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まごころを君に〜flower for you〜
- 1 名前:SHURA 投稿日:2001年03月29日(木)17時12分45秒
- 処女作です。
パラレルもの、たぶんけっこー長くなる予感。
よっすぃーを中心に青春っぽい感じで書こうと思ってます。
一応、10人全員出る予定、良かったら読んで下さい。
今、書き溜めてるんで、明日か明後日辺りから、始めます。
- 2 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月29日(木)18時28分25秒
- 関係ありませんが「アルジャーノンに花束を」を思い出させるようなタイトルですね。
期待しております。
- 3 名前:まずはプロローグから 投稿日:2001年03月30日(金)01時43分11秒
- ねぇ覚えてる、あの頃のこと、あたしは今でも覚えてるよ。
鮮明なようでも、ぼやけているようでもあるし。
昨日のことのようにも、すごく昔のことのようにも思う。
今思うと、今までの人生のほとんどをそこで過ごしたような、そんな気がする。
もう忘れない、君の最後の言葉、涙で濡れた君の顔、
瞳を閉じるばいつも浮かんでくる。
みんなといればいつも楽しかった。
同じ瞬間を過ごし、
同じ涙を流し、
同じ命を生きたあの頃
二度と戻らない、あの日々・・・。
- 4 名前:SHURA 投稿日:2001年03月30日(金)01時57分07秒
- 最初からミスっちまった。
正しくは、
6行目 『瞳を閉じればいつも浮かんでくる』です。
>>2
期待してくれるのは嬉しい限りです。
けど、自分はモロ理系なんで表現力に自信が・・・
まぁ、暖かい気持ちで見守ってやってください。
- 5 名前:名無し読者 投稿日:2001年03月30日(金)05時48分17秒
- 10人なんだ・・・・11人じゃなくて・・・・・・・。
- 6 名前:第1部 投稿日:2001年03月30日(金)10時47分43秒
- (もー、ヤバイよー。入学式の日に時間ギリギリなんて・・・。)
4月5日、新たな生活が始まるこの日に、私は朝から全力疾走していた。
朝の日光は優しく私を包み、太陽を邪魔する雲は1つも見当たらない、
絶好の入学式日和のはずだった。
昨日は遅刻しないようにって、母さんに言われて早めにベッドに入ったのだが、
緊張のせいなのか、全然寝付くことが出来なかったのを覚えている。
やっと学校が見えてきた。
私が行くことになった高校は、私立の女子高、
ここ数年に出来たばかりの高校で、校舎も新しく、
何より制服が少女趣味でカワイイとこが気に入って、私はココに入ることにした。
先生は「おまえならもっとイイ高校に入れるのに」とか言っていたけど、
関係ない、勉強はどこだって一緒だと思う。
- 7 名前:SHURA 投稿日:2001年03月30日(金)10時50分19秒
- (なんとか間に合ったかな・・・)
そう思って、校門を通り過ぎようとした時、
「よっすぃー、おーそーいーーー!!!」
(えっ・・・)
声のしたほうを見ると、見慣れた茶髪の少女が立っていた。
「ごっちん!」
後藤真希、大勢の人の中でもすぐに見つかるぐらい可愛く、なにより目立っている。
ココが共学だったらすぐにでも男子に声をかけられていたと思う。
中学では優等生で通っていた私とは、
見た目、性格など明らかに違うトコロが多いが、
何故か真希とは気が合った。この高校も一緒に受けに行った。
- 8 名前:基本的によっすぃー視点で 投稿日:2001年03月30日(金)10時54分08秒
- 「よっすぃー、あたしずっと待ってたんだよ。」
「えっ、何で・・・」
「何でって、入学式の日は30分前に校門に来て、一緒に行こうって言ったじゃん!」
私はその時、すっかり忘れていた。卒業式の時に真希とした約束を。
「ゴメーン、寝坊しちゃってさぁ」
「しっかりしてよねー、あたしちゃんと30分前に来たのにさぁ」
(ンなこと言って、いつもは自分が寝坊するくせに・・・)
そうは思っていたが、この状況ではそんなコトは言えるはずがなかった。
- 9 名前:SHURA 投稿日:2001年03月30日(金)10時57分50秒
- 「ゴメン、許して。ジュースおごるからさぁ」
「えー、それじゃ許せないなぁ」
「じゃ何だったらいいの?」
「お昼全部おごりコースかな」
(やっぱり・・・、こうくると思った)
これが当時からの真希のパターンなのだが、
その明るく、表裏のない性格のせいなのか、何故か憎めない。
「えー、ごっちんにおごると普通に2,3千は使うじゃん」
「ンなこと言える立場なのかなぁ・・・あたしがどんだけ辛い想いして、
早く起きたと想ってるのー」
「もぉ・・・、わかったよ」
「えっ、ホントにいいの。助かるなぁ、実は今月既にヤバかったんだよねぇ。
だから、よっすぃー大好き」
(私っていつもこう・・・鬱だなぁ・・・)
- 10 名前:SHURA 投稿日:2001年03月30日(金)11時04分41秒
- 初更新です。
やっぱり会話文は難しいなぁ・・・
言い忘れてたけど、タイトルはストーリーとは関係ないです。
ただ、この言葉が好きなんでコレにしました。
>>5
市井ですか・・・
出てこないわけじゃないけど
市井は実は・・・(略
- 11 名前:2っす。 投稿日:2001年03月30日(金)14時38分29秒
- メール欄の呟きが面白いですね。ほんとに「呟き」ってかんじで。(笑)
えーっと、sageたほうが良いんでしょうか?
取り敢えずsageときます。
- 12 名前:SHURA 投稿日:2001年03月30日(金)22時46分51秒
- 「早くクラス分け見に行こうよ」
「もー、ごっちん、ちょっとは休ませてよ」
全力で走ってきたため、ほとんど体力の残っていない私の手を取り、
私を引きずるような形で真希は走り出した。
クラス分けを見ると吉澤ひとみ・後藤真希、2人の名前はは同じ1年E組にあった。
クラスに入ると、もうほとんどの生徒は入っていた。
その日の予定は入学式だけだったので2、3年は登校していなかった。
校長先生、理事長の話と、軽い連絡だけで入学式は終わり、
その後、教室で担任と副担任の紹介があった。
午前中でその日の予定も全て終了し、下校時刻となった。
放課後、私は教室で真希と話していた。
「ねー、よっすぃー、時間あるならウチこない?」
「うん、いいよ。この後、何もないし」
「んじゃそろそろ帰ろうか」
「そうしよっか」
真希の家に行くことにした私達は足早に教室を出た。
- 13 名前:SHURA 投稿日:2001年03月30日(金)22時50分47秒
- (ごっちん、遅いなぁ)
真希の家に行く途中、駅の構内で真希はトイレに行くと言ったので、
私はトイレの前で待っていた。
「痛っ!」
ボーっと立っていた私は、横から歩いてくる人影に気付かず、
ぶつかってしまったらしい。
ぶつかったのは女性で、その人は本を読みながら歩いていたらしく、
本に集中するあまり、不注意になったようだ。
辺りには彼女が読んでいた本や、彼女のバッグの中身が散乱していた。
「ごめんなさい」
彼女は私に謝ると、すぐ自分の荷物を拾い始めた。
「あっ、私こそすみませんでした」
慌てて私も謝ると、荷物を拾い始めた。
荷物を拾いながらその人の顔を見てみた。
目鼻は整っていて女の子らしい容姿で、
肩より少し長いきれいな黒髪が清楚な感じだった。
年齢は私と同じ位だと思った。
(カワイイなぁ・・・)
しゃがんで荷物を拾うその人の横顔を見て少しドキッとした。
- 14 名前:SHURA 投稿日:2001年03月30日(金)22時57分46秒
- 「ホントにごめんね」
一通り拾い終わると彼女はまた謝ったので、私も
「いや、私の方こそボーっとしてて、すみません」
と謝った、
「いいよ別に気にしないで、
あれっ、その制服って、もしかしてそこの高校の新入生?」
「えっ、そうですけど。何で分かるんですか?」
「私もそこの高校の生徒なの」
「そうなんですか」
と、私が言うと、
「じゃあね、私、待ち合わせしてるから」
と言い残し、駅の出口の方に行ってしまった。
(同じ学校なんだ。何年生なんだろう・・・)
- 15 名前:SHURA 投稿日:2001年03月30日(金)23時03分49秒
- 「よっすぃー、お待たせー」
「あっ、ごっちん」
「誰かいたの?」
「人にぶつかっちゃってさ。私達と同じ高校の人みたいだった。」
「ふーん、ところでその本、何?」
真希は私の手に握られていた本を指差した。
私は知らないうちに、彼女の本を持っていたらしい。
「あっ、その人の本だよコレ。返しそびれちゃった、どーしよー」
「その人、あたし達と同じ高校なんでしょ。だったら学校で渡せば」
真希はどうでもいいようなカンジだった。
「そうだけどさぁ・・・」
「早く行こうよ。電車来ちゃうよ」
「う、うん」
その時、私は心の中に何らかの感情があることに気付いたが、
それがいったい何なのか分からなかったので、その時は深く考えないようにした。
このほんの小さな出逢いが、私、いや私達の未来を大きく変えることになることを、
私はまだ知るはずもなかった。
- 16 名前:SHURA 投稿日:2001年03月30日(金)23時23分36秒
- 更新です。
第一部は基本的にメインキャラの登場と紹介だけなんで、
はっきり言って、ヤマなし、オチなし、イミなし、です。
もし、読んでくれてる人がいたら、
第2部に期待ということで。
>>2
そんなトコロまで見てくれてアリガトウ。
- 17 名前:ポルノ 投稿日:2001年03月31日(土)04時16分59秒
- 『目鼻は整っていて女の子らしい容姿で、
肩より少し長いきれいな黒髪が清楚な感じだった。』
,,,,石川か? いしよしになるのか?
続きに期待。
- 18 名前:みなさん、おはよっすぃー 投稿日:2001年03月31日(土)11時47分49秒
- 真希の家は、両親と真希の3人暮らしで、両親は共働きをしていた。
真希より1つ年上の姉がいたらしいが、
真希が3年生の頃、9歳の時に、亡くなったらしい。
詳しいことは聞いていなかったが、真希とはホントに仲がよくて、
頭もよく、運動も出来たようだ。
名前は、紗耶香だったと思う。
川でおぼれた真希を助けるために、川に飛び込んで、
真希の代わりに亡くなったらしい。
真希はそのショックから、中学に入るまで失語症になっていたという。
私と出会う前なのでよくは分からないけど、当時の事を知る人に訊くと、
その頃の真希はホントに何も語らず、誰にも関わろうとしなかったそうだ。
でも、私の知っている真希は、そうであったのが嘘のようで、
当時の分を取り戻すかのように、よく喋る喋る。
- 19 名前:SHURA 投稿日:2001年03月31日(土)11時49分51秒
- 「でさー、よっすいーは何か部活やるの?」
「まだ決めてないけど、たぶんバレー部に入ると思う」
「やっぱり。よっすぃーはバレー部のエースだったもんねー」
「ごっちんは何かやるの?」
「私はやっぱ剣道かなー」
真希は小学校から剣道をやっていた。
真希はあまり運動が得意な方ではなかったけど、剣道だけはうまかった。
やっている理由はお姉ちゃんがやっていたから、という単純な理由なのだが、
やはり真希にとって姉の存在は大きなものなんだと思う。
- 20 名前:SHURA 投稿日:2001年03月31日(土)11時59分12秒
- 更新です。
相変わらずうざい文章だなぁ・・・
>>17
ポルノさん。『おはよっすぃー』勝手に使ってすみません。
なんか、気に入ったもんで・・・
いしよしですか・・・まぁ、ストーリーの中心は恋愛なんで。
期待に添えられるかどうかは分かりませんが、頑張ります。
あと、もし読んでくれてる人がいたら、
感想とかリクエストとか何でもいいんで、書いてください。
作者の励みになると思います。
- 21 名前:名無しさん 投稿日:2001年03月31日(土)14時49分05秒
- おはよっすぃー、見事にツボッた(w
…ちゃむが…ちゃむーーっ!!
- 22 名前:紅餓唯 朧 投稿日:2001年03月31日(土)14時50分57秒
- お姉ちゃんはやっぱりアノ人ですよね?
個人的にはいしよしがいいんですが(笑)
作者さんが好きなように書くのが一番かと思うんで聞き逃して下さい(笑)
プロロ−グがとても気になります。頑張って下さい。
- 23 名前:SHURA 投稿日:2001年03月31日(土)23時41分20秒
- 8時頃まで、真希の家でこれからのコト等話した後、私は家に帰った。
家に帰った後、自分の部屋で、駅でぶつかった人のことを考えていた。
何故かハッキリと覚えていた。
女の子らしい人
見た目はいかにも大人しそうなお嬢様っぽいカンジだった。
男受けするのは真希だろうけど、
女の私から見てカワイイと思うのは彼女の方だった。
同じ学校って言ってた。上級生なのかな・・・。
等と自分なりにあの人のことを推理していた。
- 24 名前:SHURA 投稿日:2001年03月31日(土)23時44分27秒
- ふと自分があの人の本を持っていることを思い出した。
「そういえばあの人の本があったっけ」
バッグからその本を取り出した。
その本はハードカバーで、図書館で借りた物のようだ。
私はあまり本を読まない人間なのでよくは分からないが、
本の内容は古典文学のようだ。
(難しい本を読むんだなぁ・・・)
- 25 名前:SHURA 投稿日:2001年03月31日(土)23時47分01秒
- その本をピラピラと見ていると、本の中から貸し出しカードが出てきた。
そのカードに書いてある名前の一番下にはキレイな字で『石川梨華』と書いてあった。
「石川梨華さんか・・・」
その人の名前が知れたコトだけで、私はなんだか嬉しくなった。
- 26 名前:SHURA 投稿日:2001年03月31日(土)23時48分25秒
- 「ひとみー、ちょっと話があるから下りてきてー」
母さんに呼ばれた。
(何だよー、いい気分だったのにー)
私の家は父が銀行員、母が専業主婦をしている。子供は私1人だけ。
夫婦喧嘩らしいことは見たことがないし、数年に1回は海外に行ってる。
世間から見れば、中の上くらいの普通に幸せな家庭だと思う。
- 27 名前:ちょっとベタな展開 投稿日:2001年03月31日(土)23時51分27秒
- 「何ー、母さん?」
「突然だけど、明日から、家庭教師の人が来るから」
「えー、何でそんなことすんの?」
この人はいつもこうだ。人の意見を聞かないで、何でも自分だけで決めてしまう。
私のことを思ってなのだろうけど。
「だって、ひとみ言ったじゃない。ちゃんと大学には行くって」
「だからちゃんと勉強はするって、家庭教師なんていらないよ」
「そんなこと言ったって、もう決まったんだから、ちゃんとやるのよ」
「分かったよ・・・で、どんな人なの?」
その時、私は心の中で密かに、(石川さんだったらいいなぁ)と思っていた。
まぁ、そんなうまい話はありえないのだが。
「んーと・・・、18歳の女の人で、確か国立大学の1年生、優秀な人だって」
「ふーん」
- 28 名前:SHURA 投稿日:2001年03月31日(土)23時54分33秒
- (間違いなく石川さんじゃないよね。まぁ、分かってたけど。
3つも上か、話が合う人だったらいいなぁ。)
そう思いながら私は眠りについた。
- 29 名前:SHURA 投稿日:2001年04月01日(日)00時16分19秒
- 更新です。
変なことやったせいで、かえって読みにくくなったかも。
読みにくかったらゴメンナサイ。
>>21
『おはよっすぃー』いいですよねー。
本人、どっかで使ってくれないかなー。
>>22
別にパクリじゃないと思いますよ。
他にもやってる人いるんじゃないかなー。
プロローグが気になりますか・・・
( ̄ー ̄)ニヤリッ
- 30 名前:SHURA 投稿日:2001年04月01日(日)23時22分06秒
- 翌日、私は昨日の本を返そうと思い、早めに学校に行って校門で梨華が来るのを待っていた。
だけどいくら待っても梨華は現れない。
(私より早く来ちゃったのかなぁ・・・)
そう考えている内に、チャイムが鳴る時刻になろうとしていた。その時、
「よっすぃー!」
息を切らして走ってきた真希が私に声をかけた。遅刻ギリギリだ。
「おはよ、ごっちん」
「ハァハァ・・・おはよ、今日は早いんだね」
「早くないよー、ごっちんが遅いんだよー」
「ハァハァ・・・待っててくれたんだ」
「うん、・・・昨日の人をね、本返そうと思って」
「えー、あたしじゃないのー」
「当然、ごっちん待ってたら、私も遅刻しちゃうじゃん」
「うわ、ひっどーい」
そんな話をしながら私達は校舎に入っていった。
(まだ、本を返すチャンスはあるか・・・)
授業中、また梨華のコトを考えている自分がいた。
(何でこんなに彼女のコトが気になるんだろう?)
いくら考えても、その答は見つからなかった。
「吉澤、次の文読んで」
「はい」
「えーと・・・、A line runs north and south through the Pacific. It is the International Date Line.」
英語は中学からの得意科目だ。コレくらいの英文は簡単に読める。
「クスクス」
クラスの中から笑い声が聞こえた。
(あれっ、どこか間違ったかな?)
先生を見ると、今にも怒り出しそうな表情だ。
(何・・・?)
「吉澤〜〜、今は現代文の時間だ。英語はとっくに終わったよ」
- 31 名前:SHURA 投稿日:2001年04月01日(日)23時29分01秒
- 更新です。
ちょくちょく見にくるんですけど、レスないとかなりへコみます。
もし読んでる人がいたら、指摘でも何でもイイんで感想下さい。
- 32 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月02日(月)00時25分17秒
- まめな更新感心してます。
読むほうが更新についていけない(汗
レス遅れても気にしないで、しっかり読んでますから。(笑
- 33 名前:ななしー 投稿日:2001年04月02日(月)03時29分26秒
- 読んでおります。面白いです。
- 34 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月03日(火)01時05分49秒
- 私も読んでます。
長いの好きなんで、期待してます。
- 35 名前:SHURA 投稿日:2001年04月03日(火)17時23分18秒
- 午前中の授業が終わり、真希と2人でお弁当を食べた。
真希はいろんな話をした、聞いていなかったわけではないが、ほとんど覚えていない。
食べ終わった後、1人で窓のそばで窓から見える景色を見ていた。
校舎の周りを囲むように桜の木が植えられていた。
この学校のある場所は都心から離れていたので、自然が思いのほか残っていた。
風でその木々がウェーブをなして揺れ、桜の花びらが雪のように舞い落ちた。
時間差でその風が私の元にも届く、緑の匂いを含んだ風が心地よかった。
何気なく校舎の屋上の方を見た。
天気は今日も晴れだったが、心なしか昨日より雲が多い気がした。
視界の隅に人影が映った。
そこには肩より少し長い髪の少女が1人立っていた。風になびく黒髪、女の子らしい顔立ち、
(・・・いた!)
私は慌てて席に戻り、バッグからあの本を引っ張り出し、屋上に向かって走り出した。
ガチャッ!
急いできたのだが、そこには誰もいなかった。
どこにも人の気配が感じられなかった。まるでずっと昔からこの状態だった様に感じた。
「石川さーん」
名前を呼びながら、屋上を探してみたが、やはりどこにも彼女の姿は見当たらなかった。
(確かにいたのになぁ、すれ違っちゃったか・・・)
そうこうしてるうちに、5時間目の始業のチャイムが鳴り、私は教室に戻った。
- 36 名前:SHURA 投稿日:2001年04月03日(火)17時26分39秒
- 「よっすぃー、この後さー、買い物付き合ってくんない?」
6時間目が終わると、すぐに真希が話しかけてきた。
「ごめーん、ごっちん、今日から家庭教師が来るから早く帰んなきゃいけないんだ」
「よっすぃー、家庭教師なんか雇ったんだ。頭イイのに」
「親が勝手に決めちゃってさ」
「ふーん、大変だねー。うん、分かった、じゃあまた今度にする」
真希は心なしか少し残念そうな表情だったような気がする。私の思い過ごしかもしれないが。
「ホントゴメンね、ごっちん」
「いいよ、いいよ、気にしないで」
そう言って真希はいつもの元気な表情に戻った。
「じゃ、もう行かなきゃならないから、じゃあね、ごっちん」
「うん、じゃーねー、頑張るんだぞー」
私は家に帰ると、すぐに着替えて、リビングで家庭教師の先生を待っていた。
あいにくこの日は、母が外に出ていて私1人だった。
(なんでこんな日に限って・・・)
そんなことを考えていたその時、
ピンポーン!
緊張しているせいか、いつもは何気なく聞こえるその音が、今日はやけにはっきり聞こえた。
(来た!)
私は心臓をドキドキさせながら、玄関に向かった。
(第一印象大切だよね・・・)
そんなことを思いながらゆっくりドアを開けた。
そこに立っていたのは、梨華だった。
- 37 名前:SHURA 投稿日:2001年04月03日(火)17時31分03秒
- (えっ! 何で! どうして!)
私は混乱していた。
「あっ、あなたが吉澤さんだったんだ」
梨華は少し驚いた様子を見せたが、すぐに落ち着いた顔を取り戻し私に言った。
「えっ、あっ、は、はい、私です・・・けど」
私はまだ混乱していた。自分が何を言っているのかさえも分からなかった。
「えっ、何で、石川さんがココにいるんですか?」
「私の名前知ってたんだ」
「は、はい、本拾いましたから」
「あっ、あなたが持ってたんだ。どーりでないと思ったの」
「探したんですか? ごめんなさい。私持って帰っちゃって」
「いいよ別に、そんなに謝らなくても、誰にも盗まれなかったんだし」
人懐っこい笑顔を見せて梨華は言った。
「でも何で石川さんが私の家に来るんですか?」
「えっ、分からない?」
「全然分かりません」
少し間をおいて、梨華が言った。
「今日から家庭教師が来るんでしょう?」
「はい」
「早い話が、私がその家庭教師なんだけど・・・」
私はその話ががすぐには理解できなかった。
理解できなかったと言うよりは、『こんなうまい話があるのか』と疑っていたと言うべきか・・・。
「えっ、でも確か・・・、大学生って聞いてるんですけど・・・」
「それは嘘なの」
はっきりとした声で即答された。
「嘘、ですか・・・」
「そうでもしなきゃ、高校生なんてなかなか雇ってもらえないから。でもまさか同じ高校だとは思わなかったけど」
「はぁ、そうですか」
私はだいぶ冷静さを取り戻したが、
第一印象の大人しそうな彼女と、今目の前にいる少し強引な少女とのギャップに戸惑っていた。
- 38 名前:SHURA 投稿日:2001年04月03日(火)17時35分01秒
- 「石川さん、あの、こんなとこじゃなんなんで、中に入ってくださいよ」
「うん、ありがと」
私は梨華を部屋に通してから、1人台所で紅茶の準備をした。
(どうしよう・・・、ホントに来ちゃった)
胸のドキドキが手にとるように分かった。
「石川さん、紅茶持ってきましたよ」
彼女は私の机のすぐそばに、もう1つイスを持ってきて座っていた。
「うん、ありがと。で、早速始めたいと思うんだけど・・・」
「だけど・・・、何ですか?」
私は部屋の中央のテーブルに紅茶を置いて言った。
「その・・・、石川さんって呼ぶの辞めてほしいって言うか・・・」
「あっ、嫌でした?」
「嫌ってワケじゃないんだけど・・・、恥ずかしいって言うか・・・、
あと、敬語もさ、使わなくていいよ。私、そんなに偉いわけじゃないし・・・」
梨華は照れたのか少し頬を赤らめた。
(カ、カワイイ・・・)
「ちょっとー、笑わなくてもいいじゃない」
その姿を見て、私は自分でも気付かないうちに、いつの間にか微笑んでいた様だった。
それを見て梨華は少し頬を膨らませて子供を怒るような顔をした。
(それもカワイイ・・・)
「さっき初めに会ったときの印象となんか違うなぁって思ったんですけど、やっぱり同じだと思って・・・」
「何ー、それ、どういう意味なのー?」
下から上目遣いで私を見上げて梨華は言った。
彼女の瞳には私が映っていた。
(ヤバイよー、カワイイ過ぎるよ)
「えっ、何ていうか・・・、女の子らしいっていうか、すごくカワイイ人だなぁって、
私そういう女の子らしさとか全然ないから・・・」
「えっ、やだ、照れるじゃない・・・」
彼女はまた照れたのか少し恥ずかしそうに俯いた。
私も今自分が言った言葉がすごく恥ずかしいことに気付き、照れくさくなった。
「ち、違うんです。今のは冗談なんです。冗談。そんな本気にしないでください」
恥ずかしさを紛らわすために、つい心にもないことを言ってしまった。
そういうトコロは自分のイヤなトコロの1つだったりする。
すると、梨華は一瞬止まって、ゆっくり視線を私に合わせて口を開いた。
「ひっどーい。そんな人なんだ、ひとみちゃんて。私、すごく嬉しかったのに」
ヤッてしまった。私は、今したことを心の中で深く反省した。
「ごめんなさい。今のはつい・・・、なんと言うか・・・」
私は梨華に睨まれていた。その眼力のせいかうまく言葉がでなかった。
(やっぱり怒っちゃったのかな・・・)
- 39 名前:SHURA 投稿日:2001年04月03日(火)17時38分12秒
- 「あはははは。」
そんな状態が少しの間続いた時、梨華は、突然笑い出した。
「カワイイね、ひとみちゃんて。別に怒ってないよ、私」
(えっ・・・)
「怒ってないんですか?」
「うん、そんなコトで怒るほど心の狭い人間じゃないよ、私は」
梨華は子供っぽい無邪気で少しイジワルな笑顔を見せた。
その言葉を聞いてようやく私はからかわれていたことに気付いた。
(騙された・・・)
「そっちの方が、ひどいじゃないですかー」
「ごめんね、なんかカワイイ妹みたいでね、なんか、からかいたくなっちゃった」
「ひどいですよー、本気で『どうしよう』って思ったのに」
騙されて悔しい気持ちもあったが、
それと同時に彼女との距離が一気に縮まった気がして嬉しかった。
「さっきのコトだけど敬語とか使わないでいいよ、疲れるでしょ、そういうの」
「えっ、あっ、はい」
「友達感覚でいいから、あと、私のことは『梨華ちゃん』とか『梨華っち』って呼んでいいから、
みんなそう呼んでるし、徐々にでいいからさ」
「分かりました」
「じゃあ、始めよっか」
(あんな風に、笑う人なんだ。少し以外だな)
- 40 名前:SHURA 投稿日:2001年04月03日(火)17時42分40秒
- 後から聞いた話だが、彼女は学校では優等生で通っているらしく、テストの成績も常に学年トップらしい。
そんな彼女の教え方ははっきり言って、うまくて分かりやすかった。
勉強を教えてもらいながら、私は彼女の様々なことを聞かせてもらった。
彼女の両親は2人とも亡くなっていて、今は姉と2人で暮らしてること、
バイトをしたかったこと、知り合いに私の母を紹介してもらったこと、等いろんなことを聞いた。
「えっ、じゃ弁護士目指してるんですか!」
梨華は、将来は弁護士になろうと思っていることを私に話してくれた。
「なんか人を助ける職業に憧れてて・・・、そんなに、びっくりすることじゃないと思うけど」
「びっくりしますよ。だってあの高校で、弁護士を目指すっていうのは・・・、
なるんだったら、もっとレベルの高い進学校とかに入った方がよかったんじゃないですか」
少し間をあけて梨華は話した。
「実はね、私、中学3年の後半から学校に行ってなかったの」
「なんでですか?」と訊こうとしたが、まさかと思い私は訊くことができなかった。
「別にイジメられて登校拒否してたとか、そんなんじゃないの」
私は梨華のその言葉に少し安心した。
それと同時に、イジメとかそんな類いのことを少しでも考えた自分が許せなかった。
「私ね、3年生の秋に病気になっちゃって手術をしたの。それで退院まで半年位かかっちゃって・・・
それで、あんまり受験勉強できなかったの」
昔の話をするその顔は、変わらない落ち着いた表情だが、
なにか、今までとは違う違和感があるようにも見えた。
「そうなんですか・・・。でも、治ったなら良かったじゃないですか」
「・・・うん、そう考えるようにしてる。そりゃあ進学校の方がいいかもしれないけど、その分だけ勉強すればいいんだし」
そう言ったその表情にはさっきの違和感はなくなっていた。
(考え過ぎだよね・・・)
- 41 名前:SHURA 投稿日:2001年04月03日(火)17時46分42秒
- 「じゃ今日はここまでにしとこっか」
梨華は時計を確認して言った。時刻は7時半になろうとしていた。
窓の外は春の闇に包まれている。
(いつの間にそんなに経っていたんだろう?)
梨華の授業に集中してて、私は時間が経つのも忘れていた様だった。
私は駅まで送っていくと言ったが、梨華が大丈夫と言ったので家の前まで送ることにした。
「次は今度の火曜日だから、ちゃんと予習やっといてね。あと、学校の勉強もね」
「はい、あの・・・」
「ん、何?」
「あの、今日は楽しかったです。最初は家庭教師ってイヤだったけど、
今日やってみて、なんか、悪くないなって・・・」
言葉は出たが、言いたいことの半分も言えてなかった気がする。
ホントに言いたかったのは、家庭教師が梨華でよかったってことなんだけど・・・。
「良かった。そう思ってもらえて、実はね、あんまり自信なかったんだ。教えるのって」
「全然大丈夫ですよ。ハッキリ言って、ウマイですよ。教え方」
「ありがと、じゃそろそろ帰るね。あと、くれぐれも私が高校生ってこと、お母さんには内緒にしててね」
「分かってますよ」
私は彼女の姿が見えなくなるまで、その後姿を見ていた。
(今度の水曜か、早く来ないかなぁ)
知らず知らずのうちにまた微笑んでいた自分がそこにいた。
その後、私は部屋に戻って復習をしたが、全然頭に入らなかったのは言うまでもない。
- 42 名前:SHURA 投稿日:2001年04月03日(火)17時56分19秒
- 更新です。
>>32-34 のみなさん。
レスありがとうございます。
「読んでます」の言葉だけで、すごく嬉しいです。
みなさんの期待に応えられるようにがんばるつもりです。
- 43 名前:SHURA 投稿日:2001年04月03日(火)20時44分36秒
- 訂正です。すみません。
>>41
22行目
(今度の水曜か、・・・→(今度の火曜か、・・・
- 44 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月04日(水)02時22分09秒
- よっすぃ〜かわいいです。
りかっちが大学生…
- 45 名前:マッチ 投稿日:2001年04月04日(水)12時56分45秒
- いいっすね〜
更新楽しみです♪
- 46 名前:SHURA 投稿日:2001年04月07日(土)12時51分07秒
- >44さん レスありがとうございます。よっすぃーには梨華っちについてかなり悩んでもらう予定です。
>マッチさん このシーンはかなり書き直したんで、そう言ってもらえて嬉しいです。
更新遅れてすみませんでした。
宿題に追われてて、まだ終わってないですけど・・・。
今回の更新では、いしよしはちょっと休憩させていただいて、残りのメインキャラを出したいと思います。
期待を裏切るようで、すみません。
でも、この作品はいしよしで始まりいしよしで終わらせるつもりなので待っていてください。
一応、今回の更新で第1部は終わります。
- 47 名前:SHURA 投稿日:2001年04月07日(土)12時54分56秒
- 「よっすぃー、こんなの似合うんじゃない?」
「あたしってあんまりスカート穿かないんだよね」
「よっすぃー、スタイルいいんだから〜、こういうの絶対似合うって」
「えー、そうかな?」
私と真希が高校に入ってから1週間が経った。
私達は各々クラブにも入り、高校生活にもだいぶ慣れてきていた。
4月のある日曜日、この日は家庭教師の日でもなく、それぞれの部が共に休みだったので、
私と真希は前回の埋め合わせという形で渋谷に買物に来ていた。
東京はここ最近ずっと晴れ続きで、この日も暖かい春の陽気に包まれていた。
休日ということもあって、この日も渋谷は人で溢れていて、人の多さからか4月なのにやけに暑く感じた。
休日出勤のサラリーマン風の中年のオジサンや金髪ガン黒のギャル等の多種多様な人々が行き交う街に私達はいた。
「よっすぃーもさ〜、たまにはさ〜、こんなのも着て女らしさをアピールしなくちゃダメだよ」
「はぁ?」
喋っていることの意味が分からない。
(そもそも誰にアピールすんの?)
そうは思ったが、何処からくるのか訳の分からない説得力だけはあった。
真希の意味不明な説得に押され、結局、買うはめになってしまった。
そうやって、私の手には次々と真希の選んだ私の服が積み重なっていった。
(いつもごっちんのペースのような気がする。鬱だなぁ・・・)
一方の真希はギャル風ファッションで、既に両手にたくさんの紙袋を持っていた。
(おいおい、今月ヤバイんじゃなかったのかよ!)
