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「蒼天」
- 1 名前:十三 投稿日:2001年07月14日(土)02時27分26秒
見上げた空の色は飽くまで青く澄み渡っていた。
悠久の時の流れと同様にどこまでも限りなく蒼。
蒼天、まさに蒼天であった。
第一部〜決闘
埼玉県鶴ヶ島市、埼玉県北部のこの市は東京のベッドタウンである。
しかし西に秩父の山々を擁いており、また入間川が市を横切る
様に流れており自然は、大分残されてる。周りにいくつか大学があるが、若者
が、集まるような場所はなく、閑静な・・・悪く言えば寂れた所である。
闇夜に入間川の水の流れる音が溶け込む。カサカサと草がゆれている。
人通りはない。薄暗い外灯がわずかに照らしてる川の辺に人が4人立っていた。
そのうちの二人は、ある程度の距離を保ち先ほどからにらみ合いを続けている。
その二人の磁場で空気が歪んでいるかのようであった。
一人は、話す言葉からして関西の出身、もう一人は、関東の人間であった。
- 2 名前:十三 投稿日:2001年07月14日(土)02時28分52秒
- 「ルールは、何でもあり。それで、ええな?」
関西出身の側の立会人がそういった。
「ええよ。」
関西の出身の決闘者がそういった。
「それでいい。」
もう一人もそれに同意した。
関西の出身の決闘者の名は、平家みちよ、という。平家流という武術を
使う。平家流は、かつて平氏の間で考案創始された武術である。
元々は戦場の武術であったが、江戸時代中期,希代の拳士と謳われた
平 景清により徒手空拳の部分をクローズアップし体系づけられた。
素手でいかに相手を倒すかと言うテーマで一子相伝で伝えられてきた
必殺の武術である。
「実践派空手、心水館の4段、中澤 裕子さんだ。」
平家はそう立会人を紹介した。
もう一人の決闘者は、吉澤ひとみと言った。吉澤には決まった流派はない。
空手を学んでたこともあるらしいが、それにこだわった戦いはしない。
いかに相手を破壊するか?それが、吉澤の戦い方であった。
「石川 梨華だ。」
吉澤は、そう立会人の名前を言った。
- 3 名前:十三 投稿日:2001年07月14日(土)02時29分56秒
- 立会人が退き二人は、構え始めた。
達人同士の戦いは、わずかな息の乱れすら勝敗を分けることがある。
しかし、ひとみは、息を乱していた。恐怖の為ではない。平家を“喰らう”
ことができる喜びの為である。
平家が言う。
「受けてもらえたこと感謝しとるよ」
「挑発されて断るようでは、もはや武道家ではない。いつ始めますか?」
ひとみが言った。
「もう始まってる。」
平家が言う。
- 4 名前:十三 投稿日:2001年07月14日(土)02時30分44秒
その刹那、平家は間を一気に詰めひとみの顔面に正拳を放ってきた。
ひとみは腕で防御する。”ガシッ”という音が聞こえるかのような
突きであった。さらに平家は膝でわき腹を狙うが、ひとみもそれを見切り、
避けさらにローキックを加えていった。平家もそれをブロックしたが
なにしろ威力がけた違いであった。防御しているのに痺れがとまらない。
痺れをこらえて平家がさらに攻撃する。
拳、拳、肘、肘、膝、指。
ひとみは、そのいずれも腕あるいは脚で防いだ。
今度はひとみが、仕掛ける。
拳、拳、肘、脚、膝、
そのうちの何発かは、クリーンヒットした。
激痛が平家の顔をゆがませる。
- 5 名前:十三 投稿日:2001年07月14日(土)02時31分34秒
- (葛・・・・)平家はひとみを倒すには、葛技を使うしかないと悟った。
葛技・・・平家流では関節技を葛技と呼ぶ。しかし葛技を使うことは
相手に密着しなければならない。ひとみのすざまじい打撃をかいくぐり
技を仕掛けるのは容易ではない。だがやらねばならない。
意を決し、平家は仕掛けた。拳、拳、拳・・・・いったい拳を
何発放ったのか解らない、だが、ひとみは、クリーンヒットを許さない。
逆にカウンターで平家のあばらに正拳を入れた。
「ぐはっ」
平家が声を上げたと同時に前に倒れた。
が、その瞬間、平家は、ひとみの左脚をとり軸足を刈った。
そのままヒールホールドに持ち込む。技が決まりそうになりかけたが
ひとみは、踵で平家の顔を狙いにいった。これが功を奏し、ヒールホールド
から抜け出した。しかし、靭帯が伸びていないとはいえ相当なダメージを
負った。ひとみは瞬時に立ち上がった。が、上手く立てない。
- 6 名前:十三 投稿日:2001年07月14日(土)02時32分11秒
- 「これで、五分だね。」
平家が言う。そして痛めている左を中心に容赦なく蹴りを加えていった。
「ぐうっ」
ひとみが苦悶の表情をつくる。形成は完全に逆転していた。
しかし平家も相当ダメージを受けている。勝負を長引かせるわけにはいかない。
一気に勝負を決めにいこうとしていた。渾身の右ロー、これが決まれば
ひとみは、もはや立てないであろう。しかし、ひとみはこれを読んでいた。
右足を踏み込み一気に平家の間合いに入ると膝を平家の腹に入れた。
「げっ」
ひとみの膝が入ると平家の体がくの字に折れ曲がった。
その瞬間をひとみは、見逃さなかった。左腕を平家の首に
巻きつけ右の手でクラッチし、がっちりと腰を落とす。フロント・ネックロックと言う技である。
ひとみが渾身の力をこめると数瞬ののち平家の体から力が消えた。
- 7 名前:十三 投稿日:2001年07月14日(土)02時33分20秒
「そこまでや。」
平家側の立会人が言った。そして平家と吉澤の所まで歩いていき
二人を引き離し、肉塊と化した平家に活を入れた。
「うっ・・・うーん」と言う声がした。平家は何とか意識を取り戻したがまだ
朦朧としている。立会人は平家をそっと横にし、ひとみの方を向き
立ち上がり言った。
- 8 名前:十三 投稿日:2001年07月14日(土)02時34分11秒
- 「素晴らしい勝負やったで、久しぶりに血が滾ったわ」
「次は、あんたか?」
ひとみが言う。
「うちか?うちはやらんで、それにあんたも怪我してはるしな」
中澤が言った。
「逃げるのか?」
「そうやなー、見逃してほしいな、こいつを病院に連れてかんと」
「よっすぃー今日はもうやめようよ」
石川が、ひとみにいった。
「そこの娘もそういっとるで、まっいずれその時がきたらやな」
中澤が言った。
「・・・解った。いつだ?」
ひとみが問う。
「さあな・・・順番や、ウチも待っとるし、待たせてるしな。」
立会人はそう答えた。
「中澤 裕子・・・」
ひとみはそうつぶやくと中澤に背を向け歩き出した。
しかし、先ほどの戦いで痛めた足のため上手く歩けない。
「大丈夫?よっすぃー?」
石川が肩を貸しながら上目遣いで聞いた。
「大丈夫だよ梨華。」
ひとみは、そう答えた。
やがて完全に中澤の視界からひとみと梨華が闇夜に消えた。
あたりには、静寂が戻ったが、まだ獣臭が立ち込めている気がした。
そしていつのまにか中澤も平家を連れて去っていた。
- 9 名前:十三 投稿日:2001年07月15日(日)23時50分50秒
- とりあえずここまで書いてみたんですが
続き書いてもいいんですかね?
- 10 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月16日(月)01時46分01秒
- いや、書いてくださいよ(w
- 11 名前:十三 投稿日:2001年07月17日(火)00時10分56秒
- 8からの続きです。一応・・・
- 12 名前:十三 投稿日:2001年07月17日(火)00時11分27秒
- 第二章〜北狼。
札幌より南西に位置する街、室蘭。
かつては、炭鉱の運送で知られたこの街は、
北海道の良港として知られている。
港には巨大な製鉄所が並び勇壮な姿を見せる。
その大地の広さと同様おおらかな感じの街である。
- 13 名前:十三 投稿日:2001年07月17日(火)00時12分00秒
- 1
室蘭市の南にある岬の近くにに阿井佐賀女子高等学校という高校が
ある。スポーツの活動が盛んで何人もの選手を全国区の大会に送り出している。
中でも活発なのが柔道部である。主将を務める安倍 なつみは、選手権で
11連覇を成し遂げたオリンピック金メダリストを鮮やかな一本勝ちで破り
優勝して一躍時の人となった。TVや新聞の取材が舞い込み、さらに
練習と忙しい日を過ごしていたが、進学先も決まり、取材も一段落つき
残り少ない学生生活を味わおうとしていた。そんな学生生活も残り少なくなった
2学期に同じクラスに転入生が入ってきた。
黒く長い髪が美しく身長が高い、まるでモデルのような容姿の女性だった。
- 14 名前:十三 投稿日:2001年07月17日(火)00時12分41秒
- 「飯田 圭織です。よろしく。」
飯田が少しぶっきらぼうにそういうと担任の先生が言った。
「じゃあ、席は安倍さんの隣で、彼女のこと知ってるでしょ?」
「いえ。」
飯田がまたぶっきらぼうに答えた。
クラスは一瞬凍りついたかのようであったが、当の本人の安倍は意に介さず
と言った感じであった。
安倍は正直言って、学校の中での自分の立場が嫌であった。
先生もクラスメートもどこか自分に遠慮している。自分が柔道で活躍すれば
するほどその溝が深まるかのようであった。そんな時、初めて自分を
クラスメートとしてみてくれる人間が現れた。安倍は純粋に嬉しかった。
二人が仲良くなるのにさほど時間は要らなかった。
きっかけは、簡単なことだった。出身地の話題と言うありふれたことであった。
しかし、話を進めていくうちにどうやら二人は、同じ病院でわずか3日違いで
生まれたことが解った。この話題で盛り上がり一気に仲良くなった。
- 15 名前:十三 投稿日:2001年07月17日(火)00時13分42秒
2
飯田が転入してきて、はや一月がたった。大分、学校にもなれた。
しかし、友と呼べるのは安倍 なつみしかいなかった。
飯田は、学校が終わるとすぐにアルバイトに出かける。
本来ならアルバイトは禁止であるが、学校側も事情が事情である為に
許可をしている。まだ中学生の妹の生活費と学費を稼ぐ為である。
そんな多忙な飯田になかなか遊んでいる時間はない。
また安倍も練習が忙しく遊んでる時間がなかった。
しかし、ある日安倍が飯田に言った。
「圭織〜〜」
「なあに?」
「今度なっち、圭織の家に遊びにいっていい?」
「えっ・・・いいけど練習あるんじゃないの?」
「へへっ実は、オフで4日間の完全休養なの、休みも練習のうちだって。」
「へー良かったじゃん!うん、来なよ!うるさい妹もいるけどね。」
「あっ、でも圭織バイトじゃ・・・」
「休むよ。」
「うん、ありがとう。じゃ今度の土曜でいい?」
「解った、土曜ね、あっ・・・でも家汚いよ・・・」
その言葉を言い終えるとほぼ同時に休みの終わりを告げるチャイムがなり
教室に先生が入って来た。退屈な時間の始まりであった。
- 16 名前:十三 投稿日:2001年07月17日(火)00時14分49秒
- 3.
室蘭本線沿いにある木造アパート。そこが飯田の家である。
4畳半の部屋でかろうじてバス・トイレ付きである。
家賃は破格に安かった。もっともそうでなければ、飯田もここを
住まいとして選ばなかっただろう。しかしこの家に人を
呼んでいいのだろうか?圭織は呼んだあとで後悔した。
約束していた日が来た。時計は、午前11時を指している。
もうすぐ安倍がくる時刻である。
「今日、お姉ちゃんの友達がくるのですか・・・・珍しいこともあるもんですね。」
飯田の妹が言った。
「のの!つまんないこと言うとぶつよ!」
飯田がいう。
「ひーっ!それは、かんべんしてほしいのです。」
希美が言った。
その瞬間チャイムが鳴り、なつみが現れた。
「安倍と申しますが・・・・」
- 17 名前:十三 投稿日:2001年07月17日(火)00時15分43秒
- 圭織はドアの方に歩いてゆき、ドアを開け満面の笑みで「いらっしゃい」と言った。
希美も「いらっしゃい」と言った。
安倍も希美に「はじめまして」と満面の笑みで言った。
「さあ、入って。」
圭織が言った。圭織は安倍を中まで案内して言った。
「まあ座ってよ!」
三人は、畳の上に座った。
「あれっ?」
希美が言った。
「この人どこかでみたことあるのです。」
「有名人だからね。なっちは。」
圭織が言う。
「アイドルなのですか?」
希美が言った。
「アイドル???」
圭織と安倍は、顔を見合わせ笑い出した。
笑いも収まったころ、安倍は希美に言った。
「なっちはね、柔道の選手なんだよ。」
「へ〜強いのれすか?」
希美は、きいた。
「うん強いよ!日本で一番強いんだよ。」
圭織は、そう言った。
「う〜〜ん、じゃあ、お姉ちゃんとどっちが強いのですか?」
「えっ?」安倍は一瞬、希美が何を言っているのか理解できなかった。
- 18 名前:十三 投稿日:2001年07月17日(火)00時16分18秒
4.
「ははっ、ののはね、いつもあたしに苛められてるからあたしが一番強いと
思ってるんだよ。」
圭織がいった。
「そうなんだー」
安倍はくすくすと笑いながら言った。
それから三人は、しゃべり続けた、たわいもない会話であったが、普段から
練習漬けの安倍やバイトで忙しい圭織にとって貴重な時間であった。
気がつくと時計は4時をまわっていた。昼食も取らず5時間以上しゃべっていたことになる。
「あーおなか減ったのれす。」
希美が言った。
「じゃ、ご飯でも作ろうか?なっちも食べていきなよ。」
圭織が言った。
「うん。」
安倍が答える。
「じゃ、ののは買い物行ってきて!」
圭織が言った。
「ええ〜〜」
希美が露骨に嫌そうなこえをあげる。
「ののちゃん!なっちといくっしょ。」
安倍が言った。
「うん。」
希美が嬉しそうな声をあげる。どうやら安倍と完全に打ち解けたらしい。
「じゃ、いってくるね」
安倍と希美は、そういうとドアを開け買い物に出かけていった。
(さてと、準備でもするか。)
圭織はそう思い、部屋をかだづけ始めた。
二人が買い物に出て一時間位の後、希美が息を切らしてドアを開けた。
「た・・・・大変なのです。な・・・なっちが・・・・」
希美は、震えながら言った。
「なっちがどうしたの?」
圭織が問う。
「さらわれたのです・・・・・・・・・」
- 19 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月29日(日)12時50分46秒
- 1度だけageさせてください。続き待ってます。
- 20 名前:十三 投稿日:2001年07月29日(日)18時03分54秒
- >18の続きです。
- 21 名前:十三 投稿日:2001年07月29日(日)18時04分25秒
- 5.
「ののっ、あんたがついていながら・・・・・」
圭織は希美を責めた。
「もうしわけないです・・・・・」
希美は今にも泣き出しそうである。
「でも、あいつ、とんでもなく強かったのです・・・」
今にも消え入りそうな声で言う。
圭織には、心当たりがあった。
「あいつか・・・・・・」
その時、圭織の携帯が鳴った。ディスプレイには安倍 なつみと書いてある。
「なっち?」
圭織は聞いた。
しかしその声の主は安倍では、なかった。
「久しぶりだね。飯田。」
その声の主は、低く迫力のある声で言った。
「・・・・・お前か」
圭織は怒りで声が震える。
「この娘は、預かっとくよ、返してほしいかい?」
「どこにいけばいい?」
圭織が怒気を含んだ声で言う。
「ははははは、察しがいいね、埠頭の4番倉庫に9時に来な!」
そういうと、一方的に電話を切った。
(なっち・・・・・ごめん・・・)
圭織は、そうつぶやいた。
- 22 名前:十三 投稿日:2001年07月29日(日)18時05分29秒
- 6.
時刻は8時50分をまわっていた。安倍は目を覚ました・・・・
(ここは、どこだろう?)
そう思う。
そして、自分の体を不自由にしてるものに気づいた。ロープで縛られている。
さらに口もテープをはられている。視線の先に
中国拳法の胴衣を着た女がいた。
安倍は思い出した。買い物の途中で、この女に襲われたこと、そしてなすすべもなく
叩きのめされたことを・・・・
安倍は思う。(こういう時に身を守ってくれるのが柔道ではなかったか・・・)
女は安倍が目を覚ましたのに気づき言った。
「心配しなくても、もうすぐ奴はやってくるよ・・・殺されにね。」
(奴???)安倍は思う。
「あさみ!こいつを見張ってなっ!」
女はそういうと自分の舎弟に安倍を見張らせ,倉庫の中央に移動していった。
その時ガタッという音が聞こえた。
「どうやら来たみたいだね。」
女が言った。
安倍は、その入ってきた人をみて驚いた。
(圭織?????)
圭織は、中国拳法の胴衣に身を包み、髪は後ろに束ねていた。
圭織は、女と安倍を確認した。
そして女を鋭い目で凝視し言った。
「石黒っ〜〜〜!!!、てめえの血は何色だぁっ???」
圭織は、女・・・石黒 彩に言った。
「フッ・・・お前につけられた顔の傷が疼くんだよ・・・・お前を殺したいってな!」
石黒が言う。
二人は過去に立ち合っている。飯田が以前通っていた学校の不良グループと
飯田の間でいざこざがあった。飯田は、その不良グループと立合い
完膚なきまでに叩きのめした。その中の一人に石黒の妹がいた。
その妹が姉に泣きつき、自分の敵を取って欲しいと懇願した。
石黒にとっては、餓鬼の喧嘩、自分が出るまでもないと思っていたが
話を聞くうちに飯田と言う女が中国拳法それも相当な使い手であると
見抜き、興味を抱き妹の頼みを聞いた。中国拳法の使い手であり暴力団の用心棒である
石黒にとって造作もないように思えた。
しかし結果は、無残にも飯田に敗北を喫し右ほほには手刀で大きな傷を負わされた。
石黒は、薄れ行く意識の中で飯田への復讐を誓った。
飯田はその時の石黒の執念の黒い炎を宿したその目に戦慄を覚えた・・・
死合いには勝った。しかしこうなると飯田はもうその町に居られないと悟
り町を去った。
- 23 名前:十三 投稿日:2001年07月29日(日)18時06分18秒
- 「言いたいことは、それだけか?てめえ許せねえ!」
圭織はそういうと石黒に向かい間を詰めていった・・・石黒も同様に
圭織に向かい間を詰めた。
拳・・・疾風のような拳が圭織を襲った。圭織は体をそらし避ける。
(速い・・・以前より・・・)圭織は、思う。
さらに石黒は、拳と肘のコンビネーションで圭織を責める。
圭織は、それを腕あるいは、掌底で防ぐ。
さらに圭織は石黒の正拳に対し、カウンターを放っていった。
石黒はそれを腰をおとし、かわすと圭織の腹部に掌底突きを放った。
「ぐはっ」掌底がクリーンヒットし圭織が前のめりになる。
石黒は、その機を逃さず、飯田に踵落しを仕掛ける。
飯田は、すばやくそれを回避すると即座に体制を立て直し石黒の胸部
に拳を見舞う、正拳の威力が充分発揮される距離ではないかに見えた・・・
「げっ!」という言葉が漏れる。石黒の体は、宙を舞いあとずさった。
「寸剄・・・・・」
石黒はそうつぶやいた。
「くっくっくっ、楽しいな、おい」
石黒が言う。
「ほんの挨拶だ。」
圭織が言った。
- 24 名前:十三 投稿日:2001年07月29日(日)18時07分51秒
- 石黒が攻撃を仕掛ける。シュッという音がし石黒の蹴りが圭織の
顔の付近を掠める。石黒の蹴りは、まさに高速の”円”であった。
触れれば切れる巨大な刃物であった。石黒はさらに拳と肘で圭織を
責める。飯田のガードが上に集中した間隙を縫って石黒の下段蹴り
が圭織を襲った。
「つっ」
圭織が声を漏らす。
さらに石黒は膝で圭織の脇を狙ってきた。
しかし、圭織はこれを紙一重で見切り、下段蹴りを石黒の脚に見舞わせた。
圭織の蹴りは、鉈のような蹴りだった。特に蹴りの速度が速いというわけでは
ない。しかし標的に向かい最短距離を疾る鉈の動きの蹴りをかわすのは、
容易ではない。なによりも破壊力が尋常ではなかった。堅いハンマーで
殴られた感触であった。
「ぐっ」
石黒が痛みをこらえる。
「まだ始まったばかりだよ!」
圭織が言った。
「そのとおりだな。」
石黒も言う。
その後は、拳の応酬であった。脚が拳が肘が、膝が、頭が、つま先が、肘が
乱れ飛ぶ。がッがッ、という音が聞こえてきそうだった。
不意に石黒が3本の指を滑らし圭織の目を狙っていった。
圭織はそれを読んだいた。手刀でその指を叩き切った。
苦悶の表情をうかべ石黒は、圭織に背中を向けた。
(好機!)圭織はそう決め石黒に向かった。
- 25 名前:十三 投稿日:2001年07月29日(日)18時08分41秒
- だが、それは、巧妙に仕組まれた罠であった。
石黒は身をかがめると、後ろ足で跳ね上げるように蹴りを放った。
飯田は、後ろに体をそらしたが踵を肩に食らってしまった。
激痛でもう肩は使い物にならない。
飯田は、大きく後ろにのけぞり肩を抑えてた。
「ふふっ、これでようやくこの疼きを止めることができるよ。」
石黒は勝利を確信した物言いであった。
石黒はとどめを刺そうとし、圭織の方に向かう。
圭織は、最後の力を振り絞り左下段回し蹴りを石黒に放った。
(最後のあがきか・・・石黒はそう思った。)
石黒はこれを右脚を軽く上げ防いだ。・・・いや防いだつもりであった。
だが蹴りは、石黒の脚に当たらなかった。圭織の蹴りは急激にその起動を変化させ
圭織の足の裏は石黒の膝の上にあった。圭織はこの膝を踏み台にしさらに跳躍し
右膝で石黒のこめかみを狙いに行った。ここまで一呼吸、人間技ではなかった。
”飛龍”・・・圭織はこの技をそう呼ぶ。プロレスではシャイニング・ウィザードという。それが石黒のこめかみ
を捕らえた。ゴッという音とともに石黒はその場に倒れた。
石黒はもう起き上がってくることは出来なかった。
- 26 名前:十三 投稿日:2001年07月29日(日)18時10分05秒
7.
圭織は、あさみの方を向き言った。
「おいっ!連れてってやんな、頭は動かすんじゃないよ!」
「・・・・・は・・・はいっ!」
あさみは、目の前にいる圭織に怯え震えながらも何とか石黒の下に行き
石黒を連れ出した。それを見届け、圭織は、安倍のもとに歩いていった。
「あ・・・あの・・・圭織・・・・あの・・・・あの・・・」
安倍は、石黒と圭織の死闘をみて錯乱している。今までの自分の
知っている強さとは別次元の強さ・・・戦いを見て、そして何より
自分の知らなかった、飯田 圭織をみて。
圭織はロープを解き、テープを外し安倍の頬に自分の頬を寄せた。
圭織は泣いていた。
そして、そっと安倍に言った。
「なっち・・・・さよなら・・・」
- 27 名前:十三 投稿日:2001年07月29日(日)18時12分23秒
- >19さん
ありがとうございます。なんか感想とかいただけると
書いてく上で非常に参考になります。
感想とかあったら宜しくお願いします。
- 28 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月30日(月)01時04分14秒
- レイ?? 南斗水鳥拳のレイ??
- 29 名前:十三 投稿日:2001年07月30日(月)22時05分41秒
- >28さん
まあそうですが、その他にもいろんなキャラをちょこっとずつ混ぜて
作っています
- 30 名前:十三 投稿日:2001年08月03日(金)00時04分42秒
- 第3章〜巨凶
千葉県船橋市。東京湾に面したこの
市は海側に大きな工業地帯があり活発な生産活動が
行われている。また市にいくつもの公団や高層住宅
があり多くの人が住居を構えている。人口55万人。
千葉県屈指の巨大な市である。
1.
JR総武線津田沼駅をおり少し歩くと飲み屋街が
形成されている。その飲み屋街の中の目立たない路地に
朝娘屋という焼き鳥屋がある。カウンターに7人も座れば
満席という小さな店であった。その客もこの日は、生憎と
一人しか居なかった。その客は、先ほどから黙々と麦酒を飲み、
ネギマを食べている。もうジョッキで10杯は飲んでいるがまったく酔った
形跡はない。いやそれどころか酒を飲んでるにもかかわらずまったく
隙がなかった。それどころか食べてる姿からですら圧倒的な闘気を放っていた。
客の名は市井 紗耶香と言った。
「ネギマ・・・」
市井が注文した。その声にすら殺気がこもっているかのようであった。
やがて注文したものを食すと残っている麦酒を一気に飲み干すと
市井は店を出た。
- 31 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月11日(土)05時04分38秒
- 圭織カッコイイ!惚れた!
- 32 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月13日(月)18時29分47秒
- 餓狼伝?泉 宗一郎=平家なの?
- 33 名前:十三 投稿日:2001年08月16日(木)01時21分11秒
- >30の続きです。2.
市井は通りの方に歩いてゆき角を曲がろうとした時、一人の女が
市井にぶつかった。
「ごめんなさい。」
女はそういうとさっさと歩き出した。
「おい!」
市井が言う。
「はい?」
女が振り向き言った。
「返しな!」
「はいっ?」
「とぼけんな、財布だよ。」
「えへへへへへ・・・・」
女は不気味な笑みを浮かべると一目散に逃げ出した。
女はしばらく走り人気のない公園まで逃げた。
女は後ろを振り返り、市井がついて来てないのを確認した。
(ここまで逃げれば大丈夫だよね〜〜)そう思った。
「なかなか逃げ足が速いな。」
女の前には市井がいた。
「なっ・・・・・」
女が驚く。しかし焦った様子はない。
「あんたも運がわるいね〜〜黙って財布取られてりゃ怪我しなくてよかったのに」
女はにやにやと笑いながら言った。
「ほう」
市井が獣の笑みを浮かべて言った。
- 34 名前:十三 投稿日:2001年08月16日(木)01時22分51秒
3.
「まあこうなっちゃった以上仕方ないね諦めな。」
女はそういうと市井に対して中断蹴りを放った。
市井は右腕で防御する。女の体のほうが弾き飛ばされた。
「はぁっ???」
女は驚く。
次の瞬間に市井の中断蹴りが女を襲った。
女は右腕で防御した。・・・が市井の蹴りが 当たった瞬間、ボキッという
音が女の耳に聞こえた。骨が折れた音であった。
(なんなんだよこいつ・・・・・)女は思う。
それから市井はさらに女の首をとらえ膝を腹部に入れた。
「がはっ!!!」
女が声を発しあたり一面に吐しゃ物が撒き散らされた。さらに肘で背中を
打つ。女の意識は朦朧としている。
- 35 名前:十三 投稿日:2001年08月16日(木)01時23分30秒
- しかし、市井は、さらに攻撃を続ける。
膝が女の顔面を襲った。この一撃で女の戦意は完全に喪失した。
獅子は兎を倒すのにも全力を尽くすという。
しかし、市井と女の戦力差はそれ以上であった。
女は、もう意識は飛んでるかの様に見えた。しかしまだかろうじてたっていた。
(・・・へへへへ・・・な・・・なんかさ〜とんでもない奴から掏っちゃったよ
・・・いるもんだね〜〜こんな化け物みたいなのがさ〜〜
あ〜〜そうそういい忘れたことがあるよ・・・・・・・)
女はなんとか顔を上げ市井の方を凝視し、言った。
「あ・・・あたし・・・後藤 真希・・・あ・・・あんたの・・・で・・・弟子に
してくれ・・・・・」
後藤はそういい終えるとその場に倒れた。
- 36 名前:十三 投稿日:2001年08月16日(木)01時24分29秒
- 4.
「ぅ・・・・つっ・・・・・」
後藤は、気がつくとベッドに寝ていた。傷は、手当てがなされていた。
(ここはどこだろう?・・・・)
後藤は、辺りを見渡した。視線の先に見たことのない・・・否、自分を
こんな体にした者がいた。
「あんたが、手当てしてくれたのか?」
後藤が言う。
「・・・・・」
市井は沈黙を保つ。
「あんた凄いね。全然手加減しねえでやんの。」
「何故強くなりたい?」
市井が沈黙を破った。
「・・・・強く・・・・誰よりも強くなりたい・・・・」
後藤は、顔を俯け声をかみころす様に言った。
「あたしよりもか?」
「あんたよりもだよ」
「そうか・・・・いいよ、ついてきな!」
「えっ?」
「あたしの弟子になりたいんだろ?」
「う・・・うん。」
「とりあえず、しばらく休んどきな!ここ、あたしの知り合いが
やってる病院だから遠慮しなくていいよ。」
「あ・・・・・・ありがとう・・・あんた・・・いや、あなたのお名前は?」
「市井 紗耶香」
「市井・・・・・ちゃん・・・・」
- 37 名前:十三 投稿日:2001年08月23日(木)01時53分11秒
- 4章〜継承
1.
平家との死闘から二ヶ月が過ぎていた。
吉澤 ひとみは、三重にいた。
中澤を介し、平家が自分に合いたがっていることを知った。
(なぜ?)という気持ちがないわけではなかった。
しかし、あれほどの人物ともう一度会えるということだけでも
行く価値はあると思った。気がつくとひとみは三重にいた。
駅を出て中澤に教えられた住所に向かい歩き出した。
「よっすぃーと旅行なんて初めてだね。」
梨華が言った。
「旅行じゃないよ、そもそもなんでついてくるんだ?」
ひとみが言う。
「え〜だって、一人にするとよっすぃー浮気するでしょ?」
「しねーよ」
「ほんと?」
「それよりも、前から言ってるけど、その呼び方はやめろ!気が抜ける。」
「え〜かわいいじゃない?」
「いいからやめろ。」
「うん、わかったよ、よっすぃー」
- 38 名前:十三 投稿日:2001年08月23日(木)01時54分48秒
2.
二人は、しばらく歩いた。
気がつくと町から大分遠ざかっていた。あたりは田んぼと山という
日本的な景観が広がっていた。
そんな中に平家の屋敷があった。
広大な敷地の中に純和風の建物、それ以外にも武道場まであった。
庭はちょっとした日本庭園を思わせるつくりであった。
「うわ〜おっきいね〜」
梨華がいう。
「人は日にベーグルを5つ、畳は4畳あれば十分。」
ひとみはボソッと呟く。
「なんかいった?」
梨華が問う。
「別に・・・」
ひとみは門の前に立った。門は開けっ放しであった。
ひとみは躊躇なく敷地ないに入っていった。
庭の方を見ると組み手が行われていた。一人は中学生、もう一人は
高校生くらいであった。練習生であろうか。頃合をみはかり
ひとみは近づき「平家さんに会いに来たんだけど・・・」
と言った。
「ああ、あんた吉澤さんやろ?」
中学生位の娘がそう言った。
「ああ」
「ちょっとまってな。今、先生呼んで来るわ。」
そういうとその娘は、屋敷に平家を呼びに行った。
「先生は、すぐ参ります。どうぞこちらへ」
高校生位の娘はそういうと二人を武道場に案内した。
- 39 名前:十三 投稿日:2001年09月01日(土)23時55分12秒
- 3.
武道場は板張りであった。平家流は、組み技、関節技が中心の武術であるが
何故か道場は畳でなく板張りである。
広さは、3〜40人くらいが同時に稽古できそうな感じの広さであった。
「どうぞ」
案内してくれた娘が言う。
そういうとひとみと梨華は、板の上に正座をし平家がくるのをまった。
娘は道場の奥に消えていた。そして数刻の後二人にお茶をだしてきてくれた。
「粗茶ですが・・・・」
「ありがとうございます。」二人は答える。
ひとみは、娘を見た、くりっとした目をしたかわいらしい娘であった。
ひとみはお茶を飲み「おいしいです。」と言った。顔は少ししまりがなかった。
「ありがとうございます。」
娘はにこっとしてそう答えた。
「よっすぃーなにでれでれしてんの?」
梨華がちょっと怒った顔で言う。
「・・・・・・」
ひとみは答えない。
その時、武道場の扉が開き平家が入ってきた。先ほどの娘も一緒であった。
平家は、ひとみと梨華の正面にたち正座し相対した。
娘二人も平家の横に座った。
- 40 名前:十三 投稿日:2001年09月01日(土)23時56分04秒
- 4.
平家は、じっとひとみの方を見て言った。
「君と立ち合った時・・・・勝てないと思ったよ。」
意外な言葉であった。
「しかし・・・負けても悔しさはないよ・・・・君が全力で私を仕留めに
きてくれたからね。」
続けて平家が言った。
しばらくの静寂がおとずれた・・・・・
「そして、私も全力で戦った・・・・それこそ全力でね・・・
敗れたとはいえ、この技術が錆びる前に使うことができたんだよ。
君に・・・・・・・感謝したい。」
静寂を破り平家が言った。さらに平家は言う。
「そして・・・・君に平家流の葛技を受け継いで欲しい・・・」
「私がですか・・・・しかし、平家流は、一子相伝では・・・」
ひとみが言う。
「もうそんな時代じゃないんだよ・・・密室で生まれた技は
蒼天のもとにさらされた時、その無力さを知る・・・・
すでに心水館にも何名か私の元で学んでいったものもいる。」
平家は、淡々と言った。
「解りました。学ばせていただきます。」
ひとみが言う。
「ありがとう・・・・・。」
平家は、涙を浮かべていた。
- 41 名前:十三 投稿日:2001年09月01日(土)23時56分41秒
- 5.
