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NATURAL

1 名前:木多娘。 投稿日:2001年04月12日(木)18時53分07秒

緑板でばかばかしいものを書いている木多娘。といいます。
こちらでは少し真面目な話を書かせていただこうと思いスレを立てました。
この話は同名の漫画を参考にさせていただいてます。
話の中で似たような言い回しが出てしまうと思いますがどうかご容赦下さい。
また更新速度も遅くなってしまいますが時間のある方はどうかお付き合いください。
それでは『NATURAL』スタートです。

2 名前:プロローグ 投稿日:2001年04月12日(木)18時53分51秒

―運命を占うエレベーター。上に行けばキミの未来が、
      下に行けば過去が見えるよ。さあ、怖がらないで乗ってごらん―

3 名前:プロローグ 投稿日:2001年04月12日(木)18時54分22秒

…ハッ……

…ああ、またあの夢か。いつも見るあの夢。でもエレベーターに乗ろうとすると
そこで目が覚めてしまうんだ。なんでだろう。無意識のうちに自分の過去を
思い出すのを恐れているのかな。自分でもよく分からない。
でも、あのエレベーターに乗ることができたなら…きっと私は下に行くんだろうな。
4 名前:記憶 投稿日:2001年04月12日(木)18時55分00秒

私には過去の記憶が無い。どうやら何かの事故のせいで記憶を失ってしまったらしい。
過去を取り戻したいとは思っている。でも、あの夢が途中で覚めてしまうということは…
やっぱり昔の自分を思い出すのが怖い。自分はいったい何者なんだろう。
そんなことを考えていると――

「こんにちはっ。どう、調子は?」

ああ、今日もお見舞いに来てくれた。彼女の名前は石川梨華。
毎日私の様子を見に来てくれる。

「そうだ、林檎剥こうか?」
「あ、ああ、お願い」

正直言って彼女のことも何一つ覚えていない。でも、こうやって毎日来てくれる
ということは…きっと記憶を無くす前はとても親しい関係だったのだろう。
どんな風だったのかな。もしかして付き合ってたりして。
…ハハッ、女の子同士でそんなことあるわけないか。
5 名前:記憶 投稿日:2001年04月12日(木)18時55分31秒

…それにしてもかわいい。女の私が見ても惚れてしまいそうだ。
私も顔に自信が無いわけではないが彼女は違う。
なんか女の子らしいというかなんというか…。
とにかく私が持っていないものを彼女は持っている。

「ひとみちゃん、どうしたの?」

…つい彼女の顔を見つめ続けてしまっていたらしい。

「え、いや、なんでもないよっ」

あわてて顔を背けながら言った。
やば、少し顔が赤くなってるかも。見られたかな。
そう思い彼女の方をちらりと見てみたが、また林檎を剥くのに
集中し始めたみたいだったのでホッとした。
6 名前:記憶 投稿日:2001年04月12日(木)18時56分33秒

私の名前は吉澤ひとみ。自分では覚えていないが持ち物、また梨華ちゃんが
事故のあと病院に来て身元を保証してくれたおかげで確認できた。
どうやら私は梨華ちゃんの家でいっしょに暮らしていたらしい。
…と言っても暮らし始めてから1ヶ月もたっていないらしいので
梨華ちゃんも私のことはあまり知らないのだそうだ。
7 名前:記憶 投稿日:2001年04月12日(木)18時57分07秒

林檎を剥くのに集中している彼女。少し不器用な感じだけれど
その姿はとても一生懸命だ。

「ん?私の顔に何かついてる?」

梨華ちゃんが手を止めこちらを向いた。今度こそ私の顔は真っ赤になって
いただろう。

「フフッ、おかしなひとみちゃん」

彼女が微笑む。見る人を安心させる笑顔。この笑顔を守るためなら、
私はたとえ人を殺すことでさえも営わないだろう。
8 名前:記憶 投稿日:2001年04月15日(日)01時20分23秒

「入院、いつごろまでかかるんだろうね」

彼女が少し寂しげな表情を見せた。そういえば梨華ちゃんは家族と
離れて1人暮しをしていたのだった。そこに1ヶ月前私が
同居することになったらしい。

「先生の話だともう体の方はいいらしいんだけど…怪我も
 たいしたことなかったしね。でもまだほら、記憶の方が
 アレだから…入院ってことになってるんじゃないかな」
「…そうなのかもね。でも…やっぱり少し寂しいかな…」

大人びているといってもまだ彼女は16歳。確かに
1人でいるのは心細いかもしれない。
明日、担当の医師に入院がいつまでかかるのかを
聞いてみることにしよう。

9 名前:記憶 投稿日:2001年04月15日(日)01時21分31秒

次の日。問診にやってきた医師に昨日考えたことを
聞いてみた。驚いたことに医師の話では明日にでも
退院していいとのことだった。それに、病院にいるよりも
通常通りの生活を送ったほうが記憶の回復にもつながる
かもしれないとのこと。なんだ、早く言っておけばよかった。
…まあ身元のよくわからない娘なんて病院側でもあまり
長く置いておきたくなかったのかもしれないが。
梨華ちゃんが来たらこのことを話してすぐに退院の
準備をすることにしよう。
10 名前:記憶 投稿日:2001年04月15日(日)01時22分08秒

午後、梨華ちゃんに退院の事を話す。

「そうなんだ。よかったねぇ」

彼女は早速明日のために荷物をまとめ始めた。

「あっ、いいよ、ひとみちゃんは寝てて」
「いやもう大丈夫、私も手伝うよ。それにほら、
 もう体調はバッチリなんだから」
「もう…。あまり無理しちゃだめだよ…」

2人で明日のための準備。心なしか2人とも楽しげだ。
本当はまだ深刻な状態なのだろうけどそんなことは
おかまいなし。

さあ、明日からまた梨華ちゃんとの2人暮しが始まる。

11 名前:木多娘。 投稿日:2001年04月15日(日)03時01分29秒
やば、吉澤板のアレとなんか設定がかぶってることに今気付いた…
どうしよう…
12 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月15日(日)03時37分24秒
でも、よっすぃ〜が梨華ちゃんラブ(?)なところは
かぶってないからオッケ〜だと思いますよ〜。
続き期待してます♪
13 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月15日(日)05時29分28秒
いや、被ってるっちゃあ被ってるかも知れないけど、別に設定は構わないでしょう。
そんなこと気にしてたら世の小説は。
まさかネタが被ってた訳じゃないんでしょ?(笑)
続き、期待してますよん。
14 名前:木多娘。 投稿日:2001年04月15日(日)06時12分05秒

>12さん
ありがとうございます。
こういうのは不慣れなものでご期待に応えることが
できるか分かりませんががんばります。

>13さん
ありがとうございます。
さすがにネタのほうは被らないと思います(笑)
拙いものになってしまうかもしれませんがきちんと
最後まで書き上げようと思います。
15 名前:記憶 投稿日:2001年04月16日(月)00時09分42秒

「なんか忘れ物とか無い?」
「ん、多分無いと思う」

午前中のうちに担当の医師に挨拶をして病院を出る。
彼女の家はここからそれほど遠くないらしい。
荷物といってもたいした量ではなかったので歩いて帰ることになった。
家へ向かう途中、以前の私がどんな人間だったのかを聞いてみた。

「前のひとみちゃんっていっても…今とそんなに変わらないよ。
 最近は少し考え事とか増えたみたいだけど」
「あ、そうなんだ…」

確かに最近の私は考え事が増えていたみたいだった。
夢のこと、昔の自分のこと、これからの生活のこと。

「ん?また何か考えてる?」
「え?いや…」

そのような会話を交わしているうちに彼女の家へと到着した。
16 名前:記憶 投稿日:2001年04月16日(月)00時10分39秒

家に到着し持ってきた荷物を片付ける。
彼女が住んでいるところは街中から少し離れた住宅街にあった。
一軒家をそれほど高くない家賃で借家として貸し出していたので
そこに決めたのだそうだ。まあ大きくも小さくもない普通の家。
とりあえず落ちついたところで昼食をとることにする。

