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ひとみと男

1 名前:JJ73 投稿日:2001年02月19日(月)23時43分59秒
バスローブを着たその男はソファーにすわりテレビを見ていた。
「フィリピンの政治犯。」
「台湾のインチキ占い師。」
「タイのキックボクサー。」
なにかのドキュメンタリー番組を見ながら男はひとり呟いていた。
テーブルにはワインとチ−ズ、そしてサングラスが置いてある。
「あらあら、もうすっかり酔ってますねー。」
酔っ払いの中年男性が映ると声を変えそう言った。
時計を見るともうAM12時が過ぎていた。
男はワインをまたひとくち飲んだ。
ひとみと会うときはいつもこのホテルのスイートルームだ。
2 名前:JJ73 投稿日:2001年02月19日(月)23時45分48秒
ひとみと初めて会ったのは娘。加入後、すぐに番組に出演したときだった。
楽屋にあいさつにきたときは、マネージャーに連れられ
他の新メンバーと一緒だったのであまり印象がなく、
元気な他のメンバーとは対照的に物静かな感じだった。
本番でも緊張した様子であまり話さなかった。
仕事が終わりエレベーターに乗るとそこにはひとみが一人乗っていた。
「おつかれさまでしたー。」
ひとみは楽屋のときよりも明るい口調で挨拶をした。
「おつかれ。」
と男は返事をした。そしてドアが閉まり表示を見ていると、
「あのー、トカゲ!」
ひとみは急に男のほうを見てしゃべった。
3 名前:JJ73 投稿日:2001年02月19日(月)23時55分14秒
男は少しびっくりし,ひとみのほうを見た。
とても中学生には見えない大人びた顔と声。
「お母さんから聞いたんです。」
男はいつもならやらないが、なぜかひとみの前では少しも恥じずやって見せた。
男はこんな気持ちは初めてだった。
「4カ国語マージャン!」
ひとみのリクエストが続いた。男は往年のギャグを数々披露した。
ひとみは手をたたき無邪気に笑った。
なぜ初対面で、しかも歳もこんなに離れた男になれなれしく接してくるのか、
少し疑問に思った。
もしかして特別な感情を抱いてくれているのか、
はたまたただおもしろがっているのか、よくわからなかった。
ただこんな若い子としゃべるのはいやでは無かったし、とても楽しかった。
4 名前:JJ73 投稿日:2001年02月19日(月)23時56分01秒
ジャングルの動物の鳴き声をしていると、エレベーターが止まった。
ひとみはありがとうございました、と礼を言うと、
汗だくになった男の額をそっとハンカチでぬぐってあげ、
そのハンカチを男に手渡した。
ひとみの走り去る姿を見ながら、男は呆然と立ち尽くしていた。
この歳になってこんなに胸がときめいているとは…。
男はサングラスを取りハンカチで顔を拭いた。
もしうまくいけば付き合う事だって…。
サングラスをかけ直し、ひとみが走り去った後をまた見つめていた。
「んなわきゃない。」
男はハンカチを握り締めた。
5 名前:JJ73 投稿日:2001年02月20日(火)00時04分25秒
そしてひとみは番組に出演するたびに男の楽屋へ遊びにいった。
もちろんひとりで。

いろいろな話をした。広東語と北京語の違い、車掌のモノマネ、
マグロのさばき方、昔のリンスの使い方など。
ときには男がひとみの学校や仕事の相談にのることもあった。
そして徐々にひとみと男の距離が縮まっていった。
6 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月20日(火)00時45分00秒
男とは、昼に月金帯びで番組やってる人ですね。
それにしても吉子とこの人のカラミとは…
7 名前:JJ73 投稿日:2001年02月20日(火)00時52分47秒
半年ほど前からだった。毎週ホテルで逢うことになったのは。
お互いが信頼しあい、かけがえのない存在になっていった。

