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memory...
- 1 名前:shape 投稿日:2001年04月03日(火)22時30分06秒
- 記憶。
彼女の記憶。
脳の体積をも遥かに超えて、蓄積される記憶。
許容量を超えた時、彼女は記憶を抹消する。
あの時あれだけ大切していた、記憶さえも・・・
- 2 名前:shape 投稿日:2001年04月03日(火)22時31分26秒
- リベンジです。
どうやら長編になりそうな予感。
よろしくどうぞ。
- 3 名前:〜序章〜 投稿日:2001年04月03日(火)22時32分29秒
- ─1─
「行っちゃうの?」
「うん・・・」
堤防。
ふたりの影。
暑い陽射し。
麦わら帽子がふたつ。
「そっか・・・淋しくなるなー・・・」
「・・・ゴメンね」
打ち寄せる波。
風の音。
「うぅん、いいんだよ。それが圭織の昔っからの夢だったしね」
「うん・・・」
あの日、圭織はこの村を出て行った。
他人の期待に応えるのため、なによりも自分の夢のために。
「疲れたらさ・・・いつでも帰ってきなよ。この村は圭織のこと、いつでも待ってるからさ」
「うん!」
まだ幼かった心で、必死に圭織のことを送りだしたあたし。
それを必死に受け止めてくれた圭織。
「・・・ゴメンネ」
「なっち・・・」
あたしはとうとう泣き出してしまった。
サヨナラが悲しいことにしか思えなかったから・・・
「また・・・逢えるよね・・・」
「当たり前だよ!カオは絶対、なっちに逢いに帰って来るよ」
「・・・ありがと」
あの日からもう3年の月日が流れた・・・
- 4 名前:〜序章〜 投稿日:2001年04月03日(火)22時33分11秒
- ─2─
「じゃあ、行ってくるから」
「本当に大丈夫なのかい?」
「うん、大丈夫だよ」
それまでに圭織は一度も帰ってこなかった。
始めは手紙も電話もしてたんだけど、気がついたら途切れていた。
「向こうに着いたら、電話するんだよ」
「うん、わかってるって」
今度はあたしがこの村を出て行く。
圭織と同じ道、同じ夢をあたしもいつからか見出していた。
その道を進めば、いつかきっと圭織に逢える気がした。
「じゃあ、行ってくるね!」
意気揚々と引き戸を開けて、外へ飛び出した。
あの時と同じ暑い陽射しが、あたしの麦わら帽子を強く照らしていた。
千歳空港。
ロビーで東京行きの便を待っている。
あの時の圭織も、きっと今のあたしと同じ気持ちだったんだろう。
そして、今のあたしはあの時の圭織と同じ気持ちに違いない。
それは不安と希望が入り混ざった、相異なる感情だった。
乗客の搭乗を促す場内アナウンスが流れて、周りが騒々しくなってきた。
「・・・よし!」
圭織と同じ夢を歩みだす第一歩。
見送りは要らないってみんなに言っておいた。
あとはあたしの足で歩き出すしかないんだ。
荷物をコンベアーの上に乗せて、ゲートを潜った。
あたしを東京まで運んでくれる飛行機に乗って、自分の席を探した。
少しわかりづらかったけど、なんとか探しだし、ポーチを上に置いて腰を下ろした。
窓の外には見慣れてない風景が広がっている。
いつも住み慣れた場所なのに、そう思えたのは飛行機に乗ったのが初めてだったから。
「・・・ふぅ」
大丈夫。
ちゃんと進めてるよ。
不安がることなんてない。
あたしはこれから、夢を叶えに行くんだ。
自分に言い聞かせた。
離陸の注意を促すアナウンスが流れて、間もなく飛行機は動き出した。
「行ってくるね・・・」
誰に言うワケでもなく、あたしは呟いた。
「・・・バイバイみんな」
淋しさに涙が出そうになったけど、グッと堪えた。
「バイバイ北海道・・・」
- 5 名前:shape 投稿日:2001年04月03日(火)22時33分55秒
- というワケで、よろしくお願いします。
ちなみに恋愛系ではないです。
- 6 名前:むこうのひと 投稿日:2001年04月03日(火)23時59分15秒
- ついにはじめますか。
とりあえず、新装開店祝いage
- 7 名前:shape 投稿日:2001年04月04日(水)02時17分36秒
- >>6
どうもです。がんばります!
- 8 名前:〜序章〜 投稿日:2001年04月04日(水)02時18分10秒
- 飛行機の中。
隣に座っているのは、仕事で草臥れたようなサラリーマンっぽい人。
新聞で顔を隠して、どうやら寝ているみたいだった。
窓際に座っていたあたしは、その人の睡眠の邪魔にならないように、大人しく外を眺めていた。
窓の外を流れるのは、青い空に浮かぶ、白い雲。
まるで海の上に浮かんだ白い泡みたいでキレイだった。
そんな景色も30分も眺めていると、いつの間にか飽きてきてしまう。
「ふわぁ〜ぁ・・・」
知らず知らずのうちに出てしまったアクビを、とっさに手の平で隠した。
隣の人は相変わらず眠っている。
退屈。
何か暇つぶしでも持ってくればよかった。
機内に暇つぶしを見つけようとしたけど、あまりにもキョロキョロしていると妖しいかな〜と思って、
すぐに止めた。
北海道から出て行く人達を乗せた飛行機は、順調に飛んでいるようだった。
無事に着くことを祈りつつ、あたしはそっと目を閉じた。
気がついたのは、機内のアナウンス。
着陸の旨を伝えるスチュワーデスさんの声で、あたしは目を覚ました。
隣の人もその声で起きたようで、狭いシートいっぱいに両腕を伸ばしていた。
その様子が不思議にも、あたしに安堵感を与えてくれた。
午後3時30分。
北海道と東京は、思ったよりも近い気がした。
着陸も無事に済ませて、飛行機は飛行場に滑り込んだ。
あたしのその大きな第一歩は、何の障害もなく無事に踏め出せたようだ。
機内アナウンスを待って、あたしはそっと立ち上がり、上に置いてあるポーチを取り出した。
順番に沿って飛行機を降りて、コンベアーから自分の荷物が流れてくるのを待った。
そして無事荷物を受け取ると、今度は港内のベンチに腰を下ろして、一息ついた。
このまま真っすぐ、これから住むアパートまで行くべきか。
アパートは事前に決めておいた。
誰一人知り合いがいないこの東京で、飛び入りで来るなんて無茶はしない。
その場合、大家さんに挨拶に行って、鍵を受け取らなければならない。
しかし、他に行く宛てのないあたしは、そうするしかなかった。
そう思ったあたしは、羽田空港を後にした。
- 9 名前:〜序章〜 投稿日:2001年04月04日(水)02時19分14秒
- 電車を2本乗り継いで、とうとうあたしがこれから住む街まで来れた。
途中人の多さに戸惑ってしまい、乗り過ごしそうになったことが、何度もあった。
この忙しさにも慣れなきゃいけない。
そうしないと生きていけないんだったら、あたしはそれに従う。
大家さんの住んでいるところまで、タクシーを使った。
一度お母さんと挨拶に来ていたけど、歩いて行くのはまだ不安だった。
タクシーの運転手は気さくな人で、近い距離でもイヤな顔ひとつしなかった。
その運転手さんのおかげで、あたしは無事、大家さんのところまで行き着けた。
インターホンを押して、お母さんが渡してくれたお土産を手渡した。
挨拶を済ませて、いくつかの注意事項を聞き、ようやくアパートの鍵を受け取った。
大家さんの家からあたしが住むアパートまでの道は憶えていたから、ひとりで歩いて行った。
東京の中でもここは多分、静かな方にあたる。
人数は疎らで、通りには木が植え付けられている。
北海道とは違う太陽が、その木々の間からあたしを照らしてくれた。
腕時計は午後4時47分を指してた。
大家さん家もあたしの住むアパートも、駅からそう遠くない場所にあった。
一歩ずつ、大切に階段を上って、コンクリートで作られた廊下を進む。
306、306・・・
306号室は一番奥にあった。
鍵を指して、なぜか少しだけ緊張しながら、右に回す。
ガチャ。
音を立ててロックを外したドアノブに手をかけて、ゆっくりとドアを開けた。
初めての一人暮らし、初めての部屋。
希望と期待に満ちたその部屋は、意外にも殺風景に感じた。
「・・・ん?」
それもそのはず、引っ越し荷物はまだ運び込まれていなかったのだ。
無事部屋まで辿り着けたことを報告するために、お母さんに電話した。
まだ数時間しか経ってなかったけど、とても懐かしい声に感じた。
これから先、当分逢えない母親。
思い返すと、やっぱりその一歩は大きくて、北海道までは遠かった。
引っ越しの荷物が届けられる日時を決めて、その日の電話を切った。
途端に淋しさが込み上げてきた。
東京で初めて泣いた夜だった。
- 10 名前:─序章─ 投稿日:2001年04月05日(木)00時51分41秒
- ─3─
荷物も全て届けられて、殺風景だった部屋もすっかりあたしの色に染まった。
次にすることは・・・
「えーっと・・・あった」
まだ整頓されていない引き出しの中、紙切れの束を掻き分けて、あたしはそれを見つけた。
圭織がくれた手紙の束。
まずは圭織の居場所を探したい。
この手紙の住所を元に探せば、きっとそこに圭織はいるはずだ。
連絡の途絶えた圭織のことを、あたしはとても心配していた。
それに、この東京で何かあった時に頼れるのは、圭織しかいなかった。
突然行ったら驚かれるかもしれないけど、連絡を取る手段がないから、仕方ない。
駅に置いてあった線路の地図を広げて、圭織の住む街の名前を探した。
・・・隣の隣の駅だった。
意外と近い距離に驚いた反面、嬉しくなってしまった。
久しぶりの再開に相応しくないような普段着のままで、あたしは家を飛び出した。
圭織の住む街は、あたしのところよりも拓けた感じがしていて、少し羨ましくも感じた。
電柱や塀に貼り付けられた住所を頼りに、圭織の住む場所を探して歩いた。
それは意外にもあっさりと見つかって、少しだけ落胆してしまった。
あたしのアパートよりも高くて、キレイな場所だった。
問題はここからだった。
もし圭織が引っ越してしまっていたら、ここに来ても意味がない。
階段の前にある郵便ポストには、どこの家も名前が書いてなかったから、参考にならなかった。
「圭織・・・お願い、まだここにいて」
目の前にはいない圭織にお願いをしながら、あたしは階段を上り始めた。
一歩一歩が重く感じる。
こんなに足が重いと感じたことは、今まで一度もなかった。
お願い圭織・・・
お願い・・・
階段も上り終わって、あとは部屋の前まで行くだけだ。
あたしは祈るような気持ちで手紙に記された部屋番号を探した。
・・・お願い!
「あ・・・」
---508 飯田 圭織---
あった。
- 11 名前:─序章─ 投稿日:2001年04月05日(木)00時52分15秒
- 手紙に記された部屋を見つけた。
そして圭織はまだそこに住んでいた。
嬉しくて思わず泣き出してしまいそうになった。
「圭織・・・」
人さし指でインターホンを押した。
「・・・・・?」
居ないのかな?
もう一度、押した。
「・・・・・」
返事はなかった。
そうだよね、こんな時間に居るワケないか。
普通なら学校かお仕事をしている時間。
はしゃいでた気持ちもサッとおさまって、これからどうするかを考えた。
圭織の住んでるところはわかったから、あとは逢うだけだ。
なんとか連絡を取りたかったあたしは、置き手紙をすることにした。
ポーチの中から手帳とペンを取り出して、自分のケータイの番号と住所を書き記して、
郵便ポストの中に入れた。
「圭織・・・よかった」
部屋が見つかったことでも大きな収穫だ。
圭織が電話してくれるのを楽しみにして、その場を後にした。
次の日も・・・その次の日も、圭織からの連絡はなかった。
ケータイが鳴るたびに過剰反応して飛びついても、ディスプレイにはお母さんって文字。
忙しいのかもしれないけど、せめて電話くらいして欲しかった。
いてもたってもいられなくなって、あたしはまた圭織の部屋の前まで来てしまった。
インターホンを押しても、この間と同じで全く反応がない。
「・・・圭織、どうしちゃったの?」
全く力が入らなくなってしまったかのように、あたしはその場にストンと座ってしまった。
圭織・・・逢いたいよ・・・
- 12 名前:─序章─ 投稿日:2001年04月05日(木)00時52分50秒
- そんなあたしをあざ笑うかのように、東京の空は雨を降らした。
雨に濡れているのはわかってる。
でも、動く気にはなれなかった。
圭織が帰ってきたら迷惑になるかもしれない。
それでも動く気力もなくなっていた。
圭織・・・圭織・・・
脱力感。
何もする気になれない。
ただ頬を伝う涙だけが、あたしの中で唯一動いていた。
ひざを抱えて、濡れた頬を隠した。
髪も服も、ビショ濡れだった。
淋しかったのかもしれない。
東京にひとり、会話も電話で母親とだけ。
誰かに逢いたかったのかもしれない。
そして圭織が近くに住んでいるのを知った。
住んでる場所を探し当てて、やっと逢えると思った。
でも圭織はいなかった。
電話もない。
このままだとずっと逢えないかもしれない。
逢いたかった。
圭織に逢いたかった。
「圭織・・・どこにいるの?」
淋しく響いた。
「な、なっち?」
「・・・!?」
「なっちじゃん!どうしたの!?」
「圭織ぃー・・・」
それまで流れていた涙の上から、また新しい涙が出てくるのを感じた。
やっと逢えた・・・やっと・・・
- 13 名前:shape 投稿日:2001年04月05日(木)00時54分15秒
- ・・・ん?あ、サブタイトルの横線、─と〜を間違えた(汗
- 14 名前:〜序章〜 投稿日:2001年04月06日(金)00時44分56秒
- ─4─
「・・・落ち着いた?」
「うん・・・」
大きめのシャツと毛布。
手元には暖かいコーヒー。
寒さなんて感じてなかったけど、圭織が帰って来て安心したら、急に寒けを感じた。
震えてるあたしを中に入れてくれて、タオルとシャツ、毛布を貸してくれた。
圭織の優しさは、3年前と変わってなかった。
「お風呂沸かしたからさ、入ってきなよ」
「うん・・・ありがと」
「あ、バスタオルは掛かってるやつ使っていいからね」
「うん」
精一杯の笑顔を圭織に見せた。
それが今のあたしにできる、精一杯のお礼だった。
圭織のシャツを脱いで、バスタブに蹲った。
「はぁ・・・」
暖かい。
芯まで冷えきってたあたしの身体には少し痛いくらいだった。
「・・・怒ってるかなぁ」
嫌われたらどうしよう。
東京でたったひとり、生きていく自信なんて、あたしにはなかった。
圭織のことはすごく頼りにしていたから、もう来ないでなんて言われたら、
死んでしまうかもしれない。
そんなことよりも、圭織に嫌われること自体が恐かった。
「どうしよう・・・」
謝ったら許してくれるかな。
もう来ないでなんて、言わないかな。
「あ・・・」
また涙が出てきそうになった。
それを隠すために頭までお湯に沈めた。
- 15 名前:〜序章〜 投稿日:2001年04月06日(金)00時45分26秒
- お風呂から出て、バスタオルで身体を拭いて、圭織が用意してくれた別のシャツに腕を通した。
「圭織・・・そこにいる?」
「うん・・・いるよ」
ドア越しに圭織に話しかけた。
「ゴメンね、急に来たりして・・・」
「うぅん、いいんだよ」
濡れた髪をバスタオルで巻いた。
「でも驚いたよ。まさかなっちが東京にいるなんて知らなかったからさ」
「え?」
知らなかった?
だってあたし、初めて来た時に置き手紙を・・・え?
「カオの方こそ、ゴメンね。全然帰れなくてさ、約束守れなかった」
「うぅん・・・」
「ちょっと忙しくてさ、北海道まで戻る時間、なかったんだ」
「うん・・・」
「でもさ、なっちとまたこうして逢えて、よかったよ」
「うん・・・」
ウワノソラ。
返事はしたけど、全く別のことを考えていた。
置き手紙は・・・?
バスルームから出たあたしに、圭織はまた暖かいコーヒーを渡してくれた。
「ありがと」
「うん」
「あのさ・・・」
「なに?」
思いきって聞いてみることにした。
「あたし・・・前にも1回入り口まで来たことあるんだ。
その時にポストに置き手紙して帰ったんだけど・・・それは見なかったの?」
「え?う〜ん・・・あ!」
圭織は何かを思い出して、何かに驚いたようだった。
「あれって本物だったんだ。あたしてっきり・・・」
「・・・本物だった?」
てっきり?
