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KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR
- 1 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月20日(金)22時58分49秒
- 娘。のバンド物語です。
最初はいしよしごま。
のちのち増えると思います。
どんな感想でもいいのでレスしてくれるとありがたいです。
- 2 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月20日(金)22時59分20秒
- とある高校にて。
「梨華ちゃん!絶対だよ?」
「一応説得してみるけど・・・」
「一応じゃダメなの!
世界を制覇するんだから!」
「わかったよぉ・・・」
周囲は大学受験に向けて勉強に必死だが、彼女たちは大学に行くつもりはない。
いや、正確には2人は進学するつもりはない。
後藤真希と吉澤ひとみは親もバンドを本格的に続けることを了承している。
ただ、もう1人、石川梨華はまだ悩んでいた。
本人はバンドを続ける意欲があるのだが、父親が厳しく、
絶対に大学に行くように、と釘をさされていた。
今までも何度か父親を説得しようとしたが、
全く取り合ってもらえなかった。
気の弱い石川は父親と親友(そしてバンド仲間)に板ばさみにされていた。
「今日こそ話つけてきてよ!」
今日の帰り道も、いつものように吉澤に押し込まれていた。
後藤は、それほど興味がないのか、それとも石川の意思に任せているのか
干渉しなかった。
「梨華ちゃんだってバンド続けたいんでしょ?」
「そうだけど・・・」
- 3 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月20日(金)22時59分58秒
- 石川がバンドを始めたきっかけは吉澤に誘われたことだった。
入学当時、引っ込み思案で友達がなかなかできなかった石川に
『一緒にバンドをやらないか』と誘ったのだ。
吉澤は音楽の授業で石川の声を聴いて、すぐに気に入った。
後藤と吉澤は中学時代から一緒に音楽活動を続けていて、
高校進学によって抜けたギターとヴォーカルを探していた。
石川は、最初は『自分には無理だ』と断ったが、
その弱気な性格を直したい、と加入を決意したのだった。
「わたしだって梨華ちゃんと続けたいんだから!
ごっちんだってそうでしょ?」
「うん。」
吉澤の説得は石川の家の前まで続いた。
- 4 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月20日(金)23時00分35秒
- 石川宅
「ただいまぁ」
靴を脱いで台所を通ると、母親はいつものように
晩ご飯の用意をしていた。
「ただいま。
今日のご飯なに?」
石川は冷蔵庫からアイスティを取り出すと、
母親の方を覗き込んだ。
「あら、おかえり。
なに、って程のものじゃないんだけどね。」
母親はハンバーグを練っていた。
- 5 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月20日(金)23時01分07秒
- 階段を上がるとすぐの部屋が石川の部屋である。
ドアを開けるとピンクのシーツのベッドが目に入る。
かばんを机の上に置くと、ベッドの上に飛び乗った。
(今日もどうせ『ダメだ!』っていわれるんだろうなぁ・・・)
持ち前のマイナス思考は健在だ。
アイスティを飲みながら雑誌をペラペラめくるが、
気分が落ち着かない。
何気なくベッドの横に立て掛けてあるギターを手にした。
それは、決して高級なものではなかったが、年季が入っていて
お気に入りだった。
- 6 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月20日(金)23時01分42秒
- 『この人が、ごっちんだよ。本名は後藤真希。
隣のクラスだから顔ぐらいはわかるよね?』
石川は吉澤にもう1人のメンバーに会わせてあげたいからと、
家に招待された。
会う前に知ってたその人の情報といえば、
あだ名が『ごっちん』だということと、
ベース担当だということだけだった。
いままでロックというものに縁がなかったために、
『きっと怖い人なんじゃないかな?』
『わたし、場違いなんじゃない?』
など、わかりやすい想像をしていた。
吉澤に連れられて部屋に入ると、
そこにギターを抱えた女の子が座っていた。
しかし、石川の想像とは違い、
後藤はいたって普通の人であった。
- 7 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月20日(金)23時02分13秒
- (このギターだって、わたしが使うんだから好きなようにしていいよ
って言われてピンクにしたんだよね・・・)
ギター初心者だった石川は、ピックガードのところまで
ペンキで塗ってしまった。
おかげでそこだけ色がとれて元の白色になっていた。
ギターを手にして昔を懐かしんでいると、
下から石川を呼ぶ声が聞こえた。
「ごはんよ〜!」
「いま行く〜!」
そう答えると、飲みかけのアイスティを飲み干し、
(絶対に今日は引き下がらないぞ!)
と気持ちを固めて部屋を出た。
- 8 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月20日(金)23時03分53秒
- 食卓にはすでに父が座っていた。
石川は3人姉妹の真ん中で、姉は大学に行って独り暮らしをしている。
食事中は妹と母親が話しているだけで、
石川と父は黙って箸を動かす。
今日も例によって、黙っていた。
「ごちそうさま〜。」
妹が2階へ行くと食卓は静かな空気に包まれる。
「ちょっと話があるんだけど。」
石川は箸を置くと、ついに話を切り出した。
「わたし、大学行かないから。」
父は全く驚かなかった。むしろ、『またか』といった表情で石川をにらみつけた。
母もそう思ったに違いない。しかし、いつも父がいないとこでは
『梨華のやりたいようにしなさい』と言ってくれる。
「もうその話は・・・」
「黙って聞いて!」
父が重い口を開きかけたが、石川はそれを許さぬように遮ると、
話を続けた。
- 9 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月20日(金)23時04分26秒
- 「わたし、せっかく音楽に興味が出てきたところで辞めるなんてできない。
他のメンバーも一緒に続けたいって言ってくれるし。
大学なんかに行ったって、やりたいことなんか1つもない!
今バンドを辞めたら一生後悔するから!
だから・・・」
「もういい、勝手にしろ。」
父は石川が話し終わる前に、一言残して自分の部屋に戻っていった。
石川も黙って食卓をあとにした。
(これでいいんだよね・・・)
自分に尋ねても、答えが返ってくるわけでもない。
携帯電話を手にとると、後藤と吉澤にメールを送った。
『これからもよろしくねm(_ _)m』
『ホント!?よかった〜!
よ〜し、がんばっていきましょ〜!!』
その返事を確認すると、迷いを振り切るかのように
夜遅くまでギターを弾き続けた。
「おねぇちゃん、ウルサイ!!」
- 10 名前:名無し読者 投稿日:2001年07月21日(土)00時49分44秒
- 振り回される石川(・∀・)イイ!
- 11 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月21日(土)15時16分33秒
- 後藤の携帯の着信音が鳴ったのは、
ちょうど眠くなってきた頃だった。
ぼやけ始めた目をこすってディスプレイを覗くと、
『わたし、バンド続けることになったから!』
という文面が目に飛び込んできた。
後藤は送信者を確認しなかったが、内容から容易に想像できた。
(・・・・・・)
普段からあまり感情を表に出さないが、
このときも特に行動は起こさなかった。
無言で返信メールを打ち込むと、
アクビをして目を閉じた。
- 12 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月21日(土)15時17分03秒
- 「これ使っていいよ。」
「ホントに?ありがとぉ。」
後藤がギターを渡すと、早速石川は肩に掛けてみた。
華奢な石川はまるでギターに背負われているようで
滑稽だった。
「アハハッ、筋トレしないとね。」
真っ先に出た感想はそれだった。
後藤はベース担当だったが、ギターもある程度弾けた。
中学時代にギターをやっていた先輩に憧れ、独学で覚えた。
音楽に関しては、メンバー随一の天才肌だ。
ただ、普段はおっとりしていてそうは見えないのだが。
「人差し指でここを押さえて・・・そうそう、
んで、薬指はこっち・・・」
石川にギターを教えるときは
まるで人形の指を動かすかのようだった。
「あ〜!指がつりそぉ〜!」
「慣れれば大丈夫だよ。
それで、この弦以外を弾くの。」
吉澤の部屋になんともいえない不器用な音が響いた。
- 13 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月21日(土)15時18分38秒
- (あの頃に比べたらだいぶ梨華ちゃんもうまくなったよね・・・)
眠気がさめてしまった後藤は、
石川が初めて弾いた音を思い出して微笑を浮かべた。
(・・・そういえば、よっすぃ〜に宿題みせてもらわないと・・・)
携帯を手にとると、ちょうどいいタイミングで着信音が鳴った。
さっきのとは違う曲。電話の着信音だった。
メールと違い、こればっかりは相手の名前を確かめてから出た。
相手はちょうど用事がある人物だった。
「もしもし〜?」
『もしもし、ごっちん?
梨華ちゃんからメール来た?』
「来たよ〜。よかったね〜」
『ホンっと!よかった〜!
で、用事はそれだけなんだけど・・・』
「あっそう、でもこっちはまだ用があるよ。
あのさぁ、いまからそっちに行っていい?
英語の和訳見せて欲しいんだけど?
よっすぃ〜のクラスも明日英語あるよね?」
『ヴぁ〜!!忘れてた!!』
結局、後藤は吉澤の家に宿題をやりに行った。
しかし翌日の放課後には、
吉澤のクラスで居残りをさせられている2人と、
それを眺めながら、家から持ってきたギターを
爪弾いている1人の姿があった。
- 14 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月21日(土)15時19分18秒
- 「もう、梨華ちゃん!やってあるんなら見せてよね!?」
宿題を忘れて逆ギレ気味の1人は
ピンク色の方に向かって愚痴をこぼした。
「ごもっとも。
ふぁ〜、眠い。
よっすぃ〜?終わったら見せてね・・・」
「ちょっと!絶対見せてあげないからね〜!」
もう1人の居残りは、昨晩遅くまで話していたせいか、
もうまぶたを開けているのがつらいようだ。
この3人、全くまとまりがないが、
これでも同じバンドのメンバーである。
不意に石川が使われていない後藤の和英辞典を手にした。
- 15 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月21日(土)15時19分52秒
- 「ねぇ、バンドの名前まだ決めてないよね?」
そう言うと辞書をペラペラとめくりだした。
「そうだったね!じゃあ、3人の頭文字をとって・・・
ご(とう)い(しかわ)よ(しざわ)はどう?」
「「5位よ?」」
うつ伏せていた後藤はムクっと起き上がると、
石川と声を揃えていった。
吉澤は、自分の名前を最後にもってくるあたり
気を遣った跡が見られるが、
いかんせん、センスがなさすぎた。
2人の罵倒と失笑を買ってしまった「ごいよ」
はお蔵入りとなってしまい、
吉澤は不満そうに頬を膨らませた。
- 16 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月21日(土)15時20分30秒
- 「じゃあごっちんと梨華ちゃんはどんな名前がいいの!?」
「3人だから『トリプル』とか『スリー』とか
入れたほうがいいんじゃない?」
「わたしは、『ピンク』がいいなぁ。」
ピンクジャンキーのギタリストは、
自分の意見を言い終わると
またギターを弾きだした。
「あ、スコーピオン。」
ピックを見ると、そこには確かにサソリのマークが刻まれていた。
「ピンク・スコーピオンがいい!」
今までの意見の中では最もまともなものだったが、
後藤と吉澤の意見が取り入れられてなかった。
「じゃあ、『ピンク・スコーピオンズ』は?」
満足げな表情を浮かべる石川を見て、
2人は同じことを考えた。
((梨華ちゃんがやっと決意してくれたんだから、
今回は決めさせてあげるか・・・))
しかし、最後に2人は付け足した。
「「『ピンク・スコーピオンズ(仮)ね?』」」
こうしてバンド名は『ピンク・スコーピオンズ(仮)』に決まったわけだが、
石川は(仮)の存在が気になってしょうがなかった。
(『ごいよ』よりは絶対いいと思うけどなぁ・・・)
- 17 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月21日(土)15時21分38秒
- >10さん
ああいう性格が似合うんですよね(w
- 18 名前:ラック 投稿日:2001年07月21日(土)15時25分03秒
- お!リアルタイムで見れた。
ジョニ−さん期待してます、頑張ってください。
ピンク・スコーピオン(仮)・・・がいい感じ♪
- 19 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月21日(土)16時47分48秒
- どうもありがとうございます。
ちなみに緑で始めた理由=梨華ちゃんのちょっとHなお買い物が読めるから(w
ラックさんもがんばってください。
- 20 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月21日(土)17時18分40秒
- 今日の分は終わるつもりだったけど、もうちょっと更新。
- 21 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月21日(土)17時19分12秒
- 石川がバンドを続けるかどうか迷っていたのには、
父親のこと以外にもう1つ理由があった。
後藤と吉澤は中学のときからやっていただけあって
石川とは比べ物にならないくらいうまかった。
そんな2人に、しかもプロを目指しているバンドに
自分が居たら足手まといになるのではないかと悩んでいたのだ。
ギターは後藤に教えてもらっていた。
もちろん自分でも練習するのだが、やはり目の前で教えてもらうほうが
数段分かりやすい。
(はぁ・・・ここのところ何回やっても巧くできないなぁ・・・)
夜遅くに練習していたので今から教えてもらいに行くわけにもいかない。
石川は後藤に電話した。
- 22 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月21日(土)17時19分42秒
- 『ん?どしたの?』
「あの・・・ってところが巧くできなくて・・・」
『ん〜、あれは慣れるしかないよ、何回もやって。』
「そうだよね・・・」
『大丈夫?今からうち来る?』
「ううん、大丈夫だから・・・」
『なんか梨華ちゃん暗いよ〜、っていつもか。』
「そんなことないよ〜。」
『分からなくなったらいつでも教えてあげるから。
ごとーはいつも寝てるからなかなか電話にでないかもしれないけど、ハハハッ。』
「うん、ごめんね。なんかごっちん達に迷惑掛けっぱなしで・・・」
『何言ってんのよ、迷惑じゃないよ!
それよりも、梨華ちゃんから暗い電話がかかってくるほうが迷惑。
もっと明るくいこうよ!ね?』
「うん・・・あ、ありがとう・・・ね・・・」
『やだ〜!泣いてるの〜?
よっすぃ〜に言っちゃうぞ?
昨日梨華ちゃんが泣きながら電話かけてきたって。』
「ちょっ、だめだよ〜!!」
『ハハハッ、泣き止んだか。そんじゃね〜。』
石川の涙は、自分が情けないために流れてきたものではなかった。
それは後藤のやさしさが流させたものだった。
- 23 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月21日(土)17時20分13秒
- 梨華ちゃん、昨日のところ出来てるじゃん!」
「うん、がんばったもん!
ごっちんのおかげだよ〜、ありがと。」
「何言ってんの、梨華ちゃんの成果だよ〜!」
「まあ、才能だけどね。」
「調子にのるな〜!!」
石川はバンドのおかげで少しずつだが、
確実に強くなっていた。
- 24 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月21日(土)17時21分33秒
- (^▽^)<ポジティブ、ポジティブ♪
- 25 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月21日(土)17時26分31秒
- しもたー!!
1行目の 「 が抜けてたー!!
でも(;^▽^)<ポジテ・・・(一人相撲)
- 26 名前:ラック 投稿日:2001年07月21日(土)17時49分46秒
- ( ^▽^)<更新めちゃはや〜い♪
緑で始めた理由ほんとですか?ほんとなら嬉しいかぎりですぅ〜♪
- 27 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月21日(土)18時22分48秒
- 優しいな〜ここのごっちん。
- 28 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月22日(日)15時34分06秒
- >ラックさん
(O^〜^O)<あれは予定にはなかったんだけど、急遽書いたんだよ〜
あれ、毎回楽しみにしてます。がんばってくださいね〜(銀の方も)
>27さん
ごっちんはなんか冷たい感じにもできそうですけど、それだと話が進まないんで、
今んとこやさしい人です。
- 29 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月22日(日)16時46分33秒
- 季節は冬に差し掛かり、
『ピンク・スコーピオンズ(仮)』は受験シーズンが終わったら、
クラスの友達を呼んでミニ・ライヴをしようと準備していた。
しかし、障害はいくつかあった。
まず、初ライヴであること。
そして観客が集まるかどうかわからないということ。
一応宣伝活動は行ってきたのだが、
時期が時期だけに、友達の反応は
『行けたら行くね』
という程度のものだった。
ライヴまであと4ヶ月。
時間的には短いということはない。
しかし、3人の不安は募る一方だった。
- 30 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月22日(日)16時47分04秒
- 『ピンク・スコーピオンズ(仮)』の持ち曲は3曲。
作曲はできないため、すべてカヴァー曲だ。
この日は吉澤の提案で、新しいカヴァー曲を練習しようと、
曲探しのために街で一番大きいCD店にやってきた。
「そういえば、○○の新曲が出てたんだった♪」
「おい!梨華ちゃん!何しに来たんだよ!」
石川は真っ先に邦楽コーナーに向かっていった。
保護者のような立場になってしまった吉澤も、
仕方なくついていく。
後藤は、全くのマイペースで階段を上がっていった。
2階は洋楽ロックのコーナー。
何を隠そう、後藤は姉の影響でかなりの
ロック通になっていた。
独りという事もあって、
黙々と棚からCDを取り出し、
手にとって眺めてはまた棚に戻すという
作業を繰り返していた。
一方2人の方は・・・
「あれ?ごっちんは?」
「ホントだ。さっきまで後ろにいたのに・・・どうしよう?」
どっちが迷子だかわからない。
結局お目当てのCDを買い、1階に後藤がいないことを確認すると
2人は2階に上がっていった。
- 31 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月22日(日)16時48分32秒
- 「あ!あそこにいるの、ごっちんじゃない?」
相変わらず単調な作業を繰り返している後藤を見つけると、
そう言いながら2人は近づいていった。
「なんかいいのあった?」
「これ。」
後藤が手に持っていたCDには、
黒いジャケットの中央に薔薇が、
そしてその上にサソリがのっている。
シンプルながら強烈なインパクト。
タイトルらしきものが、アルファベットの筆記体で書かれていた。
『Tokyo Tapes』と。
そして、その上には
『SCORPIONS』
自分たちのバンド名にも含まれているこの単語、
後藤以外の2人は初めて聞いた名前である。
新譜でないため試聴はできなかったが、
3人はどんな音楽なのか興味津々だった。
- 32 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月22日(日)16時49分06秒
CD店を出ると、吉澤の家に直行した。
3人が集まるときはたいてい吉澤の家なのだが、
その理由は、部屋が片付いていることと、
高性能のコンポがあることだった。
4倍速で4倍の長さを録音できるこのMDシステムは、
この日も重宝された。
3人は後藤が選んだその他のCDを聴きながら、
談笑していた。
石川はホットコーヒーを一口すると、気が付いたように言った。
「あ、この曲なんかいいんじゃない?」
確かに、その時流れてきた曲は軽快なリズムの
パンク・ロックで、技術的にも何とかなりそうな範囲だった。
「そうだね、これ第一候補ね。」
吉澤も同意し、続けた。
- 33 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月22日(日)16時49分46秒
- 「ごっちんが選んだもう一方のCDはどんなんだろう?」
それを聞くと、後藤が重い口を開いた。
「スコーピオンズはね〜、1972年にデビューしたドイツの・・・」
後藤のウンチク話は止まらない。
吉澤はそのことを知っていたため、『しまった〜』という顔をしたが、
石川はこの時初めて後藤がロック通だということを知り、
『ごっちんがおかしくなっちゃったよぉ・・・』という感じでオロオロし出した。
石川が口に運んだコーヒーはすでに冷めきっていた。
- 34 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月22日(日)16時50分29秒
- 「・・・聴いてみようか?」
吉澤は話が一段落ついた隙を突いてそう言うと、
そのケースを手にとってコンポにセットした。
ジャケットに描かれている薔薇は、
艶かしい輝きを放っていた。
その音楽は、陰影があり、なおかつ艶やかで感動的。
初めてこのての音楽を聴いた吉澤と石川には
音楽的なことは何がなんだかわからなかった。
ただ、ライヴ盤の興奮感は十分伝わった。
「ライヴってこんなに盛り上がるんだね・・・」
石川がようやく口を開くと、その感想に他の2人も頷いた。
結局このCDからカヴァー曲を選ぶことはなかったが、
『ピンク・スコーピオンズ(仮)』のメンバー達に
大きなインパクトを残したことは確かだった。
- 35 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月22日(日)16時51分37秒
- ロックに興味のない方、そう言うもんだと思って読んでくださいm(_ _)m
- 36 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月22日(日)19時31分47秒
- この日は2週間に1回の音合わせの日だった。
高校生の財力ではスタジオを借りることは無理。
彼女らは音楽教師に頼み込んで
1年前から音楽室を借りて音合わせをしている。
「梨華ちゃん、歌い方ちょっと変えた?」
「うん、おなかから声を出すように気をつけたんだけど、
良くなった?」
「うん、声量が全然ちがうよ!」
『ピンク・スコーピオンズ(仮)』のヴォーカルは、
石川と後藤が半分ずつ受け持っている。
ただでさえギター初心者だった石川には厳しい仕事だということは
後藤も吉澤も分かっていた。
それだけに2人は、石川が歌い方を矯正するほど余裕が出てきたことに
満足した。
この日も、新しく覚えた曲の前半部分を演奏し、
解散となった。
- 37 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月22日(日)19時32分17秒
- 「わたし、今日は早く帰って来いって言われたから、
もう帰るね、ばいば〜い。」
そう言うと、後藤はベースの入ったバッグを肩に担いで
自転車をこいでいってしまった。
「梨華ちゃん、帰りにわたしの家に寄ってかない?
見せたいものがあるんだ。」
「うん、別にいいよ。
見せたいものって・・・何?」
石川は特別訝しげに言うでもなく、
普通に尋ねた。
「それは見てからのお楽しみ。」
吉澤はそれだけ言うと話題を変えた。
- 38 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月22日(日)19時32分48秒
- 「おじゃましますぅ」
「いいよ、誰もいないから。
さ、上がって。」
吉澤の部屋に入ったが、特別珍しいものは目に付かなかった。
石川をクッションの上に座らせると、
吉澤は雑誌の山の一番上から何かを持ってきた。
「これ!」
それは紛れもなく『SCORPIONS』のスコアブックだった。
「これ、あれだよね?この前聴いた・・・」
「そうだよ、インターネットで買ったんだ。」
石川は早速開いて譜面を眺める。
あの日以来、このバンドのことが気になっていたのは確か。
しかしこれを見て、今まで漠然としか分からなかった
プロのレベルの高さがはっきり感じられた。
「こんなの・・・できないよね・・・」
悲観的、かつ当然の感想をこぼした。
「ねぇ・・・?・・・」
正面にいるはずの吉澤に同意を求めようとしたが、
そこには誰もいなかった。
そこにいるはずの人間は石川のすぐ後ろにいた。
- 39 名前:名無しさん 投稿日:2001年07月22日(日)22時22分35秒
- 吉澤のパートはなんですか?
- 40 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月22日(日)23時13分29秒
- ドラム&コーラスです。まだ出てきてませんでしたね。
- 41 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月23日(月)13時12分01秒
- いつもドラムを力強くたたいている腕とは思えないほど
吉澤は優しく包み込んだ。
「ちょっ・・・よっすぃ〜?」
「もうちょっとだけ・・・このままでいて・・・」
石川は吉澤が初めて見せた姿に驚いた。
いつもは強気で明るくて・・・
しかし、今自分に抱きついている人間に
その面影は微塵も感じられなかった。
そして、頭によぎった考えがあったが
あえて口にしなかった。
それは、自分が立ち入ってはいけないもの、
そう考えた為だ。
「落ち着いた・・・ありがと。」
振り向いたときにはすでに
石川の知っている吉澤ひとみだった。
はっきりした顔立ち。
大きな瞳。
その瞳は赤く染まっていた。
そして・・・石川の髪は湿っていた。
- 42 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月23日(月)13時12分31秒
- 次の日、午前中の学校に吉澤の姿はなかった。
昼休みに現れると、いつもと同じように振舞った。
いや、いつも以上に。
石川にはそれがカラ元気にしか見えなかった。
久しぶりに後藤と2人の帰り道。
吉澤は用事があるから、と練習を休んだ。
昨日から気になっている言葉。
『いいよ、誰もいないから。
さ、上がって。』
後藤に話したい、
しかしそれだけはできない。
自分が立ち入ってはいけないものを、
少なくとも覗き見てしまったという罪悪感が
かろうじて石川の理性として働いた。
・・・でも後藤なら・・・
- 43 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月23日(月)13時13分39秒
- 「ねぇ、ごっちん?」
「うん?」
「あのさ・・・今度どっか遊びにいこうよ。」
「よっすぃ〜が落ち着いたらね。」
「えっ!・・・どうして・・・」
「だってなんか変だったもん。
無理して笑ってるっていうか。」
自分しか知らないものだと思っていたことを、
後藤も知っていた。
自分だけでどうにかしようとしていたことを
恥じた。
- 44 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月23日(月)13時14分11秒
- 「でもさ〜、人のことは気になってもどうすることもできないよ。
というか、どうもしないほうがいいんじゃない?