相変わらず、真希はよく分からない。
- 48 名前:SHURA 投稿日:2001年04月07日(土)12時58分05秒
- 一通り、ショップを見て回り買物を終えた私達は帰ることにした。
駅まで戻り、切符を買おうとした私があることに気付いた。
「ヤバイ! サイフがない!」
最後に行ったショップではあったはずのサイフが無くなっている。
中身は既にほとんど使っていた(使わされたに近い)けど、サイフ自体は誕生日に買ってもらった大切な物だった。
はっきり言って、盗られたら困る。
「どーしよー、ごっちん」
それを聞いた真希は私と同じく焦りを顔に表して・・・、
「マジ〜、ヤバくない、それって」
・・・私の期待したリアクションとは裏腹に真希は普段と変わらないトーンと表情で言った。
こんな時も、真希はマイペースを崩そうとしない。そんな性格が少し羨ましい。
「ごっちん、待っててくんないかな。急いで捜してくるから」
「うん、分かった」
私は自分の荷物を真希に預け、走り出した。
後ろでごっちんが、
「急ぎでね〜」
と言っていた。
- 49 名前:SHURA 投稿日:2001年04月07日(土)13時02分16秒
- 私の心配をよそにサイフは以外にもあっさり見つかった。
私達が最後に行ったショップのレジに届けられていた。やっぱり世の中は悪い人ばかりではないらしい。
でも、そのショップは駅からけっこう離れていて、走って戻ってもそれなりに時間がかかりそうだった。
あの飽きやすい真希のことだ。そーとー退屈にしてるに違いない。
そう思った私は、少し怖かったが、こっちの方が近そうだと思い、裏道を行くことにした。
その道はひっそりしていて、行き交う人はほとんどいなかった。
昼間では開いてなさそうな怪しい店が並んでいて、ちょっとエッチな店もあった。
(確かにこれじゃ昼間に人は通らないよなぁ)
始めこそ怖さはあったが、いざ入ってみると雰囲気は表の道とは明らかに違ったが、別に普通の道と何ら変わりはない。
時計を見てみると、駅を出てからもう30分が経とうとしていた。
(また、おごりコースかな・・・)
そんなことを考えていたその時、
「キャッ!!」
目の前の曲がり角を曲がった所から女性の悲鳴(?)が耳に届いた。
すっかり安心しきっていた私は、その声に驚きその場で立ち止まってしまっていた。
あいにく、その道は一本道だったので、駅に行くにはどうしても、その曲がり角の向こうの道を通らなければならなかった。
しかし、その向こうには何が待ち受けてるのか分からないので、できれば通りたくない。
だけど、戻ったらさらに時間がかかることになる。
そう思った私は考えた末に、まずその角から向こうの様子を覗いてみることにした。行動するのはそれからでも遅くない。
- 50 名前:SHURA 投稿日:2001年04月07日(土)13時04分43秒
- そこには、表通りにもいたようなギャルが2人、張り詰めた空気の中立っていた。
私が見る限りでは、一方的に1人のギャルがもう1人のギャルを追い詰めてる様に見えた。
「分かってんのかよテメェ、今度やったら、タダじゃ済まねーぞ」
怖い・・・。街の中で見たギャルもこんなコがほとんどなのだろうか、と他人事の様に考えながら一部始終を観察していた。
彼女の話を聞く限り、友人の彼氏をそこにいるギャルが盗ったので、その友人に頼まれてきた。
と、まぁおおかたそんなとこだろう。
追い詰められているギャルは、今にも泣き出しそうな表情をしている。
「チッ」
追い詰めていた方のギャルは、困っている表情で舌打ちをして、
「分かったなら、もう行きな。まったく・・・」
と、吐き捨てる様に言った。それを聞いたもう1人のギャルは小さく頷き、こっち側に小走りでやって来た。
(!? ヤバイ・・・見つかる)
そう思った私はどこかに身を隠そうとしたが、この路地に人が隠れられそうな所は見当たらない。
仕方がなく、私はその角に隠れる形になった。
案の定、私はこっちに来たギャルに見つかった。
彼女は私を見つけて多少驚いた様子を見せたが、私を気にすることなく走り去っていった。
(ふぅ・・・)
安心しきっていたその時、
「誰かそこにいんの?」
(!?)
見つかってしまった!あんな話立ち聞きしてたなんてばれたら、私の方がタダでは済まないかもしれない、
いっそのこと、逃げようかとも思った。
「出てきなよ。手出しはしないからさ」
迷っていた。本当に手出しはしないのだろうか。このまま逃げた方がいいのではないか、と。
- 51 名前:SHURA 投稿日:2001年04月07日(土)13時05分26秒
- 「出て来いって言ってんだよ!」
怖い・・・。そんなコト言われたら、出て行かないわけにはいかない。
私はゆっくりとその路地に出た。
そこには、1人のギャルが立っていた。
さっきは良く見えなかったけど、こうして正面に立ってみると彼女のことがよく見えた。
かなり高めの厚底だ、それを履いてても163センチの私より小さい、なのに存在感はとてつもなく大きく感じる。
顔がすごく小さく、結構カワイイ。
こんな状況で、なんでこんなに冷静に考えられるのか、私にも分からなかった。
怖すぎて、逆に冷静なのかな・・・と、そう決めつけた。
彼女は私を直視していた。一瞬目が合ってしまい私は下を向いてしまった。
下を向いていても、痛いほどその視線を感じた。
少しの間、その状況が続いた。
すると彼女は私の方に歩み寄ってきた。
ある程度のコトは覚悟していた私に、彼女は私に驚くコトを告げた。
「アンタさぁ・・・、もしかして、よっすぃーじゃない?」
(えっ・・・)
正直言って、この時の私はそーとー混乱していた。
(どうして私のこと知ってるんだろう。
私にはこんなギャルの知り合いはいないはずなのに、どう見ても見たことない人だし)
と、怖さと疑問の狭間で考えていた。
「ねぇ、よっすぃーなんでしょ?」
「は、はい、吉澤です」
そう言って顔を上げてもう1度彼女を見た。やっぱり見たことはない。
彼女が一方的に私のコトを知っているだけだ。と思った。
「あたしのこと分かんない?」
その言葉を聞くと、やっぱり私は彼女を知っている様だった。
「えっ・・・分かりませんけど」
「分かんないかな、矢口だよ、や〜ぐ〜ち」
- 52 名前:SHURA 投稿日:2001年04月07日(土)13時06分42秒
- 「や、ぐ、ち・・・」
その名前を聞いて、私は驚いた。矢口という名前で私が知っている人は1人しかいなかった。
矢口真里、私が行っていた中学の2つ先輩だ。ということは真希の先輩でもある。
中学校では、その小ささと、明るいキャラクターで校内では、
知らない人はいないほどのの有名人だったし、私も含めたほとんどの女生徒の憧れの存在だった。
誰にも弱気なところを見せない性格で、後輩の面倒見も良く、先生からも好かれていた。
成績優秀、スポーツ万能、そして、父親は都議会議員という、まさに完璧を絵に描いた様な人だった。
私にとっては、バレー部の先輩でもあり、私のバレーの才能を見出してくれた恩人でもある。
都内でも有名な進学校に進学したらしい。
卒業後は1度だけ、試合を見に来てくれたが、それ以来会ってはいなかった。
さっきは怖さでよく考えることが出来なかったが、
確かに、よく見てみると、矢口さんのような気もする。
でも、私の知っている矢口さんはこんなギャルではなかった。髪の毛も真っ黒だったし、こんな色黒じゃなかったはず。
2年で、人はここまで変わるものなのだろうか、と思った。
「矢口さん?」
「そうだよ。よっすぃー、やっと思い出した? なんで気付かないのー」
「分かんないですよ。だって、最後に会った時と全然違ったんで・・・、それに怖くて・・・」
「あたし、そんなに変わったかなぁ? みんなによく言われるんだけど、自分じゃ実感ないんだよねー。
怖かった? ゴメンねー、ギャルってさー気緩んでると、周りになめられるからさー」
「ははは・・・」
(やっぱり、矢口さんだ。中身はほとんど変わっていない)
「でさー、何でこんなところに来たの?」
「実は・・・」
私はごっちんと買物に来たこと、サイフを無くしたこと、等、ここに至るまでのプロセスを話した。
それを聞いた矢口さんは、「あたしも行っていいかな?」と訊いてきたので、私は快く了解した。
- 53 名前:SHURA 投稿日:2001年04月07日(土)13時08分00秒
- 駅に着いた。あれから1時間も過ぎてしまっていた。
ごっちんは私の予想通り、そーとー怒っていたが、私の側にいる矢口さんを見つけると、
「あれ〜、もしかして矢口っちゃん?」
と、興味津々な表情で近づいてきた。
お互いに気が合うのか、この2人は中学の頃から仲が良かった。
真希が矢口さんに対して敬語を使うトコロを見たことがなかったし。
そもそも、真希は敬語を使えるような人間じゃないけど・・・。
「おっす、ごっちん。久しぶりー」
「矢口っちゃん、ホント久しぶりだね。2年ぶりかな〜」
「ごっちん、背伸びたねー、なんか体もエッチになってるしさー」
「そりゃ2年も経ったら大人になるよ〜。そう言う矢口っちゃんは背伸びてないね〜」
「うるさい、そこには触れるなって」
そんなとりとめのない会話が少しの間続いた時、
「ねぇ、2人この後なんか用事あんの?」
と、矢口さんが私達2人に訊いてきた。
「この後ですか? もー帰ろうかと思ってたんですけど」
と、私が言うと、
「あたしさあ、この後行くトコあったんだけど、一緒に来ない?」
「あたしは別にイイですよ」
と、言って隣の真希を見た。
「あたしもイイよ〜」
と真希も言った。
「じゃ、行こっか。大丈夫、怪しい所じゃないからさ」
- 54 名前:SHURA 投稿日:2001年04月07日(土)13時10分37秒
- 矢口さんに連れられて行った場所は私達のいた駅から数駅行ったところにあった。
私達の高校に結構近い。
路地裏の入り組んだところにあるビルの地下にその店はあった。
『True Heart』
「矢口っちゃん、コレなんて読むの〜?」
「それはー、『トゥルーハート』って読むの。ごっちんってさこんな簡単な英語も読めないの、ちょっとは勉強しろよー」
「あたしは矢口っちゃんやよっすぃーとは、頭の構造が違うんだからしょうがないじゃん」
真希は少し拗ねてしまった。
店の扉の前には『CLOSE』と書いてある立て札が下がっていた。
「あれっ、矢口さん、閉まってませんか?」
「いいんだよコレで。まだ開店時間じゃないし」
「じゃあ、入れないじゃないですか」
「入れるよ、コレがあれば」
そう言って矢口さんはバッグから鍵を取り出すとその扉を開けた。
ガチャッ
「えっ、何で矢口さんが鍵持ってるんですか?」
「何でって、あたしの店だから」
(はぁ?)
矢口さんの言っているコトが分からなかった。
いや、分からなかった。というよりは信じられなかった。に近いと思う。
「あたしの店って言ったんですか?今」
「そうだよ、買ってもらった。親に」
(買ってもらった。って・・・)
金持ちの考えることは分からない。矢口さんといるとつくづくそう感じさせられる。
それだけは昔から変わってない。
- 55 名前:SHURA 投稿日:2001年04月07日(土)13時12分47秒
- 中に入ると、見渡せる所には誰もいなかった。
店の中には横長いカウンターとテーブルが6,7個置いてあり、
それらが暖色系の弱い照明に照らされていて、なんかオシャレなバーって感じがした。
この内装のデザインは矢口さんが担当したらしい。さすがにセンスがいい。
「矢口っちゃん、誰もいないよ〜」
「あれー、行くからって言っといたのに」
「ヤグチかー」
と、店の奥から声がした。なんか聞いた感じ関西なまりっぽい。
「裕ちゃん、どこー」
「ここや、ここ」
と、店の奥から人が出てきた。
金髪の顎のラインまでのボブカットに、ガンガンに濃いメイク、目なんか青いカラコンが入っている。
なんか、キレイだけどちょっと怖いお姉さんって感じがする人だった。
後から聞いた話によると、『メグ-ライアン』を意識していたそうだ。
ちょっと、無理がある・・・。
「裕ちゃ――ん」
その姿を見つけるや否や、矢口さんは彼女に走り寄り、抱きついた。
「なんやー、ヤグチー、寂しかったんかー」
彼女もまんざらではない様で、矢口さんの頭を撫でたりしている。
それよりも、誰にも弱気なところを見せようとしない矢口さんが、こんなにも甘えている。
(矢口さんと彼女は一体どんな関係なんだろう・・・)
ふと、そんな疑問が湧いてきた。
「ヤグチ、客連れてきたん?」
矢口さんと離れた後、彼女は私達の方を見て口を開いた。
「この2人はあたしの中学校の時の後輩」
「後藤真希です。ヨロシク」
「吉澤ひとみです。ヨロシクお願いします」
と、私達は軽い自己紹介をした。
「ウチは、中澤裕子、出身は京都や。みんなからは裕ちゃん言われてるわ。ヨロシクな。」
と、彼女も自己紹介をしてくれた。
- 56 名前:SHURA 投稿日:2001年04月07日(土)13時13分57秒
- その後、開店前の店内で、4人で話をした。
中澤さんは始め怖い印象があったが、話してみると、親しみやすい人で私達はすぐに打ち解けることが出来た。
もともと矢口さんの友人だった様で、矢口さん曰く「歳の離れた姉貴のような存在」なのだそうだ。
矢口さんがこの店を買ってもらった時に、当時無職だった中澤さんは「やってみない?」と誘われ、
この店で働くようになったらしい。
矢口さんも詳しくは知らないらしいけど、中澤さんには複雑な過去があるようで、
私達はあえて聞かなかったのだが、東京に来た理由もそこにあるようだった。
開店後は、チラチラと人が入ってきた。
聞いた話によれば、店のオシャレな雰囲気が若い人に人気があって、
隠れたデートスポットになっている様で、店の利益も結構あるらしい。
私達は開店後1時間ほど店内にいたが、この店のたった1人の従業員である中澤さんは少し忙しそうに見えたので、
私達2人は帰ることにした。
帰り際、中澤さんと矢口さんが、
「2人とも、またいつでも遊びに来ぃやぁー」
「あたし、ほとんどココにいるからー、いつでも来てー」
と、言ってくれた。
帰り道、
真希はあの店の雰囲気が気に入ったらしく、
「あたしも雇ってもらおうかな〜」
なんてことを言っていた。
私も
(今度は梨華ちゃんと一緒に来ようかなー)
等と考えていた。
この店が私達6人の場所となるのだが、
それはもう少し先のことになる。
- 57 名前:SHURA 投稿日:2001年04月07日(土)13時23分58秒
- 一気に更新しました。
なんか短時間でやったんで、たぶん文章が変になってると思います。すみません。
一応、これで第一部は終わりです。
第2部からは、1部ごとに各キャラを中心にストーリーを進めていくつもりです。
- 58 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月07日(土)14時29分43秒
- 第一部終了ごくろうさまでした。
まだ5人ですね、かなり長い話になるのかな?
ひとつ気になったことを、一人称で書いてあるのですが、
会話では石川さんとなっているときに、その他では梨華となっているのが。
ちょっと違和感があるかな
この後も楽しみにしています。
部活も頑張ってくださいね。
- 59 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月07日(土)15時04分34秒
- 6人目はいったい誰なんだろう・・・気になる。
- 60 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月09日(月)02時10分43秒
- 今日はじめて読ませていただきました。
おもしろいです。次の更新楽しみにしてます。
- 61 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月09日(月)06時38分11秒
- 同じく初めて読みました。
なんだかいい雰囲気なので、第二部からどんな風にストーリーが展開していくのか、
楽しみです。期待してます。
- 62 名前:SHURA 投稿日:2001年04月11日(水)01時56分27秒
- こんなオレの小説を読んでくれてホントにありがとうございます。
>58さん 梨華っちの呼び方については、かなり悩んだんですけど、
よっすぃーの視点の時は基本的に数ヵ月後のよっすぃーの回想という設定なんで、
会話とその他は別にしてみました。
そういうのが伝わるようにいろいろ試行錯誤したんですが、
それが伝わらなかったのは作者の力不足ですね。すみません。
>名無しさん 6人目は第2部で出てきますよ。自分的にはキャストはバランス良く選んだつもりです。
>60さん 「おもしろい」って言われるとすごい嬉しいです。かなり励みになります。
>61さん 第1部はヤマがなくて自分でも心配だったんで、とにかく次に繋がるように書いたつもりです。
そういう感想を持ってもらえて安心しました。
- 63 名前:SHURA 投稿日:2001年04月11日(水)02時15分26秒
- 一部のタイトルを載せるのを忘れたんで、今頃載せるのも変ですけど、載せておきます。
一部のタイトルは『始まりの季節(とき)』でした。
一応、一部にはよっすぃーを除く各々のストーリーのキーワードを載せておきました。
ごっちんとかは分かりやすいですね。
学校が始まっちゃったんで、しかも部活で遅く帰ってくるんで、書く時間がほとんど無い状況です。
次の更新で第2部全部載せるつもりだったんですけど、ちょっとキツイかも・・・。
週末までには終わらせるつもりで頑張ってますけど、終わらなくてもイイところまでは載せるつもりなんで、待っててください。
26、27日の大会で引退なんで、それまでこの状況は続きます。
- 64 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月11日(水)02時19分30秒
- 第二部期待。
- 65 名前:SHURA 投稿日:2001年04月13日(金)23時06分39秒
- >64さん 第2部、始まるよ!
- 66 名前:第2部 投稿日:2001年04月13日(金)23時09分21秒
- 私と真希は学校が終わった後、2人でよく中澤さんの店に行くようになっていた。
たまに店の手伝いをして、軽いバイト料も貰っていた。
私は家庭教師のある日は行かなかったが、真希は毎日の様に店に顔を出していた。
あの少女との出逢いはそんな日々の中の出来事の1つだった。
5月、少しずつ空気が湿り気を帯びてきた頃、その日は梅雨の始まりを予感させるジメジメした日だったと思う。
私と真希はこの日も中澤さんの店に行くことにしていたのだが、
バレー部の練習が長引いたため、真希には先に行ってもらっていた。
バレー部の練習が終わった私は急いで中澤さんの店に向かった。
中澤さんの店は、私達の高校と同じ駅の周りにあったのだが、駅を挟んで正反対の所にあるので、一度駅前を通ることになる。
駅前は軽い広場になっていて、よく待ち合わせなどに使われていた。
昼は人の多いこの辺りも、暗くなってくると人通りもまばらになり、かすかに人の話し声が聞こえるほかは静寂に包まれていた。
(ヤバイなぁ、結構待たせちゃってるなぁ・・・)
私はその中を時間を気にしつつ、足早に歩いていた。
- 67 名前:SHURA 投稿日:2001年04月13日(金)23時10分47秒
- ドンッ!
背中に何かの衝撃を感じた。正確に言うと背中というよりはお尻の辺りに。
後ろを振り返ると、1人の中学生らしき少女が転んでいた。
矢口さんと同じ位小さくて、顔も幼く、制服を着ていなかったら小学生に見られてもおかしくないような少女が・・・、
その子が来た方から、30代後半〜40代前半と思われる中年の警察官が息を切らしてやってきた。
その警察官の姿を見つけた少女はすぐに立ち上がり、私の後ろに隠れた。
「そんな所に隠れても無駄だから出てきなさい!」
「・・・・・・」
「ちょっとお話聞くだけだから」
「・・・・・・」
少しの間、私を挟んで警察官の少女への説得が続いたが、その少女に何かを口にする素振りは見られなかった。
心なしか、私の服を掴む少女の手の力が次第に強くなった気がした。
少しばかりだけど、少女の震えが背中に伝わってくる。
そして少女は小さく呟いた。
「助けて・・・」
聞き取れるか聞き取れないくらいのホントに小さな声。
でも確かにそう聞こえた。
少女のその言葉は私の正義感と呼ばれるものに火を点けた。
その子を少しでも安心させようと思い、その子の小さい手を後ろ手にそっと握る。
(大丈夫、任せて、助けてあげる)
そんな思いを込めて。
その思いが通じて安心したのか、少女の震えはしだいに弱まっていった。
- 68 名前:SHURA 投稿日:2001年04月13日(金)23時11分55秒
- 「あのー、ちょっといいですか?」
「何?」
彼の目が私の方に向いた、突き刺さるような視線。
彼もさすがにイラついてきたようで、言葉が少し乱暴になってきていた。
「実はこの子、私の妹なんですよ」
「本当?」
「ホント・・・ですよ」
「・・・・・・・・・」
彼は何も言わない。
(やっぱり疑ってるのかな?)
「お嬢ちゃん、名前は?」
「名前・・・ですか?」
「一応、名前ぐらいは聞かないと」
「はぁ・・・、吉澤ですけど」
「じゃあ、吉澤さん、こんな時間に妹さんを出歩かせないように。危ないから」
彼はそう言って、「ったく、近頃の若いヤツは・・・」等と愚痴りながら来た道を戻っていった。
何とか信じてくれたようだ。単純な人でよかった。
- 69 名前:SHURA 投稿日:2001年04月13日(金)23時13分20秒
- 警官がいなくなった後も、少女はまだ私の服を掴んでいた。
その手を離させて、しゃがんで少女と向き合った。
少女の顔はやっぱり童顔で小学生にも見えなくはないけど、
それなりに整った顔立ちで、数年後には結構な美人になりそうだなと思った。
笑顔だったらすごくカワイイんだろうけど、少しも笑顔を見せる気配はなかった。
視線を足元に移すと、膝に最近できたお思われる擦り傷がたくさん見られた。
(やんちゃな子なのかな・・・)
その時の私はそう思っていた。
「ねぇ、名前は何ていうの?」
「・・・・・・」
「だから、名前は何ていうの?」
「辻希美・・・」
小さく呟く。
「希美ちゃん、こんな暗い時間に外で歩いちゃダメだよ。今みたいにすぐ補導されちゃうからさ」
小さく頷く。
「希美ちゃんの家はこの近くなの?」
また小さく頷く。
「じゃあ早く帰った方がいいよ。家族が心配してると思うから。じゃあね」
そう言って私は振り返りその場を離れた。
- 70 名前:SHURA 投稿日:2001年04月13日(金)23時29分52秒
- 更新です。
第2部全部載せるとか言ってたけど全然書けなかったです。ゴメンナサイ。
第2部のタイトルは見ての通り『悲しい少女に微笑を・・・』です。
6人目は辻でした。ついでに言うと第2部は辻中心で話が進みます。
たぶん、明日の今頃には更新してるかと・・・。
- 71 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月14日(土)02時42分32秒
- 笑顔のないのの…
ある意味新鮮かも。
- 72 名前:SHURA 投稿日:2001年04月14日(土)22時02分53秒
- レスありがとうございます。
>71さん この辻は2chの某超人気小説の中の
喋れない辻に影響を受けてこうしました(何かは分かりますよね)。
- 73 名前:SHURA 投稿日:2001年04月14日(土)22時06分05秒
- 駅前を抜けて、駅から少し離れた所、この辺りでは一番人の集まる繁華街を歩いていた。
なんか・・・、さっきから私の後ろを同じ間隔で誰かが歩いてきてる気がする。
(付けられてる?)
こういうのは初めてじゃない。前にも同じ様なことが2度3度・・・。
自分でも結構モテる方だと思うんだけど、こういう形ははっきり言ってお呼びじゃない。
気味が悪くなった私は自然と速足になる。
私が速足になるのと同時に後ろの人も速足になる。
怖くなった私は更に足を速める。後ろの人も同様に速くなる。
繁華街を抜けて、人通りの少ない路地に入る。
相変わらず、私の数メートル後ろを誰かが付けてきている。
怖さに耐え切れなくなった私は走り出す。
足には自信があった。昔、町内の大会で100m走1位を取ったこともある。
私が走り出すのを見て、後ろの人も走り出した様だった。
だんだん足音が遠ざかっていく、私のほうが少しだけ速いらしい。
ズサッ!
「痛っ」
後ろの人物は転んだらしく、後ろからそれっぽい音とその人物の声と思われる女の子の声が聞こえた。
(チャンス! 今の内に巻いてしまえば・・・)
そう思った私は一気にスピードを上げる。
(・・・えっ? 女の子? ていうかこの声ってさっきの・・・)
聞き覚えのある声に反応して急ストップした私は後ろを振り返る。
そこにはさっき駅前で会った少女・・・辻希美ちゃんがいた。
- 74 名前:SHURA 投稿日:2001年04月14日(土)22時19分08秒
- 更新です。
更新のペースがメチャクチャですね。
自分でもなんとかしようと思うんですが・・・。
- 75 名前:SHURA 投稿日:2001年04月24日(火)23時01分21秒
- (えっ? 何で?)
不思議に思いながらも転んだ格好のままの彼女の元へ少しずつ歩み寄った。
「ほら、手掴んで」
立ち上がろうとしない辻ちゃんに手を差し伸べる。
辻ちゃんは無言でその手を掴み立ち上がった。その手はやっぱり小さくて、なんだか・・・ひんやりと少し冷たかった。
「どうしたの?あたしの後なんか追っかけてきて」
転んだ時に彼女の服についた汚れを払いながら話しかけた。
「心配なんか・・・して・・・ないんです」
彼女は小さな声で呟いた。
「パパもママも誰も、のののことなんか・・・心配してないんです」
(へっ? 心配してないって、さっきあたしが言ったことに対して?)
「じゃあ、お姉ちゃんが家まで送っていってあげるから。ね、一緒に帰ろっ」
「・・・帰りたくないです」
「えっ?」
「・・・お家には帰りたくないです」
(家に帰りたくないって言われても・・・、えっ? もしかして・・・)
「もしかして、あたしん家に泊めてほしくて追っかけて来たの?」
彼女は少し溜めを置いてから小さく頷いた。
「・・・でも、外泊とかそういうのって、普通友達ん家とかに泊まらない?」
今度は小さく首を横に振った。
(もー、仕方ないなぁ)
「・・・じゃあ1日だけ泊めてあげるから。朝になったらちゃんと帰るんだよ。分かった?」
彼女は私の言葉を聞いて、何も言わずにただ小さく頷いた。
これが、私と辻ちゃん出逢いだった。
だけどこの時、私は彼女の心の中にあった大きな傷と悲しみに気付いてあげることができなかった。
- 76 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月25日(水)03時23分42秒
- 辻ちゃんお持ち帰りですか?(笑
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月25日(水)03時43分00秒
- 10日間待ってましたよ。この小説は期待、というか楽しみにしてるんで。
辻の話がどう転がっていくのか、心の中の悲しみとは何か、続き待ってます。
- 78 名前:SHURA 投稿日:2001年04月25日(水)21時34分06秒
- 毎度のレスありがとうございます。またこれでヤル気になりました。
>76さん お持ち帰り・・・ですね。
>77さん 10日間も更新しないでスミマセンでした。
大会前で忙しかったもので・・・(とか言いつつ、他にも書き始めてるヤツ(笑)
大会は今日と明日で終わるんで、終わったら書きまくりたいと思います。
- 79 名前:ミス発見! 投稿日:2001年04月25日(水)21時53分42秒
- >>75 31行目
私と辻ちゃん出逢いだった。→私と辻ちゃんの出逢いだった。
- 80 名前:悲しい少女に微笑を・・・ 投稿日:2001年04月30日(月)17時31分45秒
- そんなこんなで、私は出逢ったばかりの辻ちゃんを家に泊めることになった。
彼女のことを考えると、早めに家に帰った方がいいのかもしれないと思ったけれど、
中澤さんの店に行く約束があったので、私は辻ちゃんを連れて中澤さんの店に向かった。
「よっすぃー、遅いよ〜」
店に着くと私がくるのが遅いからなのか、真希は少しキレかけていた。
遅かったのは私のせいじゃなくて、辻ちゃんに捕まったからなんだけど・・・
でも責任を辻ちゃんに押し付けるわけにもいかないので、何も言うことができなかった。
「よっすぃー、そのカワイイ子は〜?」
真希の隣にいた矢口さんは私の後ろに隠れるようにして立っていた辻ちゃんに気付いて私に訊いてきた。
私はキレ気味の真希を無視して、矢口さんの質問に答えた。
「この子ですか、さっき補導されそうになってるところ助けたら、
なんか、『家に帰りたくない』って言うから、あたしのとこに泊めてあげることにしたんです」
と、事の要点だけを話し、細かいことはあまり説明しなかった。
なんとなく、話がややこしくなると思ったから。
矢口さんはそのこと自体には興味がないのか『ふーん』って感じだった。
- 81 名前:悲しい少女に微笑を・・・ 投稿日:2001年04月30日(月)17時33分16秒
- その後私達4人はテーブルに座り30分程話をした。
真希や矢口さんは辻ちゃんが気にいったらしく、様々なコトを訊いていたが、
「ねぇ、名前は何ていうの?」
「・・・・・・辻希美」
「希美ちゃんは何歳なの?」
「・・・・・・13歳」
「じゃあ中2なんだ?」
「・・・・・・(うん)」(小さく頷く)
「兄弟とかはいるの?」
「・・・・・・(ううん)」(首を横に振る)
という様に、2人の質問には答えるものの、必要最低限の言葉しか使わず、
決して自分から喋ろうとする素振りは見せなかった。
それに、矢口さんや真希が彼女を笑わせようとしても、クスリともしない。
笑うことを忘れたかの様に、少しも表情を変えなかった。
店が忙しくなりだした頃、辻ちゃんのことを考え、私はいつもよりも早めに店を後にした。
- 82 名前:悲しい少女に微笑を・・・ 投稿日:2001年04月30日(月)17時40分26秒
- 私の両親は基本的に放任主義なので、理由さえあれば何時に帰ってきてもイイことになっている。
外泊も知っている家だったら自由だし、ウチに誰を泊めようとも何も言わない。
なので、辻ちゃんがウチに来ても特に何も言わなかった。
でも、私的にやっぱり無断外泊は親御さんに心配を掛けると思うので、一応、親のいる所に連絡させた。
「もしもし、・・・希美・・・だけど」
「・・・うん、今日、泊まる」
「・・・うん、代わる」
と軽い会話だけで、受話器を私に差し出した。
「はい、代わりました」
『あたたが吉澤さん?』
声の感じからしてどうやら電話の向こうは母親らしい。
「あ、はい、あたし・・・ですけど」
『じゃあウチの子、宜しくお願いします。ご迷惑掛けるかもしれませんけど』
「あ、いや、そんなことないですよ。いい子ですよ」
『じゃあお願いします。私まだ仕事残ってるんで、これで失礼します』
「あっ、あの・・・」
ガチャ!
『ツー、ツー、ツー』
一方的に電話を切られた。それよりも私の印象に残ったのは、何よりも事務的な会話。
自分の娘が知らない人間の家に泊まろうとしているのに、心配のかけらさえも感じさせない。
これだったら、辻ちゃんの言った
『パパもママも心配なんかしてない』
の言葉の意味もなんとなく分かる気がする。
だけど納得ができない、こんな母親なんて。
- 83 名前:悲しい少女に微笑を・・・ 投稿日:2001年04月30日(月)17時45分14秒
- その後、
何か納得のいかないものがあり悶々としながら、私は部屋で明日の予習をしていた。
辻ちゃんは部屋のベッドに座り、棚にあった雑誌を見ているようだった。
(ん〜〜〜〜?)
国語の問題に行き詰まっていた時、
後ろのベッドに座っていた辻ちゃんを横目で見た。
街を歩き回って疲れていたのか彼女はいつの間にか眠っているようだった。
机から立ち上がり傍に寄った。
かすかな寝息をたてるその表情はただの中学生にしか見えない。
(寝てる時はカワイイ顔するんじゃん)
そっと毛布をかけてあげて、その寝顔をしばらく見ていた。
- 84 名前:悲しい少女に微笑を・・・ 投稿日:2001年04月30日(月)17時49分50秒
- ふとこの辻ちゃんについての疑問が頭を掠めた。
なんで、あんな時間に1人で街をうろついていたのか、
なんで、家に帰りたくないのか、
そして、何よりもあの表情、笑うことを忘れてしまったかの様な無表情さ、
そこから読みとれる感情は・・・・・・、
悲しみ?
(もしかして・・・・・・)
(・・・んなわけないか。考えすぎ・・・)
この位の歳の頃って、家出とか夜遊びとか、そう言うものに興味のある年頃なんじゃないかな。
私自身はそう言った経験はないけど、たぶん真希や矢口さんは経験あるんだろうな。
あの表情だって、ただ疲れてるだけで、普段はもっと笑うコなんだよ。
そんな曖昧な意見で、ふと思いついた考えをむりやり押し殺した。
後味が悪いけど、深く追求しない方が私の為にも彼女の為にもいいと思った。
- 85 名前:悲しい少女に微笑を・・・ 投稿日:2001年04月30日(月)17時52分18秒
- (そうだ、予習の続きしよ)
実は明日は梨華ちゃんが来る日なんだよねぇ。
ちゃんと予習しておいて、誉められるようにしておけば、もしかしたら、
『ちゃんと予習してたんだ。偉いよ、ひとみちゃん、じゃあご褒美あげるから目閉じててね・・・』
・・・なんてことになったり、あっ、他にもこんなことが・・・
梨華ちゃんのことを考える私の頭の中から、辻ちゃんのことは消えていた。
- 86 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月30日(月)18時26分11秒
- 辻はこれからどうなるんだろう、気なるね続き。
( TDT)<……ふこうなのれす…
- 87 名前:SHURA 投稿日:2001年04月30日(月)18時30分16秒
- 更新です。
もうちょっと書いてあるけど今日はここまでです。
続きは明日。
- 88 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月30日(月)18時50分33秒
- 吉澤くん、彼女の方が気になる年頃なのね(涙
- 89 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月01日(火)02時21分29秒
- 辻に笑顔を!?
- 90 名前:辻視点 投稿日:2001年05月01日(火)20時14分52秒
- 気が付いたら、私は追いかけられてたんです。
街の中をたくさんの人達に追いかけられていて、泣きそうになりながら逃げていました。
私は自分が追いかけられている理由は知りません。
ううん、ホントは理由なんてないんです。
その人達は、ただ私を追っかけるのが楽しくてそんなことをやってるんです。
その証拠に、後ろを振り返ったらみんな口元に笑いを浮かべてます。
ただの暇つぶし、泣いている私を見ているのが面白いからそんなことをしてるんです。
でも、全ての人が私を追っかけているわけじゃないんです。
その行為をしているのはほんの一部で、ほとんどの人はその行為には参加してません。
だからと言って、私を助けてくれるわけでもないんです。
見て見ぬふり、見えているはずなのに、私と視線を合わせようとはしないんです。
今度は自分がそうなるのが怖いから・・・、結局自分のことしか考えてないんです。
見ている人がいても、その人は追っかけている人と同じ様に笑いを浮かべてるんです。
私を見るのがおもしろいから・・・。
誰も私を助けてくれようとはしないんです。
パパやママに「助けて」って言ったんです。
でも、パパやママは「おまえに原因がある」って言って私の話なんか聞いてくれません。
なんで?私には分かりません。
私は1人です。
いつだって1人なんです。
みんなは徐々に私を追い詰めていきます。少しずつ少しずつ、
次第に逃げ場は無くなっていって、遂に逃げ場は無くなってしまいました。
四方八方から私に近づいてくる人達、私はその場にうずくまってしまいます。
恐い、いや、来ないで・・・
「・・・じ・・・ちゃん」
「つ・・・じ・・・ちゃん」
あれ? 誰? 私を呼んでるんですか?
