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( ´ Д `)( ´ Д `)ヽ^∀^ノ
- 1 名前:( ´ Д `)( ´ Д `)ヽ^∀^ノ 投稿日:2001年02月18日(日)02時25分25秒
- ( ´ Д `)( ´ Д `)ヽ^∀^ノ
荒らしじゃないよ。一応短編。。。
- 2 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月18日(日)02時49分12秒
- まあ、短編なんで軽い気持ちで読んでくれれば幸いです。
まずは、ほのぼの系かな。
- 3 名前:≪ママは中学三年生≫ 投稿日:2001年02月18日(日)02時50分38秒
- ≪ママは中学三年生≫
「やば、遅刻だ!」
既定の制服をちょっと改良して短くしたスカートがはねてパンツが見えてしまうことを
気にしつつも、「少しは見られてもいいや」と思いながら懸命に走った。
もし今日遅刻するなら三日連続ということになる。それは罰ゲームの「一週間召使いの
刑」が待っていることを意味する。
(やばい、やばい、やばい…)
とにかく急いだ。起きてすぐ適当に梳かした密かに自慢にしている髪の毛は前後上下左
右に跳ね上がる。
バスに乗り一人用の席が空いていたので素早く座った後、「早く着いて!」と手のひら
を合わせて神に祈った。しかし、普段信仰していないのに、突然拝まれても神様も迷惑
だったのだろう。願いは聞き入れてもらえず、バスは渋滞の車の流れに任せながら、信
号に遭う度に止まる独自のペースで走りつづけた。
バスが最寄りの停留所に着き、止まるか止まらないかわからない内に定期を見せて飛び
降りた。無論、運転手は止まるのをきちんと確かめてからドアを開けるので止まってな
かったということはないのだが…。ともかくそれくらい急いだ。
- 4 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月18日(日)02時52分51秒
- 校門の前で立ち止まり、息を整えながら、ふとお気に入りのピンク色の腕時計を見る。
九時十分前。
(間に合ったぁ!)
ここからゆっくり歩いても、十分、九時には間に合う。
汗びっしょりの顔の中にようやく安堵の色を浮かべた。
(さてと)
ほっとしたのか今まで感じていなかった疲れが一気に出たようだ。足がガクガクと震え
ている。軽く足を叩き、乱れていた髪の毛を両手で梳かし、一息ついてから学校に入ろ
うとしたその時…、後ろから小さな「もの」がくっついた。
(へっ?)
何か大きな生き物がはりついたって感じだ。太ももあたりに丸い存在を感じる。
ちょっとくすぐったい。
(な、何?)
おそるおそる振り返る。
すると小さな子供ががっしりとくっついていた。
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月18日(日)06時05分41秒
- ん?( ´ Д `)ヽ^∀^ノ なのか??
- 6 名前:名無し( ´ Д `) 投稿日:2001年02月18日(日)19時23分34秒
- 今回はレスしていこう…。
>>5 さん
まあ…どうなんでしょう?ははは
- 7 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月18日(日)21時29分12秒
- /*----( ´д`)---------( ´д`)------------( ´д`)------------*/
「ポ、ポ、ポ、ポ〜ン!」
「やったぁ!!」
「やったね!」
ある一室で中にいる皆が一斉に歓喜の声をあげた。
「しっかしさぁ、どうして、こう後藤って遅刻するかね?」
「ホント五分早く起きれば済むことなんですけどね。後藤さんちって、あたしんちより
も家近いのに…」
「ま、ともかく」
部屋の中で先生が自分の膝をポンと叩いてから関西弁口調で言った。
その先生は、教師なのに髪の毛を金で染め上げ、キャミソール一枚で肌が結構露出した
格好をしている。もう20代も後半になったというのに。どう見たって「若い」じゃな
くて「若づくり」。他の人―生徒―はそれぞれのTシャツに一律のオレンジ色をしたジ
ャージだ。
「約束だから、ごっちんは一週間、罰ゲーム決定ね」
もう一度、皆が歓声をあげた。
そして、五分後。
後藤は現れた。
- 8 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月18日(日)21時30分48秒
- 「ごっとう〜〜。お約束の九時五分!またまた遅刻〜〜!なんでもう五分早く来れない
かなぁ?」
猫目をした女生徒―ちなみに副部長―が言った。
後藤―後藤真希は大げさなほど息を切らす。
「あ、あのぉ、今日は間に合ってたんですよぉ〜」
「まったまたぁ、それってさぁ、後藤の口癖だよね」
すらっとした背丈にストレートな黒髪を「これが私の自慢」とばかりになびかせた美少
女―ちなみにもう一人の副部長―が腕組みをしながら、やれやれ、といった調子で
言った。
「いや、きょ、今日はほんとなんだってばぁ。みんなも聞いてよ」
後藤は「今日は」の「は」の部分を強調して言う。
「ま、ともかく、罰ゲームよろしくね!とりあえず、何をしてもらおっかなぁ〜」
「そんなぁ〜。ちょっと待ってよ…」
「その前に…その背中の付きもん、なんや?」
先生がきょとんとしながら後藤の後ろを見てから尋ねる。
生徒たちも後藤が何かをしょっていることに気づく。
「そ、そう、これ。これなんですよぉ!」
そう言って「これ」、つまり小さな子供を体の前に突き出した。
「うわっ、かわいぃ〜!!」
一番小さくて先生に負けないくらい金髪な女の子が最初に声をあげる。
他のみんなもそれに続いて「かわいい!」を連呼した。
そして部屋の中は「キャアキャア」という悲鳴にも似た金切り声に包まれていった。
その子供は真っ赤なスカートに赤いリボンを二つ結ったかわいい女の子だった。
年は二、三歳ってところか。
- 9 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月18日(日)21時31分54秒
- 「で、誰の子だべさ?」
小柄だけどちょっとふっくらした生徒―ちなみに部長―が右手に飲茶楼、左手にムース
ポッキーを片手に抱えながら、しばらくぶりに「言葉」を発した。
「もしかして、ごっちんの子?」
「んなアホな」
「でもさぁ、ごっちんに似てない?」
「え?」
後藤は言われてその子供の顔をまじまじと見る。
ちょっと離れた目に、細長く伸びた鼻筋や口元とそのパーツのバランスは、確かに後藤
そっくりだった。
「うわっ、ほんとだ!!」
ベーグルを食べながら一人の生徒が長い首をより一層長くして、小さな女の子の顔を覗
き込むとそう言った。他のみんなも子供の顔を凝視する。
「おお〜、ごとうしゃんにそっくりれすぅ」
小学三年生ぐらいにしか見えない中学一年の女の子が言葉足らずに言う。
「っていうか似すぎじゃないですか?」
後藤よりも年上なのに今年の春、転校して来たせいか後藤に対して敬語を使う見た目は
お嬢様タイプの女の子がつけ加える。この子は普通に喋ってても声に高くてキンキンす
る。
「ホンマや!うおってる!!」
「おい!」
後藤は関西弁が抜けきらない後輩ににらみをかける。
その子はデヘヘとばつの悪い顔をして、その視線から逃れた。
- 10 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月18日(日)21時32分51秒
- 「う〜ん、どう見ても似てるよね〜」
「ちょ、ちょっと待ってよ。あたしが…んなわけないじゃん」
なんか、「後藤の子」と断定されている雰囲気を感じ、後藤は慌てて否定する。
「ま、どれどれ、貸してみな?」
少し遠めにいた先生がその子供に近づいて来て、ひょいと持ち上げる。そうすると、子
供が後藤と離れる形になった。
すると、子供は今にも泣きそうな顔になり後藤のスカートをつかんだため、スカートが
めくれてパンツが見える。
「キャッ、ちょ、ちょっと〜」
後藤は慌てて、スカートがめくれるのを抑えた。
「な、なんや」
先生は慌てて女の子を元の場所である後藤のそばに戻した。
すると、
「んだぁ〜」
なんて言って後藤の顔を見て微笑んでみせる。
「ほんまにアンタの子供なんちゃうん?」
「だから、んなワケないじゃん…」
先生はしゃがんで子供の目線に合わせ、頭をなでなでしながら話し掛けた。
「ねえ、ボク〜、しゃべれる?お姉ちゃんの言ってることがわかる?」
頭をなでられて子供は気持ち良さそうだ。
(「お姉ちゃん」ですか…。それにどうみても女の子なのに「ボク」って…)
もちろん、口に出すことはできない…。
- 11 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月18日(日)21時33分39秒
- 「あだ」
子供は首をカクンと縦に振った。
「ねえ、ボク〜、ママはどこかな?」
「まんま?」
「うん、まんま。どこ行ったのかわかんない?」
「まんま…」
そう呟いて、子供は少しキョロキョロしながら後ろを振り向く。
後ろには後藤がいる。
そして、後藤の両足をがっしりとつかんだ。
「まんまぁ〜」
はっきりと楽しげに叫んだ。
「う…そ……」
後藤がつぶやいた。
そして先生はすくっと立ち上がり、自分の頭ををポリポリと掻きながら、
「あんた、ホンマに産んだんちゃうん?」
とあきれながら言った。
- 12 名前:名無し( ´ Д `) 投稿日:2001年02月18日(日)21時35分55秒
- 言い忘れましたが季節は去年の夏です。一応言葉遣いとかもその時代に合わせてるつもり
です。
- 13 名前:名無し読者 投稿日:2001年02月18日(日)22時33分08秒
- いいっすね。面白い!早く続きが読みたいです。
- 14 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月18日(日)23時08分11秒
- 父親は市井希望!(爆
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月19日(月)11時25分57秒
- 案外市井が子供とか・・・んなこたないか・・・
- 16 名前:名無し( ´ Д `) 投稿日:2001年02月19日(月)12時25分46秒
- 感想ありがとうございます。って皆さん…同じ感想(笑)
題名は某漫画のパクリですが、話は違うと思うので。。
訂正
9 片手に抱えながら→持ちながら 声に高くてキンキン→声が高くてキンキン
ですね。これからも誤字等、多そう…。
- 17 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月19日(月)20時14分45秒
- ほんと父親が気になるなぁ。
- 18 名前:名無し( ´ Д `) 投稿日:2001年02月20日(火)04時09分43秒
- 17 さん。ありがとうございます。感想って励みになります、やっぱ。
父親は…どうなんでしょうね?
- 19 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月20日(火)04時11分21秒
- /*----(^▽^)---------( ´д`)------------(0^〜^0)-*/
結局、今日の部活は後藤だけはなしになり、とりあえず、一人で警察に行って引き取
ってもらうように先生は指示した。ここに置いといたら、誘拐罪になるかもしれへん、
責任者としてそれは困る、とうんうんうなりながら言っていた。
(じゃあ、付いてきてくださいよ)
と言おうと思ったがやめた。
あの先生の深刻な顔は単なる興味津々なだけなのだ。
一緒に行ったところで警官に向かって、
「この子は後藤の子です」
なんて茶化すに決まっている。
「ごめんくださ〜い」
後藤はどこかの雑貨屋さんに入るみたいなノリで交番に入った。
中には、制服姿で40は過ぎたであろう男の人が一人、ずるずるっと大きな音を立て
ながらそばを食べていた。
あと、奥にもう一人いるようだ。資料らしき重たそうなものを動かす物音が聞こえた。
「うん?」
後藤の呼び声にワンテンポ遅れて、そばを食べている警察官が応えた。
いかにも「警察官顔」と言えばいいのか、ごつごつした顔立ちだ。また後藤の方を見
た瞬間の眼差しは鋭いものがあって、ちょっとたじろぐ。
- 20 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月20日(火)04時16分30秒
- 「あ、あのぉ〜、迷子みたいなんですけど…」
「お、えらいな、ちょっと待っててな」
そう言って、その警察官は残っていたそばと汁を一気に飲みこんだ。
そして、後藤と子供に近づくと二人の顔を交互に見交わした。
「うん?ちょっと…」
「はい?」
「あのなぁ、君ら、姉妹やろ?」
警察官は怪訝そうに後藤を見た。
後藤は必死に否定する。
「ち、違いますよぉ」
「だって、似てるぞ、二人。目の離れ具合とかそっくり…」
「あのですねえ…」
(人が気にしていることを…)
軽く息をついてから、
「この子とは赤の他人です!」
きっぱりと言い切った。
- 21 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月20日(火)04時19分09秒
- 警察官はまだ少し疑ってはいたが、
「んじゃ、指定の用紙があるから、君の名前と住所、書いてね」
と言って奥にいるもう一人の警察官に向かってその「指定の用紙」とやらを持ってくる
ように指示した。
その間に、警察官は子供に向かって話し掛けた。
「ねえ、お嬢ちゃん、いくつ?言えるかな?」
子供は指を三つ伸ばして
「みっちゅ〜」
と言った。
「みっちゅですか、えらいでしゅね〜〜」
後藤は思わず、吹き出した。
言葉遣いもそうなのだが何と言ってもその時の表情。
ひょっとこみたいな口に、おかめみたいに目じりが下がっている。
最初に感じた鋭さが欠片もない。
もう一人の警察官が後藤の前に用紙を出して、名前と住所を書くように言った。
もちろん後藤は指示されるがままに書こうとすぐ手前にあるペン立てに入っている鉛筆
を取ろうとする。
- 22 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月20日(火)04時21分03秒
- 「ねぇ、名前なんて言うのかなぁ、言えるかなぁ?」
警察官がそう聞くと、子供は少しう〜んとうなった後、意味もなく右腕をビシッと上げ
ながら言った。
「ごとうゆき〜なの〜」
(へっ??)
「ごとうゆきちゃんですか?ちゃんと名前言えるんだ。えらいね〜」
警察官はその子供―ゆきちゃん―の頭を撫でる。
やはり気持ちよさげだ。
後藤は隣りで聞いていて、持ちかけていた鉛筆を手放した。
鉛筆がひんやりとした床に落ち、カランコロンと音が鳴る。
その音を聞いた警察官が後藤の方を見た。
- 23 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月20日(火)04時23分15秒
- 「どうしたの?」
「え?あ、はい…。すみません」
後藤は、急いで鉛筆を拾った。
「で、君の名前はなんて言うの?」
訝しげに目を細めながら警察官は後藤に尋ねた。
「え?あ〜」
(なんで後藤なの?この子?)
むちゃくちゃ焦った。
(ここで、本名言ったらどうなるの??)
「い、市井紗耶香…です」
後藤は最初に頭の中に出てきた名前を言った。
それを聞いて警察官は「ふ〜ん」と変に納得した感じで、
「じゃあ、ここが名前を書く欄だから」
と言った。
あんまり、深くは疑っていないようだった。
- 24 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月20日(火)04時24分24秒
- 「は、はい…」
(助かったぁ〜)
警察官は今度は子供の手をつかんでぶるんぶるん振ってじゃれている。
後藤は、用紙に名前を、「市井紗耶香」と書き始めた。
「市」、「井」、「紗」、
と、ここまで書いて鉛筆がぴたりと止まる。
(げっ!)
額から気持ち悪い汗がにじみ出る。
頭ん中で飛び上がって頭を抱えこむ自分を想像する。
(「さやか」の「や」ってどういう字だぁ〜!!!?)
- 25 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月20日(火)04時34分35秒
- 「どうかしたの?」
どっと吹き出した汗を必死で拭う後藤の不信な行動に疑問を持った警察官。
必死で思い出そうと努力する後藤。
(確か、左に線がいっぱいあってカクカクしてて右がなんかこうシンプルでくねくねし
てて…う〜、やばい!わかんない!!)
鉛筆が止まっているのを見て、警察官は不審そうに言った。
「君、本当に、市井さん?」
「は、はい!」
「じゃあ、学生証見せて」
「え、ああ、いや、その…」
「持ってるでしょ?見せて」
後藤はあきらめて本名を言った……。
- 26 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月20日(火)17時24分35秒
- 話の腰おってごめんなさい。
「耶」…難しいよ。
なかなか出てこない…。
- 27 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月20日(火)23時27分03秒
- ゆきちゃん萌え〜(w
- 28 名前:名無し( ´ Д `) 投稿日:2001年02月21日(水)02時53分03秒
- >>26 さん
折れました(w でも誤字は紗耶香の「紗」→「沙」の方が多いですよね。
パソコン上での話ですが。
>>27 さん
そこに萌えられても…(w
- 29 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月21日(水)05時32分53秒
- 警察官は後藤をこっぴどく叱りつけた。
一つは嘘をついたこと。
そして、もう一つは実の妹を邪魔だからって交番に置いていこうとしたこと。
(だから、妹じゃないんだってぇ〜〜!!)
もっと、国語の勉強をしとけばよかったと後悔した。
というか、適当に感じを当てはめとけばよかったのにと今になって思った。
結局、警察では引き取ってもらえず、子供―ゆきちゃん―を連れてぶらぶらと歩き出
した。
また、部室に戻ろうと思ったが、あの連中は先生を含めて、真剣に考えたりしない連中
だからということで帰るのをやめた。
- 30 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月21日(水)05時33分48秒
と、いうのは建前で、
本当は帰ろうとしたのだ。
しかし、帰りの最中、ゆきちゃんは後藤の手をぎゅっと握り締めて後藤の顔を見て満面
の笑みを浮かべた。
それこそ、世に言う「天使の微笑み」だった。
(うわっ、かわいい!)
心からそう思った。
「まんまぁ〜」
とその笑顔のまま、後藤に向かって何回も言った。
その表情、甘えた声にいつしか後藤もいとおしくなり、
「はい、ママでしゅよ〜」
なんて言ってしまっていた。
- 31 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月21日(水)05時34分27秒
- つまり、後藤はゆきちゃんに愛着を持っちゃったのだ。
実際のところ、今度は先生を(たとえ部の顧問じゃなくても他のもっと真面目な先生
を)連れて交番に行けば、きっと他人だってことがわかってくれるだろう。
でも、そうやって、簡単にゆきちゃんと別れるのは、なんとなくつらい気がしていた。
(かといって、街中をウロウロ歩いていたら誘拐したと思われちゃうかもしれないし
なぁ)
いろいろ考えた挙句、後藤はある家に向かった。
- 32 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月21日(水)14時25分53秒
- 後藤にも母性本能あったんだねぇ(w
続き、楽しみっす。
- 33 名前:名無し読者 投稿日:2001年02月22日(木)13時05分46秒
- 何処に向かったの?
まさか、い○い○ゃんの家・・・・・?
- 34 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月23日(金)19時27分33秒
- とうとうパパの登場か!?
- 35 名前:名無し( ´ Д `) 投稿日:2001年02月23日(金)22時51分06秒
- どうもです。
>>32 さん ないんですかね…?あるでしょう。女ですもん
>>33 さん ははは。まあ、そういうことです。。
>>34 さん パパにはそんなに拘らなくても…。
ちゅうわけで、ちょこっと更新。
- 36 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月23日(金)22時52分33秒
- /*-*/
コンコン、というドアの音。
チャイムはもともとない。
「は〜い」
部屋の中で留学の為の荷造りをしていた一人の少女は高くて威勢のいい声をあげた。
(誰だろ?)
