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活動寫眞の女

1 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月23日(月)23時02分33秒
この話は同名の「活動寫眞(かつどうしゃしん)の女」という小説のパクリです。
パクリと言っても一応随所を娘。風に変えていきます。
好きな作品を汚されると思われた方には本当に申しわけありません。
2 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月23日(月)23時03分56秒
私が市井紗耶香に出会ったのは、まるで戦時中からそこにあったのではないかと
思われる程に、とてつもなく古い映画館の中だった。
地元の埼玉を離れ東京の有名な某私立女子高に入学してまもなく、
平成十三年の四月も半ばすぎのことだったと思う。
 
学校で私はまったくの異邦人だった。
後にも先にも、私はそのころほど憂鬱で心細い思いを味わったためしはない。
耳に入るギャルの間延びした喋り方はいちいち嫌味っぽく聞こえ、
みんながよそものの私を排斥しているような気がしてならなかった。
 
クラスメート達のみんなと同じ服装をして、みんなと同じ話し方をして、
挙句の果てには彼氏まで周りとあわせようと悪戦苦闘しているところが、
あまりにもバカバカしく、同時にとても不快だった。
 
そんな状況下で友人をつくる気になど到底なれず、
有名ということで予測していた真面目な雰囲気なども微塵も感じられず、
なんだか裏切られたような妙な被害妄想に陥っていた。
 
 
だから裏路地を適当に歩いていて見付けたその古ぼけた映画館で、
同年配の女の子に こちらから声をかけたりしたのだろう。
 
3 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月24日(火)00時28分01秒
私と市井紗耶香の運命的な出会いは、決して偶然ではなかった。
つまり、私の不安定な心がむしろ必然的に、彼女と偶然のめぐりあいを
もたらしたというべきだろうか。
 
古い映画館にかかっていたフィルムが何だったかは忘れた。
ただし新作の封切り映画でなかったことだけは確かだ。
 
子供のころから古い映画が大好きだった私は、大じかけの
ハリウッド映画にはあまり馴染めず、観るものは決まって東映時代劇や
リバイバルの邦画だった。
今時の少女にしては珍しい、いや、周りから見ればおかしいのかもしれない。
 
所々破れたりしている椅子にそっと腰掛けると、10席程前の一番スクリーンが
見やすい位置に、制服を着た少女がぽつんと座っているのが見えた。
がら空きの客席に一目で制服だとわかる少女がいたのだ。
驚きと好奇心で私の視線は自然と彼女の方へ向いた。
 
前の座席の背もたれに身を乗り出すようにしてスクリーンを見つめている。
モノクロ・フィルムの光が、色白の端正な面ざしを劇的に際立たせていた。
制服の背中を丸め、膝の上に両肘を置いて、
市井紗耶香は身じろぎもせずにスクリーンに食い入っていた。
 
4 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月24日(火)00時30分02秒
一本目のフィルムが終わり、私は薄暗い2階のロビーに出て、
覚えたてのタバコを喫った。
 
まったく真面目な高校生のように、きちんと制服を着た市井紗耶香が、
脇廊下をぐるっと回って、他にひとけのないロビーに現れた。
 
私達はこれまた所々破れている長椅子の、端と端に座った。
間近で見た彼女は、ちょっと目にはハーフに見えるような、
彫りの深い、眉と鼻筋の秀でた美しい横顔を持っていた。
ベリーショートだからなのか、とても涼しげに見える。
 
そして今更ながら、彼女の制服が同じ学校のブレザーだったと
いうことに気が付いた。
 
5 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月24日(火)03時23分26秒
元の小説の事は知らないのですが、なんだかノスタルジックな感じがいいですね。
期待してますんで、頑張って下さい!!

6 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月24日(火)06時49分07秒
いち○○なのか楽しみ。
ってかもっと複雑なのかな?
とにかく面白そうなので期待!
頑張って下さい
7 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月24日(火)22時48分37秒
浅田次郎の小説かな? まだ読んでないんだけど。楽しみにしています。
8 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月24日(火)23時55分34秒
彼女は長椅子に腰を下ろしたとたん、古本屋で手に入れたにちがいない
陽に灼けた名画のパンフレットを、いかにも嬉しそうに拡げた。
 
手元を見つめる私の視線に気付いて、市井紗耶香は顔を上げた。
 
その瞬間私はこの見知らぬ町に来て以来、半月めにして初めて、
会話らしい会話をする機会を与えられたのだった。
 
どうも、と私は笑いかけながらタバコを勧めた。
真面目そうな彼女はタバコなんか喫わないのかもしれない。
でもそんなものはどうでもよかった。
ただ彼女と話をするためのきっかけをつくりたかったのだ。
9 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月24日(火)23時56分19秒
「埼玉から来たばかりで、偶然はいったんだけど、東京って新しい建物
ばっかりじゃなかったんですね」
 