なんか暖かい、すごく久しぶりな気がする、こんなに優しい声聞いたの。
声がする方を向いてもそれらしき人はいません。
ねぇ、どこにいるんですか?
ねぇ、お願いだから・・・
助けて・・・。
そう思った瞬間、周りは闇に閉ざされました。
私が夢を見ていたことには、すぐに気付きました。
そして、ゆっくりとまぶたを開けました。
涙で滲むその向こうには、とても真っ直ぐで、とても暖かい目をしたお姉さんがいました。
- 91 名前:SHURA 投稿日:2001年05月01日(火)20時37分57秒
- 辻の視点ていうか辻の夢の話でした。
全文一行空けで読みにくかったらゴメンナサイ。
>名無しさん 辻にはちょっと辛い役目をしてもらうかもしれません。
でも最終的に、辻は幸せにしてやりたいなー思います。
>88さん それほどよっすぃーにとって梨華っちは大切な存在なんですよ。たぶん・・・。
>89さん 作者的にも笑ってる辻が1番カワイイと思うんで早く笑わせてやりたいです。
- 92 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月02日(水)00時44分46秒
- 辻の泣きそうな顔にキュンとしてしまう私って……
- 93 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月02日(水)04時46分42秒
- >とても真っ直ぐで、とても暖かい目をしたお姉さん
カッコイイ。
でもほんとにこういう形容が当てはまりそうですごい。
吉澤は何か行動に移るのかな。助けてあげられるといいな。
- 94 名前:SHURA 投稿日:2001年05月08日(火)22時13分30秒
- 後ろで寝息を立てていた辻ちゃんに異変が起きたことには、すぐに気が付いた。
「う・・・・・・ん・・・・・・」
急に苦しそうな声を出して、離れた所から見ても分かるぐらいに額からは汗が吹き出していた。
恐い夢でも見て、うなされているのかな?
始めはそう思っていたけど、冷静に考えてみたらその変化は尋常じゃなかった。
なんだか心配になって、身を乗り出して呼びかけた。
「辻ちゃん、ねぇ、辻ちゃん」
「い・・・や、こな・・・い・・・で・・・」
来ないで?
私の言葉に返ってきたは彼女の小さな言葉は私の期待を裏切るには十分なものだった。
辻ちゃんの様子とその言葉からただの恐い夢なんかじゃないことは容易に想像できた。
机から立ち上がり傍に駆け寄る。
閉じたままのその目にはうっすらと涙が溜まっていた。
さっきより少し大きめの声で呼びかける。
「辻ちゃん 、辻ちゃん」
「・・・たす・・・け・・・て・・・」
その声を聞いて居ても立ってもいられなくなった私は、
もうほどんどグチャグチャになっていた毛布を取り払い、彼女の肩を掴んで揺すりながら名前を呼び続けた。
「辻ちゃん! 辻ちゃん!」
- 95 名前:SHURA 投稿日:2001年05月08日(火)22時15分19秒
- 「ぁ・・・・・・」
涙で濡れたその瞳が少しずつ開いていく。
怯えた表情で私を見つめるその目には私が映っていたけれど、涙で歪んでいた。
頬を伝うその滴は部屋の蛍光灯に照らされていて、小さな宝石のように鈍く光りながら滴り落ちていく。。
その姿はなんか儚くて尊くて・・・、ほんの少し傷つけただけで粉々に消えてしまいそうな・・・、そんな気がした。
少しの間私を見つめた後、私を確認したのか辻ちゃんは私に抱きついてきた。
こんな小さな身体のどこにそんな力があるのかと思うぐらい強い力で、強く強く、自分の居場所を確かめるかのように。
「恐かったです。・・・ンッ・・・すごく、誰も・・・エグッ・・・助けてくれなくて・・・だから、だから・・・」
「・・・・・・・・・」
私は何て言ったらいいのだろう。
こんな時に何を言っていいのか分からない。こんな自分に嫌悪感さえ覚える。
「ンッ・・・エグッ・・・」
胸の辺りから聞こえる嗚咽を聞いて、ただ彼女の頭を撫でてやることしかできなかった。
ゴメンね、辻ちゃん。私にはこうすることしかできない。
- 96 名前:SHURA 投稿日:2001年05月08日(火)22時27分19秒
- 更新です。
さいきん話がダラダラしてきたな・・・。もっと頑張らなければ。
>92さん その気持ち分からないでもない。
なんか『守ってやりたい』って気にはなる。
>93さん お褒めのお言葉アリガトウございます。
次の更新で辻の心の傷が何なのか明らかに・・・。
- 97 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月08日(火)23時00分07秒
- >話がダラダラ
じゃなくて、丁寧な情景描写!
言葉は選ばなくては。(w
ぜんぜんダラダラなんかしてませんよ。やさしい吉澤くんに萌え〜
- 98 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月11日(金)01時13分27秒
- もう一度、声を大にして言おう
辻に笑顔を!?
- 99 名前:SHURA 投稿日:2001年05月21日(月)21時57分20秒
- とりあえず、ゴメンナサイ・・・。
最近、模試続きだったもんで・・・。
これからはコンスタントに更新できるようにします。
- 100 名前:SHURA 投稿日:2001年05月21日(月)22時03分14秒
- どれくらいの間こうしていただろう。
次第に胸の辺りが涙で濡れていくのが分かったけど、不思議と気にはならなかった。
これは優しさなのか、ただの同情なのか分からない。だけど今はこうしていたかった。
さっきまで聴こえていた辻ちゃんの嗚咽がおさまっていく。
どうやら泣き止んだみたい。
「・・・助けて・・・ください」
小さいけどはっきりと聞こえた、あの時と同じく言葉。
その言葉が示すものはすぐに理解できた。もう悲しい表情は勘弁だった。
「伝わらなかったかな? あの時のあたしの想い、『助けてあげる』って」
「ホントにホントですか?」
痛いぐらい真っ直ぐな瞳が私を見つめる。
私は何も言わず、ただ笑顔で深く頷いた。
- 101 名前:SHURA 投稿日:2001年05月21日(月)22時06分09秒
- 少し間を空けたあと、覚悟を決めたように辻ちゃんは着ていたブラウスのボタンを1つずつはずし始めた。
その上に着ていたブレザーは部屋に入った時に既に脱いでいた。
「ちょっ! 辻ちゃ・・・」
出かけていた言葉は最後まで出ずに途切れた。
ブラウスのボタンを全て外し、それを床に落とした彼女の姿に私は目を疑った。
「・・・それ・・・どうしたの?」
彼女の白い肌の上に散らばる痣、それも腕や首など露出する事が多い部分を避けて付けてある。明らかに確信的なものだ。
その中に紛れて、マジックで書かれたものを消したと思われる跡。
全てを察知するのにそう時間はかからなかった。
私の中にふつふつと矛先のない怒りが生まれてくる。
「イジメ・・・なの?」
辻ちゃんは何も言わなかったけど、それが逆に私の疑問を確信に変えた。
見るに耐えないその姿に私は今一度彼女を抱きしめる。
冷たいその身体と心に私の温もりを少しでも分けてあげたかった。
きっとどんなものよりも眩しかった彼女の笑顔。
それを奪ったものは何よりも罪深い。
・・・許せなかった。
- 102 名前:SHURA 投稿日:2001年05月21日(月)22時09分51秒
- 時計を見ると既に日付は変わっていて、時刻も午前2時を指している。
とりあえず今日は寝ることにした。とにかく今は辻ちゃんを休ませてあげたかった。
ベッドに入ると、彼女はすぐに深い眠りに落ちていった。
この後、彼女がうなされることはなかった。
私は暗い部屋の中、ベッドの上で天井を見ながら考えていた。
布団の中の左手は辻ちゃんの右手に重なってる。
私に彼女を救えることができるのだろうか?
今は何も分からない。でも、とにかく何とかしなきゃ。
様々な考えを巡らせていくうちに私も眠りに落ちていった。
- 103 名前:SHURA 投稿日:2001年05月21日(月)22時12分07秒
- 2週間ぶりの更新です。
- 104 名前:SHURA 投稿日:2001年05月21日(月)22時17分24秒
- うわ、間違って投稿しちゃった。
>97さん お褒めの言葉どうもです。ダラダラしてないですか。安心しました。
>98さん 「辻に笑顔を!?」「辻に笑顔を!?」「辻に笑顔を!?」
- 105 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月22日(火)00時33分20秒
- うっう〜辻たん……
吉澤くんなんとかして……(涙
- 106 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月22日(火)12時41分04秒
- よっすぃー!早く辻ちゃんを助けてあげて!
- 107 名前:SHURA 投稿日:2001年05月26日(土)19時40分29秒
- ののは中学校の廊下を1人歩いていました。
今日の朝、吉澤さんは考えた結果「とりあえず、学校には行っといた方がいいよ」と言いました。
登校時間、周りからは「おはよう」のあいさつがしきりに聞こえます。
ただ、ののに声をかける人は誰もいません。
そんな中で、当然1人ぼっちでいる寂しさを感じずにはいられません。
まるで、のの1人だけが違う世界にいるみたい。
毎日ずっと思い続けてきました。
半年位前、まだ中学校に入ったばかりの頃はこんなはずじゃなかったんです。
別に学校で特別な存在だったわけではないんですけど、普通に友達はいたし、
一緒に学校に来たり、一緒に帰ったり、休みの日は一緒に遊びに行ったりなんかして、普通の中学生をしてたんです。
いつ頃からだったかな、こんなことになってしまったのは。
- 108 名前:SHURA 投稿日:2001年05月26日(土)19時42分40秒
- 中学校の時って、必ずいると思うんです、クラスの中の中心人物みたいな人が、あのクラスではあの人がそうだったんです。
10人位のグループを作って、お勉強をサボったり、夜遊びをしたり、本当にやりたい放題だったんです。
ののがそんなことしたら、すぐに先生に怒られると思うんですけど、
そのコは親が地区でも有力な資産家みたいで、なんか先生も厳しく出来ないみたいでした。
2学期の席替えだったと思うんです、そのコの隣の席になったのは。
始めはいやだなぁと思いながらも、なんとかうまくやってたんです。
軽く絡まれたりはしたんですけど、悪意がこもってない、っていうか軽い遊びみたいなものでした。
でも、それはそんなに長くは続きませんでした。
全てはあの日から始まったんです。
その日、あれはただのお昼休みのはずだったんです。
友達との遊びに夢中になっていたののは、ののに話しかけてくるそのコに気が付かませんでした。
ののはそのつもりはなかったんですけど、そのコは無視されたと思ったみたいなんです。
「違うよ」
って、何度も言いました。話を聞いていなかったことも謝まりました。
でも、何を言っても聞いてくれませんでした。
その日の放課後です、ののは人気のない教室に呼び出されました。
その教室でお腹を殴られたり、服を脱がされて写真を撮られたりしました。
その日はそれで終わったんですけど、それだけでは終わらなかったんです。
身の回りの物がなくなったり、ありもしない噂を流されたり、
そんなことが続いていくうちに、始めのうちは一緒に悩んでくれた友達もだんだんののから離れていきました。
気付いた時にはののは1人になっていました。クラスメイトのののを見る目が変わっていました。
先生に言っても、あのコの名前を出すと、いい加減な理由をつけてののが悪いと言います。
パパやママに言おうとしても、ののよりも仕事が大切みたいで取り合ってくれません。
ののはなにも悪い事はしていないのにどうして・・・。
いっそひと思いに死ねたらどんなに楽なんだろうな。
でも、ののは弱虫だからそんな勇気ないんです。
- 109 名前:SHURA 投稿日:2001年05月26日(土)19時43分49秒
- 教室に入ったら自然とみんながののを見ます、でも次の瞬間には何もなかったみたいに目を逸らすんです。
いつものことです。もうそんなことにも慣れました。
ひと通り教室を見たけど、今日はまだそのコは来ていないみたいです。
安心しましたけど、でも不安が取り除かれたわけじゃありません。
毎日ただひたすら時間が過ぎるのを待っていました。ふと思いました、まるで砂時計の砂が落ちてくのを見てるみたい。
授業中、ただ機械みたいに黒板の文字を映します。
分からない事だらけなんですけど、何かに集中するとほんの少しだけ自分のことを忘れられるんです。
- 110 名前:SHURA 投稿日:2001年05月26日(土)19時45分08秒
- 次の時間は体育でした。
ジャージに着替えて、校庭へと向かいます。でも着替えに時間がかかったんで、クラスのみんなよりも遅れちゃいました。
校庭までの通路を急いで走っています。その時、不意に何かにつまずきました。
前のめりに転んで1番始めに視界に入ったものは、いくつかの靴の中央にあるあのコの靴でした。
ののはこのとき自分の身に何が起こったのか、そしてこれから自分に起こることもすぐに分かりました。
「・・・杏奈・・・ちゃん」
「気安く『ちゃん』付けすんなって言ってんだろ」
「・・・杏奈・・・さん」
「のぞみ〜、あたしさっきむかつく事あってさ〜、メチャメチャ機嫌悪いんだよね〜。
だからさ〜、ちょっと相手してくんない?」
杏奈ちゃんはいつもこうです。自分の気にいらないことがあると、その度にののをイジメるんです。
自分のために誰かが傷つこうが関係ないと思ってるんです。
「ねぇ、どうなの?」
「イヤ」本当はそう言いたいんですけど、ののには選択肢は1つしかありません。
「・・・うん」
- 111 名前:SHURA 投稿日:2001年05月26日(土)19時51分34秒
- あれから、どれ位時間が過ぎたのかな・・・。
人気のない体育館の裏で何度も杏奈ちゃんやその友達に殴られたり蹴られたりしました。
身体中が痛いです、本当はどこから痛みが出ているのか、それさえも分からないくらいです。
気が済んだみたいで杏奈ちゃん達はここから離れていきました。
そんな中、ぼやけてる視界に1人の人の姿が映りました。
ののと同じ位の身長のコ。たぶんこのコも杏奈ちゃんの友達の1人だったと思います。
新学期になった時に転校してきたんです、関西の言葉が印象に残ったからよく覚えてます。
入ってそうそう、いきなり杏奈ちゃんのグループに入ったコですけど、こういう形で会うのは初めてです。
何をするわけでもなく、ただ仰向けに倒れているののを見下ろしています。
だけど、ぼやけて見えるからその表情はよく分かりません。
「・・・亜依・・・ちゃん?」
気のせいかもしれませんけど、亜依ちゃんの黒目がちの目から何かが落ちた気がしました。
「何やってんの、亜依? そんなヤツほっといてさっさと行こ」
「ん、あぁ、分かった」
その言葉が聞こえた途端、亜依ちゃんの表情が変わりました。それだけは分かったんです。
「亜依ちゃん・・・?」
「るっさいんじゃ、気安くウチの名前呼ぶなや!」
その言葉の後、鋭い痛みが脇腹に走りました。
「つっ・・・・・・」
痛みの中で、悲しそうな顔でののを見ながら走っていく亜依ちゃんを見た気がしました。
- 112 名前:SHURA 投稿日:2001年05月26日(土)19時54分18秒
- 痛みが和らいだ時、当然ですけど周りには誰もいませんでした。
窓の外は、ぽつぽつと雨が降り出しています。
その光景を映す鏡みたいに、ののの目からも涙が流れていました。
ののは涙を拭いもしないで、ただ窓の外を見ていました。
涙の量に比例して、雨は強さを増していきました。
「もうイヤです・・・こんなの・・・」
- 113 名前:SHURA 投稿日:2001年05月26日(土)19時59分14秒
- 更新です。
>105、106さん
作者的にも、早くしたいんですけどね。
次の更新あたりから救いに向かうかな?って感じです。
- 114 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月26日(土)21時17分23秒
- か〜ご〜(涙
あ〜、ぶりんこう○こが……
- 115 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月27日(日)02時45分41秒
- 加護、君の一歩が辻を救うハズだ!?
作者さんへ
そろそろ勘弁してくらさい。
- 116 名前:SHURA 投稿日:2001年06月01日(金)01時34分51秒
- 「この2次関数は平行完成の公式を使うと、こう変形できるよね。
それで、x二乗の係数が正の数なんだから、
このグラフの頂点のy座標m−1が負の数の時に、この式のグラフとx軸が異なる2点で交わるのね。
よって、m−1<0・・・、と言うことはすなわちm<1なのね。分かった?・・・って、ひとみちゃん、聞いてるの?」
「・・・あっ、ああ、うん、この問題だよね」
「もぉ・・・、それはさっきやったやつでしょ。今やってるのはこの問題だよ」
「ああ、そうだったよね。ゴメン」
「どうしちゃったのよ? なんかおかしいよ、今日のひとみちゃん」
「そ、そうかな? 別に普通だと思うけど」
「そうだったらいいんだけど・・・、じゃあ次はこの問題の1番解いてみて」
いつもだったら梨華ちゃんといる時間は驚くほど楽しくて、梨華ちゃんの授業にも恐いぐらい集中できるのに、
今日はなんか、上の空・・・ていうか、心ここに有らずって感じ。
やっぱりどこかで辻ちゃんのことが気になってるんだ。
今日は大丈夫だったのか、
ちゃんと学校に行けたか、
本当は行かせない方が良かったんじゃないのか、
私の選択は本当に正しかったのか、
偉そうに「とりあえず、学校には行っといた方がいいよ」なんて言っといて、私は結局何も分かってない。
彼女が開ける教室のドアからは悲しみだけが出迎えることも、
毎日、彼女がどれだけの恐怖と向き合っていたことも・・・。
私は1人よがりの考えを押し付けて結局は自己満足じゃないか。
もし今日、辻ちゃんの心に傷がまた1つ増えたら・・・、それはきっと私のせいだ。
- 117 名前:SHURA 投稿日:2001年06月01日(金)01時43分19秒
- 学校にいた時は霧雨程度だった雨が、今はかなり雨足を強めている。
雨滴が流れ落ちる窓、色薄く映る私の顔の向こうにはいつもと変わらない町の景色が広がってる。
だけど雨のせいなのか分からないけど、ひどく悲しそうだ。まるで彼女の心の中を映す鏡の様。
もう学校はとっくに終わってるか。
今日は無事に家に帰れたかな・・・。
「ひとみちゃん!」
「わっ、な、何?」
びっくりした〜。急に大声出さないでよ、梨華ちゃん。
「今、何か違うこと考えてたでしょ!?」
「え、いや、そんなことないよ」
「じゃあ何で問題に全然手つけてないの?」
「あ・・・この問題難しくてさぁ・・・あはは」
「・・・・・・あのさ、もしかして何か悩みとかあるの?」
「べ、別に悩みなんてない・・・よ」
「・・・何か悩みあるのなら言ってみてよ。別にお勉強教えることだけが家庭教師の仕事じゃないんだからさ」
際立って大きいと言うわけじゃないけど、強い意志を秘めたその瞳が私に向けられる。
優しさを輝かせる梨華ちゃんの顔、なんて言うか、この世には汚れてるものなんて知らないみたいだ。
もしかしたら、梨華ちゃんなら・・・。
無責任な考えだということは分かってる、だけど今の私は何にでもいいから縋りたい気持ちだった。
「あのね、梨華ちゃん、実は・・・」
ピンポーン
・・・誰だよ・・・、なんて間の悪い・・・
「ひとみちゃん、誰か来たみたいだよ」
「うん、分かってる。まだお母さん帰ってくる時間じゃないけどなぁ、何だろ? ちょっと行ってくるね」
- 118 名前:SHURA 投稿日:2001年06月01日(金)01時44分59秒
- 苛立ちを覚えながら下の階へと階段を下りる。
玄関のドアを開ける。その時私の目に飛び込んできたものは、ずぶ濡れでその場に立ち尽くしている・・・、
辻ちゃんだった。
「どっ、どうしたの!?」
何があったのかは一瞬で判断できた。だけど反射的に訊いてしまった。
あー、私ってサイテー。
「ンッ・・・ヒグッ・・・」
そのキレイな顔を濡らしていたうちの半分は涙だった。
彼女は何もせず、何も言わず、ただそこに立ち尽くしている。それは今にも消えそうな、そんな存在だった。
私は冷たいその体を、胸の中に押さえ込むようにして抱きしめた。
いや、抱きしめずにはいられなかった。という表現の方が正しいと思う。
ごめんね、ホントにごめんね。悲しい想いさせちゃって。
- 119 名前:SHURA 投稿日:2001年06月01日(金)02時12分55秒
- 約2ヶ月ぶりの石川登場です。
>114さん 加護はね・・・、いろいろとあるんですよ。
>115さん 作者も書いてて痛いなぁって思ってますよ。
加護については・・・ちょっと今は何とも言えないんですよ。
- 120 名前:114 投稿日:2001年06月01日(金)21時05分30秒
- いつもなら、いしよしで萌えるところなのに…
- 121 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)00時59分46秒
- しばらくの間、私は辻ちゃんを抱きしめていた。
「ごめんね、ごめんね・・・」
小さな頭が腕の中でわずかに横に振られた。
「違います」とでも言いたいのだろうか。何でだよ、私が悪いのにさ。
パタパタと後ろから階段を下りてくる音が聞こえる。梨華ちゃんだ。
「誰? その子」
「ああ、この子は・・・」
「話は後にして、とにかく中に入ろ。そのままじゃその子風邪ひいちゃうよ」
「ああ・・・、そだね」
- 122 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時02分39秒
- 雨で完全に冷えきっていた辻ちゃんをお風呂に入らせている間、
私は梨華ちゃんに辻ちゃんについて知っている限りのことのことを説明した。
彼女と会った時の様子、彼女の内面、彼女の家庭、今現在彼女の置かれている現状も。
梨華ちゃんはその話を食い入るように一言一言真剣に聞いていた。
驚くと思っていたのだけれど、予想に反して梨華ちゃんは静かに、
「そっか・・・」
と、言うだけだった。
あらかた話し終えた頃、お風呂から上がった辻ちゃんが部屋に入ってきた。
濡れた制服は乾燥機に入れてる最中だったので、それ乾くまでの間、代わりに私の小学校の時の服を貸してあげた。
それから、今日起こったことを話してくれるように頼んだ。このことはホントは訊いてはいけないことかもしれないけど。
それに対して、辻ちゃんは嫌な顔ひとつしないで話してくれた。
だけどそれが私の心には辛くて、私は自分から訊いたにもかかわらず、
途中から彼女の話を聞くことが耐えられず、彼女の顔も見ずにただ下を見ているだけっだった。
「のの、もう学校行きたくないです」
全てを話し終えた後、誰に言うでもなくただ呟くように口にした。
その言葉を最後に部屋の中に沈黙が流れた。この重い雰囲気の中、私も口に出す台詞が思い当たらなかった。
・・・・・・・・・。
- 123 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時06分29秒
- この沈黙を打ち破ったのは梨華ちゃんだった。
「それで・・・、それでののちゃんはこれからどうしようと思ってるの?」
「えっ? これから・・・って・・・ののは・・・」
梨華ちゃんの突然の問いかけに辻ちゃんは戸惑ってるみたい。
「梨華ちゃん、だからそれを私達が・・・」
「ゴメンね、ひとみちゃん、悪いけど今はののちゃんに訊いてるの」
「う、うん・・・」
思いもよらない梨華ちゃんの真剣な眼差しに私はただ頷くだけだった。
そんなに長いつきあいじゃないけど初めて見たと思う。梨華ちゃんのこんなに真剣な顔って。
私の応えを待たずに梨華ちゃんの質問は続いた。
「ののちゃんは誰かに助けてもらいたいと思ってるの?」
「・・・そうです・・・けど。・・・だって1人じゃ絶対無理なんですよ。相手は大勢だし、ののは体小さいし、
奇跡でも起こらないかぎり絶対無理なんです。そうしたら誰かに助けてもらうしかないんですよ」
「違うよ」
静かに梨華ちゃんが言った何でもない一言、だけどこの一言の中には何とも言えない強烈な説得力があった。
なんて表現したらいいのだろう。よく分からないけど、とにかくいつもとは違ってた。
しいて言えば、冷たくも温かくもなく、柔らかくも硬くもないって感じ。
「奇跡なんて待ってるだけじゃ起こらないよ。だってね自分の人生に奇跡を起こせるのは自分だけなんだから。
それにね、イジメっていうのはする側の人だけじゃなくて、される人にも原因っていうのがあるんだよ。
だからののちゃんが変わらなきゃダメなの。つまりね、自分の力だけでなんとかしなきゃならないの。
無理だって決めつけて誰かに頼ってばかりいたら、結局同じことの繰り返しだよ」
「そんなこと言ったってののには無理ですよ。勝てるわけないです」
「ううん、別にあたしは戦えって言ってるわけじゃないの。
自分の気持ち、正直な気持ちを言ってやればいいんのよ。イヤだったらイヤって言う。それだけでイイのよ」
「そんなこと・・・ののにできますか?」
「大丈夫よ。嫌いな食べ物みたいに『イヤだ!』って言っちゃえばいいの。ねっ」
そう言う梨華ちゃんの顔は今までの真剣な顔とは違う、いつもの柔らかい優しさの溢れる表情だった。
- 124 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時07分29秒
- ピーッピーッピーッ
その時、下の階の乾燥機から作業の終了を告げるブザーが鳴った。
私が乾いた辻ちゃんの制服を取りに行こうとと部屋の出口に向かおうとした時、
「分かりました」
誰の声? って思うほどそれは自信に満ち溢れている強い声だった。
後で思い出せば、あれはどう考えても辻ちゃんだったんだけど、
当時の、彼女の弱い声しか聞いたことのない私にとっては別人のように聞こえたことには違いない。
そして、振り向いた時に見たその表情にはかすかだけど明るさが戻っていた。
笑顔にはまだ程遠いけど、全然マシ。あの暗い、悲しみしか伝わってこない顔に比べれば。
「のの、まだちょっと恐いですけどやってみます。
そうですよね。のの自分1人じゃ何にもできないって決めつけてて、気付かないうちに誰かに甘えてたんですね。
もう大丈夫ですよ。ののをイジめるみんな嫌いな物だと思えばいいんですよね。
え〜と、のの嫌いな物いっぱいあるんですよ。牛乳にピーマンにセロリに、え〜っと、それから・・・」
指を折りながら嫌いな食べ物を口に出している辻ちゃん、
なんかもう完全に吹っ切れちゃたのかな?
その様子を眺めながら梨華ちゃんは私のところに寄ってきて、
「もう大丈夫だね」
と耳元で囁いた。
「あ・・・ああ・・・、そだね」
私はそれにもただ相づちを返すだけだった。
気が付くと外で降っていた雨は完全に止んでいて、窓からは西日の赤い光線が差し込んでいた。
- 125 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時08分04秒
- 教室の中、ののはただひたすら自分を落ち着かせようと必死でした。
今日はまだ彼女達、杏奈ちゃん達のグループの人達は来てません。
そのおかげで今はまだ安心してるんですけど、
吉澤さんの家で石川さんに言われたこと
『自分の人生に奇跡を起こせるのは自分だけなんだから』
『自分の気持ち、正直な気持ちを言ってやればいいのよ』
が昨日のお家に帰る途中からずっと頭の中でグルグル回ってるんです。
今度呼び出されたら絶対に言ってやる。
そう決めてきたんですけど、いざとなったらどうしたらいいのか分かんないんです。
正直に言うとですね、実は今すぐにでも逃げ出したい気持ちなんですよ。
その度に、シメイカン? っていうんですか? とにかくののをイジめる悪いヤツらを倒してやる。
そう思うようにしました。
1、2、3、4時間目と杏奈ちゃん達は来ません。
その間の休憩時間に誰かが教室を出入りする度にビクッってしちゃってるののがいるんですけど。
いっつもそれは違う人でした。
お昼ご飯、昼休み、と時間はあっという間に過ぎてって、もう6時間目になりました。
杏奈ちゃんが学校にまったく来ないのはそんなに珍しいことじゃなかったから、別に誰も気にしていませんでした。
その6時間目もあと2、3分、
今日は来ないのかぁ・・・。
と残念・・・というのは嘘で実はすごくホッとしてたりするんです。
そうしているうちに授業の終わりを告げるチャイムが鳴りました。
放課後、ののは何にもなかったので、すぐに帰る準備をして教室を出ました。
とにかく今日はお家で明日にそなえて対策を練らなきゃ。
階段を下りて、昇降口で靴を換えます。
そのまま校門を抜けて、あとはお家まで一直線・・・のはずでした。
- 126 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時08分50秒
- 校門の外の通りを曲がった瞬間、後ろからブレザーの襟元がグッっと掴まれたんです。
「キャッ」
振り向いたそこには、杏奈ちゃんとそのお友達が・・・、
「ねぇ、希美。ちょっと用事があるんだよね。ここじゃなんだから場所変えて話がしたいんだけど。どう?」
うっ・・・・・・。なんかいつもより、はるかに不機嫌じゃないですか。
「・・・・・・・・・」
何でか分かんないですけど、言葉が出ません。
「どうなんだよ、の〜ぞ〜み〜?」
杏奈ちゃんのそばにいるコが問いかけてきました。
「あ・・・その・・・」
イヤって言わなきゃ、イヤって言わなきゃ・・・。
「えっ? 何か言ったらどうなの。来るの? 来ないの?」
「は、はい。行きます」
その威圧に負けて、ののの口は自然にこう言っちゃっていました。
あ〜そうじゃないんですよ〜。ののが言いたいのは〜。
「あ? 何ブツブツ言ってんの?」
「あ・・・何でもないです」
も〜、これじゃ今までのののと一緒じゃないですか〜。
今のののはこれまでのののとは違うんです。
イヤです! 行きたくなんかないです!
そう心の中で叫んだんですけど、それは杏奈ちゃん達には届きませんでした。
- 127 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時09分22秒
- 杏奈ちゃん達に連れられてきた所は、明らかに人気の無い学校の近くの空き地でした。
ののはそこの中央に立たされて、正面に杏奈ちゃんがいて、周りを杏奈ちゃんのお友達で囲まされました。
その中には昨日の亜依ちゃんもいましたけど、相変わらずその表情は分かんないです。
「希美〜」
杏奈ちゃん。何があったかは分かりませんけどさっきからずっと不機嫌です。
「は、はい。何ですか?」
「おまえさ〜。センコーにあたし達のことチクったろ?」
えっ? ああ、心当たりありますけど、それ去年のことでかなり前のことのような・・・。
「なぁ、おまえなんだろ?」
「は、はい。たぶんののかもしれないです」
「やっぱおまえかよ〜。めんどくせ〜ことすんじゃね〜よ。
昨日さ〜、ウチの担任に呼び出されてよ〜、『辻ともっと仲良くしたらどうだ』だって、おまえ何様のつもりってカンジだよ」
まぁ、センコーはウチの親父に言えば来年はどっかに飛ばされると思うけど、
問題はおまえだよな。ったくよ〜これで成績下がったらどうしてくれんだよ。
だからその利子でちょっと痛い目にあってもらうから。分かってんだろ?」
「え? でも・・・、ののは・・・」
ののの答えを待たずに杏奈ちゃんの足がお腹に向けて飛んできました。
「うっ!・・・」
それはみぞおちにクリーンヒットして、あまりの痛さにののはその場にうずくまってしまいました。
それを皮切りにして、次から次へと痛みが降り注いできます。
痛いよ。苦しいよ。辛いよ。
その叫びは声にならずに宙を舞いました。
- 128 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時10分03秒
- 「おまえさ〜、昨日誰か知んないけど高校生の家に行ってたんだって?」
「な・・・んで、知・・・てるんで・・・すか?」
「あたしの仲間が見たんだってさ〜。何? そいつに頼んで助けてもらおうとでもしたの?」
「ぇ・・・いや・・・それは・・・」
「そうなんだろ。まぁ、そいつが来てもどうせムダだけどね。
あたしに刃向かえるとでも思ってたのかよ、そいつ。だとしたら、マジでバカだよ」
ケラケラと杏奈ちゃん達の笑い声が聞こえます。
「違います!」
その瞬間、ののは自分でもびっくりするぐらいの大声で叫んでました。
「その人達はそんな人じゃないです。2人はのののことを真剣に考えてくれて、親切にしてくれた人です。
バカなんかじゃないです。間違ってます」
ののを優しく抱きしめてくれた吉澤さん。ののに1番大事なことを教えてくれた石川さん。
その2人をバカなんて言ったら、ののは絶対に許さないです。
「間違いを直してください!」
「何ムキになってんのよ。そんなくだらないことで」
「くだらなくなんかないです。2人はののにとって大事な人なんです」
「・・・ったく。あたしにむかってそんな態度とってていいと思って言ってんの? もっと痛めつけられたいわけ?」
「えっ?」
その言葉にののの心の中にまた恐さが戻ってきました。
また傷つく・・・。イヤですよ。誰か助けて・・・。
『誰かに頼ってばかりいたら、結局同じことの繰り返しだよ』
杏奈ちゃんの言葉に戸惑っていたののの頭の中に昨日の石川さんの言葉が蘇ります。
そうしたら小さな勇気がののの中に生まれた気がしました。
恐くなんかない。恐くなんかない。恐くなんかない。
『奇跡は自分で起こすもの』
そうです。奇跡はののが起こすんです。
- 129 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時13分36秒
- 「痛めつけるなんて、そんなこと間違ってますよ。
気にいらないからって他人を傷つけたりとか。そんなことしてて楽しいんですか?」
「楽しいよ」
ののが言い終わると同時の杏奈ちゃんの言葉、ただ冷たく、感情なんて感じさせない言葉。
「そ、そんなこと傷ついたことがないから言えるんです。
傷ついたことがある人なら分かるはずですよ。ののがこれまでどんな想いだったか。
痛くて、つらくて、苦しくて・・・。毎日そんなことしか考えれないんですよ。
ののだって最初はどんな苦しいこともそれを分かち合える友達がいれば大丈夫だって思っていましたよ、
でも、その友達もののから離れていって・・・。
1人ぼっちになって、それからは毎日が不安と寂しさでいっぱいでした。
教室にいるとですね、毎日を楽しそうに過ごしているみんなと、
毎日こんな日々を送ってるののは実は別の世界に住んでるんじゃないのかな。って思うんです。
自分は元からこうなる運命で、普通に生きてる人とは関わっちゃいけないんだって。
それがどんなにつらいことか分かりますか? 分かりませんよね。傷つけてばかりいた人じゃ。
自分が人を傷つけて気分を晴らしてる裏で、心に深い傷を負ってる人がいるってこと、全然知らないんだから。
自分の事しか考えてないから、他人のことなんか何とも思ってないんですよ」
- 130 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時16分37秒
- 一旦言葉を止めるとその場にシーンと静けさが立ち込めました。
ののにはそれが地球上でその場だけ時間の流れが止まったみたいに感じました。
ののは更に続けました。
「杏奈ちゃんだけじゃないです。他の人だってそうですよ。
目の前で誰かが傷ついてるの見て、何とも思わないんですか? そうだとしたらそんなの絶対おかしいですよ。
それに、みんな心の底から杏奈ちゃんと友達になりたいと思ってたんですか?