開けてみると、見慣れた後輩が眠っている小さい子供をおんぶしながら立っている。
「どうも、市井ちゃん、こんちゃーす!」
「おう後藤、久しぶり!……だけど、それ何?」
市井紗耶香はその子供を指差して唖然としていた。
「さっすが〜、市井ちゃん、めざとい!」
「めざといって、そんなのすぐわかるわよ。で、どうしたの?後藤の子?」
「……そうだと言ったらどうする?嫉妬する?」
後藤がちょっと考えた後に言い、上目遣いで市井を見る。
「なんで私が嫉妬しなきゃなんないのよ?」
市井は少しあきれている。
「別に妬かなくていいよ。だって、ゆきちゃん、あたしと市井ちゃんの子だもん」
「あのね…何、バカなこと言ってんのよ?その子、ゆきちゃんって言うんだ。親戚
の子?なんか似てるね、後藤に」
「あ、そっか〜、親戚かぁ、その線あるなぁ」
「『あるなぁ』…って違うの?」
「さあ?あたしにもよくわかんない」
後藤は首をかしげた。
市井のほうがさっぱりよくわからなかった。
- 37 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月23日(金)22時53分49秒
- 後藤は正座しながら、眠っているゆきちゃんをひざに乗せ、今日あったことを話した。
「じゃあ、別に親戚の誰かが後藤に子供を預けたってわけじゃないんだね」
「うん、そうだよ」
「まあ、普通に考えれば後藤に預けるわけないもんね」
「え?なんで?」
「だって、後藤のことを少しでも知ってるような人だったら後藤に預けるなんてどう考
えたってできないもん。怖くて怖くて…」
市井は皮肉混じりに、だけどちょっぴり真実を言った。
「市井ちゃん…それって…ひどすぎる…」
「えっと、ま、まあ、ともかく。早く、パパやママを探さなきゃね」
市井は思いのほか落ち込んだ後藤を見て、慌てて話の方向を変えた。
ゆきちゃんがパッと目を見開いた。
「あ、起きたみたい」
ゆきちゃんは目をこすり、しばらくキョロキョロ辺りを見渡した後、市井のほうを見
た。そして…、
「ぱぱあ〜」
と言って市井に飛びついた。
後藤と市井は目を合わせる。
そして、後藤は一言つぶやいた。
「ほんとにあたしたちの子供かも…」
- 38 名前:名無し読者 投稿日:2001年02月23日(金)23時33分51秒
- 二人の子供であって欲しい(w
- 39 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月24日(土)00時50分21秒
- 同じく市井のパパっぷりが見てみたいです(w
- 40 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月24日(土)03時32分37秒
- 市井ぱぱぁ!!!
やべぇツボに入った・・サイコーっす・・
市井のぱぱっぷりこっそり期待・・(w
- 41 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月25日(日)23時35分35秒
- ( ´ Д `)<ぱぱぁ・・
- 42 名前:名無し読者 投稿日:2001年02月26日(月)00時11分32秒
- ぱぱぁ〜
仲の良い夫婦になって下さいねっ!!
続き期待(w。
- 43 名前:名無し( ´ Д `) 投稿日:2001年02月27日(火)03時19分49秒
- >>38さん・・・・・・・汗
>>39さん・・・・・・・汗汗
>>41さんヽ^∀^ノ < コラ後藤!ゆきちゃんと同じように抱きつくな!
>>42さん・・・・・・・汗汗汗
ははは・・・(ヤベェ
- 44 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月28日(水)17時59分05秒
- /*-----(〜^◇^〜)--------( ´д`)------------( ● ´ ー ` ● )-----*/
しばらくは三人でいろいろ遊んだ。ゆきちゃんのマイブームはお絵かきらしい。
クレヨンと画用紙を押入の奥から引っ張り出し、それを持たせると、すごく喜んで何か
描きはじめた。
「でもさぁ、もしかしてゆきちゃんって未来から来た人だったりして」
市井が何かふと思い出したように言った。
「なんで?」
「だって、あったじゃない?『ママは小学四年生』ってアニメ」
「知らない……。市井ちゃん、アニメオタクだから」
「オタクじゃなくても知ってるわよ…。ていうか、私はオタクじゃないって」
「どんな話なの?」
後藤が身を乗り出した。
- 45 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月28日(水)17時59分45秒
- ゆきちゃんは青色と緑色と赤色を使って画用紙いっぱいに絵(というか線だけど)
を描いている。何を描いているかはわからなかった。
「えっとねぇ、私もよく覚えてないんだけど、『みらいちゃん』ていう女の子がその子
のママが小学四年生の時代にタイムスリップするの」
「へぇ〜」
「あれ、どうなったんだっけ?確か、元の世界に戻っちゃうんだったよね。それと未来
のだんなさんがいつも隣にいた『だいすけくん』だったかな?いや、『しゅんすけく
ん』だったかな?」
「ふぅ〜ん。そうだとしても、ゆきちゃんはあたしの子供じゃないよ」
「なんで?」
「だって、この子、苗字が『後藤』なんだよ。あたし、結婚したら姓、変わるし」
「わかんないわよ。未婚の母なのかもしれないし、それに……」
「それに?」
「夫に向かって『あんたが苗字を変えなさい!』って言うかもしれない。ていうか、後
藤なら言いそう。うん、きっと言う!」
「市井ちゃん、あのね…」
- 46 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月28日(水)18時00分20秒
- 「でった〜」
という声とともにゆきちゃんは画用紙を手にとって頭の上に掲げた。それを聞いて後藤
と市井はゆきちゃんの方を見る。
ゆきちゃんは画用紙いっぱいに描いた絵を、二人に見せて、「まんまあ、ぱぱあ」と
言った。
後藤と市井はそれを見ると顔を合わせ、そして思わず笑った。大人らしき二人の人間と
手をつなぎながら、挟まれながら笑っている小さな子供。赤色と緑色と青色だけで描か
れた「家族」の絵は見るからに幸せそうだった。
きっと髪の長い赤色の人間は後藤、髪の短い緑色の人間は市井、そして間に挟まれた青
色の子供はゆきちゃんだろう。
市井が、
「ゆ〜きちゃん、いい子いい子」
と言いながらゆきちゃんの頭を撫でてやると、本当に気持ちよさげに、
「だぁ〜」
と言って市井の元に飛び込んだ。
ゆきちゃんは市井の温もりを感じながら幸せそうだった。
後藤と市井のことをゆきちゃんは本当にママとパパと思っているらしく、笑顔が絶えな
かった。
後藤はこの時間がずっと続くことを密かに願っていた。
- 47 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年02月28日(水)18時00分50秒
- 三時間ぐらい経っただろうか。市井はゆきちゃんの両手を持ってぶるんぶるんしながら
後藤を見た。そして切り出した。
「んじゃ、そろそろ準備しよっか?」
「え?」
「え?って何よ?」
「どこ行くの?」
後藤はおそるおそる聞いた。でも見当はついている。
「決まってるじゃない?交番よ」
「だって、追い返されたんだし…」
「それはあんたの説明不足なだけ。ちゃんと言えば引き取ってくれるって」
「でも…」
(はは〜ん)
市井は後藤の気持ちをなんとなく察した。
後藤はゆきちゃんと離れたくないと思っている。
市井も女だし、母性本能ってのがあるわけで、その気持ちはよくわかる。
それでも市井はより現実的にゆきちゃんを見ていた。
「ゆきちゃんは後藤の子供じゃないんだよ。いい?多分、本当のママやパパは今、すっ
ごく心配してると思う」
「だって…」
「ゆきちゃんだって…ほら見て…だんだん私たちがママやパパじゃないって思いはじめ
てる。なんか今だって寂しそうだし…」
それは後藤も気付いていた。最初の頃より笑顔が少なくなっている。ふとした瞬間に寂
しさを浮かべていた。
後藤はゆきちゃんを見た。
そして、後藤もゆきちゃんに負けないくらい寂しそうな顔をした。
「うん…」
「うん。じゃあ、行こう!」
市井は後藤とゆきちゃんの手を取って立ち上がった。
- 48 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月01日(木)01時59分46秒
- 市井ぱぱのいい子いい子萌萌xあwcwさlzs萌え〜〜!!!!
やばぇマジ癖になりそう(w
市井ぱぱの今後に期待
- 49 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年03月02日(金)04時48分16秒
- /*-----ヽ^∀^ノ --------( ´д`)------------ヽ^∀^ノ -*/
後藤はゆきちゃんの右手を、市井はゆきちゃんの左手を握りながら横並びになって歩い
た。ゆきちゃんの描いた絵に似ていた。
三人は後藤が先ほど追い返された交番に入った。
交番の中には顔面蒼白の夫婦がうなだれてソファに座っていた。
「だぁ〜、まんま!ぱぱあ!」
ゆきちゃんが大きな声を出した。後藤が聞いた中で一番大きな声だった。
そして悔しいことに、今までで一番嬉しそうな声だった。
その声を聞いて、その夫婦はパッとこっちを見た。そして、
「ゆき!!」
夫婦二人が同時に叫んだ。
ゆきちゃんは後藤と市井の手を惜しみもなく離れてその夫婦の下に飛び込んだ。
感動の瞬間。
- 50 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年03月02日(金)04時49分06秒
- しばらく再会の喜びを分かち合った後、その夫婦―ゆきちゃんのママとパパ―は後藤と
市井の方を見る。
そして、二人と目が合った時、市井は驚いた。
向こうも驚いているようだった。
ママは後藤に、パパは市井にそっくりだったのだ。
そして、お互いの考えていることが分かり、それが同じことだと気づくと、
妙におかしくなりクスクスと笑った。
しかし、そんな中後藤は突然、
「…グシュ…ッヒック…ウ〜…ワ〜ン!!」
と小学生ぐらいの子供が使いそうな泣き声をあげた。
懸命に涙を止めようと目をゴシゴシさせているが止まりそうになかった。
「後藤…」
市井は軽く後藤の肩を抱いた。すると後藤は市井の肩に顔を押しつけた。
しばらく、そのまま泣きじゃくっていた。
ゆきちゃんのママとパパも後藤の気持ちを察したらしく、申し訳なさそうだった。
そんな四人の大人の様子を交互に見交わしたゆきちゃんは手を振りながら後藤に言った。
「まんま、またね〜」
それを聞いたゆきちゃんのママは続けて、
「今度、遊びに来てくださいね」
と一礼をしながら言った。
後藤の目には涙が流れつづけたままではあったが、そんな中ではっきり叫んだ。
「絶対に遊びに行くからね!!」
- 51 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年03月02日(金)04時50分48秒
- /*-----(^▽^)/--------( ´д`)------------(^▽^)/ ------------*/
「行っちゃったね」
「うん…」
「ゆきちゃん、かわいかったね」
「うん…」
「いい思い出になったね」
「うん…」
「今度、いっしょに遊びに行こうね」
「うん……」
後藤と市井は親子三人の後ろ姿を見えなくなるまで見送った。
後藤も涙が止まったようだ。目は赤く少し腫れ上がっていたが、その分、晴れ晴れとし
た表情だった。
「でもさぁ、あの夫婦ってあたしたちにそっくりだったよねぇ」
鼻をすすりながら後藤は言った。
「あ、後藤も気付いてたんだ。うん、めちゃくちゃ似てた」
「やっぱあたしみたいな顔って市井ちゃんみたいな顔にあこがれちゃうんだ」
「そういうのってあるのかな?」
市井はよくわからないといった感じで小首をかしげた。
「ま、ともかく」
市井は軽く背筋を伸ばしながら言った。
「幸せそうだったね」
「うん…」
- 52 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年03月02日(金)04時52分04秒
- どうやら、ゆきちゃんのママがちょっと目を離した隙に「行動屋」のゆきちゃんは一人
でトコトコ歩いて行っちゃたらしい。
ゆきちゃんのママは動転したせいか、警察に電話をするのを忘れ、しばらくその場をウ
ロウロしてしまう。気を取り戻してパパに電話して、パパがやっと警察に連絡した。
後藤が交番を追い返されてから、10分後のことであった。
後藤を追い返した警察官はすごく申し訳なさそうだった。
事の次第を聞くと、市井は後藤の頭をゴツンと叩いた。
「いった〜い!」
「なんで、私の名前使うのよ!しかもなんで書けないのよ!」
「いやぁ、あん時は焦ったっス」
後藤は市井が自分の名前を使ったこと以上に、自分の名前を書けなかったことに怒って
いたことがちょっぴり嬉しかった。
(今度は、ちゃんと書くからね)
そう心に誓った。
- 53 名前:ママは中学三年生 投稿日:2001年03月02日(金)04時55分16秒
- もちろん帰り道も、話題はゆきちゃんのことばかり。
「あ〜あ、ゆきちゃんみたいな子供だったらあたしも今すぐ欲しいなぁ」
「そうだね」
軽いジョークに軽く相槌を打つ市井に後藤はエッ?と少し驚いてからパッと市井の方を
見た。
「どうしたの?なんか変なこと言った?」
「ん〜と、じゃあさぁ?」
「うん?」
後藤は市井の耳に口を近づけて囁いた。
「子供、作ろっか?」
不意の言葉に市井は思わず真っ赤になる。
「バ、バカ!できるか!!」
「わぁ、市井ちゃん、耳真っ赤だぁ!!」
逃げ去る後藤を市井は懸命に追いかけた。
(fin)
- 54 名前:名無し( ´ Д `)<あとがき 投稿日:2001年03月02日(金)07時02分02秒
- 一応、場面一つ一つにネタ(?)を入れるように心がけて、
コミカルに書いてみたんですが、どうでしたでしょう?
「市井パパ希望&萌え」の方が多くて(ていうかみんな)焦ったっす。
そっちを狙ったんじゃないんですが(^^;
「いちごまだけど市井はあんまり出ない」という方向で進めていたんですが、
思わぬ反応の為、投稿直前に市井萌え場面をつけ加えたりしました。
直前だったんで前後がぎこちなかったりしているかもしれないんですが、
>>48さんみたいに萌えてくれたのなら、それはそれで嬉しいです。
とはいっても萌え場面は少なかったはずでそこんところ期待に応えられなくて
すみません。
題名は作中に出た通りパクリで、ゆきちゃんの言葉使いも某漫画を参考にさせては
もらいましたが、ストーリー自体の元ネタは特にありません。
とりあえず読んでくださった皆様、ありがとうございました。
- 55 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月02日(金)13時51分08秒
- さわやかな終わり方で、すっごいよかったっす。
自分は後藤の母性本能に萌えた。(w
次回作、期待してます。
- 56 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月02日(金)18時13分43秒
- ほほえましくて良かったですよ。
十分いちごまに萌えれたっす(笑
- 57 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月03日(土)01時29分09秒
- 後藤の母性本能と市井の父性本能(??)に萌えた(w
二人は子供作るべきだ!俺が許可する。
- 58 名前:名無し( ´ Д `) 投稿日:2001年03月09日(金)03時54分31秒
- 次はいちごまだけどほとんど( ´ Д `)。
で、おもしろくないんで、下げでひっそり行こうかな。
- 59 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月10日(土)03時12分44秒
- 私も良かったですー!!
変にあまあまじゃないところが妙に良かったりして(笑)
ホントに面白かったです。
- 60 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月10日(土)04時59分43秒
- >>58
楽しみ!
- 61 名前:名無し( ´ Д `) 投稿日:2001年03月17日(土)19時51分34秒
- ははは、すっかり忘れてた。
>>55さん>>56さん
ありがとうございます。何か俺「萌え萌え」ばっか言ってたな、そういえば。
>>57さん
俺も許可してるんですが、できるかどうか(w
>>59さん
>変にあまあまじゃない
っての結構嬉しいです。あんまり甘い感じは出したくなかったんで。
>>60
遅れて(ていうか忘れてて)すみません。期待に応えられるかどうか心配ですが。
ということで、自信ないんで下げていきます。最後にはあげようかな?
- 62 名前:名無し( ´ Д `) 投稿日:2001年03月17日(土)19時56分50秒
- 次のは友達に見せたらベタすぎと言われました。
こういうのは何系って言うのかな?
時は見ればわかるけど、遡って99年10月ぐらい。
- 63 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月17日(土)19時58分32秒
- ≪夢紡ぎ≫
「キヌちゃん、今までありがとう・・・」
「誠一さん・・・」
「これからもずっと生きるんだよ」
「・・・」
「いい人と出会って、それからその人とずっと幸せに暮らすんだよ」
私は首を横に振る。
「私、待ってる。誠一さんが帰ってくるまで待ってる!」
あなたはその言葉を聞いて、下を向く。
そして、首を振る。
「多分、僕は帰って来れない。だから、僕のことは忘れて・・・」
「誠一さん・・・」
「だから・・・」
「いや!私、待つから!待ちつづけるから、お願い・・・」
私があなたに寄り添う。
戸惑いながらあなたは私を抱きしめる。
温かくて、優しくて、だけど、すっごく悲しい。
- 64 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月17日(土)20時03分12秒
- ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「・・・・・・とう・・・」
意識の向こうから声が聞こえた。叫んでいるみたい。
「後藤!起きなさい!」
私は遠い遠い場所から引っ張られるような感覚で目が覚めた。
「後藤、起きた?」
「あ、市井さん、・・・はよう・・ございます・・・」
「ったく、もう収録一時間前よ。寝てる場合じゃないんだから。あ〜、髪ボサボサ!せ
っかくスタイリストさんにちゃんとしてもらったのに・・・」
「うん・・・ごめんなさい・・・」
とにかく相槌を打った。
ほとんど無意識だったんだけど、おぼろげに市井ちゃんを見ると、市井ちゃんは何か
驚いた顔を見せていた。
それで不思議に思い、
「どうしたんですか?市井さん?」
と尋ねてみると、
「あんた、何で泣いてんの?」
「え?」
ポタッという音が私の真下でした。
一滴の水が下の絨毯にジュワ〜っと染みこむのが見えた。
その元が私の目からということに気付く。
「あれ?」
目を軽くこすると、余計にボタボタ涙が落ちてきた。
「いくらなんでもちょっと怒っただけなのに、泣くことないでしょ?ていうか、私そん
なに怖かった?」
と言いながら、市井ちゃんはオロオロしている。
私は慌てて否定した。
「いや、市井さんが怒ったからじゃないですよ。てか、なんであたし泣いてるんだろ
う?」
「ま、ともかく急ごう。早くしないと私も怒られるんだから」
「はい」
私は市井ちゃんに引っ張られて、その場を後にした。
- 65 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月17日(土)20時04分52秒
- ♪ディア〜
♪Disco!