ごとーがよっすぃ〜の立場だったらいやだから。」
「うん、そうだね・・・」
後藤に諭されて少し心が楽になった。
いま自分にできることは、
少なくとも吉澤に何が起こったのかはっきりしていない今は、
心の中で励ますことだ。
「それと・・・」
後藤が付け足した。
「梨華ちゃんって思ってることが
顔に出やすいよね。」
「えっ?そうかなぁ。」
「目は口ほどに物を言う、ってね。」
- 45 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月23日(月)13時14分42秒
- 吉澤は病院にいた。
彼女の母親に異変が起こったのは、
石川が吉澤の部屋にくる日の朝だった。
最初は足がしびれて動けないという症状だった。
時間が経てば治るだろうと思っていたものの、
いっこうにその気配は感じられず、
出勤前の父親に連れられて病院に行った。
吉澤はついでに学校に送っていってやるから、と
後部座席に乗り込んだ。
助手席に座っている母親の表情は見えず、
それが吉澤の考えを悪い方に向けた。
診断の結果は、足の血管が詰まって
血の循環がスムーズにいっていない、
しばらく入院が必要、ということだった。
命に別状が無いとはいえ、
いままで元気だった母親が病院のベッドで横になっているのは
とても痛々しかった。
(明日こそ、ごっちんと梨華ちゃんに知らせないと)
そう決意するとタクシーに乗り、家へと帰っていった。
- 46 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月23日(月)13時15分27秒
- 翌日の練習には吉澤の顔があった。
「昨日はごめんね!練習来れなくて。
実はさぁ・・・おかあさんが入院しちゃって。」
石川の脳裏に最悪の事態がよぎる。
「でも、全然大丈夫だから!
家事はちょっとキツイけどね、
うちが男だらけになちゃったから、ハハハッ!」
吉澤は笑顔を見せた。
(こんなことでメソメソしてたら梨華ちゃんのことを笑ってられないよね)
石川と後藤の表情は『ホっとした』という感じだった。
(よっすぃ〜元気そうでよかった・・・)
石川は自分のことのように心底喜んだ。
そして、あの日吉澤の家で言えなかった言葉を送った。
- 47 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月23日(月)13時17分04秒
- 「困ったことがあったら何でも言ってね。
頼りないかもしれないけど相談に乗るから。」
「うん、ありがと。」
一連の会話を黙って聞いていた後藤が
ようやく吉澤に言葉を掛けた。
「はぁ〜よかった。
だってよっすぃ〜空回りしてたんだもん。
作り笑顔下手だよね〜。」
「そうそう、たぶんホントはすごいネガティブなんだよ。」
石川はここぞとばかりに話を続ける。
「よっすぃ〜の部屋に遊びにいったら
いきなり後ろから抱きつかれて・・・」
「わー!!!わー!!!ダメー!!」
吉澤の抵抗虚しく、とってもクサイ台詞をバラされた。
「それで、それで、
『もうちょっとだけ・・・このままでいて・・・』
だって!キャー!!」
リアクションは三者三様だ。
石川は『キャー』の言葉と共に顔を両手で隠して恥ずかしがる。
後藤は体を痙攣させながら、もんどりうって笑っている。
そして吉澤は・・・
(り・・・梨華ちゃん・・・信じてたのに・・・グスン・・・)
- 48 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月24日(火)21時53分09秒
- 「「「おつかれ〜」」」
1日ぶりの3人での練習。
なのに、まるで1年ぶりに旧友と再会したときのように
時間はあっという間に過ぎていった。
「よっすぃ〜、今日2人きりで帰りたいんだけど・・・いい?」
「え、でも梨華ちゃんが・・・」
「ちゃんと言っといたから大丈夫!」
「そうなの?
じゃ。帰ろうか。」
「放課後のトイレってなんか怖いなぁ・・・
あれ?・・・」
石川が音楽室に戻ってきたときには
すでに人の気配は無かった。
「どこ行ったんだろ?
・・・うわぁ!ベートーベンがまばたきした!?」
- 49 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月24日(火)21時53分55秒
- 「なんか・・・一日話さないだけで、
何年も会ってないような感じがしたよ・・・」
「そう?ごっちんって意外と寂しがりやだね。」
「繊細な乙女なんだよ〜、アハハ。
ねぇ、今日よっすぃ〜ん家行っていい?
ごとーが料理手伝ってあげるよ。」
後藤はそう言うと、さりげなく
しかし本人の意思をしっかり伝えるように
吉澤の手を握った
こうされると吉澤は断れない、ということを知っていた。
「え・・・うん、でも悪いよ。
わたし1人で大丈夫だから・・・」
後藤は握っていた手に指を絡めて、
さらに上目遣いで見つめた。
(もう・・・ごっちんったら、反則だよ・・・)
渋々了解すると、『ホントに?』と白々しい確認の後
吉澤の腕に抱きついた。
(・・・胸があたってるって・・・)
- 50 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月24日(火)21時54分27秒
- 「おお、なんだ。後藤さんも一緒か?
ゆっくりしっていってな。」
後藤と顔見知りの吉澤の父親は、
不意の来客にも愛想よく応対した。
「今日はわたしも料理のお手伝いしますよ〜。」
「そんなに気を遣わなくてもいいよ。
ひとみの料理も・・・それなりにおいし・・・!
いや、そうじゃなくて・・・」
「あ〜そう!
じゃあずーっとごっちんに作ってもらえば?」
出迎えた父親を半ば無視したまま
後藤を連れて自分の部屋に入っていった。
「相変わらずいいお父さんだね。」
「どこが?
あんなの若い女の子がきたから喜んでるだけだよ。」
「よっすぃ〜はごとーが来て嬉しくないの?」
そういうとドアの鍵をかけ、
吉澤に近づいていった。
- 51 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月27日(金)23時40分58秒
- 無言で首に手を回し、慣れた手つきで制服のボタンに手を掛けたが
吉澤の一言を聞いて、それを中断した。
「そろそろ、こういうのやめようよ・・・」
「え、なんで?」
「わたしのことが好きなわけじゃないんでしょ?・・・」
「そんなこと・・・」
「わたしを、先輩の・・・市井先輩のかわりにしてるんでしょ?」
「!・・・・」
思いがけない名前を出され、動揺を隠し切れなかった。
- 52 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月31日(火)16時19分50秒
- 重い空気を切り裂くように、父親の声が聞こえてきた。
「お〜い!飯作ってくれるんなら早くしろよ〜!」
「・・・行こうか・・・」
先ほどよりも優しく後藤に声をかけたが、
後藤の表情は緩むことはなく、
料理を作り終えるまで口を開くことはなかった。
「いや〜、やっぱりひとみが作るのとは違って美味いなぁ。」
父親はいつもの通りの口調で話を始めたが、
後藤が苦笑いを浮かべただけで、
吉澤は、父親が自分のことを後藤に話しているだけで
心苦しかった。
- 53 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月31日(火)16時20分36秒
- 「今日はごちそうさま。
おい、ひとみ!送っていってあげなさい!」
後藤が帰ることを告げると、
無常にも2人だけの空間を差し出された。
どうせ話すこともない、そう思って後藤と視線を合わすこともなく
街灯だけが存在を示す夜道。
「・・・よっすぃ〜・・・」
「・・・なに?」
「わたし、もうホントに市井ちゃんのことは忘れたから・・・」
「・・・・・・」
「でも、もうよっすぃ〜に迫ったりしないよ、安心して。」
「・・・どうして?」
「よっすぃ〜には私よりもふさわしい人がいる、
しかも、すごい近くにね。」
いままでそんな話は1度もしたことがなかったはずなのに・・・
吉澤はとまどいと、少しの確信的な恥ずかしさで不思議な表情をした。
そんな吉澤をもてあそぶかのように後藤は最後の一言を付け足した。
「とりあえず、ごとーは今はバンドのことで精一杯。
よっすぃ〜にふさわしい人に、もっとギターがんばってもらわなきゃね。」
「ちょっ、ごっちん!」
後藤の言葉は的確に吉澤の心を捉えた。
必死の弁解を許さぬように、自宅のドアへと駆け込んでいってしまった。
- 54 名前:ジョニー 投稿日:2001年07月31日(火)16時21分19秒
- 9月中旬まで帰省のため中断します。
- 55 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月02日(木)02時32分59秒
- 中断か・・・残念。
続き待ってますんでがんばってください
- 56 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時39分57秒
- 『今日、全国で一斉に大学センター入試が行われました・・・。
季節はすでに1月。
高校3年生はこの時期、おそらく日本で一番忙しいであろう。
それは受験生に限らず、『ピンク・スコーピオンズ(仮)』の3人も同じ事である。
「あ〜あ、みんな忙しそうだね。ライヴ見に来てくれるのかなぁ・・・。」
「本当に進学したい人なんてどれだけいるんだろうね。」
「へぇ〜、よっすぃ〜カッコイイこというじゃん。」
3人はテストの代わりにライヴが待っていた。
いや、『待っていた』というのは語弊があるかもしれない。
テストを受けるのを楽しみにしている人はほとんどいないが、
3人はライヴをやることを不安ながらも楽しみにしているのだから。
- 57 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時40分33秒
- この日は本番前の総仕上げとでも言うべき練習だった。
「ふぅ〜、いいんじゃない?」
「だね〜。」
ドラムとベースは満足いったようで、お互いに出来を確かめ合っていた。
「梨華ちゃん、どしたの〜?」
「なんか・・・今から緊張してきちゃった・・・」
「お〜い!!早いよ!!
まだ明後日なんだから。」
石川の弱気な発言を
ドラムのスティックを顔の前で小刻みに振りながら笑い飛ばす。
「でも・・・緊張して眠れないよ、これじゃ・・・」
女の子らしい言葉にドキッとしたのか、
吉澤の励ましの言葉に一瞬の空白ができた。
片方の想いを知っている後藤は、
テニスの観客のように目線を往復させてニコニコ。
「(よっすぃ〜!眠れないんなら一緒に寝てあげるよ
って言え!)」
「・・・ね、眠れないんなら・・・運動してみたら?」
「(はぁ〜〜?)」
後藤が送った応援テレパシーは全く届いてなかった。
- 58 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時41分06秒
- ライヴ前日。3人はそれぞれの時を過ごしていた。
自分のパートを練習したり・・・
CDを聴いて気を落ち着かせたり・・・
なぜか薬局に行ったり・・・
後藤はヘアカラーを物色していた。
「金髪にしようかなぁ〜・・・久しぶりだなぁ。」
普段は自然な茶髪の彼女も、夏休みや冬休みは髪を鮮やかに染めることが多かった。
「(まだ休みにはちょっと早いけど・・・明日ライヴだもんね・・・)」
赤色のヘアカラーを手にすると、レジへ向かった。
金にしようか赤にしようか、2分くらい迷っただろうか。
後藤が薬局に行くことになった理由は石川からの電話だった。
- 59 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時41分42秒
- 『あっ、もしもしごっちん?寝てた?』
「あのね・・・いつも寝てると思ったら大間違いだよ。」
『ごめん、なんか眠そうな声だったから。
あのさぁ・・・実はよっすぃ〜と相談して、髪を染めようって話になったんだけど・・・
ごっちんもやらない?』
「えっ・・・ああ、いいけど・・・。」
『ホント?よかったぁ〜!それじゃ、明日がんばろうね!!』
「梨華ちゃんに言われなくてもがんばるよ、あははっ。」
久しぶりのヘアカラーの匂いは、不意に後藤に昔の記憶を蘇らせようとした。
中2の自分が戻ってくるのを拒むと、
目を閉じてひたすら眠りを乞う。
いつしか後藤は静かな寝息を立てていた。
- 60 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時42分16秒
- 翌日
吉澤は漫画のようにパンを口にくわえると
原付を飛ばして体育館に向かった。
ライヴは昼から。時間はたっぷりあるが、
何かをしていなければ落ち着かない。
染めたばかりの金髪をなびかせて
到着したころにはもう体育館からは
チューニングをする音が聞こえてきた。
「ギター・・・梨華ちゃんか・・・」
パンを飲み込み終えると裏口から体育館に入っていった。
「うあぁ・・・・・・マジっすか?」
誰かがいすに腰掛けてチューニングとアンプの調節をしている。
いや、誰かがというより石川に違いないのだが・・・
- 61 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時43分42秒
- 「あっ。よっすぃ〜♪」
こちらに気づいたようでゴキゲンな様子で駆け寄ってくる。
逃げることもできたが、逃げたところでこの状況は変わりそうもなかった。
「どう?ピンク色にしてみたんだけど♪」
「どう・・・って・・・い、いいんじゃない?
『ピンク・スコーピオンズ』だし・・・」
「ホント!?よっすぃ〜も気に入ってくれてうれしい♪」
「(いや・・・気に入ったとは・・・)」
吉澤がすっかりペースを奪われているなかで、
あとからやってきた後藤はやはりマイペースだった。
「あっ、ごっちん♪どう?ピンクにしてみたんだけどぉ?」
「何それ〜、恥ずかしくない?」
「ひ、ひどいっ!!」
「ほぇ?わたし何か変なこと言った、よっすぃ〜?」
「・・・い、いいえ、ごもっともなご意見で・・・」
- 62 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時44分28秒
- 時間は刻々と迫ってきている。
練習はこれまでに十分やってきているはずなのに、
直前になっても不安が消え去ることはなかった。
3人は体育館のどん帳の裏側で、
押しつぶされそうになるのをやっとのことでこらえていた。
「ああ〜、すごいドキドキするんだけど。」
「幕が開いて誰もいなかったらどうしよう。」
その心配は当然だった。まだ30分前。
幕の向こう側からは人の気配は感じられなかった。
しかし、プロのライヴならばすでに客席は埋まってざわめき立っている頃だ。
3人は一旦外に出ると、飲み物を買いに自動販売機のほうへ向かった。
- 63 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時45分10秒
- 「はぁ〜、どうする?誰も来なくてもやる?」
「よっすぃ〜!なに弱気なこと言ってんの?」
「そうだよ!こういう時こそポジティブに・・・」
コーヒーのふたを開けるのに手間どりながら、
体育館のほうへ重い足取りで進む。
いままで下ばかり向いて歩いていたせいか、気づかなかったが、
3人の前を歩く4人組はどうやら体育館に向かっているようだ。
「あれ、前の人たちって、もしかしてライヴ聴きに来た人じゃない?」
さっきまで凹んでいた吉澤がひそひそ話で後藤と石川に聞いてみる。
2人も同意見で、自然と足取りも軽くなる。
裏口から舞台裏へ入ったときに、3人の期待は確信に変わった。
喜びと緊張で言葉が出ない。ただ、お互いの顔を見合わせてニヤニヤしていた。
- 64 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時46分12秒
- 「1!」
「2!」
「3!」
「「「おしっ!!!」」」
ステージ上で掛け声をかけ、ついに1歩を踏み出した。
お手伝いの友達がどん帳を開けると、
歓声と口笛が溢れ出した。
観客の人数は50人くらいだろうか。
全校生徒を収容できる体育館だから尚更少なく感じた。
しかし、3人はそんなことを思っていなかっただろう。
吉澤のカウントで、ロックし始めた。
見た目にも派手な3人。
力強くビートを刻むベース。
ゴリゴリと荒削りな音を奏でるギター。
正確で強力なリズムを産み出すドラムス。
特徴的な声でシャウトするヴォーカル。
そのヴォーカルを引き立てるようにハーモニーを奏でるコーラス。
実力がどうこうということではなく、
彼女たちが楽しくやれた、ということがこのライヴの成功を意味した。
どん帳が下りたあとも、口笛と手拍子は鳴り止まなかった。
- 65 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時46分43秒
- 「「「おつかれさま〜♪」」」
午後7時。3人はファミレスで打ち上げを楽しんでいた。
赤髪は本来なら焼肉屋でビールをグビッっといきたいところだったが、
金髪の『肉はダメ』という意見とピンクの『未成年だからアルコールは・・・』
という意見に折れてファミレスにやってきた。
「ところでさぁ・・・これからどうしようか?・・・」
ひとしきり興奮が冷め遣ったところで吉澤が話を変えた。
さっきまでの騒ぎが嘘のよう。
3人とも黙りこくってしまった。
「そういえば、漠然としか考えてなかった・・・」
「わたしは家を出るつもり・・・」
「わたしも、そうしようと思ってる。
んで、いいもの見つけたんだけど・・・」
石川の意見に賛同した後藤は、続けてカバンから何やら取り出した。
- 66 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時47分21秒
- 「ほら、これ・・・」
「アルバイト・・・募集・・・?」
「ライヴハウスのバイトだってさ。ちょうど良くない?」
「・・・・・・」
「これは・・・もう決意を固めるしかないね・・・」
この話題を切り出した本人の一言で
「ピンク・スコーピオンズ(仮)」が動き出すことになる。
- 67 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時48分02秒
- 石川が家に着いた頃にはもうすぐ日付が変わろうとしていた。
「・・・こんな時間じゃ誰も起きてない、か・・・」
音をたてずに自分の部屋に向かう。
途中、台所に母親の後ろ姿を重ね合わせて懐かしんだり、
見慣れたテレビを眺めたり・・・
いざ、明日からこの空間で生活することはない、と思うと、
何でもないようなものがいとおしく思えたりする。
喋ることもなくただ食事していただけの食卓も、
いつも父親が座って新聞を読んでいるだけのソファも、
そして・・・家族も・・・
- 68 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時48分32秒
- 荷物を整理した石川は、机に向かい置手紙を書いていた。
口に出していうのは恥ずかしいようなことも、
文章になら書けた。
涙で文が霞みそうになったが、ぐっとこらえた。
決して後ろ向きな決断ではない。
前向きな決断に涙は必要ない、悲しみよりもその意思が勝った。
ペンを置くとすぐに、人生で一番短い夜がやってきた。
翌朝、誰にも告げずに靴を履いていた。
細い肩にはギターと荷物を掛け、ドアを開けようとしたその時だった。
「梨華・・・」
朝の光よりも先に、聞きなれた声で呼び止められた。
「お母さん・・・」
母親はいつもと変わらぬ笑顔で、いや、いつも以上の笑顔で玄関口に立っていた。
- 69 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時49分11秒
- 「これ・・・必要なときは使っていいから・・・」
母親は手にした封筒を差し出した。
「・・・いいよ、わがまま言って出て行くんだから・・・」
「なら、お母さんのわがままも聞いてくれてもいいんじゃない?」
「・・・・・・」
「あら・・・こんなことで泣いてちゃこれからが心配だなぁ。」
「ひっく・・・泣いて・・・ないよ・・・じゃあ・・・
お母さんのわがまま・・も・・聞いてあげようかな・・・」
封筒を受け取り、ポケットにつっこむ。
もう、これ以上ここにいたらいけない・・・
「それじゃ・・・行ってくるね・・・」
「いってらっしゃい。」
母親の方を振り向くことはなかった。
「(行ってきます・・・)」
- 70 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時49分50秒
- 早朝の駅前に荷物をたくさん抱えた女の子が3人。
それだけでも若干浮き気味なのに、赤髪、金髪、ピンク髪。
田舎の駅前には全く馴染めていない。
当の本人たちはそんなこと全くお構いなしに、
チラシにかかれたバイトの募集先の住所を探していた。
「あっ、これ・・・かな?」
後藤が指差した建物はレンガ造りの渋い建物だった。
「これ・・・だね。チラシも貼ってあるし・・・」
3人はとりあえず開店前の店内に入ってみる。
そこにいたのは、吉澤よりもさらに激しい金髪の女性だった。
- 71 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時50分35秒
- 「おう、まだ開店前やで?」
「あの〜、バイトしたいんですけど・・・」
後藤の恐る恐るの口調に少し笑いながら、
色々話し始めた。
「ホンマか!助かったわ〜。
こんな田舎町じゃライヴハウスなんてはやれへんわ〜、
なんて自己嫌悪に陥りそうになってたとこや。
ほな、3人とも採用な!
そや、自己紹介してへんかったな・・・これ、どうぞ。」
いつまで続くのかと思わせた矢先、意外とあっさり話が終わって
3人は皆ほっとした。
- 72 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時51分06秒
- 「中澤・・・裕子さん・・・」
「ほんな堅苦しいわ〜。裕ちゃんでええで。
ほんでな、仕事はバーの手伝い。
うち、2階がバーになってんねん。
ところで自分ら、いくつやったっけ?」
「(この人は・・・履歴書も見てないのに・・・)」
吉澤の不安は募るばかり。
「「「18ですけど・・・」」」
「ほっ、よかった。18なら酒も飲めるやんな!」
「あの〜、お酒は20歳からじゃ・・・」
「・・・堅いこと言わんと・・・
って自分、その髪何とかならへんか?」
口は悪いが、いい人。それがこの裕ちゃんに対する3人の印象だった。
「住み込みでやってほしいんやけど・・・
ピンクの髪のコは住まされへんわ〜・・・」
「・・・・・・」
- 73 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時52分33秒
- この日も『Grape Records』と書かれた看板の明かりが消えた。
「おつかれ〜。」
「「「おつかれさんで〜す。」」」
3人は中澤と軽く挨拶を交わすと自分たちの部屋に入っていった。
「なんか、中澤さんってわたしだけにキツイこと言ってくるんだけどぉ・・・」
「そうかなぁ?関西人ってみんなああいう感じじゃない?」
石川には関西人の気質が合わないのか、中澤に対する不満を吐き出していた。
「裕ちゃんっていくつなんだろ?30はいってないかな?」
話が盛り上がり始めようとしたそのときに、話題の人物は現れた。
- 74 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時53分10秒
- 「こらこら、レディに歳を聞くんか?
それと、石川にだけキツく接してへんで。
裕ちゃんは平等や。」
「聞いてたんですか〜?」
「聞いてたもなにも、声がデカすぎやで。
ま、これでも飲んで語り合おうや。」
中澤が差し出したのは、やはりビールだった。
もっとも、自分は焼酎の瓶を手にしているのだが。
- 75 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時53分41秒
- 「くぅ〜、そら涙なしでは聞かれへん話やな〜。
そしたら、裕ちゃんが母親代わりになったるさかい
頼りにしたって、な?
まあ、年齢的にはお姉さんやけどな、ハハハッ!!」
1時間後、吉澤以外は完全な酔っ払いになっていた。
1人だけ酒に強く、することもなかったので人間ウォッチングを始めた。
「(梨華ちゃんは泣き上戸、裕ちゃんは・・・いつもと変わんないな。
ごっちんは・・・寝てるし・・・)」
何の事はない。普段の性格が激しくなっただけでウォッチングなどする間でもなかった。
- 76 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時54分20秒
- 中澤は最初はゴキゲンで石川の相談を受けていたが、湯水のように沸いて出てくる
お悩みにそろそろうんざりしていた。
そんな中澤を取り残すように吉澤は眠りに入った。
「・・・なんですけど・・・すごい不安で・・・」
「お、おお。・・・そろそろ寝たほうがええんちゃうか?・・・」
- 77 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時54分53秒
- 「・・・ううっ・・・二日酔いだぁ・・・」
後藤が目を覚ましたときにはもう部屋には誰もいなかった。
「・・・12時・・・」
顔を洗いに行くとちょうど後藤以外の3人で昼食をとっていた。
「ふぁぁ・・・おはよぉ・・・」
「おお、後藤も何か食べぇ。」
今日も元気なおばちゃんは朝食兼昼食を用意してくれた。
- 78 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時55分23秒
- 後藤が席に着くとほぼ同時に吉澤と石川は席を立った。
「・・・いってらっしゃい。」
寝起きの後藤はよく聞き取れなかったが、
どこかに買い物にいってくるらしい。
「デートか・・・若・・・」
「若いもんはいいねぇ・・・か?」
「あっ・・・」
後藤と中澤は一見馴染みそうもなかった。
実際、後藤は中澤のことをあまり気に止めてなかった。
- 79 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時55分56秒
- 「なぁ・・・自分らのバンドって・・・どうなん?」
「ほぇっ?・・・どうなん、って・・・」
「今のままでいけそうかって事や・・・」
「ああ・・・たぶん大丈夫だと思いますけど・・・」
「あのな?ひとつお願いがあんねん・・・
うちの従姉妹をバンドにいれたってんか?
なんか、いつも1人でギター弾いてんねんけど、
女ばっかのバンドやないと入らへんて。」
- 80 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時56分26秒
- 『急に言われても・・・』という顔をしながらも、一応話だけでも聞いてみる。
「あんな、ギターめっちゃ上手いねんで!
