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エンジェル伝説
- 1 名前:影武者 投稿日:2001年07月17日(火)21時31分13秒
- ジャンルはファンタジー。
メンバー全員登場の予定です。
主役はいろいろ変わります。
- 2 名前:影武者 投稿日:2001年07月17日(火)21時47分14秒
- 「それじゃあはじめ。」
そう言い終わった瞬間。
もしかしたら言い終わるよりも一瞬早かったかもしれない。
部屋の中央で対峙していた二人の少女のうち片方が木刀を振りかざす。
もう一人の少女は素手で構えている。
せまりくる木刀を後ろに跳びながらよけていく。
5回ほど後ろに跳びながらよけていく
すぐ後ろに壁がせまってきた。
チャンスとばかりに木刀をまっすぐ突く。
すると相手の少女は右手を前につきだし木刀と交差する。
木刀をもった少女は信じられない光景に驚いた。
相手の少女の顔面すれすれで木刀がとまっている。
少女の右手が木刀をつかんでいるのだ。
焦って木刀を手からひき抜こうと力をこめた瞬間、
今度は木刀を押し返される。
一方相手は左の拳を体勢の崩れた相手の脇腹に叩き込んだ。
- 3 名前:影武者 投稿日:2001年07月17日(火)21時48分41秒
- 「はーい、そこまで」
そう言った女性はすたすた歩いてくると、
脇腹をおさえてうずくまっている少女に近寄り
「どう、たてるか?」
ときいた。しかし返事ができそうにないとみると。
「あかんな、こりゃ。」
とだけ言い、今度はもう一人の少女にむかって言った。
「もうここにはあんたの相手になるようなやつはおらんで」
「だからって武器もった相手に素手でやれなんて何考えてんですか。
この手見てくださいよ!」
そういってさしだされた手を見ると、手の平は木刀を掴んだ時の摩擦で
火傷したように真っ赤に染まっている。
「ほんと中澤先生の戦闘訓練ってメチャクチャですよ!」
「ごめんごめん、でもそれも今日で終わりや」
「・・・?」
「今の見せられたらあんたに教えることなんてもうないわ。
吉澤、今年の卒業試験受け。
私が推薦状歌書いたるから。」
- 4 名前:影武者 投稿日:2001年07月17日(火)21時50分41秒
- 吉澤のいる学校は国に3つしかない特殊な学校である。
入学するのに必要なのは魔術の素養だけであるが、
卒業するのに必要なのは魔術士としての才能である。
ここで学ぶ者は十年以内でその才能を示せなければ退学となるのだ。
吉澤は13歳の時、友達と一緒に入学した。
もともと運動神経だけは入学生の中ではずばぬけていたため、
たった3年の訓練で校内ナンバー1の格闘能力をもつようにまでなった。
- 5 名前:影武者 投稿日:2001年07月17日(火)21時53分20秒
- 魔術士なのになぜ格闘訓練などを行うのか?
魔術士には2つのタイプがある。
「魔力はあってもそれを術に応用できない」タイプ、
「魔力を練り術として応用できる」タイプである。
吉澤は前者で、このタイプは魔力を応用する能力が低く
せいぜい肉体・運動能力の強化ぐらいしかできない。
よって、おのずと接近戦での格闘が武器になる。
後者はまさに魔術士と呼ぶにふさわしく、
衝撃波を放ったり、風を発生させたりと奇跡のような現象をおこせる。
噂では空を飛ぶ者までいるらしい。
一般には前・後者共に魔術士と呼ばれるが、
魔術士の間ではこの二つを区別するため
後者のことを「魔導士」また地域によっては「魔術使い」と呼ばれている。
- 6 名前:影武者 投稿日:2001年07月17日(火)21時59分35秒
- ――――卒業試験当日 ――――
吉澤のほかに3人の少女が部屋の中にいた。
(全員私より年下?
この娘達そんなにすごいの?)
部屋に入った瞬間おもわず少女達を見て、吉澤はそう思った。
・・・数分後
試験の内容を教官が説明している。
「みなさんにはある魔術士を捕まえてもらいます。
期限は3日後の正午まで、それまでに捕まえた人は合格です。
全員で捕まえてもいいですよ、その場合は全員合格です」
そう言って全員に紙を配る。
「その人物の特徴をこれから言います。
まず年齢は二十代前半、女性、髪の色は茶色です。
当然この魔術士は捕まるまいと抵抗します。
場所は今配った紙にかいてあります」
それを聞いた瞬間吉澤は目の前が暗くなる
(魔導士ってことは私一人じゃ無理か、誰かと手を組むしかないなこりゃ)
- 7 名前:影武者 投稿日:2001年07月17日(火)22時00分42秒
- 試験官の説明を受けてから数時間後、
吉澤は試験官に配られた紙にかいてある場所にいた。
「どうやらこの山の中にいるみたいなんですけど」
「は、はい」
突然話しかけられて驚いたのだろう、ただでさえ高い声が裏返る。
―――――数時間前―――――
「それじゃあ質問がなければ試験開始です」
と言って教官が部屋をでると
「いくで、のの」
と一人の少女が言うと小さな女の子2人はとっとと部屋をでていってしまった。
(おいおい・・私達のことは無視?そんなに自信あんの?)
そう思って残った少女を見ると、こっちを見ながらそわそわしている。
この娘に賭けるしかない、そう考え吉澤は彼女に声をかける、
「あの、よかったら一緒に行きませんか、えっと・・」
「石川です、石川梨華です。あ、あのよろしくおねがいします」
- 8 名前:LVR 投稿日:2001年07月18日(水)00時19分17秒
- なんか、オーフェンみたいで楽しそう。
- 9 名前:影武者 投稿日:2001年07月18日(水)15時16分31秒
- 目の前にある山には道らしきものがない。
普通の人間ならまずこんな山には登らないだろう。吉澤はそう思った。
これでは石川には相当つらいにちがいない。
どうみても石川の顔は山登りにはむいてない。
というよりも魔術士にむいてない。
そう思い石川を見ると、なんとなくこっちの考えがわかったのだろう
「大丈夫ですよ、迷惑はかけませんから」
と言ってきた。
(そうだよね、この娘だって試験うけるだけの実力はあるんだから)
「それじゃ私が前を歩くんで、石川さんは後ろを警戒してください」
吉澤はそう言って荷物の中から短剣を取り出すと、進路の邪魔になる草木を
切り倒しながら山の中へと消えていった。
- 10 名前:影武者 投稿日:2001年07月18日(水)15時17分01秒
- 「あの人たちおいてきてよかったの?」
「ええんやないの。
うちとののだけのほうがやりやすいしな」
「やっぱりたたかうのかなぁ・・・」
「まあそうなるやろ。教官も抵抗する言うとったし」
話しながら歩いているうちに自分の前に道がなくなっているのに気がつく。
加護は右手を前に出し集中する。
すると目の前に自分の身長よりもやや大きめの空間の歪みが発生し、
次の瞬間猛烈な衝撃波が木々をなぎ倒していく。
それは距離にして50メートル、1秒ほどで大きな岩にぶつかり消えたが、
ぶつかった岩は3分の1ほどが砕け散った。
「ねぇ亜依ちゃん」
「ん?」
「どこに行くの?」
「とりあえずてっぺんまで行こう」
「わかった」
- 11 名前:影武者 投稿日:2001年07月18日(水)15時17分38秒
- 加護と辻の出会いは3年前、11歳の時だった。
―――――――加護は狭い路地を走っていた。
3人の男達が20メートルほどはなれて追ってきている。
道はどんどん細くなりいつ行き止まりになってもおかしくない。
(もうだめや,絶対捕まる)
絶望的ではあるが足は走るのをやめない。
ちょうど何度目かの曲がり角を曲がった瞬間、
「こっち」
声のした方向で自分と同じぐらいの少女が扉を開けて手招きしている。
その扉に飛びこみ、閉じられると、数秒後に男達が扉の前を走りぬける。
それを確認するとその場に座り込む、そして目の前の少女に礼を言う
「助かったわほんま」
息がきれてノドもカラカラなのでとりあえずそう言うのが精一杯だった。
助けてくれた少女は何も言わず水をもって来てくれた。
- 12 名前:影武者 投稿日:2001年07月18日(水)15時18分22秒
- ・・・・・・・
少女の名前は辻希美、この街にある魔術士の学校に入るため
近くの村からでてきたらしい。
宿の2階の自分の部屋から路地を眺めている時に
追いかけられている加護を見つけたらしい。
まだあの男達が近くにいるかもしれないということで、辻の泊まっている
部屋に案内された。
お菓子の袋がごみ箱からあふれている。
それを見た加護は、そういえば自分はまる2日何も食べていないことを
思い出した。
「はい」
と言って辻が荷物の中から新しいお菓子を取り出した。
何ヶ月ぶりであろう、久しぶりにこんなに優しくされたせいで加護は
涙がこぼれそうになった。
死んでしまった両親のことを思い出していた。
数週間後。
辻よりすこしおくれて加護も魔術士の学校に入学した。
- 13 名前:影武者 投稿日:2001年07月18日(水)15時18分54秒
- 「・・・ぃちゃん、ねぇ亜依ちゃん」
ふと我にかえると辻が焚き火のむこう側でこちらを見ている。
どうやら昔のことを考えていてぼーっとしていたようだ。
「ねむいの?寝ていいよ。
火はわたしが見てるから」
「ううん、だいじょうぶ。」
加護達が山の頂上についたのは夕方だった。
魔術で道をつくりながら登る、という作業を20回ほど繰り返した。
とりあえず今日はもう暗いので、探すのは明日にしようということ
で火をおこし、そこで野宿することにした。
「あんな、のの」
「なぁに?」
「ありがとな」
「・・・?」
(のののためならなんでもできる
ののだけでも絶対試験にうからしたるんや)
- 14 名前:影武者 投稿日:2001年07月18日(水)15時19分53秒
- 時を同じくして
吉澤と石川も山を3分の2ほど登った場所で焚き火を囲んでいた。
「あの、吉澤さん」
「ん?なに?」
「ごめんなさい」
「・・・・・」
石川は申し訳なさそうに吉澤に謝った。
山に入ってからというもの働いているのは吉澤ばかりである。
自分は吉澤のつくった道をついて行っているだけだ。
(はぁ・・・私が受験生の中で一番役立たずだよ、きっと)
- 15 名前:影武者 投稿日:2001年07月18日(水)15時20分37秒
- ここに来る途中、吉澤達は加護がつくった道を見つけた。
(なにこれ、あの子達のうちどっちかがやったんだろうけど)
信じられなかった。
魔術をみたことは何度かあるが、こんな威力をだせる人間はみたことがない。
吉澤のいた学校の教官でも無理だろう。
同時に石川はどう思っているのだろうと疑問に思う。
(そういえば名前しか教えてもらってない、
っていっても格闘が得意って感じじゃないし
やっぱり魔導士なんだろうな。
もしかしてあの子たちよりもっとすごい人だったりして)
「あの、石川さんって使えるの?魔術」
「はい・・・使えることは使えるんですけど・・・」
- 16 名前:影武者 投稿日:2001年07月18日(水)15時21分12秒
- とりあえず話を聞くより早いだろう、ということで実際に同じことを
やってもらうことにした。
石川が両手を前に出すと、その前方の空間が歪む。
その直後衝撃波が5・6本の木をなぎ倒した。
威力にしたらあの少女達の10分の1程度であろうか。
これではほとんど進めない。
こんなペースで魔術を使っているとすぐに疲れてしまう。
しかたなく少女達のつくった道を行くことにしたのだった。
- 17 名前:影武者 投稿日:2001年07月18日(水)15時22分25秒
- 「ほんとにごめんね」
さっきから石川は謝りっぱなしだ。
「いいんだよ、べつに最初から魔術で道をつくってもらおうとは思って
なかったんだから」
「そうだよね、私なんかに期待してないよね」
「あ、ちがうよ、
ほら、あんまり大きな音をたてたらターゲットに逃げられるじゃん」
焦っていたわりにはうまいことが言えた。
石川に泣きそうな顔で謝られるとなぜか落ち着かない。
凶器をもった相手と素手でやりあった時でも冷静でいられるのに、
あの顔をみると自分が悪い事をしたように思えてくる。
(女の子らしい女の子とはここ2年ほど話したことがないからなぁ)
格闘訓練を中心に行うクラスに所属していたせいか、体格では自分よりも
大きい人間ばかり、髪の毛も全員短く、見た目ではほとんど男と区別が
つかない、そんな環境に吉澤はいた。
(あの顔で謝られたら世の中の、男達なんて何されても許しちゃうんだろうな)
- 18 名前:影武者 投稿日:2001年07月18日(水)15時23分14秒
- (はぁ・・・、私全然役にたってない・・・。
このままじゃ2人とも不合格になっちゃう)
吉澤を見ると、自分を責めるような顔はしていない。
(いい人だな吉澤さんって
役立たずの私を見捨てないでここまで連れて来てくれて)
自分を見る目がさっきと変わっていることに気がついたのか
吉澤はすこし不思議そうにしている。
(それにしてもきれいな顔だなあ、吉澤さんって、
なんか男の子みたい)
あきらかにさっきと違う視線に吉澤はこっちをみつめている。
石川はそれに気がつくと
(はっ、私ったらなに考えてるの相手は女の子よ・・
じゃなくて反省していたはずなのにいつの間にか別のこと考えてる。
でも吉澤さんがかっこいいのは事実だし・・・・・・・・・・・・
・)
真剣な顔と笑っている顔を繰り返しながらこっちをみている石川に
ますます吉澤の不安は増す一方だった。
―――――――そして夜が明けた。
- 19 名前:影武者 投稿日:2001年07月18日(水)15時23分52秒
- 「のの、起きて」
加護の声が聞いたことがないほど緊張している。
辻は起きあがり、加護の視線の先をみてその理由がわかった。
10メートルほど先の岩に座ってこちらをみている女性がいる。
教官の説明どうりの外見である。
「いつから?」
「わからん、うちが起きた時にはもうおった」
女性は岩から降りると
「3日間逃げるだけでもよかったんだけどね」
「・・・・・」
「これ以上この山をこわしてもらっちゃ困るのよ」
「・・・・」
加護はいつでも魔術を使えるように集中しているため何も言わない。
「準備が出来たら言ってね」
「のの」
「うん、わかってるよ」
辻はそう言うと、荷物の中から武器を取り出す。
- 20 名前:影武者 投稿日:2001年07月18日(水)15時30分44秒
- >>8
読んでくれてありがとうございます。
>>オーフェンみたいで
ストーリーは全く違うものになるけど、
設定はけっこうかぶってます。
- 21 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月18日(水)23時27分13秒
- なんかいい感じの文章の書き方ですね。すごく読みやすいです。
テンポもいいし、おもしろい!
- 22 名前:影武者 投稿日:2001年07月19日(木)17時34分00秒
- 辻が中から取り出したのは、鉄製の剣道の篭手のような形をしていた。
見た目だけで分かる、人間の使える武器ではない。
なぜなら厚みが3センチはあろうかといううえに、ひじから拳までを
完全におおっている。
おそらく半端ではない重量のはずだ。
いくら肉体を強化できても持ち上げるのがやっとだろう。
しかしその少女は全く重さを感じさせず装備する。
少女の顔とは全く反対の凶悪な武器である、
あんなもので殴られたら一発で戦闘不能になるだろう。
(あんなん使うってことはあの子は魔導士じゃないな、
それにしてもあんな武器じゃまともには闘えんやろ、
スピードのかわりに破壊力ってところか)
「いくで、のの」
「いつでもいいよ」
- 23 名前:影武者 投稿日:2001年07月19日(木)17時35分16秒
- (注意するのは魔導士の子の方。
もう1人の子は接近させなければ問題ない)
とはいえ2人相手にこの距離は近すぎる、
とりあえずもう5・6メートルほど距離が欲しい
後ろにさがった瞬間
「のの!」
加護が叫んだ。
おもわず何かの魔術を放ってくると思い防御の魔術を発動させかけた。
しかし向かって来たのは魔術ではない
信じられない速さで辻がつっこんでくる。
「なっ・・」
迷ってるひまはない、迷うほどの余裕もない、
2メートル前までせまった辻にむかって衝撃波を放つ。
- 24 名前:影武者 投稿日:2001年07月19日(木)17時37分33秒
- ドンッッ!!
と爆音が轟く。
辻の前進は止まったが魔術が直撃したわけではない、
そもそも直撃したなら一撃で戦闘不能のはずだ。
おそらく加護の魔術で防がれたのだろう。
そう判断した直後もう辻は目の前にいる。
一方こっちはこんなに接近されていては魔術が使えない。
(しょうがない)
覚悟を決めると腰を落とし構える。
(反撃する必要はない。
とにかく防御だけに集中して魔術が使える距離までさがる)
そう覚悟を決めると無駄のない動きで辻の攻撃をかわしていく。
しかし想像をはるかに超えて辻の攻撃は速い、
しかもこっちはむこうの攻撃を全部よけなければならない
(信じられん腕力しとるわ。しかも以外に基礎ができてる)
- 25 名前:影武者 投稿日:2001年07月19日(木)17時39分11秒
- 素手での格闘なら自分も負けない自信はある、
この国でも5本の指には入っているだろう。
さらに今は防御だけに集中すればいいのだ、
しだいに落ち着きをとりもどしてきた。
さすがに息が切れたのか辻の攻撃が止まる。
(チャンスや)
うしろにおもいっきりとぶ、
(あれ?もう一人の子は?)
考えるより早く防御の魔術を発動させる、
爆音が斜め後ろから聞こえた。
間に合わなかったのではないか、自分は魔術の直撃を受けたのではないか?
そう思わせるほどのタイミングだった。
「この・・」
言いかけた瞬間、またもや辻が目の前にせまる。
- 26 名前:影武者 投稿日:2001年07月19日(木)17時40分02秒
- (子供や思うてたけど考えてるわこいつら)
最初は加護の魔術メインで攻めてくると思っていた。
あれだけの威力をだせる人間はこの国に3人いるかどうか、
使わないのはもったいない。
ところが実際は加護の魔術はほとんどが辻の防御に使われている。
そのおかげで時々魔術で辻を攻撃しても、全て加護によって防がれる。
そして辻が攻撃してる間にこちらの死角にまわりこみ、
辻の攻撃が止んだり、こっちが距離をとると、あのとんでもない威力の
魔術で攻撃してくる。
(そろそろ決着つけんとな。
長引くと万が一ってことが起こりかねんわ)
そう思い、辻の攻撃が止まった瞬間間合いをとる、
とみせかけるため半歩さがり今度はこちらから辻を追いかける。
今までと違う動きに一瞬辻の動きがにぶる、加護の放った魔術が
うしろを通りすぎる音が聞こえる。
焦った辻の大振りになった攻撃を軽々とかわすと、辻の横をすりぬけて
全速力で加護にむかって走る。
- 27 名前:影武者 投稿日:2001年07月19日(木)17時40分41秒
- 走りながら加護に魔術を放つ。
走りながらでは威力はほとんどない。
しかし無視するわけにはいかず加護は魔術で防御する。
そして加護が次の魔術を放とうとした時には、すでにこちらの拳が
みぞおちにめりこんでいた。
「亜依ちゃん!」
加護は腹をおさえてうずくまる。
辻は加護のそばに来たそうにしているが自分が間にいるせいで動けないでいる。
「安心し。死にはせん。
まあしばらくは苦しくて集中できんから魔術は使えんけどな」
「・・・・・」
「それじゃこの子が回復する前に決着つけさしてもらうで」
そう言うと、右手を辻の方にむけた。
・・・・・・・
・・・・
- 28 名前:影武者 投稿日:2001年07月19日(木)17時52分33秒
- >>21
感想ありがとうございます。
おかげでなんかやる気がでてきたので、今日中にもう一度
更新できそうな気がします。
- 29 名前:影武者 投稿日:2001年07月20日(金)09時01分28秒
- 「音がしなくなった。急ごう、石川さん。」
吉澤がそういってうしろを見ると、はるか後ろで石川が苦しそうに
走っている。
おそらく今言った言葉も聞こえなかっただろう。
(このチャンスをのがすわけにはいかない)
「石川さん、先に行っとくからなるべく急いで」
そう叫ぶと吉澤はそれまでの倍以上はあろうかというスピードで駆けていく。
その姿はあっという間に石川の視界から消えた。
(最悪の場合、もうあの子達が捕まえた後かもしれない)
加護達より少し早く起きた吉澤達は、加護のつくった道を歩いていた。
すると突然聞こえてきた爆発音、最初はあの子達が道をつくってる音だろう
と思っていたが、それにしては音の間隔が短い。
(これは戦っている音だ。
だとすると相手はおそらくターゲットの女性だろう)
そう思った吉澤は加護達がいるであろう場所、つまり彼女達がつくった道
の先を目指し走っていたのだ。
- 30 名前:影武者 投稿日:2001年07月20日(金)09時02分08秒
- 音がしなくなってから30分以上たったころ、吉澤は山の頂上に到着した。
木に隠れて様子をうかがうと、あたりの地面がえぐれている。
(やっぱり戦ってたんだ)
「・・・!」
吉澤は大きな木を抱くようにして縛り付けられている少女を発見した。
足元には彼女の武器らしき鉄の篭手が置いてある。
その近くには目隠しをされて縛られた少女が地面に倒れている。
他に人は見当たらない、どうやらこの子達を倒した人間はすでにこの場から
立ち去ったようだ。
吉澤はほっとした。
(よかった、とりあえずまだチャンスはあるってことだ・・・)
「一人で来たん?」
「!!!」
気を抜いた瞬間に後ろから声をかけられた、
とっさに前に逃げようとするが、隠れていた木が邪魔で逃げられない。
それでもすぐに背後にむけて裏拳をはなつ。
- 31 名前:影武者 投稿日:2001年07月20日(金)09時02分58秒
- 裏拳は当たらなかった。
3メートルほど離れた場所からその女性は話しかけてきていた。
「こんにちは、あなた吉澤さんね?裕ちゃんの生徒の」
「裕ちゃん?」
(十秒程度でいい、落ち着く時間が欲しい)
そう思い話しにのる。
「中澤先生のことよ、裕ちゃんから私の事きいてない?」
「あなたが誰かわかりません」
「平家って名前聞いたことない?」
「ないです」
「みっちゃんって言ってるかも」
「聞いたことないです」
「・・・・・」
(変な人。でもなんとか落ち着けた。
あとは石川さんが来るまで時間をかせがなきゃ)
「落ち着いた?じゃあもう一人が来る前に始めようか」
(読まれてる?それでも石川さんが来ないことには・・!!)
「悪いけど裕ちゃんの教え子に手加減はしてやれんで」
- 32 名前:影武者 投稿日:2001年07月20日(金)09時03分41秒
- 吉澤には負けない自信があった、例え相手が魔導士でも。
しかし勝てる可能性は全くといってなかった。
(最初の魔術をよけられるかどうか、もし成功すればチャンスはある。
といってもこれは賭けだけど。)
吉澤は腰に隠していた短剣を抜いて構えた。
しかし自分から攻撃する気はない。
(とにかく魔術をよける。
相手が魔術を使う瞬間の気配を見逃しちゃだめだ)
数秒後、平家はいきなり後ろに跳んで距離をとる。
咄嗟に追いかけて前にでそうになるのを我慢して後ろにさがる。
(うってくる!)
平家が魔力を練るのを感知した吉澤は左後方にさがる。
それを見てタイミングをあわせるように衝撃波を放ってくる平家。
吉澤はさらにスピードをあげてそれをかわすと、今度は右の方にゆっくり
とさがる。
平家はそれを見て少し感心した。
(やっぱり時間をかせぐつもりやな。
さすが裕ちゃんの生徒や、いい判断するわ。
でもな、悪いけどもう一人が来るまで待つ気はないで)
- 33 名前:影武者 投稿日:2001年07月20日(金)09時04分42秒
- たて続けに魔術をうち、吉澤が後ろに跳びながらそれをかわす。
それが3回ほど繰り返されたころ、平家は疑問に思った。
(おかしい、距離をとりすぎちゃうか?
まさか逃げる気とか?
・・・裕ちゃんの教え子や、どんな切り札をもってるかわからんだけに
離れていても油断はできんな)
それにしてもこれだけ離れられては確実にかわされてしまうので
しかたなく自分から吉澤の方へ歩いていく。
しかし歩いているだけなのに、なおも異常なほど速さで後ろにさがっていく。
それを見て唐突に平家は吉澤の狙いに気づいた。
「しまった!!!」
あまりに焦ったせいで後のことを考えず衝撃波を放つ。
吉澤は大きく右に跳んでそれをよけた。
着地するであろう地点には・・・・木に縛られた辻がいた。
- 34 名前:影武者 投稿日:2001年07月20日(金)09時05分21秒
- 着地しながら吉澤は短剣で辻を縛っているロープを切る。
何重にも縛られていたせいで半分ほどしか切れなかったが、辻は自力で
残りのロープを引きちぎった。
辻は吉澤を見ると、ちらっと平家の方に視線を向けた。
吉澤はそれだけで理解すると左に跳ぶ、辻は右へと跳んだ。
直後に平家の放った魔術で木がなぎ倒される。
吉澤は辻に問いかける。
「あなた魔術は?」
「使えないです」
「そう・・」
再び吉澤に衝撃波がせまる、それをかわすと平家の右に回りこむ。
完全に状況は一変した。
平家は気づいていた、片方に魔術を使えばもう片方がつっこんでくる。
2人のスピードは知っている、その場合は間違いなく次の魔術を放つ前
にこちらの目の前まで来られるだろう。
そして、魔術を使った後のスキができた自分がもう一人を止められるか?
確率は50%ないだろう、だからといってやらないわけにはいかない。
平家は覚悟を決めた。
- 35 名前:影武者 投稿日:2001年07月20日(金)09時06分54秒
- 一方吉澤と辻は動けないでいた。
おそらく同時にしかければ、どちらかが平家を倒せるだろう、
しかし魔術で狙われた方はほぼ確実に餌食になるだろう。
相手にむかってつっこみながら魔術をかわすのは不可能だ。
そしてターゲットになった方が気絶でもした場合、その人間はどうなるのか?
一緒に捕まえたということで合格なのか?
それとも倒した者だけが合格なのか?
もし自分が魔術をくらったらどうしよう。
そんな考えが辻と吉澤を動かせなくしていた。
そんななか突然吉澤が辻にむかって言った。
「ねぇ、私が囮になるから後はたのむよ」
「・・・!?」
次の瞬間吉澤が平家につっこむ。
おくれて辻も平家にむかって走る。
- 36 名前:影武者 投稿日:2001年07月20日(金)09時07分24秒
- 吉澤に衝撃波を放つ、おそらく気絶するであろうぎりぎりの威力に抑え、
あとにできるスキを最小限におさえる。
魔術の直撃した音がした、しかしすでに見てはいない、予想通り辻が目の前
でこちらに殴りかかっているのが見える。
辻の拳が平家の腹に決まった、しかし平家は倒れない。
平家はぎりぎりで辻の拳を両手でガードしていた。
辻が次の攻撃を仕掛ける前に、辻の手をひねり投げ飛ばす。
平家よりも軽い辻は一回転して地面にたたきつけられた。
- 37 名前:影武者 投稿日:2001年07月20日(金)09時08分05秒
- 成功した。
こんなに上手くいったのは初めてだ。
肩で息をしながら平家は自分のしたことが信じられなかった。
すこし落ち着くと両手の痛みに気がついた、ひびがはいっているのは
確実だろう。
(あの子が武器をつけてなくてよかった)
もし素手でなければ防ぐことはできなかっただろう。
「!!?」
「動かないでください」
首に冷たい金属が押し付けられた。
(しまった!もう一人おったの忘れとった)
あまりにうまくいきすぎて気が抜けてしまった。
「石川さん、悪いけどこの人を縛ってくれない」
(吉澤!?)
背後から聞こえた吉澤の声に思わず振り返りそうになる。
- 38 名前:影武者 投稿日:2001年07月20日(金)09時10分55秒
(急に自分が囮になるとか言うと思ったらそういうことか、
気がつかんかったわ。
てっきり私の魔術で気絶しとると思ったら、あの娘が防いどったんかいな)
「やられたわ。
縛る必要ないで、試験は終了や」
- 39 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月20日(金)10時17分50秒
- おもしろいっす!
ところで魔術の名前とかないの?
- 40 名前:影武者 投稿日:2001年07月21日(土)15時57分10秒
- 「終了?」
「そうや」
吉澤が短剣をおろすと平家はあたりの木にむけて
「終わったで矢口、出てきてええで」
と叫ぶと、小さな女性が近くの木から飛び降りてきた。
「おつかれさまみっちゃん。いやー、やられちゃったね」
「まあね、でもはっきり言ってそうとう強いでこの子ら」
「手、怪我してるでしょ?みせてみて」
そう言って平家の手の平に自分の手を近づけると、矢口の手から霧のような
白い光がでてきて平家の手の平に降りかかる。
それで怪我が治ったのだろう、平家は2・3度手をにぎったり、開いたりした。
矢口は吉澤達の方を見ると
「だれか怪我してる人いない?」
と聞いてきた。
「あの・・、亜依ちゃんが」
加護のロープをほどいていた辻がそう言ってきた。
- 41 名前:影武者 投稿日:2001年07月21日(土)15時57分41秒
- 加護を縛っていたロープをほどき、目隠しもとったのに動かないでいる。
心配した辻が矢口に頼んだ。
矢口は小走りで2人の元へやってきって加護を診た。
加護は意識はあるようだが腹をおさえて苦しそうに息をしていた。
(気絶してるってわけではなさそうね、
たぶんみっちゃんに殴られたせいで内臓を痛めたんだ)
矢口は加護の背中に直接手を当てると、目を閉じて魔術に集中する。
骨折とちがい内臓のダメージを癒すには、尋常でない集中力を必要とする。
その様子をみている吉澤達もなんとなく矢口の使っている魔術が高等である
ということはわかった。
何もする事のない吉澤は疑問に思っていた事をきいてみる。
「あの人って最初からずっといたんですよね?」
「そうや、あんたらが大怪我したりした時のためにな」
「平家さんが治すってわけにはいかないんですか?」
「私はできんねん」
「そうなんですか・・・」
「なんやその顔、言っとくけど怪我を治す魔術ってのは才能だけやのうて
本物の医者並の知識もいるんやで」
全く顔にはださなかったのだが、こっちの考えたことはわかったみたいだ。
矢口の魔術でみるみるうちに加護の表情は穏やかになっていった。
- 42 名前:影武者 投稿日:2001年07月21日(土)15時58分24秒
- 「合格者は明日発表するんで、明日十時に試験の説明をした部屋に行ってや」
そう言うと平家は矢口をつれて山を下りていった。
4人はしばらくその場から動かなかった。
しかし加護が辻に
「帰ろっか」
と言ったことでとりあえず全員動きはじめた。
加護と辻が歩いていくのを見て、吉澤も歩きだし、石川もそれについていく。
- 43 名前:影武者 投稿日:2001年07月21日(土)16時01分13秒
- 加護は辻の前を歩いていた。
辻の話を聞いたところでは確実に合格というのは吉澤だけだろう。
辻もおそらく合格になりそうだ。
石川も平家を捕まえたということには違いない。
しかし自分はどうみてもだめだ、最後自分だけ何もしてない。
しかも最後に辻を助けたのは自分ではなく吉澤だ、自分はというと、
一番に平家にやられたせいで、魔術の使えない辻が一人で平家と戦うという
危険なめにあわせてしまった。
辻の顔を見るのがつらかった。
(ののが卒業してもうたら学校つまらんなぁ。
友達のの以外おらんし、来年の試験まで待つのいややなぁ)
加護は辻と離れるのが嫌でしょうがなかった。
- 44 名前:影武者 投稿日:2001年07月21日(土)16時03分22秒
- 辻は加護の後ろを歩いていた。
加護がさっきから何も言ってこない。
おそらこっちにあわせる顔がないと思ってるのだろう。
辻には日頃から加護が、自分を助けようとしているのがわかっていた。
「助け合う」というより、「自分が辻を危険から守る」という方が近いだろう。
とにかく自分達2人にふりかかる厄介事を全て自分で背負おうとする。
(友達でいてくれてるだけで嬉しいんだよ。
二人で卒業できるまで待つからね、もし亜依ちゃんだけがダメだったら
私も学校に残るからね)
辻は加護と離れるのがとにかく嫌だった。
――――――そして次の日。
- 45 名前:影武者 投稿日:2001年07月21日(土)16時14分32秒
- >>39
まずはレスありがとうございます。
読んでる人がいると思うと、やっぱやる気になります。
魔術の名前は特にないです。
- 46 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月22日(日)14時39分31秒
- いつも読んでます。
ファンタジーって難しいと思うけどがんばって!
- 47 名前:影武者 投稿日:2001年07月23日(月)12時41分54秒
- 四人のいる部屋に試験の時に平家といた女性が入ってきた。
「こんにちは、みんなとは試験の時に一回会ってるよね?
私の名前は矢口真理っていいます。
それじゃみんな気になってると思うので一気に本題にうつります」
「まずは試験おつかれさま。
そして全員合格おめでとう」
矢口は予想外のことを言った。
さすがに今聞いたことを予想していた者など一人もいなかった。
「不思議に思ってる人もいるかと思うけど、それはこれから説明しますね。
まずね、こうなった責任は全部みっちゃんにあるのよ。
あの人が本気になっちゃったら捕まえられるわけないのにさ、途中から
マジになっちゃったのよあの人。
そこでほんとは試験中止にしちゃおうかと思ったんだけどさ、
吉澤さんがみっちゃん捕まえちゃったから困ったことになったんだよね」
そこで矢口は話を止めて吉澤を見た。
- 48 名前:影武者 投稿日:2001年07月23日(月)12時42分54秒
- 吉澤から視線をはずすと、矢口は再び話しはじめた。
「まあ捕まえちゃったのはいいわけよ、文句無しの合格なんだから。
だから吉澤さん、それを手伝った辻ちゃんと石川さんも合格なわけ。
問題なのは加護ちゃんね。
みっちゃんがマジになって一番被害を受けたんだから。
これはみっちゃんが言ったことなんだけど、加護ちゃんと辻ちゃん
のコンビをバラバラにするのは惜しいんだって。
なんかすごい誉めてたよ、あのコンビは将来有望なコンビだって。
これはね、離れて見てた矢口もそう思ったしね、加護ちゃんの実力は
他の3人に全然負けてないとも思った。
ということで、今となっては合格者もでて試験のやり直しはできないって
ことで、矢口とみっちゃんで話し合った結果、加護ちゃんも合格って
ことになったわけ。
まあこうなったのも全部みっちゃんが大人気ないのが悪かったんだから
胸をはっていいんだよ」
そう言うとそれぞれに賞状のような紙を配った。
吉澤が紙を見ると卒業証明書とかいてあり、よく見ると自分の名前の隣に
アルファベットが書いてある。
「それじゃあ矢口の仕事はここまでなんで。
このあと魔術士連盟の人が来ていろいろ説明すると思うから
それをよくきいてね」
そう言って部屋を出て行った。
- 49 名前:影武者 投稿日:2001年07月23日(月)12時43分24秒
- ほぼ矢口と入れ違いで女性が部屋に入ってくる。
その女性は自己紹介も無しで、いきなり話し始めた。
「みなさん卒業証明書はもらいましたね。
まずそれについての説明をします。
卒業証明書はこれからの仕事に使うことがあるので無くさないよう
保管してください。
次に名前の横を見てください。
A・B・Cのいずれかが表記されてるはずです。
これは卒業試験でのあなたの評価で、あなたが仕事を決める時の参考です。
ちなみにこのランクは現時点でのものなので、今後の功績によって随時
変更されていきます。
ここまでで質問はありますか?」
「「「「・・・・」」」」
- 50 名前:影武者 投稿日:2001年07月23日(月)12時44分02秒
- 「ないようなので卒業証明書の説明は終わりです。
次にこれからのあなた達の進路について説明します。
今後あなた達は連盟から紹介された仕事を請け負い、それをこなして
報酬を受け取るという形で働きます。
ただし理由もなく半年以上連盟の仕事を請けなかった場合、卒業資格を
取り消されます。
最後に仕事をするにあたってですが、これからあなた達は既に卒業した
人達の創ったグループに入ることになります。
もし「自分一人がいい」という人も最低一年はどこかのグループに所属
しなければいけません。
今から配るリストに各グループの求人情報や実績などがかいてあるので
参考にしてください。
ちなみにリストの中の順番は、はじめの方にあるほど実績があり、
はいるための条件が厳しくなってます。
それでは質問がなければこれで終わります」
「「「「・・・・」」」」
- 51 名前:影武者 投稿日:2001年07月23日(月)12時44分34秒
- 「ないようなのでこれで終わります。
もしわからない事があったら連盟本部、またはそれぞれの街にも
連盟支部があるのでそこの受け付けで訊いてください」
そう言い残すと女性は出て行き、あとに残された吉澤達はあまりの急展開に
どう行動していいかわからないでいた。
吉澤はリストをめくってみると、この国にある50ほどのグループの詳細が
載っていた。
(まあ私には関係ないけど・・・)
吉澤は既に自分の行く場所が決まっているということもあり、たいして
このリストにはあまり興味がなかった。
- 52 名前:影武者 投稿日:2001年07月23日(月)12時45分09秒
- 「ののは評価なんやった?」
「んっとね、Bだよ」
「ふーん、うちもや」
そういいながら加護はリストをめくりはじめた。
それぞれのグループの求人要項の部分には「魔導士求む」「評価B以上」
などさまざまな要求がかいてある。
その中で自分と辻の両方に該当するものを探し始める。
「うちらのいける条件の中で一番強いとこに行こう」
「うん、いいよ」
そう言うと、リストの一番上から見ていった。
- 53 名前:影武者 投稿日:2001年07月23日(月)12時45分45秒
- (私もBか。
あんまり強そうな所は嫌だな)
そう思った石川は条件の厳しくないものから探し始めた。
すると自己アピールの欄に「動物の飼育・保護」という単語が目に付いた。
求人要項の欄にも「条件は特に無し」とある。
(ここなら危険な仕事はなさそう、場所はちょっと遠いけどここにしよう)
吉澤が席を立つと石川が寄ってきて
「吉澤さんはもうどこにいくか決まったの?」
と訊いてきた。
「うん、私は試験の前から決まってたから。
友達のいるところから卒業できたら来ないかって誘われてたの」
「そうなんだ、どこ?」
石川はリストを開きながら訊いてきた。
「ここのね、市井って人が代表者のところ」
石川がそこを見ると、求人要項の欄に「募集はなし」とかいてある。
そしてそれよりも驚いたのは、そのグループがリストの一番最初に載っている
ということだった。
(吉澤さんの友達って一体何者なの?)