今は「HEY×3」の収録の真っ最中。
慣れない場に戸惑いを感じながらも、市井ちゃんや他のメンバーに助けられながら私は
歌手として第一歩を踏んでいた。
私にとっての初めての曲、「LOVEマシーン」も思ったよりパートを与えられ、私自
信満足していた。
最初に人前で歌った時に比べ、ずいぶん緊張もほぐれ、だいぶ自分の置かれた状況とか
他の人の踊りとかを冷静に見られるようになってきた。
♪どんなに不景気だって、恋はインフレーション♪
最近は歌いながら、他のことも考えられるようにもなった。
そんなことを他のメンバーに言っちゃうもんなら、
「歌っている時は歌詞の内容の気持ちに成りきって歌いなさい!!」
と中澤さんや市井ちゃんに怒られそうなんだけど、余裕ができるとどうしても他のこと
を考えちゃうんだよね。
他のことと言っても、「今日の夕御飯は何かな?」とか「宿題やらなきゃ」とか、まあ
いつもは大したことじゃないんだけど。
しかし、今日はどうしても気になることがあって…、
- 66 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月17日(土)20時08分00秒
- 「なんであたしは泣いていたの?」
そう思ってから、その原因がさっき見た夢であることに気付いた。
でも、どんな夢だったかは思い出せない。
ただ漠然と、悲しい夢・・・。
♪lovelovelove マシーン♪
♪lovelovelove スペシャル♪
♪lovelovelove ファクトリー♪
♪love,love イズ ソー ワンダフォー♪
歌が進むにつれればつれるほど、夢のことが気になって仕方がない。
♪イェ〜イ♪
次の瞬間、目の前の仕掛けが作動した。
大きな爆発音とともに広がるいろいろな色のリボン。
観客も私たちと同調して盛り上がる。
しかし、この最高潮の音を聞いた瞬間に、耳が塞がったようなありえない静寂に包ま
れ、そして、別次元の世界に引きこまれた。
「きゃああああ!!!」
悲鳴はその静寂の中で響きわたった。
その主が自分だとはその時はわからなかった。
そのまま、私は意識を失った。
- 67 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月18日(日)14時00分02秒
- ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
目を覚ました時、額と目の上には、冷やされたタオルが置いてあった。
「しっかしなぁ、参ったね・・・」
私の寝ている側には誰かがいるみたいで、声が聞こえてきた。
「今回はやめるって言ったけど、今後避けられないことだよね?」
「うん、そうだよね。でも今までも同じような仕掛けなかった?」
「あったとは思うんだけど…。じゃあ、今回はたまたまかな・・・?」
「う〜ん、よくわかんないなぁ」
不安そうな声の二人に少しバツが悪くなり、パッと起き上がった。
「あ、後藤、大丈夫?」
私の視界には市井ちゃんがいた。目線を横にやると矢口さんがいた。
少しクラクラしたので首を横に振ると、気持ち悪い感じのあと、少し楽になった。
「え〜っと、あの・・・すいません、倒れちゃったみたいですね、テヘヘ」
「うん、仕方ないよ。それよりさぁ」
「はい」
「なんで倒れたか覚えてる?」
「なんでって・・・」
- 68 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月18日(日)14時00分54秒
- 確か、大きな音がして、悲鳴が聞こえた。
それは私の口から出たもんなんだろうけど、その時はそうとは気づかなかった。
いずれにしろ、私の意志で出たものじゃなかった。
「あの音…ですかね?」
客観的にこう答えるしかない。
「だよね?後藤って、ああいうバズーカみたいな音って苦手だったの?それなら
今後つらいわよ。あの類の仕掛けってよく使われるし・・・」
「いえ、別に苦手っていうわけじゃないんですよ。花火の爆竹とかって結構好きです
し。自分でもわかんないんです。体調悪かったんですかね?」
「そうなの?」
「はい」
「それなら、大丈夫か…」
「すいません、迷惑かけて」
「じゃあ、和田さんやみんなに『目を覚ました』って声かけてくるね」
矢口さんが立ち上がり、去っていった。
- 69 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月18日(日)14時02分24秒
- 「あの、あれからどうなったんですか?」
私は市井ちゃんにおそるおそる尋ねた。
「まあ、大変だったわよ、和田マネージャーやHEYHEYHEYのスタッフは真っ青。
そんでもって、観客はそ〜ぜん」
「すいません、それであたし何か、言ってませんでした?」
「うん?私は気付かなかったけど?」
「そうですか・・・」
私はあの一瞬のことを思い出していた。
違う世界に引き込まれた後のこと。
きっとあれは夢の世界。
とてつもなく大きなもの。
何かが消えた音。
かすかな希望を打ち砕く絶望。
「ちょっと、後藤!」
「はい?」
「なんでそこで泣くのよ?おかしいんじゃない?」
市井ちゃんは今度は絶対自分のせいじゃないわよ、みたいな顔をしていた。
「え?」
ちょっと瞼の下を触れると涙の感触があった。
「あ、ホントだ」
「疲れてるのかなぁ?明日オフだから、今日はなんとか頑張って明日はしっかり休みな
さいよ」
「うん、ホントごめんなさい。迷惑かけて」
スタッフが声をかけてきた。そして、30分後、収録が再開された。
- 70 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月18日(日)14時03分19秒
- 「LOVEマッシーン♪」
観客が歌の終わりを聴き遂げると、一斉に歓声を上げた。
今日はなんとか乗り越えた、っていう安心感にちょっと浸っていると、後ろにいた中澤
さんが背中をポンと叩いてきた。
後ろを振り向くと、安倍さんと目が合い、その安倍さんが観客の方に目配せをした。
すぐにその意図がわかったので、私は観客に、
「みなさ〜ん、お騒がせしました!ありがとうございました!」
と精一杯の声を出して手を振った。
すると、観客は一段と大きな歓声を上げた。
- 71 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月18日(日)14時04分13秒
- 楽屋に戻り、市井ちゃんは私に声をかけてきた。
「体調悪いのに、よくやったわね。えらいよ。明日はオフなんだからしっかり休みなさ
い」
私は、あることを考えていた。
「それでですね、市井さん。お願いがあるんですけど」
「うん?」
「今晩、泊めてもらえませんか?」
「泊めて、って今日は実家に帰るんだけど」
「じゃあ、そっちに・・・」
「千葉に来るの?」
「はい・・・お邪魔じゃなければ・・・?」
「いや、邪魔だなんて思ってないけど・・・」
市井ちゃんはちょっと迷惑そうな顔をした。
明日は久しぶりのオフだ。
市井ちゃんだって一人でゆっくり休みたいんだろう。
「ダメですか…?」
私が心持ち大げさに肩を落とすと、やれやれといった感じで、
「ま、いっか。でも今日はすぐ寝るからね」
と言った。頼まれると断りきれないのが市井ちゃんだ。
そういうところがちょっと好きだったりする。
「ありがと〜」
私は一人で眠るのが怖かった。
一人で夢の続きを見るのが怖かった。
- 72 名前:らびっと 投稿日:2001年03月18日(日)18時56分14秒
- >66
ごまのパート、『ステーション』では…?
- 73 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月18日(日)19時54分36秒
- いいっすね。期待sage
- 74 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月19日(月)16時36分21秒
- どうもです。
>>72 さん。あれ、そういえば?ははは・・・こんな初歩的ミスを・・・。
>>73 ありがとうございます。下げましょ下げましょ。
- 75 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月19日(月)16時38分05秒
- ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
市井ちゃんの家はかなり遠くて、覚悟をしていたとはいえうんざりした。
市井ちゃんのお母さんは突然の来客にも快く迎えてくれた。
いや、むしろかなり喜んでいた。
「さやって最近あんまりお友達を連れてこないの。だから嬉しいわ。そうだ!ねえね
え、後藤さん、今日はいっぱい話しましょう!さやが普段どんな感じだとか・・・」
「お母さん!」
手の平を合わせながら、喜んでいた自分のお母さんを市井ちゃんは口を挟んだ。
「私たちは疲れてんの!今日はすぐ寝ます!」
「あらそうなの、残念だわ・・・」
市井ちゃんのお母さんは思いきり残念そうな顔をした。
- 76 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月19日(月)16時39分39秒
- お風呂を借りた後、置いてあったパジャマに着替え、市井ちゃんの部屋に入った。
あんまり背丈とかは変わらないはずなのに、ずいぶんダボダボだった。
「湯加減どうだった?」
「うん、丁度よかったです」
「へぇ〜めずらしい。うちのお風呂って他よりも熱いみたいだから、たま〜に人を私ん
家のお風呂にいれるとみんな熱がるんだけどねぇ」
実を言うと、かなり熱かった。
ちょっと二の腕あたりがひりひりした感じがする。
市井ちゃんは私とお揃いのパジャマでベッドの上に寝転びながら、少女漫画を読んでい
た。
ダボダボな服の袖を上手く丸めたりして、それが何だかおしゃれに見える。
こういう服にも着こなしってあるもんなんだぁって思った。
部屋にはどう見ても一人用のベッドとその隣の床に来客用の布団が敷いてある。
「んと、じゃあ、早いけどもう寝よっか」
市井ちゃんは読んでいた漫画をバンという音を鳴らして閉じ、ベッドから下りて床に敷
いてある布団に入ろうとした。
「あの、市井さん、私が床で寝ますから…」
「いいよ、後藤がお客さんなんだからベッドで寝なよ」
「いや、あたしが無理言って、泊めてもらうんですから床でいいです」
「別にいいって」
そんなこと言ってるけど、やっぱり私がベッドで寝て、市井ちゃんが床で寝るのは気が
引けた。
そして、一つ思いついた。
ていうかこれが私にとって一番の好都合。
「じゃあ、一緒に寝ません?」
- 77 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月19日(月)16時40分16秒
- 「ねえ、狭くない?私、床で寝るよ」
「いいですって。この方が絶対いいです」
私の願いが叶って、一緒にベッドで寝ることになった。
一人用ベッドなので市井ちゃんの言うとおり狭かったが市井ちゃんの温もりを感じられ
るこの距離は私にとっては安心そのものだったりする。
少しおしゃべりした後、お互い眠くなったのか会話が途切れ途切れになった。
「ねえ、市井さん、お願いしていいですか?」
「何?」
「あたしを助けてくださいね」
「うん?どういう意味?」
「お願いします・・・」
体を反転させ、市井ちゃんに背を向けて目をつぶった。
市井ちゃんは首を傾げているようだったが、また明日聞けばいいと思ったのか追求はし
てこなかった。
- 78 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月19日(月)16時41分11秒
「愛してる!」
「僕も・・・愛してる!」
「この気持ち、絶対忘れないから!」
「キヌちゃん・・・」
「だから・・・だから・・・」
私はよくあの日のことを思い出します。
あの日の感触を感じています。
もっともあなたに近づいた日。
もっともあなたの温もりを感じた日。
もっともあなたを愛した日。
夕暮れ時の公園のブランコを揺らしながら、私はそのブランコがきしむ音を規則的に聞
きながら帰りを待っています。
赤紙を私に見せたあなたはすごく嬉しそうでした。
途端に悲しそうな顔をする私を見たあなたはすごく戸惑っていました。
行ってしまってからは隅から隅まで新聞を読むようになりました。
「死者」とか「爆撃」という文字を見ると、いつも胸を何か突き刺さった感じを覚えます。
「勝利」という文字を見ても何の喜びも感じません。
あなたは今、その新聞の中のような世界に居るのですね。
一度だけ、爆撃の音を聞いたことがありました。
すごくすごく遠くからだったけど、すごくすごく大きな音でした。
周りがざわめき立ち、隣にいたあなたはぎゅっと私を抱きしめながら震えていました。
私も震えました。
でも二人の震えは違っていました。
私の震えは「恐怖」。あの爆発音は生き物を無にする音。未来を壊す音。
あなたの震えは「武者震い」。早くあの音の元に飛び込みたい。あの音と戦いたい。
そして、お国の為に死にたい。
あなたの気持ちはわかっていました。
多分、あなたは今、遥か遠くの地であの音と隣り合わせに居ることでしょう。
私は一回きりの爆撃の音を心の中で何回も聞いています。
「恐怖」や「悲しみ」しかその中にはありません。
しかし、それでも私はその音を聞きつづけるでしょう。
その中にあなたが居る限り。
死ぬなんて言わないで。
いつか私の元に帰ってきて。
私たちの為に・・・。
- 79 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月20日(火)03時13分52秒
- 初期のいちごまってウイウイしくていっすねぇ〜
作者さんファイツ
- 80 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月21日(水)01時58分41秒
- 「ねえ、後藤・・・大丈夫?後藤ったら」
「うん・・・?」
上下に体が揺さぶられているのを感じた。
「なんか、うなされてたみたいだったけど」
「え、ああ、うん・・・」
意識が朦朧とする中でも、市井ちゃんの声は妙に届いた。
「汗びっしょりだし・・・怖い夢でも見たの?」
「うん。市井さん」
「何?」
「私、何か言ってました?」
「うん、言ってた。ずっと『お願い』『お願い』って。なんか願い事でもあるの?」
「そっか・・・」
今見た夢は妙にはっきりしていた。
そして、今日の昼に見た夢もそれとともに思い出した。
きっと・・・あれは・・・戦争・・・。
- 81 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月21日(水)01時59分11秒
- 「ねえ、市井さん」
「うん?」
「あたし、今、男の人と寝ちゃった」
「は?」
一瞬、市井ちゃんは何のことかわからなそうだったが、その後、布団をめくりあげなが
ら飛び起きた。
淡い光の中のせいか青ざめているようだった。
「いつ!どこで!誰と!!」
市井ちゃんは予想以上の剣幕で聞いてきた。
「だから、夢ん中でなんですってぇ!」
それを聞いて、市井ちゃんは大きく息を一つついた。
「な、なぁんだ。夢、夢かぁ。夢ね・・・。そういうことは先に言ってよね」
「でもねぇ、すごくリアルだった。なんていうか、恥ずかしいんだけど、感触が残って
る・・・気がする・・・」
私はゆっくり目をつぶりながら、左手でパジャマ越しに胸のあたりをぎゅっとつかんだ。
「うそぉ・・・。で、どんな夢だったの?」
市井ちゃんは今度はさっきの切迫した時とはうってかわって興味津々に聞いてきた。
「うん、悲しい夢。すっごくすっごく悲しい夢」
「それだけじゃ、わかんないわよ」
それだけしか言えなかった。言えば、涙が出てきそうな気がした。
「うん、ごめんなさい。あんまり覚えてないんで」
「ふぅん、まあ、まだ早いし、もうちょっと寝よっか?」
市井ちゃんは不服そうだった。
時計を見ると、まだ朝の三時を過ぎたところだった。
「ごめんなさい、起こしちゃって。お休みなさい」
きっと続きを見るだろう。
- 82 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月21日(水)18時27分15秒
- ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「絹子ぉ〜」
あいかわらず、私はブランコを揺らしていた。
「絹子ってばぁ〜」
何回か呼ばれた後で、私の耳にようやく届いた。
「里子」
私の名前を呼ぶ友人の里子は肩で息をしながら、私のそばにやってきた。
「どう・・・したの?」
里子は汗まじりに涙を流していた。
「おじいちゃんが・・・呼んでる・・・」
何かあったの?
私は一心不乱におじいちゃんの家に走り出した。
おじいちゃんの家に着くと、家のみんなが泣いていた。
私は一瞬、最悪のことを考えた。
そして、首を横に振って、考えないように努めた。
奥に居たおじいちゃんも泣いていた。
私が勇気を出して声をかけると、何も言わずに一枚の封書を私に差し出した。
「死亡通知」
震えがとまらなかった。
絶対帰ってくるという気持ちと、その手紙の真実が入り混じって私の中で葛藤が起
こった。
中を見た。
文章なんか読めない。
視線がとびとびになって中に書いてある「言葉」を見るのが精一杯だった。
しかし、それで充分だった。
三つの言葉を見たとき、もう他の言葉は涙で見えなかった。
現実を認めたくないが為か、狂気にも似た悲鳴を上げた。
「誠一」「爆撃」「死亡」
- 83 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月21日(水)18時28分12秒
- 再び、私は市井ちゃんに起こされた。
「ねえ、ホントに大丈夫?ねえ、後藤ったら!」
私は市井ちゃんの方を振り向いたが涙で見えなかった。
「誠一さん・・・・・うわぁ!!!」
「ちょ、ちょっと、後藤!?」
そのまま、市井ちゃんに抱きついた。
市井ちゃんは当然のことながらオロオロしている。
「誠一さんが・・・誠一さんが死んじゃったぁ!」
「え?」
「あんなに、想っていたのに、待っていたのに、愛していたのに・・・死んじゃった!!」
「後藤?」
「死んじゃった・・・」
市井ちゃんはそれから何も言わなかった。
涙が止まらない私をずっと抱きしめてくれていた。
何分経ったかわからない。
我に返った私はパッと市井ちゃんから離れた。
「ご、ごめんなさい・・・」
「うん、いいよ。すっきりした?」
「ありがと。ちゃんと話しますから」
「いいよ、別に。無理しなくても」
「ううん、聞いてください。お願い・・・」
- 84 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月21日(水)18時28分53秒
- それから私は市井ちゃんに今日の一連の夢を思い出せる限り話した。
夢ということもあり話が断片的にもなったし、もともと、話を順序立てて話すのは下手
なもんだから夢の見たままを伝えることはできなかったかもしれないけど、市井ちゃん
は一生懸命耳を傾けてくれた。話終えたとき、市井ちゃんも少し涙ぐんでいるみたいだ
った。
「そっか・・・」
市井ちゃんは私の夢を全部信じてくれたみたいだった。それが嬉しかった。
「悲しいね・・・」
「うん」
「切ないね」
「うん・・・」
それ以上、何も言わなかった。
もう一度、市井ちゃんは私を抱きしめてくれた。
市井ちゃんもちょっと震えていた。
- 85 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月21日(水)18時29分33秒
- だいぶ、落ち着いた後、私の携帯電話が鳴った。
まだ、朝の六時だ。
普通なら電話をかけてくる時間じゃない。
「誰だろ?」
出てみると、お母さんだった。
「あ、真希?ごめん、起きてた?」
「うん、どうしたの?」
「後で言って怒られるのもいやだから、一応言っておこうって思って」
「うん、だから何?」
「昨日の夜に、おばあちゃん。あなたから言うとひいおばあちゃんが亡くなったの」
「え?」
突然の訃報。
だけど、ひいおばあちゃんの顔を思い出せなかったのであまり悲しみはわかない。
「ひいおばあちゃんって・・・」
「多分、真希は覚えていないと思うわ。だって最後に会ったのがあなたが三つの時だっ
たはずだから」
それなら思い出せるはずがないよ。
「それでね、今から田舎に行こうと思ってるの。でも、真希は忙しいと思うから来なく
ていいわよ」
「ちょ、ちょっと待って」
私は、ふと思いついた。
何の根拠もない。
でも、それが私の中で間違いないと言う。
「ねえ、お母さん。そのひいおばあちゃんの名前って、もしかして、絹子さん?」
「名前?え〜と、うん。確かそうよ。でもよく知っているわね」
「そっか・・・ねえ、あたしも行く!連れてって!」
「でも、お仕事あるんでしょ?他の方に迷惑なんじゃ?」
「絶対行くから!」
電話を切って、私は今の電話の内容を市井ちゃんに伝えた。
市井ちゃんはその奇妙な運命に驚いていた。
私は、急いで身支度をした。
- 86 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月21日(水)20時43分10秒
- 続けてたの知らなかった。
頑張ってくださいね。
- 87 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月25日(日)16時50分53秒
- 今回で終わります。
>>79 さん
別に初期にする必要はないんですけどね。なんとなく。がんばります(もう終わるけど)
>>86 さん
あんまり知られたくないかなぁって思って。終わったらあげるかあげまいか迷ってます。
- 88 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月25日(日)16時52分26秒
- 通夜や次の日の葬式はすごく神妙だったが、その後は宴会みたいになった。
もっとひいおばあちゃんと仲がよかった人たちは落ち込むものだと思っていたが、そう
ではなく、お酒を飲んだりして楽しそうだった。
お母さんに聞くと、
「ひいおばあちゃんは天寿を全うしたからよ」
と言っていた。
そんな中、一人暗いまま正座をして、縁側の方向を眺めているおばあちゃんを見つ
けた。
もちろん初対面のはずなのに、私はその顔を知っていた。
もう60年以上前の顔。
面影はないに等しかったがそれでもなぜだかわかった。
私はそのおばあちゃんに声をかけた。
「里子・・・さん?」
おばあちゃんはゆっくりと顔をあげた。
- 89 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月25日(日)16時53分47秒
- 「そうですか・・・絹子の曾孫さん・・・」
「はい」
私は里子さんの隣に正座した。
「でも、どうして私の名前を?」
里子さんはもうここ数年、自分の名前を呼ばれたことがないらしい。
ずっと「おばあちゃん」だった。
久しぶりに自分の名前を聞いてうれしかったと後で言っていた。
私は、里子さんの名前を知っている理由を言った。
あの夢のことを。
里子さんはとにもかくにも驚いていた。そして、一言、声を振り絞るように言った。
「ごめんなさい・・・」
驚いた私は思わず聞き返した。
「どうして、『ごめんなさい』なんですか?」
そう言うと、少し涙ぐみながら里子さんは私の夢の詳細と続きを語ってくれた。
- 90 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月25日(日)16時54分59秒
- 絹子さんが14歳、誠一さんが17歳。二人は幼馴染で兄妹のように暮らしていた。
里子さんもその二人の幼馴染だったがあまりにも仲の良い二人に嫉妬していた。
誠一さんが沖縄の海域にて連合軍の空襲を受け、戦死した。
それを聞いた後、絹子さんの取り乱しようは半端じゃなかった。
しかし、二人の間には子供ができていた。
一回だけ結ばれた時にできた子供。
その子の為に、絹子さんは自分を取り戻した。
しかし、その時の絹子さんはまだ14歳。
それに未婚の母というか未亡人というか……。
とにもかくにも若すぎる。
当時の世襲とか常識からいって、周囲はそれを許すはずもなかった。
里子さんも周囲と同じように反対した。
それは周囲の意見だからではなく、間違いなく二人への嫉妬が入っていたと吐露した。
しかし、絹子さんは誰に頼るでもなく子供を産んだ。
元気な女の子だった。
周囲はこの親子を迫害するようになる。
そして、里子さんも加担した。
絹子さんはそれでも負けずに一人で育てつづけた。
結局、絹子さんは最後まで誠一さんだけを想いつづけ、他の人を愛することはなかった
という。
「どうして、私は絹子を応援してやれなかったんでしょう?一番の友達だったのに・・・」
里子さんは、おいおいとまさに袖を濡らして泣きつづけた。
私は里子さんが泣き止むまでずっと側にいた。
- 91 名前:夢紡ぎ 投稿日:2001年03月25日(日)16時57分03秒
- 「後藤、葬式どうだった?」
「はい、楽しかったです」
「なんで葬式が楽しいのよ・・・変な子ね」
「それに里子さんにも会えました」
「里子さんって・・・誰?」
「ほら、知らせにやってきた・・・夢の中で」
「ああ、誠一さん・・・だっけ?その人が死んだことを伝えに来た人?」
「はい!」
「ほんとに?へぇ〜、不思議なことってあるもんなんだね・・・」
結局、あれから絹子さんの夢は出てこなかった・・・と思う。
ただ、東京に帰ってきてから一つの夢を見た。
それがどんな内容の夢だったのかはさっぱり思い出せない。
もしかしたら、絹子さんの夢だったのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
しかし、その夢の雰囲気だけは覚えている。
とってもとっても幸せな夢。
それは、多分、絹子さんの夢だったのでしょう。
今日は新たに結成されたユニット「プッチモニ」の新曲を渡された。
メロディを聞いて、そして、歌詞を見て思わず「うん」と唸った。
その日、家に帰るとすぐに私は辞書を開き、「恋」というところの小さなスペース
に「誠一」と書きこんだ。
「私はまだいないから。好きな人ができた時は消しちゃうかもしれないけどいいよね?」
死ぬ間際に誰かに伝えたかったんだよね。
ずっと、ずっと、幸せだったってことを。
「ねえ、ひいおばあちゃん・・・」
天井を見上げて、つぶやいた。
「生き続けてくれてありがとう」
(Fin)
- 92 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月25日(日)16時58分19秒
- ということで、終わりです。あぷろだにはのせないでね。
- 93 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月26日(月)02時31分04秒
- おつかれさまです。
- 94 名前:どうせだからあとがき 投稿日:2001年03月26日(月)03時51分08秒
- 発案、初稿、推敲まで半日とかからなかった作品です。
若いから戦争なんて知らないし(^^;めっちゃ適当です。
自分でもよくわかんないんですけど、ここの某作品を受けて書いたような気がします。
結局、気に入ってるのはタイトルだけで、後はそんなにでもないかなぁ。
時期を99年10月にしたのは、口では「市井さん」。心では「市井ちゃん」
っていう「未完成いちごま」を書いてみたかったからでしょう(^^
次も下げていく予定なんで、暇があったら覗いて見てください。
次はもっと時代を遡ったりする。
- 95 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月01日(日)21時21分44秒
- 期待してます。
sage
- 96 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月05日(木)01時03分36秒
- はい、いじめられて帰ってきました(笑)
>>95 期待しないでください(笑)
- 97 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月05日(木)01時08分24秒
- <<眼鏡越しの空>>
「ねえ、紗耶香、次どこ行く?」
いつもの甲高い声。
いつ聞いても楽しそうな声。
ホント、この娘は悩みなんてないのかしら?
