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Space Venus
- 1 名前:〜プロローグ〜 投稿日:2001年05月01日(火)19時44分01秒
- 無限に広がる宇宙に《モーニングLOVE大星雲》と呼ばれる恒星の大集団があった。
その星雲内に存在する惑星《ゼティマ》。
この惑星の人類は長い歴史の中で発達し、より高度な文明をもって栄えていった。
しかし同時に行過ぎた文明の発達は自然破壊につながり、やがて惑星規模の環境問題を
深刻化させていくのだった。
そこでこの惑星に住む人類は『生命の源である母星の自然を回復し、以後は聖地として保護しよう。
その為に人類は全て宇宙に住むべきだ』という考えのもと、宇宙移民計画を発令したのである。
それから約15年後《スペースラグーン》と呼ばれるリング状の巨大なスペースコロニーが完成。
そして人類の大半はそこに移り住むようになった。
人類の文明が発達し全てが変化していく中、それでも時間だけは変わらずに刻み続ける…
- 2 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月01日(火)19時46分41秒
- ある宇宙空間の一郭で二機の人型機動兵器による戦闘が行われていた。
:
「さすがにやるね!」
先程から自分の攻撃を全て躱す相手に対して彼女は感嘆の言葉を漏らした。
相手に背を向けない様に自分の機体を後退させながらモニター正面に映るその相手を見る。
現在彼女が戦っている相手は彼女が操縦しているものと全く同じ機体だ。
ただし、彼女の機体の色が赤に対して相手は水色である。
その水色の機体が開いた距離を詰めるべくバーニアを全開にして接近してくる。
彼女は後退しつつも右手に装備されたビーム・ライフルを迫ってくる相手に向けて発砲した。
しかし、放たれたビームは相手には当たらずその横を突き抜けていった。
「ちょっち照準があまかったか」
尚も自機を後退させつつ彼女は独りごちた。
- 3 名前:作者です 投稿日:2001年05月01日(火)19時51分03秒
- 初めて書かせていただきます。
タイトルの通りPS2ソフト「スペースヴィーナス」を元にした小説もどきです。
稚拙な文章でつまらなかったら申し訳ありません。
また誤字脱字等があった際にはご容赦下さい。
ちょっとガ○ダム入ってます。
更新は遅いペースになると思います。
よろしくお願いします。
- 4 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月03日(木)00時36分02秒
- 今までの娘。小説にあまり無い雰囲気だ。
ガン○ム好きなんで、期待しています。
- 5 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月03日(木)10時54分39秒
- やはり、名セリフは使ってほしいな。
- 6 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月07日(月)19時46分34秒
- 水色の機体も同機種である以上、同様にビーム・ライフルを装備しているのだが、
戦闘開始当初からそれを使う様子は全く見せていない。
今度は狙い撃ちされにくい様、左右に回避運動を取りながら前進してくる。
どうやら近接戦闘用の武器であるビーム・サーベルによる接近戦を
狙っているようだ。
『常に距離を保って!相手に接近されちゃーダメよ!』
操縦席の通信機から何度目かのアドバイスの声が聞こえてくる。
その声の主もまた相手の意図を見抜いているようだった。
「わかってる!これなら!」
赤い機体の胸部が開き、内装されているミサイルポットから十数発の
小型ミサイルが一斉に発射される。発射されたミサイルは一直線に
目標に向かうが、標的にされた水色の機体は高速で右に動き、
またもそれを躱した。
しかしミサイルにはホーミング機能が付いている為、
そのまま方向を変えて再び水色の機体に迫る。
ミサイルに追いかけられているその機体は腰部からビーム・サーベルの柄を
引き抜いて装備するとビームの刃を伸ばして追ってくる順に二発のそれを切り払った。
切り払われたミサイルの爆発に後から迫っていた残りのミサイルが
巻き込まれて誘爆を起こす。
ほんの少しの間その爆発に気をとられた彼女は相手である水色の機体を見失う。
「見失った!?何処?」
『後藤!上!』
再び通信機から声が聞こえるのと同時に正面のモニターにサブウィンドウが
開いて上方への警告を促す。
見上げると水色の機体がビーム・サーベルを振りかざし、切りかかってくる直前だった。
「クッ!」
素早くレバーを操作して機体を左に流し、間一髪その一撃を避ける。
と同時に自分もビーム・サーベルを引き抜いて左手に装備する。
水色の機体がすぐにも第二撃を加えてくるが彼女はそれをビーム・サーベルで辛くも受け止めた。
その後も次々に繰り出される剣撃をなんとか凌ぐ。
彼女はビーム・サーベルにおける剣撃戦では相手にかなわないのは解っていた。
防戦に徹して離脱の機会を伺う。
すると焦れたのであろうか水色の機体はビーム・サーベルを大きく振りかぶり渾身の一撃を試みた。
そのために今まで連続で行われていた攻撃に僅かな間ができる。
彼女はその隙を逃さなかった。ビーム・サーベルを捨てた左手で相手の振り下ろされる腕を抑え、
その攻撃を阻止する。
- 7 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月07日(月)19時49分37秒
- 次の瞬間
「このぉー!!」
水色の機体に蹴りを入れて強引に弾き飛ばす。
そして彼女は再び後退して距離を取りながら、ビーム・ライフルの照準を合わせた。
「もらった!」
が、その時、こちらより一足早く水色の機体が今迄使わなかったビーム・ライフルを
突如発砲した。
「あぁーー!!ずっこーい!」
叫んだ刹那、モニターが暗転する。
その後彼女の目の前のモニターには“You Lose”の赤い文字が表示され、点滅した。
:
「市井ちゃん、ずるいよ!ビーム・サーベル以外は使わないって言ったじゃん!インチキだよー!」
室内に備え付けられたコクピットから出てきた少女が頬を膨らませて抗議している。
戦う前に付けられた条件を破られ御立腹だ。
先程から赤い機体の操縦をしていた少女。彼女の名前は後藤真希。
「ハッハッハ、戦いは結果が全て、勝者こそ正義なのだよ。よ〜く憶えておきたまえ。後藤君」
後藤が使っていたものとは対称に備え付けられたコクピットから出てきた
ショートカットの髪の少女がまるで開き直った態度でその抗議に答えた。
こちらの少女の名前は市井紗耶香という。
水色の機体の操縦をしていたのは彼女だ。
- 8 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月07日(月)19時52分39秒
- ここは彼女達が乗っている宇宙船艦内の対戦ルームと呼ばれている室内訓練用の部屋である。
ここでは本物の機体と同じ設備のコクピットが10台設置されていて、
コンピューター・グラフィックを使ったバーチャルリアリティーによる機動兵器の
実戦シミュレーション型の訓練が可能となっている。
簡単に言えばに彼女達は今、ゲームで対戦していたのである。
- 9 名前:作者です 投稿日:2001年05月07日(月)19時56分29秒
- 更新です。
>>4
>>5
レスをいただき、どうもありがとうございます。
こんな作品ですがよろしければおつき合い下さい。
ガン○ムが入っていると書きましたが、今のところメカの設定や時代背景くらいしか参考にしていません。
ストーリーは別物になってしまう予定なので、あちらの作品と同じような流れだと思う人には
期待を裏切ってしまうことになると思います。
しかしガン○ムの名セリフを入れるのも面白そうですね。
使えるシチュエーションがあったら、ちょっと意識してみたいと思います。
のんびり少なめの更新ですいません。
次回は残りのメンバーの登場です。
- 10 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月07日(月)21時40分43秒
- 「えらそうな、市井さま。」
なかなかええ感じです。
戦闘シーンの描写も、目に映るようだし、期待してます。
ちなみに下げて書くの?いちおうsage。
- 11 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月11日(金)20時08分06秒
- 二人がそんな言い合いをしているところに別の場所から声がした。
「でもさぁ〜偉そうに言ってるけど、紗耶香、正直最後負けそうだったよね〜」
長身で黒いロングヘアーの女性がそう言いながら部屋に入ってくる。彼女の名は飯田圭織。
「そーそー。本当ならあのまま絶対負けてたね」
続いて今度は茶パツで背の低い少女が入って来た。名は矢口真理。
「こっちはビーム・サーベルしか使えないし、後藤は圭ちゃんのナビも付いてたんだから、
やっぱ不利なのは当たり前じゃんか!」
現れた二人から指摘され市井が反論する。
そこにまた新たな声が加わった。
「あれ〜始める前に自信満々でその条件をのんだのは誰でしたっけ?」
市井が“圭ちゃん”と呼んだ女性。
先程後藤にナビゲーターとしてアドバイスを送っていた保田圭だ。
「『後藤なんてビーム・サーベルだけで楽勝だぜ!なんなら誰かナビにつけてもいいよ!』なんてね(笑)」
保田とは違う声がさらに続く。
矢口同様こちらも小柄だが、ちょっとポッチャリしていて明るい笑顔が特徴的な女性、安倍なつみ。
「結局最後はズルしよってからに。ほんまみっともないでー」
最後に現れてトドメの言葉を発したのは、金髪で他者より若干年配と見受けられる女性。
この集団をまとめるリーダー、中澤裕子である。
彼女達は隣の部屋の観戦用スクリーンで今の対戦を見ていたのだ。
- 12 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月11日(金)20時10分36秒
- 「ぐっ!」
痛いところをつかれ、もはや反論できない市井。
確かに今回はハンデが大きすぎた。
自由時間にちょっと訓練しようと後藤に声をかけたのが事の始まり。
当初は普段と同じくノーマルに対戦しようと思っていた。
しかし退屈していた飯田の
『普通にやったらまだ紗耶香が勝つに決まってんじゃん。面白くな〜い』
という一言から今回の事態を招いたのである。
他のメンバー達の挑発にものせられた市井は、ならばビーム・サーベルのみで勝つと豪語してしまった。
さらにはいつの間にか敗者が勝者の言う事を何でも一つ聞くという条件まで付けられていた。
言ってしまったあとに後悔しないでもなかったが、市井には後藤の教育係としての立場と、
メンバー中一番の新米で最年少である相手に互角の条件では戦えないという先輩としてのプライドも確かにあった。
それが彼女をそのまま今回の対戦に駆り立てたのである。
「認めたくないもんだね。若さ故の過ちというものを…」
髪を掻き上げながら市井は、メンバー達にのせられてしまった己の未熟さを顧みて自嘲し、独り呟く。
「…あんた、カッコつけてなに言ってんの?」
それを聞いた隣にいる保田から軽いツッコミがはいった。
「この勝負、紗耶香の反則によりごっちんの勝利ー」
「イェ〜〜〜イ!」
中澤に勝ち名乗りを上げてもらい機嫌を直す後藤。
「じゃー市井ちゃん。後藤が勝ったから今度の休みに一日つき合う約束、忘れないでね」
後藤が対戦前に交わした約束を確認する。
「わかったよ…」
反論するのを諦めた市井はそれを承諾した。
ちなみに市井が勝った場合は後藤が市井にディナーをご馳走するというものだった。
これだとどっちにしろ次の休暇の内の一日は二人が一緒に過ごす事に変わりないのだが…
「今度の休みが楽しみだね〜。ね!市井ちゃん!」
:
- 13 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月11日(金)20時13分17秒
金色のコスチュームに身を包んだ、一見どこぞのアイドルグループに間違いそうなこの七人。
彼女達こそ宇宙戦艦《モーニングジェット号》に乗り込み、スペースラグーンの平和を守る
『Space Venus(スペースヴィーナス)』実戦部隊《モーニング娘。》のパイロット達なのだ。
- 14 名前:作者です 投稿日:2001年05月11日(金)20時16分36秒
- 更新です。
これでとりあえず最初の部隊メンバーが全員登場しました。
本物の娘。の時期でいえば「恋のダンスサイト」を歌ってた頃ですね。
>>5
最後の方の市井の台詞、使ってみました。分かりますでしょうか?
そのまま使うと男言葉(市井ならOK?)で、しかも必要以上に大人っぽくなって
しまうと感じたのでちょこっとだけ変えました。
そのままの方がよかったならすいません。
>>10
レス、どうもありがとうございます。
戦闘シーンの描写、うまく書けてるかちょっと心配しておりました。
(これからも心配ですが…)ありがとうございます。
感想・ご意見等のレスについては、今のところはとりあえずsageでお願いします。
初心者だし、更新速度も遅めになりそうなので、下の方で細々やっていこうと思っていますので。
- 15 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月11日(金)21時46分32秒
- 全員登場、短いセリフですが、メンバーの特徴をよくつかんでると思います。
ちなみに、>>13 のあとは、タイトルが大写しになって、オープニングムービーが、
始まるんだよね。(w
>>市井の台詞
ないすアレンジです!sage
- 16 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月12日(土)12時01分44秒
- ◇
スペースコロニーの完成から約80年の間、平和が続いていた。
しかし四年前より鉱物資源が採取できるアステロイドベルトの小惑星帯からコロニーの間を
往来する輸送船が、正体不明の敵から襲撃を受ける事件が度々発生する。
この事態に対し現スペースラグーン政府組織《アップフロントエージェンシー》は、
かねてより有事に備えて組織していたコロニー警察の特殊部隊を正式に
軍《Space Venus》として独立させ、その部隊長の職にあったつんくという男を司令官に任命した。
つんく司令は政府の協力により《Hello!Project》を発動。
特殊部隊時代からの部下であった中澤、石黒、安倍、飯田、福田の五人による
実戦部隊《モーニング娘。》の他、《T&Cボンバー》《カントリー娘。》《ココナッツ娘。》
《メロン記念日》《シェキドル》の各ユニットを結成し脅威に備えた。
- 17 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月12日(土)12時04分20秒
- 発足当時は五人だった《モーニング娘。》だが、
その約三ヶ月後に市井、矢口、保田の三人が加わった。
しかしその後、初代メンバーである福田明日香が
『一度は諦めていた医者に向けての勉強をがんばりたい』という理由から脱退。
さらには昨年、やはり初代メンバーの石黒彩が結婚の為に辞めていった。
そして、その直後にこの二人の欠員を補うべく後藤真希が加入した。
これにより現在モーニング隊は隊長の中澤裕子、副隊長の安倍なつみ、
以下、飯田圭織、市井紗耶香、矢口真里、保田圭、後藤真希の全員で七人のメンバー構成になっている。
◇
- 18 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月12日(土)12時07分25秒
- 【登場人物】
【モーニング娘。】
つんく司令のHello!Projectによって組織された《スペースヴィーナス》の実戦部隊。
宇宙戦艦《モーニングジェット号》に搭乗し、パイロットとして外見を女神に模した
人型機動兵器:LOVEマシーンを操縦。正体不明の敵に日夜備えている。
中澤裕子(age:本人希望により非公開)
階級:少佐(第三次メンバー追加時に中佐に昇進)
初代メンバー。モーニング隊隊長。
個性的なメンバーをまとめるグループの精神的支柱な存在でもある。
身体に警察特殊部隊時代に負った古傷がある。
安倍なつみ(20)
階級:大尉(第三次メンバー追加時に少佐に昇進)
初代メンバー。モーニング隊副隊長。
警察特殊部隊時代から福田とのコンビで数々の事件を解決してきた。
その実力はメンバーでもトップクラス。
飯田圭織(20)
階級:大尉(第三次メンバー追加時に少佐に昇進)
初代メンバー。テクノロジー開発ルーム室長であるが、その開発する物は
大半がろくでもない物である。石黒脱退後、矢口と二人になったモーニング
隊内ユニットであるタンポポ隊の一人。
第三次メンバー追加時には辻の教育係に就任。
市井紗耶香(18)
階級:中尉(第三次メンバー追加時に大尉に昇進)
第一次追加メンバー。第二次追加メンバー後藤の教育係。
保田、後藤と共にモーニング隊内ユニットであるプッチモニ隊の一人。
矢口真里(18)
階級:中尉(第三次メンバー追加時に大尉に昇進)
第一次追加メンバー。タンポポ隊にも所属。
第三次メンバー追加時には吉澤の教育係に就任。
さらに第三次メンバーの加護、辻と共にモーニング隊内新ユニット・ミニモニ隊を
結成、そのリーダーとなる。自称セクシービームマスター。
保田 圭(21)
階級:中尉(第三次メンバー追加時に大尉に昇進)
第一次追加メンバー。市井、後藤と共にプッチモニ隊の一人。
第三次メンバー追加時には石川の教育係に就任。
後藤真希(16)
階級:少尉(第三次メンバー追加時に中尉に昇進)
第二次追加メンバー。脱退した福田、石黒の欠員を埋めるべく第二次追加メンバーは
当初二名の追加が予定されていたが、そのずば抜けた操縦技術の為、たった一人だけ
の追加となった。入隊当時最年少だった。市井、保田と共にプッチモニ隊の一人。
第三次メンバー追加時には加護の教育係に就任。
- 19 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月12日(土)12時09分45秒
- 石川梨華(16)
階級:少尉
第三次追加メンバー。後にタンポポ隊に加入。
意外にテクノロジー関係に強かったりする。
吉澤ひとみ(16)
階級:少尉
第三次追加メンバー。つんく司令からそのパイロットセンスを天才的と言われる。
後にプッチモニ隊に加入。
加護亜依(13)
階級:准尉
第三次追加メンバー。モーニング隊最年少記録を更新する。
後にタンポポ隊に加入。さらに矢口、辻と共にミニモニ隊を結成。
辻 希美(14)
階級:准尉
第三次追加メンバー。第三次追加メンバーは当初三人の予定であったが、新しい機体
が四機完成していた為にメンバーに選ばれる。後に矢口、加護と共にミニモニ隊を結成。
福田明日香(17)
初代メンバー。一度は諦めていた医者になる勉強をする為、モーニング隊を脱退。
(在籍当時の階級は大尉)本作では名前のみ登場。(たぶん)
石黒 彩(23)
初代メンバー。警察時代から交際していた相手との結婚の為、モーニング隊を脱退。
(在籍当時の階級は大尉)飯田、矢口と共にタンポポ隊の一人でもあった。
本作では名前のみ登場。(たぶん)
- 20 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月12日(土)12時15分06秒
- 【つんく】
スペースヴィーナス司令官。
コロニー警察特殊部隊の隊長であったが、スペースラグーン政府
《アップフロントエージェンシー》によりその職に就任。
Hello!Projectにより各ユニットを結成する。
【平家みちよ】
階級:少佐
Hello!Projectメンバー。
コロニー警察特殊部隊時代のつんくの部下で初期モーニングメンバーとは同期。
現在は本部において、つんく司令の秘書的な役割を果たしている。
後方よりモーニング隊をバックアップする。
【T&Cボンバー】
稲葉貴子、ルル、信田美帆、小湊美和の四人組により第二実戦部隊として結成されて
いたが、突然の政府の軍縮命令に従い解散。その後、稲葉のみHello!Projectに残り
、現在ではパイロット養成所の教官として若手の指導にあたる。
本作では名前のみ登場。
【カントリー娘。】
Hello!Projectメンバー。
戸田鈴音(りんね−階級:小尉)と木村麻美(あさみ−階級:小尉)の二人組で結成。
補給用大型ドック艦《花畑牧場》に所属。後方よりモーニング隊をバックアップする。
田中義剛艦長が長期入院で不在の為、りんねが艦長代理を務める。
【ココナッツ娘。】
Hello!Projectメンバー。
アヤカ、ミカ、レファの三人組で結成。スペースラグーン守備部隊として任務にあたる。
シェキドル輸送時には護衛任務にあたることもある。
本作では名前のみ登場。
【メロン記念日】
Hello!Projectメンバー。
柴田あゆみ、大谷雅恵、村田めぐみ、斉藤瞳の四人組で結成。
常時はココナッツ隊と同じくスペースラグーン守備部隊であるが、
ボンバー隊解散後はモーニング隊休暇時の哨戒活動も任されている。
本作では名前のみ登場。
【シェキドル】
Hello!Projectメンバー。
大木衣吹、北上アミ、末永真己の三人組で結成。
スペースラグーンからドック艦《花畑牧場》への物資の輸送等が主な任務。
本作では名前のみ登場。
- 21 名前:作者です 投稿日:2001年05月12日(土)12時20分21秒
- 更新です。
と言っても本編が少なくて、人物設定をダラダラ長く書いてしまいました。
(しかも本編とあまり関係ないユニットのことまで)どうもすいません。
新メンバーの四人、一応入れてありますが登場するのはまだまだ先ですね。
(このペースだと何時になることやら(汗 )
>>8
最後
×「簡単に言えばに」→○「簡単に言えば」
すいません。訂正させて頂きます。
>>15
レス、どうもありがとうございます。
実は私、このゲームソフト持っていません。と言うかPS2のハード自体持っていない…
だから実際はどんなオープニングムービーなのかとか内容も知りません。
(それでよく書いてるな(汗 )公式HPの設定を見ながら書いてます。
- 22 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月12日(土)20時03分12秒
- 燃える人物紹介ですね。
ちなみに、わたしも、「ゲームソフト&PS2のハード」持っていません。
その上「公式HPの設定」すらも見ずに、レスしてたりして(w
- 23 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月18日(金)19時16分02秒
- 無数の光点が煌めく広大な宇宙をモーニングジェット号が往く。
そのブリッジのキャプテン・シートで中澤は快適なひとときを過ごしていた。
「あ〜今日も平和やな〜。こうしてるとなんや宇宙旅行してるみたいな気になってくるわ〜」
気分を良くした中澤が歌い出した。
「シャンハ〜イへ♪ 一人旅〜♪ 傷心旅行〜♪」
しかしそんな彼女の貴重な時間も長くは続かず、儚くも破られることになる。
「どこが一人旅なのよー。七人もいるじゃない」
保田が冷静に突っ込む。
「それに傷心旅行って。付き合ってた相手もいないくせに〜」
飯田が追い討ちをかける。
「シャンハイって何処だよ〜。分かんね〜よ〜」
矢口が喚く。[注:この物語の舞台は地球圏ではありません]
「裕ちゃんの歌、アカペラで聞くとちょっと…」
安倍が遠慮がちに言う。
「旅行気分もいいけど、仕事だってこと忘れないでよね」
市井が真面目顔で語る。
「zzzzzz」
後藤は寝ていた。
「あぁー!るっさいわ!あんたら!」
同じくブリッジにいた他のメンバー達から好き放題言われて、せっかくのいい気分もぶち壊しだ。
しかし中澤が怒っている事など意に介せず、五人は一斉に笑い出した。
これは彼女が本気で怒っているわけではない事を知っているからだ。
このような光景がここでは日常茶飯事だ。
- 24 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月18日(金)19時17分46秒
- そんななか笑いながら安倍が中澤に質問してきた。
「裕ちゃん。聞いたことないけど、何?さっきの歌?」
「なんや知らんの?あれはここからだいぶ離れた銀河系いう星雲内にある、
『地球』いう惑星の、超有名美人演歌歌手がうたっとった素晴らしい曲やないかー」
中澤が得意げにそう答えた。
「何それ?そんな星あんの?なっち、初耳だべ」
「知らね〜よ〜。何だよそれ〜」
安倍は驚き、それを近くで聞いていた矢口がまたもツッコミを入れた。
「裕ちゃんってさぁ、なんかそういう変なことに詳しいよね。何で?」
安倍は半分感心し半分呆れている。
「ふっふ〜ん。まぁーうちはリーダーやからな」
中澤は答えになっていない答えを返し、さらに偉そうな態度でシートの
背もたれにもたれ掛かかり足を組んだ。
それを見た安倍。
「え、なに、こんな偉そうに。なんかやだよね」
一方の矢口。
「いや、裕ちゃん、意味が解んない」
本日も彼女達の日常は平穏のようだ。
- 25 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月18日(金)19時19分49秒
- モーニング娘。の通常の任務は哨戒活動いわゆるパトロールである。
哨戒中に敵と接触すれば無論戦わなければならない。しかし戦闘はそう度々あるものではなかった。
「今回のパトロールもとりあえずは何事もなく、結構なことだね〜」
レーダーが設置されている索敵用シートに座る、本日の“日直娘。”である市井がのどかに声を上げた。
その隣の席では相変わらず後藤が熟睡していた。
「そうね。…それにしても、さっきからちょっと気になってんだけど。後藤!いい加減起きなさいよ!」
「zzzzzz」
通信オペレーター席から立ち上がって近づいてきた、もう一人の日直娘。の保田が
寝ている後藤を注意するが、彼女はびくともせずに眠り続ける。
「ハハッ、いいんじゃないの。起きてても今んとこやることないし。まぁ休憩と同じ様なもんだから…」
「甘いわ!紗耶香!大体この子は普段から緊張感がなさ過ぎなのよ!」
「ねぇ、圭ちゃんって注意する時、めっちゃ怖いよ」
「まぁね、アタシが可愛く言ってもね。ヘッヘッヘッ…そんなの誰も求めてないわ!」
保田が半ばヤケクソで自虐的に言い放った。
(((((自覚してたんだ…)))))
「オイオイ!誰もフォロー無しかよ〜!」
言ってはみたものの誰からのフォローも入らず、ちょっと悲しい保田。
- 26 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月18日(金)19時21分54秒
- 話が妙な方向に流れていきそうな空気を察して矢口がすかさず話題を逸らした。
「それにしてもさぁー毎日毎日こんなパトロール続けてないで、こちらから攻めていきたいよー。
そうすれば戦いを終わらせることもできるかもしれないじゃん」
「いっつも受け身だもんねー」
市井が矢口に同意した。
「でも敵は何処から来るかも分かってないじゃん。それじゃ攻めようがないよ〜」
飯田が最もな台詞を口にした。
「カオリ、あんたの電波で何とかなんないの?」
「それができれば苦労しないんだけどね〜。今まで何度か試したけど、ダメだったんだ〜」
「カオリも万能じゃないんだね〜」
そこで矢口と飯田が冗談なのか本気なのか判らない会話を始める。
「大体、政府や本部は何やってんのよ!敵が現れる様になってからだいぶ経つってのに、
未だに正体も分からないなんてどーゆーことなの!」
そんな会話をよそに先程の勢い余って保田が吠えた。
「まぁまぁ圭ちゃん、落ち着いて」
そんな彼女を市井がなだめた。
- 27 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月18日(金)19時23分59秒
- 「でも、確かに最近の政府の対応、割といい加減だしね…」
保田の言葉を聞いた安倍がぽつりと漏らした。
「…そうだね。民間船の被害が出なくなってからは、あまり関心がなくなったというか、そんなに脅威を感じてないというか…。
まぁ、確かにあんなの大した脅威じゃないんだけど、ちょっとね…」
ほんの少しの沈黙の後、市井が安倍の言葉を補うように続けた。
スペースヴィーナスが結成されてしばらくの後より民間の輸送船が襲われることは殆ど無くなっている。
敵は何故か都合良く(?)モーニング隊に攻撃を仕掛けてくる様になっていた。
よって、事件発生当初の民間に被害が出ていた頃には対応が熱心だった政府だが
(これは事態を放置してコロニーの住民に不安が広まれば、支持率低下などの政府の存続に
関わるという理由もあったからだが)、現在の状況に到って彼らはこれを幸いに、
防衛政策の殆どをスペースヴィーナス本部任せにして、他の政策に力を入れている。
コロニー住民も民間の被害が無くなった事と合わせて、
スペースヴィーナスが防衛にあたっている為、必要以上の脅威を感じなくなっていった。
- 28 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月18日(金)19時26分10秒
- 「政府のお偉いさんなんて大体そんなもんや。喉元過ぎれば所詮は他人事の様に考えよる」
最年長かつリーダーという役目柄、多少はそういう事情が分かる中澤があっさりと言った。
そして一呼吸おいてまた話し出した。
「でも本部はちゃんと調査を進めてるはずやけどな。あ、でもこないだ別のことに予算
使ってしもうたから、そっちに回す金が足りないって、つんくさんがちらっと言っとったっけ」
「別のことって何?」
「そこまでは知らん」
言い終わった後に矢口が尋ねるが、中澤はまたもやあっさりとそう答えた。
「本部の予算も当初に比べて削られてるみたいだし、苦しいのかな?」
「給料が下がるのはイヤーー!」
市井が本部の財政を心配をすると矢口が実に素直な悲鳴をあげた。
- 29 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月18日(金)19時27分53秒
- 「T&Cボンバーなんて解散しちゃったもんね〜。なっち、あれにはビックリしたさ!」
「そう、カオリもあれには驚いたべさ!」
コロニー内の同郷コンビが昨年起きた事件について思い出した。
また、現在の敵をさほどの脅威ではないと認識した政府の高官達は軍備の縮小を行った。
過去の歴史より軍備の拡大は碌な結果にならない。
しかも元々平和だったスペースラグーンである、これは簡単に議会で認められた。
彼らにしてみれば予算を防衛費に使うより、福祉事業等の社会政策にあてた方がよほど支持率を稼げるのだ。
そのためスペースヴィーナス本部の予算は発足当時より三分の二程度に減らされていた。
さらにその煽りを受けて第二実戦部隊であった《T&Cボンバー》が昨年解散させられたのである。
司令であるつんくはこの様なやり方に反対したのだが、政府命令では結局従うしか術がなかった。
- 30 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月18日(金)19時29分44秒
- 「その解散のことなんやけど…」
「何?なんか知ってるの?」
中澤が少し真剣な顔つきになって話し出すが、そこまで言って一旦言葉を切った。
そこで安倍が先を促した。
「…表向きは軍備縮小による解散ってことになっとるけどな。まぁ、これはつんくさんから聞いたんやけど…
どうやらなにか大きな力が、政府に圧力をかけて強引に実行させた…って噂があるらしい」
「それホントなの?」
「あくまでも噂や。ホントかどうかは知らん。つんくさんも今のところ何の証拠もない言っとったしな」
安倍の確認に中澤は自分の知る限りを答えた。確かに証拠が無い以上、噂は噂でしかない。
「でも、その大きな力って何?」
「分からん」
またも矢口が質問するが、中澤の返答は先程と同じ内容だった。
「な〜んだ、裕ちゃんだって結局なんにも分かんないじゃんよ〜。もぅ、このアホ裕子!」
期待外れの答えに矢口が不満顔で言った。
「なんやーやぐちぃー。そんなこと言ったかて、知らんもんは知らんのやし。仕方ないやろー」
中澤がそう弁解したその時、ブリッジに警報が鳴り響いた。
- 31 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月18日(金)19時32分32秒
- 「敵襲?!」
市井が素早くレーダーを見て確認した。
その索敵レーダーはこちらに接近してくる幾つかの光点をキャッチしていた。
「敵だよ!正面十二時方向。数、40機。接触までおよそ25分!」
「なんや久々のお客さんやな。よっしゃ!みんな、出撃や!」
「「「「「「了解」」」」」」
中澤の出撃命令に後藤を除く全員が返事をかえす。
「圭坊、紗耶香。先に行っとるから、あと頼むで〜」
そして中澤、安倍、飯田、矢口の四人は格納庫に向かう為ブリッジを出て行った。
残った日直娘。の保田が艦のコントロールをオートにする為、操舵席のパネル操作を行う。
「操縦をフルオートに切り換えて、第一戦闘配備に移行っと」
- 32 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月18日(金)19時34分27秒
- 宇宙戦艦《モーニングジェット号》は自律システムを備えた中枢コンピューターにより全機能を
オートメーションで制御できる仕組になっている。勿論マニュアルによる操縦も可能だが、
少人数で搭乗している彼女達にとって、当番制にしているブリッジでのレーダーの監視や通信等の
簡単な操作以外は全てコンピューター任せであった。
また艦内の構造はブリッジの他、エンジンがある機関部、メインコンピューター室、格納庫、
居住区等いくつかのブロックに分かれている。
その中でも彼女達が生活している居住区には食堂、喫茶室を兼ねたラウンジ、医務室、
また個室とは別に共同のバス・シャワー室とトイレの他、娯楽の為のリラクゼーション・ルームがある。
そのリラクゼーション・ルームには衛星テレビと好みに合わせて楽しめるよう様々なゲームがあり、
隣接する読書室にはこれまた様々なジャンルの何千という書籍がディスクに納められ、閲覧が可能になっている。
その隣にはホロスコープで森林を再現し、森林浴を疑似体験できるリフレッシュ・ルームまであった。
これらは宇宙船という閉塞された空間で長時間過ごさねばならない人間にとって、精神衛生上必要不可欠な設備だ。
さらに個人別の部屋もやや狭いが、冷暖房完備でベッド、テレビやビデオに簡易冷蔵庫、
勿論バス・トイレ付きでちょっとしたホテル並である。
- 33 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月18日(金)19時36分22秒
- 「紗耶香、後藤は任せたよ。ひっぱたいてでも起こして、ちゃんと連れてきなさいよ」
切り換え作業を終えた保田もそう言ってブリッジを出て行った。
「了解」
後藤と二人残された市井は保田に返事をした後、ため息をつきながら後藤を起こしにかかる。
(そう言えばこいつ、さっきの会話の間もずっと寝てたのか…ほんとお気楽だね〜。
ま、そんなお気楽な寝顔が可愛いかったりするんだけどね〜)
そんな事を思いながら少し後藤の寝顔を見つめるが、今はそんな場合ではない。
気を取り直して声をかけた。
「おい、後藤!起きろ!敵だ!」
言いながら身体を軽く揺すると、先程の保田の時と違い後藤はすぐに目を醒ました。
「ん〜〜、あ、市井ちゃん。おはよ。何?ご飯?」
「こら、寝ぼけるな。ご飯じゃない。敵だ!敵!出撃だぞ!」
「え!?ほんと!?」
返事はするもののまだボ〜としてすぐに席を立とうとしない後藤。
「ほら、行くぞ」
「あ、待ってよ。市井ちゃん」
市井が走り出した後に慌てて後藤が続く。
こうして最後の二人も出撃の為、ブリッジを跡にした。
:
- 34 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月18日(金)19時38分22秒
- モーニングジェット号格納庫。
ここに七機の人型のマシーンが貯立している。外見を女神に模した機動兵器。
最新技術を使ったLarge Of Venus-type Engine〔大型ヴィーナス=タイプ・エンジン〕搭載した
その機体は《LOVEマシーン》と名付けられている。
その全長は15メートル程で、その機体の中心部、人間で言う鳩尾の部分に狭いハッチがあり、
そこから潜り込めば球体のコクピットがあった。
そこには操縦席が鎮座し、コクピットの球面の内壁は360度ディスプレーになっていて、
実際に見る外と同じ光景がパイロットに写し出される。
これは『全視モニター』『オール・ビュー』等と呼ばれていて、そこには360度を撮影する数台の
カメラの映像をコンピューターで制御して画像に再生するシステムが使用されていた。
また球体のコクピット全体が緊急脱出用カプセルにもなっている。
武装として主要武器にビーム・ライフル、近接戦闘用にはビーム・サーベル、
胸部にホーミング性マイクロミサイル、頭部バルカンが標準装備されている。
さらにオプションとして実弾使用のハイパーバズーカやビーム・マシンガンの装備も用意されていた。
- 35 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月18日(金)19時39分54秒
- パイロット・スーツに着替えた七人はその格納庫にいた。
彼女達は円陣を作り、両手をその中心に差し出して重ね合う。
これは毎回行う出撃の儀式のようなものだ。
気合入れの前に副隊長の安倍が口を開いた。
「みんな、気をつけてね」
言葉は短いが皆を勇気づける様にその声は力強い。それに全員が頷いた。
そしてリーダーの中澤の掛け声で全員が気合を入れる。
「それじゃー頑張っていきまーっ」
「「「「「「「しょい!!」」」」」」」
掛け声が終わると共に彼女達は床を蹴り、自分の機体に向かってジャンプしていった。
宇宙空間では重力が小さい為、慣性によって地上とは比べものにならない高さまで跳躍できる。
それは身体が流れていくと表現した方がいいかもしれない。
一応艦内全ての場所が重力をコントロールできる仕組みになっているが、格納庫以外では
普段から通常の重力が働いている。これは身体があまりにも小重力に慣れてしまうと、
コロニー等で通常の重力に戻った時、その健康に影響が出てしまうことへの配慮だ。
- 36 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月18日(金)19時41分35秒
- 各機のツイン・アイが光が灯り、格納庫内にキィーン!というエンジン音が響き渡った。
そしてその機体は順次カタパルト・デッキに移動していく。
「中澤裕子、行くでぇー!」
「なっち、行くべさ!」
「カオリ、出るよ〜」
「そんじゃ矢口も行きますか!」
「保田圭、行くわよ!」
「市井紗耶香、出る!」
「後藤、行きまーす!」
こうして七機の女神達は次々とカタパルト・デッキから射出され、広大な宇宙空間に出撃していった。
- 37 名前:作者です 投稿日:2001年05月18日(金)19時43分23秒
- 更新です。
勢いで書いた分そのまま全部載せてしまいました。(W
半分位までにしておいて、残りは後日見直してからにすればよかったかな?
