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四〇九号室の娘。
- 1 名前:だれか 投稿日:2001年03月25日(日)23時20分36秒
メンバーによっては、かなりひどい扱いになってしまいます。
各メンファンのみなさま、先に謝っておきます。すいませんm(_ _)m
――この小説を裕ちゃんに捧げます。
- 2 名前:だれか 投稿日:2001年03月25日(日)23時22分04秒
瞬間、世界が激しく曲がった。
鼓膜を突き破るかのような金属音。そして、衝突音。
閃光。衝撃。驚愕。悲鳴。激痛……。
そして、爆発。
炎の中、恋人達がいた。
絶叫。
赤く、激しく暴れる指先は二人の足元を捕らえる。
炸裂する光と熱と圧迫感の中、二人は手を強く握り、互いの名前を呼ぶ。それは
二人が、それまでの人生で一番愛した者の名前だった。
やがて、炎は二人の体を飲み込んだ。徐々に焼かれ、痺れる肉体に二人の指先が
離れる。そして、のどから振り絞るように聞こえた互いの叫びも聞こえなくなり、
思考も強制的に断ち切られようとする頃……。
炎は、一つの命と一つの心を灰に葬った。
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月25日(日)23時24分35秒
四〇九号室の患者の日記より
十月二十日 火曜日
今日から日記を付けることにしよう。
別に誰に言われたわけじゃない。わたしのこの混乱した心を整理するた
めにやろうと思いたった。
その事を、主治医の飯田先生にはなしたら先生は、それはいい事ね、と
言って日記帳とペンを用意してくれた。もしよかったら圭織にも見せてね、
と言われたけれど、今のところそんなつもりは全然ない。はっきり言って、
まだ彼女達を信用する事ができないし……。
写真をもらった。飯田先生が持たせてくれたものだ。
写真には二人の女が写っていた。どこかの公園、季節は冬だろう一人は
厚手のセーター、もう一人はコートにマフラーをして、幸せそうに笑顔を
見せている。
右側の女は二十代後半。少し気が強そうだが、スラッとしたなかなかの
美人だ。
彼女に寄りかかるようにしてもう一人の女、いや、女の子がいる。身長
はかなり小さい、くるりとした大きな目がカメラでなく、隣の女を見上げ
ていて、幼い顔立ちにアップで結んだ髪がよく似合う。
- 4 名前:だれか 投稿日:2001年03月25日(日)23時25分31秒
二人は恋人同士だ。いや、だったというべきか……。
中澤裕子、そして矢口真里。
わたしと、死んだわたしの恋人。
そう、わたしの名前は、中澤裕子。少なくとも今はそう思っている。
おかしな話に聞こえるかもしれないが、そうなのだから仕方がない。
だからこそ今、わたしはこの精神科病棟に入院しているわけだから。
真実がどこにあるのか、残念ながら今の私には分からない。一刻も早く
全てを明らかにしたい。
だけど、飯田先生が言うように、焦るのは良くない。できるだけに冷静
に今の自分と向き合わなくては。
これからの日記で、今ある記憶を順に辿る事にしよう。
- 5 名前:だれか 投稿日:2001年03月26日(月)02時38分40秒
- 十月二十一日 水曜日
気がついた時、わたしは見知らぬベッドの上にいた。
外科病棟の一室。身体中に包帯を巻かれていて、少しでも身動きを取る
と体中に激痛が走った。
何かひどい怪我をしているらしい事は分かったが、なぜそんな事になっ
ているのかが不思議だった。
やがて、医師が現われた。わたしを受け持った、加護という名の外科医
だった。下手をすれば中学生の様にも見え、本当に外科医なのか、と一瞬
疑ったが、わたしが助かっているところをみると腕は確かなのだろう。前
髪をピタリと横に流し、しきりにそれを気にする姿が印象に残った。
医師の話すところによると、私はどうやら何か事故に遭って、瀕死の重
傷を負ったらしい。けれどそれを聞いてもわたしはちっともぴんと来なかっ
た。考えてみると、自分の名前も思い出せない。「事故」の事どころか、
自らの名前すらわたしは忘れてしまっていたのだ。
- 6 名前:だれか 投稿日:2001年03月26日(月)02時40分09秒
- 全身の打撲、骨折、火傷。この病院に運びこまれた時のわたしは、およ
そ生きているのが信じられないほどの重体だったらしい。
それを聞いて身体中の傷が疼いた。ただ、その痛みが顔にも走った瞬間。
わたしの心にどす黒い不安が降りてきた。
顔にも傷があるのか。
それを聞くと、医師は哀れむような顔で頷いて言った。顔もひどい怪我
と火傷だった、最善の処置は施したが完治するかどうかは分からない、と。
わたしは叫び、身悶えした。
医師と看護婦達が、慌てて私を押さえつけた。それでもわたしは、傷の
痛みも忘れて暴れていた。
そのうち鎮静剤を注射されて、わたしは眠りに落ちた。薄れていく意識
の中で、その時の私は、自分の心にある巨大な空白をはっきりと認めてい
た。
- 7 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月26日(月)02時54分31秒
- うーむ、怖い。加護が医者か・・・。そんな病院行きたいっす。
続き楽しみにしてます。
- 8 名前:だれか 投稿日:2001年03月26日(月)04時24分56秒
- >>7
<加護医者。配役的に、こうするしかなかったんです。
じゃなきゃ、辻にやらせるしかなかったもんで、
いくらなんでもそりゃないだろうと……ねぇ。
どうか、最後までお付き合いください。
- 9 名前:だれか 投稿日:2001年03月26日(月)07時39分03秒
- 十月二十二日 木曜日
何日もの薬による睡眠と覚醒が続いた。
目覚めるたびに、加護医師が訪れて、具合や気分を尋ねられた。けれどわたしは
何も答えなかった。ずっと自らの殻に閉じこもっていた。
医師はまた、訪れるたびに「わたし」について色々と教えてくれていたようだっ
たが、わたしにはそれは何の意味もない事にしか聞こえなかった。訳の分からない
単語の羅列。そんな感じでもあった。
日が経つににつれ、身体の傷は徐々に回復に向かったが、心の中に広がった空白
の方はいっこうに埋まる気配がなかった。
私は一体何者なのか?
その事が私の心を大きく悩ませつづけていた、そんなある日の事。
私は、看護婦に頼んである新聞記事を探してもらった。日付は七月二十日月曜日、
朝刊の社会欄の隅だ。
- 10 名前:だれか 投稿日:2001年03月26日(月)07時44分39秒
乗用車、崖から転落・炎上
十九日午前七時頃、○○県△△市××町の峠道で、乗用車がガードレールを突
き破り、およそ十メートルの崖下に転落、炎上していたのを偶然自転車で通りか
かった中学生辻希美さんが発見した。車に乗っていたのは、□□市**町の会社
員中澤裕子さん(二七)と友人の高校生矢口真里さん(十八)と判明。両名とも、
全身打撲、火傷等のため意識不明の重体。警察では、運転していた中澤さんが急
カーブで運転を過ったものと見ている。
- 11 名前:だれか 投稿日:2001年03月26日(月)07時49分44秒
- この事は、加護医師からもさんざん聞かされていた話だったのだが、どこか現
実味がなく、映画の中の出来事のようだった。
しかし活字、しかも新聞という媒体に載った、中澤裕子という名前を見た瞬間、
わたしの頭の中で光が弾けた。
わたしはこの名前を知っている。しかもごく身近な存在として。
中澤裕子と矢口真里の乗った車が崖から転落して炎上した。頭の奥にイメージ
が広がる。炎、熱、物の焦げる匂い、痛み……。
瀕死の二人は病院に運びこまれ、恋人の真里は死んで、わたしだけがかろうじ
て命を取りとめた。
そう、矢口真里は死んだ。
そして生き残ったもう一人がわたしなのだから、わたしが中澤裕子なのだ。
だけど……。
中澤裕子という名前に実感を抱きながら、なおも残るこの感じはなんだろう。
空白は埋められない。
まだこれだけじゃ、全てのピースは揃っていないという事か……。
自分が「中澤裕子である」、という確信と同時に、「もしかしたら」という疑
念を挟む余地がまだ心の中にあるは間違いない。
- 12 名前:84mo弐 投稿日:2001年03月26日(月)10時04分13秒
- 久々に文系なおもしろい小説を発見しました。
この先どうなるんでしょう?怒涛の急展開が待っているのか!?