「…おいしい」
「そう?よかった」
「梨華ちゃん、料理上手いねえ」
「まあ1人暮し始めてからけっこうたつしね」

そんなことを話しながら昼食を終えた。

「そうだ、午後は少し気分転換をしに街に行ってみようか」
「そうだね…そうしよう」

彼女の提案で午後は街へ出ることにした。
17 名前:自分らしく 投稿日:2001年04月16日(月)00時11分17秒

午後。これといって目的は無いけど街をぶらぶら歩く。
これから買い物等をしようと思えばここに来ることに
なるだろうから慣れるためにも調度いいかもしれない。

まだ慣れない街でぎこちない私の手をつなぎ案内しながら歩く彼女。
その姿は妹の手を引く姉といったところだろうか。
まあ妹といっても私の方がずっと背は大きいんだけどね。

たわいのない会話を交わしながらいろいろな店を
まわっている間に辺りはすっかり暗くなっていた。
18 名前:自分らしく 投稿日:2001年04月16日(月)00時11分55秒

「けっこう遅くなっちゃったね」
「うん、でもいい気分転換にはなったよ」

ドンッ、という音とともに何かにぶつかった。
どうやら話に夢中になって前を見ていなかったようだ。

「あ?なんだよこら」

ガラの悪そうな2人組の男。

「おっ、姉ちゃんたち結構かわいいじゃん。ちょっと付き合えよ」

2人組の片方が私の腕をつかむ。

「ちょっと、やめてください!」

梨華ちゃんが間に割って入った。

「こっちの姉ちゃんも美人だねえ。アンタもどうだい?」
「いや!やめて!…」

その時。

19 名前:自分らしく 投稿日:2001年04月16日(月)00時12分29秒

私は反射的に足元に落ちていたビールの空き瓶を拾い、
男めがけて振り下ろそうとしていた。

「だめッ!ひとみちゃんやめてっ!」

彼女が男の腕を引き剥がし私を止める。
私はハッと気付きその手を降ろす。

「な、なんだよ、コイツ、ちょっとアブネーよ!」
「おい、いくぞっ」

男たちは走って逃げていった。

手から力が抜け瓶はするりと滑り落ちていく。
私は呆然とその場に立ち尽くしていた。

「ひとみちゃん…大丈夫?…」
「…私……私……」
「怖くなかった?」
「…うん……」

本当は怖かった。男たちに絡まれたことにではなく
彼女を守るためとはいえためらいなく頭めがけて
瓶を振り下ろそうとした自分が。

「私……先に帰るから……」

そう言い残し私は1人で家に向かい走った。
20 名前:自分らしく 投稿日:2001年04月16日(月)00時13分15秒

先に家に戻りベッドにそのまま突っ伏す。電気は消したまま。
私ってなんなんだろう。昔の私はあのようなことを
平気でするような人間だったのだろうか。

「…ただいま。もう戻ってるよね?」

彼女の声がした。

「ひとみちゃん、部屋にいるの?」

彼女が私の部屋に入ってくる。
ドアを開ける音に少し体が強張った。

「ひとみちゃん…」

彼女が私に近づいてくる。さっきの私の行動を見て
彼女はどう思っただろう。もう私と一緒にいるのは
いやだと思っただろうか。
21 名前:自分らしく 投稿日:2001年04月16日(月)00時15分56秒

「あの……あのさ……」
「なに?」
「さっき…私…」
「どうしたの?」
「私のこと…怖くなった?…もう…一緒に居るのいやになった?…」

そう聞く私に彼女はいつもの微笑みを浮かべる。

「ううん。怖くなんかないよ。だって、ひとみちゃんは私のことを
 守ろうとしてくれたんでしょ?」
「でも…私…こんなんでいいのかって…」
「ねえ、人間には2人の天使がついているって聞いたことある?」
「いや…」
「それでね、右側にいる天使は人を善の方向に導いて、左側の天使は
 人を悪の方向へと向かわせるんだって。今日のひとみちゃんはね、
 きっと左側の天使がちょっと悪さしたんだよ」
「…」
「でもね、大丈夫。その時はまた私が止めてあげるから。
 ひとみちゃんはひとみちゃんらしくいればいいんだよ」
「私らしく…」

「そう。自分らしく」

彼女は私を優しく抱きしめながら言った。

22 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月17日(火)02時18分16秒
シリアス物、期待してます。
23 名前:日常 投稿日:2001年04月19日(木)23時07分44秒

あれから3ヶ月。
梨華ちゃんは役者を目指しアルバイトをしながら
演劇の学校へ通っている。私はというと…何も
してなかった。ただでさえ学校が忙しい彼女に
養ってもらうばかりでは悪いと思い自分でもアルバイトを
しようとしたのだが、

「まだ無理しなくていいから」

という彼女の言葉に甘えてしまって今となっては
ほとんど家事専門な状態。でもまあ最近料理の腕も
上達してきたみたいだし…もう少しこのままでもいいかな。
24 名前:日常 投稿日:2001年04月19日(木)23時08分42秒

そういえば少し前に矢口さんという人に出会った。
梨華ちゃんの帰りが遅くなるので私1人で買い物に
出かけて行ったとき道端でいきなり声をかけられたのだ。
25 名前:日常 投稿日:2001年04月19日(木)23時09分29秒

「ねー、そこのかっこいいキミ、今暇なの?」

なに?まわりに人は居ないし…もしかして私に
言ってるの?

「もし時間があるんだったらちょっと付き合わない?」

こ、これってナンパってやつ?そんな急に言われても……

「いや、私は……」
「いーからいーから!さっさと行くぞー!」
「あ、あの……」

その日私は半ば無理矢理食事に付き合わされた。
なんで焼肉屋なんだろう……

「あっ、まだ名前聞いてなかったよね、なんていうの?」
「えっと……ひとみ…吉澤ひとみです」
「へぇ〜、じゃ、よっすぃーでいいね。よろしく、よっすぃー」
「よ、よっすぃ〜?」
「私は矢口真里っていうからさ、まあ矢口でも真里でも好きな呼び方
 したらいいよ」
「はあ…」

これが矢口さんとの出会いだった。
26 名前:日常 投稿日:2001年04月19日(木)23時10分03秒

それから矢口さんはよく家に遊びに来るようになった。
元気すぎる矢口さんには正直ついていききれない部分も
あったが、それでも最近梨華ちゃんの帰りが遅くて
1人で過ごすことの多い私には嬉しかった。
そして今日も―

ピンポーン…

「はーい、今開けますー」

ドアを開けるが誰もいない。

「…あれ〜?おかしいな〜…」

「ワッ!!!」
「うわっ!…びっくりした…脅かさないでくださいよ〜」
「えへへ、おどろいた?」
「そりゃ………ホント矢口さんってビックリ箱みたいな人ですね…」
「なにそれ?ほめてんの?」
「はいはい…誉めてますよ…」
「そっか、やったー!」
「ふぅ…」

やっぱ、ちょっと疲れるかも……
27 名前:日常 投稿日:2001年04月19日(木)23時11分12秒

「今日はね、よっすぃーにプレゼント持ってきたんだよ!」
「プレゼント…ですか?」
「これ、テディベアのぬいぐるみ。どうかな」
「あ…ありがとうございます」
「あれ…あまり気に入らなかった…?」
「そ、そんなことないですよ、すっごい嬉しいです」

