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それさえもおそらくは平凡な日々

1 名前:G3HP 投稿日:2001年05月19日(土)08時27分00秒
銀板で ”隻” というのを書いている者です。
短編をちょっと書きます。
後藤が主人公です。
よろしければ、読んでください。
元ネタがあるのですが、題しか覚えていません。
知っている方、教えてください。
2 名前:G3HP 投稿日:2001年05月19日(土)08時29分24秒
〜それさえも、おそらくは平凡な日々。〜


初めは、ただ疲れているだけだと思っていた。

「はい。おつかれさまでした。」
その声で、緊張から開放された。
最近は忙しすぎて、今自分が何をやっているのか、何の番組に出てるのか
わからなくなっていた。
ミュージカルが始まってからというもの、ほとんど睡眠時間が取れてないからだ。
すべての仕事に気合を入れることなんて不可能だ。
どこかで、手を抜こうとしてしまう。
“こんなんじゃいけない。”
そう思っても、やはり眠くてしょうがなかった。
「ごと〜う。ぼーとしてないで早く移動するよ。」
「圭ちゃん。まだ今日何かあったっけ?」
「なにいってんのよ。ダイバーの収録があるじゃないの。」
「ふぇ〜え?」
すっかり忘れていた。というより今日だっけ?
最近どうも記憶がよくない。元々良いほうではないが、
スケジュールを忘れたり、話したことを覚えていないことが多くなった。
「後藤、そりゃあ病気だよ。一度医者に行って来い。」
圭ちゃんの本気なのか冗談なのかわからないアドバイス聞きながら、
「つかれているんだよ〜。」
で片付けていた。

3 名前:G3HP  投稿日:2001年05月19日(土)08時30分13秒

ダイバーの収録を終えると、久しぶりに実家に帰ることができた。
「じゃあ。明日ミュージカルの時間までにちゃんといきまぁ〜す。」
そう、マネージャーに挨拶をして家に入る。
「ただいま。」
家に入ると母親が出迎えてくれた。
疲れた娘の労をねぎらおうと母親があれこれと世話を焼いた。
とにかく眠かった。
「お母さん。ごめん。もう寝る。おやすみ。」
そう、宣言してベットへとなだれ込んだ。
やはり自分ちのベットは格別だ。
すぐに、眠りにつけた。

もっとも、すごく疲れていたから...

4 名前:G3HP 投稿日:2001年05月19日(土)08時30分59秒

今日もまた、ミュージカルだ。
すでに、ミュージカルも中盤になるとさすがに余裕ができてきた。
ほかのメンバーの演技を見て批評する余裕すらあった。
「後藤!なにしてるの。次出番!」
そんな筈はない。次のシーンに出番はないはず。
「まってよ。後藤の出番じゃあないよ。」
抗議するが、そのまま舞台に引きずり出されてしまった。
「えへ?」
舞台の上で固まってしまった。
一体なんなんだ?このシーンは。
こんなシーンなかったはずだ。
私は何をしたらいいのかわからなかった。
「きゅ〜ん。」
とりあえず鳴いてみた。
うけてる。
「ははははぁ〜。」
虚しい。
なんでもいいんかい!あんたらは。

5 名前:G3HP 投稿日:2001年05月19日(土)08時32分05秒

「ごとう。」
舞台の端から圭ちゃんが呼ぶ声がした。
「わたしは。。。。」
台詞を教えてくれた。
「わたしは。。。」
圭ちゃんの言う台詞をそのまま棒読みして、なんとかその場は切り抜けた。
でも、覚えのないシーンだった。
「ゴトー。なにやってんだよー。なっち焦ったよ。」
舞台袖に引っ込んだとたん、半べそ状態のなっちに捕まってしまった。
「ごめん。」
そういわれても、覚えていないものは覚えていないんだ。
こんなシーン絶対になかった。
あたしは急いで台本を確認した。そのシーンはちゃんと載っていた。
当たり前といえば当たり前。台本にないシーンを延々と演じるはずはない。
しかも、ご丁寧に台本の自分の台詞に赤線と注意書きまでしてあった。
(ん〜さっぱりおぼえてない。)
一時的な記憶障害?
意識の混乱?
そう思った。
なんせ、こんなに忙しいんだもん。

6 名前:G3HP 投稿日:2001年05月19日(土)08時33分09秒

今日は“もーたい”のスタジオ収録があった。
スタジオ収録はメンバー全員のため、ただ座っていれば良いので楽だ。
特に今日は裕ちゃんが来ていたので、トークも弾んでいてほとんど喋る必要がなかった。
それが、逆に辛かった。睡魔との戦いだ。
なんとか睡魔に勝利をしたが、裕ちゃんは誤魔化せなかった。
「後藤。私が居るからといって手ぬいとったらあかんで。」
久しぶりに、裕ちゃんのお怒りを買ってしまった。
「いつまでも、あたしが傍にいると思ったら大間違いやで。」
“裕ちゃん。あんまり怒るとシワふえるよ。”
なんてことは石川じゃないから言えない。
でもこうしていると、裕ちゃんが娘。を卒業したなんて思えなかった。

7 名前:G3HP 投稿日:2001年05月19日(土)08時33分56秒

数日後、新しいシャッフルの組み分けの発表がおこなわれた。
やはり赤組だった。メンバーは加護と柴田となんと裕ちゃんだった。
これじゃあ本当に何のための卒業なんだかわからないじゃん。
まあでも、どうせつんくさんの命令だからしょうがない。
「各組のMDを渡すので、明日の音あわせまでにしっかり覚えておくこと。」
いったい、いつ寝ればいいのだ。だいたいミュージカルやってる最中じゃないか。

“こんなに疲れているのに!”