市井さんはとまどいがちにタバコを受け取ると、
 
「じゃあ、大学生?」
 
と訊ねた。
前々から大人っぽいとは言われていたので、たいしてショックは受けなかった。
それに、高校のために上京して来る学生が極端に少ないということも
当然私は知っていた。
 
自分が異邦人であるという考えは、もちろん幻想にすぎないのだけれども、
私はまるでアリバイの証明でもするように、自分が彼女と同じ高校に
入学するはめになった致し方ない理由を語った。
 
べつに難しい理由ではない。
私の地元は埼玉は埼玉でもおそろしく田舎で、10キロ近く離れた所に
小学校と中学が合わさった学校が一つあるだけで
高校というと寮にでも入らなければ通えないほどに遠かった。
 
それでどうせ寮に入るのなら、せっかくだから東京の偏差値の高い学校に
行きたいと両親に頼み込んだのだ。
 
そうした地域事情の結果なのだから、説明は簡単だった。
10 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月24日(火)23時57分11秒
 
「なるほど。そんな事情なら、あたしも同じことをするだろうな」
 
市井さんがアナウンサーのようなきれいな標準語を喋ることに、私は気付いた。
ギャル語に嫌気がさしていた私は、彼女に対しさらに好感を持った。
 
彼女ははそれまで私の出会った友人の誰とも較べようのない、
一種異質な明晰さを感じさせた。
受験勉強で鍛えた騒々しい頭の良さではない。
もともと知能指数がちがうという感じの、鏡のような聡明さだ。
 
「なんか頭よさそうですね」
 
素直にそう言ったつもりだったが、市井さんは切れ長の目を私に
ちらりと向けて、蔑むような笑い方をした。
それからいきなり愕くべきことを言った。
 
「あたしは頭よくなんかないよ。中学ほとんど行ってないんだ」
 
11 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月24日(火)23時57分52秒
とっさのことで、意味がわからなかった。
 
「行ってない、って?」
「地元の中学に入学したとたん、あほらしくなって行くのやめたんだ」
「行かなくても大丈夫だったんですか」
「義務教育だからね。一応自分で勉強はしてたし高校も入れたよ」
「へえ……」
 
私は絶句した。
いくら真面目な学校ではないとはいえ、偏差値は全国でも
トップクラスだったのだ。
 
「塾とかも行かないで、現役で―――?」
「現役ってそんな、大学じゃないんだから。それに家は厳しいから
浪人なんて親が許してくれないよ」
 
言いながら恥じ入るように俯いた横顔は美しかった。
ふと、私は映画館の中でフィルムに飽きてまどろみ、夢でも
見ているのではないかと思った。
愁いを含んだ市井紗耶香の表情は、古い松竹映画の二枚目俳優のようだった。
やわらかな髪をワックスでなでつけ、伏し目がちの瞼を長い睫毛が被っていた。
 
良くも悪くも擦れている最近の高校生の中に、そういうロマンチックで
清らかなイメージの少女など見たことがなかった。
 
12 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月24日(火)23時58分32秒

 
と、市井紗耶香は独りごつようにぽつりと呟いた。
それから愁いに満ちた顔を、少し錆び始めている鉄の把手のついた客席の
扉に向け、くすんだ色の蛍光灯に向け、肩越しの安っぽい灰皿に向けた。
 
13 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月24日(火)23時59分20秒

開演を報せるブザーが鳴った。
 
「一緒に観ようか。こっちの席に来なよ」
 
誘われるままに、私は市井さんと一緒に二本目の映画を観た。
 


フィルムがなんであったのかは、どうしても思い出せない。
14 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月25日(水)00時19分42秒
たくさんのレスありがとうございます。
はやくも感想スレでパクリについての話が出ていて驚きました。
感想スレの方、迅速な対応ありがとうございました。
…あれ? …対応であってますか?
>>5 さん
原作がノスタルジックな感じなので、そういう雰囲気がでていると嬉しいです。
>>6 さん
いち〇〇…う〜ん、あながち間違いでもないような…
まだ二人しかだせてないので、複雑になるかはこれからです(笑)
>>7 さん
はい、浅田次郎さんの小説です。
2、3年前NHKでドラマになってましたが、そっちもすごく雰囲気が
キレイでした。
というか、市井に置き換えている役の役者さんが市井そっくりでした(笑)
15 名前:>12コピペミスっちゃいました… 投稿日:2001年04月25日(水)00時54分29秒

「映画が、好きなんだ」
 
と、市井紗耶香は独りごつようにぽつりと呟いた。
それから愁いに満ちた顔を、少し錆び始めている鉄の把手のついた客席の
扉に向け、くすんだ色の蛍光灯に向け、肩越しの安っぽい灰皿に向けた。
 