- 54 名前:影武者 投稿日:2001年07月23日(月)12時46分31秒
- そんな話をしていると加護が近寄ってきた。
「ののを助けてくれてありがとうな」
「まあ私も辻さんに助けてもらって平家さんを捕まえたわけだし、
おあいこだよ。
それよりもよかったね、合格できて」
(なんだ、けっこういい子じゃん)
(なんや、全然話せる人やん。優しい感じやし)
それから辻・石川も話に加わり、四人で初めて話をした。
やはり年頃の少女達ということもあり、四人の雑談は一時間以上続いた。
そして昼時になると四人は一緒に昼ご飯を食べに行き、そこでも一時間以上
話しこんだ。
- 55 名前:影武者 投稿日:2001年07月23日(月)12時47分03秒
- 「それじゃあ私は約束があるから、もう行くね」
「もう行くんかよっすぃー、それじゃあうちらのこと忘れんといてや」
「絶対だよよっすぃー」
「がんばってねよっすぃー」
いろいろ話すうちに何年も一緒にいた仲間のように仲良くなっていた。
「「「ばいばーい」」」
吉澤達はお互いが見えなくなるまで手を振り続けた。
「ほなうちらも行こうか、のの」
「そうだね」
「梨華ちゃんはこれからどうすんの?」
「私はもう荷物もまとめてきちゃったから、とりあえず目的のグループ
の所に行くつもりだけど」
「ふーんがんばってな」
「うん、ありがと。
それじゃ、加護ちゃんと辻ちゃんもがんばってね」
そう言って、石川も二人と違う道を歩いていった。
「・・・うちらも学校もどろうか、とりあえず」
「そうだね」
- 56 名前:影武者 投稿日:2001年07月23日(月)12時47分47秒
- 石川は一人で歩きながら三人のことを考えていた。
(全員いい人だったな。
魔術士があんな人ばかりだといいんだけど・・)
(今度あの三人に会った時に胸が張れるようにがんばろう)
(試験前より少しでも成長したよね?)
さまざまな思いが涌き出てくるなか、自分が試験前であるならば、今思ったこと
のなかに「がんばろう」などという気持ちはなかったことに自分では気づけない
石川であった。
空を見ると太陽にかかっていた雲がはずれ、光が石川の顔を照らしはじめた。
第一章 天使と試験の不思議な関係 完。
- 57 名前:影武者 投稿日:2001年07月23日(月)12時57分07秒
- >>46
いつも読んでくれてありがとうございます。
そしてなによりレスしてくれたのが嬉しいです。
さて、第一章は終わったんで次は第二章です。まあ当然ですが。
他メンバーもでてきます。
- 58 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月23日(月)17時01分48秒
- いしよしのからみってもうないの?
- 59 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月23日(月)21時11分22秒
- 結局よっすぃ〜のランクは?
- 60 名前:影武者 投稿日:2001年07月24日(火)01時10分27秒
- >>58
ありますよ。
でも少し後の方になると思います。
自分もいしよし好きなんで、その部分は気合いれるんで。
今回は勘弁してください。
>>59
今までにでたキャラの強さは
中澤>平家=吉澤≧辻>加護・石川・矢口(格闘のみ)
基本的に魔導士には勝てないってことにしてますが、
それじゃあつまらないのでいろいろ考えています。
とりあえず基本は吉澤達4人ですすめていきます。
それと今回のように質問してくれたりする人がいると、
今後の参考になるので助かります。
>>58さん>>59さんありがとうございます。
- 61 名前:58 投稿日:2001年07月24日(火)02時25分56秒
- おお、あるのか!ありがとうございます。
ところで格闘以外ならそのランクはどう変わるの?
- 62 名前:影武者@ 投稿日:2001年07月24日(火)04時05分40秒
- >>61
中澤≧平家>加護=吉澤≧石川=辻>矢口
何もない平地でルール無しで1対1ならこんなとこでしょう。
それにしても吉澤あんまり強くないな・・・
まあまわりが強すぎるんで。魔術士全体ならかなり上です。
なんか更新してないのにレスばっかで申し訳無いですね。
石川や吉澤のようなまだ強さがわからないキャラも第2章
で明らかにするので
- 63 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月24日(火)14時22分02秒
- 面白いです。頑張ってください。
市井がリストの一番上と言う事はもしかして一番強いのか?
嬉しいかぎりです。石川がらみで柴田の出番も期待してます。
- 64 名前:名無し男 投稿日:2001年07月24日(火)16時08分58秒
- トテモオモシロイネ!!頑張ってちゃぶ台!
- 65 名前:影武者 投稿日:2001年07月25日(水)06時35分39秒
- 市井・保田は森を歩いていた。
目的地にはあと10分ほど歩けば到着するだろう。
「この仕事が終わったら休めるかな?」
「次の仕事の契約すませちゃったの知ってるでしょ」
「私休んでいい?」
「えー、だめだよ。
だって次の仕事って半分は圭ちゃんだよりなんだから」
そんな雑談をいつものように繰り返しているうちに目的地がみえてきた。
そこは森の中にある広場だった、奥には洞窟がある。
その広場には30人以上の男達の姿があった。
その誰もが急に現れた二人の少女に多少なりとも驚いているようだった。
- 66 名前:影武者 投稿日:2001年07月25日(水)06時36分12秒
- ――――この依頼を受けたのは1週間前のことだ。
「国境を越えて来た盗賊団が森の中に潜伏中で、近くの村を襲い困っている」
よくある内容だった。
本来なら市井達のようなグループがこんな依頼を受けることはない。
しかしいつもと違うのは、この盗賊団の構成員は全員魔術士ということだった。
「盗賊達の中に魔術士のリーダーがいる」
というのはよくあることだが、30人の構成員全てが魔術士など聞いたことがない。
前例のない規模の大きさに、魔術士連盟も総力をあげて解決にいどんだが、
国内で、しかも今すぐに対処できるグループは数えるほどしかなかった。
しかも相手は犯罪のプロということもあり、実質この任務に対応できるのは
市井達しかいなかった。
市井たちはこの任務を自分達だけで解決してみせるというと、さっそくこの森
に駆けつけたのだった。
- 67 名前:影武者 投稿日:2001年07月25日(水)06時36分55秒
- 「いくよ、圭ちゃん」
「オッケー」
そう言うと、市井が前につきだした両手から強烈な電撃が放たれ、
数人の男達に直撃した。
落ち着く暇を与えず二発目を放ち、またもや三人ほどを巻き込んで
数秒後に電撃がおさまった。
男達のいた広場のような場所の奥にある洞窟から何人か駆けつけてくる。
市井はまったくあわてない様子で、その男達にも電撃を放ったが、
今度はだれのものかはわからないが魔術で防がれたようだ。
「これぐらいが限界かな?
圭ちゃん、あとは作戦どうりにいくよ」
「わかった、気をつけるんだよ」
「圭ちゃんこそね」
そう言うと市井は森の中へと逃げ込んだ。
保田は市井とは反対の方向へと逃げ込むと、盗賊達のうち半分が市井の方
を追いかけて行くのを確認した。
もちろんもう半分はしっかりと自分を追ってきている。
- 68 名前:影武者 投稿日:2001年07月25日(水)06時37分35秒
- 保田は木々の間を通りぬけるようにして走っていた。
うしろからの魔術を木で防ぐためだ。
(私も魔術が使えればこんなめんどくさい逃げ方しなくていいのに)
背後から聞こえる足音から推測するとおそらく十人ぐらいが自分を
追ってきている。
(紗耶香一人で大丈夫かな?
・・・ん、そろそろつくころだ。たのむよ後藤)
自分の後ろから聞こえる足音はかなり近くなっている。
こっちは木の間をくぐりながら逃げているのにたいして、むこうは
直線で追ってきているのだからしょうがない。
(もうそろそろ・・!!)
保田はいきなり横に思いっきり跳ぶと、数瞬後に電撃がうしろを
走っていた男達に襲いかかった。
男達は足場の悪い道を走っていたということもあり全員電撃の餌食
になった。
「おまたせ圭ちゃん」
- 69 名前:影武者 投稿日:2001年07月25日(水)06時38分06秒
- 「ナイスタイミング、後藤」
「いえいえ、それよりも早く市井ちゃんを助けに行かないと」
「そうだね、急ごう」
保田と後藤は市井のいる方へと走りはじめた。
森の中からは、あらかじめ待機しておいてもらった兵隊達がでてきて、
後藤の電撃で気絶した盗賊をつかまえていた。
作戦だと今ごろ、反対に逃げていた市井が途中で向きをかえて自分達の方
に向かっているはずだ。
市井のことだからもしもの時は一人で全員かたづけられるであろうが、
それでもなるべく無理はさせたくない。
- 70 名前:影武者 投稿日:2001年07月25日(水)06時49分56秒
- >>63
レスどうもありがとうございます。
最近7人祭で柴田をみて実はかわいいことに気づきました。
もちろん登場させます。
石川とのからみも考えときます。
>>64
素敵なダジャレをどうもありがとうございます。
かなり勇敢なかたですな。
読んでくれて、しかもレスまでしてくれてありがとうございます。
- 71 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時07分07秒
- 一方、市井は背後からの魔術を避けるのに精一杯で、なかなか保田達のもと
へ行けなかった。
こちらからも何度か攻撃をするが、ここで盗賊達を何人かずつ倒せたとしても
誰も捕獲する人間がいない、待機中の兵隊達がいる場所まではかなり距離がある。
(一人は無理だったな、本気で反撃するわけにもいかないし)
そろそろ立ち止まって戦うしかないかと決心しかけた時、前方に人影が見えた。
(圭ちゃんだ!もうむこうはかたづいたんだ)
「後藤も来てる、撃って紗耶香!」
短い言葉だが全てわかった、作戦どおりだ。
市井は振り向きざまに魔術を放つ。
「うりゃ!」
やや間の抜けた掛け声だが、威力は抜群の電撃が追いかけていた男達を襲う。
突然の反撃だったが何人かは防御したようだ、おそらく防御したのは全員
魔導士だろう。
残った男達が間髪いれず反撃の魔術を放とうとした時、今度は男達の横から
市井の放った数倍の力強さをもった電撃が男達をのみこんだ。
タイミングをずらした電撃の十字放火で、追っ手は全員戦闘不能になった。
森の中から魔術を放った後藤が草木をかきわけ近づいてきた。
「作戦どおり。案外たいしたことなかったね」
「後藤がうまくやってくれたからだよ」
「えへへ」
「あとは吉澤がうまくやってればいいけど」
「よっすぃーなら絶対大丈夫だよ」
後藤はまるで疑ってないような声でそう言いきった。
- 72 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時07分37秒
- 市井達が盗賊達のアジトに攻撃する一時間前、吉澤は既に森の中から
盗賊達を監視していた。
迷彩模様の服とバンダナは今日のためにわざわざ自分で買った。
自分が市井達と一緒に仕事をしはじめて半年になるが、初めて一人で重要な役目
をまかされたので、景気づけに新調したのだった。
吉澤の役目は市井達が盗賊をひきつれて逃げた後に、洞窟の中にいる人質を
救出することだった。
盗賊達は、自分達の襲った村が役所などに通報しないように村の人間を何人か
人質にとっていた。
そこで人質を救う役に、騒ぎにまぎれて静かに行動するのが一番上手いであろう
と思われる吉澤が抜擢されたというわけだった。
(たしかに私はみんなに比べれば地味な方だけど、
だいたいみんなが派手すぎるんだよ。
市井さんは魔導士なのに私に負けないぐらい格闘力もあるし、
ごっちんが魔術使ったら森の外まで音が響きそうだし、
保田さんは人質無視して相手半殺しにしそうだし)
実際は吉澤の気配を殺す技術や、判断力の鋭さを認められてのことだったが
吉澤が勘違いするのも無理はなかった。
- 73 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時08分12秒
- 市井達が逃げ、盗賊達が追いかけていったのを確認すると、吉澤は
洞窟にむかって歩きはじめた。
(たぶん何人か残っているはず、
なるべく他の仲間に気づかれないように 戦闘不能にさせないと)
吉澤は洞窟の入り口の壁にはりついて、中の気配をうかがった。
(足音がする、誰かがこっちにむかってきている)
そう感じた吉澤は一番近くにあった木に隠れた。
一番近くといっても、洞窟の入り口からはかなり離れてしまった。
どうやら出てきた男は、ただの見まわりのようだ。
洞窟から10メートルほどの距離を歩きまわり、再びもどろうとした男の
背後から、吉澤は足音を全くたてず忍び寄ると、男の脇腹を殴りつけた。
男が息ができず、声も出せない状態のところへ、とどめの膝蹴りを腹に
くらわせた。
気絶した男はその場に放置しておく、どうせ目がさめる前にケリをつける
予定なのだから関係ない。
あらためて入り口から中の気配を伺うが、今度はなんの音もしない。
(行こう!)
そう決断した吉澤は足音を殺して洞窟に侵入した。
- 74 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時08分56秒
- 洞窟の中は想像以上に暗かった。
(大丈夫だ。暗闇での戦い方なら先生から教えてもらった)
どうやら奥を曲がった先に人質がいるようだ。
子供のものらしき声が聞こえてきた。
(敵は一人、人質の子供は二人ってとこか)
吉澤は中澤から、暗闇での振る舞いかたの訓練を受けていたためこの状態にも
全く冷静でいられた。
ふと、今日は中澤から受けた訓練がやたら役に立つ日だと思った。
足音を消すのも中澤から学んだことだし、声を出させずに相手を気絶させる
のもそうだった。
訓練中はこんなことよりも、もっと戦闘訓練をやりたいと思ったものだが、
いざ仕事をするとなると、中澤の指導がいかに的確だったかがわかった。
(まるでこうなることがわかってたみたいに)
- 75 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時09分41秒
- 気持ちを切り替えて再び洞窟の奥へと意識をむけた。
(敵は一人、私ならやれるはずだ)
自分に暗示をかけるように心の中でそうつぶやいた。
吉澤は例によって足音を消し、洞窟の奥にすべりこんだ。
男は向こうをむいてイスに座っていた、吉澤には全く気がついていない。
こんなになにもかもうまくいく日は二度とないだろう、不気味なチャンス
ではあるが、このチャンスはものにしなければと決意して、吉澤は男の
背後に忍び寄った。
(後頭部への肘打ちで気絶させる)
そう考え男に振り下ろした肘は、紙一重でかわされた。
吉澤は距離をとり、男を見た。
- 76 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時10分13秒
- (気づかれてた!)
先ほどまでの余裕はもうない。
吉澤は一瞬逃げるかどうか迷ったが、そのまま敵の姿を見据えた。
すると相手が鞘から剣を抜きこっちにむかって構えていた、
こっちも腰にさしてある短剣をひきぬくと応戦するべく構える。
(武器を使うってことは魔導士じゃないのか)
そのことに少し安心しながら
吉澤の武器の短剣はいうまでもなく短い、短いのだがその分扱いやすい。
その反面、威力の方が数ある武器の中でもかなり下の方である。
これは魔術師達がだした結論であるが
「魔術士の使う武器に威力は必要無い」
なぜなら魔導士の魔術より強力な武器などない、そしてたとえ魔術を使えない
魔術士でも、その強力な肉体が武器の威力の無さをカバーできる。
さらに重さの違いなどほとんど感じない、ナイフも斧も同じ速さで振り回せる
ほどの肉体をもっている。
「実力の同じ魔術士が武器を使っての戦闘を行う場合、決め手は武器のリーチ」
というのが吉澤の持論だった。
(そう・・それが私の持論だった・・・)
- 77 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時11分30秒
- 「武器の差なんて関係ないで。要は闘い方の問題や」
そう言ったのは吉澤の師である人間だった。
吉澤がその言葉を簡単に信じられたのはただ単に説得力の問題だったが。
というのも全ての武器を使って、その意見を実践するのは不可能であるから、
自然と言った人間の説得力が決め手になるためである。
その点ではその人物は文句のつけようがなかった。なにしろ人間の使う武器
の中では最も威力の差が大きいもの―――すなわち「拳 対 魔術」の
闘いで、魔術に勝ってしまうのだから。
(そこまでは無理だけどこれぐらいの差なら)
自分の短剣が相手の剣の3分の1程の長さなのを見てとると、吉澤には訓練
での経験からなんとなく闘い方がわかってきた。
- 78 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時12分38秒
- 「仕掛けてこないのか?
時間でも稼ぐつもりか?」
突然男が話しかけてきた。
考えがまとまった瞬間に声をかけられて勢いを削がれた形になり、吉澤は
攻撃するタイミングを逃してしまった。
沈黙が続いた、どうやらきっかけがないと破れそうにないほどの沈黙だ。
(こっちのやることは決まっている。
迷っていたらどんどんこっちが不利になる)
そう決心した吉澤が動き出そうとした瞬間を狙ったように、相手の男が
とびこんできた。
いきなりの攻撃にも吉澤は冷静に、それこそ初めからこうくる事は
知っていたかのように体勢を崩さず、男の攻撃に対処する。
実は吉澤にはこうなる事が本当にわかっていたとも言える。
(間のはずしかたなら全然中澤先生の方が上手い・・・
あの人との組み手に比べればこんなの全然あまい。
・・・そうだよ!こんなやつよりずっと強い人と私は訓練したんだ)
そう考えると力が抜けた、相手の攻撃がよく見える、少し興奮しているが
今の自分にはそれぐらいがちょうどいい。
- 79 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時13分15秒
- 男が剣を突いてくる。
(チャンス!!)
突きは最もカウンターをとりやすい、しかも自分の戦闘の基本はカウンターだ。
「剣 対 短剣」ということもあり、こっちの攻撃がとどかないと思ったからか
やや男のモーションが大きい。
吉澤は横に体をずらして避けると男が剣をもっていた右手に短剣を振り下ろした。
男の手首からは小さな滝のように血液が噴出している。
かろうじて剣は手の中にあるものの、もはやそれを振るうだけの力が残ってない
ことは見れば明らかだ。
「今のは偶然か?
それともお前は狙ってこんなことができるのか?」
こんな時によく喋る男だ、時間がたてばたつほど出血で体が動かなくなり、
反撃のチャンスも少なくなるというのに。
(それとも仲間でも待っているのか?)
それなら残念だが仲間は戻ってこないだろう、おそらくあの人達が失敗する
など自分には考えられない。
もしそうでないとすれば、さっきのようにいきなり攻撃してくる気かもしれない。
とにかく吉澤は油断しないよう警戒し、次で決めることを決心した。
- 80 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時14分57秒
- 「俺に魔術無しで勝てる奴なんていないと思ったがな。
それにこんな闘い方をする人間は初めて見た。
どうやらお前がこの国で一番の使い手らしいな」
そんなことを言われて、思わず顔が勝手に笑ってしまう、この男の
あまりにも激しい間違いに笑ってしまう、隙ができるのがわかっていても
我慢できない。
「魔術無しで私より強い人なら四人知ってますけど」
今度はこっちが最初にやられたことをやる番だ、今の言葉を聞いて動揺した
男の表情を見た瞬間、吉澤がとびだした。
男は一瞬遅れながらも、こっちのスピードにあわせて後ろに跳んだ。
その瞬間、初速の倍以上の速さで突っ込み、軽々と男に追いつくと
短剣を肩に突き刺し、短剣を手放すとその腕で男の顎の先をかすめるように
素早い肘打ちを叩き込んだ。
男は完全に足から力が抜けてその場に前のめりに倒れこんだ。
「ふぅ、結構簡単だったな。
あとは市井さん達を待つだけだ」
終わってみれば、吉澤の圧倒的な勝ちという結果に少しものたりなく思うが、
それ以上に自分の仕事が大成功に終わったことに満足した。
- 81 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時15分40秒
- 「よっすぃー、やったじゃん」
声がしたのは吉澤が市井達を待とうと思った直後だった。
「おっ、ちゃんとできたみたいだね。これで吉澤も一人前だな」
市井が今到着したという感じで、そう言いながら歩いてくる。
うしろから保田も歩いてきた。
「市井さん本当はずっと前から居たでしょ」
「あはは、ちょっと出てくるのが早すぎたかな。
後藤がどうしても我慢できなかったみたいでさ」
「だって、こいつがリーダーなんでしょ?
心配じゃないの、市井ちゃんは?」
「んー、まあ100%安心ってわけじゃないけど、多分吉澤なら勝つとは思って
たからね」
「まあまあごっちん、勝ったんだからいいじゃん。
それよりも市井さん、こいつがリーダーなんですか?」
「そうだよ、今吉澤が倒したのがリーダー。
ちなみにこいつにかかってる賞金知ってる?
家が買えちゃうほどよ。もちろんあんたが倒したんだから全部あんたのもの
だからね」
- 82 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時18分01秒
- その後吉澤達は後始末を兵隊達に任せて街に帰ってきた。
そして任務の達成を報告しに魔術士連盟に行った。
そこで市井と保田が手続きをしている間、後藤と吉澤はカウンターに
置いてある資料を見ながら雑談していた。
そこで後藤が気になることを発見したらしく、小さな声をあげる。
珍しいことである、いつもあまり表情を変えず、感情をあまり表にださない
彼女なだけに。
唯一普通に喋る時があるとすれば市井といる時ぐらいであろう。
とにかく珍しいことにはかわりないので吉澤が訊いてみると、
「2番のグル−プが別のところになってる」
と言ってきた。
どうやら魔術士達のグループの活躍度を示すリストを見ていたらしい。
ようするに吉澤が卒業の時に渡されたリストと似たようなもので、その
グループの実績の大きい順に並んでいるらしい。
「そりゃそんなこともあるでしょ。
上の方のグループの差なんてすっごく小さいんだから時には入れ替わるよ」
「そうじゃないの、この2番になったとこって先月まで10番以内にも
いなかったんだよ。
少なくとも今回うちらがやった以上の仕事を1ヶ月で最低2個以上は
やらないと無理だよ」
「まあまあ、うちらには関係ないんだからいいじゃん」
そう言いながらも、吉澤も実は気になったので後藤と同じ資料を見つけて
同じページをめくり、2番のところを見ると、確かに先月との比較の欄に
13→2と書いてある。
しかし吉澤はそれ以外にも、そしてそれ以上に驚かされる部分を見つけた。
[メンバー・・・飯田・安倍・加護・辻]
- 83 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時18分51秒
- (この二人ってどう考えてもあの二人だよね。
・・・懐かしいな。あの子達もがんばってたんだ)
卒業試験の時のことを思い出しながら吉澤がつい笑顔になっていると、
後藤が不思議そうにしていた。
それから吉澤が石川の名前を探すと、下から約20番目のところで発見した。
どうやら三人のグループで頑張っているらしい。
先月との比較を見ると34→31となっている。
(あの娘にはこれぐらいのペースがいいかも)
とにかく順調なようで安心した。
卒業試験の時に一番長い時間一緒にいたということもあり、なにかと気には
かけていたのだがどうやら心配の必要はないらしい。
(花畑牧場って所にいるのか。
今度市井さんにこの近くの仕事入れてもらおうかな)
- 84 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時20分21秒
- 「おーい、手続き終わったから行くぞー」
市井が二人を呼んでいる。後藤は市井が見えた瞬間には走り出していた。
自分もやや小走りで市井達の元に行く。
後藤がさっき自分に言ったことを市井にも話しているようだが、どうやら
市井もあまり興味がないようで後藤は不満そうにしている。
保田はいろんな書類を手に持っている。
一番年上ということもあり、必然的に契約などの事務的な部分は保田が
受け持つことが多い。
「吉澤、これはあんたの分」
というと小切手を渡してきた。
見てみると、その額は半端なものではない。「家が買える」と市井が言った
のもうなずける。
「これ・・・、あの、どうしたらいいんですか?」
あまりの額の大きさに、保田に問いかけると
「そうか、吉澤は初めてか、こんな大金もらうの。
そうだなー、私とか紗耶香は何回か貯めておっきなマンション買ったし、
後藤は紗耶香と一緒に住んでるからほとんど食費にしてるみたいだね。
吉澤ももっといいとこに引っ越したら?」
「・・・そうですか。まあよく考えてみます」
- 85 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時21分34秒
- 魔術士連盟の建物から出ると、市井は今後のことについて話し始めた。
「とりあえず次の仕事が決まるまで自宅待機。
と言っても1週間はなにもないと思うから、その間なら自由ね。
それじゃ解散」
と言うと、市井は自分のマンションのある方向に歩き始めた。
といっても保田も同じ場所のため市井と同じ方向に歩き始める。
さらに後藤も市井と一緒に住んでいるので、吉澤に手を振って市井の隣に
走っていく。
3人の歩いている方向は、この街でも特に高級住宅ばかりある地区である。
ちなみに吉澤の住まいはそれとは正反対の方向で、かなり家賃の安いアパート
である。
そのアパートは、この街に引越しが決まった時に親からの仕送りで借りた所
なのだが、国の中心であるこの都市ではそれでもかなり高めの家賃のため、
親もそうとう無理をしてお金をだしてくれたはずだ。
そう考えると、吉澤は今回の報酬でそのアパートをでて、もっとよい所へ
引っ越そうとは思えなかった。
ちなみに吉澤が仕事をはじめ、かなりの額の報酬をもらうようになった今でも
両親からの仕送りは続いていて、いいと言っても「それなら貯金すればいい」
と言って止めようとしない。
吉澤も自分が稼いだ金額の半分は実家に仕送りをしているが、おそらく
自分の両親が使わないでいることは想像がつく。
- 86 名前:影武者 投稿日:2001年07月29日(日)19時22分30秒
- (あーあ、どうしようかなこんな大金
半分は実家へ送って、もう半分は貯金ってとこか。
なんか大金手に入れてもなんも変わらないな、私の場合)
そう考えながらも、とりあえず今回の仕事が終わったことを実感している
吉澤だった。
そして結局いつものパン屋でいつもより少し多めのベーグルを買うと、
「石川さんに手紙でも書いてみようか」と思い、家に帰る足を少し速めた。
- 87 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月30日(月)04時15分37秒
- 今日初めて読んだのですが、面白いっすね。
プッチ揃い踏みの最強のメンバーがたまりません!!(w
密かに石川が花畑牧場でどんなことをしてるのかが、気になったりもする。(w
- 88 名前:影武者 投稿日:2001年07月30日(月)22時14分51秒
- 八月に入ろうとする真夏の昼下がり、人気のない森を歩いている少女達がいた。
少女達はそれぞれ同じような服装で、Tシャツにハーフパンツ、スニーカー
という恰好だった。
同年代の他の少女に比べると、やや飾り気の足りない恰好で歩いている少女達は
同年代の他の少女に比べると、かなり深い悩みを抱えた表情で次の街を目指していた。
「ごめんね、亜依ちゃん」
辻は一言だけそう言ってきた。
理由はここ数ヶ月前から今まで続いている。
その理由とは加護と辻がこんな所をあてもなく歩いている理由でもある。
- 89 名前:影武者 投稿日:2001年07月30日(月)22時15分24秒
- 卒業が決まったあの日、自分達のいける所で一番強いグループに入ろうと
決めた二人だが、全く上手くいかないでいた。
入団条件に魔導士限定というのがほとんどのため、加護はよくても辻がだめ
という所が多く、なかなか二人一緒に入れる所が見つからない。
はっきりいって、リストの前半には3つしか条件にあうような所がなかった。
その3つも既に「子供はいらない」ということで不採用になっていた。
加護が、「頼むから辻も一緒に入れてくれ」と頼むのだが、どこも自分達の
分け前が減ることを気にして、どうしても首を縦に振らない。
現在ではリストの上から半分は全滅となっていた。
加護は辻と一緒でないなら入る意味がないので、べつに気にしてなかったが
辻は相当落ち込んでいた。
魔術士の中でも魔導士というのは特殊な種類で、全体の中で4分の1もいない
であろうと言われている。
逆に辻のように魔術を使えない者は4分の3もいるということでもある。
そのため、どうしても辻を求めるグループが少ないのはしょうがないことと
言えた。
- 90 名前:影武者 投稿日:2001年07月30日(月)22時16分04秒
- 「ええんやで、そんなあせることないし。のんびり行こうや」
そう言って辻を励ますものの、実のところ時間がない。
たしか半年間なにも仕事をしなければ卒業の資格を取り消されるはずだ。
辻には気づかれないよう、焦っていることは顔にはださないようにしているが、
もしかしたら気づいているかもしれない。
(気のきく子やからな)
加護と辻はお互いの本心を表情にはださないまま、ひたすら次の街を目指して
いた。
すると視界に5〜6人の男達とそれらに囲まれている女性がとびこんできた。
「見てみ、のの。たぶんあれが盗賊っちゅうやつやで。
うち初めて見たわ」
「私もだよ。
どうする?とりあえず助けたほうがいいよね」
「そうやな、もしかしたらお礼になんかくれるかもしれんし」
「じゃあ亜依ちゃんはここで見てて、私一人でいってくるから」
と言った途端に走り始め、あっという間に盗賊達のもとへ到達する。
加護は追いかけなかった。
おそらく辻は一人でやりたいはずだ。自分のせいで迷惑をかけている分
を埋め合わせしたいと思っているのだろう。
加護にはなんとなく辻の気持ちがわかったので、辻の気がすむのならば
そうさせてやろうと思った。
- 91 名前:影武者 投稿日:2001年07月30日(月)22時16分38秒
- 予想通りに、というかそれ以外予想できなかっただけなのだが、辻は
あっという間に男達をねじ伏せていた。
とりあえず加護もゆっくりと辻達の方へと歩いていたが、もちろん自分
のすることなど何も残っていない。
倒れている男達を見てみると、全員気絶または戦闘不能になるほどの怪我
を負わされていた。
辻もかなりイライラしていたのだろう、あまり手加減はしなかったみたいだった。
加護は男達に囲まれていた女性を見た。
さっきまで襲われそうになっていて、いきなり自分より年下の少女に助けられた
わりには全く驚いていない。
女性は優しい笑顔で辻に
「助けてくれてありがとう」
と言うと、微笑んだまま二人を見て
「あなた達もこの先にある街まで行くの?もしよかったら一緒に行かない?」
と訊いてきた。
- 92 名前:影武者 投稿日:2001年07月30日(月)22時17分37秒
- 安倍なつみというのが女性の名前だった。
彼女もこの先に用があるらしく、一人でこの道を歩いていたらしい。
「安倍と話しているとなぜか母親と話している気分になる」それが加護の
第一印象だった。どうみてもこの女性は自分の母親とは似ても似つかない
容姿であるはずなのに。
「加護ちゃんはなんの用があって街にむかってるの?」
「えっ、私は・・・実は私達魔術士なんです。
ってゆーても今年卒業したばっかりなんですけど」
安倍の顔をじっと見ていたのがばれたのかと思い、びっくりしてしまった。
「ふーん、そうなんだ。その年ですごいね」
「でも・・・あんまりうまくいってないんです」
「そっかー・・・大変そうだね。
でもこんな時こそ辻ちゃんと一緒に頑張るんだよ。
一人だけでなんとかしようとしちゃだめだよ」
「はい」
なぜか彼女の言うことは素直に心に響いてくる。
もっと安倍の言葉が聞きたくて、加護はいろんな悩みを安倍に打ち明け、
安倍もそれにきちんと応えてくれた。
そうやって歩いているうちに、森の出口が見えてきた。
「ん?そろそろ森を抜けるみたいだね。
私はここで友達と待ち合わせしてるから、ここでお別れだね
それじゃ二人とも頑張るんだよ」
- 93 名前:影武者 投稿日:2001年07月30日(月)22時18分20秒
- 加護と辻は安倍と別れると、街へと続く道を歩いていった。
安倍は二人のうしろ姿を見ていた。
(苦労してるみたいだったな、あの子達。
いつか苦労が報われるといいんだけど・・・)
安倍は小さな体で精一杯頑張っている二人を見て、心の底からそう思った。
「さてと」
安倍は歩いてきた森の方へ振り返ると
「出てきなよ。
隠れてるのはとっくに気づいてるよ」
と人影のない森にむかって言った。
すると森の中からぞろぞろと隠れていた男達が20人ほどでてきた。
その中には、先ほど辻が倒した男も2〜3人混じっていた。
「いいのか?
もうさっきのように邪魔する奴はいないぞ」
安倍は深く息を吐いた、ため息が自然にでてしまった。
「いいんだよ。
あの子達にこれ以上の負担はかけさせたくないからね」
安倍は静かな声でそう言うと、男達へむかって歩き始めた・・・・・・
・
- 94 名前:影武者 投稿日:2001年07月30日(月)22時18分56秒
- 「なっち、どうしたのこの人達?」
安倍が最後の男を倒してから数分後、その声は安倍の上から聞こえた。
「あ、圭織。
なんでもないよ、ただの盗賊だよ。
それよりもどうだった?」
「だめだったよ。この森の上3周飛び回ったけどそれらしいのはいなかったよ」
そう言うと、飯田は安倍の横に着地した。
「あ〜あ、すっごい疲れちゃったよ。
今日はもうあきらめて明日にしよ、私もう飛べないよ〜」
「そうだね、ごくろうさん圭織。今日はこのまま街へ行って休もう」
安倍は戦闘でやや乱れた服装を正すと、街の方へと歩きはじめた。
- 95 名前:影武者 投稿日:2001年07月30日(月)22時41分24秒
- >>87
初めまして、気に入っていただいて嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
やっぱりプッチは男前が多いだけに強いです。
石川の出番はあと3回ぐらい更新したらあります。
>>読者の皆さん
もし希望するカップリングなどあったらいってください。
そうしてくれると自分もいろいろネタを思いつけるので助かります。
可能な限り実現させますんで。
あと些細なことでもいいんでレスを・・・
レスがついてると本当に嬉しいんです。やる気になるんです。
注文が多くてすいません。
それでは今日から暇なんで最低でも3日に1回は更新するつもりです。
だからどうかレ・・・
- 96 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月30日(月)23時35分10秒
- 今までずっとROMってたんですが、作者様のやる気をあげるために、その壁を破ります。(w
自分はここの加護がすっごい好きなんです。
辻をすっごい大事にして、想ってるところが。
なので、あいののをもう少し入れてくれると嬉しいなぁ……と。
それといちごまも出来れば……
- 97 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月30日(月)23時50分35秒
- いしよし希望・・・。
なっちや圭織はどれくらいの実力なんでしょう?
