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Dear Friends
- 1 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月03日(土)21時31分26秒
- 『すてっぷ』と申します。
赤板でも書いているのですが、こっちでは少し短め(予定…)の話を書きたいと思います。
おつきあいいただけると、うれしいです。
- 2 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月03日(土)21時32分32秒
- 明日から3日間のオフ。
最近ホントに忙しかったから、休めるのはうれしいんだけど…。
最近のあたしは、このヒトたちと過ごす時間が本当に楽しくて、本当に大切で。
3日も会えないんだと思うと…何だかすごく寂しい気がして。
いつもいっしょにいられたらいいのになぁ。
……なんて、何コドモみたいなコト言ってんだかあたしは。
- 3 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月03日(土)21時33分07秒
- 『…よっすぃー』
ん?だれ?
『よっすぃー、よっすぃー』
ごっ、ちん……?
『アタシたちは、いつでもよっすぃーのそばにいるよ。だから…アタシたちのコト探して』
探す?なに?どういうこと?
『ゼッタイだよ?約束だからね…』
何なんだよそれ?
ねぇ、ごっちん、ごっちんってば……。
『よっすぃー、よっすぃーってば!!コラー!!起きろ、ひとみーっ!!』
「んっっ!?」
突然の大声に、あたしは夢の世界から引き戻される。
ごっちん?
違う、今の声は…矢口さん??
- 4 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月03日(土)21時34分47秒
- 『…やっと起きたか。もぅ、めちゃめちゃ爆睡してたよ?また夜更かししたんでしょ』
「いや、メールの返事…たまってたから」
ん……??
「矢口さん…何でココにいるんですか?」
ココ、あたしの家なんですけど…。
『そりゃこっちが聞きたいよ』
っていうか…
「矢口さん…どこにいるんですか?」
あたしは、体を起こして自分が座っているベッドの周りを見回した。
でも…矢口さんの姿はどこにもない。
声はすれども姿は見えず。
- 5 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月03日(土)21時35分28秒
- 『いるじゃん、隣に』
隣?
両隣を確認する。左、そして右…矢口さんはいない。
念のため、自分が入っている布団をめくってみる。
『いないってば、そんなトコ』
「矢口さん…冗談やめて出てきてくださいよ」
『だから隣にいるって言ってるじゃん、あたしからはすぐ近くによっすぃーが見えてるんだから』
矢口さんの声…耳から入ってくるというよりは直接頭の中に響いてくるような…何か不思議な聞こえ方してる。
『あのさぁ、あたし…何かになっちゃってない?』
「はぁ??」
- 6 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月03日(土)21時36分09秒
- 「"なにか"って、どういうコトですか…?」
『よっすぃーの枕元に…いない?あたし』
え…?
言われて枕元を見ると…そこには何やら見慣れないモノが、確かにあった。
「コレ…」
『何!?なにがあった!?あたし、たぶんそれになっちゃってるんだよ!!』
あたしは、たった今見つけたそれに…そっと手を伸ばす。
『あたし…何になってるの?』
「何て言えばいいのか、その…袋です」
『は??袋?何よ袋って?』
「いや、他に説明のしようがないんですけど」
『鏡見せて』
- 7 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月03日(土)21時37分02秒
- あたしは、矢口さん(?)を手のひらに乗せると、鏡の前に立つ。
「見えますか?」
言ってはみたものの、どっちが前…なのかな?
これで見えてるんだろうか?
『あたし…どこに映ってるの?』
「あたしの手の上にいますけど」
『は?なにコレ?袋じゃん!?』
「だからそう言ってるじゃないですか」
『何なんだよ、コレー!?』
- 8 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月03日(土)21時38分00秒
- あたしの手のひらに乗っかってるMDサイズのそれは、真っ赤なきんちゃく袋。
コレが…矢口さん?
この袋、けっこうずっしりと重みがあるんだけど、中に何が入ってるんだろ?
あたしは袋を開けようと絞り口に手を掛けた。
『やだ…何か恥ずかしいよ、よっすぃー』
「でも、何か入ってますよ、コレ」
『コレとか言うなよなー、もー!!』
「…すみません」
そして、中を見ようと袋の真ん中をつかんだ瞬間、
『キャハハハハ!!!』
「やっ、矢口さん!?」
『な、なにコレ…ハハハハ!!あたし、おかしくもないのに…キャハハハハハ!!!何で笑ってんだよあたし、ハハハハ!!』
コレってもしかして…
「……笑い袋?」
『ハハハハハ!!よっすぃー、助けてよ…苦しい…キャハハハハハハ!!やだよ、こんなのー!!!』
朝の静寂を切り裂く、笑い袋のけたたましい笑い声。
袋から聞こえる機械的な笑い声と、あたしの頭に直接響いてくる矢口さんの笑い声とが融合して…アッタマ痛てー。
これは…夢だな、きっと。
もっかい寝てみよっかなー…。
- 9 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月03日(土)21時40分20秒
- とりあえず、ここまでです。
感想とかいただけると、うれしいです…。
- 10 名前:すなふきん 投稿日:2001年03月03日(土)22時51分34秒
- サイコーです!!
続き期待してます
- 11 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月04日(日)01時22分04秒
- >すなふきんさん
早速ありがとうございます!!更新しようと思って来たらいきなりレスついててびっくりしました。
これからも読んでいただけるとうれしいです…。
- 12 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月04日(日)01時23分24秒
- 『よっすぃー…見つけて、早く…』
ごっちん!?
コレは…夢?
そっか、夢か…よかった。
『よっすぃー、よっすぃーってば!コラ!起きろ、ひとみーっ!!』
「えっっ!?」
ごっちん?
違う、この声は…矢口さん??
『もー!!ふざけんなよぉ、こんな時に2度寝しやがってー!!』
あたしの枕元で激怒してるのは…矢口さん。
「矢口さん…やっぱり笑い袋のままなんですね」
『あったりまえでしょ!?もぅ、一人で心細かったんだからね!!』
…夢じゃなかったんだ。
暗い気分でベッドから抜け出す。
『どこ行くの?』
「顔、洗ってきます」
- 13 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月04日(日)01時24分25秒
- 洗面所で顔を洗ってリビングへ行くと、ちょうどお母さんが買い物から戻ってきたところだった。
「お母さん…おはよ」
「おはようじゃないわよ、もうお昼よ?」
壁に掛けてある時計を見ると…既にお昼の12時を回ってた。
「ひとみ、たこ焼き買ってきたけど食べる?」
「うん」
起きたばっかりでもちろん朝ゴハンは食べてないから、めちゃめちゃおなか減ってる。
2階では矢口さんが待ってるけど…もう少しだけ待ってて下さい。
「ハサミ、ハサミ…っと」
お母さんは、スーパーの袋から冷凍のたこ焼きを取り出した。
どっかから持ってきたハサミで、その袋を切ろうとしてる。
- 14 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月04日(日)01時25分15秒
- 『うわっ!!よっすぃー!!たすけてー!!』
はあっ!?
なに、今の声…?
『よっすぃ!!切られる!!切られてまうーっ!!』
「あいぼんっ!?」
「どうしたの、ひとみ?大きな声出して」
切られる…?
あっ!!
「お母さん、それ貸して!!」
あたしは、とっさにお母さんの手から冷凍たこ焼きを奪い取る。
- 15 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月04日(日)01時26分22秒
- 「ひとみ…?」
お母さんが、怪訝そうな顔であたしを見てる。
「あの…コレ、後で食べるから」
あたしは後ろ手にたこ焼きを隠しながら、必死の言い訳。
「ふーん、そう…」
『助かった…』
ホントに、このたこ焼きが…あいぼんなの?
聞きたいコトは山ほどあるけど、ココで聞くワケにはいかない。
おなかはすいてるけど…とりあえず部屋に戻ろう。
あたしは、あいぼん(冷凍たこ焼き)を手に持って階段を上がる。
『あっ、のの!!』
「えっ!?」
『ののが…まだ袋ん中に入ってんねん!!』
「ええっっ!?」
『ヨーグルト!!アロエヨーグルト取り返してきて、よっすぃー!!』
「わ、わかった」
半分くらい上りかけてた階段を、あわてて駆け降りる。
- 16 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月04日(日)01時27分32秒
- リビングに戻ると、さっきまであいぼんが入っていたスーパーのビニール袋を漁る。
「あんた…何やってんのよ?」
お母さんの問いかけを軽く無視して、あたしは捜索を続行。
ヨーグルト、ヨーグルト…あった!!
『よっすぃー!?よっすぃぃぃ…』
袋からそれを取り出すと、今にも泣き出しそうなののの声が聞こえた。
右手にたこ焼き、左手にヨーグルトを持って、再び2階への階段を上がる。
たこ焼きにアロエヨーグルト…なんつーベタな。
でも…これで何となくわかったぞ。
- 17 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月04日(日)01時28分53秒
- 「みんな…それぞれ自分にちなんだモノになってるんだと思います」
部屋に戻ったあたしは、机の上に矢口さん(笑い袋)、あいぼん(冷凍たこ焼き)、のの(アロエヨーグルト)を
並べて置いた。
彼女たちは、周りの景色や音を人間と同じように見たり聞いたりすることができるらしい。
あたしのお母さんにスーパーで買われた辻・加護は、袋の中でお互いが何であるかを確認し合ったとのこと。
それであいぼん、ののがヨーグルトになってるってコトがわかったんだ…。
『自分にちなんだモノ、か。辻と加護はわかるとしても…何で矢口が笑い袋なのよ?』
『………』
『………』
「………」
『ちょっとー!!何か言えよぉ!!』
そこにいる誰もが口には出さなかったが、そこにいる誰もが気付いていた。
矢口さん…今のその姿、限りなくあなたに近いモノだと思います。
- 18 名前:マルボロライト 投稿日:2001年03月04日(日)02時07分54秒
- なんか新しいかんじでおもしろいです!
頑張って下さい!
もしよろしければ黄板で書いてる私の話も
読んで下さい(たいした物じゃありませんが…)
- 19 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月04日(日)02時42分31秒
- こちらもまた話のアイディアが面白いっすね。
これかからどう展開していくのか、非常に楽しみです。
赤板の方とともに期待してます。
- 20 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月04日(日)14時23分57秒
- >マルボロライトさん
はじめまして。レスありがとうございます!!
これから、黄板いってきます(笑)
>19さん
ありがとうございます。
赤板の方は、なるべく週1ペースぐらいで更新できたらいいなー(弱気)と思っていますので、
これからもお付き合いいただけるとうれしいです。
- 21 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月04日(日)14時25分35秒
- 『せやけどびっくりしたでぇ。目ぇ覚めたら隣にエビフライがおるんやもん』
あいぼんは、スーパーの冷凍食品コーナーで目覚めたらしい。
ののも同じくスーパーのプリン・ヨーグルト売り場でお目覚め。
矢口さんはあたしのベッドの上で起床。
『ののたち、よっすぃーのお母さんになんどもなんども、たすけてっていったんだよ?』
『ぜんっぜん聞こえてへんみたいやったけどな…ホンマ、よっすぃーが来てくれて助かったでぇ』
確かにリビングであいぼんたちを助け出した時、お母さんには全く彼女たちの声が聞こえてなかったみたいだけど。
あたしにだけ…彼女たちの声が聞こえるってコトだろうか。
「でも、矢口さんたちの声って…直接頭の中に響いてくるような、何か変な聞こえ方するんですよね」
あたしは、うまく説明できないものの、とりあえず気付いたコトを話してみる。
『…わかった。テレパシーだ』
それまで黙ってあたしたちの話を聞いていた矢口さんが、突然口を開いた。
- 22 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月04日(日)14時26分29秒
- 『テレパシーでしゃべってるんだよ、矢口たちは!!』
矢口さんの口調は自信満々だけど…
「でも、何で他の人には聞こえなくてあたしにだけ聞こえるんですかね?
矢口さん、意識してあたしにテレパシー送ってるんですか?」
『そっ、それは…』
どうやらそこまでは考えていなかったらしい。
矢口さんは口ごもってしまった。
『よっすぃー、超能力あるんちゃう?』
『そうだよ!矢口もそう言おうと思ってたの!!よっすぃーは、あたしたちとテレパシーで会話できる超能力者なんだよ!!』
あいぼんに助けられて再び自信を取り戻した矢口さんは、さも自分が考えついたかのような口ぶりで力説する。
超能力ね…ま、そういうコトにしといてあげますか。
でも、もしあたしがみんなとテレパシーで会話できるんだとしたら…
「あたしも、矢口さんたちに送れるんですかね、テレパシー?」
- 23 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月04日(日)14時27分30秒
- 『そうだね…じゃあ何か話しかけてみてよ、テレパシーで』
矢口さんはあっさりと言い放つ。
「いや…どうやってやればいいんですか?」
『どうやって、って…あんたたち、どうやってる?』
『え…普通に、しゃべってるだけですけど』
『辻もぉ…ただしゃべってるだけれす』
『だって。わかった?よっすぃー』
今の説明でどうやって?
全く参考になんないんですけど…。
「じゃあ…とりあえずやってみます。テレパシーっぽく」
『そうそう、テレパシーっぽくね』
何が"テレパシーっぽい"んだかはよくわかんないけど、要するに念を送ればいいワケだよね。
あたしは、目を閉じて大きく深呼吸すると、両手のコブシを握り締めて…強く念じた。
『矢口さん、お元気ですか?』
ちょっとマヌケな内容だけど、まぁ…マイクテストみたいなモノだし。
- 24 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月04日(日)14時28分30秒
- 「聞こえました?」
あたしは期待を込めて矢口さんに尋ねる。
『聞こえた聞こえた。"矢口さん、大好きです"って』
「そんなコト言ってません!!」
『ウチには聞こえへんかったで、よっすぃーの声』
『ののも…聞こえなかった』
『よっすぃーにできるのは受信だけみたいだね』
矢口さんは、またもあっさりと言い放つ。
受信だけってコトは…こっちから話し掛けるときは声に出さないと通じないってコトか。
めんどくさい…っていうか周りから見たらかなりアブナイ奴なんじゃないか?
一人で物に向かって話しかけてるなんて…。
- 25 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月04日(日)14時29分48秒
- 『よっすぃー、ウチ…とけてきたみたいなんやけど』
「えっ?」
『ホントだ!加護…何か水滴みたいの出てきてるよ!!』
『だいじょうぶ、あいちゃん!?』
そっか…あいぼん、冷凍食品だったんだっけ。
まずい、何とかしなきゃ。
でも、下の冷蔵庫に入れとくワケにはいかないしな…どうしよ。
『よっすぃー、れいぞうこ買ってきて!!』
「え…」
のの…そんな簡単に言わないでよ。
『このままだと腐っちゃうよ、加護』
『ええーっっ!!いやや!!そんなんいややぁぁーーーっっ!!』
あああ、どーしよ、どーしよ……。
- 26 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月04日(日)14時30分57秒
- 『ホラ、小っちゃい冷蔵庫あるじゃん、ホテルにあるみたいなヤツ。アレ買ってきなよ、よっすぃー』
しょうがない、それしかないか…。
「ちょっと、電器屋行ってきます」
あたしは、変わり果てた姿の3人を残して部屋を出た。
玄関を出ると、家から一番近い電器屋さんへとひたすら走る。
大事な冷凍たこ焼きを冷やすために…。
……なにやってんだ、あたし。
- 27 名前:すなふきん 投稿日:2001年03月04日(日)18時55分24秒
- いいですね〜。
よっすぃーの心情が笑えます
- 28 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月05日(月)01時59分33秒
- 矢口のキャラがすっげー笑えます。あ、もちろん辻加護もだけど。
「聞こえた聞こえた」って。(笑)
しかし冷蔵庫まで買いに行くとは、よっすぃーも人が良い。(笑)
- 29 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月06日(火)22時09分02秒
- >すなふきんさん
ありがとうございます。
災難続きのよっすぃーですが、どうぞ見捨てずに読んでやってください…。
>28さん
ありがとうございます。
これから、その人の良さが災いする展開になっていくと思います、哀しいコトに(笑)
- 30 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月06日(火)22時10分54秒
- ひたすら走ること約10分、あたしは駅前の電器屋さんに来ていた。
「あの、ホテルにあるみたいな…小さい冷蔵庫ありますか?」
矢口さんが言っていたコトを、そのまま店のおじさんに伝える。
「はいはい、ありますよ。どうぞこちらに…」
人の良さそうなおじさんに案内されて、あたしは冷蔵庫コーナーに足を踏み入れた。
『…よっすぃー?よっすぃーなの!?』
え…?
『助けに来てくれたんだね、うれしい!!』
「梨華ちゃん!?」
- 31 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月06日(火)22時12分39秒
- 今のは確かに梨華ちゃんの声だった。でも、一体どこに…?
あたしの周りには冷蔵庫しかない。まさか……。
『後ろ…後ろだよ、よっすぃー!!』
言われて振り向くと、そこにあったのは…何やらバカでかい箱。
「何…コレ?」
家庭用冷蔵庫の中で一際浮きまくっている横長の物体。
ゴォーッというファン(?)の音が漏れているから、どうやら稼動中のようだけど…。
コレが……梨華ちゃん?
「ああ、それは業務用冷蔵庫ですよ」
ぎょっ、業務用!?
スゴイ…何だかわかんないけどとにかくスゴイよ、梨華ちゃん!!
「コレ、配達してもらえますか?」
気が付くとあたしはソレを…買っていた。
- 32 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月06日(火)22時13分47秒
- 「あんた…マグロでも冷やす気?」
トラックの荷台に積んだ梨華ちゃん(業務用冷蔵庫)と一緒に帰宅したあたしを見てお母さんが言った。
その後どっぷりお説教されたのは言うまでもないけど…とりあえず、自分の部屋に置くってコトで許してもらった。
『げ。何それ!?』
部屋に入るなり、運び込まれた冷蔵庫を見て驚く矢口さんからのテレパシーを受信。
電器屋さんたちが部屋から出てったのを確認して、あたしはみんなに彼女を紹介した。
「梨華ちゃん…です」
『うっそぉー!?』
『矢口さん…ですか?あたし…石川です』
『ええーっ!?ホントに梨華ちゃん!?』
『…はい』
- 33 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月06日(火)22時15分04秒
- 『で、梨華ちゃん…何になってんの?』
あいぼんが力なく言った。
体がとけかけてるせいで、体力が落ちてるのかも知れない。
あたしは、あいぼん(冷凍たこ焼き)をそっと手にとると、梨華ちゃん(業務用冷蔵庫)の中に格納した。
梨華ちゃんの外形は、横長の…お店に置いてあるアイス用の冷蔵庫によく似ている。
アレより少し大きくて、冷却能力も優れているらしい(電器屋のおじさん談)。
『あ…冷たい。冷蔵庫!?冷蔵庫やでコレ!!ふぅー、助かったぁ』
よかったね、あいぼん。
『へ、へぇ…冷蔵庫なんだ、梨華ちゃん…』
『な、なんれれすかねぇ…』
みんなコメントに困ってるな…?
『そっ、そう言えば…辻も冷やしとかないとまずいんじゃない?』
『なんか辻…からだがあつくなってきました』
苦し紛れにしては的を得ている矢口さんの発言。
あたしは、あいぼんに続いてのの(アロエヨーグルト)を梨華ちゃんへと投入する。
- 34 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月06日(火)22時16分07秒
- 『ああ…だんだん凍ってきたで。梨華ちゃん、冷やすのめっちゃ早いやん!!』
『辻も…こおってきました』
アロエヨーグルトは凍らない方がいいような気もするけど…別に食べるワケじゃないからいいか。
『ああ…なんや、眠ぅなってきた…Zzzz』
『ふぁぁ…おやすみなさい…Zzz』
2人とも…そのまま凍死しないようにね。
『でも…本当に良かった。よっすぃーが買ってくれて』
ローン…どーしよ。
『…なんか納得いかない』
矢口さんはあからさまにフキゲンそうな声。どうしたんだろ?
「何がですか?」
『高かったでしょ、それ』
「そりゃまあ、それなりには」
業務用だし。
- 35 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月06日(火)22時17分28秒
- 『何で梨華ちゃんだけそんな良いモンになってんのよ!!矢口なんて笑い袋なのに!!』
「そんなコト言われても…」
『しかもよっすぃーは、矢口のために1円も払ってないじゃん!!』
「だって、起きたら枕元にあったから…」
『じゃあ、もし矢口がお店に売ってあったらよっすぃー買ってくれる!?』
「当たり前じゃないですか。もう…つまんないコトで怒るのやめてくださいよ」
『5000万でも!?1億でも!?』
「極端ですよ…っていうか1億円の笑い袋って」
『買うって言えよ、言えよぉぉ…っく、うぅ…』
『ああっ、矢口さん、泣かないで下さいよぉ…どーしよ、よっすぃー』
泣いてる…笑い袋が…笑い袋のクセに…。
「ははっ…ははははははは」
『どうしたの、よっすぃー…?』
『買えよっ…買えよぉぉ…』
『Zzzz…』
『Zzzz…』
壊れたい。
壊れられたら、どんなに楽だろう…。
- 36 名前:マルボロライト 投稿日:2001年03月06日(火)23時14分04秒
- 業務用冷蔵庫…いったいヨッスィーはいくらで買ったんだろう?
>泣いてる…笑い袋が…笑い袋のクセに…。
おもしろいなぁ♪ヨッスィー♪
ヨッスィーまだ壊れないでね〜
- 37 名前:すなふきん 投稿日:2001年03月07日(水)13時36分10秒
- 苦労が絶えませんね…(w
でも、よっすぃーには怒ったような表情で堪え忍んでいるのが一番似合ってる気がします。
- 38 名前:ティモ 投稿日:2001年03月07日(水)16時28分20秒
- 石川が冷蔵庫なのは寒いから?
- 39 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月08日(木)21時33分45秒
- (『アタシたちは、いつでもよっすぃーのそばにいるよ。だから…アタシたちのコト探して』)
夢の中で…ごっちんが言った言葉。
あれは何かのお告げだったのかなぁ。
アタシたちのコト探して、か…。
『ふわぁぁぁ…。ああ、よくねた…』
『もう、カッチンコッチンやでぇ!!完全復活や!!』
『ねぇよっすぃー、いくらまでなら出す!?いくらまでなら矢口のコト買う!?』
『よっすぃー、ごめんね。あたしのためにローンまで組ませちゃって。でも…うれしい』
やっぱり、どうしても探さなきゃいけない?ねぇ、ごっちん、ごっちんってば…。
- 40 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月08日(木)21時34分29秒
- 『よっすぃー、ちょっと出してくれへん?』
出すって…冷蔵庫から?
「ダメだよ、またとけちゃうじゃん」
せっかく梨華ちゃん(業務用冷蔵庫)の中で冷凍状態に戻ったのに。
『ええやんかー、外の空気吸いたいんやもん。とけたらまた梨華ちゃんの中に入ったらええやん』
『加護、あんまし冷凍と解凍くりかえしてたら傷むよ?』
そうだそうだ。
『ののもちょっとだけ出たい…りかちゃん、さむすぎる』
『え…あたし…そんなに寒い?』
その場の空気が一瞬にして凍りついた。
今、辻・加護を外に出したとしても…決して解けることはないだろう。
「…わかったよ。でも、とけたらすぐ戻るんだよ?」
『やったー!!早よ出して!!早よ!!』
『出して!!出して!!出して!!』
そんなに出たいのか…?
あたしは、2人を梨華ちゃんから出すと、机の上に置いた。
- 41 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月08日(木)21時35分11秒
- 4時か…そう言えば、おなかすいたな。
考えてみたら、2度寝してお昼に起きて…何も食べてないじゃん。
晩ゴハンまでまだ時間あるし…とてもじゃないけどそれまでガマンできない。
コンビニでも行くか…気晴らしにもなるし。
あたしは、ジャケットを羽織るとバッグから財布を取り出した。
「コンビニ行ってきます。すぐ戻りますから」
『『『『いってらっしゃーい!!』』』』
みんなに見送られて、あたしは部屋を出る。
- 42 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月08日(木)21時35分56秒
- 3月になったとはいえ、外はまだまだ寒い。
あたしの部屋にいる4人以外のメンバーもやっぱり…『何か』になっちゃってるんだろうか?
そうだとしたら、早く探し出してあげなきゃ。
暖かいところにいればいいけど、この寒空の中で凍えてたりしたら…。
「いらっしゃいませー」
馴染みのコンビニに到着。
馴染みっていってもバイトの人はしょっちゅう変わるから、親しみのあるお店ってワケじゃないけど。
とりあえずあたしは、空腹を満たすための食料を次々とカゴに入れていく。
カップラーメン、ポテトチップ、コーラ…。
『吉澤…吉澤…』
……来たっ!!
今のは確かに…中澤さんの声。
- 43 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月08日(木)21時36分46秒
- あたしは注意深く辺りを見渡す。
ココにあるモノで、中澤さんにちなんだモノ…何だろう?
……酒だ!!
そうだ、そうに違いない!!
確かこのコンビニ、お酒も置いてあったハズ。
あたしは早足で酒類コーナーへ向かう。
『…おーい、吉澤ぁ…』
あれ?中澤さんの声…さっきよりも遠くなったような気がする。
『こっちこっち。後ろ』
振り返った先にあったものは…雑誌コーナー?
雑誌か…ちょっと意外だけど。
あたしは、入口付近の雑誌コーナーへと歩み寄った。
とりあえず、ファッション誌あたりを漁ってみる。
たまに楽屋とかで読んでるもんね…。
『違うって…もっと奥や、奥』
奥…?
あたしは、見ていた本を棚に戻すと、さらに奥の方へと進みかけて…足を止める。
"18歳未満おことわり"
思わず、中段どまんなかに置いてあった超過激な表紙に目が行ってしまい、あわてて逸らす。
- 44 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月08日(木)21時37分33秒
- 『今!!今こっち見たやろ!?それやで、今あんたが見た本や!!』
中澤さん……まさかエ○本になってたなんて。
『ホラ、早よ買うて!!早く!!誰かに買われてまうやろ!?』
あたしは、店員さんに気付かれないように、ゆっくりと首を横に振る。
『何で!?買うてよ!テレビガイドの下とかに隠して買うたらええやん!?なぁ吉澤ぁ、お願いやから……』
あたしは、懇願する中澤さん(エ○本)に背を向けると…そのままレジに向かって歩き出した。
すみません、中澤さん…あきらめてください。
それだけは…何があっても買えません。
- 45 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月08日(木)21時38分09秒
- 『今帰ったら…あんたが泣くコトになるで』
鋭い口調にあたしの歩みが止まる。
そして再び雑誌コーナーへと戻るあたし。
中澤さんに近づくと、小声で話しかける。
「それ…どういうコトですか?」
『この中にあるグラビア全部、あんたの顔写真とすげかえても…ええねんで?』
なっ!?
「そんなコトできるんですか!?」
『さぁなー。できるかもわからんし、できんかもわからんなぁ。どっちやろな…クククク』
くっ……!!
- 46 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月08日(木)21時39分12秒
- 「ありがとうございましたー」
生まれてはじめて…こんな本を買ってしまった。
レディコミとかならまだしも、よりによってこんな…。
今日限り、一生あのコンビニには行けない。
『ははははは!!コイツ、ホンマに買いよったで!!ははははは!!』
お父さんお母さん、ゴメンナサイ。
ひとみはもう…お嫁に行けません。
- 47 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月08日(木)21時39分55秒
- 『よっすぃー、おかえりなさーい!!』
「ただいま…」
ののの明るい声とは対照的に、あたしの心はドン底。
右手に持ったコンビニ袋が鉛のように重く感じられる。
机の上に乗っかってる矢口さんたちを避けて、空いているところにそれを置いた。
中に入っていたジュースのペットボトルが、倒れて袋からはみ出す。
『何買うたん?』
「お菓子とか、ジュースとか…」
エ○本とか…。
『ジュース、冷やしてあげよっか?』
「いいよ、凍っちゃうから…」
『どうしたの、よっすぃー?何か元気ないけど』
矢口さんが心配してくれる。
矢口さんなら、わかってくれるかなぁ…この気持ち。
- 48 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月08日(木)21時40分45秒
- 『あっ!!よっすぃー、なんかへんな本かってるのれす!!』
『ホンマや!!』
辻・加護が、早くも中澤さん(エ○本)の存在に気付いて声をあげる。
「あ、コレは…」
『よっすぃー…そんな本に興味あったの?う、そ…』
「だから、コレは…」
『さすがの矢口も、ソレにはちょっと笑えないよ…』
「違いますって!!コレは…中澤さんなんですよ!!」
『…よっすぃー、言い訳しなくてもいいよ。あたしたち、誰にも言わないから』
矢口さん!?なに言ってるんですか!?
「ホントに中澤さんなんですよ!!コンビニで話しかけられて…っていうか、何で黙ってるんですか!?
何か言ってくださいよ、中澤さん!!」
- 49 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月08日(木)21時41分39秒
- 『…何にも言わへんやん』
『うそはよくないのれす』
違う、違うのに…。
『よっすぃー、ホラ、読みなよ…あたしたち、後ろ向けていいからさ』
『あたしは、移動できないから…目つぶってる』
何だよ、 "目" って…。
っていうか…
「何とか言えよ、中澤!!」
『何やと、吉澤ぁ!!それがリーダーに対する口の利き方か、コラァ!!!』
『裕…ちゃん?』
『あ…』
「あ…じゃないでしょ!?なんで何にも言ってくれなかったんですか!?」
『いやぁ、何やおもろかったからつい…』
ヒドイ…。
- 50 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月08日(木)21時42分19秒
- 『ゴメン、ね…よっすぃ?』
矢口さん…何を今さら。
『ウチら、最初っからよっすぃーのコト信じとったで。なー、のの?』
『よっすぃーはそんな本をかうようなコじゃないのれす』
『ずるいよ、あいぼん。もちろんあたしはよっすぃーの味方だけど…』
『いやー、レジで金払ってる時の吉澤のカオ…あんたらにも見せたかったわー』
こいつら……全員まとめて捨ててやる。
- 51 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月08日(木)21時51分01秒
- ねーさんが大変な時にこんな話…でも既に書いた後だったので大目に見てやって下さい。
>マルボロライトさん
ありがとうございます。
冷蔵庫…いくらだったんですかね、あまり考えないで書いちゃいましたけど。
よっすぃー、ローン地獄(笑)
>すなふきんさん
ありがとうございます。
書いてて、だんだん可哀相になってきました…といいつつ今回さらに不幸でしたが(笑)
>ティモさん
ありがとうございます。
>石川が冷蔵庫なのは寒いから?
一応そういうつもりで冷蔵庫にしてみたんですが…最近の彼女はそうでもないんですかねぇ?
- 52 名前:すなふきん 投稿日:2001年03月08日(木)22時15分01秒
- あ〜、もう最高です!!
なんで、こんなに面白いんだ〜♪
- 53 名前:まだ名無しです@ごめんなさい 投稿日:2001年03月09日(金)20時14分29秒
- おもしろいです〜♪
今一番お気に入りです!!
- 54 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月09日(金)21時21分47秒
- 頑張ってください!次は誰かな?
- 55 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月10日(土)00時04分56秒
- いやいやいや、苦労が絶えないね〜(笑)
これで五人、まだまだ苦労は続きそうだね〜(笑)
ローン抱えて、お嫁にも行けなくなって、これからどうなっちゃうんだろ(笑)
- 56 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月10日(土)16時06分25秒
- 今日初めて全部読ませていただきました。
も―――、めっちゃ面白い!!!!
ってゆーか、ずっと大笑いしながら読んでました。
1人部屋で良かったぁー(笑)
すごく面白いので、次の更新も楽しみにしています♪
頑張ってください。
- 57 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月10日(土)21時44分06秒
- >すなふきんさん
ありがとうございます。そう言っていただけると、ホントうれしいです!!
>53さん
ありがとうございます。今回ちょっと長めの話なので、楽しんでいただけるとうれしいです。
>54さん
ありがとうございます。次は…お楽しみに(って程のモンじゃありませんが)。
>55さん
ありがとうございます。
ローン地獄で嫁にも行けず…まだまだまだまだ苦労は続きます(笑)
>56さん
ありがとうございます。
ホント良かったですね、一人部屋で(笑)…って、めっちゃうれしいっすよーー!!
これからもどうぞよろしくです…。
- 58 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時47分13秒
- 『キャハハハハ!!よっすぃー、かわいそー!!』
『ほんでな、テレビガイドの下に隠したまでは良かったんやけど…裏と裏で背中合わせにしてたんやんかー。
それを店員さんがバーコードとる時に2冊まとめて裏返したもんやから、隠してた方の表紙が表に出てもーて…』
『『『『ハハハハハハ!!!』』』』
夕食を済ませて2階へ上がると、あたしのアンテナが彼女たちのテレパシーをキャッチ。
どうやらあたしのエ○本購入バナシで盛り上がっているらしい。
はぁ…何であんなモノ買っちゃったんだろ、何で…。
最悪の気分で部屋のドアを開ける。
『やばっ、よっすぃー帰ってきたで!!』
あいぼん…さっきから全部聞こえてたっつーんだよ。
あんたらのテレパシーは音量調節できないのか?
- 59 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時48分01秒
- 『よっすぃー、おかえりぃ。晩ゴハン何だったの?』
矢口さんが甘えた声で話しかけてくる。
一応、あたしのゴキゲンでも取ろうとしてくれてるんだろうか。
もちろん、あたしは完全無視。
メールチェックでもしようと、机の上に置いてあるノートパソコンのフタを開ける。
『よっすぃー…まだ怒ってるの?ねぇ…』
矢口さん、そんな泣きそうな声出さないでくださいよ、もぅ…。
「…オムライスでした」
無視できないじゃないですか…。
『あーあ、矢口には甘いからなー、吉澤は』
「そっ、そんなコトっ…ない、です」
中澤さんにからかわれたあたしは、恥ずかしくなって…矢口さん(笑い袋)から目を逸らした。
ごまかすようにパソコンの電源を入れる。
『もー、遅いわよ!!何時間待たせんだっつーのよ』
あたしは、またもや新種のテレパシーを受信。
聞き覚えのある声、コレは……。
「保田さん!?」
- 60 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時48分41秒
- 『そーよ』
保田さんがフキゲンそうな声で応える。
『なるほどねー、圭ちゃんはパソコンかぁ』
矢口さんが感心したように言う。
保田さん=パソコン…確かにコレは納得だなぁ。
『ったく…いつ電源入れてくれんのかと思ったわよ』
っていうか保田さん、何で自分がパソコンになっちゃってるコトに驚かないんですか…。
『ああ…あたし、ずっとみんなが話してんの聞いてたから。
ただ、電源入ってないとこっちからは喋れないみたいなんだけどね』
あたしが尋ねると、保田さんはそう説明してくれた。
『そうやったんか…何や、えらいコトなってもーたなぁ』
中澤さんにしては、めずらしく真剣な口調。
ようやく事の重大さに気付いたらしい。
『っていうか裕ちゃん、そんな姿でマジメなコト言われても説得力ないんだけど』
『うっさいわ!!自分がちょっとカッコええもんなったからって調子のんなや!!』
パソコンとエ○本の口ゲンカ…めったに見れるモンじゃないな。コレは…貴重な映像。
- 61 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時49分26秒
- 『あ、何コレ?』
保田さんが何かに気付いた様子。
「どうしたんですか?」
『へぇー、よっすぃーって…そうだったんだー』
あたしが尋ねると、保田さんは何やら意味深な笑い。
何なんですか、一体…?
『Dドライブの "矢口さん" ってフォルダの下…矢口の画像が死ぬほどため込んであるんですけど』
「ああっっ、み、見ないで下さい!!ヒドイですよ、保田さん勝手に…」
『しかもコレ…やだ、よっすぃー…コレ、顔だけ矢口で…ちょっと、やだもー…』
「ちょっ…何言ってんですか!?」
『えっ!?何や何や!?顔だけ矢口ってどーゆーコト!?ちょっと見してーな、圭坊!!』
『あーあ…矢口さん、切って貼られてもーたんや、よっすぃーに』
『そのためにえっちな本をかったのれす』
『それやったらええページあるで、吉澤!!』
『よっすぃー…何で矢口さんなの?あたしじゃ…ダメなの?』
「勝手なコト言わないで下さい!!あたし、そんな変なモノ作ってません!!」
- 62 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時50分21秒
- 『もぅ…よっすぃーってば、言ってくれればいいのに…何ならココで脱いでもいいけど?』
「結構です!!笑い袋に袋脱がれても何もうれしいコトありませんから!!」
『ひっどーい!!よっすぃーってば矢口のコト、"笑い袋"って、"笑い袋"って…』
『大体あんたは、あたしらのコト人間として認めてへんやろ!?エ○本やからってバカにすんな、もっと大切に扱えや!!』
『せや、せや!!たこ焼きにも人権があんねん!!』
『ヨーグルトはけんこうにいいのれす!!』
『よっすぃー…あたしのコト嫌いになっちゃった?やっぱり、冷蔵庫だから…?』
『わっ!?なにこのスクリーンセーバー…』
「あーもー、うるさい!!!」
あたしは、机の上のマウスに手を伸ばす。
『ん?何やってんのよ…ちょっ、 "Windowsの終了" って、あんた何する気!?』
「1日1回は立ち上げますから」
『やめなさいよ、ちょっと!!吉澤!!あんた、覚えてなさ…』
保田さんは、最後まで言い終わらないうちにシャットダウンした。
- 63 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時51分06秒
- 『こういう時、文明の利器っちゅーやつはもろいわなー』
中澤さんは余裕の笑い。
「中澤さん…あんまり騒ぐと廃品回収出しますよ」
『何やと、コラ!?やれるモンならやってみぃ!!こんなこっぱずかしい本、出せるかっちゅーねん!!』
『裕ちゃん、それ自分で言っちゃあ…』
『よっすぃー…ウチ、またとけてきたで』
あ…忘れてた。
あいぼん、完全に解凍してる。パッケージからは水滴がダラダラと滴っていた。
あたしは、あいぼん(冷凍たこ焼き)とのの(アロエヨーグルト)を梨華ちゃん(業務用冷蔵庫)の中へ再投入する。
『うわぉ!さっすが梨華ちゃん、冷えてるぅ!!』
あいぼん…あんまり余計なコト言わないようにね。
『みなさん、おやすみなさい…』
早くもののは、意識がなくなってきているみたい。
『Zzzz…』
『Zzzz…』
この2人…梨華ちゃんの中に入れた瞬間に眠ってしまうのはどういうワケだろう?
雪山で遭難したヒトって、こんなカンジなのかなぁ。
- 64 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時52分14秒
- 『お母さん、心配してるだろうなぁ…』
矢口さんがポツリと呟く。
確かに、みんな突然いなくなっちゃったワケだから…って、それってめちゃめちゃ重大問題じゃん!!
『捜索願いとか出されてんちゃうか、ひょっとして?』
あたしが言うよりも先に、中澤さんが口を開いた。
「やばいですよね…それって」
一人暮らししてるメンバーはいいとして、家族と住んでる矢口さんや辻・加護…それにまだ見つかっていない他のみんな。
モーニング娘。が揃って失踪、なんてコトになったら…やばい、マジでやばい。
『吉澤、とりあえずメンバーの家に電話して…2・3日あんたの家に泊まるっちゅうコトにするんや』
『うん、ちょっと怪しまれるかもしれないケド…それしかないよね』
矢口さんが言うように、本人が電話口に出ないんじゃ怪しまれるかもしれないけど…他に方法はない。
「わかりました。やってみます」
あたしはまず、まだ見つかっていないメンバーの携帯にかけてみた。
予想通り、誰一人としてつながらなかった。やっぱり、みんな『何か』になってるのは間違いないみたい。
その後で、一人一人の実家に電話して…2・3日あたしの家に泊める旨を伝えた。
こっちも予想通り、本人が電話に出ないコトを怪しまれたものの、何とか信じてもらうコトに成功した。
やれやれ…とりあえずこれで一安心。
- 65 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時53分06秒
- みんなの家に電話した後、あたしはお風呂に入って再び自分の部屋へ戻ってきた。
時刻は…夜9時。
ドアの前に立つと、部屋の中は何やらシーンとして…誰の声も聞こえてこない。
かすかに、辻・加護の静かな寝息が聞こえているだけ。
みんな…寝ちゃったのかな?
『あっ、よっすぃー』
ドアを開けて中に入ると、やっと矢口さんからのテレパシーを受け取る。
「何か…静かですね」
やっぱり、あの2人が寝ちゃったからかな?
『裕ちゃんがさぁ…さっきから何にもしゃべんないんだよ、話しかけてんのに』
あ…それで静かだったんだ。
「中澤さん、どうかしたんですか?」
あたしは、黙り込む中澤さんに声をかける。
寝てるのかな?まだ9時なのに…。
『話しかけんといて。今忙しいねん』
忙しいって…そんな姿で一体何に忙しいんだろ?
『中澤さん…何か、真剣に考え事してるみたいなの』
何か…久しぶりに梨華ちゃんの声を聞いたような気がするのは気のせいだろうか。
- 66 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時54分14秒
- 『裕ちゃん…こんな姿になっても、やっぱリーダーなんだね』
「そうですね…」
まだ見つかっていない他のメンバーのコトとか…考えてるのかも知れない。
ただのエ○本じゃなかったんですね…。
あたし、中澤さんのコト…誤解してました。
『ねぇよっすぃー、矢口、外に出たい』
「え…?」
『朝からずっと部屋の中にいたからさ…ダメ?』
確かに、矢口さんは起きた時からあたしの部屋にいたんだもんね。
そう考えると、保田さん(パソコン)も同じなんだけど…。
「そうですね、中澤さんの邪魔しちゃ悪いし…散歩でもいきましょっか?」
『やったー!!行こ、行こ!!』
はしゃいでる矢口さんの声を聞いてると、あたしまで幸せな気分になる。
『よっすぃー…あたしは?』
ふと、梨華ちゃん(業務用冷蔵庫)のファンの音が大きくなったような気がして背筋が凍りつく。
「ゴメン、梨華ちゃん…重くて持てないよ」
連れ出してあげたいのはやまやまなんだけど…。
『いいの。ちょっと聞いてみただけだから…いってらっしゃい』
後ろ髪をひかれる思いで、あたしは部屋を出る。
あたしが着ているジャージの上着のポケットには…矢口さん。
- 67 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時55分03秒
- 外はもう真っ暗…夜なんだから当たり前か。
矢口さんを連れて、駅前の公園まで歩いた。
『よっすぃー、外出して』
「いいですけど…矢口さん、寒くないですか?」
『うん。大丈夫』
あたしはベンチに腰掛けると、ポケットの中の矢口さんをそっと取り出して…ひざの上に乗せる。
『うわぁー…すっごい、キレー…』
夜空いっぱいに広がる星たちを見て、矢口さんが呟く。
「ココ…田舎だから。結構キレイに見えるんですよ」
『矢口んトコも見えるよ、いっぱい』
「そうなんですか?」
『うん。…今度さぁ、遊びにおいでよ』
「…はい!!」
何だか今日は、矢口さんとの距離がすごく縮まったような気がして…あたしはうれしかった。
そんなコトで喜んでる場合じゃないってコトは、よくわかってるつもりだけど…。
- 68 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時55分39秒
- 『 "今度" か…ホントにそんな日がくるのかなぁ』
不安そうな矢口さんの声に、あたしはさっきまで浮かれてた自分が恥ずかしくなった。
ホント、喜んでる場合じゃないや。
でも…あたしに何ができるだろう?
とりあえずは、どこにいるのかもわからない他のみんなを探すのが先決だけど…。
『……っく、ひっく、っ…』
矢口さん……泣いてる!?
「矢口さん…」
声をかけても…何を言えばいいのか、どんな言葉をかければ彼女の不安を取り除いてあげられるのか、
あたしにはわからない。
それでも、彼女の名前を呼ばずにはいられなかった。
『っ、あたし…帰りたい、帰りたいよ…っ、やだ、よ…っ、こんなの…。たすけて…よっすぃー…』
泣かないで…泣かないでください、矢口さん……。
- 69 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時56分40秒
- 『…っく!?キャ、キャハハハハハハ!!なっ何すんだよ、よっすぃー!?ハハハハハ!!やめろよぉ!!』
すみません、矢口さん…おなかのスイッチ、押させてもらいました。
『ハハハハハハ!!このやろぉ、覚えてろよ…わーはっはははは!!うぅ…苦しい…キャハハハハハ!!』
ちょっとでも元気になってもらおうと思ったんだけど、何だかツラそう…悪いコトしちゃったかな。
笑い袋の機械的な笑い声が、公園中に響き渡っている。
しまった、コレは…かなり近所迷惑かも。
「誰だっ!?出てきなさいっ!!」
突然、後ろから声がしてあたしは振り向く。
ベンチの後ろの茂みの向こう側から、懐中電灯の明かりで照らされる。
やば…お巡りさんだ。
お巡りさんは自転車に乗ってる様子もないし、あたしとの距離もだいぶある。
「矢口さん、走りますからしっかりつかまっててください」
『つかまってって…無理だよ。よっすぃーがちゃんとつかまえててよ』
「あ、そっか」
あたしは、ヒザの上の矢口さんを左手に抱えるようにして持つと、その場から駆け出した。
「こらっ、待ちなさい!!」
物音に気付いたお巡りさんが後ろから追いかけてくる。
- 70 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時57分24秒
- どれくらいだろう…あたしは、とにかく走り続けた。
左手に矢口さんを抱えて、どこまでもどこまでも走った。
もう誰も追ってこないのはわかっていたけど…なぜだか止まるコトができなかった。
何の意味も無いコトだってわかっていたけど、コレが矢口さんのためにできる唯一のコトのような気がして。
家に着くまで、止まらずに走り続けようって思った。
『よっすぃー…ありがと』
矢口さんが本当に小さな声でそう言ったのを、あたしは…聞こえないフリで走り続けた。
- 71 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時58分09秒
- 『ただいまー!!』
さっきまで泣いていたのがウソのような明るい声で矢口さんが言う。
『あ、おかえりなさい…』
『ZZZZZZ…!!』
『ZZZZZZ…!!』
帰ってきたあたしたちを、冷凍トリオ(梨華ちゃん・あいぼん・のの)がテレパシーでお出迎え。
それにしても、この2人…寝息がいびきに変わりつつあるんだけど、そういうのまでテレパシーで
送ってくるのやめてほしい…うるさくてしょうがないんだけど。
『裕ちゃんは…まだ?』
『はい、ずっと黙ったままで…』
そんなに考え込んで…ちょっとはあたしたちにも相談して欲しいなぁ。
そりゃあんまし頼りになんないかも知れないけど、一人で思い悩むよりは全然いいと思うし…。
「あの、中澤さん、あたしたちも一緒に…」
『よっしゃ!!やっと読破したで!!あー、疲れた…』
「…は?」
読破…?
中澤さん、あなたまさか…。
- 72 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月10日(土)21時58分58秒
- 『おっ吉澤、ちょうどええトコに帰ってきた…27ページのグラビア、裕ちゃんのオススメやでぇ』
「もしかして、ずっと読んでたんですか…自分を」
『27ページ!!思う存っ分、切ったり貼ったりしてええで!!矢口のカオで!!』
「しません、そんなコト!!」
矢口さんと梨華ちゃんは、既に言葉を失っていた。
矢口さんがさっき流した真珠のナミダも…このヒトの前では何の意味も持たないだろう。
あたし、中澤さんのコト…誤解してました。
あなたってヒトは…やっぱりただのエ○本だったんですね。
- 73 名前:まだ名無しです@ごめんなさい 投稿日:2001年03月10日(土)22時21分03秒
- 面白いです♪
ガンガン更新してください♪
パソコンの中身に矢口のア○コ×が…?
よっすぃー最高!!
- 74 名前:すなふきん 投稿日:2001年03月10日(土)23時01分24秒
- それでそこ姐さん!!
- 75 名前:もんじゃ 投稿日:2001年03月11日(日)01時19分09秒
- (56)です。HN、固定しました。
やっぱ面白いです♪
裕ちゃん、サイコー(笑)
圭ちゃんも見つかって残りはあと3人。みんな何になってるんだろ?
わくわくしながら続き待ってます。
- 76 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月11日(日)14時51分28秒
- 泣かないで下さい・・・って言った後に、笑い袋を無理やり笑わせる
吉澤の天然さ加減に笑いました。
- 77 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月11日(日)16時06分30秒
- >73さん
ありがとうございます。
>パソコンの中身に矢口のア○コ×が…?
本人否定してるんで(レス61にて)…信じてあげてみて下さい(笑)
>すなふきんさん
ありがとうございます。姐さん…すいません(笑)
>もんじゃさん
ありがとうございます。今回は…あのヒトです。
今週は更新遅くなりそうなので、一気にあげときます。ペース一定してなくてすみません…。
>76さん
ありがとうございます。彼女なりの苦肉の策だったんですけど…空回り(笑)
- 78 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時08分11秒
- 『よっすぃー…まだ、見つかんないの?みんな、待ってるんだよ?』
また…ごっちんなの?
コレは…全部ごっちんがやったコトなの?
『よっすぃーが言ったんじゃん、いつもいっしょにいられたらいいのになぁ…って』
そりゃあ、確かにそう思ったけどさ…あたしはそういうイミで言ったんじゃなくてさ…。
はっきり言って…もう一緒にいたくないんだよね。
『よかったね、よっすぃー…願いが叶って』
ごっちん…人の話聞いてる?
『アタシ、ここにいるみんなで…コンサートやりたいなー。ねぇよっすぃー、やりたくない?』
やりたくてもやりたくなくても…オフが終わったら次の日にはやんなきゃいけないんだよ?
だからこんなに焦ってるのに…。
ねぇ、ごっちん、どこにいるんだよ?
他のみんなは、一体どこにいるの…?
『ふぁ…アタシ、なんか眠くなってきちゃった。じゃあね、おやすみよっすぃー…』
こら、寝るな!ちゃんと質問に答えてから寝ろー!!
『よっすぃー、朝ですよぉ。早く起きてくださーい……って、起きろーっっ!!ひとみぃーっっ!!!』
「ふぇっっ!?……矢口さん、大っきな声出さないで下さいよ。心臓に悪い…」
『最初の方はやさしく起こしてあげたでしょ?すぐ起きないからだよ』
- 79 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時09分54秒
- オフ2日目。月曜日。
今日は…学校行かなきゃ。
3日間のオフも、今日と明日で終わり。
明後日のコンサートまでに、まだ見つかってない残りのメンバーを探し出して…元に戻る方法を考えなきゃいけない。
って言ってもなぁ…みんな、どこにいるんだろ?
