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greenage

1 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月17日(木)22時12分22秒
 心の広い方、お時間のある方はお付き合いください。

 後藤さんメインの、王道ものです。
2 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月17日(木)22時13分43秒
 ゴールデンウィークも終わり、まだ5月とは思えないほどの気候のある日の夕方、とある喫茶店。
学校帰りの学生や、カップルなどで、席は半分以上うまっている。
店内の人々の意識は、店のほぼ真ん中に位置する1つのテーブルに集まっている。





 目の前には、ほとんど口がつけられていないロイヤルミルクティー、
そして、肩を上下に揺らしながら泣いている少年。



 はぁ・・・ なんでこんなことになったんだろ。

「ウッ、・・・・ッング、・・・・なんでだよぉ真希〜・・ウッわかれたくないよぉ〜」

「・・・・・・・」

 あ、あの壁際の席の女2人組みこっち見て何か言ってるよ。しかも笑いを噛み殺した顔で。やな感じ。
人の不幸は蜜の味だったっけ・・・・。よくいったもんだ。
っていうかさ、いい年した男が泣いてるのってはじめて見たかも。しかも声だして。
この人、恥ずかしくないのかな。
はじめは、顔もカワイイし、背もまあまあ高いし・・・・(クリスマスが近かったのもあったんだけど)
ちょっといいかな〜と思って付き合い始めたんだけど、最近は、・・・なんか・・・・なんか違うんだよね。
3 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月17日(木)22時14分45秒
ティーカップに手を伸ばし、持ち上げようとしたが恥ずかしさからか手が震えてしまって
ソーサーとカップがぶつかり合い、カチャカチャと音を立ててしまう。

「なんか・・・・あのね、なんていったらいいのかなぁ・・・・・。なんか・・・、その〜・・・」

「ッウ、 ほかに好きなやつができたのか?・・・ック・・・・」

「そういうわけじゃないんだけど・・・・・・」

「じゃあ、なんでだよっ!!」

「・・・・」


しばらく沈黙が続く。実際にはそうではないかもしれないが、やけに長く感じる。
沈黙を破ったのは、もう泣くのはやめた彼の信じられない言葉だった。


「ホワイトデーのときお前にやったリング、いくらしたと思ってんだよ。お前がくれたのチョコだけだったんだぜ。
もらえるもんもらったら、もう用ナシかよ。」


はあっ、信じらんない。あの時手作りだってよろこんでたじゃない、しかも『もったいなくて食べれないよ』とまで言ってたじゃない。
あたしは、あまりの展開に言葉も出ない。   ・・・今度は逆ギレかよ・・・。


あたしに恥をかかせようとしているのだろう、わざと周りに聞こえるようにしゃべっている。
「それだけじゃねーよ。映画とかメシ代とかさぁー、ほとんど俺のおごりだったよなー。お前当たりまえだと思ってんだろ。」


なにいってんのこいつ。あたしは割り勘にしようっていってたっつーの。それをあんたが、カッコつけたいだけで、おごるって押し切ったんでしょーが。
あたしはちゃんとその度にお礼も言ってたしっ。


親や友達によると、あたしの性格は超マイペースらしい。多分そのとおりだ。少々のことは、まぁいいかですませられる。
だから15年間生きてきて、こんなにムカついたことはなかった。


あたしは怒りと恥ずかしさばかりが込み上げてきて、言葉が出てこない。
視界の端に映った例の壁際の女2人組みの口が「カワイソー」と動いたのがわかった。
4 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月17日(木)22時15分57秒
ああ、絶対今あたし顔、真っ赤なんだろうな。同じ学校の子がいたらどうしよう。明日の朝にはもうすでに広まっちゃうよ。
女子高だから噂が広まるスピードはめちゃめちゃ速いし、話も3倍くらいおおげさになっちゃうんだよ。多分。
そんで、友達には「人のうわさも75日っていうじゃん」って慰められるんだよ。でもさぁ、75日間なんて長すぎるっちゅうの。
もう、帰りたい・・・・。

ん?ゲッ、あの制服ウチの学校のじゃん。
斜め前の窓際の席にいるあの女の子、見たことないしあの制服の着慣れた感じは2年生か3年生だろうな。
明日から75日間か・・・・。サイアクだ・・・・・。


あたしはそんなことを思いながら、彼女のテーブルの上のアイスティーのグラスが、
汗をかいて水滴が流れ落ちるのをなんとなく見ていた。
・・・そうだ、あのグラスが倒れたら、他の客はそっちを見るのにな・・・その隙に逃げ出したりして・・・
・・・そんな、都合のいいことないって。はぁ〜ぁ。
ゲッ・・目、あっちったよ。
あたしはとっさに目を下にそらす。
5 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月17日(木)22時16分52秒
が、次の瞬間彼女の肘がグラスに当たり、音をたてて倒れた。

そして、あたし達に集まっていた他の客の注目は、そちらに集まる。

ウエイトレスが近よってくると、彼女は立ち上がり頭を下げて謝っている。
そして、ショートヘアーの黒髪をかきあげながら顔を上げるとあたしのほうを一瞬みた。
すぐに目はそらされたが、その一瞬に彼女が微笑んだのをあたしは見逃さなかった。

ウエイトレスが、片付け終わると彼女は会計を済ませ店を出て行ってしまった。


その出来事でさっきまであたし達に集まっていた店内の意識は、それぞれ他にそらされてしまったみたいだ。



 ガタッという椅子の音で、彼が席を立ったのに気づく。テーブルの上の伝票はそのままに・・・・・。

「今までさんざん俺が金だしてきたんだから最後くらいコーヒー代出せよな。お前が呼び出したんだし。」
店中の注目が反れたから、これ以上は意味がないと思ったんだろう。
ヤツはあたしを一瞥すると、そう言い捨てて席を離れた。


ホントならその捨てゼリフでまた怒りが込み上げてくるんだろうけど、あたしはさっきの彼女の一瞬の微笑が頭から離れなくて
あんまり腹も立たなかった。
6 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月17日(木)22時17分24秒
  あれって、多分わざと倒したんだよね。だってあの人あたしのほう見て微笑んだもん。
いやなカンジの笑い方じゃなくて、なんか・・・優しいカンジのフッていう微笑だったもん。
それになんか肘の動き方が不自然だったような・・・・・・。
わざとだとしたら、よっぽどあたしは哀れに見えたのか、それともあいつがムカついてしょうがなっかたとか・・・・・?
それとも・・・ありえないけどあのひと超能力者であたしの心の中読んだとか。じつは、あたしが超能力者?・・・それはないか・・・・。
う〜ん、どっちにしても助かったんだからまぁいいか。

でもさぁ、ああいうこと普通にできちゃうのかっこよすぎるよねぇ。
それに、それがハマってしまうあのルックスもかなり・・・・。

いやいや、なに考えてんだヤバイじゃん、あたし・・・。
7 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月17日(木)22時18分26秒


翌日、いつものごとく始業時間ぎりぎりで教室にすべりこんだあたしは窓際にある自分の席についた。

「ちょっと真希ーっ、昨日大変だったんでしょー。修羅場だったんだって?」

席についたとたん、あたしがくるのを待っていたような勢いで隣の席の子が話かけてきた。

「へっ・・・・な、なんで知ってんのさ。」

あ然として言葉も出ず、口をあけたままのあたしに、彼女はまだしゃべりかけてくるが、
あたしはその言葉も耳に入ってこない。

昨日、この子あの店にいなっかたよね。
だとしたら・・・・・あの人が誰かに話したってこと?
そんなはずないよ・・・、だってあの人あたしのことかばってくれたもん。
・・・でも他に同じ学校の子いなかったよね・・・・全部あたしの勘違いだったの?



一時間目が終わって、移動教室のために廊下を歩いている。

いつもは感じない視線をあちこちから感じる。
あ〜あ、やっぱ広まってんじゃん。サイテーだよ。
見るからにウザそうな顔をしているあたしに、隣を歩いている友達が声をかける。

「ごっちん、人のうわさも75日って言うじゃん。気にすることないよ。」

「よっすぃー、やっぱりそれを言うんだね・・・・」

「はぁ?」

訳わかんないって顔をしているよっすぃーに、説明する元気もなかったから、ごまかすように続けた。

「それにしても、だれがいいふらしたんだろ?」


喫茶店の彼女は2年か3年だろうから、上級生にまで広まってんのかな?ということはこの視線の2倍か3倍ってことか・・・。
それよりも、あの彼女。ちょっといいなと思ってたのに。がっかりだよ。
でも・・・・彼女がしゃべったんじゃないのかもしれないし。
よし、確かめよう。・・・確かめなきゃ。

普段なら「めんどくさい、どーでもいいよ」で終わっちゃうあたしだったけど、なぜか今回はそれで済ますことはできなかった。
8 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月17日(木)22時19分38秒
お昼休み、あたしはまず2年生に知られているかどうかを調べるために3階にある2年生の教室へむかう。
が、やっぱりさすがのあたしでも2年生の教室へは行きづらい。
(ちなみに1年の教室は4階で3年は2階です。)

「あれ〜、ごっちんじゃん。ど〜したのぉ〜」

階段の下で、うろうろしているあたしに独特の声で話かけてきたのは中学のとき仲の良かった先輩だった。

「あっ、梨華ちゃん。いいところへ・・・・・あのさぁ〜、あの〜えーっとねー」

「なぁに〜、ごっちん。まえからはっきりしゃベんなかったけどさぁ〜、変わってないよねぇ〜」

・・・梨華ちゃんの余計な一言も変わってないよ・・・・。

あたしは、梨華ちゃんが昨日ことを知っていたら話題にしてくるだろうとしばらく世間話をしていたが、
いつまでたってもその話題はでてこなかった。
途中、梨華ちゃんの友達も加わったが結局どうでもいい世間話で終わってしまった。

梨華ちゃんと話している間、他の2年生が横を通り過ぎていったけど、別にあたしを気にするひとはいなかった。

2年生にはしられてないみたいだ。次は3年生か・・・・。
3年生の知り合いは、と・・・・あ、いるじゃん。まずはあの人に探りを入れよう。
9 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月17日(木)22時21分05秒
「あっ、いた。飯田先ぱ〜い」

あたしは、廊下の窓辺に一人たたずんで黄昏てる先輩に声をかけた。(あいかわらずだなぁ・・・・。)

飯田先輩は中学のときに入っていた美術部の部長だった人だ。
別に絵を描くのが好きなわけじゃなかったんだけど、必ず何かの部に所属しなければいけなかったので、
しかたなく一番楽そうな美術部に入部したのだ。
やる気のないあたしはよくサボっていたので、飯田先輩には目をつけられていた。

ちなみに、さっきの梨華ちゃんも美術部の先輩で(テニス部と掛け持ちで入ってたらしい)、飯田先輩もかわいがっていたみたい。
飯田先輩、健気でがんばる子が好きだから・・・。だから、あたしが逆に目に付いてたんだろうけど・・・。
まぁ、梨華ちゃんにも、時々例の余計な一言で、飯田先輩からキツイつっこみがはいってたけど。


「どしたの、後藤。もしかしてわざわざ入学後のあいさつにきたのぉ。いい心がけじゃん。まぁくるんならもっと早くくるべきだけどぉ。
カオリの説教も無駄にはなってなかったんだねぇ。前から言ってたでしょう、後藤はさぁ目上の人間に対する態度がさぁ―――」

「・・・・・(やっぱりこの人に聞くのは間違ってたかな)」

それからさんざんあたしは飯田先輩の説教を聞かされたんだけど、やっぱり何にも例の件は出てこない。
もし、飯田先輩が知っていたら真っ先に説教のネタにされるだろうし・・・・・。

3年生にも知られてないとすれば、やっぱり喫茶店の彼女は、誰にも言ってないんだよね。

あたしは妙にさっぱりした気持ちで自分の教室に向かった。・・・・・・でもなんで彼女じゃないと思えたら
こんなに気持ちが楽になるんだろ。1年生の間にはこのことひろまってんのに・・・・・。
10 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月17日(木)22時22分04秒
休み時間の終わりを知らせる予鈴が鳴り、
教室に戻るとよっすぃーがちょっと怒ったような顔でこっちに向かって歩いてくる。

「ごっちん!どこ行ってたんだよ。探したんだよ、もう」

「いや〜、ちょっとねぇ」

「まったく〜。あっ、それよりさぁ、あの事広めた犯人わかったんだよ!C組のね・・」

「えっ、よっすぃー犯人探してくれてたの?」

「だっ、だってムカつくじゃん。人の不幸をさぁ、面白がってさぁ・・・」

犯人の女は隣のクラスの子で、あの店に同じ時間にいたらしい。多分私服だったから気付かなかったんだ。
でもあたしは正直言ってもう誰がしゃべったのかなんてどうでも良かった。
あたしが知りたかったのは、喫茶店の彼女がしゃべったかどうかだったから・・・・。
そして、よっすぃーがあたしの事で怒って犯人探しまでしてくれたことがとっても嬉しかったからさ。


「ありがとね、よっすぃー。でももういいよ」

「も、もういいって、なんで?」

「いやさぁ、犯人はもうどうでもいいんだ。というかさぁ、どうにもなんないじゃん。そのことより
・・・・・他の人を一緒に探してほしかったりするんだよねぇ」

「ほかのひと・・・?」


 彼女が犯人じゃないとわかったあたしは、今度は彼女が誰なのかが知りたくなったのだ。
あたし一人で探すよりも頼りになるよっすぃーが協力してくれれば、ずっと早いはずだ。

あたしは昨日の出来事をぜんぶよっすぃーに話した。
でも、彼女のことが気になって仕方がないという事は話さずに、会ってお礼がしたいということにしておいた。
実際、ちゃんとお礼言わないといけないとは思うし・・・それにこぼしたアイスティーのお詫びとかさ・・・・。
11 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月17日(木)23時35分21秒
?レスしていいのかな?
王道!いくらあっても読み足りないんで凄く楽しみにしてます!
しかも学園物だし面白そう
頑張って下さい
12 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月19日(土)21時31分24秒
面倒見の良いよっすぃーは案外こういうことが大好きらしく、乗り気だった。

「よしっ、じゃあさ、放課後に作戦会議しようよ。あたし図書委員のカウンター当番があるから、図書室でしよっか。
どうせそんなに人こないだろうから。あっ、でもウチ、そのあと部活に行かなきゃなんないんだけど。」

さ、さくせんかいぎですか・・・。ちょっと大袈裟な様な気がするけど・・・。よっすぃー楽しんでるでしょ・・・。

「・・・・いいよ、じゃあさ、図書室締まるまで待ってるから一緒に帰ろうよ」

「じゃぁ、放課後ね〜」


5時間目の始業のチャイムが鳴りよっすぃーは、自分の席に戻っていった。
13 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月19日(土)21時31分58秒
そして、放課後。

「よっすぃーさぁ、カウンター当番ってひとりでするのー?」

図書室へ向かう廊下を並んで歩きながらよっすぃーに話し掛けた。

「んー。一応A組のこと2人なんだけどさぁ、全然喋ったことないしね〜。あんまり人も来ないし暇でさぁ」


・・・・・そういうことか、暇だからあたしを話し相手にしようと思ってるんだね。まぁ、協力してもらう立場だから
文句なんて言えないし、いいんだけどね。

「あっ、それともう一人3年の委員長がいるかもしんない。だいたい放課後はいるんだよね」

「そしたらあたしが一緒じゃ、怒らんないかなぁ」

「だいじょぶでしょ、委員長っていってもそんな真面目〜ってカンジじゃないんだよ。サッパリしてるし
・・・それに図書室にいくのもさぁ、本とか仕事目的じゃなくて、ただまったりするだけなんだよね〜」

あたしたちが図書室に入ると、まだもうひとりのA組の子はきてないみたいだった。
2人でカウンターの中に入り椅子に座ろうとしたとき、奥の司書室のほうから声がした。


「おう吉澤、いいとこにきた。ちょっと運ぶの手伝ってくんない?」


声のしたほうを振り返る。入り口から顔をのぞかせていたのは、おそらく図書委員長の3年生だろう。
よっすぃーに向けられていた視線は、一瞬あたしのほうに向けられたがすぐにそらされ、奥に戻っていった。

そう、あの時みたいに・・・・・。
14 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月19日(土)21時32分29秒
よっすぃーは「うぃ〜す」と間延びした返事をしながら司書室にはいっていった。開け放したドアの奥からは2人の話し声が聞こえる。

あたしはといえば、後ろを振り返った姿勢で彼女がいた入り口を見つめたまま動けなかった。

よっすぃーごめんね。作戦は、会議をはじめる前に終わってしまいました。


だってさぁ、ターゲットの彼女は、今、君の目の前にいて会話している、その人なんだもん・・・・・。
15 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月19日(土)21時33分04秒
「どしたのごっちん。座ってていいんだよ」

こっちに戻ってきたよっすぃーは、突っ立ったままのあたしを見て怪訝そうな顔をしながらいった。
そして思い出したような顔をして続ける。

「それよりさ!作戦会議はじめようよ。あ、向こうの部屋には話し聞こえないからさ。先輩、めずらしく中で
なんか仕事あるみたいだし。A組の子もこれないみたい。今誰も来てないし・・・」

「へっ、あぁ・・・うん。そだね。・・・あ、よっすぃー、委員長さんあたしのことなんかいってた?」

「あぁ、友達連れてきちゃいましたって言ったら、『ふうん』って。別に怒ったりはしてなかったよ」

「そっか・・・。他には?」

「別に何にも。何?なんかあんの?」

よっすぃーは興味津々ってカンジで聞いてくる。

「実はさ、見つかったんだよね。例の人」

「い、いつの間にぃ。ごっちん一人で探してたの?あたしに協力してっていったじゃん!」

よっすぃーがちょっと怒ってるみたいだったから、慌てて言った。

「ちがうのっ、そうじゃなくて、あのさぁ・・・・あの人なんだよ」

「はぁ、あのひと?よくわかんないんだけど」

「だからー・・・さっきのさ・・・。・・・・委員長さん・・・」

よっすぃーは、「まぁじで〜」と大きな瞳をさらに大きくして驚いた。
16 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月19日(土)21時34分31秒
そりゃ驚くよね。あたしたちが探していた人が、こんなにあっさり見つかって、さらにその人がよっすぃーが良く知ってる人だったんだもん。


「と、いうことで、作戦は終了ということになっちゃいました」

あたしが頭をペコリとしながら言って、よっすぃーのほうを見ると
よっすぃーは残念そうな顔をしているだろうと思ったら、ニヤニヤしながらこう言った。

「いや、まだ作戦は終わりとはいえませんねぇ。作戦は、第二段階に移ります。
名付けて『ごっちんと先輩を仲良しさんにしよう作戦』!」

今度はあたしが目を丸くして驚く番だ。

「なっ、なにそれ!あたしはただ会ってお礼がしたいってだけだしっ!・・・仲良しさんってなによ・・・」

あたしはだんだんと声が小さくなりながらも反論した。
しかし、よっすぃーはニヤニヤ顔を崩さずにあたしの肩をポンポンと叩いている。

「隠さなくてもいいよ、ごっちん♪わかってるから。うんうん、先輩かっこいいもんね〜。
あのルックスでかっこよくピンチを救われたらさぁ、誰でも好きになっちゃうよ。
ごっちん、ここは女子校だよ。中学も女子校だったあたしからみて、ごっちんの目はウチのことを見る一部の後輩と一緒だね。
先輩も多分慣れてると思うから、大丈夫だよ。あたしが協力してあげるって」

「・・・・・・・」

・・・よっすぃー、面白がってないか?
それにさ、よっすいーは慣れてるかも知んないけどあたしは初めてなんだよね、こういうの。
17 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月19日(土)21時35分53秒
よっすぃーは黙ってしまっているあたしに、聞いても無いのに、先輩のことをいろいろ教えてくれた。

まずは、あたしがいちばん知りたかった彼女の名前。「市井紗耶香」(・・・さやかってちょっとかわいいかも・・・)
よっすぃーは、カウンター当番のローテーション表みたいのを見してくれながら漢字まで教えてくれた。
それから、市井先輩のクラスとか、よっすぃーからみた市井先輩の性格とか。



「吉澤〜、もういいよ。部活あるんでしょ。あたし残ってるからさ。」

ガチャッとドアが開く音の後に、市井先輩が本を小脇に抱えて出てきた。

あたしの心臓は、条件反射的に高鳴り始めた。


「そうですかぁー、じゃあお願いします。あっ、あと先輩、この子一緒に帰る約束してるんで、ここで待っててもらっていいですか。
先輩が帰るまででいいですから。」

「別に、かまわないよ」

「じゃあ、あと頼みますねー。イロイロと」

よっすぃーは、何にも言えずに口をあけて自分のことを見つめているあたしに、目配せをして出て行ってしまった。
18 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月19日(土)21時36分57秒
「イロイロってなんだよ。変なヤツだな」

先輩はそういいながら、さっきまでよっすぃーが座っていた席、つまりあたしの隣に座った。

「あのっ、先輩が帰る時間になったら言ってください。すぐに出ますから」

「ああ、いいよ。どうせ吉澤の部活終わるのってあと2時間もないでしょ。ゆっくり本でも読んでいきなよ。
あたしもそのくらいまでは居るつもりだったし。今日、司書の先生出張で戸締り頼まれてんだよね。」


もしかして気を使ってくれてるのかな。・・・・あっそうだ。肝心な事を忘れていた。

喫茶店での事。

でも先輩、あたし見たとき別に普通だったし、忘れてんのかな。あのときのこと。
あたしはそんなことを思いながら、先輩の横顔を見つめてしまっていた。
そして、あたしの視線を感じたのか、先輩は資料を整理しながら、視線も手元を見たまま言った。
19 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月19日(土)21時37分36秒
「・・・・昨日はあれからすぐに帰ったの?」

「えっ!あっ、ハイ・・・」

「まあそうだよね、もうあの店にはいけないってカンジでしょ?」

「はい・・・あ、あの・・」

やっぱりあたしだって気付いてたんだ。でもいざ当人を目の前にすると、言いたかったことがなかなか出てこない。
次の言葉が続かないあたしを、先輩は手を止めて、ん?という顔で見ている。

「あの・・・・なんか、・・・ありがとうございました。」

「ありがとうって?」

「・・・・昨日の、あれわざとですよね。・・・あたしのことかばってくれて・・・飲み物こぼして、周りの注目
そらしてくれたんですよね・・・彼もそれですぐ帰っちゃったし・・・だから・・・助かりました・・・」

「・・・・」

先輩は何も言わない。・・・やっぱりあたしの勘違いだったのかな。でも、手の動きが不自然だったと思うけど・・・
・・・どうなんだろ。
20 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月19日(土)21時38分15秒
「・・・だってさ、見てたでしょ。あたしのほう。こう・・・『あのグラスが倒れでもしたらっ・・・』って思ってなかった?」

「えっ、何でわかったんですか!?  先輩ってホントにエスパー・・・?」

「ぶっ、エスパーって・・・。面白いね、君。つーか、マジに『グラスが倒れたら』って思ってたんだ。
ふ〜ん。だとしたらさぁ、結構気があうんじゃない?ウチら」

先輩は話の流れでそう言ったんだろうけど、あたしはその『気があうんじゃない?』というセリフがなんだかすごく嬉しかった。

そのあと、あたしはすっかり緊張がほぐれてしまって、昨日の元彼の暴言に対する言い訳や(だって先輩に嫌な女って思われてたらいやだし)
壁際の女2人組みのことや、朝には話が学年中に知れわったていた事なんかを話した。
先輩のほうもあたしがあの時どんな顔をしてたかとか、実は、よっすぃーと一緒に居るところを見かけたことがあって気になったからとか
いろんなことを話してくれた。

すごく楽しくて、時間がたつのなんかあっという間に感じて、よっすぃーからの電話で初めて、もう2時間近くたっていたことに気付いた。
21 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月19日(土)21時38分57秒
「ごっち〜ん、部活終わったからさぁ、下で待ってるよ。今どこいんの?」

「へっ、図書館だよ?」

「えっ、じゃまだ先輩と一緒なんだ。・・・ふ〜ん、うまくやってんじゃん」

「なによそれっ、もうっ。すぐ行くから待ってて!」

「いやいや、急がなくてもいいよ〜。ごゆっく・・(ブツッ)」

よっすぃーが何かまだ喋ってたけど無視して電話を切った。なんか弱み握られたみたいでやな感じだなぁ。

「それじゃ、そろそろあたしもかえろっかな。戸締りしちゃうから、先出ていいよ」

「はい、ありがとうございました。こんな時間までつきあってもらっちゃって」

「ハハ、気にすんな。それに、後藤さんの話し面白かったしさ」


「あのっ、先輩、またここに来てもいいですか。」

立ち上がってカウンターを出ようとする先輩にあたしは思わず言ってしまった。本音は、先輩に会いに来ていいですか、だったんだけど・・・。

「来ていいですかって・・・。後藤さん、ここは生徒みんなが利用できる施設ですよ。あたしの許可がなくても来ていいんですけどね。
まあ、強いて言えば本を読むための図書室であって、会話を楽しむための場所じゃないんだけどね。
でも、後藤さんの面白話だったら、他に人がいなかったらそれでもいっか。まぁ、気が向いたら、オシャベリにきてよ。
ついでに本もかりてくれたら言うことないけどね、待ってるからさ」
22 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月19日(土)21時39分37秒
“待ってるから”・・・先輩、そのセリフにちょっとドキドキしてしまったのは、あたしの思考回路がおかしくなってしまっているからでしょうか。
でも、おかしくしたのは先輩ですよ・・・。それに、「後藤さん」って・・・。よっすぃーのことは「吉澤」って呼び捨てなのに、あたしはさん付けか・・・。
まあ、今日はじめて喋ったんだからしょうがないよね。そのうち「後藤」って呼び捨てで呼んでもらって・・・
・・・はっ!よっすいー待たしてるんだった。遅くなったらまたからかわれるよ、絶対。


あたしは妄想を中断し、先輩に挨拶をして部屋を出た。モチロン「また来ます」って付け足すのは、忘れなかった。



よっすぃーは昇降口で壁にもたれてポケ〜として待っててくれていた。でも、あたしに気付くと例のニヤニヤ顔にかわった。

「あれ〜、早かったじゃん。もっとゆっくりしてても良かったのにさぁ」

・・・どっちにしろ、からかわれてるし・・・こうなるんだったら、ホントにもっと先輩と一緒にいればよかったかも。

あたしは、「うるさいっ!いくよっ」と、よっすぃーの腕を引っ張ってつれて帰った。
23 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月19日(土)21時40分34秒
 この日から、あたしはよっすいーのカウンター当番の日はもちろん、さすがに毎日は恥ずかしいから、時々図書館に通うようになった。
先輩は忙しくないときや、友達が一緒にいないときに、(でも話しやすそうな人が一緒だったら、あたしも混じってたけど)
あたしの相手をしてくれて、会話の中にタメ語が混じっても自然なくらい仲良くなれたんだけど、クラスの子に羨ましがられて初めて
先輩が人気のある人なんだって知った。



 よっすぃーは、からかい半分であたしが先輩に恋してる、みたいなこと言ってたけど、正直言ってあたしは、自分でもどうなのか
わかんなかった。
でも、図書室ではじめて話してから、約一ヵ月後のある出来事がきっかけで、あたしは自分の気持ちに確信が持てたんだ・・・。
24 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月19日(土)21時43分05秒
更新しました。

>11さん
初レス本当にありがとうございます。最後まで
お付き合いくだされば、嬉しいです。
25 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月19日(土)21時57分11秒
良いね、本当に良いね。面白いっす。王道最高!
頑張ってください。
26 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月19日(土)23時25分45秒
ツボ発見!!
かなり続き楽しみでっす。
作者さんガンバテ
27 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月20日(日)07時29分50秒
いちごまは余り好きではないのですが、楽しく読めました。
予防線が巧いというか。続きを楽しみにしています。
28 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月21日(月)03時51分04秒
これぞ、まさに王道といった感じですね。
いちごま好きにはたまらん作品です。
かなり期待してますんで頑張って下さいね!!
29 名前:眼鏡 投稿日:2001年05月21日(月)04時46分13秒
「ごめんね。私のせいで梨華ちゃんにまで迷惑かけてさ」
屋上まで梨華ちゃんを連れてくると、私は開口一番そう言った。
よく考えてみると、梨華ちゃんは何も悪くないんだもんね。
「そんな、私は褒められてるんだし。それより、後藤さんのほうが……」
申し訳なさそうにぼそぼそと呟く。
もう、そんなに人にばっかり気を遣って。たまには自分のことも考えないと、疲れちゃうよ。
「私は嫌じゃないからね。本当に嫌なことは、みんなしないから」
そう考えると、本当にいい友達ばかりだと思う。……でも、最近はみんな調子に乗り過ぎかも。
30 名前:LVR 投稿日:2001年05月21日(月)04時53分48秒
すいません!
感想書こうとしていたのを忘れて、自分のところのネタをのせてしまいました。
次から気をつけます!

話の流れが自然でうまいです。
どんな出来事があるのか、ドキドキ……。
31 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月21日(月)22時23分31秒
 その日、あたしは授業が終わると、部活に行くよっすぃーと階段下で別れて、
図書室に向かった。
部屋に入るとすぐに先輩がいるか確かめる。
先輩は、入り口から一番離れた席で、誰かと話してる。
隣は・・・あ、やぐっつぁんだ。
やぐっつぁんは、先輩の友達でいつも一緒にいる。ちっちゃくて、明るくて、
話もしやすいからすぐに打ち解けた。
先輩は「矢口」って呼んでるけど、あたしはさすがにそうは呼べないから、
「やぐっつぁん」って呼んでるんだけど。

「おう、後藤じゃん。来たね〜」
「へへ〜、来ちゃった」

先輩は、最近になってあたしのことを「後藤」って呼び捨てで呼んでくれる。
あたしのほうは相変わらず、「先輩」のままだけど。
でもそれも今日で終わりになるんだけどね。

「じゃぁ、ごっちんが来てくれたし、矢口ちょっと用あるから。先帰るね」
「え〜っ、やぐっつぁん、帰るのぉ」
「だからぁ、用事があるのぉ。ごっちん、紗耶香のことよろしく!」
「は〜い(なんかうれし〜)」
「・・・なんだよそれ・・・」

やぐっつぁんは、そういい残すと、パタパタと歩いて行ってしまった。
先輩は、そんなやぐっつぁんの後姿を顔だけ向けて見送っている。
32 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月21日(月)22時24分24秒
「・・・さやか」
「なっ、なんだよ。後藤にそう呼ばれるとなんか、変なんだけど」

あたしが何気なく呟くと、先輩は、バッて振り返って、驚いたような、
困ってるみたいな顔でつっこんだ。

「だって、先輩の友達みんなそう呼んでるし・・・」
「友達は、だろー、と・も・だ・ちっ」
「・・・後藤は、友達じゃないんだ・・・そうなんだ・・・。
やぐっつぁんはあだ名で呼んでも、全然怒んないのにな・・・」

先輩が、あんまり強調するから、なんかちょっとムッとして、いじけた振りをしてみた。

「あ、いや、ちがっ・・・だからね・・・後藤は年下でしょ?
それに高校入ってから、仲良くなったんだしね。」
「じゃ、ともだち?」
「ん〜・・・」
「何で悩んでんのさ・・・」
「ハハッ、うそうそ。まぁ、友達だね。うん」

よかった。あたしは調子に乗って、言ってみた。

「じゃあねぇ・・・、紗耶香、はちょっと後藤も抵抗あるんで・・・・紗耶香さん?」
「うわっ、なんかやだっ。そんなん言われたことねーって。お嬢様みたいじゃん?」
「じゃぁねぇ・・・さやりん?・・・そんなん大きい声で叫んだら恥ずかしいかも。
う〜ん・・・市井先輩じゃいまのままだしー。市井さん?・・・も変わんないような・・・」

考え込んでるあたしを見て、先輩は「呼び方なんてどうでもいいし」みたいな表情してる。
でも、ちょっとでもやぐっつぁんと先輩の仲に近づかないと、と思ってるあたしは考え続ける。
33 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月21日(月)22時25分19秒
「う〜ん・・・市井くんって、なんかえらそうだなぁ・・・。
市井ちゃんって・・・・いうのも・・・。ん〜・・・ん!先輩、市井ちゃんにしましょうか?」
「えっ、そうなの?・・・“ちゃん”なの?」

「いやなんだ・・・それじゃね〜」
「あ、いやっ、それでいいよ、うん。それがいいかも。
(こいつ決まるまで粘るつもりだな・・・。今日はもう帰るつもりだったのに)」
「じゃぁ〜けって〜い」

“市井ちゃん”って、“市井先輩”よりもかなり新密度が高いんじゃない?
思わぬ収穫だわ♪やぐっつぁん、ありがとう!