圭織が何を言っているのか理解できなかった。
- 16 名前:〜序章〜 投稿日:2001年04月06日(金)00時46分02秒
- 「あ、いや、その・・・」
「圭織・・・ちょっとおかしくない?」
「う〜ん・・・そうかもね、あはは」
「笑ってごまかさないで!」
「・・・ゴメン」
「ねぇ圭織、今何やってるの?」
「・・・・・」
しばらくの沈黙。
そして、圭織は言いづらそうに切り出した。
「・・・ゴメン、言えない」
「・・・どうして?」
「どうしてもだよ」
「・・・・・」
何も言えなかった。
何を言えばいいのかわからなかった。
「なっちを危ない目に合わせたくないんだ。だから、言えない」
言い訳みたいに後付けで、圭織は言った。
「危ない目って、圭織は危ないことをしてるの?」
「・・・うん」
「行かせない」
「え?」
「なっちここにずっと泊まって、圭織のこと行かせない。
そんな危ないところになんて、絶対に行かせられないよ!」
「なっち・・・」
だだを捏ねる子供みたいだって、自分でも思った。
「・・・わかった、話すよ」
- 17 名前:〜序章〜 投稿日:2001年04月06日(金)00時46分34秒
- 「いい?これから話すことは、誰にも言っちゃダメだよ?」
「うん・・・」
急に小声に、そして険しい顔になって、圭織は話しだした。
「なっちは今、不満とかってある?」
「不満・・・う〜ん」
「なんでもいいんだよ、どんなに小さいことでも」
「そうだねぇ・・・家賃が高いとかかなぁ・・・」
「あはは、ホントに小さいことじゃん」
「だって圭織がどんなに小さいことでもいいって言うから・・・」
「あはは、ゴメン、あはは・・・」
「もう・・・」
圭織は大ウケしたみたいで、しばらく笑い続けていた。
「あはは・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「そんなに笑わなくたっていいじゃん」
「ゴメンゴメン。それでね、そういう不満ができるのは、何のせいだと思う?」
「う〜ん・・・わかんないや」
「それはね、国のせいなの」
「国の?」
「うん。この日本大国ってよく言うと、成功したファシズムってやつなんだって」
「ファシズム・・・」
ファシズム。
独裁的国家主義。
「今より12代くらい前の総理大臣が就任した時に始まったんだってさ」
「ふぅ〜ん・・・圭織よく知ってるねぇ」
「あたしも聞いた話しなんだけどさ」
「あはは、そうなんだ」
「そのファシズムのせいでさ、準鎖国制度が執行されて、今外国にも簡単には行けないじゃん?」
「うん、そうらしいねぇ」
「海外の物も簡単には手に入らなくなったし、そのせいで物価が急上して、なっちが言ってた
家賃が高いとかに繋がるんだ」
「へぇ〜・・・」
あたしはただただ、関心するだけだった。
- 18 名前:〜序章〜 投稿日:2001年04月06日(金)00時47分09秒
- 「カオたちはね、それじゃイケナイと思って、それを打破するためにがんばってるんだ。
言ってみればレジスタンスってやつ」
「レジスタンス・・・それって危なくないの?」
「危ないよ。さっきも言ったじゃん?なっちを危ない目に合わせたくないって」
「じゃ、じゃあ・・・」
「でもさ、危険を冒すからこそ、得られる物も多いと思うんだ」
「そうだけど・・・」
「誰かが危険を冒さなきゃ、間違いは訂正されないんだよ」
「・・・・・」
確かに今のこの国には、おかしいと思える部分がいくつもある。
でもそれを正そうと思ったことは、一度もなかった。
あたしはただ、流されているだけだったことに、その時初めて気づいた。
「ひとつ・・・聞いてもいい?」
「うん」
「どんなことをしてるの?」
「う〜ん、実はまだ動いてないんだよね。何をするのか、何をしていけばいいのか。
今メンバー間で話しあって考えているところなんだ」
「そうなんだ・・・」
いろいろ聞いているうちに、あたしの考えはある方向へと向かっていた。
「他に質問はある?」
さっきは言い渋ってたくせに、なんだかその気になってる圭織が可笑しかった。
「じゃあねぇ・・・あとふたつだけ」
「なに?」
「メンバーって何人いるの?」
「う〜ん、今のところ、カオを入れて4人。まだ少ないんだ」
「た、たった4人でそんな大きいことをしようとしてるの!?」
「うん。今は4人だから小さいことしかできないけど、カオたちが活躍すれば、不満が溜まってる
人達が立ち上がって、きっと協力してくれると思うんだ」
- 19 名前:〜序章〜 投稿日:2001年04月06日(金)00時48分01秒
- 「もうひとつの質問って?」
「う、うん。あのさ・・・なっちにできることってないかな」
「・・・やっぱりね」
驚いた風でもなくて、わかっていたような笑みを浮かべた圭織。
反対にあたしの方が驚かされたような気分だった。
「人一倍正義感の強いなっちのことだから、この話しをしたらきっとそう言うと思ったんだ」
「えへへ・・・ほら、4人よりも5人の方がいいでしょ?」
「そうだけどさ・・・ホントに危険だよ?」
「うん、覚悟できた」
「覚悟しちゃったか・・・」
「うん!」
「なっちは昔から、これって決めたらテコでも動かないコだったもんね」
「うん、さすが圭織!わかってるじゃん?」
「そりゃ付き合い長かったからねぇ。イヤでもわかっちゃうよ」
「あはは、そうだね」
「もう今日は遅いから泊まってきなよ。明日、カオたちのアジトに案内するからさ」
「うん、ありがと」
ひとつのシングルベッドに、ふたつの身体。
どちらかと言うと小柄なあたしに比べて随分大きい身体の圭織の方が、
なんだか遠慮してるみたいだった。
明日のことを考えると、ドキドキしてきて、なかなか眠れない。
"不満"
"成功したファシズム"
"レジスタンス"
さっきの圭織の話しは、それまでのあたしには全く関係のない話しだった。
関係はあったにしても、気にすらしたことがなかった。
でも、話しを聞いたあたしはそれが許されないことだと思えた。
きっとあたしのような人が、他にも沢山いるに違いない。
「あ・・・」
お母さんに電話するのを忘れたと思いながら、その日はすぐに眠りについた。
- 20 名前:shape 投稿日:2001年04月06日(金)00時49分35秒
- 舞台としては、バトル・ロワイアルの世界を借りました。
- 21 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月07日(土)08時09分04秒
- ここでは、貴重な物語。
最後まで付き合いますので頑張って書き上げてください。
- 22 名前:shape 投稿日:2001年04月08日(日)02時14分53秒
- >>21
実はかなり先まで書き終わってますので、当分の間は大丈夫です(w
ありがとうございます、がんばります!
- 23 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月08日(日)02時15分33秒
- ─1─
昨日の雨とは裏腹に、よく晴れた東京の朝。
昨日やっと見慣れてきた天井とも、違う天井。
「あれ・・・?」
あぁそっか、昨日は圭織の部屋に泊まったんだっけ。
そしてこれから、あたしもレジスタンスに参加するために、
アジトに連れてってもらうんだった。
圭織は隣で、布団からはだけて、気持ちよさそうに眠っていた。
「オハヨ」
起こさないようにそっとベッドから降りて、圭織の身体を布団におさめた。
「ちょっと失礼するよ」
勝手に冷蔵庫を開けて、中身を確認。
・・・あんまり入ってなかった。
「仕方ないか、大変みたいだし・・・」
なんとか使えそうな材料だけ取り出して、冷蔵庫をそっと閉めた。
「よし!」
腕まくりをして、調理に取り掛かった。
「・・・ん?何してんの?」
「あ、起こしちゃった?」
「うん、大丈夫だけど・・・うわぁ、いい匂い」
「ゴメン、勝手に冷蔵庫開けてご飯作っちゃった」
「いいけど・・・何もなかったでしょ」
「うん。有り合わせだから美味しくないかもしれないけど・・・もうすぐできるからね」
「うん。ふわぁ〜ぁ・・・」
「「いただきま〜す」」
出来上がったのは、ご飯とおみそ汁、それと少しの煮物。
材料がなかったから、これが限界だった。
圭織がおみそ汁を飲み始めた。
「・・・どう?」
「ん?うん、美味しいよ!」
「よかったぁ〜」
「なっちの料理の腕も落ちてないね」
「えへへー、さんきゅ」
「それにしても、よくあれだけの材料でこんなに作れたねぇ」
「苦労したんだよー?お米があったから助かったけどさ。
たまには買い物とかもしなきゃダメだよ?」
「へいへい、反省してます」
「うん、わかればよろしい」
なんだかあの頃に戻れた気がした。
北海道で一緒に走っていた頃に・・・
- 24 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月08日(日)02時16分07秒
- 圭織と一緒に外を歩くのは、実に3年ぶり。
3年の年月は長いようで、今思うと短くも感じたけど、その頃とは変わった圭織は見つけるたびに、
やっぱり長かったんだなーって思い直す。
あの頃とは違って、すっかりオトナになった圭織。
変わらないのは、圭織が圭織であることと、その優しさだけだった。
雨に濡らされた服は、圭織が昨日のうちに乾燥機にかけてくれて、朝にはすっかり乾いていた。
こんな普段着でいいの?って聞いたら、その方がいいんだって。
圭織の服装も昔とは違うけど、それでもどちらかと言えば地味な物だった。
「ちょっと時間かかるけよ」
「遠いの?」
「そうじゃないけど・・・まぁ、着いてくればわかるよ」
「???」
今日1本目の電車を待っていた。
あの高校生もあのオバサンも、あの草臥れて眠るサラリーマンにも、きっと不満はあるはずだ。
小さな不満は積もり積もって、やがて大きな革命を産む。
"反政府運動"
う〜ん、なんて恰好良い響き。
自分たちの正義のためにあたし達は戦うんだ。
思わず手を握り拳にして、思いっきり力を込めてしまった。
隣に座る圭織の顔が少し緊張しているのを見て、はしゃいでた自分を反省した。
3本目の電車を降りて、着いたのは元の駅より3つ隣。
つまりあたしが住む街の駅よりもひとつ隣に当たる。
「え?ここ?」
「うん。近いでしょ?」
「うん・・・でも、なんであんな遠回りなんてしたの?」
「念のためだよ」
「へぇー・・・」
圭織の用意周到さに、我を忘れて感心してしまった。
「さ、行こう」
「うん」
晴れた東京の空に感謝して、再び太陽の下を歩き出した。
- 25 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月08日(日)02時16分44秒
- 圭織が立ち止まったのは、ごく普通の喫茶店の前だった。
一段上がったお店のドアには、"OPEN"のプレートがヒモに吊られている。
「いい?ここから先、どんなことがあっても引き返せないんだよ?
やってみようかなーとか、そういう気持ちでついて来たのなら、やめた方がいいよ」
「・・・わかってるでしょ?」
「・・・やっぱりね。圭織はできれば帰って欲しかったんだけどなー・・・」
「もう遅いよ。あんな話し聞かされて、なっちはやる気だよ。覚悟しちゃったんだから」
「ふぅ・・・じゃあ、行くよ?」
「うん」
カランカラン。
ドアは軽やかな音を立てて、店内に来客を報せた。
「いらっしゃいませー」
「カウンター席で」
「・・・お食事などは御座いますか?」
「サンドウィッチ定食3つ」
「かしこまりました、こちらへどうぞ」
「???」
圭織と店員さんのやりとりは、ごく自然に行われていた。
不思議だったのは、ふたりなのに3つ頼まれた定食と、
カウンター席を指定したのにお店の奥に案内されたこと。
外装とは裏腹に、店内の奥行きは広かった。
下る階段に指しかかった頃には、あの喫茶店の軽快な雰囲気はもうなくて、
ただ、重苦しい雰囲気に包まれている気がした。
明らかに地下へと下っている階段。
薄暗い照明で、1m前すら視界がはっきりしない。
その数は決して多くなく、数にして12、3段しかなかった。
それを下り終えて、少しだけ歩くと、暗闇にうっすらと木でできたドアが見えてきた。
- 26 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月08日(日)02時17分15秒
- 「行くよ?」
「うん」
トントン・・・。
トントントントントン・・・。
ギィーーー。
木でできたドアは、重々しい音は立てて開いた。
中から眩しいほどの光が差して、思わず右手で目の前を覆ってしまった。
「圭織ぃー、遅いやないか!」
「ゴメェン!もうみんな来てる?」
「いや、彩っぺがまだや。で?そちらの方は?」
「あぁ、このコね・・・中入れてよ、話しするから」
「・・・・・」
意識してなかった緊張が、あたしの中でピークに達した。
内装は大きい机に数個のイス、端っこに木の箱が数個積み上げられていた。
それと入り口の他に、どこに繋がっているかわからないトビラが、3つ。
照明もさっきまでとは違って、ちゃんとした物だった。
そして、先程ドアを開けてくれた女性と、もうひとりの女の子。
あたしよりも歳下に思えるようなその女の子まで参加してることに驚いた。
「で?そのコはなんやの?」
「うんとね、このコ、あたし達の手伝いしてくれるって」
「ふぅ〜ん・・・名前は?名無しさんかい?」
「あ、安倍なつみです。よろしくお願いします」
「安倍さんか。あたしは中澤裕子よろしくな」
「福田明日香です。よろしくね」
お互いの自己紹介が済んで、これであたしもメンバーに加われたと思ってた。
「で、圭織と安倍さんはどんな関係なん?」
「えーっと、幼なじみです。北海道の・・・」
「!?」
鋭い眼光で睨みつけられた。
あたしは動くことができなくなっていた。
- 27 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月08日(日)02時17分49秒
- 「なぁ、これは幼なじみのお遊びとはちゃうねんで?ゴッコやったら他でやってくれんか」
「え?」
「圭織も圭織や。幼なじみなんか連れてきてもうて・・・危険なことやってわかってんのやろ?」
鋭い眼光は圭織の方へと向けられた。
圭織も少しだけたじろいでいるみたいだった。
この人の視線には、向けられるだけでもかなりの圧迫感を感じる。
「わかってるけどさ・・・全部話したよ。どんなことをしようとしてるかってことも、
どんなに危険かってことも」
「せやけどな、あたしにはわかってるようには思えへんな。わかっとったら・・・」
「あたし・・・」
会話を遮って、あたしは続けた。
「あたし、ここに来るまではゴッコだったのかもしれないけど・・・
上手く言えないけど、ここに来て中澤さんの目を見て、本気なんだなーって思ったんです」
「せやったら・・・」
「でも、あたしも許せないんです。昨日圭織の話しを聞いて、この国も、それに気づかなかった
自分も許せないんです。お願いです、あたしにも手伝わせてください!!」
「・・・一度入ったら、もう引き返せへんのやで?」
「わかってる・・・」
「・・・好きにすればえぇ。その代わり、うちは安倍さんがメンバーやなんて認めへんからな」
そう言って中澤さんは、入り口と対面した方のトビラの奥へと行ってしまった。
「・・・ふぅ」
緊迫した空気を打ち破ったのは、福田明日香というコだった。
「裕ちゃんはあぁ言ってるけどさ、人手が足りないのは事実なんだ。
あたしは安倍さんが加入してくれるのには賛成だよ、よろしくね」
「・・・いいのかな」
「ん?」
「中澤さん、あたしのこと認めてくれないって言ってた」
「あぁ、大丈夫じゃないかなぁ。どうしても気になるなら、1対1で話ししてきたら?
ちゃんと話しあえばきっとわかってくれるよ」
「・・・うん」
あたしよりも歳は下なのに、意外としっかりしているコだった。
- 28 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月08日(日)02時18分44秒
- あたしは中澤さんが入ったトビラに手をかけて、そっと開けた。
「失礼します・・・」
「なんやの?」
「ちょっとお話ししてもいいですか?」
「・・・・・」
返事を待たずにあたしは中にスッと入って、トビラをそっと閉めた。
その部屋にはいろいろな本やファイルブックが所狭しと本棚に収まっていて、
その本棚がぎっしりと置かれていた。
「あたし、本当に戦いたいんです。そりゃあたしに何かできるなんてわからないし、
何もできないかもしれない・・・」
「・・・・・」
「でも、何かをしたいんです!この国のためにも、あたし自信のためにも・・・」
「・・・・・」
「そうしないと・・・あたしきっと後悔しちゃうから・・・」
中澤さんは何も言ってくれなかった。
「お願いします、あたしにも手伝わせてください!」
「・・・あたしが」
重く閉ざされた口が、そっと開いた瞬間だった。
「あたしがこの運動を始めたのはな・・・国のためとか自分のためとかやないんや」
「え?」
「あたしの大切やった親友がな・・・この国の理不尽な法律のために・・・死んでしもうたんや」
「・・・・・」
重かった。
あたしの理由なんかとは比べ物にならないくらい重い理由だった。
「許せへんかった・・・親友を奪ったこと国を、ぶち壊してやりたかった・・・」
軽率だった。
そんな気持ちで参加しようとしているあたしは、この人に反対されて当然だと思った。
「せやから・・・圭織が幼なじみを連れてきて・・・遊んでるように見えて、
ついカッとなってもうて・・・さっきはゴメンな」
「いえ・・・」
中澤さんの目は、さっきの鋭い眼光とは比にもできないほど、優しかった。
「圭織にはなんて呼ばれてるん?」
「え?えーっと、なっちって」
「なっちか、えぇな。あたしは裕ちゃんて呼んでくれてえぇで、よろしくな」
「はい!がんばります!」
「よっしゃ!」
裕ちゃんは右手をスッと差し出して、あたしはその手を力一杯握った。
この瞬間こそ、あたしがメンバーとして受け入れてもらえた瞬間だった。
- 29 名前:市民 投稿日:2001年04月08日(日)18時32分23秒
- いいかんじ。作者さん頑張って。
他の皆さんのように気の利いた応援メッセージは出来なくてすみません。
- 30 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月08日(日)21時10分59秒
- 姉さんの大切だった親友・・・
- 31 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月09日(月)00時59分33秒
- ─2─
書庫室みたいなところのドアを開けると、ひとり増えていた。
明らかにあたしよりも歳上で、よく見ると鼻にピアスが刺さっていた。
痛そう。
不思議にも全体じゃなくて、鼻ピアスがその人の第一印象になってしまった。
「キミが新しく入りたいってコ?あたし石黒彩。彩っぺって呼ばれてるからそう呼んでね。ヨロシク」
「安倍なつみです。圭織にはなっちって呼ばれてます、よろしくお願いします」
さっき裕ちゃんと交わしたような握手が、もう一度行われた。
「裕ちゃんに怒られたんだって?」
「はい、でもちゃんと話したら、わかってもらえました」
「そっかぁ、じゃあ"なっち"ももうメンバーに入ったワケだ」
「はい」
鼻のピアスとは対照的に、その人の笑顔は見る人を和ませるような気がした。
「裕ちゃんって恐いでしょ」
あたしに近づいてきて、彩っぺは急に小声でそう囁いた。
「えぇ、少し・・・」
あたしも小声で返した。
「あの人に睨まれたら、あたしでも動けなくなりそうだよ、あはは」
「誰に睨まれたら動けへんくなるって?」
「あ・・・」
場所が悪かった。
だって、ドアから出て少ししか動いてなかった。
ドアを開ければすぐの位置で、彩っぺはあたしに話しかけた。
あたしはドキドキしながら、彩っぺの言い訳を待っていた。
「そんなこと言ったっけ?」
「え?」
あまりにも突然聞かれたから、戸惑ってしまった。
「えーっと・・・言いましたっけ」
「・・・もうえぇわ。彩っぺも来たことやし、会議始めるで」
「「「はーい」」」
それぞれの位置が決まってるみたいに、イスに座り始めた。
あたしは自分の位置がわからなくて戸惑っていたら、圭織が隣に座るように勧めてくれた。
- 32 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月09日(月)01時01分19秒
- 「えー、まず、みんなももう知ってるけど、新しいメンバーが加わりました!」
裕ちゃんも含むその場にいたみんなが、一斉にあたしの方を振り向く。
わかっていたつもりだけど、視線が集中するとドキドキしてしまう。
その気持ちをなんとか苦労して抑えつけて、力一杯立ち上がった。
「安倍なつみです。みんなの足を引っ張らないようにがんばります。よろしくお願いします」
拍手と歓迎の声で部屋中を埋め尽くされた。
「圭織には普段からなっちって呼ばれてるようやから、みんなもなっちって呼んだらえぇ。
なっちも、みんながみんなを呼ぶように呼んでくれてかまわへんからな」
「うん!」
言ってみれば、ここにいるみんなは、普段は普通の女の子なんだ。
志し半ば集まった少女達が、ひとつの目的に向かって、一緒に走り出す。
どう転んでも足を引っ張るワケにはいかない。
- 33 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月09日(月)01時01分55秒
- 「それともうひとつ。あたしらのグループに、援助してくれる企業が出来たで」
「「「え?」」」
その一言は他のメンバーには意外だったらしくて、裕ちゃん以外はみんな驚いた。
「だって裕ちゃん、いつも「自分達の力で」って言って・・・」
「明日香、あたしかて現状がわからんほどアホやないわ。今のあたしらだけで、何ができる?