「そうそう、紹介し忘れていた・・・」
平家はそう言い、となりに座っていた二人を紹介し始めた。
「松浦 亜弥、隣が加護 亜依だ・・・」
「松浦と申します、はじめまして」
先ほどの高校生くらいの娘がそう答えた。
「加護です、よろしく」
中学生位の娘はそう言った。
「ところで、頼みがあるのだが・・・・この二人は次代の平家流を
担う者・・・しかし、いかんせん実践不足。どうだろう?
少し稽古をつけてもらえぬか?」
平家が言った。
「解りました。不肖、石川 梨華、平家流のお役に立てる
とは、望外です。」
石川がそういうと平家流の3人は、冗談だと思ったらしい。
少し笑みがこぼれた。
しかし、ひとみは、「どうでしょう?平家さん、こちらのお二方の
相手に梨華は?実力は、私が保証します。」と言った。
しかし、平家はそういうもののまだ納得してはいないようである。
が、最終的にひとみの言葉を信じ、対戦を許可した。
- 42 名前:十三 投稿日:2001年09月09日(日)03時33分21秒
6.
平家側はまず、松浦が出た。
ルールは顔面は寸止めのルールが採用された。どうやら梨華に気を使っての
ことらしい。(なめられたもんだね)梨華はそう思う。
立合いが始まった。
松浦は,ややアップライト気味に構える。一方の石川はノーガードである。
しかし、隙は皆無であり。むしろ空気に同化してるかのようである。
次の瞬間松浦のローキックが梨華めがけて放たれた。
しかし、そのけりは、空を切った。梨華が動いた様子はなかった。
次に正拳を放っていった。しかし、今度は、拳が体をすり抜けた感じがした。
(はあっ???)
松浦はさらに拳を乱発する、しかし、そのどれもが、梨華の体をすり抜けていった。
(なに〜こいつ???)
松浦は、思う。
それを見た平家の顔色は変わっていた。
松浦は打撃技では、だめだと思った。組み技で勝負にいこうと決めた。
そして梨華の間合いに入った瞬間、稲妻のような突きが繰り出された。
一秒にも満たない時間で梨華は松浦に5発の突きを放った。
最後の顔面への一撃は、当たる数ミリ前でとまっていた。
- 43 名前:十三 投稿日:2001年09月09日(日)03時34分03秒
- 「そこまでや!止め!」
そう平家が言った。
「はははははは・・・松浦!あんたじゃこの娘の相手は、まだきついで!」
平家はなにか解ったようである。
- 44 名前:十三 投稿日:2001年09月09日(日)03時35分18秒
- 7.
小湊流・・・・福島を発祥の地として、長い年月を
かけ受け継がれてきた武術である。それを31代当主、小湊 美和が
改良を加え剣道の見切りからヒントを得た”神技的ディフェンス”そして稲妻のような”3
連突き”を完成させた。そして石川はさらに改良を加え5連突きを完成させた。
小湊流・・・最強の矛と盾を兼ね備えていた。
「・・・そうか小湊の者か・・・その若さで小湊流を継いだか・・・
美和はどうや?壮健か?」
平家が問う。
「先生は、病が元で逝かれました・・・・・」
梨華が答える。
「・・・惜しい人物を亡くしたものよ・・・・
それで、今は道場はどうなっとる?」
「はい、今はもうありません。しかし、私が自分の拳を
見つけた時、改めて再開したいと思います。」
「そうか・・・・ならば、あんたもしばらく私のもとへ
通ったらどうや?」
「宜しくお願いします。」
「ふっ、うちと小湊も若いときは、こうして互いを磨いたもんよ・・・」
- 45 名前:十三 投稿日:2001年09月09日(日)03時36分05秒
- 8.
夕闇があたりを包んでいた・・・
平家は、自分の所に泊ってゆけと言ったが、生憎二人とも
荷物をホテルに置いてきてしまっていた。
その為二人は明日また伺うということにして平家の屋敷を後にした。
来た道を帰ると思うと二人は、気が重かった。しばし、二人は無言であった。
が、静寂を破るかのようにひとみが言った。
「ねえ?なんであそこで松浦さんと戦おうと思った?」
「うん、別に・・・なんとなくかな。」
梨華がいう。
「ふ〜〜ん、そっか・・・」
「なに?なんか言いたそうだけど。」
「別に・・・」
「なによ〜〜!!」
「いやさ梨華さ、もしかしてさ・・・」
ひとみは、にやにやしてそう言う。
「もしかして、なによ?」
梨華はちょっと怒ってる。
「妬いてる?」
「や・・・妬いてないよ!!」
「ふ〜〜ん、そっか」
さらにひとみは、にやにやしながらそう言った。
(バカ!!)
梨華はそう思った。
- 46 名前:十三 投稿日:2001年09月09日(日)03時36分59秒
9.
二人は、それからしばらく歩いていた。気がつくと街についていた。
「ん?」
ひとみは、通りに人だかりが出来てるのを確認した。
(喧嘩か!)長年の経験でこういう事は、良く解る。
人が遠巻きにしている中心に二人、人がいた。
一人は、小柄でどこか無愛想な感じであった。
もう一人は、前歯がねずみのようにでている。格好からして堅気の人間では、ないようだ。
「なあ、姉ちゃん?どうするんやこれ?おろしたてが台無しやわ。」
ねずみの様な歯の人間が言った。名は、稲葉 貴子という。
やくざ者であり、この辺りでは、少しは、名が知れているらしい。
見るとスーツの裾に泥がはねた後があったようであった。
「あたしがやったって言うなら謝るけど・・・」
無愛想な娘はそう言った。
「そやない・・・そう言うことやないんや姉ちゃん!」
稲葉は、言う。
「5万置いて帰ェんな」
続けて稲葉は言った。
- 47 名前:十三 投稿日:2001年09月09日(日)03時40分07秒
- (フッ)無愛想な娘は、笑った。
「おかしいか?姉ちゃん?」
そう言うやいなや稲葉は殴りかかった。
拳は、顔面を捉えた・・・が殴った稲葉の方がダメージがある。
「話はついたな・・・帰らしてもらうよ」
無愛想な娘はそう言った。
「まてえや!!」
稲葉はそう言った。右手にはナイフが握られていた。
「せっかくこの毒リス、稲葉さんともめてるんや、もうちょい遊んでいったら
どうや?」
稲葉は言う。
- 48 名前:十三 投稿日:2001年09月09日(日)03時41分09秒
- 「つまらんぞ・・・泥はねたくらいで怪我するのは・・・」
無愛想な娘はそう言った。
あたりに緊張が漂う。
「よっすぃー助けに行こうか?」
梨華が言う。
「・・・いや・・・いい。」
ひとみは、娘からただならぬ雰囲気を感じ、それを見てみたい衝動に
かられていた。
「手加減できないよ」
無愛想な娘はそう言った。
その言葉が言い終わるかどうかの時、稲葉は刺しに言った。
娘は、半身でナイフを交すと裏拳で稲葉の手首を打った。
ナイフが宙に舞う。
さらに首を捕らえ顔面に一発、前のめりになった所に背中に肘で一発。
それで終わった。
カッーンと宙にまったナイフが落ちる音がした。
娘はゆっくりとその場から立ち去っていた。
辺りには再び元の街に戻っていた。
- 49 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月09日(日)06時11分42秒
- リンかけとは……。
肌がひりつくような緊張感のある戦い期待してます。
- 50 名前:十三 投稿日:2001年09月10日(月)00時43分26秒
- >>49さん
わかってくれる人がいて嬉しいです。
最初はもっと短くするつもりでしたがいつのまにか
終わりが見えなくなりましたがなんとか完結できるように頑張ります。
- 51 名前:十三 投稿日:2001年09月12日(水)00時48分15秒
- 10.
二人は、ホテルに戻っていた。
ベッドに横になりひとみは、思う。
(先ほどの娘に勝てるだろうか?自分ならあの局面で
あれほどの的確な判断ができるだろうか・・・)
しかし、睡魔には勝てずひとみはそのまま寝た。
その時、梨華がシャワーからでてきた。
濡れた髪がより一層、色気を増している。
「よっすぃー、あいたよ。」
梨華が言う。しかし返事はない。
「吉子さ〜〜〜ん」
さらにいう。返事はない。
痺れを切らし梨華はベッドのある部屋に移動してきた。
「あ〜〜あ、寝ちゃってるよ。」
そう呟いた。
(寝顔は、可愛いよね〜闘ってる時はかっこいいけど)
梨華はそう思いながら毛布をかけてあげた。
そして自分のベッドに移動して腰掛けた。
今日のことを思う。
(何故あそこで、あんなにムキになったのだろう?まだ修行がたりないよ)
「・・・・ゃん・・・」
(えっ?)
「・・・ちゃん・・・」
(なんだ・・・寝言か・・・でも・・・ちゃんって誰?)
- 52 名前:十三 投稿日:2001年09月12日(水)00時48分45秒
11.
(お姉ちゃんどこにいるの?ひとみをおいていかないでよ・・・・
お姉ちゃん・・・お姉ちゃん・・・。あっ・・・お姉ちゃんいた。
もう、ひとみの側から離れちゃやだよ・・・・・・・・・・・・)
(あんたが・・・・・・あんたがいるからあたしは・・・・・・
あんたが・・・・あんたが・・・・あんたが・・・・)
「お姉ちゃん・・・・・・」
- 53 名前:十三 投稿日:2001年09月12日(水)00時49分26秒
- 12.
(お姉ちゃん?そういえば、前に言ってたね。病気のお姉ちゃんがいるって。
よくなるといいね、よっすぃー)
梨華がそう思った瞬間、ひとみは目をさました。
「・・・・・・・・夢か・・・・・」
ひとみはそう独り言を言った。
辺りを見回す。
梨華の姿が目に入った。
「大丈夫?」
梨華がそう声をかけた。
「えっ?」
ひとみが答える。
「なんか少しうなされてたみたいだから・・・・」
「・・・ああ・・・大丈夫・・・」
「そう・・・」
「うん」
そう答えたひとみの声には、力がなかった。
- 54 名前:十三 投稿日:2001年09月12日(水)00時49分58秒
- 13.
翌日の早朝、二人は昨日の約束通りに平家の屋敷に来ていた。
ゆっくりするまもなく道場に移り早速、平家との稽古を開始した。
葛技の型、そして葛技に入るためのいくつもの
バリエーションを繰り返しみっちりと叩き込まれた。
「さすがにのみこみが早いな」
平家が言う。
「とんでもないっス」
ひとみが答える。
「それでは、すまんが加護と松浦の相手をしていてもらえんか?」
「はい」
そうひとみに頼むとさっきまで加護と松浦と稽古していた石川のほうを見ていった。
「次!石川っ」
「はい、よろしくお願いします。」
石川が答える。
- 55 名前:十三 投稿日:2001年09月12日(水)00時50分32秒
このようなことが数回繰り返された。やがて平家が動けなくなっ
たところで稽古が終了した。
「二人ともさすがやな、ええもんもっとる・・・しかし・・・すまんな
教えるのがウチ、一人で。加護と松浦もええもんもっとるんやが
まだ、あんたら相手にするんは、早すぎる・・・・。」
平家は、もうしわけなさそうに二人に言った。
「いえ、そんなことは・・・・」
ひとみは、そう言ったが、表情からは、物足りなさを漂わせている。
「こんな時に、や・・・・」
「えっ?」
「い・・・いや、なんでもあらへん・・・それより明日、あんたらに紹介したい
人がおるんやけどええか?」
「誰ですか?」
「会ってからのお楽しみや」
- 56 名前:十三 投稿日:2001年09月12日(水)00時51分05秒
- 14.
翌日ひとみと梨華は昨日の疲れを残しながらもまた朝から平家とともに
稽古を行っていた。平家はさすがに昨日の疲れを残しているのか
動きが鈍い気がした。いやそれはひとみと梨華の動きが
昨日と比べ物にならないくらいキレを増しているためにそう見えたのかもしれない。
「休憩や」
平家が、そう言った。
三人は、しばし、その場で談笑をしていた。
やがて、空気が動いた。来客のようである。
「先生。」
客が平家に言った。
「おう!来たか!」
平家が答える。
(こいつは・・・・・)ひとみは、思った。
数日前に稲葉を叩きのめした娘がたっていた。
「紹介しよう、心水館三段、福田 明日香や」
- 57 名前:十三 投稿日:2001年09月12日(水)00時51分46秒
15.
「名前ぐらい聞いたことがあるやろ、心水館三段、福田や」
平家は、ひとみにそういった。
「福田です。」
明日香は、軽く頭を下げそう言った。
「福田、紹介するで・・・」
平家が言葉を発してる最中、福田は言った。
「吉澤 ひとみと石川 梨華ですね。」
「初対面やないんか」
平家は面食らったかのように言った。
「二度目です。」
明日香が言う。
「ヘェ・・・あの時みてたの知ってたのか。」
ひとみが言う。
「平家先生から聞いていた。吉澤 ひとみと石川 梨華の顔つき、体つき、空気・・・」
明日香が答える。
「ほぉ〜〜」
ひとみは、不機嫌そうな顔でそう答えた。
- 58 名前:十三 投稿日:2001年09月12日(水)00時53分02秒
- とまあここまで書いてきたわけですが、
誰か”こいつとこいつを戦わせろ”と言う
のなんかないですかね?
- 59 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月12日(水)02時59分09秒
- 正直まだキャラの強さがわからないのでなんとも……。
市井、吉澤、飯田、福田あたりはメインイベントとして
現時点では、石川vs後藤あたりが微妙な戦いっぽい。
あとは、なっちの総合格闘家化に期待。
- 60 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月13日(木)02時13分02秒
- 安倍なっちの再登場きぼーん
>>59さんのおっしゃるような感じで。
- 61 名前:十三 投稿日:2001年09月14日(金)00時33分02秒
16.
それから少しの間、静寂が場を支配した。5分か・・・あるいはもっと
短かったかも知れない。その闇を切り裂くかのようにひとみは、言った。
「あたしと闘(や)らないか・・・」
「な・・・なに言っとるんや」
平家が言う。
「たいしたことじゃないですよ、手合わせしてみたいだけです。」
ひとみは内に秘めた野獣の叫びを声にした。
「あたしに・・・・・闘う・・・理由がない・・・」
明日香がぼつりと呟くように言った。
「理由・・・?」
「理由のない戦いはリアルではない・・・・」
「へっ・・・じゃあ、あたしが理由を作ってやろうか?どんな理由ならいい?
どんな理由ならいいのさ?」
(まるで、野良犬だ・・・・)ひとみは、そう思う。
- 62 名前:十三 投稿日:2001年09月14日(金)00時33分34秒
- 「よっすぃー、やめなよ・・・」
心配そうな声で梨華がそう言った。しかし、その声はひとみに届かない。
「明日香・・・ひとみは本気みたいやで・・・」
平家は低い声でそう言った。
「好きにしたらいい・・・・」
明日香は言った。
「じゃっ」
その刹那ひとみの上段回し蹴りが明日香の側頭部を襲った。
蹴りは、明日香の頭部の数ミリ手前で止まった。
「よかったよ・・・・止めてくれて・・・吉澤 ひとみに少なからず
興味があった・・・これで失望しないですんだよ・・・」
明日香が淡々と言った。
「あたしも安心したよ、この程度でビビるような奴じゃなくってさ」
負けずに、ひとみも言葉を返す。
「仕掛ける間合い、タイミング、闘気・・・・その全てが偽り・・・避ける必要
などあろうはずもない!」
「ほう・・・・」
ひとみは、怒気を含んだ声でそう言った。
- 63 名前:十三 投稿日:2001年09月14日(金)00時34分09秒
- 「よお小難しい話は、そのぐらいにしといてくれんかの・・・」
道場の入り口に二人の人物がたっていた。くわえ煙草をした娘が
土足のまま道場に入り、言った。
「福田っつうのは・・・・・」
くわえ煙草の娘がそう問う。
「あたしだけど・・・」
明日香が答える。
「ワシゃあ戸田 鈴音っちゅうてな、数日前あんたに叩きのめされた稲葉の関係のモンや」
戸田が低く凄みのある声で言った。
「姉貴分が、不始末をつけにきたか・・・・」
ぼそりと明日香が言う。
しばしの沈黙が戸田と明日香の間に流れた。
- 64 名前:十三 投稿日:2001年09月14日(金)00時35分02秒
- その間を破るように戸田が言う。
「心水館三段・・・・・福田 明日香・・・・銭で解決しようとしても持ってる面やないな。」
「・・・・」
「おい、信田・・・遊んでいただきな・・・」
戸田が自分のとなりにいた人物にそう言った。
「うす。」
信田が言った。
「勝っても負けても恨みっこなし・・・・稲葉ぶっ叩いた分は、ちゃらや。」
戸田がそう言った。
「そうしてもらえるとありがたい・・・・」
明日香が言った。
- 65 名前:十三 投稿日:2001年09月14日(金)00時35分42秒
- 「たいそうな自信やな・・・この信田はな・・・もと五輪代表になったほどや・・・・そっちの方はもう退いてるが
喧嘩の方は、まだバリバリや・・・・」
戸田が脅すような声でそう言った。
「ルールは・・・?」
明日香が問う。信田の経歴など意に介してないといった感じである。
「ん〜目ん玉は、なしや!後は、どっちかが、立てなくなるまでや。」
戸田が答える。
それだけ確認すると明日香は、信田と向きあった。
二人が向き合い死合が始まった・・・・
- 66 名前:十三 投稿日:2001年09月14日(金)00時36分17秒
- 信田は様子見の意味もこめて左で明日香をつかみにいった
「しっ」
明日香はこれをかわすと前蹴りを信田の膝に放った・・・信田の膝が破壊され体が
前のめりになった。明日香はその期をのがさず右の拳を間髪いれずに信田のこめかみに放った。
ゴツという音とともに信田は崩れおち。さらに明日香は追撃のため踵で首を狙いにいった。
「や・・・・・やめっ」
戸田がそう言った。
明日香の踵は道場の床を叩いた・・・・。
床には悶絶し耳から血を流した信田が横たわっていた・・・・
(こ・・・・これが・・・・これが・・・福田 明日香・・・)
ひとみは、戦慄を覚えた。動けない。しかし、目は明日香を睨んでいる、明日香もまた、ひとみを睨んでいた。
「凄い・・・・・」
おもわず、梨華が声を漏らす。
「生きてる・・・」
じゃがんで信田の様子をみた戸田はそう言った。
やがて、戸田は立ち上がり、明日香の肩をポンと叩いていった。
「これで、あんたが稲葉をぶっ叩いた分はちゃらや」
「助かる」
明日香は短く言った。
「それにしても気持ちのいい喧嘩をしよる・・・・・」
- 67 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月14日(金)23時02分35秒
- 期待してます 頑張って下さいね
個人的には市井vs明日香が見たいけど、
あったとしても後半ッスよね…
気長に待ってみようか。
- 68 名前:十三 投稿日:2001年09月15日(土)23時38分08秒
- 第5章〜夜獣
1.
池袋にある巨大なビル郡その中に心水館の本部道場がある。
日本はもとより海外からも強くなりたいと思うものが集まる。
その最上階に館長室・・・最も現在館長は、不在であり。
館長代理室となっている。その館長代理は中澤 裕子が勤めていた。
- 69 名前:十三 投稿日:2001年09月15日(土)23時38分40秒
- 2.
館長室に二人の人がいた。
「なあ矢口、今度のトーナメント誰が優勝すると思う?」
中澤が問う。
「えーむずかしいな・・・そうだね村田か大谷か斎藤、あと福田の
誰かってとこじゃないかな?」
矢口と言われた娘・・・矢口 真里、心水館のエースである。
「そう思うか!ウチもそう思うねん。村田と大谷は今、油が
乗りきっとる。斎藤も得意技に磨きをかけとる。あとは
明日香か・・・あいつは全部の試合を全力で戦いよる。
最大5試合戦わなあかんトーナメントじゃもたんで。アホやで!」
「手を抜くってこと出来ないからね明日香は・・・」
「確かにワンマッチなら明日香が最強や!しかし、あいつは一回戦から全力で戦いよる・・・」
「まあそれが、明日香のいいところなんだけどね。」
「馬鹿な弟子ほど可愛いか?」
「まあね。」
「ウ・・・ウチも矢口がいっちゃん可愛いで〜〜矢口〜〜!」
中澤はそういうと矢口に抱きついた。
「うわっ!なにすんだよ裕子〜〜!やめろよ〜〜!」
その声は中澤の耳には届いてなかった。
- 70 名前:十三 投稿日:2001年09月15日(土)23時39分21秒
- 3.
風が凪ぐ。辺りはすでに闇であった。そんな中川辺を走っているものがいた。村田 めぐみ。心水館の門下生
である。今度のトーナメントに備えトレーニングを積んでいた。
今度のトーナメントでは優勝を狙う。自分は、もうその位置にいる。
そう思っていた。10キロほど走るとストレッチを行う為に河川敷
にある野球場のグランドに向かった。ストレッチを行おうとした
瞬間カサッという音がした。村田はその音の方向に目をやった。
影。黒い影が動いた。トレーナーも黒、シャツも黒、スニーカーも黒
帽子も黒。全身黒の娘であった。
「村田 めぐみだな?」
黒の娘が問う。
「誰だ?あんた?」
村田が聞き返す。
「立ち会え!」
黒の娘が言った。
「なんだかよくわかんないけどさ、心水館は後ろを見せないよ!来な!」
村田が負けじといった。
- 71 名前:十三 投稿日:2001年09月15日(土)23時40分02秒
黒の娘はやや半身の構えをとる。腕の位置は肩よりやや高めであった。
(投げ技?)村田はそう思う。ならばつかまれるのは、絶対にダメだ。
バランスを崩す恐れのある蹴りはダメだ・・・接近しての打撃か・・・
危険だが蹴りよりはリスクが少ない。何より村田は正拳突きには
絶対の自信を持っていた。作戦は決まった。
互いに間を詰める。あと一歩・・・村田はそう思った。そのとき
ゆらりと黒の娘の体が動き間を詰められた。まったくの予備動作のない動きで顔面を狙いにいった。
村田の反応は一瞬遅れた。しかし、それでも正拳突きをはなった。
しかし、その腕は黒の娘にキャッチされてしまった。
黒の娘はいわゆるV1アームロックを仕掛けた。黒の娘はなんのためらいもなく
その腕を折った。
「ウッギャアアアアアア〜〜〜」
ボキリッという音とともに村田の悲鳴があがった。
さらに黒の娘は、左腕を村田の首に巻きつけフロント・ネックロックで一気に絞め落とした。
村田の力がなくなったのを確認し、黒の娘は闇に同化していった。
風が少し出てきた様であった。
- 72 名前:十三 投稿日:2001年09月15日(土)23時41分10秒
- 4.
寄せて返す波の形が不意に一瞬止まった気がした。
大谷 雅恵は夜の海の遠くの光がやっとあたる薄暗い海岸で独闘を行っていた。ボクシングでいうシャドーのようなものである。
精神を集中しトーナメントで当たるであろう敵の姿をイメージする。
大谷は最大の敵は福田だと見ている。ワンマッチなら福田が最強。心水館のものは
皆そう思っている。しかし裏を返せばトーナメントの後半はばてる。ならばいかにして自分が福田戦まで体力を温存
するかが鍵となる。そのことに大谷は腐心していた。
波が荒れた気がした。
影。黒い影が自分の所に近づくのを大谷は感じた。
「大谷 雅恵 か?」
黒い娘は問うた。
「ああ。」
大谷はそう答えた。
「立ち会え!」
黒の娘がそういい終えた直後大谷は、砂を黒の娘に対し蹴り上げた。
そして間髪いれず。下段回し蹴りをはなった。黒の娘は砂に一瞬ひるみ砂に手を着きながらも
蹴りをかわし裏拳を顔面に放っていった。
- 73 名前:十三 投稿日:2001年09月15日(土)23時41分55秒
- 大谷はそれを腕で防いだ。
「なかなかやるな。」
黒の娘が言う。
「まあね」
大谷が答える。
さらに大谷は顔面に対して突きを連打した。黒の娘はそれを完璧にさばく。
そして一瞬の隙をつきタックルに行こうとした。
その瞬間、大谷の目に何か異物が入った。砂であった。
黒の娘は先ほど砂に手をついたときに少し握っていたようだ。
「ぐっ」
急に視界が無くなったことによる焦りのためか大谷は不用意に
蹴りを放ってしまった。
黒の娘はその脚をキャッチすると一気に足首をねじった。
みちっという音が聞こえた。
「ぎゃーーーーーっ」
大谷は叫び声を挙げ砂の上を転げまわる。
黒の娘は、なおも大谷の腕を取り腕ひしぎ十字固めにもっていった。
プッチという音とともに完全に靭帯を伸ばされた。
- 74 名前:十三 投稿日:2001年09月15日(土)23時42分27秒
- 大谷はもう声を挙げることも出来ずに気を失った。
黒の娘はそれを確認し再び闇に同化していった。
波は穏やかに寄せて返していた。
- 75 名前:十三 投稿日:2001年09月15日(土)23時43分09秒
5.
斎藤 瞳は酒を飲んでいた。もうこれを最後にトーナメントが終わるまで飲まない。
そう決めていた。酒の所為で優勝できなかった。そういわれたくない。
(おかげで体調は完璧だ。)斎藤はそう思う。
もう少し早くからしてれば、1〜2回は優勝できてたかも・・・・そうも思う。
人気のない公園を通り過ぎようとしていた。いつも通る道。いつもどおりなら
何事もないはずであった。
柱から影。黒い影が出てきた。斎藤とすれ違う。
「酒がはいってるのか・・・運が良かったな。」
黒い娘がそう言った。
「まて!」
斎藤が言った。
「村田と大谷をやったな。」
続けて言う。
「・・・・・」
黒の娘は答えない。
「逃さん!」
斎藤が言った。
「果し合いだ!素面のときにしときな!」
黒の娘が言う。
「わずかの酒だ!それにお前を逃したら心水館にいらんない。」
斎藤が怒気を含んだ声で言った。
- 76 名前:十三 投稿日:2001年09月15日(土)23時43分46秒
- ニィっと黒の娘が笑った気がした。
「はっ」
掛け声とともに斎藤は突きを放った。拳、拳、拳、斎藤はラッシュを仕掛ける。
黒の娘はすべて弾く。
さらに斎藤は肘と膝のコンビネーションで責める。
黒の娘のガードが下がった気がした。
斎藤はそれを見逃すはずもなく上段回し蹴りを放った。
しかしそのけり脚が伸びる前にキャッチされた。さらにバランスの崩れた斎藤の首をつかむと
そのまま後方に投げつけた。捕獲投げ・・・キャプチュードと言う技である。
斎藤の体は地面に叩きつけられた。
斎藤はもう動けないしかし、まだ若干の意識はあった。
「さすが心水館の斎藤だな・・・まだ意識があるとは・・・」
黒の娘がいった。
「っ・・・て・・・てめえ・・・だっ・・・誰だ?」
斎藤が最後の力を振り絞り問う。
「・・・吉澤 ひとみ・・・」
黒の娘はそう言った。
その言葉を聞き、斎藤は意識を失った。
- 77 名前:十三 投稿日:2001年09月15日(土)23時44分21秒
6.
心水館に衝撃が走った。優勝候補3名が何者かに襲われ重体である。
その襲った者の名前が吉澤 ひとみである。
草の根を分けてでも探し出す。心水館の者は皆そう思っていた。
(吉澤が?)
中澤は入院中の斎藤からその名前を聞き驚いた。
自分が一番に聞いてれば、吉澤に対し真偽の程を確認できた。
しかし、その話はもう心水館中に広まっている。
ひとみはあっという間にお尋ね者になってしまった。
(なにもせんよりましか)
中澤は吉澤の携帯に電話した。
- 78 名前:十三 投稿日:2001年09月15日(土)23時45分46秒
- 「はい。」
「あー吉澤か?」
「誰ですか?」
「ウチや、中澤や」
「ああ!ってなんであたしの番号知ってんだ?」
「平家からな教えてもらったんや」
「・・・・はあ?」
「そんなことは、どうでもええ、それよりあんたなんでウチのもんに辻斬りなんぞしよったんや?」
「なんのことっすか?」
「知らんのか?」
「だからなにを?」
「ええか!よう聞いとき。ウチの門下生がな、辻斬りにあってな、そいつの名前が吉澤 ひとみって
言うとったんや!お前なんか?」
「なんのことやらさっぱり・・・・」
「そうか・・・やっぱりお前やないか・・・そうやと思ってたで。でもなウチのもんは
みんなお前がやったとおもっとる。しばらく外、歩かんほうがええで!ウチも
すぐ、誤解といたるからな。」
- 79 名前:十三 投稿日:2001年09月15日(土)23時46分23秒
- そういうと、中澤は急いで電話を切った。
「よっすぃー何の電話?」
となりにいた。梨華が聞いた。
「ん?中澤があたしと付き合ってほしいってさ!」
「へー?」
「じゃこれからいってくる。」
「何処へ?」
「中澤に逢いに池袋に。」
パシッ。乾いた音が吉澤の耳に聞こえた。
「いってー、なにすんだよ梨華〜〜冗談だよ。」
「うるさいバカッ」
また梨華を怒らしてしまった・・・しかしこれからおこる遊びの面白さに比べれば
もはや、そんなことはどうでもよかった・・・・そう思うことにしようと、ひとみは思った。
- 80 名前:十三 投稿日:2001年09月15日(土)23時53分39秒
- >67さん
ありがとうございます。
なんかそのうち外伝も書いてみたいなと思うので気長におねがいします。
- 81 名前:パク@紹介人 投稿日:2001年09月17日(月)13時52分38秒
- こちらの小説を「小説紹介スレ@赤板」↓に紹介します。
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=red&thp=1000364237&ls=25
- 82 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時19分55秒
- 7.
東武東上線鶴ヶ島駅からひとみは電車にのり池袋に向かった。
もう夜も近いため客はそれほどは乗っていなかった。
やがて池袋につくと心水館本部のまわりをそれとなくうろうろし始めた。
案の定あっという間に14〜5人の門下生に囲まれた。
「ちょっと付き合ってもらえるかな?」
門下生の一人がそう言った。
ひとみは無言のまま近くにある公園に連行された。
池袋にこんな閑静な公園があるのかと言うくらいあたりに
人気はなかった。辺りは夜の闇・・・そして静寂が支配してた。
「ここにいるのは・・・あんたに不意打ちをかまされた村田、大谷、斎藤
の関係の者だ・・・といえば要件は察しがつくかい?」
門下生の一人がそう言った。
- 83 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時20分26秒
- ひとみは、最上級の笑顔で、その門下生の肩をポンと叩き
「空手一筋に精進してきたのかい?可愛いい連中だな。」
と言った。
電光石火。ひとみは肩を叩いた逆の方の腕で強烈な右フックを叩き込んだ。
何が起きたのか理解出来ぬままその門下生は倒れた。
それが合図となり戦闘が開始された。
不意撃ちは成功した。相手はかなり面食らっている。
さらにひとみはあっというまに二人なぎ倒した。
門下生の対応は早かった。あっという間に円をつくりひとみを
囲んだ。しかしひとみは壁を背にしていたので同時にかかれるのは
三人が限界であった。
- 84 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時21分02秒
- ひとみは肘、膝、頭を使い次々に蹴散らしていった。蹴りは放たなかった。多人数であるバランスを崩したら即座につかまれる為である。
いったい何人倒したか覚えていない。戦いの最中ひとみは違和感を覚えた。
闘気・・・・強烈な闘気を門下生の後ろから感じた。
影。黒い影が門下生の背後にいた。トレーナーも黒、シャツも黒、スニーカーも黒
帽子も黒。全身黒の娘であった。
黒の娘は門下生の不意をつき裸締めであっという間に絞め落とした。
門下生は背後からも敵が現れたことによりパニックに陥った。
一人二人とあっという間に黒の娘に間接を決められ倒された。
「誰だ?てめえっ〜」
門下生がそういいながら黒の娘に蹴りを見舞った。黒の娘はそれをキャッチすると
即座に足首をねじりあげた。
「ぎゃ〜〜」という声が闇に響く。
そして、最後の一人のところに行きすばやく相手の懐にもぐりこむと
背負い投げをにもっていった。下は地面である。それでかたはついた。
その技のキレにひとみは驚愕した。
- 85 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時21分34秒
これでもうこの場に立っているのはひとみと黒の娘だけである。
黒の娘は、ひとみのほうを向き帽子を取った。そして
「平家流・・・保田 圭・・・立合いが望みだ!」
と言った。
- 86 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時22分05秒
- 8.