市井先輩は、・・・あ、市井ちゃんは、「ま、いいか」といって両腕を上に伸ばして
大きく伸びをした後、組んだ両腕を机の上に乗せて言った。

「今日はさぁ、もう帰ろうと思ってんだけど・・・」
「えっ、もうですか?」

あたしは、市井ちゃんがまだ話し終わっていないのに、思わず口に出してまった。
市井ちゃんはちょっと笑いながら、すぐに続けた。

「いや、最後まで聞けって。だからさぁ、せっかく会ったんだから一緒に帰ろうってこと。
そんで時間早いし、どっか寄ってかない?」

あたしは嬉しくて、興奮してしまって言葉がいつもみたいに出てこない。

「あ・・・、もしかして吉澤と約束してたりして・・・」
「ちっ、違います。全然してないです。ほとんど別々に帰ってるから・・・」
「そか・・・。じゃぁ、行こうか」

実際、部活のあるよっすぃーと帰宅部のあたしは、
帰り時間が一緒になることは、ほとんどなかった。
34 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月21日(月)22時26分20秒
図書室を出て、校門に向かって二人並んで歩く。

「どこ行こっか〜」
「市井ちゃんにおまかせしま〜す」
「・・・市井ちゃん、ね・・・なんだかな・・・。   
う〜ん、じゃぁね〜、なんか、食べにさ〜・・・」

一緒に下校しながらこんな会話できるなんて、あの喫茶店であった時は
全然想像できなかったよ・・・。

あの喫茶店で、サイテーな元彼にいびられてるところを助けてくれたんだよね。
・・・そう、あの校門のそばを歩いているサイテー男に・・・って、ん!?
なんであいつがいるのよ。もう絶対会いたくなかったのに!

ヤツは友達らしき男の子2人と、下校中の女の子たちを見ながら、
耳打ちしたり笑いあったりしている。
ナンパ目的だろう。それとも別に彼女ができてその子待ってるとか?
まぁ、どうでもいいけどね。

市井ちゃんはあいつの顔を覚えていないみたいで普通に歩きながら話し掛けてくる。

「・・・・それでさぁ、あたしがね・・・・?なに、どうしたの?」

市井ちゃんは、心ここにあらずなあたしを不信に思ったみたいだ。

「いやっ、あの・・・校門のとこに・・・」
「校門のとこ・・・?」

2人して校門のほうへ視線を向けると、運の悪いことにヤツもこっちを向いたので
目が合ってしまった。
35 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月21日(月)22時26分57秒
「あれっ、あそこにいるのって、もしかして有名な後藤真希さんじゃないですか〜」

・・・まだ根に持ってんだ・・・・。

他の2人もヘラヘラ笑って、こっちを見ている。

「何が有名って、男をたらしこんでいいとこだけ味わってさぁ、
とるもんなくなったらすぐに捨てちゃうって、有名なんだよねぇ〜」

もうやめてよ、みんなの前で・・・市井ちゃんの前でそういうこと言うのやめてよ・・・・。
足をとめて、俯いてしまっているあたしを見て、あいつは益々いい気になって続ける。

「いやさぁ、あいつ俺のテクニックでメロメロって顔してたのに、
あの顔も演技だったんだねぇ。俺ショックだわ。」

・・・一気に、頭に血が昇って・・・頭の奥が、熱くなって、周りの音が、聞こえなくなった。
その屈辱的な言葉であたしは、恥ずかしくて涙が溢れてくるのを抑えるのに必死で、
市井ちゃんがあたしの隣を離れたのに気がつかなかった。

「それでさぁ、・・・な、なんだよお前。」

イヤミな感じで喋り続けてたあいつの様子が変わったので、顔をあげると、
市井ちゃんがあいつの前に立っていた。
36 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月21日(月)22時27分39秒
「さっきからべらべら喋ってるけどさぁ、まだ言うことあんの?」
「はぁ?だからなんだよおまえ」
「名乗るほどのものじゃないんですけど、ちょっと一言いいたくて」
「訳わかんねぇよ。何こいつ」

「だからさぁ、プレゼントしたものの見返りが“カラダ”だって思ってんなら、
ご自慢のヘタクソなエッチの反省と研究を、家でしてからナンパしに来い、っていいたいのッ!」

市井ちゃんは、今まで聞いたことない低めの声でそういいながら、あいつの・・・・・・
その・・・股間を、ひざで蹴り上げた。

あいつは声も出せない様子で、その場に股間を押さえてうずくまってる。
他の2人は、他人の振りみたいにして逃げていった。

「ほら、後藤行くよ」

あたしの所へ戻ってきた市井ちゃんは、ポケッと突っ立ているあたしの手を引いて
ズンズン歩いていく・・・・と、あいつの横で立ち止まり冷たく見下ろしながら、

「あ〜その様子じゃ、反省の前に使えなくなってるかもねぇ。ごめんねぇ〜」

と、全然あやまっている風な喋り方じゃなく言って、
あたしの手を引いたまま、校門を出て行った。
37 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月21日(月)22時28分31秒
道を歩きながら、あたしはホッとしたのと、まだ手を繋いでくれてる市井ちゃんの手が
暖かいのと・・・・いろんな感情が溢れてきて、今まで我慢していた涙も一緒に
溢れ出させてしまった。
「・・・ック、ングッ・・・」
声を出して泣いてしまったあたしに気付くと、市井ちゃんは繋いでいた手をそっと離して、
何も言わずにあたしの頭を優しく撫でてくれた。


しばらく歩いて涙もようやく止まったころ、お礼を言わなくちゃと思って、まだ涙声のまま話し掛ける。

「・・・市井ちゃん?」
「ん?なに?」

返事をしてくれた市井ちゃんの声があまりにも優しくて、
また泣きそうになって、言葉につまってしまった。

「・・・・痛そうだったね・・・あいつ」
「女には絶対わからない痛さらしいからね」
「・・・でも、なんかすっきりした・・・アリガト」
「あたしもすっきりしたよ?・・・なんつーのかなぁ、
日頃のストレスをあの一撃に全部込めたって感じ」
「アハッ・・・めちゃめちゃ痛そう・・・」

しばらく沈黙が続く。
38 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月21日(月)22時29分28秒
「・・・後藤?今日は、もう家に帰る?」

「・・・・あたし、てりやきマックが食べたい。・・・スーパーバリューセットで・・・」
「ぶっ、よっしゃ。市井先輩がおごっちゃる」
「エヘヘ、やったぁ〜。市井ちゃんすき〜」
「・・・なんだそれ」

ちょっと冗談ぽく、好きなんて言っちゃったけど、
ほんとは、もっと・・・真剣に言いたかった。

だって、あたし、気付いちゃったんだもん。
あたしが市井ちゃんに笑いかけられると、すごい嬉しかったり、
あたしに何気なく触れたとき、すごく心地よくて、切なくなるのは、
本気で市井ちゃんのこと好きになったからだって。
39 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月21日(月)22時31分14秒
更新しました。

え〜、言い訳をいくつか・・・
まず、呼び方を「先輩」のままで通すかどうか
悩んだんですけど、こうなってしまいました。
「無理やりだろ、おい」とつっこんだ方、コレが精一杯でございます。
あと、もし「先輩」萌えだった方がいらしたらごめんなさい。

そして、レスをつけてくださったみなさん。
初作品・初投稿なんですけど、レスがこんなにありがたいものとは
知りませんでした、ありがとうございます。
>LVRさん
気になさらないでください。こちらも、気にしてません。
というか、あんまり気にならないので。そちらもがんばってください。
40 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月22日(火)01時23分27秒
やっぱり後藤は「市井ちゃん」でしょう。これでいいのです。
41 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月22日(火)01時56分29秒
いや先輩にいちーちゃんに変わった経緯とか萌えましたよ。
続きムチャクチャ楽しみです。
しかし市井かっちょええなぁ
42 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月22日(火)04時27分11秒
男前だね〜市井ちゃん!!
そりゃ〜後藤も惚れるわけだよ。(w
43 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月24日(木)21時21分28秒
「ちょっとぉ!ごっちん聞いたよ〜!」

次の日の朝、よっすぃーが、めずらしく時間に余裕を持って
教室に入ってきたあたしに、駆け寄ってきた。

「あ〜、昨日のこと?もう広まってんだ・・・」
「そうそう、市井先輩がしつこいナンパ男、チン蹴りで追い返したってやつ!」

・・・よっすいー、そんな大声で「チン蹴り」っていわないでよ。
それより、何であたしが元彼に嫌がらせされてたって話がぬけてんのよ。

「あの〜、あたしが一緒にいたっていうふうには、聞いてないの?」
「あぁ、そうらしいね。ごっちんが嫌がってるのに、元彼により戻そうって迫られて、
市井先輩が助けてくれたんでしょ?」
「・・・(そういう話になってるんだ)・・・」

噂話なんてそんなもんだよね。あることないことイロイロくっついて、最後には違う話になってるし。
と、いうことはだ。あの忌まわしい喫茶店での別れ話は、どういうふうに伝わっていってるんだろ?
・・・やめよ、考えるだけで恐ろしくなってきた。

それよりも、よっすぃーに聞いてほしいことがあるんだった。
市井ちゃんと、仲良くなれたのはよっすぃーのおかげでもあるし、
あたしが、市井ちゃんに好感持ってること知ってるから相談したかったんだ。
44 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月24日(木)21時22分08秒
「よっすぃー、ちょっといいかな」

あたしは、よっすぃーを教室から連れて、廊下の隅に行き、誰も聞いていないのを確かめた。

「あのさ、・・・あの、・・あたし市井ちゃんがさ・・・・」
「なに?市井ちゃんって呼んだりしてんの?」

あたしがそうだよって答えると、よっすぃーは、フ〜ンって言っただけだった。
ほんとは、冷やかしたいんだろうけど。
でもあたしの顔が真剣なままだったからそれ以上何も言わない。

「えっと・・あたしね、市井ちゃんのこと好きみたいなんだ」
「うん、知ってる」

「・・・・。だからさ、本気なんだ・・・」
「うん、だから知ってるって」

「だからぁっ!、何でそんなあっさり知ってるって言えるのさっ」

あたしは、真面目に話してるのに、よっすぃーは少しも動揺した感じも無く、
返事をするから、半ギレになって、声も大きくなってしまう。

「ごっちん、声でかくなってる。こんな隅っこ連れてきた意味無いじゃん。・・・あのね、ごっちん。
ごっちんいつも、ウチがからかったりしたときにさ、そんなんじゃないって、言ってたじゃん?
でもさぁ、ごっちんがさぁ、市井先輩と話してるときとか、図書室に行ってくるって、
張り切ってるとき、どんな顔してるか自分で気付いてないでしょ?」

「・・・しらないです」

「すっごい、嬉しそうな顔してるよ。普段の無愛想な顔が信じらんないくらい。
・・・めちゃめちゃ可愛いもん。いつも一緒にいるウチが解んないわけ無いでしょ?」

「・・・はぁ」

よっすぃーはあたしに、小さな子供に諭すようにそう言うと、
「先生来たみたいだよ」って、教室に戻っていった。

あたしもその後ろを、小さくなってついて行く。
45 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月24日(木)21時22分39秒
・・・そうなんだ、気付かれてたんだ。じゃあ市井ちゃんにも気付かれてんのかな。
だとしたら、市井ちゃんどう思ってんのかな・・・。
あたしは、疑問に思ったことを、前を歩くよっすぃーの背中につぶやいた。

「・・・市井ちゃんは、気付いてるかな」
「う〜ん、多分知らないと思うよ。ウチは」

よっすぃーは、両手をブレザーのポケットに突っ込んだまま、顔を少し後ろに向けて、
軽い感じで返事をする。

「なんでわかるの?」
「だってさぁ、市井先輩はごっちんの嬉しい顔しか知らないじゃん。
普段の、周りにあんまり興味なさげな顔、知らないでしょ?
多分だけど。それにさぁ、・・・・元彼のこととか知ってるんでしょ?先輩」

あ、よっすぃー気を使ってくれてるんだ、元彼のところで、声が少し小さくなってた。
・・・だけどそこのところは、確かにそうだよね。
市井ちゃんには、元彼のことで、見られたくないことや、
・・・聞かれたく無かったこととか知られてるんだ。
でもね、「嬉しい顔しか知らない」っていうのは違うかな。
だって、初めて会ったときは、泣きそうな顔とか、真っ赤になってるとことか、
イロイロ見られてるし。
それに昨日は、ホントに泣いちゃったし。
はぁ・・・、だけどその元彼のことは、かなりマイナスイメージだよね。

何で気付かなかったんだろ。市井ちゃんが、あたしと元彼のことを、
口にしたのは最初の図書室での会話の一回だけだった。
その後は全然話題にしなかった。
昨日のことも、あたしが泣き止んでからは、何も言わなかった。
だから、あたし忘れてたんだ、そのことを。
ホントなら、好きな人には知られたくないことなのに、市井ちゃんの優しさの影になってて、
見えなくなってたんだ・・・。
46 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月24日(木)21時23分18秒
そのまま、黙ってしまったあたしによっすぃーは、教室の入り口の前で立ち止まって続けた。

「でも、・・・昨日先輩がごっちんのこと助けくれたのは、ごっちんを傷つけたくないって
思ったからじゃないかな。それにさ、自分が仕返しされるかもしれないのに、男の子
蹴ったりできないよ、普通。・・・だからっていうわけじゃないんだけど、ごっちんは、
自分の気持ちに、正直にいて、いいと思うんだ・・・」

「・・・・」

あたしは、今度はよっすぃーの言葉に、ちょっと感動してしまって何も言えなかった。
47 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月24日(木)21時24分10秒
授業中、ずっとあたしは、どうしたらいいのか考えてた。
あたしの気持ちは気付かれないままのほうがいいのかな?とか、
いっそ知られてしまって、砕け散っちゃったほうがいいのかな?とか・・・。
そしたら・・・市井ちゃんに、迷惑もかけることないかなとか・・・。

よっすぃーはそんな、いつもとは違う様子のあたしに、いつも通りの態度で接してくれる。
・・・だけど、時々何か言いたげな顔をする。
ありがとね、よっすぃー。でも、このことは、自分で解決するね。
よっすぃーが、背中を押してくれたからさ。
だから先輩に聞いてもらうよ自分の気持ち。
・・・もう今までみたいには、いられなくなるかもしれないけど。
でも、今のままじゃ、何にも進まないから・・・。
48 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月24日(木)21時26分33秒
更新です。
今回、市井ちゃん出てこず・・・。
でも、後藤さんの頭の中は、市井ちゃんでいっぱいということで。

レスしてくれた皆さん。ありがとうございました。
49 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月24日(木)21時56分22秒
なんとも「萌える展開」楽しみにしてます。
50 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月24日(木)23時57分46秒
う〜〜ん続き期待!!
51 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月25日(金)03時52分50秒
後藤、頑張れ〜!!
きっと上手くいくさ
52 名前:うずモニ。 投稿日:2001年05月26日(土)04時01分58秒
つづき期待してます。
53 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月27日(日)16時11分06秒
あたしは放課後まで待てなくて、お昼休みに、市井ちゃんに会いに行く。
教室まではやっぱり行きづらかったんだけど、ひとりで廊下を歩いてるのを見つけて声をかける。

「市井ちゃん・・・あれ、今日やぐっつぁん休み?」
「うん。なんか体調悪いんだってさ」
「そか・・・あの、ちょっと話したいことがあるんだけど・・・今、いいかな?
「・・・なんだよ、あらたまちゃって。・・・いいけど別に。・・・」

市井ちゃんは、昨日のことがあったからだろうけど、2人だけになれるように、
こっちで話そうって、向かいの校舎にある空き教室に入っていく。
教室の窓際、ひとつの机をはさんで座る。
市井ちゃんは前の席のイスに座っているから、背もたれに右ひじを掛けて、
窓枠にもたれるようにしている。
54 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月27日(日)16時11分49秒
市井ちゃんは、あたしが話し出すのをまっているのか、何も言わない。
向かいの校舎の、ふざけあってはしゃぐ声が、遠くに聞こえて、
それが逆に、この教室をいっそう静かに感じさせる。

「あの・・・昨日は、なんていうか・・・ありがとうございました」
「・・・あぁ、いいよ、全然。まだ、お小遣いには、余裕あるからさ。」

「うん。・・・そのことのお礼もあるんだけどね、今の『ありがとう』はね、
あの・・・校門で、あいつの暴言を止めてくれて、ありがとうって。
・・・昨日、ちゃんと言ってなかったような気がするから」

「そっか、・・・うん」

「・・・前のときの嫌がらせも、恥ずかしかったんだけど・・・昨日のは、もっと・・・
あんな事、みんなの前でいわれるなんて、思わなくて・・・・付き合ってたときは、
楽しかったし、優しかったんだよ・・・だから・・・いいかなって思って。他の人に、あんな風に
喋るなんて、そんなこと・・・思わなくて・・・」

「・・・・うん」

市井ちゃんは、自分の伸ばしている足の、つま先のほうを、見つめている。
あたしは、前を見て・・・市井ちゃんを見て話せなくて、俯いて、机の木目をみてたどたどしくはなす。
55 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月27日(日)16時12分21秒
「・・・あたし、あんまり真剣に考えてなくって・・・。あはっ、言い訳ばっかだ、あたし・・・
でもさ、こういうの、後悔っていうのかな・・・。」

あぁ、また泣きそうだよ。
自分の気持ち話したかったのに、伝えたかったのに、言葉が出てこない。

市井ちゃんは、そんなあたしに代わって話し始める。

「後藤・・・あのさ・・・、後藤は、そのときは、彼のことが好きだったんでしょ?
今みたいになるなんて思わなかったよね?
だから・・・昨日の彼の発言は、最低だけど・・・後藤は・・・後悔はしても、
自分のこと責めつづけなくてもいいと思うんだ。
・・・後悔して・・・反省して・・・この次からは、大丈夫だって・・・。
そうやって、前に進んでいくんじゃないかな。
だからさ、今のうちは、後悔とかするような事、たくさんあってもいいんだよ。
後藤も後悔したし、彼も、多分後悔してるんじゃないのかな。
なんか、説教くさいな、あたし。
・・・・おい、泣くなよ後藤〜。先輩は、怒ってんじゃないんだぞ〜」

市井ちゃんの話の途中で、我慢しきれなくなって、泣き出してしまった。
56 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月27日(日)16時12分56秒
市井ちゃんは、そんなあたしに気付くと、話の終わりをちょっと
冗談ぽくして、また昨日みたいに、あたしの頭に手をやって、小さく撫でてくれた。
そして、「5時間目、もうすぐ始まるぞ〜」っていいながら、そのままちょっとだけ
あたしの頭を引き寄せて、顔を覗き込んでいる。
市井ちゃんの手って、何でこんなに安心させてくれるんだろ。
何でこんなに優しいのかな。
・・・よけいに泣けてきちゃうよ・・・。


「後藤〜、鼻水でてんじゃん。ホンットに・・・幼稚園児かおまえはっ。
ハイ、これあげるから、チーンしなさい。・・・あっ、そんな目ぇこすったらだめだって
跡残るよ。次、授業あるんだから・・・」

市井ちゃんは、自分のポケットティッシュから、一枚取り出してあたしに持たせてくれる。
そして、あたしの、目をこすっているもう片方の手をとって、顔から離すと、
もう一枚ティッシュを取り出して、涙を優しく押さえるようにぬぐってくれた。

「・・ンズッ・・・ありがと。いぢーちゃん。・・・ング」
「うわ〜、すげぇ鼻声・・・」
57 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月27日(日)16時13分47秒
結局、あたしは言いたかったことの半分も言えなかった。
本当は、あの事を人前で言われたことより、市井ちゃんの前でいわれたことが
辛かった、って言いたかった。
それは・・・あたしが、市井ちゃんのことが好きだからだよって、言いたかった。

それなのに、あたしは、そこにたどり着く前に、泣いちゃって。

でも、市井ちゃんが掛けてくれた言葉で、市井ちゃんがあたしの事を思ってくれて、
あたしの為に言葉を選んでくれたのがわかったから、今日は、これでいいかな。
・・・そして、いつになるかわからないけど、あたしがホントに伝えたかったことを、
市井ちゃんにわかってほしいよ・・・。
58 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月27日(日)16時14分23秒
教室に戻るとよっすぃーは、もう席に座っていて、ドアから入ってくるあたしにすぐに気付いた。
あたしも、よっすぃーに視線を合わせて、ちょっと笑って見せた。
言葉は、交わさなかったけど、それでなんとなくわかってくれたみたいだ。

よっすぃーは、次の休み時間になっても何も聞いてこなかった。
あたしも、何も話さなかった。
でも、よっすぃーが席に戻るときになんとなく
「もうちょっと待ってね、よっすぃー」
って言ったら、ちょっと考えたあと、笑ってうんってうなずいた。



その次の日からも、いつもみたいに、図書室に会いに行ったり
廊下で見かけたら立ち止まって話したり、一緒に下校したり・・・それが楽しくて、嬉しくて、
多分あたしの表情や、態度に気持ちが表れてて。
もしかしたら、市井ちゃんに少しは伝わってるかなって思ってた。

でも、それは、あたしの思い違いだったのかな・・・。
59 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月27日(日)16時15分36秒
更新です。

前回更新分と、今回のはちょっとタイトル通りな感じで・・・。
そして、また意味ありげな続け方をしてしまいましたが、
まぁ、いろいろあった方がね、よいかなと思い・・・。

皆さんのレスは、本当に嬉しいです。ありがとう!
60 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月27日(日)17時38分35秒
たしかに、意味ありげだ……
つぎの更新待ってます。
61 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月27日(日)19時18分51秒
何!?思い違い・・?キニナル・・・
greenage検索しまくったけど訳分かんなかったなぁ・・造語かな。

62 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月28日(月)03時35分12秒
展開変わってきましたね!? ますます楽しみ
63 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月28日(月)04時23分17秒
なんて気になる終わり方するんだ〜!!
気になって眠れませんので、お早い更新を望みます。(w
64 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月30日(水)22時05分06秒
 その日、いつものように図書室に行ってみた。


中に入ると、相変わらず人は少なくて、市井ちゃんの姿を探すのは、
簡単なはずなのに、見つからない。

「なんだ、帰っちゃったのかなぁ?」

司書室を覗いてみても、誰もいない。あきらめられずに、
並んでいる本棚の影にいるのかもしれないと思い、歩いていく。
奥のほうの、ただでさえ図書室の本に興味が無いあたしが、
その存在さえ気付かなかったような、本棚の向こう。
そして、そこに市井ちゃんはいた。・・・ただ、1人じゃなかった。
65 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月30日(水)22時05分46秒
市井ちゃんの隣には、やぐっつぁんがいた。
いつもとは、違う雰囲気だった。
あたしは、思わず、気付かれないように、2人から見えない位置に隠れた。

あたしの手前側にいる市井ちゃんは、やぐっつぁんのほうをむいてるから、顔が見えない。
やぐっつぁんも、市井ちゃんの向こう側にいるから、ちらちらとしか、見えない。
2人の表情は分からないけど、周りの空気はあきらかに普段のものとは違うのは分かる。


何を話してるのか知りたいけど、ちょっと離れていて声が遠いのと、
聞いてしまうのがなんとなく怖くて、2人の会話に集中できない。

でも、「すき」とか「一緒にいたい」とか、なぜか、やけに耳につく言葉は、聞こえてくる。

・・・そして、市井ちゃんは、やぐっつぁんの肩に手を回して、ちょっと自分に引き寄せるようにした。
素直に引き寄せられたやぐっつぁんは、顔は俯かせて半身を市井ちゃんにくっつける様な姿勢になっている。


あたしは、それ以上そこに居られなくなって、音を立てないようにして、その場を離れた。
66 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月30日(水)22時06分24秒
涙で視界がぼやけてるけど、そんなことは気にならない。
ただ、さっき見た2人が寄り添っていた光景だけが、頭の中に張り付いていて離れない。
廊下をぼんやり歩きながら、あたしは考えていた。
どうして市井ちゃんは、あたしに優しかったんだろう。
あ、・・・そっか・・・あたしにも優しかった、だ・・・。
みんなに優しいんだ市井ちゃんは。
・・・でも、やぐっつぁんには、もっと優しいんだ。・・・きっと。
だとしたら、あたしの気持ちは迷惑だったのかな。
優しいから、くっついてくるあたしを避けることできなかったんだ。
あの時、全部言っちゃわないでよかった。・・・困るよね、市井ちゃん。
67 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月30日(水)22時06分59秒
あたしは、図書室へはもう行かなくなっていた。
廊下で見かけると隠れたり、引き返したりして、なるべく会わないようにした。
市井ちゃんから声を掛けてきても、できるだけ短い会話で終わるように返事をした。
でも、同じ学校にいて、その姿をまったく見ないようにするなんて、できない。
廊下を歩いている市井ちゃんを見るたびに、やぐっつぁんに笑いかける市井ちゃんを
見るたびに、苦しくなって、泣きたくなって、あたしは市井ちゃんのことが好きなんだって
ことを思い知らされるんだ。
68 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月30日(水)22時07分35秒
さすがによっすぃーも、気付いたみたいだ。
でもあたしの表情や態度で、何があったかはなんとなくわかってるらしくて、聞いてこない。
そして、市井ちゃんにも、何があったか問い詰めるようなこともしない。
図書室に誘ったりも、しなくなった。
・・・あたし、よっすぃーに気を使わせてばっかりだよ。
こんなに、あからさまだったら、市井ちゃんにも変に思われるよね。
でも、今までみたいに普通になんてできないよ。
あたしの気持ちが、市井ちゃんを忘れるまでは、もどれないんだ、前みたいには。
だから、よっすぃー、もうちょっとまってね。・・・時間がかかるかもしれないけど。
69 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月30日(水)22時10分44秒
更新しました。少ないですけど…。

毎度レスありがとうございます。
レスしてもらった中にもあったので、タイトルについてちょっと説明を…
greenというのは若さとか、青さとか、未熟さという意味で、
それゆえに悩む事も感じる事も多い年頃、ということでは
ないかと思います。
というのも実は、このタイトルは作者のフェイバリットなバンドの
1stアルバムの中の一曲からとりました。
(ちなみにCDの表記は、「Greenage」だった…後で気付いてちょっと鬱…)
なので正確な意味ではないかもしれませんが、語感からこのタイトルをつけました。
説明が解りにくいかもしれませんが、理解して頂けたでしょうか…。

えっと…次回でこのお話は終わりになると思います。
ちょっと長めになるかもしれませんが、区切らずに終わらせたいので…
70 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月30日(水)22時52分31秒
次回で最後ですか…
待っております。
71 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月31日(木)03時13分12秒
この話大好きだったんで終わってしまうのは非常に残念です。
後藤の恋が実ることを願いつつ最終話、楽しみに待ってます。
72 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月02日(土)21時43分01秒
あたしが市井ちゃんを避けるようになってから、
一週間くらいになる。
放課後、その場所を通るのに少し抵抗があったから、ちょっと意識しながら
図書室の前を、通り過ぎようとしていた。

「後藤」

周りの雑音のなかにあっても、その声は、はっきりとあたしの耳にはとどいた。

その声の持ち主が、誰かなんて、見なくてもわかっているけど、
無視するなんて、できるはずなかったから、立ち止まって振り返った。

「今、時間空いてるんだったら・・・ちょっとよってかない?」

「あ・・・」

どう返事をしたらいいか、戸惑っているあたしをよそに、市井ちゃんは、
もう入り口の前に立って手を掛けて、あたしが来るのを待っていた。
73 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月02日(土)21時43分41秒
図書室には、返却の手続きをしている子と、カウンターの中に1人。
それから、本棚の前で借りる本を選んでいる子が3〜4人いる。

市井ちゃんは、部屋の一番端の席を選んで座った。
あたしは、少し遅れて、机をはさんだ向かいの、ひとつ斜め前の席に座る。

「あいかわらず、利用者少ないな・・・・ホントに」

部屋を見渡しながら、誰に言うでもなく市井ちゃんは呟いた。
あたしも、それには答えずに同じように部屋を見渡す。
1人、2人と図書室を出て行くんだけど、逆に入ってくる子はいない。
最後の一人が出て行った後、市井ちゃんが、カウンターにいる当番の子に、
「あ、もう帰っていいよ。あたし残ってるから」と声を掛けると、
その子は「ほんとですかぁ」って嬉しそうに、返事をして素直に出て行った。

「ふたりっきりだね・・・なんてな。ハハッ」
その子が、部屋を出て行ったのを見届けると、市井ちゃんは、
多分こわばった顔をしているあたしの緊張をほぐそうとして、ちょっとふざけた感じに言った。
でも、あたしが何も言わないでいると、声のトーンを少し押さえて続けた。
74 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月02日(土)21時44分14秒
「・・・・後藤、さ。・・・最近ここに来ないよね。・・・忙しいのかな。
廊下で会ったときとかもそっけないし。もしかして、避けられてんのかな?とか、 
なんか気に障ることしたかなぁって、思ったりしたんだけど・・・。
わかんないんだよね。・・・・あ、矢口にもさ、
『あんたなんかしたんじゃないの?』っていわれるし。
で、わかんないから、ほんとのとこどうなのかなって思って、声かけたんだけど・・・」

・・・あれだけ露骨な態度じゃ、避けてるのなんて気付くよね。
でも、市井ちゃん、やぐっつぁんに、相談したりしたんだ、あたしのこと・・・。
なんか、やだな・・・。

「ごと・・・」
黙って俯いてるあたしに、痺れを切らして、市井ちゃんはまた喋り始めたんだけど、
それは、カウンターの上に置いてあった、市井ちゃんのカバンの中の、
携帯の音で遮られた。

市井ちゃんは、「チョット、ごめん」って言って、席を立って電話に出る。

「はい、・・・・あぁ、そうなんだ。・・・・うん。・・・あ、今さ・・・」

あんまり聞いちゃいけないかなって思ってたんだけど、市井ちゃんの口から、
「矢口」という言葉が出てきて、電話の向こうの相手がわかると、
なんだかすごく市井ちゃんの声が、優しくて、甘い声に聞こえる。
・・・市井ちゃんの声は、こんなに優しく聞こえるのに、あたしは、
悲しくて、胸が締め付けられるのが苦しくて、その声が遠くに聞こえて、
そして・・・涙がこみあげてきて・・・。

「・・・ごめん、ごめん。  ・・・・どしたの、後藤?」
75 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月02日(土)21時44分53秒
電話が終わって席に戻ってきた市井ちゃんは、泣く寸前のあたしの様子に気付いて、
イスに座る途中の姿勢のまま、驚いて、固まってた。
でもすぐに、イスに座りなおすと、なんて声をかけたら良いかわかんない
みたいな顔で戸惑っている。

市井ちゃん困ってるよ・・・。あたし、いっつも市井ちゃんのこと困らせてる。
でも・・・、そうか、もう言っちゃえばいいんだ・・・。
言っちゃって、砕け散ったら、すっきり忘れられるのかな・・・。
そしたらもう、市井ちゃんのこと、困らせることなんてなくなるよ・・・。

「・・・先週ね、・・・図書室で市井ちゃんみたんだ・・・」
「・・・うん」

あたしの、聞き取れないくらいの小さな声に、市井ちゃんは、優しい声で返事をしてくれる。

「・・・市井ちゃん、・・・やぐっつぁんと一緒にいて、なんか・・・・すごい、
入ってけない感じで・・・それで・・・どうしようって、声かけれなかったんだけど・・・
やぐっつぁん、市井ちゃんに『すき』って言ってて・・・そしたら、市井ちゃん・・・
やぐっつぁんのこと抱き寄せて・・・やぐっつぁんも・・・・あたし、それ見ちゃってて・・・
・・なんか・・・ック・・・」

・・・また、最後まで言えずに泣いちゃった。
がんばって続けようとするんだけど、泣き声のほうが先に出てきて喋れない。
市井ちゃんの前で泣くの、これで何回目かな・・・
あたしって、どうしていつもこうなんだろ。
76 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月02日(土)21時45分45秒
市井ちゃんは、ただ黙ってあたしのこと見てたんだけど、
しばらくすると「はぁー」ってため息をついた後、イスから立ち上がった。
市井ちゃん、呆れちゃって帰っちゃうのかな?