本当はののみたくなっちゃうのが恐くて、1人ぼっちになるのが恐かっただけじゃないんですか?
ののはその気持ち分かりますよ。1人ぼっちってとってもつらいから。
でも、のの昨日教えてもらったんです。
イヤなもはのイヤって言うことが大事だって、
それは悪いことは悪いって言うことが大事っていうことでもあると思うんです。
みんなだって分かってるんだよね。今自分がしてることがどんなことか。絶対にいいことしてるわけじゃないって」
「・・・・・・・・・」
ののの問い掛けに対し、誰も口を開こうとしません。でも絶対に届いてるはずなんです、ののの気持ち。
- 131 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時17分35秒
- 「言いたいことはそれだけ」
「えっ?」
「ったくさぁ・・・。何するかと思えば、説教かよ。マンガじゃないんだからそんなんで心動かすヤツがいるかよ」
「そ、そんなぁ・・・」
「何を言おうが別に構わないけど、ウザイんだよねぇ、そういうのって」
ううん、そんなわけないです。ののは正しいことを言ったんです。
「それに、誰もオマエをイジメて何とも思ってないと思うけどね。まぁ、しいて言えば・・・、楽しい。ってなくらいかな。
それに分かんないね。何? その傷つく側の気持ちってヤツ。
あたしは選ばれた人間だから、持つべき物を持って生まれてきた人間だからそんなの知らなくてもいいの。
それに対してアンタはこうなるべき人間だったってわけ。
分かったでしょ。自分がどういう人間なのか。
結局アンタが何をやってもムダなわけ。その運命は変わらないの」
・・・・・・。
反論する言葉も出てきません。
やっぱりののじゃ無理だったんでしょうか。
吉澤さん、石川さん、
のの、やっぱりダメでした。ゴメンなさい。
「ったくオマエのくだらない話で時間くっちゃったじゃん。早めに終わらせるよ。ねぇ手伝って」
杏奈ちゃんは周りにいる友達にそう呼びかけました。
ののはこの時すでに諦めていました。
これから訪れるであろう痛みに備えて唇をキュッと閉めました。
でも、ののの気持ち、ホントは届いていたんです。あのコに・・・。
- 132 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時18分20秒
- 「ウチ止めるわ・・・」
どこからともなく聞こえたその声は、静かなこの空間をまっすぐに通り抜けていきました。
そこにいたほぼ全員が声の出所が分からなかったみたいで、いろんなところを見てはそれを捜しています。
でも、ののはすぐに分かったんです、その声のした場所が。
人垣の奥にそのコはいて、ただ自分の足元を見ているだけでした。
「亜依、どういうつもり?」
ののとほとんど同じ位置にいた杏奈ちゃんにも、それは分かってたみたいです。
その声の主、亜依ちゃんに向かって鋭い口調で問い掛けます。
「だから、ウチこんなんもう止めるゆうてんねん」
「はぁ? 何言ってんの、まさかコイツの言葉に動かされたなんて言うんじゃないよね」
「それもあんで、けどなウチずっと思ってたわ。ウチこんなんでええんかな?って」
「じゃあ何であたし達と一緒にいたわけ?」
「それは・・・」
「第一、アンタ、そんなこと言ってただで済むと思ってんの?」
「・・・そんなん思てへんよ。ええで、ウチのことイジメたっても。
けどな、その代わり、もうそのコに手出さんって約束してくれるか? それ約束してくれたらいくらでも殴らせたるわ」
えっ? あ・・・い・・・ちゃん・・・。
「はぁ? アンタ本当にそれでいいの? 自分をイジメてもいいからコイツをイジメないでくれ。って」
「ああ、ええで。せめてもの罪滅ぼしや」
「アハハ、笑えんじゃん。何? ヒーローにでもなったつもり?
いいよ、じゃあ明日からはオマエが標的だから。覚悟しててね」
そう言い残して、杏奈ちゃんはその場を去ろうとしましたけど、
その後ろにはその場にいた誰もついていこうとはしませんでした。
「何やってんだよ! 帰るよ!」
そう言われて初めて他の人は杏奈ちゃんの後ろについていきました。
- 133 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時25分25秒
- そして、その場にはののと・・・亜依ちゃんだけが残る形になりました。
よく状況が掴めずボーっとしているののを他所に、亜依ちゃんはののの方に近づいてきて、
「ほれ、掴みや」
ずっと膝をついたままだったののに手を差し出したんです。
「あ、ありがとう」
「そんな硬くならんと、普通でええのに」
そう言って、亜依ちゃんは頼んでもないのに、ののの制服についた土や埃やらを払って落とし始めました。
「う、うん」
「ほんま、ゴメンなぁ」
「え? 何が?」
「何がて、あいつらにくっついてて、イジメに参加してたことや」
「あ、ああ、別にいいよ」
「・・・・・・」
会話が途切れても亜依ちゃんは無言で制服を払っています。
ののの後ろに回って背中を払っています。
これって実に気まずい雰囲気ですね。
「ね、ねぇ・・・」
「ん、なんや?」
「さっきの大丈夫なのかな?」
「え、さっきのって?」
「『ウチのことイジメたっても』って、大丈夫かな?」
「ああ、そんなん気にせんと、別にウチなんかやってたわけやないけど、あんなヤツ等には意地でも負けへんから」
- 134 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時31分28秒
- 背中を終えた後、亜依ちゃんはしゃがんで制服のスカートを払い始めました。
「あのな、ウチ、いわゆる転校少女やねん」
「えっ?」
「あっ、よかったら聞いてくれるか。ウチの話」
「ああ、いい・・・けど」
「ウチ、転校少女で今の学校が12、3個目ぐらいやねんな。
それでな、最初はえらい緊張したで、ほんまに友達できるんやろか? って。
でもな、そん時はちゃんと友達できたんやけど、全部が全部うまくいくっちゅうわけにはいかへんねん。
ほら、うちって関西やんか。せやから場所によっては関西弁ってだけで変な目で見られたりな、
イジメられたりしてたんや。まぁゆうたら今のアンタみたいな・・・ってこれは失敬やな。
なんちゅうんかな〜。1人ぼっちゆうんかな? そんなこともしばしばやったで。
まぁそんなんゆうてもそれが転校少女の運命なんかもしれへんけど。
それにな、友達ゆうてもすぐにそんなん仲ようなれるもんやないし、仲ようなってもどうせまたすぐ転校や。
そんなん繰り返すうちにな、だんだん苦労して友達作んのもイヤんなってきたんや。
そんなんゆうてもやっぱ1人はイヤやった。わがままやな。
そんときにな、ウチ分かったんや。楽に友達作る方法。何だか分かる?」
それを聞いて、ののはただ首を横に振りました。
ホントのところ、なんとなく分かってたんですけど言えなかったんです。
「なんとなく分かる思うんやけどなぁ、学校の不良グループゆうんか、それに入ればええねん。
ああゆうヤツ等っちゅうもんはいっつも仲間増やしたがってるから、すぐに受け入れてくれんねん。
それにそういう人間と一緒にいると他の人間にも舐められんしな。
でもな、ウチやっぱ悪くなりきれんかった。せやから人一倍罪悪感っちゅうんか、感じんねん。
でな、それはここでも一緒やった。いんや、いつも以上やったで。
だってな、アンタ、ウチと一緒やったから・・・」
それ、今、ののも思ってました。
ああ、亜依ちゃんってののと一緒だったんだ・・・って。
スカートを払い終えた次はののの横に周って肩の辺りを払い始めました。
「1人ぼっちの痛みとか、イジメられるつらさとか、分かってたから逆につらかったんや。
『じゃあなんで?』って思うやろ? ウチってほんまに弱虫やからな、また1人になるのが恐かったんや。
はは、笑ってまうやろ? ウチってほんまにアホや。こんなんじゃ1人ぼっちでもしゃあないねん」
- 135 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時36分13秒
- ののはただ前を見て、その話を聞いていました。
ののと同じ様な・・・、ずっと1人ぼっちだった亜依ちゃん。
ある意味、ののよりもつらい想いをしていたのかもしれないです。
必ずしも傷つく方だけがつらい想いをしているわけじゃないんですね。
傷つける方も、それ相当の傷を負ってるんですよね。
ののまた勘違いしてました。
・・・・・・。
亜依ちゃんはさっきから何も言わなくなってしまいました。
この時、ののは気付かなかったんです。
「キャ!」
そして急に肩に重みを感じました。
首をそっちの方に向けると亜依ちゃんがののの肩に額をのせて泣いていました。
「はは、ゴメンな。ほんの少しこうさせててもらえるか? ・・・ほんまに、ほんまに少しやから・・・。」
亜依ちゃん・・・。
ううん、謝んなくてもいいよ。ホントに謝んなきゃいけないのはののだよ。
自分のことだけしか考えてなくて、ののよりも傷ついてた亜依ちゃんに気付いてあげられなかったもん。
ののの小さな肩にのせられたこれも小さな亜依ちゃんの頭、ののは無意識の内にそれを撫でていました。
- 136 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時40分02秒
- しばらくの間、ののと亜依ちゃんはこうしていました。
そして亜依ちゃんの涙が止まって、亜依ちゃんがののの肩から額を外しました。
ののは亜依ちゃんが悲しんでるんだなぁと思って、慰めの言葉を考えてたんですけど、
「ほんまにおおきに。結構居心地よかったで」
・・・・・・。
関西人ってこんな人なんですかね。あっけにとられました。
「話聞いてもらって嬉かったわ。つまらんかったろ? 関西人やったらもっとおもろいこと言え!ってな感じやろ?」
「・・・・・・」
「はは・・・、ほんまにゴメンな。許してもらおうなんてこれっぽっちも思てへんから。許さんでもええで。
ウチもアンタをイジメてたうちの1人やったんやし。
それに、金輪際アンタには近づかへんから安心しといてな。
でもな、またアイツ等にイジメられたら、ウチが飛んで助けに行ったるから。それぐらいはさせてな。
・・・はは、ウチこれでまた1人ぼっちやなぁ〜」
これでもか!ってくらいに明るく降り舞う亜依ちゃん。
最初は騙されてたけど、亜依ちゃんの演技はすぐにボロがでてました。
無理して笑顔つくってるのがバレバレです。
- 137 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時42分39秒
- 「そいじゃ。また明日」
クルッと半回転えをして、亜依ちゃんは歩き出します。
歩きながら赤く染まり始めてる空を見て、なにやら鼻歌でも歌ってるみたいです。
くすっ
完全にバレてるのにやり通そうとするその姿に、ののは笑いが込み上げてきました。
正直になれない亜依ちゃんが滑稽で、ののにはとても面白く感じました。
「1人ぼっちじゃないよ!」
ののの言葉に一瞬亜依ちゃんの足が止まりました。でも次の瞬間にはまた歩き出しました。
「ののがいるよ!」
今度はさっきよりも長く立ち止まっていましたけど、やっぱり歩き出しました。
も〜意地っ張りですね。
「友達になってよ!」
「あほんだら・・・」
そう小さく言って振り向いた亜依ちゃんの顔は、予想通り涙が溢れていました。
そして、ののは満面の笑みでそれを出迎えました。
- 138 名前:SHURA 投稿日:2001年06月11日(月)01時57分13秒
- 長い・・・。
読みにくいのをお許しください。
>120さん ここは「いしよし」メインじゃないんで、別に萌える必要はないですよ。
「いしよし」は後々ということで。
ついでに第2部は次の更新で終わりです。長かった。
- 139 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月11日(月)04時25分15秒
- 長い…
読みにくい
でも、イイ話なんです!!
- 140 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月11日(月)21時01分36秒
- 作者さんのこの場面への思い入れが更新の量となって現れています。
辻ちゃんに微笑みを、私に涙を……
- 141 名前:SHURA 投稿日:2001年06月15日(金)16時49分22秒
- 「なぁ、吉澤〜。そっちのテーブル頼むわ〜」
「あ、はい。分かりました〜」
「ねぇ、よっすぃー、ついでにそっちの灰皿交換してくれない〜」
「あ、はい。分かりました〜」
「じゃあよっすぃー、そっちのテーブルも〜」
「ごっちん、それくらい自分でやってよ」
「え〜、裕ちゃんや矢口っちゃんはいいのに、何であたしだけ〜」
「ごっちんはあたしと同じでただのバイトでしょーが。自分の仕事ぐらいちゃんとやりなよ」
「ぶ〜、よっすぃーのケチー」
店を開ける前の中澤さんの店は今日も適度に忙しい。
そして私はいつも以上に働いていた。
そうでもしないと辻ちゃんのことが頭から離れないから。
あれから3日過ぎた。辻ちゃんからの連絡は未だにない。
梨華ちゃんとは学校で会う度にこのことを言ってはみるが、出てくる言葉は
「大丈夫だよ。今のののちゃんは」だけ・・・、
そんなんでいいんかい!
って感じなんだけど、彼女の家も学校も知らない私じゃどうしようもないのが現実だった。
- 142 名前:SHURA 投稿日:2001年06月15日(金)16時50分09秒
- ドンドンドン
そんな中、開店時間はまだなのにドアを叩く音。
私とごっちんは開店の準備で忙しかったので、代わりに矢口さんが対応にまわってくれた。
この店の出入り口は私のいる位置からは見えにくく誰が来たのかわよく分からない。
だけど、矢口さんのその視線が水平方向を向いているのだけは分かった。
矢口さんはいつも厚底なのにもかかわらず、誰と話す時も視線が上を向いているので、
めったに見れないであろうこの光景を私は不思議に思っていた。
「よっすぃー、お客さんだよー」
なにやら私に用があるらしい。誰だろ? この店のバイトのことはあまり喋ってないのに。
そこに近づくと微かに見える小さな影、何やら耳打ちをしている2つ結びでおそろいの2つの頭。
私は何が何だか分からずもう手前まで来ていた。後は角を曲がればそこに私を待つお客さんがいるはずだ。
その時、小さな声だったけど確かに私には聞こえた、
「・・・せーのっ」
- 143 名前:SHURA 投稿日:2001年06月15日(金)16時50分52秒
- 角を曲がったその瞬間、2つの小さな影が私に抱きつこうと飛び掛ってきた。
持ち前の運動神経をフル活用して間一髪でそれを交わす私。
そしてその私のせいで同時に床に倒れこむ2つの小さな体。
「痛った〜、ほら〜だからゆったやろ〜。絶対に無理やって」
「そんなこと言ったって、言い出したのは亜依ちゃんだよ〜」
「だからウチは『やっぱ止めよ』ってゆうたやんか〜」
「だって〜・・・」
・・・・・・。
私はただ唖然と2人の姿を眺めていた。
何を企んでいたのかは私の知る限りではないけど、
それが失敗に終わったらしくその責任をめぐって言い争う辻ちゃんと見知らぬ少女の2人。
その姿は、ずっと昔からの親友同士みたいに私には見えた。
「吉澤ー、何ニヤニヤしてんねん。アンタちょいキモいで」
私の顔を横から覗きこむ中澤さんの顔。いつの間に・・・。
私自身気付いていなかったが、その2人の姿を見て、知らず知らずのうちに口元が緩んでしまっていたらしい。
「あ、この子、この前アンタが連れてきた子やないの。確か・・・辻・・・とかゆう・・・。
なんちゅうか、あん時は暗い顔しとったけど、なんやちゃんと笑える子やないの」
前回、連れてきた時のことを思い出しつつ、中澤さんは言った。
あ、気付かなかった。
辻ちゃんの顔に現れてるその笑顔。それもとびっきり眩しいヤツ。
偽りや不安、曇りなんていったものを一切感じさせない、純粋さだけを感じさせるような幼い微笑み。
口元に除く小さな八重歯が彼女らしい。
私が気付かないのも無理はなかった。それは彼女には驚くぐらい自然な笑みだった。
やっぱりね、君には笑顔が1番似合ってる。
- 144 名前:SHURA 投稿日:2001年06月15日(金)16時54分14秒
- 「吉澤さん、ののうまく言えたんですよ」
と、開店前の店内、カウンターに座って辻ちゃんは言った。
「それにですね。お友達もできたんですよ」
さっきとは違う、はにかんだ笑顔で隣の少女を見る。
「あ、初めまして、加護亜依いいます。よろしくお願いします」
亜依と名のったこの少女は少し照れくさそうだけど人懐っこい笑顔を浮かべた。
どんな経緯で辻ちゃんと友達になったのかはわからないけど、
上辺だけの軽い関係ではないことは辻ちゃんとのやりとりから見て取れた。
亜依ちゃんと顔を見合わせて笑いあう辻ちゃんは、すごく幸せそうに見える。
何もかもが楽しそうで、ついこの前まであんな表情をしていたなんてもう忘れたみたいだ。
もう忘れないで、その微笑み。
ただ笑うこと、当たり前のことのようにも思えるけど、きっと何よりも大切なことなんだよ。
それだけで楽しくなる、楽しく生きれる気がするから。
ねっ、そうでしょ。
- 145 名前:SHURA 投稿日:2001年06月15日(金)17時07分50秒
- これで第2部は終わりです。
長い・・・。言われる前に言っときます。
あと、2部の中でちょっと設定がかわってますけど気にしないでください。
>139さん いい話ですか! そう言ってもらえると嬉しいです。
でも、やっぱ長いですか・・・
>140さん 辻と加護のシーンは書いてて楽しかったです。
涙!? そ、そんな言葉が感想に出てくるなんて、マジ感動です!
予告、第3部タイトル「伝えたい想い、伝わらない想い」です。
- 146 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月16日(土)00時56分14秒
- よかったよかった。
終わりよければすべて良し。
第3部楽しみにしてます。
- 147 名前:第3部 投稿日:2001年06月19日(火)01時35分13秒
- キーンコーン
耳に馴染んだチャイムの音が今日の授業が全て終わったことを告げる。
だけど、教卓に立つこの中年男性の数学教師に授業を終わらせる気配はまったくと言っていいほどない。
こういうのが今の学校教師の悪い癖だ、とつくづく思う。
イライラした気持ちで黒板のチョークを追う、こんな気持ちだから残りの時間が余計長く感じてしまう。
それから4、5分この男の授業に付き合わされ、ようやく自由の身となった私は可能な限り急いで帰る準備を整え、教室を出る。
今日は待ちに待った家庭教師の日。なので帰り際、私の足取りは軽い軽い。
彼女が私の家に来るまで、あと1時間後かぁ。
待つ時間までもが楽しみに変わってる私。
今日はどんな格好で来るのかなぁ・・・。
学校の制服、ウチの制服はカワイイからOK。
女の子らしいスカート、彼女のキャラにマッチしてて当然OK、ピンクならなおさら。
大人っぽいパンツ、体の細さが際立ってこれもOKでしょう。
スタイルのいい彼女のことだから、やっぱり何でも似合っちゃうか。
跳ねるように歩く私に、近くを歩く野良犬の吠える声がとぶけど、全然イライラしないもんね〜。
家に着くと、着替えをするよりもまず部屋を片付ける。家庭教師の日はいつもこう。
普通に見ても十分キレイな部屋なんだけど、彼女が来る時は少しでもキレイにしておこうと思う。
隅々まで確認をし終えたあと、ようやく着替えを始める。
別にどこかに行くわけでもないのに、服を並べあれこれ悩む自分。
前回ごっちんと買物に行った時に薦められた「女の子らしさをアピールできる」らしいスカートを一度は手にするが、
葛藤の末に、結局ジーパンと半そでのシャツという普段通りのカジュアルな格好になる。
うぅ・・・今日もできなかった・・・。
- 148 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年06月19日(火)01時37分47秒
- 着替えを済ませると約束の時間まであと10分・・・、だけど、もうそろかな・・・
ピンポーン
ガチャッ
「キャッ!」
やっぱり、時間に几帳面な彼女のこと、いつも約束の10分前には現れる。
時間を見計らってドアの前で待っていた私、その音の直後に開けたため、驚いた顔の彼女。
「もー、びっくりさせないでよ〜、ひとみちゃんってば〜」
少し目を細めて頬を膨らませる、怒った時に見せる彼女のしぐさ、だけどホントは全然怒ってないんだ。
「あはは、ゴメンね、梨華ちゃん」
悪戯に舌を出してそれに応える。
そうすると梨華ちゃんの顔にも笑顔が浮かぶ。やっぱりカワイイなぁ・・・。
梨華ちゃんはこうして週3回私の家を訪れ、家庭教師として私に勉強を教えてくれるわけなんだけど、
この場以外ではこうして2人で話すことはほとんどない、同じ学校なのに。
そもそもウチの高校は全面的にバイトを禁止している。もちろん家庭教師も例外じゃないわけ。
そのため、あまり梨華ちゃんが家庭教師をしていることはあまり口外しないように言われてる。
なので、私の学校の友達でこのこと知ってるのはごっちんくらいだと思う。
そのごっちんも梨華ちゃんのことは名前くらいしか知らないけど。
校内であまり口を聞かないということも梨華ちゃんの配慮だ。
何もそこまで・・・
と思ったが、その顔で両手を組み、「お願い」と言われれば、私に反論はなかった。
まぁ、私はこうして家庭教師としてここにいてくれるだけで満足なんだけど。
- 149 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年06月19日(火)01時39分20秒
- 私の隣でペンを握り、英文の説明をしてく梨華ちゃん。
だけど、その意味は私の頭には届いているが、そこに留まらずにどこかに逃げていく。
その理由は簡単。ずばりその言葉の意味に集中してないから。
私が集中しているもの、それは梨華ちゃんのささいなしぐさ、その細い指の微かな動き、
その他の一挙手一即答に私の神経は向けられている。
「・・・みちゃん! ひとみちゃん!」
「えっ? 何?」
「またボーっとしてたでしょ〜」
それは違います。あなたを見ていたんです。
「してない、してない。ちゃんと聞いてたってば」
「ホント〜」
明らかに疑いの目でこっちを見る梨華ちゃん。怒ってるんだろうけど、全然そう見えないところがまたカワイイんだ。
「もうすぐ期末だよ。こんなんじゃいい成績採れないよ」
「確かに無理だね。梨華ちゃんが先生でいる限りは。うん、そう」
もちろんこれは冗談「ひどーい」なんて答えを期待していた私だけど、
「やっぱりそうだよね・・・、あたし向いてないんだ、家庭教師・・・」
しまった! 彼女の性格を忘れていた。強いと思ったら、ものすごくネガティブだったり、感情の応変がものすごく激しい。
「じょ! 冗談だってば! ねぇ、そう思ってないよ、あたし。すっごく分かり易いよ梨華ちゃんの教え方」
「いいよ、別にそんな気遣わなくても・・・」
力の入ってない声、あー、こりゃ完全にスイッチ入っちゃってるよ。
「ホントだって、梨華ちゃんに教えてもらってるおかげで、今度の期末いい点採れそうだもん」
「ホント?」
子猫みたいな目で見つめられる。
「うん、ホント」
「ホントにホント?」
「ホントだって」
すると途端にその顔に光が射したように笑顔が戻る。
分かり易いと言うか、単純というか、そんなとこが梨華ちゃんらしい。
- 150 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年06月19日(火)01時42分07秒
- 「ねえ、ひとみちゃん」
「何?」
「約束だよ〜、今度の期末いい点採るって」
あ・・・、
「あれは言葉の綾と言うか、なんと言うか・・・」
「ちゃんと聞いたからね〜、頑張ってね、ひとみちゃん」
ニコって首をかしげて笑いかける梨華ちゃん、そうされると何も言えなくなる私。
「もー、仕方ないなぁ・・・」
「「あはは」」
アハハと笑い合う2人、私の部屋にに2つの音色が響く。
今いるこの世界、2人だけの世界、何も変わらない世界。
ここには住人はわたしと梨華ちゃんの2人しかいない。2人しか存在できない。そんな世界。
私が笑えば彼女も笑ってくれる。
こんな関係が嬉しかった、楽しかった、幸せだった。
初めて会った時から、この胸の中に生まれていたこの感情。何て呼べばいいのか分からなかったこの想い。
これが何なのか、考えた事もなかった。ううん、ホントは考えたくなかったのかもしれない。
それがわかってしまったら、この関係がなくなってしまいそうで、彼女を失ってしまいそうで恐かった。
彼女との時間は私にとって既に当たり前のものとなっていて、この居心地のいい関係に慣れすぎていた。
いつまでもこの関係が続くと思っていた。ずっとこのままでいいと思っていた。
・・・それなのに、何でああなってしまったんだろう。
- 151 名前:SHURA 投稿日:2001年06月19日(火)01時47分18秒
- 3部スタートです。
>>145の予告タイトル間違ってました。
正確には「伝えたい想い、伝えたい気持ち」です。
>146さん よかったですか。2部は自分でもよく分かんない個所が多いんで、
そう言ってもらえると嬉しいです。
- 152 名前:SHURA 投稿日:2001年06月19日(火)20時36分39秒
- 「じゃあね、ごっちん。また明日」
私はごっちんにサヨナラを告げて教室を出ようとする、週に数回行われるいつも通りの行為・・・、だけど今日はいつもと違った。
「あ、よっすぃー待って!」
廊下を歩き出していた私の足はそのごっちんの言葉によって遮られた。
「え、何?」
教室の引き戸から上半身だけ出して、それに応える。
ごっちんはほとんど中は空であろうバッグを振りかざしながらこっちに駆け寄ってきた。
「これからよっすぃーんとこ行ってもいい?」
「え、何で?」
「よっすぃーあゆの新曲買ったって言ってたよね、それ貸してほしんだけど」
「それだったら明日持ってくるよ」
「明日〜、今日じゃダメ?」
「だって今日は・・・」
「カテキョなんでしょ、大丈夫、邪魔しないから」
普通だったら「すぐ帰るから」って言うだろ! と心の中で突っ込んだところで気付いた、もしや・・・。
「もしかして・・・会いたかったりする?」
ギクッという声が聞こえてきそうなごっちんの顔、どうやら図星らしい。
「だって〜、後藤もよっすぃーのセンセ見たいもん」
「えー何かヤダな」
「だってさ〜、よっすぃーがさ「カワイイ」「カワイイ」言うからじゃん、
そんなに言ってたらあたしだって会ってみたくなるっての」
言った覚えはあるんだけど、私ってそんなに「カワイイ」って連呼してたかな。
ごっちんの言葉を信じればどうやら自分でも気付かないうちにそーとー言ってたらしい。
はぁ・・・仕方ないなぁ。
「じゃあちょっとだけだよ」
「ホント? やったー!」
しまった・・・。という感情が生まれた時には「時既に遅し」な状態だった。
「ねぇ、よっすぃー。矢口っちゃんも呼んでもいい? 矢口っちゃんも会ってみたいって言ってたからさ」
「ああ、いいよ」
今さら1人増えても変わらない。私は快く承諾した。
- 153 名前:伝えたい想い、伝えたい気持ち 投稿日:2001年06月19日(火)20時37分58秒
- その数十分後、ここは私の部屋、私は1人ここで梨華ちゃんが来るのを待っていた。
ごっちんは矢口さんを迎えに行ってから来るみたいで、遅れてくるらしい。来なくてもいいんだけど・・・。
座っていたベッドに身体を預け横たわる。
その体勢をとると部屋の窓が自然と視界に入る。
もくもくとした厚い雲が空のすみからすみまでを埋め尽くしてる、光の射す隙間もないほどだ。
今朝の天気予報は全国的に梅雨入りしたことを告げていた。もちろん日本の中心東京はその真っ只中ということになる。
そのためなのか、開けっ放しだった窓から入り込んでいる風はまだ肌寒い。
半袖の格好にその風はあまりにも寒く、私は立ち上がってその窓を閉めた。
窓の傍に立ち、今にも降りだしそうな空を見つめながら、
梨華ちゃん傘持ってくるかな・・・。
と、どうでもいいようなことを考えていた。
- 154 名前:パク@紹介人 投稿日:2001年06月19日(火)23時29分48秒
- こちらの小説を「小説紹介スレ@銀板」に紹介します。
http://www.ah.wakwak.com/cgi/hilight.cgi?dir=silver&thp=992877438&ls=25
- 155 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年06月24日(日)11時03分36秒
- 「・・・ていうわけで、今日あたしの友達が2人来るんだけどぉ・・・、いい・・・かな?」
「友達? あたしは別にいいよ」
ごっちんと矢口さんが来ることを告げても梨華ちゃんはいつもと変わらないあの柔らかな表情、
2人が来ることに関しては別に何とも思ってないみたい。
何とも思ってほしかった。
・・・というのが実のところ本音なんだけど、そんなこと言えるはずがない。
「じゃあお友達が来るまでこの前やったところの続きやってよっか」
「う、うん」
たった今気付いた。
今まで優しそう、って思ってたあの表情は、ホントはただ単に何も知らないだけなんだ、きっと。
あたしが梨華ちゃんといる時のドキドキも、
いつもこの日を楽しみにしているあたしの気持ちも、
何もかも知らないでただあたしの家庭教師をしてるだけ、あたしのことも教え子という目でしか見てないんだ。
あたしだって未だに梨華ちゃんをどんな目で見ているのか分からない。
それでも、ただの家庭教師とは絶対に思ってない。それだけは確かなこと、あたしが1番知ってるんだから。
なのに何で・・・、
そんな梨華ちゃんに少しイラついた。
そんなことしたって何にも変わんないのに、
バカだ・・・あたし。
- 156 名前:伝えたい想い、伝えたい気持ち 投稿日:2001年06月24日(日)11時07分15秒
- ピンポーン
あたしの思考はこの間の抜けた音によって遮られて、そして事実上2人だけの時間も終わりを告げる。
たぶん、2人が来たんだろう。
「2人とも来たみたいだから、あたしちょっと行ってくるね」
「うん」
部屋に梨華ちゃんを残して、1人玄関に向かう。
ゆっくり一歩ずつ足を踏み出しながら階段を下っていく。
なんとか今日は帰ってくれるようないい方法ないかなぁって思ったけれど、残念ながらそれは叶わなかった。
「よっすぃー、矢口っちゃん連れてきたよ〜」
「オッスぅ、よっすぃー」
ドアの向こうには、まだ制服姿のごっちんと、お決まりのギャルファッションで身を固めた矢口さんがいた。
2人の顔には明らかに期待の2文字が強く描かれていた。しかも、ものすげーわざとらしい。
「・・・・・・・・・」
あたしはその2人の姿に対して、出す言葉が思い当たらなかった。
それは単純に呆れていたからか、それとも梨華ちゃんが関わっているからか、そん時のあたしには分からなかった。
「あれっ? どうかした。よっすぃー?」
矢口さんが下から見上げるようにしてあたしの顔を覗き込んだ。
それに気付いて、取り繕うように慌てて言葉を導いた。
「あ、ああ、別になんでもないですよ。なんか楽しそうだなぁ・・・って」
「だってさぁ、やっとその『梨華ちゃん』に会えるんだよぉ、すっごい楽しみにしてたんだから」
矢口さんはその小さな体を大げさに動かしながら喋る。そうやって自分の気持ちを伝えようとしているみたいだ。
そんなことで・・・、
あー、またイラついてるよ、あたし。2人はなんにも悪くないのに、あたしってやっぱりバカ。
- 157 名前:SHURA 投稿日:2001年06月24日(日)11時15分23秒
- 書きたいことは決まってるんだけど、何がやりたいのかよく分かんなくなってきた。
>>154
え〜っと、この小説に関してはage、sageは別にどっちでも構いませんよ。
する人の自由でいいです。
- 158 名前:チャーミーブルー 投稿日:2001年06月24日(日)12時45分08秒
- タイトルが素敵ですね。
ちょくちょく見に行きますので、頑張って下さい。
マメに更新されてて羨ましいっす。
- 159 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月25日(月)02時07分14秒
- 更新されてるのに気づかなかった…鬱だ
でも今後の展開が楽しみだ!!