『ねぇ、誰か連れてった方がいいんじゃない?その方が探しやすいよ』
朝ゴハンを済ませて部屋で出かける準備をしていると…矢口さんからテレパシーが送られてきた。
『そうですね、あたしたちならテレパシーで会話できるし…』
梨華ちゃんもその意見に賛成の様子。
確かに…あたしには彼女たちのテレパシーを受信するコトはできても、送信するコトはできない。
もし学校にメンバーの誰かが潜んでたとしたら、テレパシーを送受信できるこの中の誰かを連れてった方が何かと便利なハズ。
- 80 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時10分35秒
- 「じゃあ、誰か…」
『はいはい!!あたしあたし!!』
早速、中澤さんが名乗りをあげる。
「嫌です」
『何でよ!?ちょうどカバンにも入るサイズやで?』
「エ○本なんて持ち歩きたくありません」
『エ○本て言うな!!中澤さんて言えや!!』
とりあえず中澤さん(エ○本)は却下するとして、残っているのは矢口さん(笑い袋)、梨華ちゃん(業務用冷蔵庫)、
あいぼん(冷凍たこ焼き)、のの(アロエヨーグルト)、保田さん(ノートパソコン)。
この中で一緒に連れて行けそうなモノは……
『やったー!!よっすぃー大好き!!』
あたしは、机の上から矢口さん(笑い袋)を手にとると、カバンの中に入れた。
- 81 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時11分15秒
- 『ねぇねぇよっすぃー、しりとりやろーよ』
「嫌ですよ、こんなトコで」
矢口さんを連れて来たのはいいけど…ここに来るまでの間、あたしはずーっと話しかけられて困っていた。
駅までの道は人通りもそんなにないから小声で話せばよかったんだけど、駅のホームや電車の中でもずっと…。
カバンの中で退屈なのはわかるんだけど、もう少しあたしのコトも考えてほしい。
あたしが矢口さんに言葉を伝えるためには、声に出すしかないんだから…。
『じゃあねぇ… "やぐち"。はい、"ち" だよ、よっすぃー』
"ち" だよ、じゃないだろ…まったく、人の話ぜんぜん聞いてないんだから。
電車の中ではあたしが完全無視の姿勢を貫いたため、口数もやや少なめの矢口さんだったが、電車を降りると
途端にいつものペースでトークを再開した。
そりゃ駅の中より人は少ないけど、ここは通学路なんだから…友達とかいっぱい通るのに。
『よっすぃー…なんで無視すんの?矢口だって好きでしりとりなんかやろうって言ってるワケじゃないのに』
好きでやってんじゃないなら、やんなきゃいいのに…。
『黙ってたらいろんなコト考えちゃうから…だから、気を紛らわそうとしてるだけなのにさ…』
矢口さん……。
「ちりめんじゃこ」
あたしは、すぐ近くに人がいないのを確認して、仕方なく小声で相手する。
- 82 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時12分33秒
- 『ぷっ…あはははは!!ちっ、ちりめんじゃこって!! "ちりがみ" って言うのかと思ったよ。
もーやめてよぉ…矢口、今笑いに敏感になってんだからさぁ。くくっ…ちりめんじゃこ、ちりめんじゃこっ…!!』
…やっぱ置いてくるんだった。
『じゃあ…"こま"』
「まり」
『やだぁ、よっすぃーってば、イキナリ呼び捨て…でも、ちょっとうれしいケド』
「違います。矢口さんのコトじゃなくて、ボールみたいなやつの方です」
『…わかってるよ、そんなの。何でそうやってマジメに答えるかなぁ』
『まり…リンゴ』
「ひとみっ、おはよー」
「ゴリラ」
「ひとみ…?」
「えっっ!?」
気が付くと、あたしの隣にはクラスの友達。
いつの間にかしりとりに夢中になってて、声かけられたのにぜんぜん気付かなかった。
「何…ゴリラって?」
やばい…。
- 83 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時13分16秒
- 「あ、ああ…ねっ、年号覚えてたの、歴史の」
「年号…?ゴリラなんてゴロ合わせあったっけ?」
「あっ、そんなコトよりさ…聞いてよ!!昨日からオフなんだー!!」
あたしはあわてて話題を逸らす。
『ゴリラ…ラ、ラ…』
「そうなんだ、よかったじゃん!!久しぶりでしょ、休めんの?」
「うん…つっても、学校あるからあんまし休みってカンジじゃないけどね」
「ああ…そーだよねー」
『らっきょう!!』
…まだ続いてたのか。
それにしても、 "ゴリラ" っつったら "ラッパ" とか "ラッコ" とかじゃないか、普通は?
友達と一緒に歩いているあたしに、当然しりとりを続けるコトができるはずもない。
「いつまでなの、休み?」
『次、よっすぃー、 "う" だよ、"う"。……ちょっと、何無視してんだよ!!』
「明日まで」
「そっかー」
『よっすぃーってば!!』
そうこうしてる間に、あたしたちは学校の下駄箱に到着。
少し離れたところで友達が靴を履き替えている隙を見計らって、あたしは素早く事務的に答える。
「うどん」
『あーっ、ムカツク!!早く終わらせたいからワザと負けたんでしょ!!よっすぃー、サイッテー!!』
あーあ…何でこんなモノ連れてきちゃったんだろ。
- 84 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時14分15秒
- 朝のしりとりで遊び疲れたのか、授業中の矢口さんはすっかり爆睡モード。
学校に残りのメンバーが潜んでいた時のために、テレパシー送受信可能な誰かを連れて行った方がいい。
そう言ったのは矢口さんなのに…一体何しに来たんだか、このヒトは。
静かになってくれたのは良かったんだけど、その間ずーっと頭の中で聞こえる矢口さんの悩ましげな寝息が気になって、
あたしは授業どころじゃなかった。
「ひとみ、帰ろっ」
HRも終わって、友達があたしの席に駆け寄ってくる。
「あ、ゴメン。あたし…ちょっと職員室寄ってかなきゃいけないからさ」
「そうなんだ。じゃ、また明日ね」
職員室寄ってく…ってのはウソ。
もし帰り道で残りのメンバーを発見した場合、誰かと一緒だったらやっかいだし…友達には悪いけど、しょうがない。
彼女が教室から出てくのを見送って、あたしも帰り支度。
机の横に引っ掛けてたカバンを取ると、教室を後にした。
- 85 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時15分08秒
- 『すぅ…すぅ…んん……』
…ったく、まだ寝てやがる。
教室を出たあたしは、階段を降りて下駄箱へ続く廊下を歩いているところ。
カバンの中に入ってる矢口さん(笑い袋)にも、あたしが動くたびに振動が伝わってるはずなのに…一向に起きる気配はない。
このままだと、ホントに矢口さんを連れてきた意味がない。
熟睡してる矢口さんを起こすため、あたしは歩きながらカバンを大きくタテに振った。
『うわぁっ!?なになに??キャー!!何ココ、真っ暗だよぉ!?誰か、誰かぁぁーーっっ!!!!』
…予想外の大音量にアタマが割れるかと思った。
『ん?そっか…いつの間にか寝ちゃってたんだ、矢口』
何か…ちょっとうたたねしてたぐらいの言い方だなぁ。
1時間目から6時間目まで、びっしり爆睡してたヒトのセリフとは思えない。
『で、よっすぃー、誰かから来た?テレパシーの方は』
だからそりゃあんたの仕事だろ…ホント、何しに来たんですか、矢口さん。
「…まだです」
あたしは呆れつつも、小声で答える。
- 86 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時15分55秒
- 『そっかぁ。いないのかな、ココには…』
学校っていろんなモノが置いてあるから、結構期待してたんだけど…。
矢口さんの言う通り、ココには誰も居なさそうだな。
『待って、よっすぃー……聞こえる!!』
「えっっ!?」
突然、矢口さんが声を上げたんで、思わずあたしも叫んでしまった。
「えへへ…」
周りにいた生徒たちの注目を浴びてしまい…苦笑いでごまかす。
みんながすれ違いざまにあたしの方をチラチラと見ていく。
あたし、完全に怪しいヒト扱いじゃん…あーあ。
っていうか、そんなコトより今は…。
『……カオリ?』
矢口さんの口から、その名前が呼ばれる。
「飯田さんが!?」
そして、またもや叫び声を上げてしまうあたし。
「えへへへ…」
もう、やだ…。
- 87 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時16分37秒
- 「飯田さんが…近くにいるんですね?」
廊下の端のほうへ寄りつつ、あたしは小声で矢口さんに確認する。
『ねぇよっすぃー、その辺になんか…カオリっぽいモノない?』
飯田さんっぽいモノ…って言われてもなぁ。
教室の中とかならともかく、廊下にあるモノなんて限られてる。
とりあえずココから見えるモノは…壁の貼り紙や掲示板に貼ってある学校新聞くらいか。
"<今月の努力目標>お弁当は残さず食べよう"
…違うよな、こんなモン。
っていうか、中学生の努力目標がコレでいいのかっていうのも気になるところだけど。
「特に、飯田さんらしきモノはありませんけど…」
『ね、ちょっと出してよ』
あたしは、カバンから矢口さん(笑い袋)を取り出す。
『まだちょっと遠いみたい。もう少し…歩いてみて』
まだ遠い、か…確かにあたしには飯田さんの声はまだ聞こえてこない。
あたしよりも矢口さんの方が、テレパシーの受信能力に優れているみたい。
- 88 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時17分18秒
- 『カオリ、どこにいるの?ねぇ、そこ…どこなの?』
あたしには、矢口さんが呼びかける声だけが聞こえている。
肝心の飯田さんの声は、まだ聞こえてこない。
『だんだん近づいてきたみたい……あっ、ココ!!この中からだよ!!』
矢口さんに言われて立ち止まったところは…とある教室。
"技術室"
あたしは、おそるおそる技術室のドアを開ける。
電気が消えて薄暗い教室の中には誰もいない。
ココに、飯田さんが……?
『カオリ、カオリ』
『…矢口!!ココだよ、早く助けて!!』
今度は、あたしにもはっきりと飯田さんの声が聞き取れた。
「飯田さん!!」
『吉澤!?吉澤もいるの!?ねぇ…コレ、どうなっちゃってるんだよー』
声が聞こえたのは良いんだけど…飯田さん、一体どこにいるんだろ?
「飯田さん、どこにいるんですか?」
『えー…わかんないよ、そんなの』
困ったなぁ…どうやって探せばいいんだろう。
- 89 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時18分00秒
- 『ねぇカオリ、カオリが今いる所から…何が見える?』
矢口さんが質問する。なるほど、何か目印になるモノから絞り込んでいけばいいんだ。
『なんか暗くてよく見えないんだけど…コレは…カナヅチ、かなぁ』
ふむふむ、カナヅチ…か。
『他には?』
『あとは…釘…でしょ。それからコレは…ドライバー?』
釘に、ドライバー…か。
『プラス?マイナス?』
『プラス』
プラス…か。それ聞いてどうするんだろうって気もするけど。
とりあえず、飯田さんの周りにあるモノをまとめると……カナヅチ、釘、ドライバー(プラス)。
これらが一堂に会している場所と言ったら……1つしかない。
「『工具箱だ!!』」
あたしと矢口さんの声がハモる。
- 90 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時18分45秒
- あたしは、教室の後ろの棚を漁って工具箱を捜索する。
と、ちょうどあたしの身長と同じくらいの高さの段に、それらしきモノを発見。
見ると、同じような工具箱が30個近く並んでる。
この中のどれかに、飯田さんが入っているに違いない。
あたしは持っていたカバンと矢口さん(笑い袋)を近くのテーブルに置くと、棚に並んでいる工具箱の中から
1つを選び、両手でそっと取り出す。
この中のどれに入っているのかわからないけど、とりあえず1つずつ調べていくしかない。
『きゃあっ!?何!?何か揺れてるんだけど!?』
どうやら、イキナリ運良く飯田さん入りの箱を引き当てたらしい。
あたしはなるべく箱を揺らさないように、そっとテーブルの上の矢口さんの隣にそれを置いた。
そーとー年代物らしく錆び付いたその箱を、おそるおそる開けてみる。
『わっ、眩しい!…あっ、吉澤!!』
箱の中の飯田さんは、早速あたしを見つけたみたいなんだけど、あたしの方は…。
『カオリ…あんた一体何になってんの?』
あたしの代わりに矢口さんが言葉を発する。
工具箱の中には、いろんな工具が入っていて…どれが飯田さんなのか全く見当がつかない。
工具以外にも、すっかり色あせたメモや、消しゴム、分度器、コンパス、のり、割り箸(お弁当の箸を忘れた時のため?)…。
工具箱と言うより、ほとんどお道具箱に近いこの箱の中で…飯田さんは一体何になっているのだろう?
- 91 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時19分24秒
- 『 "何に" ってそれどういうコト!?カオリはカオリじゃないの!?』
それ以前に飯田さん…自分が人間以外の物になっているコトに気付いてない。
『さっき、カオリの周りには…カナヅチと釘と、それからプラスドライバーがあるって言ってたよね?』
矢口さん…飯田さんの疑問には答えてあげなくて良いんですか?
『よっすぃー、とりあえずカナヅチとか釘が入ってるあたり探してみなよ』
「あ…そうですね」
矢口さんに言われて、あたしは飯田さんの捜索を開始した。
カナヅチ・釘・プラスドライバー、これら全てが視界に入る位置に飯田さんは居る…。
と、それは意外にあっさり見つかった。
箱の中央で、カナヅチ・釘・プラスドライバーにぐるりと囲まれた物体がひとつ。
コレが…飯田さんなんだろうな、やっぱり。
試しに、箱からその物体を取り出してみる。
『わぁっ!?やだ、ちょっと…降ろして、降ろしてよ、吉澤!?』
大当たり。
- 92 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時20分16秒
- 『え…何でソレなの?わかんない、それだけは矢口にもわかんない…』
「うーん…」
まぁ、飯田さんっぽいと言えば、言えなくもない…のかなぁ。
『ちょっと…何なんだよー、カオリはカオリじゃないの?』
あ…飯田さん、まだそっから先に進んでなかったんだっけ。
『カオリも矢口も、人間じゃない別のモノになっちゃってるんだよ』
『はあっ!?何それ!?』
飯田さんは、あたしの手のひらで驚きの声を上げた。
『矢口も…って、矢口は何になってるワケ?どこにいんのよ、矢口は?』
「いますよ、飯田さんの目の前に」
あたしは、飯田さんを乗っけている左手を、テーブルの上の矢口さんに近付けた。
『なに?この袋みたいなの…』
コレはそんじょそこらの袋とはワケが違うんですよ、飯田さん。
『………』
矢口さん、どうしても自分の口からは言いたくないらしい。
「矢口さん…笑い袋なんですよ」
- 93 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時21分00秒
- 『わ、わらいぶくろ…?わらいぶくろって、アノ…笑い袋?』
「あの笑い袋もこの笑い袋も…笑い袋は笑い袋ですよ」
『こらーっ!!何回も言うなよぉ!!』
だって、飯田さんが変なコト聞くから…。
『ぷっ、あははははは!!矢口が笑い袋って…何それ、まんまじゃん!!ははははは!!』
『カオリ……殺す』
あたしの手の中で爆笑し続ける飯田さん。
でも…矢口さんのコト笑ってる場合じゃないと思うんだけど。
『…待って。それじゃ、カオリは何になってるの?もしかしてカオリも…笑い袋?』
「いや、笑い袋ではないんですけど…」
『カオリ、一緒に入ってたプラスドライバーさんと仲良くしといた方がいいと思うよ?』
「あ、大ヒントですよ、今の」
『何よ、それー!?もう、はっきり言いなさいよぉ!!』
「ネジです、プラスの」
- 94 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月11日(日)16時21分59秒
- 『はあ!?ネジ!?ネジって、アノ…ネジ?』
「あのネジもこのネジも…ネジはネジですよ」
『キャハハハハ!!ネジ、ネジ!!』
『ネジって…何のネジよぉ!?』
「さぁ…何のネジかはわかりませんけど、とにかく何かのネジみたいですよ?」
『ネジって…何でそんなつまんないモンになっちゃってんのよー…』
飯田さんのショックは計り知れない。
『ま、インパクトって点では矢口の方が上だね』
『くやしいケド、今となっては笑い袋がうらやましいよ…』
モノ同士の激しいプライドのぶつかり合い…あたしには理解できない世界だけど。
窓から差し込んでくる真っ赤な夕日を背に、いつまでも睨み合いを続ける…笑い袋とネジ(プラス)。
もう、いいかげん帰りましょうよ……矢口さん、飯田さん。
- 95 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月11日(日)16時23分42秒
- 今回のは…自分でもよくわかりません。
とりあえず機械っぽいモノってことで(その発想自体間違ってるような気もしますが)…ダメかなー。
感想などいただけるとうれしいです。
- 96 名前:マルボロライト 投稿日:2001年03月11日(日)18時41分53秒
- おっ?圭織が出てきましたね〜
笑い袋とプラスネジの睨み合い…生で見たいかも(笑)
最後はごっちんなのかな?期待してます♪
- 97 名前:名無しじゃん。 投稿日:2001年03月11日(日)23時30分52秒
- 爆笑です。
吉澤の困り具合とか良い感じっすよ〜!
絶妙な言葉の取り回しも楽しいっす!
「いつまでも睨み合いを続ける…笑い袋とネジ(プラス)」とか!
がんばってください!
- 98 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月12日(月)03時13分32秒
- いやいやいや、笑いどころが多すぎて。
最初は矢口さん、って丁寧なのに、面倒になるとだんだん吉澤の言葉遣いが荒くなるのがいいっす。
「"ち"だよ、じゃないだろ」とか「こんなモノ」とか。
本当におもしろい。続き期待してます。
- 99 名前:やぐ×2 投稿日:2001年03月12日(月)15時48分48秒
- 初めて読ませていただきました。
いや〜 笑いのツボに激しくヒットしましたわ。
「機械っぽいモノ」でネジ(プラス)って…(w
あとは安倍と後藤ですか。果たしてどんなモノにって想像するだけでも笑えてきます。
続きでも笑わせてください。楽しみにしてます。
- 100 名前:もんじゃ 投稿日:2001年03月13日(火)01時16分24秒
- かおりの今となっては笑い袋が羨ましいよってセリフ
さいこーです(笑)
あとよっすぃーの困りつつも最後は言う事をきいてしまう優しいとこも良い感じ♪
すてっぷさんは、ステップ・バイ・ステップの作者さんでもいらしたんですね。
今ごろ気付いてごめんなさい^^;
あちらのお話も好きで、名無しでしたが何度か感想をカキコしてました。
すてっぷさんの小説は発想が面白くて感心します。
大変だと思いますが、両方とも楽しみにしてますので頑張ってくださいね。
- 101 名前:まだ名無しです@ごめんなさい 投稿日:2001年03月13日(火)14時41分04秒
- ”モノ同士の激しいプライドのぶつかり合い”
モノになってもプライドが…(笑)
矢口にとって一番羨ましいのは梨華ちゃん?
楽しみにしてますので頑張って下さいッス。
- 102 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月13日(火)22時44分11秒
- たくさんのレスをいただき、本当にありがとうございます。励みになっております。
話の方はそろそろ佳境に入ってきましたが、最後までお付き合いいただけるとうれしいです…。
>96 マルボロライトさん
ありがとうございます。笑い袋とネジ…絵を想像するとかなりマヌケですよね(笑)
>97 名無しじゃん。さん
ありがとうございます。
最初っから最後まで困りっぱなしも可哀相なので、少しは幸せにしてあげたいような、あげたくないような…(笑)
>98 名無し読者さん
ありがとうございます。そんな細かいところまで気付いていただいて(笑)、うれしい限りです。
言葉が荒くなっても、心の中でしか言えないところが哀しいですが(笑)
>99 やぐ×2
ありがとうございます。一気に読んで下さったんですか?貴重な時間をこんなバカ話に(笑)…感謝です。
>100 もんじゃさん
もうひとつの方も読んでいただいてるんですね、しかもカキコまで…ありがとうございます。
こっちばっかり書いてたんで、赤板の方は更新遅れるかもです…すみません。って、んなコトここで書くなって感じですが(笑)
>101 まだ名無しです@ごめんなさい さん
ありがとうございます。とうとうモノたちにもプライドが芽生えはじめちゃいました(笑)
- 103 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月13日(火)22時47分17秒
- 『あー…ココあったかい。もー、あの箱の中ホント寒いんだもん。カオリ、北海道の冬思い出しちゃったよ…』
あたしのコートのポケットの中、飯田さんがしみじみと言う。
学校からの帰り道…すっかり日も暮れて、辺りはもう真っ暗。
日が落ちると急に寒くなるんだよなー…ま、それも電車に乗るまでの我慢だ。
もっとも、電車降りたらまた家まで歩かなきゃいけないんだけど。
あたしは、早足で駅までの道を急ぐ。
『何だよ、カオリばっか!!矢口もよっすぃーのポケットがいい!!』
カバンの中の矢口さんが抗議の声を上げた。
「いや…矢口さん、たぶん入んないですよ?」
たとえ入ったとしても、あたしのポケット、パンパンになりそう…それは嫌だ。
『入んなくても入れるの!!どうにかして入れてよ!!』
四次元ポケットがあったら…迷わず放り込むのに。
矢口さん、笑い袋になってからますますワガママに磨きがかかったような気がする。
仕方なくあたしはカバンを開けて矢口さん(笑い袋)を取り出すと、おなかのスイッチに注意しながら
そーっと左のポケットに矢口さんを入れる。
何とか入ったものの…予想通りパンパン。
左だけ…かなり恥ずかしいんですけど。
- 104 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月13日(火)22時48分18秒
- 『ホントだぁ、あったかい…』
右のポッケに飯田さん(ネジ)、左のポッケには矢口さん(笑い袋)。
何だか悪い霊にとりつかれたようで…両肩が異常に重い。
『へへ…明日もココに入って行こうっと。ねー、よっすぃー』
矢口さん、まさか明日も憑いてくる…じゃなかった、付いて来る気ですか?
「でも、朝は電車混むから…」
ポケットに笑い袋なんか入れて、もし人に押されて矢口さんのスイッチが入っちゃったら…考えただけで恐ろしい。
『そっか…矢口、つぶされちゃうもんね。よっすぃー…優しいね』
「え…」
矢口さん、何か勘違いしてるみたいだけど…まいっか。
『ちょっとー!!なに2人だけでしゃべってんのよぉ!!カオリの存在忘れてない!?』
…すっかり忘れてました。
『ああ…いたの?ネジ』
『ちょっとー!!』
矢口さんは、笑い袋になってるコトを飯田さんに大笑いされたの、まだ根に持っているらしい。
- 105 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月13日(火)22時49分11秒
- それから家に着くまでの間、飯田さんと矢口さんはずっとテレパシーで口ゲンカ。
2人でずっとしゃべっててくれたから、あたしは話しかけられるコトもなくて助かったんだけど。
「ただいま」
「おかえり。晩ゴハン、もう食べるでしょ?」
玄関を入ると、お母さんがキッチンから顔を出した。
「うん…着替えてくる」
お母さんにそう告げ、階段を上がって2階の自分の部屋へ向かう。
今日1日の収穫は、飯田さん1人か…。
オフは明日で終わりなのに、どうしよ…ちゃんと見つかるかなぁ。
『あ………』
あたしの部屋の前まで来たところで、突然飯田さんが呟いた。
『どうしたの、カオリ…?』
『矢口、聞こえない?ホラ…』
『え……あーっっ!!』
矢口さんも何かに気付いたらしく、声を上げる。
「どうしたんですか!?」
あたしには何も聞こえない。この近くに、誰かが…いるの?
『『なっち!!』』
- 106 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月13日(火)22時50分03秒
- 「えっ!?」
安倍さんが!?
でも、一体どこに…?
『よっすぃーの部屋じゃない…もうちょっと離れた場所にいる』
矢口さんが神妙な口調で言った。
あたしの部屋じゃない…とすると、隣の弟の部屋だろうか?
あたしは、隣の部屋へゆっくりと足を踏み出した。
『この中だよ、この中に…なっちがいる!!』
『あーっ、それ矢口が言おうと思ったのにー!!』
いいよそんなの、どっちでも…。
それにしても、弟の部屋か…捜しにくいなぁ、怪しまれないようにしなきゃ。
あたしは、意を決して部屋のドアをノックする。
…返事はない。いないのかな?だとしたら好都合なんだけど…。
彼が中にいないコトを願いつつ、部屋のドアを開ける。
「…あっ、おねーちゃん!?」
いたか…残念。っていうか、返事くらいしろよなー…ったく。
「なっ、なに!?どうかしたの!?」
どうやら、ゲームに夢中になっててあたしがノックしたのに気付かなかったらしい。
コントローラを握ったまま、あたしの方を振り返った弟は…何やらひどく慌てている様子。
どうしたんだろ…?
- 107 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月13日(火)22時51分04秒
- 「いや、別にどうかしたって程のコトじゃないんだけどさぁ……どう、最近?」
部屋に入ったはいいけど…話題が見つからず、オヤジの挨拶みたいな言葉しか出てこない。
「えっ!?あっ、最近は…塾もちゃんと行ってるし、ゲームやったのだって1週間ぶりだし、それからこないだの小テストも…」
これ以上広がらないと思っていたあたしの言葉に、なぜか必死に返答してくる弟。
なんだコイツ…?
『よっすぃー!!やっと来てくれたんだね!!』
と、突然あたしの頭の中に飛び込んできたテレパシー。
その声は…間違いなく、安倍さんのモノ。
しかし、まだ家の中に誰か潜んでいたとは思わなかった。
何で昨日から誰も気付かなかったんだろ?
あたし以外のみんなは、少し離れたところからでもテレパシーを受信できるはずなのに…。
『あたし、何となくわかっちゃった…なっちがなってるモノ』
『えっ!?なになに?カオリ、全然わかんないよ?』
矢口さん、もうわかったんですか?
野性(?)のカン、ってやつかなぁ…。
- 108 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月13日(火)22時52分31秒
- 『かなり古いネタだけど、なっちはプレス…』
『いやー、なっち、目が覚めたら家庭用ゲーム機になっちゃっててさー!!びっくりしたよー、ホント!!』
矢口さんの言葉をワザと遮るかのように、安倍さんのテレパシーが割り込んできた。
"家庭用ゲーム機" って…プレステのコト言ってるんだろうか。
なるほど…さっき、弟は1週間ぶりにゲームやったって言ってた。
安倍さんも保田さんと同様、電源が入ってないとテレパシーの送信ができないんじゃないだろうか。
それなら、昨日から隣の部屋にいながら誰も安倍さんの存在に気が付かなかったのにも納得がいく。
それにしてもプレステとは…確かに古い上に触れにくいネタだよなぁ。
梨華ちゃんの冷蔵庫に通じるモノがある。
『ねぇよっすぃー、なっち、よっすぃーの部屋に連れてってあげようよ。ココに1人じゃ…かわいそうだよ』
矢口さんの言うコトはもっともなんだけど、コレはあたしの持ち物じゃないからな…そう簡単に貸してくれるかなぁ。
『寝てる間に盗んじゃいなよ』
なに言ってるんですか…飯田さん。
「あのさぁ…それ、ちょっとだけ貸してくんないかなぁ?」
あたしは、とりあえずダメモトで頼んでみる。
1週間ぶりにやるんじゃ、貸してくれないだろうなぁ…もっとやりたいだろうし。
- 109 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月13日(火)22時53分35秒
- 「いいよ、持ってきなよ!いつまででも…いいからさ」
「え…いいの?」
予想外の答えに、あたしは思わず聞き返してしまった。
何だか様子が変だけど…彼の気が変わらないうちに早く持って帰ろう。
「じゃあ…借りてくね」
あたしは安倍さん(プレステ2)の電源をOFFにすると、それを両手に抱えて逃げるように部屋を出る。
そういえばコイツ、セーブしてたのかな…まいっか。
「お母さんには…言わないから」
「えっ?」
去り際、彼の意味深な言葉に振り返ったときには…部屋のドアは既に閉まった後だった。
- 110 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月13日(火)22時54分42秒
- 『おかえり、よっすぃー!!』
自分の部屋に帰ったあたしを、梨華ちゃんが出迎えてくれる。
『Zzzz…』
『Zzzz…』
この2人は、相変わらず梨華ちゃん(業務用冷蔵庫)の中で冷凍状態か…。
『これは…顔がイマイチやなー』
中澤さん(エ○本)は…読書中か。
『ちょっとー、ゴミ箱にあたしの画像が捨ててあるんだけどどういうコト!?矢口のと間違えてダウンロードしたの!?』
保田さん…また人のハードディスク勝手に漁って。
みんな、好き放題…あたしは苦労して他のメンバー捜し回ってるっていうのに。
『あっ吉澤、ええトコに帰ってきた…この袋とじになってるトコ、切ってくれへん?読みにくぅてかなわんわ』
「後にして下さい」
ったく、このヒトは…。
「飯田さんと安倍さん、見つかったんですけど」
あたしは、部屋で留守番してたみんなに今日の収穫を報告。
『『『えっっ!?』』』
驚くみんなをよそに、あたしは早速安倍さん(プレステ2)をコンセントにつなぐと電源ON。
あたしの部屋にテレビはないから画像は見れないものの、本体の電源さえ入ってれば問題はないはず。
- 111 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月13日(火)22時55分33秒
- 『何やってんのよ、テレビもないのに…。あっ!!もしかしてそのプレ…』
『いやー、なっち、イキナリ家庭用ゲーム機になっちゃってて、もーびっくりだよ、びっくり!!!』
保田さんの言葉を遮って、起動したばかりの安倍さんが割り込む。
"プレステ" って言葉を言ってほしくないワケですね…要するに。
『ははっ…すごいな、なっち。2やん、ソレ、最新型やで、その…家庭用ゲーム機?』
こうして我が家では…暗黙の了解のもと、プレステ2=家庭用ゲーム機と呼ばれることとなった。
『それで、飯田さんは…どこにいるの?』
安倍さん(家庭用ゲーム機)のインパクトが強すぎて…梨華ちゃんに聞かれるまで忘れていた。
あたしは、コートのポケットからまず矢口さん(笑い袋)を取り出すと、机の上に置く。
続いて、飯田さん(ネジ)を右のポケットから取り出して手に乗せると、みんなが乗っている机の上に近付けた。
『え…何ソレ。…ネジかい?』
ネジ以外の何に見えます、安倍さん?
『また…地味なモンになっちゃったね、カオリ』
『なんや…毒にも薬にもならんっちゅーカンジやな』
『で、でもっ…冷蔵庫だってパソコンだって笑い袋だって、それから家庭用ゲーム機だって、ネジが1本でも取れてたら動かないんですよっ!!』
保田さんと中澤さんの暴言を必死にフォローしようとする梨華ちゃん。
- 112 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月13日(火)22時56分50秒
- 『ありがとう、石川…でも、同情なんかいらない。どうせあんただって、私はネジじゃなくて良かった…って思ってるんでしょ!?
私達はとりあえずネジよりはマシだわ…って思ってるんでしょ!!そういえば…みんなは何になってんの?』
それ知らなくて怒ってたんですか?
まだ飯田さんには説明してなかったら、知らないのは当然なんだけど。
あたしは、みんながそれぞれ何になっているかを飯田さんに説明した。
とりあえず発見された順に並べてみると…
矢口さん=笑い袋
あいぼん=冷凍たこ焼き
のの=アロエヨーグルト
梨華ちゃん=業務用冷蔵庫
中澤さん=エ○本
保田さん=ノートパソコン
飯田さん=ネジ(プラス)
安倍さん=家庭用ゲーム機
『あとは、ごっちんか…。ったく、どこにいるんだかねー…あいつは』
保田さんが呟く。
その口調はどこか寂しそうで…ホント、どこにいるんだよ、ごっちん。
あれ…?ちょっと待てよ……。
「保田さん、何で電源入ってるんですか?」
帰ってきてから普通に会話してたけど…確かに昨日の夜、シャットダウンしたはず。
- 113 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月13日(火)22時57分43秒
- 『ああ、あんたの弟がさっきまで遊んでたわよ』
あいつ、また人の部屋に勝手に…しかも使ったらちゃんと電源落としとけよな、まったく。
『でも…かわいかったよなー、吉澤の弟。なぁ、裕ちゃん予約してもええ?』
「ダメです」
『なんや、ケチ!しみったれ!!どアホ!!!』
保田さんの隣で、中澤さんが悪態をつく。
保田さんの隣で……。
ふと、あたしの頭に最悪の事態が浮かぶ。
「中澤さん、まさか…」
『ん?ああ…見られたで、もちろん』
(『お母さんには…言わないから』)
さっきの弟の言葉が蘇る。
そういうことだったのか、納得…してる場合じゃない。
- 114 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月13日(火)22時58分33秒
- 終わった……。
エ○本を机の上なんかに出しっぱなしにして…ひとみ、一生の不覚。
『でも…弟で良かったじゃん。お母さんに見られるよりマシだよ』
矢口さんがなぐさめてくれるけど…そうかなぁ。
姉が弟の部屋でそういう本を見つけるってのはよくあるパターンだけど、逆ってのは…。
『安心し。27ページは見られてへんから』
何が安心なんだか…。
っていうか、中澤さんがそこまでこだわる27ページって…ちょっと気になってきた。
『ま、終わったコトはしょうがないじゃん。大切なのは、1度した失敗は2度と繰り返さないってコトなんだから』
確かに保田さんの言う通りかもしれない。
でも、あたしがやってしまった失敗は、もう2度と取り返しのつかない大失敗であって…。
1回やっちゃったら2回やるのも3回やるのも同じようなモンで…。
『よっすぃー、ポジティブだよ、ポジティブ!!』
「うん……」
とりあえず梨華ちゃんの言葉に頷いたものの…今のあたしには、どうやったってポジティブに生きるコトなんかできそうもない。
- 115 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月13日(火)22時59分35秒
- 『ん?なんやなんや…どこに連れてく気やねん?』
大切なのは、1度した失敗は2度と繰り返さないコト。
2度と中澤さん(エ○本)が人目に触れないように、その存在を隠すこと…今のあたしにできるのは、ただそれだけ。
『ベッドの下て、またベタな…あんた意外とつまらん奴やったんやなー。見つかるで、逆に』
はいはい、何とでも言ってください。
今度見つかったら、その時は…捨てます、ホントに。
『あっ、大事なコト忘れとった…吉澤!!』
「今度は何ですか…」
『切ってくれへん?袋とじ』
「………」
ハサミでページを切り離しながら、あたしは思った……これは1度目なんかじゃない。
あたしが最初に犯した失敗、それは……昨日コンビニで中澤さんを買ってきたコトだったんだ。
- 116 名前:すなふきん 投稿日:2001年03月13日(火)23時23分55秒
- あ〜、もうサイコーです。
なんて、面白い展開なんだ。
弟に見つかるなんて…(w
- 117 名前:やぐ×2 投稿日:2001年03月14日(水)00時15分51秒
- よっすぃーが段々投げやりになってきてるのが笑える。
安倍は「よっちゃんイカ」か何かと想像してたんだけどプレ○テとは…(笑
あ、違う「家庭用ゲーム機」でしたね。
さて後藤は何だろう…
- 118 名前:マルボロライト 投稿日:2001年03月14日(水)00時27分40秒
- ここはいつ来てもおもしろい♪
ヨッスィーの口には出さない冷静かつ、きついツッコミ…はまる(笑)
あ〜ごっちん!期待待ち♪
- 119 名前:もんじゃ 投稿日:2001年03月14日(水)00時32分48秒
- 私も27ページ、気になります(笑)
ところでなんでなっちは『プレ…』なんでしょ?
10分くらい考えたんだけどやっぱしわからない。
あぁ、理由が知りたい…。
- 120 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月14日(水)03時33分24秒
- またキツイとこついてきましたね。(笑)
しかし考えてみりゃあそれしかないな。(笑)
それにしても、確実に一つづつ吉澤には不幸がふりかかりますね。
悪いけど、どれも取り返しはつかないと思うぞ、よっすぃー。
- 121 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月14日(水)07時54分30秒
- 素晴らしい妄……いや、想像力ですね!?
後藤がどうでるか楽しみ。
- 122 名前:マッチ 投稿日:2001年03月14日(水)17時32分58秒
- 同じく27ページが気になる…
裕ちゃんの力作でしょうか…
しっかしホント面白いです(^^)
頑張って下さい〜
- 123 名前:もんじゃ 投稿日:2001年03月15日(木)01時16分54秒
- わかりました―っ!
それでも2分考え込んだけど(笑)
名無しさん、ありがとうございました♪
- 124 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月15日(木)02時15分22秒
- 後藤はもしかしてスノボーとか(w
- 125 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月15日(木)14時21分07秒
- >>124
台無し読者
- 126 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月17日(土)01時22分37秒
- レス遅くなりまして…すみません。
>116 すなふきんさん
ありがとうございます。
ご近所で購入したあげく弟に発見され…最悪ですね(笑)
>117 やぐ×2さん
ありがとうございます。「よっちゃんイカ」…そうですよね、そういうのがあったんですよね。
『プレ○テ』はないよなーって最後まで悩んだんですけど、他にバター飴とか牛(←最悪)とかしか浮かばなくて…(笑)
>118 マルボロライトさん
ありがとうございます。
改めて読み返してみると、ほとんど吉澤は喋ってないんですよね。心の中ではエライ饒舌なのに(笑)
>119 123 もんじゃさん
ありがとうございます。理由については…心優しい 121さんのおかげで解決したんですね、良かった良かった(笑)
10分+2分も悩んでいただいて…本当に本当にすいませんでした(笑)。
これに懲りずに、どうか最後までお付き合い下さい…。
>120 名無し読者さん
ありがとうございます。安倍さんに関しては…ホント、なんつーモンにしちゃったんだろうって思います(笑)
確かに毎回もれなく不幸になってる吉澤ですが、今回ちょっと幸せだったり不幸せだったり…とりあえず読んでみて下さい(笑)
>121 名無しさん
ありがとうございます。解説まで入れていただいて(笑)…ホント感謝です。
9人分の妄○も、残り1人となりましたので…お付き合いいただければと思います。
>122 マッチさん
ありがとうございます。
ねーさんオススメの27ページは…ご想像におまかせします(笑)
>124 名無し読者さん
ありがとうございます。とりあえず違ってたんでオッケーなんですけど…びっくりしました(笑)
>125 名無し読者さん
ありがとうございます…でいいのかな(笑)。
- 127 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時24分04秒
- 『あああああーー…眠れない、眠れないよぉぉ…』
AM0:00。他のみんなが寝静まる中、矢口さんのうめき声だけが闇にこだまする。
「授業中寝るからでしょ…」
人が勉強してる間、気持ちよさそうに爆睡して…自業自得だよ。
『羊が1匹、羊が2匹、ああーっ、ダメだ!!全然眠くなんないよぉ!!』
そりゃ2匹じゃ無理でしょ…あきらめ早すぎですよ、矢口さん。
『エ○本が1冊、エ○本が2冊…』
中澤さん、起きてたんですか…。
『ちょっとー、そんなモノ数えないでよ!余計寝れなくなっちゃうでしょ!?』
それどういうイミですか、矢口さん…。
『…エ○本が5冊、弟が持ってって4冊…』
くっ…!!人が必死に忘れようとしてるコトを…!!
『裕ちゃん!!よっすぃーがかわいそうでしょ!!』
『……返しにきて5冊』
『いや、そーゆーコトじゃなくて』
どーでもいいから早く寝てくれ…。
- 128 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時24分56秒
- 『んー…ふぁ…ん?朝…?』
また…ごっちん?
ねぇごっちん、一体どこにいるんだよ!?
今日はちゃんと答えてもらうからね!!
『…あれぇ?なに?カラダが動かないよ?』
おい!!聞けよ、後藤!!
『あれぇ?どうなっちゃってんの…?』
もぅ…何でいっつも夢の中でしか会えないの?
ねぇ、ごっちんってば……。
ん?待てよ。
あたし……まだ寝てないじゃん。
と、いうコトは…。
「ごっちん!?」
コレは夢じゃない。ごっちんが…ココにいるんだ!!
『……よっすぃー?』
- 129 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時25分41秒
- 『あれぇ…何でよっすぃーがいるの?ココ…アタシんちだよ?』
「ごっちん、どこにいんの!?っていうかココ、ごっちんの家じゃないよ?」
『え……………?』
ダメだ、コイツ。完全に寝ボケてる。
あたしはとりあえず部屋の電気をつけようと、ベッドから這い出す。
『よっすぃー…変なトコ触んないで…』
「えっっ!?」
ごっちんに言われ、とっさに下についていた左手をひっこめる。
そして、さっきまであたしの手が触れていた場所に目をやる。
「ごっちん…」
『もぅ…ドコ触ってんだよぉ…』
「まくら…だったんだ」
あたしがずっと捜してた最後の1人は…ベッドの幅よりも少しだけ短い、ブルーのカバーの横長まくら。
- 130 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時26分35秒
- 『ねぇよっすぃー…アタシ、何か…動けないんだけどさー。何でかなぁ?』
「ちょっと待って、今説明するから」
とりあえず他のみんなを起こさなきゃ…話はそれからだ。
あたしはベッドから抜け出すと、部屋の電気をつけた。
そう言えば、矢口さんなら既にごっちんのテレパシーを受信してるはずだよな…さっきから何も言ってこないけど。
「矢口さん、ごっ…」
『Zzzz…』
早やっ…さっきまであんなに『眠れない』って騒いでたクセに。
「矢口さん、起きてください…矢口さん!!」
あたしは、矢口さん(笑い袋)を手に取ると上下に揺すり起こした。
『んん…?なに、よっすぃー…?』
ったく、ノンキな声出して…。
「ごっちんが!!ごっちんがいたんですよ!!」
『…うん……わかったから…あと5分だけ…』
何言ってるんですか!?ごっちんが見つかったって言ってるのに!!
『よっすぃー…』
「矢口さん!?」
『やっぱり、あと10分…』
「わかりました」
もう一生起こしません。
- 131 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時27分25秒
- 「梨華ちゃん、梨華ちゃん、ねぇ…起きてよ!」
あたしは、とりあえずすぐに起きてくれそうな梨華ちゃんに知らせるコトにした。
『ん…?よっすぃー…どうしたの?』
予想通り、素直に起きてくれた…矢口さんとは大違い。
「あのね、ごっちんが見つかったの!!」
『えっ、ホント!?』
梨華ちゃんは、驚きで一気に目が覚めた様子。
『梨華ちゃんも、いるの…?ココ、アタシんちだよ…?』
だから違うって言ってるだろ…。
「ごっちん、よく見てよ。ココ、ごっちんの家じゃないって」
『え…………?』
どうしよう、この調子じゃ朝になっちゃうよ…。明日も学校なのに…。
「梨華ちゃん、テレパシーでみんなのコト起こしてよ」
こんな夜中にあたしが大声出すワケにはいかないし、ごっちんはこの調子だし、ここは梨華ちゃんに頼むしかない。
『うん、わかった』
そう言うと梨華ちゃんは大きく深呼吸。かなり気合入ってるみたい。
あたしは、彼女の大声に備えて身構えた。
『みなさーん…起きてくださぁーい…』
そんな甘い囁きじゃ…赤ちゃんだって起きないよ。
何のための深呼吸だったんだろう…。
- 132 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時28分16秒
- 『ゴメンね、よっすぃー…ダメみたい』
「うん……」
さて、と…次は誰を起こそうかな。
そうだ…安倍さんと保田さん、まだ起きてるかも知れない。
この2人、電源OFF時にはテレパシーの送信ができないから…喋れないだけで実は起きてるかも。
期待を込めてまずは安倍さん(家庭用ゲーム機)、スイッチON。
『Zzzzz…』
気を取り直して、保田さん(ノートパソコン)を起動。
『ちょっと!!何で壁紙がタンポポなのよ!!』
やった!!
「保田さん、」
『もっとプッチとしての…Zzz』
寝言か…紛らわしい。
『よっすぃー…ココ、アタシんちじゃないよ…』
やっと気付いたか…。
「ごっちん、驚かないで聞いてね…」
- 133 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時29分07秒
- 『アハハッ…何かそのまんまだねー…みんな』
あたしの説明を一通り聞き終えてごっちんが言った。
「ごっちん…驚かないの?」
『え…だって驚かないでって言ったじゃん』
そりゃ言ったけどさ…。
「もうちょっと驚いてもいいよ?」
『アハハッ…もぅいいや』
あっそ…。
『でもさー、よっすぃーなら何になってたかなー…。ベーグル…?ゆでたまご…?』
「ああ…そうだね…」
あたしのイメージってそんなモンなんだね…。
「もう寝よっか…」
『うん…そーだねー…』
他のみんなは起きないし、明日も学校だし、ごっちんも半分寝てるみたいだし…今日はもう寝よう。
- 134 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時30分11秒
- 「梨華ちゃん、ゴメンね。起こしちゃって」
『ううん。それより、ごっちんが見つかって…本当に良かった』
「うん」
本当にそうだね…。
あたしは部屋の電気を消すと再びベッドに戻り、まだ温もりの残る布団の中へ入る。
『よっすぃー…重い』
「あっ、ごめん」
忘れてた。このまくら…ごっちんだったんだっけ。
あたしは慌てて起き上がると、ごっちん(まくら)を端に寄せ、床に置いてあったクッションを枕代わりに横になる。
『よっすぃー…寒い』
「あっ、ごめん」
あたしは、ベッドの端に置いてたごっちんを布団の中へ入れた。
たぶん、首のあたりと思われる位置まで掛け布団をかける。
『よっすぃー…逆』
「えっ」
どうやら、頭と足を逆向きに入れてしまったらしい。
あたしはごっちんを布団から出すと、向きを逆にして再びあたしの横に寝かせた。
- 135 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時31分07秒
- 「これでOK?」
『うん。おやすみ、よっすぃー…』
「おやすみ」
まくら、か…。
結局ごっちんは…あたしからいちばん近いところにいたんだね。
『…すぅ…すぅ…』
『Zzzz…』
みんなの寝息を聞きながら、あたしは何だか幸せな気持ちになっていた。
いろんなコトがあったけど…こういうのも悪くない。
なんか……家族みたいだなぁ。
- 136 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時32分14秒
- 『……万9998冊』
ん…?
『…本が99万9999冊、エ○本が…100万冊!!』
…はあ?
『やったで、吉澤!!100万部突破や!!ミリオンやで!!バンザーイ!!バンザーイ!!バンザーイ!!!』
あーそうですか…そりゃよかったですねー…………。
『…っすぃー、よっすぃぃぃぃーん、はやくおきてぇぇん…おきてくれなきゃ、まりっぺ、かなすぃぃぃぃーん。ああ〜ん、よっすぃ…』
『バカ裕子!!誰がまりっぺだよ!!よっすぃー、今のあたしじゃないからね。裕ちゃんだからね!!』
「わかってます…」
枕が変わった途端に嫌な夢、そして最悪の目覚め。
やっぱりみんなには早く元に戻ってもらわないと…あたしの身がもたない。
眠い目をこすりながら、あたしはゆっくりと起き上がる。
- 137 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時33分38秒
- 「ごっちん、ごっちんってば!!起きてよ!!」
布団を剥いで、隣で熟睡中のごっちん(まくら)を揺り起こす…が、なかなか起きてくれない。
あたしは彼女(まくら)を持ち上げて、さらに上下左右に揺さぶり続けた。
『何やってんの、よっすぃー?』
矢口さんの問いを無視して、あたしはなおも揺さぶる。
『んん…ん…あ…よっすぃー…オハヨ』
揺すり続けて腕がしびれ始めた頃に、やっと起きてくれた。
『ごっちん!?ごっちんなの!?』
『んん?やぐっちゃん…?』
『ごっちん、見つかったんか!?あんた、何になってたん!?』
『へへ…アタシ、まくらになっちゃった』
中澤さんにそう答えると、ごっちんは照れくさそうに笑った。
照れてる場合じゃないと思うんだけど…。
『まくらってコトは…後藤、ずっとこの部屋にいたの?』
『あ…カオリ…カオリは…ネジだっけ?』
『うるさいなー!!カオリのコトは放っといてよ!!』
飯田さん、ホントに嫌なんだろうなー…自分がネジであるコトが。
『ごっちん…まくらになってから、ずーっと寝てたの?』
『え……うん、たぶん。寝てたからよくわかんないケド…』
『さっすがやなぁ。あんた、根っからのまくらなんやなー』
何ですか、根っからのまくらって…。
『へへ…そっかなー…』
ごっちん…何だかうれしそう。
喜んでる場合じゃないと思うんだけど…。
- 138 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時34分33秒
- でも、これでやっと10人全員そろったワケだ。
本当に長い道のりだった……。
後は、どうやってみんなを元の姿に戻すかを考えなきゃいけない。
『あっ!よっすぃー、遅刻しちゃうよ!早く行こ!!』
矢口さんに言われて時計を見ると、もう出かける時間。
とりあえず学校行かなきゃ…続きは帰ってから考えよう。
っていうか矢口さん、『行こ!!』ってまさか…。
「矢口さん、今日も来るんですか…?」
『うん』
うんって、そんな当たり前みたいに言わないでよ…。
「でも、ごっちんも見つかったんだし…必要ないですよ?」
『必要…ない?矢口、必要ないの…?ひどいよ、よっすぃー…っく、ひっ…くっ』
うそ…また泣いてるし。もぅ、カンベンしてよぉ…。
『じゃあねー、みんな!!行ってきまーす!!』
ウソ泣き、か…完全にダマされた。
- 139 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時36分04秒
- 『ねぇねぇよっすぃー、古今東西やろーよ』
「嫌です」
昨日はしりとり、今日は古今東西か…。小学生の遠足かよ…。
『古今東西、モーニング娘。のメンバーの名前!!』
やだって言ってるのに…また無視ですか?
っていうか、何でそんなお題かなぁ…。
「10回まわったら終わっちゃいますよ、それ」
『10回じゃないでしょ!!モーニング娘。は…モーニング娘。は…12人でモーニング娘。でしょ!!』
こんなトコでそんなイイ話されても…っていうか微妙に人数間違ってません?
「それを言うなら13人でしょ…」
『え…違うよぉ、矢口でしょ、裕ちゃん、なっち、カオリ、明日香、彩っぺ、紗耶香、圭ちゃんにごっちんと、
それから梨華ちゃんでしょ、加護、辻』
しばらくの間、あたしは矢口さんの次の言葉をじっと待っていたが…矢口さんのひとり古今東西は『辻』で止まったまま。
矢口さん、まさか…。
『ホラ、やっぱ12人じゃん』
…あー、そーですか。よぉーくわかりました。
「あたしはモーニング娘。のメンバーじゃないんですか。じゃあココにいるあたしは何なんですか。
単なる "吉澤ひとみ" ですか。何でメンバーでもないあたしが苦労してみんなの面倒見なきゃいけないんですか」
あたしは急に空しくなって、たまっていた気持ちを呪文のように唱える。
『あ…』
あ…じゃないだろ。冗談で言ってるのかと思ったら…ホントに忘れてたの?
このヒト…信じられない。
- 140 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時37分14秒
- 『よっすぃー…ゴメンね、怒っちゃった?』
怒るでしょ、普通…。
『近くにいる人ほど忘れちゃうんだよ…ホラ、都道府県の名前とかでもさ、自分が住んでるトコは最後まで忘れちゃってたり
するじゃん。アレと一緒でさぁ』
自分の名前まっ先に挙げといて、よく言うよ…。
『何か言ってよぉ…よっすぃー…ねぇ、よっすぃーってば…』
またそんな泣きそうな声出して…。
その手に何度ひっかかったコトか。
あたしは、涙声の矢口さんを完全無視。
今度という今度は絶対に許さないんだから…。
すると、今度は矢口さんが黙り込んでしまった。
矢口さん、まさかホントに泣いてるんじゃ…。
「やぐ…」
『古今東西、矢口がいちばん大好きなヒトの名前!!』
あたしの足が、止まる。
『吉澤ひとみ』
- 141 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月17日(土)01時38分50秒
- 顔がだんだん火照ってくるのが、自分でもわかる。
まただ…またあたしのコト騙そうとしてる、絶対にそうだ。
頭ではわかっていても、カラダが全然言う事を聞かない。
足はすくんで動かないし、胸の鼓動はどんどん速さを増していく。
体中の力が抜けて…左手に持っていたカバンが、するりと手から離れた。
『ん?わぁっ、なに!?……あぅ!』
カバンが地面に叩きつけられた音と、矢口さんの小さな悲鳴で我に返る。
『キャハハハハハハ!!!!』
あー…またやってしまった。
落ちた衝撃で矢口さん…スイッチON。
『ハハハハハハハハ!!もーやだーーーっはははははは!!!よっすぃーのばかやろー!!はははははは』
「すいません…」
カバンの中から、くぐもった笑い声が通学路に響き渡っている。
昨日まで声をかけてくれた友達が…一人、また一人とあたしの横を素通りしていく。
恥ずかしさとうれしさの入り混じった複雑な気持ちで、あたしはしばらくその場に立ちつくしていた。
矢口さん、さっきの言葉…信じてもいいんですよね?
『あははははは!!うぅ…こんな時にまで爆笑してる自分が、いやーーーーーっはははははははは!!わーっははははは!!』
信じて……いいんだろうか。
- 142 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月17日(土)02時28分06秒
- あははははははは・・・ふぅ。読んでるこっちが笑い袋状態だ。
せっかく良い雰囲気だったのに、笑い袋も不便なもんだね。
それにしてもよっすぃー、口は悪いけど、素直で良い子ですな。
そのせいでてんてこまいだけど。
- 143 名前:マルボロライト 投稿日:2001年03月17日(土)06時42分47秒
- うぉ〜更新してる♪
ちょこっと自慢していいですか?
ごっちんがまくらってのは当たってました♪
なんだか嬉しい。いよいよ全員揃いましたね。
これからの展開に期待!
- 144 名前:ぷち 投稿日:2001年03月17日(土)15時08分11秒
- すっごい面白いです♪
メチャメチャ爆笑しちゃいました。
よっすぃ〜のツッコミがマジ最高♪
- 145 名前:もんじゃ 投稿日:2001年03月17日(土)20時04分37秒
- あーホント面白いですー!!