とても嬉しかったけれどなんだか照れくさくて
なかなか表情にあらわすことができない。

「ん?よっすぃー、顔赤いぞ?」
「えっ!?」
「このやろー、かわいいヤツー!」

矢口さんに頭をぐしゃぐしゃになでられた。

…この人といるとなんだかテンポが狂うなあ……
28 名前:日常 投稿日:2001年04月19日(木)23時12分08秒

「ただいまー」

梨華ちゃんが帰ってきた。

「あっ、おかえりなさーい」
「お邪魔してまーす」
「あ、矢口さんこんばんわ」

「梨華ちゃん、晩ご飯つくってあるから食べよ」
「矢口の分はー?」
「はいはい…ちゃんと用意してますよ…」

「あっ、いいなー、矢口にもそれ1個ちょうだーい」
「だめです。矢口さんさっき食べたじゃないですか…」
「フンだ、よっすぃーのケチー」
「ふふっ、もう2人とも…」

じゃれあう私と矢口さん。それを楽しそうに見つめる梨華ちゃん。
こうして今日も夜が更けていく。

…こういうのも、いいかもしれないな。

29 名前:  投稿日:2001年04月19日(木)23時15分03秒


30 名前:石川梨華 『出会い』 投稿日:2001年04月19日(木)23時16分03秒

その日、私はいつも通りアルバイトを終え帰宅の途へと
ついていた。雨が降っている。早く帰らなきゃ。
少し早足になる私の目にふと何かが見えた。

…あの子なにやってるんだろう。こんな雨の中
傘もささずにずっと立ちっぱなしで…

「ねえ、どうしたの?」

気がつくと私はその子に声をかけていた。
彼女はうつむいたまま何もしゃべろうとしない。

「こんな雨の中そんなかっこしてたら風邪ひくよ?」
「………」
「…もしよかったら家に来ない?」

あれ?何言ってるんだろ私。こんな見ず知らずの子を
家に呼ぼうとするなんて。でもなぜかその時は口に
出てしまったんだ。

「ほら、行こう?」
「………」

私は半ば無理矢理といった感じでその子を家に
連れかえった。まあその子も全然抵抗しなかったんだけど。
31 名前:石川梨華 『出会い』 投稿日:2001年04月19日(木)23時17分29秒

「とりあえず着替えを…って私のだとちょっときついかな…
 あ、そうだ。寝巻き用に使ってある大きめのシャツが
 あったんだ。じゃあ先にシャワー浴びてきてからこれに
 着替えてね。その間にご飯の用意もしておくから」

彼女はちょっとだけうなずくと浴室へと向かった。

私は料理を作りながら彼女のことについて考えていた。
それにしても何であんなところにずっと立ってたんだろう…
もしかして家出とかしてきたのかな?
…それより今日の私ちょっとどうかしてるかも。
いつもならそのまま通りすぎるのに…

…バタン

…あ、浴び終わったみたい。ちょうど料理もできたことだし
考えるのは後にしよう。おなかも空いてるだろうしね。
32 名前:石川梨華 『出会い』 投稿日:2001年04月19日(木)23時18分42秒

食事が終わりいろいろと話しかけてみるが彼女は
あまり答えようとしない。
…まあ無理に聞き出すのも悪いし話したくない事情も
あるのかもしれない。今日のところはもういいや。

…でも明日になったらどうしよう…。あの子帰るとこ
あるのかな…。まあいっか、どうせ1人暮しだし2,3日泊めても
大丈夫でしょ。

そうして私達は床につくことにした。
遠慮する彼女を無理矢理ベッドに寝かせ私は
そのとなりに布団をしいて寝た。
33 名前:石川梨華 『出会い』 投稿日:2001年04月19日(木)23時19分24秒

次の日。バイトが休みだった私は1日彼女に
いろいろと話しかけてみた。昨日と同じように
ほとんど話を聞くことはできなかったがとりあえず
名前と年齢だけは聞き出すことができた。
彼女の名は吉澤ひとみ。私より1つ年下だそうだ。

「…じゃあ、ひとみちゃん、でいいかな。私のことは
 梨華って呼んでね」

彼女はただコクンとうなずいた。

今日も彼女を泊めることにする。家族が心配していないか
ということも考えた。けれど、今まで1人暮らしをしてきた
自分の側に同年代の人間がいるということの嬉しさがそれを打ち消した。
もうちょっとだけ、いっしょにいようかな。
34 名前:石川梨華 『出会い』 投稿日:2001年04月19日(木)23時20分20秒

あれから2週間ほどたった。初めは2,3日のつもりだったのだが、

「家に帰らなくて大丈夫なの?」
という私の問いにただ悲しそうな表情をする彼女を
見ていると

「もう1日だけ家にいる?」

と言ってしまう。いや、本当は私も彼女にいてほしかったんだ。
そんなことが3日ほど続いたある日、私はとうとう

「ねえ、もしあなたがよければずっとここで暮らさない?」

と切り出した。

「でも……」
「私なら全然平気だし……いや、むしろ居てほしいかな……」

彼女はちょっと驚いた表情を見せ―
 その後安心したような笑顔になった。

そういえば笑った顔を見たのはこれが初めてだな。
35 名前:石川梨華 『出会い』 投稿日:2001年04月19日(木)23時21分25秒

相変わらず口数は少なかったが、ちょっとずつ
打ち解け始めていた。
そして出会ってから1ヶ月がたったあの日。
彼女は事故に遭った。

わき見運転の車にひかれてしまったらしい。
私は病院から連絡を受け急いでそちらへと向かった。
医師の話によると体のほうはたいした怪我はないが
少々頭を強く打っていたということで安心はできなかった。
そして病室へ入った私を迎えたのは、
一切の記憶を失った彼女だった。
36 名前:石川梨華 『出会い』 投稿日:2001年04月19日(木)23時22分11秒

それから私は毎日彼女の所へ通いつづけた。
昔の自分を覚えていないせいか彼女は以前よりも
明るくなっていたような気がした。
こんなことを考えるのは不謹慎なのだろうけど、
彼女に頼られているというのが私にとっては
少し嬉しかった。

そして二週間ほどして彼女は退院した。
37 名前:石川梨華 『出会い』 投稿日:2001年04月19日(木)23時22分55秒

矢口さんとじゃれあっている彼女。
それを見て思わず微笑んでしまう私。
いつもと変わらぬ光景。
けれどそれはちょっとでも触れたら
バランスが崩れて壊れてしまいそうな、
そんな頼りない均衡。

神様、もうちょっとだけこの関係を
続けさせてくれないでしょうか。
彼女を自分の側に置いておきたいというのは
やはり私のわがままなんでしょうか―

38 名前:石川梨華 『出会い』 投稿日:2001年04月19日(木)23時23分51秒

「……ちゃん……梨華ちゃん」
「…えっ?なに?」
「早くしないと帰りが遅くなっちゃうよ?」
「あ…ああ、そうだね」
「何か考え事?」
「ううん、何でもないよ」
「…そう」

「ひとみちゃん」
「なに?」
「夕暮れ時のあの紫色の空ってきれいだね。
 何だかあの空に溶けてしまいそう」
「…そうだね」
「…うん」


―そう、このままあの空に溶けてしまえたら―

39 名前:木多娘。 投稿日:2001年04月19日(木)23時24分48秒

>>22さん
ありがとうございます。
でももしかしたらそれほどシリアスにならないかも…
期待を裏切ってしまったら申し訳ないです。
あ、>29はちょっと失敗っす。
あと、相変わらず文章ヘタクソですいません。
40 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月19日(木)23時40分45秒
いえいえ、こういう、せつない感じも◎。
41 名前:木多娘。 投稿日:2001年04月22日(日)06時01分51秒

>>40さん
そう言っていただけると本当にありがたいです。
更新の方、もう少し先になってしまいそうです。
待たせてしまって申し訳ありません。
42 名前:名無し 投稿日:2001年04月24日(火)23時57分40秒
更新がもうちょう先ですか。
楽しみに待っています。
43 名前:木多娘。 投稿日:2001年04月27日(金)07時47分20秒