資源も物資も、金銭面だってツライっちゅうことくらい、わかってるつもりや」
さっきのあたしを歓迎してくれた時とは打って変わって、今度は誰も喋らなかった。
重苦しい空気の中、真っ先に重い口を動かしたのは、やっぱり明日香だった。
「気に入らないな〜」
「え?」
それでも重苦しい空気の存在は、全く変わらなかった。
「なんでそうやってひとりで決めちゃうの?なんでみんなに相談のひとつでもしてくれなかったの?」
「そ、それは・・・」
「そりゃ確かに裕ちゃんのことはリーダーとして認めてるよ。でもさ、もう少し他のメンバーの
ことを信用してくれてもいいんじゃないの?」
「・・・せやな、みんなに話さんかったことは反省する。スマンかった」
「・・・・・」
明日香も裕ちゃんの素直な態度には閉口したようだ。
「突然やったんや。こんなチャンス、もう2度とないかもしれへんと思った」
「・・・・・」
誰も何も言わずに、黙って裕ちゃんの気持ちを聞いていた。
「せやけど、このままではアカンな。あたしもう一度掛け合って、みんなにも一度会ってもらおうと思う。
それでダメやったら仕方ない、他探すことにするわ。もちろん、みんなで一緒にな。これでえぇか?」
「・・・うん」
明日香も他のみんなも納得した。
- 34 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月09日(月)01時02分25秒
- 「ほんじゃ、今日の会議はこれで終わりや。お疲れさん」
緊迫した空気が瞬間に解けた気がした。
「どうだった?」
隣に座る圭織が、ボケーっとした顔でみんなを見ていたあたしに問い掛けた。
「いやー・・・みんなすごいねぇ。なんて言うのかなぁ、ちゃんと自分の意見を持っていてさ。
それをちゃんとぶつけてるって感じでさ」
「うん、そうだね。でもね、そうしないと向上できないし、仲間意識だって強くならないって、
カオは思うんだ」
「うん、なっちもそう思うよ」
圭織の顔は清々しく感じるほど、笑顔に戻っていた。
あたしの顔もそうなっていればいいなーって思った。
「それじゃ、帰ろっか」
「うん」
同時に立ち上がって、木でできたドアを開けた。
中の照明とは相反する暗闇が、あたし達を迎え入れようとしていた。
「あ、そうそう、忘れとったけどな・・・」
圭織の後に続いてその場を出ようとした時に、後ろから裕ちゃんに話しかけられた。
「この紙にな、なっちの名前と、なんでこのグループに入ったかってのを書いて・・・
まぁ、適当でえぇんやけどな、一応形として残しておくためのもんやから」
「うん、わかったよ」
そう言って紙を受け取って、紙を確認した。
それは何も書いてない、ごく普通のルーズリーフの、横に穴が開いたノート用紙。
「次に来る時までに渡してくれればえぇからな」
「うん!」
「それじゃ、またな」
「うん、バイバイ!」
話しが終わったのを見て、圭織は先を歩き出したから、あたしはその後を着いていった。
それほど多くもない階段を昇りながら、右手に持った紙に書く内容を考えていた。
アジトに居た時間は長いように感じたけど、外はまだ明るくて、
時間にすると2時間ぐらいしか経ってなかったらしい。
「なっち、これからどうする?」
暗闇から一気に太陽の下に出たため、目が慣れるまでに少し時間がかかった。
それは圭織も同じで、眩しさを紛らすために手を翳している。
「う〜ん・・・圭織はこれから用事とかあるの?」
「うぅん、なにも」
「それじゃあ、家に来ない?実はなっちの家、ここの隣の駅なんだ」
「そうなの?行く行く!」
「うん!」
- 35 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月09日(月)01時03分34秒
- 帰りもやっぱり、来た時と同じように遠回り。
圭織の話しだと、これは必要不可欠なことらしい。
念には念を入れてって圭織は言うけど、そこまで神経質になる必要なんてあるのかな。
まだ何の活動も、意思表示だってしてないって話しなのに、気を回しすぎだと思った。
あれだけ秘密にしてて、なっち達が歴史を変えようとしてることを一体何人が知っているんだろう。
そんなことを思いつつも圭織に話せないあたしは、ただ、笑顔を作って歩いているだけだった。
実際のところ、嬉しかったんだ。
泣いた昨日とは違って、圭織とこうして笑いながら歩けることが、嬉しかった。
東京に来て、やっぱりよかった。
間違ってなんかなかったんだ。
あたし自信そう思えたことで、例え間違っていたとしても、後悔しないでいられると思った。
東京に来て、たった五日間。
思えばこの五日間が、あたしの生涯における最大の転機だったのかもしれない。
圭織の案内で途中下車して、ご飯を食べた。
そこは大きな通り沿いから少し外れた、小さいお店だった。
外見はこじんまりとしたお店だったから、少しだけ心配したのは本当のことだ。
でも食べてみると、お店とは合わない美味しさにビックリした。
それを圭織に告げると、笑いながら喜んでくれた。
そして圭織は、3年も居るとやっぱり詳しくなるって付け足した。
3年後、あたしもこうやって詳しくなれているのかな。
「さて、そろそろ行こうか、なっちの家」
「うん!でもさ、なっちの家の駅までの帰り方がわかんなくなっちゃったよ」
「あはは、大丈夫、カオがわかるよ」
「あ、そっか。あはは」
その後の道程は、圭織がわざと分かり易い道を選んでくれた。
あたしはそれを必死に憶えようとした。
そのおかげで、行きの半分くらい、わずか15分足らずで見覚えのある場所までこれた。
さすがだなーと、真剣に感心した。
- 36 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月09日(月)01時04分56秒
- バンッ!
高音が唸るような、低音が地を這うような、何かに当たったような、何かが飛び出したような・・・
駅構内から出てすぐに、その音は聞こえた。
運動会の時のスタートの合図の音にも似ていたけど、それはもっと大きくて、もっと鈍い音だった。
「なっち!こっちへ!」
「え?・・・あ」
圭織に手を引かれて、建物と建物の狭い間を抜けて、音の正体が見える位置まで来た。
青い服に青い帽子、腰には黒いベルトと棒状の物、そして・・・
・・・ピストル?
黒くて曲がってて、下卑た鈍い光を放っているその物体は、誰かに向けられていた。
「圭織あれ・・・」
「しっ!静かに!大丈夫、あいつらからこの位置は見えないはずだから・・・」
「で、でも・・・」
狙われている。
確実に誰かが、その命を狙われているのだ。
白昼どうどうとピストルを抜き出して誰かを狙っているのは・・・警官だった。
- 37 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月09日(月)01時05分35秒
- 「いい?あいつらが言うことをちゃんと聞いてて。この国のおかしさがすぐにわかるから」
「う、うん・・・」
狙われている誰かはここからは見えないけど、声はしっかりと聞き取れる。
「た、助けてくれぇ・・・」
若くも年寄りでもない・・・二十代後半か三十代前半くらいの、男の人の声。
「オマエなぁ、この国じゃ国家を侮辱したら死刑ってのは知ってるだろ?
我々警官隊だって国家の為に日夜働いていて、それはもう国家も同然なの。
つまり、我々を侮辱した場合も死刑!わかる?」
「そ、そんな・・・」
「もうダメだね、遅い。死刑執行!」
バンッ!
「うぁっ!」
またあの鈍い音。
「あ〜ぁ、足に当たっちゃったよ。これでもう逃げられないだろ?じゃあ、いくよ・・・」
帽子の下の顔がニヤッと笑った。
バンッ!バンッ!バンッ!
圭織が手を引いてくれるまで、その場から動けなかった。
撃たれた人が見えないように、元来た道を圭織が誘導してくれた。
通りがけに聞こえてきた人の話しによると、あの男の人は、ただ笑っただけ。
派出所の前を通る時に、ただ笑って通り過ぎただけだったらしい。
その時チラッと覗いた派出所の、さっきの警官と目があって、そして・・・
たったそれだけなのに、侮辱?死刑?
──ちゃんと聞いてて。この国のおかしさがすぐにわかるから。
その通りだった。
発砲権が各警官隊に与えられていて、その基準も各々に任せられるってことは知っていた。
それにしても、たったそれだけのことで、狙われて、恐怖し、殺されるなんて・・・
"腐っている"
そう、この国は腐っているんだ。
- 38 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月09日(月)01時06分05秒
- 駅前のベンチ。
圭織がそっと座らせてくれた。
「・・・ちょっと刺激強すぎちゃったか」
「うん、ちょっとね。急だったし・・・」
何よりも、冷静でいられる圭織のことが不思議だった。
「ねぇ圭織・・・」
「ん?」
「圭織、落ち着いてるね・・・」
「うん。・・・イヤだけど、もう慣れちゃったのかもね」
「慣れちゃったって・・・そんなに多いの?」
「多くもないけど、3年もいるとね。いろんなことがあったから・・・」
「・・・・・」
あたしの知らない経験を、圭織はこの東京で数多くしてきた。
それが今のあたしと圭織の差なんだなーって思えた。
しばらくして、あたしは平生を取り戻せた。
あの瞬間のことは忘れられない。
腐ったこの国を更生させることは、果たしてできるのだろうか。
違う、少なくとも誰かが動かなきゃイケナイんだ。
そう思った圭織達は、こうしてグループを作って、活動しようとしてる。
もしかしたら失敗して、何も変えられないかもしれないけど・・・
きっと誰かがあたし達の意志を次いで、いつかこの国を変える日がくるかもしれない。
それならばそれでも、あたしはいいと思った。
そのためにもあたし達はがんばって、できるだけのことをする必要があるんだ。
いろんなことがあって、家に着く頃には夕方になっていた。
「まだ整理してなくて汚いんだけど・・・入って」
「うん、おじゃましまーす」
ドアを閉めて靴を脱ぎ、圭織は鍵を閉めた。
「ん?鍵まで閉めんの?」
「うん。用心するのにこしたことはないからね」
「そっか・・・」
脳裏を掠めたのは、ニヤリと笑って発砲した、さっきの警官の顔だった。
- 39 名前:shape 投稿日:2001年04月09日(月)01時09分44秒
- >>29 市民さん
いえ、どんな言葉でもいいですから、レスを戴くと有り難い物です。
応援、本当にありがとうございます!
>>30
いえ、平家さんではないですよ。
更新スピードが早くて量が少ないのと、またその逆ではどちらがいいんでしょう。
一応今のところは後者の方でがんばってるんですけど・・・
- 40 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月09日(月)02時09分34秒
- この話の流れだと、あまりぶつぎりでは、
話に入り込みにくいので、今のスタンスで良いと思いますよ。
次の更新待ってます。
- 41 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月10日(火)22時36分39秒
- ─3─
「ねぇなっち、裕ちゃんに貰った紙、ちゃんと持ってるよね?」
「うん、ここに・・・」
ジーンズの左側のポケットに、しっかりと折り畳まれた紙が出てきた。
「さっき見たこと、思ったこと、そしてこれからやりたいこととか、忘れちゃわないうちに書いとくといいよ」
「うん」
「その紙はカオも書いたんだけどさ、なんて言うのかなぁ、決意とか、そういう物だと思うんだ。
カオも他のメンバーが書いたのは見たことないんだけど、多分みんなそんな感じだと思うよ」
机の上に、紙とボールペン。
圭織が言った通り、見たこと、思ったこと、感じたことをまず書いた。
また頭の中にあの警官が出てきて、やるせなくなったけど、手を休めなかった。
次にこれからやりたいこと、うぅん、やらなきゃいけないことを書いた。
それはもちろん、理想とかそういうレベルの物で、全然具体的じゃなかったけど・・・
「ご飯食べていきなよ、なっちの家ならちゃんとしたの作れるよ、ちゃんとした材料あるから」
「ホントに?うん、ご馳走になるよ」
「よぉ〜し、じゃあ待っててね、取り掛かるから」
「うん!」
今朝とは違って、冷蔵庫いっぱいの材料があるから、自然と品数も増える。
お母さんに教わった料理方法で、いろんな料理がテーブルに並ぶ。
あたしはテーブル上が次第に埋め尽くされる、その光景を見るのが好きだ。
「よし、これで最後ね」
「うわぁ〜、美味しそう〜」
「冷めないうちに食べちゃおうか」
「うん!食べよ食べよ」
「せ〜の」
「「いただきま〜す」」
「ふぅ〜、食べた食べた・・・もう入らないよ」
「あはは、ちょっと作り過ぎちゃったかな」
「うぅん、カオには丁度いい感じだったよ」
「そっか、よかった」
テーブルの上の食器達を流し台に、ふたりで運んだ。
あたしがお皿一枚洗うと、圭織が隣でキレイに拭いて、閉まってくれる。
「・・・ねぇ圭織、次の会議っていつ?」
「う〜ん・・・家に帰ってみなきゃわかんないけど、確か今週の最後の方だったと思う」
「金曜日か土曜日ってこと?」
「うん、その辺」
今日が火曜日だから・・・少なくとも2日間は空くってことか。
- 42 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月10日(火)22時37分09秒
- 「じゃあさ、それまで圭織の家でもなっちの家でもいいから、一緒に居てくれない?
なんかひとりだと心細いんだ・・・あ、忙しいならいいけど・・・」
「・・・うん、いいよ。別に用事もないし」
「ホントに?よかった〜」
「あはは、なっちは相変わらず淋しがり屋なんだ」
圭織の笑顔が力強く思えた。
正直たった5日間しか住んでいないこの街で、3年目の圭織が一緒にいてくれると心強い。
たった2日間だけど、でも・・・それでも2日間なんだ。
楽しいことは、あたしの意志とは裏腹に、あっという間に過ぎて往く。
圭織と過ごした2日間、いろいろなことを教えてもらった。
もちろん、思い出話も沢山したし、他愛もない話も比にならないほどした。
でも、教えてもらったことの方が、遥かに重く、遥かに大きく存在していた。
初めての夜のことよりも、さらに重く・・・
それでも圭織と過ごした2日間は楽しく過ごせた。
ふたりとも背負っている物ができたために、あの頃と同じようにとはいかなかったけど。
3日目の朝。
集合の日。
出発は、あたしの家から。
「なっちぃ〜、裕ちゃんに渡す紙、忘れないようにね〜」
「あ、そっか!これも持っていかなきゃね」
キレイに折り畳んだ、決意の紙。
圭織に見るように勧めたんだけど、結局圭織は見なかった。
それぞれの意志が詰まったこの紙は、裕ちゃんでも見ないんだって。
だから圭織も見ようとしなかったし、あたしも圭織にどんなこと書いたか聞かなかった。
あまりにも内面に関わりすぎる内容ってのも考え物だね。
普通なら10分足らずで着くはずの道を、適当に乗り継いで1時間近くかけて行った。
他のみんなも実はワリと近くに住んでいて、こうやってアジトへ行っているらしい。
そういう小さいことでも集合してることが知られて、解散させられたグループも多いんだって。
解散だったらまだマシな方で、何も言わずに撃たれた人も多いとか・・・
まだ何もできてないのにそうなってしまったら、死んでも悔やみきれない。
だから念には念を入れて、圭織達はずっとこうしてきたんだね。
- 43 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月10日(火)22時37分41秒
- アジト。
みんながバラバラに集まってくる。
入る時には、店員さんにカウンター席を指定。
そして人数分プラス1のサンドイッチ定食(実際にはメニューに載ってない)を注文。
そうすると店員さんが、アジトの入り口まで案内してくれる。
圭織に教わったことのひとつだ。
今回は圭織がやってくれたけど、この次からは自分でそれをやらなきゃいけない。
圭織がやることを、目を皿のようにしてジーっと見ていた。
あの暗い階段を降りて、木でできたトビラの前まで来た。
始めに2回、少し間を空けて5回ノックすると、中に誰かがいれば開けてくれる。
圭織の話しだと裕ちゃんが必ずいるって話しだけど、もしいなかったらどうするんだろう。
そんなことを考えている間に、トビラが鈍い音を立てて開き、中から裕ちゃんが覗いた。
「おう、ふたりか」
「裕ちゃんおはよう〜」
「おはようございます〜」
「おはようさん。まぁ、入りや〜」
「うん」
なんでか知らないけど、朝でもお昼でも、夜でも挨拶は"おはよう"なんだって。
郷に入りては・・・って言うし、あたしもそれに従った。
「これで全員揃ったな。そんじゃ、会議始めるで」
それぞれの席に座る。
あたしの席は、圭織の隣に固定したみたいだ。
「あ、その前に・・・」
「ん?なんや?」
「裕ちゃん、これ・・・」
あたしはあの"決意の紙"を渡した。
「おぅ、サンキュ。確かに受け取ったで」
「うん」
それは裕ちゃんのポケットに丁寧にしまわれた。
「さて、前にも言った援助してくれる企業なんやけど、今日はその代表の人に、これからみんなで逢おう思う」
「「「え!?」」」
「その人は連絡したら、上の喫茶店に来てくれるようになってる」
「大丈夫なの?」
「その人、ホントに信用できる?」
「来ていきなり掴まったりしちゃわないよね?」
いろいろな意見が、みんなの口から出てきた。
やっぱりみんな不安なんだ。
見知らぬ人に逢う。
ただそれだけでも不安になるほど、やってることのリスクは大きい。
「大丈夫や、それはあたしが保障する!」
- 44 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月10日(火)22時38分11秒
- 裕ちゃんが連絡を入れて、その人は早急に向かうと言ってたらしい。
誰かがここがアジトだとばれたらマズイって言い出したから、上で待つことにした。
「なぁみんな、ちょっと・・・」
喫茶店には人がいない。
どうやら閉店にしたようだった。
「この店員さんな、みんないつも見るやろ?言うてへんかったけどな、彼女もあたしらの仲間やねん」
さすがにみんな驚いた顔をしていた。
そりゃ確かに、関係ない喫茶店の中にアジトって変だなーとは思ってたけど。
彼女が協力者・・・いや、仲間だっていうなら、納得はできる。
「平家みちよです、よろしく」
その人は普段の会話にはない、関西訛りだった。
それぞれが自己紹介をして、彼女はあたし達の仲間になった。
「せやけどな、みっちゃんはあたしらとは一緒には行動せぇへんで」
「え〜?なんでぇ?」
圭織が不満気に聞いた。
「なんでて・・・みっちゃんはこの喫茶店の営業もあるしな。他の仕事もしてもろうてんねん」
「他の仕事って?」
今度は明日香。
「・・・今は言えへんな。時期がきたらちゃんと話すわ、な?みっちゃん」
「そうやね。みんな、今は裕ちゃんの言うことをよう聞いて、がんばるんやで」
「う、うん・・・」
みっちゃんの他の仕事ってなんだろう。
気になったけど、それ以上聞いても何も答えてくれなさそうだったから、諦めた。
カランカラン。
突然ドアが、音を立てて開いた。
みんな一斉にそちらの方を振り向く。
入ってきたのは、金髪で少し長めの髪、スーツ姿でサングラスをした、男の人だった。
「・・・お待ちしてました。こちらへどうぞ」
裕ちゃんの誘導で、その男の人は奥のテーブルのソファに座る。
「みんなも・・・もっと近くに・・・」
なんだか裕ちゃんが緊張しているように見えた。
この人が・・・?
- 45 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月10日(火)22時39分14秒
- 「今日はお忙しい中・・・」
「いや、堅苦しい挨拶はえぇ。先ず、キミらがやろうとしていることは、死ぬこともありえるんや」
関西弁のその男は、裕ちゃんの挨拶を遮って続けた。
「実際オレはそんなヤツらを見てきた・・・キミらに死んでもえぇって覚悟はあるんか?」
「・・・・・」
死んでもいい覚悟。
そう、漠然とはしていたけど、いつも頭の奥にはその言葉があった。
だけどいざ言葉として耳に入ると、それは別の言葉のように感じる。
「それと、絶対成功させるためには、人を殺さなアカンこともある。キミらに人が殺せるんか?」
「・・・・・」
殺す。
あたしに人が殺せる?
あの青い制服を纏った警官みたいに、あたしは殺すことができる?
