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ファンタジー小説です。

1 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月14日(土)13時41分54秒
ハジメマシテ。皆さんの小説読んでたら、自分でも書きたくなったので立ち上げることにしました・・・。
ジャンルは冒険ものです(笑)。
甘々な話は私には・・・きっとかけません。他の方の小説で十分に楽しませてもらってるので、ちょっと
違うジャンルにチャレンジすることにしました。
板はここでいいのかな?とにかく始めまーす。
2 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月14日(土)14時08分57秒
 いつも君と待ち続けた季節は
 何もいわず通り過ぎた・・・  

 雨はこの町に降り注ぐ
 少しの リグレットと罪を包み込んで
 
 泣かないことを誓ったまま時は過ぎ
 痛む心に気がつかずに 僕は一人になった

 「記憶の中でずっと2人は生きてゆける」
 君の声が今も胸に響くよ

 それは愛が彷徨う影

 君は少し泣いた?・・・あの時 見えなかった・・・



 1つの村が焼け落ちた。
 ほとんど知ってるものはいないような、辺境の地にある1つの村だ。
 そこに住んでいた者達は、あっという間に広がった炎から逃れることができずに
次々と灰になってその生涯を閉じた。
 そこに追い討ちをかけるように現れた、武装した盗賊風の一団。
 燃え盛る家の中から金品を奪い、炎から逃れた村人を楽しむように殺し、村を破滅
へと導いた。

 村に男はいなかった。1人も。
 屈強な男達、燃え広がる炎。

 女ばかりのこの村が壊滅するのに、半日も要しなかった。
 この村が女ばかりで編成されていたのにはそれなりの理由があったのだが、今となって
はその理由こそが、この村がこのような運命をたどることになったのだと。
 村人達は、死の直前になってそれを悟っていた。


 その焼け落ちる村から遠ざかってゆく影が3つあった。
 1人は16,7歳の短髪の少女。
 右手に、7歳くらいの茶髪の少女を、左手に5歳くらいの八重歯をのぞかせてる
少女を連れて。
 不意に、7歳くらいの茶髪の少女が、その長い髪を揺らして自分の手をつないでいる
短髪の少女を見上げ、不安気に震える声を発した。
 「イチーちゃん?どこまで逃げるの?村のみんなは??」
 短髪の少女はその問いに、まっすぐ前を向いたまま、無機質な声を返した。
 「大丈夫。あとから皆、来るから・・・」
 3人の歩調が、わずかに速さを増した。
 「空が、真っ赤なのれす・・・」
 黙って短髪の少女の手を握っていた八重歯ののぞく幼い少女が、後方を振り返ると、
舌っ足らずな口調で呟いた。
 その呟きを耳にした短髪の少女・・・イチイ=サヤカは、僅かに顔を歪めると、唇を
強くかみ締めた。
 村から聞こえていた怒号が、だんだんと小さくなっていた。
3 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月14日(土)14時14分12秒
ああ〜、文章って難しい・・・。これからやってけるかな?
ちなみにこの話は、マイラバの曲、Hello,again〜昔からある場所〜を
軸にしてます。
面白くなかったら、、、ごめんなさいです。
4 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月14日(土)15時17分02秒
 「術」と呼ばれるものがある。
 それは人間であれば誰もが持っている‘スピリット’と呼ばれる能力が、通常より
も優れている者のみが使うことのできる、特別な力である。
 その「術」は、‘スピリット’の高い人間の中でも、それぞれの“アビリティ”に
よりその能力が異なる。
 たとえばその能力の方向性は『武術』であったり『剣術』であったり、あるいは
物理的な能力を上げるもののみならず、『占術』のような非物理的な能力であったり
もするのである。
 そしてここに、その「術」の力を頼りに1人旅を続ける少女がいた。

 ゴトー=マキ 15歳  8年前、燃え盛る村から脱出し、生き残った少女である。
            能力→方術(放った言葉が物理的な力を持つ術)

 「う〜ん、どうしようかな・・・」
 思わず、独り言が口をついて出た。
 暗めの茶色い髪が、まっすぐに背中に流されている一見無気力そうなこの少女の名前は
ゴトー=マキ。
 白地の裾に、金色の豪華な刺繍が施された法衣を身にまとっている。
 この世界で法衣をまとっている者は、少なからず「術」を使うと考えられる。
 例に漏れず、マキは『方術』という力を持っていた。もっとも、少女1人が一人旅
をするのであれば、何らかの「術」を持っているのは当たり前の話であるが。
 さて、先ほどのマキの独り言は何かというと。
  
 マキが現在いるのは、山に囲まれたとある街の中である。
 その中で、一際目をひく、大きな建物。街を運営する長の住む家だ。そしてその
壁に1枚の張り紙があるのが分かる。

 『盗賊団の排除に協力を!協力者には金一封』

 短い文章ではあるが、内容を知るには十分だ。マキが呟いたのは、この張り紙を見たからである。
 「金一封・・・・かあ」
 気の抜けたような声。(これはいつも通りのことだが)
 そう、マキが目を引かれたのはこの金一封の文字。

 一人旅を続けるマキにとって、金を稼ぐことは必要不可欠な要素である。そして今、
マキの所持金は、ほとんど底をついていた。
 面倒なことは極力避けたいと思う面倒くさがりな彼女であるが、金がない以上、そう
我儘もいっていられないだろう。
 (まあ・・・盗賊退治くらいならそう時間もかからないか)
 そう結論付けると、マキは地面に置いていた厚めの麻で作られた布袋(旅用品)を
背負いあげると、建物の扉をゆっくりと押し開いた。
  
5 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月14日(土)15時32分47秒
 長の家の召使い達は、マキの訪問理由を聞くとすぐに長の部屋へと案内した。
 どうやらこの街では盗賊団は相当な問題となっているらしい。
 マキの格好から、召使い達は「術」を使える者と判断したのだろう、期待の眼差しを
一身に受けているような妙な威圧感を感じた。
 「これで2人目ですね」
 長の部屋に入る直前、召使い達が小声で交わした言葉が、マキの耳に入った。
 (2人目って・・・?)

 部屋に入ったマキがまず目にしたのは、真っ白い髭をたくわえた70歳くらいの老人
(多分これが長だろう)と、その向かいに座っている自分と同年代と思われるショート
カットの少女が1人。
 「イチーちゃ・・」
 マキはそこまで出かかった言葉をグッと飲み込んだ。『彼女』がこんなところにいる
はずはないのだ。
 長とそのショートカットの少女が、同時にマキの方を振り返る。
 (やっぱり。全然別人じゃん・・・)
 長よりもまずその少女に目がいったマキは、彼女の顔を見てそう思ったが、特に表情を
変えることはなかった。
 「君も、盗賊団の排除に協力してくれるというのかね?」
 少女の方に目を向けているマキの意識を戻すように、長が口を開いた。マキが、ゆっくり
と長の方に視線を向ける。
 「え〜、まあ・・・」
 (君も、ってことはこの人もアタシと同じ理由かあ)
 目の前の少女に一瞬目を走らせて、マキはそう判断した。さっきの召使い達の言葉、
これで2人目とはそういうことだったのだろう。
 
6 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月14日(土)15時54分43秒
 「とりあえず、座ったら?」
 入り口のドアの前で突っ立っているマキに、少女は自分の座っているソファの空いている
所を指してそう言った。
 マキが想像したよりも、少しハスキーで、それでいてよく通る声だった。
 そしてその格好。
 (剣士・・・・か)
 軽装ではあるが、鎧に皮のロングブーツ、2本の長剣がソファに立てかけられている。
これほど分かりやすい出で立ちもない。
 「うん・・・それじゃ」
 マキは一瞬思考を走らせたあと、彼女の言葉に返事をして素直にその隣に腰掛けた。
彼女も、マキの姿を見てなにか感じ取ったかもしれない。
 ちらちらと、自分に視線を向けているのが分かった。
 長は、そんな2人の様子を見て、まずは自己紹介をするように促した。
 先に口を開いたのは彼女の方だった。

 「アタシは・・・ヨシザワ=ヒトミ。見て分かると思うけど、一応剣士。・・・
  っていうより、“アビリティ”からいうと『剣術士』になるんだけどね」
 ヒトミと名乗る彼女は、短い髪をかきあげながら、そう言った。
 「うん、見たまんまだね」
 マキが言葉を返すと、ヒトミは吹き出した。
 「あっはは、そんな素直に言うかなあ?『剣術士』ってとこで驚かない?フツー」
 「普通じゃないからね」
 「あははははあ」
  淡々と言葉を返すマキに、ヒトミは何がおかしいのかケラケラと笑っている。
 「まあ、あんたも術士みたいだからね。驚かないか」
 ふっと真顔になると、ヒトミは不意にマキの顔をのぞきこんで言った。
 「・・・よく分かったね」
 「そりゃあ。術士同士ってなんか感じるものがあるからさ。あんたもそうじゃない?」
  えっと・・・」 

 ヒトミの言葉に思わず笑顔が浮かぶマキ。
 「ゴトー=マキ。方術士だよ」  
7 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月14日(土)16時10分19秒
1, コンビ誕生
  
 出会いから2日後。
 マキとヒトミの2人は、盗賊団のアジトへと歩みを進めていた。
 「なんか・・そぅとぅ遠いねー」
 思わず、マキがぼやいた。街を出発してからすでに1日歩きづめだった。
 「はあ〜、確かにね・・・」
 ヒトミも同調して呟く。
  
 車も馬も、進みにくいような山の中に盗賊団のアジトはあるという。まあ、あっさり
人が入っていけるような場所に盗賊団が本拠地を築くはずもない。
 盗賊団の規模は、聴いたところ思ったよりも小さかった。だから、ヒトミとマキは2人で
行くことを提案したのである。


「2人で十分ですよ」
 ヒトミの言葉に、長は最初は難色を示した。
 長はもともと、術士という強力な助っ人をバックに街の戦えるものを総動員して奇襲
をかける予定であったのだから。
 しかし。
 かえって大人数では動きづらい。
 一人旅をしていたマキとヒトミの意見は一致した。一般人が大勢いるよりも、術士が数人
いた方が有利であると、2人の申し出に最後は長が折れる形となった。
8 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月14日(土)16時36分36秒
 「ねえゴッチン・・・ゴッチン?」
 前を歩いていたヒトミが、ふと後ろを振り返ってみると、彼女より数メートル後方に
マキが座り込んでいるのが目に入った。
 「ちょっとお〜、大丈夫?」
 ヒトミがマキの方へ小走りに戻ってくると、「ちょっと休憩しようか」と言って
マキの隣に腰を落ち着けた。
 隣にヒトミが座るのを横目で見ていたマキが、だるそうにうなづく。
 「ねえ・・ところでさっきの『ゴッチン』って何?」
 マキの言葉に、ヒトミは一瞬目を見開いたが、「ああ」と楽しげに笑って空を仰いだ。
 「つけたの。あだ名。かわいくない?」
 「かわいいかなあ〜」
 首をかしげるマキ。あだ名なんてつけられたことがない。13歳のあの日、旅を始める
ようになる前、妹と『彼女』以外の人との交流なんてなかったのだから、当然といえば
当然かもしれない。
 