しかしごっちんって、すごいね。
一番近くにいたのに一番最後に発見されるとは^^;
あとやっぱここの裕ちゃん最高です♪
返しにきて5冊って…(笑)
12分くらい全然大丈夫です。どこまでもお付き合いしますっ!(笑)
- 146 名前:マッチ 投稿日:2001年03月17日(土)21時23分36秒
- いいっすね〜
ギャグ満載で笑いっぱなしでした♪
この後の展開に期待です♪
- 147 名前:やぐ×2 投稿日:2001年03月18日(日)00時27分32秒
- 本トに面白いですわ。
全員そろったのはいいけれど、この先どうなるんだろう…
よっすぃ〜の明日はどっちだ!って感じです。
- 148 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月18日(日)22時40分44秒
- >142 名無し読者さん
ありがとうございます。
そんな、笑い袋のように笑っていただいて…。
いいトコだったんですけど…オチをつけずにはいられませんでした(笑)
>143 マルボロライトさん
ありがとうございます。
>ごっちんがまくらってのは当たってました♪
やった!おめでとうございます!!…ってよくわかりませんが(笑)。夢に出てきてた時点でバレバレでした?
きっと毎回、みなさん予想を言いたいのを我慢して下さってたと思うわけで…ホントにホントに感謝してます。
>144 ぷちさん
ありがとうございます。実際の吉澤は、どっちかって言うとボケキャラなんですかね?
ここでは鋭くツッコミまくってますけど(笑)
>145 もんじゃさん
ありがとうございます。
中澤(エ○本)と矢口(笑い袋)は毎回オチに使わせてもらってますが…。
考えてみると、中澤=エ○本ってのが一番失礼な気がします…反省(笑)
>146 マッチさん
ありがとうございます。
この後…どうなるんでしょうかねぇ(笑)
>147 やぐ×2さん
ありがとうございます。
彼女の明日は…良くも悪くも他のメンバー次第ですよね。幸せになるといいけど…(笑)
- 149 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月18日(日)22時42分02秒
- 「どうすれば、みんな元に戻れるんですかね…」
『うーん…』
学校からの帰り道、あたしと矢口さんはそれぞれ頭を悩ませていた。
授業中もずっとそのコトばっかり考えてて、昨日と同じく勉強どころじゃなかった。
予想通り矢口さんは、1時間目から6時間目までぐっすり眠ってたんだけど。
夜になったらまた『眠れない』って騒ぎ出すんだろうな…進歩ないんだから。
「みんな、目が覚めたら何かになっちゃってたワケですよね?」
『そう。だからさ、寝て起きたら元に戻ってるかもしんないじゃん?それで矢口は、授業中もずっと寝てたの。
次起きた時、もしかしたら人間に戻ってるかも知れないから』
「へぇー…そうだったんですか」
何かウソっぽいけど…眠いから寝てただけなんじゃないんですか?
『あーっ、信じてないでしょ!?』
「はい…あっ」
やば、つい本音が…。
『何だよ!よっすぃーのバカ!!』
「すいません…」
何で怒られてんだろ、あたし…。
- 150 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月18日(日)22時42分43秒
- 『そろそろマジで戻る方法考えないとね。今日で休み終わりなんだし』
そろそろって…もっと前から考えててほしいよ。いっぱい時間あったのに…。
『でも、何でこんなコトになっちゃったのかなぁ。原因がわかんないと対処のしようがないよ…』
「そうですよね…」
言いながらあたしは、夢の中に出てきたごっちんの言葉を思い出していた。
(『よかったね、よっすぃー…願いが叶って』)
願い、か…。
確かにあたし…この3日間のオフに入る時、みんなと離れるのが寂しいって思った。
いつも一緒にいられたらいいのに…って。
でもそれが原因…?まさかねぇ……。
『でも、ごっちんも見つかったコトだし…きっとみんながイイ方法考えてくれてるよ。あたしたちがいない間にさ』
矢口さん…本気で言ってるんですか?
そんな気の利いたコトする人たちだとは思えない。
2日間の経験から、あたしには確信できる…。
「期待しない方がいいと思いますよ」
- 151 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月18日(日)22時43分34秒
- 『アハハッ…よっすぃー、ヒサンだねー』
『ほんでな、テレビガイドの下に隠したまでは良かったんやけど…裏と裏で背中合わせにしてたんやんかー。
それを店員さんがバーコードとる時に2冊まとめて裏返したもんやから、隠してた方の表紙が表に出てもーて…』
『『『ハハハハハハ!!!』』』
帰宅して部屋の前まで行くと…案の定、どーでもいいハナシで盛り上がっているみんなの声が聞こえてきた。
また、あたしのエ○本購入体験記か…。
中澤さんが来た後に発見されたメンバーのために、もう一度話してあげてるんですね…ホント立派なリーダーだこと。
『しかも金払ってる時に小銭が…』
「ただいま」
中澤さんの話の途中で、あたしは部屋のドアを開けて中へ入る。
これ以上、暴露されたらかなわん…。
『あっ!?おかえり!!ごくろーさん!!どやった、学校は?』
『『『おかえりー!!』』』
みんな何事もなかったかのように…全部まる聞こえだったんですけど。
「みなさん、ちゃんと元に戻る方法考えてくれてますよね?」
もちろん期待はしていないが、イヤミのつもりで聞いてみる。
『えっ!?もっ、もちろんやで!!当ったり前やんなー、みんな?』
『『『うん…』』』
中澤さんの問いかけに、自信なさげに答える飯田さん、梨華ちゃん、そしてごっちん。
コレは…何も考えてないなー、予想通り。
- 152 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月18日(日)22時44分33秒
- とりあえずあたしは、保田さん(ノートパソコン)、安倍さん(家庭用ゲーム機)の電源を入れる。
2人にも発言権を与えてあげなきゃね…特に保田さんは後がコワイから、マメに起動しとかないと。
『Zzzz…』
『Zzzz…』
あっ、しまった!!
この2人(加護・辻)のコト、すっかり忘れてたよ…最後に梨華ちゃん(業務用冷蔵庫)から出したの、いつだっけ?
あたしは、2人を出してあげようと梨華ちゃん(業務用冷蔵庫)のスライド式のフタに手を伸ばす。
『あっ…優しくしてね…よっすぃー』
「えっ……うん」
梨華ちゃん…意味深なコト言わないでよぉ。
梨華ちゃんは、お店に置いてあるアイス用の冷蔵庫によく似たカタチの冷蔵庫。
あたしはフタの取っ手をつかむと、手前からゆっくりとスライドさせた。
『あっ…ああっ…やっ…ん』
「えっ……」
梨華ちゃん…意味深な声出さないでよぉ。
中を見ると、だだっ広い空間の真ん中にぽつんと並んだ2つの物体…冷凍たこ焼き&アロエヨーグルト、もとい、加護亜依&辻希美。
あたしは、梨華ちゃんの中に手を入れると…2人をそっと取り出した。
うっわー、すっげー霜降りちゃってるよ…大丈夫かな?
あたしは、すっかり氷に閉ざされてしまった2人の霜を手で払い落とす。
2人を包んでいた冷たい氷の粒が、パラパラと床の上に落ちた。
- 153 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月18日(日)22時45分31秒
- 「あいぼん、あいぼん!!」
『Zzzz…』
「のの、のの!!」
『Zzzz…』
うそっ…起きない。どーしよ…。
『加護!?辻っ!?』
心配した矢口さんも2人に声をかけるケド…一向に起きる気配はない。
「あいぼん!!のの!!起きて!起きてよ!!」
『『Zzzzzz…』』
あたしは2人を上下に揺すってみるも、全く効果なし。
『チンしようよ、レンジで!!』
飯田さん!?それは荒療治すぎますよ!!
『バカ!死んじゃうよ!!』
案の定、矢口さんに怒られる。
- 154 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月18日(日)22時46分20秒
- 『そのうち解けて起きるんちゃうか?』
中澤さん…そんなノンキなコトでいいんですか?
『そーだね。ちょっと凍りすぎちゃっただけかもね』
矢口さん…さっきはあんなに心配そうな声で2人に呼びかけてたのに。
『加護ちゃんも辻ちゃんも、おねぼうさんだねー…』
ごっちんには負けるけどね…。
『チンしてみようよ、試しに』
飯田さん…まだ言ってる。試しにやってみてホントに死んじゃったらどうするんですか。
『よっすぃーの弟、本体の時計合わせてなかったから…なっちが設定しといたよ?』
『あんた、何で壁紙がタンポポなのよ!プッチに替えといたわよ!!』
この2人に至っては…加護・辻と全く関係ないハナシしてるし。
どこまでマイペースなんだ、このヒトたちは…。
どうにかして元に戻してあげようと躍起になってる自分が、一番バカな人間に思えてきた。
- 155 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月18日(日)22時47分21秒
- (『そのうち解けて起きる』)
中澤さんの言葉を信じて、あたしは机の上に2人(あいぼん・のの)を置いた。
このまま解けて目覚めてくれるといいんだけど…。
『明日はコンサートだねー…』
ごっちんが、ぽつりと呟いた。
『そうやで!そうやんか!!どーしよ、なぁ、どーしよ、吉澤!?』
中澤さん、今頃になって慌てて…ずっと前からわかってたコトなのに。
貴重な2日間(3日目の今日は何やってたか知らないけど)を、全部エ○本読むのに費やして…。
『うちらってさー、夏休みの宿題とか最後の日にまとめてやるタイプだよね、みんな』
『あ、カオも?矢口はさー、31日にも結局終わんなくて…後から反省文つきで出すハメになってさ』
『その点、なっちは頭脳派だよ。1年生の時に作った昆虫標本、毎年名札だけ替えて6年間出し続けたもんね』
6年間って…採られた昆虫達、化石みたくなっちゃってたんじゃないの?
『みんなおりこうさんだねー。あたしなんて夏休みの宿題は毎年ボイコットよ。
宿題なんて、イヤイヤやったってどうせ頭に入んないんだから。だったら最初っからやんない方がマシでしょ?』
へぇー、何か保田さんらしいエピソードですねー……って!!
出だしからイキナリ脱線しちゃってるし…31日になっても結局やらないタイプだな、こいつらは。
- 156 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月18日(日)22時48分18秒
- 「みなさん…そろそろ本気で考えてもらえますか?」
このヒトたちの自主性に任せていては、このままあっさり明日の朝を迎えてしまう…あたしはそう判断した。
『せやな、考えよか……………吉澤、何かええアイディアないか?』
早やっ…しかも何であたしに振るかなぁ。
『うぅ…だっるぅ…寝すぎたんかなぁ?』
『あたま、いたいのれす…』
突然、えらく気だるそうなテレパシーがあたしの頭に飛び込んでくる。
「あいぼん!?ののっ!?」
2人とも、解凍したんだね!!良かったぁ…。
『やだ、ちょっと!!あたし…濡れてるわっ!?』
『圭坊…嫁入り前の娘が、そんなはしたないコト言うたらあかんで』
「なっ!?」
保田さんも中澤さんも何言い出してるんですか、イキナリ!?
『違うわよ!ホントに濡れてんのよ!!吉澤、パソコン、パソコン!!』
「えっ!?」
見ると…加護・辻から溶け出した水滴が、保田さん(ノートパソコン)の端の方まで流れ込んできている。
あたしは、慌てて保田さん(ノートパソコン)を机から抱え上げると、ティッシュで濡れた部分を拭き取った。
- 157 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月18日(日)22時49分17秒
- 「ホントにどうします?明日は、コンサートなんですよ?」
気を取り直して、再びみんなに問いかけてみる。
『ねぇ、戻る方法を考えるよりさ…明日までに戻れなかった場合のコト考えといた方がいいんじゃない?』
矢口さん…そんなコト言わないでくださいよぉ。
確かに、もっともな意見だとは思うけど。
『せやなー、もし戻られへんかった場合は…吉澤、あんたが1人でやらなあかんねんからな』
中澤さん…そんなコト言わないでくださいよぉ。
確かに、もっともな意見だとは……。
「ええっ!?」
1人で、って…。
「そんなの、無理ですよ!?1人でコンサートなんて!!」
『ソロコンサートだね、よっすぃー。うらやましいな…』
梨華ちゃん…本気でそう思ってる?出来ることなら代わってほしいよ。
「無理ですよ…1人でなんて。大体、スタッフさんたちに何て言うんですか!?あたし、できませんよぉ…」
だけど、本当にみんなが元に戻れなかったら…どうしよう、急に恐くなってきたよぉ。
- 158 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月18日(日)22時50分13秒
- 『吉澤、甘えるんやない!!』
オロオロするあたしに、中澤さんの一喝が飛ぶ。
『あんたがそんな弱気でどないすんねん!!ええか、この中で人間なんは…あんただけなんやで?
こんだけ考えてもええ方法見つからへんのやから、あんたがしっかりせなあかんやろ?
こういう時こそ…こういう時こそ、きっちり決めなあかんやろがぁ!!!』
「はあ…」
あまりの迫力に頷いたものの…ぜんぜん納得いかないんですけど。
『こんだけ考えても』って、どれだけ考えました?ほんの数秒でしょ、考えたの?
そもそも何であたし…怒られてるんですか?
『あーあ、みんなでコンサート…やりたかったなー』
ふいに、ごっちんが呟く。
ん?このセリフ、どっかで聞いたような…。
(『アタシ、ここにいるみんなで…コンサートやりたいなー』)
そうだ…思い出した。
「ごっちん、それ…夢の中でも言ってなかった?」
- 159 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月18日(日)22時51分07秒
- ごっちんは…みんなが何かになってしまった朝から、ずっとあたしの夢の中に登場しては意味深なコトを言っていたような気がする。
(『アタシたちは、いつでもよっすぃーのそばにいるよ。だから…アタシたちのコト探して』)
(『よっすぃーが言ったんじゃん、いつもいっしょにいられたらいいのになぁ…って』)
(『よかったね、よっすぃー…願いが叶って』)
夢の中のごっちんの言葉が、あたしの中でフラッシュバックする。
あたしは、確信した。
全てのカギは、ごっちんが握っている。
『えー……よくわかんないよー。寝てたし…』
全てのカギは、ごっちんが握っている…ような気がする、たぶん、きっと。でも、あんまり自信ない。
- 160 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月18日(日)22時52分24秒
- 『それ…どういうコト?』
「『ここにいるみんなで、コンサートやりたい』って言ってたんです。ごっちんが…夢の中で」
あたしは、考えつく限りのコトを矢口さんたちに説明した。
思いつくままに言葉を連ねるあたしの説明を…みんなは必死に理解しようとしてくれた、かどうかは定かではないが。
とにかく、みんな黙ってあたしの話を聞いてくれた。
『ほな、やってみるか。みんなで…コンサート』
『うん!このまま何もしないよりか、全然いいよ!!』
中澤さんの提案に、矢口さんも賛成の様子。
『やろう!カオリ、一生ネジのままなんて絶対やだもん!!』
『あたしも…できれば、冷蔵庫より人間の方がいいし』
『ウチも、腐らんうちに早よ戻りたい!!』
『ののも、はやくもどってヨーグルトたべたい!!』
『なっちだって、人間に戻って早く歌いたいよ!!』
『ハードディスクの中身も漁り尽くしたしね…あたしもやる!!』
『へへ…やった。みんなでコンサート、がんばろーね!!』
ここにいるみんなで、コンサート。
ごっちんの願いが叶ったとき…みんなは元の姿に戻れるかもしれない。
今のあたしたちに信じられるものは、それだけ。
あたしたちの考えは、正しいのか間違っているのか……全ては、明日。
信じてるからね……ごっちん。
- 161 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月18日(日)22時56分22秒
- 今回、めずらしく全員が揃いました。
ようやくクライマックスっぽくなってきましたが、最後までよろしくお付き合いください…。
- 162 名前:もんじゃ 投稿日:2001年03月19日(月)00時09分57秒
- いよいよフィナーレですか。
終っちゃうの淋しいなぁ…。
モノ達(娘。)のコンサート私も楽しみにしています。
- 163 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月19日(月)02時43分24秒
- みんなでコンサート・・・情景を想像してみると、なんだかほのぼのしたものがありますな。
それにしても後藤、何者?(笑)
- 164 名前:マッチ 投稿日:2001年03月20日(火)14時31分34秒
- ラストですか…
寂しいですね…
どんなコンサートになるのか?楽しみです(^^)
- 165 名前:マルボロライト 投稿日:2001年03月22日(木)23時10分51秒
- みんなのコンサート…チケットがあったら行くのに(笑)
っていうか本当にごっちんは何者なんだ!?
- 166 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月22日(木)23時35分52秒
- 『いやー、さっすが吉澤!!ようわかっとるやないか…やっぱセンターはあたしやないとな!決まるモンも決まらんわなー!!!』
『違うよ、裕ちゃん。コレ、向き逆だよ』
喜ぶ中澤さんを、矢口さんが一刀両断。
明日のコンサートに向けて、あたしたちはポジション会議。
とりあえずあたしが考えた案を土台にして、みんなであーだこーだと議論しているってワケ。
『逆ってオイ!逆にしたらあたしが一番後ろになってまうやんけ…しかもコレ、石川の真後ろやで!?何で直線上に並べとんねん、せめてずらせや!!』
ずらしちゃったら意味がないんですよ、中澤さん…。
「エ○本は、見えないところに置かせていただきます」
『せやから中澤さんて言え、言うてるやろ!!』
当日のステージは…お客さんから見たらあたし1人が人間で、その周りにワケのわからないモノたちが取り囲んでいるようにしか見えないんだから。
エ○本なんて目立つところに置けるワケないでしょ…。
「中澤さんは、見えないところに置かせていただきます」
あたしの決意は固い。
コレだけは何を言われても譲れない…『吉澤ひとみ with エ○本』なんて事態だけは絶対に避けなければ。
- 167 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月22日(木)23時36分43秒
- とりあえずセンターは、唯一の人間であるあたし(吉澤)。
そのすぐ後ろには、左からあいぼん(冷凍たこ焼き)、矢口さん(笑い袋)、安倍さん(家庭用ゲーム機)、梨華ちゃん(業務用冷蔵庫)、
梨華ちゃんにごっちん(まくら)を立てかけて、その隣に保田さん(ノートパソコン)、飯田さん(ネジ)、のの(アロエヨーグルト)の順。
そして3列目には、梨華ちゃんの真後ろに中澤さん(エ○本)を置く、と……我ながら完璧なプランだなぁ。
『納得いかへんわぁ…めっちゃ納得いかんわ。何であたしが隠されなあかんねん。そんな…恥ずかしいモンみたいに』
『裕ちゃん、いい加減あきらめなよ。間違いなく『恥ずかしいモン』なんだからさ』
『ホンマむかつくな、あんた!!なんや、パソコンがそんな偉いんか!?天は人の上に人を作らず、やろ!?人類みな平等やねんで!!』
それは人類に限った話であって、中澤さんたちは物体なワケだから…。
「とにかく、明日はコレでいきます!!いいですね!!」
あたしはきっぱりと言い放った。
中澤さんには悪いけど、ココは何とか妥協してもらわないとね。
『なんか…今日のよっすぃー、頼もしい。いつになく』
矢口さん…『いつになく』は余計ですけどね。
あたしだって、言うべき時はちゃんと言うんだから。
『せやなー、いっつも文句ばっかし言うてるモンなー』
「ひどっ…文句なんていつ言いました!?あたし、一生懸命やってるじゃないですか!!」
『言ってないけどさー、言いたそうなカオしてんのよね、いつも』
保田さんまで…そりゃ確かに言いたいコトは山ほどありましたよ、それは認める。
この3日間、心の中でみなさんに対してどれだけ悪態をついてきたコトか。
だけど、全部(とは言わないが)口に出さずにじっと耐えてきたんじゃないですか。
それなのに、それなのに……。
『カオリのお母さんが言ってたよ。人生良いコト半分、悪いコト半分、って』
へぇー…じゃあこれから先のあたしの人生は、きっとバラ色なんだろうなー、ワーイ…。
- 168 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月22日(木)23時37分21秒
- 『よっしゃ!吉澤もやっとやる気になったみたいやし…明日はドカンと決めるで!!』
すでにやる気無くしちゃったんですけどね…おかげさまで。
『じゃあ、今日はもう寝ようよ。明日も早いんだしさ』
時刻はすでにAM1:00を回っている。
安倍さんの言う通り、明日は早い。
集合は10:00なんだけど、その前にいろいろと準備があるし。
とりあえず、梨華ちゃん(業務用冷蔵庫)の搬入は、梨華ちゃんを買ってきた電器屋さんに頼んでおいた。
あたしは、みんなを電器屋さんのトラックに乗せて会場入りする予定。
問題は、スタッフさんたちにこの状況をどう説明するかなんだけど…。
本当のコト言ったって信じてもらえるワケはないし、どうすっかなぁ…。
『Zzzz…』『Zzzzz…』『Zzzz……』『Zzz…』………
おいおいおいおい…もう寝ちゃってるよ。
誰が寝て誰が起きているのかはわからないが、あたしの頭の中には複数の寝息が響き渡っている。
- 169 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月22日(木)23時38分23秒
- 「あいぼん、のの…おやすみ」
『『Zzzz…』』
あたしは、2人を再び梨華ちゃんの中へ投入する。
『よっすぃー…ごめんね』
2人を中に入れてフタを閉めかけたところで、梨華ちゃんが突然言った。
「起きてたんだ…。でも、何で謝るの?」
『だって、あたしだけこんなやっかいなモノになっちゃって…運ぶのとか大変でしょ?
それに、あたし買うのにローンまで…』
梨華ちゃんの声が、少し涙声になっているような気がした。
梨華ちゃん、そんなコト気にして…。
「そんなの…ぜんぜんオッケーだよ。やっかいなんかじゃないし、運ぶのだって電器屋さんがやっちゃえばすぐだし、
ローンは…こういう時のためにお年玉貯めてあるから、ぜんぜん大丈夫だしそれに…」
だから気にしないで、って言いたいんだけど、言葉がまとまらなくて上手く言えない。
慌てるあたしの様子がおかしかったのか、涙声だった梨華ちゃんが少しだけ笑った。
「だからさ…気にすることないよ」
彼女が笑ってくれたコトに安心したせいか、言いたかった言葉が自然と口をついて出る。
『ありがとう…よっすぃー』
「いいってば…明日早いし、もう寝よ?」
『うん…おやすみ』
「おやすみ」
あたしは、梨華ちゃんの閉じかけていたフタをゆっくりと閉めた。
おやすみ、梨華ちゃん…。
『Zzzz…』『Zzzzzz…』
すでに熟睡中の保田さんと安倍さんの電源を落とすと、あたしは部屋の電気を消してベッドに潜り込んだ。
- 170 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月22日(木)23時39分16秒
- 『よっすぃー、よっすぃー……ねぇ起きてる?』
「ん……何ですか?」
ベッドの中で明日のコトを一通り考えて、ようやく眠りにつこうとしていた矢先、矢口さんに起こされる。
枕元の時計を見ると…AM2:00。
もぅ、カンベンしてよぉ…やっと寝始めたトコだったのに。
『あのさ…古今東西やろーよ』
「…はあ?」
あたしは自分の耳(正確には頭の中)を疑った。
古今東西、って言ったよな…。
矢口さんの声は、あたしにだけ聞こえるぐらいの小さな声だったけど…確かにそう聞こえた。
こんな時にまで…自分が置かれてる状況ってモノが全然わかってないんだから、このヒトは。
「矢口さん…あたし、ホントに怒りますよ?」
『古今東西、よっすぃーがいちばん大好きなヒトの名前』
また勝手にお題発表して…って、えーっ!?
「ココで…言うんですか?」
『矢口はちゃんと言ったよ?次はよっすぃーの番』
「だって…」
『大丈夫、みんなもう寝てるよ』
そりゃそうかも知れないけど、別に今じゃなくたって…。
『10秒以内に言わなきゃ、よっすぃーの負けだからね。罰ゲームは1年間ベーグル禁止』
「えーっ…」
『10・9・8・7』
げ…ホントにカウントダウン始めてるし。
「…矢口真里」
言っちゃった…。
- 171 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月22日(木)23時40分08秒
- 『あのー、下に住んでる者なんですけどね…やかましくて寝られへんのですわ』
この声は…。
『うそ!?裕ちゃん、起きてたの!?』
うわああああ、だから嫌だったんだよぉーーー!!
『いっやー、寝られへんから読書しとったら…ええモン聞かしてもろたわー』
『サイッテー!!そんな本読みながら盗み聞きしないでよね!?』
どんな本でも関係ないよ…聞かれてたコトが問題だと思うんですけど。
『2人とも安心しぃって。さっきの会話は…裕ちゃんの心のマイクロカセットにしまっといたからな』
『何、キレイにまとめてんだよ!?』
キレイにまとまってるか…?
『いつでも再生可能やけどな』
『ダメじゃん!!』
もう、どうでも良くなってきた…。
「おやすみなさい」
とにかく寝よう。
明日は、大事な日なんだから。
明日は、あたしがしっかりしなきゃいけないんだから。
- 172 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月22日(木)23時40分51秒
- 『よっすぃー、よっすぃー。朝だよ、起きて。………』
「だぁーっ!起きてます、起きてますから!!」
矢口さんがいつもの通り大声であたしの名前を呼ぼうと深呼吸したところで、あたしは目が覚めた。
アレやられると、しばらくは余韻で頭がガンガンしてるから…先に起きれて良かった。
でも、こうやって矢口さんに起こしてもらうのも今日で最後になるかも知れないと思うと…少し寂しい。
他のみんなはもうとっくに起きていて…あたしが一番最後だったみたい。
あたしは、起きるとすぐに保田さん(ノートパソコン)と安倍さん(家庭用ゲーム機)の電源を入れた。
2人とも運び出すときにはもちろん電源切らなきゃいけないから、家を出る直前までは自由に喋れるようにしといてあげなきゃね。
「梨華ちゃんの中みたく冷えてないけど、ガマンしてね」
『『うん!!』』
あたしは、氷をいっぱい詰めたクーラーボックスにあいぼん(冷凍たこ焼き)とのの(アロエヨーグルト)を入れる。
『よっすぃー、冷えてへんのはええねんけど…』
『うぅ…魚くさいよぉ』
「ごめん、ガマンして…」
お父さんが釣りに使ってるヤツだから…脱臭剤入れといたんだけど、あまり効果は無かったようだ。
「ひとみー、電器屋さん来たわよー!!」
下からお母さんの呼ぶ声。
「今行くー!!」
- 173 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月22日(木)23時42分31秒
- トラックの荷台に梨華ちゃん(業務用冷蔵庫)を積み込み、あたしたちはいざコンサート会場へ向けて出発。
あたしは他のみんなと一緒に、トラックの助手席に座っている。
『でも、いざ元に戻れるとなると…何だか寂しい気もするね』
どうしたんですか…まさか飯田さんの口からそんな言葉が聞けるとは。
『カオ、昨日は一日中考えてたんだ。あのコンパスはどこに行っちゃったんだろうって…』
この人の話は、次の展開が全く予測できない。
『カオリが小学生の時…コンパスを分解して遊んでたのね、休み時間に。そしたら鉛筆の芯みたいのを
挟む部分のネジがどっか行っちゃって、いくら捜しても見つからないまま掃除の時間になっちゃってさ…。
結局、鉛筆の芯みたいのを挟めなくなったコンパスなんて、もうコンパスじゃないワケじゃん?コンパス
としての役割を果たせなくなった役立たずのコンパスには、もう捨てられるしか道はなくてさ…。
カオリ、あっさり捨てちゃったの。小さなネジを一本失っただけで、コンパスはコンパスごと全部、捨て
られちゃったんだ…』
途中で寝てしまいそうなぐらい長々と…結局のところ何が言いたいんだろうか、このヒトは。
- 174 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月22日(木)23時43分19秒
- 『で、一日中考えてわかったんだよね。いかにネジが貴重で尊い存在だったかってコトが』
え…結局そこに落ち着くワケ?
あのコンパスはどこに行っちゃったのか、って話じゃなかったの?
どこ行っちゃったんだよ、コンパスは…。
『矢口も昨日の夜…いろいろ考えててさ。笑い袋の生き方って、あたしたちの仕事に通じるものがあるなぁって思ったんだよね』
笑い袋の生き方…?大丈夫ですか、矢口さん…。
『笑い袋ってさ、自分はちっともおかしくないのにただひたすら笑ってんじゃん?誰かを楽しませるために、おかしくなくても笑ってるの。
ホントはそんな気分じゃなくても、楽しそうに笑ってなきゃいけないの…だってそれが仕事だから』
矢口さん、自分が笑い袋であるコトに誇りを持ち始めてる…。
『最近は、やれビデオやDVDやって言うてるけど…やっぱり紙の温かみっちゅーかなぁ。古いモンにもええトコはいっぱいあるモンやで』
ついには中澤さんまでもが、自分(エ○本)の素晴らしさを語り始めてしまった。
みんな……目を覚ませ。
- 175 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月22日(木)23時45分16秒
- 前回あれだけ盛り上げといてこの展開…。
ラストまで一気にあげるつもりだったのですが、思ったより長くなりそうなので一旦切らせていただきました。
次で本当に最後になると思いますので、よろしくお付き合いください…。
>162 もんじゃさん
ありがとうございます。今回、終わりませんでした(笑)
あともう少しだけお付き合いください…。
>163 名無し読者さん
ありがとうございます。
『吉澤 with モノたち』。見たいような、見たくないような…(笑)
>164 マッチさん
ありがとうございます。
コンサート…ご期待に添えるものになるといいのですが。
>165 マルボロライトさん
ありがとうございます。
はたから見ると、吉澤ひとみソロコンサートに見えるわけですが…それはそれで貴重かも(笑)
- 176 名前:やぐ×2 投稿日:2001年03月23日(金)01時12分56秒
- コンサートのポジションを想像するだけで… って笑えてきて想像できん(w
あと、何気にやぐよしが入ってるところがいいです。
作者さん、ラストぐらいは吉澤を幸せにしてやってください。
- 177 名前:もんじゃ 投稿日:2001年03月23日(金)02時13分20秒
- 圭織らしい…(笑)
矢口と裕ちゃんの掛け合いも相変わらず笑わせてくれて最高です。
すてっぷさんってギャグセンスありますねー(笑)
次回も楽しみにしています♪
でも終っちゃうのはホント寂しいです。
- 178 名前:すなふきん 投稿日:2001年03月23日(金)12時52分53秒
- もう、サイコーに面白いです!!
特に>171が・・・・(w
- 179 名前:マッチ 投稿日:2001年03月23日(金)13時33分26秒
- 同じく>171が!(わら
裕ちゃんうまい事まとめますね(わら
- 180 名前:ぷち 投稿日:2001年03月23日(金)21時48分02秒
- 心のマイクロカセットに、爆笑してしまいました(笑)
- 181 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月27日(火)16時49分41秒
- ちょっと質問。
これの題名って「いつも君の側に」なんですか?
それとも「Dear Friends」?
- 182 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月27日(火)21時49分29秒
- >176 やぐ×2さん
ありがとうございます。ラストぐらいは…確かにそうですね。
でも今までも、見方によっては幸せそうに見えませんか?…見えませんね(笑)
>177 もんじゃさん
ありがとうございます。
飯田さん、ネジなんて地味なモノになった割には意外と登場回数多かったな…と思いました。
矢口&中澤は、毎回出てきてたような気がします。オチ要員で(笑)
>178 すなふきんさん
ありがとうございます。どうやら171が好評のようで…うれしい限りです。
>179 マッチさん
ありがとうございます。よかった、うまい事まとまってましたか…よかったよかった(笑)
>180 ぷちさん
ありがとうございます。
心のマイクロカセット…放送できないようなネタばっかり入ってて使えなそうですよね(笑)
>181 名無しさん
ありがとうございます。
一応、タイトルは『いつも君の側に』です。短編を書いていこうと思って始めましたので。
- 183 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月27日(火)21時52分08秒
- 「はあ!?遅れるって…それどういうこと!?」
あたしの話を聞いて、マネージャーさんが驚きの声を上げる。
しかもちょっと怒ってるし…あー、胃が痛い。
「本当にあの子達の行き先知らないの!?嘘ついてんじゃないでしょうね!?」
当然のコトながら、きつく問い詰められる。
「よくわかんないんですけど…なんか中澤さんが、みんなに集合かけてたみたいで…」
「中澤が!?まったく何考えてんのよ、あいつは!!」
あたしは、すかさず中澤さんに責任を擦り付ける。
彼女たちはまだトラックの中だから、今なら何だって言いたい放題。
昨日まであんなに苦労させられたんだ…これぐらいのウソ、神様だってきっと許してくれるはず。
「リハーサルどうすんのよ!?最悪、本番までにはちゃんと来るんでしょうね!?」
せっかく中澤さんのせいにしたのに…本人が不在のため、怒りの矛先は全てあたしに向けられる。
「大丈夫です!!もし間に合わなかったら…その時はあたし1人で何とかしますから!!」
言ってやった…ちょっとカッコ良くない?あたしって。
「はあ!?無理に決まってるでしょ!?縁起でもないコト言わないでよ!!」
縁起でもない、って…それちょっとヒドくないですか?
でも、その『縁起でもないコト』が、これから現実のモノになるんですよ…。
- 184 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月27日(火)21時52分56秒
- 「ちょっと吉澤!!いったいどうなってんのよ!?まだ来ないの!?」
開演30分前。
マネージャーさんは、さっきからあたしのいる楽屋と外を行ったり来たり。
戻ってくるたびに、少しずつ怒りのボルテージが上がってるような気がする。
そろそろ言わなきゃな…鏡に向かってたあたしは、意を決して立ち上がった。
「あの…さっき、中澤さんから電話ありました。絶対コンサートには間に合うように来る、って」
ってのはもちろん、ウソだけど…実際は、みんな会場の外にとめてあるトラックの中で待機中。
「それホントなの!?どこにいるのよ!?どれくらいで来れるって!?」
「だから、先に始めといてくれって…」
あたしは彼女の質問には答えずに本題に入る。
とにかく、コンサートを始めないコトにはみんな元に戻れないんだから。
やったところで元に戻れる保証は無いけど、何もやらないよりは全然いい。
「先に始めるって、1人じゃ無理に決まってるでしょ!?何バカなこと…」
「お願いします!!絶対にみんな来ますから…やらせて下さい!!」
「あんたねー……」
「あたし、やりたいんです!!やらせて下さい!!やらせて下さい!!やらせて下さーーいっっ!!!」
「あんたねー……」
こうなったら…やらせてくれるまで騒ぎ続けるからな。
- 185 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月27日(火)21時53分45秒
- 「お願いします」
あたしは、ステージそでで待機する電器屋さんたち(2名)に小声で合図。
あたしの合図を受け取ると、2人は驚くほどの早業でステージ中央に梨華ちゃん(業務用冷蔵庫)を運び込んだ。
さすがプロ、手際が違う。
梨華ちゃんの上には保田さん(ノートパソコン)、安倍さん(家庭用ゲーム機)の、電化製品チーム。
持ち運びの簡単な他のメンバーは、あたしが手に持ってステージ上に運び込む。
あれからひたすらダダをこねまくるコト約10分。
何かに取り憑かれたかのように『ヤラセテクダサイ』を繰り返すあたしに、スタッフさんたちも半ばあきれ顔で
渋々承知してくれた。
開始直前、照明が全て落ちた隙を見計らって…あたしはみんなをステージ上に運び入れた、ってワケ。
- 186 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月27日(火)21時54分44秒
- 『吉澤…』
みんなをそれぞれの場所に配置して、最後に中澤さん(エ○本)を梨華ちゃん(業務用冷蔵庫)の後ろに隠そうとした時、
あたしは中澤さんからのテレパシーを受信。
その声は、あたしにだけ聞こえるぐらいの小さなボリューム。
「何ですか…?」
つられてあたしも小声になる。
『いろいろ、迷惑かけたな…かんにんやで』
「えっ」
『よっしゃ!!気合入れて行くでぇ!!』
「……はい!!」
思いがけない中澤さんの言葉に、不覚にもあたしは…ちょっとだけ感動していた。
あたし、ぜんぜん迷惑なんて思ってない…今はただ、みんなが元の姿に戻れれば、それでいいんだ。
だから……
「がんばっていきま…っしょい!!!」
そして、イントロが流れ始める。
一斉に照明があがって、ステージ上のあたしたちを照らす。
こうしてあたしたちのコンサートは、幕をあけた。
- 187 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月27日(火)21時55分59秒
- 会場のお客さんたちはステージ上のあたしとみんな(モノたち)を見て、戸惑ったような表情を浮かべている。
客席から見たら、ステージに立っているのは吉澤ひとみだけなんだから、当然の反応なんだけど。
それでもあたしは、構わずに歌いつづけた。
今ココに立っているあたしは、1人だけど1人じゃない。
今ココで歌っているあたしは、1人だけど1人じゃないんだ。
物言わぬモノたちが奏でるメロディー。
でも、あたしにはちゃんと聞こえてるよ…みんなの声。
ごっちん…わかったよ、あたし。
本当に大切なヒトたちとは…逢えなくても、ちゃんと心でつながってるんだね。
顔が見えなくても、声が聞こえなくても、どんなにはなれていたって、きっと…。
欲しかったモノは、はじめからあたしの心の中にあったんだ。
神様。あたしはもう、願い事なんかしません。
だから最後にもうひとつだけ。
どうかみんなを、元のみんなに戻してください……。
「みんなー!!行っくよぉーーっ!!」
- 188 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月27日(火)21時57分06秒
- テレパシーじゃない、その声に気付いた次の瞬間、あたしの目の前には…ごっちんがいた。
ごっちんだけじゃない、いつの間にか他のみんなも、ステージ上を思いっきり飛び回ってる。
みんな…戻れたんだ。
本当に楽しそうに歌っているみんなの姿を横目で見ながら…あたしはしばらく幸せな気分に浸っていた。
そしてようやく冷静さを取り戻したあたしは、あるコトに気が付いた。
みんな…パジャマだ。
きっと、モノになる前日の夜に寝た時のカッコのまま、元に戻ったせいだろう。
パジャマで裸足というナメた格好で、みんなはステージの上を駆け回っている。
っていうか中澤さん、アダルトなネグリジェからなんか透けてますよーーーっ!!
だけど、ホントにホントに楽しいから…まいっか。
「よっすぃー、行こ!!」
矢口さんの声に、ゆっくりと頷く。
差し出された手を取って、あたしたちは駆け出した…。
また、あえたんだね。みんな。
つないだ右手があったかいのが、なによりの証拠。
- 189 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月27日(火)21時58分26秒
- 「いっやー、吉澤!!どうなってんだよ、アレ!!いつの間にあんな仕掛け用意してたんだよ!?」
無事にステージも終わり、ホッとしたのも束の間…戻るなりスタッフさんたちからの質問攻め。
曲の途中、ステージから紙吹雪が発射された瞬間にみんなは人間に戻ったらしい。
大量の紙吹雪が目くらましになって、戻った瞬間は誰も目撃していないとのこと。
「あの…サ、サーカスの人たちにお願いしたんですよ!!スゴイ仕掛けだったでしょ?」
とっさに思いついたんだけど…かなり無理な言い訳だよなぁ。
「えっ、ウソ!?あの人たち、運送屋じゃないの!?サーカス団の人だったんだ!?」
「ええ…まあ」
電器屋さんたち…ゴメンナサイ。
「お疲れ様でした!!」
これ以上突っ込まれるとあっさりボロが出そうなので、あたしは逃げるように楽屋へと戻った。
「あっ、よっすぃー!!」
楽屋のドアを開けると、目の前に矢口さんが立っていた。
3日ぶりに見る、人間の姿をした矢口さん。
その後ろには、他のみんなの姿もある。
ひとりひとりの顔を見ながらあたしは、あらためてみんなが元に戻ったのだというコトを実感した。
- 190 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月27日(火)21時59分28秒
- 中へ入って入口のドアを閉めると、突然メンバー全員があたしの前に立ちはだかった。
そして、あたしの真ん前に横一列に並ぶ。
何なんだ、一体…?
「ホラ…裕ちゃん!!」
列の真ん中に立っていた中澤さんが、隣の矢口さんに背中を叩かれて少し前に進み出る。
「あんな…吉澤。その、なんや……ありがとな」
照れくさそうに、人差し指でこめかみのあたりをかきながら言う。
中澤さん…。
「ホラ、あんたらもお礼言い!!」
「「「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」」」
他のみんなが、あたしの目の前で深々と頭を下げる。
ウソでしょ…?
何なんだよ、やめてよ、みんな…そんなコトされたら、あたし……。
- 191 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月27日(火)22時00分18秒
- 「よっすぃー、もぅ…泣かないの!」
矢口さんが優しくアタマをなでてくれるから…余計、あたしの涙は止まらない。
だって…ずるいですよ。
さんざん迷惑かけたクセに、ぜんぜん言うコト聞かなかったクセに…。
「っく…っ、みんなっ…みんな遊んでばっかでっ…っ、戻る方法とか、ぜんぜん考えて…くれないしっ…っ」
一度泣き出したら、止まらなくなってしまった。
自分でも気付かなかったケド…あたし、ずっとずっとガマンしてたんだ。
「っ…中澤さんはっ、袋とじっ…破けとか言うし、グラビアのっ…顔だけあたしとっ…っ、すげかえるとかウソつくしっ…」
涙も止まらなかったけど、心に溜まってた不満はもっと止まらない。
「おいおい…あたしのコトばっかりかいな」
あー…泣いたらすっきりした。
- 192 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月27日(火)22時01分11秒
- 「よっすぃー…ゴメンな?ウチら、ずっと寝てばっかしで」
「ゴメンね、よっすぃー。ずっと、こおってて…」
あいぼん、のの…もういいんだよ。
「いいよ…もう気にしてないし。それに、あたしがあんな願い事しなければ…こんなコトにはならかったかも知れないんだし」
「えっ……」
あたしの言葉に、目の前の矢口さんが突然固まった。
その表情からは、さっきまでの笑顔が完全に消えてる。
「願い事、って…何のコト?」
眉間にシワを寄せ、鋭い表情で安倍さんが言う。
あれ?
あたし、言ってませんでしたっけ…。
だとすると、もしかしてあたし…かなり余計なコト言っちゃいました?
「いや、あの…何でもないんで。気にしないでくださ…」
「ああ…そう言えば言ってたねー。みんなといつも一緒にいたい、って…夢の中でよっすぃー言ってたじゃん」
ごっちん、今頃そんなコト思い出さなくていいよ…。
「ふーん、いつも一緒に、ねぇ…」
もとから大きな飯田さんの目が、さらに大きく見開かれる。
「あっ、でもその後でさー、もう一緒にいたくないとか言ってたよね…。どっちなんだよーとか思ったモン、後藤」
こらーっ!!ごっちぃぃぃぃぃぃぃーーーん!!!
- 193 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月27日(火)22時02分14秒
- 「あんたね…一緒にいたいの!?いたくないの!?どっちなのよ!!っていうかどっちでも許さないケドさ!!」
怒りに震える保田さんの表情は、今まで見てきた彼女のどんな顔よりも恐ろしくて…あたしはその場で硬直した。
「いや…いたいよーな、いたくないよーな…」
いつの間にか、あたしの前に横一列に並んでいたはずのみんなが…あたしの周りを取り囲んでいる。
「何だよそれ!!この優柔不断!!バカ!!スケベ!!」
矢口さん、優柔不断なのは認めますけど、後のは何を根拠に…。
「ひどいっ!ずっと黙ってたけど…よっすぃーがあたしのコトほったらかしにしてた間に、よっすぃーのお母さんが、
お母さんが…あたしの中で鮭を…ずっと鮭を冷やしてたのっっ!!うっ…うぅっ…」
あーあ、きっと台所の冷蔵庫が一杯だったんだろうな…っていうか、梨華ちゃんも言ってくれればいいのに。
「えっ!?そうやったん!?ウチら寝ててぜんっぜん気付かへんかったわ…」
「りかちゃん、かわいそう…よっすぃー、ひどいよ!!」
えへへへ…もぅ、どーでもいいやぁ。
そう言えば、朝ゴハンに鮭が出たコトあったよなぁ…薄れゆく意識の中であたしは、ボンヤリとそんなコトを考えていた。
- 194 名前:いつも君の側に 投稿日:2001年03月27日(火)22時03分39秒
- 「結局あれやな…石川がシャケ冷やさせられたんも、あたしが3日間エ○本読まされ続けたんも、ぜんぶひっくるめて
吉澤のせいやったっちゅーことやな」
あたしを囲んでいたみんなが、さらににじり寄ってくる。
逃げられないと知りつつも、あたしは背後へ後ずさり。
一歩、また一歩、あたしとみんなの距離は少しずつゆっくりと縮まっていく。
背中に、ひんやりとした硬い感触を感じて、あたしの足が止まる。
もう、これ以上は逃げられない。
ついに壁際にまで追い詰められてしまった。
「よっすぃー…わかってるよね?」
矢口さんが、あたしを見上げると静かに言った。
何だろう…ツアー中の買出し係は確実として、あとは…なにかなー…楽しみだなぁ…ははっ…。
素朴な疑問。
どうしてあたしばかりがこんな目に?。
あたしが一体、なにをした…?
神様。あたしはもう、願い事なんかしません。
だから最後の最後にもうひとつだけ。
「誰か…たすけてーーーーーーーーーっっ!!!」
<END>
「吉澤ぁ……騒いでもムダやで」
- 195 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月27日(火)22時07分17秒
- 短編にするつもりが、予定以上に長い話になってしまったんですが…なんとか無事に終了することができました。
最後まで読んで下さった方々に、心から感謝します。
たくさんのレスをいただいて、本当に励みになりました。
本当にどうもありがとうございました。
また、感想などいただけるとうれしいです…。
- 196 名前:もんじゃ 投稿日:2001年03月27日(火)22時38分56秒
- ほんっとサイコーでした!!
最後ほろりとさせられたかと思ったら、思いっきし落とされるし(笑)
梨華ちゃんの告白も笑える。
また次の話も楽しみにしています。あ、赤板の続きも(笑)
本当にお疲れ様でした^^
- 197 名前:名無しじゃん。 投稿日:2001年03月27日(火)22時47分57秒
- 笑えます!そんな文章書けて羨ましい!
最後に、吉澤は何をされたんだろう?
気になりますね〜。
とても楽しかったです!
- 198 名前:すなふきん 投稿日:2001年03月27日(火)22時51分26秒
- お疲れさまです。
いいもの読ませてもらいました♪
ほんとに、あの笑いのセンスは何処からくるのでしょうか?(w
次回作期待してます♪
- 199 名前:指摘。 投稿日:2001年03月27日(火)23時36分02秒
- ものっすごい面白かったです!
科白まわしが絶妙だし、飽きさせないのもすごいです!
次回作、期待してます!
- 200 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月27日(火)23時43分44秒
- 最後の石川の鮭を・・・っての大ウケ!
笑わす所は笑わせて、しんみりする所はしんみりしていて
メリハリがあってとても面白かった。
マジ最高!!!
- 201 名前:あるみかん 投稿日:2001年03月28日(水)01時08分43秒
- お疲れ様でした。終始テンポよく楽しませていただきました。
発想もさる事ながら表現と間の取り方が最高です。
パロディならではの楽しさもありましたし。
とにかくお疲れ様でした。
- 202 名前:やぐ×2 投稿日:2001年03月28日(水)01時55分10秒
- お疲れ様でした。最後まで笑わせていただきました。
吉澤もラストは幸せになれ…てないですね(w
笑い一辺倒じゃなかったところが、読者をひきつける大きな要因だったのではと思います。
赤板の続きと共に次回作も楽しみにしております。
- 203 名前:ぷち 投稿日:2001年03月28日(水)13時00分34秒
- お疲れ様でした〜。
最高に面白かったです!!!
これからも、頑張ってくださいね♪
- 204 名前:マッチ 投稿日:2001年03月28日(水)13時27分01秒
- お疲れ様でした〜
すっごいよかったッス(^^)
赤の方も楽しみにしてますんで(^^)
頑張って下さい〜
- 205 名前:すてっぷ 投稿日:2001年03月28日(水)23時59分32秒
- 最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!!
>196 もんじゃさん
ありがとうございます。ラストは、ドタバタで終わらせようと決めてました。
その方がこの話らしいかと…バカに始まり、バカに終わっちゃいましたけど(笑)
次は、書きたいネタはあるのですが…とりあえず赤板の方を何とかしなきゃですね(笑)
>197 名無しじゃん。さん
ありがとうございます。
吉澤は…たぶんきっと…モノスゴイ事ですよ(笑)
>198 すなふきんさん
ありがとうございます。そう言っていただけると、本当にうれしい限りです。
こんなバカな話に毎回付き合っていただいて…(笑)
>199 指摘。さん
ありがとうございます。面白いHNですね(笑)
なるべく、1レス1ギャグを心がけていましたので(笑)、そう言っていただけてホッとしました。
>200 名無しさん
ありがとうございます。
最後の最後に考えついた、石川の衝撃の告白…入れといて良かった(笑)
シリアスな部分を書くのにはやたらと時間がかかりました。向いてないのかもしれません(笑)
>201 あるみかんさん
ありがとうございます。
あるみかんさんの作品はいつも楽しみに読ませていただいてたんで、ホントびっくりするやら嬉しいやらで(笑)
登場人物が多い分、テンポは取り易かったかなと思います。常に誰かが喋っててくれるので(笑)
>202 やぐ×2さん
ありがとうございます。
ラスト、ご期待に添えるものになっていたでしょうか…って聞くなって感じですね(笑)
見事、不幸に終わりましたし(笑)
>203 ぷちさん
ありがとうございます。
次回もまた読んでいただけるように、頑張ります!
>204 マッチさん
ありがとうございます。最後までお付き合いいただき…感謝です。
赤の方は…もう少しお待ちください(笑)
- 206 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月07日(土)17時51分22秒
- 「ひとみ…ひとみ!!ねぇ、起きてよ…ひとみってば!!」
朝の静寂をブチ壊す甲高い声。
もぅ…あとちょっと寝かせてよ。
ちゃんと起きるから…。
「起きろっつってんの!!もぅ!遅刻しても知らないからね!?」
うるさいなー…もぅ。
「うん…起きるから…あと5分…」
このまま黙ってると布団を剥ぎ取られそうだから、とりあえず返事だけはしておく。
冬の朝は寒い。とにかく寒い。5分だけ、あと5分だけ…一晩かけてあたためた、この温もりを。
「そんなコト言って、5分で起きたためしないでしょ!?もー!!早く起きろっつーの!!」
「うぎゃああっ!?」
突然、おなかの辺りに重い衝撃を感じて飛び起き…ようとしたが、体の上に何か乗っかってて動けない。
何なんだ、一体…?
「ほんっと、朝弱いんだから…」
頭上から声がして、あたしは寝転んだ体勢のまま、あたしのおなかに跨るようにして乗ってるそのヒトを見上げる。
え…………?
矢口さん…?
何で、矢口さんがあたしの部屋に?
「ホラ、起きた起きた!!朝ゴハン、できてるからね」
言いながらあたしの部屋を出て行く矢口さん。
ワケがわからなかったが…とりあえずあたしはベッドから起き上がると、自分の部屋を出る。
- 207 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月07日(土)17時53分06秒
- 洗面所で顔を洗いながら、あたしは考えた。
そしてひとつの結論に達した。
コレは、夢だ。間違いない。
そうでなきゃ、矢口さんがあたしの家にいるコトの説明がつかない。
昨日は、仕事が終わるとみんなまっすぐ家に帰ったんだから。
第一、矢口さんがあたしの家に来たコトなんて…哀しいコトに今まで一度もないんだから。
顔を洗ってリビングへ行くと、キッチンで何やら料理を作ってるらしい矢口さんの後姿が目に入った。
エプロン姿の矢口さん、後ろから見ても…かわいいなー、やっぱり。
「あ…やっと起きてきた。早く食べないとホントに遅刻するよ?」
入ってきたあたしに気付いた矢口さんが、こっちを振り返って言う。
エプロン姿の矢口さん、前から見ても…かわいいなー、やっぱり。
「矢口さん…おはようございます」
幸せに浸りすぎて、朝のあいさつを忘れていた。
あらためて、包丁片手の矢口さんに一礼する。
- 208 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月07日(土)17時53分48秒
- 「は?『矢口さん』って…なに言ってんの?」
「え…?」
なに言ってんのって、あたしはただ朝のごあいさつを……あっ!そうか!!
さっき矢口さん、あたしのコト『ひとみ』って呼んでた。
そっか…あたしたちは、名前で呼び合う仲ってコトなんだね。
矢口さん、あたしのコト『ひとみ』って呼び捨てだし。
しかも矢口さん、エプロン姿だし。
なんて幸せな夢なんだろう…ああ、どうか覚めませんように。覚めませんように。覚めませんように!!
よし。これだけお願いしておけば、当分覚めるコトもないだろう。
あたしは、大きく深呼吸。
ずっと呼んでみたかった、彼女の名前を…名字ではなく名前を、ついに口に出すときが来たんだ(しかも呼び捨て)。
「真…」
「もー、なんで自分のお母さんのコト、名字で呼ぶかなぁ?しかも旧姓で」
「は…?」
お母さん?旧姓??なにそれ??