『お気に入り』に入れておきましたので頑張ってください。。。
PS お気に触ったら恐縮ですけど、日付がこみこみな気が。。。理系な人間なもんで
数字とか細かいとこに気をとられてしまうタチでして(泣)。
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月26日(月)14時39分11秒
- メール欄が、小説の内容とは裏腹に面白くて笑えます!
小説、続きの展開が気になる〜。楽しみにしてます!
- 14 名前:84mo弐 投稿日:2001年03月26日(月)17時02分00秒
- >>13
気づかなかったZE!笑ったYO!!!!!!
- 15 名前:だれか 投稿日:2001年03月26日(月)20時28分59秒
- >84mo弐さん
日付、この後は適度にとびとびになると思います。はい。
それにしても、12と14で口調がまったく違う(笑
>>13
この後、いい意味で裏切れたらいいですね。頑張ります。
それにしても更新って、一日一回、決まった時間、っていう方がいいのかなぁ。
- 16 名前:だれか 投稿日:2001年03月26日(月)23時00分06秒
十月二十三日 金曜日
傷がだいぶ良くなり、身体を起こす事ができるようになると、わたしは外科
病棟から、今いる精神科病棟の四〇九号室に移された。
そちら方面の治療が必要だから、と加護医師は精神科の飯田先生を紹介して
くれた。加護医師と逆に、長身でスラリとしたスタイルの飯田先生は微笑みな
がら、車椅子の私に向かった。
「中澤裕子です。はじめまして」
そう言って私は会釈した。
「はじめまして、中澤裕子さん……、あなたの名前だよね」
笑顔のまま、精神科医は長い黒髪をかきあげて、わたしを見据えた。
「そうだと思います。ただ思い出したって言えるのは、この名前と、死んだ矢
口さんの名前だけで……。他の事は、教えて頂いても全然実感が湧かなくって」
「そうかぁ、はっきりと思い出せないのね。――事故の事も?」
「はい。そう言われればそんな気もするんですけど、具体的な事は全然……」
「なるほど。いやぁ、何にも心配する事はないよ。いわゆる記憶喪失ってやつ
だけど、気長に待ってればふとしたはずみで回復するもんだから。焦ったり悩
んだりするのはかえって逆効果だったりするしね。とにかく圭織を信頼してよ。
いい? 中澤さん」
圭織……。どうも彼女自身の事を指しているらしい。彼女の、医者らしくな
いくだけたしゃべり方に少し不安を覚えたが、悪い人じゃなさそうだと思った。
- 17 名前:だれか 投稿日:2001年03月26日(月)23時03分21秒
- この病室に入ってもう一週間になる。
その間、少しの”知識”の追加はあったけれど、同時にわたしを困惑させる
だけのでたらめな話も多く耳にした。その事をいちいちここに書くと混乱を招
くだけなのでやめておこう。
身体に巻かれていた包帯はすでに取り去られている。顔と頭はもうし
ばらく時間がかかるらしい。
もしも、ひどい火傷の傷が残る事になったら……。そう考えると気が狂いそ
うになる。
いや、考えるのはやめよう、飯田先生も心配する事はないと言った。今はた
だ、その言葉を信じるしかない。
- 18 名前:だれか 投稿日:2001年03月26日(月)23時19分30秒
- 十月二十四日 土曜日
今日は面会があった。
パッとよく目立つかわいい娘、といった感じ、ちょっと力の抜けたような表
情、口元。彼女は矢口真里の妹だと名乗った。名前は真希、まだ15才だそう
だ。学校帰りにやって来たと言う。
今までの入院中、彼女のような面会がなかったわけではない。外科病棟にい
た頃には、入れ替わり立ち替わり色々な見舞い客が来たそうだ。
でもその頃のわたしの心は、何しろ混乱の真っ只中にあったので、誰が来て
何をしゃべったかと言ったら、もう全くと言っていいほど記憶がない。
その後、わたしの心がある程度落ち着いた頃には、誰も訪れる客はなくなっ
た。飯田先生に聞いたところには、わたしの精神がまだ非常に不安定な状態で
あるため、その頃から面会の規制を始めたのだそうだ。
- 19 名前:だれか 投稿日:2001年03月26日(月)23時22分20秒
- 真希も、今まで何度もこの病院には足を運んだらしいが、わたしが精神病棟
に移ってからはずっと許可が下りなかったらしい。それがやっと面会が許され
たのが今日というわけだ。
とはいっても、「記憶喪失」と診断された私にはこの真希という女の子も初
対面同然、もちろん顔にも声にもまったく記憶がない。
白いブラウスに赤いスカートを着た彼女は、車椅子に座ったわたしの姿を見
ると、手で顔をおおいながら肩を震わせた。
おそらく、気がたかぶっていたのだろう、それから彼女は喚くように何かを
言いながら泣き出すと、そのままベッドに突っ伏した。
- 20 名前:だれか 投稿日:2001年03月26日(月)23時25分02秒
- 「大丈夫、元気にしてるから」
わたしが彼女の肩に手を置き、なだめると、
「違う。違うよ」
と、彼女は涙にむせながら口走った。
「お願いだから、落ち着いて。ね、真希ちゃん」
わたしはやりきれない気持ちで彼女の手を取った。彼女の手は冷たく、小さ
かった。彼女は「ああ……」と喘ぐように息を吐き出すと、「ごめんなさい」
と首を振った。
「分かってるよ、分かってる……」
肩で息をしながら、細い声で答える。わたしは、震える彼女の肩を強く抱い
た。
- 21 名前:だれか 投稿日:2001年03月26日(月)23時30分20秒
- やがて真希が落ち着くと、わたしは彼女からわたし、「中澤裕子」に関する
話を聞いた。真希は泣かずに色々と話を聞かせてくれたのだけれど、これといっ
た収穫は得られなかった。
ただ。
一つだけ、真希はとても気にかかる事を言っていた。
「今年の春頃から、裕ちゃんはお姉ちゃんの事で何か心配事があるみたいだっ
たの。いつか私が裕ちゃんと話した時、不安そうに漏らしてたんだ。最近、矢
口の様子がおかしい、誰か他に好きな人でもできたんじゃないかって。わたし
はそんなことないよ、って否定したんだけど、実際のところどうだったのかは
わたしには知りようがなかったから……」
- 22 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月27日(火)06時41分53秒
- マジ面白いっす。
後藤(あ、矢口真希?)のセリフ、気になりますのぅ。
一日一回、決まった時間の更新は、大変じゃないですか??
読んでる方としては嬉しいですけど。
ばてない程度に頑張って下さいまし。
- 23 名前:だれか 投稿日:2001年03月27日(火)07時14分48秒
- >>22
基本的に一日一回は更新するつもりです。で、なおかつ、ちゃんと終わらせると。
矢口真希。そういやそういう事になるのか……今頃気付いた(笑
なんともおかしな響きですね。
矢口真希。う〜ん。
- 24 名前:だれか 投稿日:2001年03月27日(火)23時17分20秒
- 十月二十五日 日曜日
昨日の真希の話が気になって仕方がない。
死んだ矢口真里に浮気相手がいた?
