧が、中澤を包み込む。
「……う……う……。」
中澤の脳を激しい痛みが遅う。
「……大した威力やな。
偽物の癖に……。それならウチも……ライトニング!!」
中澤が魔法を放つ。しかし偽矢口は涼しげだ。
「……アカン。聞くわけないか……。」
続けて矢口が魔法を放つ。
「サンダーボルト!!」
どこからともなく電流が現れ、中澤を襲う。
「うご!」
なんとかガードするも、ダメージは大きい。
「チッ!これならどうや!」
……中澤の姿が、二つ、三つと増えてゆく。
- 75 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月16日(水)01時45分15秒
- 「残像剣!!」
中澤の幻影計七名が、
一気に偽矢口に斬りつける。
「!」
偽矢口はすんでのところでそれらを交わすが、
そこへ、本物の中澤。
「もらったっ!!」
偽矢口に斬るつける。
「キャァァッッ!!」
鮮血。偽矢口は倒れ込み、致命傷。
「勝負有り、やな。」
と中澤。しかしそんな中澤に、尾城は言う。
「その子達は、例えどんな傷を受けようとも、
絶対に降参しませんよ。とどめを刺してください。」
中澤はむっとする。
「なんやねんけったくそ悪いな。
まぁしゃーないわ。」
中澤は、改めて剣を振り上げ、
偽矢口の元へ。
「悪いな。圭織のためや。」
剣を振り下ろそうとする。
「……めて……。」
しかし、偽矢口が何か言っているのに気づき、手を止める。
「や……めて……。許して……。」
偽矢口は泣きながら、中澤を見上げる。
「……なんやねんな……。」
中澤は、やりずらそうに、剣をおろす。
「裕ちゃん……。」
血まみれの体で偽矢口は立ち上がり、
中澤に抱きつく。
「……。」
思わず中澤は言葉を失う。
「……裕ちゃん……。」
偽矢口は中澤の目を見つめた。
- 76 名前:吟 投稿日:2001年05月16日(水)01時46分32秒
- 「矢口!!」
中澤が、偽矢口をつい条件反射で抱きしめる。
「……セクシービーム!!」
偽矢口の腕から、閃光が飛ぶ。
中澤の体を貫く。
「……!!」
その場にドサッと倒れ込む中澤。
「くそ……やられたわ……。ウチの負けや……。」
尾城は呆れて言う。
「こんな罠仕掛ける方もアホですけど引っかかるあなたはもっとアホです。」
「バカ裕子。」
「アホ裕子。」
「何考えてんの?」
「何で後ろに本物が居るのに騙されんの?」
「ゴメン……。」
仲間達に次々と罵声を浴びせられる。
矢口が言う。
「一応回復魔法はかけたけど、暫くは動かない方がいいよ。」
「……。」
「全く。裕ちゃんがそこまでアホだとは思わなかったよ。」
矢口は言う。
「アホって……凹むわぁ……。」
「凹んでろアホ!」
どうにも、偽矢口に絆された中澤に対して、真剣に怒りを抱いている本物矢口。
「次は私が行くよ……。」
と、青筋だった表情で前に出る。
既に回復を済ませた偽矢口と、対峙。
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月16日(水)23時41分47秒
- 嗚呼、なかざー……
ワラタヨ
- 78 名前:吟 投稿日:2001年05月20日(日)16時53分09秒
- 「……セクシービーム!」
「セクシービーム!!」
勝負は突然始まった。
……そして、一瞬で終わった。
両者がほぼ同時にセクシービームを放ち、
衝突。瞬間、あたりは爆風で包まれた。
煙が立ちこめる。
その煙が散ったあとに残っていたのは、
本物の矢口の足下に倒れる、
偽矢口の姿であった。
「所詮偽物だね。」
- 79 名前:吟 投稿日:2001年05月20日(日)16時54分07秒
- 「……お見事です。
では、次は保田さんのコピーだ。」
偽保田が前に出る。
「……。」
偽保田は、無言で斧を構えた。
「行くよ。」
矢口は杖を構えると、
魔法の詠唱を始めた。
そこへ、保田が突っ込んでくる。
「アクセルターン!!」
……大きな斧が空を切る音がする。
次の瞬間、偽保田の後側に、
矢口は回り込んでいた。
「ライトボール!!」
杖の先から、光の球が飛ぶ。
「うが!」
偽保田の背中を直撃。
偽保田はその場に崩れ落ちる。
「……神よ。
不浄なる生物に、潔き死を……サンダーストーム!!」
部屋の中が暗くなる。
部屋中を、黒い霧が立ちこめる。
そして、凄まじい雷音と共に、閃光。
「!!」
……部屋が徐々に明るくなる。
偽保田は、黒コゲになっていた。
- 80 名前:吟 投稿日:2001年05月20日(日)16時56分10秒
- 尾城は両手を叩き、矢口をたたえる。
「素晴らしい!さすが司祭様だ。
……しかし、ゼティマ本国からは独立している、
教会の人間であるあなたが何故此処に?」
「……。」
「まぁいいでしょう。
次は……中澤さんの偽物ですか。
あまり期待できませんね……。」
「なんやて!!」
中澤が憤慨して立ち上がろうとするが、
市井達があわてて抑える。
「フ……。
まぁ矢口司祭様には、
どこぞの誰かさんのような、
城に訴えかける攻撃は通用しないのでしょうね……。」
- 81 名前:吟 投稿日:2001年05月20日(日)16時57分23秒
- 偽中澤が前に出てくる。
白銀の鎧に身を纏うその姿は、
中澤そのものだ。
矢口は動揺していた。
(そもそも……この偽物達……。)
矢口はライトニングの詠唱を始めた。
偽中澤が例によって飛びかかってくる。
それを、例によって交わし、
一瞬で後ろに回り込む。
(……攻撃のパターンが圭ちゃんの偽物と同じだ。
……そのへんはやっぱり作り物か……。)
矢口の頭の中を、ある考えが浮かぶ。
ライトニングの詠唱を辞め、
別の呪文へと切り替え、
バックステップで間合いを取る。
「おやおや。とどめが刺せたはずなのに。
どうなされたのかな?」
尾城が茶々を入れるが、
とりあえず矢口は無視する。
偽中澤は相変わらず、
ワンパターンに、突進してくる。
矢口はその攻撃から逃げ回り、
呪文を詠唱する。
「素晴らしいスピードだ、
しかし、逃げてばかりでは決着が付きませんよ?」
尾城がそういうのと同時に、
矢口は、地面の床のタイルの隙間に躓き、転ぶ。
「!!」
そこへ、中澤が大上段に剣を振り下ろしてくる。
「言わぬ事でなし。」
しかし、その瞬間、
矢口は杖を振りかざし、呪文を放った。
「ディスペル!!」
「!!」
偽中澤の体を、
六紡星状の光の筋が囲う。
「ァ……ァ……。」
スパークが起きる。
偽中澤はその場に倒れ込んだ。
光が消えると、そこには、
傷だらけの姿の、ギザ皇国の兵士の姿があった。
- 82 名前:吟 投稿日:2001年05月20日(日)16時58分34秒
- 「これは……!」
矢口が驚きの声を放つ。
「おやおや、バレてしまいましたか。」
言うと尾城は、指をパチンと鳴らす。
すると、先ほど矢口が倒した、
偽矢口、偽保田、それに、
先ほどから待機している、
偽市井、偽後藤の姿が、
ギザ兵の死体へと姿を変える。
在るものは目玉が飛び出し、
あるものは半分腐乱している。
「この技術は死体の有効活用の術として考えていたのですよ。
なかなかのものでしょう?
是非、実戦で試してみたかった。」
矢口の体が、震える。
とうてい信じられないようなことが、
目の前で起こったのだ。
いや、信じられないと言うよりはむしろ、
許せないことであろうか。
「……この人たちは!!」
「元、我が国の兵士です。
とは言っても、以前の戦いで戦死した兵士達ですが。
死してなお国のために役立つ。素晴らしいことではありませんか。」
「ふざけないで!!」
矢口は、怒りに我を忘れそうになりながらも、叫んだ。
「こんな……使者を冒涜するようなこと……。
許されるとでも思ってるの!?」
- 83 名前:吟 投稿日:2001年05月23日(水)01時58分58秒
- 「ふ……。あなたには何を言ってもわかりはしないでしょう。」
尾城は言った。
「そろそろ決着を付けますか。
さ、出てきてください。浜崎さん。」
「えっ!?」
尾城が言うと、奥から、女が三人出てきた。
金髪の派手な格好の女が一人。
尾城と同じ真っ赤なローブに身を纏った女が一人。
そして、後ろ手に腕を縛られた女、つまり飯田の三名だ。
三人の顔は、部屋が暗いのでよく見えないが、
顔見知りの飯田だけは、間違いがない。
「圭織!」
矢口が駆け寄ろうとするが、
そこへ尾城が回り込む。
「まだ飯田さんを帰すとは言っていないでしょう?」
「……。」
そこへ、中澤達が歩み寄ってきた。
「……どういうつもりや!」
「まぁいいでしょう。紹介します。
……飯田さんは、まぁよろしいとして。
そちらの二人。ローブを身に纏っている方が、
本国筆頭魔法剣士、大野愛果。
そして金髪の方が……。」
「あゆだとでも?」
矢口が言う。
「えぇ。」
そこへ保田が割ってはいる。
「嘘よ!あゆがこんなところにいる訳無い!