「ああああーーー…気分わる…最悪や。矢口ぃ…水一杯くれへん?」
- 209 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月07日(土)17時54分41秒
- まったく状況が飲み込めずに混乱するあたしをよそに、リビングには新たなる来訪者。
少し身をかがめて入ってきたそのヒトは…見てるこっちが気分悪くなりそうな表情で胃の辺りをさすっている。
「もぅ、裕ちゃん!裕ちゃんがいつまでもあたしのコト矢口なんて呼ぶから…ひとみが真似するんでしょ!?」
冷蔵庫からミネラルウォーターを出しつつ、矢口さんが言った。
「もー…うっさいなぁ。アッタマ痛いねんから大っきな声出すなっちゅーねん。なぁひとみ?」
矢口さんから水の入ったコップを受け取りながら、あたしへ話を振ってくる。
「あの…中澤さん、ですよね?」
そんなの見りゃわかるだろ、って言われそうだけど…とにかくワケがわからんので一応確認してみる。
「はあ!?そら中澤さんには違いないけど…あんたも中澤さんやろ?何言うてんねん。朝っぱらからおかしなコやなー」
どういうコト?あたしも『中澤』?どういう設定なんだよ、この夢は…。
「ただいまー!!」
「あっ、お義父さん帰ってきた!」
また誰か来た…もう、いっぱいいっぱいだっつーのに。
「やっぱし朝の散歩はええなー、さわやかで。1日のはじまりはこうやないとなー」
「あいぼん!?」
真っ赤なジャージ(上下)に身を包み、髪を2つに束ねて横わけの前髪も健在…これはまさしくあいぼん。
「ひとみっ!?あんた今なんて!?『あいぼん』って…『あいぼん』って呼んでくれたんやな!?おじいちゃん、うれしいで!!」
おじいちゃん!?うそだろー!?
「何で孫に『あいぼん』言われてうれしいんかなぁ?ワッケわからんわー」
「やかましいわ!ホンマ、ひとみは裕子に似んとカワイイなぁ!!裕子に似んとなー!!」
あいぼん、中澤さんのコト『裕子』とか言ってる…なんか、新鮮な光景。
- 210 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月07日(土)17時55分48秒
- 「朝からなんだべ…あいぼんも裕ちゃんも、ほどほどにするっしょ」
「お義母さん、おはようございます」
「おはよう、真里っぺ」
矢口さんが『おかあさん』って呼ぶってコトは、安倍さんは…あたしのおばあちゃんか。
それにしても、みんなお互いの呼び方がメチャクチャ…。
とりあえず今の状況をまとめると…ココにいるみんなは家族という設定だというコトは間違いないな。
まず、あいぼんはあたしのおじいちゃんで、安倍さんがおばあちゃん。
そしてコレはかなり認めたくないんだけど、矢口さんはあたしのお母さん。
そしてコレは死んでも認めたくないんだけど、さっきの矢口さんとのやりとりから推察するに…中澤さんは、あたしのお父さん。
で、ココにいるヒトの名字は…全員『中澤さん』ってコトなんだろうな、たぶん。
なんて夢なんだろう…ああ、どうか早く覚めますように。覚めますように。覚めろ!!覚めろ!!覚めろ!!!
…ダメか。
- 211 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月07日(土)17時56分34秒
- 「ひとみ、早くしないと…もう来ちゃうよ?」
朝の一家だんらんの途中、ゴハンを頬張るあたしを矢口さんが急かす。
「え…?来ちゃうって…誰か来るんですか?」
「何とぼけてんねん。えーなぁ、お熱い!!お熱い!!朝っぱらから…ヒューヒューヒューヒュー!!!」
いや、4回も言わなくてもいいですけど…一体誰が来るんだろ?
「でも結構長いよねー。付き合って3年目…だっけ?」
あたしの質問には答えず、お茶をすすりながら矢口さんが言う。
っていうか付き合って3年目!?『付き合って』って!?
しかも中1から!?彼氏!?彼女!?どっち!?
それってメンバーの誰かとか言わないよね!?
もうどこにポイントを置いて驚けばいいのやら、あたしはすっかり混乱してしまった。
ま、ココまで来たらお約束として…メンバーの誰かであるコトは間違いないだろう。
とすると、何となく予想できたぞ…たぶん、あのコなんだろうなぁ。
(『ひとみちゃん…おはよ』)
あたしは、玄関先で照れくさそうにうつむきかげんで笑う梨華ちゃんの姿を想像していた。
矢口さんがお母さんだったのはかなりショックだったけど、梨華ちゃんが彼女かぁ…それはそれでうれしかったりして。
「行ってきます!!」
朝ゴハンもそこそこに、あたしは側に置いてあったカバンを掴むと玄関へと急ぐ。
- 212 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月07日(土)17時57分57秒
- 玄関先に座り込んで靴を履いていると、突然目の前のドアが開いて誰かが入ってきた。
あたしのモノと同じ、通学用の革靴が目に入る。
「ひとみ、オッス!!」
『オッス』…?
ずいぶんワイルドだね…梨華ちゃん。
おそるおそる、目の前に立っているヒトの姿を見上げてみるが…視線はなかなか彼女の顔まで到達しない。
いつの間にそんな身長伸びたの…梨華ちゃん。
「うそっ!?飯田さん!?何で飯田さん!?」
ちょっと予想外すぎるんですけど…。
「はあ?何言ってんの、ひとみ?」
あたしと飯田さんが…付き合って3年目?
なにをどう考えればこういう組み合わせになるんだろう…まいったなぁ。
「2人とも、気をつけてね…いってらっしゃーい!!」
「おかあさん、いってきます」
どうでもいいけど飯田さん、何で矢口さん(あたしのお母さん)のコト、『おかあさん』って呼んでるんですか…。
「いってきます。おかあ…さん」
ついに、矢口さんのコトを『おかあさん』と呼んでしまった。
おかあさん…なんて悲しい響きだろう。
- 213 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月07日(土)17時58分59秒
- 駅までの道を仲良く並んで歩く、制服姿の2人…飯田さんとあたし。
現実世界では絶対にありえないシチュエーション。
あたしたちは同じ制服着てるんだけど…飯田さんはあたしの学校の高等部って設定なんだろうか?
セーラー服姿の飯田さんなんてめったに見れるモンじゃないから、さっきから気になってつい横目で見ちゃうんだけど…
当の飯田さんは、あたしの視線には気づかずにただひたすら歩き続けている。
「ねえ、ひとみ。宿題やってきた?国語のやつ」
「えっ!?」
さっきまで黙々と歩いていたのに突然話しかけられて驚いたのと同時に、さらに驚いたのはその内容。
『宿題やってきた?』ってコトは、あたしと飯田さんは同じクラスってコトになる。
つまり、あたしと飯田さんは…同級生。同い年。
ちょっと無理があるんじゃないか…そう思ったが、次の瞬間その考えは打ち消された。
だって、あたしの家族構成自体が既にムリムリじゃないか。
あいぼんの子供が中澤さんで、さらにその娘があたしって世界なんだから…飯田さんがあたしの同級生だって
飯田さんがあたしの3年目の彼女だって、ぜんぜんおかしいことなんてない。
そう、おかしいことなんて、なにひとつ…。
- 214 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月07日(土)17時59分54秒
- 「飯田さん、やってきたんです…やっ、やってきたの?」
ついいつものクセで敬語を使いそうになってしまい、あわてて言い直す。
「あのさぁ、さっきから何の冗談?『飯田さん』なんて。何でいつもみたく『カオリン』って呼んでくれないの?」
「カ、カオリン!?」
何でよりによってそんな呼び方!?
だったら普通に『カオリ』でいいじゃん…。
「ねー、何で!?」
呼べるかよぉ…カオリンなんて。
「ひとみ!!聞いてる!?」
えーっ…やだよぉ。
「カオ…リン」
ついに、飯田さんのコトを『カオリン』と呼んでしまった。
カオリン…なんて哀しい響きだろう。
- 215 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月07日(土)18時00分46秒
- 「ねぇねぇひとみ、宿題やってきた?」
席につくなり、後ろの席の友達があたしの背中を突付きつつ聞いてくる。
「やってない」
そもそも、宿題が出てたコトすら知らないんだから…やりようがない。
何となくギクシャクとした会話を交わしながら、あたしたちはようやく学校に到着。
あたしと飯田さんは席が離れているから、始業時間ギリギリに教室に入るとすぐにそれぞれの席についた。
飯田さんは窓際の一番後ろの席で、あたしは一番前。しかも真ん中の列、教卓のド真ん前。
この席、実は意外と寝てても見つかりにくいとの噂だけど…やっぱり噂は噂にすぎない。
これまでの経験上、一番前で寝てて最後まで見つからなかった試しはない。
「宿題って、何の…」
友達に聞こうと後ろを振り返った時、突然教室のドアが勢いよく開けられた。
「やばっ、辻先生きたっ!」
辻先生…?うそだろーーっ!?
「みなさん!!おはよーございますっ!!辻希美ですっ!!出席をとりますっっ!!」
このヒトから、一体何を学べというのだろう…。
- 216 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月07日(土)18時01分53秒
- 「しゅくだいを忘れたひとは、バツとして早口ことば10回ですっ!!前にでてきてくださいっ!!」
そして、教室の前に立たされたのは…あたし一人だけ。
あとは全員やってきたってコトか…みんな優秀だなぁ。
「さあ、はじめてくださいっ!!がんばって!!」
声援を受けたあたしは、ののに手渡されたプリントに目を通す…おいおい、コレのどこが早口言葉なんだよ?
「さあ!!」
やだ、こんなの…やりたくない。
「はやくっ!!」
言いながらあたしに近づいてくるののの目は、きらきらと輝きを増して。
純粋で、そして、それゆえに残酷な…コドモの瞳。
「コ、コケッ…コケココ…」
「もっと!!もっと大きな声でっ!!」
みんなが真面目に宿題やってくる理由が、今わかった。
「コケーッ!!コケーッココココ!!コココココココ!!コケーーーッッ!!」
「そう!!そのちょうしだよ、ひとみちゃんっ!!」
このヒトから一つ学んだコト…宿題は、ちゃんとやろう。
- 217 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月07日(土)18時02分58秒
- 「ひとみちゃん、待ってくださいっ!!」
「何ですか?」
帰りのHRが終わり、教室を出ようとしたところをののにつかまる(辻先生はどうやらクラスの担任らしい)。
「何ですか、じゃないのですっ!さいきん、せいせきが落ちてますよ?どうしたんですか?」
「いや、どーしたも、こーしたも…」
確かに現実世界でも成績は下がる一方だが…夢の世界でのあたしの成績なんて知ったこっちゃないんですけど。
「いいださんとあそんでばっかりいないで、ちゃんと勉強するのですっ!!わかりましたねっ!?」
全く身に覚えのないコトで…何であたしが辻に怒られなきゃいけないんだろう?
よりによって辻に…。
「へんじは!?」
「…はい」
ちっくしょー…。
「ま、帰ったらイヤでも勉強することになるとおもいますけどね…」
「えっ…」
意味深な微笑を浮かべながら教室のドアを開け、廊下へと消えていく辻先生。
今のは、どういうイミなんだ…辻。
- 218 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月07日(土)18時04分01秒
- 「ただいまー」
家に着くなり、あたしは矢口さんの顔も見ずに階段を上がる。
今日は朝から本当に疲れる一日だった。
失恋(矢口さん=お母さん)、驚愕(飯田さん=彼女)、屈辱(宿題の罰ゲーム)…もうたくさんだ。
ひとりになりたい。そしてこの悪夢が終わるまで、部屋でじっとしていよう。
「ひとみ、ちょっと待って!!降りてきな!!」
ちょうど階段を上りきったところで、矢口さんに大声で呼ばれる。
仕方なくあたしは階段を降りると、重い足取りで矢口さんの居るリビングへ向かう。
「今朝、電話あったよ…辻先生から」
矢口さんは、リビングの入口で腕を組んで仁王立ち。
「宿題、忘れたんだってね?」
げ…。辻のやつ…チクリやがったな。
「成績も下がってるって言ってたよ?どうりで最近テスト見せないなーって思ってたけど、そーゆーコトだったんだね。
ダメでしょ、ちゃんと勉強しなきゃ!!受験生なんだよ!?自覚なさすぎ!!」
矢口さん、ホントにお母さんみたいなコト言ってる…。
「わかってるよ、ちょっと息抜きしただけだもん。次はちゃんと勉強するから、大丈夫だって」
矢口さんがあまりにお母さんっぽいので、あたしも普段お母さんに言っているような言葉で対抗する。
お母さんのお小言を上手くかわすのは、あたしの得意ワザ。
- 219 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月07日(土)18時05分03秒
- 「うそだね。ひとみはいっつも口だけなんだから…絶対ダマされないんだからね!!」
あれ?このお母さんは…ちょっと手ごわいぞ?
「そう思ってお母さんは…家庭教師の先生を頼んじゃいましたー!!やったね!!」
なっ!?
「はあ!?何だよ、聞いてないよ、家庭教師なんて!?ひどいよ、お母さん勝手に!!」
いつの間にか、矢口さんを『お母さん』と呼ぶことに抵抗を感じなくなってる自分がちょっとだけ哀しい。
「でもさー、もう呼んじゃってるんだよね…会うだけ会ってみてよ。っていうかもう来てるんだ」
「やだよっ、絶対…」
あたしが言いかけたとき、矢口さんの後ろに人影が現れた。
「はじめまして、石川梨華です。あなたが…ひとみちゃん?」
あ…ちょっとうれしいかも。
- 220 名前:すてっぷ 投稿日:2001年04月07日(土)18時10分07秒
- 今度こそ短編にしようと、一気に登場させました(まだ全員ではないですが)。
前回と似たような話の上に、更新ペースもゆっくりめになりそうなんですが…
お付き合いいただけるとうれしいです。
- 221 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月07日(土)19時06分51秒
- 前回同様、おもしろいですー。
ヤッスーが気になる・・・。(爆)
- 222 名前:ぷち 投稿日:2001年04月07日(土)21時18分44秒
- おぉ♪(嬉)
よっすぃ〜は、矢口と梨華ちゃん、どっちが好きなんだ?(w
- 223 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月07日(土)22時07分53秒
- 相変わらず、究極のまきこまれキャラ爆発吉澤君。
今回はどこまで不幸になるの(笑
- 224 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月07日(土)23時00分40秒
- 221さんに同感。あと現メンバーで出てないのって、彼女だけだよね。
- 225 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月08日(日)00時29分05秒
- ごとーさんもまだ出てないっしょ?
- 226 名前:名無しじゃん。 投稿日:2001年04月08日(日)00時31分34秒
- >>224さん
あれ?後藤ってもう出ましたっけ?
すてっぷさんって、面白いアイディアが浮かびますね〜!
更新楽しみにしてます!
- 227 名前:224 投稿日:2001年04月08日(日)00時54分25秒
- あらら…そういえば。
後藤も出てませんでしたね。
こうなると?二人の役どころが楽しみです。
- 228 名前:やぐ×2 投稿日:2001年04月08日(日)01時01分28秒
- おおっ!新作だ!!
今回も笑わせていただきます。
吉澤の不幸指数が気になって仕方ないです。
- 229 名前:もんじゃ 投稿日:2001年04月08日(日)01時16分23秒
- やた!新作♪♪
よっすぃーのどこにポイント置いて驚いたらいいのやらって、ホントに(笑)
すごい強引な設定なのに、面白くて読者を引き込ませてしまう力は相変わらずです!
続き楽しみにしてますね♪
- 230 名前:ガンツ 投稿日:2001年04月08日(日)12時10分15秒
- 新作楽しみにしてます!!
前回やぐよしだったんでぜひ今回はいしよしを!!!
- 231 名前:某作者 投稿日:2001年04月09日(月)00時27分39秒
- >>230
展開無視したリクは控えようyo!(笑)
作者さんの意向も考えてあげないとね。
- 232 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月09日(月)05時01分18秒
- どこにポイントをおいて笑ったらいいのやら。
矢口、中澤の役回りまでは予想できんでもなかったけど。ホントにもう、次から次へと。(笑)
早合点して、覚めませんようになんてお願いしちゃうから。(笑)
- 233 名前:ガンツ 投稿日:2001年04月09日(月)21時34分26秒
- >231
別に展開は無視してないよ。
そんなとこまで問いつめたら楽しめなくなっちゃう。
- 234 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月09日(月)23時14分28秒
- >233
でもちょっと強く求めすぎかも
- 235 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月09日(月)23時21分18秒
- リクエストを受け付けてくれる作者さんだったらいいんですけどね。
後、作者さん抜きで読者だけで議論するのはどうかと…
私もこの件についてはもう発現しません。作者さんスレ汚してすいませんでした。
- 236 名前:某作者(231) 投稿日:2001年04月10日(火)00時50分24秒
- 自分もスレ汚し、すいませんでした。
って、この書きこみ自体がスレ汚しかも…(鬱
- 237 名前:アリガチ(HN) 投稿日:2001年04月10日(火)19時54分37秒
- 初めて全部通して読みました。
メッチャ面白いッス!爆笑しまくり!!
作者さん、頑張って下さい!!
続き、楽しみにしてます!
- 238 名前:すてっぷ 投稿日:2001年04月10日(火)21時13分27秒
- レス遅くなりまして、すいません…。
>221 名無し読者さん
前回も読んで頂いたんですね…ありがとうございます。保田さんは…もうしばらくお待ちください。
って、じらす程のモンじゃないんですけど(笑)
>222 ぷちさん
ありがとうございます。今回は、よっすぃーの優柔不断さを前面に出していこうかと…(笑)
>223 名無し読者さん
ありがとうございます。
現時点では、まだそこまで不幸じゃないですよね。現時点では、ですけど(笑)
>224 227 名無し読者さん
ありがとうございます。
書いててもわかんなくなって、ちゃんと全員出したか何度も確認したりします(笑)
>225 名無し読者さん
ありがとうございます。気付いてもらえてうれしいです(笑)
>226 名無しじゃん。さん
ありがとうございます。
そう言っていただけるとうれしいです。いつもくだらないコトばっか考えてます(笑)
>228 やぐ×2さん
ありがとうございます。不幸指数って(笑)
不幸度は、前作に比べると…出だしは好調ってとこでしょうか(笑)
>229 もんじゃさん
ありがとうございます。
確かに、強引この上ない設定ですよね…もう開き直ってますけど(笑)
最後まで読んでいただけるよう、がんばります。
>230 ガンツさん
ありがとうございます。
最後まで読んでいただけるとうれしいです…。
>231 某作者さん
ありがとうございます。これからも読んでいただけるとうれしいです…。
>232 名無し読者さん
ありがとうございます。
初回からほぼ全員登場させてしまったので、予想するヒマもなかったかと思います(笑)
よっすぃー目覚めの瞬間まで、どうぞよろしくお付き合いください。
>233 234 235 236 さん
前回の更新以来、見てなくて…すいませんでした。
スレ汚しなんてぜんぜん思ってないので、気にしないで下さい。
それから、話を書くときはラストまでの流れを(いちおう)一通り考えて書いてますので、せっかくリクエストしていただいても
お答えできないかと思いますです…。
>237 アリガチ(HN)さん
ありがとうございます。全部って、最初からですか?だとしたら…本当にお疲れさまでした(笑)
これからも楽しんでいただけるようがんばります!!
- 239 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時16分33秒
- 「…とみちゃん、ひとみちゃん!」
「へっ!?」
自分の名前を呼ばれ、はっと我に返る。
「もぅ、ダメじゃない!ちゃんと聞いてなきゃ!!」
「…すいません」
やっぱり、怒ってる時もかわいいなー…。
さっきから、梨華ちゃんにばかり集中しすぎて…勉強に集中できない。
「しょうがないなー…じゃあ、息抜きにちょっとだけお話しようか?」
「はい!!」
部屋の真ん中に置いてあるテーブルを挟んであたしの真正面に座っている梨華ちゃんは、教科書を閉じるとテーブルに頬杖をつく。
家庭教師ってコトは…大学生なのかなぁ、梨華ちゃん。
それとも近所の高校生?
先生という設定のせいか、梨華ちゃんは普段より少し大人っぽく見える。
同じ先生でも…辻先生とは大違い。
- 240 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時18分07秒
- 「ひとみちゃんは、部活とかやってるの?」
テーブルに頬杖をついたままで、梨華ちゃんが言った。
「バレーやってました。もう引退しちゃいましたけど…」
本当はモーニング娘。に入ったからできなくなったんだけど、ココでそんなコト言ったってわかってもらえるワケないから、
とりあえず引退したってコトにしておく。
「そうなんだ、すごいね!あたしも中学の時はテニス部だったの!!部長やってたんだけど…」
あ…そのへんの設定は、現実の梨華ちゃんと一緒なんだ。
「だけどみんなが全然言うコト聞いてくれなくて…」
勉強の合間の息抜きのはずが…石川先生は持ち時間である2時間のほとんどを自分のテニス部時代の話に費やして、その日の授業は終了した。
- 241 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時19分44秒
- 「それじゃあ、失礼します」
初日の授業(ほとんど勉強しなかったけど)を終えて、玄関先で梨華ちゃんを見送る。
「晩ゴハン、食べてけばいいのに」
まだ支度の途中らしくエプロン姿の矢口さんが、キッチンから出てくる。
「すみません、今日はちょっと用事があって…今度ぜひ」
礼儀正しくおじぎをしながら梨華ちゃんが言う。
「オッケー。絶対だよ?」
(この世界では)初対面のはずなのに、梨華ちゃんに対して妙になれなれしい矢口さん。
「はい。それじゃ、お邪魔しました。ひとみちゃん、またね」
「はい!」
梨華ちゃんの授業は、週3回。
次に会えるのは、あさってか…ちょっと寂しいなぁ。
- 242 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時20分24秒
- 「ただいまー!!」
梨華ちゃんと入れ替わりに、ドアを開けて誰かが中に入ってくる。
「あ、おかえり裕ちゃん」
中澤さんか…一応、会社とか行ってたんだろうか?おとうさんだし。
「だれ?今のかわいいコ…?おじぎしてったで?」
さっそく目をつけたか…さすが中澤さん。
「ひとみの家庭教師の先生。今日から来てもらったんだ…あっ、お湯沸いた」
沸騰したコトを知らせるやかんのピーッという音に、矢口さんはあわててキッチンへ戻っていった。
「ふーん…名前なんて言うん?」
「石川先生、だけど?」
「違うって!下の名前や!!」
何でだよ…。
「石川…梨華」
「へぇ…りかちゃんかぁ」
中澤さんはそう呟くと、靴を脱いでリビングへと消えていった。
- 243 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時21分16秒
- 「あー…ええわぁー…やっぱ仕事の後の一杯は最高やなぁ」
矢口さんに注いでもらったビールを、おいしそうに飲み干す中澤さん。
それにしても中澤さん、金髪にスーツで…一体何のシゴトしてるヒトなんだろうか。
「お…さんきゅ。気が利くやないか、ひとみ」
「おつかれさまでした」
一応、養ってもらっている身なワケだし…これぐらいはしないとね。
おつまみを用意しにキッチンへと戻った矢口さんに代わって、今度はあたしが中澤さんにお酌。
「それにしても…えーよなぁ、ひとみは。うらやましいでぇ」
グラス片手に遠い目をして、中澤さんがしみじみと言う。
「うらやましいって、何が?」
あたしから見れば、中澤さんの方がよっぽどうらやましいんだけど…矢口さんのコト、ひとり占めできて。
「あんなカワイイ娘が家庭教師やなんて…。あーあ、あたしも石川センセに勉強習いたいわぁ。
ほんでお礼に別のコト教えてあげたいなぁ…」
ったく…何考えてんだか、このヒトは。
矢口さんというカワイイ奥さんがありながら…。
- 244 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時22分14秒
- 「ゆーこ…あんま調子乗ってると殺すよ?」
いつの間にかあたしたちの後ろには、料理の途中だったのか右手に包丁を持った矢口さんが立っていた。
「げ、矢口!?ちがっ、違うって!!冗談やって…ホラ、ひとみがな、あんまり梨華っちのコトかわいいかわいい
言うモンやから、ハナシ合わせてやってん」
うわ…最悪。人のせいにしてるし。
「もういい。明日からお弁当、ひとみの分しか作んないからね」
「ウソやろ!?先月こづかい減ったばっかしやんか…お昼ゴハンどないしたらええねん!?」
「知らない。みっちゃんにでも分けてもらえば?」
「矢口ぃ…ゴメンって!!な?お願いやからお弁当作って?ホンマ金無いねん」
「知りません」
中澤さんの哀願もむなしく、再びキッチンへと消える矢口さん。
中澤さん、哀れだなぁ…。
やっぱり矢口さんとは、親子で良かった…そんな気がした。
- 245 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時23分22秒
- 晩ゴハンを終えて自分の部屋に戻ってきたあたしは、携帯のメールをチェック。
梨華ちゃんの授業の間は電源切ってたから、誰かから来てるかも知れない。
と、予想通り電源切ってた間に2件の新着メール。
1件目は…『勉強がんばってくださいね!!辻希美です!!』。一応心配してくれてるのかな…それとも嫌味?
そして2件目…『辻先生に呼び出されてたね?何かあった?』。…飯田さんだ。
『成績落ちてるって怒られたよ。そのせいで今日から家庭教師つけられちゃって、もうサイアクだよー』
梨華ちゃんが家庭教師で、本当は最高の気分なんだけど…とりあえずこんなもんでいいかな?
ののからのメールはあっさり無視して、飯田さんへ返信する。
ふと時計を見ると…時刻は夜9時。
今日はいろんなコトがあって本当に疲れたから…お風呂に入ったらゆっくり寝よう。
着替えを持って部屋を出ようとしたところで、突然携帯が鳴った。
今消したばかりの部屋の電気を再びつける。
鳴り続ける携帯の画面には、『カオリン』の文字…飯田さんからだ。
- 246 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時24分13秒
- 「もしもし」
『あ、カオリだけど…今だいじょうぶ?』
「はい…あっ、うん。へーきだよ」
飯田さんと敬語使わずに話すのって…やっぱりまだ慣れない。
矢口さんや中澤さんに対しては、とりあえず普通に会話できるようになったんだけど…。
『家庭教師ってホント?最悪だねー』
「うん。そうなんだ」
あたしはベッドの上に腰掛けると、手に持っていた着替えを側に置く。
『じゃあ、これからはあんまし遊べないね?』
「うん…そうだね」
そもそも飯田さんとはあんまり遊んだコトないから…そう言われても何だかピンとこないんだけど。
『あのさ…どんなヒトなの?その…家庭教師って』
ほんの少しの沈黙の後で、飯田さんが言う。
- 247 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時25分11秒
- 「ああ…石川さんってヒト」
『ふーん』
あたしの答えに、飯田さんはそっけない返事。
あんまり答えになってなかったかな…名前教えただけだもんね。
「何だか顔は大人っぽいんだけど妙にカワイイ声で…あっ、もちろん顔もカワイイんだけど」
『ふーん』
あたしの説明に、飯田さんはまたもやそっけない返事。
まだ、足りないのかな?
「えっと、あとは…あっ、中学のときテニス部で部長やってたらしいんですけど…」
あ…やば、また敬語になっちゃってるし。
『もういい…とにかく、がんばってよね。カオ、会えなくても我慢するから…じゃあな!!』
そう言うと飯田さんは一方的に切ってしまった。
どうしたんだろ…あたし、何か怒らせるようなコト言っちゃったのかなぁ?
何だか今日は、いろんな人に怒られてばっかりだったなぁ…。
- 248 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時26分03秒
- 「ひとみ…ひとみ!!ねぇ、起きてよ…ひとみってば!!」
あ…また矢口さんの声だ。
ってコトは、あたしはまだこの悪夢から覚めていないってコトか…。
「もぅ!毎朝毎朝、いいかげんにしてよ!!早く起きないと…チューしちゃうからね!?」
え…?
「ええっっ!?」
驚きで一気に目が覚めてしまった。
「やっと起きたか…」
あっ、しまった。
「ちょっと、なに二度寝してんだよ!?起きろーっ!!」
このさい、お母さんでも何でもいい…矢口さんのキスで目覚めたい!!
「このやろぉ…もう許さないんだからねー!!」
いきなり、布団を剥ぎ取られる…寒い。
- 249 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時27分04秒
- 「うわっ!?はははははは!!わーっはははは!やめて!やめてください、矢口さん!?うぅぅぅ…」
「どーだ!起きないともっとくすぐるよ?」
誰かにおなかをくすぐられるのなんて、小学生の時以来かも知れない。
「痛い!おなか痛いです、矢口さん!!ははははは!!ううっ…」
「いいかげん起きた?っていうか、ちゃんとお母さんって呼びなさい!!」
「起きた、起きたよ!!起きたからやめてっ…おかあさん」
あまりに突然の出来事に、矢口さんがお母さんであるコトをすっかり忘れていた。
「朝ゴハン、できてるからね」
言いながらあたしの部屋を出て行く矢口さん。
昨日の朝と同じ光景…と思いきや、閉まったはずのドアが再び開いて矢口さんが顔を出す。
「二度寝すんなよ」
「…はい」
誰がするもんか。
- 250 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時27分57秒
- 「おっ、ひとみ。おはよーさん」
リビングへ入ると、中澤さんは既に起きて朝ゴハンの途中。
新聞を読みながらシャケをつついている。
「おはよ」
短くあいさつを返すと、あたしも席について用意されていたゴハンに箸をつける。
「おじいちゃん、おしょうゆ取って」
あたしは、あたしの斜め前に座ってテレビを占領しているあいぼんに言った。
お目当てのおしょうゆは、あいぼんの目の前にあってあたしの位置からは届きそうもない。
「えっ…なんでや?なんでやねん…うぅ…っく…ひっく…」
「はあ?」
何で泣いてんだよ…。
「昨日は、昨日は『あいぼん』言うてくれたやんか…なんでや…うぅ」
ああ…もぅ、うっとーしーなー…朝っぱらから。
「ひとみ、あいぼんって言ってあげて。そうすれば泣き止むから。ねー、あいぼん、そうだよねー?」
言いながらあいぼんのアタマをなでてあげる安倍さん。
「うっ…っく…ウチな、うれしかってん。だってひとみが『あいぼん』て呼んでくれたん、幼稚園の年少さんのとき以来
やったんやもん…せやからウチは…ウチは…っ」
「うんうん…そうだよね。うれしかったんだよね?なっちはあいぼんの味方だからだいじょうぶだよ」
味方って…何かあたしが悪者みたいじゃんか。
「おしょうゆ取って…あいぼん」
- 251 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時29分06秒
- 「やったー!!年長さん以来や、年長さん以来や!!やったー!!」
年少さんじゃなかったっけ…まあいいや。
結局、飛び上がって喜ぶあいぼんの目の前にあったおしょうゆは、あたしが自分の手で取るハメになった。
「あれ?あたしのお弁当は?」
食べ終わった食器を下げようと立ち上がると、キッチンから中澤さんの声。
「今日から作んないって言ったじゃん」
続いて聞こえてきたのは、矢口さんの冷酷な一言。
「はあ!?ホンマに作ってへんの!?」
「当たり前でしょ」
「やぐちぃぃぃ…」
食器を持ってキッチンへ行くと、テーブルの上にはお弁当がひとつだけ。
もちろんコレは、あたしのために用意されたモノ。
「ひとみ、急がないとカオリン来ちゃうよ?」
矢口さんは、隣で情けない声出してる中澤さんをあっさり無視。
テーブルに置いてあったお弁当を取ると、あたしに差し出す。
「うん…行ってきます」
あたしは矢口さんから受け取ったお弁当をバッグに入れ、玄関へと急ぐ。
「やぐちぃぃぃぃぃぃぃ……」
あきらめ悪いなー…中澤さん。
- 252 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時30分02秒
- 靴を履いて、玄関のドアを開ける。
…寒い、寒い、寒い。
2月に入ったばかりの今は、一年の内で最も寒い季節である…と、たった今あたしが勝手に決めた。
だって、めちゃめちゃ寒いんだもん。
あーあ…飯田さん、早く来ないかなぁ。
あたしは、昨日飯田さんがウチに来たのと同じ時間に玄関を出て、彼女が来るのを待ってるんだけど…。
かれこれ5分が経過しているが、飯田さんが現れる気配は無い。
たった5分とはいえ、朝の5分は貴重なのに…どうしたのかな、飯田さん。
遅刻なんてしちゃったら、のの(辻先生)に何て言われるか…。
「ひとみーっ!!」
声のした方を振り返ると、通りの向こうから手を振りながら全力で走ってくる飯田さんの姿が見えた。
良かった、この時間なら遅刻しないで済みそうだ。
「ゴメンゴメン。コレ忘れちゃって、取りに帰ってたから」
乱れた息を整えつつ、飯田さんがバッグから取り出してあたしに見せたモノは…小さなポット。
お茶でも入ってるんだろうか?
- 253 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時31分23秒
- 飯田さんの全力疾走のかいあって、あたしたちは遅刻することもなく無事学校へ到着。
そして、今日の授業は信じられないコトに1時間目から6時間目まで全てが国語。
つまり、朝のHRから帰りのHRまで、一日中びっしり辻先生づくし…ますます頭悪くなりそう。
ようやく午前中の授業が終了したものの、まだあと半分残ってるかと思うと…本気で早退したい。
「ひとみ、行こっか?」
ぐったりと机の上に突っ伏していると、飯田さんがあたしの席にやってきた。
その手にはお弁当と…今朝、忘れたって言ってたポット。
「え…どこ行くの?」
教室で食べるんじゃないのかな?
「どこって…屋上だよ。なに言ってんの?」
「あ、ああ…そうだね。天気良いしね」
昨日のお昼は、飯田さんが校内放送の当番だったから(放送委員らしい)、あたしは友達と教室で食べたんだけど…。
どうやらいつもは、2人で屋上に行って食べているようだ。
- 254 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月10日(火)21時33分04秒
- 「はい。どーぞ」
「え?」
飯田さんが、あたしの目の前にカップを差し出す。
屋上に着いて座るなりポットの中身をカップに注いでいた飯田さん、てっきり自分で飲むのかと思ってたのに…。
「今日はね、コーンスープ。ひとみがいちばん好きなやつにしてみたんだけど…今朝は寒かったから」
寒かったからいちばん好きなやつ…って、よくわかんない理屈だけど。
『今日は』ってコトは、いつも作ってきてくれてるのかなぁ?
「おいしそう…」
寒空の下、カップを持った両手が温かい。
「あったりまえじゃん!カオが作ったんだからおいしいに決まってるでしょ!!」
…はい。そうですね、すいませんでした。
あたしは、飯田さん特製のコーンスープにゆっくりと口をつける。
「あ…おいしい」
「あったりまえじゃん!カオが作ったのは何でもおいしいの!!」
でも…本当にあったかくておいしいです、飯田さんのスープ。
誰もいない屋上を占領して、お弁当を広げるあたしたち。
今は一年の内で最も寒い季節だけど…あたしたちがいるココだけは、3月みたいにあったかい。
天気は良いし、飯田さんの作ってくれたコーンスープも、矢口さんのお弁当も、どっちもめちゃめちゃおいしいし。
なんだか今日はしあわせな日だなぁ…午後からの辻先生の授業を除けば。
- 255 名前:すてっぷ 投稿日:2001年04月10日(火)21時35分48秒
- 前回の勢いはどこへやら…一気に出しすぎたキャラのフォローで終わってしまいました。
次こそは、残りのメンバーも登場の予定です。
- 256 名前:名無しじゃん。 投稿日:2001年04月10日(火)22時43分28秒
- いや〜、楽しいです!読んでて思わず笑いが・・・。
がんばってください!
- 257 名前:アリガチ(HN) 投稿日:2001年04月10日(火)23時49分44秒
- 一日中、国語って・・・しかも、頭悪くなりそうって(爆笑)
圭織とよっすぃーのペアって自分あんまり見たことないんで新鮮ですわ。
・・・ちなみに今日、一気に全部の話を読みましたよ(笑)
- 258 名前:あるみかん 投稿日:2001年04月11日(水)00時04分38秒
- 最近のマイブームにピッタリの組合せ(なんていうとおこがましいかもしんないですが)
で楽しいです。それにしても加護の使い方がめちゃ上手い。。勉強になります。
頑張ってください。
- 259 名前:もんじゃ 投稿日:2001年04月11日(水)17時07分38秒
- いいなぁー。ホント楽しそう。ナカザワ一家(笑)
圭織がケナゲでいい感じですね。
のの先生もがんばれー。
次回はいよいよあの2人が登場ですか。楽しみにしてまっす♪
- 260 名前:やぐ×2 投稿日:2001年04月14日(土)00時27分25秒
- ほのぼのとしたホームドラマのようでイイ感じですねぇ。キャラ設定を除けば(w
まだでてない2人はどんな登場の仕方をするんでしょうか。期待してます。
- 261 名前:すてっぷ 投稿日:2001年04月14日(土)16時01分56秒
- >256 名無しじゃん。さん
ありがとうございます。次回もまた笑っていただけるようにがんばります…。
>257 アリガチ(HN)さん
ありがとうございます。
確かにあまり見ない組み合わせですよね。でもこのままうまく行くかどうかはまだまだ…(笑)
>258 あるみかんさん
ありがとうございます。
めずらしいマイブームをお持ちで…(笑)
加護と安倍に関しては、出すタイミングが難しくて悩んでいたのですが、そう言っていただけるとうれしいです。
>259 もんじゃさん
ありがとうございます。
飯田ってなんとなく一途なイメージがあったので、こういう配役にしてみました。
次回は2人とも登場させられるかわからないのですが…出せたらといいなと思ってます(笑)
>260 やぐ×2さん
ありがとうございます。
ムチャクチャなキャラ設定抜きで楽しんでいただけると…ってそれ抜いたら何も残んないですね(笑)
- 262 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月14日(土)21時04分13秒
- 「先生さようなら。みなさんさようなら」
「「「先生さようなら。みなさんさようなら」」」
日直に続いて、クラス全員が無機質な声で同じフレーズを繰り返す。
「はいっ!!みなさんさようならっ!!辻希美でしたーっ!!」
クラスのみんなに、大きく手を振りながら教室を出て行くのの。
去りつつ、教室のいちばん後ろまで視線を送る配慮は忘れない…連日のコンサートで鍛えぬかれたワザを垣間見た。
朝のHRから帰りのHRまで、ののづくしだった今日の時間割…もう、ぐったり。
しかものののやつ、1時間ごとに宿題出しやがって…明日までに6種類もの宿題なんて、できるワケないよ。
また早口言葉(というよりあれはモノマネだと思うが)やらされるのかなぁ…。
考えててもしょうがない、とっとと帰ってやんなきゃ間に合わない。
「…コール、アンコール…」
カバンを持って立ち上がろうとした時、どこからともなく機械的な声が聞こえてきた。
「「アンコール、アンコール…」」
それはだんだんクラス中に広がって、もはやあたし以外の全員が同じ言葉を繰り返している。
なに、アンコールって…?
「みんな、ありがとーーっっ!!」
すると突然、教室のドアが開いてさっき出て行ったはずのののが再び入ってくる。
「辻希美ですっ!!最後にもういちどだけ出席をとりますっ!!」
わざわざアンコールでやるコトかよ…っていうか、クラスのみんなもよくこんなのに付き合ってられるよなぁ。
「いっくよぉーっっ」
「「「おー…」」」
相変わらず、やる気のない態度でこぶしを振り上げるみんな。
どーでもいいから、はやく帰りたい…。
- 263 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月14日(土)21時05分37秒
- 「ただいまー!!」
勢いよく玄関のドアを開けて靴を脱ぎ捨てると、あたしは階段を上がって自分の部屋へ直行。
「ひとみーっ、おやつはー?」
「いらなーい」
階段を上る途中、下から聞こえる矢口さんの声に素早く応えつつ部屋のドアを開ける。
ノンキにおやつなんて食べてる場合じゃない…明日の国語の授業までにこの宿題を終わらせなければ。
あたしは、カバンからプリントを出すと早速机に向かう。
さて、と……
「わあああーーーっっ!?」
机の上にプリントを広げたその瞬間、窓の外から大きな音と誰かの悲鳴…なんなんだ一体!?
あたしはあわてて窓を開ける。
「ひとみーっ、たすけて!!」
「ごっちん!?」
窓を開けたあたしが見たモノは…ベランダの手すりにぶらさがったまま助けを求める、ごっちんの姿。
- 264 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月14日(土)21時07分08秒
- 「ああ…コワかった」
「ごっちん…なんでこんなトコから入ってくるワケ?玄関から来なよ」
「だってすぐ隣なのにさー…わざわざ玄関からまわってくんの、めんどくさいじゃん」
どうやらごっちんは、あたしの家のお隣さんちの子供らしい。
ごっちんの部屋のベランダとあたしの部屋のベランダとは隣接していて、手すりを越えればいつでもお互いの部屋を行き来できる。
あたしとごっちんは、仲の良い幼馴染ってトコなんだろうか…。
「ひとみ、アタシおなかすいた」
ごっちんの相手してる場合じゃないんだけどな…どうしよ、宿題。
「じゃあ、下でなんかお菓子とってくるよ」
仕方なくあたしは、ごっちんを一人残して部屋を出る。
「えーっ、アタシごはん食べたい」
ドアを開けようとしたところで、後ろから不服そうなごっちんの声。
「…じゃあ、下でなんか作ってもらおっか」
「うん!」
食べながらやろう…あたしは机の上のプリントとシャーペンを手に取ると、ごっちんと一緒に部屋を出た。
- 265 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月14日(土)21時09分00秒
- 「あ、真希ちゃん。またベランダから入ってきたんでしょ?危ないよぉ?」
矢口さんが、あたしと一緒に降りてきたごっちんに気付く。
「大丈夫だって。へーき、へーき」
どこが…思いっきり危ない目に遭ってたクセに。
「ねぇやぐっちゃん、何か作ってよ?」
ヒトんちのお母さんつかまえて、『やぐっちゃん』とは…マイペースなごっちんらしいけど。
「オッケー。チャーハンでいい?」
「うん!!」
矢口さん、あたしが『矢口さん』って呼ぶと怒るクセに…。
「いいなー、ひとみは。毎日やぐっちゃんのおいしいゴハンが食べれてさ?」
言いながらごっちんは、何の迷いもなくテーブルの真ん中の席に着く…ココがいつも座ってる席なんだろうか。
「よく言うよ、毎日この時間になるとおやつ食べに来るクセに。あっ、でもこないだの大雪の日は来なかったか」
チャーハンの具を準備しつつ、あたしたちに背を向けたままで矢口さんが言う。
「ああ、さすがにあの日はねー。行こうと思ったんだけど、ベランダに雪積もってたから」
コイツはそんな日にまでベランダから入ろうとしてたのか…素直に玄関から来ればいいものを。
「やぐちさーん、ウチちょっと出かけてくるでぇ」
あ…あいぼんだ。
- 266 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月14日(土)21時10分23秒
- 「加護ちゃん。どこ行くの?」
ちょっと待て。ごっちん、いくらマイペースだからって『加護ちゃん』はないだろ…。
中澤さんのお父さんであるあいぼんの名字が『加護』であるハズはない。
お母さんなら旧姓ってコトもあるけど…。
「うん!今日はなっちのカラオケ教室の日やから、お迎え行くねん」
「へぇー、たいへんだねー。ムコ養子ってやつも」
あ…なるほどね。
あいぼんは、中澤家のおムコさんだったのか…それで旧姓が『加護』なんだ。
大胆な配役の割に、妙なトコで設定細かいなぁ。
「ちがうもん!ウチはなっちが心配やからお迎え行くんやもん!行かされてるワケちゃうからな!!」
あいぼんが、ムキになって唇をとがらす。
「「「いってらっしゃーい」」」
あたしたちは、ちょっと不機嫌な様子で出ていくあいぼん(旧姓:加護)を見送った。
- 267 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月14日(土)21時11分26秒
- 「なにそれ?」
あたしがテーブルの上に広げたプリントを見て、ごっちんが言った。
「国語の宿題。聞いてよー、明日までに6コだよ。6種類!!」
誰かに言ったところで宿題が片付くワケじゃないけど、語らずにはいられない…横暴な辻の悪行ざんまい。
「あ、辻先生でしょ?あのヒト、ホント宿題出すの好きだよねー」
この口ぶりからすると、ごっちんのクラスの国語もののが担当しているようだ。
「あっ、コレ…こないだウチで出たやつと一緒だ」
6枚あるプリントの内の1枚を見て、ごっちんが言う。
「うそっ!?ねぇ、答え教えて?」
やった…これで1枚は片付いたぞ。
「でもまだ答え合わせしてないもん」
あたしの期待とは裏腹に、ごっちんから返ってきたのは冷徹な一言。
「いいよ、ごっちんの書いた答えで」
この際、背に腹はかえられない…考える手間が省けると思えば、たとえ間違った答えであってもやらないよりはよっぽどマシ。
「えっ、いいの?じゃあね…1問目は『パパとママが家に来たコト』でしょ。
2問目が『逃げ出したパパがタンスの後ろから出てきたコト』で、
3問目が『いつも寝てばっかのパパを見て、もうちょっと人の役に立とうと思ったコト』」
「はあ?」
どういう問題なんだ、一体…ごっちんが見ていたプリントを取り返す。
- 268 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月14日(土)21時12分33秒
- -
次のことわざについて、自分のみじかなじれいをあげよ。辻希美より。
1.たなからぼたもち
2.ひょうたんからこま
3.ひとのふりみてわがふりなおせ
じゃあ、がんばってくださいね!!
-
さっきの『パパとママ』ってのは、ごっちんの飼ってるイグアナのコトだろう。
この答えをそのままパクるワケにはいかないよな、さすがに。
『パパとママ』を中澤家のパパとママに置き換えてそのまま使えるような気もするけど…。
やっぱりマジメにやるしかないか…あーあ。
「はい。おまたせー」
「やったー!!」
激しく落胆するあたしとは対照的に、矢口さんによって運ばれてきたチャーハンに大喜びのごっちん。
とりあえず、コレ食べてがんばるか…。
あたしはテーブルに散らばったプリントたちを片付けると、スプーンを手に取った。
と、突然玄関のドアが開く音と同時にインターホンが鳴るコト数回。
開けてから鳴らすなよ…ずいぶんせっかちな人だなぁ。
「こんちわー!!保田屋でーっす!!」
え…。
「あっ、圭ちゃん来た」
言うなり、あわてて玄関へ走る矢口さん。
- 269 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月14日(土)21時14分31秒
- 保田屋…?なんだそれ?
あたしは持っていたスプーンを皿の上に戻すと、矢口さんの後に続く。
「はい。10kgね」
「ごくろーさま」
リビングの入口から顔を出して玄関を除くと…そこには、米袋を肩に担いだ保田さんがいた。
ブルーのつなぎに魚屋さんとかがよくかぶってる帽子(正面にプレートみたいなのがついてるやつ)、
そして腰に巻いたエプロン(?)には、紺地に白抜きで大きく『保田屋』と書かれている。
保田さん、メンバーの中で一番奇抜なカッコウなのに…メンバーの中で一番違和感がないのはなぜだろう。
「あ、ひとみじゃん」
米袋を降ろしながら、あたしの存在に気付いた保田さんが言う。
「こんにちは」
くくっ、保田屋…必死に笑いをこらえつつもあいさつを返す。
「相変わらずシケたカオしてるわねー、テストで0点でも取ったか?」
お得意様の家の子供に対して、この毒の吐きよう…さすがは保田さん。
あたしは、サ○エさんで言うところのタ○ちゃんのような存在なのに…いいんですか、そんな態度とっちゃって?
- 270 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月14日(土)21時15分44秒
- 「圭ちゃん、もうすぐおしょうゆ切れそうだからさ。今度来るとき持ってきてくんない?」
財布からお金を出しながら矢口さんが言う。
「オッケー、しょうゆね。あ、そういえば…そろそろ切れる頃なんじゃないの?ビール」
お酒まで売ってるんだ、保田屋…。
「ああ、いいのいいの。とーぶん禁止だから」
「あっそう」
中澤さん、お弁当作ってもらえない上にビールまで禁止とは…。
自業自得とはいえ、だんだん可哀相に思えてきた。
「じゃ、まいど!!」
「ごくろーさま。またね」
おそばやさんの出前のような、独特のバイクの音を響かせながら…保田屋は去った。
「ひとみ、今月のおこづかい、ちょっとだけ上げてあげよっか。裕ちゃんのビール代浮いたし」
財布の中身をのぞきながら、矢口さんが言う。
「ホント!?」
やった…中澤さんには申し訳ないけど、これは思わぬ幸運。
宿題の1問目『たなからぼたもち』の事例は、コレに決定。
- 271 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月15日(日)05時02分35秒
- アンコールに応える辻に笑いました。
後藤の「ごはん食べたい」も、らしいな〜。
いつもながら、宿題がフリになってたりして、話がきれいにテンポよくすすんで、引き込まれます。
ふと我に返ってみると、かなり突飛な設定なのに。(笑)
辻先生も保田屋さんも、自然に絵が浮かんでくるし。(笑)
- 272 名前:レイコ 投稿日:2001年04月16日(月)01時46分50秒
- すてっぷさん、ホントすごいですね!
自分も辻先生のアンコールではふきだしてしまいました。
今後も期待してます!
- 273 名前:やぐ×2 投稿日:2001年04月16日(月)17時59分35秒
- 保田屋… 確かに違和感が無い(w
- 274 名前:すてっぷ 投稿日:2001年04月17日(火)22時09分54秒
- >271 名無し読者さん
ありがとうございます。
突飛な設定だけが命なので(笑)、毎回飽きずに読んでいただけるよう頭を悩ませています。
今回の宿題といい…辻先生、出番の少ない割に意外とキーマンだったりします(笑)
>272 レイコさん
ありがとうございます。
辻先生、ちょっと暴走しすぎかなーと思っていたのですが、そう言っていただけるとうれしいです。
>273 やぐ×2さん
ありがとうございます。
実は、最初に浮かんだのが保田=保田屋でした(笑)
- 275 名前:アリガチ 投稿日:2001年04月17日(火)23時49分11秒
- ことわざに爆笑。
ごっちんらしい解答
- 276 名前:すてっぷ 投稿日:2001年04月21日(土)21時48分53秒
- >275 アリガチさん
ありがとうございます。
宿題のあたりは結構悩んだところなので、そう言っていただけるとうれしいです!
- 277 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)21時49分59秒
- 「ひとみ!お行儀悪いでしょ!!食べるか宿題やるかどっちかにしなさい!!」
「じゃあ宿題やる」
あたしは即答。迷わず宿題を選択。
「バカ!!」
「あっ…」
晩ゴハンの途中、矢口さんに宿題のプリントを取り上げられる。
今日の授業で、ののから出された宿題は全部で6つ。
家に帰ってきてからすぐに取り掛かって、やっとそのうちの3つまで終了。
明日は1時間目から国語だから、それまでにあと3種類の宿題を終わらせなくてはならない。
さっさと食べてとっとと終わらせよう…あたしは、茶碗を持つと一気にゴハンをかきこんだ。
「ひとみ、早食いは太るんやでぇ。ゆっくり食べたほうがええよ?」
あたしは、あいぼんの忠告を軽く無視してさらにペースを早める。
「…っ、ひっ…っ…なんで、なんでっ…ムシすんねん…ひっ…ひとっ…ひとみぃ…っ」
うるさい黙れ。どうせいつものウソ泣きに決まってる。
こっちはそれどころじゃないんだから…。
「…ひっっっ…ひっっ…とっっ…ひとっ…ひとっっっ…っっっっ…うぅぅぅ…っ」
あいぼんのあまりの泣きっぷりに、あたしはおそるおそる顔を上げる。
げ…もしかしてホントに泣かしちゃったかな?
「あいぼん、ゴメン…ね?」
泣きじゃくるあいぼんの顔をのぞきこむ。
- 278 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)21時50分41秒
- 「ひっく…って、ウソでしたぁー!!やーい、やーい!!」
くっ…!?
「このっ…!!」
アッタマきた…あたしは箸を置いて立ち上がると、テーブルを挟んで真正面に座るあいぼんに掴みかかった。
「ひとみ!お行儀悪いでしょ!!」
次の瞬間、矢口さんに怒られる…なんであたしが!?