もちろん、その可能性は否定できない。むしろ、あの年頃の女の子だ、
そうであっても仕方がないかもしれない。
ただ、わたしが気になっているのは、恋人の浮気が事実か否かといっ
た事ではない。そうではなくて、その相手、矢口が付き合っていたかも
しれないという浮気相手そのもの。
真希によれば、わたしはその存在に薄々かんづいていたらしい。その
時の不安や嫉妬が、気になっている原因なんだろうか。
違う。多分、違う。
そんな単純な感情では片付かない何かが、心の深くに潜んでいる。そ
して、それこそが真実に辿り着くための重要な手がかりになるらしい。
わたしにはそう思えてならない。
- 25 名前:だれか 投稿日:2001年03月27日(火)23時19分08秒
- 十月二十七日 火曜日
この顔の包帯はいつとれるのか。
今日、思い切って担当の看護婦にその事を聞いてみた。
看護婦の名前は保田圭という。いつもわたしをよく面倒見てくれてい
るが、実際のところわたしは彼女に対して、あまり良い印象を持ってい
ない。
イメージとしては無機質。必要以上のおしゃべりはしない。与えられ
た仕事を行う間、わたしに向けられる無感動な眼差し。
その目で彼女は、哀れなこの記憶喪失患者に何を見ているのか。その
心は何を考えているのか。
いや、もしかしたら、わたしは圭のそのあまりにも無機的な目の中に、
自分の姿を映しているのかもしれない。結局彼女の目の中にも、自分の
心を探ろうとしているのかもしれない。
- 26 名前:だれか 投稿日:2001年03月27日(火)23時22分10秒
- 「この包帯、いつなったら取れるのかな」
唐突な質問に、圭は身をこわばらせて、視線をそらした。
「さぁ、外科の加護先生にお聞きしてみないと、何とも」
「ねぇ、保田さん。保田さんは毎日、包帯を取り替えてくれてるでしょ。
だからわたしの顔がどうなってるか知ってますよね。わたしの顔、元通
りになってるの? 治る見込みはあるの? それとも……」
「何を言うんですか」
彼女は少しうわずった声で言った。
「そりゃあ、少しくらいの傷は残ってますよ。だからまだ包帯が取れな
いわけでしょ。心配するのは分かりますけど、あまり神経質になっちゃ
ダメですよ」
「でも……」
「大丈夫。、もうしばらく治療を続ければ、もと通りのきれいな顔に戻
ります。先生もそうおっしゃってますから」
「本当に?」
「本当です。だからね、今はそれより心の病気を治す方に専念して下さ
い。顔の傷の事は忘れて」
わたしの顔。
「大丈夫」と言った圭の言葉を、そのまま信じてもいいのだろうか。そ
れともただの気休めにすぎなかったのか。
考え出すときりがない。
いまだにわたしの指は、首よりも上を触ろうとしない。
- 27 名前:だれか 投稿日:2001年03月27日(火)23時25分19秒
- 今日はこの辺まで、ひょっとしたら朝にもっかい更新するかも……。
- 28 名前:84mo弐 投稿日:2001年03月28日(水)13時21分39秒
- 看護婦保田圭。。。萎えage(笑
- 29 名前:T.K.O 投稿日:2001年03月28日(水)15時42分04秒
- ごめん。。俺は萌えage。。。
それはそれとして、話に引き込まれますね。
続き期待。
- 30 名前:だれか 投稿日:2001年03月28日(水)17時03分29秒
- >84mo弐さん
萎えっすか!? しょ、しょうがない。でもageてくれるんですね(笑
>T.K.Oさん
萌えっすか!? あやまんないで下さいよ。大手を振って萌えましょう。
そういう話ではないんですけどね。これ(笑
萎えたり、萌えたり。どちらにしても「さすが圭ちゃん」といった感じ。
すげぇや。保田圭。
- 31 名前:だれか 投稿日:2001年03月28日(水)19時08分05秒
- 十月三十一日 土曜日
夕方前、面会客が訪れた。
吉澤ひとみという名の女だった。矢口真里とは親友でわたしとも面識
があるそうだが、いくら言われてもわたしにはどうしても思い出せなか
った。
スラリとしたスレンダーなスタイルに短く切った髪の毛。お決まりの
あいさつの後、まじまじとわたしを見つめる彼女。わたしは彼女の瞳を
見つめ返す事もできず、逃げるように顔を横に向けながら言った。
「あの、吉澤さん。わたし、聞きたい事があるんだけど」
「うん。なんでも聞いて。わたしも少しでも記憶を取り戻す力になれれ
ば、と思ってきたんだから」
「ありがとう。もしこれから聞く事について少しでも知ってたら、率直
に答えてね」
ひとみが頷くのを確認して、わたしは質問した。わたし以外に矢口に
は恋人が存在したのか、と。
一瞬、ひとみは狼狽した顔を見せ、目が泳いでいるのがわたしにも分
かったが、やがて一つ息をつくと静かに話しだした。
- 32 名前:だれか 投稿日:2001年03月28日(水)19時11分26秒
- 「矢口には……、確かにそんな人はいたみたい」
「やっぱり」
「二年位前……、ちょうど中澤さんと矢口の付き合いが一年位した頃。矢口は
学校で一人の先輩と知り合ったの。安倍なつみっていう名前だったんだけど、
よく目立つ先輩で、学校でもアイドル的存在だった。で、その頃、中澤さんは
仕事が忙しかった時期で、二人の関係はかなりギクシャクしてたんだ。そのせ
いもあって安倍先輩と矢口はすぐに付き会うようになったの……。
- 33 名前:だれか 投稿日:2001年03月28日(水)19時16分29秒
- でもね。今だから言えるんだけど、わたしは安倍先輩がどうにも矢口を幸せ
にできるとは思えなかったんだよね。傍目から見ても、ちょっとしたすれ違い
から中澤さんとうまくいっていないって事も分かってたし。矢口にもその事を
話してた。そうしているうちに、矢口は中澤さんの事を改めて見直すようになっ
たの。
で、結局、安倍先輩とはそのまま別れる事になった。別れた、というより安
倍先輩の方が、夏休み中に姿を消してしまったんだけどね。学校も辞めたみた
い、理由はよく分かんなかったけど。でもその後、中澤さんとの付き合いもい
い感じに持ち直して、わたしもよかったなぁ、ってほっとしたんだ」
ひとみは一気にそこまで言い切ると、わたしの顔を窺った。
「まだ、続きがあるの?」
彼女は頷き、話を続けた。
- 34 名前:だれか 投稿日:2001年03月28日(水)19時21分00秒
- 「それから、二人の関係はうまくいってた。矢口もすごく幸せそうでこっちが
うらやましくなるくらいだったんだ。
でも、3月くらい、確か……土曜の夜だったかな。バイトの帰りに矢口を見
かけたの。一人じゃなかったから声はかけなかったけどね。
一緒にいたのは全然知らない女の子だった。いや、ちゃんと正面から顔を見
たわけじゃないからはっきりとは言い切れないけど、身長はちょうど中澤さん
位で、髪の毛はストレートの黒髪、ずいぶん女の子らしい格好をしてた。多分、
矢口やわたしと同じくらいの年だと思う。
結局、二人は肩を寄り添い合いながら腕を組んで、わたしに気付かずに行っ
ちゃったんだけど」
「それが矢口の浮気相手……」
「多分。ただの女友達っていう風には見えなかったから」
「その事、矢口に言ったの?」
「うん。でも矢口、何も教えてくれなかったんだ。中澤さんにばれたらまずい
んじゃない? って聞いても、軽く笑いながら、そりゃあまずいだろうなぁ〜、
っていうだけ、内緒にしておいてとも言わなかった」
「それで矢口はその人がどんな人だって言ってた?」
質問しながら、ある一つの予感があった。渦巻く心の中、何かが浮き上がろ
うとしているのが、痛烈な予感として感じ取れた。
- 35 名前:だれか 投稿日:2001年03月29日(木)23時23分57秒
- 「詳しい事は何も教えてくれなかった。職業とか年齢とか、そういうものはまっ
たく聞かなかったけど、名前だけは教えてくれたのよ」
「名前?」
「確か……いしかわりか、って言ったかな」
いしかわりか。
その名前を聞いた瞬間、わたしの中に衝撃が走った。新聞の中に”中澤裕子”
の文字を発見した時と同じ、光が頭の中で弾けるような衝撃だった。
わたしはこの名前を知っている。間違いなく身近な存在として、この名前を
知っている。
石川梨華。
間違いない。わたしはこの名を知っている。
- 36 名前:だれか 投稿日:2001年03月29日(木)23時30分12秒
- 読みかったかもしれませんがすいません。
これから話はどんどん重みを増していきます。
- 37 名前:だれか 投稿日:2001年03月29日(木)23時41分33秒
- >>36
うわぁ、ごめんなさい。『読みずらかったかも』の間違いでした。
それにしても、今日はTVで娘。がたくさん見れてよかった。
- 38 名前:だれか 投稿日:2001年03月30日(金)23時38分03秒
- 十一月一日 日曜日
昨日の出来事から、わたしは一つの確信を得た。
――わたしは何者なのか?