>>42さん
待たせてしまって本当にすいませんです。
実はかなり行き詰まってまして…
でもきっと最後まで書き上げるよう頑張りたいと思います!
44 名前:日常 −M 投稿日:2001年05月03日(木)00時16分33秒

さあて、学校が終わったことだし今日もアイツんちに行こうかな。
どうせ一人で居たって暇だしねぇ。学校の奴らは放課後もバイトとかで
忙しいみたいだけどオイラには働くのは似合わないんだぴょ〜ん。
…実は金髪だから雇ってもらえないってゆうのもあるんだけどね。

さてと、とりあえずマックに寄ってハンバーガーでも
買ってってやろうかな。あ、でもアイツの手料理も食いたいぞ。
よし、やっぱ買うのやめ!お金もあんまり無いし節約、節約。
45 名前:日常 −M 投稿日:2001年05月03日(木)00時17分49秒

ふう、やっと到着。アイツの家、学校から結構離れてるんだよね。
でもいい運動になるからいいか。
ダイエット効果あ〜るかな〜♪…なんちゃって。
そうだ!またちょっと驚かせてやろ。チャイムを鳴らしてすぐにドアの
側に隠れてっと…。こういうとき背が低いのが役立つんだよね〜。

「…あれ〜、おかしいな〜…」
「ワッ!!!」
「うわっ…びっくりした…」

イエーイ、大成功!!
いっつも同じ手口にひっかかるんだから。まったく単純なやつ。
でもそこがまたお気に入りだったりするんだよ。
46 名前:日常 −M 投稿日:2001年05月03日(木)00時18分19秒

「ん〜、何にします?」
「あ、なんでもいいよ〜」
「そのなんでもいいってゆうのが一番困るんですよ…」
「やー、よっすぃーは何にしたいの?」
「え〜っと…」

うーん、それにしてもおっとこまえだね〜。ついつい顔を見つめちゃうよ。

―すべてに立ち向かう強さをください I believe―

あ、今日もあの曲がかかってる。よっすぃーいっつもこの曲
聞いてるよね〜。確かブリグリの曲だったかな?
でもよっすぃー、この曲聴きながらいつも悲しそうな顔してるんだよ。

「…矢口さん、どうしたんですか?」
「えっ!いや、なんでもないって!」

くっそー、オイラ結構涙脆いんだぞ!お前がそんな顔してたら
こっちまで泣きそうになっちまうっつーの!
47 名前:日常 −M 投稿日:2001年05月03日(木)00時19分09秒

…そういえばよっすぃーってあんまり外に感情を表さないよね。
いっつもオイラがはぐらかされてばっかり。子供の頃はどんな
だったんだろ。この前梨華ちゃんに聞いてみたけどなんか
複雑な表情して黙りこくっちゃったからそれ以上聞けなかったよ。
うーん、気になる。今度思いっきりお酒飲まして聞き出してみようかな?
ふふふ、こう見えても結構酒強いんだぞ。…まだ未成年だけど。
48 名前:日常 −M 投稿日:2001年05月03日(木)00時20分06秒

ふぅ…。やっと授業終わった…。今日はきつかったなぁ…。
でもこれからアイツのとこ行くんだもんねー。
だって今日はアイツにプレゼント渡す日だもん。
この前よっすぃーの誕生日梨華ちゃんから聞いたらもう過ぎてんじゃん。
お祝いしたのかな〜。クゥ〜、2人だけでずるいぞー!オイラを仲間外れに
しやがってー!…まあいいか。とりあえずプレゼント何にするか決めなくちゃ。

…そういえばよっすぃーって何が好きなんだろ。とりあえずお店に入ったは
いいけど…どれにしたらいいかよくわかんないんだよねぇ…。
やっぱりあの外見からして男の子みたいなのがいいのかな?
いやいや、意外と少女趣味だったりするのかも。…ん〜、迷う…。

…よし!どうせ分からないんだったらオイラの趣味で決めちゃえ!
このテディベアのぬいぐるみ。これにしようっと。
…よっすぃー、喜んでくれるかな…。
49 名前:日常 −M 投稿日:2001年05月03日(木)00時20分54秒

それにしてもあれ、結構高かったなあ…。でも節約した介が
あったってもんだよ。よし、着いた…。
えへへ、今日もいつものやつやってやろ。
チャイムを鳴らして…影に隠れてっと…

「ワッ!!!」
「うわっ、びっくり…」

…ったく。いつもやってんだから少しは学習せい。

「矢口さんってホント、ビックリ箱みたいな人ですね…」
な、なんだとう!それ誉めてんのかけなしてんのかよく分からないぞ!
まあいいや。今日はお祝いの日だしね。

「ねぇよっすぃー、これプレゼント、はいっ!」
「あ…ありがとうございます…」

あれ?よっすぃー気に入ってくれなかったのかな?
あ、でも顔真っ赤になってる。かわいいヤツ。
普段あまり表にださないくせして本当はしっかり喜怒哀楽してんだから。


そのときの顔見たら思ったんだ。今無理してよっすぃーのこと聞き出さなくても
いつか向こうから話してくれるまで矢口は待とうって。
彼女が矢口に本当に心を開いてくれるそのときまでね―

50 名前:木多娘。 投稿日:2001年05月03日(木)00時22分02秒

緑の方がなかなか書きあがらないので先にこちらの
書いてあった分を。
「あれだけ間空けといてこれしか書いとらんのかい!」とか
言われそう(汗)
51 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月03日(木)01時58分04秒
石川さんが出てないとずいぶん明るい話みたいに感じるのは、
わたしの気のせいかしら。(w
52 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月03日(日)03時30分03秒
続き期待しています。
家族全員で正座して待ってます、PCの前で。
53 名前:夏の終わりに 投稿日:2001年06月03日(日)17時29分57秒

9月に入って間も無い日曜日、私達は矢口さんの提案で海に行くことになった。
そういえば私が梨華ちゃんの家に居候するようになってから遠出するというのは
初めてだ。私や梨華ちゃんではこういう風にあまり遠くへ遊びに行くということは
思いつかない。きっかけを作ってくれた矢口さんに素直に感謝することにした。
54 名前:夏の終わりに 投稿日:2001年06月03日(日)17時31分04秒

電車に1時間ほど揺られ目的地についた。
よく晴れているとはいえもう夏も終わりに近づいている。
少々肌寒い風が吹き始めていた。もちろん私達は泳ごうなどと言う気は
まったく無かったし、海の中に入っている人もほとんど居なかった。
けれど、ただ波を眺めながらとりとめの無い話をしているというだけでも
普段家の中に居がちな私にとっては心地良かった。
55 名前:夏の終わりに 投稿日:2001年06月03日(日)17時31分49秒

「今日って結構日差しが強いね。これじゃ日焼けしちゃうなあ…」

梨華ちゃんはしきりに日差しを気にしている。そりゃあ確かに色は黒い方かも
しれないけどそんな気にするほどでもないんじゃないかな。

「な〜に言ってんの!そんなの気にしてちゃだめだよ!ほら、矢口見てみ、
 こんなに健康的な小麦色!」
「そうなのかなあ…」
「いや、矢口さんそれファンデーションでそうなってんじゃないですか?
 ん、改めて見ると矢口さんって結構化粧濃いですよね…」
「うっ、うるさいっ、そんなことはどうでもいいの!それより2人とも
 せっかく海まで来てるんだからもっと楽しみなさいよ!ほらっ、もっと
 前向きにっていうかポジティブにっていうの?」
「は、はあ…そうですね……相変わらず矢口さんは前向きな性格で
 羨ましい限りです…」
「なにぃ!?絶対それ誉め言葉じゃないでしょ!」
「いやぁ…そんな…ハハハ……ちゃんと羨ましいって言ってるじゃないですか…」
「くぅ…いつもながらに失礼天然な奴め…」