なんて、時々思ったりする。
一つ年上なのに無邪気で明るくて…。
多分、この子に私の気持ちなんかわからない。
「もうやめて、帰ろうよぉ〜」
「えぇ〜、だって久々の休日じゃん。今度はさあ、渋谷の方行かない?」
「いや、あんな人のいるとこ。気持ち悪くなる。それに…」
「何?」
- 98 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年04月05日(木)01時09分55秒
- 「そんな、格好してたらバレるよ、矢口」
「ははは、簡単にはバレないって。それに自意識過剰なんだよ〜それって。紗耶香
みたいにこ〜んな真夏の中、そんなカッコしてたら、逆に怪しまれるって」
私は男物のシックなシルクハットにオレンジ色のサングラスを着けて、街中を歩いてい
た。
今は背後に青山神社と書かれてある看板が見える。
一方、今日一緒に歩いている矢口はいつもとほとんど普段と変わらない格好だ。
「変装」とはほぼ遠い。白い厚底ブーツに少し茶色がかった髪の毛をピンク色のゴムで
後ろに二つ束ねたテレビでもよく見せる格好で、知ってる人ならどこからどう見ても矢
口だ。
「矢口もさぁ、もうちょっと自分のこと意識したら」
呆れながら言う私に矢口は、口を尖らせる。
「だって紗耶香みたいな変装しててバレたら、ちょっと恥ずかしいじゃん」
「何よ、それ」
と反論しながら自分でも装着に若干の違和感のあるサングラスを無意識に触ってしま
う。
- 99 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年04月05日(木)01時11分35秒
- 「それにバレたらバレたで面白いじゃん」
「面白くないわよ」
「それだけ、私たちが有名になってきたってことなんだから、むしろ喜ぶべきかもし
れないし」
「まあ、そうなんだけど…」
「じゃあ、決定!行こう!渋谷って歩いて行ける距離だったっけ?」
矢口は私の袖を引っ張って強引に連れていこうとする。私は少し抵抗するように矢口の手を切ってから、
「まあね…でも、歩くの疲れない?」
と、しぶしぶ付いていこうと決めた。
「15の乙女がババくさいこと言うんじゃない!ほら、行くよ!」
矢口は先に一人で、渋谷の方に向かう。
私は、矢口が歩く前方に矢口の方を見ているグループがいることに気付く。
ちょっと私との距離が空いた矢口に向かって、叫んだ。
「矢口!ちょっと待っ…」
私は、言うのを止めた。
- 100 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年04月05日(木)01時12分53秒
- 遅かった。
男女4人が前方の矢口を取り囲んだ。
「モーニング娘。の矢口さんですよね?」
「ですよね?」
好奇心という目を光らせた中学生っぽい男女が矢口を取り囲んだ。
「え、ええ、まあ…」
矢口はさすがにすぐに「そうです」とは答えられず、言いよどむ。
「私、すっごい大ファンなんです…えっと、あの、この前の新曲…えっと…『真夏の光
線』でしたよね?大好きなんです!」
ぱっと出てこないところを見ると、そんなに「大ファン」ではなさそう。
ていうかもう「ふるさと」っていう新曲が出てるし。
「握手してください!」
一人の男の子が右手をピンと張り、矢口に向かって頭を下げた。
テレビでよく見る企画としてカップルを成立させるような番組の最後にある「付き合っ
てください」と男が女に懇願するシーンを思い出した。
その男の子は矢口と(厚底を加えての話だが)さほど身長が変わらない。それに矢口に
負けず劣らずの甲高い声を出した。きっとまだ変声期を迎えていないんだろう。
- 101 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年04月05日(木)01時14分26秒
- さすがに純粋に出された手に拒否することはできず、少し困った表情を見せながら握
手した。
「ありがとう」
「ありがとうございます!やった〜!!」
男の子はさっきよりも大きくて高い声をあげた。
それが原因だった。
渋谷のハチ公前の交差点ほどではないにしても、そこは幾らか人が集まるところだ
った。横には高架に沿った小さな公園があって、大学生らしき青年たちがたむろして
いた。
男の子の目立つ行動は、そういった人たちの目線をあっという間に集めた。
そして、徐々にざわめきたつ。
「ね、ねぇ・・・矢口〜」
その状況に矢口と私は同時に気づいた。
「紗耶香!」
矢口がやってきた。
「逃げよ!」
「う、うん」
矢口は2m後ろの私の方に戻り、腕をつかみ、走り出した。
何名か追いかける者がいて、それを矢口が見つけると、
「あ〜、厚底、ウザったい!」
なんて愚痴を言いながらも矢口はなんか楽しそうに汗を切って走っていた。
- 102 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年04月05日(木)01時17分30秒
- そんな矢口がうらやましい。
対照的に私はただ虚しくなった。
サングラスの奥の瞳が微かに濡れる。
「ねえ、別れよう!」
意外にしつこく追っかけてくる数人の男たちを見て矢口はそう言った。
「う、うん・・・」
「後で、電話するから!」
ちょっとした狭い路地で私たちは別れた。
しばらく走った後、後ろを振り返ると追っかけてくる者はいなかった。
私は、ふぅ〜っと一つ大きく息を吐く。
- 103 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年04月05日(木)01時25分54秒
- 私は……走る必要があったのだろうか?
私もモーニング娘。だなんてあの男の子たちはわかっていたのだろうか?
多分知らなかった。
だから走る必要なんてなかった。
きっと矢口を追いかけるだけで私を素通りしていくだろう。
だから矢口と離れることができて、ほっとする。
みじめにならなくて済むから。
帽子とサングラスが「そうじゃない」と説得する。
「帽子とサングラスをつけていたから、『市井紗耶香』だってバレなかったんだよ」
- 104 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年04月05日(木)01時26分58秒
- そうだよね?
そう思うことにより、自分を誇っていられる。
自分に嘘をついてることは何となくわかっている。
だから、いつかそれすらみじめになることは知ってはいるけど。
だけど、そうしないと私は私でいられない
携帯の電源をオフにする。
言い訳なんてなんとでもなるよね。
「走っていたら間違って切っちゃったみたい」
そうそれでいい。
ちょっとはイヤな顔をされるかもしれないけど。
自分が傷つくよりはマシだろう。
- 105 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月05日(木)19時30分30秒
- >はい、いじめられて帰ってきました(笑)
ごめんね、皮肉なことに、>>95 わたしだったりする。
知らないで、激励していた相手をいじめてたなんて・・・
- 106 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月05日(木)21時28分21秒
- >>93は、
- 107 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月06日(金)01時18分05秒
- >>105 う〜ん、僕はあなたからは逃げられないのね(笑)
全てのレスがあなたに見えてきた。
>>106 ごめんなさい。レス恐怖症で…見えなかった。
>>93 ここではあんまり疲れていないけど、めっちゃ疲れています。
書いといたフロッピー、忘れてきちゃった…。鬱だ。
- 108 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月06日(金)01時53分53秒
- 私の、主義として、sageで、書いてある作品にはレスしないというのがあります。
それを破ってまで、書いた唯一のレス。
察してください・・・
- 109 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月07日(土)03時41分31秒
- フロッピーなくした。というか奪られたかも…。全部の小説入ってたのに。
鬱だ。というか、見られたら恥ずかしいかも…。
>>108
察します。いい風に察します。なぜか涙止まりません。ah〜ありがと。
- 110 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月04日(金)16時03分02秒
- 続ききぼ〜ん
- 111 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月06日(日)20時33分46秒
- うーん、待っている人がいるとは・・・
- 112 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月09日(水)16時58分55秒
- まってますよ〜
作者さんの小説、大好きです!!
がんばって〜!!!
- 113 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月26日(土)23時59分00秒
- 前2作とってもよかったです。
新作も続けてくれるとうれし〜な〜
- 114 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月01日(金)19時44分56秒
- 俺はいつまでも待つ!!!!
- 115 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月03日(日)18時55分52秒
- 更新予定age
- 116 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月04日(月)01時03分46秒
- さて、これからどうしよっか?
私は目的のなくなった街の路地裏で少し休むことにした。
ちょっと適当なところに腰かけると、頭のてっぺんがむらむらしてきた。
帽子が冬物だったのか体から出た蒸気が帽子と頭の間に溜まっている。
私は一回、帽子を取って夏風を感じた。
日の当たらない路地裏からのすき間風が私を襲う。夏にしては結構涼しい。
この前切ったばっかりの髪が少したなびく。
おかっぱ頭な私から卒業したくて切った髪。
それでも少しウザったく感じるのはどうしてなの?
ふと帽子の裏にあるタグを見つける。
私の頭にしては大分大きいサイズ。
これは私が私だとわからなくするためのグッズ。
矢口が言うような「変装」なんかじゃない。
私の心を守る「防御服」。
- 117 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月04日(月)01時05分34秒
- いつか、自分に振りかかってくることも知っている。
なんて中途半端なの?
自問自答を繰り返す。
いっつもファンの目線が私たちに集まる。
でもね。
それはあくまで「私たち」。
私は隣りの誰かに頼っているだけ。
また、涼しい風が吹きつける。
その風は何か思いを乗せているみたいで、耳の横を通った時、少し、キーンという音
がした。
少し心が晴れたような気がした。
- 118 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月04日(月)01時06分32秒
「風になりたい」
なんて思ったわけでもないのだろうけど、今、こうやって立ち止まっていると痛い思い
が堆積するようで早くこんな鬱積したものを追っ払いたかった。
私は路地の細い道を猛ダッシュで走った。
心臓が早く強く脈打つ。
器用にごみ箱などの障害物を避けて前へ進む。
何も考えずに走っていたつもりなのに、突然、矢口の声が頭の中で聞こえてきた。
「自意識過剰」
私はその言葉を噛みしめた。
本当にそうかもしれない。
ホントは「私はここにいる」って叫びたいんだ。
- 119 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月04日(月)01時07分49秒
- 暗い道の向こう側に光が見えた。
私はただ一目散にその光の射す方へ駆け抜けた。
頬や手足を切る風が心地よかった。
最後の一歩は大きく踏み出した。
日の光は生温かくて、心地よくてゴールテープを切った気分。
夏の空はきっと青々としていて生命の喜びに満ちているだろう。
でも、私にとってそれはガラスの向こうの世界の話。
きっと、叫んでみても誰も気付かない。
と、そんな瞬間―――、
- 120 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月04日(月)01時08分59秒
- ゴッチン!!!
何かにぶつかった。
いや、「何か」じゃなくて「誰か」だ。
膝と右肩と額がぶつかった。
私のほうが勢いがあったので「誰か」はただ、私の作った力になす術もなく
飛ばされた。「キャッ」という悲鳴をあげる。
「誰か」は手にしていたらしい携帯電話を後ろに投げ飛ばし、そのまま倒れた。
「あ…」
携帯電話は車道に飛ばされ、タイミング良く走りぬけた青い車に踏まれ、ペチャンコ
になった。
そして、突き飛ばしてしまった、「誰か」は、顔を歪めながら腰を抑えていた。
金髪の、イマドキの少女だ。
大人っぽく見えるが私と同じかもしくは一つ上っていったところだろう。
「ちょっと何すんのよ!」
私の顔を見るなり、怒鳴りあげた。
「ご、ごめん」
一方的に悪い私はただ謝るしかない。
「あれ…」
少女は右手の違和感に気付く。右手を握ったり開いたりしている。
そして私を見る。
私は申し訳ない顔をして(とは言っても帽子とサングラスでほとんど向こうにはわからない
けれど)車道の方を指差した。
- 121 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月04日(月)01時09分47秒
- 「あ〜〜!!」
少女は腹の底からさっきの怒鳴り声とは違う声をあげる。
そして、その声の終わりにきっと私のほうを睨みつける。
「ちょっとぉ〜、弁償してよね!」
予想以上の強い眼光に私は一歩後退する。
「う、うん…」
そこまで罪の意識はなかったんだけど勢いに押されて、うん、と言ってしまった。
- 122 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月04日(月)01時51分57秒
- というわけで書きました。「名無しさん」で書いちゃったけど、いっか。
>>112 >>113 >>114
どうもです。1作目、2作目、3作目とどんどん面白くなくなっていきますが
よろしくお付き合いください(w
多分、すぐ更新します。
- 123 名前:通りすがり黄板の作者 投稿日:2001年06月04日(月)08時54分23秒
- あれ?作者さんが上げちゃってる・・・・・・無駄だけどsage。
2作目の展開はすごくめずらしいと思いますよ。
- 124 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月04日(月)20時06分46秒
- >>123
別に下げてる意味もないんで(元々意味ってあるのかな?)。
>2作目の展開
そうですか?架空人物を出しているんで娘。小説には少ないかもしれませんね。
それでも最後の展開はありがちかな?と思っていたんですが。
ちなみに3作目は一番めずらしいとは思います。
- 125 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月04日(月)20時10分59秒
- 「ホントにごめんなさい」
お詫びをかねて私は御飯をおごると提案した。
「何がいい?」
そう尋ねると、
「マックがいい」
なんて言って、にんまりしていた。
「そんなんでいいの?」
「うん!なんかむっしょうに食べたくなった!」
お金はある。
一応、働いているからね。
携帯電話だってきっと私の許容範囲だろう。
- 126 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月04日(月)20時12分39秒
- なんてことを考えながら少女に連れられて、近くのマクドナルドに入った。
私は、さっき食べたばかりだからオレンジジュースのMサイズを一つ頼んだ。
少女はてりやきバーガーにダブルチーズバーガー、そしてLサイズのコカコーラを
頼んだ。相当、お腹が空いていたらしい。
椅子に腰掛けたあと、テーブルに額をつけかねないところまで深くお辞儀をして、
向かいに座る少女に謝った。
少女はコカコーラを勢いよく飲んでいる。
ズズズッーって音を出していて、ちょっと下品だ。
「ホントにごめん」
私は何も言わず、ただ食べるのに夢中な彼女をチラリと見て、もう一度繰り返した。
「え?あ、うん?」
少女は口にダブルチーズバーガーをほうばりながら私を見た。
「ング…うん、…モグモグ…いいよ」
「え?何?」
「許したげる。おいしいし…」
「おいしい?」
「うん、ハンバーガー」
意味不明。
まあ、とにかくお腹が満たされてどうでもよくなってきたってことだろう。
- 127 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月04日(月)20時14分49秒
- 「携帯電話は弁償するから」
「そうなの?ありがと〜」
少女はものの五分で二つのハンバーガーを胃の中に収めた。
手に付いたチーズを舐めたりしている。
「ねえ?」
ぼんやりと少女の食べているところを見ていた私に少女は声をかけた。
「うん、何?」
「なんで、そんな格好してるの?」
興味津々って顔をして聞いてきた。
「格好って…変?」
「うん、その帽子と眼鏡。全然似合ってないじゃん」
- 128 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月04日(月)20時16分43秒
- 眼鏡じゃないよ、と思いながら、
「そうかな…?」
「取りなよ」
ドキリとした。バレたら困る。
いや、
バレなくても困るのかな…。
微妙な人間だな…私。
- 129 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月04日(月)20時18分37秒
- 喉の奥が乾いてきたのか無意識に、オレンジジュースを口に含む。
「別にいいじゃん、私の勝手でしょ」
「なんか、顔を隠してるみた〜い」
「え?」
「あ、わかった!」
もう一度、ドキリ。
顔色が少し紅潮する。思わず、「気付かれたか?」と思い、少女から顔をそむけ
る。
「ブスなんだ〜!」
「は?」
さっき、飲んだジュースの味が口の中にまたやってきた。
ていうか、面と向かって「ブス」だなんて失礼だな…。
- 130 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月04日(月)20時20分17秒
- 「あなたねぇ、初対面の人に言うセリフじゃないよ」
「ははは、まぁそうだよねぇ」
その少女は「天真爛漫」って言葉が似合っていた。
そう、初対面なのに……。
あんなこと言われたのに、全然、頭に来ない自分が不思議だった。
それはきっと、まだ大人社会に巻き込まれていない純粋さがあるからだろう。
そして、私は、金髪で大人びたこの少女が私より年下なんじゃないかって思った。
「じゃあ、そろそろ、携帯買いに行こう!」
「…その前に」
立ち上がろうとする少女の袖を私は引っ張った。
「あなた何歳なの?」
「え?私?13だけど」
「げ?マジで?」
予想してたとはいえ、二つも下とは…。
- 131 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月04日(月)20時23分33秒
- 「じゃあ、あなたは?」
少女は聞き返す。
「私?私は…え〜っと…」
私はホントの年齢を言うべきか迷った。
その迷いの隙をついて、少女は、私の帽子とサングラスを一瞬に奪い取った。
一瞬のことだった。
「あっ!!」
「あれ〜?」
急いで少女がとった帽子を取りかえそうとする。が、一回さらりとかわされた。
「返して!」
「な〜んだ…」
少女は私から奪った帽子を自分の頭に被り、サングラスをつけた。
「美人じゃん…」
- 132 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月04日(月)20時24分46秒
- 「ありがと…」
ちょっと苛立ちながら私は応えた。
少女は、ふ〜んという唸りながら意味深な表情を浮かべた。
「あ、そうだ!携帯持ってるんでしょ?貸して!」
「なんで?」
一瞬、今日出会ったばかりの子に貸すなんて、とためらったが負い目がある以上
仕方ない。
バッグから携帯を取り出して、少女に渡した。
すると、帽子とサングラスを私に返してくれた。
「はい」
「ありがと」
「どこかけるの?」
「う〜ん、ちょっとねぇ」
少女はボタンを押した。
- 133 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月04日(月)20時26分19秒
- 例えば、私は友達と喋っている時に携帯に電話がかかってきたとすると、「ちょ
っと待って」とか言って、友達と離れて電話する。
それが礼儀っていうか常識みたいに考えていた。
しかし、少女は私が目の前にいるにも関わらず、喋りはじめた。しかも大声で。
「もしも〜し、私。え?誰って?なんでわかんないのよ〜」
テーブルの両肘をついて、楽しげに喋っていた。
ふと見ると、少女の左薬指にシルバーリングが輝いているのに気付いた。
そういえば、電話の向こうから男の声がする。
そっか、彼氏と話してるんだ。
なぜだろう。
体が重くなった。
少女のきゃははは、っていう声が私にグサッと刺さるような気がした。
- 134 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月04日(月)20時27分20秒
- 「あ、ちょっと待って」
少女は電話越しの相手に一言言って、ケータイの下の話すところを親指で押さえて
から、私に声をかけた。
「もう少しで終わるから」
私は、これ以上モヤモヤするのがイヤだったので少女の電話が終わるまで、
「化粧直し」と言って席を外した。
その後、少女は十分以上喋っていた。
- 135 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月04日(月)20時29分41秒
- これで一区切り。
- 136 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月04日(月)20時42分00秒
- うーれーしー
作者さん復活してくれてありがとーーー!!!!!