- 98 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月31日(火)01時22分55秒
- 色んな場面が見れて面白いです。
いちごまが見たいッス。だけど、いちよしの場面での後藤も見てみたい。
何でも出来る市井最高(チームプッチ最強)!!
何気に柴田(石川がらみ)が見たいッス!
いろいろ言ってすみません。マイペースで頑張ってください。
気にいらないのは無視してください。
- 99 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月31日(火)01時51分13秒
- 話の内容や書き方がすごくいいです!
カップリングはやっぱり「いしよし」・「いちごま」でお願いします。
それと、ある程度の主要人物が出てきたら、「名前」・「能力」・「ランク」・「どこのチーム」
ってゆーのを書いてもらえたらありがたいです。
期待してるんで更新頑張ってください!!
- 100 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月31日(火)03時04分49秒
- 同棲中みたいなんで、書く必要もないと思いましたが一応いちごま希望です。
それとやっぱり、いしよしは見たいですね。
保田にも誰かと思ったけど浮かばん!!(w
作者さん、頑張って下さいね。
- 101 名前:ぐれいす 投稿日:2001年07月31日(火)17時30分44秒
- 自分はやっぱ辻加護の話がいいです。
これからされていくとおもいますがどうやってランク二位まであがってきたのかが知りたい今日この頃……
それと姐さんと矢口でおねがいします。
- 102 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月31日(火)17時51分46秒
- アクションシーンがテンポ良く盛り込まれているし
文章も読みやすくて良いです。
かおりなっちの出番も多くして下さい。
ののかおコンビは飽きたのであいかおを希望。
頑張れ。
- 103 名前:影武者 投稿日:2001年08月01日(水)11時59分43秒
- 「暇やな〜」
夕暮れ時の喫茶店である。まわりにいる客とて全員暇なはずなのだが、彼女達
の場合少しばかり事情が違っていた。
なぜなら彼女達は年齢こそ低いものの、立派な魔術士なのだから。
この街でも結局彼女達を受け入れてくれるグループはなかった。
しかたがないので次の街に行こうとしたが、かなりの距離があるために、
この街に泊まることにした加護と辻だった。
二人がここに入って20分になる。とっくに二人の飲み物はなくなっていた。
話すこともない、何度も繰り返されて入る光景だ。
二人は街を訪れ、そして街を出て行く前には必ずこうして喫茶店にはいり、
自分の好物を頼んで次への励みにしていた。
もう何回繰り返されたことかは忘れたが、喫茶店にいる時は毎回同じ状況の
ため、既に話題になるような事など無い。
「亜依ちゃん、氷ちょうだい」
「ええよ」
辻は、加護のグラスに残っていた氷を口に放り込むと、ガリガリと噛み砕いた。
- 104 名前:影武者 投稿日:2001年08月01日(水)12時00分22秒
- 辻が氷を飲み込んだのを見ると
「そろそろ行こうか?
今日泊まる所もさがさんといかんしな」
と言い、席を立った。
「お金がない」加護の心の中は今やそれでいっぱいだった。
さっき喫茶店を出る時に財布を見たのだが、下手すれば宿代も払えないかも
しれない。
(こりゃ、いよいよ泥棒にでもならんといかんかも)
すると辻と出会った日の事を思い出す。
(そういやののに助けられんかったら今頃ホントに盗賊になっとったやろな〜)
今だからのん気に思い出せるが、当時はひどかったものだと、いつに間にか自分
の過去を振り返っていた。
(あかん、そんなん考えてる場合やない。どうしよ、もう貯金は0や)
加護には親がいないため、これまでの旅費は全て学生時代に内緒でしていた
バイト代を貯めたものを使っていた。
しかし、これほど旅が長引くとは予想もしていなかったため、そのお金も
とうとう底をついてしまったのだ。
一方辻は親から送られたお金で、不自由はしていないようだが。
とにかくその日、なんとか加護の泊まれる宿屋をさがしだすことができた。
そして加護の残金は見事に0となった。
・・・しかし加護はそこである秘策を手に入れたのだった。
- 105 名前:影武者 投稿日:2001年08月01日(水)12時01分10秒
- 次の街へむかう道を歩きはじめた時、加護が話し始めた。
「正直にゆーわ、うちもうお金ないねん」
昨日から加護の様子が変だと思っていた辻はなるほどと思った。
しかし加護が自分にお金を貸してくれ、と言うとは思えない。
いったい加護が何を考えているのかがわからない。
「そこでな、昨日素敵なアイデアを考えついてんな。聞いてくれるか?」
何を思いついたかはわからないが、加護が困っているというのだから
協力するのは当然だ。
「なんでも言ってよ」
「あんな、昨日泊まったとこにこんなもんが貼ってあってん」
そう言うと、なにやら顔写真の載っている紙を辻のほうにさしだした。
―――WANTED―――そう上に書いてある。
「ワン、テド?」
「ようするにな、こいつらを捕まえるとお金がもらえんねん。
ありがたいことやね」
「ふ〜ん。それはわかったけど、そんなに簡単に見つけられるかなぁ」
「それが大丈夫やねん。
この一番お金の高いやつらみてみ、うちらの狙いはこいつらや」
そう言うと、一番賞金の額が大きい三人組を指差した。
- 106 名前:影武者 投稿日:2001年08月01日(水)12時01分47秒
- (それじゃよけいに大丈夫じゃないじゃん)
「よけいに心配って顔しとるな。
ところがな、こいつら別に隠れとるわけとちゃうねん。
誰でも探せばこいつらとは会えるねん、ところがそこまではよくても
今までのヤツラは全員そこで返り討ちにあってん」
「でも私達がそうならないとも・・・」
「だ〜いじょうぶやって、うちとののならなんとかなるって」
そう言われて辻はもう一度紙を見た。
[アヤカ・レフア・ミカ]
三人組の写真の下にはそうかいてある。
そしてどうやら三人とも魔術士のようだ。
・・・というわけで多少強引ではあったが、結局辻も承諾したため
二人は一路、目的の三人組がいると思われる場所にむかっていた。
ところでなぜこの三人のいるであろう場所がわかるのかと訊くと、どうやら
この三人組の進路には目的があるらしく、大体の見当をつけて先回りすれば
かなりの高確率で遭遇できるらしい。
噂によるとその目的とは「この国から逃げること」というのが有力である。
この女性達は国境を目指しているらしい。
以上が加護が宿屋の主人から聞いた情報の全てだった。
- 107 名前:影武者 投稿日:2001年08月01日(水)12時02分35秒
- ―
―
―――――――――――――
――――――――
あれからどれだけ歩いただろう。
いま歩いてるこの山はいくつめだろう。
最後に宿屋に泊まったのがたしか5日前だったはずだから、かなりの距離
を歩いたはずだ。
というのも加護と辻は、このところ昼夜を問わず歩きづめだった。
さらに野宿の連続だったが、これは加護にとってはむしろ喜ばしいことだった。
目標の三人組よりも先にまわるための最短距離を行くには、山を越え、
川を渡りと、およそ人が通るはずもない道を行く必要があったため
宿屋などあろうはずもなかった。
「おなかすいたね」
辻のかばんにあったお菓子はとっくに食べ尽くしてしまったため、この3日間
あやしげな木の実を少し食べただけである。
「そやな〜。そろそろこのへんなんやけどな〜」
このあたりで待っていればいいはずだが、はっきりとは断言できない。
加護は地図を見るが、地図をみるのはあまり得意ではないうえに、このところ
目印になるような物がないので、もしかしたら全く見当違いの方向へ進んでいる
かもしれない。
もう日が暮れはじめている、一体自分達はこれでいいのか?
不安は増す一方で、明るい材料が全く無かった。
- 108 名前:影武者 投稿日:2001年08月01日(水)12時03分26秒
- その時、かなり離れた場所からではあるが、かすかに人の気配がしたような
気がした。
辻を見ると、どうやら同じく気配を感じたようでこっちを見ている。
「行こう、のの。
もしかしたら山賊かもしれん。山賊やったらしばいて食料奪ったろ」
「うん、行こう」
そう言った辻は久しぶりに、卒業試験以来使うことのなかった鉄の篭手を
両腕に装着していた。
ひさしぶりに食料が手に入るからか、加護の予想をはるかに越えて辻は
やる気のようである。
(やばい、のののやつ相手が山賊やのうても殴りかかりそうや)
辻は既に気配のした方向にむかっていた
「おーい、言っとくけど山賊とはかぎらんで」
(下手すりゃうちらが山賊やな・・・)
そう心配しながら辻のあとをついていくが、どうやら気のせいではなかった
らしく、確実に人間の気配が近づいてくるのがわかった。
どうやら数人の男達のようだ。
- 109 名前:影武者 投稿日:2001年08月01日(水)12時04分03秒
- 「山賊ではない」それが男達を見た時の加護の第一印象だった。
辻もそう思ったようで、とりあえず攻撃する気はなさそうだ。
「どうしたのかな?迷子かいお嬢ちゃんたち」
男のほうからそう聞いてきた。
それも無理はないことであろう、なにしろここ数日山道を歩いていたせいで
二人ともかなり服が汚れていた。
まさに山道に迷った子供そのものの恰好である。
「おじさんら誰?」
「安心していいよ、おじさん達は魔術士だから。
今仕事で人を探すためにこの山にきてるんだよ」
加護はふとあることに気がついた。
「実は道に迷ったんですけど。
どこへ行けば街にもどれるかわからなくなっちゃて」
(エッ!なに言ってるの?亜依ちゃん)
「そうか、どの街へ行きたいのかわからないけど、むこうのほうに少し行くと
街まで続く道があるから、とりあえずその街の人にでも聞いたらどうかな」
「そうですか、どうもありがとうございます」
- 110 名前:影武者 投稿日:2001年08月01日(水)12時04分49秒
- 男達が去った後、辻と加護はしばらく教えられた方向に歩いていたが、
加護は急に立ち止まると
「のの、あのおっさんらについていくで」
「どういうこと?」
とりあえず加護にあわせていた辻だが、さすがに訊かずにはいられなかった。
「あのおっさんらがな、これとおんなじ紙を持っとったんや」
そう言うと、加護は例の三人組が載っている紙をとりだした。
「多分、あのおっさんらもこの三人を追っとるはずや。
場所的にもおそらく間違いないはずやし。
おそらくこのへんの地理や三人組の居場所についてはおっさんらの方が
詳しそうやから、とりあえずついて行って、見つけたところをうちらが
横取りするっていう作戦でいくで」
そう言うとUターンして男達のむかった方向へと歩きはじめた。
辻も空腹ではあったが力をふりしぼり、そのあとにつづいた。
やっと希望がみえてきた。
かなりの高確率で目的が達成できそうな予感に疲れはどこかに吹っ飛んだ。
- 111 名前:影武者 投稿日:2001年08月01日(水)12時05分24秒
- ――――――男達のあとをつけはじめて半日後。
辺りが暗闇につつまれた頃、どうやら男達は目的の三人組をみつけたようだ。
というのも加護と辻は、夜になり暗闇を照らすために男達がつけた火を目印に
あとを追っていたのだが、その火の動きが止まりしばらくすると、魔術と思われる
閃光がその火のあった場所を吹き飛ばすのが見えた。
おそらく戦闘がはじまったのだろう。
加護と辻はその場所に急いでむかっているのだが、暗闇と山道のまえになかなか
進めないでいた。
そうしている間にも二発目が放たれたようで、一瞬あたりが明るくなる。
「ねえ亜依ちゃん、訊きわすれてたんだけど。
あの人達ってなんで追いかけられてるの?」
「詳しいことは知らんけど、この紙によるとどうやら国の偉い人を殺したらしいで」
(そんな人達と戦うのか。
負けたら私達も殺されちゃうのかな・・・)
もしかしたら先を進んでいた男の人達も殺されているかもしれない、そう思うと
どうしても走る速度がおそくなる。
しかし確実に辻達は現場に近づいていた。
- 112 名前:影武者 投稿日:2001年08月01日(水)12時06分36秒
- 現場で辻が見たものは、気絶しているのか死んでいるのかはわからないが
地面に倒れている男達の姿と、その前方にいる写真と同じ顔をした女性達だった。
「迷子?それとも私達を捕まえにきたの?」
三人組の一人がそう訊いてきた。
たしか写真の顔の下にアヤカとかいてあった女性だ。
加護はすでにいつでも魔術が使えるように集中している。
辻もここにくる途中で武器は装備済みだ。
どうやら自分達が甘かったようだ、その女性の威圧感で全く動けない。
死のかかった戦いが、これほど恐怖を感じさせるとは思わなかった。
「・・・どうやら捕まえにきたみたいだね。
言っとくけど手加減はしないよ、そっちが攻撃してきたらこっちも全力で
反撃するからね」
辻は加護の様子をうかがうが、加護もかなり興奮しているようで大量の汗を
かきながら睨みつけている。
初めての生死のかかった実戦に、相当神経をすり減らしているようだ。
(いけない、亜依ちゃん冷静じゃなさすぎる。これじゃあの人達死んじゃう)
加護はかなり危険な状態だ、こうなっては自分よりもむこうの方が危険だ。
加護が本気で魔術を使うことなど滅多にないことだが、加護が本気になって
魔術を使うと下手な防御の魔術など消しとばすほどの威力になってしまう。
それで一度加護は訓練中に生徒を殺しかけたことがある。
さらに目の前にいる三人組みは三人の間の距離がありすぎる。
全員がかなりの魔術の使い手でもないかぎり他の人間まで魔術で防御できる
距離ではない。
(まさか三人とも魔導士ってわけないし・・)
- 113 名前:影武者 投稿日:2001年08月01日(水)12時07分23秒
- とにかく暴走寸前の加護を落ち着かせようと辻が加護に話しかけようとした
瞬間のことだった
「攻撃してこないんだったら、私達は逃げさせてもらうよ」
そう言って女性が去って行こうとうしろを振り向いた時
「亜依ちゃん!待って!」
加護の魔術が女性が動いたのをきっかけに、暴発したように発動した。
直径10メートルはあろうかという強列な熱閃が三人の女性を飲み込んだ。
辻でさえ初めて見るような威力だった。
加護は相当疲れたようで、その場に座り込んで動かない。
無理もない、全くコントロールされていない全力の一撃だ。
辻は、とりあえず加護に疲労以外は怪我などの症状がなさそうなことを
確認すると、「あとは一人でなんとかするしかない」と決意して前を見た。
そこには全く無傷の三人組が立っていた・・・
- 114 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月01日(水)12時17分45秒
- いちごまで!!
あと密かにかおなちが見たいかも・・・。
続き期待してます
- 115 名前:影武者@集中講義後 投稿日:2001年08月01日(水)17時02分45秒
- >>96
どうもありがとうございます。
ホントやる気がでました。
今回の辻加護編は結構長くなりそうです。
なんか辻加護って書きやすいんですよね。
いちごまは・・・すいません次の吉澤達の出番まで待ってください。
いろいろ考えてはいますんで。
>>97
ご意見どうも感謝します。
いしよしについては意見も多いので、かなりいろんなことを考えてます
ただそこまでいくのにかなり時間がかかりそうなんですよね。
気長に待っていてください、なんかあるのは確実なんで。
なっちや圭織は・・・かなり強いとだけ言っておきます。
どのくらいかは後々わかるようにします。
>>98
感想どうも感謝します。
>>いろいろ言ってすみません。
>>気にいらないのは無視してください。
いえいえ、こういう意見はとても参考になるので助かります。
これからも思いついたことがあったらビシバシ言ってください。
とりあえず意見にあったカップリングは実現させます。
やっぱり柴田の相手は石川しかいませんね。
>>99
誉めていただいて嬉しいかぎりです。
とりあえず王道カップリングはいれるつもりです。
次の石川編が終わったら、「名前」・「能力」・「ランク」・「どこのチーム」
というのを書くようにします。
石川編で主要メンバーはほとんどでるはずなので。
期待にそえるよう更新頑張ります。
- 116 名前:影武者@集中講義後 投稿日:2001年08月01日(水)17時05分00秒
- >>100
100番目ゲットおめでとうございます&レスありがとうございます。
そうなんです市井と後藤は同棲しています。
ちなみに二人は出身地が同じという設定です。
ところで自分も保田とからむ相手が想像できません。
もし思いついたら、教えてください。
ちなみに今思いついたんですけど、保田と加護っていうのはどうでしょう?
>>101
どうもありがとうございます。
辻加護編は自分でも楽しく書いているので、誉められると嬉しいです。
ランク2位まであがったわけは、お書きになったとおり今回で明らかにします。
中澤と矢口の話も一応考えてあります。
特に中澤は、今後結構活躍させる予定です。
が、例によってかなりあとになりそうです。
どうか気長にお待ちください。
>>102
読みやすくてなによりです。
今は登場人物がどんどん増えている途中なのでアクションシーンは少なめ
ですが、今後はもうちょっと増えていくと思います。
かおりなっちの出番は次の更新で多分あるはずです。
>>あいかおを希望
そうですね、言われてみればたしかにありかも。
魔導士同士なのでなにか考えておきます。
>>114
更新して10分後にレスしてくれるとは・・・ありがとうございます。
いちごまのリクエストはやっぱり多いですね。
吉澤編をもっと長めにしておけばよかったかも。
まあそのぶん次にいちごまが登場した時に多めにしときますんで。
かおなち好きなんで、これからいっぱい話を考えときます。
続きはまたすぐに更新します。
実は今日の講義中にずっと下書きをしてたんで、今日バイトから帰ったら
すぐにとりかかります。
- 117 名前:undefined 投稿日:2001年08月02日(木)16時04分14秒
- すっごく面白いですね、先が楽しみ〜
ただ、読者の方の勝手なリクエストは適当に聞き流した方がいいのでは?
過去にサービス精神旺盛な作者が読者のリクをかなえようとして結果的に
ストーリーや作風を崩されてしまった例をいくつも見ていますので・・・
今の感じが最高!と思うだけにちょっと心配です。
マイペースで頑張ってください!
- 118 名前:影武者 投稿日:2001年08月03日(金)03時26分43秒
- 自分は今、「死」にむかって猛烈な勢いで近づいている。
三人の魔導士相手に、自分の肉体のみを武器に戦いを挑むのだから当然だ。
もともと目の前の三人に遭った時から歩み寄ってきていた死に、今はこっち
から突っ込んでいかなければならない。
実際の辻は、そのような難しい言葉で考えてはいなかったが、少なくとも
ほとんど希望のない戦いであることはわかっていた。
加護がこの状態では逃げられない、自分達が生き残る可能性があるとすれば
加護が復活する時間を自分一人で稼ぐ以外ない。
それにしても、三人からの攻撃の中、いったいどれくらい逃げ回ればいいのか?
相手が加護を攻撃してきたらどうする?など問題が多すぎる。
辻が一瞬でそう考えたのに対し、いきなりむこうが動いてきた。
いきなり終わりか?そう考えたが、どうやらまだ終わりではないらしい。
むしろほんの少し生き残る可能性が増えたらしい。
むこうの三人組の中の背の低い女性が突然咳き込みはじめた。
そして前のめりに倒れこみ、苦しみはじめた。
- 119 名前:影武者 投稿日:2001年08月03日(金)03時27分49秒
- 「・・・・・!!」
辻にはやっと彼女が苦しんでいる理由がわかった。
ようするに加護の魔術は完全に防がれたわけではないらしい。
(火傷したんだ!!)
まさに辻の考えたとおりのことが、苦しんでいる女性の身におこっていた。
加護の放った熱閃のあまりの威力に、彼女の防御の魔術をつきぬけた熱風を
吸い込んでしまったせいで呼吸器官に火傷を負ってしまったのだ。
残った二人は倒れた女性に気を取られている。
(最初で最後のチャンスだ)
「亜依ちゃん・・・」
加護がこっちを見ることはなかった・・・
- 120 名前:影武者 投稿日:2001年08月03日(金)03時28分44秒
- 辻は動き出した。
作戦ならたった今思いついた。
辻の目的はこの辺りの闇を照らしているもの、すなわち男達がもっていたと
思われるたいまつだ。
それは男達が倒れた今もなお、地面の上で燃え続けている。
それらを全て消し暗闇の中で戦う、それしかまともに戦う方法はない。
ただ問題は、たいまつとの距離がかなりあるうえに、全部で4本もある。
とりあえず一番近くにあるものへと走るが、予想以上に相手の反応が早かった。
3歩目を踏み出すころには、こっちにむけて二つの光球が迫ってきた。
一度止まってそれを避けると、再び走り出す。
さっき避けたものが木にあたったらしく、木のたおれる音が聞こえてくる。
一本目を拾う、次のたいまつはすぐ近くなので、それも間もなく拾い上げる。
二撃目が迫っているのを横目で確認し、今度は手に持っているたいまつを
二つの光球に投げつけるとたいまつは粉々に砕け散った。
・・・辺りの明るさが半分になる・・・
- 121 名前:影武者 投稿日:2001年08月03日(金)03時30分12秒
- 今のでこっちの考えは気づかれたと思った方がいいだろう。
となると残りの2本を拾うのはかなり困難になるはずだ。
相手に考える時間を与えてはいけない、こっちが動きにくくなるのもあるし、
加護を攻撃されるおそれもある。
今まで以上のスピードを意識して走りだすが、今度はむこうもこっちの目的が
わかっているだけに攻撃も避けにくくなる。
しかも相手は魔術を放ちつつ、残る2本のたいまつを確保しようと近づいている。
(やばい、どっちか1本は奪われちゃう・・・)
辻の足が止まりかけた時、小さな衝撃波がアヤカにむかう。
アヤカは咄嗟に魔術で防御するが、その前方にあったたいまつは吹っ飛ばされ、
砕け散る。
その魔術が放たれたと思われる先には、座り込んだまま震える手をつきだして
いる加護がいた。
どうやらかなり無理をしたようで、そのまま倒れそうになるのを手をついて
かろうじてとどまった。
アヤカは辻から視線を外さず加護に魔術を放つ。
加護は一歩も動けない。今放った魔術が最後の体力だったようだ。
- 122 名前:影武者 投稿日:2001年08月03日(金)03時32分05秒
- アヤカの放った魔術が迫る。
加護が辻にむかって微笑んだ瞬間、放たれた魔術は加護の近くの地面に直撃して
爆風と衝撃で、加護はまるで人形のように受身もとれず吹き飛ばされていく。
ここで動きを止めると、せっかく加護がつくったチャンスが無駄になる。
辻は止まりかけた足を再び動かしはじめ、もう1つのたいまつに迫る。
辻はたいまつを拾いあげ、近くにいた相手に殴りかかると魔術の壁に阻まれた。
その衝撃に耐えられず、たいまつは砕けた。
最後の明かりはかき消された。
「クッッ!!」
アヤカが空にむけて閃光を放つ。
一瞬あたりが照らされるが既にその時には辻の姿はなかった。
- 123 名前:影武者 投稿日:2001年08月03日(金)03時33分21秒
- (あの子の仲間を人質にとる)
アヤカの判断は早かった。
「レフア、お願い!」
そう言うと、レフアはアヤカがしたのと同じように空にむけて閃光を放つ。
明るくなった瞬間、加護を見つけたアヤカは走りはじめた。
周囲の気配に注意しながら走る。
(おそらくあの子もこっちにむかうはず)
辻より先に加護を確保しないと、少々面倒なことになるので急がなければ、
と考えつつ闇討ちにも注意する。
本当はもう一度レフアに周囲を照らして欲しかったが、今声をだすとこっち
の位置がばれてしまう。
そうなると一人のところを襲われてしまうのでそれは避けたい。
幸い自分以外の足音は聞こえないので大丈夫そうだ。
「アヤカ!!」
突然呼ばれて振り返る。
少しだけ目が慣れてきたおかげで助かった、うしろから跳びかかってくる影
をなんとか確認できた。
魔術で迎撃できるタイミングではない、おもいっきり横に跳んだ。
地面にすべりこみ、胸を地面で強打したが攻撃はかわすことができた。
- 124 名前:影武者 投稿日:2001年08月03日(金)03時33分54秒
- 「動かないでください」
辻の声は自分を襲った影から聞こえてきたものではなかった。
「!!?」
自分を襲った影が地面に倒れている。
その体はどう見てもあの少女のものではない。
おそらく辻が投げたのであろう、それは最初に自分達が倒した男だった。
(・・・だまされた・・・・・・)
アヤカは起きあがるのをやめた。
自分が下手に動けば殺されてしまうだろう。
レフアにしてもあんなに接近されては魔術を使う前に首を折られてしまう。
完全に暗闇に慣れた眼でアヤカがみたもの。
それは辻にうつぶせに地面に倒され、首を手でつかまれているレフアの姿だった。
- 125 名前:影武者 投稿日:2001年08月03日(金)03時35分22秒
- 「で、どうするつもり?
私達にかかってる賞金が欲しいなら無駄よ。
捕まるぐらいなら自分で死ぬから。
言っとくけど生け捕りじゃないと賞金はでないよ」
そう言われて辻は困ってしまう。
もともと自分が言いだしたことではない上に、自分としては賞金がどうのこうの
よりも加護の体が最優先だ。
はっきりいってこの三人にはとっとと逃げてもらうのが、自分にとって一番
都合がいい。
しかし加護の意見も聞かずに逃がしてもいいものかとも思う。
そもそも相手が素直に逃げてくれるかも怪しい。
いきなり反撃されたら、今度はどうすることもできないだろう。
- 126 名前:影武者 投稿日:2001年08月03日(金)03時36分03秒
- 「死なれちゃ困るな」
突如、男の声が聞こえた。
アヤカの背後から電撃が迫り、直撃した。
アヤカは大きく痙攣すると、そのまま気絶した。
なにもない空間に突然火の玉のようなものがあらわれ周囲を照らす。
そのむこうには黒い服を着た男が立っていた。
「その女を渡してもらうぞ」
そう言うと、男はこっちに近づいてくる。
なにか気に入らない、突然戦う気のないアヤカに不意打ちをしたことが
辻は気に入らない。
男は辻の側まで来ると
「もう行っていいぞ」
そう言ってきた。
そしてポケットから小切手を取り出し、辻の目の前の地面に投げると
「これが賞金だ」
と言った。どうやらこの三人組に賞金をかけた人間のようだった。
- 127 名前:影武者 投稿日:2001年08月03日(金)03時36分37秒
- 辻は自分の前に落ちている小切手をみつめていた。
正直拾う気になれない、いくら加護が助かるとはいってもやはり嫌だった。
おそらく加護も後でこの事を聞いたら、そんなもの拾わなくていいと言って
くれるだろう。
だが、だからこそ辻はこの小切手をそのままにしておけない。
拾うなと言ってくれる加護だからこそ、この小切手で加護が助かるなら
たすけてやりたい。
(このことは亜依ちゃんには黙っておこう)
自分の胸の中だけにしまっておくことを決め、地面の小切手を手にとった。
- 128 名前:影武者 投稿日:2001年08月03日(金)03時37分23秒
- 辻がレフアの上からどいたあと、男はレフアの前に立った。
レフアは男と視線を合わせたくないのか下をむいたまま動かない。
男はしばらく様子を見ていたが、いきなりレフアに電撃を放ち、それを
受けたレフアは声をあげることもなく気絶させられた。
辻は予想もしていなかった事態に言葉がでない。
やがて最後に、少し離れているミカの所に行くと、いきなりミカの背中を
蹴りつけた。
ただでさえ呼吸が苦しいはずのミカはよけいに苦しみはじめた。
そしてミカにも電撃を放とうとする。
「待って!!」
たまらず辻が止めに入る。
「邪魔するな、お前にはもう関係ない」
そう言って、再びミカのほうをむくが、その前に辻が立ちはだかる。
「おいおい、魔術も使えないできそこないが止められると思ってんのか?」
そう言っても辻が攻撃体勢を解かないのを見ると、頭にきたのかいきなり
辻に電撃を放ってきた。
これはよけられないと覚悟を決めたが、直前で急に電撃が止まった。
「乱暴すぎですよ、はたけさん」
聞き覚えのある声がする。
その声の持ち主は辻よりもかなり離れた場所から聞こえた。
「安倍さん!!」
- 129 名前:影武者 投稿日:2001年08月03日(金)04時01分40秒
- >>117
いらっしゃいませ〜。
感想どうもありがとうございます。
リクエストについては今のところ可能な範囲のものが多いので
大丈夫そうです。
ただ、無理矢理くっつけたりして作品をつまらなくしないよう
に気をつけます。
とりあえず今の感じは維持するようにします。
いい意見をありがとうございます。
>>今までリクしてくれた人
全部参考にしてます。
おかげで自分の中でいろんなネタが浮かんでます。
ホントみなさんのおかげで順調に更新できてますんで
これからもお願いします。
極端な話、滅茶苦茶なリクでも考えているうちに、どんどん
いろんなことが連想できて、いつに間にかリクとは関係ない
ネタを思いついたりするので。
それでは今回もレスよろしくお願いします。
- 130 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月03日(金)04時11分51秒
- まさかこんな遅くに更新してるとは・・・生更新だったよ。
リクはやっぱミニモニ結成してほしいな。
ミカにここで恩を売っておけば・・・。
- 131 名前:影武者 投稿日:2001年08月03日(金)04時16分51秒
- >>130
新しいネタが浮かびそうな予感がします。
今日もまた深夜に更新するかもしれません。
- 132 名前:JAM 投稿日:2001年08月03日(金)21時11分01秒
- oh〜!!
上の作者さんの一言で
今日も寝不足決定
- 133 名前:影武者 投稿日:2001年08月04日(土)03時13分30秒
- 辻にはわからないことだらけだ。
この場で起こっている事の半分も理解していないのに事態は進行していく。
1つだけ確実なものがあるとすれば、おそらく安倍は全てを知っていそうだと
いうことぐらいか。
安倍は倒れている加護に近づくと言った。
「この子を診てあげて」
最初は自分にそう言ったのだと思った。
しかし辻はあることに気がついた
(うしろに誰かいる!?)
辻が振り返るとそこには長身の女性がいて、加護のもとへと歩いて行く。
その女性は加護が倒れている場所につくと、加護の上体を起こして額に手を
あてる。すると意識のなかった加護が目覚めた。
気がついた加護は起きあがろうとするが、顔をしかめて倒れこむ。
無理もない、アヤカの魔術で吹っ飛ばされた時にできたと思われる無数の傷
が体のいたる所にあるのだから。
- 134 名前:影武者 投稿日:2001年08月04日(土)03時14分06秒
- 「いきなり動くのは無理だよ。
何ヶ所か骨折してるとこもあるんだから」
そう言った長身の女性が加護の体を抱き寄せたかと思うと、加護の体が青白い
光に包まれる。
やがてその光は完全に加護の体を包みこみ、傷を癒していく。
加護は完全に回復したようで、危なげなく立ちあがると礼を言う。
「あの、どうもありがとうございます。えっと・・・」
「圭織だよ、加護ちゃん。」
「なんでうちのこと・・」
「知ってるよ、なっちから教えてもらったの。
それよりもほら、早くあの子の所へ行ってあげなよ」
そう言って辻のほうに視線を移した。
- 135 名前:影武者 投稿日:2001年08月04日(土)03時14分54秒
- 加護は辻のほうへ小走りで近づいてきて言った。
「いったいどうなっとるん? あの三人はののが倒したんか?