LOVEマシーンのスペルの箇所、苦しいですね。いいの思い付かなかったんです。(泣
あと、解説文多すぎですかね?要らない部分もあったかも。
読みにくかったらお詫びします。
>>22
レス、どうもありがとうございます。
人物紹介で本編に関係ないユニットまで設定したのは、実を言うと時間がある時に
外伝を書いてみようかな、なんて思ってみたりしたからなんですが…
現在のところ、その執筆予定は全くありません!!(W
ごめんなさい。本編だけでもう一杯一杯です。
でも誰も期待していないでしょうから、そんなの私の杞憂に過ぎませんね。
- 38 名前:作者です 投稿日:2001年05月18日(金)20時03分05秒
- 早速一つ見つけてしまいました。
>>36
最初
×「ツイン・アイが光が灯り」→○「ツイン・アイに光が灯り」
すいません。訂正させて頂きます。
やっぱ見直せばよかった…
- 39 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月18日(金)22時32分24秒
- >解説文多すぎですかね?
話の最初は仕方ないでしょう。
会話の間、後藤が寝たままなのが笑えました。
次回の更新楽しみにしています。
次は戦闘シーンかな?
- 40 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月25日(金)05時50分26秒
- 7人からのスタートなんですね。今後市井は脱退してしまうのかな?
更新楽しみです。がんばって下さい。
- 41 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月25日(金)19時25分40秒
- 出撃した機体の中で後藤は心地よい浮遊感と解放感を感じていた。
シートとそれを支える一本のアーム以外は全てモニターというコクピットは、
その全視モニターに写し出される景色により、あたかも自分がシートに座って
宇宙の星々の中に浮いているような錯覚に陥らせる。
シートの一部と備え付けのコントロール・パネルが多少視界の邪魔をするがそれは仕方がない。
ひとたびペダルを踏めば、星々は右に左に目まぐるしく走り、
そのスピードが生み出す例えようのない爽快感が彼女に走る。
それは星々の中を滑っているように思わせた。
コクピットの中の後藤は、そんな感覚を楽しむ様に機体を操って宙返りをしてみた。
「まる、まる、まるまるまるぅ〜」
何処かで聞いた様なリズムが自然に口からこぼれる。
『こら〜後藤!遊んでんやない!』
通信機から中澤の叱咤する声が聞こえた。
「アハハッ、久しぶりなんでつい楽しんじゃった」
舌を出して反省し、後藤は隊列に加わった。
- 42 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月25日(金)19時28分45秒
- 「プッチが正面、タンポポは右、なっちとあたしは左にそれぞれ展開。みんな気ぃつけて頑張ってな!」
共通の無線回線で中澤の指示がとぶ。
「プッチ、市井、了解」
「タンポポ、カオリ、了解」
「なっち、了解だべさ」
各ユニットの代表と安倍から返事がかえると各機はおのおの散開していった。
ハロープロジェクトのユニットの一つでもあるモーニング娘。の中にも小ユニットが存在する。
これは各人の能力、連携と相性の良さ等を考慮して結成されたもので、
まず初期に飯田、矢口(脱退前は石黒も在籍)の組み合せである《タンポポ》が作られ、
後藤加入後に彼女と市井、保田の《プッチモニ》が新たに結成された。
戦闘時には必然とこの組み合わせになる事が多い。
隊長である中澤と副隊長の安倍は全体の状況を把握しなければならない為、これからは除外されていた。
機体に搭載されている通信機には、この共通回線の他に各ユニットと個人別に
専用のチャンネルが設定されており、必要に応じて使い分けされている。
- 43 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月25日(金)19時30分46秒
- 戦闘前、散開したタンポポ。
飯田機と矢口機のコックピットの全視モニター上に開いたマルチ・スクリーンにはお互いの顔が映し出されていた。
「あ〜あ、彩っぺがいた頃はタンポポがセンターだったのに…」
「仕方ないよ、カオリ。今はこっちは二人であっちは三人なんだし」
「でも…やっぱり彩っぺがいないと寂しいね〜」
「そりゃそうだけど。彩っぺは今幸せなんだから、あれでよかったの!」
「そんなことわかってるよ〜。ちょっと言ってみただけじゃん」
「はいはい」
「今頃何してんのかな〜」
「アハハッ、掃除に洗濯、炊事に子守。ある意味戦争で、こっちよりよっぽど大変だったりして?」
「ハハハハッ、そうかもね〜」
- 44 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年05月25日(金)19時33分26秒
- 以前タンポポに所属していた初代メンバーの石黒彩には警察特殊部隊時代から交際していた相手がいた。
リーダーの中澤だけが彼女からそれを打ち明けられて知っており、他のメンバー達も薄々は勘付いていたが、
直接本人に聞いたことはなく、それについて特別気を使うこともなかった。
石黒本人もそんなメンバー達の心遣いに感謝し、仕事上平和になるまで、公にして結婚するつもりはなかった。
しかし予定外の事象によってその考えが揺らぐようになる。妊娠したのだ。
仕事や他のメンバー達の手前、堕胎も考え最後まで苦悩した彼女だったが、
中澤の強い説得もあり事実を打ち明け、結婚をする決心を固めた。
メンバー達の中にそんな彼女の決断を責める者はいなかった。
むしろ全員で祝福した。
さらに彼女には、以前に福田が抜け、この上自分が辞めれば一層困るであろう
司令のつんくさえも祝福してくれたことがとても嬉しかった。
こうして石黒は
『みんなはこれからも戦っていくのに、自分ばかりが先に幸せになってごめん』
と最後まで泣いて謝りながら辞めていった。
そんな石黒に対して
『彩っぺの子供のためにも、うちらが一刻も早く平和な世の中にしたる』
と中澤が答え、皆で送り出したのであった。
その後、昨年暮れに無事女児が誕生したとの吉報があり、今では彼女も立派な一児の母親だ。
「ねぇ、今度さぁ〜休みの時にまたみんなで会いに行かない?」
「しばらく会ってないけど、玲夢ちゃん、大きくなってるだろーなー」
「そうだね〜」
以前の戦友を思い出し、ちょっぴりセンチメンタルなタンポポの二人だった。
:
- 45 名前:作者です 投稿日:2001年05月25日(金)19時35分21秒
- 更新です。
短いですが戦闘前タンポポ編をお送りします。
>>39
レス、どうもありがとうございます。
>話の最初は仕方ないでしょう。
そう言っていただけると助かります。
解説文については長くても読み易くなるようできるだけ精進致します。
>次は戦闘シーンかな?
期待を裏切ってすいません。しかも次回もまだ…
>>40
レス、どうもありがとうございます。
>7人からのスタートなんですね。
そうです。短かったですがこの時期が私は一番好きだったりします。
いえ、勿論その後の11人→10人→9人体制も好きなんですがね。
>今後市井は脱退してしまうのかな?
彼女がどうなるかについては、まだ×10位先ということで…
応援ありがとうございます。
次回は戦闘前プッチモニ編です。
- 46 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月25日(金)22時10分46秒
- ずいぶん余裕のタンポポですね。
後藤のあの調子じゃプッチはもっとすごいのかな?
- 47 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月26日(土)12時50分32秒
- ガン○ムですか。なつかしー
どんな戦闘シーンになるのか楽しみ
- 48 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月28日(月)04時44分59秒
- 個人的には市井には残って欲しい。
やっぱり後藤には市井ちゃんが必要でしょう!!
- 49 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月01日(金)19時04分29秒
- 一方のプッチモニ。
こちらでもマルチ・スクリーンでそれぞれの顔が確認できる。
「後藤、さっきのだけど遊んでちゃダメでしょ」
先程の宙返りの件について市井が後藤を叱った。その声は普段のものより低いのでちょっとだけ凄みを増して聞こえる。
後藤にしてみれば些細な事かも知れないが、こういう時の市井は教育係として少々厳しい面があった。
しかし後藤はそれは自分を思ってくれてのことだというのを充分理解している。
「ごめんなさい」
だから素直に謝った。その声にいつもの元気はない。
「パイロットとしての自覚と心構えをきちんと持ちなさいって言ったよね?」
「わかってる。これからは気をつけるよ」
「緊張してないのはいいことだけど、勝手な行動とったらダメだよ」
「うん」
「本当に解ってる?」
「うん。大丈夫だよ」
「…まぁ機体の調子はいいみたいだね。じゃー次からは気をつけんだぞ」
いつもの市井の声に戻る。それを感じた後藤の返事も明るいものに変わった。
「うん、わかった。ほんとごめんね、市井ちゃん」
「いや解ればいいよ」
「うん」
「ならお説教はこれでお終い」
- 50 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月01日(金)19時06分25秒
- (フフフ、紗耶香も教育係大変ね〜。あたしから見ればまだちょっと優しいけど…
あいつ元々人に怒るの得意じゃないからね。でも後藤も反省してるみたいだし、ま、いっか)
そのやり取りを見ていた保田はそんな風に思っていた。
二人の関係はよく理解しているつもりだ。市井から相談されない限りこういう時に口を出すつもりはない。
そして保田は教育係は大変と思いつつも、それによって成長している市井とまたその指導を受け、
やはり成長していく後藤の二人を見ているとちょっと羨ましくもあった。
(あたしも今度新メンバーが入ったら教育係やってみようかなー…でも現状じゃとても増員なんて無理ね…)
- 51 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月01日(金)19時08分43秒
※
「クシュン!」
「どうしたの?風邪?」
自分の横を歩く少女がくしゃみをしたので、背の高い少女はそう問いかけた。
ここはスペースラグーンにあるスペースヴィーナス直轄のパイロット養成所。
ここでは日々彼女達のような候補生達によるスペースヴィーナスのパイロットになるための訓練が行われている。
しかし、正式にパイロットに採用される人間はごく少数に限られおり、候補生達にとってそれは憧れであるが、
とても狭き門でもあった。
「違うよ。なんか突然…誰かに噂でもされてるのかな?」
くしゃみをした少女が、皆から“アニメ声”と言われている、その特徴ある声で答えた。
「でも体には気をつけたほうがいいよ」
そう言って背の高い少女が正面を向くと、向こうからこの二人に比べると若干幼い感がある、
候補生仲間の少女達が二人で走って来るのが見えた。
「あー二人ともいたいたー!」
どうやら自分達を探していたようだ。
二人とも同じくらいの背の高さであるが、その身長は彼女達の年齢の平均よりかなり低いであろうと思われる。
また似たような髪型をしているので、初めて見る人はパッと見、双子と間違えるかも知れない。
「夏先生が私達四人を呼んでますよ〜」
片方の少女がちょっと舌足らずの声で用件を告げる。
彼女が言った夏先生とはこの養成所で、彼女達候補生を技術面だけでなく精神面からも厳しく指導している女性の主任教官の事だ。
「え、ほんと?」
「何だろ?」
突然の呼び出しに疑問を持つ二人。
「わかりませんがとにかく一緒に来て下さい」
もう一方の一番幼いと思われる少女がそう言った。
そして四人の候補生達は、そこにつんく司令が待つとは知らず、教官室に向かった。
※
- 52 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月01日(金)19時10分56秒
- ところ変わって再び宇宙。
唐突に市井がある提案を切り出した。
「圭ちゃん、後藤。あたし、前からちょっと考えてたんだけど…」
「何なの?紗耶香」
「何?市井ちゃん」
呼び掛けに答える二人。
「折角ユニット組んでんだから、それを活かす攻撃方法が何かないかなって…」
(別に今のままでも充分だと思うけど)
市井の言葉に保田はそう思ったが、とりあえず黙って聞くことにした。
「それでね。いい戦法教えてもらったんだ」
「いい戦法?」
「お、どんなの?どんなの?」
保田は半信半疑、後藤は興味津々といった感じだ。
- 53 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月01日(金)19時12分47秒
- 「えーと、まず、あたし、後藤、圭ちゃんの順で、敵正面に対し三機が重なるように一列に並ぶの」
市井がコントロール・パネルをいじりながら説明を始める。すると各自のモニターに別のマルチ・スクリーンが
開いて簡単なCGポリコンが現れ、彼女の説明通りの配置が表示された。
「そしてその体制のまま敵に向かって突撃。あたし、後藤、圭ちゃんの順に攻撃を繰り出して
相手を仕留めるって戦法さ。これなら万一あたしの攻撃が躱されるか防がれても後ろの後藤が、
それもダメでも圭ちゃんが…三人が連続で攻撃すれば相手は躱しようも防ぎようもないよ」
先程の画面のCGが説明に従って動き、敵を撃破する様子を表示した。
「これぞいわゆる三身一体攻撃!名付けて『プッチモニダイバー』(思いつき。深い意味は無し)。どぉ?」
「おぉー!」
「…」
市井の説明に後藤は感嘆の声をあげたが、保田は無言だ。
「ねぇ、圭ちゃん、後藤。ちょこっとフォーメーションの練習してみようよ。準備はいい?」
「OKですぞぉー」
後藤が返事をした後、それまで沈黙していた保田が口を開いた。
- 54 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月01日(金)19時15分07秒
- 「あの〜二人で盛り上がってるところ、申し訳ないんだけど…」
「なによ、何か文句ある〜」
「今の戦法…」
「うん」
「まず、アレが相手じゃ紗耶香、最初の攻撃、絶対外さないでしょ?」
「いや〜そうかな?ま、自信はあるけどね。ハッハッハ」
「わかんないの?だったらあたしと後藤意味ないじゃん」
「あっ」
「そもそもアレ一機ごときにわざわざ三人で攻撃してたんじゃ効率悪いでしょうが!」
「うっ」
「それに相手が単独だったらまだ有効かもしれないけど、あっちは複数なんだから、
こっちが固まれば集中砲火の恰好の的になって危ないじゃない!!」
「…」
市井からの返事は無かった。ちょっと考えれば解りそうな結論に保田から指摘されてようやく達したらしい。
(そんなことに今さら気付いたんかい!)
保田は心の中で中澤ばりに突っ込んだ。
「大体それ、誰に教えてもらったのよー?」
「…こないだ裕ちゃんが…例の、ほら、地球だっけ?そこの某アニメ番組で使われてた
ジェットなんとかっていう必殺技だって教えてくれて、…それをプッチに合わせて改名してみたんだけど…」
市井の言葉の語尾が段々弱くなっていく。
それから暫しの沈黙。
(あたしはこのまま彼女をライバルと思っていてよいのでしょうか?誰か教えて下さい…)
- 55 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月01日(金)19時17分07秒
- 保田はさらに心の中で誰ともなく問いかけてみた。
しかし、気を取り直してふと思った疑問を口にしてみる。
「あの歌といい、ほんと裕ちゃんってなんでそんなの知ってんの?何?その…地球マニア?怪しすぎ!」
ピキッ!
「いや、わかんない」
「そーいえば、なんか恋愛占いとか、恋人をGET(ゲッチュ)する呪法とか、若返りの儀式とかのためにー、
地球のこと色々調べてるからだ、って前にカオリが言ってた」
ピキピキッ!
後藤が以前に飯田が聞かせてくれた話を思い出した。勿論飯田が勝手に創ったデマだ。
「なにそれ、こわっ!」
「でもうちのリーダーなら有り得るかもねー」
「なんか怪しい宗教とかもやってそう…」
「アハハハッ、後藤、それ言い過ぎ〜!でもやっぱ女も25歳過ぎると何かと大変…」
ブチッ!!
「おまえらー全部聞こえてんでぇーー!!」
市井にこないだ教えた事はほんの冗談だったのを(真に受けるとも思ってなかったが)
一応伝えておこうと偶然プッチモニへの通信を開いた中澤が割り込んできた。
マルチ・スクリーンに写る彼女の顔には、戦闘前でまだヘルメットのバイザーを下ろしていなかったので、
はっきり怒りの表情が浮かんでいるのがわかった。
「「「やばっ!」」」
三人が一斉に回線を切る。
「あっ!?こら!おまえらー!」
中澤が呼び掛けるがもはや回線は通じない。
(おのれー!あいつら、戻ったら絶対シメたる!!)
心に復讐を誓う中澤だった。
実際のところ彼女が皆が聞いた事もない地球について詳しいのは何故か?
その真相は本人以外の誰にも解らない謎である。
- 56 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月01日(金)19時19分15秒
- :
市井機が後藤機に近づき、その左手を後藤機の右肩にのせた。
「裕ちゃん、だいぶ怒ってたねー」
市井が接触回線を使って話し掛けてきた。
これは通称『お肌のふれあい回線』と言われる機体同士を接触させ、その装甲板の振動を利用して
直接相手と会話する方法である。この方法だと無線を介さないため傍受、盗聴することは出来ない。
「やばいよー。戻ったら絶対怒られちゃう」
「その時は圭ちゃんの後ろに隠れていよう!」
「アハッ、それじゃ圭ちゃんが可哀相だよー」
「ハハハッ、いいんだよ。圭ちゃんが言い出しっぺなんだから」
「あ、市井ちゃんひどーい!」
ちょっとの間をおいて市井が後藤に言葉を掛けた。
「後藤、気をつけてね。無理しちゃダメだぞ」
接触会話は正確にその声を伝えはしなかったが、それは先程とは違い少し真剣で、
そこには何か市井独特の暖かさがあるのが後藤には感じられた。
「うん、ありがと。市井ちゃんもね」
「おう」
短く返事をして市井機は離れて行った。
市井がこのふれあい回線で後藤を気遣ってくれるのは後藤の初陣の時からで、出撃時には必ず実行してくれる行動だ。
後藤はこれをしてもらうと妙に安心することが出来た。
さらに無線で済む用事を、わざわざこの方法で伝えてくれる市井の優しさが嬉しかった。
「よし」
後藤が小さく気合いを入れる。
斯くして数分後、モーニング娘。の各機は戦闘空域に突入した。
- 57 名前:作者です 投稿日:2001年06月01日(金)19時23分18秒
- 更新です。戦闘前プッチモニ編でした。
なんとなく当初の予定をちょっとだけ変更して新メン四人もスポット参加させました。
これで本格的な登場まで出ませんけどね…
>>51
最初と最後の印、なんか失敗してる。すいません。
>>46
レス、どうもありがとうございます。
前半〜中盤までのノリは軽い感じにしようと思っていますので。
プッチ編もこんなんなってしまった…
>>47
レス、どうもありがとうございます。
作品の雰囲気だけですがね。
次回の戦闘シーン、ご期待に添えるものになればいいのですが…(心配)
>>48
レス、どうもありがとうございます。
一応決めてはあるんですがネタバレはしない方がよいでしょう。
気に入ってくれたのでしたら、たまのお時間がある時で構いませんので
覗きに来てやって下さい。
遅くてすいませんが、今のところ週一位の更新ペースは守りたいと思っています。
そういう訳で次回は(ようやく)戦闘です。
- 58 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月02日(土)17時54分42秒
- くしゃみでの登場、梨華ちゃんにピッタリでよいですね。
なにげない、いちごまもいいかんじ。
- 59 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月07日(木)18時52分32秒
- 娘。達が進む宇宙空間正面から彼女達に接近してくる無数のバーニアの光が確認された。
「敵影確認。やっぱりボールか…」
先頭を行くプッチモニ・市井機のマルチ・スクリーンに望遠で写し出されたその敵影。
全高12メートル程の球体のボディー。LOVEマシーンの様に人型ではない敵の機体を、
その丸い外観から『ボール』という通称で彼女達は呼んでいた。
上部に回転式のビーム・キヤノン砲一門を有し、下部にはマジックハンドのような二本のアームが付いている。
そしてその丸いボディーの中心にはまるで一つ目のようなモノ・アイがあった。
彼女達に敵対するこの機体は、これまでの戦闘データから人工知能プログラムで動く
無人機であることが判っており、その点では気兼ねなく破壊できるので助かっている。
- 60 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月07日(木)18時54分33秒
- 四年前より度々現れるようになったこの敵。
破壊した機体の残骸を回収したところ、使用されている金属や技術が
自分達と大差がないという事実が判明している。
それと合わせて未だに大規模な攻勢がない現在の状況を考えると、
未知の外敵からの侵略という可能性は否定は出来ないが限りなく低かった。
これを侵略行為とするならば、常識からしてこれほど悠長な手段は取らないであろう。
ならばこれはスペースラグーンの同じ人類の仕業なのであろうか?