- 137 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月05日(火)01時13分50秒
- もしかしてドラマのS・O・S(滝沢秀明主演)とかって見てました?
市井の心境とかがダブるところとかあったので、、、違うかな
あのドラマ好きだったので、この話の雰囲気もすごく好きです
これからどう展開していくのか楽しみです
がんばってください!!
- 138 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月05日(火)19時01分56秒
- ひさびさの更新、待ってました。
「眼鏡越しの空」、この時期の市井ちゃんで来ましたか。
この歌、私は、娘。卒業後の彼女を歌ってるみたいだなって思ってたんですが
(もっともサビの部分は後藤から見た市井?)、なるほど、そういう捉え方も
できますね。
描かれている渋谷の風景がラブマのPVのはじめの部分みたいな感じで、乾いた
夏の感じがよく出てると思いました。
- 139 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月05日(火)19時59分38秒
- >>136
何回かレスしてくださった方ですね。復活っていう感じでもないんですけどね。
同じ作品を書くのって面倒くさくって…(しかも、あんまり…だし)
せっかく書いたのでよろしくお願いします。
>>137
見てません。見てませんが半分当たりです(w
詳しくは、
http://www25.freeweb.ne.jp/art/chamlog/chamlog/979923607.html
544 572 が俺だったりします。わざわざ調べちゃいました(w
というわけで、雰囲気や展開は多分(いや、絶対)違うと思いますが…。
>>138
遅くなって申し訳ないです。「眼鏡越しの空」は話を作ってから、思い浮かんだ
タイトルなんで歌の世界を踏襲したわけじゃないのですが、結構合ってますね。
ただ「眼鏡」という言葉のせいで、逆にストーリーを歪曲させちゃった経緯が
あるんですよね。なかなかピッタリのタイトルを見つけるのは難しいです。
>風景
あんまり…上手くないと思う…(w
いや、ありがとうございます。
- 140 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月06日(水)08時22分39秒
- 「ねえ、携帯ってどういうのがいいの?」
マクドナルドを出て、適当なショップを探している途中聞いてみた。
少女は私のすぐ真横を歩き、チラチラと私の顔をうかがう。
「どうしたの、なんかついてる?」
サングラス越しに何回も目が合ったので気になって尋ねた。
「ううん、なんでもない」
少女は小さく首を横に振る。そうしてる間に、そういうお店らしき看板を見つけた。
「あ、あった。ドコモだったよね?」
同意を求めることなく、私は少女の袖を引っ張って目先にある携帯ショップに足
を進めようとした。
- 141 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月06日(水)08時23分25秒
- しかし、少女は私に逆らって足を止めた。
「ん?どうしたの?」
私は不思議に思い、振り返る。
「う〜んと、いいや」
「は?」
「さっき、ケータイ使わせてもらったからいいや」
「何が?」
「だから、ケータイ要らない」
「何で?」
「だから、貸してくれたから」
「はぁ……」
言ってることがわかるようなわからないような…
携帯を貸したら、携帯を弁償しなくていいのか…?
私は首をかしげた。
「ほんとにいいの?」
「それよかさぁ…」
少女の目線は私の後方30度を見る。そしてその方向を指さした。
「あそこ行こうよ」
少女が指差したものは大手のカラオケボックスだった。
- 142 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月06日(水)08時24分07秒
- カラオケに入ると、受付の人が名前と電話番号を記入してくださいと言って、受
付用の用紙を出してきたので、私は偽名と嘘の電話番号を書いておいた。
「さてと!」
少女は部屋に入るなり、持っていたバッグを部屋の椅子に向かって投げつけた。
「結構広いじゃん」
「そうだね」
私は久しくカラオケには行っていない。それに二人きりで行ったことは一度もなか
った。女同士でも、もちろん男の子とも。
「よかったぁ、コードレスだ。ねえ、聞いてよ。前に行ったところなんかねぇ、今ど
き、マイクにコードなんかついてたんだよ。歌ってたら、ブチッってコードが切れ
ちゃって。そしたら、『弁償しろ!』なんて言ってくるし」
コードなんてそんな簡単に切れるもんじゃないと思うけれど…。
ただ、この子の元気の良さを考えるとそれも有り得るかもねって思い、苦笑い。
- 143 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月06日(水)08時31分09秒
- 「何、笑ってんのよ。気持ちわる〜い。あ、そうだ。帽子と眼鏡とりなよ。か
わいいんだからいいじゃん」
「え?あ、うん…」
私は一瞬ためらったが、この子は私のことを全く知ってなさそうだったので、
帽子とサングラスをとることにした。
少女はもう一回、私の顔をまじまじと見つめる。
「ちょっと…ジロジロ見ないでよ」
「やっぱ、美人じゃん。なんで隠すの?」
「そりゃあ」
ちょっと考えてから、
「直射日光はお肌の大敵だから」
なんて嘘をついた。
一応、冗談めかして言ったつもりだったが、少女は、
「へぇ〜、そうだったんだ、なるほどねぇ〜」
と妙に感心している。
それで納得するの?
と思いつつ、この子は私の考え方とか価値観とかとは少し離れているんだと思い、そ
のまま流すことにした。
- 144 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月06日(水)08時32分49秒
- 「さってと〜、歌おう♪踊ろう♪」
「踊るの?」
カラオケボックスで踊ったことはない私はつい聞き返した。
「言葉の”あや”よ。早く座ってよ」
「うん」
「どれ歌おっかな〜♪」
なんて言いながら、少女はぱらぱら本をめくっていると、歌手別の「も」のところで
手が止まった。横目で見ていた私もピタリと止まる。
まさか、モーニング娘。?
「も」って言ってもいっぱいいる。森高千里さんとか…。
でも少女はどうみても「モーニング娘。」の欄に目を向けている。それに周りを見ても
この少女が歌いそうな歌手名は他に見当たらない。
少女は少し唸った後、リモコンをテレビの下の本体に向かって突き出して、ピピピと数
字を打った。
ま、まあ、聞いてやるか…。
なんて思ってると、流れてきたのは、ビート音が強いダンスナンバー。
「さてと」
少女は立ち上がった。
- 145 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月06日(水)08時33分37秒
- そして、画面上には、「Chase the Chance」。
安室奈美恵さんの歌。
あれ?
ちょっと間の抜けた表情をしていると、少女は聞いてきた。
「どうしたの?変な顔して」
「だって、今、見てたところと、違うじゃん」
「あ、ああ、私って最初に歌う曲、決めてるんだ。JOYSOUNDなら番号覚えてるし。9678
なんだ」
「は、はあ…」
やっぱり変な子。
じゃあ、なんで「も」のところを見てたのよ。
少女はマイクをカッコよく持って歌いはじめた。
- 146 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月06日(水)08時50分23秒
- と、まあこんな感じで更新。
- 147 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月06日(水)20時35分47秒
- ♪そんなんじゃないよ、楽しいだけ。つまらない衝動に従うだけ〜
少女の歌は上手かった。安室さんに歌い方が似ていた。いや、似せているのだろう。
ラップとかも結構、サマになっていた。
「イェ〜イ」
なんて言って、私に向かってピース。
私は拍手で応えた。
「どうだった?」
なんて聞いてくる間に、スピーカーからジャカジャジャジャカっていうドラムの音が聞こえてきた。
私はその画面に目をやり、少女も同じように画面を振り返ると、ジャカジャカジャ
ン!と音が終わり、数字が表示された。
点数だ。788点。
「あ、採点モードにしてたんだ」
少女が言うと、私は、
「へえ、今は、そういうのもタダなんだねぇ〜」
少し感心した。
「今は、ってか普通そうなんじゃないの?」
「そうなの?最近、カラオケ行ってないからなぁ」
- 148 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月06日(水)20時36分54秒
- 少女は呆れ顔で、
「ねぇ。今、思ったんだけど、あなた何歳?」
「あれ、言ってなかったっけ?別にいいけど…」
と言おうとすると、
「ちょっと待って!当ててみせるから!」
と私が言うのをさえぎり、少女はう〜んと古畑みたいな唸り声と仕草をして、
「19、いや、ハタチだ!」
と自信ありげに言った。
お〜い。
失礼な。
「私ってそんなに老けて見える?」
「え〜、違うの?う〜んと、じゃあ、22歳!!」
なぜ、増える?
- 149 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月06日(水)20時37分27秒
- 「15歳!高校生!」
と自分の胸をドンと叩いて主張する。
少女は大げさに目を丸くして、驚き、
「え〜、見えな〜い」
と何のためらいもなく言う。
「あなただって13には見えないわよ」
「あたしのは、大人っぽいっていうの!ぃ……あなたは…」
「何よ」
語尾を上げて、うかがうような目で私に言った。
「オバ…さん…っぽい?」
失礼すぎ。
- 150 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月06日(水)20時38分20秒
- 「ちょっと〜」
「ハハハ、言いすぎた。ごみんごみんご」
と意味不明の言葉を言う。反省の色は全くない。
「ところで、歌入れたら?まだ入れてないでしょ?」
「あ、そうだった」
下を向き、開いてあるページに目を通し、知っている歌手を探した。
「ねえ、名前教えてよ」
少女は言ってきた。
「うん?」
「な、ま、え!『あなた』って言うの、なんか気持ち悪いから」
「ああ、そうだね」
- 151 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月06日(水)20時39分16秒
- 本名を言おうか迷った。その時、少女の方から名前を出した。
「あたし、マキ。呼び捨てでいいよ。あらためまして、はじめまして」
少女はそのまま、私に手を差し出した。握手を求めてきている。
私はジーパンのポケットの辺りで手のひらの汗をゴシゴシと拭って、
「私は紗耶香。よろしく」
とつい本名を言ってしまいながら握手した。
「あ、やっぱり」
「うん?」
「さっきの受付の名前って嘘だったんだ」
「え、あ、ははは。まあ…」
偽名を使ったことがバレるってのも結構恥ずかしいもんだ。
耳たぶがちょっと熱い。
私はEvery Little Thingさんの名前を見つけ、その中で一番好きな曲の「Dear my
friend」の番号を押す。
ふと、気になった。
- 152 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月06日(水)20時40分01秒
- 「ねぇ、なんで『やっぱり』なの?」
と少女―マキ―の方を見ると、マキは私の方をじっと見ていた。
さっきから、ちょっと気持ち悪いぞ。
「え?何が?」
「だって、さっきマキちゃん、受付の名前は『やっぱり』偽名だったって言ってた
じゃん」
「マキでいいよ」
「あ、ごめん」
「だって、サヤカさんってすっごくオドオドしてたもん、名前書く時。お店の人にも
バレてるって、絶対」
「ウソ?マジ?」
「うん、バレてる」
もう一回、顔が赤くなった。「Dear my friend」が流れてきた。
- 153 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月06日(水)20時40分36秒
- 「ははは…はぁ…」
少し、肩を落とす私に、
「ねえ、サヤカさん?賭けしない?ジュース一つ」
とマキは言った。私はマイクの電源をオンにする。
「いいけど、何で賭けるの?」
「歌で。あたしのが788点だったっけ?だから、それを超えればサヤカさんの勝ち、
低ければあたしの勝ちってのは?」
私にはプライドがあった。
仮にも私は「プロ」なんだし、負けるはずがない!
「いいよ!」
私は立って歌い始めた。
- 154 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月06日(水)20時43分40秒
- あと、4、5回ぐらい。全部書いてるんだから出せばいいんだけどね。
- 155 名前:かんかん 投稿日:2001年06月07日(木)01時19分58秒
- じゃんじゃん出しちゃってください!
期待してます!
- 156 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月07日(木)05時08分34秒
- ( ´ Д `)<出してぇ〜〜
面白いっす。続き期待!
- 157 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月07日(木)20時10分36秒
- さっきと同じようにズズズッという音を立てて、マキはコーラを飲んでいる。
私の前に置いてあるアイスミルクティーはそのまんま。
「へへへぇ〜」
ってマキは薄気味悪い笑みを浮かべる。
「楽勝♪」
そして、私に向かってピース。
そう、私の点数は612点。マキの788点には遠く及ばない。
なんでなのよ、もう!!
- 158 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月07日(木)20時12分21秒
- コーラを飲み干したマキに向かって、
「ねぇ、もう一回!さっきのは私の得意な歌じゃなかったから。ホントはこんなんじゃないのよ!」
と声を荒げて言い訳すると、
「うわ〜、サヤカさんってなんていうか、負けず嫌い?」」
「ていうか、プライドがあるのよ、私には」
「なんかよくわかんないけど、いいよ。やろ♪」
「よしっ」
「じゃあさぁ、今度は公平に同じ歌で勝負しない?」
自信たっぷりに挑戦状を叩きつけるマキ。
「いいわよ、歌はどうする?」
と初めて、私はアイスミルクティーに口をつけた。すると…
「そうだなぁ、モーニング娘。なんかどう?」
「ブッ!」
思わず、口に含んだミルクティーを噴き出す私。
「ちょっとぉ〜、汚いよ!何なのよ!!」
「いや、ははは、ごめん」
部屋に入る時にもらったおしぼりで濡れたテーブルを拭く。
「まさか、モーニング娘。を知らないとか?」
「知ってるけど…」
知ってるっていうか、そのものっていうか…。
- 159 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月07日(木)20時15分54秒
- 「まあ、あたしもメンバーの名前を全員、言えないけどね」
と言ってマキは名前を思い出そうとしている。
「ふ、ふーん…」
ちょっと鼻でならす。
実は結構不安だったりする。
私だけ出てこなかったらどうしよう、なんて。
「えっと、なっちでしょ…。あれ、なっちって何て言うんだったっけ?」
なっちの名前も知らないのかよ。
- 160 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月07日(木)20時17分08秒
- 「ははは、全員、知らないや。サヤカさんは言える?」
「い、一応、言えるけど」
「へえ、結構好きなんじゃん」
知ってたら好きなのかなぁ
と首をかしげていると、
「というわけで、モーニング娘。の中からでどう?」
マキはもう一度、尋ねた。
私の頭の中で、いろんなことがフル回転した。
私の歌だから。
私が歌ってる歌だから。
負けるわけない。
でも、もし負けたら?
私って何?
- 161 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月07日(木)20時18分32秒
- 「どうしたの?すっごい気難しい顔して?」
心配した面持ちでマキが私に話しかける。
「キライなんならいいけど・・・」
「キライじゃないよ」
「じゃあ、決定♪曲は〜」
「いいよ、マキちゃ…マキが決めて」
「うん、じゃあねぇ…」
と、登録されてあるモーニング娘。の欄を見回してから、
「あ、そうだ。新曲出たんだった!!知ってるよね?」
私に同意を得てから、新譜のページを開き、しばらく目的の曲を探した後、リモコン
を手に取った。
- 162 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月07日(木)20時19分42秒
- また、ジュースが二つやってきた。
笑顔と落胆の二人。
ジュースを持ってきた店員は表情の陰と陽のコントラストにめちゃくちゃ戸惑っていた。
- 163 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月07日(木)20時21分06秒
笑顔のマキ。
落胆の私。
そう…
私は負けた。
まさか、モーニング娘。の曲で負けるなんて…。
曲はもちろん、新曲の「ふるさと」。
マキは735点。私は698点。
あんなに、感情をこめて歌ったのに。
- 164 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月07日(木)20時23分02秒
- 「ちょっと、そんなに落ち込まないでよ」
私は、うなだれたまま、顔を上げようとしなかった。
ていうか、上げれない。
「別にお遊びなんだし」
私にとっちゃ、お遊びじゃないんだよ。
「ねえ、サヤカさん」
あなたになぐさめてもらいたくないよ。
「もう…ジュースおごってもらわなくていいから…」
って、そんな問題じゃない!!
- 165 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月07日(木)20時24分25秒
- 私は顔を上げた。
涙がポタリポタリ落ちていた。
それに気づくと、急いでまぶたをゴシゴシこする。
マキは驚いて、ホントに申し訳ない顔をする。
それを見た私は、もっと申し訳なくなった。
「ごめん、ごめんね…」
マキはそう言って、泣き出しそうになる。
「いや、マキのせいじゃないから。ははは、そうだよね。たかがカラオケの点数で、何
ムキになってるんだか。私ってバカだよね・・・」
って、今度はマキをなぐさめると、マキは、
「うん、バカだよね…サヤカさんってホント、バカだ…」
と言った。
マキと私は、目が合った。
そして、あはは、と同時に笑いはじめた。
- 166 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月07日(木)20時32分25秒
- とまあ、こういうノリもありかな?と思いつつ、更新。
>>155
定時更新でよろしいでしょうか?期待して下さってありがとうございます。
>>156
出します出します。面白いって言ってくれて嬉しいです。
あと3回(3日)。
- 167 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月07日(木)21時02分02秒
- 毎日更新ですか?楽しみにしてます。
- 168 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月07日(木)21時08分38秒
- ハイスピード更新
あーりーがーとー
- 169 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月08日(金)00時44分52秒
- いちーちゃん・・・(苦笑
- 170 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月08日(金)20時34分28秒
- 「ねえ、次どこ行く?」
カラオケボックスを出た私たちはすっかり仲良くなっていた。
ただ、部屋を出る時、やっぱり私は帽子とサングラスをつけた。
「だから、変だってばぁ〜」
って言うマキは、頬をプクーッと膨らませる。
しかし、私は聞き入れなかった。
- 171 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月08日(金)20時35分17秒
- 時刻は午後の6時を過ぎていた。
今日びの中学生にとってはまだ大した時間ではないのは私も去年まで中学生だったん
だからわかる。けれども、この子の素性っていうか、住所はどこだとか電話番号はどう
だとか、親とか兄弟とか、全然知らない以上、やっぱり二つ年上の者として言っとく
べきだと思って、
「でも、もう遅いんだから…ね?」
なんて言うと、マキは腹を抑えて笑って、
「サヤカさん、って何時代の人?」
なんて言う。
「そ、そんなんじゃないわよ。ただ、お家の人が心配してるかなぁって思って、大丈
夫なの?お父さん、お母さんは心配しない人?」
- 172 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月08日(金)20時36分15秒
- 私の家には門限はなかったけど、お母さんは度を越した心配性で、中学生の時なんか
この時間になると、一回電話を入れとかなきゃいけない決まりがあった。
一回、電話することを忘れて友達と遊んでいたら、お母さんから電話がかかってきて、
怒鳴られた。お母さんはひどく泣いていて、そんな姿を見て、
「もう、こんなことはしない」って心に誓ったなぁ。
そんな昔のことを思い出していると、マキの微妙な変化があることに気付いた。
「どうしたの?」
私はマキの顔を覗きこむ。
一瞬、マキは私の声が聞こえなかったみたいで、反応までに時間がかかった。
「え?あ、うん、何でもない。どっか行こ!」
「うん…」
私はマキに腕をつかまれて、前に進んだ。
- 173 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月08日(金)20時37分54秒
- ビルの4階にある系列レストランに腰を下ろした。
さすがに夏ということで、まだ日は落ちてなかったので渋谷の街を下から見下ろ
せた。
「今日は楽しかったよ。ありがと」
首を少し傾けて、マキは言った。
「いえいえ、こちらこそ」
「しっかし、ホントに変な日だったよねぇ」
変な日にしたのは誰なのよ。
「ホントホント変な日だ。見ず知らずの子に振り回されて…」
「ははは。まあ、いいじゃんいいじゃん♪」
この子と会って、心が軽くなった気がした。そういうところで少し感謝。
- 174 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月08日(金)20時38分45秒
- 「ところで、サヤカさんって彼氏います?いるんだろうなぁ、どんな人かなぁ、
カッコいいんだろうなぁ〜」
と想像を勝手に膨らませて暴走するマキ。
「おいおい、まだいるって言ってないよ」
「あれ、いないんですか?」
私は、別に見栄を張ることもないだろうと思い、小さくうなずいた。
「うっそ?こんなにかわいいのに」
「かわいいって言ってくれるのは、女の子だけなんだよねぇ」
「それならいいじゃないですか?男の子にモテモテだけど、同性からはすっごく嫌わ
れてる子と、男の子にはあんまりモテないけど、女の子には慕われてる子がいるとし
たら、私は絶対、女の子に慕われてる子の方がうらやましく思うと思うし」
- 175 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月08日(金)20時41分28秒
- 言ってることはよくわかんなかったけど、とにかく、なぐさめてるようだ。
「うん、ありがと。ところで、マキにはいるんでしょ?彼氏?どんな人?」
「え?あたし?いないよ」
当たり前のように言った。
「そうなの?」
「だって、その、指輪・・・」
マキはしっかり左指の薬指にシルバーリングをつけていた。その指輪を指差す。
「あ、これ?これねぇ〜。大事な人からもらったんだ…」
「大事な人?恋人以外で?男の人だよね?」
「う、うん」
「あ、わかった。お父さんだ!違う?」
「まあ、そうなんだけど…」
- 176 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月08日(金)20時42分04秒
- 「へ〜、なんかいいお父さんだね。私ん家、離婚してお父さんいないからそうい
うことってないんだよね」
「ふ〜ん、そうなんだ…」
マキは表情に微妙な変化を見せていた。
が、私はその時は気付かなかった。
私はふと思い出し、尋ねた。
「あれ?じゃあ、さっきの電話って?」
「電話?…ああ、マックの時の?あれは弟」
「弟?なんか重大な話だったの?」
「いや、今晩のおかずは何か、聞いてただけだけど…」
- 177 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月08日(金)20時43分08秒
- そんなんで人の携帯、使うな!!