それになんで安倍さんがおるん?」
どうやら加護も疑問だらけらしい。
辻も加護よりたいしてわかっていることの数は変わりはしないのだが、
とりあえず一言だけ説明した。
「私もよくわかってないんだけど、あの男の人が賞金かけた人みたい」
そう言って、はたけを見る。
加護が見てみると、はたけは険しい顔をして安倍を睨みつけていた。
はたけは一年前安倍と飯田のたった二人に、仲間を殺されたうえ自分達の部隊を
ほぼ壊滅させられた時のことを思い出していた。
- 136 名前:影武者 投稿日:2001年08月04日(土)03時15分29秒
- 「百人の兵士より優秀な魔術士一人」とは戦闘における鉄則である。
たとえ100対1であっても、普通の人間が魔術士相手に戦って勝てるはず
がない。逃げるしかない。
だがしかし、戦争における鉄則というわけではない。
なぜなら歴史上、魔術士が戦争に参加することなどなかった。
魔術士はいかなる国の利益にも属さない。
それが魔術士連盟のとっている態度である。
今までに国の軍部に接触した魔術士がいなかったわけではないが、そのような
魔術士は連盟によって警告、もしくは消されてきた。
国にしても魔術士を戦争に使おうものなら、連盟が黙ってはいないことは
知っているはずである。
長い間、魔術士を戦争に参加させることは国が禁止し、また魔術士も
そのようなことは考えないようにしてきた。
しかし例外が発生した。
数年前にあらわれた5人の男達が、その歴史を終わらせつつあった。
はたけはその中の一人だった。
- 137 名前:影武者 投稿日:2001年08月04日(土)03時16分18秒
- その5人の素性を知る者は一人もいなかった。
どこから現れたのか、そしてどんな手段を使ったのか、とにかくこの国の
軍部に接触すると一年もたたないうちに、国の軍事面の中心を担う存在に
までのぼりつめたのだった。
その5人の中でもリーダー格の男が中心となり、ある計画を進行させていた。
ある計画とはこれまでどの国も実行できなかったこと、すなわち
魔術士で構成される軍隊をつくることだった。
もちろん魔術士連盟はすぐに警告をしたのだが全く無視され計画は進められた。
公にはそのような事は行われていないことになっているので、連盟としても
あまり表向きには手がだせないでいた。
その後何人かの刺客が送りこまれたものの、この5人によって皆殺しにされ、
計画はその大部分が完成されつつあった。
そしてとうとう魔術士の部隊は完成し、最初の任務は魔術士連盟のトップの
暗殺だという情報を連盟が手に入れた。
おそらく最終的には連盟自体を葬り、自由に魔術士が戦争に参加できるよう
にするのが目的と思われた。
- 138 名前:影武者 投稿日:2001年08月04日(土)03時16分50秒
- 「暗殺者から長老を守って欲しい」その依頼を請けたのが安倍と飯田だった。
といっても、最初から安倍達のところへ依頼がきたわけではない。
なぜなら安倍と飯田は半年前に他のグループから独立したばかりで、実績・
知名度ともに全く知られていないグループだったのだから。
実は本来ならこの仕事は安倍の師である中澤が請ける予定だったのだが、
都合で請けられなくなったため、中澤の強い推薦により安倍達に任される
ことになったのだ。
「これから警備にあたる安倍です」
「飯田です」
魔術師連盟本部、しかも長老室の中で安倍と飯田は軽い自己紹介をしていた。
「うん、頼みましたよ。
警備に関しての要望があれば遠慮なく言ってください」
全く危機感のなさそうな声で長老はそう言ってきた。
ものわかりのよさそうな人らしいので安倍は少し安心し、とりあえず自分の
提案を述べることにした
「それじゃとりあえず――――――
- 139 名前:影武者 投稿日:2001年08月04日(土)03時19分23秒
- 一週間後の朝方、連盟本部の長老室に爆音が轟いた。
「すごいね、ほんとになっちの言ったとおりになっちゃったよ」
「しょうがないっしょ、こっちが出てこないんだから」
安倍と飯田は空中からその様子を見ていた。
実はあれから安倍は長老に事件が解決するまでここには来ないで欲しいと
提案し、こっそりと夜中のうちに長老を近くの連盟支部まで送り届けた。
その際、圭織に空からつれていってもらったので、もし既に監視がついていた
としても長老はまだここにいると思っているに違いない。
事実、連盟本部の周囲を1週間も前からはたけ達は20人以上の魔術士で
囲み暗殺の機を伺っていたが、全く外出する気配のないことに我慢できなくなった
ため先ほど突撃を開始したのだった。
戦況を眺めていた安倍は、よく訓練された部隊だと思っていた。
連盟内にいる魔術士を牽制するチーム、そしてそのチームがつくった道を進む
暗殺チームとに別れているらしく、そのどれもが一切乱れず流れるように
役割をこなしている。
- 140 名前:影武者 投稿日:2001年08月04日(土)03時19分56秒
- だが気になるのは長老室を爆破した人間だ。
はっきりとはわからないが、かなり遠くからの正確な魔術だった。
(そいつがリーダーかどうかはわからないけど一番厄介か・・・)
「圭織、むこうに降りて」
そう言うと、長老室を爆破した人間がいると思われる地点を指さす。
飯田は安倍を抱えたまま、今だ交戦中の魔術士達の上を飛び越し
言われた場所の真上まで飛ぶと降下しはじめる。
おそらくこの三人の女性のうち誰かが犯人だろう。
着地した先には三人の女性がこっちを見ている。
まさか自分達のところまでくる人間はいないと思っていたはずだ、少しは
動揺してもよさそうなものだが、その女性たちは反応らしい反応もないまま
こちらを見つめている。
「今すぐ戦うのをやめなさい」
とりあえず言ってみるが、意味がなさそうなことは相手の眼を見てわかった。
どうにも彼女達の眼には自我が宿っていないようにしかみえない。
操られているというよりは催眠状態であるといったほうが正しいようだ。
- 141 名前:影武者 投稿日:2001年08月04日(土)03時20分27秒
- 案の定、いきなり三人ともがこちらに光球を放ってきた。
飯田の魔術がその攻撃を防ぐと、安倍が一人で突っ込んでいく。
三人はそれぞれタイミングをずらして安倍にむかって魔術を放つが、
安倍はそれを横に跳んで簡単に避けると、そのまま回り込み三人に接近する。
(やっぱりこの娘達普通じゃない)
今の三人には安倍しか見えてない。単純な思考しかできないようなところをみると
やはり催眠術にでもかかっているのか。
飯田の放った衝撃波が三人の中心の地面につきささり、その衝撃で彼女達は
バラバラに吹き飛ばされた。
「圭織、どうやらこの人達催眠術でもかけられてるみたい。
・・・・・・見て、こんだけ騒いだのに誰も助けにこない」
そう言って、いまだに連盟の魔術士と交戦中の人間を見る。
「で、どうすんの? なっち。
とりあえず普通の催眠術ならなんとかできるけど」
「そうだね、頼むよ。彼女達から黒幕のことを話してもらおう」
飯田が吹っ飛ばされて気を失っている三人の女性のうち一人に近づきかけた時
「圭織!!」
言われなくても飯田も気がついていたようで、いきなり襲ってきた電撃を
魔術で防御する。
- 142 名前:影武者 投稿日:2001年08月04日(土)03時27分43秒
- >>132
もし本当に起きてたらすいません。
中途半端な更新になっちゃいました。
今度の更新では期待にそえるよう頑張ります。
う〜ん、それにしても加護辻編は長い、長すぎますよね。
- 143 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月04日(土)04時38分02秒
- 加護の怪我を癒す女神飯田に萌え
今後の安倍飯田コンビの強さに期待
プッチや辻加護とは違う高貴華麗な戦い方してくれたら嬉しい
- 144 名前:影武者 投稿日:2001年08月05日(日)16時58分31秒
- いつのまにか二人の男がこちらに向かって歩いてきている。
安倍も飯田も気がついていた、明らかに他の人間とは違い、その瞳には自らの
意思が宿っている。
「はたけさん、それにしゅうさんですね?」
安倍は二人の顔を知っていた。
なぜならその二人を含めた五人の男達は連盟の極秘のブラックリストのトップ
から上位5位を占める男達である。
当然そのようなリストを安倍が見ることなどできないのだが、一度だけ中澤の部屋
に無防備に置いてあったのを盗み見たことがある。
「おいおい、ばれてんぞ俺達のこと」
しゅうが意外そうな声をあげるがそらく決して動揺はしていない、おそらく
これから殺す相手の言うことだからと聞き流したのだろう。
(これから死ぬ人間の言うことはどうでもいいって顔だな)
しゅうは歩く速度をさらに速めると、腰に携帯していた二本の短剣を抜くと
今にも跳びかかってきそうな殺気を放ちはじめる。
- 145 名前:影武者 投稿日:2001年08月05日(日)16時59分02秒
- 安倍も戦闘体勢をとるが
「なっち、気をつけて。
あんまり私から離れないで戦ってね」
飯田がそう言うことなど今までなかっただけに、言葉の裏が読み取れない。
「離れないでってどういうこと?」
「別々に戦っちゃだめってこと。
1対1じゃ多分こっちが不利だよ」
安倍は「そんなに強いの」と言いかけて安倍は固まった。
飯田の体から何か音が聞こえている、既に何かの攻撃を受けたのかとも
思ったが、やっと正体がわかった。
飯田の体が静電気を纏っている。
おそらくさっきの電撃を防ぎきれなかったためであろう。
(圭織が防ぎきれないほどの威力!?)
「くるよ!!」
飯田に気をとられていた安倍にむかって警告する。
前方でははたけの周囲の空間が帯電し始める、おそらくまた電撃を放つつもり
なのだろうが、明らかに先ほど以上の威力であろう。
それほどの魔力が空間に集中している。
- 146 名前:影武者 投稿日:2001年08月05日(日)16時59分45秒
- 予想通りとんでもない量の電流が安倍達にむかう、はっきり言って個人の使う
魔術の威力としては考えられない。
もはや電撃などと呼べる代物ではない、自然の雷をも凌駕する雷撃が二人の
視界を覆い尽くした。
飯田の全力の魔術でなんとか防ぐが、視界を取り戻した時には目の前にはたけだけ
しかいない。
「圭織、上!!」
今度は安倍がそう叫び飯田を突き飛ばすと、自分も反対側に避ける。
二人の間に空中からしゅうが跳びこんできて、両手の短剣を安倍と飯田に
それぞれ振るう。
二人ともなんとかその攻撃をかわしたが、そのせいで一気に飯田と安倍の距離が
開き、さらに安倍にはたけの放った無数の光球が襲いかかり、それを避けていく
うちにさらに飯田から遠ざかっていく。
事態は最悪へと進んでいる。飯田との距離は開く一方だ。
動けば動くほど死へと近づいていくというのに動くのを止めるわけにはいかない、
今もはたけの魔術が安倍に絶え間なく降りかかっているのだから。
とにかくいちいち確認せず、思いっきり右に左に跳びまわっているが、今のところ
一撃もくらってないということは上手く避けられているということだろう。
- 147 名前:影武者 投稿日:2001年08月05日(日)17時00分17秒
- はたけの攻撃が一瞬止まる。
チャンスとばかりに飯田を助けようと走りはじめる・・・・ところだった。
走っていたら間違いなく死んでいただろう、はたけがあの特大の雷撃を再び
放とうとしている。はたけの周囲が帯電していた。
魔導士でない安倍には、あの広範囲に威力の及ぶ魔術を避けることも防ぐこと
もできない。
しかたなく安倍は一番近くの建物に避難することにした。
(これで完全に圭織と孤立しちゃう)
建物に逃げ込むと同時、雷撃が炸裂する。
安倍の視界を光が覆い尽くす、その直前に見えた飯田の姿を信じるならば
(私達の負けかもしれない)
安倍の視界が真っ白になる瞬間―――飯田の首をしゅうの短剣がとらえていた。
- 148 名前:影武者 投稿日:2001年08月05日(日)17時00分55秒
- ・・・・「圭織、上!!」
そう言われて安倍に突き飛ばされた後、飯田は後悔した。
安倍と離れてしまった、これでは防御の手段を持たない安倍ははたけの魔術の
集中放火を浴びてしまう。最も回避しなければならない事態だったのに。
案の定はたけの狙いは安倍のようで、魔術の弾幕が降り注がれていく。
しかし安倍の心配をできるのもここまでだ。
目の前には両手をだらりと下げて、両手の短剣を不気味に揺らしているしゅう
がこちらの隙をうかがっている。
飯田が先手必勝とばかりに魔術を放とうとすると、それが隙だとばかりに
突然しゅうが襲いかかってきた。
前かがみのかなり姿勢を低くした突進で、その速さといい恰好といいまるで
獣のようだ。しかし狙いだけは機械のように正確に飯田の心臓を狙っている。
並の魔術士ならばその一突きで終わっていたであろうが、飯田は体をわずかに
横にずらして――といってもそれだけ動かすのがやっとだったのだが―――
短剣をかわす。
- 149 名前:影武者 投稿日:2001年08月05日(日)17時03分53秒
- しかし次の攻撃は飯田でなければ死んでいただろう。
しゅうは一撃目がかわされたとみるや一瞬の間もおかず、しかも飯田を
見もせずに正確に首にむかって短剣を振るう。
飯田は体をうしろにそらして紙一重でかわした。
そこでやっとしゅうの攻撃が止まった、というよりもその時点で相手は
死んでいるはずなのだから、それ以降のことは考えていなかったため
動きが止まってしまったのだ。
その一瞬の間に安倍にむかって降り注ぐ無数の光球のうちの、安倍に直撃
しそうな数発を自分の魔術で防いでやる―――――安倍はよけるのに夢中
で気づいてないようであったが。
それに気づいたしゅうが隙を見逃さず飯田にむかっていく。
ほっとする間もなく再び開始されるしゅうの攻撃をかわす。
かわすと言っても、飯田のそれは訓練された動きではないため反撃には
結びつかない、そのため自然と飯田の防戦一方となってしまう。
魔術を使う暇を全く与えない攻撃である。
しかし、これだけしゅうの攻撃をかわせるのは飯田だからで、たとえ安倍
であっても反撃なしでかわせと言われたら既に何回かくらっている。
身体能力だけなら安倍をも凌駕する飯田だからこそ可能な事だった。
- 150 名前:影武者 投稿日:2001年08月05日(日)17時07分54秒
- 飯田との戦闘が長引くにつれ、しゅうにはわかってきた。
これまで神業とも言えるほどこちらの攻撃をかわしつづけている飯田だが、
よく見るとその動きは無茶苦茶で、運動神経だけで攻撃をかわしている。
(どうやら相手は素人だ。それなら戦い方さえ変えればすぐに殺せる)
そう考えると、急に攻撃のリズムを変えた。
左右の短剣の動きに緩急をくわえ、徐々に飯田を追い詰めていく。
・・・飯田は焦りはじめていた。
(なんか急によけにくくなった気がする、これじゃいつかくらっちゃう)
そして焦りで体の動きが鈍ったことに加えて、しゅうのむこうで再びあの
強力な雷撃を放とうとするはたけの姿が見えた。
(やばい!!なっちじゃあれは避けられないかも・・・)
しゅうはその一瞬を見逃さず接近すると、飯田の足を踏みつけ動けなくして、
心臓をねらって短剣を突く。
飯田は超人的な反射神経で左手を前にだし手の平でガードする。
左手を貫通し、スピードの落ちた短剣をもっているしゅうの右手を自分の
右手で掴んで止める。
しかし次の瞬間飯田の首にしゅうの左手の短剣が襲いかかる、ちょうどその時
はたけの放った雷撃が安倍の駆け込んだ建物を爆砕した・・・・
- 151 名前:影武者 投稿日:2001年08月05日(日)17時08分24秒
- 「いった〜い!」
しゅうの繰り出した必殺の技をうけたはずの飯田だが、反応といえばそう
叫んだぐらいであった。
というよりも反応があること自体おかしいのだが。
首を少し深めに切られ左手には短剣が刺さったまま、しゅうの手前数メートル
離れた位置に飯田はいた。
飯田がうしろにさがったわけではない。短剣が飯田の首を切り裂く直前に飯田の
強烈な右手の突き出しを胸にくらい、しゅうが吹っ飛ばされたのだった。
しゅうには、わかりかけていたと思っていた飯田が再びわからなくなっていた。
ただの素人だと思いはじめていたところに、達人でも実行できないような回避方
であっさりピンチをしのがれた。
しかも今の打撃で数秒間呼吸が不可能になり反撃を封じられてしまった。
一方飯田もお世辞にも無事とは言い難い。なにしろ出血がひどく、首と手の平
から血の糸を地面にむけてつくっている。
が。その距離は完全に飯田に有利な距離で、いくらしゅうでもそこから飯田の
魔術よりも先には間合いをつめることなどできない。しかも短剣を一本奪われて
しまっているのだからどうみても不利だ。
- 152 名前:影武者 投稿日:2001年08月05日(日)17時08分58秒
- はたけはいまだに安倍の逃げ込んだ建物にむかって魔術を連発しているはたけを
見て、しゅうは思った
(おいおい、こっちのこと忘れんなよ)
飯田は戦いながらも安倍の援護に気を使っていたというのに、こっちの相方
ときたら・・・・・。
「ちっ、アホが・・・」
そうこう思っている間に、飯田の周囲にいくつもの光球がうまれていく。
はたけが安倍にやっていたことを自分がされるはめになるとは・・・・・・
全て避けきる自信などないが避けなければ全てくらってしまう、悲壮な覚悟を
決めたしゅうはいつでも跳べるよう地面を踏みしめる。
タイミングが大切だった、タイミングを読み間違えればそこで終りだということは
わかっている、とにかく飯田が放つ瞬間の気配を必死で読み取ろうとする。
光球が揺らいだ、その瞬間しゅうは限界まで身を低くして横の地面に滑り込む。
次の瞬間、ほとんどの光球が自分のいた場所、または自分の体の上を通過していく
なか、よけきれなかった何発かがしゅうの脇腹と足を直撃した。
「・・ッ!!」
肋骨と足の骨が砕けたのがわかる。衝撃で地面の上を転がり、上下の感覚が全く
わからなくなった。
- 153 名前:影武者 投稿日:2001年08月05日(日)17時09分56秒
- 目の前の光景がめまぐるしく変化する、自分が地面を転げまわっているのを
理解すると両手を突っ張り回転を止める。
それでもそのまま地面の上をしばらく滑りつづけ、ようやく止まった。
どうやら自分は飯田の魔術からなんとか死なずに切りぬけたらしい、しかし
ここで気を抜いては水の泡だ。急いで次の魔術がくる前にはたけを呼ばなくては。
「は・・・・」
ガコッッ!!
叫ぼうとしたしゅうの後頭部を、魔術を放ちきった直後に飯田の投げた短剣の
柄の部分が強打した。
しゅうが完全に沈黙したのを確認すると、飯田はいまだにこちらの事態を知らず
建物を破壊し続けるはたけにむかって衝撃波を放った。
- 154 名前:影武者 投稿日:2001年08月05日(日)17時10分56秒
- 「なっち!どこ?
無事だったら返事して、なっち!」
三階建ての訓練室だった建物は、はたけの魔術でもはやただの瓦礫と化していた。
はたけは既に飯田の魔術で気絶している、はるか遠くの地面で不恰好に寝転がって
いた。
想像以上に救出は困難そうだった。ほとんど原型すらとどめてないため内部の様子
が全然つかめない、むしろもはや内部の空間など無いのではないかと思うほど崩壊
している。
下手に安倍の位置もつかんでないまま魔術でふっとばしては、安倍が危険だ。
既に死んでいるという可能性はなるべく考えないようにして、必死に名前を叫ぶが
全く反応がない。
いちかばちか瓦礫をふっとばすために魔術を放とうとした瞬間、横のほうから
瓦礫を叩くような音が一回だけ聞こえた。
飯田はその場所まで行くと、なるべく近すぎない位置を魔術で爆破する。
瓦礫の間にできた隙間から安倍のものらしき手がちらりと見える、今度は正確な
位置がわかっているので、次の魔術で完全に安倍を引っ張り出せるだけの空間が
つくれた。
- 155 名前:影武者 投稿日:2001年08月05日(日)17時11分27秒
- 安倍の全身はひどく汚れていて、かなり出血もしているようで、ほとんど
動かずぐったりとしている。
飯田は急いで瓦礫の間から安倍を引っ張り出し、全身の傷を確認した。
背中に大きな傷があり、そこが最もおおきな傷のようだった。
「なっち、今治してるからね。死んじゃだめだよ!」
安倍の体は背中を中心に力強い光で包まれ、十数秒で完全に傷はふさがる。
しかし飯田の不安は続いている、なぜなら傷はふさがっても失った血液までは
魔術では補えない。既にかなり出血をしていた安倍がこのままショックで
死んでしまっても不思議ではない。
飯田は安倍をその場に寝かせておいて、ふとまだ自分自身の傷を治してない
ことに気がつき、とりあえず治しておく。
連盟の中心部ではいまだに戦いが続いている。
じれったい連中だ、できればこっちを助けて欲しい、はっきり言って自分一人
ではこっちの状況をどう処理していいものかわからない。
- 156 名前:影武者 投稿日:2001年08月05日(日)17時17分23秒
- >>143
おもいっきり泥試合になってしまいました。
ホントは安倍も飯田も強いんですけどね。
今回は相手が強すぎたということで納得してください。
感想ありがとうございます。励みになりました。
- 157 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月05日(日)19時26分54秒
- まさか飯田がここまで強いなんて……。
嗚呼はやく続きが見たーい!!
- 158 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月06日(月)00時59分58秒
- 飯田さんカッケーです。
安倍さんが活躍できなかったけどはたけが相手じゃしかたないか。
- 159 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月06日(月)04時00分37秒
- 魔法を使った戦い結構好きです
魔術士の圭織って、某ナーガを想像してしまう(w
影武者さん、応援するよ
- 160 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)06時06分28秒
- とりあえず目先の問題はほぼかたづけたが、事件そのものが解決したわ
けではない。
なぜなら今も連盟内は襲撃してきた魔術士と連盟の職員である魔術士と
で交戦中なのだから。
こんな時の飯田の行動は全て安倍の判断に任せていたのだが、今安倍は
多量の出血のショックでぐったりとしている。
果たしてあてになるかどうか・・・・
「なっち・・・・?」
呼びかけると、安倍は閉じかけていた瞳をうっすらと開けて、首だけを
少し起こして辺りを見まわした。
「圭織、やったんだね」
顔は気丈にも笑顔を保っているものの、実際安倍の声はかなりつらそう
だった。
これでは安倍に話をさせるのは気がひける。ましてや、これから
どうすればいいかわからないなどと情けない質問ができるわけがない。
飯田はかける言葉がみつからず、黙り込むしかなかった。
- 161 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)06時07分06秒
- 安倍は飯田の表情からだいたい何を言いたくて、どうして言えないでい
るのか簡単に想像できた。そして言えないでいるのは彼女が気を使って
くれているからだということも気づいていた。
(気を使ってくれるのはありがたいんだけどね・・・)
飯田の今の顔をみてしまったら気づかないふりをして寝ることなど安倍
にはできるはずもない。
「あの三人の女の子だよ。
最初に私達がやろうとしたことがあるでしょ?」
それだけ言うと、勝手に目が閉じてきた。
どうやら限界のようだ。少し休まないと口を開くこともできない。
言葉が足りなかったかもしれないが、飯田なら気づいて上手くやって
くれるはずだ。
飯田の足音が遠ざかる。どうやら言いたかったことが通じたようだ。
- 162 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)06時07分40秒
- 飯田には安倍の言いたいことがすぐにわかった。
足早に三人の所に向かう。安倍の判断がいつものように正しければ、
これがこの状況を解決する、最も可能性の高い方法だろう。
安倍と飯田が最初にしようとしていたこと、あの三人の催眠術を解く事
だ。といっても催眠術などではない可能性もあるが。
と、そこで飯田は足を止める。
「いったいいつになったら終わるのよ」
思わず口にだしてしまう。
いっそ敵の魔術士を全員自分一人でやっつけた方が楽なのではないか?
うしろから大魔術の一撃も放てば、半分ぐらいは吹っ飛ばせるはずだ。
過激な作戦がいくつも飯田の心にうかびあがる。
三人の倒れていた場所には、一人しかいなかった。
残りの二人は飯田の斜め前からそれぞれ、こちらにむかって魔術を
放ちつつあった。
- 163 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)06時08分18秒
- 正直これ以上戦うつもりはない、飯田はいまだ倒れている一人にむかって
走る。これならむこうも同士討ちを恐れて魔術を使いにくくなるはずだ。
戦闘に関しての判断力なら安倍よりも自信がある。おもったとおり、むこう
は躊躇した――――といっても一撃ぐらいは魔術を放てたかもしれないの
だが、予想外の飯田の判断の早さと走る速度に、相手もためらわざるをえな
かった。
倒れいる一人のところにつくと、すぐに額に手をあてて集中する。
時間がない、残りの二人がどこに隠してあったのか、短めの短剣をかまえて
こちらに駆けだしている。
(よし!!)
飯田はとりあえず催眠術ならばこれで解けたはずだと確信すると、今度は
二人を迎撃するため立ちあがった。
- 164 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)06時08分56秒
- 先ほどまでしゅうの短剣相手に格闘していた飯田にしてみれば、二人の動き
はまるで話にならない。
最初に突いてきたほうの腕に手刀をくらわせて短剣を叩き落とす。ただの
手刀だが飯田の力で殴られた手首は無事ではすまない。そのままくらった
相手は腕を押さえて動かなくなる。
それをいちいち確認しているわけもなく、飯田は次の攻撃に応戦していた。
今度はうしろにさがって間合いをとると、追いかけてきた相手に対して
出足払いの要領で足を刈る。これもタイミングは少しはずしてはいたが、
あまりの力強さに相手は半回転して頭から地面につっこむ。
その時だった。
突然、気絶していた少女が起きあがる。
(やばい、まだはやいよ)
できれば残りの二人を気絶させてから起きて欲しかった。
- 165 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)06時09分28秒
- 「正気にもどった? それともまだやる気?」
相手の眼を見る限りでは、以前の操られていたような感じはしないの
だがこっちからどう確認すればよいのかわからない。とりあえずそう
訊いてみた。
すると飯田のほうを見た途端に魔術を放とうとする。
(失敗? それとも操られてたわけじゃなかったの?)
「どいて!」
飯田はその魔術が自分を狙っているわけではなさそうなことに気づき、
咄嗟に横にどける。
腕の太さほどの光線が飯田の真横を通りすぎる、そして安倍の側で短剣
を振りかざしているしゅうの胸を貫いた。
- 166 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)06時10分08秒
- 「やっぱり操られてたんだね」
「そうです。はやくほかの二人もなおしてあげて」
確かにそのとおりだ。飯田は同じく今度は二人ともの頭に手をおいた。
・・・・・・・
三人が正気にもどった後、飯田はすぐに安倍のもとへもどる。
そばには胸に大穴を開けているしゅうが倒れている。おそらくこの様子
では死んでしまっているだろう。
しかたがない、なにもしなければ死ぬのは安倍だったのだから。
「あの、私達はこれからどうしたら・・・・」
正気にもどったあの少女達のうちの一人が訊いてきた。
「あなたたちの仲間をどうやって止めたらいいのか教えて」
- 167 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)06時10分39秒
- 「・・・・止めるには、しゅうとはたけの命令が必要なんです。
この部隊にいる魔導士ははたけの、それ以外はしゅうの命令でしか
止められません。
それ以外の方法といったら、私達にやってくれたようにしてもらう
しか・・・・」
「そうか。
それじゃ私はちょっとむこうをなんとかしてくるから、あなたたち
はなっちをみてて」
そう言うと、三人の体の怪我を治してやる。
自分達の体を奇妙な光が包んでいるのを不思議そうに見ていたが、
やがてそれが回復の魔術だということに気づくと、三人共が飯田を
みつめる。
「なに〜? そんなに見ないでよ。
怪我した体じゃなっちを守れないでしょ?」
そう言って、照れくさそうな顔を隠すように振り向いて走りだす。
「ありがとうございます!!」
- 168 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)06時11分21秒
- 感謝の言葉を背に受けると、やはりむこうの魔術士は悪人ではなく
操られているだけというのが実感できた。
そして自分のこれからやろうとしていることも決して無駄にはならない
ことがわかり、なんとかこの事件も終わりに近づいていっていることに
安堵感をおぼえる。
飯田が全員を元に戻すのに時間はかからなかった。
うしろから一人ずつ倒し、そして正気にもどす。どうやらむこうには
命令された以外の動きに無反応らしく、どれだけ自分達の味方が減ろうと
連盟の魔術士との戦いが最優先のようだ。
「これで最後か」
そう言った飯田の下には、腕を逆手に極められて地面に組み伏せられた
まま、頭を飯田の手につかまれている相手の姿があった。
最初のほうに治した人間は既に起き上がっているが、どうやらむこうの
三人と同じく自分達のしていたことは覚えているようで、飯田の邪魔を
する者はいなかった。
- 169 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)06時11分55秒
- 飯田はフラフラと安倍のところに歩きはじめる。
(もう限界。魔力切れだよ〜)
といっても魔術士は魔力ではなく集中力で魔術を使っているため、飯田
の思ったことはありえないことなのだが、それでも飯田にはもはや通常
の威力以上の魔術が使えないほど集中力が無くなっていた。
(なんか急に静かになっちゃたな)
数分前とは一転して、連盟は静寂につつまれている。
というのも、正気をとりもどした暗殺者達は突然自由になったせいも
のの、それ以上戦うこともできず、かといって逃げてもいいものかと
全員が迷っているようだった。
連盟側も突然攻撃が止んだものの、暗殺者自体はまだ生存し続けている
ためうかつに近寄れないでいた。
さすがに飯田もこれ以上面倒を見る気はなかった。
相手が戦う気がない以上、連盟の人間だけでもなんとか処理できるはず
だろうと思うことにした。
- 170 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)06時12分28秒
- 安倍の近くにはまだあの三人の少女がいた。
どうやら逃げずに自分が帰ってくるまで守りつづけていてくれたらしい。
飯田はひとまず彼女達に感謝し、さすがに全員の面倒はみきれないが、
彼女達ぐらいはいいだろうと思い
「あのさ、連盟の人達がこっち来る前に逃げちゃったほうがいいよ」
あまり後のことは考えずそう言った。
「いいん、ですか?」
「いいよ・・・。いいと思うよ、私は。
それにね、連盟の人達は多分あなたたちの言う事信じないと思うんだ」
今まで今回のような前例はないが、事実そうなるだろう。
なにしろ相手は連盟のトップを殺そうとしてきた人間なのだ、おそらく
操られていたとはいえど、黒幕へのみせしめのために重い刑が与えられる
ことは間違いないはずだ。
「私も圭織に賛成だよ」
突然安倍が口を開いた。どうやら起きていたらしい。
「でもその前に質問させて。
なんで連盟の、しかも長老を殺そうとしたの?」
- 171 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)06時12分59秒
- 「この国の国王は魔術士を戦争に使いたがってます。でも連盟がそれを
許さないことも知っています。
そこで邪魔な連盟に警告する意味で、また連盟自体の力をダウンさせ
る狙いがあって長老暗殺が計画されたんです」
そこまでの話を聞くと、安倍は数秒間考え込み
「暗殺の計画を考えついたのは誰?」
と次の質問をする。
「魔術士を戦争に使うことも暗殺の計画も、考えたのは全て・・・・・」
「俺が考えたんや」
「「!!!」」
声は安倍の寝ているそばの瓦礫の上から聞こえてきた。
そこにはいつのまにか男が座っていてこちらを見下ろしてきていた。
- 172 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)06時23分53秒
- >>158
どうも!!感想ありがとうございます!!
安倍の活躍は次の更新で、ということで。
はやければ今日の深夜にでも更新する予定なんで。
やっぱり感想があるとペースも速くなって助かります。
>>159
感激です!!応援してもらって!!
>>某ナーガ
そう言われてみれば似てますね。
多分知らず知らずのうちに影響を受けてたのかもしれません。
今後も応援よろしくお願いします。
- 173 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月09日(木)09時56分14秒
- 飯田は一人ずつ催眠を解いていったのか
根性あるな
- 174 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月09日(木)17時29分26秒
- 誰だろう気になる…
この流れで行くとつんくでしょうか?
嗚呼気になる……
- 175 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月09日(木)19時33分30秒
- 魔術士の飯田さんはやっぱりセクシー衣装であって欲しい
- 176 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)22時38分41秒
- 「いつからいたかわかる?」
安倍が飯田に聞くが、飯田も今気づいた様子で首を振る。
この中ではおそらく最も気配を察知する能力が高いであろう飯田が
気づかないでいたのだから誰も気づくはずがない。
とにかく今寝ている場合ではないことは明らかなので、かなり
無理をして安倍は立ちあがる。
その男以外の全員が戦闘体勢をとっているが、男だけは視線を連盟
と暗殺者の魔術士がいるほうを見ていた。
「おっ、とうとう連盟の腰抜けどもも動きだしよったで」
言われたほうを見てみると、確かに攻撃の気配がないことを知った
連盟側が暗殺者達のほうへと押し寄せている。
「こらあかん。俺の事しゃべられたらやばいで」
また男が独り言を言うと、男の目の前に拳大ほどの光球が現れる。
「圭織!!」
飯田が叫んだ時には、飯田を含めてその場にいた三人の少女たちも
男へ魔術を放っていた。
- 177 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)22時39分15秒
- 飯田と三人の放った閃光または光球のいずれも、男はおろかその目の前
に浮かぶ光球にすらとどかなかった。
「なんで!?」
飯田が叫ぶが無理もない。男は今攻撃用であろう魔術を使っているはず
なのに飯田達の魔術を防御した、つまりいっぺんに二つの魔術を使って
いることになる。
どうも今回の敵はおかしい。はたけの魔術の威力といい、二つの魔術を
同時に使うこの男といい不気味すぎる。
考えている暇はなさそうだった。男の目の前の光球は今や10メートル
を越える直径にまで膨張している。
「圭織、あれを撃たせちゃだめ! とにかく攻撃をつづけて!」
「黙って見とき」
そう言うと、今度はこっちにむかって手を一振りしてきた。
それだけで猛烈な突風が安倍達に襲いかかる。全員なんとか踏ん張るが
安倍は疲労のせいで足に力がはいらず吹き飛ばされてしまった。
- 178 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)22時39分54秒
- 飯田がなにか叫ぶのが聞こえたが、吹っ飛ばされて転げまわる安倍には
どう言ったのかまではわからない。
やっと止まったころには、あの男がさらに倍ほどに巨大化した光球を
放っているところだった。
そのむこうには連盟の魔術士達と暗殺者達が防御の魔術を発動させている
のが見えるのだが、どうみても男の放った魔術に耐えきれるようには思え
ない。
着弾する瞬間には、さらに倍に膨らんだ光球はその場にいた人間を
全員飲み込むと、連盟の建物を大きくえぐり突き抜けていった。
あとには何も残らず、まるでその場にいた全員が上手く逃げたのでは
ないかと錯覚させられるほどだった。
おそらくその場にいた人間は全滅したとみていいだろう。
- 179 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)22時40分59秒
- 安倍は今にも倒れそうな体で、飯田達のもとへとむかう。
今度は飯田達を攻撃するつもりなのか、男は四人のほうをむいている。
そして飯田を除く三人を見て言った。
「そんな警戒せんでええで。
お前らほどの魔術士殺すんわもったいないしな、俺についてくるん
なら生かしといたる」
「だめよ! ついていっちゃだめ!
あなた達は逃げなさい、私達がこいつを止めておくから」
「でも・・・」
「いいから行って!!」
安倍の迫力に気おされた三人が走りだす。
男は安倍達を無視して空を飛び、三人の上から回りこもうとする。
が、同じく飯田も空を飛び男にタックルする。さすがに予想していなかった
ようで仕方なく男はいったん止まった。
「なんや、お前も飛べるんか・・・・・・・・仲間にならんか?
俺んとこくるんなら生かしといたるで」
- 180 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)22時42分07秒
- 「やだよ。私の仲間はなっちだもん」
「ふ〜む。あいつのことか?」
後ろにいる安倍のほうを見つめてそう言った。瞬時に男の考えていることが
わかった飯田は男の背後から殴りかかるが魔術の壁で阻まれる。
空中では魔術の使えない自分のほうが不利だ。こうやって殴りかかっている
うちは相手も防御するしかないだろうからいいが、地上に降りられると
厄介なことになる。
「なっち、今のうちに逃げて!」
そう言ってはみたものの、今の安倍では逃げられるわけがないことはわかる。
「そうはさせんで」
飯田に軽い衝撃波をあびせてふっとばし、安倍に閃光を放つ。
その瞬間、飯田は最後の力で飛んだ。ほとんど瞬間移動に近いスピードで
安倍の前に移動して防御した。
しかし既に限界以上の力を出し切った飯田の魔術は不完全で、閃光は防御
を突き破り二人に襲いかかった。
(ごめんなっち、もうだめみたい)
- 181 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)22時42分37秒
- 体の感覚がほとんどない。
かろうじて生きているようだが、どっちにしろもう長くないだろう。
安倍は意識が薄くなっていくのを感じながら、自分の体の上におおい
かぶさっている飯田を見ていた。
呼吸はしているが自分よりダメージは大きいのは見ればわかる。
(ごめんね圭織、足手まといになちゃって・・・)
男がとどめをさそうとしているのが見える。
安倍は眼を閉じた。
・・・・そして爆音が響いた。
(あれ? なんで聞こえるの?)