撃つ瞬間、ニヤリと笑って・・・
「もしキミらが一切の血をも流さずに革命を起こしたいと思うてんのなら、それは甘いで。
革命に犠牲は付き物や。どうしても邪魔な相手が出てきはったら、殺してでも進む必要もある」
「・・・・・」
その男はあたし達ひとりひとりの顔を真剣な眼で見つめる。
思わず逸らしたくなる気持ちを抑えるのに苦労した。
「少し・・・」
裕ちゃんが重い口を開いた。
「少し考えさせて下さい」
「あぁ、えぇで。ただ、覚悟もしっかりできて、ホンマにやる気ならオレも面倒はちゃんとみる。
それだけは憶えといてな」
- 46 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月10日(火)22時39分47秒
- あの関西弁の男は帰った。
男が置いていったのは、"死んでもいい覚悟"と"人を殺す"という言葉。
それは最もなことで、「〜するのはイヤだ」なんてワガママなんかは通用しないんだってこと。
それを極みまで持っていくと、"死ぬ"、"殺す"ってことになるんだと思う。
「なぁみんな、どうする?"死んでもいい覚悟"、"人を殺す覚悟"が必要なんやって・・・」
それぞれがなんとか自分の考えを纏めようとしているように見えた。
あたしと同じで、頭にあってもそれを前面に押し出されると、やっぱり考えちゃうみたいだ。
「・・・今すぐに答えは聞かん。みんな家に帰って、よう考えてくれてかまわへん。
その覚悟を持てた人だけ、次は集合しよう。持てへんかった人は来んでえぇ、強制はせんから」
誰も何も喋らなかった。
「先に言うとく。あたしは例えひとりになっても、続けるで」
そう、裕ちゃんには先立つひとつの決心がある。
あたしはあの日、裕ちゃんの口からそれを聞いていた。
「それじゃ、今日は解散・・・」
- 47 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月10日(火)22時40分19秒
- 「ねぇ圭織・・・」
帰り道。
「ん?」
「裕ちゃんはさ・・・きっとホントにひとりになっても、何かしようとするよ」
「え?」
「なっち、聞いちゃったんだ・・・裕ちゃんがこの運動に参加している理由・・・」
「・・・・・」
「なっちにはね、重すぎた。なっちの理由なんか比にならないくらい、重かったよ。だから・・・」
「ねぇなっち」
圭織はあたしの言葉を遮った。
「カオはね、思うんだ。そりゃ裕ちゃんひとり残ったら、とか思うとアレだけどさ。
これはやっぱり一時の感情とかそういうのじゃなくて、自分の意志を尊重するべきなんだって」
「で、でも・・・」
「だからさ、恐いとか思うんだったら、今なら辞めちゃえる。これは最後のチャンスなんだと思う。
明後日までゆっくり考えて・・・自分の考えを出そうよ」
「うん・・・」
「それじゃあ、死んでもいいって思えたなら、明後日・・・」
「うん、アジトで逢おうね」
"死んでもいい覚悟"
"人を殺す覚悟"
恐くないって言ったら嘘になる。
本当は震えてしまいそうになるほど恐いんだ。
圭織が言った通り、これが最後のチャンスなんだとしたら・・・
今までにも何度か「引き返すなら今」って言われたけど、今回は本当にそう思える。
援助されて、実際に行動し始めたら、簡単には脱退できなくなりそうだ。
これが本当の、最後のチャンス・・・
最後の・・・
- 48 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月10日(火)22時40分52秒
- 北海道を経ってから、気づいたら9日目。
「なつみ?どうしてたのよぉ。全然連絡取れなかったから、心配してたのよ?」
ここのところ連絡を経っていたお母さんに電話をしてみた。
「うん、ゴメン。ちょっと忙しくてさ」
「そう・・・あのね、従兄弟のカズちゃん、一昨日亡くなったそうよ」
「う、嘘・・・」
「なんでも、お酒飲んで酔っぱらって騒いでたところをウルサイって、警官隊に撃たれたんだって・・・
お葬式があるから、なつみも帰ってきなさい」
「・・・・・」
「なつみ?」
「・・・お母さん、ゴメン。なっちどうしても帰れないんだ」
「え?忙しいの?」
「ゴメン、またかけるね」
「ちょっとなつみ・・・」
ピッ。
許せない。
警官隊の横暴を・・・それを認めているこの国を、許せない!
- 49 名前:shape 投稿日:2001年04月10日(火)22時43分05秒
- >>40
では、今のままで続けさせてもらいますね。
おつきあい戴けるとありがたいです。
正直書きたいシーンまでまだまだ遠いです・・・(笑
- 50 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月10日(火)23時02分27秒
- 長いお付き合いになりそうで(W
- 51 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月16日(月)03時35分13秒
- ─4─
運命の日。
あたしの気持ちは、ある一方にガチガチに固まっていた。
変えてやる、こんな国!
決意の紙に書いた決意よりも、遥かに強く大きかった。
放っておくとこの国は、あたしの大事な人達を全て殺してしまいかねない。
どこまでやれるかわからないけど、でも、やらなきゃいけないんだ。
変な焦燥感と義務感に追われながら、あたしは家を後にした。
定時よりも少し早めに出て、歩いて行った。
元々遠くもなくて、歩いてでもいける距離なんだ。
もちろん、回り道をすることは忘れていない。
ここは駅から近い場所、そしてあたしが初めて殺人を見た場所。
その時の雑踏や興奮はもうないけど、生々しい血の跡が地面に染み込んでいるのを見つけた。
「・・・・・」
血の跡に手を触れた。
不思議と恐さはなかった。
代わりに思い浮かんだのは、ニヤリと笑いながら引鉄を引いた、あの警官への憎悪。
殺せるかもしれない。
あんなヤツラなら、いっそ殺してしまいたい。
そうすることであたしの大切な人達が助かるのなら、この手を血で染めてもいいと思った。
定時近くに、あたしは喫茶店へと入ることができた。
みっちゃんに例の合言葉みたいな物を言って、アジトの入り口へ案内してもらう。
ドキドキしていた。
一体何人が、あの覚悟を受け入れられたんだろう。
裕ちゃんは絶対にやるって言ってたから、あたしを入れて最低ふたり。
圭織はどうするんだろう・・・
長い付き合いだけど、ここまで切羽詰まった状態になったことは一度もなかったから、見当もつかない。
彩っぺは・・・明日香は・・・
わからない。
圭織でさえ予想もできないんだ、彩っぺと明日香の行動が読めるワケがなかった。
「ふぅ・・・よし!」
自分を少しだけ落ち着かせて、あたしは運命のトビラへと足を運び始めた。
- 52 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月16日(月)03時35分46秒
- トントン・・・。
トントントントントン・・・。
ギィーーーーーーーーーー・・・。
「・・・なっちか、おはようさん」
「裕ちゃんおはよう・・・」
「入りや〜」
「うん」
・・・誰も来ていなかった。
「・・・誰も来てないね」
「あぁ、まだなっちだけやで・・・誰も来ぃへんかもしれんな」
「・・・・・」
退くのも勇気だ。
それでも文句は言えない。
「あ、ほら、でもなっちさ、少し早めに着いたから・・・」
「ん?そうか?」
腕時計を確認すると、定時よりも数分早い。
ほんの数分だけ・・・
トントン・・・。
「あ!」
「誰か来たみたいやな」
トントントントントン・・・。
「なっち、迎えたって」
「え?いいの?」
「あぁ、えぇよ」
あたしはすぐに立ち上がって、重い木のトビラを押した。
「あれ?なっちだ。裕ちゃんは?」
眩しそうな顔をした明日香が立っていた。
「もちろん、いるよ!明日香、いいの?」
「いいもなにも、あたしは最初からやる気だったんだよね。なっちこそ、大丈夫なの?」
「うん、なっちね、やらなきゃって思ったんだ・・・がんばろうね」
「うん!」
「そんなとこで立ち話してへんで、中入りや」
裕ちゃんが嬉しそうに言ったから、あたしと明日香はお互いの顔を見ながら笑った。
- 53 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月16日(月)03時37分16秒
- 3人。
明日香が来てから、もう10分くらいは経ったかもしれない。
もちろん、定時は過ぎている。
たったの10分や20分くらいの遅刻、あってもおかしくない・・・と思う。
「なぁ、もしこのまま3人やったら・・・解散しようと思うんやけど・・・」
「えぇ!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!なんで?」
裕ちゃんの突然の申し出に、明日香が過剰に反応を示した。
「たった3人で何ができる?アンタらホンマに人を殺せるんか?」
「そ、それは・・・やってみないとわかんないじゃん!」
「あたしにはそうは思えへん。それにアンタらはまだ若いんや。進んでその手を血で染める必要はないで」
「裕ちゃんはどうするの?ひとりでもやる気なんでしょ?前になっちに話してくれたじゃん、親友の・・・」
「なっち!それ以上話したらアカンで!」
「・・・ゴメン」
あたしは感情にまかせて、ついあの話しをしてしまいそうになった。
- 54 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月16日(月)03時37分48秒
- 「・・・裕ちゃんは、自分ひとりでこの国を変えられるとか思ってるの?」
「!?」
「それは甘いんじゃないかな。裕ちゃんひとりじゃこの国どころか、街ひとつだって動かせないよ」
「ちょっと明日香・・・」
あたしが止めるのも聞かず、明日香は続けた。
「裕ちゃんにどんな過去があったかは聞かないけどさ、別に興味ないし。でもさ、裕ちゃんひとりじゃ、
できるはずだったこともできなくなりそうだよ。裕ちゃんひとりの命を賭けたくらいじゃ全然・・・」
「じゃあどないせいっちゅうねん!あたしには他に賭けれる物なんて・・・」
「あたし達の命も賭けてよ!!それでもどのくらいの足しになるかはわかんないけど、あたし達仲間じゃん!」
「あ、明日香・・・」
裕ちゃんは明日香の言葉に、口を覆った。
きっと溢れ出そうになった涙を抑えようとしているんだ。
「裕ちゃんちょっといろいろ背負いすぎなんだよ。少しはあたし達にも手伝わせてよね」
「そうだよ裕ちゃん。なっちにも何ができるかわかんないけどさ、それでもきっと何かできるんだから。
たった3人でもあの男の人の援助を受ければ、きっと何かできるよ・・・一緒にがんばろうよ」
「なっち・・・」
抑えきれなくなった涙が、裕ちゃんの頬を伝って流れ落ちた。
「ゴメンな・・・ホンマにゴメン・・・ありがとな」
あたしもなぜか涙が込み上げてきた。
情けないなーとも思いながら、涙が出てくるのを抑えきれなかった。
トントン・・・。
「ほら、賭けれる数がまた増えたよ」
明日香が笑いながら、親指を立ててトビラの方を指した。
- 55 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月16日(月)03時38分21秒
- ギィーーーーーーーー・・・。
「遅くなってゴメン!ちょっと電車のダイヤが狂ってさぁ・・・あれ?明日香。裕ちゃんは?」
「いるよ。中で泣いてる」
「え?なんかあったの?」
「うぅん、なんでもないよ。ほら彩っぺ、突っ立ってないで入った入った!」
「う、うん・・・」
中に入ると彩っぺは、泣いているあたしと裕ちゃんの顔を交互に見て、不思議そうな顔をした。
「なに?ケンカでもしたの?」
「ちゃうよ・・・ケンカやないねんけどな・・・ゴメンな入っていきなり・・・」
そう言って裕ちゃんは涙を拭って、アイシャドーはすっかり落ちていたけど、いつもの調子に戻った。
あたしにはそんなに変わり身を早くするなんてことはできなかったから、そのまま端っこで泣き続けた。
それは悲しい涙じゃなくて、明日香の言った言葉があたしにも嬉しかった涙。
「まぁいいけどさ・・・裕ちゃん、あたしもやるよ。これからもよろしくね」
「彩っぺ・・・こちらこそ、よろしくな」
「お互い、がんばろうね!」
「あぁ・・・」
4人目は彩っぺだった。
彩っぺが来て、さらに10分。
「圭織来ないね・・・」
明日香が呟いた。
「・・・・・」
誰も答えられなかった。
「なっち・・・何も聞いてない?」
「・・・圭織ね、これが最後のチャンスなんだって言ってた。あれはなっちに言ってたと思ったけど・・・
もしかしたら・・・」
「・・・そっか」
それ以上、明日香は何も言わなかった。
そして、また時間が過ぎていった。
「・・・そろそろ時間や、上、行くで」
「・・・・・」
誰も喋らなかった。
静かに席を立ち、階段を上る。
来た時は開店されてた喫茶店は、お客さんが誰もいない状態になっていた。
「閉店しといたで」
みっちゃんが裕ちゃんにそう言ってた。
裕ちゃんはあたしの肩をポンと叩いて、お店の電話へと向かって行った。
- 56 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月16日(月)03時38分51秒
- 「あの男の人が来るまで、大体30分くらいや。それまでに来んかったら圭織は・・・」
語尾を置きっぱなしにしたまま、裕ちゃんは俯いてしまった。
"自分の意志を尊重するべきなんだ"
"今なら辞めちゃえる。これは最後のチャンスなんだと思う"
"自分の考えを出そうよ"
圭織があたしに言ってくれた言葉。
あれは本当に、あたしに言ってくれた言葉だったのか。
もしもあれが自身に言っていたんだとしたら・・・
圭織は来ないかもしれない。
そして、もし来なくても、恐いのは十分わかるから、やっぱり責められない。
それも圭織の意志なんだから。
数秒置きに腕時計を確認しては、外を眺めていた。
外を歩く人達が平和なように見えるけど、実際にはそうじゃないことを知った。
だからあたしは今ここにいて、こうして外を眺めている。
それを教えてくれたのは、圭織。
その圭織は、ここにはいなかった。
イライラしだして腕時計をはずし、見えないように伏せた時にはもう15分を過ぎていた。
・・・もうどのくらい経っただろう。
数分にも思えるし、とっくに1時間経ってしまったようにも思えた。
その間話さず、ただ、ジッとしているだけだった。
他のみんなも同じで、唯一動き回っているのはみっちゃんだけだった。
みっちゃんは食器を洗ったり、それをしまったり、何かを出したり忙しそうに見えた。
裕ちゃんに一言二言何か囁くと、今度は銀色のプレートを持って、あたしの方へと近づいてきた。
「飲みぃな」
そう言って白いカップをあたしにくれた。
「この紅茶はな、心を落ち着かせてくれるんよ。熱いから、気をつけて飲むんやで」
「うん、ありがと」
フーフーと2、3回息を吹きかけて、湯気の出てる紅茶を一口含んだ。
「・・・美味しい」
率直な感想を口に出して、さらに一口、飲んだ。
「・・・どう?落ち着いた?」
「うん」
「大丈夫、圭織はきっと来る。ちょっと遅刻しとるだけや、心配せんでえぇよ」
「うん・・・」
カランカラン。
みっちゃんがちょうどみんなに紅茶を配り終わった時、お店のドアが音を立てて開いた。
入ってきたのは・・・あの男だった。
- 57 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月16日(月)03時39分23秒
- 「アカンで自分、遅刻したら・・・」
「「「???」」」
男は後ろを見つつ、誰かに話しかけていた。
「はい、すいません」
男の後ろから女の人の声・・・圭織の声だ!
「オレはえぇから、待っとったみんなに謝りや」
「はい・・・」
男がドアから離れると、圭織がひょこっと顔を覗かせた。
「圭織!!」
あたしは真っ先に駆け寄った。
「来ないかと思ったよ・・・」
「なっち・・・ゴメン、ちょっとヤボ用が入っちゃってさ・・・みんな、遅れてゴメンナサイ!」
「アカン、許さへんで!」
「ゆ、裕ちゃん・・・」
裕ちゃんの眼が、またあの鋭い眼光になっていた。
「遅刻してもうたら狂う計画やって、これからどんどん出てくるはずや。せやから許さへんからな、次やったら。
今回は、まぁ、許したるわ。なっちの涙に免じてな」
「え?」
あたしは自分でも気づかないで泣いていた。
5人!
これでやっと、全員揃うことができた。
圭織の遅刻も裕ちゃんが言った通り、今日だけは大目に見てあげよう。
「キミらがやる気やってのは十分わかった。よっしゃ、面倒見たるわ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
裕ちゃんが代表して、お礼の言葉を述べた。
そして深く一礼したから、あたし達もそれに倣った。
「あぁ、オレの名前はつんく。キミらを立派なレジスタンスとして、プロデュースしたる」
つんくと名乗るその男はそう言った。
プロデュース?
資金援助って話しじゃなかったっけ?
「あの、プロデュースってどういうことでしょうか?」
裕ちゃんにも不思議にとれたみたいで、その疑問をぶつけた。
「つまり、資金援助はもちろん、レジスタンスとして必要な訓練やら実行計画やらは、オレが面倒見たるってことや」
「は、はぁ・・・」
「不服か?」
「いえ、そうじゃないですけど・・・」
裕ちゃんはメンバーの方をチラっと見て、何か迷っているようだった。
- 58 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月16日(月)03時41分08秒
- 資金援助と訓練、そして実行計画。
これらは今のあたし達にとって、願ってもない申し出だと思った。
実際行動するにしても、素人なあたし達には、何をしていいのかもわからない。
それを上から見てる人に指示してもらって、さらにそれに必要な訓練まで受けられるなんて、この上ない好条件だ。
あたしは裕ちゃんと目が合うのを待って、コクンと頷いた。
それはあたしだけじゃなくて、圭織も明日香も、彩っぺも同じようにしていたから。
少しだけ悩むようなフリをして、その後、軽く頷いてから、裕ちゃんは話しだした。
「・・・あたし達に何ができるか、今の状況じゃ全然わからないですけど・・・お願いしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、まかせとき。何ができるか、そんなんは関係あらへん。要はやる気や!よろしくな」
つんくさんはあたし達ひとりひとりと丁寧に握手を交わした。
その手は大きくて、包み込まれるような感覚を憶えた。
「とりあえず今日は、キミらの意志確認に来ただけや。具体的なことは、こっちから連絡入れるから待っとき」
そう言い残してつんくさんは帰った。
- 59 名前:〜MISSION 1〜 投稿日:2001年04月16日(月)03時41分53秒
- 「えぇか・・・」
アジトに戻り、それぞれの席に座って、誰となく裕ちゃんの言葉を待った。
それに応えるように、裕ちゃんはしっかりした口調で切り出した。
「これであたし達は、前に進む準備ができた。ここからが始まりなんや」
そう、ここから始まるんだ。
散々悩んだあの覚悟も、スタート地点に立つための決心。
「今日、ここから始まる長い旅・・・あたしは誰一人として欠けることなくゴールへと辿り着きたい」
裕ちゃんは手の甲をテーブルの中央へと差し出した。
「よろしく頼むよ、リーダー」
彩っぺがその上に手を重ねる。
「カオも足引っ張らないようにがんばる!これからもよろしくね、リーダー」
圭織が手を重ねた。
「もうひとりで全部背負おうなんて考えないでよ?あたし達もいるんだからさ」
「あぁ、頼りにしてるで」
明日香が手を重ねた。
「なっち迷惑かけちゃうかもしれないけど・・・でも、出来る以上のことをやりたいと思ってるんだ。
そうじゃないとこの国は変えられない・・・そうでしょ?」
裕ちゃんはそっと頷いてくれた。
「だから・・・そのためには、みんなの力が必要なんだ。なっちはこのグループに入れて、ホントによかったよ。
がんばろうね!」
あたしも精一杯力強く、手を重ねた。
「みんな一緒に最後まで行くで!」
「「「おう!」」」
今日この時この場所から、あたし達の戦いは始まった。
- 60 名前:shape 投稿日:2001年04月16日(月)03時43分08秒
- >>50
どうでしょうか、何か気になる点とかあったら言ってくださいね。
次回更新も間が空いてしまいそうです(汗
- 61 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月16日(月)21時23分36秒
- 多少、間が空いても、このくらいの量を一気に読めるほうがうれしい。
こういう色の作品は、レスしにくいけど、楽しく読ませてもらってます。
- 62 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年04月21日(土)23時00分39秒
- ─1.出発─
「そろそろ・・・いいんじゃない?」
腕時計に目を向けて、彩っぺがお気に入りのワルサーPPKにマガジンをセットした。
銃器の類いはもちろん、つんくさんからの支給だ。
どこでどう手に入れたのかはあたし達の知るところじゃないから、聞かなかった。
別にあたしはそんなことに興味はないしね。
ピーピー・・・ガガガーガー・・・
「こちらB班、聞こえますか?どうぞ」
彩っぺがトランシーバーで裕ちゃんたちに連絡を取った。
ガーガガー・・・
「こちらA班、聞こえます、どうぞ」
「只今より裏口より突入します、どうぞ」
「了解。気をつけて!どうぞ」
「そっちもね。どうぞ」
B班はあたしと彩っぺで編成されている。
「明日香、行くよ!」
「うん!」
あたしはシグ/ザウエルP230にサイレンサーを取り付けて、彩っぺの後に続いた。
出発の日から数日後。
つんくさんからの使いの人が、あたし達のアジトを訪れた。
彼は名前を、和田とだけ言った。
「えー、つんくさんは忙しいので、みんなへの伝達等はオレが引き受けます。まず、最初の伝達は・・・」
わざわざ語尾を置いて、彼は話し続けた。
「キミ達にやってもらうことを、この紙に書いてありますから、えー、よく目を通してください」
4、5枚くらいの紙の束がひとつずつ、みんなに配られた。
「えー、まず1枚目と2枚目には・・・つんくさんがこれから作りだそうとしている、複数のレジスタンスチームによる
巨大なプロジェクトのタイトル、主旨、大まかな内容などが書かれています。これは各自読んでおいてください」
"Hello!Project"
大きな斜体の文字で、そう書かれていた。
「キミ達はこのプロジェクトの一番目のチームです。キミ達の活躍によって、レジスタンスの存在を知り、
参加したいと言う人も増えるでしょう。えー、このプロジェクトが成功するかどうかは・・・
つまり、キミ達の目的が達成できるかどうかは、キミ達にかかっていると言っても過言ではないかと思います」
そして2枚目には、夢のようなプランが書かれている。
そう、夢のような・・・
でもその夢は、あたし達がやりたいこととキレイに重なっていた。
- 63 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年04月21日(土)23時01分12秒
- 「えー、では3枚目を見てください」
みんなが同じように1枚目を捲った。
「3枚目には、えー、キミ達にやってもらうことの詳細が書かれています」
・・・え?