・・・でも違った。

市井ちゃんは、そのまま、ゆっくりあたしの隣まで歩いてくると、
すぐ傍に立ったまま、あたしの頭にそっと手を乗せ、撫でてくれた。

「後藤は、この前から泣いてばっかりだな」

市井ちゃん、そんな優しい声で、そんな優しく頭撫でられたら、あたし、もっと泣いちゃうよ・・・。

「・・・ング・・・・ック・・・」
77 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月02日(土)21時46分26秒
「ハハ・・・今日はいつもよりはげしいみたいだね。
あのさ、後藤なんか、あたしと矢口のこと、勘違いしてるみたいなんだけど。
何から話していいのかな。
・・・あのね、矢口には、あたしじゃなくて他に好きな人が、・・・
付き合ってる人がいるんだ。その人がね、ちょっと事情があって、
実家の京都に帰らなくちゃいけなくて、それで矢口、落ち込んでて。
そのこと矢口に相談されたから、がんばれって意味で、肩に手まわしたりしたんだけど。
だから矢口があたしに『すき』っていうはずなんかないんだよ。後藤の聞き間違いだよ。
・・・あ、さっきの電話さ、矢口からだったんだけどね、なんかもういつのまにか、
ラブラブに戻ってて、元気になったみたいだからさ・・・うん、そういうことだよ。
・・・後藤、もうそんなに泣くなよ・・・泣かないで・・・」

ホントに・・・ホントに、そうなのかな・・・あたし、一人で勘違いして、
勝手に落ち込んで、市井ちゃんに嫌な思いさせてたって事なの?
だけど、あの状況じゃ勘違いしちゃうよ。
好きな人が他の子を抱き寄せてるとこなんか見たら、誰だってそうだよ・・・

でも、市井ちゃんわかっちゃったよね、絶対。
・・・だってさ、やぐっつぁんとのこと勘違いして、ヤキモチ妬いて、ちっちゃい子みたいに
声出して泣いちゃってさ。よっぽど、鈍感じゃなきゃわかるよね。
・・・もう思い切って言ってみようかな。
こうなったら、言わなきゃ終われないもん。
78 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月02日(土)21時47分14秒
市井ちゃんは、まだ泣いてるあたしの頭を撫でてくれている。
あたしは、何とか気持ちを落ち着かせて涙があふれるのを押さえて、
まだ涙声のまま思い切って聞いてみた。

「市井ちゃん?・・・後藤が何で泣いちゃったか、わかる?」

「えっ、・・・あ、うん・・・」

やっぱり、戸惑ってるね、市井ちゃん。
あたりまえだよね、ただなついてるだけだと思ってた後輩に、
友達との事でヤキモチ妬かれて、泣かれたりしたら、
誰でも、戸惑うよね・・・


「はっきり言ってくれていいから。・・・後藤、もう、いじけないから」

市井ちゃんは、しばらく考えた後、口を開いた。
79 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月02日(土)21時48分05秒
「あたしさ、後藤と仲良くなってから、話したり、一緒に帰って、寄り道したりさ、すっごい楽しいし。
それに、後藤の天然なとことか、フニャって笑うの見ると、落ち着くっていうか・・・
なんかちょっと恥ずかしいんだけど、癒されてるっていうか。
・・・だから、後藤が、急に冷たくなって、・・・違うな・・・急にあたしのこと避けはじめてさ、
なんでそうなったのか、考えたんだけど分かんないし、後藤があたしのこと避けてるっていうことは、
もう、前みたいに、一緒にバカなこと話して、笑ってくれないのかって思ったら、
悲しいというか、落ち込んじゃってさ・・・
それは、何でかなって考えて・・・答えは分かってるはずなのに、余計な考えがジャマして
自分の気持ちを押さえようとしてた。自分の気持ちを、後藤に知られたら、
余計に後藤が離れて行くんじゃないかって、思ったり・・・
・・・・あぁっ、もう!何話してんのか、訳わかんなくなってきた。」



市井ちゃんは、あたしの頭から離れてしまっていた手を、
今度は自分の頭にやって、クシャって髪をかき上げた。

「・・・だから、簡潔に言うと・・・後藤が、あたしから離れていくの嫌だし、それに・・・・
あたしが卒業しても、ずっと、今みたいに一緒にいたいんだ。
 ・・・あ、もう泣くなよ、後藤」

市井ちゃんは、また泣きそうになって俯いているあたしの頭に、もう一度手をやると、
自分の胸に抱き寄せて、その手で髪を撫でてくれた。
80 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月02日(土)21時48分51秒
市井ちゃんの制服越しに伝わってくる体温は、心地よくて、切なくて、
ずっとこうしててほしいけど、ここが『みんなの図書室』だってこと、忘れるとこだった。
こんなとこ見られたら、それこそ・・・・なんていわれるか・・・。


「市井ちゃん・・・誰か来ちゃうよ?」
「来ないよ」

市井ちゃんは、あたしを抱き寄せたまま、当たり前みたいに答えた。

「どうしてわかるの?」
「入り口に掛けてあるプレート見なかったの?
『本日の貸出・返却は終了しました』ってやつ。入るときに掛けといたんだけど」

気付かなかった・・・だから、あたしたちが来てからは誰も来なかったんだ。

「いいの?そんなことして」
「あのさぁ、後藤は忘れてるかもしれないけど、あたし、図書委員長なんだよね・・・
まぁ、ちょっと職権乱用ぎみだけど・・・」

市井ちゃんは、ちょっと笑いながらそう言って、体を離そうとした・・・んだけど、
81 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月02日(土)21時49分29秒
「あ、待って市井ちゃん」
「なんだよ」

「もうちょっと、このまま・・・」
「・・・・・」

市井ちゃんは、離そうとした体を元に戻して、今度は、両手で抱きしめてくれる。

また泣いちゃったら、市井ちゃんの制服よごしちゃうな・・・。
あ、でも、毎日着ている制服にあたしの涙がついてるって思ったら、
ちょっといいかも。なんか、あたしの『しるし』みたいでさ・・・。

「で、後藤のほうはどうなんだよ。」
「なにが?」
「だから、さっき後藤、『何で泣いたかわかる?』って言ってからそのままじゃん。
あたしは、ちゃんと言ったのにな〜」
「・・・・・・」
82 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月02日(土)21時50分01秒
・・・市井ちゃんだって、そんなにはっきり言ってくれなかったじゃん。
でもそんなこといったら、市井ちゃん、おこっちゃうかもしれないし、・・・ま、いっか。
絶対、いつか言ってもらうもん。・・・・だから、今は言うこと聞いとこ。

あたしは、ちょっとだけ市井ちゃんから体を離した。
でも視線は、市井ちゃんの胸の辺りを見たままで・・・。
だって、近すぎて、顔を見上げて言うの恥ずかしいんだもん。

「えっと・・・後藤は、やぐっつぁんと市井ちゃんがデキてるって、
他の誰かのものなんだって思ったら、すっっごい、ショックでした。
・・・市井ちゃんのことが、大好きだから・・・。
だから、後藤も市井ちゃんとずっと一緒にいたいです・・・」


「・・・よくできました」

市井ちゃんは、そう言うと、またあたしの頭を引き寄せてを抱きしめてくれた。
さっきよりも少し、腕に力をこめて。
83 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月02日(土)21時51分53秒



そのあと、2人で学校を出て、駅までの道を並んで歩いている。
会話の中身は、昨日までとは何も変わらないけど、話をする市井ちゃんの声は、
昨日よりももっと、優しくて、温かい声に聞こえるのは、あたしが昨日よりも、もっと
市井ちゃんのことを好きになってるせいなのかな。

さっき市井ちゃんは、「ずっと一緒にいたい」って言ってくれたけど、今並んで歩いてる
2人の距離は、これから先、平行線のままじゃなくて、ちゃんと重なるときが来るんだよね?
でも、そのままクロスしていったりなんか絶対やだよ。
ずっと、ひとつのままだからね。

あたしも、今日やっと市井ちゃんに「大好き」って言えたけど、でも伝えたいことは、
やっぱり、まだたくさんあるような気がするんだ。
あたしは、その事を言葉ではうまく言えないから、「好き」っていう一言にして
市井ちゃんに、伝えるね。
だから、市井ちゃん、これからもあたしが「好きです」って言ったら、
今日みたいに抱きしめてくれる?
そしたらあたしも、何回でも、ずっと、ずっと、市井ちゃんに「好きです」って言うから。
でも、ときどきでいいから、市井ちゃんにも言ってほしいんだけどな。
あたしもちゃんとお返しするからね・・・。
これからも、ずっと一緒にいようね、市井ちゃん。
 


 【end】 


84 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月02日(土)21時54分19秒
終わりです。

このような駄文に最後まで付き合ってくれた皆さん、
そして特に、レスしてくださった皆さん、ありがとうございます。感謝です。
また、読み終わった感想などをいただけたら嬉しいです。

このお話は終わりなんですが、他にスレを立てるのは気が引けるので
これからもここで、細々と続けさせてもらいたいと思ってます。
「付き合ってやってもいい」という方は、近いうちに再開しますので
チェックして下されば幸いです。

あと、このお話は終わりといいましたが、【エピソード1】終了と
考えていただければよいかなと・・・。
85 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月02日(土)22時06分23秒
っていうことは、続き書いてくれるのですか?
楽しみです
・・・矢口の話も読みたかったり。
86 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月02日(土)22時09分25秒
おもしろかったです!!
未来が期待できそうな感じで。
これからも書かれるんですね。楽しみにしてますね。
87 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月02日(土)23時15分40秒
おぉぉエピソード1終了ですか
スターウォーズみたいでいっすね(w

なんかほのぼのしてて凄く良かったです。勿論チェック続けますので、次回作期待しております!
88 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月03日(日)02時05分04秒
like this!!
忘れかけていた、いちごま魂が復活できたよ!
89 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月04日(月)04時12分02秒
最近ではめずらしくなってきたいちごまの純愛ものですが、やっぱりいいっす!!
この作品の続き?である【エピソード2】も期待しています。
90 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月05日(火)01時57分20秒
今日初めて読んで、一気に全部読んじゃいました。
次回作、期待しています。
91 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月05日(火)19時41分30秒
私も今日初めて気がついて、一気に読みました。
サイコーでした。
【エピソード2】以下(もちろん3以降も続けて、という意味ですが...)も
いちごまだったらいいなあ。1は後藤の視点中心でしたが、市井の視点からの
話もあるとウレシイです。
92 名前:作者です。 投稿日:2001年06月09日(土)21時23分11秒
どうも、作者です。
たくさん感想をいただけて感激です。

>85さん
誰かその事をつっこんでくれないかな〜と実は期待してました。
ありがとうございます。
矢口さんの『京都に実家がある恋人』とまで出してしまって
その話を書かないわけにはいきません。(w

ということで、『greenage - u -』矢口さん編です。
93 名前:greenage   - u - 投稿日:2001年06月09日(土)21時24分03秒
 季節は、梅雨入りして間もないころ。
授業の間の休み時間に、体育の授業の後で、べとつく体を気にしながら
隣にいる友達と「最近ジメジメして、うっとうしくて・・・」
なんて、17歳の女子高生らしくない会話をしながら、廊下を歩いていると、
梅雨のうっとうしさなんて、関係ないみたいなはじけた声が、上から聞こえてくる。

「いち〜せんぱ〜い!」

一年の後藤真希だ。
そうしてそう呼ばれたのは、隣にいる市井紗耶香だ。

「・・・んな、大声で呼ぶなっつーの」
迷惑そうにそうは言うものの、ぜんぜんそういう顔には見えないんだけど。
94 名前:greenage 投稿日:2001年06月09日(土)21時24分37秒
「アハハッ、なんで〜、かわいいじゃん。紗耶香もホントは、うれしいんでしょ?」
「なんで、そうなるんだよ・・・」
「だって、最近ごっちん、紗耶香のお気に入りじゃん?
ごっちんも随分なついてるみたいだし〜」
「だからぁ、どっからそういう・・・・」

紗耶香が応えてあげないから、1階上の渡り廊下にいるごっちんに手を振りかえしてあげる。

「あ、やぐっつぁんだ〜 お〜い」

ごっちんは、今度はあたしに向かって手を振ってくれている。
でも、隣にいるごっちんの友達のよっすぃーは、周りから振り返られて恥ずかしいみたい。
95 名前:greenage   - u - 投稿日:2001年06月09日(土)21時25分47秒
「ハハ、やっぱりかわいいじゃん。ほらぁ、紗耶香も手、振ってあげなきゃ〜。
・・・・あ、もう〜ごっちん、よっすぃーにひっぱられて行っちゃったじゃん。
矢口知らないよ〜。今度あったとき、ごっちんに嫌われちゃっててもさぁ」

「んなわけないだろ・・・」

「うわっ、言い切っちゃったよ、コイツ。たいした自信だね〜。
まぁ、でもあれだけなついてればねぇ。ちょっとくらい冷たくさても、大丈夫か。
後でこっそり、2人だけのときに、紗耶香が、優しくフォロー入れてあげれば、
すぐにごっちんも機嫌も直っちゃうよね。大丈夫だよ、矢口ジャマしに行ったりしないから」

「あのなぁ」

紗耶香は、そんなことないなんていってるけど、あたしは知ってるんだよ。
最近、紗耶香が委員長の仕事以外でも図書室に入り浸っていることをね。
そして、入り口のドアが開くたびに、なにげに気にしてることを・・・。
96 名前:greenage   - u - 投稿日:2001年06月09日(土)21時26分48秒
「あんたら、はよ教室もどらんと、授業はじまんで〜」

あたしが、紗耶香をもうそろそろ許してあげようかと思ってたとき、
後ろから声をかけられた。
関西弁を話す人なんてこの学校には、この人と平家先生だけだし、
毎日聞いてて、傍にいない時でも時々無性に聞きたくなるこの声が
どっちか分かんないわけなくて。

「そういう裕ちゃんだって、次の授業間に合うの?」

「あほか、教師が休み時間終わらん間に教室におって、ボケ〜っとしとったら、
職員室に友達おらんのか、思われるやろ」

・・・大丈夫、絶対に誰もそんなこと思わないから。
あたしが無言で、表情だけでつっこんでると、代わりに紗耶香が口を開いた。

「あ〜、中澤センセ、大丈夫っすよ。先生がしょっちゅう平家先生にケリいれてんの、
みんな見てますから、少なくとも一人も友達いないって思われては、ないですよ。
あ、でも、矢口と先生のこと知ってんのは、市井だけなんで、心配しないで・・・イテッ」

紗耶香が、余計な事口走ったから、わき腹にパンチ入れてやった。
・・・仕返しのつもりかよ・・・。
97 名前:greenage   - u - 投稿日:2001年06月09日(土)21時27分29秒
「市井・・・・・。今度の中澤先生の授業、楽しみにしときや。
・・・ただし、たっぷり予習だけはしといたほうがええでぇ〜」

「あ・・・」

ざまーみろって紗耶香のこと横目で見たら、紗耶香は、ムッて感じでにらみ返した。
ふたりで、そんな感じでふざけあってたら、裕ちゃんが笑いながら「先いくで〜」って、
あたしの頭を、ぽんってたたいて、通り過ぎていった。

「あ〜っ、あの人、口だけで終わんないからな〜。
今度の中澤先生の授業・・・地獄だ・・・」

「紗耶香が、よけいなこと言うからでしょ。まったくさぁ」

「・・・矢口は、中澤先生の授業得意だからいいよ。
ま、授業以外でも手取り足取りおしえてもらえるからさぁ〜。
でも市井は、苦手なんだよね、数学。あ、そうだ。勉強だけなのかなぁ?
矢口が教えてもらってるのってさぁ・・・」

「・・・」

クッソ〜・・・負けず嫌いなんだよ。紗耶香は・・・。
でも、それはあたしも同じだもんね〜。
98 名前:greenage   - u - 投稿日:2001年06月09日(土)21時28分35秒
「う〜ん。そうだ♪裕ちゃんにごっちんのこと教えてあげよ〜。
ごっちんのクラスも教えてるみたいなこと言ってたからさぁ。
裕ちゃん、まだ知らないんだよね〜。紗耶香がごっちんのことお気に入りだってこと。
ごっちんに紗耶香のこと、イロイロ教えてあげといてねって、言っといてあげるね。
いや〜なんて友達思いなんだろ、矢口」

「・・・」

よし、今日はあたしの勝ちだな。いままでは、裕ちゃんのことで紗耶香にやられて
ばっかだったけど、最近紗耶香の弱み握っちゃったんだよね。
でも、お互い同じような弱みなんだけどね・・・。

紗耶香は、裕ちゃんとあたしの関係を知ってる、最初から。
あたしたちが・・・先生と生徒だけの関係じゃないってこと・・・。
でもそれを知ってるのは紗耶香だけなんだ。
紗耶香は、そのことでふざけて、からかったりしたりする時もあるけど、
あたしが悩んでると、必ず一緒に、悩んでくれるんだ・・・。
99 名前:作者 投稿日:2001年06月09日(土)21時31分32秒
今日はここまでです。
前作とリンクする箇所が、ちょこちょこと出てきますので。

関西在住の方、または関西出身の方。
中澤先生の関西弁がおかしいかもしれませんが
見逃してください。
100 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月10日(日)00時46分36秒
新しいのが始まってる〜
市井と矢口の絡みがなかなかいい感じ。
101 名前:greenage - u - 投稿日:2001年06月10日(日)21時46分13秒



 その日、あたしは放課後、裕ちゃんに職員室まで呼び出されていた。

図書室で紗耶香と時間をつぶして約束の時間まで、待ってようと思ったんだけど、
ごっちんが紗耶香に会いに来たから、やっぱジャマしちゃわるいじゃん?

少し早かったけど、職員室に行ったんだ・・・。
102 名前:greenage -u- 投稿日:2001年06月10日(日)21時47分11秒
 やっぱり、まだ早かったみたいだ。
裕ちゃんは職員室の自分の席にいなかった。だから、ぐちゃぐちゃの裕ちゃんの席とは
対照的な、きれいに片付いた隣の席に座っている、平家先生にたずねた。
「先生。あの、ゆ・・・中澤先生どこ行ったか知りませんか?
・・・ちょっと呼ばれてるんですけど」
「ヘァ・・・あぁ・・・中澤先生?・・・相談室に行って・・・
ちょいまち、これ、キリがいいところまですませるから・・・」
先生は、テストの採点の途中で、机に向かったまま返事をしてくれた。
なんか、忙しそうだ・・・。

「・・・わかりましたぁ。じゃ、そっち行ってみますから」
裕ちゃん、最初から相談室に来いって言ってくれればよかったのに・・・。
あたしは、忙しそうな平家先生を煩わせちゃ、悪いかなって思ったから、
そのまま、職員室の隣にある相談室に向かった。
103 名前:greenage -u- 投稿日:2001年06月10日(日)21時47分56秒
「・・・よっしゃ!ええで、矢口。・・・あら?・・・どこいったんや、あの子。
まだ話はおわってへんちゅうねん。あきらめたんやろか。
・・・・まぁ、裕ちゃん、教頭と一緒やから、どっち道あかんかってんけど・・・」


相談室のドアの前に立って、ノックをしようとしたけど、ドアに指が触れるちょっと手前で止めた。
・・・そうだ、こっそり入って、驚かせてやろ・・・


ドアを音を立てないようにこっそり開け、そっと忍び込むようにして部屋に入った。

入り口から離れたところの、部屋をふたつに区切るパーテーションの向こうにある
ソファに、誰かが座っているのが、ちらちらと見える。
あれって、教頭先生?ヤバッ、裕ちゃん一人じゃなかったんだ・・・。こっそり出ていこ・・・。
104 名前:greenage -u- 投稿日:2001年06月10日(日)21時48分41秒
でも、戻ろうと引き返す背中から、教頭先生の話し声が聞こえてきて、
その内容に足が止まっちゃったんだ・・・。

「しかし、残念だね・・・。中澤先生の授業は、面白いと生徒に人気だそうですね」

「はぁ、でも決めたことですから。・・・個人的な理由で、生徒たちや、
ほかの先生方には申し訳ないですが・・・」

裕ちゃんは、普段あたしと話すときとは全然違う、イントネーションは、
関西弁のままの大人の話し方だ。
・・でも、なんでそんなこと・・・学校やめちゃうようなことはなしてんの・・・?

「いや、まぁ、しょうがないでしょう、そういう事なら。
京都の学校へは、私からよろしく言っておきますよ」

「はい、本当に気を使っていただいて、ありがとうございます・・・」
105 名前:greenage -u- 投稿日:2001年06月10日(日)21時50分23秒

京都の学校って?・・・裕ちゃん実家に帰っちゃうの?学校やめちゃうの?
・・・なんで、やめちゃうの?あたしのこと、置いてっちゃうの?
あたしのこと、もう・・・。

今日呼び出したのって、その事言うためだったんだ。
そんなの・・・そんなの聞きたくないよ!

・・・あたしは、そのまま裕ちゃんには会わずに家に帰った。
なんで?どうして?そんなことばかりが、頭の中に、胸の中に渦巻いていて、
どうやって帰ってきたか覚えてない。
106 名前:作者どぇす。 投稿日:2001年06月10日(日)21時54分17秒

更新しました。


107 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月11日(月)21時06分30秒
おおやぐちゅ〜ですか、生徒と教師って設定が魅惑的です(w
途中で入ってくるいちごまも楽しみ
108 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月11日(月)21時11分08秒
こんどは矢口さんですか…
切なくなりそう…
109 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月13日(水)21時21分10秒


 次の日、学校なんて行ける気分じゃなくて、仮病を使って休んだ。
前の日からご飯も食べないで、部屋に閉じこもっていたから、
お母さんは本当に、病気だと思ってるみたい。



眠ることもできずに、布団の中にもぐりこんでいると、机の上に置いてある携帯が鳴り出した。
時計を見ると、ちょうど一時間目がおわったころだ。
・・・紗耶香かな?何も言わずに休んでるから心配したのかもしれない。

ベッドから出て、携帯を手にとりディスプレイを見る。
・・・裕ちゃんだ・・・。
どうしよう。・・・でも裕ちゃんは、昨日あたしが教頭先生との会話を
聞いてしまったことは知らないから、ホントに、病気だと思って心配してるだろうな・・・。

思い切って、通話ボタンを押した。
110 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月13日(水)21時22分10秒

「はい・・・」
「あ・・・。矢口、裕ちゃんやけど・・・。今日休んでるって聞いたから・・」
「うん。・・・ちょっとね・・」
「なんや、えらい元気がない声しとるな。・・・大丈夫なんか?」
「うん。・・・なんとか・・・」
「そうか・・・」

裕ちゃんの声も、いつもと違うように聞こえるのは、あたしが落ち込んでいるからなのかな。

「・・・ごめんね。・・・きのう、矢口、勝手に帰っちゃって・・・。
 あのね・・・あの・・・頭が痛くなって・・・それで・・・だから今日もね・・・」
「うん。・・・そうやね・・・」



それからしばらく沈黙が続く。
どうしよう、聞いたこと話したほうがいいのかな。
それとも、もう切ったほうがいいのかな。
裕ちゃんも何で黙ってるんだよ・・・。
でも、沈黙を破ったのは、裕ちゃんのほうだった。
111 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月13日(水)21時23分06秒

「矢口・・・。あのな、昨日みっちゃんに聞いたんやけど、
職員室には、来たみたいやな・・・」
「あ・・・」
「うん。・・・それでな・・・もしかして、矢口は・・・相談室で、
私と教頭先生が話してたこと・・・聞いて・・・たんやろか」
「・・・あの・・・ごめんね。・・・盗み聞きみたいな・・・」
「いや、そんな事・・・気にしてるんやない・・・あのな矢口」

もう、裕ちゃんの口から、昨日のこと思い出させるような話、聞きたくなかった。
・・・だから裕ちゃんの話を遮る様に言った。

「裕ちゃん。・・・次の授業始まっちゃうよ?・・・矢口、大丈夫だから。
ホントに頭痛いだけだから」
「えっ・・・あ・・・矢口。・・・明日は、来れるんか?」
「・・・頭痛いの治ったら・・・行く・・・」
「そうか・・・」
「じゃあ、切るね。・・ありがと電話してくれて」
112 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月13日(水)21時23分53秒

最低だよ、あたし。
裕ちゃんは、心配して電話してくれたのに。
携帯を握り締めて、胸の前に持ってくると、涙が溢れてくる。
昨日、あんなに泣いたのにまだ、泣けるだけの涙が残ってたんだ・・・。
俯いて、唇を噛み締めるんだけど、声が出てくるのを押さえられないよ。

「ック・・・グ・・・ゴメンね。・・・裕ちゃん」




113 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月13日(水)21時24分39秒



 次の日も、結局学校を休んだ。
夕方になって、布団の中でウトウトと、眠りかけていると、階段を昇ってくる音が聞こえてくる。
ドアをノックする音の後に、お母さんが、ドアを開けながら入ってきた。
「真里、起きてる?紗耶香ちゃんから、電話だけど」
「紗耶香から?・・・うん・・・でるよ」

昨日、裕ちゃんから電話がかかってきてから、携帯の電源を切ってしまったままだった。
お母さんから子機を受け取り、部屋を出て行くのを確認すると電話に出る。
「もしもし?」
「・・・や〜ぐち〜。何で、携帯に出ないんだよ〜」
「あ・・・充電するの、忘れてて・・・」
「・・・そっか、まぁ、そんなことは、とりあえずどうでもいいんだけど。
どうなの?・・・お体の調子はさぁ」
「・・・はぁ、おかげさまで・・・」
「じゃあ、明日は来るね。というか、来い」
「・・・いや・・あの・・」
はっきり答えることができないでいると、紗耶香がため息をついた後、話しだした。
114 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月13日(水)21時25分50秒

「・・・単刀直入にいいますが・・・中澤先生と何かあったの?」
「えっ、なんで知って・・・」
「やっぱり」
しまった。・・・つい驚いて、口を滑らせてしまった。

「あのさ、・・・中澤先生なんか変だったんだよね。きのうから。
矢口とは、当然連絡とってるんだろうと思って、聞くんだけど、
全然はっきりしゃべらないんだよ。普段と違ってさ」
「・・・」
裕ちゃん、そうなんだ。・・・ゴメンね。自分勝手にすねちゃって。
・・・でも・・・やっぱりまだ・・・。
黙って考え込んでいると、紗耶香が続ける。
「とりあえず、明日は来い。市井に会ったら病気も吹っ飛ぶから。
だから来いよ、ゼッタイ」
「紗耶香・・・」
「よし、決まり!・・・聞いてほしい話もいっぱいあるんだろ、矢口」
「・・・ズッ・・・ング・・・」
「じゃあ、明日な!学校で待ってるぞ」
「・・・ッン・・・うん。・・・ズッ・・・」

ありがと紗耶香。・・・ホントにありがと。
でも、電話で言えなかったから、明日学校で、直接会って言うね・・・。



115 名前:作者。 投稿日:2001年06月13日(水)21時30分21秒
更新しました。


116 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月13日(水)21時44分06秒
姐さん〜(w
やぐちゅーだ!!!
117 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月13日(水)21時47分28秒
矢口ぃ〜、せつないぞぉ!
矢口が携帯握りしめて泣いてるところで、一緒に泣いてしまいました...
118 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月13日(水)21時48分22秒
さりげに、いちごまも期待しております!
119 名前:やぐちゅー大好き 投稿日:2001年06月13日(水)21時50分24秒
やぐちゅー発見!
更新楽しみに待ってます。
120 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月15日(金)04時46分27秒
やぐちゅーいいですね〜。
さやまりの友情もいい感じです。
ただ、出来ればやぐちゅーの隙間にでもコッソリいちごまを・・・(w
121 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月15日(金)22時05分06秒
 教室の入り口の前で、ひとつ深呼吸してみる。よし、大丈夫だ。

「おはよ〜」
なるべく明るく、周りの友達に言いながら、紗耶香の席に向かう。

「おはよっ。紗耶香」

「おう、おはよう、矢口。寂しかったじゃん。二日も市井をほっといてさぁ」

「へへ〜、ごめんねぇ」

紗耶香がちょっとふざけた感じで言ってくれたから、楽に話が続けられた。


 放課後になるまで、紗耶香は何も裕ちゃんとの事を聞いてこない。
たぶんあたしから、話すのを待ってるんだ。

「紗耶香。・・・あのちょっといいかな・・・」

「ああ、・・・いいよ。・・・じゃあ、図書室行こうか。どうせ人少ないし」
122 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月15日(金)22時06分00秒

2人で図書室に入ると、紗耶香の言うとおり、人はまばらだった。
紗耶香は気を使ってくれて、一番奥の多分誰もかりることの無い
ほこりをかぶった、分厚い図鑑のような本が並んでいる本棚の列の向こうまで
あたしを連れて歩き、そこで立ち止まった。

「へへ、穴場でしょここ。ホントは司書室にしたかったんだけど。きょう、司書の
先生いるの忘れてた・・・。ここなら、誰も来ないからさ。声とかもこの本棚、
背が高いから、あっちに聞こえないと思うけど・・・。嫌だったら場所変える?」

「いいよ。ここで充分だから」

紗耶香が気を使ってくれるのがわかったから、別に気にもしなかった。
だって、ホントにこんな本、かりる子いないよ・・・。ただでさえ、利用者少ないのに。
・・・何か、理由がない限りは、誰もこないと思う・・・。
123 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月15日(金)22時06分37秒

紗耶香は、やっぱりあたしから話すのを待っている。

「あのさ、紗耶香。・・・裕ちゃんの・・・ことなんだけど」
「・・・うん・・・」

紗耶香が、本棚にもたれながら返事をしたので、その隣に同じようにもたれた。

「この間ね・・あ、休む前の日なんだけどさ。
・・・裕ちゃんとさ、教頭先生が相談室で話してるの
聞いちゃったんだ。・・・裕ちゃんね、・・・京都の実家に・・・
帰るんだって・・・そんでね向こうの学校で、先生続けるんだって・・・・」

「・・・そっか・・・」

「うん・・・それでね、裕ちゃん、矢口がその事聞いちゃったの知ってるんだ・・・」

「・・・そんな感じだった。・・・中澤先生」

そこまで話すと、何が言いたいのか分からなくなって、黙ってしまう。
124 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月15日(金)22時07分09秒


「・・・やぐち・・・」

だけど、紗耶香がとっても優しい声で、顔を覗き込みながら名前を呼ぶから・・・
あの日、裕ちゃんが遠くへ行っちゃうって知った日から、本当は
ずっと、ずっと裕ちゃんに言いたかったことが、涙と一緒に溢れてくる。

「・・・ッウ・・・矢口は・・・裕ちゃんとずっと一緒にいたいよ。・・・裕ちゃんが・・・
裕ちゃんのことが大好きなんだもん。・・・離れるなんてやだ・・・これ・・からも・・
ずっと矢口のこと見てくれるって思ってたのに・・・。なんで・・・裕ちゃん、矢口のこと
もう・・・・。ックヒック・・いやだよぉ・・・・・」

それだけ言ってしまうと、後は、ただ涙が溢れるだけだった。

「・・・矢口・・・中澤先生が、矢口とのこと気にしてるとか、好きじゃなくなったとか、
そんなこと、絶対に無いよ。・・・だって、見てたらわかるもん。・・・授業中とか、
矢口の席見て、なんか、すごい寂しそうな顔したり、矢口のこと聞いたら・・・
ちょっと、俯いちゃって、言葉につまったり・・・。
・・・中澤先生が、京都に帰るのは、なにか理由があるからでしょ?
それが、矢口のせいだとか絶対にあるわけないし・・・だから、
そのことを、話すチャンスを先生にあげなきゃだめだよ。逃げてばっかりじゃ、
先生、話ができないまま、京都にいっちゃうよ?
・・・離れたくないって、好きだって思ってるのは、きっと先生も同じだよ・・・」

紗耶香は、そういい終わると、肩を抱いて、ちょっと力を入れて抱き寄せてくれた。
そして、泣き止むまで、何も言わずにそうしてくれていた・・・。
125 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月15日(金)22時08分03秒



 次の日、4時間目の数学の授業。
裕ちゃんは、いつも通りに授業を進めているように見える。
だけど、教室に入ってきたとき、あたしの姿を見つけて、何か言いたそうな目をしていた。
授業中も目が合うと、ちょっと困ってるみたいな顔をした。