16 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月25日(水)04時09分23秒
この作品の主役である「私」とは誰なのか・・・?
非常に気になります。
それと、市井ちゃんそっくりの役者さんが出ているというその、NHKドラマも、
気になります。(w
17 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月25日(水)11時02分57秒
いいですねえ、『活動〜』、浅田作品の中では好きな方です。
原作と重ねながら楽しみにしてます。
18 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月26日(木)01時16分46秒
パクリの話出したの僕です。ここみて、模範的だから見本として使わせてもらおうかと思ったんで。
まだ自治スレに書いてないけど。

凄い続き楽しみなんで、続き期待してます
19 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月26日(木)01時49分13秒
町には夜の帳が下りていた。
映画館から出たときに誰もが体験する、あの時間にたばかられたような
突然の夜だった。
 
瞳をを刺すイルミネーションの中を、私達はぶらぶらと歩いた。
その時の気分をいったいどう表現すればいいのだろう。
そう――見知らぬ異国の港で、やっと水先案内人がやってきたような気持だった。
 
市井さんは私のとまどいや異邦人のコンプレックスを、すべて理解していた。
だから嗤うことも拒むこともなかった。
どんな陳腐な疑問にも、嗤ったり侮ったりせず、教え諭すような
的確な解答を示してくれた。
市井さんの聡明さとは、つまりそういうものだった。
20 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月26日(木)01時49分57秒
私達は近くの喫茶店に入り、しばらくの間、おたがいの共通の趣味である
古き良き映画談義に花が咲いた。
 
「ところで君、バイトとかするの?」
 
映画論の腰を折るように、市井さんはいきなり言った。
だがそれは話の続きだった。
 
「もしやる気があるんだったら、なんだけど。撮影所で働いてみない?」
「撮影所!? そんなバイトあるんですか?」
「ああ、あんまり表だって募集しないんだけどね。あたしは知り合いが
撮影所にいるんだ。仕送りだけだときついだろ。やってみないか」
 
私は高校生になったばかりでバイトの経験がなかった。
いくら趣味に適ったものとはいえ、給料を貰うんだから安請け合いは
できない。
 
「市井さんは?」
「中学の時からいつも手伝いはしてたんだ。でも今年は受験生だし、
模試やテストも増えてきたし。家もやかましいしね」
「でも、一人じゃ…ちょっと――」
 
それもそうだというふうに、市井さんは私のとまどいを気の毒そうに眺めた。
夢のような話だが、さすがに一人で通う勇気はない。
21 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月26日(木)01時50分42秒
「やってみたいとは、思うんですけど…」
「うん、じゃあこうしよっか」
 
「私だってまったく暇がないわけじゃないから、何度か一緒にやってみよう。
そのうち君も慣れるだろうし、そしたら一人でもやれるよね」
 
この提案は渡りに船だった。
撮影所という映画にもっとも近い場所で働けるのだ。
それも途中までは市井さんも付いていてくれる。
 
映画館でたまたま同好の少女と知り合い、撮影所の仕事にありつく。
それはまるで客席から銀幕の中に踊りこむような、どんでん返しの
向こう側に転げこむような、信じられない話だった。
 
 
その晩市井さんは私の下宿に泊まった。
 
22 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月26日(木)02時11分08秒
>>16 さん
NHKの役者さん、チョコラブの時の市井ちゃんと同じ位の髪で、
鼻とか目元がそっくりに見えました。よかったっす。
でもその後全然見ない…(泣)

>>17 さん
楽しみにして頂いて嬉しいです。いまのところほとんど原作のまま書いてるんで、
「原作と一緒じゃねえか、ゴルァ!」とならないか心配でした(;^^
もう少しキャラが出てきたら、ちょっとづつ変えていこうと思ってます。

>>18 さん
模範的でしたか…
最初に書いておかないといけないなと、某スレを見てそのまま
文とか引用させてもらいました。(どこまでパクってるんだろう、自分…)
23 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月26日(木)02時55分16秒
>>22 気になったんで調べてみました。
【連続ドラマ】 活動寫眞の女 《1999.01.09〜》
ttp://member.nifty.ne.jp/concerto/maitv/katsudou/katsudou.html
ネタバレになるので、読む人は、そのつもりで。
24 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月27日(金)03時21分54秒
私の下宿は今時珍しい朝晩の賄い付きの所だった。
 
両親がインターネットを駆使して、賄い付きの下宿を探し出したのだ。
ほうっておくとべーグルやゆでたまごのような、自分の好きなもの
しか口にしないという、娘の不精な性格を見抜いていたのだろう。
 
建物は普通の二階建ての一軒家で、親の遺した家に大家一人が住むには広すぎ、
売りにだそうにもこの不景気、たいした値にはならない。
というわけで、仕方なく下宿屋を開いたのだそうだ。
 
一階が大家の住居で、まだ20代前半の関西弁の女性が住んでいた。
大家さんは夜の仕事をしているので、一晩中家に帰ってこず、学生と大家の
揉めごとの種である門限というものがなかった。
 