あゆは今病気で……。」
「そんなのデタラメですよ。
現に今、浜崎さんはここにいる。」
「そんなバカな……。」
「ご託は終わりだ。王女を渡してもらおう!」
言うなり尾城は手を振りかざすと、
その先からは衝撃波が放たれた。
矢口達が後ろへ吹っ飛ぶ。
「キャッ!」
「イタタタタ……。」
市井は起きあがりながら言った。
「とうとう本性を表したね!
後藤を渡したりはしない!!」
剣を構え、突っ込もうとする。
しかし、それを保田が止める。
「待って!!」
- 84 名前:吟 投稿日:2001年05月23日(水)01時59分58秒
- 「……な、何よ……?」
「アンタわかってんの?」
「何が……?」
「相手は浜崎あゆみよ!?いくらなんでも相手になるわけが……!」
「そんなこと言ってたって始まらないじゃない!」
「でも……わっ!」
二人が話しているところへ、光線が飛んでくるのを、かろうじて避ける。
大野という魔法剣士が放ったらしい。
「とにかく、紗耶香はあゆがどれだけ強いのかを知らないから……。」
「そんなこと……!」
そこへ、浜崎が駆け寄ってきた。
「……シャイニングストーム零式改バージョン1.2β!」
「術名長いっ!」
保田のツッコミもよそに、
浜崎の腕から閃光が飛ぶ。
「紗耶香!スピードは無いわ!避けるわよ!」
二人が避けると、閃光はそのまま天井にぶつかる。
瞬間、光る。部屋中が、真昼のようにあかるく、光。
そして凄まじい爆音が、その場にいる全員の耳をつんざく。
「うわ……!!」
保田達は思わずその場にかがみ込む。
保田は市井に匍匐前進で近寄り、囁いた。
「ね?まともにやたって勝てる相手じゃない。」
「う〜ん……。」
- 85 名前:吟 投稿日:2001年05月23日(水)02時20分19秒
- その頃、保田、市井と大分離れたところで、
中澤と矢口は話し込んでいた。
「どうする?」
「あゆは格上や。全員で束になってかかっても勝てるかわからへん。
まずはあの尾城とかいうヤツをふたりで倒すで。」
「うん。でも……。」
「なんや?」
「どこか引っかかるんだよね……。」
「なにがや?」
「……なんか……あゆのイメージと違うんだよな……。」
「はぁ?」
「……なんて言うのかな……。」
「あの魔法の威力を見たやろ?紛れもなくあの女は……!!」
「なんていうのかな……。」
表面だけで薄っぺらい。
そんな感覚であった。
矢口にしてみれば、先ほどの魔法。
シャイニングストーム零式改バージョン1.2βは、
それほどの魔力を伴ったものではないように感じられたのだ。
外見と、音だけが派手な、何やら……。
「偽物っぽいっていうか……。」
「はぁ?じゃああのあゆは……あれか?
さっきみたいに死体を再生して……。」
「うーん……。」
そこへ、尾城が駆け寄ってきた。
「何をしているのですか?ファイアボール!!」
炎の弾丸が飛ぶ。
「チッ!とにかくコイツをどうにかするで!」
中澤は剣を抜くと尾城に斬りかかった。
- 86 名前:吟 投稿日:2001年05月23日(水)02時59分19秒
- 孤立している後藤に、大野が斬りかかった。
「!!」
誤答はレイピアで大野の攻撃を受け止めると、斬り返す。
「プラズマスラスト!!」
剣先から飛ぶかまいたちが、大野へ襲いかかる。
「……。」
大野は無言でそれを避けると、反撃する。
「アシッドミスト!!」
毒霧が後藤を包み込む。
「!!」
後藤はおもいっきりそれを吸い込んでしまい、
むせかえる。
普通の人間なら大変危険だが、
なんとか、治癒の力を体に巡らせ、保つ。
「……ぐっ。ぁ……。」
そこへ、浜崎が魔法を放つ。
「ダイダロスフレアウェイブver7.5正式版!!」
爆音が、響く。後藤は爆風からかろうじて逃れる。
しかし、そこへ大野の斬撃。
「キャアアアッ!!」
直撃。鮮血が迸る。
「後藤!!」
保田と市井が、浜崎を追い掛けてやってくる。
「どうしたん?そんなもの?」
浜崎は言った。すごい声だ。
なんというか……石川ともまた違う、アニメ声。
「あゆって……変な声だね。」
「かわいい声だっては聞いてたけど……まさかこんな声とはね……。」
「どっから声出てるんだろうね……。」
「ま、美声では私にはおよばな……うわっ!!」
どうでもいい会話をしている保田に、浜崎が斬りつける。
それをかろうじて保田は避けた。
「圭ちゃん!危な……!」
「あぁっ!!!」
見事な連携だった。
浜崎の斬撃を避けたところに、大野が間髪を入れずに斬りつける。
保田はその場にしゃがみ込んでしまった。
「く……そ……。」
- 87 名前:吟 投稿日:2001年05月23日(水)03時00分41秒
- そこへ、矢口と中澤が駆け寄ってきた。
「……後藤と圭ちゃんを回復してあげて!」
「わかった。」
中澤と矢口は手分けして保田と後藤の回復に回る。
結局集団で団子になった。
そこへ、敵方三人集がやってくる。
「……五対三なのに囲まれちゃったよ……。」
「やっぱりあゆの指揮能力の高さや……。」
「カリスマだもんね……。支援効果+10%って感じ?」
「矢口……キナ臭い表現はやめな。」
「きゅーん……。」
尾城が言った。
「どうです?飯田さんと後藤王女を交換ということで手を打ちませんか?」
「ふざけるんやないで!お前等倒して、圭織もごっちんも連れて帰る!!」
「ほう……。我々……特にこの浜崎あゆみに勝てるとでもお思いですか……?」
「くっ……!!」
中澤は味方方に言った。
「……このままじゃラチがあかへん。
あの尾城っちゅうヤツが一番動きが鈍いし体力も無さそうや。
全員で集中攻撃してしとめるで……。」
「わかった。じゃあ、スピードのある市井と圭ちゃんが囮になる。」
「で、矢口のセクシービームとごっちんの何か魔法で仕留めるんや。
ウチは……残念やけど攻撃力では足手まといや。回復と盾役に回る。」
「おっ圭。」
「わかったよ……。圭ちゃん……。紗耶香……。頑張ってね。」
市井と保田が、尾城に向かって飛びかかった。
「ふっ。」
尾城がそれを避ける。
「今や矢口!」
「わかった!セクシー……!!」
そこへ浜崎が駆け寄る。
「天空風臨斬 天の型 壱式!」
浜崎が剣を思いっきり振りかぶる。
「矢口ぃ!!」
中澤が矢口の前に入り込む。
浜崎の斬撃が、中澤に入る。
「裕ちゃんっ!!」
「ウチは構うな!!撃てっ!!」
「っ……!!セク……キャァァッ!!」
- 88 名前:吟 投稿日:2001年05月23日(水)03時03分07秒
- 矢口の後ろに、大野が回り込んでいた。
袈裟懸けに斬りつけ、深い傷を負わせる。
矢口はその場に倒れ込んだ。
「っ……!!ウォーターガンッ!!」
後藤は大野に向けて魔法を放った。
後藤の指先から、水の弾丸が飛ぶ。
しかし大野は、それを魔力のシールドを張って防いでしまった。
更にそこへ、尾城がやってくる。
「甘いですね。食らいなさい!!」
尾城が口から炎をはき出す。
「キャァァァッ!!」
後藤は、炎に包み込まれ、再びその場に倒れ込んだ。
「後藤!!」
保田と市井が戻る。
そこへ浜崎が割ってはいる。
「どけぇぇぇぇっ!!!」
市井は思いっきり剣を振りかぶると、
力任せに斬りつけた。
「!!」
鈍い音がする。
市井の斬撃は、浜崎に直撃していた。
「え?」
意外な事態に市井は一瞬ポカンとする。
「クッ!」
浜崎は飛び退くと、市井達とは少し間をおいた場所へ逃げた。
尾城と大野はそれに続き、
急いで浜崎に回復魔法をかける。
「……後藤!!」
ともかくとして市井は、後藤の元へ駆け寄る。
保田もそれに続く。
「裕ちゃんっ!回復を!!」
中澤は矢口と後藤に回復魔法をかけた。
しかし、後藤も矢口もいつまでたっても回復しない。
「……アカン……。もう魔力がカラなんや……。」
「そんな……。」
- 89 名前:吟 投稿日:2001年05月23日(水)03時04分53秒
- 浜崎達三人は回復を済ませて、
ゆっくりと市井達に近づいてきた。
「ダメだ……。どうしようもない……。」
保田が珍しく弱音を吐いた。
「……ゆぅ……ちゃん……。」
「矢口!無理して喋るな!!」
「……大丈夫……。ハァ……。」
矢口は無理に、立ち上がった。
「……わかったんだよ……。
何かが変だと思ってたんだ……。」
「矢口!」
「……あの女……。あゆじゃない……。」
「あゆじゃないって……。」
「じゃあ誰なのよ?」
保田と中澤が問いつめる。
市井は浜崎達を凝視している。
「……わからない……。でも……。
さっき……裕ちゃん……。
あゆの攻撃をまともに食らったのに……。
……全然平気でしょ……?」
「アレ?そういえばそうやな?」
「そもそもあの人からは、大した魔力が感じられない……。」
「それって……。」
「偽あゆだよ……。
派手な外見や技の名前に騙されてたんだ……。」
「わかった!わかったから!もう喋るな!!」