授業が終わって、裕ちゃんが教室を出て行ったあとを追いかける。

「中澤先生!」

裕ちゃんは、ちょっとビクッてなって、振り返った。

「・・・なんや・・・矢口・・」

「あの、放課後・・・時間ありますか?
さっきの授業でわからないとこがあって、教えてほしいんですけど」

「そうか・・・なら・・・6時間目がおわったら、職員室に来なさい」
「はい・・・」



126 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月15日(金)22時08分47秒



お昼休み、いつものように窓際の紗耶香の席で、お弁当を食べている。

「・・・紗耶香・・」
「ん?」

紗耶香は、パック入りのジュースのストローをくわえたまま、返事をする。

「さっきね・・・中澤先生に、放課後、わからないことがあるから教えてくださいって言ったんだ」

「・・・ふぅん。・・・じゃあ、ちゃんとわかるまで教えてもらいなよ・・・」

「うん・・・そうだね・・」



そのあとは、2人ともただ、黙ってお弁当を食べていた。
でも、食べ終わった紗耶香が、窓の外を見ながら、呟いた。
127 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月15日(金)22時09分23秒

「あ・・・後藤だ・・・」

向かい側の校舎の1階の廊下を、ごっちんとよっすぃーが歩いている。
あたしは、この妙な雰囲気を変えたかったから、いつもみたいに紗耶香に言った。

「ほら、紗耶香。ごっちんがやってくれるみたいに、名前叫んで、手、振らなきゃ」

でも紗耶香は、いつもみたいに返してこない。
「・・・なんかさ、後藤・・・今日朝会ったら、変だったんだよね・・・」

「へんって?」

「あのさ、おはようって声かけたら、一応後藤も返してくれるんだけど
・・・その後、すぐに行っちゃったんだよね・・・」

「紗耶香、ごっちんになんかしたの?」

「・・・あのなぁ・・・でも、昨日までは、普通だったんだけど・・・」

「ふ〜ん。でも、朝だけでしょ。お腹でも痛かったんじゃないの」

「そうかなぁ・・・」

ったく、紗耶香のヤツ、あたしには偉そうに説教しといて、
自分はごっちんのことになると、急に弱気になるんだから・・・。


128 名前:作者です。 投稿日:2001年06月15日(金)22時13分23秒
更新です。
…え〜、いちごまを期待されている皆さん。
こんな感じです。…そんなに出てこないかな、ごめんなさい。
前にも書きましたが、この話は前作とリンクしてますので
出てくるとしたら、その辺りです。
しかし、作者はいちごま至上主義です。
続編はモチロン考えてます。
ということで、今回はやぐちゅーに専念させて頂きたく…
129 名前:いちご好き 投稿日:2001年06月15日(金)23時12分52秒
十分です。今回のも続編のも楽しみに読ませて頂きたいです。
130 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月15日(金)23時29分51秒
楽しみ...
131 名前:120 投稿日:2001年06月16日(土)02時49分18秒
すいません!!
なんか、強引にいちごまを入れるようにねだったみたいになってしまって。
この話自体、面白くて大好きなのに、ついつい欲張ってしまいまいた。(w
どうぞ、やぐちゅーに専念して頑張って下さい。
132 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月16日(土)19時06分30秒
やぐちゅー発見
先が気になるところで・・・
楽しみに更新待ってます!
133 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月16日(土)23時17分55秒
いちごま至上主義っていい響きやね
ちゃんと「u」ってみえますよ
134 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月18日(月)21時23分40秒


 放課後、職員室に行くと、今度は、裕ちゃんは自分の席で待っていてくれた。
裕ちゃんの机は、平家先生ほどじゃないけど、少しずつ片付けられているみたいだった。

「中澤先生・・・」
「お・・・矢口・・・。よっしゃ、・・・相談室行こか・・」



135 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月18日(月)21時24分19秒

相談室。
この前、教頭先生が座っていた、硬いソファに、今度はあたしが座る。
そして、裕ちゃんはテーブルをはさんだ向かいのソファに座った。

お互い何から話していいのかわからなくて、しばらく黙っていたんだけど
裕ちゃんが、ふぅーって、息をついた後、話し始めた。

「・・・矢口、・・・うちな、一学期が終わったら、京都にもどんるんや・・・」
「・・・うん・・・」

一学期が終わったあと・・・もう一ヶ月ぐらいしかないね・・・。
結構急なんだな・・・。

「・・・なんでかっていうたら・・・あのな、実家の父親がな・・・病気でな・・」

そこまで言うと、裕ちゃんは少し黙ってしまう。その裕ちゃんの様子から
裕ちゃんのお父さんがどんな病気だか、あたしにも想像はつく。

「・・・その病気がちょっと、やっかいでな・・・もって後・・・半年とか・・・
そんな病気やねんな・・・せやから、今までこっちで好きなことやらせてもろうたし
・・・最後ぐらいな・・・。母親も、看病とかショックとかで、ちょっとまいってるのも
あるんやけど・・・一緒にいてあげたいって言うか・・・支えてやりたいんや・・・」

「・・・そう・・・なんだ・・・」

こんなとき、励ましてあげられなきゃいけないんだよね・・・でも、あたしはそんな
大人じゃないから・・・裕ちゃんと、離れたくないっていう気持ちのほうが大きいから、
そんな言葉なんて、でてこないよ。
行かないでって、言わないようにするのが、泣くのを我慢するのが、精一杯だよ・・・。

136 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月18日(月)21時24分55秒

「矢口には、迷惑かけるかもって・・・思ったんやけど・・・」
「迷惑なんて・・・」

これ以上は、やっぱり喋ることができない。あたしのほうが呼び出したのに、
喋ってるのは、裕ちゃんばかりで、元気付ける言葉とか、ちょっとでも
安心させてあげられる言葉とか、何で言えないんだよ。・・・なんで・・・。

「うちは、矢口と離れたくないって思っとるよ。
矢口もそう、思っててくれると嬉しいんやけど・・・」

「・・うん。・・・そう思ってるよ」

「・・・ありがとう。・・・でもな、後悔したくないんや・・・
なんであの時って思いたくないんや。
今逃したらもう、次はないから、京都に帰るって決めた。
・・・寂しい思いはさせるけど、でも、矢口のことはあきらめられへん。
矢口が好きやから・・・矢口には待っててほしい。」


「えっ・・・」

137 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月18日(月)21時25分27秒

「・・・うん。・・・京都の学校にな、行くって言ってたやろ。教頭先生のつてでな。
向こうの学校の産休の先生の代わりが、ちょうど二学期から一年間やねん。
それが終わって、こっち戻ってきても、この学校へ戻れるかは、わからんけど。
・・・一年は、京都でな・・・父親が亡くなっても・・・
母親の傍にいてやりたいんや・・・せやから、それまでな・・・」

「・・うん・・ッウ・・ク・・・」

「・・矢口、一年待ってくれんか・・・もしかしたら、ちょっと過ぎるかもしれへん。
けどな・・・戻ってくるで。・・・矢口のところに。矢口が、うちのこと忘れても
戻ってくる。元気にしてるかなって見に来る・・・」

「忘れないもん。・・矢口、ずっと裕ちゃんのこと・・・」

裕ちゃんは、テーブルを挟んだ向かい側のソファから、隣まで来て、
泣いてるあたしを抱きしめてくれている。

138 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月18日(月)21時25分58秒

「・・・裕ちゃん。・・・ゴメン・・・」

「なんで、矢口が謝るんや。謝るんなら、裕ちゃんの方やん・・」

「・・ううん。・・矢口、裕ちゃんには、帰らないといけない理由があるのに
離れたくないって、帰ってほしくないって、いじけてて・・・それで
裕ちゃんが一年たったら戻ってくるってわかったらすごい、
嬉しいって思っちゃったんだ。
裕ちゃんのお父さん、病気なのに、それなのに・・・嬉しいって・・・だから・・・」

・・・裕ちゃんは、優しすぎるよ・・・。あたしは、自分のことしか考えてないのに、
裕ちゃんは、あたしの肩を抱いて、涙を手でぬぐってくれてるんだ・・・。

「矢口・・・泣かんといて・・うちは、矢口が待っててくれるって分かったら、嬉しいし、
矢口が、父親のことも気にしてくれてるのも、嬉しいよ。矢口は、何にも悪いことあらへん。
何にも気にせんでええよ・・・」

裕ちゃんは、そう言ってあたしが泣き止むまで、肩を抱いていてくれる。
あたしが泣きやんだころ、肩を抱いたまま、優しく話し掛けてくる。

139 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月18日(月)21時26分42秒

「矢口は、うちが教頭先生と話してるのを聞いてから、うちのこと
避けてたやろ・・・。それは、・・・なんでなんやろ・・・」

「だって、ショックだったし。・・・裕ちゃんに会ったら、裕ちゃんのこと
責めたり、泣いちゃったり、話も聞かずに取り乱しちゃうっておもったから・・」

「うん。そうか・・・でもそれは、うちが悪いんや。矢口に知られたってなったら
いざとなったら、どうしてええんかわからんなって、自分から話をしようとせんかった」

「ちがうよ、矢口がいじけて学校休んだりしたから・・・」

「いや、違わんよ。無理やりにでも矢口の部屋に上がりこんで、話をすれば、
矢口は今みたいに分かってくれてた。だから、これからは、お互いに
遠慮せずに話し合おう?矢口も我慢せずに伝えたいこと話してや。
もう、すれ違って、矢口と話できんなるのは嫌やから・・・」

「・・・うん・・・」



140 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月18日(月)21時27分16秒



裕ちゃんは、大人で、あたしがいじけてても、意地悪しても、許してくれて。
あたしは、子供で、裕ちゃんが大変な状況にいるのに、自分のことばっかで
何の言葉もかけてあげられない。

でも、・・・裕ちゃんは、許してくれた後、
あたしが大人になれるように、ちゃんと道を教えてくれてたね。
だから、あたしが大人になって、裕ちゃんみたいな大人になれたら
ちゃんとバランスが取れるんだよ・・・。
裕ちゃんが、辛いときには、ちゃんと包み込んであげられる大人になるから、
もうちょっと待っててね。



141 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月18日(月)21時27分50秒


「裕ちゃん、ゴメンね。矢口が子供だから、裕ちゃん苦労してばっかりだね・・・」

「・・・矢口・・・大人は、子供に癒されるんやで、知らんかったんか?」

「・・じゃあ、矢口、大人になれないじゃん。ずっと子供のままでいなきゃだめだね」

「矢口は、大人になっても子供みたいやん。小さいから・・」

「・・・ばか」

「ハハ、冗談や。・・・そうやなぁ、矢口が大人になったときは、うちより
ずっと、しっかりした大人になってるやろうから、疲れた矢口を、今度は
うちが癒してやらんとあかんなぁ・・・」

裕ちゃんは、ちょっと意地悪な大人だ。・・・こうやって冗談ぽくでも、
遠まわしに、あたしに、ちゃんとした大人になるように・・・
あたしが大人になっても、一緒にいよう、って言うんだから・・・。



142 名前:作者。 投稿日:2001年06月18日(月)21時30分42秒

更新です。

レスして頂いた皆さん、ありがとうございます。
レスがたくさんついてると、めちゃめちゃ励みになるんです。
と言いつつも、個々に返事しなくてごめんなさい。
その分、作品に全力投球、頑張ります!

次回更新で、「greenage−u−」は、終わりです。

143 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月18日(月)23時07分40秒
greenage−u−は、終わってしまうのですか?
とても、残念です。作者さんの書くやぐちゅーは、何かちょっと切ない・・・
とっても好きです。もし出来たらその後の続をお願いします
144 名前:パク@紹介人 投稿日:2001年06月19日(火)22時57分37秒
こちらの小説を「小説紹介スレ@銀板」に紹介します。
http://www.ah.wakwak.com/cgi/hilight.cgi?dir=silver&thp=992877438&ls=25
145 名前: greenage −u− 投稿日:2001年06月21日(木)22時14分55秒


 裕ちゃんと、話をして、あたしはもう、いじけてなかったし
紗耶香にも、その事を話した。
ただ、裕ちゃんを困らせちゃだめだって、思ったから、もうあの日からは
離れたくないとか、寂しいとかは、言わなかった。


そして裕ちゃんの授業の時間、提出していたテキストを返されると、
間に何かメモが挟まってるのに気付いた。

『放課後、相談室に来なさい。注意しておきたいことがあります。

 あなたの中澤先生より』

・・・なんだよ、注意したいことって。
もういじけたり、わがまま言ったりしてないのに・・・。



146 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月21日(木)22時16分16秒


 放課後の相談室。
まだ裕ちゃんは、来ていない・・・。

なにしてんだ、呼び出しといて。注意したいことがあるんじゃなかったのかよ。
自分が注意されるようなことするなっ。



裕ちゃんがなかなか来てくれないから、あたしは、紗耶香に電話することにした。
今日の朝、一緒に帰る約束してたの、忘れてたんだ。
ごっちんにかまってもらえなくて、なんか最近元気ないんだよね。
だからあたしが元気付けてあげようと思って、買い物に誘ってたんだけど…
許せ、紗耶香。


147 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月21日(木)22時16分46秒

「もしもし?紗耶香、・・・あのね、悪いんだけどさぁ・・・
今日ちょっと一緒に帰れなくなっちゃったんだ、ごめんね」
「え、・・・あ、そうなんだ。いいよぜんぜん。・・・今さ、あたしも後藤と一緒なんだよね・・」
「図書室?」
「そうだけど・・・」
「ふ〜ん。・・・がんばってね」
「・・・何をだよ」



あたしたちは、ちょっとだけその後も、話をしたんだけど、
ごっちんを待たせちゃ悪いから、早めに電話を切った。



148 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月21日(木)22時17分22秒


コンコン

ドアをノックする音の後に、裕ちゃんが入ってきた。

「・・・失礼します・・・」

「裕ちゃん遅かったね。矢口帰っちゃおうと思ったんだけどさ、
やっぱり、こういうことはちゃんと、注意しないといけないでしょ?」

「いや、あのな・・・相談室使うって、みっちゃんに言うたらな、こないだも
使うてた言うて、つっこまれてな。それが、矢口やってわかったら、なんか
怪しまれてな。生徒に手ぇ出してるんやないやろなって・・・ちょっとな・・」

裕ちゃんは、言い訳しながらあたしの隣に座る。

「あっそう・・・それで、中澤先生が、注意したいことって何なんですか?」

「・・・チッ・・・みっちゃんのせいで・・・」

「なんか言いました?」

「あの・・いや・・。今日は、暑いな〜。
・・・まぁ、そんなんどうでもええ事なんやけど・・・  
 でも ・・・もう、7月やもんな・・・」

裕ちゃん、そんなもう裕ちゃんが行っちゃう事、
思い出させるような話しないでよ。


149 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月21日(木)22時17分56秒

「・・・そうだね」

「え〜と、それで本題に入りますが。・・・矢口はこの前相談室で
うちが、お願いしたこと覚えてるか?」

「おねがいしたこと?」

「うん、言うたよな。ちゃんと言いたいことは、言い合おうって」

「・・・うん、聞いた」

「それでや、裕ちゃんから言いたいことを、言わせてもらいたいんやけど」

なんだよ、まだ言ってないことあるの?
それは、あたしが泣いちゃうようなこと?

150 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月21日(木)22時19分00秒

「矢口は、前に相談室で話してから・・・一週間くらいたったかな・・・
寂しいとか、離れたくないとか言わへんかったな。なんでやの?」

「だって、そんなこと言ったら裕ちゃん困っちゃうよ。
わがままなんていえないよ」

「そうか・・・でも、ホンマはどう思ってるん?言うたよな?
思ってることは、遠慮せんで話してほしいって。矢口も分かってくれたんよな?」

「・・・」

「怒ってるんやないで?ただな、矢口のホントの気持ちを聞かせて欲しいんや」

「あの・・・」

「やぐち・・・」

あたしの言葉の続きを促してくれる声がすごく優しくて、柔らかくて。だから・・・

「・・・離れたくない。一緒に居たいよ。寂しいよ・・・。
帰ってくるって分かってても、押さえられないよ・・・」


151 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月21日(木)22時20分24秒

「・・・よかった・・・」

「・・・何が、よかったの?」

「だって、そう言ってもらわんと、これ渡せんやろ・・・」

裕ちゃんは、スーツのポケットの中から小さな箱を取り出して、あたしに持たせた。

「あけて?」

そう言われて中を開けると、シンプルなプラチナのリングが入っている。
裕ちゃんは、箱から、リングだけを取り出すと、あたしの右手の薬指に
通してくれた。

「矢口が、寂しくないって、一人でも平気やって、言うたら
どうしようか思うたわ・・・」

「なんで?」

「だってな、矢口が寂しいって言うてくれたら、このリングが、
うちの代わりに、いつでも一緒に居るでって言いたかったんやもん」

「・・・裕ちゃん、ありがと・・・すごい嬉しいよ・・・」

「それは、本心?」

「・・・当たりまえじゃん」

そう言って、裕ちゃんの方に顔を向けると、
裕ちゃんは、あたしの目を見つめながら、顔をゆっくり近づけてくる。
思わず、顔と体を後ろに引いてしまう。
152 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月21日(木)22時21分22秒
「・・・裕ちゃん、学校ではしないって、言ってたじゃん・・・」

「えーっと、・・・矢口は、裕ちゃんと、キスしたいですか?
今、本当に思ってることを言ってください」

「・・・したいです」

もうこれ以上は、何もいえないよ。
だって裕ちゃんが唇をふさいでるから。

でも、裕ちゃんがあたしの唇を開放してくれたから、もうひとつ言いたいこと
言わせてね?

「裕ちゃん、大好きだよ。向こうで浮気しちゃヤだからね?」

「・・・矢口、うちは矢口に、離れたくないとか、寂しいて言われても困らへんよ?
だって、そう言われても、絶対に矢口のところへ戻ってくるって、
このリングが一緒におるやんかって、ちゃんとした答えがあるから。
・・・それにな、浮気だってせえへんよ。コレがあるから」

裕ちゃんは、自分のシャツの襟元から、細いチェーンを指にかけて外にだした。
そして、その先には、あたしのと同じリングがぶら下がっていた。

「今は、指に着けてて、もし、矢口とおそろいやってばれたら、生徒に手ぇ出したって
怒られるやろ。向こうの学校にも信用なくなったら、失業して、矢口に逢いに行く
新幹線代も出せんなるやん?せやから、向こうに行ったら、このリング矢口と
同じところに着ける。それで、このリング見るたびに、私には、矢口がおるやんかって、
辛いことがあっても、大好きな矢口が元気をくれるやんかって、思い出すから・・・」

「裕ちゃん・・・」
153 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月21日(木)22時21分54秒


裕ちゃんは、やっぱり大人だね。
あたしの、精一杯の言葉よりも、
それよりも、ずっとずっとあたしの事を、泣いちゃいそうになるくらい、
感動させてくれる言葉で返してくれるんだ。

あたしも裕ちゃんみたいに、心を振るわせる言葉を言える大人になりたいけど、
だけど今は、背伸びはしないで、裕ちゃんの腕の中で、子供のままでいてもいいかな・・・。


154 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月21日(木)22時22分30秒


 一学期が終わり、夏休みに入って少したった頃、
裕ちゃんは京都に帰っていった。

そして裕ちゃんを見送りに行った駅の新幹線のホームで、泣いてるあたしの頭を
撫でてくれる、裕ちゃんの右手の薬指には、あたしのと同じリングが光っていた。


155 名前:greenage −u− 投稿日:2001年06月21日(木)22時23分37秒

ねぇ裕ちゃん、・・・ここから京都までの距離は離れてるけど、
このリングは、一瞬であたしの心を裕ちゃんのところへ運んでくれるから、
裕ちゃんもそのリングをずっと着けててくれないと、ダメだよ。
だって矢口は、京都なんて修学旅行のときしかいったこと無いから、
目印がないと、迷子になっちゃうんだからね・・・




矢口・・・裕ちゃんはこのリングを外したりなんかせんから、目印はずっとあるけど、
もし、万が一にでも、矢口がこの目印を見落として、迷子になっても、
裕ちゃんは、絶対に、どんなことしても矢口のことを探し出して見せるから、
・・・矢口も、そのリングで裕ちゃんに居場所を教えてくれんとあかんで。

でも、もし、百万が一にでも、そのリングがなくなっても、裕ちゃんは、矢口のこと
どんなにしんどくても、どんなに時間がかかっても、見つけ出してみせるから。
その時は、矢口のかわいらしさと明るさを目印にしてな。

だから矢口・・・
私を照らしてくれるその明るさと、眩し過ぎて心に沁みる笑顔は、
変らずに、ずっとそのままで・・・

 【end】
156 名前:作者 投稿日:2001年06月21日(木)22時25分34秒
『greenage −u−』 終わりです。

この話を読んで下さった皆さん、そして何より、レスして下さった皆さん、
どうもありがとうございました。

以前、作者はいちごま好きとはっきり宣言してしまっていたので、
やぐちゅー好きの方は、この話を気に入って頂けたのか、ちょっと気になってます。
とはいうものの、やぐちゅーも好きなんで、書いてて楽しかったんですけど。

『greenage』の次回作はいちごまです。というか、おそらくその次も…
では、また次回。
157 名前:ハロモニ復活万歳! 投稿日:2001年06月22日(金)00時16分23秒
いや気が付かなかった!やぐちゅーがいつのまにか。
良かったですよ〜。
いちごま2回続いてもいいんで、そのあと、SSでいいから
番外編ぽく戻ってきた中澤と矢口の再会を
いつか、いつか書いて〜!
158 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月22日(金)02時45分22秒
切ないんだけどこれはハッピーエンドですよね?いやそうだ。
良かったです。
次のいちごまも勿論期待しまくっております。
159 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月22日(金)03時51分56秒
作者さん、お疲れ様です。
いや〜、こういうハッピーエンドもいいもんですよね。
すごく良かったです。
さて、次はいちごま復活ですね。(w
めっちゃ楽しみにしてますんで頑張って下さい!!
160 名前:名無し君 投稿日:2001年06月22日(金)03時56分18秒
ここのやぐちゅー大好きでした!
いちごまも楽しみに待っていますが、
私も、その後のやぐちゅーお願いします!
161 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月22日(金)22時50分22秒
続きを書いてくれるなら、いちごまであろうと
やぐちゅーであろうと、いやいしよしでも(笑
162 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月23日(土)03時00分01秒
やぐちゅーとても面白かったです。
しかし、やはり本命はいちごまでしょう。(W
期待してますんで頑張ってください。
163 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月23日(土)10時34分51秒
よかったっす。中澤、大人や。矢口、ええこや。
さて、ちょっと様子がヘンだった後藤と図書室で話してる市井の様子が気に
なります。
一息入れたら、つぎのいちごまをお願いします。
164 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月24日(日)01時28分49秒
いちごま・やぐちゅ好きの私にとって
ここのお話は本当にツボです。
次回作楽しみにしてます
頑張って下さい!!
165 名前:さくしゃ 投稿日:2001年06月24日(日)15時14分27秒
感想レス、いっぱい頂いて感激してます。
自分の書いた小説に反応してもらえると、めちゃめちゃやる気が出ます。
つぎも、楽しんでもらえるものを書こうと頑張れます。
で、いま「greenage」3作目準備中なんですけど、その間に皆様に忘れ去られないようにと思いまして…
今までのとは、ぜんぜんタイプの違う、別のお話なんですけど、
お暇な方は、読んでやってください。
166 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月24日(日)15時15分46秒

 地球を出発して、もうどれくらいの時間がたったのでしょうか。
たった一人でこの静かな宇宙空間にいると、時間がたつのが、長く感じられて仕方ありません。

このおんぼろ宇宙船の丸い窓の外から、きらきらかがやく星が、後ろに流れていくのがみえています。
おもわず、夢中になってみていましたが、こんなに綺麗な景色をひとりぼっちで見ていると思うと、
寂しくなって、ため息をついてしまいます。
本当は、二人でこの宇宙船での星めぐりにくる予定だったのに、些細なことでケンカをしてしまって、
ひとりで飛び出してしまったのです。
でも、せっかくきたんだから楽しまないとと思い、もちまえのマイペースな性格で、気分を切り替えます。

167 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月24日(日)15時16分38秒

 まずは、目の前に見えてきた、小さくてかわいいらしい星を、最初の星に選びました。

宇宙船を泊めて、窓からまわりの様子をうかがっていると、一人の女の子が近づいてきます。
こちらを、興味深そうに見上げているので、少し立て付けの悪いドアを、
ギギィーと音を立てて、開けてみました。

「こんにちは」
ドアからでていくと、女の子は、八重歯をのぞかせたかわいらしい笑顔で声をかけてきます。
「こんにちは」
女の子のひとなつっこい雰囲気に安心して、宇宙船から降りてみると、女の子はすぐに近寄ってきました。

「どこからきたの?」
女の子は、またすぐに話し掛けてきます。
「地球からだよ」
「ちきゅう?」
女の子は、地球のことを知らないのでしょう。なにやら、考え込んで黙ってしまいました。
 
168 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月24日(日)15時17分20秒
 
「ほら、あそこに見えてる、青い星だよ」
女の子が黙ってしまったので、指をさして教えてあげます。
「ふ〜ん」
女の子が、感心したように教えてあげた方向を興味深げに眺めていると、今度は女の子の
後ろから、年も、背の高さも同じくらいの別の女の子が、声をかけてきました。

「こら〜!ノノ、知らん人ときやすく話したらだめやっていわれてるやろ〜!」

そうはいうものの、その子も興味深げな表情で、ノノと呼ばれた女の子の隣に立って、
こちらをうかがっています。

「こんにちは」
そのもう一人の女の子が話しやすいように、なるべくやさしい笑顔で言いました。
「…こ、 こんにちは」
その子は恥ずかしそうな、はにかんだ笑顔で返してくれます。

169 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月24日(日)15時18分01秒

「アイボンだって、おはなししたいんでしょ?」
「ちがうもん。…注意しにきただけやもん…」
「うそだぁ〜。この人のことがきになってきたんでしょ」
「うそやないもん!」
そんなやりと取りがほほえましくて、二人を交互に見ていると、
アイボンという子のほうが気付いてたずねてきます。
「どっからきたん?」
「ちきゅうだって。あそこにみえるきれいな星だよ」
ノノという子が得意げに言うと、くやしかったのでしょうか負けずに続けます。
「…なまえは?」
「ごとう・まき」
「ごとうさんかぁ〜」「ごとうさんかぁ〜」
二人は、まったく同時に同じことを言いました。それがおかしかったらしく、
顔を見合わせて、ぷっと吹きだしています。
アイボンは、今度は明るい声で言いました。
「ここへは、なにしにきたん?」
「旅行だよ。この宇宙船でいろんな星を見て回ろうとおっもて」
アイボンは、後ろの宇宙船を覗き込んで見ています。
「ふ〜ん。ひとりで?」
その言葉に、思わず返事が遅れてしまいます。
「…。うん、ひとりで…」
「そうなんだ。じゃあ、ノノたちがここを案内してあげるよ。ね、アイボン」
「うん!」

170 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月24日(日)15時18分34秒

 二人に連れられて、この星を案内してもらうことになりました。
この星の建物は、みんな小さくてかわいらしく、そしてあたりには、
甘いお菓子のような香りが漂っています。
すっかりこの星が気に入っていまい、もうしばらく見て回りたいのですが、
他の星にも行かなければなりません。
そのことを伝えると、ふたりはとても残念そうな表情で、顔を見合わせています。
そんな二人を見ていると、気がとがめるのですが、
二人の落ち込んだ空気を変える為に、なるべく明るい声でたずねました。
「そうだ、このあとはどこへいったらいいかな?おすすめの星があったら教えてくれる?」
ふたりは、なにやらないしょ話をした後、こう言いました。
「あそこの、あおくひかってる星にしたらええよ。
ちきゅうもきれいやけど、あの星のほうがもっときれいやから。」
「この星より、とっても大きな星だから、すぐにわかるよ!」
二人が、競争するように言うのが、少しおかしくて、ちょっと笑ってしまいました。

171 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月24日(日)15時19分11秒

宇宙船に乗り込もうとすると、後ろから、ノノに呼び止められました。
「ちょっとまって。あの星で、イイダさんっていうひとにあったら…あ、せがたかくて、かみの長い、
きれいなひとだからすぐにわかるよ。ノノとアイボンがおせわになってるひとなんだ。
…よろしくつたえといてください」
普段、使わないような言葉なのでしょう。
かしこまって、たどたどしく言う様子がおかしくて、また笑ってしまいました。

 宇宙船の窓から、二人がじゃれあいながら手を振ってくれているのが見えます。
そんな、二人のとても仲のよい様子に、なぜだか少しだけ、
懐かしくて寂しい気持ちになってしまいました。

172 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月24日(日)15時19分46秒

 あの小さなかわいらしい星から少し離れたところに、二人の教えてくれた星はありました。
二人の言うとおり、その星は、大きくて美しい星です。
そしてまた、地球よりも青く澄み切った、印象的な星でした。

 宇宙船から降りると、あたりを探索してみます。
変わった植物や、動物がたくさんいて、個性的な雰囲気の星でした。
そしてすこし小高い丘の上にある、奇妙な形の木の下のベンチに腰掛け、
何か考え込んでいるのは、おそらく、その容姿からみて、
ノノが言っていた、「イイダさん」でしょう。

「…こんにちは」
彼女の様子に、少し話しかけるのをためらいましたが、ノノに頼まれたことを思い出し、
思い切って、声をかけました。

173 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月24日(日)15時20分20秒

彼女は、こちらに気付くと大きな目で、まっすぐに見つめてきます。
その視線に、どうすれば良いか、困惑したのですが、どうにか言葉を続けます。
「あなたが、イイダさんですか?…あそこの小さな星の女の子二人組みに、
この星を教えてもらったんだけど…」

彼女は、「あぁ」と小さく言うと、初めて口を開きました。
「カオリでいいよ。…ツジとカゴに会ったんだね。迷惑かけなかった?」
彼女は、自分の隣に座るように促すと、また視線を、前に戻します。
ツジとカゴいうのは、あの女の子二人組みのことでしょう。
「ほんとに、イタヅラばっかりで、カオリも手を焼いてるんだよね」
困った顔でそうは言いますが、話す声は少しやさしい声です。
そして彼女のその言葉で思い出しました。
「そうだ。ふたりが、『イイダさんによろしく』って、言ってたんだけど」
「へぇ〜、あいつらもそんなこと言えるようになったんだね。少しは成長してるってことかな」
やっぱり、やさしい声で、そして今度は、嬉しそうな表情で言います。

174 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月24日(日)15時20分55秒

「…ところで、あなたはどこからきたの?」
「地球だよ」
「…地球か 」
彼女は、またさっきみたいに黙り込んで、何か考えています。
考えているのを邪魔しないようにと、こちらも黙っていると、彼女は、つぶやくように話し出します。
「…地球って、水の星って言われてるんだよね。
ここから見える地球は、蒼くってとっても綺麗だよ…」
「この星も、きれいだよ。すっごく」
「そう?」
嬉しそうな声と笑顔で彼女が答えたので、先ほどから感じていた戸惑いは、消えてしまいました。
「カオリはね、この星も水の星だって思うんだ」
彼女は、視線の先に広がる海のほうを見ながら言います。
その海は、澄みきったみず色で、キラキラと光を反射して穏やかに波打っています。
二人でしばらくその美しさに見とれていたのですが、その様子に自然と口から言葉が出てきます。
「…でも、この星の水は、地球よりずっと、ずっときれいだよ…」
「フフフ…お世辞でも嬉しいよ…」
「お世辞なんかじゃないよ。ホントだよ」
本当に、お世辞なんかじゃなくて、思ったままのことを話したのです。
地球で見た、ゴミだらけの川や、テレビに映った重油でにごった海…。
そのことを思い出すと、本当に、本当に、心からの言葉でした。

175 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月24日(日)15時21分30秒

またしばらく、二人でだまっていると、今度は彼女のほうが思いついたように話し始めます。
「そうだ!次は、イシカワがいる星へ行ってみなよ。きっとオモシロイからさ…」
彼女は意味ありげに笑って言います。
「…イシカワがいる星?」
「そう、あそこに見える、ピンクに光ってる星だよ」
彼女が指し示したほうを見ると、確かに、ピンク色に控えめに光っている星が見えます。

 宇宙船の窓から、見送ってくれている彼女を見ながら、先ほどの彼女の言葉を思い出しました。

「いい?イシカワに逢ったらね……」

彼女は、あるアドバイスをしてくれたのですが、どういう意味なのでしょう?