二階には東向きに十畳程度の部屋が三つ並んでいて、三つ並んだ部屋のうち、
南側には先住者が住んでいた。
 
大家の平家さんの話によると、彼女は同じ学校の先輩らしい。
親が転勤の多い仕事をしていて、中学ならまだしも高校を何度も転校するのは
転入試験などで面倒だから、高校受験時にちょうど住んでいたところから近い
この下宿を選んだのだそうだ。
25 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月27日(金)03時22分51秒
じきに埼玉から送られてきた荷物の中に、最中の箱が五つも入っていた。
つまりご近所に持って行けという母の配慮なのだが、祖父が店を構えている
というだけの本当にどこにでもある味だ。
それにそんな渋いお菓子、貰った人が有難がるわけがないと思った。
 
両親のいる神奈川に帰省しているらしく、朝晩の食事にもいなかったのだが、
ある晩の食事中、平家さんにあと二時間もしたら帰ってくると聞いた私は、
まるではじめて恋人の部屋に行くかのようにどぎまぎしながら、最中を
持って同居人の部屋を訪ねた。
 
これから少なくとも二年は付き合っていくのだ、第一印象は肝心だ。
 
暖色の電球に照らされたドアには「石川梨華」というフルネームが、なんとも
かわいらしい木工の飾りの付いた板に書かれていた。
なんでもシンプルなものが好きな私とは、あまりあわないかもしれない。
26 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月27日(金)03時23分34秒
「こんばんは」、と私はノックもせずに言った。
とても裏返っていて、自分の声じゃないようにすら感じた。
 
「? 平家さんですか?」
「こんど引越してきた吉澤です」
「そっ、そうですか。どうもはじめまして、石川です」
 
と彼女は戸を開けずに言った。
それと同時にごんと目の前のドアが揺れた。
きっと彼女がドアの前でお辞儀でもしたのだろう。
頭をぶつけてしまった彼女には失礼な話だが、そのドジのおかげで私は緊張が
一瞬にして解けた。
 
「いたーい」
「大丈夫ですか?」
「はい…だいじょぶです…」
 
恥ずかしいのか最後の方はどんどん小声になっていった。
タイミングがつかみにくくなってしまったが、私は気を取り直して言った。
 
「よろしくお願いします。これ、つまらないものですが」
 
やっと内鍵が解かれて、おそるおそるドアが開かれた。
27 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月27日(金)03時24分25秒
シャワーを浴びたばかりらしく、髪が濡れて頬に貼り付いていた。
頭をぶつけた痛みからか目が潤んでいて、女同士だと言うのになんだか
どきりとしてしまった。
 
最中の箱をおずおずと受け取りながら、彼女は視線を落ち付かなく
そこらじゅうに向けた。
 
「あ・ありがとうございます。石川梨華です」
「吉澤ひとみです」
 
ふと小柄な背中の向こうに、ものすごく散らかった様子が伺えた。
ベッドの上には服が散乱し、床に雑誌や教科書が乱雑に置かれていた。
いくら帰ってきたばかりだからといって、この散らかりようはないだろう。
几帳面そうな外見とのギャップに私は少し混乱した。
28 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月27日(金)03時25分08秒
「あんまり見ないでください!」
「あ、はい」
 
真っ赤になって小さく叫んでるのを見ると、途中までドアを開けなかった
ことや、ずっと落ち付きがなかったことが、この散らかった部屋のせい
なのだとわかった。
 
叫んでしまった自分を恥じたのか、捲くし立てるように早口で言った。
 
「あのっ、わからないことがあったら、いつでも聞いてください。じゃあ」
 
ばたんと勢いよく閉まったドアの前で、私はどうしたかというと、
忙しい人だな、などとのんびり考えていたりした。
 
 
とにもかくにも、私はこんなふうにして夢ごこちの生活を始めたのだった。
 
29 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月27日(金)03時35分21秒
>>23 さん
調べてくれてありがとうございました(^^
市井ちゃん似(やっぱりあんまり似てないかもしれない)の役者さん、
ふたりっ子にも出てたんですね。
ふたりっ子何回か見たのに気付かなかった…鬱だ。
30 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月27日(金)04時13分00秒
いよいよ、オリジナルの世界に入ってきましたね。
ここでも石川さん部屋汚いのね。(笑
31 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月28日(土)03時51分03秒
この先、続々とメンバーが出てくるのかな?
続きが楽しみです。
32 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月28日(土)06時46分20秒
ん〜、楽しみな展開。話の雰囲気がすごくいいです。
続き楽しみにしてます。
33 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月29日(日)22時11分57秒
話を本筋に戻そう。
あれから私と市井さんは、喫茶店で軽い夕飯を食べ私の下宿に戻った。
ぶらぶら語り合いながら帰っているうちに、中途半端に遅い時間になってしまい
市井さんの家の門限が異様なほど早かったこともあり、今日は私の下宿に
泊まることになったのだ。
私が誘ったのではなく、市井さんが望んだように記憶する。
 