インギーみたいやで!」
「(インギーって・・・ポール・ギルバートのほうが好きだなぁ・・・)」
この会話で分かったことは、その従姉妹がギターが上手いということと、
中澤がロック好きだということ。
まあ、後者はそうでなければライヴハウスなど経営するはずもないが。
「う〜ん・・・1人で決めるわけにもいかないし・・・」
「・・・まあ、そうやな・・・
ほんで、もうすぐその従姉妹がくるから・・・」
そう言うと、中澤はバーカウンターの奥に消えていった。
- 81 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時56分59秒
- 冷めたスクランブルエッグを口に運びながら、
何度か携帯電話を手にしたが、その度にポケットにしまい直した。
「せっかくの2人きりなのに・・・邪魔しちゃ・・・ねぇ・・・」
静かな部屋の中で椅子を引く音だけが響く。
冷蔵庫からミルクを取り出し、コップに注ぐと、
入り口のドアが閉まる音が聞こえた。
「あ、おかえり〜」
ミルクを片手に出迎えにいったが、
そこにいたのは石川と吉澤ではなく、
荷物を抱えた小さな少女だった。
- 82 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時58分06秒
- 「あっ、もしかして・・・?」
石川と吉澤ではないということは・・・
肩に掛けたギターケースで確信した。
「あのぉ・・・おばちゃんいますか?」
そのコの
一言でミルクを吹き出すところだった。
「アハハッ!あ〜あ〜、おばちゃんね!いるよ!」
- 83 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時58分38秒
- 「あのね、ホントはバイトがすぐに決まらなかった時のために
とっておこうと思ったんだけど・・・
今のギターもボロボロになっちゃったし。」
吉澤に封筒のお金のことを聞かれて、石川はそう答えた。
駅前はもう春が近く、マフラーはいらないくらいだった。
小ぢんまりとした楽器店に入る2人。
店主の活気のない声が聞こえてきた。
「やっぱり、ピンク色のはないね・・・」
「・・・・・・」
- 84 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時59分18秒
- 「あっ、あれがいいなぁ・・・」
店の壁に掛けてあったのを手にとってみる。
「なんて読むんだろ?リ・・・リッチー?」
石川が手にしているのは白のフェンダー・ストラトキャスター
リッチー・ブラックモアモデル。
エレキギターの中でも最高級の部類に入る。
「え〜、でも高いよ!ほら、30万円って・・・」
しっかり者の吉澤はやはり他人の買い物でも値段が気になる。
「ほら、向こうのやつもよさそうだよ・・・」
2人が向かったのは中古コーナー。
ここには残念ながら先ほどのストラトはなかったが、
その代わりに、ちょっと変わった形のギターに目をつけた。
- 85 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)14時59分49秒
- 「なにこれ?翼みたいだよ・・・」
ギブソン・フライングV。中古のわりに状態はいい。
「これなら大丈夫じゃない?6万円だし・・・」
お母さん・吉澤の許しも出て、ちょっと弾いてみる。
「うん・・・なんか、ネックもしっくりくるし・・・これにしようかな?」
無愛想な店主を呼ぶと、このギターと細めの弦を買って店を出た。
「よっすぃ〜、ハンズに寄ってもいい?」
「え?何買うの?」
言い終えたときに石川の目的が思いついた。
「ピンクのスプ・・・」
「さ、帰ろう帰ろう!」
- 86 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時00分19秒
- 「そんで、この人が後藤、あと石川と吉澤っておんねんけど、
今はちょっと出かけとんねん。」
「知ってるよ。この前の体育館でやってたの見たから。」
関西訛りの標準語を話すこの少女、名前は加護亜依。
「高校2年になりました。ほら・・・」
そう言うと、ついこの間まで後藤たちが着ていた制服をかばんから取り出した。
「あ、なつかし〜!・・・」
「ほんで、うちもバンドに入れてもらえませんか?」
「・・・それは、2人が帰ってきてから。」
- 87 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時01分01秒
- その答えを聞くと、おもむろにギターを取り出してアンプにつないだ。
「あ・・・フライングVか・・・」
後藤の目にとまったのはまさしくギブソン・フライングV。
「ええ、マイケル・シェンカーのファンなんです。」
「ふ〜ん、私も好きだよ。・・・あっ!!」
加護は目をつぶるとギターソロを弾きだした。
クリーンなピッキングでミスタッチがない。
メロディアスでフレットボードいっぱいに
小さな手が動き回る。まさに、マイケル・シェンカーを彷彿とさせるプレイ。
極めつけに名曲「Into The Arena」を弾きはじめた。
- 88 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時01分34秒
- 「すごいすごい・・・ただ・・・」
「「ただいま〜!!」」
「・・・ただ、うちにはもうギターがいるんだけど・・・」
「知ってますよ。石川さんでしょ?
ならツイン・ギターにしたらいいじゃないですか。
わたしもギター2人のほうが、ソロに専念できますし・・・」
「・・・それって、梨華ちゃんにはリズム・ギターに徹してもらうってこと?」
「ただいまって言ってるのに!返事ぐらいしてよ〜!」
「ああ、梨華ちゃん、よっすぃ〜、おかえり・・・」
遅れた返事とともに加護のことを紹介する。
中澤の従姉妹であること、自分たちの高校の後輩であること、
そして・・・このバンドにギターとして入りたいこと。
- 89 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時02分14秒
- 「ところで、どこ行ってたの?」
後藤の問いかけに、無言で品物を差し出す。
「あっ!・・・それってまさか・・・」
紛れもなくブラック/ホワイトのフライングV。
加護のギターと全く一緒である。
「いいよ、一緒にやろうよ・・・ね?」
「ホントですか!?よかった〜。」
石川の答えを聞いた加護は無邪気な笑顔を浮かべて喜んだ。
ただ、石川はなんとも言えないような表情だったが。
そのことに気づいても、吉澤と後藤はそれ以上なにも問うことはしなかった。
加護は立ち上がり、後藤の横を通るときに何やらささやいていった。
「どっちがリードかリズムかなんて決めんかったらええんですよ。」
その、にやっと笑った顔の額を軽く小突くと、
2人は和やかな雰囲気に包まれた。
「加護ちゃんがマイケル・シェンカーなら、
梨華ちゃんはルドルフ・シェンカーか・・・」
何のことか分からない石川と吉澤は後藤に聞こうとしたが、
いつもの通り長くなるだろうと、笑ってごまかした。
- 90 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時02分46秒
- ライヴハウス&バー「Grape Records」は夜6時からの営業。
夜はバイトの「ピンク・スコーピオンズ(仮)」の面々も、
昼間は空いているライヴステージを貸しきって練習をしている。
「加護ちゃん、加護ちゃ〜ん!!」
「は?・・あっ!後藤さん、どうかしました?」
「これはこっちの台詞なんだけど。
どうしたの?さっきからよっすぃ〜のほうばっかり見て・・・」
「あの、いや、なんでもないです。
なんかどっかで見たことあるような・・・って。」
「そりゃそうだよ。私たちが3年だったときに
加護ちゃん1年だったんだから。
それと・・・なんか焦ってるけど・・・?」
「いや!焦ってないです、はい。
さ、もっと練習しましょう!!」
- 91 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時03分48秒
- 加護亜依16歳。生まれて初めて女性を好きになりました。
「(はぁ〜・・・こんな気分は初めてやわ・・・
よっすぃ〜なんでこんなに魅力的やねん・・・
それにしても、最近メッチャクールやなぁ・・・)」
「しゅーりょー!!」
「「「「おつかれ〜!」」」」
練習が終わると、真っ先に目標の人物に近づいていった。
「よっすぃ〜!ちょっと買い物付き合ってくれへん?」
「ん〜?・・・いいよ!シャワー浴びたらね。
一緒に浴びようか?」
「あ、あ、いや、何言ってんの!そんな・・・うちは・・・」
「あははっ!冗談だよ!そんな顔赤くしちゃって・・・」
「(うう・・・よっすぃ〜・・・乙女心は繊細なんやぞ・・・)」
ライヴハウスの奥の方にあるシャワールームは4人分の個室があり、
加護は一番奥の個室に入った。
「(はぁ〜、あかんわ。どうしよ・・・恋の病いうやつやな・・・)」
隣の個室から出てきた石川は後藤とすれ違うと、
眉をひそめて告げた。
「なんか、加護ちゃんが独りでぶつぶつ言ってるんだけど?・・・」
「そういうお年頃なんじゃない?」
石川の言葉を聞くと、笑った後でそう言ってシャワー室へ入っていった。
「梨華ちゃんも大変だね・・・」
- 92 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時04分24秒
- 加護は吉澤を連れて買い物に繰り出していた。
とはいっても、この街は田舎で大きな街までは電車で30分というところか。
電車の中でも、吉澤の横にチョコンとくっついて身を寄せていた。
「よっすぃ〜ってすごい暖かい。」
「ん?そうかな〜・・・。もう5月だもんね。」
「そうじゃなくて・・・なんか・・・」
『次は、○○〜。』
「(む、・・・大事なところで・・・)」
アナウンスに邪魔をされたが、
手をつないで歩くだけでその不満は解消された。
- 93 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時04分56秒
- 「加護ちゃん!たくさん買いすぎだよ〜!!」
「よっすぃ〜は大きいんだから、たくさん持ってよ〜。」
「ちょっ、ちょっと休憩しない!?」
2人は近くにあったカフェに入って休憩することにした。
さっきまでは普通に会話できたのに、
面と向かってみるとなかなか言葉が出てこなくてもどかしい。
下を向いて、握り締める手のひらには汗が・・・
そして、さっき吉澤に内緒で買ったプレゼントが。
- 94 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時05分30秒
- 「あんな、よっすぃ〜って・・・」
沈黙を切り開いて加護が話した。
「好きな人とかいる?」
「えっ?・・・・・・」
また沈黙が訪れる・・・
加護は胸が破裂しそうになりながらも
吉澤の唇を見つめる。
「・・・・・・いるよ・・・。」
「・・・その人ってもしかして・・・?」
「もしかして、って?・・・」
「いや・・・なんでもない・・・。」
淡い期待を抱いて質問をぶつけてみたが、
いい答えは返ってこなかった。
加護はそれっきり黙ったまま、
吉澤の話に時々頷くだけだった。
- 95 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時06分06秒
- 「加護ちゃんは?・・・好きな人、いるの?」
ふと耳に入ってきたのは、無情な質問だった。
「・・・いた・・・よ・・・。
でも、もう・・・その人のことは諦めたから・・・。」
帰り道は、行きとは正反対。
帰りのラッシュにはまって座れなかったことが、
加護を少し助けた。
2人は話すこともなく
ただ春の景色を眺めて帰ってきた。
- 96 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時07分38秒
- 加護が自分の部屋に帰る頃には、
夕日に雲が覆い被さって薄暗かった。
クシャクシャになったプレゼントを床に放り投げ、
加護自身もベッドに倒れこんだ。
「なんでやろ・・・いつもこうや・・・
あかんなぁ・・・いつまでたってもはっきりせえへん・・・」
自分を責め続けると、いつの間にか涙がこぼれて
目の前がぼやけてきた。
すると、すぐそばから母親の声が聞こえてきた。
「亜依ちゃん・・・・・・」
「お母さん・・・あかんわ・・・いつまでたっても成長でけへんよ・・・。」
目をこすってみても、やはりそこにはいるはずのない人物からの
メッセージだった。
- 97 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時08分09秒
- 「まぼろしなんて・・・どうかしてるわ・・・」
ベッドの小さな引き出しに手を伸ばす加護。
「今日ぐらい許してよ・・・・・・」
その中には、パックに入った注射器と小さな皿、
そして袋に入った少量の粉が・・・。
「もう止めたはずなのに、ね・・・クッ!・・・ハァハァ!!・・・」
「亜依ちゃん・・・・・・」
「お母さん・・・居るんなら出てきてや・・・
あれから気が滅入って・・・おかしくなって・・・」
- 98 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時09分44秒
- 「お〜い!ご飯やぞ〜!!」
いつも、食事のときは中澤の威勢のいい声でダイニングに集合する。
「あれ〜?裕ちゃん、昨日もコロッケだったよね〜?」
「そうや、昨日の残りやから・・・」
「はぁ〜?手抜き〜!!」
「文句あるんなら食べんでもええねんで?」
居候たちの会話とは思えないほどアットホームなやり取りが続く。
「あれ?亜依はまだけえへんのか?」
「あ、加護ちゃんならたぶん自分の部屋にいると思いますよ。
なんか声が聞こえたから・・・」
「・・・」
- 99 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時10分26秒
- 「梨華ちゃん、盗み聞きしたの〜?」
「盗み聞きってわけじゃないんだけどぉ・・・
部屋の前通ったら、なんか苦しそうに『ハァハァ』って言ってるのが聞こえて・・・
加護ちゃんもお年頃だもんね。」
恥ずかしそうに顔を赤らめる石川を尻目に、
中澤の顔はみるみる血の気が引いていった。
「まさか!・・・」
全てを言う前に、加護の部屋のほうへ駆け出した。
続けて3人も何事かも分からぬままついて行く。
- 100 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時10分56秒
- 「おい!亜依!!いるんやろ?!入るで!!」
中からの返事はなかったが、中澤は部屋の鍵が開いていることを確認して
中へ押し入っていった。
その目に飛び込んできたものは・・・
横になっている加護と、その付近に転がっている注射器だった。
「なにやってんねん・・・・・・」
そうこぼれるように言うと、加護の頬を叩き、起こそうとする。
そのうちに3人も駆けつけたが、まだ状況は把握できないでいた。
「おい!亜依!起きろ!起きろって!」
「んん・・・あ、おばちゃん・・・」
やっと目を覚ました相手に向かって注射器を突きつける。
それを見ると、加護はバツが悪そうに下を向いたまま黙ってしまった。
- 101 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時11分27秒
- 「あんた、もう絶対やらへん言うたやんか!!」
あまりの迫力に後ろの3人は首をすくめたが、
加護は微動だにすることなく膝の前で組んだ手を見つめている。
と、状況が全く分からない石川は、中澤に尋ねてみた。
「・・・あんな、亜依の父親は・・・」
「言うな!!!」
石川の質問に、少しためらいながら答え始めた中澤に、
今までうつむいて黙っていた加護が叫んだ。
- 102 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時12分00秒
- 「・・・いつかは言わなあかんことや・・・。
ましてやこのメンバーでバンドやりたいんやろ?」
中澤の説得に応じたのかは分からなかったが、
一通り話を聞くと、また元のとおりうつむいた。
「このコの父親は、家族に暴力を働いとったんや。
亜依は父親のおもちゃにされ、クスリ漬け。
そして、母親は亜依をかばって命を落とした・・・。
それから亜依は男性恐怖症になった。
だから女だけのバンドがよかったんやろ?」
中澤は返事が返ってくることはないと分かりながらも、
うつむいたままの加護に尋ねる。
「クスリも完全に抜けたと思っとったのに・・・
なんで急に・・・」
- 103 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時12分38秒
- 吉澤にはなんとなく思い当たる節があった。
昼のカフェを出てから明らかに加護の様子はおかしかった。
「もしかしたら・・・お昼にわたしが・・・」
「よっすぃ〜には関係ない!!!」
そう言うと、4人を部屋から追い出そうと必死で暴れ、叫んだ。
「・・・・・・」
加護の部屋のドアの前で呆然としている吉澤に、
中澤は自分の部屋に帰るように促す。
- 104 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時13分12秒
- 深夜
吉澤の部屋のドアを叩く音が響いた。
浅い眠りから呼び起こされ、半開きの眼をこすりながら
ドアを開けると、廊下の灯りと共に加護の姿が目に映った。
「・・・眠ってました?」
「ん、うん・・・どうしたの?」
さっきの加護の姿が脳裏に残っているだけに、
妙に落ち着いている彼女を前にして、
どう接すればいいのか少し戸惑っていた。
「・・・中入る?・・・」
吉澤は起きたままのベッドに座り、椅子は1つ余っていたが
あえて加護は吉澤の隣に座った。
- 105 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時13分46秒
- 「あっ・・・なんか飲み物があったほうがいいよね・・・
ちょっと待ってて・・・」
吉澤が間を置くようにキッチンへ行ってしまい、
他人の部屋で1人ぼっちになってしまった。
「やっぱり、わたしのこと避けてるんかなぁ・・・」
しばらくの孤独が加護を不安にさせるが、
ようやく部屋の主が帰ってきた。
「これしかなかったけど、いい?」
「はい。」
『バドワイザー』のショットボトルを2つ手にした吉澤に
元気な笑顔で加護が返した。
- 106 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時14分49秒
- 「あの・・・さっきはすいませんでした・・・」
ビールのふたをねじると同時に加護が口を開いた。
「ああ・・・別に謝らなくたっていいよ。
ただ、ちょっと驚いたけどね、ハハハ・・・。」
「クスリやるとあんな感じになっちゃうんです。
よっすぃ〜もやります?」
「えっ?な、何言ってんの!?」
「冗談ですよ!アハハッ!」
「もうクスリなんかやっちゃダメだよ?
それと・・・その丁寧語ってなんか加護ちゃんに合わないよ。」
「そうですか?わたしもそう思ったんですけど・・・
じゃあ、これからは普通に喋るね。」
「で・・・何か話があったんじゃないの?」
「えっ、・・・これだけだよ?」
吉澤は間合いを伺っていたが、自分から切り出すことにした。
- 107 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時15分56秒
- 「あのさ・・・加護ちゃんの過去だけ知ってちゃズルイよね・・・
わたしのことも言わせてよ・・・」
「・・・言いたくないことなら無理に言わなくても・・・」
「ううん、加護ちゃんには言っておきたいの。
まだ誰にも言ってない・・・」
そう前置きをすると、少し前のことを話し始めた。
- 108 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時16分29秒
- その日、吉澤のところには実家の父親から手紙が届いていた。
内容は『たまには母親の見舞いに来い』というもの。
吉澤は母親の容態はそれほど変化していないと認識していた。
そんなに焦ることもないだろうと、手紙が届いてから3日ほどして
入院先の病院へ向かった。
『3階だったよなぁ・・・』
うろ覚えの道順をたどると、やっと目当ての部屋にたどり着き、
そのドアをノックした。
平日の昼間、ノックしても母親の声が返ってくるだろうと思っていたが、
返事の声は予想外の聞きなれた声、父親だった。
- 109 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時17分14秒
- 「あれ?お父さん仕事は?」
ドアを開けたときに父親と目が合ったが、
吉澤が一言を言い終わる前にすでに父親の視線は
違うところにあった。
「・・・えっ!・・・」
その視線の先には、チューブに繋がれた
痛々しいすがたで眠っている母親がいた。
- 110 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時17分49秒
- 自体を飲み込めない吉澤を、父親は一旦廊下へ連れ出して
説明を始めた。
検査の結果、腸に癌があり、胃に転移している。
完治は絶望的・・・
吉澤の瞳にはみるみる涙が溜まっていく。
「そんな・・・なんで・・・」
それ以上の言葉は出てこなかった。
そして父親は・・・
もうすぐ山場が訪れる、と付け加えた。
- 111 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時18分33秒
- 顔面蒼白で部屋に戻ると、母親の眠りは覚めていた。
「・・・あら・・・ひとみちゃん、こんな遠くまで・・・
時間あったの?・・・」
「うん・・・ちょっと・・こっちに用があ・・・ったから・・・」
強がってみても声の震えは隠し切れない。
もちろん母親も気づいていただろうが、吉澤の性格を知っているから
それについて何も言うことはしなかった。
「花瓶の・・水・・少なくなってるよ・・・」
これ以上母親を見ていると、間違いなく泣き崩れるだろう。
そう思い、花瓶を手に水道に向かった。
「なんで・・・なんで・・・・・・」
- 112 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時19分08秒
- 入院患者にとって先にあるものは、回復か死。
吉澤が見舞いに訪れるたびに、痛み止めの麻酔薬の量は増えていく一方だった。
だんだん言葉少なになっていく母親。
この日は母の日ということもあって、病院の1階の花屋で
カーネーションを5本買って病室に向かった。
「(そういえば、母の日のプレゼントなんて初めてだなぁ・・・)」
3階に着くまでのエレベーターで、母親の喜ぶ姿を想像して頬を緩ませた。
病室をノックしたが返答がないので、静かに入って見渡してみた。
やはりそこには眠っている母親の姿しかなかった。
昨日と変わった様子はないことを確認し、ほっとすると、
カバンを椅子に掛け、早速カーネーションを花瓶に生けた。
花の生け方のことは何も知らなかったが、
初心者にしてはなかなかバランスがとれていた。
「お母さん、これに気づいてくれるかなぁ・・・」
と、病院に不釣合いな電子音が鳴り響いた。
- 113 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時19分52秒
- 「携帯の電源切っとくの忘れてた〜!」
ディスプレイには父親の名前。
吉澤は周りを申し訳なさそうに見回すと、
電話に出た。
「もしもし?」
『ああ、すぐに病院に来てくれないか?』
「もういま病院にいるよ?」
「そうか・・・それならいい。」
電話が切れてしばらくすると、
父親や親戚が集まってきた。
その光景を見た吉澤はもちろん気づいた。
でも、信じたくない・・・
まだ言いたいことはたくさんある・・・
目を覚まして欲しい・・・
- 114 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時20分24秒
- 吉澤の思いとは裏腹に、
心電図の波は間隔を広げ始めた。
弱く、優しく・・・
穏やかな波打ち際のように。
吉澤は自分から徹夜の看護を申し出た。
看護といってもすることは1つしかない。
とても残酷な仕事しか・・・
夜の間ずっと母親を見つめていた。
麻酔でまぶたに力が入らず、左眼だけ半開きの母親の顔を。
思い出が走馬灯のように蘇ってくるのは嫌だった。
吉澤は、自分の意思で思い出を蘇らせた。
もう涙は枯れ果てた。
そのとき、ピーという無情な電子音が吉澤と母親との思い出の終わりを告げた。
ナースコールを押す手に微かな力を込め、
もうそれ以上何かをする気力は残っていなかった。
- 115 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時21分35秒
- 吉澤の思いとは裏腹に、
心電図の波は間隔を広げ始めた。
弱く、優しく・・・
穏やかな波打ち際のように。
吉澤は自分から徹夜の看護を申し出た。
看護といってもすることは1つしかない。
とても残酷な仕事しか・・・
夜の間ずっと母親を見つめていた。
麻酔でまぶたに力が入らず、左眼だけ半開きの母親の顔を。
思い出が走馬灯のように蘇ってくるのは嫌だった。
吉澤は、自分の意思で思い出を蘇らせた。
もう涙は枯れ果てた。
そのとき、ピーという無情な電子音が吉澤と母親との思い出の終わりを告げた。
ナースコールを押す手に微かな力を込め、
もうそれ以上何かをする気力は残っていなかった。
- 116 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時22分16秒
- そのままの体勢で吉澤は続ける、しかし先ほどの目とは違って
いつもの優しく温かい目に戻っていた。
「下手なピアノで曲作ったんだよ、お母さんへ捧げる曲・・・」
時間は午前3時過ぎ。
ライヴハウスに降りてきた2人は灯りをつけた。
1つのスポットライトの元で、吉澤のピアノの音色が響いた。
「メッチャ綺麗なメロディやん・・・」
そう言うと、加護は部屋からフライングVを持ってきて
ギターソロを弾きだした。
「こんなん、どう?」
「それいいよ!」
2人の演奏は朝方まで続いた。天国に届けるように。
- 117 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時22分53秒
- 天窓から朝日が射してきた。
「もうこんな時間だね・・・」
「そういや、この曲のタイトルは?」
しばらく考えた後に吉澤は少し恥ずかしそうに答えた。
「『Knockin’ On Heaven’s Door』っていうのにしようかな〜って」
「ふむふむ、『天国の扉を叩きつづける』・・・
こういうのは日本語にせえへんほうがいいね、あははっ!」
「まだごっちんと梨華ちゃんには秘密だよ?
詞もつけてないし・・・」
加護に釘を刺し、2人はそれぞれの部屋へと帰っていった。
昼
「よっすぃ〜と加護ちゃんは〜?」
いつもこの時間に起床の後藤は、
眠そうな声で中澤に問い掛けた。
「まだ起きてけえへんのか・・・ホンマに・・・
石川!呼んで来い!」
「なんでわたしなんですかぁ?」
「うっさい!はよ行かんかい!」
渋々向かう石川の背中の方から叫び声がする。
「なんでうちが買っといたビールがなくなっとんねん!!」
- 118 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時25分06秒
- ふぅ〜(w
中断とか言って、更新しちゃいました(w
「イパーイあって読むの大変だ!」というかたへ、
「ガムバッテください(w」
- 119 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月16日(木)15時29分35秒
- ちなみに、メンバーの作者が考える実在ミュージシャン像は・・・
後藤・・・ジョン・ポール・ジョーンズ(レッド・ツェッペリン)
石川・・・イアン・ギラン(ディープ・パープル)&ジェームズ・ヘッドフィールド(メタリカ)
吉澤・・・コージー・パウエル(レインボー、MSG)
加護・・・マイケル・シェンカー(MSG)
という感じ。
- 120 名前:JAM 投稿日:2001年08月16日(木)22時01分56秒
- 待ってましたよ〜♪
予定よりも早く更新されてて嬉しいです。
こんなにたくさんの更新ご苦労様です。
- 121 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月16日(木)23時27分39秒
- やっべっ。マジでよっすぃに惚れそう。。。。(w
- 122 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月17日(金)15時19分52秒
- ここ、『Grape Records』に来てもうすぐ3ヶ月。
初めの頃はライヴハウス自体の活気が足りなかったが、
最近では出演バンドも増えてきて、2階のバーと共に盛況である。
「ホントに大丈夫?」
「・・・平気だから。」
この日のライヴ中に客が投げたペットボトルが後藤の右目に当たり、
ライヴ終了後にみんなが心配して集まってきたところだ。
「これ何本だぁ?」
「あのね、ふざけてると怒るよ?」
石川の振っている指の数は1本だった。
後藤も分かったが、人差し指のほかに小指が微妙に立っているので
1本か2本か迷うところだった。
- 123 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月17日(金)15時20分25秒
- 「でも、ホントに危ないよね。ちょっと間違えたら失明だよ。」
「でも、外国じゃ物が飛んでくることなんか日常茶飯事だよ。」
吉澤の心配もさらりとかわして平気なそぶりを見せる。
「おお、全員お集まりやな・・・」
突然楽屋に見慣れない人物が現れた。
金髪のマッシュルームにサングラス。
そして関西弁。
一同、みな唖然として固まった。
- 124 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月17日(金)15時21分08秒
- 「どうも、初めまして。こういうもんです。」
加護に渡された名刺には、さらに一同を固まらせる語が書いてあった。
「え〜っと・・・『Qプロダクション専務 つんく』・・・?