 マキはいつも1人だった。それが自然だったし、別に1人で苦労したこともないし、
気楽だと思っていた。
 それがなぜか、ヒトミとは会って2日だというのに気が合う。
 話してみて、同い年だということが分かった。一人旅をしていうところも一緒だった。
 それに何より、ヒトミが『術士』であるということ。
 助けることも、助けられることもない。パートナーが術士であるということは、何より
気が楽なのだ。 
 
 「ねえ、じゃあヒトミは・・・ヨッスィとかどう?」
 「ヨッスィ?ふ〜ん、いいかも」
 冗談半分でマキが言ったあだ名に、ヒトミは以外にも好反応を示した。
 「ゴッチンにヨッスィかあ〜、なんか術士っぽくないよね」
 マキが言うと、ヒトミはまたケラケラと笑った。マキも思わずつられて笑う。
 このときばかりは、15歳という年相応の姿だった。

 結局、この日はこの場所で野宿することになった。目的地まで、あと半日はかかりそう
だったからだ。
 
 獣避けに焚き火をたいた。オレンジの光が、マキとヒトミの姿を照らし出す。
 2人はなんとなく無言になっていた。
 「ねえ、ゴッチンは、なんで旅してるの?」
 「・・・ほえ?」 
 枯れ木を折って焚き火に放り込みながら、ヒトミが何気なく口にした言葉に、マキは
一瞬言葉を詰まらせた。
 言うものかどうか少し迷ったが、別に隠すことでもない。
 (ヨッスィになら、いいか)
 「妹とね・・・うんっと、なんていんだろ、大切な人を探してるんだ」
 
9 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月14日(土)17時25分00秒
期待してるからがむばってね
10 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月14日(土)22時38分55秒
うわ〜い。レスつくとうれしいっすね♪
とりあえず現メンは総登場の予定です。
それにしても、字が詰まってて読みづらいなあ・・・(苦笑)
11 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月14日(土)22時42分04秒
よしごまの2人が好きです☆
期待してます!
12 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月14日(土)23時11分28秒
 「へえ・・・そう」
 マキの言葉に、ヒトミはあっさりとした返事。
  「何か手がかりとか・・・アテはあるの?」
 続けて質問するヒトミに、マキは首を横に振ってみせた。
 「何にも。生きてるのか死んでるのか、どうしていなくなったのかも分からない」
 「・・・そう」
 僅かに疲労の色をにじませた表情で、マキはぼそりと呟いた。それは独り言のよう
でもあった。
 だがそれは一瞬のことで、マキはまたすぐにいつも通りのやる気のなさそうな顔に
戻ると、顔をヒトミの方に向ける。
 そして、逆にヒトミに同じ質問を返した。
 「ヨッスィは?何で一人旅なんてしてるわけ?」
 
 「単純だよ。強くなりたいから」
 ヒトミは間髪入れずにきっぱりと言い放った。目に力が入る。
 「家族もいないし、ひとつの場所にとどまってる理由なんてないしね」
 そうして、自嘲気味にそう付け加えた。
 「はははあ。確かにそりゃあ、単純だあ」
 「ゴッチンは複雑そうだね」
 「そんなこともないよお。根拠はないけど、また会えるって気はしてんだ」
 緊張感のない会話。
 ・・・しかし、マキの最後の言葉は半分本音で、半分は嘘だった。
 (イチーちゃん・・・なんでののだけ連れてったの・・・?
  アタシ、今だに分かんないや・・・)

  夜は更けていく。
  先に寝入ったマキの横顔を眺めながら、いつしかヒトミもうつらうつらし始めた。
  
  ・・・と、その時。
  「!?」

  傍らに置いてあった自らの剣2本を引っつかむと、ヒトミは無言でその場に跳ね
 起きた。
  このあたりの動きの素早さは、彼女が剣術士であること特有のものだろう。
  「近づいてくる・・・」
  ヒトミは乾いた唇をなめながら、焚き火の光の届かない暗い林の奥に目を向けた。
  人数にして20数人くらいか。
  こんな時間にこんな場所で、ただの旅人が通るとも思えない。
  
  おそらくは、盗賊団のヤツら。

  マキはというと、未だに夢の中のようだ。
  彼女の寝起きが悪いのは、昨日の朝、長が用意してくれた部屋で同室になったとき、
 十分に理解している。
  「まあ、ゴッチン起こすほどのことでもないか・・・」
  ヒトミは楽しげに呟くと、目を細めて林の中に再び視線を走らせた。
  「ちょっとは楽しませてほしいもんね」
13 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月16日(月)16時16分37秒
RPGっぽい世界ですね・・・。面白いです!
14 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月16日(月)20時36分25秒
 ヒトミは剣を構えると、林の奥を睨むように見据えた。
 ほどなくして、ザクザクと枯葉を踏む音と、ぼそぼそと低い声でなにやら話す声が
近づいてきた。
 
 暗闇に浮かび上がる20数人の男達。・・・予想通り、盗賊団の者達のようだ。
 ヒトミは眠ったままのマキを気にして、自ら彼らの方へを歩みを進める。
 「・・・ほお?」
 盗賊の1人が、いち早くヒトミの姿を認めて間の抜けた声をあげた。
 「林の中に、明かりがあるんでおかしいと思ったら、珍しいもんだなあ。
  人がいるたあ」
 「おまけに、小娘じゃねえか」

 無遠慮にジロジロとヒトミを眺め回しながら、盗賊たちが口々にざわめく。
 ヒトミは黙ってそれを聞き流しながら、ゆっくりと周りに視線を走らせて、盗賊たちの
中で話の出来そうな男を探していた。
 どいつもこいつも頭の悪そうな奴らばかりだったが。
 それでも彼女は一人、リーダーと思しき男に目をつけてその口を開いた。
 
 「それでわざわざ、こんな夜中に大人数ひきつれて確認しにきたってわけ?
  盗賊団なんて結局、徒党組んでなきゃてんで臆病な奴らの集まりね」
 「あん・・・?」
 ヒトミの挑発に、案の定そのリーダー(と思われる)はまんまと乗ってきた。
 怒りのためか、頬に少し赤みがかかる。
 「へらず口をたたくんじゃねえぞ、姉ちゃんよぉ。
  ・・・そっちの寝てる姉ちゃんはあんたの連れか?」
 「だったら何」
 ニタアッと口元を歪めて醜く笑う男達が何を言わんとしているか、ヒトミに分からない
はずもなかったが、とりあえずヒトミは気だるそうに返事を返してやった。
 当然、彼らの話をとっととうながすためだ。

 「てめえらが単なる旅人なら、この場で金品奪ってあの世まで送ってやるところだ
  けどな。久々の若い女だ・・・たっぷりかわいがってやろうってことだよ」
 申し合わせたように、盗賊たちが少しずつヒトミを囲んだ輪を縮める。
 どの顔にも、下卑だ笑み。

 「あのねえ、先に言っておくけど。その子に手ェ出したら、真っ先にたたッ切るよ」
 マキを目で指しながら、ヒトミは手にした剣を、鞘からすらりと抜き放った。
    
15 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月16日(月)21時06分32秒
 「おいおい、姉ちゃんバカにしてんのか?この人数相手に、何しようってんだ」
 ヒトミの行動に怪訝そうな表情を浮かべながら、先ほどの男が言った。
 その間にも、他の盗賊たちは少しずつその輪を縮めてきている。

 だが、ヒトミはまったく落ち着き払った態度で、今度は肩に羽織っていた薄手の
灰色のケープを外した。
 ケープは音もなく、枯葉の上にはらり、と落ちる。
 「バカにしてんのはそっちじゃない?こっちは剣抜いてんだよ。
  戦う気ないなら、その前に殺しちゃうよォ」
 馬鹿にしてるのか、本来の口調なのか、ヒトミは妙にゆったりとして口調で言った。

 小さな声だったにも関わらず、彼女の声は深夜の林によく響いた。

 妙な空気に、さすがに違和感を感じたのか、男達の中の数人が、自らの武器に手を
かけ始める。
 手始めに刀を両手に掲げた男が何か言おうとしたのか、口を開いた瞬間。
 
 ザッッ

 と乾いた音を立てて、枯葉が数枚、宙に舞った。
 その直後。
 「・・・あんたは。さっきアタシが言ったコト聞いてなかったの?」
 抑揚のない、この場においては奇妙なほど冷静なヒトミの声が響いた。
 そのヒトミの手元、握られた剣は、マキの肩に手をかけようとしていた男の背中に
まっすぐに突き立てられている。
 「このコに手ェ出したら、真っ先に切るっていったでしょ」

 冷たく言い放つと同時に、ヒトミは男の背中から剣を勢いよく引き抜いた。
 ぶしゃあっという音と、真っ赤な血飛沫をあげて、その男はゆっくりと枯葉の積もった
地面の上に転がる。
 もちろん、すでに絶命していた。

 「・・・なっ・・」
 盗賊たちは目を見開いてことの成り行きを見守っていた。
 というよりも、その場から動けずにいた。

 さっきまでヒトミが盗賊たちに囲まれていた場所から、今彼女が殺した男の場所
まではゆうに7,8メートルほどは離れている。
 ほとんど音も立てずに、この距離を移動したのか。
 周りを取り囲んでいたのに?
 それも、一発で急所を?

 盗賊たちに動揺が走るのを、ヒトミが見逃すはずもなかった。
 「ぼやぼやしてたら殺しちゃうヨ〜!」
 嘲るように叫びながら、ヒトミは固まっている男達の中を走りぬけざまに剣をなぎ払う。
 およそ、図っているはずもないが、彼女の太刀筋は正確に彼らの急所を切り裂いている
ようだった。
 
  
16 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月16日(月)21時29分35秒
 「・・・ヒイッ!!」
 枯葉が新たな血飛沫で真っ赤に染め上げられていくのを恐怖の眼差しで見つめながら、
リーダーの男はさっきまでとはうって変わった情けない声を上げた。
 「て、てめえ!俺らに何の恨みがあって・・・」
 「恨み?恨みなんてないよお。ただ、世間にはこういう言葉があるんだよね」

 ようやく事の自体を察知した盗賊たちが、次々と刀やら斧やらを振りかざして襲いかかって
くるのを軽いステップで交わしながら、ヒトミは生き生きとして表情で言葉を返した。
 「・・・殺られる前に、殺れって・・・ね♪」
 言う間に、ヒトミが力を抜いて横に薙いだ剣に、驚愕の表情を浮かべたままの盗賊の
一人が首を飛ばされた。

 いつの間にか、盗賊たちは例のリーダーの男(ヒトミが勝手に決めたのだが)を残
して、たった一人になっていた。
 「さあて・・・どうする?1対1」
 心底楽しそうに剣を構えながら、ヒトミは男に目を向けた。
 「て、てめえば・・・狂ってる!」
 
 捨て台詞を残して、彼はクルっときびすを返してもと来た道を駆け上がりだした。
 「逃げるか・・・まあ、それもアリだね」
 ヒトミは一瞬、自分も駆け出す素振りを取ったが、それより先に地面から拳大の
石を拾いあげた。
 そしてそれを大きく振りかぶり・・・・

 ガンッ

 石は緩やかな放物線を描き、小気味のいい音をさせて見事逃げ出した男の頭に命中した。
 「ぐえっ」という蛙を押しつぶしたような声を上げて、男はその場に崩れ落ちる。
 ヒトミは倒れた男にゆっくりと歩みを進めると、どうやら気絶しているらしいその
男に向かって、言った。
 「逃げるんなら、もっと早く決断してればよかったんだよ」
 そして、すでにもう血塗れの剣を構え、その胸に狙いをつける。
 「それにね、アタシは狂ってるかもしれないけど・・・今回は仕事だからね、
  仕方な〜く、やったコトなの」

 「・・・だって、お金は必要でしょ?」
 最後に囁くように言ったとき、すでに男の胸からは大量の血液が流れ出し、事切れて
いた。
 
 マキはいまだ、目を覚ます気配はなかった・・・。

 
17 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月17日(火)01時29分02秒
なんか面白そうですね!期待しています、頑張ってください。
市井の年齢が良く分からないけど、後藤が7歳のときに16,7歳?
10歳ぐらい差があるのかな?
市井登場のときは伝説の剣士(なぜか日本刀で)ぐらいになっている事を期待。
18 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月17日(火)03時34分10秒
面白そうな設定ですね。
期待してますので頑張って下さいね!!