抗議したいのは山々だが、どうにもならないのはわかっている。
MDを受けとって、おとなしく帰路につく。
赤組の新曲はどちらかというと“愛のばかやろう”風であった。
“まあ、こんなもんでしょう。”って感じです。
MDを聞いたまま寝てしまった。
とにかく、疲れてた。

8 名前:G3HP 投稿日:2001年05月19日(土)08時34分39秒

翌日、シャッフルの音あわせのためにスタジオに向かった。
スタジオに着いたときにはすでには、ほぼ全員が集まっていた。
集まっていたメンバーはそれぞれの曲を聞き比べたりしている。
まだ、始まるまでには少し時間があるようなので壁にもたれて眠ることにした。
最近。いくら寝ても疲れはなかなかとれてくれない。
“年なのか〜。”
と叫んでしまいたい。
もっともそんなことしたら、裕ちゃんに殺されてしまう。

9 名前:G3HP 投稿日:2001年05月19日(土)08時35分52秒

「ごめ〜ん。少し遅れた。」
聞き覚えのあるその声に飛び起きた。
そこに市井 紗耶香の姿があった。
「いちーちゃん!!!」
あたしは、いちーちゃんのところまで走っていき、思いっきり抱きつく。
「いちーちゃん。戻ってきたんだ!」
うれしくてたまらなかった。
市井脱退から、一年。会うことすらままならなかった。
また一緒にやっていきたいとずっと思っていた。
“いちーちゃんとやれるなら娘。抜けてもいい。”
そう思っていた。
「やっと、戻ってきたんだね。後藤は寂しかったんだぞ。」
涙でいちーちゃんの姿が良く見えない。
「ゴトー。何寝ぼけてるんだよ。私が一体どこへ行ってたっていうんだよー。」
「えっ?」
「全然おもしろくないぞ。」
いちーちゃんは頭を小突いて、圭ちゃんの方にいってしまった。
(なに?)

「おはよう。圭ちゃん。」
「おはよう。紗耶香。」
普通の会話をしている。
誰も市井復活!に驚いていなかった。
なんで?なんで皆驚かないの?
それとも、皆知っていたの?
いつ発表があったんだろう。私覚えてなかったのかな。
そんなはずない。ことがいちーちゃんだけに、そんなはずない。
...はずだ。

記憶がとんでるのか?
…なんせ、疲れてるから。

記憶障害。
多重人格。
いやな言葉が浮かんでくる。

いや、あたしは疲れてるんだ。。。。


10 名前:G3HP 投稿日:2001年05月19日(土)09時27分15秒

「後藤。一緒に帰ろう。」
あれから何日かすぎたが、自分の中にある疑問はどんどん膨らんでいった。
「ねえ。いち―ちゃん。」
「なんだよ。」
やはり聞けなかった。
「...なんでもない。」

タクシーに乗ると、いち−ちゃんはすぐ眠ってしまった。
肩にもたれかかったいちーちゃんの頭の感触が、なんとも心地よい。
今、自分の横にいちーちゃんがいることが単純にうれしいくてしょうがない。
彼女とならどこへ行っても怖くない。何でもできそうだ。
夜の街を走るタクシーの中で、ゆっくりと流れるこの時間を楽しんでいた。

タクシーのラジオからはアイドルの歌が流れていた。
夜の街に、その歌は妙にマッチしていた。
切ない歌だ。

「なっちも頑張ってるなあ。」
いちーちゃんはそういって起き上がった。
「えっ?この曲?なっちの?」
「なにいってんだよ。なっちのソロじゃん。」
そういうと、また眠ってしまった。

疲れているから?

記憶障害?

ちがう。

あたしは、いちーちゃんを起こそうとした。
「い。。。。。。。」
いちーちゃんの口元に、小さなほくろが見えた。
あるはずのない“ほくろ”が。

体が震えた。
間違えるはずなかった。
覚い違えるわけがなかった。

わたしのなかで、何かが組み上がっていった。

まさかと思った。
でも、これしかないとわかった。

日に日に膨らんでいく疑問の答えを

今、見つけた。

11 名前:G3HP 投稿日:2001年05月19日(土)09時28分17秒


「後藤。なにやってるの!」
そういわれても、知らないものは知らないのだ。
このパートは確か圭ちゃんのパートだ。
うっすらと残る記憶をたよりにダンスを続ける。
毎日、違うパートをこなしていた。
時には全く知らない曲をいきなり歌うことさえあった。
でも、慣れとは恐ろしいものだ。
初めこそとまどったが、今じゃあ何とかうまくこなしている。
「すみません。」
そう誤りながら、相手を見る。
20歳過ぎぐらいの、はじめて見る女性。
(たぶん。あれは加護なんだろうな。)

パラレルワールド。
多次元世界。
平行したいくつもの次元への移行。

でも、いつからなんだろう?
ひょっとしたら、生まれたときからずっと毎日少しづつ違う世界に
移動していたのかもしれない。

昨日、スレンダーななっちが、あたしの顔をみて妙な顔をしていた。
ひょっとして皆もそうなのかもしれない。
世界中の人が、毎日少しだけ違う世界に移動しながら生活しているのかもしれない。
遠い太古の昔から、そうだったのかもしれない。
あたしは、ちょっと飛びすぎているだけだ。
それでも何事もなく時は流れていく。

「後藤。一緒に帰ろう。」
「は〜い。」
明日香が呼んでいる。

あたしは、もう気づいていた。
毎日 違う世界。
違う次元。
でも、
―― それさえもおそらくは平凡な日々。

12 名前:G3HP 投稿日:2001年05月19日(土)09時29分29秒
というわけで終了です。
失礼いたしました。
13 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月19日(土)12時03分53秒
引き込まれる小説ですね・・・。
すごく良かったです。
14 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月20日(日)10時44分43秒
おもしろかったです。
またむこうの合間にでも、気分転換に書いてくださいな。。。
15 名前:G3HP 投稿日:2001年05月21日(月)18時25分48秒
>>14 さん 向こうが進まない分、こっちを書いてしまいました。