ダイニングのテーブルの上には、豚の生姜焼きや煮物などの素朴なおかずが
ラップに包まれて置いてあった。
それを見た市井さんは、クスリといたずらっぽく笑ってこう言った。
 
「ははっ、なんかいい人っぽいな」
「なにがです?」
「このお皿並べた人だよ。ほら、箸までちゃんと揃えてある」
 
言われてみると、ご飯茶碗・汁椀は裏返しで置いてあって、おかずの盛り付け
てある皿の下には「レンジで温めて食べてな みちよ」と丁寧な字で書かれた
メモ用紙が挟まれていた。
平家さんの世話好きで几帳面な性格が、そんな些細な所にまで出ている。
 
私は自分が褒められたわけでもないのに、へへっと照れ笑いをした。
きっと私の中で平家さんは、限りなく家族に近い人になってきているのだろう。
34 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月29日(日)22時12分51秒
「こんないいとこに住めて、そのうえ門限もないのかぁ。あたしも一人暮らし
 したいよ。んで、ここに住みたい…」
「へえ。あはは、ちょうど一部屋空いてるますよ」
「…なぁ〜んてねっ! 無理だよ、家は本当に厳しいんだ」
「大学に入ったら一人暮らしぐらい許してもらえますよ」
「いや無理だね、たとえば今日だって、いきなり朝帰りなんてしたら、どこで
 何をしてたの、何を食べたのって、根掘り葉掘り聞かれる」
 
少し常軌を逸しているようにも思えるが、そう特別な事でもない、と私は思った。
お嬢さま学校として名の知れている学校だから、クラスメートにも
良家の子女が何人かいる。
そういった家柄の子は、門限も交際もかなり束縛されていて、
ひどいものになると婚約者まで決められていると聞いたこともある。
 
家のことや父母の事を話すとき、市井さんは決まってうんざりした表情を見せた。
35 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月29日(日)22時13分57秒
「あっ、家に電話しておいたほうがいいんじゃ…」
「いいよ、どうせ電話なんかじゃ信じないさ。まったく、たまに監視されてる
 気分になるよ」
「じゃあどうするんですか? このままだと私、誘拐犯になっちゃいますよ」
「誘拐犯か、言い得て妙だな」
 
そして市井さんはニヒルな笑みを浮かべながら、簡単な話だとでも言うように、
さらりと明日の予定を言い放った。
 
「どうせ明日は日曜日だ。どこかで朝食を食べて、それから家に帰る。
 ……もちろん君も一緒にね」
「ええっ!?」
「あたしが親に信用ないのか、親が心配性なのかわかんないけど、
 あたし一人じゃ一蹴されること間違いなしなんだ。頼むよ」
36 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月29日(日)22時14分39秒
私は二つ返事で承諾した。
口では「誘拐犯にされるくらいなら、仕方ないか…」なんて言ったが、
本当は市井さんの、独特な性格とたぐいまれな聡明さを作り上げた家庭を
見てみたかったのだ。
それに、なぜ市井さんが古い映画をこれほどまでに好きになったのか、
その理由も彼女の家にあるように思った。
 
まあ、最後の一つはすぐに市井さん自身から聞けたのだが。
 
37 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月29日(日)22時26分19秒
>>30 さん そうなんですよ、もう自分の中で石川=部屋汚いってイメージが
出来ちゃってて…(笑)

>>31 さん 全員は出せませんが7、8人くらい出そうと思ってます。
今はまだ、3人しかでてないっすね(汗)

>>32 さん ありがとうございます。原作の雰囲気をしっかり出していきたいです。
まだ出ているか自分で判断できないので、そう言ってもらえると嬉しいです(^^
38 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月30日(月)00時31分49秒
>>37 今4人でてました…みっちゃんいい子なのにね…忘れちゃった。
まちがい多すぎる、鬱だ。
39 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月30日(月)00時53分56秒
よかった、なんか悩んでたので、このまま放棄しちゃうかと思った…
楽しみに更新待ってます。
40 名前:名無し読者 投稿日:2001年04月30日(月)23時41分41秒
なんというか、文体が文学っぽくていい感じですね。
他ではあんまり見ない雰囲気で。
あ、これが“原作の雰囲気”ってやつなのでしょうか?
原作読もうかな・・・でも先を知るのはいやだな(w
これからも楽しみにしてるのでがんばってください。
41 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月01日(火)04時17分11秒
この独特な雰囲気がたまらなくいいですね。
いちよしの組み合わせもなかなか珍しくて期待大です!!
42 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月05日(土)04時05分24秒
まだ十分育ち盛りの私達は、喫茶店で夕飯を食べてきた筈なのに、
平家さんが用意してくれた食事もすべて食べきった。
とは言っても、一人分を二人で食べたのだからたいした量じゃないが。
 