ふいに市井がしゃべり出した。
「うん……。確かにおかしいよ。」
保田が尋ねる。
「紗耶香……。おかしいって?」
「さっき……市井の攻撃があゆにまともに入った……。
後藤がやられて……カッとなってて……。
ふつうなら絶対に当たらないような大振りだったのに……。」
「どういうことや?」
「つまり……。
今まで市井達は、あの中で一番弱いのが、
あの宰相の男の人だと思ってたからダメだったんだよ……。
一番弱いのは、あゆだったんだ……。」
「んなアホな……。でも……確かにそうかもしれへんな……。」
「じゃあ……。」
「あゆを集中攻撃するよ。
矢口が倒れてて裕ちゃんも魔法が使えないんじゃあ、
多分これが失敗したら終わりだけどね……。」
「……賭けてみるしかあらへんな……。」
三人はそれぞれ、武器を構えた。
- 90 名前:吟 投稿日:2001年05月23日(水)03時06分34秒
- 「ウチが。他の二人を抑える……。
頼んだで……。」
「わかった。」
「よろしくね……。」
中澤が、正面から突進して斬りかかった。
浜崎が反撃をする。
それを盾で軽く受け流す。
そこへ尾城と大野が攻撃を仕掛けてくる。
「バレバレや!!」
中澤はそれを大きく交わす。
その隙に、市井と保田は浜崎の懐へと飛び込んだ。
「シヴァトライアングル!」
「古蔭桐華斬!!」
「……キャアアアアッ!!!」
鮮血。二人の攻撃は、見事に決まった。
浜崎は吹き飛び、倒れる。
すくなくとも戦闘不能。
「……あ……浜崎!!」
尾城と大野が振り返る。
そこへ隙をついて中澤が大野に斬りつける。
「!!」
不意を付かれた大野の首にまともに入った斬撃。
首が吹っ飛ぶ。即死。
「……ウチかてうまくやりゃあこんなもんや……。ヘッ。」
尾城一人が残る。
「クッ!貴様等よくも……!」
突如、尾城は見当違いの方向へ走り出した。
「なんや……まさか……圭織ぃ!!」
全員、戦いに夢中ですっかり飯田のことを忘れていた。
尾城は懐からナイフを取り出し、飯田に組み付いた。
「お前等動くなよ!動いたらこいつの命は無い!!」
- 91 名前:吟 投稿日:2001年05月31日(木)19時04分39秒
- 三人の動きが止まった。
「……そうだ……おとなしくして居るんだ……。
……まさかコレを使うことになるとは思わなかったがな……。」
尾城はポケットから、なにやらカプセルのようなものを取り出した。
「……皇帝……。出番ですよ……。」
言いながら、カプセルを投げる。
「……!!」
あたりに煙が立ちこめたかと思うと、
一瞬で消える。
そして次の瞬間、
尾城の隣には一人の少女の姿があった。
「……。」
少女は焦点の定まらない瞳で突っ立っている。
「この娘……まさか……!」
中澤が言うと、少女は口を開いた。
「我ガ名ギザ皇国皇帝、倉木麻衣……。
愚カ物ニ死ヲ与フベク目覚メシ者ナリ……。」
口調には生気が無い。
倒れている浜崎が必死に声をあげるのが、
微かに聞こえた。
「……ま、麻衣……。ダ……ダメだ……。」
「……。」
中澤達は一瞬気を取られかけるが、
とりあえず無視する。
「普通の雰囲気やないな……。」
「でも圭織を助けないことには……。」
「……。」
言っていたときだった。
「デ……ディスペル……!」
矢口の声だ。
瞬間、辺りに光が立ちこめる。
すると、尾城の腕の中にいた飯田の姿が、
腐乱した死体へと変化する。
「……ソイツも偽物かっ!!」
中澤達は剣を構える。
すぐにでも飛びかかれる体制だ。
「矢口……がんばったんやな……。
もうエエで……。ゆっくり寝てろや……。」
尾城はそんな中澤の態度をあざ笑うかのような表情で、言う。
「もう……遅いのですよ……。
飯田さんは上の階に居ます。
しかしもう遅い。」
「遅いってどういうことよ!!」
市井が言ったが、答えはなかった。
尾城は手に持っていたナイフを、
己の胸に突き刺し、倒れ込んだ。
「っ……!?」
「ギザ皇国に栄光あれ……ぐふっ。」
尾城は果てた。
その場で立ち上がっているのは、
市井、保田、中澤、倉木だけとなった。
「圭織……まさか……もう……。」
保田は呟いた。
- 92 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月03日(日)16時00分08秒
- 「さやっ!圭坊っ!行くで!」
「松覇斬!」
「薪割りダイナミック!」
三人は一生に、倉木に向かって飛びかかった。
「……ダークレクイエム。」
倉木が呪文を唱えると、辺りを耳をつんざくような叫び声が包み込んだ。
「……うぅ……!」
「なんやねんこれは……。」
「……。」
三人は一生に耳を押さえ倒れ込む。
「……麻衣……ヤメろ……。ヤメるんだ……。」
浜崎は先ほどから叫び続けているが、誰の耳にも届いていない。
「……愚カ者ニ死ヲ……ダークスフィア……。」
炎が辺りを包み込む。砦は石造りであるにもかかわらず、
一瞬で火の海となった。
「……マズいで……。」
中澤は冷や汗をかいていた。
「松覇斬!桐覇斬!月覇斬!」
「デッドリースピン!」
保田と市井が波状攻撃を仕掛けるも、
倉木は次々にかわしてしまう。
中澤は隙をつこうと先ほどから機をうかがっているが、
全くタイミングが掴めない。
(マズいな……。このままじゃみんな消耗していくだけだ……。)
市井が焦りを抱き始めたときだった。
「グ……ガァァァァァァッ!」
倉木は突然、頭を抱え始めた。
「ぁぁぁぁぁぁ!!」
その場に倒れ込む。
「……なに?」
「どうなってるの……?」
市井達が呆然としていると、
倉木の元へ浜崎が歩み寄ってきた。
いつの間にか回復していたらしい。
「やっぱりダメなんだ……。麻衣の体がついていかない……。」
浜崎が言っている。
倉木はもがきにもがいた末、気絶してしまった。
辺りを包み込む炎が、一気に消えた。
- 93 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月03日(日)16時01分00秒
- 「やれやれ。やはり実験体ではこんなものですかね。」
何やら声が聞こえてきた。
……部屋の奥から、青いローブを身に纏った男が出てくる。
浜崎は男に向かって叫んだ。
「アンタいい加減にしいや!
これ以上麻衣を……!!」
「黙りなさい偽浜崎さん。」
「……っ!」
「朗報がありましてね……。
つい先ほど、見つけたのですよ……。
暗黒龍の血を引く娘をね……。」
「なんやて!」
「倉木さんは所詮本物の暗黒龍の子孫が見つかるまでの代用品。
倉木さんにはもう用はありません。もちろんあなたにも。
この場は後藤さんを頂いて帰らせて頂きます。
「小室っ!アンタ……!」
小室と呼ばれた男は、パチッと指を鳴らした。
- 94 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月03日(日)16時01分39秒
- 中澤は保田に耳打ちした。
「小室って……。」
「見たことはないけど間違いない……。
トゥルーキス王国国王の小室哲哉よ……。」
「そいつがなんでココに……。」
「さぁ?でも黒幕はどうやらあの人みたいね……。」
「……。」
- 95 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月03日(日)16時02分20秒
- 浜崎と小室、中澤と保田が話している間、
市井は、倒れている矢口と後藤の元へ行っていた。
「……二人とも大丈夫?」
「なんとか……。」
「……。」
矢口は返事をしない。
精神力を使い切って眠ってしまっているのだ。
「矢口……大丈夫かな。」
「多分……。」
後藤はなんとか答えているものの、
身動きが取れる状態でない。
「後藤……。アンタは絶対市井が守るから……。」
「市井ちゃん……。一緒に圭織を連れて帰ろうね……。」
- 96 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月03日(日)16時03分02秒
- 小室が指を鳴らすと、
瞬間、小室の隣へ女が現れた。
中澤と保田が驚きの声を上げる。
「あ、あんたまさか……。」
「なんでここに……。
ずっと眠っていたんじゃ……!!」
小室の隣に現れたのは、
ゼティマ王国第一王女、石川梨華だった。
小室が嬉しそうに語り始める。
「暗黒龍の血を引く娘をずっと探していました。
そしてそれがゼティマの王女だと知った私は、
まずその娘。に暗黒術を仕込むことから始めた。
彼女が暗黒龍の血を引く以上、
闇術を取得すること、そして、
闇術士ネットワークというモノに接続してくることは判りきっていた。
彼女がそれに接続してきたときに、
私は接触を試みました……。
たしか、『みそまぐろ』とか言うハンドルネームを名乗ったのかな?