その答えはここにある。
わたしは”中澤裕子”そうでなければ”石川梨華”だ。
心の中の空白はまだ巨大な空間として存在していながらも、強い手ご
たえのある確信を得た感覚があった。
漠然とした疑念が、根拠のない二択問題に変わっただけだけかもしれ
ない。それでも確実に、わたしは真実に近づいているはずだ。
そう考えるのは少し楽観的すぎるだろうか。
- 39 名前:だれか 投稿日:2001年03月30日(金)23時40分24秒
- 十一月二日 月曜日
わたしは”中澤裕子”なのか”石川梨華”なのか。
わたしの心は振り子の様に揺れ続けてやまない。
どうやら昨日の楽観的な憶測は、やはり楽観的すぎたらしい。考えれ
ば考えるほど分からなくなっていく。
ちょっとまとめてみよう。
わたしが中澤裕子だとして――。
七月十九日の早朝、中澤裕子・矢口真里の乗った車が事故を起こした。
そして生き残ったのがわたし”中澤裕子”だった。
そうすると、石川梨華はどうしているのか。
梨華らしき人が見舞いに訪れたという話は聞かない。事故の事を知ら
ないのか、それとも立場上見舞いに来る事もできずにいるのか……。
- 40 名前:だれか 投稿日:2001年03月30日(金)23時42分51秒
- 問題はまだある。
わたしが”中澤裕子”だとして、どうしてわたしは”石川梨華”とい
う名前をよく知っているのか。
真希の話によると、今年の春の時点でわたしは矢口の浮気相手の存在
を疑っていたらしい。ということはその後、なんらかの方法でわたしは
相手の名前を聞きだしたという事になる。矢口に詰め寄ったのか、自分
で探り出したのかは分からないけれど、ひょっとしたらわたしは梨華本
人に会った事があるのかもしれない。
- 41 名前:だれか 投稿日:2001年03月30日(金)23時48分40秒
- 一方、わたしが石川梨華だとする――。
そもそも、運転していたのは中澤裕子だとされているが、それが石川
梨華だった可能性もないわけではない。車は矢口の家のものだった。だ
からひどい火傷の二人のうちの一人が、矢口だと判断されたわけだが、
もう一人が、その親しい友人だという理由だけで中澤裕子だと判断され
た可能性もあるわけだ。
そうすると、その女が実は浮気相手の石川梨華であったという事も充
分にありえる。
入院以来、わたしは警察関係者にも面会客にも素顔をさらしていない
し、その上過去の記憶を失っている。たとえわたしが中澤裕子だろうが、
石川梨華だろうが、それは誰にも知りようのない事だ。
ただその場合、”今、中澤裕子はどうしているのか”という疑問が残る
が。
- 42 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月31日(土)02時50分30秒
- 思考実験みたいで面白い。
あげ。
- 43 名前:だれか 投稿日:2001年03月31日(土)23時09分44秒
- >名無しさん
思考実験ですか? う〜む。
この先、お楽しみです。
- 44 名前:だれか 投稿日:2001年03月31日(土)23時11分40秒
- 十一月三日 火曜日
一つ、わたしが中澤裕子なのか石川梨華なのかを確かめる方法を見つ
けた。
指紋の照合。
幸い、手や指の傷は完治している。顔に包帯が巻かれている今、でき
る事はこれしかないだろう。
ただ、これには協力が必要だ。
思い切って飯田先生に相談しようか……いや、でもそれは。
やっぱり顔の包帯が取れるまで待つしかないのか。
- 45 名前:だれか 投稿日:2001年03月31日(土)23時14分58秒
- 十一月七日 土曜日
昨夜もまた、恐ろしい夢を見た。
わたしはいすに座っている。固い木のいす。視線は動かせるが身動き
を取る事ができない。
冷たい感触が肌をなでる。耳に吹きかけられる、小さな息。
(おはよ、お人形さん)
わたしの事を指しているらしい。そこでさっきから肌をなでる、冷た
い感触は誰かの手だという事が分かった。
(可哀想なお人形さん)
手は少しの遠慮もなく顔を撫で回す。と、その手の動きがわたしの後
頭部で止まった。
(こんなもの取っちゃおうよ)
そう言ってわたしの頭に巻かれている包帯をほどきだす。
やめて、と言おうとしたが言葉にならない。
- 46 名前:だれか 投稿日:2001年03月31日(土)23時17分06秒
- (さあ、おしまイよ)
少し調子のはずれた声に変わった。
(かワいそぅナおにんぎョうさん)
息づかいが後方から、前に移って来る。
(よクみてゴラんなさい、あなタのかぉヲ)
目の前に差し出される鏡。
(めをソらしチャ駄め。ね、ちゃんとミて)
わたしは、そこにあるものを認識するのにしばらく時間がかかった。
――ばけもの。
それが最初に浮かんだ単語だった。
(なンて加わ衣そうなオ人形さン)
悲鳴――そして、闇。
- 47 名前:だれか 投稿日:2001年03月31日(土)23時24分08秒
- キリがいいのでここで切っとこう。
思うんですけどこういう小説ってどうなんすかね?
まわりに比べ随分重いなぁ、と思いまして。
それにしても、今日の中澤SPは笑った。
- 48 名前:T.K.O 投稿日:2001年04月01日(日)10時45分02秒
- 私はこういう雰囲気の小説、すごく好きです。ぐぐっと引き込まれますね。
ますます続きが楽しみです。彼女はだれなんや。
今日は大運動会行ってたので、特番録ったけどまだ見てません。
*なんだか最近、mailto:にコメント書くの流行ってきてますね。
- 49 名前:だれか 投稿日:2001年04月01日(日)23時40分01秒
- >>T.K.Oさん
どうもありがとうございます。
大運動会行ってきたんですか。うらやましい。まだ一回も生で娘。見た事ないんですよ。
確かにメール欄コメントに書いてる人、ちょこちょこ見ますね。
あんまり考え無しにやってるんですけど、流行ってんですかねぇ。
- 50 名前:だれか 投稿日:2001年04月01日(日)23時42分08秒
- 十一月十三日 金曜日
日課となっているカウンセリングの時、わたしは決心を固め、飯田先
生に考えを打ち明けた。わたしは中澤裕子ではなく、石川梨華という別
の女なのかもしれない、と。
「なるほどぉ。石川梨華、あなたはその名前に確かにピンときたわけね」
「はい」
口調はともかく、飯田先生の実に真剣にわたしの話に耳を傾けてくれ
る態度は、わたしを多少勇気付けた。
「だからわたしは誰なのか、それを確認させて欲しいんです」
「確認?」
「はい。中澤裕子の写真とわたしの顔を見比べるか、今それができない
のならば、指紋の照合でもかまいません。とにかくなにかしらの方法で、
わたしが誰なのか、それを確認したいんです」
- 51 名前:だれか 投稿日:2001年04月01日(日)23時43分35秒
- 「写真は前に渡したよね。でも、顔の包帯はいつ取れるか分からないか
ら……」
「そんなに長くかかるんですか?」
「わたしは専門じゃないからね。それは何とも言えないんだ」
「先生。もし、知ってるならはっきり言ってください。ひょっとして、
わたしの顔はもう人目にさらせないくらい……」
「ちょ、ちょっと待って、そんな風に悪い風に考えちゃいけないよ」
先生はたしなめたけれど、その声にはどことなく戸惑いが感じられた。
「そうだなぁ……。分かった、それじゃあ指紋の方を圭織がなんとかし
とくよ、中澤裕子とはっきり証明できる指紋を手に入れられるようにさ」
- 52 名前:だれか 投稿日:2001年04月03日(火)04時48分53秒
- 十一月二十二日 日曜日
久しぶりの日記だ。
飯田先生はどうも指紋の事を忘れているらしい。それとも知っていて
話さないのか、まったくその件に関しての話はない。わたしもあえて黙っ
ている。
やはり他人は信用できないという事か。
- 53 名前:だれか 投稿日:2001年04月03日(火)04時50分42秒
- それにしても……。
包帯はいつになったら取れるのか。相変わらず悪夢は続いている。決
まってこのあいだの日記に書いたのと同じ夢だ。同じ夢ながらそのリア
リティーは増しているようにも思う。いい加減疲れてきた。
医師の言葉を信じていいのか。慰めにすぎないのではないか。包帯の
下にはどんな顔があるのか。
考えていると叫び出したくなる。
ああ、ホントに気が狂いそうだ。
いっその事、勝手にほどいてしまおうか。この手で。
いや、それはできない。
怖い。
そんな事、できるわけがない。
- 54 名前:名無しなっち 投稿日:2001年04月03日(火)06時46分33秒
- 飯田先生しっかりするべさ!