プロダクションて!?」
驚き、顔を上げる加護に
にやっと前歯の金歯を光らせて説明する。
「さっきのライヴ、見させてもろたよ。
ぜひともうちのプロダクションからデビューしてほしいんやが・・・
1つ条件を出さしてもろてええかな?」
にわかに活気立つ4人を舐めるように見渡すと、顔を止めた。
- 125 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月17日(金)15時21分43秒
- 「どうも、初めまして。こういうもんです。」
加護に渡された名刺には、さらに一同を固まらせる語が書いてあった。
「え〜っと・・・『Qプロダクション専務 つんく』・・・?
プロダクションて!?」
驚き、顔を上げる加護に
にやっと前歯の金歯を光らせて説明する。
「さっきのライヴ、見させてもろたよ。
ぜひともうちのプロダクションからデビューしてほしいんやが・・・
1つ条件を出さしてもろてええかな?」
にわかに活気立つ4人を舐めるように見渡すと、顔を止めた。
- 126 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月17日(金)15時22分44秒
- 「それな・・・アイドルでデビューしてほしいねん。
簡単やろ?ニコニコしといたらええん・・・」
「ふざけんなよ〜!!!」
つんくが全てを言い終わる前に吉澤がキレてしまった。
タイソン並のスピードで飛びかかると、
全力をこめた右ショートフックがつんくの顎を捉えた。
「よっすぃ〜!あかんって!!
梨華ちゃん、手伝って!!」
なおもつんくに襲い掛かろうとする吉澤を、
ただでさえ体格が小さい加護1人で止めることは難しかった。
2人がかりでやっと抑えたが、なおもつんくを睨みつけている。
- 127 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月17日(金)15時23分17秒
- 「何してくれんねん?顎の骨が・・・」
「あんたうるさいよ・・・。早く帰って欲しいんだけど?」
因縁をつけるつんくに、いままで黙っていた後藤が言い渡した。
「ほら、バイバイ。」
つんくの言い分を僅かも聞こうとせずに、楽屋から押し出してしまった。
「おまえら!絶対売れへんからなー!!」
廊下から遠吠えが聞こえるが、それは「ピンク・スコーピオンズ」の
メンバーにとって何の意味も持たなかった。
- 128 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月17日(金)15時23分49秒
- 「何言ってんだろうね?」
石川はつんくを若干軽蔑したような言い方をした。
「何にも分かってないんだよ!・・・ったく・・・」
吉澤は正気を取り戻したものの、怒りが収まっていない。
「ホント・・・うちらが目指してるのは・・・」
ちらりと後藤のほうを向いて、白い歯を見せる加護。
「売れる音楽じゃないんだよ!!」
ドアの向こうに消えた人物に投げつけるように
後藤が吐き捨てた。
それを聞くと、一斉に楽屋が笑いに包まれた。
つんくのおかげでメンバーの意志が確認できて、
結果的には良かった・・・と、思ったのは
後藤だけではなかったようだ。
- 129 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月17日(金)15時28分19秒
- >>JAMさん
どうもありがとうございます。
実家に帰ってもやることなかったんで、ずっと書いてました。
ただ、それよりも更新が疲れた(w
>>121さん
作者はもう惚れてます(w
ぜひともよっすぃ〜には(略
- 130 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月25日(土)13時38分06秒
- >後藤も分かったが、人差し指のほかに小指が微妙に立っているので
1本か2本か迷うところだった。
爆笑したさ!!!シリアスに読んでたらそんなかい!!超ワラタ。
もう、ドンドン期待していくさ。がんばってね。
よっすぃ〜にも、アナタにも惚れるわ。(w
- 131 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月25日(土)18時40分47秒
- 「こんにちわー。○○電器です。」
ライヴハウスが休みの日はたいがい昼過ぎまで寝ているメンバー達。
不意の来客はほとんどない毎日だったが、
この日は昼前にインターホンを鳴らす人たちが現れた。
4人の中では比較的規則正しい生活の吉澤と、
それに影響されて若干生活が改善気味の加護は、
入り口のドアを開けて固まった。
「あの・・・なんですか?」
「こちらのほうに届けるように言われたんですが・・・」
吉澤が見せられた領収書には確かに『こちら』に住んでいる人物の名前が
書いてあった。
加護はかかとを上げて覗き込むと、くるりと後ろを向いて廊下に声を響かせた。
「おばちゃ〜ん!!なんか届いてるよ〜!!」
中澤の部屋から手がにょきっと出てくると、
なにやら加護を手招きして呼び寄せた。
- 132 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月25日(土)18時41分21秒
- 「あの・・・お金はちょっと待ってくださいね・・・
もうすぐ来ると思いますんで・・・」
なんとか間をつなごうとする吉澤の後ろで、スリッパをパタパタいわせて
階段を下りてくる音が聞こえてきた。
「はい、これお金です。」
どうやら、中澤は寝起きで化粧もしてないから恥ずかしくて出れないとのことだった。
「まったく、あの人は・・・で、加護ちゃん、これどうしようか?・・・」
電器屋が帰って、残ったのは大きな箱が3つ。
「よっすぃ〜がんばってね♪」
「ダメ〜!加護ちゃんにも手伝ってもらうからね!」
加護ははなから手伝うつもりだったが、吉澤の困った表情を見ていたずら心を
少しくすぐられたのだった。
- 133 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月25日(土)18時41分51秒
- 「ふぅ〜、これなんなんだろ?」
やっとのことで運び終えると、化粧を終えた中澤の遅いお出ましだ。
「おお、すまんな。ここ置いといてや。」
「開けていいですか、これ?」
「ん?ああ、吉澤機械に詳しいんか?
よかったら、組み立ててほしいんやけど。」
機械に自信が無いのは、世の女性とほぼ同じだろう。
「う、うちはあかんよ!?・・・」
視線を受けた加護もとっさに首を振る。
箱をみたところ、中身はどうやらパソコンに違いなさそうだ。
確かに、吉澤の家にもパソコンはあったが、
自分で組み立てたわけではない。
「・・・できたら、お礼はもらいますからね?」
- 134 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月25日(土)18時42分28秒
- 「これで電源を入れれば・・・・・・」
なんとなくで組み立ててみたものの、画面には窓のマークがしっかり現れた。
「おお!できた!!すごいやん!!」
「いやぁ・・・まあ、こんぐらいはできますよ、はははっ!!
で、このパソコン、何に使うんですか?」
確かにいままでパソコン無しでも不自由しなかった。
しかも、中澤がパソコンを使えるとは思えないだけに、
当然の質問である。
「何言ってんねん?CD作るに決まってんやろ?」
「CD?って・・・誰の?」
「なんや?自分らCD作りたくないんか?」
吉澤は今まで、中澤は自分たちのことをただのバイトとしてしか
扱ってくれないと思っていた。
しかし今、ちゃんと「ピンク・スコーピオンズ」のことも考えて、
サポートしてくれている、ということが分かって
若干感動気味である。
「いきなり事務所の誘いがあるとは思えへんからな。
まずはインディーズ盤作ったらええやん。」
「あ、・・・ありがとうござ・・・」
「そんで、売上の30%はうちに寄付してくれたら嬉しいんやけど?」
「ござ・・・・・・。」
- 135 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月25日(土)18時45分14秒
- ちょっとだけ更新です。
>>130さん
梨華ちゃんはそういうテイストなんで(w
作者に惚れてもいいことないですよ(w
- 136 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月26日(日)00時13分02秒
- 「なにこれ?」
「すご〜い!!パソコンだ〜!!」
遅起きの2人、後藤と石川も、昨日まではなかったパソコンを見つけて
驚いたようだ。
「すごいでしょ〜!わたしが組み立てたんだから!」
腰に手を当て得意げな吉澤の横には、コードが1つ残っていた。
「あれ?それは?」
「こ、これは・・・たぶん予備なんじゃない?」
「ふぅ〜ん・・・」
吉澤の答えが聞こえたのか聞こえないのか、
後藤は横にしゃがみ込み、説明書をペラペラとめくる。
「ああ・・・なるほど。MDと繋ぐやつか・・・。」
実は後藤、こう見えて機械には強かった。
それを今ごろ知った吉澤はさぞや後悔したことだろう、
『ごっちんを起こして作らせればよかった』、と。
- 137 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月26日(日)00時14分27秒
- 「MDと繋ぐってどういうこと?」
タオルの効果で朝から喉の調子が良好な石川が問う。
「MDに録音したのを、パソコンに移して、
それをCDにできるんだよ。」
さっきから、『パソコンはわからない』といった感じで
部屋の隅でギターを爪弾いていた加護は、
ようやくどういうことか理解した。
「そんなら、早くCD作ろうよ。」
「そんなん言っても、スタジオがないやん?」
「こっちこっち・・・」
なぜか自身満々の加護に連れられて、4人は後を付いていく。
「ほら、ここがうちらのスタジオ違う?」
見慣れた照明器具、モニターには石川が足を乗せ続けた傷が残っている。
紛れもなく、そこは『Grape Records』のライヴ・ステージ。
『ピンク・スコーピオンズ』が毎晩上がり続けた、いわばホーム・グラウンドである。
「ライヴ・アルバムって、なんかええやん。」
「客は入ってないけどね。」
こうして、スタジオがないという些細なきっかけで、
『ピンク・スコーピオンズ』はライヴ・バンドとしてのスタートを切ることとなった。
- 138 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月26日(日)00時15分00秒
- 「できたで!」
「おばちゃん、料理やないんやから。」
「裕ちゃんの料理なら、あんまりうまく録れてないね。」
「い、石川!なんやて!?」
「ま、とりあえず聴いてみようよ。」
そう言うと、パソコンから出てきたCDをそのままコンポに移す。
そこから出てきた音は、お世辞にもいい録音状態とは言い難い。
ただ、『ピンク・スコーピオンズ』の魅力である『バトル感』は
十分に伝わってきた。
「ごっちん、これなんとかならない?
うちのギターソロがほとんど聞こえへんよ。」
「これが限界だね。パソコンでノイズも消したし、
あとは録音した人の腕の問題だね。」
「まあ、しょうがないやん。
ボランティアでやってるんやから・・・」
「ボランティアって・・・さっき売上の30・・・」
「(黙っとき!・・・あとでべーグルこうたるから・・・)」
「(はい♪ゆで卵もおねがいします♪)」
- 139 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月27日(月)16時25分01秒
- 『ナカータのいいところは、このボディバランスと思いますね。』
テレビでは、おなじみのセルジオ氏がサッカーの解説で手腕を発揮している。
「ねぇ、日本って強いの?」
「う〜ん・・・強いといえば強いけど、大きな大会で強いところと試合しても
勝てる、というほどじゃないかな〜。」
スポーツ好きの吉澤の答えに、加護は深く頷く。
テレビの中では、青いユニフォームがピッチを支配していた。
『ここで試合終了です!日本!韓国を1−0で下しました!』
「あ、終わっちゃった・・・。」
試合中も特に話すこともなく観戦していたが、
サッカーが終わると、その沈黙がさらに際立った。
しばらく席を立つことはせずに、ブラウン管を眺めていた加護だが、
その脳裏には青いユニフォームが焼き付いていた。
「そろそろ部屋にもどろうかな・・・」
「ステージの衣装にしようかな・・・」
「え?何を?」
腰を上げた状態の吉澤に、加護はニコニコと微笑みかけるばかりだった。
- 140 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月27日(月)16時25分33秒
- 「○○宅急便で〜す!」
寝ぼけ眼で新聞を読んでいる吉澤は
『またか・・・』と思った。
いつも通り、午前中は2人しか起きていない。
「(しょうがないな・・・)」
炒れたてのコーヒーをすすると、
ようやく玄関へ向かって歩き出した。
と、階段がものすごい怒号をあげたかと思うと、
もう1人の起きている人が流れ落ちてきた。
「痛った〜!!・・・はいはい!今行きま〜す!」
うまいこと受身をとったのか、
はたまた痛みをこらえたのか、
朝から元気いっぱいの加護の姿を見て、
自分の年齢を確認した。
踵を返してダイニングに向かうと、
椅子に座ると同時に玄関の閉まる音が聞こえた。
- 141 名前:ジョニー 投稿日:2001年08月27日(月)16時26分04秒
- 「加護ちゃ〜ん!!大丈夫〜?」
「大丈夫、大丈夫!」
吉澤の呼び声につられて、加護もダイニングにやってきた。
「コーヒー飲む?」
「う〜ん、コーヒーよりオレンジジュースがいいな。
それより、ほら!」
冷蔵庫に向かった吉澤には当然見えなかったが、
加護の言っていることは、さっきの宅急便であることは
明らかだ。
コップにオレンジジュースを注ぐ間も、
加護のほうに視線を移すことはなかったので、
やきもきした加護は、Tシャツを脱いで『それ』を着た。
「んで、なにが届いたの?・・・あっ・・・」
「じょわ〜ん!!」
変な効果音と共に目の前に現れた加護が着ているものは、
まさしく、あの青いユニフォームだった。
右袖には日の丸が、背中には『KAGO 7』と
しっかり刻まれていた。
吉澤は、数日前に加護が漏らした言葉を思い出した。
「衣装って・・・ユニフォームのことだったの?」
「これからも気合入れていきますよ〜!!」
うんうんと頷くと、決意の言葉と、唸るような悲鳴と共に階段へ消えていった。
「ぐぅっ!!弁慶打った・・・」
自分のおっちょこちょいぶりに、
『すね当ても買わなければ』と、ちょっと思った加護だった。
- 142 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月08日(土)16時32分55秒
- それほど大きくない町に、ライヴハウスが1軒。
その中に箱が1つ。
その中にCDが5枚。
ライヴハウスの中には、店主と、ヴォーカル&ギターの2人。
「なんで売れへんねん?せっかく副収入が入ると思っとったのに。」
「そりゃ、簡単には売れないですよ。
ここだって毎日満員ってわけじゃないんですからぁ。」
「それは言ったらあかん・・・。
でもな、いい知らせがあんねん。
うちの知り合いがやってるライヴハウスがあんねんけど、
そこから誘いがきたんや。」
「誘い、ですかぁ?」
少し眉をひそめて、中澤の次の言葉を待つ。
「そこで、なんやイベントがあるらしいねん。
それに出てくれんか、いうことなんやけど。」
「えっ、本当ですかぁ!?」
「本当やけど・・・そのワンパターンなリアクションやめや・・・。」
「・・・・・・ホントにぃ〜〜!?信じらんな〜い!!」
「!!!・・・・・・。」
- 143 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月08日(土)16時33分45秒
- 「コブになってない?ここら辺なんだけど・・・」
「スリッパで叩かれてコブができるわけないじゃん。」
石川は中澤から聞いたことと、されたことを正しく伝えたが、
後藤には疑問が残った。
「んで、それっていつなの?」
「えっ・・・と・・・さぁ、日にちは何にも言ってなかったから。」
「日にち分かんないと、どうしようもないじゃん!」
早足で部屋を出る吉澤の後を3人も付いて行く。
「ホンマに梨華ちゃんておっちょこちょいやなぁ。」
『石川に比べれば、まだマシか』と加護はちょっと救われた。
「明日やで。」
「「「「げ!・・・マジで?・・・」」」」
「うっそぴょーん!!
・・・・・・って、石川はなにスリッパ持っとんねん!?」
「・・・で、本当はいつなんですか?」
石川を若干放置気味にして、
後藤が会話を戻す。
「えっと・・・いつやったかな・・・
ああ・・・来週の土曜日か。」
ちょうど1週間後。
この日が転機になろうとは、まだ誰も気づいていなかった。
「そのスリッパで裕ちゃんを殴ろういうんか?ああ?」
「・・・クッ!」
- 144 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月08日(土)16時34分38秒
- 「・・・・・・・・・。」
後藤の財布に入っているのは、「Mr.Big」のライヴのチケット2枚。
適当に誰か誘って見に行こうと思っていたのだが・・・。
「あー!!なんで歯医者の予約とカブルわけ!?」
その時間に歓声をあげることはできず、
それどころか、高速の回転音に刺激されて悲鳴を我慢して押し殺すことになってしまった。
「よっすぃ〜?」
ドアをノックしながらその部屋の主の名を呼ぶ。
しばらくすると、眠い目を擦りながら吉澤がドアを開けた。
「ん〜・・・こんな時間にどしたの?」
吉澤が不機嫌ではないことに少しほっとしながら、
経緯を説明してチケットを渡した。
「加護ちゃんとでも行ってきたらいいよ。」
- 145 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月08日(土)16時35分31秒
- 「・・・だってさ。どうする、行きたい?」
翌朝、一応加護を誘ってみる。
と、話を聞いた加護の目は見る見る輝きを増していった。
「(やった!ごっちん気がきくやん!
というか、虫歯ありがとー!!)」
「加護ちゃん?」
「・・・えっ!?あ、も、もちろん行くよ!」
「今日の夜7時からだって。じゃ、4時くらいに
出発すれば開場に間に合うかな。」
「うん、そだね。前のほうがいいもんね。」
2人が列に加わったときにはもう開場寸前だった。
- 146 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月08日(土)16時36分28秒
- 「うわぁ〜、もうこんなに並んでるよ〜!」
「よっすぃ〜、これはもうアレをやるしかないよ、
必殺の・・・」
「必殺の?」
「『よっすぃ〜ドッス〜ン』!!
・・・・・・・・・ぐぇ・・・アカン・・テ・・・
イキガ・・・デケ・・・ヘ・・・ン・・・」
「ごめんごめん、ちょっと本気になっちゃった。
・・・・・・あれって・・・?」
「ん?どしたの?」
吉澤が前方の方を見渡すと、金髪の後姿が見え隠れする。
「矢口真里じゃない?」
「・・・背がちっちゃいから見えへんけど・・・
有名人に似てる人なんて結構いるよ。
そんなん言ったら・・・ほら!あの人なんかタモさんやん!」
「サングラスだけでしょ?」
『んなこたぁない』
「「!!!」」
特に気にも留めないまま、
長蛇の列はやっと開いた入り口になだれ込んでいく。
『一旦CMで〜す』
- 147 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月08日(土)18時19分50秒
- CMです。
もとい、更新です。
話の筋も最後まで出来たんで、更新ペースを上げねば・・・(でも学校が始まる・W)
- 148 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月09日(日)00時23分51秒
- 楽しみに待っていました。
学校が始まるそうですが、気長に待っています。
- 149 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月09日(日)22時45分13秒
- 手ぶらの2人は、コインロッカーを素通りして、
最前列へと突進する。
途中、かなり他の客をなぎ倒した感はあるが、
やっとのことで辿り着いたところは、前から8列目といったところだった。
ライヴは素晴らしく、「To Be With You」の合唱は
ライヴハウスが一体になって盛り上がった。
まあ、歌詞を知らない2人は歌えなかったが。
テクニカルバンドと呼ばれるだけあって、
個々のテクニックはずば抜けていて、
吉澤も加護も心を揺さぶられた。
「加護ちゃん、ちょっとここで待っててね。」
「早くね〜!」
加護を出口で待たせてトイレへ向かう吉澤。
ライヴハウスは、半分以上の客はもう帰路へ着き、
2人も、もう帰ろうとしていた。
「(あれ?)」
水道で手を洗うこの人の後姿は、ライヴの前にも見た。
そのときは後ろからしか分からなかったが、
今度は鏡がしっかりと顔を映してくれた。
- 150 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月09日(日)22時46分25秒
- 「(やっぱり!)」
人がいたら迷惑だろうと、周りを見渡したが誰も居ない。
「あの〜、矢口さん・・・ですよね?」
「うぉあ!!・・・ビックリした〜!脅かさないでくださいよ〜。」
「す、すいません!迷惑でしたね・・・ごめんなさい・・・。」
「いや、迷惑じゃないけど・・・で、用は?」
「あの・・・握手してもらってもいいですか?」
「・・・手洗ってからね。」
吉澤の予想通り、矢口だった。
モーニング娘。が解散してからは
バラエティで毒舌混じりのトークで活躍しているが、
普段は優しい女性、というのがこのときの印象だった。
- 151 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月09日(日)22時47分27秒
- 「あの〜、矢口もお願いしてもいい?」
「ふぁい?」
ハンカチを咥えた吉澤の返事は、何とも間抜けに聞こえた。
「あのさ〜、駅ってどっちの方向だか分かる?」
「あ、ああ、分かりますよ。私も電車で来ましたから。
芸能人の人たちも電車使うんですね。」
「いや、マネージャーに送ってきてもらって、
帰りも電話かけて迎えにきてもらうはずだったんだけど・・・
携帯落としちゃって、さ。」
「なるほど。じゃ、一緒に駅まで行きましょうか。
外に私の連れもいますから、3人で。」
水が流れる音が止むと、
吉澤と矢口はトイレを出て加護のところへ向かった。
途中、握手してもらうのを忘れていることに気づいたが、
もうそんなことはどうでもよかった。
なにしろ、有名人と駅まで一緒に歩くのだから。
3人がライヴハウスから出たときは、
もう中にはほとんど客はいなかった。
- 152 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月09日(日)22時49分10秒
- 「矢口さんってロック聴くんですね。意外ですよ〜。」
「最近聴き始めたんだけどね〜。
スタッフの人から貰ったやつとか聴いてるうちに
だんだんハマってきた感じ。」
「矢口さんって、ちっちゃいですね〜。」
「それは・・・名前聞いてなかったね。なんて名前?」
「加護 亜依です。」
「加護ちゃんね。これでもちょっと伸びたんだから。
1cmくらい・・・」
いざとなると、くだらない質問しかできないのは皆同じだろうか。
2人もそんな会話に終始していた。
「あのさ、2人ともお腹空いてない?
矢口もうお腹ペコペコだからファミレスで何か食べてこうよ?
オゴルからさぁ。」
「ホントに?いいんですか?」
「この中に、よく食べる人間が1人混じっているんですが・・・?」
「大丈夫だよ。今日は多めに持ってきたから。」
「それじゃ・・・お言葉に甘えます!」
- 153 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月09日(日)22時53分14秒
- 『ごゆっくりどうぞ〜。』
「へぇ〜、バンドやってるんだ?
で、どうなの?メジャーデビューは?
したら矢口の番組に呼んであげるから、絶対!」
「まだ、メジャーとか全然考えてないんですけど・・・
あの・・・1つ聞いてもいいですか?」
「ん?なに?1つじゃなくていくらでもいいよ?」
ハンバーグを口に運ぶ矢口の目をなかなか見ることができない。
吉澤は意を決して質問をぶつけた。
- 154 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月09日(日)22時54分31秒
- 「なんで・・・モーニング娘。って解散したんですか?」
加護はシーフードドリアをもう少しで完食するところだった。
矢口は、もぐもぐと口を動かしてしばらく黙っている。
「んん・・・それはよく聞かれるんだけど・・・
よく分からないんだよね、実際・・・
しいて言うなら『つんくさんが解散するって言ったから』
かな・・・。」
「つんく・・・!!」
皿を置くと、加護の動きが止まり、その名前をもう一度繰り返した。
「そう・・・つんくさんがどうかしたの?」
およそ2年の間、つんくは芸能界の表に出てくることはなかった。
それだけに、あの名刺を見たときに誰もピンとこなかったのだ。
「いや・・・なんでもない・・・
矢口さん矢口さん!これ頼んでもいいですか?」
「加護ちゃん、ホントによく食べるねぇ!」
話を煙に巻くように、加護はパフェを指差した。
- 155 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月09日(日)22時55分15秒
- 『お会計5083円になります。』
「おうおう、3人で5千円いくとは思わなかったよ、きゃはは!」
「すいません、おごってもらっちゃって。」
「いいよいいよ。2人がいなかったら矢口も帰れなかったんだし。」
「今日は本当にありがとうございました。」
「ございました。」
「またどっかで会えるといいね。そんじゃ!」
- 156 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月09日(日)22時55分56秒
- 「って。すごいいい人だったよ。」
「あのこは、かわいいしな。ええな〜、裕ちゃんも会いたかったわ〜。」
「ふ〜ん、でも、言われてみれば、つんくってモー娘。のプロデューサーだったね。」
「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」
「ひゃあ、ははひはひひははんへいはいへほへ」
「「???」」
謎の言語を操る後藤に、吉澤と加護は驚いたが、石川は笑いをこらえていた。
「通訳するとぉ・・・『奥歯削られて、ライヴに行けなくて残念でした♪』って・・・痛い!!」
後藤は奥歯に挟んだガーゼに力を入れると、スリッパで思いっきり殴った。
「痛った〜!!ここ、絶対コブができてるよぉ〜!ほら!よっすぃ〜見てよぉ!」
「・・・・・・。」
「・・・自業自得や・・・。」
- 157 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月09日(日)22時58分24秒
- >>148さん
ストックはあるんで、小出しにして1週間乗りきる予定です(w
とりあえず、今週は毎日更新予定でがんばります。
- 158 名前:一読者 投稿日:2001年09月09日(日)23時05分45秒
- 運命の出会い・・・なのかな?
毎日更新とのことで、楽しみに待っています。
- 159 名前:ほのぼの 投稿日:2001年09月10日(月)00時08分32秒
- いい感じですね。
がんばってください。
- 160 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月10日(月)22時58分24秒
- エスティマは揺れて、目的地へ向かう。
「ちっ!前の車なにしとんねん!もっとスピードださんかい!ボケェ!!」
「おばちゃん!楽器壊さんといてや!」
「なんやコラ!!嫌なら電車で行かんかい、ボケェ!!」
「(ああ・・・失敗した〜・・・こんなんなら一番乗りで助手席に座るんやなかった・・・)」
乗り物酔いの加護は、中澤の豪快な運転によってグロッキー寸前だった。
「(なんか・・・なんでみんな静かなん?・・・)
よっすぃ〜!・・・って寝てるし!ようこんなんで寝れるなぁ!・・・
ごっちん!・・・は音楽聴いてる・・・みんなマイペースやな〜・・・
しゃぁない・・・
梨華ちゃ〜・・・ん?
