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BODYTALK・圭

1 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月18日(水)05時46分36秒
なんとなく書きます。
予定ではちょっとH系です。
自分でもどうなるかわかりませんが。
2 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月18日(水)05時47分12秒
 都会の雑踏の中。
 ビルの一角を歩いていた後藤はふと足を止めた。
 珍しい色のシャツが店頭に折りたたんで置いてある。
 秋の新作らしいセーター。
 なんとはなしに手にとってみる。
「・・・うわ、高っ・・・」
 小さくつぶやいてしまった。
 だって、セーターだけで2万て、ちょっと高すぎじゃない?
 けど、すごく派だ触りとかよくって、買えはしないものの未練がましく撫で
てみたりして。

 奥に控えていた店員さんがめざとくその様子をみつけて出てきた。
「どうですか? それ、今秋の流行色なんですよ」
「え? はぁ・・・いや、その・・・」
 しどろもどろでかぶっていた帽子を深く下げた。
 やばっ、ばれちゃうかな。
 そうしたら余計にあやしいと思ったのか、店員さんが後藤の顔を覗くように
してきた。
「あ、やっぱりまたあとで来ます!」
 後藤は逃げるようにしてその場を去った。
 ギリギリセーフだろうか。
 けど、人気芸能人がお金なくて買えないとことか、見せたらいけない気が
するなあ。

 少しその場を離れてから店の様子を眺めた。
 普段自分が入る店に比べてやっぱり年齢層がやや高い。
 まだ後藤には早いっつーの。
 そう自分を納得させてその場は去ることにした。

 そんな後藤を遠巻きに、一分始終を眺めていた人が一人。
 後藤が別のアクセサリー売り場に入って行くのを確かめると、その人は店頭
に置き去りにされたセーターを手にとった。
3 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月18日(水)05時47分48秒
 ふぅ〜、とカップに刺したストローをくわえたまま後藤はホール脇に腰掛け
て休んでいた。
 平日なのにすごい人だよね・・・。
 久しぶりのオフで繰り出した買い物だ。
 本当はぐっすり寝るつもりだったんだけど、なぜか朝早くから目が覚めて。
 誰か誘ってもよかったけどなんとなく一人で出歩くことにした。
 たまにはそうするのもいいかな、と思っただけなんだけど。

 だけど、やっぱり一人だとつまんない。
 ふらっと歩くだけならもうちょっと広いところでもよかったし。
 一通り店も見終わったことだし、そろそろ帰ろうかな、と思っていた矢先
だった。
「後藤!」
 隣に人が座ってきた。
 一瞬げっ、と身構えるけどその緊張はすぐに解けた。
 太めのふちの眼鏡が視線をオブラートにしている。
「圭ちゃん、来てたんだ」
「新しい店が入るって聞いてたからね」
 見ると、ついさっき買ったらしい袋がいくつか。
「外で会うって珍しいね」
「うん。あたしも見つけたときちょっとびっくりした」
「一人で来たの?」
「そ。急に思い立ってさ。変に早く目が覚めちゃったし」
 同じだね。
 後藤はちょっと嬉しくなった。

「後藤、これからどっかまた行くの?」
「ううん。疲れちゃったし。そろそろ帰ろっかなって思ってたんだ」
「へぇ〜っ」
 保田は何か考えるみたいにして頬杖をついた。
「じゃあさ、ウチに来ない? あたしも退屈してたし」
「いいの?」
 保田は言ってすぐに立ちあがった。
 じゃ、決定ね。
4 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月18日(水)05時48分21秒
 一人暮しの圭ちゃんの部屋。
 なんだかんだで来たことってなかったし。
 掃除が嫌いというわりには意外とすっきりしているな、ていうのが第一印象
になった。
「割と広いね」
 保田は冷蔵庫からペットボトルとグラスを二つ持ってきてテーブルに置いた。
 後藤がそれを準備していると、がさごそとさっき買ったばかりらしいものを
取りだし始める。
「何買ったの?」
 んー、と保田は含んだ笑いをして一つ袋を取り出した。
 見覚えのあるロゴ。
 封を切って取り出すと、それは鮮やかな色のセーターだった。
「あ! それって・・・」
 見てたんだ、って言いそうになった。偶然じゃ、ないよね。
「遠くから見ててさ。後藤に似合いそうな気がしたし」
「先に声かけてくれればいーじゃん」
 悪いことをしたわけじゃないけど照れてしまって、後藤はふくれっつらを
向けた。
 ごめんごめん、とイタズラっぽく保田は笑う。
「着てみる?」
「いいの? 高かったじゃん、これ」
 とは言いながらもちょっと袖を通してみたかったんだよね。
 保田が手渡すとすぐに後藤は立ちあがって上着を脱いだ。
5 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月18日(水)05時48分54秒
 けど、シャツを脱ぎかけたところで手が止まる。
 振り向くと、保田が着替えの様子をじいっと見ていた。
「何だよ・・・そんなじっと見ないでよ」
 普段みんなでうわーっ、と着替えるときなんかは気にしないんだけど、こう
して二人だけの時にじっと見つめられたりすると少し変な感じだ。
 後藤がお腹のあたりまで捲り上げたまま止まると、保田は今気がついたみた
いに笑って目をそらした。
「わかったよ、じゃ、後ろ向いてるから」
「うん・・・」
 言って椅子を逆にした。
 後藤はなんとなく恥ずかしい気分になったけど、意識しないことにして続き
を脱いだ。

「似合うじゃん、その色」
 できたよ、という声で保田が振りかえった。その第一声。
「体の線も見えるし、色っぽく見えるよ」
「本当? えへへへへ・・・」
 素直に誉められて照れてしまう。
 脇の姿見で確かめると、思ったほど年齢に違和感もなかった。
 あたしって大人じゃん! とか思ったり。
「いーなー。あたしこれ買えばよかった」
 保田はグラスを持ち上げて一口含んだ。
「いいよ。あげる、それ」
「ウソ! ちょっと、それは悪いよ」
「もともと後藤をびっくりさせようと思って買ったんだし。いいよ」
 びっくりして目を丸くすると、保田が立ちあがってそばまで来た。
6 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月18日(水)05時49分26秒
 姿見と対峙する後藤の後ろ側に回って一緒に鏡を見る。
 こっそり、けど確かに圭ちゃんよりも後藤に似合う色かもなーとか思ったり
した。
「あ、ちょっと」
「えっ!?」
 保田が急に頭を下げて後藤の首筋に触れた。
 一瞬びくっとして体を引く。
「タグさ。ついたままになってるよ」
 うなじのところ。そういえばちくちくしてるっけ。
 そっか、とおとなしくしたがって元の体勢に戻る。
 保田が指で引っ張り出して、歯を立てた。
 ぎくっ、とその瞬間は体がこわばる。
 鏡を見ると、後ろから抱きしめられているみたいでもあって、どきどきした。
「取れたよ」
 あっさり体を放す保田に、後藤はほぅ、と息をついた。
 なんか、後藤今日ちょっと変なのかな・・・。

「本当にいいの?」
「うん。そのうちなんかでお礼して」
「逆に高くつきそうだなー」
 ははは、と笑った。
 気のせい、だよね。
 圭ちゃん、笑い方が少し冗談ぽくないよ。
 笑いが止まると、会話も止まった。
 やっぱり秋物だからか、冷房があるとはいってもちょっと暑い。
7 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月18日(水)05時50分02秒
「ねえ、脱いで」
「えっ?!」
 急に保田がそう言ったのに、後藤はびっくりした。
 最初に座っていた椅子に戻って、保田が自分をじっと見ている。
「暑いでしょ?」
「あ、は・・・。そうだよね、そうそう・・・」
 後藤はきっと、「脱いで」じゃなくて「脱がないの?」の聞き間違いか言い
間違いなんだと思うことにした。
 そんなわけないし、ね?

 けど、今度もまたじいっ、と見られる感じ。
 セーターの下はすぐ下着だし、後藤はまた戸惑った。
「うーん・・・」
「また後ろ向いた方がいい?」
 からかうみたいな言い方だった。
 なんとなく、反抗してみたくなって。
「いいよ。別に」
 言って、勢いよくセーターを脱いだ。
 ブラジャーだけになって、セーターを椅子にかける。
 保田は、おもしろそうにそれを見ていた。
「ねえ」
「えっ?」
 さっき脱いだ自分のシャツを目で探していたとき、また保田が言った。
「脱いでよ」
「脱ぐって・・・え?」
 保田はあらわになった後藤の肌から目をそらさなかった。
「それも、全部」
「な、何? えっ?!」
 からかってるの?
8 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月18日(水)14時29分05秒
おぉおおぉう!!こっれは!!続きを続きをぉ!!(w
やすごま好きなんで、かなり嬉しいです♪
しかも作者さんの文章がまた良いって言うか・・・マジで良い感じです。
とにかく頑張って下さい!(w
9 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月18日(水)22時32分16秒
やすごまだ!!
大好きなんですよ。この二人。
しかも良いところで切ってるし・・・。
めっちゃ期待してます。
10 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月19日(木)05時19分42秒
あっ!
さっそくレスついてる。
ありがとうございますー。
意外とHでもないかもしれない、かな?
11 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月19日(木)05時21分06秒
(続き)