というわけで ”保田編” です。
16 名前:G3HP 投稿日:2001年05月21日(月)18時27分02秒

「本番いきます。」
その声で、全員が緊張をする。
あいかわらず、辻加護が何か話をしているのが見えた。
(あの子ら、まったく成長してないな。裕ちゃん抜けるときに約束したのも
 全く効き目なしか。)
私はいつものように嘆いていた。
(後でキツクいっとかないかんな。)
“裕ちゃんが抜けることでできた穴を、一刻も早く塞がなければ”
という認識は、全員が持っているのは確かではあるのだが、
実際は、全くといっていいほど変わっていなかった。
辻加護の時と場所を考えない立ち振る舞い、後藤の居眠りから
石川の空回りに至るまで、裕ちゃんがいたときと結果的には変わってないのだ。
むしろ、裕ちゃんが抜けたためにできた“トーク”という穴が日に日に娘。
を蝕んでいるのを痛感していた。
“今度の娘。の新曲が勝負。それまでに、各々が成長できていなければ、
 娘。にその次はない。“
それが、本当に認識できているのは、私と矢口だけだ。
(せめて、紗耶香がいてくれたら。)
何度そう思ったことだろう。
留学にいく。といって消えてしまった紗耶香。
その後、全く連絡が来なくなってしまった。
「後藤。いちーちゃんから連絡きてないの?」
何度聞いただろうか。
「全くこないんだな。それどころか家族にも連絡してないらいしいよ。」
「それじゃあ行方不明と同じじゃんかよ。」

紗耶香は娘。を忘れてしまったのだろうか?
『絶対に忘れない。圭ちゃんは、私の永遠のライバルだからね。』
といっていたのに、どこへいってしまったの?
紗耶香。
今、あなたの力がほしいのよ。
今、あなたの考えがあたしにはほしいのよ。

17 名前:スジ肉の煮込み。 投稿日:2001年05月21日(月)18時27分58秒

筋の多い肉は、まず湯通しが必要です。
大き目のなべに肉を入れ、たっぷりの水を入れて沸騰させます。
灰汁と余分な油が出たところで、お湯を捨てます。
この湯通しは2回行いましょう。
後は、調味料を入れて煮込むだけ。
調味料は、みりん、日本酒をベースに味噌と隠し味に赤ワインを入れます。
味噌は八丁味噌がベストでしょう。
オプションで玉ねぎを入れると甘味が増しますが、
その場合、みりんの量に注意してください。
調味料とお肉を入れたら、後はとろ火で様子を見ながら4〜5時間ほど
煮こめば出来上がりです。
よく冷えたビールか、とっておきの日本酒で一杯やりながら食すのが最高。

18 名前:G3HP 投稿日:2001年05月21日(月)18時29分01秒
いつからだろう、いつも“紗耶香だったらどうするだろう。”
と考えるようになったのは。
あたしは紗耶香ではない。
自分を信じて娘。を引っ張っていくしかないのだ。
そんなことはわかっているのだが、問題は山積みだ。
どうして、みんな娘。を辞めてしまうのだろう。
娘。にいたままでも、自分がやりたいことはできるはずなのに。
自分の役目というものがあるはずなのに。

裕ちゃんだってそうだ。
確かに、年齢的なギャップに苦しんでいたのは知っている。
でも、残された私たちを誰が舵とりするというのだ。

あたしも、いつかは辞めないといけないのだろうか?
独り立ちしたって、成功しないかもしれない。という恐怖より
あたしの“娘。”を無くしてしまう悲しみの方が大きい。
なんとしても、娘。を残していきたいのだ。

なのに、みんな辞めていってしまう。
無責任に。
しかも、辞めると決めたとたん、なぜかみんな輝きを増した。
まぶしいくらいに輝いていた。

辞めることで失うもの。
辞めることで手に入れるもの。
あたしも、あの輝きがほしい。
でも、あたしは辞めない。
あたしの“娘。”を失いたくない。


「圭ちゃん。最近怖いよ。」
そんなこといわれてもカオリ、あんたがしっかりしないからじゃない。
石川のボケに、あんたが二重にボケ入れてどうするんだ。
突っ込んでくれよ!
矢口が突っ込んでくれればいいのだが、
矢口も『きゃはははは。』と笑ってることが多い。
あんた客じゃないんだから突っ込んでくれよ。
もっとも、あたしが何とかできれば良いのだが。。。

紗耶香なら。。。

19 名前:羊の脳みそのカルパッチョ 投稿日:2001年05月21日(月)18時29分56秒

イスラム圏では結構ポピュラーな食べ物のひとつに
“羊の脳みそ料理”があります。
見た目は、まんま脳みそか巨大カリフラワーだが、舌触りは白子に似て
まったりとしています。
羊の脳みそは、カレーに入れたりフライにすることが多いですが、
お勧めは“脳みそカルパッチョ”です。
ゆでた脳みそを細かく刻み、皿に盛ります。
そこに、みじん切りのパセリ、レモン、オリーブオイルをかけて食します。
白子、フォアグラ、あんきも、などに通じる味が堪能でき、
これに、赤ワインが最高に良く合うの。

20 名前:G3HP 投稿日:2001年05月21日(月)18時31分25秒
「保田さん。最近太ったんじゃないですか?」
吉澤!あんたに言われたか〜ない。
娘。の半数が体重を増やしているのは事実だ。
やはり、ハードなスケジュールによるストレスと女性ばかりという環境が、
お菓子などのジャンクフードの大食いにつながっている。

紗耶香。あんたも残っていたら太ったのかな。

太ってしまった紗耶香を想像してみる。
う〜ん。まさに肝っ玉母さんだ。
でも、紗耶香は太ったりしない。
自分に厳しかった。
あのころのあたしらは、いつも緊張感を持っていた。
“来年にはいなくなるアイドルNo.1”と称され、
グループ内でのイザコザも絶えなかったが、
みんなプロとしての意識は強かった。
ライバル心を剥き出しにしていたあのころが懐かしい。
あの緊張感が懐かしい。

辻加護が走り回っている。
緊張感が全く感じられない。
石川、吉澤などは、いまだにあがってしまっている。
緊張するのとあがるというのは、違うということに気づいてほしい。
これでは、おニャん子クラブと大差ないではないか。
素人の学芸会ではないのだ。

紗耶香。あたしはどうしたら良いの?

