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両手に花は、片手で十分
- 1 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月15日(木)23時13分22秒
- どうも初めて書きます。弦崎あるいです。
よろしくお願いします。
新プッチモニで三角関係ものをやります。
あまりうまくないとは思いますが・・・・。
- 2 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月15日(木)23時25分50秒
- 「圭ちゃん。」
いきなり私は後ろから抱きつかれる。
「何、ごっちん?」
私は何事もなかったように後ろを振り向く。
よくあることだったから。
だから恥ずかしがったり、驚いたりすることはない。
「もっと反応してよ、圭ちゃん。」
ごっちんは私の反応が不満のようだった。
「例えば?」
「ちょ、ちょっと何するのよって照れてみたり、そういうことすると
こうしちゃうぞってキスしてみたり。」
「それは裕ちゃんでしょ。」
私は冷静にツッコミを入れる。
「でも、昔は照れたじゃん。」
「昔はね。」
ごっちんにいきなりこんなことされたときは戸惑った。
どう反応していいか分からなかった。
でもごっちんが何回も同じことをするうちに免疫ができてしまった。
慣れてしまえばどうってことない。
「取材の方は終わったの?」
「うん。なかなか楽しかったよ。」
ごっちんは笑って答える。
ごっちんはよくやっていると思う。
ごっちんはまだいろんな意味で幼いところがある。
だから精神的に辛いところもある思う。
でも、そういうところをめったに見せない。
そういうところはすごく偉いと思うし、少し尊敬する。
って、こんなこと本人の前じゃ言わないけどね。
絶対調子に乗るから。
「そっか。で、この体勢でいつまでいるつもり?」
「一生。」
私はそんなごっちんの答えを受け流す。
「はいはい。」
「冗談じゃないよ。このまま圭ちゃんを一生離さない。」
ごっちんはいつもより少し低い声で言った。
そして、私をギュッと抱きしめた。
- 3 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月16日(金)00時22分28秒
- 「一生離されないのは少し困るんだけど。」
私は少し冷たい口調で言った。
「ごっちんのこと、嫌いになった?」
ごっちんはいきなり弱々しい声を出す。
「なんでそんなこと言うの?」
私はごっちんの真意が分からなかった。
少しからかい過ぎたかな。
「だって、ごっちんは圭ちゃんのことすっごく好きだから。だから離れたくない。
それっていけないこと?」
「はなれたっていいじゃん。」
「えっ?」
ごっちんはあたしの答えに驚く。
「離れてたって、ちゃんと私達は繋がってるから。その・・・・・えっと
私は・・・・・ごっちんのこと・・・・好きだしさ。」
私は少し照れた。
顔が上気しているのが自分でも分かる。
「やっぱり照れてる圭ちゃんってかわいい!!」
とごっちんは叫んで、私の頭を撫でる。
「年下にかわいいって言われてもねぇ。」
私は複雑な気分だった。
何カバカにされてるような気がする。
ごっちんにそんな気はないんだろうけど。
「キスしようよ。」
ごっちんはいきなりとんでもないことを言い出す。
「あのねぇ、誰か来たらどうするの?」
私はため息混じりに言った。
もう少し周りを気にするってことを知らないんだろうか?
知らないんだろうな、ごっちんのことだから。
「いいじゃん。もう抱き合ってるんだからキスしたつて変わらないよ。」
いや、変わると思うんだけど。
「これは抱きしめ合ってるじゃなくて、抱きしめられてるの。」
「まぁまぁ、細かいことは気にしない、気にしない。」
全然、細かくない。
ごっちんは素早く私の唇に唇を重ねた。
- 4 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月16日(金)03時15分22秒
- 新プッチ三角関係とってもいい。やすヲタとしては圭ちゃんを取り合って欲しい(w
いや、よしごまになってもいいッス。
- 5 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月16日(金)18時38分21秒
- やすごま、いいですねぇ♪
- 6 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月16日(金)19時04分04秒
- どうなるんだ…やすごまかよしごまに期待
- 7 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月16日(金)22時42分42秒
- >4さん 保田さんファンはかなり嬉しい展開だと思います。
2人が保田さんを取り合いします。
>5さん ありがとうございます。やすごまを広めていきたいと思ってます。
>6さん とりあいず今回はやすごまでいきます。
よしごまも書いてみたいですね。
- 8 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月16日(金)22時49分43秒
- 「ちょっと・・・・。」
私の抗議もごっちんのキスの前では通用しない。
なにか言おうとしてもすぐに唇を塞がれてしまう。
ごっちんはキスがうまかった。
年下なのに、こういうのはいつもごっちんのぺースだった。
どこでこういうこと知ったんだか。
天性の才能?
嫌だなぁ、そういう才能。
そんなことを思っているうちにごっちんがいきなり舌を入れる。
「・・・・・!!」
私はキスされているので声が出ない。
ディープキスは初めてだった。
普通のキスなら何回かしたことあったけど。
本当にどこで知ったんだか。
学校で教えられるって聞きたくなる。
いや、聞かないけど。
長いキスだった。
そしてどちらともなく唇を離した。
しばらくお互い何も言わなかった。
- 9 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月16日(金)23時09分03秒
- 私はこの雰囲気を変えたかった。
「普通さぁ、いきなり舌入れる?」
私は白い目でごっちんを見る。
「舌入れるよ、って言って欲しかった?」
「そういう問題じゃないでしょ。」
私はごっちんの回答に呆れた。
「だって、今日の圭チャンかわいいからさ。特別大サービス。」
ごっちんは笑って言う。
サービスって・・・・。
「はぁ〜。」
全く、この子は・・・・。
「嫌だった?圭チャンまんざらでもないんじゃないの?」
ごっちんはニヤニヤしながら言った。
「まぁ・・・・そりゃ嫌じゃないけど。・・・・その、いきなりされたら驚くでしょ。」
私はごっちんから目線を逸らし、頬を掻きながら言った。
「やっぱり嫌じゃないんじゃん!よかったならそう言えばいのに、いくらでもしてあげるよ。」
ごっちんはニカッと笑って言う。
その笑い方に胸が締めつけられる。
ごっちんのこの笑い方が好きだった。
純真で、無垢で、子どもぽっくて、なのにどっか頼りがいがあって、それに・・・・・あの子に少し似てる。
ペットは飼い主ににるっていうけど、そういう理屈なのかな。
「誰もよかったとはいってないでしょ!・・・・・嫌じゃないとは、言ったけど。」
私は恥ずかしさでついムキになってしまう。
「照れない、照れない。」
ごっちんはそんな私の様子を嬉しそうに見ている。
これじゃ、どっちが年上だか分からないな。
一見クールで、無関心。子どもみたいなのに、時々私より大人な顔をする。
そんなごっちんに私はどんどん惹かれていった。
- 10 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月16日(金)23時17分07秒
- 「ねぇ、キスしようよ。」
ごっちんはどっかで聞いたセリフを言う。
「今したばかりでしょ。」
全く、何考えてんだか。
「さっきはごっちんからしたから、今度は圭ちゃんから。」
そう言ってごっちんは目を閉じる。
えぇぇぇぇぇぇ!
ごっちんは目を閉じてキスを待っている。
ドキッ!
私は胸が高鳴る。
ごっちんは少し顔が赤くなっている。
胸の鼓動が激しくなる。
そういえば、私からキスするのって初めてだっけ?
ゴクッと生唾を飲み込む。
あぁ〜、変に緊張してきた。
私はごっちんの肩を掴む。
ごっちんが一瞬ビクッと体を震わす。
どうやらごっちんも緊張してるらしい。
私はゆっくりと唇を近づける。
ごっちんの、小さくて、柔らかそうな唇に・・・・。
もう少しで重なる、というところで楽屋のドアが開いた。
私は顔を離すだけで精一杯だった。
見られた!?
- 11 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月17日(土)01時45分56秒
- 照れながらも後藤にされるがままの保田かわいい(w
保田中心ということは珍しいよしやすも見られるのですね。
- 12 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月17日(土)02時16分49秒
- >11さん もちろんです。やすごまほど甘くないですけど。
- 13 名前:マッチ 投稿日:2001年03月17日(土)21時38分13秒
- 見られた!?んですか?
期待です♪
ドロドロの三角関係も期待?かな(わら
- 14 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月18日(日)18時56分13秒
- やすごま、いいっす、最高っす!!
あま〜い、あま〜い、やすごまをこれからも期待してます。
- 15 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月18日(日)21時52分52秒
- >13さん そんなにドロドロにならないと思います。たぶん・・・・。
>14さん ありがとうございます。でもこれから徐々に痛くになってく予定です。
- 16 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月18日(日)23時32分50秒
- 開けられたドアには矢口とヨッシィーが呆然と立っていた。
そりゃ呆然とするよね。
私はまだごっちんの肩に手を置いたままだった。
ま、キスしてる最中じゃなかっただけマシか。
「あ、その、あの・・・・。」
矢口はなんて言っていいか分からないみたいだった。
「・・・・・・・。」
ヨッシィーはただ私達を見ていた。
なんだか少し怒っているようにも見えた。
「い、いやだなぁ。変な想像してるでしょ?ちょっとストレッチやってだけだよ。」
いつもと変わらない調子でごっちんは言う。
私はさり気なく肩から手を離した。
「そうそう。ごっちんが肩が凝るって言うからさぁ、肩のストレッチしようと思って。」
私はなるべく平静を装おう。
まぁ、その場しのぎぐらいの言い訳ぐらいにはなるかな。
少しキツイ言い訳だけど。
「な〜んだ。矢口はてっきり2人が怪しい関係なのかと思ったよ。」
まぁ、本当はそうなんだけどね。
矢口はなんとか誤魔化せたみたいだ。
問題はヨッシィーの方だなぁ、まだ納得してないって顏してるし。
「どういうストレッチなんですか?」
思った通りツッコミを入れてきた。
私をチラッと見るごっちん。
えっと、こうやってお互いに手を置いて適当に間合いを取ったら、腰からだんだん曲げていくストレッチ。肩入れって言うんだけど知らない?」
私はごっちんと実演して見せる。
これが肩のストレッチかどうか知らないけどやらないよりはいい。
この前の雑誌にストレッチ載ってたんだよなぁ、ちゃんと見とけばよかった。
「それならバレーボール部にいたときやりました。」
「矢口も見たことあるよ。」
ヨッシィーはなんとか納得してくれたらしい。
「まぁ、こんなところですることじゃないね。」
本当にね。
私は少し苦笑した。
その後、4人で普通に談笑した。
これで話はおしまいっていきたいんだけど、そうはいかなかった。
- 17 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月18日(日)23時53分00秒
- それはプッチモニのラジオ収録後に起こった。
私はラジオ収録が終わりワゴンの中で1人本を読んでいた。
マネージャーはまだスタッフの人と話があるとかで、私を1人残して出て行ってしまった。
たまには1人っていうのもいいかな。
いつもあの大勢の中にいると、1人でいることが少なくなる。
本とか読んでいるとかまって欲しいのか、ちょかいを出してくるからだ。
それは別に嫌じゃないけど、たまには1人でゆっくりしたいと思うこともある。
・・・・・でも、少し寂しいかな。
いきなりワゴンのドアが開いた。
「ごっちん?」
見るとごっちんではなく、ヨッシィーだった。
「すいません。」
「え?別に謝らなくていいよ。ヨッシィーは何も悪いことしてないんだからさ。」
「は、はい。」
そういってヨッシィーは私と人1人の距離を空けて座る。
これがヨッシィーと私との距離なんだろうな。
近そうで、微妙に遠い・・・・。
「あ、あの・・・・。」
少し緊張した様子でヨッシィーが話す。
「ん?どうかした?」
私は詠んでいた本にしおりをしてバッグに入れた。
「あの・・・・・。」
言葉が続かない。
「何か悩みでもあるの?」
私はヨッシィーの顔を覗き込む。
そのときヨッシィーと目が合った。
ヨッシィーは少しの間を置いて、
「好きです。」
と確かにそう言った。
聞き間違いじゃない。
「だ、誰が?」
私は少し声が裏返ってしまった。
なんとなく答えは分かる。
「保田さんです。」
それは見事に的中した。
前々からなんとなくそんな気はしていた。
でも、それはただの自信過剰だと思っていた。
そう思いたかった。
私はヨッシィーの気持ちに答えることが出来ないから。
ヨッシィーはまっすぐ私を見つめる。
すごく綺麗な瞳だと思った。
私は目を逸らした。
その目に引き込まれそうだったから。
そんなことを思っていた瞬間、
いきなりヨッシィーが私の肩を掴むと、強引に唇を重ねてきた。
私は驚いて抵抗することを忘れていた。
一生懸命で、不器用なヨッシィーの愛し方に胸が高まった。
- 18 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月19日(月)00時32分07秒
- ドク、ドク、ドク・・・・・・。
鼓動がだんだん早くなっていく。
それはいきなりのキスに驚いたからじゃない。
自分でも分かってる、
私はヨッシィーに惹かれ始めてる。
まさか、好きになり始めてる?
「ヤメ・・・・・て!!」
私はヨッシィーに抵抗した。
ヨッシィーはすぐに私から離れた。
それから少しの沈黙が続いた。
「すいません。・・・・・いきなりこんなことして。」
ヨッシィーは頭を下げる。
そしてそのまま顔を上げない。
私はなんて言っていいか分からなかった。
「そのさ・・・・私には・・・・・ごっちんがいるから・・・・。」
なるべく優しく、ゆっくりと言った。
「分かってます!知ってました・・・・・それでも好きなんです!ずっと見ていました。ずっと・・・・・保田さんが好きでした。」
ヨッシィーはギュッと握りこぶしを握っていた。
好きって気持ちは止められない。
それはよく分かる。
ヨッシィーは顔を上げてまたまっすぐ私を見つめる。
私はまた目を逸らす。
「どうして目を逸らすんでした?」
その目を見てると本気で好きになりそうだから。
本気になりたくない。
これ以上ヨッシィーを好きになっちゃいけない。
「ヨッシィー・・・・・ごめん。私、やっぱりごっちんが好きだから。ヨッシィーの気持ちには・・・・答えられない。本当にごめん。」
ヨッシィは黙ったまま俯いていた。
いきなり私を抱きしめる。
「ヨ、ヨッシィー!?」
私は抵抗するけど、ヨッシィーの力には勝てない。
痛いくらいにヨッシィーは私を抱きしめる。
ダメだよ。
そんなことしたら、ヨッシィーのこと好きになっちゃうよ。
微かに足音が聞こえた。
こんなところをごっちんに見られたくない、でもヨッシィーにこのまま抱きしめられていたい。
二つの意識が私の心を揺らす。
「保田さんを必ず振り向かせますから。絶対にごっちんから奪います。」
ヨッシィーは私の耳元で呟いた。
小さい声だっけど、はっきりとそう聞こえた。
ヨッシィーはそれだけ言うと私から離れた。
まるで離れたのを待っていたようにワゴンのドアが開いた。
入ってきたのはごっちんだった。
「ゴメン、ゴメン。話してたらつい遅くなっちゃってさ。」
ごっちんは笑顔だった。
私は自然とごっちんから目を逸らしてしまった。
見る資格がないと思った。
- 19 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月19日(月)22時38分15秒
- 今日はごっちんと帰る約束をしていた。
ごっちんはまだ来ない。
私は廊下で待っていた。
廊下には私以外の人陰はない。
シーンとしていた。
私はバッグからジュースを取り出して飲みながら、いろんなことを考えていた。
ごっちんのこと。
ヨッシィのこと。
自分のこと。
一体どうしたらいいんだろう。
「圭ちゃん!・・・遅くなっちゃって・・・ゴメンネ。」
ごっちんは肩で息をしながら現れた。
どうやら走ってきたらしい。
あれから私はなんとなくごっちんを避けていた。
ごっちんを見ると罪悪感に襲われた。ごっちんは何も悪くないのに・・・・。
「お、遅かったね。」
私はジュースを飲む。
ごっちんは私の目の前に立って、にっこりと笑って言う。
「ヨッシィーに惚れちゃった?」
「ブッ!ゲホ、ゲホ、ゲホ・・・・。ちょ、ちょっといきなり何言うの?」
「見ちゃたんだ。ヨッシィーと抱き合うところ・・・・。」
よかったぁ、キスされてるところじゃなくて。
って、そういう問題じゃないか。
でも、キスされてるところなんて見られたら絶望的だから。
ごっちんに嫌われたくない。
私はごっちんが好きだから・・・・・。
「その・・・・ごめん。ごっちんをすごく傷つけたね。・・・・・本当にごめん。でも、私が好きなのはごっちんだけだから。」
ごっちんは私を壁に押しつける。
痛いくらいに。
ごっちんは私に乱暴なキスをする。
これはキスじゃない、ただ唇を重ねているだけ。
舌が入ってくる。
相変わらずうまいな・・・・。
ごっちんは激しく絡ませてくる。
まるで怒っているようだった。
力が抜けてくる。
ごっちんは力の抜けた私を支える。
しばらくしてからごっちんは唇を離し、首筋を舐めながら、服に手をかけたとき、私はごっちんを突き飛ばした。
ごっちんは少しよろけただけだった。
ごっちんが顔を上げたとき、私は硬直した。
冷たい顔だった。
無表情よりも冷たい、こんな顏をしたごっちんを始めて見た。
「やっぱりヨッシィーの方がいい?」
ごっちんは嘲笑して皮肉を言う。
でもその嘲笑は、どこか自虐的だった。
- 20 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月19日(月)22時52分38秒
- 「違う!今のごっちんは、私じゃない・・・・ヨッシィーを見てる。ヨッシィーに対する怒りや、悔しさでキスしてる・・・・。」
「じゃぁさ・・・。圭ちゃんって何?そんなこと言ってさ・・・・・ヨッシィーと抱き合ってる圭ちゃんって何?ねぇ!圭ちゃんにとって私って何なの?!」
ごっちんが激しく私の肩を揺さぶる。
「ごっちん、私にとって大切な人だよ。」
私は優しく言った。
ごっちんにいきなり「好きだ」と言われたときは戸惑った。
どうしていいか分からなかった。
ごっちんは沙耶香の穴を誰かで埋めようとしてるだけだと思った。
だから私は半分同情でokした。
確かに、ごっちんにそういう部分はあった。
でも、ごっちんは私のことを本当に好きになってくれた。
沙耶香の代わりじゃない、保田圭を好きになってくれた。
私もごっちんのことを本気で好きになっていった。
「そういう風にヨッシィーにも言ったの?」
ごっちんの目は少し軽蔑してるみたいだった。
「違うよ!私が好きなのはごっちんだから!ごっちんだけだから!」
私はごっちんの肩を掴む。
「信じられないよ・・・・・。」
ごっちんは目に涙を浮かべながら弱々しく言った。
私はそんなごっちんをギュッと抱きしめた。
私はごっちんを傷つけていた。
自分が思っている以上に。
「信じて・・・・。」
私はごっちんに優しくキスをした。
- 21 名前:指摘。 投稿日:2001年03月20日(火)00時01分08秒
- どうしても指摘したい事があります。
ヨッシィー→よっすぃー
です。スレを汚しちゃって本当に申し訳ございません。どうしても言いたかったもので・・・
あ、それとも故意なんですか?だとしたら何て謝っていいか・・・
ほんとにすいません。
- 22 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月20日(火)00時29分35秒
- >21さん すいません。故意ってわけでもないんてすけど。なんとなくよっすぃーって
矢口さんってイメージがあるんですよね。保田さんが前にヨッシィーって呼んでたような
気がしていたので、書いたんですけど。・・・・間違ってたらごめんなさい。
今回はとりあいずヨッシィーで統一します。
- 23 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月20日(火)01時08分02秒
- 自分も1ついいですか?
×沙耶香→○紗耶香
です。
でしゃばってごめんなさい。
- 24 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月20日(火)03時02分25秒
- 保田がどちらを選ぶのか?それとも・・・
続き期待してるっす!
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月20日(火)03時26分39秒
- いいっすね〜こういう話し結構好きかも☆
- 26 名前:21 投稿日:2001年03月20日(火)08時47分32秒
- そうですか。途中からかえるのも変ですからね。
頑張って、ちゃんと最後まで書いてくださいね。(生意気)
(自分は圭ちゃんファンなんで、こういうのは大好きです。)
- 27 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月20日(火)11時55分40秒
- >作者さんへ
そうですね。保田さんは「ヨッシィー」と呼んでいる事が多いです。
ダイバーなどを聞いてると解ります。だから平気かと・・・。
ごっちんは「ヨッスィー」が多いですよね。
- 28 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月20日(火)22時33分06秒
- >23さん すいません。以後気をつけます。
>24さん ありがとうございます。がんばって続き書きます。
>21さん いえいえ、指摘ありがとうございます。
好きと言ってくれて嬉しいです。
>名無し読者んさん 最近ファンになったのもので、
誰がどう呼んでるかがまだ分からないんです。
- 29 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月20日(火)22時58分55秒
- ごっちんとの誤解はなんとか解けた。
とは言ってもまだヨッシィ−のことが残っている。
あのとき以来、ヨッシィーとはあまり話をしていない。
どうも避けてしまっている。
まぁ、あんなことされた後で友好的な付き合いができるはずないんだけど。
とにかく、ヨッシィーにはちゃんと話をつけないといけない。
はぁ〜。
私は深いため息をついた。
私はごっちんが好きだ。
それは確かなんだけど、ヨッシィーに迫られてドキドキしたのもまた確かなことだし。
ヨッシィーに惹かれているというのもまた確かなんだよなぁ。
別にだからって付き合う気は全くない。
でも、迫られたらokしちゃいそう・・・・。
って、それじゃごっちんにことを裏切っちゃうし。
さっきのニの前になる。
どうしたらいいんだろ・・・・・・。
なんか頭が痛いなぁ。
体も少しだるいし。
なんかだか人生お先真っ暗って感じ。
って思ったら本当に目の前が暗くなって・・・・・・、
気がついたら自分の部屋で寝ていた。
はぁ?
なんで自分の部屋で寝てるの?
あぁ、頭がガンガンする。
自分でも何がどうなってるのか分からなかった。
そしたら、なぜかヨッシィ−が部屋にいて、「何か作りますね。」って言って台所に行って、しばらくしてお粥作って戻ってきた。
「熱いから気を付けて下さいね。」
「う、うん。」
あ、おいしい・・・・・。
って、そういうことじゃなくて!
何がどうなってるのか聞かなきゃ!
「あのさ、確かスタジオのロビーにいたはずなんだけど・・・・・。なのに今は自分の部屋にいて寝てるし、それにヨッシィ−が部屋にいるし、一体どうなってるの?」
「覚えてないんですか?」
「え、あ、うん。」
私は小さく頷いた。
「2人が同棲してることも?」
はぁ?
え?・・・・・・・・・・・・。
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
「ちょ、ちょっと、も、もう一度今の言葉言ってくれる?」
まぁ、聞き間違いってこともあるし。
「同棲してること忘れたんですか?」
聞き間違いじゃなかった。
「え、その、い、いつからそういうことになってんの?私、全然気憶にないんだけど。」
私は真剣な顔でヨッシィーに詰め寄る。
- 30 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月21日(水)23時42分05秒
- 少しの沈黙の後、
「ふっ・・・ははは・・・・・あはははははは!」
ヨッシィーは大声で笑い出した。
「え?何?私、なんか変なこと言った?」
私はわけが分からず混乱していた。
「ウソですよ、同棲なんてしていません。本当に覚えてないんですね。」
ヨッシィーは笑いを堪えて言った。
「ウソ?」
私は思わず声が裏返る。
「はい。スタジオのロビーでいきなり倒れたんですよ。それで私がちょうど近くにいて、ヒマだったので送ったんです。なんで部屋にいるのか分からないみたいなんで、少しからかっただけです。
「あのねぇ、そういう冗談は・・・・。」
ヨッシィ−が私を抱きしめた。
だから、その先の言葉が出てこなかった。
「本当のこと言わなきゃよかった。そうしたら、いつまでも保田といれたかもしれないのに。」
ヨッシィ−が腕に力を込める。
「ヨッシィー・・・・・。」
ヨッシィーの純真さが愛しく思えた。
子どもぽっい考え方だけど、すごくヨッシィーらしいと思った。
少しだけ、胸が高鳴った。
「やっぱり、ごっちんじゃないとダメですか?」
私は無言で頷いた。
ヨッシィーを選ぶことはない。
なのに、ヨッシィーに惹かれている。
「保田さんが好きです!誰よりも好きなんです!・・・・・ごっちんのこと好きでも、諦めきれません!」
ヨッシィ−がゆっくりと私に顔を近づける。
力強く私を見つめる瞳。
私はこの瞳に弱かった。
見てるとどんどん引き込まれる。
どんどんヨッシィーを好きになっていく。
なんでこんなにまっすぐ人を見つめられるんだろう・・・・・。
私はゆっくりと目を閉じた。
ダメだ!これじゃこの前と同じだよ。
私はごっちんが好きなのに、ごっちんだけを好きなはずなのに・・・・・。
頭で分かっているのに、心が言うことを聞かない。
唇に生暖かい感触。
ヨッシィーは優しく私にキスをした。
まるで壊れやすいものでも触るように。
そのとき、ドアが開いた。
「・・・・・ごっちん。」
私はそう言うのが精一杯だった。
ごっちん呆然と立っていた。
何処か虚ろで生気がない。・・・・・その顔は、まるで、マネキンみたいだった。
私はそのとき、時間が止まったような気がした。
- 31 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月22日(木)00時09分15秒
- しばらくは、誰も何も言わなかった。
言える雰囲気じゃなかった。
その場の空気が話せなくさせていた。
「あはは・・・・なんか・・・・私、お邪魔みたいだね。・・・・・さようなら、保田さん。」
ごっちんは満面の笑顔だった。
そう言うとごっちんは走って部屋から出て行った。
「さようなら、保田さん。」
この言葉が頭から離れなかった。
もう、圭ちゃんって呼んでくれないの?
私達は終わりなの?
そんなの嫌!
「ごっちん!」
私は立ち上がってごっちんを追おうとする。
でも、体が思うように動かず、立っていられない。
倒れそうになる私をヨッシィ−が支える。
涙が自然に流れた。
ごっちんとやっていけない・・・・。
それが私にはショックだった。
「保田さん・・・・。」
ヨッシィ−がためらいがちに声を掛ける。
「帰って・・・・。」
「えっ?」
「帰って!今すぐこの部屋から出てって!・・・・・・1人になりたいの。お願いだから帰って!!」
私は泣きながら叫んだ。
「こんなボロボロの保田さんを放っておけません。」
私はヨッシィーの胸の中で泣いた。
ごっちんのことを思いながら。
ヨッシィーは私が泣き止むまで、ずっと優しく頭を撫でいてくれた。
そして、私が落ち着くと何も言わず部屋から出て行った。
最低・・・・。
ヨッシィーの気持ちに答えられないのに甘えて、ごっちんに信じてって言いながら裏切ってる。
また・・・・ごっちんを傷つけてる。
このままヨッシィーと付き合った方がいいのかもしれない。
きっとヨッシィーは受け入れてくれると思う。
ヨッシィーは優しいから、きっと私を好きだと言ってくれる。
そんなヨッシィーに、確かに私は惹かれている。
でも、やっぱりごっちんが忘れられない。
ごっちんのことが好きでいる。
優柔不断な態度で2人とも傷つけてる。
本当に最低だよ、私・・・・・。
私は部屋でずっと自己嫌悪だった。
ずっと自分を責め続けた。
自分の気持ちが分からなくなった。
誰が好きなのか?
どうしたいのか?
どうしたらいいのか?
いきなり携帯が鳴った。
出る気がしない。
携帯はしつこいくらいに鳴っていた。
私は大事な用件かもしれないと思って、携帯に出ることにした。
「もしもし、保田ですけど。」
普段の調子で電話に出る。
「おっ、久しぶりだね。元気してた?」
私はしばらく声が出なかった。
携帯の向こうから聞こえる声は間違いあの子だった。
- 32 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月22日(木)23時31分57秒
- 「紗耶香?」
「そうだよ。永遠のライバルの声を忘れちゃった?あ、それよりも、何かあった?」
私はなんだか信じられなかった。
あの子と電話で話しているなんて。
タイミングがいいというか、悪いというか・・・・。
でも、何かあった?って、すぐに変化に気づいて聞くところは変わっていないと思った。
私は泣いてしまった。
「ちょ、ちょっと?!いきなり泣かないでよ!」
紗耶香は戸惑ってるみたいだった。
まぁ、電話掛けていきなり相手に泣かれれば誰だって戸惑うか。
「とにかくさ、この紗耶香お姉さんに話してみてよ。」
「私の・・・方が・・・年上・・・・なんだけど・・・・。」
私は泣きながらツッコミをいれた。
「泣きながらツッコミいれられるんなら話せるね。で、何があったの?」
私は今までに起こったことの全てを紗耶香に話した。
私が話し終えると紗耶香は言った。
「ふ〜ん。なかなか複雑なことになってるねぇ。」
言葉とは裏腹に軽い口調だった。
「人事みたいに言わないでよ。」
「だって人事だし。とにかく、優柔不断な態度はやめること。後藤が好きなら、吉澤には諦めてもらう。吉澤が好きなら、後藤とちゃんと話し合う。そりゃ傷つくかもしれないけど、このまま優柔不断な態度を取るよりマシと思うよ。」
紗耶香の言うことは分かる。
「・・・・・分かった。けど、今どっちが好きだか分からなくて・・・・・。、ごっちんは好きだけど、ヨッシィーにも惹かれるところはあるし。」
「それは難しいねぇ。それは圭ちゃんの心の問題だから、私からなんとも言えないよ・・・・・。」
紗耶香はそう言ってしばらく黙っていた。
「う〜ん。じゃぁ、例えば後藤と吉澤が交通事故に遭いました。でも、2人とも別の病院で、なんと危篤状態です。1人に会えばもう1人の死に目に会えません。さて、あなたはどちらに会いに行きますか?」
紗耶香はいきなりわけ分からないことを言い出す。
「何それ?」
「まぁ、心理クイズみたいなものかな。」
全然心理クイズになってないと思うんだけど。
でもまぁ、2人が交通事故か・・・・。
2人のうち1人しか死に目に会えない。
私は目を閉じて想像してみる。
答えはすぐに出た。
「両方とか言うのはナシだからね。」
「そんなこと言わないよ。私は・・・・・。」
- 33 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月22日(木)23時52分48秒
- 「私は・・・・・ごっちんに会いに行く。」
ヨッシィーには悪いけど、ごっちんしか頭に浮かんでこなかった。
本当にそんなことがあったら、私は何があってもごっちんに会いに行くと思う。
「じゃ、そういうことだよ。」
紗耶香の声は少し嬉しそうだった。
私はやっぱりごっちんが好きなんだ。
誰よりも、ごっちんが好き。
「相談に乗ってくれてありがとう、紗耶香。」
「別にお礼なんていいよ、今度会うときに高級寿司をおごってくれれば。」
これまた高い相談料になっちゃったな。
「後藤は傷つきやすいし、寂しがりやだからちゃんと側にいてあげてね。それにヤキモチ妬きだから浮気は慎重に。」
さすがに紗耶香はよく分かっている。
きっと、私よりごっちんのことを分かっているんだと思う。
それが少し悔しかった。
「それって教育係として言ってるの?それとも・・・・・元彼として?」
私はわざと真面目に聞いた。
「誰が元彼だ!でも、まぁ、両方かな。あっ、今度後藤を泣かすようなマネしたら圭ちゃんでも許さないよ。」
「分かってる。もう2度と悲しい思いはさせないよ。」
私ははっきりと言った。
「それを聞いて安心したよ。じゃ、また今度会うときにでも掛けるよ。」
「うん、それじゃ。ありがと、紗耶香。」
私はそう言って電話を切った。
「本当にありがとう、紗耶香・・・・・。」
私は切れた電話に向かって言った。
よし、私の心はちゃんと決まった。
ちゃんと2人にこの気持ちを伝えなきゃ。
- 34 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月26日(月)00時17分42秒
- もてもてヤッスー…いいっすねぇ〜…。
- 35 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月26日(月)00時24分53秒
- ヨッシィーとはちょうど2人きりになるチャンスがあった。
「ヨッシィ−、少し話がしたいんだけど、いいかな?」
「・・・・・・いいですよ。」
ヨッシィーは神妙な顔をして頷いた。
私はいちよ辺りを見回した。
辺りに人はいない。
プッチの仕事だから他のメンバーもいないが一番よかった。
ヨッシィーだけを誘い出すというのは変な誤解をされそうで恐い。
「私は・・・・・。」
私は息を吸った。
そして、一息置いて言った。
「私はごっちんが好き。だからヨッシィーを好きになれない。ヨッシィーに思わせぶりな態度をとったことは謝る。私はヨッシィーの優しさに甘えてた。自分でも最低なことしてると思うし、調子のいいこと言ってるっていうのも分かってる。許してくれとは言わない、恨んでも構わない。
これが、私の気持ち。・・・・・ごめんね。」
「保田さん・・・・・。」
ヨッシィーは悲しげな瞳で私を見つめる。
私は目を逸らさない。
ここで目を逸らしちゃいけない。
ヨッシィーの方が目を逸らした。
「・・・・・・あきらめきれません。」
ヨッシィーは振り絞るように声を出す。
「それでもいいよ。今すぐは気持ちの整理がつかないと思うから。ただ、私はヨッシィーの気持ちには答えられない。」
私は優しく微笑む。
「好きでいていいんですか?」
ヨッシィーはパッと私の方を見る。
「うん。好きって気持ちは誰に止められないから。」
「・・・・やっぱり保田さんが好きです。特に、はっきり言ってくれるところ。」
ヨッシィーは爽やかに笑った。
「じゃ、私は行かなきゃいけないところがあるから。」
私はヨッシィーに背を向ける。
「ごっちんならジュース買うって行ってましたよ。」
ヨッシィーにはお見通しか。
「ありがとう。」
私は軽く振り向いてお礼を言った。
なぜかヨッシィーの顔が少しだけ赤くなった。
私はごっちんを捜しに向かった。
問題はごっちんの方なんだよねぇ。
あれからプライベートじゃ全然話してくれないし。
そりゃそうだよね・・・・・。
普通あんなところ見たらいつも通りに接することなんて出来ないよね。
もう、無理なのかな。
それでもいい。
私はごっちんが振り向いてくれるまで待つ。
ごっちんが好きだから。
- 36 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月26日(月)23時22分55秒
- >34さん そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうございます。
- 37 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月26日(月)23時49分18秒
- そんなことを考えているとき、不意に廊下の角からごっちんが現れた。
「ごっちん!」
ごっちんは気まずそうに視線を逸らす。
私は普段通りに接する。
「話がしたいんだけど・・・・・・今、大丈夫?」
ごっちんはしばらく黙っていた。
「・・・・・いいょ。」
ごっちんは静かに言った。
私達は黙って人気のないところに倉庫に向かった。
倉庫に着いてもお互い何も話せないでいた。
その場の空気が話させないでいた。
ちゃんと言わなきゃ!
私が言おうとしたそのとき、
「話って何?ヨッシィーと付き合うっていう報告?」
ごっちんは冷たい瞳を私に向けて言った。
トゲのある言葉だった。
もう少し言い方ないのかなぁ、そりゃ私が悪いのは分かるけど。
でも、それだけ私はごっちんを傷つけたんだ。
ごっちんがこんなに変わる程に・・・・・。
それとも、冷たい態度で私とヨッシィーをくっつけようとしてるのかな?
ごっちん・・・・・私が好きなのはごっちんだけだよ。
「ヨッシィーにはちゃんと言ったよ、気持ちには答えられないって。だって、私の好きなのはごっちんだけだから。」
「えっ?」
ごっちんはすごく驚いた顔をしていた。
でも、すぐにまた冷たい顔に戻る。
「それで、また私とやり直すの?少し虫がいいんじゃないの?私のことが好きだって言って、またヨッシィーとキスするんでしょ!?また私を裏切るんでしょ!もう信じられないよ!!それに、私はもう・・・・・保田さんのこと・・・・好きじゃないから!!」
ごっちんは声を震わせて叫んだ。
それはごっちんの本音なの?
本気でそう言ってるの?