「何で!?悪いのあいぼんじゃん!!」
あたしは、あいぼんの襟をつかんでいた手を離して、隣に座る矢口さんに抗議。
「ひとみがあいぼんのコト無視するからでしょ?ねーあいぼん、そうだよねー」
「せやせや、ひとみが悪いんや!ウチ、何もしてへんもん!」
安倍さんに助けられて、あいぼんはますます調子づく…このヤロー、もう許さん。
「ふざけんなよっ…加護!!」
「こらーっ!加護言うなーっ!!」
どうだ…あいぼんって呼ばないどころか旧姓で呼んでやる。
あいぼんは、立っているあたしを恨めしそうな目で見上げている。
「イテッ!?」
と、いきなり立ち上がったあいぼんに思いっきり左腕を叩かれる。
「ひとみのアホ!!」
「なにすんだよっ!!」
頭にきたあたしは、再びあいぼんに掴みかかる。
「ひとみっっ!!静かにしろっつってんの!!!いいかげん怒るよ!?」
矢口さん、もう十分怒ってるじゃないですか…。
- 279 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)21時51分18秒
- 「矢口ぃ、ビール持ってきて」
一人、会話に加わっていなかった中澤さんが、ビールの空びんを左右に振りながら言った。
「終わりだよ、それで」
矢口さんがあっさりと言い放つ。
「はあ!?何や、終わりって!?圭坊、来んかったん!?」
それまで気持ち良さそうに飲んでいた中澤さんの表情が一変した。
「来たけど頼んでない」
取り乱す中澤さんとは対照的に、矢口さんの表情は冷静そのもの。
中澤さんの質問に答えつつも、ゴハンを口に運ぶ手は休めない。
「どーゆーコトやねん、意味わからんわ!!あたしがどんだけ仕事の後のビール楽しみにしてるか、わかってるやろ!?」
「お弁当と一緒でしばらく禁止」
「はあ!?何やて!?」
あたしとあいぼんのケンカが終了して静けさの戻った食卓に、再び嵐が吹き荒れる…騒がしい一家だなぁ、ホントに。
「あんたな、誰のおかげで晩ゴハン食べれてると思ってんの!?一家の大黒柱にそんなコトしてええんか!?」
出た…おとうさんって、自分が虐げられると決まって『誰のおかげで』とか恩着せがましく言うんだよなぁ。
中澤さんも例外じゃなかったか…。
- 280 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)21時52分03秒
- 「誰って、真里っぺのおかげに決まってるっしょー。いっつもゴハン作ってくれてるんだからさ」
当然のような口調で安倍さんが話に割り込んでくる。
「なに言うてんねん、裕子。おいしいゴハン食べれるん、やぐちさんのおかげやん?」
中澤さんが言いたいのはそういうコトじゃないと思うんだけど…あいぼん、安倍さん夫妻は常に何かがずれている。
「いや、そういうコトやなくてな。そのおいしいゴハンの元となる材料を買うお金はどっから出てるんですか、っちゅーハナシでな…」
2人の的外れな発言により、中澤さんのテンションも下降の一途を辿りつつあった。
「もうええわ…あーあ、それ知ってたらもっと味わって飲むんやったなー。最後の1本やったんか…あーあ」
テーブルの上の空びんを見つめながら、独り言のように呟く中澤さん。
後悔先に立たず…なんて言ってる場合じゃない、宿題やんなきゃいけなかったんだ。
あたしは、茶碗に残ったゴハンの上に味噌汁をかけて…見事、お味噌汁かけゴハン完成。
左手に茶碗(お味噌汁かけゴハン)、右手に箸を持つと…一気にかきこむ!!
ちょっとお行儀悪いけど、おいしいんだよなーコレが。
「こら、ひとみ!!何て食べ方してんの!?お行儀悪いでしょ!!!」
矢口さん、憎たらしいほどお母さんっぽい…。
- 281 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)21時52分42秒
- それから数時間、あたしは自分の部屋でひたすら宿題に没頭し…長かった宿題もようやく1つを残すのみとなった。
あと1つになったのはいいんだけど…時刻は既に11時を回っている。
とりあえず続きはお風呂に入ってからやろう…あたしは着替えを用意すると、部屋を出た。
下へ降りるとキッチンからは明かりが漏れていて、何気なく中をのぞくと…テーブルで一人、グラスを傾ける中澤さんの姿。
「おっ、ひとみやないか。お風呂か?」
着替えを持ったあたしに気付いて、中澤さんが言う。
「うん」
あたしは入口に立ったままで、中澤さんの問いに答える。
「今、矢口が入ってるで」
「えっ、そうなの?」
タイミング悪いなー…どうしよ、また部屋に戻って宿題の続きやろうかな。
「ひとみ、こっち来て付き合わへんか?」
そう言うと中澤さんは入口に立つあたしに、右手に持ったグラスを振ってみせた。
「かんぱーい!」
「かんぱい…」
何に対しての乾杯なんだか…しかもジュースで。
「『心頭を滅却すれば火もまた涼し』や。感情さえ無くせばジュースもビールに思えてくるんや」
それは絶対ウソだと思う…中澤さん、そーとー無理してるなぁ。
「ああ…最高やなぁ、仕事の後の一杯は。ホンマ最高や…」
グラス片手に呟く中澤さんの姿を見ながら、あたしは思った。
あたしが大人になったらいっぱい稼いで思う存分、中澤さんにビールを飲ませてあげよう…と。
- 282 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)21時53分32秒
- 結局あたしは、キッチンで中澤さんとジュースを飲みながら、矢口さんがお風呂から上がるのを待った。
ゆっくりと湯船につかりながら、しばらくは宿題のコトも忘れて幸せなひとときを過ごしたものの…
お風呂から上がるとすぐに現実に引き戻される。
残り1つの宿題を今日中(明日の朝まで)に終わらせなきゃ…。
ドライヤー使ってる時間すら惜しいのでタオルドライで済ませてさっさと部屋に戻ると、机の上には一枚のメモが置いてあった。
『パソコン借ります。裕子』
確かに、机の上からはメモが置いてある代わりにノートパソコンがなくなっていた。
中澤さん、ネットでもやってるのかな…変なサイトでも見て矢口さんに怒られてなきゃいいけど。
さ、そんなコトより勉強、勉強っと…お風呂に入ってすっきりした頭で、再び机に向かう。
あたしは、机の上で最後のプリントを広げた。
『ここにあくせすしてみてください!!きっといいことがありますよ!!辻希美からのプレゼントです!!』
プリントの先頭には、のののメッセージに続いてホームページアドレスが記載されていた。
いいこと…?このページに問題のヒントでも載せてくれてるんだろうか…?
あいつも結構いいトコあるじゃん…よし、さっそく見てみよう。
と、そこまで考えて気付いた…パソコン、中澤さんが持ってっちゃったんだっけ。
中澤さん、まだ使ってるかな…でもあたしのパソコンなんだし、使用中だろうとなんだろうと所有権はあたしにあるはず。
例のごとく『誰のおかげで買えたと思ってるんや』とか言われそうだけど、宿題のためだ…取り返してこよう。
あたしは部屋を出ると、廊下をはさんで向かい側にある中澤さんたちの寝室へ向かう。
- 283 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)21時54分41秒
- 寝室の前に立ってドアをノックしてみるものの、反応は無し。
おそるおそるドアを開けてみると…電気は点いているが、中には誰もいない。
そして、2つ並んだベッドの側にあるテーブルの上に、お目当てのノートパソコンを発見。
さっきまで使っていたのだろう…接続は切れているものの、電話線はパソコンとつながったまま。
部屋に持ち帰るのも面倒なので、あたしはその場でのののページにアクセスしてみることにした。
現れたトップページの背景には、無数に並ぶののの小さな顔写真。
構図は同じだが、よく見るとひとつひとつ表情が異なっている。
コレ、一枚ずつ別の写真じゃないか…ヒマなやつだなぁ。
『ここをくりっくしてください!!』
命じられるがままにクリックすると、派手なトップページとは対照的に文字だけの地味なページが現れた。
-
『あくせん身につかず』
あくじをはたらいて得た金はいつのまにかだらだらつかいはたしてしまうもので、
しょせん残らないということ(ことわざじてんより)。
楽をしてといたもんだいは、けっきょくはみにつかないのです!!
だから、しゅくだいはじぶんのちからでやろうね!!辻希美より!!
-
……絶句。
自分が誘っといて(『あくせすしてみてください!!』)、『悪事』はないだろ…。
ヒントくれるみたいなコト書きやがって…パソコン持ってるコたちみんなダマされてるなー、きっと。
やり場のない怒りで力の限り握り締めたマウスが、ギリギリと音を立てる。
- 284 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)21時55分48秒
- しばらく放心状態で画面を見つめていたあたしは、階段を上ってくる誰かの足音ではっと我に返った。
その足音はだんだん近づいてきて…あたしのいる寝室の前で止まる。
次の瞬間、部屋のドアが開いて誰かが中に入ってくる。
「ああー…疲れた。今日も一日おつかれさまでしたぁー…っと」
ドサリとベッドに倒れこむ矢口さんを、すぐ側でうずくまって見上げるあたし。
別に悪いコトしてたワケでもないのに、とっさに隠れてしまった…。
ベッドサイドの隅(枕側)に小さく身を潜めてじっとしているあたしにまるで気付く様子もなく、矢口さんは
ベッドの上に寝転んで雑誌を読んでいる。
静かな部屋に、矢口さんがページを繰る音だけが聞こえている。
そしてあたしは、部屋から出て行くタイミングをすっかり失っていた。
あたし、何で隠れちゃったんだろ…自分のマヌケな反射神経が腹立たしい。
今ベッドの下からあたしが飛び出したら、矢口さんびっくりするだろうなぁ…どうしよう。
と、再びドアが開いて誰かが入ってきたと同時に、部屋の電気が消えて真っ暗になる。
なに…停電?
「ちょっと何すんだよ!?本読んでるのに!!」
「ええやんか、後にし」
パタンという雑誌が閉じられる音と、矢口さんの抗議の声…どうやら停電ではなく、入るなり中澤さんが部屋の電気を消したらしい。
「矢口、愛してるで」
そして中澤さんが発した2つ目の言葉は…あたしのすぐ側から聞こえた。
- 285 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)21時56分33秒
- 「裕ちゃん!?」
「やぐち…」
あたしの斜め上、距離にして数10センチのところから聞こえてくる2人の声。
ちょっと待ってよ、これはもしかするともしかしてもしかしなくても…かなりやばい状況なのでは?
2人を乗せて軋むベッドの振動が、すぐ側でうずくまるあたしにも伝わってくる。
ああああ、どうしよ、どうしよ…。
「ちょっ…ダメ!!!」
次の瞬間、うろたえるあたしの耳に飛び込んできたのは…矢口さんのきっぱりとした拒絶の言葉。
「はあ!?何でや!?」
「とーぶん禁止だから」
あ…禁止事項その3か。
「禁止って…ええかげんにし!!こっちはお昼ゴハンもビールも我慢してるんやで!?三大欲求禁止する気かい、ツラすぎるわ!!」
「まだ睡眠欲が残ってるじゃん」
「いらんわ、そんなモン!!」
いるだろ…。
ま、何にせよ矢口さんのおかげで最悪の事態は避けられた。
あとは2人が寝静まったところでそっと部屋を出れば、万事オッケー…自分の部屋に戻って宿題の続きをやらなければ。
- 286 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)21時57分49秒
- 「せやけど…コレばっかりは禁止したら矢口が困るんやないか?」
「どーゆー…イミだよ」
ホッとしたのも束の間、あたしの斜め上からはまたもやあやしげな会話が聞こえてきた。
「口では何言うても、カラダは正直なんやで…?」
中澤さん、お弁当やビールとは一味違う執着を見せてる…ひとみ、再び大ピンチ。
「ちょっと、やだってば…やっ…」
がんばれ…ガンバレ、矢口さん!!
「なぁ…いつもよりめっちゃ良かったら、またお弁当作ってくれる?」
「え…うん…考えてあげても…いいけど」
ちょっと待て。矢口さん…許すの早すぎ。
「よっしゃ!!言うたな?めっちゃやる気でてきた…」
「あっ…もぅ」
やばい。やばい。やばい。
どうしよう、このままでは……はじまってしまう(っていうかもうはじまってる)!!
タイミングは最悪だが、出て行くなら今しかない。
あたしは意を決してすっくと立ち上がった。
「えっ!?だれ!?うそっ、ひとみ!?」
「なっ、なんや!?いつからおったん!?」
2人はかなり驚いた様子であたしを見上げている…そりゃそうか。
「おつかれさまでしたー!!お先に失礼しますっ!!」
あたしは、伝統のバレー部で培われたこの上ないほどの爽やかなあいさつを残し、部屋を飛び出した。
- 287 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)21時59分01秒
- 自分の部屋に戻るなり、あたしはベッドに倒れこんだ。
枕元の目覚し時計を見ると…0:15の文字。
早く残りの宿題を片付けなきゃいけないんだけど、どうしてもそんな気分にはなれなかった。
寝室での2人の会話が、いつまでも耳から離れない。
ごっちん、もう寝ちゃったかな…カーテンを開けてベランダに出る。
隣の家のごっちんの部屋は、既に電気が消えて真っ暗だった。
何だかココにはいたくなくて…着替えて財布と携帯をポケットに入れると、誰にも見つからないようにそっと家を抜け出した。
玄関から外へ出ると、いきなりごっちんの家の犬に吠えられた。
コイツ…あたしはごっちんの幼馴染だぞ?隣の住人の顔ぐらい覚えとけよな…。
このままでは近所の人に気付かれてしまう…あたしは、その場から逃げるように全速力で走り出した。
あたしは走った。
心臓がぶっ壊れちゃうんじゃないかってぐらい、体育祭のリレーでアンカーやった時よりも、とにかく一生懸命走り続けた。
足を一歩踏み出すごとに、ひとつずつ忘れられるような気がして、前へ、前へ。
中澤さんは、あたしのおとうさん。
矢口さんは、あたしのおかあさん。
それは知ってる。
だけど、それは同時に2人が夫婦であることを意味するってコト…あたしはわかってなかった。
知りたくなかったよ、こんなの…もう嫌だ。
あたしはなおも走り続ける。
すべてを忘れたくて、すべてを消したくて、だけどそんなの無理に決まってるのに…。
それでもあたしは走る、走る、走る…。
「わあっ!?」
そして転んだ。
- 288 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)21時59分48秒
- 「痛ってー…」
全速力で走っていただけに、転んだ時のダメージは大きい。
あまりの痛さに、あたしはその場にうずくまってしまった。
地面に叩きつけられて痛むヒザをさする右手に…思いがけず、冷たい雫が落ちる。
違う、これは…痛くて泣いてるんだ。
決してくやしいとか、悲しいとか、そんな感情で泣いてるワケじゃないからな…って誰に言い訳してるんだ、あたしは。
そっか…言い訳する相手もココにはいないんだから、泣いたっていいんだ。
今あたしの側にあるのは…夜空と星と月だけ、他には何もないし誰もいない。
突然、携帯の着信音が鳴ってうずくまっていたあたしを驚かす。
転んだ拍子にポケットから飛び出した携帯電話は、道の真ん中に転がったまま鳴り続けている。
あたしは立ち上がると、まだ乾かない涙を手で拭きながら、それを拾い上げた。
着信を知らせる画面には、『カオリン』の文字。
「もしもし」
『あ、ひとみ起きてた?今…だいじょうぶ?』
「うん。へーき」
『なんか、急にひとみの声…聞きたくなっちゃってさ』
耳元で聞こえる飯田さんの声は、一人ぼっちだったあたしの寂しさを紛らわせてくれるには十分で。
「あたしも今…すごく誰かとしゃべりたいって思ってた」
『何だよそれ?なんか誰でも良かったみたいな言い方だよ、それって?』
電話の向こうでむくれる飯田さんの姿を想像して、あたしはちょっとだけ笑った。
- 289 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)22時00分31秒
- 『そうだ、宿題やった?国語の』
「あっ!!」
すっかり忘れてた…帰ってからやんなきゃいけないんだった。
『もしかしてまた忘れてた?しょうがないなー、ひとみは』
「ねぇ、明日学校で見せてくんない?」
あきれる飯田さんに、ダメモトでお願いしてみる。
『えーっ、ダメだよ。自分の力でやってこそ意味があるんだから…って言いたいトコだけど、特別に見せてあげるよ』
「ホント!?やったー!!」
『でも、今回だけだからね!次はなし!!』
「はいはい。わかったわかった」
あたしは、いつの間にか飯田さんと自然に話せている自分に驚いていた。
歩きながら話している間に、あたしは近くの公園に到着。
ベンチに座って、あたしは飯田さんといろんな話をした。
さっきは泣きながら見上げていたせいでぼやけていた星空が、今は本当にキレイに見える。
- 290 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)22時01分52秒
- 『ひとみ、何か変じゃない?部屋の中じゃないみたいだけど?』
30分くらい話したところで、飯田さんはようやくあたしが外にいるらしいコトに気付いた。
「うん。近くの公園に来てるから」
『はあ!?何してんの、そんなトコで!?』
「別に…何となく、散歩したかったから…」
本当のコトなんて言えるワケないから…あたしは歯切れの悪い言い訳をするしかなかった。
『あぶないって、こんな時間にさ!早く帰んなよ!!』
「うん…そうだね」
飯田さんに怒られて、しぶしぶ立ち上がる。
『じゃあ…もう切る?』
家に帰ろうと歩き出したところで、飯田さんが切り出した。
「これから帰るからさ、家に着くまで…話そっか?」
『…うん』
あたしの言葉に、飯田さんは何だかうれしそうで…飯田さんももう少しあたしと話したいって思ってくれてたのかな。
ほんの30分前、家を飛び出した時は本当に最悪な気分だったけど…帰り道はちょっとだけ幸せな気持ちになっていた。
家の前に着いても、あたしはなかなかそれを言い出せずにいた。
もうすこしだけ、飯田さんと話をしたくて、飯田さんの声を聞いていたくて。
そうすることで、自分が今一人じゃないんだってコトを実感したかったから。
だから、もうすこしだけ…。
「わっ、こら!?吠えるなって…」
『ひとみ?どうしたの?』
確かにあたしは一人じゃなかった。
ごっちんの家の犬によって、あたしたちの会話は終了した。
- 291 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月21日(土)22時02分51秒
- 翌朝、キッチンへ行くとテーブルの上にはお弁当が2つ。
ひとつはもちろんあたしのために用意されたモノで、あとひとつは…見事復活を遂げた、中澤さんのお弁当。
「はい。いってらっしゃい」
矢口さんの手からお弁当を受け取りながら、あたしはしばらく彼女から目を離せずにいた。
「ん?」
矢口さんが、不思議そうにあたしの顔をのぞきこむ。
あたしは矢口さんから目を逸らすと、受け取ったお弁当をバッグに入れる。
「いってきます…おかあさん」
さよなら、矢口さん…大好きでした。
「ひとみ、オッス!!」
「おはよ」
今日もまた、いつも通りの時間に飯田さんがやってきた。
失恋の傷を癒すには、新しい恋を探すのがいちばんってよく言うけど…あたしの場合も例外ではないのだろうか。
新しい恋、か…。
「ひとみ、何ニヤケてんの?」
「ん…何でもない」
今日は、待ちに待った梨華ちゃんの家庭教師の日だ…やば。マジ楽しみ。
- 292 名前:すてっぷ 投稿日:2001年04月21日(土)22時05分53秒
- そっちかい、と突っ込まれそうなところで終わりましたが…。
今回、少し長めの更新になりました。
相変わらず更新ペースは遅いですが、ゆっくりお付き合いただけるとうれしいです。
- 293 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月21日(土)22時57分10秒
- 吉澤くん。あっさりと、新しい環境になじんでしまいましたね。(笑
- 294 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月21日(土)23時44分08秒
- ふむ、あっさりというか何というか、かなりショックな状況ではあるわけだが、うーん。
飯田さんがいてくれてよかった、というか石川まで入れたら両手に花なのか、うーむ。
個人的にはすてっぷさんの描く吉澤と矢口の関係が好きなので、ちょっと残念というかなんというか、
とりあえずこれからも、母娘仲良くしてくれい。
なんだか訳の分からん感想ですが、とにかく面白いです。引き続き期待してます。
- 295 名前:もんじゃ 投稿日:2001年04月21日(土)23時59分02秒
- 初恋(なのかな?)が叶わなかったよっすぃーは
圭織、梨華ちゃん、どちらとうまくいくのでしょーか。
個人的によしいしが好きですが、ここの圭織は性格良くって応援したくなる(笑)
現実でもリーダーとして頑張って欲しいですね。
- 296 名前:アリガチ(HN) 投稿日:2001年04月22日(日)06時45分56秒
- ねーさん可哀相・・・と思ってたらそうでもなかったッスね(笑)
むしろ、よーっすぃー可哀相・・・と思ったら圭織イイ感じ!(笑)
りかっちがどう絡むのか気になりますねー。
- 297 名前:すてっぷ 投稿日:2001年04月28日(土)02時12分53秒
- >293 名無し読者さん
ありがとうございます。
新しい環境、とは…ムチャクチャな設定のことでしょうか、それとも新しい恋のことでしょうか?
どっちにしろ、立ち直り早すぎですね(笑)
>294 名無し読者さん
ありがとうございます。
なんか、かなり混乱させてしまったのでしょうか…すみません(笑)
吉澤と矢口の2人は、書きやすいし気に入っている組み合わせなのですが、今回は親子というとんでもない設定に
したせいで、(吉澤にとっては)ちょっと哀しい展開になりました。
でも最後ではすっかり立ち直ってるので、安心してお付き合いいただければと思います(笑)
>295 もんじゃさん
ありがとうございます。
どっちですかね…2人のどちらかとも限らないですし。もしかすると辻先生ってコトも…ってそれはないか。
飯田さん、リーダーなんですよね…大丈夫なんでしょうか?とりあえず頑張ってほしいですよね。
>296 アリガチ(HN)さん
ありがとうございます。
アリガチ(HN)さんのレスを読んでいて、今回は不幸だった人々が次々と救われていく展開だったんだと気付きました(笑)
次回は、久しぶりに石川先生が登場の予定です。
- 298 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月29日(日)19時43分11秒
- 「ゴメン、ひとみ。カオ、先帰るね!!」
辻先生のHR(とアンコール)終了後、モノスゴイ勢いで飯田さんがあたしの席にやってきた…と思ったらそのまま素通り。
ひどく慌てた様子で教室を出て行こうとしたところで、ののが閉めかけた入口のドアに思いっきり激突してうずくまるコト数秒。
苦痛に歪んだ表情のまま、ぶつけた左腕を押さえながら嵐のように去っていった…ワケわかんないなー、あいかわらず。
「ひとみー、帰ろ」
騒々しく去っていった飯田さんを見送っていると、それと入れ替わりにごっちんが顔を出した。
ごっちんは、あたしたちの隣のクラスの生徒。
そう言えば、ウチの隣に住んでるのにも関わらずごっちんと帰るのは今日が初めてだ。
いつも一緒に帰ってるワケじゃないのだろうか…。
「今日は居残り免除なんだー」
なるほど、そういうコトか…いつも居残りやらされてるから、あたしたちと下校時間が合わないってワケね。
下校途中の雑談の中で、ごっちんの驚くべきライフスタイルが発覚した。
何でもごっちんは、朝は1時間遅れで登校し、そのぶん放課後に1時間居残りで勉強させられているらしい。
フレックスタイム制の中学なんて聞いたコトないんですけど…ごっちんらしいといえばごっちんらしいか。
「そう言えば、今日カオリは?」
帰りの電車の中で、思い出したようにごっちんが言う。
「うん…先帰っちゃった。何かすごい急いでたみたいだけど」
ちょっと普通じゃなかったよなぁ…何かあったんだろうか?
「あ、そっか…。もぅ、カワイイなー…カオリは」
飯田さんが先に帰ったと聞いて、ごっちんは何やら意味深な笑い。
「なに?」
「ひとみ、考えた?まさか、チョコだけとか言わないよね?」
あたしの問いには答えず、逆にごっちんからあたしに質問してくる。
「いや…だから何が?」
『考えた?』って一体何のコト言ってるんだろ…へんなやつ。
- 299 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月29日(日)19時44分11秒
- 「だから、バレンタインだよー。バレンタイン!!」
え…?
あっ、そっか。もうすぐバレンタインか…そう言えばそんなモンがあったっけ。
中澤家の一員になってからというもの、そんなコト考えてるヒマもなかったもんな…。
「どうすんの?あさってだよ?」
「ああ…そうだよね」
今年は矢口さんに手作りチョコをあげようと思ってたけど、お母さんじゃなぁ…。何かやる気出ないっていうか…。
「梨華ちゃんにあげよっかな…」
「だれ…?りかちゃんって」
心のつぶやきのつもりが、うっかり声に出してしまっていたらしい。
ごっちんは梨華ちゃん(石川先生)と面識ないから、知らないのは当然のコト。
「誰だよ、りかちゃんって?っていうかマズイんじゃないのー、カオリに怒られるよ?」
「は?飯田さんに?何で?」
あたし、何か悪いコトでもしたかな…?
「何でって…他のコにチョコなんかあげたら怒るに決まってんじゃん。っていうかなに、『飯田さん』って?」
「あっ」
しまった、あたしまた飯田さんのコト『飯田さん』って…『カオリン』って呼ばなきゃいけないんだった。
そして、今のごっちんの言葉でようやくあたしは、ココでは飯田さんがあたしの彼女だったのだというコトを思い出した。
そっか、あたしと飯田さん、付き合ってたんだっけ(3年目)…。
じゃあ、何かプレゼントした方がいいよねやっぱり…付き合ってんだし。
とは言うものの、実際何をあげれば飯田さんが喜んでくれるかなんて、あたしにはさっぱり見当もつかない。
「何あげたらいいかなぁ?」
とりあえず、隣にいるごっちんに聞いてみる。
この世界では、彼女の方があたしより飯田さんについて詳しいはず。
- 300 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月29日(日)19時44分53秒
- 「はあ?なんでアタシに聞くの?自分の彼女のプレゼントぐらい自分で考えてよー」
それは確かにごもっともな意見なんだけど…ホントにわかんないんだもん。
あーあ、どうしよー…。
飯田さんが喜んでくれるモノ…北海道の名産品とか?
あ、でもココの飯田さんはあたしの同級生なワケだから、北海道出身ってワケじゃないんだよなー…。
うーん……わからん。
あっ、そうだ!!梨華ちゃんに相談してみよう!!
そう言えば今日は梨華ちゃんがウチに来る日じゃないか…梨華ちゃんにも何かあげたいなー、プレゼント。
梨華ちゃん、何あげたら喜んでくれるかなぁ…。
あっ、そうだ!!梨華ちゃんに直接聞いてみよう!!
そう言えば今日は梨華ちゃんがウチに来る日じゃないか…って、何か大切なコト忘れてる気がするけど、なんだっけ?
梨華ちゃん、何あげたら喜んでくれるかなぁ…。
「ひとみ…なにニヤニヤしてんの?何あげるか決めた?」
「ん?ああ、直接聞く。ちょうど今日ウチに来るし、梨華ちゃん」
「だからりかちゃんって誰だっつってんの。カオリに怒られるって、マジで」
「え?あっ」
そうだった…あたし、飯田さんに何あげようか考えてたんだった。
あーあ…どうしよっかなー。
電車に揺られながら、あたしはバレンタインに飯田さんにあげるプレゼントについてさんざん頭を悩ませたが…
結局なにひとつ浮かばないまま、電車はあたしたちが降りる駅に到着。
やっぱり、梨華ちゃんに相談してみよう。
- 301 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月29日(日)19時45分59秒
- 「「ただいまー!!」」
あたしとごっちんは、2人仲良くあたしの家に到着…ってあれ?
「ごっちん…何でついてきてんの?」
『ただいまー!!』って、あんたの家は隣でしょうが…。
「え…だっておなかすいたもん。いちいち家に帰んのめんどくさいし」
あっそ…。
「2人ともおつかれー。おやつ、すぐできるよ?」
玄関では、エプロン姿の矢口さんがあたしたちを出迎えてくれた。
「やったー!!今日はなに?」
それはあたしのセリフだと思うんだけど…ごっちん、何かウチの子みたいだなぁ。
「今日はねぇ、ホットケーキだよ。真希ちゃん、好きでしょ?」
「うん!!」
ちょっとー、何かあたし抜きで会話が進んでないか?
ココんちの子はあたしなんだぞ…まあ、ホットケーキは好きだからいいけど。
「家庭教師かぁ…カワイイの?そのヒト」
矢口さんがホットケーキ焼いてくれてるのを待ちながら、あたしたちは雑談中。
電車の中でうっかり口を滑らせてしまった梨華ちゃんのコトについて、あたしはごっちんに説明しているところ。
「え…うん、まあね」
っていうか、めちゃめちゃカワイイけどね。
「へぇー…どのくらい?」
「うーん…世界一、ぐらいかなぁ」
ちょっと言いすぎかな?
でも、ひとみの世界ではダントツにいちばんだから…世界一には違いないよね。
- 302 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月29日(日)19時46分52秒
- 「ちょっとー、それ本気で言ってんの!?」
ホットケーキ製造中の矢口さんが、突然話に割り込んでくる。
「え…なんで?」
矢口さん、なんか怒ってるみたいだけど…。
矢口さんは、フライパン片手にほっぺたをふくらましてあたしに迫ってくる。
ちょっとむくれてあたしを見上げてる矢口さん…めちゃめちゃカワイイんですけど。
やっと気持ちの整理をつけたところだったのに、そんなカオされたらまた世界一(ひとみランキング)に戻っちゃうじゃんか。
そんなコトより矢口さん、何で怒ってるんだろう?
もしかして、あたしが梨華ちゃんのコト『世界一』なんて言ったから…?
「えっと、やっぱり…おかあさんが、世界一、かなぁ…」
あたしは、途切れ途切れにせいいっぱいの告白。
今のあたしのカオ、たぶん真っ赤になってると思う…自分でもわかる。
「はあ?なに言ってんの?違うでしょ!!ひとみの世界一はカオリンでしょ!!」
「え…?あっ、ああ…」
そうでした。
「ひとみ、サイッテー!!おやつ抜き!!」
「えーっ!?」
そんな…ヒドイですよ、矢口さん。
「ははははは!!バッカだねー!!ひとみの分もアタシ食べていい?」
「いいよ。真希ちゃん食べな」
「やったね!!」
くっそー…ごっちんのヤロー。
「あっ!梨華ちゃんじゃない?」
玄関で鳴ったインターホンの音に、フライパン片手の矢口さんが反応する。
矢口さん、梨華ちゃんに会うのまだ2回目なはずなのに、もう『梨華ちゃん』とか呼んでるし…。
「あたし出る!」
あたしは、1秒でも早く梨華ちゃんに会いたくて…玄関へ走った。
- 303 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月29日(日)19時48分11秒
- 「プレゼント?」
「はい。友達の…なんですけど」
勉強の間の休憩時間に、あたしは飯田さんにあげるバレンタインのプレゼントについて早速相談してみることにした。
ただ、梨華ちゃんには友達の誕生日プレゼントってコトにしてあるんだけど。
「先生だったら、何もらうのが一番うれしいですか?」
この質問なら、同時に梨華ちゃんが今欲しいモノも聞き出せる…アタマいいじゃん、あたし。
「それってもしかして…彼女にあげるの?」
向かい合って座っている梨華ちゃんが、あたしの顔をのぞきこみながら冷やかすような口調で言った。
「ちがっ、ちがいますっ!!そんなんじゃ…」
あたしは、あわてて否定する。
「いいよぉ、照れなくたって」
「違うんです、ホントに!!飯田さんは単なる友達でっ…」
「飯田さん、っていうんだ。ひとみちゃんの彼女」
だから違うって言ってるのに…いや、ホントは違わないんだけど、梨華ちゃんにはそう思われたくないっていうか…。
「はいはい。わかったわかった」
必死の抵抗もむなしく、梨華ちゃんに軽くあしらわれてしまう。
「そうだなー…私だったら、何でもうれしいかな。大好きなヒトからのプレゼントだったら、何だって」
本人が否定しているのに、梨華ちゃんは飯田さんがあたしの彼女だというコトを前提に話を進めていた。
何でもうれしい、か…。
「そういうのがいちばん困るんですよねー…」
晩ゴハンのメニューと一緒。
『何でもいい』ってのがいちばん困る、って矢口さん(おかあさん)がボヤいてたっけ…。
- 304 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月29日(日)19時49分21秒
- 「先生だったら、何がうれしいですか?そのぉ…大好きなヒトに…もらうとしたら」
あたしは再度梨華ちゃんに質問。今度はもう少し確信に迫った言い方で聞いてみる。
「うーん、何だろー…指輪、とか?もらったらうれしいかなぁ…」
あたしは、なぜかうれしそうに目を細めながらそう言った梨華ちゃんの右手の薬指に、シルバーリングが光っているのに気がついた。
梨華ちゃんの細くて長い、キレイな指に光るクロスのリング。
シンプルなデザインなんだけど何か大人っぽいカンジがして、すごく梨華ちゃんに似合ってると思った。
梨華ちゃん、こういうシンプルなやつが好きなんだ…。
「じゃあ、今度プレゼントしますよ、先生に…指輪!!」
さすがに明後日のバレンタインには無理だけど、何ヶ月分かおこづかい貯めて…絶対に。
「え…?ひとみちゃん、飯田さんってヒトにあげるもの考えてたんじゃないの?」
「あ…」
そうだった。あたしってば、つい舞い上がっちゃって…。
「でも、先生にもあげます!あんまり高いモノは無理だけど…」
「何言ってるの?ダメだよ、そんなコトしちゃ。飯田さんに怒られちゃうよ?」
「じゃあ、飯田さんには内緒で…」
「ひとみちゃん!?いい加減にしなさい!!」
とうとう、梨華ちゃんに怒られてしまった。
だけど、その怒ったカオも…かなりカワイイっす。
- 305 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月29日(日)19時50分31秒
- 梨華ちゃんが帰った後も、あたしはずっと彼女のコトばかり考えていた。
あたしの家庭教師としてウチに来た梨華ちゃん…だけどあたしは、ぜんぜん勉強どころじゃなくて。
逆に成績下がっちゃいそうだなー…まずいよなぁ、それは。
梨華ちゃんが来てからさらにあたしの成績が下がったなんてコトになったら…。
生真面目な彼女のコトだから、責任感じてそーとー落ち込んでしまうに違いない。
よし…決めた!!
梨華ちゃんを悲しませないように。
梨華ちゃんが、ずっとずっとあたしの先生でいられるように。
今日から…がんばって勉強しよ。
あたしが決意を新たにした瞬間、玄関のドアが開く音と同時に鳴り響くインターホン。
ああ…このせっかちな行動は、ひさびさ登場のあのヒトか。
「ちわーっす!!保田屋でーっす!!」
やっぱり。
「ゴメン、ひとみ出て!」
どうやら矢口さんは、炒め物の途中で手が離せないらしい。
代わりに、あたしが玄関へ出て保田さんを出迎える。
「おっ、ひとみじゃん。少しは成績あがった?」
保田さん…第一声がそれですか?
「あの…おかあさん、今手が離せないみたいなんですけど」
あたしは保田さんの質問には答えずにそう告げた。
「あっそ」
保田さんは、あたしが彼女の問いを無視したコトを別段気にする様子もない。
「ゴメンゴメン、圭ちゃん」
そんな短いやりとりの後、すぐに矢口さんが現れたんであたしはホッとした。
保田さんに対しては、やっぱりまだ遠慮があるっていうか…2人っきりでいると何か間が持たないんだよね。
- 306 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月29日(日)19時52分25秒
- 「はい、こないだ頼まれてたしょうゆ。ちょうど近くまで来たからさ」
「さんきゅー、もうちょっとで切れそうだったんだよね」
矢口さんに、持ってきたおしょうゆを手渡す保田さん。
そしてあたしは、見つけてしまった。
保田さんの右手薬指に光る、シルバーのクロスリング。
シンプルだけどちょっと大人っぽくて、すごく梨華ちゃんに似合ってるなーって思いながら眺めていた、あれとまったく同じモノ。
「あーっ、どうしたの圭ちゃん?その指輪、めっちゃカワイイー」
「ああ…コレ?あたしはヤダって言ったんだけどね…どうしてもしろってうるさくてさー」
「いやー、カワイイねぇ…梨華ちゃん。いいなぁ、あたしも裕ちゃんに買ってもらおっかなー」
矢口さんたちの会話が、とても遠くの方から聞こえているような気がした。
ただぼんやりと、薬指のリングが左手じゃなくてよかった、なんてコトを考えていた。
「おかあさん…知ってたの?石川先生と、保田屋さんのコト」
保田さんを見送って、キッチンへ戻ろうとする矢口さんに尋ねる。
「え?ああ、だって圭ちゃんに紹介してもらったんだもん。ひとみの家庭教師にさ、ちょうどいいコがいるって」
そっか…そういうコトだったんだ。
さっき保田さんがあたしに『成績あがった?』って聞いてきたのも、単なるイヤミじゃなかったんだ。
みんな、知ってたんだ。
そして、あたしだけが知らなかったんだ。
あーあ、バッカみてー…。
- 307 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年04月29日(日)19時54分04秒
- 「ひとみ?もうゴハンできるよ?」
「いらない」
そんな気分じゃない…あたしは、階段を駆け上がると自分の部屋へ逃げ込んだ。
ドアを閉めると、電気もつけずにそのままベッドに潜り込む。
矢口さんに失恋したばっかりなのに。
今度は、梨華ちゃんをあきらめなきゃいけないんですか?
あたし、そんなに日頃の行いが悪いんですか?
神様の、ばかやろー…。
「…っ…っっく…っ」
今日は、昨日みたく転んだワケでもないのに、どこも痛くないのに、泣いてる。
くっそー…言い訳のしようがないじゃんか。
こんなに泣いて、明日の朝起きたらきっとヒドイ顔になってるんだろうな…。
そうだ。学校なんか、休んじゃえばいいや。
もう勉強なんてする必要もないし、どうせやる気も起きないし、どうでもいい。
ぜんぶ、どうでもいいや…。
突然、携帯の着信音が鳴って、カラダがびくんと反応する。
あたしは、その音が聞こえないように頭から布団をかぶった。
だけどその音は、なかなか鳴り止んではくれない。
誰だよ、うるさいよ、もう…ほっといてよ。
あたしは、布団の中で耳をふさいでうずくまる。
留守電に、しとけばよかった。
真っ暗な部屋で、携帯の着信音だけが…いつまでも鳴り響いていた。
- 308 名前:すてっぷ 投稿日:2001年04月29日(日)19時56分08秒
- 何だかタイトルとは遠くかけ離れた展開になってきて、あんまり楽しくないナカザワ一家
になりつつありますが…最後までよろしくお付き合いください。
- 309 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月30日(月)00時04分24秒
- 今回、吉澤くんの不幸度数が、ずいぶん上がってますね(笑
はたして吉澤くんの楽しい日々は巡ってくるのか?
- 310 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月30日(月)00時13分42秒
- 飯田がいるだろ!!
- 311 名前:アリガチ(HN) 投稿日:2001年04月30日(月)01時48分53秒
- なんで素直に圭織とラブラブになろうとしないのだ!?(笑)
っつーか、自ら不幸な道へと進んでますね、よっすぃーってば。
- 312 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月30日(月)02時27分56秒
- ああ、精一杯の告白の返事が「はあ?」(笑) お母さんじゃねえ。
そうはいってもお母さん矢口とは毎日顔を合わせるわけだし、家庭教師も続くのなら
やっぱり、けっこうつらい状況だなあ。
やはりここはひとつ、ニューリーダー飯田さんに慰めてもらうしかないか。
でも彼女なのにそれじゃ変な役回りだな。(笑)
- 313 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月01日(火)07時26分40秒
- 楽しすぎる・・・て、吉澤君。
すぐ側にある愛に早く気付けよ(w
これからも頑張って下さい。作者様。マジ楽しみっす。
- 314 名前:すてっぷ 投稿日:2001年05月02日(水)20時31分09秒
- とりあえず、今回の更新で最終回となります。
結構長くなってしまったのですが、最後まで読んでいただければと思います…。
>309 名無しさん
ありがとうございます。不幸度数…急上昇ですね。
今までと違ってちょっと笑えない不幸が続いていますが、楽しい日々が戻るのかは
…ラストでご確認ください(笑)
>310 名無し読者さん
ありがとうございます。本当に、おっしゃる通りですね(笑)
>311 アリガチ(HN)さん
ありがとうございます。この話の、吉澤の飯田に対する態度はちょっとひどいモノが
あったので、突っ込まれそうな気はしていました(笑)
このまま不幸道を行くのかどうか、最後まで読んでいただけるとうれしいです。
>312 名無し読者さん
ありがとうございます。
たしかに関係者全員、一家に出入りしている人達なので、かなりつらい状況ですね。
お母さん矢口に石川先生、そして保田屋(笑)。
この3人は、最後まで吉澤を惑わせそうです…。
>313 名無し読者さん
ありがとうございます。そう言っていただけると本当にうれしいです!
ナカザワ一家は今回で最後なのですが、また短めのやつを書きたいと
思っていますので、その時はまた読んでいただけるとうれしいです…。
- 315 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時32分28秒
- 「ひとみ、どうしたの?具合でも悪い?」
「うん。今日…学校休む」
翌朝、矢口さんに揺り起こされたあたしは、布団をかぶったままで彼女の問いに答える。
「えーっ…仮病じゃないでしょーね?」
そう言うと矢口さんは、あたしが頭からかぶっていた布団をはぎとり…あたしのおでこに手を当てた。
「ほら。ないじゃん、熱。やっぱ仮病だ」
ひどい…熱がないからって必ずしも仮病とは限らないのに(仮病だけど)。
「熱はないけど、アタマ痛いの!!」
あたしは再び頭から布団をかぶる。
昨日の夜さんざん泣いたせいで、きっとあたし、ヒドイ顔してる…たぶん、目とか腫れちゃってる。
こんな顔で学校なんか行きたくないし、第一そんな気分じゃない。
「しょうがないなー…もぅ。おなかは?昨日の夜から食べてないでしょ?」
「いらない」
「いらないって…もしかしてホントに具合悪いの?」
…まだ疑われてたんですか、あたし。
「ったくもっと早く言えっつーの。もうすぐカオリン来ちゃうじゃん」
あ、そっか…。
飯田さん、今日もいつも通りあたしのコト迎えに来るよね…電話しとけばよかったかな。
「とにかく、今日はおとなしく寝てなさい。わかった?」
「…はい」
地中深く潜り込んだままで矢口さんに返事を返すあたし…なんだか、モグラみたいだ。
このまま深く深く潜って、地球の裏側にまで行けたらなー…。
- 316 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時33分45秒
- 矢口さんが部屋から出て行って少し経ってから、あたしはベッドを抜け出した。
昨日の夜ずっと鳴り続けていた携帯の着信履歴を確認する。
『19:32 カオリン』
『21:32 カオリン』
『23:32 カオリン』
すっげー…。ぴったり2時間おきだよ…なんとなく飯田さんらしいけど。
そしてさらに2時間後の深夜1時32分には、同じく飯田さんから今度はメールが入っていた。
『カオリ、もう寝るね。おやすみなさい』
飯田さん、今日学校なのにこんな遅くまで起きてて大丈夫だったのかな?
いつもならそろそろ飯田さんがウチに来る時間だけど…。
あたしは持っていた携帯を机の上に置くと、カーテンを開けて窓の外を見る。
矢口さんに、あたしが欠席するコトを聞いたのだろう…駅の方に向かって一人歩く飯田さんの後姿が見えた。
だんだん遠ざかっていく飯田さんの姿が完全に消えるのを見送って、あたしはカーテンを閉めた。
そして、再びベッドに潜り込んで目を閉じる。
「ひとみ…起きてる?」
目を閉じてウトウトしてきたところで、部屋のドアが開く音に続いて矢口さんの声。
「おかゆ、作ったけど食べる?」
食べ物と聞いて、あたしは布団から顔を出した。
上半身をむくっとおこして矢口さんの方を向く。
「食べる」
さっきは『いらない』って言ったけど、昨日は晩ゴハンも食べずに寝ちゃったから…。
ホントはおかゆなんかじゃなくてもっとちゃんとしたモノを食べたいところだけど、病人なんだからしょうがないか。
- 317 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時34分31秒
- 「はい。あーんして?」
矢口さんが、ベッドに腰掛けておかゆを掬ったスプーンをあたしの口元に近づける。
「いっ…いいよ、自分で食べるから!!」
ホントはうれしいんだけど、なんだか照れくさくて…あたしは矢口さんの手を遮る。
あわててたせいで、怒ったような口調になってしまって…少し後悔した。
「なんでそうやって反抗的な態度とるかなー…」
案の定、矢口さんはあたしの機嫌が悪いのだと誤解してしまった様子。
あたしは、気まずくなって俯いた…まさか、『照れちゃいました』なんて言えないし。
「病気のときぐらいさ…あまえてよ?」
「えっ…」
思いがけない矢口さんの言葉に、あたしは驚いて顔をあげる。
「昨日だって何にも言わないで2階に上がったままで…晩ゴハンも食べてくれないし。
なんか、ひとみがどんどん遠くに行っちゃうみたいでさ…さみしいよ」
矢口さん…。
「ゴメン。あたし…ちゃんと食べる」
「食べさせてほしい?」
「…うん」
観念したあたしは、ベッドの上にきちんと正座すると両手をひざの上に乗せた。
「あははっ、なにかしこまってんの?へんなのー。はい、あーん…」
土砂降りだったあたしの心を、優しく照らしてくれる矢口さんの笑顔はお日さまみたいにあったかくて。
このヒトはいつでも、どんな時にもあたしのコトを考えてくれているんだって思ったら…すごくうれしくなった。
「おいしい?」
「うん」
ありがとう…おかあさん。
- 318 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時35分14秒
- 『ひとみちゃん、見て?カワイイでしょ?大好きなヒトにもらったんだよ』
そう言って薬指の指輪を見せる梨華ちゃん。
芸能人の婚約発表会見みたく、顔の高さまであげた右手を表にしたり裏にしたりしながら、あたしに微笑む。
『ひとみ、見て?カワイイでしょ?あたしはヤダって言ったんだどさー、どうしてもしろってうるさくてさ』
そう言って薬指の指輪を見せる保田さん。
芸能人の婚約発表会見みたく、顔の高さまであげた右手を表にしたり裏にしたりしながら、あたしに微笑む。
保田さんに恨みはないけど、コイツだけは許せない。消えろ…保田屋。
「ちっくしょー…」
矢口さんのおかげで立ち直れるかと思ったのに、なんて夢だろ…最悪。
矢口さんの作ってくれたおかゆで空腹が満たされて眠りについたあたしは、悪夢にうなされて再び目覚めた。
右手を伸ばして枕元の目覚まし時計を掴む。
16:35…うそでしょ。朝、おかゆ食べてからずっと寝てたのか…結構眠れるモンなんだなー、人間って。
ベッドの上でしばらくぼんやりしていると、メールの到着を知らせる着信音。
あたしは、寝すぎでぼーっとした意識のまま、ゆっくりとベッドから抜け出した。
今着いたばかりのメールをチェックする。
『風邪だいじょうぶ?今日はちょっと用事があってお見舞い行けないんだ、ゴメンね。明日は来れそう?カオリ』
飯田さん、あたしのコト心配してメールくれたんだ…。
『今朝はゴメン。頭いたくて起きれなかったんだ。明日も、たぶん無理かも。ひとみ』
明日もあさっても、もしかしたら一生無理かもしれない。
あたしが風邪で休んだと思ってる飯田さんに嘘をついたことに罪悪感を感じつつも、あたしは彼女への返事を打った。
- 319 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時36分18秒
- 夕食を済ませて自分の部屋に戻ったあたしは、ベッドに腰掛けてポケットから携帯を取り出す。
今夜は、飯田さんからの電話がない。
メールの返事を出すと、すぐにかかってくるのがいつものパターンなのに…どうしたんだろう?
何かあったのかな…。
なんとなく落ち着かなくて部屋の中をうろうろしながら、あたしは気がついた。
あたし…飯田さんからの電話を待ってる。
昨夜の飯田さんも、今のあたしと同じ気持ちであたしからの電話を待っていたんじゃないだろうか。
待ってる間ずっと、落ち着かなくて、不安で。
なのにあたしは、自分のコトばっか考えて…飯田さんがどんな気持ちでいるかってコト、全然わかってなかった。
そして、今までずっと気付かないフリをしてきた事実。
あたしと飯田さんは、付き合ってる。
つまり飯田さんは…あたしのコトが好きなんだ。
そんな飯田さんをまるっきり無視して、勝手に失恋して勝手に落ち込んでいたあたし…サイテーだ。
『ゴメン。明日も行けそうにない。ひとみ』
あたしは、短いメールを打つとすぐにベッドに入った。
あたしみたいなサイテー人間には、夢の中で悪夢にうなされてるぐらいの方が、きっとお似合いなんだ。
- 320 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時37分09秒
- 「ひとみ、起きて!まさか今日も休む気じゃないよね?」
今日も学校を休む…そう決めて飯田さんにメールしたのはいいけど、まだ最後の砦、矢口さんが残ってたんだった。
「…休む」
「はあ!?もぅ!ちょっと甘いカオするとすぐ調子に乗るんだから!!」
昨日の朝と同じように、矢口さんはあたしから布団をはぎとると、あたしのおでこに手を当てる。
「ないじゃん、熱!!仮病でしょ。絶対、仮病!!今日という今日はぜったい仮病だからね!!」
『今日という今日はぜったい仮病』って…意味がよくわかんないんですけど。
「熱はないけど、おなか痛いの!!」
昨日は頭痛だったから今日は腹痛にしてみました。
「そんなんでダマされると思ってんの…バカじゃない?殺すよ?」
朝っぱらからそんな物騒なコト言わないでほしい…矢口さん、そーとー怒ってる。
「ホントに痛いんだもん。あたったみたい、昨日の…おかゆ」
矢口さん、ごめんなさい…ウソです。
「はあ!?なにそれ、なんてコト言うの!!って、それホント!?」
矢口さんの言葉に、力なく頷くあたし…我ながら病人っぽい演技が板についてきたと思う。
「そっかぁ…。やっぱり、お義父さんに頼んだのが間違いだった…」
えっ…ちょっと待って。
「アレ、あいぼんが作ったの!?」
「うん。ひとみのために自分が作る、って騒ぐから…頼んじゃった」
「へぇー…そうだったんだ…」
どうしよう、ホントにあたってるかも…。
- 321 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時37分52秒
- 昨日寝すぎたせいでベッドに入っても全然眠れなくて、部屋で本読んだり寝転んでぼーっとしたりして過ごした。
梨華ちゃんのコト、そして飯田さんへの罪悪感。
いろんなコトが頭の中でぐるぐる回って気持ちが悪い。
アタマの中は霧がかったみたいにぼんやりしてるし、昨日から一歩も外に出てないせいで何となく体がダルい。
ベッドに寝転んだまま枕元の時計に目をやる…18:00。
晩ゴハンまでまだ時間あるし、散歩でもしよっかなー…このままココにいても気が滅入るだけだし。
あたしは、ジャージ姿のまま財布と携帯を持つと部屋を出た。
下へ降りると、矢口さんはキッチンで晩ゴハンの支度中。
足音を立てないようにすり足で玄関まで行くと、そっとドアを開けて外へ出る…脱出成功。
ごっちんの家の犬に吠えられないように注意しながら、近くの公園へ向かって歩いた。
それにしても、寒い…もっと厚着してくるんだった。
こんな真冬に、Tシャツ(半袖)とジャージの上着だけではかなりツライものがある。
このままだとホントに風邪ひきそう…あっ、そしたらもう一日学校休めるかな。
しばらく歩いて目の前に目的地である公園が見えたとき、ポケットの中で携帯が鳴った。
あたしは慌てて右のポケットからそれを取り出して表示を確認する…飯田さんだ。
「もしもし」
『あ…ひとみ、起きてた?ゴメンね、具合悪いんでしょ?』
久しぶりに聞く飯田さんの声…あたしは素直にうれしかった。
「ああ…もう大丈夫。ゴメンね、何か心配かけちゃったね」
『大丈夫って…ホント?ホントに大丈夫?熱とかは?ねぇ…』
歩きながら話してたあたしは、ちょうど公園の中に入ったところで前方に見覚えのある後姿を発見。
あれは…飯田さん?