- 160 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年06月26日(火)02時59分36秒
- 「あー、えっとぉ、じゃあ梨華ちゃん上にいるんで、入っちゃっていいっすよ」
2人を梨華ちゃんの待つあたしの部屋まで連れていく。
こんなに近かったかな、って思うくらいすっごくその時間が短く感じた。
部屋の外に2人を残したまま、あたしは部屋に入った。
梨華ちゃんはその部屋の中、ひとり頬杖をついて窓の外の雲空を見ていた。
そのただ一点だけをずっと見つめるその表情にいつもの微笑みはなく、
そこにある感情はあえて言うとすれば「憂鬱」のように感じた。
不思議な艶かしさと近づきがたい雰囲気が混合する今まで見たことのない別人の様なその姿に
あたしは部屋の入り口に突っ立ったまま、ほんの少しだけだけ見とれていた。
いや、今改めて思うとかなり見入ってたかもしんない。
- 161 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年06月26日(火)03時05分25秒
- 「ねぇ、よっすぃー、どーした?」
後ろにいる矢口さんの声で現実に引き戻される。
その声であたし達の存在に気付いた梨華ちゃんが姿勢を元に戻して、あたし達の方に視線を向ける。
こっちを向いた梨華ちゃんの顔にいはいつもの微笑みが浮かんでた。
「ひとみちゃん?」
目が合ったまま何も喋らないあたしを不思議に思ったのか、梨華ちゃんは首を傾げて声をかけた。
それは一発で聞き分けられるあの鼻にかかったような甘ったるい声、いつもと同じ。
「・・・あ、2人連れてきたから、中入れちゃっていいよね?」
「うん、いいよ」
それを確認してから入り口に立っていたあたしは2人を導くように部屋の中に入った。
2人は待ってましたとばかりに部屋に突入してきて、
「どれどれ、うわっ、マジカワイイじゃん!」
と、矢口さん。
「この人がよっすぃーのセンセなの!? なんか女の子ってカンジ!」
とごっちん。
押し寄せるように入ってきた2人は梨華ちゃんへの第一印象を次々と口にする。
その2人の騒がしさに少し圧倒されていたような梨華ちゃんだったけど、
「あ! あの!」
「「「へ?」」」
そんなに広いわけじゃないあたしの部屋に梨華ちゃんの甲高い声が響きわたる。
2人はもちろん、あたしまでもがその梨華ちゃんの声に驚いたしまっていた。
一瞬にして静まり返った部屋の中で梨華ちゃんは立ち上がり
「あ、あの、ひとみちゃんの家庭教師をさせてもらってる石川梨華です!」
と深々と頭を下げた。
なんとも言えないその自己紹介に場の雰囲気が一気に硬直した。
- 162 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年06月26日(火)03時06分13秒
- ・・・・・・・・・。
このどうにも表現し難い場の雰囲気を打ち破ったのは矢口さんだった。
「キャハハハ、面白いじゃん梨華ちゃんって、つーかものすげータイミング悪いし」
「え? あ、そう・・・ですか、すみません・・・」
「ハハハ、えっとあたしはね、矢口真里、高3で、よっすぃーとは中学ん時の先輩後輩。こんなんでいい?
ほらっ、ごっちんも自己紹介しなよ」
「えっと〜、後藤はよっすぃーのクラスメイトで中学からの友達。
同じガッコなんだから先輩も後藤のこと見たことあるんじゃないですか〜」
「後藤さんの下の名前は?」
「真希だけど。あ、でも呼ぶ時は『ごっちん』って呼んじゃっていいですから」
「いや、梨華ちゃんの方が年上なんだから『後藤』って呼んじゃってもいいからね、『後藤』って」
「あ、矢口っちゃん、ひど〜い」
「ぷっ、あははは」
その2人の姿に思わず吹き出した。梨華ちゃんも同じみたい。
アハハと渇いた笑い声が部屋の中を通り抜けていく。
始めは2人が来ることに対し、抵抗が少なからずあったあたしもこの時ばかりは、
たまにはこんなのも悪くないなぁ、と思った。
- 163 名前:SHURA 投稿日:2001年06月26日(火)03時20分47秒
- またタイトル間違ってましたね。
しつこいかもしんないですけど、正しいのは「伝えたい想い、伝わらない気持ち」です。
>チャーミーブルーさん
どうもです。チャーミーブルーさんのは2つとも読ませてもらってます。
つーかタイトル間違ってたんでオレの方が恥ずかしいです。
>159さん
そうですよね。ココってすぐ下がっちゃうから分かりにくいですよね。
ここだけの話ですけど、次あたりから急展開です。
- 164 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月30日(土)05時10分01秒
- 急展開っすか!楽しみっす!
- 165 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月03日(火)20時28分27秒
- その後、あたし達4人は少しの間話をした。
梨華ちゃんもごっちんと矢口さんの2人とうまく打ち解けたみたいで、2人に対しても時折笑顔を見せてる。
ていうか、この時間はホントはあたしの家庭教師の時間のはずなんだけど・・・、
でも、梨華ちゃんもまんざらでもなさそうだし、まぁいいのかな。
「ねぇ、梨華ちゃんって彼氏とかっていないの?」
「え、別にいません・・・け、ど」
「えー、ホント〜? 梨華ちゃんみたいなコってモテモテじゃないの〜?」
「そ、そんなことないですよ。全然モテないんです、あたし」
「そっかな〜、かなりモテそうなカンジしてるんだけどなぁ・・・」
「なんて言うんですか、人見知りしちゃうっていうか・・・、その、うまく話せなくて、だから友達も少ない方だし・・・」
と、肩を落とす梨華ちゃん。
「ちょっと、なんでそこでヘコむわけ?」
「いや、いいんです。ホントのことですから・・・」
出ちゃった、梨華ちゃんのネガティブモードが。しかも自爆。
矢口さんの波状的な質問の結果、梨華ちゃんは座ったまま俯いちゃってる状態。こうなったらもう収拾がつかない。
「だから〜、そんなに落ち込むなって〜」
はは・・・、さすがの矢口さんも梨華ちゃんには少し手を焼いてるみたい。
- 166 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月03日(火)20時29分30秒
- 「あ〜、ったく、ごっちんも何か言ってやってよ」
「ふぇ?」
「も〜、ごっちんまで・・・。よっすぃー、オイラなんか嫌になってきた・・・」
あの2人を同時に相手するのは、さすがの矢口さんでもやっぱり多少つらいのかな。
矢口さん、嫌になる気持ち、なんとなく分かる気がします。
「じゃあなんかお菓子でも持ってきますか?」
梨華ちゃん甘いもの好きだったからなんとか気分が紛れるかなって思ったあたしは、
下の階からお菓子を持ってこようと立ち上がった。
その様子を見てたごっちんは
「あー、あたしもあたしも〜♪」
と、立ち上がったけど、
「あっ・・・」
ごっちんはそのままベッドの足につまずいて、その場に正面から派手に倒れこんだ。
「いった〜」
と、強打した顔面をさすってる。
「アハハ、何やってんの、ごっち〜ん」
「ちょっ、そのコケ方面白過ぎ、キャハハ」
痛そ〜、とも思ったけど、
その転び方はまるでコントのようにベタで、それを見たあたしと矢口さんは大笑いしていた。そんな中、
「大丈夫? 真希ちゃん」
と、ごっちんの真正面にいた梨華ちゃんがごっちんに手を差し伸べた。
- 167 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月03日(火)20時30分13秒
- ごっちんは片手で顔をさすったままもう一方の手でその差し出された手を握って立ち上がろうとした。
あたしはその光景をなんとも思わずに見ていた。
「ごめ・・・」
ごっちんが顔を上げながらそう口にしようしたその瞬間、ごっちんの表情が豹変した。
その視線を目前にある梨華ちゃんの顔から外さない。
立ち上がる動作もそのままに、ただ目の前にあるその一点だけを凝視してる。
真剣でまっすぐな眼差し、なにかずっと探していたものを見つけたような、その目はいつものごっちんとは違ってた。
「ぉね・・・ちゃ・・・」
「え?」
ボソっとごっちんが呟いた言葉は空気に吸い込まれてあたしの元にはほとんど届かなかった。
自分の言葉で我に返ったごっちんは握っていた梨華ちゃんの手を慌てて離す。
「あ、ぇ・・・っと、あ、あたし・・・用事・・・、ちょっと用事思い出したから帰るね。ゴメンね、よっすぃー」
そう言い残してごっちんは足早に部屋から出ていった。
1人少なくなった部屋の中にドタドタと階段を下りる音だけが響いた。
- 168 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月03日(火)20時31分01秒
- 「あれ? あたし、何か気に触ることしたんですか?」
自分が何かしたと思ってるみたいで、梨華ちゃんはちょっとオロオロ気味。
「ううん、そんなことないと思うけど・・・、矢口さん、ごっちん何て言ったか聞こえました?」
位置的に1番近くにいた矢口さんならごっちんが何て言ったのか聞こえたかもしれない。
そう思ったあたしは矢口さんに訊いてみた。
「え、うん、聞こえたけどさ・・・」
「何て言ったんですか?」
「え、ヤグチもあんまり自信ないんだけど・・・、たぶん・・・」
その時の矢口さんは明らかに言いにくそうにしていた。
「お姉ちゃんって」
- 169 名前:SHURA 投稿日:2001年07月03日(火)20時37分07秒
- やっとここまで進展したって感じです(まだまだ長いけど)。
>164さん 急展開です。ちょっと分かりにくいかもしんないけど。
ここらからちょっと入り組んだ話になってきます。
- 170 名前:チャーミーブルー 投稿日:2001年07月03日(火)22時02分27秒
- え?梨華ちゃんが、ごっちんのお姉ちゃんなの???
どういう事でしょう?衝撃の急展開!!!!!?
- 171 名前:タケ 投稿日:2001年07月03日(火)23時18分40秒
- マジっすか???ってか梨華ちゃんは気づいてないのか?この小説マジおもろし。
- 172 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月04日(水)00時36分07秒
- たぶん紗耶香と梨華ちゃんを重ねてしまってるのでは!?
- 173 名前:伝えたい想い、伝えたい気持ち 投稿日:2001年07月07日(土)19時34分52秒
- 「はあ、はあ、はあ・・・・・・」
ウソだよ。
そんなこと・・・、そんなことあるわけないじゃん。
・・・でも、でも、確かにそう見えたんだもん。
あの温かさ。溢れ出る優しさ。全部おんなじ・・・。
あたしだって、あたしだってそんなこと夢だって信じたいよ。でも、でも・・・
この手にほんの少しだけ残ってるあの人の温度は、それをホントだって言ってる。
あたし決めたはずじゃん、もう思い出さないって、もうあの頃の自分には戻らないって、もう忘れるって・・・。
どうして
ねぇ、なんで・・・
おねーちゃん・・・
- 174 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月07日(土)19時38分02秒
- 「おねーちゃ〜ん」
「ん? どうかした〜、真希〜」
「あっちに川があるみたいだからちょっと行ってみようよ」
「うん、いいけど落ちるなよ〜」
「大丈夫だよ〜、真希ももうすぐ9歳なんだから〜」
そう、あれは確かあたしが小学3年の頃、あたしの誕生日を前に両親が連休を利用してキャンプに連れて行ってくれたんだ。
初めて見る山の光景、青く透き通ってた青い空、見渡す限りの緑色、それに染まった空気、
絵に描いたような自然の景色にその時のあたしは少しはしゃいでたっけ。
「わ〜、すご〜い」
「ホントだ、すごい」
川と呼ばれるものは近くにあるような濁ったものしか生で見たことがなかったあたしにとって、
その時に見た透き通るような渓流は余りにも印象深く、もっと気分を高めさせたんだ。
「こんな場所があるなら水着持ってくればよかったね」
「真希〜、もう9月の終わりだよ。こんなとこで泳いだら風邪ひくってば」
「あはは、そっか〜」
その後、あたしとお姉ちゃんはその川原で水切りをして遊んだ。
ちっともできなかったあたしと違って、お姉ちゃんは2回どころか3回4回と次々に成功させていった。
全然できなくて少し不満気味になったあたしに優しく石の握り方から教えてくれたお姉ちゃん。
初めて成功した時に優しく頭を撫でてくれたお姉ちゃん。
今になって気付いたんだけど、こんな不出来な妹をいっつも見守っててくれたんだよね、お姉ちゃん。
- 175 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月07日(土)19時40分18秒
- 「真希〜、ちょっと来て〜」
「何〜、おねーちゃん」
「ほら、これ見てよ」
「何これ、すご〜い、キレ〜」
お姉ちゃんが見つけたその直系3センチくらいの楕円形の石。
エメラルドグリーンに輝いていて、それは当時のあたしには宝石みたいに見えた。
空にかざしてみると、微かに歪んで見える空と、屈折して視界に飛び込んでくる太陽の光線。
それの放つ見たこともない輝きにあたしは魅了され、一瞬でその虜になったんだ。
「すごいキレーだよ、これ」
「でしょ〜、さっき見つけたんだ。真希もうすぐ誕生日でしょ。だからこれ真希にあげるよ」
「ホント? やった〜」
誕生日プレゼントはそれまでにも何回だって貰ったことがあった。
それでもこのプレゼントはそれまでのあたしにとって最高のプレゼントだった。
大好きなお姉ちゃんから貰ったメチャクチャキレーなもの。
その時、一生大切にする、って誓ったんだ、あたし。
- 176 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月07日(土)19時42分38秒
- 「ちょっと〜、紗耶香〜手伝って〜」
「あ、は〜い。今行く〜」
向こうからお母さんがお姉ちゃんを呼ぶ声がした。
夕食の手伝いとかそんなものだったかな? あまりそのあたりのことは覚えてないんだ。
その次に起きたことがあたしにとってあまりにも強烈すぎて、記憶が曖昧になってる、って誰かが言ってたっけ。
「よし、真希これ被っといて」
と、お姉ちゃんは自分が被ってた帽子をあたしに被せて、お母さん達がいる所に戻っていった。
「ホントにキレー」
1人その川の辺りに残ったあたしは、川にかかっていた低く小さな木製の橋に腰掛け、
川の水に足を浸しながらさっき貰った石を眺めていた。
勢いよく流れる水はひんやり冷たくて、晩夏の生暖かさを少しも感じさせない。
傾きかけていた太陽は、木々の間から微かにオレンジづいてる光の光線を射し、
それは川の水に反射し、その水までも眩しく色づかせていった。
それに従って輝きを増す小さな手のひらに置かれたあたしだけの宝石。
それは時が経つのも忘れさせるくらいキレイだった。
- 177 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月07日(土)19時44分21秒
- その時、周りの木々が大きく揺れた。
突風が吹きつけ、その強さと比例するように木々もしなり、川の水はぶるぶるっと波うった。
途端、頭の上にフワッっと何かの力が働いた。
あ! 帽子!
あたしの頭を離れ、川の方に飛ばされかけていたそれを腕を思い切り伸ばしてそれを掴んだ。
ふぅ、危なかった〜。
と安心していたのに、次の瞬間、
チャポン
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
えぇぇぇ〜〜〜〜〜!!!
さっきまでこの手の中にあったはずの石がない。
焦りながら周りを見渡すけど見当たらない。もちろんポケットの中にも・・・。
恐る恐る川の中を覗きこむと・・・
見つけた。
輝く水の中で一際強い輝きを放つそれ、確認はできなかったけど間違いない。
軽く水の中に手を入れてみた。
その勢いに細い手が持っていかれそうになる。川の流れはそれなりに早いって子供なりに理解できた。
- 178 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月07日(土)19時48分12秒
- どうしよう・・・。
お姉ちゃん・・・。
当時のあたしはいっつもお姉ちゃんにすがっていたと思う。
悲しいこと、つらいこと、困ったこと、全部優しく包みこんで、あっという間に解決させてくれたから。
いつも通りお姉ちゃんを呼びに行こうとしたあたしに、お姉ちゃんの悲しそうな顔が浮かぶ。
さっき貰ったばかりのプレゼントを川に落としたなんて知ったらきっとお姉ちゃん悲しむ・・・。
大好きなお姉ちゃんの悲しそうな顔を想像したら、あたしにはとても「助けて」なんて言えなかった。
バカだよね。お姉ちゃんはそんなことを聞いたって悲しい顔なんかしないのに、
たぶんお姉ちゃんだったら「しょうがないよ」って微笑んでくれるのに・・・。
もうすぐ誕生日だからって少し背伸びしてたあたしには、それが大人の考えに思えたのかもしんない。
それに、そこで素直にお姉ちゃんを呼んでたらあんな結果にはならなかったのかもしれないのに。
ううん、違う。それってただの言い訳じゃん。
でも・・・、少なくともお姉ちゃんだけは・・・って今でも思うよ、あたし。
- 179 名前:SHURA 投稿日:2001年07月07日(土)20時10分03秒
- ちなみに、後藤の回想でした。
よく考えたら「後藤紗耶香」なんですよね。何か不自然。
よかった〜、レスあって、あの展開でレス0だったらかなり凹んでたと思うんで、かなり嬉しいです。
>チャ―ミーブルーさん 言っておきます、あの2人には血縁関係はないです。
今後の後藤の動向が吉澤、石川に・・・ってとこです。
>タケさん マジじゃないです(?)
おもしろいっすか〜? やっぱその言葉って最高っすわ〜。
>172さん いいせんいってますね〜。
かなり前に書いたとこなのに覚えてくれてる、又は読み返した。どっちにしても、嬉しいことです。
早ければ今夜中に更新できるかもしんないです。
- 180 名前:172 投稿日:2001年07月07日(土)21時51分49秒
- すごいおもしろい作品なんで覚えてました!
次回更新期待します
- 181 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月08日(日)01時53分59秒
- 思い出した、過去。それがきっかけで……
どうなるんでしょうね?
あぁ〜、続きが期になる。
- 182 名前:伝えたい想い、伝えたい気持ち 投稿日:2001年07月08日(日)08時30分50秒
- 覚悟を決めたあたしは橋に寝転がって手を差し込んだんだ、
でも、届きそうな距離に感じてたのにどうしても手が届かない。
光の屈折ってのが原因でそう見えてたんだろうけど当時のあたしがそんなこと知るわけないから、
もうちょっと、って思いながらあたしはただ一生懸命に手を伸ばしてた。
もう少しだけって思って、腕をさっきより少しだけ深く手を差し込んだ。
何かが微かに指に触れた瞬間、世界が『グルリ』って一回転した。
何が何だか分かんなかった。自分に何が起きたのか知ったのはほんの少しだけ後のことだった。
小さな衝撃と、たくさんの細かい泡の粒。
もの凄い勢いが小さな体に流れ込んできて、閉じた口の中までこじ開けてくるみたいだった。
息を吸おうとするけどうまく出来ない。
息を吸おうと思って、もがきながら顔を上げた。
さっきいたはずの木造の橋が視界の隅っこにあった。キレイに揃って置いてあるあたしの靴。
川に落ちたって気付いたのはそれからだった。
そぐそばで見る水は、上から見た時感じた穏やかさはちっともなくて、
次々と押し寄せる波の恐さだけしかあたしに感じさせなかった。
小さい頃、小学校に入る前から泳ぎは超得意だったんだけど、
そんな状態にあたしの手足は冷静に動かなくて、
ただ沈まないように、少しでも流されないようにってただジタバタするだけだった。
- 183 名前:伝えたい想い、伝えたい気持ち 投稿日:2001年07月08日(日)08時31分39秒
- どんだけの間、こうしてたんだろ。
時間の感覚なんてとっくにおかしくなっていた。
手足の感覚が次第になくなっていく。苦痛なんかとっくに通り越してた。
でもそれなのに頭はだんだん冴えてく。余裕なんてどこにもないはずなのに、不思議と考える余裕が生まれてきてた。
あー結構流されちゃったな・・・。
そう言えば、あたし何でこうなったんだろ?
もうすぐ誕生日、待ち焦がれてた9歳、みんなでキャンプ、お姉ちゃんは優しい、
お姉ちゃんからもらったプレゼントはメチャクチャキレ〜、
光に照らされてもっとキレ〜になって、1人で見てて世界が回って・・・、
あれ? なんだか楽になってきちゃった。
白くぼやけてくる視界、さっきまでいろんな音がごちゃまぜに聞こえてたのに何も聞こえなくなった。
この手足止めちゃったらもっと楽になれるって誰かが頭の中で囁いた。
悩むことももなく、あたしはその声に身を任せようとした。
- 184 名前:伝えたい想い、伝えたい気持ち 投稿日:2001年07月08日(日)08時32分34秒
- 「真希!」
その声が一発で靄がかかってた視界を弾けさせた。
おねえ・・・ちゃん?
「真希! 大丈夫!? 今助けるから!」
って、お姉ちゃんは迷うこともなく飛び込んだ。
そのお姉ちゃんの姿はかなりカッコよくて、
こんなにドンくさいあたしはホントにお姉ちゃんの妹なのかな、ってマジで思っちゃった。
「大丈夫!?」
あっという間にあたしのいる位置まで泳いできたお姉ちゃんは、
そう言うとあたしの返事も聞かないまま、あたしを抱きかかえたままさっきの橋まで泳いでいった。
ていうか、返事を言う気力なんかとっくの昔に無くなってたんだけど・・・。
お姉ちゃんは先にあたしを橋の上に上らせると、
「大丈夫?」
って訊いてきた。
あたしが黙ってそれに頷くと、お姉ちゃんは安心したように笑った。
普通のひとだったら、絶対に怒ってるはずなのにさ、お姉ちゃんはそこで笑ったんだ。
優しくて、穏やかで、静かで、だけどちょっとくだけてて、そんな感じでニコって、あたしの大好きだったそんな笑顔。
だけど、それはあたしが最後に見たお姉ちゃんの笑顔だった。
- 185 名前:SHURA 投稿日:2001年07月08日(日)08時44分53秒
- 回想終わらせたかったんだけど、睡魔には勝てませんでした。チクショー。
>172さん かなり前だし、すんごいあっさり書いたから忘れてると思ってたんですよね。
覚えてくれてるなんてカンゲキです。
>181さん 続きは言えないですけど、後藤の姉への想いがどう変わっていくか?
みたいな感じです。
- 186 名前:チャーミーブルー 投稿日:2001年07月08日(日)14時25分33秒
- そうでしたね。読み返しました。すみません。
夜通し書いてたんですね。お疲れさまです。
こんだけたくさん書けるなんて羨ましいです。
- 187 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月09日(月)01時33分45秒
- 「よっ」って小さく言いながらよじ登ろうとするお姉ちゃん。
それを前にして、あたしは自然と手を指し伸ばした。
掴まれたその手には温かいとも冷たいとも言えない変な感覚。
ドスッ・・・
みたいなそんな音だったと思う、もしかしたら違ったかもしんない。
でも・・・、でもあたしにはそう聞こえたように思う。
もう2度と聴きたくない音、嫌な思い出しかない音、あたしから大切なものを奪ってく音、
どこからか分かんないし、何だか分かんないけど、もの凄くヤな予感がした。
腕が引っ張られる、ほとんど力が残ってなからあたしの体はズルズルって引きずられていく、
小さく不安を覚えてお姉ちゃんの顔を見る。
あたしはそれを見て驚いた、ううん、その時のあたしの感情はどんな言葉でも現せないと思う。
苦痛に歪んでるお姉ちゃんの表情。
その時までお姉ちゃんのそんな顔見たことなんてなかったから、
あたしの心の中には不安とか恐怖とかそんなものが充満していった。
- 188 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月09日(月)01時37分58秒
- 「おねーちゃん! おねーちゃん!」
呼びかけるけどいつもみたいな返事は返ってこない、
「つぅ・・・」
って、小さくうめき声が聞こえるだけ。
後で聞いた話だと、上流から流れてきた大木の破片、しかもそれなりにでっかいのがお姉ちゃんに激突したみたいだって・・・、
お姉ちゃんは上流に身体を向けていたから、モロにお腹に垂直に当たって、それであばら骨が何本か折れてるって・・・
あたしはそんなことにも気付かないで、ただ流されていくお姉ちゃんの体を引き上げようと必死になっていた。
だけど、そんなあたしの気持ちを無視してあたしの腕は凄い力で引っ張られてく、
いろんなところからだんだん痛みが出てきて、体中が悲鳴をあげるってそういうことを言うんだと思う。
この手を離したら、お姉ちゃんきっとどっか行っちゃう、あたしの手の届かないすっごく遠い所に行っちゃう。
バカでドジでマヌケでドンくさくて、まだ何にも出来ないあたしだったけど、そんなことだけは分かってた。
だから必死になってお姉ちゃんを助けようとするけど、体に力が入んない。
あたし1人じゃ何にも出来ない、お姉ちゃんにはたくさんいろんなもの貰って、さっきも助けてもらったのに、
あたしはお姉ちゃんを助けることもなんにもできない。
悔しくて、自分がもの凄くヤんなって、涙が溢れてきた、泣いてる場合なんかじゃないのに。
- 189 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月09日(月)01時39分10秒
- また腕の感覚がおかしくなってきちゃった。
色もなんか青黒くなってきちゃって、肩の辺りもジンジンする。
足にも力が入んなくてガクガクいってて、少しでも気抜いたらそのまま倒れこんじゃいそうな感じ。
ハァハァって息が漏れる。
その時、やっと気付いたんだ。
このままじゃ2人とも落ちちゃうかもしれない、って。
その時、見たんだ。
やけに穏やかな表情をしてる・・・お姉ちゃんに。
なんでそんな顔できるの?
どうして? ねぇ何で?
「ねえ、真希・・・」
「何? おねーちゃん」
「怪我・・・ない?」
「ないよ、怪我なんて、真希ぴんぴんだよ」
「そっか・・・よかった・・・」
そう言って、お姉ちゃんは強い力で手を握ったかと思うと、手を広げて・・・。
全力で握ってたはずなのに、やけにあっさり離された2つの手、
離れた瞬間、
「真希、がんばれ」
って聞こえた気がした。
- 190 名前:LVR 投稿日:2001年07月09日(月)01時42分17秒
- 最近更新が連載開始時みたいに早くなりましたね。
マジで嬉しいです。
- 191 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月09日(月)01時45分52秒
- 「う・・・そ・・・」
再び訪れた脱力感で、また座りこむ、
遠くに離れてく、今まですぐそばにあったお姉ちゃんの右手・・・。
それが何を現してるのか、そん時のあたしだって十分に理解してた。
もうお姉ちゃんには会えないって、あの元気なお姉ちゃんには会えないって・・・。
カッコイイお姉ちゃん、あたしの自慢のお姉ちゃん、憧れのお姉ちゃん、大好きなお姉ちゃん。
もう会えない・・・
そんなの・・・
ヤダよ・・・
- 192 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月09日(月)01時47分59秒
- 「おねーちゃん・・・」
目を空けた世界はグニャグニャに歪んでた。
不快感を覚えてもう一度目をつぶる。頬に伝わる涙の感触。
夢を見てた。
もう見ないと思ってた夢。
あの頃は毎日のように見てた、そんで毎朝泣いてたっけ。
机の引出しの一番奥、ホント久しぶりに見るそれはあの時と変わらない輝きを放っている。
あの時、離された手の中に残ってたプレゼント。
いつの間にお姉ちゃん拾ってたんだろ?
そんな余裕あったならさっさと、あたしと一緒に上がっちゃえば良かったのにさ・・・。
何でそんなカッコイイことできるの・・・?
・・・・・・・・・。
石川 梨華・・・ちゃんか・・・。
なんでお姉ちゃんとダブって見えたんだろ。
明日、会いに行ってみよっかな・・・
- 193 名前:SHURA 投稿日:2001年07月09日(月)02時15分17秒
- 回想終わりです、かなり強引ですけど、どうしても週末中に終わらせたかったんで・・・お許しを・・・。
>チャ―ミーブルーさん あんまり読み返さないでください。最初の方は、何て言うか・・・頭の悪い文章なんで自分でも恥ずかしいんで。
夜通しってわけじゃないです。途中まで書いたら寝ちゃったもんで、続きは朝書きました。
更新の量は、予めそれなりに書いてあったんで、一気に書いたわけじゃないんです。
>LVRさん 読んでたんですか? しかもリアルタイム。
ここで書いてる人からレスもらうの初めてなんで変な感じです。
更新ペースは、たぶん今だけかもしんないです。この先何にも手つけてないから。
LVRさんの小説、結構好きな感じですよ。学園もの好きだし、キャストも好きな感じなんで。
これからもお互い頑張りましょうね。
- 194 名前:SHURA 投稿日:2001年07月09日(月)02時20分07秒
- もうしわけないんでやり直しします。
>チャ―ミーブルーさん あんまり読み返さないでください。
最初の方は、何て言うか・・・頭の悪い文章なんで自分でも恥ずかしいんで。
夜通しってわけじゃないです。途中まで書いたら寝ちゃったもんで、続きは朝書きました。
更新の量は、予めそれなりに書いてあったんで、一気に書いたわけじゃないんです。
- 195 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月10日(火)20時00分00秒
- 「後藤、後藤真希ー」
いつもと同じ、一定のリズムで繰り返されてく出席確認。
担任のやる気の無い事務的な作業は生徒にまったく興味が無い、というのを印象づけるには十分すぎる。
「後藤はいないのかー。吉澤ー、後藤はどうしたー?」
「知りませーん」
「なんだよ、おまえら仲いいんだろ? 電話ぐらいしろよ」
「・・・はーい」
中学時代から無断欠席は日常茶飯事だったごっちんだけど、
昨日の様子があまりにもおかしかったから変に心配しちゃってる。
お姉ちゃん・・・
矢口さんから聞いたごっちんの口から出た言葉。
紗耶香さん・・・か。
あたしも矢口さんも彼女には会ったことはないけれど、
ごっちんにとってその存在がどれだけ大きいのかは十分に熟知しているつもりだった。
それだけに、その後ごっちんのことが変に気になってしまったし、
その言葉を投げかけられた梨華ちゃんも、何だか混乱している様子が見て取れた。
2人が帰った後、携帯に電話してみたけど、ごっちんはそれに出ることはなかった。
何かあったのかな、って思ったけれど、とにかく明日学校があるんだから考えるのはそれからでもいいという結論に達した。
- 196 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月10日(火)20時01分15秒
- 昼休みになってもその主人を待つ席には誰も座らないまま、
途中から来る日はたいていこの時間帯に来るはずだから、たぶん今日はもう来る気はないのかもしれない。
携帯を取り出す。もう一度電話をしてみようと思った。
窓に凭れかかりながらメモリーのごっちんの番号のディスプレイに映し出す。
その時、そのディスプレイに反射された光が目を射した。
いつもの梅雨空とは打って変わって、今日の窓の外には青空と眩しい太陽が覗かせている。
手元の操作を一時中断して、その方向に目をやる。
別にそれ相応の理由なんてない。ただ、やけに騒がしい教室の風景に嫌気がさしただけ。
- 197 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月10日(火)20時01分48秒
- 最近の雨続きで使われることの少なかった屋上にも人が数人、話をしたり、お昼を取ったりしてる。
フェンスに背を持たれている2人の姿に目が止まった。
茶色と黒、遠目に見ても分かるくらい髪の色も印象のまったく異なる2人の会話ってどんなものなんだろ?
ふと疑問に思ったけど、考えてもムダと、あっけない答が見つかるや否や視線はその上の青空へ。
別にそんな久しく見るわけでもなかったのに、
こんなに空って青かったっけ・・・
と思わせるくらいこの日の空は青く、真上にそびえる太陽は夏だからなのか大きく感じた。
・・・・・・・・・、
え?
自分の心臓が『ドクン』と鳴る音が聞こえた、ホントは聞こえた気がしただけかもしれない。
訳の分からない胸騒ぎが体中を駆け巡った。
視線の先をさっきの場所に戻そうとするけれど、焦りなのかなかなか辿り着けない。
四方八方を迷った挙句、視線が再び2人の姿を捕らえた時、さっきの予感は確信へと姿を変えた。
梨華・・・ちゃん?
と・・・ごっちん?
なんで・・・
この胸騒ぎの正体、それをあたしはもう少し後で、一番信じたくなかった形で知る。
- 198 名前:SHURA 投稿日:2001年07月10日(火)20時04分11秒
- 更新です。
- 199 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月11日(水)03時43分35秒
- 気が付けば更新されてる。ウレシイかぎりです!!
でも、次あたりは波乱が……
- 200 名前:伝えたい想い、伝えたい気持ち 投稿日:2001年07月16日(月)23時12分53秒
- 普段は来ることなんてほとんどない2年生の校舎、
造りとか内装は同じなんだけど、何て言うのかな・・・流れてる空気っていうのかな? それが全然違う。
周りを歩いてる人も知らない人ばっかだし。
その人達もさ・・・、普段見ない人見てるからかな、やけに視線送ってるし・・・。
ここかな?
来る前に携帯で部の先輩に教えてもらってたから、たぶんココでいいんだよね・・・。
午前中悩みに悩んで、結局来ちゃったけどさ・・・、いざ立ってみるとやっぱり緊張するなぁ。
もし居なかったらかなり恥ずかしいし・・・。
廊下を歩く人達から見たらかなり不自然かもしれないけど、開けっ放しのドアから顔だけ出して中の様子を覗いた。
右から左に、少しずつ視線をずらしながら、ひとりひとり顔を確認してく。
・・・・・・・・・。
あ、いた!
あたしの心配なんて全然関係なく、あの人はあっさりすぎるくらいすぐに見つかった。
教室の中央の辺り、前の席の人と机を合わせて、お弁当を食べてる。
何を話してるのかはよく分かんないけど、時々笑顔を見せてるのだけは分かる。
やっぱり全然似てない。髪型、目、鼻、口の形から輪郭、肌の色まで、似てるって思うとこはドコにも無い。
むしろ見た目は正反対、って思うくらい。
でも・・・、
- 201 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月16日(月)23時15分07秒
- 「どうしたの? 真希ちゃん?」
「ふぇ?」
記憶の中のお姉ちゃんの顔と、目前の石川先輩の顔とを比べることに夢中になってたあたしは、
すぐ傍にその石川先輩が近づいてきてることに気付かなかった。
肩を軽く叩かれて振り向いた先には、少し首を傾げた石川先輩の顔・・・。
「うわぁ!」
「キャッ!」
驚いて後ろに飛び退いたあたしと、同じく驚いて腕を縮ませてる石川先輩。
「びっくりした〜」
そう言いながらも、石川先輩は口のそばに置いてある両手を動かさないまま。なんかカワイイ。
「あ、ごめんなさい」
「ううん、こっちこそ、なんか驚かせちゃったみたいで、ごめんね」
口だけで謝るあたしに対して、石川先輩は深々と頭を下げる謝り方。
「いっ、いや、そんなに謝んなくていいですよ、こっちが悪いんだし」
「でも、あたしだって驚かせちゃったから・・・」
その後、頭を上げようとしない石川先輩を散々説得してなんとか頭だけは上げさせた。
よっすぃーが「たまにネガティブになる」って言ってたけど、なるほど納得。
「何か用があって来たの?」
落ち着きを取り戻した石川先輩が訊いてきた。
「あの・・・話があって・・・」
「話? 何?」
「いや、ココじゃちょっと・・・」
「そっか、じゃあ場所変えよっか?」
- 202 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月16日(月)23時15分42秒
- ちょっと生ぬるい屋上の扉を開けると、眩しいくらいの光があたし達を迎えて、
一瞬だけ世界が真っ白になったみたいな錯覚に襲われた。
「う〜ん、今日みたいな日って気持ちイイね〜」
あたしがその世界に目が慣れるよりも前に、石川先輩はそこに飛び出してって太陽の光を全身で浴びてる。
くるくる回るその姿は、さながら自然のスポットライトの下で踊る妖精みたい。
なんか大人しくて落ち着いたイメージしかなかったけど、結構無邪気で子供っぽいところもあるんだなぁ。
屋上のフェンスのそば、石川先輩が「こっちこっち」って、手招きしてる。
2人並んでフェンスに寄り掛かる、あたしの横すぐそばには石川先輩の整った横顔。
あ、この感じ。あの時と一緒。
昨日も、それに・・・ずっと前にもあった気がする。
あったかい・・・。
そばにいるだけで分かる。やっぱり気のせいなんかじゃない。この感じ・・・、
お姉ちゃんと、一緒なんだ。
- 203 名前:SHURA 投稿日:2001年07月16日(月)23時22分22秒
- 最近、怠慢気味。
>199さん 波乱は用意してるんですけど、まだちょっと先です。
- 204 名前:伝えたい想い、伝えたい気持ち 投稿日:2001年07月20日(金)11時23分23秒
- 2人、何話してるのかな?