ゴトーがイチーちゃんに会えることを願っております。
19 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月17日(火)07時06分32秒
よっすぃ〜、かっけぇなぁ〜。
よしごまも(・∀・)イイ!!
20 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月17日(火)20時57分09秒
皆様、レスありがとうございます。
>>17さん、市井ちゃんの年齢については、もうすぐ本編で触れると思います。
 伝説の剣士・・・それもいいっすね(^-^)
 
21 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月17日(火)21時17分24秒
ヒトミが盗賊たちを返り討ちにしていたその間。
 マキはずっと夢の中にいた・・・。


 懐かしい木造の家の中。
 (ああ、またこの夢か・・・・)
 (随分、長いこともう見なかったんだけど)
 (久しぶりに話して、思い出したせいかな?)
 (初めて話したな、他人に・・・ヨッスィに・・・)

 13歳の誕生日まで、自分が住んでいた家。イチイ=サヤカと、妹ノゾミと、3人で
仲良く暮らした家。
 その中に、マキは今立っていた。

 もう何回もずっと見続けているこの夢の内容を、マキはすべて分かっていたが、
それでも夢の中のマキは1度たりとも違った行動を取ったことはなかった。
 夢の中、マキはいつも2階にいる。
 (そして、1階に降りていくんだ・・・)
 パタッ パタッと足音を響かせて、マキの夢の中の体は彼女の思うとおり、階段を
降りて1階へと降りていく。

 (そして、テーブルの上に・・・)
 古い木目のテーブルの上に、置いてあるものが目に入る。
 このシーンをまるで映画でも見るように毎回目にしても、慣れることのない胸の痛み
・・・ギュウッと締め付けられるような痛みが走る。
  
 テーブルの上には、真っ白な法衣。きれいに畳まれている。
 (アタシへの、13歳の誕生日プレゼント・・・)
 そして、その上に置いてある小さなメッセージカード。
 見なくても、その書かれている内容は知っていた。
 (“Happy,Birthday!MAKI”)
 無意識のうちに、マキはこの夢がこれ以上進行することを拒んでいた。
  
 すべて、自分が体験したこと。
 逃れようのない、現実を知っていたから。
22 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月17日(火)21時34分32秒
 (あの日、イチーちゃんとノノはいなくなった)
 マキの意識には関係なく、残酷な夢は続いている。
 
 人気のない、家の中。
 妙に整頓された部屋。

 (1人になったって理解するまで、頭が正常に働かなかったけど・・・、
  この時、ホントに水分なくなっちゃうんじゃないかってくらい、大泣きした
  んだよね)

 ゆっくりと膝を折って、床に座りこむ夢の中のマキの体。その腕には、しっかりと
真っ白な法衣を抱えている。
 やがて、マキが泣き始めた。
 これ以上見たくなくても、認めたくなくても、マキの意識はその光景から目をそらすこと
もできずに、ただ13歳の自分が泣き続ける姿を見つめていた。

 (イチーちゃんが、アタシに残してくれたもの)
 (一人前の、方術士としての能力)
 (この真っ白な法衣)
 (一言だけ書かれた、メッセージカード)

  そして、マキの心に、一生癒えることのない大きな傷を残して、サヤカは姿を消した。

 (アタシもノノも、秋が大好きだった)
 (秋は・・ご飯が美味しいし、涼しいし、何より山が・・・きれいになるから)
 (でもその秋が来る直前、アタシの誕生日に2人がいなくなって)
  
  季節の移り変わりを楽しむことはなくなっていた。

 やがて家の外に、大雨が振り出していた。空が泣いているような雨だ。
 家の中のマキは、それでもまだ、泣き続けている。

 (そして、泣いて泣いて泣いて泣いて・・・・)
 (泣きやんだとき、アタシはもう絶対泣かないって決めた)
 (でも、心から笑うこともなくなってたなあ)
 
 そうして、マキはいつしか自分が本当の独りぼっちになっていることに気付かされる
のだ。それは、何よりの苦痛だった。
 マキは、この夢の中で自分が抱える苦痛の正体を、今はもう理解していた。

 (‘孤独’であることへの不安・・・・)


 「・・・ゴッチン??」
 不意に、声がした。
 マキの意識に、明るいものが流れ込んできて、マキは暗闇のような夢から目を覚ました。
  
23 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月17日(火)22時03分07秒
 ヒトミは、随分前からマキが苦しそうなのに気付いていた。
 彼女の寝起きが異常に悪いのを知っていたため、起こそうかどうか少し迷ったが、
一応、声をかけてみた。
 
 「うおっ」
 思わず、間抜けな声が出た。
 マキがいきなりムクリ、と体を起こしたのだ。ヒトミの目が点になる。
 「ゴッチン・・・起きたの?」
 起きがけのマキの目に、一瞬険しいものが浮かんでいたように見えたが、マキが
ふうっと息をついて額の汗をぬぐった後には、いつもnonoびりとした彼女の顔が、
そこにあった。
 「おはよう、ヨッスィ」
 いつもnonoびりとした声。何ら、いつもと違うところはなかった。

 (なんだかんだ言っても、まだウチらって3日くらいの付き合いだもんね・・)
 ヒトミの脳裏に、一瞬昨日のマキの話が蘇りかけたが、ヒトミは無理やりその意識を
たたんだ。
 昨日の彼女の口ぶりからいって、決して楽しい思い出とは思えない。
 もし彼女のうなされた原因が昨日の話のせいでも、マキから話し出さない限り、その
話をふるのは辞めておこう。

 一瞬のうちの、ヒトミの思惑の結論はそうなった。
 「・・・ねえ、ヨッスィ」
 「ん〜?」
 マキの声に、ヒトミが彼女の顔を見やると、マキの視線はその場から10数メートル離れた
林の中へと向けられている。
 その視線の先にあるもの。昨日のヒトミの戦いの証。
 すなわち、盗賊たちの遺体。

 「1人で全部やったの?」
 「うん・・・ま、弱かったからネ」
 謙遜するでも、照れるでもなく、ヒトミはあっさりと言葉も返した。
 ふうん・・・、とマキはもう1度その20数体の男達の遺体を見回すと、再び
ヒトミの顔に視線を戻して言った。
 「これなら、コイツらの本拠地もヨッスィ1人で大丈夫じゃない?」

 そして、ケラケラと笑った。
 つられて、ヒトミも笑っていた。
 「じゃ、朝ご飯にしますか」
 言いながら、ヒトミは自分の荷物の中からパンを2つ取り出すと、マキに投げて寄越した。
  
24 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月17日(火)22時09分43秒
 以上、更新しましたけど・・・
 最後のページが、一部ミョーなことになってますね(笑)。
 「のんびり」って書いたんですけどね。
 まあ、笑って流してやってください。
25 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月18日(水)04時05分33秒
ノノがお姉ちゃんに会いたがって出てきてしまいましたね。(w
26 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月19日(木)00時45分36秒
こういうジャンルって何気に一番難しいと思うんですが、全然違和感無く描写されてるんで驚きというかなんというか、
とにかく面白いです。
いちーちゃんを探すごまの旅。続き無茶苦茶楽しみにしてます。
『ノノン』で辻出てくるんで、〜の、のんびりとしたって表現で奴は現れますんで気を付けて下さい(w
27 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月19日(木)00時48分20秒
のんびり
28 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月20日(金)10時59分03秒
『ノノン』で出てくるんですか・・知らんかったです(藁
ちょっと出番少なかったから、出てきちゃいましたかね?
のの〜、もうすぐ出番(ちょっとだけど)だよ〜!
つーわけで、更新です。
29 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月20日(金)11時19分50秒
 海辺の近くに、小さな家がある。
 それは家というよりむしろ、小屋といった方が適切とも思えるような、簡素なつくり
のものだ。

 その家の前、一面に広がる海を背に、砂浜で1人、カモメたちと戯れる少女が1人。
 年の頃は13,4歳といったところか。
 その少女はときどき、カモメに向かって何やら話しかけているようにもみえる。
 
 と、その時、小屋の中からもう1人少女が出てきた。
 
 8年前、燃え盛る村から脱出したとき。
 そして3年前、マキの前から姿を消したとき。
 
 その時とまったく変わらない姿。17歳のままのイチイ=サヤカである。
 「ノノ。もう夕飯だよ」
 サヤカは相変わらず、カモメと談笑するように遊んでいる少女に声をかけた。
 八重歯がのぞく顔。14歳に成長したマキの妹、ノゾミだった。
 ノゾミはサヤカの言葉にうれしそうにうなずくと、カモメに「また明日ね」と声を
かけた。
 カモメ達は、ノゾミの言葉を理解したかのように一斉に飛び立っていった。

 「何話してた?」
 ノゾミにだけ見せる、優しい笑顔を浮かべながら、サヤカがたずねると、ノゾミはふふ、
と目を細めて笑うと、
 「内緒れす」
 と一言答えた。
 
 14歳という年の割りに、幼さの残るその顔、その声、その口調。
 それはノゾミというこの少女が、世間の俗物に触れることなく、無垢な心のまま
まっすぐに育ったことの証でもあった。
 その無邪気の心こそが、『動物と話ができる』という特殊な力に現れたのかもしれない。
 ノゾミはなぜか、マキの妹でありながら、術を一切使うことができなかった。
 しかしその代り、といっては何だが、彼女は動物と会話することができたのである。

 (変わらないな・・・この子だけは。
  いや、変わらないでいてほしい)

 サヤカは食事の匂いに誘われてスキップするように家に入っていくノゾミの後ろ姿
を見ながら、不意にマキのことを思い出した。
 (元気にしてるかな・・・アイツは)

 「そういえば、もうすぐマキ姉の誕生日れすね」
 家の中に入る直前、ノゾミが急にサヤカを振り返って言った。
 サヤカは一瞬、自分の思考がノゾミに読まれたかのような錯覚を感じて僅かな
動揺を感じたが、つとめて感情を出さずに答えた。
 「どうしたの、いきなり?」
 「16歳になるのれすよ」
 サヤカは気付いた。ノゾミが、何か思いつめたような顔をしていることに。
30 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月20日(金)11時33分11秒
 「だから、どうしたの?」
 「・・・サヤ姉、16歳って大人れすか?」
 「は?」 
 質問したつもりが、逆に問い返されてサヤカは思わず間抜けな声をあげてしまった。
 ノゾミは一体、何が聴きたいのだろう。