そう考えるのが妥当であるが、現状では政府機関以外での兵器生産は厳重に禁止されているはずである。
従ってこちらを疑う事は現政府を疑う事にも繋がる。
だがスペースヴィーナスを結成したのも現政府であり、そこには矛盾が生じる。
それよりも第一に政府が黒幕などと、そんな事が許されてはならない。
それに少なくとも彼女達にとって司令のつんくは充分信頼するに足りた。
ともかく現在得られる情報はそれだけで、当初より政府と本部で調査中であるが、
敵の実体もその目的についても未だに解明されていないのが現状であった。
- 61 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月07日(木)18時56分20秒
- 「ったく!何が目的か知んないけど懲りないやつらだね!」
市井は毎度現れるこの物体に対して煩わしいといった感じで独白すると、
自らの気を引き締めてコントロールスティックをぎゅっと握った。
そして回線を通じて二人の僚友に呼び掛ける。
「圭ちゃん!後藤!いくよ!」
「「了解!」」
この市井の言葉を合図に戦闘は開始された。
- 62 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月07日(木)18時58分52秒
- 遠距離から接近する市井機を認識した先頭のボールからビーム・キヤノン砲が発射される。
しかし彼女はいとも簡単にそれを躱した。
「正確な射撃だね。その分コンピューターには予想し易いよ」
LOVEマシーンに搭載されたコンピューターは、相手からの射撃にある程度距離がある場合、
その射線を予測して警告を発し、半自動モードで回避プログラムが作動する。
広範囲を巻き込む大型ビーム兵器ならともかくあの程度のビーム砲では、この距離なら
避けて下さいと言っている様なものだ。
相手の第一撃を躱した後、バーニアを全開噴射させ敵に接近する市井。
それに向かって先程の一機と別のボールが発砲する。
「そうそう当たるもんじゃない!」
コントロールスティックを傾け、両機からの攻撃を側方移動で回避する。その集中力は半端ではない。
そして最大加速で、次弾が発射される前に一方の相手の懐に飛び込み、
市井はビーム・サーベルを抜いて目の前の敵に突き立てた。
突き刺さった灼熱の刃は確実に中枢の電気回路を破壊し、周囲に光が走る。
市井機は素早くその爆発寸前のボールを土台に跳ね上がり、その反動を利用してもう一機に襲いかかった。
- 63 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月07日(木)19時00分50秒
- 人工知能プログラムによって起動している無人の敵は、その攻撃は正確ではあるが、
総合的な動きはプログラム故に単調であった。
それは様々な訓練を重ねてきた彼女達には遥か及ばない。
また機体の性能にも圧倒的に差があった。
「遅い!」
相手の反応速度を上回るスピードで距離を詰め、キヤノン砲を封じる。
彼女は只闇雲に突進しているのではない。
敵に装備されているビーム・キヤノン砲はもともと中遠距離戦闘向けで、
その長い砲身のため接近戦では役に立たない。それをちゃんと見越しての戦法である。
別に射撃戦が苦手という訳ではないが、剣の道に多少の心得がある彼女にとって
ビーム・サーベルによる剣撃戦の方が好むところでもあった。
サーベルで二本のアームを薙ぎ払い、返す刀で本体を真っ二つに切断した。
切断面がショートし、小さなスパークを始める。
市井機がその仕留めた機体に背を向け、爆発に巻き込まれぬよう離脱すると、
間もなくその空間に切断されたボールが断末魔の光を放った。
- 64 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月07日(木)19時02分38秒
- その爆発の向こう側から近づく新たな敵。
マルチ・スクリーンがその姿を捉え警告が発せられるが、市井はセンサーで
周囲の位置確認をするとこれを無視した。
次の瞬間、その市井機の背後に回り込もうとしたボールが、突如の横からの閃光に打ち抜かれ爆発する。
後藤機だ。
市井は無論警戒を怠った訳ではない。
常にユニット内でのお互いの位置を把握し、そのチームワークを活かしているのだ。
これも仲間達への絶対の信頼関係が成り立つからこそである。
プッチモニグループによる信頼補正+30といったところか。
背後の敵が後藤機によって撃墜されたのを確認した市井の口元に笑みがこぼれた。
- 65 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月07日(木)19時06分13秒
- :
市井がその果敢な接近戦でボール二機を破壊したのを確認した後藤。
(さすがだね〜…ん?)
その爆発の向こうから新たな敵影が市井機に接近しているのに気付いた。
市井機もコンピューターの警告で気付いているはずだが、それに構わず
そのまま別の方向に移動している。
(任せてよ!市井ちゃん!)
後藤は瞬時に市井の意思を理解した。以心伝心とは正にこの事であろう。
そして素早く照準に敵機を捉えた。
すぐに断続的なトーン音が連続した一つの電子音になり、ターゲットの点滅する照星が白から赤に変わる。
ロックオン。
「墜ちろ!」
掛け声と同時にビーム・ライフルの発射ボタンを押すと、銃口から放たれた閃光は
確実に敵を貫き、四散させた。
「やったね!」
それを見て小さくガッツポーズをとる後藤。
『ナイス、後藤』
市井から音声だけの賛辞の言葉。
それで更に気を良くし、いっそうの闘志がみなぎってきた彼女。
「さぁ〜どんどんいらっしゃい!」
市井の後を追って後藤はその機体の速度を上げた。
- 66 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月07日(木)19時09分10秒
- :
プッチ左翼を担う保田は今の市井と後藤の連携を見て思った。
(紗耶香、ほんと成長したわね)
矢口と一緒に同時期に入隊した市井と自分。
入隊して間もない頃、当時はまだ福田と石黒が在籍しており、左に安倍と福田、センターにタンポポの三人、
右に中澤、市井、自分というフォーメーションだった。
この頃の市井は何やら独り気負っていて、戦場で突出していく事があり、それについて中澤からよく注意を受けていた。
同じ右翼のパートナーとして自分もそんな彼女に危うさを感じていた。
そこで黙っていることも出来なかったのでいつしか声を掛けたことがあった。
『ちょっと頑張りすぎじゃないのかな。自分だけが頑張るのではなくて、もう少し周りの状況を見てごらん。
他のメンバーも私も頑張ってるんだから、あなたは私達に甘えてもいいんだよ』
一応年上だが同期の自分が出過ぎたまねかとも思ったが、市井はそれを聞き入れてくれた。
そしてそれをきっかけに彼女とは色々と話し合った。
思えばあの頃より彼女を親友と呼べるようになったのであろう。
それからの市井は変わった。戦法は当時と変わらないが、気負いが無くなり独りで突出することなく、
ちゃんと互いの位置関係を考えて動くようになった。
そしてプッチが結成されてからは一段とチームワークを大切にしている。
- 67 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月07日(木)19時10分48秒
- (私もますます負けてられないか)
ちょうど接近して来た敵を一瞬でターゲットに捕捉し撃破する。
互いに努力し切磋琢磨してきた。
戦い方は違うが彼女の実力も今や相当なもので、市井に決して引けは取らない。
「よし」
敵の撃墜を確認して周囲に気を配る。そこに市井からの通信。
『さすが圭ちゃん。さぁ二人ともガンガンいくよ!』
『お〜!』
市井はそう言うと新たな敵に向かって機体を進め、後藤が威勢の良い返事と共に続く。
「二人ともあたしの分も残しといてよね」
微かに笑って保田もすぐに二機の後を追って自機のバーニアを吹かす。
こうしてプッチモニの三人により敵陣中央部は見る見る崩されていった。
- 68 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月07日(木)19時12分58秒
- :
こちらは中澤、安倍ペアの戦闘空域。
安倍機コクピット内。
「ちょっとなになに〜」
「キャアーー!こわいこわい!」
「そんなん撃って、当たったら危ないしょ!」
悲鳴と怒声をあげながら操縦している安倍。やかましい事この上ない。
しかしその動きは確実に相手の攻撃を躱し、それを墜としていく。
攻撃してくる敵を悉く返討ちにする安倍機の様子を確認した中澤。
(相変わらず中で独り騒いでんのやろなー)
その光景が目に浮かぶようだ。
そしてそんな安倍機を尻目に彼女はビーム・ライフルで本日の四機目を撃破した。
(他のみんなも大丈夫なようやな)
他の空域のユニットの状況を確認した中澤は、次の獲物を求めて戦場を移動しはじめた。
- 69 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月07日(木)19時15分03秒
- :
タンポポ戦闘空域。
「…二つ、次!…下からくる!?…三つ目…今度は右ね!」
交信が始まった飯田。
まるで敵の動きを予測するかの如くビーム・ライフルを発射し、それを撃ち抜いていく。
さすが宇宙空間では感度良好なのか、時折受信した電波の閃光が彼女の眉間に疾るが、
決してニュー○イプではない。
(カオリの奴、始まったか…。オイラも負けてらんねーぜ!)
二機目を撃破した後、マルチ・スクリーン越しに飯田機の動きが変わったのを見た矢口。
「裕ちゃん、アレ使うけどいいでしょ?」
無線で矢口が中澤に指示を仰いだ。
『別に使わんでもこのまま勝てるけど、まぁええよ。じゃあ手っ取り早く終わらせよか』
音声のみの中澤の返事が届くと矢口はコントロール・パネルを操作する。
その矢口からの信号が戦場とは少し離れた所にいる自動操縦のモーニングジェット号に受信された。
するとジェット号のカタパルトに彼女達の機体と同じ位の大きさの
大砲−“メガ・バズーカ・ランチャー(矢口命名『セクシービーム砲』)”が現れた。
- 70 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月07日(木)19時16分57秒
- このランチャー砲はテクノロジー開発ルーム室長である飯田が、福田脱退後に
戦力補強用として本部技術部の協力のもとに開発した物である。
完成直後はいつもろくでもない物ばかり作る彼女にしては素晴らしいと
他の六人のメンバー達(当時は石黒が在籍・後藤は未加入)が絶賛していた。
しかしそこはやはり飯田。何故か発射の際に声紋パターンの照合を必要とするシステムが備え付けられていた。
そしてひょんな事から矢口の声紋がインプットされ、その後プロテクトが掛かってしまう。
開発した飯田本人がその解除プログラムを忘れてしまった為、取り消し及び再入力も効かなくなってしまった。
さらにシステム自体の取り外しもかなり面倒だったので、結局はそのままにされた。
こうしてこのランチャー砲は矢口にしか使えなくなったのである。
(矢口曰く『セクシービームマスター』)
では何故そんなシステムが取り付けられていたのだろうか?
実は飯田は自分の声紋を入力して自分だけそれを使おうと企んでいたのだ。
後に皆から不要なシステムの設置について追究され、それがばれた時、
彼女が矢口を除く他の五人からしばらく仲間ハズレにされたのはまた別の話。
- 71 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月07日(木)19時18分36秒
- そのメガ・バズーカ・ランチャーが射出され、矢口機との合流地点に向かう。
「矢口がアレを使う。みんな、注意しつつなるべく敵が一ケ所に集まるようにしたってや!」
中澤のその指示に敵の包囲網を作るように各機が動いた。
若干戦闘空域から離れた場所でランチャー砲を装備する矢口機。
このランチャー砲はその大きさにより、まとめて敵を撃破する威力を持つが、発射の間の
エネルギー充電中は、装備した矢口機の機動力がほとんど失われてしまうという弱点もある。
よって装備中を狙われぬよう戦闘空域から離れなければならなかった。
トリガーを握り締め、ターゲット・スコープの中心を敵が最も集中する箇所に合わせる。
「エネルギーチャージ完了。みんな射線から離れて!」
射線上に味方がいないのは確認済だが一応注意を促す。
「いっくよー!セクシービィーーーーーム!!」
- 72 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月07日(木)19時20分03秒
- 砲口から大量の光が奔流のように飛び出し、放たれたその閃光の柱は一直線に敵のいる空間を貫いていく。
そしてそのビームに巻き込まれた十数機のボールが白い光の中に消失していった。
「やったぁー!!」
それを見た矢口が歓声をあげる。
これにより敵の大半が壊滅し、逃れた僅かばかりの数を掃討して戦闘は終了した。
無論味方の損害はゼロ。いつもながらモーニング娘。の完勝であった。
「よっしゃ!みんなお疲れさん。引き上げや」
中澤から引き上げの号令が発せられ、戦闘を終えた彼女達はモーニングジェット号に帰艦した。
- 73 名前:作者です 投稿日:2001年06月07日(木)19時21分41秒
- 更新です。戦闘シーン、引っぱった割には一回の更新で終了。
最初の当面の敵機には考えた末、あちらの作品ではお馴染みの雑魚&やられキャラの
「ボール」(しかも無人機)を使用しました。
色々と期待外れだった方にはお詫び致します。
>>58
レス、どうもありがとうございます。
四人の本格登場はしばらく先ですので、すいませんがお待ち下さい。
現実では第四次の新メン追加が決まってるのに、こっちではまだ三次メンバーさえ
出ていない。(w
現実で第四次新メンが決定するまでには登場させなければ…
(遅すぎ?ほんとすいません)
また他のカップリングも一応考えてたりします。
- 74 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月08日(金)05時53分40秒
- カオリ、○ュータイプでもないのにすごい能力もってますね。
それにしても、なんで声紋をセクシービームで登録したんだろ(w
- 75 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月08日(金)21時23分46秒
- カップリングどんなのが出てくるんだ?
期待!
- 76 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月15日(金)18時44分05秒
- モーニングジェット号に帰ってきてから戦闘後の機体の整備も終え、ブリッジに戻ってきた一同。
すっかりくつろぎモードである。
「いやー今回も快勝やったな。祝杯に一本開けたい気分やわ」
中澤がキャプテン・シートに座り、伸びをしながら言う。
「キャハハハ、任務の航海中アルコール禁止ってのはお酒好きの裕ちゃんには拷問だね」
矢口がそんな中澤を見て笑っていた。
「ほんまやで。マジ勘弁してほしいわー」
モーニング娘。はこれでも一応軍隊である。哨戒活動等の軍事行動での航海中は当然禁酒が言い渡され
ている。最もこの中でそれが辛いと思っているのは中澤だけなのだが。
「矢口もセクシービームで大活躍やったな。ほら、御褒美に裕ちゃんがチューしたるで」
中澤がそう言って唇を突き出す。
「ばーか。いいよそんなの」
矢口は顔を赤らめながらソッポを向いて行ってしまった。
「なんや照れよって、ほんと可愛いわ〜」
中澤は笑ってシートにもたれながら皆の方に目を向けた。
- 77 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月15日(金)18時45分46秒
- 他の席でもそれぞれ雑談に花が咲いている。
「しっかし、ほんとカオリの電波は無敵だねー。それがあれば恐いもんないしょ」
「そんなことないよ〜。体調によって受信状態変わるし、それに戦闘用の交信はちょっと不便なんだ」
「へ?戦闘用って…普段との違いなんてあんの?」
「あるよ。戦闘用の交信を使うとなんか後から結構疲れんだよね〜」
「ほぇ〜」
「逆に通常の交信はすごく楽しくて、癒されるのよ…」
「そうなんだ〜」
「…」
「カオ?」
返事がないと思ったらすでに交信状態の飯田。
「…さすがカオリだね(汗)」
もう一方では
「後藤!ブリッジでおやつ食べるの止めなさいよ」
「いや〜戦闘後はお腹が減るもんで…圭ちゃんも酢コンブ食べる?」
「食べないわよ!大体それどこから持って来たのよ?」
「えっ、ごっちんはポケットにいつもおやつを携帯させておりますぞ」
「ハハハッ、ほんとしょーがねーなー後藤はー」
後藤を笑っていた市井とそんな様子を見ていた中澤の目が合う。
そのことで中澤は先程の戦闘前の会話を思い出した。
「そういえば、プッチモニィー!!」
(((まずい!)))
- 78 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月15日(金)18時47分06秒
- シートから立ち上がった怒れる中澤が三人の眼前に迫ろうとしたその時、
ブリッジの通信機のランプが点滅した。
近くにいた矢口が確認する。それは本部の平家みちよからの通信だった。
「裕ちゃん、本部のみっちゃんから通信だよ〜」
「ほら、リーダー。本部から通信が入ってるって!早く出なきゃ!」
矢口からの救いの言葉を聞いて、裏切者二人により盾にされる恰好で前に
押し出されていた保田が中澤を急かせる。
「チッ!…わかっとるわい!」
(((ホッ、助かった〜)))
保田達をひと睨みすると中澤は通信席に向かい、そのスイッチを入れて回線を開いた。
するとメインスクリーンに必要以上の平家の顔のアップが写し出された。
「おわっ!!」
突如現れた平家のアップにブリッジにいる皆が仰天する。
「へへ〜ん、びっくりしたぁ?」
平家がアップから引いて通常の位置に戻る。
「みっちゃん!びっくりするに決まっとるやろ!怒るで!ほんま!」
「姐さん、ちょっとしたお茶目ですやん」
「あんたにやられると無性に腹立つねん!」
「まぁまぁ、落ち着いて下さい」
いたずらに怒る中澤とは対称に当の本人は涼しい顔だ。
- 79 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月15日(金)18時48分17秒
- 平家みちよはモーニングの初期メンバー達とは警察特殊部隊からの同期で、
現在は本部においてつんく司令の秘書的な仕事を行っている。
中澤とは特に気が合い、顔を会わすとまるで姉妹の様にじゃれあっている。
お互いちょっとした毒舌で遠慮なく言い合えるのもそれだけ仲の良い証拠だ。
「…ったく。そういえば報告が遅れてしもうたけど、さっき敵と交戦したで。
ま、いつも通り完勝やったけどな」
用件は恐らく先程の戦闘の件についてだろうと思った中澤が報告した。
「それはこちらでも確認しとります。先程ジェット号から自動で報告が届きましたよって。
みなさん無事で何よりです」
「そっちはデスクワーク、楽でええなー。変わってもらいたいわ」
「姐さんも年やさかい、現場は辛いですもんなー」
「みっちゃん!ゆうたらあかんことゆってくれたなぁー!!」
「ハハハ、ジョークですやん。そんな怒らんといてーな」
「いーや、許さん」
「ほんま堪忍してください」
「…まぁええわ。じゃあ堪忍したる。で、みっちゃん。結局用事は何なん?
報告が届いてるんやったらわざわざ連絡してくることもないやろ?」
いささか話が脱線してしまったので早々に漫才を切り上げて、中澤は本当の用件を尋ねてみた。
「あ、そやった。すっかり忘れとったわ」
中澤に聞かれて今回の用件を思い出した平家は、姿勢を正してお仕事モードに切り替わるとそれを伝え
た。
「つんく司令からの命令を伝えます。モーニング娘。はこれより本部に帰還して下さい。
後日、中澤少佐は司令室まで出頭せよとの事、以上です」
「司令室に?つんくさん、うちに何の用なん?」
「それは司令室に出頭の際、直接伝えるとの事です」
「そーか…了解しました。ではモーニング娘。はこれより本部に帰還します」
そして互いに敬礼して通信は切れた。
- 80 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月15日(金)18時49分52秒
- :
通信が切れた後も中澤は司令室に呼ばれた件について考えていた。
その事と平家登場のインパクトでプッチモニの件などとうに忘れている。
そんな彼女の様子を見て安心したプッチの三人は、顔を見合わせ内心でほくそ笑んでいた。
「つんくさん、ほんまに何の用やろ?」
「裕ちゃん、何か悪さしたのがばれたんでないの?」
悩んでる中澤に安倍が茶々を入れる。
「アホ!そんな心当たりないわ!」
そう言いながらもちょっと自信がない中澤。
(もしかしてこないだの哨戒活動の時、内緒で缶ビール五本持ち込んだんがばれたとか?)
「まぁー行けば分かるか」
中澤はそれ以上考えるのを止めた。
およそ三週間ぶりにスペースラグーンに帰れるとあって、ブリッジはにわかに騒がしくなっている。
「久しぶりに休みもらえるかな?」
「休み欲しいよね〜。矢口買いたい服とかいっぱいあんだよ〜」
「そうだねー。なっちもショッピングしたい!あと美味しいもの食べに行きたい!」
中澤の近くで後藤と矢口、安倍がはしゃいでいた。
あちらでも市井と保田が何やら話している。
飯田はもうしばらく帰ってきそうにない。
「ほな、帰ろーか」
こうして命令を受けた彼女達は今回の任務を終了し、モーニングジェット号は
スペースラグーンへの帰還の途についた。
- 81 名前:作者です 投稿日:2001年06月15日(金)18時51分43秒
- 更新です。
短いですが戦闘後の様子をお贈りしました。
今回は新キャラの平家さん登場です。
>>74
レス、どうもありがとうございます。
飯田嬢…まあ彼女に関してはその特徴上、割と何でもありですから…
(他の作品でもそういう扱い結構多いみたいですし)
ファンの方、どうもすいません。
あとセクシービーム砲ですが、登録されているのは矢口の声紋パターン
なので、彼女の声なら別になんでも良いという設定です。
掛け声の方はお約束ということで。
最初はジャンケンに勝ったということで考えていたのですが、
それだと結局みんなが使用できて「セクシービームマスター」としては
弱いと感じたので、このような苦しい設定になりました。(苦笑
結構どうでもいいことなんですがね。(W
>>75
レス、どうもありがとうございます。
上手く話に組み込めていけたら、成立させたいと思っています。
まだ確定してませんが、自分、初心者なんで多分
直球勝負(メジャーな組合せ)になりそうです。
これで一応ひと区切りつきました。
次回から舞台はスペースラグーンに移ります。
- 82 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月15日(金)22時56分22秒
- つんくさんからの呼び出しってもしや、、、
- 83 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月16日(土)21時47分45秒
- わーい、みっちゃんの登場だ!
また出番はあるのかな?
- 84 名前:パク@紹介人 投稿日:2001年06月19日(火)14時22分58秒
- こちらの小説を「小説紹介スレ@紫板」で紹介します。
http://www.ah.wakwak.com/cgi/hilight.cgi?dir=silver&thp=992877438&ls=25
- 85 名前:パク@紹介人 投稿日:2001年06月19日(火)15時32分12秒
- 上のレス紫板となってますが、「小説紹介スレ@銀板」の間違いです。申し訳ない。
- 86 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月27日(水)19時20分25秒
- ◇
母星《ゼティマ》圏の宇宙空間に浮かぶリング状の巨大なスペースコロニー《スペースラグーン》。
人類の第二の故郷となったこの建造物。その構造は、居住区にあたるリング内部とリングの外に
設置された生産ブロックとに分かれている。
まず、数々作られたその生産ブロックは工業・農業・畜産・漁業等がそれぞれ決まったブロックで
行われ、そこで必要な物資が生産されている。
次にリング内部である居住区だが、環境面ではリング部分各所に反射鏡の役割を果たす光電池の
パネルが取り付けられていて、その鏡で近くの恒星からの光を紫外線・赤外線など人体に有毒な
物質をある程度取り除いた後反射させ、弱い光に還元してリング部に導くことにより昼夜が
作り出されている。
さらに気圧調節により雲を発生させ、プログラムに従って雨や雪まで降らす事で、
四季をも作り出す事ができた。
また、そこはかなり広大で、森林や池、丘などの自然があり、人々が暮らしている街は
幾つかのエリアに分かれ、場所によって習慣や話し方が多少異なる地域もある。
数千万という数の人間が居住するそれは、まさに一つの国家といえる規模であった。
このような環境と内部全体に発生させている人口的な重力により、人々の生活は地上と
殆ど変わりなく営まれている。
最も今や殆どの世代の人々がコロニーで生まれ育っており、その彼らにとって本当の
地上の生活がどのようなものか分かるはずもなく、これが当然のものになっていた。
◇
- 87 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月27日(水)19時23分04秒
- スペースラグーン帰還後、三日間の休暇が与えられたモーニング娘。の面々。
初日の今日、午前中はタンポポ二人の提案によりメンバー全員で元メンの石黒宅を訪れた。
そして石黒親子(旦那は仕事で不在)を含む皆でちょっと早めの昼食を済ませた後、
彼女達モーニング娘。の宿舎になっているマンションに帰宅。
午後からは全員が自由行動となり、各メンバー達はそれぞれの時間を過ごしていた。
中澤は航海中の禁酒に昼食時に軽く飲んだビールも後押しして、逃げ損ねた保田を
相手に昼間から自室で本格的に酒盛り。
その魔の手から上手く逃れた矢口と安倍は街にショッピングへと出掛けていった。
飯田は自室で趣味の絵画を描いている。
さて残った市井と後藤はというと…
「ねぇ〜こんないい天気なんだからこれからどっか行こうよ〜。明日のドライブ、車が
ちょっとくらい汚れてても後藤は別に気にしないからさ〜」
「あんたは気にしなくてもあたしは気にするの。市井は汚れた車でドライブしたくない」
「なら洗車機にかければ簡単じゃん」
「ローンでやっと買った愛車なんだから、自分の手できちんと綺麗にしたいの」
「でも〜ごっちんは退屈ですぞ〜」
「だったら一人で出掛けてくればいいじゃない。それか部屋で好きに過ごすか…
矢口達と一緒に行けばよかったのに」
市井のそんなつれない言葉に頬を膨らます後藤。
「一人で出掛けてもつまんないよ〜。マンションに戻ったら裕ちゃんに捕まっちゃうし、
それに市井ちゃんと一緒にいたかったんだも〜ん」
「じゃー文句言うなー」
- 88 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月27日(水)19時25分26秒
- 午後の自由行動になって、後藤は以前対戦に勝った時のあの約束を発動させようとしたが、
『今から半日付き合うより、どうせなら明日一日中の方がいいでしょ?』
と言う市井の提案を採用した。
さらに後藤が明日はドライブがしたいと希望。それを聞き入れた市井は、ならばと
マンション近くの洗車場で愛車を磨いているのだった。
後藤は市井の車に積んであった折畳み式のチェアーを引っぱり出し、座ってそれを見ている。
また市井は市井で自分が好きでしている事なので、そんな彼女に手伝いの強制はしない。
「大体あたしゃ明日のドライブの為にこうして車磨いてるんですけどー」
「そりゃそうだけど…だから後藤は別に気にしないって言ってんじゃん」
「あたしももう一度言うけど、あんたは気にしなくてもあたしは気にするの。
それに前から休み取れたら綺麗にしなきゃって思ってたからね。ちょうどいいよ」
ドライブには行きたいが、車の掃除などどうでもよかった後藤にしてみれば、
張切って磨いてる市井を見て、始めはちょっと呆れていたのだが、その熱心に
磨く姿を見ているうちに何だか少しだけ車に対してヤキモチが妬けてきた。
そこで後藤は少しでもかまってもらいたくて時折茶々を入れる。
そしてなんだかんだ言っても市井もちゃんとその相手をしてくるのだ。
だから退屈と言ったのは本当は嘘である。こうして会話をしているだけで充分に楽しい。
- 89 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月27日(水)19時26分54秒
- 「やっぱあの約束、今使っちゃおっかな〜」
でもやはり出掛けたい気持ちもある。
「じゃー明日のドライブは止めるの?」
「それは絶対行きたい!」
「でしょ」
「でも今からも遊びに行こう!」
「だったら明日は付き合わないわよ」
「マジで? 磨くだけ磨いてドライブしないの?」
「アハハハハ、だって約束したのは一日だけでしょ?」
「む〜〜市井ちゃんの意地悪!」
明日は明日、今日は今日で楽しみたいと思う後藤。
変なところできっちりしている市井。
「さぁどうする?後藤真希!」
「…明日のドライブにします」
「ファイナルアンサー?」
「…でいいです」
「ではあの約束は明日のドライブに決定!」
「う〜んショック。こんなことなら休みの間中ずっとって言っとけばよかったー」
「ハハハハ」
結局、後藤は市井の説得を諦めた。今日はこのまま過ごすのも悪くないと思う。
- 90 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月27日(水)19時29分12秒
- 「それで、市井ちゃんはピカピカの愛車に私乗せて、何処に連れて行ってくれるのさ?」
「まだ考えてないけどー…後藤は行きたい所ある?」
「う〜ん…特に考えてない」
「もう、ドライブ行きたいって言ったのあんたでしょ?」
「エヘヘヘヘ」
「じゃあ後で一緒にエリアマップ見て決めよっか。あ、でも雨が降る予定のエリアは除外ね。
雨ん中ドライブしても仕方ないし、せっかく磨いてる車も汚れるし」
「汚れたら汚れたでまた磨けばいいじゃん」
さっきのお返しとばかりに後藤がちょっと意地悪く言ってみせる。
「あのね〜貴重な残り一日の休日も車磨きさせる気?いくら大切な愛車でも、
あたしだって他にもやりたいことあんのよ〜」
「アハハハハ」
そんな会話のやり取りのなか、後藤は明日のドライブの事を色々想像してみた。
−大好きな あなたとの 大好きな 休日−
するとある考えが思い浮かんだ。
- 91 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月27日(水)19時30分54秒
- 「そうだ!あたし、明日お弁当にサンドウィッチ作ったげるよ!」
「へぇ〜そいつは楽しみだ」
「それに車内で聞く音楽も用意しなきゃ!」
思いついたらいてもたってもいられなくなってきて、椅子から立ち上がる。
「あたし、これから材料買いに行ってくる!」
そう言って後藤は走り出す。
「あっ!ちょっとぉー!行き先はどうすんのさー!」
「市井ちゃんが決めといてよ。あたしは市井ちゃんが連れてってくれるなら
何処でもいいからさ。じゃー明日…9時に正面玄関ね〜!」
「わかったよ!」
市井が走っていく後藤の背中に返事をした。
それを聞いた後藤は少し離れた場所から振り返って、
「磨くだけじゃなくって、ガソリンも入れといてね〜!」
手を振りながらそう言うと走り去っていった。
- 92 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年06月27日(水)19時32分33秒
- (これ、電気自動車だっつーの。あいつ、一体いつの時代の話してんだよ?!)