窓から身を乗り出すようにして、少しでも2人の会話の中身を拾おうとしたんだけど、
ここからやっと顔が確認できるくらいだ、何をどうしようが聞こえるわけがなかった。
その行為をようやく諦めて、窓側のその席(あたしんじゃないけど)に座り、屋上の2人を見上げた。
今になってみると不自然に思う、何でその時2人が居る場所に行こうとは思わなかったのか・・・。
分かっていたはずなのに、あたしにとって決して「イイこと」のわけがない、って。
ただ分かることは、昨日互いを知ったばかりの2人なのに、その雰囲気はあたしが入る隙はないように思えた。
悔しかった。
ごっちんが梨華ちゃんに手を差し伸べる、そっと握り返す梨華ちゃん。
心の中の胸騒ぎ、少しずつ何かの形を形成していくのが分かる。
散らばっていた欠片が少しずつ集まって、点になって、線になって、それが厚みを帯びていく。
振り払おうとしても心に強く根をはり、剥がれ落ちることはない。
そのまま何度か言葉を交わした後、2人は手を離した。相変わらず内容は全然分からなかった。
でも、ごっちんが
「ありがと」
って最後に言って、それに梨華ちゃんが微笑み返したのだけは分かった。
この時点で、あたしは全然知らなかったんだ。ごっちんの気持ち、そしてその強さを。
- 205 名前:SHURA 投稿日:2001年07月20日(金)11時26分46秒
- 更新です。
言い遅れましたけど、3部は吉澤、後藤2人の視点でいくつもりです。
分かりにくいと思いますけど、努力して分かり易くするつもりなんで、宜しくお願いします。
- 206 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月22日(日)17時31分18秒
- あたしの右隣、石川先輩はさっきの寄り掛かる体勢からフェンスと正面を向く形になっている。
太陽の陽射しに照らされ、まぶたに眩しく映る夏服の真っ白なブラウス。
空のずっと向こう、どこまでも遠くを見つめているみたいなその瞳。
うっすらと汗が滲んでいて時々キラッと光る額。
初夏の空によく映えるその姿をあたしはしばらく見つめてた。
「そう言えば・・・話って?」
石川先輩はこっちの方に方向転換して、さっきと同じように少し首を傾かせる。
その仕草が、憎らしいくらいにぴったりはまってる。
「え・・・?」
その横顔をずっと見つめてたことを知られたくない、と思ったあたしは、
無意識の内に顔を正面、仲良さそうにお昼を食べている女生徒2人の方を向いた。
向くと同時にその2人と目が合ってしまい、行き場を失ったその視線は不自然ながらも宙を漂った。
その行動が恥ずかしくて、自分の頬が赤くなっていないか、それが知られていないか心配だった。
「さっき、話があるって言ってたじゃない」
横目でチラッと見ると、石川先輩はさっきと変わらない表情のまま。たぶんバレてない・・・と、思う。
話・・・、この話を聞いたらこの人はどんな反応をするのかな。
お姉ちゃんの姿を重ねてるなんて知ったら・・・、やっぱり気持ち悪がられるのかな。
・・・でも、いいんだ。気持ちの整理はつけてきたから。どうなっても後悔しないって・・・。
- 207 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月22日(日)17時32分09秒
- 心の中で1つ頷いた後、あたしはゆっくり話し始めた。
「あの、昨日のこと・・・なん・・・ですけど」
「昨日?・・・ってひとみちゃんのお家でのこと?」
石川先輩は昨日の言葉にわずかに反応した。あたしが何の話をするのか、少なからず予想してたみたいだった。
「それなんです・・・けど。昨日、後藤、先輩に『お姉ちゃん』って言っちゃって・・・」
「お姉ちゃんって・・・、その・・・、紗耶香・・・さんのこと?」
「聞い・・・たんだ」
驚いてないって言ったら嘘になるけど、なんとなく予想してたことだった。
矢口っちゃんはともかく、よっすぃーは頼まれたら断れないとこあるから。
「ゴメンね。どうしても気になっちゃって・・・。でも今すごく後悔してる。悪いこと聞いちゃったなぁって・・・」
石川先輩は思い込みの激しい性格みたいで、申し訳なさそうに俯いてる。そんな仕草もはまってる。何だかおかしい。
「別に気にしなくていいですよ。どうせ話そうと思ってたから」
「そう・・・」
少しホッとしたみたい、先輩はわずかに安堵の表情を浮かべる。
「じゃあ何であたしに・・・、その・・・『お姉ちゃん』って?」
「話すと長くなるけど、いいですか?」
「・・・うん」
- 208 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月22日(日)17時33分43秒
- 「お姉ちゃん死んじゃったの6年前なんですけど・・・、ってそれは聞いたんですよね。
で、その頃・・・、それ以前か、後藤すんごく幸せだったんです。いっつもニコニコって笑ってて。
その頃はちっちゃかったし、全然幸せだなんて意識なかったんですけど、
今になって、あの時は楽しかったなぁ、幸せだったんだなぁって思うんですよ。
それで、何でかっていうと、その頃はお姉ちゃんといたからじゃないのかなぁ、って。
なんて言うのかな、あったかいっていうか、それで包んでもらってるっていうか、守られてるっていうか・・・。
よっすぃーとか、友達といても楽しいんですけど、それとは違うんです。
うまく表現できないんですけど、お姉ちゃんは自分の無くした一部っていうか・・・。
あは、何言ってんだろ。変ですよね、こんなの」
「ううん、変だなんて全然思わないよ。一緒にいるだけですごく幸せ感じる人って誰にでもいると思う」
正直ホッとした。自分のこと少しでも分かってもらえてる。そんなことがすごく嬉しかった。
- 209 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月22日(日)17時34分31秒
- 「あの・・・手握ってもらってもいいですか?」
右手を先輩のいる方、右側に差し出す。未だに視線は上を向いたまま。
なんか、やる前はもの凄く恥ずかしい行為に思ってたけど、いざとなったらそんな気持ちは微塵も感じなかった。
その少し後、その手にふんわりとした温かい感覚が伝わる。
「・・・やっぱり」
「え? やっぱりって」
「あったかい・・・」
考えていた言葉じゃなかった。自分でも知らないうちにそう口にしていた。
無意識っていうよりも、もう1人の自分があたしの体を勝手に操作して喋ってるみたいだった。
「さっき言いましたよね、あの頃幸せだった。って」
「うん」
「実は今もそうなんです。一緒なんです、お姉ちゃんといる時と・・・」
その時、この場に来て初めて石川先輩の顔を正面から見た。
少しびっくりするところを想像していたけど、そういうところは見た感じなかった。
何を思っているかは分からないけど、その目はあたしをジッと見つめていた。
「あの・・・、やっぱり変ですよね。こんなのって・・・」
でも、後ろめたさからすぐに目を逸らしてしまった。
まっすぐなその目に見つめられると、どうしても自分が恥ずかしくなってしまう。
「ううん」
「いいですよ。ホントのこと言われても後藤は大丈夫・・・だから」
「ううん。ホントに変だなんて思ってないよ。なんかね・・・、嬉しい」
「嬉しい?」
「それって、あたしといると幸せってことなんだよね。
自分が誰かにとってそういう存在になれてるってね、なんか凄い嬉しいことだと思う」
始め、何を言ってるのか全然分からなかった。そんな答えが帰ってくるなんて期待してさえいなかった。
だんだんその意味が分かってくると、少しずつ嬉しさが込み上げてきた。
「じゃ、じゃあ、またこんな感じに会ってもらっても、いい・・・んですか?」
「うん、喜んで。・・・でも敬語は無しね。お友達なんだから」
「うん、ありがと」
そう言うと先輩はそっと微笑んでくれた。
- 210 名前:SHURA 投稿日:2001年07月22日(日)17時37分40秒
- 更新です。
- 211 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月23日(月)01時20分39秒
- このまま、怒涛の展開になるのでしょうか?
続きをそわそわしながら待ってます。
- 212 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年07月27日(金)20時12分45秒
- 「よっすぃー、後藤ね、石川先輩と友達になったんだ〜」
そう聞かされたのは、屋上に2人の姿が見えなくなったすぐ後だったと思う。
いきなり教室に現れ、真っ先にあたしの元に駆け寄ってきたかと思ったら、
何も知らないふりをしていたあたしに、ごっちんは屋上での出来事を一方的に話していった。
それに対してあたしは「そう」とか「ふーん」みたいな曖昧な相槌を返すだけ。
ホントのことを言えば、その時のあたしは沸き上がる感情を押さえつけるだけで手一杯だったのだけれど。
あたしが2人のことを見ていたことも知らずに、先程の出来事を思い出して微笑んでいるごっちんを見ていると、
いけないことだと思いつつも、苛立ちを覚えている自分がいた。
そんなことを考えている自分がいることに気が付く度、友達なのに・・・、と恥かしさと罪の意識に苛まれる。
こんなあたしのことも知らないで、さも嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべるごっちんを見てしまうと尚更だった。
その話を聞くまで、自分は梨華ちゃんにすごい近い位置にいると思っていたし、そう信じていた。
けれど、それはただの思い上がりにしかすぎないと一瞬で気付かされたように思う。
ううん、本当は気付いていたんだ、あたし。それでも気付いていない振りをして、自分に嘘をついていたんだ。
思えば、その頃のあたしは梨華ちゃんと「友達」だなんて確認したこともなかったし、そう言いきれる程の自信も正直なかった。
事実、彼女と会えるのは家庭教師の時だけだったわけだし、
2人の関係って、友達でもなんでもなかったんだ・・・。
じゃあ・・・、
じゃあ、あたしって、梨華ちゃんの何なんだろ・・・。
- 213 名前:SHURA 投稿日:2001年07月27日(金)20時21分39秒
- やっぱレスあると気持ち乗りますね。
乗ってるんだけど、夏休み返上で、ずっと学校なんで書く時間がない状態です(w。
>211さん 怒涛かどうかは断定出来ませんが、
構想の中の続きは切ない感じを出して行きたいと思います。
時間の許す限り書いていきたいと思うので、マターリ待っててください。
- 214 名前:名無しヒ素 投稿日:2001年07月29日(日)04時29分23秒
- なんかよっすぃー切ないな
でもおもしろいです、はい
- 215 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月04日(土)05時02分13秒
- 「梨華ちゃ〜ん! こっちだって〜」
「真希ちゃん、早いよ〜、もうちょっとゆっくりにしない」
「梨華ちゃんってさ〜、結構とろいよね〜」
「ひど〜い」
「あはは、冗談冗談」
あたしと梨華ちゃんがこんな風に会うようになって2週間ぐらい経った。
始めのうちは会う度に緊張してたんだけど、なんつーか、だんだん慣れてきたみたいで、
今じゃ、敬語も使わなくなったし、いつの間にか自然に“梨華ちゃん”って呼べるようになってた。
なんか、最初の頃、妙に意識してたのがウソみたい。って思う。
始めのうちは校内でだけ会ってたんだけど、あたし達のガッコも夏休みに入って、
せっかくだからどっか遊びに行こう、ということになった。
ていうか、実は言い出したのはあたしなんだけど、梨華ちゃんはイヤな顔一つしないで頷いてくれた。
- 216 名前:SHURA 投稿日:2001年08月04日(土)05時03分21秒
- どこに行ったらいいのかあれこれ迷ったんだけど、梨華ちゃんが
「真希ちゃんに任せる」
って言ってくれたから、あたしがよく行くショップを巡ることにした。
そんな中、ホントは楽しんでくれてるか心配だったんだけど、
予想に反して梨華ちゃんは気にいってくれたみたいで、ず〜っと笑顔だった。
そんなとこ見てると、なんだかこっちも嬉しくなってくる。・・・なんて。
- 217 名前:SHURA 投稿日:2001年08月04日(土)05時03分53秒
- ショップを一通り見て周った後、あたし達は雑貨屋に足を運んだ。
所狭しと並べられたアクセサリーに梨華ちゃんは思わず「わぁ」と、声を挙げていた。
しばらく2人で店内を物色していると、梨華ちゃんが突然立ち止まった。
「真希ちゃん、これなんか似合うんじゃないかな」
と、梨華ちゃんが指差したものは、キラリと光るシルバーのピアス。
シルバーのボールに、中央に透明な石を添えたシルバーのクロスがぶら下ってるタイプで、
どっちかと言えば、カワイイというよりカッコイイ感じのするやつ。
視線の先、たくさん並んでるアクセサリーの中で、それは一際光って見えた。
それは梨華ちゃんが選んだせいなのか、本当にそうなのかはあたしには分かんない。
だけど、一度それを見たら、他の物がすんごいどうでもいい物に見えたのだけはホントだと思う。たぶん・・・。
- 218 名前:SHURA 投稿日:2001年08月04日(土)05時04分33秒
- 薦められるまま、流れで試しに着けてみることに、
梨華ちゃんがあやふやな手つきでつけてくれて、バッグから鏡を取り出してあたしに向けてくれた。
あたしの動きに合わせてゆらゆら揺れるクロスと、その石が店の照明に照らさせて時々ピカッて光る。
それが栗色の髪の毛(実は今日の為に染め直したんだけど)にマッチしてて・・・、う〜ん、確かに似合ってるかもしんない。
「ホントだ、結構イイかも」
「でしょ、絶対似合ってるよ」
「じゃ、買おっかな」
- 219 名前:SHURA 投稿日:2001年08月04日(土)05時05分07秒
- ピアスを元の位置に戻して、そばにあった値段の札を見た瞬間、
ウっソ・・・、マジ・・・。
せっかく梨華ちゃんが見繕ってくれたのに、
そのピアスは今のあたしの残金じゃ到底手が出ない代物だった。
やっぱりさっき調子に乗って服買い過ぎたのかな。
ふと、いっつもみんなに「金遣い荒い」って言われてたのを思い出した。今更気付いたけど、ホントだ、それ・・・。
もっと注意深く聞いときゃよかった。今度からはそうしよ。
あ〜、こんなことだったら恐喝でもなんでもして、よっすぃーからお金借りてくるんだった。
「あっちゃ〜、お金足りないや」
半ば、ていうかほとんど諦め気味の声で、誰に言うでもなくボソっと言った。
- 220 名前:SHURA 投稿日:2001年08月04日(土)05時05分40秒
- 「じゃああたしが買ってあげるよ」
その声に反応して、あたしは無意識のうちに隣にいる梨華ちゃんの方を向いていた。
何・・・、今、もしかして買ってあげるって言ったの?
「え・・・、い、いいよ、そんなの悪いよ」
「大丈夫、家庭教師って結構収入いいんだから」
「でも・・・、さ・・・」
「お姉ちゃんの言うことは聞きなさい」
ハッとした。
全身を頭の先からつま先まで、もの凄いスピードで何かが2往復ぐらいした感じ。
ふざけて言ってるってのはすぐに分かる。つーか、どっちかって言ったら寒い。
だけど・・・。
「え・・・、あ・・・、う、うん」
- 221 名前:SHURA 投稿日:2001年08月04日(土)05時06分18秒
- 次の瞬間、あたしが見たものはそこのショップのレジで会計をしてる梨華ちゃんの姿。
あんまり覚えてないんだけど、結局買って貰ってしまったらしい。
「はい、真希ちゃん」
キレイな袋に入れられたピアスがあたしの手のひらに乗せられた。
「・・・・・・」
そのまま何も喋らないまま、ショップのゲートをくぐり抜け、
梨華ちゃんは来た道と反対方向に進んでいく。あたしはその後ろについて行く。
「ねぇ、どうかしたの?」
「え、どうって」
「さっきから、黙ってるから、あたし何か気に触ることしちゃったのかな?」
「ううん、違う・・・。あ、あのさ、ひとつ訊いちゃってもいい」
「うん、いいよ」
バカ、くだらない質問してどーすんだ。こんなことしても呆れさせるだけじゃん。
そう思うのに、言い聞かせるのに、何故か言葉を止める気にはならなかった。
「さっきのって・・・、どう・・・いう・・・意味」
「さっきって・・・、ああ、真希ちゃんってさ、なんだか可愛くてホントに妹みたいなんだもん」
って梨華ちゃんは微笑む。
- 222 名前:SHURA 投稿日:2001年08月04日(土)05時06分55秒
- その瞬間、胸の中がフワって軽くなった。
うまく表現できないけど、心の中の壁紙が一瞬で塗り替えられた感じ。しかもすんごいあったかい暖色。
なんだか居心地がよくて、何もかも委ねてしまいそう。
感じたことのない感情、言葉でなんかじゃ現せない、現してでもしたら音も立てずに消え去ってしまいそう。
目の前に存在するものが愛しくなってきて、さっきのピアスみたいに周りのものが全然見えなくなった。
- 223 名前:SHURA 投稿日:2001年08月04日(土)05時07分25秒
- 「ねっ、行こ」
その後姿はあたしより数歩前を行く。
手を伸ばしただけですぐに届いちゃう距離、
気付かなかった、こんなにも大事なものがすぐそばにあったなんて。
あたしはその後姿を追い掛け、その片腕にしがみついた。
「ちょっ、真希ちゃん?」
梨華ちゃんはちょっと困惑した表情、ずるいよね、そんな顔もカワイイんだからさ。
「妹なんだからさ・・・、これぐらい・・・いいよね」
って言うと、何も言わずに「うん」って頷いてくれた。
そうしたら、あたしも自然に笑みがこぼれてきた。
なんだか、嬉しい。
- 224 名前:SHURA 投稿日:2001年08月04日(土)05時08分02秒
- その後は、ずっと腕を組んで歩いた。
心の中はずっとドキドキしっ放し。
そんな中、あたしの中で梨華ちゃんに対する感情が次第に大きくなっているのが分かる。
詳しいことなんてよく分かんない。けど・・・ひとつだけ確かなことは・・・、
あたし、梨華ちゃんのこと・・・、好きになり始めてる・・・。
- 225 名前:SHURA 投稿日:2001年08月04日(土)05時11分47秒
- 別に進展も無く、更新です。
>>215
↑読む時はここから、いくと読みやすいです。
>214さん
切ないですか、まぁその感じが伝わればいいな、と思ってます。
とりあえず、これからです。
- 226 名前:JAM 投稿日:2001年08月04日(土)18時20分06秒
- 作者さん親切ですね。
それにしてもよっすぃ〜を恐喝って
ごっちんもすごいこと考えますね(笑)
- 227 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月05日(日)01時26分52秒
- うわぁ、よっすぃ〜の気持ちになって読んでしまった。。。悲しいねぇ。
作者さん、うまいわ。すっげぇせつねぇ〜〜。
ドキドキしたまま期待してます。がんばってくださいね。
- 228 名前:227 投稿日:2001年08月05日(日)01時27分40秒
- ごめんなさい。ageしまった。
- 229 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月08日(水)20時27分40秒
- 夏休みに入っても、梨華ちゃんの家庭教師は続いていた。
梨華ちゃんはいつも通りに来て、いつも通り勉強を教えて、
いつもと同じような会話をして、いつもと同じようにあたしの部屋を出ていく。
何ひとつ変化はない。
でも、あたしは知っていたんだ。
昨晩、ごっちんから電話があった。
『今日ね〜』
と名乗りもせずにいきなり話に入る、声の調子だけで内容は大体分かった。
スピーカーの向こう、携帯を片手に、その日あったことを思い出しているごっちんの表情が浮かんだ。
それは、普段あまり感情を表に出さないごっっちんが、本当に楽しいことがあった時にだけする心の底からの笑顔。
これから起こることを想像したら、携帯を握るその手にジワッと汗が滲んだ。
それに気付いて、慌てて携帯を持ち替えてその手を履いていたジーパンで拭った。
話の内容はほとんど覚えていない。と言うよりは頭に入っていなかったと言った方が正しい表現だと思う。
ピアスを買ってもらった。とか後から聞いたらそんな話をしてたらしいけど、その時のあたしの耳にそれは届いていなかった。
- 230 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月08日(水)20時28分21秒
- 「・・・じゃあ、この例題やってみよっか」
と、いつも通り梨華ちゃんの分かり易い授業が淡々と続く。
昨日、電話がなかったらごっちんとどこか行ってたなんて絶対気付かなかったと思う。
それくらいその時の梨華ちゃんは自然体で、いつもと同じようにしか見えなかった。
ただ、そういうところがあたしの苛立ちを誘ったことも事実だった。
「昨日ね」ってなんで話してくれないの? そんなことぐらい話してくれてたっていいじゃん。
あたしの友達とのことなんだから関係ないわけないしさ。
そんな想いばかりが、頭をよぎっていった。
その理由だってどうしても悪い方ばかりに考えてしまう自分がいた。
信用されてない、とか、話すほどの間柄じゃない、とか。
- 231 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月08日(水)20時29分47秒
- 「でね、こういう式の時はね・・・」
「三角比の相互関係を使うんでしょ、そのあと移行して、ルートを外して・・・」
たまたまその部分をやっていたあたしは、その梨華ちゃんの説明を遮って、
いつもの梨華ちゃんを模写するように淡々と解法を説明した。
「・・・で、この二乗を求める、でしょ・・・」
説明し終わった後、ふと自分に向けられている熱い視線に気が付いた。
その方向に顔を向けると、円らな眼が大きく見開かれていた。
それを見て、初めて自分のした失敗に気が付いた。
募った苛立ちから開放されたいという自分勝手な気持ちに負けて、八つ当たりの矛先をよりによって梨華ちゃんに向けてしまった。
気付かないうちに言葉遣いが荒くなっていたことが何よりの証拠だ。
梨華ちゃんがこういうことに弱い性格だということを十分に知っていながら、あたしはなんて無神経なヤツなんだろ。
後悔と自己嫌悪が後から後から押し寄せてきた。
俯いたまま、舌打ちしたい気持ちを心の中で必死に押さえていた。
- 232 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月08日(水)20時30分34秒
- だけど、上目遣いで梨華ちゃんの表情を窺うと、そこにいるのはネガティブモードの梨華ちゃんではないように見えた。
それどころか、その目には嬉しさとも感嘆とも言える感情が・・・。
「やっと・・・、やっと、真剣にやってくれる気になったんだね・・・」
え・・・?
「いっつも、ひとみちゃんってなんかボーっとしてて、
あたしの教え方ってやっぱりつまんないのかなぁ、っていつも思ってたから。
すごい、ちゃんと予習してたんだね。あ〜、やっとあたしの情熱が伝わったんだ。やってて良かった」
・・・声も出なかった。
この人は流れが分かっているのかな?
そんなこんなで結局彼女の口からは昨日のことは一言も発せられないまま、その日の家庭教師の時間は終わった。
その後、たったひとりの部屋の中、ベッドの上。
さっきまでは気にもならなかったエアコンの無機質な音が妙に大きく聴こえて、なんだかムカついた。
- 233 名前:SHURA 投稿日:2001年08月08日(水)20時50分32秒
- 今回の更新分は>>229-232です。
>JAMさん
自分が読んでるところでJAMさん、結構見かけますよ。読んでくれてるなんて、嬉しいです。
親切っていうか、リンクミスって読みやすくもなんともないことになっちゃって、今回はバッチリです。
>よっすぃ〜を恐喝
後藤視点の時は勢いにまかせて書いてるんで、たまにああいう表現がでるんです。
>227、228さん
>よっすぃ〜の気持ちになって読んでしまった
一人称で書いてるんで、なによりも心理描写を大事に書いてるつもりなんで
そういう言葉はホントに励みになります。
たぶん悲しくなったのは、自分は明るいシーンが下手でどーしても暗い悲しい文になっちゃうからだと。
期待してくれることは単純に嬉しいです。期待に応えられるように頑張ります。
- 234 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月09日(木)04時25分41秒
- 空気の読めない石川さん萌え
- 235 名前:チャーミーブルー 投稿日:2001年08月09日(木)22時02分52秒
- よっすぃ〜が切ない。。。
SHURAさんの小説は切ないけど、なんか好きです。
- 236 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月11日(土)21時29分05秒
- 「はい、ひとみー!」
先輩からのトスが絶好のタイミングで上げられた。
「はい!」
最高到達点から高角度で放たれたボールは、相手側のコ−トにいるプレイヤーの間を抜けて体育館の床に叩きつけられた。
同時に響きわたる弾かれるような小気味いい音。そして訪れる静寂。僅かに残る手のひらの痺れ。
ネット際に着地して、既にコートの外に転がってるボールを目で追う。
体育館の隅にあるのを確認してから後ろを振り返った。
視界に飛び込んでくるコート中のメンバー。その顔には喜びと嬉しさが溢れていた。
心の底からの笑顔、あたしもそんな風に笑えているのかな。
違う・・・、何かがいつもと違ってる。そんな気がした。
- 237 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月11日(土)21時29分39秒
- 「「「ありがとうございました!!」」」
休み明けの大会に向けての練習試合、内容は3対1でウチらの圧勝。
でも、自分が何をやったのか全然覚えてはいなかった。
今はこのことだけに集中しなくちゃ、と思ってはいても、意識の片隅にはいつもなにか引っかかってて、
どれだけいいプレイをしても、どんなに強いチームに勝っても、そのもやもやした気持ちは無くならなかった。
むしろ、数メートル前も見えない霧みたいに、濃さをましているのかもしれない。
- 238 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月11日(土)21時30分09秒
- 相手高校が帰り、後片付けをしてる時、先輩に呼びとめられた。
「ひとみー、入り口で友達呼んでるよ〜」
「あ、はーい」
悪い予感がした。そしてそれは見事に的中する。
「ごめんね〜、試合だったんでしょ」
「ううん、もう終わったから」
そこにいたのは私服姿のごっちんだった。
休み中でもしょっちゅう会ってるのに、何だか違って見えたのは、見慣れなかったピアスのせいだと思う。
「相談したいこと、あるんだ。すんごい重要なこと」
部活以外でごっちんが休日に学校に来る時は何か重要な話がある時。って経験上分かってはいた。
でも、その時だけはそんなこと考えなくても、何となく直感で分かっていたんだと思う。
- 239 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月11日(土)21時31分36秒
- 体育館の入り口、そこの段差に並んで座った。
「で・・・、何・・・?」
「ん・・・っとね、単刀直入に言うね」
「うん」
あたし、何となくだけど分かっていたのかもしれない。その次にごっちんの口から出る言葉が。
「あたし、梨華ちゃんに告ろうかな・・・って思ってる」
「・・・そう・・・」
「そーって、びっくりしないの?」
「えっ? そりゃ驚いてるけど・・・」
ホントだった。不思議と驚きはしなかった。それよりも、返って胸のつかえが取れたような気がした。
その時は、それはずっと引っかかっていた胸騒ぎの答えが分かったからなんじゃないかなって思ってた。
ただ、それは新たな心の動揺を生むだけだったけど・・・。
- 240 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月11日(土)21時32分14秒
- 「でもさ・・・、女の子同士・・・じゃん」
「そーだけど・・・さ・・・、そりゃあたしだって最初は変だって思ってたよ。女同士ってこと。
でも・・・、好きなもんは好きなんだもん。仕方ないじゃん。
あたし、今は梨華ちゃんのこと好きな自分否定したくない。っていうか、ホント言うとそういう自分結構好きだったりするんだよね。
それにさ、今は、梨華ちゃんともっと一緒にいたいし、梨華ちゃんのいろんなこと知りたいって思ってるから。
だから・・・、何て言うのかな・・・、あたしが言いたいことは、何があってもあたしは梨華ちゃんが好き、ってこと。
だから、好きだったら女の子同士だなんて関係ないってあたしは思うわけ」
普段、無邪気で子供っぽいごっちんが、その時だけは妙に大人びた顔をしていた。
それほど真剣なんだ。鈍感なあたしでも無意識のうちに理解した。
- 241 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月11日(土)21時32分47秒
- 「でさ、よっすぃーはどう思う?」
「どうって?」
「だから、ふたりの仲立ち人としてさ」
「そんなのなった覚えないよ・・・」
「いや、でもよっすぃーがあの時家に行かせてくれなかったら、今の後藤はないわけだからさ」
「・・・どうって言われたってさ・・・」
梨華ちゃんはあたしの家庭教師で、でも、友達でもなんでもなくて。
あたしは梨華ちゃんのことどう想ってるの?
大切? 重要? 無くしたくない? 分からない、そんなこと、いきなり。
で、ごっちんは大事な友達で、真剣に梨華ちゃんのことが好きで・・・。
あたしは・・・ふたりの何なの? どうすればいい? 何て答えればいいの?
- 242 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月11日(土)21時33分22秒
- 「お・・・、応援するよ。たぶんうまくいくって」
いろんな想いが一気に頭の中を駆け巡った。
だんだんと考えることがめんどくさくなってきて、傷つきたくなくて、何もかもから逃げ出したくて、
あたしは考えるよりも早くそう口にしていた。
「ホント!?」
それまで僅かに不安の色が見え隠れしてたごっちんの表情にパァッと光が射した。
「うん、何か最近の梨華ちゃん見てても、何だか楽しそうだもん。それってさ・・・、きっとごっちんの影響じゃないのかな」
思っていたこと考えていたことが何ひとつ言えなかった。その代わり考えてもいなかったことばかり言葉に出していた。
こんなことなら言葉とかなんて初めっから無きゃいいのに。そしたらどれくらい幸せか分からない。
あたしの言葉を聞いたごっちんの顔は照れからなのか、軽く頬に赤みが射していた。
いつもの無邪気な微笑みを浮かべるごっちん、あたしはそれを見るのが少しつらかった。
- 243 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月11日(土)21時33分53秒
- 「あたしさ、やってみる。言うだけ言ってみる」
そう言い残して、ごっちんは帰っていった。
ひとり残されたあたしは、ただその場に立ち尽くしていた。
赤く染まっていく夏の太陽、街の景色に消えていくそれは街の全てを包みこんで消し去っていくようで、
同じ様に、うざったいあたしの心も包みこんでしまえば少しは楽になれるのかな。
そんな想いを抱きながら、太陽が消えるまでそれをずっと見ていた。
- 244 名前:SHURA 投稿日:2001年08月11日(土)21時42分38秒
- 今回は>>236-243です。
>234さん
最近、ずっと暗かったから少し明るくしようとしたんですが、
明らかな失敗ですね、それによっすぃーの八つ当たりになってないし・・・。
>チャーミーブルーさん
切ないっていうか、明るいの書くのがが苦手で、どーしても暗くなっちゃうんですよね。
チャーミーブルーさんのはどっちもROMってますけどかなり明るいっすよね、羨ましい・・・。
(O^〜^)<いい〜なぁ〜。
- 245 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月12日(日)00時19分58秒
- よっすぃの気持ち超わかるさ!!
どうしようもないんだなぁ、こういう時って。。。
ってか、SHURAさん、天才だわ。
すっごい続き楽しみだし。がんばってね。
- 246 名前:245 投稿日:2001年08月12日(日)00時20分57秒
- ごめんなさぁい、ageてしまった。。。鬱だ。
- 247 名前:JAM 投稿日:2001年08月12日(日)00時58分24秒
- >>245
ホントそうですよね。
よっすぃ〜もホントは協力したく無いと思うけど
親友を無くすってこの時期の女の子にとって
ものすごくキツいことですからね。
それにしてもSHURAさんの小説って
読みやすくて良いですよね〜
続き期待してますので頑張ってくださいね。
- 248 名前:チャーミーブルー 投稿日:2001年08月14日(火)17時35分52秒
- よっすぃ〜ツライですね。はぁ。
私の場合は、暗くすると痛くなって自分が辛くなるので
わざと明るくしてるんですよー。暗いと、なんか可哀相で。
ダメな作者っす。
SHURAさんも、頑張ってくださいね。
- 249 名前:「セ」の字 投稿日:2001年08月15日(水)03時11分06秒
- どうもです。某サイトの人です。
とりあえずご挨拶だけでもと思いまして。
つうか良いじゃないっすか〜。
かなり微妙な心理であったり、
情景をわかりやすく書いていたり、
実力のある作家さんすね。
これからもよろしゅうです。
- 250 名前:SHURA 投稿日:2001年08月18日(土)01時34分53秒
- 今まで、ちょっと諸々の都合で続きを書くことができませんでした。
もともと書くスピードが凄く遅いので、次の更新は結構遅くなると思います。
なので、勝手ながらレスの返事だけさせて頂きます。
ほんとにスミマセン。m(__)m
>245-246
自分で、ちょっとベタかなーって思ってたんで、そーゆー風に思って貰って、嬉しいです。
あと、age、sageは別にどーでもいいです。むしろ、ageのほうが嬉しかったり…。
>JAMさん
一応、梨華っちへの想いとごっちんへの友情の間で揺れるよっすぃー。
ってのがテーマなんで、うまく伝わったみたいですね。(ホッ…
自分のは読みやすさが命なんで、とにかく改行だけはしっかりやってるつもりです。
- 251 名前:SHURA 投稿日:2001年08月18日(土)01時58分45秒
- >チャーミーブルーさん
青の方、別ハンでレスしてました。気づきましたよね。
実は、今初めて言うんですけど、凄く明るいのを一度だけ公開したことがあるんですよね。
名無しで書いた短編で、あまいあまい「いしよし」なんですけど、
それで苦い思い出があって、それ以来、明るいとか甘いとかいうのに対して恐怖心があるんです。
まぁ、切なくしても収集がつかなくなりそうなんですけど…(ニガワラ。
>「セ」の字さん
ど〜〜〜もです。いつもお世話になってます。
その某サイトにも書きましたけど、なんか恥ずかしいっすね。
ココの話は、小説書くと決めた時から温めておいた部分なんで、誉めて貰えて嬉しい限りです。
これからもやっかいになると思うんで、こちらこそよろしゅうです。
期待に応えられるよう頑張るつもりなので、これからも宜しくお願いします。
- 252 名前:SHURA 投稿日:2001年08月18日(土)02時00分33秒
- ageるつもりなかったのに…。
スミマセン…。
- 253 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月26日(日)15時45分00秒
- 「後藤さ・・・、梨華ちゃんのこと、好き・・・になっちゃったみたいなんだよね・・・」
映画を見に行ったその帰り道、別れ際の公園であたしはそう言った。
見に行った映画は、なんだか全米で興行収入NO.1とかなんとかの、よく分かんないんだけど有名な恋愛映画らしかった。
梨華ちゃん泣いちゃうんだろうな〜って思って、卸したてのハンカチを準備していったのに、
見てたらこっちが泣けてきちゃって、梨華ちゃんがくれたハンカチ涙でぐしょぐしょにしちゃった。
やっぱり梨華ちゃんだけお姉さんっぽくてずるい。っていうかあたしが子供なのかな?