 くすくすくす、とおかしそうな笑い声が部屋の中に響く。
 まるでばかにされてるみたいな軽い屈辱感が後藤の中にこみ上げてきた。
「な・・・なんだよ。何で笑うの?」
 後藤が言いながらも自分の上着を取った。
 恥ずかしさに胸元を隠す。
 保田は笑いを止めて、そうした後藤をまた舐めるように見た。
「からかってなんてないよ。ただ、そういうのも見てみたいかな、って思
ってさ・・・」
 立ちあがって、一歩、二歩。
 後藤は、胸で握り締めた手に力をこめてしまう。
 保田が手の届く距離にまで近づいて、後藤の胸を押さえる手をつかむ。
 そのとき初めて気がついたけど、後藤、あたし、手がかたかたと震えている
みたい。
「どうしたの? 何か、怖い?」
 包むみたいにして両手でそれを覆った。
 後藤は必死に首を振る。
「圭ちゃん、どうしたの?」
 言ってみる。
 けど、返ってくるのは微笑みばかりで。
「どうも、しないよ。後藤こそ、どうかした?」
 やや、下瞼の上がった保田の笑顔。
 胸元の腕を横にゆっくりとどかすように動かされる。

 鎖骨のあたりを親指がなぞった。
「!」
 そのとき、後藤はびくっと腰を引いてしまった。
12 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月19日(木)05時22分53秒
 下半身が熱い。
 腰の内側のあたりが、ぐっとしめつけられるような感触だった。
 じりじり、と後ろに下がると鏡のわきの壁に背中がつく。
「や・・・やめようよ。圭ちゃん。いたずらだったらさ・・・」
 保田は後藤の肩を軽くつかんだままこめかみのあたりの髪に顔を寄せた。
「本気で嫌なら、ふりほどけば?」
 唇で髪の毛をいくらか挟んだ、じゃり、という音が聞こえた。
 握り締めていた手の力が弱くなる。
 どきどきして、目もあけていられない。
 目じりに、柔らかいものがあてられたのがわかった。
 薄く目を開くと、上目遣いに自分を見る圭ちゃんの顔があって。
 わざとじゃないかってくらい思いきりゆっくりなスピードで、唇に近づいて
きた。
 生温かくて、ぬるっとしてて。
 目を閉じるとどしんどしん、と心臓の波打つ音が響いてきた。

 知らず知らずに胸を隠していた腕が下がって、同時に持っていたシャツを
落とす。
 保田は、剥き出しの肌の背中に指で円を描いた。
「座れば?」
 ずず、と壁伝いに腰が落ちていく。
 床についたとき、保田は脚の間に体を挟むような体勢になっていた。
 スカートから覗いた膝を持ち上げる。
「圭ちゃん・・・」
 だって、圭ちゃんだよ?
 どうしてこんなことになっちゃったの?
13 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月19日(木)19時09分25秒
「ちょ・・・やっぱ、や・・・だ」
 体に割って入ろうとする保田の肩を必死に押し返した。
 保田はおとなしく離れようとするかに見せて、しっかり後藤の膝の間から
体勢を動かさずにそう言った顔を見た。
 後藤は、顔が真っ赤になる。
 下着一枚の肌に、視線が痛いくらいだ。
「嫌? どうして? 何が?」
「・・・だって、圭ちゃんがHなことしようとする、から」
 保田はちょっと大げさなくらいに驚いてみせた。
 答えようとする声がはっきりと出ない。
「ねえ、Hが嫌なの? あたしが嫌なの?」
 保田は唇を寄せた。
 何も答えられない。ただ、奪われるままになる。
 舌がこじ入れられて、自分のそれを廻すように探られた。
 ぴちゃ、と大きな音が聞こえる。
 顎までゆっくりと舐められて、それからやっと解放された。
「嫌でも、ないんじゃない?」
 その動きに合わせた後藤を見透かして保田が言った。
「だって。急だし・・・それに、こういうのって・・・」
 きゃっ!
 上手な言い訳が見つからないうちに保田が次の動きを開始する。
 下着の上から胸をつまんだのだ。
「・・・いいよ。それで? 続きは?」
「だから・・・そのぅ・・・」
 ぐっと言葉途中で保田の肩を握った。
 もみしだくように両手が動いてくる。
14 名前:ラック 投稿日:2001年07月19日(木)19時38分21秒
あの〜僕の小説に川燕・斬さんの小説の一部分が
間違って書かれてるんですけど・・・
15 名前:ラック 投稿日:2001年07月19日(木)19時48分26秒
速く川燕・斬さんに気づいて欲しいので欲しいので
ageさせてもらいます。スイマセン・・・・
16 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月20日(金)05時37分31秒
すみません。
すぐに削除依頼出したんですけど、まだ消えてませんか?
それがショックだったので、しばらく姿を隠します。
17 名前:ラック 投稿日:2001年07月20日(金)13時00分25秒
いや、すぐに小説の方は消されたのでいいですよ、
それより姿を消せれたら困ります、僕のせいみたいになるじゃないですか。
お願いします、姿、隠さないで下さい。
18 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月21日(土)21時43分27秒
作者さん早く戻ってきてください〜。
続き期待してますんで。
19 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月28日(土)00時14分40秒
 ふうふう、と乱れそうな呼吸を必死に戻そうとする。
 保田は下着沿いに腕背中に、ホックをはずしにかかった。
「そ! それはだから!」
 だけど制止に全く従う様子も見せないで、あっさりと背中は剥き出しにされ
てしまった。
 前を押さえようとする手と、取り合いになる。
「そんなに嫌? どうしても?」
「・・・」
 うつむいて、黙ったままになってしまう。
「じゃ、やめよっか」
「えっ?!」
 顔を上げた瞬間胸の少し上のあたりを噛みつかれた。
 谷間のあたりへと徐々に頭が下がると、はっ、と苦しい息が漏れる。
「う、うそつき。やめるって、さっき・・・」
 背中をつうっと指が伝わるのを感じて、体を反らせた。
 倒れそうになる体を支えるのに片腕をつくと、胸を覆っていたガードが弱く
なってしまう。
 隙を見て胸に再び触れようとする保田の手を必死に上からつかみ直した。
「したくない?」
 説得力のある目。
 もう、途中からこうなるんだってことは予想できたけど。
「放しなさい」
 穏やかに、だけど反論を許さないように保田は言った。
20 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月28日(土)00時15分53秒
 おそるおそる、後藤の手がはずされる。
 肩を滑るようにして紐が降りて、上半身を無防備な姿に変えた。
「いい子だね。後藤・・・」
 つうっと、胸の先端めがけて舌が動く。
 軽く噛んで、放して、また噛んでの繰り返し。
 後藤は、ぼうっとし始めた中で、保田の頭を抱えた。
 髪の毛中に指を入れる。
「後藤、腰」
「えっ?」
「少し浮かせて」
 背中の手が下に来て、後藤の腰を少し持ち上げるようにした。
 スカートが捲り上げられて、その下をくぐる。
 柔らかい指先が、それに合わせて自分の真ん中に届いたのを感じる。
「あ! 待って、待ってよ。圭ちゃ・・・」
「待てないよ」
 いきなり下着の中に入りこんで、肉を割った。
 濡れたような音がして、敏感な場所をつまむ。
「いいじゃん。もう、嫌なんて言わせないよ」
 言えないよ。
 どきどきと、どこまで早くなるか自分でもわからないような鼓動を打ち鳴
らしながら、後藤は目を閉じた。
 唇が、また塞がれる。
21 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月28日(土)00時17分03秒
どうも申し訳ありませんでした。
なんとなくこっそり復活してみたり。
沈むまではこんな感じで・・・。
22 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月29日(日)15時37分47秒
いいっす。あっさり目の文体が内容以上にやらすぃくさせてますね。
続き楽しみにしてます。
23 名前:名無し人。 投稿日:2001年07月30日(月)18時57分43秒
おっ!再開されてる!
楽しみにしてます作者さん。
がんばって!
24 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月31日(火)01時26分19秒
(続き)

 気が遠くなって、いつのまにか夢中になってた。
 何度か場所を変えたり、体の位置を変えたり。
 よく覚えてないんだけど、最後にはベッドの上に連れて行かれたらしい。
 開いて、とか。
 動いて、とか。
 動かして、とか。
 色々な指図があって、ほとんどなすがままにそれに従った。
 強く背中をつかまれて体をのけぞらしたあたりで、記憶が飛んだ。
 ぐったり疲れて、しばらく横になる。
 いつのまにか眠ってしまっていた。