あたしは後ろからゆっくりと彼女に近づく。
- 322 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時38分48秒
- 『あのさー…今から、そっち行っていい?』
「えっ、もしかしてお見舞いに来てくれんの?」
そっと近づいておどかしてやろう…あたしは彼女の背後から忍び寄る。
『うん、それもあるけど…ちょっと、渡したいモノあるからさ』
「でもあたし、今ウチにいないんだよねー」
あたしは既に飯田さんの背後3mくらいのところまで来ていたが、彼女はまったく気付く様子がない。
『え…?ウチにいないって…どこにいんの?』
「うしろ。見てみて」
『え…?きゃあああああああーーーーっっ!?』
「うわっ!?」
耳がぶっこわれるかと思った…携帯持ったままで大声出さないでくださいよぉ。
しかも『きゃあ』って、何で悲鳴あげてるんですか…。
「もぉー…やめてよ!びっくりするじゃんよー!!」
「ゴメン…」
まだ、耳鳴りがやまない…。
「でもよかった…元気そうで」
飯田さんのうれしそうな顔を見て、あたしは仮病使って学校休んだコトを死ぬほど後悔した。
一人きりの部屋でじっとしてるより、飯田さんと一緒にいた方が…何十倍も何百倍も元気になれたはずなのに。
「はい、コレ」
突然、少し大きめの紙袋をあたしの目の前に差し出す飯田さん。
- 323 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時39分49秒
- 「ハッピーバレンタイン!!ねぇ、あけてみて?」
あ、そっか…すっかり忘れてた。
今日、バレンタインデーだったんだ。
「うん…」
飯田さんにもらった袋をあけて、そっと中身を取り出す。
「セーター…?」
中から出てきたのは、ふわふわしてて、あったかそうな紺色のセーター。
「それ編んでたら時間なくなっちゃってさ、今年はチョコ作れなかった…ゴメンね?」
もしかして、あの日あんなに急いで帰ってたのも…コレを作るため?
夜中1時32分のメールも、コレ作ってたからあんなに遅くまで起きてたの?
それから、それから…。
「イニシャルのとこ…ひとみがぜんぜん電話くれないから、カオリが勝手に決めちゃったよ?」
イニシャル…?
あらためて、飯田さん作のセーターを広げてみると…左胸のところに小さく『H』の文字。
『H』か…なんかアレだけど、別にイニシャルだし、『Hitomi』のHなんだから間違いじゃないワケだし。
っていうか、『勝手に決めた』ってどういうコトだろ…『H』か『N』(中澤)かで迷ったってコトかなぁ?
「ローマ字にしようか、ひらがなにしようかどっちがいいか聞こうと思ったんだけど」
「ひらがな…?」
ひらがなでイニシャルって…『ひ』(もしくは『な』)ってコト?うそでしょ…。
「ねぇ、どっちが良かった?正直に言って?気に入らなかったら直すからさ」
「いや、ローマ字が良かったけど」
本当に、心からローマ字で良かったと思ってます…。
「ホント?いやー、やっぱあたしたちってさ、心が通じ合ってんだね。以心伝心ってやつ?」
「ああ…そうだね」
普通、『ひらがなが良い』って言うヤツいないと思うし…。
- 324 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時40分53秒
- 「ちょっ…なにやってんの、ひとみ!?」
突然ジャージの上着を脱ぎだしたあたしを見て、飯田さんが驚く。
「ちょうど寒かったから、着てみる」
脱いだ上着を飯田さんに持っててもらって、Tシャツの上から彼女にもらったセーターを着てみた。
「似合う?」
「うん。っていうか、カオが作ったんだから似合うに決まってるでしょ!!」
そんな怒んなくたって…照れ隠しだってのはわかってるんだけど。
「コレ…すごいあったかい。さっきまで、ホント寒かったから…」
本当に、寒かったんだ。
部屋の中でどんなにあったかくしてても、ベッドに潜り込んでても…氷の中にいるみたいに、寒くて。
コーンスープ。
セーター。
飯田さんは、寒いのが苦手なあたしに、いつもあったかいモノをくれる。
そして彼女といると…不思議と心の中まであったかくなるみたいな気がする。
「ありがとう…カオリン」
あたしは、ごく自然にそう呼んでいた。何の違和感も抵抗もなく。
「どういたしまして」
飯田さんは、そう言って笑った。
「ゴメン、あたし…何も用意してなくて」
梨華ちゃんのコトでアタマ一杯で、バレンタインのプレゼントなんてすっかり忘れてた…サイテーなあたし。
いくら謝っても足りないけど、許してもらえるまで何回だって謝るつもり。
「いいよ、そんなのいつものコトじゃん」
「え?」
てっきり怒鳴られるかと思ってたのに、飯田さんはあっさり許してくれる。
いつものコトって…?
- 325 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時42分03秒
- 「バレンタインもホワイトデーもクリスマスも、カオリの誕生日だっていっつも忘れててさ。
そんでいっつも、『ゴメン』とか言って…」
話だけ聞くとかなりヒドイ仕打ちだと思うんだけど、飯田さんは怒っている風でもなくむしろうれしそうに見えた。
「なんで…」
「えっ?」
「なんで、そんなやつと付き合ってんの!?サイテーじゃん!!」
だって、大切なヒトの誕生日まで忘れてるようなやつなんだよ?
っていうか、それってあたしのコトなんだけど、あたしだったら絶対にそんなコトしない。
ってしてるか…すっかり忘れてたもんなー、バレンタイン。
「カオリは、ひとみからプレゼントもらってるよ。いつも。毎日」
「え…?」
どういうコト…?
「ひとみがいつも側にいてくれるコトが、カオリにとっては一番うれしいプレゼントだもん。
だから、毎日が誕生日みたいなカンジ?」
少し照れながらそう言った飯田さんは、何ていうかすごく…かわいかった。
「誕生日だけじゃないよ。毎日、バレンタインとホワイトデーとクリスマスがいっぺんに来たみたいなさ。
あとは何だろー…創立記念日でしょ、成人の日、みどりの日、体育の日、文化の日、勤労感謝の日、イイ夫婦の日でしょ、
それからえっと…」
「カオリン」
このままだと全ての祝日や記念日を挙げそうな勢いだったので、あたしは彼女の話に割り込む。
- 326 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時43分27秒
- 「ん?」
あたしが呼ぶと飯田さんは喋るのを止めて、その大きな瞳であたしの顔をじっと見つめる。
「あのさ…」
ちゃんと言わなきゃ、って思った。
あたしの知らない間に、あたしは飯田さんと付き合ってるコトになってて…だけど、あたしにそんなつもりは全然なくて。
最初はそうだったけど、でも今は…今の自分の気持ちを、ちゃんと伝えなきゃって思った。
「好きです。付き合ってください」
1年の時から付き合い始めて今年で3年目。
もしあたしの方から告白したんだとしたら、飯田さんにとっては2度目に聞くセリフになるんだろうか。
だけど今のは、今ココにいるあたしの、ありのままの気持ち。
「それ…どういうコト?」
やっぱり、飯田さんにとっては意味不明だよなー…今のあたしの告白。
「えっと…ホラ、今までさ、カオリンに迷惑かけっぱなしだったじゃん?だから初心に戻ってじゃないけど、なんかそんな感じでさ。
もっかい、ちゃんとやり直したいっていうか…ゴメン、何かワケわかんないね」
しどろもどろになるあたしを、飯田さんは楽しそうに眺めている…何かバカっぽいなー、あたし。
「初心か…いいね、それ。大切なコトだもんね、それって」
今のあたしの説明でわかってくれたんだろうか…飯田さんはえらく納得している様子。
- 327 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時44分36秒
- 「はじめまして、飯田圭織です。札幌の中学校から来ました。よろしくお願いします」
そう言うと飯田さんは、急にかしこまってあたしにおじぎする。
飯田さんって、転校生だったんだ…。
ただ、あたしが『初心に戻りたい』って言ったのは付き合い始めた頃って意味であって、今のはちょっとさかのぼり過ぎなんじゃ…。
「カオリ、なかなかクラスになじめなくてさ…ひとみがいちばん最初に声かけてくれたじゃん?すごくうれしかったんだ、あの時」
へぇ、そうだったんだ…。
はじめまして、か…それもいいのかもしれない。
あたしたちは、まだお互いのコトをよくわかってない。少なくともあたしは。
あたしはまだ飯田さんのコトについて全然知らないし、だからこそ彼女のコト、もっともっと知りたいと思ってる。
だから、あたしたちが出逢ったところから…はじめから、やり直せばいいんだ。
『はじめまして』から、もう一度。
「はじめまして、中澤ひとみです。えっと、好きな食べ物は、ゆでたまごとコーンスープ」
「…違う」
違う、ってなんだよ…人がマジメに自己紹介してるのに。
「ひとみ、『お母さんの作った』コーンスープって言ってた、あの時」
「そう、だっけ…」
あたし、そんなコドモみたいなコト言ってたんだ…1年の時だからしょうがないか。
「やりなおし」
ったく、妙なトコ細かいんだから…。
- 328 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時45分39秒
- 「はじめまして、中澤ひとみです。好きな食べ物は、ゆでたまごと…カオリンの作ったコーンスープ」
ちょっとだけ変えちゃったけど…また『違う』って怒られるかな。
「なっ、なに気ぃつかってんだよ…」
「つかってません」
だって本当のコトだし。
「じゃあ…これからもよろしく」
あたしは、まだ照れくさそうに俯く飯田さんの目の前に、自分の右手を差し出した。
「…うん。これからもよろしく」
あたしが差し出した右手に、飯田さんの右手が重なる。
仲直り、じゃないな…はじまりの、握手。
「カオリン」
あたしは、まだつないだままの右手を自分の方へ引き寄せた。
「ひとみ…」
そして、左手を飯田さんの肩にそっと添える。
それと同時に、あたしより背が高い飯田さんは少しだけ身をかがめると、静かに目を閉じた。
『初心に戻る』とか言っといてこんなコトするのもアレなんだけど…それはそれ、コレはコレ。
すこしずつ、近付いていく…2人の距離。
飯田さんの唇まであと数センチの距離に迫ったところで、あたしは、ゆっくりと目を閉じた。
- 329 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時46分56秒
- 「…ひとみ、ひとみ!!コラ!!ふざけてないで、早く起きなさい!!」
ん…だれ?
この声…矢口さん?
「ん?うわっ、うわあああっっ!!!」
目を開けるとそこにあったのは…あと数センチの距離にまで迫った、おかあさん(本物)の唇。
あたしは、寝ぼけておかあさんの首に両腕を回していたらしい。
「おぇぇぇ…」
危なかった…もう少しでおかあさんとキスするところだった。
「早くしなさい。遅刻するよ」
「…はい」
ゆっくりと、ベッドから這い出す。
夢、だったんだ…そりゃそうか。
あんなの、現実にあるワケないよね…でも結構楽しかったな、いろいろあったけど。
- 330 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時47分59秒
- 洗面所で顔を洗いながら、あたしは考えていた。
どうして、飯田さんだったんだろう…あたしの、彼女。
普段から、飯田さんとはあんまり喋ったコトもないし、接点ないのにどうして…?
玄関で靴を履きながら、あたしはひとつの結論に達した。
…接点がないからだ。
あたしは飯田さんについて、あまり深く知らない。
知らないからこそ飯田さんのコト、もっともっと知りたいって思ってたのかも知れない、心のどこかで。
あたし、飯田さんとキスしようとしてたよな…最後。
夢のラストシーンを思い出して、急に恥ずかしくなった。
夢には自分の願望が表れるって言うけど…もしかして、あたし。
まあ、とりあえずそれは置いといて…今日飯田さんに会ったら、あたしの方から話しかけてみようかな。
もっともっといろんな話をして、もっともっと飯田さんのコト、知りたいと思う。
さすがに、『カオリン』とは呼べないけど…もしかしたら、いつかきっと、そう呼べる日が来たりして。
「いってきまーす!!」
晴れ晴れとした気持ちで、玄関のドアを開ける。
今日は午後から仕事で飯田さんに会える…なんだか楽しみになってきた。
- 331 名前:楽しいナカザワ一家 投稿日:2001年05月02日(水)20時49分37秒
- 「ひとみ…おはよ」
「え…」
勢いよくドアを開けると、目の前に一人の女のヒトが立っていた。
「中澤…さん?」
どうしたんですか、金髪にセーラー服がよくお似合いで…『○ちゃんの仮装大賞』か何かですか?
「いややわ…何の冗談?いつもみたく『裕子』って名前で呼んでよ…」
そう言ってはにかむ中澤さん。
冗談はそっちでしょ…早くタネあかししてくださいよ、ホラ、ロケだって言ってくださいよ、はやく…。
「ホラ、はやくぅ。『裕子』って…」
「………」
あたしが、この悪夢から目覚める日は来るのだろうか?
それとももうとっくに覚めていて、あたしが現実だと思っていた世界はただの夢で、あたしが夢だと思っているこの世界こそが現実?
「ひ・と・み」
眩しいほどの金髪で、恥ずかしげもなくセーラー服姿を披露する中澤さん(27)を見ていたら…
そんなコトは大した問題ではないような気がしてきた。
「ゆっ、ゆう…こ」
言っちゃった…あたしって、ホント適応能力バツグンだなー。
コレならどこへ行ってもうまくやってけるね、きっと…。
次に目覚めるときは、さっきまで住んでたカオリンのいる世界がいいなぁー…。
せっかく分かり合えたのに。せっかく気持ちが通じ合えたと思ったのに。
全てを失った今なら言える…カオリン、愛してる。
「ひとみぃ…おはようのチューして?」
「嫌です」
<END(LESS)・・・>
- 332 名前:すてっぷ 投稿日:2001年05月02日(水)20時52分33秒
- 『楽しいナカザワ一家』、これにて終了です。
書いているうちにだんだん話が膨らんできて…終わらせ方については
最後まで悩みましたが、結局当初から予定していたラストに落ち着きました。
読んでくださった方々、レスくださった方々、本当に本当にありがとうございました。
また、感想などいただけるとうれしいです…。
- 333 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月02日(水)21時04分54秒
- そーきましたか。(笑
まいりました。
最後に中澤さんで〆るあたりぬかりなし。
次の話楽しみにしています。
- 334 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月02日(水)23時11分30秒
- ラストが爽やかに終わるかと思ったら……(w
いろんなところでいっぱい笑わせてもらいました。
いしよし好きとしては途中辛い場面もありましたが(w
- 335 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月02日(水)23時55分22秒
- お疲れ様です。毎回更新楽しみでしたー。
ほんとおもしろかったです!!
あいぼんって呼んでってわめくおじいちゃんとか(笑)。
334さんと一緒でいしよし好きにはつらかったですが、
かおりんーいいやん。って感じでした。かおり素敵ですね。
また、中澤さんで続きみたいです!!
- 336 名前:もんじゃ 投稿日:2001年05月03日(木)00時36分33秒
- いやー、大変面白かったです。
特にラストのよっすぃー(あ、今回はよっすぃーじゃないのか?)の
きっぱりした答えが(笑)
ホント毎回大笑いしながら楽しく読んでました。
次回作も楽しみにしています。
体調に気をつけて頑張ってくださいねー^^
- 337 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月03日(木)07時43分52秒
- いやー、ほんとに読んでる方にとっては、のっけから最後まで「楽しい」中澤一家でした。
吉澤にとっては山あり谷ありで、最後は谷底で終わったような気もしますが。(笑)
でもエンドレスならそのうち、矢口や石川のときもあるかも。、めげるな吉澤。
ステップさんの話は、最後に新しい視点が広がるところが好きです。その後ラストで落とすところも。(笑)
お疲れさまでした。また、赤板の方とともに、次回作期待してます。
- 338 名前:エゴイスト 投稿日:2001年05月03日(木)22時26分53秒
- お疲れさまでしたー!!ここのストーリーってほんとに
面白いんですよね。私、パソコンの前で1人でニヤニヤ
してしまう時とかあって(怪しい)・・また、この物語
は、吉澤がすごいピタッとあてはまってて。密かなやぐよし
だったり、いしよしだったりで・・次回作も期待してます★
辻先生の授業とか、受けてみたかったなあ〜・・・(w
あと、矢口ママもめっちゃ良かったです。想像しただけで・・
- 339 名前:レイコ 投稿日:2001年05月04日(金)01時12分25秒
- サイコーでした!!
本当にお上手ですね。いつも楽しませてもらって感謝です。
次回作も期待してますよ!
- 340 名前:アリガチ 投稿日:2001年05月04日(金)11時01分25秒
- シリアス&笑いのバランスがなんともイイ感じでオチまで素敵だ(笑)
すてっぷさんが書く話ってメチャ好きですわー。
これからも頑張って下さい!
- 341 名前:かんかん 投稿日:2001年05月05日(土)20時33分34秒
- パソコンは我が家のリビングニ置いてるんで、パソコン見ながら
笑ってる私に母に気持ち悪いって言われちゃいました。
個人的には吉澤&飯田くっついて欲しかったけどめちゃおもろかったんで
許すとしよう(爆
- 342 名前:すてっぷ 投稿日:2001年05月06日(日)18時57分14秒
- 最後まで読んで下さった方々、本当にありがとうございました!!
>333 名無し読者さん
ありがとうございます。タイトルのわりにあまり出番のなかった中澤さんなので、最後にぜんぶ
持ってってもらいました(笑)。ラストでようやく、楽しい『ナカザワ』一家、になりました。
>334 名無しさん
ありがとうございます。辛い場面…すいませんでした(笑)。いろんなところで笑って
いただけたということなので、許してもらえたということかなー…と勝手に解釈しております(笑)。
>335 名無し読者さん
ありがとうございます。今回、飯田がいい人すぎたかなと思ったのですが、そう言っていただけて
良かったです。中澤さんで続きは…書いてみたいとは思うんですけど、この2人が理解し合うには
かなり時間かかりそうですよね(笑)。ムダに長い大長編になりそうな気がします(笑)。
>336 もんじゃさん
ありがとうございます。ラスト(の吉澤と中澤の会話)は更新直前に付け足したものだったので
そう言っていただけて安心しました。体調までお気遣いいただき(笑)、ありがとうございます。
頑張って書きますので、次回も読んでいただけるとうれしいです。
- 343 名前:すてっぷ 投稿日:2001年05月06日(日)18時58分16秒
- >337 名無し読者さん
ありがとうございます。今回、ラストに関してはギリギリまで悩んだのですが、結局たたみかける
ように落としてしまいました(笑)。正直、ここまで引っぱっといて怒られるかも…と思っていたので
そう言っていただけて、ひと安心です。こちらにかまけて案の定、赤板の更新が遅れているのですが
…頑張ります(笑)。
>338 エゴイストさん
ありがとうございます。パソコン前にしてニヤニヤ…はたから見たらちょっと怪しいかもですね(笑)。
書いてる方としては、めちゃめちゃ嬉しいんですが(笑)。
吉澤は、娘。の中で一番フツーっぽい感じがして、一人称で書き易いんですよね。
っていうかそれしか書いたことないんですけど(笑)。
>339 レイコさん
ありがとうございます。こちらこそ、レスいただいて感謝です!!とても励みになりました。
次回もまた読んでいただけるとうれしいです。
>340 アリガチさん
ありがとうございます。全編シリアスというのもいつかは書いてみたいのですが…たぶん無理でしょうね(笑)。
どちらも中途半端にならないようにとは心がけているのですが、バランスってなかなか難しいですね…。
次回もお付き合いいただけるとうれしいです。
>341 かんかんさん
ありがとうございます。気味悪がられてしまったんですね…すいません(笑)
一応、オチ部分さえ読まなければ、吉澤・飯田のハッピーエンドに見えるようにレスの区切り方を
考えたんですが…ダメですか?(笑)
- 344 名前:名無しさん@計 投稿日:2001年05月08日(火)23時50分12秒
- 胡蝶の夢みたいなカンジでしたね。
- 345 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月12日(土)10時26分49秒
- をー、初めて読んだけど面白いッスね〜
次回作期待なのです。
- 346 名前:すてっぷ 投稿日:2001年05月13日(日)04時18分58秒
- >344 名無しさん@計 さん
ありがとうございます。ラストは、単なる夢オチで終わらせたくなかったので
夢か現実かわかんないやー…ってカンジにしてみました(笑)。
>345 名無し読者さん
ありがとうございます。完読(?)、お疲れ様でした(笑)。
次回はもう少し先になるかと思いますが、その時もお付き合いいただけるとうれしいです…。
- 347 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月17日(木)18時30分35秒
- 次回こそは矢口と吉澤をハッピーエンドにしてあげてください。
- 348 名前:すてっぷ 投稿日:2001年05月17日(木)23時23分34秒
- >347 名無し読者さん
ありがとうございます。次回は…なんとか努力してみます(笑)。
- 349 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月27日(日)11時55分17秒
- メンバー、増員。
あたしにとっては2回目の、一大イベント。
テレビとかではモーニング娘。の恒例行事みたく言われてるけど、あたしたち当事者にしてみればコレはかなりの重大問題なワケで。
追加メンバー募集の話を聞かされてから約一週間が経過した今でも、あたしたちの間には何となくピリピリした空気が漂っていた。
それぞれ口には出さないようにしてるものの(たぶん、みんなわざとその話題には触れないようにしてる)、みんなそのコトで頭が
一杯なんじゃないだろうか…少なくとも、あたしはそうだ。
特に最年少の後藤は、初めての増員ってコトでかなり不安な様子で毎日落ち着きがない。
あたしも、彼女が入ってくる時は同じような状態だったから気持ちは良くわかるんだけど。
正直、どうしてこんな時に…って思った。
後藤が入ってきてから立て続けに曲がヒットして、『モーニング娘。』って名前が一般の人達にも広く知られるようになったし
何となくだけど方向性みたいなモノも見えてきた、こんな時期に。
あたしたちだけじゃ、ダメだってコト?
これから先、あたしたちだけじゃやってけないってコトなの?
これから映画の撮影だってあるのに、こんな気持ちじゃ仕事にも集中できそうにない。
まだオーディションだって始まってないけど、合格して入ってくるコたちはすごく不安な気持ちを抱えて入ってくると思う。
言葉では言い表せないぐらいの、不安と恐怖。
それは、当然あたしも経験してるコトなんだけど。
よく分かるからこそ、これから入ってくるコたちを気持ちよく迎えてあげるべきなんだとは思う、それは分かってるつもり。
あたしがもし彼女たちの立場だったら、って考えたら…答えは簡単だし。
だけどあたしには、新しく入るコたちの気持ちが分かるのと同時に、迎える立場の人間の気持ちも痛いほどよく分かるから。
新しい風が吹き込んでくるコトへの、焦りと不安。
それも、あたしは既に経験済み。
ま、あたしたちが焦ってじたばたしたトコロで何も変わらないのは、よーっくわかってんだけどさー…。
このモヤモヤした気持ちの、持ってき場がないっつーかさぁ…。
あーあ…どうしたもんかねぇー…。
- 350 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月27日(日)11時56分23秒
- 「やーぐち!!」
突然自分の名前を呼ばれて後ろを振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた裕ちゃんが立っていた。
もともとあたしの方がずっと背が低いから、彼女を見るときの目線は常に斜め上なんだけど、今はイスに座ってるから目線だけじゃなく
顔をぐっと上げて見上げるカッコウになる。
「スキありっ」
「うわっ!?ちょっ…やめてよ、裕ちゃん!!」
嫌がるあたしをムリヤリ押さえつけて、裕ちゃんが唇を近づけてくる。
最近特に激しさを増している裕ちゃんのセクハラ、もしかしたらコレも新メンバー加入に伴う彼女の不安な気持ちの表れなんだろうか。
「やっ…!!」
そして必死の抵抗もむなしく、今日もまた奪われてしまった…あたしの唇。
…っていうか、やけに長くないか今日のは?
とっさに瞑ってしまった目を、そーっと開ける。
くっ、くるしい…いきなりされたせいで、十分息を吸い込んでなかったあたしは早くも呼吸困難。
両手をじたばたさせてもがくあたしを無視してなおも行為を続行する裕ちゃんの肩を、あたしは力いっぱい押し戻す。
「はあっ…もーっ、なにすんだよ!!」
「なんやぁ、そんな嫌がらんかてええやんかぁ」
あたしが力任せに押したせいで、裕ちゃんはよろけながら2・3歩後ろに下がった。
「ああーっ!中澤さん、また矢口さんにちゅーしてるぅ」
裕ちゃんがあたしの側から離れた瞬間、聞きなれない声が耳に飛び込んできた。
「なんや、加護もしてほしいんか?」
「ちがいますぅ!!」
裕ちゃんの後ろで口をとがらせて抗議する『かご』と呼ばれた少女…っていうか誰、このコ?
「ののちゃん、ののちゃん」
あたしが疑問を抱いた次の瞬間には、彼女は既に部屋の隅の方へ走って行ってしまっていた。忙しいコだなぁ…。
そして彼女が駆け寄っていった先には、これまた見覚えのない顔。
このコたち、一体何なんだろう…スタッフさんか誰かの子供?
勝手に楽屋の中に入り込んで…それにしても、いつの間に入ったんだろうか?
- 351 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月27日(日)11時57分24秒
- どっからともなく湧いて出た2人の少女、『かご』と『ののちゃん』。
ふと周りを見ると、みんなはこの2人の存在に関して特に気にする様子もなく普通にしている。
雑誌読んだり、お菓子食べたり…いつもと変わらない楽屋風景。
なんだよ…知らないの、あたしだけ?
「ねぇ裕ちゃん、あのコたち誰?」
あたしは、とりあえず一番近くにいる裕ちゃんに尋ねてみる。
「はあ?アンタ、なに言うてんの?うわっ、ひっどいなー、いくら小っこいのがうっとうしいから言うて…。おーい、辻ぃ、加護ぉ
あんたら、矢口に『誰ぇ?』とか言われてんでー」
裕ちゃんが、みんなに聞こえるくらいの大きな声で言った…その口調は、あたしをからかっているような大げさなモノ。
「やぐちさん、ひどいよぉ」
それを聞いていち早く反応を示したのは、あたしと同じくらいの身長で髪を2つに結んだ女の子…『ののちゃん』。
「矢口さん、加護たちのこと忘れちゃったんですかぁ?」
その横に立っている、これまたあたしと同じくらいの身長の『かご』も、それに続いて言葉を発する。
2人とも裕ちゃん同様、冗談っぽい口調。
『忘れた』も何も、こんなコたち最初っから『知らない』んだけど…誰なんだよ、マジで。
みんなしてあたしのコトからかってんのかなー…。
それともあたしが単に忘れてるだけで、実は前に会ったコトあるとか?
「いや、ホントにわかんな…」
言いかけてあわてて口を閉じる。
待てよ矢口、冷静に考えるんだ…。
もしこのコたちが、どっかのお偉いさんちの子供だったりとかしてみ?
前に紹介されたコトがあるにも関わらずココでうっかり『知らない』なんて言っちゃったら…マズイよね、それは。
これから先のあたしたちの芸能活動に支障をきたすってコトも、十分考えられる。
だって、テレビ局の楽屋にフリーパスで入れるようなお子様たちなんだから…絶対どっか偉いヒトの子供に違いない。
それにしては、彼女たちに対してやたらフランクな裕ちゃんの態度も気になるところだけど…。
- 352 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月27日(日)11時58分23秒
- 「やだもー、矢口さん。まさか私のコトは忘れてませんよねっ?」
お偉いさんのご子息説に考えを巡らせていたあたしの背後から、またもや聞き覚えのない声が聞こえて振り返る。
なに、このコ…また知らないのが一人増えやがった。
もぅ、誰なんだおまえらはーっ!!
「い、いやぁ…」
何と答えていいのやら分からず、あたしは彼女から視線を逸らして俯いた。
どうしよう…『かご』も『ののちゃん(裕ちゃんは『つじ』と呼んでいた)』も、それから目の前に立ってるあたしより少し背の高い
このコのコトも、まったく記憶にない。
あたしって、こんなに記憶力なかったんだっけ?
仕事で会ったヒトの顔と名前は誰よりも早く覚えて決して忘れない…それがあたしの自慢だったはずなのに。
「もぅ、矢口さんったらぁ。チャーミーを忘れるなんて、ひどいですよぉ」
言いながら彼女は顔の高さに右手を上げて、親指と人差し指で『L』の文字を作る…なにやってんの、コイツ。
「ちゃーみー?」
チャーミーって…外人、ってコト?
えーっ…どっからどう見ても日本人にしか見えないんだけどなぁ。
「辻加護が忘れられてんだから、石川なんて真っ先に忘れちゃってんじゃないの」
「あーっ、保田さん、ひどーい!!」
石川…『石川チャーミー』さん?ハーフ?
あたしは、わずかに得られた情報をつなぎ合わせて何とか彼女たちのコトを思い出そうと努力してみるものの、成果はなし。
どうしよう、ぜんっぜん思い出せない…マジかよぉ。
「次ミニモニ、スタジオ入って下さいだってー」
全く見覚えのない3人の女のコたちを前に混乱していると、スタッフの人に言付けられたのかマネージャーさんが楽屋に入ってきた。
待って…今、『ミニモニ』って言った?
何だろう、ミニモニって…。
「「はーい!」」
マネージャーさんに言われて返事を返したのは、意外にも『かご』と『つじ』の2人。
ちょっと待ってよ、あんたたち…。
いくら偉いヒトの子供だからって、いつまでもこんなトコで遊ばせといていいワケ?無法地帯かよ、ココは…。
- 353 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月27日(日)11時59分31秒
- 「やぐちさん?きがえないんれすか?」
「え?」
「はい!」
呆然と立ち尽くすあたしの目の前に、『つじ』がテーブルの上に置いてあった衣装らしきものを差し出す。
「コレ…」
彼女の手から受け取った衣装は、あたしが今までに着用したコトのない代物…白いトレーナーに真っ赤なハーフパンツ。
見ると、『かご』も『つじ』もあたしと同じ服を手に持ってる(パッと見だからまったく同じモノかどうかはわからないけど)。
「どしたの、矢口。何か今日ヘンじゃない?」
渡された衣装を持ったままなかなか着替えようとしないあたしを見て、圭ちゃんが言った。
待ってよ…何かヘンなのはみんなの方じゃん、あたしじゃない。
このコたちは、誰なの??
ミニモニって、なに??
何であたしが、こんなお子様たちとおんなじ衣装着なきゃいけないんだよぉーっ!!
叫び出したいけどできない、あたしの理性がそれをさせない。
このコたち=おエライさんの子供説も捨てきれないし、結論を急いではいけない、焦るな…ヤグチ。
とりあえず、あたしが彼女たちのコトを忘れてるか、あたしがみんなにからかわれてるかのどっちかだと思うんだけど…。
もしかして今日は、エイプリル・フールとか?
って、んなワケないか…まだ1月だもんね。
ふと、壁に掛かってるカレンダーが目に入る。
ん?なんだコレは。
えーっと、確か今は…1月、のはずだよね。
2000年1月、間違いない、あたしの記憶では。
しかし、壁に掛けてあるカレンダーのページは…『10月』のモノ。
2000年10月、思いっきり間違ってる。
そう思いたかったが、次の瞬間あたしはあるコトに気が付いてしまった。
みんなの私服…それぞれ、さっきまで着ていたモノとぜんぜん違う。
ちょっと待って、ちょっと待って。
考えろ、考えるんだ、矢口…ココは、『どこ』?
いや、『今はいつ?』って言った方が正しいのかも知れない。
信じがたいコトだけど、あたしは時間を飛び越えて過去から未来へやってきたんだ…たぶん、そうだと思う。
だけど、一体どうやって…?
「やっぱヘンやで、矢口。よっしゃ、裕ちゃんのチュウで治したろ」
ああ…原因はコイツか。
- 354 名前:すてっぷ 投稿日:2001年05月27日(日)12時01分32秒
- 吉澤以外の視点というのは初めてなので、手探り状態で書いております。
(あんまり変わらない、と言われそうですが…)
ありがち、かつ強引なネタですが、よろしければお付き合いください…。
- 355 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月27日(日)12時26分26秒
- 矢口さん主役〜新作〜〜
吉澤くんがまだ出てきてないということは……
今回も期待しています。
- 356 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月28日(月)10時30分26秒
- ここまで読んで題名見直しただけで、ちょっとぐっと来るものがあった。
時間、記憶系の話に結構弱いんで。
初の吉澤以外の視点ですか。すてっぷさんの書く矢口視点ってどんなんになるのかな。
まだ登場してない、外から見た吉澤がどんな風に描かれるのかも、楽しみです。
期待してます。
- 357 名前:道化師 投稿日:2001年05月28日(月)17時30分53秒
- 途中までですが、一気に読ませていただきました。
個人的に吉澤は嫌いなんで、あまり吉澤の話は読まないんです。ゴメンなさい。
だから、遅レスですが失礼します。
『いつも君の側に』はアイデアが素晴らしいですね。娘。たちがいろんなモノに…。
最後に気になったのが、やぐっちゃんとの関係。
たぶん、あの後はハッピーだと思いますが…。
とにかく、楽しく読めた話でした。
ちなみに、27ページは年齢にかけたのでしょうか?
『楽しいナカザワ一家』は、始めのうちはすんなりと読めていったんですけど、
途中で設定にかなり疑問を抱き始めて…、読み辛〜くなってたんですが、
設定を気にしなくなったらサクサクっと。
最後の飯田と吉澤(このなかでは中澤でしたね)のシーンで思わずポロリと。。。
でも、やぐっちゃんが母親だったらいいでしょうねぇ〜。
料理は期待できないけど…(笑)
でも、裕ちゃんって男だったのかな〜……?
- 358 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月28日(月)23時06分13秒
- ――――
「…ドンドコドン、イェー。ドンドコ、ドンドコ…」
繰り返される単調なリズムと、それに合わせて機械仕掛けの人形のように輪になって踊るあたしたちの名は…人呼んで、ミニモニ。
白地に赤で『mini-moni。』のカワイらしいロゴが入ったTシャツに真っ赤なハーフパンツという、幼稚園児のようなイデタチで
2人のオコサマたちに囲まれて踊る…矢口真里、17歳。
それでも、もちろん楽しそうなフリでいつも笑顔は絶やさない。
一応あたしだってプロなんだし、仕事だと言われればきっちりこなしますよ。プロとして。
だけどつい昨日まで『セクシービーム!』を連発していた、セクシーキャラ(?)矢口はどこへ行っちゃったワケ?
セクシービームの10ヶ月後に、『ミニモニ。でしたぁー!!』はないでしょ…何で退化してっちゃってんのよ。
一体どこへ行こうとしてんだよ、矢口真里は…。
- 359 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月28日(月)23時07分10秒
- ほんの1時間前まで、2000年1月の世界にいたはずのあたしは裕ちゃんのキスによってどういうワケか、2000年10月の
未来まで飛ばされちゃったみたいなんだけど…まったく冗談のような、ホントの話。
ったく、裕ちゃんのキスときたら…セクハラ通り越して呪いだよ、コレじゃ。
そして、コレは確実に当たってると思われるあたしの予想なんだけど…楽屋にいた加護亜依(『かご』)、辻希美(『つじ』)、
石川梨華(『チャーミー』)の3人は、モーニング娘。の第三次追加メンバーであるコトは間違いないだろう。
現にあたしはこうやってそのうちの2人、加護・辻と一緒に仕事してるんだから…新ユニット『ミニモニ。』として。
あと一人、ココナッツ娘。のミカちゃんを加えた4人で今度メジャーデビューするらしいという話も聞かされた。
ちっこいの4人集めて『ミニモニ。』、か…ま、あえてあたしからのコメントは差し控えさせていただきますけど。
「あはははっ、あいちゃん、まえがみがヘンになってる。ヘンになってるよーっ、ははははっ」
「えーっ、うそうそ!?どこどこ!?」
それにしてもコイツら…どうにかなんないモンだろうか。
人が台本通りにコーナー進行しようとしてんのに、2人してワケのわかんないアドリブ入れてくるし…休憩中の今だって
台本も読まずに雑談ばかり。
こっちは初対面のあんたらと、『ミニモニ。』なんて半分フザけたユニットのコーナー仕切らされてるってのに…。
ホントにこいつらが新メンバーなんだろうか。それで、いいんだろうか…。
どうやら『モーニング娘。』は、あたしが思い描いていたグループとは確実に別の方向へと向かってしまったらしい。
- 360 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月28日(月)23時07分59秒
- 「「やーぐちさーんっ!」」
イスに腰掛けて台本を読んでいると、例の問題児2人があたしの元へ仲良く駆け寄ってきた。
「なに?」
あたしはイスに座ったままで、台本から目を離して顔を上げる。
やれやれ…休憩時間にまであたしのジャマする気?
「あのぉ、加護たちぃ、向こうでモノマネ練習してたんですけどぉ、やってみていいですかっ?」
「はあ?ココで?」
「「はいっ」」
そんなコトやってないで台本読めよー…そう言いたい気持ちをぐっとこらえる。
12歳と13歳という実年齢よりも、ずっと精神年齢が低そうなこの2人を叱りつけようものなら…どういう状態になるか見当もつかない。
もし泣かれでもしたら面倒だ、周りの人たちにも迷惑かけちゃうし…とりあえずはこの収録を無事に終えるコトが先決。
「いいよ。やってみて?」
「「はいっ」」
なんか…小学校の先生になった気分。
あたしの了解を得ると、2人は一歩前に進み出る。
イスに腕組みして座るあたしの目の前に、加護と辻の2人が並んでネタ見せ。
「はーい、加護アンド辻のモノマネー、ターイム!!」
一呼吸置いて、加護がわざと声を低くして言った。
「ちょっ…のの!!『ターイム』って2人で言おって言うたやん。なんで言わへんの!?」
ん?なんだ?打ち合わせミスか?
あたしを目の前にして、加護はひどく慌てている様子…コイツ、焦ると関西弁になるんだなぁ。
なぜかいきなり下を向いてしまった辻に、小声で抗議している。
「だって…辻アンド加護にしよう、っていってたのに、さっき」
「え…そう言わへんかったっけ?ウチ?」
「いってない…加護アンド辻、っていった」
もぉぉー、そんなのどっちでもいいじゃんかよー…さっさとやれよ!!
「はーい、辻アンド加護のモノマネー」
「「ターイム!!」」
妙なトコにこだわり持ってるのねー…辻ちゃんって。
- 361 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月28日(月)23時08分55秒
- 「はーい、辻アンド加護のモノマネー」(加護)
「「ターイム」」
「これにてー」(加護)
「終」(辻)
「了」(加護)
「「ですっ!!」」
なんか、最後の区切り方(パート割り?)が意味不明なんだけど…全部一緒に言えばいいのに。
しかも、明らかに加護のパートの方が多いコトに対して辻は何も言わなかったのだろうか…ま、どーでもいいけど。
こうして、約10分間にわたって繰り広げられた『辻アンド加護のモノマネタイム』は終了した。
「「ありがとうございました」」
ネタ見せ後に2人並んでぺこりとおじぎする姿は、まるでホンモノの芸人さんのよう。
「よかったよかった。面白かったよ?マジで」
驚くべきコトにあたしは、問題児2人に対して心からの拍手を送っていた。
笑いのツボが割と浅めのあたしの基準だからあんまりアテにはならないかも知れないけど、思ったよりつまんなくはなかった。
素直に言っちゃうと、けっこう面白かったんだよなー…くやしいけど。
特に加護の方はモノマネのレパートリーも豊富で、トークの端々に天性のお笑い気質みたいなモノを感じたし、辻も一見ボーッと
してるように見えるものの、その独特な間が矢口的にはちょっとツボだったりするし…あくまで矢口的に、だけど。
確実に、風は吹いている…『モーニング娘。』にとっての、新しい風が。
ビュンビュン吹きまくって、どこへ飛んでっちゃうのかは知らんけど。
- 362 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月28日(月)23時09分50秒
- 「あっ、おつかれさまでーすっ!」
「おつか…」
いきなり派手なカッコで出迎えられて、あたしは思わず絶句した。
ミニモニ。部分の収録が終わって楽屋に戻ったあたしを待っていたのは…街を歩いててもまず見かけないような、どピンクの
スーツに身を包んだ、チャーミー石川こと石川梨華。
チャーミーってのは、彼女が司会を務めるコーナー内でのキャラクターの名前であるとのこと。
みんな彼女のコト、『梨華ちゃん』って呼んでたからあたしもそう呼ぶコトにした。
みんなって言っても、そう呼んでるのは新メンバーとなっち、それからごっちん…他のメンバーは『石川』って呼んでるみたい。
でもあたしだったら、たぶん『梨華ちゃん』って呼ぶだろうなぁって思ったから、そう呼ぶコトにした。
もっとも、まだ会ったばかりで一度も呼んだコトはないんだけどね。
「次チャレモニさん、お願いしまーす」
「「「「はーい」」」」 「はいっ!!」
明らかにテンションの違う2種類の返事、裕ちゃん率いる『チャレモニ。』の皆さんともう一つは…チャーミー石川さんのハイトーンボイス。
チャレモニ。か…一体、どんなコトやってんだろう。
娘。の未来を見届けるため(と単純な好奇心から)、見学と称してあたしはみんなの後に続いてスタジオへと向かった。
裕ちゃんたちにくっついてスタジオ入りしたものの、まだセットの準備が整ってないってコトで早速待ち時間が発生。
チャレモニ。の面々、裕ちゃん、カオリ、なっち、圭ちゃんの4人は用意されていたイスに座って待機している。
収録開始まではもう少し時間がかかると聞いて、あたしは一旦楽屋へ引き上げるコトにした。
「…ミー石川でーす!うーん、違うなぁ…チャーミー、チャーミー、チャー、チャー、チャーミ、チャーミー、チャー」
スタジオを出ようとしたところで、暗闇からCDの音飛びのように繰り返されるフレーズに思わず足を止める。
スタジオの隅の方でうごめいている影、あれは…梨華ちゃん?
っていうか、このハイトーンボイスは梨華ちゃん以外の何者でもないんだけど…『石川でーす』って、しっかり名乗ってるし。
それにしても、あんなトコでなにやってんだろう…一人で。
声をかけようかとも思ったが、一人で何かに熱中しているようだったのであたしはそのまま素通りするコトにした。
- 363 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月28日(月)23時11分13秒
- 「あっ、矢口さん!」
しまった、見つかったか…。
そしてあたしは、梨華ちゃんに呼び止められて『しまった』とか思っている自分に気付く。
素通りしようとしたのはジャマしちゃ悪いなんて思ったからじゃなく、できればコイツとは関わり合いになりたくないという気持ちの
表れだったのだと悟った。
だって、だって…真っ暗闇で意味不明なフレーズ(『チャー、チャー…』)をひたすら繰り返してんだもん、避けて通りたくもなるよ。
「矢口さん、どう思いますっ?コレなんですけど!」
「どれ?」
梨華ちゃんはあたしを見つけると、満面の笑顔でこちらへ駆け寄ってきた。
ダッシュで逃げようかとも思ったけどそれも何となく大人気ないし、そうまでして避ける理由もないと思ったので、おとなしくつかまる。
「どーもー!チャーミー石川でーすっ!!」
楽屋でやったように顔の高さで右手の親指と人差し指で『L』を作り、はちみつのような甘い声を張り上げる梨華ちゃん。
さっき繰り返してたのはこのフレーズだったんだ…狂ったように『チャーミー』の部分ばかりを繰り返してたから気付かなかった。
「で…それが何か問題あんの?」
どう思うも何も、どーゆー意見を期待してるんだ、このコは?
「何て言うか私、なにやっても『ウケない』っていうのかな…中澤さんたちがフォローしてくれるんですけど、それでもその場の空気って
いうのかな…なんか、シーンってなってるのが自分でもわかる時があって、だから、中澤さんたちに頼るだけじゃなくて、何か自分の
中で良くできるっていうか、改善できるコトがないかなーって思ってて、それで…」
梨華ちゃんが言いたいコトは何となくわかった、そして、彼女が『ウケない』理由についても何となくわかった気がする。
それにしても、さっきの辻アンド加護といい、梨華ちゃんといい…どうしてそこまで『ウケル』『ウケナイ』にこだわるかなぁ?
あたしが知ってるモーニング娘。ってのはあくまで歌手というかアーティスト(?)であって、決してお笑い集団ではなかったはず。
それとも、そう思っていたのは本人たちだけだったのかなー…そう考えると何だか哀しくなってくるけど。
- 364 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月28日(月)23時12分15秒
- 「それが、さっきのフレーズってコト?」
「…はい」
とりあえず今は、目の前にある問題を片付けるのが先だよね。
梨華ちゃんが改善の余地ありと見ている、『チャーミー石川でーすっ!!』のフレーズ。
彼女は、見せ場であるこのフレーズで笑いを取りたいらしいんだけど…。
「私としてはぁ、どのタイミングでチャーミーポーズを出すかっていうのが、すごく重要な問題だと思うんですよぉ」
「ふーん…」
分析の入口からいきなり間違えてるこのコに…あたしは何をどうアドバイスすればいいんだろうか。
「この、チャーミーの『チャー』ぐらいのタイミングで入れるかですね、『ミー』に入ったぐらいがいいのか、あとは…」
梨華ちゃんの話を軽く聞き流しながら、あたしは彼女のマイクを持ったままだらりと下に垂れている左手に注目していた。
「梨華ちゃんってさぁ、それ…クセ?小指立ってんの」
「えっ…あ、やだー、またやっちゃった。そうなんですよぉ」
梨華ちゃんは、あたしの視線の先にあった左手を自分の胸に引き寄せるとその上に右手を重ね、両手でマイクを抱え込んだ
カッコウになる。
「いや、今度は右…立ってるけど」
「えっ」
問題の左手を覆い隠したまでは良かったものの、今度はその上に重ねた右手の小指が立ってしまっていた。角度は90度。
脳でコントロールできないんだろうか…彼女の小指は。
「もぅ、やだー…」
「あのさ、それ活かしてみたら?チャーミーポーズに…小指」
「え…どういうコトですか?」
「親指と人差し指でやってるでしょ?それを、親指と小指でやるってのどう?」
あたしが提案したのは、今回限りの変則チャーミーポーズ。
カタチはどうだっていい。人差し指と小指だっていいし、小指だけでもいいかも知れない。
要は、いつもと違うコトをやるっていうコト。
そうすれば、チャレモニ。の誰かがそれを拾って気持ちよくツッコんでくれるはず。
実際にチャレモニ。とチャーミー石川が絡んでる場面を見たコトはないけど、チャーミーのこのド派手な衣装から察するに
まず、ツッコまれキャラと見て間違いはないだろう。
っていうか、こんなカッコしてて誰にもツッコんでもらえないとしたら、それはそれで哀しすぎると思うし。
- 365 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月28日(月)23時13分13秒
- 「チャーミー石川でーっす!コレ、けっこう難しいんですね…ついいつものクセで、人差し指の方が立っちゃう。
チャーミー、チャーミー、チャー、チャー、チャーミ、チャーミー、チャー」
お願いだからその部分だけ重点的に練習するのやめてほしい…コワれたおもちゃみたいで、不気味でしょうがないんだけど。
「いや、そんな真剣にやんなくてもいいよ?どうせ今日だけなんだし、いつもと違うポーズだってコトが分かればいいんだから」
この、矢口考案による変則チャーミーポーズのポイントは『今回限り』って部分。
先週と同じであってもいけないし、もちろん来週も使い回そうなんて甘い考えはご法度。
何度も言うけど、要はいつもと違うコトをやるってコトなんだから。
そもそも、オリジナルのチャーミーポーズの方が見ててカワイイんだし、今回やって成功したら『変則チャーミーポーズ』は
すぐに封印して元のカワイイ『オリジナルチャーミーポーズ』に戻すってのが正しいやり方。
ってふと我に返ると、こんなコト力説してる自分がイヤになるけど…すべては、カワイイ後輩のため。
「チャーミー、チャー、チャー、チャーミ、チャーミー…ああっ、できないっ」
だから、テキトーでいいっつってんだろー…ちゃんと人の話も聞いてなさいよねー。
「本番いきまーす」
そうこうしている間にやっと、『チャレモニ。』のコーナーの収録が始まった。
いよいよだよ…がんばって、梨華ちゃん!!
「おーい、石川おらへんやんか!!どこ行った?いしかわぁーっ!!」
裕ちゃんの怒りを含んだ声がスタジオ中に響き渡る。
「チャーミー、チャーミー、チャーミー…」
振り返るとそこには、お約束のようにあたしの背後で右手を見つめる、裕ちゃんの声も耳に届いていない様子の梨華ちゃん。
このコって…プライベートでは十分笑いを取れる存在なのに、仕事になると途端に空回りしちゃうんだなぁ。人生って難しい。
- 366 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月28日(月)23時14分09秒
- 「挑戦、それは…」
あたしは、スタジオのモニターに映し出される梨華ちゃんの姿を見守っていた。
マイクを胸に抱えるようにして持ち、コレはいつもの決めゼリフみたいなモノなのかな…っていうか、こーゆーのあるんだったら
先に言えよなー、こっちの方がチャーミーポーズなんかよりよっぽどイジリ甲斐あるじゃんか。
ホント、着眼点まちがってるよ…。
「どーもー!」
ごくり。あたしは思わず生唾を飲み込む。いよいよだ…。
そして、ついにその瞬間がやってきた。
「チャーミー石川でーすっ!!」
眩いほどの梨華スマイルと、顔の高さまで上げられた右手はもちろん…ヤグチ印のチャーミーポーズ。
さあ、来い。
ツッコめ、チャレモニ。ども!!!
「あ?なんや今の?なに、ビミョーに変えとんねん!!」
よしっ、よくやった裕子!!
「ホントだ、変わってる!どうしたの、チャーミー!?」
「ははははは!!」
裕ちゃんのツッコミに食いついてきたなっちと、ただ笑ってるカオリ。
「っていうか、何のイミがあんだよっ!!」
「ああっ!?」
裕ちゃんに右手首を掴まれてよろける梨華ちゃんの脇腹を、圭ちゃんのケリ(ちょっとだけ手加減してるカンジ)が直撃する。
「いやっ…チャーミーをイジメないでぇーーっっ!!」
良いよ梨華ちゃん、すごくイイ!!輝いてるよ…キラキラしてる!!
逃げまどう梨華ちゃんの泣き出しそうなカオ(演技)に一瞬だけ会心の笑みがこぼれたのを、あたしは見逃さなかった。
- 367 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月28日(月)23時15分13秒
- 「矢口さーんっ!!」
チャレモニ。の収録を見届けて楽屋へ戻ろうとしたところで、後ろから梨華ちゃんに呼び止められる。
全力で走ってきた様子の梨華ちゃんは、あたしの前で立ち止まると肩で息をしながら呼吸を整えている。
あたしは、黙って彼女の次の言葉を待った。
「あのっ、ありがとうございました!」
例のはちみつボイスであたしに向かってお礼を言うと、梨華ちゃんはぺこりと頭を下げた。
さっきの辻と加護もそうだけど、『ありがとうございました』とかってアタマ下げられたり…そういうの、面と向かって
やられるとすっごく照れるんだよなー。
でも、まぁ…なんとなく悪い気はしないけどね。
「良かったね、ちゃんとツッコまれてたじゃん」
セリフだけ聞くと、とても歌やってる人への誉め言葉とは思えないけど…。
「はい!」
本人は心から嬉しそうだから、まぁ良しとするか…良かったね、梨華ちゃん。
- 368 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月28日(月)23時16分31秒
- 「私、矢口さんが考えてくれたこのチャーミーポーズ、一生大切に守ります!!」
え…なに言ってんの、このコ。
「梨華ちゃん、次もまた使うつもりじゃないよね…それ」
メイド・イン・ヤグチの変則チャーミーポーズは、使用上の注意をよく読んでからお使いくださいって言ったでしょーが!?
「当たり前じゃないですかぁ。1回だけなんてもったいないですよぉ、せっかくウケたのに」
もぅ…ホントにわかってないんだから、コイツは。
「ホント、悪いコト言わないからやめなって。次はウケないから、絶対」
「どうしてですか?だって、今日はあんなに…」
あたしの説得もむなしく、梨華ちゃんは一向に引き下がろうとしない。
「だからぁ、次やってもツッコんでもらえないって!ツッコミあってのボケでしょ?撒いたボケを拾ってもらえないのが一番キツイんだよ?」
あたしって、一体どういう職業のヒトなんだっけ…ココにいると、時々わからなくなる。
「そんなの、やってみなきゃわかんないじゃないですかっ!!もっとポジティブに考えた方がいいと思うんですよ、石川はぁ」
やる前からわかってるコトだってあるんだよ、世の中には…。
「まぁ…いいんじゃない?試しにやってみれば」
「ホントですかっ!?」
ムリヤリ言わせといて『ホントですか!?』って…もういい、何も言うまい。
「じゃあ私、戻りますねっ。チャーミー石川でしたーっ!チャオ!!」
こうして、あたしがテキトーに考えた変則チャーミーポーズは、見事オリジナルチャーミーポーズに取って代わってしまった。
コレって、未来を変えてしまったコトになるのかなぁ。
ゴメンね、石川梨華ちゃん…でも、はっきり言って自業自得だよ?