しかしそんな楽しい日々も長くは続かなかった。
ひとみは娘。の過密スケジュールのうえ学業に追われ、
ゆっくりと逢うことができなくなっていた。
1時間だけ逢ってまた仕事に行くときもあった。
今日は来ないんじゃないか、と思っていた時の部屋のノックは、
春の足音のようなやすらぎがあった。
8 名前:JJ73 投稿日:2001年02月20日(火)00時55分21秒
「コンコン」
ノックがして男は立ち上がりサングラスをした。
ドアを開けた。ひとみは少し疲れている様子だった。
部屋に招き入れると男はソファーに座った。
「もう仕事無いんだろ。」
と言いながらテーブルの上のグラスにワインを注いだ。
ちらっとひとみを見ると少し髪を切っていた。
何かの決意の様に見えた。
「髪切った?」
ひとみは黙って突っ立ったままだった。

 
「もう終わりにしましょ。」
9 名前:名無しさん 投稿日:2001年02月20日(火)01時00分12秒
笑えるけどちょっと切ないね(w
10 名前:JJ73 投稿日:2001年02月20日(火)01時12分33秒
ひとみは男に歩み寄りながら言った。
男はゆっくりとワインを置きテレビのほうを見た。
サングラスにテレビの光が反射して映る。
「もっと堂々と逢いたいの。ふたりで一緒に食事をしたり遊園地に行ったり。」
ひとみは強い口調で言った。
「なのにいつも人の目を気にして。これからもずっと続くと思うと…。」
ひとみは言葉をつまらした。目にはうっすらと光るものがあった。
11 名前:JJ73 投稿日:2001年02月20日(火)01時13分56秒
男には妻がいる。そう人目をはばからず逢うのは難しい。
ひとみは同い年の子達のように彼氏とデートをしたり遊んだりしたかった。
ましてやひとみはアイドルだ。
ただでさえ目立つ上、この男と一緒にいるのはどう見ても不釣合いだ。
12 名前:JJ73 投稿日:2001年02月20日(火)01時48分54秒
男はようやく重い口を開けた。
「俺はひとみしかいない。もう一度よく考え直してくれ。」
ひとみが言うこともよくわかった。
自分だっていつもこんなとこで逢うのは嫌だ。
だけどしょうがない。惚れてしまったのだから。

「わたしは…、 わたしは…、」
ひとみは大粒の涙を流しながら部屋を飛び出していった。

13 名前:JJ73 投稿日:2001年02月20日(火)01時50分10秒
男はしばらくうつむいたままだった。
「…。」
ワインを一口飲む。
さっきよりも強く酸味を感じた。
そしてゆっくり立ちあがりテレビを消し、外の夜景を眺めた。
ネオンや車のライトが見える。ビルの光は不規則についていた。
そして男は呟いた。

「来週もまた、来てくれるかな?」

窓に映る男の頬に、一粒の涙が伝っていった。


   ― 完 ―
14 名前:じゅーど 投稿日:2001年02月20日(火)21時16分21秒
ごめんなさい。男がほとんどメインになっちゃいました。

>6 その通り、うきうきウォッチングのあの人です。

>9 シリアスにすればするほどおかしくなっていくので暗い話にしました。
15 名前:じゅーど 投稿日:2001年02月20日(火)21時18分58秒
じゅーどとは作者の私のことです。
すみません。わかりにくくなって。
16 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月11日(金)18時27分08秒
すっげえおもしろいです(w
17 名前:じゅーど 投稿日:2001年05月16日(水)00時39分10秒
>>16
ありがとうございます。
こんなマニアックな作品を読んでもらえてうれしいです。
18 名前:パク@紹介人 投稿日:2001年07月18日(水)21時51分44秒
こちらの小説を「小説紹介スレ@黄板」↓に紹介します。
http://www.ah.wakwak.com/cgi/hilight.cgi?dir=yellow&thp=995445727&ls=25

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