 目が覚めたときには圭ちゃんの姿がなくなってて、後藤は白いシーツの上
で一人ぼんやりと視界がはっきりするのを待った。
 なーにがあったんだっけぇ。
 がばっ!
 起きて、自分が裸なことに顔を赤くした。
 これは! コレハ! これは!
 慌ててシーツを巻いたまま立ちあがると自分の服を探した。
 あっちこっちに散らばって転々としてたけど、とりあえず全部発見。
 かき集めるようにすると、急いで身につけた。
 微妙にいろんなところが湿っぽいのがすごく恥ずかしかった。
 シャワー浴びたりとかしたかったんだけど、とりあえず今圭ちゃんはいない
みたいだし、戻ってきたところで何をどうしていいかわからなかったし、まし
て続き、なんて話になるのも怖かったので、ほとんど逃げ出すようにしてその
部屋を出た。
 ぱたぱたぱた、と階段を駆け下りる。
25 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月31日(火)01時29分13秒
 翌日、顔を合わせるのが辛かった。
 仕事休もうかな、とかよっぽど思ったけど。
 でも今逃げたらこの先ずっと顔を合わせることができなくなりそうな感じ
がしたし、とりあえずは昨日の真意を確かめるだけでもしなきゃ、と後藤
は自分を奮い立たせて仕事に向かった。
 こそーっ、と到着と同時に控え室を覗く。
 まだ圭ちゃんは来ていない。
「おはっよーっ。ごっちん、どうしたのーっ」
 後ろからぽん、と肩を叩かれて、振り向くと吉澤がいた。
 あわわわわ、とうろたえながらもおはよう、挨拶を返す。
「ん? どうかしたの?」
「ううんっ。なんでもないんだけど・・・そのぉ」
 ちらっと、部屋の中と、後ろの通路を見る。
「圭ちゃん、来てないかな」
「保田さん? あー、そういえばまだみたいだね。なんか用?」
「用っていうかさ」
 ごにょごにょと語尾をしぼませて、後藤は指をつんつんとくっつけた。
 吉澤は首をかしげながらも後藤の手を取る。
「まあ、待ってればそのうち来るよ。早く中に入っちゃお」
「うん・・・そだね」
 と、そのとき。
「おっす!よっすぃ〜、ごっつぁん、おはよーっ」
「あ、保田さん。おはようございまーす」
 ぎくぅ! とその声に、後藤はおそるおそる顔を振り向けた。
 にっこりと目を細めた保田の顔。
 後藤はがんばって笑顔をつくろうとしたけど、ひきつってあまり上手には
できなかった。
「お、おはよ・・・」
「あれー? 後藤、具合でも悪いの? なんか顔色悪いけど」
「あ! 保田さん。ごっちん、さっきから保田さんのこと待ってたんですよ」
「あたし? おやおやー? なんだよ、朝からラブコールか?」
 すっごい普通の笑顔。
 後藤はその冗談に聞こえない冗談に、ますます顔をひきつらせた。
26 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月31日(火)01時30分54秒
「ごっちん、なんか話があるんじゃないの?」
「は、話ね。そうそう、その、ちょっとだけ」
「深刻そうだなー。いいよ。まだ集合まで時間あるっしょ」
 吉澤はそこに後ろから現れた石川と、さっさと中に入っていってしまった。
 おいてかないでー、とか後藤は思ったけど。
「いいよ。話って何?」
「その・・・昨日のこと、なんだけど・・・」
「昨日? えーと・・・」
 保田は首をかしげた。
 眉間にしわを寄せて一生懸命考えてるみたいだ。
 どゆこと?
「あ! もしかして!」
「な、なに? 思い出した?」
「昨日、ウチに来たのってごっちん?」
 来たもなにも、圭ちゃんに誘われたんじゃんか。
 そう言いたかったけど。
「ごめんねー留守しててさ。ちょっと買い物に出たんだけど、そしたら見知
らぬ服が置いてあるじゃん? 誰のかなーとか思ってたんだ」
 そう言って、バッグから店のパッケージを取り出した。
「はい。これ、忘れ物でしょ?」
 手渡されて、そっと中を開く。
 確かに、昨日圭ちゃんに買ってもらった服だ。
 思い出してまた顔が赤くなる。
「で、でも。これって・・・」
「え? 違うの? 後藤んじゃない?」
 あたしのっていうか、なんつーか。
 けど、受け取ったまま何も言わないと、保田はじゃ、確かに返したからね、
と笑って言う。
27 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月31日(火)01時32分49秒
「今度来るならさ、先に連絡してよね。あたしも部屋に鍵かけ忘れることが
よくあるから、きっと気を遣って中に入って待ってたんだろうけど。・・・
んんっ?」
 保田はちょっと首をかしげた。
 そうでしょ? おかしいじゃん、そんな話。
「そういえば、ごっちんてあたしの部屋に来たことあったっけ?」
「なかったよ! 昨日が初めて!」
「そっかー。じゃ、余計に悪いことしたね」
 よく考えれば矛盾が出てくるはずなのに、保田の頭の中ではそれはそれと
してきちんと整理できた普通の話になってるみたいだった。
 話がおしまいになってしまう。
「じゃ、今日も一日がんばっていこー」
「・・・はぁい」
 すがすがしい顔で部屋に入っていく保田。
 どうなってんの?
 圭ちゃん、あんなことがあったのに、まるっきり平気なの?
 ていうか、むしろ。
「圭ちゃん!」
 後藤は、最後にすがるように保田の腕をつかんだ。
「昨日のこと、覚えてないの?」
 保田は不思議そうな顔をしてそんな後藤を見た。
「? 覚えてるよ。昨日は、一人で買い物に行って、それで帰って来て疲れて
早めに寝たんだもん」
 後藤はぼうぜんとしてしまった。
 まるっきり悪びれない保田の笑顔。
 まさか、あれは夢だったの?
 そんなバカな?!
28 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月31日(火)01時35分12秒
こっそりと・・・。
29 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月31日(火)12時23分47秒
どどど・・・どーなるですかー!(w
展開にドキドキです!作者さんの文章とか表現が凄く良い感じで大好きです!
頑張って下さい!はー・・気になって気になって・・・(w
30 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月31日(火)17時40分57秒
コソーリ読んでおります。
コソーリ頑張って下さい。
31 名前:名無師 投稿日:2001年07月31日(火)19時11分07秒
意外な展開にどきどき・・
期待してます。
32 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月31日(火)23時34分37秒
>>29->>31
ありがとうございます。
実は、ここから先が本題でして。

33 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月31日(火)23時36分44秒
(続き)

 数日が過ぎて。
 ますます何事もないかのような態度を保田は続けていた。
 普通に笑ったり怒ったり。
 何だかそこまでキレイさっぱり忘れられてしまうと、後藤としても本当に
あれはなかったことなんじゃないか、とか思ってしまいそうになるんだけど。
 だけど、やっぱりそんなわけないとも思う。
 夢にしてはあまりにもはっきり感覚が残ってるし、何より、行ったことの
なかった保田の部屋にいたこととか、絶対に変!
 それに、あの秋物のセーター。
 何よりの証拠じゃない?

 色々と可能性としてありえることを推理するとすれば、たとえば、その時
は勢いであんなことをしてしまったけど、後で後悔して必死で演技している
とか。(いや、圭ちゃんはそんなに演技がうまいわけがない)。
 そうでなかったら、一時的な記憶喪失になったとか。(だったら、その前
に一人で買い物に出かけたこととか、覚えてるわけないし・・・)。
 じゃあ、全部後藤の妄想? (そんなわけないじゃん!!)。
 考えれば考えるほど混乱は大きくなってきた。
 みんなといる控え室で、圭ちゃんがなっちとやぐっつぁんとふざけてじゃ
れている。
 後藤は、その様子をぼんやりみつめていた。
 最初は、どこか圭ちゃんにおかしいところがないか、とか探るつもりで。
 けど、気づいた時には視線は圭ちゃんの指先を追うことに集中していた。
34 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月31日(火)23時38分14秒
 あの時は・・・そうだ、確か付け爪がついてなかった。
 ごくシンプルな、マニキュアも塗ってない、磨いただけのきれいなつるんと
した形の爪だった。
 そうだ、それで・・・最初は首のあたりで、次は肩から胸へ・・・。
 ちっ! 違う違う! 何考えてんの、あたしは!
 浮かんだ記憶とも妄想ともつかないものを振り払うみたいにぶんっ、と頭を
思いきり横に。
 けど、また気が緩むと、圭ちゃんのことを見ていた。
 何かやぐっつぁんが憎まれ口をきいて、それでその腕をぴしゃっと叩くと
ころで。
 つつ、とそのあとで撫でるみたいに動くのが見えたとき、後藤は反射的に
目をそらした。
 一瞬、胸が熱くなって身体が火照った。
 もーっ! バカバカバカっ!
 しっかりしろよ! どうしたんだよー!
「ごっちん?」
 はっ! と我に返って見上げると、心配そうな顔をした吉澤がいた。
「どうかした? さっきから一人でじたばた・・・」
「へっ? あたし、そんなことしてた?」
「してた」
 くすくす、と吉澤が笑って、近くにいた石川に「そうだよね?」とか確認
をとる。やや遠慮がちながらも石川はそれを肯定した。
 それで、笑いの輪が少し大きくなる。
 なっちが興味を持ったらしく、それを聞きつけて輪に加わる。当然、一緒に
いたやぐっつぁんと、圭ちゃん、と。
「考え事? それにしちゃ大げさだよねー」
「Hなことでも考えてたんじゃないのぉ?」
 やぐっつぁんの一言で顔が真っ赤になった。
「ま、後藤ならありえるかもね」
 平然とそんなことを言ったのは、他でもない圭ちゃんだった。
35 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月31日(火)23時40分11秒
 必死でごまかしつつも居たたまれなくなって後藤は控え室を逃げ出した。
 ちょうどカメラスタジオで電気系統のトラブルがあって、それなりに時間を
つぶさないといけない状況であったってこともあるし。
 とりあえずほとぼりが冷めるまでどこかに隠れていようと思ったのだ。
 あーっ。
 とにかく頭を冷やさなきゃ。
 後藤はトイレに駆けこんですぐに、洗面台でハンカチを水に浸した。
 額に乗せるとひんやりとして、少し熱が冷めるような気がする。
 ・・・おかしいよね。
 それは、あんなことが本当にあったんならそれでも無理ないような気がす
るけど。
 じゃーっ、と水を出して音を聞いていると、いっそのこと、なかったんだ
って思いこんだ方がいいんじゃないかって気もしてきた。
 だって、圭ちゃんは覚えてないんでしょ?
 それで、後藤ばっかりこんなに変な気分になるのも不公平じゃん。
 そうだよ!
 きっと、あれは何かの間違いで、本当はそんなこと起きなかったんだ!
 後藤はきゅっ、と蛇口を止めた。
 そう思ったら、少し気も楽になったようでもある。
 鏡に向かってガッツポーズを作って、よしっ、と自分に気合を入れた。
 決めました。
 あれはなかったんです。
 そう、思った瞬間、背後でトイレの扉が開いた。
「なんだ・・・こんなところにいたんだ」
 圭ちゃんだった。
「え? もう時間? 直ったの?」
「ううん。そうじゃないけど、急にいなくなってなかなか帰ってこないから、
ちょっと心配しちゃってさ」
 ほら。
 いつもの優しい圭ちゃんじゃん。
36 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月31日(火)23時41分47秒
「圭ちゃん、あのね・・・」
 後藤は、まだ完全にふっきれないせいでややモジモジとしながらも、保田
に話しかけた。
「後藤、実はちょっと変な夢見ちゃってさ」
「夢?」
 保田は、トイレに入っていった。
 水を流す音がしたけど、そのまま後藤はほとんどつぶやきみたいにして話
を続ける。
「圭ちゃんがね、後藤にせまっちゃうの。・・・バカみたいだよね。そんな
こと、あるわけないもんね」
「はぁ? あたしが? せまるって・・・まさか?!」
「いや、だからただの夢なの!」
 話していると、本当に夢のような気がしてくるから不思議だ。
 後藤は勢いづいてもっと喋ることにする。
「それでね、圭ちゃん、ものすごーーく大胆なの。後藤が『嫌だ』っていうの
に全然聞いてくれなくて。あははっ。今考えると笑える話だね」
 扉の向こうからも、笑うような声が聞こえた。
 また水の流れる音。
 そろそろ出てくるかな、とか思って後藤は待ってたんだけど。
「・・・圭ちゃん?」
 水の流れる音が止まっても、なかなか扉は開かなかった。
 もう一度名前を呼ぶけど、やっぱり返事がない。
 後藤は、何かあったのかな、と不思議に思う。
「ねぇーっ。どうしたの? 大丈夫?」
「・・・・・・・・ぅ・・・ぉ・・・」
 ?!
 後藤は、かすかに扉の向こうに聞こえたうめきに似た声にぎょっとなった。
「圭ちゃん! 圭ちゃんてばーっ!!」
 バンバンっ! と、思いきり扉を叩く。
37 名前:川燕・斬 投稿日:2001年07月31日(火)23時44分06秒
コソリーコソリー
38 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月02日(木)17時51分37秒
マターリコソーリ
39 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月04日(土)05時43分35秒
 後藤がいよいよ蹴破ろうかというところまで叩いていたとき。
 急に扉の鍵が外れた。
 カチャ・・・と内側に開いていくと、中の様子が見えた。
 後藤はどきどきして口の中を乾かしながらそっとドアに手をかけた。
「圭ちゃん?」
 ガチャっ!!
 急に勢いよく残りのスペースが開いた。
 思わずきゃっ!と後藤は声を上げてしまった。
 あとじさって、その正体と目を合わす。
「ど、どうしたの? 後藤」
「どうって・・・圭ちゃんこそ、平気?」
 きょとん、と出てきた保田は目を丸くした。
「平気・・・って、あたし、何かしたの?」
「え・・・だって、さっき。中から苦しそうな声が聞こえたよ?」
「声? そんな。あたし別に何も、そんな・・・」
 怖いものでも見たようにおどおどと落ち着かない視線を漂わせる。
 逃げるみたいに個室から出て、後藤の後ろに回った。
「何か、いるのかな」
「そ、そういうわけじゃ・・・うん。ないと思うけど・・・」
 後藤は一応確認のためにドアを開けた。
 あたりまえなんだけど、そこには何も変わったところはない。
 保田は後藤の背中に張りつくみたいにして、それを一緒に探していた。
40 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月04日(土)05時45分03秒
「きっとさ、後藤のカンチガイだったんだよ。うん」
「そ、そうだよね。さっきまで、あたしが中にいたんだもんね」
 にっこり、と安心した笑顔を向けた。
 後藤は一瞬首をかしげる。
 何だ? うむ?
「じゃさ、そろそろみんなのところに戻ろうよ。何だか気味が悪いし」
「そうだね・・・そうしよう・・・」
 保田はぱたぱたと走って廊下に出た。
 ゆっくり歩く後藤の先で止まって振り向く。
「はやくぅー。後藤」
 そこで、また後藤は首をかしげた。
 なんて言うかさ、というか。言いようもないんだけど。
 変な感じがしませんか?
 思ったけど、またそんなことを言うと圭ちゃんが怖がりそうでもあったので、
とりあえず黙っておくことにした。
 部屋に戻ると、みんながゆっくりと腰を上げてるところだった。
41 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月04日(土)05時48分23秒
「あ、ちょうどよかった。電気直ったみたいだよ」
「さっ。仕事再開っと」
 それで、ほとんど会話をすることもなくみんなはスタジオに入っていった。
 入ってすぐに後藤と別れた保田は、石川あたりと楽しそうに話を弾ませて
いる。
 ???
 また増えた謎に、後藤は嫌な予感を感じていた。