 「だって、マキ姉が大人になったら、ノノのこと迎えに来てくれるって」
 「・・・・・」
 「3年前、ここに来たとき、サヤ姉が言ったのれす」
 サヤカはハッとした。
 
 マキの13歳の誕生日にノゾミを連れてマキのもとから去ったとき、ノゾミは大好き
な姉がいないことに散々泣き喚いたことがあったのだ。
 そのとき、サヤカが苦し紛れについた『嘘』。
 ノゾミは、その時からずっと、その言葉を信じていたのだろう。

 (あたしは・・・マキも、ノゾミも苦しめてる・・・)
 自分の中に湧き上がる後悔の念を必死に打ち消しながら、サヤカは明るい笑顔を浮かべる
と、ノゾミの背中を押して、家の中へ入るよう促した。
 「う〜ん、サヤ姉よりまだ年下だからね、16歳じゃ。でも大丈夫、そのうち
  絶対、マキはノノのこと迎えに来てくれるから!」
 「・・・うん!」
 サヤカの言葉に安心したように顔をほころばせると、ノゾミはパタパタとテーブルに
かけていく。
 「わーい、今日はしちゅーだあ!!」
 屈託なく笑うその姿に、サヤカの胸が少し、疼いた。
 自分のことを考えた。
 そして、自らのその身の上を少し、恨んでいた。


 イチイ=サヤカ。
 世間で、盛んに呼ばれている自分の通り名。

 “神の力を持つ少女”
31 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月20日(金)12時27分11秒
2, 盗賊の本拠地において

 「はあ〜、ここかあ」
 ヒトミが木の陰から、切り立った崖の麓を見つめながら、思わず嘆息とともにそう呟いた。
 崖の麓に、ぽっかりと空いた洞穴。どうやらそこが、例の盗賊団の本拠地らしい。
 「ねえ、ゴッチン。あれなら入り口で火でもあぶれば、煙にまかれてわらわら出て
  来るんじゃない?」
 「・・・蟻退治じゃないよ、ヨッスィ」

 「というのは冗談だけど」
 ふっと真顔に戻ると、ヒトミは腰に下げた剣を1本、すらりと抜き放つ。
 もともとヒトミの腰には常に2本の剣が下げられているが、彼女は相手の力量に
応じて1本しか使わないことも多い。
 ヒトミが元来の二刀流で戦うのは、相手の実力が本物であると認めたときだけだった。

「昨日の夜、ウチらのところに20数人を偵察によこして、そいつらが1人も帰って
  来ないわけだから・・・」
 「当然、無防備でいるはずはないよね」
 ヒトミの言葉を、マキが軽く頷きながらそうつないだ。

 「あとさ・・・アタシ、ちょっと気になってるものがあるんだけど」
 「うん・・・アタシもだよ」
 2人の視線の先にあるもの。それは数匹の動物なのだが・・・。
 「おかしい・・・よね?明らかに」
 「あんな動物、いないよねえ・・・」
 2人がさっきから盛んに気にしている動物は、見張りの盗賊たち数人の横に大人し
く立っている。 
 
 なんのことはない、見かけはただのラクダだ。コブが2つあるタイプの。
 ただ、おかしいのは、そのラクダのコブから翼がにょっきりと生えているのである。
 明らかに、突然変異でもない。
 茶色い毛皮の上に、鳥の羽が無理やりくっつけられているような感じだった。
 「趣味悪いよねえ〜」
 「ねえ。・・・・ところで、どうする?」
 「ヨッスィが切り込んで行けばイイジャン」
 相変わらず、その奇妙なラクダに目を奪われながら、2人がぼそぼそと会話を続け
ている。見張りの男達はまったく気付いていないようだ。
 
 
32 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月20日(金)12時40分33秒
 「え〜?だって昨日、アタシあいつら追い払ったりしたじゃ〜ん!
  疲れてるんだから、今度はゴッチンやってよう」
 思い切り不満げな声を上げて、ヒトミがマキの顔を軽く睨んだ。
 対するマキは、ヒトミの視線も意に介せず、へらへらと笑ってみせる。
 「いや〜、昨日の死体はすごかったねえ!
  見事な切り口!全部即死だあ! いよっヨッスィ最強!!
  ゴトー、ヨッスィの戦いっぷり見たいなあ♪」

 手まで叩いてみせるマキ。
 ヒトミは軽くため息をつくと、やれやれ、というように肩をすくめた。
 「ゴッチンってさあ・・・すごい面倒臭がりでしょ?」 
 「あはっ・・・バレた?」
 マキは頭をかきながら、またへらっと笑った。まるで子供のような笑顔。

 「も〜、そんな顔で笑ったら、怒れないじゃん」
 ちょっと眉を寄せながらヒトミは軽くマキとこづくと、ゆらり、とその場に立ち上がった。
 抜き身の剣が、僅かに光を反射させた。
 「仕方ないから、アタシから行くよ?適当なところでゴッチン援護してね。
  ・・・っていっても、ゴッチンの戦い方は知らないけど」
 「ん〜?ふふふ・・・」
 ヒトミの言葉に、マキは曖昧な笑みを返しただけだった。

 そう、実質2人が一緒に戦うのは今回が初めてなのだ。
 ただ、お互いに「術」を使える者同士、そして一人旅をしていたもの同士、ということ
で、あまりコンビネーションの点については深く考える必要はなかった。
 いつもの通り、戦えばいいだけの話。

 「ねえ、ヨッスィ?」
 「なに?」
 ゆっくりを見張りたちの方へ歩みをむけるヒトミの背中に、マキが声をひそめて
呼び止めた。
 「なんだかんだ言って、ヨッスィって戦うの大好きでしょ」

 「あはっ・・・、バレた?」
 振り返らず、ヒトミも低く笑った。
 
33 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月20日(金)16時15分25秒
初めて読みましたけど、超面白いです!
本格的な小説読んでる気分vv
よしごま?いちごま?とにかく先が気になる。
PS タンポポめんばーが1人も出てないですが、この先ちゃんと出てくるんですかね?
34 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月21日(土)02時52分33秒
市井の年齢は17歳!?
何やら市井ちゃんには秘密がありそうですね!!
この先も楽しみです。
35 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月23日(月)00時03分32秒
 見張りの男たちは退屈していた。
 昨日、見慣れない光を偵察しに林の中に入っていった連中がいつまでたっても帰って
こないということに、一時は大騒ぎになったものの、今ではその緊張感も薄れて
きてしまっていた。

 そもそも、盗賊というのは奇襲をかけることはあっても、奇襲されることなどは
滅多にないのだ。

 だから、1人の少女が抜き身の剣を片手に近づいてきたのを認めても、本来の見張り
としての責務を果たすことはなかった。
 すなわち、中の仲間たちに、一言
 「奇襲だ!」
 と叫ぶことが。

 「・・・なんだ、姉ちゃん。ここはガキの来るところじゃないぜ」
 見張りの男の1人が、ヒトミが黙って歩いてくるのを認めて声をかけた。
 彼の声に、他の見張りの男たちも振り返る。
 羽の生えたラクダ(のような動物)達だけは、その場で身動き一つしなかった。
 「大した用事じゃないんだけど」
 ヒトミは、見張りたち全ての視線が自分に向けられるのを感じながら、それでも
歩みを止めることなく、ごく落ち着いた声で言った。

 「あんたたちを、潰しにきたの」

 「ああ?何だって?」
 見張りの男達に、一瞬ぽかん、とした表情が浮かぶ。そしてその直後、男達は
一斉に声を上げて笑いだした。
 ヒトミは、昨日の偵察隊の男達の反応と何ら変わらないその様子に、内心苛立ち
を感じた。

  
36 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月23日(月)00時16分42秒
 ブシュッという血の噴出す生々しい音とともに、1人の男がゆっくりと倒れた。
 
 「ん・・なあっ・・・!?」
 目の前で起こった一瞬のできごとに、見張りの男達は目を見開いた。
 そんな驚き方まで、昨日の連中と一緒だ。
 面白みがない。
 ヒトミは小さく舌打ちをして、男を切り裂いた剣を、血を祓うために2,3度軽く
振った。
 「だから、潰すって言ったでしょ。2回も言わせないで」
 ヒトミは冷たく言い放つと、そのまま体を反転させて、未だ動けないでいる他の
見張りの男達に向かって剣をかざして突進した。

 その後は、特に説明の必要もない。
 昨日、たった1人で20数人の男達を葬ったヒトミにとって、大した武器も持たない
見張りの男達数人を相手にするなど、目を瞑ったままでも簡単なことだ。
 結局、数秒のうちに結果は出ていた。

 すでに動かぬ物体となった彼らの遺体を見下ろしながら、ヒトミは彼らが5人いた
ということに、今さらながら気付いた。
 そして、ふっと気になった。
 「あの変な動物は?」
 疑問は、そのまま声となって口から出た。

 さっき、マキと共に気になっていたあのラクダに羽の生えたような動物。
 見張り達とともにいたということは、何らかの意味を持っていると考えておよそ
間違いないのではないか。

 そこまでヒトミの思考が働いたとき、ヒトミの目はその動物達をとらえていた。
 ・・・が、彼女の思惑は見事に外れていた。
 「あれ?」
 拍子抜けした声が漏れる。

 その動物たちは、見張りが生きていたときと何も変わらず、ただじっとその場から
動いた様子もなかった。
 目だけがたまにぎょろり、と動くところからみると、生きているのは間違いないよう
だが。
37 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月23日(月)00時33分16秒
 「なんなんだろうね、この動物」
 不意に、ヒトミの背後からさして興味も持っていないような無感情な声がした。
 いつの間にか、マキが隠れていた茂みから出てきたようだ。
 
 「それにしてもさ、援護の必要なんて全然なかったじゃん。
  下手したらゴトーの術、ヨッスィまで巻き込んじゃうかもよ?
  ヨッスィ、思ったより動き速いんだもん」
 ラクダ達の顔に手を伸ばしながら、マキが相変わらずのんびりとした口調で言った。
 この少女が、焦ることなどあるのだろうか。
 ヒトミは、なぜだか唐突にそんなことを考えていた。

 「でもさ。今のアタシの動きが見えてたってことは、少なくとも常人よりは
  ゴッチンの動体視力はいいってことじゃない?」
 「ど〜かな〜」
 含み笑いを浮かべながら、マキは答えた。
 「なんかゴッチン、はぐらかすこと多いよね」
 何気なくヒトミが口にした言葉に、マキは顔を曇らせた。
 「そっ・・・かな?」
 「え?いや、深い意味はなく」

 様子の変わったマキに、ヒトミは慌ててフォローするように言った。
 気まぐれなのか、意識的になのか、マキは普段のんびりしているように見えて、急に
ふっと大人の表情をのぞかせることがあるのだ。
 ヒトミはその度に、いつも慌ててしまう。
 
 彼女の慌てている様子がおかしかったのか、マキはふっと頬を緩めると、手をひらひら
と振ってみせた。
 「じょーだんだよお。もーヨッスィ、心配性なんだから」
 
 「はあー?何だヨ、ゴッチンふざけすぎ!ほらもう行くよ!!」
 本気で慌ててしまったのが恥ずかしかったのか、ヒトミは少し顔を赤くすると、少し
怒ったような口調で言い捨てて、ずんずんと入り口の方に向かって歩き出した。
 「ねえー、ラクダは?」
 「ほっとけばいいよ!どーせ何にもしないんだから」
 マキの言葉に、ヒトミが背中を向けたままぶっきらぼうに答える。