人類がスペースコロニーに居住するようになってから、環境に悪いガソリン車は
とっくに廃止されている。現在所有しているのは博物館か一部の旧車コレクター位なものだ。
そういえばこの車を買う時、自分が車選びに見ていた雑誌にたまたまガソリン車の特集が載っていた。
珍しくて眼に止まったが、それを横からちらっと覗いていた後藤がおそらく勘違いしたのだろう。
(でもあんなに張切っちゃって、よっぽど楽しみなんだな)
後藤の嬉しそうな姿を見ると自分も何だかとても嬉しくなる。
明日は最高に楽しい一日になりそうだ。
そう思う市井は鼻歌まじりに再び愛車を磨きはじめた。
- 93 名前:作者です 投稿日:2001年06月27日(水)19時36分41秒
- 更新です。仕事が忙しくて更新遅れました。すいません。
市井と後藤、休日初日の模様をお贈りしました。
(>>12 での約束を消化しておきませんとね)
今回の話の元ネタは言わずもがな。…分かるかな?汗)
>>86
また記号失敗してる。鬱だ…
>>82
レス、どうもありがとうございます。
今回はまずこの二人の話が先でした。
姐さんin司令室での話はこの後で、予定では次の次くらいですね。
ま、流れからいけば当然「恋ダン」→「ハピサマ」となるわけで…
>>83
レス、どうもありがとうございます。
平家さん、近いうちにまた登場予定ありますよ。
娘。以外のハロプロメンバーでは一番登場させる機会が多いと思います。
>>84
>>85
ご紹介どうもありがとうございました。作業大変でしょうが頑張って下さい。
次回は市井と後藤、ドライブ当日のお話です。
このところ忙しいので、申し訳ありませんが次回も遅いかもしれません。
読んでくださっている方には前もってお詫びしておきます。
- 94 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月28日(木)20時31分57秒
- 一つめのカップルの話がはじまりましたね。
ドライブがどうなってゆくのか楽しみです。
他のカップリングの話も出てくるのかな?
- 95 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月30日(土)04時22分05秒
- いちごまはやっぱりいいな〜!!
次回のドライブ当日も楽しみにしてます。
- 96 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時19分19秒
- ドライブ当日の朝。
ここはモーニング娘。の宿舎になっているマンション、後藤の部屋。
そこに侵入するひとつの人影があった。市井紗耶香その人である。
「只今から後藤真希を起こそうと思います。…いつまで寝てるんだろう…」
別に誰が見てるわけでもないが、まるで芸能リポーターの様にマイクを構える恰好で
そう言うと彼女は部屋の奥に入っていった。
昨日約束した時間通り正面玄関前で待っていた市井。しかし時間になっても本日のお相手は現れない。
その時点で後藤が寝坊していることを確信するのは彼女にとってさほど難しい事ではなかった。
この弟子をよく知る師匠としては電話位では起きないと思い、管理人のキャシーに頼み
合鍵をもらって直接部屋まで起こしに来たのだ。
(いい加減に遅刻癖直せよな〜)
まず玄関から短い廊下を歩いてリビングに入った。
何度も訪れている上に間取りはメンバー全員同じなので迷う事はない。
(相変わらず散らかってんね〜)
見渡すと本日の為であろうか、部屋中に散らばる音楽ディスク。
キッチンを覗くとお弁当の為の料理の後。
昨日はあれから後藤とは会っていない。この様子を見て想像する限りでは
おそらく夜まで今日の準備に奮闘していたのだろう。
そこには後藤の涙ぐましい努力の形跡が見られた。
- 97 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時20分58秒
- (張切って準備した分、疲れちゃったかな?)
ディスクを片付けながらそれを考えると怒るに怒れないと思う。
次にバスルームも使っているか一応確認してみたが、案の定そこにも後藤はいなかった。
(やっぱまだ寝てんのね)
そう思いながら寝室に向かい、静かにそのドアを開けた。
まだカーテンが閉じられた薄暗い部屋の中に入ると、何着かの服が絨毯の上に散乱していた。
こちらは昨晩の服選びの跡だ。選考の末に決められたであろう本日の為の服が一式、
きちんとハンガーに掛けられている。
散乱した服の間を踏み分けベットに近づくと、そこには気持ち良さそうに寝息をたてる後藤の姿があった。
(やれやれ)
それを見た市井はベットの横に膝をついて半立ちの状態になるとその寝顔を覗き込んだ。
- 98 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時30分59秒
- しばらく後藤の寝顔を眺めていた市井だが、悪戯を思いついた子供の様な笑みを浮かべるとある行動にでた。
右手の人さし指を一本だけ立ててその寝顔に近づける。
そして
ぷにぷに
ほっぺたを指で突いてみた。柔らかい肌の感触が心地よい。
「う〜ん、むにゃむにゃ…」
やられた本人は未だ夢の彼方だ。
(こら!この寝ボスケめ。この!この!)
ぷにぷに
今度は鼻を突いた。
「ん〜」
これには後藤も寝ながらにして眉をひそめる。
(ククク、おもしれ〜)
その仕種を見た市井は思わずこみ上げてくる笑いをなんとか噛み殺し、しばらくそれに耐えていた。
しかし今日を楽しみにしていた後藤を思い、ようやく起こすことにした。
(もうちょこっとこうしてたいけど、そろそろ起こすか)
- 99 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時33分24秒
- 可笑しい気持ちを落ち着けてから軽く深呼吸をして大声で呼びかける。
「朝ですよー真希!朝ですよー!ごとーちゃんもう9時過ぎた。遅刻!マジ遅刻!ヤバイよ。ハイ起きて!」
その声に布団の中でモソモソと動いた後藤がゆっくりと瞼を開いた。
「………あれ?市井ちゃん…どったの?」
しかしそれはまだ寝ぼけまなこだ。
「『あれ?どったの?』じゃないでしょ。自分で時間決めといて」
ちょっと呆れ顔でその問いに答える市井。
「え?………あぁっ!!もうこんな時間?!なんでぇーー?!」
時計を確認した後藤が慌てて上半身を起こした。完全に目が醒めたようだ。
セットしてあった目覚ましはちゃんと機能したが、どうやら本人が無意識の内に止めていたらしい。
「ごめん、ごめんね!市井ちゃん」
下半身をまだ布団に入れたまま、両手を合わせて謝る。
「別に怒ってないわよ。いいから起きて支度しなよ」
部屋の状態から事情を察している市井は優しく微笑んだ。
「うん、わかった」
その言葉を受けた後藤はベットから速攻で抜け出すとパジャマ姿のまま部屋を出ていった。
- 100 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時39分02秒
- 「あ!お弁当も作らなくっちゃ!」
洗面所に向かう途中キッチンに眼がいった後藤が思い出して声をあげる。
「下ごしらえは出来てんでしょ?なら待ってる間にあたしが仕上げといてやるよ」
彼女に続いて部屋から出て来た市井が答えた。
後藤は市井に悪い気がして躊躇ったが、今は少しでも早く出掛けられることを
優先させたかったので、結局その申し出に甘えることにした。
「ありがと。じゃーお願いしちゃてもいいかな。ほんとごめんね」
またもや両手を合わせて軽く頭を下げると後藤は洗面所に消えていった。
「そんなに焦んなくても大丈夫だよ」
別に発車時刻の決まった電車や飛行機に乗り遅れるわけではない。
本日は気ままなドライブだ。今日一日まだ時間は充分にある。
キッチンに足を運びながら市井は洗面所に消えた後藤にそう呼び掛けた。
- 101 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時40分36秒
- それからキッチンにやって来た市井は、昨日から使いっぱなしにされていた器具をあらかた片付けた後、
冷蔵庫から後藤が予め仕込んであった料理を取り出して一通り確認した。
見るとその殆どが当然の如く市井の好物だ。
「泣かせるねぇ〜」
そう独白しながら大袈裟に涙を堪える仕種をした後、市井は手を洗って最後の仕上げや盛付けに取りかかった。
途中思わずつまみ食いをしてみる。
(ん、うまい)
そしてあちらで準備にドタバタしている後藤を尻目にテキパキと作業を進めていく。
こうして市井の手によって無事にお弁当も完成し後藤が支度を終えた後、当初の予定より遅れたが
二人は市井の運転するエレカ(電気自動車)でマンションを出発したのだった。
- 102 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時41分44秒
- :
「だいぶ遅れちゃった。ごめんね〜」
出発した車の中でようやく落ち着いた後藤が申し訳なさそうに言った。
「ハハハ、だからいいって。まだ時間は充分あるよ」
運転席の市井は全く気にしていない様子で笑顔でハンドルを操っている。
その様子を見て安堵した後藤も気持ちを切り換えていつもの調子を取り戻した。
「ねぇ市井ちゃん、これから何処行くの?決めといてくれたんでしょ?」
「それは着いてからのお楽しみ〜」
「え〜そうなの?…じゃ期待させてもらおっかな〜」
「ま、とりあえずドライブを楽しもーぜ!」
「そーいえば音楽用意したの。かけてもいい?」
「ああ、いいよ」
後藤がディスクをカーステにセットするとスピーカーから曲が流れ始めた。
これからが本日のドライブの本番だ。
- 103 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時43分10秒
- 「さてと、ではくれぐれも安全運転でお願いしますよ。運転手さん」
助手席の後藤がふざけてちょっと偉そうに命令した。
車と免許は持っているが、日々任務で大半を宇宙で過ごしている為ほぼペーパードライバーの市井。
「にゃにぃを〜あたしが操縦上手いの知ってんでしょ?」
「それってLOVEマシーンでの話じゃん」
「ヘン!車の運転だって同じようなもんだよ〜」
「そんなもんですかねぇ〜」
楽しく会話も弾みながら車は目的地に向かって順調に走り続ける…ように思えたが…
「市井ちゃ〜ん、あの店で買い物していきた〜い」
「お!あそこの店、なんか面白そう!後藤、すこし寄ってみよーぜ?」
「あの喫茶店かわいい〜。ね、ちょっことだけお茶してこ〜」
といった調子で、行く先々で気になった店に寄り道しては休憩がてらにお茶をする、
正に気のみ気のままのドライブになっていた。
:
- 104 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時44分26秒
- 結局二人が目的地に着いた頃には時計も午後1時半をまわっていた。
市井が今日の目的地に選んだのは、彼女達が住むエリア近郊では一番大きな自然公園だった。
平日の為さほど込んでいない駐車場で車を降りて、入園口となっている建物に入る。
そこで入園料を払ってから逆側の外に出ると、後藤がその光景を見て歓声をあげた。
「わぁ〜きれい!」
遠くには、その大きさは丘と言うよりもはや山が、連なって立ちふさがっていた。
出て来た建物の周囲には草原が広がり、右手の少し向こうには近代的な物とは違ったチロル風の建物が見える。
また反対の左側は湖とその周りに林が広がっていた。
「ゼティマの実際の自然もこんなかな?」
「知らないけど、本の写真とかで見るとこうだね」
- 105 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時45分54秒
- 周りの景色を見渡しながら歩いていると数台の馬車が置いてあるのを見つけた。
「馬車なんか初めて見たよ〜」
「ほんとだね」
二人がちょっと興奮気味に話していると係員らしき御者が近づいて声を掛けて来た。
「乗ってみますか?」
「え、乗れんの?」
後藤が思わず素頓狂な声を出した。
「自分で操るんですか?やったことないんですけど…」
市井は御者に尋ねた。
「大丈夫ですよ。この馬は大人しいですし、素人でも御せるよう訓練してありますから」
御者はニコリと笑うとそう説明した。
「う〜ん、どうする?」
「乗ろう!乗ろう!」
市井の問いかけに後藤はもうその気だ。
それを聞いた御者は二人の荷物を馬車の後ろに乗せ、彼女達を御者台に上げると手綱の使い方を教えてくれた。
「まず綱を叩けば馬が進んでくれます。…そう。……今度は引いてみて下さい。
…そうです。馬は止まってくれます」
「なるほど。結構簡単ね」
一通り手綱の使い方を覚えた市井は何度かそれを試してみた。
「どうです?コツは分かりましたか?」
「あ、はい」
「では、楽しんできて下さい」
「「ありがとうございます」」
二人は御者に礼を言うとそのまま湖が見える舗装されていない道を進んでいった。
- 106 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時47分23秒
- 湖畔までやって来た彼女達は馬車を止め、適当な場所を選んで荷物から出したシートを広げた。
「う〜ん、気持ちいい〜」
シートの上に寝転がり全身で伸びをする後藤。市井もその隣に同様に横になる。
普段宇宙船という閉塞された空間で過ごしている為か、人工的ではあるが
こういう場所での日射しと風が気持ち良かった。
「素敵な場所だね」
「ご期待に応えられましたか?」
「うん!連れてきてくれてありがと」
「ハハハ、どういたしまして」
それから二人は空腹を感じていたので、合作になったお弁当をひろげて、
そのままそこで遅めのランチをとることにした。
「う〜ん、我ながらいい出来」
後藤はサンドウィッチを一口食べると満足げに独白した。
「うん、美味しいよ。後藤は料理上手だね」
同じくサンドウィッチを口にした市井もそう感想を述べる。
「いやいや照れますな〜。でも市井ちゃんが手伝ってくれたおかげだよ」
誉められた後藤はふにゃと笑うと残りを頬張った。
- 107 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時49分01秒
- そして食べ終わった後、思い出した様に話し掛けきた。
「そーいえばさぁ、朝キッチンに立ってた市井ちゃんを後ろから見たらね、
なんか“かあさん”って感じがした」
言い終わった後藤がクスクスと可笑しそうにしている。
市井はその面倒見の良い性格とちょっとオバサン臭い言動があるところから“かあさん”という
ニックネームでメンバー達から呼ばれることがある。
「えー?そぉ?」
「そうそう。でも元はと言えば後藤の教育係引き受けて、色々教えてたらみんなから
そう呼ばれるようになったんだよね〜。市井ちゃん丁寧に教えてくれるから、
あの頃はほんとお母さんみたいに思えたもん」
「そうだったねぇ。アハハハッ」
その頃の事を思い出して市井は笑った。ちなみに彼女自身も親しみのあるその呼び名は結構気に入っている。
- 108 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時50分55秒
- 「後藤も今じゃすっかり一人前だな」
「教育係の市井ちゃんにそう言ってもらえると嬉しい〜」
再度誉められた後藤は益々顔をふにゃふにゃと綻ばせると、その気分は有頂天に達していた。
「それもそろそろ必要ないかもね…」
そんな後藤を優しい顔で見ていた市井は、その視線を正面の湖面に向けて
小さな声で少し寂し気にぽつりと呟いた。
「ん?何?なんか言った?」
浮かれていてそれを聞き逃した後藤が聞き返すが、市井は何でもないよと言って、
笑顔を作りサンドウィッチを口に運んだ。
後藤も市井が笑顔を見せたので、大して気にも止めず再び料理に手を伸ばした。
それからランチを済ませた後もボートに乗ったり、色々見て廻ったりと二人は
自然公園での休暇を充分に満喫したのだった。
- 109 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時52分34秒
- :
夕方になって市井達が住む街から少し郊外にある小高い丘の駐車場にエレカは止まった。
別のルートだが行きと同じ様な事をして帰って来た途中、二人はこの丘に寄ることにした。
ちょうど今の時間帯ならここの頂上の展望台からは綺麗な夕暮れの景色が見えるからだ。
「はい、着いたよー」
「わぁ〜い」
市井の合図に幼い子供の様に返事をして一足先に後藤が車から降りた。
出掛けてからの彼女は本日終始ご機嫌だ。
「ちょっとぉーやっぱ買いすぎなんじゃないの?これ」
遅れて車を降りた市井が後部座席に置かれた山程の荷物を見て言った。
「いいのいいの。だって欲しい物いっぱいあったんだもん。今日買っとかなきゃ今度はいつ買えるか分からないじゃん」
その荷物の大半の所有者である後藤は右手をヒラヒラと振りながら展望台のベンチに向かって歩いていく。
その後に市井がヤレヤレと肩を竦めながら続いた。
「大体モーニングに入ってからろくに休みないもんねー」
ベンチに腰掛けながら後藤がちょっと愚痴っぽく言った。
「そういえば聞いたことなかったけど、後藤ってなんでモーニングに入ったの?」
- 110 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時54分24秒
- 隣に座った市井はその言葉を聞いて思い付いた事をそのまま口にしてしまった。
「え?あたし?」
「あっ、別に言いたくなければ言わなくていいからさ」
聞いてはみたものの、自分を含め人にはそれぞれ事情があるのだと思い前言をフォローする。
しかし後藤はあっさりと話し出した。
「ううん、そんなことないよ。あたしがモーニングに入ったきっかけは、えーとねー、あれは確かゲーセンで…」
「ゲーセン?!」
思ってもいなかった単語が後藤の口から出たので市井は驚いた。
「そう。後藤、暇な時とか友達とよくゲーセンでゲームやってたのね。ほら、ちょうどいつも訓練で使ってるような対戦するヤツ。
まぁーもちろんあれ程リアルじゃないんだけどー。でね、あたし結構そーゆーの得意でさぁー、いつも最高得点だったし、対戦でも敵なしでねー」
「ふーん、それで?」
「ある時それの大会があって、なんか面白そうだったから試しに参加してみたの。地区予選とか含めると一万一千人位の参加者が
いたらしいんだけど、なんと!見事に優勝しちゃいまして」
「すごいじゃん!後藤」
「でしょ!誉めて!誉めて!」
後藤が得意げに胸を張る。
「よしよし。で、それからどうなったの?」
市井はそんな彼女の頭を軽く撫でてやりながらその先を促した。
- 111 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時56分37秒
- 「あ、そーそー。でね、優勝した後に大会本部にちょっと呼ばれたの。で、そこにいた金髪で黄色い
サングラスしたおじさんにね、まぁそれがつんくさんだったんだけど、
『君、ええ素質持ってんなー。どや、パイロットになってみんか?』って誘われたんだ」
(…つんくさん、そんなやり方でも人材集めてんのかよ…ま、あの人ならやりそうだけど…)
市井はつんくのやり方に半ば呆れたが、なんとなく納得もできた。
「でもね、あたしさぁ『スペースヴィーナス』って知らなかったの」
「!」
「それで詳しい話聞いてー、あたし幼い頃からどこかそういうのに憧れててね。
ほら、なんか平和を守る正義のヒーローみたいな?だからOKしちゃたんだ」
「ハハハ、後藤らしいよ」
「まーお母さんは最初反対してたんだけど…」
「ん?ちょっと待って。反対したのお母さんだけ?お父さんは?」
市井は後藤の言葉が気になり尋ねた。
「あー、後藤、お父さんいないんだ。小さい頃病気で死んじゃったの」
「…そうなんだ…ごめん…」
「いーよ、あやまらなくても。あたし小さかったからほとんど憶えてないし」
そう言った後藤は確かにそれほど悲しそうには見えなかった。
やはり記憶がなければあまり実感もわかないのだろうか?
当の本人は、あくまでマイペースで話を続ける。
「えーと、どこまで話したっけ?…そーそーお母さんも最初は反対してたんだけど、最近になって
自分がよく考えて決めたことなら頑張りなさいって言ってくれてさ、嬉しかった。
あたしは入ったこと後悔はしてないし…」
- 112 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時58分24秒
- 母親が反対するのは当たり前のである。この世に子供を戦場に行かせたがる親が何処にいるだろう。
しかし子供はそんな親の心情など関係なしに行動する。これは後藤自身が選んだ道なのだという事を思い、
さらにそれは自分も同じなのだと考えた時、彼女は複雑な気持ちにならざるを得なかった。
「おかげで市井ちゃんにも会えたしね」
小さな声だがはっきりと付け加える。そしてちらっと市井の反応を確かめるが、彼女は
何かしら考え込んでいて聞こえていなかったらしい。
それが分かった後藤はちょっと拗ねて、わざと声のトーンをあげて先を話した。
「それから養成所入ってー、本格的な訓練受けてー、そんでーしばらくたった頃に
石黒さんが辞めたんでー、代わりに後藤が選ばれたみたい」
現在後藤が乗っている機体は以前石黒が搭乗していたものだ。それをカラーリングを変えて使っている。
ちなみに福田が乗っていた機体は予備パーツとして使用する為に同じ頃解体されていた。
「そうだったんだ」
「そうだったんですよ〜」
後藤の声のトーンで話に戻って来た市井が一通り聞き終わって一言もらすと、
語り終えた後藤も一息ついた感じで同じ返しをした。
- 113 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)19時59分45秒
- そしてちょっとの間が開いた後、
「そーゆー市井ちゃんはなんでモーニングに入ったの?」
当然の如く今度は後藤が同じ質問を尋ねてきた。
「え?あたしのはいいよー」
市井はやっぱりと思いながら遠慮を試みた。
自分からふった話題ではあるが、出来ることならやはり話したくはなかったからだ。
「え〜知りたい〜」
「あんまり面白い話じゃないし…」
「えぇ〜ヤダヤダ〜。教えて〜」
後藤は完全に駄々っ子モードだ。
「あたしにばっか話さしてずるい〜。市井ちゃんってそういう人だったんだ〜。エ〜ン」
終いには両手を目に当てて俯き、泣き真似まで始めた。
(…しょうがないなー…でも後藤になら話してもいいか…)
それに苦笑した市井は少し考えた後、前を向いて話し出した。
「あたしもね、お父さん、いないの」
一旦切られた言葉はすぐに続いた。
「死んだの。四年前に。敵に襲われてね」
「!」
今度は後藤がハッと驚いて顔をあげる番だった。
- 114 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)20時02分13秒
- 「民間の輸送船に乗ってたんだ。当時はまだスペースヴィーナスができる前だったから…」
再び俯いた後藤に市井の手が握られ、その拳に少し力が入るのが見えた。
「でもすぐその後にスペースヴィーナスが結成されたの。それでモーニング娘。になりたいと
思って養成所に入った。勿論うちの母親も反対したんだけどね…」
確認できないがそう話す市井は悲しい顔をしているだろう。
市井は自分には話したくなければ話さなくていいと最初に言ってくれた。
自分は半ば強引に聞き出している。後藤は自身の配慮不足を痛感していた。
「復讐ってのもあるかもしれないけど…あたしはさぁ、これ以上あたしみたいに親をなくしたり、
大切な人を失ったりする人を作りたくなかった……なーんてね。ちょっとクサイか、ハハハハハッ」
しんみりするのが嫌だった市井が、わざとテンションを上げて照れ笑いしながら後藤の方に向いた時、
彼女は泣いていた。
「オイオイ、確かにちょっと暗い話だったけどあんたが泣くこたーないでしょ」
「…ごめんね。ヒック…あたし、市井ちゃんのこと…グシュ、
もっとよく知りたかったから、調子にのっちゃて…ヒック、
市井ちゃんに…辛いこと、思い出させちゃった。グスッ…」
「いいんだよ。あたしも後藤に聞いて欲しくて話したんだから…お父さんのことはお互い様だし、
今はもう全然大丈夫…って言い方は変かもしれないけど気持ちの整理はついてるし」
市井は座っている距離をつめて泣いている後藤の頭を優しく撫でてやると更に続けた。
「それに今はそれだけが理由で戦ってる訳じゃないんだ。…あたし入った理由が
そんなだったから最初の頃はひとりで気負っちゃっててね。よく裕ちゃんに怒られてた。
…ある時圭ちゃんからも注意されたことがあったんだ。それで気付いた。
自分がどんだけメンバーに助けられてたかって。でね、考えたの。
メンバー皆がくれた形のないモノを、どうすればみんなに返せるんだろうって…」
撫でていた手が止まる。
「守りたい大切なものができたんだ。私はみんなを守りたい!だからみんなと一緒に戦うの。
モーニングに入らなかったら出来なかったけれど、今はそれが出来る。だから私も後悔はしていないよ」
市井は改めて決意するかのように自分の考えを力強く言い終えた。
- 115 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)20時03分32秒
- 「でも、ウグッ…あたしなんて…市井ちゃんより、ウッ、全然、動機がいい加減だし…グシュ…」
「そんなことないよ。戦う理由なんて人それぞれなんだから」
ほら、泣くんじゃないとポケットから出したハンカチで涙を拭ってやる。
「市井ちゃんってやっぱ“かあさん”だ〜」
涙を拭いてもらった後藤はそう言ってエヘヘッと笑った。
「ハハハ、後藤は特別だからね。かあさん、いつもよりうんと“かあさん”しちゃうぞ」
市井がもう一度後藤の頭を撫でた。とても慈しむように。
(え!?今、後藤のこと特別って言った?)
後藤はその言葉の意味するところを確認したかったが、その前に思い付いた市井が叫んだ。
「そうだ!後藤が市井の事もっと知りたいんだったら、市井の夢を後藤に教えたげる!」
- 116 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)20時05分36秒
- 「市井ちゃんの夢?」
「そう。あたしの夢!」
市井は言った後に勢いよくベンチから立ちあがると上を見上げた。
辺りはいつの間にか暗くなっていた。コロニーの天井にはプラネタリウムの様に夜空が演出されている。
「あたしさ、歌手になるのが夢なの!」
見上げたまま市井は揚々と自分の夢を口にした。
「だからこの戦いが終わったら、音楽のいろんな事勉強して歌手デビュー。それから世界的なスター!」
夢を語る市井の凛々しい横顔。
後藤がそんな市井に恋をしていると気付いたのは、教育係になった彼女と接するようになって少し経った頃だ。
(やっぱカッコ良すぎだよ…)
思わず見とれた。
「後藤は何か夢はないの?」
市井のその問いかけに後藤は考えてみる。
(私の夢は…)
確かに幼き頃のヒーローチックな憧れで入隊した後藤だが、自分がそうではなくなった場合の
具体的な目標など考えたことがない。それは生来の彼女のお気楽な性格と現在の生活が
彼女なりに充実している事に起因するところだ。
しかしそんな後藤にもはっきりと解る気持ちだけはある。それを夢と言ってはいけないのだろうか?
「自分が全ての夢を叶えられるわけじゃない。だからみんなが夢を叶えることの手助けもしてあげたいんだ」
(本当に手助けしてくれる?)
市井の言葉を聞いているとだいぶ前に気付いた自分の思いを今なら言える気がした。
普段は遊びの最中などに言っているが、真剣な気持ちでそれを伝えたことはない。
後藤が静かに口を開く。
- 117 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)20時07分01秒
- 「市井ちゃん…」
「何?後藤」
「…」
「?」
「アハッ、大好き!」
「うわっ!なんだよ〜こいつぅ〜」
後藤が市井の後ろからその首に手を回して抱き着く。
市井もじゃれてくる後藤に迷惑そうにするが、実は内心ではとても嬉しい。
結局いつも通りになってしまった。
真剣な思いを打ち明けようとしたその時、言葉が出なかった。
この思いが成就し晴れて両想いになれた場合、それはどんなに素晴らしい事だろう。
市井の気持ちも考えてみるがこれまでの態度からすれば自分を嫌っていない…はずだ。
自分勝手な思い込みかもしれないが、むしろ好意を抱いてくれていると感じる。
だが、もしも、万が一にでも拒絶されたら?