176 名前:さくしゃ 投稿日:2001年06月24日(日)15時22分44秒
こんな感じです。
まだ続くんですけど、終わりまで付き合っていただけたら嬉しいです。
この話は、前の2作を書いてる合間に、ちょこちょこと書いてたんですけど、
ただ作者が書いてて楽しいだけの、自己満足で終わる作品でした。
実は、前作が終わった時点で、あげようと思って書いてた「greenage」の続編があるんですが、
思うところがありまして、先に別の続編をあげようと思い、今書いてます。
ということで、せっかく書いたんで、つなぎにこの話を読んでいただけたらと、
ここであげる事にしました。

ところで、ちょっと「greenage」の話に戻るんですけど、
前の2作のつながりって解りにくかったですかね?
だとしたら、作者の筆力不足のせいなんで、
やっぱ、説明入れといたほうが良かったかなって反省してるんですけど…
177 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月24日(日)23時32分08秒
大丈夫
ちゃんとリンクしてるのわかりましたよ
178 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月25日(月)00時32分34秒
同じくちゃんとわかりましたよ。
今回の話は童話ぽくて、ほのぼのして好きです。
179 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月25日(月)03時30分11秒
同じくってしつこいかな・・・(w
いいですねこの話。
何か不思議な雰囲気を醸し出してますよね。
180 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月26日(火)20時26分17秒
 その星に降り立つと、何か不思議な感じがします。
体が軽くなったように、歩くたびに、足元がふわふわと浮きあがります。
きっと、地球や、他の星よりも重力が、弱いのでしょう。
ふわふわ、ふわふわ、それが面白くて、どんどんと歩いていきます。

すると、目の前に一人の女の子の姿が見えてきます。
彼女は、大きな木の下に、ひざを抱えて、顔を俯かせて座りこんでいます。
たぶん、カオリが言っていた、イシカワさんです。

「こんにちは。…どうしたの?」
下を向いたままの、彼女に近づいて声をかけます。
「あ…。あのね、ちょっと失敗しちゃって、先輩に怒られちゃったんだ…」
「そうなんだ…」
落ち込んでいる彼女を置いて、このまま行くことは、できません。
なにか、彼女を元気付けるような言葉を考えます。
「なにを、失敗したかはわからないけど、イシカワさんがそんなに落ち込んでいるということは、
自分が、悪かったって思って、反省しているんでしょう?
だったら、その先輩に、そのことを伝えて、謝ったらいいんじゃない?」
181 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月26日(火)20時27分13秒
彼女は、まだ俯いたままです。
でも、気がついた様に顔を上げて言いました。
「でも、何であなたは、わたしの名前を知ってるの?」
「あそこの星の、カオリに教えてもらったんだよ」
そういうと、彼女はまた俯いて言います。
「そのおこられた先輩って、イイダさんなんだ…」
彼女が、まだ俯いて、落ち込んでいるので、また元気付ける言葉を考えます。
そうだ。
カオリのアドバイスを、思い出しました。

「いつまでもネガティブなままじゃだめだよ。ポジティブに考えなきゃ!」
182 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月26日(火)20時27分49秒

すると、彼女は顔を上げて、明るく言いました。
「そうだよね。ポジティブ、ポジティブ!」

カオリのアドバイス通りに、彼女が明るくなったので、話を続けます。
「いま、星めぐりの旅をしているんだけど、どこかおすすめの星はないかな?」
彼女は、考える間も無く、すぐに答えてくれました。
「ヨッスィーの星にいきなよ。絶対ヨッスィーの星がいいよ!」
彼女が、あまりに元気な声で、強く勧めてくれるので、次は、その「ヨッスィー」の星にしました。

次の星に向かう途中、窓から、イシカワさんの星を見ると、
なぜか、行くときには、控えめに見えた輝きが、今は、ちょっと強い光で輝いているように見えます。
その様子に、彼女が「ポジティブ、ポジティブ!」と笑っていた顔が浮かびました。

183 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月26日(火)20時28分23秒

次は、「ヨッスィーの星」です。
その星は、青く静かに光っていて、カオリの星が、水の青だとすれば、
この星は、空の青色でしょう。
そして、その空気は、さわやかに澄んでいて、とても心地がよく、
思わず、胸いっぱいに吸い込んで、深呼吸をしました。
また、足元から広がる草原は、緑色の絨毯のようにやわらかく、そこに寝転んでみると、
草のいい香りと、やわらかい太陽の光で、とても気持ちがよくて、少し眠くなってきます。

「なにをしてるの?」
頭の上のほうから、この星のように落ち着いた声が聞こえてきます。
体を起こして振り返ると、背の高いきれいな女の子が、微笑んでこちらを見ています。

「こんにちは。いろいろな星を見て回っている途中なんだ」
「ふ〜ん」
彼女は、返事をしながら隣に座り、尋ねてきます。
「どこからきたの?」
「地球だよ」
「地球って、この星によく似た、青いきれいな星だよね。いつか行ってみたいな…」
「うん、おいでよ。そのときは案内するから」
「本当に?じゃあ絶対に行くね!」

184 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月26日(火)20時28分53秒

なぜでしょう、彼女とは、会話がはずんで、初めて会ったような気がしません。
それに、この空気と緑のせいでしょうか、とても落ち着きます。

「地球には、面白いものがいっぱいあるんでしょ?」
「そうなのかな」
「そう聞いたよ?…でも、この星には何もないから…」
彼女は、少し目を伏せて言いました。
「何もなくなんてないよ。
こんなに、澄んだ空気と、きれいな緑と、のんびりした雰囲気があるのに…。
地球にきたときがっかりするかもしれないね…」
「なぜ?」
「わからないけど、ただなんとなく…」

そのあと、二人で、ただ黙って目の前に広がる空や、緑を見ているだけでしたが、
その沈黙が、気まずいものには、感じられませんでした。

185 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月26日(火)20時29分23秒

「あ、これ食べない?」
彼女が唐突に言うので、振り向くと、彼女の手には、パンのようなものがあります。
「なに?それ」
「ベーグル。大好物なんだ」
彼女にひとつもらって、食べてみました。
何か不思議な味と食感で、とても気に入って、すぐにたいらげてしまいました。
「フフッ、気に入った?」
「うん!とってもおいしいね」
彼女も、おいしそうにベーグルを食べています。
「このベーグルが気に入ったんなら、アベさんの星にも行ってみなよ。
ベーグル以外にもおいしい食べ物がいっぱいあるから。
ついたら、『ナッチの家』を訪ねてみるといいよ。アベさんのお店なんだ。」

おいしい食べ物がたくさんあると聞いて、行かないわけにはいきません。
次は、アベさんの星です。

186 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月26日(火)20時29分53秒

その星は、牧草や、畑が広がる、どこかのんびりした雰囲気の星です。
小鳥のさえずりや、遠くから聞こえる放し飼いにされた牛の鳴き声、
道の両側に広がる、畑の土の匂い。そのすべてが、心を落ち着かせてくれます。
そして、こんなに自然があふれている星です。
食べ物だっておいしいに違いありません。
わくわくしながら、歩いていくと、期待どおりに、どこからか、
おいしそうなにおいが漂ってきます。
においに引き寄せられるように歩いていくと、黄色いドーム状の建物が見えてきます。
どうやら、このおいしそうなにおいの元はあの建物のようです。

その建物の入り口のドアには、『家庭料理の店 ナッチの家』とかいてあります。 
先ほどからのおいしそうなにおいのせいでしょうか、急にお腹がすいてきました。

187 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月26日(火)20時30分26秒

ドアを開けて中に入ると、その中はとても明るい雰囲気で、クリーム色の壁と、
丸いかわいらしいテーブルとイス。そして、小柄な女の子が、ニコニコと笑顔で迎えてくれます。
「いらっしゃい」
「こんにちは。とてもおいしそうなにおいがしたから、おじゃましました」
「ありがとう。 こちらへどうぞ」
彼女は、ニコニコしていた顔を、いっそうほころばせて、テーブルへ案内してくれます。
そして、かわいらしい絵と文字で書かれたメニュー表を見せてくれました。
「う〜ん。 どれもおいしそうで迷っちゃうな。…おすすめの料理はある?」
「そうだな… よし、ナッチ特製『とうもろこしと空と風グラタン』はどう?」
「じゃあ、それをおねがいします」
注文をとると、彼女はすぐにキッチンへ入り、料理をはじめます。
そして、しばらくすると、おいしそうに湯気をたてたグラタンをテーブルに運んできてくれました。

188 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月26日(火)20時31分11秒

「うん!おいしい!」
一口食べて、思わずそう言うと、彼女はニコニコと答えてくれます。
「ありがとう。ナッチの店の料理の材料は、全部この星で採れたものだべ。
だからどの料理の材料も、新鮮でおいしいべさ」
料理を一息に平らげてしまうと、彼女は、食後の紅茶を運んできてくれます。
おいしい料理と、楽しいお喋りで、すっかり満足したのでもうそろそろ店を出ようと思い
気付きました。何も考えず地球を飛び出してしまったので、地球のお金しか持っていません。
「あの…地球のお金しか持っていないんだけど、使えないのかな…」
「う〜ん、この辺りで使えるお金しか受け取らないようにしてるんだけど…」
彼女は、まだ笑顔ですが、でも少し困った顔で考え込んでいます。
「そうだ!ちょっと待ってて」
そして彼女は何か思いついたように言って、奥の部屋に入っていくと
小さなビンをもって、戻ってきました。
「これを隣の星の『ユウちゃん』に届けてくれないかな?そしたら、料理のお金は、いいべさ」
「それは、なにが入ってるの?」
「う〜ん、薬みたいなものかな…」
「その人病気なの?」
「そういうわけじゃないんだけど…」
彼女は、はっきりと答えてくれませんでしたが、お金を払うことができないので、
「ユウちゃんの星」までその小ビンを届けることにしました。

189 名前:さくしゃ。 投稿日:2001年06月26日(火)20時32分17秒
更新しました。
残りの星は、あと3つです。

そして、177さん、178さん、179さんレスありがとうございます。
前作の感想レスを読ませてもらって、ちょっと気になってたんですが
安心しました。
190 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月27日(水)03時12分02秒
いいですね、この作品!!
ほのぼのしまくりです(w
191 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月28日(木)21時39分49秒

ナッチの星からは、近い場所にある「ユウちゃんの星」に向かいます。
その星は、紫色に輝いていて、そしてなぜか近寄りがたい雰囲気の星です。
その星について宇宙船から降りると、あたりは、薄暗くとても静かです。
「ユウちゃん」を探して、こわごわ歩いていると、どこからか苦しそうなうめき声が聞こえてきました。
その声のするほうへ歩いていくと、紫色の大きなソファが見えてきます。
そのソファには、金色の髪をした女の人が、豹柄のガウンを着て、寝そべっています。
おそらくこの人が、「ユウちゃん」でしょう。話し掛けるのが少し怖かったのですが、
思い切って声をかけます。
「あの、どこか具合が悪いんですか?」
すると、女の人はだるそうに少し首を持ち上げて言いました。
「んぁ…ちょっと昨日飲みすぎて、二日酔い気味でな…うぅっ、気持ちわるぅ〜」
「…」

192 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月28日(木)21時40分30秒

女の人の気持ち悪そうな様子を見て、ナッチに届けるように頼まれたビンのことを思い出しました。
「あのこれ、ナッチに届けるように頼まれたんですけど…」
「お…助かった。…二日酔いにはこれが効くんや‥」
女の人は、小ビンを受け取ると、一息に飲み干しました。
「ック〜…ところで、あんた名前は?どっから来たん?」
「ごとうです…地球からこの辺りに旅行にきてるんです…」
女の人は、小ビンの中身を飲んで少しだけ元気を取り戻したようですが、
まだだるそうにソファに寝そべったままです。
「そうか…届けてもろうたお礼にこの星の案内でもしてやりたいところやけど…見てのとおり
今そんな元気ないねん…せやから、隣にちっちゃい、かわいい星があるやろ…
そこに『ヤグチ』いうんがおるから、そこいってみ…」
女の人は、それだけ言うとまた目を閉じてソファに頭をうずめました。
これ以上ここにいても相手をしてもらえそうにないので、女の人の言うとおり、「ヤグチ」の
星に向かうことにしました。
「…さよなら」
その言葉に、女の人は目を閉じてソファに体を沈めたまま、手をひらひらと振って応えてくれました。

193 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月28日(木)21時41分23秒

「ヤグチ」の星は先ほどの星からはとても小さく見えていたので、遠くにあるのだろうと
思っていたのですが、案外近くにありました。
しかし、小さいけれど、他の星よりもずっと明るく輝いています。

ユウちゃんに教えられた、「ヤグチ」を探して歩いていると、後ろから明るい元気な声で
声をかけられます。
「こんにちは。もしかして、地球から来たの?」
振り返ってみると、明るい色の髪をした、今までの星であったどの子よりも小さな
女の子が、人なつっこそうな顔で立っています。彼女が「ヤグチ」でしょう。
「こんにちは。…どうして地球から来たって分かるの?」
初対面だし、まだ自己紹介もしていないのに、なぜ地球から来たのが分かったのか
不思議に思って、たずねてみました。
「だって、その服、地球で今流行ってるんだよね?雑誌で見たんだ」
「うん。そうだけど、…よく知ってるね」
「地球は、かわいい洋服がたくさんあるから、ヤグチはいつも雑誌でチェックしてるんだよね」
この子はおしゃれに興味があるらしく、話も合いそうなのですぐに打ち解けました。

194 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月28日(木)21時42分06秒

星を案内してもらいながら、先ほどのユウちゃんに、この星を教えてもらったことを話しました。
「この星の隣の、ユウちゃんって人に、あなたのことを教えてもらったんだ」
「えっ、そうなの?もしかして二日酔いで寝込んだりしてなかった?」
「うん…」
「やっぱり。しょうがねぇな〜、ユウコは〜」
さっきの怖そうな女の人のことを、呼び捨てで呼んでいるのを聞いて、少し尊敬の眼差しで
見てしまいました。
195 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月28日(木)21時42分40秒
他にも、今まで訪ねた星のことを話します。
「え〜、ツジ・カゴの星にもいったの?うるさかったでしょあいつら。
ほんっと、ヤグチも苦労してんだよね〜」
「…う〜ん。でもかわいかったよ」

「カオリ?やっぱり交信してたんでしょ?キャハハ」
「…うん。…少し」

「リカちゃんは、暗かったでしょ?たまに寒いこと言うしね〜。いくらヤグチでも
フォローしきれないときがあるんだよね〜。あ、でも今ポジティブに改造中らしいよ〜」
「…そうなんだ」

「ヨッスィーは、かわいいよね!すっごくいい子だよ」
「うん。そうだね!」

「ナッチの星は、ウシくさいのがチョットね〜…それにヤグチ、牛乳飲めないんだよね。
都会の子だからさぁ、ヤグチは」
「ふ〜ん…(それってナッチは田舎者ってことなのかな…)」

196 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月28日(木)21時43分11秒

彼女の毒舌ぶりに少し驚きましたが、その後はお互いに共通して興味がある
オシャレの話で盛り上がります。
そして、話しつかれた頃、彼女に次に行く星を尋ねてみました。
「そうだな〜…あっ、まだケイちゃんの星に行ってないみたいだから、そこにしなよ。
ケイちゃんは、ヤグチの昔からの友達なんだ。ちょっと真面目だけどいい人だよ」

197 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月28日(木)21時43分46秒

彼女にその星のある場所を教えてもらって、早速出発しました。

その星は、他の星よりも輝きは落ち着いていますが、静かで強い印象の星です。
そして、その星に降り立ってみてもその印象は変わりません。
しばらくするとその静かな空気に溶け込んだような、落ち着いた歌声が
聞こえてきました。
その歌声につられるように歩いていくと、やはり落ち着いた空気をまとった、女の人が
大きな石の上に座って歌を口ずさんでいるのが見えてきました。
その歌声が、一旦途絶えるのを待って、声をかけます。
「こんにちは。歌、上手だね」
「そうかな…でもありがとう」
彼女はそう言って、自分の隣に来るように言ってくれたので、石に昇って、彼女の
隣に座りました。

198 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月28日(木)21時44分22秒

「フゥ、…うわぁ〜、いい眺めだね〜」
その大きな石に昇って、辺りを見下ろすと、今までの星に負けないくらい
雄大できれいな景色が広がっています。
「でしょ?ここは私のお気に入りの場所なんだ」
彼女は目を細めて嬉しそうに、言いました。
「ところで、あなたはどこから来たの?」
「地球だよ。ここに来るまでにいろいろな星を見てきたんだ」
「地球…きれいな星だよね…」
彼女は、そういうとしばらく黙っています。
そして、ゆっくりと話し始めます。
「…私のおばぁちゃんが言ってたんだけどね、地球はきれいな星だけど、昔はもっと青くて
きれいで、優しい星だったんだって」
「…そうなんだ」
彼女の言葉に、今までの星の美しい景色を見て感じていた、地球への違和感が思い出されます。

199 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月28日(木)21時44分55秒

「…それに、いろいろなところで争い事が起きていて、人が死んだりしてるんでしょ…
悲しいことだね…嫌になったりしない?」

今度は彼女の言葉に返事をすることもできません。

「…この辺りの星は、どこも美しくて、平和で、住みやすい星だよ。最近は地球から
移住してくる人も多いんだって…あなたもその下見に来たの?」

「…いやそういうわけじゃないけど…」

なぜか、はっきり違うと言い切ることができません。

「…でもそれなら思い切って、移住を考えてみるのもいいかもよ?」
「…」

たしかに、この辺りの星を見て回ってきて、気に入った星はたくさんありました。
きっと、彼女の言うとおり移住してしまえば、楽しく暮らせるでしょう。
でも、そのことが分かっていても、進んで移住をしようとは、考えることができません。

200 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月28日(木)21時45分30秒

なぜだろう…
この辺りの星には、きれいな空気や緑、自然、おいしい食べ物、そして退屈することのない
遊び場もたくさんあります。
この辺りの星にはなくて、地球にしかないものなんてあるのかな…。

地球にしかないもの…それは…

地球に戻ったとき、帰りを待っていて、そして暖かく迎えてくれる家族や友達。

…そして大切な、あのひと。


201 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月28日(木)21時46分00秒


「うん…でも、地球には帰りを待っていてくれる大切な人たちがいるから。
だから、やっぱり地球はそんなに、悲しい星なんかじゃないよ…」

そのことに気付くと、自然と自分の想いが、口から出てきます。

「そっか…それは、どんな物よりもかけがえのない物だもんね…」
彼女は優しく微笑んで、言ってくれました。


彼女にお礼とお別れを言い、また来ることを約束して、宇宙船に乗り込みます。

202 名前:Planet Rubber Ball 投稿日:2001年06月28日(木)21時46分39秒

 宇宙船に帰ると、地球との連絡用の、備え付けの電子メールの着信ランプが点滅しています。
もしかして…!と思い、急いで開いてみると、送信者はやっぱりあの人でした。

       〈 ごめんね、ごとう 〉

そのたった一言の短いメールに、いてもたってもいられなくなって、返事を送るのも忘れ、
すぐに宇宙船を地球に向かい発進させます。

地球へと向かう時間は、出発した時のもてあました時間とは違い、
もどかしくて、気持ちが焦り、とても長く感じられます。

早く着かないかな・・・。早く逢いたいな・・・。
そんな思いばかりが、胸の中に渦巻いていて、来る時にあんなに引き付けられたはずの、
窓の外の景色も、まったく目に入りません。

 ただまっすぐ、宇宙船のフロントガラスからみえる、小さな蒼い地球を見つめて、
心の中であの人にはなしかけます。

       『いちーちゃん、今度は絶対に二人で来ようね・・・』






    【END】

203 名前:さくしゃ。 投稿日:2001年06月28日(木)21時47分45秒

『Planet Rubber Ball』終わりです。
読んでくださった皆さん、レスしてくださった皆さん、
本当にありがとうございました。
このお話は、書いてて自分が楽しかったんですけど、
自分では、小学校の図書室に置いてあるような、
児童文学っぽい話かなと思ってます。(それも低学年向け)
別にそれを目指してたわけじゃなくて、自分で読み返しての感想ですが。

ということで、みなさんのご感想をいただければ嬉しいです。


次回の更新からは、『greenage』の3作目です。
204 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月28日(木)21時50分07秒
リアルタイムで読んじゃった
205 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月29日(金)00時08分56秒
市井が最後の1行しか出てこなかったけど、なぜか存在をずっと感じました。
狂言回しの役の後藤の雰囲気も、各メンバーのキャラをうまく反映した、それ
ぞれの星の様子も、ナイスです。
読ませてもらっていて、へんな言い方ですが、ずいぶん達者な書き方になりま
したね。スゴイ変化です。
次回作も、楽しみにしてます。
206 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月29日(金)03時22分28秒
どんなにきれいで素晴らしい星たちよりも「あのひと」がいる地球が1番ということですね
ほんとに児童文学ぽくって温かみを感じることができました。

さて、次回からついに本編ですね。
いちごま、楽しみにしています。
207 名前:作者 投稿日:2001年07月03日(火)22時14分09秒
作者です。
…そろそろ気持ちも落ち着いてきたので、
『greenage』第三弾をはじめさせてもらいます。

  『greenage ― Sea Girl―』

208 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月03日(火)22時15分08秒


夏休みになって、一週間ほど過ぎた頃、
中澤先生をつい3日ほど前に、見送ってちょっと元気がないやぐっつぁんを
あたしと市井ちゃんは、何とか元気付けようと、遊びに連れ出すことにした。






平日の午後の某有名ファーストフード店。
学校は夏休み中だから、あたし達くらいの年の子達がたくさんいる。


お店の一番すみの席。
あたしの左側と後ろにはクリーム色の壁。右側には市井ちゃん。
そして、あたしの前の席にはやぐっつぁんが座っている。

やぐっつぁんは、さっきからポテトを一本つまんではいるものの、
それを口に運ぶ事はせずに、ボーッと空中を見つめたままだ。

209 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月03日(火)22時15分48秒

「…あ、あのさぁ、せっかく夏休みに入ったんだから、みんなでどっか
遊びに行こうよ。矢口は、いつだったら都合がいいかな…?」

「…いっつも暇だけど…。二人で遊びに行きなよ、矢口ジャマしたくないし…」

「…そうか」

市井ちゃん…そんな、あっさり引き下がっちゃダメだよ。
よし、あたしも手助けしないと…

「そうだっ、海行こうよ。やっぱり、夏は海に行かないと、ねっ、やぐっつぁん!」

「海は暑いし、人が多いからヤダ…」

ごめん…市井ちゃん。
市井ちゃんに目線を送って謝ると、市井ちゃんもちょっと頷いて、
コーラをひとくち飲むと、再チャレンジした。


210 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月03日(火)22時16分28秒

「じゃあ、山に行こうか…キャンプとかさ、絶対楽しいよ。なっ、後藤」

「う、うん。…そうだっ、人数多いほうが楽しいからよっすぃーとかも誘って行こうよ」

「…キャンプって、テントで寝るんだよね?」

「そうそう!ご飯とかも自分たちで作って外で食べるんだよ!」

やぐっつぁんの反応があったから、市井ちゃんは話を盛り上げようと
テンション上げ気味で話を繋げる。
でも、やぐっつぁんの顔が暗いままなのが、気になるんだけど…


「…矢口、虫とか大っ嫌いなんだよね。外で寝るなんてヤダ…」

「……」 「……」


やぐっつぁんは持っていたポテトを口に運んで食べると、ため息をついた。



…こりゃ重症だね。
やぐっつぁんが落ち込んじゃうのも分かんないわけじゃないけど。
あたしだって、市井ちゃんが遠くに行っちゃたら、絶対落ち込んじゃうと思うし。
でも、何とか元気になってほしいんだけどな…

211 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月03日(火)22時17分04秒

ただでさえ暗い隅っこの席で、さらに暗くなっているあたしたちの席に
制服姿の女の子が近づいてくる。

「こんなに隅っこにいるから、わかんなかったじゃないですか〜」

よっすぃーは、いつもnonoびりした口調でそういいながら、
やぐっつぁんのとなりに座った。

さっき、部活が終わったから遊ぼうって、電話があったから、
ここにくるように、誘っておいたんだ。

でも、よかった…
よっすぃーなら、やぐっつぁんのお気に入りだから、なんとか
この空気を変えてくれるはず…
やぐっつぁんもさっそくよっすぃーに話し掛けてるし。
部活帰りでお腹がすいたというよっすぃーに、まったく手のつけられていない
ハンバーガーを食べるように差し出している。

「ジュースも…ちょっと飲んじゃったけど、飲む?」

「いいんですかぁ〜、頂きます〜」


212 名前:なんじゃこりゃ… 投稿日:2001年07月03日(火)22時20分18秒
上の4行目…正しくはこうです。


よっすぃーは、いつもの、のんびりした口調でそういいながら、
やぐっつぁんのとなりに座った。

この小説で出番ない人なのに…
213 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月03日(火)22時21分13秒

今なら、うまく行くかもしれない、とあたしが市井ちゃんに目配せすると
市井ちゃんもわかってくれて、よっすぃーに話し掛けた。

「あのさぁ、今、休み中にどっか遊びに行こうって話してたんだけど
もちろん、吉澤も一緒に行くよねぇ」

「ふぇ、…いきまふ、いきまふ」

よっすぃーは、口いっぱいに頬張っているハンバーガーを、ジュースで
流し込みながら、返事をする。

「だよねぇ!よしっ、じゃ4人で遊びに行こう!」

「で、どこ行くんですか?」

「あ…いや、まだ決めてないんだけど…」

214 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月03日(火)22時22分13秒

よっすぃーは、今までのあたしたちのやり取りを知らないから
特に気にしないで質問してくる。
市井ちゃんがその質問に、あたしに助けを求めるように目線を
送りながら答えたから、あたしも思いついたことを一応言ってみた。

「…よっすぃーは、どっか行きたいとこないの?」

「え〜、別に行きたいって場所はないけど…
そうだ、ごっちん達が良かったらでいいんだけど、うちが持ってる
別荘行かない?」

「べっ、別荘!?」

市井ちゃんは飲んでたコーラを噴出しそうになりながら、聞き返した。

「はい、今年の夏は家族で行けないみたいなんで、
友達誘って行って来いって言われてるんですよ〜。誰も使ってないと
次、行ったときなんか寂れちゃってて、汚いんですよね〜」

215 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月03日(火)22時22分58秒

「ねぇねぇ、もしかして、軽井沢とか?」

今までこの手の話に無関心だったやぐっつぁんが『別荘』という言葉に
乗り気になったみたいで、話に加わってくる。
なんか、うまくいきそうな感じがしてきた。

「ちがいますよ〜、そんなに有名な別荘地じゃないんですけど、
近くに海もあるし、結構遊べると思いますよ」

海という言葉を聞いて、さっきのやぐっつぁんの言葉を思い出したけど、
やぐっつぁんは、よっすぃーの話を興味深そうに聞いている。
この分なら、本当に決まりそうだ。

216 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月03日(火)22時23分32秒

やぐっつぁんの気が変らないうちにと思ったのか、市井ちゃんは早速話を
まとめに入った。

「よしっ、じゃあ吉澤んちの別荘を借りる事にして、いつにするか決めようよ」

よっすぃーの話だと、お盆中は親戚に貸す予定があるらしいから、それまでに
行かないといけないみたいだ。
ということは、もうそんなに時間はない。
市井ちゃんがみんなの予定を聞いてまとめた結果、
日程は8月の初めで二泊三日に決定した。

217 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月03日(火)22時24分11秒

お店を出て、みんなでゲームセンターに向かっている途中、
市井ちゃんがあたしに小声で話し掛けてきた。

「あのさぁ、吉澤のうちってお金持ちなの?」

「へっ…お金持ちって言うか、…お父さんが会社を経営してるんだけど…」

「げっ、それって社長ってこと!? そりゃ別荘持ってても不思議じゃないよな…」

あたしは、よっすぃーのお父さんのことも、別荘を持ってるってことも
知ってたから、驚かなかったんだけど、市井ちゃんとやぐっつぁんは、初耳だから
かなり驚いてるみたいだ。

「そうか、…吉澤の、あの妙に余裕持った喋りと行動は、
そのせいか…思い当たるとこがいっぱいあるもんな…」

市井ちゃんは、あたしたちの前で、やぐっつぁんとお喋りしながら歩いてる
よっすぃーのほうを見ながら、ブツブツ呟いている。

218 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月03日(火)22時24分48秒

それにしても、なんか楽しくなってきたな…
市井ちゃんと泊りがけで遊びに行くなんて初めてだし、その間はずっと
一緒ってことでしょ…やぐっつぁんとよっすぃーもいるけど…
いや、やぐっつぁんを元気付けるのが一番の目的だってことは
分かってるんだけど、せっかく行くんだから、思いっきり楽しんでこないと損だし。

夏休みが短くなっちゃうのは寂しいけど、8月になるのが待ちどうしいな…


219 名前:作者 投稿日:2001年07月03日(火)22時28分16秒
ちょっと早いけど、夏休み編。
そして、よっすぃーは、作者の都合で社長令嬢に…
つっても、大会社じゃなくて、個人経営の小さな会社ということにしといて下さい。

それにしても、途中関係ない人が飛び入りして驚きましたが、
おそらく隣の席にでも居たんだと思われ…
こういうこともありうるんですね、今度から気をつけよう…
220 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月03日(火)23時20分58秒
いちごまもやぐちゅーもたしかにおもしろい!
ですけど・・・独り身のよっすぃ〜、かわいそすぎです。(笑)
221 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月03日(火)23時44分40秒
>>212
( ´D`) <乱入してごめんなさいのれす、てへへ
222 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月04日(水)03時58分38秒
ついに始まりましたね〜、夏休み編、楽しみです。
甘い、いちごまに期待!!