満月が辺りを照らす。みればおびただしい量の血が辺りに流れていた。
夜の冷気を含んだ風が首筋に触れる。ひとみには死神の鎌に感じられた。
深く息を吸った。そして
「本物の・・・・吉澤 ひとみだ・・・」
ひとみは保田に対し言った。
保田は無言のまま視線はひとみのほうにむいている。
「気にくわないね、偽者の吉澤 ひとみがこんなに不細工だなんてさ。」
ひとみが言った。そしてもう戦闘態勢に入っていた。
構えはややアップライトである。
対する保田は肩の位置と平行にそして腕はやや前方に突き出ていた。
血と汗の匂いが鼻につく。ひとみは己の獣が出てきたのを感じた・
ひとみの体から獣臭が漂っていた。そしてそれは保田からも漂っていた。
「シッッ」
ひとみは保田に対し下段蹴りを放った。それと同時に保田も下段蹴りを放っていた。
両者の中間で蹴りがぶつかった。両者に電流が流れる。
再び元の構えに戻ると保田が仕掛けた。
- 87 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時22分36秒
- 拳、蹴、拳、拳、膝。
そのうちの何発かは、当たりが浅いながらも当たった。
そしてさらに跳ね上げるように膝でみぞおちを狙うひとみは肘で受け止める。
そして間をおかず保田はひとみの左肩のあたりをひじで打った。
稲妻のような激痛が走る。しかし負けじとアッパーを保田の顔面に放った。
保田の体制が一瞬崩れた。すかさずひとみは猛獣の連撃を保田に加える。
・・・・がしかし保田の体は岩の様であった。
ニィと保田が笑った。
保田はすばやくひとみの手を取った。
- 88 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時23分07秒
- (やっべー)ひとみは思う。
しかし、ひとみは、野獣の本能と言うべきものでとっさに保田に組み付き
保田の後ろの壁に全体重をかけぶつけた。
ゴツンという音が聞こえた。しかし保田はまだ腕を放していなかった。
とられた手はいつのまにか中指を握られてた。
ベキンッ!本来曲がらないであろう方向に指が曲がってるのを
ひとみは認識した。保田に折られたのだ。
ひとみは前蹴りを放ち保田を振りほどいた。
保田は後方に倒れた。
ひとみはさらに追撃の為、踵で保田の顔面を狙った。
保田はこれをかわすと膝でひとみの横腹を打った。
両者は間を取り再び構えた。
「どうした?呼吸あがってるよ。」
保田が言う。
- 89 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時24分01秒
- 「へっ・・・・調度いいくらいのハンデをさ・・・つけてやったんだよ。」
ひとみが言う。そして折れた指を無理やり戻し正拳を作った。
そして「これからが本番だよ!!」と言った。
「今まではウォーミング・アップさ!」
保田が言う。
(な・・・なんて奴だ・・・この拳・・・使うなら後一回・・・か)
ひとみは思う。
(一回あれば十分!カウンターで顔面への正拳突き!・・・・・こい!保田!)
続けてひとみは思った。
「どうした?怖気ついたのかい?来なよ!」
ひとみは、挑発する。
「フッあんたが狙ってるのはカウンターであたしの顔面だろ?のるかよ!」
保田が言う。
- 90 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時24分39秒
- ひとみは、自分の考えが読まれたことに動揺してた。
(やるしかない・・・)ひとみは覚悟を決め前に出た。
保田が中段蹴りを放ってきた。わき腹にヒットした。しかしその代償としてひとみは保田の
足をつかんだ。そのままもう一方の足を刈り膝十字に移行した。
技が決まるかに見えた・・・しかし保田は頭を軸に回転しなんとか逃れた。しかし、靭帯が切れてないとはいえ
いくらかの損傷はあった。
なにより関節技の名手である保田が、技を仕掛けられたことに対する精神的動揺はあった。
「きっさま〜〜!あたしに葛を仕掛けてきたかっ〜〜」
その言葉に明かに怒気と屈辱感が感じられた。
「へへっ覚えるとね!すぐ使いたくなるんだよ。」
ひとみは、いくぶんペースを取り戻した。
(ダメージは五分か・・・・)ひとみは思う。
- 91 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時25分15秒
- 「これからだな・・・・保田っ!」
ひとみは言う。
「ああ・・・・・これからさ!」
保田も言った。
(へ・・・・へへ、こいつたまんないね!)ひとみは思う。そして恐怖の中にそれを楽しんでいる
自分がいるのを感じた。
- 92 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時26分02秒
8.
獣・・・ひとみの中の獣が牙をむいた。
獣撃と呼ぶにふさわしい圧倒的な蹴撃!保田が苦悶の表情をした。
(この時!)ひとみは渾身の右正拳突きを放った。
だが保田は先ほどのダメージがないかのように正拳をかわすと
腕をひとみの首に巻きつけ投げに言った。
「ガッ」
ひとみは一瞬気を失いそうになる。しかし、左腕の痛みが遠ざかる意識を覚醒させた。
左腕を保田に決められている。腕ひしぎ十字固めである。
渾身の力をこめこれを返そうとする。
しかし保田も力を緩めない。
ひとみはなおも歯を食い縛り力をこめる。
保田も同様に力をこめる
- 93 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時27分02秒
- ドンッと言う鈍痛を保田はスネに感じた。
ひとみが折れたほうの手で正拳を作り保田のスネを叩いた。
二発三発もっと多く、ひとみは連打する。
だが保田も手を離さない。
足の感覚はすでにない。さらに歯をくいしばり腕を絞り上げた。
(決ま・・・)保田は思う。
- 94 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時27分36秒
「やめて〜〜っ」
若い女の声がした。聞きなれた声に保田は思わず力が緩まった。
ひとみもまた素早く技を振りほどき身構えた。
「亜弥・・・・さん」
保田が声の主を見ていった。松浦 亜弥であった。
「保田さん今まで・・・何処に?」
松浦が言った。
「圭坊・・・久ぶりやな!何しとったんや!」
亜弥の後ろには、もう一人の人がいた。中澤 裕子であった。
- 95 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時28分10秒
- 「裕子か・・・」
「ほー何時からウチのこと呼び捨てできるようになったんや?偉くなったもんやな。」
保田は獣の目で中澤を睨む。
「お願いです保田さん三重へ・・・平家にお戻りください」
松浦が言う。目には涙が浮かんでいる。
「お前、いい話聞かんかったで!噂では、昼から酒かっくらい、やくざ者相手に
暴れてたそうやないか・・・」
保田はお前の知ったことではないと言う顔をしていた。
保田は中澤に背を向け歩き出した。そしてひとみのほうを向き
「次合う時は、二人っきりだ・・・」
と言った。保田は闇に消えていった。
- 96 名前:十三 投稿日:2001年09月18日(火)00時28分44秒
- 「申し訳ございません、大丈夫ですか?」
松浦が言った。
「ああ・・・しかしあいつは・・・」
ひとみが言う。
「そ・・・そのことですが・・・」
「そのことは、みちよが話してくれる!数日後にこっちくるはずや」
中澤が言った。
「そうか・・・」
ひとみが言う。
「それにしても見事な暴れっぷりや!ところで傷の方はどや?」
「あんたが、あたしに付き合ってくれって言ってなきゃな・・・」
「はあ?」
「なんでもない!こっちの話だよ。」
- 97 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時43分28秒
- 第6章〜再会
1.
排気ガスを含んだ空気が流れる。なんて嫌な匂いだろう。
希美はそ思う。しかし、思えば室蘭もこんなものだったかも。
室蘭を逃げるように出てきてはや3年になる。
現在は、板橋区にある安いアパートに住居を構えている。アパート代は住宅手当として全額出ている。
圭織は、池袋にある心水館で事務員兼用務員を希美は用務員として働いていた。
「まったく、中澤の奴は安い金で人をこき使って・・・いつかぶっちめてやるのれす。」
事務室を掃除していた希美は怒ってるようだ。
「あんたもつまんないこと言ってないで、まじめに掃除しな!」
事務室で残業をしていた圭織が諭すように言った。
- 98 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時44分21秒
- 「あたしも終わったら手伝うからさ。」
「あ〜〜い。」
「大体でも破格の条件で雇ってもらってんだよ、アパート代は只だし、道場は、仕事終わったら
使っていいしさ」
「あ〜そんなことは、解ってるのれす。ただ中澤の奴は、床に落ちた砂粒
位のゴミみっけて、『希美〜ここゴミ落ちとるで、やり直しやな』とか
言うのれす、まったく、あいつはあんな小さなことに拘ってるから
いい年して恋人のひとりもおらんのれす。」
一気にまくしたてるようにしゃべった。
「・・・・はぁ・・・」
圭織はまたかと言う顔をしている。毎日の恒例のようなものである。
「それにあいつは、あんなに怒ってばっかりいるから、こじわが目立つのれす。
胸も小さいし・・・まあでもなにが一番悪いかと言うと・・・」
- 99 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時44分53秒
- 「でも・・・なんや?」
希美は肩をポンと叩かれた。中澤であった。
一人で興奮して、まくし立てていた為、ドアが開いて中に人が入ってきたのに
気づかなかったようだ。
「あっ・・・・・」
気まずさがあたりを支配した。
「え・・・っな・・・中澤さんは・・・最近ますます綺麗になって・・・きたと・・・」
「えーほんま?ウチうれしいわ〜〜」
ちょっと恥ずかしげに笑った。
希美も微笑み返した。
刹那、中澤の正拳が希美に放たれた。
希美は、紙一重でかわしたが風圧は頬に残ってる。
「・・・・こ・・こんな正拳くらったら普通しぬのれす・・・勘弁して欲しいのれす。」
その言葉を残して希美は、あっという間に姿をくらました。
そして何事もなかったかのように圭織に言う。
- 100 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時45分25秒
- 「お前がこっち来てもう三年か・・・早いな、希美も大きゅうなった・・・」
「裕ちゃんには、いつも感謝してるよ、住む場所と働く場所見つけてくれたしね。」
「おまえほどの奴を食うに困らすわけにいかんやろ?」
「うん、ありがと」
「礼は、ええ、また凄いもん見せてくれたらええねん。」
「うん。」
「あっ、それから今日、平家がくんねん、夜までおらんでよろしゅう頼むわ。物騒な連中も多いしな。」、
「うん、任せて」
そう言うと中澤は、事務室から出て行った。
- 101 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時45分56秒
- 2.
(あれから三年か・・・)圭織は中澤との会話により、ふと過去を思い出していた。
室蘭での石黒との死闘。確かに自分は勝った。しかし相手はやくざである。
自分の周囲に被害が及ばぬ様。次の日にはもう室蘭を後にしていた。
心残りはある。友になにも説明しないままでてきてしまったこと。
友を欺いていたのではないかということ。
そして友が失踪したこと。
圭織が安倍の失踪を知ったのは、室蘭を離れてちょうど一週間後のことであった。
「安倍 なつみ失踪。」
スポーツ新聞の格闘技欄に大きな見出しが躍っていた。
五輪代表候補、大学進学、名誉、輝かしい未来を放棄したことを意味する。
- 102 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時46分28秒
- (自分が巻き込んでしまった・・・)圭織はそう思う。
本来、石黒と安倍の間にはなんの因縁もない。ただ圭織と仲がいいと言うだけで
安倍は、石黒に叩きのめされ誘拐され人質にされた。
しかも、手も足もでないまま叩きのめされた。仮にも柔道日本一である。
その精神的ショックは相当のものであったに違いない。
(会いたい・・・)しかしあってなんと言えばよいのだろう。
安倍の失踪の原因の一つは明かに自分だ。
安倍の輝かしい未来を奪ったのは自分だ。
(それでも会いたい。)どんなに罵られててもいいあって謝りたかった。
- 103 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時47分01秒
3.
「ふー危なかったのれす、このままじゃほんとに中澤に殺されてしまうのれす。」
希美はポツリと呟いた。
「ののなにやってんの?」
前から声がした。
「あー北上さん今晩は」
北上と呼ばれた娘、北上 アミは心水館のホープでありその技のキレは心水館でも5本の指に入る。
「ののこれから暇?」
「あっ暇なのれす。」
「じゃ仕事終わったら道場きてよ、今日誰もいないんだよね。」
「あーいいれすよ。」
「じゃ、さっさと仕事おわらせな。」
「あーい。」
そう言うと北上は道場へ向かった。
- 104 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時47分34秒
- 今度のトーナメントは三人が不幸な事故で大会に出られない。(三人には悪いが自分にも優勝の目が
ある。)北上はそう思う。
道場につくとサンドバッグに蹴りを打ち込む。パシッと軽い音がする。
(もっと・・・もっと重い蹴りを・・・相手が動けなくなる位の蹴りを)
そう思いながら蹴る。蹴る。蹴る。
どのくらいの時間蹴りつづけていたかは、北上にはわからない。顔中汗だらけであった。
汗が目に入った。北上は蹴るのをやめタオルで汗を拭いた。
ガラッ
その時入り口のドアが開いた。
- 105 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時48分49秒
- 4.
ドアからはいってきた娘は細身の娘であった。否。体は細いながら腕の筋肉はまるで網
を束ねたかのような幾重もの階層になっている。まるで無駄な肉のない体であった。
外見は頭にはバンダナを巻いており目はスポーツサングラスをかけているため
顔はわからない。
その娘はずかずかと道場に上がりこみ閉口一番
「中澤 裕子さんはいるか?」といった。
「誰だ、あんた?館長代理に対して裕子さんとは」
「峰岸 あゆみ、中澤 裕子と立ち合いたい。」
「はあ?なんか最近あんたみたいなのが多いね先日も・・・」
「先日も14〜15人がのされてるんだろ。」
「・・・・どうでもいいけどさ、靴ぐらい脱ぎなよ!おい!」
「ああ・・・悪かったね。」
峰岸は、靴を脱ぐとそれをトスするかのように北上の方に投げた。
(エッ?)北上は思う。
- 106 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時49分26秒
- 北上はそれをキャッチした。その刹那、峰岸の強烈な前蹴りが北上を襲った。
北上は思いっきり後ろにのけぞった。しかし北上も即座に反撃に移る体制であった。
「てっ・・・てめえ・・」
北上が怒りをあらわにした。
「いやー悪い、悪い。」
峰岸は、そういうとポンと肩に手をやった。北上は面食らっている。そして瞬時に相手の右袖を取り足を刈り
北上を道場の床に叩きつけた。
「くっ」
致命の一撃だけは何とか回避した。
「へー!やるもんだね。」
峰岸が言う。
- 107 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時50分15秒
- 二人は間を取り構えだした。
北上はややアップライトの典型的な空手の構えである。
一方の峰岸はやや前傾姿勢の構えである。
「はあっ」
北上が気合一閃鋭い中断蹴りを放った。
峰岸は、腕でそれを防いだ。
「ははっ!なかなかいい蹴りだけどそれじゃ人は倒せないね。」
峰岸が言う。
屈辱!強い屈辱を北上は感じる。
「しゃっ」
北上は、さらに蹴りを放つ、蹴る蹴る蹴る。
更に、拳を顔面に向け打つ。打つ打つ打つ。
- 108 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時50分51秒
- それを峰岸は一発ももらさず全て受けきった。
北上の額から汗が流れ落ちていた。
背筋に悪寒が走る。
その悪寒を取り除くかのように北上は更に下段蹴りを放つ。
しかし、その蹴りは峰岸にカウンターの前蹴りをくらい膝を壊された。
そして次の瞬間に峰岸は北上の視界から消えた。
超低空の片足タックルが北上の軸足を捕らえた。二人はもつれ合うように倒れた。
峰岸は、北上の体を逃さず捕らえ床に叩きつけ素早くマウント・ポジションを取った。
連打!峰岸は拳の連打を北上に見舞う。連打、連打、まだまだ見舞う。
たまらず北上は後頭部を峰岸に晒してしまった。
マウント・ポジションからのチョーク・スリーパー。柔術での必勝パターンを
峰岸は、行った。
北上は、意識を断たれた。
峰岸は立ち上がりその場を立ち去ろうとした。
- 109 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時51分24秒
- 5.
「ちょっと待つのれす。」
後ろから声がした。
希美であった。
峰岸は、ふと声の方向に目をやる。
「あんた、こんなことして無事帰れると思ってるのれすか?」
「ガキか・・・ガキは、帰ってテレビでもみてな!」
「そんなへらず口叩けないようにしてやるのれす。」
希美は、峰岸に対し勢いよく突進しその勢いを利し浴びせ蹴りを放った。
峰岸は、それを見切りかわした。
「なかなかやるのれすね。」
希美が言う。
「まあ、そんだけ大振りじゃね。」
峰岸が言った。
- 110 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時52分09秒
- 「くっ、ほんとにへらず口の多いやつ・・・」
シッという音が口から漏れる。希美は、峰岸に対し下段蹴りを放っていった。
峰岸は片足をすっと上げてブロックする。さらにもう一発下段蹴りを放った。
今度は、あてる直前に軌道をわき腹に変化させた。
しかし峰岸はそれも見切ってた。肘で防いだ。
「なかなかやるね!さっきの奴より全然強いよ。」
余裕たっぷりに言った。
そして、上半身を揺すりだしリズムを取り始めた。
そのリズムはだんだん早くなる。不意に前蹴りで希美の腹部を狙いにいった。
しかし、これは巧妙なフェイントであり本当の狙いは左足へのタックル。
だが希美はこれを完璧に見切っていた。
- 111 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時52分41秒
- タックルをかわすと膝で峰岸のこめかみを打った。その場に峰岸は倒れた。(当たりは浅い)希美はそう思う。
しかし当たりどころが悪かったのか峰岸は立ち上がってこれない。
「ふー口ほどにもない奴なのれす。」
希美は、安堵しそう言った。
「それにしてもこいつふざけた奴なのれす。」
希美はそういうと、峰岸を仰向けにしサングラスを外そうとした。
- 112 名前:十三 投稿日:2001年09月22日(土)12時53分22秒
- その瞬間意識がないはずの峰岸が動き出した。
不意をつかれ希美は、己の体を峰岸の両足ではさまれ、さらに首と右腕を制された。
峰岸は、そのまま反動をつけ体制を入れ替えた。
いわゆるマウントポジション。絶対有利といわれるこの体制を希美は奪われた。
(やばい・・・・・」)
希美は思う。
「死にな!!」
峰岸は、そういうと希美に対して拳を振り下ろした。
- 113 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月24日(月)01時01分47秒
- ののちゃ−−ん!
しかし、飯田と中澤がつながって、
保田と松浦があの人で……。
最強トーナメントも近いか?
こうなるとプロレス系も欲しいなあ。
- 114 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月24日(月)23時34分39秒
- ところで矢口の力量はいかほどのものか?
早く知りたい。
- 115 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時46分26秒
- 6.
(やっと終わった。)
圭織は仕事を済ませ帰り支度をしていた。
(今日は、給料日だからね、ののになんか美味しいものでも食べさせて
あげよう。)そう思う。
圭織は、支度を済ませると希美を探しに行った。
(どこいってるんだよののは〜)
探し回ってるうちに、光の漏れてる部屋があった。
中を覗いてみると人が倒れていた。
圭織は慌てて中に入り北上を介抱した。
「大丈夫か?しっかりしな」
「うっ・・・うーん」
「どうした?」
「み・・・峰岸 あゆみと言う奴に不意打ちを・・・」
「ののもそいつにやられたのか?」
「い・・いやそれは、わからないよ・・・お・・恐らく・・」
そういうと北上は再度意識を失った。
- 116 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時48分06秒
- (くっ)圭織はあたりを見渡した。道場の真中辺りに見慣れたサポーターがあった。
いつも希美が左手首に巻いてるサポーターであった。大きな、大きな血痕が数箇所あった。
(のの・・・)
電話をかけてみる。繋がらない。
圭織はいてもたってもいられず外に飛び出した、そして希美を探しに街中を
歩き回った。ただでさえ人の多いこの街で人を探すのは容易ではない。
しかし、探さずにはおれない。
(もう帰ってるかもしれない・・・)圭織はとりあえず、自宅に戻った。
しかし、家には誰もいなかった。
その時、圭織の携帯電話が鳴った。“希美”と表示されている。
- 117 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時48分36秒
- 「のの!!」
「お姉ちゃん!」
「今、何処?」
「ご・・ごめんわからないのれす・・・」
「なんで・・・」
「目隠しされてるのれす。」
「・・・・・」
「そ・・・それで明日の夜9時にこれから言うところの廃墟ビルに来いって・・・」
「わかった・・・」
圭織は小さく呟くように言った。
(殺す・・・)
圭織は思った。
- 118 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時49分09秒
- (一体誰が・・・)
自分に恨みを持つ人間はそう多くない。確かに戦いの最中で
怪我をさせた人間は星の数ほどいる。しかし、それは、互いに覚悟の上でのこと。
(じゃあ誰が?)
考えがまとまらない。
いずれにしても答えは明日にでる。
時計は夜の二時をまわっていた。
圭織は、希美がとりあえず今のところ無事だと言う安堵感からか
意識を失うかのように眠ってしまった。
- 119 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時49分40秒
- 7.
圭織は翌日目を覚ますと花瓶の花を凝視しだした。精神を集中させる為である。
その行為は、夜の六時まで行われた。
(行くか・・・)
圭織は、すっと立ち上がり家を出た。
指定された場所は、都市計画の見直しにより建設の途中で放り出されたままのビルである。
辺りは郊外でありしかもまだ建設途中である。めったなことでは人はこない。
もう放置されて何年になるかわからないが、ビルの周りには立ち入り禁止のマークが張ってある。
その周りは更地であったがところどころ雑草が生えていた。
決闘には、おあつらえ向きの場所である。
空は薄く雲がかかっており辺りは一面の暗闇であった。
(ここか?)
- 120 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時50分20秒
- 圭織は、ビルの手前にきて辺りを見渡した。
(ん?)
その瞬間、夜間作業用のライトがスポットライトのように圭織を照らした。
その光が圭織を照らす。圭織は中国拳法の胴着を身にまとっていた。
「ようこそ!」
後ろから声がした。峰岸 あゆみであった。
昨日と同様頭にはバンダナを巻いており目にはスポーツサングラスをかけている。
「ののは!」
圭織が殺気をこめていった。
「さあね!あたしに勝ったら教えてやるよ。」
「死ぬぞ!」
「あんたと闘りあうんだからな、そのくらい覚悟してるよ。」
「ちょっとはあたしのこと知ってるみたいだな。」
「まっ、あんた裏の世界じゃ有名人だしな。」
「どうでもいいけどそのグラサンとんな!むかつくぜ」
「実力で取ってみな。」
そう言うと峰岸は、二三歩前に出て構えた。
- 121 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時51分09秒
- 8.
疾風!圭織は一気に間をつめると峰岸に対し左下段回し蹴りを放った。
最小限の動き、最大限のスピードで放たれた蹴りは、当たる寸前
急激に軌道を変えわき腹を狙いにいった。よほど間接がやわらかくなければ
出来ない芸当である。
(脇っ!)峰岸は狙いはわかっていた。しかし、あまりの蹴りの速さに
防御しきれない。
「ゲフッ」
峰岸が叫びをあげた。
続けて圭織は、峰岸の顔にむかい円を描くかのような蹴りをを見舞う。
超高速の円。グラインダーの刃を思わせる。峰岸は後ろに大きく跳んだ、しかし頬からは鮮血が滴り落ちていた。
「当たりが浅かったか・・・」
圭織は言う。
- 122 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時51分52秒
- 峰岸は、頬に手をやり血に触れた。そしてその血をぺロッと舐め
「さすが北の狼、飯田さん!やるね。」と言った。
「強がりはそんくらいにしときな」
(くっ)峰岸は、再び圭織との距離を縮めた。しかしうかつに間合いに入れば
また、迎撃される。(どうする?)峰岸は思う。
そう思った瞬間圭織のほうから間を詰めてきた。
峰岸は、間を嫌った。間をとる。しかし圭織はそれを許さない。
瞬時に自分の蹴りの間合いにする。そして一呼吸の間で蹴りを三発放った。
脚、腕、こめかみを狙った。峰岸は何とか、こめかみのクリーンヒットは回避した。
だが峰岸にダメージが伺われた。
「気にすんな、お前が弱いんじゃない、あたしが強すぎるんだ!」
圭織が言った。
- 123 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時52分56秒
- そして間髪いれず足をなぎ払う蹴りを見舞う。
峰岸は体制を崩した。そこに容赦なく圭織の踵が襲う。
かわす。最小限の動きでかわした峰岸は、その体制から圭織に胴タックルを仕掛けた。
(このまま体重をかけて倒す!)峰岸はそう思った。
(???)
だが圭織は、びくとも動かなかった。足が地面に根を張ったかのように動かない。
「どうした?」
圭織が言う。そのまま圭織は膝を突き上げた。
「ブフォッ」
辺り一面に都社物が舞った。
- 124 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時53分42秒
- (ま・・まだ終われないよ)地面に這いつくばりながら峰岸は、そう思った。
そして、よろけながらも何とか立ち上がった。
シュッと言う風切り音とともに圭織が垂直に蹴りを放った。蹴りは寸分の狂いもなく
峰岸のサングラスを捉えた。サングラスは、宙に舞った。
「いいかげんに面見せな!」
圭織が言う。
ライトが峰岸を照らす。
その照らされた光の中に懐かしい顔があった。
「な・・・・・・・っち。」
- 125 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時54分24秒
- 9.
ライトに照らされた顔は、安倍 なつみだった。
以前のふっくらした顔は、頬がこけるくらいに痩せており
ぽっちゃりとした体は、見事に引き締まっていた。
そして目は、野獣のごとき鋭い光を放っていた。
「な・・んで?」
圭織はちょっとしたパニックに陥っていた。
何故、なつみが自分を?何故、希美を?
「戦ってるとき考え事してんじゃねーよ!」
なつみが圭織の脚に蹴りをくわえた。
(つっ!)しかし蹴ったなつみの方にダメージがあった。
圭織はとまどいの表情を隠せない。
「もうやめようよ。なっちと戦う理由がないよ。」
圭織が言った。
- 126 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時55分32秒
- 「あたしが、なつみだと解ったからそんなこといってんの?ふざけんじゃねーよ!
どこまであたしをコケにしたら気がすむんだよ!!」
「えっ?」
「始める前に言っただろ?圭織と闘り合う時に最初から死ぬのだって
覚悟してるさ!全力を尽くして戦うこそ武道家としての礼儀じゃないのか?
生死はその結果にすぎないよ!」
「・・・・・」
返す言葉がなかった。
「なっちが・・・どんな事してその体を作り上げたのか見れば解るよ・・・
なっちがそこまでして、あたしと戦いたいってんなら・・・その気持ち
に答えてやるよ!来なっ!」
圭織の顔は再び武道家のそれになっていた。
- 127 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時56分07秒
- 「オオッ」
なつみは、圭織に対し渾身の力を込めローキックを放つ。圭織は脚を挙げそれを防いだ。
そしてそのまま膝から下だけの動きでなつみの首をねらう。
首に巨大なあざが出来た。
もはや、なつみは戦える状況ではない。気力だけで立っている。
(今、楽にしてあげるよ)
圭織は、なつみの意識を断ち切るため上段蹴りを放った。
しかし、その蹴りは圭織がこの戦いで唯一”本気!”ではない蹴りだった。
なつみは、その蹴りをかわす。
(なに?)圭織は思う。
唯一のチャンス。なつみは、超低空のタックルを仕掛けた。
圭織が倒れた。機を見るに敏。なつみは素早くマウント・ポジションをとった。
「迷ったな、迷うからこういうことになるんだよ。」
なつみが言った。
- 128 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時56分51秒
- なつみは、丁寧にそして確実に圭織の顔面を狙いに行く。
ゴッ、鈍い音がした。
圭織の顔に拳が当たった。
なおもなつみは拳を繰り出す。
圭織も何発かは避けたがいいのも何発かもらった。
このままでは、なつみに後ろを向けるのは時間の問題であった。
「終わりだよ。」
死力の拳が圭織に振り下ろされた。
その瞬間圭織の中の野獣が牙をむいた。
圭織はその放たれた拳をキャッチした。
そして、一気になつみを引き寄せ人差し指でなつみの喉を突いた。
- 129 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時57分32秒
- 「ガハッ」
なつみが声をあげた。そしてなつみの体から力が抜けた。圭織はマウント・ポジション
を振りほどいた。
「中国拳法の歴史は4000年・・・マウント・ポジションの対策は
2000年前に通過済みだ。」
圭織が言った。
(い・・・息が・・・)なつみの呼吸が安定しない。それでも立っている。
圭織は近づきさらに親指と人差し指の間でなつみの目と鼻の間を強打した。
(め・・・・目が・・)
「虎口拳!しばらくの間は目が見えない。」
圭織が言う。
ぞくり・・・な
- 130 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時58分11秒
- ぞくり・・・なつみの背筋に冷気が広がった。
「そして・・・次にあたしは、お前の聴力を奪う!」
圭織が言った。
なつみには、その言葉が地獄の使者の声に聞こえた。
恐怖がなつみを支配する。なつみはなりふりかまわず両手で耳を抑えた。
圭織は手を広げるとなつみの手の上から左右同時に掌で強打した。
パンッ乾いた音がした。
なつみは、聴力を奪われた。
- 131 名前:十三 投稿日:2001年09月24日(月)23時58分43秒
見ることも聞くこともしゃべることも出来ない。なつみは想像を絶する
恐怖の中にいる。しかも目の前には、自分を倒そうとする人がいる
気が狂いそうになる。
ふと何かが自分の膝に触れた気がした。そして次の瞬間からなつみの
記憶がない。
飛龍!圭織はこの技でなつみのこめかみを打ち抜いた。なつみはもうただの肉魁である。
獲物は仕留めた。
圭織の中の野獣は静かに眠りについた。
- 132 名前:十三 投稿日:2001年09月25日(火)00時20分40秒
- なんとか圭織の戦いまで書き終えました。
なんかこの人、果てしなく強くしてしまった気が・・・
安倍 なつみ復活は自分でも考えてなかったですが
こんな形で再登場です。もう一回くらいはだしたいな。
>>113
プロレス系ですか・・・難しいですね。
当初、保田をそれにしようと思ってたんですけどね。
>>114
矢口の登場はもうちょっと後になりそうです。
- 133 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月26日(水)20時40分30秒
- 中澤の活躍期待。
- 134 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月27日(木)04時32分09秒
- 飯田さんすごいね。
加護と石川が加入したとき飯田の綺麗さに見とれたと言ってたのを思い出した。
それくらい華麗な戦いだった。
安倍飯田の話は良かった再登場期待しておきます。
- 135 名前:十三 投稿日:2001年09月27日(木)23時22分44秒
- 10.
(・・・・・っち・・・なっち。)
遠くで声が聞こえる。なんだろう?なつみは目を開いた。
「あーよかったのれす。なっち生きてて」
希美が言った。
「えっ?」
なつみは、自分を見た。あちこち包帯やギブスで固定されてた。
(いたた・・・)
言われて初めて痛みに気づいた。
「心配したのれす。なっちがお姉ちゃんと闘りたいといった時は・・・」
「うん、ののちゃんごめん・・・」
「いや、それはもういいのれす。それよりも道場で上に乗られたときいきなりサングラス
とって『ひさしぶり〜〜』って言われてびっくりしたのれす。」
「ははは、普通馬乗りになって久しぶりなんて言わないよね。」
「で・・・でもホントに無事でよかったのれす。」
「う〜〜んあんまり無事でもないけどね。」
なつみは笑いながら言った。
「それで、なっち今まで何処にいたのれすか?」
「んっ・・・・それはね・・・・・」
- 136 名前:十三 投稿日:2001年09月27日(木)23時23分44秒
- 11.
圭織は病院にいた。なつみとの戦いの後すぐに自分の知りあいの病院に運んだ。
もうなつみは2日間目を覚ましていない。
不安がつのる。
「なっちは大丈夫なの?」
圭織が言った。
「ああ、見かけは大分ひどいが中身の方は大丈夫だ。」
前田 有紀・・・この病院の医師である。病院は寂れた外観からは想像つかない最新の設備であった。
そして、前田の腕も超一流。しかし何故か流行ってる感じは受けない。
「そう・・・良かった。」
「しかし、珍しいな、お前が顔面にそれだけくらうのは。」
みると圭織の顔も何箇所か腫れていた。
「こういうこともあるよ」
「そうか・・・・」
そう言うと 前田はポケットから煙草を取り出し吸った。
「大分苦戦したみたいだな、耳と目まで攻撃するとは・・・」
- 137 名前:十三 投稿日:2001年09月27日(木)23時24分18秒
- 前田が言った。
「ああ、まあね、その話はもういいよ!それより診てくれてありがとう。」
「まあ、ここまでの怪我した奴は普通の病院に連れてけないだろうからな。」
「だから、あんたみたいな医者がいるんだろ」
「まあな、しかし・・・」
前田はそう言うと煙草を大きく吸い込みフーッと煙を吐き言った。
「お前も紗耶香も派手に壊しよる。」
- 138 名前:十三 投稿日:2001年09月27日(木)23時25分00秒
12.