私は返す言葉がなかった。
ただ、その言葉痛かった。
「・・・・・いいよ。じゃ、別れよう。」
私はゆっくりと言った。
ごっちんは私の言葉に体を震わす。
「・・・・そう・・・だね。」
ごっちんは握りこぶしをギュッと握る。
「・・・・それでさ・・・・もう一度、初めからやり直そうよ。」
「それって・・・・・。」
私はごっちんに一歩近づく。
そして、軽く呼吸整える。
- 38 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月27日(火)00時16分17秒
- 「えっと・・・・その・・・・好きです!もしよかったら、私と付き合って下さい!」
私はそう言って頭を下げた。
ちょっと恥ずかしいな。
ごっちんはぼーっと私を見ていた。
何が起こったのか理解できてないみたい。
少しすると、ごっちんは顔を紅潮させた。
それから茶色い髪のを掻き揚げて言った。
「私は、私しかだけを見てくれる人じゃないと付き合いません。」
「ごっちん以外見えないよ。私、そのこと忘れてた。」
私が好きなのはごっちんだから。
ごっちんは少し考え込んでから言った。
「それに、私は寂しがり屋だから、ずっとそばにいてくれる人じゃないとダメです。」
「ずっとごっちんそばにいるよ。」
いつも抱きしめてあげたい。
ごっちんはまだ不安そうな顔をしている。
「私のこと、本当に好き?」
「うん。大好きだよ。」
私は微笑む。
だって、それが私の本音だから。
「信じていいの?・・・」
「もう絶対にごっちんを裏切らない。だから、信じて。」
私はごっちんを見つめる。
「なら、よろしくお願いします。」
ごっちん頭を下げた。
頭を上げたときの顔は、笑顔だった。
「こちらこそ。」
私も笑顔になる。
「大好きだよ、圭ちゃん!」
ごっちんが私に抱きつく。
「私も大好きだよ。」
私はごっちんを抱きしめる。
ギュッと力強く。
もう、離したくない!
しばらく私達は抱きしめあっていた。
それは、お互いの温もりを確かめてるだった。
「本当にごめんね。ごっちんが好きなの忘れてヨッシィーに惹かれてた。ヨッシィーに心許したことは自分でもすごく反省してる。それに、私はずっと自分のことばっかり考えててごっちんのこと全然考えてなかった。それで、すごくごっちんを傷つけちゃったね。本当にごめん!」
ごっちんは私の頬に手を置く。
「そんなに自分を責めなくていいよ。ごっちんの方こそゴメンネ、もっと圭ちゃんと話し合えばよかったのに、勝手にヤキモチ妬いて怒ってた。」
私達はそっと触れるだけのキスをした。
ごっちんの唇は、とても柔らかかった。
もう、迷わない。
私の心はごっちん以外に向かない。
私はごっちんが大好きだから。
- 39 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月29日(木)22時25分33秒
- 私は楽屋で本を詠んでいた。
するといきなり後ろから抱きしめられる。
「ごっちん?」
振り向くとごっちんではなかった。
「なんだヨッシィーか。」
「なんだっていうのはひどいですよ。あ、本読んでたんですか?」
ヨッシィーは心の踏ん切りがついたらしい。
だから、今はこうして友達として付き合っている。
私もかわいい妹だと思って可愛がっている。
そして、たまにこうやって甘えられる。
これがまたドキッとするんだよね、たまに。
あぁ〜ぁ、浮気しちゃおっかな。
でも、きっとごっちんに殺されるからヤメよ。
「ヨッシィーも読書した方がいいよ。」
「いやぁ、読書ってどうも苦手なんですよね。」
ヨッシィーは苦笑いする。
「別に難しいの読まなくたって、自分が興味を持てるようなものでいいんだよ。」
「そうですねぇ・・・・・・なら、恋愛マニュアルでも読んで保田さんを惚れさせようかな。」
ヨッシィーは耳元で囁く。
少し低い声がまたなんともいえずドキドキさせる。
ヨッシィーが男だったらやられるね、きっと。
私も一瞬やられそうになったし。
「ヨッシィーってプレイボーイでしょ?」
「ボーイじゃありません。」
とヨッシィーはツッコミをいれる。
そりゃまぁ、そうなんだけど。
「きっと男だったらプレイボーイだよ。女の子がいつも周りを囲んでそう。」
「そうですかねぇ。」
ヨッシィーは首を傾げる。
「あぁぁぁぁぁぁ!何やってんの!」
叫び声で後ろを振り向くと、そこにはごっちんが立ってた。
- 40 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月29日(木)23時03分59秒
- 「浮気。」
「誘惑。」
私達の言葉にごっちんはしばらく呆然としていた。
「誘惑?」
ごっちんはハッとして私を睨む。
「ウ、ウソだって!私はごっちん一筋なんだから。」
自分で言って、焦って否定してる、ちょっとバカみたい。
「ふ〜ん。で、ヨッシィーは誘惑って言ってたけど、圭ちゃんのこと諦めたんじゃなかったの?ま、あげないけどさ。」
ごっちんは余裕の表情で言う。
あげないって・・・・・・物じゃないんだから。
「まぁ、今は友達だけど、いつまた好きになるか分からないよ?そしたら今度こそ保田さんはもらうからね。」
ヨッシィーは不敵な笑みを浮かべる。
あははは、また三角関係になるのは嫌だな。
「ま、それは置いてといて。」
ごっちんはヨッシィーを私から離すと、今度は自分が抱きつく。
「とりあいず、消毒。」
「消毒って、それじゃ私がばい菌みたいじゃん!」
ヨッシィーがごっちんの言葉に抗議する。
「だってヨッシィーは圭ちゃんにつく悪い虫だから。」
ごっちんはそう言ってニカッと笑う。
私はその笑顔にドキッとする。
やっぱりこの笑い方好きだなぁ、と改めて思う。
「そんな分からないじゃん。」
「分か・・・・・。」
「プッチモニの皆さん、そろそろ時間です。」
ごっちんの言葉はADさんによって遮られる。
「あ、はい。」
と私は返事をする。
ADさんのおかげで助かった。
ケンカしだすとキリがないからね、お互いガンコだから譲らないし。
「ほら、2人とも行くよ。」
私は2人を促して立ち上がった。
「は〜い。」
ごっちんは私から離れてヨッシィーと共に楽屋を出る。
- 41 名前:読む人 投稿日:2001年03月30日(金)13時32分47秒
- お、なんか仲良いのか悪いのか、微妙な感じで面白いですね。
期待しております〜♪
- 42 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月30日(金)22時13分12秒
- >41さん おもしろいって言ってくれると嬉しいです。
期待に答えられるようにがんばります。
- 43 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月30日(金)23時01分14秒
- 私は最後に部屋を出た。
廊下に3人横1列に並ぶ。
ごっちんは私と腕を組む。
「今日さ、これが終わったら2人っきりでどっか行こうよ。」
ごっちんは2人っきりのところを強調して言う。
そっか、そういえば最近デートしてないもんね。
「私も一緒に行っていいですか?」
ヨッシィーが横から顔を出す。
「ダメ!2人っきりって言ったでしょ。」
ごっちんは私の腕を引っ張る。
ヤキモチ妬いてるのかな?
私はごっちんだけなんだけどなぁ。
「えっ、ダメですか?」
ヨッシィーは物悲しい瞳で私を見つめる。
うっ!
私、ヨッシィーのこういう顔に弱いんだよねぇ。
知っててやってるんじゃないよね?
「えっと・・その・・・分かったよ。今日は3人で行こう。たまにはいいでしょ、ごつちん?」
「えっ・・・・う、うん。」
ごっちんは明らかに不満そうな顔だった。
「ありがとうございます!」
反対にヨッシィーはすごく嬉しそう。
こういうのを両手に花っていうのかな?
まぁ、私は片手で十分だけどね。
わたしはごっちんの耳元でそっと囁く。
「今度2人きりでデートしようね。」
ごっちんは顔を少しだけ赤くして、
「うん。」
とにっこり笑顔で頷いた。
完
- 44 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月30日(金)23時08分00秒
- やすごまはいちよこれで終わりです。
いかがだったでしょうか?楽しんでいただけたら嬉しいです。
誤字、脱字が多くてすいません。
次回はちょっと短いんですけど、いしごまやります。
- 45 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月30日(金)23時40分48秒
- モテモテヤッスー最高でした!
次のいしごまも大期待!!
- 46 名前:読む人 投稿日:2001年03月30日(金)23時42分12秒
- 最後はほんわか〜と終わりましたね。
面白かったです。
次はいしごまですか。期待してます!
- 47 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年03月31日(土)01時00分59秒
- >45さん いしごまの方がんばります。
また圭ちゃん主役のやつも書こうと思ってます。
>46さん 期待に答えられるようにがんばります。
甘々にしたいと思ってます。
- 48 名前:ばね 投稿日:2001年03月31日(土)23時22分56秒
- すでに某所で読破していたんですが、改めて読んでもやっぱり面白いですね。
実は、私が今黄板でやっているプッチネタは、この作品からインスピレーションを受けて書き始めたモノだったりするのですが…。
ひとまずお疲さまでした。次のいしごま(♪)も期待しています。
- 49 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年04月01日(日)00時03分45秒
- >ばねさん 某所で読んでいらしたんですね。
そこで書いたのと少しアレンジして書きました。
自分で読んでみてあんまり三角関係になっていなかったので・・・・。
ばねさんのを読みましたが、そうだったんですね。
お互いがんばりましょう。いしごまはなるべく早く書きます。
- 50 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年04月01日(日)23時30分21秒
- いしごまやります。
題は「スモーカー ラプソディー」です。
- 51 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年04月01日(日)23時44分50秒
- わたしは辺りに人がいなのを確めると、ポケットからタバコを取り出した。
元々ここはあまり人気がない所だけど、どこで人が見てるか分からないから
気をつけた方がいいという、圭ちゃんの言葉を思い出す。
わたしは別に見られてもいいんだけどね。
娘。をヤメろっていうならヤメるし。
わたしはそんなに娘。に執着してないから。
・・・・・・そういえば、わたしはいつからタバコを吸うようになったんだろう?
ちょっと不良ぽっい友達に勧められて吸ったのが中2のとき。
確か、それが初めてタバコを吸ったときだと思う。
始めはタバコなんて嫌いだった。
でも、カッコつけたかった。
だから吸ってた。
けど、ヤニ臭くなるし、体力落ちてくるし、肌が荒れてくるし。
最悪だった。
でも、嫌々吸ってたはずなのに、いつの間にかクセになってた。
今は1日2、3本吸わないと、イラついてしょうがない。
わたしは見事にタバコにハマってしまった。
一度ハマるとタバコは抜けられないっていうけど、分かるなその気持ち。
前は全然分かんなかったけど。
わたしはタバコをやめられなくなった。
アイドル(?)、歌手(?)どっちにしてもわたしはまだ15才。
タバコを吸っていいはずがない。
って言っても、もう吸っちゃってるけどね。
国の法律で禁止されていようが、そんなの私には関係ない。
吸いたいから吸う。
ただそれだけ。
そんなことを考えていたからかもしれない。
私は近づいてくる足音に気がつかなかった。
- 52 名前:ななしのごんべい 投稿日:2001年04月03日(火)09時29分55秒
- 続き気になります!!!!
- 53 名前:林檎 投稿日:2001年04月03日(火)18時24分17秒
- この前いっぺんに全部読み切りました!!(><)
いや〜、いいですね!
いしごまも期待してますので頑張ってください!
はじめからドッキドキですよ♪
- 54 名前:紅餓唯 朧 投稿日:2001年04月03日(火)18時35分49秒
- 某所で読ませていただいてます。今回も少しアレンジしたものでしょうか?
今から楽しみです、頑張って下さい!
- 55 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年04月03日(火)22時20分56秒
- >ななしのごんべいさん 読んでくれてありがとうございます。
なるべく急いで続き書きます。
>林檎さん そう言ってもらえると嬉しいです。
いやぁ、まだまだ稚拙だなぁって思います。
自分なりに頑張って行こうと思います。
>紅餓唯 朧さん 今回はアレンジじゃなくてオリジナルです。
最初は某所の番外編で書こうと思ったんですけど、
考えてるうちに違う感じになってしまって・・・。
感じも少しギャグぽっくなる予定です。
- 56 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年04月03日(火)22時33分20秒
- 「あ、後藤さん!」
私は甲高い声に振り向く。
タバコを口に挟んだまま。
しばらくの沈黙が続いた。
「そ、そ、そ、それは何ですか!」
甲高い声がさらに甲高くなる。
うるさいなぁ。
この人苦手なんだよねぇ。
真面目で、何事にも一生懸命で、でも空回りしてる。
クラスに1人はいる学級委員長タイプって感じ?
なんか私とは正反対みたいだし。
「メンソール。」
私はポケットからタバコの箱を取り出して見せた。
「タバコの銘柄聞いてるんじゃありませんよ!なんでタバコ吸ってるんですか?
後藤さんはまだ未成年じゃないですか!」
高い声がキンキンと頭に響く。
ホント、うっさぃなぁ。
っていうか、ウザイ?
「吸っちゃいけないの?」
私は髪を掻きあげる。
「いけないに決まってるじゃないですか!国の法律でタバコは20才からっていうのは世間の常識ですよ!」
世間の常識ねぇ。
「別にいいじゃん。なんで法律に従わないといけないの?そんなの個人の自由じゃない?」
「自由じゃありません!それに、タバコを吸うと肺がんになりやすいんですよ!」
寒い説明だなぁ。
ちょっと年上だからって説教しないで欲しいんだけど、まして敬語で。
あぁ〜、なんかムカツいてくんだけど。
- 57 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年04月05日(木)23時56分00秒
- 分かったような口ぶりで、全然分かってない。
知識だけは豊富にあるけど、半分は間違ってるやつ?
「あのさぁ、肺ガンよりも咽頭ガンになる確率の方が高いんだけど。」
「えっ?そうなんですか?!」
私の指摘に真顔で驚く。
「そ、だから私に近づかない方がいいよ。」
「そういうわけにはいきません!タバコは体によくないんですから、吸っちゃダメです。」
考え方が古すぎる。
本当にあたしと一つ違い?
タバコぐらい吸ったっていいじゃん。
今どき、未成年でタバコ吸ってる奴なんていっぱいいるんだから。
「タバコは今日でやめて下さい。」
「ほぁ?」
いきなりのことに私は間抜けな声を出してしまった。
なんでタバコやめないといけないの?
わけ分んないんだけど。
「タバコの箱を渡して下さい。後でバレないように処分しときますから。」
そう言って私に手を差し出す。
なんであんたに!
・・・・そうだ、いっちょからかってやろうかな。
真面目な奴ほどからかうと面白いし。
「とか言ってさ、本当は自分が吸いたいから、私のパクろうとしてるんじゃないの?」
私はわざと挑発するように鼻で笑ってみる。
「ふざけないで下さい! 」
すると意外にも大きな声で怒鳴られた。
へぇ〜、怒ることってあるんだ。
どんなことされてもヘラヘラ笑ってるのかと思った。
でも、この程度の挑発に乗っちゃって、単純だねぇ。
- 58 名前:.弦崎あるい 投稿日:2001年04月08日(日)23時03分07秒
- 「さぁ、タバコの箱を渡して下さい。」
どんどん近づいてくる。
「イヤだ。梨華ちゃんに渡す義理はないから。」
「なら、多少強引なことをはしてでも取ります。
梨華ちゃんは私を睨む。
別に睨んだって全然恐くない。
でも、こんなに強気な子だとは思わなかった。
いつもはイジメられっ子って感じなのに。
梨華ちゃんは私の口元に手を伸ばす。
奪い取ろうなんて、本当に強引だね。
私は梨華ちゃんの手を軽々と避ける。
梨華ちゃんが勢いあまって壁にぶつかりそうになるのを、私が肩を掴んで止めた。
そして、振り向かせて壁に押し付ける。
「痛っ・・・。」
ちょっと強く押しつけ過ぎたかな?
私はタバコの煙を思いきり吸い込む。
タバコをその場に投げ捨てると、梨華ちゃんの唇に唇を重ねた。
そして、煙を口の中に吐き出した。
梨華ちゃんは驚いて口が開いてたから煙は簡単に入った。
「なっ!・・・・・ごほ・・・ごほ・・・ごっ・・・・。」
梨華ちゃんはその場に座り込んで咳き込んだ。
「大丈夫?」
私はまるで他人事のように梨華ちゃんの顔を覗き込む。
「大・・丈・・夫じゃ・・・・あり・・・ません・・・・。」
梨華ちゃんは苦しそうに言った。
私は梨華ちゃんの背中をさすってあげた。
「タバコの吸い殻はちゃんと捨てて下さい。」
少しして落ち着くと、梨花ちゃんは開口一番そう言った。
言うことが違うと思うんだけど。
「あのさぁ、他に言うことないわけ?」
私は呆れながらも、捨てたタバコを携帯灰皿に捨てた。
「タバコの吸い殻を捨てる方が先です。」
相変わらず真面目だな。
「で、どうだったキスの感触は?まさかファーストキッスじゃないでしょ?」
私は楽しそうに梨華ちゃんの顔を見た。
- 59 名前:.弦崎あるい 投稿日:2001年04月08日(日)23時17分19秒
- 「ファ・・・キ・・・だったのに・・・。」
梨華ちゃんが小声で言ったので、私にはよく聞こえなかった。
「はぁ?なんて言ったの?聞こえなかったんだけど。」
「ファーストキスだったのに!」
梨華ちゃんは目に涙を浮かべて叫んだ。
潤んだ瞳で見つめられたとき、私はドキッとした。
結構かわいいじゃん・・・・・。
って、ファーストキッス!!
ウソだぁ、そんなの!?
だって16で、ましてこんなにかわいかったら、キスの1つや2つあるって普通。
お、おいおい・・・・。
マジで?
なんか、ヤバイかもしれない。
私はただこれで共犯ね、とか言おうと思っただけなのになぁ。
・・・・・逃げよ。
「あ、あの、その、ゴメンネ。ま、まぁ、貴重な初体験ができたってことで・・・・・。」
私は静かに後退りする。
梨華ちゃんが私の服の袖を掴む。
「責任とって下さい!」
そして、かなり真剣な目で言った。
は、はい?!
せ、責任って・・・・。
「責任って、まさか結婚しろってことじゃ、ないよね?」
梨華ちゃんならありえる気がする。
考え方が古そうだし。
「結婚とまではいきませんから、私と付き合って下さい!」
「つ、付き合う?!」
私は思わず素頓狂な声を上げてしまった。
- 60 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月09日(月)03時52分16秒
- 真面目な石川カワイイ♪
- 61 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年04月09日(月)23時32分12秒
- 「それが石川との馴れ初め?」
「馴れ初めってほどのものじゃないけどね。」
私は苦笑して言った。
「ふっ・・・ふっふふふ・・・あはははは。」
圭ちゃんは笑いだした。
笑う気持ちも分かる。
私は梨華ちゃんと帰る約束をして、っていうか自分の意志を無視されて勝手に決められてたんだけど。
まぁ、そんなこんなで私は待たされていた。
そこに圭ちゃんがヒマつぶしに現れて、石川との馴れ初め教えてよっていうから話した。
ホントはあんまり話したくなかったんだけどね。
こうなるから。
圭ちゃんはまだ笑っている。
「はぁ〜、なんであのときキスしたんだろう・・・・。」
私はため息をつく。
私は梨華ちゃんと付き合うことになった。
ま、今はすっかり慣れたけどね。
なんでこんなことになっちゃたんだろうな・・・・・・。
「でもさ、キスしたってことは、そのときから石川に気があったんじゃないの?
本当に嫌だったらキスなんてしないと思うよ。」
圭ちゃんはまだ少し笑いを堪えていた。
「さぁね、分んないな。」
「今は、好きなんでしょ?」
「え、あぁ・・・・・そりゃ・・・・・好きだけど。」
私はなんだか照れ臭くて頬を掻いた。
そして、照れ隠しにポケットからタバコを取り出す。
「今好きならそれでいいんじゃない。あ、つけようか?」
圭ちゃんが手を差し出す。
「あぁ、お願い。」
私は圭ちゃんの手のひらにライターを渡した。
「あんまり吸うと咽によくないよ。」
圭ちゃんは少し怪訝な顔をして火をつけた。
「大丈夫だよ、そういうことはちゃんと分かってるって。」
あたしはゆっくりとタバコの煙りを吸い込んで、吐き出した。
初めて圭ちゃんにタバコを吸ってるところを見られたときは、絶対に怒られると思った。
なのに、「すい過ぎには気をつけなよ。」ってだけ言って、圭ちゃんはそのまま通り過ぎて行った。
「あのさぁ、なんで圭ちゃんって私がタバコやってるの止めないの?」
それは前から聞きたいと思っていた質問だった。
「ヘビーだったらそりゃ止めるけど、まぁ、少しくらいならね。無理矢理やめさせたってストレスが溜まるだけだし。
それに・・・・・タバコ吸ってるごっちんは嫌いじゃないから。」
圭ちゃんが妖しく微笑む。
そして私の顔に手を添えると、だんだんと顔を近づける。
えっ?はっ?なにっ?!
マ、マジすっか?!
- 62 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年04月09日(月)23時34分09秒
- >60さん 真面目な石川さんと不真面目な後藤さん。
その正反対さを面白く見せられたらなって思ってます。
- 63 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年04月10日(火)23時34分22秒
- まぁ、圭ちゃんにならキスされてもいいかな・・・・・。
あと少しで唇が重なる、
っていうところで、甲高い声が廊下に響いた。
「何やってるんですか!」
「おっ、石川か、どうしたの?」
圭ちゃんは平然と梨華ちゃんに話し掛ける。
さては圭ちゃん、梨華ちゃんが来るの知っててやったな。
たっく、梨華ちゃん師匠はからかうの好きだねぇ。
「どうしたの、じゃないですよ1こんなところでキスしちゃダメですよ!もっと人目のつかない所でしないと。」
・・・・・おい。
「いや、そういう問題じゃないと思うんだけど・・・・。」
圭ちゃんは少し呆れていた。
あいかわらずの天然ボケ。
梨華ちゃんは私と圭ちゃんの間に割り込み、何を思ったのか私をいきなり抱きしめた。
「ちょ、ちょっと!」
いきなりことに私は驚いた。
「でも、真希ちゃんは渡しませんよ。」
梨華ちゃんはそう言って圭ちゃんを睨む。
よくそんなこと言えるなぁ、教育係なのに。
梨華ちゃんの大胆のところにはいつも驚かされる。
意外に大胆だよねぇ、梨華ちゃんって。
「別に取りゃしないよ。だって、あんた達はお似合いだからね。じゃ、そういうことで、あたしは帰るから。」
圭ちゃんはそれだけ言うと帰って行った。
一体何がしたかったんだろう?
ただ、からかいたかっただけ?
圭ちゃんの後ろ姿はなんだか楽しそうだった。
どうやらそうらしい。
「で、いい加減さぁ、離れてくれない?」
「嫌。もう少し真希ちゃんを感じていたいから・・・・。」
かぁぁぁぁぁぁぁぁ!
どうしてそういう恥ずかしいセリフをサラリと言うかなぁ!
まして、それを言っても違和感ないところがまたすごい。
- 64 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月11日(水)00時51分32秒
- 圭ちゃん、やっぱりいい味出してるなあ。
- 65 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年04月11日(水)22時19分54秒
- >64さん そうですねぇ、保田さんは主役でもいいんですけど、
こういう脇役っぽっい方が合ってる気がします。
自分的に保田さんって書きやすいんですよね。
- 66 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年04月11日(水)22時32分31秒
- 「分かったよ・・・・少しだけだからね。」
私はぶっきらぼうに言った。
少し恥ずかしかったから。
まぁ、たまにはこういうのも悪くないかな。
「あぁぁぁぁ!真希ちゃんまたタバコ吸ってる!」
梨華ちゃんは私の口元を見て叫んだ。
・・・・・おい。
なにそれ?
いい雰囲気を自分で作っておきながら、壊す普通?
「真希ちゃん、何か怒ってる?」
梨華ちゃんは不思議そうに聞く。
自分のせいだろうが!!
本当に、周りの空気が読めないねぇ。
まぁ、それが梨華ちゃんなんだけどさ。
はぁ〜。
「別に、怒ってないよ。」
私はなるべく優しく言う。
きつく言うと泣きそうだから。
っていうか、この前泣かれたし・・・・。
「よかったぁ〜、私、真希ちゃんに嫌われたら生きていけないもん。」
梨華ちゃんはニッコリと笑顔で言った。
まるで、向日葵みたいな笑顔だった。
私は口元を手で押さえる。
くあぁぁぁぁぁぁぁ!
またそういう恥ずかしいセリフを・・・・・。
本当によく言えるよ。
尊敬に値するね、ある意味。
それにまた・・・・笑顔が・・・・かわいいし。
私は自分でも赤くなっているの分かった。
なんか梨華ちゃんに振り回されてばっかりだなぁ。
- 67 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年04月12日(木)22時29分52秒
- 「顔赤いけど、熱でもあるの?」
梨華ちゃんは不安そうな顔で私の顔を覗き込む。
誰のせいだよ、誰の。
本当に、天然だなぁ・・・・。
「ないよ。平熱36、2度、超元気いっぱいで、健康そのものだよ。」
私は飛んだり跳ねたりして見せる。
「そっか、ならいいけど。あ、それよりタバコは吸わない約束でしょ?」
誰も約束してないって。
「タバコ吸わないとイライラするんだよ、だからやめられない。タバコなんてじきに慣れるよ。」
梨華ちゃんはなぜか顔を少し赤くする。
「それって、タバコの匂いが慣れるまでずっと側にいてってこと?」
はぁ?
な、なにそれ!
「ど、どういう解釈すればそうなるわけ?!」
私は思わず怒鳴ってしまう。
「じゃぁ、私といるときだけでいいから、タバコはやめてくれる?」
梨華ちゃんはいやにタバコにこだわる。
タバコに嫌な思い出でもあるのかな?
「なんで?別にいいじゃん。」
梨華ちゃんが私の耳元で囁いた。
「・・・・だって、キスしたときにタバコの匂いがするなんて嫌だから。」
な、な、な、なにぃぃぃぃぃぃぃ!
なんでそういうことをいきなり言うかな!
心の準備っていうのさせてよ!
でも、梨華ちゃん本気で言ってるのかな?
本当は私のことからかってるだけだったりして・・・・・。
よし!たまには私の方から仕掛けてみるか。
私はいきなり梨華ちゃんを抱き寄せる。
「きゃっ!」
いきなりのことに驚いてか、梨華ちゃんはかわいい悲鳴を上げる。
「タバコは絶対やめない。いいよ、タバコを吸ってる私に梨華ちゃんを惚れさせるから。」
私はニヒルに笑って言った。
梨華ちゃんはどんな反応をするかと思ったら、意外にも私の首に手を回してきた。
「無理だよ。・・・・・・だって、真希ちゃんに初めて会ったときから惚れてるから。もちろん、タバコを吸ってる真希ちゃんにもね。」
梨華ちゃんはもちろん笑顔だった。
私が一番好きな顔。
くぅぅぅぅぅぅ!
梨華ちゃんの方が一枚上手だな。
私はきっと顔が真っ赤だと思う。
「真希ちゃん、顔が真っ赤だよ。大丈夫?」
だから、誰のせいだよ、誰の!
やっぱり年上なんだなぁ・・・・。
私がリードしてるかと思うと、いつの間にか引っ張られてる。
梨華ちゃんにはかなわないな。
- 68 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月13日(金)01時36分47秒
- いしごま最高!
- 69 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月14日(土)03時02分56秒
- 直球ど真中勝負の人に勝てる人はいない。
しかも天然(W
- 70 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年04月14日(土)22時10分14秒
- >68さん 最高って言ってくれて嬉しいです。
自分もいしごま好きなので、また書きたい思ってます。
いつになるか分からないですけど。
>69さん その通りですね。
この話の石川さんは自分でも気ってます。
友達にはなりたくないですね・・・・・。
- 71 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2001年04月15日(日)02時22分40秒
- ここの石川サイコ〜♪笑いあり甘さありの絶妙な会話がまたいいんですよ!!応援してます
- 72 名前:弦崎 あるい 投稿日:2001年04月20日(金)14時48分24秒
- >ラブ梨〜さん 応援してくれてありがとうございます。
この話はあと1回で終わりなんですが、パソコンが壊れて更新できません。
もうしばらくまってて下さい
- 73 名前:林檎 投稿日:2001年04月20日(金)20時32分56秒
- ・・・素敵。(笑)
バッチリ読んでますよん☆
それにしてもりかっちょ・・・最高だわっ!
更新ゆっくり待ってます♪
- 74 名前::弦崎あるい 投稿日:2001年04月29日(日)00時34分44秒
- >林檎さん こういう感じの石川さん好きなんですよね。
ダークなのもいいんですけど。
やっとパソコンが治ったので、更新します。
- 75 名前::弦崎あるい 投稿日:2001年04月29日(日)00時47分54秒
- 「べ、別になんでもない!」
私は大声で叫んでしまった。
梨華ちゃんは、そんな私の考えはお見通しらしく、ただ優しく微笑んでいた。
「これからどっか行こうよ。あっ、でもタバコちゃんと捨ててね。」
梨華ちゃんはまだタバコにこだわっている。
私はタバコをやめる気はない。
吸わなきゃイライラするっていうのもあるけど、今はもう1つ理由がある。
「タバコはやめない。だってタバコを吸ってなかったら、私に・・・大切な人は出来てないと思うから。」
私は頭を掻きながら言った。
こういうことを言うのは、すごく恥ずかしいから。
梨華ちゃんはすごく嬉しいな顔をした。
タバコを吸っていたから、私達は付き合うことになった。
吸っていなくても付き合ってたのかもしれないけど、なんだか、タバコが2人を繋いでいる気がした。
だから、タバコはやめられない。
「じゃぁ、今日だけ特別ね。今度からはやめてよ。」
梨華ちゃんが腕を絡ませる。
「ま、努力はしてみるよ。」
私は投げやりに答える。
努力する気は微塵もないから。
タバコは絶対にやめられないと思う。
きっと、一生やめられない。
「タバコやめられたら、家に来ていいよ。」
梨華ちゃんは少し上目遣いで言った。
さ、誘ってる?!
にしても・・・・・悔しいぐらいかわいい!!
なんだか、タバコやめられるかもしれない。
ふと、何の脈略もなく私は思った。
その日を境に、私はタバコ吸わなくなった。
END
- 76 名前::弦崎あるい 投稿日:2001年04月29日(日)00時52分17秒
- これでこの話は終わりです。
今度はいきなり趣向を変えて、バトロワものをやろうと思ってるので、
(理由は特にないです。単なるの思いつきで・・・・。)
ということなので、待っていて下さい。
多分、明日更新します。
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月29日(日)06時21分28秒
- お疲れさまでした。
読みながら頬が緩みっぱなしでした。特に後半。甘いーっ。
攻め攻めな石川が、新鮮でよかったです。
次も頑張ってください。
- 78 名前::弦崎あるい 投稿日:2001年04月29日(日)23時35分41秒
- >名無し読者さん そうですね、これは自分が書いた中じゃ、
結構甘い方だと思います。
石川はさんが責めて、たじたじになる後藤さん
っていうのは自分的にツボなので・・・・。
いしごまは好きなので、またいつか書いてみたいなぁって思います。
- 79 名前::弦崎あるい 投稿日:2001年04月29日(日)23時37分56秒
- これからバトロワ小説を書きます。
始めてこういうので書くので、下手でも勘弁して下さい。
題は「False Days」です。
- 80 名前::False Days 投稿日:2001年04月29日(日)23時46分17秒
- あたしは目の前に見える光景を理解するのに、しばらくの時間を要した。
大量の血の上で倒れている圭織。
あたしに無表情で銃を突き付ける吉澤。
一体何がどうなってるの?!
頭はただ混乱するばかり。
正しい答えなんて見つけられない。
いや、正しい答えなんてないのかもしれない。
ただ、分かったことが1つだけある。
この殺し合いが、お遊びじゃないってこと。
これは間違いなく現実だ。
あたし達は、現実世界で殺し合っている。
あまりに非現実過ぎて信じがたいことだけど。
できれば夢であって欲しい。
そう、願わずにはいられない。
でもそれは無理な願いだ。
それに・・・・・・・そんなのただの現実逃避に過ぎない。
そんなことは分かっている。
それでも、ウソだと、夢だと、信じたい!
誰かにこれは撮影なんだよって、言ってもらいたい!
でなければ、あたし達は本当に殺し合いをしなければいけないから・・・・・。
- 81 名前:発端(1) 投稿日:2001年04月30日(月)23時27分52秒
- あたしは目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。
でも、目の前にある黒板と教卓、そしてあたしが座っている机と椅子から考えて、
どうやらここが学校であることがある。
でも、それ以外は何も分からない。
ここがどこなのか?
何の目的があるのか?
いずれ分かることだろうけど。
いや、分かることに期待したい。
まぁ、とりあいずメンバーがいてくれたのは心の救いだった。
1人だったら心細過ぎる。
それにしても、なんであたしはこんな所にいるんだろう?
それが一番大切なことだ。
確か、あたしは事務所に呼ばれて、待ち合い室でお茶を出されて・・・・・そこからの記憶がない。
とういうことは、そのお茶に睡眠薬でも入っていて、眠ったところでここに連れてこられたんだろう。
それって犯罪じゃん!
って、ツッコんだとろでどうにかなるわけじゃないけど。
さてと、どうしたもんかな・・・・。
それに、あたしにはもう1つ疑問があった。
「全員起きとるかぁ?」
少し間延びした男の声が聞こえた。
その声に、あたしは聞き覚えがあった。
それは教室に設置されたテレビからだった。
「つんくさん、うちらをどうしてこんなところに連れて来たんですか?睡眠薬飲ませてまで。」
さすが元リーダ。
一番につんくさんに質問する。
あたし達が一番した質問を。
裕ちゃんの言葉には少しトゲがあった。
どうやら裕ちゃん達も睡眠薬を飲まされて連れてこられたらしい。
「それはちゃんと話すからちょい待ちいな。う〜んと、全員いるみたいやな。」
つんくさんは教室を見回して言った。
見回してって言っても、テレビの中からだから実際に見えているのかは分からない。
「じゃ、本題に入ろうか。なぜお前らをここに集めたのか、それは・・・・・みんなに殺し合をしてもらうためや。
世に言う、バトルロワイヤルってやつやな!」
つんくさんは少し興奮気味に言った。
あたし達は、つんくさんとは対称的にシラけていた。
かなり反応が薄い。
「あの、それもうブーム終わったんとちゃいますか?」
と裕ちゃんのナイスなツッコミが入る。
あたしもそう思う。
いや、ここにいる全員がそう思ったと思う。
- 82 名前:発端(3) 投稿日:2001年05月02日(水)23時12分20秒
- 今頃バトロワやってどうすんだか?
そりゃ確かに、話題になるとは思うけど。
「と、とにかくやなぁ、例えブームが終わっても娘。のばトル・ロワイヤルや、見たがると思わんか?」
まぁ、見たがるだろうけど・・・・。
「とにかくやな、ルールは本編のバトル・ロワイヤルと同じ。この中の誰かが1人になるまでやる、無差別の殺し合いや。
それから、この廃校から出たらアウトや、容赦なく射殺するから気をつけてな。言っとくけど、これはお遊びやない、マジもんや。」
つんくさんの顔がだんだん真剣になっていく。
マジやからなって、そんなこと言われて、じゃぁみんなで殺し合おう!って、そんなことできるはずがない。
あたしはまだ信じられない。
信じろって言う方が無理だ。
どうせ、映画の撮影だとか、ドッキリだと思っている。
みんなもそういう顔つきだ。
つんくさんの言葉を信じていない。
「あの・・・・ちょっといいですか?」
あたしはゆっくりと手を上げる。
「なんや市井?トイレは廊下の突き当たりだぞ。」
「違います!トイレじゃありません!」
何ボケたこと言ってんだか。
でも、つんくさんがボケたってことは、これはあらかじめ撮影して流したものじゃないってことだ。
ということは、つんくさんはあたし達を生で見ているってことか。
大方、どこかに隠しカメラでもあるんだろう。
「じゃぁ、なんや?」
「あの、どうしてあたしが参加しているんですか?」
それは、あたしがここにいたときから思っていた疑問だった。
あたしはもう辞めた身だ、ここにいる理由は特にない。
元メンバーという理由はあるけど。
裕ちゃんも辞めてるのにここにいるけど、そんなに日は経ってないし、まぁ元リーダーだし。
そりゃここで明日香や彩っぺがいれば話は別だけど、2人ともここにはいない。
今さらなんであたしを?
- 83 名前:発端(4) 投稿日:2001年05月03日(木)22時47分36秒
- 「だってヒマやったやろ?」
つんくさんの答えはなんとも分かりやすかった。
「福田は親戚の法事があるとかで連絡つかなかったし、石黒は子どものめんどうみないとあかん
からなぁ。市井はなんか用事でもあったんか?」
いや、ないけど・・・。
だからって、睡眠薬飲ませて連れてこなくてもいいと思うけど。
あたしの意見が尊重されてないし。
それに、そういうことで欠席していいんだろうか?