一瞬脳裏にそれがよぎった。
その時は無論今迄の関係ではいられないだろう。
今後どんな顔をして接すればよいのか皆目見当もつかない。
それを上手く対処できるほど自分は人生経験を積んできてはいないのだ。
あの時確かに心の何処かに拒絶される事への恐れが存在した。
そこで半ば無意識に防衛本能が働き、告白を躊躇させたのだろう。
気持ちは伝えたい、市井の心は欲しいが今の状態でも自分は充分幸せなはずだ。
ならば今はまだこのままでいいのではないか、と。
- 118 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月18日(水)20時08分38秒
- 「…」
「夜風が気持ちいいね〜…でも暗くなっちゃったから…そろそろ帰っろか」
「ん」
「どした?元気ないぞ?」
「…そんなことないよ」
「わかった。お腹すいたんだろ〜」
「ハハ、さっすが市井ちゃん。全てお見通しだね」
「おし!どっかで夕飯食べてこー」
「お〜!」
「…」
「…」
「…歩きにくいから離れてくんない?」
「やだ〜。このまま連れてって!」
「も〜。ほんとしょ〜がね〜なぁ〜」
苦笑しながら市井は背中に後藤を引っ付けたまま車の方に歩き始めた。
それに歩調を合わせる後藤。
(私の夢はね。いつまでも市井ちゃんと一緒にいることだよ。
…これからもずっとずっと市井ちゃんと一緒にいることなんだよ)
抱き着いた市井の背中で、後藤は現在進行形の自分の夢を大切にしようと思った。
- 119 名前:作者です 投稿日:2001年07月18日(水)20時11分07秒
- 三週間ぶりの更新です。
市井と後藤、ドライブ当日の話をお贈りしました。
待っていてくれた方、ありがとうございます。
(レスを見た限りでは催促もないので誰も待っていなかったようですが(W )
>>88
最後から二行目。
×「その相手をしてくるのだ」→○「その相手をしてくれるのだ」
すいませんでした。訂正させていただきます。
>>94-95
レスどうもありがとうございます。
今回の話、作者の創造力が不足している為なんかアリガチな展開になってしまったような気がします。
(いや今迄もそうだったか?ならば今後もそうなる可能性大だな…(汗)
期待に応えられていればよいのですが…
また後半については、気持ちの描写とか、本当はもっと書きたい部分あったんですが、
あれこれ考えて書いている内に、自分でもちょっと訳分からんになってしまいました。
もっと上手く表現できればいいと思いますが、今のところ自分にはこれが精一杯なようで…
文章書くのって難しいと思い知らされる今日この頃。
言い訳になってしまいました。すいません。
尚、前にも書きましたが他のカップリングについては今後のストーリーに絡めて只今思案中であります。
次回は予告通り姐さんin司令室の話です。
では。
- 120 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月19日(木)04時14分31秒
- 待ってましたよ〜!!
毎日チェックしておりました。
催促は、作者さんにプレッシャーがかかるとやだったんで、あえてしませんでした。
そして、感想は一言、“待ったかいがありました”
これに尽きます。
- 121 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月19日(木)06時03分38秒
- お〜更新されてる〜
なんだか市井ちゃんに何かありそう・・・
もしかして〜・・・がない事をいのってます(w
- 122 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月25日(水)19時26分22秒
- 市井と後藤がそんな風に過ごしていた頃、中澤は独り司令室に来ていた。
帰還前の命令に従って出頭したのだ。本来なら帰還後すぐに出頭すべきであったが、
司令であるつんくの都合で今日のこの時間になっていた。
正面には椅子に座るつんく。その横に立っているのが司令付きの事務官である前田有紀だ。
現在、司令室に居るのはこの三人だけである。
「どや、最近調子は?」
「…特に問題ありません」
「そうか。ならええ」
(つんくさん、別に怒ってるわけとちゃうな)
突然の呼び出しをくらって内心ちょっとびびっていた中澤は、いつもと変わらぬつんくの表情を
伺うとひとまず安心した。
「じゃあ早速今回の用件やけど…」
つんくの口から今回の用件について告げられる。それは中澤には予想外の内容だった。
「モーニング娘。、また増えます」
「!!!」
驚きのあまり声をあげて今の言葉を確認する。
「新メンバーですか!?」
- 123 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月25日(水)19時28分24秒
- それを受けてつんくは話を進めた。
「そうや。四人増やす。去年T&Cが解散させられてからずっと考えとったんや。
…最初予定では三名にしよう思ってたんやけど、追加の新しい機体が四機完成してん。
それで夏とも相談して、この四人ならってことで。…最終テストしたら、まぁ何とかいけそうや」
(前に別のことに予算使ったゆってたんはこのことやったんか)
落ち着きを取り戻した中澤は話を聞きながら以前メンバー達と話した事を思い出した。
「そこで先に四人のプロフィール渡しとくから見といてくれや」
つんくがそう言うと前田が近づいてきて、手に持っていたファイルを中澤に差し出す。
中澤がそれを受け取ると彼女は再びつんくの横に戻っていった。
ファイルを受け取った中澤はざっとそれに目を通してみた。
(う〜わっ!なんやみんなめっちゃ若いやん!こいつなんて…かご?13歳かい!
後藤より三つも年下やん。…あたしとじゃ下手すりゃ親子やで!ええんか?)
そんな事を考えていると、それを見透かしたかの様につんくが笑いながら声をかける。
「ハハハッ、どや、ビックリしたか?」
「あ、えぇ、まぁ。ちょっと…」
思わず正直に答えてしまう。
「そーか。でもみんな見所のある奴ばかりやで。慣れるまで大変かもしれんけど、
しっかり面倒見てやってくれな」
「分かりました」
中澤はファイルを閉じてそれを脇に抱えると姿勢を正した。
- 124 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月25日(水)19時30分23秒
- するとつんくはちょっと真剣な顔に戻して話し出した。
「何を考えているか知らんが、今んとこ敵さんも大規模な攻勢をかけてくる様子はない。
それで政府も甘く考えとるわけやが…俺は将来的に戦力の増強はやっぱ必要やと思う」
「…分かってます」
確かに正体は掴めていないものの、今のところ敵の攻撃は大した事はない。
だがつんくの言う様な大規模な攻勢が何時始まるとも限らない。
その時に今の戦力で防げるという保障は何処にもないのだ。
中澤もその事は充分に理解していた。
「でも、ええんですか?」
「何がや?」
「…あの、政府の方は…」
ここ最近の政府の対応からすれば、増員があるなどと中澤のみならずメンバー全員が思ってもみなかった。
「あぁ、そのことか。まぁそっちの方は心配せんでええ」
つんくは彼女の言いたい事を理解すると言葉を続けた。
「俺も只この椅子に座ってるだけちゃうで。あっちに多少のコネもある。今回の件だってちゃんと
了解は得とるんやで。それに予算だって次から前と同じとまではいかんけど増額や。
しかし、これには色々と手をやいたけどな」
机の上に両肘を着き、その手を顔の前で組むつんく。
「ま、司令の肩書きは伊達やないちゅーことや」
ライトの加減で彼がかけているサングラスが妖しく光る。
その雰囲気に中澤はちょっとだけ引いた。
(こう見るとなんや、質の悪い取り立て屋かなんかとしか思えんな)
- 125 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月25日(水)19時31分56秒
- 「そういう訳で次から合流させるからよろしく頼む。用件はそれだけや」
つんくの話はそれで終わった。
「了解しました。では、失礼します」
中澤が返事をして退室しようとした時、つんくが言い忘れた事項を付け足した。
「あ、あとな、現メンバーは休暇明けに全員一階級昇進な」
「え?!」
中澤がまたも予想外の言葉に驚いて振り返る。
「いつも苦労かけとるお前達に俺からのささやかな褒美や。これからも頑張ってくれ」
「ありがとうございます!」
(やったね!これで給料アップやん)
中澤は先程より元気のある返事をして、今度こそ司令室を跡にした。
- 126 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年07月25日(水)19時35分44秒
- :
その司令室からの帰りの廊下で中澤は平家に会った。
「おー、みっちゃん。お疲れさん」
「姐さんもお疲れ。司令んとこ、行ってきました?」
「今丁度その帰りや」
「新メンバーどないです?」
司令の秘書的な仕事をしている平家には、新メンバー追加の件は当然知るところだ。
「どないもこないも、みんな若いわ。一番下が13で上でも16やで!勘弁してほしいわー」
「ハハハ、姐さんが16歳の時って何してました?」
「…荒れてたね」
「…(やっぱり)」
少しだけ哀愁を漂わせて言う中澤に対して、その頃の彼女の姿が容易に想像できてしまう
平家は、かなりツッコミたい衝動に駆られたがなんとかそれを抑えた。
ここで下手なツッコミを入れれば只では済まない。
「どや、みっちゃん。もうあがりやろ?久しぶりにこれから飲み行かへんか?」
「ええねー。もちろん姐さんのおごりでっせ」
「何であたしがおごらなあかんねん!」
「何言ってますの〜。たった今、誘ったのそっちやないの。それになによりも昇進するから
給料アップしますやん。ね、中澤中佐?」
「知ってるんやったらこっちが祝って欲しいわ!」
「あたたた、ヤブヘビやった。じゃ割り勘いうことで…」
「いーや!こーなったら意地でも祝ってもらうでー」
「ハハハ、まぁ、とりあえず帰り支度してきますよって、ちょっとロビーで待っといて下さい」
「分かったからはよしてや」
こうして中澤は平家が戻ってくるのを待って、合流した二人は夜の街に繰り出していった。
- 127 名前:作者です 投稿日:2001年07月25日(水)19時38分10秒
- 更新です。今回は週一ペース通りで。
つんく初登場です。前田なんかもチョイ役で出してみたりしました。
松浦でもよかったんですが後々のために一応温存。でも使うか分かりません。(W
今回なんか淡々としすぎたかな?
話はそろそろ?ようやく?「ハピサマ」期に移ります。
まだまだ先長いな〜
>>120
レスどうもありがとうございます。
お言葉、嬉しいかぎりです。またお気遣いにも感謝します。
仕事もピークを過ぎたので、次回もなるべく早めに更新できればと思っております。
(でも次回分、まだ書けてないんですけどね)
>>121
レスどうもありがとうございます。
>>108 の台詞なんか一応伏線なんですが、それほど大袈裟なもんじゃないです。(W
- 128 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月30日(月)22時15分17秒
- ついに新メンの登場なんですね。
楽しみにしてマッシュ!
- 129 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)15時51分45秒
- 休日最後の夜、モーニング娘。リーダーである中澤裕子は現メンバー全員に自分の部屋に
来るよう召集をかけた。
その理由は無論昨日つんくから聞かされた新メンバー追加について報告する為である。
が、まだ副隊長である安倍が来ておらず、肝心な話は始まっていなかった。
「――と思うんだよね。ねぇ、裕ちゃんもそう思うでしょ?」
そこで暇つぶしに飯田が他愛もない雑談を中澤に聞かせていた。
テーブルを囲んで、お誕生日席の中澤から時計周りに保田、市井、後藤、
その三人の対面に飯田、矢口の席順で座っている。
- 130 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)15時53分29秒
- 「カオリ、わかったからあんま大きい声出さんといて…頭にひびくねん。
…あと矢口、すまんけど水一杯持ってきて」
頭を押さえながら言う中澤。完全に二日酔いだ。
「昨日はあれから帰って来なかったみたいだけど?」
はい、とキッチンから汲んだきた水の入ったコップを差出しながら矢口が尋ねた。
「みっちゃんと飲んでたんや。そのまま泊まってきた」
少々威圧感のある矢口の尋問に中澤の答えは事実だが弁解っぽく聞こえるのは気のせいか。
昨日あのままモーニングとは別マンションの平家の部屋に泊まった中澤は今日昼間中そこで寝ていた。
そのためメンバー達への報告が今の時間になっている。
ちなみに中澤と違って本日も仕事なのに明け方まで付きあわされた平家は、
朝フラフラしながらも仕事に出掛けて行った。合掌。
- 131 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)15時55分55秒
- 「やぐっつぁん、なんかちょっと機嫌悪くない?」
「無断外泊らしいからね〜。裕ちゃん」
後藤がコソッと隣の市井に耳打ちすると、市井はにやけながら小さな声でそう返した。
中澤と矢口はメンバー中でも公認の仲だ。二人は休日等でこのマンションにいる夜は
大抵どちらかの部屋で一緒に過ごす事にしている。
それを昨日無断で守らなかった中澤に矢口はちょっと御立腹らしい。
「なるほど、そっか」
後藤は納得しながらそんな関係の二人を少し羨ましく思った。
しかし公認という点では、実は彼女と市井も他のメンバー達の間ではすでに暗黙の了解と
されているので羨ましがらずともいいのだが、当の後藤本人はそれを自覚していない。
- 132 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)15時57分45秒
- 丁度中澤がコップの水を飲み終え項垂れた時、インターホンが鳴ったと思うと出迎えも
待たずに安倍が部屋に入ってきた。
「遅れてごめーん」
「なっち、相変わらずおそーい!」
飯田の叱咤に安倍は、ごめんごめん、と再度謝りながら中澤の正面に座る。
これでようやく現メンバー全員が中澤の部屋に揃ったことになる。
「そんじゃ裕ちゃん。用件は?たぶん昨日司令室行ったのと関係あるんでしょ?」
全員が揃ったところで市井がこの召集の主旨を尋ねた。
その言葉に他の五人も中澤に注目する。
問われた中澤は、じゃ始めよか、と伏していた顔をあげて全員を確認すると口を開いた。
「紗耶香が言った通りみんなも昨日あたしが司令室に行ったんは知っとんな。
それでつんくさんに言われたんやけど…」
休日だが話している中澤が仕事の顔になっているので聞いているメンバー達にも少し緊張が走る。
- 133 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時01分07秒
- 「明日から新メンバーが入る」
一瞬の静寂の後、
「「「「「「えぇーーーー!!!」」」」」」
やはり一斉に驚きの声をあがった。
「ちょっ、ほんとなの!?」
「えーっ!?」
「マジすっか!?」
「うそぉ〜!?」
「マジかよ〜!?」
「え!?嘘!?ほんとに!?」
完全に意外な展開にざわめきたつ一同。お互い口々に“うそ”“マジ”を連発している。
「何人?何人増えるの?」
そのうちの安倍がハイテンションで尋ねてきた。
「四人や」
「歳は?」
今度は飯田。
「えーと、確か16が二人と14、13やったかな」
その中澤の返答に再度ざわめく一同。
「若ーい!」
「う〜わっ!」
「あたし…よりみんな年下なんだけど…」
「あっ、同い年」
「すっげーみんなわけーよー!」
「すごい!裕ちゃん、ひとまわり以上だよ!」
最後の飯田の余計な一言を聞き逃さなかった中澤がうるさいと言い放った。
- 134 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時02分48秒
- 「まー確かにいきなりのことで驚いたやろ。あたしも聞かされた時はびっくりしたわー」
そんなざわめきも一段落ついた頃、中澤が簡単に心境を述べる。
「でも、今の時期によく増員なんて出来たね」
司令室での中澤同様、今回の件は言うまでもなく他のメンバー達にも青天の霹靂である。
保田が口にした台詞は全員が思っている事を代弁していた。
「あたしもそう思うたけど、まぁ、そこがつんくさんの凄いところでもあるわな」
中澤のその答えに六人のメンバー達は詳しい事情を聞かずともそれだけでなんとなく納得してしまった。
「なんにしろ戦力が増えるのはええことや。今の戦いだって現状では問題ないけど先のことは分からんからな」
「そうだね。それにやっぱ新しい仲間が増えるっていうのは嬉しいしね」
そして中澤が新メンバーの必要性を訴えると矢口がそれに同意する。
他の皆もそれぞれ思うところもあるだろうが、増員には全員一致で賛成であった。
- 135 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時04分28秒
- 「どんな子達かな?」
まだ見ぬ新メンバー達について安倍が誰ともなしに語りかけた。
「そーいえばあたし昨日渡されたプロフィールで顔見てたっけ。みんな結構かわいかったよ」
「うそ!それ見せて!」
メンバー中一番好奇心旺盛な矢口がすぐに飛びつく。
「すまん。みっちゃんのとこに忘れてきた」
「何だよ〜使えね〜な〜」
「どうせ明日会えるんやからええやろー」
冗談半分でそう非難する矢口をたしなめ
「とりあえずそんな訳でみんなこれからも大変やと思うけんど、ま、よろしく頼むわ」
と中澤は締めくくり、一応これで今回の用件は終了した。
- 136 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時07分10秒
- しかし、その後も部屋には全員が残って談笑は続いていた。
皆があれやこれやとお喋りする中、最初の増員組三人に向かって中澤が話し掛けた。
「あんたら三人も入ってから四年近く経ってるけど…変わったよね〜」
加入当時の三人を頭に想い描きながらしみじみ言う。新メンバーの加入に伴って
自然と過去の増員の事が思い出されたのだ。
「モーニング娘。五人の中に入ってきたっていうのはどういう心境なの?」
そしてもうお互い打ち解け合った現在だからこそ聞けるような質問を興味本位で尋ねてみた。
- 137 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時09分11秒
- 問われた市井、保田、矢口の三人は顔を見合わせた後、代表して矢口が答えた。
「なんかね、五人の印象がね、近寄りがたくてー、だからね、五人が怖かったの」
彼女達の答えも今だからこその正直なものだ。
「いや、うちらも怖かったよ」
それを聞いて安倍が反論するように言った。
「そうそう。この人ずっと怖がってたよ。なんだか知らんけど、
『どうしよう、裕ちゃん。新しい子、どうしよう』って。
だからなんで君がそんなに怖がるの?っていうぐらい」
補足するようにその頃の安倍の様子を説明する中澤。話は何やら暴露大会もしくは本音トークじみてきた。
だが中澤はリーダーとしてこうやって仲間同士が本音で話せるのは良い傾向だと思っている。
「いや〜もうなんかすっごい怖かったな〜」
そんな中澤の思いを知ってか知らずか、安倍も当時を顧みながら無邪気に笑っていた。
- 138 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時11分21秒
- 「あたし、初めての裕ちゃんとの会話まではっきり覚えてるもん」
すると今度は保田が中澤に向かって言った。
「あぁー!覚えてるぅー!!『朝何時に起きたん?』って言われて、
『えーっと…8時ぐらいです』『あっそ』って」
保田に続いて矢口がその会話を実演してみせる。
「『ふ〜ん』って言われて。『え〜っ!?終わり〜!?』」
矢口が演じたその中澤の態度に保田も笑いながら感想を述べた。
「でも、しゃべりかけてくれたのは優しかったよね?」
確かに当時は素っ気無かった中澤だが、彼女を気遣って市井が何気にそうフォローにまわるが
「いや、裕ちゃんは怖かったよ」
ときっぱり言い切る矢口。
- 139 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時13分22秒
- 中澤としては自分への初対面の印象をそう評されるのは初めてではないので軽く聞き流す事も
出来たのだが、発言した相手が矢口となれば話は別だ。
矢口ラブの彼女はここでもついつい悪のりしたくなる。それは小学生位の子供が好きな子に
わざと意地悪する心理に近い。
それは実は市井のフォローに中澤を怖いと敢えて言い切った矢口も同様で、その辺の性格は
やはり付き合っている似た者同士というべきか。
「ええんか?矢口。そんなことゆうて」
「何がだよ?」
矢口の強気な返事に中澤はいきなり部屋を出て行く。
残った皆の頭に疑問符が浮かぶが、中澤はすぐに何やら持って帰ってきた。
「じゃ〜ん!!」
そう言って得意げな中澤が両手に持って前に差し出したそれはアルバムだった。
「これな〜んや?」
「! そ、それは…」
「そ、モーニング入った頃の矢口の写真や」
途端に矢口の顔が青ざめる。
「怖いやろな〜、違う人やもんな」
彼女の表情が変わったのを見て中澤がニヤリと笑った。
- 140 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時15分32秒
- 「やめろーーー!アホ裕子ーー!!」
それを奪おうと立ち上がろうとした矢口だが、面白がる飯田に後ろから羽交い締めにされ
その阻止行動は封じられてしまう。
「ではご覧いただきましょ〜!」
「いやぁあああーー!!」
中澤が実に楽しそうにテーブルの上にアルバムを広げると矢口と彼女を抑えている飯田以外の四人が
一斉にそれを覗き込んだ。ちなみに中の写真は矢口のみもしくは中澤とのツーショットで写っている
ものしかないのは言う迄もない。
「矢口の前髪どうやった?これ!ブローを重ねて重ねて」
安倍が大笑いしながら当時の矢口の髪型を指摘する。
「髪黒いよ〜やぐっつぁん」
後藤も初めて見る矢口の姿に興味津々だ。
市井と保田も同期の彼女に悪いとは思いながら失笑していた。
「いやだ!も〜絶対いや!恥ずかしーー!!やめてぇーーーー!!!」
そんな矢口の叫びも届かず、しばし彼女は容赦なく他のメンバーの笑いネタにされてしまったのだった。
- 141 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時17分35秒
- それからも彼女達は色々なトークで盛り上がったが、時間も遅くなり、明日からはまた任務も
始まるので解散になった。
しかし皆が部屋に戻ろうとする中、市井だけがまだその場に座っていた。
「あれ?市井ちゃん、戻んないの?」
自室に戻ろうと立ち上がった後藤は、一緒に行こうとした市井が座ったままなので疑問に思った。
「裕ちゃんにちょっと話があるから…」
市井がちらっと中澤の方を見ると、彼女は何やら矢口に話し掛けていた。だが矢口の方は例の写真の件で
怒っているらしく、ぷいっと横を向くとそのまま自分の部屋に帰ってしまった。中澤は苦笑いをして
仕方なくそれを見送る。
- 142 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時21分29秒
- 「何?何?なんの話?」
その声に視線を戻すと目の前に後藤の顔があったので市井はちょっと動揺した。
「あ、その、そう、仕事の話だから後藤は聞いててもつまんないよ」
「そう?」
「うん。だから先に部屋に戻りな。明日は寝坊すんなよ」
「わかった。じゃおやすみ〜」
「はい。おやすみ〜」
すでに眠気がさしていた後藤はそれ以上の追究はせず、あくびをしながら中澤の部屋を出て行った。
- 143 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時23分37秒
- 最後の後藤が部屋から出ていくのを見届けると、中澤は冷蔵庫から缶ビールを取り出してきて
当初の位置に座った。
「また飲むの?二日酔いなんでしょ?」
それを見て市井は呆れ気味にため息をついた。
「二日酔いには迎え酒が一番やねん。紗耶香にもそのうち分かるで」
中澤はそう言って構わず缶を開けると一口それを飲んだ。
「矢口のこと、あんまりからかうと愛想つかされちゃうよ」
「ハハハ、大丈夫や。あいつも本気で怒ってるわけちゃう。明日にはちゃんと仲直りするから」
先程の様子を見ていた市井の忠告に中澤が全然問題ないといった口調で応えた。
- 144 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時26分56秒
- 「紗耶香の方こそどうなんや?ごっちんと上手くやっとるか?」
逆にそう切り返してニヤッと笑う。
「昨日も仲良うお出掛けしてたみたいやけど何処行ってたんや?」
「別に何処だっていいじゃん」
照れ隠しする様に顔を横に向ける市井に、拗ねた感じで中澤が呟いた。
「なんや、ファーストキスの相手に冷たいなぁ〜」
その言葉に市井はちょっとムッとする。
- 145 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時29分24秒
- モーニングに入ってしばらく経った頃、その言葉通り市井は中澤にファーストキスを奪われている。
普段から何かとふざけてメンバー達にキスを迫ってくるのが中澤の迷惑な癖だ。
これが酔うと余計始末が悪い。さらに詳しく述べるならば保田と後藤以外はみんなその被害に遭っていた。
最近では中澤のターゲットは矢口に集中しているのでいいのだが。
市井自身あれは冗談の上での事故だと割り切ってさほど落ち込んでもいないが、
なるべくなら忘れたい過去だ。
「…そのこと後藤には絶対言わないでよ」
顔を背けたまま横目でジロっと中澤を睨んだ。
「アホ!言えるか!知られたらあたし殺されてまうかもしれんわ!」
「ハハハ…」
市井から乾いた笑いがもれた。何となくそれは絶対無いとは言い切れない気がしたからだ。
- 146 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時31分50秒
- 「んで?」
頃合いを見計らって中澤が本題を促した。
「あ、うん。…その後藤のことなんだけど…新メン入るんだったら明日にでも言おうと思ってさ」
「ああ、そのことか」
「ほんとにいいかな?」
「なんや、まだ迷っとるんか?自分の判断にちゃんと自信持ちーな」
「…うん」
確認する市井に中澤は大丈夫そうに言うが、返事をする市井の表情はいまいち暗い。
そう、いま市井が中澤に相談しているのは後藤の教育係についてだ。
ここ最近の後藤の成長を見て、市井はそろそろ自分の教育係としての役目も必要ないと考えていた。
そこで少し前にも一度リーダーの中澤に同じ相談をしていたのだ。そしてその時の中澤の返答は
“紗耶香に任せる”だった。
- 147 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時33分38秒
- 「紗耶香がそう思うんなら大丈夫やって。あたしから見ても後藤、かなりできるようになった
と思うし、つんくさんもその辺はこっちに任せるゆうてくれてるから問題ない思うよ」
「…」
「あっ、もしかして自分が辞めたくないんか?」
「そ、そんなことないよ」
咄嗟に口では否定したが実のところ市井の心の中にはその気持ちがあった。
- 148 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時35分44秒
- 一番年齢が近いという理由から就任させられた教育係。
面倒を見る事になった二つ年下の後輩は素直に自分を慕ってくれた。
自分もそんな彼女とはすぐに仲良くなれたし、懐いてくる彼女を本当に可愛いと思う。
だが時々考える事がある。
後藤は自分が教育係でなかったら今程自分を慕っていただろうか?