正直毎日鳥肌が立ちましたよ。
この娘の闇術の資質。それはもう信じがたいほどだった。
さすがに暗黒龍の娘。
あっと言う間に、暗黒龍として覚醒するのに耐えうる器を持つ魔術師に成長した。
……倉木麻衣が失敗したのは、やはり暗黒龍の血を引いていないから、
と言うのも大きいのでしょうが、
まぁ、魔力の絶対量もこの石川梨華に遠く及ばなかったこともありますね。
ともかくとしてこの娘を最強の魔術師に育て上げた後は、
直接娘に取り入って、力を目覚めさせることだけだった。
しかし、そればっかりはネットワークを通じてでは出来ない。
と言うのも、暗黒龍覚醒の術方は、闇ネットワークのキャパを越えていましたからね。
彼女の体に直接アクセスするのには、
まぁちょっとした罠を使わせて頂きました。
彼女の周りで一番性格が荒れていて、
かつ精神状態がよろしく無かった者を、
獣化の術にかけた。確か……しゅう君だったかな?
ともかくとして、そのしゅう君に術をかけた人間を探り出す魔法、
を彼女に仕込んで、実行させた。
案の定彼女は、しゅう君の体に残された私の魔力の臭いを辿ってやってきた。
……私にむこうからアクセスしてきてくれるわけですから。
おいしいですよね。あとはもう簡単。
彼女の闇の力を覚醒させるべく直接力を送り込みました。
……そしてこの通りです。見事大成功ですね。
見事、暗黒龍は復活した。そして後私がやるべきことはたった一つ。
神龍の血を引く者……すなわち後藤真希、あなたを殺すことだけだ!」
言うなり小室はナイフを取り出し、
後藤に向けて投げつけた。
- 97 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月03日(日)16時03分35秒
- 「!!」
市井は立ち上がり、
後藤の体の寸前まで飛んできたナイフを刀で叩き落とした。
「……邪魔をしなさるな。」
小室は少しムッとすると、
瞬間移動をして市井と後藤の後ろに回り込んだ。
「危ない!」
保田が言うが、
市井の反応の早さは保田の想像の範疇を越えていた。
「させるかよっ!」
市井の剣撃小室の胴に入り、小室が吹っ飛ぶ。
「……痛っ……。」
「後藤には指一本触らせはしない!」
「ふ……とんだナイト様だ。仕方在りませんね。」
言うと小室は何やら呪文を唱えた。
瞬間、光の玉が後藤を包み込む。
「後藤!うわっ!」
市井が後藤に触れようとすると、
光の玉に弾かれる。
「……とりあえず王女を連れて帰らせて頂きます。
さぁ石川梨華、後藤真希、一緒に来るんだ。」
言うと、小室、石川、後藤の姿は消えた。
瞬間移動で帰ってしまったのだ。
「後藤ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
市井の叫びが辺りに響いた。
- 98 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月03日(日)16時21分58秒
- 残された中、立ち上がっているのは、市井、保田、中澤、浜崎。
倒れ込んでいるが生きているのが、矢口、倉木。
他の倒れている人間は全員死んでいる。
市井も、保田も、全員が、しばらく呆然としていた。
「……圭織!」
中澤がふと我に返る。
「圭織はどこや!ここにおらへんのか!?」
中澤が言っている所へ、
ちょうど奥から長身の女がやってきた。
……見た目的には、間違いなく飯田圭織だ。
「あぁ裕ちゃん……。」
圭織はのんきそうに言った。
「この圭織は……本物か?」
「多分ね……。術士の尾城はもう死んでいるんだから……。」
「ん?本物って何?」
「もうええわ圭織……。元気そうで良かった。」
「良くないよ!捕まってる間出てくるご飯超マズかったし!部屋汚いし!」
「……呆れる気にもなられへんな……。」
中澤も保田も、途方に暮れていた。
「……紗耶香は?」
「……。」
中澤と保田は市井の方を見る。
「……しばらくそっとしておいてあげましょう。」
……遠くからでもハッキリ判った。
市井は声を殺して、泣いていた。
「……ま、とりあえず圭織を連れて帰ろか……。
しばらく休んだら……な……。」
中澤が言っているのに割り込んで、保田が叫んだ。
「あ、裕ちゃんアレ!」
保田の指さす先。
浜崎が、倉木の肩を抱いて、出口へ出ていこうとしていた。
「……ほっとけや。別にどうすることめあらへん……。」
やがて二人の姿は消えた。
「後藤……絶対に守るって言ったのに……。
後藤……後藤……後藤……。」
市井は何度も、後藤の名前を呟いていた。
魔法のように、何度も何度も呟いていた。
涙はいつまで経っても枯れることはなかった。
- 99 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月03日(日)16時23分00秒
- 「麻衣……死なないでよ……。
ウチが絶対に助けてやるからな……。」
砦の外。浜崎は倉木の肩を抱いて、
ゆっくりと歩いていた。
「麻衣……。がんばって……。」
二人がしばらく歩くと、
目の前に一人の女が現れた。
「……こんな時に……!」
浜崎は片手を剣の部分にやった。
「麻衣……アンタはウチが守るからな……。」
二人の前にたった女は言った。
「どこに行くべか?」
二人の目の前に立っている女は、なっちだった。
「……どけ!
我が名はエイベックス帝国将軍浜崎あゆみ!
斬り捨てられたくなかったら……!」
「なっちは吟遊詩人だベさ。あゆの顔ぐらい知ってるべさ。」
「……くっ!
……どうするつもりだ!」
「……別にどうもしないべさ。
なっちには関係ないべさ。」
「……だったら……そこを通してください。
……皇帝が……麻衣が……危ないんです……。」
「わかったべさ。」
なっちは二人の進路から外れた。
そして続けざま、呪文を唱えた。
二人の傷が、わずかであるが、癒える。
以前倉木は気絶したままだが。
「……!」
浜崎が驚き目をまん丸にする。
「がんばってその娘を助けるべさ。」
「……感謝します。」
浜崎は再び歩き始めた。
「待つべさ!」
浜崎と倉木の動きが止まる。
「偽あゆさん。アンタの名前は?」
偽あゆは口を開いた。
「ギザ皇国王女、愛内里菜です。」
「……覚えておくべさ。」
愛内はコクリと頷くと、
再び、歩き出した。
なっちがその二人の姿を追うことはなかった。
- 100 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月04日(月)15時32分06秒
- 「お帰りなさい。小室様。」
トゥルーキス王国将軍吉田アサミが小室を迎えた。
「……石川梨華と後藤真希を連れてこられたのですね。」
「あぁ。後藤は殺す。とりあえず牢屋に入れておいてくれ。」
「了解致しました。」
気絶している後藤を、
吉田は受け取ると、そのまま地下へと連れて行った。
「素晴らしい世界が待っているぞ……。
なぁ、石川梨華……。」
石川の顔には、一切の表情がなかった。
「ん……ここは……。」
「お目覚めですね。後藤真希さん。」
後藤は自分が不自然な体制を取っていることに気がつく。
両腕が鎖で壁にくくられているのだ。
後藤が顔を上げると、
目の前に、小室の姿があった。
「抵抗しようとしても無駄ですよ?
その鎖は魔力でコーティングしてある。」
「……。」
「どうしてこんなことをするのかとでも言いたげですね?
では教えてあげましょう。」
小室が語り始めた。
(別に聞いてないのに……。
この人多分説明するの好きなんだろうな……。)
ピンチの割に、後藤はおづでもいいことを考えている。
「かつて……気の遠くなるほど昔の話です。
この世界を全て怖そうと考えた、一頭の龍がいた。
この龍は暗黒龍と呼ばれ、人から恐れられた。
暗黒龍は強大な力を付け、暴れ回った。
世界は本当に破滅寸前まで追いやられた。
そんな中、ある一頭の龍が現れた。
この龍は暗黒龍を上回る強大な力を付け、暗黒龍を打ち破った。
暗黒龍を倒した龍は、人々から神龍と呼ばれ、崇められるようになった。
だが、時が経つに連れて、暗黒龍と神龍の伝説は忘れ去られた。
だが、私はとある予言書を昔入手しましてね。
その中にはこう書かれていた。
『暗黒龍、神龍にはそれぞれ人間との間に出来た子供、
そいてそれの血を引いた子孫が居る。
どちらの子孫も、普通の人間として暮らし、
やがて自分たちの血の宿命も忘れ去るだろう。
だが、確実に力は受け継がれてゆく。
神龍の血を引き下のが力に目覚めれば、その者は英雄となるだろう。
暗黒龍の血を引き下のが力に目覚めれば、世界は破滅するだろう。
目覚めし神龍を倒せるのは暗黒龍だけ。
目覚めし暗黒龍を倒せるのは神龍だけ。』
……わかりますか?今、この世界で、暗黒龍の子孫、
石川梨華を倒せるのはあなただけなのです。
つまり、あなたが神龍として目覚める前に、
あなたを殺してしまえば、石川梨華を倒せる者は居ないのです。」
- 101 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月04日(月)15時33分42秒
- 「……。」
「悪いがあなたには死んでもらう。」
「何言ってるのよ!それに私にだって親や姉弟はいるわ!