矢口さんがぷぅっと頬を膨らませ怒る仕草をするが顔は笑っている。
56 名前:夏の終わりに 投稿日:2001年06月03日(日)17時32分21秒

「あれは……」
「うん?梨華ちゃんどうかした?」
「え?あ、うん、ちょっと私行ってくるから2人とも待ってて」
梨華ちゃんはそう言って海辺の方へ走って行く。

「どうしたんだろね?」
「はあ…」
その姿を目で追っていると1人の女性の所へ行ったようだった。
お互い親しい仲なのかどうやら会話も弾んでいるようである。

「ん?よっすぃーどした?」
「え…?ああ、別に何でもないですよ…」
「いや、何でもないって顔じゃないね。…う〜ん……あっ、もしかして嫉妬か?
 矢口ってもんがありながらこのこのー!」
「そ、そんなんじゃないですよ……そんなわけ…ないじゃないですか…」
「どうかな〜」
「もう…」

しばらくして梨華ちゃんは話を終えこちらへと来た。
57 名前:夏の終わりに 投稿日:2001年06月03日(日)17時32分55秒

「ねえ梨華ちゃん、今の人って誰?知り合い?」
矢口さんが興味深々といった様子で聞く。
「ああ、あの人はね、演劇の学校の先輩。厳しいとこもあるけど
 とっても頼りになる人なんだよ。私もいつもお世話になってるの」
「へぇ〜、そうなんだ〜」
「あれ?ひとみちゃんどうかした?」
「いや…」
「聞いてよ梨華ちゃん、よっすぃーったらねぇ…」
「ちょっと矢口さんッ!」
「ハハハ…はいはいわかりました。んじゃさっきのことは秘密にしといてあげるよ」
「だから全然そんなこと無いですってば!」
「はいはい…」
「なに?2人とも変なの…」
「なんでもないって。ほら、そろそろ時間も遅くなってきたし帰ろ?」
「え、ああ…そうだね…」
58 名前:夏の終わりに 投稿日:2001年06月03日(日)17時33分34秒

そう、別に私はあの人に嫉妬していたわけじゃない。ましてや女の子同士。
恋心なんて芽生えるはずも無いではないか。
ただ、あの人の顔……意思の強そうな大きな目、厳しいようだが包容力のある表情、
そして梨華ちゃんの彼女を信頼しきっている様子…
私は彼女にはかなわないと思った。私よりもずっと梨華ちゃんのことを守って
あげられる人だと思った。
私は…私の居場所を取られたくなかっただけなのかもしれない。
けれど…もしかしたらその感情はやはり嫉妬という言葉の中に入るものなのかもしれない。
そんな複雑な心境の中での帰り道、秋の訪れを告げる冷たい風がもう1度私の頬を撫でていった。
59 名前:木多娘。 投稿日:2001年06月03日(日)17時35分06秒

気がついたら1ヶ月も更新してなかった…
最後に載せた日付を見てすげー焦りました。
というわけでほんの少しですが…

>>51さん
確かにそうかも。というかここでの矢口のキャラが明るいので
そう感じるのかもしれませんね。

書くのめちゃめちゃ遅くていつ更新できるか分からない、といった感じなので
これからはsageでひっそりとやらせていただきます…
60 名前:木多娘。 投稿日:2001年06月03日(日)17時53分17秒

>>52さん
ありがとうございます。でも期待してると後でがっくりさせられるかもしれません…
最近なかなか余裕が無いんですけど頑張って書いていきたいです。
61 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月03日(日)18時39分22秒
更新してもらえてうれしいです。
マイペースでかまいませんので…
次回を楽しみにしています。
62 名前:それぞれの立場 投稿日:2001年06月10日(日)16時20分42秒

最近よっすぃーの元気が無い。
まあ多分原因は分かってるんだ。きっとあの海での出来事が原因だってね。
近頃梨華ちゃんの帰りも遅いし、そりゃよっすぃーがへこんじゃうのも分かるよ。
でもこっちにも少しは目を向けて欲しいなあ。矢口だってよっすぃーのこと…
いや、別に変な意味じゃないんだけどさ。私だって女の子同士で…そんな
趣味って無いつもりだし。…でも何か気にかけちゃうんだ。この気持ちって
なんなんだろう…よくわかんないや。…まあめんどいことは後回しにしよう。
とりあえず明日あたり梨華ちゃんの後をつけて探ってみるか。
私だってちょっとは責任感じてるんだからね。海に連れてった張本人だし。
63 名前:それぞれの立場 投稿日:2001年06月10日(日)16時21分20秒

早速次の日学校をさぼって梨華ちゃんの後をつけることにした。
気付かれないようにサングラスとニット帽で変装もバッチリ。
…まあ学校をさぼったのはこの際いいとしよう。他ならぬよっすぃーのためなら。
それに矢口ってこう見えても結構成績はいいんだからね。一日や二日ぐらい休んだって
かまいやしないって。あ、でも出席日数の方はどうかなあ……ってそんなこと考えてる
場合じゃない。ちゃんと見とかないと見失っちゃうよ。
…お、建物の中に入っていった。あれが梨華ちゃんが通ってる演劇学校だね。
64 名前:それぞれの立場 投稿日:2001年06月10日(日)16時21分56秒

あ、でも困ったなあ…。教室は外から見えないようになってるし…。
どうしよう……ってここは行動あるのみだよね。いちかばちか私も中に
入っていってみよう。見つかったらその時はその時だ。

「あれ?あなたどうしたの?何か用かしら?」
…早速見つかった。何やってんだ私は。しょうがない、ここは嘘も方便ってことで…
「あ、あの、ちょっと興味があって…それで見学したいんですけど…」
「なんだそうなの。じゃ、あそこの教室、廊下の窓から覗けるから自由に見学していって
 いいわよ。何なら教室の中に入って見ていっても…」
「い、いえ、廊下からで結構ですので…」

危ない危ない。教室の中に入ったら梨華ちゃんに見つかるっつーの。
まあでもうまく見学ってことにできたし……矢口ってやっぱ運がいいのかな。
うん、きっとそうだ。じゃなきゃあのときよっすぃーとも出会ってないもんね。
よーし、今日は一日梨華ちゃんの行動を探っちゃる!
65 名前:それぞれの立場 投稿日:2001年06月10日(日)16時22分28秒

どれどれ……お、頑張ってるねー。感心感心。普段から真面目な感じはするけど
ここでも梨華ちゃん頑張ってるわ。…っと、この前海で見た人は……
ん?なんだ、他の人について教えてあげてるじゃん。そんな心配するほどでも
なかったかな?…いや、油断はできない。まだまだ何があるかわかんないからね。

…あ、休憩の時間みたいだ。こういう時こそちゃんと見ておかねば…
……おおっと危ない危ない!危うく梨華ちゃんと目が合うとこだったよ。
急いでしゃがみこんで身を隠したけど…まさか見つかってないよね。
こういう時も背が低いのが助かるってもんだ。

「あら、あなた、具合でも悪いの?しゃがみこんじゃって…」
「えっ?い、いえ、大丈夫ですので…」
「そう…」

あっぶねー。さっきの人にまた見つかったよ。お前そんなに暇なのか?
…って言っててもしょうがないか。確かにサングラスしてニット帽かぶって
見学してる人間なんて怪しいからねぇ。でも帽子取ったら金髪でめだっちゃうし…
しょうがないよなぁ。
…それにしても暑い…。そりゃニット帽は暑いに決まってるんだけど…
もう秋だってのに…ちくしょー。
66 名前:それぞれの立場 投稿日:2001年06月10日(日)16時23分02秒

…あー、夕方になってきてやっと涼しくなってきた。はぁ…それにしても
おなかすいたなぁ…いつもだったら今ごろよっすぃーの手料理を……いや、我慢だ矢口真里!
今日は一日梨華ちゃんをつけるって決めたじゃないか!
どれ、梨華ちゃんはっと……あれ?もう練習は終わりなの?そんじゃいつも帰りが
遅くなってるはどういうわけ?…怪しいな。こりゃあまだ目が離せないね。