くだらなそうな企画だし、まぁいいっか。
「じゃ、俺がランダムに名前を読んでいくから、呼ばれた者から食料と武器の入ったティーバッグを持って、
この教室から出て行っててや。教室から一歩出たら、あとは殺し合おうが助け合おうが好きにしたらええ。」
「あの、もう1つだけ質問していいですか?」
あたしはまた手を上げる。
「なんや、まだ他にあるのか?」
話の腰を折られたつんくさんは、少し嫌そうな顔をする。
うんざりしている感じだった。
早くゲームを始めたいのかもしれない。
でも、あたしはどうしても聞きたいことだった。
「これって・・・・本当にマジなんですか?」
「マジや。」
即答だった。
つんくさんの顔は、とてもウソを言っているようには見えなかった。
教室に張り詰めた空気が流れる。
でも、マジって言われてもねぇ・・・・。
「じゃぁ、まず飯田から。」
「・・・・・・・・。」
圭織は何も答えない。
「お〜い、人の話を聞いとるか?」
「・・・・あっ、すいません!ちょっと、交信してました。」
圭織はハッとして言った。
今は、交信してる場合じゃないと思うんだけど。
- 84 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月04日(金)03時43分49秒
- バトル系は大好きなんで期待してます。
- 85 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年05月05日(土)22時30分05秒
- >84さん 期待に答えられるように頑張ります。
でも、バトル系は始めてなので、
多少変な所があっても、許して下さい。
- 86 名前:ゲームスタート(1) 投稿日:2001年05月05日(土)22時45分47秒
- 「ほら、飯田行け。」
圭織は何も言わずに立ち上がると、ドアの近くにあったティーバックの中
から適当にバッグを取り、そのまま教室から出て行った。
次は裕ちゃん。
不満げな顔をして、渋々と教室から出て行く。
出て行く寸前、不安そうにあたし達をチラッと見た。
やっぱり元リーダーだけあって、ちゃんとメンバーのことを心配している。
次は石川。
なんか石川って、一番先に死にそうなタイプだよなぁ。
あっ、でも案外生き残るって気もする。
石川は不安そうな顔をして、出て行った。
それから吉澤。
吉澤なんだかいつもよりクールに見えた。
それはあたしの見間違いかもしれない。
吉澤は、何のためらいもなく教室から出て行った。
そして、辻と加護。
この2人が一番心配なんだよね。
だって、まだ13でしょ?
2人とも、すごく戸惑った表情で教室から出て行った。
その次は矢口。
矢口は黙ったまま、平然と教室から出て行こうとする。
一瞬、横目でこっちを見た気がした。
矢口もあれで結構頭いいから、心配ないとは思うけど・・・・・。
ま、後で落ち合えばいいか。
そして、後藤。
後藤は普通だった。
いつもの通り、少しぼーっとした顔つきで教室から出て行く。
そりゃ後藤らしいといえば、後藤らしいけど・・・・・。
あたしはなんだか、そんな後藤を無気味に感じた。
次はなっち。
なっちはずいぶんと怯えた様子だった。
震えいているのが、少し離れたあたしでも分かった。
それでも、なっちはあたし達に笑い掛けた。
なっちは引き釣った笑顔のまま、出て行った。
次は・・・・。
- 87 名前:ゲームスタート(2) 投稿日:2001年05月05日(土)22時58分41秒
- 「次、保田圭。」
圭ちゃんの名前が呼ばれる。
圭ちゃんは立ち上がって、ティーバックを取る。
あっさりとした作業だった。
それから、少しだけあたしを見つめた。
そして教室から出て行った。
圭ちゃんが何を言いたいのかは分からない。
ただ、圭ちゃんに見つめられたとき、生きなきゃいけないって思った。
なんでかは、よく分からないけど・・・・。
そして、あたしの名前が呼ばれる。
あたしは深いため息をついてから、立ち上がり残っていた最後のティーバッグを
持って教室から出ようとすると、つんくさんが独り言のように言った。
「殺さなきゃ自分が死ぬってときになったら、誰でも人は殺すもんや。どんな理屈並べたって
そんなのただの偽善者の言い訳に過ぎん。しゃぁないことなんや、それが人の本性ってもんや。」
そう言ったつんくさんの顔は、どこか寂しそうだった。
「それでも、あたしは誰にも殺しません。」
あたしはつんくさんを見つめて言った。
睨んでいた、と言う方が正しいのかもしれない。
なんでこんなお遊びに熱くなってるんだろう?
そう、これは本当のことじゃない。
どうせ、ただの特別番組か何かだ。
本気になるようなことじゃない。
「まぁ、せいぜいがんばりぃな。」
つんくさんはあたしを茶化すように言った。
あたしは何も言わず、黙って教室から出た。
だが、あたしはすぐに知ることになる。
これが、お遊びじゃないことを・・・・・。
- 88 名前:ブラック 投稿日:2001年05月06日(日)01時09分04秒
- これは楽しみ!!吉澤がキレてる役っぽいですね・・・ラスボスかな〜・・とりあえず期待
- 89 名前:林檎 投稿日:2001年05月06日(日)20時11分56秒
- おぉ!新しいのが始まってる!!(笑)
大期待ですよ〜♪
何気なく自分も一回書いてみたいんですよ。(爆)
- 90 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年05月06日(日)23時06分55秒
- >ブラックさん 吉澤さんはラスボスではないですね。
どっかって言うと、中ボスですかね。
期待してくれて、ありがとうございます。
>林檎さん 期待は嬉しいんですけど、
始めて書くので、まだどうなっていくか分からないです。
おもしろく書く努力はしますけど、
つまらなくても怒らないで下さい。
- 91 名前:ゲームスタート(3) 投稿日:2001年05月06日(日)23時33分31秒
- あたしは宛てもなく歩いていた。
みんなどこにいるんだろう・・・・・。
あたしは歩き回っていれば、誰かに会えると思っていた。
そのとき、一発の銃声が廊下に響き渡った。
あたしは音のした方に向かって走り出した。
頭で考えるよりも早く、体が動いていた。
何が起こったんだろう?
音はそう遠くではない。
一瞬、頭に悪い考えが過る。
あたしはそれを振り払うように、走るスピードを上げた。
それからすぐに少し広いホールに辿り着く。
そこであたしが見たものは・・・・・・・、
血の海に倒れている圭織と、銃を手に持っている吉澤の姿だった。
この状況から考えれば、吉澤が圭織を撃ったと考えるのが一番自然だ。
でも、あたしはそう思いたくない!
メンバー同士で殺しあうなんて、信じたくない!
吉澤があたしに銃を向ける。
その瞳は、冷たかった。
クールというのを通り越して、冷酷という言葉が相応しいように思えた。
「・・・・吉澤が・・・・やったの?」
声が震えているのが分かる。
恐怖と、怒りで・・・・。
違うと言って欲しかった。
私がやったんじゃない!と言って欲しかった。
「そうですよ。」
吉澤の答えはあっさりとしていた。
まるで、殺したことに罪の意識がないようなセリフだった。
そんなウソだ!
なんで吉澤が・・・・。
「どうして?なんで圭織を・・・・。」
あたしは言葉を飲み込んだ。
ここから先は言いたくない。
どうして、殺し合わないといけない?
殺し合って何のメリットがある?
いや、メリットなんかの前に、あたし達は仲間じゃなかったの?
「そういう、ルールーでしたから。」
まるで、機械と話してるみたいだった。
表情を変えずに、ただ淡々と話す。
きっと、メンバーじゃなかったらあたしは吉澤を殺してたと思う。
けど、今は信じたかった。
あの吉澤がそんなことするはずがない!
これは何かの間違いだ。
もし仮に殺してしまったとしても、何か理由が合ったんだ。
だって、メンバー全員、あたしにとって大切な仲間だから。
「あっ、そうそう。さっき保田さんに会ったんですよ。保田さんも殺そうと思ったんですけど、
あの人、勘がいいから逃げられちゃって。まぁ、一発くらいは掠りましたけどね。」
- 92 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月07日(月)02時07分44秒
- おぉ、さっそく中ボス?!
バトル系で悪いよっすぃ〜ってあんまり見ないので期待しております。
- 93 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月07日(月)02時17分11秒
- 最初から吉澤は飛ばしてますね〜(w
続きに期待!!
- 94 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年05月09日(水)22時45分34秒
- >92さん 期待してくれてありがとうございます。
こういうクールな役は吉澤さんしかない
と勝手に思って決めました。
あんまり配役にこだわってません、結構適当です。
>名無しさん これからどんどん勢いよく
話が進んでいけたらいいなぁって思っています。
期待に応えられるように、がんばります。
- 95 名前:ゲームスタート(4) 投稿日:2001年05月09日(水)22時59分52秒
- 吉澤は残念そうに言った。
それはまるで、獲物を逃したハンターのような口ぶりだった。
人を殺した奴の言うセリフじゃない。
もはや吉澤には、人殺しを悔やむ良心というものがないらしい。
吉澤は平気で圭ちゃんを撃ったんだ。
圭ちゃんを撃った?
プッチモにだったんだよ?
仲間だったんだよ?
どうして、その圭ちゃんを・・・・。
それに、なんでそんなに平然していられるんだよ!
仲間を撃ったっていうのに!
あたしはキレた。
その言葉に、体が震えた。
恐怖じゃない。
怒りで!
怒りで体が震えるなんて始めてだった。
吉澤は、もう吉澤じゃない。
あたしの知っている吉澤は、もうここにはいない。
いるのは、吉澤の顔をした冷酷な女の子だけだ。
こんなに人を憎いと思ったことはなかった。
「吉澤ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
あたしは叫んだ。
学校全体に聞こえるくらいに。
あたしは腰につけた日本刀に手を掛けた。
ティーバッグに入っていたのは日本刀だった。
まぁ、飛び出してたから取る前から分かってたけど。
「殺すんですか?まぁ、殺される気はないですけどね。」
吉澤は顔色を変えず、冷たい視線であたしを見る。
相手は銃だ。
常識的に考えて勝ち目はない。
あたしは刀を抜くのをためらう。
それに、このままじゃダメだ!
これじゃぁ、吉澤のやってることと同じだ!
あたしは殺し合わないって決めた。
だから、殺し合っちゃダメだ!
殺し合わないで済む方法がある。
必ずある!
- 96 名前:ゲームスタート(5) 投稿日:2001年05月09日(水)23時11分27秒
- 「やらないんですか?」
吉澤が冷笑を浮かべる。
それは、あたしを嘲笑っているようにも見えた。
「・・・・吉澤。もう、こんなことやめなよ。殺し合ってどうなんの?いいことなんて
1つもないよ。早く他のメンバーを捜して、こんな所から出よう。そして、自首しなよ。
・・・・・もう、殺し合いをする必要なんてないんだよ。」
あたしは刀から手を離した。
話せば分かると思った。
あの優しい頃の吉澤の部分が、まだ少しはあると思っていた。
「・・・・・ふっ、甘いんだよ。」
吉澤はいつもより低い声で言った。
その声は、あたしの記憶の中で一番低かった。
「何か勘違いしてませんか?私は別に嫌々人を殺してるわけじゃないんですよ。
殺したのは自分の意志です。それに、外に出たって殺されるだけです。なら、ここで
最後の1人になるまで生き残った方が、いいと思いませんか?」
この言葉を聞いた瞬間。
何を言ってもムダだと思った。
もはや、言葉は通じない。
吉澤は完全に変わってしまった。
もう、壊れている・・・・・。
だからって殺すわけにはいかない。
殺されたくもない。
なら、あたしがすることは1つだけ。
あたしはキッと吉澤を睨んだ。
- 97 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月10日(木)02時20分46秒
- 黒よっすぃーめちゃ切れてますな。
殺さず殺されずといったら、もうアレしかないですよね。
頑張れ市井ちゃん!!
- 98 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月10日(木)02時27分00秒
- バトルもの好きなので、続きを楽しみにしてます。
文章が読み易いのも嬉しいです。
けど、すみません、ひとつだけ指摘させてください(>_<)
『ティーバッグ』は、『ディバッグ』或いは『ディパック』が正しいかと。
あの、(古い言葉でいう)『ナップサック』みたいなバッグですよね?
ティーバッグだと紅茶袋、ティーバックだと更にヤバいことになるので(爆
ちょっと文章中で気になってしまいました。
あー、お目汚しでしたら本当にすみません<作者さん&読んでる方
このスレは最初のプッチ三角関係からずっと読ませていただいてます。ファンです!
更新待ってますんで、頑張ってください。また感想書かせていただきます。
- 99 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年05月11日(金)22時48分55秒
- >97さん 黒よしってあまり見かけないですけど、
自分では結構気に入ってたりします。
この辺はまだ前半なので、市井さんが頑張るのは
これからですね。
>98さん 指摘ありがとうございます。
間違っててすいません!
バカな間違いしたと自分でも思ってます。
これから文章中は「ディバッグ」に統一します。
それから、ファンだと言ってもらえて、本当に嬉しいです。
学校が始まったのであまり多く更新できないですけど、
なるべくするようにします。
- 100 名前:ゲームスタート(6) 投稿日:2001年05月11日(金)23時07分02秒
- 吉澤は私の睨みを微笑で返す。
「とういうことで、死んで下さい、市井さん。」
吉澤は銃の標準をあたしに合わせる。
あたしは微笑して言った。
「悪いけど、あたしまだ死ぬ気ないんだよね!」
そして、半分くらい脱いでおいた上履きを吉澤目がけて蹴り飛ばした。
このために吉澤を睨んで、目線を逸らさないようにしたのだ。
上履きは、見事に吉澤の銃に当たった。
あたしはその隙をついて、その場から逃げ出した。
当たる確率は低かったけど、やらないよりはマシだ。
あたしは一か八か賭けに出た。
そして、見事あたしは賭けに勝ったのだ。
仮に外したしとしても、吉澤があたしを確実に銃で打ち抜けるとは思えない。
でも、もしかしたら当たるかもしれない。
だから、なるべく銃があたしから外れた方がいい。
どれくらい走ったんだろう?
あたしは一生懸命に走った。
体が少し重い。
こんなに走ったのは映画以来かな?
あたしは少しだけ後ろを振り向いた。
吉澤が追って来ていないようだ。
なんとなく、追わないと思っていた。
そこまであたしに執着してないだろうから。
でもそれは、あたしにとっては好都合だった。
今は、逃げることしかできないから・・・・。
戦わないなら、できることはそれだけ。
そうすれば誰も傷つかない。
でもそれじゃ、何の解決にもならない。
あの場から逃げ出したところで、吉澤はただ獲物を失っただけ。
また新しい獲物を捜せばいい。
ただ、それだけのことだ。
なんとかしなくちゃ・・・・・。
あたしは絶対に、あの狂った狩人を止めなくちゃいけない!
でもそれは、あたし1人じゃ無理だ。
誰か、協力者が必要だった。
- 101 名前:壊れゆく世界(1) 投稿日:2001年05月12日(土)22時57分29秒
- どれだけ走ったんだろう?
あたしは息がすっかり上がり、その場にへたり込んだ。
ここどこなんだろう?
あたしは地理がない為にそれは分からない。
まぁ、分かってどうなるものでもないんだけどさ。
はぁ〜、これからどうするかなぁ。
他のメンバーはどうしているんだろう?
生きているのかなぁ?
死んだなんて思いたくない。
でも、もし吉澤に会ったら殺されてしまう。
早くみんなにそれを伝えなくちゃいけない。
いや、狂っているのは吉澤だけじゃないかもしれない。
そんなこと信じたくないけど。
メンバー同士で殺しあうなんて絶対にイヤだ!
そんなことしたくない!
・・・・・・何でこんなことになったんだろう。
今さら悔やんだって遅いんたけどね。
でも、あたし達は何してるんだろう?
いきなりどっかの廃校に連れてこられて、殺し合してる。
全く、悪い夢でも見てるみたいだよ。
夢ならいいんだけどね・・・・・。
でも、それは無理な話だ。
そんなことは分かっている。
これは現実なんだって。
壊れた現実の中に、あたし達は閉じ込められた。
そこから抜け出す術は分からない。
でも、きっとあるはずだから。
ここから抜けだせる日は必ず来る。
だからあたしはそのときまでに、1人でも多くの仲間を生き残らせる!
もう、誰も死なせない!
あたしは心の中でそう決心した。
- 102 名前:壊れゆく世界(2) 投稿日:2001年05月12日(土)23時19分30秒
- ん?
今、人の話声が聞こえたような・・・・。
あたしは耳を済ませた。
「・・・・・・頼む・・・・。」
何を言ってるのかはよく分からない。
けれど、確かに人の話が聞こえた。
誰だろう?
あたしは音を立てないよう、慎重に静かに音のする方に近づいた。
声はだんだんと大きく、はっきり聞こえるようになる。
あたしは3−Aと書かれた表札がある教室の前で止まった。
声はここから聞こえてくるようだ。
あたしはそっとドアに耳を押しつけた。
「矢口、頼むから殺してよ。」
この声は裕ちゃん!
矢口って・・・・。
何言ってるの裕ちゃん?!
殺してってどういうこと?
「うちは、このままやったらきっと誰かを傷つけてしまう。それは絶対嫌なんだよ!
好きだから、誰も傷つけたくない!・・・・・だから、その前にうちが死ぬ。」
あたしはその言葉に茫然としていた。
裕ちゃんが、ここまでメンバーを思ってくれたのは嬉しい。
すごく感動した。
けれど、矢口が裕ちゃんを殺してしまうんじゃ、という不安の方があたしの中では大きかった。
まさか・・・・殺さないよね?
あんなに仲よかった2人が殺し合うわけない!
殺し合わないで欲しい!
「なんで・・・・そんなこと・・・・私に言うの?」
矢口は途切れ途切れに言った。
声を絞り出しているように聞こえた。
もしかしたら、泣いているのかもしれない。
「矢口なら、殺されてもいいと思ったから、いや違う、殺されるなら矢口がいいの間違いやった。」
裕ちゃんの声はなんだか弾んでいた。
軽い世間話でもしている感じだ。
顔は見えないから分からないけど、きっと優しく微笑んでいると思う。
裕ちゃん・・・・。
「嫌だ!そんなことできないよ!」
矢口が大声で叫ぶ。
その声は甲高くて、少しだけ掠れていた。
- 103 名前:壊れゆく世界(3) 投稿日:2001年05月13日(日)23時40分20秒
- 「・・・・・矢口。うちの一緒のお願いなんやから、叶えてくれない?」
裕ちゃんは矢口を諭すように言う。
あたしは少しだけドアを開けて、中の様子を覗き見た。
そこには、震えた手でライフル銃を構える矢口の姿があった。
矢口の涙が頬を伝う。
「矢口!」
あたしがドアを開けて叫ぶの同時に、乾いた銃声が教室に響いた。
裕ちゃんがゆっくりと後ろに倒れる。
まるで、どっかの映画のワンシーンのようだった。
でもこれは、映画じゃない。
火薬のあの独特の匂いが鼻につく。
裕ちゃんが倒れたところにはすぐに血の海ができた。
あたしは、その様子を黙って見ていることしかなかった。
何もできなかった・・・・・。
辺りは、無気味なくらいに静かだった。
「裕ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
その静寂を破るように、矢口は狂ったように叫んだ。
叫ぶというより、咆哮のようにあたしには聞こえた。
矢口は裕ちゃんに駆け寄り、ぐったりした体を抱きしめた。
なんだか、不思議な光景だった。
あたしはまだ理解できてないんだ。
裕ちゃんが死んだという事実を・・・・・。
矢口の服が、ゆっくりと血を吸い取って赤く染まっていく。
信じられなかった。
映画やテレビなら大したシーンでもない。
けど、これは現実だ。
裕ちゃんは2度と目覚めることはない・・・・・・。
あたしは自分の手をを強く握った。
痛いくらいに。
あたしは誰も救えなかった!
裕ちゃんを救うことができなかった。
矢口を止めることができなかった。
何やってんだよあたしは!!
止めようと思えば、止められた!
救おうと思えば、救えたのに!
もう誰も死なせない、殺させないって決めたのに・・・・・。
あたしの決意は、脆いものだった。
- 104 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月14日(月)02時05分22秒
- 突然の急展開って感じでビックリ!!
こういった、狂気の世界の中では人はおかしくなってしまうのかな〜。
- 105 名前:NAVE 投稿日:2001年05月14日(月)16時09分43秒
- いいねぇ〜〜。続き期待してますよ。
ところであるいさんはおとこなんですかね女なんですかね?
私は女だと思ってるんですが。。。
- 106 名前:林檎 投稿日:2001年05月16日(水)18時54分55秒
- うっはーっ!!
ゆうちゃぁーんっっっ!!(>△<。)
作者さん頑張ってください!応援しまくりっす!
- 107 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年05月16日(水)23時01分26秒
- >名無し読者さん 急展開になったのは、
自分の構成が悪いだけです。
早いテンポで物語を進めようとしたらこうなりました。
この話は狂気のの世界での、人の心情の変化を書ければ
いいなぁって思ってます。
>NAVEさん 期待に応えられるよう頑張ります。
えっと、自分は女です。
秘密って答えたいところなんですけど、
まぁ、別にそこまで隠すことじゃないですから。
>林檎さん ありがとうございます!
なんかバトロワ小説を書いてると、
罪悪感を感じるんですよね、殺してしまうわけですし。
って、今さら言うのも何ですけど。
なるべく頑張って更新します。
- 108 名前:壊れゆく世界(4) 投稿日:2001年05月16日(水)23時15分23秒
- 「矢口・・・・。」
あたしはゆっくりと矢口に近づいた。
でも、なんて言葉を掛ければいいんだろう?
どんな言葉を掛けても、きっと陳腐にしか聞こえない。
言葉で慰めることは無理だ。
どんなことをしても、きっと矢口の傷は癒されない。
傷が深すぎるから。
それでも、何もせずにはいられなかった。
あたしはそっと矢口を抱きしめた。
矢口があたしの方を見る。
そして、ライフル銃を額に突き当てた。
えっ?
あたしは、何がどうなったのか理解できなかった。
どうして矢口が、なぜあたしに銃を向けているのか。
「ねぇ、紗耶香も死にたい?」
無邪気な笑顔で矢口は言う。
その笑顔はいつもと変わらない。
かわいくて、優しくて、輝いている笑顔。
矢口は・・・・・壊れた。
「矢口・・・・。」
あたしは何も言えなくて。
泣いた。
泣く気はなかったのに、勝手に涙が出てきた。
「なんで泣いてるの?紗耶香は死にたくないの?」
壊れた笑顔で矢口はあたしに問う。
「・・・・・うん。あたしはまだ死ぬわけにはいかないんだ。」
涙を服で拭った。
あたしにはやることがある。
だから、まだ死ぬわけにはいかない。
あたしは優しく矢口の頭を撫でた。
そして、突き飛ばした。
矢口は血の海に倒れ込む。
あたしは走って教室から逃げた。
- 109 名前:壊れゆく世界(5) 投稿日:2001年05月16日(水)23時34分02秒
- きっとあのままだったら、矢口はあたしを撃ったと思う。
だからあたしは逃げた。
死ねないから。
まだ、生きてやることがある!
もう、誰も死なせるわけにはいかない。
矢口や吉澤みたいに、メンバー同士殺し合うわけにはいかない。
止めなきゃ!
絶対に止めなきや!
あたしは走るスピードを上げた。
走りたい気分だった。
目的なんてない。
少しでも早く、誰かに会いたいからかもしれない。
でも、逃げる為に走るんじゃない!
誰かを救う為に・・・・。
守るために、走るんだ。
もうこれ以上、誰かが傷つくのはイヤだ!
壊れ姿を見るのはイヤだ!
壊れる前に、守りたい!
あたしは大した力はない。
微力な力しかない。
それでもね、何かができるはずだから。
もしかしたら、あたしは誰かを守って殺されるかもしれない。
それでもいい。
殺されるその瞬間まで、
1人でも多くのメンバーを救いたい!
あたしは床に座り込んだ。
息が上がって、苦しい。
もう走れそうにない。
あたしは一息つくことにした。
それにしても、みんなどこにいるんだろう?
まさか、もうみんな殺されてるってことはないよね?
そんなことない!
あるわけがない!
みんな、きっとどこかで絶対に生きてる!
隠れて見つからないだけだ。
早く見つけださないと。
矢口や吉澤より早く。
そして、こんなところから抜け出さなきゃ!
正常な考えができるうちに・・・・・。
- 110 名前:104 投稿日:2001年05月17日(木)02時43分04秒
- 作者さん〜、確かにテンポは早いけど、構成は別に全然悪くないですよ!!
ですから、この調子で頑張って下さい。
ちなみに銀で書いてる方も大好きです。
- 111 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年05月17日(木)22時38分45秒
- >104さん そう言ってくれると助かります。
この話は自分的に少し自信がないもので・・・・。
銀板と共に、よろしくお願いします。
- 112 名前:悲しき狂人(1) 投稿日:2001年05月17日(木)22時59分54秒
- あたしは狂っていく。
ここにいると人間的な、常識ある判断ができなくなる。
人間であるうちに、ここから逃げ出さないといけない。
あたしは大きなため息をついた。
思えば、さっきから走ってばっかりだ。
咽がカラカラに乾いていた。
あたしはディバッグの中を漁ってみる。
すると、そこには500mlのペットボトルがあった。
中身は水のようだけど、もしかしたら毒が入っているかもしれない。
あたしはキャプを開けて、匂いをかんでみた。
変な匂いはしないか・・・・・。
次に指に軽く水滴をつけて舐めてみる。
・・・・・異常はない。
っていうか、もしこれが猛毒だったらこれで死んでたろうね。
生きているってことは、飲んでもいいってことだ。
だいだい劇物っていうのは、カプセルに速効性だから。
あたしは少しだけ水を飲んだ。
貴重な水だ、ムダにはできない。
水道が出ればいいんだど、出るんだったらわざわざ水なんかバッグの中に入ってはないはずだ。
っていうことは、水道から水が出ないってことになる。
あたしは辺りを見回した。
物音1つしない、静閑な世界。
薄汚れているけれど、鉄筋で出来ている校舎。
ベージュで統一された壁は、所々ペンキが剥げている。
ふと目に入った窓から見える空は、とっても青くて。
それを見ていたら、なんだか全てがバカバカしく思えた。
この平和ボケした国で、あたし達はなんで殺し合いなんかしているんだろう?
それに意味があれば別だけど、この殺し合いにはきっと何のメリットもない。
メンバーを殺してまで手に入れるメリットなんて、あたしは欲しくない。
何やってんだろうなぁ・・・・。
あたしは手を伸ばした。
いつもより青空が遠くに見えた。
でもあたしは、1人でも多くのメンバーと一緒に、あの青空を外で見たい!
きっと、見れるよね?
いや、見れるようにしなくちゃいけないんだ!
さてと、一息ついたらみんなを捜さなきゃ。
ん?
あたしは妙な気配を感じで、咄嗟に右に飛んだ。
体勢を整えてすぐさま振り返ると、そこに・・・・・・なっちがいた。
手に鎌を持って、こっちを睨んでいた。
- 113 名前:NAVE 投稿日:2001年05月17日(木)23時59分10秒
- おおお〜いい感じ。やっぱ女だったんだぁ〜。わたしも女です(←聞いてない)
頑張って下さいね☆
- 114 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年05月19日(土)22時39分29秒
- >NAVEさん 女の方だったんですか。
女の人で書いてるって多いんですかね?
まぁ、どうでもいいことなんですけど・・・・・。
お互い頑張りましょう!
- 115 名前:狂った狂人(2) 投稿日:2001年05月19日(土)23時05分50秒
- 言葉が出なかった。
なっちはきっと、あたしを殺す気だ。
信じられなかった。
さっきまで笑っていたなっちが、今はあたしに鎌を向けている。
ほんの数時間の間に、人はここまで変わるものなんだろうか?
「なっち・・・・。」
あたしはただなっちを見つめた。
うまい言葉が出てこなかった。
なっちは、いつもより小さく見えた。
怯えた瞳、震えている手、小さな体、なんだか弱い人に見えた。
いつもの笑顔は、もうここにはない。
あるのは恐怖だけ。
なっちは今にも壊れそうだった。
とても、脆く見えた。
なっちは鎌を握り直す。
なんで殺そうとするんだろう?
なんで助け合おうとしないんだろう?
殺し合う必要なんてないのに!
「紗耶香は・・・・・・誰か殺した?」
なっちは小さく掠れた声で言った。
「誰も殺してないよ。」
あたしはなっちの目を見つめて言った。
なっちは目を逸らす。
殺すはずがない。
なっちだって、誰も殺しない。
鎌に血がついていないから。
「本当に?」
なっちが少しだけあたしに近づく。
あたしは腰の刀を抜いた。
なっちは驚いて飛び退く。
「大丈夫だよ、何もしないから。この刀、血がついてないでしょ?だからあたしは誰も殺しないよ。」
あたしは優しく笑って言った。
なっちは殺す気なんてないんだ。
ただ、殺されることが怖いだけ。
初めて殺意のない人に会えた。
いや、吉澤や矢口だって元々殺意があったわけじゃない。
・・・・・壊れただけなんだ。
とにかく今は、なっちの恐怖を取り除いてあげないと。
このままじゃ壊れてしまいそうだから。
もう誰も、壊れた姿を見たくない!
なっちはまだ不安そうだった。
あたしは刀を床に置いた。
「これで信じてもらえるかな?あたしはなっちを殺す気はないよ。」
あたしは両手を広げて言った。
「紗耶香・・・・・。」
なっちは今にも泣きそうな顔をする。
そして、鎌を放り出してあたしに抱きついた。
あたしはなっちを抱き止めた。
ギユッと強く抱きしめる。
なっちはあたしの腕の中で泣いた。
- 116 名前:狂った狂人(3) 投稿日:2001年05月19日(土)23時26分32秒
- きっと色んなことがあったんだと思う。
でなきゃこんなに怯えるはずがない。
あたし達は助け合わないといけないんだ!
殺し合っても、ただ傷つくだけだ!
心を壊すだけだ!
そんなしなくていい。
することないんだよ!
なっちがゆっくり顔を上げる。
そして、あたしから離れると床に腰を下ろした。
あたしもその横に腰を下ろす。
「ごめんね紗耶香、いきなり襲ったりして。・・・・・でも、さっきヨッスィーに会ったらいきなり襲われて、
無我夢中で逃げた。もう誰を信じていいのか分からなくなって、そしたら紗耶香がいて、また殺されると思ったら
すごく怖くなって・・・・・本当にごめん。」
なっちが目もとを潤ます。
あたしはなっちの頭を撫でた。
吉澤か・・・・・。
まだ吉澤はみんなを襲ってるんだ。
あたしは、吉澤を救えるのかな?
そしても矢口も・・・・・。
「そっか・・・・。でも、もう大丈夫だよ。なっちは1人じゃない。あたしがいる。あたしはなっちみたいな
思いをしてるメンバーを救いたいんだ。一緒にみんなを捜そうよ!それで、こんなところからさっさと出よう!」
あたしはなっちを抱きしめた。
1人より、2人。
人数が多い方が心強い。
「うん!」
なっちは笑顔で頷いた。
いつもより元気がないけど、それは間違いなくいつものなっちの笑顔だった。
そのとき、誰かの足音がした。
- 117 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年05月20日(日)23時04分56秒
- 訂正です。
(2)、(3)の副題が間違ってます。
正しくは、悲しき狂人です。
- 118 名前:悲しき狂人(4) 投稿日:2001年05月20日(日)23時21分44秒
- 吉澤?
それとも矢口?
どっちにしても、今の2人に会ったら逃げるしかない。
でも、もしかしたら他の誰かかもしれない。
緊張が高まる。
あたしは床にあった刀を腰に戻した。
何ってんだろう?
戦う気がないなら、武器なんて捨てればいいのに。
それでも、あたしは武器を捨てられずにいる。
いつかあたしは、この刀を使うときが来るんだろうか?
そのときが永遠にこないで欲しい。
あたしは足音をする方をそっと覗いた。
・・・・矢口だった。
どうする?
逃げる?
それとも話す?
あたしが考えている間に、なっちが立ち上がる。
なっちは知らないんだ。
矢口が壊れていることを・・・・・。
「矢口、会いたかったよ。」
なっちが矢口に近づく。
矢口は方に掛けてあるマシンガンを構える。
たぶん、裕ちゃんの物だと思う。
それとも誰か他のもの・・・・・。
そんなこと、今はどうでもいい!
「なっち!」
あたしはなっちに駆け寄る。
マシンガンの音が廊下に響き渡る。
私はなっちを押し倒した。
いやに耳に響く音だった。
「なっち、大丈夫・・・・。」
なっちの顔は苦痛に歪んでいた。
- 119 名前:悲しき狂人(5) 投稿日:2001年05月20日(日)23時37分12秒
- 「・・・・足・・・・撃たれたみたい・・・・。」
なっちは苦しげに呻く。
矢口は笑顔だった。
怖いくらいの・・・・・。
もう、話し合いなんて無理なの?
矢口は元に戻らないの?
ダメだ!
このままじゃ確実に殺される!
どうしたらいい?
「なっち、立てる?」
無理なことを言っているのは分かっている。
それでも、ここで死ぬわけにはいかないから!
まだ、あたし達は生きてたいんだ!
「なんとか・・・・。」
なっちは軽く笑って、無理して立とうとする。
あたしは自分の唇を噛み締めた。
そのとき思った、なっちを守りたい!
ガクガクと足を震わしながら、それでもなっちは笑っている。
「あたしの肩に掴まって。」
あたしはなっちに肩を貸す。
ギュッと、小さななっちの肩を抱く。
「矢口・・・・ごめん。」
あたしは手に持っていたディバックを投げた。
本当は食料が入っているから投げたくなかったけど、今はそんなこと言ってられない。
当たったかなんて分からない。
あたし達はそれを確認する前に逃げ出していた。
そんなに早くないけど、必死に逃げた。
死にたくないから。
生きないと、いけないから。
- 120 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月21日(月)02時11分30秒
- 矢口も救ってあげられるといいんだけど・・・
- 121 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年05月23日(水)22時40分18秒
- >120さん 今の時点ではなんとも言えないですね。
話が進めば分かると思います。
- 122 名前:生き抜く為に(1) 投稿日:2001年05月23日(水)22時54分41秒
- 「ハァ・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・・大丈夫・・・なっち?」
「う、うん。なん、とか・・・・・。」
気丈に振る舞っているけど、なっちはかなりきついはずだ。
どれくらい走ったのか分からない。
ここは、窓から見る限り2階のようだ。
あたし達は、あとどれくらい逃げることになるんだろう?
そんなこと見当もつかない。
「なっち、しばらくここの教室で休もう。」
そう言って、あたしは近くの教室のドアを開けた。
走り回るのは、今のなっちには辛い。
少しでも休まないと。
教室には、当たり前のように誰もいなかった。
誰かが潜んでいるって可能性もあったけど、どうやらそれはないらしい。
そんなことより、なっちのケガの手当てをしないと。
「この辺で、どこかで足伸ばしてて。」
あたしはなっちの肩から手を離す。
そして、机を少しだけ後ろに下げた。
なるべく音を立てないように。
今、矢口や吉澤に見つかるのは危険だ。
とにかく、なっちのケガを悪化させるわけにはいかない。
なっちが横になれるスペースを作る為だ。
にしてもヤバいなぁ、ここには治療道具なんてないし。
仮にあったとしても、あたしには治療することができない。
せいぜい血止めぐらいだ。
あたしには・・・・・どうすることもできない。
でも、あたしは絶対になっちを助けたい!
絶対に守りたい!
- 123 名前:生き抜く為に(2) 投稿日:2001年05月23日(水)23時16分38秒
- その為だったら、あたしは何だってする。
「どうしたの?」
なっちがあたしの顔を見上げる。
「いや、なんでもないよ。それよりも、なっちは横になってなよ。その方が楽でしょ?」
あたしは軽く床を払って、なっちを横に寝かす。
「ありがとう。優しいね、紗耶香は。」
なっちは笑う。
でも、その笑顔が痛々しい。
「別に優しくなんかないよ。それで、撃たれたって言ってたけど、弾は貫通してるの?」
もし、貫通していなかったら、たぶん・・・・・なっちを助けることはできない。
「そんな大したケガじゃないよ、少し腿の辺りを掠っただけだから。」
なっちは笑って言った。
なんでこんなときに笑っていられるんだろう?