私を殺したって誰かが必ず……!」
「無駄です。神龍の能力は一子相伝。
姉弟達は強い力を持つことはあっても、
龍の力に目覚めることは出来ない。」
「……。」
「それにあなたの両親で神龍の血を引いているのは父親の方だ。
あなたのお父さんは既に死んでしまっているでしょう?」
「……。」
後藤の父親は、一年ほど前に事故死している。
「つまり、あなたを殺せば、私の計画は完璧な物になるのです。
さぁ、お話はこれまでだ。死んでもらおう!」
言うと小室はナイフを取り出した。
「死ねっ!」
小室がナイフで後藤に斬りかかる。
「!」
しかし、パキンと言う音と共に、
ナイフが折れてしまう。
「なんだと?これならどうだ!クロウエクステンド!」
小室の拳を黒い霧が覆ったかと思うと、
鋭い爪となって具現化される。
「くらえ!」
小室は爪で後藤に斬ってかかった。
しかし、爪は後藤に触れる寸前で消えてしまう。
- 102 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月04日(月)15時34分12秒
- 「何故だ……まさか……。
この女も既に神龍として目覚めているというのか……。」
後藤は小室を睨み付けていった。
「私は絶対に殺されたりしない!
あんたの思うようになんてならないんだから!
今だって、市井ちゃんが絶対に助けてきてくれる……!」
後藤の言葉を聞いて、小室がハッとする。
「……そうか。あなたは既に神龍として目覚めている。
こうなれば私には殺すことも出来ない……。
だが、どうやらあなたが神龍に目覚めた原因は……。
そうか……、なるほど……。」
「……何よ。」
「……石川梨華が暗黒龍に目覚めたのは私の魔力による刺激を受けたから。
だが、あなたが神龍の力に目覚めた……それは、
市井紗耶香との出会いによるものだった。」
「?」
「あなたが市井に抱く下らない恋心によって、神龍は目覚めてしまった。
ならば、その市井紗耶香をあなたの目の前で殺してしまえば、
あなたから神龍の力は消え去る……。」
「なんですって!」
「……市井さんをここに呼び寄せましょう……。
そうしてあなたの目の前で殺す。それからあなたも、殺す。」
「……。」
後藤はしばらく考え込んだ末に、言った。
「やれるもんならやってみなさいよ!
市井ちゃんはかならずここに来て、あんたをぶっ倒して、私を助けてくれる!」
小室はニヤリと笑った。
「……話はおおかた纏まったようですね……。」
- 103 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月04日(月)15時34分45秒
- 「あぁ!中澤さん帰ってきたんですね!
大変です!王女が……梨華王女が居ないんです!
何故か部屋には鈴音さんと麻美ちゃんが倒れてて……!
って、みんな凄い傷じゃないですか!
早く手当を頼まないと……!
あ、飯田さんも居る!戻ってこられたんですね!
良かった!どうなることかと……。
飯田さん妙に元気そうですね?
まぁいいや!とにかく王女が王女が王女が……!
ってそっちに行ってたはずの真希王女は!?
なんで居ないんですか!?
ねぇ、どうなってるんですか中澤さん!!」
城に帰った市井、保田、中澤、矢口、飯田を、
吉澤が迎える。
「吉澤……あんまり大声ださんといて……。頭痛いわ……。」
「矢口がちょっと危ないわ……。
早く回復しないといけないから、
小湊さんを読んできて頂戴。」
「小湊だけで足りるかぁ!稲葉と大木と北上も呼んでこい!」
「は、はい!わかりました!でも真希……。」
「事情はあとで説明するわ!
こっちはメチャメチャ疲れとるんじゃ!」
「はい〜〜!!」
吉澤は急いで奥へと引っ込み、
回復魔法が使える者を呼びに行った。
「みんな大変そうだね〜。」
飯田がのんきそうに言う。
「……誰のせいでこうなったと思ってるんじゃい……。」
中澤も保田も、起こる気力がない。
「……。」
そして市井は、後藤のことが気がかりなのか、
先ほどから全く喋らない。
程なくして、吉澤が小湊達を呼んできて、
呪文フル回転で回復が行われた。
その後、ゼティマ城重臣全員が集まり、
先ほどの砦で在った、
ギザ皇国との戦いの件、
そして小室哲哉に操られている石川の件、
そしてさらわれた後藤の件が保田から説明された。
- 104 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月07日(木)16時40分56秒
- 「皇帝。小室殿が……。」
五十嵐充は言った。
「……動きだしやがったか。まさかつんくが連れてきた女が暗黒龍の娘だったとは……。
俺としたことが不覚だった……。あの場で殺しておけば……。」
松浦は苛立つ。
「……トゥルーキス王国はゼティマに攻め込むとの事。
援軍の要請が来ていますが如何なさいますか。」
「とりあえず保留しておけ。
どうであれトゥルーキスに付く気はないが、
動く時期を間違えたらエイベックスは全滅だ。
……最も、世界そのものも終わってしまえば、
エイベックスがどうこうは関係がないが……。」
「了解致しました。」
「つんくの術を説いて国に返してやれ。
ゼティマには少しでも時間を稼いでもらう。」
「はっ。……dreamはどう致しますか。」
「今の実力で小室に挑ませても無駄死にするだけだ。待機させておけ。
……ていうか多分俺たち死ぬな。」
「……。」
「唯一の希望である神龍の娘が小室の手の中とあっては、
もはや打つ手はない……。
せめて術者である小室を殺せば……と思っていたがな。
今エイベックスに小室と戦える人間は居ない……。
暗黒龍の娘がそう簡単に見つけられるはずがないとタカをくくっていたのが失敗だった。
……なぁ。dreamの三人の才能はすごいものだったよ。
あと一年か二年もあれば、
あるいは小室を殺すことが出来るようになっていたかもしれない。
だが、時間がなかった。」
松浦は珍しく弱気そうに、言った。
「……あと少し時間があれば……。」
- 105 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月07日(木)16時41分59秒
- 相変わらず、つんくはdreamの三人の稽古を付けていた。
その部屋へ、五十嵐が入ってきて、
つんくに話しかける。
「つんく様。
本国にトゥルーキスの軍隊が進軍中です。
すぐさまお帰り下さいませ。」
「はぁ?本国?一体何の……。」
五十嵐はつんくの前でパッと手をかざした。
瞬間、つんくの表情が変わる。
「え、えらいこっちゃ!早くかえらな!!」
「馬車を用意してあります。」
「おおきに!」
つんくは、大急ぎで外へ出ていった。
五十嵐は、そんなつんくの姿を見送ると、
部屋から去ろうとした。
そこへ、三人がやってくる。
「五十嵐さん……。」
「今のは……。」
五十嵐は言った。
「……事情を説明していたら長くなります。
どうであれ、近い内に我が国とトゥルーキスで戦争が起こるでしょう。
覚悟して於いてください。」
「……はぁ。」
「わかりました……。」
三人は不思議そうな顔をしている。
五十嵐は確実な死の予感、
そして世界の破滅の予感を感じ取っていた。
しかし歳端もゆかない娘に、
そのようなことを話す気にはなれなかった。
(……死……か。)
- 106 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月07日(木)16時43分10秒
- 「兄ちゃん飛ばしてな!
急いでもどらなあかん!」
つんくが馬車に乗り込むと、
馬車はいきなり猛スピードで走り出した。
ゼティマへと向けて、
限界に近いスピードで馬車は走った。
しかし三十分ほど走ったであろうか。
馬車が突然止まる。
「……なんや?どうしたんや?急いで……。」
つんくが御者に話しかけようとしたときだった。
馬車の中に、突然、男が二人、入り込んできた。
「なんやお前等!」
二人の男は、つんくよりは年上といった感じだろうか。
少し太めの長髪の男と、サングラスを身に纏った痩せた男だった。
「ゼティマには帰らせませんよ。」
「つんくさん。あなたにはココで死んでもらう。」
二人の男は言った。
「な、何者やお前等!
さてはトゥルーキスの……!」
「あんたは知らなくて良いことだ。」
「よせ……!よせーっ……!!」
つんくの叫び声が辺りに響いた。
しかし人気のないところだったため、
二人組とつんくを除いて、
その叫び声を聞く者は居なかった。
エイベックスが用意した馬車の馬と御者の死体が、
辺りに転がっていた。
- 107 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月07日(木)16時44分28秒
- 中澤達が後藤と石川の話をし終わり、
全員が黙り込んでしばらく経ったところだった。
一人の兵士が、円卓の間へ走り入り、言った。
「はたけ様!トゥルーキス王国の軍団がこの城に向かって進軍中!
既に東方国境警備隊は全滅!国境を突破されたとのことです!!」
「なんだって!」
「さらに!南方からはギザ皇国の兵部隊が、
大量に押し寄せている模様!こちらも南部国境は全滅!突破されました!」
「畜生!来やがったか!!」
まことは立ち上がった。
「全軍出撃だ!迎え撃つぞ!」
「……いちおう何部隊かはここに残しておこう。」
はたけが言う。まことは振り返り、言った。
「……何故だ!?北方は高い山に囲まれているから東芝帝国が攻めてくることはあり得ない!