順番にシャワーを浴び、部屋に戻るとさっそく私達は映画談義を始めた。
埼玉から送った荷物のうちダンボール二箱分は珍奇な収集品だった。
 
私の住んでいた田舎町にたった一つあった映画館は、マニアが目を見張る
コレクションの宝庫だった。
そこを一人で切り盛りしているおじいさんは、古いパンフレットやシナリオ、
スチール写真や雑誌類、それらがマニアの間でどれだけ高額に売買されているか
を知らず、(私も高価な品だということを、つい最近まで知らなかったが)
欲しがった私に全部タダでくれた。
43 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月05日(土)04時05分58秒
いやたとえ知っていても、あのおじいさんなら、タダでくれていただろう。
それだけ欲の無い人だった。
 
そう、”だった”のだ。
一昨年の冬の終わりだっただろうか、大好きだった映画を観ながら、
おじいさんは静かに息をひきとった。
隣でその映画を観ていた私は、彼の幸せそうな表情にしばらく経っても
死んでいることに気付くことができなかった。
 
桜の花が咲く頃、主を亡くした映画館は、遺族の希望で取り壊され更地になった。
44 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月05日(土)04時06分47秒
私は今でも疑問に思うことがある。
彼は本当に死んだのだろうか、と。
 
それは肉体の死ではなく、精神、いや魂と言うべきだろうか、
私には何故かそれが映画館の跡地から無くなってしまったように思えなかった。
 
幽霊などでなく、もっと根本的なところで…

45 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月05日(土)04時07分54秒
「すごいな、よくこんなに集めたね」
「家の近くの映画館の人に貰ったんだ」
「高かっただろ」
「ううん、タダで」
「マジで!? そりゃぁ、羨ましい環境だな」
「古本屋とか行ったら、単位が万ですからね。もうすっごいビビリましたよ」
「そうだよ、それもたしか店では二万くらいしてたし」
 
そう言って私が手にしていたパンフレットを、いまにも喉から手を出しそうな程に
恨めしそうに眺めた。
 
「そんな目で見られても、あげませんよ」
「ちぇっ。いいさ、目に焼き付けるから」
「いいわよぉ、存分に見てお行きなさい。オホホ」
 
私はつい最近までワイドショーを騒がせていた某夫人のモノマネをした。
二人同時に吹き出し、ひとしきり笑った後、私はさっきから聞きたくて
たまらなかった事をそれとなく訊ねることにした。
46 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月05日(土)04時08分38秒
「あ、そうだ。さっきのバイトの話なんですけど、撮影所に知り合いがいるって、
何してる人なんですか」
「ん――…中澤裕子さんっていってね、あたしは裕ちゃんって呼んでるんだけどさ」
「女の人なんですね」
「ああ、根っからの飲んだくれで、真昼間から酔っぱらいながら倉庫番をしてるよ」
 
酔っぱらいながら出来る仕事なんて、撮影所にあるのだろうか。
いままで私は撮影所働いている人は、いつも忙しそうに走り回っている
イメージをもっていたので少なからず衝撃をうけた。
47 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月05日(土)04時23分08秒
中途半端なところですが更新です。
>>39 さん 放棄だけはしないようがんばります(汗)
だれでもokって市井ちゃん…(笑)

>>40 さん 文体、確かに似せて書いてます。似せまくりです、ヤバイです。
雰囲気について原作の解説で「銀色」と書いてあったので、
そのまま銀板に書いてたりします。
原作…読んでみて欲しいと思いながら、見比べると見劣りして辛かったり(笑)

>>41 >いちよしの組み合わせ って本当に無いですね。
男前コンビはあんまり一緒に絡まないんだろうか…
48 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月05日(土)04時53分37秒
全然関係ないけど、「映画館を切り盛りしているおじいさん」のくだりを読んでたら、
ふと、ニューシネマパラダイスを思い出した。
本当に関係ないっすね!!スイマセン
この小説の雰囲気がとても好きなんで頑張って下さい。

49 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月05日(土)13時41分46秒
まったりと時間がながれていく…
なんか、昔を思い出しちゃいました。
50 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月07日(月)18時12分52秒
原作と別個の世界がしっかりとある、アナザーストーリーって感じですね。
楽しみにしてます。
51 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月16日(水)02時56分39秒
最近更新が無いので寂しいです。
52 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月18日(金)00時23分31秒
物語がどう進んでいくのかめちゃめちゃ楽しみです
作者さんファイト
53 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月20日(日)04時13分28秒
「倉庫番ってどんな仕事なんですか?」
「倉庫に収納されてる昔のフィルムとか、いろいろな機材を、
 必要になった時に探してくるんだ。簡単に見えるけど、
 膨大な数の物がごちゃごちゃと置いてあるから結構大変みたい」
 