と、心の中で怒りながら、
そっか、彼氏、いないんだ。
と、ほっとしていた。
なんでだろう
心が軽くなった。
そして、それはなぜかはすぐわかった。
虚しくなった。
- 178 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月08日(金)20時43分43秒
- 「さてと…」
マキは口を開いた。
「そろそろ、教えてもらえません?」
「何を?」
なんとなく何を聞きたいのかはわかっていた。
「その帽子と眼鏡の意味、知りたいなぁ〜」
- 179 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月08日(金)20時52分15秒
- 週末なんだけど更新。
>>167
はい、多分。もっと早くなるかも(やけくそ)。
>>168
まあ、書いてから出すのがめちゃくちゃ遅かったですからね。どういたしまして。
>>169
それ結構誉め言葉。アホな市井ですね。そしてネガティブな市井。
あと2回(2日?)。
- 180 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月09日(土)19時32分30秒
- さっき、マキに彼氏がいないってわかった時、なんでほっとしたのか?
それはきっと、私とマキが「同列」になった気がしたから。
私は、「負けていない」って思ったから。
いっつもそう。
私はずっと下を向いて歩いていた。
どっかで私の下にいる人間を探していた。
そして、上にいる人間を恐れていた。
この帽子とサングラスだって…。
- 181 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月09日(土)19時33分30秒
- なんでだろう?
この子に言いたくなった。
それはきっと、今日初めて会った人だからだろう。
親にも社長にも姉にも友人にもメンバーにも言えない。
そんな悩みもこの子なら打ち明けられる。
初対面なのに、お互いにお互いのことをなんにも知らないのに信じることができる。
そんな不思議な関係。
- 182 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月09日(土)19時34分29秒
- 「別に、イヤってんならいいよ」
思いのほか深刻な顔をしたせいかマキの方がためらう。
しかし、そんなマキを振り切って、私は口を開いた。
「私はいつも頑張ってた。いつも負けないように努力してきた。だけど、いっつも勝
てないの。どうやっても私はビリだった」
メンバー内の一番の友達は誰ですか?
雑誌の取材でそういう質問があった。ちょっと前だったら私は矢口の名前を
出していただろう。しかしその時私は矢口よりも圭ちゃんを選んだ。
それはタンポポに入った矢口。入れなかった圭ちゃんと私。
矢口は前に行ってしまった。
上にあがってしまった。
だから圭ちゃんが一番の友達と言った。
- 183 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月09日(土)19時35分13秒
- 矢口と遊んでいると心が痛い。
ゲームセンターへ行ってハイパーホッケーなりDDRなりしてたとえ勝ったところで、
『どうせ、私生活では負けているでしょ?』
なんて見下されている気がしていた。
最近、圭ちゃんといても心が痛い。
私たちって傷を舐めあわなければ友達にはなれなかったの?
私って圭ちゃんを見て、蔑んでいるんじゃないの?
ああ、私と一緒だ。
おちこぼれだって。
そんな私がたまらなくイヤになった。
そんなことないよ、っていう私の中の声が虚しく響いて、それが一層心を痛める。
- 184 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月09日(土)19時36分12秒
- 「このね、帽子と眼鏡は変装じゃないの…」
マキにつられて、私はサングラスを眼鏡と言った。
「じゃあ、何?」
「心の鎧なの…」
「よろい?よくわかんない」
「わかんないだろうけど、聞いてほしいの」
「う、うん…」
私の真剣な眼差しに押されて、マキは頷いた。
「私はねぇ、すっごく目立ちたがり屋なの。で、念願叶ってずっとスポットライトを浴
びせてもらってるの。でもね、最近そうじゃないって気付きはじめた…。そのスポット
ライトは私に当たってるようで、当たってないの。私のねぇ、周りの人ばかり照
らすの…」
なっちとか、矢口とか…。
「どうしてだろうなぁ。みんなと同じくらい頑張ってるのに、私をすり抜けていく気が
するの。私って何?ただの飾りなの?私はここにいるのよ?生きてるのよ。動いている
のよ。認めてよ!」
私は高揚のあまり立ち上がった。椅子が後方に動き、ガタンと音がした。
- 185 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月09日(土)19時37分06秒
- 「ちょ、ちょっとぉ〜」
少しは驚くマキだったがそんなに表情は変わっていなかった。私は立ち上がったことを
恥じて、一つ咳払いした後、ストンと腰を落とした。
「帽子と眼鏡はね、私の心の中で、『そんなことないよ』って言ってもらうため
なの…」
ちょっとした間。
口をつぐんでしまったマキ。私は続けた。
- 186 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月09日(土)19時37分45秒
- 「友達と一緒に歩いててね、友達ばっかり声をかけられるの。私だって、その友達と一
緒の立場なのに。これ以上、自分をイヤになりたくなかったの。だから変装したの。
そしたら、『声をかけられないのはこの変装のせいだから』って、自分に言えるんだ
よね。そうやるしか自分を『私ってダメな人間だ』ってとがめないですむ方法がないん
だよね。だから…」
そんなことはないってわかってる。
きっといつか、『それも違う』っていう私の中の自分が叫び出す。
そしたら、私はどうなるの?
その結末はすぐそこに来ていたのかもしれない。
だから、私は助けを求めていた。
誰かに叱ってもらいたかった。
- 187 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月09日(土)19時38分37秒
- 「バッカじゃないの?」
マキは口を開いた。
「そんな風に考えて人生楽しい?」
「楽しいわけないじゃん」
「そんじゃさあ、何か知らないけど辞めたら?その周りの人と離れたらいいじゃん」
「それができたら苦労しないよ」
「なんでできないの?キライなんでしょ?その人たち。自分より上だから。じゃあ、
逃げて探せばいいじゃん、サヤカさんより下の人を」
「あんたこそ、バカだよ。キライじゃないのよ。みんな大好きなのよ。キライなの
は…」
キライなのは、私自身だ。
でも私という存在から私は離れることはできない。
私はそれだけは口にすべきじゃないと思った。
それは私を全て否定することになる。
- 188 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月09日(土)19時45分34秒
- 「何よ、よくわかんない」
マキの言葉にカチンときた。
「もういい!あんたなんかに…あんたみたいな無邪気で何にも考えないで生きてっ
てるような人間になんか私の気持ちなんかわかるわけないわよ!!」」
ほとんど無意識の叫びだった。
マキは初めて私に対して嫌悪感をあらわにして立ち上がり、私と同じくらいの声の大き
さで叫んだ。
「わかるわけないじゃん!!人の気持ちなんて。サヤカさんだって、私の気持ち、わ
かってないくせに!どうして、私が無邪気だって決めつけるの!?どうして、何にも考
えに生きてきたって言えるの!?」
マキの怒鳴り声に私は大きく後ろにのけぞった。
店の客が、店員が、ざわざわして私たちの方に注目が集まる。
「みんなだってね、多分、その友達だってね、つらい思いして生きてるの!サヤカさん
だけがそうだと思ったら大間違い。私だって…」
そう言った後、マキは右手で左手をさすりながら、腰をストンと落とした。
さすったのは左手ではなく、薬指の指輪だということはすぐわかった。
- 189 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月09日(土)19時46分04秒
- 「マ……キ……?」
「何よ、思い出しちゃったじゃん…」
マキはうっすらと涙を浮かべていた。
「どうしたの?」
マキはうち震えていた。
ず〜っと張っていた片意地がプツンと切れたように。
「この指輪はね、形見なの。死んじゃったお父さんが私に買ってくれた一番の思い出
の品なの」
「え?」
- 190 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月09日(土)19時46分43秒
- 私はマキの一連の表情の変化を思い出していた。
ほんのちょっとだけ落とした暗い影。
そのキーワードは「お父さん」。
「あたしはね、お父さんが大好きだった。ううん、『だった』じゃない。大好きなの。
でもね、事故で死んじゃってから、お父さんのことを考えると『死んだ』ってことし
か出てこないの。楽しかったこととか愛されてたこととかいっぱいあって大好きだっ
たのに、そんなことは忘れて、ただ、悲しいってことしか頭に浮かばないの。これっ
てダメだよね。お父さんのことを『つらいもの』をして思い出すことってよくないこ
とだよね?」
「マキ…」
「だからね、私はがんばってるの。誰に勝つとかじゃなくて自分を誇れるように生き
てるの」
- 191 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月09日(土)19時47分27秒
- ああ、この子も。
こんな楽しげに生きてる子も、つらい思いをしてるんだ。
不思議な気持ちだった。
心の中のモヤモヤしたものが浄化されていく感覚を覚えた。
この子がどんな人間か、今日会ったばかりなのに決めてしまっていた。
その心の中にどんな淀んだものがあるのが知ろうとせずに。
きっと、矢口もなっちもみんなも…
他の誰でもない、自分に負けたくなくて一生懸命なんだ。
「だから…」
「ごめん、ホントにごめんなさい」
私は涙が止まらないマキに深々と謝った。
- 192 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月09日(土)19時52分34秒
- ちょっとここの部分は俺らしいです。
というわけで出かけるため、早めに更新。
レスがなくても更新。
あと1回(1日)。
- 193 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月10日(日)17時30分33秒
- 午後8時。
あたりはすっかり暗くなっていて、私自身ちょっと怖い。
しばらく二人で一緒に歩いたあと、ある交差点で別れることになった。
私はこのまままっすぐ。
マキは目の前に見える歩道橋を渡る。
電話番号も上の苗字も聞いていない。
大体、マキっていうのが本名かどうかも分からない。
もし、ここで何も聞かずに別れれば、一生会うことがないかもしれない。
聞きたい気持ちもあったが、やめた。
それは私にロマンティックな心があったから。
もう一回、「偶然」会えた時。
それは、きっと新しい物語のはじまり。
- 194 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月10日(日)17時31分45秒
- 歩道に立つ私たちの横の車道で車が右往左往している。
車のランプが私たち二人を照らし、その度にお互いの顔が映し出される。
「じゃあ、ここでお別れだね」
「うん、ホント楽しかったよ…」
「うん…」
「そうだ、最後に言っとかなきゃ」
「何?」
「カラオケの点数のことだけど、あれって結構いい加減なんだよ。本物の歌手が自分の
歌を歌ったって全然いい点取れないんだから」
「そうなの?」
「うん、だから、サヤカさんも落ち込まなくていいよ。サヤカさんの声ってすっごく
よかった。優しくて…なんていうか心に響いたから…」
「そうなんだ。ありがと。自信戻ったよ」
「そう、よかった。ずっと心残りだったから」
お世辞でも嬉しいよ。
- 195 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月10日(日)17時32分33秒
- 「最後に一つ聞いていい?」
今度は私がマキに尋ねる。
「いいですよ」
「なんで最後、私に、初対面の私にあんなこと話したの?あんなつらい話…」
「…それは…」
マキはちょっとだけ考え込んだ。そして、
「それは多分、サヤカさんが私に悩みを話してくれた理由と同じだと思います」
車の光がマキを照らしたときにそう言ったのでマキが満面の笑みを浮かべているのがよ
くわかった。
- 196 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月10日(日)17時33分28秒
- 「そっか…同じか」
「はい、同じです!それじゃあ…バイバイ!」
「バイバイ…」
マキは歩道橋に向かって走っていった。
振りかえろうとしない。
後ろ姿がどんどん小さくなっていく。
私は涙をおさえていた。
悲しいんじゃなくて、寂しくて切なくて。
ははは…
ありがと。マキ。
そう一言呟くと、歩道橋の中央にいるマキが私に向かって叫んだ。
- 197 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月10日(日)17時34分51秒
- 「市井ちゃ〜ん!!あたしん中では市井ちゃんが一番だよ!!昔っから!だから、そん
なファンもいるってこと忘れないでね!!」
マキ…ありがと。
……ってなんで私の苗字を知ってる?
あれ?
- 198 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月10日(日)17時36分17秒
- あれ?
私はきょとんとした顔をマキに見せた。
そんな表情は暗くてマキには見えないだろう。私もマキがどんな顔してるのか見えない
けど、想像するのは簡単だった。
きっと、得意気な顔をしている。
だから、私がきょとんとしてるってことはマキにはきっとバレてる。
あんにゃろ…
知ってやがったな…
何か文句の一つでも言おうとしたが最後にマキはもう一言。
「それじゃあ、あたし、がんばるから!まったね〜〜〜!!!!」
またね?がんばる?
今度は首をかしげた。
そして、もう一度見ると、マキは走り去っていてもう見えなかった。
ただ、サングラス越しに黒い空がマキの面影を残して明るく見えた。
- 199 名前:眼鏡越しの空 投稿日:2001年06月10日(日)17時37分45秒
- 約1ヵ月後、二人はもう一度出会う。
「新メンバーになった後藤真希。13才です!」
金髪の少女はそこにいた。
再会は偶然じゃないかもしれない。
けれども、
物語はここから始まる。。。
(fin)
- 200 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月10日(日)17時39分48秒
そして、9ヵ月後。物語は終わる・・・。
あと0回(0日)。
- 201 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月10日(日)18時25分39秒
終わりました。この「眼鏡越しの空」は>>137 さん、そして、>>139
で書いてある通り、S.O.Sが書いてある雑誌を立ち読みして思いついた話しです。
思ったことをいくつか。
タイトルは歌から借りましたが、あの歌詞の主人公はここで無理に当ては
めてみると市井なんですが、後藤と置き換えても当てはまるような気がします
(>>138 さんの言うとおり)。
これを書いていて、「ああ、矛盾してるなぁ…」と思うことがいくつかありました。
代表的なやつを一つ挙げると、
この話しの主は「マキとの出会いを通して市井が成長する」みたいなストーリーでした。
しかし、
>どっかで私の下にいる人間を探していた。
>そして、上にいる人間を恐れていた。
と考える自分が大嫌いだった市井は、この話しを通じて、考えなくなったのか?
と聞かれればそうではなく、
>こんな楽しげに生きてる子も、つらい思いをしてるんだ。
は、成長した時の場面ですが、こういう風に考えること自体が、結局マキを「なんだ、
この子も同列なんだ」とみなしたものになるワケで、とどのつまり、全然成長してない
んですよね。あはは。ま、いいや。
そうそう、それとは別の面として、少し、某あんまり面白くないお笑いタレント(某所
では大人気)のツッコミに近い雰囲気を話しの要素に入れてみました。そういうノリで見てくれたほ
うがすんなりするかもしれませんね。
とにかく、御一読してくださった皆さん、ありがとうございました。
- 202 名前:138 投稿日:2001年06月10日(日)20時01分18秒
- よかったです。作者さん、ありがとうございました。
毎日読んでましたが、じっと見入っててレスできませんでした。
市井が大化けする直前のこの時期にこそ、後の市井の魅力の原点が求められる
のだろうと思いますが、そこに後藤との小さなドラマを作ったのは、ホントに
素晴らしい着想だったと思います。なんか、ホントにあったことのような気が
してしまいました。後藤のとらえどころのなさ(笑)もよく出ていたと思いま
す。
市井の成長云々は、あまり気にされる必要はないと思いますよ。図式的に説明
できるようなものじゃないと思いますし、だからこそかえってリアリティが出
ていたと思います。
素晴らしい小説をありがとうございました。これからもう一度読み直してみま
す。
- 203 名前:かんかん 投稿日:2001年06月11日(月)09時02分55秒
- よかったです!私的にはこの続きが読みたいな〜。
- 204 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月11日(月)20時30分22秒
- >>202
ありがとうございます。>>201 で考えたことは書き終えてから思ったことで、
そんな矛盾を知りつつも、出したのは別に深く考えることはないと判断したからです。
こういう実の無い短編はサラッといくのがいいというのが持論ですから。
だから気にはしてないですよ<成長云々。
>>203
嬉しいです。続きは…1作目のは頭にあったりするんですが、この話は考えてなかったっすね。
読んでくださったお礼にちょっと考えてみますが…。俺の作品って「続編あり」ばかりだな…。
- 205 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月11日(月)23時36分13秒
- そっか、ごまはずっと市井ヲタだったのか(w
そう考えれば全ての辻褄が・・(略
いちごま妄想が掻きたつ嬉しい話をありがとうございました(w
ってそれよりも内容的にもホント面白かったです。
個人的には1作目の続編、みたいすねぇ。
市井パパ!!ぶりが(熱望
- 206 名前:このスレの作者 投稿日:2001年08月14日(火)09時24分57秒
- お盆おめでとうございます(w
2ヶ月以上放置していましたが、また短編をちょこっと書いたので、お暇があれ
ばお読みください。
題は、「ママは高校一年生」。
このスレの1作目(>>3)「ママは中学三年生」の続編です。
>>205
遅くなりましたが、書きました。市井パパは、、、どうなるんでしょう?(w
- 207 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月14日(火)09時31分27秒
- <<ママは高校一年生>>
「終わった〜!!」
大嫌いな数学の授業が5限目にある金曜日。
チャイムと同時に後藤真希は両手を突き上げ、背を伸ばしながらそう唸った。
(なんで、週の最後の最後の授業でこんな大嫌いなものがあるんだろう?)
先生に当てられないように、目と目を合わさないように集中した結果、どっと疲れが出た。
そんなことで集中するくらいなら勉強に注げっちゅうねん、なんて言われそうだ。
「ご〜っちん」
クラスメイトの最近金髪にした生徒が後ろから首を締めるように抱きしめてきた。
ちょっと太りはじめ、本人も気にしているようだ。
「うれしそうじゃん」
「んあ〜。だって数学終わったもん」
「そんなにイヤなの?簡単じゃん」
「簡単じゃないよ。さ〜っぱり。私は数学だけは苦手なんだよねー」
「数学だけ…?」
「いや、あと…現国に化学に…日本史に英語に…」
「古典、物理、世界史もでしょ?」
- 208 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月14日(火)09時33分08秒
- 少女は呆れながら腕を組み、後藤を見下ろした。
「ごっちんが好きなのは体育と音楽と、しいて言うなら地理だけだもんね。そりゃ
あ憂鬱にでもなるってもんだ」
「とにかく、やっと終わったんだから、この幸せなひとときの邪魔をしないでよ」
「へいへい。でもごっちん、ホントに嬉しそうだね〜」
「うん!だって今日はアノ日なんだもん」
「アノ日?生理?」
「なんで、生理が嬉しいのよ…」
呆れながら後藤は言った。
(さ〜ってと、帰ろ♪)
何かとくっついてくるクラスメイトを振り切って、急いで帰り支度を進めると、
ある少女が教室の扉から後藤を呼んだ。
「何?」
後藤も知っている顔。年は一つ上だが、ほとんど同級生感覚で付き合っている。
「今日、OGの人が来たから部活があるんだって。集合よ」
キンキン声の、髪を茶色くした少女が言った(ちなみに全然似合っていない)。
転校生だったため、最初は年下の後藤に対して敬語で話していたが、いつの間
にかタメ口になっていた。別にそれに違和感はない。
「マジで…?」
- 209 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月14日(火)09時35分09秒
- (OGか…。最近、暇あるごとに来てるよなぁ…。この前来たのは今週の月曜日だっけ?