…ん、教室から出ていくみたい。よし、見つからないように後をこっそりつけて…
ああ!あの海で会った人一緒じゃん!これはなんとしても謎を解き明かさないと!
67 名前:それぞれの立場 投稿日:2001年06月10日(日)16時23分42秒

…2人に見つからないようにこっそり後をつけていく。
どうやら人気の無い公園の方へ……ってもしかして!?
おいおい、女同士でこれから何かあるのか!?…あ、言っとくけどあたしゃ
そんな趣味とかは無いからね。

…目的地に着いたみたい。これからどんなことが起こるのか
もう胸がドキドキ……
…あれ?2人とも何やってんの?ちょっと本みたいなの持ちながら…
……なんだ。授業が終わった後に2人で居残りレッスンってか。
…おうおう、梨華ちゃん普段出さないような大声出しちゃって。
一所懸命なのはわかるけどあんま無理しちゃ…って梨華ちゃんすごい
楽しそうな顔してるじゃん。教えてる人も頑張ってるねぇ。
68 名前:それぞれの立場 投稿日:2001年06月10日(日)16時24分29秒

…結局これで終わりか。別に怪しいようなことは無かったと思うけど…
よっすぃーには教えない方がいいのかなぁ…
だって梨華ちゃん、あんな顔普段よっすぃーに見せたりしないもんね。
…私はどうすればいいんだろう。

…でも、でもねよっすぃー。私はよっすぃーがそんなに思いつめることは
ないと思うんだよ。友達や先輩、恋人って同じ天秤で比べられるものなの?
ましてやよっすぃーと梨華ちゃんは一緒に暮らしている、家族も同然な関係じゃない。
あの人はあの人、よっすぃーはよっすぃーなんだから…

…矢口のこういう考えって、間違っているのかな…?

69 名前:木多娘。 投稿日:2001年06月10日(日)16時25分38秒

…というわけで更新。前の更新からすでに一週間がたってる…
時間がたつのって早いなあ…とも言ってられませんね。

>>61さん
ありがとうございます。こちらこそこんな文章に付き合っていただいて
本当に嬉しいです。1人でも読んで下さってる限り続けようって気になりますので。
できれば最低でも週に1度は更新できるようにしていきたいんですけどなかなか…
70 名前:パク@紹介人 投稿日:2001年06月11日(月)01時56分15秒
いきなりですが、こちらの小説を「小説紹介スレ@紫板」にて紹介しました。
http://www.ah.wakwak.com/cgi/hilight.cgi?dir=purple&thp=992180667&ls=25
71 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月17日(日)23時58分58秒
矢口さん面倒見のいいお姉さんて感じですね。
演劇学校の石川さんて…ラジオを聞く限り…(自己規制
72 名前:冬。 投稿日:2001年06月26日(火)22時01分30秒

その日私は朝からそわそわしていた。
カレンダーにつけた赤い丸印を確かめる。
12月6日。あの人の誕生日だ。その日予定が入っているか聞いてみたが
何も入っていないようだった。普段お世話になってもいるし
何かお祝いをしてあげよう。他の人達は予定が入っているらしく
2人っきりで少し寂しいような気もするけどまあいいでしょ。
73 名前:冬。 投稿日:2001年06月26日(火)22時02分11秒

今日は学校が休みなので昼からのバイトを早めに切り上げて
家に帰った。先に夕食の準備を済ませてから仕度をする。
そろそろ出かける時間だろうか。
そう思い立ちあがろうとしたとき、ふいに服のそでをつかまれた。

「…ん?ひとみちゃん、どうしたの?」
だが彼女は何も喋らない。
「そういえば今日は矢口さん来れないんだっけ。あ、もしかして1人じゃ寂しい?」
冗談混じりにそう言ってみたが、彼女はただ首を横に振るだけだった。
どうしたのだろう。いつもと様子が違うみたい。
そして俯く彼女の表情を見たとき、ある既視感を感じた。
そうだ。あの時の、出会って間も無い頃の表情だ。
74 名前:冬。 投稿日:2001年06月26日(火)22時02分56秒

もう1度彼女の顔を覗きこむ。不安そうな表情で服のそではつかんだまま。

「…うん、いいよ」
結局今晩は家に居ることにした。
あの人との約束、やぶってしまうことになるな…後で謝ることにしよう。
75 名前:冬。 投稿日:2001年06月26日(火)22時03分44秒

2人で夕食を済ませる。そして私が先にシャワーを浴び、
その後彼女もそれを済ませた。
まだ半乾きの髪をそのままにして俯いている彼女。
私はそれをそっと抱きしめた。

「…ごめん」
今日彼女の声を初めて聞いた気がした。

「…心臓の音って何だか落ちつく」
「…そう?」
昔何かで聞いたことを思い出した。
「あのね、泣いている赤ん坊に心臓の音を聞かせると母親のおなかの中、
 暖かくて安全でに苦しむことなんて1つも無い場所―
 そこに戻ったと思い安心して眠ってしまうんだって」
「…やだ、私、子供みたい…」
「…フフッ…」
確かにそうなのかもしれない。
こんなに大きくなって、と思われるかもしれない。
でも、でもね、

「…みんな同じなんだよ」

そして私は彼女を抱きしめ続け、夜は更けていった。
76 名前:木多娘。 投稿日:2001年06月26日(火)22時04分43秒

週に1度とか言いながらまた2週間も空けてしまいました。
その割にはたいした量書いてないし、このペースじゃいつ終わるのやら…
通して読むと「こいつ何が書きたいんだ」って思う人もいると思います。
なので1回の更新が1話1話で区切りって感じで読んでいただけるといい…かもしれません。

>>パク@紹介人さん
小説の量が増えてるんであのようなスレがあると自分の読みたいものが
見つけやすくなっていいですよね。大変だとは思いますが頑張ってください。応援してます。

>>71さん
確かにラジオで聞くと…そうかも。
あ、でも一所懸命がんばってるってことで(w
77 名前:読んでる人 投稿日:2001年06月27日(水)01時53分15秒
更新まってました♪
78 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月06日(金)08時26分34秒
めちゃおもしろい!
期待sage
79 名前:木多娘。 投稿日:2001年07月09日(月)08時54分34秒

更新です。

>>77さん
ありがとうございます。いつもながら書くのが遅くてすいません。
昨日はちょっと余裕があったんで続き書けました。

>>78さん
こんな駄文をおもしろいと言ってくださるなんて…
すごく嬉しいっす。
80 名前:冬。 投稿日:2001年07月09日(月)08時55分31秒

…何の音だろう。…ああ、電話か。

昨日はあのまま寝てしまったようだ。
電話のベルの音に梨華ちゃんも目を覚ましたらしい。
「こんな朝早くに誰だろうね…」
と、まだ寝ぼけた様子の瞼をこすりながら彼女が電話に出た。
確かに…まだ朝の8時にもなっていないのに…
そう思いながら応対している彼女を見ていると
みるみるうちに顔が青ざめてゆく。
どうしたというのだろう。私の頭はまだ寝起きのため
うっすらと靄がかかっていてその様子をぼんやりと
眺めるだけだった。
81 名前:冬。 投稿日:2001年07月09日(月)08時56分14秒

「ちょっと私行ってくるからっ!ひとみちゃんは家に居て!」
そう言って彼女は着の身着のまま、走って出ていった。
取り残された私はまったく状況がつかめず、その場に座りこんでいた。
「…コーヒーでも飲むか……」
何故か妙な不安を覚え、私は聞かせる相手がいるわけでもないのに
1人呟いた。