市井さんは膨大な数の機材やフィルムの山を思い出したのか、
うんざりとした顔をした。
その説明を聞いて、私は尚更倉庫番という仕事を疑問に思った。
大変なら尚のこと酔っぱらいに任せたりはしないのではないか。
わたしがその事を口にすると、市井さんは「普通ならね」と意味深な笑い方をした。
54 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月20日(日)04時14分01秒
「裕ちゃんの場合は違うんだ。多少お酒が入ってる方が仕事がはやい。
 酔っぱらってて仕事に支障がでるような人なら今頃クビになってるよ」
「か、かわってますね…」
「まあ、お父さんが有名な映画会社の役員で小さい頃から
 撮影所に出入りしてたおかげで、そんなおいしい仕事がまわってきた
 のかもしれないって本人は言ってたけどね」
 
確かにコネでもない限り、どれだけ優秀な人だとしても酔っぱらいなんか
雇いはしないだろう。
だけど市井さんの笑顔には、なにかもっと深い意味があるように思えた。
なんと言えばいいのだろうか、”中澤さんにしか倉庫番は出来ない”、
という絶対的な自信のようなものを私は感じたのだ。
 
55 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月20日(日)04時24分44秒
>>48 さん
ニューシネマパラダイス。気になって検索してみたんですが、面白そうっすね。
ああ、見たくなってきた(w

>>49 さん
まったりと、更新もまったりと……すいません。まったり過ぎました(汗
从#~∀~#从<いくつなんだ〜言うたかて、どうせうちより若いんやろ!
(;`◇´)<姐さん、被害妄想やろそれ…

>>50 さん
別個になってますか、よかった。
せっかく娘。で書いてるので、人間関係も複雑にしていきたいです。
56 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月20日(日)04時37分06秒
>>51 さん
申し訳ないです。テストあったもので、ついつい更新サボってました(汗
待たせたうえに話がまったく進んでないので本当に申し訳ないです。

>>52 さん
ありがとうございます。
まだまだ序盤なんでこれからは早めに更新していきます。
57 名前:49 投稿日:2001年05月20日(日)10時27分45秒
おお、よかった。
ちょっと心配しちゃいました。(w
次の更新を楽しみに待ってます。
58 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月28日(月)04時28分29秒
ゆっくりでいいんで最後まで頑張って下さいね!!
59 名前:48 投稿日:2001年05月28日(月)04時53分53秒
更新お待ちしております。

ニューシネマパラダイス、見た事無いのでしたらぜひ見て欲しいです。
しみじみ感動すること請け合いです。
60 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月28日(月)22時50分35秒
「裕ちゃんってどこに何があるか全部丸暗記してるんだ。
 飲んだくれのわりに頭いいんだよね」
「丸暗記? さっき膨大な数って…」
「言ったよ。機材だけで2、300種はある、フィルムを入れると…ああ、想像する
 だけで嫌になってきた」
 
きっとフィルムを入れれば1000を優に超えるに違いない。
その上、映画というものは似たようなタイトルが幾つもある。
〇〇の女、だの。××な男、だの。
これがなんとも紛らわしい。
少なくとも日本史の年表にすら四苦八苦していた私には到底無理な話だ。
 
「はは…冗談…ですよね?」
「マジ。つっても暗記してても大変な仕事には違いないんだけどさ。
 下手に動かすと上から崩れてくんの、大量のフィルムが」
 
あくまで市井さんは本気だった。
市井さんといい、中澤さんといい、いったいどんな頭の構造をしているのだろう。
まるで『類は友を呼ぶ』の良い実例のようだ。
 
私はたちまち、その中澤という飲んだくれの倉庫番に興味を持った。
 
61 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月28日(月)22時52分49秒
「今更聞くのもどうかと思うんですけど、市井さんと中澤さんって
 どんな関係なんですか?」
「どんな…う〜ん、正確に言うと知り合いなのは母親同士なんだよ」
「母親? 友達ですか」
「いや、ちょっと違う。裕ちゃんのお母さんは教師をしてたんだけど、
 うちの母さんがその元教え子で、未だに仲が良いから家族ぐるみの
 お付き合いをしてるんだ」
「でも教師と生徒でそんなに長い間仲良いのって珍しいですね」
「まあね、うちの母さんまだ学生の内に出来ちゃった婚したから、
 先生に相談してる内に仲良くなったんだって」
「出来ちゃった婚…」
 