西方のエイベックスは……。」
同盟国だ、と言おうとした。しかし、はたけの目を見て、まことは察した。
「つんくがずっとエイベックスに言ったきり戻ってこない。
……まさかとは思うが……エイベックスがトゥルーキスとグルだと言うことも。」
「……考えられなくはないな。」
たいせーが指示を出した。
「重騎士団、魔法騎士団、衛騎士団を除いた全騎士団は、
出撃し、トゥルーキスとギザを迎え撃ってくれ!」
「了解!」
「わかりました!」
保田達は、一斉に外へ出ていった。
「わ、私……教会に戻って、
司祭領の人間を連れて援軍に来ます!」
矢口は言った。
「あぁ。頼んだで。」
中澤は言った。
- 108 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月07日(木)16時45分02秒
- 兵士が続ける。
「それと……トゥルーキスから書状が来ています。」
書状にはこう書いてあった。
「後藤真希を返して欲しければ、
市井紗耶香一人でトゥルーキス城へ来い。」
中澤は困惑した。
「……なんで紗耶香が!?」
しかし市井はすぐさま言った。
「行って来るよ!」
「でも……敵の城に単身で乗り込むなんて……。」
「後藤は市井のせいでさらわれたんだ!
市井が絶対に助け出す!!」
市井の強い態度に、中澤は折れた。
「しゃあないな……。
城までたどり着けるかもわからんけど、行ってきな。」
市井は頷いた。その瞬間だった。
「……!?」
市井の体が、青いもやに包まれた。
「……どうやらむこうさんがご招待してくれるみたいだね。」
「……紗耶香……。死ぬんやないで。」
「……もちろん。」
市井はにっこり笑った。瞬間、市井の姿と青いもやは消えた。
ともかくとして、ゼティマ史上に残る、
大戦争が始まった。
- 109 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年06月07日(木)16時46分37秒
- 東方へ出陣
斧騎士団 保田
弓騎士団 柴田、大谷、村田、斉藤
業天団 まこと、たいせー
南方へ出陣
軽騎士団 吉澤
槍騎士団 飯田
聖騎士団 中澤、稲葉、北上、大木
城で待機
魔法騎士団 ルル
衛騎士団 小湊
重騎士団 信田
剣騎士団 はたけ
非戦闘員 辻、加護
ゼティマへ援軍
司祭団 矢口
何故かいつの間にかギザ領内に
吟遊詩人 安倍
単身トゥルーキス城へ
剣闘士 市井
- 110 名前:雪男 投稿日:2001年06月16日(土)21時58分16秒
- 最初っから見ました。
次の更新はいつになるんでしょうか?楽しみにしてます。
- 111 名前:吟 投稿日:2001年06月23日(土)04時56分23秒
- >>110
最初っから見たんですか……。
凄いです。自分もビックリする。(笑
ともかく更新なわけですけれども。もう少し頻繁に書ければいいのですが、
時間がない上に最近はスランプ気味でして。
……頑張ります
- 112 名前:吟 投稿日:2001年06月23日(土)04時57分49秒
- ゼティマ城城門前。
各部隊が集まっている。
その先頭に経つのは、飯田圭織。
馬上の飯田は、
ただ、遠くを見つめている。
そこへ、辻が駆け寄ってきた。
馬上の飯田を見上げる。
「いいらさん……。」
「辻……。」
二人が同居し始めてから、二年が経とうとしていた。
二人は互いに、かけがえのない存在だった。
「また……戦いに行くんだよね……。」
辻は、飯田がギザに捕らわれていたこと。
命の危険にさらされていたことを、未だ知らない。
「せっかく帰ってきたのにまた行っちゃうんだ……。
寂しいよ……。」
辻は、目に涙を浮かべている。
飯田は、そんな辻の顔をみやると、
おもむろに馬から下りた。
辻の頭をなでて、言う。
「大丈夫だよ辻。すぐに戻ってくるから。」
飯田に言われた瞬間。
辻はワッと泣き出す。
「……ぜったい、ぜったいに戻ってきてね……!」
「辻……。」
人目もはばからず、辻は泣いていた。
飯田はいつまでも、そんな辻の傍で、
困った顔を浮かべて立ちつくすばかりだった。
ただ、出陣のギリギリまで、辻の傍に居ようと思った。
飯田は生まれて始めて、戦争に出かけたくないと思った。
- 113 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月23日(土)05時10分27秒
- 同じ頃。同じく城門前。少し離れたところだった。
保田と中澤は馬上にまたがって、
目を合わせずに会話していた。
「なぁ圭坊。今度の戦い。ウチらは死ぬかもしれへん。」
「……わかってるよ。」
「……怖ないか?」
「……別に。慣れてるし。」
「そうか……。」
「……。」
「勝つで……。ウチらはまだ死ぬワケには行かへん。」
「わかってるよ……。
先程から、明らかに保田は機嫌が悪かった。
(……ウチも圭坊も気付いとる……。ウチらに助かる目は無い……。それでも……。)
中澤は口を開いた。
「紗耶香が……なんとかしてくれる。」
保田の方が小刻みに震えた。中澤の方を勢いよく向き、
語気を荒立てて、言う。
「裕ちゃん……。私はっ!私はっ!
……悔しいよ!私だってトゥルーキスに行きたい!
紗耶香と後藤を助けたい!
でも、出来ないんだ!このままじゃ、
私も、みんなも、死んじゃうのに!何にも出来ない!」
「……。」
中澤は顔を落とし、ため息をついた。
再び顔を上げ、保田の顔を見据えて、言う。
「何にもできないことあるかいな。
今は、全力でトゥルーキスの軍隊と戦うんや。
……それが、今のウチらの唯一の、最大の使命なんやから。」
「……。」
「……圭坊。死ぬんやないで。」
中澤は馬の腹を蹴って、城門の前の方へと駆けていった。
そこへちょうど、柴田と村田が馬に乗って駆け寄ってくる。
柴田が保田に言った。
「保田さん。弓騎士団、メロン集結しました。
まことさんとたいせーさんの容易もOKです。」
保田は言う。
「わかったわ。業天団、斧騎士団、弓騎士団、出陣よ!」
番兵が笛を鳴らした。二部隊は、一気に駆けだした。
少し遅れて、まこととたいせーが走って続き、
騎士達は東へ向かった。
- 114 名前:吟 投稿日:2001年06月23日(土)05時14分38秒
- 地下牢。
しゅうは相変わらず、牢内に居た。
日に日に爪は硬化し、体中の毛が濃くなってきていた。
そこへ、コツコツと石階段を歩く足音。
地下牢前で見張っていた平氏に二言三言話しかけた後、
牢屋の中をのぞき込む。
……はたけだ。
はたけは哀れそうな顔で、しゅうを見つめていた。
ぼそっとはたけは呟く。
「……なんでこんなことになっちまったんだろうな。」
「……。」
しゅうがはたけの問いに答えることは無かった。
「……しゅう。お前は純粋に強さを求めていた。
それがたった一度の敗北で、心に隙を作ってしまったんだ。
……なぁ、しゅう。俺は今でもお前を大切な仲間だと思っているんだ。」
はたけはしゅうに話しかけたが、
相変わらず返事はなかった。
地下室の壁はただ冷たかった。
- 115 名前:吟 投稿日:2001年06月29日(金)23時34分58秒
- ゼティマ王城から少し東へ行ったところには、
既にトゥルーキス王国の軍隊が押し寄せていた。
剣士団を主流とした軍勢は、
総力を尽くしてゼティマへと攻め入って居ている。
保田は一人呟いた。
「向こうの数は1500人ってトコね……。
こっちは……斧騎士団と弓騎士団をあわせて200人か。
……勝てるわけないか……。」
保田は馬を走らせたまま、ゆっくりと目を閉じた。
「この身体……国の為に捨ててやるわ……!」
保田はその大きな瞳を一気に見開いた。
馬の腹を思いっきり蹴飛ばす。
馬は一気に速度を上げ、
保田は斧騎士団から一騎抜け出す。
他の斧騎士団員が、驚き、団長を諫めようとするが、
聞かず、ただ、突っ込む。
保田の目は、トゥルーキスの軍勢だけを見据えていた。
「我が名はゼティマ王国斧騎士団団長保田圭!