偶然とはいえ突然の乱入、面白かったです!!(w
223 名前:greenage― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時02分02秒
8月某日。

待ちに待った出発当日の朝。
駅前で待ち合わせて集合すると、目的地に向かう為、電車に乗り込んだ。


一度乗り換えてしばらくすると、周りの景色は灰色のビル群の変わりに
緑色の木々や瓦葺きの民家が見えてくる。
もうそれだけで、少しワクワクしてくるんだけど、窓の外に海が見えてきたときには
みんなで「海だぁ〜」って歓声をあげてしまって、通路の反対側の席のおばさんに
少し笑われてしまった。

目的の駅で電車を降りると、冷房の効いた電車内と、外の気温のギャップで
余計に暑さを感じたけど、かすかに感じる海の香りに、暑苦しさも少し忘れて、
なんだか嬉しくなってくる。


「ここから、10分くらい歩きますから、もうちょっと頑張ってくださいね〜」

「あっち〜」って言いながらシャツの胸元をパタパタさせてる市井ちゃんに
よっすぃーがちょっと笑って、のんびり励ましている。

224 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時02分40秒

別荘までの途中の道は、舗装されたアスファルトの道から、
平らにならしただけの土の道に変っている。
別荘は、少し山の中に入ったところにあるから、道も緩やかな坂になっていて、
自然と歩く速さも、ゆっくりになってくる。

前を歩くよっすぃーとやぐっつぁんから少し遅れて、
市井ちゃんとあたしが、「あっぢ〜」ってだらだら歩いてたら
よっすぃーに怒られてしまった。

「ちょっと、二人とも〜!このくらいでくたばんないでくださいよ。
日ごろの鍛え方がたりないんですよ」


やぐっつぁんは、よっすぃー側についてるから、怒られたあたしたち2人を見て
面白そうに笑っていた。

225 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時03分19秒

別荘に着いて荷物を置くと、よっすぃーに中を案内してもらう。
といっても、そんなに広くはなくて、少し古い建物だけど、
きれいに片付けられていて、居心地は良さそうだ。
しばらく家の中や、外に出て建物の周りを見て歩いていると、
もう夕方に近い時間だから、夕食の買い物に行こうという話になった。
じゃんけんで負けたあたしとやぐっつぁんが、近くのスーパーまで行くことになった。
裏においてあった自転車を走らせて5分のところにある小さなスーパーだ。
自転車は一台しかないから、一番負けのやぐっつぁんが漕いで、あたしが
後ろに乗ることになった。

夕食のメニューは、簡単に出来るパスタにしようということで決まってたから、
人数分の材料と、お菓子と、そして少しのお酒も買った。
レジのおばさんに怒られるかなって、少しどきどきしてたけど、何にも言われなかった。

「お酒買っても、何にも言われなかったね」

「う〜ん、きっとやぐっつぁんだけだったら怒られたと思うけど、
後藤がいたから大丈夫だったんじゃない?」

「それどういう意味だよ、ごっちんだって二十歳以上には見えないじゃんか」

「あはっ」

226 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時03分53秒

スーパーからの帰り道は、行きとは反対にあたしが自転車を漕ぐことになった。
前のカゴに荷物を乗せて、後ろの荷台にやぐっつぁんを乗せて。
ゆるい坂道で、フラフラする自転車に、2人でキャアキャア騒ぎながら帰る。
「ちゃんと漕げ〜」って文句を言いながらあたしのシャツをつかんでるやぐっつぁんに
いつか聞こうと思っていた事を聞いてみた。

「やぐっつぁん、なんか楽しくなりそうだね。やぐっつぁんは来てよかったって思う?」

「…うん。モチロン!」

「エヘヘ…後藤もだよ。来て良かった!よっすぃーに感謝だね〜」

「ふ〜ん、でもごっちんは紗耶香と一緒だから余計にうれしいよね〜
2人っきりのほうが良かったんじゃない?」

「なにそれ〜、そんなんじゃないもん」

「キャハハッ、さっきのお返しだよ〜」

後ろを少し振り返って見たやぐっつぁんは、いつもの明るい、
はじける様な笑顔だった。
やぐっつぁんはそうやって明るく笑ってるのが一番似合うよ、
とは口には出して言えなかったけど、あたしもその笑顔に嬉しくなってきた。

やぐっつぁん、中澤先生にはたまにしか会えないけど、すぐ近くには
あたし達がいるから、だから、頼りないかもしれないけど、
こうやって一緒にばかな事言って、騒いだりすることぐらいは出来るから、
寂しい時は、あたし達の相手をして、気晴らししてくれればいいからね。

227 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時04分28秒

別荘に帰って、2人で手分けして荷物を持って、キッチンに入ると
市井ちゃんとよっすぃーが、食器やお鍋を並べて待っていた。

「キミたち、遅いよ。待ちくたびれたっつーの!」

「しょうがないじゃんか、荷物重かったんだからさぁ」

市井ちゃんとやぐっつぁんが、いつも通りに言い合いしてる横で
あたしとよっすぃーは、買ってきた物をテーブルの上に並べていった。





みんなで、騒ぎながら料理をするのは凄く楽しかった。
その分時間は余計に掛かったけど、出来上がりは上々だった。

そして当然のように食事の最中も、うるさくて、
食べるために口を動かすよりも、喋るために動かしてるほうが多かった。
それは、少しアルコールが入ってるせいもあるんだろうけど、
アルコールよりも、普段の生活じゃ感じられない雰囲気に
みんなちょっと興奮してるんだと思う。

228 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時05分12秒

かなり長めの食事が終わって、みんなで手分けして後片付けをした。
片付けが終わって、本格的に、買ってきたお酒で盛り上がろうという時になって、
やぐっつぁんがいつの間にか、いなくなっているのに気付いた。

「あれ、矢口どこいったんだろ…さっきまでいたのに」

誰にも何も告げずにいなくなってしまったので、少し心配になってくる。

「後藤、外のほう見てくるね…」

「ん…じゃあ頼むわ」

よっすぃーが一緒に行こうかって言ってくれたけどそんなに遠くへは
行ってないと思ったから、1人で行くことにした。


あたしの予感は当たっていて、やぐっつぁんはすぐに見つかった。
玄関を出て、建物の周りを少し歩くと、裏庭の大きな木の下にやぐっつぁんはいた。

229 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時05分51秒

木にもたれて、携帯電話で誰かと話しているみたいだ。
電話の向こうの相手が誰なのか、やぐっつぁんの表情から想像はつく。
声をかけることが出来なくて、悪いなと思いながらもしばらく様子を見ていた。

やぐっつぁんは時々笑ったり、頷いたりしてたけど、
そのうち手を自分の目元に運ぶ仕草が多くなる。
肩も少し震えているように見える。


…あたしは、なんだか胸が締め付けられるようになって、そこにいるのが
辛くなって、その場を離れて、部屋に戻った。
どうやって二人にやぐっつぁんの事を説明しようかと考えながら
部屋に戻るとよっすぃーが一人でリビングでテレビを見ていた。

230 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時06分40秒

「あれ、市井ちゃんは?」

「あ…2階見てくるって……外に、矢口さんいた?」

「うん、…裏庭で電話してた…多分、中澤先生と」

「ふーん…」

よっすぃーは、あたしの表情からなんとなく察してくれたみたいで、
その後は何も聞いてこなかった。


2階に上がると、一番奥の部屋からちょうど出てくるところの、市井ちゃんと
ドアの前でぶつかりそうになる。

「おわっ、ビックリした…あ、矢口いた?」

「…うん」

「なんだよ、どかしたの?」

あたしは、さっきのやぐっつぁんの姿を思い出して、なぜか泣きそうになって、
俯いて、喋れなくなってしまった。

231 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時07分37秒

市井ちゃんは出ようとしていた部屋のドアをもう一度開けて、あたしに
中に入るように促した。
そして、あたしをベッドに座らせると、自分も隣に座る。

「矢口、どこにいた?」

「…裏庭で、電話してた…」

「そっか…」

「やぐっつぁん、…泣いてた」

「…うん」

「やっぱり、あたしたちじゃ、中澤先生の代わりは出来ないね…」

「うん…代わりは出来ないけど、あたしたちに出来ることはきっとあるし、
今だって、出来てると思うよ。矢口は、まだ離れてから少ししかたってないから
声を聞いちゃうと、泣いちゃうんじゃないかな…?」

あたしは、泣きそうなのを一生懸命我慢した。
だって、やぐっつぁんは中澤先生がすぐ近くにいないから、泣いてもいいけど
あたしは、こんなに近くで、すぐ隣で、大好きな人が肩を抱いてくれるんだから
泣いちゃいけないと思ったから。

232 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時08分24秒

あたしの肩を優しく擦ってくれている、市井ちゃんの手の感触に、
昂ぶっていた気持ちもだんだんと治まっていく。


「ねぇ、市井ちゃん。もしさ……あの…やっぱりいいや、なんでもない」

「なんだよ気になるじゃんか、ちゃんと最後まで言えよ」

言おうとしたんだけど、市井ちゃんの返事が自分の期待しているものとは
違っていたらって思うと、ためらってしまう。
でも、こういう言い方って言われたほうは、凄く気になるんだよね…


「…あのね、もし、…後藤が引越しして遠くに行かないといけなくなったら
寂しいって思ってくれる?…会いたいって…思ってくれる?」

「え…」

市井ちゃんはやっぱり、あたしの突然の質問に戸惑ってるのか、
困ってるのか答えてくれない。
あたしの肩を抱いていた手も下に降ろしてしまった。


233 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時09分19秒

「…後藤が、市井ちゃんの傍に居られなくなったら、もう、後藤のことは
忘れようって思う?……後藤は、市井ちゃんがもし遠くへ行ったら、
絶対寂しくて、会いたくて、いっつも泣いちゃうよ」

「…あたしは、どこにも行かないし、後藤だって行かないだろ…」

「…市井ちゃんは、いつもそうやって話をそらすね。
いつもちゃんと言ってくれたことないね。
『すき』って言うのは、いつも後藤ばっかりだもん」

「……」

「後藤が思ってる『すき』と、市井ちゃんが思ってる『すき』は違うのかな?
後藤は、いつも一緒にいたいとか、触れ合いたいとか…キスしたいとか
そういう意味の、『すき』なんだけど…後藤は勘違いしてたのかな…?」



あれ…?いつのまにこんな事になっちゃったんだろ。
いつもは、こんなこと思ってても口に出して言えないのに、
環境が違うのと、さっきのやぐっつぁんを見ちゃったから、
ちょっと、感情がコントロールできなくなってるのかもしれない…。

234 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時10分05秒

市井ちゃんは、下を向いて髪をかき上げたり、鼻を触ったりして、
落ち着かない感じで、しばらく黙っていた。
あたしも、だんだん気まずくなってきて、突然こんなことを言い出したのを
謝ろうとした時、市井ちゃんは俯いたま話し始めた。

「違うんだ、あのね、…あたしこういうの…あの、女の子とっていうの初めてだから
正直言って、どうやって後藤に接していいのか分かんないんだ。
だから、…あたしも後藤と同じ気持ちだけど…でも、自分が思ってるそのままに
行動したら、もう今みたいに楽しく過ごせる関係に戻れなくなったらどうしようって
…後藤は、そういうの望んでなかったらどうしようって思ったら、こわくて…」


「…戻れなくなんて、ならないよ。
後藤は戻れなくなる不安より、この先に進みたいって気持ちのほうが大きいもん。
だから、市井ちゃんが後藤と同じ気持ちなら、…ちゃんと好きって言って欲しいし
触れて欲しいし、…キスしたい」

235 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時10分42秒

市井ちゃんは、あたしの言葉にまた黙ってしまったけど、
今度は少し照れているみたいで、シーツをいじりながらモジモジしている。
恥ずかしがってる市井ちゃんは、かわいいんだけど、でも…
市井ちゃん、年下の後藤がここまで言ったのに、
この距離と、この雰囲気なのに、まだ、してくれないなら、
…後藤からしちゃうよ…


あたしは、隣に座って俯いている市井ちゃんの、シーツをいじってる手に
ちょっと指を触れさせると、緊張しながら少しずつ体と顔を近づけていく。

「…市井ちゃん、してもいいよね…?」

一応聞いてみた。
もし嫌って言われたって、止まんないんだけど…。

236 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時11分23秒

でも、市井ちゃんはあたしの言葉には答えてくれなかった。
そのかわり、顔を上げて、あたしの方に体と顔を向けながら
あたしの肩に手を回すと、優しくあたしの唇に自分の唇を重ねた。
そして、そのまま抱き寄せてくれた。

「…好きだよ」

顔を少し離して、吐息が頬にかかる距離で、
ちゃんとあたしの目を見て言ってくれた。
でも、すぐに目を伏せてしまったけど、
そのまま額をあたしの額に合わせると、髪を撫でてくれる。
髪を撫でられてるのも気持ちいいけど、こんなに近くに市井ちゃんの
唇があると、やっぱり我慢できなくて。

だから、今度は、あたしのほうから市井ちゃんにキスをした。
そして、市井ちゃんの首に腕をまわして、ギュッて抱きついて
耳元で囁くようにさっきの返事をした。

「後藤も、…大好きだよ」

237 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月06日(金)22時12分13秒


市井ちゃんが、初めてちゃんと好きだって言ってくれて、
市井ちゃんと、初めてキスをして、抱き合って、
今日はもうこのまま二人でこの部屋に篭っていたいけど、
よっすぃーが下で待ってるし、やぐっつぁんのことも気になるから
我慢して、二人一緒に一階のリビングに戻った。

市井ちゃんがドアを開けると、中からはやぐつぁんのいつもの
明るい笑い声が聞こえる。
てっきり、落ち込んでいるんじゃないかと思ってたから
不思議に思いながら部屋に入ると、やぐっつあんは缶チューハイを
片手に持って、よっすぃーとはしゃいでいる。

「あ、二人とも、よっすぃーをほっといて何してたんだよ〜」

「いいんですよ、矢口さん。少しは二人っきりにさせてあげないと、
二人に恨まれちゃいますよ〜」

「うるさいっつーの!」

やぐっつぁんは、市井ちゃんの耳が赤くなったのを見て喜んでいる。
その笑顔は別に無理して作ってる笑顔じゃなくて、本当に心から
うれしそうな笑顔だった。
やけになって、お酒を飲みすぎたからかなって思ったんだけど、
まだ時間は早いし、飲んでる缶チューハイもまだ一本目を開けたばかりみたいだ。

市井ちゃんも同じように思ってたみたいで、後になって、
やぐっつぁんの顔が赤くなって、いつもよりもたくさん笑うようになった頃、
さりげなく機嫌が良い理由を尋ねたところによると、さっきの電話で、
近いうちに中澤先生と会う約束をしたみたいだ。
中澤先生も、やぐっつぁんに電話越しに泣かれたら、
会いたくなったんじゃないかな。



結局その夜、日付が変わっても騒ぎつづけたあたし達は、
その疲れと、お酒のせいでいつのまにか、それぞれにソファやクッションの上で
眠ってしまった。


238 名前:作者 投稿日:2001年07月06日(金)22時14分59秒
更新です。
>>220
よっすぃーは…あれですよ、部活少女ですから…
ここのよっすぃーは、みんなのマスコット的な存在というか
「みんなのよっすぃー」って感じで…

>>221
goma <辻ちゃんせっかく来てくれたのに無視してごめんね〜

>>222
甘いの書きたいんですけどね。
で、今回は初のいちごまキスシーンをいれてみました。
「Sea Girl」で書きたかった事のひとつが、いちごまの初キスだったんです。
この後も、萌えポイントはたくさん入れて行きたいんですけどね…
でも、自分で書いたのは、ぜんぜん萌えれません。どうしよ…

239 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月06日(金)22時23分16秒
最高です
240 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月07日(土)17時59分03秒
ホント最高です。
いちごまの初キス、萌えまくりです。
241 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月09日(月)03時54分07秒
素晴らしい!!
恥ずかしがってる市井ちゃん、積極的な後藤、どっちも最高です。
この後の萌えポイントにも期待させていただきます!!
242 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月10日(火)22時32分24秒
次の日の朝、フローリングの上に敷かれたカーペットの上で、クッションを
枕にして寝ていたあたしは、体が痛くて、目が覚めた。

市井ちゃんとよっすぃーはもうすでに起きていて、テーブルの上の
空き缶や食べ残しはもうほとんど二人が片付け終わっていた。
テーブルの上を拭いていたよっすぃーがあたしが起きたのに気付いて、振り向いた。


「あ、ごっちんおはよ〜。…ということは、一番最後まで寝てるのは、矢口さんだ」

「…おはよ…やぐっつあん、まだ寝てるの?」

「うん、昨日、結構飲んでたし、…イロイロ疲れたんじゃないかな…?」

「…そうだね」

やぐっつぁんは、ソファの上でこちらに背を向けてうずくまるようにして眠っている。
昨日の、やぐっつぁんがあたしに笑いかけてくれた笑顔や、泣いてる顔を思い出すと
その少し小さな背中が、とってもかわいく見えてくる。

243 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月10日(火)22時33分22秒

「やぐっつぁんてさ、年上なのに、なんかすごい…かわいいよね」

「うん、そうだね…って、ダメだよ、ごっちん浮気しちゃ
市井先輩、キッチンに居るんだから聞こえるよ〜」

「な、なに言ってんのさ、浮気なんかしないもん!」

そんなつもりで言ったんじゃ全然ないけど、思わずキッチンの方に振り向いて
見てしまう。

「お〜い、吉澤、コーヒーと紅茶どっちにする〜」

「い、市井ちゃん、おはよ」

「あ、おはよう。…後藤も起きたんなら、ついでに矢口起こして
みんなで食べようよ」

タイミングよく市井ちゃんがキッチンから戻って来たから、
聞こえたのかと思って焦ったけど、大丈夫だった。
でも、もし聞こえてたとして、市井ちゃんが少しくらいヤキモチ妬いてくれたら
嬉しいな、なんて思ったりもしたけど…



244 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月10日(火)22時34分07秒


市井ちゃんが、やぐっつぁんを起すと、みんなで朝食を食べた。
やぐっつぁんは二日酔いまではいかないけど、ちょっとダルそうだった。

でも、今日は、いつまでもダラダラしてられないんだよ、やぐっつぁん。
朝から一日、海に遊びに行くことになってるから。
よっすぃーの話によると、近くの海岸に他の海水浴客がこない
秘密の場所があるらしい。
あたしたちは、服の下に水着を着ると、まだ太陽が完全に昇りきらないうちに
海に向かった。
海岸まではちょっと遠いのが難点だけど、みんなでふざけ合いながら歩くから、
楽しくて、ぜんぜん不満には思わなかった。

245 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月10日(火)22時34分39秒

海沿いの広い道路に出ると、道路を横切って海側に渡る。
そして、ガードレールを乗り越えて、道路の下の砂浜に飛び降りる。
でも、市井ちゃんとやぐっつぁんは、少し歩いて、ガードレールの
切れ目を通り、道路から下につながるコンクリートの短い階段を降りてきた。

「なに、二人とも年寄りくさいことしてんですかぁ、若いんだから
飛び越えていきましょうよ、落ち着きすぎですよ〜」

「え〜、あんた達がはしゃぎすぎなんじゃない?
少し歩いたら無理しないで下に降りれるでしょ。小学生じゃないんだから…」

少し遅れて歩いてくる2人に、よっすぃーが呼びかけると、
市井ちゃんがそれに答えた。

でも、市井ちゃんはあたしたちに追いつくと、「うわ〜い」ってわざと子供っぽい
声を出して、サンダルを脱ぎすてて、足で寄せてきた波を蹴り上げながら、
わざとらしくはしゃいでいる。


「市井先輩のほうが、小学生みたいじゃないですか〜」

よっすぃーが、ちゃんとつっこんであげたから、市井ちゃんは満足してこっちに
戻ってきた。
市井ちゃんは見た目は、カッコつけてるから、二枚目に見えるらしいんだけど、
…あたしも、会ったばかりの頃はそう思ってたけど…
本当は、こうやってふざけて、つっこまれたりするの好きなんだよね。
…そういうとこも、かわいくて好きなんだけどね。



246 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月10日(火)22時35分22秒

持ってきたレジャーシートの上に、荷物を置くと、
水着の上に着ていた服を脱いで、日焼け止めを塗る。

よっすぃーとやぐっつぁんの後について、さっそく海に向かおうと歩き出した時、
市井ちゃんに呼び止められた。

「あっ、後藤、ちょっと待って」

「へっ、なに?」

「首んとこ、日焼け止めちゃんと塗れてないよ…」

そう言いながら、市井ちゃんはあたしの首に手を伸ばし、
首の付け根辺りにそっと指で触れると、白く残ってるクリームを、延ばしてくれた。
それは、市井ちゃんにとっては、何でもない行動だったんだろうけど、
あたしにとっては、全然そうじゃない。
市井ちゃんの顔がすぐ近くにあるから、恥かしくなって目線を下げると、
白い胸元が見えて、そして、首筋に指先で触れられて、
…心臓が飛び出るんじゃないかって思うくらい、凄いドキドキした。

「…ありがと」

「…なに、照れてんだよ。こっちまで恥かしくなるじゃんか…」

「だって…」

ふたりで向き合ったままモジモジしてたら、海のほうからやぐっつぁんの
呼ぶ声がする。

「ちょっとー!そこのふたりーっ、イチャイチャしてないで早くこ〜い」

「わーったよ、うっさいなぁ…後藤、行くぞっ」

「うん」

呼ばれて歩き出した市井ちゃんの後姿を見て、初めて水着姿を意識した。
白い肌と、細長い手足と、華奢な背中に、またドキドキさせられて
市井ちゃんに「早く来い」って言われるまで、見とれてしまって動けなかった。


247 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月10日(火)22時36分11秒

よっすぃーの言うとおり、周りには私たち以外に人はいなくて、
波の音と、四人のはしゃぐ声しかしない。
他人の目を気にしないでいいから、さっきの市井ちゃんじゃないけど、
みんな本当に小学生みたいに、本気ではしゃいで遊んだ。


太陽もちょうど頭の真上辺りまで昇り、日差しがきつくなってきた頃、
そろそろ休憩したくなってきたので、一旦海から出ることにした。

「あ〜疲れた。なんかのど渇かない?」

やぐっつぁんがシートの上に座りながら言った言葉にみんな頷く。

「つーかさぁ、…来るときになんか買ってくれば良かったね…」

市井ちゃんが、遠くに見える、にぎわう海水浴場のほうを見ながら呟いた。
ここは、静かなのはいいんだけど、海の家なんてもちろん無いし、
出店や自販機さえも無い。

もうお昼も近いから、来るときにあったコンビニまで、誰かが買い出しに行く事になった。
この日差しの中を、遠く離れた目的地まで往復するなんて、
進んで行きたがる人なんていない。
だから、例のごとく、じゃんけんで、その役目を決める事になった。
そして、今日一番、勝負運がなかったのは、よっすぃーだった。


248 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月10日(火)22時36分50秒

あたしと市井ちゃんが、よっすぃーにいろいろと注文していると、
あたしたちの様子を黙って見ていた、やぐっつぁんが割り込んできた。

「やっぱ、よっすぃーだけじゃ、可哀相だから矢口も行くよ」

「えっ、いいんですか。矢口さん」

「なに言ってんのよ、よっすぃーの為なら、矢口はなんでもするよ」

やぐっつぁんは、口ではそう言ってるけど、視線はあたしと市井ちゃんの方に
向けられている。
そして、その目は何かたくらんでそうな、いたずらっ子みたいな目をしている。

「あ、…そうっすよね!吉澤も矢口さんがいてくれると助かりますよ〜」

「じゃ、言ってくるから、紗耶香とごっちんはここで待っててね。
30分くらい掛かると思うけど、なるべくゆっくり帰ってくるからね〜」

「うっさい!早く行けよ」

「あ、ごめんね〜 気がきかなくて。よっすぃー、紗耶香が早くふたりだけに
しろって言ってるから、行こ〜」

「く、くそ〜…矢口のヤツ」



やぐっつあんは、市井ちゃんをからかうのに満足すると、
水着の上にタンクトップとミニスカートを着て、
よっすぃ−を引き連れて行ってしまった。

249 名前:作者 投稿日:2001年07月10日(火)22時39分51秒
更新です。
>>239-240さん
ありがとうございます。
マジで嬉しいです。
この後もそう言ってもらえるように
萌える展開になるようにがんばります。

250 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月10日(火)22時42分10秒
激しく期待してます
251 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月11日(水)00時10分00秒
激しいの期待してます

・・・ウソですとにかく続き期待してます(w
なんか初々しくて無茶苦茶(・∀・)イイっす、作者さんのいちごま。ガンバテ。俺もガンガロー
252 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月11日(水)03時22分34秒
こんなに純粋に楽しめるいちごまは久々に見た。
この後も期待大です!!
253 名前:作者です。 投稿日:2001年07月11日(水)21時15分43秒
あの、更新じゃないんですけど、どうしても気になったので…

>>241さん、レス抜かしてしまってごめんなさい。
ほめてもらって嬉しくてキーを打つ手が震えてたみたいです。
ホントごめんなさい。

>>250-252さん
ありがとうございます。
期待を裏切らないようにがんばります。
(もしかして、251さんはあのお方…?だとしたら、こちらこそ激しいの…いや、激しく期待してます。)

続きは、今週中には上げたいと思います。
今日はドラマ見ないといけないんで。
にしても、ごま@マリアかわいすぎっす。萌えまくりっす。
254 名前:mo-na 投稿日:2001年07月12日(木)01時08分12秒
ごっちん。やぐさん。可愛い〜
紗耶香がんばれ!ふたりっきりだぞ!(ニヤリ 
255 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月12日(木)23時40分16秒
いやいや後藤の方が積極的だから
ごまいちで(ニヤニヤ
256 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月12日(木)23時47分27秒
ごまいちマンセー(まじです)
257 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月13日(金)21時34分38秒
残されたあたしと市井ちゃんは、やぐっつぁんのさっきの言葉のせいで、
なんだか妙な雰囲気になって、おたがい黙っていた。
聴こえてくるのは、波の打ち寄せる音だけで、さっきまでの賑やかさが
ウソみたいだ。
ふたりして、やぐっつぁんとよっすぃーの後姿が小さくなって、
建物の影に隠れて見えなくなるまで見送ると、市井ちゃんが「すわっろか」って、
レジャーシートの上に腰をおろしたから、あたしもその隣に座った。


しばらく二人とも黙って、海のほうをぼんやり見つめて、波が打ち寄せるのを
見てたんだけど、ふいに市井ちゃんが呟いた。

「なんか、二人がいなくなったらすっごい静かだな…」

「うん…っていうか、やぐっつぁんがいないからじゃない?」

「それ言えてる…矢口、体はちっちゃいけど声はでかいからな」

「あはっ、そうだねぇ〜…でも、やぐっつぁん元気になってよかったね」

「それにしてもさぁ、うちらがあれだけ矢口のご機嫌とるのに苦労したのに
中澤先生は、電話一本で矢口の機嫌直しちゃうんだもんな。
でも、甘すぎだよな〜、まだ京都に行ってから一ヶ月もたってないじゃんか。
もうちょっと、我慢させないとだめだよ」

「え〜、そんなことないよ。中澤先生だって会いたかったんだよ。
…後藤だって、1日市井ちゃんに会えないと、何してんのかなぁって
すっごい気になるもん…一ヶ月も会えないなんて我慢できないよ」

「……」

258 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月13日(金)21時35分21秒

…市井ちゃん、黙んないでよ。
なんか言ってよ。
せっかくやぐっつぁんとよっすぃーが二人っきりにしてくれたんだから、
ちょっとでいいから、あたしが喜ぶこと言ってほしいよ…

「…でもさ、中澤先生は矢口に毎日電話くれるって言ってたから、
声が聞けるだけで我慢しなきゃダメだよ。
…交通費だって、大変じゃんか…」

「…うん」

…なんで話をそっちに持っていくのかなぁ…
市井ちゃんはシャイなところもかわいいって思ってたけど、
それが過ぎるのも、困ったもんだ。

でも、あたしがちょっとがっかりしてるのに気付いたのか、
市井ちゃんは、付け足して言ってくれた。

「…うちらだってさ、会えない日は電話してるじゃん。
まぁ…かけてくれるのは、大体後藤のほうだけど…。
…それにさ、電話してない時だって、…あたしも、
後藤は今何してんのかなって思ってるよ…」

「…ホントに?」

「うん、本当に…」

「エヘヘ…うれしい…」

「……」

やっぱり市井ちゃんは照れてしまって、肩に被せている大きめのタオルの
はじっこをいじりながら、うつむいている。
照れてる市井ちゃんが、すごくかわいかったから、もう許してあげることにした。

259 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月13日(金)21時36分31秒

「市井ちゃん、もっかい海に入ろうよ!」

「え〜、二人が帰ってくるまで休んどこうよ〜」

「いいじゃんか〜、市井ちゃんと二人で入りたい〜」

「…ったく、しょうがねぇな〜」

ダルそうに立ち上がろうとする市井ちゃんの片方の手を掴んで
引っ張りおこす。
市井ちゃんが立ち上がっても、つないだ手はそのままにして、
波打ち際まで歩いた。

あんまり深いところまでは行かずに、浅瀬でふたりでじゃれ合って遊んだ。
さっき、やぐっつぁんとよっすぃーが一緒にいたときは、あたしがふざけて
市井ちゃんにくっつくと、恥かしがってあたしを引き離そうとしてたんだけど、
今は、あたしが抱きついても、「やめろ〜」って口では言ってるけど、
受け止めてくれる。

でも、あんまり長い間抱きついていられなかった。
だって、お互い水着しか身に着けてないから、直接肌が触れあって
それだけでも、ドキドキするのに、市井ちゃんの濡れた髪の毛とか
水滴のついてる、日に焼けて赤くなった肌を間近で見てしまうと、
なんか、変な気分になってきて、思わず市井ちゃんのことを
力を入れて抱き締めてしまいそうになる。
急にそんな事して、市井ちゃんに引かれちゃったら嫌だから、
そうなる前に、自分から離れた。

260 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月13日(金)21時37分51秒

海の中で遊ぶのに飽きた頃、近くに見える岩場へ行ってみようと
市井ちゃんを誘った。

「滑ったりしたら、危なくないか?」

「ビーサン履いてけば大丈夫だよ」

「ん〜でもなぁ…」

市井ちゃんは、仕方ないなって感じであたしの後ろからついてきたのに
岩場まで来てみると、結構楽しそうにしている。

潮溜まりを見つけると、しゃがみこんで「カニがいる〜」って
真剣に覗き込んでいる。
目を輝かせて覗き込んでて、なんか、ちっちゃい男の子みたいだな。
いっつもお姉さんぶってあたしに威張ってるんだけど、たまにこんな風に
子供みたいにはしゃいだりするんだよね。
でもそれが、めちゃめちゃかわいくて、ツボだったりするんだけど。

261 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月13日(金)21時38分46秒
あたしもその隣に同じようにしゃがみこんで「どこにいるの?」って聞いてみた。

「ホラッ、あそこにいるじゃんか」

市井ちゃんはやっぱり子供みたいに嬉しそうに、潮溜まりを覗き込んだまま、
指差して教えてくれる。
あたしは、カニよりも、そのカニを夢中になって見てる市井ちゃんのほうが
気になって仕方ない。
市井ちゃんは、あたしの視線には気づかないみたいで、まだカニを見て
はしゃいでる。


かわい…。
はぁ…なんか、…もう、たまらんって感じなんだけど…。

市井ちゃん、いいよね…?
ここ、岩の影になってるし、元から人なんていないし、
二人もまだ戻ってこないし…あたしと市井ちゃんだけだから…

262 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月13日(金)21時39分48秒

「…市井ちゃん?」

「ん?なに……!」

市井ちゃんが、恥かしがって逃げないうちに、
あたしのほうに振り向いた瞬間に、キスをした。
ほんの数秒の間、触れているだけのキスだったけど、
顔を離して見た、市井ちゃんの顔は、耳まで赤くなっていて、
やっぱりかわいかった。

「…なんだよ、ビックリするじゃんか」

「市井ちゃん、顔真っ赤だよ」

「…うるさい、日焼けしたからだろ…」

市井ちゃんは、そう呟くと俯いて、また岩の下に隠れているカニを
見つめてたんだけど、しばらくすると顔を上げてあたしのほうに向き直った。
でも視線は少し下に向けられていて、ほっぺと耳はまだ少し赤いままだ。
あたしが、「なに?」って市井ちゃんの顔を覗き込むと、
指で、ぽりぽりおでこを掻いたあと、あたしの肩に手を添えると、
そのまま、ぎこちなく顔を近づけて、キスしてくれた。

市井ちゃんは負けず嫌いだから、
さっきのあたしのキスよりも、ずっと長くて、深いキスだった。



…夏の海って開放的になって、大胆になっちゃうって本当だったんだな。
だって、いつもなら絶対に市井ちゃんは外でキスなんかしてくれないもん。


263 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月13日(金)21時40分48秒

キスした後も、二人で岩場を歩いて、変なグネグネした生き物を見つけて
キャーキャー言って騒いだり、ゴツゴツした足元にバランスを崩したあたしを
市井ちゃんが支えてくれて、嬉しかったり、ふたりだけの時間を楽しんで
砂浜に戻ると、ちょうどやぐっつぁんとよっすぃーも帰ってくるところだった。
やぐっつぁんは、岩場から戻ってきたあたしたちを見つけると、
暑さと眩しさで、目を鬱陶しそうに細めながら、ちょっと怒ったような声で言った。

「ちょっと〜、あんたたち岩陰でなにやってたのよ〜
誰もいないからって、ヘンなことしてたんじゃないでしょうね〜」

「してねーよ。真面目に海辺の生物を観察してただけだよ。なっ、後藤」

「そうだよ、してないよ〜」

ヘンなことはしてないもん。
カニを見つけて、キスして、手をつないでただけだもん。

264 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月13日(金)21時41分28秒

コンビニのお昼ご飯を済ませた後、やぐっつぁんとよっすぃーも、
岩場に行きたいって言ったから、4人でもう一度行ってみた。
市井ちゃんとキスした場所は、もう潮が満ちてきていて、さっきとは
違う場所みたいだったけど、あたしはすぐにその場所だって気付いた。
市井ちゃんも気付いてたらいいなって、チラッと見たら、
あたしの方を見てて、目が合うと微笑みかけてくれた。
なんか、すごい通じ合ってる感じがして、嬉しかった。
あたしと市井ちゃんが、二人して微笑み合っていると、いつもなら、やぐっつぁんに
つっこまれるんだけど、今はよっすぃーが、さっきあたしたちが見つけた
グネグネした生き物を素手でつかんでいるのを見て、本気で嫌がっているから
気付かれなかった。


265 名前:greenage ― Sea Girl― 投稿日:2001年07月13日(金)21時42分09秒


日も傾いてきた、海からの帰り道。はしゃぎすぎて疲れてしまったあたしたちは、
来る時、あれだけ大騒ぎしてたのに、ウソみたいに静かだった。
でも、立ち止まって、海のほうを振り返って、沈む夕日を見ながら
「きれいだね〜」って、みんなでぼんやりしてるのも、
それはそれで、全然悪くなかった。