手のひらに・・・人差し指で・・・人って書いて・・・飲み込んで・・・はぁ〜落ち着いた・・・
ってそんなん効くか!アホ!!
・・・うぇ・・・・・・後ろ向いてたら・・・気持ち悪く・・・なってきた・・・」
前の2人だけテンションの高い車は、一路隣町のライヴハウスへ向かう・・・。
「吐くんならこん中に吐きぃや。」
「おばちゃん・・・ありがと・・・ってこれウチのカバンやないか!!・・・・・・うぇ・・・。」
- 161 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月10日(月)22時59分41秒
- 「へぇ〜、ここかぁ。結構大きいね。」
あくびを抑えて涙目の吉澤は、妥当な感想を述べた。
ヘッドホンを取った後藤は、無言で看板を見上げる。
「はぁ・・・おばちゃんのおかげで体調が最悪や・・・。」
メンバーはすっかり緊張もほぐれて、すがすがしい顔つきになっていた。
「ナ、ナンカ・・・モウ、ツイチャッタノ?」
1人を除いて。
『ピンク・スコーピオンズ』の順番は5組中2番目。
持ち時間はおよそ30分。
曲順は出発前にみんなで決めてきたため、
楽屋はちょっとした練習場になっていた。
「だから、ここで梨華ちゃんのMCが入って・・・
合図出したらよっすぃ〜のカウントから・・・」
「エ、エムシーナンテ・・・ナンテイエバイイノ?」
「「「・・・・・・・・・。」」」
「・・・今日はスリッパじゃなくてラバーソールだけど・・・
大丈夫だよね?」
「梨華ちゃん、早くしないとホントにコブができちゃうよ?あはは!!」
「もしかして・・・Mと違うん?」
石川の緊張は若干ほぐれたが、他の3人の神経が図太いだけに
楽屋で1人だけ浮いていた。
- 162 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月10日(月)23時00分38秒
- 「わたし、お客さんがどんな感じか見てくるよ。」
「あ、うちも行くわ。」
そろそろ1組目が始める時間だ。
吉澤と加護は楽屋を出ると、会場の入り口に向かい、
客の入り具合と様子を伺いにいった。
「・・・梨華ちゃん、なんでそんなに緊張するの?
別にいつもやってる通りにやればいいんだって。」
「うん・・・でも、なんか・・・わたしヘマしそう・・・
いつもこういうのに弱いんだよね・・・」
「ふ〜ん。別にヘマなんかしたって構わないけど。
でも緊張されるのは困るなぁ〜。
梨華ちゃんだけじゃなくてみんながガチガチだと思われるから。
それだけヴォーカルってのは大変なんだよ。
・・・まあ、がんばって。」
「まあ、がんばって、って・・・・・・。」
石川は、とことん自分の性格を恨んだ。
もっと楽観的な考えが浮かばないものか、
そう考えても実際にそのときがくるまで
開き直ることは難しい。
- 163 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月10日(月)23時01分44秒
- 「「ただいま〜!」」
「あ、おかえり〜。どうだった?」
「うん!満員だよ!よかった〜。お客さん3人とかだったらどうしようと思ってたけど・・・
って、なんか・・・梨華ちゃん緊張というか凹んでない?」
「ほんまや・・・下向いてるよ?」
「え?大丈夫でしょ?さっきごとーが励ましといたから、ね?」
「う、うん。大丈夫だよ!・・・・・・」
「またごっちんが苛めたんじゃないの〜?」
「『また』ってどういうこと〜!?」
吉澤は石川を励まそうと話を続けたが、
石川の表情は苦笑いか作り笑い。
そうこうしているうちにスタンバイの時間はやってきてしまった。
- 164 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月10日(月)23時06分28秒
- 今日はこんだけで。
>>一読者さん
ありがとうございます。
ヤグはあとあと効いてくるかもしれません(w
>>ほのぼのさん
ありがとうございます。
読んでくださる人の言葉は励みになります(w
- 165 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月11日(火)00時06分22秒
- 音楽については無知なもので、例に挙げられていた
実在ミュージシャンも知らなかったくらいですが、
充分楽しめる作品になっていると思いますよ。
- 166 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月11日(火)23時54分06秒
- 「ほんじゃ、行こか?」
ギターのストラップを肩からぶら下げて
加護が一番に楽屋を出ていく。
「あ、まだ『1、2、3、おし!!!』ってやつやってないのに・・・」
吉澤に手を握られて石川も腰を上げる。
廊下を歩く間も、石川の首に手を回して
言葉を投げかけていた。
「こんなとこで緊張してたら、これからどうすんの?
ほらほら!今日は自由にやっていいからさ!元気出してこーよ?」
「・・・・・・うん。」
吉澤のほのかに香るシャンプーの匂いが少し心を落ち着かせたような気がした。
2人の後ろを歩く後藤は、特に何を言うでもなく様子を伺っていた。
- 167 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月11日(火)23時55分29秒
- ステージには前のバンドの余韻と熱気がこもっていた。
照明は落ちているために客からステージの上は暗くて見えないが、
ステージからは人の海が確認できた。
それぞれの音の確認と立ち位置が決まると、
後藤のベースのイントロから、1曲目が始まった。
この曲は、いつもライヴハウスでも1曲目でやっていて、
客もメンバーもテンションが上がるのだが・・・
技量的には前のバンドと比べても全く遜色はない。
しかし、人の海はサザナミすらたてることはなかった。
ただ、ザワザワと不快な音が客席から聞こえてくるだけだった。
曲間の部分で、石川は後ろを向いて他のメンバーに
『どうしよう?』といった感じで目線を送る。
だが、誰も石川を構わない。
「(なんで、みんな無視するわけ?・・・)」
今にも泣きそうな顔の石川は、さっき楽屋で後藤に言われたことを思い出した。
- 168 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月11日(火)23時56分05秒
- 『・・・ヴォーカルが緊張してると他のメンバーまでそう見られる・・・』
「(・・・そうだよね・・・ステージの上ではわたしが引っ張っていかないと、ね・・・。)」
さっきも理解したはずのこの言葉を、もう一度考え直した。
曲の後半は、いつも以上に激しくシャウトする石川の姿が
目を引くようになった。
1曲目が終了すると、パラパラと拍手が聞こえ、口笛が吹かれた。
「梨華ちゃん!」
左後ろからの呼び声にスっと振り向くと、
加護がチューニングをいじりながら少し近づいてきた。
「ちょっと、かましたれって!」
「えっ、急に・・・」
「い・い・か・ら!!」
それだけ言うと、後ろ足で元の場所へ戻っていく。
- 169 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月11日(火)23時57分12秒
- 「(『かませ』って・・・・・・よぉし!!)」
覚悟を決めた石川に、場の雰囲気は通用しない。
「おまえら!!黙って○○○しごいてないで、もっと暴れろや〜!!!」
「「「!!!」」」
と、男だらけの会場は口笛の『ヒュー!ヒュー!』という音が
溢れ出した。
石川は再び振り向いた。
さっきの泣きそうな顔とは打って変わって、
今度は若干照れながらも、笑顔がにじみ出ていた。
メンバーもその表情を確認して安堵する。
「梨華ちゃん!言いすぎや!○○○て!」
客の歓声にかき消されていたが、後ろの3人は大爆笑だった。
- 170 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月11日(火)23時57分51秒
- ひとしきり間を置くと、加護はおもむろにギターを弾きだした。
それは今日のセットリストには無い、
JUDAS PRIESTの『THE HELLION』。
4人が練習の時によく演る曲だ。
加護のギターにつられて4人の演奏が始まる。
客もそれに気づいて、いったん静まりかけた歓声が盛り返してきた。
『オーオーオオー』という唸り声が場内にコダマする。
完全にこの場の空気を味方につけた『ピンク・スコーピオンズ』は
普段通りにライヴを楽しんでステージを降りていった。
- 171 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月11日(火)23時58分30秒
- 「加護ちゃ〜ん!いきなり違う曲始めないでよ〜!」
「ごめん、よっすぃ〜。・・・だって、梨華ちゃんが・・・
○○○て・・・プクク・・・」
楽屋に少し遅れて帰ってきた後藤の手には2本のジュースが握られていた。
「おつかれさん!」
遠目から投げると、石川の元へストライクで届いた。
「あ、ありがとぉ!!」
ジュースの描いた放物線を追うように後藤も石川の方へ歩く。
「なんか・・・今日の梨華ちゃんは・・・
色んな意味で凄かった・・・あはは!!」
「そうそう!だって○○○やもん!!ぎゃははは!!」
「もっと清楚な乙女かと思ったのに・・・」
こうして石川への攻撃は帰りの車の中まで続いた。
「ん?○○○なんて普通やろ?」
「「「「・・・・・・・・・。」」」」
- 172 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月12日(水)00時00分51秒
- >>165さん
趣味の偏ったないようで申し訳ないです。
できるだけ興味のない人が読んでも話がつながるように
書いてるつもりなので、そう言ってもらえると
本当にうれしいです。
- 173 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月12日(水)22時52分51秒
- 夜のバーに電話の音が響く。
「はいはいはいはい・・・・・・あ゛あ゛ん゛!!
・・・・・・はい、もしもし。Grape Recordsです?」
グラスを拭きながら、後藤は横目に中澤のほうを気にしていた。
「(なんで、おばちゃんはみんな電話に出るときに声色を変えるんだろ?)」
当然といえば当然の疑問だが、そんなことは吹き飛ぶほどの知らせが舞い降りたのだ。
声色を変えて電話に出た中澤に感謝、かもしれない。
「まじっスか!!!?」
後藤は1人1人のリアクションを楽しみながら、要件を伝えて歩いた。
「ホンマに!!!?」
3段落ちは期待できない順番だったが・・・。
「梨華ちゃん!なんか、今度の日曜日に○○ビルってとこに来いって。
さっき『うpフロント』っていう会社の人から電話があったんだけど。」
「・・・どうなるのですか〜!!!?」
「30点。」
- 174 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月12日(水)22時53分44秒
- 仕事後の話題はこの電話で持ちきりである。
「『うpフロント』って、確か矢口さんもその事務所じゃなかったっけ?」
「え、ほんなら、あのつんくいう人もそうなん?」
「つんくは独立して会社起こしたんじゃなかったっけ?
この前の名刺には『うpフロント』なんて書いてなかったから・・・。」
「・・・でも、まだ何の用件かわかんないんだけどね。」
冷静な後藤は、しばしば話を強制終了させることがある。
本人にその意思がなかったとしても。
「んぁ?」
- 175 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月12日(水)22時55分35秒
- ちょっとだけ更新です(w
- 176 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月13日(木)00時14分13秒
- 「おまえら!!黙って○○○しごいてないで、もっと暴れろや〜!!!」
石川が実際にこんなこと言ってくれたら萌えるかも(w
生放送のMステでこんなこと言ったら、芸能界追放かな。
- 177 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月13日(木)22時19分21秒
- 「へぇ〜、芸能事務所ってもっと大きいもんかと思ったら・・・」
「そうでも・・・ないね。」
「あの、○○さんお願いします。」
4人の若者は、少しビクビクしながらやってきただけに
拍子抜けした感じだった。
とりあえず、受け付けで電話の人を呼んでもらうことにした。
「なんか・・・わたしたち・・・浮いてない?」
石川の問いかけに、全員が深く頷いた。
それもそのはず。目の前を通る人たちはほとんどスーツ。
それに対して4人はいたって普通の格好。
「う〜ん・・・スーツ買ったほうがいいのかな〜・・・。」
こんなところで社会人の壁を思い知った後藤だった。
- 178 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月13日(木)22時19分56秒
- しばらくして、見た目30歳くらいの男性がやってきた。
どうやらこの人が電話の人らしく、
奥の部屋へと案内された。
男と、テーブルを挟んで向かい合うように4人が座った。
『私、こういう者です。よろしくね。
この前のライヴ見たよ!すごい良かったから、ホントに。』
全員に配られた名刺には・・・
「まこと・・・さんですか・・・。」
全員が考え始めた。
無理もない。『つんく』がすぐに出てこなかったのだから。
『おじさんのこと、見たことない?』
「えっ・・・と・・・あるような・・・ないような・・・」
「「「・・・・・・。」」」
『あ・・・そう。』
まことは、一瞬悲しげな顔をしたが、今日はそんなことが本題ではない。
カバンから書類を取り出すと、テーブルに広げて説明を始めた。
- 179 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月13日(木)22時20分26秒
- 「でも、わたし達タレントさんになりたいんじゃないんですけどぉ・・・」
『でも、音楽だけっていうわけにはいかないでしょ?
プロモーションもしなくちゃいけないし・・・。』
「はあ・・・」
『それに、まだレコード会社決まってないんだよね?』
「ええ・・・」
『僕にいい考えがあるから、ね。』
石川は、訪問販売に言い包められる主婦のような相槌を打ちつづけた。
「あの〜、矢口真里さんってここの所属ですよね?」
『ん?ああ、そうだよ。僕は矢口のマネージャーもやってるから。』
とりあえず、知ってる人の名前がでてひと安心の4人。
この日は資料を貰って何も決めずに帰った。
- 180 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月13日(木)22時21分11秒
- 「おかえり!どやった?」
「これ。」
加護の右手に握られた契約書は、まだもちろん白紙である。
「なんで契約せえへんかったん?
もしかして、また『アイドルとして・・・』とか言われたんか?
・・・・・・冗談やて。」
後藤は、すぐに契約しなかったわけを話しはじめた。
- 181 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月13日(木)22時21分46秒
- 帰り道
『ついにここまできたって感じだね〜!』
吉澤は軽い達成感で興奮気味だ。
『でも・・・』
『でも、何?』
後藤には1つ残念なことがあった。
『これからはライヴするにも許可がいるんだよね?
何にもしないでずっと裕ちゃんのとこにお世話になるわけにもいかないよね・・・。』
『あっ・・・そっか・・・。』
- 182 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月13日(木)22時22分25秒
- 「そんなこと・・・別にかまへんって。部屋空けても誰が使うわけでもないんやし。
・・・・・・・・・何言ってんねん!うちらの仲やんか!!」
「裕ちゃん・・・・・・。」
「よし!ほんなら明日、ラストのライヴを録音しよか!?」
「・・・うん。・・・」
このライヴアルバムは、前回の教訓を活かしてごく少量のみ生産された。
『Last Live at GR』と題されたこのCDが、マニアの間で高値で取り扱われるようになるのは、
まだ先の話である。
- 183 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月13日(木)22時24分37秒
- >>176さん
追放ですね(w
(;■Д■)<○○○・・・
口調が現実と離れがちなのが難点なんですけどね(ニガワラ
- 184 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月14日(金)22時38分04秒
- 「ただいま〜。」
食料の買出しから帰った後藤の手には、買い物袋と本屋の紙袋が握られていた。
「誰も迎えに出てこないのね・・・。」
冷蔵庫に全てしまい終えると、ダイニングの椅子に腰掛けてコーヒーをすすりながら
紙袋を開ける。
どうやら中身は音楽雑誌のようだ。
「ふむふむ・・・・・・あ・・・えっ!?・・・・・・」
「あ、おかえり〜!帰ってきたら『ただいま』くらい言わなかんよ。」
「言ったよ。」
加護が入ってくると同時に、雑誌を閉じてテーブルに放った。
- 185 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月14日(金)22時38分36秒
- 「あ、今月号の『Burrnin'』やん!読んでいい?」
「ああ・・・いいよ。」
それだけ言うと、コーヒーカップを片付けてダイニングを出ていった。
「ふむふむ・・・・・・ん?『Sayaka Ichii』って誰やろ?・・・
聞いたことないなぁ・・・・・・。」
その名前は加護には初耳だった。
「スーパーべーシスト、ビリー・シーンの後釜に日本人・・・か。
ごっちんとどっちが巧いんかな・・・。
しかし・・・スポーツ新聞やあるまいし・・・鮮烈デビューて・・・。」
- 186 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月14日(金)22時39分11秒
- 後藤は階段を上がると真っ直ぐに吉澤の部屋に向かった。
「よっすぃ〜。」
「なに、ノックもしないで?」
「あ、ごめん。」
そういうとこはキッチリしている性格の吉澤は、
ある意味後藤とは対称的だ。
「あのさぁ、市井ちゃんがMr.Bigに加入したって・・・。」
「ふ〜ん。」
「ふ〜んって、それだけ?」
「それだけだけど・・・じゃ、すごいねぇ、は?」
- 187 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月14日(金)22時39分41秒
- 「・・・何か怒ってる?」
「いやぁ?別に?」
「ならいいけど・・・もうすぐ晩ご飯だから。」
「はいよ〜。」
明らかにおかしい吉澤についていけず、
後藤はすぐに部屋から出ていった。
「(ごっちん、やっぱり市井先輩のこと気にしてたんだ・・・)」
薄々感づいていた吉澤は、敢えて興味なさそうな態度を示したのだった。
- 188 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月14日(金)22時41分03秒
- ほんのちょこっとな〜んだけど〜
更新してみた〜♪
ほんとに少しだけど(w
- 189 名前:ポルノ 投稿日:2001年09月15日(土)02時21分59秒
- ちゃむ、ビリー・シーンの後釜!
Mr.Big加入!
か、かっけー・・・
すごくおもろいっす!
がんばって下さい!
- 190 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月15日(土)22時37分46秒
- ついに初の仕事の日がやってきた。
前に、まことが言っていた『いい考え』というのはこのことだったが、
『ピンク・スコーピオンズ』にはまだ何をやるのかは知らされていなかった。
「な〜んか、緊張するね!!」
「よっすぃ〜、アホな発言せんといてや?」
「そうそう、いつもの調子で言いそうだもん!」
「わたしに言うなら、もう一人危険な人物がいるでしょ!?」
危険な人物は寝坊寸前で叩き起こされ、目を腫らしていた。
「生なんやから、気ぃつけてや。」
笑いを必死に堪えながら、テンションが低い石川を冷やかす。
聞こえているのか、いないのか、返事はなかったが。
- 191 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月15日(土)22時38分18秒
- 都内ラジオ局、この日は同じ事務所の先輩、矢口真里のラジオに
出演するということでやってきたのだ。
打ち合わせ室に入るとスタッフに挨拶をして、
やっと今日の企画を説明された。
「マ〜ジっすか!!?」
吉澤はいつもの驚き方で目を見開いた。
が、あとの3人は黙ったままだ。
「それって・・・」
不意に後藤が口を開いた。
そして、スタッフが後藤の問いかけに答えた後、
吉澤も沈黙した。
- 192 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月15日(土)22時38分53秒
- 『は〜い!!こんばんわ〜!矢口真里です!
目っきり景色が秋に変わっちゃって、ねぇ〜!
ヤグチまだ夏を満喫してないですよ、ホンットに。』
慣れた様子で番組を進行させる矢口とは対称的に、
4人は必要以上の緊張に襲われていた。
『今日はねぇ、もうスタジオの中が女の子の
空気で溢れてますよ〜!
ヤグチの事務所の後輩でですねぇ、
4人組のバンドやってるんだよね〜?』
「「「「・・・・・・・・・。」」」」
『・・・緊張してますよ〜!
今日は『ピンク・スコーピオンズの4人がゲストで〜すぅ!』
「「「「・・・こんばんわ〜!」」」」
リスナーから苦情のメールが殺到しそうな出だしだった。
- 193 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月15日(土)22時39分27秒
- 『さて〜!今日のテーマなんですけれども!
まあ、テーマというか企画というか。
まだ、ピンク・スコーピオンズはレコード会社決まってないんだよね?』
「はい・・・フリーです。」
『というわけで、今日はピンク・スコーピオンズの曲をかけて、
それを聴いたレコード会社の人からの連絡を待とう!!
という企画で〜す!!』
「「「「・・・・・・・・・。」」」」
CM中
『みんな緊張してる?
どんどん話していかなきゃだめだよ?
アピールしていかないと・・・ね!』
「はぁ・・・でも、何言ったらいいんですか?」
吉澤のとまどいは当然のものだった。
『それは・・・ヤグチも知らないよ!』
そして、矢口の答えも当然のものだった。
社会人として、自分の決断と行動が何より大事。
それを学べただけでも、この日のラジオはいい経験だったに違いない。
- 194 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月15日(土)22時40分05秒
- ラジオ終わりに、ピンク・スコーピオンズは矢口から食事に誘われた。
最初は遠慮がちの4人だったが、吉澤と加護はこの前ごちそうになったお返しも込めて
今日はごちそうするつもりで返事をした。
『なんか・・・元気出しなよ!ね!』
結局ラジオ放送中にレコード会社からの連絡はなく、
緊張のなかの放送を終えたピンク・スコーピオンズはどっと疲れを感じていた。
もちろんそんなに簡単に契約が決まるとは誰も思っていなかった。
しかし、ラジオでそれをやるということで、自分達がさらし者にされたような気がして
ことのほか落ち込んでいた。
- 195 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月15日(土)22時40分41秒
- 「お、おかえり〜!もっと元気だしていかなかんで!!」
「ああ・・・聴いてたの?」
「そら聴いてたに決まってるやん。
我が娘を嫁に出したような気分やで、はっはっは!!」
生理的に重い空気に耐えられないのだろう。
中澤はいつもよりも明るく、間接的に励ました。
これからは自分たちで乗り越えていかなければならないことが
いくらでもあるだろう。
4人よりも長く人生を歩んできただけあって、
その経験はすでに味わってきた。
「晩ご飯できてるから、はよ食べや。」
「あ、・・・ご飯食べてきちゃった・・・」
階段を一番最後に上がっていた石川は、気まずそうに振り返って
そう告げた。
「ほんならええけど。電話くらいしてもええやろ?」
「ごめんなさい・・・。」
「うっ!・・・別に・・・怒ってるわけやないんやけど・・・」
「(普通にしとったらカワイイんやけどな〜・・・)」
- 196 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月15日(土)22時42分50秒
- ふぅ〜。
>>ポルノさん
どうもありがとうございます。
ちゃむは天才べーシストの道をまっしぐら・・・かもしれません(w
ポルノさんの小説も読んでますよ!
そちらもがんばってください!
- 197 名前:ほのぼの 投稿日:2001年09月16日(日)00時58分37秒
- いいっすね。がんばってくださいね。
ピンク・スコーピオンズに幸あれ。
- 198 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月16日(日)18時03分18秒
- 面白いけどさ。実在のミュージシャン像が邪魔をして笑ってしまう。
共通点といえば、J.P.Jonesの無愛想さしか。石川のJamesは爆笑モノだし、
Cozyはヨシコが可哀相。
性格じゃなくてプレイスタイルってことは分かってるんだけど。
あ、文句じゃないから。頑張って。
タイトルはあの名曲から採ったんだと思うけど、作者さんの好みを想定する
に、GUNSのカバーあたりをイメージしてるのかな。
作曲者のDylanバージョンももちろん素晴らしいけど、Randy Crawfordのも
聴いてみて。ClaptonとD.Sanbornがバックの名演。リーサル・ウエポン2のサ
ントラ所収。すでに知ってたらスマン。
- 199 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月17日(月)00時00分26秒
- 後藤とも色々と因縁があったらしい市井がどう絡むのか、
気になります・・・。
- 200 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月17日(月)01時33分45秒
- 「・・・・・・・・・。」
携帯電話のディスプレイを見つめたまま、
石川はゴロンとベッドに寝転がったまま。
ディスプレイに表示されている名前は、
『矢口さん 090−××××−○○○○』
「・・・っはぁ〜〜・・・・・・。」
胸の中にいっぱい溜めた空気を吐き出す。
こんな気持ちを味わったのは久しぶり。
でも、今回は今までと違って確信できない。
電話番号を教えるなんて、芸能界では
日常茶飯事なのかもしれない。
「でも・・・なんでわたしだけに番号聞いたんだろぉ・・・
・・・・・・っはぁ〜〜・・・・・・。」
過呼吸にならない程度の頻度で、
ため息を繰り返した。
自意識過剰なだけかもしれない。
そう考えたとしても、どっちにしろ気持ちはすっきりしなかった。
- 201 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月17日(月)01時41分38秒
- >>ほのぼのさん
作者も、ピンク・スコーピオンズに幸あれ、と祈ってます(w
>>198さん
よくご存知で(w
性格はあんまり意識してないです。
スタイルは、石川=高速リズム&歌が上手くない(w
後藤=天才肌のソングメイカー(ベースもピアノもできる)
吉澤=パワフルなドラム
って感じで。まだ、後藤がピアノ弾くシーンはないですけど(w
タイトルはボブ・ディランの名曲から取りました。
オリジナルとガンズverは聴いたことあるんですけど、ランディ・クロフォードverは聴いたことないです。
>>199さん
ちゃむは、あとあと重要になってくる(かもしれません)と思います(w
- 202 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月19日(水)18時41分16秒
- 「ピリリリッ!!ピリリリッ!!」
突然、携帯の着信音が鳴り響く。
耳元で音量MAXの電子音が聞こえて
ベッドから飛び起きたが、
ディスプレイを見て、もう一度飛び跳ねてしまった。
「ど、・・・どうしよぉ・・・」
パニックに陥りそうな自分を落ち着かせると、
丁寧に通話のボタンを押して、『もしもし』と答えた。
『あ、梨華ちゃん?今日はお疲れさ〜ん!』
「あ、あの・・・どうもありがとうございました・・・。」
『えっヤグチはなんもしてないし〜、あはは!!』
- 203 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月19日(水)18時42分26秒
- 「あのぉ・・・・・・」
『ん?どうしたの?』
なかなか、聞けることじゃない。
『なんでわたしの番号だけ聞いたんですか?』なんて。
それに、矢口のことなんか少しも気にならなかった・・・・・・昨日までは。
『あ、あのさ〜・・・』
不意に矢口から話を切り出してきた。
『・・・こんど、どっか買い物に行こうよ。』
それは矢口からの『ただの誘い』だったかもしれない。
しかし、こんなときにそう理解できるほど、石川はクールではなかった。
「えっ・・・あの・・・・・・もちろん・・・もちろんいいですよ!!」
『ホント〜!?よしっ!んじゃ、またメールするから!!』
「はいっ!!」
部屋から飛び出す石川。
「ん?梨華ちゃん、どうしたん?ゴキブリ?」
「違うよ〜〜♪」
それだけ言うと、どこかへ跳ねていった。
「なんか、最近うちの出番少なないか??」
- 204 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月22日(土)20時13分54秒
- 季節はすっかり冬。
外は、小春日和の日差しが心地よい。
公園の噴水の周りに、一人の女性が腰掛けている。
帽子から見える金髪に淡いピンクのサングラス。
矢口真里その人である。
無言で腕時計を覗き込む姿は、低い身長、そして冬の格好と相まって愛らしい。
「あ〜あ、もう冬かぁ・・・寒いの嫌いなんだよね〜。」
約束の時間に間に合うかどうか微妙な石川は、
小走りで公園に到着した。
こちらも、かわいいといえばかわいいが、
ピンクのコートが若干異様である。
「あ、やぐ・・・」
ベンチにひょっこり腰掛けている矢口を見つけ、
呼びかけようとしたが、ちょっと思いついたのか
途中でやめた。
「(よし!・・・ちょっと驚かせちゃおうっと!)」
- 205 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月22日(土)20時14分34秒
- ステージで養われた度胸は、時に方向を間違えて活かされる。
さっき自分で『寒いのは嫌い』って言ったばかりなのに・・・。
後ろからこっそりと近づくと、
「や〜ぐちさん!!」
「うぉあ!!!びっくりしたな〜もう!!」
急に抱きついた。
「・・・恥ずかしいからそろそろ放れようよ・・・
って、自分から抱きついてきて何で照れてるんだよ〜!」
「えへへ・・・。」
やっぱり寒かった。
- 206 名前:ラック 投稿日:2001年09月22日(土)21時15分39秒
- ( 0´〜`)<こっちの更新は早いね〜。今日も更新してる
感心しちゃうよ♪これからもガンガッテね!!