21 名前:骨付きカルビ 投稿日:2001年05月21日(月)18時32分19秒
骨付きカルビは、まず骨についている肉に包丁を入れ横に開きます。
次に骨に張り付いているスジに切り目を入れます。
ボールに肉とタレを入れますが、このとき肉全体にタレが混ざり
ボールに残らない程度の量にするのがコツです。
そこに、黒こしょうとごま油を加え、手でよく揉み込みます。
網はあらかじめ良く熱しておき、強火で焼きましょう。
火がとおったところで肉を食べ、骨に近いところは火をとろ火にして
じっくり焼くとスジがポロリと取れます。
やはり、焼肉には冷えたビールが良く合います。
あっ。残った骨をワンちゃんにあげるのも忘れずにね。

22 名前:G3HP 投稿日:2001年05月21日(月)18時33分12秒
「ねえ。裕ちゃんが仕事に穴を開けちゃったらしいよ。」
「ええっ?全くなにやってんだあの人は。」
裕ちゃんには成功してもらわなければならないのに。
裕ちゃんが成功することで、メンバーの目標ができ、
活力も出てくるというものなのに。
お手本となる人が何をやっているのだ。
「どうも、うわさの彼氏と一緒だったらしい。」
ん〜裕ちゃんもお年頃ということか。
仕方ないといえば、仕方ないことだ。
裕ちゃんだって生身の女。
いつも、あたしらのお手本ってわけにはいかない。
裕ちゃんの良いところだけ取り入れればいのだ。
スケベでわがままなところまで真似する必要はない。
良いところだけ。。。

23 名前:G3HP 投稿日:2001年05月21日(月)18時33分54秒

もう、何時間このままなんだろう。
裕ちゃんを目の前にして、ずっと考えこんでいた。
「裕ちゃん。なんで 娘。を辞めたの?
 “娘。”には裕ちゃんのそのキャラが必要なのに。」

裕ちゃんのリーダー性。
裕ちゃんの巧みなトーク。
裕ちゃんの良いところだけ。。。

「やはり、手っ取り早く“ハツ”かな。」
あたしはそう言って、ナイフを握りなおした。


「それさえもおそらくは平凡な日々。(保田編)」 〜完〜



「ねえ。なっち 娘。辞めないよね?」
「ブヒッ?」

24 名前:G3HP 投稿日:2001年05月21日(月)18時35分25秒
ブラッディー圭。でした。
次は…
考えときます。
25 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月21日(月)19時20分14秒
だははは。さいこ〜
26 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月22日(火)00時46分16秒
ブラックジョークってやつですか、ワラタYO
27 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月22日(火)02時20分46秒
うっ、あまりにも懐かしいこのタイトル・・・・>それさえもおそらくは平凡な日々
元ネタは「たがみよしひさ」氏の、同名タイトルのマンガですね。
主人公は、たがみ氏本人で「ひろみ」婦人と婚約したころが舞台になっています。
もちろん、内容はフィクションですが・・・。

でもこれ、発表されたのはもう15年程前になるかと・・・。(歳ばれ注意!!)
白状します・・・、リアルタイムで読んでました(w
28 名前:G3HP 投稿日:2001年05月22日(火)04時51分26秒
>>27 さん ありがとうございます。たがみさんの作品だったんですね。
この題名が当初から気に入っていて、題名ははっきり覚えていたんですが
てっきり、短編小説だと思ってました。たがみさんのホームページで確認しました。
今日、古本屋めぐりをしてきます。
私も、リアルタイムに読んでいたんだと思います。覚えてなかったけど。
でも、ひょっとして私が読んだのは、やはり小説だったのかもしれません。
そこから、いくつもの次元を飛んできたので…
29 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月23日(水)12時52分01秒
がははは。なっちとんこつラーメンになりそう。
30 名前:G3HP 投稿日:2001年05月25日(金)19時49分55秒
調子に乗ってもう一話追加です。

加護編です。
31 名前:G3HP 投稿日:2001年05月25日(金)19時50分44秒
それさえも、おそらくは平凡な日々。(加護編)

「お疲れ様でした。」
その声で、ようやく仕事から解放された。

一体うちらのこと、なんやと思うとるんやろ。
まだ年端もいかない、かよわき乙女を何時間働かすんや。
しかも、働けども働けどもおかあはん毎日1000円しか小遣いくれへんねん。
納得いかんわ。
「あいぼんが大きくなったときのために貯金しておきますからね。」
なんて言葉に騙されるほど甘ないで。
おかあはんのバックの数が増えるたびに、なんや悲しなるわ。
おとうはんも新しい車買うてんねんけど、それ誰の金やねん。

32 名前:G3HP 投稿日:2001年05月25日(金)19時51分32秒
大体、忙しすぎて学校にも行けへんや。
まあ、学校いっても授業さっぱりわからへんのやけどな。
英語なんて、いまだにアルファベット全部言えへんよ。
なんで、それで進級できるんかわからへんのやけどな。

ののだって、こないだのNHKの中澤さんの特番で、中澤さんに渡したプレゼント
あれに書いてあったアルファベット“S”反対向いとったんやで。
うちかて、ほんまは少しは勉強したいねん。少しな。
学校の男子なんて、「“あいぼん”じゃなくて“バカボン”やろ。」
いうんよ。

おかあはん、どない思っとるんよ。
少しは、休ませてーな。
事務所に言ったってーな。ほんま。

はよミュージカルも終わらへんかな〜。
したら、その分遊べるや。
勉強したってもええよ。少しな。

33 名前:G3HP 投稿日:2001年05月25日(金)19時52分12秒

大体、なんでうちあんな契約してもうたんやろ。
うち、元に戻りたいわ。
悲しいわ〜。
なんで、あんなんのに見つけられてしもうたんやろ。
最悪や。
まあ、これも運命やからしゃぁないんやけどな。