 撮影は順調に終わって、今度はレコーディング。
 こっちは別にトラブルがあるわけでなし、一見順調に進んでいるかのよう
だったんだけど。
「あ。保田。今のところ、ちょっと」
 つんく♂さんが圭ちゃんのパートを止めた。
 圭ちゃんが、弱気な目でそれを聞く。
「もう少し強い方がええと思うんや。もう一度やってくれるか?」
 はい・・・と。言われたとおりに圭ちゃんは歌う。
 またストップがかかった。
「うーん。今一つやな・・・。どうした? 保田、今日調子悪いんか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど」
「だったら、いつもみたいに腹から声出して。な?」
 見本を少し歌って、もう一度圭ちゃんがマイクに向かった。
42 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月04日(土)05時49分22秒

 だけど、またいくらもいかないうちにストップ。「しゃあないな。保田、少し休んで。次のところから行くでー」
「!」
 繰り返してもうまくいくどころかどんどんイメージとはずれていくらしく、
つんく♂さんは圭ちゃんを外した。
 その瞬間に、圭ちゃんの顔がくしゃっと歪む。 と、そのとき順番が一番あとの後藤と偶然目を合わせた。
「よし、後藤。ちょっと保田追いかけて探してくれんか?」
「あ! あたしですか?!」
「・・・? 嫌か?」
「い、いえ・・・そのぉ」
「ほれ! 急がんとどこ行ったかわからんようになるし」
 ぽいっ、とスタジオの外に放り出された。
 えぇーーーっ!!
 やっぱり、後藤が探すんですかー?

 結局あきらめてスタジオの建物の中をとぼとぼ歩いた。
 ロビーにも、トイレにもいない。
 さっきダッシュしてったのは確か入り口とは逆だし。
 荷物もあるからきっと外へは出てないはず。
 後藤はちらちらと他の音の鳴る部屋を覗いたりもしたけど、人気のあるとこ
ろにはいないような気がした。
 とすると、あとはー。
 後藤は非常階段の扉を開いた。
43 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月04日(土)05時50分27秒
 やっぱりね、とでも言うべきなんだろうか。
 上の踊り場の一段目のところに、座ってる人影が見えた。
 後藤はおそるおそるそこに近づいてみた。
 登りきる前から、その服も、髪型も圭ちゃんのものらしいってことはわかっ
ていた。
「けーいちゃん・・・?」
 後藤が踊り場にたどり着くと、膝を抱えてうずくまった保田の対峙した。
 声をかけたのに顔を上げようともしない。
 まいったなー、と思うんだけど、このまま捨てていくわけにもいかないし。
「圭ちゃん? 大丈夫? 気にすることないよ」
 とりあえず慰めようとしてみた。
「ねえ。いつもの圭ちゃんならもっと強気じゃない。しっかりしようよ」
 頭を下げたままで、保田は首を横に振った。
 後藤は、隣にひざまづく。
44 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月04日(土)05時51分04秒
アペニャー
45 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月05日(日)22時26分52秒
保田の身に何が…
気になる…
46 名前:ななしという名のもとに・・・ 投稿日:2001年08月06日(月)05時07分45秒
アケロパニャー