その後もいろんな所に一緒に行った。
お昼はファミレスで食べて、その後は最近話題のケーキ屋に行って。
その間じゅう、あたしは楽しくってはしゃいでたんだけど、頭ではずっとあのことを考えていた。
自分の気持ち・・・、言った方がいいのかな、言わない方がいいのかな、って。
よっすぃーにはああ言ったんだけど、やっぱり自分でもホントは不安だったんだ・・・。女の子同士ってこと・・・。
- 254 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月26日(日)15時46分01秒
- でも、隣にいる梨華ちゃんを見てると、なんだかそんな気持ちもどこか忘れちゃってるみたい。
今にも吸い込まれちゃいそうなその瞳、
それが自分に向けられているだけで、心がすーっと透き通る感じがする。
いやなことなんかぜーんぶ空の彼方に飛んでいっちゃって、その後には胸のドキドキと、楽しいことが待ってるから。
今までに感じたことのない、幸せな時間。
その中にあたしはいる。
今のままでも十分幸せ、っても思う。
だけど・・・、だけど、それだけじゃ物足りない。
もっと梨華ちゃんのこと知りたいし、もっとあたしのこと知って欲しい。
だから・・・、怖いけどこの想いを打ち明けたい。
やっぱり好きだから、梨華ちゃんのこと。
- 255 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月26日(日)15時46分36秒
- いつの間にか辺りは暗くなっていて、夕焼けの代わりに街灯の真っ白な光があたしと梨華ちゃんを照らしてる。
夏特有の蛾とか小さい虫がその周りを飛び回っていて、光の中を横切るそのシルエットだけが妙にはっきりしてた。
「うん、あたしも真希ちゃんのこと好きだよ」
あたしの告白に対し、梨華ちゃんはあっさりそう答える。
「違うの、後藤の好きはそういう好きじゃなくて・・・、もっとふか〜い意味で・・・、
その・・・なんて言うか・・・、あ、愛してるっていうか、そういう意味の好きなんだけど・・・」
「あ・・・ごめんなさい」
「ううん、いいよ別に」
「そう・・・」
「うん」
言った後になって、自分の言ったことがハンパじゃなく恥ずかしいことに気付いた。
『愛してる』・・・だって。
そんな台詞が自分の口から出たなんて、なんだか信じられない。
後から後から押し寄せてくる恥ずかしさで、今すぐにでも顔を両手で覆ってしまいたい気持ちになった。
- 256 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月26日(日)15時47分30秒
- そんなあたしの気持ちを知ってるのか知っていないのか、梨華ちゃんは上目遣いで言う。
「でも・・・、あのさ・・・あたしって女の子だよ」
知ってるけど・・・。
と思いながら、なんとなく梨華ちゃんもそう言うだろうなぁ、とは予想してた。
「よっすぃーも同じこと言ってた」
「えっ、ひとみちゃん・・・も?」
「後藤、よっすぃーには言っといたほうがいいと思って、昨日学校行ってよっすぃーに言ってきたんだ。
そしたら、よっすぃーも『女の子同士じゃん』って・・・。
・・・でもね、よっすぃーも分かってくれたんだ、後藤が『好きだったらそんなの関係ない』って言ったらさ。
そんで、応援するって言ってくれたんだ・・・、『うまくいくよ』って」
「・・・そう・・・」
そう呟いた梨華ちゃんの顔は街灯の明かりに作られた影のせいであんまり見えなかった。
「そんでさ、それを踏まえて・・・その・・・返事・・・は?」
「う、うん」
と、ほんの少しの間だけ考えた後、少しずつ梨華ちゃんは口を開いた。
その次の梨華ちゃんの言葉、
その時、あたしはそれをずっと忘れないだろうと思った。
- 257 名前:SHURA 投稿日:2001年08月26日(日)15時49分28秒
- 今回は>>253-256です。
- 258 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月28日(火)02時20分00秒
- う゛…。ごっちん、それは言わないで欲しかった。
よっすぃ〜の気持ちは・・・気持ちは・・・・。
なんて言ったの??りかちゃん!!
- 259 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月28日(火)02時20分33秒
- ごめんなさい。ageてしまった。鬱だ。。。
- 260 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月28日(火)06時05分58秒
- 梨華ちゃんの気持ちはもしや・・・あのヒトに向けられているなんてこともあったりするの?
ハラハラ。
- 261 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月29日(水)22時38分53秒
- 「ふぅ・・・」
部屋のドアを空けて、その勢いのままベッドに倒れ込んだ。
ただでさえ、休み中の部活はキツイっていうのに、こんな精神状態じゃ疲れも2倍に感じるみたいだ。
案の定、練習もミス連発で最後にはコートから出される始末。
明日も明後日も明々後日もその次の日も今日と同じような気がした。
今度の大会、レギュラー狙ってたのに、こんな調子じゃ無理かもね・・・。
・・・・・・・・・。
ごっちん、どうだったのかな。
確か、今日会うとかって言ってたけど・・・。
- 262 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月29日(水)22時39分35秒
- ・・・・・・・・・。
バカだ・・・。
今、一瞬でも「ごっちんがふられたらな」って思った自分がいた。
大事な親友なのに、
あたしを信用して話してくれたのに、
そんな友達の、ごっちんの不幸を一瞬でも願った自分。
気のせいとか思い違いとかそんなんじゃない。
そういう気持ちを抱えた自分が心の中に居着いていて、その存在は否定することもできないくらいはっきりしていた。
恥ずかしくて、情けなくて、なによりごっちんに申し訳なくて・・・。
どうせなら消えてしまいたかった。
こんなのもう十分だよ・・・。
- 263 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月29日(水)22時42分53秒
- 『ごっちん』
ディスプレイに映るその文字。
より一層強まっていく罪悪感。
できれば出たくなかったけど、出なきゃいけないような気がした。
それは別にごっちんのためじゃなくて、よく分かんないけど、しいて言うなら、自分の為だと思う。
一息置いて、呼吸を整えた。
出来るだけ気持ちを悟られないように、明るく努めて電話に出た。
「ごっちん、何?」
『よっすぃー・・・?』
ごっちんにしては珍しい暗い声。
「うん、そうだけど、どうか・・・した?」
『あのね・・・、今日さ・・・梨華ちゃんと映画見に行ったんだ・・・』
「うん・・・」
普段から感情を表に出すことがめったに無いごっちんのその様子に、『もしかして・・・』という想いが自然と頭をよぎる。
だけど、そんな自分を見つける度に、再び罪悪感が生まれてくる。
ゴメン・・・ごっちん・・・。
そう頭の中で小さく呟いた。
- 264 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月29日(水)22時47分30秒
- 『でね・・・後藤さ・・・言ったんだ、梨華ちゃんに『好き』って・・・』
『好き』という2文字がリフレインして聞こえた。
なんで、こんなにこの言葉が重く聞こえるんだろう。
その答えはその時のあたしには見つけることはできない。
『そんで・・・梨華ちゃんの返事がね・・・』
無意識のうちにある答えを期待している自分、
認めたくなんかない、だけど、その自分はあたしの心の中を覆い隠すように強く根付いていた。
『・・・・・・・・・』
軽く間が流れる。
気のせいかスピーカーの向こうでゴクッと息を呑む音が聞こえた。
- 265 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月29日(水)22時48分09秒
- 『オッケーだって〜〜!!』
急に転調を変えたその声にあたしは何が起きたのかよく理解できなかった。
ううん、もしくは頭の中で「それを理解したくない」と自然と思い込んでいたのかもしれない。
『へへ〜、びっくりした? 後藤もね、すんごい怖かった。
だけど、梨華ちゃんね『あたしも真希ちゃんのこと、そういう風に好きだよ』だって。
後藤ね、それ聞いて、嬉しいっていうか、恥ずかしくて赤面しちゃった、あは』
と、いつも通りの笑い声をたてるごっちん。
そのうちにイヤでも次第にごっちんの言葉の意味が意識の中に流れ込んでくる。
だんだんと、ある感情が生まれてくる。
今までに感じたことの無いもの、なんと呼んだらいいんだろ。
虚無感? 喪失感? よく分からなかった。
- 266 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年08月29日(水)22時48分49秒
- 『どーしたの? さっきから黙ってるけど?』
スピーカーの向こうから自分に向けられた、さっきとは違う明るい声。
「え、ああ、なんだか部活で疲れちゃって・・・」
『あ、なんかゴメンね、疲れてんのに・・・』
「ん、別にいいよ」
『じゃあ後で話すね』
「うん」
『じゃあね、バイバイ』
そうして、電話は切れた。
手の中から滑り落ちる携帯、フローリングの床でガチャっと音を立てる。
- 267 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月29日(水)22時53分54秒
- おもしろいですね!いしごま好きなので
このまま行って欲しいですが・・・・。波乱あり・・?
- 268 名前:SHURA 投稿日:2001年08月29日(水)23時03分05秒
- 今回は>>261-266です。
>258-259さん
今までのレス見てると、みんなよっすぃーを応援してるんですね。
まぁ、ごっちんも一生懸命なんで、許してやって下さい。
>260さん
あの人? 誰を予想しているのかは(?)ですけど、いずれ明らかになると思います。
これからもハラハラさせられるように頑張ります。
- 269 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月30日(木)00時08分03秒
- そうなんだ。。。りかちゃん。
>みんなよっすぃーを応援してるんですね。
他の人はわからないけど、オイラはなんだかよっすぃ〜の気分になってしまうよ。
つうか、マジつらい・・・。うぅぅ。
- 270 名前:空唄 投稿日:2001年08月30日(木)14時46分10秒
- 僕はいしごまが好きなんで嬉しいですけど、きっとこのままじゃ終わりませんね。
どんな展開に持っていくかわかりませんが、楽しみにしています。
- 271 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月31日(金)01時19分42秒
- いしごまもいしよしも好きなんだすけど、
どちらかと言うといしよし派なので、今の
展開は少々辛い……。
- 272 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月31日(金)02時55分10秒
- 最終的にはいしよしが結ばれるはず!
・・・って勝手に思い込んでたり
- 273 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月03日(月)04時45分22秒
- 椅子に座り、間接照明のオレンジ色をじっと見ていた。
そうすれば、心の中にある隙間がその光で埋まっていくような気がしたから。
言い方を変えるなら、その暖かい光に無くしたものを重ねていたのかもしれない。
「・・・ぃざわ〜」
あれから、あの電話からずっと、心の中で何か・・・、すごく大事なものが足りない気がしてならなかった。
それが何なのか・・・、いい加減自分でも気がついてきた。でも、なんで・・・
- 274 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月03日(月)04時45分56秒
- 「吉澤〜!」
突然、壁で反響した大きな声が耳に届く。
声のした方には、フロアの中央のテーブルに足をかけている中澤さんがいた。
「え? あ、はい、なんですか?」
「なんやの〜、さっきから何回も呼んでたんやで。ったく、ボケっとすんなや〜、床、モップで拭いてくれへん? ってゆうてんの」
もう昼過ぎだというのに、中澤さんはまだ寝巻き姿で、頭もボサボサに寝癖がついたまま。
そして、テーブルに乗せられた足の上に今朝のスポーツ新聞を広げ、片手にはどの銘柄かは知らないけど細いタバコを挟んでいた。
そのカッコは正に普段のだらしない暮らしぶりを全開にさらけ出していた。
あんなんじゃ未だ独り身なのも納得。
「あ、はい」
そんなこと言ったら殺されるので、余計なことは何も言わずに素直に指示に従った。
店の御手洗いに行き、そこにまとめて置いてある清掃用具から洗剤と共にモップを取り出して、店の隅から丹念に拭いていく。
- 275 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月03日(月)04時46分27秒
- あの電話のから数日が経ったけど、あれからごっちんとは会ってもいない、電話もしていない。
でも、ごっちんが連絡を入れないわけじゃなくて、あたしがごっちんを避けているだけだった。
部活も、剣道部がある日はバレー部が終わるとすぐに学校を出るようにしていたし、携帯もほとんど電源を切ってる状態にしていた。
別に会いたくなかったわけじゃない。
ただ、会ってもどうしていいのか分からなかっただけ。
会えば、ごっちんは必ず梨華ちゃんのことを話すと思う。
それに対して、あたしは何て言えばいいの、どう答えればいいんの。
よかったね。って、おめでと。って言ってあげたらいいの。
心の中じゃそんなことちっとも思ってないくせに。
そんな気持ちをごっちんに知られるのが、見透かされるのが怖くて、自然とごっちんを避けるようになっていた。
あたしはズルイ、そして卑怯だ。
- 276 名前:SHURA 投稿日:2001年09月03日(月)04時49分11秒
- 今回は>>273-275です。
自分の発言のせいか、レスがたくさん。
ありがとうございます。
>267さん
即レスどうもです。
いしごま好きですか、安心しました。
いしよし好きばっかりっだったらちょっとごっちんが可愛そうだったんで・・・。
波乱は、用意はしてあります。今はそれしか言えません。ゴメンナサイ。
>269さん
実は書いてる方はあまり辛くなかったり・・・。
感情移入してもらえるのは、凄く嬉しいです。
梨華っちの行動に関しては・・・、目に見えるものが全てじゃないんですよ。
>空唄さん
自分がROMってるところでよく見ますよ、空唄さん。
読んでもらえて嬉しいです。
もちろんこのまま終わらせる気はないです。とだけ言っておきます。
>271さん
自分も同じです。
いしよし寄りのいしよし、いしごま好き。
今の展開で辛くなってたら、この後の展開じゃ耐えられないかも。
>272さん
最終的には・・・何とも言えませんけど、
ただ言えることはキレイな終わり方はしないと思います。
- 277 名前:SHURA 投稿日:2001年09月03日(月)04時55分47秒
- このスレはとっくに200kbいってるんで、移転したほうがいいんですけど、
3部はここで終わらせたいので、もう少しだけここで書かせてもらいます。
管理人さん、わがままをお許しください。m(_ _)m
3部が終わり次第、移転したいと思います。
あと、早ければ今夜中に更新します。
- 278 名前:Charmy Blue 投稿日:2001年09月03日(月)15時16分27秒
- >>251 SHURAsanお久しぶりです。
レスありがとうございました(遅すぎ)。
私も明るめ以外も書くようになりました(苦笑)。
こちらも、いしよしごまもツラそうですねー。頑張って下さいね。
- 279 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月03日(月)21時29分22秒
- 「・・・吉澤〜!」
「あ、はい」
再び、中澤さんの声がフロアに響く。
声のした方を向くと、中澤さんはさっきとまったく変わらない体制だったけど、心なしか、さっきよりも顔が引きつって見えた
「あんたほんまいい加減にしぃや〜」
「え? 何がですか?」
「何がって、さっきからずっと同じトコばっかゴシゴシって、やる気あるんか〜?」
それを聞いて、ゆっくり自分の周りを見渡してみる。
あ・・・・・・。
考え事をしていたあたしの手もとは同じ所を行ったり来たり・・・、一向に始めの場所から進んでいなかった。
「すみません・・・」
「何があったか知らんけどなぁ〜、そんな調子やったらこっちまでおかしなるやろ〜」
と、中澤さんは起きぬけのボサボサ頭を掻きながら、読み終わった新聞をテーブルに置いた。
「はぁ・・・」
「ちょっとは辻を見習った方がええんとちゃうか?」
短くなったタバコを灰皿に投げ入れ、その指先でカウンターの方を促す。
- 280 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月03日(月)21時29分54秒
- そこに視線を向けると目に映ったのは、髪の色こそ違えど、傍から見たら小学生とでも見間違えそうな2人の姿。
「辻〜、今度はそっちのテーブルお願い」
「へい」
カウンターの奥で頬杖をつきながら指示を出す矢口さんと、台布巾を片手に笑顔でテーブル間を走り回る辻ちゃん。
あれから辻ちゃんは度々ココに来るようになっていた。
友達の亜依ちゃんと来ることもあったけど、どちらかと言うと1人で来ることがほとんどだった。
亜依ちゃんの家庭の事情等で、いつも一緒に遊ぶ、というわけにはいかないようだ。
夏休みに入り、部に所属していない辻ちゃんは、長期の休みに入ると何もすることがないようだったので、
そんな辻ちゃんに矢口さんが
「夏休みの間だけ、バイトしてみたらどう?」
と、誘ったんだそうだ。
- 281 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月03日(月)21時30分33秒
- バイトとしてこの店に入る前からそのキャラクターでお客さんに人気があった辻ちゃんだから、
ココのマスコットガール的な存在になるのに時間はかからなかった。
あの純粋さが、この場所を共有するみんなを優しい気持ちにさせるんだろうな。
あたしだって、狂おしいぐらいに純粋に笑う辻ちゃんを見ていると、
この世には真っ白なものがあったんだなぁ・・・。
って、思い知らされる。
でも・・・、同時に、それに比べて自分はなんてひどい人間なんだろ。って痛感することも事実だった。
「はい、じゃあそっち」
「へい」
と、考えてるうちに辻ちゃんは次のテーブルへと走り出した。
- 282 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月03日(月)21時31分18秒
- 「ホンマに何があったん?」
中澤さんは新しいタバコに火をつけ「ふぅー」と宙に煙を吐き出す。
「ここんところのアンタはなんか心ココに在らずって感じで、いっつもボーってしてたからなぁ。
悩み事ならウチでよかったら相談のるで。
この酸いも甘いも知ってる人生経験豊富な裕ちゃんに話してみ」
さっきとは打って変って、中澤さんは優しい微笑みを浮かべている。
それはどことなく強さを感じさせるもので、普通のことだったら軽く相談していたかもしれない。でも、
「別になんでもないですから」
と、手もとの作業を再開した。それに対して中澤さんは
「そっか、ま、無いなら無いでええけど」
と言うと、イスから立ち上がり、店の置くに消えていった。
- 283 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月03日(月)21時31分54秒
- 自分でもどう説明したらいいのかよく分からない、それなのにどう相談したらいいんだよ。
その時、あたしは中澤さんへの答えの理由をそう思っていた。
だけど、今になって思えばそれは言い訳にしか過ぎなかったんだ。
本当は、自分の気持ちを知ってしまうのが怖かっただけ。
今まで知らなかった未知の自分と正面から向き合う勇気がなかった。
笑えばいい、こんなあたしを。
臆病者だって、意気地なしだって。
それでいいのなら、いくらだって受け止めてみせるから。
- 284 名前:SHURA 投稿日:2001年09月03日(月)21時44分40秒
- 今回は>>279-283です。
ついでに今朝のとあわせると>>273-283です。
>Charmy Blueさん
お久しぶりです。なんかHNがカッコよくなりましたね。
そっちの「いし」と「よし」は丸く収まってよかったです(ホッ…
ってか、幸せそうですね〜。見てるこっちがハズいです(w
それに比べてコッチの「よし」は自暴自棄になってますからね〜。
まぁ、頑張らせていただきますんで、そっちも頑張ってください。
- 285 名前:JZA−70 投稿日:2001年09月03日(月)22時51分28秒
- 初レスです。久々ののの、元気なのの、ありがとうございます。(涙)
せつなくて、綺麗で、情景描写が詳細でついつい感情移入してしまいます。
それだけにいじめ場面は、「読みたいけど読みたくない!」状態でした。
これからも、ののの笑顔をよろしくお願いします。(あいぼんもね!)
更新楽しみです。頑張って下さい。個人的にはよっすぃーガンバ(ボソ
- 286 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月09日(日)16時59分48秒
- 一通りの準備をし終わり、あとは開店の時間を待つだけになった頃、
あたしは辻ちゃんが持ってきた夏休みの宿題のお手伝いをしていた。
新しい問題に取り掛かる度に頭を悩ませてる辻ちゃんはなんだか可愛くて、あたしは、
梨華ちゃんも・・・こんな感じなのかなぁ・・・
なんて考えちゃったりして・・・。
ハハ・・・バカみたい。
- 287 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月09日(日)17時01分36秒
- 「よっすぃー」
振り向いた先には、不思議そうに首を傾けた辻ちゃん。
「え、何?」
「どうかしたですか? ボーっとしてたから」
「ううん、何でもない。で、全部解けた?」
「あの・・・ココ・・・」
と、辻ちゃんが恥ずかしそうに指差したのは丸い文字で書かれた数学の式、
でもそれは途中で途切れていて、その先には何度も消しゴムの跡が残っていた。
「あぁ〜、これはね・・・」
と、説明に入ろうとした時、『ガチヤ』と、重いドアの開く音がフロアに響いた。
- 288 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月09日(日)17時02分07秒
- お店はまだなのに、と思っていたんだけど、
「やぐっつぁん、いる〜?」
そこから聞こえてきたのは、今一番聞きたくなかったあの声。
でも、それ以上にあたしを驚かせたのは、その声に紛れて微かに聞こえたあの人の声だった。
「ねぇ、真希ちゃん。その・・・勝手に入っちゃって大丈夫なの?」
ホントに小さな声だったけど聞き間違うはずがなかった、この人の声だけは。
梨華・・・ちゃん。
「大丈夫に決まってんじゃん、後藤はココのバイトなんだからさ」
高くなっていく胸のドキドキ、鼓動が肌を伝わって全身に行き渡り、視界をちらつかせる。
その中であたしはこっちを見つめている辻ちゃんもそのままに、声のする方を凝視していた。
- 289 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月09日(日)17時02分49秒
- そして次の瞬間、視界に飛び込んできた光景は、
恥ずかしそうに俯いている梨華ちゃんと、その右腕にしがみついているごっちんで、
そのかたく組まれた腕は、ふたりの仲がうまくいっているように思わせるには十分だった。
ふたりの姿を見た辻ちゃんはイスから立ち上がると、梨華ちゃんに向かって一直線に駆け出した。
久々に会うから嬉しいのかもしれない。
さっきまで数学の問題に曇っていた表情は満面の笑みに変わっていた。
- 290 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月09日(日)17時03分19秒
- 「あれ〜、よっすぃー来てたんだ」
あたしに気付いたごっちんの声。
「う、うん」
その声に慌てて表情を取り繕う。
「今日って部活なかったっけ?」
そう言いながら、ごっちんはあたしが座っているテーブルの傍までやって来る、その後ろについて梨華ちゃんと辻ちゃんも。
「今日は休養日だって」
「ふ〜ん、そうだっけ」
ふと、ごっちんの後ろにいる梨華ちゃんの視線に気付く。
けど、そっちに視線を向けると、梨華ちゃんは何もなかったみたいに目を逸らし、辻ちゃんと話し始めた。
その行動に、言葉にできない何かに胸を締め付けられたような気持ちになる。
- 291 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月09日(日)17時04分29秒
- 「ごっち〜ん、さぼってばっかいないでちょっとは顔出せよな〜、只でさえ、この時期は結構忙しくて人手が足んないんだからさ〜」
さっきまでカウンターでファッション誌をめくっていた矢口さんもウチらの傍に所に近寄ってくる。
「やぐっつぁ〜ん、そんなカリカリしないでよ。夏休みなんだからイイじゃ〜ん。それよりさ〜」
ごっちんは隣の梨華ちゃんを自分の方に向かせると、再び腕を絡ませその肩に寄りかかった。
「ちょ、ちょっと、真希ちゃん!?」
突拍子もないごっちんのその行動にウチら3人だけじゃなく、梨華ちゃんもでもが驚きの色を隠せなかった。
「この度、晴れてわたくし後藤真希と石川梨華さんはお付き合いをすることになったことをご報告しま〜す」
- 292 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月09日(日)17時05分03秒
- 掴めない自分の気持ち、分からない想いの行き所、誰にもぶつけられない苛立ち。
あたしの心の中は自分でも分かるぐらいに絡まっていて、それは少しずつあたしの中を少しずつ不安の色に染めていっていた。
でも、あたしは付き合ってるふたりの姿をごっちんの言葉でしか聞いてなかったから、
だから、心のどこかでこれは夢だって、ごっちんの言ってることは違うんだって思い込もうとしていた。
そう思い込めば、少しでも楽になることができた。
それを全否定するそれに、あたしは無意識のうちに目を背けていた。
- 293 名前:SHURA 投稿日:2001年09月09日(日)17時13分50秒
- 今回は>>286-292で、お願いします。
>JZA−70さん
2部にあったののたんのシーンに関しては
今になってみると「やりすぎたなぁ」って思います。
これからののたんはしばらくはサブにまわりますけど、
メインの話しも考えてはあるんで、これからもよろしくお願いします。
- 294 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)07時49分10秒
- よっすぃ〜はこの状態をどうするんだろう。。。このままなのかなぁ。
ってか、痛くてもすごい気になって続きが読みたいのはSHURAさんマジック(W
- 295 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月15日(土)14時39分12秒
- 「この度、晴れてわたくし後藤真希と石川梨華さんはお付き合いをすることになったことをご報告しま〜す」
やっぱりこういうことって身近な人達には言っといた方がイイと思って。
ていうか、ホントのところ言いたくて仕方なかったんだけど。
それに、このサイコーの幸せをみんなと共有したかったってのもあるかもしんない。
って思ったのに・・・。
なんか変なカンジ。
よっすぃーはなんか変なトコ見ててボーっとしてるし、
辻ちゃんは明らかに(?)を浮かべてるし、3つほど。
当の本人の梨華ちゃんも俯いたまんまだし・・・。
なんていうか、空気がやけに静かっていうか、
- 296 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月15日(土)14時39分57秒
- 「え、そーなの? あれ、だって・・・」
唯一、やぐっつぁんだけは反応してくれたけど、なんか如何わしい。
「やぐっつぁ〜ん、後藤と梨華ちゃんじゃつり合わないって顔してない?」
やぐっつぁんはそれを聞いて『ギクッ』って。もしや図星?
「え、その・・・さ、えっと、以外だったなぁ〜って」
「それって、遠まわしに似合ってないって言ってる?」
「え、そーかな、アハハ・・・」
乾いた笑い声、それって明らかにごまかし笑いじゃん、なんだよ〜。
「もぉー、そんなことないよね? ね、よっすぃー」
ふたりのキューピットのよっすぃーなら「うん、そぅとぅ〜お似合いだよ」って言ってくれる、って思ったのに、
「・・・え、う、うん、そだね」
って、なんだよその曖昧な返事は。
どーしたっての、みんなさ〜。
- 297 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月15日(土)14時40分52秒
- 「お、ごっちん、来とったんか」
やけに軽い声色が響いて、みんなの目がお店の奥に向く。
その先には裕ちゃんがいて、シャワーで濡れた髪の毛をタオルで拭きながらこっちに歩み寄ってきた。
始めはのっそり歩いていたのに、あたしの隣にいる梨華ちゃんを見つけた瞬間早歩きに変わる。
「はは〜ん、それが噂の梨華ちゃんやなぁ〜」
ボーっとしてたよっすぃーの背中に身体を預けて、その肩口から顔を出す。
タオルを肩に掛け、濡れた髪の毛を片手でかきあげる。と、その向こうにはニヤニヤと緩んだ顔が。
目線の先は梨華ちゃんを向いていて、
その眼差しはに例えるとしたら、獲物を見つけ今まさに品定め真っ最中の獅子、かな。
って、そんなことよりもココはなんとしても梨華ちゃんを魔の手から救わなければ。
「裕ちゃん、いっくら梨華ちゃんがカワイイからって手ぇ出したりしないでね〜。いくら裕ちゃんでも許さないから」
強引に梨華ちゃんを抱き寄せる。誰にも渡さない。
「ア、アホ言いなや、なんでウチが初対面の人間に・・・て、手なんか出さなあかんねん・・・」
そう言いつつも動揺の色の隠せてない様子。
ウソでしょ、ホンキで手を出す気だったの。
- 298 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月15日(土)14時41分32秒
- その後、しばらく店で談話してたんだけど、裕ちゃんの興味は梨華ちゃんに集中。
いつ襲われるか分からないから、早めに店を出ることに。
それに、なんか梨華ちゃん元気ないし・・・。
「どーかしたの? なんか具合とか悪かったりするの・・・」
並んで歩きながら訊いてみる。
「ううん、大丈夫。ちょっと疲れちゃったみたい」
「ごめんね、後藤が毎日のように連れまわしてるから・・・」
自分の気持ちばかり押し付けて、梨華ちゃんのこと考えてなかった気がする。
ここんとこ毎日梨華ちゃんと遊んでたし、ちょっと迷惑だったかな。
「ううん、そうじゃない。真希ちゃんのせいじゃないよ。
わたしも真希ちゃんといて楽しいから。だから心配しないで」
そんなあたしに対して、梨華ちゃんはそう言ってにっこり笑ってみせた。
だけど、そんなの無理して作ってるってモロに分かるよ。
「そ・・・っか・・・」
- 299 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月15日(土)14時42分08秒
- ふたりの間に静かな時間が流れる。
横目で梨華ちゃんの表情を覗いてみた。
俯いて足元を向いている目は、なにか違うものを見ていた。
何考えてるのかな。
無性に訊きたい欲求に駈られた。
だけど、心のどこかで訊くのをためらってる。
その目に映ってるのが何なのか、それを知ったら何かが壊れてしまいそうで怖かった。
「また誘ってね」
そう言って梨華ちゃんは駅の人垣に入っていった。
ひとりになると、途端にとてつもない寂しさが襲ってくる。
なんだか世界にひとりだけ取り残された気分。
姿が見えなくなっても、その方向をずっと見ていた。
そういえば、まだキスもしてないなぁ・・・。
- 300 名前:SHURA 投稿日:2001年09月15日(土)14時46分44秒
- 今回は>>295-299です。
>294さん
マジックというか、単にひっぱり過ぎなんですけどね。
この後は・・・このままっていうのは無い。とだけ言っときます。
- 301 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)18時14分09秒
- いつも読んでます。
いしごま好きなので少し後藤がどうなるのか
心配です^^;
これからも頑張ってください。
- 302 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月16日(日)14時11分50秒
- 店を開け、しばらくするとちらほらと客の出入りが目立つようになる。
薄暗い照明でライトアップされた店内の中、天井のスピーカーから流れる淡い洋楽の音は少しずつこの空間を満たしていき、
さっきまでの騒がしかったこの場所を夜の形へと染めていく。
カウンターの隅、カップル達は互いの手を重ね、
勤め帰りのサラリーマン風の男性はすでにテーブルの前にいくつものグラスを並べている。
みんな、それぞれの空間に自分を置いて、その自分の姿に酔いを感じていく。
ふと、足を止め、カウンターに目を向けた。
中澤さんはカウンターで、タバコを咥えながらシェイカーを振り、そこからは色とりどりのカクテルが生み出されていく。
矢口さんはその正面の席に座り、電卓片手に先月の収入支出をまとめている。
ちなみに、辻ちゃんは矢口さんが「もう遅いから」と、半強制的に家に帰した。
そして、あたしは黒光りするフロアの上、テーブルとカウンターの間の往復を繰り返す。
ごっちんがいない今、必然的にフロアに出れるのはあたし1人しかいない。
客足がまだ少ないとはいえ、その移動距離は創造以上に多い。
部活で感じるのとはまた別の一種の疲れが次第にのしかかってくる。
- 303 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月16日(日)14時12分30秒
- 注文が一段落し、暇ができたあたしはカウンターのイスに身を預けた。
電卓を見つめる矢口さんの前にはいつの間にかグラスがひとつ置かれていて、
その中には大きな氷が浮いていて時折カランと特有の音をたてる。
「なぁ、よっさん」
聞きなれない呼び掛けにその方向を向くと中澤さんが正面からあたしを見ていた。
「何ですか『よっさん』って」
「まぁまぁ、ええがな。ちょいこっち来てくれへん?」
中澤さんは短くなったタバコを近くの灰皿で押し消して、動作も交えて呼び込む。
しぶしぶ席を立ち、ぐるりとカウンターを回ってカウンターに入る。
「何ですか?」
そう言いながら近くに寄る。と、いきなり肩を組まれ引き寄せられた。
「何するんですか?」
そう口から出かかった言葉を遮るように中澤さんは耳元で囁く。
「吉澤って、さっきの石川ってコのこと好きなんちゃうん?」
- 304 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月16日(日)14時13分37秒
- え? スキ・・・?