途中、昨日やぐっつぁんとふたりで行ったスーパーに寄った。
今日はもう、夕飯は作らなくてすむように、出来合いのお惣菜や、冷凍食品で
済ませることにした。
でも、昨日と同じようにお菓子と、お酒は買って帰った。
そして、今日は、市井ちゃんが見つけてきた、花火のセットもちょっと高かったけど
買うことにした。

会計の時、昨日と同じレジのおばさんが、昨日は何も喋らなかったのに
「花火も空き缶も、ちゃんと片付けて帰りなよ〜」
って、笑いながら言ってくれたのが、ちょっと面白かった。



266 名前:作者。 投稿日:2001年07月13日(金)21時43分50秒
更新しました。
>mo-na さん
市井ちゃんは、…ちょこっとがんばらせてみました。

>>255-256さん
今回も、ごまいちっぽくなってるんじゃないかと思います。
後藤さんの場合、積極的にリードするっていうより、
思うままに行動したら、こうなったって感じでしょうか。
267 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月14日(土)03時36分53秒
いかん!!読んでるうちに顔がにやけてしまった。(w
それくらい、ここの甘々いちごまは最高です!!
268 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月14日(土)23時15分15秒
マジでいいっす。最近こういうの減ってますからねぇ〜
滅茶苦茶嬉しいです
続き期待っ!
269 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月15日(日)12時39分25秒
ヤッパ、甘々はいいなぁ〜。
なんか、心、癒されるよ、ホント。
270 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月17日(火)14時23分56秒
これ読んでると、やっぱいちごまはいいな〜…と、再確認することが出来ます。(w
続きも頑張って下さい!
271 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月17日(火)18時58分49秒

その夜、適当に食事を済ませて、実は、みんな夕方から気になって仕方なかった
花火をするために、庭に出た。

部屋の窓からもれてくる明かりを頼りに、手持ち花火に火をつける。
最初は、おとなしく、きれいだねってみんなで見つめてたけど、だんだんと
調子に乗って、振り回したりしてはしゃぐようになる。
そのうち、よっすぃーが、小さめの打ち上げ花火を手に持って火をつけ始めた。
それを見て、やぐっつぁんが「あぶないでしょ〜」って言いつつも、楽しそうに
はしゃいでいる。
市井ちゃんとあたしも、ふざけて、よっすぃーたちから少し離れて逃げた。

そして、あたしの隣に立ってた市井ちゃんは、周りが暗かったからなのか、
他の二人が花火に夢中だったからなのか、その花火がすごくきれいだったから
なのか、二人に気付かれないように、こっそり手をつないでくれた。

272 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月17日(火)18時59分47秒

花火セットの袋の中身が、ほとんど無くなって、最後に袋の底に残ってた
線香花火に火をつけた。

さすがに、線香花火を振り回して盛り上がることは出来ないから
みんなで並んでしゃがんで、静かにパチパチ瞬いてる火を見つめた。
はじめに、市井ちゃんの花火の火が消えて、その次があたしで、そして
よっすぃーの火が消えた。
最後まで残った、やぐっつぁんの線香花火の瞬きを、なんとなく、みんな黙って
見ていた。
ふと、花火を見つめてるやぐっつぁんの横顔を見ると、
花火の光に、ちらちらと照らされてる横顔は、すっごく大人っぽくて、
きれいで、優しい顔だった。
それは、きっと、ここには居ない誰かのことを、思い浮かべてるからなんだろうね。


273 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月17日(火)19時00分21秒

花火が終わった後、昨日と同じようにお酒を飲んで盛り上がってはいたんだけど
海で遊んだ疲れもあるから、ちゃんと布団で寝ようということになった。

やぐっつぁんが、ニヤニヤしながら、
「紗耶香とごっちんは、当然一緒の部屋で寝るんだよねぇ」
って、市井ちゃんに言ったら、市井ちゃんは、顔を真っ赤にして、
やぐっつぁんのことを、蹴る振りをしてて、すごいかわいかった。

でも、結局は、2階の一番広い部屋に布団を持ち寄って4人で寝た。

本当は、少し、市井ちゃんと二人で寝るのも有りかなって思ったけど、
今日は、海でいっぱい抱きついて、キスもできたし、さっき市井ちゃんのほうから
手もつないでくれたし、それだけで十分満足だから、それは次の機会でいいかな。




274 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月17日(火)19時00分57秒




夜中、喉が乾いて目が覚めると、ベランダに人影があるのに気付いた。
こわごわ近づいてみると、やぐっつぁんが、手すりにもたれて、外を眺めていた。

「やぐっつぁん…」

「ごっちん、どうしたの?眠れないの?」

「うん、喉が渇いて、…」

「あ、…じゃあ、これ飲む?」

やぐっつぁんは、手すりの上に置いていた、自分の飲みかけの
缶ジュースを手渡してくれた。
あたしも、缶を受け取ると、やぐっつぁんの隣に立って同じように外を眺めた。
部屋の外は、昼間と違って涼しい風が吹いていて、
クーラーが効いた部屋の中とは違う心地よさだった。
そして、上を見上げると満天の星空、下からは虫の鳴き声が聴こえる。


275 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月17日(火)19時04分08秒

「ねぇ、やぐっつぁん…なんか、…明日帰っちゃうなんて、ちょっと寂しいね…」

「うん、楽しかったもんね。でも、また遊びに来たいね」

「来年もさぁ、よっすぃーにお願いして、みんなで来れたらいいね」

「そうだね〜、…でもごっちんは、紗耶香とふたりっきりで来たいんじゃない?」

「も〜、何ですぐそういう事言うの〜?」

「アハハ…ごめんごめん」

そりゃあ、市井ちゃんと二人だけで旅行するなんて、考えただけで、
顔がにやけてきちゃうけど、でも…こうやってみんなで…
大好きな人たちとみんなで、遊びに行くのだって、同じくらい楽しいよ。

「後藤は、市井ちゃんのこと大好きだけど…やぐっつぁんもよっすぃーも
ホントに大好きだし、大事だよ…」

「…ごっちん」

「…中澤先生は、居眠りしてて起こられたことがあるから、ちょっとこわいけど
でも、…おもしろいし、好きだよ…」

「アハハッ、ごっちん無理してない?
…でも、いい子だね、ごっちんは、…
矢口も、ごっちんのこと好きだよ。紗耶香もよっすぃーも、…
…もちろん、裕ちゃんも」

やぐっつぁんは、手をいっぱいに伸ばしてあたしの頭を撫でてくれた。
市井ちゃんにされるのとは、ちょっと違うくすぐったさだった。

276 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月17日(火)19時05分09秒

「…ホントは、ギュッて抱き締めたいけど、紗耶香に見つかったら、
怒られるから、やめとくよ」

「…いいよ、市井ちゃん寝てるから…」

…ギュッて抱き締められるくらいなら、いいよね市井ちゃん。
抱き合うくらいなら、よっすぃーとだってしたことあるし、
市井ちゃんだって、やぐっつぁんに抱き付かれてた事あるでしょ?

「え〜…じゃあ、ごっちんがそんなこと言うの珍しいから、
気が変わらないうちにギュッてしとく…」

そう言いながらあたしを抱き締めてくれたんだけど、
やぐっつぁんは小さいから、なんか、抱き締められてるのか、
あたしが抱き締めてるのか分かんなくなって、おかしくなって、二人で笑ってしまった。

笑いあった後、抱き合ったまま、やぐっつぁんに言ってみた。

「ね、やぐっつぁん。もしさ、寂しくて仕方ないときは、あたしや、市井ちゃんや
よっすぃーに言ってよ。中澤先生の代わりはできないけど、やぐっつぁんが
楽しくなるようなこと、考えるからさ…」

やぐっつぁんは、あたしが、くさいこと言ったから、恥かしくなったのか、
あたしの胸におでこをつけて、俯いてしまった。

277 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月17日(火)19時05分57秒

「…ごっちん、ありがとね。……今度は、チュウしてもいい?」

「…それは…市井ちゃんが寝てても、ダメ…」

「…ケチ」

「あはっ…やぐっつぁんだって、中澤先生に怒られるよ〜」

「…でも、裕ちゃん、紗耶香に『お仕置きや〜』って言ってキスしたことあるよ?」

「えっ、マジで!?」

「マジで…」

「う〜…じゃあ、後藤もやぐっつぁんにチュウしちゃおうかな…」

あたしは、今はあたしの顔を見上げるような格好になってるやぐっつぁんの
おでこに、前髪の上からチュってキスをした。
やぐっつぁんは、ホントにされると思ってなかったみたいで、
驚いた顔をしたあと、照れて顔を外のほうに向けてしまった。
月明かりでは分からないけど、多分顔は赤くなってるはず…

278 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月17日(火)19時06分39秒

「…ごっちんってさぁ、普段はのんびりしてるのに、
ときどきビックリすることするよね…」

真っ赤になって照れてるはずのやぐっつぁんは、昼間に岩場でキスしたときの
市井ちゃんみたいで、かわいかった。
…って、結局市井ちゃんのこと思い出してるな、
今はやぐっつぁんと二人っきりなのに…

…だから、市井ちゃん。
さっきのキスは見逃してね…
あれは、市井ちゃんにキスをした、中澤先生への仕返しなんだよ。
でも、唇にキスするのは、絶対に市井ちゃんだけだから。



279 名前:greenage ― Sea Girl ― 投稿日:2001年07月17日(火)19時08分07秒


次の日、お昼すぎに別荘を後にした。

駅へ向かって歩く途中、昨日遊んだ砂浜が見えた。
この土地には、3日しかいなかったのに、なんか、すごく寂しく感じた。
たぶんそれは、他のみんなも同じで、駅に着くまでの道は、
口数が少なくて、おとなしかった。

電車に乗って、窓から見える景色は変わらないけど、景色が見えてくる順番は
来る時とは逆で、だんだんと都会の景色になってくる。
それは、いつもと変らない日常に、戻っていくことをあたしたちに教えている
みたいで、やっぱりちょっと、寂しくて、名残惜しいっていうか。

でも、その日常には、みんながいて、…市井ちゃんがいるから、
残りの夏休みを、楽しくする方法なんていくらでもあるよね。

そして、今年の夏休みが終わってしまっても、
来年の夏休みも、その次の夏休みも…学校を卒業して夏休みがなくなっても
こうやって、みんなでどこかに遊びに行こうよ。





  【end】


280 名前:作者。 投稿日:2001年07月17日(火)19時10分35秒
『greenage ― Sea Girl ―』終わりです。

>>267-270さん
ありがとうございます。
次回も、甘々いちごま目指してがんばります。

そして、読んでくださった皆さん、レスしてくださった皆さん、ありがとうございました。
今回の話、もしかしたら「2日も同じ屋根の下で一緒に寝てたんだからもっとなんかあるだろ!」
って思われた方がいらっしゃるかも知れませんが、
徐々にステップアップさせていこうと思ってるんで、もうちょっと待ってください。
…とか、予告めいた事してみたり。

それではまた、感想などをいただけたら嬉しいです。
281 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月17日(火)20時34分29秒
はぁ・・(脱力
なんかむっちゃ良かったです。
このなんとも初々しい歯がゆい感じが。
一夏のなんちゃらって感じでした。
次回作とステップアップを無茶苦茶楽しみに待ってます
お疲れ様でした。
ちゃむの「カニがいる〜」ってめっちゃ可愛かったです(w
282 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月17日(火)21時24分52秒
初々しい感じがいいです。
ステップアップ・・・ワクワクドキドキ
283 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月18日(水)03時39分19秒
いちごま書いている者です。

泣きました。というと変に思われるかもしれませんが、
なんか・・・青春で・・・
いや、悪い意味じゃないですよ。
なんだか、瑞々しくて・・・・。
こう云うスレが生きているのはいい事ですね。
歓喜。感動。
頑張ってください。
284 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月18日(水)04時51分30秒
作者さん、お疲れ様でした。
いや〜、もう最高です!!
いちごまはもちろんのこと、他の2人も含めた4人が本当にいい感じでした。
これほどまでに素晴らしい王道の作品が読めるのは今ではここくらいじゃないっすかね?
マジで貴重です。
次回、いちごまがどこまでステップアップするか楽しみに待っております。
285 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月19日(木)02時57分34秒
いちごま&やぐちゅー最高!!
いちごまは無論の事、間に入ってくる切ない矢口もいいす!
難しいでしょうが、たまには姐さんの切なさもクロスさせてほしいです(W
とにかく・・・最高
286 名前:作者。 投稿日:2001年07月28日(土)15時43分21秒
どうも、作者です。

>>281さん
ありがとうございます。
実は、あなた様の『初々しい歯がゆい感じ』が良い、というレスを読んで、今回の話を思いつきました。
市井ちゃんサイドの話になってるんですが、じれったくていじらしい感じになればと思ってます。
でも、「やるときはやる」、みたいな…(『やる』って…あんま深い意味はないですよ)
>ちゃむの「カニがいる〜」ってめっちゃ可愛かったです(w
 自分でも書いてるとき、ちょっとカワイイかも…と思ってたんで、ヨッシャって感じです。

>>282さん
ありがとうございます。
ステップアップは…今回、半歩くらいアップです。

>>283さん
自分は社会人なんで、もう味わえない夏休みっていう設定もあるんですけど、憧れというか理想みたいなものが、出てしまっているのかもしれませんね。
ところで、いちごま書かれてるんですね。
書き手の方に誉めてもらえると、すごいうれしいです。
かんばってください。
ココで書かれてるんですかね?
いちごまものは、見つけたら大体読んでるんですけど…どれだろ。

>>284さん
ありがとうございます。恐縮です。でも、うれしいです。
ステップアップっすか……正直、変な予告しなけりゃ良かったって、だんだん後悔してきてます(藁
皆さんの期待を裏切るようなことになったらと思うと…
…がんばろ。

>>285さん
ありがとうございます。
…姐さん…やぐちゅー…ん〜…がんばりまっす。


ということで、『greenage ―cream soda―』です。
今回は、短いです。

287 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年07月28日(土)15時44分23秒

 長いはずの夏休みも、もう半分以上が過ぎた。
過ぎてしまえばあっという間で、残りの数週間も、
宿題やら補習やらに追われるだけかと思うと、ちょっと憂鬱になったり…

…って、思ってるのはあたしだけなのか?

登校日の今日。
校内の1階中央にあるホールの長いすで、あたしの隣に座って、
久しぶりに会ったクラスメートがちょっと大人っぽくなってたのは
何かあったからだとか、大人しかったはずの子の髪が茶色くなってたとか、
嬉しげに話してくれるコイツには、憂鬱に思う事なんてあるのかな…?

「…後藤、元気だね…」

「ほぇ?元気だよ…ていうか、いつも通りだよ?」

「…いや、宿題とかさ、補習とかさ、あとちょっとで夏休み終わっちゃうな〜とかさ
だるくなったりしない?」

「ん〜?宿題は、夏休み始まってすぐに終わらせちゃったし、
補習は、ほとんどサボってるし、夏休みは、9月になったら終わっちゃうもんだし〜
…べつに、なんとも思わないよ?」

「…あ、そう」

こういうふうに物事を考えられたら、人生楽しくて仕方ないだろうな…。
…つーか、宿題全部終わらせてるのはいいとして、補習サボってるのは問題だろ。
ただでさえ勉強できないっていうのに、コイツは…
288 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年07月28日(土)15時45分19秒
「あっ!でも、市井ちゃんと遊べる時間が少なくなっちゃうのは、寂しいかも」

「……」

…まぁ、かわいいから、いっか。…かわいいから、許す。

「ん〜でも、学校始まっても市井ちゃんと毎日会えるし〜…」

ニコニコしながら、あたしに話しかけている後藤の顔が、急に強張った。
後藤の視線は、あたしの後ろに向けられて、そのまま固まっている。
その視線を追って、後ろを振り返る。
そこには、腰に手を当てて、仁王立ちで立っている女の人が―――
後藤のクラスの担任、平家先生だ。

「ごとぉ〜、教室残っとけって言うたやろ!」

「えっ、いや、あの…うっかり忘れてて…」

「うっさい!ほれっ、行くでっ」

先生は、後藤の腕をつかんで無理やり立ち上がらせると、引きずるように
引っ張っていく。
後藤は、抵抗はしているものの先生に引きずられて歩きながら、
あっけにとられてその様子を見ているあたしを振り返った。

「市井ちゃ〜ん、先に帰ってていいよ〜、すぐに終わらせて電話するから〜」

「ちょっ、ちょっと…」

「すぐに終わる訳ないやろっ、みっちり説教したるからな!」

言いかけたあたしの言葉は、後藤の頭をはたきながら怒鳴った先生に掻き消された。
そして、後藤のほうもあたしの声は聞こえなかったみたいだ。
289 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年07月28日(土)15時46分08秒
「も〜、教室暑いからクーラー効いてる職員室にしようよ〜」

「あかん〜、教室締め切って、ふたりっきりで、説教したる」

後藤と平家先生のやり取りは、十分目立っていて、周りで見ていたほかの子たちに
くすくす笑われている。
ふたりはそんな事気にしないで、大きな声でまだ言い合いながら、階段をのぼっていった。
ていうか、残されたあたしのほうが恥ずかしいんだけど…

「なんなんだ、いまの…」

後藤が問題児なのは薄々気づいてたけど、先生に呼び出されて
説教されるなんて、何やったんだアイツ…

それにしても、先帰っていいって言われてもな…
帰りにカラオケ行こうって約束したじゃんか。忘れてたのかな。
どうしよっかな…
そんな、何時間もかかったりはしないよな…
30分…いや、1時間くらいなら、待ってやってもいいかな…
よし、1時間待って来なかったら、帰ろう。

でも、ここを離れて、すれ違ったら嫌だし…メール送っとくか。
とりあえず、ホールで待ってるってメールを送っておく。
それから、自販機でジュースを買ってきて、
どうやって時間をつぶすか考える。
まず携帯を取り出して、メールを友達に適当に送ってみた。
返ってきた返事にまた送り返す。
でも、1時間それで持たせるのはやっぱり無理だ。
290 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年07月28日(土)15時47分02秒
どうしよ…なんかないかな。
カバンの中をあまり期待しないであさってみる。
…ん?…これって…
みつけたのは、写真を現像に出した時に一緒にもらえる小さなアルバムだ。
今日矢口が、この間みんなで吉澤んちの別荘に行ったときに撮った写真を
貸してくれたんだった。
アルバムを開いてみると、あのときの楽しかった感じが、
じわじわとよみがえってきて顔がにやけてくる。

…ぶっ、この写真、最初の夜に撮った写真だ。
矢口、飲み過ぎて目がイっちゃってるじゃん。顔真っ赤だし…
それにしても、吉澤って黙ってればかなりの美形なのに、何でこんな変顔すんだ?
オモシロイ奴だよな〜吉澤って。
…後藤は……
はずした写真がほとんどないよな。どれもめちゃ可愛く写ってるもん。
そう見えるのはあたしだけか?そんなことないよな…
この写真なんか、アイドルのグラビアみたいじゃん。
すげーかわいい…。
……
…えっと…もう、1時間たったかな。
携帯の時計を見ると、後藤が平家先生に連れて行かれてから、
大体、1時間くらい過ぎて…ないか…。
…後藤もまだ来ないし。
帰っては、ないよな…帰るとしたらこのホールの横の廊下は
絶対に通るからわかるはずだし。
それに、さっきメール送っといたもん。

291 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年07月28日(土)15時47分51秒
ちょっと見にいってみようかな。
説教されて、へこんでたら慰めてやらないといけないし…
説教が長すぎて、暑さでバテてたらかわいそうだし…
無理やり理由を作って、自分を納得させて席を立った。

階段を上って、後藤の教室の近くまで来ると、中から笑い声が聞こえてくる。
不思議に思って、窓からこっそり覗いてみると、机を向かい合わせて
席に座っている後藤と平家先生が、なぜか楽しそうにしゃべっている。

…説教されてんじゃなかったのかよ。

しばらく様子を見ていたんだけど、やっぱり説教中っていう感じはしない。
なに話してんのか分からないけど、得意げな顔で後藤に話しかけてる平家先生。
それを楽しそうに笑いながら聞いてる後藤。
その、ふたりの様子を見てると、なんつーか…イライラするっていうか、
1時間待たせといて何なんだっていうか…あたしが勝手に待ってたんだけど…
にしても、面白くない。

なんか…楽しそうだし、ジャマしちゃ悪いし、帰ろっかな…。

階段へ向かって少し歩いたところで、後ろでドアが開く音がした。
振り返ると、ちょうど廊下に出てきたところの平家先生と目が合った。
292 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年07月28日(土)15時48分39秒
「お、市井。待っとったんか?」

「えっ、市井ちゃん来てるの!?」

先生の言葉に反応して、後藤がバタバタと駆け寄ってきて
先生を押しのけて、ドアから体を半分覗かせた。
押しのけられてよろけた先生は「ほんなら、寄り道せずにまっすぐ帰りや〜」
と、後藤の頭を片手でポンと叩いて去ろうとする。
後藤は、「髪が乱れるじゃんか〜」って言いながら、先生の背中をバシって叩いた。
「痛いやろ〜」と先生は背中を擦りながらあたしの横を通り過ぎていった。
なんか、すごい仲良さげなんだけど…


「市井ちゃん、待っててくれたの?」

あたしの、複雑な心中に気付くはずもない後藤は、のんきな顔で聞いてきた。

「…待ってるって、メール送ったんだけど。
……カラオケ行く約束してたし」

「あっ、やっぱりあれ市井ちゃんだったんだ。携帯鳴ったから見ようとしたら
先生に取り上げられたんだよ、それで説教の間じゅう返してもらえなくてさ〜」

後藤は、教室の中に戻って机の上の携帯を手にとってチェックしている。
あたしも、なんとなくその後をついて、教室の中に入った。
さっきまで二人が座っていた席を見ると、机の上に自販機のジュースの
紙コップが二つ置いてある。

293 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年07月28日(土)15時49分26秒
「ジュース、おごってもらったの?」

「うん、話が長くなるからジュースくらい買ったるって」

「ふ〜ん」

てか、普通、説教すんのにジュースなんか飲ませるかぁ?
それに、わざわざ教室でふたりっきりにならなくても、職員室で充分じゃんか。
…なんか、…なんかなんだよな。

「なんかさ、説教って雰囲気じゃなかったよね」

「へっ、そんな事ないよ。成績悪かったくせに補習サボりすぎって怒られたもん」

「でも、楽しそうだったじゃん」

「え〜、結構うるさく言われたよ。スカート短すぎとか、
授業中ボーッとするなとか。そんなんあたしだけじゃないのにさ〜」

「…まぁ、出来が悪い子ほどかわいいって言うじゃん。
後藤、先生に気に入られてるんだよ」

「気に入られてって…あっ、市井ちゃん、もしかしてヤキモチ?」

後藤のその言葉に、一瞬で頭に血が上ってしまった。
でも、動揺してるのを後藤に悟られないように、平静を装って答える。

「ちがうよ、なんでそうなるんだよ」

「うそ〜、妬いてんでしょ〜」

できるだけそっけなく答えたつもりだったのに、後藤はまだニヤニヤして
あたしの顔を覗き込んでくる。
294 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年07月28日(土)15時50分17秒
「ちがうって言ってんじゃん。もういいから、帰るぞっ」

「市井ちゃんかわいい〜、照れてる〜」

自分の顔が赤くなってくるのが分かったから、後藤から顔をそらして
ドアに向かおうとした。

「ねぇ、市井ちゃん?」

「なんだよっ」

荒っぽく返事をして振り返ると、後藤がすぐ傍まで来て、
あたしの腕を軽くつかむと、顔を寄せてくる。
なんで、いつもコイツは急に…

「なっ、ダメだよ。誰か来たらどうすんだよ!?」

焦って、後藤の体を押し返したんだけど、後藤はあきらめなかった。

「誰も来ないよ…ちょっとだけでいいから…」

「だ、ダメだって」

「大丈夫だよ…」

決して後藤とキスするのが嫌なんじゃないけど、やっぱ絶対誰も来ないっていう
保障はないし、さっき平家先生にヤキモチ妬いたの後藤に突っ込まれたのもあって
ちょっと動揺してるみたいで…

295 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年07月28日(土)15時51分03秒

「っ、やめろって!」

「……」

やば、…ついむきになって大きな声を出してしまった。
あたしの声に動きを止める後藤。

…沈黙。



その沈黙を破ったのはあたしでも後藤でもなく…
教室の前を、1年生の子達が3人、賑やかに通りすぎて行く。

「…ほら、誰か来たじゃんか」

「…うん」


  どうすればいいんだ…この空気…。




296 名前:作者。 投稿日:2001年07月28日(土)15時51分41秒

今日はここまでです。
次回、後編です。
297 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月28日(土)21時08分10秒
更新…嬉しいあげ
298 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月29日(日)02時31分35秒
更新ウキウキsage
299 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月30日(月)03時52分02秒
焼き餅ちゃむ、かわいすぎです。
300 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月31日(火)13時41分58秒
空気が悪いのでなるべくお早めに清浄してください!!(w
301 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時03分54秒
気まずい、重い空気が充満したカラオケボックスの一室。

聴こえてくるのは、隣だか向かいの部屋から
かすかに漏れてくる楽しげな歌声だけ。

後藤はいつもなら、みんなと居てもふたりだけの時も、
迷わずあたしの隣に座るのに、今日はテーブルの向こうの席に座って、
黙って曲を選んでいる。
わかりやすいやつだな…。
ここにくる途中も、お互いいつも通りにしゃべってはいたけど、
やっぱりどこか落ち着かないっていうか、ぎこちなかった。

多分…っていうか間違いなくあたしのせいなんだけど…
もうちょっと優しく言えばよかったな。
あんなにむきにならずに、軽く受け流すとかさ…
…それとも、ちょっとだけなら、しても良かったかな…チュッてするくらいなら…
はぁ…いまさらこんなことウジウジ考えてもどうにもなんないし…。
302 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時04分31秒
「市井ちゃん」

「えっ、はい、なに?」

「…曲、入れないの?」

「あぁ、まだ決めてないからいいよ。後藤、どんどんいれっちゃって」

後藤がリモコンを手にとって、入力すると、後はただひたすら交代で歌うだけで、
一人が歌っている間は、もう一人は黙って曲を選んで。
会話らしい会話もなく、それの繰り返し。
それから、後藤が3曲連続で歌い終わると、音楽が途切れた。
後藤はマイクをテーブルの上に置くと、ため息を吐きながらソファに深くもたれた。

「市井ちゃん、次入れてないの?」

「え、あぁ、あたしはもういいよ。後藤入れなよ」

「…後藤も、もういいよ。…疲れた」

…どうすんだ、まだ30分以上時間余ってるぞ。
向かいに座ってる後藤は黙々とお菓子を食べてるし。
なんか、しゃべってくれよ…
どうやって、間を持たせればいいんだ。
303 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時05分16秒
……あ、そうだ。


「後藤、これ見る?」

「なに?」

カバンから矢口から借りたアルバムを取り出して、後藤に手渡す。
後藤は、アルバムを開くと、今まで無表情だった顔をくずして、楽しげに見入っている。

「あはっ、この写真おかし〜、完全に酔っ払いだよ、やぐっつぁん」

写真を見ながら笑顔を絶やさない後藤に、一安心して一息ついたのもつかの間、
後藤は、急に真剣な顔に戻って、写真を見つめだした。
なんだ?…どうしたんだ、後藤。
そして、写真を見つめたまま、呟いた。

「この写真撮る前、…初めてキスしたんだよね…」

「…そうだったね」

後藤が開いているページには、最初の日の夜の写真が並んでいる。
この写真を撮る前、2階の部屋で2人だけになったとき、後藤がくれたきっかけで、
初めてキスした。
…そういえば、好きだって言ってくれたのも後藤からだし、初チュウも後藤からか…
 …ダメじゃん、あたし…
304 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時05分52秒
後藤は、写真に視線を落としたまま、あたしの方を見ずに続ける。

「市井ちゃんてさぁ、ホントはキスとか…
あんまりベタベタされるのは好きじゃないの?」

「えっ、いや、そんなことは…」

「あ、嫌味で言ってんじゃないんだよ…?
ただ、もしそうなら、後藤これから気をつけるようにするし…」

「違うんだよ、さっきのは、なんていうのかな、誰かに見られたらっていうか…
人前でって言うのは抵抗あるから…だから…」

「…そっか」

後藤は、それっきりまた黙ってしまって、俯いて写真を見ている。
…まずい、また元に戻ってる。
後藤、さっきのあたしの答えに納得したって感じじゃないよな…
…怒ってんのかな…
305 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時06分27秒
どうしよ…

こんなとき、なんか気の利いたことが言えたら、まだマシなんだけど…
なんて言えばいいんだ。わかんないよ…
…ずっと、さっきから気になってたことは、あるんだけど…
う〜ん……でもなぁ…でも…
ん〜〜…ん゛〜……
……んっ、よしっ、言おう、言うぞ。
さらっと、なにげなく言えばいいんだ。…うっし。


「後藤…こっちおいでよ」

「えっ…」

後藤は、顔を上げて驚いた顔であたしを見ている。
そんな顔で見られたら、あたしはなんだか恥ずかしくなってきて、
まともに後藤の顔を見れない。
306 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時07分00秒
「…写真、あたしも見たいしさ」

「あ、そっか、ごめんね」

ハァ…、何余計なこと言ってんだよ。…写真なんかさっき散々見たっつーの…
肝心な事はなかなか言えないのに、余計な事はすらっと出てくるんだよな…

それでも、後藤は少し機嫌を直してくれたみたいで、向かいの席からあたしの
隣まで来て座って、アルバムをあたしにも見えるようにひろげてくれた。

「やっぱ、市井ちゃんて細いよね〜。後藤、めっちゃ肩幅広く見えるもん」

「そうか〜?そうでもないよ」

後藤の話す声も少し明るくなって、あたしも少しほっとして、
写真を除き込む振りして、ちょっと近づいてみたり……
でも、一応写真にも目を移すと、写真の中の後藤はどれも、
今隣にいる後藤と同じ滅茶苦茶かわいい笑顔で写ってる。
307 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時07分33秒
…後藤の水着姿、かわいかったな…
それにしても、後藤って結構…いやかなり、…あれだよな…
いや、でもかわいいのは充分かわいいんだけど。
…って、言葉に出して言えたら、こんな苦労してないって…。

そう思って、なんとなく後藤の横顔を盗み見ると、後藤の視線は
一枚の写真の上で留まっている。

あ、この写真って…

後藤が見ている写真は、あたしと後藤がツーショットであの岩場で写っているものだ。
この写真撮るちょっと前に、後藤に不意打ちでキスされて、
それで、あたしからも、キスしたんだよな。
あの時は、あたしもなんか勢いと雰囲気に流されてキスできたけど、
こっち帰ってきてからキスしたのって…そういえば、あんまりしてないな…

そんな事ばっかり、考えてたら、どうしても後藤の唇に視線がいってしまう。
ジッと見つめていると、不意にその唇が開いた。
308 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時08分31秒
「ね、市井ちゃん?」

「はっ、なに!?」

「この写真、やぐっつぁんに言ったらもらえるかな?」

「あぁ、焼き増ししてもらえばいいんじゃない?」

「そっか、じゃあ2枚焼き増ししてもらおう」

「2枚?」

「だって、市井ちゃんにも持ってて欲しいし…いらない?」

「えっ、いや、欲しいよ」

「よかった。…この写真の市井ちゃん、すっごいかわいく写ってるよ。
あ、もちろん実物もかわいいんだけど。この写真なんか好きなんだよね…
後藤もメチャメチャ嬉しそうな顔してるし…」

すごい優しい顔で微笑んで写真を見つめてる後藤の顔を見ていると
なんか、胸がキュンてなってくる。
309 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時09分01秒
「…後藤も、どの写真もメチャメチャ可愛く写ってんじゃん…」

…って、このひとこと言うだけで、何でこんなにドキドキしてんだ、しっかりしろよ…
でも、あたしのぎこちない言葉にも、後藤は写真と同じくらい、
いや、それ以上に可愛い笑顔で返してくれる。

「へへ…ありがと」

あぁ、もう…かわいいな、ホントに…。
あたしも、それを素直に後藤みたいに態度に出せれば、
後藤のこと、がっかりさせずに済むのにな。
それに、さっきから後藤の唇ばかりに目がいってしまうのは、……やっぱり…

「ご、後藤?」

「なに?」

「…いや、あの…吉澤にも写真、見せてあげてね」

「うん、そうだね〜」
310 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時09分35秒
…なにやってんだ、あたし。
声、うわずってんじゃん…
後藤は、あたしの事好きだって言ってくれてるんだから、
別に拒まれるわけないのに…たぶん。
あ゛〜、でもさっき教室でムキになって後藤のこと跳ね除けちゃたのが、きいてるな〜
「キスするの嫌じゃなかったの?」とか言われたらどうしよ。