保田さんがいい感じだねぇ〜
おもしろいねぇ〜
47 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月06日(月)06時01分00秒
「あたしって、ダメだよね・・・」
「はっ! ちょ、ちょっと待ってよ。なんでそうなるの?」
 うつむいたままの保田がぽつぽつと言い出した。
 出てくる言葉は残らずネガティブ発言ばかり。
 しかも、言えば言うほどどんどん暗くなっていく。
「これじゃ、いつ辞めろって言われてもおかしくないし。でも、辞めたって
ほかにとりえがあるわけじゃないし・・・」
「圭ちゃん! 冷静に冷静に! そんなことないよ! 今日はちょっと調子
が悪かったってだけでしょ? それに、圭ちゃんはモーニング娘。には必要
な人なんだから。ほら、もっと自信もって!」
 必死になだめる後藤。
 保田は取り出したタオルハンカチで目元を拭った。
 きらーん、と涙が光って落ちる。
「泣かないで、ね? ほら、今度つんく♂さんにいじめられたら後藤が助け
てあげるからさ。戻ろう?」
「・・・本当?」
「うん。約束する」
「ごとうっ!」
 保田ががばっと後藤に抱きついた。
 勢いに少しよろけそうになってしまった。
48 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月06日(月)06時01分38秒
「ありがとう! 後藤はやっぱりあたしの味方なんだね」
「う、うん・・・まあ、そう・・・」
「後藤のこと、大好きだよ!」
「そうなんだ・・・あ、あはははは」
 ぎゅうっ、と無邪気に腕を締めた。
 後藤は、抱き返したもんかと迷うけど、どうしていいかわからない。
 そのとき、保田がくっつけていた身体をぱっと放した。
「わかった! 後藤がいるんなら、あたし、もうちょっと頑張ってみる」
「よかったねー。うん。よかった」
 笑顔で言うと同時に、唇を重ねられた。
 むぐっ! とか一瞬言いそうになる勢いでもあった。
 ちゅぅ〜っ、と押しつけるみたいなキスだった。
 例えるとすれば、キスのしかたもわからない子供が、とにかく気持ちを示
したいって感じの。
「じゃ、行こう!」
「うん、うん」
 保田が後藤の手を引いて非常階段をカンカンと降りた。
 足どりも軽い。
 後藤は、結局もう一度奪われる羽目になってしまったキスにも頭をこんが
らがらせる。
 わけわかんない。
49 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月06日(月)06時02分20秒
 スタジオまでの道半ばになって、急に保田が立ち止まった。
「あっ! しまった!」
「どうしたの?」
「さっき、階段のところにハンカチ忘れてきちゃった」
 そういえば、さっき涙を拭ってすぐに落として、そのままだったよーな。
「すぐ戻るからさ、後藤は先に行ってて」
「え? 本当? すぐ戻ってくる?」
「うん。あそこにおとしたのは間違いないからさ」
 保田は握っていた手をもう一度ぐっと握ると、ぱたぱた来た方向にとって
返した。
 後藤は、ま、いっか、と言われた通りに先に戻る。
 みんなが一斉にそれを見た。
「後藤、圭ちゃんは?」
「え、え・・・っと。さっきまで一緒だったんだけど、ちょっと落し物しち
ゃって」
 本当に戻ってくるの? と疑り深そうな目を向けられたけど、後藤は「大丈
夫」と、自信ありげにうなずいた。
 多分・・・ね。
 けどそれから保田が戻って来たのは、必要以上に時間をくったあとで、しか
も全然急ごうともしないゆったりとした歩みで、だった。
50 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月06日(月)06時03分37秒
クミャラバー
ばれてるし。
51 名前:ななしという名のもとに・・・ 投稿日:2001年08月06日(月)07時39分41秒
アケロパニャー
の作者さんですか?
52 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月06日(月)17時58分08秒
>>51
とんでもねえ!
そんなわけねえですよ。
一ファンです。
53 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月07日(火)06時03分27秒
 とろとろとドアを開いて、みんなに挨拶した。
 もう落ち込んだ様子はない。
「圭ちゃーん。急に飛び出すからびっくりしちゃったよ」
「もう大丈夫?」
 保田は親指を立ててOKサインをつくった。
「急に飛び出したくなることだってあるっしょ? なんでもないよ」
 そんなことはそうそうないとは思うけどね。
 後藤はとりあえず自分の役目を放棄した疑惑が晴れてほっとした。
 つんく♂さんがまってました、という感じで保田を呼ぶ。
「じゃ、保田続きいこか」
「わーったよ」
 ?
 その返事をおかしいと思ったのは後藤だけじゃないはず。
 さっき中断したところをもう一度伴奏が追った。圭ちゃんが歌い出す。
「ん? さっきとまた歌い方が違うな」
 つんく♂さんが止めた。
 確かに、さっきまでの注文の「強く」っていうのはいいんだけど。
 なんつーか、ちょっと荒いっていうか、オトコマエっていうか・・・。
 だけど圭ちゃんらしくないな、と思うのは。
54 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月07日(火)06時04分00秒
「保田。ちょっと雑やで」
 そうだ。
 要するに、下手なんだ。
 丁寧に歌ってる感じがしない。
 保田は不機嫌そうに眉をしかめた。
 ものすごく反抗的な目つき。
「どうした? 音が外れてるやないか。リズムもばらばらやし」
「うっせぇなぁ」
「!!!」
 みんなぎょっと身体を乗りだした。
 ちょ、ちょっと何言ってるの?! 圭ちゃん!
「あたしが何をどう歌おうと、あたしの勝手だろ? 余計なこと言うんじゃ
ねえよ」
「や、保田! どうしたんやー」
「今日は気分がのらねえんだ。帰らせてもらうかんな」
「ま、待ってくれ。おい! 保田!」
 スタッフが止めるのもかまわず、圭ちゃんはふふん、と鼻で笑って荷物を
抱えて出ていってしまった。
 どうなってんの?
55 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月07日(火)06時04分33秒
 結局、その日の仕事はめちゃくちゃになってしまった。
 みんなも嫌な気分になってしまったのか、全然歌にならない。
 つんく♂さんもあきらめて、いつもよりも早くおひらきになってしまう。
 控え室で、そのことに触れるべきかどうか迷う。
「あれ・・・どうしちゃったのかな」
「なんか変だったよね」
「つんく♂さんにあんな口きいちゃってさ。おかしいって」
 いつもは礼儀をみんな以上に守る圭ちゃんなだけに、その動揺は大きい。
 じろっと、後藤を向いた。
「さっき、連れ戻したときに、なんかあったんじゃない?」
「な、ないよ! 後藤が行ったときにはすっごく落ち込んだ感じでさ。そ
れで慰めはしたけど、それだけ」
 キスとかは、関係ないよね? 今。
「帰っちゃったし」
「誰か、行った方がいいんじゃない?」
「でも、ちょっと怖いなー」
 そこで、また後藤を見る。
「後藤。電話かけてみたら?」
「は? なんで後藤が?!」
56 名前:ななしという名のもとに・・・ 投稿日:2001年08月07日(火)08時08分20秒
違いましたか・・・
オイラもアケロパニャーで感動した一人だべ・・・
57 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月08日(水)05時21分51秒
 ほとんど「猫の首に鈴」なんだけど。
 ただ違うのは、みんながみんなその係りを後藤と信じて疑わないこと。
「だって、後藤。ねえ?」
「うん。仲いいし」
「後藤だったら圭ちゃん怒らないんじゃない?」
 そんなぁーーーっ。
 とにかく、だけど大変なことになる前になんかした方がいいと思うし。
 せめてつんく♂さんに謝るようにってことだけでも言わないと。
「ほら! 電話電話」
 やぐっつぁんに言われて電話をかけてみる。
 コールが2度。3度。
「出ないよ?」
「直接行ってみたら?」
「えぇーっ。留守だったらどうすんのさ」
「じゃあ、行く途中にもう一度電話」
 無責任な・・・。
「ごっちん・・・不安だったら私も行こうか?」
 梨華ちゃんが言ってくれたけど、後藤はへっ、と少し考える。
「うーん。でも、いいよ。こうなったら、後藤一人で行く」
「そう?」
 いいんだけどさ。
 なんか最近圭ちゃん変だし。
 梨華ちゃんには刺激が強すぎない?
58 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月08日(水)05時22分35秒
 行く途中で、もう一度電話をかけてみた。
 出なくても、一応行くだけ行って置手紙でもしようかな。
「・・・はい」
「あ。圭ちゃん? 後藤だよ」
「ああ。何? どうかした?」
 どきどき。
 まだ機嫌悪いかな。
「ちょっとさ・・・ほら、今日途中で帰っちゃったじゃん? それで、気
分でも悪いのかなーとか思って」
「気分? えっ? あははは、なーに言ってんの? そんなわけないじゃ
んか」
「でも・・・ほら、変な帰り方とかしたし」
「そうだっけ?」
 機嫌は、悪くなさそう。
 て、いうかどちらかというとハイテンション気味。
 酔ってるのかな?
「つんく♂さんもさ・・・ほら、いろいろと・・・」
「なんだよ。歯切れ悪いな。なんかあったの?」
「なんかもなにも・・・」
 後藤は混乱した。
 また忘れちゃったの?
59 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月08日(水)05時23分16秒
 話していても埒があかない。
 電車がもうすぐ駅に到着するとき、ツツ、と会話が途切れかけた。
 ああっ。もうめんどくさい。
「あのさ、今圭ちゃんの家に向かってるんだ」
「ふぅん。・・・って、これから来るの?」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど。うん。じゃいいよ。今どこ・・・・」
 ザザ、と音がして通話が切れた。
 同時に、電車がホームに着く。
 まあ、一応行くってことは伝わったみたいだし。
 後藤はとりあえず当初の目的を果たそうと電車を下りた。
 なんなんだろ。
 でも、圭ちゃん今日は特に変だから、話をするなら顔を見た方がいいか
もしれない。
 後藤はまっすぐに保田の部屋に向かった。
 なんでこの場所を知ってるかっていうと、ああー、そうだった、と顔の
赤くなることを思い出したけど、関係ないよ、と自分に言い聞かせること
にした。
 関係ない。関係ないよね。
60 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月08日(水)05時23分52秒
 チャイムを鳴らすと、すぐに保田が出てきた。
 おっす、と挨拶をする保田はいつもと同じ笑顔。
 後藤はほっとして中に入る。
「でも、どうしたの? 急に」
「いやー、やっぱちょっと心配だったし。みんなも行った方がいいんじゃ
ないかって」
「そんな大騒ぎになってるの?」
「なるよー。だってつんく♂さんにあんな口きいてさ」
「あんな? 何言ったの。あたし」
 ちょっとー。
 冗談ならやめてよね。
 他人のしたことじゃあるまいし・・・。

 ・・・他人?