囁かれたその言葉、うまく飲み込めなかった。
「え、な、何言ってんですか、そんなことあるわけないじゃないですか」
「んなことゆうてもウチの目はごまかせへんで。
さっき石川のことチラチラ見とったやろ。あのあっつ〜い視線は恋してる目やったで〜」
見られてた。確かにあの時、あたしは気になって仕方がなくて何度も視線を梨華ちゃんに向けた。
でも、梨華ちゃんの視線は中澤さんや矢口さんの方ばかりであたしを向くことはなかった。
「いや、だから、あれは・・・」
「ええねんで、ウチは偏見とかそんなん気にせんから」
「だから、別にあたしは・・・」
弁解しようとするあたしの言葉をことごとく遮って中澤さんはまくし立てる。
「ええねん、ええねん、女同士かて好きやったら一緒や。関係あらへんよ。な、ヤグチぃ〜」
と、カウンター正面で電卓カタカタ鳴らす矢口さんの方を向く。
「はぁ? 何言ってんだよ、バカ裕子」
その言葉に矢口さんは帳簿から顔を上げ、あっさりとかわした。
- 305 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月16日(日)14時14分10秒
- 「ヤグチ、冗談やがな、本気にすんなや」
「どっちがだよ。つーかさ、矢口もよっすぃーって梨華ちゃんのこと好きなんだて思ってた。
だから、ごっちんが付き合ってるって言った時、『え、そーなの』って思ったもん」
軽く鬱入ってる中澤さんを他所に、矢口さん言うことは同じだった。
あたしって、みんなにそう思われてるのかな、
好き・・・あたしが・・・梨華ちゃんを?
「なんなんですか、矢口さんまで、
あたしは梨華ちゃんに対して・・・好き・・・とか、そんな感情持ったことなんてないですから。
第一、ごっちんの彼女なんですよ。なんであたしが・・・」
言葉に詰まる、完全に否定できなかった。
中澤さん、矢口さん、ふたりの視線か痛くてそんな顔で見られたくなくて、カウンターから抜け出た。
- 306 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月16日(日)14時14分44秒
- スキジャナイ。
本当にそうなの。あたし、ホントは梨華ちゃんのこと・・・。
ううん、違う。そんなことあるわけない。
でも、だったらこの胸の痛みは、心の切なさはなんなの?
考えれば考えるほどその糸は絡んで答えを遠くしていく。
分かんない。分かんないよ、そんなこと。
- 307 名前:SHURA 投稿日:2001年09月16日(日)14時26分59秒
- 今回は>>302-306です。
↑これ使ってる人いるのかな。無駄に容量使うことに今気付いた(w
ってかよっすぃーとごっつぁんの書き分けうまくできない。変えようとはしてるんだけど。
>akiさん
「めぐる気持ち」の人ですよね。
後藤の書き方うまいですよね〜、なんか素っぽい感じです。
こっちの後藤は・・・っていうか、後藤さんにも切ない思いしてもらいます。
言葉通り頑張るんで、そっちも頑張ってください。
ちなみに、次から急展開です。
- 308 名前:ちび 投稿日:2001年09月17日(月)15時21分49秒
- よっすぃー頑張れ!!
はぁ…痛い…痛いっす…
一気に読んで続きがすげー気になります!
- 309 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月20日(木)21時32分48秒
- 『石川ってコのこと好きなんちゃうん?』
『よっすぃーって梨華ちゃんのこと好きなんだって思ってた』
あれから数日、今でもあの時のふたりの言葉が何度も反復して聞こえてくる。そんな中、
あたし、梨華ちゃんのこと・・・ホントはどう思ってるんだろ。
その疑問は前以上に深く、鮮明にあたしの意識に刻まれていった。
確かにあたしは梨華ちゃんに対して、何らかの感情を持っていたと思う。
でも、それが好きっていう恋愛感情だなんて思ってもみなかった。
尊敬とか、憧れみたいな、そんなものなんじゃないのかな、って。そう思ってた。
今もそうだって思ってるつもりでいる。
それが・・・恋愛感情だなんて・・・思いたくなかった。
- 310 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月20日(木)21時33分18秒
- ベッドに寝転んでずっと考えていた、答えの出ないまま数十分が過ぎ、
もうそろかな・・・。
チラッと時計を見てから起き上がる。
軽くベッドのしわを直してから机に移動し、一呼吸置いて思考を切り替えた。
週3回の家庭教師、いつもだったら梨華ちゃんがこの部屋に足を踏み入れることがすごく楽しみだったのに。
でも、今はそれが怖くて仕方がない。
ごっちんと梨華ちゃん、ふたりが付き合いだしてから最初の家庭教師で気まずいこともあった、
でも、それ以上に中澤さんと矢口さんの言葉で、普通以上に梨華ちゃんのことを意識してしまっていた自分がいた。
だから、いつも通りに接することなんか無理だって、その時既に自分でも理解していた。
どんな言葉を言ったらいいのか分からない。どんな態度をとったらいいのかとか、どんな表情をすればいいのか。
些細なことで自分の思ってることが伝わっちゃいそうで、そして、変に思われたくなかった。
だから、ホントは出来れば会いたくなかった。
だけど、時計の針はこの想いを無視して先へと進んでいった。
あたしが、思えば思うほど早く。
- 311 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月20日(木)21時33分59秒
- でも、約束の時間が過ぎても、聞き馴染んだあのインターホンを鳴らす音は聞こえてこなかった。
時間に厳しくて、いつも10分は前に来る梨華ちゃんにしては珍しい。
それを受けて、あたしは顔を合わせる時間が少しでも延びたことでホッとしていた。
でも、それとは反対に心のどこかで少しガッカリしていた自分にも気付いていた。
- 312 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月20日(木)21時35分18秒
- それから30分が過ぎ、1時間が過ぎ、家庭教師の時間が半分程となった頃。
前に聞いていた携帯に電話してみようかな、と思っていたら、
心配の色には似合わない明るい「ピンポーン」という音が響いた。
それが届いたのを確認すると、ゆっくりと玄関へと向かった。
静かに開けたそのドアの向こうには、少し恥ずかしそうに俯き、小さく笑みを浮かべた梨華ちゃんがいた。
肩にはいつもと同じ彼女の華奢な身体に不釣合いな大きなトートバッグを抱え、両手は行儀よく正面で組まれている。
「こんにちは」
微笑を浮かべて、いつもの様に言う。
「あ、こ、こん・・・にちは」
当たり前の様な一言でさえ、口にすることにためらいを覚える。
- 313 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月20日(木)21時35分48秒
- 「ゴメンね・・・、ちょっとお姉ちゃんのとこ行ってたら遅くなっちゃって・・・」
「お、お姉ちゃんって・・・?」
「お姉ちゃん看護婦やってるの、言ってなかったっけ。それで、ちょっと用事あって病院行ってたの」
「そう・・・、れ、連絡くれればよかったのに・・・」
「そうしようと思ったんだけど、場所が場所だから・・・」
「そっか、そ・・・うだよね」
やっぱりうまく話せない。それ以前に顔を見ることさえままならない。
そんな自分に歯痒さを覚えた。
「あのね、遅れちゃった分ちゃんと時間延長するから、安心してね」
「あ、う、うん」
そうしていつものあの時間が始まる。
淡々と英文を読み上げるあの独特の声。
ペンを握る指先を見つめる深い瞳。
解き終わったテキストを採点していく細い指。
何もかもがいつも通り、
これだけはあの時から全然変わっちゃいない。
やっぱりホントは全部夢なんじゃないかって思った。
全てはあたしが作り出した悪い夢。たぶん、あたしはさっきそれから覚めたんだ。って。
- 314 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月20日(木)21時36分18秒
- そのまま時間が過ぎ、本当だったらもう家庭教師の時間は終わるはずだった時間。
傾きかけた太陽の光が窓から差込み、フローリングの上に細長い影を作りだす。
部屋の中は、静かに唸るエアコンの音に混じり、やけに映える高音の声が響いていた。
「この熟語はね、ちょっと特殊な形なんだけどね・・・」
赤ペンで参考書を指しながら流れるように熟語の意味を解説していく。
あたしも余計なことは極力考えないよう目の前の参考書に集中し、その話を聞いていた。
その時、どこからともなく和音の鮮やかなメロディが部屋に流れた。
聞き覚えのない着メロに梨華ちゃんの携帯が鳴ってるんだと理解する。
「あ、ちょっとゴメンね」
梨華ちゃんはそう言ってバッグに手を伸ばした。
梨華ちゃんらしい真っ白な携帯を手に取り、液晶を見た瞬間、微かだけど梨華ちゃんの表情が変わったのをあたしは見逃さなかった。
「ゴメンね、すぐ戻るから」
そう告げると、梨華ちゃんは立ち上がり、部屋の外へと出て行った。
その変化が何だったのかあたしには分からなかった。
でも見たんだ。
光る液晶に浮かんだ『後藤真希』の文字を。
- 315 名前:SHURA 投稿日:2001年09月20日(木)21時37分37秒
- 今回の更新分>>309-314
>ちびさん
レスありがとうございます。
痛いと感想をもらうことに段々と快感を覚え始めている今日この頃。
これからも痛めになると思いますが、よろしくお願いします。
- 316 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月22日(土)17時35分15秒
- 「うん、ごめん・・・少し遅れると思う・・・、だから、待っててもらってもいいかな・・・、うん、ありがと・・・」
壁を通して微かに伝わってくる彼女の声、
ダイレクトに耳を通していくそれは、揺るぎない1つの答えを浮かび上がらせる。
約束・・・してたんだ・・・。
何かがあたしの中で動悸を早くさせる。
心の中が何かで埋まっていく。
「うん、ちょっと・・・。埋め合わせはちゃんとするから・・・、本当にごめんね・・・うん、じゃ後で・・・」
小さな静寂。
外の廊下からドアノブを握る気配がして、あたしは慌てて机に向き直る。まるで何も聞いてなかったみたいに。
後ろでドアを開き、スリッパでフローリングを踏みつける音が近づいてくる。
すぐ傍まで来た音は姿を変え、隣に座った。
- 317 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月22日(土)17時35分49秒
- 「ごめんね・・・じゃ再開しよっか」
何にもなかったみたいに、梨華ちゃんは自分のテキストを手に取って、さっきの続きを読もうとする。
でも、あたしの中の何かがそれを拒んだ。
「電話・・・ごっちんから?」
自分にとって決して口にしてはいけない言葉だって知っていたのに、あたしはそれを投げかけていた。
それは、どこかで信じていたものが裏切られた気がしたからかもしれない。
どこか独り取り残されたような気がして、どうにもならなかった。
「・・・う、うん、分かった?」
梨華ちゃんはそれを聞いて少し後ろめたそうに視線を落とした。
- 318 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月22日(土)17時36分20秒
- 「液晶、見ちゃって・・・ゴメン・・・」
「ううん、別にいいよ」
「約束・・・してたの? ごっちんと・・・」
「・・・うん、聞こえちゃったんだ」
「行ってあげてよ、ごっちん待つのあんまし得意じゃないから・・・」
まただ。考えてもいないのに口から出てくる言葉はウソばっかり。
ホントは行って欲しくなんかなかったのに、ごっちんのところなんか。
そんなイライラが余計にあたしの気持ちを狂わせていった。
- 319 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月22日(土)17時37分12秒
- 「・・・大丈夫だから、ね、始めよ」
梨華ちゃんは落としていた視線をこっちに向け、表情を一転させる。
「あたしはいいから・・・、だから行ってあげて」
だけど、あたしはその視線に答えようとはしなかった。
ううん、できなかった。
自分でも自分の気持ちがよく分からなくなっていたから。
「でも、家庭教師、ちゃんとやらなきゃ・・・」
「あたしは大丈夫だから・・・」
「でも・・・」
「いいから! ふたり付き合ってんでしょ!」
- 320 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月22日(土)17時37分49秒
- ふいに飛び出たその言葉は部屋の壁にいとも簡単に吸い込まれて消えた。
梨華ちゃんの言葉が返ってくることはなくて、代わりに訪れたのは居心地の悪い重い静寂。
いつもの空間はその時は別のものみたいにとてつもなく重かった。
あたしはすぐに自分がした過ちに気付いた。
いつもこうだ。
ずっと梨華ちゃんのこと考えてるのに、なんでこんなことしかできないんだろ。
イライラをぶつけて悲しませる。
あたしのせいで梨華ちゃんを傷つけた。
梨華ちゃんが隣で悲しそうな表情をしてると思うと、何とも言えなくなった。
何もすることが出来ず、ただ膝の上で拳を握り締めていた。
- 321 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月22日(土)17時39分25秒
- どれくらいが過ぎたんだろ、静かに梨華ちゃんは立ち上がった。
その時、梨華ちゃんはあたしが見たこともないくらい悲しい顔をしていた。
錯覚だったのかもしれない、だけどほんの一瞬だけ見た梨華ちゃんの顔は今でも忘れられない。
「・・・そうだね、待たせちゃったら悪いもんね・・・」
静かに自分の荷を整え、バッグに入れていく。あたしはただボーっと無機質に行われていくその動作を見ていた。
「それじゃあまた、今度は来週の火曜だから・・・」
後ろを向くと、静かに歩き出す。
あたしは振り返ることもなく、ただ遠ざかっていく音を聞いていた。
バタンとドアが閉まる。
その瞬間、胸がギュッと苦しくなった。
息を吸い込む度に胸の中で何かが膨らんでいく。
その何かが絡まっていた糸を紡いでいって、あたしの想いを答えへと導いた。
- 322 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月22日(土)17時39分55秒
- やっと気付いた。
あたし・・・ずっと羨ましかったんだ。
自分の気持ちに素直になれるごっちんのこと。
だから、あんなにイラついてたんだ。
なんだか熱いものが込み上げてきて、鼻の奥がツーンとする。
視界がどんどん滲んでいって、横から指し込む光が屈折して眩しかった。
涙は急に考える力を奪っていく。
だけど、それと同時に頭のドコかずっと片隅にあったものを浮き彫りにしていった。
- 323 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年09月22日(土)17時40分30秒
- あたし、好きだったんだ、梨華ちゃんのこと。
こんなにも、心に収まりきらないくらいに・・・好きだったんだ。
ずっとずっと、初めて会った時からずっと、大好きだった。
なんで気付かなかったんだよ、ずっと視界に映るトコにあったのに、なんで・・・。
なんで今頃・・・もう遅いよ、遅すぎだよ。
溢れ出した、解き放たれた想いは止まることはなかった。
止め処なく流れる涙と共に、胸の中が梨華ちゃんでいっぱいになっていった。
あたし、梨華ちゃんが好き。
梨華ちゃんが好き。
涙の奥、心の中で何度も繰り返した。
なんであの時あんなにも涙が出たのか、今でも分からない。
- 324 名前:SHURA 投稿日:2001年09月22日(土)17時45分03秒
- 今回の分>>316-323
関係ないんですけど、
詳しくは存じあげませんが桃板で紹介してくださった方、ありがとうございます。
見てて、いしよし小説に見られてないのかな〜、って思ってたんで安心しました。
- 325 名前:SHURA さんへ 投稿日:2001年09月22日(土)23時55分33秒
- 大丈夫です。チェックしてますよ!
よっすぃ〜頑張れ!
- 326 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月23日(日)05時41分12秒
- 息が長い小説だから、もう誰かが紹介してるもんだとばかり・・
- 327 名前:Charmy Blue 投稿日:2001年09月26日(水)19時28分45秒
- 今回の更新分読んでて涙が出そうになりました。
よっすぃーがんばれ!
- 328 名前:理科。 投稿日:2001年09月30日(日)17時23分55秒
…初めて読みました。私も小説書かせてもらってるんですけど…。
自信がなくなります…。すっごい切なさが伝わってきますね。
長くなってすみません、頑張って下さい。
- 329 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月03日(水)02時36分16秒
- 『埋め合わせはちゃんとするから』
「いいって、急用ならしょうがないじゃん」
『本当にごめんね・・・』
「いいって、そんなに謝んなくても」
『うん、じゃ後で・・・』
「あ〜い、早く来てね〜」
駅から少し離れた小さな喫茶店、窓際の見渡しのいい席にあたしはひとり佇んでいた。
いっつも梨華ちゃんが先に来てて待っててくれてたから、
今日も先に来てるとばかり思ってたのに、到着してもそこに梨華ちゃんの姿はなかった。
珍しく梨華ちゃんおっそいなぁ〜なんて思って携帯に電話してみたら、なんだか急用が出来たから遅くなるって。
・・・ま、梨華ちゃんにもいろいろあるよね。
って、遅れる理由も深く考えないであたしは梨華ちゃんを待つことにした。
正直、いっつも待ってて貰ってたから、
いつも梨華ちゃんがどんな気持ちで待ってたのか分かりそうな気がしてちょこっとだけ嬉かった。
- 330 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月03日(水)02時36分52秒
- でも、そんなのって長くは続かない。
数分も経ったら・・・。
あ〜、もう何やってんの〜、梨華ちゃ〜ん。って。
注文したカフェオレももう飲んじゃったし、こんなトコにひとりいたって何にもすることなんてないから暇でしょうがない。
お店に流れる音楽に耳を傾けるも、今人気のアイドルグループが歌う軽快なダンスソングに苛立ちを覚えるだけ。
最近ひとりになることなんて少なかったから、待ってる時間が余計に長く感じるし、その分イライラするのかも。
飲み終わったカフェオレのストローでコップの中の氷をかき回してたら、ストローがパキッて折れた。
- 331 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月03日(水)02時40分01秒
- 少しでも気を紛らわせたくて、大きくつくられた窓の外に目を向けた。
勤め帰りの時間だからかな、やけに人通りが多い気がする。社会人は夏休みが少なくて大変だなぁ。なんて・・・。
その中ちらほらと待ち合わせをするカップル、
笑顔を交わし手を繋いで歩き出す。何気ないそのやりとりがなんだか羨ましい。
一組、二組といろんな方向に消えていく、別に面白いわけじゃなかったけど、何気なくその数を数えてた。
ん〜と、あ、また来た。
傾きかけた太陽の逆光でうまく掴めないその姿。
シルエットの向こうで僅かに分かることは歩調に合わせて揺れる長い髪の毛ぐらい。
- 332 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月03日(水)02時40分35秒
- あれ・・・あれってもしかして・・・?
その姿は近づく度に現実味を持ってきて、黒い輪郭だけだったそれは次第に複雑な色と人特有の柔らかさを表に出してくる。
まさか、と思ってたその考えは見事に現実に。
少し俯き加減で歩く梨華ちゃんの姿、それを確認した瞬間、あたしの視界にはそれ以外何も映らなくなった。
少しでも早く自分の存在を気付かせようと、あたしは窓ガラスにへばりついて精一杯に手を振る。
目ざわりなぐらいの手の振り方に梨華ちゃんはすぐに気がついてくれて、
ガラス越しに小さく手を振って恥ずかしそうに微笑みを浮かべた。
- 333 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月03日(水)02時41分38秒
- 「梨華ちゃんはアイスティーでいいよね」
「うん・・・」
正面の席に座って抱えてたバッグを隣に置く。
その間にあたしはウェイトレスを呼んで梨華ちゃんのアイスティーと2杯目のカフェオレを注文した。
「遅れちゃってゴメンね」
「いいよいいよ、そりゃ待ってる時は暇だったけど来てくれたんだからそんなの気になんないし」
「・・・うん、ありがと」
「でさ、何だったの急用って?」
「あ・・・うん・・・ちょっとね・・・」
少し言いにくそうに顔をしかめて視線を下に移す。
「ふ〜ん、まあいいや。ねぇ、今日はこの後どしよっか」
運ばれてきたカフェオレにストローを刺しながら話し掛ける。
- 334 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月03日(水)02時42分14秒
- ふふふ、実は今日の予定はもう考えてきてあるのです〜。
「あのさ、梨華ちゃんってお姉ちゃんと2人で暮らしてるんでしょ、そこ行ってみたいなぁ〜なんて思ってるん・・・だけど・・・」
なんだかその言葉が、下手な言い訳で彼女の家に上がり込む下心丸出しの男の台詞みたいで
急に恥ずかしくなったあたしは自然と横を向いてしまった。
でも、それを聞いた梨華ちゃんの反応が気になって横目で梨華ちゃんの様子を探る。
「・・・・・・・・・」
でも、梨華ちゃんの反応は一切無くて、虚ろなその瞳はさっきと同じ下を向いたままで、
そこに何が映ってんのかは分かんなかったけど、ただ、あたしじゃないってのは確かだった。
それを見てたら梨華ちゃんの反応を期待して、自分の台詞に1人恥ずかしがってた自分がバカみたいに思えた。
- 335 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月03日(水)02時42分46秒
- 最近頻繁に梨華ちゃんのそういう表情見ることがある。
最近っていってもホントにそうなのかはよく分かんない。
もしかしたら前から、付き合い始めた頃から梨華ちゃんはしょっちゅうそんな顔してて、
単にあたしが気付いてなかっただけかもしんない。
あたしが隣にいるのに、どっか違うトコ見てて、そんな時は何話しても上の空って感じで。
そんな梨華ちゃんといるとふたりの間に見えないんだけどコンクリートくらいに分厚い壁があるみたいで、
すごく傍にいるのにすごく遠くに感じる。
- 336 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月03日(水)02時43分24秒
- 最近思うんだ。
なんか違うって。
梨華ちゃんを好きになって、ずっと「こうな風になれたらいいな」って考えてた。
それが現実になって、スッゴク嬉しかったのに、
いざ夢に見てた生活をしてみると、思ってたものとは何か違ってる。
何て言ったらいいのかうまく言えないけど・・・、
始めは、これから楽しいことがいっぱいあるんだ。って、ふたりでたくさんの時間を一緒に過ごせるんだ。って思ってた。
今は、楽しいけど、でもそれ以上に辛いことも多い。
それに、近づけば近づくほど梨華ちゃんが遠のいてく気がする。
その視線があたしを向いてても、それは額を通り抜けて向こうの何かを見てて、
あたしに見せる笑顔も、無理があるっていうか、つくってるように思えちゃって・・・。
何ていうのかな、最初に見た、心の底から見せるような笑顔じゃない気がする。
- 337 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月03日(水)02時43分58秒
- 別にそれが本当だっていう根拠なんてドコにもない。
ただ、あたしが思ってるだけ。
でも、梨華ちゃんのそういう顔があたしにそう思わせてることはホントだから。
あたし何考えてんだろ。って、こんなこと考えたくないよ。って思う。
だからさ、梨華ちゃんそんな顔しないでよ。
せめてあたしといる時ぐらいさ。
- 338 名前:SHURA 投稿日:2001年10月03日(水)03時05分26秒
- 今回の更新分
>>329-337
>325さん
そーですね。まず読者を信じなきゃ。ですね。
余談ですけど、名前で呼ばれることって何でも無いことのように思えて、
すごい嬉しいっすね。改めて実感。
>326さん
もう半年も…、終わりがまったく見えないです。
いつになるのやら…。
>Charmy Blueさん
涙は取っといてください。
ココのはずっと頭にあったシーンだったんで、そう思ってもらえるとホッとします。
>理科。さん
最初っからですか。さぞかし大変だったと思います(長くて…)。
>すっごい切なさが伝わってきますね。
いつも自分がこうだったらみたいな感じで書いてるんで、そう感じるのかな。
自分のに対してあまりいい感想がないんで、よく分かんないですけど、
お褒めの言葉、嬉しいです。
全然長くないですよ。むしろ自分の方が…。
- 339 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月03日(水)17時49分18秒
- すれ違いばかり。。ツボを押さえた展開ですね
- 340 名前:undefined 投稿日:2001年10月03日(水)22時54分00秒
- こんなことは言いたくないんだけど、
この後の展開で石川に「私、本当はひとみちゃんのことが・・」とか言わせるとしたら
石川は相当な性格破綻者ってことになる・・好きにはなれないな、
結果的にわざわざ後藤傷つけるためにやった、と言われても仕方がない。
つきあうことで後藤を救おうと考えたんなら全うしてもらいたいね。
- 341 名前:読者 投稿日:2001年10月03日(水)23時32分57秒
- >>340
でも、現実的な恋愛で言うと、よくあることじゃないですか。
可哀想だと思って付き合ったり…
この話ではないですけど、二股だったり三股だったり…
純愛を望みすぎてるのでは?と言われても仕方ないような気が…
作者さん、汚してしまってスミマセン…
自分はありと思いますんで、書きたい事を頑張って書いてください〜
- 342 名前:1J 投稿日:2001年10月04日(木)02時13分34秒
- この年代の不安定な内面は、いったい何処へ向かうのでしょうか?
そう、たんぽぽの種の様にふわふわと……多様なケースが想像出来ますね。
いつも「はらはら」しながら、楽しまさせて頂いてます。時に痛く、時に嬉しくね♪
作者さんも読者に「はらはら」させる事を楽しまれている様ですが…(笑
元気なのの、も待ち遠しいです!。ってしつこいおいらでした。
このまま(書きたい様にね)頑張って下さい。
- 343 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月08日(月)13時36分21秒
- 「ねぇ、梨華ちゃん」
「えっ、何?」
あたしの声に梨華ちゃんはハッとして振り向く。ものすごく慌ててる感じ。
自然を装ってるつもりでも、顔には露骨に「しまった」って・・・。
「今、何考えてたの?」
「何って・・・、別に何も・・・」
梨華ちゃんはウソつくのが下手。すぐに顔に表れる。
そんなんじゃ認めてんのと一緒じゃん・・・。
「・・・ウソだ。最近いっつもそーだよ、梨華ちゃん。何か・・・悩んでることあるなら後藤でよかったら相談してよ」
「ううん、そんなんじゃないの、大丈夫だから」
「後藤には言えないような事なの・・・?」
「ホントに違うの、ホントに・・・違う・・・から」
本当はどうなのか、知りたくもなかったし、信じたくもなかった。
だから、言えることはひとつだけ。
「・・・分かった・・・、もうそろ出よっか・・・」
伝票を片手に立ち上がった。
- 344 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月08日(月)13時37分31秒
- 梨華ちゃんの家までの道、梨華ちゃんはいつも以上に、大げさに、
本人に自覚はないんだろうけどわざとらしく口を動かしていた。
「でね、その先生ったらね、おかしいでしょう?」
「・・・・・・・・・」
「あれ? 面白くないかなぁ・・・。」
「ううん、面白いよ」
「ふふ、よかったぁ」
って、ホッとして、微笑みかける。
ほら・・・、また。
なんでそんなに無理して笑顔見せんの。
ふつふつって感情が湧き始める。
心のどこか、ずっと思ってたこと。
でも、あたしは他の人とは違う。って、そう思って押し潰してた想い。
梨華ちゃんの全部を独占したい。
見方を変えれば歪んでたのかもしんないけど、それでも梨華ちゃんが好きだから。
それがじわじわと染み渡って、全身を包んでった。
あたしは抑えられないその激情に身を任せた。
なんだか楽になれそうな気がしたから。
- 345 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月08日(月)13時39分52秒
- その肩を引き寄せて強引に抱きしめる。
「えっ、ま、真希ちゃん!?」
力が強すぎたのか梨華ちゃんは少し顔を歪めたけど、
そんなことも構わず腕に込められるだけの力を入れた。
「真希ちゃん。人が見てるよぉ・・・」
「大丈夫、ちょっとだけだから」
あたしのよりも少し下にある梨華ちゃんの肩に顔を埋める。
すると、梨華ちゃんの柔らかい髪が鼻に押し付けられて、その匂いを吸い込むとなんだか切なくなった。
胸の鼓動が肌を通して伝わっちゃうんじゃないかってくらい、強く波打ってるのがわかる。トクン、トクンって小刻みに。
顔を上げて梨華ちゃんと向き合うと、その瞳に映るあたしと目が合った。
それに引き寄せられるように顔を近づけていく。
深い瞳に吸い込まれるみたいに、ちょっとずつ。
あと数センチになったところで目を瞑った。
重なる唇、広がり始める表現できそうにない感覚、初めてのキスはちょこっと甘い味がした。
この幸せな時間がいつまでも続けばいーなって、そう思ってた。なのに、
- 346 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月08日(月)13時40分54秒
- 「っん・・・やっ!」
突然、両手で力いっぱい跳ね除けられて、想いとは反対に体は2,3歩後退する。
その反動で梨華ちゃんのバッグがドサッと音を立てて地に落ち、中身が散らばった。
「どうして・・・」
思ったわけじゃないのに言葉が漏れる。
いきなりの拒絶、それを叩きつけられてあたしは何かを忘れてた。
「どうして!? ねぇ何で!?」
至近距離から真正面に目を見つめる。
声の調子が自然と荒くなってた。
「違うの・・・違うの・・・」
梨華ちゃんは俯いたまんま、「違う」ってそれしか言わない。
「何が違うの? さっきだって後藤が隣にいるのに、どっか違う方向見ててさ、
そんな時って何話しても相槌ばっかで上の空って感じで。
分かんないとでも思ってた? バカにしないで。後藤ずっと梨華ちゃん見てるから、そんなのすぐ気付くよ」
- 347 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月08日(月)13時42分27秒
- 「・・・・・・・・・」
何も言わない梨華ちゃんの瞳がキラリって光ってみえた。
でも、もうあたしは静止が効かなくなってた。
溜まってた想いが次から次へと流れてく。
「ねぇ、さっきまでドコにいたの? 後藤には言えないようなトコなの?」
「違う、そんなんじゃないの・・・本当に・・・」
哀願し続ける梨華ちゃんの姿が痛々しくて、思わず下を向いた。
そしたら、視界の隅にあるものが映った。どっかで見たことのある。
確か・・・初めて梨華ちゃんと会った時・・・、
「よっすぃー・・・んトコ?」
高1のテキストなんて、梨華ちゃんが持ってく場所はソコしか考えられない。
それが引き金になって考えたくもなかったことが次々と浮かんでく。
「後藤との約束よりもよっすぃーの方を取ったの?」
「違うの。・・・家庭教師はお仕事だから」
「そんなの理由になんないよ」
理由・・・、考えたあたしの頭ん中にひとつの答えが浮かんだ。
「よっすぃーのこと・・・好き・・・なの?」
- 348 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月08日(月)13時44分37秒
- ホントかどうかとかそんなこと考える以前に、
思ったのと同時に静かに口にしたその言葉は確かに梨華ちゃんに届いたと思う。
道路に長く伸びた影が小さく震えた。
「なんで何も言わないの? 否定しないの?」
梨華ちゃんは口を真横に結んだまま。
そんなのって・・・。
「やっぱ、そう・・・なん・・・だ」
「ちがっ・・・」
「だから何が違うの?『違う』ばっかじゃ分かんない。
本当にそうじゃないんなら、ココで『好きじゃない』って言ってよ!」
言い放った言葉は何かに反響して、赤く染まる街の中に消えてった。
静かになった狭い通路にヒタ、ヒタって滴が落ちる音だけがやけに大きく聞こえて、
その音があたしの心を急激に冷ましてった。
- 349 名前:伝えたい想い、伝わらない気持ち 投稿日:2001年10月08日(月)13時45分32秒
- 「ゴメン・・・。今日・・・もう帰る・・・」
立ちつくす梨華ちゃんの足元に散らばった荷物を整えてそのバッグを手渡すと、静かに背を向けた。
背中に痛い程の視線を感じたけど、あたしは一度も振り返らなかった。
今は目を合わせたくなかった。
何やってんの・・・あたし。
やるせなさで今にも胸がはちきれそうだった。
- 350 名前:SHURA 投稿日:2001年10月08日(月)13時47分47秒
- 今回の更新分>>343-349
>339さん
すれ違う3人の心、果たしてその辿り着く先は…。
みたいな感じで。
ツボを抑えたっていうか、引出しが無くて選択肢そこしかいけなかったのが真実です(w
>undefinedさん
ん〜性格破綻者ですか?
でもですね、作者が書きたいのは実はそっちの方だったりするんですよ。
精神的に弱いっていいますか、不器用な人間のほうが書きやすいっていいますか…。
完璧な人間は書いててつまんないと言いますか…。
まぁ先のことはネタバレで言えないんですけど、その展開もないことはないと言っときます。( ̄ー ̄)ニヤリ
>読者さん
よくあるんですか…。世知辛い世の中ですね…。
あと名フォローありがとうございます。
全然スレ汚しじゃないですよ。
長文レスは嬉しい限りです。
( ^▽^)<ポジティブ、ポジティブ。
>J1さん
詩人ですね…。
確かに高校生って人生の中でも一番不安定な時期ですからね。
でも、こんな青春を過ごせたらなぁって思いますわ、ワカイネーって。
ハラハラしてもらえて良かったです。そんなレスがつく度にPCの前でニヤニヤしてますよ。
果たして、( ´D`)はこの流れに入ってくることが出来るのか…。
- 351 名前:SHURA 投稿日:2001年10月08日(月)13時50分27秒
- スレの限界が近づいてきたんで、もうそろ移転したいと思います。
半年以上いたこのスレにお別れを告げる時が来たようです。(T▽T)<お別れなんですか…。
銀に立てれなかったら黄か録か海にしようと思ってたんですけど、立てれそうなんで銀にします。
では次の機会まで。
- 352 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月13日(土)15時39分25秒
- 移転準備がんがれ
- 353 名前:SHURA 投稿日:2001年10月14日(日)11時17分33秒
- リンクです。
プロローグ
君を想う時
>>3
第1部
始まりの季節
>>6-56
第2部
悲しい少女に微笑みを
>>66-144
第3部
伝えたい想い、伝わらない気持ち
>>147-349
まごころを君に〜flower for you〜(2)
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=silver&thp=1003025398
- 354 名前:SHURA 投稿日:2001年10月20日(土)23時03分39秒
- 保存庫をつくってみたので、宜しかったらどうぞ。
ここでやってる小説の他に名無しで書いた短編等もあります。
http://shu_ra.tripod.co.jp/index.html
- 355 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月21日(日)11時51分00秒
- ↑このアドレスの場所へ行けないんですけど…
URLは間違ってないですよね?
- 356 名前:SHURA 投稿日:2001年10月21日(日)12時45分08秒
- >355
おかしいですね、今入れましたけど、
http://shu_ra.tripod.co.jp/index.html
で駄目なら、
http://members.tripod.co.jp/shu_ra/index.html
で、どうですか? これでも入れるはずです。
Converted by dat2html.pl 1.0