 ヒトミの背中を見ながらマキは苦笑を浮かべると、小さくため息をついた。
 (はぐらかすのは、イチーちゃんの得意技だったよね。
  アタシ、いつの間にかイチーちゃんの癖、うつっちゃってるみたいだよ・・・)

38 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月23日(月)02時22分11秒
中澤も出してほしいな。
39 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月23日(月)22時10分55秒
>>33、34、38さん、レスありがとうございます。
たんぽぽメンバー、中澤さん、ちゃんと出ますよ!
ただ、私が書くスピードが遅いだけで・・・(汗
ちなみに市井ちゃんとかは重要な役なんですが、前半ではあまり出番はなさそうっす。
マイペースに更新していくんで、よろしくお願いします☆
40 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月25日(水)20時03分05秒
 一見、洞穴のようにも見えた盗賊たちの本拠地の中は、足を踏み入れてみると意外
と整備されているのが分かった。
 外から見ると真っ暗に見えたその中は、ところどころに点灯している小さな蛍光灯
でほのかな明かりに照らされていた。

 ちなみに、さきほどのラクダと鳥のあいのこのような変な動物(数匹)は、そのまま
入り口に放置されている・・・。

 「さて、どっちに行こうか?」
 剣についた盗賊たちの血をぬぐいながら、ヒトミがマキに聞いた。
 さすがに“盗賊の本拠地”という名目がついているだけあって、その内部の構造は
思ったよりも入り組んでいるようであった。
 「まあ、こっちから探さなくても、敵さんからやって来るだろうーからさ。
  そいつらにボスの居場所聞ーて、やっつけちゃうのが1番てっとり早いんじゃない?」

 マキは、前方の廊下の角を見つめながらそう答えた。
 ドタドタっと、数人の人間が走り来る音が響く。
 「見張りがあっけなくやられちゃった割には、来るの早かったね」
 
 ヒトミも、マキの視線の方向とまったく同じ方向に目を向けながら、いつもの落ち着
いた声で呟いた。
 
 「見つけたぞ、侵入者だっ!!」
 狭い廊下に、野太い男の声が反響した。
 その品のない声の大きさに、思わずヒトミは顔をしかめた。
41 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月25日(水)20時21分57秒
 さて、やるか・・・と心の中でヒトミがつぶやき、片手で自分の武器を構えた
瞬間だった。
 ずっとやる気のなさそうだったマキが、初めて自分から行動を起こした。
 
 すっと自分の両手を胸の前にかざし、目線だけは目の前の男達に向けながら、言った。
 「コマンド『人体発火』」
 
 ごおっという低い地鳴りのような音が、ヒトミは聞こえたような気がした。

 ゴトー=マキの「方術」、すなわち、自らの放つ言葉を‘物理的な力’として起こす
その術を発動したのだ。
 彼女術は、その「言葉」とその「発動した術のイメージ」を頭に思い描くことで発動
するのである。それだけで、彼女の放った「術」は確実にその効力を発揮して、目の前
の盗賊たちに襲い掛かっていた。
 すなわち。

 「うぎゃあああああっっ!!!」
 耳をつんざくような不快な悲鳴が、あたりに響きわたり、ヒトミは目を丸くして目の
前の惨状を見た。
 一瞬だけ姿を見たと思った相手の男達は、ヒトミが彼らの顔をまともに見ることも
なく、いきなり炎に包まれたのだ。
 ヒトミの剣による一瞬での殺傷とは違う、それでも確実な死への宣告。
 初めて目にした、マキの「術」。

 「・・・ったくうるさいなー。もう終わらせちゃお。
  コマンド『完全燃焼』」

 悲鳴をあげて転げ回る男達に一瞥をくれると、マキは慈悲のかけらもないような
冷たい声で言い放った。
 
 「ぐぎゅうう」という耳慣れない悲鳴のような音を残して、男達の姿は完全に黒こげ
の炭へと姿を変えていた。
 影のようになったその遺体の数は7体だった。
42 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月25日(水)20時36分42秒
 白い煙をあげながらくすぶっている、もと「人間」だったものに少しずつ近寄り、
その「死」を確認すると、ヒトミはマキを振り返った。
 「これが、ゴッチンの術?」

 「ん、まあね」
 マキは軽くうなずくと、自分もヒトミの方へと歩み寄り、同じように自分が黒こげ
にしたそれらの遺体を覗き込んだ。
 「真っ黒だあね〜」
 「すっげー、ゴッチンかっけー!」

 マキの上げる声とは異なる少しテンションの上がった声で、ヒトミは顔をわずかに
上気させて言った。
 「ねえねえ、今のどうやったの?初めて見たよ、『方術』ってヤツ!」
 「え〜? んと・・・なんて説明したらいいんだろ。
  ゴトー、あんまり頭よくないからなあ、うまく説明できないんだあ」
 目をキラキラさせて質問してくるヒトミに、マキは困ったように頭をかいている。
 
 人が目の前で黒こげに燃え尽きた後の会話としては、このあたりはさすがに普通の
15,6歳の少女のものにはふさわしくないと言える・・・。

 「簡単に言うとさ、ってゆーか難しくは説明できないんだけど」
 コホン、と小さく咳払いをしてマキはそう前説を入れると、ヒトミの方へと向き直った。
 
 「人ってやつはさ、言葉を使って物事を具体化していくでしょ?
  例えばそれは、目標であったり、おまじないであったり、願掛けだったりするんだけど。
  そうやって、言葉のあとに、物事がついてくることがあるじゃん」
 「・・・うん。あるねえ」

 「だからさ、言葉には、そういう力があるんだよ。
  『方術士』っていうのはね、そのテの“アビリティ”が特に優れている人が使える
  ものなんだ」
 「へえ〜〜!」
 大げさに驚嘆してみせるヒトミに、全部受け売りだけど、と照れくさそうに付け
加えて、マキはぺロッと舌を出してみせた。
 
43 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月25日(水)20時51分39秒
 「それはそうとさ、敵全部倒しちゃったから、ボスの居場所聞けなくなっちゃった
  ねえ?」
 ヒトミはまだしげしげと黒こげの遺体を興味深そうに眺めながら、思い出したよう
にそう言った。
 「あ〜、ゴメンゴメン。いきなりでっかい声して腹立ったから、
  一発でやっちゃった」
 「イーヨイーヨ、すぐ次が来るだろうし」
 言いながら、再び2人は歩き出した。

 二股に分かれている廊下を、言葉を交わすこともなく2人同時に右へ曲がる。
 このあたりの感覚は、なぜか2人には通じ合っているものがあるらしい。
 出会って数日という付き合いの短さの割りに、マキとヒトミはお互いに居心地の
よさを感じ合っていた。

 「ねえ、あれなんだろ?」
 次の盗賊たちに会う前に、ヒトミが一つの扉を指差した。
 なぜか、明らかにペンキで上塗りしたと思われる迷彩柄のドアがあった。
 盗賊の本拠地としては、明らかに不釣合いな、扉である。

 「なんかプレートかかってない?」
 ヒトミの言葉に、その扉を見やったマキが、小さく首をかしげながら答えた。
 「ホントだ。・・・え〜と・・・」

 腰の軽いヒトミは、小走りにそのドアの前まで走ると、そこに下げられた木製の
これまた手作り風のプレートを見た。
 そして、少し吹き出した。

   『☆ ケ イ の 部 屋 ☆ (いきなり開けると爆発するかも!?)』

  プレートには、そう書かれていたのである。 
44 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年07月25日(水)20時57分24秒
>>40-43 更新しました。
なんか、初期の頃と書き方が変わってきてますね(汗
まあ、最初の頃のはあまりにも字がつまって読みづらかったので・・・
しかも誤字の多いこと多いこと。反省です。
そして、次回は圭ちゃん登場です。
45 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月25日(水)22時36分56秒
17で書いた者です。
伝説の剣士以上に期待の出来る役です。
謎がいっぱいで面白いです。
46 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月06日(月)03時43分58秒
つづき、お待ちしております。
47 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月07日(火)21時02分15秒
更新…ないのかな?
48 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月19日(日)23時16分21秒
世界観に引き込まれてしまいました。
更新待ってまっす!
49 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年09月01日(土)12時49分48秒
 随分長いこと期間をあけてしまいまして、レスくれた方々、まことに申し訳
ありませんでしたm(__)m
この1ヶ月、私事のため、パソコンを立ち上げられない状態になってしまっていま
したゆえ・・・(汗
 これからぼちぼち更新させていきますので、まだ見放されていないのならば、
お付き合いください。
50 名前: 名無し読者 投稿日:2001年09月01日(土)18時25分32秒
良かった!待ってます。
51 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月01日(土)19時11分08秒
作者さんの復活宣言、うれしいかぎりです。
つづき、お待ちしております。
52 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年09月01日(土)20時58分31秒
 「「・・・」」
 思わぬ部屋の出現に、無言になるマキとヒトミ。
 常人であれば、明らかにふざけているとしか思えないその「爆発するかも?」の
プレートも、ここが盗賊の本拠地ということを考えると、あながち嘘とも言い切れ
ないとも思えるのだ。

 「どうする?」
 「・・・ヨッスィ、開けてよ」
 「ゴッチンが開けてよお」

 互いにドアの方をまっすぐ見つめながら、二人は肘で突っつき合う。
 迷彩柄、
 ☆のマーク、
 盗賊の本拠地に不釣合いなことこの上ない不気味なドアに、今まで快調に歩みを
続けてきたマキとヒトミの足が、初めて止められた。
 そのドアをいまいましげに見つめながら、
  
 「なんか、こんなドアに足止めされるのも腹たつよね・・・」

 マキがそう呟く。同調するようにヒトミもうなずき、
 「ねえ、ゴッチンの術で、このドア開けられない?」
 「ゴトーも同じこと、考てたとこ」
ニヤリと笑って、マキはヒトミに答えた。
53 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年09月01日(土)21時09分04秒
 そのまま、マキはそのドアの前に、自身の手をすうっとかざし、
 「あんまり、攻撃系以外の術って、得意じゃないんだけどね」
と、珍しく自信のなさそうな声で前置きすると、

 「コマンド『単純開錠』」

 術を発動させた。・・・が。

 「・・・」
 「・・・」


 「・・・あれ?」


 シー-----ン・・・


 目の前の扉に、術による変化は見られない。ただ、さっきまでと同じように、その
なんとも形容しがたい不気味な姿をそのままにしている。
 「・・・失敗?」

 おそるおそる、といった様子でヒトミがマキに尋ねる。マキの表情が憮然として
いるのに気付き、ヒトミは意を決したようにドアのノブに手をかけた。

 がちゃりっ

 「あれ?」
 ドアは意外にも、あっさりと開いた。
 「ゴッチン・・・これ、最初っから開いてたみたい」
 気の抜けたような顔で、ヒトミがマキを振り返って言った。そして、そのマキの顔に
悔しそうな怒りが浮かんでいるの認め、苦笑いを浮かべた。

 「・・・なんなのさ!こんな、いかにも『あやしいで〜す』みたいなドア作っといて、
  鍵の一つもかけておくのが礼儀ってもんでしょー?」

 

54 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年09月01日(土)21時21分49秒
 ぶつぶつと文句を言いながら、マキがずかずかと部屋へと踏む込んでいくのを、
ヒトミが慌てて追いかける。
 まあ、マキとしては得意でもない術を使ったのにも関わらず、それがまったく意味
をなさなかったのだ。腹を立てるのも、自分の「術」に自信を持っているからに他
ならない。仕方のないことだといえよう。