レスありがとう御座います。僕もレスしないとフェアじゃないからね(ww
- 207 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月23日(日)22時25分44秒
- 「矢口さん!こういうのどうですかぁ?
似合うとおもいますよ!」
2人は店に入ると、いろいろ品定めして回っていた。
「う〜ん・・・ヤグチそういうの着たことないんだよな〜・・・。」
矢口の服選びには、常にサイズがないという障害が付きまとった。
結局いい洋服は見つからず、2人はぶらりとカフェに入っていった。
「・・・矢口さん大変ですねぇ〜。」
「そうなんだよ〜。だからいつも洋服はスタイリストさんのを買い取ってるんだ。」
「ふぅ〜ん・・・。」
- 208 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月23日(日)22時26分23秒
- 窓際の席から、外を眺める石川。
矢口はズズズとコーヒーをすすると、何か思いついた。
「梨華ちゃん、彼氏とかいないの?」
「えっ!?い、いないですよ!」
窓の外から矢口に視線が移動する。
が、すぐに目を伏せてしまった。
「いや、そういう意味じゃなくて!・・・。」
完全に矢口はパニックに陥った。
本当は、『指輪してないんだ』
これが言いたかったために尋ねたのだが。
まあ、結局は『そういう意味』になるのだが。
- 209 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月23日(日)22時27分11秒
- 「あのさ、指輪してないじゃん?
ヤグチもしてないんだけど〜、
服買ってないから、指輪買おうかな〜って・・・
梨華ちゃんには、今日買い物付き合ってもらったから・・・
さ?」
「そ、そんな!悪いですよぉ!!」
俯いたままそう答える石川に、
矢口はついに本音を告白した。
「あのさ〜、ヤグチ一目惚れなんだよね、梨華ちゃんに・・・
梨華ちゃんは・・・梨華ちゃんはヤグチのこと・・・どう思ってる?」
「・・・・・・」
「あっ、ご、ごめん・・・急に言われても・・・困るよね・・・
今のこと・・・忘れていいから・・・」
ふと我に帰った矢口は、自らを落ち着かせるとともに、
石川の反応の悪さに、思わず諦めの言葉を口にした。
- 210 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月23日(日)22時27分46秒
- 「・・・すれな・・すよ・・・。」
「えっ?」
「忘れないですよ!一生!」
「えっ、ってことは・・・」
「さ!指輪見に行きましょう!!」
石川の指輪は小さな淡いピンク色の石がついた物。
矢口のは、同じ型の黄色の石の物。
2人は、これを一生外すことは無い。
そう思って薬指につけた。
- 211 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月23日(日)22時28分49秒
- >>ラックさん
こちらこそありがとうございます。
しかし・・・フェアじゃないって・・・(^^;
- 212 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月23日(日)23時15分56秒
- 今注目のやぐいしですか!おもしろいぞ。
このあとの梨華ちゃんの態度の変化とか楽しみ。
- 213 名前:ポルノ 投稿日:2001年09月24日(月)03時14分52秒
- やっほーィ!
やぐいしだぁ!かなり期待しちゃいます!
- 214 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月24日(月)20時27分03秒
- ついつい、タイトルにひかれてしまいました。
ボブディランのファンなんで、このタイトルは嬉しい。
この曲はディランの数ある名曲の中で1番メロディが美しいからね。
いろんな人がカバーしているし。
- 215 名前:214 投稿日:2001年09月24日(月)21時44分10秒
- 偶然、今この曲が部屋にかかっている。
1974年のライブのブートだけど(オーディエンス録音だから音わる〜)。
214を書いて、全部読んだけど、面白いよ。続き楽しみ〜。
メジャーデビューできるの?
- 216 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月25日(火)00時54分28秒
- 「・・・・・・ん''〜っ・・・ちょっと違うような・・・」
夜、加護から借りたギターで、吉澤は慣れない作曲を行っていた。
バンドを始めた当初は全くの初心者だったが、
すぐ近くに加護がいるだけあって、それなりに弾けるところまではたどり着いた。
「・・・・・・ヴァー!!・・・ん?なんか・・・どっかで聴いたことあるような・・・?」
ジャカジャカとギターをかき鳴らすと、聞き覚えのあるフレーズがでてきた。
「どっかで・・・っていうか・・・あ''ーー!!うるせー!!」
『どっかで聴いたことある曲』はちょうど隣りの部屋から聴こえてきた。
「あ〜〜あ!!!あ〜!!!・・・ん?ZEP?」
大音量で流れてくる『Immigrant Song(移民の歌)』にイライラして発した声は、
まさにその曲の歌詞だった。
ちょっと音楽家気分を味わったが、あまりにもうるさいので
文句を言いに、部屋を出ていくことにした。
- 217 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月25日(火)00時55分11秒
- 「ちょっと!ごっちん!!うるさい!!
聞いてるの!?」
一向にヴォリュームが下がらないためドアを開けると、
ラジカセは誰にも聞かせることなく、独りで演奏していた。
「・・・よく寝れるなぁ、こんなヴォリュームで・・・。」
ある意味感心しながらも、後藤を揺り起こす。
「・・・んぁ・・・あ・・・ごめん・・・うるさかった?・・・」
どうやら雑誌を読みながら眠ってしまったようだ。
うつ伏せで寝れる人間を、吉澤はちょっと信じられなかった。
- 218 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月25日(火)00時55分45秒
- ふと目に付いた雑誌の記事。
吉澤の目線に気づいたのか気づかないのか、
後藤は雑誌を閉じてマガジンラックに投げ入れた。
「・・・・・・なんかごっちんさぁ・・・最近ぼーっとしてない?」
「えっ?・・・ごとうはいつもぼーっとしてるじゃん、あははは・・・。」
あくまで遠まわしに質問を投げかけるが、どうやら埒があかないようだ。
「いやなら辞めてもいいからね。」
「!!!・・・・・・なにそれ?・・・わたしは要らないって言いたいわけ?」
「やる気がないならね。」
吉澤は冷たく言い放った。
あくまで冷静に、いや、冷酷に。
後藤に答える時間を与えることなく
踵を返してその部屋を後にした。
- 219 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月25日(火)01時05分35秒
- >>212さん
僕も最近すっかり『ヤグって』しまいまして(w
そうですね。やぐいしはちょっと重要になるかもしれません(いまのところ)。
>>ポルノさん
さすがやぐいし好きのポルノさん(w
ポルノさんのやぐいしも楽しみにしてますよ。
>>214さん
ディランのファンのかたに読んでいただけるとは思っていませんでした(w
『Like a rolling stone』も好きです。
メジャーデビューまではすんなりはいかないかもしれません。
でも、『CD5万枚手売り』とかはしませんよ(w
- 220 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月27日(木)00時07分11秒
- 「はい・・・はい、お願いします・・・。」
飲み物を飲みに、閉店後のバーに足を入れると、
ちょうど中澤が電話を切るところだった。
「おお、恐い顔してどうしたん?」
「え?別に・・・怒ってませんよ・・・。」
「よう言うわ。顔に出てんで。『わたしは怒ってます』て。
何でも言うてみ。相談に乗れることなら乗るから。」
吉澤は今自分が思っていることを全て伝えた。
そして、それを中澤は何も言わずに聞いているだけだった。
吉澤の目をずっと凝視したまま。
「・・・・・・って思うんですけど・・・。」
- 221 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月27日(木)00時07分47秒
- 「ふぅ〜ん。」
拍子抜けした。
何か意見でも反論でも飛び出してきそうな感じだっただけに、
中澤の口をついて出た言葉が『ふぅ〜ん。』だけだったのは
納得いかなかった。
「それだけですか?・・・」
たまらず中澤の意見を乞うが、
その言葉が言い終わるか終わらないかの時に、
中澤は急に席を立った。
- 222 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月27日(木)00時08分27秒
- 「なんか飲むか?ビールでええ?」
「・・・要りません。」
「まあまあ、ひとりで飲むのもアレやから、一緒に飲もうや。」
そういうと、日本酒とビールを手に、戻ってきた。
無理やりに吉澤の手にビールを持たせると、
日本酒を注いだグラスと軽く合わせた。
「飲まへんのか?飲んだらさっきの話を聞いての、
裕ちゃんの感想言うわ。」
吉澤には、中澤がまじめに取り合ってくれていないとしか
感じられなかった。
苛立ちを露にしてビールを一気のみし、
空のボトルをテーブルに叩きつけた。
- 223 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月27日(木)00時09分04秒
- 「どうや?感想は?」
中澤はセーラムに火をつけ、軽く煙を吐き出した。
「・・・別に・・・・・・もう寝ます。おやすみなさい。」
「なに焦ってんねん?」
中澤の方を見遣ることなく席を立った吉澤は、
背を向けたまま立ち止まった。
「焦ってなんか!・・・・・・」
「感想言うゆうたやんか?・・・」
そう言うと、左手で席に戻るように促した。
- 224 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月27日(木)00時09分48秒
- 「吸うか?」
右手のセーラムを差し出す。
「要りません。まだ未成年ですから。」
「・・・まだ18やんなぁ?後藤も石川も。
いまからそんなに急いで生きたら疲れるで?
今してもいいことと、ダメなことってあるやんか。
別に後藤がその市井ってコのこと気にしてたって
何も問題あれへんやろ?
・・・・・・ホントは・・・後藤よりも、
吉澤のほうが意識しすぎと違うんか?その市井ってコのことを。」
中澤の指摘は当たっていた。
当の吉澤はそのことを認めたくなかったが、
的確に心を見透かされただけに、
反論することはできなかった。
- 225 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月27日(木)00時10分29秒
- 「かたや、世界的なバンドの一員。
かたや、レコード会社も決まらないアマチュアバンド。
どう考えたって比べられるわけないやん。
別にネガティブなこと言ってるんやないで。
今すぐ同じ土俵に上がろうと思ったらあかんわ。
そんなに甘くない、それはどの世界でも一緒や。
若いころから突っ走ってたら、すぐに燃え尽きてしまうよ。
・・・実はあたしも若い頃は歌手になろう思っとった。
でもな、のどを壊して夢を諦めたんや。
まあ、才能があったようには思えへんかったけど。
自分らは、才能に満ち溢れてる。間違いない。
だからこそ、時にはガムシャラも必要やろうけど、
もっと自分らを大切にしてほしいねん。
音楽を楽しんでほしいねん。
なんか・・・ごめんな、説教してしまって・・・。」
- 226 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月27日(木)00時10分59秒
- 吉澤も、中澤の心がおぼろげながら分かってきた。
始めは、なんでこんな女性独りでライヴハウスなんてやっているのか、
不思議でならなかった。
でも、その疑問はなんとなく解消された。
そして、そこにあった本当の意味も、
それに対する自分たちの答えも。
- 227 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月27日(木)00時11分32秒
- 「そういえばなぁ、これからうちでレコーディングできるから。」
「えっ??どこで??」
「まだ教えてなかったか。地下室があんの。
裕ちゃんが徹夜して毎日掘り続けてんで!」
「えっ、じゃあ機材は・・・?」
「ああ、さっき電話があってな、明日搬入やって。
そんかわり、自分らで機材の使い方覚えるんやで?
・・・・・・それと、後藤と仲直りしときや。」
「・・・はい!」
人生に、悩みは尽きない。
一つの疑問が解決すると、また新しい疑問が浮かぶ。
「(どこにそんな金があるんだろ?・・・・・・男か??)」
今回の疑問はそれほど重要ではなさそうだ。
- 228 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月28日(金)03時00分59秒
毎晩堀り続けた中澤…
笑えました。
でもほんと金不思議。
解き明かされるのが楽しみです。
- 229 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月30日(日)00時04分26秒
- 夏
ピンク・スコーピオンズに加護が入って、早や1年余りが経過していた。
この1年は、4人にとってとても充実していた。
新しくできたスタジオで、レコーディング技術を学び、
レコード会社も決まった。
そして、何と言っても一番大きな出来事は、
『フジロック』に出演したことだ。
- 230 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月30日(日)00時04分56秒
- 「励ましにきたよ〜!!」
「「「「あ、矢口さんお疲れ様で〜す。」」」」
差し入れ片手にドアを開けた矢口は、予想と正反対の雰囲気に
目を丸くした。
せっかく緊張をほぐしに来たのに、その必要は全くなかった。
「いくらなんでも、そこまで緊張しないですよ〜。」
加護はいつも以上に余裕の笑みを浮かべ、
矢口の持ってきたケーキをほおばり始めた。
- 231 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月30日(日)00時05分27秒
- 「矢口さん、最後まで見ていきますよね?」
「う〜ん、このあと仕事が入ってるから・・・」
「え・・・そうなんですかぁ・・・寂しいなぁ・・・」
「うわぁ〜、出たよ!梨華ちゃんの下目使いが!!」
「ぶりぶりかよぉ!?あはは!!」
薬指にはめた指輪の如く、目をウルウルさせて矢口を見つめる石川と、
すかさず茶々を入れる吉澤と後藤。
半年前に比べると、精神的な余裕は格段の違いを見せていた。
しかし、それは決してだらけているのとは違う。
- 232 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月30日(日)00時06分47秒
- 『そろそろ出番で〜す!』
「あ、んじゃ、ヤグチそろそろ行くよ。」
「「「「お忙しいとこ、ありがとうございましたぁ!」」」」
矢口は、ドアを開けるともう一度振り返った。
そこにはさっきまでとは別人の目つきをした4人の姿があった。
楽屋の空気は張りつめ、矢口はその圧力にはじき出されるように楽屋の外へ出た。
『・・・・・・あっ、マネージャー?何か渋滞に巻き込まれたからちょっと遅くなりそう
・・・うん・・・は〜い、すんませ〜ん。』
ピッという電子音は、廊下まで聞こえるステージの音にかき消された。
「あっ!・・・」
携帯をカバンにしまう途中で、大事なことに気づいた。
「ステージの場所聞くの忘れてた・・・」
しかし、楽屋から発せられるピンク・スコーピオンズのオーラは
矢口に2度目の進入を許さなかったようだ。
「ま・・・いいか・・・自分で探そ・・・」
- 233 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月30日(日)00時09分02秒
- >>228さん
お金は・・・どうでしょうね?(w
恐らく、ピンク・スコーピオンズの出世払いでしょう(w
- 234 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月30日(日)23時42分41秒
- 「グリーン・・・グリーン・・・・・・ここかな?グリーン・ステージ・・・」
パンフレットを頼りに足を運んだ矢口は、意外とあっさりと目的地にたどり着いた。
ステージ上では楽器のセッティングが行われ、
雑然と立ち並ぶ客はしばしの休憩を、さんさんと照りつける太陽と共に過ごしていた。
周りを山に囲まれ、一面緑の世界。
野外ライヴのステージとしてはうってつけの場所で、
矢口は昔のことを思い出して懐かしさと、一抹の寂しさを味わっていた。
- 235 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月30日(日)23時43分15秒
- にわかに客がざわめき立つ。
ステージに目を向けると、MCが登場していた。
『次は激しくロックする4人組の登場だ!!
ピンク・スコーピオンズ!!』
上手から登場する4人に歓声と口笛が浴びせられる。
200人ほどの観客の一番後ろから少し離れたところに矢口は立っていた。
初めに現れた吉澤は、ドラムセットに腰をおろすと観客を見渡した。
「あっ!!」
小さく手を振る金髪の女性が、ステージ上からもはっきり捉えられた。
後藤、加護の順でステージに現れ、最後に石川が左手でピースをしながら登場した。
ライトに照らされた薬指は、日の光よりも眩く光る。
- 236 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月30日(日)23時44分12秒
- 「半年でこんなに大きくなったんだね・・・。」
矢口は不意に漏らした。
ピンク・スコーピオンズのライヴは観客に息つく暇を与えず、
ハイスピードで走り続ける。
それを少し離れたところから見つめる矢口は、
脳内時計の針がゆっくり進む感覚を覚えた。
『(ホントは・・・目の前の出来事が速く進んでるんだよね・・・
ヤグチを置いてかないで・・・)』
- 237 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月30日(日)23時44分50秒
- 心の声は石川に届くことなく胸の内にしまい込まれた。
なぜそう思ったのか?
誰にも説明できない何かを感じ取った、としか言えなかった。
ライヴはいつの間にか終わっていた。
ほとんどの音は耳から耳へと通り抜け、
矢口の頭の中に残ったものは・・・。
矢口の目の前を1つの影が横切った。
空を見上げると、1羽の鳥が飛んでいった。
影はあまりに速く消え去り、
矢口もその後を追うようにその場を立ち去った。
- 238 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月30日(日)23時45分28秒
- 「「「「おつかれ〜!!!」」」」
4人は飲み屋で打ち上げの最中。
とは言っても全員未成年なのだが。
「なんかさ〜、奥のほうに見たことある人が居るな〜って!」
「ダメだよね〜!やっぱ一番前に来ないと!」
「オバちゃ〜ん!鳥からもうひとつな〜!!」
酒豪並の飲み方をする3人に比べ、
石川は酒に弱いこともあって、
小ジョッキをチビチビと口に運んでいた。
- 239 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月30日(日)23時46分12秒
- 3人のハイペース&ハイテンションについていけず、
カバンから携帯を取り出し、
なれた手つきでメール送信画面を立ち上げた。
『今日、ライヴ見ててくれましたよね?
仕事大丈夫でしたか?』
『バレてた?(笑)すごいよかったよ!
仕事はねぇ、渋滞で遅れるって言っといたから大丈夫!』
- 240 名前:ジョニー 投稿日:2001年09月30日(日)23時47分14秒
- 「り〜か〜ちゃ〜ん!!下向いて何してん?
・・・あっ!・・・オアツイなぁ〜。メールなんかいつでもできるやん!
ほらぁ〜、全然飲んでないやんかぁ〜。
いっき!いっき!」
さながら、上司に無理やり飲まされる美人OLの如く、
石川は加護にからまれてメールどころではなくなってしまった。
その間、ひとり揺れ続ける携帯電話のヴァイブレーターを
黙って見過ごすしかなかった。
『今度会おうよ。
ヤグチ、聞きたいことがあるんだ。』
- 241 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月01日(月)03時19分23秒
- う〜ん。フジロックに出るの早すぎない?
- 242 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月01日(月)22時50分18秒
- 「ドライブ行かない?」
「はぁ?」
「ドライブ。」
「はぁぁ??」
「・・・・・・ふざけてんの?」
この日、後藤は念願の自動車運転免許証を手に入れた。
車はまだないために、中澤の車を借りてドライブする気まんまんだ。
「梨華ちゃんは?」
「ああ、なんか、ちょっと出かけてくるって。」
- 243 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月01日(月)22時50分53秒
- 「この辺だと思うんだけどなぁ・・・・・・
わたし方向音痴だからすぐ迷っちゃ、あっ!
これ・・・かな?」
見上げたマンションに目的の人物が居る。
部屋番号を押し、インターホンが繋がった。
「あ、石川です。」
『今開けるから。』
短い返答が終わると共に、オートロックが開かれた。
その声にいつもの元気さは感じられなかったが、
それも部屋の前にくるころには忘れていた。
- 244 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月01日(月)22時52分38秒
- 「矢口さん♪」
「ごめんね、遠くまで来させちゃって。
入って。」
「あ、おじゃまします・・・。」
元気な矢口の姿しか見たことなかったために、
石川は今日の矢口には少なからず戸惑いを覚えていた。
- 245 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月01日(月)22時53分12秒
- 「・・・・・・道からはみ出てるで?・・・」
じゃんけんで吉澤に負けた加護は、
助手席のシートベルトに縛り付けられていた。
視線は固まり、
絶叫マシンに乗っている気分である。
いつも、後部座席では酔うからと、
進んで助手席を選ぶのだが、
今日だけは助手席を避けたかった。
「ごっちん!なんか・・・フラフラしてへんか?」
そして後部座席の吉澤は・・・
「・・・・・・・・・・・。」
酔っていた。
- 246 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月01日(月)22時53分53秒
- 「なんで2人とも黙ってるの?」
「なんでって、あんたの運転が・・・おい!!
ごっちん!!赤信号やぞ!?」
「えへへへ。」
「なんでわろてんねん!!!
あー!あー!あかん!!!
ぶつかるーー!!!!
あひゃひゃひゃひゃ!!!!!」
こうして2人は、2度と後藤の運転する車には
乗らないことを決意したのだった。
- 247 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月01日(月)23時05分14秒
- >>241さん
確かに早いですね(ww
ちょっと・・・そこんところは目をつぶってください(w
- 248 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月07日(日)00時13分19秒
- 「片付いてるんですね・・・わたしの部屋って汚いんですよぉ。」
「ああ・・・そうなんだ〜・・・。」
矢口の部屋は、物が多いが片付いていて
いかにも若い女性の部屋、といった印象だった。
カーテンが閉まっているのは何か事情があるのだろうか?