- 55 名前:名無しなっち 投稿日:2001年04月03日(火)06時49分30秒
- 飯田先生しっかりするべさ!
- 56 名前:だれか 投稿日:2001年04月03日(火)23時24分05秒
- >名無しなっちさん
飯田先生ですから……。しゃあないと言えばしゃあないかも(笑
- 57 名前:だれか 投稿日:2001年04月03日(火)23時30分03秒
- 十一月二十三日 月曜日
包帯の下。
わたしの顔。
今日も一日、叫び出しそうになるのを必死にこらえていた。
包帯の下。
わたしの……。
嫌だ。もうたくさんだ。
もうなにも、考えたくない。
- 58 名前:だれか 投稿日:2001年04月03日(火)23時31分21秒
- 十一月二十四日 火曜日
包帯の下には醜い顔がある。
夢で見た、ばけもののような。
いっその事、その事実を知ってしまった方が楽かもしれない。
半端な希望なんて抱いているからいけないんだ。
いっそのこと……、いや、でも怖い。
- 59 名前:だれか 投稿日:2001年04月03日(火)23時32分46秒
- 十一月二十五日 水曜日
もう耐えられない。
飯田先生。加護先生。保田さん。真希ちゃん。吉澤さん。
誰でもいい。
わたしを助けて。
- 60 名前:だれか 投稿日:2001年04月05日(木)00時01分25秒
- 十一月二十七日、土曜日の朝。看護婦の保田圭は、いつも通りに朝食
を持って四〇九号室へと向かっていた。
ここ数日は、患者もいよいよ無口になって、ひどい鬱状態が続いてい
る。よい病状ではない、と飯田先生も大変心配していた。
無理もないわよね。圭は思う。
愛する人間を亡くして、記憶を失って……。身体の傷の方は比較的軽
くすんだけど、よりによって顔の傷が一番ひどくって……。
本人には大丈夫だと言ってある。現在の形成外科技術の進歩はめざま
しい、実際大丈夫なのだろう。それならばその事を伝えればいいのに、
と思うけれど、それを告げれば患者は、自分の顔を見ようとする、そし
てそれによって知らされる事実は、現在の彼女の微妙な精神の均衡を大
きく損ねる結果になる。
それが医師達の見解だった。
- 61 名前:だれか 投稿日:2001年04月05日(木)23時19分18秒
- つまりどちらにしても、精神はそのバランスを保てないという事だ
が……。
わたしが考える事じゃないわ。圭は自分にそういい聞かせる。
この病院、しかも精神病棟という特殊な環境で働くために必要な事は、
与えられた仕事を確実にこなす、それだけに集中する事。余計な私情を
挟めば、自分の方がまいってしまう。それどころかそれは、時として非
常に危険な事態も起こしかねない。
四〇九号室の前。
圭は一つ大きく息をする。
が、ドアの前の窓から部屋の中を覗きこんだところで、圭は思わず小さ
な悲鳴をあげた。
赤く染まったシーツ。ベッドからしたたり落ちる鮮血。ほどけ落ちた
包帯。そして、力なく垂れ下がった頭。
圭は思わず朝食を床に落とし、もつれる足で廊下を駆け出した。
- 62 名前:名無しなっち 投稿日:2001年04月06日(金)05時36分08秒
- 何があったべさ!?
っていうか、二重投稿ごめんちょ。
- 63 名前:84mo弐 投稿日:2001年04月06日(金)08時09分22秒
- なんか感想レス少ないですね。。。おもしろいのに。他の人達はやっぱりメンバー
同士の甘い恋愛話の方が好きなのかな?俺としては大期待age。ということで。
ちなみにこの「409号室」の由来は何なんだべ?
- 64 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月06日(金)16時44分17秒
- 面白いと思って読んでました。
個人的には甘い恋愛ものより全然好きです。
先が読めない展開で面白いので、続き期待してます
- 65 名前:lazyfrog 投稿日:2001年04月06日(金)19時12分32秒
- 僕も読んでます。期待大に一票。
でも、こういうのってレスしないほうがいいかな、って勝手に思っちゃってるんです。
作者さんとしてはどう思ってるんでしょうねぇ?
ところで、409ってありえませんよね?
どんな意味があるんだろう・・・?
- 66 名前:だれか 投稿日:2001年04月06日(金)23時40分15秒
- >名無しなっちさん
問題なしですよ(笑)<二重投稿
>84mo弐
感想レスがつくだけでも大感謝です。ホントにうれしい♪。
甘い恋愛話、紫で練習だと思って書いてみたりはしてるんですけど、まぁ四苦八苦で……。
基本的には人のかかない、というかここの小説にないタイプで、色々なジャンルの小説を書ければと思っています。
>64さん
なんとかご期待にそえるように頑張ります。ホント、がんばろ(^^;
>lazyfrog
<レス 応援でも苦情でも意見をもらえると書きつづける力になります。ありがとうございます。
むしろ、こんなにこまめに上げてると読んでくれてる人達が読み難くならないかなぁ、ってこっちが心配。大丈夫かな?
”四〇九号室”について
この話の元となった小説から頂きました。
変えようとも思ったんですけど、それはちょっとフェアじゃないなぁと思いまして。
でも逆にみなさんのハンドルの由来にも結構興味ありますよ(^_^
- 67 名前:だれか 投稿日:2001年04月06日(金)23時44分30秒
- 四〇九号室の患者の日記より
十二月五日 土曜日
今日からまた、日記を付けよう。
――あの日。
話によると、わたしの怪我は自分で顔をかきむしったのとベッドの角
に頭をぶつけただけのものだったらしく、大事には至らなかったそうだ。
それよりもその後のわたしの精神の錯乱がひどかったく、何日もあらぬ
事を口走っていたらしい。
- 68 名前:だれか 投稿日:2001年04月06日(金)23時48分06秒
- 今、わたしはなんとか平静を取り戻しているが、あの日のわたしは完
全に精神的に追い詰められていた。気付くと顔の包帯を無理やりに引き
剥がそうするわたし。その先はあまり覚えていない。
その先にわたしは何を見たのか。
……いや、いい。
もう顔の事は考えまい。
そう、正気を保ちたければ、すっぱりあきらめてしまおう。
開く事のない未来の扉なんて、わたしには必要ない。
- 69 名前:だれか 投稿日:2001年04月06日(金)23時56分54秒
- ああ!