- 369 名前:すてっぷ 投稿日:2001年05月28日(月)23時18分01秒
- >355 名無し読者さん
ありがとうございます。思った以上にチャーミー石川にてこずってしまい、
吉澤を出す事ができませんでした。次はたぶん出てくると思いますので、
もう少しお待ちいただければと思います…。
>356 名無し読者さん
ありがとうございます。今回、タイトルに関しては本当に悩んだので
そう言っていただけてうれしいです。名前負け(?)しないように、
本文の方も充実させたいなーと思います。
矢口の目から見た吉澤…どうなることやら、ですね。
心の声がない分、セリフが多くなるかも(笑)。
>357 道化師さん
ありがとうございます。嫌いなのにも関わらず読んでいただいて…感謝です。
『いつも君の側に』は、あれはあれでハッピーエンドのつもりなのですが、
その後どうなったかというのは読者の方のご想像におまかせしたいなーと
思うわけで…無責任ですね(笑)
例のページは、なぜかパッと浮かんだのが27ページで、後からそう言えば…
と気付いたモノです。無意識のうちに、ねーさんの年齢が頭の中にすりこまれて
いたのかも知れません(笑)
『楽しいナカザワ一家』の設定については、加護をおじいちゃんに決めた時点で
開き直りました。この話ははっきり言って矛盾のカタマリですので、年齢・性別等
設定を気にせずに読んでいただけると、本当に心の底からうれしいです(笑)。
丁寧な感想を、本当にありがとうございました!!
- 370 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月29日(火)06時32分57秒
- 冷静に新メン&娘。を分析する矢口さんに萌える〜!!
実際この嵐の時期をすっ飛ばされたら、こー思うよな〜(w
どう話が進んでいくのか楽しみにしています。
- 371 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月29日(火)22時56分31秒
- 冷静に新メンを見てる割に
紗耶香がいない事に気づかない間抜けな矢口(W
- 372 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月30日(水)00時54分20秒
>>371
自分も気付きませんでしたっ!(w
- 373 名前:名無すぃさん 投稿日:2001年05月30日(水)16時56分21秒
- >371
ネタばらしするなよ。
進行中の小説でのレスは簡単な感想&応援に留めよう。
- 374 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月30日(水)20時56分30秒
- ――――
「はーい、辻アンド加護のモノマネー」(辻)
「「ターイム」」
「これにてー」(辻)
「終」(加護)
「了」(辻)
「「ですっ!!」」
あ…さっきあたしが見たときと、パートが入れ替わってる。
芸が細かいなー…クダんないコトには労を惜しまないんだから、コイツらは。
『チャレモニ。』のコーナーの収録が終わって楽屋へ戻ってきたあたしたちは、次の収録が始まるまでしばらく待機状態。
あたしが過去の世界からタイムスリップして来たってコトみんなに話したいけど、やっぱりそれはできない。
過去から来たあたしがココで生活してるコト自体が既に未来を変えてしまっているコトになるんだから、それを人に話したりしたら
もっとこの世界に(あたしたちの未来に)影響を及ぼすコトになる。
現にあたしは到着早々、早速それをやらかしてしまったのだから…。
「どーもー!チャーミー石川でーす!!」
「あっ梨華ちゃん、なにそれぇ!!ははははははっ!!」
「かわってる!手のところがかわってるねー!!ははははっ!!」
加護と辻の2人に、あたしが考案した新生チャーミーポーズを披露してご満悦の梨華ちゃん。
勘違いするな石川…この2人は見るの初めてだから笑ってるだけだ。
現在のところはコレくらいの問題(梨華ちゃんにとっては大問題だけど)で済んでるから良いけど、これからはあんまりみんなと
深く関わらないようにしなくちゃ。
それにしても、ずいぶん変わったなー…。
あたしは部屋の中をぐるりと見回しながら、ココへ来る前のあたしたちの楽屋風景を思い出していた。
裕ちゃん、なっち、カオリ、圭ちゃん、後藤、あたし、そして新メンバーの梨華ちゃんに加護、それから辻。
あたしが知ってる娘。よりも確実に人数は増えてるはずなのに、ぜんぜんそんな気がしない。
やっぱり、本当にいなくなっちゃうんだ、アイツ…紗耶香。
- 375 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月30日(水)20時57分22秒
- 紗耶香本人から、そういう話は聞いてた…『やめるかもしれない』って。
だけど具体的にいつとか、そういうコトは聞いてなかったから…きっと考え直してくれるはず、って思ってた。
それ聞いてから毎日、心のどこかでそうなるコトを願いながら過ごしてたんだ。たぶん、みんなそう。
さっきまであたしがいた楽屋には確かに、紗耶香がいた。
そして今あたしがいるこの部屋に、彼女はいない。
それはつまり、そういうコト…なんだ。
一体いつ…なんて、そんなコトはまだ知りたくもない。
時間を飛び越えてしまったあたしには、彼女がどんな気持ちで娘。を離れていったのかとか、あたしたちが
どんな気持ちで彼女を送り出したのかを、知る術はない。
ただわかっているのは、彼女がこの場所に存在した時点と存在しない時点、10ヶ月前と現在、その『事実』だけ。
一枚の紙を二つに折り曲げたみたいに、強引に繋ぎ合わされた時間。
だけど人の気持ちは、すぐに適応できるほどカンタンじゃない。
ココにいるみんなは、まるで何もなかったみたいなカオしてるけど、これもきっと『時間』ってやつのおかげなんだろう。
どんなに悲しくてどんなに寂しい出来事でも、時が経てば傷は癒される、時が全てを解決してくれる。
だけど過ぎてゆくコトで大切なモノを失うくらいなら…あたしは、時間なんていらない。
時間が経過していく限りきっとこれからも、あたしたちはカタチを変えながら進んでいかなきゃいけないんだ。
たとえばココからさらに10ヶ月後の未来、あたしはまだこの場所にいるだろうか…。
これ以上考えると恐くて前に進めなくなりそうで…あたしは、そこで思考を止めた。
- 376 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月30日(水)20時58分05秒
- 「やーっ、やめてぇ、中澤さーん!」
「ええやんか、すぐ終わるから、な」
今のあたしには、ヘンタイ裕子のお決まりのフレーズも心を癒すヒーリングミュージックのように聞こえる。
やっぱり、変わらない日常っていいなぁ…。
「こら待てっ、加護!!」
えっ、加護ぉ!?
このエロオヤジは12歳の加護にまで魔の手を…。
壁際に追い詰められた加護は諦めたように、迫り来る裕ちゃんの唇を受け入れた。
助けてあげたかったけど、これ以上未来を変えるワケにはいかないんだ…許してね、加護ちゃん。
「あっ、待って矢口!ねぇ、ジュース買ってきてよ」
「えーっ…やだよ、めんどくさい」
収録の前にトイレに行っておこうと思い楽屋を出ようとしたところで、あたしはなっちにつかまった。
「いいじゃん。ちょっと待って、お金持ってくるから」
「なんだよー…」
ドアノブに手をかけたままで、なっちが財布から小銭を出すのを待つ。
すると突然、力を加えていないはずのドアノブが独りでに手の中で回る。
考えられる状況は一つ、『反対側から誰かが開けた』。
さて、ココであたしがやらなきゃいけないコトは……
「おはよーございまーす」
「んぎゃあっ!?」
逃げるコト、だったんだけど…ちょっと遅かったみたい、ってそんなノンキなコト言ってる場合じゃない。
「痛ってぇぇー…」
あたしは、強打した頭を抱えてその場にうずくまる。
ドアに対して横向きに立っていたあたしは、頭の左側を(ドアに)殴打されてしまった。
あまりの痛さに…ちょっとだけ泣いた。
- 377 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月30日(水)20時59分00秒
- 「うわっ、すいません!!大丈夫ですか、矢口さんっ!?」
ちっくしょー、誰だコイツ…殺してやる!!
「ちょっとー!!なにすん…」
顔を上げて、彼女を見た瞬間…あたしは完全に痛みを忘れて固まってた。
「どうしよう…痛かったですか?痛かったですよね!!」
彼女は、しゃがみ込んであたしの顔を覗き込んでる。
ようやく感覚の戻ってきたあたしの頭を、彼女の右手が優しく触れる。
女のコにしてはちょっと大きくて、とてもあたたかい、彼女の右手。
あたしの顔をまっすぐに見つめる、大きくてとてもキレイな瞳。
すっと通った鼻筋に、薄めの唇。
あたしの名を呼んだその声は、少し低めのトーン。
あたしの名前を呼んだってコトは…彼女は、あたしのコトを知ってるんだ。
それだけでとてもうれしくなる。
コレは…まさに、衝撃的な出逢い。
衝撃ってのはもちろん、ドアで頭を強打したコトによる直接的なカラダの衝撃じゃなくて、何ていうかもっとココロに直接
響いてくるカンジ、稲妻にうたれたみたいな…。
一言で表すならば、コレはまさに…『運命』ってやつ。
「どうした、矢口?打ち所悪かったんじゃない?」
今のあたしには、圭ちゃんの声も一切耳に入らない(入ってるけど無視)。
「えーっ!?あっ、あたし、タオル冷やしてきます!!」
圭ちゃんの言葉に驚いた彼女―名前わかんないから『運命のヒト』と命名―は、立ち上がろうとしてヒザを伸ばしかけた。
- 378 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年05月30日(水)21時00分04秒
- 「矢口さん…?」
頭から離そうとした手をあたしにつかまれて、『運命のヒト』は困惑した表情を浮かべている。
「あの…大丈夫、だから」
だから、もう少しこのままでいさせてください…神様。
「矢口だいじょーぶか?背ぇ縮んでへんか?」
「ねぇ矢口、ジュース買ってきてってば」
ついでに、コイツらを黙らせてください…神様。
「ホントに?ホントに、痛くないんですか?」
「…うん」
胸は、痛いけどね…とか言ったら、ひくだろうなーやっぱり。
「良かったぁ…。矢口さんて、すごい石頭なんですねー」
「…うん。えっ」
どうしよう、つい『うん』とか言っちゃったよぉ。
『運命のヒト』に石頭って思われたよ、しかも『すごい』石頭って…どうしよう、『運命のヒト』なのに。
「でも、やっぱりタオル冷やしてきます。心配だし」
「あっ…」
今度は引き留める間もなく、すっくと立ち上がるとドアを開けて風のように去っていく彼女…あたしの運命のヒト。
彼女が戻ってきたら…強打したアタマよりも、たぶん真っ赤になってるだろうこの頬を冷やした方がいいかも知れない。
余韻に浸りつつ、彼女が出て行ったばかりのドアを見つめる。
と、突然ドアが開いて、さっき出て行ったはずの彼女が再び中へ入ってきた。
「タオル忘れた」
ああっ、そんなトコもカワイイっっ!!
矢口真里、17歳。
生まれてきて…良かった。
- 379 名前:すてっぷ 投稿日:2001年05月30日(水)21時02分24秒
- >370 名無し読者さん
ありがとうございます。嵐の時期…まさにそうですね。
今回は矢口主役ということで、分析=ツッコミも、かなりキツメにしてみました(笑)。
>371 名無し読者さん
>372 名無しさん
ありがとうございます。市井の話はどうしても重くなってしまって前回は流れ上、
入れられなかったんですが…やっぱり上手くつながってない気もします(かなり反省…)。
矢口は、彼女の決心を1月の時点で知っていたという設定にさせて頂きました。
これも冒頭で振っておくべきだったと後悔してますが…。
開始早々から反省材料が山積みですが、よかったらまた読んで頂けるとうれしいです。
>373 名無すぃさん
救いのお言葉、ありがとうございます(笑)。感謝です!!
よろしければ最後までお付き合いください…。
- 380 名前:371 投稿日:2001年05月30日(水)21時12分47秒
- 無神経なレスしてすいません。
そういえばすてっぷさんの作品って、市井でてきたことなかったですね・・・
ホントごめんなさい・・・・
応援してます。頑張ってください!!!
- 381 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月30日(水)21時20分10秒
- どんな深刻な悩みも、出会いひとつで忘れられるなんて…
それでいいのか矢口〜
- 382 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月31日(木)01時03分04秒
- おお、やっと登場しましたね。今回は二人の出会いの場面(吉澤にとっては違いますけど)
が見れて嬉しいっす。初っぱなから矢口の心には相当衝撃を与えたみたいで。(頭にも 笑)
こっから未来の世界で、矢口がどう行動していくのか、楽しみです。
- 383 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月31日(木)07時08分35秒
- 『運命のヒト』に石頭って思われたよ、しかも『すごい』石頭って…どうしよう、『運命のヒト』なのに。
って爆笑なんですけど!!!
- 384 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月02日(土)15時18分40秒
- ――――
「痛っ…!」
「あっ、大丈夫ですか!?」
濡れタオルの冷たい刺激が、頭部の痛みを再び呼び覚ます。
さっきからあたしの頭にタオルを当ててくれてるのは…まだ名前のわからない、あたしの『運命のヒト』。
彼女はあたしとイスを向かい合わせにして座り、右手を伸ばしてあたしのアタマに濡れタオルを当ててくれてる。
あたしの体温で温まったタオルを裏返しにしたりするたびに動く彼女のひざが、あたしのひざに触れる。
それだけで、すごくどきどきした。
それにしても一体なんなんだろう、このコ…当然みたいにあたしたちの楽屋に入ってきて。
もしかしてこのコこそが、どっかのおエライさんちの子供なんだろうか。
それも彼女なら納得…最初の3人(辻アンド加護アンド梨華ちゃん)と違って、何となくイイトコのご子息って雰囲気漂わせてるし。
「学校行ってたの?よっすぃー」
少し離れたところに座っていた後藤が、あたしの目の前に座る『運命のヒト』に向かって言った。
「うん、行ってきたよぉ。途中で抜けてきたけどね」
端正な顔立ちとオトナっぽい雰囲気の外見とは対照的に、彼女の喋り方はおっとりとしたモノ。
そんなアンバランスさもまた、数え上げたら切りがないほどの彼女の魅力のひとつなのだけれど。
「あ、もういいよ。疲れるでしょ?」
彼女があたしの頭に当てたタオルを裏返す間隔が短くなってきているのを感じたあたしは、頭に当てられた彼女の右手を掴むと
離すよう促した…って別に手を掴む必要はなかったんだけど、ちょっと触りたかったのでやっちゃいました。
「でも…ホントに大丈夫ですか?」
そう言って心配そうにあたしの顔を覗き込む彼女。
「うん、ホントもう大丈夫だから…ありがとう、よっすぃーちゃん」
「え……」
さっきまでの心配そうな彼女の表情は一変し、今度は怪訝そうなカオであたしのコトをじっと見つめている。
なに…あたし、もしかして何か間違った?
このヒトの名前…『よっすぃー』じゃないの?
いや、もちろんアダ名だってコトはわかってるけど…こんなの本名だったら嫌だし。もしそうだとしてもあたしの愛は変わらないけど。
- 385 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月02日(土)15時21分06秒
- 「矢口、あんた本当にヘンなトコ打っちゃったんじゃないの?」
「えーっ!?矢口さん、あたしのコトわかりますかっ!?吉澤です、吉澤ひとみです!!」
また圭ちゃんの言うコト真に受けて、必死なカオしちゃって…もぅ、カワイイなぁーホント。
でも、圭ちゃんのおかげで彼女の本名を知るコトができた。
ありがとう圭ちゃん、こんなに圭ちゃんに感謝したコトって今までなかった…この恩は一生忘れないからね。
「矢口さんっ…」
目の前の彼女、『運命のヒト』改め、よっすぃーこと吉澤ひとみは、あたしの両手を掴むと泣きそうな顔であたしの名を呼ぶ。
永遠にこのままでいたかったけど、自分のせいであたしがおかしくなったと思い込んでる彼女をそのままにしておくのは
さすがに可哀相だ(ちょっと泣きそうになってるよっすぃーこと吉澤ひとみも、それはそれでカワイイんだけど)。
あたしは、未来のあたしが普段呼んでいるであろう彼女の呼び名を考えてみる。
フツーに考えれば、『吉澤』かなぁ…いや待てよ。
あたしのコトだ…お気に入りのヒトのコト、普通に名字で呼んだりするはずがない。絶対にない。
かと言って、『ひとみ』とは呼ばないよね…2人っきりの時とかならともかく、みんなの前じゃさすがにそれはないだろう。却下。
とすれば、やっぱりココはさっき後藤が呼んでた『よっすぃー』(吉澤の吉で『よっすぃー』か…なんて安易な)ってのがいちばん
フレンドリーなカンジで、矢口っぽい気がするけど…。
- 386 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月02日(土)15時21分55秒
- 「忘れるワケないじゃん、なに言ってんの…よっすぃー」
「ああ…良かったぁ」
当たってたんだ…助かった。彼女の安心した表情に、あたしはホッと胸をなでおろした。
さっきはヘタに『よっすぃーちゃん』なんて『ちゃん』付けで呼んじゃったから、びっくりしてたんだね…よっすぃー。
それはそうと、本当に何者なんだろうか…このコは。
メンバーの共通の友達?意外なトコで、スタッフさんとか?あっ、でも学校行ったとか言ってたからそれは違うか。
高校生なのかな…?学校でもよっすぃーって呼ばれてんのかな?家どこだろ?好きな食べ物は…?
「みんな居る?あ、吉澤も来たね」
「おはようございます」
あたしの思考がとんでもないトコへ脱線してる間に、楽屋にはマネージャーさんが入ってきていた。
しかも、よっすぃーと知り合い?
マネージャーも共通の友達?意外なトコで、よっすぃーは新人マネージャーとか?あ、でも学校行ったって言ってたから違うか。
って、さっきも考えたよそれ。学校で部活とかやってんのかな、よっすぃー…。学校どこだろ?好きな…
「みんな集まってー」
しまった、また思いっきり脱線しちゃってた。
- 387 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月02日(土)15時22分27秒
- マネージャーさんの一声で、みんなは自分が座っていたイスを持って集まる。
あたしと向かい合わせに座っていたよっすぃーも、あたしの隣に移動してマネージャーの正面に向かって座りなおした。
もしかして、よっすぃーは…。
「じゃあ、明日からの合宿のスケジュール言うから」
「合宿!?」
聞いてないよ、そんなの(当たり前だけど)!!
「どしたの、矢口…?」
突然声を上げたあたしに、あたしの斜め後ろに座っていたなっちが不思議そうに尋ねてくる。
「ゴメン、何でもない…」
やばい。またみんなに、変なコト言い出したって思われるよ…。
「やっぱ、打ち所悪かったんだよ」
「えーっ!?」
圭ちゃんは、どうしてもあたしがアタマ打っておかしくなったコトにしたいらしい。
そして、そのたびに同じリアクションを繰り返すよっすぃーは…相変わらずカワイイ。
「…と保田、安倍と…」
マネージャーさんによって、明日からの2泊3日のダンス合宿(強化合宿みたいなモノ?)のスケジュールとホテルの
部屋割りが発表される。
あたしの隣で、真剣な表情で話を聞きながらメモを取るよっすぃー。
ココまでくると、何となくわかってきたような気がする。
まず、お偉いさんトコの子供説&共通の友人説は却下。いくらなんでも部外者が仕事の話に参加するワケないもんね。
番組スタッフ説&新人マネージャー説も、彼女が学生(見た目からすると高校生かなぁ…)であるコトからコレも却下。
とすると考えられるコトはただひとつ、よっすぃーこと吉澤ひとみは…モーニング娘。のメンバー?
あたしが10ヶ月前に聞いてた話では、新メンバーの募集枠は3人って聞いてたけど…後からさらに1人追加になったのだろうか?
- 388 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月02日(土)15時23分17秒
- 「で、あとは…矢口と吉澤。以上」
「ええっ!?」
考え事してて話を聞いてなかったあたしは、突然自分の名前を呼ばれて驚きの声を上げてしまった。
だけど驚いたのは、自分の名前を呼ばれたせいだけじゃない。
『矢口と吉澤』って言ったよね…『矢口と吉澤』、つまり『あたしとよっすぃー』ってコトよね!!
あたしとよっすぃーが、2泊3日の合宿で同室…。
ああ、コレが2泊3日の『合宿』じゃなくて『温泉旅行』(もちろんプライベート)だったらもっとうれしいのに…。
ふいに、隣のよっすぃーと目が合う。
するとよっすぃーは、あたしを見てにっこりと微笑んだ…カワイイ。
どうしよー…よっすぃーと2泊も同じ部屋で過ごすコトになるなんて。
ガマンできるかなぁ、あたし…ってなにをだよ!!
なんて、自分にツッコんでも全く痛みを感じない…今日はそんなシアワセな日。
スケジュールや他のメンバーの部屋割りについては一切聞いていなかったので、あたしはメモ帳に『よっすぃーと同室(2泊)』
とだけ書き留めた。
書かなくても絶対忘れるワケないんだけど、文字にするコトでさらに実感が湧いてくるというか…どうしよ、マジ楽しみになってきたよ?
マネージャーさんのありがたいお話が終了し、みんなはまたそれぞれ元の場所へイスを移動して再び待機状態。
明日から、このメンバーでダンス合宿かぁ…あたしの知らないモーニング娘。は、一体どんな風に変わってるんだろうか。
みんな!新生モーニング娘。の姿、矢口はちゃんとこの目に焼き付けて帰るからね!!帰れるかどうかはわかんないけど。
ついでによっすぃーとの2泊3日のプライベート旅行(矢口の中では)も、楽しんで帰るからね!!
明日から、2泊3日の合宿か……よぉし、がんばるぞーーーーーーっっ!!!(いろんな意味で)
- 389 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月02日(土)15時25分21秒
- ――――
「じゃあ、ちょっと休憩ね」
先生の一言で、あたしたちは地獄のレッスンからしばし解放。
あたしはスタジオの隅に置いてあった荷物からタオルを取り出して汗を拭うと、その場に座り込んだ。
新メンバーが入ったコトで今までの曲も全部パート割とか変わっちゃってて、あたしはみんなについてくのがやっとだった。
新メンバーの4人は、休憩時間になってもまだ先生に見てもらって練習してる。
自主的にやってるのか、それともやらされてるのかは分からないけど…このコたちもまあ、それなりにがんばってるみたい。
昨日の収録ではみんな笑いを取るのに必死になってたからどうなるコトかと思ってたけど、そんなに心配するコトもなかったのかな。
「吉澤!!また遅れてる!!いつも一人だけ遅れるよそこ、気をつけて!!」
「…はい」
夏先生に怒られて落ち込むよっすぃー…カワイイ。
よっすぃーは何やっててもカワイイんだけど、そんな姿を常に目で追ってる自分がだんだんすごくアヤしい人間に思えてきた。
ちょっとは自重した方がいいかな…よっすぃーだって嫌だよね、こんな先輩。
しかもあたしは、よっすぃーの『教育係』ってコトになってるらしいし…やっぱり、少しは先輩らしく落ち着いた雰囲気を漂わせてないとね。
『教育係』かぁ…新しいコが入ってきたら、そーゆーコトもやんなきゃいけないんだよね。
あたしにできるのかなぁ…ちょっと不安。
- 390 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月02日(土)15時26分26秒
- 今まで自分のコトで精一杯だったあたしが、新人の教育係かぁ…矢口も成長したもんだ。
だけどそれよりもっと驚いたのは…後藤が、新メンバーである加護の教育係をやっていたコト。
(あたしにとっては)ついこないだまで、紗耶香に怒られて大泣きしたり、ちょっと誉められただけなのにすごく喜んでたり、
毎日そんなコトを繰り返してたあのコが、今度は誰かを教える立場に立ってる。
紗耶香に教わったコト、同じように加護にも教えてあげたのかな。
たとえば、1人のヒトが誰かに何かを伝えたとして、その誰かがまた他の誰かに同じコトを伝えたとしたら、そのヒトが伝えたかったコトは、
2人の誰かに伝わるコトになる…うーん、何かややこしいな。
たとえば、紗耶香が後藤に何かを伝えたとして、後藤が加護に同じコトを伝えたとしたら、紗耶香が伝えたかったコトは、紗耶香が
教えたかったコトは…後藤にも、そして加護にも伝わるコトになる。
もちろんこの先、加護が他の誰かに同じコトを教えるようになるかも知れない。
きっとそれは、紗耶香にとっては顔も名前も知らないヒト達にも伝わっていくんだろう。
だけど、それでいいのかな。
紗耶香は…それで、よかったのかな。
- 391 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月02日(土)15時28分44秒
- …やば。
なに泣いてんだろ、あたし。
思い出さないようにしてたのに。ココにいる間は、考えないって決めてたのに。
こんなトコみんなに見られたら、一発で怪しまれちゃうじゃんか…また圭ちゃんに『打ち所悪かったんだよ』とか言われるに決まってる。
あたしはタオルで汗を拭うフリして、あふれだした涙を隠す。
「やーぐちぃ」
「あっ、ちょっとなにすんだよ!」
持っていたタオルをいきなり奪い取られて、あたしは思わず顔を上げる。
「矢口…?どないしたん?」
「何でもない」
しまった…とっさに顔を上げたあたしは、泣き顔を裕ちゃんに見られてしまった。
「何でもないコトないやろ?」
できればほっといて欲しかったのに、裕ちゃんはあたしの隣に腰を下ろすと、ヒザを抱えて俯くあたしの顔を覗き込んでくる。
「矢口…?」
心配そうな裕ちゃんの顔を見てると、余計に涙が止まらなくなってしまった。
これ以上彼女の顔を見ていられなくて…あたしは顔を伏せて、そしてまた泣いた。
衣擦れの音がして、裕ちゃんがその場から動いたのがわかる。
さっきまであたしの隣に座っていた裕ちゃんは、あたしの正面に移動してきていた。
たぶん、あたしが泣いてるの、みんなから見えないように遮ってくれてるんだと思う。
- 392 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月02日(土)15時29分38秒
- 「裕ちゃんは…平気?」
「ん?なに?」
「誰かがいなくなって、また違う誰かが入ってきて…それが当たり前みたくなってるのって、裕ちゃんは平気?」
なに言ってんだろ、あたし…こんなコト聞いてどうするんだ、あたしはどんな答えを期待してるの?
ココにいるみんなは、そういうコト全部乗り越えてきたから今こうしてココでがんばっていられるんだ。
明日香の時だってそうだったし。
だけどあたしにとっては、こないだ彩っぺがいなくなったばっかなのに今度は紗耶香まで、って状況なワケで。
そんなコト考えてたら、あたしたちがやってるコトって何なんだろうって思った。
誰かが抜けるコトで今まで積み上げてきたいろんなモノ、ぜんぶまた一から作り直していかなきゃいけない。
歌もダンスも…あたしたちみんなのキモチだって、またはじめっからやり直し。
ずっとずっと、そんなコトの繰り返し。
「当たり前みたいに『なってる』んやなくて、当たり前みたいに『してる』んやないか?」
「え…?」
裕ちゃんの言葉に、あたしは顔を上げる。
たぶん、まだ泣き顔になってるけど…もう泣いてんのバレバレだし、それよりも裕ちゃんがあたしの唐突な質問に答えてくれたのが
うれしかったから、あたしは顔を上げて裕ちゃんの次の言葉を待った。
- 393 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月02日(土)15時30分21秒
- 「平気なワケないっていうのは、矢口にもわかるやろ?」
あたしは、裕ちゃんの問いかけに黙って頷く。
「誰かが抜けてくのはホンマにしんどいけど、残されたウチらには責任があんねん。そのコが抜けて娘。がダメになったらな…
やめた本人も辛いやろ?」
あたしは、裕ちゃんの言葉にさらに頷く。
「せやから当たり前みたいに『してる』んやんか、みんなでがんばって。そうやろ?明日香も彩っぺも紗耶香も、おらへんくなった時は
ホンマどうしようってめっちゃ不安やってんけどなー…あるコトに気付いたんやで、裕ちゃんは」
裕ちゃんは沈んでるあたしを励まそうとしてくれてるのか、最後の方はわざと茶化すような口調で言った。
「なに、あるコトって…?」
あたしは、目の前で微笑む裕ちゃんに尋ねる。
「うん…今まではな、誰かが抜けるたびに、どうにかしてこのコの抜けた穴を埋めなってそればっかし考えてたんやけどな?
新しいコが4人も入ってきて、紗耶香が卒業して…そしたら、何やぜんぜん違うグループみたいになってもーたなぁってちょっと
落ち込んだりもしたんやんか。わかる?」
「…うん、わかる」
まさに今、あたしがそんな状態だから…裕ちゃんが言ってるコトは痛いほどよくわかる。
何だか今のあたしたちは、あたしが知ってるモーニング娘。とはまるっきり別のグループになっちゃったみたいな気がする。
「で、思っきし落ち込んで…せやけど頑張らなって、あたしがちゃんとせなあかんって思えるようになって、わかった。
誰かの穴を埋めるとか、そんなん最初っからムリやってん。何人集まって束になったところで、誰かが誰かの代わりになれるワケ
ないしなぁ。第一、もし自分が誰かの代わりやって言われたら…そんなん嫌やん。代わる方も、代わられる方もそれは嫌やろ?」
「…うん」
あたしたちにはあたしたちの、新しいコたちにだって彼女たちの、それぞれの個性があって。
だから、誰もが誰かの代わりになんて…なれっこないんだ。
- 394 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月02日(土)15時32分44秒
- 「抜けた穴は埋められへんのやから、新しく作って陣地広げてくしかないやん?それに気付いたんですよ、中澤さんは」
今度は照れ隠しなのか、再び茶化すような口調で裕ちゃんが言った。
みんなが、いま裕ちゃんが言ったみたいな気持ちで必死にがんばってきたからこそ、今があるんだ。
周りから見たら当たり前みたく『なってる』ように見えるかも知れないけど、ホントはメンバーみんなで必死になって当たり前みたく『してる』んだ。
今はまだ何となく実感が湧かないけど、紗耶香が卒業する日が来たらその時は、ちゃんと送り出してあげなくちゃいけないんだと思った。
娘。に残るあたしが、今までみたく頼りないヤツだったら…紗耶香だって、安心して進んでいけないと思うから。
たぶん、大泣きしてぐちゃぐちゃになっちゃうんだろうけど、ちゃんと見送ってそしてあたしも前に進んでいこう。みんなと一緒に。
「まさか、裕ちゃんはやめたりしないでしょーね?」
ようやく涙も乾いたあたしは、冗談半分に聞いてみる。
「あたしか?当ったり前やんかぁ。矢口に2000回チュウするまでは、死んでもやめへんで」
「2000回って…どっから出てきたんだよ?」
「ミレニアム」
「ああ…」
ったく、未来の世界でも相変わらずアホなコトばっか言ってんだから…。
「じゃあ、もう裕ちゃんとはチューしない」
2000回達成したからって、やめられたら困るもんね。
「なんでよ?1999回までやったらええやん。ほんで最後の1回だけとっといたらええやんか」
なんか…『1999』って数も、世界の破滅ってカンジがして何となくイヤだなぁ。
「ほんなら、5万回に増やそか?それやったらええやろ?」
「ダメ!!っていうか、5万回ってのもどっから出たんだよぉ」
「いや、何となく…いっぱいってカンジするやん?」
やれやれ、さっきまであんなにカッコ良いコト言ってたくせにこれじゃ台無しだよ…。
そーゆートコもまあ、何となく裕ちゃんらしいんだけどさ。
「ほんなら、1年ごとに何回かずつ増やすっての、どう?」
金利じゃないんだから…。
- 395 名前:すてっぷ 投稿日:2001年06月02日(土)15時35分15秒
- >380(371) さん
ありがとうございます。レス遅くなってすいません。ホントにホントに気にしてないので
どうかお気になさらないで下さい(何かヘンな日本語ですが)。基本的にギャグ中心なので
どうしても市井を出す事ができなかったんですが(出していいんだろうか、っていうのもあって)、
今回は彼女の卒業に関する話です。これからも読んで頂けるとうれしいです!
>381 名無し読者さん
ありがとうございます。これはツッコまれてもしょうがないですね、本当に(笑)。
それだけ衝撃的な出逢いだったということで…。
>382 名無し読者さん
ありがとうございます。頭に衝撃を受けてからの、矢口のよっすぃーに対する思いは
暴走しっぱなしですが、そのあたりは次回さらなる展開がある…かもしれません(笑)。
>383 名無しさん
ありがとうございます。笑っていただけて、うれしいです。
いつもバカな事ばかり考えていた甲斐がありました(笑)。
- 396 名前:383 投稿日:2001年06月02日(土)19時14分12秒
- >吉澤の吉で『よっすぃー』か…なんて安易な.
って矢口さん、命名したのはあなたでしょう(笑)
すてっぷさんの書く登場人物の独り言がステキ☆かなりツボです。
- 397 名前:かんかん 投稿日:2001年06月02日(土)19時22分13秒
- ずっと読んでますよー。
ってかおもしろいっすよ。
爆笑って感じっす。
- 398 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月03日(日)00時06分29秒
- 矢口もおっ師匠さんなんだから、とりあえずしっかり頑張ってくれ。少しは自制して。(笑)
でも実際矢口って、けっこうこんな感じなんですよね。
よっすぃ〜たまんね〜、とか、こないだもラジオで、衣替えして女の子も上着を脱いで…
ウキー、とか言ってたし。
- 399 名前:バービー 投稿日:2001年06月03日(日)22時59分54秒
- おおおお!!!
やっぱここのやぐよしはいいです!!!
良すぎですよぉ・・・・
あったかい気持ちになれます。
旅行のシーンが(合宿)
楽しみです。
- 400 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月04日(月)20時03分18秒
- おいおい!矢口!
もっとマシなメモとれよ!(笑
>>398
最近の矢口ってちょっとおやじっぽいですよね(笑
- 401 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月06日(水)21時20分35秒
- ――――
「じゃあ、吉澤だけ残って。今日は解散」
「「おつかれさまでした、ありがとうございました」」
時刻は午後9:00。夕食を挟んで行われたダンスレッスン夜の部も、ようやく終了を迎える…疲れた。
合宿初日、本日のレッスンはこれにて全て終了…ただ一人、よっすぃーを除いては。
新メンバー4人の中でもよっすぃーは一番ダンスが苦手らしく、今日のレッスンでも夏先生にいっぱい怒られてた。
彼女、運動神経良さそうだし何でも完璧にこなしそうに見えたから…ちょっと意外だったんだけど。
やっぱり人は外見だけじゃ判断できないんだなぁ…ってそんなの当たり前か。
あたし、よっすぃーのコト全然知らないもんなー…出会って2日目じゃ、それも仕方のないコトなんだけど。
4月に加入してから約半年経ってる今でこそこうやってみんなに付いてこれてるけど、この様子じゃ入りたての頃は
きっと相当苦労したんだろうなー…。
先生に見てもらって一生懸命に練習してるよっすぃーの姿を見ながらあたしは、あたしの知らない半年前のよっすぃーを
いろいろと想像してみた。
入ったばっかで初々しいよっすぃーの姿…はじめてのレコーディングに緊張して思わず泣いてしまうよっすぃー、
ダンスレッスンが上手くいかなくて落ち込むよっすぃー(『矢口さん、あたしもうダメです…』とか言ってる)…カワイイなぁ。
って、そうじゃなくて!!
どうしてもよっすぃーのコト見てると思考が脱線しちゃうんだけど、よっすぃーはあたしの運命のヒトであるのと同時に
教育しなきゃいけないコなんだから…あたしは彼女の『教育係』なんだから、もっとしっかりしなくちゃ。
「さっきのとこ、もっかい最初っからいくよ」
「はい!」
夏先生の厳しい指導にもめげず、苦手な部分の練習を繰り返すよっすぃー…頑張ってるなぁ、うん。
ずっと休憩も取らずにやってる割には大して疲れた様子もないところを見ると…体力はかなりありそう。
とりあえず、部屋に戻ったらわかんないトコ教えてあげよう…。
あたしは荷物をまとめると、今日からのあたしたちの宿泊先である近くのホテルへ移動した。
- 402 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月06日(水)21時21分44秒
- シャワーを済ませてバスルームを出ると、よっすぃーはまだ戻っていない様子。
きっと、まだ残って練習してるんだ…。
あたしも、娘。に入ったばっかの頃はよく居残りで練習してたなー…今はもうそんなコトもなくなったけど。
始めの頃は裕ちゃんたちともあんまり上手くいってなかったから、対抗意識燃やしちゃって必死で練習してた。
この人たちに早く追いついてやるんだ、ってそればっか考えて躍起になって…。
結果的にはそれで上達したから良かったのかも知れないけど、当時はかなり悩んでたからなぁ。
裕ちゃん、めっちゃコワかったし…今思い出しても背筋が凍るよ。
そういえば今の新メンバーが入ってきたときは、どうだったんだろう…。
裕ちゃんはやっぱり、例の威圧感全開なカンジで彼女たちを迎えたのだろうか。
昨日今日とあたしが見た限りではすっかり打ち解けてるみたいだったから、そんなに心配するコトもないんだろうけど。
あたしは…どうだったんだろう。
あのコたちのコト、ちゃんと迎えてあげられたのかな?
見るコトや聞くコト、何もかもが初めての経験で不安だらけの彼女たちを…ちゃんと迎えてあげられたのかな。
そうだと、いいな…。
それにしても…遅いなぁ、よっすぃー。
時刻は既に10時を回っている。
あたしは濡れた髪をタオルで押さえながら、窓の外に広がる夜景を見ていた。
今のままでも十分キレイなんだけど、部屋の電気を暗くしたら外の夜景が浮かび上がってもっとキレイに見えるはず。
でも今消しちゃったら、よっすぃーが帰ってきた時びっくりするだろうから…後でやろっと。
夜景を見ながらすっかり髪も乾いてしまった頃、ドアの開く音がして誰かが部屋に入ってきた。
「よっすぃー。おつかれ」
「おつかれさまです」
言いながら、よっすぃーはベッドの上に荷物を降ろす。
相変わらずその表情に疲労の色は見えない…元気だなー、このコは。
それとも、そーゆートコはあんまり人に見せないのかな。
「シャワー、先使っちゃったよ?」
「はい。あたしも行ってこよっと」
そう言うとよっすぃーは、荷物の中から着替えを取り出すとバスルームへと消えていった。
- 403 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月06日(水)21時22分45秒
- そうだ、よっすぃーがいない間に電気消してみよう。
真っ暗な部屋から見る夜景って、キレーなんだよなぁ。
まだ入ったばっかで当分戻ってこないだろうし、戻ってきたらすぐ点ければいいんだしね。
あたしは部屋の入口まで行くと、ドア付近の電気だけは点けたまま他の灯りを全て消してみる。
うっわー…すっごい、キレー。
あたしの予想通り、真っ暗な部屋から見る夜景は本当にキレイで…ありきたりな表現だけど、『宝石を散りばめた』みたい。
あたしはしばらくの間、時間を忘れて窓の外の景色を眺めていた。
「矢口さん…?」
「えっ」
突然、後ろから声をかけられてはっと我に返る。
振り返ると、あたしの後ろにはよっすぃーが立っていた。
「あっ、ゴメン。電気つけるね」
ついつい夜景に見とれてて、よっすぃーが出てきたのに全く気付かなかった。
だけど、よっすぃーが入ってからまだそんなに経ってないのに…ずいぶん早かったなぁ。
てっきり、もっとゆっくり入ってくるのかと思ってたのに。
「いいですよ、このままで。外、見てたんですか?」
あたしの後ろで、濡れた髪をタオルで拭きながらよっすぃーが言う。
「うん。電気消したらさ、すっごいキレーなんだよね」
「ホント…ぜんぜん違いますよね、真っ暗だと。すごいキレイに見える」
パサッという音がして後ろに目をやると、よっすぃーが放り投げたタオルがベッドの上にポツンと乗っかっていた。
「でも早かったね、よっすぃー。もっとゆっくり入ってれば良かったのに」
あたしは再び視線を窓の外に戻すと、後ろに立つよっすぃーに背を向けたまま言った。
もしかしたらよっすぃー、さっさとお風呂入って早く寝たかったのかな…あれだけ練習してたんだから、それも当然だよね。
「早く会いたかったから。……矢口さん」
「……!」
心臓が、止まっちゃうかと思った。
後ろから突然よっすぃーに抱きしめられて、あたしは思わず身を硬くした。
- 404 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月06日(水)21時23分42秒
- 「そんなに驚かなくてもいいじゃないですかぁ。ひどいなー…」
「あ、ゴメン」
あたしが謝ると、よっすぃーはあたしを抱く手にさらに力をこめた。
あたしの頭の上にあごをのせて、よっすぃーはすっかりリラックスしてるカンジ。
ちょっと待って、なんか日常っぽいよコレ…2人にとってすごく普通っぽいんだけど、どーゆーコトよ、コレ!?
考えろ、考えるんだ、矢口…久しぶりに考えてみるんだ、ヤグチ。
この状況…あたしとよっすぃーは、教育するヒトとされるヒト以上の関係ってコトよね、コレはどう見ても!!
と、いうコトは…『よっすぃーは既にあたしのモノ』ってコト!?
うそっ、超ラッキーだよ!!どうしよう!!
こんなにツイてていいのかなぁ、ツキまくりだよ、ヤグチぃ!!
何の苦労もせずに、これぞまさにタナボタというか…。
買ってもいない宝クジが当たっちゃったみたいな、3億円の当たり券タダでもらっちゃったみたいな!!!
突然、あたしの後ろでよっすぃーがくすっとうれしそうに笑う。
どうしたんだろ…あたし、何か怪しい行動でもとっちゃったかな。
お祭り騒ぎはココロの中だけに留めてたつもりだったんだけど…。
「どうしたの…?」
あたしは、できる限り平静を装ってよっすぃーに尋ねる。
このシチュエーションは2人にとって日常なんだ…そう自分に言い聞かせ、ニヤケそうになる顔を必死でガマンする。
「あのね、今日すっごいイイコトあったんですよ…誉められたんです、夏先生に」
「へっ?」
予想もしなかったよっすぃーの言葉に、あたしは思わずマヌケな声で聞き返してしまう。
- 405 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月06日(水)21時24分31秒
- 「吉澤がいちばん上手くなったって。まあ、最初がいちばんヘタだったから…やっとみんなに追いついたってカンジ
なんですけどね」
そう言ったよっすぃーの声は、本当にうれしそうだった。
そっかぁ…良かったね、よっすぃー。
「そんなコトないよ。すっごいがんばってたもん、よっすぃー…全然ヘタなんかじゃないよ?」
本当に、すごいがんばってたもんね…ちゃんと見てたよ、矢口は。
あたしは、いつの間にかよっすぃーの腕の中にいるコトに違和感を感じなくなっている自分に気付いた。
むしろ一人で夜景を眺めていたときよりも、こっちの方がすごく落ち着くような気がする。
よっすぃーは、本当にあたしの『運命のヒト』なのかも知れない。
「誉めてください、矢口さん」
「え…?」
「矢口さんに誉めてもらうのが、イチバンうれしい」
後ろにぴたりとくっついてるよっすぃーの声は、あたしのカラダ全体に直接響いてくるみたいなカンジがして何だか心地良い。
もぅ、カワイイコト言ってくれちゃって…やってて良かった、教育係。
あたしは後ろから回されたよっすぃーの腕をそっと解くと、くるりと後ろに向き直ってよっすぃーの正面に立つ。
そして、真っ暗な部屋で夜景に照らされたよっすぃーの顔をまじまじと見つめる。
「すごい!!えらい!!よくやった、よっすぃー!!よしよし…」
あたしはよっすぃーに思いつく限りの賞賛の言葉を浴びせながら、少し背伸びして彼女のアタマをなでてあげる。
「よしよし、よすぃよすぃ、よっすぃーよっすぃー…なんちゃって。ははっ」
ちょっと…なに言ってんだろ、あたし。
舞い上がったあたしは、ほとんど無意識のうちにくだらないギャグ(しかもダジャレ)を口にしてしまっていた。
言っちゃう前に脳内で止めろよ…これじゃ梨華ちゃんが小指立っちゃう(コントロール不可)のと大差ないし。
- 406 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月06日(水)21時25分30秒
- 「相変わらずつまんないですね。でも、そういうトコ好きです」
「あ、ありがと…」
よっすぃーって、矢口のそーゆートコが好きだったの?
なんか…素直に喜べないんだけど。
「じゃあ…誉めてもらったついでに、ごほうびももらっちゃおうかな」
「えっ…!?なに!?」
次の瞬間、あたしのカラダはふわりと宙に浮いていた。
っていっても独りでに浮いたワケじゃなくて、よっすぃーに突然抱きかかえられて浮いたってのが正しいんだけど。
よっすぃーはベッドの上にあたしを降ろすと、仰向けになってるあたしの腰の辺りに跨って、慣れた手つきであたしの
パジャマのボタンを外していく。
「ね、ちょっと待ってよぉ…よっすぃーってば!!」
「え…」
ベッドの上で仰向けに寝かされた状態で、あたしは上着にかかったよっすぃーの手を押さえて抵抗する。
そんなあたしを、よっすぃーはきょとんとした顔で見下ろしてる。
気まずくなって視線を逸らしたあたしを見て、よっすぃーはパジャマにかけていた手を外すとあたしの上から退いてくれる。
あたしはボタンの外れたパジャマの上着をかき合わせながら体を起こすと、よっすぃーと向かい合うようにして座りなおす。
あたしのパジャマは既にほとんどのボタンが外され、最後の一つを残すのみとなっていた。
驚くべき早業…っていうかダンスよりこっちのが得意だろ、お前。
このコに一体何を教育しちゃったんだよ、未来のあたしは…。
「どうしたんですか?そういう、気分じゃない?」
「いや、気分てゆーかさ…」
出会って2日でこんなコト…さすがの矢口もそれは最短記録だし。
目の前のよっすぃーは、何だか寂しそうな顔であたしを見つめている。
どうしよう…うれしいけど、困ったなぁ。うれしいけど。うれしいけどさぁ…。
- 407 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月06日(水)21時26分25秒
- うれしい…?
そっか…『うれしい』んじゃん、あたし。そっかそっか。
だとすれば答えはひとつ、自分の気持ちに逆らわず素直に従う…それって、ヤグチらしくていいんじゃない?
「矢口さん…?」
急に黙り込んだあたしの顔を、よっすぃーが心配そうに覗き込んでくる。
「あのさ……いいよ」
「ホントに?」
さっきあたしが抵抗したせいか、よっすぃーはまだ不安そうな顔であたしを見つめている。
あたしは、よっすぃーのコト何も知らない。だって、昨日初めて会ったばかりなんだから。
ぶっちゃけたハナシ、あたしが好きになったのはよっすぃーの外見。
よっすぃーの顔が好き。声が好き。背の高いトコも好き。ぜんぶ好き。
だけど、『カラダからはじまる愛』だっけ…そーゆーのってアリだと思う、ヤグチ的には。
ココロとカラダ、どっちが先でもそんなコトはあんまり大した問題じゃないような気がするし。
大切なのは、『これから』。
これからよっすぃーのコト、少しずついっぱい知っていけばいいんだから。
だったら、『はじまり』なんて…どう始めるかなんて大した問題じゃない、よーな気がする。何となく。
でもやっぱり…かなり安っぽい言い訳だよなぁ。
あ…やば、すごくもっともらしい言い訳、思いついちゃった。
『未来を、変えてはいけない』
ココであたしが躊躇してたら、あたしたちの未来が変わってしまうかも知れない。それは大問題だ。
あたしとよっすぃーの未来のために、ひいてはモーニング娘。の未来のために、そしてさらにはこの美しい地球の未来のためにも、
ココであたしが未来を変えてしまうワケにはいかないのであった。
もはや矢口ひとりの問題じゃないね、コレは。うん。
よし、これだ。これで行こう。ヤグチ天才。ヤグチ最高。
「…うん」
念押しするよっすぃーの言葉に頷くと、あたしは…ゆっくりと目を閉じた。
- 408 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月06日(水)21時27分48秒
- 何だか夢の中にいるみたいな時間が過ぎて…ふと隣に目をやると、まだ終わったばっかで肩で息してるよっすぃーは
あたしに背を向けて寝転んでる。
ぼんやりとしていた意識がだんだんはっきりしていくにつれて、さっきまでのいろんなコトを思い出して急に恥ずかしくなった。
とりあえずよっすぃーが後ろ向いてる間に服を着ようとカラダを起こしたところで、後ろからいきなり右手を掴まれる。
「着てもムダですよ?」
手首を掴まれて振り返ると、よっすぃーが寝転がったままであたしを見上げていた。
「なんで…?」
「またすぐ脱がしちゃうから」
そう言ったよっすぃーの手によって、あたしは再びベッドに引き戻されてしまった。
さっきまであたしに背中向けてたよっすぃーは、今度はあたしの方を向いて寝転んでる。
あたしが横目で見やると、よっすぃーは何やら意味深な笑みを浮かべた。
間近に迫ったよっすぃーの顔は、あんなコトした後でも…いや、あんなコトした後だからかもしれないけど、何だか照れくさくて
ちゃんと見てられなくて、あたしは彼女から視線を逸らした。
「誉めてください、矢口さん」
なに言ってんだ、コイツは…もっと他に誉められなきゃいけないコトがあるでしょーが。
でも…まあいっか、練習もいっぱいがんばってたしね。
「うん、でかした。よくやった」
なにが、『よくやった』んだか…我ながら自分のアホさ加減にアタマ痛いけど、こんなアホな会話が許されるのも
あたしたちが運命の2人だからです。そーゆーコトにしとく。
「良かったぁ…なんか自信あったんですよ、今日。どうしてかわかんないけど」
その自信がどっから湧いて出たのかは知らないけど、よっすぃーは何だか得意げ。
「夏先生に誉められたからじゃないの?」
「あ、そうかもしれない」
んなワケねーだろ…あたしのテキトーな理由付けに素直に納得するよっすぃーは、どっか抜けてるんだけどやっぱりカワイイ。
「じゃあ、もっと誉めてもらおっかなぁ…」
「ちょっ…や、だ…」
すごいよ、よっすぃー…キミすごいってホント、いやマジでっ………!!
あたしは、呪いのキスで未来までふっとばしてくれた10ヶ月前の裕ちゃんに心から感謝していた。
裕ちゃん、聞いて!!
ヤグチは今、ヤグチは今……むっちゃくちゃ幸せやでぇぇぇーーーーーーーーーーっっ!!!
- 409 名前:すてっぷ 投稿日:2001年06月06日(水)21時30分47秒
- >396 383さん
ありがとうございます。独り言が多すぎて本人のセリフはほとんど
なかったりするんですが(笑)、そう言っていただけて良かった…。
>397 かんかんさん
ありがとうございます。
もっともっと爆笑してもらえるように頑張りますので、これからもよろしくです!
>398 名無し読者さん
ありがとうございます。『よっすぃ〜たまんね〜』って…そんなこと言ってたんですか?
完全にオヤジ級のコメントですね(笑)。
今回の矢口は自制するどころか…でしたが、どうか温かい目で見守っていて下さい(笑)
>399 バービーさん
ありがとうございます。旅行のシーン、とんでもない合宿になってしまいましたが
あったかくなって頂けましたでしょうか…ちょっと自信ないです(笑)。
>400 名無し読者さん
ありがとうございます。ナイスツッコミです(笑)
最近の矢口は…確かにオヤジ的発言が目立ちますよね(笑)
- 410 名前:名無すぃさん? 投稿日:2001年06月06日(水)23時48分07秒
- すてっぷ作品初H!?