かなり痛いはずなのに・・・。
なっちの左足は血で赤くなっているから。
それでも、なっちは笑っている。
一体、どうして笑えるの?
「とりあいず、出血止めしないと・・・・。ハンカチはある?」
あたしの言葉になっちは首を横に振る。
「ごめん、ハンカチとかは全部バッグの中になんだ・・・・・。」
くそっ!
どうしたらいいんだよ!
このままじゃなっちが・・・・・。
「そんなに心配しなくていいよ。別にこれは、紗耶香のせいじゃないんだから。」
なっちはあたしの頬に手を添える。
その手は温かくて、優しくて、少しだけ心が安らいだ。
やっぱり・・・・年上だな。
「もしかしたら、そのディバッグに入ってるかも。」
なっちの言葉にハッとなって、あたしは急いでバッグの中を調べた。
中には、救急セットと書かれた緑色のビニール袋があった。
- 124 名前:生き抜く為に(3) 投稿日:2001年05月24日(木)22時54分02秒
- ご親切にどうも、って感じかな。
きっとこうなることを予想して、入っていたんだと思う。
あたしは唇を噛む。
痛いくらいに・・・・・。
たぶん、どっかに隠しカメラが仕掛けられていて、つんくさんはこの状況を見ているんだと思う。
撮らなきゃ、テレビ放映か映画知らないけど人に見せられないし。
あたし達は・・・・・常に見られてるんだ。
一体、どんな思いで見ているんだろう?
仲間同士の殺し合いがそんなに楽しいんだろうか?
どうかしてるよ。
イカれてる。
そんなこと思ったって、あたしにはどうすることもできない。
結局、あたし達は大人に踊らされてるんだ。
いつだってそう・・・・・。
子どもは、大人に踊られている。
知らず知らずのうちに。
でも、そんなのイヤだ!
踊らされるのは、もう絶対にイヤだ!
だからあたしは、ここから逃げ出したいのかもしれない。
踊られていないことを、証明したいから・・・・・。
あたしは救急セットの中から包帯を取り出した。
「包帯あったよ。まぁ、応急処置にしかならないけど。」
それでも、やらないよりはいい。
「それでもいいよ。」
なっちは少し辛そうに見えた。
「で、傷口はどこ?」
あたしの言葉になっちはスカートを捲る。
その動作に、あたしは一瞬ドキッとした。
こんなときに何考えてんだ!
バカだな、あたし・・・・。
あたしは軽くため息をついてから、なっちが指差すところにを包帯で巻いていく。
あんまりうまくは巻けなかった。
でも、こうすれば出血を止められるから。
あたしが包帯を巻き終わると、なっちがボソっと呟いた。
「矢口は・・・・・・どうなっちゃったの?」
- 125 名前:生き抜く為に(4) 投稿日:2001年05月24日(木)23時08分36秒
- なっちはすごく悲しそうな顔をしていた。
きっと、かなりショックだったと思う。
なっちと矢口が仲がいいのはあたしも知っていた。
もしかしたら、一番の友達だったかもしれない。
あたしだって、圭ちゃんや後藤に撃たれたらかなりショックだから。
あの2人は、どうしているんだろう・・・・・・。
生きていると信じたい。
いや、今はそんなこと考えている場合じゃない。
あたしは大きく、深いため息をついた。
そして、矢口が裕ちゃんを撃ったときのことを話した。
できれば話したくなかった。
話すことにとまどいはあった。
なぜなら、話すとあのときのことを思い出すから。
あたしにとって、とても衝撃的な場面だった。
なっちにとっては、あたし以上に衝撃的なことだと思う。
けど、話さないわけにはいかない。
なっちには知る権利がある。
「ウ、ソ・・・・・。」
あたしから話を聞き終えたなっちは、絶句していた。
固まってしまったように、動かなかった。
そして、泣いた。
涙はとめどなく、溢れるように瞳から流れていく。
その涙を止める方法を、あたしは知らない
- 126 名前:生き抜く為に(5) 投稿日:2001年05月25日(金)22時57分37秒
- 「そっか・・・・。だから矢口は壊れちゃったんだ・・・・・・。」
なっちはしばらくして泣き止むと、寂しそうな顔をして言った。
「うん・・・・・。」
あたしはなっちに掛ける言葉が見つからなかった。
いや、慰めの言葉なんて必要ないんだ。
なっちは、ちゃんと現実を受け止めているから。
なんて強いんだろう・・・・・。
辛い現実でも、受け止められる強さ。
なっちは強くなったんだ。
あたしも、強くなりたい!
逃げるんじゃなくて、立ち向かう強さが欲しい!
「そろそろ行こっか。いつまでもここにいてもしょうがないし。」
なっちは立ち上がろうとする。
「えっ?そんな無理なくていいよ!もう少し休んでもいいんだよ?」
あたしはそんななっち止める。
足の傷は応急処置をしただけだ。
動いたらまた傷口が広がってしまう。
それに、なっちだって辛いだろうし。
「でも、いつまでも同じ場所にいるのは危ないよ。私ならもう大丈夫だから。」
なっちの意志は堅い。
こう見えて、なっちって意外にガンコなんだよなぁ。
あたしじゃ止められそうにない。
「分かったよ。でも、辛かったら言ってね、そしたらまた教室で休むから。」
あたしはなっちに手を貸す。
なっちはあたしの手を取り、立ち上がった。
そして、そっと教室のドアを開けた。
廊下は静まり返っていた。
物音1つしない。
だから、ドアをあける音がすごく大きく聞こえた。
あたし達は、歩き出した。
- 127 名前:開かない扉(1) 投稿日:2001年05月25日(金)23時25分13秒
- あたし達がちょうど廊下に出たときだった。
ピンポンパンポン。
というダサイ音が、学校全体に響く。
どうやら校内放送らしい。
「あ、あぁ。テス、テス。只今マイクのテスト中、只今マイクのテスト中。おっし、ちゃんと聞こえとるみたいやな。」
その声は、間違いなくつんくさんだった。
「みんなに嬉しいお知らせや。今から2階、3階を閉鎖する。逃げ遅れた奴は殺されるから気ぃつけてな。
人数も少なくなってきとるし、みんな最後の1人になるまで頑張ってや。以上や、ほな、またな。」
なんとも軽いノリで話しているけど、言っていることはシビアだ。
閉鎖か・・・・・。
たっく、イヤなことするなぁ。
どうせ逃げられる範囲を狭くして、一気に終わらすつもりなんだろうけど。
ってことは、どっちにしてもあの教室にはいられなかったんだ。
それに、もう1つ気になることがある。
人数が少なくなってきたって言ってたけど、あと何人生きているんだろう?
あたしが死んだところを見たのは圭織と裕ちゃんだけ。
ということは、残りは9人。
できれば全員生きてて欲しい。
けど、矢口や吉澤に会ったら間違いなく殺される。
それに、他のメンバーだって狂っていないという保証はない。
あたし達は、何人生き残れるんだろうか?
生存確率は低い。
けど、あたし達は生きなきゃいけないんだ!
こんなところで死にたくないし、死なせたくない。
そう・・・・・まだ、死にたくない!
ちょうど、廊下の角を曲がったところだった。
矢口がいた。
一瞬、体が硬直した。
矢口はあたし達を見つけると、
「紗耶香、なっちだぁ。」
と楽しそうに笑って、マシンガンをこっちに向ける。
あたし達の生存確率は、とことん低いらしい。
「・・・・・・逃げるしかないね。」
あたしは横目でなっちを見て言った。
「そうだね。」
なっちは小さく頷く。
「矢口、あそこに裕ちゃんがいるよ。」
あたしは適当に指差して、矢口の視線を逸らす。
矢口はどこどこと言って捜している。
今のうちだ!
あたしは、なっちの手を取って逃げ出した。
会っては、逃げる。
それの繰り返し。
けど、あたし達にはそれしかできない。
殺し合いをしたくないから・・・・・。
ここは2階だからもうすぐ閉鎖される。
だから、どっちにしても今は逃げなきゃいけない。
それに矢口があたし達を追ってくれば、矢口も助かるし。
あたしは助けたいんだ!
矢口を壊れたままにしたくない!
- 128 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月26日(土)02時09分29秒
- スタート地点以来出てきてない他のメンバーが気になる。
ちゃんとみんな生き残ってるのかな〜?
- 129 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年05月26日(土)22時52分20秒
- >128さん 他のメンバーについては、
徐々に出していこうと思っています。
死んだ描写をしてない人は生きてます。
- 130 名前:開かない扉(2) 投稿日:2001年05月26日(土)23時08分05秒
- マシンガンの音が、少し遠くに聞こえてた。
どうやら今度は、ちゃんと追ってきてるらしい。
窓ガラスの割れる音がした。
静かなだけに、余計にその音は大きく響く。
階段が見えた。
すでに、防火シャッターが降りてきている。
ヤバッ!
もうシャッターが降りてきてるよ。
間に合ってよかったぁ。
なっちは、シャッターの前で止まる。
えっ?
どうしたの?
あたしは振り返る。
「なっちどうしたの?早く行かないとヤバいよ。」
なっちはあたしの言葉に無反応だった。
あたしに背を向けたまま、何も言わない。
危機的状況で、あたしは少し焦っていた。
だから、なっちが何をしたいのか分からなかった。
なっちはあたしの方に振り向かず言った。
「・・・・・紗耶香。ここからは、1人で逃げてくれる?」
何、言ってるの?
あたしは、なっちの言った言葉の意味が分からなかった。
理解ができなかった。
少し遠くに矢口が見えた。
早くしないと殺される!
それに、防火シャッターもジリジリと閉まってきている。
なっちがゆっくり振り返る。
その顔は・・・・・笑顔だった。
なっちはあたしの目の前に立つと、
肩をギュッと掴んだ。
そして、あたしを階段の方に向かって突き飛ばした。
あたしは壁に体をぶつけた。
「くっ!」
と小さく呻く。
- 131 名前:開かない扉(3) 投稿日:2001年05月26日(土)23時19分27秒
- 「私は足ケガしてるから、このままじゃ紗耶香の足手まといになる。それに、矢口を食い止める
いいチャンスだし。これは、私にしかできないことだから。」
なっちは笑顔のまま言った。
なんで、笑っていられるの?
死んじゃかも・・・・・・いや、死ぬんだよ!
なっちはそれでいいの?
あたしはイヤだよ!
そんなのダメだよ!
なっちの顔は、もうシャッターで見れない。
どんな顔をしているか、あたしには分からない。
でもきっと、笑ってると思う。
矢口の声が聞こえた。
何を言っているのかは分からない。
あたしはなっちの方に行こうとした。
しゃがめば、まだなんとかあっちに行ける!
「紗耶香!」
なっちが叫ぶ。
その声に、足が止まった。
なぜか体が動かなかった。
ただ、シャッターが降りていくのを見ていた。
もう、なっちは足首くらいしか見えない。
「・・・・・・私の分まで生きてね。」
なっちの声は小さかったけど、でもハッキリと聞こえた。
シャッターが全て閉まった。
- 132 名前:開かない扉(4) 投稿日:2001年05月27日(日)23時10分03秒
- あたしはただ呆然としていた。
矢口の高笑い。
なっちの叫ぶ声。
マシンガンの音。
誰かの呻き声。
それから、何も音がしなくなった。
あたしはフラフラと倒れそうになりながら、シャッターに近づいた。
「なっち・・・・、矢口・・・・。くそぉぉぉぉ!ここを開けてよ!誰か開けてよ!早く
・・・・・頼むから・・・・、誰でもいいから。ここを開けろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
あたしは吠える。
きっとその声は、シャッターの向こうには届かない。
あたしはシャッターを叩く。
何度も、何度も。
手の皮が擦れて痛い。
それでもあたしは叩き続けた。
誰の声も聞こえない。
聞こえるのは、あたしがシャッターを叩く音だけ。
「何か言ってよ!何かしゃべってよ・・・・・・。」
それでも、答えは返ってこない。
叫びに答えてくれる声はない。
あたしはその場に崩れ落ちる。
まるで、世界で1人ぼっちになったみたいだった。
あたしは、また助けられなかった。
それどころか、あたしの方が助けられた。
何やってんだろう・・・・・・。
メンバーを救いたい、助けたいって意気込んでたのに。
現実は、何もできない。
結局こんなもんなんだ。
あたしは誰も救えない。
助けられない。
何も、できない・・・・・・。
- 133 名前:開かない扉(5) 投稿日:2001年05月27日(日)23時20分07秒
- 元々、あたしに人を救うなんてまねができるわけないんだ。
あたしは、そんな大した人間じゃないんだから・・・・。
だから、人を救うなんて始めから無理だったんだ・・・・・。
そんなことできるはずないんだ・・・・・。
あたしは、今まで何やってたんだろう?
正義のヒーローごっこ?
バカじゃないの!
正義に燃える自分に、陶酔してただけじゃないか!
それであたしは一体何人を見殺しにした?
誰も助けられず、ただ傍観していただけ。
それのどこがヒーローなんだよ!
そんなの、一番最低だよ!
ちゃんと行動していれば、誰も死ぬことはなかったかもしれない。
あたしが殺したも同じだ・・・・・・。
そのとき、階段の下の方から微かに足音がした。
もう、どうでもいいや・・・・・。
死んでもいい・・・・・。
自分が、生きてていいのか分からなくなった。
あたしは、なっち矢口、裕ちゃんや圭織よりも生きている価値があるの?
分からない。
だから・・・・・・・死んでもいいと思った。
足音はどんどんこっちに近づいてくる。
覚悟は、もうできてる。
- 134 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月28日(月)02時28分11秒
- 死んでもいい・・・だなんて、なっちの気持ちを無駄にするな〜!!
それにしても誰が来たのか、続きが気になる。
- 135 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年05月30日(水)22時45分27秒
- >134さん 気持ちをムダにしたというか
市井さんは自暴自棄になっていて、
そこまで考えてないって感じですかね。
誰が来たのかは、続きを読んで下さい。
- 136 名前:震えるナイフ(1) 投稿日:2001年05月30日(水)22時59分02秒
- 「・・・・・・市井さん。」
その声にあたしは顔を上げた。
階段の下から彼女はあたしを見上げて言った。
手にはナイフを持ち、その体はガタガタと震えている。
あたしは虚ろの瞳で、何も言わずに彼女を見ていた。
特に言うこともなかったから、声も掛けなかった。
声を掛けるという気力すら、今のあたしにはなかった。
彼女はあたしを殺すんだろうか?
・・・・・それでもいい。
あたしは別に彼女を恨みはしない。
彼女は生きたいと思っているから、あたしを殺すんだから。
生きたいと思う人が、生きた方がいい。
あたしなんかより・・・・・。
そう、生きる意味を失ったあたしよりも・・・・・・。
彼女は警戒しながらも、あたしに近づいてくる。
あたしは動かなかった。
そして、軽くため息をついた。
本当は死にたかったのかもしれない。
ナイフは、まだ彼女の手の中。
震えて、輝いていた。
彼女はあたしの目の前に立つ。
「石川・・・・・。」
あたしはなんで声を掛けたんだろう?
きっとそれは、彼女が今にも泣き出しそうだったから。
褐色の肌に、涙はよく映えていた。
彼女の泣いている理由なんてどうでもよかった。
ただ、声を掛けないとそのまま死んでしまいそうだったから。
それくらい、彼女は弱って見えた。
ナイフが、ゆっくりと手から落ちる。
乾いた音がした。
- 137 名前:震えるナイフ(2) 投稿日:2001年05月30日(水)23時10分15秒
- 彼女は両手で自分の顔を覆う。
階段の踊り場に響くのは、彼女の嗚咽だけ。
あたしは、何だかそんな彼女が放っておけなかった。
だから、手を伸ばした。
届くか分からないけど・・・・・。
彼女はあたしに抱きついた。
あたしは、優しく抱き止めた。
・・・・・・なっちのように。
だから、ギユッと強く抱きしめた。
守れなかったから。
絶対に守りたい!と思っていたから。
なのに、守れなかったことがすごく悔しくて。
悲しすぎて・・・・。
何だか、あたしまで泣きそうになってきた。
泣きたくないのに・・・・・。
でもきっと、あたしは泣きたいんだと思う。
感情を抑えて、泣くのを我慢してるだけ。
何の為に我慢してるのかは知らない。。
あたしの中にわずかにあるプライドの為?
分からない。
泣きたいなら泣けばいい・・・・・。
だからあたしは、少しだけ泣いた。
あたし達はしばらくの間、抱き合ったまま泣いていた。
- 138 名前:震えるナイフ(3) 投稿日:2001年05月31日(木)22時56分42秒
- 少しして、お互いなんだか気恥ずかしくなって離れた。
そして、あたしは呟くように言った。
「・・・・なんで・・・・泣いてたの?」
聞こえないなら、それでもいいと思った。
こんなこと、本当は聞くべきじゃないから。
それに、石川に答える義務はない。
「・・・ずっと怖かったんです誰かに殺されるんじゃないか、自分が殺してしまうんじゃないかって
・・・・・。もう、自分が分からなくなって、ただ、すごく怖くて・・・・・。」
石川はまた瞳を潤ます。
「そっか。でも、もう怖がることないよ。今はあたしがいるから。」
あたしは石川の頭に手を乗せて言った。
こんなこと言っても、何の気休めにもならないけどね。
だって、あたしは何もできないから・・・・・。
何の役にも立たない。
だからそんなあたしの掛けた言葉なんて、何の意味もない。
「・・・・はい!」
それでも石川は笑顔で頷いた。
笑った方がずっとかわいい。
石川とはあんまり話したことなかったけど、結構いい子じゃん。
あたしは、守ってあげたいと思った。
どうせ、守れないのに・・・・・。
また同じ過ちを繰り返そうとしている。
バカだな・・・・あたし。
- 139 名前:震えるナイフ(4) 投稿日:2001年05月31日(木)23時09分02秒
- 石川はあたしの顔を伺いつつ聞いた。
「市井さんの、泣いてた理由・・・・・聞いてもいいですか?」
その言葉にあたしは戸惑った。
話していいんだろうか?
これを聞いたら、石川はあたしをどう思うんだろう。
軽蔑するんだろうか・・・・・。
でもあたしは、慰めてくれることを望んでいる。
年下に慰められることを望むなんて。
あたしは、弱い人間だ。
「ダメ・・・・ですよね?すいません!変なこと聞いちゃって。」
戸惑っているあたしを見て石川は謝る。
どうやら聞いちゃいけないことを、聞いたと思ったらしい。
まぁ確かに、言い難いけどね。
「・・・・・話そうか。少し長くなるけど、それでもいい?」
話した方がいい。
みんながどうやって狂い、死んでいったかを。
知っておいた方がいい。
石川には、知る権利がある。
例え、石川があたしのことを軽蔑したとしても。
それでも構わない。
逃げてるだけじゃダメだから。
あたしも、現実を受け止めないといけない。
なっちのように・・・・・・。
強くなりたい!
「はい。」
と真剣な顔つきで石川は頷いた。
あたしは、今まであったこと全てを石川に話した。
石川は、驚いたり、悲しそうな顔をしていたけど、最後やっぱりは泣いていた。
少し、いや石川にとってはかなり重い話だったと思う。
それでも、これは知っておくべきことだから。
- 140 名前:NAVE 投稿日:2001年06月01日(金)14時26分13秒
- かなりいい感じです。
自分も書きたくなってきた〜バトロワもの。。
- 141 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年06月01日(金)22時54分51秒
- >NAVEさん ふと書きたくなるんですよね
バトロワものって。
でも、原作読んでから書いた方がよかったかなぁ、
なんて少し後悔してたりします。
- 142 名前:震えるナイフ(5) 投稿日:2001年06月01日(金)23時15分29秒
- 「・・・・・そんな・・・ことが・・・。」
石川はまた泣いていた。
よく泣く子だな、って思った。
すごくいい子だなとも思う。
えっ?
石川は何を思ったのか、いきなりあたしを抱き寄せた。
「ちょ、ちょっと石川?!」
あたしの声が少しだけ上擦った。
あまりに突然のことだったから。
「なんで、そんなに・・・・自分を責めるんですか?・・・市井さんは・・・何も悪く
・・・・ありません。・・・・がんばってると・・・・思います・・・。」
泣きながら、石川はあたしを慰める。
あたしの方が年上なんだけどなぁ・・・・。
石川はすごく暖かくて、優しくて、だから何だか泣けてきた。
あたしは石川の胸で泣いてしまった。
声を張り上げて。
優しくしちゃダメだよ。
あたしみたいな奴に・・・・・。
何もできなくて
無力で
自分に酔ってて
ただの傍観者で
卑怯で
弱くて
こんなあたしに、優しくしちゃダメだよ・・・・・。
石川は、あたしの頭を優しく撫でて言った。
「安倍さんは、救われたと思います。市井さんに会ってよかったって、思ってるはずです。
私も、市井さんに会ってよかったと思ってますから。きっと、救われたんだと思います。」
石川の優しい微笑みに、心が癒された。
今までの暗い気持ちが・・・・・消えていく。
まるでお母さんみたいだな、って思った。
石川はあたしに会って救われたと言ってくれた。
・・・・・・ねぇ、なっちはあたしに会って救われた?
- 143 名前:傍観者(1) 投稿日:2001年06月01日(金)23時29分09秒
- あたしはハッとして辺りを見回した。
そこはまだ、階段の踊り場だった。
どうやら、いつの間にか眠ってしまったらしい。
石川はあたしの肩に寄り掛かって、まだ寝ている。
こんなところで寝るなんてどうかしている。
きっと、疲れていたんだ。
心も、体も・・・・・。
辺りは何も変わっていない。
全てが寝てしまう前と同じ。
特に異常はないようだ。
起きても、何も変わっていない。
夢だったら、よかったのに・・・・・。
あたしは何度もそう思った。
でも、これは紛れもない現実なんだって。
そんなことは、分かってる。
あたしは横で寝ている石川を見た。
気持ちよさそうな寝顔だった。
あたしは、軽く石川の頭を撫でた。
この子はあたしより、大人なのかもしれない。
ずっとしっかりしてるし、ちゃんと前を向いている。
・・・・・石川を守ってあげたい。
無理なことなのは、自分でも分かってる。
きっと、守れない・・・・。
一時の感情で、ただそう思うだけ。
でも、盾くらいにはなれるから。
石川の逃げる時間稼ぎぐらいはできる。
見捨てるなんて、もうしたくない!
そんなのはイヤだ!
誰かに助けられてまで、あたしは生きたくない。
なら、死んで守りたい!
- 144 名前:傍観者(2) 投稿日:2001年06月03日(日)23時17分30秒
- 「・・・・ありがとう、石川。おかげで少し元気が出たよ。」
あたしはそっと石川の耳に小さく囁いた。
石川はくすぐったそうに笑った。
聞こえてた?
まぁ、いいや。
こうして、ずっといられたらなぁ・・・・・。
何もせずに、ただこうして眠っていたい。
でも、きっとあたし達は殺伐とした世界に戻らないといけない。
殺されそうになりながら、逃げるということの繰り返し。
それは永遠に続く地獄のようだ。
それに、もしあたし達以外全員死んだらどうすんだろう?
あたしと石川は殺し合うの?
そうなったら、あたしは石川に殺されよう。
でも、そうしたら石川は深く傷つく。
2度と立ち直れないくらいに・・・・・。
なら、あたしが石川を殺した方がいいかもしれない。
そうすれば、あたし1人が傷つき苦しめばいいから。
な、何考えてんだよ!
そんなこと、絶対にならならない!
殺し合いなんしたくない!
するくらいなら、自殺した方がマシだ。
でも、もしなったらどうする?
あたしは・・・・・・・。
きっと、ここから逃げ出すな。
石川の手を引いて、こんな狂った世界から逃げ出す!
そうして、元の世界に戻るんだ!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その不意に聞こえた甲高い悲鳴が、あたしを現実に引き戻した。
石川が飛び起きる。
- 145 名前:傍観者(3) 投稿日:2001年06月03日(日)23時33分22秒
- 「い、今の声は・・・・。」
石川はビクッと身を縮ませて言った。
「下の方から聞こえてきた、ってことしか分からない。」
また、誰か死んだ?
それとも、これは罠?
どっちとも信じたくない。
これ以上誰かが死ぬという現実も、罠を張って陥れようと考えているということも。
声は下の方から聞こえた。
それだけは確かなこと。
逆を言えば、それしかあたし達に分かることはない。
1階はどうなっているんだろう?
地獄のような光景が広がっているんだろうか?
それを確かめる術はただ1つ。
下に降りるしかない・・・・・。
いずれは降りないといけないんだ。
こんなところに、いつまでもいることはできない。
「・・・行こう、石川。」
あたしは立ち上がって、石川に手を差し伸べる。
「・・・・はい。」
石川は神妙な顔をして、あたしの手をゆっくりと掴んだ。
こうして、あたし達は下に行くことになった。
慎重に、一段一段踏み締めるように階段を降りる。
さっきの悲鳴は何だったんだろう?
あれから声もしないし。
物音1つしない。
やっぱり罠?
例えそうだとしても、あたし達は下に降りないといけない。
あんなところにいたら逃げられないから。
それに、うまく行けば外に出られるかもしれない。
こんなところから早く出たい・・・・。
あたし達は1階へと降り立った。
辺りを見回しても、何もない。
人の気配もしない。
とりあいず、用心しながらあたし達は歩き出した。
いつ、誰が襲ってくるか分からないから。
自分の足音がやけに大きく聞こえた。
心臓の音さえ聞こえるようだった。
そのとき、物陰から何かが出てきた。
石川は咄嗟にあたしの後ろに隠れる。
あたしは刀の柄に手を掛ける。
物陰から出てきたのは・・・・・。
- 146 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月04日(月)02時54分25秒
- めっちゃ気になる〜〜
絶妙なタイミングで切りますね〜。(w
- 147 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年06月06日(水)22時42分32秒
- >名無し読者さん 本当はもう少し先まで
書こうと思ったんですけど、眠いのでちょうど
キリのいいここで終わらせました。
- 148 名前:傍観者(4) 投稿日:2001年06月06日(水)22時53分59秒
- 「あいぼん!」
石川は急いで駆け寄る。
物陰から出てきたのは、正確に言えば這い出てきたのは、血まみれの加護だった。
「石川!」
あたしは石川を止める。
けれど、石川はあたしの呼び声には応じなかった。
混乱してて、声がなんて聞こえないんだと思う。
けど安易に近づくのは危険だ。
もしかしたら加護は敵かもしれないから。
あの血だってカモフラージュかも・・・・・あれ?
あたし、何考えてるんだろう?
なんで加護のこと疑っているんだろう?
仲間なのに・・・・・。
なんで疑ってるんだよ!
なんで信じないんだよ!
自分と、石川さえ助かればいいの?
そんなの間違ってる!
あたしはみんなを救いたいんだ!
始めは、確かにみんなを守りたい!って思ってた。
なのに今は、自分と石川を守るんだ!に変わってる。
そんなじゃダメだ!
あたしはいつから、メンバー信じなくなったんだろう?
大切な友達なのに・・・・。
あたし達は敵じゃない。
色んなことを分かち合ってきた仲間だ!
疑うなんてどうかしてる。
そんなじゃ、殺し合いを止められないよ!
信じなきゃ誰も救えない・・・・。
- 149 名前:傍観者(5) 投稿日:2001年06月06日(水)23時05分37秒
- 少し前のあたしなら、きっとまっ先に加護に駆け寄っていたと思う。
けど今は・・・・疑っている。
殺されるじゃないかって、思っている。
死ぬことに怯えている。
そんなの、最低だよ・・・・。
殺すわけないじゃん!
加護が、あたしを殺すわけないじゃん!
そんな当たり前のことが、分からなくなってきている。
あたしも、狂い始めているのかもしれない。
そんな認めたくない!
信じたくない!
あたしはまともなんだと信じたい!
なんだか、あたしの方が殺しちゃいそうだよ・・・・・。
でも、そんなイヤだ。
あたしは誰も殺したくない1
傷つけたくない!
もし、もう既に狂い始めているんだったらそれでもいい。
けれど完全に狂ってしまう前に、あたしは誰を守りたい!
少しでも、助けたい!
誰かを傷つけるくらいなら、あたしは自ら死を望む。
あたしは・・・・加護に駆け寄った。
石川が涙目であたしを見上げる。
加護は、腹の辺りから大量の血を流していた。
その傷口は、鋭利な刃物で斬られてたようだった。
・・・・・助かりそうになかった。
- 150 名前:傍観者(6) 投稿日:2001年06月06日(水)23時16分39秒
- 「・・・市・・井・・・さ・・ん・・・・。」
加護はあたしの方に手を伸ばす。
その手は左右に揺れ、あたしを捜しているようだった。
もう、虚ろにしか見えないのかもしれない。
「あたしならここにいるよ、加護!」
あたしには何もできない。
加護を助けることは・・・・・できない。
だだ、死にゆく姿を見ているだけ。
なんてあたしは、無力なんだろう・・・・・・。
「・・・おねが・・い・・しま・・す。・・・ののを・・守って・・・あげて
・・・ください・・・・。」
加護は弱々しくあたしの手を握る。
「分かったよ。辻は必ずあたしが守る!」
あたしは加護の手を強く握り返した。
加護は嬉しそうに笑った。
「・・・もう・・・すこ・・し・・・いき・・た・・かっ・・・た・・・です・・・・・。」
顔は笑っているのに、頬に一筋の涙が伝った。
そして、手がブラリと床に落ちた。
「・・・・あいぼん?」
石川が掠れた声を出す。
あたしは拳で思い切り床を叩いた。
加護は、まだ13なんだよ?
まだ先が長かった人生を、こんな終わらせ方させて・・・・・。
ふざけるなよ・・・・。
ふざけんなよ!
何考えてんだよ!
何させてんだよ!
人の命を、なんだと思ってるんだよ!
- 151 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月07日(木)02時33分19秒
- 加護を殺ったのは誰なんだ?
誰が味方で誰が敵かわからない。
怖いですね〜!!
- 152 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月07日(木)19時47分31秒
- 他のバトロワものと違った感じでおもしろいです。
実際にに殺すシーンはなくて、心の動きが中心に書かれてる。
市井がんばれー
- 153 名前:林檎 投稿日:2001年06月07日(木)22時24分51秒
- ブルブルっときましたよ!
あいぼぉん!頑張れ市井ちゃん・・・。
あいぼんいい人だ・・・。(涙)
- 154 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年06月07日(木)23時33分45秒
- >151さん 消去法で考えれば
すぐ分かると思います。
敵味方の構図は、はっきり書こうと思います。
>152さん そうですね。
確かにバトロワぽくないですね。
自分でも、前から思ってたんですけど。
おもしろいと言ってくれてよかったです。
>林檎さん ブルブルってきたんですか?
そんなすごい話でもないんですけどね。
加護さんだからできる死に方なのかなぁ
なんて思いました。
- 155 名前:ハナムケ(1) 投稿日:2001年06月07日(木)23時50分26秒
- 石川は加護を抱きしめながら泣いていた。
あたしは怒っていた。
こんなことをさせた奴に。
加護を殺した誰かに。
何もできなかった自分に。
加護を殺した奴が憎かった。
だからって、あたしはその誰かを殺すんだろうか?
大切な仲間の誰を・・・・・・。
でも、今のあたしならやりそうな気がした。
頭の中でダメだと分かっていても、体が勝手にやりそうだった。
助けるなんて甘い考えなんだろうか?
何考えてんだ!
あたしは、みんなを助けるって決めたんだ!
救うって決めたんだ!
もしかしたら、その行為は無意味なものかもしれない。
間違っているのかもしれない。
じゃぁ、一体何が正しい?
今のあたしには、正しいことなんて分からない。
きっと、みんな分からない。
ここは・・・・・もう狂ってるから。
正しいことなんてないと思う。
普通の常識も何も、ここでは通用しない。
だから、あたしは自分を信じる!
自分が間違っていたとしても、他に信じるものがないから。
あたしのやっていることは正しいんだ!
殺しちゃいけない!
傷つけ合っちゃいけないんだ!
絶対に、あたしはみんなを助ける!
どんなことがあっても・・・・・。
あたしは後ろから石川を抱きしめた。
少しでもいいから、支えてあげたかった。
石川は、まだ精神的に弱いから。
今にも壊れそうだったから。
守ってあげたい・・・・・・。
泣いている石川を、綺麗だと思った。
「殺したんですか?」
突然聞こえた声にあたしは体がビクッと震えた。
少し低く、冷徹で感情ののない声。
あたしはゆっくりと顔を上げた。
「・・・・・・吉澤。」
- 156 名前:ハナムケ(2) 投稿日:2001年06月08日(金)22時56分31秒
- 動くことも、しゃべることもできなかった。
「そんなわけないですよね。」
だからあたしより先に、吉澤に言われてしまった。
「ひとみ、ちゃん・・・・。」
石川はフラフラと立ち上がる。
そして、吉澤の方に行こうとする。
「ダメだ、石川!」
あたしは石川の手を掴む。
石川は知っているはずだ。
吉澤が変わってしまったことを。
ちゃんと、全てを話しから・・・・。
それでも石川は吉澤を求めている。
「でも、もしか・・・・。」
石川の言葉が止まる。
吉澤が、あたし達に銃を向けていたから。
「吉澤は、あたし達を・・・・・殺す。」
こんなこと言いたくなかった。
できれば、吉澤に改心して欲しかった。
変わっていて欲しかった。
でもきっと、現実はそんなに甘くない。
「ひとみちゃん、冗談、でしょ?・・・・・・・ねえ。なんでこんなことするの!」
石川の悲痛な叫びが廊下に木霊する。
「別に、意味なんてないよ。」
あっさりとした吉澤の答え。
何も変わってない。
最初に会った時の吉澤と・・・・・。
助けたいのに!
吉澤の心を何とかして変えたい!
その狂った心が変わるのなら、あたしは死をも厭わない。
そのくらいでしか、あたしは役に立てないから。
「・・・・・・石川は逃げて! ここはあたしが何とかする。」
あたしは石川の前に立つ。
今度こそ、ちゃんと守りたいから。
助けられるじゃなくて、助けたい!
- 157 名前:ハナムケ(3) 投稿日:2001年06月08日(金)23時14分05秒
- 「私だけ逃げるなんてできません!それに、ひとみちゃんが私達を殺すなんて
・・・・・まだ、信じられまん!」
石川はあたしの横に並ぶ。
そうだよね。石川は、実際に殺したところ見てないもんね。
吉澤を信じたい気持ちは分かる。
あたしだって信じたい。
けど、間違いなく吉澤はあたし達を殺す。
きっと・・・・・・何のためらいもなく。
「私は殺すよ。」
吉澤は、そう一言だけ言った。
あたし達は何も言えなかった。
それはあまりにも、重い一言だったから。
内心、少しは期待していた。
けどそんな期待は、あっさりと打ち砕かれた。
あたし達は、殺し合いをしなくちゃいけない。
その漠然とした現実。
それを、どうやって受け止めればいい?
逃げることはできないの?
殺したくないのに!
あたしは人を傷つける為に、この刀は使わない!
傷つけるなら、殺される。
もし殺してしまったら、あたしは一生立ち直れないから。
自分の犯した罪に、押し潰される・・・・・。
「ひとみちゃんは・・・・それでいいの?」
石川の声は少し震えていた。
「別にいいよ・・・・。」
投げやりにも聞こえる吉澤の答え。
「本当に・・・・、ひとみちゃんは本当にそれでいいの?!後悔しないの?」
石川の再度の問いに、吉澤は何も答えなかった。
ただ、少しだけ目線を下に落としただけだった。
石川によって、吉澤の心は変わりつつある。
うまくいけば、助けられるかもしれない!
2人は同期で、仲もよかったし。
それが、今は僅かな望みだった。
でもそれは、打ち砕かれた。
今度は石川の手によって・・・・・。
石川は腰にあるナイフを抜くと、吉澤の方に向けた。
このとき始めて、吉澤の表情が変わった。
- 158 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2001年06月09日(土)01時38分14秒
- 石川がナイフを!?てっきりヒロインだと勝手に思い込んでたのですが・・・死なないでほしいです
それにしてもイイとこできりますな〜
- 159 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年06月09日(土)23時08分18秒
- >ラブ梨〜さん 別に石川さんはヒロインって
わけじゃないです。
基本的に、ヒロインっていうのは考えてません。
死ぬかどうかは、話を読んで下さい。
- 160 名前:ハナムケ(4) 投稿日:2001年06月09日(土)23時25分57秒
- 「梨華ちゃん・・・・・。」
吉澤は呆然と石川を見ている。
「少しでも。前のひとみちゃんでいて欲しいの。このままだったら絶対に変わっちゃうから。
・・・・・けど、そんなの嫌!なら、私がひとみちゃんを殺す。そうしたら、
これ以上変わらないから・・・・・。」
石川は声を詰まらせながら言った。
泣きながら、ナイフを構えている。
石川の気持ちは分かる。
確かにこのままじゃ、吉澤は完全に壊れてしまう。
だから石川は、ナイフを向けたんだ。
狂わしくないから、石川は吉澤を殺すと言ったんだ。
壊れた姿を見るくらいなら、殺した方がいい。
大切な人だから、壊れた姿を見たくないんだ。
けど、そんなの間違ってるよ!