 後藤は、そのとき一つの仮説が頭に持ち上がって一瞬ぎくっとした。
 今朝元気だった圭ちゃん。
 トイレから出て急に弱虫になった圭ちゃん。
 つんく♂さんに突然キレた圭ちゃん。
 ほとんど、それって違う人みたいじゃないか!
 同じ人なのに違う性格って・・・これは。
61 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月08日(水)05時24分32秒
「圭ちゃん!」
「はい? なんですか? 後藤さん」
「圭ちゃんて、もしかして、『多重人格』ってやつじゃない?」
「たじゅう・・・? 何?」
「だから、圭ちゃんの中に、いっぱい圭ちゃんがいるってこと」
「何言ってんの? 後藤、大丈夫?」
 それはこっちのセリフだよ!
 そういうのって、マンガとか小説とかでしかないもんだと思ってたけど。
「そうでしょ! ねえ、じゃあ昼間後藤とトイレで会ったときのこととか
覚えてる?」
「覚えて・・・って。うん」
「何があったか言える?」
「えーと・・・」
 保田は考えた。最初は笑いながらだったのに、「あれ?」とか言って顔
を歪めた。
 うむむ、と腕を組んで考えてる。
「何って・・・何も特別なことはなかったんじゃない?」
「あったよ! トイレでいきなり具合悪そうにして! なんか怖いもので
もいるんじゃないかって、後藤の背中にひっついたじゃん!」
「そうだっけー。うっそー」
「ウソなんかじゃないもん!」
62 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月08日(水)05時25分27秒
「ほら! 覚えてない! じゃあ、非常階段のところで泣いたのは? つん
く♂さんに『うっせぇなー』とか言ったのは? そうでしょ。違う人になっ
てるときのこと、忘れちゃうんだよ」
「ちょ・・・後藤、ちょっと待って」
「そうだそうだ! 圭ちゃん、だからおかしかったんだ!」
 後藤は詰め寄った。
 保田は慌てて頭を抱える。
 必死に言われたことを思い出そうとしてるみたいだ。
 後藤はつい興奮して更に突っ込む。
「ここでのことだって、覚えてないんでしょ」
「ここ?」
「そうだよ! この前の休みの日に、後藤をここに呼んでさ。それで・・・」
「?」
 少し口篭ったけど、けど言うことにした。
「後藤とヘンなことしたじゃん!」
「・・・」
 保田は急に頭痛がしたみたいに頭を抱えて身体を下げた。
「覚えてないんだ! 後藤が、それでどんなに悩んだかとか、全然知らない
んだ!」
「ご・・・後藤」
 保田が、そこでぴたっと動きを止めた。
63 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月08日(水)05時27分23秒
ネタ的には結構カビ生えてますかね・・・
64 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月12日(日)18時29分18秒
問題ない。坂本龍一も言っていたが100%オリジナルな曲などないように
100%オリジナルなネタもないんじゃないかな。
要はどう料理するか。期待してるし、今のところOKだと思ってますよ。
65 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月16日(木)00時23分13秒
(続き)

 変わった空気に気がつかないほど、後藤は鈍くはなかった。
 はっと、身体を後じさりさせる。
 頭を抱えていた保田が、ゆっくりと頭を上げた。
「そうだったよね。後藤・・・」
 圭ちゃん、と呼び直そうとしたところで、声が詰まった。
 声色が違う。
 歩き方のクセとか、そういうのも全部。
 というか、要するに雰囲気がさっきまでとは全然違う。
 だけど、その原因を作ってしまったことに、後藤は実際にそれを見るまで気がつけずにいた。
「忘れるわけ、ないじゃない」
「ちょ、ちょっと待ってよ。圭ちゃん! 圭ちゃん!」
「大丈夫だよ。あたしはきちんと覚えてる。後藤のこと」
 そういうことじゃなくてさ!
 後藤は、叫び出したい気持ちを持ちながら、そうできなかった。
 金縛りにあったみたいに棒立ちになって、どきどきと胸を高鳴らせる。
「待たせたね。悪かったよ」
「ま、待ってたわけじゃ・・・その・・・」
「わかってる。何も言わなくてもいいよ」
 保田の手が伸びた。
 ぐっと、後藤の肩を引き寄せる。
66 名前:削除済み 投稿日:削除済み
削除済み
67 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月16日(木)00時30分04秒
 妖艶な目つきを向けたまま、保田は鼻先まで後藤に近づく。
 もう片方の手で腰を抱かれるようにして、身体を後ろにそらされた。
 次に何かを言おうとする前に、もう唇が塞がれる。
 非常階段で交わしたものとは全く違う、技量のほどを思い知らされるような熱いキス。
 半開きの口の中で、巧みに強弱をつけて舌を動かされるうち、後藤は気の遠くなるような思いだった。
 逆らうことなんて、できない。
 あの日感じたのと同じ。
「会いたかったよ。後藤。ずっと、あなたのことを考えてた」
「そ・・・そんな・・・。だって、毎日・・・」
「あれは、あたしだけど、あたしじゃない。あたしが思ってたのは、後藤だけ・・・」
 最初にああなったときは、もう身体を求められるままにそうしていただけみたいに思えたんだけど。
 今は、そのときとは少し違う。
 保田の指が喉もとからなぞるようにして胸に落ちる。
 抵抗しようと腕をつかむけど、大した力は入らない。
「もう一度、こうしたかったよ。後藤は?」
「ご、後藤は・・・」
 ずきっ! と、胸を強くつかまれる。
68 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月16日(木)00時31分34秒
>>66
二重っすね。
また削除依頼か・・・。
69 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月16日(木)00時34分06秒
 服の上からでもその強さは十分に感じた。滑らかさも。
「おいで。この前の、続きをしよう・・・」
 保田がもう一度キスをして、それから奥の部屋を指した。
 前よりは、意識がはっきりしてる。
 相手が圭ちゃんだってこともよくわかってる。
 一度の経験でもう慣れたってこともあるわけないんだけど。
 服を脱がされて、脱がせて、という言葉にも素直に従って。
 お互いに隠すものをなくしたところで、尋常ではない感覚に襲われた。
 足を絡めたまま胸を攻められると、その頭に手を潜り込ませてぐっと力をこめてしまう。
「好きだよ。後藤」
「・・・そんなこと・・・前には・・・っ」
 言わなかった。
 今日の圭ちゃんは、次々と甘い言葉をささやいてくれる。
 まるで本当にそう思ってるみたいに。
 けど、前にあったことをきちんと覚えているような口ぶり。
 圭ちゃんが一体何人いるのかわからないけど、だけど、今ここにいるのはあのときに自分を抱いた圭ちゃんであることは間違いない、とは思う。
 うつぶせに体位を変えられて、後ろから抱きしめられる格好になったところで、耳元に名前を呼ぶ声が聞こえた。
70 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月16日(木)00時35分53秒
 もしこんなところを横とか、客観的な視点で見られたらものすごいことになってるんだろうな、とは思うんだけど。
 逆らえない。
「いいね・・・もうちょっと、腰」
「・・・ん」
 聞かないといけない。
 だけど、そんなことも忘れて、後藤は立てた膝のまま、ぐっと身体をそらした。

 目覚めて。
 隣を見たらきっといないんだろうな、と思ったんだけど。
 そこに、圭ちゃんはいた。
 ううん・・・と小さな寝言を上げて。
 窓から刺しこむ陽が、朝らしいことを教えてくれてる。
 後藤は、無防備な寝顔を向ける保田に手をかざした。
 今、起こしたらどうなるんだろう。
 額の前で止めた手を、どきどきととどめる。
 もし、非常階段のような気弱な圭ちゃんだったら?
 レコーディングの時みたいな、怖い圭ちゃんだったら?
 何も知らない、普通の・・・。
 後藤は、起こそうとしかけた手を引っ込めた。
 怖い!
 急に、胸を締め付けるかのように感じたことだった。
 きょとんと、「後藤。まさか?」なんて言われたら、どうすればいいの?
71 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月16日(木)00時37分41秒
 そもそも、多重人格って、他の人格の時のことを、どれくらい覚えているものなの?
 考えれば考えるほど、こっちが混乱してきそうだった。
 だけど・・・。
 後藤は、自分の手をどけて、じっと眠っている保田の顔を見る。「う・・・ん。ごと・・・」
 言った声が聞こえる。
 少なくとも、この圭ちゃんは、後藤のことを身体目当てとかじゃなくて、きちんと「好き」って思ってくれてるらしいし。
 それは、それほど嫌なことじゃない。
 情がうつったって、言われればそれだけなのかもしれないけど。
72 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月16日(木)00時38分38秒
「圭ちゃん・・・」
 言って、後藤は目を閉じたままの保田の頬にキスを一つおとした。
 少し待つけど、目は覚めない。
「圭ちゃん。今度、会えたらね・・・」
「ん・・・」
 聞こえたのか、聞こえないのかわからない声。
 後藤は、そっとベッドを抜け出して服をかき集めた。
 今日も、午後からは顔を合わせる仕事。
 最後の望みをかけてシャワーを勝手に借りることにしてみる。
 だけど、上がってもまだ、圭ちゃんはすやすやと眠ったまま。
 後藤は、身支度をして、それから、数度振りかえる。
「・・・圭ちゃん。今日・・・」
 何の反応もない。
 けれど、後藤は心でいくらかの言葉を残して、その場を去った。
73 名前:川燕・斬 投稿日:2001年08月16日(木)00時40分18秒
>>64
お慰め、ありがとうございます。
けど、ひっそりと上げていきます。ひっそりー。
74 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月01日(土)12時50分58秒
いいねえ。
ドキドキしながら読みました。続きに期待してます。
75 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)14時56分27秒
もうそろそろ・・・続ききぼーん
76 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月10日(月)18時48分43秒
>>74-75
多分明日の朝くらいには・・・の予定です。
イイ感じに沈んでまいりましたね。どうもっす。
77 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月11日(火)05時34分35秒
続き>>