ココと「ステップ・バイ・・・」のやぐよしはサイコーだ。
できれば次の更新いつ頃になるか教えてくれると嬉しい・・・。
毎日何回も(仕事中に)緑板&赤板をチェックする俺。
- 411 名前:もんじゃ 投稿日:2001年06月07日(木)00時50分57秒
- 拒んだだけで、美しい地球の未来まで左右するとは。
大義名分にしても構想がでかすぎる、矢口(笑)
でも甘えるよっすぃーにいっぱい誉めてあげる矢口は
なんだか母性的でいい感じですね。微笑ましいカップルです♪
- 412 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月07日(木)04時30分27秒
- よく考えてみると、矢口は半年間の記憶がないのと同じで、そう考えてみると結構怖い状況かも。
でも、その半年間に思いを馳せる矢口の視線はひたすら優しくて、いいですね。
今回は、最初矢口の妄想が暴走気味だと思ってたけど、現実はもっと先を行ってたようで。(笑)
まあそれもいい方(?)にいってたみたいで、良かったですな、矢口さん。
自分としては更新は、予定なんかはなくても、すてっぷさんの都合のいいときにしてもらえればいいと思います。
あまりそういうことにとらわれずに、自由に書いて、できたときに更新してもらえれば。
ともあれ、けっこう(かなり?)状況を楽しんでいるらしい矢口さんの活躍に期待です。
- 413 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月08日(金)01時12分46秒
- おおっとぉ〜〜
すてっぷさんの小説はそっちには行かないものだと何故だか勝手に思い込んで読んでたので(先入観怖し・・)
かなり不意打ちすぎてビビりました(w
そして不意打ちは萌えます(w
ご馳走様でした。
- 414 名前:すてっぷ 投稿日:2001年06月09日(土)03時24分04秒
- >410 名無すぃさん
マメにチェックして下さっているとは…ありがとうございます&更新遅くてすいません。
っていうか、(仕事中に)って…(笑)。次は、できれば日曜夜までには緑か赤の
どちらか更新できればいいな(あくまで『いいな』)と思っております…。
>411 もんじゃさん
ありがとうございます。
美しい地球の未来…今回の話は、かなり壮大なスケールでお送りしました(笑)。
母性的ですか、なるほど…矢口視点ということで、今まであまり書けなかった彼女の内面的な
部分も出していければと思っております。
>412 名無し読者さん
ありがとうございます。丁寧な感想&温かいお言葉、本当にありがとうございます。
矢口を主人公にしたのは、新メンバーとして迎えられる立場と迎える立場の両方を経験した
彼女が、4人の加入とそれによってすっかり変わってしまった娘。をどう受け止めて
受け入れていくのか、というのを書いてみたいと思ったからです。
とか言いつつ、今回の話じゃ何を言ってもまったく説得力がないのですが(笑)。
先行き不安ですが、最後までお付き合いいただけるとうれしいです…。
>413 名無し読者さん
>ご馳走様でした。
どういたしまして(笑)。こんなんで食あたりになりませんでした?
書いてて、いっぱいいっぱいでした(この程度で)。
これも後々、ちゃんと生きてくるエピソードになる予定ですのでご安心(?)ください。
無意味な出来事にはならないはず、です…たぶん(笑)。
- 415 名前:バービー 投稿日:2001年06月11日(月)23時08分28秒
- 最高でした。何か心があったかくなる・・
やぐよしってほんと心がぽかぽかになりますねえ。
よっし!こっちも頑張って更新する気になれました!!
- 416 名前:すてっぷ 投稿日:2001年06月17日(日)03時11分37秒
- >415 バービーさん
ありがとうございます。今回は書いてて本当にいっぱいいっぱいだったので(笑)、
そう言っていただけて安心しました。
バービーさんも、更新がんばってください!!
- 417 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月17日(日)03時18分19秒
- ――――
「よっすぃー、よっすぃー、起きてよ!ホラ!起きてってば!!」
「…は、い。おきます…もう…すぐ…」
目覚めてすぐ、隣で眠るよっすぃーを見てあたしは、昨夜の出来事が夢ではなかったんだと実感した。
さっきから何度も起こしているのに一向にベッドから出ようとしないよっすぃーは、かなり寝起きが悪いらしい。
よっすぃーについてあたしが知ってるコト、これでまたひとつ増えた。
「もうすぐ、じゃなくて!今すぐ起きろっつってんの!!」
「…は、い。おきます…いま…すぐ…」
ったくベタな寝ボケ方しやがって、コイツは…。
まあ、そーゆートコがカワイイんだけどねー…って、幸せに浸ってる場合じゃない。
いいかげん起こさないと、ホントに遅刻してしまう。
しょうがない、ちょっと大人気ないけどあの方法で起こすしかないか…。
あたしは布団の中に手を滑り込ませると、あたしに背を向けて眠るよっすぃーの腰のあたりを両手で探る。
「ん…わっ!?はははははっっ!!うぅっ、やめてっ!矢口さん!!うわっ!?ははははははは!!!やめてー!!」
「ダメ。起きます、って言わなきゃやめない」
あたしのくすぐり攻撃によっすぃーは、ベッドの上でのたうち回りながら逃げようと必死にもがいている。
「起きます!!起きます!!起きますから!!うぅぅーっ!くくくっ…!!」
壁の方にカラダを向けてるよっすぃーの顔を覗き込むと、彼女はその目にうっすらと涙を浮かべていた。
よっすぃー…そんなに苦しいの?
運命のヒトに目の前でそんなカオされちゃったら、矢口は、矢口は…。
「ダメ。矢口さん大好きです、って言わなきゃやめない」
もっと見たくなっちゃうじゃん、よっすぃーのそーゆーカオ。
「くくくっ…やっ、矢口さん大好きです!!矢口さんっ!!大好き、ですっ!!はははははっ!!!」
よっすぃーはエビのようにカラダを折り曲げて、ひたすら苦しみに耐え続けている。
やば、なんかおもしろくなってきたよ?
「ダメ。矢口さんは世界一カワイイです、って言わなきゃやめない」
「くっ…、おねが…やめっ…!ははははっ!!やぐ、やぐちさんは世界一っ……うあっ!!!」
「よっすぃー!?」
突然、ゴンッという鈍い音がしてあたしは慌ててよっすぃーを解放する。
- 418 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月17日(日)03時19分31秒
- 「うそっ、だいじょうぶ!?」
「うぅぅ…」
壁際で逃げようと暴れていたよっすぃーは、イキオイ余って硬い壁で思いっきりアタマを強打してしまったらしい。
両手で自分のおでこを押さえながら、ベッドの上でうめき声を上げている。
「ゴメン、よっすぃー!!痛かった…よね?」
あたしに背を向けて横になってる上に両手で顔を覆うようにして痛みに耐えているよっすぃーの表情を窺い知るコトは
できなかったものの、さっきの鈍い音とよっすぃーのうめき声から察するに…相当痛かったコトだけは間違いない。
「…っ、くっ…っ…ひっ…く…っ」
「はあ?」
うっそー…泣いてるよ、このコ。
そんなに痛かったのかなぁ…っていうか、アタマ打って泣きじゃくる15歳ってのもどうなんだろ。
「ねぇ、泣かないでよぉ…そんなに痛かった?」
あたしは、小刻みに震えているよっすぃーの肩にそっと手を添えて尋ねる。
「っ、ちがっ、ちがいますっ…痛いからじゃ、ない…っ」
泣きじゃくりながらも、よっすぃーはあたしの問いかけに答えてくれる。
だけど、痛いからじゃないって…だったら、どうして泣いてるんだろう?
「じゃあ、なんで泣いてんの?」
あたしが尋ねると、よっすぃーは両手で顔を覆ったまま首を横に振るだけで何も答えてはくれない。
「ねぇ、よっすぃー…?」
よっすぃーが急に泣き出した理由について無理に聞き出そうとは思わないけど、できるコトなら話してほしい。
もしかして悩みとかあるんだったら、聞いてあげたいって思うし…。
あたしは泣きじゃくるよっすぃーの側に座ってその髪を撫でながら、彼女の次の言葉を待った。
「っ…やぐっ、やぐちさん…生きてて、良かった…っ」
「はあ?」
いきなりなに言い出してんの、コイツ…?
「夢で、夢でっ…夢の中でっ…矢口さんが、死んじゃってっ…」
「え…」
ちょっと、やめてよぉ…縁起でもない。
「あたっ、あたしがっ、いきなりドア開けたせいで矢口さんっ…あっ、アタマ打って、それでっ…」
「ドアで頭打って死んだの?あたし」
壁の方を向いて横になったままで、よっすぃーが頷く。
- 419 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月17日(日)03時20分40秒
- 「保田さんがっ…タオルで冷やせば生き返るって、生き返るって言うからあたしっ…っ…ひっくっ」
よっすぃー、あたしと楽屋のドアを激突させちゃったコトまだ気にしてたのかぁ…夢にまで見るなんて。
それにしたって…なにも殺すコトないと思うんだけど。
「生き返るって…ゾンビかよ、矢口は」
あたしが言うと、それまで背中を向けて泣いていたよっすぃーが横になったままくるりとこちらにカラダを向けた。
「生き返んなかったんですよ!!いくら冷やしても、タオルがどんどん温まってくだけなんですよ!!」
温まってく、って…死んでんのに体温あるワケないでしょ(それとも死んだ直後?)。
自分が見た夢の話に熱くなってきたよっすぃーは、カラダを起こすとベッドの上であたしと向かい合わせに座る。
「そしたら安倍さんが…普通のタオルじゃダメだ、って。室蘭で売ってるヤツじゃないとダメだって!!」
「ふーん…」
で、舞台は室蘭に移るの?もしかして。
「それで、買いに行ったんですよぉ…走って」
「走って?」
「はい」
「室蘭まで?」
「はい。途中で休んだりしたけど」
いや、そりゃ当然休むだろうけど…まぁ、夢の話にいちいちツッコんでもしょうがないか。
「で、3日で行って戻ってきたんですよ。買ってきたんですよぉ、室蘭で!タオル!!」
「うそっ、3日で!?」
東京−室蘭を3日で(走って)往復という早業に、うっかり素で驚いてしまった自分に恥ずかしさがこみ上げる。
「そんで、急いで楽屋戻んなきゃって思って、途中でベーグル買って、また走って…」
「ちょっと待って。ベーグルなんて関係あったっけ?」
あたしが生き返るために、室蘭のタオル以外に必要なアイテムが他にもあったんだろうか…ってなにマジメに考えてんだろ。
「ベーグルはぁ、おなかすいてたから。あたしが」
「そんなの矢口が生き返ってからにしろよー…」
夢だとわかっていても、思わずツッコみたくなる…飛行機使って日帰りで買ってこいよぉ、タオルもベーグルも。
「でぇ、ベーグル食べながら全力で走って、めっちゃくちゃ走って、すっごい走って、やっと戻ってきたんですよ」
「うん、それで?」
バカバカしいと思いつつも話の続きが気になったあたしは、身を乗り出してよっすぃーの言葉を待つ。
- 420 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月17日(日)03時22分05秒
- 「戻ってきてドア開けたら…」
「うん…」
まさか、ゾンビ矢口とか出てこないだろうなー…そーゆーホラーっぽい展開はカンベンして欲しいんだけど。
「矢口さん…いなくなってた」
よっすぃーは、独り言のように小さな声でそう言って俯いた。
「あのさ、よっすぃー…それって夢でしょ?」
なぜ『室蘭の』タオルでなくてはならなかったのか、消えた矢口の死体はどこへ行っちゃったのか、聞いてるあたしに
とっては数々のバカバカしい謎の方が気になるところだけど、よっすぃーにとってはそんなコトはどうでもよくて。
ただあたしが彼女の前から消えてしまったコトが悲しくて、そして目覚めたらそれが夢だったと判ったから安心して
泣いてしまった…と考えれば良いのだろうか。
それにしては、あたしが起こすまで気持ち良さげに爆睡してたような気もしなくはないけど…。
「ホラ、矢口ちゃんと生きてるんだからさー。安心しなって」
「………」
あたしが励ましているのにも関わらず、よっすぃーは顔を上げようとしない。
なんだか小学生相手にしてるみたい…辻・加護と同レベルだよ、これじゃ。
「っていうか、勝手に殺すなっつーの。そんなに心配なら途中でベーグルなんか買ってんじゃ……っ!!」
俯いたままのよっすぃーに文句を言いかけたところで突然、強くカラダを引き寄せられる感覚と共に目の前が真っ暗になる。
あたしは、びっくりして瞑ってしまった目をそっと明けた…にも関わらず目の前にはまだ暗闇が広がっている。
そっか、コレは…よっすぃーが黒いTシャツ着てるせいだ。
「よっすぃー…?」
よっすぃーは、あたしを抱きしめたまま何も言わない。
彼女が、ワケのわかんない夢見て泣くくらいあたしのコトを想ってくれる理由なんて…今のあたしにはわからない。
だけど、よっすぃーの胸にぴたりとくっつけた左のホッペが、彼女の体温と胸の鼓動をちゃんと感じてる。
今はただ、こうやってカラダを合わせるコトしかできないけど。
過去の世界に戻ったら、ちゃんとよっすぃーのココロを理解できるようにがんばるから…許せ、よっすぃー。
「……ーっ…すーっ…」
「こらーっ、寝るな!!起きろぉー!!」
あたしを胸に抱いたままよっすぃーは、ゆっくりと2度目の眠りに落ちていった。
- 421 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月17日(日)03時23分11秒
- ――――
「よっすぃーっ!!ね、ね、みてみて!!」
「ん…なに?あいぼん」
休憩時間、あたしからちょっとだけ離れた場所で休んでいたよっすぃーの元へ加護が駆け寄って行く。
その様子を横目で見ながらあたしは、今朝ホテル近くのコンビニで買っておいたクリームパンの袋を開ける。
よっすぃーがなかなか起きなかったせいで、あたしたちは朝ゴハン抜きでダンスレッスンに臨むハメになってしまった。
空腹のままレッスンに突入して1時間後、あたしはやっと遅めの朝食にありつけたってワケ。
「ものまね!!新しいのできたよ!!」
走ってきた加護は、よっすぃーとその隣に座って一緒に休憩してる梨華ちゃんの前に立つ。
「えっ、なになに?なにやんのぉ?」
あたしと同じく遅い朝食をとっていたよっすぃーが、メロンパン片手に身を乗り出して加護のネタに食いつく。
隣に座る梨華ちゃんも、右手に持っていたペットボトルを床に置くとよっすぃーと同じように身を乗り出した。
「はーい、加護のモノマネー、ターイム!!」
あ、今日はピンなんだ…いつもは辻アンド加護のコンビでやってるのに。
加護のタイトルコールの後で、パチパチパチ、というよっすぃーと梨華ちゃんの乾いた拍手が静かなスタジオに寂しく響く。
新ネタか…加護のヤツ、一体なにをやる気なんだろうか。
あたしはクリームパンを頬張りつつ、少し離れた場所で行われている加護のモノマネタイムに聞き耳を立てる。
「矢口さん、やりますっ!!」
なにっ!?あたしのモノマネ…?
よっすぃーと梨華ちゃん(とあたし)に見守られて、加護は大きく深呼吸。
あたしにも人にモノマネされるほどの特徴というか、個性ってやつがあったんだ…ちょっとうれしいかも。
「キャハハハハハ!!キャハハハハハハハ!!!」
なっ……!!
「おわり」
おいっ、それだけかよ!!
いつあたしがそんなバカっぽい笑い方したよ…くっそぉー、加護のやろぉ。
「あはははっ!!そっくり!!」
石川っ、テメー…!!
「はははははっ!!似てる、似てるよ、あいぼん!!」
あーっ…よっすぃーまで。
指に冷たい感触を感じて我に返ると、無意識のうちに握りつぶしていたらしいクリームパンから飛び出した
黄色いクリームが、あたしの右手にべっとりと付着していた。
- 422 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月17日(日)03時24分19秒
- 「…にてない」
そしてあたしの心の声を代弁してくれたのは、意外にもすぐ側で休んでいた加護の相方…辻ちゃん。
一体どうしたんだろう、辻…相棒に対してこの冷たい反応、ケンカでもしたのかな?
「なんやてっ!?」
あ…また関西弁になってる。
普段は気をつけて標準語を喋るようにしているらしい加護は、感情的になるとつい関西弁が出てしまうようだ。
「にてないよ。だって、わらってるだけじゃん」
なんかよくわかんないけど…いいぞ、辻。もっと言ってやれ!!
「そっかなぁ、笑ってるトコがそっくりだったと思うけど」
ねぇよっすぃー…よっすぃーのキレイな瞳には、いつもあんな風にバカ笑い連発してる矢口の姿が映し出されてるの?
「のの、なんでそういうコト言うの?あいぼんがかわいそうじゃん」
さすが、新メンバー内で最年長である梨華ちゃんの口からは、みんなより一歩先行く発言が飛び出した。
きっと普段から、『一番年上なんだからしっかりしなくちゃ!』とかって気負ってるんだろうなー…。
「にてない…っ…だって…にてないっ…じゃん…っく…つじのぉ、にわとりのほうがっ…にてるっ…」
「なんで泣くん!?なんや、ウチがわるもんみたいやんか!!ずるいでっ!!」
「っっくぅっ…ひっく、っく…」
おいおいぃぃ…なんなんだよ、コイツらは。
「のの…どうしたの?」
加護に責められた辻は、梨華ちゃんにすがりついてただ泣きじゃくるばかりで何も話そうとはしない。
「コイツ、めっちゃワガママやねん!!」
どうやら2人のケンカの原因は、加護の口から語られるようだ。
「なんかあったの?」
こんな状況でも決してメロンパンを手放さないよっすぃーは、のんきな口調で加護に尋ねている。
「なんでいっつも『辻アンド加護』なん!?そろそろ逆にしてくれてもええやん!!のの!!」
うっわー、また、アホな理由で…ま、だいたいそんなモンだろうとは思ってたけどさ。
- 423 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月17日(日)03時30分00秒
- 「やだ!!ぜったいかえない!!」
梨華ちゃんの腕にしがみついて泣いていた辻が、加護の言葉に反応して顔を上げた。
「なんで!?もうええやろ!?そろそろ代えてくれてもええやんかぁー!!」
「ああっ、あいぼん、もぅ…大っきな声ださないでよぉ。ね?落ち着こ?」
周りを気にしてか、声を荒げる加護を梨華ちゃんは必死でなだめている。
もっとも他のメンバーは、このコたちのケンカを特に気にしていない様子。
きっと、こういうのはいつもの光景なんだろう…ケンカの理由もホントにくだらないコトみたいだし。
「ののが代えてあげれば?どっちでもいいじゃん、そんなの」
ようやくメロンパンを食べ終えたらしいよっすぃーが、泣きじゃくる辻に提言する。
当然のコトながら、辻はぶんぶんと首を横に振る。
確かに、お笑いコンビにとってコンビ名とは自分の命と同じくらい大事なモノ、それはよくわかる。
でもね、辻ちゃん…おめーらは芸人でもなんでもねーんだよっ!!目を覚ませ、ばかやろぉー!!
「どうしてもイヤなの?」
梨華ちゃんの問いかけに、無言で頷く辻。
そりゃあ…辻には辻のこだわりとかあるのもわかるけど(明らかにこだわるトコ間違ってるけど)、
少しは仲間に譲るってコトも覚えていかないとね…。
「そうだ!交代でやればいいんじゃん!!」
メロンパンを食べ終えてお茶を飲んでいたよっすぃーが、今度はペットボトル片手に言った。
それにしても交代でって…1回ごとに『辻』と『加護』の名前を入れ替えるってコトだよね?
今日が『辻アンド加護』だったとしたら、明日は『加護アンド辻』ってな具合にやれば、ってコトか…。
そんなカンタンな方法で解決する問題とは思えないけど…。
そもそも辻は、コンビ名を変えるコト自体、完全に拒否してるんだから。
「だから、かえないっていってるじゃん!!『辻アンド加護』はぜったいかえないの!!」
ほらね、やっぱり解決しなかった…。
さて、そろそろ矢口の出番かなー…先輩の威厳とやらを、こいつらに見せ付けてやるか。
とは言え何ひとつ解決策を考えていなかったあたしは、もう少しだけこの状況を見守るコトにした。
やれやれ、どうやってこのくだらないケンカを終わらせようかな…。
- 424 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月17日(日)03時32分14秒
- 「違うよぉ、名前変えるんじゃなくてさ。言うヒトを入れ替えるんだよ」
「「「え…?」」」
よっすぃーの言葉に、辻アンド加護アンド梨華ちゃんの戸惑いの声がキレイにハモる。
ゴメン、よっすぃー…今のよっすぃーの言葉、あたしにも理解できなかった。
「だからさぁ…『辻アンド加護』はそのままで、あいぼんが『辻』って言うじゃん。そんでさ、ののが
『加護』って言うの。ね、良くない?なんか平等ってカンジするじゃん」
このヒトは本当にあたしの運命のヒトなんでしょうか…教えてください、神様。
「ねぇよっすぃー、『アンド』は?『アンド』は誰が言うの?」
「えっとねー、2人で言う」
あんたらも『チャーミーアンドよっすぃー』でコンビ組んでみたら?
「よっすぃー、めっちゃ賢いやん!!なー、それ練習しよ、のの!!」
「うんっ!!」
ちょっと待って。何かがおかしいコトに気付かないの?みんな…。
加護が怒ってたのは『辻アンド加護』ってコンビ名に対してであって…あたしの記憶では、どっちがどのセリフを
言うかっていう、パート割みたいなモノはそもそもはじめっから交代でやってたような気がするんだけど…。
「あ、よっすぃー!パンくず、一杯こぼれてるよ?」
「え、うそ!?あー、ホントだ。やっべー」
床に這いつくばって、梨華ちゃんが発見したメロンパンのくず(よっすぃー作)を拾い集める4人の姿を見ていたら…
なんだか、そーゆーいろんな細かいコトはどーでもいいような気がしてきた。
- 425 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月17日(日)03時33分48秒
- ホントにこいつらは、マイペースっていうかなんていうか…。
そんなのんきなコトやってちゃ、この芸能界のアラナミってやつ?乗り切っていけないよ?
だけどみんなのそーゆートコ、これからもずっと変わらずにいてくれればいいなぁって思った。
紗耶香も圭ちゃんもあたしも、入ったばっかの頃は…早く裕ちゃんたちに追いついて追い越してやるんだって
本当に必死だった。
次は1つでも多くソロパートがもらえるように、ってそればっか考えて躍起になって…。
そうやって必死になってやってきたいろんなコト、もちろん後悔はしてない。
だってそういう時期があったからこそ、今のあたしたちがあるワケだし。
だけど。
くやしいときは泣いて、楽しいときは思いっきり笑って、誰かに誉められて喜んだり、怒られて落ち込んだりして。
言いたいコト言って、やりたいコトやって、もちろん直さなきゃいけないトコもいっぱいあるけど…
あたしたちが持ってないいろんなモノ、このコたちは確実に持ってる。
(『抜けた穴は埋められへんのやから、新しく作って陣地広げてくしかないやん?』)
裕ちゃんが言ってたコト、矢口にもなんとなくわかった気がするよ?
新しい風が吹いてるのに、変わっていくコトを恐がってちゃいつまでたっても前には進めない。
守らなきゃいけないモノと、壊してかなきゃいけないモノ。
この2つを上手に選びながら、時間の流れと共にあたしたちは変わっていかなきゃいけないんだ。
だけどみんなと一緒なら…できるよね?
あたしたち…ちゃんと良い方に変わっていけるよね?
そうだよね…みんな。
- 426 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月17日(日)03時35分45秒
- 「やーぐち!!」
「あ、裕ちゃん」
食後にお茶を飲みながらのんきな4人を眺めていると、あたしの頭上からこれまたのんきな裕ちゃんの声。
「チュウしよか?久しぶりに」
「はあ?」
セクハラ裕子は10ヶ月後の未来でも健在かぁ…時間の経過と共に、このヒトにも少しは変わっててほしかった。
「いただきっ!!」
「やっ、ちょっと…」
無意味な行為とは知りつつも、一応抵抗などしてみるあたし…って、ちょっと待って!!
あたしが10ヶ月前からココへタイムスリップしてしまったのは、裕ちゃんの呪われたキスが原因(たぶん)。
というコトは、ココで裕ちゃんにキスを許してしまったら…あたしは再び10ヶ月前の世界に戻ってしまうかも!?
やばい。やばいよ、それは!!
いや、もちろん帰りたいって気持ちはあるし、10ヶ月前に戻って新メンバーのみんなを気持ちよく迎えて
あげるコトが矢口の使命だってのもよくわかってるつもりだけど、でも…。
「お願い、裕ちゃん!!明日まで、明日まで待って!!」
「はあ?なにそれ?」
この2泊3日のプライベート旅行…もとい、ダンス合宿が終わるまでは、ココに残りたい!!
せめて今夜だけ、合宿最後の夜を…よっすぃーと!!
「おねがい…おねがいだから…1回だけ、あと1回だけ!!」
もしかしたら、昨夜みたく連続2回かもしれないけど…!!
「はあ?意味わからへんわ…ええから大人しくしぃ!!」
床に座っていたあたしは、上から裕ちゃんに押さえ込まれて身動きがとれない。
「いやっ…ホントにいやっ!!やめて、裕ちゃん!!!」
「なに涙目なってんの?よけー燃えるっちゅーねん!!」
「いやっ…いやーーーーーーーーーーっっ!!」
必死の抵抗もむなしく、未来の世界でもやっぱり奪われてしまった…あたしの唇。
- 427 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月17日(日)03時37分05秒
- あたしがココへ来たときと同じくらい、長い長い裕ちゃんのキス。
たぶん、次に目を明けるときにはもうみんな、いなくなっちゃってるね。
梨華ちゃん、加護、辻、そして…よっすぃー。
あたしがココで過ごした3日間は、よっすぃーが室蘭まで爆走した3日間とおんなじくらい、長くて、いろんなコトがあって。
だけどあたしはよっすぃーが見た夢みたく、いなくなったりしないから安心してていいよ?
過去の世界で、新しく入ってくるみんなのコトちゃんと待ってるから。
それまでちょっとだけ…ばいばい、みんな。
そして、きっとまた会おうね。
- 428 名前:すてっぷ 投稿日:2001年06月17日(日)03時40分20秒
- 更新遅くてすいません…。
もう少し続きますので(たぶん次回で終わると思いますが)、
最後までお付き合い頂けるとうれしいです。
- 429 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月17日(日)05時17分39秒
- 芸にきびしい矢口さんに笑わせてもらったあと、まじめな独白…
話の中の大波小波に翻弄される私がいる…
次の更新(落ち?)楽しみにしています。
- 430 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月18日(月)14時52分01秒
- >このヒトは本当にあたしの運命のヒトなんでしょうか…教えてください、神様。
神様の変わりに答えましょう。そりゃあもう、運命の人です。(w
- 431 名前:神様 投稿日:2001年06月20日(水)14時50分31秒
- はい、運命の人です
- 432 名前:すてっぷ 投稿日:2001年06月24日(日)16時40分07秒
- >429 名無し読者さん
ありがとうございます。今回、ギャグ部分とシリアスな部分のバランスが何となく
うまく取れないのが悩みどころだったので…そう言っていただけると本当にうれしいです。
落ちですか…どうかなー…心配(笑)。
>430 名無しさん
代弁、ありがとうございます(笑)。
本当に『運命のヒト』だったかは、最後まで読んでお確かめいただけるとうれしいです。
>431 神様
ありがとうございます。まさか『神様』あてにレスする日が来ようとは思いませんでしたが(笑)
最後まで、どうぞ雲の上からお付き合いください…。
- 433 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月24日(日)16時42分09秒
- ――――
「はあっ…もーっ、なにすんだよ!!」
「なんやぁ、そんな嫌がらんかてええやんかぁ」
あたしが力任せに押し戻すと、裕ちゃんがよろけながら2・3歩後ろに下がった。
あたしが座ってるのは、さっきまでダンスレッスンやってたスタジオの床じゃない。
ココは…10ヶ月後の未来に飛ばされちゃう直前にあたしが座ってた、テレビ局の楽屋。
つまりあたしは、あたしが本来いるべきはずの時点に戻ってきたってコト。
「あー、まぁた矢口やられてるよー…」
テーブルの上に置かれたフルーツをつまみながら、あきれたような口調で紗耶香が言った。
あたしたちと同じ場所に…紗耶香がいる。
あたしはあらためて、未来の世界から戻ってきたコトを実感した。
「ん?」
イスに座ってフルーツ食べてた紗耶香が、目の前に座ってるあたしの視線に気付く。
「あ…あははっ」
「はあ?」
笑ってごまかすあたしを、彼女は不思議そうな顔で見ている。
- 434 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月24日(日)16時43分35秒
- テレビ局の楽屋。
紗耶香がいて、そしてあの4人がいない、現在のこの場所。
紗耶香がいない、そしてあの4人がいる、10ヶ月後のこの場所。
このまま、この時の中に留まっていられたら…って思ったりもするけど、それは決して良いコトじゃないんだ。
あたしたちにとっても、あの4人にとっても、そしてもちろん…紗耶香にとっても。
時間はずっと流れ続けるんだから…あたしたちがココに立ち止まってても、時間は待ってくれないんだから。
あたしたちはこれからもずっと、前だけ見て進んでくしかないんだから。
同じ時間、同じ場所のはずなのに、あたしの気持ちは未来へ飛ばされる前と後ではずいぶん変わっていて。
10ヶ月後の未来であのコたちに会うまで感じていた、あたしたちが変わってしまうコトへの焦りや不安は、
もちろん全部なくなっちゃったワケじゃないけど…小さくなったコトは確か。
だって前に向かって進んでさえいれば、そう遠くない未来に…きっと逢えるんだもんね。
今のあたしなら…新しく入ってくるあのコたちのコト、ちゃんと迎えてあげられる気がする。
あと3ヶ月もすれば、またみんなに会えるんだね?
今のみんなはあたしのコト、まだテレビでしか見たコトないだろうけど…あたしはみんなのコト、ちゃんと知ってる。
よっすぃー、梨華ちゃん、加護、そして辻。
もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。
あたしは、ぜんぶ知ってるよ?
みんながどれだけ不安な気持ちであたしたちの元へやってくるか、ってコトも。
みんなそれなりにいろんなコトがんばってるんだ、ってコトも。
みんなの良いトコも悪いトコもぜんぶぜんぶ、矢口はちゃんと見てきたんだから。
だからさ。
だから…安心して、飛び込んどいで。
- 435 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月24日(日)16時44分32秒
- そして。
あれから3ヶ月後、運命に導かれるようにしてあたしはあの4人と再会した。
「かっ、加護亜依ですっ。よろしく…おねがいします」
うっわー…すっかり緊張しちゃって。コレがあの加護か?
未来の姿を知ってるだけに信じられないモノがあるなぁ…。
「つぅ、つでぃのどみ、です。おねがい、します?」
緊張せいか辻ちゃんは、いつにも増して自分の名前がちゃんと言えてない状態。
っていうか、なぜに疑問形?
「…い、石川…梨華、です。よろしく…おねがいします…」
お約束のように緊張しまくってすっかり固まった梨華ちゃんの右手の小指は、やっぱり今日も立っていた。
蚊の泣くような小さな声で自己紹介を終えると、梨華ちゃんはギクシャクした動きであたしたちに一礼する。
「吉澤、ひとみです。よろしくおねがいします」
やっぱいつの時代も、よっすぃーはかわいいなぁー……。
強張った表情で自己紹介すると、よっすぃーはぺこりとおじぎした。
オーディションの映像見て驚いたんだけど、この頃のよっすぃーは髪が長い。
長いって言っても肩にかかるぐらいのセミロングってカンジなんだけど、あたしが未来で見た彼女とは全然印象が違う。
緊張して表情が硬いせいもあるんだろうけど、こっちのがおとなしそうに見えるっていうか…。
ま、どっちにしろよっすぃーはよっすぃーなんだし、どっちのよっすぃーも大好きだから、ヤグチ的には
ぜんぜん問題ナシだけどね。
そしてみんなの前で自己紹介が終わると、4人はそれぞれの教育係の元へあいさつに向かった。
もちろん、あたしのところへは…あのヒト。
「矢口さん、あの、よろしく…おねがいします」
ひゃー、かっわいーなぁ…。
よっすぃーは小さな声であいさつすると、あたしに向かって一礼した。
顔を上げてもまだ、その表情は緊張で固まったまま。
- 436 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月24日(日)16時47分18秒
- 「よろしくね、よっすぃー」
「え…よっすぃ…?」
「あっ、ああ…ホラ、吉澤の吉で『よっすぃー』。ね?」
「ああ…は、ははっ」
まだぎこちなかったけど、よっすぃーはちょっとだけ笑ってくれた。
よっすぃーって、入ってきた頃はこんなに初々しかったのかぁ。
こっからの半年で、あんな悪いコになっちゃったんだね…。
(『じゃあ…誉めてもらったついでに、ごほうびももらっちゃおうかな』)
よっすぃーの慣れた手つきを思い出す。
アレはあたしの半年間の教育の成果だったんだろうか。
あたしの教育が悪かったのかな…いや、『良かった』って言った方が正しいかな?
ヤグチ、悪いコ大好きだし。
このヒトは、あたしの運命のヒト。それは間違いない。
だけどよっすぃーは、あたしのどんなトコロを好きになったんだろう?
彼女のコト、早く知りたい。
一体どうすればあたしが見てきた未来のあたしたちみたいになれるのか、気になってしょうがない。
一体どうすればあたしが見てきたあの夜のあたしたちみたくなれるのかなぁ…あの夜の…あの…。
「へへっ…」
「あのぉ、やぐち、さん…?」
「え…あっ!?ああ、ゴメンゴメン。何でもないから。ははっ」
しまった。あの夜のコトを思い出して、つい顔がニヤけてしまった。
よっすぃーはそんなあたしを不思議そうな顔で見つめている。
まいったなー…いきなりニヤついたりして、アヤシイ人間だと思われてなきゃいいけど。
「ま、わかんないコトとかあったらさ、何でも聞いてよ。どんなコトでもいいからさ?」
「…はい!!」
「とりあえずさぁ、何か悩みとかないの?もぅ、何でも言って!!ねぇ、ないの?ねぇ、よっすぃー」
知りたい。よっすぃーのコト…何でもいいから早く知りたい!!
「え…いや、べつに…」
この時、あたしは気付くべきだったんだ。
彼女の…よっすぃーの、怯えきった表情に。
浮かれまくったあたしが自らの手で未来を変えてしまったコトに気付いたのは、それから半年後のことだった。
- 437 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月24日(日)16時48分36秒
- ――――
シャワーを済ませてバスルームを出ると、よっすぃーはまだ戻っていない様子。
きっと、まだ残って練習してるんだ…。
新メンバーが加入してから半年後…あたしは10ヶ月前に1度経験したダンス合宿に、再び参加していた。
合宿1日目のあの夜と同じように、ダンスの苦手なよっすぃーはレッスン終了後も1人だけ居残り練習中。
合宿1日目のあの夜と同じように、居残り練習中のよっすぃーをホテルの部屋で一人待っているあたし。
新メンバーが加入してから1ヶ月後、あたしたちを待っていたのは…紗耶香の卒業。
笑顔で見送ってあげようって決めてたけど、あたしにそんなコトができるはずもなくて。
最後まで笑ってた紗耶香とは対照的に、あたしは最後までずっと泣きっぱなしだった。
だけど無理して笑顔を作るよりも、そっちの方があたしらしくて良かったのかも知れないって…今はそう思える。
遅いなぁ…よっすぃー。
時刻は既に10時を回っている。
あたしは濡れた髪をタオルで押さえながら、窓の外に広がる夜景を見ていた。
今のままでも十分キレイなんだけど、部屋の電気を暗くしたら外の夜景が浮かび上がってもっとキレイに見えるはず。
でも今消しちゃったら、よっすぃーが帰ってきた時びっくりするだろうから…後でやろっと。
夜景を見ながらすっかり髪も乾いてしまった頃、ドアの開く音がして誰かが部屋に入ってきた。
「よっすぃー。おつかれ」
「おつかれさまです」
言いながら、よっすぃーはベッドの上に荷物を降ろす。
「シャワー、先使っちゃったよ?」
「はい。あたしも行ってこよっと」
そう言うとよっすぃーは、荷物の中から着替えを取り出すとバスルームへと消えていった。
- 438 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月24日(日)16時49分45秒
- そうだ、よっすぃーがいない間に電気消してみよう。
真っ暗な部屋から見る夜景って、キレーなんだよなぁ。
まだ入ったばっかで当分戻ってこないだろうし、戻ってきたらすぐ点ければいいんだしね。
あたしは部屋の入口まで行くと、ドア付近の電気だけは点けたまま他の灯りを全て消してみる。
うっわー…すっごい、キレー。
あたしの予想通り、真っ暗な部屋から見る夜景は本当にキレイで…ありきたりな表現だけど、『宝石を散りばめた』みたい。
そう言えばあの夜も、ココでこうやって夜景見てたっけ…。
2泊3日のダンス合宿。
ホテルの部屋はよっすぃーといっしょ。
一人居残り練習を続けるよっすぃーを、部屋で待つあたし。
お風呂あがりに窓から見る夜景。
すべてがあの夜と同じだった…ただひとつ、あたしとよっすぃーの関係を除いては。
よっすぃーは、あたしのどんなトコロを好きになったんだろう?
一体どうすれば、あたしたちは未来のあたしたちみたいになれるんだろう?
あたしがよっすぃーを意識すればするほど、彼女はどんどんあたしから遠ざかっていった。
加入当初からの度重なる誘いもことごとく断られ(オフの度に『遊園地行こ!』って誘ってみたものの全滅)、
その気まずさも手伝ってあたしたち2人は未だ、表面上は仲良くしていたものの何となく打ち解けられずにいた。
どうしてこんなコトになってしまったんだろう。
『未来を変えてはいけない』なんて、もっともらしい理由をこじつけて暴走してしまった、あの夜のあたし。
やっぱり、カラダから始めちゃったのが良くなかったのかなぁ。
いや、本当はわかってるんだ。問題はそんなコトじゃない。
- 439 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月24日(日)16時51分06秒
- 上手くいかなかったのは、あたしが未来を先に知ってしまったから。
知ってしまった未来を守るために、急ぎすぎて自分を見失ってしまったあたし。
よっすぃーは、ヤグチらしい矢口だから…好きになってくれたんだよね。
そうでしょ、よっすぃー?
未来を知ってしまったあの時から、未来のあたしたちを意識したあの時から、あたしは…
よっすぃーが好きになってくれた矢口真里とは別の人間になっちゃってたんだ。
自分でも無意識のうちに。
『運命のヒト』だなんて、勝手に決め付けて一人で浮かれて…ホントにバカだ、あたし。
運命なんて、未来なんてどうにだって変えられるのに。
良い方にも、そしてもちろん、悪い方にだって…。
「矢口さん…?」
「えっ」
突然、後ろから声をかけられてはっと我に返る。
振り返ると、あたしの後ろにはよっすぃーが立っていた。
「あっ、ゴメン。電気つけるね」
ついつい夜景に見とれてて、よっすぃーが出てきたのに全く気付かなかった。
だけど、よっすぃーが入ってからまだそんなに経ってないのに…ずいぶん早かったなぁ。
てっきり、もっとゆっくり入ってくるのかと思ってたのに。
「いいですよ、このままで。外、見てたんですか?」
あたしの後ろで、濡れた髪をタオルで拭きながらよっすぃーが言う。
「うん。電気消したらさ、すっごいキレーなんだよね」
「ホント…ぜんぜん違いますよね、真っ暗だと。すごいキレイに見える」
パサッという音がして後ろに目をやると、よっすぃーが放り投げたタオルがベッドの上にポツンと乗っかっていた。
「でも早かったね、よっすぃー。もっとゆっくり入ってれば良かったのに」
あたしは再び視線を窓の外に戻すと、後ろに立つよっすぃーに背を向けたまま言った。
あたしの後ろから現れて、ベッドにタオルを放り投げるよっすぃー…10ヶ月前にあたしが見たのと同じ光景。
もしかしてもしかしてまさかとは思うけど、この後に起きる出来事もあの夜と同じだったりして…。
(『早く会いたかったから。……矢口さん』)
淡い期待を抱きつつ、あたしはよっすぃーの次の言葉を待った。
- 440 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月24日(日)16時52分07秒
- 「コンビニ行きたかったから。矢口さん、何か食べたいモノとかあります?」
「………」
コレが現実ってやつ、か…そりゃそうだよねー。
考えてみたら、半年間まったく進展ないのにココでいきなり抱きつかれたりしたら…逆によっすぃーの
アタマの構造疑うっつーの。ははっ…ははははっ…。
「矢口さん?」
「えっ…ああ。あたしは、いいや」
「じゃあ、何かテキトーに買ってきますね」
「…うん。いってらっしゃい」
あたしに早く会いたくて、急いでシャワーを済ませて戻ってきた…記念すべきあの夜のよっすぃー。
そして、とにかくコンビニ行きたくて速攻で戻ってきた…今夜のよっすぃー。
こんなにも変わってしまった、あたしたち2人の未来。
自業自得って言われればそれまでだけど、この結末はあまりにもヒドイんじゃないかい?
「じゃ、ちょっといってきます」
よっすぃーは、ベッドに置かれた自分のバッグから財布を取り出すといそいそと部屋を出て行った。
風のように去っていく彼女から少し遅れて、勢いよく開けられて戻ってきたドアがゆっくりと閉まる。
その小さな音は静かな部屋とあたしの心に、重たく響いた。
ああっ、行かないで、よっすぃぃぃぃぃぃぃーーーーー……。
- 441 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月24日(日)16時53分16秒
- 「矢口さん、ゆでたまご食べます?」
「…何か他のモンないの?」
「ありますよぉ、ヨーグルトとか」
30分ほどして部屋に戻ってきたよっすぃーは、テーブルの上にコンビニ袋を広げて楽しそう。
自分が買ってきたゆでたまごやらヨーグルトやらジュースやらを、次々と袋から取り出してあたしに見せる。
あーあ、せっかくの旅行(正確には合宿)なのに、こんなカンジで今日も明日も終わっちゃうのかなぁ…。
「あの…矢口さん」
突然、よっすぃーが手を止めてぽつりと言った。
「ん?」
イスに座っていたあたしは、側に立っているよっすぃーの顔を見上げる。
その表情はさっきの楽しそうなものから一変して、真剣そのもの…どうしたんだろ、いきなり。
「やっぱり、怒ってますよね?そのぉ…あたしが、いろいろ、断ったりしたコト。遊園地とか…せっかく
矢口さんが誘ってくれたのにあたし…」
少し下を向いて、しどろもどろになりながらよっすぃーが言った。
よっすぃー、ずっと気にしてたんだ…そりゃそうか、先輩のお誘い断っちゃったんだもんね。
あたしにとっては軽い気持ちでも(軽くもなかったけど)、よっすぃーにとってはすごく重荷だったんだ。
なんだか悪いコトしちゃったなー…ホント自分のコトしか考えてないサイテーなヤツだ、あたしは。
「怒ってないよ、っていうかあたしの方こそゴメンね。よっすぃーの気持ち、ぜんぜん考えてなくてさ。
あっ、もう誘ったりしないから…ホント、気にしないで。ね?」
あたしの言葉を信じていないのかよっすぃーは、俯いたままで何も言ってくれない。
「ゴメン…そんなに気にしてたんだ。あたし、ホントに何とも思ってないからさ、だから…」
「ちがっ…そうじゃなくて!!」
あたしの言葉を遮ったよっすぃーの強い口調に、あたしは驚いて彼女の顔をまじまじと見つめてしまった。
- 442 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月24日(日)16時54分47秒
- 「ずっと言わなきゃって思ってて…あたし、何回も矢口さんに誘ってもらって、でもなんかそういうの
あんまり慣れてなかったから…。ホントはホントは…すっごいうれしかったのに、ずっとそれ言えなくて…」
「よっすぃー…?」
その言葉の意味が理解できなくて、あたしはイスに腰掛けたままでしばらく彼女の顔を見上げていた。
「矢口さんが最初にあたしのコト『よっすぃー』って呼んでくれて、そんでみんなもそうやって呼んでくれるように
なって…ダンスとか歌とか、わかんないコトいっぱい教えてくれて、いっつも優しくしてくれて…。
そういうの、すっごいうれしかったから…」
あれあれ?なになに、この展開は。
コレは…またしてもラッキー矢口、復活ってコトかよっ!?
…って、いかんいかん。
ココではしゃいじゃったら、半年前の二の舞だ…同じ失敗は繰り返すな、ヤグチ。
「だから…『もう誘ったりしない』とか言わないでください」
「いや、断られ続けたら言うでしょ。普通」
「だって…何か矢口さん、恐かったんですよぉ」
恐いって…そんなに必死だったかなぁ、あたし。
「じゃあさ…明日の朝、早起きして公園でも行っとく?とりあえず」
「はい!!」
今のあたしたちは、10ヶ月前にあたしが体験した未来のあたしたちとはずいぶん違っちゃったけど…
あの時のあたしたちも、はじまりはきっとこんなカンジだったんだろうなーって思った。
「そうだ!今日すっごいイイコトあったんですよ…誉められたんです、夏先生に」
あ…よっすぃー、またあの時と同じコト言ってる。
- 443 名前:もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。 投稿日:2001年06月24日(日)16時56分39秒
- 「吉澤がいちばん上手くなったって。まあ、最初がいちばんヘタだったから…やっとみんなに追いついたってカンジ
なんですけどね」
そう言ったよっすぃーのうれしそうな声も、あの時と同じ。
「そんなコトないよ。すっごいがんばってたもん、よっすぃー…全然ヘタなんかじゃないよ?」
本当に、心からそう思ってるよ…よっすぃー。
あたしはイスから立ち上がって、彼女の前に立つ。
「「誉めてください、矢口さん」」
ほらね、やっぱり。
よっすぃーは、変わらずにいてくれたんだ。
「え…?」
次の言葉を見事に言い当てたあたしを、よっすぃーはきょとんとした顔で見てる。
そうだった。このコは、あたしに誉められるのがイチバンうれしいって言ってたんだ。
自分らしさを見失ってた矢口にほんの少しだけ残ってた、ヤグチらしいトコ…よっすぃーは見つけてくれたんだね。
「すごい!!えらい!!よくやった、よっすぃー!!よしよし…」
あたしはよっすぃーに思いつく限りの賞賛の言葉を浴びせながら、少し背伸びして彼女のアタマをなでてあげる。
「よしよし、よすぃよすぃ、よっすぃーよっすぃー…なんちゃって。ははっ」
「あ…はははっ…ははっ」
あたしのくだらないダジャレに、顔をひきつらせながらもムリヤリ笑ってくれるよっすぃー。
あの夜みたく、素直に『つまんない』って言ってくれる日がきっと来ますように…神様におねがいして寝よう。
これから、ゆっくりゆっくり時間をかけてよっすぃーのコト、もっともっと知っていければいいな。
どうすればあの夜の2人みたくなれるのか、その方法だってきっと見つかるはず。
今はまだ、あの日のあたしたちとは程遠いけど…いつの日か、きっと。
そうだよね、よっすぃー?
「あーっ!!お店のヒト、塩入れ忘れてるよーっ!!なんだよもぅ…」
「………」
そしてあたしは、途方に暮れた。
このノーテンキヤローをどう教育すれば、あの夜のよっすぃーみたくなってくれるんだろうか。
やっべ。マジわかんねー………。
<おしまい>
- 444 名前:すてっぷ 投稿日:2001年06月24日(日)17時01分14秒
- 『もうすぐ逢えるはずの、キミ達へ。』
とりあえず、無事(?)終了することができました。
読んでいただいた方々、レス下さった方々、本当にありがとうございました!!
感想などありましたら、いただけるとうれしいです…。
- 445 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月24日(日)20時07分41秒
- おつかれさまでした。おもしろかったっす!!!
暴走&妄想する矢口がgooでした!!!
赤の方もがんばってください!!
- 446 名前:名無し 投稿日:2001年06月24日(日)21時51分45秒
- いつも読ませてもらってますが、毎回、ホント面白いですっ!
矢口のキャラ&やぐよし最高!!!
これからもがんばってくださいっ!
- 447 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月24日(日)22時19分10秒
- 二人にとって、自然体が一番の近道だったんですね。
まあ最後は同じなんだろうけど何しろ神様公認の「運命の二人」だし(笑
できれば、やることすべてが裏目に出て焦りまくる矢口さんと、
引きまくる吉澤くんも見てみたかったな(爆
ちなみに、あの人の声が聞こえてきそうだな。
( T▽T)<運命の人ってあたしじゃないんですか〜
- 448 名前:もんじゃ 投稿日:2001年06月25日(月)02時54分05秒
- すてっぷさん、お疲れさまでした〜!
良かったです。特にラスト。
やっぱし私的に甘えさせてあげる矢口がツボなのかもしれません(笑)
矢口はこれからどう教育すればうまくいくのかわからないみたいですが
それでいいんですよね^^
らぶらぶになれるのはきっと近いぞ♪
- 449 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月25日(月)06時07分13秒
- やっぱりそのまんま暴走しちゃったか矢口さん。
運命の人をひかせるなんていったいどんな誘い方してたんだか。下心が見え見えだったか? (笑)
とりあえずノーテンキヤローって毒吐けるようになったんなら、もう大丈夫っすね。
今回は矢口視点でしたけど、変わらず面白かったです。
しかしこの二人はお互い心の中で、結構酷いこと言い合ってるようで。(笑)
でも好きという気持ちは揺るがずに、お互いを前にすると、なんだかすぐにめろめろになってしまう
すてっぷさんの書く二人が読んでてすごく楽しいです。お疲れ様でした。次も期待してます。
- 450 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月25日(月)13時31分58秒
- 最後はこういうオチだったか(w
でも自然体でいいんですよやぐっつぁん!!
そうすればきっと・・・なんてったって神様公認だもん(w
すてっぷさんお疲れ様でした。
赤板がんばってください。また次回作も楽しみに待っています。
- 451 名前:LVR 投稿日:2001年06月26日(火)00時48分58秒
- やぐよしよりいしよしの方を好んで読んでるんですけど、
ステップさんの作品だと、どの作品でも楽しんで読めるから不思議です。
相変わらず、矢口が可愛く書いてありますし。
また、とぼけた矢口を書いてくれるのを、楽しみに待ってます。
もちろん、赤版のほうもメチャクチャ期待してますよ(笑
- 452 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月26日(火)12時12分57秒
- ありゃりゃ。ラッキー矢口さん、押しが強すぎちゃったんスね〜(笑)
でもゆっくり進めばいいって気づいたみたいだし、神様も居るし、
よっすぃーを悪いコにしてあげちゃう日もそう遠くはないハズ(爆)
今回のお話、ちょっと幼いカンジの甘えんぼよっすぃーがかなり可愛かったです!
すてっぷさんのよしやぐはのんびりラブラブしててほんとにいいですね〜。
次回作&赤板更新も楽しみにしてますんで頑張ってください。お疲れ様でした!
- 453 名前:すてっぷ 投稿日:2001年06月27日(水)01時12分11秒
- 最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!!
>445 名無しさん
ありがとうございます。暴走&妄想…まさにその通りでしたね。
正直、ココまで突っ走らせるつもりはなかったんですが、気付いたらこうなってました(笑)。
>446 名無しさん
ありがとうございます。そう言っていただけると、本当に励みになります。
矢口の暴走キャラ、気に入っていただけて何よりです(笑)。
次回もまたお付き合いいただけるとうれしいです…。
>447 名無し読者さん
ありがとうございます。引きまくる吉澤…確かにそういう話があっても良かったですね。
書いてみたかったかも。でもひくだけひいて、軌道修正できずに終わってしまいそうで恐いですね(笑)。
>石川さん
すいませんでした!!(笑)。
>448 もんじゃさん
ありがとうございます。甘えさせてあげてるように見えて実はダメダメだった矢口ですが、
ツボに入っていただけたとは(笑)。ラストに関しては…今回オチらしいオチも特になく
ほのぼのなカンジで終わってしまったので、少し弱かったかなーと思っていたのですが、
そう言っていただけるとうれしいです。
- 454 名前:すてっぷ 投稿日:2001年06月27日(水)01時14分35秒
- >449 名無し読者さん
ありがとうございます。今回は矢口視点ということで、何か彼女っぽい特徴を出さなければと
悩んだ末の暴走キャラだったのですが、途中から制御不能となりました…(笑)。
こんなんでちゃんと収束するのだろうかと他人事のように思いつつ書いていたのですが
何とか形になったような、ならなかったような…手探り状態で書いていましたので、最後に
そう言っていただけて本当にうれしいです。
>450 名無し読者さん
ありがとうございます。最初から最後まで『運命』やら『神様』やらを連発していたら
ホントに神様公認の2人になってしまいました(笑)。
赤板の方も、また再開しますのでお付き合いいただけるとうれしいです。
>451 LVRさん
ありがとうございます。実は組み合わせに関してはあまりこだわりみたいなものはなくて
(よく言うよ、とツッコまれそうですが…)、毎回最初にストーリーを決めてから配役(?)を
考えてます。『いしよし』になりそうな話も構想としてはあるのですが、とりあえず赤板の方を
ちゃんとしろよってカンジですよね…(笑)。
>452 名無し読者さん
ありがとうございます。
>今回のお話、ちょっと幼いカンジの甘えんぼよっすぃーがかなり可愛かったです!
視点が変わるとキャラまですっかり変わってしまってしまいました(笑)。
心の声(毒舌)がない分、思いっきりほのぼのしたキャラになれば…と思っていましたので
そう言っていただけて良かったです。
赤板の方も読んでいただいているのですね…感謝です!
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