"暗殺部隊"
何度読み直しても、2枚目にはそう書かれている。
"少人数で出来る、最も効果的な反政府運動"
確かにあたし達は少人数で、大きな運動なんて出来ない。
そして決断の日には人を殺すことへの覚悟も決めた。
でも・・・人を殺すことに対しての恐怖が消えたワケでもない。
「そう、キミ達には暗殺部隊になってもらいます。国家主要人物を消せば、もちろん国家も動乱するでしょう。
上手くいけば建て直せないほどにまでなるかもしれません」
「で、でもなっち達には暗殺なんて・・・」
「もちろん、そのための訓練は受けていただきますよ。えー、使用する器物も、こちらで全て支給します。
では、4枚目を・・・」
4枚目そのための訓練の大まかな内容、5枚目には実行予定のプランが書かれていた。
実際に動き出すのは1ヶ月後。
それまでは訓練、訓練の繰り返しだった。
「えー、さっそくですけど、トレーニング場所まで行きましょう」
「は?い、今からですか?」
「えー、そうですよ。まあ、今日は行くだけですけどね。えぇ、場所の確認です。では、行きましょう」
「でも、この人数で纏まって行ったりしたら、怪しまれるんとちゃいますか?」
「えぇ、その件なら大丈夫ですよ。表に車止めてありますから、それで行きます」
小さいバスのような車が、表に止めてあった。
確かにこれならこの人数乗れそうだ。
「訓練って、どんなことするんだろうね・・・」
隣に乗り込んだなっちが小声で話しかけてきた。
「そりゃ・・・う〜ん、暗殺ってのに必要な訓練ってことでしょ?」
「ま、まさか訓練で人を殺しちゃったりしないよね・・・」
「それはないと思うけど・・・」
ここから先は、未体験ゾーン。
好奇心任せに入ったレジスタンスチームが、こんなに早く進展するとは思ってなかった。
半ば父親への当て付けで入ったような物だから、決断の日は気が重かった。
ただ、一度仲間となった彼女達に、仲間外れにされるのが恐かっただけなのかもしれない。
- 64 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年04月21日(土)23時01分43秒
- バスは快調に走っているように思えた。
事実、黒いスモークが貼ってある窓の外が滑らかに動いていた。
隣に座るなっちも緊張からか、もう何も話しかけてこない。
あたしも黙って、ただ外を眺めていた。
いや、その言葉は正しくない。
外を眺めるフリをして、あたしは考えていたんだ。
これまでのことと、これからのことを・・・
「えー、到着しました」
窓の外を流れる景色が固定されると、助手席の方から和田さんがそう言った。
昇降口に一番近い位置に座っていた裕ちゃんが、力任せにドアを開いた。
暗かったバスの中とは対照的な、外の明るい太陽の光に思わず目の前を覆う。
「えー、では、こちらへどうぞ」
和田さんの誘導に従って、あたし達は初めて見るビルの中へと入って行った。
ビルの中は、お世辞にも栄えてるとは言えない程度にお粗末な印象を受けた。
それでもロビーには受付嬢、そしてスーツ姿の男の人が数人見えるから、このビルは動いているんだろう。
これはつんくさんの会社のビルなのか。
もしそうだとしたら、受けられる援助や訓練にも少しばかりの心配をしてしまう。
そうこう考えながら歩いていると、気がつくといつの間にかひとりになっていた。
「え?・・・みんなはどこ?」
前にも後ろにも、横を向いてもみんなの姿はなかった。
「おーい・・・」
トレーニング場がここにあるとはいえ、会社の中だったから大きな声は出せない。
「みんなー・・・」
虚しく木霊するだけだった。
これは・・・どうやら迷子ってやつになってしまったようだ。
「う〜ん・・・どうしよう」
受付嬢に聞いてみるのもいいけど、この会社の社員達はつんくさんの正体を知っているのだろうか。
いや、知らないと思う。
知っていたら、あたしだったらそんな危ないとこで働きたくはない。
まあ、あたしはもうすでにそういう状況にいるんだけど。
「あ!明日香いたよー」
なっちの声だ。
「も〜、ちゃんと着いて来なきゃダメだよー」
「あは、ゴメンゴメン」
「こっちだよ、行こ」
なっちに手を引かれて、少し戻って階段を下った。
こんな時になんだけど、少しだけ照れた。
- 65 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年04月21日(土)23時02分15秒
- 地下1階。
和田さんと、一緒に来たなっち以外のメンバーが、あたしを待っていてくれる。
「何やっとんねん、明日香!」
「ゴ、ゴメン・・・」
「ボケーっとしとらんと、しっかり前向いて歩きやー」
「うん・・・」
裕ちゃんにとっては何気ない一言だったのかもしれない。
"しっかり前向いて"・・・
なぜか心の隅っこに、グサッと突き刺さった気がした。
でも、その時は大して気にしなかった。
「えー、地下1階は倉庫となってます。そのまま2階まで降りちゃってください」
言われた通りにB1の看板を見ながら通り過ぎて、B2と書かれたドアの前まで降りた。
「えー、こちらがキミ達に使っていただく、トレーニング場です」
B2の文字の入ったそのドアは、普通のオフィスのドアのようだった。
「そしてこちらが、えー、キミ達にいろいろ教えてくださる、夏先生です」
ドアを開けてすぐの場所に、背の高くて少し筋肉質な体つきの女の人が立っていた。
「夏です。キミ達のことはビシバシ鍛えていくから、そのつもりで」
「「「よろしくお願いしまーす」」」
「それじゃあ、今日は確認だけなので・・・」
「あ、和田さん、ちょっといいですか?」
夏先生が和田さんを連れて、あたし達から少し離れた場所で話し始めた。
トレーニング場と言っても、見た目はなんだか普通のオフィスと変わらない。
受付みたいな白いカウンターがあって、その後ろと左右に数個のトビラ。
それぞれにネームプレートが貼ってあるけど、この距離からはよく読み取れなかった。
「えぇ・・・えぇ・・・はい、えぇ・・・はい・・・はい、わかりました」
和田さんの声だけが聞こえてきた。
あの人はどうやら内緒話しの出来ない人のようだ。
「今和田さんにもお話したんだけど、アナタ達にこれからちょっとしたテストみたいな物を受けてもらうわ」
「て、テストですか?」
「そうよ。あ、テストって言ってもそんな堅苦しい物じゃないから。じゃあみんな、こっちの部屋へ・・・」
夏先生が入った部屋は、入り口のドアから正面に当たる部屋だった。
- 66 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年04月21日(土)23時02分47秒
- 「えっと、まず、この部屋は射撃訓練室。完全防音だから、気にするのは銃弾の数だけでいいわよ」
お祭りの射的よりも低いカウンターと、人の形をしたマトとなる物との間は、ざっと見て5mくらいはありそうだ。
「アナタ達の中に、実弾を撃ったことのある人はいないわよね?」
「「「・・・・・」」」
ピストルがら実弾が弾きだされる音は、何度も聞いたことがある。
日常で警官が所構わず発砲するこの国では、それが普通だ。
でも、さすがに、一般人のあたしには発砲どころか所持権さえ認められていないから、触ったことはなかった。
「・・・いないか。じゃあ、今から少しだけ持ってみましょう」
そう言うと夏先生は、部屋の端にあるロッカーのような場所から大きい箱を3つ持ってきた。
「この中には、本物のピストルが入っています。いろいろな種類があるから、触ってみて気に入ったのを使っていいわよ」
箱の中には黒い小さな箱があって、その中にはいろいろなピストルが、丁寧に置かれていた。
「あー、これカッコイイ!カオこれにしよーっと」
圭織が手にしたピストルは、見た目にもなんだか時代遅れのような、古い形をしている。
「えーっと、アナタ、名前は?」
「あ、飯田圭織です」
「飯田ね。それはコルトパイソン357マグナムと言う銃よ。6インチだから命中率もいいわ」
「へぇー・・・」
圭織は満足そうに手にしたピストルを眺めていた。
本物のピストルを手にして、あたしもなんだか興奮していた。
「アナタ、名前は?」
「え?あたしですか?」
「そう、アナタ」
気に入ったひとつのピストルを手にしていたあたしに、夏先生が話しかけた。
「えっと、福田明日香です」
「福田ね。それ、気に入ったの?」
「はい、まあ・・・」
そのピストルは銀色で、なんだか強そうな印象を受けた。
「それはシグ/ザウエルP230って言う銃よ。中型の銃としては優れた方ね」
シグ/ザウエルP230か・・・
気品と高級感の漂っている彼女の重さは、ズッシリと手に心地よかった。
この銃とだったら、なんでもやれそうな気がする。
そして彼女はきっと、あたしを裏切らない。
- 67 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年04月21日(土)23時03分17秒
- 「試しに撃ってみる?」
357マグナムを嬉しそうに見つめる圭織に、夏先生が言った。
「・・・いいんですか?」
「えぇ、いいわよ。どうせこれからレッスンで何度も撃つんだし」
夏先生はマグナムの銃弾を、さっきのロッカーから一箱だけ持ってきた。
「ちょっと貸してみて・・・」
圭織から手渡されたピストルからマガジンを外し、ひとつずつ丁寧に銃弾を込め始めた。
5発くらい入れられたマガジンをピストルに戻して、そっとテーブルの上に置いた。
そして、みんなにヘッドホンのような物を手渡していった。
「・・・カオ、やっぱり恐いかも」
そう言いながらも圭織は、テーブルの上のピストルにスッと手を伸ばした。
「狙うのは急所じゃなくて、身体の中心よ。それなら多少ズレてもどこかに当たるわ」
テレビ番組の刑事のように、右手を真っすぐに伸ばして半身の状態で、圭織がマトを狙っている。
「片手じゃ危ないわ。両手で腕を真っすぐ伸ばして、腰に重心を置きなさい」
「はい・・・」
両手に持ち直して、圭織は再びマトを狙う。
トリガーに人さし指を掛けて、ひとつ、軽く頷いた。
「・・・いくよ」
視線が鋭くなるのがわかった。
あたしはヘッドホンをした。
外音が遮られる。
そして、圭織のピストルが火を吹いた。
次の瞬間、圭織は後ろによろけて、そのまま尻餅をつく。
ヘッドホンを取って、あたし達は圭織の感想を待った。
「・・・すご〜い!」
立ち上がる術を忘れたかのように、ボケーっと銃の先を見つめている。
その銃の先からは煙が出ていて、火薬の匂いが辺り一面を包んだ。
「反動がどれだけ凄いか、わかったかしら?」
圭織くらいの身長があっても倒れてしまう。
あたしやなっち、裕ちゃんだったら吹っ飛んでしまうかもしれない。
「この反動を少しでも少なくしなきゃ、ちゃんと狙ったところには当たらないわよ。
そのための訓練もこれからビシバシしていくから、覚悟してなさい」
そう言って夏先生は、マトの遥か上、天井を指さした。
さっき圭織が撃った銃弾は、小さな穴を作っていた。
- 68 名前:shape 投稿日:2001年04月21日(土)23時08分01秒
- >>61
う〜ん、レスしにくいですか(汗
でも、やっぱりレスが1個でもあると嬉しいです。ありがとうございます!
視点はコロコロ変わります。
今回は明日香の視点。
銃に関しては、webでちょっと調べた程度なんで、間違ってるかもしれません。
それと、やっと書きたいシーンに近づけた(w
- 69 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月21日(土)23時50分21秒
- 少人数で出来る、最も効果的な反政府運動=テロ
うーん、しかたがないといえばしかたないんだけれど……
Hello!Project=反政府運動プロジェクト
このギャップに笑ってしまいました。
次回の更新楽しみにしています。
- 70 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月02日(水)23時17分39秒
- ─2.訓練?実戦?─
夢を見た。
あの日あの時、あたしの目の前で、アイツは撃たれた。
泣き叫ぶあたし。
そして、アイツに走り寄って、あたしはグッタリとした血まみれの身体を抱きかかえる。
息絶え絶えになりながらも、アイツはあたしの手を握った。
そして、何かを言おうと口を開ける・・・
いつもここで目が覚める。
汗でビッショリ濡れたシャツを脱いで、バスルームに行くことからあたしの一日は始まる。
時々泣いてしまっていることもあるけど、最近はそれも大分減った気がする。
シャワーを浴びながら、アイツがあたしに言った最後の言葉を呟く。
「目を瞑ったらアカン・・・ちゃんと前を見るんや・・・」
朝9時半に家を出て、少しだけ周り道しながら、あたしは訓練場所のあるビルまで行く。
できるだけメンバー中1番に着くように心がけている。
あまり堅くなく、適度に縛るくらいの秩序と規律。
グループ内にもそれは必要やし、守らせるためにはあたしもそれなりの努力を要する。
あたしが憎まれることでこの計画が成功するんなら、あたしは喜んで憎まれ役を受け持つ。
最終目的はそこやなくて、もっと遠いところにあるんや。
そのビジュアルが幽かにでも見え始めた時、果たしてアイツはあたしのことを許してくれるんやろうか・・・
彩っぺとふたりで始めたレジスタンス活動。
圭織が増え、明日香が増え、圭織がなっちを連れてきた。
結果5人編成のレジスタンスチームとなったけど、あたしはこれに満足やった。
自然と繋がった仲間達は、あたしにとっては上出来なほどにいいコ達や。
人見知りの強いあたしは、まだそこまで打ち解けられないメンバーもいてる。
せやけど、ここは信用したらな出来ることも出来へんくなってしまう。
信用して、信用を得る。
目的達成への必要不可欠な難問やった。
しかし、まあ、そこはこれからどうにかなるやろ。
これまでもそうやったし、これからもそうやって生きていく気でいる。
自然と打ち解けられた時には、お互いに無理して距離を縮めた時よりも、その絆は固いかもしれへん。
根拠のない憶測に過ぎないけど・・・
とにかく、今のあたしに出来ることは、メンバーを信用したること。
その性格も、行動も、疑わずに受け入れるのは、難しいことなのかもしれへんな。
- 71 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月02日(水)23時18分13秒
- 「ねぇ裕ちゃん」
「ん?」
訓練にも大分慣れてきた頃。
あたしの隣で銃を見つめてはるなっちが、その柔らかい口調であたしに話しかけた。
「この銃、ホントに使わなきゃいけないのかな・・・」
「な、何言うてんねん今さら!もう引き返せへんのやで?」
「・・・そういう意味じゃないんだ。なんて言うか、こんな物騒な物を使わなくても、できることって
あるんじゃないかなーって」
「なあなっち、相手もそんな物騒な物を持ってんねんで?しかも自由に時場所かまわずぶっ放せる。そ
んなんを相手に、甘いんとちゃうか?」
「なんかね・・・やっぱりなっち恐いんだ」
「人を殺すんがか?」
「う〜ん、それも恐いけど・・・もっと恐いのは、いくら悪い人達って言っても、その人達を殺すのに
慣れちゃうことなんだ。そうなっちゃったら、その悪い人達と何にも変わんなくなっちゃうんじゃな
いかな」
人を殺すことをなんとも思わへんようになる時は、果たして来るんやろうか。
無論、誰かを殺すことは、あたしかて恐い。
今はこんなにも恐怖を憶えていても、いつかは慣れ、罪悪の感情も抱かなくなり、最悪の場合は快楽殺
人者になんてことも・・・
あまりにも大それた思考をしたために、思わず左右に首を振る。
「・・・どうしたの?」
その動作が不自然に感じたのか、なっちが心配したようやった。
「いや、なんでもあらへん・・・なあ、そないに先の事を心配してもしゃあないで。今は今できること
をやろう。な?」
「・・・うん」
ホンマに納得がいったのか、それともその場凌ぎの気のない返事やったのか。
それはあたしにはわかれへんけど、とにかくなっちを信じることにした。
訓練開始から1週間が経った。
最初のうちは、それがツライことにしか思えへんかった。
聞いた話によると、夏先生は元軍人やったらしい。
その指導は的確で、そして厳しかった。
自分やとわからへんけど、周りのメンバーを見ていると、その力は着実に上がってるように思えた。
少なくとも何もしてへんかった頃に比べれば、体力も格段上だ。
そんな中訓練中のあたし達の元へ、つんくさんが訪ねてきた。
「おう、やっとるな」
「「「おはようございます!」」」
「おはよう」
つんくさんが訪ねてきたのは、それが初めてやった。
- 72 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月02日(水)23時18分47秒
- その日のトレーニングも一通り終わって、終礼の時。
つんくさんから一言あるいうことやったから、あたし達は黙って言葉を待った。
「キミらホンマにがんばっとんな。お疲れさん。この調子やと来月始めに予定してる実行計画も無事に成功できそうや」
それもこれも、夏先生の指導のおかげですわ。
「そこでや。キミらのチームのコードネームっちゅうもんをつけたろうかと思うてな」
名前か。
考えたこともなかったけど、確かに呼ぶ時に困る。
「まだ夜の明けてないこの国に朝を連れてくる女の子チーム・・・モーニングっちゅうのはどうや?」
モーニング・・・か、えぇわ。
連れてきたろうやないか、この国に朝を!
「意義は・・・ないな?ほな決定やな。今日からキミらはモーニングや、名に恥じぬようがんばりや」
「「「はい!」」」
それだけを告げたかったのか、その日はそれで解散。
我らがモーニングは、次の日からも変わらずにトレーニングを続けていった。
それから2週間が経って、みんなの顔つきも変わったように思えた。
なんていうか、凛々しく力強い目になったような・・・
あたしも気づかないうちにそうなってきてるんやろうか。
「みんな!集合!」
トレーニングルームの入り口近くで、夏先生が集合をかけた。
「今日から実戦を想定した訓練に入るわよ。あと1週間しかないから・・・」
そうやった。
実際に行動するまで、あと1週間しかない。
「この1週間で、なんとか物になるようがんばりましょう!」
「「「はい!」」」
それを意識してまうと、あとに残るのは緊張と不安だけやった。
実戦を想定した訓練と言っても、動く的を狙って引鉄を引くことがメインやった。
反動には慣れた物の、まだ多少の衝撃で銃身がブレてまう。
それでも当てなアカンから、余計焦ってまたブレる。
夏先生はそれは仕様がないから、ブレた銃身で当てるようにと言ってたんやけど、それも難しい。
要はブレに慣れろということや。
そのためには、数撃ち込むしかない。
実行までの1週間の1日目は、その過程で陽を暮らしてしまった。
疲労と空腹に襲われながら、そそくさと家路に着いた。
- 73 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月02日(水)23時20分23秒
- 実行までの1週間の2日目。
午前中は訓練というよりも、実行過程を机上にて学習した。
侵入の経路、見つからないように走る方法、班分けされた別の班への連絡方法、緊急時の対処法、etc...