音が聞こえた時は既に死んでいるはずなのにおかしい、そう思い再び
眼を開ける。だれかが男にむかって魔術を放ったらしい。
「もっと派手なんいかんかい!! みっちゃん」
「ムチャ言わんといて。これが限界よ」
「そんなことよりこの二人、なっちと圭織だよ」
(ああ・・・。助けにきてくれたんだね、裕ちゃん・・・)
そう思ったのを最後に安倍は意識を失った。
- 182 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)22時43分20秒
- ・・・・・・二日後
安倍が目覚めた場所は連盟内にある医務室だった。
「あっ、なっち起きた?」
「ん、矢口ここどこ? 」
「わすれたの?連盟の医務室だよ。 昔よく遊びに来てたじゃん」
目の前の少女―――中澤を通して知り合った友人の矢口―――をみて
やっと安倍は自分になにがあったかを思い出しはじめた。
「ありがと。矢口が怪我治してくれたんでしょ?」
「そうだよ〜。ひどかったんだから二人とも。
どっちか治してるうちに片方が死にそうなもんだから焦っちゃたよ」
「そういえば圭織は?」
「圭織は半日もたたずに元気になったよ。
たぶん自分の家にでもいるんじゃないかなぁ」
安倍はとにかくあの後のことが聞きたくて飯田の家に行くことにした。
「それじゃ私ももう帰るよ。いいでしょ?」
- 183 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)22時44分12秒
- 矢口は少し何かを思い出すように上をむくと
「あのね、裕ちゃんからの伝言があるんだ。
えっとね、なっち達が殺されそうになった相手はね、つんくって言って
とっても危険な奴らしいのね。
だからさ、もし戦うようなことになったら絶対に裕ちゃんかみっちゃん
に連絡してって。できないようなら逃げろだって。
そんで自分からつんくにケンカ売るようなことはするなって」
「わかったよ。たしかに私もそう思う。
そんじゃ私は行くから。 またいつか遊びにくるからね」
「うん、気をつけてね」
安倍は医務室を出ると、飯田の家へと急いだ。
- 184 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)22時45分12秒
- 飯田の実家は連盟本部の近くの高級住宅地にあって、その中でもかなり
大きな家である。
安倍の今の服装はというと黒いTシャツに白いズボンとスニーカーと
いう大変地味なもので、さすがに飯田の家に近くなるにつれそのような
恰好の人間はおらず少し恥ずかしいが、そうも言っていられない。
(これだから圭織の家のまわりって苦手なんだよな)
安倍は歩く速度をはやめる。
10分後、安倍は飯田の家の大きな門の前にいた。
「すいませ〜ん」
門の中に大きな声で呼びかけると、そばにある執事室からでてきた男が
門に近づく
「安倍様ですね。今開けます」
そう言うと、大きな門をゆっくりと開く。
「お嬢様は自室にいますので」
それだけ言うと再び門を閉め、執事室へと帰って行く。
- 185 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)22時45分49秒
- 飯田の部屋の前に来ると、やっと緊張がほぐれる。
「圭織、はいるよ〜」
ほとんどノックもせず扉を開ける。いまさら礼儀がどうのこうのいう
仲ではないので遠慮などしない。
(う〜ん、いつ見ても慣れない部屋なんだよね。
本人のキャラと合わないっていうか、逆っていうか・・・)
飯田の部屋の中には本とベッドしかないと言ってもよい。しかもその
ほとんどは安倍には理解できない魔術の本だ。
訓練しなくてもなんでもこなせる割に、魔術に関しては努力を惜しまない。
暇な時は1日中この部屋で魔術書を読んでいることも少なくない。
飯田の魔術のほとんどは訓練であみだしたものではなく、これらの書物に
よるものだった。
空を飛ぶ魔術も、得体の知れない古本屋から高額で買った怪しい本から
学んだし、治癒の魔術に必要な知識も本をみて独学で学んだ。
そして今日もベッドのまわりに大量の本をはべらせていた。
- 186 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)22時46分20秒
- 「なっち、やっと起きたんだね」
「心配かけてごめんね。
ほんとにさっき起きたばっかりでさ、いったいあの後どうなったのか
とか全く知らないんだ」
飯田の表情が少しかたくなったように見える、あの時は本当に死にかけ
たのだからそうなるのも理解できる。
「・・・私も裕ちゃんから聞いたんだけど。
あの時さ、裕ちゃんとみっちゃんと矢口が任務から帰ってきたの。
裕ちゃんとみっちゃんが助けてくれてつんくを追い払ったらしいん
だけど、なんかしゅうの死体とはたけはもって行かれちゃったんだって。
で、私達が逃がした人達には賞金がかけられたみたいなの」
「つんくが長老暗殺を計画したってことは伝わってないの?」
「なんかね、目撃者が私達二人しかいないのと、二人とも連盟の人間
だから私達の証言だけじゃ証拠にはならないんだって」
「そっか、まあ国が相手だからね」
- 187 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)22時46分52秒
- 「ねえ、私達これからどうするの?」
飯田が訊いてきた。
「さあね、とりあえず連盟の指示待ちだね」
・
・
・
・
そして数日後、安倍と飯田は今回の長老の暗殺防止・暗殺者撃退に
大きく貢献したとして、連盟から特殊な任務を請けることになる。
内容は逃げた三人の少女の身柄の確保だった。
ようするにつんくの謀略を暴くための証拠集めである。
そして飯田と安倍の長い旅がはじまった。
- 188 名前:影武者 投稿日:2001年08月09日(木)23時01分37秒
- >>173
そのとおりです。
ひとりずつその様子を書くのはつらかったんで省きました。
これからも読み続けてくださいね。頑張りますんで。
今後ともよろしくです。
>>174
いつもレスありがとうございます。
毎回励まされてます。
もしよければこれからも感想書いてください。
こっちもやる気になるんで書くペースがあがって助かります。
>>175
飯田の服装は細かい部分までは考えてないけど普通です。
動きやすい恰好ということで。
これからは服装についても描写していくようにするので
よろしくお願いします。
- 189 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月09日(木)23時22分04秒
- 嗚呼やっぱりつんくでしたね。
安倍が捜してる三人というのはやっぱアヤカ達ですかね。
それとこれから結構レスしていくと思いますが、邪魔なら言ってください。
これからも応援していきます。
- 190 名前:ななしむすめ 投稿日:2001年08月09日(木)23時24分18秒
- これでストーリーの目的がはっきりしてきましたね。
これからさらに目が離せなくなりますね。
次の更新楽しみにしてます。
- 191 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月10日(金)02時13分52秒
- >>135
はたけの回想シーンはまだ続くのでしょうか
それとも一段落したのか
続きが楽しみです
- 192 名前:影武者 投稿日:2001年08月10日(金)16時24分22秒
- ・
・・
・・・
・・・・今までの旅を思い出すのをやめて安倍は言った。
「その三人は渡しませんよ、はたけさん」
「俺もお前らに渡すつもりはないで。
それ以前にお前らを生かしとくつもりもないしな」
それを聞いた飯田が少し安倍に近づく、この状況ではいつはたけが
魔術を放ってくるかもわからないため、いつでも防御のできる体勢に
なったようだ。
「圭織、今回も私はあんまり役にたてそうもないけど、いけそう?」
安倍は、あそらく今回の戦闘が飯田とはたけの大魔術の撃ち合いになり
そうなことを予想してそう言った。
おそらく魔術の威力ならはたけのほうが数段上だろうが、飯田は接近
してしまえば体術でねじふせることができる。
能力的には互角の二人なだけに、下手に間に入って飯田の足手まといに
なっては一気にやられてしまう可能性がある。
- 193 名前:影武者 投稿日:2001年08月10日(金)16時25分03秒
- 「大丈夫だよ、なっち」
たしかにあれからの飯田の成長を考えれば、その言葉にも納得できる。
「おめでたい奴らや。
いくらなんでも俺が一人で歩きまわるわけないやろ」
そう言った途端、それまで辺りを照らしていた魔術の光球が消える。
しかし安倍が指示するまでもなく、飯田は瞬時に自分で光球を生み出して
空中に放つ。
それは空中で静止すると、さっきよりもかなり激しくあたりを照らしだす。
おかげで今は、安倍達の周辺は昼間のように明るくなっていた。
はたけの隣にはさっきまでいなかったはずの人物がいる。
黒い覆面を被り、その眼以外は全て隠されている。しかも全身を黒いスーツ
で覆っているため暗闇の中だとまったくわからない。
- 194 名前:影武者 投稿日:2001年08月10日(金)16時25分50秒
- 「その人が新しい部下ですか?」
安倍はとりあえず確認する意味でそうたずねるが、うすうす感づいていた。
「部下やなんてえらい失礼なこと言われてるで、しゅう」
(やっぱりそうか・・・)
それは死んだはずのしゅうだった。
といっても安倍にはなんとなくわかっていた。腰に持っている二つの
短剣と体格など気になる点はいくつもあった。
しかしおかしい、あの獣のような殺気だけは感じとることができない。
そしておかしいといえば最も気になるのは
「死んだんじゃありませんでしたっけ」
「ああ、死んどる。
脳にな、無理矢理催眠術をかけて動かしとるんや」
はたけは当然のように言っているが、安倍はそのような魔術は聞いた
ことがないし、不可能のようにしか思えない。
- 195 名前:影武者 投稿日:2001年08月10日(金)16時26分31秒
- 「可能なの? 圭織」
「わかんない、たしかに脳が命令すれば体は動くような気がするけど、
でも体は死んじゃってるんだから動かないような・・・・・・・」
飯田は考え込んでしまうが、答はでてこないようで困っている。
どうやらやはりつんく達の使う魔術にはなにか秘密があるらしい。
今はそれだけしかわからないが、いずれつんくに近づくにつれわかって
くるだろう。
(今は目の前の戦闘に集中しよう。
といってもどうしよ。はたけ一人ならなんとかなるとは思っていた
んだけど。
あの子達にも手伝ってもらわなきゃならなくなるかも・・・)
安倍は横目で加護と辻のほうを見てそう思った。
- 196 名前:影武者 投稿日:2001年08月10日(金)16時27分12秒
- 一方加護と辻は安倍の視線を感じ、体をこわばらせる。
「なあ、のの。
今安倍さんこっち見たような気がしたんやけど」
「うん。協力して欲しいかもって眼だった」
「うちらで勝てると思うか?」
「ちょっと無理っぽいと思う」
「うちもそう思うわ。
でもな、もし安倍さんが助けて欲しい言うたらうちは行くで」
「わたしも亜依ちゃんと一緒に行くよ」
「ありがとな」
二人とも覚悟はできた。あとは安倍の声を待つだけとなった。
- 197 名前:影武者 投稿日:2001年08月10日(金)16時27分47秒
- 加護達に助けを求めるべきかどうか、安倍は悩んでいた。
はっきりいってしゅうの登場は計算にいれてなかった。はたけ一人なら
なんとかできると思ったのだが、しゅうが以前と同じかそれ以上の力を
もっている場合は勝てる確率は半分以下とみていいだろう。
(問題はあの子達の実戦経験なんだけど・・・・・
いや、経験があってもこんな強い魔術士と戦ったことないだろうし)
安倍の迷いは無限に頭をまわりつづけるが、目の前の相手は待ってくれ
そうにない。
はたけの周りの空気が帯電しはじめる。いきなりあの雷撃を撃ってくる
つもりらしい。
(しょうがない!あの子達の判断に任せよう)
そう決めて飯田のそばによる。
数瞬後、目の前が白い光で満たされる。今回は余裕で飯田の魔術が雷撃
を遮断し、膨大な電流が飯田達を境に真っ二つに割れる。
- 198 名前:影武者 投稿日:2001年08月10日(金)16時28分28秒
- はたけの魔術が途切れると、安倍と飯田の上からしゅうが飛びかかって
くる。
(ヤバ! 前といっしょだよこのパターン)
安倍が後悔した時には既にどうすることもできず、あっさりと安倍と
飯田は離される。
そこからもやはり以前と同じで、飯田にはしゅうの短剣が、安倍には
はたけの魔術が襲いかかる。
ただ前回と違ったことといえば、安倍に襲いかかる無数の光球の全てが
突然消滅したということだった。
「手伝わせてください、安倍さん」
どうやら自分の思った以上に頼りになるらしい。
安倍の両隣には加護と辻がそれぞれ立っていた。
その少女達は背の高さこそ飯田におよばないが、まるで飯田といるよう
な心強さを安倍に感じさせた。
- 199 名前:影武者 投稿日:2001年08月10日(金)16時42分45秒
- >>189
どうも!毎度お世話になってます。
邪魔だなんてとんでもない。
毎回読んでくれてる人がいるってのはホント嬉しいです。
些細なことでもいいんでこれからもレスよろしくです。
>>190
感想どうもありがとうございます。
これからやっとそれぞれのキャラごとの目的みたいなのが
はっきりしていくので、期待しつつ待っててください。
次の更新もわりと早めにできると思います。
>>191
レスどうも。その疑問を早めに解くためにちょっと少なめですが
更新しました。
ここからいよいよ長かった加護・辻編も終わりにむかいます。
頑張りますんで、ぜひいろいろレスしてやってください。
できれば200は誰かのレスになればいいなと思っているので
みなさんレスのほうよろしくお願いします。
- 200 名前:JAM 投稿日:2001年08月10日(金)18時11分08秒
- おっ!
ついに4人の戦いが!これは目が離せないですね。
- 201 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月10日(金)18時14分42秒
- 嗚呼また続きが気になる……
やっぱり辻と加護はニ人で一人のような感じでしょうか?
はたけとしゅうのパワーアップにも期待!!
- 202 名前:れっかん 投稿日:2001年08月10日(金)22時46分12秒
- 筆が速いっすね。面白いよ。
- 203 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月10日(金)23時22分42秒
- 飯田メテオだ!隕石落とせ!
- 204 名前:影武者 投稿日:2001年08月12日(日)21時32分08秒
- 危険なことだということは加護と辻もわかっているだろう、今さら自分
が注意することなどない。
(ここは素直に喜んだほうがいいよね)
いろいろ考えるのはやめにすることにした。とにかく自分が二人を危険
から守りながら戦えばいいことだ。
「これだけは約束して、もし私達が負けそうになったらすぐに逃げて。
加護ちゃん、私をはたけの魔術から守るのを最優先にして。だけど
チャンスだとおもったら全力で攻撃していいから。
辻ちゃん、圭織を助けに行ってあげて」
安倍は一歩前に出てはたけの様子を観察すると、またあの雷撃を放つ
つもりのようで、空気がパチパチと音をたてるのが聞こえてきた。
どうやら早々に決着をつけたいらしい。・・・・たしかにこれで勝負の
行方の半分は決まると思っていいだろう。
加護がこの魔術を止めることができるかどうか、もし止められないので
あればどのみち勝つことは不可能だ。
「くるよ、加護ちゃん」
・・・・・白い光が視界を埋め尽くした。
- 205 名前:影武者 投稿日:2001年08月12日(日)21時32分42秒
- ・・・・加護の防御は完璧だった。空気の振動すらシャットアウトして
安倍と辻を守る。
あまりにも魔術の余波が少ないので、もしかして自分は雷撃をくらって
死んでしまったのかと錯覚するほどだった。
(この力強さは圭織以上?
なんでこんな小さな子がこんな威力をだせるの?)
天才だと思っていた飯田でさえ才能と経験と努力でやっとはたけの魔術
を防げるようになったばかりだというのに、ほとんど才能だけの魔術で
あの雷撃を防いだ。しかも飯田よりも完璧に。
しかし驚くのは後回しにしなければならない。
はたけが次の行動を起こす前に動きはじめなければ。
「辻ちゃん、行って!」
先ほど少し飯田を見たのだが、既にいくつかの切り傷を負っているのが
見えた。やはり以前よりしゅうは強くなっているのだろう。
辻は飯田のところへと走っていった。辻の小さな背中が猛烈なスピード
で安倍から遠ざかっていく姿は、まるで弾丸のようにも見えた。
- 206 名前:影武者 投稿日:2001年08月12日(日)21時33分21秒
- 「加護ちゃん、あいつにむかって撃って」
「ハイッ」
加護の放った熱閃よりも角度をずらしてはたけへと突っ込む。
加護の魔術を防御せざるをえないはたけは魔術で熱閃を防ぐのだが、次の
瞬間には手のとどく距離まで接近した安倍が襲いかかる。
はたけは、なんとか安倍の手が届くまでの一瞬で安倍にむかって魔術を放つ。
といってもせいぜい突風を起こすのが精一杯で、安倍がよろめいた瞬間に
うしろへと走りだした。
しかし、3歩も進まないうちに加護の放った熱閃が行く手を阻んだ。
仕方なく足を止めて魔術で防ぐのだが、熱閃の余波がなくなった瞬間には
またもや接近してきた安倍が攻撃を仕掛けてきた。
「このっ!」
思わず声がでるほど焦るが、なんとかさっきと同じように安倍に突風を
くらわせる。
- 207 名前:影武者 投稿日:2001年08月12日(日)21時35分52秒
- しかし今度は安倍は微動だにしない。魔術が発動しなかったわけではない、
加護が防いだのだった。
(くそっ、あの位置から・・・信じられんガキや。
しょうがない、腕の一本ぐらい犠牲にせんとしのぎきれん・・・)
決心したはたけが急所をガードした右腕を――――安倍の右手が掴んだ。
「これで逃げられませんよ」
別人のような冷たい瞳をした安倍が微笑む。はたけは腕を掴まれただけ
なのにまるで心臓を鷲掴みにされたようなプレッシャーを感じていた。
おそらくこの距離ではこっちが魔術を放つ暇を与えてくれるとは思えない。
防御も反撃も全く思いつかない、完全に安倍の必殺の距離にまで接近されて
しまった。
以前の戦闘からは予想もできないほどの展開になってしまった。
たった一人の少女が手助けしただけなのに・・・・あまりにも短時間で
勝負がついたことに、はたけは全く現実だと信じることができなかった。
- 208 名前:影武者 投稿日:2001年08月12日(日)21時36分33秒
- はたけは破れかぶれで掴まれていない左腕で安倍に殴りかかる。
しかし安倍はほとんどそれを確認もせずかわすと、さらにはたけの懐へと
もぐりこんだ。
絶望的な距離にまで接近されて完全に気が動転したためか、はたけは
力任せに安倍が掴んでいる手を振りほどこうとする。が、安倍の握力は
すさまじく、力が緩みそうな気配をみせない。
はたけが根負けして動きを止めた途端に、安倍は拳をはたけの顔面めがけて
くりだす、わざとガードできるスピードで。
安倍の予想通り、はたけは掴まれていない左手で顔面を覆い隠す。
すると拳を止め、自分が掴んでいるはたけの右腕へと狙いを移した。
はたけの右肘の裏側に手刀をくりだし、その腕をへし折る。
あまりの激痛に先ほどよりもさらに強引に安倍の手を振りほどこうと
もがくが、折れた右腕には全く力が入っていない。
- 209 名前:影武者 投稿日:2001年08月12日(日)21時37分19秒
- 安倍は次にはたけの脇腹に拳をめりこませた。
もはやはたけは自分の体をコントロールできず、苦痛により体をくの字に
曲げ、安倍の眼前に後頭部をさらしてしまう。
すかさず安倍ははたけの延髄に全力で肘を振り下ろした。
「・・・ぷはぁっ」
はたけの腕を折った瞬間から今までの動作を、一度も息継ぎをせずに
くりだした安倍が大きく息を吐いた。
はたけは足元に崩れ落ちて微動だにしない。
(とりあえずこんだけやっとけば自力では起きることはないっしょ)
- 210 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月12日(日)21時55分10秒
- 嗚呼飯田の努力も加護の才能の前にはかすんでしまうんですね……
これからしゅうをどう料理するか期待(w
- 211 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月13日(月)11時51分58秒
- 現時点で加護の方が魔力強いのかぁ、
胃薬飲みたくなっちゃうよ
- 212 名前:りん 投稿日:2001年08月13日(月)19時25分35秒
- 加護強え〜!楽しみ
- 213 名前:ミニモビクス 投稿日:2001年08月14日(火)10時02分15秒
- 期待しています。特に加護に・・・
- 214 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)16時53分22秒
- ――――――(これじゃ前と一緒じゃん)
あっさり安倍と分断された飯田は、以前の戦闘を思い出して早くも
不安になっていた。
そしてそれ以上に飯田を不安にさせるのが目の前にいるしゅうの不気味な
姿である。
全く動いていない。前かがみのまま立ち、だらりとぶらさげた両手が持って
いる短剣を地面に軽く突き刺し、呼吸すら読み取らせてくれない。
飯田のほうは何時相手が動きだすかわからないプレッシャーに押しつぶ
されそうなのに、しゅうは瞬きすらせず立ち続けている。
これでは先に自分のほうがまいってしまうと判断すると、飯田は魔術を
放とうとする。といっても小さな火の玉を放つだけの弱い魔術である。
あまり強力な魔術ではしゅうに隙を作るだけであることは前回の戦い
で証明済みである。
- 215 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)16時53分57秒
- 飯田の目の前に小さな火の玉が生まれる。
(あれ?動かないじゃん・・・・)
疑問に思いつつも出してしまった火の玉をしまうことなどできないので
予定通りしゅうにむかって放つ。
火の玉がしゅうめがけて移動し始める瞬間、しゅうの右腕が意思をもって
いるかのように飯田を襲った。
予備動作もなにもない、まさしく突然右腕だけが鞭のようにしなって飯田
の左の肩口を狙った。
どんな魔術でも放つ瞬間は集中するため術者に隙ができる。この場合も
その隙をついてきたわけだが、このタイミングでは自分も魔術をうけて
しまうということを全く考えていない。
案の定、短剣は飯田の肩を切り裂きかけたものの、しゅう自信も胸に
火の玉をくらって衝撃でうしろに数歩さがる。
そのおかげで飯田の傷はたいしたことはないものの、その滅茶苦茶な
戦法に、飯田は続けて魔術を放つことを忘れてしまった。
- 216 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)16時54分39秒
- しゅうの胸にはさきほどの飯田の魔術でできた大きな火傷の跡があった。
しかし本人は全く気にする様子もなく、再び飯田の前に立って様子を
うかがってきていた。
これでは攻めようがない。一撃で倒せるような大きな魔術ではもろに
しゅうに隙をつくることになるし、さっきのような小さな威力の魔術
を使ったとしても、隙ができるまで待たれて攻撃されて相打ちになって
しまう。
相打ちが続いた場合、どう考えても飯田のほうが不利だ。既に死んでいる
しゅうよりも先に戦闘不能になる可能性が大きすぎる。
(しょうがない、また魔術抜きでいくか・・・・)
とは思ったものの、どうすれば倒せるのか見当もつかない。むこうは
別に攻撃をくらってもかまわない気で攻めてくるのだから、無傷で終わら
せるのは無理だろう。
- 217 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)16時55分16秒
- 目の前にいるしゅうは相変わらず何を考えているのかわからない。
威嚇のつもりで飯田が一歩踏み込むと、しゅうの腕が不気味な動きで
襲いかかってきた。
その動きの角度・タイミングともに滅茶苦茶でかわしづらいことこの上ない。
とても同じ体から繰り出されている攻撃とは思えない動きだ。短剣を鞭の先
にくくりつけて振り回しているようなものである。
しかしスピードそのものは以前よりも落ちているため、なんとか短剣をかわし
つつ飯田は攻撃をしゅうにヒットさせていく。
飯田としゅうの勝負は、はたから見ると互角に見えた。
しゅうの短剣に何度か浅く切られつつも、確実に飯田の攻撃も急所を
とらえていく。
が、全くしゅうには効果がない。普通なら呼吸が止まるようなみぞおち
への打撃も、もともと呼吸自体していないのか全くおかまいなしに攻撃
を続けてくる。
むしろわざと攻撃を受けて飯田の隙を誘っているようにも見える。
- 218 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)16時55分50秒
- 以前のほうがスピード・テクニックともに上なのだが、今のしゅうは攻撃
をくらっても全くかまわないという利点を最大限に生かしてきている。
常に捨て身で戦っている状態なのでやりにくくてしょうがない。
しかも滅茶苦茶な連続攻撃を休む間もなく繰り出しつづけているせいで
飯田のほうは早くも疲労がたまってきた。これ以上疲れると、魔術を使う
際の集中力にも影響がでてしまう。
いきなり安倍達のいる方向から強烈な光がとどいた。はたけの魔術だろう。
(あ〜!! やばいよ)
自分の戦いに集中しすぎたせいで安倍のことをすっかり忘れていた。
そう思った瞬間、油断したわけではないのだが隙ができてしまった。
しゅうの両手が蛇のようにとびかかってくる。なんとかかわすものの、
完全に体勢が崩れたせいで次をかわすことができない。
浅く腕を切られた。さらに一度崩れた体勢はたてなおすことが難しく、
その後の攻撃もことごとくくらってしまう。
- 219 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)16時56分22秒
- (よかった。なっち無事みたい)
ちらっと安倍と眼があった気がする。助けて欲しいのだが、はたけを
無視してこっちに来るわけにはいかないだろう。
安倍の援護は期待できそうになかった。
(なっち・・・?)
安倍の指示だろう。安倍が叫ぶと辻が猛スピードで走ってくる。
その速さから察するにただ者ではないことはわかるが、今回の相手を
考えると不安になってしまう。
飯田の視線に気づいたのか、攻撃の手を止めてしゅうが後ろを向く。
どうやら辻に目標を変えたようだ。
辻は突進してくるスピードを緩めない。これでは短剣の餌食になって
しまうが飯田からだとしゅうは背中をむけているためチャンスである。
が、突然しゅうの腕が飯田の顔前を通りすぎた。こっちに背をむけた
状態で腕をうしろに振り回してきたことになる。
- 220 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)16時56分54秒
- 肩の関節の可動範囲を大きく越えたその一撃は、後ろ向きだったため
飯田をとらえることはなかったものの、足止めするのには十分だった。
「辻ちゃん!!」
しゅうまであと数歩と迫った辻に警告するが、全くスピードを緩めない。
辻にしゅうの短剣を持った腕が襲いかかる。非常に避けにくい角度で
タイミングも少しずれているため回避は難しいだろう。
短剣は辻の体をとらえたが、乾いた音をたててはじかれた。
驚いた飯田が目をこらすと、辻の両手には鉄甲のような物がはめられて
いて、それがしゅうの短剣を防いだようだった。
そのまま辻は突っ込み、思いっきりしゅうにタックルした。
しゅうは数メートル吹っ飛ばされる。
- 221 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)16時57分27秒
- ほとんど無意識に近い状態で飯田はしゅうに熱閃を放った。
ノドから手がでるほど欲しかった魔術を放てる距離を辻がつくってくれた。
放った熱閃は完璧にしゅうをとらえ、地面ごと吹き飛ばす。
「・・・・・ありがと、辻ちゃん。手、なんともない?」
辻は大きく首を縦に振った。
むこうでは安倍がはたけの腕をへし折っている。
(むこうも勝負はつきそうだな・・・)
- 222 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)16時57分58秒
- 数分後、安倍と飯田はしゅうを探していた。
飯田の魔術でふっとばしたのはいいのだが、木々のむこうまでふっとんだ
ため居場所がわからないでいたのだ。
加護と辻はその様子を遠くから見ていた。そして二人は同じことを
考えていた。
(安倍さん、自分とこのグループにうちら入れてくれんかな・・・)
(安倍さん、私達も連れて行ってくれればいいのにな・・・・)
「のの、そういやあんたがぶっ飛ばした男はどこ行ったん?」
「今安倍さん達がいる所らへんだよ」
「うちらも一緒に探そうか・・・・」
うまくすれば安倍が自分達のことを誘ってくれるかもしれない、そう
考えてのことだった。
- 223 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)16時58分38秒
- 「うちらも手伝いますよ」
そう言って、加護と辻は茂みの中へと入って行く。
「あっ、気をつけて。あんまり奥まで入っちゃだめだよ」
安倍の言うことが正しいのはわかっているのだが、できるなら自分達が
みつけてアピールしたい。
その思いが二人を安倍達から少し離れた場所へとむかわせた。
「亜依ちゃん・・・・」
最初にしゅうを発見したのは辻だった。緊張した声で加護に伝えてきた。
数メートル先にしゅうはいた。明らかにこちらに対し戦闘体勢をとっていて
すぐにでもむかってきそうな気配であった。
肩から胸にかけてを飯田の魔術による火傷で真っ黒にしているが、戦えない
というわけでは・・・・・なさそうだった。
加護がいきなり魔術を放った。熱閃があたりの木々を焦がしながらしゅうに
むかうが、あっさりと横に跳んでかわしむかってくる。
- 224 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)16時59分13秒
- 「さがって!!」
しゅうは一足飛びに加護へと切りかかってきた。辻が加護のまえに
立ちはだかって短剣を受け止める。
しゅうの斬撃は辻に休む間を与えず攻めたてた。リーチの差がありすぎる
ためどうしても辻は防戦一方になってしまう。
加護のほうは、あまりにも二人の動きが速くて魔術を使うタイミングが
つかめない。下手に使えば辻を巻き込んでしまう。
遠くから安倍の呼び声が聞こえた。しかし生い茂る木々が邪魔でその姿
までは確認できない。
その時、脇腹にしゅうの蹴りをうけた辻が数歩うしろへさがった。
「なにすんねん!!!」
逆上した加護が熱閃を放つが、至近距離にもかかわらずあっさりと
よけられる。しかも今度はターゲットを再び加護に変えたしゅうが飛び
掛かかってきた。
- 225 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)16時59分47秒
- 「このっ!!」
今度は避けられないように、前方をほぼカバーする広範囲の衝撃波を
放つが、それすらしゅうは足を止め踏ん張ることで耐えた。
もはや次の手が思いつかない、何をしてもしゅうの突進を止めることが
できない。
しゅうの後ろから辻が迫っているのが見えるが、追いつく前に自分が
切り裂かれることはほぼ確実だろう。
あきらめかけたその時、加護の横を何かが高速で通り過ぎた。
そしてしゅうの顔面に直撃して破裂した。小さな爆発音とともにしゅう
の体が後ろにのけぞった。
さらに体勢をたてなおす暇を与えず二発、三発と次々にしゅうの体に
着弾していった。
ようやく安倍達が助けにきてくれたことに気づき、後ろを振り向いた
加護はぞっとするような光景を目にしてしまった。
- 226 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)17時00分27秒
- 安倍達は加護の十数メートル後方にいたのだが、その上空には数百個に
も及ぶ無数の光球の群れがただよっていた。
「加護ちゃん、辻ちゃん、そいつから離れて」
安倍の声に、というよりはその上空にある光球を恐れて二人は急いで
しゅうから離れた。
一方しゅうは、その場にいる人間の中で最も自分に脅威となる存在、
すなわち大魔術でこちらを攻撃しつつある飯田へと狙いを定める。
しゅうが飯田にむかって走り始めた、がその時には既に加護も辻も
しゅうから十分に離れている。
飯田の生み出した数百個の光球が輝きを一瞬増し、次の瞬間しゅうに
吸い込まれるように、それら全てが光弾となり襲いかかった。
- 227 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)17時00分59秒
- 光弾が着弾するたび大きくはないが爆発音が発生する。大きくはない
とはいえ、それが何百発分ともなると鼓膜が破れそうなほどの轟音
となる。
比較的近くにいる加護と辻は爆音と衝撃と光で立っていることすら
できなかった。
光弾は数秒間も降り注ぎつづけた。
飯田が対はたけ用に開発した魔術は、存分にその威力を発揮して戦闘
を終結させた。
・・・・・・光弾が全て着弾し終わった頃には、しゅうがいたはずの
場所には巨大な穴しか残っていなかった。
- 228 名前:影武者 投稿日:2001年08月14日(火)17時28分03秒
- レスは夜にします。
とりあえず感想書いてくれた皆さんありがとうございます。
- 229 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月14日(火)18時07分08秒
- 飯田の光球と加護の熱線ではレベルの違いはあるんでしょうか?
- 230 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月14日(火)22時58分02秒
- 秘めた大技持ってるのは心惹かれます。
飯田さん素敵です。
- 231 名前:影武者 投稿日:2001年08月15日(水)02時16分57秒
- まずはお詫びです。
実は >>209 の更新が終わった時点でパソコンが
止まってしまいました。
中途半端な更新になってしまって申し訳ありませんでした。
せっかく感想を書いてくれた皆さん、レスもしないで放置
する形になってしまいすいませんでした。
>>JAMさん
とりあえず200GETおめでとうございます。
そして二度目の感想ありがとうございます。
今回は4人の戦いといっても別々になってしまいましたが、いずれ
4人全員で戦う場面があると思うので期待しつつ待っててください。
- 232 名前:影武者 投稿日:2001年08月15日(水)02時26分08秒
- >>ぐれいすさん
毎度どうも。 >>210 ではかなり早いレスありがとうございます。
おかげで今回もすごくはやく書けてはいたのですが・・・・
実戦になると飯田は加護よりもかなり強いです。
加護の才能は魔術だけ、飯田はいろんな才能のかたまりと思ってください。
ちなみに加護の熱閃はすごく熱くて太い光線みたいなもので、飯田の光球は
当たったら爆発する野球ボールみたいな感じです。
加護のは当たったら余裕で死んじゃうぐらいの威力があるけど、飯田のは
1000ページの辞書を貫通するぐらいの威力と瓦を割る程度の爆発がプラス
されます。
加護のほうはいろんなバージョンがあるので、その都度説明するようにします。
>>れっかんさん
感想どうも、誉めてもらって喜んでます。
しばらくは暇なんで次の更新も早いうちにやっちゃいます。
もしよかったら今後も読んでやってください。
- 233 名前:影武者 投稿日:2001年08月15日(水)02時29分01秒
- >>203
いきなり今回の戦闘のオチに似たようなことを言われてビビリました。
ただの勘ですかね?
これからも読み続けてやってください。よろしくっす。
>>211
今回の更新でもありましたが、いざとなったら飯田のほうがぶっちぎり
で強いです。
まだまだ加護は経験不足ということでご理解いただきたいです。
>>りんさん
今後も楽しみに読んでもらえるよう頑張ります。
今回の更新のほうの加護はあまり活躍できなかったんですが、これからも
加護の出番はたくさんあるのでよろしくお願いします。
- 234 名前:影武者 投稿日:2001年08月15日(水)02時44分36秒
- >>ミニモビクスさん
期待してください、加護に。
どんどん経験をつんで強くしていくので。
名前から察するにミニモニがお好きなんですかね?