カチャッとドアが開く音がした。
すらっとしたモデルのような体系の女が入ってきた。圭織であった。
中には変わり果てたなつみがいた。先ほどまで希美がいたはずであるが、何処かへ行ってしまったようだ。二人は目が合った。
しかし何から話せばいいのか、きっかけが見当たらない。
「ひどい・・・顔だね。」
なつみから話を切り出した。
「なっちほどじゃないよ。」
それだけいうとまた二人の間に沈黙が訪れた。
やがてなつみは、うつむいたままポツリと呟いた。
- 139 名前:十三 投稿日:2001年09月27日(木)23時25分39秒
- 「ごめんね。」
「えっ?」
「あたしの所為で迷惑かけちゃって・・・」
「どういうこと?」
「圭織・・・室蘭にいられなくなっちゃったでしょ・・・」
「だってそれは・・・」
そこまで圭織がしゃべると、なつみはそれを制すように言った。
「ううん、もっと自分がしっかりしてたらね・・・」
なつみは以前の件で一言も自分を責めようとしない。
圭織は申し訳なさで胸が一杯になった。
- 140 名前:十三 投稿日:2001年09月27日(木)23時26分14秒
- 「いいよ・・・そんなことは・・・それより三年間も何処行ってたの?」
「ん・・・ブラジル・・・」
「ブラジル?? なんでそんなとこへ・・・」
「強くね、強くなりたかったんだよね、飯田 圭織みたいに。」
なつみは自分に言い聞かせるかのように言った。
「どうして?」
「あたしね、一応日本で一番強いとされてたんだよ。でもね、それって
ポイントを取るのが日本一上手いだけなんじゃないかなってさ
圭織の闘いみておもったんだよね。それで、『ああ、あたしは
こういうのがしたかったんだ』って気づいたんだよね。」
「ごめん・・・・」
圭織がうつむいたまま言った。
- 141 名前:十三 投稿日:2001年09月27日(木)23時28分30秒
- 「なんで謝るの?なんにも悪くないっしょ!それでね一番強くなるにはねどうしたら良いか
考えたの、その時ねホントの闘いしたいならブラジルだって話を聞いたことあってさ。」
なつみは少し早口で、それでいて一言一言かみ締めるように言った。
「そうすればさ・・・もう一度、圭織と会えると思ってさ・・・」
「・・・・」
「でね、ブラジルで”裏”の闘いしててさ、言われたんだ。」
「なんて?」
「うん?『強くなりたいなら何故こんなところまで来た?』
『日本には、飯田 圭織と市井 紗耶香がいる。』
『東京へ行け!そこが世界一の戦場だ。』ってね。」
- 142 名前:十三 投稿日:2001年09月27日(木)23時29分04秒
- 「そ・・・う」
「でね、あーここまで来てよかったなっておもったんだよね。だってさ、強くなれば
また圭織と会うことが出来る。そして圭織と闘えるってね。」
「でもなんでののを・・・」
「そのことは、本当にごめん・・・ののちゃんにも大分無理言っちゃった・・・
嘘までついてもらって・・・でもね・・・こうでもしないと圭織本気で
あたしと闘ってくれないと思ってさ・・・・。だってあの人との戦いも本気じゃ
無かったんでしょ?」
「・・・解ってたの?」
「ブラジルでね圭織の試合のビデオ見せてもらったことがあってね・・・あんなもんじゃなかったって
わかったからさ。あたしに鬼のような自分を見せたくなかったの?」
圭織は無言でうなづいた。
- 143 名前:十三 投稿日:2001年09月27日(木)23時29分48秒
- 「でも良かったよ圭織が本気で闘ってくれて・・・そうでないと意味ないからね。」
「うん・・・ごめん・・・」
「また謝る〜〜〜。でもお見舞いきてくれてありがとう。」
「また・・・また来るよ。」
「うん」
そう言うと圭織は立ち去ろうとした。
「あっそうそう」
なつみが思い出したかのように言った。
「助けに来てくれてありがとね。圭織かっこよかったよ。」
そういわれると圭織は今まで我慢していた涙が止まらなくなった。長年の胸のつかえが取れた気がした。
涙が後から後から出てくる。圭織は思わすなつみを抱きしめ言った。
「おかえり。」と。
- 144 名前:十三 投稿日:2001年09月27日(木)23時30分55秒
- 第7章〜過去
1.
なつみと圭織の闘いから時間は少し戻る。
中澤 裕子は平家に会う為に赤坂に来ていた。
「ようきた、おつかれさん。」
中澤は平家に対し言った。
「今回の件は、すまん、それでひとみは?」
「先に料亭でまたせとる。ほないこか?」
そう言うと二人は歩き出した。
- 145 名前:十三 投稿日:2001年09月27日(木)23時31分39秒
2.
「よっすぃー凄いお店だね。あたしこんなとこ来た事無いよ。」
梨華はひとみと料亭にいた。普段来なれないとこにいるため
緊張が伺われる。
「心配しなくてもあたしも来た事無いよ。」
梨華に対しひとみは落ち着いた様子が伺われる。
「よっすいー落ち着いてるね。」
「まあね。」
ガラッとふすまの開く音がした。人が二人入ってきた。
中澤と平家であった。
二人は、ひとみと梨華に相対すように座った。
重い空気が流れる。それは四人が発する闘気であったかも知れない。
「ひとみ・・・今回の件は申し訳ない。」
平家が場の空気に逆らい言葉を発した。
- 146 名前:十三 投稿日:2001年09月27日(木)23時32分12秒
- 「いえ、奴は平家流 保田 圭と名乗ってましたが、奴は・・・」
「保田か・・・本来であれば保田が次に平家流を継ぐはずだった。」
「奴が・・・」
ひとみは先日の戦いを瞬時に振り替えり保田の持つ技の切れ、重さ、判断力
そして闘いに対する執念を思い出しそれも当然と思う。
「しかし、何故保田は・・・」
ひとみが問う
そのことについてだが順番に話そう。」
平家は、そう言った。
- 147 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時42分31秒
- 3.
遠くで秋の虫の声が聞こえる。(もうこんな季節か)ひとみはふと思った。
大事な話の最中に自分は何を考えてるのだろう。そう思う。
梨華は、じっと平家の方を見ている。中澤は少し俯いたままである。
「前は・・・平家流は、三人の内弟子がいた・・・
一人は、松浦、もう一人は、保田、そして最後の一人が、中澤だ。」
平家は、中澤の方をみて言った。
「えっ?」
梨華とひとみは、同時に声を挙げた。
「そう、ここにいる中澤 裕子だよ。」
中澤は俯いたままである。
「保田はね昔から中澤になついとってな、よく『裕ちゃん、裕ちゃん』
ていいながらな後ろくっついてたよ。」
「それじゃ何で?」
ひとみが問う。
「中澤はな・・・心水館の館長とやりあって完膚なきまでに
のされてな・・・そののされた数日後にはもう平家流を
やめてな東京へ行き心水館に入門したんだよ。『いつかあいつを
絶対にぶちのめす』ってね。」
平家が答える。
- 148 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時43分11秒
- 「いらんことを・・・・」
中澤が呟くように言った。
「あっ!でもそれでどうして保田さんが?」
梨華が問う。
「うむ、保田は中澤が平家を裏切ったと思っていたらしい。それが奴には
許せなかった。」
ふーとため息をつく。
平家はおもむろに目の前にある茶に手を伸ばし飲んだ。
茶は少しぬるくなっていた。
「ちょうどそのころからだよ保田がおかしくなり始めたのは、誰かれかまわず
喧嘩をふっかけてな・・・暴れまわっていた。」
平家の声が震えてる。
「奴はな,その後自らを破門にしてくれと言ってきた。ウチは、止めたんやが・・・保田は去っていった。」
「しかしそれが、何故今ごろになって」
ひとみが言う。
- 149 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時43分43秒
- 「君がウチで学び終えて、帰郷してから三日後保田から電話があった。『吉澤 ひとみと
中澤 裕子を倒します。ですから私に亜弥さんとともに平家流を継がせて欲しいと』」
「それが、保田流のケジメのつけかたか・・・」
ひとみがつぶやいた。
「それでは、保田さんは、松浦さんのことが・・・」
梨華が言った。
「そう、保田は松浦のことを慕ってたみたいや・・・・」
バンッ
テーブルを叩く音がした。
「もお,ええやろ!圭坊は、みちよを倒したひとみが憎い,だから倒す。
平家流を裏切ったウチが憎いだから倒す。そんで好きな亜弥と
一緒に平家流を継ぎたい。そんだけや。」
中澤がここまで怒りを表に出したことは無かった。
少なくともひとみは知らない。保田が何故自分を
狙うのかは、解った。しかしまだ何か納得のいかないものがあった。
- 150 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時44分20秒
3.
料亭から外に出た。秋の風が頬を打つ。その涼風が心地よかった。
「それじゃ、今日はすまんかったの。まあこんな話ばっかやない、もっと
おもろい話があんねん。そのうち話したるわ。」
中澤が梨華とひとみにそう言いタクシーに乗った。
「ひとみ、すまん君をまきこんでしまった。」
平家が言った。そしてひとみの目をじっと見て両肩に手をおき
「保田は再び君のまえに現れるやろ・・・そん時は頼む・・・」
と言いタクシーに乗り込んだ。
二人を乗せたタクシーはあっという間に夜に溶け込んでいった。
ひとみは先ほどの平家の言葉を思い出していた。
”頼む”それはすなわち保田を倒して欲しいとの事、(ホントにいいのか?)
ひとみは思った。
- 151 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時44分53秒
4.
「あ〜あ結局なんにも食べれなかったね。なんか食べて帰ろうよ。」
梨華が言った。
先ほどの料亭で中澤が”キレた”ことにより気まずくなり
結局何も食べずにでてきた。
「そうだな,じゃあ・・・・」
「もうべーグルはやだからね。」
梨華に機先を制された。
「そっ・・・それじゃあ・・・」
ひとみは少し動揺した。
「ゆで卵もやだからね。」
図星であった。ひとみは焦る。
そのときであった。
「吉澤様。」
後ろから声がした。
(えっ?)ひとみは後ろを振り返る。
「あっ・・・松浦さん。」
後ろには松浦 亜弥がいた。
- 152 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時45分26秒
- 5.
「申し訳ございませんが少し私にお時間頂けませんでしょうか?」
松浦が言った。整った清楚な容姿、落ち着きのある声であった。
「大丈夫だけど・・・」
ひとみは、梨華のほうを見た。凄い目で自分を睨んでるのが
解った。
「すみません、保田のことでお話したいことがあります。」
「はい・・・・」
「それでは、すみませんが私が宿泊してるホテルまでご同行お願いします。」
そう言うと松浦はタクシーを泊めた。
- 153 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時45分57秒
6.
都心の超高級ホテル。そこが松浦の宿泊先であった。
革ジャンにジーンズのひとみにとって場違いな場所であった。
三人はタクシーを降りるとロビーに向かった。
松浦は、預けていた鍵を取りに言った。
「ねえ、よっすぃー話ってなんだろう?」
梨華が言う。
「さあね、ただあの表情みると重そうな話だな。」
ひとみがそう言い終わるころ松浦は二人の下に来た。
「それで・・・石川様には申し訳ございませんが、吉澤様と
二人でお話させてもらいたいのですが・・・」
「えっ?」
吉澤は、戸惑った。
梨華の方をみる。梨華は亜弥の懇願する目に負けた。
「よっすぃー、じゃロビーで待ってるよ。」
「石川様申し訳ございません。」
松浦はそういうとひとみとエレベーターの方に向かった。
- 154 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時47分27秒
7.
階を知らせる光が最上階を示す。
エレベーターのドアが開いた。
二人はおり部屋に向かった。
松浦がドアをあけ「どうぞ」と吉澤をいざなった。
ひとみは、中に入りどっかりとソファに腰掛けた。
松浦が相対す。
「保田さんの件では申し訳ございませんでした。」
松浦が言う。
「いや、そのことは、もう平家先生に聞いた。平家流を見捨てた中澤を保田は
許せない、そして平家先生を倒したあたしが許せないだから二人を倒す。そして・・・」
そこまで言って吉澤は、はっとした。
「そして、なんでしょう?」
松浦が問う。
「・・・・」
ひとみは言葉に詰まる。
「教えてください。」
松浦が懇願する。
「・・・亜弥・・・さんと平家流を継ぎたいと・・・」
ひとみが言った。
「保田さんが?まさか・・・」
- 155 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時47分57秒
- 松浦が言った。
「いや、保田はあなたのことが・・・」
「そうですか・・・保田さんがそこまで私のことを憎んでるなんて・・・」
「どういうことだ。」
ひとみが言う。口調が少し荒れてきた。
「保田さんは、中澤さんの事を慕っておりました。」
「なっ?」
「保田さんは、中澤さんが平家を辞める時は廃人のようでした。」
そして松浦は少し俯き加減に呟くように言った。
「私、中澤さんと寝ました・・・・・」
- 156 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時48分32秒
6.
ロビーで待っている間、梨華は退屈しきっていた。
吉澤のことが気になる。(まさか・・・亜弥と・・・)
そんなことないと言い聞かせる。しかし一方で
(よっすぃー浮気者だからな・・・)という気がしないでもない。
何でもいいから早く迎えにきて欲しい。そう思っていた。
「よっと!」
梨華は、ソファに掛け直して後ろにのけぞった。
おもむろにホテルの外を眺める。人の群れが言ったり来たりする。
あまりの人の多さに梨華はうんざりする。
その中で自分が知ってる人はまずいない。そう思っていた。
「ののちゃん?」梨華は窓の外に自分の知ってる顔を見つけた。思わず身を乗り出す。
その娘は、頭にはバンダナ、目にサングラスをかけた娘と一緒であった。
見間違いかも知れない、しかし確かめずにおれない。
梨華は、思わず、ホテルの外に飛び出た。辺りを探す。しかし、見つけることは
出来なかった。梨華は再度ホテルに戻った。
あれは、間違いなく希美であると言う確信はある。
(じゃあ、あの人もこっちに?)そう思った。
- 157 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時51分11秒
- 7.
「それって・・・どういうことだ・・・」
ひとみが松浦に問う。
「はい・・・・中澤さんが、平家を去る時やはり哀しい思いでした。
私は、それを中澤さんに対する愛だと勘違いしてしておりました。」
松浦は消えそうな声で言った。
「私は・・・中澤さんに体を求めました。それに中澤さんも応じてくれました。」
「あいつのやりそうなことだ・・・いやすまん続けてくれ。」
ひとみが言った。
「それで、その現場を保田さんに見られてしまいました・・・・」
衝撃的な告白であった。
- 158 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時51分44秒
- 「その時保田さんと目が合い・・・とても・・・とても怖い目をしておりました。」
保田が狂い始めたきっかけは
物理的、そして精神的に大事な人を喪失したことによるものだと言うこと。
「保田さんにとって私と一緒に平家を継ぎたいと言うのは、私と中澤さんに対する
復讐なんです。私は、保田さんの中澤さんに対する思いを知ってたのですから・・・今でも私が中澤さん
を慕ってると思っていると思っていると思います。私を憎んでいるのでしょう。」
松浦は保田が中澤を倒し、自分を手に入れることにより中澤に対する勝利
そして、中澤を慕う自分を手元に置くことで自分に対する復讐をしようとしてると思ってた。
「違うな!」ひとみが言った。
「えっ?」
「あたしは、保田がどんな奴か良く知らないけど・・・武道家ってのは、自分より
強い奴をみると闘わずには、いられない。だから保田は中澤を倒したい。
それだけのことじゃないかな。」
松浦はひとみをじっとみていた。
- 159 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時52分16秒
- 「だから、保田があんたと継ぎたいってのはあんたが好きだからだと思うよ。
保田が暴走してる時なにより立ち直らせようとしたのはあんたなんだろ?」
ひとみが淡々とした口調で言った。
「は・・い。」
「それに・・・あんたも保田が好きなんだろ?」
松浦の目から雫が落ちた。一滴二滴・・・と
「しかし・・・もしまた保田があたしの前に立ちはだかったら・・・
全力で倒す。それだけは覚えていてくれ。」
- 160 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時52分58秒
- 8.
平家とあってから三日たった。中澤 裕子の様子に変わりは無かった。
コンっドアを叩く音がして人が入ってきた。
館長代理室に飯田が書類を届けに来た。
「お前、どないしたんやその顔!」
中澤が飯田を見て行った。
「ちょっとね・・・」
「珍しいなお前が闘りあってそんだけくらうのは・・・」
「気を抜いちゃってさ。」
「峰岸って奴か?」
「うん」
「嘘やろ?」
「えっ?」
「安倍 なつみやろ!」
「知ってるの?」
「柔道全日本選手権優勝!そんで失踪。で、ブラジルに渡り柔術を学ぶ・・・
半年ほど前に帰国・・・その後は関西方面で裏の闘いしとった。」
「なんで・・・知ってるの?」
「アヤカが教えてくれたんや・・・飯田 圭織のことを嗅ぎまわってるのが
おるってな。」
- 161 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時53分33秒
- 「そっか・・・」
「しかし、あの事件は衝撃的やったな、五輪金メダル候補が失踪やもんな・・・
ウチも何回かテレビみたんやけどええ投げ技もっとるやないか。」
圭織の方を見て少し笑みをこぼしながら言った。
「・・・で奴の失踪になんか関係あったんやろ?あいつとお前同じ高校やろ?
そんで、奴が失踪した時期とお前がこっちきた時期は大体同じや!」
「・・・・」
圭織はそのことについて触れられたくない。
「言いたくなかったらええねん。ただな・・・人間なんか新しい物を得ようって
時は、なんか捨てなあかんねん。ウチもそやったし、お前もそやろ?
奴もおんなじや!」
「ありがとう・・・裕ちゃん・・」
そんなことは前から解ってた。ただ誰かにそう言ってもらいたかった。
いってもらえたことにより落ち着いた。
「しかし、安倍はええで、ウチがちょっと鍛えればいいグラップラーになるで。」
中澤はしゃべりながら自分で納得してしまった。
- 162 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時54分28秒
- 突然ふーっとため息をついた。
「はぁ今度のトーナメントどないしょ?」
三人もの選手を怪我で欠場することになってしまった。
中澤は苦悩する。
「矢口にでてもらうかな・・・・」
ぽつりと言った。
「でも矢口は世界大会の秘密兵器なんじゃないの?」
圭織が言う。
「そうなんや・・・それがネックや・・・」
しばし、中澤は考える。突然パシッと膝叩いた。
「そういやアヤカの奴がウチのとこから誰か貸して欲しい
言うとったな・・・今度あいつんとこで「BRAVE」っちゅう
何でもありのイベントやるやろ?選手探しとるらしいで。プロモーターっちゅうのも大変やな。」
中澤が嬉しそうに語った。まだなにか考えてるようだ。
「で、それが何の関係があるの?」
圭織が問う。
- 163 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時55分01秒
- 「まあきけ、今度のそれにうちから選手を出す。かわりにウチの大会
にあいつの推薦の選手を何人か参加してもらう。
ウチはオープントーナメントやしな。」
「それで、他のところに優勝もってかれたらどうするの?」
「そんときゃウチがそいつとやるわ。」
嬉しそうに言う。中澤は本当に嬉しそうにいった。
- 164 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時55分37秒
- 9.
中澤はアヤカに選手を出すことに合意した。
苦肉の策とはいえ、自分もなんでもありの大会で
心水館空手がどう戦うか見てみたい。ただ選手の選考は慎重に行わなくてはいけない。相手は
誰になるか中澤は悩む。
(あいつとあいつか・・・・)
中澤の心の中ではそれは決まっている様であった。
誰が相手になるかは今の時点でもわからない。
しかし、どんな相手とでも戦えそうな人選。
そうなると自ずと絞られてくる。
(それにしてもアヤカの奴は”裏”にまで人をかせっちゅうのは
どういうことや?)
- 165 名前:十三 投稿日:2001年09月29日(土)23時56分28秒
- ”裏”の戦い・・・
華やかな舞台の戦いとは異なり、ルールは無いに等しい。
レフェリーもいない。ただ立会人は主催者側から出され
試合を止める権利を持っている。
そして客は選ばれた人だけが法外な金を支払い観ることができる。
アヤカはそんな裏の大会のプロモートまでしていた。
(まあええ!そっちのほうは、奴しかおらん、心水館の怖さみせたるで!)
そう思うと中澤は嬉しくなって来た。
まるでおもちゃを買ってもらった子供の様であった
- 166 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月30日(日)00時32分53秒
- 美味しそうな展開になってきましたね。
アヤカって誰の役なんだろ?
- 167 名前:十三 投稿日:2001年09月30日(日)01時27分12秒
- >>166
アヤカですか、一応、徳川 光成(グラップラー刃牙)のつもりです。
が必ずしも原作と同じと言うわけではないです。
- 168 名前:十三 投稿日:2001年09月30日(日)23時38分09秒
- 第8章〜狂気
1.
(また一人か・・・結局あいつはあたしを捨てた。)
路上を当ても無く一人彷徨う。目は虚ろでどこか狂気をはらんでいる。
(まあいいさ、あいつはこの体を凶器にかえてくれた。人を壊すのは楽しい。)
殴れば骨が折れる。蹴れば呻き声をあげる。指を目に入れた時の感触が気持ちいい。
首を絞めて相手が落ちる。その感覚がたまらない。間接をねじった時に聞こえる
音が大好きだ。骨がきしむ音はやすらぎを与えてくれる。
強くなるって気持ちいいね。
後藤 真希は、そう思った。
- 169 名前:十三 投稿日:2001年09月30日(日)23時38分47秒
- 2.
後藤が市井の下を離れてから大分立つ。後藤と市井が出会ってから
もう何年もたっていた。最初の一年は、ただ、ぶっ叩かれてるだけだった。
何しろ叩いてる相手が、腕を一撃でへし折る怪物である。
後藤は、瞬く間に全身傷だらけになった。そして次は木や岩に向かって
ひたすら叩かされた。指の皮が剥ける。骨が折れる。それでも叩いた。
最後は、道場破りであった。とにかく色んな道場に出かけ
喧嘩を売る。それも一対一ではなく一対多数である。
後藤は最初はつかまりぼこぼこにされた。しかし数をこなしていくうちに
戦いの機微を身に付けていった。そんなことを繰り返した。
そして、ある時市井は後藤に言った。
「もうあたしが教えることはないよ!あとは後藤が一人でどうやったら強くなるか
考えな。」
「なんで・・・」
「あんた、あたしより強くなりたいんだろ?あたしといてもダメさ。」
「(そう・・・わかったよ、結局あたしが、あたしが邪魔になったんだろ?)
いいよ・・・でてくよ。」
後藤は市井の下を去った。
- 170 名前:十三 投稿日:2001年09月30日(日)23時39分18秒
- 3.
やっぱりね誰かにそばにいてもらうには力づくでないとね。
あたしが、いちーちゃんより強ければね、力で這いつくばらせたのにね。
まだちょっと力が足りないね。
それよりまた闘いたいよ・・・またね骨を折りたい。相手を血の海に沈めたい。
ああ・・闘いたいよ。
それでさ相手を倒したらさ、今度は犯るんだよ。勝者の特権だね。
そういや前に倒したあいつどうしてるかな。
結構いい体してたね。あたし結構忘れっぽい方だけど
あいつのことは良く覚えてるよ。
そうそうあいつちょっと、いちーちゃんに似てたね。
もっと抵抗してくれた方が面白いね。そうそう抵抗してよ。
あたしが、いちーちゃんに勝ったら、いちーちゃんもそうしてあげるよ。でもまだ早いかな
ああ闘いたい・・・闘いたい・・・・
誰かあたしを闘わせてよ・・・・誰かさ・・・
・・・・ああそういえばいちーちゃんが言ってたね。闘いたくなったらこの番号に電話しろって。
- 171 名前:十三 投稿日:2001年09月30日(日)23時39分56秒
- 4.
風が頬にあたる。冷たい。(もうこんな季節か)吉澤 ひとみはそう思う。
保田に折られた指はそろそろ治りつつあった。
保田との決戦以後、保田は一度もひとみと中澤の前に姿をあらわしてない。
その保田との戦いの数日後中澤は言った。
(面白い話って何だ?)
以前、中澤がひとみに対し”おもろい”と言ってた話が妙にきになる。
中澤の事だ”おもろい”と言うことは、強い奴がいると言うことだ。
そいつと闘れるのか?ひとみはそう解釈する。
傷の痛みは大分いえてるとはいえ、まだ完全ではない。
それでも己の格闘家としての本能が闘いを欲している。
(さすが・・・あいつと同じだ・・・)
血が滾る。
闘いたい、とにかく。そして強くなりたい。
(中澤おもろい話ってなんだ)
渇いてる・・・・あたし渇いてるんだよ。
誰かこの渇きを潤してくれ。
- 172 名前:十三 投稿日:2001年09月30日(日)23時40分28秒
5.
「圭織これ悪いけど吉澤んとこ届けてもらえるか?」
みると「BRAVE」の参加の誓約書だった。
ひとみの参加は本人が知らないところで行われていた。
「えっ吉澤って誰?」
圭織は、少しめんどくさそうに言った。
「えっと、まだはなしてへんかったか?」
中澤は、しまったという顔をしている。
「知らないよ。」
「例のうちのもんが14〜5人ぶちのめされたあれや!
そいつをしでかしたんがそいつや・・・」
「へ〜」
圭織は、さもあたりまえのことだと言わんばかりの
表情であった。
「で・・・それをそいつん家まで頼むわ!」
中澤が言った。
「解ったよ。こいつがどんな奴か見てみたいしね。で場所何処?」
圭織が言った。
「埼玉の鶴ヶ島っちゅうとこや!東武で一時間位やな!」
「田舎だね・・・」
「最中が美味い店があるらしいで、希美が喜ぶで。」
「そう・・・だね。」
その顔には明かに面倒なことを引き受けてしまったと
いう色が伺えた。
- 173 名前:十三 投稿日:2001年09月30日(日)23時41分02秒
6.
えっ?なにこれ?難しい漢字がいっぱいあるよ。
あたし、学歴ないからわかんないよね。まあ小難しいこと
いわないでさ、ここに自分の名前書けばいいんだろ?
最初からそういってよ。
怪我した時一切の責任は自分にあるって?
ただし治療は最高の治療を無償で提供する?
なんかよくわかんないけど、関係ないね。
闘う相手は当日まで未定とする。未定ってなに?
ああ、つまりその日にならないと誰と闘うかわかんないわけね。
いいよ。そのほうが面白いね。
なんかさ、ちょっと頭使ったら眠くなっちゃったよ。
あたし寝るよ。
- 174 名前:十三 投稿日:2001年09月30日(日)23時45分59秒
- ここまで書いてきて設定にかなり無理があると
判明。しかし設定に無理があろうと突っ走る。
それこそが武 論尊スピリット。
- 175 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 176 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 177 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月02日(火)22時05分41秒
- 武論尊て(w
こういうトーナメントなんかだと脇の人間同士の戦いが面白い。
どっちが勝つか予想つけにくいから。
- 178 名前:十三 投稿日:2001年10月05日(金)00時39分24秒
- 第九章〜胎動
1.
空は、青く澄み渡っていた。その空を駆けるように白い雲の流れが速い。
まるでこれからの時代を象徴するかの様に。
(結構遠いね。)
飯田 圭織は鶴ヶ島にきていた。。
少し歩くとあたりはもう空き地が広がっている
地図をみながら歩く。高麗川の傍にあるアパートの一室
がひとみの家だった。
(なんか昔あたしが住んでたところに似てるね、この雰囲気)
ひとみのアパートを見て圭織は、そう思った。
かつて室蘭に住んでいたことを刹那思い出した。
圭織は、ひとみの部屋のドアの前に来ると呼び鈴を押した。
「はぁ〜い」
と言う声がした。
(なんて声してんだ!)
圭織は思う。
ドアが開いた。
中から、梨華がでてきた。
「飯田・・・・さん・・・??」
唖然とした顔で圭織を眺め言った。
「梨華・・・・・」
圭織もまた唖然とした顔で梨華を見た。
- 179 名前:十三 投稿日:2001年10月05日(金)00時40分02秒
2.
「何故・・・こんな所に?」
梨華は明かに混乱している。飯田が何故こんな所にいるのか
何故自分を訪ねてきたか?否、何故自分がここにいるのを
知っているのか?いや訪ねてきたのは自分なのかと?
「吉澤 ひとみに会いに来たんだけど・・・・」
圭織が言う。
「とにかく、あがってください・・・」
梨華は、まだ少し落ち着かない圭織を招き入れた。
梨華は、正座をし圭織と相対した。
そして、閉口一番
「飯田さん申し訳ございません。」
梨華が圭織に対し土下座をし、涙を流しながら
声を振り絞るかのように言った。
「どうしたの?一体?」
圭織は事情が飲み込めない。
- 180 名前:十三 投稿日:2001年10月05日(金)00時40分37秒
- 「す・・・すいません・・・私の力が足りないばかりに・・・」
涙で言葉が震える。
「私が小湊流を潰してしまいました。」
梨華が申し訳なさそうに・・・申し訳なさそうに言った。
「どういうこと?先生はどうしたの?」
圭織はゆっくり問い掛けた。
「先生は、立ち合い・・・敗れ・・・その怪我が、元で・・・
亡くなりました。」
慟哭、梨華の心はまさにそれであった。平家には病がもとで
亡くなったと言った。しかし圭織に嘘をつくことは出来なかった。
「誰にやられた?」
圭織が問う。
「名前は解りません・・・ただ、金色の髪をしていました。」
「そうか・・・」
圭織の目から涙が落ちた。
「先生ね、あたしが、小湊流を辞めて中国に行く時もね、『希美のことは
心配するな、ちゃんと面倒みとくよ』って言ってくれたんだよ。
厳しかったけど・・・優しい先生だったよね・・・・」
圭織が呟くように言った。
- 181 名前:十三 投稿日:2001年10月05日(金)00時41分11秒
- 「そして、私も敗れてしまいました・・・ただこれまで生き恥を
晒しながら生きてきたのは、ひとえにこの恥をそぎ、先生の敵をとるために・・・
そして、必ずや小湊流を再興させたいと思い・・・」
梨華は無念の表情を浮かべていた。
「全力で闘ったんだろ?」
「えっ?」
「全力で闘ったんだろ?」
「はい・・・」
「それじゃ、いいじゃないか、大体、お前も敵をとりたいなんて
小さい事いってないでさ、天を目差してみなよ。」
「天・・・」
「そう!地上最強ってことだよ!その過程でそいつともう一度
やりあうことがあれば、今度は、勝てばいいさ!」
最強!この人は何故そんなことを簡単にいえるんだろう。
この人はやはり考え方、スケールそのものが違う。梨華はそう思う。
- 182 名前:十三 投稿日:2001年10月05日(金)00時41分50秒
- 「それに、先生もね弟子がそんなせこい考えだと悲しむよ!」
「・・・・・・」
地上最強など考えたことも無かった。ただ今まで、ひたすら、敵を討ちた
い一念でここまできた。長い歴史を誇る小湊流を亡くしてしまったという
強い自責の念だけがあった。その心に少しだけひびが入った。
「それより、お前、左肘を見せてみな。」
「えっ」
そういうやいなや圭織は梨華の腕をつかみ肘をさすった。
「痛ッ!」
反射的に言葉が漏れた。
「やっぱりね。」
圭織はうなづいた。
- 183 名前:十三 投稿日:2001年10月05日(金)00時42分22秒
- 「肘・・・だいぶ悪くなってるね・・・いいか、あの突きは想像以上に
肩と肘に負担をかけてるんだ。むやみに乱発するんじゃないよ!
壊れるよ。ちゃんと肘を休めな!」
「はい・・・・ありがとうございます・・・飯田さん。」
梨華はかつての姉弟子のその温かい心遣いが嬉しかった。
しばらく、会ってなかったが、自分を解ってくれていた。
やはりこの人と逢えてよかった。そう思うと涙が出た。
「泣くな!梨華!」
かつての姉弟子の口調であった。
「はい」
泣きながら笑った。
「ところで、吉澤は、どこいってんの?そいつに用が会ってきたんだけど。」
「あっ、はい・・・もうすぐ帰ってくると思いますが・・・・」
- 184 名前:十三 投稿日:2001年10月05日(金)00時43分06秒
- 3.
ガチャッ!
吉澤 ひとみはドアを開けた。
(誰かいる?)
みれば、梨華と見慣れない人が一人いた。
その人が振りかえりひとみの方を見た。飯田 圭織であった。
飯田とひとみの視線がぶつかる。
辺りに稲妻が走った。
(こ・・こいつどこかで・・・・)
ひとみは思う。
(こいつは・・・・・・)
圭織は思う。
「よっすぃー??」
梨華が呟いた。二人の間にあるただならぬ雰囲気を察し声をかけづらくなってしまった。
「あの時の・・・子供か・・・でかくなったな。」
圭織が口を開いた。
- 185 名前:十三 投稿日:2001年10月05日(金)00時43分38秒
- 「そうか・・・やっぱりあんたか・・・・」
ひとみがボソッと言った。
時が止まった。いや二人の間ではさかのぼっていたのかもしれない。
「すまない・・・あたしと立ち合ってくれないか・・・」
ひとみが言った。
「よっすいー!なにいってるの???」
梨華はひとみの言葉に動揺してる。
「何処でやるんだ?」
圭織が言った。
「飯田さんも何言ってるんですか???」
梨華は何がなんだかわからないといった感じになっている。
「裏に河原がある。そこで頼む。」
ひとみが言う。
「解った。」
圭織が答えた。
「・・・・・」
梨華はもう声も出なかった。
- 186 名前:十三 投稿日:2001年10月05日(金)00時44分41秒
- 4.