最終的には目標を暗殺、その後跡を残さずに脱出。
過程がわかると変に緊張度を増す。
果たして上手くいくんやろうか・・・
いや、上手くせなアカン。
もし失敗してもうたら、そん時は間違いなく殺される。
なんのために訓練しとんのや、大丈夫、上手くいく。
成功させてみせるで。
- 74 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月02日(水)23時20分56秒
- 昼食後の午後の訓練は、今までに一度も入ったことのない部屋へと連れてこられた。
そしてその部屋には、入り口と他にドアが2つあった。
「ここはシミュレーションルーム。簡単に言うと、毎回計画ごとに違う侵入経路をシミュレーションできる部屋よ。
じゃあ、みんなそこのロッカーに入ってる服に着替えて」
夏先生の指さした所に更衣室があり、個人名の入ったロッカーが設置されている。
あたしは自分の名前の書かれたロッカーを開け、中に入っている黒い服に着替える。
軽くて動きやすい服やけど、これは本番と同じ衣装なのか?
横を見ると彩っぺも、その隣の明日香も多少形は違えど同じ服。
どうやらこれがあたし達のユニフォームなんやな。
それと、リュックサックやポシェットなどのバッグが、ひとりひとつ。
「着替え終わった?じゃあ、説明だけするわ、集まって」
その説明はこうや。
この更衣室とは別のもうひとつのドアを開けると、その先は侵入経路がバーチャル映像で再現されている。
もちろん警備員やらその場所にいる一般の人らも、顔のない人として再現されているらしい。
せやけど、バーチャルヒューマンのいる場所は、入る度にランダムで変わってまう。
つまりはリハーサルのような訓練ができる部屋。
「要人の警備員だから、銃の所持は許可されてるわ。もちろん発砲もね。だから、ここにいる警備員も撃ってくるから。
心配しなくていいわよ、ちょっと痛みが走って、その時点で全員がスタート地点に戻されるだけだから」
ちょっと痛みが走って・・・か。
「それじゃ、とにかくまずは入ってみましょう。みんな、自分の銃を持ってドアの前に立って」
入り口のドアは、光が入らへんように、映画館のようなドアになってはる。
「一応言っとくけど、訓練だからって甘く見ないことね。実戦の緊張感だけは持っておくように」
「「「はい!」」」
「それじゃみんな、がんばって!」
「夏先生も言うとったけど、ホンマに実戦のつもりで行くで」
円陣を組んで、ひとりひとりの顔をしっかりと見た。
「失敗は死だと思って、カオは死なないようにがんばるよ」
「なっちも恐いけど・・・がんばる!」
「恐がりだねぇなっちは。あたしなんかちょっと興奮してきたよ」
「あはは、明日香らしいや。同じ班になるあたしには頼もしいよ」
「圭織、なっち、明日香、彩っぺ。行くで!」
「「「おう!」」」
- 75 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月02日(水)23時21分33秒
- まずは、班ごとに定位置へ。
ホンマに実地と一緒やったら、これは確認できてえぇわ。
午前中に夏先生が言ってた通り、塀には正面、裏口と2つ入り口がある。
そして、そこには両方とも警備員が立ってはる。
「裕ちゃん、あの人顔が・・・」
そう、顔のパーツがない。
目、鼻、口がなかった。
「・・・気持ち悪〜い」
なっちがさらに恐怖を憶えたらしく、嗚咽まで始めてもうた。
「ガマンするんや。実際は目も鼻も口もちゃんとある人間なんやから」
なっちの背中を擦ったった。
あたしらA班は正面でも裏口でもなく、正面より左側部分の塀を乗り越えて、警備員に見つからない場所へと隠れる。
そして、明日香と彩っぺのB班からの連絡を待つ。
とにかく、まずは塀越えや。
あたしは背負ってるリュックの中から、先に碇のような物がついたロープを取り出した。
周りを確認して、引っ掛かるように塀の上目掛けて、投げた。
シュー・・・カタ。
不自然な音が少しだけなってもうたけど、気づかれてへんことを祈って、ロープを引っ張った。
力を入れても外れないのを確かめて、後ろで待つふたりに目で合図した。
行くで!
あたしは力一杯ロープを引っ張って、塀を昇り始めた。
自分の身体を支えるのは思った以上に大変で、肩が外れてしまうんやないかと心配した程やった。
それでもなんとか昇り切・・・!!
塀の向こうには、例のノッペラボウの警備員が立ってはった。
そして目はないけど顔はこっちを向いていて、手に持った銃をあたしの方へ向けた。
「あ、アカン!」
叫んだ時には遅かった。
「裕ちゃん!!」
後ろでなっちの声が聞こえた瞬間、あたしは左胸に熱い衝撃を受け・・・
目の前が真っ暗になったかと思うと、次の瞬間には自分が寝そべっているような錯覚を受けた。
「裕ちゃん!裕ちゃん!」
・・・錯覚やない、あたしは今、寝そべってる。
いつの間にか閉じられていた目を開けると、メンバーの顔が飛び込んできた。
「裕ちゃん!大丈夫?」
「あ、あぁ・・・」
もう左胸に痛みはなく、手をあてがっても傷ひとつついてなかった。
あたしはあの時、確かに撃たれたんや・・・
- 76 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月02日(水)23時22分40秒
- 「ロープを投げた時、音がしたわ。その音に警備員が反応してしまったみたいね」
夏先生が厳しい口調で言い放った。
「せ、せやけど、あれはしゃあないんじゃ・・・?」
「しょうがないで済むことじゃないわ!いい?これはシミュレーションと同時に課題も探す訓練なの。
中澤の課題はロープを投げる時の音を消す!わかった?」
「・・・はい」
ホンマにそんなこと出来るんやろうか。
いや、出来んかったらさっきのように撃たれて死んでまう。
やらなアカンねん、絶対に・・・
その後もいくつかの課題が見つけられ、課せられて、なんとかクリアしていくことが出来た。
せやけど、その度にひとつずつ、何かわからへんモヤモヤが心の奥底に溜まっていく気がした。
それは降り積もる雪のように柔らかく静かに、どこからともなく積もっていく。
なんなんやろ・・・
気を抜くと忘れそうなほど感覚もないのに、その存在感は圧倒する物やった。
考えてもそれはわからへんかったから、あたしは気のせいやと思って放っておくことにした。
ただ、それの冷たさだけが、それからのあたしをずっとつついていた。
- 77 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月02日(水)23時23分12秒
- 残り2日、あたし達は何度も繰り返したシミュレーションも、やっと目標まで辿り着くことが出来た。
ランダムで位置の変わる警備員や一般の人らに見つからんようにする方法もわかったし、対応も出来るようになった。
目標暗殺完了後、ただちに帰還。
それでも相手に見つからんようにするんは一緒やからと、油断していた。
しかし、やっぱりそれがアカンかった。
あたしだけやなくて、一緒に行動してる圭織も同じやったらしい。
早く逃げることに気をとられてもうて、圭織は足音を消すことを怠った。
その結果、圭織は背中に衝撃を受け、ゴール目前でスタート地点へと戻ることとなる。
最後の最後まで気を抜いたらアカン。
圭織はもちろん、他のメンバーにとってもえぇ教訓になったわ。
次のシミュレーションが始まる前に、訓練で失敗を繰り返して、本番で成功させればえぇって夏先生が言うてはった。
せやけど、訓練で失敗してもうたことは、本番にも起りえる。
それを出来るだけ消化するシミュレーションやけど、完全なことなんてない。
訓練で成功したことやって、訓練による軽視と油断で失敗してまうことやってあり得るんや。
あくまでも必要なんは、適度の緊張感と危機感。
慣れすぎっちゅうのも恐いもんや。
失敗してもうた時の・・・最悪の事態の時の対策方法を夏先生から教わって、実行予定日を明日へと迎えた。
- 78 名前:shape 投稿日:2001年05月02日(水)23時26分52秒
- >>69
えーっと、メールのとこに書いてあるお言葉、大変参考になります。
そういった意見を書かれる方って少ないんですよね。
プロジェクトってのをなんか利用できないかなーとか思って、これを思い付きました(w
いかがでしたか?
文字数オーバーではじかれる・・・(涙
区切りまでをもう少し少なくしてみます・・・
- 79 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月03日(木)00時18分02秒
- コンサートのリハーサルを当てはめてるんですね。
いよいよ、コンサート本番?かな。(w
- 80 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月10日(木)02時04分09秒
- ─3.秒読み─
歩道を歩く。
何気ないこの道にも、小さなストーリーが沢山込められている。
出逢いであったり別れであったり、笑顔だったり涙だったり・・・
この道は、それらを沢山見てきた。
時には目を背けたくなるような出来事もあったけど、それでも黙って見てきた。
そしてカオは、それを聞くことが出来る。
黙って集中していると、物達の方から自然と語りかけてきたりする。
もちろん、カオから聞いたりしても、応えてくれる。
誰にも教えていない、不思議なチカラ。
カオにはそのチカラが、物心がついた時にはもう宿っていた。
カオが選んだ、このコルトパイソン357マグナムの6インチ。
外見ももちろんカッコイイけど、カオが選んだ理由は、実はその内面にある。
カオがこのコを手に取った瞬間、何か強い念を感じた。
それはとても嬉しいとは言えない、強い負の想いだった。
でもカオは、このコの話しを聞いてあげる。
カオはそれが、このチカラを持ったカオの役割なんだと思ってるから。
ピストルに意識を集中して、頭の中に入ってくる言葉に耳を傾ける。
・・・女の人の、暗く沈んだ重い声が、カオの意識に割って入ってくる。
次の瞬間、目の前に広がる風景は、どこかの田舎のようだ。
これはこのコが見た風景。
そして、このコの前の持ち主は、女の人だった。
カオに何かを訴えかけるかのようにピストルを握って、男の人へと向けられた。
かと思うと、女の人は何かを呟いて、先端を自分のコメカミ部分に押し当てる。
イヤ!やめて!!
見るに堪えなくなって目を閉じても、映像はしつこくカオの頭の中で再生されていた。
そして・・・
熱くなった血だらけのピストルは、コメカミ部分から反発する磁石のように勢いよく離された。
赤くなった映像の裏に、女の人の声が怨めしそうに聞こえる。
「アイツを殺して・・・私を裏切ったアイツを・・・」
気がつくと、カオはそのピストルを強く握っていた。
気のせいか、程よい重さでカオの手にぴったりフィットしてくる。
わかったよ・・・でもその代わり、カオにも力を貸してね。
そしてカオは、このコに決めた。
このコの前の持ち主の怨念と、カオ達の目的を果たす為に。
- 81 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月10日(木)02時06分17秒
- 最後のリハーサルの日。
昨日の最後の失敗は、カオのせいだ。
カオが目標暗殺に油断して、早く逃げることだけに気をとられていたからイケナイんだ。
本番には絶対ないようにしなきゃ。
今日こそは・・・と意気込んで来たけど、今日はシミュレーションはやらないみたい。
結局最後まで辿り着けないまま、カオ達は本番を行わなければいけなくなってしまった。
誰かが撃たれた時、もしくは目標暗殺に失敗した時の回避方法を、夏先生が話している。
あってはイケナイことだけど、もしもの時は個々の脱出を最優先とした行動を取ること。
「ひとりが欠けても、この計画はまだまだ続いていく物なの。だから、例え犠牲者が出たとしても、
自分の命を最優先として行動すること。もちろん、そんなことがないように祈ってるわ」
例えばこの中の誰かが負傷した場合、カオはその人を見捨てて逃げなきゃいけないらしい。
言葉で言うのは簡単だけど、カオにはそんなことは出来ないと思う。
まだ結成間もないグループだけど、それでも仲間は仲間だ。
人一倍仲間意識を強く持つカオにとっては、裏切りや見捨てる行為は、絶対に無理なんだ。
「それと、目標暗殺が目的なんだから、どうしてもって場合以外には警備員であっても撃たないこと。
撃つことによって自分達にもリスクが増えることを知っておいてちょうだい」
そりゃカオだって、出来れば撃ちたくはない。
でも、メンバーの中の誰かが危険に晒された時、それを救う為にはやむを得なく撃てそうな気がする。
それがどうしてもな場合ってことなんだろう。
- 82 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月10日(木)02時07分00秒
- トレーニングも終わって、プライベートな時間。
ここからのカオは、レジスタンスじゃなくて一般人。
「圭織、なっちと一緒に帰ろ?」
いつもなら一緒に帰ってるところなんだろうけど・・・今日はひとりになりたかった。
「あー、ちょっと寄ってかなきゃいけないとこがあるんだ」
「そう・・・じゃ、なっち帰るね」
「ゴメンね」
「うぅん。明日はがんばろうね」
「うん!絶対成功させようね!」
「じゃあ、また明日・・・」
「うん、バイバイ」
心なしか、なっちの顔に不安が読み取れた。
カオだって不安なんだ、こっちに来たばかりのなっちが不安にならないワケがない。
きっと他のメンバーだって、不安で仕方ないんだと思う。
でもカオは、そんな時はひとりきりになりたかった。
ひとりきりで気持ちの整理をつけて、自分自身で解決する。
カオはそうやって生きてきたんだ。
- 83 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月10日(木)02時07分31秒
- 空が月を向かい入れた時、闇が世界を音もなく包みこむ。
北海道にいた頃と違って、ここは月さえも朧に見える。
星空を恋しいって思ったことが一度や二度じゃないのは、誰にも言ってないことだ。
昼間の主も家で夢を見る頃、カオは誰もいない公園のブランコに乗っている。
誰が来るワケでもないこの場所で、カオは何かを待っていた。
自分の中で沸き起こる、不安。
頭の中を駆け回る、緊張。
そして、何よりもプレッシャーをかけてくる、青い月。
全てを見ているのに、カオには何も語りかけてくれない。
慰みの言葉だって、励ましの言葉だってかけてくれない。
無言の月は、いつだってカオを追いつめてくる。
5分・・・10分、いや、30分位は経ったのかもしれない。
カオはその場でずっと月と睨めっこをしていた。
「圭織?」
「え・・・?」
公園の入り口の方、誰かがカオの名前を呼んだ。
暗闇の向こうから、青い影がカオの方へと向かって、ゆっくり歩いてくる。
「・・・なっち?」
公園に備え付けられた電燈で、青い影は次第にその正体を表す。
「やっぱり圭織だ」
「どうしたの?こんな時間に」
「うん、なんだか眠れなくて・・・月を見てたら、散歩したい気分になっちゃった」
ここはカオの家となっちの家の真ん中ぐらいに位置している。
散歩で普通に来れる距離だから、ここに来たのも偶然かな。
「こんなとこで圭織に逢えるなんて思ってなかったよ」
「うん・・・」
「月がこっちの方に行けって言ってるような気がしたんだ。そしたら、圭織がここにいたんだよ。
なんかすごくない?」
「・・・うん」
カオには何も言ってくれない月が、なっちには囁いた。
カオですら聞いたことのないその声を、なっちは聞くことが出来たんだ。
ちょっとした嫉妬心が、カオの中で渦巻いてくるのを感じる。
「やっぱり・・・不安?」
嫉妬心を半ば強引に抑えつけて、カオはなっちに素直な気持ちを聞いた。
「うん・・・正直言って、なっちは恐いよ」
「そっか・・・そうだよね。カオだって恐いもん」
素直に言った"恐い"って言葉。
その言葉を何気なく吐き出した時、抑えつけていた嫉妬心がスッと退いていく気がした。
- 84 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月10日(木)02時08分05秒
- 「でもさ、カオ達は走り出すことが出来るんだから、がんばらなきゃ。まだ走り方を知らない人だっていっぱいいるんだからさ」
「・・・そうだね、この戦いに参加出来るだけでも、なっち達は幸せなのかもしれないね」
不安も緊張も、少しずつ弱まっていってるのが、ハッキリとわかった。
これはもしかしたら、月がカオのためになっちを呼んでくれたのかもしれない。
もしそうだとすると、初めて月がカオのためにアクションを起こしてくれたことになる。
「それじゃ、なっちもう帰るよ」
「あ、カオも帰るよ。途中まで一緒に帰ろ?」
「うん!」
不安と戦う。
自分自身のことだから、自分以外には解決出来ないだろうって思ってたけど・・・
今までずっと孤独な戦いだったけど、誰かと戦うのもいいかもしれない。
なっちの顔はよく見えないけど、ピリピリに張り詰めた不安の空気は、もう感じない。
ベストコンディションとまではいかないけれど、精神的に、今はいい状態なんだと思う。
それもこれも、全ては月のおかげなんだと思った。
いつもはカオを追いつめている青い月に、今日ばかりはと感謝した。
不安と緊張は無くなったワケじゃないけど、なっちのおかげで大分楽になった。
あの後すぐに眠れたカオは、気持ちのいい朝を迎えることが出来た。
作戦実行は、夜の9時。
お昼の3時までにはトレーニングルームに集合。
その後にちょっとした会議や最終確認をして、小型のバスで現場へと乗り込む。
カーテンを開けると、青い空が一面に広がっていた。
「う〜ぅん・・・っと!」
大きく伸びをして、大きく深呼吸をひとつ。
ケータイのディスプレイが、午前11時を報せている。
いつも通り地味目の服に着替えて、いつも通りお昼ご飯を食べに、外に出る。
「何食べよっかな〜」
今夜の戦いがまるで無いもののように、カオの気持ちは充実していた。
レジスタンスグループに加入してから数ヶ月、その間のカオの気持ちは、ずっと忙しなかった気がする。
何よりもカオ自身がそうするように努めてきたってのもあるんだけど・・・
それなのに、今日を本番に迎えて、カオは不思議な落ち着きを取り戻せた。
東京の来たての頃も、丁度こんな感じだった気がする。
まさに今そんな時なのに、早々からこんなことに巻き込まれたなっちが可哀想に思えた。
- 85 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月10日(木)02時08分35秒
- 午後2時38分。
トレーニング場がある駅に、カオは着いた。
ここから歩いて15分、あのビルへと辿り着く。
「圭織ー」
駅から出てすぐ、後ろから彩っぺが圭織の名前を呼んだ。
「一緒に行こうよ」
「うん」
平行線に並んで、ふたりであのビルを目指す。
この時間にこの場所だから、他の人とも逢いそうだと思ったけど、結局逢えたのは彩っぺだけだった。
「緊張するね・・・」
彩っぺがその言葉とは裏腹に、真っすぐ前を見据えながら言った。
「うん・・・」
カオは彩っぺの顔に、その心境を読み取ろうとした。
「ここまで来たら、悔いのないようにしなきゃね」
「うん・・・」
少なくとも臆している風には見えない彩っぺ。
ここ一番の度胸は、メンバー中この人が一番かもしれない。
「不安もないワケじゃない」
カオの思ってることがわかったのか、彩っぺがポツリと呟いた。
「でも、それに負けてたら前に進めないから・・・必死に抑えつけているだけ。本当は恐いんだから」
「・・・うん、わかってる」
恐くないはずがない。
カオ達は今日、ひとりの人間を殺しに行くんだ。
ビルに辿り着くまでのその間、別々の班のカオ達は、お互いの行動を復習しあった。
彩っぺと明日香の班は、言ってみれば補助的な役割だ。
カオ達の班はその補助を受けて、目標へ向かって突き進む。
どちらが欠けても成功しない作戦だから、各々の行動の重みは一緒だ。
それはみんなもわかってると思うから、どちらがいいとかって誰も言わない。
大事なのは、それに専念した、その結果なんだ。
午後2時55分。
カオと彩っぺは、トレーニング場のあるつんくさんのビルに到着した。
- 86 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月10日(木)02時09分16秒
- トレーニング場に最後に現れたのは、カオ達だったようだ。
他の3人はもうすでにいて、カオ達の到着を待っていた。
そりゃ逢えるワケないよ・・・
みんなが来るのが早すぎなんだよって言い訳しながら入室して、夏先生の指示を待った。
「まず始めに・・・みんな、今日までよくがんばったと思うわ。きっと成功するから、自信を持って挑みなさい」
「「「はい!」」」
1ヶ月ってのは、終わってみると短い物だ。
「それじゃ、最後の確認するわね・・・」
最初は何もわからなかったトレーニングも、今ではそれなりにこなせるまでになれた。
「・・・だから、ここでB班が・・・」
机上の図では完璧な作戦も、シミュレーションだと何度も失敗してしまった。
結局最後までいけなかったのが心残りだけど、なんとかなるさ!
