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小説 「サッカー娘。」
- 1 名前:コピ男 投稿日:2001年06月26日(火)19時10分53秒
- 暇つぶしにどうぞ。
- 2 名前:コピ男 投稿日:2001年06月26日(火)19時11分46秒
- ねえ、矢口、あんたどこ行くのよ。
後半27分、稲妻にでも打たれたかのような勢いで走り出した矢口真里を見て、東京ディーバの攻撃的MF宇多田のマークに腐心していた保田圭は、こう思った。
保田からすれば、行けるはずのない状況だった。
立ち上がりこそ抑え目だったディーバだが、0−0のまま時間が経過するにつれグイグイとプレーの質を上げてきていたからである。
相手の背番号9に食らいつきながら、保田は到達したかと思った海の底に、さらなる深淵が隠されていたことに気付きつつあった。
宇多田ヒカルは、おそらく女子サッカー選手として、最も名前の知られる選手だろう。
決して恵まれた体格を持っているわけではないのだが、一瞬のスキをついて放つスルーパスはデビュー前から注目されており、
すでに代表としてもプレー経験のある選手だった。
しかも、来期からは女子サッカーの本場アメリカに活躍の場を移すことが決まっている。
- 3 名前:コピ男 投稿日:2001年06月26日(火)19時12分21秒
- 宇多田を自由にすることは、そのまま敗北を意味する。
そう考えた中澤裕子監督は、彼女のマーカーとして保田を指名した。
高校を中退して天王洲モーニングへと入団した保田は、本来は左サイドバックの選手であるものの、
日本人には珍しく馬力と速さを兼ね備えた選手でもあるため、マンマークの能力にも極めて高いものがあった。
保田を本来のポジションに置いてチームの良さを前面に押し出すか、それともこちらの良さは消えてしまうものの相手の良さも消す策をとるか。
ギリギリまで考えた末、中澤は後者を選択した。
保田には宇多田に密着する任務が与えられ、左サイドバックには本来ウイングの石川梨華が入った。
急な役割変更だったにもかかわらず、前半の保田は与えられた任務をほぼ忠実にこなしていた。
完全に見失ってしまったのは1回きりで、その1回はGK飯田圭織のファインセーブによって事なきをえた。
前半が終わった時点で、保田はまずまずの手応えを感じていた。
- 4 名前:コピ男 投稿日:2001年06月26日(火)19時12分52秒
- だが、後半が始まるとすべては変わった。
保田が全力を挙げて封じてきた相手は、実はまだ実力の何割かを温存していたようだったのである。
やっと本気になってきたな、と思ったとたん、宇多田はプレーのスピードをアップさせた。
死に物狂いで追いつくと、スピードはさらに増した。
前半を0-0で折り返した時、チームメイトと「なんだ、私たちでもやれるじゃん」などと軽口を叩いたことを、保田は本気になって後悔しはじめていた。
もはや攻撃のことを考える余裕などどこにもなかった。
あったのは、未知なる世界に引きずり込まれていく得体の知れない感覚であり、腹の底から湧きあがってくる畏怖の念を、
保田は宇多田にしがみつくことで打ち消そうとしていた。
- 5 名前:コピ男 投稿日:2001年06月26日(火)19時13分47秒
- やっぱり、ディーバには勝てないのか。
苦く、そして当然の思いが、選手たちの胸に湧き起こってきていた。
そもそも試合前は、モーニングが勝利を収めるどころか、後半の途中まで無失点でいくことすら考えられなかったのである。
東京ディーバには代表でプレーした経験のある選手が数多く含まれていた。
到底、モーニングが太刀打ちできる相手ではない。
事実、モーニング戦の直前に彼女らは今年度のJリーグチャンピオン、ジュビロ磐田と対戦し、観戦した中澤を驚愕させるほどのサッカーを披露している。
Wリーグ(ウーマンリーグ)サッカーの取材に携わる者で、モーニングがディーバを前半だけでも無失点に抑えると予想した者は、まずいなかったに違いない。
- 6 名前:コピ男 投稿日:2001年06月26日(火)19時14分26秒
- 言うまでもなく、モーニングの選手たちもディーバに勝てるなどとは誰も考えていなかった。
だが、前半は0-0で終わった。
ここで選手たちの心に欲が出てくる。
憧れていたスーパースターたちが、急に手の届く存在に思えてくる。
ところが、さあ手を伸ばそうと思った瞬間、スターたちは突然遠いところへ離れていこうとした。
すでにモーニングの選手は全力を振り絞っていた。
当然、相手も全力だと思い込んでいた。
それが、どうやら間違っていたらしいことがわかってきた・・・・。
モーニングの選手たちは、精神的にも肉体的にも、極度の疲労感を覚えつつあった。
少なくとも、保田はそう感じていた。
- 7 名前:コピ男 投稿日:2001年06月26日(火)19時15分04秒
- そんな時、保田と同じ守備的MFの矢口が、マークする選手はおろか守備のバランスに対する配慮もかなぐり捨てて走り出したのである。
矢口本人に言わせれば「匂った」ということになる。
だが、保田には矢口の行動が理解できなかった。
かれこれ3年のつきあいにもなる仲間の行動が、この時の保田には理解できなかったのだ。
だが、突如として矢口は自陣を飛び出した。
しかも、あろうことか、矢口の動きにつられるように右サイドバックの辻希美もタッチライン際を駆け上がろうとしていた。
- 8 名前:コピ男 投稿日:2001年06月26日(火)19時15分50秒
- 1週間前まで、辻はディーバ戦で自分が先発することはまずないだろうと考えていた。
それが、ディーバを想定した最初の練習で主力チームに組み入れられ、「たまたまだろう」と思っていたら翌日も同じチームに入れられた。
ディーバ戦の先発を言い渡されたのは、試合前日のことだった。
その際、辻は中澤から「とにかく相手の左サイドバック、倉木麻衣の良さを消すように」との指示を受けた。
倉木麻衣は、左足の1発にとてつもない破壊力を秘めた攻撃的サイドバックである。
倉木が攻撃専門の選手であれば、ディフェンダー1人を密着マーカーとしてつけ、その良さを封じることもできる。
しかし、左サイドバックとなるとそうはいかない。
そんな難敵対策として、中澤はタテへの突破を抑える策を考えた。
「倉木がボールを持ったら、とにかく中央に追い込むように」との指示が辻には与えられた。
倉木は左利きのため、左タッチライン沿いのコースを切って中央へ追い込めば、左足でシュートを打つことが非常に難しくなる。
そして、右足しか使えない倉木であれば、さほど危険な存在ではない。
中澤は、そう考えたのだった。
- 9 名前:コピ男 投稿日:2001年06月26日(火)19時16分57秒
- 先発と控え、その紙一重のところに位置している自分の立場をよく理解していた辻は、中澤の指示をできるだけ忠実に実行しようと決心し、
実際、前半は相手にスペースを与えることにもなる攻撃参加を完全に自重していた。
しかも、後半開始早々、最も警戒していた倉木のタテへの突破を許して決定的なピンチを招いてしまったことで、本気になったディーバの怖さを強烈に思い知らされていた。
保田がそうだったように、辻もまた、後半に入ってからのディーバからは底知れない強さを感じ取っていた。
にもかかわらず、辻は矢口とともに、魅入られたかのように前線へと飛び出していったのである。
天王洲モーニングの右サイドはがら空きになった。
- 10 名前:サザエオールスターズ 投稿日:2001年06月26日(火)19時56分41秒
- 小説は小説板でお願いします。
- 11 名前:コピ男 投稿日:2001年06月26日(火)20時58分29秒
- 失礼しました。
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