大学生で暇な日が多いって言っても、多すぎだよね〜。早く、彼氏でも見つけろっつーの)
なんて心の中で愚痴をこぼしながらも、逆らえるはずもなく、部室に向かった。
そこには今年の春に卒業していった3人のOGが先生と談笑なんか交わしている。
元の部長と副部長二人だ。
(二人は美人なんだから、もっと積極的にコンパとか行かないと…。そしたら絶
対、チヤホヤされるって。もう一人?ははは…まあ化粧は上手くなったけどね)
「あのぉ…今日は体調悪いので…休ませてほしいんですけど…」
後藤はつらそうに胸を抑え、首を丸めながら先生に言った。それとなく見せるため
髪は下ろしてみた。
楽しげにOGと話していた先生は、「あぁ〜?」と眉を吊り上げながら、後藤を睨んだ。
- 210 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月14日(火)09時36分14秒
- 普段は優しくておちゃらけな先生なんだけど、時々こんな顔をする。
といってもメリハリがついているというのではなく、意味もないところで怒ったり
するもんだからたまったもんじゃない。
「どこ、悪いねん」
相変わらずの関西弁、相変わらずの金色に染め上げた髪、そして相変わらず男の匂
いが全然しない部の先生は、後藤の全身を見回しながら言った。
「どこって…」
(やば…)
一瞬頭の中が真っ白になる。
「えっと…頭痛くて…」
「じゃ、何で胸を抑えとんねん」
(あ…しまった。胸が苦しいって設定だった…)
- 211 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月14日(火)09時39分02秒
- 「あ〜後藤、仮病だ〜」
元副部長の大学生になって少しは色気づいたのか自慢の髪を茶色にした(こっちは
大分似合っている)少女が指差しながら大声をあげる。
「ち、違うって。頭が痛くてそれが胸に伝わって…」
しどろもどろの意味不明の言い訳に周りは全く耳を傾けない。
「んだべ。嘘つきはドロボウの始まりだ」
元部長は相変わらず北海道弁が残っている。かわいいのにこれがマイナス点だ。
(いや、世の男性にとってはプラスなのかも…?)
「そうだよ。閻魔の大王に舌を抜かれるぞ〜」
疲れてもいないのに年中クマができている目をぱっちりと開けて、睨む。
(しかし、高校生に向かって言う言葉じゃないよなぁ…)
「後藤ならやりそうだね。そんなに私たちに会うのが嫌?」
唯一最近男ができたっぽいと言われているもう一人の元副部長が言った。もっ
ぱらそれは噂で、顔を見るとかなりデマっぽいんだけど(失言)。
- 212 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月14日(火)09時40分55秒
- 「ち、違いますよ…。ホントに…」
「あ〜あ、こんな純粋無垢な女の子たちの前で、嘘なんかついちゃって」
元部長は隣りにいた後藤より二つ年下の後輩二人を抱き締めながら言った。
「そうですよ〜。ウソはだめなのれす」
「後藤さん、罰ゲームや」
相変わらず小学生にしか見えない二人の女の子は口を揃えて、後藤を悪者扱いにする。
(あんたらのどこが純粋なのよ…)
「この二人に言われちゃあ、しかたないなぁ」
後ろから小さな体の現部長が懸命に背伸びをしながら後藤の肩を叩いた。
部員の中で一番背が小さい。けど、よく見るとやっぱり18歳相応の顔つきだ。
「あの二人ってもう中2じゃん…。もう純粋じゃないって…」
「そんなことはどうでもいいの!」
鋭い目つきをする現部長。
「罰ゲーム決定ね♪」
その言葉に私以外の人間がみな、万歳三唱をした。
- 213 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月14日(火)09時41分48秒
- (もう、何でこう罰ゲーム罰ゲームって…子供ですか、あなたたちは?)
「ん?何か言った?」
「いえいえ」
後藤は慌てて首を横に振る。
「じゃ、召使いね。じゃとりあえず…」
先生は言った。そして、
「あたしに欲望を満たしてもらおうかな〜?」
(は?)
先生は後藤の方にやってくる。
「な、何ですか…?」
「最近、大人っぽいコにも興味あんねん」
「は?」
先生は私の肩を掴み、そして…唇を近づけた。
- 214 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月14日(火)09時42分54秒
- (な?セクハラ?)
先生は元来小さい子がご趣味なようで…最近ではチビっ子二人か背が最も小さい
部長にしかやっていなかったのに、今回は同じことを後藤にしようとした。
免疫のなかった後藤はのけぞって、そしてそのまま、倒れた。
ゴッチン!
「あ…ぶな…」
先生の言葉も虚しく、後藤は後ろの下駄箱の角に後頭部を打ちつけた。
「いった〜!!」
もんどり打つ後藤。足をバタつかせながら、強く頭を抑えた。
「だ、大丈夫?」
と近寄る同級生。
他の生徒はOGも含めて、心配げに後藤を見つめた。
そんな中、少し離れて先生は言った。
「頭痛かったのホントやったんやな…。帰ってええで…」
後藤は痛くて怒る気にもならなかった。
/////////// ///////// ///////////// //////////// / ////////
- 215 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月14日(火)09時45分10秒
- しまった。>>212と>>213の最後の行が「私」になってる…。
- 216 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月14日(火)16時48分13秒
- 続編、超うれしっす!
市井パパに後藤ママ、こんな萌える設定、他にないですよ、ホント。
- 217 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月15日(水)02時29分23秒
- やたっ!再開だ!
市井ぱぱぁ〜〜
- 218 名前:作者 投稿日:2001年08月15日(水)07時48分17秒
- >>216
実際子供産んでないんですけどね。期待に添えられるかどうか不安です。
>>217
やはり、パパっすか(w。短編ですがよろしくお願いします。
- 219 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月15日(水)11時16分43秒
- (イタタタ…)
ちょっとこぶができている。
(明日になったらもっと腫れるかも…)
一度鏡を覗いて見たが、さすがにぱっと見てわかるほどではなくてほっとした。
「こういうのは、ドッカーンと腫れたほうがいいんや」
これは確からしいんだけど、こんな目に遭わせた先生自身が無責任に言ったもの
だからムカッとした。
電車で二時間。そこに目的の家があった。自分の家ではない。
家とは反対方向。そもそも、通学に電車なんか使わない。
「ピンポーン」
そのチャイムを鳴らし、ノブに手をかけると開いていた。カチャリという音とと
もにノブが回る。戸を開けると、聞き慣れた愛らしい声が耳に届いた。
- 220 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月15日(水)11時24分31秒
- 「だ〜!!ま〜きちゃん!!」
「こんにちは!ゆきちゃん!」
後藤と同じ顔をした女の子が走ってやってくる。ゆきちゃんだ。
ゆきちゃんとは約1年前の夏休み、ひょんなことから出会い、後藤と顔つきがあま
りにも似ていたため、そして、偶然にも姓が同じ「後藤」だったため、周囲には
「親子」だとか「姉妹」だとかに間違えられた(いや、「からかわれた」が正解か
も)。
結局、すぐに本当のお父さんとお母さんが見つかり、めでたしめでたしだったのだ
が、それ以来、このゆきちゃん親子たちとの交流は続いていた。住んでいるところ
が遠かったため、しょっちゅうというわけにはいかなかったが。
あらかじめ電話をしていたのでゆきちゃんは待ち構えていたようで、玄関の扉を閉
めたばかりの後藤の胸にダイブした。ゆきちゃんは出会った頃に比べて、体が大分
大きくなっていて、その飛び込んだ体を受け止めた時、思わず一歩後退した。する
と後ろの扉に後頭部があたった。
- 221 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月15日(水)11時25分29秒
- 「いたっ!!」
ちょうど腫れているところに当たったため、激痛が走る。そのせいで抱きついたゆ
きちゃんを思わず離し、後頭部を抑えた。ゆきちゃんは重力に逆らうことなくまっ
逆さまに落ちた。
ドスンという尻持ちの音が地面から響く。それから、ちょっと時間が空く。ゆきち
ゃんはあたりをキョロキョロ見回すと、お尻がやっと痛くなったのだろうか、大声
をあげて泣き出した。
「あ、ゴメンゴメン。痛かった…?」
後藤はゆきちゃんに目線を合わせるようにしゃがみ、自分の頭を左手でそしてゆき
ちゃんの頭のてっぺんを右手でさすった。一瞬、泣きやみ、後藤の顔を見たが、す
ぐにまた泣く。後藤はただオロオロした。
- 222 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月15日(水)11時26分51秒
- 「あらあら…泣いちゃったの?ゆき」
薄い青色の家庭用の暖簾をくぐりながら、ゆきちゃんのお母さんが姿を現した。
こっちは後藤の大人バージョンだ。顔なんて目とか鼻とか輪郭までそっくりだ。
「ご、ごめんなさい!」
後藤は立って謝る。
「いいのよ。真希ちゃん。ホント泣き虫なんだから、この子は…」
お母さんはゆきちゃんに近づき、
「もうすぐお姉ちゃんになるんでしょ?」
小さな手を握りながら諭すように言った。
「お…ねえちゃん?」
片言にゆきちゃんは反復する。
「うん、だからゆきはしっかりしなきゃ…」
笑顔と同時に言うその言葉はゆきちゃんにとってたまらなく大きい言葉なようだ。
口にするだけで、ゆきちゃんは微笑んだ。
- 223 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月15日(水)11時28分20秒
- そう。
ゆきちゃんのお母さんは妊娠していた。実は出産予定日はちょうどあと1週間後。
大分お腹が大きくなっていた。先日、お腹を触らせてもらったのだが、胎動があ
り、後藤は驚き、そして純粋に感動した。
「真希ちゃんが来るとよく動くのよね〜。多分、真希ちゃんが来ると嬉しいのよ、
この子たちも」
その言葉は後藤にとって最高の言葉だ。いい意味での鳥肌が胸から手足にかけて波
打つように立つ。
「パパが帰ってきても反応しないのにね」
ゆきちゃんのお母さんが笑いながらそう付け加えた。
聞けば二卵性の双子だそうだ。確かにドラマで見る妊婦さん(こっちは実際に妊娠
しているわけじゃないんだけどね)よりも一回り大きなお腹をしている。
- 224 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月15日(水)11時29分37秒
- ゆきちゃんは体全体でこみあげる喜びを表現していた。口を開け、目尻を下げたま
ま、照れくさそうに頭をかく。
そして、満開の笑顔を振りまく。泣き顔はもうどこかにふっとんでいた。
(うわっ、かわいい…)
体が一回り大きくなったし、少しずつ言葉も覚えてきている。
だけど、その天使のような愛くるしい笑顔は健在だった。
ホントにこんな子供が欲しいと思った。
できれば市井ちゃんの…(できるワケないって…)。
////////// / / /
- 225 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月15日(水)11時31分22秒
- 途中で切れてる…(↑)。
全7回で、つまりあと5回です。よろしく。
- 226 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月16日(木)07時23分42秒
- 「今日…でしたっけ?」
ゆきちゃんのお母さんはレモンを浸した紅茶を私に出しながら聞いた。
「はい!もう、あと3時間後です」
私は壁にかけられた時計を見る。正確にはあと2時間52分後だった。
「それにしても、よく覚えてますね〜」
「だって、真希ちゃんて来るたびに自慢してるんですもの」
「自慢?そんなのしてないですよ。ってそんなに言ってます、私?」
「はい。耳がタコにできるくらい。意識してなかったの?」
ゆきちゃんのお母さんはクスクスと声を少し殺しながら笑う。
「え〜っと、まあ。そうです、ね…」
照れくさそうに後藤は言った。
「ね…あそぼ!」
バスケットボール大の赤いゴムボールを持ってゆきちゃんは後藤の袖を引っ張っ
た。うん、といって、ゆきちゃんの横にしゃがみ、ボールを使って遊んだ。
- 227 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月16日(木)07時24分23秒
- 「市井ちゃん、カッコよくなってるんだろうなぁ〜」
ゆきちゃんがボールに乗ったり落ちたりしている間、遠い目をして言った。
「きっとね」
お母さんが私の後ろでお茶を飲みながら同意する。
「どんな風になってるんだろう?」
「もっとワイルドになってると思うわ」
「あの…市井ちゃんって女なんですけど…」
そう、実は今日は市井が留学先から帰ってくる日なのだ。
後藤が聞いた話では、向こうの国では6月から夏休みだそうで、その期間を利用し
て市井ちゃんは一時帰国する。そして、あと3時間で成田に到着する。
- 228 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月16日(木)07時24分54秒
- ゆきちゃん家は学校と成田のちょうど間にあったので、今日はつまり「ついで」
である。
「そうですよね。よろしく言っといてくださいね」
そう言うゆきちゃんのお母さんに、
「いやだなぁ。着いたらまず、ここに来ようと思ってるんですよ」
と言った。
これは本当のことで後藤は市井と事前に連絡を取ってそうする予定を決めていた。
「わあ、それは楽しみ♪紗耶香さんのカッコいい〜姿見れるんだぁ〜」
と手を合わせて喜ぶお母さん。
ゆきちゃんのお父さんと市井は似ている。きっとゆきちゃんのお母さんは市井
を「若いゆきパパ」みたいに見ているんだろう。それを受けて、
(不倫しないだろうな)
なんて一瞬思ったりもした(…んなワケないか)。
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- 229 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月16日(木)07時25分36秒
- 短…。
- 230 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月17日(金)03時11分05秒
- ついに市井パパ登場か!?
楽しみですな〜。
- 231 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月17日(金)07時59分20秒
- >>230 レスありがとうです。でも…。
- 232 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月17日(金)08時02分45秒
- 「ちょっと早いけど、行きますね」
あと1時間で市井は成田に着く。
ゆきちゃんも言葉を理解したらしく、
「わたしもいきた〜い」
とダダをこねる。
後藤が首を振ると、少しムスッとしていた。
後藤はゆきちゃんを持ち上げて(結構重い…)、抱きしめながら、
「ちゃんと連れてくるから待っててね」
柔らかくて真っ白なホッペタにチューをした。
ゆきちゃんは顔を崩してにこりと笑う。
「あの…ちょっと…待って…」
ゆきちゃんのお母さんは少し重々しく口を開いた。後藤は何気なしに振り向く。
「その前にちょっと…電話…してほしいんですけど…」
顔面蒼白のお母さんがいた。少し、うずくまってる。
「どうしたんですか?」
なんて質問をするにはしたが、その理由は質問をした瞬間分かった。
- 233 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月17日(金)08時03分26秒
- (げっ、つわり!!)
「そこに…電話番号あるから…」
ゆきちゃんのお母さんはおもちゃ屋さんに売っているホワイトボードを指差す。そ
こには磁石で止められた紙があり、番号が書かれてあった。
(何で?まだ1週間あるはずじゃ…?)
「はい!」
後藤は戸惑いながらも、自分しかいないという責任感からかテキパキと行動した。
救急車を呼んでゆきちゃんのお父さんに連絡した。
ただお父さんはこの3日間、北海道に出張中らしく、どんなに頑張っても出張先
からここまで3時間はかかるみたいだ。
救急車に乗って、後藤はゆきちゃんとゆきちゃんのお母さんの手を握り締めた。
(一応他人なんだけど…)
と思っていたけど、顔が似ているので、どうみても他人とは思われなかったみたい
で、当然のごとく救急車に乗せられた(もう慣れた)。
ゆきちゃんはオロオロしていた。
目の前に映るお母さんの苦しむ姿を見て、ゆきちゃんは息を飲むような強ばった
顔つき。でも泣いたりはしていない。それはお母さんがじっとゆきちゃんを見て、
「大丈夫」と口を動かしながら微笑んでいたからだろう。
- 234 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月17日(金)08時04分02秒
- 「もうすぐ、お姉ちゃんになるんだからね。しっかりしよ!」
そう言う後藤にゆきちゃんは意味がわかったのかどうかわからないけど、
「あい」
コクンと首を縦に動かした。
ゆきちゃんのお母さんはそんな自分の娘を誇らしげに見つめていた。汗は異常な
くらい浮かんでいる。油汗が疲労感を漂わせているのに、どこか強さを感じた。
「すみません」
ゆきちゃんのお母さんは救急隊員の一人に息を挟みながら声をかけた。
「お願いがあるんですけど…」
「何?」
「この子ら二人を降ろしてくれません?」
(は?)
後藤にはワケがわからない。
「何でですか?一人にさせられるワケ…」
「真希ちゃんは…紗耶香…さんを…迎えに…行かなきゃならないでしょ?ゆき
も…一人にさせとくよりは、真希ちゃんや紗耶香さんと一緒にいた方がいいし…
連れて行ってほしい…」
「何言ってるんですか?どっちが大事なんですか?」
「どっちも…大事なことよ…。それにね、私は思うの…。このお腹の子たちも…紗
耶香さんの帰りを喜んでいるんじゃないか…って。嬉しすぎて、早めに出ようと
思っちゃったんじゃないかって…」
ゆきちゃんのお母さんは自分のお腹を触りながら言った。
- 235 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月17日(金)08時05分16秒
- 「でも…」
(心配でどうしようもなくなっちゃうよ…)
「この子たちは、きっと待ってくれてると思う…。きっとね…」
優しく微笑むゆきちゃんのお母さん。
後藤はこれ以上拒絶することができなかった。それほど、ゆきちゃんのお母
さんには強い意志が感じられた。
後藤はゆきちゃんのお母さんの手を一度握り、大きく頷いた。そしてゆきちゃんを
抱きかかえ、救急車から降りた。街中だったので、降りた時、周囲の人の注目の的
となった。
「ゆきちゃん、行こう!」
ゆきちゃんを一度地に着かせた後、しゃがんでゆきちゃんと目を合わせた。
(ゆきちゃんは状況がわかっているのだろうか?)
本当はお母さんと一瞬たりとも離れたくないだろうに、もうとっくに泣きや
んでいた。
「あい!」
その強い瞳は、紛れもなく「お姉ちゃん」の目だった。
その時、ふと思った。
(新しい赤ちゃんたちは、本当のパパは待とうとしないのね…)
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- 236 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月17日(金)10時02分51秒
- >もっとワイルドになってると思うわ
ワラタ(w
やっぱりめちゃくちゃツボですこの話。
市井ぱぱの登場楽しみすぎる。
- 237 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月18日(土)03時29分29秒
- 哀れ本当のパパ(w
- 238 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月18日(土)05時31分22秒
- >>236
そこのやりとり結構好きだったのでもうちょっと広げたかったのですが、ムリでした。
>>237
よく考えれば「本当の」ってヘンですよね(w。
いよいよです(何が?)
- 239 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月18日(土)09時58分59秒
- 重いトランクケースを引きずりながら、市井紗耶香は日本に降り立つ。
サングラスは着いた時外した。この目で、しっかりと再会を焼き付けておきたい
からだ。
(後藤はどれだけかわいくなってるかな…?)
なんてね。
実は春先にも帰ってきたから、あんまり「感動の再会」とまでは行かないだろう。
留学してから2回帰ってきたが2回とも後藤は迎えに来てくれた。
(かわいい後輩を持ったもんだ)
腕組みをしながら苦笑した。
(あいつったら、会うたびに泣きじゃくるんだもんなぁ)
多分、後藤にとっては今回も「感動の再会」なんだろう。
しかたない、付き合ってあげるか。
- 240 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月18日(土)10時04分13秒
- ゲートをくぐると、赤や青の観光案内の旗を振る人たちでいっぱいだった。
その中にいると思われる後藤の姿を市井は探した。周囲を2、3度目を往復させて
もあの愛しげな顔は見つからない。過去二回だったら、どんなに混雑していても、
すぐに見つけることができたのに。
いや、違うや。
その前に後藤が、
「市井ちゃ〜ん!!」
と大声で叫んだんだっけ。
あまりの声に人々の注目を集め、市井は感動というよりもまず恥ずかしさを覚えた
のだった。
ああいう思いはしたくはなかったが、後藤がいないというこの状況よりもマシだっ
た。
(まさか、忘れているとか…?)