「・・・と、ここまでが目標暗殺までの過程よ。脱出の経路は・・・」
自信を持っていいって、夏先生だって言ってたじゃん。
カオ達は絶対に成功させる・・・させなきゃイケナイんだから、させるんだ!
「・・・で業務終了。その後は各自バラバラに自主経路を辿って、バスが待機してる場所まで来ること。これで任務完了よ。
自分の力を信じて、最後まで油断なくやり遂げるように!」
「「「はい!」」」
「それじゃ、これからつんくさんがいらっしゃるみたいだから、それまで各自頭の中でシミュレーションしておきなさい」
つんくさんが来たのは、夏先生の話しが終わってから数十分後だった。
「おぅ、みんなえぇ顔になってきとるわ」
相変わらずの派手な外見のつんくさんは、入るやいなやそう言った。
「「「おはようございます」」」
「おはよう」
お決まりの挨拶を交わして、つんくさんの言葉を待つ。
「さて、今日がいよいよ本番や。特訓の成果、見せてもらうで。自分の力を過信しないぐらいに信じて、
悔いのないようにがんばりや」
「「「はい!」」」
あとは戦いの時を待つのみとなった。
それまでは治まっていた緊張が、次第に大きくなっていくのがわかった。
- 87 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月10日(木)02時09分46秒
- 夕ご飯は、みんなでお弁当を食べた。
何を食べても味がよくわからない。
誰も喋らない空間は、5人いてもカオだけしかいないような錯覚を受ける。
時間だけがただ、静かに過ぎ去っていった。
午後8時。
「そんじゃ、そろそろ行くで」
つんくさんの一声で、張り詰めていた空気が、さらに張り詰められる。
重い空気の中、カオ達は一斉にバスに乗り込んで、現場まで運ばれる。
その間、やっぱり誰も話さなかった。
車内に備え付けられたデジタル表示の時計が20時48分を指した頃、バスは停車した。
ついにカオ達は、現場に到着した。
初めて見る、本物の現場はシミュレーションよりも明るくて、厳しい空気が張り詰めている気がした。
驚いたのは、造りがシミュレーションと全く一緒だったことだ。
これによってか幾分カオの緊張は静まっている。
それはきっとみんなも同じだろう。
程よい緊張感を持って行動した方が、成功しやすいって誰か言ってた。
そう考えると、今の状態がベストコンディションとも言えるんだと、カオは思った。
「いよいよ本番や・・・」
出発前、リーダーである裕ちゃんが、円陣の中で静かに叫ぶ。
「一発勝負!失敗は絶対に許されへん」
それぞれがそれぞれの顔を見回した。
なっちを見た時に、緊張の中に少しだけ笑顔が混じっていた。
カオはその笑顔が出たことで、安堵感を得ることが出来た。
「自分の力を信じて、悔いのないように・・・最後まで油断は禁物やで」
裕ちゃんがカオの顔を見た。
「わかってるよ」
カオはちょっと不貞腐れたフリをして、その後笑顔で返した。
「ほんじゃ、みんなで力を合わせて・・・がんばるでっ!」
「「「おう!」」」
バスの重いドアを開けて、カオ達は一斉に作戦通りの方向へ飛び出していった。
- 88 名前:shape 投稿日:2001年05月10日(木)02時12分20秒
- >>79
そうですね、リハはそのままって感じです(w
っていうか、ダラダラ長くてすいません。
つい説明的な文章になっちゃって・・・
( ● ´ ー ` ● )<次回はいよいよ突入するべさ。
- 89 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月10日(木)04時43分30秒
- 最初は、ずっと安倍さんの一人称でもいいんじゃないかと、思ってましたが、
今回の話で、考えを改めます。
飯田さんがすごくいい味をだしていました。
次も楽しみにしています。
- 90 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月17日(木)23時29分22秒
- ─4.the first assassination ─
あたしの愛機は、ワルサーPPK。
一目惚れと言っても過言ではないくらい、こいつに惚れ込んでいる。
外装といい使いやすさといい、あたしにしっくりくる銃だ。
そのワルサーに銃弾をフルに詰め込んだマガジンをセットして、時計に目を向けた。
そろそろかな・・・
ピーピー・・・ガガガーガー・・・
「こちらB班、聞こえますか?どうぞ」
トランシーバーで裕ちゃん達A班を呼び出した。
ガーガガー・・・
「こちらA班、聞こえます、どうぞ」
少々の雑音の後、低音を削ったような裕ちゃんの声が聞こえて、ほっとする。
「只今より裏口より突入します、どうぞ」
「了解。気をつけて!どうぞ」
「そっちもね。どうぞ」
トランシーバーを腰につけているバッグにしまい込んで、代わりに赤外線スコープを取り出す。
「明日香、行くよ!」
「うん!」
裕ちゃん達とは丁度反対側の塀をよじ登り、侵入口である北側の窓へと走り出した。
最初の目的場所であるその窓に着いた時、シミュレーションとあまりにもそっくりなことにびっくりした。
あそこまで巧妙に作られたシミュレーションでも上手く出来てたんだから、大丈夫だ。
そう言い聞かせて、作戦通り窓にコンパス状の物を取り付けて、スーっと回す。
すると窓は軸を中心に円状にカタっと外れて、そこから鍵を開ければ大きい音も立てずに窓を開けることが出来る。
つまり、監視している警備員にさえ気をつければ、難なく侵入成功だ。
「・・・・・」
後ろにいる明日香に無言で頷いて見せると、明日香もコクンと頷く。
あたしと明日香は繰り返されるシミュレーションの中で、自然とアイコンタクトを習得していた。
そんなに長い言葉は無理だけど、それでも確認や誘導、危険信号など必要なことは、一通り出来るはず。
明日香の無言の言葉を確認して、あたしは音を立てないように努めて、窓を横にずらす。
大きく開いた窓から入った風で、窓際のカーテンがたなびいている。
あたしはそれを無視して、窓辺に手をかけて一気に這い上がった。
そして明日香の侵入を手伝って、2番目の緊張するポイント、その部屋のドアの手前でワルサーに銃弾を転送する。
- 91 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月17日(木)23時29分59秒
- ドアの側の床に耳を当て、足音が聞こえないのを確認して、静かにドアを少しだけ開けた。
隙間からは誰も見えない。
音を立てないようにドアを一気に開けて、ドア枠に貼り付いて銃を構え、左側の確認をした。
明日香はこういう時、あたしと丁度反対方向での行動ををするから、右側を見ていたはずだ。
誰もいないことに胸を撫で下ろし、再び明日香に目で合図を送り、ドアをそっと閉めてあたしの確認した方向へと、
音を立てないように気をつけて走り出した。
次の曲がり角が近づくと足を緩め、あたしは角の向こう、明日香はあたしの後ろを確認する。
曲がり角はこの配置で決まっていて、あたしは後ろの明日香に安心しながら前方だけに集中することが出来た。
シミュレーションではここに人が立っていて、気づかれてしまって失敗したこともあった。
だけど今は違う。
回避方法だって習ったし、それを実行することだって出来た。
大丈夫、ちゃんと見なきゃ。
銃を胸元に構え、そーっと角の向こうを覗き込んだ。
・・・ふぅ。
幸いそこには誰もいなくて、また明日香に合図を送ることが出来た。
あたし達の最初のポイントは、電送室。
侵入口の窓のある部屋からはそう遠くなくて、3〜4つ角を曲がってそこにある階段を降りれば、すぐそこにある。
途切れることのない緊張感。
手に汗を握るスリリングな展開。
あたしの求めていた物は、正にこれだった。
少なくとも真面目だったとは言えない学生時代から、この手のスリルを求めて生きてきた。
しばらく触れないでいるとどうしようもない焦燥感に襲われるのは、一種の麻薬みたいな物なのかもしれない。
裕ちゃんと偶然知りあって、話をしているうちにこういうことになってしまったけど、これでよかったんだと思える。
ああ、あたしは今、求めていたスリルを味わえている・・・
あたしはなんて幸せ者なんだ!
自然と足が躍りだしそうになるのを必死で堪えて、階段へと突き進む。
・・・本当はレジスタンスなんて、どうでもいいのかもしれない。
- 92 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月17日(木)23時31分21秒
- 1段ずつ慎重に階段を降りる行為は、端から見ればずいぶん滑稽なことだろう。
右足を音を立てずに1段下がった地面へと降ろすことは、意外と難しい。
それでも多少なりとも急がなきゃならないから、気持ちばかりが焦ってしまう。
やっぱりシミュレーションと本番は違う。
緊張も張り詰められた空気も、自分にかかるプレッシャーもシミュレーションとは比にならない。
ワルサーを握った右手に、汗がじわりと滲むのを感じる。
右手から左手に持ち替えて、右手の汗を裾で軽く拭ってから持ち直したけど、ワルサーについた汗で再び右手は湿る。
前方に注意して、空気の移り変わりを読み取り、周りの気配を察知する。
異常なほどになけなしの神経をすり減らし、あたしはまた1歩、下の階段へと足を降ろす。
階段を降り終わる頃には、侵入から15分ほどの時間が過ぎていた。
ここまでは計画通り。
次は目の前の送電室に侵入する。
もちろん、そこには管理者や一般の働いている人がいるだろうから、まずはその人達をどうにかしなければいけない。
後ろにいる明日香に目で合図を送り、あたしも赤外線スコープを目にかけて、バッグの中からマスクを取りだし、装着する。
それと一緒に取りだした缶状の物を手にして、再び明日香に合図を送った。
マスクと赤外線スコープで目が見えないため、明日香は頷いてそれに応える。
それを見るとあたしはドアを軽く開けて、手にした缶状の物をほうり投げて、閉めた。
1・・・2・・・3・・・4・・・5・・・
体内時計で30秒数えてからドアを開けると、送電室にいるはずの人達はぐったりとしている。
缶状の物の中身は、協力な催眠ガスだった。
眠っている人の間を抜け、全室のブレーカーへと近づいた。
あたしはブレーカーを手にして後ろを振り向くと、少し離れた所で明日香が銃口をこっちに向けていた。
ひとつ頷いて大きく深呼吸して、次の瞬間にブレーカーを一気に落す。
視界が緑に変わり、咄嗟にあたしはその場から離れた。
そして・・・明日香が構えていたサイレンサー付きの銃でブレーカーに1発・・・2発。
バチバチッと火花が散って、ブレーカーは2度と上がらない状態になった。
あたし達は次のポイントへ向かうべく、足早にその部屋を後にした。
- 93 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月17日(木)23時31分55秒
- 頭上にある廊下の窓の灯が、突然消えた。
「行くで!」
赤外線スコープを装着して、あたしは裕ちゃんの後に続く。
裕ちゃんは手に持った銃で一気にガラスを割って、階段に向かって緑色の廊下を突っ走った。
あたしの後ろには圭織が、後ろに注意をしながら走っている。
センターに位置するあたしは、今は前を向いて走ることが与えられた任務。
とにかく足音を消して、裕ちゃんに置いていかれないように一生懸命だった。
ふっと目の前を走る裕ちゃんが、ちょっとずつ上に浮いていく。
そう、そこには上に昇る階段がある。
丁度学校や病院と同じような狭い螺旋階段は、気をつけないとここの人にばったり会ってしまう恐れがある。
それでも3つある階段のうち比較的使われていない階段を選んだはずだから、今のところは大丈夫そうだ。
この階段を、この建物の最上階の4回まで昇らなければいけない。
訓練前は考えられなかったこの行動も、今のあたしならなんとか耐えられる。
2階、3階と過ぎて、4階への階段に指しかかった頃。
裕ちゃんが前方に人の気配を感じて、あたしたちに止まるように合図する。
幸いまだ階段には入っていなかったから、逃げ場もあるし、隠れることも出来る。
相手は警官隊に似た格好の警備員で、急に停電になったということで多少混乱しているようだった。
タッタッタッタ・・・
それは一瞬のことのように思えた。
裕ちゃんは警備員のスキを見つけるやいなや、一気に走り出した。
その早さで音を消す動作はまだできないから、普通に走る音はしている。
警備員は当然それに気づいて、闇の中で音の方へと銃を構えた。
が、裕ちゃんの方が1手早い。
素早く警備員の後ろに回り込むと、銃のグリップ部分で警備員の頚椎に1発。
ドカッ!
「うわっ・・・」
バタン・・・
鈍い音の後、警備員は呻き、そのまま前に倒れ込んだ。
「・・・ふぅ」
聞き取れるか聞き取れないかくらいの声で一息ついて、あたしと圭織に向けて親指を立てた。
すごい!裕ちゃんすごいよ!
思わず声を出して称賛したい気持ちになったけど、あいにく声は出せないなのが惜しい。
その後すぐ、裕ちゃんから「行くで!」の合図が出たから、あたし達は4階へと向けて階段を昇り始める。
裕ちゃんの会心のそれは、シミュレーションでも決まったことがないくらいキレイな一撃だった。
- 94 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月17日(木)23時32分25秒
- 4階。
この通路の一番奥の部屋に目標がいるはずだ。
しかしこの通路だけは主要人物が留まるフロアなだけあり、他と違って警備員が多い。
さっきの裕ちゃんの方法だとこっちが先にやられちゃうから、別の方法で突破する。
成功のカギは、B班が握っている。
数多い警備員に見つからないように、暗闇でひっそりと待機せざるを得なかった。
永遠とも思える数分間、息さえも満足に出来ないこの状況で、B班の無事と成功を祈っていた。
後ろの圭織の顔にも少しだけ焦りの色が伺える。
裕ちゃんは少しイライラしながら、前方の懐中電灯の灯に注意を払っていた。
あたしの中の不安は、この時最高潮に達しようとしている。
その時。
ピーーー・・・ピーーー・・・ピーーー・・・
警備員達の持つ無線機が、夥しく警笛を鳴らす。
「どうした!?・・・わかった、すぐ行く!」
一言二言無線機に向かって話すと、警備員は自分の部下らしき警備員ひとりにその場に残るよう指示して、
他の警備員達と一緒に奥にある階段を駆け降りて行った。
それを確認して、裕ちゃんは後ろにいるあたし達の方を振り向き、ひとつ頷いて、一気に飛び出した。
あたし達も遅れないように後へ続く。
警備員の持った灯があたし達の方向を照らす。
「だ、誰だ!」
裕ちゃんは構わず突っ走る。
突っ走って・・・その警備員におもいっきり打つかっていった。
「ぐあ・・・」
そしていつの間にか取りだしていた1枚の布で鼻と口を覆うと、警備員は一切暴れなくなった。
クロロフォルムをドップリと染み込ませたその布で覆われた警備員は、その場で深い眠りについてしまったのだ。
これでこのフロアはクリア。
後は目標の眠る目の前の部屋だけとなった。
- 95 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月17日(木)23時32分59秒
- あたしは音を立てないように、慎重にドアを開ける。
右には裕ちゃん、左には圭織が、一方だけにありったけの注意を払っている。
あたしはサイレンサー付きのベレッタM92Fを腕いっぱい伸ばしてかまえて、目標の眠るベッドへと近づく。
これで・・・これで任務完了だ。
時間にして40分、50分といったところかな。
ベッドの上の布団がふっくらと膨らんでいる。
枕の方へと移動して、頭が出ているのを確認すると、一旦大きく息を吸い・・・吐く。
「・・・・・」
これさえ終われば、帰ってシャワーを浴びられる。
いろんなことを、圭織や裕ちゃん達といっぱいお話しして、いっぱい笑える。
これさえ終われば・・・
「・・・・・!!」
この土壇場に来て、あたしの手、足は細かく震えていた。
やっぱり恐い。
どうしても拭い切れなかった、人を殺すことへの恐怖。
あたしがこの引鉄を引くだけで、この人の人生は終わる。
今まで積み上げてきたことも、砂場の山のように簡単に崩れ去ってしまう。
人をひとり殺すことはこんなにも恐怖を憶えることなんだ。
その恐怖は、想像以上の・・・いや、思ってた数百倍はある気がした。
「なっち!どないしたんや、はよしてぇな!」
小声で掠れた声で、裕ちゃんがあたしを急かす。
そうか、これはあたしひとりの為じゃない。
今こうして助けてくれているメンバーの為、この国を変える為なんだ。
その為には、この人がいたら、成しえないんだ。
だからあたしはこの人を殺す。
何よりも、あたし以外の全ての人の為に・・・
その場凌ぎの覚悟を決めた。
おもいきって震えた腕で照準を合わせて・・・力を込めて握る。
パシュッ!
空気を切るような乾いた音、身体に響く重い反動。
そしてあたしに飛び散る暖かい液体。
確実に当たった。
そして、目の前の男は死んだ。
- 96 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年05月17日(木)23時33分32秒
- 生死の確認はしなかった。
うぅん、正しくは"出来なかった"んだ。
さっきまでは明らかに生きていたひとりの人間の、暖かい血がそれを物語っている。
明日の朝まで眠るつもりの人間が、永遠の眠りについた瞬間だった。
シミュレーションと違ったのは、人間の顔があることと、あたしに血が飛び散ったことだった。
「なっち!なっち!」
裕ちゃんの声が、遠いところに聞こえる。
「なっち!」
声のする方を見ると、裕ちゃんはすぐ側にいた。
「行くで!はよこの場を離れるんや!」
「あ・・・うん」
裕ちゃんに手を引っ張られて、表面上の自分を取り戻すことは出来た。
でも、あたしの頭の中は人を殺したこと、鼻には血の匂い、手には血の暖かさが残っていた。
「大丈夫?」
走りながら、階段を下りながら、圭織があたしを気づかってくれる。
「うん・・・」
譫言のような生返事しか返せないあたしが、そこにいた。
「しっかりしぃや〜!ここから出るまでのガマンやで!」
「うん・・・」
「・・・・・」
あたしをサポートするかのように、裕ちゃんと圭織はさっきまでよりも神経を磨り減らした。
あたしはただ・・・音を気にして走っているだけだった。
走ったり止まったり、裕ちゃん達の指示に従っているだけだった。
「もう少しやで!」
「もう少しだからね!」
「うん・・・」
聞こえてはいるけど、もう何を言っているのか理解していなかった。
聞こえる音、鼻に入る空気、目に映る物、触れる感触・・・
全てがあやふやだった。
ただ頭の中では、さっきの出来事が、鮮明に繰り返されていた。
「見えた!一気に行くで!」
入ってきた窓から、勢いよく飛び出した。
その後のことは、一切覚えていなかった・・・。
- 97 名前:shape 投稿日:2001年05月17日(木)23時35分57秒
- >>89
なっちひとりの視点だと後々大変かなって思って変えちゃったんです(w
でも、この方が話しも広がるかなーって。
見切り発車の為、一部読みずらい部分があると思います。
というか、考えが中々纏まらずに・・・(涙
- 98 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月18日(金)00時05分35秒
- 圭織の参加目的。なっちの初めての行為、今回はずいぶんハードですね。
このあと、それぞれの意識がどう変わっていくのか、
次を楽しみにしています。
- 99 名前:shape 投稿日:2001年05月18日(金)00時35分42秒
- >>98
始めは彩っぺの視点でした。
わかりづらかったですか?(汗
ちなみにA班B班の合流は脱出後です。
あー、反省・・・
- 100 名前:98 投稿日:2001年05月18日(金)00時58分42秒
- >>99
すんません。読み直したら、銃がちがってたね。
思い込みって恐ろしい…
とりあえず100get
- 101 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月05日(火)22時10分26秒
- けっこう、間があいてしまったけど…
話の一番大事なところだからなのかな?
とりあえず、期待sage
- 102 名前:shape 投稿日:2001年06月07日(木)23時33分13秒
- すいません、HDDがいかれてしまって、復旧作業中しています。
もう少し時間がかかると思いますが、気長にお待ちください(汗
- 103 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月07日(木)23時47分10秒
- oh!
気長に待つさぁ。ガンバッテ!