傷つけることなんてない!
もっと、他の方法があるはずだよ!
それにそんなことをすれば、石川の方が壊れる。
そんなこと、石川だって分かってると思う。
自分が壊れることを知っていて、やろうとしているんだ。
吉澤だって、あたし以上にそれは分かっているはず。
分かっているのに、あたし達は傷つけ合う。
お互いの気持ちが分かっているのに・・・・・。
石川はグッとナイフを握りしめて、吉澤ら向かって行った。
「石川ぁぁぁぁぁぁ!」
そんなことしちゃダメだ!
傷つけ合うことなんてない!
よく考えれば、傷つけ合わずに済む方法がある!
あたしは石川の腕を掴もうとした、
けれど、それは紙一重ののところですり抜けた。
吉澤は、きっと撃つだろう。
そして石川は・・・・・・・・死ぬ。
- 161 名前:ハナムケ(4) 投稿日:2001年06月09日(土)23時42分00秒
- 「・・・・くっ・・ぁっ・・・・。」
でも、呻いたのは吉澤の方だった。
「・・・どう・・して?」
石川も吉澤が撃つと思っていたらしい。
元々、そのつもりだったのかもしれない。
自分が死んで、吉澤を変わらせる。
それは、あまりにも無謀な賭けだ。
「私は・・・死なないと・・・・いけないんだ・・・・人を・・・
殺した、から・・・・・。」
吉澤は苦しげに言葉を発した。
石川は何もいわず、吉澤を抱きしめた。
「刺すつもりは・・・・なかったの・・・・・。」
石川の声は、震えていた。
自分でも、動揺しているんだと思う。
「・・・そんな、こと・・・分かって・・たよ・・・・・。」
吉澤は優しく微笑むと、石川を軽く抱きしめた。
それは、間違いなくいつもの吉澤だった。
やっぱり吉澤は、石川のことを理解していた。
だから、自分が刺された。
石川がポツリと呟く。
「・・・ねぇ、私を殺して。もう、生きてることが辛いの・・・・。」
吉澤は悲しい目をして石川を見つめていた。
このとき吉澤は、何を思っていたんだろう?
そして、震える手で銃を持ち上げた。
「・・・梨・・華・・・ちゃ、ん・・・・。」
「ダメだ、吉澤! 」
あたしは2人に向かって走り出した。
殺しちゃダメだ!
そんなの間違ってるよ!
あたしは思いきり手を伸ばす。
けれどその手は・・・・・・届かなかった。
1発の銃声が、静かな廊下に響く。
- 162 名前:ハナムケ(5) 投稿日:2001年06月10日(日)22時54分00秒
- 2人はゆっくりと床に崩れていった。
あたしは2人を見下ろした。
血は、どんどんと床に広がっていく。
2人は美しかった。
おとぎ話のように、どこか幻想的な美しさがあった。
まるで、眠っているようだった。
けれど2人は・・・・・・・もう、起きることはない。
吉澤は自分の犯した罪を悔やんでいた。
だから、殺されようと思っていたんだろう。
吉澤は石川に殺されることを、望んでいたのかもしれない。
もしかして、吉澤があたしを襲ってこなかったのは、殺す気がなかったから?
近づけば、殺してしまいそうだったから遠ざける為に撃つマネをした?
挑発したのは、自分を殺してもらう為・・・・・。
そうかもしれない。
今となっては、もう答えは分からない。
そして、石川は疲れていたんだ。
ここで生きていくことに。
石川は、現実を受け止められなかったんだ。
いや、現実を受け止めたからこそ、逃げたかったのかもしれない。
これ以上、誰かが死ぬのを見るのが辛かったんだろう。
それはすごい耐え難いことだから。
きっと、精神的に限界だったのかもれない。
あたしは石川を支えられなかった。
石川は、あたしより吉澤を求めていた。
吉澤も、あたしより石川を求めていた。
あたしは2人を救えなかった・・・・・。
いつもそうだ。
あたしは死を見取ってやることしかできない。
結局、何もできない・・・・。
- 163 名前:ハナムケ(6) 投稿日:2001年06月10日(日)23時04分55秒
- 吉澤は死ぬことを望んでいた。
石川も死ぬことを望んでいた。
お互いに、死ぬことを望んでいた。
だから・・・・・・・2人は死んだ。
願いが叶えられたから、幸せそうな顔してるんだと思う。
2人の顔には、悔いというのが感じられない。
あたしは改めて2人を見た。
本当に、安らかな顔をしている。
信じられないくらいに・・・・・。
そして、お互い抱きしめ合っている。
確かに2人は幸せだったのかもしれない。
でも、こんなの本当の幸せじゃないよ!
死ぬことなんてなかった!
生きていれば、もっと幸せになれたのに・・・・・。
他に幸せになる方法なんて、いくらでもあったのに!
それでも、2人は死を選んだ。
あたしは泣いた。
声を張り上げて泣いた。
涙が止まらなかった。
この2人が、あまりに可哀相で。
こんな形でしか、幸せになれない2人が・・・・・・。
それに、止められない自分が悔しかった。
あたしは、この2人に何ができたんだろう?
だから泣いた。
せめてこの2人の死を、悲しんであげようと思った。
他に、悲しむ人がいないから。
そんなの悲しすぎる。
これが・・・・・あたしから2人への餞。
一体、あと何回泣けばいいんだろう?
そして、あと何回メンバーが死ぬところを見るんだろう・・・・・。
- 164 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月11日(月)02時33分31秒
- 市井ちゃんが救う事が出来るのはやっぱりあの子なのかな〜?
- 165 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年06月13日(水)22時50分15秒
- >名無し読者さん どうでしょうねぇ〜。
とりあいず、重要な役だというのは確かです。
- 166 名前:戦士の休息(1) 投稿日:2001年06月13日(水)23時01分22秒
- あたしは立ち上がった。
涙を服で拭った。
いつまでも、泣いているわけにはいかない。
加護との約束がある。
必ず、辻を守ること。
死んでいった加護が、最後にあたしに託した願い。
だから、どうしても叶えてあげたい。
ウソはつきたくない。
あたしには、それを叶える義務がある。
何もしてあげられなかったから・・・・・。
それだけでも、叶えてあげたい!
少しでも、誰かの為に何かしたい!
だから少しでも前に進まなきゃ。
あたしには、逃げるところなんてどこにもない。
ただ前に進むしかない。
道が、それしか用意されてないから。
後ろに下がることは・・・・・許されない。
でも、ムリヤリ進まされるのはイヤだから。
だからあたしは、自分の意志で前に進む!
さてと、辻はどこにいるんだろう?
この1階にいることは間違いないと思うんだけど・・・・。
けれど、辺りに人の気配はない。
物音もしない。
この辺りにはいないんだろうか?
ただ自分の足音だけが、静まり返った廊下に響く。
こういうときは、なんだか疑心暗鬼になる。
自分の足音が、人の足音に聞こえる。
まるで、追われているような錯覚に陥る。
- 167 名前:戦士の休息(2) 投稿日:2001年06月13日(水)23時15分44秒
- ふぅ〜。
あたしは大きく息を吐いた。
焦っちゃダメだ。
落ち着かなかきゃ・・・・・。
焦れば焦るほど、冷静な判断ができなくなる。
この世界で、冷静な判断ができなくなったら終わりだ。
不意に、あたしの胸の鼓動が高まる。
本当はすごく怖い!
死ぬ程怖い・・・・・。
自分が死ぬかもしれないから。
自分が誰かを殺してしまいそうだから。
人は1人じゃ生きられない、っていうことを実感する。
人間は弱いから、1人じゃ自分を支えられない。
誰かがそばにいなきゃ、生きていけない。
あたしだって、今までなっちや石川がそばにいてくれたから、平常心を保ってこれた。
1人だったら、とっくに狂っていたと思う。
自分の最大の敵は、自分なのだから・・・・・。
そんなことを考えていたからかもしれない。
あたしは後ろから迫る気配に、全く気がつかなかった。
気がついたときには、もう既に遅かった。
後ろから声がした。
「両手を上にして、ゆっくりこっちに向いてください・・・・。」
あたしは言う通りに両手を上で組んで、ゆっくりと振り向いた。
「辻・・・・。」
そんなに驚きなかった。
あの鼻にかかった声で、見なくても誰だか分かったから。
辻は少し大きめの銃を、小刻みに震える手でこっちに向けていた。
「動かないで、ください・・・・・。」
辻の目は怯えていた。
その声は少しだけ震えていた。
あたしは口元を歪めた。
- 168 名前:戦士の休息(3) 投稿日:2001年06月14日(木)23時00分05秒
- 次の瞬間。
「ぷっ!ふっふふ、あっははは!ははははは!お、おもしろすぎる!」
あたしは腹を抱えて大笑いした。
辻と銃があまりに不釣り合いだったから。
ただでさえ、辻の小さな手に銃なんて似合わないのに、持っている銃が
普通のものより大きくて、それがまた笑いを誘った。
まるで・・・・・子どもギャングみたいだったから。
だから、思わず笑ってしまった。
「な、なんで笑うんですか!」
辻は怒って抗議する。
その姿もまたかわいい。
子どもギャングみたいだったから、って言ったら怒るだろうか?
「あははは、ごめん。・・・・・ぷっ、ふっはははは!」
あたしの笑いは、止まるのに少し時間を要した。
どうやらツボにハマってしまったらしい。
やっと笑いが止まると、辻があたし顔を見上げて言った。
「市井さんが、悪い人じゃなくてよかったです。」
辻はニッコリと笑う。
こんなときでも、笑顔でいられるこの子がすごいと思った。
この子、意外にすごいのかも・・・・・。
いきなりあたしの後ろを取って、動かないで下さいと言う辺りは、
かなり度胸がいることだし大胆だと思う。
まぁ、あんまり深く考えていないのかもしれないけど。
でもこの年なら、自分が死ぬことぐらい分かるはず。
それでもあたしに向かってきた勇気は、やっぱりすごい。
あたしなら、きっとできない・・・・・。
「あの市井さん、あいぼん・・・じゃなくて、加護ちゃん見ませんでした?」
その言葉に、体がビクッと震えた。
辻にとっては普通の質問だ。
けれど、あたしにとっては最も答えにくい質問だった。
- 169 名前:戦士の休息(4) 投稿日:2001年06月14日(木)23時15分15秒
- なんて答える?
本当のことを言う?
でもそうしたら、辻はなんて思うだろう・・・・・。
それとも、ウソをつく?
そうだ、その方がいい!
けどいずれは分かることだ。
加護はもう、辻の元には帰ってこない。
本当のことは知れば、余計に傷つくことになる。
そう、傷つくのは辻なんだ!
あたしじゃない。
けど、本当のこと言う勇気なんてなかった。
あたしは少し間を開けてから言った。
「あ、いや・・・・・見てないけど。」
自分でもウソが下手だと思った。
「・・・・・そうですか。あいぼん、どこに行っちゃたのかなぁ。」
辻は軽く首を傾げて言った。
気がついていないようだ。
本当のことなんて言えるわけない!
こんな、残酷すぎる現実を・・・・・。
「あれ?なんで・・・・・泣いて・・・るんだろう?別に、
悲しくないのに・・・・・・。」
辻は急に泣き出した。
自分でも、なんで泣いてるか分からないみたいだった。
あたしのウソがバレたんだろうか?
それとも、漠然と何かを感じ取ったのかもしれない。
本当のことは、あたしには分からない。
ただ、辻が泣いていたからあたしは抱きしめた。
- 170 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月15日(金)02時45分03秒
- 今度こそ市井はメンバーを救う事が出来るのか!?
ガンバレー市井!!
- 171 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年06月16日(土)23時06分11秒
- >名無し読者さん それは、
読んでからのお楽しみですね。
市井さんは、頑張るんですけどねぇ・・・・。
- 172 名前:戦士の休息(5) 投稿日:2001年06月16日(土)23時20分51秒
- これは現実?
信じられなくなる。
こんな、非現実的なことがあっていいんだろうか?
殺し合って、逃げ回って、たくさん泣いて・・・・・。
空想のような世界に、あたし達はいる。
夢だと誰かに言って欲しい。
目覚めたら、みんなが笑っていてくれたらどんなにいいか。
これがなんで現実なんだよ!
誰かの為に、何の為に、あたし達はこんなことをしてるんだろう?
辻はたいぶ落ち着いたようだった。
目許を服で擦っている。
「市井さん・・・・。」
辻は赤く腫れた目で、私を上目遣いに見る。
「ん?どうした?」
あたしは優しく笑って、辻の頭に手を置いた。
辻は不安げな顔で言った。
「あいぼんは・・・・・・・生きてますよね?」
知ってて聞いているんだろうか?
それとも、知らずに聞いているんだろうか?
どっちだっていい。
あたしの言うことは決まっているから。
「あぁ、きっと生きてるよ。」
あたしはニッコリと笑って言った。
辻はあたしの言葉を聞いて、パァッと顔を輝かせた。
これでいいんだ!
「さてと、行こうか?」
あたしは立ち上がる。
行くところがあるから。
外に出るんだ!
あの青空を、窓越しではなく外で見たい!
だから・・・・・・まだ死ねない。
あたしは辻の小さな手を握り、歩き出した。
手の僅かな温もりが、荒れた心を和ませる。
もう離したくない!
死ぬところは見たくない!
あたしだって、生きるのは辛いんだよ。
死んだ方が楽なのかもしれない。
でも、そんなの間違ってる!
先が長い人生なんだから、まだ死ぬことなんてない。
まだ、生きてやることがある!
あたし達は殺し合をする為に、娘。に入ったんじゃないんだから。
- 173 名前:戦士の休息(6) 投稿日:2001年06月16日(土)23時33分15秒
- あたし達はまず玄関に向かった。
けれど、やっぱりカギがかかっていた。
窓も調べたりしたけど、何かで止められているのか開かなかった。
歩いて少ししてから、辻はチラチラと私を見て言った。
「あ、あの・・・・。」
「どうしたの?辻。」
トイレでも行きたいんだろうか?
それとも、疲れたんだろうか?
「あの・・・・・ノドかわきました。」
辻はテヘッと笑って言った。
その言葉にあたしはズッコケた。
何を言うかと思えば・・・・・・。
緊張感がないというか、脳天気というか。
まぁ、辻らしいな。
「まぁ、そりゃ渇いたけど・・・・・。そうだ、辻はバックは?」
バックの中には水が入っていたはずだ。
でも見たところ、辻はバックを持っていない。
あたしも矢口に投げちっゃたから持ってないし。
なんか、ないと思うと余計に飲みたくなってきたな・・・・・。
ここは自動販売機ってないのかな?
あれば買ってくるんだけど・・・・。
なんか知らないけど、お財布はポケットに入ってるんだよねぇ。
持っていても何の役にも立たないからか。
あっ!そういえばここって水でないんだよね。
ってことは、自動販売機なんて無理だな。
ここって廃校にしてはキレイだけど、まさか自販機があるはずわけない。
けど、意外にあったりして・・・・・。
なんか、つんくさんならやりそうな気がする。
そういう意味ないことに、こだわるところがあるから
- 174 名前:戦士の休息(7) 投稿日:2001年06月16日(土)23時46分46秒
- 「辻、ここに自動販売機ってある?」
無謀なことだけど、あたしは聞いてみた。
「はい。ここの廊下をまっすぐ行って、角を曲がるとありましたよ。」
辻は廊下を指さして言った。
やっぱしあるんだ・・・・・。
わざと設置したのかな?
何がしたいんだか、理解できない。
「しょうがない、買ってくるか、辻はそこの談話コーナーで待っててよ。」
辻は意外そうな顔をした。
「・・・・いいんですか?」
「いいよ。でも、期待しないでよ。」
あたしはそう言って、辻を談話コーナーに残した。
そのとき、あたしは何を考えていたんだろう?
辻を1人にするなんて、どうかしている。
なぜ、危険だと思わなかったんだろう・・・・・。
もう誰も殺されないと、本気で思っていたんだろうか?
それは、甘い考えだった。
あたしは、どうかしていた・・・・・。
確かに、自動販売機はあった。
そしてお金を入れるとちゃんと買えた。
そこからから、あたしはジュースとお茶を買った。
缶を両手に抱えて、あたしは談話コーナーに向かっていた。
喜んだ辻の顔何かを想像していた。
「辻、ジュース買って、きた・・・・・よ。」
談話コーナーに帰ってきて、あたしが目にしたのは・・・・・、
血まみれの辻の姿だった。
- 175 名前:ウソだと言って(1) 投稿日:2001年06月17日(日)23時19分05秒
- あたしは持っていた缶を床に落とした。
鈍い音がした。
あたしはゆっくりと辻に近づく。
どう見ても即死だった。
ほんの少しの間に、自体は大きく変わっていた。
辻は・・・・・死んでいた。
あたしがちょっと目を離した隙に、何者かによって殺された。
油断していた。
ほんの少しだけ、心が緩んでいた。
ここは平気で人が殺されるところ。
そのことを、あたしはすっかり忘れていた。
「辻・・・・。」
それしか言葉が出なかった。
それは見るも無惨な殺され方だった。
首の筋を斬られている。
血が大量に飛び散ったようで、床や壁を赤く染めていた。
辻の子どもぽっさが、その殺し方はより残酷に見えさせた。
惨殺と言うのが相応しい。
あたしには・・・・・ショックが大きすぎた。
急に胃液が込み上げてくる。
あたしはしゃがんで口元を抑えた。
そのとき、後ろで何か物音がした。
「こんなところで吐いたら汚いよ。」
その声に、体が硬直した。
できれば振り向きたくなかった。
顔を見たくなかった。
声を聞いた瞬間に、もう誰だか分かっていたから。
分からないはずがない!
忘れるはずがない!
あたしはゆっくりと振り向いた。
このままではいられないから。
僅かな希望を胸に抱いて。
けど、この世界に希望なんてなかった。
「・・・・・後藤。」
あたしの予想は見事的中した。
- 176 名前:ウソだと言って(2) 投稿日:2001年06月17日(日)23時35分45秒
- 「久しぶりだね、市井ちゃん。」
後藤は血まみれの顔で、薄ら笑いを浮かべながら言った。
その手には、真っ赤に染まったダガーが握られている。
服は既に真っ赤になっていた。
後藤まで狂った・・・・・。
けど、何となく予想はしていた。
加護の殺され方は、銃で撃たれたものではない。
鋭利な刃物で斬られた傷だった。
ということは、殺したのは吉澤ではないということになる。
吉澤は、ナイフなどを隠し持ってはいなかった。
つまり加護は、吉澤に殺されたのではない。
その他の誰かに、殺されたということになる。
その時点で、最低1人は生きているということを知った。
その1人は誰なのか?
それはあたしがまだ死んだとこを見てない、圭ちゃん、後藤、辻の3人と考えられる。
辻が殺すはずがないと分かったときから、覚悟はしていた。
2人のどちらかと、向き合わなければならないことを・・・・・・。
でも、こんな最悪のかたちで会いたくはなかったよ!
あたしはまた守れなかった。
加護との約束を守ることができなかった・・・・・。
絶対に守るって約束したのに!
なのに、あたしは守れなかった。
ごめんね、加護。
本当に何もできないんだね・・・・・。
だからみんな、あたしの元から離れていくのかな?
それを引き止める術はないの?
もう、メンバーが死ぬところなんて見たくなかった!
見るとは思ってなかった。
それに、殺したのが後藤だなんて・・・・・。
なんでだよ!
「なんでだよ後藤!どうして、どうして、辻を・・・・・・・・・・・殺したの?」
あたしは奥歯を噛み締めながら言った。
殺したなんて、信じたくなかった。
- 177 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月18日(月)02時45分09秒
- 辻、無残!!(涙)
そしてついに、ボスキャラの登場かな?
- 178 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月20日(水)02時06分18秒
- 市井!油断しすぎだぞーー!
・・・そういえば残ってるのって旧プッチだね。保田に期待。
- 179 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年06月20日(水)22時47分21秒
- >177さん 辻ちゃんのところは
ちょっとやり過ぎたかなぁ、
とも思ったんですけど、後藤さんの残酷性
を出すにはためにこうなりました。
後藤さんはボスキャラです。
>178さん 市井さんが油断しないと
話が進まないですよね。
それと、旧プッチが残ったことについては、
保田さんは初期段階から、一番最後に出そうと
決めていました。
後藤さんは、後の方で色々考えてこうなりました。
- 180 名前:ウソだと言って(3) 投稿日:2001年06月20日(水)23時05分31秒
- 「理由?う〜ん・・・・・・・なんか、見ててムカツいたからかな。」
後藤は少し考え込んでから、あっけらかんと言った。
まるで、雑誌の質問にでも答えているようだった。
それが理由?
そんなくだらないことで、辻を殺したの?
ムカツいたら、殺していいの?
「・・・・・・そんな理由で、辻を殺したの?」
あたしは後藤を見つめる。
いや、睨んでいると言う方が正しいかもしれない。
「そうだよ。何?もっとすごい理由じゃないといけないの?イジメられてたとか、
脅されてたとかさ。」
日常会話しているように後藤は話す。
そして、自分の言葉にヘラヘラと笑っていた。
なんで、人殺して笑ってんだよ!
ふざけるな!
あたしは自分が抑えられなくなった。
「後藤ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
あたしは後藤の胸倉を掴むと、壁に強く押しつけた。
後藤は少しだけ驚いていたけど、すぐにあたしの顔を見て鼻で笑った。
「市井ちゃん、今すごく後藤を殺したいでしょ?そんなもんなんだよ。人殺しの
理由なんてさ。ちょっと頭に血が上ったり、ムカツいたら誰だって殺しちゃうんだよ。」
後藤はそう言って、あたしの体を軽く突き飛ばした。
あたしは後藤と同じ?
違う!
あたしは後藤と同じじゃない!
でもあたしは少し頭に血が上って、後藤を壁に押しつけた。
ただ、殺さなかっただけの違いだ。
それに・・・・・・・あたしは一瞬後藤を殺そうと思った。
ダメだ!
そんなんじゃダメだ!
絶対に、殺しちゃいけない!
- 181 名前:ウソだと言って(4) 投稿日:2001年06月20日(水)23時20分16秒
- あたしはその場に立ち尽くしていた。
「市井ちゃんも、私と同じなんだよ。」
後藤があたしを嘲笑する。
同じなんかじゃない・・・・・。
「同じじゃないよ、後藤。」
あたしは後藤と同じじゃない!
「えっ?」
あたしの言葉に後藤はずいぶんと驚いた顔をする。
「あたしは・・・・・殺してないから。だから後藤と同じじゃない。それってさ、
すごく大きな違いだと思うよ。確かに誰だって殺したい、って思うことはある
かもしれない。けど、それで殺しちゃう人はごく一部なんだよ。ほとんど人は
ちゃんと自分を抑えることができる。だからあたしは、後藤と同じじゃないよ。」
あたしは後藤になるべく目を合わせて話しかけた。
とにかく今は、懸命に訴えるしかない。
後藤には分かって欲しい。
絶対に助けたいから!
絶対救いたいから!
せめて後藤だけは・・・・・・。
後藤なら、きっと分かってくれる。
殺すことに後悔する心があると、信じたかった。
でも、そんなあたしの思いを後藤は一言で崩した。
「あのさ、なんで人って殺しちゃいけないの?」
後藤は不思議そうな顔をしてあたしに聞いた。
本気で・・・・・・・・そう言ってるの?
その言葉を信じたくなかった。
なんでそんなこと言うの?
後藤、あんた本気で狂っちゃったの?
- 182 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月21日(木)02時56分48秒
- 後藤はもう駄目なのか・・・?
いや!!何とかなるはず・・・。
- 183 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年06月21日(木)22時53分50秒
- >名無し読者さん いや〜、ダメって言えば
そうなんでしょうけど・・・・。
とにかく、読んでもらえば分かります。
- 184 名前:ウソだと言って(5) 投稿日:2001年06月21日(木)23時09分59秒
- 「・・・・・辻はまだ14だったんだよ?きっともっと長く生きることができた。
それを後藤は無理矢理終わらせたんだよ?くだらない理由で!辻は、もう辻希美
としては2度と生きられない・・・・・。たった一度の人生だったんだよ!だから、
簡単に人を殺しちゃいけないんだよ!」
後藤の心を変えたい!
その為なら何だってする。
こんなの後藤じゃないから・・・・・。
そう、こんなの後藤じゃない!
後藤は、こんなんじゃない!
もっとバカで、マヌケで、ボケてて、弱くて、泣き虫で、優しくて、温かくて、
かわいくて、いい奴だった!
ねぇ、気づいてよ!
自分が間違ってることに気がついてよ!
「ま、死んじゃったらしょうがないんじゃないの?運が悪かったってことで。」
ケロっとした顔で後藤は答えた。
・・・・・・後藤は気づかなかった。
あたしの言葉は届かなかった。
後藤の心には、響かなかった。
なんで分からないんだよ!
人を殺しちゃいけないんだよ!
そんな当たり前のことじゃん!
人の人生を奪う権利なんて、誰にもないんだよ!
運が悪いとか、そういう問題じゃないんだよ!
なんで・・・・・なんで後藤には届かないんだよ!
あたしには変えられないの?
もう無理なの?
そんなのイヤだ!
あたしは奥歯を思いきり噛んだ。
理性を失いそうだった。
壊れてしまいそうだった。
あたしの方が、狂いそうだった
だから、自分の中に生まれた怒りと衝動を抑えられそうになかった。
あたしは腰の刀に手をグッと握りしめた。
こんなこと、したくなかった・・・・・。
- 185 名前:ウソだと言って(6) 投稿日:2001年06月21日(木)23時22分53秒
- 「・・・・・・後藤。今すぐあたしの前から消えて。でなきゃ、きっとあたしは
後藤を殺しちゃうから。止められそうにないんだ、自分を・・・・・・・。」
あたしは声を絞り出した。
刀の柄を握った手が、震えた。
もう、自分を抑えることができない。
こんなことしたくない!
そう思うのに、体が言うことを聞かない。
頭が言うことを聞かない。
まるで、自分が自分じゃないみたいだった。
「後藤ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
あたしは腹の底から叫んだ。
これだけは、後藤に届いて欲しい。
でなきやあたしは・・・・・・。
後藤は何も言わず、ただ笑っていた。
逃げてよ、後藤!
早く逃げてよ!
こんなことしたくない!
・・・・・・殺したくないだよ!
あたしは刀を抜いた。
絶対に抜くことはないと思っていた。
人を殺す為じゃなくて、守る為の武器だった。
なのにあたしは・・・・・・人を殺す為に刀を抜いた。
- 186 名前:ウソだと言って(7) 投稿日:2001年06月23日(土)23時08分32秒
- そして、後藤の体を薙いだ。
変な感触だった。
なんとも言えない、妙な感触・・・・。
これが、人の感触?
後藤からは大量の血が吹き出た。
辺りが・・・・・赤く染まっていく。
あたしは返り血を浴びた。
刀は真っ赤に染まった。
服も、手も、顔も、赤く染まった。
世界が、赤く見えた。
後藤がゆっくりと崩れ落ちていく。
その顔は、笑っていた。
あたしはその様子を、呆然と見つめていた。
刀が手から落ちた。
これがあたしの望んだこと?
これでよかったの?
これは正しいの?
分からないよ!
もう、何も分からない・・・・・。
ただ後藤は死んだ。
あたしが殺した
その事実だけは変わらない。
こんなことする気はなかった。
誰も傷つけたくなかった。
傷つける気なんてなかった。
殺す気はなかった!
- 187 名前:ウソだと言って(8) 投稿日:2001年06月23日(土)23時24分00秒
- 「・・・・後・・・藤・・・・。」
あたしは這いずって後藤に近づいた。
狂っているのは後藤じゃない、あたしの方だね・・・・・。
ごめんね、後藤。
きっと許してくれないよね。
分かってるよ・・・・・。
あたしは後藤を抱きしめた。
強く、壊れてしまうくらい。
生きているうちに、こうやって抱きしめたかった。
そうしたら、後藤は変わった?
あたしの思いは届いた?
後藤は死なずに済んだ?
「・・・後・・藤・・・答え・・て・・よ・・・。」
後藤は何も答えない。
唇は閉じられたまま。
一生開くことはない。
顔は笑っていた。
あたしのことを嘲笑っているの?
それとも、自分を嘲笑ってるの?
もう永遠に開くことのない瞳。
もう一度だけ、目を開けてよ!
それであたしをちゃんと見てよ!
あたしは後藤の人生を奪った。
これからだっていうのに・・・・・・。
罪を犯した。
例え狂った世界でも、きっと許されない。
あたしを赤く染めた血は、一生拭えない。
「後藤ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
どんなに大声で叫んだって、後藤はもう起きない。
大切だったのに、なんで傷つけてしまったんだろう・・・・・。
大切だったから?
大切すぎたから?
だから・・・・・殺してしまった?
声が夏れるま叫んでも、もう、後藤は起きない。
誰か、
アタシヲコロシテ・・・・・・。
- 188 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月24日(日)04時16分32秒
- 市井ちゃん…せつない
- 189 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年06月24日(日)23時09分15秒
- >名無し読者さん 殺し合いっていうのは
大概せつないような気もしまし、
いちごま効果もあると思います。
いちよ、そういう雰囲気を狙って書きました。
- 190 名前:見えない未来に向かって(1) 投稿日:2001年06月24日(日)23時34分40秒
- あたしは床にへたり込んで、壁に身を預けていた。
真っ赤に染まった自分の手を、ぼーっと眺めていた。
足音が聞こえた。
それが誰だか、あたしにはもう分かっている。
もしかしたら違うかもしれない。
でも、そんなことはどうでもいい。
誰が来ても構わない。
ただ、あたしを殺してくれれば。
誰でもよかった・・・・・。
死にたかった。
あたしには、生きている意味なんてないから。
生きている価値もないから。
あたしにできることは、死んで償うくらい。
足音はどんどん大きくなっていく。
本当は自殺すればいいんだけど、その勇気がなかった。
意気地がないと、自分でも思う。
だから殺されたかった。
早く、殺し欲しかった。
足音がピタリと止んだ。
「・・・・・紗耶香。」
あたしは、ゆっくりと声のした方に首を向ける。
やっぱり、圭ちゃんか・・・・・。
予想通りだった。
圭ちゃんは大きく目を見開いた。
かなり驚いているようだった。
圭ちゃんは、肩の辺りに包帯を巻いていた。
吉澤に撃たれたものだろうか?
そんなこと、どうでもよかった。
あたしはただ死ぬことしか頭になかった。
驚愕している圭ちゃん。
殺されている後藤。
血まみれのあたし。
きっと圭ちゃんは、すごくあたしが憎いと思う。
殺したいくらいに・・・・・。
圭ちゃんはキッとあたしを睨む。
そして、左手に持って鋳た銃あたしに向けた。
あたしは黙って目を閉じる。
・・・・・殺していいよ、圭ちゃん。
- 191 名前:見えない未来に向かって(2) 投稿日:2001年06月24日(日)23時48分43秒
- でも、いつまで経っても銃の撃つ音はしなかった。
あたしは目を開けた。
目の前に圭ちゃんがいた。
銃は向けてないものの、険しい顔をしてあたしを見ている。
なんで、殺さないの?
圭ちゃんはそっと手を伸ばし、あたしの頬に触れた。
「・・・・・何があったの?」
圭ちゃんは静かにあたしに聞いた。
その声は、いつもより低い。
本気の証拠だ。
「話すと・・・・長くなるから・・・・。」
あたしはそれを拒んだ。
話したい気分じゃないかった。
「それでいいよ。」
圭ちゃんはまっすぐあたしを見つめた。
相変わらず、その瞳には威圧感がある。
どうやら話さないといけないらしい。
もしかしたら、これは審判なのかもしれない。
ふと、そんな気がした。
あたしは軽く溜め息をついてから、話し出した。
「・・・・・・そっか。」
全ての話を聞いた後、圭ちゃんは少しだけ悲しそうな顔をしていた。
でも、泣くということはなかった。
「・・・・泣かないの?」
あたしは掠れた声で聞いた。
「だって、それはみんなが自分で決めた事だから。強制的に殺された人もいた
みたいだけど、ほとんどは自分で決めて、その結果が死だった。結果がどうあれ、
自分で決めたことならしょうがないと思う。それに、きっと後悔してないだろうし。」
圭ちゃんは淡々と言った。
冷たく思えるけど、でもそれはメンバーの事を理解してるからこそ、言える
セリフだと思う。
強いんだな、圭ちゃんも。
いや、みんなあたしなんかよりずっと強い。
弱いのは、あたしだけだ・・・・・・。
- 192 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年06月24日(日)23時51分03秒
- 190で
左手に銃を持って鋳た、というのがありますが
いた、の間違いです。
- 193 名前:見えない未来に向かって(2) 投稿日:2001年06月28日(木)22時24分35秒
- 「さてと、行こうか。」
圭ちゃんはいきなり立ち上がる。
「・・・・・どこへ?」
あたしはぼんやりと圭ちゃんを見つめて言った。
「外。」
それは即答だった。
圭ちゃんは、すぐそこにあるガラスでできている扉を指さす。
外に行ってどうすんの?
きっと、殺されるよ・・・・。
だったら、あたしを殺して生き残ればいいじゃん!
あたしが憎いんでしょ?
なら、殺せばいい。
「・・・・・なんで?」
当然の疑問をあたしは投げかける。
「こんなところに1秒もいたくないから。生き残ってるのは私と紗耶香だけなんでしょ?
それなら、誰かを見捨てるって事もないし。」
圭ちゃんは少し早口で言った。
「・・・・・・あたしを、殺せばいいじゃん。」
もう、生きていたくない。
あたしには生きる価値がない。
だから、死にたい・・・・・。
「最初は、確かに殺そうと思った。紗耶香のことがすごく許せなかった。
でも、ここで死ぬより、生き抜くことの方が紗耶香にとっては辛いことだと
思ったから。だから殺すのをやめた。死んで逃げるなんてズルイじゃん。ちゃんと
自分の犯した罪を背負って生きなよ。」
圭ちゃんはスッと、あたしに手を差し伸べる。
死ぬことは逃げること・・・・・・。
そうかもしれない。
あたしは罪の重さからから逃れる為に、死を望んでいた。
ずっと、逃げようとしていたんだ。
あまりにも、自分の犯した罪が大きすぎて・・・・・。
支えきれずに、潰されていた。
でも、それじゃダメだ。
生きないといけないんだ。
それが、あたしへの罰。
罪を一生背負って生きていくこと。
だから、死んじゃいけないんだ!
- 194 名前:見えない未来に向かって(3) 投稿日:2001年06月28日(木)22時50分44秒
- 「・・・・そうだね。」
あたしは圭ちゃん手を取った。
しっかりと、その手を握った。
圭ちゃんはあたしを引き上げる。
立ち上がねと、2人で顔を見合わせた。
なんだか、笑ってしまった。
「じゃ、出るのはあそこのドアからでいいよね?」
圭ちゃんはさっきの扉をもう一度指さして言った。
ガラス張りの扉の向こうには、広い校庭と青空が見えた。
「けど、きっと開かないと思うよ。」
ドアや窓は、たぶん全て閉っている。
「開かないなら、壊すしかないね。」
圭ちゃんは扉に近づいていく。
あたしもその後ろに続いた。
それはあたし達の2倍くらいの大きさだった。
やっぱりカギがかかっていた。
あたしは、そっとガラス張りの扉に触れた。
外に、出られるんだ・・・・・・。
「紗耶香、少し下がってて。」
圭ちゃんは銃を扉に向けた。
そして、カギの辺りに何発か撃ち込んだ。
なんとも強引なやり方だ。
でも、今はそんなことを言っている場合じゃない。
「弾なくなっちゃった。まぁ、別に誰かを殺すわけでもないし、なくてもいっか。」
圭ちゃんはそう言って、銃を投げ捨てた。
もう、武器はいらない。
必要ないんだ。
あたしは外を見つめる。
扉の向こうは、少し暑そうだった。
随分と長かったけど、やっと外に出れるんだ。
本当に、長かった・・・・・。
まだ1日も経ってないんだよね?