34 名前:G3HP 投稿日:2001年05月25日(金)19時53分08秒

うちはいつものように、湖をゆらゆらとたゆたっとたんや。
いまから半年前のことや。
あのころは毎日充実しとったわ。
こんな日が永遠に続くと思っとたのに、あのガキいらんことしくさりおって!
忘れへんで、あんときのことは。

あいつは、うちを見つけると珍しそうな顔して、うちをじっと見たんや。
あんときの顔。
ニィ〜タ〜と笑いよった。
まさに、小悪魔そのものや。
まあ、うちが言うのも可笑しなもんやけどな

とにかく、あいつはうちのこと知っとったんや。
人生最悪の日やがな。
何の因果か、あいつと契約してしもうたんや。
まあ、せなあかんのやけど。。。

35 名前:G3HP 投稿日:2001年05月25日(金)19時54分04秒

せやけどな、最初は結構おもろかったんよ。
この生活。
でも、こらあかんわ。
うちかて、疲れるっちゅ〜ねん。
限界やっちゅ〜ねん。
休みたいわ〜。ほんま。

いまごろ、あのアホ、湖でのんきにしとるんやろな。
腹たつわ〜。
今度、休みもろーたら、あいつ探したろ。
契約は破棄や。
ほんで、あいつが言った言葉そのまんま言ったるねん。

「自分“ジン”やろ。ビンの蓋開けて助けたるさかい、
 うちの願い事かなえてんか。」
って。

待っとれや。ホンマもんの加護 亜依!


「それさえもおそらくは平凡な日々。(加護編)」 〜完〜

36 名前:補足 投稿日:2001年05月25日(金)19時54分53秒

ジン(Jin)

アラビア伝承 精霊。
アラビアにおける精霊の一種。
いわゆる、アラジンの魔法のランプの精がよい例である。

変幻自在で、身長や容姿を変えるだけでなく、宮殿や膨大な金を作ることもできる。
ランプや壷に封印されていることが多く、開放してくれた者の望みをかなえてくれる。

〜「幻想世界の住人たち1」新紀元社 参照 〜



「あれ~? あいぼん、お尻から尻尾さん生えてるれす。」
おっとっと。だから一緒にお風呂入るのいややねん。

37 名前:名無し読者 投稿日:2001年05月25日(金)22時12分49秒
最後の一文がいつもしゃれてるよな〜
38 名前:名無しさん 投稿日:2001年05月28日(月)16時49分27秒
次を書いてくれ!
39 名前:G3HP 投稿日:2001年05月29日(火)00時20分08秒
考えときます。期待しないで待っててください。
40 名前:G3HP 投稿日:2001年05月31日(木)18時10分10秒
それさえも、おそらくは平凡な日々。(辻編)

「どうしたれすか?まいごさんれすか?」

ののが、はじめてまいごさんを見たのは、中澤さんが卒業することを聞いた日でした。
まいごさんは、5才ぐらいのかわいい女の子です。
おかっぱ頭で目がきれいな女の子が、いつのまにか ののたちの楽屋の隅にいたんです。
「お名前は、なんれすか?」
まいごさんは、ののがいくらはなしかけてもお返事してくれません。
「つじー。あんた何してるのよ。カオリのまねして交信でもしてるの?」
矢口さんが、ののの頭をコツンとつつきました。
まいごさんは、ののにしか見えないみたいです。
(まいごさんは、おばけさんですか?)
ののは心のなかで聞いたのですが、お返事してくれません。
ただじっと、ののたちを見ています。

41 名前:G3HP 投稿日:2001年05月31日(木)18時10分50秒

それから、まいごさんは毎日ののたちと一緒にいました。
ののは、ときたま まいごさんの横にいって、まいごさんにこっそり話しかけました。
でも、まいごさんは何も話してくれません。
少しの間だけ、のののことを見るだけです。
まいごさんに見られても全然こわくないです。
おかあさんに見守られているような気持ちになります。
でも、ときたま まいごさんはさびしそうな顔をしています。
きっとののだけしか気づいてないので、さびしいんだと思います。

42 名前:G3HP 投稿日:2001年05月31日(木)18時11分33秒

あるとき、ののはまいごさんの後ろからそっと近づいて、
「ぶぅわ〜。」
とおどかしてみました。
まいごさんはおどろいて、中澤さんの後ろにかくれてしまいました。
「ののちゃ〜ん。どうしただ。そったら大声だしたら驚くだべ。」
そういって、よっしぃーはののをハガイジメしました。
まいごさんが、中澤さんの後ろでしゃがんでののを見てます。
ののは、バタバタしてよっしぃーからはなれて、まいごさんのところに行きました。

43 名前:G3HP 投稿日:2001年05月31日(木)18時12分11秒

今度はののが、まいごさんを見る番です。
ののがジーっと まいごさんをみていると、
まいごさんは、はずかしそうに下を向いてしまいました。
「こら!辻!あんた私の足元でなにしとんのや?」
中澤さんがののを見下ろしています。
ちょっとこわいです。
「中澤さんの足元に、まいごさんがいるです。」
「はぁ?なに?なんやて?私の足元になんかいるの?」
「まいごさんです。ちいさな女の子がいるれす。」
そういうと、中澤さんはいきなりののの頭をゲンコでなぐりました。
いたいです。中澤さん。
「なにゆうんや。この子は。うちがビビリや知っとるやろ。
 ほんま、かなわんわ〜。こん子は。」
中澤さんは矢口さんのところまでにげていきました。
「あっ。それって、中澤さんの子供なんじゃないんですか?」
「い〜し〜か〜わ〜。」
あっ。梨華ちゃん中澤さんに首しめられてるです。

44 名前:G3HP 投稿日:2001年05月31日(木)18時12分41秒

それからも、まいごさんはずっと一緒です。
ハロプロのコンサートも一緒です。
ミュージカルが始まっても一緒です。
ののは、まいごさんは中澤さんにくっついていると思ってました。
なぜなら、まいごさんは中澤さんの横にいることが多かったからです。
朝も中澤さんがくると、まいごさんがあらわれるからです。