>>230
飯田の素敵さをわかってもらえて嬉しいです。
飯田にはいくつも隠し技を考えてあるので、いつか書けるといいなとは
思っています。
それでは皆さん、次の更新で辻・加護・安倍・飯田編は終了です。
調子がよければ石川編までいくかもしれません。
もう何度も書いているので怒られるかもしれませんが、感想・質問
なんでもいいのでレスしてください。
- 235 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月15日(水)03時30分35秒
- 辻・加護・安倍・飯田編すごく楽しめました。
次の石川編も非常に楽しみです。
牧場でのんびりやってんのかな〜?(w
ちなみにプッチ軍団の再登場も楽しみにしています。
- 236 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月15日(水)06時37分03秒
- 10月8日からのTBSドラマに
飯田加護が姉妹役で競演決定なので
記念にコンビで絡ませてやってくださいな
あっ次の更新で4人編は終了か(w
影武者さん大量更新お疲れさまです。次回も楽しみにしてます。
- 237 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月17日(金)02時38分45秒
- 加護はいつの間にか耳をふさいで地面に伏せていた。
ようやく飯田の魔術が終わったのを確認すると耳をふさいでいた手を
どける。耳鳴りが止まらない。
体の上にうっすらと積もっている土を払いながら起きあがると、自分とは
反対に逃げた辻の方を見た。
加護の2〜3メートル先には深い穴があり、その先にある木の影から
辻がでてきた。その姿は加護と同じく土で汚れている。
二人はお互いの無事を確認すると、無言で安倍と飯田を見つめた。
ただの賞金稼ぎのつもりで始めた戦闘だったが、これほどの規模にまで
発展することなど予想すらできなかった。
しかもこの戦闘の後半はほとんど事情もわからず戦っていた気がする。
しかしこれだけ関わってしまった以上、もう無関係とは言えない。
加護と辻は自然と安倍達のほうへと歩きはじめた。
今、全てとはいかないまでも、最も事情を理解しているのはあの二人だと
いうことはわかっていた。
- 238 名前:影の武者 投稿日:2001年08月17日(金)02時39分36秒
- 「二人ともお疲れさま。 どこか怪我してたら圭織に言ってね」
加護と辻が近づくと、まず安倍が口を開いた。
その横で飯田が辻にむかって腹を押さえるジェスチャーをしてみせた。
しゅうに蹴られた時の足型が辻のTシャツにくっきりとついている、どう
やらそれを見て「大丈夫?」と訊いてきたらしい。
辻はその汚れを手ではたきながら大丈夫だというように首を振る。といって
も汚れは全くとれてはいなかったが。
「それじゃあね、ちょっと訊きたいことがあるんだけどさ」
飯田と辻のやりとりが終わったのを確認して、安倍が再び話し始めた。
「加護ちゃん達はなんでここにいたの?」
「・・・・・・」
その質問に答えるのは簡単だが、簡単に答えるわけにはいかない。
こうなってしまった今でも、加護と辻は安倍達に連れて行って欲しいという
気持ちは変わっていなかった。だからこそ自分達のイメージにマイナスになる
ようなことは知られたくない。
賞金が欲しかったから。という以外の答を探して困っていた。
- 239 名前:影武者 投稿日:2001年08月17日(金)02時40分15秒
- 「私達はね、むこうに倒れてる三人を探していたの。
で、今回戦った男達もあの娘達を探してたの。
私達は連盟の依頼、あの男達は国からの命令なんだけどさ」
質問の答に困っているのを見て、先に安倍のほうから自分達の目的を
話してきた。
これ以上黙っているわけにはいかない、そして嘘を言うわけにもいかない。
そう思った加護は、ありのままを話すことにした。
加護は自分達が賞金目当てでいたことを素直に話した。が、安倍達について
行きたいということは言えずにいた。
- 240 名前:影武者 投稿日:2001年08月17日(金)02時40分46秒
- ・
・
・
「それじゃ、私達は先を急ぐから・・・」
安倍が二人にそう言った。
正直に質問には答えたものの、結局連れて行って欲しいことは最後まで
言えなかった。その後、アヤカ達三人が起きたことにより安倍達は連盟
にむかって出発することになった。
はたけは安倍達が出発する直前に、安倍があらかじめ呼んでおいた連盟
の人間によって一足先に連れていかれた。
アヤカ達に殺されていたと思った男達も、誰一人として死んでいる者は
おらず、飯田の魔術で回復させられて山を下りていった。
今回の事件はこれで完全に片付いたと言ってもいい。もはや加護と辻が
この場にいる理由も全くなくなった。
加護も辻もこれ以上一緒にいるのがつらいので、かるく別れの挨拶を
して先に山を下りた。
- 241 名前:影武者 投稿日:2001年08月17日(金)02時41分26秒
- ・
・
「暇やな〜」
夕暮れ時の喫茶店だった。
安倍達と別れて次の日、加護達は下山した先の大きな街にいた二つの
魔術士のグループに入団を断られた。そして再び明日から始まる憂鬱な
旅への励みにするための飲み物を注文していた。
とうとう昨日、宿屋に泊まるために辻からお金を借りてしまった加護は
表情やしぐさにはださないものの、相当ショックを受けていた。
ここでの飲み物も辻が無理矢理奢ると言って、水だけで我慢しようと
した加護になんとか注文させた物だった。
「ごめんな、のの。
・・・賞金さえ手にはいっとったらなぁ・・・・・」
加護のその言葉を聞いて、ふとポケットに入れたままの小切手のことを
思い出した。
- 242 名前:影武者 投稿日:2001年08月17日(金)02時41分57秒
- 「賞金なら・・・・」
辻が喋りかけた瞬間、外から大きな爆音が聞こえた。
その後も爆音は何度も聞こえ、こちらに近づいているようにも聞こえる。
気のせいではなさそうだった。喫茶店の扉が爆音とともに吹っ飛んだ。
ただごとではなさそうなことは見ればわかる、二人はまさか昨日の男が
逃げ出したのではないかという考えが頭をよぎり、咄嗟に店の入り口へと
駆け寄った。
「待ちなさいっ!! 止まりなさいっ!!」
既に店の前を通りすぎていたため後ろ姿しか見えないが、そう言った
女性が二発閃光を放った。
前を走っていた痩せ型の背の高い男は後ろ向きのまま器用に両方かわして
走り続ける。
「あなた達、手伝って!!」
そう言ったのは、少し遅れて走ってきた安倍だった。
- 243 名前:影武者 投稿日:2001年08月17日(金)02時42分45秒
- 安倍は短くそう言っただけで、二人の前を走りすぎて行った。
事情はわからないが、自然に二人とも走り始めていた。
「どうしたんですか、安倍さん」
全力疾走しながら辻が尋ねた。
「はたけ・・・昨日捕まえた男を仲間がとり返しに来たの」
「昨日の男逃げちゃったんですか?」
加護はついてくるのが精一杯なので、再び辻が質問した。
「ううん。圭織が途中で気づいたから。で、今追いかけてるの」
辻が全力で走っているのに、安倍はほとんど息も乱さず話してきた。
そのスピードは加護にはかなりつらいらしく、大きな息遣いが辻の
後方から聞こえてきはじめた。
- 244 名前:影武者 投稿日:2001年08月17日(金)02時43分18秒
- 「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・あなた達、私達と一緒に働く気ない?」
しばらく無言で走り続けていたが、突然安倍がそう言った。
「ぜ・・・ぜひ・・・・お願いします・・・・・・・・」
今のが最後の体力だったのだろう、加護は言った途端にスピードを
落として安倍と辻から離れて行く。
「辻ちゃんは?」
「私も、一緒に行きたいです」
「決まりだね」
そう言うと、安倍は無言で走りつづけた。
・・・辻はポケットの中の小切手を破って捨てた。それだけなのに
なぜか体が軽くなった気がした・・・そして、少しスピードを上げた。
- 245 名前:影武者 投稿日:2001年08月17日(金)02時43分54秒
- 結局あれから数時間追いまわし続けたが――――飯田にいたっては半日近く
追いかけていたが――――男を捕まえることはできなかった。
加護と辻は次の日、連盟に連れていかれ正式に安倍と飯田のグループに
登録された。
さらに数日後、連盟のブラックリストの上位二名をリストから抹消した
功績により、安倍達はグループの実績順位を飛躍的に上昇させた。
- 246 名前:影武者 投稿日:2001年08月17日(金)03時18分04秒
- >>235
楽しんでいただけてなによりです。
こうやって感想を書いてもらえるとホントやりがいがあります。
次の石川編、登場人物がかなり多い予定です。もちろんのんびりなんて
してられません。
プッチ軍団はもちろん再登場します。こっちのほうも楽しんでもらえる
よう頑張りますんで。
>>246
まずは感想書いてもらって、そして期待していただいてありがとうございます。
レスしてもらえると更新も全く苦にならないので、これからもよろしくです。
今回の更新では全く絡まなかった飯田・加護ですが、10月8日のドラマが
始まるまでにはどうにかしたいものですな。
とにかく飯田・加護のことは頭の片隅に置いときながら、今後も楽しんで
もらえるよう頑張ります。
さて、「調子が良ければ石川編も」と書いたのですが、1つ重大な問題が
できてしまいました。
メロンの4人ってお互いのことをどう呼んでいるのかがわかりません。
誰か知っている方、面倒でなければ教えてください。
- 247 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月17日(金)18時38分40秒
- 村田は「めぐちゃん」「リーダー」
斉藤は「瞳ちゃん」
柴田は「柴ちゃん」「柴っちゃん」「あゆみちゃん」
等々、テレビでこんな風に呼んでた事があります。
しかし、他の人がいる場合は名字を呼び捨てにすることも多いです。
まだ他の呼び方してた時期もあるし、メロンは露出が少ないから難しい。
- 248 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月18日(土)21時14分08秒
- 作者三ガムバレ!みんな期待してるよ!
- 249 名前:影武者 投稿日:2001年08月19日(日)17時17分30秒
- [支配人室]・・・・そう書かれたプレートが埋め込まれているドアの前
に五人の人間が立っていた。
その中の一人がドアをノックして
「支配人、お客さんです」
ドアの向こうの人間へと伝える。
「どうぞ〜」
ドアの向こう側から不自然なほど高い声が返ってきた。その声から察するに
支配人室の中にいる人物は若い女性らしかった。
と言っても、先ほど部屋の中に呼びかけた人間も客である人間も全て女性で
年齢も若いのだが。
―――――ここは花畑牧場。
三人の魔術士だけで経営されている極めて特殊な牧場である――――――
客だと紹介された四人の少女達はドアのむこうへと消えた。それを見届けた
少女は一言つぶやいて、足早にその場から立ち去った。
「ごめん・・・・梨華ちゃん」
- 250 名前:影武者 投稿日:2001年08月19日(日)17時18分08秒
- 石川は床に敷かれた絨毯の上に座布団を置き、その上に正座していた。
支配人室といっても何もない部屋だった。
およそ事務的な雰囲気は一切なく、石川の座っている座布団の下から
漫画らしきものがのぞいているのも支配人室という雰囲気をぶち壊しに
している。
「あの〜、お茶でもどうですか?」
石川が立ちあがり、麦茶の入ったヤカンが置いてある棚へとむかう。
どうも目の前の四人の少女達を本当にただの客だと思っているらしかった。
麦茶の入ったコップをお盆にのせた石川は、四人に少女に近づき
「どうぞ」
と言って差し出す。顔には営業用なのか本心なのか、とびきりの笑顔を
つくっている。
四人の少女のなかの一人がそれを受け取った。
そして・・・・突如、石川の顔にコップの中の麦茶を浴びせる。
- 251 名前:影武者 投稿日:2001年08月19日(日)17時18分46秒
- 「とんだ女狐ね。こんなんでこっちが手を緩めると思ってんの?」
石川にはワケがわからなかった。自分とは初対面のはずの人間が何故
こんな仕打ちをするのか。
「ちょっと、瞳ちゃん。やりすぎだよ・・・・」
四人の少女の中でも一番おっとりした顔の少女がたしなめるように
そう言うが、麦茶を浴びせた少女の石川をにらむ視線は変わらない。
「優しくしてたらこいつらいつまでたっても借金返しゃしないんだから。
言っとくけどこれ以上待ってたら私達も危ないんだからね、わかってんの?」
その一言に自分をかばってくれそうだった少女も黙り込んでしまう。
再びピンチに陥った石川は、泣き出しそうになりながらも気丈に相手のほう
を見て口を開いた。
「あの〜、さっきから何のことを言われてるのかわからないんですけど」
「「「「!?」」」」
その場にいた石川以外の全員が固まった。
- 252 名前:影武者 投稿日:2001年08月19日(日)17時19分29秒
- 「・・・・そう言えばあんた見たことないね。
っていうか今日初めて支配人に会ったような気がする・・・
今まで支配人がいるなんて聞いた事なかったよね?」
麦茶を浴びせた少女が他の三人に訊いた。すると三人ともうなずく。
「私、三日前にこの牧場に来たばっかりなんですけど・・・・」
石川の言葉を聞いてさらに固まる四人。
石川がこの牧場を訪れたのは三日前。
石川がここの支配人になったのは二日前。
そして今日、見知らぬ人達にを前に危機に陥っている。
石川の魔術士生活はまだ始まったばかりにもかかわらず、早くも第1章の
終幕の危機を迎えつつあった。
- 253 名前:影武者 投稿日:2001年08月19日(日)17時28分41秒
- >>247
情報ありがとうございます。参考にさせてもらいました。
たしかにメロンがでてる番組ってほとんど見ないから困ってます。
とりあえず、この意見にある呼び方で進めていきますんで。
それではレスのほう感謝します。
>>248
励ましていただいて感謝してます。
なのに今回の更新が少なくて申し訳ありません。
とりあえず石川編プロローグみたいなかんじで区切りが良かったので
少量ですが更新しました。
今回少ないのでsageで更新させてもらいました。
次の更新までに誰か気づいてくれるかどうか心配ですけど・・・
- 254 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月19日(日)21時36分04秒
- いつも更新チェックしてますよ〜。
ついに石川編突入ですね。がんばってください。
- 255 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月19日(日)21時44分46秒
- 大丈夫ちゃんと気付いてますよ。いよいよ本格的に石川編突入ですなガムバレ作者さん!
- 256 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月23日(木)00時38分15秒
- まだかな?おもしろいんで期待してます
- 257 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時00分36秒
- ――――― 三日前 ―――――
[花畑牧場] そう手書きされた大きめの看板が木で出来た柵に立て掛け
られている。
石川は30分ほど前からその看板の周りをうろついていた。
そこが目的地であるにもかかわらず、なにかが石川に警告を送り続ける。
ただの直感というわけではない、根拠なら石川にもわかっていた。
(牧場・・・・だよね?)
看板の立て掛けられた柵が囲んでいる土地以外にも所有地があるのか、
とにかく石川の見ることの出来る範囲には動物の影すらなかった。
それが石川をその場から進ませない理由の一つでもあった。
既に空は夕焼けで紅く染まりつつある。このままでは野宿をするはめ
になってしまう。なにしろこの牧場の近くには全く建物や民家がない。
(行こう。ここまで来れたんだから、あと一息頑張ろう)
- 258 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時02分09秒
- 決意を固めた石川は柵の向こう側へと踏み込んだ。
その時後ろから黄色のウサギが石川の横を走りぬけ、数メートル離れた
場所で立ち止まると石川を見つめた。
(なにこのウサギ? 変な色)
石川も思わず見つめ返すと、そのウサギが近づいてきた。
そして足元まで来るとこちらを見上げてくる。
(カワイイ・・・・・)
何も考えず膝をついてかがみ、ウサギを抱き上げてやる。
その瞬間、背後から誰かが叫ぶ声がした。
「そのコに触っちゃだめ!」
「え?」
叫んだ声に驚いたのか、それとも最初からそのつもりだったのか、ウサギ
の体が突如帯電する。
体が大きく痙攣し、筋肉が麻痺する。その感覚を最後に石川の三日前の記憶
は終わった。
- 259 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時03分28秒
- ――――― 二日前・午前 ―――――
「・・・・今月・・なんとか・・・・勘弁・・・ください」
「このまま・・・・牧場・・・・・・なりますよ」
「今は・・・・無理・・・・・します」
「次は・・・・・覚悟・・・・・・・もらうよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「う〜ん。ここは・・・?」
話し声を聞いて石川は意識を取り戻した。直前に誰かがドアを閉める音
が聞こえたような気がしたがたいして気にせず、自分がどこにいるのか
を誰に言うでもなく口にだす。
「気がついたんだね。ここは花畑牧場。
あなたここの入り口で気絶しちゃったから・・・・」
返事は横から返ってきた。起き上がると、そこには疲れた顔をしている
ややふっくらとした少女が座っている。
「私ウサギを抱いて、そしたらいきなり体が動かなくなって」
「その件はごめんね、実はあのウサギはね・・・・・・」
- 260 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時04分19秒
- 「魔獣なの」と少女は言ったのだが全く理解できなかった。
どう見てもウサギにしか見えなかったが、なぜそのような呼び方をする
のかがわからなかった。
「なんでそんな呼び方を?」
思ったことを素直に口に出した。
「そっか、知らないんだね。
う〜ん、魔術士は知ってるよね?それの動物版だと思えばわかりやすい
かな。魔術を使う獣だから魔獣。
魔獣なんて呼ばれはじめたのは最近だからね、知らないのも無理ないか」
魔術士という単語を聞いて、石川は本来の目的を思い出した。
しかしどうも自分はこの少女に魔術士だとは思われてないらしく、少し
言いにくかったが。
「私も魔術士なんです。ここで働きたくて来たんですけど・・・・」
正直自信がなかった。抱いただけで気絶させられるような危険な動物を
扱っている所である、慣れるまでにどれだけ時間がかかることか。
「え〜〜!ホント?ちょっと待っててね――――――りんね〜」
言うが早いか、少女は誰かの名を叫びながら部屋を出ていってしまった。
- 261 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時05分03秒
- ―――――――――10分後
軽率だったかもしれない。そう考えたのはグループに加わるための書類に
サインした後のことだった。
先ほどから石川はあさみとりんねからの質問攻めにあっている。
その中でも最後の質問は二人の最も関心のあることだった。
「梨華ちゃんって魔術は使えるの?
今年卒業したんだよね、ランクは?」
「はい魔術使えますよ。あとランク・・・Bです」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
言った途端に二人が黙り込んでしまった。もしかしたら期待はずれだと
思っているのかもしれない、一瞬石川は不安になってしまった。
- 262 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時07分59秒
- 「「すっご〜〜い!!」」
見事に二人の声が重なった。
「私達なんか卒業試験もギリギリ合格のランクCだし、どっちも魔術
使えないダメダメコンビなもんだからさ〜、もう仕事が大変で大変で」
「仕事・・・・大変なんですか?」
石川の脳裏に初日に自分を気絶させたウサギのことが浮かんだ。
「そんなに心配しなくていいよ。梨華ちゃんなら余裕だから」
あさみが大袈裟に手を振りながら安心させるように言った。
「梨華ちゃんがはじめに会ったウサギがいるでしょ。
ああいうのを捕まえるのが主な仕事なの。
梨華ちゃんの魔術があれば楽勝だよ」
どうも石川の想像と違う点が多い。
ただの動物保護ではなかったのか? 魔獣などという危険な生物を相手に
するとはリストに載ってなかったはずだ。
さらにもう一つ、この牧場に来た時から不思議に感じていたことがある。
「この牧場、どこに動物がいるんですか?」
- 263 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時09分09秒
- 「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
また二人とも黙り込んでしまった。しかも今度のは先ほどとは違い、
聞いてはならない事を聞いてしまったらしく、気まずい空気がただよい
はじめた。
「うん・・・ちょっとね、事情があってね、今は一匹もいないんだ・・・」
苦々しい表情を浮かべながらりんねが声をしぼりだす。
「そうだ! 梨華ちゃんお腹すいてない? お昼ご飯にしようよ」
慌ててフォローするようにあさみが口を開いた。
その場はそれでおさまり、石川達は昼食をとることになった。
- 264 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時10分17秒
- ――――― 二日前・午後 ―――――
「ここがあなたの部屋よ」
りんねとあさみに案内された部屋の前に石川はいた。手には着替えなど
の私物の入ったカバンを持っている。
(ここが私の新しいおうち・・・・・なの?)
石川の視線はそのドアに埋め込まれているプレートにくぎ付けにされていた。
「今日からあなたがこの牧場の支配人よ。がんばってね。
遠慮することないよ、実力的には当然なんだから。
あっ、経営とかそういう事務的なことは私達がするから。
梨華ちゃんはここでどっしり構えててよ」
一気にまくしたてられて石川は何も反論できないでいた。するとりんねが
ドアを開け、あさみが背中を押して石川を部屋に押し込んだ。
「それじゃ夕飯になったら呼びに来るね。
部屋の中は梨華ちゃんの好きなようにしていいから」
それだけ言い残すと二人はドアを閉めた。
「・・・・いいの?事情を説明しとかないで」
「・・・・しょうがないよ。聞いて辞められちゃ困るし。
それに梨華ちゃんならあいつらを追い払えるかもしれないんだから・・・」
ドアの外の二人の会話は石川の耳には届かなかった。
- 265 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時11分09秒
- とりあえず石川は部屋の中を見渡してみたが、隅に布団が置いてあるのと
何も置いてない棚が一つある以外は何もない部屋だった。
(私が支配人・・・・)
予期せぬ事態に最初はとまどっていた石川も今では随分慣れてきた。
あまり深く考えなければ、この状況は自分にとって喜ばしいことではある。
(とりあえず今は素直に喜んどこう)
荷物を部屋の真ん中に置いて座り込む。
大きく息を吐いてその場に寝転んで天井を見上げて、一緒に試験に合格した
三人の少女の顔を思い出した。
(あれから一週間ぐらいか〜。
よっすぃーは行き先決まってるみたいなこと言ってたから大丈夫そうだけど
加護ちゃんと辻ちゃんはどうなんだろ。
二人とも子供だから苦労してるかもしれないな〜。
あ〜〜、よっすぃー、加護ちゃん、辻ちゃんに今の私のこと教えたら驚く
だろうな〜。
旅立って一週間でグループのリーダーなんて・・・・
教えたい、みんなの驚く顔が見たいよ〜)
窓の外を見ると青い空に小さな雲が三つ並んでいた。
その一つ一つを吉澤・加護・辻に重ね合わせながらテレパシーでも送って
いる気分で石川は妄想を膨らませていった。
- 266 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時12分13秒
- ――――――その頃
「どうかした? 吉澤」
突然体を震わせた吉澤を不思議に思った市井が少し離れた場所から尋ねた。
「いえ・・・なんか今話しかけてきませんでした?」
「わたしが? ずっと黙ってるけど」
それもそのはずだと吉澤は思った。
なぜなら今は目の前にいる保田と組み手をしている最中である。
この勝負の結果で仲間に入れるかどうかが決まる大事な一戦である。
無闇に話しかけてくるわけがない。
吉澤は再び保田へと視線を戻した。
「がんばって、よっすぃ〜」
能天気な後藤の声が吉澤の背後から響いた・・・・・
- 267 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時12分53秒
- ――――――さらにその頃
「なんか言った? のの」
「何も言ってないよ。でも私も誰かに話しかけられた気がした」
「気味悪いな〜。もしかして誰かがうちらの邪魔しとんのとちがうか?」
「考えすぎだと思うけど・・・・・・でもちょっと不気味だね」
「んっ、ついたで。この建物や。 今日こそ決めたろうや」
「そうだね・・・・・・・・亜依ちゃんだけでも決まるといいね」
辻の最後の一言は加護には聞こえなかった。
二人は魔術士達のつどう酒場へと入っていった。
現在グループ入り活動三連敗中の加護と辻だった・・・・
- 268 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時13分42秒
- ――――― 一日前 ―――――
「何か仕事ないんですか〜?」
自分がここの支配人ということもあり、俄然積極的になった石川は
りんねとあさみに質問した。
「そう言われてもね〜。
うちらの仕事ってね、かなり特殊だからあんまり依頼がないんだよね。
魔獣なんて滅多にいるわけじゃないし」
「・・・・そういえば捕まえた魔獣はどこに行ったんですか?」
昨日この質問をした時と同じように二人とも黙り込んでしまうが、今回は
しばらくしてりんねが口を開いた。
「他の牧場にいるよ。うちらが独立する前にいた所なんだけどさ」
それが今言えるギリギリのラインなのだろう。
そう思った石川はそれ以上の追求はしなかった。いずれ全て話してくれる
時が来るだろうと信じることにした。
「暇なんでしょ?梨華ちゃん」
「ま、まぁ。少し・・・・・・」
「漫画でも読んでなよ。梨華ちゃんの部屋にもっていって読んでて」
そう言うと、りんねが本棚を指差した。
- 269 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時14分32秒
- ――――― 今日 ―――――
「おはようございます」
石川は朝食を食べに食堂に来ていた。
厨房ではりんねとあさみが料理を作っている。
「はい、お待ちどうさま」
あさみが石川の前に料理を置いた。
「今日ね、もしかしたらお客さんが来るかもしれないから」
三人で朝食を食べている時にりんねがそう言った。
「梨華ちゃん、自分の部屋にいてね」
「はい、わかりました」
これで自分の支配人としての才能が試される、と思うといてもたっても
いられない。
石川は朝食を早めにすませて接客の準備をすることにした。
- 270 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時15分19秒
- (まだかな〜)
支配人室でそわそわしながら石川は客を待っていた。
部屋の中には新しく運んできた棚とその上には朝食後に作っておいた
麦茶といくつかのコップが並んでいる。
他にも客が座るためのイスかなにかが欲しかったのだが、さすがに
それはなかった。
食堂のイスはやや汚れているのと、数が不足する恐れがあるのでやめて
おいた。そのかわり座布団をいくつか用意した。
石川はあまりにも待つ時間が暇で棚の後ろに隠しておいた漫画を引っ張り
だして読み始めた。
- 271 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時16分26秒
- 数十分後。石川は漫画を読むことに夢中になっていた。
コンコンとドアをノックする音で我にかえる。
「支配人、お客さんです」
とうとう来た。石川は急いで漫画を自分の座っている座布団の下に隠し
返事をする。
「どうぞ〜」
少し声が裏返ったかもしれないことに後悔しながらも覚悟を決める。
・・・・・・・・・・・・ドアが開いた
- 272 名前:影武者 投稿日:2001年08月24日(金)00時37分42秒
- >>254
ホッとしました。気づいてくれたんですね。
いつもチェックしてもらってありがたいです。
とうとう石川編スタートしました。頑張っておもしろくなるよう
努力するので、これからも時々チェックしてください。
>>ぐれいすさん
やっぱり気づいてくれましたか。いつもありがとうございます。
石川編、難しいです。
でも定期的に読んでくれてる人がいると思うと頑張れます。
次の更新ではもっと本格的に石川編のテーマみたいなものが書けたら
いいなと思ってます。
>>256
お待たせしました。
娘以外のメンバーがでているせいか石川編はかなり書くのが難しいです。
といっても >>256 さんのような書きこみがあると気合が入ります。
今回もおかげで少し早めに書き上げられました。感謝です。
今回少し更新が遅れましたが、これで峠は越えたという感じですので
次は今回よりは早い更新になるよう頑張ります。
- 273 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月24日(金)03時03分48秒
- 嗚呼、この後支配人はどうなってしまうのか?
石川編、おもしれ〜!!
- 274 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月24日(金)06時48分24秒
- 石川偏はなんかほかのとふいんきがちがいますね。戦いからはけっこう遠いとこにあるような感じがします。
- 275 名前:名無し男 投稿日:2001年08月24日(金)15時14分04秒
- この後、ガチンコ花畑農場クラブに信じられない出来事が!!
- 276 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月27日(月)07時11分56秒
- 新しいメンバーは出ますか?
- 277 名前:ななし 投稿日:2001年08月28日(火)12時53分01秒
- 避難所の小説しか読めなくなったので、
更新首を長くしまくりでお待ちしております
- 278 名前:178(イナバ) 投稿日:2001年08月28日(火)18時34分09秒
- やっぱ新メンも将来的にはどこかのグループに入るんですか?
- 279 名前:影武者 投稿日:2001年08月29日(水)17時16分19秒
- 「瞳ちゃん、この人事情を知らないみたいだし、責めるのはよそうよ」
先ほど自分をかばってくれた少女がそう言うのを聞きながら、石川は顔
にかかった麦茶を手でぬぐった。
「あなた本当にここの支配人?」
「そうですけど」
「じゃあ無関係じゃないよね、事情を知る権利はあるわけだ・・・」
そう言って少し考え込むと口を開いた。
「いい?詳しいことは後であんたが仲間に訊いてもらうとして簡単に説明
するよ。
この牧場はりんねとあさみが借金して建てたの。だけど返済期限を
すぎてもお金を返さないもんだから私達が取り立てにきてんのよ」
そこまで一息で言いきると石川を睨みつけて反応を見る。
石川も彼女達の言葉を聞いてある程度の予想はついていた。
この牧場に動物がいないことも彼女達の話どうりならば納得できる気がする。
- 280 名前:影武者 投稿日:2001年08月29日(水)17時17分38秒
- 「借金はどれぐらいの額なんですか?」
知りたくはないが知らなければ解決できない。聞きたくはないが聞かずには
いられない。
無意識に石川は問い返していた。
「まあこの牧場を売り払っても足りないことは確実だね。
私達は取り立てのために雇われただけだから正確な額は知らないけど」
そう言われて愕然とする。これでは返済の可能性はほぼ0である。
しかし疑問に思う点がいくつかある。そこまでわかっているのなら、どう
考えてもこちらに返済能力がないこともわかっているはずだ。
「どうせ今すぐに返せって言っても無理でしょ?
だから今日は私達の雇い主のとこまで来てもらうよ。
とっととりんねとあさみを連れてきて、三人揃ったら出発するから」
急な話であるが、こちらの都合を聞いてくれそうな相手ではない。
下手をすればこの間に逃げられているかもしれないが、とりあえずりんねと
あさみを探すため部屋を出て行く。
「逃げようとしても無駄だよ」
部屋を出て行く石川の背後からそう釘をさす言葉が聞こえた。
- 281 名前:影武者 投稿日:2001年08月29日(水)17時19分49秒
- 「事情は全部聞きました」
玄関から建物の外へ出て行こうとしていた二人の後ろ姿にむかって石川は
話しかけた。
りんねもあさみもそれほど驚いてはいなかった。見つかる事を覚悟していた
かのようだった。
実際、覚悟していたのだろう。逃げるつもりならば十分な時間はあったはずだ。
「・・・・・逃げよう、梨華ちゃん。この牧場はもうあきらめるよ。
梨華ちゃんには悪いけど、梨華ちゃんだけならまた他の場所でやりなおせるよ」
りんねが石川に訴えかけた。
気持ちは痛いほどわかった。自分をおいて逃げようとしたことを反省している
こともわかる。
「まだあきらめるのは早いよ。
今まではだめだったかもしれないけど、三人で頑張ればどうにかなるかも
しれないし。
もう一度頑張ってだめなら・・・・・・・その時は一緒に逃げよう」
「梨華ちゃん・・・・・・」
- 282 名前:影武者 投稿日:2001年08月29日(水)17時21分10秒
- 「まったく・・・・・そのコの言うとおりだね」
石川達はハッとして声のした方向を見る。
いつのまにか支配人室にいた少女達が玄関から入って来た。
「もしあんた達が逃げ出してたら痛い目にあわせてでも連れていく
ところだったんだけど・・・・・・・
ここは素直にそのコの言う事をきいときなよ。
私達の雇い主はあんた達にチャンスをやるって言ってたんだから」
- 283 名前:影武者 投稿日:2001年08月29日(水)17時22分41秒
- ・
・
・
・
「この人達って・」
思わず声に出してしまった石川を、部屋の中にいた数十人の人間が見つめた。
ここは田中義剛の屋敷の一室。
花畑牧場にやってきた四人組に連れられて来た石川達は、この部屋に案内された。
雰囲気で予測したにすぎないのだが、石川にはなんとなくこの部屋の中にいる
数十人の人間の正体がわかった気がする。
その時部屋に男が入ってきた。その後ろには石川達をここまで連れてきた
少女達もついてきていた。
どうやら少女達はその男の警備もしているらしい。しきりに周囲を警戒している。
その男は部屋の中にいる人間の視線が自分に集まっているのを確認すると
口を開いた。
「え〜、ここにいる皆さんは全員私から金を借りているわけです。
そしてその中でも自分だけでは返済は無理という方達を集めさせてもらった
つもりです。
そんな皆さんに返済の為の有効な情報があります」
事務的な口調でそう伝えると数枚の紙を綴った資料を全員に配った。
「詳しくはその紙に書いてますが、有効な情報というのはそこに書いて
あるモノを捕まえてもらう事です。
生け捕りにした場合、皆さんの借金が返済できるだけの額は支払います」
- 284 名前:影武者 投稿日:2001年08月29日(水)17時23分44秒
- ――――――Ο――――――Ο――――――Ο――――――Ο――――――
「どう考えても無理だよこれ!!」
あさみの怒りは頂点に達しているようだった。
無理もない、チャンスを与えると言われて行ったものの、とんでもない
無理難題をふっかけられてしまたのだから。
石川・りんね・あさみの三人は屋敷を出て目的地へと歩いていた。
周囲には同じ部屋にいた人間が同じ場所へ向かって歩いている。
義剛の説明が終わってすぐに、捕獲に参加したい人間はその場所へと
案内されることになった。
と言っても、全員参加する以外に借金を返す方法などない人間ばかりの
ため辞退する者などいなかったのだが。
情報の内容はだいたい石川の予想通りだった。
大雑把に言うと「珍しい魔獣を捕まえろ」というのがその内容だった。
- 285 名前:影武者 投稿日:2001年08月29日(水)17時24分55秒
- 「三人でやればなんとかなると思うんだけど・・・・・・」
「無理ね」
「無理だよ」
容赦なく石川の意見を否定し、それでも歩かざるを得ない現実がさらに
りんねとあさみの機嫌を悪くする。
「・・・・・・・梨華ちゃんがと初めて会った時にいたウサギ あれ捕まえる
のに一週間かかったんだよ。それに何回死にかけたことか。
今回なんて熊だよ?普通の熊でも無理っぽいのに・・・・・・・・」
義剛から渡された資料にあった魔獣、それは熊だった。
一度の魔獣を見たことのない石川にはいまいち二人が悲観的になる理由が
わからない。
(こんなに人がいたんじゃあ私達が捕まえるのは無理かも・・・・・・)
あさみやりんねとは違う理由で悲観的になる。が、あながち的外れという
わけではない。
その実力まではわからないが、おそらく周囲の人間の全てが魔術士である
ことは確実であろう。
あまり競争が得意でない自分では不安になるのはしかたない。
- 286 名前:影武者 投稿日:2001年08月29日(水)17時26分41秒
- 「ここで〜す」
気楽な声で、集団を先導していた義剛が伝える。
そこは義剛の屋敷から三十分ほどしか離れていない森だった。
といっても義剛の屋敷のある場所自体が既に森の端なので、石川達は大きな
森の周囲に沿って移動したことになる。
「こっから森の中心に進むとでっかい湖があるんで、その近くに目的の
熊がいます。
はやいモン勝ちなんで皆さん急いでくださ〜い」
それを聞いた周囲の人間のうち何人かは、我先にと森の中へ走りだした。
一方、決心できない人間も何人かいるようで、石川の周囲には半分以上の
人間がその場を動かず残っていた。
「変だね。義剛のヤツがこんなこと言いだすなんて絶対おかしいよ」
りんねが確認するようにあさみに話しかけた。あさみもその意見に賛成した
ようで軽くうなずく。
「変?」
思わず石川が問い返す。
「あいつの性格からすると考えられないってこと。
・・・・・・わかるんだ。私達、昔あいつの所で働いてたから」
- 287 名前:影武者 投稿日:2001年08月29日(水)17時28分59秒
- 「あの、そこらへんの事情って聞いちゃダメかな?」
今なら二人とも話してくれそうな気がする、本当ならばむこうから話して
くれるのを待つべきなのだろうが今の自分達には明日も一緒にいるという
保証はどこにもない。
「暖簾分けってやつだよ。独立したかったんだ。
義剛も牧場を持ってる。とっても大きくて、いろんな魔獣がいてね。
私達が捕まえたのも何匹か借金返すために連れていかれるけど」
りんねはそこまで言うと思い出して悔しくなったのか、渋い顔になり
黙ってしまう。
その後を引き継ぐ形で今度はあさみが口を開いた。
「最初は返済できる予定だったんだけど・・・・・・・・
この業界ってねコネががないとどうしようもないんだよ。そのぶん
私達は有利だと思ってた、義剛はあんなヤツだけどこの世界じゃ絶大
な力を持ってるからね。
でも・・・・・・・・・」
「何もしてくれなかった。厄介払いだったんだよ。
アイツの下には私達よりも優秀な魔術士がいっぱいいるからね」
りんねがさらに言いにくい部分を引き継いだ。
「そろそろ・・・・・・・行こっか?」
- 288 名前:影武者 投稿日:2001年08月29日(水)17時29分56秒
- いつの間にかあたりには石川達以外に男が一人しかいない。
(・・・・・・・・一人だけ?)
奇妙な光景だった。ここにいた人間のほとんどが自分達のように牧場を
経営している。集団で行動している者ばかりのはずである。
それにどうもその男からは他の人間のように返せない借金を抱えている
という悲壮感は漂ってこない。
「じぶんら行かんでええの?」
石川の視線に気づいたのか、最初からこちらを気にしていたのか。
男がいきなり石川に話しかけてきた。
「あっ、今行こうとしてたところです・・・・・・・あなたは?」
「おれも今行こうとしてたところ」
そう言い残して男も森の中へと入っていった。
(やっぱりなんか違う。別の目的があるような・・・・・・・・)
不思議な雰囲気を纏った男だった。
「行こう」
石川の一声にあさみとりんねも頷き、歩きはじめる。
そして三人の姿は森の中へと消えていった。
- 289 名前:影武者 投稿日:2001年08月29日(水)17時34分40秒
- 今日はここまでです。
今回あまり面白くないかも・・・・・・
次回は頑張ります。
あとレスも次回にします。
- 290 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月29日(水)20時43分58秒
- 今回はなんか話が重そうですね…
作者さん〉そんなこと言わないでください。きたいしてますから(ガンバレ
- 291 名前:影武者 投稿日:2001年08月31日(金)02時59分57秒
- (あの時のこと思い出しちゃうなぁ)
卒業試験で吉澤と一緒に山道を歩きまわった時と同じような場面が現れた。
生い茂る木々が、いくつもの魔術によってなぎ倒され道が造られている。
ただ以前と違う点は一つの魔術でなく、数十発にも及ぶ魔術でその道が
造られているところである。
「あ〜あ、せっかくの綺麗な森が台無しだよ」
りんねが落ち着いた声で独り言を言っている。
そういえばこの森に入ってからというもの、りんねもあさみも急に生き生き
とした雰囲気を放っていることに石川は気づいた。
今森の中には石川の歩いている音しか聞こえない。りんねもあさみも全く
足音をたてずに歩いている。
石川もなんとか足音をさせないようにしようと努めているのだが枯れ葉や
枝を踏んでしまいどうしても音をたててしまう。
さらにりんねもあさみも静かに歩いているわりには異常に歩くのが速い。
魔術で造られた道を通らずに進んでいるのに、魔術で造られた道を進んでいる
石川がやっとついていけるスピードだった。
- 292 名前:影武者 投稿日:2001年08月31日(金)03時00分32秒
- 十分ほど歩いただろうか、ふとりんねが足を止めた。
背後を歩く石川に「止まれ」というように手で制し、自分は目を閉じて
辺りの気配に集中し始める。
石川も同じく辺りの気配を探ろうとするが、風で木の葉のこすれる音や
鳥の鳴き声などで何もわからない。
「誰!いるのはわかってるよ!」
りんねと同様に目を閉じ集中していたあさみが周囲にむかって叫ぶ。
「梨華ちゃん。いつでも魔術が使えるようにしといて」
既にいつでも防御の魔術が発動できる体勢になっているが、りんねに
言われて石川は頷いた。
- 293 名前:影武者 投稿日:2001年08月31日(金)03時01分09秒
- 「ごめん、ごめん。驚かせたな」
そう言って木の影から出てきたのは森に入る前に少し話した男だった。
正体がわかってホッとする石川に対して、りんねとあさみは警戒を解かずに
その男を睨み続けている。
「あなた何者ですか? なんで隠れてたんですか?」
鋭くりんねが質問するが、全く表情も変えず見つめ返してくる。
その視線の先には石川がいた。
「知り合い?梨華ちゃん」
男の視線に気づいたあさみが質問するが、心当たりのない石川は首を
横に振る。
不思議な感じを受けるといえばそうなのだが、自分の記憶にはその男の顔
などない。
「お前らの目的のもんはむこうやで」
そう言って石川達が進んでいた方向とは少しずれた方向を指差した。
そして再び木の後ろにまわった。
「待って!」
石川がその木の後ろへと回り込んだときには既に男の姿はなかった・・・・・・・
- 294 名前:影武者 投稿日:2001年08月31日(金)03時01分47秒
- 「梨華ちゃん。どうする?