なんだか信じられない。
いろんなことがあり過ぎた。
今日で、娘。は変わってしまった。
たくさんの死があって、その中であたしはまだ生きている。
いや、生かされているのかもしれない。
あたし達は誰かの死の上に、生きている。
それを忘れてはいけない。
あたしは今日の事を、絶対に忘れない!
「心の準備はいい?」
と圭ちゃんに聞かれる。
あたしは深呼吸をして答えた。
「うん。」
- 195 名前:見えない未来に向かって(4) 投稿日:2001年06月28日(木)23時07分12秒
- この罪を背負うと決めた。
罪と共に、生きてゆくと決めた。
だから死ぬわけにはいかない。
これは・・・・・あたしへの罰なんだ。
死んだら、逃げることになる。
絶対に死ねない!
けど、なんだか不安になった。
だから圭ちゃんに聞いてみた。
「ねぇ、あたし達って死なないよね?」
圭ちゃんはあたしの問いに、少し考え込んでから答えた。
「う〜ん、たぶんね。だって、私達は生きたいんだから。生きたいなら、死なないよ。」
そして、あたしの肩に手を置いた。
「うん、そうだね。」
あたし達は、もう一度顔を見合わせた。
お互い何も言わず、ただ見つめ合っていた。
言葉では言わなくても、ちゃんと伝わってくる。
あたしの気持ちも、ちゃんと伝わってると思う。
一息ついてから、あたし達は扉を開けた。
扉は、少しだけ重たかった。
けれども、2人がかりだとすんなりと開いてくれた。
扉が開き終わった瞬間、あたし達は走りだした。
どこへ向かってるわけじゃない。
ただ、走らずにはいられなかった。
それは圭ちゃんも同じらしい。
明日の保証も、未来の確証も、今のあたし達には何もない。
それでも、止まれない。
死んでしまうのかもしれないけど。
でも、止まれないんだ!
死ぬその瞬間まで、精一杯生きていたいから。
いや、生きなきゃいけないんだ!
だからあたし達は、生きる為に走り続ける!
完
- 196 名前:あとがき(みたいなもの) 投稿日:2001年06月28日(木)23時32分30秒
- やっと終わりました。
いかがだったでしょうか?
自分的には、駄文だと思ってます。
展開は早いし、構成もいまいちだし、色々と後悔しています。
裏設定的には、始めはつんくさんを倒しに行くとか、実は全部
市井さんを騙す為にみんなが仕組んだことだったとか考えてました。
ちなみに、市井さんを主人公にしたのは脱退したメンバーの方が
冷静に状況を見けるし、書けると思ったからです。
福田さんや石黒さんはちょっと書けないので、今回は出しませんでした。
中澤よりも、やっぱり市井さんの方が適してると思いました。
保田さんを最後に出しのは、最後をああいう雰囲気で終わらせたかったので、
一番適役かなぁと思ってそうしました。
読んでくれた皆さんありがとうございました。
曖昧な終わり方ですが、これでも楽しんで読んでもらうれば嬉しいです。
次は、長編で学園物でも書こうかなぁって思ってます。
でもその間にギャグの短編で、『保田さんのモテモテ話』でも書くので、
そちらも見てくれると嬉しいです。
読んでくれた皆さん本当にありがとうございました。
- 197 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月29日(金)02時58分45秒
- 作者さんお疲れ様でした。
駄文だなんてそんなこと全然ないですよ〜。
面白かったですよ!!
ただ、市井ちゃんが誰も救えなかったことが残念でしたが・・・(w
次回作の学園物も楽しみにしております。
- 198 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年07月06日(金)22時40分59秒
- >名無し読者さん 読んでくれてありがとうございます。
面白かったと言ってもらえると、救われます。
次の学園物は、自分的かなり気合い入っているので、
楽しんでもらえるよう頑張ります。
ギャグ物の短編を書きます。
内容はただ保田さんがモテモテになるだけです。
バカぽっい話なので、細かいことは気にせず
読んで下さい。
題は 『ケイ・ハザード』です。
- 199 名前:ケイ・ハザード(1) 投稿日:2001年07月06日(金)22時55分13秒
- その日の楽屋はいつもと違っていた。
具体的には分からないんだけど、雰囲気がどこか違う気がした。
『保田さ〜ん。』
楽屋に入るなりいきなりだった。
2つの幼い声が見事にハモって、あたしの名を呼んでいた。
「遊びましょー♪」
と言って、中学生コンビがあたしの手を引っ張る。
「な、何いきなり?」
あたしはいきなりのことに戸惑った。
この2人があたしの絡んでくるなんて珍しい。
何かあったけ、今日って?
別に何もなくたって、遊んでもいいんだけどさ。
「ダメ〜!圭ちゃんは矢口とお話しするんだから!」
不意に声がして、後ろから抱きつかれる。
それは矢口だった。
ってそんなの誰でも分かるか、自分で矢口って言ってんだし。
「えぇぇぇ!なっちも圭ちゃんとお話ししたいよぉ。」
と横からなっちが顔を出す。
そして、これまたあたしに抱きつく。
「ちょ、ちょっと待ってよ!?」
あたしは見事に動揺していた。
こんなに抱きつかれたことは、今まで生きてきた中でなかったから・・・・・。
- 200 名前:ケイ・ハザード(2) 投稿日:2001年07月06日(金)23時14分28秒
- 「そこの4人離れなよ、圭ちゃんが困ってるじゃん。」
あたしは声のした後ろの方に顔を向けると、そこには圭織が立っていた。
圭織の言葉に、みんなは渋々とあたしから離れていく。
さっすが新リーダー、頼りになるね!
「圭ちゃんはこれから、圭織と娘。の目標と方針について話し合うんだよ。」
と言って圭織はあたしを抱きしめた。
・・・・・・頼りにならなかった。
少しでも期待した、あたしの方がバカだったよ。
にしても、娘。目標の方針って・・・・・そんな学校の委員会じゃあるまいし。
「圭織だけズルイよ!圭ちゃんはみんなのものなんだから!」
となっちが抗議する。
いつからあたしは、みんなのものになったの?
「そうだよ!一人占めなんてダメだよ!」
「保田さんは平等にすべきれす!」
「それが、民主主義やないですか!」
辻、加護・・・・・・、あんた達、話の主旨が何か違うよ。
どうしてここで、民主主義が出てくるんだよ!
ってツッコミたかったけど、何か話が余計にややこしくなりそうだからやめた。
5人は既に話の内容がズレている。
もはや、本筋は全く関係ない話になっていた。
まぁ、あの5人ならズレるのも分かるけどね。
とにかく、今のうちに逃げよ・・・・・・。
という素晴らしい決断をして、あたしは楽屋を後にした。
- 201 名前:no name 投稿日:2001年07月07日(土)00時28分50秒
- やたっ!
来た、出た、待ってましたっ!! (ばか?)
よっ!弦崎屋ーーーー!!! (失礼?)
- 202 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月07日(土)00時44分42秒
- 新作ですね〜♪楽しみにさせて頂いてました。
モテモテ圭ちゃんに超期待!です。頑張って下さい♪
- 203 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年07月07日(土)22時51分11秒
- >no name お待たせいたしました。
ちょっと学校が忙しかったもので、
更新が遅れてしまって、すいません。
弦崎屋って、どっかのスーパーみたいですけど、
別にどう呼んでも構いませんよ。
>202 新作というか、次の話は長編なので
その間の時間稼ぎみたいなものです。
期待されるようなものじゃないんですよ、
本当にバカな話ですから。
でも、笑わせられるように頑張って書きます。
- 204 名前:ケイ・ハザード(3) 投稿日:2001年07月07日(土)23時05分01秒
- 「保田さ〜ん。」
廊下を歩いていると、後ろから名前を呼ばれる。
私が振り返ると、スカート姿でこっちに走ってくるヨッスィーの姿があった。
まるでBABY! 恋にNKOCK OUT!のPVを見ているようだった。
っていうか、そのまんま。
「今日・・・・仕事と終わったら・・・どこか、食べに、行きませんか?」
ヨッスィーは私の目の前まで来ると、肩を軽く上下させて言った。
「えっ?・・・・別にいいけど。」
その言葉にあたしは少しだけ戸惑った。
ヨッスィーが、あたしを食事に誘ってくるなんて珍しい。
珍しいというか初めてのことだ。
やっぱり、何かがおかしい。
「それで、ご飯食べ終わったら、保田の家に泊まりに行っていいですか?」
家に泊まる?!
今日のヨッスィーはかなり積極的だ。
まぁ、交流を深めることはいいことだし、家に止めたって特に問題はない。
「それから、その後は1つのベットで・・・・・。」
ヨッスィーはニヤリと妖しい笑みを浮かべる。
・・・・・問題は大アリだった。
なんだよ!その意味ありげな笑みは!
「じゃ、そういうことで。」
ヨッスィーは爽やかな笑顔で、楽屋の方に走って行った。
「ちょ、ちょっとヨッスィー!」
あたしが呼び止めるも既に遅く、そこにヨッスィーの姿はなかった。
とりあいず、ヨッスィーを家に泊めるのはやめよう・・・・・。
あたしは固く胸に誓った。
- 205 名前:ケイ・ハザード(4) 投稿日:2001年07月07日(土)23時21分33秒
- はぁ。
今日は早く家に帰りたい・・・・・。
うわっ!
急に背中に何かが乗っかってきて、あたしは前につんのめりそうになった。
パッと後ろに顔を向けると、そこにはヘラヘラ笑っている後藤がいた。
「あのねぇ、いきなり抱きついたら危ないでしょ!」
「あぁ、ゴメン、ゴメン。」
後藤は謝ったけど、きっと絶対に反省してない。
「ねぇ、今日ご飯食べに行こうよ!」
後藤はあたしの前に回り込み、満面の笑みで言った。
「あ、えっと、その・・・・・。」
なんとなくイヤな予感がして、あたしは言葉を濁した。
あたしのシックスセンスは、警告を発していた。
「それで、ご飯食べ終わったら圭ちゃんの家に泊まって・・・・・。」
こ、このパターンは・・・・・。
「あんなことや、そんなことを・・・・・あはは、楽しいね。」
後藤は楽しそうに言った。
どこが楽しんだよ!
あたしのシックスセンスは正しかった。
あんなことや、そんなことって、一体何するつもり?
考えると、恐ろしい結論に辿り着きそうなのでやめた。
「あ、あのさ後藤、今日はちょっと用事が・・・・・。」
「じゃ、また後でね。」
後藤はあたしの言葉を遮ると、スキップしながら行ってしまった。
人の話は最後まで聞けよ!
・・・・今日は、人生で最悪な日かもしれない。
- 206 名前:no name 投稿日:2001年07月08日(日)13時19分23秒
- 気を悪くさせてしまったようで、すいません。
歌舞伎のご贔屓役者への声援の気分で、つい書いてしまいました。
周囲の人間も、普段からそんな風なアホばっかりなもんでうっかりと。(言い訳ですけど)
失礼しました、おとなしくROMっときます。
- 207 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年07月08日(日)23時22分24秒
- >no name 何か勘違いさせてしまって
ようで、こちらこそすいません!
別に気を悪くしてませんよ、全然!
書き方が悪くて、変に誤解させちゃったみたいですね。
- 208 名前:ケイ・ハザード(5) 投稿日:2001年07月08日(日)23時33分32秒
- はぁ〜。
何であたしがこんな目にあわないといけないの?
別にメンバーに言い寄られるのは嫌ってわけじゃない、不純な動機さえなければね・・・・・。
少し遠くから、こっちに石川が手を振っているのが見えた。
あはは、マジで?
もう勘弁して下さい・・・・・。
石川はやっぱりあたしに向かって走ってきた。
今日は厄日だ。
「保田さん・・・・その、えっと、あの・・・・。」
石川は言い難そうにモジモジしていた。
「ご飯食べて、その後あたしの家に泊まりに来たいんでしょ?」
だから代わりに、あたしが言ってあげた。
「そうです!すご〜い、どうして分かったんですか!?」
どんな奴でも分かるって、今までのパターンを考えたら。
「ま、まぁ、人生経験の違い・・・・かな。」
にしても、やっぱりこういう展開か。
「それで家に泊まって・・・・・・キャッ・これ以上は言えません!」
石川は顔を赤くして俯けた。
何で顔を赤くするんだよ!
それに、言えないことって・・・・・。
考えるのはよそう。
「それじゃ♪」
石川は嬉しいそうに、変なスキップをしながら行ってしまった。
神様、あたしが何かしましたか?
- 209 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年07月08日(日)23時37分01秒
- すいません!
203のレスで、2人にさんづけしてませんでした。
207のno nameさんにも、さんづけしてませんでした。
以後、気をつけます。
- 210 名前:no name 投稿日:2001年07月11日(水)20時19分33秒
- 気を悪くなさらなかったようで・・・ほっ。
さん付けなんて全然、どうせ私はno nameですし、お気遣いなく。
圭ちゃんエラい事になってますね、楽しみ楽しみ
みんな頑張れー♪
- 211 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年07月14日(土)22時38分12秒
- >no nameさん 楽しみにくれて嬉しいです。
この話は短編なので1人1人の絡みが少ないんですけど、
なるべく全員と絡ませて、最後までテンション高くいこうと
思ってます。
- 212 名前:ケイ・ハザード(6) 投稿日:2001年07月14日(土)22時52分25秒
- はぁ・・・・。
ため息がどんどん大きく、深くなっていく。
「おっ、圭坊やん。こんなところでどうしたん?」
不意に肩を叩かれて、あたしはゆっくりと振り返った。
「顔色めっちゃ悪いけど、なんかあったん?」
裕ちゃんは心配そうにあたしの顔を覗き込む。
きっと今、あたしは死にそうな顔してるんだと思う。
「ちょっと、色々あってさ・・・・・。」
あたしは抑揚のない声で答えた。
「相談ならいつでも乗るよ。あっ、そうだ!」
裕ちゃんはポンと手を叩く。
ま、まさか・・・・・。
「今日は家に来な!酒でも飲み明かしちゃえば、嫌なことなんてすぐ忘れちゃうからさ。」
裕ちゃんはそう言って、あたしの頭に手を置いた。
あっ、マトモだ。
よかったぁ〜。
裕ちゃんは、永遠に娘。のリーダーだよ!
もう、一生ついていきます!
「何しても酒に酔えば覚えとらんだろうし、辛いことは全部ウチが忘れさせて
あげるからな。」
裕ちゃんは頭にあった手を、頬に置いて言った。
・・・・・・ついていけません。
裕ちゃん、あの3人とか考えること同じってヤバいと思うよ。
ってことよりも、なんでみんなそういう方向なんだよ!
「じゃ、後で迎えに行くからな。」
裕ちゃんは鼻唄を歌いながら、どこかへ行ってしまった。
心労で入院しそう・・・・・。
- 213 名前:ケイ・ハザード(7) 投稿日:2001年07月14日(土)23時01分44秒
- あたしはハッとしてソファーから起き上がった。
キョロキョロと辺りを見回す。
へっ?
そこは楽屋だった。
そしてあたしはソファーで寝ていた。
あれ?
何がどうなってる?
タしか、裕ちゃんと話してたはずなんだけど・・・・・。
もしかして・・・・・・今のはみんな夢?
そ、そうだよね。
こんなことあるわけないよね。
はぁ〜、それにしても嫌な夢だったなぁ・・・・・。
っていうか、あれじゃ悪夢だって。
でも夢でよかったぁ。
現実じゃなくて、本当によかった・・・・・。
早く忘れちゃおう、あんな夢は。
きっと、この頃仕事が忙しくて疲れてたんだな。
やっぱりちゃんと休養しないとダメだな。
バタンッ!
といきなり大きな音をたてて、楽屋のドアが開いた。
「圭ちゃ〜ん。もう!倒れたっていうから心配したんだよ!」
圭織が走ってきてあたしに抱きつく。
はい?!
- 214 名前:ケイ・ハザード(8) 投稿日:2001年07月14日(土)23時20分53秒
- それから次々とメンバーが入ってくる。
あたしはただ呆然としていた。
「もうっ!無理しちゃダメだよ、圭ちゃん。このなっち特製のお粥を食べて
元気になってね。」
となっちがあたしにお粥を差し出す。
って、それインスタントじゃん。
「それよりも、アロエヨーグルトの方がいいれす!」
辻はなっちと圭織との間に割り込んで、あたしにアロエヨーグルトを差し出す。
辻、何を根拠にアロエヨーグルト?
「アロエヨーグルトより、マンゴーヨーグルトの方がおいしいですよね?」
と辻と同じく割り込んできた加護が言った。
加護、おいしいとかそういう問題じゃ・・・・・。
「はいはい、みんな邪魔だよ。もう大丈夫だからね。矢口がちゃんと看病して、
口移しでご飯食べさせてあげるから・」
あたしの前にいた4人を退かして、矢口があたしに抱きついて言った。
それは看病って言わないと思うよ。
「矢口さんじゃダメですよ!ここは私の愛のこもった手料理で・・・・。」
といきなり石川が横から顔を出す。
「梨華ちゃんじゃ、余計に悪くなるって。」
後藤が石川と矢口を突き飛ばし言った。
それは正しいかもしれない。
「ここは、やっぱり後藤の愛の力で♪」
後藤はあたしに抱きついて言った。
それも無理だと思うよ。
「ごっちんじゃダメだよ。ここは私が一晩ねずの看病をしますから、安心して
下さい。」
吉澤がニッコリと微笑んで言った。
あの、いろんな意味で危ない気がするんですけど。
あはは、誰か夢だと言って・・・・・。
お母さん、もしあたしが泣いて実家に帰ってきても、何も聞かないで下さい。
P,S もしかしたら、お嫁にいけなくなるかもしれません・・・・・、
END?
- 215 名前:あとがきみたいなもの 投稿日:2001年07月14日(土)23時30分38秒
- いかがだったでしょうか?
ギャグは自分でも好きなので、書いてて楽しかったです。
読んでくれた皆さんが、楽しんでもらえたらそれでいいんでけど・・・・・。
少し更新していなかったので、一気に終わらせちゃいました。
次からは長編で学園物を書きます。
ちょっと余談なんでけど、題名の「ケイ・ハザード」というのはバイオハザード
からつけました。
保田さんがメンバーに迫られるのが、なんとなくゾンビに迫られるそのゲーム
となんとなくタブったもので・・・・・。
実はゲームやってないんですけどね。
まぁ、大したことない裏ネタです。
そういことで、読んでくれた皆さんありがとうございました。
- 216 名前:あとがきみたいなもの 投稿日:2001年07月14日(土)23時31分32秒
- いかがだったでしょうか?
ギャグは自分でも好きなので、書いてて楽しかったです。
読んでくれた皆さんが、楽しんでもらえたらそれでいいんでけど・・・・・。
少し更新していなかったので、一気に終わらせちゃいました。
次からは長編で学園物を書きます。
ちょっと余談なんでけど、題名の「ケイ・ハザード」というのはバイオハザード
からつけました。
保田さんがメンバーに迫られるのが、なんとなくゾンビに迫られるそのゲーム
となんとなくタブったもので・・・・・。
実はゲームやってないんですけどね。
まぁ、大したことない裏ネタです。
そういことで、読んでくれた皆さんありがとうございました。
- 217 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年07月14日(土)23時37分23秒
- 手違いでニ重カキコしちゃいました。
自分の使ってるコンピュターと相性悪いのかなぁ・・・・。
- 218 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月15日(日)01時36分35秒
- 楽しく読ませてもらいました。
なんかこう・・・誰かに振り回されたり、困らされたりっていうのが
圭ちゃんって何気に似合いますよね。
オロオロ圭ちゃんが可愛かったです。
また機会があればこういう作品も読んでみたいです。
- 219 名前:パク@紹介人 投稿日:2001年07月19日(木)21時11分45秒
- こちらの小説を「小説紹介スレ@黄板」↓に紹介します。
http://www.ah.wakwak.com/cgi/hilight.cgi?dir=yellow&thp=995445727&ls=25
- 220 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年07月21日(土)22時43分34秒
- >名無し読者さん 読んでくれてありがとうございます。
自分もこういう感じ話が好きなので、機会があったら
書いてみたいなぁって思ってます。
振り回されてる保田さんって、結構好きなので。
- 221 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年07月21日(土)22時48分20秒
- 新しい話を書きます。
題は『Love is blind』です。
学園物で、結構長編になると思います。
ギャグあり、シリアスありな感じで、自分でもまだ
どうなっていくか分からない状態なんですけど、
お付き合いしてくれると嬉しいです。
- 222 名前:初めて出会った日(1) 投稿日:2001年07月21日(土)23時11分26秒
- 空を見上げると、眩しいくらいに太陽が輝いている。
夏はもうすぐ終わりだっていうのに、辺りは蒸して暑い。
たっく、暑すぎだよ・・・・・。
私は額の汗をハンカチで拭った。
黒いスーツーをきているせいで、余計に暑く感じる。
ヘトヘトになってきたところで、ようやく目の前に学校が見えてきた。
ここが、本日から私の職場になる女子校だ。
最近建てられたようなキレイな外観。
白を基調としているところが、上品さや高貴さを感じる。
普通高校では考えられない、オシャレな造り。
さすが私立ってところかな。
にしても、丘の上だなんて聞いてないんだけど・・・・。
学校直通のバスには乗り遅れるし。
私は疲労から大きな溜め息を吐き、学校の門をくぐった。
校内も外観同様にキレイだった。
ちゃんと隅々まで掃除が行き届いている。
中も白を基調としていて、お金がかかってる造りをしていた。
都立では少し考えられない。
まぁ、全部が全部そうじゃないけどね。
それからかなり広い校舎を迷いまくった挙げ句に、やっと理事長室に辿り着いた。
理事長に挨拶を済まして、続いて職員の先生方にも挨拶をした。
理事長は女の人で、少し恰幅が良く優しいそうな人だった。
それに比べて理事長補佐、つまり教頭先生は古典的な頭の固そうな中年オヤジだった。
学校なんて、どこもこんなもんなんだろうか?
大したことじゃないから、別にいいんだけどさ。
- 223 名前:初めて出会った日(2) 投稿日:2001年07月21日(土)23時27分50秒
- それから朝礼で全校生徒の前に曝されることになった。
私は手短で簡潔に挨拶をした。
あんまり長いの生徒達も嫌だろうし、私もしたくないから。
なんだか、挨拶遅れしたって感じだった。
それが終わると、時間が空いているという金髪で目には青のカラコン、手には
豹柄のネイルアートをした、どう見ても先生に見えない数学教師が、校内を少し
だけ案内してくれた。
この学校案内するには、かなり大変らしい。
だから、後は自力で覚えろとのことだった。
ずいぶんアバウトだと思った。
それとも、この先生がアバウトなだけなんだろうか?
そんな気もする。
この中澤・・・・先生だったけ?
関西出身らしく、標準語も使うけど半分以上が関西弁だった。
それから分かったことは、この先生は大変ノリがよくて、手が早いってことが
分かった。
手が早い、っていうのは悪いか・・・・・。
でも、見かける女子生徒に全てに声をかけている。
それだけ顔が広いのか、それとも見境なく声をかけているのか、そのどちらかだ。
私はなんとなく、後者な気がした。
- 224 名前:初めて出会った日(3) 投稿日:2001年07月21日(土)23時44分22秒
- とりあいず自分の私室となる化学準備室、それと並びにある化学室。食事をする
ための食堂、タバコを吸う先生のための休憩室、それから通り道にあった中庭と
トイレを何個か教えてもらった。
そして、もう一度職員室に戻ると、中澤先生は用事があるらしく行ってしまった。
私だってボーっとしている場合じゃない。
早く化学準備室に行って、書類や荷物の整理をしないといけないのだ。
ということで、私は化学室に向かった。
が、見事に迷った。
一回教えてもらっただけで理解できる程、私は方向感覚に優れていないらしい。
同じような造りをしている校舎は、まるで迷路のようだった。
出口には、自力で行けそうにない。
はぁ・・・・・。
これは誰かに聞かないと分からないな。
私は辺りを見回した。
けれど、今日は短縮授業のためにほとんどの生徒は帰ってしまったはずだ。
やっぱり、人の姿はなかった。
私はしょうがなく、誰か来るまで待つことにした。
窓を開け、ポケットからタバコを取り出し一服することにした。
これ以上歩き回っても、余計に迷うと思ったから。
遭難したときの基本は、誰かが助けに来てくれるまでその場を動かないことだ。
私はタバコの白い煙りを吐き出しながら、遠くの空を眺めていた。
今日はまさに晴天で、太陽が眩しかった。
ふと、足音が聞こえ気がした。
- 225 名前:初めて出会った日(4) 投稿日:2001年07月22日(日)00時06分42秒
- 私は廊下の方に体を戻した。
すると、階段の踊り場から3人の女子生徒が現れた。
なんだか・・・・不思議な感じがした。
よく分からないけど、3人には異様なオーラがあるような、
そんなものが感じられた。
1人は茶髪で、肩ぐらいまで髪を伸ばしていた。見た目も少しだらけている感じで
不良っていうのが、一番適した言葉だと思う。
まぁ、見た目だけで判断するのはどうかと思うけど。
ただ高校生には思えないほど、顔立ちや格好がすごく色ぽっかった。
もう1人はやや髪を茶色くしているショートカットの女の子だった。
長身で、モデルかと思わせるほどに様になっている。
顔立ちも、凛としいて端正な顔立ちをしていた。
少し少年ぽっくて、クールそうな感じだった。
その2人に護衛されるようにして、真ん中に細身の女生徒がいた。
黒い髪はボブぐらいで、優等生のような感じたった。
顔はどちらかといえば美人系、優しそうな印象を受ける。
それが・・・・・・あの子との初めての出会いだった。
- 226 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月23日(月)18時31分11秒
- 学園モノ好きなのでカナリ楽しみです!頑張って下さい!!
- 227 名前:no 投稿日:2001年07月24日(火)22時49分30秒
- おー、学園モノ、嬉しい嬉しい
短編ですら面倒なワタシは、しっかり書き込むあるいさんが長編コメディを
書いて下さると、とってもウレシーです♪
- 228 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年07月31日(火)22時49分40秒
- >名無し読者さん 学園物はまだどうなっていくか自分でも
分からないので少し不安なんです。
でも、期待に答えられるように頑張ります。
>noさん 考えてたら長編になってしまいました。
話をまとめるられなかったので・・・・。
今まで中編ぐらいのものが多かったので、初めての長編ということで
ちょっと気合い入れてこうかなと思ってます。
- 229 名前:不思議な女の子(1) 投稿日:2001年07月31日(火)23時26分57秒
- 「ん?やっと人が来たか・・・・。」
私は壁に寄り掛かっていた体をピシッと立たせた。
そして、タバコを携帯灰皿捨てた。
少し唖然としている女生徒達に近づいて、
「あのさ、いきなりで悪いんだけど化学室まで案内してくれる?」
私の急な申し出に3人は戸惑っていた。
けれど少しして、その中の優等生みたいな女生徒が笑顔で言った。
「はい、構いませんよ。」
対応慣れしてるって感じだった・
そのマニュアル的な笑顔は、私に少しだけ不快感を与えた。
またその女生徒は、奇妙と言ったら悪いけど耳に残る変わった声だった。
「あの・・・・それ、他の人に頼んでくれませんか?私達今忙しいんで。」
不良少女が、女の子を庇うように前に立って言った。
「真希ちゃん!・・・・・・あ、あの、大丈夫ですから、ちゃんとご案内します。」
優等生のような女生徒は不良少女を軽く睨むと、私にまた笑顔を向けて言った。
なんか、悪いことしちゃったかな?
3人ともプリント持ってるみたいだし、きっと何か用事の途中だったんだろう。
だから、不良少女の言うことの方が正しい。
けれどこの3人を逃したら、また人が来るまで待たなければならない。
できればそれは勘弁して欲しかった。
「梨華ちゃんは人が良すぎるんだよ。何でもホイホイと引き受けちゃってさ、
それで辛い思いしてるのに、何も言わないで1人で我慢してる。・・・・・・
そんなのバカだよ。」
「私はこれでいいと思ってる。別に、我慢なんかしてない!ねぇ、私のしてること
ってそんなにバカらしいことなの?」
「そうじゃないよ、ただ・・・・。」
「真希ちゃんは、本当は私をバカにしてるんでしょ!」
2人はお互い向き合って言い合いをしている。
その雰囲気は、どんどん険悪になっていく。
これって私のせい?
「梨華ちゃんは・・・・・。」
「はい、ごっちん。」
不良少女が叫び声をあげる寸前、ショートカットの女生徒が言葉を遮って持っていた
プリントを不良少女に渡した。
いや、乗っけたと言う方が正しい。
「ちょ、ちよっとヨッスィー!?」
不良少女はいきなりプリントを渡されて困っていた。
「あたしが先生に化学室まで案内するよ。だから2人きりで職員室に行って
きてよ、そうすれば何も問題ないでしょ?」
爽やかな笑顔でショートカットの女生徒が言った。
その笑顔で、暗い雰囲気が一気に変わった気がした。
何、この子・・・・・。
- 230 名前:不思議な女の子(2) 投稿日:2001年07月31日(火)23時46分06秒
- 「じゃぁ、5時に下で待ち合わせね。さっ行きましょうか、先生。」
と言って女生徒は先に歩き出ししまう。
私は何がなんだか分からないまま、女生徒の後を追った。
私達は階段を上がり、どうやら4階を目指していた。
「化学室って、ちよっと分かりずらいところにあるんですよ。」
女生徒は微笑しながら言った。
さっきのことは、大して気にしていないらしい。
よくあることなんだろうか?
まぁ、他人の私がそんなこと気にしても仕方ないんだけど。
そんな私の考えを見越したように、女生徒が首を少しだけこっちに向ける。
「あの2人、いつもはあんなんじゃないんですよ。なんか今日はいまいち
噛み合わないみたいで・・・・・。」
と女生徒は苦笑して言った。
「でも、元の原因はきっと私だろうから。なんだか、あの2人に悪いことしたね。」
私が話しかけなければ、きっとあの2人はケンカせずに済んだ。
けれど、私も人を選んでる場合じゃなかったし・・・・・。
「いいんですよ、気にしないで下さい。あの2人なら、私が下に行く頃には
ラプラブになってますから。」
女生徒はまたも苦笑して言った。
きっと、いつも当てつけられているんだろう。
ん?
私の脳裏に、ふと過去の光景が過った。
あれは・・・・・もう過去のことだ。
まぁ、あれは過去と言う言葉で割り切れるものじゃないけどね。
だから少しだけ、自嘲した。
ボーっとしていた私の顔を、女生徒が振り向いて覗き込む。
「どうかしたんですか、先生?うわっ、あっ!」
よそ見をしていたからなのか、それとも私に気を取られていたのか、女生徒は
階段につまずいてバランスを崩した。
「危ないっ!」
私は僅かに女生徒の後ろにいたために、なんとか腕を取って抱き寄せることができた。
- 231 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月03日(金)18時49分20秒
- 保田先生・・・ですよね?続きが楽しみです!頑張ってくらさい!
- 232 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年08月03日(金)21時13分31秒
- >名無し読者さん それは今は秘密です。
もう少したら分かると思います。
- 233 名前:不思議な女の子(3) 投稿日:2001年08月03日(金)21時44分06秒
- 「ふぅ・・・・・大丈夫?」
私は安堵の溜め息をついて言った。
新任早々、事故に立ち会うのはごめんだ。
「あ、はい・・・・。」
女生徒は少し蒼白な顔で言った。
まぁ、無理もないか。
もう少しで大怪我、運が悪ければ死んでいたかもしれない。
にしても、この子って意外に華奢なんだな。
と抱き寄せていて思った。
見た目では、もっとガッシリしているかと思ったんだけど・・・・。
って、何考えてんだ私は!
そんなの、どうでもいいことじゃん。
「あっ、す、すいませんでした!」
女生徒はハッとして私から離れる。
そして、深く頭を下げた。
いかにも体育会系って感じだな。
そして、不思議な子だなと思った。
クールかと思えば、なんか抜けてるみたいだし。
ちっ、またこの子こと考えてる。
「別にいいよ。それより、怪我とかない?」
なんだかイラついて、私はそっけなく言葉を返した
ま、元々柔らかい言い方なんてできないし。
「あっ、はい!」
女生徒は笑顔で答えた。
私の言い方なんて気にしていないようだ。
どうやら大ざっぱな性格らしい。
そういう方がいいかもね、この世の中を生きていくには。
それから私達は、再び階段を上り始めた。
- 234 名前:不思議な女の子(4) 投稿日:2001年08月03日(金)22時07分15秒
- 少しすると目的の4階まで辿り着いた。
ここからずっとまっすぐ歩いて、渡り廊下を渡って別校舎に行くらしい。
女生徒が言うには、その別校舎とは旧校舎に少し手を加えたものだそうだ。
私達は、ただひたすらまっすぐ歩いた。
そして長い廊下が終わり角を曲ると、薄暗くなっているその先に化学室が見えた。
あぁ、そういえばさっきここに来た気がする。
すっかり忘れてた。
私達は化学室準備室の前まで来た。
「ありがとう、助かったよ。」
私は彼女の方に振り向いてお礼を言った。
「いやぁ〜、全然大したことしてないですよ。」
と女生徒は照れくさそうに笑っていた。
「それじゃ、ここで。」
と私が準備室のドアに手をかけたそのとき、女生徒が言い難そうに切り出した。
「・・・・・あ、あの!も、もしよかったら・・・・・何か手伝いましょうか?」
その顔は強張っている。
私はその唐突すぎる申し出に驚いた。
まさか、こんなこと言ってくるとは思わなかった。
別に悪いことじゃないんだけど・・・・・・。
- 235 名前:不思議な女の子(5) 投稿日:2001年08月03日(金)22時15分53秒
- 私が考え込んでいたのが、どうやら迷惑だったと勘違いしたらしく女生徒は
少し混乱した様子で言った。
「あ、えっと、その、あぁ、すいませんでした!いきなりで迷惑ですよね?
変なこと言って本当にすいません!」
・・・・・・いっか、手伝ってもらっても。
なぜだか分からないけど、手伝ってもらってもいいような気がした。
いつもの私では考えられないことだ。
いつも・・・・・人と接触することを拒んでいるから。
まぁ、こういうのは人手が多い方が助かるし。
ふと疑問が浮かんだ、どうして「手伝いたい」なんて言い出したんだろう?
別に親しくなったわけでもないし、私なんかといて楽しいはずもない。
じゃぁ、なぜ?