45 名前:G3HP 投稿日:2001年05月31日(木)18時13分15秒

でも、中澤さんが卒業しても、まいごさんはののたちのところにいます。
ののたちをジィっと見てます。
あと、のの気づいたんですけど、まいごさんは誰か落ち込んでる人がいると、
かならずその人のそばにいってジィっと見ています。
ときには、顔をのぞきこむようにしています。
ののも、のぞかれます。
目が合うと、とってもフンワカな気持ちになるんです。
「ありがとう。」って、まいごさんにいうと、
まいごさんは恥ずかしそうに走って逃げてしまいます。

46 名前:G3HP 投稿日:2001年05月31日(木)18時15分16秒

ののは、まいごさんにさわってみたいです。
あたまをなでてあげたいんです。
まいごさんは、いつもモーニング娘。のみんなをなぐさめてくれているんです。
だから、“いい子いい子”してあげたいんです。
でも、さわろうとするとすごい勢いで逃げてしまうんでさわれません。

47 名前:G3HP 投稿日:2001年05月31日(木)18時16分17秒

ある日、ののはまいごさんに触れることができました。
それは突然でした。
いつものように、あいぼんと楽屋で走っていたときです。
ののはとつぜん走るのをやめて、トイレにいこうとしてふり返ったら、
梨華ちゃんの後ろに立っていた まいごさんとぶつかってしまったのです。
まいごさんはののの体の中をスルスルッと通り抜けていったんです。

そのとき、まいごさんの気持ちがののの中に
いっぱい、いっぱい、いっぱ〜〜い、入ってきました。

あったかい気持ち、心配な気持ち、楽しい気持ち、かなしい気持ち、
うれしい気持ち、さみしい気持ち、ありがとうという気持ち、
あつい気持ち、ふんわかな気持ち、がんばれという気持ち
あかいのとかあおいのとかしろいのとかくろいのとか、
いろんな、いろんな気持ちがののの中にあふれてきました。

48 名前:G3HP 投稿日:2001年05月31日(木)18時16分55秒

ののは、
ののは、まいごさんの気持ちがわかりました。
でも、まいごさん。
ののは、すぐにまいごさんの気持ちに、こたえられませんでした。
ごめんなさいです。

49 名前:G3HP 投稿日:2001年05月31日(木)18時17分36秒


それから半年がたちました。

50 名前:G3HP 投稿日:2001年05月31日(木)18時18分31秒

まいごさんはまだいます。


ずっとののたちを見守ってくれているんです。
でも、まいごさんを元の場所に返してあげないといけません。
まいごさんは、いつまでもここにいてはいけないのです。
いつまでも、まいごさんを引き止めていてはいけないのです。
このままでは、まいごさんは本当のまいごさんになってしまいます。

ののは、まいごさんと二人っきりになるのを待ちました。

51 名前:G3HP 投稿日:2001年05月31日(木)18時19分38秒

そして、ある日やっと まいごさんと二人っきりになりました。
ののは、まいごさんの前にしゃがんで、まいごさんをジッとみました。
そして、まいごさんにいいました。



「中澤さん。あたしたちはまだ頼りないれすけど、頑張っています。
 みんな少しづつだけど、立派になってきてるです。
 だからもう、中澤さんは中澤さんのところに戻っても大丈夫です。」


まいごさんは、ゆっくりうなずいて消えていきました。



「それさえもおそらくは平凡な日々(辻編)」 〜完〜

52 名前:G3HP 投稿日:2001年05月31日(木)18時21分19秒
辻編でした。
>>37 さん。 今回はラストおオチなしです。
53 名前:名無し読者 投稿日:2001年06月01日(金)01時37分54秒
ちょっと目頭が熱くなった。
辻ヲタになりそうな自分がコワヒ…
54 名前:名無しさん 投稿日:2001年06月25日(月)02時02分34秒
初めて読みました。なんか不思議な感じでいいっすね。
もっと読みたいなあ・・・
55 名前:パク@紹介人 投稿日:2001年07月07日(土)10時15分08秒
こちらの小説を「小説紹介スレ@金板」↓に紹介します。
http://www.ah.wakwak.com/cgi/hilight.cgi?dir=gold&thp=994402589&ls=25
56 名前:G3HP 投稿日:2001年07月21日(土)22時10分58秒
それさえも、おそらくは平凡な日々。(吉澤編)

その日の夢は、一生忘れることはできないだろう。
朝、目がさめたときのあの違和感。
今まで見ていたのが夢なのか、今このときこそが夢なのかわからなかった。
体中から噴出した汗は、この陽気のせいだけではない。
あたしは混乱する頭を振りながら、ベッドから起き上がると、
それが目に入ってきた。

やはり、現実だったのか?

あたしはモー娘。に入ってからというもの、めっきり使われる機会が減ってしまった机に置かれたブレスレッドを手にとった。
銀色に輝くそれは殆ど重さを感じさせないほど軽かった。

「おれは神なんや。」

夢の中?のつんくはそういった。

「えっ?だって、つんくさんじゃないすか。」

神と名乗ったつんくさんは眩い光をバックにしてはいるが、
黒の皮パンツに肩に鋲がついた皮のジャケット薄いオレンジ色のサングラスに金髪と
その姿はどこかで見たことのあるつんくさんだった。

「あんな、吉澤。よぉ〜聞きぃや。自分選ばれたんや。
 今日から自分正義の味方やで。」
「はぁ?」
「悪を倒し、正義を守るスーパーヒロインだ。」

「なんでやねん。」
あたしはブレスレットを机に放り出して呟いた。
馬鹿馬鹿しい。

57 名前:G3HP 投稿日:2001年07月21日(土)22時11分33秒

でもそのことは、仕事をしている最中も頭から離れることはなかった。
「変身…するんだよな。」
どんなカッコウになるんだろう?
アギト?ウルトラマン?
でもセーラームーンがいいな。
ううん。セーラーマーキュリーだね。
セーラー服を着て悪人どもを次々となぎ倒していく。

カッケー!!