84mo弐さんとlazyfrogさんに”さん”つけ忘れてた。>>66
ごめんなさい。悪気はないっす。
- 70 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月07日(土)07時44分40秒
- どきどきしながらいつも読んでます。
- 71 名前:lazyfrog 投稿日:2001年04月07日(土)11時19分37秒
- 作者さんからお許しもらっちゃったんでレスしちゃいます。
>>69 の
( `.∀´)「わたしの顔に免じて許してね♪」
には笑った。なんか最近圭ちゃんが好きになってきたんで、ちょっと嬉しかった。
ていうか少なくとも僕には“さん”とかつけないでいいです。
更新楽しみにしてます!
- 72 名前:だれか 投稿日:2001年04月07日(土)23時16分22秒
- >70さん
ありがとうございます。どきどきしていただければこれ幸いです。
>lazyfrogさん
いやいや、読んでくれるだけでもありがたい。”さん”つけさせてください(笑
圭ちゃん。いいですよねぇ。俺も好きですわぁ。
裕ちゃんの卒業までにはこの小説を終わらせたいと思ってます。
- 73 名前:だれか 投稿日:2001年04月07日(土)23時17分29秒
- 十二月六日 日曜日
未来の扉なんて必要ない。
もし、そんなわたしに残されているとすれば過去。
過去のおもいでだけだ。
また、始めよう。
わたしは中澤裕子か。石川梨華か。
手がかりは依然としてない。けれど、どちらにしても矢口真里を愛し、
愛された存在としてのおもいでがあるはずだ。
せめてそれくらいは欲しい。おもいでを抱いて生きていきたい。
そのためには――。
やはり、わたしが裕子か? 梨華か?
とにかくそれを知らなくてはならない。
- 74 名前:だれか 投稿日:2001年04月07日(土)23時18分43秒
- 十二月九日 水曜日
今日、わたしの中で一つの記憶が甦った。
部屋の中を、小さな虫が飛んでいた。
耳に伝わる、甲高い羽音がわたしの頭を掻き乱す。
うるさい。
――その時。
ぼんやりと虫の飛ぶ様を目で追うわたしの心に突然、殺意がうまれ、
それが極みに達した。
パチン。
虫を両手で打ったその瞬間。
殺した。
という言葉が生まれた。
殺した。
わたしが殺した。
わたし。
乱れる髪。
香水の匂い。
心臓の音。
連鎖的に湧き上がる感覚。
そこにはこの手で誰かの首をしめるわたしがいた。
――わたしが人を殺した?
そんなはずが……、でも、この記憶は確かに。
何度も自分に問うが、答えは全て、わたしが人を殺したという事実を
示していた。
どこのだれかは分からない。何故そんな事をしたのかも分からない。
けれども、わたしは確かに一人の女を殺したのだ。
- 75 名前:だれか 投稿日:2001年04月08日(日)04時04分17秒
- 十二月十一日 金曜日
中澤裕子と石川梨華。
わたしがどちらだとしても、こうは考えられないか。
あの日の深夜、わたしと矢口は車でどこかへ出かけた。そして、どう
いう流れからかは分からないが、わたしと女(裕子か梨華)は出会い、
逆上。結果、わたしは女を絞め殺す。
そのあと、わたしと矢口は女の死体を車に積んでそれをどこかに隠し
に行き、その帰り道での事故に遭った。
記憶と事実からすればこの推測は高い確率であたっていると、わたし
は思う。
しかしながら、わたしが裕子か? 梨華か? 殺された女が裕子なの
か? 梨華なのか?
その問題は依然、解けないままなのだが。
- 76 名前:だれか 投稿日:2001年04月08日(日)04時05分42秒
- 十二月十五日 火曜日
イチイトウゲ。
今日、いつものように保田圭の持ってきた昼食を食べている時に、な
んの脈絡もなく、突然この地名が思い浮かんだ。
市井峠。
わたし達が事故にあった場所から、さらに山の方へ入った所にある場
所。
そして、
女を埋めた場所。
- 77 名前:だれか 投稿日:2001年04月08日(日)23時12分39秒
- 十二月十六日 水曜日
わたしが一体何者なのか?
その答えは市井峠、そこにある。
そこに埋められている死体が誰のものなのか。それが明らかになる事
によってわたしが、裕子なのか、梨華なのかがはっきりするはずだ。
わたしは今、その事を、飯田先生に打ち明けてしまおうかと思ってい
る。
どの道、わたしに未来はない。それならば殺人の罪に汚れた過去だと
してもわたしは取り戻したい。
――それに。
わたしは中澤裕子か石川梨華をこの手で殺した。それが真実とするな
らば、まさにそれこそが、わたしが矢口真里に対して抱いていた愛の、
その大きさの証明となるではないか。
一人の人間を、わたしはそれほどまでに愛していたということだ。わ
たしはきっとこの心と身体に、矢口真里の愛をうけたはずなのだ。
他にはもう何も要らない愛し愛された過去のおもいでだけあればいい。
もちろん、それでわたしの記憶が全てよみがえるとは限らないだろう。
けれど、まず殺された女がどっちだったのかを明らかにすることで、自
分の名を証明したい。そう思う。
明日のカウンセリングの時、飯田先生に話してみるつもりでいる。ど
うか先生が、わたしの話を信じてくれますように……。
- 78 名前:だれか 投稿日:2001年04月08日(日)23時14分16秒
- 十二月十七日、木曜日。
四〇九号室の患者の告白を聞いた精神科医、飯田圭織は、患者をなる
べく刺激しないように、その願いを承知したと言って病室を出た。
さぁ〜て、どうしたもんだろ。
部屋に戻り、コーヒーをすすりながら圭織は思案した。
本人があれだけ訴えるんだから、女を殺して埋めたっていう記憶の蘇
生はまず間違いない。
このあいだ、石川梨華という女の件を聞かされた時は、妄想なんじゃ
ないかと疑った。でも、患者の話に出てきた吉澤ひとみという子に問い
合わせたら、その女は確かに存在するという確認が取れた。だから、さっ
きの話も無視してしまうわけにはいかない、筋も通ってる。そんな「殺
人」が現実に起こってた可能性も否定できない。
そこまで考えて、圭織は一つ大きな伸びをした。
「……やっぱり警察に知らせておいた方がいいかもしれないなぁ」
- 79 名前:だれか 投稿日:2001年04月08日(日)23時17分05秒
- 三日後、○○県△△市××町、市井峠奥の雑木林で、女性の他殺死体
が発見された。
MM*総合病院精神科の飯田医師からの情報提供を受けて、その付近
の捜索に当たっていた警察官達は、知らせどおりに見つかった死体に一
様に驚いたが、しかし、その一方で、医師の話とは矛盾する、どうにも
不可解な事実に首を捻らずにはいられなかった。
確かにそこに死体はあった。
だが、その死体は完全に白骨化しており、鑑定の結果、死後すでに
”二年以上経過”していたものだということが判明したのだ。
- 80 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月08日(日)23時39分46秒
- どんどんすごい話になってくなぁ。
これからどうなってくのか大期待!
- 81 名前:だれか 投稿日:2001年04月09日(月)23時15分49秒
- >80さん
ありがとうございます。まもなくクライマックスです。期待どおりに終わらせたい♪
- 82 名前:だれか 投稿日:2001年04月09日(月)23時18分50秒
- 四〇九号室の患者の日記より
十二月二十三日 水曜日
そんな馬鹿なことがあるのか。
今日、飯田先生から聞かされた。
わたしの言ったとおり、市井峠の雑木林からは女の他殺死体が見つかっ
た。ところがそれは完全な白骨死体で、身元を示すような所持品もなく
どこの誰だか分からない、しかもその上、死んでから二年以上も経った
死体だと言っていた。
飯田先生の話がほんとだとするなら、死体は中澤裕子のものでも石川
梨華のものでもありえないということになる。
では、わたしが殺し、あそこに埋めた女は一体誰だったのか? そし
て、わたしは誰なのか?