冷たい風が吹く河原にひとみと圭織はいた。
決闘。否。それともまた違う何かであった。
遠くで電車の音がする。それ以外は、何も音がない。
たとえあったとしても二人には聞こえないかも知れない。
「来なっ!」
圭織が言う。
すっとひとみは間合いを詰めた。しかしそれよりも圭織の動きが速い。
一気に間を詰めた。
「ブッッ」
寸剄!圭織はひとみに見舞った。ひとみは大きくのけぞり後方に倒れた。
「凄ぇ・・・」
ひとみは声を漏らした。
「どうした?似てるのは、顔だけか?」
倒れてるひとみを見て、見下すかのように言った。
「・・・・うるせえっ!!」
- 187 名前:十三 投稿日:2001年10月05日(金)00時45分14秒
- ひとみが怒った。
即座に立ち上がると、圭織に向かいラッシュをかけた。
拳、拳、拳、拳、拳、拳、拳、
だがそれは、一発として圭織には、あたらなかった。
圭織は、円を描くような足さばきで巧妙にそれをそらした。
ラッシュを終えひとみの動きが一瞬止まった。
圭織はその機を逃さず。流れるような動きで一気にひとみの懐に入った。”流水”小湊流では
この動きをそう言った。
「破ーーーっ」
圭織の掛け声が、蒼天にこだました。
- 188 名前:十三 投稿日:2001年10月05日(金)01時01分22秒
- >>177
さてこのあとどうなるか?作者自身もあんま考えてないです。
- 189 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月05日(金)06時53分14秒
- 圭織お姉ちゃんかっけー
梨華ちゃんとのオソロコンビも感慨深いっす
- 190 名前:十三 投稿日:2001年10月07日(日)04時15分02秒
- 5.
(お姉ちゃん、頑張って・・・ねえお姉ちゃん、お姉ちゃん、・・・・)
・・・っすいー。
(血がでてるよ・・・ねえ・・お姉ちゃん・・・大丈夫?)
よっすいー。
えっ?・・・ここはあたしの家だ・・・
ひとみは、まだ意識が繋がらない。
- 191 名前:十三 投稿日:2001年10月07日(日)04時16分23秒
- 「ああ、良かった。目を覚ましたよ。」
梨華が安堵の表情を浮かべた。
「心配するな、手は抜いてある。本気で打ったらお前は死んでる。」
圭織は、ひとみの方を見ていった。
(ああ、そうだあたしは、この人と立ち合ったんだ・・・負けたのか・・・・)
「うわーーーーーっあーーーっ」
ひとみは泣いた、子供の様に泣きじゃくった。
技術で負けた。体力で負けた。精神力で負けた。
そんな瑣末なレベルで負けたのではない、大自然の前に人の力が
無力であるがごとき負け方をした。無力、まさに無力であった。
「泣くな!こうなることは、解っていただろ?」
圭織は言った。
「は・・・い・・・ですが現実にこうなってしまうと・・・」
ひとみが涙を流しながら、安定しないトーンで言った。
- 192 名前:十三 投稿日:2001年10月07日(日)04時16分59秒
- 「どうしたらいいかわかるな?」
「は・・・い、よろしくお願いします。」
「よし、それじゃ明日からあたしの元にきな!」
(この二人ってなんなの?過去になんかあるの?天を目指すってこういう事なの?)
梨華は思う。あまりの出来事の多さに考えがまとまらない。
「あっそうだ!ひとみ、これっ!」
圭織は、ぽんっと「BRAVE」の参加の誓約書をひとみの方に投げた。
「これは?」
「ん?今度ね、なんでもありのイベントが行われるんだけど
それにあんたも参加して欲しいってさ!」
「あたしに・・・??でもあたしプロの格闘家じゃないし・・・」
「関係ないよ!リングに上がれば後は、強いか、弱いかだけさ。
それにあんた結構有名だよ心水館の門下生ぶちのめしたってね。」
「そうですか・・・ところで対戦相手は誰なんですか?」
「福田 明日香。」
その名前を聞いた瞬間!ひとみの中に電流が走った。
- 193 名前:十三 投稿日:2001年10月07日(日)04時17分33秒
- 血液が逆流する。目が獣になる。体が武者震いする。
「いい顔してるよ、心配すんな、あたしが残り約三ヶ月きっちり
鍛えなおしてやるよ!」
この二人の間には、過去に何かあった。それはわかった。
ひとみが他人に対してこんなにへりくだっているのも
初めてみた。圭織がこの家に来てから、まだ三時間もたっていない。
しかし、梨華はひとみがどこか遠くに行ってしまったような気がした。
梨華はふと窓の外を眺めた。
空は、青く澄み渡っていた。その空を駆けるように白い雲の流れが速い。
何かが動き出そうとしていた。
- 194 名前:十三 投稿日:2001年10月07日(日)04時18分25秒
- 6.
「で、吉澤はどうやった?」
中澤は、圭織が帰ってくるなり早速聞いてきた。
「うん、大分やる気みたいだったよ。」
「そうか・・・相手は、明日香やこら凄い物みれるで!」
中澤は少し興奮気味に話した。
「で、どうやお前から見て吉澤は?」
「ん?・・・そうだねかなり強いよ、荒削りだけどね・・・昔のあいつそっくりだよ!
凄い突きを出してきてさ、びっくりしたよ。」
「フッ・・・でもおまえに当てることはできんかったんやろ?」
「今はね・・・でも後ちょっとするとわかんないよ。」
「そうか、そら楽しみやないか。あっそうや!」
「えっ?どうしたの?」
「あれからまたアヤカからな連絡あって、もう一人出てもらいたい奴がおるんやて。」
「また〜〜?誰なの?」
「石川 梨華。吉澤んとこおった奴や!おったんやないか?」
「う・・・ん会った。」
「あんな可愛い顔して結構えげつない技使いよるらしいで。」
「へぇ」
圭織はさもそんなことは知らないという顔をしていた。
- 195 名前:十三 投稿日:2001年10月07日(日)04時18分56秒
- それから更に二人は、雑談をしだした。
7.
「えっ?なんやて?」
中澤は素っ頓狂な声をあげた。
「ごめん裕ちゃん、あたしここの仕事やめるよ!」
圭織は俯き言った。
「・・・吉澤か・・・」
圭織は無言でうなづいた。
「奴に教えるんか?」
「うん」
「そやな、そうするとあいつのしでかした事考えるとウチにはおれんな。」
「ごめん。」
「ええって!それよりもお前、金は大丈夫なんか?」
「一応、”裏”でのファイトマネーがあるから当分、大丈夫だよ。」
「そやったな、しかしお前、金がないわけやないのに何であんな貧乏な暮らししとんねん。」
「別にお金のために戦ってるわけじゃないからね。そうしだすと犠牲にするものが多くなるよ。」
「お前らしいな。」
「そうだね。」
- 196 名前:十三 投稿日:2001年10月07日(日)04時19分29秒
- 圭織は微笑を浮かべていった。
「圭織!」
ふと中澤が真剣な表情で言った。
「なに?」
「今回、お前がウチから離れることになったけどな・・・お前とウチが目指しとるもんは
同じや、またどこかで会う事もあるやろ、そんで、場合によっちゃ闘りあうこともな・・・」
中澤は静かに語った。
「うん。」
「そん時は」
「わかってるよ!」
「全力で闘りあう!」
二人はその言葉を同時に力強く言った。
「圭織、今夜、飲みいくで!ウチとお前だけの送別会や」
「ありがとう・・・・・」
圭織の頬に涙が一筋流れてた。
- 197 名前:十三 投稿日:2001年10月07日(日)04時20分09秒
- 8.
心水館館長代理室に三人の娘がいた。
部屋はマホガニーの机が置いてあるだけのシンプルなつくり
であるが、あちこちにトレーニング器具が散乱していた。
「今日お前らを呼んだのは、他でもない!お前らなんでもありやってみる気ィあるか?」
中澤 裕子は自分の目の前にいる二人の者に対し
真剣な、それでいてどこかいたずらっ子のように言った。
「それが、真剣な戦いで・・・尚且つ館長代理の許しがあるのであれば・・・」
福田 明日香は、抑揚のない口調でそう答えた。
「よしっ!明日香きまりや心置きなくいってこい。」
中澤は、ポンと明日香の肩に手をおきそう言った。
- 198 名前:十三 投稿日:2001年10月07日(日)04時20分41秒
- 「でっ小川、お前どうや?」
小川と呼ばれた娘。小川 麻琴。心水館長岡支部所属。心水館きっての暴れん坊。向こうっ気の
強い性格であり。空手よりむしろ喧嘩のほうが得意というタイプであった。
元々は、柔道を行っており、寝技にも長けていた。
「いいっすっよ、最近道場でもあたしと真剣にやりあってくれるのがいなくてさ
退屈してたんすよ。」
「このハネッ返りがっ!せやけど・・・今度のやつは、お前見たいな向こうっ気の
つよいやつのほおがええ!気合いれてけや!!!」
中澤は小川の目を見据え、気合をこめそう言った。
「押忍っ!!!」
小川もまた中澤の目を見据え気合をこめ言った。
- 199 名前:十三 投稿日:2001年10月07日(日)04時21分12秒
- 「よ〜〜し!今から対戦相手言うで、まず小川。」
「押忍!」
「お前は、石川 梨華とや・・・古流武術小湊流の使い手や!」
「そんな黴臭いもんぶちのめしてやりますよ!」
「お〜しその意気や!」
「続いて明日香っ!」
「押忍っ」
明日香は小さいが有無を言わさぬ迫力で言った。
「お前は、吉澤とや」
明日香は背筋にぞくりとくる物を感じた。
「吉澤・・・ひとみ・・・」
明日香の中の蒼い炎が静かに燃えていた。
- 200 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月07日(日)05時01分25秒
- 「Zinc White」読んでる?
- 201 名前:十三 投稿日:2001年10月07日(日)12時31分16秒
- >>200
いえ読んだことないですが、名作集の作品ですか?
良かったら教えてください。
- 202 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月08日(月)00時29分04秒
- 「Zinc White」
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=white&thp=1001586065
まだ全然新メンのキャラが確立されてない今、小川のこのキャラっていうのは
これの影響か? なんて思ったんだけど読んでないならごめんなさい。
- 203 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時05分43秒
- 第十章〜涅槃
1.
バシッ、バシッと畳の音がする。町の小さな体育館で
乱取りを行っているものがいた。安倍 なつみと石川梨華であった。
元全日本選手権優勝の実力は、伊達ではない。石川 梨華は
容赦なく投げ飛ばされる。
「ほら〜〜っ石川なにやってんの?」
「す・・・すいません」
もう何時間もずっと乱取りをしたままであるすでに意識は朦朧としている。
「BRAVE」に出場の決まった梨華は、相手が柔道経験があるということで
その対策を行っていた。その投げ技対策の相手は圭織が紹介してくれた。
「どうした?後本番まで三週間しかないよ!」
「はいっ」
安倍が圭織との戦いのダメージを回復させるのに一ヶ月かかった。
そのあとすぐに、梨華と合流した。
そして二週間ほど梨華と練習した後、今度は、10日ほど吉澤と圭織
と合流し寝技の対策を行っていた。
- 204 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時06分16秒
- さらにそれを終えると再び梨華と合流した。
「はいっ!休憩。」
安倍は突然おどけていった。
「あ・・・ありがとう・・・ございます・・・」
そういうと梨華は、生も根も果てその場に仰向けに倒れた。
「ふーしかし、あんたも短期間の間に結構捌けるようになってきたね。」
「ぜぇ、ぜぇ・・あ・・・りがとう・・ぜぇ・・ございます。」
「もうちょっと呼吸落ち着いてからしゃべんなよ。」
梨華は無言でうなづいた。
落ち着いて呼吸を整える。すーはー、すーはーと。
「あ・・・あの・・」
「うん?」
「よっすぃーと飯田さんてどんな関係なんですか?」
「うーん!あたしも良く解らないんだよね。ていうかさ、あたし圭織の昔のことも
あんまり良く知らないんだよね。」
「そうですか・・・」
「気になるの?吉澤のことが?圭織とずっと二人きりで。」
「き・・・気になりませんよっ!な・・・なに言ってるんですか・・・こんな時に。」
梨華はすこし動揺した。
- 205 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時06分54秒
- 「ははは、悪い悪い。」
安倍は明かに梨華が動揺すると解っていった。
「今、飯田さんとよっすぃー遠いとこにいるんですよね?」
「そう、中国の成都ってところの外れの山の上にある寺にいるよ。」
「そこが昔、飯田さんが修行したっていうお寺なんですか?」
「そう言っていたよ。でもなんか今は、廃寺になっていて建物だけ残っていたよ。」
「なんか凄そうなところですね・・・・」
「はい、はい、あんたも人のことばかり気にしてないで自分のこと考えな!さっ続きやるよ。」
- 206 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時07分37秒
- 2.
部屋全体が歪んで見える。それはこの部屋唯一の光である蝋燭の所為
であるのか?あるいはこの部屋にいる二人の闘気のためであったのだろうか。
中国の四川省の成都の外れにある山にある今は廃寺になっている寺に
吉澤 ひとみと飯田 圭織はいた。
その中にある薄暗い部屋には、縦8mよこ2mの大理石でできた巨大な水桶があった。
周りには龍の細工がなされておりかなりの業物だと思わせる。
その水桶の横の面に丸い個所がある。
「よし、いけ!」
圭織が声をかけた。
「はいっ」
ひとみは静かに答えると精神を集中しだした。
- 207 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時08分14秒
- やがてゆっくりと動き出すと水桶の丸い個所に正拳突きを放った。
ゴンっという音がし、中に張られていた水が小さな波となり桶のまん中より少し奥まで行き
波が収まった。
「7分か・・・・今だとまあそんなもんだね・・・・」
圭織が言った。
「まだですか・・」
ひとみはやや俯いてそう答えた。
「焦んなくていいよ、まあ次の試合までは無理だね、でもこの打撃を
行う感触は忘れるな!」
「はいっ!」
「まあ試合まであと一週間だ、そろそろ日本に帰るか!」
「おうっ!」
- 208 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時08分46秒
3.
ギシッという鈍い音がする。天井から鎖でドラム缶がつるされている。
その中にはなみなみと水がはいっている。そのドラム缶は三角を描くように
配置されていた。その中央に人がいる。福田 明日香であった。
「噴っ」
ガン、ガン、ガンという音とともにドラム缶に拳そして蹴りによる
打撃が加えられた。ドラム缶に亀裂言ったがはいった。そこから放射された水が
明日香をうつ。意に介さず!更に明日香は、ドラム缶に打撃を加えた。
みるみるとドラム缶が小さくなっていった。
「ハァ〜ッ」
明日香はドラム缶に貫手を放った。穴があきそこから水が漏れた。
「明日香っ!」
その時に入り口の方から声がした。
矢口 真里であった。
- 209 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時09分16秒
- 「やってるね!」
「矢口さん・・・」
「どう?調子の方は?本番まであと三日だけど。」
「大丈夫です。」
「勝てそう?」
「全力を尽くすだけです。」
「ははっ!なんか明日香らしいね。ところで相手の吉澤っての強いの?」
「強いです。」
「ま・・・明日香がそう言うんだから強いんだろうね・・・でも・・・」
「えっ?」
矢口はそっと明日香を抱き寄せていった。
「心配しなくていいよ!あたしがついてるよ、あたしが勝たせてやる!
当日はセコンドにつくよ。あんたは・・・あたしの誇りだよ!」
かつて明日香を徹底的に鍛え、そして見守ってきた
矢口ならではの言葉であった。
「ありがとうございます・・・。」
明日香はその言葉に万感の思いを込め言った。
- 210 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時10分38秒
- 4.
神奈川県横浜市にある多目的な巨大なホール。そこが「BRAVE」の会場であった。
試合は明日であるがもうすでに周りには人が大勢いた。
明日の当日券を求めようとする者、また立ち見自由席で少しでもいいところで見たいと
思う者、理由は様々であろうが、凄い戦いを見たいと思う気持ちは同じである。
「なかなかええカードやないか!」
中澤 裕子は一足先に会場の下見に来てた。傍にはこの大会のプロモーターである
アヤカがいた。
「ありがとうございます。貸していただいた甲斐がありました。」
「まあ、それはええんやけどな、第一試合と第二試合っちゅうんはどうゆうこっちゃ?」
「ええ・・・まあ・・・お二人は実力的には申し分ないのですが・・・知名度が・・・」
「ふっ!わかっとるわ!言ってみただけや。」
「第一試合、石川 梨華VS小川 麻琴、第二試合、吉澤 ひとみVS福田 明日香
第三試合、島袋 寛子VS今井 絵里子、第四試合、田中 麗奈VS加藤 あい、セミファイナル、
仲根 かすみVS深田 恭子、メインイベント、浜崎 あゆみVS鈴木 あみ・・・かなりの
豪華なカードが組めました。」
- 211 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時11分11秒
- 「確かに豪華や!」
「ええ、大分。」
「かなり金つこうたんやないか?」
「まあ、結構な額になりました。」
「そやろな、しかしこれだけの面子なら安いんやないか?」
「そうですね。大分満足度は高いと思います。」
「そやな、ウチも明日は楽しみにしとるで!」
中澤はそう言い残し会場をあとにした。
- 212 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時11分44秒
5.
決戦を前日に控え吉澤 ひとみと石川 梨華はすでに会場近くのホテルに
宿を取っていた。精神を集中する為に部屋は個室であった。
コンコン!
ドアをノックする音がする。
「よっすぃー」
梨華の声がした。
ひとみは、ドアのところに立っていた梨華を招き入れた。
「どう?調子は?」
梨華が言った。
「悪くないよ、梨華は?」
「うん、あたしも悪くない、でもね・・・・」
「でも?どうしたの?」
「大勢の人の前で闘った事ないから・・・それがね、ちょっと・・・」
- 213 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時12分15秒
- 「大丈夫!戦いだしたら気にならなくなるよ!」
「よっすぃーのそういうとこ良いね、細かいこと気にしないとこがさ!」
「それ、誉めてんの?」
「うん?誉めてるよ?」
「本当?」
「本当だよ!ねえ?よっすぃー!」
「えっ?」
「あのさ!ちょっと落ち着いたら旅行に行こうよ!寒い北国のさ遠い街で海があるところ!二人っきりでさ」
「えっ?・・・いいけど・・・梨華って意外とロマンチストなんだね。」
「意外とは、余計だよ!約束したよ!」
- 214 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時12分46秒
- 「わかったよ、それより明日負けんなよ!」
「任せといて!」
梨華はそういうとひとみの肩をポンと叩き部屋をでていった。
部屋は再び一人きりの孤独が訪れる。
ひとみは再び恐怖を感じる。
(怖い・・・・明日香が怖くてたまらない・・・逃げたい。しかし逃げたくない。)
戦うまえに誰もが感じる孤独と恐怖。
ひとみは今それと戦っていた。
- 215 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時13分19秒
6.
「BRAVE」
ルール
1.試合時間は時間無制限一本勝負。
2.オープン・フィンガー・グローブ着用に限り顔面への打撃を許可する。
3.噛み付き、眼、後頭部への打撃を禁止する。
4.故意にロープをつかむことを禁ずる。故意の反則3回でTKOとする。
5.試合を止める権利はレフェリーに一任する。
6.武器等を使用しての攻撃を禁ずる。
7.ダウンは10カウントとする。なお3回のダウンでTKOとする。
- 216 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時13分51秒
7.
試合開始直前の控え室。否が応にも緊張感が漂う。
第一試合開始まで後十分に迫りあわただしい雰囲気である。
しかし小川 真琴はすでに準備は完了しており後は出撃を待つばかりであった。
「おい紺野!」
「なに?」
「今日のあたしは、心水館の小川 麻琴じゃないよ」
「ああ、わかってるよ!喧嘩屋小川だろ?」
「そうそう、さすが、あんたとは同期の桜。わかってるね〜〜」
「とんだ腐れ縁だけどね。」
- 217 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時14分25秒
- 「まあ、そんなこと言わないでよ。」
「はいはい、しかしあんたと戦う奴が気の毒でならないね。」
「石川 梨華か・・・聞いたことない奴だけどね。まあ“失礼のない”ように戦わないとね。」
「ふっ、そんだけ口利ければ大丈夫だよあんたの勝ちだ!そろそろ行こうか?」
紺野はそういうと立ち上がり控え室を出て入場ゲートに向かった。
そして小川もそれよりやや遅れて向かった。
- 218 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時15分04秒
- 8.
「大丈夫だよそんな緊張しなくても。」
なつみが梨華に諭すように言う。
「ええ・・・でも」
声が上ずってる。
パーーンッ!と控え室に乾いた音がした。
なつみが梨華の頬を張った。
梨華は少しきょとんとした後に我にかえった。
「落ち着いた?」
「ありがとうございます。」
梨華の顔が引き締まった。
「そうそう!梨華いい顔してるよ!」
「はい・・・・ところで・・・」
「ん?なに?」
- 219 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時15分44秒
- 「安倍さんなんで、サングラスして頭にバンダナ巻いてるんですか?」
「これっ?んーあたしね、一応有名人だからね。正体ばれると結構
面倒なんだよね。特にこういう格闘技関係だとね。」
「そうなんですか・・・」
梨華はなつみが元柔道日本一だということは知らない。そして失踪してたことも。
無断で大学進学を破棄し、オリンピック強化指定選手もぬけた。
学校やその他大勢の人間に対して多大なる迷惑をかけている。
そこまでして我を通した。
「そっ・・・・よし梨華っ!そろそろ行くっしょ!」
「はいっ!」
- 220 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時16分16秒
- 9.
ライトがマットにたっている二人を照らす。観客の声援が腹の底に響く、それがマットの
振動とともに伝わってくる。びりびりとした緊張感が支配する。
(意外と堅い・・・)
梨華はそう思った。練習では何回かマット上で行ったが、本番のマットは若干硬い気がした。
レフェリーの説明が開始された。
目の前にいる相手・・・小川 真琴はそんなことを意に介さず梨華に視殺戦を仕掛けてきた。
鼻と鼻がぶつかり合うくらいの位置で激しいにらみ合いが行われている。
観客の興奮もヒートアップしてきた。
レフェリーが二人を引き離し、運命の鐘が鳴らされた。
- 221 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時16分56秒
- 奇襲。ゴングがなると同時に小川は、梨華をコーナーに追い詰めた。
梨華と密着し左右の膝で梨華のわき腹を打つ。
(っつ!)
梨華はまだ自分のリズムがつかめない。
「小川〜っ引きずり倒せっ!」
紺野が叫ぶ。
「首だよっ、首をとれ!」
安倍も叫んだ。
しかし、小川は梨華に密着しており。首を取らせない。
梨華は小川の肩を肘で強打しだした。
ガシッガシッという音が聞こえる。
小川は、痛みをこらえ無理やり梨華を引きずり倒した。
ドン
梨華の背中がマットに打ち付けられた。
小川はそのまま袈裟固めに移行しようとした。
腕をとり、首を決めようとする。
ガッ
- 222 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時17分26秒
- その技が決まる前に梨華の肘が小川のこめかみを捉えた。
(チッ)
梨華は素早くその場を逃れ小川に対し間合いを取った。
小川もまた、素早くファイティングポーズを取る。
(危なかった。)
双方同時に思う。
激しいオープニングとは一転して今度は制空圏の奪い合いとなる。
元々柔道を経験していたとはいえ、小川にとってやはり打撃こそが
勝負の生命線、小川はじっくり構える。
対する梨華も打撃こそが本職である。
平家に教わった葛技、安倍に習った寝技もあるがやはりここ一番で
信用できるのは打撃であった。
ここに二人のファイティングスタイルががっちりとかみ合った。
小川は、やや半身にアップライトに構えた。
対する梨華は、半身で腕を脇に絞るように構える。手は顔の線上にある。
- 223 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時18分17秒
- そして左腕はだらりとさげている。独特の構えであった。
目でけん制を掛ける、指でけん制を掛ける。筋肉の動きでけん制を
掛ける。しかし両者とも誘いにのらない。
その緊張感は観客席にも伝わっていた。
(こいつなかなかやるね。)
小川は思う。
しかし、何時までもにらみ合いをしてるわけには
行かない。痺れをきらせた小川は梨華に対して下段蹴りを放った。
しかし、そのけりは空を切った。梨華が動いた様子はない。
(どうしたんだ?)
小川は思う。
小川は更に蹴りを放つ。一発。空を切る。二発。空を切る。三発。空を切る。
「ちっ」
- 224 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時18分49秒
- 小川は、拳を打つ。一発。体をすり抜けた。二発。体をすり抜けた。三発。その拳に
合わせ梨華がカウンターの掌打を小川の顔面に打った。小川はのけぞる。
「おおっ」
観客が梨華のその神技的ディフェンスに感嘆の声をあげた。
「てめえっ」
猪突猛進。小川は梨華の制空圏に入った。
スッ
梨華は流水の動きで素早く小川の懐にもぐりこんだ。
梨華の左腕が動いた。稲妻一閃!猛虎の牙が小川に五発突き刺さった。
小川の意識は朦朧としている。
梨華は小川を捉え首投げで投げると即座に小川を袈裟固めで固めた。無我夢中であった。
「絞めろ〜〜〜〜っ」
安倍が悲鳴に似た声を挙げる。
「小川〜〜〜〜っ!!」
紺野がマットをバンバンと叩く。
- 225 名前:十三 投稿日:2001年10月09日(火)23時19分19秒
- その甲斐もなく小川は落ちた。
レフェリーが腕を頭上で大きく交差する。
終了のゴングが打ち鳴らされる。
「お〜〜〜〜〜〜〜っ」
観客の興奮が最高潮に達した。
拍手喝采が梨華の頭上に降り注ぐ。
「梨華〜〜っ」
安倍がリングに上がり梨華を抱きしめた。
祝福の抱擁であった。
「安部さんっ」
「よくやったべさ、さっ、あっち言って勝ち名乗り挙げてくるっしょ。」
安倍は興奮のあまり思わず方言丸出しでしゃべる。
レフェリーが梨華の腕を挙げる。
拍手が再度降り注ぐ。
梨華はふと辺りを見渡した。
リングではまだ小川が倒れていた。
その横には紺野が付き添っていた。
○石川 梨華(8分23秒 首投げ→袈裟固め)小川 麻琴×
- 226 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月10日(水)00時27分22秒
- ゆっちゃなんだが、ここは順当。
次の試合に期待。
- 227 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時00分28秒
10.
小川が破れた様を中澤は、主賓席で見ていた。
ドンッ
中澤は目の前にある机を叩いた。
周りの注目を一身に受けた。
「石川〜っ」
小声でそう呟くと鋭い目をして黙った。
11.
梨華は花道を引き返していた。
先ほどの余韻がまだ残る。
「へへ〜〜っ!み〜〜っけた!」
この会場のどこかで、そう言った者がいた。
- 228 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時00分58秒
- 12.
梨華となつみは、意気揚揚と控え室に引き上げてくる途中であった。
ドアを開けようとしたそのときであった。
「まちな!」
そう声をかけてくるものがいた。
梨華となつみは振り返った。
この大会のメインイベンターの鈴木 あみであった。
「あんた、安倍なつみだろ?」
そう言った。
「人違いじゃないですか?」
なつみはそう言った。
「あたしの目は誤魔化せないよ。あんたが失踪したせいでね。あたしは
試合に負けたのに代表になったって言われつづけてたんだよ。
おかげでさ、イメージが悪いったらないよ、そのおかげで
会社も辞めさせられてさ。ここまでのぼんのは大変だったよ。」
「・・・どうでもいいですけど、こいつのアイシングしてやんなきゃ
いけないんでね。もういいですか?」
しゃっ!
あみがなつみに拳を放った。
- 229 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時01分30秒
- なつみがその拳を片手でキャッチした。
「いい加減にしねえとてめえの手ぶっ潰すぞ!」
なつみがドスを聞かせた声で言った。
「やっぱな、今日は、勘弁してやるよ!だがな忘れんなよ!
あたしとあんたは、いずれケリつけないといけないってね。」
そう言い残しあみは、去っていった。
- 230 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時02分09秒
13.
「落ち着いてるね明日香。」
矢口は、明日香に声をかけた。
「いつもと同じです、全力を尽くすだけです。」
「解っている・・・解ってるよ・・・それが福田 明日香だからね。」
「でも・・・・」
「なに?」
「今日は、少しだけ矢口さんのために戦います。」
「なんで?」
「あたしをここまでしてくれてました。今まで一人で強くなってきたと
思うことがありました・・・でも矢口さんがいてくれたからこそ
あたしは、ここまでこれた・・・ですから・・・この全力の戦いを
矢口さんに捧げます。」
矢口は強く明日香を抱きしめていった。
- 231 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時02分40秒
- 「明日香〜〜っ!バカヤロ〜〜!いいんだよ、そんな気を使わなくてさ〜〜
あんたは、全力で戦ってこりゃ〜いいんだよ!心配すんな、死水はとってやるよ!」
矢口の声は震えていた。
「福田選手っ!準備お願いします。」
会場のスタッフがドアをあけてそう言った。
「よ〜〜し明日香いくぞっ!」
矢口は気合をいれそう言った。
「押忍!」
明日香も気合充分であった。
- 232 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時03分17秒
- 14.
梨華の勝利の瞬間、ひとみは控え室のモニターで見ていた。
「梨華は勝ったよ!次はあんただ。」
飯田 圭織はひとみにそう言った。
「はい、任せてください。飯田さんの顔に泥塗るわけにいかないですから。」
「そんなことは、気にせず心置きなくいって来な。」
「はい・・・・・でもありがとうございます。」
「なにが?」
「あの時の約束を守っていただいて・・・」
「ああ、あれね!あたしよりあんたの方が覚えていたほうが驚きだよ
あの時あんたまだ本当に子供だったからね。」
「あなたを・・・最初に見た時・・・震えました・・・・姉・・・」
ひとみがそう言いかけてる最中にスタッフが入ってきた。
「吉澤選手っ!準備お願いします。」
「ひとみっ!昔話はあとだっ!さっ、いくぞっ!」
「はい!」
ひとみは、そう言うと入場ゲートのほうに向かった。
- 233 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時03分46秒
- 15.
場内が暗転する。福田 明日香と言う名前がコールされた。
レーザー光線が空中を舞う。
入場テーマが流れる。
ワーグナーの「ワルキューレの騎行」が流れた。
先頭を明日香がゆっくりと歩きその後ろを矢口が歩く。
花道を踏みしめるように歩きやがてリングインした。
吉澤 ひとみと言う名前がコールされた
レーザー光線が空中を舞う。
入場テーマが流れる。
JUDAS PRIESTの「THE HELLION〜ERECTRIC EYE」が流れた。
「灯油缶でももってくりゃよかったかな?」
ひとみは言った。
「ははっ!そりゃいいね!」
圭織が笑いながら言った。
パンパンと二回ひとみは頬を叩き気合を入れた。
「よぉ〜〜〜〜っし」
ひとみはみずから奮い立たせた後にその姿を観客の前に晒した。
やや遅れて圭織もひとみの後ろについて歩く。
- 234 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時04分24秒
- ひとみはこの試合に臨むにあたり空手着を着用していた。
平家に習った葛技、短期間であるが安倍に習った寝技
飯田に習った中国拳法が自分の戦いのバリエーションを広げてくれた。
しかし自身のバックボーンはやはり空手であった。
白い空手着に黒帯がはえる。
やがてひとみもリングインした。
- 235 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時04分56秒
16.
明日香さぁ!いつからなんだろうね?あたしとあんたのあいだにこんなに観客がいるよ。
本当いうと二人っきりで闘いたかったよ。
でも・・・・この空間は、あたしとあんただけのもんだ!誰にも邪魔させないよ。
今すぐに・・・今すぐにこの拳をあんたの顔に入れたいよ。
この蹴りをあんたの体に叩き込みたい。
いいかい?明日香?
いくぞっ!
- 236 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時05分26秒
- 17.
勝ちたがってるのか?あたしがこの漢(むすめ)に?
よくないね!戦いに必要なのは、その時、その時に応じて
一番効果のある技を出すこと。そして試合は一瞬、一瞬を全力を尽くす。
一番効果的な技を、一番近い距離、一番近いタイミングでだす!
その中では・・・・・・勝とうとする気持ちすら邪念!!
勝利とはその結果”天”が与える。それけさ。
- 237 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時05分58秒
- 18.
ゴングが鳴った。
もう二人を邪魔するものはいない。
ひとみは腰を落とし足を前に踏み出した。
明日香が間を詰める。停まらない。
ひとみも下がるつもりは毛頭ない。
打ち合う。
明日香の左ローがひとみの右ひざの横から入る。
様子見どころのレベルではない、全力で防がねば倒れているであろうローだ。
ひとみは、やや足を上げ防いだ。
(響く・・・頭のてっぺんまで・・・)
グラッ
重心が少しぶれた。明日香はそれを見逃さない。
拳が来る。腕で防ぐ。もう一発来る。防ぐ。
シュシュッ明日香の左拳がきた。
(エッ?)
今までとは異質の拳。否!それはパンチといったほうが正確である。
明日香はボクシングのジャブをひとみに放った。
- 238 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時06分35秒
- その拳の疾さに戸惑う。
(こいつボクシングまでやってんのかっ!)