 「まあまあ、ゴッチン、開いてたのは開いてたでいいじゃんって・・・ぶっ」
 なだめるように言いながらマキの後を追って部屋に入ったヒトミは、部屋に踏み込んで
2,3歩進んだところでいきなり立ち止まったマキの背中にまともにぶつかってしまい、
妙な声を上げた。

 「・・・どうしたの?」
 一歩下がって部屋の中をのぞいたヒトミは、一瞬にしてその理由を悟った。

 「なにこれ・・・」
 黙って部屋を見渡すマキの心を代弁するかのように、ヒトミが声を上げた。

 今、彼女達を取り囲むにずらりと並べられている、色とりどりの水槽。
 大きいものや、小さいものから様々なものが揃えられている。
 そして、その水槽の中には・・・これまた様々な“生物”が、ひしめくように詰め
られているのだ。
 
 
55 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年09月01日(土)21時31分15秒
 それらは、明らかに生きていると分かるように、絶え間なく蠢いているのもあったが、
死んでいるのか、それともただ眠っているのか、まったく動いていないものも多かった。

 そして、何より、二人が言葉を失ったのはそれらの形状にあった。
  
 『奇異なるもの』

 そんな言葉がピッタリと当てはまるような、そんな生物達。
 例えば、それは犬の頭に亀の甲羅姿だったり、
 例えば、それは蛇の身体に鳥の頭だったり、
 例えば、それは人間大のカブトムシだったり、
 とにかくそれは、

 「「気味が悪い・・・」」

 期せずして、マキとヒトミがハモって言った。そう、一言でその部屋を表現して
言うなれば、まさにその言葉はぴたりと当てはまる。
 眉をしかめて水槽をしげしげと眺めるヒトミをよそに、マキはずんずんと奥へと
進んでいく。

 「ねえ!ヨッスィ!人がいる」

 奥の方から、マキが至極落ち着いた声でそう呼ぶ声が聞こえたのは、その数秒後の
ことだった。

56 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年09月01日(土)21時42分48秒
 「えっ?」

 マキの声に我に帰ったようにヒトミはパチパチと何度か瞬きをすると、奥の部屋へ
と小走りに向かう。彼女の履いている皮のロングブーツが、タイル製の床にこすれて
キュッと音を立てた。

 奥の部屋へと踏み込んだヒトミは、マキが黙って見下ろしているその人物の姿を認め、
大げさに目を丸くした。
 「・・・女の人?」
 そう、幾重にも雑然と積み上げられた古い書物にもたれかかるようにして、縄でしばり
上げられ気を失っているその人物は、まぎれもない女性であった。

 年の頃はマキやヒトミよりも幾分か年上であろう、20歳くらいに見えた。
 その髪の毛は顎にかかるくらいか、やや短いくらいで切りそろえられ、きっと上がり
気味の眉毛が気の強そうな印象を与える。

 そして、その身を包む白衣。

 その白衣は、もう何日も洗濯していないかのように薄汚れ、生物の血液と思われる
ような赤いシミが、あちこちに点在していた。
 よく見れば、彼女のもたれかかっている書物それらが、生物学に関するものばかり
であることに気付くが、今の二人にそんなことを知る必要などはなかった。
57 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年09月01日(土)21時49分37秒
 「生きてる?」

 ヒトミが、マキの隣に並んで立って、その女性を同じく見下ろしながら、この場に
おいては場違いなくらい冷静な声で聞いた。
 「気、失ってるだけみたい」
 こちらもまるで、女性の生命状態などは気にしているようすもないような冷めた声
で、挨拶の返事でも返すようにマキが答えた。

 「多分、この人がプレートに書いてあった『ケイ』って人だよね」
 「だろうね」

 二人の間の会話は簡潔に、要領を得て交わされた。
 この部屋が何らかの(おそらくは生物に関する)研究所で、中の女性が研究者特有
の白衣を身につけているとなれば、考えるまでもなくその結論は導き出される。
 「・・・でもさ」

 マキが、当然のように浮かぶ疑問を口にする。
 「なんで、縛られてんだろね」
 「・・・ね」

 まったくもって、気の合う二人。
 しばらく、マキとヒトミはその女性を見下ろしていたが、外傷は見当たらないもの
の、まったくもって目を覚ます気配のない彼女に痺れをきらし、
 「起こそうか」 
 「・・・だね」

   
58 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年09月01日(土)21時59分58秒
 「もしもーし」
 「聞こえますー?」

 二人して女性のそばに座り込み、マキとヒトミは交互に彼女の肩を揺らしたり、
声を掛けるが、それでも女性が目を覚ます様子はなかった。
 それもそのはず、はたから見れば彼女ら二人が真剣に人を起こす意思を持って
いるようにはまったく見えない。
 ・・・二人に共通するマイペースさ。
 それは、いかなる時でも失われないということか。

 あまりに目を覚まさない女性に、次第にいたずら心が湧いてきた二人。
 ヒトミがどこからか持ってきた油性マジックを片手に、二人はその女性の顔に
落書きを始めた。

 まぶたの上に少女漫画風の目を書いたり、
 額に『肉』の字を入れたり、
 頬に、なるとのような渦巻き模様を描いたり、

 古典的ともいえるような落書きを施しては、二人でクスクスと笑いあう。まったく
見ず知らずの女性に平気で落書きできるような神経の図太さまで、似通っているマキ
とヒトミは、あらためて普通の少女とは根本的に違うのだろう。

 あらかた二人が顔中に落書きをしまくったところで、まるでそのタイミングを計った
かのように、女性が
 「う・・・う〜ん」
 と小さな声を上げた。
59 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年09月01日(土)22時06分15秒
>>52-58
短いですが、更新です。
 ようやく出番の○イちゃん・・・(笑

いきなりしょっぱなから85年sにやられております。
前回よりかなり期間が空いてしまいましたが、レスをくださった
>>45>>46>>47>>48>>50>>51様、本当にどうもありがとうございました!

また細々とがんばらせていただきます。
60 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月03日(月)03時30分37秒
お待ちしてましたよ〜!!
放置なのかと心配しておりました。
続き期待しておりますので頑張って下さい。
61 名前:名無しを名乗る(`◇´) 投稿日:2001年09月05日(水)23時23分29秒
おお〜、ついに圭ちゃん登場ですか!
いきなり落書きされる圭ちゃん萌え〜(w

後藤と吉澤のいたずらコンビにやられとります。いいっすね〜
更新期待。
62 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月06日(木)01時45分28秒
一気に読みましたよ。エンターテイメント性が強くて好きです。続き楽しみに待ってます
63 名前:ヒューマニスと 投稿日:2001年09月10日(月)22時47分02秒
女性がなにやら口をもごもご言わせながら、ゆっくりとその上体を起こした。
 がしかし、縛られたままでは上手く身体を支えることができず、彼女はいったん
身体を起こしたと思ったら、あえなく再び床へと転がってしまった。

 「「うはははははっ」」
 
 手を差し伸べるでもなく、マキとヒトミは無様な格好のその女性を見て、おかしそう
に笑い声を上げた。その笑いに嘲るような見下した響きはなく、純粋に面白いものを笑う
という感じ。
 まさに、その二人の少女が、完全に大人になりきっていないことを象徴するかのよう
な仕草であった。

 「ちょっと!あんた達、何笑ってんのよ!助けなさいよ!」

 だが、床に転がった姿を腹を抱えて笑われた彼女としては、そんな二人の身上など
どうでもいいことに違いない。
 縛られて床にはいつくばったままの情けない体制で、それでも彼女は自尊心を失って
はいないようなしっかりとした声で、笑ったままの二人を睨みつけて声を上げた。

 「あ〜、怒られちゃったじゃん、ヨッスィ〜」
 「え〜?今のはゴッチンが怒られたんだよ」
 「あんたら二人に言ったのよ!」
 

64 名前:ヒューマニスと 投稿日:2001年09月10日(月)22時57分03秒
 その女性が本気になって怒鳴れば怒鳴るほど、二人はおかしそうに腹をかかえる。
 ただでさえ「超」がつくほどのマイペース人間な少女二人が一緒にいるのだ、並大抵
のプレッシャーでは、その笑いを収めることは出来そうにない。

 しかも今、女性の顔は、先ほど二人が施した落書きでいっぱいになっているのだ。
どんなに真面目な表情を作ったとしても、大した効果がないのは間違いない。
 箸が転んでもおかしい年頃のマキとヒトミ、ほんの少し怒鳴ったばかりでは、その
口を黙らせるなど無理な話である。

 「・・・まあいいわ。それよりあんたら誰よ?」
 女性は、二人に助けてもらうことをあきらめたのか、ジタバタもがくのを止めて、
床に転がったままの体制で二人を見上げて言った。
 
 本当ならば、1番初めに交わされて当然なこの質問。

 マキとヒトミは、その女性の言葉に、ようやく本来の目的を思い出したのか、二人
顔を見合わせた。
  
65 名前:ヒューマニスと 投稿日:2001年09月10日(月)23時02分35秒
 「あ〜、そうだった。そういやこんなとこで遊んでる場合じゃなかったね」
 それでも、大して問題でもないような口調で、ヒトミがさらっと答える。
 女性はその答えも気に食わなかったのか、もともと猫のようにツリ目気味の目をさらに
きっと鋭くして、

 「そういうことは最初に気付きなさいよね!!」

 と、再びその怒鳴り声を部屋中に響かせた。
 (おお〜、迫力あるなあ)
 そんなときでもマキは呑気にそんなことを考えていた。彼女の頬に落書きされた、
渦巻き模様をしげしげと眺めて、笑いをかみ殺しながら。

 「とりあえずね」
 必死に笑いをかみ殺して言葉を発しないマキの代わりに、ヒトミがまっすぐにその
女性を見下ろしながら口を開く。
 「ウチら、この盗賊団を潰しに来たの」

 
 「・・・」


 「・・・はあっ?」


 ヒトミの意に反して、女性の反応は割とリアクションが小さかった。
 
66 名前:ヒューマニスと 投稿日:2001年09月10日(月)23時10分24秒
 女性は、ヒトミの言葉にこれ以上はないほどに目を大きく見開き、マキとヒトミの
顔を嘗め回すように見つめる。
 ヒトミは、その視線に、この盗賊団を相手にして初めての居心地の悪さを感じた。

 対するその女性は、しばらく二人に視線を向けていたが、急にはじかれたように
笑い出した。
 「ふふっ・・・あはははは!!」
 
 「な〜に、言ってんのよ、あんた達!ここが何だって?盗賊団?
  そんなわけないじゃないのよう」

 「???」
 予想しなかったその女性の返答に、困惑したような表情を浮かべるヒトミ。
 マキは、特に何の反応も見せず、ただぼうっとしたような視線を目の前の女性へと
向けている。
 「どういうこと?・・・ここが盗賊団じゃないって」

 聞いてはみたが、ここが盗賊団の本拠地であることに間違いはないという確信は
持っている。現に、村の長らに教えられたアジトの場所もここに違いないし、村が
襲われたのだって1度や2度ではない。
 実際、ここに来る前だって二人を襲ってきた輩はいたのだ。
 ヒトミはただ、目の前の女性が何を言い返すのかだけに、興味を抱いていた。