死にたい奴はかかってきなさい!」
保田は単騎で敵の群衆に飛び込んでいった。
他の斧騎士団達がそれに続くが、とうてい追いつかない。
トゥルーキスの兵士達は、単騎で突っ込んできた一人の騎士の、
首を取ろうと一気に群がってくる。
「やぁっ!」
騎馬が、空高く飛び上がる。
「スカイドライブ!!」
下りがけに、一気にトゥルーキスの兵士達に斬りかかった。
たまたま、保田が降り立つ場所にいた敵兵が、
激しく血を吹き出し、倒れる。
「うらうらうらうらうら!!」
保田は次々と、見境無く、敵兵を斬りつけていった。
二度か、三度、敵達の斬撃は保田に確かに命中していた。
しかし、それでも構わず、一人一人、確実に、斬っていった。
その場に、十、二十、三十と、
剣士の死体が転がってゆく。
「はぁぁぁぁっっ!!!」
斧で敵を切り裂き、たたきつぶす。
懐からナイフと取り出し、投げつける。
背中に斬りつけてくる敵の剣を、
背中に背負った刀で受け止め、斬り返す。
そう思えば、前から斬りつけてくる剣士の剣を強引に奪い、切り返しす。
保田の身体は、幾十もの敵兵の血に、黒く染まっていった。
そうこうしているうちに、保田自身、今、
自分が何をしているのか、何のために戦っているのかを、忘れそうになった。
- 116 名前:吟 投稿日:2001年06月29日(金)23時35分53秒
- 「団長ー!!」
かなり遅れて、斧騎士団の他のメンツ、
そして、弓騎士団がやってきた。
村田が、弓騎士団に指示を出す。
「撃て!!」
斧騎士団達が、一斉に敵兵の元へ突っ込む。
弓騎士団の放つ矢が、幾百本も飛びゆく。
敵の剣士達がバタバタと倒れてゆく。
「……おかしい。」
斉藤が言った。
「どういうこと?」
村田が斉藤に尋ねる。
「……これだけの兵隊が要るのに、
リーダーらしい奴が居ない。
事実、数では圧倒的に勝る敵さんたちが、
こんなに弱い。」
「……後方で指示を出しているんじゃないの?」
「でも……トゥルーキス王国の兵隊は……。
確かに剣士も強い国だけど。
剣士と、魔術師、両面において優れた、
そんな部隊だったはず。でも……。」
「魔導師達はちょっとしか居ないわね。」
二人が話しているところへ、柴田がやってくる。
「……それってどういうことですか。」
村田は言った。
「わかりきってること。
……後援が来る。」
- 117 名前:吟 投稿日:2001年06月29日(金)23時36分15秒
- 聖騎士団、軽騎士団、槍騎士団と、
ギザ皇国軍残党は、ゼティマ国境を少し突破した、
例の、ラーメンアヤカ亭近く、
以前、愛内里菜率いる魔導師団と軽騎士団、槍騎士団が激突したところで、
再度、戦っていた。
ギザ軍残党を率いるのは、
皇帝倉木麻衣の行方不明により急遽全軍を率いることになった、
宰相、小松未歩だった。
「……。」
行軍の最後方で、
中澤は黙りこくっていた。
既に、両軍は激突し、前方では激しい戦いが行われている。
「……。」
中澤は、ただひたすら黙っていた。
数の上では、300対500。それほどの大差ではなかった。
しかし、どうにも相性が悪い。
ゼティマ騎士団は全体的に魔力が低いため、
魔導師団相手の戦いはどうしても苦しくなるのだ。
まして、聖騎士団の大木と北上にとっては、
これが初陣であったし、
吉澤だって、実際に洗浄に出るのは先日の戦い以来二度目だ。
状況は見かけよりも遙かにまずかった。
- 118 名前:吟 投稿日:2001年06月29日(金)23時37分06秒
- ラーメンアヤカ亭店内。
昼間だが、客は居ない。
居るのは、アヤカと、ミカだけだ。
「アヤカ。なんか外がうるさいんだけど。」
ミカは言った。
アヤカは不機嫌そうに、答える。
「外でまた戦争やってんでしょ。
ったく。客足が遠のく。」
「……いいの?ほうっておいて。」
「うちらには関係ないでしょ。」
「……。」
「ここを誰が治めようが、
ラーメン屋さえ続けていければ関係ないし。」
「……。」
店内を、沈黙が遅う。
十秒、二十秒、黙り込む。
不意に、一声。
「GAHHHHH!!!」
ダニエルの大声が聞こえてきた。
「何!?」
「外!!」
ミカとアヤカは、玄関の外へ飛び出した。
……外へ出た。
……玄関先からすぐ見える位置に、
……ダニエルは倒れ込んでいた。
……横たわるダニエルの身体の周りには、
元々は束ねてあったはずが、バラバラになった薪が散らばっている。
そして、その、薪は、どれもが、黒く、染まっていた。
横たわる、ダニエルの、身体からは、おびただしい、量の、
血が、流れ出ていた。
「ダニエル!!」
アヤカとミカは、ダニエルの身体へと駆け寄った。
- 119 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月01日(日)08時33分46秒
- 今日はじめて読みました。
長いですね〜作者さん大変でしょうが、頑張ってください
戦争って悲惨だよな〜
続きがなるな〜
- 120 名前:パク@紹介人 投稿日:2001年07月19日(木)20時33分16秒
- こちらの小説を「小説紹介スレ@黄板」↓に紹介します。
http://www.ah.wakwak.com/cgi/hilight.cgi?dir=yellow&thp=995445727&ls=25
- 121 名前:吟ちゃむ 投稿日:2001年07月23日(月)15時24分17秒
- アヤカがダニエルの身体を抱きかかえる。
「お、重い……。まぁいいわ、ダニエル!どうしたの!」
「monster...」
「モンスター?モンスターがどうしたの!?」
アヤカが聞き返した時だった。
「フッサーリ♪」
「フッサーリ♪」
声が聞こえてきた。
「何!?」
アヤカとミカは声の方を見やり、構える。
その先には、毛並みのふさふさした猫が二匹。
「アンタ達は!フッサリーヌとフサギコ!!」
「ハニャーン♪」
「逝ってよし♪」
「アンタ達がダニエルを……!」
「ラーメンよこせだにゃーん!」
猫たちはアヤカに飛びかかった。
アヤカは腰元へ手をやる。
刀を抜こうとする。が、期待していた物が、無い。
「……しまった!武器が!」
武器は台所に於きっぱなしである。
そこへ、フッサリーヌとフサギコの爪が飛び込んでくる。
「……!」
「ヘルファイア!」
「ギャャー!!」
二匹の身体は、瞬間、黒い炎に包まれ、勢いよく燃え上がった。
「戦士ってのは武器がないと何にも出来ないんだから不便ね。」
そう、ミカが言った。
「……ふん。ありがと。それよりダニエルを奥まで運びましょう。レファー!」
アヤカは店の中のレファを呼ぶ。
「それにしても何であの魔物達は……。
この辺りの魔物は大人しいハズなのに……。」
ミカは呟いた。
ともかくとして、レファが出てきたところで、
三人がかりでようやく、ダニエルを中へ運び込み、ベッドへ寝かせることが出来た。
- 122 名前:吟ちゃむ 投稿日:2001年07月23日(月)15時24分50秒
「まったくあいつら……。馬に乗ってるからってさっさと行きやがって……。
歩きの俺たちのことも考えろってんだ……。」
走り、斧騎士団達を追い掛けながら、たいせーは言った。
「確かに。こういう場合全軍で固まって移動するべきだ。
敵との激突。あいつらだけじゃ苦しいだろ。
全く、こういう時に機動力の少ない方に合わせるのは基本なのに。」
まことが答える。二人とも、相当な速さで走っているのだが、
さすがに馬には追いつかない。
たいせーは言った。
「特に保田は興奮しすぎだ。一人でつっこんじまってるみたいだ。」
「お前よくここからそんな遠く見えるな。」
「視力2.0だからな。」
「あのな。」
「ともかくさっさと追いつかないとな。」
「まぁな。」
二人は、相変わらず、走り続けている。
- 123 名前:吟ちゃむ 投稿日:2001年07月23日(月)15時27分19秒
- トゥルーキス軍。
剣騎士団と魔導師団が出陣していた。
ともかく、剣騎士団の剣士は、健脚ばかりである。
さっさと走っていってしまっていた。
隊長と、魔導師は、思いっきり取り残されてしまっていた。
軍の指揮を任せられていた久保こーじは、言った。
「なんなんだあいつらは!
俺の言うことも聞かずにさっさと行きやがって!」
どうにも、両軍、同じボケをかましていた。
この事が、後の戦況に大きな影響を与えるのであるが。
- 124 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月01日(水)03時52分38秒
- おっ!更新されていたとは。
作者さん頑張ってください、
最近更新されないので、どうしたのかな〜と思ってました。
期待してますよ〜。
- 125 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月13日(月)07時31分39秒
- 最初から今ココまで読み終わりました。素晴らしい…
今後の楽しみが増えました。
無理せず頑張ってください。ってのもなんかアレですが、
応援しています。
- 126 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月23日(木)17時50分31秒
- おもしろいですね〜いつまでも期待してます
- 127 名前:市後保 投稿日:2001年09月02日(日)00時05分04秒
- 小室が黒幕か…。せめて格好いい敗れ方(最期に市井を称えるとか)希望。
- 128 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年09月09日(日)05時11分53秒
- ゼティマ軍南方組とギザ皇国残党の戦いは、
熾烈を極めた末に、徐々に戦況はギザ側に有利になっていった。
元々、300対500だった戦力差は、
100対300となっていた。
つまり、死者の数自体は双方同じ200である。
しかし、頭数の比率は、
開戦時で1:1.7だったのが、
1:3になっている。
今後時間が経つに連れて、
徐々に不利になっていくのはあきらかであった。
「狂ってるね。本当に狂ってる。」
最前線で戦っていた北上は、
一度、後方に引き、休息を取っていた。
周りに誰が居るわけでもない。独り言だ。
自らに、回復魔法をかける。
またすぐに、前線に戻らなくてはならない。
「こんな戦況で勝てるとでも思ってるのか。ウチの団長は。」
誰も居ないのを良いことに、
上司の陰口をたたこうとも、気は全く晴れない。
「……はぁ。」
ため息を一つつくと、再び馬にまたがる。
「せぁッ!」
腹に蹴りを入れると、馬は一気に走り出した。
回復要因として後方に味方の兵をかき分けて、前線へ。
- 129 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年09月09日(日)05時12分46秒
- 「ゼティマ王国聖騎士団北上アミだ!