そう思った瞬間見えないところからパンチがきた。
ひとみの頬のやや上を明日香の右フックが捉えた。
「ダウンっ!」
レフェリーがカウントを数える。
「落ち着け!カウント8まで休めっ!」
圭織が指示する。
ひとみは倒れながらも明日香を睨む。
(明日香・・・あんた凄えよっ!あたしを倒す為にそんなのまで覚えてきたのか?)
「・・・・6・・・7・・・・・8・・・」
ここでひとみは立ち上がり構えた。
「ファィッ」
更に明日香は前に出る。そして打つ。疾い!重い!そして停まらない!
(どこかに隙ができるはず・・・)
ひとみはじっと待つ。
明日香は、もう一分も連打したままであった。
(このままじゃ・・・どこかに・・・・・)
それは無意識の攻撃であった。その距離わずか10cm。ひとみの拳が
明日香の胸部に触れた。
「はっ!」
インパクトの瞬間ひとみは最大限の力をこめた。明日香は後方へ飛ばされた
- 239 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時07分06秒
それに臆することなく再び明日香は前に出る。
明日香の猛攻が再開された。打!打!打!打!打!停まらない。
再びひとみは防戦一方になる。
ガードをかいくぐり何発か貰った。
(えっ?)
ひとみは奇妙な感覚に襲われた。動きの全てがスローモーションをみてるかのようであった。
(ここを・・・こうっ!)
明日香の右拳に合わせひとみの円の蹴りが明日香の側頭部を捕らえた。
明日香がふらつく。ひとみは肘で追撃にでる。
「そるあっ!」
それが明日香のこめかみを打ち抜いた。
「ダウンッ」
(なんだ?今の蹴りは?中国拳法か?)
明日香は思う。
- 240 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時08分11秒
- (どうした?明日香?たってこいよ!あんたの全力はまだまだだろ?まだあたしと
やれるだろ?そうだっ!たて。そして来いっ!)
「・・・・5・・・6」
「ファイッ」
明日香は立ち上がった。そしてひとみに向かう。
(???・・・軽い?なにかねらってるのか?)
明日香の攻撃から先ほどの重さが消えた。その代わりはねるようなリズムを取りだした。
(あたしを幻惑させようとしてるのか?明日香?)
右ローを一発。そして左の二段蹴り。技が軽くなったとはいえ気を抜くと一発で
ダウンする位の蹴りであった。
「しっ」
蹴り足がマットについた瞬間、明日香は高速のコマのように回転した。
バックハンドブロー・・・俗に言う裏拳である。
ひとみはこれをしゃがんでかわす。拳の風圧が髪に残る。
そのままの体制でひとみは水面蹴りを放った。
明日香が倒れた。
- 241 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時08分52秒
- ひとみは寝技に持ち込もうとした。しかし明日香が素早く反転!それをゆるさない。
両者素早く立ち上がり打ち合う。
ひとみがラッシュをかける。拳、拳、拳、顔面にはいる。
正拳突き!あばらに刺さる。
明日香も打ち返す。
(なに?・・・明日香の動きが読める?)
拳!弾く、肘!弾く、ジャブ!避ける。
蹴り!防ぐ、膝!防ぐ。
(これなら・・・カウンターを・・・・ここっ!!)
ひとみは、明日香のローキックに対し打ち下ろしの右拳を放つ。
ブンッ!
空を切る。明日香がひとみの視界から消えた。
罠であった。明日香はダッキングでひとみの拳をかわすとその反動を利しパンチを打った。
ガンッ
ひとみの顎に明日香の蛙飛びアッパーが決まった。
「ダウンッ!」
レフェリーがカウントを取る。
「・・・4・・・・5・・・」
- 242 名前:十三 投稿日:2001年10月12日(金)00時12分39秒
- 市井復活記念でかっこいい市井を書こうと思いましたが
やはり話の大筋を覆すのはよくないと思い断念。
ところでこの話の主人公がだんだん飯田になってる気がする・・・
- 243 名前:十三 投稿日:2001年10月14日(日)23時35分36秒
- 19.
えっ?ここはどこだ?マット?いつカウントが数えられたんだ?
すまない明日香!今行くから待っててくれ。
「7・・・8・・・」
よし立った。
明日香あんた凄えよ。その小さな体でよくここまで!
あたしを倒す為か?
さあ来いよ!倒したいだろ?あたしを?
なあ?聞かせてくれよ?なにを捨ててきたんだ?好きな食べ物は?
友達と会う時間は?遊ぶ時間は?恋人は?どうなんだ?
解るよ明日香!その体でここまで這い上がってくるってのは
並たいていじゃできないよ。そこまでして何を求めてるんだ?
なあ?明日香?何の為だ。
あたしに教えてくれないか?
(ほら!入った!)
- 244 名前:十三 投稿日:2001年10月14日(日)23時36分07秒
20.
ひとみのハイキックが明日香のラッシュを潜り抜けて入った。
明日香は崩れ落ちた。
カウントが数えられる。
(頼む立って来てくれ!まだあたし達はやり残してるだろ?)
「明日香〜〜〜っ!!」
矢口が絶叫してる。
明日香は立ち上がる。
お互いにこれでダウン二回ずつ。後がない。
明日香、気づいてるかい?あんたの今の表情・・・笑ってるよ。
楽しいかい?あたしは楽しいよ!でもなにがあったんだよ?
笑った明日香なんてみた事ないよ。
両者とも限界である。疲労の上に疲労が重なる。
だが・・・・それでも明日香は来る。
明日香のパンチが立て続けにひとみに襲う。
頭、顔面、鎖骨、心臓、腹、肝臓。
半分は避けた、半分はもらった。
ひとみの顔から血が滴った
「おらっ!」
ひとみも膝を明日香のわき腹に突き刺す。
- 245 名前:十三 投稿日:2001年10月14日(日)23時36分39秒
21.
明日香・・・・停まらない・・・まだまだ打つ。
ひとみ・・・・捌く・・・・・・すべて捌く。
「しゃっ」
明日香が中段蹴りを放った。
重く、疾い、全力の会心のけりであった。
蹴りは寸分の狂いもなく吉澤の脇腹を目指していた。
明日香いいかい?放つよ?あたしの中の獣!
「シュッ」
バンッ
ひとみの上段蹴りがカウンターで入る。
倒れない。
ガツッン
肘でこめかみを打つ。
倒れない。
膝を腹に突き刺す。明日香の体がくの字に曲がった。
その瞬間ひとみは、明日香の首に己の左腕を絡めた。
フロントネックロックが決まった。
「ひとみ〜〜〜〜〜っ!!!!極めろ〜〜〜」
圭織は絶叫した。
その声は、会場の歓声にかき消された。
「明日香〜〜っ明日香〜〜っ」
矢口が絶叫した。
その声は、会場の歓声にかき消された。
ひとみは、そのままの状態で、明日香を引きずり倒すと
自分の両足で明日香の体を絞めた。
- 246 名前:十三 投稿日:2001年10月14日(日)23時37分14秒
22.
「明日香〜〜っ明日香〜〜っ」
えっ?遠くであたしを呼んでる声がする・・・
なにこれ?あたしが歌を歌ってる?
なんだ?これ?
あれは・・・・飯田さん?・・・えっ?館長代理?・・・矢口さん・・・・
あの人は・・・ああTVでみた事ある。確か柔道の全日本チャンピオン・・・
あれは、平家流の保田さん?・・・・誰だ?あいつは?・・・
鼻にピアスしてるよ・・・もう一人もしらないね・・・でもどこか
であった気がする・・・・・どこかで・・・・
ところで何故みんな泣いてるんだ?
ねえ?なんで?
あたしの為に泣いてるの?
なんで泣いてるんだ?
ねえ誰か教えてくれよ。
あれ?あたしが去っていくよ。
どこ行くんだよ?
ねえ?どこ行くんだ?
おい何処行くんだよ?
なにを見つけたって言うんだ?
それがあたしのやりたいことなのか?
おい明日香、明日香、明日香。
えっ?なに?この光?
あたしを包んで・・・・・・・・暖かい・・・・・
- 247 名前:十三 投稿日:2001年10月14日(日)23時37分57秒
- 23.
ひとみは、満身の力で明日香を締め上げた。
ひとみは天を睨み、歯を食い縛ってる。
福田 明日香はぴくりとも動かない。
レフェリーが、ひとみを抱えてその体を叩いた。
「お前の勝ちだ」
その声が怒涛のような歓声に消されてひとみの耳にすら届かない。
圭織がリングに上がってきた。
「勝ったぞ!!」
梨華も控え室から駆けつけた。
「よっすぃ〜勝ったんだよう!勝ったんだよう!」
叫ぶ。
しかしひとみには聞こえない。何も見えない、何もきこえない。ただ天を仰いでいた。
○吉澤 ひとみ (21分15秒 胴絞め式フロント・ネックロック) 福田 明日香×
- 248 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月20日(土)02時32分20秒
- かっこいい市井、見たかったです〜
でも作者さんの思うように進めてください。
頑張って!
- 249 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)01時51分56秒
- 第11章〜裏闘
1.
「BRAVE」は大成功のうちに終わっていた。しかし、吉澤には
その記憶がない。明日香戦のあと倒れるように控え室に戻った
それからの記憶がない。
後から聞いた話だと、多くのマスコミがこぞって吉澤VS福田を
ベストバウトに挙げていた。
明日香との闘いから三日が経っていた。
体は、まだだるい。全身腫れぼったい気がした。
(これじゃ肉の塊だね!)
ひとみはそう思う。
すっかりからだの力がぬけきってしまった。
オーバーホールにはまだ時間がかかりそうだった。
(明日香は?)
ふと思う。
- 250 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)01時52分28秒
- 聞いた話だと明日香は、あの後、矢口におぶさって控え室に
戻った。そこで倒れた。救急車が呼ばれ病院にはいった。
CTスキャンを受けた。特別に異常が見られなかった。
明日香はその後、軽い眩暈と吐き気をうったえた。
そして再度、精密検査を受けた。その後、まだ入院中である。
ひとみは、みょうに会いたい。否、それはやめようと思う。勝者
が敗者にあってなにを話せばいいのか?
その時チャイムが鳴った。
- 251 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)01時52分59秒
2.
暇を持て余してた梨華がでた。
「あっ!安部さん。」
なつみであった。
「どう?吉澤?体は?」
「まだ・・・だるいです。」
「そっか〜〜だいぶ殴られたからね。で・・・動けそう?」
「いえ・・・ちょっと・・・」
「じゃ石川、借りてくよ・・・」
「ええっ?」
なんだろう?梨華は思う。
「ええ、どうぞ、好きにしてください。」
「そうさしてもらうよ。」
(えっ・・・ちょっと・・・よっすぃー・・・・)
「ど・・・何処行くんですか?」
「ん?楽しいとこ!」
梨華は、半ば強引になつみに連れられた。
- 252 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)01時53分36秒
3.
東京にある巨大なドーム球場。梨華となつみはその近くにきていた。
「あの・・・安部さん・・・楽しいとこってここですか?」
梨華が訪ねる。
「へへっ、着いてからのお楽しみ!」
いたずらっ子のように答えた。
なつみは、慣れた足取りで関係者入り口の方へ向かった。
そこにアヤカがいた。
「安部さん。」
「あーっアヤカ久しぶり。」
「この前、安部さん、セコンドに付いてましたね。」
「わかった?」
「わかりますよ、そこに居られる石川さんに付いてましたね。」
「ああ、そうそう梨華っ!この人「BRAVE」のプロモーターのアヤカ。」
「はじめまして、石川です。」
そう挨拶した。
- 253 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)01時54分23秒
- 「アヤカです。これからもよろしくお願いします。」
丁寧に挨拶した。その態度にいやみはない。
「ところで安部さん・・・・聞きましたよ。」
アヤカが言った。
「なにを?」
なつみは心当たりがない。
「控え室で鈴木 あみと一騒動あったそうじゃないですか。」
「ああ・・・それほどのもんでもないよ。」
「やってみませんか?鈴木 あみと。「BRAVE 2」のメインで!」
唐突に言った。
「また・・・あんた、あたしが表じゃ試合出れないの知ってるだろ?」
少し怒っていった。
「ええ・・・ですが・・・安部さんさえその気でしたら・・・私どもは問題を
解決する所存です。」
「・・・・考えとくよ!」
なつみはそう言った。
- 254 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)01時55分15秒
- 3.
それから梨華となつみは関係者入り口のさらに奥に進んでいった。
指紋照合のドアがあった。アヤカは手を触れた。
ドアが開く。
さらに進むとエレベーターがあった。
(なに?これ?なんでこんな厳重なの?)
「さっ、どうぞ!」
アヤカが言った。
二人は、乗り込む。
エレベーターの地下6階のボタンが押された
(えっ?ここって確か地下二階までしかないんじゃ・・・)
梨華はそう思う。
エレベーターの扉が開いた。
遠くで歓声がする。
三人はその方向に向けて歩く。
- 255 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)01時56分11秒
- 4.
そこは、八角形の闘技場であった。
下は、マットではなく砂が薄く敷き詰められている。
その中で二人が闘っていた。
「えっ?」
梨華は思う。
「え・・・・あの二人って・・・倉木さんに・・・宇多田さん・・・?ですか・・」
「ええ!石川さんもテレビで見たこと位あるかと思いますが・・・」
アヤカが答えた。
(この二人ってライバル団体のトップ同士じゃない。こんな戦いってあるの?)
梨華はそう思った。
「ここの戦いはね!文字どうりなんでもありなんだよ!噛み付くもよし
目をつくのもよし、禁じられてるのは武器を使うこと位。」
なつみは、ポーズをとり説明した。
「それとここの闘いは、決してマスコミに流れることはございません。
危険すぎますからね。それに名のあるかた同士ですと色々しがらみ
も多いですからね。ここならそんな心配入りません。」
「失踪した柔道王とかね!」
なつみが横槍を入れた。
「そうですね。」
アヤカがくすりと笑いながら答えた。
- 256 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)01時56分55秒
- 5.
「では、ごゆっくりどうぞ。次の選手は中々面白いですよ。」
アヤカはそう言い。去っていった。
「じゃ行こうか?」
なつみは梨華の手を取り。観客席のほうへ向かった。
「なんか・・・ちょっと信じられませんね・・・」
梨華がそう言う
「なにが?」
なつみも言う。
「こんな闘いが行われてるなんて・・・」
「そう?あたしも関西の方面でちょっとやってたよ。」
「えっ?そうなんですか?」
(そういえば、あたしはまだ安部さんのこと良く知らない・・・強い人であることは解ってるけど・・)
梨華が驚いた顔をしていた。
「色んな人と闘ったよ、元五輪代表とかね。」
「おおおおおおっ」
なつみがそう言った瞬間に歓声が地鳴りのように起こった。
宇多田が倉木に脇固めを極めた。そして一気にへし折った。
「ぎゃ〜〜〜〜〜〜っ」
という。声とともに倉木は意識を失った。
「勝負ありっ!」
立会人と思しき人物がそう言った。
終了の太鼓が鳴らされた。
- 257 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)01時57分28秒
- 6.
宇多田と倉木の闘いが終わった。場内にはまだ余韻が残っている。
その余韻を引きずりながら次に闘う選手が白虎の方角から入ってきた。
その姿形からしてその娘の使う流派は少林寺拳法であった。
場内にその娘の名前がコールされる。
新垣 里沙
それが娘の名前であった。
新垣は闘場に一礼し静かに待つ。
青龍の方角から対戦者が姿をあらわした。
髪は見事なまでの金色であった。
そして体からは不気味なまでの妖気を放っている。
後藤 真希
とコールされた。ピットファイター(喧嘩屋)と続けてコールされた。
- 258 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)01時58分02秒
7.
闘技場の中央で二人は相対した。
立会人が「武器以外の物は、なんでも使用可能だ、いいね。」
と説明した後、退いた。
開始の太鼓が打ち鳴らされる。
新垣は、護身(まも)りの構えをとる。右手は拳を作り脇を締め顔のやや下に
左手は掌を地面に向け腰の辺りに置いた。
まずは後藤が動いた。左のパンチを見舞う。新垣はそれを掌で弾く。
続いて右のパンチを見舞った。新垣はそれも弾く。
さらに後藤は加速度的に左右のパンチのスピードをあげる。
新垣は、それを全てかわすと後藤の首をめがけ足刀を放った。
足刀がクリーンヒットし後藤は後ろにのけぞった。
新垣は追撃をかける。
飛燕の連攻!
新垣の拳と蹴りが後藤に次々に決まった。
- 259 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)01時58分42秒
- サクッ
(えっ?)
新垣は思う。
攻撃を加えた新垣のほうの手首の辺りから大量の血が流れた。
新垣は恐怖する。得体の知れないなにかによって攻撃を
くわえられた。しかも大量の出血をしている。
(早めに勝負を決める。)
新垣はそう決めるや否や後藤の右腕をとり投げに行った。
ドンッ
後藤はうつぶせに倒された。
新垣は後藤の腕を固めさらに踵を後藤の顔面に打ち下ろす。
先ほどの正体不明の傷の所為か新垣の表情に明らかに怒りが感じられた。
何度も、何度も踵を落とす。
サクッ
今度は、足首の辺りから出血した。
観客がどよめく。
「やめっ!」
立会人がそう言い。試合が中断された。原因不明の出血の所為である。
- 260 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)01時59分18秒
- 立会人が後藤の下に行き。
「ボディーチェックさせて貰うよ、いいね?」
といった。
立会人は後藤の全身をチェックしたが特に異常は見られなかった。
「なにか見つかったかい?」
後藤がそう言った。
「口の中も見せて!」
立会人が言った。
後藤がゆっくり口を開いた。
しかし、やはり何もなかった。
「虫歯はないよ」
皮肉っぽく言った。
- 261 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)01時59分50秒
立会人が退き試合が再開された。
「はじめっ!」
太鼓が鳴らされた。
(何も見つからなかったけれどあの痛みは、刃物の痛み。それにこの出血は
黙ってても倒れる・・・決めなければ)
新垣は、後藤に二段蹴りを放った。一発目は脇腹、二発目は顔に、ともにクリーンヒットした。
そして新垣は後藤の下半身に攻撃を加えた。注意を下に向けさせる為である。
後藤の注意が下に集まった。新垣はそう思う。次の瞬間に新垣は右の親指で後藤の喉を狙いに言った。
武骨!少林寺拳法の秘中の秘と言われる技である。
新垣の指が後藤の喉に突き刺さった。
(決まった。)
新垣は確かな手ごたえを感じた。
- 262 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)02時00分26秒
8.
だが、次の瞬間に新垣は恐ろしいものを見た。
後藤の首が緊張する。血管が浮き出る。
新垣の武骨は後藤の筋力により返された。
そして後藤の口が開かれ新垣の右手首に噛み付いた。
「ひゃいい〜〜〜〜」
新垣が恐怖の叫びを挙げた。
先ほど新垣を襲った謎の傷の正体は歯であった。
鋭利な刃物にも似た後藤の歯が新垣に食い込んだ。
後藤は顎に力をこめる。
みちゅ
新垣の手首付近の肉が後藤に噛み切られた。
凄まじい噛筋力であった。
「ぎゃあああいい〜〜〜〜」
新垣が悲鳴をあげる。顔からみるみると生気がなくなっていった。
ぷっ
後藤は新垣の肉をはき捨てた。闘場の砂に肉が落ち、血が染み込んだ。
後藤の口から血が滴る。
ニィと後藤が笑った気がした。
- 263 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)02時01分42秒
- ゆっくり新垣の方へ向かい水月にパンチを一発打つ。
「ゲエッ」
新垣の体がくの字に折れる。
さらに顎にアッパーを一発。
新垣は前のめりに倒れた。
「勝負あり!」
立会人が叫んだ。
観客もいくつもの壮絶なシーンを見てきたものばかりであるが
かつてこれほど衝撃的なKOシーンはなかった。驚いて誰もが声がでなかったのである。
- 264 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月21日(日)07時27分22秒
- ご、後藤があの役とは……。
まさか市井は……。
- 265 名前:十三 投稿日:2001年10月21日(日)23時59分55秒
- >>264
やっぱりこの役をやらせるのは後藤しかないって
感じでそうしました。
- 266 名前:十三 投稿日:2001年10月25日(木)00時46分33秒
- 9.
この後藤の戦いを観客席後ろの通路からみてる者がいた。
「あれが、市井さんの弟子ですか?凄いですね。」
市井に話し掛けた娘。名を柴田 あゆみと言った。
「ふっ、まあ戦場格闘技では、噛み付きは初歩の技術だけどね。まあ一人でよく考えたよ。」
市井が言った。
「それにしても、あなたが弟子を取るとは珍しい。もっとも”元”ですが・・・どういう気まぐれですか」
「別に・・・深い意味はないよ!後で美味しく”喰らう”ためかな?」
「そうですか、ふふっ!あなたらしいですね。」
「まあね。」
「でもあの娘の目どこか似てますね。」
「誰に?」
「それは・・・・」
柴田のその言葉は、観客のどよめきにかき消された。
- 267 名前:十三 投稿日:2001年10月25日(木)00時47分17秒
- 10.
「あいつ・・・・とんでもない化け物だべ」
観客席で見ていたなつみは、思わず声を漏らす。
「なあ?梨華・・・・」
(えっ?いない・・・何処に?)
隣に座ってるはずの梨華がいない。
「お〜〜〜〜〜っ」
観客席からどよめきがおこった。
なつみは、闘技場に目を移した。
立ち去ろうとしてる後藤に対し後ろから攻撃を仕掛けたものがいた。
その娘は素早く闘技場に入ると一目散に後藤の背後まで駆け上段蹴りを後藤の側頭部に見舞った。
綺麗に入った。しかし、後藤にダメージは見受けられなかった。
後藤が振り返りその娘と対峙した。
後藤に奇襲を仕掛けた娘は梨華であった。
- 268 名前:十三 投稿日:2001年10月25日(木)00時47分55秒
- 後藤はまだ口から血を滴らしている。そして狂気を含んだ目で梨華を睨んだ。
「あんたか?元気だったかい?」
後藤は、梨華をみてそう言った。
「後藤!てめえに会う為に地獄の底からはい戻ったよ!!探したよ!」
梨華が興奮気味でそう言った。
「あたしもだよ。」
後藤が口元をにやつかせそう言った。
「なに?」
「あんたのね、体が忘れられなくてさ、探したよ。」
「・・・・てめえ・・・」
梨華が後藤に拳を入れようとした瞬間、後ろから制するものがいた。
「梨華、落ち着け!どうした?」
なつみであった。
また後藤の方も闘技場の関係者に押さえつけられてた。
「二週間後にあたしは、またここで闘るよ!その闘い見て、あんた、あたしと闘るか決めな!
ちょっとだけ猶予をあげるよ!」
後藤はそう言い残し控え室に引き上げていった。
- 269 名前:十三 投稿日:2001年10月25日(木)00時48分38秒
- 10.
後藤が控え室に引き上げる通路に一人の娘がいた。
「子供の様に噛み付きとはね・・・あきれた奴だね。」
そこにいたのは心水館の矢口であった。
「は」
後藤が豪快に笑った。
「ライオンのようにと言ってもらいたいね。」
後藤が言った。
「あんた達みたいに模擬ファイトに生きるものにとってあたしの闘いは
さぞ品格の無い物に写ってるだろうね。けどね、その品格ってのが
クセ物だね、闘いそのものが牙を失っちゃうのさ!」
続けて後藤が言った。
- 270 名前:十三 投稿日:2001年10月25日(木)00時49分42秒
- 「ほお〜っ」
「あたしが文字どおり闘いに”牙”を取り戻したんだよ!」
後藤が歯を二ッと見せそう言った。
「まるで卵を立てて見せたコロンブス気取りだね。あんたのその歯が上か
あたしの拳が上か・・・試してみるかい?」
ゴンッ
矢口は後藤を見据えたままコンクリートの壁に正拳を打ち込んだ。
「次の試合の勝者があんたと闘うことになっている。あんたと
闘うのが実に楽しみだよ・・・・」
矢口はそういうと闘技場に向かった。
ボロッ
矢口の打ったコンクリートの壁のひびがはいりその一部が崩れた。
- 271 名前:十三 投稿日:2001年10月25日(木)00時50分14秒
11.
やがて青龍の方角から矢口が入ってきた。
じっくり落ち着いて構える。
(明日香・・・この試合あんたに捧げるよ!そして吉澤を引っ張り出して
倒すよ、それまであたし負けないよ。)
矢口は虚空を彷徨うかのような目で闘技場の天を見ていた。
(ん?)
矢口は観客席に見慣れた顔を見つけた。
「裕ちゃん・・・」
矢口は中澤の下に行った。
「どうしたの?」
矢口が聞いた。
「矢口・・・ウチはこのまえで二連敗、もう後がないんや・・・
頼む矢口・・・頼んだで・・・」
中澤はしっかり矢口を見据えていった。
- 272 名前:十三 投稿日:2001年10月25日(木)00時50分52秒
- 「心配すんなって、まかせときな。」
「矢口・・・勝ったら”チュウ”したるで」
「そいつは、いらないよ!」
「ふふっ!任せたで」
「押忍!」
矢口はそう言うと闘技場の中央に向かった。
(ほおっ!矢口の奴いい背中みせよる。)
中澤はそう思った。
- 273 名前:十三 投稿日:2001年10月25日(木)00時51分50秒
- 更新しました。やっと矢口をだせました。
- 274 名前:十三 投稿日:2001年10月29日(月)00時08分23秒
- 12.
白虎の方角から矢口の対戦者が入ってきた。
まだ若いながらその風格は只者ではないと感じさせる。
名を椛田 早紀と言った。
椛田はキャッチ・アズ・キャッチ・キャンというスタイルの
レスリングの使い手である。
そのスタイルの源流はイングランドにあり。グレコローマンやフリースタイルのレスリングと異なり
関節技を中心に練られたそのスタイルはむしろ古流柔術に近いものがあった。
立会人が二人に「武器以外の物は、なんでも使用可能だ、いいね。」
と説明した後、退いた。
「はじめっ」
太鼓が鳴らされた。
(心水館のエースさん!どこがいい?腕、肩、首、脚、へし折るのも、ねじりきるのも
あんたの望みどおりさ)
(サブミッションの鬼か・・・あんたに心水館空手の真髄みせてやるよ。)
- 275 名前:十三 投稿日:2001年10月29日(月)00時09分18秒
- 椛田はやや前傾姿勢で構えた。
矢口は間合いを外しまだ構えていない。
椛田はその間合いの外から一気に矢口の足をとりに行った。
矢口はかわす。
椛田は拍子抜けした表情をしている。
再度、高橋は仕掛ける。
矢口は闘牛士のようにひらりとかわす。
さらにもう一度タックルに行く、今度は矢口は背中を見せ逃げた。
椛田がそれを追った。矢口は後ろは壁でありもう逃げ場はない。
「貴様〜〜〜っ恥を知れっ」
椛田が怒気を含んだこえでそう言うと脚をとりに来た。今までで一番疾いタックルであった。
矢口はそれを膝で迎撃した。矢口の膝が、椛田の顔にまともにはいった。
だが椛田もただで食らったわけでなかった。
打たれながらも矢口の腕を取った。そしてその刹那・・・・
ゴキッ
矢口の肩がはずされた。
- 276 名前:十三 投稿日:2001年10月29日(月)00時09分51秒
- 13.
矢口の表情が一瞬曇った気がした。
(痛て〜)
矢口は思う。
矢口は左の拳で一本拳を作ると椛田の鎖骨に打撃を加えた。
その打撃の威力に椛田は思わず握ってる手を離した。
しかし、この場を切り抜けたとはいえまだ矢口の不利は否めない。
矢口は素早く闘技場の端までダッシュすると外された方の肩の拳を地面につけた。
「はっ」
という掛け声とともに拳に力をこめた。
ゴキッという音とともに矢口の肩は元にはまった。
軽く二三回矢口は肩を回す。
「偉いで!矢口!それは結構痛いんや!」
観客席で見てた中澤が拍手とともにそう言った。
(望むところだよ矢口 真里!そういうことなら二度とはめられないようにしてやるよ。)
- 277 名前:十三 投稿日:2001年10月29日(月)00時10分23秒
- 椛田は今までのタックルとは、入り方の違うタックルを仕掛けた。
予備動作のない流れるように美しいタックルであった。
椛田の手が矢口の脚を取ろうとした瞬間、矢口のカウンターの後ろ蹴りを喰った。
「がはっ!」
凄まじい後ろ蹴りであった。椛田の歯が二本折れた。
しかし椛田は、何とか踏み堪えている。
「レスラーの首の鍛え方って凄いね。あたしの後ろ蹴りを堪えるなんてさ!」
矢口はそう言うと跳躍一閃!とび膝蹴りで椛田の顎を砕いた。
さらに矢口は追撃する。
正拳突き、掌底、上段蹴りを打った。その全てが一発で意識を失うくらい
重いものであった。文句のない空手の技であった。
椛田は仰向けに倒れた。
その目はもはや生気は薄い。
矢口は椛田に背を向け去ろうとした。
「勝負あ・・・」
- 278 名前:十三 投稿日:2001年10月29日(月)00時10分59秒
- 立会人がそこまで言いかけた。
しかし椛田は最後の執念を見せ矢口の足首をとり引きずり倒した。裏アキレス腱固めに入ろうとした。
矢口には油断があった。その所為で足首をとられた。
だがそれも矢口にとってどうということのないことであった。
椛田の技が完全に決まる前に矢口のもう一つの足の踵が正確に椛田の目を直撃した。
まるで後ろに目がついてるかのように。
椛田は目を抑え片膝を付いた。
矢口は立ち上がり椛田の側頭部をローキックで打ち抜いた。
椛田は今度こそ完全に意識を無くした。
「勝負あり!」
立会人の声が闘技場に響き渡った。
- 279 名前:十三 投稿日:2001年10月29日(月)00時11分29秒
-
14.
なつみと梨華はすでに会場をあとにしていた。
あの後藤という娘をみてから梨華の様子がへんである。
「梨華・・・なんかこんなとこ連れてきて申しわけないべ」
なつみがすまなそうに梨華にいった。
「いえ・・・・安部さん・・・感謝してますよ。やっと・・・やっと奴と会えたんですから。」
その時の梨華の目はいつもの梨華の目ではなく後藤と同様に
狂気を宿した目をしていた。
「あいつとあんたの間に何があったのさ」
なつみが問う。
「言わなくてはいけませんか?」
その声は有無をいわさぬ迫力を持っていた。
「いや!梨華が言いたくないんだったらいいべ」
「すいません、いずれ言う時がきたら、ちゃんと話します。」
「そう・・・・」
なつみもそれ以上聞く気はなかった。
梨華は左の耳についてるピアスに手を触れ
(先生・・・梨華を見守って下さい。)
と思った。
- 280 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月29日(月)02時09分04秒
- ,一-、
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■■-っ <ここ!これ!う〜〜う〜〜
´∀`/ \__________
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- 281 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月29日(月)23時52分06秒
- 275の
>再度、高橋は仕掛ける。
最初は高橋の予定だったってことね。
- 282 名前:十三 投稿日:2001年10月30日(火)00時08分15秒
- >>281
すいませんそのとおりです。
注意力散漫です。
- 283 名前:十三 投稿日:2001年11月04日(日)23時30分51秒
- 15.
中澤 裕子は意気揚揚と引き上げていた。
矢口の完勝で沈んでいた心が解消された。
(ようやったで矢口!)
顔に自然と笑みがこぼれる。
中澤の足取りも軽い。
中澤は自宅に戻るのに裏路地を抜けて、公園の中を通る。
その公園の中にある野球場を通過しようと思い。中に入る。
辺りはすでに暗く、貧弱な証明設備だけが場を照らす。
中澤はふと外野の芝生の辺りで止まった。
そして「やっとその気になったんか?圭坊!」
と言った。
暗闇の中から保田が出てきた。
「ここまでお膳立てされちゃあね。」
保田が言う。
「ちょっとは強くなったんか?」
中澤が言う。
「倒すさ、そして、亜弥をあたしのものにする。」
保田が言う。
- 284 名前:十三 投稿日:2001年11月04日(日)23時31分21秒
- 「・・・・倒すとか・・・倒さへんとか・・・お前はそんなことでしか
人に好きって言えへんのか?・・・・」
ふーっと中澤はため息をついていった。
「・・・・」
保田はじっと中澤を見る。
「・・・・・せやけど・・・・ウチも似たようなもんや!」
フッと笑い言った。
「フッ」
保田もまた笑った。
「来ぃや圭坊!」
中澤が言った。
- 285 名前:十三 投稿日:2001年11月04日(日)23時31分52秒
- 16.
ゆらり
保田の体がスローモーションのように前に動いた。
そしてほとんど予備動作のない動きで中澤にローキックを見舞う。
ビリッ
中澤の脚に電流が走る。
「ええ蹴りやないか。」
中澤が言う。
「シッ」
保田はさらに中澤に対し打撃を加える。
拳、拳、拳、蹴、膝、肘、掌、つま先、指
保田はあらゆる体の部分を使い中澤を攻撃した。
「やるな、ウチの者でもここまでの打撃できるのはそうおらんで!」
中澤は防ぐと同時にそう言った。
「じゃっ」
保田はさらに中澤に貫手を見舞う。
中澤はそれを肘でブロックした。
- 286 名前:十三 投稿日:2001年11月04日(日)23時32分25秒
- 「裕子〜〜っあたしを舐めてるのか?」
保田は続けざま中澤の顔面に正拳を放った。
中澤は後ろにそらす。
保田は追撃をかけた。中澤に胴タックルを仕掛ける。
中澤の腕は完全に保田に決められた。手はきっちりクラッチされている。
「裕子〜〜っお前ならこの後どうなるかわかるな?」
保田が言った。
その声は闇夜に響き渡った。
- 287 名前:十三 投稿日:2001年11月04日(日)23時32分56秒
17.