そんなこと考えたって分かるはずがない。
だから私は考えるのをやめた。
「じゃ、手伝ってくれる?」
私は髪を軽く掻き揚げて言った。
「えっ?あ、あの、それって・・・・・。」
女生徒はまだ混乱しているようだ、私の言葉が理解できないらしい。
だから私はもう一度言った。
「手伝ってもらえる、部屋の掃除。」
「・・・・・はい!喜んで!」
女生徒は満面の笑みで頷いた。
私は分からないくらいの溜め息を吐き、準備室のドアを開けた。
- 236 名前:心揺れる一時(1) 投稿日:2001年08月05日(日)23時42分37秒
- 準備室の中には、中くらいの段ボールが3個あるだけだった。
「えっ、荷物ってこれだけですか?」
女生徒は少し間の抜けた顔をしていた。
もっと大荷物で、ゴチャゴチャしているのを想像していたんだろう。
私の荷物はほとんど本で、身の回りのもがわずかにあるだけだ。
だから、あまり大荷物にならなかった。
「手伝うのはいいんだけどさ、さっきの2人はいいの?なんか帰る待ち合わせ
してたみたいだけど。」
私はさっき女生徒が言っていたことを思い出した。
「あぁ、それなら5時に下ってことですから、まだ3、40分ありますし、
それまでに間に合えば大丈夫です。」
女生徒は壁掛け時計を見て言った。
「分かった。そういうことなら、早く終わらせちゃおう。」
こうして私達は、部屋の掃除に取りかかった。
部屋は前の人が掃除したらしく、大して手間はかからなかった。
- 237 名前:心揺れる一時(2) 投稿日:2001年08月05日(日)23時47分30秒
- 「あのさ、パソコンの接続って分かる?」
私は段ボールの箱を開けて言った。
女生徒がパソコンを分かれば、私は本の整理とかをしようと思っていたのだ。
「いや、そういうのはちょっと・・・・。」
女生徒は苦い顔をしていた。
「分かった。じゃぁ、本の整理お願いね。」
それから私達はまた作業再開した。
女生徒が頑張ってくれたおかげで、予想より少しだけ早く終わることが出来た。
「ふぅ・・・・・ありがとう。すごく助かったよ。」
私は片付いた部屋を見回して言った。
「・・・・・大したことしてませんよ。元々、荷物って言ってもあまりになかった
ですから。」
女生徒は軽く溜め息をついて言った。
少し無理させたかもしれない。
それを悪いと思ったからなのか、私は滅多に言わないことを口走っていた。
「よかったら、コーヒー飲んでいかない?」
言って自分でも驚いた。
・・・・・人を引き止めるという行為をしていることに。
私は人と関わることが好きではない、だから人を引き止めるなんてことはかなり
稀なことだった。
- 238 名前:心揺れる一時(3) 投稿日:2001年08月05日(日)23時51分23秒
- 「えっ?いいんですか!」
女生徒は意外そうな顔をしていた。
こんなこと、言われるとは思っていなかったんだろう。
「時間があるならね。」
私はふと時計を見た。
5時まで、後10分くらいあった。
ギリギリってところだろうか。
「全然大丈夫ですよ!全く問題ありません!」
と女生徒はキッパリと言い切った。
その根拠はどこにあるんだか。
その言葉に呆れつつ、私は部屋に備え付けられている小さな台所に向かった。
「分かった。じゃぁ、すぐに入れるから適当に座って待ってて。」
そして、自前のポットに水を入れる。
ポットのお湯が湧く間に、2人分の少し埃ぽっいカップを洗って、目の前に
置いてあったインスタントのコーヒーの粉を入れた。
「本当はちゃんと作るんだけど、今日は時間がないからインスタントで我慢して。」
私は女生徒に背を向けたまま話しかけた。
「別に何でも構わないですよ。あんまりコーヒーのことに詳しくないですから。」
女性の声はなんだか弾んでいるように聞こえた。
ポットから、お湯の沸いた合図の電子音が鳴り響く。
- 239 名前:心揺れる一時(4) 投稿日:2001年08月09日(木)22時59分43秒
- 私はポットに近づいた。
それは旧式だから、上のヘコミを押さないとお湯が出ない。
私は力を込めてヘコミを押した。
すると、予想外にお湯が勢いよくて出て私の手の甲にかかった。
「熱っ!」
私はバッと手を放し、甲に息を吹きかけた。
それを見ていた女生徒が吹き出した。
「ぷっ!くっふふふふ、くっくくくくく・・・・・。」
手で口元押さえて、笑いを堪えているようだ。
笑ってしまっては悪いと思ったんだろう。
でも、私からすれば堪えている方がタチが悪い。
私は照れ隠しのコーヒーを飲んだ。
・・・・・・熱湯を注いだということを忘れて。
「熱じぃ!」
私は舌を外に出して言った。
「ふっふふ、、あっははははははは!!」
ついに女生徒が腹を抱えて笑い出した。
私はクルリと後ろを向いた。
これ以上、自分の醜態を曝さらけ出したくないからだ。
耳たぶら辺が少し熱かった。
- 240 名前:心揺れる一時(5) 投稿日:2001年08月09日(木)23時00分45秒
- 「・・・・せ、先生、おもしろすぎますよ!」
女生徒の声はちょっと裏返っていた。
私はムッときたけど、振り向いて女生徒にコーヒーを渡した。
そして、また背を向けた。
「あ、えっと・・・・・怒ってますか?」
女生徒はさっきと一転して、弱々しく私に問いかけた。
「別に・・・・。」
私は首だけそっちを向けて、ぶっきらぼうに答えた。
その顔は沈んでいた、凹んでいるとも言うかもしれない。
全く、世話がかかる・・・・・・。
私は軽く頭を掻いてから、ちゃんと振り返って言った。
「怒ってないよ。」
そりゃ、確かに少しムカツイたけどさ。
「本当ですか?」
女生徒はまだ不安そうな顔をして聞いてくる。
「本当だよ。」
私は、そう一言だけ言った。
それだけじゃ、きっと言葉が足りないと思う。
きっと・・・・・伝わらない。
でも、うまい言葉が思いつかなかった。
「よかったぁ〜」
けれど女生徒は、ホッとした顔で笑っていた。
なぜだろうか?
どうしたこの子には、伝わってしまうんだろう・・・・・・。
それから私達は一言もしゃべらなかった。
- 241 名前:心揺れる一時(6) 投稿日:2001年08月09日(木)23時19分36秒
- 夕暮れの少し強い斜光が、窓から入ってくる。
そよ風が優しくカーテンを揺らす。
部屋には時計の音だけが聞こえていた。
相手が話さないから、私も何も言わない。
ただ、嫌な気はしなかった。
私はそれとなく女生徒を見たけど、別にそういう気にしていないようで、
普通にコーヒーを飲んでいる。
私は窓枠に肘を置いて、学校特有のノスタルジックにも似た雰囲気を楽しんでいた。
また女生徒の方をチラッと見ると、今度は目が合ってしまった。
すると、女生徒は柔らかい笑顔を私に向けた。
私は何だか気恥ずかしくなって、顔を横に逸らした。
それとほぼ同時ぐらいに、少し音の外れたチャイムが鳴った。
それは5時を告げるチャイムだった。
二人の時間は・・・・・・これで終わる。
ふっ、シンデレラじゃあるまいし。
私は、そんなことを考えた自分を少しだけ自嘲した。
- 242 名前:心揺れる一時(7) 投稿日:2001年08月13日(月)23時17分23秒
- 女生徒は机にコーヒーを置いて椅子から立ち上がる。
その様子を見て、私は壁に寄り掛かっていた体を直した。
「ありがと、助かったよ。」
私の言葉に女生徒は照れ臭そうに笑っていた。
「いや、全然大したことしてませんよ・・・・・。」
けれど突然、顔を俯けて言い難そうに言った。
「・・・・・あ、あの。また・・・・・コーヒー飲みに来てもいいですか?」
そして、少し上目遣いな感じで私を見る。
私はなぜ女生徒が、そんな言い難そうなのか分からなかった。
コーヒーを飲みに来るなんて、別に忙しいときじゃなきゃいつだって構わない。
まぁ、頻繁に来られると少し困るけど。
とにかく大してことじゃない。
「別に、私が暇だったらいつでもいいけど?」
だから私はそう答えた。
「えっ?・・・・・あ、はい!」
女生徒は私の言葉に、本当に嬉しいそうな顔をして頷いた。
「それじゃ先生、あたしそろそろ行きます。コーヒー、ありがとうございました。
すごくおいしかったです。」
女生徒はドアのところまで小走りに行くと、私に軽く頭を下げた。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。」
私はドアまで歩いて行き、ドアまで見送ることにした。
- 243 名前:心揺れる一時(7) 投稿日:2001年08月13日(月)23時38分08秒
- 女生徒がドアを開けて廊下に出たそのとき、いきなりこっちに振り返った。
「そうだ!先生って、名前なんて言うんですか?」
その言葉に、私は思わずコケそうになった。
今さら何言ってんだか・・・・・。
どうやらこの女生徒は、本気で天然ボケらしい。
全く、今まで名前も知らないような奴とお茶してたの?
なんだか頭が痛くなってきた。
どういう神経してんだか・・・・・。
でもそのことが何だかおかしくて、少しだけ吹き出してしまった。
「ふっ!ふっふふふ・・・・。」
「先生?何笑ってるんですか?」
女生徒が不思議そうな顔して私を見る。
いきなり笑い出したことが、女生徒にとっては不思議だったらしい。
「ふっふふ、笑ったりしてごめん。あぁ、そうそう名前だったね?朝礼でも
言ったけど、私は新任の化学教師で、名前は保田 圭。」
「・・・・・・保田 圭先生。はい、ちゃんと覚えました!」
女生徒は少し考え込んでから言った。
「で、あんたは?」
名前なんて聞く気はなかった。
聞いたって・・・・・・意味がないから。
でもなぜか、そのときは知りたいと思った。
- 244 名前:心揺れる一時(9) 投稿日:2001年08月13日(月)23時41分16秒
- 「えっ?私の名前ですか?」
女生徒は少し驚いた顔をした。
まさか、自分が聞かれるとは思っていなかったらしい。
私も自分で言ってて驚いたしね。
「そっ、あんたの名前。別に言いたくなかったら、言わなくてもいいよ。」
私はそう言ってから、少し卑怯な言い方だと思った。
そんなこと言われたら誰だって言うと思うから。
「別に嫌じゃないですよ!少し驚いただけです!」
女生徒は少し焦って弁解していた。
「・・・・・えっと、私はバレーボール部の期待のルーキー!高等部1年A組
吉澤ひとみ、16才です!」
女生徒、いや吉澤はピースサインを額につけた変なポーズで、私に自己紹介
してくれた。
もっと普通の自己紹介はできないんだろうか・・・・・。
私はただただ呆然としていた。
「出席番号、血液型、星座、あぁ、あと生年月日とか言います?」
女生徒は楽しそうに聞いてきた。
まだ、言い足りないんだろうか?
名前さえ知れれば、それでよかったんだけど・・・・・。
「・・・・・これ以上はいいよ。」
私は溜め息混じりで答えた。
- 245 名前:心揺れる一時(10) 投稿日:2001年08月13日(月)23時56分39秒
- 「そうですか・・・・。」
吉澤は本気で残念そうだった。
「吉澤ね。とりあいず、覚えておくよ。」
私は物覚えが悪いからあまり自信がなかった。
「えぇぇぇぇぇ!絶対に覚えて下さいよ!」
吉澤は私に詰め寄って言った。
「わ、分かったよ。とりあいず努力はする。」
私は吉澤の気迫に押されて、つい了承してしまった。
これじゃほぼ強制じゃん。
こういう強引なところは、少しだけあいつと似てるかな・・・・・。
私はふと過去の思い出していた。
ちっ!昔のことなんて思い出してもしょうがないのに。
「それじゃ先生、さよなら!」
私の苦い思い出なんか知る由もなく、女生徒は笑顔で廊下を走って行った。
あっという間にその姿は見えなくなる。
私はなんだかボーッとしていて、しばらくしてからハッとしてドアを閉めた。
そして部屋に戻って椅子に座ると、ポケットからタバコを取り出して火をつけた。
タバコを口に挟んで軽く吸い、ゆっくりと白い煙を吐き出した。
その白い煙は、風に乗って窓から出ていった。
吉澤・・・ひとみか・・・・・・。
少しだけ、その少女のことが気になった。
- 246 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年08月20日(月)22時17分03秒
- この話は保田編と、吉澤編の交互に進んでいきます。
いちよ保田遍が終わったので、これから吉澤編に入ります。
- 247 名前:ラブラブな二人(1) 投稿日:2001年08月20日(月)22時32分59秒
- あたしは走っていた。
化学準備室を一気に飛び出し、玄関へと急いでいた。
ちょっと時間ヤバいかな・・・・・。
でも先生と話してたら、なんか時間が経つのを忘れちゃたんだよね。
あの独特雰囲気に飲まれてたっていうのかな?
なんか、まだ話していたいと思った。
けれあたしには、行かなきゃいけない場所があるから。
あたしは階段を猛スピードで駆け抜けた。
途中ですれ違った先生に、「廊下は走るな!」って怒鳴られたけど、今はそんな
ことを気にしている場合じゃない。
あの二人を待たせると、ロクなことがないから・・・・・。
絶対に何かおごれとか言われる。
それだけは何としてでも、絶対に避けなければいけない。
今月は・・・・・金欠だから。
あたしは息を弾ませながら一生懸命に走った。
これでも体育10だから、足の早さと体力には自信がある。
まぁ、それだけしか自信がないとも言うけど・・・・・・。
今はそういう問題じゃない!
とにかく、1秒でも早く下に着かなきゃ!
あたしは走るスピードを上げた。
がんばった甲斐あってか、かなり早く下に着けたと思う。
けれどあたしは下についた瞬間、思わずへットスライディングしそうになった。
二人は生徒用の玄関で、人を寄せつけないほどラブラブだった・・・・・。
- 248 名前:ラブラブな二人(2) 投稿日:2001年08月20日(月)23時12分35秒
- ごっちんと梨華ちゃんは、あたしの存在に全く気付いてない。
っていうか、きっと目にさえ入ってない。
二人だけのラブワールドに入りきっている。
はぁ〜。
一体あたしは、何のためにがんばって走ってきたんだよ・・・・・。
バカみたいじゃん。
あたしは溜め息をついてから、ゆっくり二人に近づいた。
本当はこのままムシして帰りたいんだけど、後でどうこう言われるのは嫌だし。
だから、あたしは二人に声をかけることにした。
二人は抱き合って、お互いに見つめ合っている。
「梨華ちゃん、さっきはひどいこと言ってゴメンね。」
「いいよ、もう気にしてない。」
二人のいる半径1メートルは、まるで亜熱帯のようだった。
きっと、ずっと前からこうやってたんだろうな・・・・・。
さてと問題はこの二人を、どうやって現実に戻すかだな。
う〜ん・・・・・・・あの手でいくか。
一番手っ取り早いことだし。
ただ、ちょっとメリットがあるけどね。
あたしは一息ついてから、梨華ちゃんを後ろから抱きしめた。
「きゃっ!」
と梨華ちゃんはかわいい悲鳴を上げる。
そして、顔だけをこっちに向ける。
「なんだヨッスィーか。もう、驚かせないでよ。」
梨華ちゃんは少しだけ顔をしかめて言った。
「あはは、ごめん。いきなりで悪かったよ。」
あたしは苦笑して答えた。
こんなことしなきちゃいけないのは、二人のせいじゃないか。
こうでもしないと気がつかないクセに・・・・・。
「ちょっとヨシコ!梨華ちゃんに何やってんだよ!」
ごっちんが怒りの形相で私を睨む。
だから嫌なんだよ、これ。
あたしは素早く梨華ちゃんから手を離した。
これやるとごっちんが怖いから、やりたくなかったんだよ・・・・・。
- 249 名前:ラブラブな二人(3) 投稿日:2001年08月20日(月)23時39分34秒
- 「まぁ、まぁ、ちょっとしたフレンドシップやつなんだよ。」
あたしは少し気取ってカタカナ語を使ってみた。
「それを言うなら、スキンシップだよ。」
と梨華ちゃんに冷静にツッコまれた。
慣れないことはしない方がいい、ということが分かった。
「あっはははは!バカじゃんヨシコ!」
ごっちんは手を叩いて笑っている。
そこまでバカ受けしなくても・・・・・・。
「う、うるさいなぁ、ちょっとしたジョークだよ!」
あたしは無茶苦茶だけど、なんとか誤魔化そうとした。
「慣れない言葉使わない方がいいよ。」
と梨華ちゃんまで言われてしまった。
「はいはい、すいませんでした!どうせあたしはバカですよ!」
あたしはつい逆ギレしてしまった。
「逆ギレしなくたっていいじゃん。」
ごっちんは平然とした顔で言った。
「まぁまぁ、ヨッスィー来たことだし帰らない?」
梨華ちゃんが二人の間に入ってあたし達を宥める。
「梨華ちゃんがそう言うなら、後藤は帰る。」
ごっちんは梨華ちゃんに腕を絡ませて、甘え声を声を出す。
あぁ、これだもんなぁ・・・・・・。
あたしって一体何なんだろ?
二人は完全にラブラブモードだ。
なんであたしと梨華ちゃんじゃ、こんなに態度が違うかなぁ。
- 250 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月21日(火)00時00分05秒
- おもしろいですね!!
いしごま好きです!頑張ってください!
- 251 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年08月21日(火)22時49分16秒
- >250さん レスありがとうございます。
この話はやすよし中心なんですけど、いしごまも好きなので
色々と話に絡ませていきたいと思ってます。
- 252 名前:ラブラブな二人(4) 投稿日:2001年08月21日(火)23時05分50秒
- そりゃ恋人同士なんだから、当たり前かも知れないけどさ。
この2人は誰が見ても分かる通り、付き合っている。
学校の入学式でごっちんが梨華ちゃんに一目惚れしてから、猛アタックを繰り返して
今から数カ月前、こんなラブラブになってしまった。
梨華ちゃんとは中学校で知り合って友達になり、ごっちんとはこの高校で友達
になった。
ごっちんとは始め、きっと気が合わないだろうと思っていたけど、だんだんと
話していくうち、意外に気が合って友達になった。
でも、2人が付き合うとは思ってもみなかった。
けどそのおかげで、私は寂しい独り者だよ・・・・・・。
でもまぁ、最初は2人から付き合うって言われたとき驚いた。
女の子同士の恋愛って、そりゃ話には聞いたことがあったけど、こんな身近で
起こるとは思わなかった。
多少の違和感は合ったけど、別に悪いことじゃないと思う。
二人がお互いに好きあっているなら、それは普通の恋愛と変わらないと思う。
それに好きになったら、理由なんていらないだろうし。
好きになった人がたまたま女の子だっただけで、その気持ちは純粋だと思うから、
私は偏見や差別はないし、友達をやめたいとも思わなかった。
・・・・・・あれ?
あたしが周りを見回すと、2人の姿はどこにもない。
どこ行っちゃたんだろう?
「ヨッスィー!早くしないと帰っちゃうよぉぉぉ!」
少し遠くの正門でごっちんが叫んでいた。
あのバカップルが!
人が考え事している間に帰るなよ!
誰の為に、こんな説明してると思ってるんだよ・・・・・・。
「ふぅ〜、ちょっと待ってよ!」
あたしは小さなため息をついてから、2人のところに向かって走り出した。
全く、今日は走ってばっかりだな・・・・・。
- 253 名前:ラブラブな二人(5) 投稿日:2001年08月21日(火)23時21分49秒
- あたしは2人と別れて、今は帰りの電車の中にいる。
吊り革に捕まって、ユラユラと揺れながらボーっとしていた。
あの2人とは駅まで帰り道が同じなのだ。
まぁ、家は反対方向なんだけどね。
でもたとえば、あの2人と帰る方向が同じでもあたしは一緒に帰るのは遠慮したい。
電車の中でまで、ラブラブを見せつけられたくないから。
あたしは外の景色をぼんやりと眺めていた。
外はもう既に、少しずつ薄暗くなり始めていた。
景色がどんどん後ろに流れていく。
ふと、保田先生のことが頭に浮かんだ。
そういえば不思議な先生だったなぁ・・・・・。
初対面なのに、どうしてあんなに積極的に接しられたんだろ?
いつものあたしなら考えられないことだ。
あたしは別におしゃべりでもないし、そんなに社交的な性格ではない。
じゃ、なんで?
もしかして前世の恋人とか?
それとも実は男だとか?
未来から来たあたしの子ども?
もしかして先生は異星人で・・・・・・。
って、妄想するのはやめておこう。
テレビやマンガの見過ぎだよ。
でも、本当にどうしてだろう?
なんか・・・・・・惹かれたんだよね。
先生の何かがあたしを惹きつけた。
その何かっていうのはまだ分からないけど・・・・・。
けどだからあたしは、あのとき「手伝いがしたい」なんて言ったんだと思う。
あのまま別れたくないって思った。
このモヤモヤした気持ちを何て言うのか、私にはまだ分からない。
- 254 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月23日(木)05時51分17秒
- あらま、やすよしなんて珍しい。けど嬉しいっす
両方の視点からってのもいいですね。
- 255 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年08月24日(金)22時45分36秒
- >名無し読者さん 確かに、やすよしは珍しいですね。
あんまり見かけないですし、でも自分の中では1推しです。
まぁ、だからこうして書いてるんですけど・・・・・・。
嬉しいと言ってもらえて良かったです。
- 256 名前:嬉しい知らせ(1) 投稿日:2001年08月24日(金)22時59分29秒
- 翌朝。
あたしは教室に入るなり、自分の机にヘタリ込んだ。
毎朝のことだけど、やっはり満員電車はきつい。
本当に死ぬかと思う。
もっと家が近くにあればいいのになぁ・・・・・。
たまに梨華ちゃんや、ごっちんの家に泊まったりしてたけど、そう頻繁に
泊まることもできないし。
そりゃどっちかと付き合ってる、っていうなら話し別だけど。
それに、梨華ちゃんの家に泊まるとごっちんが怒るんだよねぇ。
だからこの頃は全然泊まってない。
3人で泊まるのは絶対に嫌だし!
2人のラブラブを、見せつけられるだけだから・・・・・・。
そんな自分がみじめになるだけだし。
「はぁ〜。」
思わず深い溜め息が口から出てしまった。
「おはよう、ヨッスィー。」
と声をした方を見ると、梨華ちゃんが立っていた。
「おはよう・・・・。」
私は机に突っ伏したまま言った。
「元気ないけど、大丈夫?」
梨華ちゃんは心配そうにあたしを見つめる。
「あぁ、大丈夫だよ。満員電車で体力消耗して、死にそうなのはいつものことだから。」
私は軽く手をあげて答えた。
「ならいいけど・・・・・。そういえば、ヨッスィー知ってる?今日の化学の
時間は新しい先生らしいよ。」
と梨華ちゃんがいきなり話題を変えた。
ん?
新しい先生?
それって・・・・・・。
「それって、保田先生!!」
あたしは机から飛び起きて梨華ちゃんに聞いた。
- 257 名前:嬉しい知らせ(2) 投稿日:2001年08月24日(金)23時16分19秒
- 「え、えっ?うん、そうだと思うよ。だって転勤した和田先生の代わりに来た
んだって、誰かが言ってたから。」
梨華ちゃんはあたしの気迫に驚きながらも、ちゃんと答えてくれた。
そういえば、そっか。
あたし達の化学を教えてくれた和田先生、通称セクハラおやじはどっかに行っちゃ
たんだもんね・・・・・。
本当によかった、よかった。
和田っていう前の化学教師は、微妙なセクハラをすることで有名だった。
ならなぜ警察に捕まらないかというと、和田はかなり有能な先生だったからだ。
保護者や先生方の信頼がかなり厚くて、あたし達の言ってることなんて全く
信じてもらえなかった。
そして、そのセクハラの被害に一番あっていたのが、なんと梨華ちゃんだったのだ。
でも和田のセクハラは、かわいい子しかしないっていう噂があって、変なステータス
みたいなものにもなっていた。
和田からセクハラされると、かわいいっていう証になるらしい。
まぁそんなこともあって、一番セクハラ被害に遇っていた梨華ちゃんは、先輩
とかから逆恨みをされる、なんてこともあった。
でもあたしやごっちんが近くにいるから、最近そういうことはだんだんとなく
なってきたけどね。
特に、ごっちんはキレると怖いからなぁ・・・・・。
一度だけキレたところを見たけど、あれはハンパじゃなく怖い。
そりゃぁ、誰だってヒビるって。
ってそれはともかく、今は保田先生のことだよ!
そっか、保田先生が教えてくれるのか・・・・・。
- 258 名前:嬉しい知らせ(3) 投稿日:2001年08月24日(金)23時29分03秒
- 「ヨッスィー、すごく嬉しいそうだね。」
梨華ちゃんは楽しそうに笑いながら言った。
「えっ?あははは、そんなこと、ないと思うけどなぁ・・・・・。」
あたしは適当に笑って誤魔化した。
そんな顔してたのかな?
でも、確かに嬉しいかもしれない。
分からないけど嬉しくてたまらない。
それって、保田先生だから?
・・・・・分からない。
そんなこと、分からないよ。
「そんなに保田先生のこと気に入ったの?それとも、もう好きになっちゃった?」
梨華ちゃんの最後のセリフに、あたしはドキッとした。
「いや、えっと、そんな・・・・・。」
あたしは返答に困っていた。
自分でもどうなのかよく分からないから。
好き?
先生のことが?
まさか・・・・・。
そんなはず、ないよ。
だって、先生を好きになるなんて・・・・・・・。
「別にそんなこと・・・・・。」
あたしが梨華ちゃんに反論しようとしたとき、ちょうどチャイムが鳴った。
「その話は、また跡で聞くよ。」
と言って、梨華ちゃんは自分の席に戻って行ってしまった。
- 259 名前:FATE 投稿日:2001年08月25日(土)00時24分05秒
やすよしは自分の一番好きな組み合わせなのでとても楽しみにしてます♪
がんばってください。
- 260 名前:N 投稿日:2001年08月28日(火)06時07分22秒
- 圭ちゃんの過去も気になりつつ、やすよしにドッキドキです。
- 261 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年08月30日(木)22時54分07秒
- >FATEさん そう言ってもらえると嬉しいです。
やすよしが好きだと言って割には、ここではあんまり書かなかったので、やっと
書けて自分でも嬉しいです。
>Nさん 保田さんの過去が明かされるのは、まだちょっと先になってしまい
そうです。
やすよしにドキドキして下さい(笑)
- 262 名前:嬉しい知らせ(4) 投稿日:2001年08月30日(木)23時16分55秒
- なんか後味悪いなぁ・・・・・。
これじゃぁまるで、あたしが先生のことが好きで、図星だったから答えられなかった
みたいじゃん。
そりゃ、別に嫌いじゃないけどさ。
でも、そういう対象としては見てないと思ってた。
自分でも・・・・・・まだよく分からない。
「おい!吉澤、吉澤!」
担任の野太い声が教室に響き渡る。
「・・・・えっ?あ、は、はい!」
あたしはハッとして慌てて返事をした。
どうやら今は、出席の真っ最中だったらしい。
教室がドッ笑う。
担任は呆れたような顔していた、あたしは苦笑してみんなと共に笑っていた。
先生のことを考えてたらついボーっとしていた。
何やってんだろ、あたし・・・・・。
なんだか調子が狂う。
それもこれも、保田先生に会ってからな気がするけど、それは気のせいなんだろう?
担任は今日ある委員会などについて話ていた。
あたしはそれをうわの空で聞き流した。
いろんな話が長々と続いた後に、担任は最後にこう言った。
「今日の1時間目の化学は、新しい先生が来るからな。」
それだけ言うと、担任は教室から出て行った。
担任がいなくなると、クラスは新しい化学の先生のことで盛り上がっていた。
そして、すぐに1時間目のチャイムが鳴った。
保田先生か・・・・・。
この教室に来るんだ。
そう思うと、なんだかドキドキしてきた。
でもそれは先生が好きだからってことじゃなくて、ただ緊張してるだけだと
思うし、それに昨日の先生の姿を思い出すと、ヘマしてしまうんじゃないかと
心配になっただけだ。
つまりドキドキというより、ワクワクなのかもしれない。
教室は自然とに静かになっていた。
それは、先生の足音でさえも聞こえる気がする程だった。
私はジッとドアを見つめていた。
- 263 名前:ドキドキの授業(1) 投稿日:2001年08月30日(木)23時36分13秒
- それから1分もしないうちに、ガラッという音と共にドアが開いた。
そして、白衣を身にまとった保田先生が入ったきた。
昨日のスーツ姿と違って、今日は結構ラフな格好だった。
あたしはしばらく呆然としていた。
先生はツカツカと教室に入ってくると、教卓の前に立った。
そして黒板に自分の名前を書いた。
綺麗な字だと思ったし、先生らしい字だとも思った。
どこか丸いのに、それでいてスッと尖ったイメージを持たせる。
あたしは白いチョークで香かれた、保田圭という字を見てそう思った。
「本日からこのクラスで化学を教えることになった、保田圭です。まだ皆さんの
ことはよく分からないので、名前とか間違っていることは色々と教えて下さい。」
先生の自己紹介は簡潔でおもしろ味がなかった。
当たり障りのないセリフだった。
そのことに、あたしはなんだか物足りなさを感じていた。
ここにいるのは昨日の先生じゃない・・・・・。
だったら、あのときのおっちょこちょいの先生は何?
熱がかかった手に息を吹きかけたり、熱いコーヒーをそのまま飲んで舌を出したり。
まるで昨日の全てが夢にさえ思える。
それだけ、今の先生は昨日と違っていた。
クールでドライで、どこか冷たい感じがした。
これが本当の先生?
大した会話をするわけでもなく、先生はすぐに出席を取り始めた。
それから、生徒の1人に今までゃってきた授業内容を聞くと、それから早速
授業に入っていった。
普通、こういうときの初日は授業をやらないものだとみんな思っていたらしく、
ダレた感じで授業は始まった。
あたしもやる気が出なかったはずなのに、次第に先生の授業に引き込まれていった。
- 264 名前:ドキドキの授業(2) 投稿日:2001年08月30日(木)23時48分01秒
- 不思議な気分だった。
やる気がなかったはずなのに、気がついたらノートにペンを走らせていた。
分かりやすい先生の授業は、おもしろいとさえ感じた。
あのわけ分からなくて、難しい化学のはずなのに・・・・・。
しゃべっている子なんて1人もいない。
誰もが先生の授業を真面目に受けていた。
静かな教室に、ペンの音と先生の声だけが響いていた。
少し低くて、それでいて凛としている声。
そんな大きく出しているわけじゃないのに、ハッキリとよく聞こえる。
よく通る声だと思った。
この声好きだな・・・・・・。
何となくそう思った。
そして不意に、この声で自分の名前を呼ばれたいと思った。
これが・・・・・好きってことなのかな?
よく分からない。
元々、好きになるってどういうこと?
どうなったら好きだって言えるの?
ドキドキしたら?それともただなんとなく?
LikeとLoveの違いって何?
そんなこと考え出したらキリがない。
きっとそういうのは、人によって違うんだろうし。
それに、恋なんてあたしが分かるはずがない。
だってもしこれが恋なら、あたしにとっては初恋だから。
だから何をどうしたらいいのか、全然全く分からない。
あたしはボーっとそんなことを考えていた。
授業中ということも忘れて・・・・・。
- 265 名前:ドキドキの授業(3) 投稿日:2001年08月31日(金)23時09分17秒
- 「・・・・・吉澤。」
そう誰かに名前を呼ばれたような気がした。
えっ?
その声はあたしをもう一度呼んだ。
「吉澤。」
「あ、は、はい!」
よく分からなかったけど、とりあいず大きな声で声で返事をした。
でも言ってから思ったけど、もしクラスの友達に呼ばれたんだったらどうしよう・・・・・。
急に「はい!」って大声で叫んじゃったし。
「じゃぁ、この問題を解いてみて。」
そう言ったのは、保田先生だった。
あたしは目を見開いて先生を見た。
先生が・・・・・・あたしの名前を呼んでくれた。
ちゃんと覚えててくれたんだ!
そのことがすごく嬉しかった。
でも、問題は全く分からなかった。
「分かりません・・・・・。」
あたしは顔を下に俯けて小さな声で言った。
「・・・・・ふぅ。これは今やってるところの基本なんだから、ちゃんと答え
られるようにしときなさい。」
先生は呆れたように軽い溜め息をついて言った。
「あ、はい・・・・・・。」
- 266 名前:ドキドキの授業(4) 投稿日:2001年08月31日(金)23時18分19秒
- あたしはしはらくボーッとしていた。
心臓がよく分からないけどドキドキしている。
鼓動はどんどん高まってるし。
顔がボーッと熱い。
なんでだろう・・・・。
なんでこんなに、先生から目が離せないんだろう・・・・・・。
理由は分からない。
でも、間違いなく心は先生だけに向いてる。
何?・・・・・・この感じ。
「吉澤。」
先生がまたあたしの名前を呼ぶ。
「はい!」
あたしは今度はパッと顔を上げてすぐに対応した。
「この問題は分かる?」
先生が黒板に書いた問題を指差す。
そこには、何やら難しそうな記号とかが並んでいた。
・・・・・全く分からなかった。
「分かりません・・・・・・。」
私は少し沈んだ声で答えた。
なんか、自分がすごくバカに思えてくる。
まぁそりゃ、頭はいい方でもないんだけどさ。
それから先生は事あるごとにあたしに当てた。
当然、今までの問題が分からなかったあたしが答えられるはずがなく、先生に
「分かりません」をさっきから連発していた。
さすがに4回目に当てられとき、あたしは先生に聞いてみた。
- 267 名前:ドキドキの授業(5) 投稿日:2001年08月31日(金)23時28分27秒
- 「あのぉ、どうしてあたしばっかり当てるんですか?」
これじゃイジメだと思うほど、集中攻撃だった。
それにあたしは大して化学が得意じゃないから、問題に答えられなくて恥掻いて
ばっかりだし。
だから、どうして当てるのか聞くけ権利くらいあると思った。
「吉澤しか、このクラスで知ってる子がいないから。」
と先生はいともあっさりと答えた。
「そ、そんなことで当てないで下さいよ!」
あたしは机から身を乗り出して抗議する。
その言葉でクラスがドッと笑った。
でも、内心はすごく嬉しかった。
このクラスの中で、先生に一番近いのが自分だという事実が。
ちょっとした優越感を感じた。
そよ風に揺れる白衣。
軽い茶髪のショートカット。
その髪をそっと掻き揚げる、意外に白い手。
前を見つめる大きな瞳、
そして、よく響く少し低い声。
「分かった。次の授業までには何とかするよ。」
先生はあたしに向かって微笑して言った。
そんな先生にあたしは思わず見愡れた。
そして、顔がカッと熱くなるのを感じる。
そのときあたしは、
初めて、誰かの『特別』になりたいと思った。
- 268 名前:ドキドキの授業(6) 投稿日:2001年09月02日(日)23時33分25秒
- 「それでは初日だしキリもいいので、今日はこれで終わりにします。」
先生のその言葉に、慌てて学級委員が号令をかける。
「起立!・・・・礼!」
先生は号令に軽くお辞儀すると、教室から出て行ったしまった。
教室は一瞬静かだったけど、すぐに先生の話で盛り上がっていた。
分かりやすい授業だとか、クールだとか、カッコいいとか、和田より全然いいとか。
まぁそれは言えてるけど・・・・・・。
とにかく、みんな先生のことを褒めていた。
それを聞いてあたしまで嬉しくなった。
昨日のおっちょこちょいな先生もいいけど、今日のクールな先制もいいかも
しれないなぁ・・・・・。
「ヨッスィー、すごく嬉しそうだね。」
いつの間にか梨華ちゃんが目の前に立っていた。
「そ、そう?」
あたしは今どんな顔しているか分からないから、何とも言えない。
確かに嬉しいけど、そんなに顔に出てるのかな?
「うん、すっごいニヤけてる!」
梨華ちゃんはキッパリと断言して言った。
えっ?
ニヤけてる?
そんなにデレデレなの?!
そこまでなっている自分が、少し信じられなかった。
- 269 名前:それって本音?(1) 投稿日:2001年09月02日(日)23時47分29秒
- でも梨華ちゃんがウソ言うはずなすし、それはきっと事実なんだろう。
あたしは自分の頬を両手で平手打ちする。
「これでどう?」
あたしはたぶん締まったであろう顔で、梨華ちゃんを見上げて言った。
「いつもヨッスィーに戻った。」
梨華ちゃんはあたしに向かって微笑んだ。
「よかった。にしても、保田先生ってやっぱカッコいいなぁ〜。」
あたしは椅子にもたれ掛かって言った。
そして、そのまま首をダラ〜ンと後ろに垂らした。
「先生のこと好き?」
梨華ちゃんは少し小さめの声で言った。
「えっ?あぁ、好きだけど。」
その言葉あまりにも自然に口から出た。
な、何言っての、あたし!!