朝食は…一応作っておこう。
そのうち梨華ちゃんが戻ってくるかもしれないし。
私は料理を作りながら何の電話だったのか
ずっと考えていた。
結局作り終えるまでにその答えは出なかったのだけれど。
82 名前:冬。 投稿日:2001年07月09日(月)08時57分10秒

…時計を見る。
もう午後の1時を回っていた。
一体どうしたというのだろう。一向に彼女からの連絡は無く、
私はただ居間に寝そべって天井を見続けている。
今時携帯電話を持っていない彼女に私から連絡する術は無い。
朝作ったサラダは冷蔵庫に入っており、トースターはその役目を
果たすことなくテーブルの上に置かれたままだった。

その時チャイムが鳴った。
私は一瞬彼女が帰ってきたのかと思ったが、
家の鍵を持っている人間がわざわざチャイムを
鳴らすはずも無く、その期待はすぐにかき消された。
83 名前:冬。 投稿日:2001年07月09日(月)08時57分42秒

「オイッスよっすぃー、来ちゃったよー」
矢口さんだった。
「…今日は早いんですね」
「学校が早く終わったからね。どうせ1人で何もすることが無くて
 退屈してるだろーと思ってさ。何?早く来ちゃいけなかった?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど…」
とりあえず矢口さんを家の中へ迎え入れた。

「おっ、なーんだ、ちゃんとご飯用意してくれてんじゃん。矢口ご飯食べて
 なかったんだよ。さては矢口が来るのを予測してたね?」
「いや、それは…まあいいや、じゃあご飯まだでしたら食べましょうか…」
私は矢口さんに今朝の出来事、梨華ちゃんが戻ってこないこと等を
話しながらかなり遅い朝食―もう昼食と言った方が正しいが―をとった。
84 名前:冬。 投稿日:2001年07月09日(月)08時58分19秒

「…それにしても梨華ちゃんどうしたんだろうね。っていうか
 今時携帯持ってないってのも珍しいけどねえ」
「…ん…そうですね…」
食事を済ませた後も全く連絡は無かった。
私は上の空で話し掛ける矢口さんに相槌を打っていた。
そして時計の針が夕方の5時を回ろうかという時。
電話が鳴った。私は急いでそれに出る。
梨華ちゃんだった。声がややかすれているのは気のせいだろうか。
今までどこに行っていたのかを聞く。
その答えを聞いたとき。
私は眩暈を覚えた。さっき取った食事が
胃から戻ってくるような気がした。
85 名前:冬。 投稿日:2001年07月09日(月)08時58分50秒

「……うん、分かった。それじゃ…」

…気がつくと私の目の前で矢口さんが受話器を持っている。
私は一瞬何が起こったのか分からなかった。が、すぐに状況を把握する。
そうだ、梨華ちゃんから朝の電話のことを聞いて…それで眩暈を起こして
その場に倒れこんだんだ。そして私の代わりに矢口さんが電話を取って…
「…梨華ちゃん、今夜は帰れないかもしれないってさ…」
「…そうですか」
「確かにショックかもしれないけど…でも何でよっすぃーが倒れたりするの?
 顔、真っ青だったよ?」
「……」

電話の内容はあの人が昨夜交通事故にあったというものだった。
約束の時間になっても現われない梨華ちゃんを捜しているときに。
今でも意識が戻らないらしい。仮に意識が戻ったとしても
後遺症が残ってもう前のような生活は…ましてや演劇の世界で
やっていくことなんてできないであろうことも聞いた。
…それは途中から矢口さんが代わって聞いたことなのだけど。
私は昨日梨華ちゃんがあの人と会うことを知っていた。
私はそれがどうしても我慢できなくて…彼女を引きとめた。
そう、何も知らないふりをして。
そのことを全て矢口さんに話した。隠したとしてもどうしようもない
ことだし、何よりもう嘘を付く気力すら無かった。
86 名前:冬。 投稿日:2001年07月09日(月)08時59分22秒

「…そうだったんだ……でも、それはよっすぃーのせいじゃ……
 …よっすぃーが梨華ちゃんを止めなければあの人が事故にあわなかったとは
 言いきれないんだし…さ……」
「…いえ…私のせいです……私があの時……」
「…そうやって自分を責めるのやめてよ……」
「…矢口さん、私は大丈夫ですから……今日はもう帰ってください……」
「…だめ…今日は泊まってく…」
「でも…」
「よっすぃーの側に居るよ!それで…もし悪い夢でも見てそうだったら
 ちゃんと起こしてあげる…それくらいだったらあたしでもできるから…」
「……」

そしてその日、矢口さんはずっと私の隣りに居てくれた。
悪い夢は、見なかった。
87 名前:冬。 投稿日:2001年07月09日(月)09時01分05秒

次の日。私は電話で聞いた病院へと向かった。
1人で行くべきだと思っていたが矢口さんも一緒についてきるという。
矢口さんはお金を出すからタクシーで行こうと言ったが、私はそれを
断り歩いて行くことを選んだ。矢口さんに遠慮してそうしたわけではない。
少しでも考える時間が欲しかった。覚悟を決める時間が欲しかったのだ。

病院へと到着する。彼女へ言うべき言葉は今だまとまってなかったが
顔を合わせる覚悟だけはできた。できたつもりだった。
88 名前:冬。 投稿日:2001年07月09日(月)09時01分46秒

受け付けで病室の場所を聞く。305号室。
そこへ向かう途中、床に吸い込まれるような、その場に倒れてしまいそうな感覚を
覚えたのはエレベーターの慣性によるものだけではなかっただろう。

「ここだね…」
矢口さんが足を止める。
病室の前の壁には[305号室 保田 圭]と書かれた
名札が掛けてあった。
私はドアに手をかけゆっくりと開ける。
狭い個室だったのですぐに部屋の様子が目に入ってきた。
そこにはベッドに横たわるあの人―保田さんとその横で
椅子に座ったまま動かない梨華ちゃんだけが居た。
ベッドの上で目を閉じたままの保田さんはまるで事故に遭ったとは
思えないように綺麗な顔をしていた。
そして梨華ちゃんは…その隣で保田さんを見つめたまま
ただ涙を流していた。表情は無かった。
89 名前:冬。 投稿日:2001年07月09日(月)09時02分30秒

こちらに気付いていないのだろうか。彼女はその姿勢を保ったままだ。
ドアを開けるときに音がしたのかどうか、私はもう覚えていなかった。

「ねえ…どうしたの…?」
矢口さんが声をかけてくる。
「…帰りましょう」
私は病室の中に入ることが出来なかった。
その部屋だけどこか回りと違う特殊な空間の様に感じられて
入り口から1歩も足を踏み出すことが出来なかった。
ここへ来るまでに決めてきた覚悟はもはや関係無かった。

二人で病院を後にする。
「よっすぃー…あのさ……」
「…今日は帰ります……」
「じゃ、じゃあ私もよっすぃーといる!」
「…私は1人で大丈夫ですから…それに今日は梨華ちゃんも帰ってくると
 思うし……二人でちょっと話さなきゃならないことがあるんです」
「でも…」
「病院、一緒に来てくれてありがとうございました。それじゃあ…」

まだ何か言いたそうな矢口さんを置いて私は家へ向かった。
90 名前:冬。 投稿日:2001年07月09日(月)09時03分07秒

私は自分の部屋へ戻るとベッドの上に寝転がり天井を見上げていた。
…あんなとこにしみがあったんだ。初めて気がついた…。
そのような普段なら気にも留めないことを考える。
彼女に出会ってからのことが思い出された。
そのようなことを考えているときではないのかもしれない。
いや、他のことを考えたくなかったのかもしれない。
91 名前:冬。 投稿日:2001年07月09日(月)09時03分49秒