保田はさらに力を加え中澤を引き倒そうする。
引き倒せばそのまま中澤は両手をきめられてる。後は保田のおもうままである。
(えっ?・・・・・岩・・・?)
中澤を引きずり倒そうとするができない。
中澤は両の腕に力をこめた。
ぶちっ
保田のクラッチが中澤の単純な腕力によってきられた。
(な・・・・っ?)
がっちりクラッチされた手はそうやすやすと返せるものではない。
しかし、保田のクラッチはいともあっさり中澤に返された。
ドンッ
中澤の正拳が保田の顔面にヒットした。
保田は後ずさる。
「圭坊!よくここまで強うなった!褒美にお前に打撃の真髄みせたる。」
中澤はそういうと構えを取った。
- 288 名前:十三 投稿日:2001年11月04日(日)23時33分34秒
- 「まず上段の正拳突きや、顔面カバーせえや!」
中澤が言った。
(なに?)
中澤が正拳を打つ、拳が一瞬消えた気がした。そして次の瞬間に保田の顔面に正拳突き
が決まっていた。
「うごほっ」
鉛の鉄球を受けたのではないかと思うくらい凄い衝撃だった。
「どうした?ウチは顔面に打つといったはずやで?」
保田は立ち上がり構えた。しかし足取りはおぼつかない。
「次は、中段の前蹴りや!水月を防御せえ。」
「そら」
またも蹴りが一瞬消えた気がした。そしてそれは、保田の水月に突き刺さった。
「ぶへっ」
刃物で刺されたのに似た痛みが保田を襲う。
(そんな・・・・・ばかな・・・)
「あたってしまうな〜〜圭坊!」
中澤は倒れてる保田に対し見下しながら言った。
「次は首への手刀や!」
どんっ
綺麗に入った。
- 289 名前:十三 投稿日:2001年11月04日(日)23時34分06秒
- 「そして次は喉への足刀!」
どんっ
これも綺麗に入る。
保田の目には今世界が二つに見える。
ハァハァ
呼吸が定まらない。
(圭坊・・・まだ・・・まだやるんか?)
「・・・・次っ!上段回し蹴り!」
バシ〜〜ンッ
完璧なタイミング、完璧な間合い、完璧なスピードで決まった。
保田はその場に崩れ落ちた。
「圭坊!ウチは今見せた技をン十年間、毎日1000本以上繰り返してるんや。それが
できる馬鹿なら誰でも今のことができる・・・・」
意識がない保田にそう言い中澤は振り向き歩き出した。
- 290 名前:十三 投稿日:2001年11月04日(日)23時34分37秒
18.
「ちょっとまてよ!」
保田が瀕死の体でよろけながら立ち上がった。
「まだ終わってないのにどこ行くつもりだよ!」
「まだやるんか?」
「まだ・・・あんたに使ってない技がある・・・それを使うまではな」
「虎王か・・・」
「ああ・・・だがあんたはそれがどんな技かまだ知らない。」
「ええで・・・そいつをウチに使ってみいや!」
「馬鹿だぜ裕子・・・・」
保田は腰を落とし構える。両腕はだらりと下げてる。
ゆらりと保田が動いた。
そして跳躍しサンボで言う飛びつき腕ひしぎ十字固めのような体制にもっていった。
- 291 名前:十三 投稿日:2001年11月04日(日)23時35分10秒
18.
「ちょっとまてよ!」
保田が瀕死の体でよろけながら立ち上がった。
「まだ終わってないのにどこ行くつもりだよ!」
「まだやるんか?」
「まだ・・・あんたに使ってない技がある・・・それを使うまではな」
「虎王か・・・」
「ああ・・・だがあんたはそれがどんな技かまだ知らない。」
「ええで・・・そいつをウチに使ってみいや!」
「馬鹿だぜ裕子・・・・」
保田は腰を落とし構える。両腕はだらりと下げてる。
ゆらりと保田が動いた。
そして跳躍しサンボで言う飛びつき腕ひしぎ十字固めのような体制にもっていった。
- 292 名前:十三 投稿日:2001年11月04日(日)23時36分18秒
- 19.
しかし、保田の体はそこまでが限界であった。
腕を取り決めに行こうとした瞬間すべてにの体力が抜けた。
保田は地面に仰向けに倒れた。視線の先に中澤がいる。
「あたしの負けだ。とどめさしなよ。」
保田が力ない声で言った。
「ああ。」
中澤は、そういうやな保田に拳を振り下ろした。
「しゃっ」
保田はその拳の風圧だけを感じた。
「なぜ・・・・打たない?」
保田が言った。
「ここで・・・おまえを打ってもしゃあない・・・お前はウチにとって大切な妹弟子や!」
「裕ちゃん・・・」
「圭坊、三重に・・・平家に帰れ、亜弥がまっとる。お前は亜弥が好きなんやろ?」
保田は無言でうなづいた。
- 293 名前:十三 投稿日:2001年11月04日(日)23時36分55秒
- 「さっ!立てるか?」
中澤はそう言うと保田に手を差し伸べた。そして保田を引き起こした。
保田はまだフラフラしている。
「ほらっ」
「えっ?」
中澤は保田をおんぶした。
「祐ちゃん、いいよ」
「遠慮せんでええ、昔もお前が怪我した時はウチがよくこうして病院つれてったな・・・」
「そう・・・そうだったよね・・・祐ちゃん・・・」
保田は自分の袖で涙を隠した。
中澤はゆっくりと歩き出した。そっと優しく、保田に響かぬように。
「圭坊!強うなったな・・・またもっと強うなったらまたウチに挑戦してきいや!」
中澤は、ゆっくりと語りかけた。
「うん・・・・う・・・ん」
保田は涙混じりに言った。
夜の風は優しくふたりを包んでいた。
- 294 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月05日(月)15時40分51秒
中澤かっこえ〜!!
さすが!!
おもしろいです!!
また更新がんばってください。
- 295 名前:十三 投稿日:2001年11月06日(火)01時06分31秒
- 第12章〜約束
1.
後藤VS矢口戦を一週間後に控えた日に
石川 梨華は安倍なつみのマンションにきていた。
ソファに楽に腰掛けている。
しかし、二人の表情は、硬い。
「・・・何故あたしが、あいつ・・・後藤 真希を
狙うのか・・・話ます。」
神妙な面持ちで言った。
「何でいう気になったの?」
なつみが言った。
「やはり・・・安部さんには本当のことを話しておこうと思いまして。」
そう言うと梨華は、話し始めた。
- 296 名前:十三 投稿日:2001年11月06日(火)01時07分01秒
2.
それは、暑い夏の日の出来事であった。
(ふー今日も暑いね。)
田舎の田んぼ道を歩きながら梨華は思った。
蝉の声がうるさいくらいにきこえる。夏草の匂いがする。
(今日もがんばらなくちゃね。)
梨華は田んぼ道を抜け小湊流の道場へ向かっていた。
小さな山のふもとに小湊流の道場はあった。
歴史を感じさせる門構えに純和風の建物に武道場があった。
さらに裏には小湊流代々の墓まであった。
(はぁ,やっとついた)
町から大分離れている為に道場に通うのも一苦労である。
しかし、梨華は毎日休むことなく通っていた。
梨華はいつものように道着に着替えると道場へ向かった。
(ん?)
梨華はいつもと様子が違うのを感じた。
道場の中央で誰か倒れている。
「先生っ!」
梨華は即座に小湊のもとに駆けより意識を確認する。意識はない。
しかし生きているが大分ひどい状態である。
「救急車を・・・・」
そう思った瞬間に梨華の首に腕が巻きついた。
瞬時に意識を失った。
- 297 名前:十三 投稿日:2001年11月06日(火)01時07分37秒
3.
次に梨華に意識が戻った時は、裸であった。
(なんで・・・・・・・・??)
視線をずらす。
(えっ?)
自分の傍らに裸の娘がいた。
その娘は見事な金髪で、その目にはどこか狂気を帯びていた。
「あんたいい体してるね、今までいろんな奴抱いてきたけどさ、あんたみたいな
の初めてだよ。」
その娘がそう言った。
「な・・・・なに?」
梨華は今自分がどのような状況にあるか把握できずにいた。
ただその娘の手が自分の体を弄んでいたというのに気づいた。
「やめて・・・ください・・・!」
梨華は言った。こんな状況のときでも体は敏感に反応していた。
徐々に押し寄せる快楽の波に梨華は抵抗することができなくなった。
その快楽に梨華の意識が飲まれた。
- 298 名前:十三 投稿日:2001年11月06日(火)01時08分38秒
- 4.
次に目を覚ましたとき金髪の娘はすでにいなかった。
梨華は自分の大事な部分から赤いものが流れてるのに気づいた。
だが泣きはしなかった。ただけだるい感じがした。
(先生を)
そう思い素早く服を着た。そしてすぐに救急車を呼んだ。
小湊は病院に運ばれ集中治療を受けた。何日かは生きたがやがて眠るように息を引き取った。
この時も梨華は泣かなかった。
あいつを倒すまでは・・・そう誓った。
そして小湊がいつもしていたピアスを遺品として受け取った。
- 299 名前:十三 投稿日:2001年11月06日(火)01時09分09秒
- 5.
「そんなことが・・・・」
なつみが俯いたまま言った。
「これは、あたしの戦いです。必ず奴を倒し、先生の霊前に報告に行きたいと思います。」
「梨華・・・」
「大丈夫です。必ず勝ちます。」
「梨華がそこまでの決意だって言うならもうあたしが口はさむことじゃないよ。」
「ええ・・・すいません・・・あっ後この話は・・・」
「解ってる。吉澤と圭織には話さないよ。」
「すいません・・・」
「気にすることないよ。」
「そうだ安部さん!」
「ん?」
「約束しましょう!」
「約束?」
「私、後藤に勝ちます。ですから安部さんも鈴木 あみに勝ってください!」
「え・・・でもまだやるかどうかも解んないんだよ?」
「解ってます・・・あの・・・すいませんけど飯田さんから安部さんのこと少しだけ
聞いてしまいました。」
「じゃあなんで?」
「安部さんの輝いてるところ見てみたいです。弟子として。」
「弟子か・・・・あんたあたしの弟子なんだから負けたら承知しないからね。」
「はい。」
「あたしももう逃げてばっかりいられないからね。いいか?あたしの試合の時は
あんた一番前で応援するんだよ!」
「はいっ!任せてください。」
- 300 名前:十三 投稿日:2001年11月06日(火)01時09分39秒
6.
後藤VS矢口の日はあっという間にきた。
梨華はひとみと連れ立って会場に出向いていた。
一方のなつみは、私用のある圭織を待って遅れて会場に行くことにした。
なつみは、圭織のアパートで待っていた。
「お待たせ!」
ガチャッとドアが開き圭織が帰ってきた。
「お帰り」
「いや〜まいったよ!ののの三者面談で学校行ってきたんだけど、
こいつろくな事してないんだよ!」
「えへへへ〜」
希美が悪戯っ子のように笑った。
「でも、若い時はちょっと元気なくらいがちょうどいいよね。」
なつみが希美に微笑んで言った。
「なっち!甘やかさなくていいよ、こいつ図に乗るから。」
「そ・・・そんなことないのれす。」
「はいはい、あんた罰として今日留守番してな。」
「え〜〜〜っ」
「あ〜〜うるさい!なっち行こう!」
- 301 名前:十三 投稿日:2001年11月06日(火)01時10分13秒
- 7.
ドーム地下の闘技場はすでに観客の興奮は、頂点に達している。
衝撃的な噛み付きにより勝った後藤。そして、その打撃の
凄まじさで、空手の怖さを知らしめた矢口の対戦、いやが上にも
期待が高まる。
観客は今か今かとそのときを待っていた。その観客席の中に
吉澤 ひとみと石川 梨華はいた。
「梨華が見ときたい相手ってのは、次のやつか?」
ひとみが梨華に言った。
「うん。」
「珍しいね。」
「なにが?」
「梨華が自分から戦いたいってのがさ。」
「そう?」
「なんかあったの?」
「ううん、なんにもないよ!(ごめん、よっすぃー、あいつとの闘いが終わったら全部話すよ。)」
観客席がざわめく・・・
白虎の方角から後藤がゆっくりと現れた。
相変わらず目に狂気を宿している。
じろりとあたりを見回した。
誰かを探すように。
後藤に対する観客の声援がひときわ大きくなる。
そして期待の渦が辺り一面に広がる。次から次へとそれは会場全体に波及していった。
梨華は、自分の中の獣を押さえつけている。
(落ち着け、まだここじゃないよ)
- 302 名前:十三 投稿日:2001年11月06日(火)01時12分38秒
- >>294さん
ありがとうございます。
なんとか頑張って更新してみようと思います。
- 303 名前:294です。 投稿日:2001年11月06日(火)01時42分38秒
謎があかされましたね。
矢口と後藤の試合・・楽しみです。
石川と後藤も…
ってことは矢口…
あわわ!!考えたくないっすね。
後藤の圧倒的な強さにどう矢口が戦うかみものです。
更新がんばってください!!常にチェックして呼んでまーす。
- 304 名前:さるさる 投稿日:2001年11月06日(火)22時03分58秒
- 今日初めて来て読みました。
いやぁ、かなりおもしろい。原案あるんすか?
全く知らないので次の展開が楽しみです。
狂った後藤、最高、いいっすねぇ。
- 305 名前:十三 投稿日:2001年11月07日(水)00時23分26秒
- 原案はあります。ただそれをそのまま使ってるのではなく
いくつかの原案を組み合わせてます。
原案を読んだことのある人なら誰が誰であるのか
わかると思います。
割合として原案7に対してオリジナル3といったとこです。
ちなみに飯田VS石黒は大体オリジナルです。
- 306 名前:十三 投稿日:2001年11月09日(金)00時05分54秒
- 8.
矢口 真里は控え室にいた。傍らには中澤 裕子がいる。
「矢口!今更お前に、なんか言うことはあらへん、ウチは今でもお前が武を完成
させたとおもとる。すなわち、お前の負けは心水館・・・いや空手の負けや、そのことを
肝に銘じとけや。」
「わかってる。あたしもあんな奴につまずく訳にいかない。勝つ!そして吉澤を
引っ張り出すよ。そしてその勝利を明日香に捧げる。」
「矢口・・・」
「今、あたしが明日香にしてやれるのは、その位だから・・・・」
「そうか・・・」
矢口は控え室の入り口付近にある。モニターに目をやった。
すでに入場している後藤の姿が映し出された。
「あいつもうはいってるのか?そろそろ行ってやんなきゃな。」
矢口はそう言うと立ち上がり軽く息を吸った。
目をつぶり精神を統一させる。
15秒ほど目をつぶった後、矢口は目を見開いた。
- 307 名前:十三 投稿日:2001年11月09日(金)00時06分26秒
- 「ヨシッ」
矢口の出撃体制はそろった。
矢口は、再びモニターに目をやる。
「えっ?あれ誰?」
- 308 名前:十三 投稿日:2001年11月09日(金)00時08分16秒
- 9.
闘技場には闘気の嵐が渦巻いていた。
それは、後藤ともう一人、現在闘技場にいる娘の闘気であった。
その闘気は、一緒にいるだけで他の人間を圧倒するぐらい強烈なものであった。
その闘気を敏感に察知した観客がどよめいている。
「後藤、久しぶりだね。大した人気じゃない。」
闘技場にいた娘は市井 紗耶香であった。
後藤の目を見据えそう言った。
「なにを・・・しにきた。」
後藤が問う。
「ふふっ!、わかっているだろう?あたしの可愛い弟子の”後藤 真希ちゃん”が
どの位強くなったのか、確かめにきてあげたのさ!」
市井が薄笑いを浮かべて言った。
「あたしを"喰い”にきたんだ?」
後藤が抑揚のない声でそう言った。
「ははっ自惚れるんじゃないよ!皿に乗る前にちょこっとつまみ食いしにきただけだよ!」
市井は後藤を見下した目で、そしてさらりと言った。
「そう言うことかい・・・いいよ!やってやろうじゃないか!」
- 309 名前:十三 投稿日:2001年11月09日(金)00時08分48秒
- 後藤の狂気の視線が市井に行った。
「市井さん!やめて下さい。」
主賓席の辺りから声がした。
この闘技場の主のアヤカであった。
「お願いします。この闘技場の戦いをこわさないで下さい!」
アヤカの表情に怯えが見られた。
「ふっ!知らないね!」
紗耶香そう言うと戦闘態勢に入った。
「いくぜ!後藤!」
紗耶香が獣の笑みを浮かべ襲撃の体制をとった。
刹那
「やめろ〜〜〜〜〜〜〜っ」
と言う声が、闘技場全体に響き渡った。
- 310 名前:十三 投稿日:2001年11月09日(金)00時09分20秒
10.
声の主は吉澤 ひとみであった。
ひとみは、闘技場に入り市井と相対した。
数秒間、紗耶香を睨んだ。そして
「姉貴〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!何しに来やがった!ここは、お前の来る場所じゃない!帰れ!」
と言った。
「泣き虫だった、お前がそんなこと言うとはね・・・ちょっとハネっ返り過ぎじゃないか?」
市井が言った。
「黙れ!出ていかないんなら、力づくで、出てもらうまで!」
「ちょっと、見ないうちにあたしが誰だか忘れたのかい?できるのか、お前に?」
市井が獣の笑みを浮かべ、嬉しそうに・・・本当に嬉しそうに言った。
「ああ・・・やるさ・・・」
二人の間に緊張感が漂う。
ひとみは拳を強く握り締めた。
「ちょっとまてえや!」
その声は、青龍の方角からした。
- 311 名前:十三 投稿日:2001年11月09日(金)00時09分52秒
- 「吉澤、お前に最初に会ったとき言ったはずや、物事には順番があるってな。」
心水館総帥、中澤 裕子であった。
中澤 裕子は目でひとみを制しながら言った。
会場がどよめく。
「久しぶりやな・・・こういう日が来るのを夢にまでみたで・・・この傷の借りを返したい。」
中澤は紗耶香にそう言うと自分の髪をかきあげた。
普段は髪に隠れてみえないこめかみから頬のあたりにかけて大きな傷があった。
ゆらり
紗耶香が動いた。
その右足が美しくそして疾い軌道で踵落としの軌道を描いた。
中澤は、それを腕で防いだ。
しかし額から出血していた。紗耶香の踵があたっていた。
「稽古は続けてるみたいだね・・・・もう半歩踏み込んでたら心臓えぐられてたよ」
中澤の正拳は、市井のシャツを捕らえていた。
心臓の部分が破れている。
- 312 名前:十三 投稿日:2001年11月09日(金)00時10分22秒
中澤は市井を一睨みした後、すっと一歩引き、アヤカの方を見た。
「アヤカ・・・ウチの名はこの闘技場の戦士に登録されたままやろな?」
中澤はニッと笑って言った。
「大丈夫です。あなたの名前を消すわけにいかないですから。」
アヤカが言った。
「ほな、そこの怪物とウチの対戦を組んでくれるな?」
中澤は傷を拭きながら言った。
「解りました。スペシャルマッチの決定です。」
アヤカは武者震いをしている。
その震え方は背筋に虫が張ってるかのようであった。
「決まりやな、ウチはこれで失礼するで、市井!お前も今日のところは去れ!」
中澤はそう言うと青龍の方角へ引き返した。
市井もまた立ち去ろうとした。
数歩歩いてひとみの方を見た。じろりと睨む、そして去っていった。
- 313 名前:十三 投稿日:2001年11月09日(金)00時11分11秒
- 11.
「あれが市井 紗耶香か」
市井と中澤とのやり取りの途中からなつみと圭織は会場に入っていた。
「ああ・・・地上最強の娘・・・市井 紗耶香・・・ひとみの姉だ!」
圭織が言った。
「ブラジルで何度も聞いたよ!曰くベアナックル・アーミー、曰く地上最強の娘、
てね、でも吉澤の姉さんだったとはね。」
なつみは意外なという顔をしている。しかし、それほど驚いた様子はみせていない
市井を良く知らない為であったからだろう。
「それにしても凄い闘気だね・・・」
なつみが続けていった。
「ああ・・・以前の紗耶香じゃない。」
「圭織あいつをしってるの?」
「昔からね・・・」
圭織が呟くように言った。
- 314 名前:十三 投稿日:2001年11月09日(金)00時11分42秒
12.
闘技場から嵐は去った。
しかし、まだ熱が残っている。
それを冷ます為にアヤカは試合開始を15分遅らせた。
その嵐の中からひとみが帰還した。
何も言わず俯き梨華の傍に座った。
梨華はひとみの方を見た。ひとみがふるえているのが解った。
額には脂汗がにじんでいた。
「大丈夫?よっすぃー?」
梨華が言った。しかし、ひとみは答えない
その声が聞こえていないかのように。
「よっすぃー」
梨華は、ひとみの指に自分の指を絡めた。
(えっ?)
そこで気づいた。
- 315 名前:十三 投稿日:2001年11月09日(金)00時12分40秒
- 「あの人がよっすぃーのお姉さんなの?」
「ああ・・・あたしの姉・・・市井 紗耶香だ。」
「前・・・話してくれた病気のお姉さん?」
「そう・・・あいつは病気だ!あいつは一日として人を傷つけづにはいられない
あいつにとって闘うと言うことは食事や寝るのとおんなじことだ。」
「そう・・・・・・・・」
「そして・・・あたしも病気だ・・・強い奴をみると闘いたくてしょうがない。
あいつと同じ血が流れている。」
「・・・・」
そこまでひとみが言うと再び後藤が闘技場に姿をあらわした。
- 316 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月09日(金)18時28分30秒
裕ちゃんかっけ〜!!!
市井との勝負楽しみ!!
だけど、今は矢口と後藤の試合が待ちきれないんです!!
- 317 名前:十三 投稿日:2001年11月11日(日)02時42分43秒
- 13.
「矢口すまんかったな邪魔して」
中澤 裕子は控え室に戻ると開口一番矢口にそう言った。
「いや、いいよ・・・それよりあいつは・・・」
「ん?地上最強の娘。市井 紗耶香や!」
「地上最強?」
「そや、いっちゃん強いっちゅうこっちゃ」
「祐ちゃんあいつと闘った事あるの?」
「矢口!その話はまたあとや、今は目の前の闘いに集中せえ!」
「・・・ああ!行って来るよ!」
そう言い矢口は闘技場に向かった。
- 318 名前:十三 投稿日:2001年11月11日(日)02時43分13秒
- 14.
血の香りが漂う。古いもの新しい物が入り混じった匂いだ。
恐らく多くの格闘者がここで流した血の香り。
その流された血によりこの闘技場の歴史が作られてきた。
その闘技場の中心に後藤と矢口がいる。
二人はにらみ合ったまま視線を動かさない。
その二人の闘気により空間が歪んで見える。
立会人が二人に「武器以外の物は、なんでも使用可能だ、いいね。」
と聞きなれた言葉を説明した後、退いた。
「開始め!」
太鼓が鳴らされた。
(えっ?)
矢口には油断があった。前の戦いで完全に後藤のファイトスタイルを
誤解していた。力任せのブルファイター・・・否それは完全には
間違っていないが半分は、間違っていた。
- 319 名前:十三 投稿日:2001年11月11日(日)02時44分14秒
- 「ぶはっ!」
開始と同時に後藤は矢口に胴まわし回転蹴りを放った。
それを矢口はまともに喰らってしまった。
(な・・・なんなんだよ・・・)
矢口はなにが起こったのか理解できずにいた。
体中に衝撃が走る。
さらに後藤は矢口を引き起こしボディーにパンチを入れる一発、二発と・・・・・
「うげっ」
(き・・・・効いた〜〜〜っ)
矢口は朦朧としながら立っている。
己の両の腕は顔面をカバーしている。
(ん?なんだ?)
後藤は体全体を引き絞るかの様な構えを見せた。
拳は堅く握られている。
(なんだ?この体制からいったい?小細工を弄するタイプじゃないってのは解ってるけど・・・)
ブンッ
後藤の拳が放たれた。
後藤の拳の軌道上に矢口の掌があった。
- 320 名前:十三 投稿日:2001年11月11日(日)02時44分45秒
- (ここでカウンター・・・)
矢口は思う。
後藤の拳が矢口の掌に触れた。
(弾く!)
だがその拳を矢口は弾けなかった。拳がそのまま矢口の顔面に入った。
矢口が後ろに倒れた。
「がはっ」
(し・・・・死ぬか?・・・矢口・・・・)
矢口はそう思う。
体中が鉛になったのではないかと思うダメージであった。
後藤はさらに追撃をかける。上から拳を振り下ろす。
しかし、それより先に矢口の手の甲が後藤の顔を捉えた。
後藤は一瞬、矢口を見失った。
矢口は素早く体制を立て直し闘技場の端まで走って逃げた。
会場がどよめく、「逃げるな!」と言う声も聞こえた。
「そうや!それでええんや・・・、負けるくらいなら逃げる。」
観客席で見ていた中澤はぽつりと言った。
(そうさ・・・負けるくらいなら逃げるよ!あたしの辞書には敗者の美学なんてないよ!)
- 321 名前:十三 投稿日:2001年11月11日(日)02時45分16秒
- 後藤が矢口の方に向かう大振りのパンチを見舞う。
矢口は、大きくそれをかわす。
(あと十秒・・・それだけあればあたしの中に反撃の態勢が整う。)
さらに後藤は追撃する。一撃で顎が砕かれそうなアッパーであった。
矢口はかわす。
(あと五秒・・・・)
蹴りを打つ
矢口は大きく後ろに逃げる。
(あと二秒)
後藤は矢口に組んでかかろうとした。
両手を広げ矢口に向かう。
(タ〜〜イムリミットッ!)
- 322 名前:十三 投稿日:2001年11月11日(日)02時46分25秒
- 15.
後藤が矢口に組んでかかろうとした瞬間、矢口の拳が4発後藤に炸裂した。
顔、心臓、肝臓、胃
全てが、完璧なスピード、タイミング、重さで決まった。
後藤は、仰向けに倒れた、しかしすぐに起き上がってきた。
躊躇なく再度組みに行こうとする。
(このバカッ!)
矢口は後藤の水月に蹴りを加えるとそのけり脚を踏み台にして
後藤の肩に駆け上った。そして膝で顎を打った。
さらに倒れゆく後藤に対し、顔に肘で一発入れた。
矢口は倒れている後藤に対し踵で追撃を試みた。
反転!後藤は素早くかわすと即座に襲い掛かり
“牙”で矢口を狙った。
がちっ
後藤の上の歯と下の歯がかみ合わさった音であった。
「どうした狂犬?噛んでみなよ。」
矢口が上腕を後藤の目の前に差し出し言った。
しかし後藤は一歩も動くことはできなかった。
- 323 名前:十三 投稿日:2001年11月14日(水)23時42分19秒
「矢口の奴、実践であれを使うべか・・・」
観客席のなつみが声を漏らした。
矢口は自分の左足の指で後藤の右足の甲のツボを抑え動きを封じていた。
この技が実践で使われた記録は過去にない。恐らくは矢口がはじめてであっただろう。
「そらっ!」
矢口の正拳が後藤の顔面にクリーンヒットした。
その場に後藤が崩れるように倒れた。
「勝負ありだね・・・だけどあんたは怪物!止めをささせてもらうよ。」
矢口はそう言い。後藤にローキックを見舞った。
パンッと言う乾いた音がした。
何かが破裂した音であった。
- 324 名前:十三 投稿日:2001年11月14日(水)23時42分55秒
16.
(痛え〜〜〜〜っ!なんだこりゃ?)
矢口の左足の血管が破裂していた。
後藤が矢口のローキックを手で受け止めたその刹那
素早く矢口の脛の辺りを両手で握り絞めた。
ただそれだけである。それだけであるが後藤の狂気的な握力により血管が膨張し破裂した。
「おらっ!」
矢口は後藤に正拳を打ち下ろした。
後藤がうずくまる。
(あ〜〜痛え〜〜)
矢口は二歩後ずさりそのまま座り込んだそして自分の空手着の黒帯を解くと
破裂した血管の部分にまきつけた。
ふーと一息つき後藤を見た。
後藤も矢口を見ていた。
「待っててくれたのかい?意外と優しいんだな。」
矢口が言った。
- 325 名前:十三 投稿日:2001年11月14日(水)23時43分16秒
- そしてゆっくりと立ち上がった。
後藤もゆっくりと立ち上がった。
「それじゃ、決着をつけようか?後藤!」
矢口は、そういうと構えを取った。
「今から見せる技は、我が最愛の弟子、福田 明日香に捧げるはずだった技!
すなわち明日香の敵・・・吉澤〜〜〜〜っ!てめえに叩き込むはずだった
技なんだよ!」
矢口がひとみの方を睨み言った。
ひとみも睨み返した。
「しかし、この技は、後藤!あんたにこそ捧げたい。」
この闘いを通じ矢口は、後藤を認めていた。その技、その体力、その精神力を。
自分のもてる最大の技で葬るこそ礼儀、矢口はそう思う。
- 326 名前:十三 投稿日:2001年11月14日(水)23時43分58秒
- パンッ
乾いた音が闘技場に響いた。
17.
「どうだい?いい音するだろ?」
矢口が言った。
矢口が放った拳の音であった。
「み・・・見えなかった・・・」
観客席の吉澤 ひとみが声を漏らした。
「正拳突きの時に使用する間接を全て同時加速させることにより今の様な
奇跡的な速さを生むのさ。」
音速拳。この技は、矢口のこの技を知るものはそう呼んでいた。
後藤は体全体を引き絞るかの様な構えを見せた。
拳は堅く握られている。
矢口は首を軽く横に振った。
その表情は違うだろ?といってるかのようであった。
後藤の拳が放たれた。
- 327 名前:十三 投稿日:2001年11月14日(水)23時44分28秒
- パンッ
閃光のような矢口の拳がカウンターで入った。
しかし、後藤は倒れない。
なおも後藤は再び構える。
しかし足元がおぼつかない。
そして再び拳を放つ。
(馬鹿〜〜っ!)
パンッ
再び矢口の音速拳が後藤に炸裂した。
後藤はまだ立っている。
後藤はまだ戦える状態であるのかわからないくらいのダメージの量である。
しかし目はまだ狂気の光を宿している。
「後藤!あんたはよくやったよ、素直に負けを認めろ!あたしの次の一撃は
あんたのその信仰心にも似た精神力も根こそぎ奪う一撃だぞ!」
矢口はそう言った。
矢口は全ての精神を己の右拳に集中させる。
後藤は、なおも構える。
矢口は、今度は自ら音速拳を放っていった。
パンッ
「ぐわっはっ」
叫びが闘技場に響いた。
- 328 名前:十三 投稿日:2001年11月14日(水)23時44分58秒
- 18.
その声を挙げたのは矢口であった。
(そんな・・・馬鹿な・・・今のは・・・音速拳・・・)
薄れ行く意識の中で矢口はそう思った。
矢口が音速拳を放ったのと同じタイミングで後藤も音速拳を放っていた。
二人の速度、威力はまったくの五分であった。
二人を分けたのはリーチの差であった。リーチに勝る後藤の音速拳が先に決まった。
「このタイミングか・・・」
後藤はそうぼそりと呟いた。
後藤 真希、その蛮性溢れるファイトスタイルからは想像つかないが
後藤もまた格闘の天才であった。
矢口はもう考えることさえも辛くなっている状態である。
そのなくなる意識の中で最後に思った。
(明日香・・・ごめん・・・)
矢口は、その場に倒れこんだ。
立会人が矢口の意識がないのを確認した。
「勝負あり!」
立会人は後藤の勝利を宣言した。
後藤は、ゆっくりと観客席を見回し
梨華の方に目をやった。そして右の人差し指を梨華の方に指した。
次はお前の番だと言わんばかりに。
- 329 名前:名もなき読者 投稿日:2001年11月16日(金)01時38分30秒
- いやぁ!おもろいっすね!!展開がまったく予想できないのが最高っす♪
そして後藤と石川の因縁の対決が楽しみっすよ!
ところで今、パクリ騒動が過熱してますよね!
余計なお節介かもしれせんが、作者さんも気をつけてくださいね。
自分としてはこの話がマジでお気に入りなので、騒ぎのとばっちりをうけてここが
読めなくなっては残念なので…
本当に余計なお節介すいません!これからも頑張ってください!
- 330 名前:さるさる 投稿日:2001年11月16日(金)15時31分33秒
- ブルファイトもいいけど、天才的な後藤に萌えぇ。
後藤かっこいぃ。負けるな後藤。
- 331 名前:十三 投稿日:2001年11月17日(土)18時15分40秒
- 13章〜決意
1.
中澤 裕子、自らを破門!