必殺技も考えなくっちゃ。
そうそう、キメ台詞も決めなくっちゃ。

58 名前:G3HP 投稿日:2001年07月21日(土)22時12分31秒

考えてたら、なんか段々変身してみたくなってしまった。
あたしは収録の休憩時間を待ってトイレに駆け込んだ。
途中で梨華ちゃんが、一緒にトイレに行くって追いかけてきたけど
うまく撒いて別の階のトイレに入った。
最近、梨華ちゃんしつこい。
しつこい上に鋭いのだ。
たぶん、今日も考え事ばかりしていたあたしの態度に何かを感じたのだろう。

トイレの上ブタを上げて腰掛ける。耳を澄まして周りに誰も居ないことを確かめて
つんくさんに教えてもらった呪文を小声で唱える。
「ぱんぷるぴんぷる。。。」
ああ、胸がどきどきする。
あたしは目を瞑ったまま一分ぐらいジッと待った。

なにもおきない。

やっぱり、夢だったか。。。
諦めて立ち上がろうとしたとき、不意につんくさんの言葉を思い出した。

「変身できるんのは、著しく正義が犯されたときか
自分の命が危険に冒されたときだけやで。」

著しく正義が犯されたときか〜。
どんなときだ?
現実の世界にはショッカーは居ないし、あたしの周りでTVのニュースに出てくるような
事件に出会ったことなんか一度もない。交通事故すら目撃したことがない。
そう考えると、あたしがいかに平和な環境の中で育ってきたのか改めて感じさせられる。
まして、自分の命が危険にさらされたことなんかありゃしない。
事件を探そうにも、こう娘。の活動が忙しくてはそんなこと出来るわけない。

いかん。このままじゃ変身できないではないか〜。
これじゃぁますます気になるじゃんかよ〜。
どんな格好になるんだよ〜。
変身させてくれ!!

あっ!良い事思いついた。


59 名前:G3HP 投稿日:2001年07月21日(土)22時13分22秒

あたしはTV局のビルの屋上にいた。
手摺から下を覗くと目がくらみそうになる。
下から吹き上げる風が髪の毛を逆立たせた。
自分の命が危険になれば変身できるんだから、ここから飛び降りて
途中で変身すれば助かるはずだ。
あたしは手摺を乗り越えて建物の縁に立った。
さすがに怖い。

「よっしぃーなにしてるの!」

振り向くと、そこに梨華ちゃんが青ざめた顔をして立っていた。
あはは。やっぱ梨華ちゃんあたしのこと探し回ってたんだ。
「梨華ちゃん。大丈夫だってば。」
あたしはそういって梨華ちゃんに笑顔で手を振った。
あっ!でもこのままじゃあ梨華ちゃんに、あたしが正義の味方だってばれちゃうか。
う〜ん。
あっそうだ。名前もつけなきゃなあ。
そんなこと考えていたら、いつのまにか梨華ちゃんがそばまでやってきて
腕をがっちり掴んでいた。
梨華ちゃんが泣いている。
「梨華ちゃん、ほら泣かないでよ。」
このままではしょうがないので、一旦手摺を乗り越えて梨華ちゃんの元に戻った。
梨華ちゃんはしゃがみ込んで泣いている。
あたしの足を右手でしっかり握り締めて、しゃくり上げながら
「死んじゃ駄目。」と繰り返している。
正義の味方が守るべき人を泣かしてしまっては洒落にならない。
これでは悪い人になってしまう。
「違うんだよ。梨華ちゃん。死のうとしたんじゃないんだよ。」
こんな言い訳が今の彼女に理解できるわけがないけど、それでもなんとか
梨華ちゃんは泣くのを止めて、ぎこちない笑顔をあたしに見せた。
彼女のその笑顔が、あたしのこころを温かく包み込む。
あたしを心配してくれてるんだ。
やさしい梨華ちゃん。
そうなんだ、正義の味方は梨華ちゃんみたいな天使を守るために存在するのだ。
悪いやつらは、叩きのめさなくてはいけないのだ。
梨華ちゃんの笑顔が、一層あたしの正義感に火をつけた。

60 名前:G3HP 投稿日:2001年07月21日(土)22時13分59秒

でも、この気持ちを一人で抱え込んでいるのは辛かった。
いや、梨華ちゃんと喜びを分かち合いたかった。
あたしは全てを打ち明けてしまいたいという衝動に負けてしまった。
こんな話を信じるわけないか。
そう思ったのだが、そうでもなかった。
話をしているうちに、梨華ちゃんの目は見る見るうちに光り輝き
ぎこちない笑顔が、いつのまにか好奇心一杯の子供のような笑顔に変わっていた。

「絶対内緒だからね。」

そういうと、梨華ちゃんは一段とうれしそうに
「うん。二人だけのヒ・ミ・ツ。」
といって、ほっぺたにキスをしてきた。
あまりに突然だったために腰が抜けてしまいそうだった。
呆然としているあたしを残して、梨華ちゃんは小走りで去っていった。
「ひみつね!」
扉を開けながら梨華ちゃんが、うれしそうに手を振っている。
な〜んか、おかしいぞ?
違和感を感じながらもホッと一息ついた。

61 名前:G3HP 投稿日:2001年07月21日(土)22時15分41秒

それから3日後だった。


あたしは死んでしまった。
殺されてしまったのだ。
TV局の廊下を歩いていたら、いきなり後から梨華ちゃんが金属バットで後頭部を
殴ってきたのだ。
あたしは避けることも変身の呪文を唱える暇もなく、そのまま死んでしまった。


死の直前に見た梨華ちゃんの顔は、皮肉にも天使のように屈託のない笑顔だった。


「それさえもおそらくは平凡な日々(吉澤編)」 〜完〜

62 名前:G3HP 投稿日:2001年07月21日(土)22時16分39秒

「…よって、被告石川梨華を死刑とする。」
判事の声が裁判所に響き渡った。
「うふふっ。どんなヒロインに変身するのかしら?」
梨華は変身リングを撫でながら、笑い続けた。