今ではそう珍しいことではないが、私の住んでいた所の親の世代では、
結婚なんて見合いや親の紹介ばかりだったと聞いた覚えがあった。
だがそれは田舎の話に過ぎなかったのかもしれない。
62 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月28日(月)22時53分57秒
「市井さん、本当に私バイトできますか」
「ん? 用心深いなぁ、ちゃんと約束するよ。裕ちゃんに頼めば大丈夫さ。
 うまくするとエキストラのバイトにもありつけるし、表の仕事が
 空いてないときは倉庫番をしていればいい」
「その、倉庫番がいいな」
「言うと思った」
「へへぇ」
 
私達は本当に短時間で打ち解けていた。
元々気が合っていたのかもしれないが、それだけならこんなに
気持ちが通じ合う事は無かった筈だ。
きっと映画という共通の趣味が、私達をこれだけ親しくさせてくれたのだろう。
 
63 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月28日(月)23時08分24秒
>>57 さん
また更新滞らせてしまった…。 ホントにすいません。
こうなったらなんか決め事でもつくっておきます、
週1回更新とか…(目標低い(w

>>58 さん
そうっすね、ゆっくり最後まで…
从#~∀~#从<ゆっくりも程度もんやけどな…。うちまだ出てないし。
(0^〜^0)<…出てこなくてもいいです(ボソ

>>59 48さん
ニューシネマパラダイス。
しみじみ感動っすか、いいっすね。
今度機会があったら借りてこようと思います。
ってレンタルかい…(w
64 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月30日(水)23時54分57秒
――キィ…パタン
 
ドアの開く音がし、その後暫くしてドアの向こう側から
スリッパの軽快なリズムが響いてきた。
平家さんは仕事に行っている筈だから、この足音は彼女しかいない。
 
「先輩、おやすみなさい!」
「えっ? あ、おやすみなさ…きゃぁ!」
 
バサバサと雑誌の落ちる音。
どうやら不意を打って驚かせてしまったようだ。
 
「ちょっと見てきます」
「……ん」
 
市井さんの笑いを噛み殺している音を背中に感じ、先輩に聞こえない内に
あわててドアを閉めた。
65 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月31日(木)00時00分41秒
きっと今頃初めて会った時と同じく、頬を真っ赤に染めてドジな自分を
恥じているに違いない。
元来ネガティブな所があるらしい彼女は、小さなことに一々傷ついて
後々まで引きずってしまうらしい。
 
そのうえ私の場合どんよりしている人を前にして食事をすると、
何故かご飯の味も分からなくなるほど緊張してしまう。
だからこんな笑い声一つで何日も悩ませてしまうのは、
私にとっても得策ではないのだ。
 
「先輩?」
「あ…ひとみちゃん」
 
先輩はしゃがみ込んで先程ぶちまけられたであろう辞典や参考書、
ハードカバーの小説の山を拾い集めていた。
だがそれらは軽く見積もっても2、30冊はあるようだ。
これを一度で運ぶつもりだったのかと思うと、彼女の要領の悪ささに
同情すら感じてしまった。
66 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月31日(木)00時02分51秒
「手伝いますよ」
「ありがと…」
 
落ちた衝撃で折れ曲がったページを指で撫で擦っていると、
「ごめんね」という呟きが頭上で聞こえた。
聞き取りづらい小さな声だった。
度々声が小さくなってしまうのも彼女の悪い癖だ。
 
「何がですか?」
「だって私、いっつもひとみちゃんに迷惑かけちゃって…」
「迷惑なんてそんな、さっきは私がいきなり声かけちゃって…」
「ううん、いいの。年上なんだからもっとしっかりしなきゃ」
「先輩は十分しっかりしてますよ」
67 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月31日(木)00時04分21秒
私はニッコリと微笑んで言った。
これはけして励まそうと思ってのお世辞などではない。
まあ彼女は確かに部屋は汚いし、要領も悪いけど、しっかりしようと普段から
努力している人なんてそうそうお見受けできないものだ。
それに彼女の頑張っている姿はとても好感が持てた。
 
それでも市井さんほど気を許せていないのは、
彼女の女らしい仕草や高い声、か細い身体。
そのどれを見ても私とは違いすぎ、なんだか気後れしてしまったせいだろう
68 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月31日(木)00時05分56秒
「…優しいね」
「そんな事ないですよ。本音ですから」
「…ひとみちゃん」
「あっ、これこのあいだ映画化されたやつですね」
 
やはり慣れない事は言うものではない。
すぐに顔が熱くなって来た私は、照れ隠しに話題を偶々持っていた小説に振った。
俯いて恐らく赤くなっているであろう頬を隠してはみたが、
先輩にはバレバレだったようだ。
上目使いに見上げると、微笑ましげに私の表情を伺っていた。
69 名前:パク@紹介人 投稿日:2001年06月19日(火)17時18分03秒
こちらの小説を「小説紹介スレ@銀板」↓に紹介します。
http://www.ah.wakwak.com/cgi/hilight.cgi?dir=silver&thp=992877438&ls=25


70 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月24日(日)16時59分55秒
できた時に更新してくださいね。待ってます

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