それは、後藤VS矢口戦が終わった3日後にスポーツ新聞の格闘欄に
載っていた記事である。
理由は“自らをもう一度鍛えなおし空手の道を極めたい”という
ありふれた理由であった。
その後、中澤はしばらく行方をくらましていた。
「あんたらしいね、こういう形でけじめを取るなんて。」
平家 みちよは言った。
中澤は三重の平家にきていた。そこの家の縁側に
寝転んでいた。その隣に平家がいる。
遠くで保田が、加護に稽古をつけているようだ。声が聞こえた。
- 332 名前:十三 投稿日:2001年11月17日(土)18時16分27秒
- 「ああ・・・まあな・・・」
中澤がため息をついていった。
「まあ、無理ないな・・・立て続けに明日香、矢口が負けたのを目の当たりにしてはな」
「ああ・・・まさか矢口が負けるとは思ってなかったんやが・・・」
「実践での差が出たな・・・」
「そういうこっちゃ!」
「で・・・この後どうすんねん?やるんやろ?市井と・・・」
「ああ・・・やる!」
獣の目をしている。
「あいつは、ウチが空手の道を完成させる上で最大の障害や!あいつを
倒して・・・圭織と闘る。」
「北の狼・・・飯田 圭織か・・・」
「ああ!柔らかい体の動きに加えてその破壊力は無尽蔵や!せやけど、ウチが劣ってるとも思わん!」
「ああ・・・あんたが相手ならたとえ市井、飯田といえどただではすまんやろ?」
「まあ・・・相手は化け物達や・・・どうなることやら・・・」
「ふふっ顔が笑ってるよ裕ちゃん!」
「こんな楽しいことはめったにあらへんでな。」
「そのために館長代理の座もおりたんやろ?」
- 333 名前:十三 投稿日:2001年11月17日(土)18時16分58秒
- 「ああ・・・ウチは空手の最強を証明するためにな!」
「はは!本当は・・・ただ強い奴と闘いたいだけやろ?」
「やっぱ解るか?」
「あんたとの付き合いも長いんだ!解るよ。そんなことより久々に手合わせしてみるか?」
「やるか?」
中澤はそう言うとガバッとおきだし、道場に向かった。
平家はゆっくりとついていった。
- 334 名前:十三 投稿日:2001年11月17日(土)18時17分34秒
- 2.
石川 梨華は、考え事をしていた。
自分は後藤に勝てるかということを。周りの景色がゲームのように
流れていく。目でそれをみているはずであるが頭の中では
認識していない。頭の中にあるのは後藤、そして市井のことであった。
どの位歩いたのかは自分で覚えていない。気がつくと目的地の飯田の
アパートの前にいた。
ドアの前に行き呼び鈴をおす。
がちゃりと音がしたあと圭織が迎え入れてくれた。
中にはいり畳の上に無造作に座った。
「今日は・・飯田さんに聞きたいことがあって参りました。」
梨華が言った。
「紗耶香のことか?」
圭織が呟くように言った。
「ええ・・・よっすぃー・・・いえ、吉澤 ひとみの姉の事です。」
- 335 名前:十三 投稿日:2001年11月17日(土)18時18分07秒
- 「市井 紗耶香・・・地上最強の娘。ベアナックル・アーミーとも呼ばれている。
その名の通り傭兵をしていたんだ!傭兵部隊ブルー・セブンという部隊にいてねキプロス、フォークランド、モザンビーク
イラク・・・時の最危険区域さ。」
そこまで話すと希美が紅茶を持ってきてくれた。圭織は一口すすると再び話した。
「あいつは、戦場で一切の武器を使うのを拒んだのさ!己の体のみを武器として戦いつづけた・・・
そこであいつの戦闘能力が最大限に開花した。そして死体の山を重ねるその様をみて誰が言うでもなく
地上最強の娘。と呼ばれるようになった。」
圭織は虚空を彷徨うかの目をして淡々と梨華に話した。
「なぜ・・・市井 紗耶香が地上最強の娘。といわれてるのかは解りました。
でも何故?ひとみが実の姉と戦おうとしてるのですか?」
「梨華!あんたにはわからないか?強い奴をみると闘わずにはおれない・・・それが武道家さ!たとえ姉妹でもね。
いや、姉妹だからこそかもね。それに紗耶香をあそこまで追い込んだのはあたしとひとみだ
あいつはその責任を取ろうとしてるのさ。」
- 336 名前:十三 投稿日:2001年11月17日(土)18時18分38秒
- 「それは・・・何故・・・ですか・・・」
「今、言わないと駄目か?、ところで、あたしに隠し事してるだろ?」
「何の事ですか?」
「後藤とやるんだろ?」
その言葉を聞き梨華は動揺を隠せない。
「誰から聞いたんですか?安倍さんですか?」
「へー!なっちには言ったんだ!」
「あ・・・・」
「アヤカがねあんたが後藤と闘いたがってるって教えてくれたんだよ。」
「そうなん・・ですか・・」
- 337 名前:十三 投稿日:2001年11月17日(土)18時19分11秒
- 3.
二人の間にしばらくの沈黙があった。それを破り圭織が言葉を発した。
「あいつが、先生とあんたの敵なんだろ?」
「そう・・・です。」
梨華は奥歯をかみしめながら言った。
「倒せるのか?奴を?」
「必ず・・・倒します・・・」
「矢口の闘いを見てただろ?あいつの打たれ強さはハンパじゃない。
そしてその格闘センスもね。」
「関係ありません!”あれ”使います。」
「・・・そうか・・・あれか!」
圭織はニヤっと笑いながら梨華を見た。
「ええ”あれ”です。」
- 338 名前:十三 投稿日:2001年11月17日(土)18時19分43秒
「ふふっ!お前も成長したな。」
「ありがとうございます。でもその言葉は勝ってからいただきます。」
「言ったね!でも気をつけな、はずしたら後はないよ!」
「ええ!解っております。」
「ところで、いつ後藤と闘るんだ?」
「来月です。」
「そうか・・・頑張りな!」
「任せてください!」
梨華のその目は必勝を誓っていた。
- 339 名前:十三 投稿日:2001年11月17日(土)18時20分15秒
4.
夜も更けた江戸川の河川敷に二人の娘がいる。後藤 真希と市井 紗耶香であった。
もう夜風が身にしみる季節であるがその二人の出している
闘気はその冷たい風ですら意味のないものであった。
二人はしばらくにらみ合いを続けていたがそれを破り後藤が言葉を発する。
「この前は邪魔されちゃったけどここなら誰も邪魔しないよ!」
「本当は誰かいたほうがいいんじゃないのかな?」
「言っとくけどあたしはあの頃のあたしじゃないよ!」
「あたしにとっては幼稚園児が小学校にはいったようなもんさ!」
「へ〜〜〜〜!言ってくれるね〜〜そういうことなら遠慮しないよ!」
ブンッ!強烈な風きり音がした。
後藤のアッパーが市井の顎を目掛け放たれる。
その拳は顎の2ミリ手前で止まった。市井は微動だにしなかった。
「何故避けない?」
後藤の拳は市井の顎の手前で止められていた。
- 340 名前:十三 投稿日:2001年11月17日(土)18時20分48秒
- 「あんたの踏み込みの位置とタイミングが嘘だって言ってるよ!
避ける必要あるのか?」
「さすがだね!まあ今日は挨拶に来ただけさ!あたしは今度、石川と闘る!
あんたの妹の恋人だよ!・・・そしてそいつを倒して吉澤と闘る。
吉澤も倒したらあたしと闘ってくれるかい?」
後藤が言った。
「そうか・・・・頑張って来な!」
市井が優しい笑いを浮かべていった。
「ああ・・・待っててくれ。」
後藤は、そう言うと背を向け土手の方に歩いていった。
その表情は怒りも憎しみもなかった。ただまっすぐな視線だけがあった。
- 341 名前:十三 投稿日:2001年11月17日(土)18時21分26秒
5.
「ふふっ!あなたもやはり人の子ですね。」
木の陰から人が現れた。柴田 あゆみであった。
柴田は後藤と市井のやり取りを終始見ていた。
「なにが?」
市井が柴田の方を見て言った。
「あなたも初めての弟子がよほど可愛いみたいですね。」
「まあ、今まであたしにのされて、あたしより強くなりたい
なんていう奴は、いなかったからね。」
「彼女、あなたの妹を倒すと言っていますよ?いいんですか?」
「ああ・・・かまわんさ・・・あいつもあたしを倒したがっている・・・
どっちか勝ったほうがあたしの前に立ちはだかるだろうね。」
「難しいところですね。あなたも倒さねばならぬ人がいる。」
「ああ・・・まずは中澤 裕子、そして飯田 圭織!・・・」
「でも、あなたに勝てるほどだとは思いませんが・・・」
「ああ!勿論さ、ただ飯田 圭織には借りはきっちりと返しておかないとね。」
「でも、まずは中澤 裕子ですか?いつ闘るんですか?」
- 342 名前:十三 投稿日:2001年11月17日(土)18時21分56秒
- 「二ヵ月後さ!来月は後藤の闘いらしい・・・」
「それはそれは、楽しみですね。」
「ああ・・・お前は見に来るのか?行くんだろアフガンに!」
「いえ!今はこっちにいた方が面白そうですからね。」
「そうか・・・ならお前の前で迂闊な闘いはできないな。」
「期待してますよ。」
「それはそうと有紀にはあったか?久しぶりだろ?」
「ええ!今度会いにいきますよ。」
あゆみはそれだけ言うと足音一つ立てずにその場から去った。
冷たい空気が辺りを包みだしていた。
- 343 名前:十三 投稿日:2001年11月17日(土)18時28分23秒
- >>329
>>330
ありがとうございます。
なんとか次で後藤VS石川です。
頑張って書きます。
- 344 名前:十三 投稿日:2001年11月18日(日)21時03分05秒
- 第14章〜久遠
1.
その日は朝から雨が降っていた。
冷たい雨が途切れることなく降り続く。
後藤との対戦の当日、石川 梨華は雨の打つ音で目を覚ました。
横ではまだ吉澤 ひとみは眠っている。
(いやな雨だ)
梨華はそう思う。
窓の外を眺めてみる。今まで何度も見てきた景色だが灰色の雲が
覆い尽くす世界は違って見えた。
梨華はその世界を見入っている。
そうしているうちに、ひとみが目をさました。
「おはよう」
梨華が優しく声をかけた。
「おはよ」
ひとみはまだ意識が半分起きていない状態で声を返した。
それだけの会話をした後、梨華は俯き何か考えだした。
後藤との対戦に緊張してるのか、あるいはここまできた事に対しての
思いが去来してるのか梨華は自分自身でもわからない。
- 345 名前:十三 投稿日:2001年11月18日(日)21時03分37秒
- 「梨華!」
ひとみが呼びかけた。
「えっ?」
その言葉で梨華は現実に引き戻された。
「今日だね。」
「う・・・・ん・・」
「大丈夫、そんなに心配しなくても!あたしがついてる!それに安倍さんに飯田さんもついてるよ、
ののもね。」
「あり・・がとう・・」
「勝てる・・・勝てるよ!梨華!」
ひとみは満面の笑みを浮かべ梨華にそう言った。
- 346 名前:十三 投稿日:2001年11月18日(日)21時04分09秒
- 2.
雨は夕方になっても降りつづいていた。
梨華とひとみはアヤカの使いの者の送迎で闘技場に来ていた。
車から降りると雨による冷気が体にまとわりつく
それが緊張に拍車をかける。
その冷気から逃れるように梨華は素早く控え室に向かう。
カツーン、カツーンという音が廊下に響き渡る。
それから数歩遅れてひとみも後に続く。
梨華は控え室に入ると椅子に腰をかけた。
その表情は硬い。
「大丈夫だよ、そんなに硬くならなくても、相手も人間さ!
ただちょっと打たれ強いだけだよ。勝てるよ!」
ひとみが言った。
いい笑顔で笑うなと梨華は思った。
「うん、この闘であいつの呪縛をとくよ、見てて!」
梨華もいい笑顔で笑いながら言った。
「そう!そうだよ梨華!」
本当に・・・本当にいい笑顔で笑うなと梨華は思った。
- 347 名前:十三 投稿日:2001年11月18日(日)21時04分42秒
3.
(寂しい・・・あたしの周りには何故誰も居ない?)
闘技場の控え室で後藤は一人思う。
市井と一緒にいた数年間は楽しかった。
毎日体はぼろぼろであったが市井がいてくれた。
ただそれだけで良かった。
まわりを見回してみる自分以外の生命の鼓動がない。
孤独・・・孤独を感じる。
(でも・・・それも今日までさ、今日の闘いに勝って
あいつをあたしのものにする。必要であるなら
吉澤も潰すさ!)
後藤は思う。
(何故?何故誰もあたしの周りにいない!寂しくて気が狂いそうだ!
ねえ?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?)
そう思うと後藤の体が震える!がたがたと。
自分で自分を強く抱きしめる。
(寒い・・・寒い・・・)
その発作がおさまると後藤はまたいつものように目には狂気を
体からは妖気を放っていた。
- 348 名前:十三 投稿日:2001年11月18日(日)21時05分12秒
4.
(よし!行こう!)
梨華はそう思うと、すっと立ち上がり闘技場に向かった。
ひとみはすでに観客席の方に場を移している。
控え室を出ると観客の熱狂する声が聞こえる。
後藤と梨華の闘いを待ちわびている。
梨華は闘技場に向かう一歩一歩踏みしめるように。
その途中梨華は耳のピアスに触れ
「先生・・・」
とつぶやいた。
光が強くなる。闘技場が近い。声が大きくなる。もうすぐだ。
梨華が闘技場に入ると熱狂的な声援でもって迎えられた。
梨華は、中央で構える。
- 349 名前:十三 投稿日:2001年11月18日(日)21時05分42秒
- 5.
巨大な・・・巨大な妖気が近づいてきているのが解った。
この感触!忘れたくても忘れられない!
観客の興奮が最高潮に達している。
その妖気の主が闘技場に姿を見せた。
観客席はパニックに陥ってるかのごときの喧騒である。
梨華は後藤を睨む、しかし後藤は意に介さずといった感じの
表情をしている。
後藤も闘技場の中央に場を移した。
「今日で最後だ!今日でてめえから受けた屈辱を倍返しにしてやるよ!」
梨華が後藤を睨み言った。
「ふふっ!あんたさ・・・可愛い声してるよね!」
この場にふさわしくない顔。後藤がにっこりと微笑みながら言った。
- 350 名前:十三 投稿日:2001年11月18日(日)21時06分13秒
- 「てめえ・・・」
梨華は自分が侮辱されたと思った。後藤の胸倉をつかむ。
立会人はそれを引き離そうとしている。
観客はさらにヒートアップする。
「梨華の奴、入れ込みすぎだべ!」
観客席のなつみが呟く。
「大丈夫ですよ!始まれば冷静になってますから。」
ひとみがなつみにそう言った。
「まあ、そうだべ、けど今日の闘いは厳しい闘いになるよ。」
「ええ・・
- 351 名前:十三 投稿日:2001年11月18日(日)21時06分44秒
6.
「お姉ちゃん、梨華ちゃん大丈夫だよね?」
ひとみとなつみの観客席のちょうど反対側の席に飯田 圭織と希美がいた。
学校の都合で圭織と希美は遅れて闘技場に入ったため
二人とは席が離れていた。
「さあ・・・これはやってみなければね、相手はあの矢口の打撃も受けきった
奴だきついかもしれない。」
「それじゃ梨華ちゃん負けちゃうのれすか?」
「そうはいってない!ただチャンスは少ないさ!そして・・それは後藤も同じ!」
圭織がそれを言い終えた頃、立会人が二人を引き離し対峙させた。
運命の鐘はまもなく鳴る。
- 352 名前:十三 投稿日:2001年11月18日(日)21時07分15秒
- 7.
「いいね!武器以外の使用は何でも認められている。君達が
日ごろ訓練してる技を存分につかっていい。」
立会人が二人にそう説明した後、退く。
「開始めっ!」
太鼓の音が闘技場に響き渡った。
「後藤っ〜〜〜〜〜〜〜」
梨華がそう叫び後藤に向かった。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン
梨華の五連突きが綺麗に後藤に決まった。
後藤は、不意をつかれしりもちをつく形で倒れた。
「これは、試合じゃない!お前への制裁だっ!」
ドグアッ
梨華の凄まじい前蹴りが後藤の顔面にヒットした。
(制・・・裁・・・?)
梨華は更に後藤を引きずり起こして膝で腹に一発。
拳で顎に一発。
そして肘でこめかみを打ちぬいた。
後藤がその場に崩れ落ちた。
- 353 名前:十三 投稿日:2001年11月18日(日)21時08分00秒
- 「立ちなよ!あんたまだ今くらいでくたばるタマじゃないだろ!」
梨華が倒れている後藤にそういった。
後藤がすっと何もダメージのないように立ちあがった。
「制・・・裁?・・・それはないだろ?あんた感じてただろ?」
「くっ・・・・」
その屈辱を打ち消すかのように梨華が再度攻撃にでる。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン
再度、五連突きが決まる。
後藤が体制を崩す。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン
猛虎の牙がつきささった。
後藤がその場に崩れ落ちた。
意識があるのかわからない危険な倒れ方である。
観客席が沸き上がる。
- 354 名前:十三 投稿日:2001年11月18日(日)21時08分36秒
「お姉ちゃん!梨華ちゃん強いよこのまま決めちゃうよ!」
希美が無邪気に圭織のほうをみる。
「あの・・・バカッ!」
圭織は渋い表情でそうつぶやいた。
「ハァハァ」
梨華が息を乱しながら倒れている後藤を見下す。
(とどめを・・・)
梨華はそう思い後藤に向かう。
「あ〜〜〜っはっははははは!」
後藤が大きく笑い声をあげ蘇生した。
「ふふっ!このくらい盛り上げてあげないとね!次は何をしてくれるんだい?」
「打たれ強さには自信があるのは解かっているよ!あんたの歯もね。」
「いや。」
「なに?」
「”牙”は使わないよ、あたしの物になる体に傷つけるわけにいかないからね。」
「てめええええええええっ」
梨華が叫び仕掛けた。
- 355 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 356 名前:十三 投稿日:2001年11月22日(木)00時02分10秒
8.
梨華は後藤に肩口のあたりに蹴りを放った。
後藤が腕で防御の体制に入る。
しかし梨華の蹴りはそのブロックの上を行き側頭部にヒットした。
いわゆるブラジリアンキックである。
拳、拳、膝、肘、肘、頭、
すべて後藤に叩き込んだ。
しかし後藤は薄ら笑いを浮かべ何事もないかのように立っている。
(何故?こいつは本当に不死身か?)
「梨華〜〜〜〜っ寝技だ、寝技に持ち込め」
ひとみが叫んだ!
「無理だべ!」
なつみが呟いた。
- 357 名前:十三 投稿日:2001年11月22日(木)00時02分44秒
- 「なぜ?」ひとみが息をきらせ問う。
「柔道の投げ技は・・・柔道着を着てることを前提にしてる。
後藤の着てるシャツでは投げ技は無理だべ」
「で・・・でもタックルからでも倒すことは・・・」
ひとみの顔に焦りがうかがわれた。
「ああ・・・それは可能だ・・・でもまだ梨華にそこまでの技術はない・・・」
「くっ・・・」
- 358 名前:十三 投稿日:2001年11月22日(木)00時03分17秒
9.
ビシッ
梨華の強烈なローキックが後藤に決まる。
後藤は躊躇なく前に出る。
梨華が後退する。
攻撃を仕掛けているのは梨華であるが、後藤には一向にダメージが伺われない。
その焦りが梨華の冷静な判断力を奪う。
(くっ!)
追い込まれた為の焦りからであろうか梨華は、苦し紛れに後藤に対し5連突きを
放つ。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン
綺麗に後藤に入った。
しかし、やはり後藤に効いた感じはなかった。
「ふふっ何回やっても同じこと・・・(えっ?)」
ぐらっ
後藤は急に体が鉛になったかのような感触に襲われた。
思わず片膝をつく。
(なぜ・・・・?)
「やはりな・・・人よりも痛みに対する耐性があるだけで、不死身なわけではない・・・・しかし・・・」
観客席の圭織がそうつぶやいた。
- 359 名前:十三 投稿日:2001年11月22日(木)00時03分49秒
(好機!)
「後藤〜〜〜〜っ」
梨華が叫ぶと同時にローキックを打つ。
綺麗に側頭部に入った。
後藤が横に飛ばされた。
後藤は立ち上がるも足元はおぼつかない。
「これで、終わりだよ!」
渾身の5連突きが後藤に向け放たれた。
- 360 名前:十三 投稿日:2001年11月22日(木)00時04分27秒
- 10.
ぴりっといういやな音を梨華はそのとき聞いた。
猛虎の牙が折れた音であった。
(イタッ!)
その拳は後藤を力なく叩いただけであった。
左の腕が変に熱を持っているのを感じる。
「どうした?」
後藤は素早く梨華の左腕をとらえると両手で握り力を込めた。
ぱんっ!
会場に乾いた音が響いた。梨華の血管が破裂した音であった。
「わ〜〜〜〜〜っ」
梨華の叫びが闘技場に響き渡った。
(くっ)
梨華は右手の親指で後藤の目を狙いに行った。
後藤はその不意の攻撃に思わず両手を離してしまった。
梨華は即座に後藤と距離をとり構える。
しかし、もう左腕は使えない。
「お姉ちゃん・・・なんで・・・」
希美が圭織に問う。
「あの突きは・・・想像以上に肩と肘に負担をかけるんだ・・・
一試合で何度も連発する技ではない・・・梨華は打ちすぎだ・・・」
「これで、あんたの得意技は使えなくなったよ!どうだい、負けを認めるか?」
後藤が梨華に勝利を確信した物言いで言った。
「まだ・・・この右腕がある!おまえなどこの右で十分!」
後藤をにらみ梨華が言った。
- 361 名前:十三 投稿日:2001年11月22日(木)00時04分57秒
11.
「いいのかい?そんな強がり言って?あたしは、あんたを傷つけたくないんだよ。」
後藤が言う。
「なぜ?」
「言っただろ?あんたをあたしの物にしたいって。」
「そう・・・殺されても嫌だね!」
「・・・じゃ死にな」
後藤は言うやいなや左の正拳を打ち込んできた。
梨華はその拳をキャッチすると、右足で後藤の足をなぎ払った。
後藤が倒れる。柔道で言う出足払い。
さらに梨華は、追撃のために踵で顔面を狙った。
さくっ
梨華の踵をかわし後藤がアキレス腱に”牙”を入れた。
鮮血が砂にしみこむ。
「て・・・てめぇ・・・」
梨華が呟いた。
即座に後藤が起き上がり梨華に攻撃を加えてきた。
ドーン
梨華は己の体の中で大砲が鳴るかのような音を聞いた。
後藤の凄まじいボディーブローが炸裂した。
梨華はそのまま前のめりに崩れ落ちた。
- 362 名前:十三 投稿日:2001年11月22日(木)00時05分46秒
- 12.
後藤は、倒れてる梨華に背を向けると観客席の方に歩き出した。
そして観客席の吉澤 ひとみの方をみて言った。
「吉澤〜〜〜っ!そんなとこで何見てるんだ?あたしと闘いたいだろ?
降りてきなよ!」
観客の視線がいっせいに吉澤の方に向けられた。
ひとみは、すっと立ち言った。
「あたしが闘ってやってもいいけどな!お前はまだ梨華を倒してないぞ!」
後藤が素早く後ろを振り返る。
梨華はやや、足を大またに開き右腕は引き絞るように、そして拳は掌が
上を向く形で構えていた。
「せっかく手加減してやったんだからさ!そのまま寝ときゃあいいものを・・・」
後藤が言った。
「もう、これが・・・最後の一撃だよ・・・」
梨華は、後藤を見据え言った。
「おいおい!ホントにあたしを一撃で倒すつもりかい?」
「もうあたしの左腕は用をなさない・・・されど・・・この右拳の一撃で・・・お前は確実に
倒れる!!!」
- 363 名前:十三 投稿日:2001年11月22日(木)00時06分30秒
- 梨華は拳に力を込めた。
「ふふっ!まあ、あんたへの礼儀に一応警戒しといてやるよ。」
後藤は両腕でしっかりと顔面をカバーしだした。
「防御など、なんの役にもたたない!」
(梨華!見せてもらうよ!乾坤一擲!)
飯田 圭織は祈るように思った。
- 364 名前:十三 投稿日:2001年11月22日(木)00時07分18秒
- 13.
そのあと二人は暫く構えたままであった。
梨華は、動かない、後藤も動かない。
ふと、梨華は、観客席のひとみの方を見た。
(よっすぃー・・・・・・)
ひとみもそれに気づいた。
(えっ?梨華・・・・・どうした・・・)
「なによそ見してんだよ!・・・」
後藤が防御をしたまま梨華の方に向かったきた。
流水!
梨華は流れるように後藤の懐に入った。
(顔面は、完全にカバーしてある。狙ってくるとしたら、ボディー!
そこならば、なんの問題もない。)
梨華の中段の正拳突きが後藤に放たれた。
(きたよ!やっぱり平凡なボディー・ブローだね!狙いは水月!そこはあたしにとって急所じゃないよ)
足が揃う、膝が曲がる、腰が入る、肩、肘、手首の関節が固定される。
「ちぇりあああ〜〜〜〜〜っ!」
みしっ!
梨華の正拳突きが後藤に炸裂した。
- 365 名前:十三 投稿日:2001年11月23日(金)02時09分54秒
- 14.
「どうしたい?あたしは立っているよ?」
後藤が余裕の表情で梨華に言った。
(くっ・・・あいつに切られたアキレス腱が・・・)
後藤は素早く梨華の右腕を取り手首を決めた状態で上にあげた。
「ふふっ・・嘘つきにはお仕置きをしなくちゃね。」
ドーン
後藤のボディーブローが梨華に突き刺さる。
「ガハッ!」
梨華の意識は朦朧としている。
「もう一度聞いてあげるよ・・・あんた・・・吉澤を捨てて・・・あたしの物になるかい?」
梨華は金魚のように口をパクパクさせて何か言おうとしている。
「ん?なんだい?」
後藤は梨華の口元に耳を寄せた。
「ご・・・後藤の・・・ク・ソ・バ・カ・ヤ・ロ・ウ・・・・」
後藤の表情が変わった。
梨華をにらむ。
梨華は、ニヤリと笑った
- 366 名前:十三 投稿日:2001年11月23日(金)02時10分28秒
- ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン
後藤は怒りに任せて梨華のボディーに拳を入れた。
梨華の意識はもうない。
だらりと力が抜けた状態である。
「勝負ありぃ」
立会人が終了の太鼓を要求した。
その音は会場中に響き渡った。
後藤はその音など聞こえぬかのようになおも梨華に打撃を加える。、
ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン
その時の後藤の顔はまさに修羅であった。
「勝負ありぃ」
再度立会人が終わりを宣告
- 367 名前:十三 投稿日:2001年11月23日(金)02時10分58秒
- 15.
「てめえ〜〜〜っ離しやがれ!」
観客席からひとみが入ってきて一目散に後藤の下に行くと後頭部に蹴りを加えた。
しかし、後藤はなおも離さない。
「しゃっ」
ひとみと反対の方から後藤にけりを放ったものがいた。
飯田 圭織であった。
それにより後藤はようやく梨華から手を離した。
「てめえ、これ以上の無法をするなら、あたしが、相手してやるよ!」
圭織が後藤を睨み言った。
「ハァハァ・・・」
後藤は息を切らせ倒れている梨華をじろりと睨むとくるりと背中を向けて控え室に引き上げた
- 368 名前:十三 投稿日:2001年11月23日(金)02時11分28秒
- 16.
「梨華〜〜〜〜っ!」
ひとみが意識のない梨華に声をかける。
梨華は何の反応も示さない。
「ひとみ!救急車よべ」
圭織が言った。
「はいっ!」
ひとみは梨華を抱えると控え室の方に向かい救急車の到着を待った。
待っている時間は長く感じる。一分が一時間にも思える。
ひとみは、うつむき目の前に倒れている梨華を見る。
ただ・・・ただ、梨華を見つめていることしかできない。己の無力さを呪う。
やがて救急車が到着しアヤカ息のかかった病院に運ばれることになった。
ひとみもまたその救急車に同乗した。
車は、雨の闇の中を走っていた。
- 369 名前:十三 投稿日:2001年11月23日(金)02時12分03秒
17.
救急車がとまった病院は、小さい病院であった。
梨華は即座に入院の手続きがとられた。
「有紀さん!」
ひとみがこの病院の院長をみつけ声をかけた。
「ひとみか・・・・」
くわえ煙草のまま有紀が言った。
「梨華を・・・・梨華を・・・頼みます。」
その目には涙が浮かんでいた。
「わかっている。まかせておけ。」
ひとみはその言葉を聞くと待合室に向かった。
- 370 名前:十三 投稿日:2001年11月23日(金)02時12分35秒
- 18.
梨華は個室に移され人口呼吸器と点滴を打たれていた。
意識は、まだ戻っていない。
ガチャリ
ドアの開く音がして人が入ってきた。
吉澤 ひとみであった。
(梨華・・・)
ひとみは、梨華のそばまで行き椅子に座ると
両手で梨華の手を握り締めた。
ふと窓の外に目を移した。
滝のような大雨が降っていた。
ひとみは、再びぎゅっと梨華の手を握り締め祈りだした。
- 371 名前:十三 投稿日:2001年11月23日(金)02時13分08秒
- 19.
外は昨日の雨が嘘のような晴天であった。
日の光が部屋の中に降り注がれる。
(ん・・・・眩しい・・・)
窓から入り込んでくる光がひとみの顔に当たる。
それが、ひとみの意識を覚醒させた。
(眠っちゃったか・・・)
ひとみは窓の外に目をやる。目の眩むばかりの蒼天であった。
「おはよう、よっすぃー!」
その声は、後ろからした。
梨華の顔は日の光を浴びてよりまぶしく思えた。
「ああ・・・・梨華・・おはよう!」
「ずっと傍にいてくれたんだ?ありがとう。」
「ああ・・・・それより大丈夫?呼吸器つけてないで?」
「うん大丈夫・・・それより負けちゃった・・・・ね・・・」
「また・・・頑張って借りを返せばいいさ!」
「そう・・・だね・・・ねえ、よっすぃー!これあげるよ!」
梨華はそういうと左の耳についていたピアスをとりひとみに手渡した。
- 372 名前:十三 投稿日:2001年11月23日(金)02時13分38秒
- えっ?これ大事な物じゃないの?」
ひとみが戸惑った表情を見せた。
「うん、いいよ!一晩付き添ってくれたお礼!」
「えっ?でも・・・」
「ねえ?よっすぃー!ちょっと」
「えっ?なに?」
梨華はひとみを引き寄せ強く抱きしめた。
「ちょっと・・・梨華?」
「へへ〜〜っ!」
「どうしたの?梨華?」
「よっすぃ〜って暖かいね。」
「ねえ、梨華どうしたの?なんか変だよ?」
(ごめん・・・よっすぃー・・・一緒に旅行行けなくなっちゃった・・・なんか、ちょっと疲れちゃったかな?)
「梨華!」
梨華の抱きしめる手の力が弱くなってきた。
「梨華〜〜〜っ」
(ありがとう、よっすぃー!楽しかったよ・・・)
梨華の体から暖かさが消えてゆく。
- 373 名前:十三 投稿日:2001年11月23日(金)02時14分11秒
- 「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」
ひとみの絶叫が部屋中に響いた。
その声はいつまでも・・・いつまでも響いていた。
梨華の体はすでに後藤の打撃によりもはや手のほどこしようがない状態であった。
肉体的にはすでに昨日死んでいた。もはや魂だけがひとみに別れをいうために
生きていた状態であった。
今、石川 梨華というひとつの生命の炎が消えた。
だが、その死はまた新たなる闘いの幕開けでもあった。
蒼天〜第一部 完
- 374 名前:十三 投稿日:2001年11月23日(金)02時18分52秒
- とりあえず第一部完結しました。
読んでくださった人どうもありがとうございます。
あと感想書いてくださった人ありがとうございます。
色々参考にさせていただきました。
- 375 名前:名もなき読者 投稿日:2001年11月24日(土)01時59分11秒
- おお!予想外の展開ですね・・・石川VS後藤の戦いがこれほどまで
話の展開を大きく変えるとは・・・でもそのせいで余計にハマりましたよ(w)
早く二部が読みたいです!!そして一部完結おめでとうございます!
これからも読み続けたいので頑張ってください!
- 376 名前:十三 投稿日:2001年11月25日(日)04時05分21秒
- 後藤が石川に勝ったことによりまた話が長くなってしまいました。
そうですね・・・これからどういう展開にしようか
考えてます。第二部はもうちょっと短くおわらせたいと思います。
まだ出してない人もだそうかな・・・・
- 377 名前:さるさる 投稿日:2001年11月28日(水)02時02分06秒
- なんと、石川がぁぁぁ・・・。
これはものすごい展開。かなり期待です。
どんなんであろうとやはり狂気なごっつぁんが好きです・・・爆
- 378 名前:漂流読者 投稿日:2001年11月28日(水)17時32分52秒
- 石川さんのご冥福をお祈りいたします
- 379 名前:十三 投稿日:2001年11月29日(木)01時14分58秒
- 緑に移転しました。
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=green&thp=1006963709
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