市井が後藤との関係に心地良さと安らぎを感じる様になるのはそう時間がかかる事ではなかった。
それが妹みたいな感覚で思っているのか、恋愛的な感情なのか市井自身にもはっきり言って
今のところよく解らない。
教育係就任以来、二人一緒に居る事があまりにも自然過ぎるのだ。
だからその絆が切れた途端、これ迄の関係が無くなってしまう様で市井は不安だった。
- 149 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時38分14秒
- しかし仕事の面で後藤の事を考えれば、いつまでも自分に頼らず早く一人前にならなくてはいけない。
その為にもいつまでも教育係でいるわけにはいかなかった。
故に仕事に関しては生真面目な市井は教育係を辞める決心をほとんど固めていた。
それでも以前の相談で考えが分かっている中澤にもう一度相談したのは、不安を抱える自身に
踏ん切りをつける為、そして自分の決心に最後の後押しをしてもらいたかったからなのかもしれない。
「心配すな。もっと気楽に考えや。ほんま悪い癖やで。別に肩書きがなくなるだけで他はこれまでと
なんも変わらんやん。後藤だって解ってくれるはずや。そういう教育してきたんやろ?」
否定の一言を発したまま黙ってしまった市井のそんな気持ちを察してくれた中澤がそう励ましの言葉をかける。
その励ましに市井は自分を納得させる様に頷いた。
「…そっか…そうだね…うん。わかった」
そして顔を上げて宣言する。
「決めた。明日後藤に言うよ」
どうやら完全に決心がついたらしい。
- 150 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時40分00秒
- 迷いの晴れた市井の表情を見た中澤は
「おう。じゃ今まで御苦労さんやったな」
と笑って缶ビールを乾杯する様にかざすと一口それを飲んだ。
「注意やアドバイスを出すのに迷った時は、裕ちゃんや他のメンバーに相談して迷惑かけたけどね」
市井も舌をペロッと出して笑う。それに対し中澤は優しい声で穏やかに答えた。
「迷惑だなんて全然思っとらへんよ。それでええんや。昔みたいになんでもかんでも自分独りで
抱え込んだらあかん。あたしらは仲間なんやからな」
「うん、ありがと」
普段はおちゃらけているが、やはり中澤はリーダーだ。こんな時は頼りになる。
その優しい言葉に市井は胸の内が少し熱くなった。
- 151 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時42分04秒
- 「でも安心してたらあかんで。明日から新メンも入るし、かあさんにもまた色々頼むよってな」
「え〜もう勘弁してよ〜」
しんみりしかけた雰囲気がこの中澤の注文でいつもの調子に戻り、ちょっとの間笑い合っていた二人だが、
「さてと…あたしもそろそろ戻って休むね」
そう言って市井が立ち上がる。
「紗耶香。明日からもまた頑張ろうな」
その彼女に座ったままの中澤が声をかけた。
「そうだね」
市井はニコッと笑って簡単に答えると、おやすみ、裕ちゃんと挨拶をして自室に帰って行った。
- 152 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時44分06秒
:
市井が去った後、部屋に独りになった中澤は飲み終えたビールの空き缶を捨てようとして
ふとある事を思い出した。
(あ、昇進のこと言い忘れた。…ま、ええか。どうせ明日辞令出るしな)
しかし彼女ももう眠くなってきたのでそう勝手に自己完結して、ゴミ箱に缶を放り込むと
ベットに向かうのだった。
:
- 153 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時45分48秒
- そして休暇が明けていよいよ新メンバーとの対面の日。
今回の出航の準備を終えた市井と後藤の二人はその集合時間までの間、本部の喫茶室で時間を潰していた。
「後輩できるね、もう」
「びっくりするよ〜」
今回の増員については後藤が他のメンバー以上に驚いていた。
オリジナルの三人は三度目、一次追加組の市井達は後藤入隊時に経験しているので免疫があるが、
その後藤にとっては初めての事なので無理もない。
「新メンバーかー…後藤と初めて会った時のこと思い出すよ」
市井が昨晩の中澤同様やはり過去を振り返る。
「市井ちゃんから見た後藤の第一印象ってどうだったの?」
それを耳にした後藤は以前から一度聞いてみたかった質問をしてみた。
「後藤の第一印象は凄かった。心の中で『ひょえ〜〜!』って叫んだよ。『うわー金髪だぁ』ってね」
現在は黒髪だが入隊当時金髪だった後藤。その風貌は迎えるメンバー全員を少なからず驚かせたものだ。
- 154 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時48分20秒
- 「あたしは、一度にみんなと会って、全員に目を合わせて、あいさつしようと努力したんだけど、
市井ちゃんと目は…」
「合ってない」
二人はお互い顔を見合わせて笑う。
「すごく緊張して、どこを見ていいかもわからなかったもん」
「あたしも入って最初はそうだった。空中を見て『い、市井ですぅ』って」
自分が入隊時した頃まで思い出され市井はちょっと遠い目をするが、それ以上の事を後藤に
話すのも恥ずかしいので、話題をすぐにまた後藤との対面時に戻す。
「そー言えば矢口なんて後藤を見て『相当タイプなんだけど。やばいよー』って
“相当可愛い”を連発してたし…」
それを聞いた後藤は悪戯する子供の様な笑みを浮かべながら聞いてくる。
「市井ちゃんから見てもあたしってそーとー可愛い?」
- 155 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時51分34秒
- 「いやぁ〜ハハハ、どうでしょう?」
この手の質問に対して市井は答えをこんな風に誤魔化す事が多い。
しかしそれが実は肯定への照れ隠しだと知っている後藤は、市井の反応が楽しくてそういった
質問をぶつけるのだ。
「それにカオリなんて『15歳のくせにさ、あの色気だよ!?色気ムンムンだったよね』なんて言ってたし…」
「そう?じゃー市井ちゃんも後藤の色気にクラクラきちゃう?」
今度はテーブルに身を乗り出して、わざと市井の顔を下から覗き込み上目遣いで尋ねてみる。
その仕種は正に飯田の言う色気ムンムン状態だ。
「ハハハ、かあさんをあまりからかうもんじゃありません」
その後藤の視線に耐え切れず目を逸らして、素っ気無いながらも赤くなる市井。
期待通りのリアクションに後藤は満足気だ。
(あはっ、市井ちゃんって可愛い〜)
- 156 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時54分53秒
- しばらく続いたそんな会話も途切れた時、市井はコーヒーを一口飲んでテーブルに置いた。
そして少しの沈黙の後、表情を少し引き締めると後藤に話し掛けた。
「後藤さぁーちょっと話あんだけど…」
「ん?何?」
正面に座っている後藤は何となくジュースが入ったグラスの中の氷をストローでかき回している。
「一応さぁ、前から考えててー、あのー、…裕ちゃんとも相談したんだよね。で、ちょうど新メン
入ってキリもいいしさ、…今ではもうほとんど形だけになっちゃってたんだけどー…」
「ん〜?」
珍しく歯切れが悪く回りくどい説明をする市井に後藤が首を傾げた。
「あたし今日で正式に後藤の教育係はお終いにしようと思う」
- 157 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)16時59分08秒
- 「えぇーーー!やだよー!なんでぇーー!!」
市井のその申し出を聞いた後藤は大声をあげて思わず立ち上がった。
それからちょっと間をあけて
「市井ちゃん、もしかして後藤のこと嫌になったの?」
と後藤が泣きそうな顔で聞いてきた。
「ちがっ、全然違うよ!バカ!そんな訳ないじゃん!」
あらぬ誤解を生み、そんな彼女の表情を見た市井は慌てて否定した。
「ほんとに?」
「ほんとだよ」
「絶対違う?」
「うん。絶対違う」
「よかった!」
嘘を言っていない市井の目でとりあえず嫌われたのではない事が確認できた後藤は機嫌を直し再び椅子に座る。
そこで市井は話を再開した。
- 158 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)17時00分59秒
- 「それで話を戻すけど、ほら、新メンバー入るし、あたしも今まで必要と思うことは全部教えたつもりだから…」
「でもあたしはまだ市井ちゃんに教えてもらいたいこといっぱいあるよー。それにあたしバカだから
やっぱりまだいろいろ不安だし…」
後藤の言葉の語尾が徐々に弱くなる。
「大丈夫だよ!自信持っていいって!それに後藤自身が自分で解決出来ない事があったらいつでも相談に
のるしさー。…あ、でも自分でなにも考えずすぐにあたしに頼るのは無しね」
弱気になる後藤に力づける様にそう言った後、市井は優しい笑顔で続ける。
「要するにこれからは教育係の市井紗耶香じゃなく、モーニング娘。の一員の市井紗耶香として対等な
立場でやっていこうって意味さ。それにね、これはあたしも裕ちゃんも後藤を一人前として認めたって
ことだよ。だからこれは喜ぶべきことなの」
- 159 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)17時02分50秒
- それを真剣に聞いていた後藤がちょっと首を傾げて呟いた。
「そーなのかな?」
「そーだよ」
市井がすぐに肯定すると少しの間、考えていた後藤だったが、
「わかった。市井ちゃん…」
そう言いながら立ち上がると市井に向かい姿勢を正して、頭を下げた。
「教育係、今までどうもありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」
市井も立ち上がり後藤に頭を下げる。
- 160 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)17時05分04秒
- これは市井の素直な気持ちである。後藤の教育係になった事は市井にとっても大変貴重な経験になった。
それは何かを教えるという立場ではなく一緒に勉強している仲間みたいな意識だった。
後藤と一緒にいて彼女自身、学ぶ事もたくさんあった。逆に彼女に助けられた部分もある。
市井は後藤に心から感謝していた。
(ほんと感謝するのはあたしの方だよ。あんたがあたしを成長させてくれたなって思う部分もあるんだよ。
でもそれは相手が後藤だったから…ってこともあるのかな?)
- 161 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年08月11日(土)17時07分32秒
- 顔を上げながらそんな風に考えていると、頭をあげた後藤が今度は両手を前に重ねてかしこまり、
ちょっと恥じらいながらもう一度頭を下げた。
「これからも末永くよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそお願いします」
(ん?なんかおかしいけど…ま、いっか)
反射的に応えてしまった市井だが深くは考えず
「じゃ、そろそろ行こっか?」
「うん!」
嬉しそうに右腕に抱きつく後藤を連れて歩き出した。
- 162 名前:作者です 投稿日:2001年08月11日(土)17時11分04秒
- 更新です。
遅れた分ちょっと多めで。
なんか唐突に二組目のカップル出してしまいましたが、勘弁して下さい。
一応予定通りですが、伏線弱かったですね。>>76 後半くらいか?
>>128
レスどうもありがとうございます。
今回はまだ新メン出ませんでした。期待を裏切りすいません。
もったいつけてるわけでもありませんが…
次回こそいよいよ登場です。
ただし現実の世界ではもはや新メンじゃなくなってるかもしれません。(W
- 163 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月12日(日)05時05分55秒
- 次回から新メン登場ですか〜
どんな話になって行くのか楽しみ〜
がんばって下さいな〜
- 164 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月13日(月)04時27分13秒
- とりあえず市井ちゃんが抜けないみたいなんでよかったっす!!
後、もちろん新メンにも期待っす!!
- 165 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月01日(土)19時56分26秒
- 新メンはもう新メンではなくなったわけですが(w
続き待ってます。
- 166 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年09月09日(日)15時34分39秒
- 今回の任務より新たにモーニング娘。に加わる新メンバー、石川梨華、吉澤ひとみ、
加護亜依、辻希美の四人はスペースヴィーナス本部の一室にいた。
間もなくこの場で現メンバーとの初対面が行われる。
:
パイロット養成所の訓練生だった彼女達が教官の夏まゆみに呼び出されたあの日、
教官室には夏の他に四人を待っていた人物がもう一人いた。
スペースヴィーナス司令官のつんくである。
呼び出しに応じた彼女達はそこにいたつんく司令の存在にも驚いたが、夏教官から
説明を聞かされた時には更に驚愕させられた。
自分達がモーニング娘。新メンバーの最終候補者に選ばれ、これから最終審査を
行う事がその口から告げられたからだ。
- 167 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年09月09日(日)15時38分45秒
- 養成所の訓練生達にはスペースラグーンの平和を守るモーニング娘。のパイロットを
目指す者の数が一番多く、皆がその活躍に憧れ、自分がそこに入るのを夢見ている。
しかし、加入が難しいスペースヴィーナスの中でもモーニング隊は最も入隊が
困難な部隊で、訓練生達にとっては究極の高嶺の花とも言えた。
その憧れのモーニング娘。になれるチャンスが意外にも早く訪れたのである。
突然の思いも寄らぬ展開に緊張した四人だが、その反面、自分達の幸運に感謝した。
こうして夏教官の説明後、その場で最終操縦技術テストとつんくの直接面談による
意思確認が行われると、与えられたこの機会を絶対に逃すまいと全員が
相当の気合いを入れてそれに臨んだ。
その甲斐あって四人は見事二人の期待に応え合格することができ、その日の内に
モーニング娘。への正式入隊を通達されたのである。
この正式加入が決定した当日は四人で祝い合った後、各々喜びの帰宅を
果たした彼女達だが、翌日からここ数日間は入隊手続きや今後の資料への目通し、
出航の為の準備やらで目まぐるしく時が過ぎ、あっという間に今日という日を迎えていた。
:
- 168 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年09月09日(日)15時42分13秒
- 今回の任務からの合流に間に合わせる為、そんな忙しなく過ぎた数日に
合格の感動も薄れていたが、とりあえずやるべき事の準備を全て終えた現在、
四人は新ためて自分達が本当に合格した実感を噛み締めていた。
彼女達にとって夢にまで見た金色のコスチューム。
それを初めて身に纏い、メタリックのヘアバンドを着けた時、時折
信じられなかった出来事が確実な現実となっている。
「もう、すごいうれしい!もう、天国に行った気分!」
「夢みたい!」
加護と辻の二人は先程から色々なポーズを決めながらコスチュームを着た互いの姿を
見せ合っては手を取りあって飛び跳ねている。
「私と辻ちゃんは同じっぽいけどひとみちゃんと加護ちゃんは微妙にデザイン違うね」
「ほんとだ。よく見るとちょっと違う」[注:実は吉澤は飯田、加護は後藤と同じ。]
「…ひとみちゃん、格好いいよ」
「梨華ちゃんもよく似合うよ」
石川と吉澤は二人より年長である分あからさまにはしゃいだりはしないが、その表情は
やはり嬉しさで緩みっぱなしである。
勿論全員がこれからの事に不安な気持ちや恐れも抱えているが、
今は素直にこれまでの人生で最高の喜びに浸っていたかった。
- 169 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年09月09日(日)15時45分38秒
- そんな風に四人が喜悦しているところに部屋の自動ドアが開いて何者かが現れた。
聞かされていた対面の予定時刻よりもまだ少し早かった為、いささか油断していた
彼女達は慌てて整列する。
「おはようございます。皆さん」
しかし部屋に入って来たのは事務官の前田有紀だった。
前田とは入隊の手続き等をした際に世話になっており、すでに面識がある。
「間もなく先輩方が参ります。そのままもうしばらくお待ち下さい」
そうごく簡潔に連絡を伝えた前田はドアから少し離れた位置に立って、娘。現メンバーを待つ間、
手に持っていたファイルに目を通し始めた。
四人は知った顔に少し安堵して挨拶を返したのもつかの間、その言葉を聞いて
いよいよ近づいてきた対面の瞬間に弥が上にも緊張感が生まれてくる。
「もう、どきどきだよ…」
「私も緊張――してるよ。ドキドキしてる」
「入るんですよね、あたしたちもモーニング娘。に」
「どきどき。はーっ…緊張する」
入り口となるドアに向かって右から石川、吉澤、加護、辻の立ち位置で
横一列に整列した四人は緊張の面持ちで先輩達を待った。
- 170 名前:作者です 投稿日:2001年09月09日(日)15時49分40秒
- 更新です。
前回更新よりだいぶ間が開いてしまって申し訳ありません。
仕事が忙しくてなかなか時間が取れませんでした。
もう少し書けるまでと思いましたが、余り間隔を開けるのも
よくないので出来た分だけ載せておきます。
更新量は少ないですが、ようやく四期生の登場です。
>>163
レスどうもありがとうございます。
やっと(物語の中では)新メン登場させる事ができました。
キャラが増えた分、話を作っていくのが大変になりますが頑張ります。
>>164
レスどうもありがとうございます。
今後、物語はしばらくの間11人体制で進みます。
四期生もこれからガンガン活躍させていきたいです。
>>165
レスどうもありがとうございます。
お待たせしてすいませんでした。
四期生、間に合わなかった…
当初は8/26までに更新するつもりだったのですが、予定外に忙しくなりまして…
また、今回の新メンバー(五期生)一部が私の執筆意欲を減退させていたのも
一つの原因です。(W
- 171 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月22日(土)04時11分13秒
- 四期生の活躍、楽しみにしてます。
- 172 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年09月24日(月)18時48分22秒
- :
一方、既に別室にて集結していた現メンバー七人は新メンが待機している
部屋に向かうべく本部内の通路を歩いていた。
先頭を行く中澤にやや遅れて飯田が続く。
更にその後ろを保田、安倍、矢口が笑って話ながら歩いていた。
「絶対また、怖いとか思ってんだよね」
「ブルブルしてんのかな、今頃」
「うんうん」
こちらの先輩方には過去の経験からか、新メンバー達程の緊張は見られない。
そして最後尾を並んで歩く市井と後藤。
「フォーメーションとかどうなんのかな…。4人、4人…2人?…じゃないか…」
「後藤、それじゃ10人しかいないじゃん」
他の六人と違い、初めて後輩が出来る後藤だけはそのお気楽な性格には珍しく、
単純計算が出来ない位緊張していた。
- 173 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年09月24日(月)18時49分28秒
- 「なんか増えるって感覚なくない?」
「「ない」」
安倍の問いかけに保田、矢口が声を揃えて答える。
増員を知らされたのが昨日で対面が今日。この余りの急展開に
ピンとこないのはやはり否めない。
「4人、3人、2人?」
「なんでさっきより減ってんのよ!(笑)」
「…ん?」
まだフォーメーションを考えている後藤。
彼女の緊張は相当なものらしい…。
対面の場に歩を進める彼女達は、新メンバーに関しては全く何も知らされていない為に
若干の不安があるものの、その期待も高まっていた。
- 174 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年09月24日(月)18時50分11秒
- :
「辻希美。14歳。よろしくおねがいします」
「加護亜依。13歳――」
新メンが待機している部屋では辻と加護がぶつぶつと挨拶の練習を繰り返している。
「第一印象は大切だから…」
その二人の横で吉澤もそう呟いて自分に言い聞かせていた。
:
- 175 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年09月24日(月)18時50分57秒
- そしていよいよ新メンが待つ部屋の前まで到着した七人。
ここにきて流石に後藤以外のメンバー達にも多少緊張の色が浮かんでいた。
「もういる?」
誰ともなしにそう確認する矢口は少しだけ落ち着きがなくなっている。
「どっきどっきどっき」
心音を声に表して笑う保田だが、その笑顔がにわかに強ばる。
「もうすぐで…会うんだね」
メンバーの中でも割としっかりしている方である市井の独り言も小さい。
「じゃあ、行くで」
中澤は一度全員の顔を見回すとその合図と共に壁にある自動ドアの開閉ボタンを押した。
ボタンを押されたドアが横にスライドして部屋への扉が開くと、現メンバー七人は
この場所まで歩いて来た順でその入り口をくぐって行った。
- 176 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年09月24日(月)18時51分42秒
- 入り口の扉が開き、とうとう訪れたこの瞬間。
今度こそ入室してきた本物に、中で待っていた四人の緊張は最高潮に達するが、
それを何とか押さえながら一斉に挨拶をする。
「「「「おはようございまーす」」」」
「おはようございまーす」
その声に応える様に各々まばらに挨拶しながら入ってくる七人。
彼女達はそのまま新メンバー四人と向かい合う形で横一列に整列した。
部屋に全員が揃ったのを確認した前田が先程より立っていた位置から
移動して来て、現れた七人に挨拶を交わす。
「皆さん、おはようございます」
そして現メンバーからその返事が返ってきた後、前田は彼女達に新メンバーを
ごく簡単に紹介した。
「今日から皆さんと一緒に活動していただく新メンバーです。よろしくお願いします」
「「「「よろしくお願いします」」」」
それに合わせて石川、吉澤、加護、辻は揃って深くおじぎをする。
斯くしてモーニング娘。四人の新メンバーと七人の先輩メンバーは対面を果たした。
- 177 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年09月24日(月)18時52分44秒
- 「それでは自己紹介を。まずは石川さんから」
前田に促され、彼女から一番近い位置に立つ石川から新メンバー達の自己紹介が始まった。
「石川梨華です。よろしくお願いします」
特徴がある声で挨拶する少女は、その物腰から発する雰囲気は今迄のモーニング娘。には
いなかった如何にも女の子っぽいタイプだ。
「吉澤ひとみです。よろしくお願いします」
モデルの様にすらっとした長身の少女。色白だが前者の石川に比べるとボーイッシュな
感じがする。
「加護亜依です。よろしくお願いします」
その髪を動物の耳のように頭の上で二つ団子みたいにまとめた少女。緊張した笑顔で
挨拶をする最年少の彼女の顔つきにはまだ幼さが残る。また、その身長の低さが隣が
長身の吉澤である為に余計に際立っていた。
「辻希美です。よろしくおねがいします」
最後にこちらも加護と同じくらいの背の高さで、左右の髪を縛っておさげにした少女が
やや舌足らずな声で挨拶する。笑った時にその口から覗く八重歯が特徴的だ。
- 178 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年09月24日(月)18時53分33秒
- 「初々しいってのはこういうことを言うんやな」
「そうだね」
緊張の為に直立し、挨拶に深く頭を下げる四人の姿を見た中澤の言葉に
横の飯田も苦笑いをしている。
「以後、新メンバーの皆さんは中澤中佐の指示に従って下さい。
では、皆さん。これから頑張って下さい」
新メン四人が自己紹介を終えるのを見届けた前田がそう彼女達を激励した後、
中澤に顔を向ける。
「中澤中佐、後はよろしくお願いします」
「了解しました」
そして中澤に後事を頼むと役目を果たした彼女は皆にも軽く会釈して一足先に
退室していった。
- 179 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年09月24日(月)18時54分29秒
- 後の仕切りを任された中澤は、並びから一歩前に出ると現メンバーに顔を向けて
「とりあえずあたしらも自己紹介しとこか」
と軽く同意を求めると新メンバーに向かって簡単に自己紹介をした。
「えー、私がモーニング娘。リーダー、中澤裕子です。これから色々
大変かもしれませんが、一緒に頑張りましょう」
それから次に隣の飯田と、順に六人の現メンバーの紹介が行われ、それが終了すると
一応この場でやるべき事は何もなくなっていた。
このままもう船に搭乗して出航してもよかったのだが、それも味気ないと思った中澤は
新メンバーに早く馴染んでもらう為、最初のコミュニケーションを図ることにした。
昨晩の矢口達増員組の話を聞いていたので余計にその考えがあったのかもしれない。
やはりあちらからは話しかけづらいと思い、こちらから話しかけてみる。
とは言ってもまだ彼女達の事をよく知らないので当たり障りのない会話しか出来ない。
「…えーと、石川梨華さんと吉澤ひとみさんは16歳?」
「「はい」」
問われた石川、吉澤はまだ緊張しながらもはっきりと返事をした。
「あっ、同じだ」
その答えに後藤が思わず声をあげる。
- 180 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年09月24日(月)18時55分30秒
- 続けて中澤は残りの二人にも同じく確認を取る。
「で、加護亜依…さん(“ちゃん”ゆうたら悪いかな?)が13で、辻希美さんが14歳?」
「「はい」」
「13…」
「ちっちゃい」
加護、辻の二人からぴったり息のあった返事が返ってくると矢口は笑いながら絶句した。
飯田は先程から苦笑させられっぱなしだ。
「今13歳ってことは…」
「スペースヴィーナスが結成された時には一桁!?」
「びっくりだね!」
その事実に保田と市井が顔を見合わせ、安倍は只々仰天の声をあげている。
ここで市井の言葉を聞いた矢口が中澤に向き直った。
「裕ちゃん! 」
「なんやのん」
「ファイト!」
「知らん知らん、そんなん」
ガッツポーズで自分を励ます矢口が何を言いたいか解っていたが、リーダー且つグループ
最年長者である中澤裕子は、その現実から目を反らす様に敢えてとぼけてみせるのだった。
:
こうして初対面は無事終了。
四名の新メンバーを加え、11人にパワーアップした新生モーニング娘。は、今回も
スペースラグーンの平和を守る任務を果たすべくモーニングジェット号で星の大海へと出航した。
- 181 名前:作者です 投稿日:2001年09月24日(月)18時57分26秒
- 更新です。
ペース遅いし、話もあまり進んでなくてすいません。
>>171
レスどうもありがとうございます。
新しく登場した四人のキャラもうまく書けていけたらよいと思っています。
- 182 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月25日(火)01時29分40秒
- ゆっくりでも放棄せずに更新してくれればうれしいです。
11人の活躍を期待してます。
- 183 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)01時37分31秒
- 出航後、先輩達によるモーニングジェット号艦内の案内が終わると、
新メンバー達には次の指示があるまで自由時間が与えられた。
そこで四人全員がこれからしばらくの間生活する場となる決められた
自室に戻って荷物の整理をしている。
そんな中、石川梨華はベッドに腰を掛けてやや困惑気味に
未だ片付かない部屋の様子を眺めていた。
自分好みの素敵な部屋にしようと多くの荷物を運び込んでもらった迄はいいが、
実のところ彼女は元々部屋の片付けがあまり得意ではない。
その荷物のほとんどがまだ封を解かれていなかった。
持ち込んだ荷物の多さに少し後悔しつつ、大きく一つ溜息をついて早々に
作業を切り上げる。
(これから徐々にやっていけばいいよね)
石川は自分にそう言い訳をして、自室を出ると喫茶室を兼ねているラウンジに向かった。
そこで同期の吉澤とお互い部屋の整理が終わったらお茶をしようと
待ち合わせをしているのだ。
とりあえず目安に約束した時間にはまだ早いが、部屋にいると荷物に
目眩がしそうなので仕方がない。
- 184 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)01時38分27秒
- ゆっくり通路を歩きながら石川はある人物を思い出していた。
(あの人が後藤真希さん…)
石川達がいたスペースヴィーナス養成所には嘗てそこに在籍していた
後藤により一つの軌跡が残されている。
『後藤真希無敗伝説』−なんと後藤は養成所時代の訓練で、教官達はともかく
同じ訓練生相手の対戦には一度も敗けた事がなかったのである。
よってモーニング娘。のメンバーに憧れる訓練生達にもその人気は高い。
だが当時の石川自身はその記録には感服したが、後藤真希という人物には
必要以上の興味を持っていなかった。
そんな石川が今、後藤を気にするのには訳がある。
それは同い年の後藤に対抗意識を持った吉澤から『後藤真希さんがライバル』と聞いた事に始まる。
- 185 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)01時41分40秒
- 石川は吉澤が好きだ。
恋愛には奥手の性格から未だその想いは打ち明けられずにいるが、
養成所で出会ったその日に一目で気に入って(所謂一目惚れというやつだが)、
彼女と接してその内面も知ってからは益々好きになり、今日までずっと想い続けている。
訓練生時代に二人で一緒にモーニング娘。になろうと誓い合い、それを守るため
石川は操縦技術において優秀だった吉澤に置いていかれない様必死に頑張った。
努力の甲斐あって念願のモーニング娘。に入った石川にとって合格は確かに
嬉しかったが、吉澤とこれからも一緒にいられる事がそれ以上に嬉しかった。
その吉澤が後藤真希を気にするのは正直面白くない。
はやい話が嫉妬だ。
稀に吉澤の口から発せられる後藤の名により、石川は噂でしか聞かない彼女を
自分の恋敵になるかもしれない人物として意識する様になった。
- 186 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)01時42分40秒
- (なんて言うか…もっと、こう、キリっとした人だと思ってたんだけどな)
石川達四人が養成所に入った時には後藤はすでにモーニング娘。に加入しており、
当時の面識はない。
だから石川は記録を創るくらいの人物ならば、さぞ優等生で聡明な人だろうと
勝手に思い込んでいた。
しかし、初対面時から艦内をまわっていた時もそれとなく後藤を観察していたが、
常にどことなくボーっとして、その覇気というかやる気が本人からあまり感じられなかった。
実際に会った後藤真希は石川の想像していた人物像とは大分印象が違った。
- 187 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)01時44分12秒
- (ほんとにあんなボーっとした人が伝説の人なの?ちょっと信じられない
…ひとみちゃんは実際に会ってみてどう思ってるのかな?)
そんな事を色々考えながらラウンジに着く。
思考に没頭していた石川が、そこに先客として市井紗耶香がいるのに気付いたのは
ある程度中に入ってからだった。
まだ馴れていない先輩と二人っきりになるのは緊張する故に席に着くのが
若干躊躇われたが、すでに市井はこちらを認識している。
「石川さん」
姿を見られた上に声まで掛けられてはもはや引き返す訳にはいかない。
「こんにちは」
緊張を抑えて挨拶をしながらテーブルの席に座る市井に近づいていく。
「ハハハ、なんかまだ他人行儀だね」
石川の挨拶にそう言って市井が笑った。
「え、あ、すいません」
「謝んなくてもいいよ。別に注意した訳じゃないから」
「はい」
「もう部屋の整理、終わったの?」
「…まぁ大体は…それで終わったらここでひとみちゃんと待ち合わせしているので…」
勿論、本当は終わってないがとりあえず言葉を濁して誤魔化した。
- 188 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)01時46分47秒
- 「ひとみちゃん?あぁ、吉澤さんね」
「あっ!…はい…」
石川は普段の様に吉澤を愛称で呼んでしまった自分がちょっと恥ずかしくなって赤くなる。
「やっぱ同期だと仲いいんだね」
言った側としては特に深い意味を込めていないそのままの台詞だったが、
迂闊な自分の言動で吉澤への想いが見透かされた様な気がした石川は内心動揺した。
そこでこれ以上墓穴を掘らぬ為に慌てて話を切り換える。
「あ、あの、市井さんはここで何を?」
見渡した限り、現在ラウンジにいるのは自分と市井だけだ。
まだ先輩達の全ての業務スケジュールを把握しきれていない石川はとりあえず質問してみた。
- 189 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)01時47分41秒
- 「私は…あ、ごめん。立ってないで座れば?」
市井に勧められた石川はすいません、と軽く頭を下げてその正面の席に着いた。
「何か飲む?コーヒーでいい?」
すでに自分の物は用意してあった市井が入れ違いで立ち上がる。
「あ、自分でやります」
そう言って立ち上がろうとする石川を、いいよいいよ、と軽く制すと市井は
ドリンクバーコーナーから手際よくコーヒーを入れて戻ってくる。
そしてそれを石川の手前に置いた。
「ありがとうございます」
「私はひと仕事終わって今は休憩中。直に後藤も来るんじゃないかな」
市井はそのお礼にニコっと微笑みで応じると再び椅子に腰を下ろしながら
先程話し掛けた質問の答えを言った。
- 190 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)01時48分52秒
- 後藤と言う名前を聞いて先程までの思考がまた石川の脳裏に蘇る。
(そーいえば市井さんって後藤さんの教育係だって聞いたことがある。
その市井さんなら彼女をよく知っているはず…けどいきなり個人を
特定して質問したら変に思われるかな?…止めとこうかしら……
でもやっぱり聞きたい!恋敵(ライバル)の情報は多いに越した事はないわ!)