「矢口さん、今日すごい天気いいですよ♪」
「いいから!!・・・開けなくていいから・・・。」
閉め切られていたカーテンは、石川が手をかけた分だけ乱れた。
- 249 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月07日(日)00時13分54秒
- 「あっ、これってこの前撮ったやつですよね?」
写真立ての中の矢口は、いつもの笑顔で微笑みかけている。
しかし、ティーカップを持って現れたその人に、その面影は感じられなかった。
「あの・・・あのさ・・・仕事・・・軌道に乗ってきたね・・・。」
「そうなんですよぉ〜♪おかげさまで。」
「・・・・・・。」
不意に沈黙が訪れる。
矢口はなかなか言い出せず、
石川はそんな矢口の様子に戸惑っていた。
- 250 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月07日(日)00時14分37秒
- 「「あの・・・」」
2人は同時に声を発したが、
矢口は石川を押し切って話し始めた。
「あのさ・・・これからどうするの?・・・」
「えっ?・・・これから・・・ご飯でも食べに行きましょうか?」
もちろんそんなことを言っているのではないということは
石川も承知していた。
ただ、質問の本質はまだ見えてこなかった。
- 251 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月07日(日)00時15分15秒
- 「そうじゃなくて・・・外国とか行っちゃうんじゃ・・・
ヤグチ・・・離れたくないよ・・・梨華ちゃんと一緒じゃないとイヤだよ・・・。」
俯いた矢口の言葉はこもって、ハッキリとは聞こえなかった。
しかし、大体言っていることは理解できた。
そして、泣いていることも・・・。
矢口の前髪の隙間からキラリと光るものが見え隠れしている。
「あははは!!!」
予想もしていなかった笑い声に、
矢口は顔を上げた。
- 252 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月07日(日)00時15分45秒
- 「矢口さん・・・」
息を飲む矢口に、そのままの笑顔で話し始めた。
「わたしはずっと矢口さんと一緒です。
だから、泣かないでくださいよ。」
「ホントに・・・?」
「ホントです!」
矢口の涙が石川の肩を濡らした。
子供のように泣きじゃくる矢口を、
石川はそっと包み込んだ。
- 253 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月07日(日)00時16分19秒
- 「でも・・・」
この言葉に、矢口は恐怖を覚えた。
「でも、将来は外国でも音楽がやれればいいな、って思ってます。
そのときは・・・」
それ以上言わないで、言葉には出さなかったが、
石川の胸の中でブルブルと首を横に振り続ける矢口を見れば、
その思いはいやが上にも伝わってくる。
- 254 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月07日(日)00時16分51秒
- 本当は『そのときは・・・』の次に言う言葉は決めていた。
しかし、こんな矢口を見て思いを改めた。
今までこんなに自分が愛されているのを感じたことはない。
もちろん、メンバーや中澤からも愛されているだろうが、
それとは違った類の感情を矢口から受け取った。
「(この人を悲しませることはできない・・・。)」
それが今の結論だった。
「そのときは・・・毎日電話しますよ♪」
「ヤグチも・・・電話するから・・・」
2人のキスを、一筋の夕日が照らした。
太陽に続く道の上で、矢口が石川を引き止めるように
2人はいつまでも抱きしめあった。
- 255 名前:レイク 投稿日:2001年10月07日(日)00時23分04秒
- やぐたん萌え〜。と感じているのは私だけでしょうか。
表現の巧みさに乾杯。
- 256 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)00時18分17秒
- 「ん〜梨華ちゃん愛してるよ〜♪」
「矢口さん〜わたしもですぅ〜♪」
「・・・・・・。」
「って感じ?」
「違うよぉ!!」
6割がた正解である。
ほんのちょっとだけ話しただけでここまで想像が膨らむ加護と吉澤に
石川は少々呆れた。
- 257 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)00時18分52秒
- 「あのさ〜!レコード会社の住所って何だっけ?」
隣りでバカやっている集団に割り込むように、
後藤は大きめの声で尋ねた。
書きかけの封筒の横にはアルバム用の曲を録音したMDが置いてある。
ピンク・スコーピオンズにとって初のアルバムになるであろう
これらの曲は、全て自分達で手がけた、言わばセルフ・プロデュースというやつである。
プロデューサー主体の音楽が多い時代。
これはある意味時代に逆流しているが、
音楽的な流行など気にしない彼女達にとっては
別にどうでもいいことであった。
- 258 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)00時19分26秒
- 3週間後
「見てみ!これ!」
パソコンの前に座る中澤は、スタジオで作業中の後藤を呼び寄せた。
「ん?ああ、オリコンかぁ。」
「なんか気になってなぁ・・・」
大して気にしていなかったものの、
目の前に数字が出ることに少し緊張した。
結果は、
「48位・・・なんか・・・微妙だね、あははは。」
「微妙て・・・上出来ちゃうの?初めてのアルバムやし。」
「あ〜、売上で出来を判断してほしくないなぁ〜。」
そう言ってはみたものの、後藤の心に引っかかったのは確かだった。
- 259 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)00時20分17秒
- 月明かり。
部屋の電気は点けず、柔らかな反射光を部屋に取り入れた。
後藤は、ラジカセのバックライトを頼りに枕を抱きしめ横になった。
冬の風はレースのカーテンをバサバサと煽る。
「なんか・・・今までずっとやってきたのに・・・」
後藤は迷っていた。
「メジャーデビューなんてしなけりゃ良かったのかな・・・」
おもむろに立ち上がると、ベースを片手に持って部屋を出て行った。
向かう先は、加護の部屋だった。
- 260 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)00時20分53秒
- 「・・・んん?・・・何?」
ノックしてしばらくすると、細い目を擦りながらドアを開けた。
「ちょっとさ・・・ジャムしない?」
「え〜・・・遠慮しとくわ・・・」
後藤はいつになくマジメな顔をしていた。
加護もそれを察知して、軽く冗談を交わした。
- 261 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)00時21分26秒
- 「どうしたん?こんな時間に。」
スタジオの照明をつけると、
いつもの機材が並んでいた。
しかし雰囲気は違う。
こんなに無機質な印象を受けたのは初めてだった。
無言で機材の電源を入れる後藤に、
まだ頭が冴えていない加護は戸惑うばかり。
とりあえず始めたジャムも、後藤の変なベースラインに
さらに謎は深まった。
- 262 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)00時22分05秒
- 「なんかあったん?」
「あのさぁ・・・もっとポップな曲作りたいなって思って・・・。」
「はぁ!?いややで、そんな曲やんのは!」
加護は前に後藤がつんくに吐き捨てた言葉を思い出した。
「ごっちんだって言ってたやん!『売れるのが目標やない』て!」
「いいから・・・ちょっとやってみたいだけだからさ・・・。」
加護は後藤の要求を受け入れなかった。
目の眩むような速弾きを終えると、
ドアを蹴り上げてスタジオから出て行った。
「加護ちゃん・・・・・・」
- 263 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)00時25分42秒
- >>255
レイクさん、萌えですか(w ありがとうございます。
とりあえず、乾杯
@ノハ@ ∋oノノハo∈
( ‘д‘)ノYYヽ(´D` )
- 264 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)23時07分26秒
- 一週間、後藤と加護は口をきくことはなかった。
というよりも、加護が一方的に後藤を避けている感じだった。
そのことは吉澤と石川も薄々感じ取ってはいたが、
理由までは知るすべも無かった。
この日、矢口のラジオのゲストの仕事が入っていた。
スタジオには後藤の運転する車と、マネージャーのまことの車で向かう。
もちろん、吉澤と加護が後藤の運転に付き合うはずもなく、
その怖さを知らない石川が同乗することとなった。
- 265 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)23時07分59秒
- 夜の街並みは綺麗にライトアップされ、
車内にはスクリーンのように影が浮かび上がる。
華やかに見えるロックの世界。
そこに限らず、世間には光と影が常に付きまとう。
「ねぇ、ごっちん。加護ちゃんと何かあったの?」
後藤はその光と影の狭間で葛藤しているのだ。
「・・・・・・。」
「言いたくないならいいけど・・・。」
「・・・・・・。」
ハザードランプを点灯させると、
路側帯に車を停めた。
- 266 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)23時08分37秒
- 「何かあったように見える?」
シートベルトを外し、伸びをしながらやっと口を開いた。
「・・・うん・・・何か、よく分からないけど・・・気まずい感じ・・・。」
「ふぅ〜ん・・・。」
口元を軽く緩ませると、サングラスを外してハイライト・マイルドに火をつけた。
石川にはその笑みの意味がわからなかったが、
自分の感想は間違っていないようだと確信した。
- 267 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)23時09分10秒
- 「なんかねぇ・・・色々考えてると・・・
オカシクなっちゃいそう・・・」
「きゃっ!!」
石川の両脇に手を置き、顔を近づける。
「えっ、ちょっと!・・・ダメ・・・」
「『ダメ』じゃないよ・・・・・・
車に乗ったらカギ閉めなきゃ危ないよ?」
ニヤリと笑うと、石川の側のドアをロックして離れた。
- 268 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)23時09分41秒
- 大きく煙を吸い込み、吐き出す。
そしてまた元通り、車は走り始めた。
「なんか・・・わたしのやりたいことって何なのかなぁ・・・」
横目で石川の様子を伺う。
「これで梨華ちゃんにも嫌われたから、
あとはよっすぃ〜に嫌われれば、バンドから出て行けるね。」
「ごっちん・・・・・・」
俯いたままの石川の声が聞こえてきた。
- 269 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)23時10分15秒
- 「本当にやりたいことがわかんないの?」
会話は成り立たない。
石川の言葉に、後藤は無言の返事を返した。
「本当はハッキリしてるんじゃないの?
それをごまかして、すり替えて、
そんなので成功しても戸惑うだけだよ。」
「・・・・・・。」
「一般の人たちみんなに受けのいい音楽なんて、
薄っぺらな物に思えるけどなぁ。
どの音楽層の人たちの欲求も、全てある程度満たしても、
心に焼きつくまでには至らない。
それなら・・・
私達がやりたいことをすべてやって、
それに共感してくれる人たちだけに支持されるほうが、
わたしはうれしいな。
以上、石川の意見でした♪」
- 270 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)23時10分48秒
- エンジン音に紛れて、『ふふっ』という笑い声が漏れた。
「梨華ちゃんにそんなこと言われるとは思わなかった、あはは。」
日本の市場ではJ-POPと呼ばれるジャンルの音楽が多くを占めていた。
ハードロックでそれの売上に対抗しようなんて馬鹿げた話である。
後藤はそれに気づいて笑ったのだった。
「ごめんね、からかって。
なんかねぇ・・・梨華ちゃん見てるといじめたくなってくるんだよね。」
「なにそれ〜!ひど〜い!!」
車は速度を上げて夜の街並みを抜けていった。
- 271 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)23時11分18秒
- 『は〜い!!今日はですねぇ〜、ゲストの方に来てもらってます。
2回目の登場ですね!ピンクスコーピオンズの4人です、どうぞ〜!!』
矢口の元気のいい紹介は相変わらず。
4人はいつしかの初登場のときとは違って、いい感じにリラックスしていた。
まあ、1人、違った意味でピリピリと緊張感を発しているが。
『ニューアルバムが出たんだよね?
どんな感じなの、ごっちん?』
- 272 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)23時11分52秒
- 「え〜とですね・・・」
加護はラジオブースの床一点を見つめながらも、
耳は後藤の発言に集中していた。
「(またアホなこと言ってみ・・・そんときはバンド辞めたるからな・・・)」
「・・・曲の説明よりも〜、聴いてください。
これが私達のやりたいことなんで。
気に入らなかったら買わなくて結構ですから。」
加護はずっと床を見つめたままだった。
- 273 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)23時12分26秒
- 「「「「おつかれさまでした〜!」」」」
「ヤグチお腹減ったよ〜。ご飯食べてかない?」
「あ、うちは帰りますわ、すんません。」
「(加護ちゃんが断るなんて・・・なんかあったの?)」
矢口の内緒話に、石川はいちおう首をひねっておいた。
矢口と他のメンバーがいなくなって20分ほど。
まことの車がやってきた。
「あ、まとこさん、悪いですけど、コンビニ寄ってもらえますか?」
「ん?ああ、いいよ。」
- 274 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)23時12分58秒
- 「「「ただいま〜!」」」
食事を終えた3人は加護から2時間ほど遅れて帰ってきた。
それぞれの部屋に入っていくなか、後藤は中澤に呼び止められた。
その指示に従って行き着いたところ。
スタジオには、加護が独りでギターを弾いていた。
「やっと帰ってきたかぁ。遅い!ほれ!」
ビールの缶をコンビニの袋から取り出すと、
放り投げた。
- 275 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月09日(火)23時13分29秒
- 「これも!」
後藤が缶をキャッチしたのを見て、
今度は袋からタバコを取り出して投げた。
「あ〜、ありがとう・・・って、これ普通のハイライトじゃんか!
マイルドのほうが良かったなぁ。」
「ええから、どんな音楽がやりたいんやて?
聴かせてよ?」
2人で朝まで、確かめ合うように音を出し続けた。
信頼し合えてこそ音楽を作り出すことができる。
それをこの1週間、2人は実感した。
「おうおう、朝から元気やなぁ・・・
ってゴルァ!!スタジオは禁煙じゃ!!!」
- 276 名前:レイク 投稿日:2001年10月09日(火)23時35分25秒
- ごっちんとあいぼんが仲直りしてよかったっす。
- 277 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月10日(水)01時40分53秒
ただただ、中澤の行動に笑いがとまりません…
おもろすぎ。
どんな音楽ができるのか、どうなるのか?がかなり楽しみです。
- 278 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月11日(木)01時03分11秒
- 12月も半ばに差し掛かり、
人々はにわかに過ぎ行く時を懐かしむ。
しかし4人にとっては、過去を振り返るよりも
今を生きて、先を考えることのほうが優先だった。
吉澤は朝もやの中、新聞を手にすると
ひとつアクビをして太陽を満喫した。
冬の朝の肌寒い空気が、日の光の暖かさとコントラストをなして気持ちいい。
- 279 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月11日(木)01時03分41秒
- 「ん〜。おはよ〜。」
コーヒー片手にスタジオを訪れると、
そこにはすでに石川が座っていた。
吉澤は前日渡されたギターとベースだけのデモテープを聴いて、
ドラムのパートを練ろうとしていたが、
石川も同じ考えだったようだ。
「やっぱりよっすぃ〜は早起きだね。
いつもこんな時間に起きてるの?」
「うん。だってわたしが新聞取りに行かないと
誰も取りに行かないんだもん。」
コーヒーを飲み干すと、スティックを手にドラムセットの前に腰を下ろした。
- 280 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月11日(木)01時04分14秒
- 「う〜ん・・・梨華ちゃん、どう?」
「一応、いい感じ。」
スタジオにこもって3時間ほど。
2人は一区切りついて雑談を始めた。
「梨華ちゃん、ホントにギター上手くなったよね〜。
私なんか全然ダメだよ。」
「うふふ。そうかなぁ。
よっすぃ〜にそう言われるとうれしいな。」
- 281 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月11日(木)01時04分50秒
- 「そうだ!今度のシングルのカップリングは
梨華ちゃんがリードギターやってみたら?」
そう言うと、足早にスタジオを飛び出し、
ひとつのCDを持って帰ってきた。
卑猥なジャケット。
スコーピオンズの「LOVEDRIVE」だ。
「これ、カヴァーしてみない?」
そういって流れてきた曲は、
激しいロックナンバー、「Another Piece Of Meat」。
ピンク・スコーピオンズの音楽と通じるものがあって、
ピッタリの選曲だろう。
- 282 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月11日(木)01時05分21秒
- 「おはよぉ〜。」
やっと起きてきた加護は、置いてあったCDを手にしてブースに入ってきた。
「ほんにゃんひいへたんや。」
「「???」」
「こんなん聴いてたんや。」
口にくわえた歯ブラシをとってもう一度言ったが、
ついでに歯磨き粉を飲み込んでしまって苦しんだ。
- 283 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月11日(木)01時05分52秒
- 「ぺっぺっ!!あ゛〜・・・
これ、どうすんの?」
2人はアイディアを伝えると、好感触の返事が返ってきた。
「でもな〜・・・梨華ちゃん、ソロ弾ける?」
確かに、石川は簡単なソロなら弾けるものの、
マイケル・シェンカーの奏でる激しいフレーズを弾くには
若干不安であった。
- 284 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月11日(木)01時06分27秒
- 「まいっか。やってみよか。」
「でも・・・」
寝ぼすけが1名。
・・・・・・・・・・・・
「う〜・・・・・・頭痛い・・・」
「ごっちんは、ほっといたらいつまででも寝てるのとちゃうか?」
- 285 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月11日(木)01時07分00秒
- 何はともあれ演奏してみたが、
「やっぱ・・・手がついってってへんな・・・
でも・・・」
「でも・・・いいんじゃない?加護ちゃんのとは一味違って
ゴリゴリ感が出てて。」
後藤が続けた。
「今度は加護ちゃんとギター交換して弾いてみたら?」
吉澤の提案でギターを交換してもう一度。
- 286 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月11日(木)01時07分35秒
- しかし、なんとなくシックリこない。
「なんかねぇ・・・このギターの弦細すぎるよぉ。」
「強く抑えんでもええようになってんねん。」
「う〜ん・・・んじゃ、さっきのやつでいこうよ。」
石川のリードギターデビュー曲は
ニューシングルのカップリングに抜擢された。
今日一日は大忙しだったが、新たな収穫もあったようだ。
「やっぱ、自分のギターが一番やな・・・
ゴルァ!!弦切れてるやんか!!」
- 287 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月11日(木)01時11分16秒
- >>276 レイクさん
そうですね。バンドやってると意見が合わないことはあると思いますけど、
一つ一つ乗り越えて、がんばってほしいですね(w
>>277さん
姐さんは一応この小説のムードメーカー的な役割です(w
これから先にもご期待ください。
- 288 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月12日(金)00時16分33秒
- 「そんなに違うの?その弦って。」
「全っ然違うよ。ウチみたいにカヨワイ乙女には
細い弦の方がいいんよ。」
「へぇ〜。」
「よっすぃ〜なら太めの弦でもいいやろけど。」
「ムカッ!!」
弦のストックがなくなって、この日は色々買出しに向かった。
マネージャーには『言ってくれれば買ってくるから』と言われているものの、
『普通に歩いてても何にも言われませんよ』というのが加護の言い分。
それに、やっぱり音楽関係の品は自分で見て選ばないと、ということもあるだろう。
- 289 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月12日(金)00時17分04秒
- 若い女の子が、すぐに買い物を終わらせるはずもなく、
決めていたかのように色んな店を回って
決めていたかのようにカフェに吸い込まれていった。
「よっすぃ〜もスティックとか買ったらよかったやん。
ビックリしたで、曲の途中でスティック折ってしまって。」
「あ〜れ〜は〜!しょ〜がないの!!」
満員の店内にはカップルが溢れて、
いやが上にもこの季節を感じてしまう。
雪が降っていれば完璧のシチュエーション。
「「・・・・・・・・・。」」
「出よっか・・・。」
「うん・・・。」
- 290 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月12日(金)00時17分52秒
- 日はすっかり落ちて
さっきまで隠していたように、
街路樹はライトアップされていた。
ショーウィンドウには綺麗な飾りつけ。
夜の街は、月と出会ってガラリと趣を変えた。
CDショップには、今年もマライア・キャリーの曲。
2人は、ほんの2、30分でクリスマスにウンザリした。
「わたし達の曲売ってるね。かなり目立たないけど。」
「いいんじゃない?クリスマスソングと違うし。」
日本人のクリスマス好きに顔を見合わせて苦笑い。
洋楽コーナーでもう一度顔を見合わせる。
- 291 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月12日(金)00時18分29秒
- 「このバンドのヴォーカル日本人なんだって。」
「そうなん?あんまり聞いたことないけど。」
手にしたジャケットには、ライヴステージで拳を突き上げている写真が載っている。
それを見て気づいたことが1つ。
「この人・・・背ちっこいね。」
「そう?ウチくらいやろ?」
「それをちっこいって言ってるの!」
「くそ!・・・よっすぃ〜がデカすぎんねん!
まあ・・・よう見たらウチのほうがこの人より大きいな。
はっはっは!!」
まさに『どんぐりの背比べ』。
吉澤は妙に納得した。
- 292 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月12日(金)00時19分02秒
- 「加護ちゃん・・・何か買っていこうか?」
「うん・・・ケーキがいい。」
「ケーキ?」
「そう。ケーキ。」
「そんじゃ、買ってこうか。」
空は2人に気づかれないように
雪をこぼし始めた。
ちょうど店から出てきたときにはやんでしまったが、
しっかりと2人のことを見守っていた。
- 293 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月12日(金)00時19分42秒
- 「「いただきま〜す!」」
「たま〜に食べると余計においしいよね。」
「よっすぃ〜のもちょっとちょうだい。」
「え〜?あんまり食べると太るよ〜?」
「太らないよ〜!
だって・・・・・・・・・・・・・・ケーキの味だけどね。」
曇ったガラス越しに、ハラハラと雪が舞い降りる。
今年ももう終わり。
- 294 名前:レイク 投稿日:2001年10月12日(金)17時21分39秒
- なんか、よすぃーとあいぼんがいい感じですね。
楽しみでっす。
- 295 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月13日(土)00時03分00秒
- 初日の出に向かって手を合わせる。
中澤は、毎年こうやって一年の無事を祈っていた。
『声帯を傷めてます・・・それもかなり酷く・・・。』
『えっ!?そしたら・・・』
『ええ・・・残念ですが、満足に歌えないでしょう・・・』
『そんな・・・・・・そんなん、ウソやろ!?ゲホッゲホッ!!!』
『日常生活における会話には支障ありませんが・・・
もう十分な声量は望めないでしょう・・・』
- 296 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月13日(土)00時03分52秒
- 夢を失った若者は、堕落した。
毎日酒と煙草の生活。
日に日に身体も蝕まれていくのを自覚したが、
依存した肉体に歯止めは効かない。
次第に腕は震え、本当の自分を見失っていった。
- 297 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月13日(土)00時04分29秒
- 『おばちゃん!ウチ、大きくなったらバンドやりたいねん!』
『ホンマかぁ。そしたらおばちゃんがライヴハウス作ったるから
そこでやったらええ!』
『ライヴハウスって何なん?』
『あんな、色んなバンドが集まってな、音楽やりまくんねん。』
『ええなぁ〜!おばちゃん!頼んだで!』
『任しとき!!』
・・・・・・
- 298 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月13日(土)00時05分06秒
- 『任しとき・・・・・・か・・・。
何やってんねん・・・ウチは何やっとんねん!!クソ・・・クソ!!』
コップの破片が飛び散る。
壊れた心はコップのように集めて捨てるわけにはいかない。
零れた涙が染みて痛む。
嗚咽が止んだときには
中澤は泣き疲れて眠ってしまった。
- 299 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月13日(土)00時05分37秒
- 翌日から、仕事探しに奔走した。
廃れた身体に鞭打って、新しい夢を叶えるために。
色んなところから借金もして、やっとライヴハウスも完成した。
『あのぉ・・・おばちゃんいますか?』
『おお・・・来たかぁ。』
1つの夢には間に合った。
自分の可能性はまだまだ捨てたもんじゃない。
加護やピンク・スコーピオンズに生きる勇気を与えてもらったと
本当に感謝しているのだ。
- 300 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月13日(土)00時06分09秒
- 『あの人たちな、たぶんすごいバンドになるで!
ウチが入って絶対レベルアップやから!』
『ホンマか。がんばりや!おばちゃんもいつでも手伝ったるから!』
そして、1つだった夢は広がり続ける。
一生かかって払い続ける借金も苦にならないほどに、
今の生活は充実している。
- 301 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月13日(土)00時06分41秒
- 「今年もよろしゅうたのんます。」
手を合わせて日の出に願いを込める。
「おお、遅いで。もう全部出てまうで!」
「ごっちんが起きないんだもん!」
「だって〜・・・寒いんだもん。」
「そんなもんやて。」
「何をお願いしたんですかぁ?」
「ん?今年も1年無事にやっていけますように、ってな。」
1月1日。
ピンク・スコーピオンズの新曲が発売された。
中澤の夢は、ピンク・スコーピオンズと共に続いていく。
「(それと、夢が続きますように・・・。)」
- 302 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月13日(土)00時08分31秒
- >>294
レイクさん
難しい関係なんでしょうね
いまんとこ恋人未満というか(ベタな言い方だ・w)
- 303 名前:requiem 投稿日:2001年10月13日(土)03時32分49秒
- ジョニーさんのスレハケーン。
楽しみに見せてもらいました。
自分はJ-POPしか聞きませんが楽しく読ませてもらってますよ。
更新、期待してます。
- 304 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月14日(日)23時13分42秒
- 「Mステですかぁ??」
「そう。予定入れとくから。」
「はぁ。」
事務所での変哲のない会話。
他の3人は別段何事もなさそうだったが、
1人、複雑な笑みを浮かべていた。
石川は喉の調子が思わしくないのを自覚していた。
昔から弱かった喉は、ここにきてかろうじて喋れる程度まで回復していたが、
2週間後の生放送に間に合うかは微妙だ。
- 305 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月14日(日)23時14分31秒
- 新曲の練習。
ミュージックステーションではこの曲を演奏することになっている。
後藤と加護が練り上げたメロディラインはハードながら、
その2人が石川を支えるバックヴォーカルは綺麗なハーモニーを奏でる。
後藤の言っていた『ポップ』は、そういう形で昇華された。
芯は崩さず、周りを肉付けする。そういう風に進化していきたいということだ。
「ちょっと休憩しよう。」
吉澤にも、石川の声が本調子ではないことは容易に理解できた。
もちろん後藤と加護も。
毎日首にタオルを巻いて、マスクをして寝る。そんな石川の努力を無駄にはしたくない。
2週間、歌えるようになるまで指をくわえて見ていることしかできないのか、
吉澤は自分の無力さに苛立った。
- 306 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月14日(日)23時15分11秒
- 本番前日。
吉澤は石川に調子を尋ねた。
「大丈夫♪そんなに心配しなくても大丈夫だから。」
その声は、以前よりは良くなったものの、
その言葉とは裏腹にか細いものだった。
「(これじゃ・・・楽器の音に負けちゃうよ・・・。)」
笑顔の石川が痛々しかった。
リハーサルのときも、喉を使わないように、
歌は歌わなかった。
このときに、吉澤は1つの決心をした。
ドラムを叩きながら何を思ったのか。
後藤にも加護にも、もちろん石川にも
そのことについて何も教えなかった。
- 307 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月14日(日)23時15分43秒
- 『続いては、ピンク・スコーピオンズで〜す。』
やる気のなさそうなタモリの声。
アシスタントのアナウンサーはきっちり仕事をこなしている感がある。
『今日は、ピンク・スコーピオンズの皆さんを応援しに、
矢口真里さんがいらっしゃってます。』
思いがけない言葉に、4人は後ろを振り向いた。
そこには、確かに立っていた。
いつもの笑顔と、元気な声で。
石川はうれしくて泣きそうになっていた。
そして、ガラにもなく緊張していた吉澤もふっと気持ちを落ち着かせられた。
- 308 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月14日(日)23時16分18秒
- 『それじゃ、スタンバイおねがいしま〜す。』
タモリの声に席を立つ4人。
矢口の『がんばってね!』の声に、背中で答える。
石川は薬指にキスをすると、ギターを肩にかけて、ピックを握った。
石川のギターから始まるこの曲。
喉の不調がギタープレイにも影響しないかと、
心配されたが、その様子は無くとりあえずホッとする吉澤。
しかし、やはり声は出ておらず、石川も表情を歪めていた。
- 309 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月14日(日)23時16分54秒
- 「(やっぱりか・・・・・・。)」
ドラムに集中するのは困難。
緊張は頂点に達し、あとは踏み出すだけだ。
自分に言い聞かせるだけだ。
「「「!!!」」」
不意に3人は振り返った。
後ろから聞こえたのは・・・
メロディを歌う吉澤の声だった。
- 310 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月14日(日)23時17分27秒
- マイクを通していないその声は
楽器の音の隙間から微かに聞こえる程度だったが、
それだけで十分に意味があった。
加護がマイクスタンドを持って吉澤の横に移動する。
後藤もそれに続く。
全員でメロディを歌って石川をサポートするのだ。
合わさった4人の声は、1つの塊になって叩きつけられ、
その強さは自分達をも圧倒するほどだった。
「よっすぃ〜、ありがとう。」
本番終了後に耳元で石川が呟いた。
「なんかね・・・自然と歌い始めちゃったんだよ。」
そううそぶくと、自分で笑い飛ばした。
オリコン初登場11位。
そんなことよりも、力をあわせて乗り切ったことがうれしかった。
- 311 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月14日(日)23時18分37秒
- >>303
requiemさん
どうもありがとうございます。
これからもがんばりますんで、よろしくおねがいします。
- 312 名前:メタルムーン 投稿日:2001年10月14日(日)23時26分24秒
- 初めてお邪魔します。このサイト自体初体験です。
彼女たちがバンドを・・・
自分も一度考えてみたことがあります。待ってましたという感じです。
かなりロックマニアの馬鹿者ですが、陰ながら応援しています。
- 313 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月15日(月)16時33分52秒
- 中澤は石川を病院に連れて行った。
「あ〜・・・あ〜・・・あ゛あ゛ん゛ん゛っ!!」
「あんた、無理したらあかんで・・・。」
昔の自分を重ね合わせたのか、
大事に至る前になんとかしてあげたかったのだろう。
- 314 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月15日(月)16時34分26秒
- 「なんか・・・わたしがメンバーのみんなに迷惑ばっかりかけてる気がして・・・。」
帰りの車の中で、そうこぼした。
1年以上も一緒に暮らして、
中澤も石川の性格を理解してきた。
悪いことを背負い込む癖。
それはあまりいい傾向とは言えない。
「そんなことないやろ?