 次の日の朝、保田は仕事に来なかった。
 マネージャーもいなくて代理の人。
 なんかあったのかな、アレが原因なのかな、と後藤はかんぐってはみたけど、誰に聞くってこともできない。
 逆に、昨日の様子を後藤はみんなに尋ねられる。
「うん・・・ちょっと、機嫌悪いだけで、普通だったよ」
「ふぅん・・・」
 納得したような、しないような。
 それ以上のことは何もない。
 だけど、その次の日から保田も仕事に復活して、そのまま時間が過ぎた。
 また、それまでのことなんて忘れたみたいな態度。
 いつもの圭ちゃんだった。
 それで何も変わらないのかというとそうでもなくて。
 後藤は以来保田のことをじっと観察することにした。
 もし、次にああいうことになったら、自分がフォローしてあげなきゃいけないんじゃないか、という責任感に目覚めたのだ。
 少なくとも、この秘密を知ってしまったのはなりゆきとは言え自分だけなんだし、それならそうするべきだ!
 珍しくそんなことを考えてしまった後藤。
 思い出してみれば一人になったときに人が変わるみたいだし、あまり一人にしない方がいいような気がする。
78 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月11日(火)05時35分20秒
「な、なんだよ。後藤、最近」
「へ? 何のこと?」
「だってさ・・・」
 他にも席はたくさんあるんだけど、ほとんどくっつくみたいにして後藤は保田の隣に座っている。
 移動のバスの中。
「ごっちん、最近保田さんにくっつきっぱなしじゃーん」
「ラブコール強烈だよねぇ」
 けらけら、と近くにいた数人が笑う。保田一人が苦笑い。
 後藤はそれでもめげずにそんな保田の顔を覗きこんだ。
「圭ちゃん、大丈夫? 平気?」
「だから、何なの? うん。平気だけど?」
「具合悪くない? 頭痛くない?」
「ちょっと、どうしちゃったんだよー」
 保田がさすがにいたたまれなくなって席を立つ。
 比較的空いている前のほうに行こうとするのを後藤も追いかけた。
「ついてくるなよー」
「だめー。圭ちゃんこそ、なんで逃げるのー?」
 足場の悪いバスの中で、妙な追いかけっこが始まった。
「わっ!」
「わっ!」
 そこで、突然大きく車体が揺れる。
79 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月11日(火)05時35分57秒
「す、すみません。大丈夫でしたか?」
 運転手さんが慌てて謝る。
 どうも、前の車の急ブレーキに反応が遅れてしまったらしい。
 みんなが一斉に心配して後ろを振りかえる。
 その振動でみごとにつんのめった二人は、通路をほとんど転がるようになって最後部座席にまで行ってしまっていた。
「ちょっと、気をつけなさいよ」
 マネージャーさんが厳しく言った。
 後藤はイタタ、と頭を押さえながら保田の姿を探した。
 真横で同じように頭を抱えている。
「け、圭ちゃん。大丈夫?」
「あ・・・うん。後藤こそ・・・」
 眉間にしわを寄せて、保田は後藤を見た。
 本当に痛かったのか、しかめた顔がなかなか戻らない。
「ほら! 出発するから立って立って!」
 いつまでもしゃがみこんだままの二人を見かねてマネージャーが手を引いて無理やり立たせた。
 すぐそばの座席に二人を押しこむみたいにして入れる。
「どうもすみませんでした。出発してください」
 バスが走り出す。
80 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月11日(火)05時36分36秒
 てすりかなんかに頭をぶつけでもしたんだろうか。
 後藤は頭の横がしばらくずきずきしっぱなしだった。コブもできてるかもしれない。
「圭ちゃん、ごめんね?」
「あー。うん・・・」
 生返事。
 本気で怒っちゃったかな。
「でも、後藤は圭ちゃんのことが心配なんだよ」
「心配・・・ねえ・・・」
 顔を窓に向けたままぶっきらぼうに保田は言った。
 やばい。まじで怒った?!
「圭ちゃんは、自分じゃわかんないかもしれないけど、本当は危ない病気にかかってるかもしれないんだよ」
「ナンダそりゃ?」
「だから、誰かがしっかりとついててあげないと・・・」
 後藤は必死に言い訳を考えて並べ上げた。
 だけど、予想以上に冷たい保田の反応。
「ちょっと、圭ちゃん聞いてるの? 後藤は真面目なんだよ!」
「聞いてるよ・・・」
 静かに保田は言った。
81 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月11日(火)05時37分21秒
時間切れでした。
それではまた明日。
82 名前:名無しヤスヲタ 投稿日:2001年09月11日(火)06時16分44秒
祝!再開!
ズートお待ち申し上げておりました!

しかしいいトコで切りますなぁ。
83 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月12日(水)21時26分00秒
わーい更新されてる!
圭ちゃんを追いかけるごっちん可愛いー
84 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月12日(水)22時28分33秒
 イヤな予感と言うか、雰囲気の変化を後藤は感じた。
 びびっと来るものがあって、気づけば鳥肌が立っている。
 ばかーっ。ごとーのばかー!
 これってもしかして、自分が原因でまた圭ちゃんの「例のやつ」を目覚めさせちゃったってこと?!
 ぞくっとしながらも、その場をそうーっと逃げようかと腰をずらした。
 ふっと、その肩をつかむ感触。
「どうしたの? 後藤。出発してるよ」
「え? あ、あー。そうだね。あはは・・・」
 そう言って自分を見る保田いつもの保田と同じ、ように見える。
 逃げられなくなって、後藤は膝をくつっけた体勢でおとなしくそれを観察した。
 見上げると、そこには窓に手をついて外を見ている保田。
 気のせい?
 本当に?
「ねえ・・・圭ちゃん」
「ん? 何?」
「圭ちゃんの、誕生日って、いつだったっけ?」
 保田は目を丸くした。
 まあ、質問が突然過ぎるのはわかってるけど・・・一応。
 何言ってんの! と、保田が後藤の膝を叩いた。
「決まってんじゃん。忘れたの? 9月12日だよ」
「・・・?!」
85 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月12日(水)22時29分14秒
 ・・・12月6日、だよね・・・。
 保田はだけどまるでそれが本当のことみたいに平然としている。
 こりゃやっぱりおかしいわ!
 後藤は、そこでしげしげと眺め回す。自分が今まで知ってる「人格」は、弱気な圭ちゃんと、おこりんぼな圭ちゃんと、それと・・・Hな圭ちゃん。
 そのどれかなのかな、と思うけど、どうにも一見全然雰囲気変わったようには見えないし。
 しいて言えば、ちょっと無口だろうか。
 じっと、窓の外を何か探すような目で見ている。
 後藤はややびびり気味ながらその背中から声をかけた。
「圭ちゃん、ねえ。何を見てるの?」
「うん? あ、実はねぇ・・・窓の外に見える景色から感じる思考の流動について、哲学的な意味を探していたんだ」
 はいぃ?!
 後藤が、何を言ったのかわかんない、というふうに見ると、しょうがないな、と保田は笑顔を向けた。
「なぜ、世の中には動くものと動かないものがあるのか。そしてそうしたものがあることで、どのくらい人は感動やそのほか心を震わせたりしているのか。ちょっと気になったからさ・・・」
 決定。
 今の圭ちゃんは「電波の圭ちゃん」。
86 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月12日(水)22時29分50秒
 それからぽつぽつとわけのわからないことを語り出した。
 むつかしい単語もいっぱい出てきたし、何よりそういうことを大真面目で語るってところが怪しい。
 後藤が前の席を見渡すと、ちょうどもらいものとかでお煎餅が回されてきたところだった。
 ベコベコの缶に入ったそれが、後藤の膝の上に置かれる。
「圭ちゃん、食べる?」
「ううん。満腹感は、純粋な思考の妨げになるからね」
 とりすましてそんなことを言う。
 こりゃ、他の圭ちゃんよりもタチが悪いかもね。
 後藤は蓋を取って、中から一枚ノリのついたものを口にくわえた。
 それから、おもむろにまっすぐ振りかぶる。
 ばこんっ!!
 大きな音がして、一斉にみんなが後ろの席を振り向いた。
 後藤は、えへへ、と笑ってごまかしながら、そのアルミの蓋を身体の後ろに隠した。
 思いきり凹んだそれを元通り閉まるようにするのはそれなりに苦労したけど。
 とりあえず喋るのをやめた保田は目を閉じてしばらくシートにもたれたままになっていた。
 やがて、目的地に到着直前にその保田が意識を取り戻す。
87 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月12日(水)22時30分45秒
 着いた着いた、とみんなが身体を伸ばしつつバスを降りるとき、保田はすんなりと立って、後藤の後に続いて歩いていた。
 目的地は、ロケ場所である大きな公園。
 降りてからまっすぐに中央の噴水に向かった。
 途中、足元がふらつくのが見える。
 危ない! と、後藤は思って手をのばしかけたが。
「だ、大丈夫ですか? 保田さん」
「あ・・・うん。大丈夫。うん」
 先に近くにいた石川がそれを受け止めた。
 にっこり、と微笑んで石川の肩をぽんと叩く。
 それを見て、石川が顔を赤くした。
 だけど、すぐにその場を立ち去った圭ちゃん。背中を見たまま動かない石川の横に後藤は立つ。
「梨華ちゃん・・・?」
「はっ! 一体、何が? ごっちん、保田さん・・・」
「へ? なんか変だった?」
「変っていうか・・・何か、いつもと雰囲気違うよー」
 じたばた、とよくわからない動きをする石川。
 後藤は「?」ってなもんで保田を改めて観察してみる。
 自分にはよくわからないんだけど、確かにどうも様子がおかしい。
88 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月12日(水)22時31分46秒
 見ると、関わりあった人が順に顔を赤らめていく。
 おいおい。
 保田本人はそれを意識してるのかしてないのか、優しげに周りと接している。ねえ、辻までよくわかんないけどじたばたしてるんだよ?
 とりあえず仕事の段取りを確認して、それぞれスタンバイの位置に立つ。
 カメラが回るのか・・・と思うけど。
 いーや。これはよくない。
 後藤は不穏な空気を感じたけど、そのままスタートしてしまった。
 いつもと調子が違うのはその場の全員が感じたのか、やっぱりうまく進まない。
 後藤だけがなんとなくそのわけを知っているだけに、気分は複雑だ。
 この圭ちゃんをどう呼んでいいのかはわからないけど。
「あっ!」
「えっ?! 何?」
 今だ!
 後藤はまっすぐに手を突っ張ると、思いっきり保田の身体を押し出した。
 ・・・みんなからは見えない角度で。
「わっ、わっ、わーっ!」
 大きな水しぶきが起きて、まっすぐに圭ちゃんは大きな噴水に落ちた。
 何が起きたんだー! と、スタッフが駆けよって、そこで撮影は一時中断されることになる。
89 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月12日(水)22時33分45秒
>>82-83
ありがとうございます。
一応今日中には間に合ったようで。(つか、あんま進んでねぇですけど)
時々上げていきます。どもーっす。
90 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月17日(月)06時12分09秒
(続き)