- 104 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月07日(木)23時54分48秒
- >>102 安心しました。のんびり待ってます。
- 105 名前:〜MISSION 2〜 投稿日:2001年06月17日(日)01時35分42秒
- ─5.祭りのあと ─
記憶の糸がプッツリ途絶えてしまっていた、空白の時間の後。
気がつくとバスの中だった。
どこをどう辿って行き着いたんだろうか、あたしは一切覚えていない。
バスは走っているようにも思えるし、止まっているようにも感じ取れる。
まだ全てがぼんやりしている中、手に握ったままのベレッタに目が行く。
途端にフラッシュバックのようにあの瞬間が、頭の中でリプレイされる。
あたしはこの手で・・・この銃で人を殺したんだ・・・
「・・・うぅ・・・えぐっ・・・」
ふいに泣きだしてしまった。
血だらけのベレッタを持ったまま、目を覆った。
「えぐっ・・・えぐっ・・・」
嗚咽が止まらないや・・・
鉄のような乾いた血の匂いが、鼻をついた。
「なっち・・・」
頭を抱いてくれたのは、隣にいる圭織だった。
「よくがんばったね・・・もう大丈夫だからね・・・」
優しい言葉を掛けられて、優しく頭を撫でられた。
優しくされればされるほど、あたしの涙は止まらなくなる。
圭織の胸の中、優しい匂いと血の匂いに囲まれたまま、あたしはただ泣き続けた。
夏先生の激励を受け、つんくさんの称賛を受けても、嬉しいとは思えなかった。
シャワーを浴びて返り血を落して、スッキリしたはずなのに爽快感なんてなかった。
もう、恐いとかそういう感情すら持てなくなっていた。
あたしにあるのは、熱い、冷たい、痛いとかの体感する感情。
欠落した感情は、どこへ行ったのだろう。
探す気なんて、最初からなかったのかもしれない。
それならそれでかまわない、そう思ったのかもしれない。
やる気も怠惰感もなくて、あるのは真っ黒な霧に包まれた思考。
メンバーとの会話もそこそこに、あたしは家路へと着く。
帰り道に見た大きい月が、あたしのことを嘲笑っている気がした。
でも、悔しさや恥ずかしさを抱くことなんて、一度もなかった。
- 106 名前:shape 投稿日:2001年06月17日(日)01時40分05秒
- ここまでを第1部とさせて戴きます。
>>103 >>104
HDD復帰不可能なため、2部は1から書き直さなければなりません。
そのため今暫くお時間を戴くことになります(涙
出来るだけ急ぐので、もう少しだけ待っててくれると嬉しいかなー・・・(笑
2部からはまた人が増えます。そういうことです。
- 107 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月17日(日)01時53分06秒
- 実際のコンサートとは違って、終わったあとの高揚感はないですね。
これから、みんながどう変わっていくのか…
お待ちしています。
- 108 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月19日(木)14時41分11秒
- ずっと待ってるので頑張ってください。
- 109 名前:〜MISSION 3〜 投稿日:2001年07月30日(月)04時10分08秒
- ─1.保田圭の場合 ─
私の日常は、平凡で退屈な物だと思う。何ら代わり映えのない極普通の、つまらない物
なんだ。同じ位の歳のコと唯一違う点は、私自身が高校へ通っていないこと。高校生活に
さえ面白さを見出せず、そこにいることへの怠惰を感じ、結局辞めてしまった。両親には
申し訳ないと思うけど、私は自分の信念に従って生きているから、どうしても曲げられな
かった。つまり、私は今、中卒のフリーターだ。何もすることがないから、仕方なくアル
バイトに精を出す日々を送っている。でも、高校でつまらない生活を送るよりは、自分自
身でお金を稼ぐこっちの生活の方が、よっぽど学ぶことが多いと、私には思える。社会へ
の対応を踏まえた上でも、やっぱりこちらの方が断然上だ。
しかし、その生活も、私は飽きてしまう。生来の飽きやすさに加えて、毎日が同じこと
の繰り返しというこのアルバイトは、少し退屈過ぎた。
「いらっしゃいませ〜」
笑顔でお客を迎えて、笑顔で注文を取り、笑顔でお金を預かり、笑顔で品物を渡し、笑
顔で送りだす。
「ありがとうございました〜」
……つまらない。ある程度までそれを習得し、慣れてしまうと、私は極端にそれを嫌っ
てしまいそうになる。
変化だ。私が欲しい物、それは変化なんだ。それも天地を揺るがす程の、特大な……。
しかし、そんな常軌を逸したことが日常に落ちているはずもなく、私はただ繰り返される
日常に流れるまま流されているだけで、どうすれば見つけられるのか、どうすれば手に入
れられるのか、私にはその方法すら見当もつかなかった。
「いらっしゃいませ〜」
今日も私は、流されている。このままではイケナイと気持ちが焦るけれども、どうする
ことも出来ないから、流されている。
「ありがとうございました〜」
半分ぐらい人生を諦めかけていた頃、あの男が私の前に現れた。
- 110 名前:〜MISSION 3〜 投稿日:2001年07月30日(月)04時10分53秒
- 「いらっしゃいませ〜。ご注文がお決まりになりましたらどうぞ」
いつも通りの笑顔、いつも通りのセリフ。いつもと変わらない日に思えた。
「ん〜……スマイル」
「はい?」
「いや、キミのスマイル」
……はあ。居るんだよね、こういうヤツ。そりゃ確かにメニューにも載っているけどさ。
罰ゲームか何かは知らないけど、こっちは仕事でやってるんだから、常識的にやめて欲し
いよ……。それまでにも何度かこういうことがあったけど、私はそれに対するセリフを持
っていた。
「お持ち帰りですか?」
これで大抵の人は紅い顔をして帰って行く。きっとこの人も……
「ハッハッハ、キミえぇセンスしとるな、気に入ったで」
「は、はあ……」
き、効いてない……。
「チーズバーガーとポテト、あとアイスコーヒーひとつな」
関西弁のその男は、私の反撃にも全く顔を紅くせず、本来の注文品を口に出した。
「お、お待たせしました」
私はその男を恐怖した。少なからず、今までの私の日常には見たことのない人種だった
からだ。
「なあキミ、バイト何時に終わる?いや、ナンパとか、そういうんちゃうで。キミに話が
あんねん」
「……5時には終わります」
「よっしゃ、そしたらそん時にまた来るわ。忘れんと待っててな」
「はあ……あ、ありがとうございました」
話ってなんだろう。あの人は何者なんだろう。なぜ私なんだろう。色々考えてしまって、
その後の仕事は、普段やらないようなミスを連発して、バイト仲間や店長にまで心配され
る始末だった。
- 111 名前:〜MISSION 3〜 投稿日:2001年07月30日(月)04時12分04秒
- そして迎えた、上がりの時間。
「お先に失礼します」
いつもと同じ言葉で終わりを告げて、私はお店を出た。いつもならそのまま駅に向かう
んだけど、今日はあの男の人を待つために、お店の外で待たなければならない。道路沿い
に植えられた街路樹の横で、私はちょこっと座ってあの男を待つことにした。
……どれくらいの時間が経ったんだろうか。10分、30分、いや、1時間?とにかく、
あの男はまだ現れない。人を待つ時に、無性に長く感じてしまうのは、なぜなんだろう。
携帯電話の時計を見ると、待ち初めてまだ18分しか経っていなかった。あの男のあの約
束は、ナンパ目当てのただの戯言だったのかもしれない。私はそれを信じて、あの男にと
てつもない変化を重ねて、知らずに期待していた。
「……帰ろっかな」
私は自分をバカだと責めて、その場を去ろうと立ち上がった。
「お、もう帰るんか?」
背中から声が聞えた。あの男の声だった。
「ワルイ、ちょっと忙しぅて遅くなってもうたわ。すまん」
「あ、いえ……」
「立ち話もなんやから、喫茶店にでも行こか」
「はあ、いいですよ」
私たちはすぐ近くにある、小さい喫茶店へと移動した。
カランカラン。歩道よりも一段上にある喫茶店のドアは、乾いた音を立てて来客を報せ
た。
「いらっしゃいませ」
気のせいかもしれないけど、その店員さんの声は関西訛りに聞えた。普段聞きなれてい
ないイントネーションには、敏感に反応するってのを、何かの本で読んだ気がする。
空席ばかりの喫茶店は、失礼だけど寂れた感じがする。あの男の誘導で、窓からイチバ
ン離れたテーブルを囲んだ。
「えーっと、コーヒーでえぇか?」
「あ、はい。なんでも」
「コーヒーふたつ」
誰もいない喫茶店に、オーダーの声が響いた。
「あの、お話というのは・・・?」
「あぁ、その前に、2、3質問させてな」
「は、はぁ・・・」
「まず、君の名前は保田圭、フリーターやな」
手にしたファイルブックのような物を見ながら、名前と職業を言い当てられた。この男、
なんで知ってるの?
- 112 名前:〜MISSION 3〜 投稿日:2001年07月30日(月)04時13分09秒
- 「君は今の生活に飽いてるんとちゃうか?満足してへんやろ」
「はぁ・・・多少は」
何から何まで知ってるかのように、その男は私の考えていることを当ててみせた。確か
に今の生活には満足していない。私が欲しい物、それは変化だ。今でも変わっていない。
「今の生活に大きな変化を与えてみたいと、思わへんか?」
「・・・出来るんですか?」
「あぁ、出来るで。しかもドデカイ変化や」
「ど、どんな?」
男はファイルブックを閉じて、私の顔をじぃーっと見ながら話す。
「今は言えへん。ただ、それなりのリスクを負うことになる。死ぬかもしれへん」
「し、死ぬかもって・・・」
「それだけやないねんけどな。要は君のやる気と覚悟次第や。今すぐ決めとは言わへんさ
かい、じっくり考えて決めたってや」
「・・・・・」
死ぬかもしれない?そんなに危ないこと、出来るワケ・・・
運ばれてきたコーヒーを一口啜っても、私は男の目を見ることが出来なかった。
「変えたいんなら、自分から動くしかないで。オレはその手助けをするだけや。そこから
先は、君の判断で決まる。もしやる気になったんなら、×月×日の夕方6時までに、この
店に顔出してや」
そう言って男は1枚の長方形の紙切れを私の目の前に差し出した。
総合プロデューサー つんく
「何のプロデュースかは、その時に話す。かなりの危険を伴う仕事や。イヤやったら来ぃ
へんでえぇからな」
私は席を立って一礼して、その場を去ることにした。
行動を起こして危険を伴うのを嫌がれば、変化など手の届かない物となってしまう。そ
れは何に関しても同じことだと思う。ただ、それがどの程度の危険なのかは、経験したこ
とのない私には、さっぱり想像もつかなかった。
- 113 名前:shape 投稿日:2001年07月30日(月)04時17分31秒
- 短いですけど、とりあえずここまで更新です。
書き方を変えてみました。
でもしっくりこないので、元に戻します(w
>>107
そうですね、高揚感はどうしても書けませんでした(汗
初めて殺したあとって、どうしてもこうなってしまうかなーと。
>>108
長いかな?と思いつつも、心理描写には力を入れています(w
これからも更新が遅れてしまってご迷惑をおかけしますが、がんばりますのでご了承ください(w
今回はちょっと強引だったかな・・・
- 114 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月31日(火)02時34分22秒
- 待ってたよ〜
ゆっくりでいいんで、頑張って下さいな
- 115 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月03日(月)02時45分53秒
- まってます。
- 116 名前:shape 投稿日:2001年11月04日(日)23時05分49秒
- ホンっトーにごめんなさい(汗
諸事情により書けない状態が続いてました。
本日より少しずつ書き進めていって、ある程度まとまったら投稿したいと思います。
>>114 >>115
もう忘れてしまってますよね・・・
復帰目指してがんばります・・・
- 117 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月18日(日)00時44分48秒
- 覚えてるよ。
待ってるから。
- 118 名前:115 投稿日:2001年11月18日(日)01時23分33秒
- 覚えている。
待っている。
- 119 名前:〜MISSION 3〜 投稿日:2001年11月21日(水)04時08分54秒
- ─2.市井紗耶香の場合 ─
生きていれば必ず、何においても優先しなければいけないことが、多々ある。
それは家族だったり友情だったり、自分の信念やモラル、時には好奇心だったりもする。
必ずしも2択ってワケじゃないし、正解があるワケでもない。
あたしは今、その中でも究極の選択をしなければイケナイ場なのかもしれない。
夕方の参道は、少し眩しい。
いつだってそうなワケじゃなくて、今日は一段とそう思える。
──試合に負けた。
あたしは自分の剣道に、自信があるワケでもないけど、やっぱり負けるのは悔しい。
沈んだ気持ちのままの帰り道、重い荷物が鬱陶しくさえ感じた。
「惜しかったよ」
「残念だったね」
「次にがんばればいい」
そんな励ましの言葉を、優しい友人達がかけてくれる。
でも、それらの言葉はあたし自身を虚しい気持ちにしてしまう。
駅に着いて、切符を買い、電車を待つ。
友人達はもう別の話しに夢中で、あたしのことなんかどこ吹く風だ。
でもいいんだ。
この方が気が楽だし、ゆっくりと自分自身を慰められる。
─2番線に、上り列車が参ります。ホームの線の内側に・・・─
アナウンスが聞こえると、ホームは騒々しく動き始める。
- 120 名前:〜MISSION 3〜 投稿日:2001年11月21日(水)04時11分06秒
- その時、唸るような高い音が一瞬聞こえた。
そして、階段から男の人が、息を切らせて走ってくる。
「待てー!!」という声が聞こえて、さらに一回・・・二回。
あたしはその音を聞いたことがあった。
覚えていないくらい幼い頃だったけど、その音がなにかってことは、はっきりと覚えている。
・・・それは銃声。
やがて警官隊が2人、追われている男のあとに続いて階段を駆け登ってきた。
追われている男は、慌ただしく動くホームの人込みの中なら撃たれまいと思ったのかもしれない。
しかし、現実は違った。
警官隊はお構いなしに、膝を落として安定した姿勢を作り、銃口を向け・・・撃つ。
「うわっ!!」
しかし当たったのは、運悪くその場に居合わせたサラリーマン。
「チッ!」
あたしは巻き込まれないように、男から離れた場所で一部始終を見ていた。
- 121 名前:〜MISSION 3〜 投稿日:2001年11月21日(水)04時12分16秒
- 他の人も同じように、端へ、端へと移動して、追われている男から遠ざかるように離れていった。
「た、助けてくれ!」
誰も助けない。
「オレがなにをしたって言うんだ!」
知らないよ、そんなこと。
あるのはただひとつ、アナタは警官隊に命を狙われている。
そして、アナタはもうすぐ死ぬ運命なんだ。
それは誰にも止められないし、警官隊だってやめる気はないと思う。
次の瞬間、男はあたしたちの方へ向かって走ってきた。
友だちと固まって非難していたあたし達は、一目散に逃げ惑う。
そして・・・
「キャー!」
聞き覚えのある声で、悲鳴が聞こえた。
悲鳴のした方向を振り返ると、背中から真っ赤な血を流した友だちが、ぐったりとして倒れていた。
- 122 名前:〜MISSION 3〜 投稿日:2001年11月21日(水)04時18分24秒
- ──友だちが撃たれた!
そのことで、見知らぬ事件がグッと眼前に迫ってくる。
一切の感情すら持てなかった事柄が、自分のことのようにさえ思えてくる。
怒りを憶え、目の前が真っ赤になって、どうしようもない衝動に襲われる。
「コイツは重罪犯だ。一度逮捕したものの、脱走した。故に撃ち殺した。死亡者、負傷者の確認をする」
そう言って警官隊のひとりが、下手くそな銃撃に運悪く当たってしまったサラリーマン風の男に近づいた。
「・・・まだ息があるな、一先ず病院へ連れてけ」
下っ端らしきもうひとりの警官に、そう命令した。
次はあたしの友だちの番だった。
- 123 名前:〜MISSION 3〜 投稿日:2001年11月21日(水)04時19分00秒
- ツカツカと革靴の音を立てながら歩み寄り、脈を取る。
「・・・ダメだ、死んでる。知り合いの者は直ちに親御さんへ連絡して、引き取りに来るように言いなさい」
一頻りのことを言い終わると、「失礼する」とだけ言い放って、その場を立ち去ろうとした。
謝りも、手も合わせもしないのかよ!
あたしはカッとなって、その警官へ近づいて行って文句を言ってやろうと思った。
しかし、その思惑は打ち砕かれる。
何者かが不意にあたしの背中を押して、ホームへ入ってきたばかりの電車へと引きずり込んだ。
「な・・・誰!?」
振り向くとそこには、金髪でスーツを着て、サングラスをした男が神妙な顔をして首を振っていた。
- 124 名前:〜MISSION 3〜 投稿日:2001年11月21日(水)04時19分33秒
- 「アカン、今文句言うたら今度はキミが殺されるで」
「いいよ!死んだっていい!それでもアイツらが許せないんだよ!」
「・・・そうか」
しかし電車は発車してしまっていて、戻ることもできないし、諦めるしかなかった。
「なあ・・・もしアイツらに・・・いや、この狂った国に1発かましてやれるとしたら・・・やるか?」
「・・・やるよ。死んだっていい。どうせいつ死ぬかわからないんだ・・・彼女のように」
背中を撃たれた友だち・・・いいヤツだったのに・・・くそっ!
「それなら・・・」
と言って、その男を名刺を1枚、あたしに手渡した。
「これは・・・?」
「キミにホンマにやる気があるんやったら、×月×日の夕方6時までにその喫茶店に来て欲しい。
ただ、来るからには死を覚悟して来ぃや」
- 125 名前:〜MISSION 3〜 投稿日:2001年11月21日(水)04時20分07秒
- 死の覚悟?死ぬことなんて恐くないさ!
友達のお葬式では、彼女の家族、親類、そして友達や関係者が、涙を流して彼女の死を悔やんだ。
もちろん、あたしだって例外じゃないし、それだけ彼女は人にいい印象を与えていたから。
そんな彼女が死んだとしても、文句は言っても、直接控訴なんて人は、誰もいない。
なぜならそんなことをしても、「仕方がなかった」の一言で済まされてしまうのがオチだ。
撃った側には責任はなく、撃たれた側がいけないような法律なんだ。
一体何人もの人が泣き寝入り、この国の理不尽さにつばを吐き捨てたのだろう。
こんな国、クソクラエだ!
あたしはその日、覚悟を決めた。
死の覚悟?いや、違う。
この国を覆すための、もっと大きな覚悟だ。
明後日の夕方6時までに、あの男に指定された喫茶店へ行けば、1発かましてやれるらしい。
1発は1発でも、特大のバズーカーでお見舞いしてやろう。
修復不可能な傷を残して、隙があれば、もう1発、そして消滅させる!
出掛ける時にポケットにしまい込んだ名刺を、彼女の遺影に向けてあたしは一言、つぶやいた。
「敵・・・討つからね・・・待っててね!」
- 126 名前:shape 投稿日:2001年11月21日(水)04時23分22秒
- >>117 >>118
やっと更新できました。
文字数制限が厳しくなったんですね・・・知りませんでした・・・(汗
次は矢口の登場なのですが、こちらもまた試行錯誤している段階です。
また時間がかかってしまうと思います。
待っていてくださいとは言えないのですが、忘れないでください(w
- 127 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月15日(土)19時06分39秒
- 忘れてませんよ。
ずっと待ってます。
がんばってください!
- 128 名前:べーぐる。 投稿日:2001年12月23日(日)21時58分15秒
- お久しぶりですっ
ずーっと読ませてもらってま〜す
大変でしょうけど、がんばってくださいね!
応援してますヨ〜♪
P.S.絶対忘れませんよ〜!
- 129 名前:多分114 投稿日:2001年12月27日(木)13時38分32秒
- 覚えてるよ〜
でもsage更新で気付かなかったよ〜(泣
またマターリと更新お待ちしております。頑張って!
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