あの男の言ったこと、信じるかどうか」
嘘を言っているようには見えなかった、かといってなぜ自分達にあんな
ことを教えてくれるのか理由がわからない。
「・・・・・・・・・・・・行こう」
そう言って男の指差した方向に視線を移す。
石川の強い眼差しにりんねとあさみも決意したように頷いた。
石川達の進もうとしている方向にはまだ魔術による道が造られていない。
「ここからは危険だからなるべく音をたてたくないの。
だから梨華ちゃんにはきついかもしれないけど道は造らないで行くよ」
りんねが言ったことに石川も賛成した。
魔術で障害物をふっ飛ばしていてはその音に驚いて目当ての魔獣に逃げられる
恐れもある。
なにより、同じく森に入っているほかの人間に当たったら大変なことになる。
「わかった。そうしよう」
- 295 名前:影武者 投稿日:2001年08月31日(金)03時02分26秒
- 「それじゃ私の後ろについて来て」
そう言って石川の前に立ってりんねは小さな木々の中へと消えていく。
石川も遅れまいとその後に続き、さらに石川の後ろにあさみが続いた。
しばらくは無言で障害になる小枝を振り払いながら進んでいた。
といっても石川の前を進んでいるりんねが気を使ってくれているのか、
石川自身はほとんど小枝に気を使うことなく、足元に注意するだけで
よかったのだが。
「そういえばさっき誰かが隠れてるってよくわかったね」
少し気になっていたので石川が問いかけた。
「ああ、あれね。
なんとなくさ、鳥の鳴き声とかでわかったんだ。
梨華ちゃんも私達と一緒にいたらいつかわかるようになるよ」
りんねは振りかえらずにそう答えた。そして急に足を止める。
「それよりもさ、あの男の言ってたことは本当だったようだね」
「え?」
「魔術の準備をして・・・・・・・・・・・・・・近くにいるよ」
- 296 名前:影武者 投稿日:2001年08月31日(金)03時03分01秒
- こんなものを石川に見られてパニックにでもなられたら困る。
あるモノを石川の視線から隠すためりんねは必死だった。自分とてそれを
見て平気だというわけではないが、とにかく気づかせてはならない。
石川の魔術は自分達の切り札なのだから。
石川からはかろうじて死角にあるため気づかれてはいない。自分の
右にある木にもたれかかるようにして横たわる死体をなるべく見ないよう
にしながら、先ほど男を見つけた時と同じように周囲の動物達の鳴き声に
集中する。
(全然聞こえない・・・・・・・・当然か)
危険を察知する能力は人間よりはるかに上の動物達である、これほど危険な
魔獣の近くにいつづけるわけがない。
だが今回の場合、動物が近くにいないということが目的の魔獣がそばにいる
ということを物語っている。
- 297 名前:影武者 投稿日:2001年08月31日(金)03時03分35秒
- 二度とは見たくなかったが、りんねはもう一度自分の側に横たわる死体
に目をやる。
かなり損壊が激しい。顔は既に原型をとどめておらず、左腕がちぎれている。
が、どうも魔術によって殺されたわけではないらしい。
「!!!?」
りんねの後ろで突如石川が後ずさる。その一瞬前に何かが石川のそばに
落ちてきたようだ。
見てみると石川のそばにはりんねが見た死体のものと思われる腕が落ちている。
「梨華ちゃん。今は魔術に集中し・・・・・・・・・」
「上よ!!!」
りんねの言葉を遮る形であさみが力一杯叫ぶ。
石川もりんねも上を見る間もなく大きな物体が降ってくる。
咄嗟に勘だけで石川をあさみのほうに突き飛ばして自分も後ろに跳ぶ。
「紅い・・・・・熊」
りんねからは後ろ姿しか見えないが、間違いなく石川と自分の中間に
立っているそれが自分達の探している魔獣だということはわかった。
- 298 名前:影武者 投稿日:2001年08月31日(金)03時04分15秒
- 「梨華ちゃ・・・・・」
りんねが言い終わるよりも早く石川の放った熱閃が熊の頭部を直撃した。
3メートルほどの巨大な体が二本の足だけで立っているために、やや上向き
に放たれた魔術の余波は、その後ろの上方の木の枝をへし折り、焦がしながら
空へとつきぬけた。
熊の体毛を焦がしたにおいが周囲に漂う。目をそむけたくなるような異臭
だが我慢して視線を外さず集中する。
熊の頭部の毛はほとんどが焦げてなくなり、異様な姿だった。
「クッ!!」
あさみが石川の腕を掴んで後ろに引っ張る。体勢を崩した二人はもつれて
地面に倒れこんだ。
石川とあさみが倒れて一瞬後、熊の腕が石川とあさみのいた空間を通りすぎた。
わずかでも遅れていればりんねの目にした死体と同じ運命をたどっていたに
ちがいない。
- 299 名前:影武者 投稿日:2001年08月31日(金)03時04分54秒
- どうやらただの熊と違うのは魔術を使えるということだけではないらしい。
かなりの知能も持ち合わせているらしく、今の奇襲も全てこの熊一匹で
行ったのだろう。
そして耐久力も抜群で石川の魔術が直撃したにもかかわらず、外見ほどの
ダメージは負っていないように見える。
そしてなにより心配なのは・・・・・・・・・・
「梨華ちゃん! 大丈夫? ねえ梨華ちゃん!」
あさみが呼びかけながら揺さぶるが全く応答がない。
石川の背中は既に鮮血で真っ赤に染まっている。直撃しなかったのは
不幸中の幸いとも言えるが、それでも熊の爪は石川の背中に大きな裂傷
を負わせていた。
動かない石川にとどめを刺そうと熊が歩み寄る・・・・・・・
- 300 名前:影武者 投稿日:2001年08月31日(金)03時05分25秒
- 自分がやらなければ石川が殺されてしまう。
ろくに格闘の訓練などしたこともないが、魔術の使えない自分の今の武器
は素手での格闘以外にない。
身体能力を最大限にまで強化させたりんねは背後から熊に殴りかかった。
背後のことは無視していたため簡単にりんねの拳は熊の脇腹へめり込んだ。
分厚い熊の皮膚にりんねの拳の威力はほとんど吸収されてしまったのか、
ほとんど苦痛の様子をみせず魔獣は振りかえる。
「梨華ちゃんを連れて行って。このままじゃ死んじゃうよ」
事態に反して穏やかな表情でりんねは指示をだす。
「・・・・・・・・・・・・・・」
あさみもりんねの覚悟がわかった、そしてそうするしか石川が助かる可能性
がないこともわかる。
迷ってはいけない、長年連れ添った相棒がどれだけの覚悟で言っているのか
ぐらいは理解できる。困らせるわけにはいかない。
あさみは石川を背負いもと来た道を走りはじめた。
「ありがとう、梨華ちゃん・・・・・・・・・・」
- 301 名前:影武者 投稿日:2001年08月31日(金)03時06分06秒
- 「おいで、むこうには死んでも行かせないよ」
目の前の魔獣と自分の力量差は圧倒的に開いている。
戦っても勝てる見込みは皆無だろう。が、この勝負については自分のほう
が有利だ。あさみと石川が逃げきるまでの時間を稼げばこちらの勝ち
なのだから。
(私の生死は関係ない・・・・・・・・)
熊が突進してきた。なんとか呼吸を読みとってかわすが、なにしろ巨体の
ため完全にかわしきろうとすれば体勢が崩れてしまうのはどうしようもない。
そしてリーチの長い相手にとってその一瞬がりんねの命取りとなった。
- 302 名前:影武者 投稿日:2001年08月31日(金)03時06分37秒
- 「うあっ!!」
熊は腕を一振りしただけなのだが、直撃したりんねは近くの木まで吹っ飛び
激突してからようやく止まる。
すぐに次の攻撃がくることを予想し、急いで立ちあがろうとするが腕に力が
入らない。
一瞬自分が見つけた腕のちぎられた死体を思いだし確認するが、なんとか腕
はついていた。しかしいつ肩からとれてもおかしくない状態でぶらさがっている。
ボタボタと血を地面にしたたらせながら、腕の支えなしで立ちあがる。
しかし立ちあがるのに時間がかかりすぎた。もう寸前まで魔獣は迫ってきている。
「・・・・・・・生きて・・・」
微笑みながら目を閉じたりんねの体を魔獣の爪が貫き、木に叩きつける。
一瞬大きく痙攣したあとりんねは動かなくなった・・・・・・・
- 303 名前:影武者 投稿日:2001年08月31日(金)03時25分50秒
- >>273
石川支配人、死にかけです。
前回といい今回といいほとんど活躍することのない支配人ですが
次回は活躍する(?)といいですね。
>>ぐれいすさん
(前回分)
今回の石川編は戦いはあまりないかもしれません。
が、とんでもないことは起こるのではないのかと思います。
とりあえず最後までのんびりした雰囲気が続くことはないと思います。
(今回分)
ありがたいコメント感謝します。ホント不安で不安で・・・・
今回の話、最初とはうってかわって突然重くなりはじめました。
だけどまだまだ話は長いのでどう転ぶかはわかりませんので。
>>275
はい。本当にガチンコ花畑農場クラブにとんでもないことが起こりました。
クラブ生が二人になってしまったガチンコ花畑農場クラブに明日はあるのか。
次回、衝撃の展開はあるのでしょうか。
- 304 名前:影武者 投稿日:2001年08月31日(金)03時26分55秒
- >>276
新しいメンバーは出る予定がないです。
よっぽど読者のほとんどの人から出して欲しいっていうレスがあれば
考えますけど・・・・・・
>>277
前回の更新は遅くなって申し訳ありません。
そのぶん今回早めの更新になりました。これからも首を長くして
待ちつづけてもらえるとありがたいです。
>>178(イナバ) さん
新メンはこの小説には出ない予定なので。
まだ性格もなにもよくわかってませんからね。
出した方がいいですか? そういう意見があるなら聞いときます。
- 305 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月31日(金)03時59分35秒
- り、りんね〜〜(涙)
- 306 名前:影武者 投稿日:2001年09月01日(土)23時03分05秒
- 「ハァ、ハァ・・・・・・・・クッ」
目の前の景色がかすむ。汗ではない熱い雫が頬をとめどなく流れ落ちていく。
背中の石川は不規則な呼吸を繰り返してはいるが、いつ止まっても不思議
とは思えない。
邪魔な小枝や小木を徹底的に無視してあさみは全力で走っていた。
油断していた、いや希望を持ってしまった。
石川の出現によってこれまでの自分から変われるのではないかと期待して
しまった。
いままでの自分達ならばこのようなことに首を突っ込まなかったのに。
ゆっくりと絶望していればよかったのに、そうすれば命まで失うことは
なかったはずなのに。
- 307 名前:影武者 投稿日:2001年09月01日(土)23時03分47秒
- (追いつかれる・・・・・・・・・)
背後のことが見えるわけではない。が、それを知らせる空気が自分を取り囲ん
でいるのを感じていた。
(動物が逃げていってる。私達の後ろから逃げてるってことは何かが私達の
後ろから迫ってるってことだ)
相棒が稼いでくれた時間を無駄にはできない。かといってこのスピードでは
いずれ追いつかれるのは確実だろう。
りんねが稼いでくれた時間。最後の贈り物。逃げるために稼いでくれた時間。
このスピードでは追いつかれる。
(このスピードじゃ追いつかれる。このままじゃ全滅する)
背中で揺れる石川を見てあさみは決意した。
既に背後からはかすかに魔獣の足音が聞こえはじめていた・・・・・・・
- 308 名前:影武者 投稿日:2001年09月01日(土)23時04分58秒
- (私は?・・・・・ここは?・・・・・・・誰かの背中?・・・・・・)
気がついたと思ったら、ひどく体を揺さぶられている。
徐々にだが記憶が蘇ってきた。
自分は魔獣の爪にやられて・・・・・・そこからの記憶がない。
どうやら今逃げている途中らしい、そして自分を背負っているのはあさみだ。
りんねはどこにいるのだろう。それらしい気配が周囲にないことが石川を不安
でたまらない気分にさせ、その不安が次第に意識を鮮明にしていく。
あさみの様子とて安心できるものではない。自分を背負ったまま全力疾走に
近い速度で走っているため、大きく肩で息をしている。
(!?)
背後からなにかが迫っている気配を感じた。
認めたくはないが、そのなにかの正体は考えられる限り一つしかない。
突如あさみが立ち止まった。しかし人間一人を背負ったまま全力で走っていた
ため急には止まれず、強烈な慣性に耐えきれず前方に転倒した。
- 309 名前:影武者 投稿日:2001年09月01日(土)23時05分44秒
- 倒れた勢いで石川はあさみの背から転げ落ちてしまう。というよりも
わざと石川を放り出したようにも思えた。
(いけない、追いつかれちゃう)
石川は急いで立ちあがろうとするが、思った以上に重傷らしく、全く体が
いうことをきいてくれない。
起き上がったとしても自分のような足手まといがいては逃げきれないことは
簡単に想像できる。
―――――ドンッ
「えっ!?」
かろうじて立ちあがり、なんとか策を練ろうとした石川を突然あさみが
突き飛ばした。
わけがわからず、石川は茂みに突っ込んで再び地面に倒れこんでしまう。
「どうしたの・・・・・・・・・」
石川が地面に両手をついて体を起こし、問いかけた時には既にあさみは
走りだしていた。
「・・・・・・・・・しょうがないか・・・・・・・」
二人とも死ぬよりも一人でも生き残るほうがいいに決まっている。
- 310 名前:影武者 投稿日:2001年09月01日(土)23時06分22秒
- (逃げきれるだけの時間は死んでも稼ぐからね)
木にもたれかかりながら正真正銘最後の力で立ちあがった。
(全力の魔術もあと2・3発ぐらいならなんとかなるはず・・・・・・)
体が冷たくなってきた。血液を失いすぎたせいだろう。
(りんねちゃんはどうなったんだろう。上手く逃げられんならいいけど)
膝から力が抜ける。立っているのもつらいのにあの魔獣を食い止めること
など可能だろうか。
(2・3発なんて言ってられない。魔術が使えるかどうかも危なくなってきた)
ひどい睡魔が襲ってくる。背中の痛みはとっくの昔に感じなくなってしまった。
(いつになったら来るの?もう起きているのも限界なのに)
いつまでたっても現れることのない魔獣を待ちきれず石川の瞼が閉じていく。
そして・・・・・・足音が石川に迫る。
「ちょっと、あんた。しっかりしぃや。 矢口ぃ〜。」
「ハァ、ハァ。ちょっと・・・・待ってよ。・・・ってあれ? このコって」
「ええから、はよう治したり」
「もうやってるって」
「――――――――!」
「――――?――――――――――――」
- 311 名前:影武者 投稿日:2001年09月01日(土)23時09分39秒
- >>305
こいつぁ大変だ・・・・
レスありがとうございます。
- 312 名前:名無し男 投稿日:2001年09月02日(日)02時15分34秒
- 合流しまっせ。
- 313 名前:ぐれいす 投稿日:2001年09月02日(日)12時50分59秒
- 天使矢口ひさびさの登場ですね。
これからどういった活躍をするのか期待!
- 314 名前:影武者 投稿日:2001年09月02日(日)17時14分58秒
- (梨華ちゃん・・・・・・・・死なないで)
最後の瞬間は誰であろうと確実に訪れる。石川とて例外ではないが、
石川の場合は決して今ではない。今であるべきではない。
そして自分の場合は数十秒後、あるいはもっと早く、次に振り返った瞬間
かもしれない。
石川を茂みの中に隠したあと、その身をひるがえし一直線に魔獣へと
駆けだし、交差する。
今まで追いかけていた標的が突然むかってきたことで一瞬動揺した魔獣は
あさみへの攻撃が数瞬おくれ、思いきり地面にすべりこんだあさみは魔獣
の攻撃を受けることなく、その背後へと回り込んだ。
あさみは滑り込んだ勢いのまま速度をおとさず立ちあがると、今度は
最初に魔獣と出会った方向に走りはじめる。
(上手くいった。あとはできるだけ梨華ちゃんから離れた所まで魔獣を
誘導するだけ・・・・・
それで終わる。・・・・・・全部、終わり)
- 315 名前:影武者 投稿日:2001年09月02日(日)17時15分34秒
- すぐに追いつかれるものだと思っていたのだが以外にも魔獣との差は
縮まらない。というのも魔獣が通ってきたせいで障害となっていた木々
は全てなぎ倒されて道が出来ているためだった。
(いける!?このまま誰か人のいるところまで逃げきれれば・・・・・・・)
わずかだが希望のある選択肢が追加されたことがあさみの体力の上限
をわずかに上昇させる。
(いける、いける、助かる可能性はある)
「・・・・・・・・・・・あっ!」
快調に走り続けていたあさみの足が固まった。目は釘付けになり、
動悸が激しくなり、思考が停止する。
あさみの目の前には胸から大量の血を流し、うつぶせに倒れた姿のりんね
がいた。
近くの木にもりんねのものらしき血が付着していて、その量から察するに
既に死んでいるのは直感でわかる。
次の瞬間。あさみの背中を魔獣の爪が深く切り裂いた。
- 316 名前:名無し男。 投稿日:2001年09月02日(日)23時59分43秒
- Σ(゜0゜)<オーマイガッ!!
- 317 名前:ぐれいす 投稿日:2001年09月03日(月)06時16分23秒
- 二人とも死んじゃうんですか…
早く石川の活躍が…早く…死んじゃうよ…
- 318 名前:影武者 投稿日:2001年09月04日(火)01時32分57秒
- 矢口の診察は一瞬で終わった。というよりも石川の状態を診るからに
一瞬以上の時間はかけていられない。
(背中の裂傷のみか、出血多量でショック状態になってる。
どうやら傷は内臓まではとどいてない、骨折もなし、と)
服の上からでも正確に診断し、その結果から即座に傷にあわせた魔術
のイメージを脳裏に展開する。この場合は実に単純なもので、背中の傷を
ふさげばいいだけだ。
一見すると何もしていないように見えるが、既に石川の背中に密着させた手
からは石川の背中の傷の最も深い部分を癒すための魔術が発動している。
国でもトップの座を走り続ける医療魔術の使い手、矢口真理がその位置を
キープし続ける大きな要因、それは診断の精密さと復元魔術とさえいわれる
までの完全に傷跡すら残さない完成度を誇る魔術にあった。
石川の場合も例外ではなく、背中の傷は最初から怪我など負っていなかった
のように消滅していた。
- 319 名前:影武者 投稿日:2001年09月04日(火)01時33分40秒
- 「大丈夫?ここがどこかわかる?自分の名前は?」
矢口の問いかけにも虚ろな瞳のまま反応を示さず、ひたすらあさみへの
懺悔の言葉を心の奥で繰り返す。
(私を置いて逃げたんじゃなかったんだ。
自分勝手に納得して、全然信用しないで・・・・・・・・ごめんね)
救うつもりが救われた。死ぬつもりが生き延びた。
このあと自分は何をすればいいのか、考えが・・・・・・・まとまらない。
「どうすればええかわからんって顔しとるな。ヒントならやれるで」
「なによ裕ちゃん、突然」
「ええか。あんたこの森におる魔獣にやられたんやろ。
逃げたいんなら逃げ、せっかく助かった命や。誰かを助けたいんなら
そうしぃや。魔獣を倒したいんならそれもええ、手伝うで、うちらの
目的も同じやからな」
「あなた達も?」
「ゆっとくけどうちらは義剛から金借りたわけとちゃうで。
仕事や、連盟の」
- 320 名前:影武者 投稿日:2001年09月04日(火)01時34分21秒
- 連盟の?なぜ連盟が?心の中で石川は首をかしげる。
しかし、その疑問以上に強い使命が石川の中で誕生した。
「私、助けたい人達がいます。
手伝って欲しいです。あなた達の力が必要です」
矢口を見つめながらはっきりと言った。おそらく、いや、ほぼ確実に
りんねもあさみも無傷ではないはず、矢口の癒しの魔術が必須なのは
明らかである。
「いいよね? 裕ちゃん」
「もちろん」
中澤はあっさりと承諾する。もとより矢口にこう聞かれては普段の中澤
なら断ることなどないのだが、石川の意志の帯びた瞳が否定を許さなかった。
(このコの瞳、いったい・・・・・・・
まるで催眠術でもかけられたような気分や)
言葉の説得力以外の何か他のものが中澤を動かせた、得体の知れない
不気味な・・・・・・・
(これは・・・・・・・・魔術?)
- 321 名前:影武者 投稿日:2001年09月04日(火)01時35分00秒
- (成長したね。ほんの少しの間だけど、確かにあの時とは変わったよ)
矢口はただただ感心させられるばかりだった。
卒業試験の時は一番目立たなかった娘だったのに、今の彼女があの場所
にいたら間違いなく一番輝いているだろう。
「行きましょう。こっちです」
先頭に立って歩きだした石川の声で、思い出にひたっていた矢口の思考は
中断された。
- 322 名前:影武者 投稿日:2001年09月04日(火)01時35分43秒
- 石川のとった進路には理由がある。
魔獣の通ったあとには必ず木々が倒され道が造られている。そして魔獣に
追いかけられていたことを考えると、その道のどこかにりんねもあさみも
いるはずである。
もしどこにもいなかったならば上手く逃げられたという可能性が高い。
どうしても歩く速度が速くなっていく石川の後ろ姿を見ながら中澤は
不安を感じていた。
(焦ってるなぁ。無理もないけど今はあんまり消耗してほしくないし・・・・)
自分では気がついていないのだろうが、石川の足取りは不規則なリズム
になっていて、さらにまっすぐではなく小刻みに蛇行しながら前へと
進み、これでは長時間はもちそうにない。
疲労の大きいままで魔獣と出会いたくはない。矢口と石川の両方を気に
しながら戦うのは不可能だろう。せめて石川には自分の身は自分で守って欲しい。
- 323 名前:影武者 投稿日:2001年09月04日(火)01時36分34秒
- 「あんな、今回の魔獣のことやけど、どうも裏で誰かが義剛に頼んだ
みたいなんよ。
あんた心当たりない?」
「ありません。すいません」
その話を聞いた途端、石川はあの男のことが頭をよぎったが確証はない
うえに今は二人の安否しか考えられないということもあり、振りかえる
こともなく歩き続けた。
なんとか石川の足取りを緩めようと、自分の仕事について話せる範囲の
ことで興味をひこうとしたのだが全く効果がなかったらしい。
あいかわらずせわしなく、そして危なげな歩き方で石川は進んでいる。
(あかん。ほんまにやばいわ)
無理に石川を止めるのは避けたいので、なんとか冷静になってもらいたい。
せめてこっちの話を聞くことができるほどには頭を冷やしてもらいたい。
「実験台やで、あんたら」
「裕ちゃん!!」
矢口は絶叫した。
- 324 名前:影武者 投稿日:2001年09月04日(火)01時37分25秒
- >>名無し男さん
合流しました。
加護・辻編でもゲスト出演した中澤と矢口ですが、今回はあの時
よりは活躍してくれるでしょう。
>>ぐれいすさん
今まで登場はしていたものの、キャラの設定などが書けなかった
矢口ですが今回の話でそのへんも書ければいいなと思ってます。
石川編なだけにもちろん石川は活躍しますが・・・・・・
- 325 名前:七位 投稿日:2001年09月04日(火)03時02分20秒
- 初レス失礼します、レスつけるの初めてなんでちょっと緊張。
今日初めて読んだんですが、面白いし読みやすいので一気に
ここまで読みました。続き期待してます。石川の活躍も
- 326 名前:エボニー&アイボリー 投稿日:2001年09月08日(土)04時23分29秒
- 僕も初レスさせていただきます。
………カントリーの命を救ってあげて…(泣
あと、召喚獣きぼん。魔法も、もっといろいろな属性が欲しいです。
- 327 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時16分17秒
- 中澤の言葉を聞いて、というよりは矢口の大声に驚いて、石川は足を止めて
振りかえり二人を見やる。
そこには「しまった」というような顔をした中澤と、そうさせた本人の矢口
が険しい顔で中澤を睨みつけている姿が見えた。
そして気づく。ただごとではなさそうなことに。
(実験台って言ってたけど・・・・・・・・私達が?)
聞き捨てならない言葉のようにも思えるし、知ったところでなんら事態は
変わらないのだから無視してもいいようにも思える。
とりあえず止まってい続けるわけにもいかないので、再び進もうとするが
一度止まった足は石のように重く、よろめいてそばの木にもたれかかって
しまった。
「ウチが話しとる間に休憩し、どうせ長い話やないから」
とりあえず石川の足を止めることには成功したが、不機嫌な顔で睨みつけて
くる矢口に新たな不安を感じつつ、中澤は口を開いた。
- 328 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時16分54秒
- 「あんたら魔獣の戦闘実験に利用されてるだけやで」
そう言って、一度矢口の方を見て、止めてこないのを確認して再び口を開く。
「おかしいと思わへん? こんな近くにおる魔獣を捕まえろって。
それになんで今更こんなこと言い出したんか」
そろそろ石川はじれったくなってきたのか、視線が落ち着かなくなって
きはじめた。
(う〜んダメや。引き止めるのはここらへんが限界か・・・・・・・)
次で終わりにしなければならないだろう。これ以上話を長引かせても、
時間の無駄だ。
石川の急ぐ気持ちと、自分の休ませたい気持ち、バランスをとるためには
ここらで説明を終える必要がある。
「ようするにな。これは義剛じゃない誰かが仕組んだことなんよ。
その誰かっちゅうのが、あんたらの追いかけとる魔獣を創った男。
連盟がその男のことについて調べとるうちに今回のことも嗅ぎつけて、
んでうちらに調査を頼んできたってわけよ」
「・・・・・・実験台っていうのは?」
「・・・・・・これはうちの予想なだけなんやけど。
今回のようなことがな、最近いろんな場所で起こっとる。
たくさんの魔術士が魔獣に挑んで、殺されて。
次々でてくる魔獣の強さは上がる一方、まるで魔術士と闘ってどんどん
改良されていっとるように。
そんでその影にはいっつもおんなじ男がおる」
- 329 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時17分28秒
- 魔術士と闘い改良されていく魔獣。
中澤のいうとおりならば、今回のこの状況は暗躍する男にとっては好都合
なはず。
自分達の他にも数十人の魔術士が、魔獣を狙ってこの森の中にいるのだ。
それら全てと闘ったならば十分なデータがとれることだろう。
だがそれよりも
(借金返済のためじゃなかったんだ)
これでもしりんねとあさみに何かあったら・・・・・・・・・・
ともあれ今はそのようなネガティブなことばかり考えていてはきりがない。
少し休んだおかげで楽になった石川は、足に力をいれた。
- 330 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時17分59秒
- 「怒っとるんか? あのコに話したこと」
目を合わせようとしない矢口にむかって話しかける。反省している、という
声色を含ませながら牽制してみた。
「まあ、あのコは被害者だしね。知らない人間ってわけじゃないから、いいよ」
本当に危険なのはこの事実が知られることではなく、隠していることが知られる
ことである。
実はこのことは連盟内だけの、しかもセキュリティレベルすら存在しない
完全極秘の情報で、国にすら存在を明かしていない。
バレたら国家反逆罪で連盟解散ということも十分ありうるほどの危険性がある。
なんとなく石川なら信用できる気がする。理由はそれだけなのだが、不安はない。
しばらくは再び黙々と歩き続けるものだと思っていた。
石川の悲鳴が森に響いたのは歩き始めてわずか数十秒後のことだった。
- 331 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時18分33秒
- りんねとあさみはひかえめに見ても生きているようには思えなかった。
二人のつくった大きな血だまりが両者の死を物語っている。
「治してあげてください!」
二度目の悲鳴は絶叫に近かった。
医学に関しては素人の石川だからこそ、そう言えたのだろう、だがその道
ではプロである矢口にはもはや絶望的なことは一目でわかった。
「言うとおりにしたり」
中澤にもどうみても助からないことはわかっていたが、だからといって
言葉では理解してくれるとは思えず、矢口に魔術を促した。
矢口はあさみに近づき魔術を発動させるが、既に息絶えていて自己の治癒力を
もたないため傷口はなかなかふさがらない。
やや時間をかけて矢口の魔術の力だけで強引に傷口をふさぎ、次にりんねの
ほうにも魔術をふるう。
こちらのほうはさらにひどく、内臓までもがやられているために自己治癒力
なしで体を復元させるため、矢口のもつ肉体に関するイメージを最大限にまで
膨らませて臓器を再生させるという困難な作業となった。
- 332 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時19分18秒
- 「私にできることは全部したよ」
額に玉のような汗を浮かべた矢口は振り返る。真後ろで経過を確認していた
石川はこちらの言葉を聞いていなかったかのように、全くの無反応で二人を
見下ろしていた。
(かわいそうだけど、これではっきりしたはず・・・・・・・・)
外傷は完全になくなったが、起きる気配のない二人の姿から感じとったのか、
石川の顔からは表情は消え去り、瞳からは光がなくなっている。
「どうする? うちらはこのまま進むけど」
中澤がひかえめな口調で問いかけるた。答えることはあまり期待してないような
口調だったのだが、意外にも石川はしっかりとした声色で返答した。
「私、行くところがあるので。ここでお別れです」
中澤には石川の瞳に再び光が宿っていることに気づいた。
何度か見たことのある光。それは復讐者が放つ憎しみの炎。
(ヤル気や。このコ・・・・・・・・)
- 333 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時19分54秒
- 「ちょい待ち! 義剛んとこに行くつもりか。
あいつをどうにかしてもなんにもならんで。
やったのは魔獣や。それに仕組んだのは別の人間なんやで」
もはやこちらを見てはいない。今にも駆けだしかねない様子を感じとり、
咄嗟に石川の肩に手を伸ばすが、見えない壁が中澤の手を阻む。
(魔術!? 厄介な・・・・・・・・)
しかも、その見えない壁は今も存在し続けて、石川へ近づけない。
非常にまずい事になった。自分の話を聞いたせいで義剛のもとへと
向かったことがばれたら、連盟が危機にさらされてしまう。
「待ちって。うちらもついて行くから」
そう言っている間にも石川の背中はどんどん遠ざかっていく。
力任せに見えない壁を何度も殴りつけるが、素手での打撃では魔術の壁は
びくともしない。
しかし何度も殴りつけているうちに突然壁は消滅し、中澤の拳が何もない
空間を素通りした。
どうやらやっと魔術の効果がきれたようだった。
- 334 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時20分37秒
- 「追うで! 矢口」
駆けだす中澤と、それに続く矢口。
既に石川の姿は見えなくなっていたが、追いつけないほど離されたというわけ
ではないと予想して全速力で追いかける。
しかし全速力は十歩も続かなかった。
「ちっ!なんちゅうタイミングで・・・・・・・」
ゆっくりと茂みの中から現れた魔獣は、ようやく後ろ姿の見えかけた石川と
中澤・矢口の間に立って行く手を阻んだ。
中澤はスピードをおとして矢口の走るペースにあわせた。
あと十秒ほどで魔獣と接触する、その時矢口の正面を走りながら後ろにむかって
言い放つ。
「うちがひきつけとく間にあんたはあのコを追いかけや。10分で追いつく」
「無理しちゃダメだよ」
「こんなヤツ・・・・余裕や」
最後のセリフを言い終わる前に、急激に加速した中澤が魔獣のこめかみに
肘打ちを叩きこんだ。
そしてよろめいた魔獣のわきを矢口が駆け抜ける。
- 335 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時21分13秒
- 「待ってよ〜」
戦闘は苦手だが、体が小さいおかげで動きは素早いほうである。
たいした時間もかからず、矢口は石川に追いつくことが出来た。
「待っ・・・・きゃっ!?」
またもや見えない壁に阻まれる。かなり石川に近づいていたため、スピード
をおとしていたのが幸いして、たいした怪我もなかった。
(また? こっちに気づいてるんなら話ぐらい聞いてよ・・・・・・)
中澤がやっていたように素手で壁を殴ってみるが、そんなことで消滅
するはずもなく、せっかく縮まった石川との距離も再び離れていく。
「も〜〜!! 待ちなさ〜い!!!」
- 336 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時21分45秒
- 「苦戦しとるな、矢口」
随分と離れた場所からではあるが、矢口の甲高い声が中澤のもとにも
聞こえてきた。
もっとも、こっちはこっちで苦戦しないというわけにはいきそうにない。
(熊と殴り合うのは初めてやからなぁ・・・・・・・)
目の前にいる魔獣――――紅い熊――――はやる気満々の視線である。
(なにガンたれとんねん、獣の分際で。いてもうたろか)
こちらも殺る気満々の視線を魔獣にむけ、構える。
にらみ合いで互角の勝負を繰り広げている両者は、次第に距離をつめて
いった。
「ガチンコや!」
中澤は身を低くして矢のように突進する。
魔獣は迎撃するべく、その凶悪な爪を中澤へと振り下ろす。
- 337 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時22分19秒
- 「おるぁ!!!」
おもいっきり叫んで、もてる力の全てを出し切り両手で魔獣の手首を掴み、
振り下ろした腕を止める。
次の瞬間には残ったもう一方の前足に足払いをかけ、前のめりに倒れ
こませた。
そしてその流れで魔獣の顎をサッカーボールを蹴るように、全力で蹴る。
案の定、軽い脳震盪をおこした魔獣は足元がおぼつかない様子で、こちらを
追撃してくる気配は全くなく、倒れずにいるのが精一杯という感じであった。
「へへっ。ここらへんは人間も獣も変わらんようやな。
・・・・・・・さぁて、あのコらのぶんまでやらしてもらうで」
拳をペキパキと鳴らしながら、いまだに足元のふらつく魔獣へと歩み寄る。
圧倒的な有利に立った中澤であった。
- 338 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時22分57秒
- (熊の弱点は・・・・・・・・・・)
「・・・・・・・・・・ここやっ」
声と同時に接近した中澤は、最大の握力で握りこんだ拳を魔獣の眉間に
食い込ませた。
素手とはいえ、中澤のパンチ力は下手な魔術の威力を上回るほどで、
あと数発も叩きこめば魔獣の頭蓋骨が砕けるのは確実だった。
一方魔獣も中澤の強さを認めたのか、抵抗の力を強めていく。
「なんや、結構元気やんけ・・・・・・」
魔獣の抵抗はただ滅茶苦茶に腕を振りまわすだけなのだが、意外にも
効果的で、一撃もくらうわけにはいかない中澤はなかなか間合いに入れず
かわし続けることしかできないでいた・・・・・・・・・
(そろそろ限界か?バテてきたようやな)
いつの間にか攻撃をかわしているはずの中澤が前進し、攻撃を繰り出している
はずの魔獣が後退するという状態が続いていた。
かわしながらも自分の間合いへと距離をつめていく中澤に対し、超接近戦で
一方的に攻撃しているにもかかわらず、かすり傷すらつけられないことに魔獣は
本能的に恐怖を感じはじめていた。
- 339 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時23分28秒
- 「!!!」
完全に逃げ腰になった魔獣の一撃を見逃さず、両手で掴んでそのままひねり
ながら魔獣の背中に回りこんで関節を極める。
しかし体重差が激しいために長い時間は続かない、間髪いれずに一瞬の
インパクトで魔獣の腕をへし折った。
「どうや!!熊の関節極めたったで!」
誰に伝えるでもなく、しかし微妙に矢口の走っていった方向にむかって
雄たけびをあげる。
その背後から片方の前足が使えないため、ゆっくりとした動作で背後から
中澤へと魔獣が迫る。口を大きく開いて噛み付こうとする。
「ふんっ!」
まるで全てお見通しだと言わんばかりのタイミングで放った回し蹴りが
魔獣の牙を根こそぎへし折り、そして砕く。
「往生せぇや!!」
魔獣の眉間にかかと落としを叩きこむ。
地面に倒れ伏した魔獣の首根っこを全体重をかけて押さえこんで地面に
固定し、とどめの一撃を眉間にめり込ませた。
- 340 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時24分13秒
- 全く動かない、呼吸の気配すらない魔獣の姿を見下ろして呼吸を整える。
「死んだふりしとんのとちゃうか?」
熊に遭遇した人間が死んだふりをするのは聞いたことがあるが、はたして
熊にもそのような知恵があるものか・・・・・・
「う〜む・・・・・・」
近くに落ちていた木の枝で頭をつつくが、なんの反応もない。
あまり時間に余裕はない、先に行った矢口のことが気になる。
「とりあえず、もう一発殴っとくか・・・・・・」
木の枝を投げ捨て、警戒を強めて魔獣に近づいた。
(んっ? 目ぇ開いとったけ?)