吉澤と後藤の気持ちお構い無しのやや暴走気味な判断で勝手に後藤を
恋敵と認定する石川。必死の本人は無論自覚していない。
悩んだ挙げ句、意を決して尋ねてみた。
「あの、ひとつお聞きしてもいいですか?」
「ん?何?」
応対する市井の自然な柔らかい笑みを見ると言い易くなった感じがした。
「そのー後藤さんって、普段からあんな感じなんですか?」
「後藤?」
「なんかボーっとしてる、あっ!いえ、そうじゃなくって…え、えーと…
のんびりしてるっていうか…あ、あのですね…」
市井がほんの少しだけ怪訝な顔をしたのにも気付かず、質問するだけで
精一杯の石川は言葉を続ける。
が、途中うっかり失言してしまい、しどろもどろになってしまった。
「ハハハ、そうだよ。後藤は普段からあんなボーっとした感じかな」
- 191 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)01時50分39秒
- 石川にしてみれば『何でそんな事聞くの?』と逆に聞き返されてしまうと
その返事には困ってしまうところだったが、市井は石川の失言にも気にしない様子で、
笑って石川の知りたい事を教えてくれた。
「それにさ、後藤はいっつもご飯の事を考えているんだよ。仕事が何時に終わるのかとか、
そういう事は全然聞かないんだけど、いつご飯が食べれるかって事をすっごく気にしてるような奴」
しかも市井の回答は解説付きだ。
素直に答えてもらえた安堵感と市井の気さくさが石川に相手の様子を見れる程の
気持ちのゆとりを与える。
(市井さん、なんか楽しそう)
後藤の性格について苦笑いしながらも何故か楽しそうに話す市井を、
モーニング娘。に入ったばかりの石川は少し不思議に思いながら話を聞いていた。
- 192 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)01時53分52秒
- :
(ふぅ〜やっと終わったよ。…市井ちゃんも待っててくれたっていいのに…ま、いいや。
今から市井ちゃんと何しよっかな〜)
噂をすれば影。
ようやく機体の整備も終わり市井に遅れてラウンジにやって来た後藤。
入り口をくぐると直ぐに向こうのテーブル席に市井を発見するが、
同時にその前に座っている人物も視界に入って思わず立ち止まる。
(あれは確か…石川さん)
談笑している二人はまだ後藤に気付いていない。
てっきり市井しかいないと思っていた後藤は咄嗟に入り口付近の物陰に隠れて、
とりあえずそんな二人の様子を探る事にした。
:
- 193 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)01時55分36秒
- 「そういえば入ったばっかん時、あたしが艦内を案内して色々説明してあげた後、
あいつ何て言ったと思う?
『ハイッ、わかりました!…ところで市井さん、晩ご飯はいつですかぁ?』
って言ったんだよ!信じらんないでしょ〜!!」
後藤入隊時のエピソードを語りながら大袈裟に市井が同意を求めるとこれまで
緊張していた石川の顔にも笑みが溢れる。
微笑む石川を見ながら市井は内心で胸を撫で下ろしていた。
- 194 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)01時56分30秒
- 市井達が入隊した時、先日矢口が話した通りオリジナルの五人からは“いかにもプロです”
といった雰囲気が醸し出されていて、養成所上がりの市井達には近寄り難いものがあった。
市井自身も、以前からの強い団結力で既に結ばれている五人にはとても追加で入った
自分達がとけ込める空間などないと感じて、かなり気まずい思いをしたものだ。
しかし今考えれば、あの頃はスペースヴィーナスも結成されて間もなく、コロニー警察
特殊部隊として馴らしてきた彼女達でも新たに造られたLOVEマシーンを操縦しての
経験浅い宇宙での戦闘、且つ正体不明の敵相手では自分達の事だけで精一杯だったのであろう。
だから初期のメンバーは市井達三人を決して嫌っていた訳ではない。
事実、敵の片鱗が判明し、仕事にもある程度余裕が出来てきた頃には
『なっちって呼んでもいいよ』とか『裕ちゃんって呼んでいいよ』と五人はちゃんと
歩み寄って来てくれた。
そして現在に至っている。
- 195 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)01時57分03秒
- 今度の四人の新メンバー達にも早くモーニング娘。に馴染んでもらいたい。
後藤の時と同様にそうなる為にはやはり先輩の方から行動すべきであろう。
石川に話す市井の態度にはそんな思いが含まれている。
そしてどうやらそれは上手く伝わった様だ。
きっかけとして後藤を話のダシに使うのは、ほんのちょこっとだけ気が引けた市井だったが。
- 196 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)01時57分45秒
- :
(市井ちゃん、そんな楽しそうに笑わないでよ〜)
隠れて様子を見ている後藤は、本来なら自分に向けられているはずの市井の笑顔が
自分以外に向けられている事に悲しくなる。
やや場所が離れている為、ここから二人の会話の内容までは聴き取る事は出来ない。
市井の笑顔の原因が自分だとは思ってもいない後藤は、二人の雰囲気に何となく
場に入っていくタイミングを逃した気がして、その場で指を銜えていた。
- 197 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)02時00分56秒
- :
ひとしきりの話を終えた市井は、自分の前に置かれたコーヒーカップを手に取って口に運んだ。
その間石川は今迄の話を聞いて思うところがあったらしく何かを考えている様子だ。
「後藤が気になるの?」
中身を一口飲んでテーブルに置いたコーヒーカップに視線を落としたまま市井が口を開く。
石川が同じ歳の後藤に対して、ライバル視するまではいかなくとも少なからず
意識するのは当たり前かもしれない。
だが市井の問いかけは『好きなの?』という意味にも採ることが出来た。
「えっ?あっ、いえ!全然そう言う意味じゃないんです!
それに私、他にちゃんと好きな人いますから!」
後藤について市井に尋ねた元々の動機から石川はどうやら後者で解釈したらしい。
思案中の不意を突かれ、少々ムキになって否定してしまう。
「…別にそこまでは聞いてないんだけど」
「えっ?!あっ!そうですね」
またもや失態を演じてしまった石川の頬がうっすらと赤く染まる。
そのあまりにも正直な反応に市井は思わず笑い出してしまう。
それを見た石川もはにかみながら一緒に笑うのだった。
- 198 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年10月18日(木)02時02分37秒
- :
二人に見つからないよう一旦ラウンジから出て来た後藤。
もし他者が見たらその顔の俯き加減から彼女が泣いているのかと思うかもしれない。
しかし、後藤の負けず嫌いの性格からしてそれは誤りだったようだ。
拳を握り締め、顔を上げたその瞳に炎が宿る。
(あたしの市井ちゃんに手を出すなんて許せない!市井ちゃんは渡さないわ!!)
どうやらラウンジでの光景をかなり主観的に捉えたらしい。
ちなみに後藤の頭の中には“市井の方から”という考えは無い。
それは完全に勘違いなのだが、正に恋は盲目。
後藤、誤解により石川梨華を倒すべき恋敵と認定。
- 199 名前:作者です 投稿日:2001年10月18日(木)02時04分09秒
- 最近またも更新が滞りがちで申し訳ありません。
忙しさに追われて執筆意欲も低下していたのですが、
市井復帰の知らせを聞いて何とか力が湧いてきました。
遅まきながら更新しておきます。
>>182
レスどうもありがとうございます。
自分で考えている完結までまだ大分先は長いですがマイペースで頑張ってみます。
- 200 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月18日(木)12時39分25秒
- 更新待ってました。後藤と石川がどなるか楽しみだ(笑
- 201 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月21日(日)01時26分06秒
- 更新されてる!嬉しいです。
ゆっくりでいいんで、頑張って下さい。
- 202 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月19日(月)23時32分15秒
- 頑張ってください
- 203 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時20分58秒
:
スペースラグーンを出航して二日目。
11人のメンバー全員が対戦ルームに隣接する観戦室に集合していた。
但し現在の彼女達は旧メンバーと新メンバーに分けられている。
「昨日話した通り今日は新メンバーの実力をテストしようと思います」
二つのグループの間に立つ中澤がそう告げる。
これから新しく入った四人を旧メンバーと対戦させてその力量を試そうというのだ。
彼女達の力を把握しておく事は今後のフォーメーションや戦術等を考慮する上で必須で
ある。よってこれは一次追加組の三人、二次の後藤の時にも行われてきた恒例だ。
「新メン側はあたしが選ぶから、君ら先輩達は胸を貸すつもりで誰かが相手して
あげて。ちなみにあたしはやらんから」
全員には子細を昨日の内に知らせてあるので説明もそこそこに本題に入る。
対戦は一対一の決闘方式で行われ、一応先輩メンバー側にも以前市井と後藤が戦った
時の様な使用武器制限等のハンディキャップはない。これでは必然と実戦経験のない
新メンバーは不利なのだが、ハンデを付けては純粋に実力の査定が出来ないからだ。
- 204 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時21分49秒
- 「ほんじゃ誰からにしよか…」
「はい」
中澤が新メンバー側先鋒の選抜に迷っているとその中から特徴のある声が聞こえた。
その声に顔を向けた先では石川が挙手している。
そこで何か質問でもあるのかと思った中澤は彼女に問いかける。
「はい、石川さん。何ですか?」
中澤の促しに同期の三人のみならず先輩達も注目している中、石川はその希望を堂々と
宣言した。
「私は後藤さんと対戦したいです!」
その突飛な発言に横にいる吉澤、辻、加護が目を丸くする。
中澤もこの意外な申し出にしばし驚いた後、めんどくさがりの後藤が快諾するか疑問に
思いながらもとりあえず彼女に呼び掛けた。
「ごっちん、ご指名やで〜」
「いいよ」
石川の申込みは勿論反対側にいる後藤にも聞こえていた。
その不敵な挑戦に対しやや低い声で短く返事をすると後藤は一歩前に歩み出た。
- 205 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時22分29秒
- 昨日あれから後藤は石川の待ち人である吉澤が現れたのを機にラウンジに再突入し、
市井と石川の談笑に吉澤と一緒に割り込んだ。そして改めて四人でテーブルを囲んだ
矢先、本日の対戦の件でメンバー全員に集合がかかる。これにより後藤は市井と石川が
何を話していたか聞き出すきっかけを失い、結局その真相の確認は出来なかった。
よって未だに後藤の勘違いは継続中である。
(へぇ〜早くも宣戦布告ってわけ?上等じゃん!!)
そしてラウンジで市井に言い寄っていた石川(後藤主観)からのこの申し出を自分への
恋敵宣言と後藤は受け取った。
しかし実際のところ加入したばかりの石川が、まだ先輩達七人の人間関係について、
ましてや後藤の市井に対する気持ちなど、現在の時点では当然知る由もない。だから例え
石川が本当に市井を好きであっても、後藤に対して恋敵宣言するなどありえない話で
ある。
この点を後藤は完全に見落としている。冷静に考えれば気付くはずだが、市井がらみでは
彼女も冷静ではいられない。
- 206 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時23分11秒
- 「お、ごっちん、なんかえらい気合い入っとるな」
中澤は何時になく即答で力強く返事をする後藤に珍しがる。
自分は知らぬ事だが何やら面白くなりそうな展開だ。
そう予感した中澤にまるで玩具を見つけた子供の様な笑みが浮かんだ。
「後藤、どうしたの?」
「いや、わかんない」
他の先輩メンバー達も後藤の様子に気付いた。
保田が普段と違うやる気に満ちた彼女を見て市井に耳打ちする。だが、聞かれた方も
事態が把握出来ない。
「市井ちゃん、行ってくるね」
「お、おう。いってらっしゃい」
訳が解らない市井は無気味な程静かに闘志を燃やす後藤を少しびびりながら見送った。
- 207 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時23分49秒
- その一方で石川の方も気合い充分だ。
もしここで自分が勝てば、吉澤がライバル視している後藤真希という存在を彼女の心の中
から消す事が出来る。そしてその代わりに自分がこれまで以上に吉澤の気を引ける様に
なるのは間違いない。
後藤に勝利する事、それが石川が考えた愛する吉澤への最大の自己アピール方法だった。
「ひとみちゃん!私頑張るから!見ててね!」
「あ、う、うん。頑張ってね…」
両手を握り締め、何やらすごい勢いで迫る石川にやや困惑する吉澤。
(私が後藤さんに勝てば、ひとみちゃんは………キャ〜!恥ずかしい〜!)
己に都合の良い妄想だけを頭の中に描き、石川は対戦ルームのコクピットに向かうべく
観戦室を出ていった。
- 208 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時24分26秒
:
「キャアァァー!!」
二人が対戦ルームに消えてから程なくして、観戦室に設置されている新メン搭乗の機体側
に通じているスピーカーより悲鳴が上がる。
対戦時間27秒。
石川機撃沈。
後藤真希圧勝。
これまでに収集した情報を自己分析した結果から、多少なりとも勝算ありと果敢にも
後藤に挑んだ石川梨華であったが、疑問視していた伝説の力をその身を以て味わう結果
となり、対戦前に抱いていた彼女の淡い野望は呆気無く水泡に帰したのだった。
- 209 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時25分20秒
- :
(さすが後藤さん。やっぱり要チェケラッチョだわ)
噂に違わぬ実力を見せた後藤が颯爽と対面のグループに戻っていくのを吉澤は
目で追っていた。
が、次にドアが開いた時その視線もそちらに写る。
一緒にモーニング娘。になろうと誓い合った相手の性格をよく知る吉澤としては、
彼女に早く労いの言葉をかけてあげたかった。
案の定、隣室からは対戦前とは打って変わった暗い表情した石川が、ガクリと肩を
落として戻って来た。その姿にはまるでこの世の終りを迎えるかの様に悲愴な雰囲気
が漂う。
彼女の落ち込みが激しいのを解っていた吉澤でもその予想以上の落ち込み具合に思わず
声が掛けづらくなる。
「り、梨華ちゃん?」
それでも恐る恐る呼び掛けると呼ばれた石川は涙目で吉澤の顔を見上げた。
- 210 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時25分58秒
- 「…ひとみちゃん」
「えーと…そんな気にすることないよ!ほら、相手は“あの”後藤さんだもの」
吉澤自身、今回のテストには勿論全力を尽くすが、百戦錬磨の先輩達相手に最初から
勝てるとは正直思っていない。石川の思惑を知らない吉澤は、負けて当然の勝負に彼女が
何故これほど落ち込むのかちょっと不思議に思えてしまう。
(違うのよ〜!負けた相手が“その”後藤さんだから余計なのよ〜!!)
吉澤がやはり後藤を認めていると分かり、さらに自分でその相手の株を上げてしまった事
で石川は増々ネガティブモードに陥っていく。
「後藤さんってやっぱすごいんだね」
「うん」
そんな石川を励ますのに苦労している吉澤の横で、加護と辻は尊敬の眼差しで後藤を
見つめていた。
- 211 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時27分18秒
- :
(あたしに勝とうなんて百億年早いのよ!)
当面の鬱憤を晴らし得意顔で観戦室に戻って来た後藤は、足どりも軽やかに自分の
完勝をアピールしたい相手の元へ一直線に向かう。
「市井ちゃ〜ん、ちゃんと見てくれてたぁ?」
「あんたねぇ〜新人相手になにムキになってんのよ」
しかし先に後藤に向けて掛けられたのは彼女が望む市井からのお誉めの言葉ではなく、
その傍らにいる保田が呆れ気味に放ったこの言葉だった。
「今は新メンの実力を試す目的でやってんだから、負けろとまでは言わないけど
もうちょっと考えなさい!」
(うっ!確かに…)
昨日からの勘違いで石川に対しての冷静な判断力を欠き、この対戦では趣旨を完全に
忘れていた後藤。そんな彼女でもたった今恋敵を撃墜した事により、対戦前にのぼせて
いた頭もとりあえず冷えかけていたので、保田の最もな指摘にたじろぐ。
- 212 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時28分10秒
- 「対戦前は何時になくやる気でなんか怖い位だと思ったら今はもう戻ってるし…
どうしたの?あんた」
更に対戦前後の後藤のギャップに訳分からんとばかりにつっこむ保田。
確かに本人以外は理解不能である。
でも事情をいちいち説明する訳にもいかず、後藤は咄嗟にそれを取り繕った。
「え〜と、ほら、戦いはやっぱ真剣勝負じゃん。先輩として彼女達にもまずそれを最初に
教えてあげないとさ。ね!市井ちゃん」
苦し紛れだったが意外に良い言い訳が出来たと後藤は思った。だが、らしからぬその言に
保田は疑惑の眼差しを向けている。
「ハハハ、後藤の口からそんな言葉が出るとはね〜。ま、後藤の言ってる事も正しい
けど今回はちょっと圭ちゃんの言う通りだったかな」
後藤から同意を求められた市井ではあるが、そう答えて保田に賛同すると多少同情を
含んだ目で向こう側にいる石川とそれを励ましている吉澤を見た。
- 213 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時29分22秒
- 「ハハハ、まぁいいじゃん」
そう答えらても仕方ないかと思った後藤は誤魔化しながら彼女の定位置とも言える
市井の傍らに移動する。
落ち着いたところで周りを伺うと次の対戦が始まるまで少し時間がありそうだ。
今こそ昨日の会話の内容を確かめるチャンスだと気付いた後藤は、まだ石川達を見ている
市井に呼び掛けた。
「市井ちゃん」
「ん?」
その呼び掛けに市井が視線を戻す。
「昨日、石川さんと何話してたの?」
「昨日?」
「ほら〜あたしが来る前。ラウンジで!」
「あぁ、あん時は後藤の事聞かれてた」
「は?…あたしの事?何で?」
予期せぬ返答内容に後藤の思考が混乱した。
あの場で自分が話題に上っていたとは微塵も思っていなかったし、それに養成所時代の
記録など自覚していない後藤には、先日が初対面だった石川が何故自分に興味を示すのか
理解出来ない。
- 214 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時29分59秒
- 「彼女から聞いたんだけど、後藤って養成所にいた時、同じ訓練生相手に一度も負け
なかったんだって?だからあんた、その後の訓練生の間じゃちょっとした英雄的存在で
憧れの的みたいよ。それであんたが実際にどんな奴か、彼女もやっぱ気になったんじゃ
ない?」
そこで市井は昨日後藤が一度出ていった後、石川が話してくれた事を本人にも聞かせる。
「その話ほんとぉ?この後藤が憧れの的ねぇ〜」
するとこの話を反対側で聞いていた保田が、如何にもそれを胡散臭いといった感じで
口を挟む。
「ハハハ、石川にはちゃんと後藤の正体をばらしておいたから大丈夫だよ。圭ちゃん」
市井はその横やりにふざけ半分で応えた。
- 215 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時31分50秒
- その時、二人の会話の間動きが停まっていた後藤が突如市井の腕を掴んだ。彼女がそれに
驚くのも構わず、大事の確認中を保田に邪魔されないように引っ張っていく。
仲間はずれにされた保田が『ちょっと何よー』と文句を言っているがこちらもお構い
なし。
後藤は自軍から少し離れた場所まで市井を連れて来ると腕を離して向き直る。
「も〜なんだよ、急に」
そう言いながら娘。内でも一番の腕力を誇る後藤に掴まれていた箇所を軽くさする市井。
夢中だったのでつい力が入ってしまった事を後藤は心の中で謝りながらも再度事実を
確認した。
「あたしの事聞かれてたの?」
「ん?あぁ、そうだよ」
「…石川さん、市井ちゃんに言い寄ってたんじゃないの?」
「はぁ?何それ?」
それを聞いた市井が思いっきり怪訝な表情をつくる。
「え、いや、だって…」
とんちんかんな問いに続いてまだ何か言いたげな後藤の様子を見た市井は今日の彼女が
普段と違った理由に薄々感づいた。
- 216 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時33分16秒
- 「…あんたさ、ひょっとしてなんかとんでもない誤解してんでしょ?」
(誤解?あたしの?)
「あのね〜なにをどう勘違いしたのか知んないけど、石川があたしに言い寄ってきた
なんて、そんな事実は一切ありません!」
今までの思い込みを市井から呆れ気味に完全否定されて、後藤はここにきて漸くそれが
自分の勘違いだった事に気付いた。
(何よ〜それじゃ全部あたしの勘違いだったわけ?)
独り相撲を取っていた自分が情けないのやら恥ずかしいやら、その両者が入り混じった
感情が込み上げてくる。まあ独り相撲という点では相手の石川も同様でお互い様なの
だが、後藤がそれを知る術はない。
(あっ!でもその方がよかったのか)
しかし考え様によっては恋敵の出現という一番危惧している状況にならなかったと
思い直して安堵した。
- 217 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時34分11秒
- (そもそもあの子が話していた相手が市井ちゃんじゃなければこんな勘違いしなかった
のに…ったく!よりによってなんで市井ちゃんに話し掛けてんの……ん?まてよ…)
そして安心したところで自分の勘違いを棚に上げ、心の中で事の発端の責任を理不尽にも
石川に転換している後藤に一つの事が引っ掛かった。
それは自分の事を尋ねてきた石川の真意だ。
(…石川さんはあたしについて聞いていた……彼女の本当の目的はあたし……後輩達に
とってあたしは憧れ、らしい……)
後藤がこれまでの状況と市井の説明をピースにしてパズルを完成させていく最中、
先程から動かなくなった相手を前にして市井は『おーい、どしたぁ?』とばかりに
その顔を覗き込んでいた。
- 218 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時35分43秒
- 間もなくして後藤はある結論に達した。
導き出したそれを飛躍し過ぎかとも思いつつ、躊躇いがちに彼女は口を開く。
「ねぇ、もしかすると石川さんって…後藤の事が…そのー、好きなの?」
「いや、それも違うみたい」
「へ?」
冷静に分析して出した結果をいともあっさりと覆され、後藤は思わず間抜けな声を
出してしまった。
「私も最初そう思ったんだけど、本人が他にちゃんと好きな人がいるって言ってたし…」
市井が否定の根拠となる石川自身の発言を後藤にも話して聞かせる。
- 219 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時36分24秒
- 「でさ、昨日から見てて何となく思ったんだけど、その好きな人って吉澤さんじゃない
かな?多分」
それから昨日の後藤と一緒に現れた吉澤に対しての石川の仕種と先程この二人の様子を
観察していた市井はニヤつきながらそう憶測した。
その言葉に後藤が新メンバー側に目を向けると、自分に負け落ち込んでいる石川とその肩
に手をやって慰める吉澤が写る。それを見て後藤も何となくだが市井の憶測に納得できる
雰囲気を二人から感じた。
どうやら石川梨華は自分の恋路に障害をもたらす存在ではないらしい。
石川の真意についてはいま一つ釈然としないが、後藤にしてみればそこさえ判れば充分
だった。
則ち、ここに後藤の石川に対する誤解は解けたのである。
- 220 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時37分11秒
:
(…なんやあっけなかったなぁ〜)
自分から対戦相手を指名してきた自信の割にはあっけなく敗れた石川に中澤はいささか
拍子抜けした。事情は分からないが対戦前の様子からある種の波瀾を期待して観戦して
いた立場から言わせてもらえば、もう少し健闘してもらいたかったところだ。
しかし今回に関しては後藤の勘違いがなければこれほど早い決着には成らなかった
であろう。
(でも無理ないか。なんでか知らんけど、後藤の奴、本気やったからな…)
無論それは中澤も理解していた。
保田と同じ事を考えながらも次の対戦に移行する。
「じゃー二回戦始めるでー。次は吉澤さん」
中澤が新メン側の二番手としてその名前を呼んだ。
- 221 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時37分48秒
- 「あ、行かなきゃ」
「ひとみちゃんは頑張ってね」
コールされた吉澤が石川の肩から手を下ろす。離れたその手を名残惜く思いながら石川は
短いが精一杯の声援を送った。
先鋒の石川にはそのノリから声を掛けられずにいた辻と加護からも今度は『がんばれー』
と声援がとぶ。
「うん」
吉澤は皆に笑顔で応えると前に進み出た。
- 222 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時38分29秒
- 「こっちはオイラがいくぜぃ!」
旧メン側からは矢口が立候補して前に出た。後藤が対戦している間に他の四人からの了解
はすでに得ている。彼女の性格的にこういう場面では目立たずにはいられない。
「矢口」
進み出た矢口は不意に後ろから呼び止められた。
声でそれが誰だか判る矢口が振り返って彼女を見る。
呼び止めた声の主はタンポポでも同じメンバーである飯田圭織だった。
「あたし、あの夜あれからあっちゃんに電話して新メンについてちょっと聞いたんだ。
でね、中でもあの吉澤って子、結構やるらしいよ。つんくさんが天才的って誉めたんだって。
だから油断して負けないようにね、矢口。一応カオリからの忠告」
飯田が言う“あっちゃん”とは、昨年政府命令で解散させられたスペースヴィーナス
第二実戦部隊・T&Cボンバーの一員だった稲葉貴子の事だ。T&C解散後の現在では
パイロット養成所の教官として訓練生の指導にあたっている。
要するに今回の新メンバー達四人は彼女の教え子という訳だ。
- 223 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時39分21秒
- (つんくさんが誉めた…面白い!やったろーじゃん!!)
それを聞いた矢口の闘志が益々燃える。それしきの事で怖気尽く質ではない。
忠告を与えた飯田もその辺は良く分かっていて、これもある意味激励の様なものだ。
「矢口頑張れ〜!」
飯田の言葉に安倍もいつもの屈託のない笑顔で声援を送っている。
「大丈夫!オイラはモーニング娘。“セクシー隊長”矢口真里だぜ!新人なんかに
負けるはずないじゃん!!」
別にセクシー度を競う訳ではない。
自信満々にやや見当違いの啖呵を切って矢口は隣の対戦ルームに入っていった。
- 224 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時40分27秒
:
(この子、ほんとに強い!)
対戦開始から序盤、後藤と違い趣旨をちゃんと理解している矢口はわざと吉澤に攻撃の
主導権を取らせていた。
つんく司令が誉めるだけの事はある。攻撃を仕掛けるタイミング、その正確さといい、
確かに良いものをもっている様だ。時折放つこちらの射撃も迅速に反応して躱している。
養成所上がりの新人とは思えない相手に矢口はこれまで実戦で戦ってきたあの物体よりも
余程戦慄を感じた。
だが、矢口もまだその実力の全てを見せてはない。
(ん〜結構やるなぁ。じゃあ少しレベルアップするよー!)