言ってからことの意味に気づき、耳たぶの辺りが熱くなった。
きっと今、あたしは顔が真っ赤なんだろうな・・・・・。
あたしは首をちゃんと戻して、梨華ちゃんの顔をそっと見上げてみた。
「よかったね、ヨッスィー。」
梨華ちゃんはさっきと変わらずに微笑んでいた。
- 270 名前:それって本音?(2) 投稿日:2001年09月02日(日)23時58分26秒
- それは茶化すことも、からかうこともなく、ただ本当に嬉しそうに笑っていた。
「えっと、あの、その・・・・・。」
あたしは誤魔化そうと思ったけど、何も言葉が浮かばなかった。
だって、きっとそれがあたしの『本音』だろうから。
だから否定もできないし、訂正もできないんだと思う。
梨華ちゃんはそれから何も言わなかった。
少しだけ、2人の間に沈黙が流れた。
「ありがとう・・・・。」
あたしはその沈黙を破って、ポソッと呟いた。
何て言っていいか分からないけど、これだけは言っておきたかった。
そんな気がした。
あたしはなんだか気恥ずかしくて、顔をちょっとだけ下に俯けた。
今はうまく言葉で言えない。
だけど、もう少し経ったらちゃんと言えるようになると思うから。
気持ちもまだ混乱してるけど、決心がついたら真っ先に言うね。
だから・・・・・・それまで待ってて。
あたしはもう1度顔を上げて、はにかんだ笑顔を梨華ちゃんに見せた。
梨華ちゃんはただ優しく微笑んでいるだけだった。
- 271 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月04日(火)20時07分56秒
- クールな圭ちゃんもいいけど、
ヨッスィーがなんか可愛くて好きです。
- 272 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年09月08日(土)23時01分29秒
- >271さん この話は2人の性格の対照的な違いが
面白いのかなぁと思います。
- 273 名前:それって本音?(3) 投稿日:2001年09月08日(土)23時18分00秒
- あたしはなんていい友達を持ったんだ、としばらく感動していた。
けれどそれは束の間のものだった。
事が起こったのはその日の放課後のことだ。
長いHRが終わり、もうほとんど生徒が帰っていた。
あたしもカバンに何冊か教科書を入れて、帰る支度していた。
今日はヒサブリに部活が休みだから、いつもより早く帰ることができる。
帰って何をしようかなぁ・・・・。
そんなことを考えていたとき、
不意にバカ力で背中を思いきり叩かれた。
「痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
あたしは大声で叫んで振り向くと、そこにはごっちんが立っていた。
こんなバカ力があるのは、ごっちんくらいだと思ってたけどさ。
やっぱり予想通りだった。
「そんな叫ぶことないじゃん、軽く叩いただけなのに。」
ごっちんは無邪気に笑って言った。
あははは、これが軽くねぇ・・・・・。
「で、ごっちんは何の用?」
あたしは背中を優しく摩りながら聞いた。
でも、きっと梨華ちゃんを迎えに来たに決まってる。
それ以外にこの教室に来る理由なんてない。
- 274 名前:それって本音?(4) 投稿日:2001年09月08日(土)23時24分23秒
- 「梨華ちゃ〜ん、一緒に帰ろう。」
案の定、ごっちんは梨華ちゃんのところに走って行って抱きついた。
はいはい、ラブラブでいいですね。
「さてと、あたしも帰ろうかなぁ。梨華ちゃん達と一緒に帰っていいでしょ?」
あたしはカバンを持って立ち上がると、梨華ちゃん達の方に向かって言った。
「ダメ!ヨッスィーは他にやることがあるでしょ?」
とごっちんはなぜかニヤッと笑っていた。
はぁ?
あたしがやること?
何か用事とかあったけ?
考えてみるものの、特に思い当たるとはない。
別に今日は委員会も部活もないし・・・・・。
ごっちんが何を言いたいのか、あたしにはサッパリ分からなかった。
「何言ってんの?別にやることないと思うけど。」
あたしは考えも思い当たらないのでごっちんに聞いた。
「保田先生に、会いに行かなくていいのかなぁ〜。」
ごっちんはニヤニヤと笑いながら言った。
「ちょ、ちょっと梨華ちゃん?!」
あたしはの声は随分と上ずっていた。
- 275 名前:それって本音?(5) 投稿日:2001年09月08日(土)23時33分17秒
- 「ごめん、ヨッスィー!つい・・・・・言っちゃった。で、でも!ごっちんも
私達の友達なんだし、知る権利はあると思うの。」
梨華ちゃんは手を合わせて、バツが悪そうな顔をして言った。
そんなの無茶苦茶だよぉ・・・・・。
そりゃ、いずれ言おうとおもってたけどさ。
こんな早く言わなくたっていいじゃん!
まぁ、梨華ちゃんに話した時点で、ごっちんに伝わるのは時間の問題ってわけか。
よく考えれば分かることだった。
つまり梨華ちゃんに言ったことは、ごっちんに筒抜けってことだ。
あたしがバカだったよ・・・・・。
- 276 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月12日(水)19時37分24秒
- ここの吉澤はなんか可愛いなぁ。
続きを楽しみにしてます。
- 277 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年09月14日(金)23時24分40秒
- >名無し読者さん そう言ってもらえると嬉しいです。
可愛さとカッコよさ、その両面を兼ね備えているようなキャラにしたいなぁ
と思っています。
なるべく多く更新できるようにします。
- 278 名前:それって本音?(6) 投稿日:2001年09月14日(金)23時48分12秒
- 「にしても驚いたなぁ、まさかヨッスィーが保田先生のことを好きになるなんてさ。」
ごっちんは軽く笑って言った。
でもそれはバカにした感じじゃなくて、本当にただ笑ってるだけのように見えた。
あたしはハッとして教室を見回したけど、あたし達以外の生徒は誰もいなかった。
みんな帰ってしまったらしい。
あたしはホッと胸をなで下ろした。
これ以上たくさんの人に、先生の思いを知られるのは嫌だから。
それは自分が恥ずかしいのもあるけど、そういうことが広まると先生にも変に
迷惑とかかけちゃいそうだから。
「よかったね。ヨッスィー。」
ごっちんが笑顔になって言った。
それは、梨華ちゃんと同じセリフだった。
「あ、うん・・・・。」
あたしは何も言うことができなくて、ただ小さく頷いた。
「ということで、いってらっしゃ〜い!」
ごっちんがあたしに向かって手をヒラヒラと振る。
「そ、そんな!いきなり押しかけたら先生だって迷惑だよ!」
正直いうと、あたしは行きたくなかった。
心の準備もできてないし、先生に嫌な顔とかされるかもしれないし・・・・・。
- 279 名前:それって本音?(7) 投稿日:2001年09月14日(金)23時52分09秒
- ごっちんはあたしのところまでやってくると、いきなりコブラツイストをかけてきた。
何だかよく分からないけど、とりあいず痛かった。
「痛っっっっっっ!ギブ、ギブ!マジで痛いって!!」
あたしはあまりの痛さに本気で逃げようとした。
するとごっちんが手を緩め、あたしの耳元に口を寄せて言った。
「本当は、怖いんでしょ?」
その言葉にドキッとした。
自分でも気づかなかったけど、きっと図星なんだと思う。
「えっと、その、いや・・・・・・。」
だから言葉が詰まって、何も言い返せなかった。
ごっちんは優しく微笑んで言った。
「そりゃさ、失恋とか考えたら誰だって怖くなるよ。でも、こういうのは自分
からいかないとね。もしフラれたって、それもいい経験になると思うから。
だから、がんばって行ってきなよ!」
ごっちんはあたしから離れると、バンと強く背中を押した。
あたしはコケそうになりながらも、なんとか踏み止まる。
そして、ごっちんの方に振り返った。
ごっちんも梨華ちゃんも、2人してあたしの方を見て笑っていた。
「ありがとう、2人とも!」
あたしは笑顔でそう言うと、化学室準備室を目指して勢いよく走り出した。
- 280 名前:それって本音?(8) 投稿日:2001年09月15日(土)00時04分47秒
- これはあたしにとって大事な恋だから。
こんなに人を好きになったのは初めで、だからやっぱりすごく怖い。
フラれるとか、嫌われたら思うと、少し逃げ出したくなる。
だけど思いはちゃんと伝えたい。
思いを伝えて、それで嫌われるならいいと思う。
それなら悔いも残らないと思うし。
それに、先生なら相手を傷つけることはしないと思うから。
別に今すぐ言う気はないし。
時間をかけて、言えるようになったら言えばいい。
だって先生について、あたしはまだ何も知らないから。
誕生日、血液型、好きな食べ物、嫌いな食べ物、趣味とか・・・・・。
上げればそんなのキリがない。
あたしはまだ・・・・・・先生のこと全然知らないんだ。
だからそういうのをちゃんと知って、それでも好きなら思いを伝えたい。
それに、自分の気持ちもなんかハッキリしないし。
焦ることなんてないんだ。
あたしはそんなことを思いながら、一気に階段を駆け上がる。
そして4階に辿り着くと、渡り廊下をもうスピードで駆け抜けた。
こういうときに、体育10で本当によかったと思う瞬間だった。
- 281 名前:(0^〜^0) 投稿日:2001年09月15日(土)01時02分28秒
- 3人の友情もホノボノしてるし、よっすぃ〜、可愛らしいですね
さて、これからヤッスーはどんな反応するんだろう?(w
- 282 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月15日(土)08時32分08秒
- 圭ちゃんもなんだかよっすぃーの事が気になっているみたい
だし、この先どうなってゆくのか楽しみー
- 283 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年09月15日(土)23時17分47秒
- >281さん 自分でも3人は結構気に入ってます。
保田さんの反応には、読めば分かるってことで。
>名無し読者さん まだ保田さんの気持ちがハッキリしないので、そこのところも
ちゃんと書いていきたいと思っています。
- 284 名前:先生の秘密(1) 投稿日:2001年09月15日(土)23時36分20秒
- 準備室へはそれからすぐに着いた。
あたしはドアの前で急ブレーキをかけると、止まって深く深呼吸をした。
そして、軽くセキ払いしてのどの通りをよくした。
それからゴクッと生唾を飲み込んで、緊張しながらもドアを2回ノックした。
「・・・・吉澤です。は、入ってもいいですか?」
だけどあたしの声は少し裏返ってしまった。
「ドア開いてるから、勝手に入ってきていいよ。」
先生の声はドアを通してからなので、くぐもった感じで聞こえた。
あたしは高鳴る鼓動を押さえ、ゆっくりとドアを開けた。
- 285 名前:先生の秘密(2) 投稿日:2001年09月15日(土)23時36分58秒
- すると、すぐにコーヒーの独特の匂いがした。
そこは昨日のままだった。
先生は外に顔を向けて、窓枠に肘をついてタバコを吸っていた。
風に揺れる髪をそっと手で掻き揚げる。
その大人な横顔に、また見愡れてしまった。
「どうかした?・・・・・まさか、本気でコーヒー飲みに来たの?」
先生はあたしの顔を向けると、口元だけで笑って言った。
「いや、まぁ・・・・・来たら、いけませんでした?」
あたしはなんだか不安になって、先生の顔色を伺って聞いた。
「別に、今はヒマだから構わないよ。」
先生は窓から離れると、タバコをゴミ箱に捨てた。
あたしは先生から目が離せなくなっていた。
心臓のドキドキが止まらない。
でも、それは緊張してるからじゃない。
・・・・・・『好き』だから。
やっぱりあたしは、本気で先生のことが好きになっちゃたんだ。
先生の『特別』になりたいと、改めて思った。
- 286 名前:先生の秘密(3) 投稿日:2001年09月15日(土)23時59分59秒
- 「でもちょうどよかったよ、コーヒー作ってところだったから。コーヒーって
冷めるとおいしくなくなるから。」
先生はちょっとだけ嬉しそうな顔をして言った。
今日はどうやら、インスタントではないらしい。
ふとあたしは木のラックの上に置いてある、コーヒーが作られている機械(?)
に目をやる。
それは下がフラスコにみたいで、それに筒状のガラスがのっかっている。
そしてアルコールランプのようなもので、フラスコもどきを温めていた。
始めてみるけど、不思議なものだと思った。
化学の実験道具のように見える。
あたしが見ていたのに気づいた先生が、それについて丁寧に説明してくれた。
「これはサイフォン式でコーヒーを作るときに使う道具なんだよ。下にある
丸いのがフラスコで、上にある筒状のがロート。そして火がついて温めている
のがアルコールランプ、もちろん実験で使うやつとは違うよ。それで、これで
入れるとすごくおいしいんだよ。時間は少しかかるけど、でも私はこの方法で
入れたコーヒーが一番好きなんだ。」
先生はまるで子どもがオモチャとかを自慢するような、すごく嬉しそうで
楽しそうな顔をして説明してくれた。
- 287 名前:先生の秘密(4) 投稿日:2001年09月16日(日)00時08分23秒
- それがあたしには微笑ましく感じた。
こういう、子どもぽっいところもあるんだ・・・・・・。
新たに先生の意外な一面を知って、あたしまでなんだか嬉しくなった。
「えっ、あぁ、ごめん。・・・・・こんな話しても、おもしろくないよね。」
と先生は言うと、クールな感じに戻ってしまった。
「あの、すごくおもしろいです!もっと、コーヒーのこと知りたくなりました!」
があたしはそんな先生を見て慌てて言った。
別にお世辞なんかじゃない。
本気でそう思ったんだ。
先生があんなに楽しそうに語っているコーヒーのことが、もっといっぱい知り
たくなった。
そして先生のことも知りたくなった。
もっと、あたしの知らない先生のことが知りたい。
- 288 名前:先生の秘密(5) 投稿日:2001年09月19日(水)23時17分15秒
- 先生がコーヒーカップを2つ手に持ってやってくる。
「・・・・ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ。コーヒーができけど、
砂糖とか牛乳入れる?」
と先生はあたしにコーヒーを渡す直前に言った。
「えっ?あぁ、じゃぁ・・・・・牛乳入れてもらえますか?」
あたしはすまなそうに軽く頭を下げて言った。
はっきし言って、コーヒーとか飲めない方だったりする。
あの苦い味はどうも口が受け付けない。
だから、昨日先生にコーヒーをもらって飲んだときは、嫌だって言えないから
しょうがなく飲むことにした。
だけど、それは以外にもおいしく感じた。
あんなにスッーとコーヒーが飲めたのは、生まれて初めてだった。
とはいっても。やっぱりまだブラックは飲みにくい。
あのときはなんとか飲んだけどさ。
やっぱり・・・・・・まだお子様ってことか。
- 289 名前:先生の秘密(6) 投稿日:2001年09月19日(水)23時42分48秒
- 「はい、牛乳入り。」
とあたしがそんなことを考えてる間に、先生が牛乳入りのコーヒーを持ってきて
くれた。
「あっ、ありがとうごさいます。これって、カフェオレってやつですよね?」
あたしは持てる知識を引き出して、コーヒーについて言ってみた。
「本当はカフェ・オ・レって言うのが正しい発音なんだよ。それに厳密に言うと
これは日本でできたミルク・コーヒーだから。本場だとコーヒーとミルクが別々に
出てきて、それを各自でカップに入れて味を調節するものなんだよ。」
先生がまた丁寧にコーヒーの説明をしてくれる。
でもその顔は、今度は無邪気に笑っていた。
その顔は本当に子どものようだった・・・・・。
ドキッ!
とあたしの鼓動がいきなり高鳴った。
なんでこんな顔をするの?!
・・・・・理性が崩壊するって。
襲っちゃいそうだよ、ってところまではいかないけどさ。
でもそういう気分だった。
あぁ〜、またドキドキしてきたよ!
「どうした?なんか気分が悪そうだけど、もしかしてコーヒーが口に合わなかった?
それとも・・・・・・話がつまらなかった?」
先生が心配そうにあたしの顔を覗き込んで言った。
- 290 名前:先生の秘密(7) 投稿日:2001年09月19日(水)23時43分33秒
- あたしは反射的に顔を逸らした。
だって、まともに顔なんて見れる状態じゃなかったから。
今でもこんなにドキドキしてるのに、顔なんか見たら死んじゃうって!
きっと今のあたしは顔が真っ赤で、苦しそうだと顔してると思う。
「・・・・・・本当にどうした?熱とかあるの?」
不安そうに言うと、先生はあたしの額に手を置いた。
ドクッ!
心臓が大きく脈を打った。
それは死ぬんしゃないかって思うくらいに。
そして、鼓動はどんどん早くなっていく。
ダメだ!
おかしくなりそうだ・・・・・。
もう、気持ちを押さえきれない!
あたしはコーヒーを机に置くと、サッと椅子から立ち上がった。
そして、先生を抱きしめた。
先生はそれが突然起こったから、何がどうなったのか分からないようだった。
あたしはなぜだか緊張しなくなっていた。
妙に心は落ち着いていた。
そして一呼吸置いてから静かな声で、でもハッキリと聞こえるように言った。
「先生のことが・・・・好きです。」
その瞬間、先生の目が大きく見開かれた。
- 291 名前:先生の秘密(8) 投稿日:2001年09月20日(木)22時55分18秒
- 自分でも言ったから驚いた。
勢いっていうのもあったけど、こんなにあっさり言えるなんて・・・・・。
先生は目を見開いたまま、あたしをジッと見つめていた。
あたしも先生を見つめていた。
どのくらいそうしていたんだろう?
あたしこれ以上言うことがないから、黙ったまま先生を抱きしめていた。
いや、抱きしめてるだけで精一杯だった。
言葉なんて浮かばなかった。
そのとき、いきなり校内放送が流れた。
『これから職員会議を行います。先生方は会議室に集まって下さい。繰り返します
・・・・・・・』
それは職員会議を告げる放送だった。
「職員会議行くから・・・・・ごめん。」
と先生はあたしの手を振りほどくと、まるで逃げるように部屋から出ようとする。
そして部屋を出ると、すぐに廊下を足早に進んでいく。
あたしはドアに駆け寄ると、先生の背中に向かって叫んだ。
「覚えとして下さい!今言ったことは、ウソとか冗談じゃないですから!」
先生は立ち止まりもせず、そのまま廊下の角に消えた。
あたしは誰もいない廊下を見つめていた。
フラれ・・・・・・ちゃったかな?
- 292 名前:nanasi 投稿日:2001年09月21日(金)00時16分35秒
- おもろい。
続きが楽しみスクロールするのが惜しい。
- 293 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年09月22日(土)22時41分11秒
- >nanasiさん ありがとうございます。
この話は半歩戻って、2歩進むような感じなので、
自分でも書いてて混乱するときがあります。
- 294 名前:君からは逃げられない(1) 投稿日:2001年09月22日(土)22時50分31秒
- (保田編)
私は逃げるように準備室を後にした。
足早に渡り廊下を越えると、階段の手前で一度止まった。
そして、ゆっくりと後ろを振り返った。
だけど、そこに吉澤の姿はない。
どうやら追って来ないらしい。
私はそのことに安堵の溜め息をついた。
何やってんだろう・・・・。
逃げるような真似して、最低だ。
ちゃんと言葉で言えぱよかった。
なのに告白されたときは、そんな考えは浮かばなかった。
少しでも早く、吉澤から逃げたいと思った。
全く、何を動揺してるんだよ!
私は自分の頬を軽く平手打ちした。
そして、乱れた心を落ち着かせる為に深呼吸した。
するとなんだか少し冷静なれた気がして、私は職員会議に出るので会議室に
向かった。
だけど会議になんて集中できなかった。
教頭先生の話は私の頭の中に入ってはこなかった。
ずっと、吉澤のことばかり考えていた・・・・・・。
- 295 名前:君からは逃げられない(2) 投稿日:2001年09月22日(土)23時07分25秒
- 初めて吉澤のクラスで授業したとき。
実は私は緊張していた。
私にとってこの学校は、初めて赴任先だったから。
思いきって教室に入ると、そこは思ったよりも静かだった。
きっと、お互いに緊張してるんだと思う。
私は簡単な自己紹介だけして、すぐに授業に入ることにした。
無駄なことをいうのは私の趣味じゃないから。
だけど、そのときも私はまだ少しだけ緊張していた。
そんなとき見覚えある顔が映った。
それは昨日、部屋の掃除ほ手伝ってくれた吉澤という生徒だった。
吉澤の顔を見たら、なんだか不思議と緊張がほぐれていた。
それには自分でも驚いた。
吉澤を見たら緊張が止まった?
でもそれは、知っている顔があったからだという結論に達した。
・・・・・別に大したことじゃない。
私はこの教室での中で、唯一知っているのが吉澤だったため、授業中の質問は
全て吉澤に当てた。
なんとなく分かっていたけど、吉澤はあまり頭が良くなかった・・・・・。
だから私の問いに全て分かりませんと答えていた。
それから4回目くらいに当てたとき、吉澤が椅子から立って私に抗議した。
「どうして、あたしばっかり当てるんですか?」
それは必然的な抗議だと思う。
- 296 名前:君からは逃げられない(3) 投稿日:2001年09月22日(土)23時18分23秒
- だから私はその問いに正直に答えた。
「吉澤以外に顔と名前が一致する人が、この教室の中にいないから。」
単純明快だけど、これが本当の理由なんだから仕方がない。
「そ、そんなことで当てないで下さいよぉ!」
吉澤は少し呆れた様子で言った。
その言葉にクラスが哄笑に包まれる。
吉澤はその中で苦笑していた。
でもその顔は、どこか嬉しそうにも見えた。
微風が吉澤の髪を優しく撫でる。
少し茶色のショートカットが、柔らかくその風に靡いていた。
綺麗すぎるほどの白い肌。
やや大きくハッキリとした黒い瞳。
端正な顔立ちと、どこか聡明な雰囲気。
普通の女の子よりも低いアルトの声。
ほんの少しだけ・・・・・・吉澤に見愡れてしまった。
「分かった。次の授業のときまでに何とかするよ。」
私は気持ちを入れ替えると、小さな溜め息をついて吉澤に言った。
ちょうど授業もあと10分で終わるところだった。
だから初日だしキリよかったので、今日のところはここで終わることにした。
学級委員らしき少女が慌てて号令を済ますと、私は軽く頭を下げてそのまま
教室から出て行った。
- 297 名前:君からは逃げられない(4) 投稿日:2001年09月24日(月)00時01分32秒
- 私は次の授業まで少し空きがあるので、準備室に戻ることにした。
今のクラスが少し騒がしいけど、付近の迷惑にならないかな?
そんなことを思いながら私は歩いていった。
準備室に戻ると、そこは相変わらず少しカビ臭い。
隣に薬品とかあるからしょうがないんだろうけど、でもこの匂いはさすがに
不快だと思い、私は部屋の窓を開けた。
私がコーヒーを入れて飲んでいると、すぐに次の授業の時間になった。
それからはこの繰り返しだった。
私が受け持っているのは1年の全クラスと、2、3年になって選択で理数系
をとっている生徒達だ。
大変といえば大変だけど、化学なんてそんなに時間も割り当てられてないし、
理数系にしてもそれは同じことだ。
だから結構休む時間はある。
それでも楽とは言えないけどね。
そしてすぐに時間は過ぎて、あっという間に放課後になってしまった。
- 298 名前:君からは逃げられない(5) 投稿日:2001年09月24日(月)00時02分29秒
- ここの生徒はみんな真面目で授業しやすかった。
それは初めだけかもしれないけど・・・・・。
でもいい子達だとは思う。
さてと、これからどうするか。
放課後になったけど、私はまだどこかのクラブの顧問ではない。
だからこのまま帰っていいんだけど、少しこれからの授業進行とか考えたいし、
コーヒーでも飲みながら考えようかなと思った。
私は急にサイフォン式のコーヒーが飲みたくなって、わざわざ持ってきた自前の
機具で早速入れることにした。
さっきは手抜きしてインスタントだったし。
やっぱりサイフォン式のコーヒーは、インスタントやドリップとは一味違う。
独特の薫りと深い味わい、複雑そうだけどちょっとしたコツさえつかめば、
誰だって簡単に飲むことができる。
私は手早くコーヒーを作ると、窓辺で一服することにした。
ここで少し休んでから帰ろうかなと、夕暮れの空を眺めながら思った。
- 299 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月24日(月)05時09分14秒
- 「とりあいず」→「とりあえず」ね。間違って覚えちゃってるっしょ?
だってこのスレ一度も「とりあえず」って出てこないんだもん。
- 300 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月24日(月)05時25分37秒
- 「いちよ」→「一応」 モナー
- 301 名前:晴れる 投稿日:2001年09月24日(月)23時59分09秒
- 「とりあいず」も「いちよ」も崩した表現で、
まあ、別にアリやと思うけどなあ。
更新まめで嬉しいね。おもしろいよ。
- 302 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月25日(火)01時31分03秒
- いや、崩した表現っていうか、天然で間違えてるだろ……?
- 303 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)06時19分44秒
- そっちのほうが豪快なミスなのに以外と意外よりは目に付かない俺は異常
- 304 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年09月26日(水)22時49分56秒
- 言葉の間違いは、全然気がついてませんでした。
完璧に天然で間違えてます。
これからは誤字や脱字には気をつけます。
ただ、吉澤編の場合はわざと崩した表現を使うことがあります。
それでも、それは崩し過ぎだと思ったら教えて下さい。
いちよ見直しかとしてるんですけど、気がつかないでそのまま書いてしまう
ことが多いので・・・・・。
これからは、なるべく注意して書くようにします。
- 305 名前:隠された私(1) 投稿日:2001年09月26日(水)23時27分34秒
- 部屋にコーヒーの匂いが漂い始めた頃、不意にドアを2回ノックされた。
「・・・・・・吉澤です。は、入っていいですか?」
吉澤の声は少し裏返っていた。
私はその声に少し吹き出してしまった。
相変わらず、おもしろい子だな・・・・・。
笑っていたら悪いと思って、私は顔を引き締める。
そして、顔を窓の外に向けたまま言った。
「ドア開いてるから、勝手には入ってきていいよ。」
少しの間があいてから、ドアが開く音が後ろでした。
程よく冷たい風が窓から入ってくる。
その風が私の髪をそっと揺らす。
私は髪を軽く掻きあげた。
そしてゆっくりと後を振り返ると、吉澤は唖然とした様子で私を見つめている。
吉澤が何も切り出さないから、私の方から声をかけた。
「どうしたの?何か用?まさか、本当にコーヒーを飲みに来たの?」
吉澤はその言葉で現実に戻ったようだった。
「いや、まぁ・・・・・・来たら、いけませんでした?」
と少し苦笑したような感じで言った。
緊張してる?
私には吉澤の顔が強ばって見えた。
プライベートで何かあったんだろう・・・・・。
でも、そんなこと私には関係ない。
コーヒーが飲みたいというなら構わない。
特にすることもないし。
- 306 名前:隠された私(2) 投稿日:2001年09月26日(水)23時31分31秒
- 私は窓から離れると、コーヒーの器具が置いてあるラックに向かった。
それは元々この部屋の窓辺に置いてあったもので、簡素な木製で出来ているけれど、
コーヒーを置くには役に立っている。
「でもちょうどよかったよ、コーヒー作ってたところだから。コーヒーって
冷めるとおしくなくなるし。」
私は少し強めで好き嫌いをありそうな、その独特の苦い匂いに思わず嬉しくなった。
ふと吉澤の方を見ると、なんだか不思議そうな顔してこっちを見ている。
どうやら、このサイフォン式で使う器具が気になるらしい。
まぁ、あんまり見かけるものじゃないからね。
吉澤の顔は、未知のものに出会って興味を示している子どものようだった。
だからいつもはしないんだけど、特別に器具の説明をしてあげた。
コーヒーのことになると、子どものように夢中になっている自分がいる。
私は滅多に人前でコーヒーのことを話さない。
そういう子どもの部分を、他人に見られたくないからだ。
なのに私は吉澤に話している。
・・・・・変な気分だった。
- 307 名前:いたこ 投稿日:2001年09月27日(木)21時20分56秒
- 私はそんなに誤字には気付かなかったです・・・。
そんなこと気になさらず今までどうり
面白い作品期待してます!がんばってください!
- 308 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年10月02日(火)22時41分23秒
- >いたこさん そう言ってもらえると嬉しいです。
別にそんなに気にしていないんですけど、でもやっぱり誤字とかはなるべくない
方がいいなぁと思ってます。
更新は少ないかもしれませんが、なるべく多くするようにします。
- 309 名前:隠された私(3) 投稿日:2001年10月02日(火)22時57分04秒
- なんで吉澤と話しているんだろう?
自分でもよく分からない・・・・・。
でも話をしているうちに、なんだか知らない自分になっている気がした。
時が経つの忘れ、いつの間にか夢中で話している。
私はそんな自分に気がついて、いつものように冷静な自分に戻った。
「えっ、あぁ、ごめん。・・・・・・こんな話してもおもしろくないよね。」
何やってんだ、私らしくない!
こんなに饒舌に人と話をするなんて、あのとき以来だった。
もう、こんな日はこないと思っていた。
人と楽しく話すつもりはなかった。
なのに、私は吉澤と話していた。
こんな風に話すのは、あいつの前だけだと思っていた・・・・・。
「あの、おもしろいですよ!コーヒーのこともっとしりたくなりました!」
吉澤は少し慌てた様子で早口で言った。
私が気分を害したとでも思ったんだろう。
別に・・・・・吉澤のせいではないのに。
けれど、お世辞でもそう言ってくれるのは嬉しい。
でもこの子の場合は、きっとお世辞じゃないないんだろうな。
だって本当に楽しそうに目が輝いているから。
- 310 名前:隠された私(4) 投稿日:2001年10月02日(火)23時15分55秒
- 私は台所に行くと、冷めかけているコーヒーを温め直した。
「・・・・・ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。コーヒーができた
けど、砂糖とか牛乳とか入れる?」
そして、吉澤にコーヒーを渡す直前に聞いた。
「えっ、あぁ、じゃぁ・・・・・・牛乳入れてもらえますか?」
吉澤は少し遠慮してる感じで私に言った。
私は軽く頷くと、台所の空いてるところにカップを置き、冷蔵庫から取り出した
牛乳を少し多めに入れて、スプーンでかき混ぜて味見をした。
私的には結構甘かった。
だけど、吉澤はどうやらコーヒーが飲める方ではないらしいから、これくらいで
ちょうどいいのかもしれない。
この前コーヒーをあげたとき確かに嬉しそうだったけど、どこか戸惑っている
ように見えたから。
いちよ飲んでいたけど、それは社交辞令というやつだろう。
それにこないだは砂糖とか無しのブラックだったから、かなり飲み難かったと思う。
ブラックで出されて飲める方が少ないか・・・・・。
まぁ、まだお子様ってことだね。
私は牛乳を入れながら、そんなことを思っていた。
- 311 名前:LINA 投稿日:2001年10月03日(水)21時17分19秒
- いつもこっそり読んでます♪(w
これからもがんばってくださいね〜〜!
弦崎あるいさんの作品ダイスキですよ☆
- 312 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年10月03日(水)22時44分14秒
- >LINAさん レスありがとうございます。
読んでいてくれれば、それだけですごく嬉しいです。
大好きと言われるとなんだか照れ臭いですけど、嬉しい言葉だなぁ思います。
それなりに更新するので、気が向いたら見てやって下さい。
- 313 名前:隠された私(5) 投稿日:2001年10月03日(水)22時57分52秒
- 「はい、牛乳入り。」
私はベージュ色になつたコーヒーを吉澤に渡す。
「あっ、ありがとうございます。これってカフェオレってやつですよね?」
吉澤は少し自慢するような口調で言った。
カフェオレねぇ・・・・。
まぁ、一般の人は大体そう言うか。
だけど本当はそうは言わない。
間違えて覚えいる人も多いようだ。
というようなことを、私は吉澤に説明してあげた。
気がついたら、またコーヒーのことについて話ていた。
言いたいことがたくさんあって、次から次へと言葉が口から溢れてくる。
私はなんだか心が弾んでいた。
そして、つい我を忘れて話し込んでいた。
なんだか胸に懐かしさが過る。
あいつにも、コーヒーのことをよく話してたっけ・・・・・。
私の話を聞いている吉澤の顔が、ふとあいつと重なって見えた。
いや、あいつのことはもういい!
今更思い出したって、もうどうしょもないんだ1
・・・・・自分の罪に溺れるだけだ。
吉澤と話していると、いつもの私じゃなくなる。
どうしてなのかは分からない。
でもそれは、あいつのときと同じだった。
- 314 名前:隠された私(6) 投稿日:2001年10月03日(水)23時20分37秒
- ふと見た吉澤は、どこか顔色が悪いようだった。
病気?
顔も少し赤いみたいだし、熱でもあるのかもしれない。
それともコーヒーが口にというか、体に合わなかったんだろうか?
「どうした?なんか少し気分が悪そうだけど、もしかして、コーヒーが口に
合わなかった?それとも・・・・・・話がつまらなかった?」
私は微笑しながら吉澤の顔を覗き込んで聞いた。
すると、吉澤は私から顔を逸らす。
けれど吉澤の顔はさらに赤みを帯びた気がする。
やっぱり、熱でもあるんだろうか?
もし具合が悪いのなら、保健室にでも連れて行こう。
「・・・・本当にどうした?熱とかあるの?」
私は不安になったので吉澤の額に手を当てた。
そのとき、吉澤の体が少しだけ震えた気がした。
私は額に手を当てたものの、別に熱があるとは思えなかった。
吉澤はカップを近くの机に置くと、いきなり椅子から立ち上がる。
・・・・私は吉澤に抱きしめられていた。
私は状況がすぐ理解できなくて呆然としていた。
そして少し経ってから、驚きのあまり目を見開いた。
でも、さらに驚くべきことが起こった。
「先生のことが・・・・・・・好きです。」
と吉澤に告白されていた。
- 315 名前:隠された私(7) 投稿日:2001年10月04日(木)00時01分16秒
- 「ちょ、イヤだよ、圭ちゃん!」
私は乱暴に彼女を抱きしめて、貪るように唇を重ねる。
「・・ヤメ・・てよ・・圭ちゃん!」
抵抗する彼女の衣服を剥いで床へ押し倒す。
彼女の甲高い悲鳴に耳も貸さず、自分の欲望の赴くままに従った。
抱くことしか頭になかった。
でもそれは、死ぬ程、狂おしい程、愛していたから・・・・。
けれど彼女は私を拒絶した。
でも私は、彼女を嫌がる彼女を快楽に溺れさそうとした。
これは人間の本能だから、仕方がないんだと思っていた。
けれどシーツに包まって泣いている彼女を見たとき、私は激しい罪悪感に襲われた。
自分のしたことに怒りを覚えた。
あまりの自分の浅はかさが許せなかった。
そして、彼女を深く傷つけたことを知った。
私は自分を責め続けたけれど、そんなことで彼女の傷は癒えない。
だから私は・・・・・・彼女の元を去った。
私は人を愛しちゃいけないんだ。
だってきっと大切な人を傷つけてしまう、そんな凶暴な自分が目覚めてしまうから。
愛する人を傷つけることが怖い。
だから、私はもう誰も愛さないと決めた。
なぜか醜い過去が回想され、私は自分の拳を痛いくらいに握った。
- 316 名前:隠された私(8) 投稿日:2001年10月04日(木)23時13分01秒
- いきなり部屋に校内放送が流れた。
それは、職員会議を告げる放送だった。
私は逃げるいい機会だと思い、吉澤の手を振り払って準備室を出た。
少しでも吉澤から離れたかった。
でなければ、答えを言わなければならないから。
誰も愛せないことを、私は吉澤に言わなければいけない。
だから思い出したんだろうか?
忘れかけていた、恐ろしい自分を・・・・・。
過去がきっと私に対しての警告してるんだよ。
「お前は2度と人を愛せないんだよ」って
そうやって、私を戒めているんだ。
私は早足で廊下を歩いて行った。
ちょうど角を曲がるというところで、吉澤の声が後ろから聞こえてきた。
「覚えといて下さい!今言ったことは、ウソとか冗談じゃないですから!」
その言葉いやに耳に残って、また背中によく響くと思った。
- 317 名前:心迷わせないで(1) 投稿日:2001年10月04日(木)23時39分37秒
- 私はすっかり薄暗くなった廊下を、ゆっくりと遅い歩調で歩いていた。
職員会議は集中できないまま終わった。
だから私は、準備室にまた戻ることになった。
できれば戻りたくなかった。
まだあの子が、あそこにいるような気がするから・・・・・。
今は会いたくなかった。
できれば逃げ帰りたいけれど、荷物は全てあの部屋に置いてあるために、一度は
戻らなければいけなかった。
どうしたらいいんだろ?
なんて言ったら傷つかずに済む?
教師と生徒が愛し合うなんてあまりに非現実的で、その対処法なんて私に分かる
はずがなかった。
私はそう考えている。
けれどあの子は、吉澤はそう考えていない。
ただ私のことが好きだから、その思いを素直にぶつけてきた。
でも、その思いには答えられない・・・・・。
きっとまた傷つけるだけだから。
あぁいうことはたくさんなんだよ!
もう・・・・・傷つけたくないんだ!
だからこれ以上、私の苦しみを増やさないで。
- 318 名前:心迷わせないで(2) 投稿日:2001年10月04日(木)23時53分25秒
- 教師を目指すことにしたのは、あいつへの罪滅ぼしだから。
あいつのような子達に何かすれば、それで自分が許されると思っていた。
でも、私のしたことは許されることじゃない。
そんな汚れていて、凶暴な私だから、純粋なあの子には相応しくない。
あの子はまだ色んな意味で子どもなんだよ。
だから私とは釣り合わない。
愛し合うことなんて、好きになることなんて、もうできないんだ・・・・・。
気がつくと準備室のドアが目の前にあった。
その瞬間、自分の体が強ばるのが分かった。
私は緊張している自分を落ち着かせ、一息ついてからゆっくりとドアに手をかけた。
そして、そっと中を覗くような感じでドアを開けた。
中は電気がついていなくて薄暗かったから、私はもう吉澤は帰ったんだと思った。
・・・・・だけど、あの子はまだいた。
吉澤はソファーに横になって、どうやら眠っているらしかった。
私は足音をたてずに、静かに吉澤に近づいた。
そして・・・・・その顔を見下げた。
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