市井は少々不安になった。電話をかけたのが3日前だから、「忘れる」にかけては
天下一品の後藤のことだ。十分有り得る…。
まだ日本に着いて数分しか経っていないのに、いきなりの予定外のできごとの発生
で妙に焦りだした。
市井はすぐさま電話ボックスに足を進めた。
(もしまだ寝ていたとしたら、怒鳴ってやる)
勝手に「寝ているから来ていない」と決めつける市井であった。
- 241 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月18日(土)10時07分02秒
- 天使の声と聞きなれた声がしたのは、電話ボックスの扉に手をかけた時だった。
「しゃ〜かちゃん!」
「市井ちゃん!!」
振り向く市井。そして、走ってくる後藤の姿を確認する。安心感がドッと出た。
「後藤…」
ちょっぴり感動する市井。しかし、そんな心を見せたくない市井はごまかすように
一度鼻をすすった。
「ただいま!」
「おかえり、市井ちゃん!」
市井は後藤の下を向く。
「ただいま、ゆきちゃん!!」
「おかり!!」
ゆきちゃんは言った。
- 242 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月18日(土)10時07分41秒
- 市井はゆきちゃんと目の高さを合わせるようにしゃがみ、まだまだ小さい両手をつ
かんだ。そして、ゆきちゃんの笑顔を確認するなり、見上げた。
「何で、ゆきちゃんも一緒にいるの?じゃあ、ゆきちゃんのお母さんも来てる
の?」
空港の高い天井にある大きな電球をバックに後藤が見えた。よく見ると後藤は汗を
かいている。今さっき走りはじめたのではなさそうだ。
後藤は無言で首を横に振った。
その下では同じようにゆきちゃんが首を横に振った。
同じ顔が二つ並んでしかも同じ動作をしたので、おもしろかった。
だけど声を出して笑えなかったのは、二人ともあまりに真剣な目つきをしていた
からだ。
どうやら今日の後藤は感動の再会はしたくないらしい。いや、それよりも大事な
ことを控えているみたいだ。
市井はゆきちゃんを持ち上げた。
(わ、重い…)
ゆきちゃんたちとは春に帰ってきた時には会わなかったので、半年ぶりの再会
になる。半年間というのはゆきちゃんぐらいの年齢には大きな時間らしく、見る
からに大きくなっていた。そして、言葉もしっかりしてきた。
ゆきちゃんを目の前まで近づけると、妙に恥ずかしい。
それはやっぱり後藤とそっくりだからかもしれない。
- 243 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月18日(土)10時08分45秒
- 「ゆ〜きちゃん」
表情がどことなく固いゆきちゃんの頬をプニプニする。弾力のある肌が指から伝わ
り「さすが、ベイビーフェイス」と思わず唸る(もう赤ちゃんとは言わないのかも
しれないけど)。ゆきちゃんは一度、顔をほころばせるが、すぐにきっと目を鋭く
した。
「市井ちゃん」
後藤が市井の袖を引っ張った。
「何?」
後藤は体だけみるとあんまり成長していない。しいて言えば、胸が大きくなって、
腰がくびれて…ってやっぱ成長してるわ…(羨ましい…)。
「あんまり、感傷に浸っているワケにはいかないの」
(いつも浸ろうとしてるのはどっちよ)
なんて思ったがそれはともかくずっと真剣な後藤の目が気になった。
「何かあったの?」
「とりあえず、急ご!」
市井はゆきちゃんを抱えたまま、後藤についていくことになった。
//////// ///////// ///////////// //////////// / /////////////
- 244 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月19日(日)01時53分04秒
- ヤタッいちーぱぱ登場!!!
ゆきちゃん萌えぇ〜・・・
ゆきちゃんはさやかちゃんって言うんすね
いちーちゃんとは言わないのかな〜
- 245 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月20日(月)10時00分26秒
- >>244
そうですね。ゆきママは「紗耶香さん」って言うので「さやかちゃん」かなぁ、と。
あと、いちーちゃんは片言しか喋れない子には言いにくそうだったので(^^;
- 246 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月20日(月)10時10分07秒
- 「え?もう産まれるの?」
タクシーの中で市井が聞くと助手席に座った後藤はうなずいた。膝に乗っている
ゆきちゃんも同じようにうなずいた(重いんだけど…)。
「じゃあ、なんでゆきちゃんがここにいるの?」
「だって、お母さんが連れてってって言うから…」
「…どんな状況だった?」
「苦しそうだった。だけど、笑ってた…」
ゆきちゃんは顔をこわばらせている。
すっごく不安なんだ。
市井はゆきちゃんの体をぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫だから。だってゆきちゃんのお母さんなんだよ。今、一生懸命新しい
命を…ゆきちゃんの弟か妹を産もうとしてるんだ。だから絶対大丈夫!」
頬を擦り合わせながら耳元でささやくと、ゆきちゃんはコクリとうなずいた。
だけど、体は震えていたので、抱きしめたまま頭から背中にかけて何度もさすった。
- 247 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月20日(月)10時11分13秒
- 病院に着くと一目散にナースセンターに飛び込み、事情を早口で伝えると、即対応
してくれた。
「分娩室」と書かれた赤いランプの前の待合室に後藤たち3人は待たされた。
まだ、出産は済んでいないみたいだ。
「後藤さんの連れの方?」
確信を持って看護婦さんが声をかけてきた。
「はい。まだ…なんですか?」
後藤が心配そうに尋ねる。
「はい。でも、もう少しで終わるかもしれませんね。だって…」
「だって?」
「後藤さんたら、誰かを待っているみたいだったんですもの。あ、でも旦那さん
なのかなぁ?」
と、どうも緊張感なさげに言っている最中、
「おぎゃあ〜!!!」
分娩室の向こうで泣き声がした。しかも二つも。
「…やっぱりあなたたちだったみたいね。待ってる人」
看護婦さんがウィンクをしながら言った。後藤、市井、そしてゆきちゃんはお互
い顔を見合わせる。
「おめでとうございます」
看護婦さんが嬉しそうにそう言うのと同時に、3人は飛び上がって喜んだ。
- 248 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月20日(月)10時14分00秒
- それからしばらくして、適当な書類を事務課に提出した後、新生児科というところ
に移動し、3人はゆきちゃんのお母さん、そして新しい2つの命と対面することが
できた。どうやら母子ともに健康のようだ。
ゆきちゃんのお母さんはぐったりとしながら、後藤たち3人の顔を確認すると、笑
った。
「おかえり、紗耶香さん」
市井は感動のあまり震えている。涙が瞼の中に溜まってきている。一度まばたきす
ると糸のような涙が頬を伝うだろう。
「ただいま…そして、おめでとうございます」
声を出すのにも精一杯で、掠れた声が出た。
ゆきちゃんのお母さんは、ゆきちゃんの方に目を向けた。
「ゆき、これからはお姉ちゃんだから。しっかりしなさいよ」
2人の看護婦さんが二人の赤ちゃんを抱えている。本来はガラス越しにしか見せて
もらえないがお母さんの必死の願いにより特別に許してもらえたらしい。
「男の子と女の子なの…って顔を見ても区別つかないけどね、まだ。看護婦さん、
ゆきに触らせてあげてください、お願いします」
ゆきちゃんのお母さんがそう言うと、看護婦さんの一人がその赤ん坊をゆきちゃ
んの近くに持っていった。
- 249 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月20日(月)10時15分46秒
- ゆきちゃんはその手に触れる。ゆきちゃんも十分小さいがそれ以上にミクロに
なったもみじのような柔らかい手だった。
まだ、サルみたいな顔だ。その新しい命を不思議そうに見つめている。
(この子たちも後藤みたいな顔になっていくんだろうなぁ)
市井は数年後の未来を思い描く。
ゆきちゃんとこの双子が中心に立ってじゃれ合っている。その外にママとパパが楽
しげに3人の成長を見守る。そして、なぜかその横で市井と後藤が笑っている。
それはあまりにも幸せな絵だった。
(だけど、私に似た顔になるかもしれないのか…?)
と思うと、ちょっとだけ顔がひきつった。
- 250 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月20日(月)10時16分45秒
- 「名前、決まってるんですか?」
後藤が新しい命を見ながらゆきちゃんのお母さんに尋ねた。どうやら、赤ちゃん
たちに名前で呼びかけたいみたいだ。
ゆきちゃんのお母さんは、ゆっくりとうなずいた。
「え?そうなんですか?教えてください」
市井が言う。ゆきちゃんのお母さんは市井と後藤の顔を交互に見つめ、そして、
微笑んだ。
「えっとねぇ、男の子が”マヤ”で、女の子が”サキ”」
少し恥ずかしげに言った。
「まだ、パパには言ってないんだけどね」
「へ〜、いいお名前ですね。旦那さんもいいって言ってくれますよ」
市井がそう言う間に、後藤が二人の赤ちゃんに向かって、「マヤくん」「サキちゃ
ん」と声をかけている。
ゆきちゃんも負けじと声をかけていた。
「それで、漢字も決まっているんですか?」
市井は聞くと、ゆきちゃんのお母さんは、すっごく楽しそうに微笑んだ。
そして、また市井と後藤の顔を見つめた。
「…なんですか?」
市井はその暖かい眼差しに首をかしげる。ゆきちゃんのお母さんは上体を起こし、
ベッドの横にある引き出しを開けて、一枚の紙を取り出した。
そして、そこにはボールペンで、赤ちゃんの名前が書いてあった。
- 251 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月20日(月)10時18分21秒
- 「あ…」
思わず市井は絶句した。後藤も遅れて名前を見て、驚いた。ゆきちゃんはよくわか
らずポケーッとその紙を見つめている。
「へへへ…お二人の漢字、借りちゃった…」
「真耶」
「紗希」
紙には力強くそう書かれてあった。
「いいですよね…」
「…いいですけど…いいんですか?」
「もちろん、この子たち…当然ゆきにも何だけど、真希ちゃんや紗耶香さんのよう
に育ってほしいから…」
ゆきちゃんは首を傾けながらも優しいお母さんの瞳に乗せられたのか、にこりと
笑った。
後藤はジーンと胸を打たれていた。
市井は二人の赤ちゃんに「真耶くん」「紗希ちゃん」と声をかけた。
「あ、市井ちゃんずるい〜」
後藤はそれに気付くと文句をたれる。
「ずるいって後藤、さっき声をかけてたじゃん」
「だって…だって…漢字知らなかったんだもん…」
「あのね…」
「せっかく私が一番最初だと思ったのに…」
ダダをこねる後藤を横目に、
「こんなやつみたいにさせたいんですか?」
と市井はゆきちゃんのお母さんに聞いた。
ゆきちゃんのお母さんはただ笑っていた。
////// //////// //////// //////// ///////// //////// ////////// /////// ////
- 252 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月20日(月)13時45分02秒
- いい〜!!!この話最高っすよ〜!本物が見たくなりますね(ワラ 無理か・・・。
- 253 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月20日(月)19時07分38秒
- いい名前だな〜〜(笑)
- 254 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月21日(火)00時43分37秒
- ホント、マジでいい名前・・・
二人の名前が合体してる・・・(プルプル
感涙です。感動です。
- 255 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月21日(火)03時13分54秒
- ちょっと幸せな気分(ボソ
- 256 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月21日(火)15時36分54秒
- >>252 本物っすか?無理です(w
>>253 どうもどうも。僕もいい名前だと思います。
>>254 感涙ってのは名前にでしょうね(^^;名前についてはあとがきでちょこっと触れます。
>>255 僕も幸せを思い浮かべて書いてますから恥ずかしいことなんてないですよ。
ずっと前の予告通り今回で最後です。
- 257 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月21日(火)15時59分31秒
- 「いやあ、感動したねぇ〜」
「ねえ、市井ちゃん明日も行かない?」
「おう、毎日行ってやる」
電車の中で後藤と市井は赤ちゃん談義で盛り上がった。
市井はみやげ話をたくさん作ってきたのに、話す気にはならなかった。
「でも私には似てほしくないなぁ」
と市井が言うと、後藤は、「何で?」と聞く。
「だって、自分の分身みたいでイヤじゃん」
「ゆきちゃんはかわいいよ」
「うん、でも…例えば、ゆきちゃんのお父さんと顔を向き合うとな〜んか恥ずかし
いんだよなぁ」
「そういえば、市井ちゃん、どっかそわそわしてたね」
感動の出産から約1時間後、ゆきちゃんのお父さんは現れた。ネクタイを外し、
肩で息をしているところを見ると、知らせを聞いてから、すっとんで来たみたい。
「この子たちはやっぱりあなたを待ってはいなかったみたいね」
ゆきちゃんのお母さんが皮肉交じりに言うと、
「そんなぁ〜」
とゆきちゃんのお父さんは子供みたいに感情を表に出してうなだれていた。周りの
後藤たちは、コメディみたいな雰囲気につい笑ってしまった。
- 258 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月21日(火)16時01分44秒
- 電車を乗り換えるために下車した。過ぎ去っていく電車の作る音と風がここちよ
い。後藤は重そうなトランクケースを抱えている市井を見てようやく市井が帰って
きたことを実感しはじめた。
「市井ちゃん」
体を市井の真正面に向ける後藤。
「何?」
「あらためましておかえりなさい」
そして、首を傾けながらにこりと笑う。
「ただいま。あいかわらず元気そうだね」
市井もあらたまって言った。
「あ〜あ、なんで同じ日に嬉しいことが2つもあるんだろうなぁ。いつもは嬉しい
ことなんてあんまりないのに…」
後藤が愚痴っぽく天に向かってつぶやく。
「そういうもんだって。私なんて3つも同時にあったんだから、嬉しいこと」
「何?」
「日本に帰ってきたこと、赤ちゃんを見られたこと、そして、元気でかわいいまま
の後藤にまた出会えたこと」
市井はウィンクをした。
自分の名前を最後に出したこと、そして、「かわいい」と言ってくれたことが後藤
はたまらなく嬉しかった。
- 259 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月21日(火)16時03分15秒
- 乗り換えの電車はそれから5分ほどして来た。帰宅ラッシュからは外れていたみた
いで余裕を持って座ることができた。
「市井ちゃんっていつまで日本にいられるの?」
後藤は聞いた。
「うん、できるだけいるから…お盆ごろまで…かな?」
「じゃ、2ヶ月も!?」
「ホントは1ヶ月にしようかなぁ、って思ってたんだけど紗希ちゃんや真耶くんの
顔をしばらく見ていたくなっちゃった」
「私の顔は…?」
後藤はマジマジと顔を覗き込む。
「後藤?」
「うん」
「う〜ん、後藤の顔はもういいや。見慣れちゃったし…」
「同じ顔なのに…」
そう言いながら、後藤は少し口を尖らせていた。
そんな表情もやっぱり愛らしい。
- 260 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月21日(火)16時09分15秒
- 「でも、やっぱり”真耶”と”紗希”にはショックだったなぁ」
後藤がふと口にした。
「へ?何で?…ああ、名前の由来になっちゃって責任重大だってこと?」
「違う違う、そんなんじゃないよ」
「じゃあ、何でショックなのよ?」
「だってさあ、私ね、ずっと前から考えてたんだよ。私たちの子には”真耶”と
か”紗希”って名づけようって。あ〜あ、取られちゃったなぁ…」
「へぇ〜、後藤ってそんなこと考えたことあるんだ…」
「うん!」
返事をする後藤に、市井は少し違和感を感じ、眉をひそめた。
「うん?」
「何?どうしたの、市井ちゃん?」
「今、”私たち”って言った?」
「うん、私と市井ちゃんの間に生まれてくる子―――」
- 261 名前:ママは高校一年生 投稿日:2001年08月21日(火)16時13分32秒
- ゴツン!!
市井は後藤の頭のてっぺんをグーで殴った。
「いった〜い!今、本気で殴ったでしょ!!」
「冗談でもそんなこと言わないの!」
「冗談じゃないよ。本気だもん」
「あのね…できるワケないじゃん」
「そんなことわかんないよ」
「何言ってんのよ。後藤、一体何歳?」
「もうすぐ16」
「そんなこと聞いてるんじゃないって」
「そうだ、16っていったら結婚できる年齢だよね?市井ちゃん結婚しようよ〜」
「だからできるか!ってコラ!抱きつくな!」
ゴトゴトと揺れる電車の中で、そんな二人の会話は続いた。
周りの人たちは皆、うるさいだけの二人を微笑ましげに見ていた。
(おしまい)
- 262 名前:あとがき 投稿日:2001年08月21日(火)16時44分32秒
- 大好きなあとがきです(w
前作「ママは中学三年生」を読んだ方ならわかるかもしれませんが、その前作の続
きをただ書くだけじゃなくて、ネタや展開を似せてみました。
つまり、「名前を出さない他面とのからみ」「ゆきちゃんとの出会い」「名前ネ
タ」そして最後の「後藤の誘惑(?)」と。
そこまで似せる気はなかったのですが、名前ネタ(紗希と真耶)を思いついた時、
前作も名前ネタを使ったなぁと思い、どうせなら全部似せちゃえみたいに考えを発
展させてこんな風なストーリーになっちゃいました。
俺ってパクリが好きなんですね(w。
そういう拘束の中、書いたのは初めてだったので結構詰まりましたがまあまあ上手
く書けたかな?と思っています。続編って難しいです。いや、ホントに…。
- 263 名前:あとがき 投稿日:2001年08月21日(火)16時51分02秒
- 名前ネタはこの話のために思いついたのではなく、2chの「お前ら自分の子供にメ
ンバーの名前をつけるんだろ?」って感じのスレに昔、「紗希」と「真耶」って書
いたんです。それを思い出したって感じですね。まあマジでつけることはしないで
しょうが。
次の子供は「香」でしょうか?(w
そんなこんなで読んでくれた方ありがとうございました。
そして、最後に一つお詫びを。
市井パパ萌え場面が少なくてすみません。この話ではあれが限界でした…。
- 264 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月22日(水)13時02分17秒
- 終わっちまいましたね〜。ここのごまはちゃむに片思いだったんすかー。いや〜おもしろかったっす!作者さんお疲れさまでした。また気が向いたら続き書いちゃって下さい!この小説大好きなもんで・・・(w
- 265 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月22日(水)20時16分58秒
- なんていい話だ・・ごまがちゃむにぷ、ぷろぷろぷろぽーずしてる・・・(カンルイ
いやぁマジで良かったっす。ごまがキャワイイキャワイイ・・
僕も作者さんが気が向いたらまた続き見たいなぁなんて・・。
>「あのね…できるワケないじゃん」
>「そんなことわかんないよ」
余談ですが、ごまの言う通り、♀♀の子供が作れるようになったらしいっすよ。つい最近発表されたみたいです。
- 266 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月28日(火)23時03分19秒
- 遅くなりました。単なるレスです。
>>264 まあライトに考えてくださいね。先輩に憧れる後輩みたいな、やんわりとした感じの。
それに微妙に両思いでもあると思っています。
>>265 子供作れるのかぁ。じゃあ…。いやいやしないっす。まだ現実的じゃないですし
僕もこのキャラ設定結構好きですし、それに僕の唯一のほのぼの系なので、話を膨らませて
もいいかな?と思っています。その時はまたお付き合いください。
今度は何とか市井パパ場面を増やします(自信なし)。
それでは。
- 267 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月29日(水)01時29分27秒
- いちいパパとごまママの絡みもよろしく
- 268 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月31日(金)12時35分24秒
- >>267
( ´D`)ノ アーイ!
- 269 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月19日(水)00時30分40秒
- >>233の「つわり」の誤用が気になって夜も眠れません。
- 270 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月20日(木)10時26分34秒
- >>269
あはっ…。
- 271 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月20日(木)10時27分56秒
- >>269
そうですね…。今まで全く気づきませんでした。
ご指摘ありがとうございました。
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