「ぶえっくしょぃ!」
「わーーーっ! 圭ちゃーん」
 当然のごとく撮影はストップ。
 全身びしょぬれになってしまった保田を急いで避難させて、バスの方へと連れていく。
「着替え、どうしよう」
「移動だから持ってきてないよー」
「まいったなー。とりあえずタオルタオル」
 保田は上着を脱いでバスの外で絞り、それからきっちり閉めたカーテンの向こうで一枚ずつ服を外に放ってよこす。
 幸い車内用の毛布があったので、後藤が中を覗いた時には丸くなって後ろの座席に座っていた。
「仕方ない。今から戻って着替え用意してきます」
「急いで急いで! 日が沈んだら明日に延期だからね」
 慌ててスタッフがバイクにまたがって出発した。
 後藤はそこで休憩になったのを期にこっそりバスの中へと入っていった。
 へくしっ、と保田のくしゃみが聞こえた。
「圭ちゃん・・・大丈夫?」
「大丈夫もなにも、あんたねぇ・・・」
 ぎろっと上目遣い。
 後藤はそれでもおそるおそる奥の保田の隣に向かった。
91 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月17日(月)06時12分44秒
「あんたでしょ。突き落としたの」
「へっ? えーと、その・・・」
「まったく、やり方が荒っぽいっての。アタシは壊れたテレビじゃないんだよ!」
 ほえっ? と後藤が首をかしげる。
 そういえば、落とす前とまた雰囲気違うような。
「後藤」
「うん?」
「素直に言えば出てくるかもって思わなかった?」
「へぇ?!」
 保田はまだ乾ききってない髪を軽く振った。
 水飛沫が霧みたいになって頬にかかる。
「え? 何? そしたら、圭ちゃんは自覚があるわけ?」
「自覚? ああ、そうかもね」
 微妙に車内に変な空気が流れる。
 ありー・・・もしかして、これって・・・。
「あたしに出てきて欲しかったんじゃないの?」
「は? はぃーっ。もしかして」
 保田はにやりと笑って後藤の髪の先をつかんだ。
 顔を引き寄せられる。
「さて、時間もないことだから、手早くすませないとね」
「ちょ、ちょっと待ってよー」
 後藤の目の前で保田の毛布が翻る。
92 名前:名無しヤスヲタ 投稿日:2001年09月17日(月)07時50分32秒
よかった・・・
あのまんまだったらいつか後藤はヤッスーを殺してただろうし。
あの怪力だからなぁ。(笑)
まぁ、そんな後藤がかわいくてかわいくて・・・

早朝の交信、いつもご苦労様です!
93 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月17日(月)13時56分21秒
Hな圭ちゃん&弱気な圭ちゃんマンセー!あと電波も好きです(w
94 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月17日(月)18時26分22秒
おろおろしてるごっちんも良い感じですね。
95 名前:名無しホルモン 投稿日:2001年09月21日(金)05時25分09秒
Hな圭ちゃんが、バスの中で。。。
翻ったタオルの向こうには。。
あぁぁぁ。(壊

続きに期待sage
96 名前:名無しホルモン 投稿日:2001年09月21日(金)05時25分45秒
Hな圭ちゃんが、バスの中で。。。
翻ったタオルの向こうには。。
あぁぁぁ。(壊

続きに期待sage
97 名前:名無しホルモン 投稿日:2001年09月21日(金)05時30分08秒
>96
はぅぅ。ゴメンナサイ。連続ってしまいました。
失礼しました。
98 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月24日(月)18時38分07秒
電波の圭ちゃんいい(w
いいらさんを隣に設置しておくと、
電波が増幅されて周りの人間がばったばったと倒れるだろうな〜

その次のはタラシな圭ちゃん?
99 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月27日(木)06時16分45秒
「わかった。後藤。あんたまさかそれで来ないなんてことしたら・・・」
「行くよ! 絶対に行くからさ。ね!」
「まあ、それでおしおきするのも楽しいかもね」
 まじっぽいっす。
 毛布の隙間が開いて、やっと解放された。
 ほとんど這うようにして出ると、急いで乱れた上着を直す。
 再び毛布に丸まった保田は、その様子をじーっと舐めるように見ていた。
「圭ちゃん! エロい!」
「人のことが言えるの?」
 けらけらと楽しそうに目を細められた。
 くそー・・・。
 見てろよー、と後藤は胸の奥に小さな炎を燃やした。
100 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月27日(木)06時18分34秒
(続き)

「ちょっ! 待った待った」
「何よ。今さら」
「圭ちゃんに聞きたいことがあるんだよー」
 抵抗しつつもいつのまにか後ろの席に横倒しにされながら後藤は叫んだ。
 保田は後藤の身体を逃がさないように脚でロックして、毛布を上からすっぽりとかぶった。
 いきなり薄暗い空間になる。
「何だって? どんなこと?」
「だってさ、ほら。今の圭ちゃんは圭ちゃんがいっぱいいること、知ってるみたいじゃない?」
「はぁ? うん。いっぱいかどうかは知らないけど」
「それって・・・そのう、自由に出入りできるの?」
 あ! と、言いかけた後藤の口を手のひらがふさいだ。
 器用にもう片手で上着の裾から手が入ってくる。
 思わず指を噛みかけたところで、耳に息が吹きかけられた。
「さあ。あたしもそのへんのこと、よくわからないけどね」
 口許の手が首のあたりに回されて、両方から背中をなぞり上げられる格好になる。
101 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月27日(木)06時19分22秒
 後藤はぎゅっと唇を結んだ。
 保田は、その「協力的」な様子にちょっと笑ったみたいだった。
「そう言う話、今したいわけ?」
「だから・・・うーんと・・・」
 なんか、どーでもいいんじゃない? って気分になりかける。
 しっかりしろ! ごとーっ!
 服の下で下着を外されるのがわかって、少し背中を持ち上げた。
 腰のあたりに乗っていた脚をずらして、後藤と交差させてくる。
 バスの近くを誰かが話しながら通った気配がした。
「だ・・・やっぱダメ!」
「しっ! まったく、聞き分けないないなぁ」
 どっちがだよー!
 濡れて冷たかった保田の手のひらが胸に触れると、後藤は強く肩をつかんだ。
 じんわりとお互いの体温が慣らされていくまで、少し待つ。
「だってさ、こんなところじゃ落ち着いてなんてできないよー」
「うん?」
「ね、今は仕事中だし。今日の夜とかにしない?」
 保田が動かしかけた手を止めた。
102 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月27日(木)06時20分02秒
 よくやったぞ! ごとー。
 と、自分の中で歓声を上げる。
「夜・・・? 後藤、なんかたくらんでない?」
「たくらむなんて、そんな。後藤は圭ちゃんが好きなんだよ」
「ふ〜ん?」
「ね? そうしよ?」
 服の下で、けどまだどうしようか迷ってるのか、ころころと転がすようにして保田は指を動かしてる。
 そのたびに後藤は顔をしかめて耐えた。
 保田はそれを間近におもしろそうにしばらく眺めていた。
「わかった。じゃあ、そうしようか」
「本当?! うん! じゃ、圭ちゃんの家ってことでいい?」
「・・・そうだね」
 まだ完全に信じきれていないようだったけど、保田はとりあえず手を服から抜いた。
 後藤はほっと力が抜けるような感じがする。
 息を全部吐ききらないうちに、今度はキスがきた。
 隙を突かれたのと、タイミングもあって息苦しいくらいだ。
 しかし、どうしてこの「Hな圭ちゃん」はどうしようもないくらいに上手なんだろう?
103 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月27日(木)06時21分27秒
>>99
は、>>102の続きです。
むかつくーっ! 間違えたー。
104 名前:川燕・斬 投稿日:2001年09月27日(木)19時15分40秒
朝は時間がありませんで、レスつけられませんでした。
すみません。
>>92
フォローありがとうございます。
早朝限定UPスレにしたい予感です。
>>93
意外と思いつきで書いた電波が楽しかったりして(笑
>>94
こういうタイプの( ´ Д `) を書くのは初めてかもしれません・・・
>>95-97
ファイト一発。
てか、気をつけねぇと私もそのうちやりそうだ。また。
>>98
電波×2っすね。(大笑
最後のやつ、一応「フェロモン圭ちゃん」と思ってましたが、「タラシ」の方がおもしろそうですな。
よし、そのうち再登場決定。

ありがとうございますー。
ではまた早朝に。
105 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月03日(水)05時47分23秒
なるほど。フェロモン圭ちゃんですか。
タラシには必要な能力ですね。(w

再登場期待大。
106 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月12日(金)20時14分32秒
作者さ〜ん続き期待してま〜す。
107 名前:残党2位 投稿日:2001年10月24日(水)20時58分27秒
申し訳ありません。
まことに勝手ながら移転させていただきます。
もうちょっとしたらスレごと削除依頼出しますね・・・。
108 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月24日(水)23時48分40秒
移転先は何処でしょうか?
この小説、とっても面白いので
続きが読みたいです。
109 名前:残党2位 投稿日:2001年10月27日(土)00時53分22秒
>>108
自HPです。繰り返し申し訳ないです。
けど、ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。
一応貼っておきますので、もしよろしければ。はい。

ttp://webmania.jp/~b-moon/
110 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月27日(土)01時33分57秒
続き読めるならそれでいいよ。
今から覗いてみます。

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