死にたい奴はかかってこい!!」
言いながら、敵の魔導師団に突っ込んでいく。
かかってきなさいと言う割には、
自らかかっていき、敵を切りまくる。
そんな北上に、魔導師達からの魔法攻撃が集中する。
聖騎士である北上は、
他の騎士達に比べて魔法防御力は高かったものの、
それでもこの攻撃はかなりこたえる。
「クッ……!!」
それでも北上は敵を斬り続けた。
自らの命を削りながら。
北上の周りに、軽騎士達が援護にやってくる。
しかし、魔法に抵抗力のない軽騎士団達は、
あっという間にやられてしまい、
あまり役だってはいない。
舌打ちを一つ。
依然として、勝機が見えてこない。
いや、元々そんなものに大した期待など抱いてはいないのだが。
- 130 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月09日(日)20時16分58秒
- やった〜。更新だ〜。
この日をどれだけ待ったことか。
作者さん、ゆっくりでもいいんで更新頑張ってください。
- 131 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年09月25日(火)07時04分30秒
- 「相方生きてるかね。本当に。」
独り言。相方……即ち大木衣吹のことが、
少し気にかかっていた。
大木も、北上同様初陣だったが、
歳は北上に比べて二つも下だ。
実際普段は、常にどこか、
北上に甘えているような感じの所があったため、不安だった。
魔術こそ北上よりは得意だったが
(と言うよりは北上が魔術が下手なだけなのだが)、
格闘のセンスはあまり良い方だとは言えなかった。
「無理してなきゃいいんだけど。」
言いながら、無理に突っ込んできた敵兵を切り落とした。
- 132 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年09月25日(火)07時05分15秒
- 二階には、市井と同じくらいの少女が居た。
異大陸の人間なのか、一応、言葉は通じているものの、
何を喋っているのかがわからなかった。
とりあえず、少女の名前は、「林(リン)」と言うらしかった。
林(リン)は市井と同じく、東洋製の刀の様なものを持っていた。
しかしその刀身は短く、大きく沿っていて、そして、重量感があった。
いわゆる、青龍刀と言う物だった。
「斬る」ことに重点を置いた東洋剣と、
「潰す」ことを重点に置いた西洋剣の、
良い所を取り合わせた感じの武器だった。
しかし、西洋剣並の重量を誇る得物を、
東洋剣の如く軽やかに扱うことは難しく、
扱い手を選ぶ武器であった。
そして林(リン)は、その武器を充分に使いこなせていなかった。
結局市井にとっては、
そんな半端な動きはすぐに見切れてしまったため、
あっさりと切り捨ててしまった。
敵とは言え、自分と同世代の少女を、
面と向かって何のためらいもなく殺せる市井の精神状態は、
これといって、小室やら後藤やらが演出しているものではなく、
元々のものであった。
市井の人生そのものが作りだした精神状態であると言えるかもしれない。
- 133 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年09月25日(火)07時06分34秒
- 二階目を終えた所で、
市井には塔の構成も大分理解できてきた。
一つの階に一人の敵。
そして五階に行くか、
あるいは五階の敵を倒した時、
小室、そして後藤と石川が姿を表わすのだ、と言うことに。
あと二名、ないし三名、
これまでの二人に対する楽勝のパターンからも、
意外に簡単に小室に逢えるのではないかと、
そう思いながら三階への階段を昇った。
三階、そこには例によって人間が一人立っていた。
体格から市井は、
相手がまら、女であることを認識した。
近づいてゆくと、少しずつ女の姿が判ってゆく。
金属鎧の一部、胸当て、肩当てなどの防具を、
身体のそこらにすこしずつ付けていた。
中にはチュニックを纏い、
ジーンズを履いている。
明らかに、軽装備の戦士だった。
市井と少し似た仕様であると言える。
スピード重視の戦い方をする市井だからこそ、
鎧は金属ではなく革製の物が基本であったが。
- 134 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年09月25日(火)07時07分04秒
- 女の顔が見えた。
どこかで見覚えのある顔だった。
雰囲気から、やはりまた、
自分と同世代の女であるとわかった。
女は、すこしニヤついている。
市井と女の目があった。
「久しぶりね。」
先に口を開いたのは女だった。
市井は、その言葉の意味が捉えられなかった。
驚いた表情がこぼれる。
相手はそれを察し、言葉を続けた。
「二年ぶりだよね。市井紗耶香。
二年前小室様が開いた、
トゥルーキス王国の武闘大会以来。」
その言葉を聞いて、市井はハッとした。
と同時に、女が何物かであるかを認知した。
「あなたは……。」
市井は何かを言おうとして、辞めた。
「……。」
黙って、刀を抜いて、構えた。
今、目の前に居るのは、
確かに市井が知っている相手だった。
二年前、小室哲哉主催で行われた武闘大会で、
準決勝にて市井と激突、そして市井を破り、
そのまま優勝した戦士、鈴木あみだった。
- 135 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年09月25日(火)23時47分07秒
- 132の前に投稿漏れ
トゥルーキス城の城門は閉ざされたままだった。
しかしすぐ近くには、大きな塔が在った。
そしてその塔の扉は、開け放たれていた。
窓の数を数えて、その塔が五階建てであることを察知した。
ともかくとして市井は、塔の中に入った。
じめじめした空気。暗いフロア。僅かばかりの照明。
一階には、中年の男がいた。
男は「甲斐」と名乗った。
市井の得物を重量に於いて遙かに上回る大剣を振り回し、
市井に挑んできた。が、
小室に合うこと、後藤を助けることで頭が一杯だった市井に、
一太刀で切り捨てられた。
- 136 名前:吟遊詩人 投稿日:2001年09月25日(火)23時47分56秒
- 読む時の順番は
>>131
>>135
>>132-134
でおねがいします。
- 137 名前:パスカル 投稿日:2001年09月29日(土)15時57分18秒
- 最近読み始めたんですけど…
小説のスレがあちこちに飛んでて順番どおり読めないので
ストーリーが分かりません。
>>1の二番目のURLで飛んでくれないんです。
どういうつながりなのか、一度整理してもらえないでしょうか…
ストーリー自体は面白いので期待してます。
- 138 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月30日(日)02時52分49秒
- >>パスカル氏
一応,ここに行けば、シーン28までうpされてるよ。
http://www.geocities.co.jp/MusicHall/5606/saga.html
- 139 名前:パスカル 投稿日:2001年09月30日(日)16時25分49秒
- >>138
ありがとうございますー
シーン28の続きがここってことでいいんですか?
じっくり読ませてもらいます。
- 140 名前:パスカル 投稿日:2001年10月05日(金)10時21分16秒
- 読ませていただきました。
シーン28の次にもうワンステップあってその次にここでしたね。ちゃんと見つけました。
やっぱり僕的にはここの板ではRPGか恋愛モノがお気に入り。
続きに期待してます。
- 141 名前:パスカル 投稿日:2001年11月07日(水)21時47分14秒
- こーしんぷりーず!!!!!
- 142 名前:吟 投稿日:2001年11月16日(金)02時04分49秒
- 二階には、市井と同じくらいの少女が居た。
異大陸の人間なのか、一応、言葉は通じているものの、
何を喋っているのかがわからなかった。
とりあえず、少女の名前は、「林(リン)」と言うらしかった。
林(リン)は市井と同じく、東洋製の刀の様なものを持っていた。
しかしその刀身は短く、大きく沿っていて、そして、重量感があった。
いわゆる、青龍刀と言う物だった。
「斬る」ことに重点を置いた東洋剣と、
「潰す」ことを重点に置いた西洋剣の、
良い所を取り合わせた感じの武器だった。
しかし、西洋剣並の重量を誇る得物を、
東洋剣の如く軽やかに扱うことは難しく、
扱い手を選ぶ武器であった。
そして林(リン)は、その武器を充分に使いこなせていなかった。
結局市井にとっては、
そんな半端な動きはすぐに見切れてしまったため、
あっさりと切り捨ててしまった。
敵とは言え、自分と同世代の少女を、
面と向かって何のためらいもなく殺せる市井の精神状態は、
これといって、小室やら後藤やらが演出しているものではなく、
元々のものであった。
市井の人生そのものが作りだした精神状態であると言えるかもしれない。
- 143 名前:吟 投稿日:2001年11月16日(金)02時05分39秒
- 二階目を終えた所で、
市井には塔の構成も大分理解できてきた。
一つの階に一人の敵。
そして五階に行くか、
あるいは五階の敵を倒した時、
小室、そして後藤と石川が姿を表わすのだ、と言うことに。
あと二名、ないし三名、
これまでの二人に対する楽勝のパターンからも、
意外に簡単に小室に逢えるのではないかと、
そう思いながら三階への階段を昇った。
三階、そこには例によって人間が一人立っていた。
体格から市井は、
相手がまら、女であることを認識した。
近づいてゆくと、少しずつ女の姿が判ってゆく。
金属鎧の一部、胸当て、肩当てなどの防具を、
身体のそこらにすこしずつ付けていた。
中にはチュニックを纏い、
ジーンズを履いている。
明らかに、軽装備の戦士だった。
市井と少し似た仕様であると言える。
スピード重視の戦い方をする市井だからこそ、
鎧は金属ではなく革製の物が基本であったが。
- 144 名前:放浪読者 投稿日:2001年12月03日(月)01時10分04秒
- いやぁ〜、おもしろいですね。
で、最初から読みたいんですけど、上のアドレスからはダメなんですよ。
どーしたら最初から読めますか?
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