ふと疑問に思う。足を止める。
次の瞬間、魔獣の眼球が動き、明らかに中澤をとらえた。
さらに次の瞬間には十数本の炎の矢が至近距離から放たれた。
「魔術を使う獣を魔獣」そんな言葉が中澤の脳裏をよぎる。
- 341 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時26分36秒
- ・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
「てこずらせよって。死んだふりまでしよるとはな」
十数本の炎の矢を全て避けきり、正真正銘とどめの一撃を眉間に叩きこんだ
中澤は、今度は迷うことなく走りだした。
矢口と別れてから既に十分以上が経過していた。
「まさか素手で倒されるとはな・・・・・・・」
走り去る中澤の、小さくなっていく背中を見ながらそうつぶやく。
男は木の上から一部始終を見守っていた。
現時点ではあの人間を上回るほどの魔獣は造れそうにない。
(これじゃ当分の間、魔獣の改良は休止せざるをえんな
それにしても最後のあの動き、まるで魔術がくるのがわかっとった
みたいな動きやったな)
すると男は前方の空間に球状の薄い透明の膜を魔術で創る。シャボン玉に
近い印象のそれは、魔獣を内部にとりこむと赤く輝き、内部が高温へと変化
した。
シャボン玉の消えた後には魔獣の骨すら残らず、黒い灰だけが残された。
- 342 名前:影武者 投稿日:2001年09月08日(土)17時35分03秒
- >>七位さん
ううっ! 嬉しいレスをどうもありがとうございます。
励まされました。癒されました。
なのに更新遅れてすいません。
>>エボニー&アイボリーさん
ああっ!初レスの人が二人も。
頑張ります。魔術の種類も増やします。カントリーの命も・・・・・?
そして石川の活躍にも力をいれます。
さて、晴れて熊殺しの称号を手に入れた中澤の活躍は次回も少しあります。
まだ終わってません。これで石川編のレギュラーの座は安泰なのか?
乞うご期待あれ。
- 343 名前:ポン太 投稿日:2001年09月08日(土)20時05分07秒
- 更新感謝です
中澤はほとんどイメージ通りです!スゲー・・・
僕的には辻&加護の天才コンビの方が好きなのでそれまで頑張って下さいね(笑
まだまだ頑張ってください
- 344 名前:影武者 投稿日:2001年09月09日(日)23時15分20秒
- 「・・・・・・暇・・・・・・・・・」
小さな声で一言つぶやいただけなのだが、同じ部屋にいる他の三人には
十分聞こえたのだろう、全員の視線が集まる。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・そうだね」
「・」
村田めぐみの独り言に、かろうじて一言返事をしてくれたのは柴田あゆみ
だけであった。
義剛の屋敷の一室、用心棒兼借金取立てのために雇われた自分たちの待機場所
として割り当てられた広めの部屋。四つのイスにそれぞれ座り暇をもてあまし
ていた。
数十人の人間を魔獣のいる森に案内してから今まで、はっきりいってやること
がない。
いつもなら借金した人間のところを催促してまわっている時間帯なのだが、
今日はそれら全ての人間が森の中である。
大谷雅恵は再び手元の本に視線を戻した。
斉藤瞳は背もたれに深く体をあずけて眠り始めた。
村田めぐみも同じく背もたれに体をあずけるが、こちらは天井を見つめている。
柴田あゆみだけがその気配に気づいていた。
- 345 名前:影武者 投稿日:2001年09月09日(日)23時16分37秒
- ―――――ズズンッ
腹の底に響くような重低音と振動が伝わり、柴田以外の三人はいっせいに
イスから立ち上がる。一息おくれて柴田も立ち上がった。
「魔術だよ」
柴田の一言に全員の表情が緊張する。
「殴りこみ?」
斉藤の疑問には誰も答えることはできなかったが、ともあれこんな時のため
に雇われているのだから、じっとしているわけにもいかない。すぐに音源へと
駆けつける。
「あんた・・・・・りんねのとこにいた・・・・・・」
ちょうど入り口からすぐのホールに駆けつけた四人の前にいたのは、花畑牧場に
いた少女だった。
もう一人背の低い少女が少しおくれて入ってきた。こちらは見覚えがない。
「ちょっと、あんたたち。そのコを止めて」
- 346 名前:影武箸 投稿日:2001年09月09日(日)23時17分44秒
- 言われなくとも既に柴田は動いていた。
ホールから二階へと続く階段を昇りきった場所にある扉、その先に義剛の
部屋へと続く廊下がある扉を打ち破らんと、石川がバスケットボールほどの
大きさの光球を投げつけた。
それを迎撃するため柴田の右手から十本近い触手のような光の槍が光球を
狙う。そのうちの一つが命中し、派手な音とともに光球は爆発し、消滅した。
「ちょっと!なんのつもりよ!?」
「義剛をつれて逃げて。復讐する気よ!」
斉藤が石川にむかって叫ぶが全く耳に入っていない様子で、かわりに矢口
が答える。
「あの人のいうとおりにして!」
今度は柴田が叫ぶ。
前後から指示されて斉藤はパニックになりかけたが、柴田の声に反射的に
従い階段へとむかう。村田も大谷もつられて動きだした。
柴田は階段を昇っていく三人をかばうように立ち、石川の魔術を防ぐため
に集中力を高める。
- 347 名前:影武箸 投稿日:2001年09月09日(日)23時18分19秒
- 張り詰めた空気が石川と柴田の間を支配する。
「・・・・・・・・?」
石川が何もしてこなくなった。次の魔術を放つ気配がないことを柴田は
不思議に思いはじめた。
一方の石川はこれまで怒りに任せて進んできていたところを、先ほどの魔術
が防御されたことにより少し頭が冷やされていた。
そしてさらに目の前の少女には見覚えがある。麦茶をかけられた時にかばって
くれた少女である。魔術は使いたくない。
「どいてください」
強い口調で石川が命令するが、柴田はやや気圧された表情になりながらも
二階へ続く階段の前から動こうとしない。
石川が両手を前にだして魔術の構えをとった。
しかし柴田が体を震わせたのを見て思わずかまえを解く。
- 348 名前:影武箸 投稿日:2001年09月09日(日)23時19分22秒
- 「どい・・・・・て・・・よ」
「・・・・・・!?」
気がつくと涙がでていた。柴田も矢口もそれを見て自分がとてつもなく悪い
ことをした気分になってしまう。
罪悪感を感じつつも道をあけるわけにもいかず、柴田はオロオロしていた。
矢口のほうは石川の背中をなでながらなぐさめの言葉をかけて落ち着かせようと
必死になっている。
「・・・・・・・・やっぱりお前は失敗作や」
一条の光線が石川を目掛けて放たれた。
- 349 名前:影武箸 投稿日:2001年09月09日(日)23時20分25秒
- その声を聞いた矢口は、咄嗟にいまだに泣き続けている石川をかばって
前にでる。そして覚悟した。
予想していた衝撃はいつまでたっても矢口を襲うことはなかった。
瞬時の判断で柴田の魔術により防がれていた。といっても単に石川の魔術
を防ぐために集中していたために防げただけで、少しでも気を抜いていたら
矢口もろとも光線は石川を貫いていたに違いない。
突然攻撃してきた男は石川が魔術で破壊した扉を通り抜けて近づいてくる。
矢口はあとずさろうとするが、石川が動かないせいでその場から動けない
でいた。
そして男の頭上に魔獣を消滅させた時の、シャボン玉のような透明な膜が
創られていく。
「・・・・・・・・つんく」
そのつぶやきに反応してつんくは石川だけにむけていた視線を矢口へと移し、
うっすらと口元に笑みを浮かべると、頭上のシャボン玉の大きさを矢口を
もとりこめるほどに膨らませた。
- 350 名前:影武箸 投稿日:2001年09月09日(日)23時21分16秒
- 「邪魔する気か? 無駄や、やめとけ」
その言葉は石川と矢口のいる場所の奥、こちらへと殺気を放っている柴田
にむかっての警告だった。
「それ以上動いたら、撃ちます」
柴田も負けじと警告を送り返す。
「こいつらにも当たるで」
つんくの言うとおりだった。石川と矢口を挟むようにして対峙しているため
少しでも魔術のコントロールを誤れば直撃は避けられない。
なんとか呼吸をあわせて避けてくれればいいのだが、今の石川の状態を見る限り
では期待はできそうになかった。
「自信はあります。確実にあなただけを狙えます」
「好きにしろや・・・・」
厳然と言い放ち、つんくは石川と矢口にむかって魔術を放とうとする。
ギリギリのタイミングだと判断した柴田は右の掌から光の槍を繰り出し、
つんくへと迫らせる。石川の目前まで迫った槍は、そこから今度は触手のように
曲がってつんくの頭上の球を目指した。
- 351 名前:影武箸 投稿日:2001年09月09日(日)23時22分08秒
- そのまま頭上の球を破壊するかと思っていた光の槍は突然消滅してしまった。
「なんでっ!!?」
柴田の声がホールに響き渡る。
しかし全く意味がなかったというわけではなく、光の槍が通りすぎたのが
きっかけになって呪縛が解けたかのように矢口が動き出した。
つんくが頭上の球をこちらへと移動させるのを見て、おもいっきり石川を
反対側へと突き飛ばして回避しようとする。
矢口の方が体重が軽いために、どちらかというと矢口が吹っ飛んだ形に
なったが、とにかく一瞬の差でつんくの魔術は標的を外した。
「ちっ!」
柴田がこっちの体はなく自分の魔術に狙いを定めたことがつんくにとっては
予想外で、魔術を放つタイミングが一瞬遅れ、その一瞬の間にかわされる
結果となってしまった。
「しっかりしなさい!
こいつが黒幕よ。復讐するんでしょ!!」
「黙っとれや」
その言葉自体に力があるかのように、つんく自身は全く何もしていないように
見えたのだが、矢口は簡単に後ろへと吹っ飛び、転げまわる。
計画通りに事が進まなかったことがよっぽど頭にきたのか、とどめを刺そう
とするつんくに・・・・・・・・不意の一撃が撃ちこまれた。
- 352 名前:影武箸 投稿日:2001年09月09日(日)23時28分36秒
- >>ポン太さん
更新感謝してもらえてうれしいです。意欲がでます。
もうすぐです。辻&加護の出番のカウントダウンは既に
はじまっています。
それまではノンストップの更新で頑張っていきます。
次回の更新はすぐです。早めの感想なんていただけたら
助かります。非常に。
- 353 名前:空唄 投稿日:2001年09月10日(月)02時03分52秒
- ほんじゃ、早めの感想(w
石川ヲタとしては、活躍して欲しいですね。
なんか、石川だけ取り残されてる気がするし。
でも、この二回の更新では、かなりかっこよかったかな?
- 354 名前:七位 投稿日:2001年09月10日(月)02時19分25秒
- やった続きだ。暴走梨華ちゃんに萌え、・・・不意の一撃ってやっぱり・・・
続きが気になるよー、次の更新楽しみにまってます。
でも無理はせずマイペースで
- 355 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)03時25分55秒
- 柴田もガンバレ!
けど、メロンってどのくらいの実力?
柴田は強そうだけど…。
もうすぐ加護、辻か、頑張ってください。
- 356 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)03時38分55秒
- 石川の大爆発はあるのか!?・・・非常に気になるところです。
次は辻・加護なのか、プッチ軍団の方はどうなってるのかな〜(w
- 357 名前:ぐれいす 投稿日:2001年09月10日(月)08時15分45秒
- 石川の頑張りに期待するしかないです。
裕ちゃんにもう一度チャンスを!!
- 358 名前:影武著 投稿日:2001年09月10日(月)22時20分57秒
- ぐあ〜〜。マジでレスが早い。
更新は2時ごろになりそうです。
- 359 名前:影武著 投稿日:2001年09月11日(火)02時31分15秒
- 「おっ・・・オッ?」
気絶する寸前でなんとかもちこたえたつんくは、必死で意識を保ちながら
状況の把握に全力を注ぐ。
(・・・・・・・・・・・・・魔術か?今のは)
「もう一発やっちゃいなさい!」
「うおっ!!?」
声に驚いたつんくはその主が誰かも確認せず前方に体を投げ出して避難した。
背後からは魔術の着弾した音が聞こえてきて、その特徴的な音から攻撃してきた
魔術の正体をなんとなく理解する。
(電流か・・・・・。術者はどこや?)
突然の奇襲に冷静さを失いかけたが、次第に敵の正体にも見当がついてきた。
冷静でいさえすればこの状況は恐れるに足らない。
- 360 名前:影武著 投稿日:2001年09月11日(火)02時33分21秒
- 「もう一発かましなさいよ。こら!」
焦りはじめた声が命令すると、やや遅れて再び電撃がつんくに襲いかかるが
今度は微動だにせず魔術で防御する。
見上げた視線の先、ホールの二階部分には黄色いウサギを抱えたあさみと
その横に立っているりんねがこちらを見下ろしていた。
「ちょっと・・・・・・ばれちゃったわよ」
「そうみたい・・・・ねぇ・・・・・」
先ほどまでのテンションはどこへいったのか、その視線は早くも逃げ道の確保
のためにせわしなく動き始め、へっぴり腰であとずさりはじめる。
「・・・・・・・・・・・」
無言のつんくは二人の足場を壊そうと巨大な光球を撃ちこんだ。が、今度は
つんくの魔術のほうが直撃寸前で消滅した。
「サンキュ〜。梨華ちゃん!」
心底助かった様子のりんねの感謝の声は、たった今つんくの魔術を防いだ
石川へと確かに聞こえた。
- 361 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)02時49分10秒
- (夢なんかじゃない、生きてたんだね!)
「助けに来てくれたんだね!」
「この場は任せたよ、石川支配人!私たちは義剛を追うから」
「エッ? あれ?」
力強く無責任な一言を残して、混乱させるだけさせて、そして少し石川を
元気にしたりんねとあさみは逃げるようにその場を去っていった。
- 362 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)02時51分19秒
- ホールを支配している静寂を最初に破ったのはつんくだった。しかし
最初に動きだしていたのは石川だった。
「オオッ!?」
体と意識が分離されたかのような感覚が襲う、自分の体が勝手に膝をついた
ことにつんくは驚きの声をあげてしまう。
(今度はなんや?・・・・・・体が重い。重力?魔術で重力を?)
推理している間にも膝をついているだけでは体を支えきれなくなって、
両手をついてなんとか耐える。
(これは防御の魔術では防げん。中和するしかない)
考えがまとまると、急いで魔術を発動させた。
イメージすることが難しいために、難易度の高い魔術にもかかわらず、
一瞬でつんくを地面に押しつけている重力と同じだけの逆向きの力を
発生させる。
(それにしても、こんなん使えたんかコイツ)
- 363 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)02時53分19秒
- 石川のたった一つの切り札である魔術にもかかわらず、既に平常時となんら
変わりのない様子で立っているつんくに焦らされるが、それでも二度と絶望
はしない。
(任されたんだから・・・・・)
石川とて「もしかして逃げたのではないか」という気がしないわけではなかった
が今は許そう、生きていてくれただけで十分である。
重力の魔術を使うのをやめて、次の魔術をイメージする。
一方つんくも黙って待っていてくれるわけもなく、巨大な火球が四つ目の前
に創りだされて発射寸前の気配を漂わせていた。その大きさは規格外で、石川
では全力を出しきっても一発分の火力にも及ばないだろう。
「みんなで防ぐよ!!」
矢口の一言に反応したのは石川だけではなく、離れた場所にいた柴田も石川の
もとへと駆け寄って、つんくが魔術を発動させるタイミングを計る。
「きますっ!!!」
柴田の合図で、矢口・石川・柴田が発動させた防御魔術が創った3層のバリアー
が三人を包みこんだ。さらに次の瞬間、業火が三人を包みこんだ。
- 364 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)02時58分45秒
- 「死んだかと思った・・・・・・・・」
膝をついた矢口の一言に石川も柴田も素直に共感した。
三人の防御を危うく突き破りかけたつんくの魔術によって周辺には焦げた
においがたちこめ、床も相当の熱をもっていた。
そして今の一撃はなんとか防げたものの、次は無理だろう。矢口の様子を
見た二人に直感が働いた。
「ごめんね。これ以上は役に立てそうにない・・・・・・・」
治療の魔術なら得意なのだが、攻撃や防御などの魔術のコントロールが苦手
なことに加えて、今回全力で防御したせいで極端に体に負担をかけてしまった。
膝が震えて立つこともできそうになかった。
「もう守りきるのは不可能よ。こっちから攻めないと」
石川も柴田もその言葉を最後まで聞く前に、はじけるように左右に走りだす。
石川が閃光を放ち、一瞬遅らせて柴田も閃光を放つ。スピードが決め手なだけに
二人とも最もイメージしやすい魔術での攻撃となった。
- 365 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)03時01分57秒
- タイミングも角度も違う攻撃にもかかわらず、両方がつんくには命中せず
防がれる。そろそろ柴田には理由がわかってきはじめた。
つんくが二つの魔術を同時に使っているということを認めるしかなかった。
(あの人にも伝えないと)
そう思い石川を見た瞬間、そもそもこの戦いに自分まで参加しているのは
なぜなのだろう、とふと考えてしまう。
・・・・・・・・・波長があうのだろう。
無理に納得させるつもりで考えるのをやめて、石川に視線を送った。
(何か言いたそう。怒ってるのかなぁ)
柴田のテレパシーを全く見当外れに受け止めた石川だが、攻撃の手は緩めない。
惜しむことなく再び切り札の重力魔術でつんくに片膝をつかせる。が、すぐに
またつんくに中和されてしまう。
しかしそれを見逃さず、柴田の繰り出した光の槍が正面、さらに背後から
回り込んでつんくの前後を襲った。
(ええコンビネーションやないけ・・・・・・・・)
防御だけで精一杯というほどでもないが、攻撃にまで手をまわせるほどの
余裕は与えてはくれない攻撃に、久々に戦いの緊張感を思い出す。
- 366 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)03時03分35秒
- いつの間にかつんくの周りを移動しながらの攻撃が長い間続いていた
らしい。再び出会った石川と柴田は同時に口を開いた。
「あの人は2つの魔術を同時に使うみたい」
「巻き込んじゃてすいません。あとでお礼はしますから」
二人の第一声は完全に噛み合っていない。
(そんなこと考えてたの?)
(怒ってるんじゃなかったの?)
柴田はめまいを覚えながらも両手から30本を越える光の槍を生み出して
つんくにむかって放った。
石川はホッとしながら、柴田に精一杯の笑顔を送りながら最大の力での
重力魔術をつんくへ発動させた。
今までで最も威力の大きい二つの魔術がつんくの周囲の床を滅茶苦茶に破壊
し、大量の粉塵を巻き上げる。
- 367 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)03時05分59秒
- 「私が行きますから、私にあたらないように援護してください」
石川が自分よりも年上か年下か判断できないために少しおかしな言葉使い
になってしまったが、手短に、特にセリフの後半を強調して作戦を伝えた。
(えっ!? 行くってどこに? まさか逃げちゃうの?)
セリフの前半しか聞かず動揺する石川には気づかず、柴田はいまだ巻き上がり
続ける粉塵へと一直線に駆けこんでいく。
「あっ! そっちは危ないよ」
石川ののん気なセリフに心臓が凍りつきそうになる。
(作戦聞いてなかったの?今さら止まれないよ〜)
既につんくの周囲を覆っているものは何もなく、むこうからもこちらが
つっこんでいるのは丸見えだ。
牽制の光の槍を数本撃ちこむがあっさり防がれる。問題はこの後である。
すでに眼前にはこちらが放った魔術と交差した光弾が迫っていた。
(たのむよっ。神様・・・・・・・)
石川には一切祈らず、恐怖に閉じそうになるまぶたを必死で開きながら
つっこんでいく。
- 368 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)03時07分48秒
- それは奇跡と言っても言いすぎではないだろう。
といっても、石川が作戦通りに動いたことではなく、柴田と石川の
コンビネーションが奇跡と言えた。
神頼みが効果を発揮したのか、迫る光弾は見えない魔術の壁に阻まれて
柴田にまで到達することはなかった。
既に柴田の魔術を防ぎ、石川に光弾を止められたつんくは2つの魔術を
使って手づまりになっている。柴田とてこれからつんくに接触するまでの
一瞬では魔術を使う暇などないが、攻撃する手段がないわけではない。
(素手でやる気か?)
格闘は全く駄目、というわけではないのだが魔術ほどの自信はない。
しかも柴田は迷うことなく接近してきている、相当自信があるもの
と見たほうがよいと判断したつんくは後ろへ下がろうとした。
「!!!??」
脱力感というわけではないが、それに似た感覚が襲い体勢を崩してしまう。
- 369 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)03時08分37秒
- つんくにむかって走る柴田を守ったのは無意識ではなかった。似たような
場面を一度体験していたことが柴田の作戦を石川に気づかせた。
(・・・・・・・・・よっすぃー・・・・・・)
卒業試験の時の平家につっこんでいく吉澤の背中と、つんくにつっこんで
いく柴田の背中がオーバーラップした瞬間、石川は理解した。
- 370 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)03時09分23秒
- 「重力?なんで、あいつが?」
考えたくはない、認めたくはないが可能性がないとは言い切れない。
このタイミングで魔術が使える者が自分以外にもいるとは。
(2つの魔術をほぼ同時に使いよった・・・・・)
考え事をしながらでは柴田の攻撃にまともに対処できるはずもなかった。
咄嗟に顔面を両手でかばったが、視界を閉ざしたことが逆効果になって
しまい、モロに柴田のパンチをみぞおちにくらってしまう。
くの字に折れ曲がったつんくの体に肉薄し、低くなった首筋に肘を
叩きこんで意識を刈り取る。平家ゆずりの格闘術が完全な威力でつんくに
炸裂した。
- 371 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)03時10分15秒
- 「義剛さん、こっちです」
「わかってるって」
いまいち緊張感のない義剛に斉藤はイラつきながらも、少しでも屋敷から
遠くへと離れるために急いでいた。
柴田一人を残してきたことが気がかりでイライラしているというのに、
この男の反応の悪さときたら・・・・・・・・・
屋敷からはまたもや爆音が聞こえてきて、思わず振り返る。
「私たちが行っても足手まといになるよ」
「わかってるけど・・・・・・・・」
たしかに村田の言うことはもっともで、魔術の使えない自分たちが参加
しても柴田の役には立てないだろう。平家に全てを教えてもらった柴田
に任せるしかない。
「待ちなさ〜い」
背後から呼び止める声が聞こえた。
「りんねとあさみじゃん。何しに来たのよ?」
- 372 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)03時12分19秒
- 「何しに来たって・・・・・・・・・」
そう問われると返す言葉がない。
義剛の屋敷で石川のピンチに手出しをして、自分たちがやばそうになったので
逃げている途中に、偶然逃げるように屋敷から離れる義剛たちを発見したので
声をかけただけなのだから。
しかもあさみの胸には義剛の屋敷の一室に捕らわれていた、魔獣の黄色いウサギ
が抱えられたままである。気づかれたらこちらのほうがヤバイ。
「遠慮せんとぶっ飛ばしたり」
新たな声は森の中からだった。
ほとんど隙間のない木々の間をバキバキと邪魔な木をへし折りながら、
無理やりに森から抜け出してくる。
間違いなくこの場で一番怪しい。
「コ、コラ! 魔獣をこっちにむけんな!」
あわててあさみに言い放つ。
あさみが魔獣をむけなくなったのを確認してから事情を説明する。
「そいつは借金返さすためにあんたら集めたわけとちゃうで。
なあ義剛さん・・・・・・・・・・・
連盟は全部知っとる、おとなしく連行されてもらうで」
不敵な笑みを浮かべた中澤は蛙をにらんだ蛇のように義剛を追いつめていく。
- 373 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)03時13分16秒
- 「連盟」という単語に明らかに動揺した様子の義剛は当然ながら素直には
従う気はないようで後ずさりながら命令する。
「そいつを止めるんだ」
言うが早いか、義剛は脱兎のごとく走りだした。
命令された大谷・斉藤・村田はとりあえず中澤の進路に立って妨害の意思
を表している。
中澤としてはこんな小娘たちにはかまってはいられないというのが本音で、
りんねとあさみにむかって指示をだす。
「あんたら、こいつらのことは・・・・・・・・」
「この場は任せます」
「えっ? おい、ちょっと!」
言うが早いか、りんねとあさみは脱兎のごとく走りだした。
あとに残ったのは目が点になって言葉を失った中澤と、そんな中澤に少し
同情した視線を送る大谷・斉藤・村田の三人だけだった。
- 374 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)03時15分09秒
- 「とりあえずあなただけは進ませませんよ」
気をとりなおして斉藤が言うと、それが合図になったかのように三人は
中澤の周りを取り囲んで戦闘態勢をとる。
「・・・・・・おう、こいや!」
いつもよりも凶暴なテンションの中澤は、自暴自棄になって叫んだ。
「いくよ!」
斉藤の合図で三人が同時に中澤へとむかう、その動きが始まる一瞬前に
中澤は斉藤にむかって迫った。斉藤が一歩進む間に二歩で距離をゼロに
した中澤は、その勢いでみぞおちを殴って行動不能にさせる。
中澤の動きが止まったのはその一瞬だけで、大谷と村田が驚きの声をあげる
暇すら与えず、今度は三歩で大谷へと接近した。
すかさず援護にきた村田の拳を片手でそらして、大谷の額に頭突きをお見舞い
し、顔面をおさえてうずくまったところに脇腹にとどめの膝蹴りをいれる。
またもや動きが止まったのはその瞬間だけで、すかさず体を半回転させて
村田へと裏拳を放った。
なんとか両手でガードした村田は急いで後退して距離をとる。
「あの、私は邪魔しませんから。どうぞ、行ってください」
「まあそう言うなや」
「助け、あっ・・・・・」
- 375 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)03時17分23秒
- 「ええ攻撃やったで。久しぶりに焦ったわ」
倒れている石川と柴田にむかって、めったに使ったことのない褒め言葉を送る。
正確には倒れているわけではなく、強烈な力で床に押し付けられているという
ほうが正しい。石川の重力魔術とは比較にならないほどのパワーで発動している
つんくの魔術が、二人に抵抗さえ許さなかった。
「お前を殺すのはやめや。腕を磨け、もっと強うなれるはずや」
何を言っているのかわからない。そう訊きたかったが口を開くことすら
できないほどの力に押さえつけられている。石川にはかろうじてつんく
の足元だけが見えていた。
そろそろ呼吸をするのも困難になってきた。いまだに重力の魔術の威力は
大きくなっていっているらしい・・・・・・・・・
いつの間にか気を失っていた石川が起きた時、隣にはりんねとあさみ。
少し離れた場所には大谷・斉藤・村田が石川とほぼ同時に起きた柴田を
囲んでいた。
- 376 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)05時14分06秒
- 「もう心配ないよ、全部終わったから」
りんねが石川を安心させるような口調で話しかけてきた。
「義剛は捕まったから、借金のことは当分は大丈夫みたい」
詳しい説明はあさみがしてきた。
とりあえず気がついたからには、やっておかなければならない事がある。
石川は柴田のもとへと歩いた。
「ありがとうございます。ホントに助かりました」
「ううん、いいんだよ。私が勝手にやったことだし・・・・・・」
照れくさそうに、後悔はしていない表情で柴田は言い返してきた。
「ちょっと、あんたのせいで私たちの雇い主がいなくなっちゃたじゃない。
責任とれんの?いいえ、責任とってもらうわよ」
怒涛の勢いで石川に迫りながら斉藤はまくしたてた。無理もない、斉藤に
してみればいきなり殴りこんできた石川がきっかけで今回の事件が起こった
ようにしかみえないだろう。
- 377 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)05時14分42秒
- 「なによ、梨華ちゃんのせいじゃないんだから。
それに元はといえば義剛が悪いことしてたから捕まったんじゃない」
「あさみ、あんたは黙ってな!」
言い争いは激しくなる兆しをみせつつある、このままでは危険と判断
した石川はある提案をすることにした。
「あの〜、とりあえずウチで働いてみませんか?」
「イヤよ」
「それはちょっとね〜」
「無理だね」
「いいの?」
「「「!!!???」」」
重なった声の中におかしな言葉が聞こえて顔を見合わせる。
- 378 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)05時15分55秒
- ・・・・・・・一ヶ月後
「皆さん、出動で〜す」
「は〜い!」
石川の出動命令に返事をしたのは柴田一人のみ、他の人間は視線すら
よこさず無視してくる。
「あの〜、もう一人来てほしいんですけど・・・・・・・」
もう一人いないとグループが成立しない。
絶対りんねとあさみのグループに入るのはイヤだと断固反対し続けて
いるために、大谷・斉藤・村田・柴田は正式には登録されていない。
よって仕事を請けた時には必ず石川役・りんね役・あさみ役の三人で
行くことにしている。もちろん本人達が行くことも多々あるが。
といってもいつも石川本人と柴田と、あさみかりんねのどちらか一方
というメンバーがほとんどであった。
時々だが大谷・斉藤・村田が行くこともあった。なんだかんだ言って、
世話になっているという意識はあるらしい。
- 379 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)05時17分53秒
- 柴田に聞いたところでは、りんね達と自分達の四人は同じ学校に通い、
さらに卒業試験も同じのライバルだったらしい。
卒業試験の時にりんねとあさみが足手まといになって、危うく不合格
になりかけたのがきっかけで仲が悪くなったそうだ。
妙に納得できる話である。
ともあれ・・・・・・・
「誰かもう一人来てよ〜」
結局。その日の仕事はあさみが病欠ということで、石川と柴田のみで
請けおうこととなった。
「柴ちゃんだけだよ、まじめに働いてくれるのは」
「えへへ」
- 380 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)05時19分41秒
―――――石川(中澤・矢口)編・・・・・・・完―――――
- 381 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)05時21分31秒
- >>空唄さん
石川、今回はかなり頑張りました。
ホントに早いレス感謝します。おかげで更新だけして寂しく終了
という事態は回避できました。
>>七位さん
更新期待してもらってありがたいです。
質は落とさず、これからも早めの更新が続けばと思います。
お気使いの言葉、胸に響きました。
>>355
深夜のレス感謝です!
メロンの実力、今回ほとんど明かされませんでいたが、とりあえず
柴田は娘。達の中に入っても見劣りしないぐらいは強いです。
これは後々書かれるでしょう。
- 382 名前:影武者 投稿日:2001年09月11日(火)05時22分39秒
- >>356
石川の大爆発。というよりは誤爆に近い今回の活躍ぶりですが
とりあえず不発ではなかったってことでお許しを。
これまた深夜のレスありがとうございます。
>>ぐれいすさん
毎度どうも。石川、吉澤・加護・辻に比べて一番頑張ったと
思います。
中澤、チャンスはあったけど恐ろしく早くメロンを瞬殺したせいで
あっという間に出番が終わって申し訳ないです。
>>358
・・・・・・・・・・・
さてさて、次回は新スレにての更新になります。
安倍・飯田・加護・辻・市井・保田・後藤・吉澤編、乞う御期待。
・・・・・してくれると嬉しいです。
- 383 名前:空唄 投稿日:2001年09月11日(火)13時39分18秒
- 石川編面白かったです。
石川のへなちょこっぷりは相変わらず残ってますけど(w
とりあえず、石川編がもうしばらくないようなので、連続レスしちゃいました。
しばらく、ROMになるかと思いますが、ちゃんと読んでいるんで。
これからも応援しています。
- 384 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)16時48分39秒
あらら…もう中澤当分でてこないっすか?
残念〜
いつかまた出てくるのを祈って読み続けます!
がんばってください!
- 385 名前:影武者 投稿日:2001年09月12日(水)21時02分30秒
- >>ポン太さん
更新に感謝してもらって感謝してます。
市井グループと飯田グループの絡みはもうすぐです。期待に応えられたら
いいですね。
ずっと読んでもらえると安心して更新できます。
>>ぐれいすさん
おそらく今回の話には山場がいくつもあるでしょう。
現在絶好調なので次の更新も早そうです。どんどんネタが浮かんでるので
なるべくお待たせしないように頑張ります。
>>7
とりあえず今回は保田と吉澤をほんの少しだけ対戦させてみました。
他にもいろんなキャラの対戦があるので、一つ一つが面白いと思われるように
必死で頭をひねってます。
>>8
保田はいつもガチンコのつもりですが、なかなか吉澤がその気になりません。
まあ試合であたることになれば嫌でもその気になるでしょう。
しばしお待ちを!!(あたらなかったりして・・・・・・・・)
さて・・・・・・・頑張ります。
- 386 名前:影武者 投稿日:2001年09月12日(水)21時34分58秒
- 「くそ〜、つんくめ〜。矢口に上等かますとはええ度胸やんけ」
「まあまあ。こうして生きてるんだからいいじゃん」
連盟に義剛を引き渡してからの帰り道、矢口から義剛の屋敷での出来事
を聞いた中澤は怒りもあらわに叫び散らす。
「それより素手で熊をやっつけたんでしょ、すごいじゃん」
「ふふふ、まあな。また新しい伝説つくってもうたわ」
「すごいよ、裕ちゃんは・・・・・・・・
それに比べて私、全然役にたてなかった・・・・・・・・・」
落ち込んだ様子の矢口を見て、それまで調子よく話し続けていた中澤は
急に言葉が途切れてしまう。
もともと背の低い矢口が落ち込んで肩を丸めた姿は、半端ではなく弱々しく
感じられ、中澤の同情を一層集めた。
「元気だし。たまたま今回だけやって。
そうや、飯食べに行こ! どこがええ? 矢口の好きなもん奢ったるで」
瞬間、まさに一瞬、中澤ほどの達人ですら見落とすほどの短さで矢口の口元に
笑みが浮かんだ。
「どこでもいいの?」
「おう、ええで。どんとこいや」
「じゃあね〜・・・・・・・」
- 387 名前:影武者 投稿日:2001年09月12日(水)21時39分26秒
- >>385は言うまでもないとは思いますが間違いです。
>>384
中澤、当分出そうにないので、ほんのちょっとですけど
番外編を書きました。
いつかまた出てくるので、これからもよろしく読んでください。
- 388 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月15日(土)16時46分14秒
-
384書いた者です!!
ありがとうございます!!!
番外編書いていただけて…。
もちろん読み続けます!!!!
がんばってください。
まじ、おもろい!!!
- 389 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月29日(土)04時08分55秒
- やぐちゅーマンセー(w
ところで、りんねとあさみはどうやって助かったんでしょう?
能力?…「しぶとい」とか。(それ能力かよ)
もう一人いるとか。
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