- 83 名前:だれか 投稿日:2001年04月09日(月)23時19分48秒
- 十二月二十五日 金曜日
なんだか風邪をひいてしまったみたいだ。
午前中、内科の医師がやって来て、薬を処方してくれた。二、三日の
安静が必要との事。
夜、保田圭が持ってきた夕食のトレイの上に箸が三本あった。
「あら? ごめんなさい。確か二本置いたはずなのに」
それから圭は箸を一本取り、自分のポケットにすっと挿した。
圭は相変わらず無口だけれど、最近は時々、その静かな目の中に何か
しら暖かなものを感じる。同情か、哀れみか。……なんだっていい、今
のわたしには何かすがるものが必要だ。
- 84 名前:だれか 投稿日:2001年04月09日(月)23時23分03秒
- 十二月二十六日 土曜日
なぜか、昨日の箸の事が妙に気にかかった。
(……三本の箸)
意味はない。いや、意味はない?
(二本で一組……)
なにかの暗示? わたしの中で……。
(1+1=2)
当たり前だ。
(2−1=1)
だから、わたしは裕子あるいは梨華なのだ。わたしがもう一人を殺し
たのだから。
(2−1=1)
引かれた1はどっちだったのか。
あっ、違う。この1が引かれたのは今から二年以上前のことだった。
ということは、1は裕子でも梨華でもなく……。
(元が3?)
つまり……。
(3−1=2)
残った2のうちの1がわたし。では、もう一つの1はどこに消えたの
か。引かれた1はだれだったのか……。
頭が痛い。
- 85 名前:だれか 投稿日:2001年04月09日(月)23時24分38秒
- 十二月二十八日 月曜日
(箸……)
また考えてる。
(1+1=2)
本当に?
もしそうではないなら、何が見えてくる?
(箸は2つで……)
まさか。
(1+1=1)
ありえない? いや、ありうる。
もしもそうならば……。
中澤裕子。
石川梨華。
裕子と梨華。
まさか……。
- 86 名前:だれか 投稿日:2001年04月09日(月)23時32分51秒
- m(_ _)m
ちょっとこの二日で一気に更新させてもらいました。
次の更新は木・金曜日あたり、予定通り日曜日には終わります。
- 87 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月10日(火)00時32分16秒
- どうしよう、最初からきっちり読み直そうか。
下手に予想して外れると立ち直れなさそう。
- 88 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月10日(火)04時08分58秒
- う〜む…ラストが非常に気になる……
期待しとりますぞ作者殿
- 89 名前:だれか 投稿日:2001年04月13日(金)07時27分05秒
- >名無しさん
予想が当たるか。これからお楽しみです(^^;
>88さん
ありがとうございます。ラストまで頑張ります。
- 90 名前:だれか 投稿日:2001年04月13日(金)07時29分04秒
- 十二月三十日 水曜日
空白が、埋まった。
わたしは一体何者なのか?
やっと答えが見つかった。
1+1=1。
まさか、ではなかった。昨日の思いつきは、まさに事の真相を言い当
てたものだったのだ。
今や、わたしは迷いなく言いきれる。わたしの名は”中澤裕子”だと。
矢口真里は恋人中澤裕子のことを、誰よりも深く愛していた。
そして同時に彼女は、それと同じ心で、同じ深さで、石川梨華のこと
も愛していたのだ。
裕子。
梨華。
そして1+1=1。
ドロドロとした頭の中で、これらの言葉が形をつくっては崩れ、崩れ
てはまた形をつくった。
そして今日それがある一つの形を成した。それを自らの記憶として知っ
てしまった。
”石川梨華は中澤裕子のもう一つの名前だった”
二人は同一人物だったのだ。
- 91 名前:だれか 投稿日:2001年04月13日(金)07時30分38秒
- 中澤裕子と矢口真里。
少し年の差はあったが付き合って三年になる恋人同士。二人は愛し合っ
ていた、そして愛し合っていきたいと願っていた。けれども、社会人の
裕子と、学生の真里、そこには常に一抹の危機がつきまとっていた。
二年前、矢口は一人の女と遊んだ。完全に心を許したわけではない。
この年頃の女の子なら仕方のないともいえる。けれど、やがて彼女は悔
いた。自分の愛しているのは裕子だけだと、自分を責め、言い聞かせた。
そこで起こってしまったあの事件……。
単調な生活と時の流れの中で、永遠に続くはずの愛は、いやおうなく
元の形を失っていく。あの事件のあと、二人は前にも増してそれを恐れ
るようになった。
そこで講じた、一つのゲーム。
あるいは異常、滑稽ともとれるゲームだった。
以来、裕子は二つの顔を演じる女となった。
一つはそれまでどおり裕子として。
もう一つは、裕子とは違う、矢口と同年代のかわいらしい恋人として。
矢口は週に一度、”彼女”に会う。名は石川梨華。長い黒髪、女の子
らしい服装、ピンクのルージュ……普段の裕子からは想像もつかないよ
うな女の子に変身し、ゲームに興じた。
愚かな事、などとは言わせない。誰にそんな事が言えるのか。わたし
たちはわたしたちなりに、懸命に生きていたのだ。
結果、二人のまわりの者たちは皆――真希も、ひとみも――、そんな
二人の関係をすっかり誤解していたわけだった。
- 92 名前:だれか 投稿日:2001年04月13日(金)07時31分36秒
- わたしは一人の女を殺した。そしてそれは確かに二年以上前のことだっ
た。
女の名は安倍なつみという。あの時、矢口が遊んだ相手だ。
二年半前の夏、わたしはなつみを絞め殺した。矢口がなつみと別れよ
うとしていた頃、ある夜、わたしの家まで押しかけてきたなつみの悪態
に逆上したあげくの事だった。そして、わたしと矢口はその死体を車で
運び、市井峠の雑木林の中に埋めた。
だから、今度こそ間違いない。
林で発見された白骨死体は、安倍なつみという女のものだ。
- 93 名前:だれか 投稿日:2001年04月13日(金)07時33分06秒
- 七月十八日の夜。わたしたちは車で市井峠に向かった。
二年経ち、死体を埋めた雑木林がどういう状態なのかを確かめにいく
ためだった。
そして、間もなく市井峠に着こうというころ――。
仕事による疲労のためだったのだろう、急カーブでわたしがハンドル
を切り損ねた。
甲高いブレーキ音。
何も考える間もない刹那、世界が激しく曲がった。
鼓膜を突き破るかのような金属音。そして、衝突音。
閃光。衝撃。驚愕。悲鳴。激痛……。
そして、爆発。
血とガラスの破片にまみれて倒れた、矢口とわたし。
赤く、激しく暴れる指先はわたしたちの足元を捕らえる。
わたしは絶叫した。
炸裂する光と熱と圧迫感の中、わたしたちは手を強く握り合い、わた
しは彼女の名を叫ぶ。
彼女はわたしと目が合うとその虚ろな目に光を宿し、唇をゆっくりと
動かす。彼女はわたしの名を呼んでいた。「り、か」――そして「ゆ、
う、こ」と。
やがて、炎はわたしたちの体を飲み込んだ。徐々に焼かれ、痺れる肉
体にわたしたちの指先は離れる。そして、のどから振り絞るように聞こ
えた互いの叫びも聞こえなくなり、思考も強制的に断ち切られようとす
る頃……。
炎は、矢口の命とわたしの心を灰に葬ったのだ。
- 94 名前:だれか 投稿日:2001年04月13日(金)07時36分03秒
- 毎度長くてすいません。もうちょっと続きます。
- 95 名前:酢漬け 投稿日:2001年04月13日(金)20時48分35秒
- たのしみにしてます。
- 96 名前:だれか 投稿日:2001年04月14日(土)17時56分13秒
- >95さん
ありがとうございます。
- 97 名前:だれか 投稿日:2001年04月14日(土)18時02分00秒
- 十二月三十一日、木曜日。その年の最後の朝。
患者の話を聞き終えると、圭織はしばらく黙って考え込んだ。それか
らおもむろに机の上の鞄から封筒を取り出すと、患者に向かって差し出
した。