どのぐらい時間がたっただろうか。
外はもう日が落ちており部屋の中を薄く闇で包んでいる。
私はずっと同じ体勢のままでいた。
普段ならそんな状態―ベッドに横になっている状態なら
30分もせずに眠りについていただろうが、今日はやけに目が冴えていて
そのようなことにはならなかった。
今何時なのだろう。まだ少しだけ部屋に残っている明かりをたよりに
時計を探す。5時。まだそんな時間だったのか。だが冬の太陽はすでにその姿を隠していた。
部屋の電気を付ける気にはならなかった。
92 名前:冬。 投稿日:2001年07月09日(月)09時04分38秒

隣りの部屋から気配を感じた。もう彼女は帰ってきているのだろうか。
私はその部屋を訪ねる。その部屋も私の所と同じように部屋の明かりは
つけられていなかった。
窓辺に人影が見える。やはり帰ってきていたのだろう。
私はそれに声をかけ、矢口さんに話したことと同じことを話した。
私はあの日、彼女に約束があることを知っていたこと。
それを知っていながら無理に彼女を引きとめたこと。
私はどんな表情をしてそのことを話していただろう。
鏡を見ることが出来ない―仮に見れたとしてもこの闇の中では
分からないであろうが―そんな余計な感情を頭の片隅に追いやりながら
私は話した。
93 名前:冬。 投稿日:2001年07月09日(月)09時05分43秒

すべてを話し終え、彼女の姿をもう1度見る。
もう暗闇にも目が慣れてきてはっきりとは言えないが
彼女の様子が見える。
彼女はさっきから姿勢を崩さずに窓の外を眺め
私の話を聞いていた。その表情はこちらからでは
見ることはできない。
そして私はもう1度声を発した。

「ねえ…もう…一緒に居るの嫌になった…?もし…」
もしそうなら―
「そうだったら…ここを…出て行く」
私はまた以前の様に彼女が許してくれるのを期待していたのだろうか。
いや、むしろ「出て行け」と言ってくれたほうが…その方が気が楽だった。
彼女は窓の外を見つめたままその問いに答える。

「ひとみちゃんが、思った通りにすればいいよ」

その声から彼女の表情を窺い知ることはできなかった。
94 名前:_ 投稿日:2001年07月09日(月)09時06分24秒
 ◇
95 名前:_ 投稿日:2001年07月09日(月)09時07分35秒

Trrrrr...Trrrrr....

…ん…?携帯が鳴ってる……誰よこんな朝早くに……
私は相手の電話番号も確かめずに手探りで自分の携帯電話を探し
それに出る。

『…もしもし、矢口さんですか…?」
「え…?よっすぃー?」
そういえばよっすぃーにも携帯の番号教えてたんだっけ。
「どうしたの?こんな朝早くに…」
『今矢口さんちの家の前…実は庭のとこにいるんですけどちょっと
 出てきてもらえませんか?』
「ん…わかった…」
まだ半分寝ぼけた状態で一階、庭に面する窓の所へ行った。
ああ…そういや家の場所も教えたんだ。でもよっすぃーが家に
来るなんて初めてのことだなあ。
96 名前:_ 投稿日:2001年07月09日(月)09時08分28秒

一階の居間の窓辺に行くと外によっすぃーが立っていた。
私は窓を開ける。
「どしたの?なんかあった…?」
私は目をこすりながら聞いた。
「えっと…ちょっと渡したいものがありまして」
そう言ってにっこりと笑いながら私に綺麗に包装された箱を渡す。
「え…?これ…なに?」
「プレゼントですよ」
「プレゼント…?でも矢口の誕生日はまだ先だし…」
「ええと…ちょっと早いけど…メリークリスマス!ってことで」
「あ、ああ…ありがとう…」
「開けてみませんか?」
「う、うん…」
私はその包装を破らないように気をつけて開ける。
「あっ、マフラー?ん〜、でもこれちょっと大きすぎない?」
「いいんですよ、大は小を兼ねるっていいますし。それにほら、
 大きい方が何重にも巻けて暖かいでしょ?」
「ま、まあそうなんだけどさ…」
「気に入ってもらえませんでした?」
「えっ?そんなことないよ!デザインとかもすごくいいと思うし…」
「よかった」
またよっすぃーはにっこりと微笑む。
「でもさ…どうしたの…?」
「…何がですか?」
「いや、妙に明るいからさ…」
「……」
彼女は真剣な、それでいて寂しそうな顔になり口を開いた。
97 名前:_ 投稿日:2001年07月09日(月)09時09分59秒

「ごめんなさい…もう矢口さんの一緒にいれません」
「え…」
「家を出てきました。どっか遠くに行きます」
「…それってどういうこと…?だって…」
「あの人を梨華ちゃんから奪っておいて私だけ矢口さんとにいるなんて
 できないから…」
「ちょっ…やめてよ…そうやって…」
「矢口さんにお願いがあるんです。これからも梨華ちゃんの側について…
 一緒にいてあげてくれませんか?こういうこと頼めるのって矢口さんしかいませんから…」
「そんな…じゃ、じゃあよっすぃーはどうするのさ……これから…どうするの…?」
「私は大丈夫ですから……」
「嘘だよ!大丈夫なわけないじゃない!よっすぃーだってっ…!」
彼女は何も言わずに身をひるがえし立ち去って行こうとする。
「ちょっと待ってよ!ずるいよそんなの!1人で逃げ出すなんて…よっすぃーが
 今の梨華ちゃんの側についていてあげるべきじゃない!」
「…私じゃ…だめなんですよ…だから……」
「待って!待ってよ!そんな…あたし、よっすぃーが居なくなったら
 すぐによっすぃーのこと忘れちゃうよ!それで他の人と仲良くなっちゃうんだから!
 それでもいいの!?」

「……いいですよ」

「っ…!」


「…それでも、私は忘れないから」


彼女は走って行く。
私は走って―玄関に向かい―外へ飛び出した。靴を履くことも忘れて。
だがもう彼女の姿はどこにも見えなかった。
私はその場に膝から崩れ落ちそれでももう視界の中にいない相手へ向かって叫ぶ。

「あたしだって…あたしだってよっすぃーのこと忘れない!絶対にわすれないから!!」

その声はまだ明け切っていない冬の空にただ虚しく響くだけだった。




 (第一章 終)
98 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月09日(月)14時19分13秒
めっちゃ続きが気になるよ〜!!
いしよしやすやぐ(笑)ですな(w
99 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月12日(木)17時11分25秒
うう、なんだか悲しい終わりですな。
第二章では救いがありますように……
100 名前:mo-na 投稿日:2001年07月14日(土)03時34分38秒
今後に期待。「100番」だ!
101 名前:和希 投稿日:2001年07月26日(木)14時28分29秒
う〜ん、今後の展開がめっちゃ気になりますね
梨華ちゃん、よっすぃ〜、圭ちゃん、やぐつぁん
好きな組み合わせだからより、そうなのかも....
がんばってください。
102 名前:百太郎 投稿日:2001年08月31日(金)15時04分02秒
更新はもうないの?
103 名前:木多娘。 投稿日:2001年09月19日(水)02時45分52秒
2ヶ月以上も更新無しで申し訳ありません。
ラストまでの大まかな展開は出来あがっているのですが
今、書いては消し、書いては消し、という状態でして…

とりあえず全3章になる予定です。
放棄はしていませんが、この後、山もオチも無い話が続くと思うので
あまり期待はしない方がいいかと…

長々と書いても言い訳ばかりのレスになってしまうのでこの辺で。
本当に申し訳無い。
104 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月19日(水)15時05分41秒
木多娘。さん待ってますよ。
105 名前:mo-na 投稿日:2001年09月20日(木)01時42分51秒
まじ!良かった放置なのかと思ってました。
ちゃんとコメントが有ると待ってる方も安心しますからね。
言い訳なんって言わないで下さい。ファイト!
106 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月13日(土)16時00分44秒
木多娘。さん頑張って下さい。 期待してます。

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