飯田の忠告にも拘らず予想以上にできる相手を前にして矢口は攻撃主体の戦法に
切り換える。
そしてそれは確実に戦況に表れ始めた。
- 225 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時41分45秒
- しばらくして押され気味になった吉澤機が唐突に矢口機に対し背を向けて離脱をかける。
「あれ?逃げんの?」
その意図は読めないがとりあえず矢口は全速で追う。本当に逃げたのならそのまま
撃墜するまでだ。
次第にその距離が詰まり、後ろから追う矢口機が逃げる吉澤機を必殺の射程に収めた。
モニター内の照星が前方の相手を捕らえ、電子音がロックオンを知らせる。
どうやら相手は本当に無策の様だ。これまで善戦していただけに最後に逃走した吉澤を
矢口は残念だと思った。
(よくやったけど、これまでだね)
だが、矢口機がビーム・ライフルのトリガーを引こうとした時、ターゲットの枠円から
吉澤機の姿が消えた。
「えっ?!」
突如の吉澤機の逆加速。
照準をつける為に相対速度を合わせていた矢口機は逆加速が間に合わず、追いこす形に
なって相手の前に躍り出てしまう。
巧妙な罠。それは吉澤にとって絶好の位置だった。
- 226 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時42分45秒
- 「もらいましたよ!」
「!」
立場が逆転し今度は吉澤が逆に矢口機を捕らえる。
しかしその瞬間、矢口機の、機体の向きはそのままにライフルを持つ右腕だけが後ろに
回る。
そこからの自動照準による連射。
予期せぬ反撃を吉澤機は回避出来ず、ビーム・ライフルを持つ右腕と右足の膝から下が
被弾して吹き飛ぶ。
それは360度自在に可動する腕を持つ機動兵器ならではの戦法だった。
「やった!どんぴしゃ!」
実戦慣れから一枚上手を取った矢口は自機を反転させて対峙すると相手の被弾状況を
確認する。
「なかなかいい作戦だったけど、これでもうあたしの勝ちだね」
- 227 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時43分20秒
- 吉澤機が主要武器を無くしたこの時点で既に勝負はついていたが、コンピューターには
まだ辛うじて戦闘続行可能と判断された。
そこで最早勝利を決定的にした余裕の矢口に目立ちたがり故の考えが浮かぶ。
「よし、折角だから特別サービスで“セクシービームマスター矢口”を新メンバー達にも
披露してあげよう!」
そう言って矢口がコントロール・パネルを何かしら操作すると、突如、その機体に
セクシービーム砲が装備された。
被弾した為に機体が上手く動かないがなんとか最後の逆襲を試みようとしていた吉澤は、
突然現れた相手の大砲に完全に呆気にとられてしまった。
刹那、その砲口からまばゆい閃光が発せられ目が眩む。
そして次に吉澤が再び目を開けた時には正面モニターに“You Lose”の赤い文字が
表示されていた。
- 228 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時44分41秒
- :
「…カオリの仕業か?」
「いつの間にあんな機能付けたの?」
観戦用スクリーンで見学していた中澤と安倍がやや放心状態で飯田に尋ねる。
こんな事が出来るのはテクノロジー開発ルーム室長である彼女しかいない。
飯田を除いた他の新旧両メンバー達も半ば呆然としていた。
「え〜と、彩っぺが抜けてしばらく経った頃だったかな。矢口がどうしてもみんなに
内緒で付けて欲しいってしつこくってさ〜。あたしがタンポポのリーダーになる条件で
やってあげたの。ま、あたしは更に矢口に内緒で付けたキャンセルコマンド知ってる
からいいけどね〜」
取り付けた張本人は当然全く動じていない。
- 229 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時47分28秒
- 「イェ〜イ!どんなもんだい!」
意気も揚々に矢口が隣の対戦ルームから凱旋してきた。
しかしそれを迎えた市井と安倍が彼女の勝利にケチをつける。
「でもー…あんなの使ってなんか反則っぽいよねぇ?なっち」
「そうだね。いくら何でもねぇ〜」
自分では完璧な勝利だと思っていた矢口はこの言葉に反論せずにはいられない。
「何でだよー!どうせあのままでもあたしの勝ちだったじゃん!」
「けどちょっとやり過ぎでない?」
実は皆に内緒でセクシービーム機能を付けていた矢口を少し懲らしめてやろうと思い、
二人は示し合わせてわざと彼女を批判していたのだ。
ところが意外な所から助け舟が出る。
「いいえ。それは違います」
それは敗れた張本人の吉澤だった。
「戦場では敵を完全に破壊するまで油断は出来ません。矢口さんの行動は当然だと
思います」
真顔できっぱりと言い切ったその発言は冗談とも思えない。
「おぉ〜」
「吉澤、男前〜」
そんな吉澤のクールな態度に先輩メンバー達から思わず感嘆の声があがった。
- 230 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時48分12秒
:
その後、第三戦で辻が飯田と、最後に加護が保田と対戦した。
二人とも初めての先輩との手合わせに善戦するもやはり勝てるはずはなく、
今回の実力テストは新メンバー側の全敗で幕を閉じた。
- 231 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時49分01秒
- :
(まぁ大体こんなもんやろ)
全対戦を観戦し終えたリーダー中澤の感想。
結果は彼女の予想していた通りだった。過去の対戦も含めここで新人が勝った前例は無い
からだ。しかしこの際勝敗はさほど重要ではない。
大切なのは今後この新しく入った四人をどう鍛えていくかという将来の事である。
(…これからみんなに相談するか)
中澤は新メンバー四人に自由時間を与えて解散させた後、この課題を解決するべく残りの
六人に召集をかけた。
- 232 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時50分04秒
:
モーニングジェット号艦内のリラクゼーション・ルーム。
解散後、石川梨華は独りそこにいた。
吉澤からお茶の誘いもあったが、少しの間独りになりたくてやんわりと断った。
荷物が片付いていない自室にも今は戻りたくない。
ソファーに腰を掛ける彼女の表情は暗い。その原因は前の対戦で後藤に敗れた事に
他ならない。他の新メンバー三人も同じく先輩達に敗れた訳だが、石川の戦いには別の
意味が含まれていたのだから敗北感もひとしおだ。
また実力に差があったとはいえ、あっさりと秒殺された自分の無力さが情けなかった。
悔しさに自分の不甲斐無さが重なって思わず涙が溢れそうになる。
しかしそれを石川は何とか堪えた。
(…こんなんじゃダメね。ひとみちゃんだって励ましてくれたのに…)
自分を励ましてくれた吉澤の姿が思い浮かぶ。
普段なら喜んで行く誘いを断ったのは今のクヨクヨした姿を見せたくなかったからだ。
- 233 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時50分43秒
- 元来、消極的な性格である石川はそんな自分を変えたいと常々思っていた。
そこでモーニング娘。になる為にスペースヴィーナス養成所への入所を決めたその日を
境に、“何事にも前向きであれ”と何時も心懸けてきた。
(そうよ!ネガティブじゃダメ!ポジティブよ、ポジティブ!!)
今こそそれを発揮しなければと確信した石川は、ネガティブの深みにはまりかけた思考を
追い払うかの様に頭を振った後、無理矢理吹っ切った笑顔をつくる。
「そうよ!」
それから気合いを入れて勢いよく立ち上がると表情を引き締め、視線を宙に向けた。
「私が一番LOVEマシーンを上手く使えるのよ!一番、一番上手く使えるのよ〜!!」
拳を握り締め、まるで自己暗示をかける様に叫ぶ。
「私は…私は、あの人に、勝ちたい」
そして最後に握り締めた拳に更に力を込めて懇望の台詞を呟くのだった。
尚、この後何度となく後藤に挑む事となる石川のこの決意が、近い将来において実現
されたという話は聞かれていない。
- 234 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2001年12月18日(火)01時51分44秒
- ところで石川しかいないと思われたリラクゼーション・ルームに実はもう二人の人物が
存在していた。
沈んだり浮いたり、突如立ち上がって叫んだり、先程から繰り広げられる石川の一人芝居
(?)を隠れて見物していた加護と辻。
「…梨華ちゃん観察してるとおもろいな」
「へい」
二人は養成所時代から感じていた“梨華ちゃんはちょっと変わり者”という共通の認識を
お互いに高めていた。
- 235 名前:作者です 投稿日:2001年12月18日(火)01時53分37秒
- 最終更新からはや二ケ月…
よく倉庫行きにならなかったものだと思いつつ
やっと続きが書けましたので更新しておきます。
>>200
レスどうもありがとうございます。
今回解決編でしたが体したオチもなく…
>>201>>202
レスどうもありがとうございます。
応援のお言葉、誠に傷み入りまする。
- 236 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月22日(土)19時47分25秒
- 更新されてる!嬉しいです!
後藤の勘違いの攻撃ってすごそうですね(笑)
お忙しい中の更新、ありがとうございます。
続きゆっくり待ってますんで、体に気を付けて頑張って下さい!
- 237 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月31日(月)18時58分22秒
- いつのまにか大量に更新されていたんですね
新メンバーとの関係がどうなってゆくのか楽しみです
次回更新を楽しみにしています
- 238 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月18日(金)23時34分08秒
- 続き待ってます〜
- 239 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時00分19秒
- :
後輩達との対戦後、召集をかけた中澤を含む旧メンバー七名はブリーフィング
ルームでちょっとした会議を開いていた。その議題は、勿論、今後の新メンバー
の教育に関してである。
中澤が始めにそれを伝達すると他の六人も快く話し合いに応じていた。彼女達も
多かれ少なかれ新メン教育の必要性は感じていたのだ。
「自分らの中っていうか、あたしらの中で教えてあげなあかんことって、やっぱ
いっぱいあるやんか。最初の三人が入ってきた時は、あたしらが、わからんこと
教えてあげて、後藤が入ってきた時は、紗耶香が、教育係になって…やっぱり今回
入ってきた子達にも、そういう役割をする子が必要やん?」
進行役であるリーダーの中澤が出した提案は、後藤の加入時と同様、新人達に各々
教育係を就けるという方法だった。
「うん」
「イエッサー」
「う〜ん…そうだね」
彼女の意見に飯田、矢口、安倍の順で同意の旨が返ってくる。
残りの保田、市井、後藤は異存がない事を沈黙を以て示す。
結果、さしあたり最も妥当と思われるこの案は満場一致により可決された。
- 240 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時01分20秒
- 全員の賛同が得られたのを確認した中澤は、次に具体的な内容に話を進める。
つまり、誰が誰に就くのか、という割当てだ。
「ほっといて覚えれることも少ないと思うし。……あの…二人どうする?
若い子達は?」
まずはこれまで16歳で最年少だった後藤より更に年下の少女達――加護と辻だ。
「13歳と14歳の二人…」
安倍は言い淀んだ後に若干の苦笑いをしながら後藤と顔を見合わせてしまう。
「ね」
「ねえ」
それを横目に中澤が皆に語りかける。
「若い…やん?」
「「「う〜ん」」」
その言葉に保田、市井、矢口辺りが唸った。
世間一般から見れば彼女達もまだまだ充分に若い。だが若い故に十代から
二十代前半にかけての枠組みの中では、互いの年齢が五つも違えば結構
ジェネレーションギャップが生じたりするものだ。
- 241 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時04分58秒
- これを考慮して中澤が最初に白羽の矢を立てたのは、このメンバー中では
最年少である後藤だ。
「だからあんまり年が離れてる子が教えるよりは、どっちかっていうと
年近い子の方が教えやすいんちゃうかなあーとか思ったりもするんやけど…」
そう理由付けて後藤に視線を注ぐ。と同時に他のメンバー達のそれも自然に
彼女に集まる。
以前、市井が後藤の教育係になったのも同じ理由によるものだ。中澤の言に
おかしな点はない。
「ほら、後藤もやっぱり、紗耶香に教えてもらってきたように…自分も、
後藤も覚えなあかんことまだまだあるけど、少しずつ教えれるようになった
方がいいやん?」
「うーん」
諭す様なその要請に対して後藤は最初悩んだ。
娘。に加入してまだ一年にも満たない自分には中澤の言う通りまだまだ覚え
なければならない事もある。
そんな自分が他人を教えられるのか?――正直に言ってしまえば自信はない。
- 242 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時05分56秒
- 思案しながら後藤はチラッと横目で、つい先日まで己の教育係だった市井の
表情を伺った。
その眼差しに気付いた市井は優しい顔つきで承諾を示唆する様に軽く頷く。
市井は後藤が教育係になる事に関しては全面的に賛成であった。
彼女にとってそれが必ず貴重な経験になると思ったからだ。
まさしく自分がそうであった様に。
(市井ちゃんは賛成か…)
同じ体験をすれば憧れのこの人に少しでも近づけるだろうか?
そんな想いが後藤の脳裏を掠めた。
- 243 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時06分35秒
- 「だから…」
「自分も教えて、自分も学べれば一番いいよね!」
後藤が悩んでいる間、中澤が言葉を選んでいるとその先を飯田が代弁してくれた。
(ナイス!カオリ!)
心でそう思いながら中澤は相手の反応を待つ。
「……うん。やっぱ、さっきの対戦見てた時に、なんか、ちょっとまだなあって
感じがあったからなあ…」
やや間が空いたが、市井の勧めに刺激されて段々その気になってきた後藤が少し
先輩風を吹かした。
その様子を見て中澤は説得を続ける。
「後藤も最初そうやったからこそ、わかる事とってやっぱあるやんか。そうやって
そういうの教えてってあげれば、いいと思うし」
「うん」
素直に返事をする後藤に中澤はもはや彼女が自分の術中にはまっている様に思えた。
そこですかさず最終確認を取る。
「やってみる?」
「うん」
後藤がその確認に頷く。
(よっしゃぁ〜!!)
後藤の承諾に、自身の策略の一端を成功させた中澤は内心でガッツポーズを
していた。
- 244 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時07分57秒
- 「じゃあもう一人の辻さん?カオリ、教えよっか?」
すると後藤の就任が決定した直後、何を思ったのか、飯田が辻の教育係に立候補した。
「えっ!」
中澤はその意外な言動に驚きの声を上げる。
「な〜んでよ!」
それを聞いた飯田が心外とばかりに声をあげると他のメンバー達からは笑い声が
もれる。
しかし最初こそ驚きはしたが中澤の決断は早かった。
本人が折角やる気になっているのだ。無下にする事はない。
それに更に言うならば、彼女の中ではここで立候補しなくとも飯田にも(教える
のは誰でも良かったが)やってもらう事がすでに決定していたからだ。
「じゃあ、辻はカオリに頼むわ」
「任せてよ」
他のメンバー達が若干の心配を感じるのとは裏腹に飯田は自信ありげな笑顔で
応えた。
- 245 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時08分42秒
- これで年少組の教育係は決定した。次は後藤と同じ歳の二人。
「あとは石川と吉澤か…。こっちは五人おるけど、隊長のあたしと副隊長の
なっちは例の如く娘。全体をまとめなあかんからはずさしてもらうとして…」
三期生(すなわち後藤)の教育係を決める時にも聞いた中澤の台詞に安倍、飯田、
保田、矢口、市井は納得するが、当然初めて聞いた後藤だけはハッとなる。
5分の2と3分の2ではだいぶ確率が違ってくるではないか!
中澤と違って計画的ではないが、後藤にもある思惑があったのだ。
「となると残るは圭ちゃん、紗耶香、矢口――」
「市井ちゃんはダメェーー!!」
中澤が全てを言い終わらない内に後藤が突発的に叫んだ。
「ちょっと、後藤――」
「市井ちゃんは少し黙ってて!」
市井が何か言おうとしたがこれも後藤に遮られる。
そこには有無を言わさぬ迫力があった。
- 246 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時10分07秒
- 「は、はい…(後藤さん、怖いっす)」
一喝されてスゴスゴと引き下がる市井。
「後藤、なんで紗耶香はあかんの?」
中澤がとりあえず理由を冷静に問う。
(ま、反対する理由は大体分かるけどね…)
それを察している市井は今回はひとまず後藤の気持ちを汲み取り、口出しを止めた。
そして尋ねた中澤も本当はその理由が分かっていた。彼女は話し合いに持ち込む為、
分かっていて敢えて尋ねたのだ。
「言いたくない。でもダメー!」
「しかしなぁ、後藤――」
「ダメったらダメェーー!!」
(チッ!)
問答無用のその態度に中澤は心の中で舌打ちする。
これでは話にならない。
順調かとも思えた彼女の計画の前に、ここに来て大きな障害が立ち塞がった。
- 247 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時11分24秒
- :
実は、中澤には今回の教育係を決めるに際して当初より一つの企みがあった。
彼女も矢口を新メンバー達の教育係には就けたくなかったのである。
理由は至極簡単だ。
何故ならすぐ身近に市井と後藤という分かりやすい前例が存在する。
この二人を見ていれば、教える者と教わる者、その間に特別な感情が生まれても
不思議ではない。よしんばそこまでいかなくとも他の先輩メンバー達よりも親密度が
あがるのは火を見るより明らかだ。矢口を慕う中澤にとってそれは絶対に避けたい
事態である。(無論、後藤の反対も同じ理由によるものだ)
- 248 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時12分05秒
- だから、そこでまず最もらしい理由をつけて一番引き受けそうもない面倒臭がりの
後藤を慎重に説得した。
思っていたよりこれは順調に進み、見事成功。
飯田が立候補したのは意外だったが渡りに船だ。もし仮に立候補しなくとも、人に
頼られると弱い彼女を受ける様に言い包める自信はあった。
後は市井と保田に頼んでしまえば万事上手くいくはず…であった。二人の性格上、
頼めば断らないのは計算済みである。
後藤が市井を教育係に就けるのに反対するのも大方予想もしていたが、ここまで
強固とは…
:
- 249 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時13分18秒
- 沈黙がブリーフィングルームを支配し、中澤と後藤の間に張り詰めた空気が
漂い始める。
(ぐっ!こいつ、年下のくせになんちゅー迫力や)
眼前の16歳の少女が放つ、今日の石川との対戦前に発していたものと同質の
オーラに中澤は圧された。普段が惚けてるだけにこういう時の後藤は妙に怖い。
そのプレッシャーに後藤以外の全員が戦場でもないのに味わう緊迫感。
- 250 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時14分50秒
- 「あ、あのー、じゃあさ、とりあえず石川はあたしが面倒みるよ」
ブリーフィングルームが静まり返っていただけにその声がやけに大きく聞こえた。
リーダーに次ぐ年長者の保田が、なんとかこの雰囲気を変えるべく石川の教育係
を勝手出たのだ。
状況を考えれば自分が引き受けなければならないのは必然だし、何よりも以前から
やりたいと彼女も望んでいた。
只、保田としてはもっと居心地の良い場でこうしたかったのだが。
「ほら、いきなり後藤に挑んだりして、見た目と違ってちょっとは根性
ありそうだしさ〜」
できるだけ明るく二人の内で石川を選んだ理由を付け加える。
「そ、そうか。じゃあ石川は圭ちゃんに任せる」
こちらから依頼する前に保田が自ら立候補してくれたにもかかわらず、後藤に
気後れしていた為、中澤にはそれを喜ぶ余裕がなかった。
(あかん、何とかせな。このままじゃ分が悪いで)
保田に返事をしている間にも頭の中では対後藤戦への次の手を考えている。
この時、もし中澤に心のゆとりがあったのなら場の雰囲気は変わったであろうが、
保田の心遣いも空しく、結局それは叶わなかった。
- 251 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時15分44秒
- そして残るは吉澤のみ。
最後の一席をめぐって中澤と後藤が再び対峙する。
先に動いたのは中澤だ。
「ごっちん」
「何?」
「ほな、あたしとごっちんでジャンケンで決めよ。『ジャンケンピョンの〜♪
ジャンケンピョン♪』なんちゃって。な!そうしよ!」
先程後藤に心を怯まされた(早い話がびびった)中澤は、この相手を怒らせる
のは得策ではないと悟り、できる限り優しく、おどけてみせながら懐柔策を
持ちかけた。
因みに彼女のデータとして後藤が比較的ジャンケンに弱い事がインプットされている。
当事者である市井と矢口を差し置いて何故この二人がジャンケンするのか?
後藤と中澤以外の五人皆が疑問に思ったが、二人(主に後藤)から発せられる
只ならぬ雰囲気に誰もそれを口には出せない。
しかし、その提案にギロッ!と後藤が中澤を睨む。
(うっ!)
睨まれた中澤はその鋭い眼光に自らは望まない生命の危険を感じた。
これ以上続けては後藤に殺(や)られる。
だが、ここはなんとしても踏み止まらなければ…
- 252 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時16分39秒
- (やれやれ仕方ない。ここはあたしが折れるか…。後藤には…後で納得してもらおう)
そんな二人の様子を見て、市井が自分が引き受けようと覚悟したその時
「しょーがない。吉澤さんは矢口がみるよ」
同じく事態を見兼ねた矢口が一足早く吉澤の教育係になる旨を申し出た。
「矢口!」
すぐに中澤がその発言を制止すべく叫ぶ。
「だってさぁ〜紗耶香に続けてやらせるのも可哀想じゃん」
矢口が今まで事を静観していたのは、別に事前に中澤と打ち合わせていたからではない。
その付き合いから彼女も中澤の意図を見抜いて発言を控えていただけだ。
しかし、このままでは状況は悪化するだけなので、流石に黙っているのにも気が引けて
きていたし、述べた通り自分が引き受けねば連続で新人を任させられる羽目になる
同期の親友への同情もあった。
- 253 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年01月26日(土)03時17分47秒
- 「やぐちぃ〜」
今度は泣きそうな声で訴える中澤に対して、彼女の気持ちを理解している矢口は
安心させる様に笑顔をつくる。
「大丈夫だよ。矢口を信用してよ!」
無論信用はしている。しかし矢口にその気がなくとも吉澤がそうだとは限らない。
中澤は尚も引き下がろうとしたが
「じゃ、吉澤さんの教育係はやぐっつぁんに決っまり〜!!」
後藤が先程までとは打って変わった満遍の笑みで決定事項にしてしまった。
:
こうして七人の中から新メンバー達に教育係が一人ずつ就く事が決定。
加護には後藤、辻には飯田、石川には保田そして吉澤には矢口が各々教育係に
就任した。
中澤裕子、悔し涙 ぽろり。
- 254 名前:作者です 投稿日:2002年01月26日(土)03時19分45秒
- 更新です。四期メン教育係決定の模様をお送りしました。
最初の方に記載した設定通り、何のひねりもなく現実の娘。と同じ組合せです。
今回前半部は当時のASAYANでの放送を元ネタとして使ってます。
そんな1年半以上(もう2年近いか)前のこと憶えている人も少ないと思いますが…
ってゆーか、今時こんな古いネタで書いててもいいんだろうか?
>>236
レスどうもありがとうございます。
後藤、今回も市井がらみでちょこっと暴走気味です。
あとこちらこそ毎回待っていただいて感謝です。
>>237
レスどうもありがとうございます。
読者様が忘れた頃ひっそりと更新してます。(w
(私の更新が遅いだけで笑い事ではありませんね。すいません)
今回、四期生の出番はありませんでしたが、次回からまたちゃんと登場します。
>>238
レスどうもありがとうございます。
毎回お待たせしてすいません。
- 255 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月27日(日)13時36分40秒
- 今回もごまがかわいかったです
他にもラブラブになるカップルがでてくるのかな?
- 256 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月11日(月)12時25分14秒
- 今回もよかったです、
おもしろいので自分は続けてほしいです(w
頑張ってください
- 257 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月21日(木)22時36分18秒
- まだかな…。
- 258 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月09日(火)18時23分05秒
- 続き待ってます。
- 259 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月09日(木)17時52分11秒
- がんばれ
- 260 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月17日(月)21時54分25秒
- 保全
- 261 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年06月17日(月)22時00分51秒
- 新メンバーが入隊して二週間程が過ぎ、11人体制もそろそろ板に付いてきたある日の事。
当面のやる事を大旨終了させた矢口と吉澤は休憩がてら艦内のラウンジにやって来た。
中に入ると既に安倍、市井、後藤、加護が、陣取ったテーブルにお菓子を広げて談笑して
いた。四人は二人が入って来たのに気付いて、手を上げて呼び寄せる合図を送った後、
すぐに会話を再開する。
ちなみに残りの中澤、飯田、保田、石川、辻の五人はブリッジだが、これも勤務上の事で
通信、レーダー監視以外に別段やる事もないあちらでも同じく雑談が繰り広げられている
ことであろう。
- 262 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年06月17日(月)22時01分24秒
- ラウンジにあるテーブルは四人で定員一杯なので、後から来た矢口と吉澤は安倍達の
すぐ隣のテーブルに向かいあって座った。
「どぉ?もうだいぶ慣れた?」
安倍を中心にすでに盛り上がっている隣を横目にしながら矢口が吉澤に尋ねた。
教育係が決定した日以来、その関係上、この二人が一緒に行動する機会は多い。その際
に当然とも言うべく矢口は先輩として吉澤を気遣っていた。この言葉も彼女のそんな
気持ちから出たものである。
「はい」
吉澤はその問いにはっきりと答えた。
初めは先輩達の談笑の場にいても聞いているだけだった新メンバーも、最近では自然に
会話に入ってこれる様になった。そして仕事の面でも、各々の教育係の熱心な指導も
あってか、徐々にこなす事が出来てきている。
- 263 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年06月17日(月)22時02分28秒
- 「でもさ、モーニング娘。って一応軍隊じゃん。だけど…なんて言うか、ほら、随分ノリ
が軽くって…。ちょっとびっくりしたというか……呆れたんじゃない?」
吉澤の返事の後に隣で発生した自分より年上だが童顔である親友のハイテンションな
笑い声を聞いて、何故か申し訳なさそうに矢口が再度尋ねた。
最も言っている本人も普段は安倍と互角に騒がしいのだが。
「そんな事ないですけど…私、ここも普段からもっと厳しい所だと思ってました。
養成所では夏先生とかやっぱ厳しかったですし…」
- 264 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年06月17日(月)22時03分35秒
- 「ねぇ、二人でなに話してんの?」
ここで吉澤が完全に話終える前に、なんの前触れもなく隣のテーブルの後藤が二人の
会話に割り込んできた。知らぬ間に安倍の話も一区切りついていたらしい。
「えっ! いや、モーニング娘。が軍隊らしくないって話」
唐突な後藤の乱入にほんのちょっぴりだけ驚きながら矢口は彼女の質問に答えた。
「あぁ〜、後藤も入ったばっかの時は思ったよ。『こんなんでいいのー?』みたいな」
話を理解した後藤は、それを聞いた相手から本当にそう思っていたのかと疑問視される
ほど暢気な声で当時の感想を告白する。
(お前が思うのかよ!)
入隊時から何処となくボーっとしていた後藤を知る矢口は、それに対し心の中で激しく
つっこんだ。
- 265 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年06月17日(月)22時04分39秒
- 「普段からピリピリしてたらとても神経がもたないしね。ま、これでいいんじゃない」
その後藤の感想を受けて市井も会話に加わる。
緊急事態が起こらなければ、モーニング娘。の通常勤務はさほど大変なものではなく、
今の様に一日の大半を雑談・娯楽で過ごしたりする時もある。なので普段の娘。達には
矢口の言葉通り、軍隊と言う集団が持つ独特の張り詰めた雰囲気がほとんど無かった。
それでもその雰囲気が彼女達全員に良い方向に働いているのも事実である為、司令の
つんくもリーダーの中澤もそれを変えようとは思っていない。
だがそんな彼女達も当然毎日を遊んで過ごしている訳ではない。自由になった
時間で個人各々がスキルを磨く努力も人一倍しているのだ。
「私も今のまんまの方がいいですよー」
次にそう言ったのはこの場のもう一人の新メンである加護だ。
その右手に食べかけのクッキーを持ちながら話す彼女の様子には確かに
緊張感の欠片もない。
- 266 名前:スペースヴィーナス 投稿日:2002年06月17日(月)22時05分14秒
- 最後に一連の話の流れを聞いていた安倍が口を開く。
「確かに普段はこれでいいんだと思う。みんなの仲がいいのは嬉しいことだもん。
でもね、やるときはやる!っていう気持ちを忘れたらダメだよ。普段はリラックスして
ても仕事の時はそれを切り替えてビシッ!とやる。それが大切さ。吉澤も加護もそこん
とこ誤解したらいかんよ。二人とも実戦はまだだからあまり実感が湧かないかも知んない
けど、私達は大切なものを守るため命を賭けて戦ってるの。だからこそ、いざという時の
失敗は絶対に許されない!私達の誰かが一人でも欠けるのはすごく悲しいことだから…。
それを忘れず、まずは自分なりに一生懸命頑張って欲しいな」
先程雑談していた時とはうって変わった真面目な顔で新メンバー二人を諭す安倍。
その言にはオリジナルのメンバーだからこその重みが感じられた。
「そーゆーことかな」
そして市井が静かに安倍を肯定する。
これに対し吉澤も加護も神妙な面持ちで頷いた。
- 267 名前:作者です 投稿日:2002年06月17日(月)22時06分33秒
- >>255-260
この度は更新が大変遅れまして誠に申し訳ありませんでした。
また、続きを待っていてくださった読者様方に慎んで御礼申し上げます。
- 268 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月19日(水)21時14分49秒
- 良かった。待ってましたよ〜。
これからも作者さんのペースで頑張って下さい。
ゆっくりお待ちしてますんで。
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