「あなたの思い出した事は、多分事実だろうとは思うけど」
心を決めて、圭織は言った。
「今日まで、いつ見せようか迷ってたんだ。その封筒の中身を見てもら
えるかな? あなたが欲しがっていたものなんだけど」
封筒の中には二枚の写真が入っていた。
「一枚は、中澤裕子の指紋。彼女は一年前交通違反で捕まった事があっ
て、それはその時のもの。もう一枚は、あなたの指紋。食器に付いてた
のを採らせてもらったの」
圭織の説明を聞いて、患者の手がぴくりと動いた。圭織はその様子を
観察しながら、
「どうぞ、二つの指紋を見比べて。鑑定する必要もないわよね」
患者は、白い包帯の隙間から覗いた目で、食い入るようにそれらを見
比べた。身体全体が、ぴくりとまた動いた。
「よく見て」
圭織がいつになく厳しい声で命じた。
「よく見てしっかりと事実を認めるの。この二つの指紋は同じもの?」
患者の肩が震えだす。と、突然手にしていた写真を乱暴に投げ捨てる
と、
「嘘よ」
激しく頭を振りながら言った。
「嘘じゃない。写真はどっちも本物なの」
「嘘!」
患者は叫んだ。
「わたしは中澤裕子よ。そして、石川梨華でもある。だから指紋は同じ
はずなの。なのに……」
「そうよ。二つの指紋は違ってる。だから、あなたは違うの、中澤裕子
じゃないの」
「そんな。じゃあ、石川梨華は中澤裕子とは別の人間だったの? 石川
梨華がわたしなの?」
その問いかけは、圭織に、というよりむしろ、自分自身に向けて発せ
られているようだった。
「ううん、そんなはずはない。裕子は梨華。梨華は裕子。二人は同じ一
人の人間だった。でも……それじゃあわたしは? 裕子でも梨華でもな
い、わたしは……」
患者の視線がせわしなく部屋中を飛び回る。そして、ヒステリックに
頭を抱えながら、ひときわ高く叫んだ。
「わたしは誰なの!?」
「いいかげんに目を開きなさい!」
圭織が声を飛ばした。そして椅子から立ち上がると、恐れ、震える患
者の両肩に手を置き、その目を覗きこんだ。
「いい? よく聞いて」
圭織は声を強めて言った。
「あの事故で死んだのはあなたではないの。彼女の方なのよ。矢口さん」
- 98 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月15日(日)01時21分04秒
- 1から全て読まして貰いました。
なにかゾクゾクッとしたものを感じましたね、作品に引き込まれていく・・・
- 99 名前:だれか 投稿日:2001年04月15日(日)19時37分46秒
- >98さん
ありがとうございます。そう感じて頂けてうれしいです。
- 100 名前:だれか 投稿日:2001年04月15日(日)19時39分27秒
- 四〇九号室のベッドの上。患者は何も喋らず、身動きもしない。
可哀想に……。
包帯の解かれた患者の顔を、見下ろしながら、保田圭は心でつぶやく。
矢口さん。あなたはよっぽど中澤さんの事を愛していたのね。
患者に向かって「あなた」と話しかける自分に、少しだけ彼女は戸惑
いを覚えた。
事故で恋人を失った事を知った時、彼女の精神は完全に均衡を崩し、
狂気へと傾き始めたのだろう。
彼女は、それまでのいっさいの記憶を失うと同時に、矢口真里という
人間の存在を心の中から抹消した。恋人に生きていて欲しいという狂お
しいまでの想いが、現実の歪曲を産み、さらには生き残った”わたし”
が矢口真里ではなく、中澤裕子だという思い込みへとつながっていった。
何度も、彼女が”矢口真里”であるということをいろいろな人が言っ
て聞かせたのだけれど、彼女は信じようとはしなかった。
ショックが大きすぎた、と飯田先生は言う。思い切ってみたんだけど、
かえってまずい結果になってしまったかもしれない、と。
もう、あなたは決して自分を取り戻す事はないの? こうしてここで、
ずっと心を閉ざしつづけるの?
火傷の跡もほとんど見られず、微笑めば異性の誰しもが振り向くであ
ろう、かわいらしい患者の顔。しかし今、その虚ろな目は瞳に白い天井
を映している。
- 101 名前:だれか 投稿日:2001年04月15日(日)19時41分42秒
――なぁ、矢口ぃ。
なに? 裕ちゃん。
――矢口は、ウチがいなくなったらどうする?
なんだよぉ〜。突然
――なぁ。どうする?
……やだなぁ。矢口は。
――うん。
「今がずっと続けばいいなぁ」って思うよ
――そうやなぁ。
ねぇ。裕ちゃん?
――ん?
ずっと……一緒にいてね。
――……ああ、ずっと一緒やで、……矢口。
- 102 名前:だれか 投稿日:2001年04月15日(日)19時43分28秒
- 市井峠の雑木林で、土にまみれた一つの指輪が見つかったのは年が明けてすぐのこと。内側に「YtoM」と彫られた、ガーネットの指輪だった。
- 103 名前:だれか 投稿日:2001年04月15日(日)19時52分10秒
- この話はこれで終わりです。読んでくれたみなさんありがとう。
またどこかで見かけたら、声かけてやってくださいね(笑
>>101
最後の最後で大変読みづらくなってしまってすいません。
なぜかうまくいかなかった(泣
- 104 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月15日(日)20時08分28秒
- いやー、リアルタイムで読んでしまった。
ここで終わりですか、もっとこの緊張感を楽しみたい気持ちでいっぱいです。
次回作もぜひ楽しみに待っています。
追伸>>102 を読んでもうひとひねりあると思ったわたしは、考えすぎ?
- 105 名前:だれか 投稿日:2001年04月16日(月)00時53分00秒
- >名無しさん
ありがとうございました。そう言ってもらえると書き手冥利につきます。
<もうひとひねり。
ここから先の話はみなさんのご想像にお任せします(^^;
あぷろだの方に、若干の修正・追加をしてアップしました。
ほとんど変わってないけど、もしよかったら読んで見て頂ければと思います。
- 106 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月22日(日)01時08分10秒
- 面白かったです。引き込まれました。
次回作も楽しみにしています。
綾辻行人なら『緋色の囁き』なんかいかがでしょうか。
- 107 名前:だれか 投稿日:2001年04月22日(日)03時26分41秒
- >>106
ありがとうございます。
緋色の囁きですか。確かに娘。でやると面白いかも。
- 108 名前:84mo弐 投稿日:2001年04月22日(日)08時14分57秒
- 前略 だれか様
遅れ馳せながら最後まで読ませていただきました(デスクトップをMAC風に改造してたもんで。。。)
実は矢口だったという展開には正直驚きました。中澤と石川が同一人物であるというのはなんとなく感づいて
いたんですが、終章はまったく予想違う展開でした。僕も最後にもう少し書いてほしかったんですが。
次回作も見てみたいんでよかったらどこ(何色)に書くのか教えてください。
ぐぁんばれ!!!!!!!
カッケー 84mo弐
追伸 >>93の 「赤く、激しく暴れる指先はわたしたちの足元を捕らえる」のとこは「暴れる炎」で
しょうか? (自分の読解力に自信がありませんが。。。。)
- 109 名前:だれか 投稿日:2001年04月23日(月)01時32分32秒
- そういえばsageるの忘れてました(^^;
>84mo弐さん
ご丁寧なレスありがとうございます。
アイデアだけは結構ストックあるんです。だけどなにぶん多忙なもので、なかなか進まないんですよね(^^;
一応、黄の方にも書き始めてはいるのですが、更新できずに一週間、ほんと、思いっきりゆっくり書く時間が欲しい、ここ最近(泣
あ、追伸の話は暴れる炎で間違いないです。
ほんと最後まで読んでくれてありがとう。励みになりました。
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