「市井ちゃん?」

「へっ!なにっ」

「…どうしたの?さっきから、なんか固まってるけど」

「えっ、別に…そんなことないよ」

「…ふ〜ん」

後藤は、あたしの返事に納得したのか、してないのか、また写真に目を落として
アルバムのページをめくる。

…かっこわりぃな…っんとに。
こうやって、変にひねくれて考えたり、カッコばかり気にするのがいけないんだよな…
後藤のこと、かわいいって思ったり、好きだって気持ちを、言葉や態度で伝えるのは、
全然かっこ悪いことじゃないんだから、ていうか、むしろ必要な事だろ…
…そうだよな…
311 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時10分09秒
「…後藤」

「ん〜?」

油断しきった顔で返事をした、後藤の肩に手を回して、顔を近づける。
そして…目を閉じるとすぐに後藤の唇の柔らかさを感じた。
そのすぐ後、後藤の手からアルバムが床に滑り落ちた音がした。
後藤は、一瞬驚いたのか体を強張らせたけど、すぐにあたしを受け入れてくれた。

…ほら、やっぱり変に体裁ばかり気にしてないで、素直になれば
後藤も応えてくれるじゃんか。

触れさせていただけの後藤の唇を、はさむようにして、弱く吸い込んで、
何度かそれを繰り返す。
その後、唇を浮かせて離れようとすると、後藤があたしの頭を抱きこむように
してきたから、また、ちょっと荒っぽく唇が重なる。
312 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時10分39秒

「っ…んっ…」

後藤が、今まで聞いた事ないような、色っぽい声を漏らして、
あたしに強く抱きついてくるから、体が熱くなって、頭の奥がポーっとして
胸のドキドキが今まで以上に大きく早くなってくる。
そして、もっと後藤とキスしてたいって、もっと深く後藤を知りたいって、
もっと後藤の事が欲しいって気持ちがこみ上げてくるから…

…少し舌を出して後藤の唇に触れると、後藤は小さく唇を開いた。
それって、嫌じゃないって意味だよね…
そのまま舌を滑らせて、あたしの舌の先が後藤の舌に触れると、
瞬間、胸がキューってなって、…もう、あとは夢中だった。

313 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時11分15秒
唇を離して、お互い息を弾ませながら、見つめ合う。
間近で見る後藤の顔は、頬が紅潮して、目も潤んでトロンとして、熱があるときみたいな表情だ。
そんな熱っぽい目で見つめられると、少しだけ落ち着いてきたドキドキも、また激しくなってくる。
そして、後藤の唇とその周りが濡れているのを見て、
またさっきのなんともいえない感じがこみ上げてくる。
……もうここまできたら、カッコつけてられないでしょ…


「…後藤…好きだよ…」

「…うん、後藤も…好き…」

後藤の首に顔をうずめて、顎から首筋にかけて口付けると、
後藤は、あたしの髪の中に指を差し入れてゆるくかき乱した。
その感触に、一瞬ゾクッとして意識を持っていかれそうになる。

…どうしよう、…もうこのまま、行き着くとこまでいっちゃいそうな感じなんだけど…
外から見えないにしても、ここではちょっと、まずいよな…
でも、ちょこっとだけなら…いいかな…ちょっとだけなら…

頭ん中で、理性と欲求が押したり引いたりし合いながら、
でも結局後者の方が勝ったみたいで、あたしの体もその軍配にしたがって、
後藤の唇にもう一度口付け、シャツのボタンに手をかけようとした、…そのとき…
314 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時11分47秒

“プルルル…プルルル”

ふたりとも、ビクッてなって一瞬動きが止まる。
その音のする方へ恨めしそうに振り返って、ドアの横の壁にかけてある
電話を確認すると、思わずため息を吐いて立ち上がり、歩いていく。
受話器をとると、その向こうからは、いかにもバイトですって感じの
だるそうなしゃべり方の女の子の声がする。

「あと残り時間10分ですけど、延長されますか〜」

「あ…結構です」

受話器をガチャンと叩きつけたいのを我慢して、ゆっくり戻すと
不機嫌な顔をしてるのを後藤に悟られないように、一回息を吐いて
気持ちを落ち着かせてから振り返った。
でも、そんな事無駄な抵抗だったみたいだ。
315 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時12分25秒
「アハッ、市井ちゃん思いっきり声が怒ってたよ(笑)」

そう言われて、普段なら言い訳のひとつも、口をついて出てくるんだけど、
今日は、もうなんかどうでもいいやっていうか、さっきの余韻がまだ残ってて、
そんなとこまで頭が回らない。

「…やっぱ、あと1時間延長すればよかったかな…」

「えっ!?」

なんも考えずに言ったあたしのセリフに、後藤はちょっと意外そうな顔をした。
多分、あたしがいつもみたいに「そんな事ない!」って言うのを期待してたんだろうけど。
今まで、後藤に押されっぱなしだったから、なんか嬉しくなって、
もうちょっと、後藤のこと驚かせてみたくなってくる。

「だって、市井あんま歌ってないもん」

「えっ…あ、そうだね」

「もしかして、後藤、エッチな事考えてた?」

「ちがうよっ!」
316 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時13分13秒
今度は、後藤は顔をちょっと赤くさせて焦ってる。
あ、…なんか、こういうのも気分いいかも…。
めずらしく焦ってる後藤も、すごいかわいいし。

……それに、さっきの1時間延長したいっていうのは、カラオケの延長じゃなくて
もう少し………まぁ、それを言うのは、やっぱりもうちょっと慣れてからにしよう。
でも、今ならできそうな気がすることが一つあるんだよね。

「後藤…?」

「ん?」

317 名前:greenage ― cream soda ― 投稿日:2001年08月03日(金)02時13分45秒
ドアに向かって歩き出した後藤を呼び止める。
振り向いた後藤は、あたしの次の言葉を待っている。
あたしの顔を見つめてる後藤の頭に手を伸ばして、そっと撫でた。
後藤は、一瞬不思議そうな顔をしたけど、すぐにフニャッとした笑顔になって
なぜかモジモジしている。

「ヘヘェ…なに〜?急に…」

「…いや、なんとなく…」

…うん、ただ、なんとなくそうしただけ。

別に、さっき学校の廊下で、平家先生に頭を撫でられた後藤が、
すごい仲良さげなリアクションをしたのが、ずっと気になってたとか、
今の後藤のふにゃけた笑顔をみて、そんなの吹っ飛んだとか、…
…そういうわけじゃ、…ないんだけど。





   ― end ―
318 名前:作者 投稿日:2001年08月03日(金)02時17分54秒
>>297さん
そういってもらえると続き書いてよかったって思います。

>>298さん
この後もそんなに間を空けないようにしようと思ってますので。
 ( ´ Д `)<いちーちゃんだって〜…エヘヘ

>>299さん
『焼き餅ちゃむ』って、なんかめちゃカワイイですね。

>>300さん
清浄っていうか…また別の空気になっちゃいましたけど(w


今回はすごい短いんですけど、前の「Sea Girl」の続きというか
オマケみたいなつもりで書きました。
回を増すごとに市井ちゃんの立場が弱くなってる気がしたので
最後はがんばらせてみたんですが…どうでしょ?
319 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月03日(金)03時27分19秒
相変わらずの甘々ぷっりが最高でした!!
市井ちゃん、確かに最後頑張っていましたが、最初のころの、後藤の元カレを一喝した時の、
あの凛々しい姿の面影が感じられないのは後藤によって骨抜きにされたからでしょうか?(w
でも、そんな市井ちゃんが大好きです。(w

次回の二人はどこまでステップアップするか楽しみにしておりますので頑張って下さい。
320 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月03日(金)06時02分13秒
おぉぉ・・無茶苦茶(・∀・)イイっす
カラオケボックスってエッチされると困るから、カメラ付いてて、しそうになると電話来るとこある。
当店ではそういった行為お断りしてますので、、とか言われたりするとこあるらしい(w
、、余談すみません・・。
サイコーでした。次回の更新楽しみにしてます。
321 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月04日(土)23時36分47秒
こっちが、ボーットしてしまうシーンだった・・・(笑)
322 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月08日(水)00時20分28秒
>>1-83
323 名前:作者 投稿日:2001年08月13日(月)21時23分16秒
作者です。
皆さん感想レスありがとうございます。

>>319さん
>あの凛々しい姿の面影が感じられないのは後藤によって骨抜きにされたからでしょうか?(w
 えっと…それ、採用させていただきます(w
市井ちゃんに関しては作者自身も「こんなはずじゃ…」って思ってるんですが…
なんでかな…?
でも、作者もこういう市井ちゃんのほうがカワイイと思うんですけど、…言い訳です。

次回は……がんばりますよ…。(ニヤリ


>>320さん
ありがとうございます。
カラオケボックスの監視カメラはそうらしいですね。聞いた事あります。
でも、自分がその店の店員だったら、かわいい女の子2人の部屋で
そういう現場見つけても、絶対止めたりしないですけどね。クビ覚悟で。(w


>>321さん
…ありがとうございます。
やっぱりこういうシーン書く以上は読んでもらってる方に萌えてもらいたいんで、
そう思ってもらえると嬉しいです。


>>322さん
…?どういう意味でしょ?
324 名前:作者 投稿日:2001年08月13日(月)21時24分01秒
番外編ぽく短いの書いてみました。

   「when I'm with you」
325 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時24分38秒
 放課後の屋上。
手すりに正面からもたれて、下に見える、校門を出て行く女の子たちを
ぼんやりと眺めて、彼女が来るのを待つ。

数時間前のお昼休みに、放課後、屋上で待ち合わせの約束をして別れた。
授業が終わってすぐにここへ来て、もう30分くらいになる。
屋上は校内でも人気のスポットだから、周りを見ればほかにもいくつかのグループが
ぽつぽつとあって、楽しそうな笑い声がする。

でも、ひとりでいるのは自分だけ。

…なにやってんだ、あいつは…。早く来いよ。
彼女が待ち合わせに遅れてくるのは、めずらしい事じゃないけど、
この状況で、一人ぼっちというのは、何となく居心地が悪い。
326 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時25分23秒
「いちーせんぱい、一人ぼっちでなに黄昏てるんですか〜?」

声をかけられて、振り返らなくてもその声で誰かは判っているのと、
その声の持ち主に散々待たされて、ちょっと機嫌が悪いのとで
前を向いたまま、ちょっと乱暴に答えた。

「…おっせーよ。何やってたんだよ…」

「だって、日直だったんだもん。…ごめんね」

「……」

隣に来て顔を覗き込みながら、いつもの甘え声でそう言われて、
実はにやけてしまいそうな顔を見られないように、相手からそらして
拗ねた振りをする。

「…もぉ〜、拗ねないでよぉ。……あ、そうだ。はいコレ。お詫び」

そういわれて、振り返って見ると、後藤の手には四角い紙パックのジュースがあって
自分に向かって差し出されいた。
327 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時26分39秒
「市井ちゃん、いつもこれ飲んでるでしょ?」

「……しょうがないな。ジュースにつられる訳じゃないけど、許してやるか」

「なにそれ〜、ちゃんとつられてるじゃんか〜」

100%果汁のリンゴジュース。

別にそれが大好きというわけではないけど、選べるほど多くない種類の少なさから
結局いつもそれを買って飲んでいるだけだった。
でも、自分の興味のないこと以外にはまったく無頓着な後藤が
それを覚えててくれたのと、マメに気が利くタイプじゃないほうなのに
わざわざ「お詫び」といって自分のお金でジュースを買ってきてくれたのが
なんだか、すごく可愛くて、嬉しくて、えらそうに許してやるなんて言いながらも、
顔は思わず緩んでしまう。
328 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時27分43秒
後藤もそれを見て怒ってるのが本気じゃない事を気付いたのか、
隣に同じように手すりにもたれて自分用に買ってきたいちごミルクのパックに
ストローを挿した。

二人手すりにもたれて並んで、ストローをくわえ、
ぼんやりと目の前に広がる町並みをただ眺める。
時々どちらかが話掛けて、短い会話もあるけれど、
お互いに、特に沈黙を埋めようとはしない。
周りのいくつかのグループの話し声や笑い声が聞こえてくるから、
沈黙と感じないせいかもしれないけど。


329 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時28分32秒
「後藤、それちょっと甘すぎない?よく飲めるな」

なんとなく隣を見て、ふと思いついたことを口に出した。
前に一度だけ、今後藤が飲んでるいちごミルクを買ったことがあった。
そして、それから一度も買って飲んだ事はない。

「なんでぇ?おいしいよ。飲む?」

「…いらない」

「も〜、人がせっかくあげるって言ってるのに…かわいくないなぁ」

「……」

別に、意地張って言ってるわけじゃなくて、ただ本当に飲むのは
遠慮したいだけだったんだけど、後藤は気に入らなかったみたいで。
口を尖らせてブーブー文句を言って、また、ストローに口をつけた。
330 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時29分20秒
もしかして怒ってるのかなって、顔は前を向いたまま、気配だけで
後藤の様子を気にしていたら、突然思いついたように、ぱっと体をこちらに向けた。

「市井ちゃん。やっぱりコレちょっと甘すぎるね」

「でしょ?」

後藤の「突然」には慣れてるから、特に驚かずに顔だけ向けて返事をすると、
後藤は、なぜか嬉しそうな笑顔だ。後藤のこういうときの笑顔の意味は…

「だから、口直しにソレちょーだいっ」

笑顔のままそう言うと、返事を待たずにあたしの腕を取って、手にあるジュースのパックを
自分に引き寄せて、ストローに口をつけた。

……そういうことか。

一口飲んで、ストローから口を離した後藤は、得意げな笑顔をあたしに向けた。

「へへ〜、間接キス」

「…言うと思った」

331 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時30分03秒
後藤の言葉に、ちょっと呆れ顔で返すと、後藤は笑顔をムッとした顔に変えて
少し不満そうに手すりにつかまって体を前後に揺らしている。

「だって、市井ちゃんが後藤の飲んでくれないからだもん」

「んなこと言ったって、ホントにそれ苦手なんだもん」

後藤の口調を真似して言うと、後藤は「真似すんな〜」って言いながら
手すりにもたれたまま、肩をぶつけてきた。
それに、大げさによろけてみせながら思った。

 このまま、自分のジュースを飲んだら、『間接キス』の『間接キス』だ…。
後藤はそこまで考えて……るわけないか。

少しだけ、後藤の反応を期待しながら、自分のりんごジュースのパックに挿してある
ストローに口をつけて、何気なく隣を伺う。

後藤は、そんなあたしに気付く様子もなく、下を歩く友達をなんとか振り向かせようと、
身を乗り出して、一生懸命手を振っていた。
…まぁ、やっぱりというか、…後藤の機嫌が直ったからそれでよしとするか。

332 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時30分39秒
 飲み終わったジュースのパックを、少し離れたくずかごに投げ入れた。
ねらい通りに、きれいにかごの中に、パックが吸い込まれた。
思わず「よっしゃ」とこぶしを握ると、頬に冷たい滴が落ちるのを感じて
上を見上げる。

「うわっ、雨降ってきたよぉ」

同じように空を見上げていた後藤が呟く間にも、雨の勢いはどんどん強くなっていく。
周りに居た他の子達は、降り口の扉に小走りに向かい始めた。
扉から一番遠くはなれたところに居たあたしと後藤は、必然的に最後に
扉にたどり着く事になった。
扉を入って、屋根の下まで来ると一旦立ち止まる。
先に階段を下りていく女の子たちの声と足音が、
だんだんと遠ざかっていくのが聞こえる。

333 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時31分15秒
「も〜、髪も服も濡れちゃったよぉ」

「んー、急に強く降りだしたからね…」

持っていたカバンを足元に置き、ポケットからハンカチを取り出して、自分の
濡れた制服を拭こうとして、思いとどまった。
目の前の後藤は、ブツブツ言いながら自分の濡れた前髪をしきりに気にしている。


ちょっと悩んでから、思い切って手にしていたハンカチで、後藤の濡れた髪に触れる。
一瞬驚いたようにあたしの顔を見た後藤は、何も言わずに大人しくなって、
視線をあたしの胸の辺りに移してじっとしている。

後藤の髪を撫でるように拭いて、…といっても気休め程度だけど…
そのままハンカチを下に移して、制服を拭いていった。

334 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時31分48秒
「…なんか、ハンカチで拭いたくらいじゃ、あんま意味ないけど…」

「ううん、…ありがと」

「うん…」

そう言った後、2人とも俯いて黙ってしまう。
扉の外からは、相変わらず降り続いている雨の音がやけにはっきりと聞こえる。


「…市井ちゃん」

「ん?」

サーッという雨の音と、顔を上げながらあたしの名前を呼ぶ後藤の声が重なる。
少し聞き取りにくくて、聞き返すように返事をすると、
後藤はさっきより声を大きくして言った。

335 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時32分22秒
「あの…今度は、後藤が拭くよ」

「あ…うん」

なんとなく持っていた、握り締めてあったかくなってしまったハンカチを
差し出そうとすると、それは後藤の声に止められた。

「市井ちゃん、ハンカチくらい後藤だって持ってるよ」

「へっ、…あぁ、そっか」

後藤がポケットからハンカチを出すのを見て、あたしは自分のをしまった。
あたしの肩の辺りを軽く撫でるように拭いてくれる後藤。
すぐ近くに後藤が居るせいで、どこを見ていいのか判らなくて、視線をうろうろと
落ち着きなくさまよわせる。
336 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時32分58秒
あたしの視線が正面の後藤の顔に留まると、一瞬遅れて後藤も顔を上げた。
お互いの目が合って、二人ともなぜかその視線を逸らせなくて、しばらく見詰め合う。
見詰め合えば合うほど、目の前の相手に何か伝えたいという想いは湧いてくるのに、
言葉になって出てこない。
そして、見詰め合ったまま、後藤がハンカチの上からあたしの制服の胸のあたりを
ギュッと掴むと、それが合図みたいに、あたしは後藤の腕に手を添えて近づき
後藤も自然に目を閉じて、二人の唇が重なった。

触れ合うだけの短いキスの後、顔をゆっくりと離すと、後藤の体を
そのまま引き寄せて、ゆるく抱きしめる。
後藤は、あたしの背中に両手を回して、肩に顔をうずめる様にした。

「…市井ちゃんの制服、雨の匂いがするね」

「後藤の髪も…するよ」

337 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時33分42秒

そう言葉を交わした後、ふたりとも黙って、相手の体に回した腕に力を込める。
少し降る勢いの弱くなった雨の音が心地よくて、時々どちらかが吐くうっとりとした
溜め息も聞くほうの耳を優しくくすぐる。
ただ見つめ合うだけで、抱き合うだけで、こんなにも切なくなったり、
優しい気持ちにさせてくれるのは、本当に、絶対に、後藤だけだよ…。
胸いっぱいに広がる安堵感と、そして、愛しさと。
時間を忘れて、腕の中の彼女の事だけを想って、
その温かさを体中で感じていた。


なにか眠気にも似た、まどろんだ心地よさの中、閉じていたまぶたを
ゆっくり開くと、後藤の肩越しに、開け放した扉から外の様子が目に映った。

「あ…雨やんだみたい…」

少し掠れ気味の声でそう呟くと、後藤は少し体を離して扉の外を振り返る。
ふたりの離れた体の間に冷たい空気が入って、どうしても名残惜しさを感じずには
いられない。すっごくいい夢を見てて、途中で目が覚めてしまったみたいな、
そんな感じ。

338 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時34分16秒

二人そろって、扉の外に出てみる。
見上げた空は、夕立の後特有の、ついさっきまで雨が降っていたなんて
嘘みたいなきれいな空で、沈みかけた夕日で遠くからオレンジ色に染まってきている。

「やったー、貸し切りだね」

嬉しそうにはしゃいであたしの前を歩き出した後藤は、二、三歩で立ち止まってしまう。
不思議に思って、立ち止まった後藤の背中に声をかける。

「ん? どした」

「…貸し切りなのは嬉しいけど、……水溜りが…」

周りを見渡すと、コンクリートの上には、あちこちに水溜りができている。
そしてさっき二人でもたれていた手すりは、濡れて水滴を垂らしている。
しょぼんとした後藤の背中が可愛くて、ちょっと吹き出しそうになりながら言った。

339 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時34分50秒
「せっかく制服も乾いてきたのに、これじゃまた濡れちゃうね」

「…うん」

「帰ろっか」

「……」

後藤は、口を尖らせて“おあずけ”された子どもみたいな顔で拗ねている。
そんなに貸し切りが嬉しかったのかな?…ホントに子供じゃんか。

「…後藤、帰ろ」

「…んー」

一応返事はするものの、後藤はそこを動こうとしない。
……ったく、仕方ないな。

「ほらっ、行こ!」

後藤の手を取って、ちょっと引っ張ると、
突然引っ張られてよろけた後藤は、一瞬キョトンとした顔であたしを見つめて、
でも、すぐに素直に手を引かれるままにあたしの後ろを歩き出した。
340 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時35分31秒
さっき出てきた扉を入り、階段の降り口に置いてきたカバンを取ろうと
つないだ手を離そうとして、なんとなく後藤の顔を見た。

……。

ちょっとうつむき気味に、はにかんだように微笑んだ顔、それを見た瞬間に
胸を締め付けられるような感覚と愛しさが込み上げてくる。

緩めていた手をもう一度つなぎ直した。
手をつないだまま階段を並んで下りていく。

途中、顔は見たことあるけど名前は知らない先生とすれ違った。
本当はちょっとドキドキしたけど、つないだ手はそのままに、
「帰りどこ行く?」とか、なんともない振りをした。

その先生が通り過ぎた後、ただ握ってつなぎあっていた手を一旦ほどいて
指を絡めるようにしてつなぎ直した。
手を離したとき、一瞬立ち止まった後藤は、すぐにまたあの微笑を浮かべて呟いた。

「…へへ…恋人つなぎだ…」

「…うん」

『恋人』って、口に出して言われると、なんだか恥ずかしいっていうか
くすぐったいような感じで、短い返事しか返せないんだけど、でも、その代わりに
つないだ手にギュッと力を込めた。
341 名前:when I'm with you 投稿日:2001年08月13日(月)21時36分16秒




この階段を1階まで降りてしまって、廊下でクラスメートなんかを見つけたりすると
多分あたしは、恥ずかしくて手を離してしまうんだろうけど、
でもさ、後藤。
拗ねたり、怒ったりはしないで欲しいんだ。

だって、…本当はずっと、ずっと、この先も、つないでいる手を離したくないって
心からそう想うから。

そして、つないだこの手を離しても、二人の心はいつだってつながれてるんだから
……なんてね。




   <end>
342 名前:作者 投稿日:2001年08月13日(月)21時38分00秒

以上です。
greenageの番外編でした。

343 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月13日(月)23時20分12秒
良すぎっ!!!!!!
344 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月14日(火)02時52分03秒
( ´ Д ` )<…もぉ〜、拗ねないでよぉ。

…萌えた。
345 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月14日(火)04時49分52秒
二人の初々しい感じが非常によかったっす!!
次回の本編も楽しみにしています。
346 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月14日(火)05時41分51秒
何気に他の生徒もいるのに屋上デートとは。
いちー先輩と後藤は実は公認だったりして。
いちー先輩って人気あるし。
347 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月14日(火)11時25分53秒
学校生活の雰囲気上手いですね。映像のように想像できましたよ。
348 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月15日(水)04時02分02秒
初めてこれを読んだんですが・・・イイッ!
ずっと顔がにやけっぱなしでした。
甘々ないちごま、最高です。
349 名前:いちごショート 投稿日:2001年08月19日(日)21時18分33秒


ツアー先の地方のホテルの一室。

夜中、目がさえてなかなか眠る事ができなくて、でも明日の事を思って
何とか眠ろうとベッドの中でとりあえず目を閉じて何度も寝返りをうつ。

…あんまり体が疲れすぎてると眠れないもんなのかな…?
それとも、昼間のライヴの興奮がまだ抜けきってないのかな。

いずれにしても、明日もあるんだから早く寝ないと…

そして、やっと意識も途切れ途切れになって、眠りにつこうとしていたとき、
突然に、枕もとから聞こえるけたたましい電子音に無理やり意識を取り戻した。

サイドボードに置いてある携帯電話を取って、ディスプレイも確認しないで
寝起きの不機嫌な声で電話に出た。

「…はい」
『市井ちゃん…』
「……後藤?」
『…うん』
「何?…こんな時間に。眠れないの?」
350 名前:いちごショート 投稿日:2001年08月19日(日)21時19分25秒
あたしの眠そうな声に答える後藤の声も何時にも増してだるそうな
疲れたような声だ。
でも、後藤は自分が電話をかけて来たくせに、自分から何かを話そうともしない。
やっと眠りかけたところを急に起こされて、どうしても口調が乱暴になってしまう。

「後藤…用がないなら、もう切るよ」
『あっ…市井ちゃん』
「なに?」
『…苦しい…』
「はっ!?」
『…お腹が…』
「えっ…ちょっ…」


後藤の思いがけない言葉に、一気に眠気も覚めてしまって、あわてて
隣にある後藤の部屋へ急いだ。

焦る気持ちを深呼吸をして落ち着かせてから、ドアをノックする。
なかなか開かないドアに不安が広がる。
もう一度ドアをノックしようとしたとき、ガチャリとドアの開く音とともに
少しだけ開いた隙間から、見るからに気分の悪そうな後藤の顔が覗いた。
351 名前:いちごショート 投稿日:2001年08月19日(日)21時20分27秒
二人して部屋の中に入ると、後藤はすぐにベッドに倒れこむように横になった。
心配になって、ベッドの横にかがみこんで後藤の様子を伺う。

「…大丈夫?」
「……んー」

布団の上にうつ伏せになって、枕に横顔をうずめて返事をする後藤。
辛そうなその様子に、どうしてもいつもより優しく、子どもに話しかけるような
口調になっている。

「…お腹、痛いの?」
「…うん、胃のあたりが…」
「そっか…」

最近のハードなスケジュールで体力と精神力が弱っているのだろうと、
なんだか可哀想になってきて、後藤の頭をなでようと手を延ばす。

そして、あと数センチで後藤の髪に触れようという、そのとき…

「…ちょっと食べ過ぎたみたい」
「……は?」

後藤へと伸ばしかけた手は、途中で止まってそのまま固まってしまう。
聞き間違いかもしれないと思って、もう一度聞き返す。
352 名前:いちごショート 投稿日:2001年08月19日(日)21時21分32秒
「もっかい聞くけど、なんで?」
「…食べ過ぎて、…胃が痛い…」
「…あ、そう」


今まで張り詰めていた不安と緊張が、後藤の呆れるようなそのセリフによって
一気に解けていく。
呆れと、安心で文句の言葉も出なくて、ため息を吐きながら部屋を見渡す。
散らかった洋服やタオルと、テーブルの上に散乱した…ペットボトルとお菓子の袋と食べ残しと…
そりゃ、あんだけ夕食食べた後、これだけ大量のお菓子食べれば
胃も壊れるに決まってるだろ…

夜中に、やっと眠れそうになったところを起こされて、説教の一つもしたいところだけど、
呆れるような原因であっても、目の前の苦しそうな後藤の様子を見ると、そういう訳にもいかない。
…でも、明日になったら容赦はしないんだけど…。
このまま見捨てるわけにもいかないから、薬をもらう為にマネージャーさんを起こしに行く。
もちろんこんな夜中に起こした事で嫌味を言われて謝るのもあたしな訳で。


353 名前:いちごショート 投稿日:2001年08月19日(日)21時22分12秒

後藤の部屋に戻って、貰ってきた薬を飲ませる。
水道の水をコップに汲んでいると、「ミネラルウォーターがいい」って文句を言ったけど、
無視してコップの水で薬を飲まして、再びベッドに寝かしつけた。

散らかった部屋とテーブルの上を適当に片付けて、自分の部屋に帰ろうと、
壁側に向いて背中をこちらに向けるように寝ている後藤に声をかける。

「後藤、…あたし、部屋に戻るね」
「……うん。ありがと」

一旦、こっちを向いて返事をした後藤は、またすぐに壁側に向き直る。
顔が見えないから、余計にそう感じるのかもしれないけど、
後藤の背中は、いつもより小さく見えるような気がする。

原因が何であれ、体調が悪い時って独りぼっちになると心細いもんだよな。
…このまま帰っちゃうのも、メンバーとして薄情っていうか、……うん。

「もう少ししたら、薬も効いてきて楽になるよ…」

ベッドの寝ている後藤のとなりに腰掛けて、今度こそ、そっと髪を撫でてあげる。
しばらく大人しくされるがままになっていた後藤は、やっと聞こえるような
本当に小さな声で呟くように、言った。
354 名前:いちごショート 投稿日:2001年08月19日(日)21時22分55秒

「…市井ちゃん……帰らないで、いっしょに寝てくれる?」

「……うん、いいよ」

後藤の消えてしまいそうな小さな声に、拒否の言葉も戸惑いさえも思い浮かばなくて
同じように囁く様に返事をして、後藤の背中に寄り添うように横になる。

「…まだ、お腹痛い?」
「……ちょっと」

そして、いつもなら絶対にこんな事できないんだけど、今は弱っている後藤を前に
不思議と素直に体が動いた。
昔、今の後藤と同じようにお腹が痛くて泣いてた時に、母親にしてもらったことを思い出して…

後藤の背中から腕を回して、胸の下の辺りを上下に手のひらでゆっくりとさする。
さすがに黙ってそうしているのは恥ずかしくて、相変わらず大人しい後藤の後姿に話しかけた。

「こうしてると、少しは楽になるでしょ?」
「…ん…なんか、きもちいー」
「そっか…よかった」
「市井ちゃん…今日はすごい優しいね」
「…いつも優しいじゃん。…あたしは」
「え〜、そうかなぁ」
「そうだよ」
355 名前:いちごショート 投稿日:2001年08月19日(日)21時24分06秒
後藤を後ろから抱くような姿勢で、目の前にある後藤の髪の香りとか、
その髪の間から覗いてる首筋に、段々とドキドキしてきてくるのが抑えられない。
なんだ?…相手は後藤だぞ。何でこんなにドキドキすんだ…?
いっこうに治まらない胸のドキドキを無理やり振り払うように、声を出した。

「後藤、もう大丈夫?」
「……」
「後藤?」
「……」

…寝てるよ。
そっと顔を覗き込むと、後藤はさっきまでの辛そうな顔がうそみたいな、安心しきった
気持ちよさそうな顔で眠ってしまっていた。

はぁーと溜め息をひとつ吐く。
後藤はもう寝てしまったから、お腹をさすってあげる必要はないんだけど…
だけど…なぜか、このまま離れてしまう気になれなくて、後藤の体に腕を回したまま、
でも、少しだけ体を後藤に近づけて、自分も目を閉じた。




   end.
356 名前:作者 投稿日:2001年08月19日(日)21時25分19秒
>>343さん
いやぁ、ありがとうございます。
たぶんこの話の雰囲気はこのまま変わらないと思うんで、
今後もよろしくお願いします。

>>344さん
ごまがいちーちゃんに向けて言うからこそ萌えるセリフですよね。

>>345さん
う〜ん、自分が書くとどうしても「初々しい」感じになってしまうみたいですね。
次回も御期待に沿えるようにがんばります。
357 名前:作者 投稿日:2001年08月19日(日)21時26分04秒
>>346さん
いちーちゃんは恥ずかしがりやさんだし、後藤さんは先輩のファンの
妬みが怖いので公言してないはず…
二人の関係を知るのはごくごく一部の(矢と吉ぐらいっすけど)生徒だけでしょう。

>>347さん
そう言ってもらえるとメチャメチャ嬉しいです。
自分の頭の中のイメージをどうやって文章で表そうかって
常に悩むところではあるんで。

>>348さん
読んでくれる方が増えるのは嬉しいです。
次のスレにもお付き合いください。
358 名前:作者 投稿日:2001年08月19日(日)21時26分54秒

このスレでの更新はここまでとさせて頂きます。
今までのご愛顧、大変有難う御座いました。

359 名前:作者 投稿日:2001年08月19日(日)21時27分47秒

という事で、この板に新スレを立てますので、今後はそちらをよろしくお願いします。

360 名前:作者 投稿日:2001年08月19日(日)21時33分34秒
ごめんなさい。一足遅かったみたいなので、風板に新スレを立てます。
(新スレ立てようとして気付いた…恥)
お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。

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