 
67 名前:ヒューマニスと 投稿日:2001年09月10日(月)23時22分28秒
 「私の名前はね。ケイよ。ヤスダ=ケイ。ちょっとは名の知れた生物学者なの」
 
 ヒトミの興味しんしんな視線を受けて、ケイは頼まれてもいないのに、自分の自己
紹介を始めた。名の知れた、をやや強調して。
 「・・・聞いたことがある。その名前。確か、東洋の大学を15歳の若さで卒業した
  生物学のスペシャリストと言われた天才でしょ。最近は行方知れずって聞いてたけど」

 だんまりを決め込んでいたマキが、久しぶりに口を開いてぼそり、と言った。
 「天才」の言葉に顔を緩めた女性−ケイは、マキの言葉に満足そうに頷くと、その
視線をヒトミからマキへと移した。
 
 「へえ、よく知ってんじゃない。ぼーっとしたヤツだと思ってたけど」
 「まあ、ちょっとね。床に転がった人にぼーっとしたヤツなんて言われたくないけど」
 
 「・・・うるさいわね、あんたらのせいでょ。
  で、まあ、つまりは、そういうこと。私はね。生物学者なのよ」
 「・・・で?」

 多少、苛ついたような口調で、ヒトミが先を促す。そんなことは、先ほどから彼女の
服装から予想のついたことだ。まあ、そんなに有名な学者だったのは予想外だとしても。


68 名前:ヒューマニスと 投稿日:2001年09月10日(月)23時36分51秒
 「それで・・・よ。私はね、ここ数ヶ月間、このお屋敷のこの一室を借りて、生物  
  学の研究に没頭してたってわけよ」
 「・・・どうしたら、この洞窟に『お屋敷』なんて言葉があてはまるワケ?」
 「まあね、このお屋敷のご主人たっての申し出だったんだけどさ」

 ヒトミのやや控えめな突っ込みは、あえなく無視された。どうやらこのケイという
女性、熱中したもの以外見えなくなる性質のようだ。
 
 「こう言われたのよ。
  『君のその知識を、私の財産で有意義に使ってみてはみないかね?
   研究費や、生活費はすべて私が持とう。
   そして、その研究がうまくいけば、私がスポンサーとして、これからずっと
   君の研究を全面的にバックアップしていこうと思う』
   ・・・ってね!なんていい人なのかしらと思ったわよ!
   そんな人達が、どうして盗賊だなんて言えるのよ!」

 「「ああ、やっぱりね。そんなことだろうと思った・・・」」
 ケイには決して聞こえないよう、マキとヒトミの二人は気付かれないよう、こっそりと
ため息をついた。

  
69 名前:ヒューマニスと 投稿日:2001年09月10日(月)23時49分39秒
 「それで?一体、どんな研究をしてくれって頼まれたの?」
 なんだか、吐き気のするような気味の悪い部屋にいることを思い出し、ヒトミは
不機嫌極まりないような声で、吐き捨てるように言い放った。
 
  「ふふふふ・・・。何だと思う?
  『究極の生物兵器をつくってくれ』ですって!そんなのが私の手で作れちゃう
  なんて、もう興奮しちゃうわよ!もちろん、喜んで引き受けたわ!!

  まあ、そんなに簡単に作れるもんじゃないけどね。実際、ここにあるのは、全部
  失敗作、だもんさ」

 ちらり、と周りの水槽に目をやって、ケイが不満げにそうぽつりと呟いた。
 一瞬、ヒトミの目が怒りのために大きく見開かれたが、その怒りを爆発させる前に
マキの手が、その行動を予見したかのようにヒトミの腕をつかむ。
 
 (ヨッスィ、だめ。この人は、純粋に好奇心で楽しんでるだけ。
  この研究がどんな残酷なものか、分かってないんだよ)

 マキはヒトミの目をじっと見つめると、目でそう語りかけてきた。ヒトミに読心術の
覚えなどはないが、彼女の言いたいことは、分かる気がしてヒトミは怒りをふっと解いた。

70 名前:ヒューマニスと 投稿日:2001年09月11日(火)00時01分19秒
 「分かったよ、ゴッチン・・・。でもこの女、気にくわない」
 再び冷静な表情に戻ったヒトミが、不快感に溢れた声を隠そうともせず、ケイを
見下ろして静かに言い放った。
 先ほど、このアジトの入り口で見た『ラクダに鳥の羽が生えたような生物』が思い
浮かぶ。生気のかけらもなく、動くこともなく、ただ「生きている」あの動物達。
 彼らを、ただの失敗作だと言い切るこの女の無神経さが、ただ気に入らなかった。

 「そりゃね・・・ゴトーだって。
  こんなかわいそうなことして、失敗作だなんて言い切っちゃうようなヤツ、大ッ嫌い
  だよ。でもさ、1番むかつくのはさ・・・」

 ふいっと目を細めて、マキは自分たちの入ってきた、例の迷彩柄のドアに目を向けた。
 前触れもなく、ドアが

 バキッッッ


 と激しく音を立てて砕け散る。その後ろから、盗賊たちが数十人、わらわらとその
姿を現した。マキの表情もヒトミと違わず、無表情ともとれるとの顔には、普段は
あまり表れることのない不快感がありありと浮かんでいる。

 「自分の出来ないことを人にやらせて、陰からそれをコソコソ覗いてるような、
  卑怯な奴ら」

 
71 名前:ヒューマニスと 投稿日:2001年09月11日(火)00時13分39秒
 いきなりドアが砕け散ったことに動揺する盗賊たちを冷たい視線で見据えながら、
マキは先ほどの言葉をそうつないだ。

 「しかも、盗賊の分際で『最強の生物兵器』?
  ・・・生意気」

 涼しげな視線で睨まれて、(破壊された)ドアの近くにいた盗賊達数人が、さあっと
顔色を青くした。本能的に、危険を察知しているのであろう。
 「なに?なに?なんなのよ!?」
 1人、状況を分かっていないのがケイで、彼女はしきりに盗賊達をマキ達の方を
交互に見やっては、さっぱり訳が分からないといった顔をしている。

 「アタシの‘術’はね。方術って言って、言葉の持つ力を、物理的な力に代える
  ものなの。要するに、アタシの『言葉』がそのまま、現実になると考えてくれて
  いいよ」

 何を考えたのか、マキはいきなり自分の「術」について解説を始めながら、一歩一歩
盗賊達の方へと歩みを進めていく。ヒトミも、このときばかりはマキが何を思っているのか
考えあぐねていた。
 とりあえず彼女は、黙ってマキの動向を見守っている。
72 名前:ヒューマニスと 投稿日:2001年09月11日(火)00時25分31秒
 「だけどさあ、ゴトーくらいのレベルになるとね。簡単な術なら、特に言葉に
  出さなくても、発動させることが出来るんだよね」
  
 いつになく饒舌にそう語ると、マキの瞳が、顔色を青く染めている男達の方へと
まっすぐに向けられた。口元に、残酷そうな笑みが、浮かぶ。

 「・・・こんな風に」

 マキが言ったのと。
 ボムッッという爆発音と。
 男達の「うわああああっっっっ!!!!」
 という絶叫は、少しずつテンポを変えて、順番にその音を上げた。

 ドアの付近・・・すなわち、部屋の入り口の先頭にいた男達数人が、口から真っ赤な
鮮血を吹いて、どうっと床に倒れこんだのだ。
 すでに動かぬ肉隗となった彼らの胸のあたりには、これまた鮮血に染まった拳大の
風穴がぽっかりと開いていた。これが彼らにとって致命傷なのは、火を見るより明らかだ。

 「本当の『生物兵器』ってのはね・・・。
  人間、そのもの、なんだよ?」

 薄く唇を歪めて笑うマキの姿に、戦意を喪失する者を横目で見ながら、ヒトミだけは
今の彼女の言葉に、かすかに自嘲めいた響きがあるのを敏感に感じ取っていた。
 
73 名前:ヒューマニスと 投稿日:2001年09月11日(火)00時38分13秒
 だが、今はまだ。
 マキの様子を気にするのは、後でもいい。マキは強い。
 
 だから

 「戦闘開始っ!・・・なら、とーぜん、アタシの出番だよね♪」
 相手の戦意が喪失しかかっているところを、剣士であるヒトミが逃すはずもない。
ただでさえ、どこに相手がいるかも分からないようなこのアジトで、敵がわざわざ
向こうからやって来てくれたのだ。

 「飛んで火にいる夏の虫ってね。さあ、いっちょやったりますか!!」

 彼女の癖、とも言える独り言を呟きながら、ヒトミは豪快に剣を鞘から抜き出して、
おろおろと佇む盗賊達との間合いを一気に詰めた。
 もはや、先ほどマキの術で死んだ足元の男達のことなど、微塵も頭の隅には残って
いない。むしろ、足場に邪魔なものがある程度にしか、ヒトミは考えていなかった。
 そうこうする間に、ヒトミの剣が、新たな赤みを帯びていく。

 「よおおっし!死にたいヤツから、かかってこ〜い!
  今日のアタシは、ちょっと残酷だぜえ!!」





 
74 名前:ヒューマニスと 投稿日:2001年09月11日(火)00時53分43秒
>>63-73 更新しました。何だか最近、一回で更新できる文字の量が少なくなって
しまい、書き直しばかりしています・・・文才ないっすね(汗

さて、今回もレスをくださいました
>>60様、確かにかなり期間が空いてしまいましたね。待っていて下さる方がいて、
    かなり感動です。

>>61様、圭ちゃんの役どころは悩みましたが・・・まあ、まだつかめない感じでw

>>62様、一気に読んでくれたそうで、読みにくいところも多々あったと思いますが、
    これからも読んでいただけたらうれしいです。

 皆様、ほんとうにありがとうございます!次回の更新は・・・まあ今週か来週には必ず(笑)。
75 名前:パク@紹介人 投稿日:2001年09月17日(月)13時35分48秒
こちらの小説を「小説紹介スレ@赤板」↓に紹介します。
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=red&thp=1000364237&ls=25
76 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月19日(水)17時48分10秒
ファンタジー系のパラレル小説ッて好きなんですけど、この話は特に
プッチのメンバーがいいカンジで、先が楽しみです!
更新待ってま〜すvv
77 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月19日(金)13時45分53秒
そろそろ1ヶ月なのれすが
78 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年10月30日(火)13時08分49秒
 「うわああああっ!!」
 
 男達の野太い悲鳴が次々と沸き起こり、部屋の入り口はその喧騒を増していた。
 このアジトの主であるはずの盗賊達が、たった1人の少女剣士に歯が立たないでいる
様子は、客観的に見れば相当情けないことに違いないが、この場合はむしろ、その少女
が強すぎると納得せざるを得ない状況ではあった。

 狭い廊下に溢れる男達。
 数秒を置かずして、彼らは血を吹き、あるいは首をはねられ、バタバタと地面に倒
れていく。

 その輪の中心にいるのはもちろん彼女――――ヨシザワ=ヒトミ。


 剣士にはたいがい、二種類のタイプがいる。
 1つは、単純に剣の腕が立つため、それを生業として生きる者。
 もう1つは、純粋に戦うことを本能で好む者。

 ヒトミは、明らかに後者のタイプであった。
 それは、彼女の戦う時の表情――――生き生きとして、目を輝かせている――――
を目した者からすれば、想像に難くない。
 
 
 まして、それが『似た者同士』と自負する、マキならば。

 