63 名前:G3HP 投稿日:2001年07月23日(月)23時22分13秒
吉澤編でした。
次は、石川です。
64 名前:G3HP 投稿日:2001年07月23日(月)23時52分13秒
それさえも、おそらくは平凡な日々。(石川編)

あたしの指が、彼女のその細い首をしめている。
指先がしびれてきた。
自分の頬が火照り、顔が紅潮しているのがわかる。
彼女は目を開けたまま、血の気の引いた顔をこちらに向け笑っている。

「見ないで!」

それでも、彼女はまだこちらを見て笑っていた。
目を瞑ってさらに指に力を入れる。
「ぐぶぅ」という声と同時に彼女の膝が折れた。
彼女の体重が突然腕に掛かり、あたしはバランスを崩して
彼女の上にのしかかるように倒れこんでしまった。

指が硬直して首から指が離れない。

どうしようどうしよう。

腕を振ってみるけど、どうしても指が離れない。
あたしは恐る恐る目を開く。
彼女の顔が目の前にあった。
どす黒くうっ血した顔は、少し腫れぼったくなっていた。
顔の筋肉は弛緩し、開かれた口からよだれが垂れている。
つい今しがたまで生命をもったこの生物は、死体という物体に変わっていた。
そこには、個性も人権も残っていない。
肉の塊だ。

「本当に勝ったのは、どちらかしら?」

突然、彼女の生命のともし火を失ったままの黒目があたしを捕らえ、
薄い唇が凍った言葉を吐き出した。
彼女のその言葉で、あたしは気を失った。

65 名前:G3HP 投稿日:2001年07月23日(月)23時53分11秒

それは、今から一ヶ月ほどの前のことだった。
いつものように、楽屋の扉を開くと彼女がいた。

「あ…あなた誰?」
「チャーミー石川です。」

あたしと同じ顔、同じ髪、同じ体型をした彼女は
“チャーミー”って名乗った。
「えっでも…」
「わかってるはずよ。」
チャーミーが、あたしの声であたしの言葉を遮る。
本当は少しだけ向こうのほうが、張りがあって大きな声…

「チャーミーと梨華、どちらが残るのかしら?」

いつからこんなことになったんでしょう。
分身してしまったあたし。。。

でも、自分を信じてポジティブに頑張るしかないです。
ポジティブ?
本当にポジティブに頑張れるのかしら?
分裂してしまった今、あたしのなかにまだポジティブは残ってるのかしら?

66 名前:G3HP 投稿日:2001年07月23日(月)23時53分53秒

「梨華ちゃ〜ん。おはよ〜。」
矢口さんです。
「あっ。おはようございます。」
「チャーミーもおはよ〜。」
矢口さん。なんでチャーミーを何の疑問もなく受け入れているのですか?
全く同じ顔が二つあるのに。

「そういう設定になってるからだよ。」

チャーミーが教えてくれました。
でもなんで、彼女だけ知っているのかしら?

チャーミーなんかに負けない。
チャーミ―は あたしが作ったキャラなんだから負けるわけない。
負けるわけ…。
でも、このままじゃ負けてしまう。
どうしたらいいんだろう?
そうだ、あたしがチャーミーを演じれば…

そう思って、チャレモニのコーナーで、
「チャーミー石川です。」とやってみたら飯田さんに怒られてしまった。

67 名前:G3HP 投稿日:2001年07月23日(月)23時54分33秒

あたしって何なのだろう?
芸能人、アイドル 石川梨華はどんな人なんだろう?
ファンの人って、どうしてあたしのファンになったんだろう?
ルックス?でも、チャーミーも同じ顔。
歌?あたしの??
性格?こんなにネガティブなのに?
アイドルとして必要な要素を、チャーミーが持っていってしまった。
残ったあたしはデビュー前の普通の女の子。
自分に自信がもてない。
だめだ。
こんな自分を変えたいから、モー娘。のオーディションを受けたのに
何も変わってなかった。
結局、アイドルを演じていただけ。
本質は何も変わってない。

いやだ。

負けてしまうと、あたしは完全に消えてしまう。

68 名前:G3HP 投稿日:2001年07月23日(月)23時55分19秒

新曲のレコーディングが始まっていた。
ジャケットでセンターを飾っていたチャーミーは輝いている。
それにくらべてあたしは…
悔しかった。
いや、憎かった。
あのチャーミ―を作り上げたのは、あたしなのよ。
その努力の結果が、センターで両手を広げているチャーミ―なんだ。

なのに、そこにいるのはチャーミ―であって、あたしじゃない。

もう一度やり直そう。
はじめからやり直せばいいんだ。
そのために邪魔者には、消えてもらおう。
だって、このままではあたしが消えてしまう。

69 名前:G3HP 投稿日:2001年07月23日(月)23時56分15秒

どのくらい気を失っていたんだろう。
気づくとチャーミ―の姿はなくなっていた。
「勝ったんだ!」
“チャーミ―”は消滅してしまったのだ。
チャーミ―の死体があった床が、微かに白く変色をしていた。
手が激しく震えている。
自分と同じ顔をした人を、この手で殺してしまったのだ。
違う!消滅させただけ。
存在していた証はひとつも残っていないのだ。
それでも、やはり震えがとまらない。
あたしはしばらくの間、その震える手を胸に抱いて落ち着くのを待った。

今日から新しい石川梨華が始まるんだ。
チャーミ―ではなく、石川梨華で勝負するんだ。
あたしは決意も新たに、楽屋の扉を開いた。

「おはようございま〜す。」

「あっ!おはよう。チャーミ―。」
「えっ?あたしは石川梨華…」
「誰だよ。それ。」

・・・あたしは本当に勝ったのかしら?

「それさえもおそらくは平凡な日々(石川編)」 〜完〜

70 名前:G3HP 投稿日:2001年07月23日(月)23時57分13秒

いつものように、楽屋の扉を開くと彼女がいた。

「あ…あなた誰?」
「キャスター石川です。」

またか。
そう思いながら、清水石川は扉を閉めた。
71 名前:G3HP 投稿日:2001年07月23日(月)23時58分23秒
石川苦悩編でした。

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