79 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年10月30日(火)13時20分29秒
  だから、ヒトミが飛び出して盗賊達を血祭りにあげていく姿を最後まで見届けなく
ても大丈夫であるという確信をもっていたし、彼女がドアの付近で戦っている以上、
背後にいる自分に向かってこれる盗賊など絶対にいないと、援護の必要も考えていな
かった。

 それは一言で言うなれば、ヒトミに寄せるマキの『信頼』。

 その信頼に任せて、マキがこの場でただ1人、状況を理解していないであろう人物
の元へと近づいた。
 この部屋の主であり、本人いわく『失敗作』を生み出し続けた、ケイ=ヤスダの元に。

 「気分はどお?」

 あいさつでも交わすかのようなのんびりとした口調で、マキは未だ床に転がったまま
の彼女に呼びかけた。
 その口調はいつものマキのもので、そこに敵意や殺意といった類の感情は含まれてい
ないものの、ケイを見るマキの視線には、わずかであるが「嫌悪感」がにじみ出ていた。

 先ほどの、ケイの言葉。
 『失敗作』

 どうしても、マキの中に、この一言がひっかかって仕方ないのだ。
 何故、こんなにも嫌悪感を覚えるのか。
 

 
 

80 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年10月30日(火)13時29分39秒
 彼女自身、その理由は分かりようもなかったが、マキは取りあえず、「嫌いなタイプ
なんだ」と自分に結論づけていた。

 そんなマキの内心の思いなど知る由もなく。
 
 ケイは床に転がったままの体制で、目だけをぎょろり、動かすと、自分の傍らよって
来たマキをじろっと見上げた。
 「気分? 気分がどうか、ですって?
  アンタ、こんな体制で縛られたまんま、気分がいいなんて応えるとでも思ってんの?」

 明らかに機嫌の悪い顔で、ケイはそうまくしたてた。
 まあ、それもそうだ。
 マキは肩をすくめると、ゆっくりとその場に腰を下ろし、ケイの顔を覗きこんだ。

 「ねえ」
 「…何よ?」

 マキの呼びかけに、憮然とした声を発するケイ。
 この状況を理解できない苛立ちと、体を縛られている痛み。それに、明らかに自分
よりも年下なはずなのに、人を見下したような態度の生意気な二人組。

 そんな理由が重なって、冷静でいられるほどケイは自制のきく人間ではなかった。
 なんといっても、ケイはまだ20歳の若さなのだから。(時として、その年より5歳
は上に見られることがあるとしても)
 

81 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年10月30日(火)13時38分28秒
 「最初に聞こうと思ったんだけど…」
 「だから何よ?」
 「それ」

 マキは、ゆったりとした口調で口を開いた。
 その目線の先にあるもの―――ケイの体。否、ケイの体を縛っている縄に、マキの
視線は注がれていた。

 「研究しろって、ここに入れられたんでしょ?どうして、縛られてるわけ?
  いちおー、仲間なんでしょ。あの盗賊達とは」

 言いながら、マキは相変わらずヒトミにいいように細切れにされていく盗賊達に
顎をしゃくりながら、目だけをケイに向けていた。
 一瞬、ケイはその質問に眉を寄せたが、自分の置かれている状況を知るきっかけに
くらいはなると踏んだのか、軽く息を吐いて言った。

 「私にもよく分からないわ。ただ…」
 「ただ?」
 焦らすように言いよどんだケイに、マキは言葉をうながす。

 「入り口に、ラクダ、いたでしょ?」
 「ラクダ…?ああ、あの羽のくっついてる変なやつね」
 
82 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年10月30日(火)13時57分35秒
 マキの脳裏に、ボーっと立ち続けているまるで置物のようなラクダ(のようなもの)
の姿が浮かんだ。
 (あれも、このケイって人が作ったんだろうけど)

 「あのラクダがなんなの?」
 「高いのよ」
 「…はあ!?」
 「だから、お金がかかったのよ、アレを作るには!!」

 思わず怪訝そうな声を上げたマキに、なぜか逆切れしたように声を荒げるケイ。
 訳が分からない、といった表情でマキは首を振った。
 「ねえ、よく意味が分からないんだけど」

 
 「…だから。あのラクダの羽に使った鳥がね、コンドルなんだけど。
  今、コンドルって世界中で数が減少しててさ、手に入れるのが困難なのよ。
  でも、どうしてもコンドルの羽がよくってさ…。
  だけど、私がもらってる研究費だけじゃ足りなくってさ…」

 「手え出したの!?盗賊のお金に!」
 「まあ、簡単に言えばそんな感じよ」

 「………ハア…」
 深くため息をついて、マキは肩を落とした。
 (そっか…、ようするにこの人、世間知らずなわけね…)

83 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年10月30日(火)14時10分00秒
  心底、疲れを感じ、マキはその場にゆらっと立ち上がった。
 先ほどの嫌悪感も何もなく、ただ体に残る気だるさが不快だった。
 「もういいや。面倒臭い…」
 
 この場にいるのがひどく馬鹿馬鹿しいことのように思えて、マキはくるっと踵を
返すと、入り口でまだ戦闘を続けているヒトミの元へと向かった。
 背後で「ちょっと、これほどきなさいよ!」とわめいているケイは、あえて無視。

 
 「あっはは〜♪弱いね〜、アンタ達〜♪」
 目を細めて剣を振りまわしているヒトミの周りには、すでに物言わなくなった幾つもの
肉隗がゴロゴロと転がっている。
 これだけの人間を斬るのだから、相当疲労も激しいものだと思いきや、ヒトミの表情
に疲れといった感情はまったくなく、それが余計に妙な恐怖感をあたりに振りまいている。

 さすがに、これだけの仲間が葬りさられたことに恐怖しない者はなく。

 まだ生き残っている盗賊達は、ヒトミを半ば包囲するように刀やら剣やらを構えて
いるが、むしろ威圧感を感じているのは当の盗賊達自身のようだった。
 「ねえ、こないの〜?」

 



84 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年10月30日(火)14時23分47秒
 楽しい、という感情を抑えることもせずに、ヒトミが声を上げる。
 それに対し、せいぜい睨みつけることしか出来ない盗賊達。誰が最初に斬りかかるか、
お互いに目で牽制しあっているようだ。


 その緊迫した空気を裂いたのは、

 「帰ろ〜、ヨッスィ」
 能天気な、マキの一言だった。

 「…はっ!?何だよ、ゴッチンいきなり〜!!
  せっかく楽しくなってきたってのに〜〜!!」
 
 「いいじゃん、もう充分楽しんだでしょ?
  ゴトーさあ、なんかもうこの場にいるの、馬鹿らしくなってきちゃった」
  

 不満そうに口をとがらせるヒトミに、疲れたような視線を向けて、マキが言葉を返す。
 「でも…」
 それでもまだ、ヒトミは不満なようで
 「だって、依頼はどうするの?村長さんの依頼は、『盗賊団の壊滅』でしょ?
  こんな中途半端な状態じゃさ〜…」

 言いながら、チラリと盗賊達の方に視線を向けると、盗賊達はびくっと一様に体を
すくませるのが目に入った。思わず、ヒトミの口元に残酷そうな笑みが浮かぶ。

 「もうさ、こんだけやったんだから、いいでしょ?」
 マキはまず、ヒトミに向かって一言。
  
85 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年10月30日(火)14時29分21秒
  「それにアンタ達もさ、これ以上ウチらに向かってこよーなんて、考えてないよね?」
 そして、ヒトミの背後に立ち尽くしている盗賊達に向かって一言。
 盗賊達は硬直したように動かなかったが、マキはそれを肯定としてとらえたように
何度か頷いた。

 「ねっ?ホラ。帰ろうよ、時間ももったいないし」
 再度、マキが促すと、渋々、といったようすでヒトミもそれを了承した。
 「はいはい、分かったよ…。
  ったくゴッチンってば面倒臭がりなんだから」


 軽く息を吐いて、ヒトミは剣に付着した血を床に転がった死体の衣服で乱暴にふき取る
と、腰の鞘に戻した。やはり、このときでも剣は1本しか使っていなかった。

 「じゃ、行こうか」
 ヒトミがマキの手を引いて、その場から立ち去る。誰も、その二人を止めようと
する者などいなかった。

 二人の姿が完全に見えなくなったとき、生き残った誰かが安堵の息と共に漏らした。


 「……化け物だ……」


86 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年10月30日(火)14時41分36秒
 機嫌が悪そうに、口を真一文字に結んで黙りこくっているマキの様子を、ヒトミが
不思議そうに見つめている。

 戦うのを中断されて、機嫌が悪いのはアタシのはずなのに…

 浮かんできたそんな思いに、ヒトミは思わず苦笑する。
 
 大人のようで子供。
 子供のようで大人。
 ヒトミがマキ対して思いつく形容詩は、そんな感じだ。
 「他に、結構自分勝手でしょ…すぐ寝るでしょ…気まぐれでしょ…」

 「なにぶつぶつ言ってんの?ヨッスィ」

 いつの間にか、マキのイメージを言葉に出して羅列していたヒトミは、その言葉の内容
がまさか自分のこととは気付いていないマキに、中途半端な笑顔を見せた。
 「アタシってさ〜、結局、甘いんだよね。ゴッチンには」

 「ええ〜?なんかそれってヨッスィのが大人って言ってるみたいじゃん」
 ヒトミの言葉に、不満そうにプクっと頬を膨らませるマキ。
 「そういうトコ、子供じゃない?」
 軽く笑って、ヒトミがマキを小突いた。マキもはじかれたように笑い声を上げる。

 
87 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年10月30日(火)14時44分06秒
 
 マキの胸中にあったさきほどの不快感や嫌悪感、様々な感情が入り混じった暗い気持ち
は、すでにどこかに消えてしまっていた。

 
 「ありがと、ヨッスィ」

 マキが小声で囁いた言葉は、ヒトミの耳に届くことはなかったが。
 それでも、二人の間に流れる空気は、さっきまでの空間にいたことが嘘であるかの
ように、穏やかであった。


  ・・・・・・・・・
  ・・・・・・


 「あ〜、そういえば、帰りも歩きなんだよね〜」
 「あ゛。そうだった…」


88 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年10月30日(火)14時47分17秒
 
 一方。


 わずかながらの時間の中で、仲間を大量に失った先ほどの盗賊団はというと。

 その多くが茫然自失として、放心したように立ち尽くす中、
 ただ1人、その目に明るい光を宿す者がいた。

 「見つけた…見つけたわ…
  私の、究極の研究材料…」

 相変わらず縛られたままの体制で呟いた彼女の目は、大きく見開かれ、らんらんと
輝いていた…。


89 名前:バ〜みやん☆ 投稿日:2001年10月30日(火)14時54分15秒
前の更新から約1ヶ月半ぶりの更新になってしまいました…(滝汗)
 もはやsageしてやってこうと思ったのですが、1ヵ所、迂闊にもageてしまいました
ああ…鬱だ…

 これから細々てきます…細々と…
90 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月04日(日)19時16分24秒
待ってましたよ!!
いや〜いっすね〜過激なよしごま(w
これからsageっすか。応援しますよ、細々と(w
91 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月07日(水)07時34分35秒
はじめから一気に読ませていただきました。楽しいです。頑張ってください

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