・・・・・・うん・・・そんなことはない・・・。」
しかし、まだ心の奥底を理解するには
月日が浅かった。
上辺だけのような励まししか出来ない
もどかしさを感じながら
それでも石川を正しい道へ進めてあげたかった。
- 315 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月15日(月)16時35分00秒
- 「どうだった、梨華ちゃん・・・?」
「うん・・・そのうち治るって。」
心配する3人にそう伝えた。
中澤は、自分の部屋に入っていった。
「2年・・・・・・・・・・・・。」
一言呟くと、黙ったまま部屋にこもった。
- 316 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月15日(月)16時37分42秒
- >>312
メタルムーンさん
作者もロックヴァカですが、聴く幅があんまり広くないのが難点で(w
応援ありがとうございます。
- 317 名前:レイク 投稿日:2001年10月16日(火)00時35分13秒
- がんばってますねぇ〜。
ねぇさんの「2年・・・」ってのが気になります。
- 318 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月17日(水)16時03分13秒
- ドアをノックする音が聞こえる。
『梨華ちゃ〜ん!ごはんだよ!』
時計の針はもう8時を示そうかとしていた。
開いていた本をそそくさと閉じて一言。
「I have closed a book.」
- 319 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月17日(水)16時03分48秒
- 「おあっ!!」
「よっすぃ〜!ビックリさせないでよぉ!」
「ごめん、ビックリさせるつもりはなかったんだけど・・・。
梨華ちゃん英語勉強してるんだ?」
「えっ!?ごはん・・・ごはんさめちゃうよ!?」
白々しい石川の対応で、逆に吉澤は困惑した。
「(隠すことないのに・・・。)」
そう。確かに隠すことはなかった。
本来なら。
- 320 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月17日(水)16時04分25秒
- 「梨華ちゃん。」
食事を終えた石川の部屋に、またしても来客だ。
さっきのように英語のテキストを隠す。
「はいはい・・・ちょっと待って・・・!!」
石川の声を無視して入ってきたのは、後藤だった。
目線をそこに向けているのは明らか。
石川が狼狽しているところに
後藤から核心に触れてきた。
- 321 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月17日(水)16時04分56秒
- 「隠しても無駄だよ・・・裕ちゃんに全部聞いたから・・・。」
「き、聞いたって・・・!?よっすぃ〜と加護ちゃんは!?」
黙って首を横に振る。
いつかはこうなるだろうと思っていたが、
いざその時が来てみれば、顔を赤くして俯くことしかできなかった。
「休もうよ。・・・・・・治ってからでも遅くないよ。ねぇ?」
「わたし・・・・・・いつもみんなに迷惑かけてばっかりで・・・
休むわけにはいかないよ・・・・・・。」
後藤の大きなため息が、静かな部屋に響く。
- 322 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月17日(水)16時05分26秒
- 「そんな声で歌われるほうが余計迷惑なんだけど。」
ハッとして恐る恐る顔をあげると、
後藤の無表情な顔が目に飛び込んできた。
その目に心の奥まで全て見透かれている。
一瞬で自分の強がりを恥じた。
「だからさぁ・・・」
しばらく目を合わせると、
後藤の表情が緩んだ。
- 323 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月17日(水)16時06分01秒
- 「休もっ?2年なんてすぐだよ。
曲作ってたらすぐ過ぎちゃう。
まだ梨華ちゃん19歳でしょ?
2年経っても21歳。まだまだ若いじゃん!」
笑顔の奥に、強く訴えかける意思を感じた。
「(もっと頼っていいのかも・・・。)」
「よっすぃ〜と加護ちゃんにもそう伝えとくよ?」
石川は言葉は発せずにただ頷いた。
目を赤く滲ませながら。
- 324 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月17日(水)16時07分00秒
- >>317
レイクさん
いつも応援ありがとうございます。
2年・・・何なんでしょうかね?(ww
もっとひっぱればよかった(w
- 325 名前:Considerations 投稿日:2001年10月21日(日)00時26分19秒
- ピンク・スコーピオンズ活動停止。
人々はこの知らせに色々な推測をした。
せっかく波に乗ってきたのに、なぜ?
不仲説、妊娠説。
メンバーははたから見ればまるでそれらを煽るかのように
個人での活動の場を増やしていった。
もちろん石川以外。
後藤は国内のアーティスト達のライヴに飛び入りしたり
ゲストに呼ばれたり。
加護はアメリカに飛んでロックライヴを満喫。
吉澤はイギリスに。
- 326 名前:Considerations 投稿日:2001年10月21日(日)00時26分54秒
- 「これかぁ〜!」
横断歩道だけで感激できるスポットは世界中でここしかない。
アビイ・ロード
横断歩道を大股で渡って1人ではしゃいでいるジャパニーズは
ここがアビイ・ロードでなければさぞかし滑稽に映っただろう。
「おお〜!カッケー!!」
不意に漏らした言葉はなぜかそれだった。
古いのに古く感じない街並み。
それは日本人だからだろうか。
初めてともいえる異文化との遭遇は
全てが新鮮で、退屈とは無縁だった。
- 327 名前:Considerations 投稿日:2001年10月21日(日)00時27分27秒
- 2階立てバスを乗り継いで
色々なところを回る。
本来なら女性の一人旅は気をつけなければならないが、
もともと長身のうえにブーツ、
赤茶色のレザージャケットを纏った茶髪の吉澤は
後ろから見れば男性に見えてもおかしくなかった。
まあ、本人はスリがきたら撃退するつもりだが。
「(ピストルもってなかったらいいんだけど…)」
一抹の不安はあるようだ。
- 328 名前:Considerations 投稿日:2001年10月21日(日)00時27分57秒
- 旅の目的の1つ。
吉澤は楽器店に足を運んだ。
このためにわざわざ日本で英語を少しだけ覚えてきたのだ。
本当ならそんなに変わりはないのだろうが、
イギリスの楽器店は、普通に並んでいるだけで
日本よりもスタイリッシュに見えてしまう。
何の迷いもなくドラムのコーナーを通り過ぎると、
目の前にはギターの世界が広がった。
- 329 名前:Considerations 投稿日:2001年10月21日(日)00時28分28秒
- 「あ〜…これもいいなぁ〜。」
目に留まったのは、スタンダードなギブソン・レスポール。
木目が鮮やかで、新品なのに風格が漂う名器である。
値段は1800ポンド。
すぐさまポケットに手を突っ込むが、
すぐにここが日本ではないことに気づいて
困った顔で考え始めた。
「携帯もってないよ〜…
え〜っと…1800×175=???
ん〜…200かけると、いち、じゅう、ひゃく、せん…
360,000円かぁ…
あー!でもな〜……」
- 330 名前:Considerations 投稿日:2001年10月21日(日)00時29分04秒
- 日頃から、かなりの慎重派。
それは高い買い物となればなおさらのことで、
夏の炎天下だったら貧血で倒れそうなほど
そこに立ち尽くした。
数十分後
「だから〜…これを買うと残りがぁ〜…」
数分後
「あ゛〜!!もういいや!!
買っちゃえ!!……
英語で何て言うんだっけ???」
- 331 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月21日(日)00時30分17秒
- 今回から、なぜか小題付きで(w
しかも、なぜか全部英語(w
頭の悪さ全開ですが、我慢してください(w
- 332 名前:ラック 投稿日:2001年10月21日(日)00時33分46秒
- 慎重派なのに、最後には男らしく
ギター買ってしまうよっすぃ〜に萌え〜(w
- 333 名前:Attack Of A Mad Axe Girl 投稿日:2001年10月22日(月)16時16分32秒
- 「うっわ〜!!でかっ!!!」
さすがにいつものライヴハウスとはケタ違い。
加護は、レコード会社の人を連れてアメリカへやってきた。
真っ先に趣いたのは、ニューヨークの殿堂、
マジソン・スクエアガーデン。
エアロスミスのライヴチケットを、レコード会社の人に
無理言って取ってもらったのだ。
「ホンマ、ありがとうございます!」
喜びで興奮気味の加護に、
付き添いの人間も顔がほころんだ。
ステージ上と全く別人のように
まだまだ子供らしい振る舞い。
加護は入り口に駆け出していった。
- 334 名前:Attack Of A Mad Axe Girl 投稿日:2001年10月22日(月)16時17分14秒
- ステージに豹柄のガウンを纏った男が登場すると、
会場のボルテージは一気にあがる。
アメリカンロックのカリスマ、スティーブン・タイラーは
その風格をまき散らしてシャウトする。
そして、熟練のメンバーたちは次々とヒット曲を演奏し
観客はそれに乗って身体をゆすり、共に歌う。
加護は初めのうちは圧倒されていたが、
いつしかロックの真髄を味わいそれに酔いしれていた。
『Walk This Way!!! Walk This Way!!!』
この道を行け。
彼の歌うそれは、力強く、華麗だった。
- 335 名前:Attack Of A Mad Axe Girl 投稿日:2001年10月22日(月)16時17分56秒
- 夕食は、ホテルの近くのレストランで。
翌日の予定を話し合っていたが、
加護はとあるライヴハウスでギグがあるのを知っていた。
『じゃ、それ見に行こうか?』
「そうしましょう!!」
無邪気な笑顔を浮かべると
特大ステーキを口に運んだ。
- 336 名前:Attack Of A Mad Axe Girl 投稿日:2001年10月22日(月)16時19分03秒
- ホテルを出て、地下鉄で数分。
危険な香りが漂う街を少し進むと
きらびやかなネオンが一際目に付く建物が見えた。
『ちょっと訳してくれます?』
レコード会社の人にお願いすると、
迷いなくバックステージに向かった。
『ノゾミの友達だから、通してほしい。』
大男がバックステージへの入り口を塞いでいた。
加護は目で合図を送り、事前に伝えていた言葉を訳してもらう。
すると、すんなり通してもらうことができた。
レコード会社の人には何のことかサッパリ。
- 337 名前:Attack Of A Mad Axe Girl 投稿日:2001年10月22日(月)16時19分49秒
- 『ノゾミって誰?』
「まぁまぁ、見たらなんとなく分かりますよ。」
『知り合い?』
「全然。」
謎は深まるばかり。
そうこうしているうちに楽屋の前まできた。
「あ、もう通訳しなくていいですから。」
その行動力にはただただ驚くばかり。
ノックもせずに入っていくのはどうかと思うが。
結局独り廊下に取り残されてしまった付き添いの人。
ドアに書かれたバンド名を必死に思い出していた。
『Eight-Fold Ice Cream……。』
- 338 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月22日(月)16時21分23秒
- >>332
ラックさん
萌えですか(w
どうしても欲しかったんでしょうね。よっすぃ〜いい人だから(w
- 339 名前:Attack Of A Mad Axe Girl 投稿日:2001年10月22日(月)23時21分44秒
- ドアの向こうはタバコの煙が立ち込めていた。
しかしそれのおかげで目的の人物が見つからないわけではない。
ただ単に、その人物が小さいだけ。
バンドのメンバーらしき人の間から、やっとその顔が見えた。
『ん?誰?』
向こうも加護を見つけると、日本語で話し掛けてきた。
にやける顔で立っている日本人を見てか、
口を半開きで不思議そうにしている。
- 340 名前:Attack Of A Mad Axe Girl 投稿日:2001年10月22日(月)23時22分33秒
- 「ツジ・ノゾミ、だよね?」
『だから、誰なの?』
「日本でバンドやってるんだけど。
加護亜依って言うんやけど…。」
『ふぅ〜ん……知らない。』
当たり前だが、ピンク・スコーピオンズがアメリカまで名前を広めているはずがない。
それでも、『知らない』と言われてしまうと少なからずショックを受ける。
とりあえず、色々説明を試みてお願いをしてみた。
- 341 名前:Attack Of A Mad Axe Girl 投稿日:2001年10月22日(月)23時23分17秒
- 「でさぁ、今日だけウチも混ぜてくれへん?」
大胆不敵。
辻の口は、さっきから開きっぱなしで
いかにも不機嫌そうだ。
「あっ、ピーナッツ。食べていい?」
辻は、呆れた顔で他のメンバーとなにやら相談しだした。
それを、ピーナッツをほおばりながら見つめる加護。
そのとき、1つ大きなミスをやらかしたことに気づいた。
- 342 名前:Attack Of A Mad Axe Girl 投稿日:2001年10月22日(月)23時24分06秒
- 「(このバンドの曲、聴いたことないわ…。)」
案の定、辻の質問はそれについてだった。
『うちらのバンドの曲、できるの?』
「(やっぱり……)」
イヤな汗が吹き出る。
口に運ぶ途中でピーナッツが転げ落ちた。
1人だけサウナに居るような状態。
「あの……とりあえずセットリスト…は?」
- 343 名前:Attack Of A Mad Axe Girl 投稿日:2001年10月22日(月)23時25分01秒
- 助かった。
昨日見てきてよかった。
「なんか、オリジナルの曲を演るのは悪いから、
これ演らせてくれへん…?」
指差した曲は『Walk This Way』
辻は無表情のままで加護はその様子をただ見守るだけ。
『ん〜……そんじゃ…いいよ……。』
そういって加護にギターを渡した。
『ちょっと弾いてみてよ。』
「えっ!?」
気が付くと全員こっちを見ている。
イッパイイッパイさは隠し切れないが
ギターの腕には自信が有る。
「(なんか…めっちゃ睨まれてんけど…。)」
その視線も、加護がギターを弾き始めるまでのものだった。
- 344 名前:Attack Of A Mad Axe Girl 投稿日:2001年10月22日(月)23時26分00秒
- 『今日は、日本から友達が来てます!!
アイ・カゴ!!』
辻のMCで紹介されて、ステージに現れた加護だったが、
客の反応は微妙だった。
「やっぱり、か。」
もともとそんなもんだろうと思っていたため、
ショックはなかった。
その代わり、彼女の闘志に火がついたことは
言うまでも無い。
ギターを肩にかけて、改めて観客を見渡す。
「へっ!おもしろい顔してんなぁ。」
100人近くの観客みなが、加護を訝しげな表情で見ている。
それがたまらなくおかしくて、吹き出しそうだった。
- 345 名前:Attack Of A Mad Axe Girl 投稿日:2001年10月22日(月)23時26分33秒
- 5分後
観客は熱狂して加護を称えた。
それは辻も同じ。
『やるじゃん!』
それは短いながらも最大級の賛辞だった。
アメリカでもできないことはない。
それに、なにより辻と知り合えた。
この旅の収穫は、予想を上回るものとなった。
- 346 名前:Change Of Mind 投稿日:2001年10月23日(火)19時12分31秒
- 「ただいま〜!」
1週間ぶりの景色。
そして、1週間ぶりの再開。
不意に笑顔がこぼれる。
「ただいま。」
「おかえり。」
それだけの会話なのに。
「ごっちんと加護ちゃんは?」
「えっとねぇ…ごっちんは明日まで仙台…だっけ?
加護ちゃんはまだアメリカ。」
「ふぅ〜ん…なんか…久しぶりだね…
梨華ちゃんと2人って…。」
遠くから射しこむやわらかな光。
やけに懐かしい感じがした。
- 347 名前:Change Of Mind 投稿日:2001年10月23日(火)19時13分27秒
- 「これ、おみやげ〜!」
ケースから取り出したギターを見て
胸の前で両手を組み合わせる石川。
『梨華ちゃん、お弁当一緒に食べない?』
『いいよ〜。ちょっと待ってて、パン買ってくるから。』
『そうだと思って、作ってきたよ、梨華ちゃんの分も。』
喜ぶ石川を想像して、朝早くから一生懸命作った弁当。
予想通りの反応がうれしくて、早足で屋上に向かった。
- 348 名前:Change Of Mind 投稿日:2001年10月23日(火)19時13分57秒
- 屋上から見下ろす校庭は静かで、
秋の風が揺らすプールの水だけが何やら囁きあっている。
太陽と風と石川と自分。
それしか存在していないような、でも吉澤は寂しくなかった。
『おいしい?』
『えっ…と…おいしい、と思うよ♪…。』
『と思う、って何よ〜!?』
『あははは。えへっ♪』
『全然誤魔化しきれてないよ!』
2人にちょっかいをかける風。
ほのかな髪の香りが吉澤の心をくすぐった。
- 349 名前:Change Of Mind 投稿日:2001年10月23日(火)19時14分30秒
- 「よっすぃ〜ってば!」
「えっ、えっ、何!?」
「イギリスどうだったの?って聞いてるじゃん!」
「あ、ああ…よかったよ…懐かしい感じで…。」
「懐かしい?イギリス行ったことあったの?」
「あの〜……あのさぁ〜…」
自分でも何を言っているのか分からない。
あの頃の気持ちをちょっと思い出して
恥ずかしくなった。
- 350 名前:Change Of Mind 投稿日:2001年10月23日(火)19時15分00秒
- 「わたしさぁ…」
マルボロを取り出して一服する。
「高校のとき、梨華ちゃんが…」
「もっと早く言ってくれればよかったのになぁ。」
「えっ?」
おみやげのギターを手に取ると、
吉澤に目配せして弾き始めた。
「Merry Xmas I Love You♪
…って。」
「……まあ、ねぇ…でも…」
「矢口さんが居るし、ね。」
「加護ちゃんも居るし、ね♪」
もう一度目が合うと、2人して馬鹿笑いした。
石川の声は消えそうなほどか細かったが、
今の2人が居る限り、あの頃の思いは消えることはない。
「そんで……クリスマスじゃないし。」
- 351 名前:レイク 投稿日:2001年10月23日(火)23時16分34秒
- 秘めたる思いを打ち明ける。いいっすねぇ。萌えです。がんがってください。
- 352 名前:Gathering 投稿日:2001年10月26日(金)19時44分27秒
- 屋内、野外問わずライヴを精力的にこなし
健康的な肌の色に様変わり。
「よっすぃ〜と加護ちゃん帰ってるかなぁ…。」
新幹線の座席で途切れそうな意識の中、
数週間ぶりの第2の我が家を思っていた。
携帯電話を取り出したが、
面倒でそのまま眠りについた。
- 353 名前:Gathering 投稿日:2001年10月26日(金)19時44分58秒
- 心地よい小鳥のさえずりとポカポカ陽気は、
眠りから覚めたばかりの後藤を優しく迎える。
「ただいま〜。」
「おかえり〜♪」
「あら、梨華ちゃんだけ?」
「なにそれ〜!そういうこと言わな…ちょっと!」
全てを聞き終わる前に、何かを思いついたように
石川の腕を掴んで鏡の前に連れて行く。
そして、鏡を見たまま黙り込む後藤。
- 354 名前:Gathering 投稿日:2001年10月26日(金)19時45分28秒
- 「…どうしたの?」
「いや……よかったぁ…。」
「何が?」
「梨華ちゃんより黒くなってなくて。」
「はぁ!?」
眉間にしわを寄せる石川を見て、
笑ってごまかした。
- 355 名前:Gathering 投稿日:2001年10月26日(金)19時46分05秒
- 「な〜んだぁ〜!帰ってくるんなら電話してくれればよかったのに〜!」
いつもと変わらぬほのぼの系の声。
どうやら買い物に行っていたようで、
帰ってきて久しぶりの顔があることに
喜びを露にした。
「ピザでも取ろうか!」
すぐさま携帯でピザを頼んで
3人はソファーに腰掛けて後藤の話に聞き入った。
- 356 名前:Gathering 投稿日:2001年10月26日(金)19時46分37秒
- 「そういえば加護ちゃんは?」
「えっと…今日じゃなかったっけ?」
「うん、今日帰ってくるってメールが来てたけど。」
一昨日加護から届いたメールは、全てローマ字の苦心の一文だった。
『asattekaerukarayorosiku』
「何かの暗号かと思ったよ〜!」
「スペース空けないし、知らないアドレスだし、ね。
…んっ?」
タイミングを計ったかのように石川の携帯の着信音が鳴り響いた。
- 357 名前:Gathering 投稿日:2001年10月26日(金)19時47分13秒
- 「もしもし……あ、うんうん…わかった…。」
電話に出ている石川をよそに、
『梨華ちゃんって高校時代の電話代が3000円だった』
と、懐かしいことを言っている吉澤と後藤。
電話を切ると用件を伝えようとしたが、
一向に途切れることのない自分の笑い話のせいで、
口を挟むことが出来ない。
実は、自分のことで盛り上がってるのが
ちょっと嬉しかったりするのだが。
- 358 名前:Gathering 投稿日:2001年10月26日(金)19時47分46秒
- 「あのぉ〜……」
「…部屋が汚くて……」
「加護ちゃんが駅に着いたって……」
「よし!んじゃ、迎えに行こう!」
「(盛り上がってたんじゃなくて、単なる暇つぶしだったの…?)」
あっさり目的を達成したが、ちょっとだけ寂しかった。
- 359 名前:Gathering 投稿日:2001年10月26日(金)19時48分21秒
- 無人の駅からは、十数分に1回の列車の音が響く。
蝉の鳴き声はうるさすぎて逆に気にならないが、
ポツンとベンチに座り、缶ジュースを飲んでいる加護は
すぐに見つけることができた。
「日本は暑いなぁ。湿っぽいわ。」
ちょっと憎たらしくそう言うと、
立ち上がって缶をゴミ箱へ投げ込んだ。
- 360 名前:Gathering 投稿日:2001年10月26日(金)19時49分01秒
- 「アメリカどうだった?」
「ん、良かったよ。友達もできたし。
まあ、その話は帰ってから、ということで。
おなか空いた。はよ帰ってご飯食べよ!」
「あっ!!……」
吉澤以下、皆が忘れていた。
「ピザ……」
「えっ?今日ピザなん?
もっと和風なのが良かったなぁ。」
後藤の一言にも、加護には何のことか分かるはずもない。
- 361 名前:Gathering 投稿日:2001年10月26日(金)19時49分37秒
- 「忘れてた……」
「あ、まだ頼んでないの?
そんなら寿司にしよぉよ!」
加護を除く3人は、全てを口にしたくなかった。
まあ、家についてしまえば全てが明らかになるのだが。
「お、おかえり。
なんやピザが届いてんけど、もう冷めてるで。」
「「「ああ…。」」」
冷めたピザをレンジでチン。
当然加護の旅話も弾むことなく、
夜の訪れとともにさっさと眠りにつくのであった。
- 362 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月26日(金)19時53分46秒
- >>351
レイクさん
どうもありがとうございます。
そう言ってもらえると本当にうれしいです。
結構心理的描写が巧くいかない自分に嫌気がさしたり(w
こっから、2話分だけ、本編から少し離れた内容の分をあげようと思います。
良かったらそちらも読んでください。
- 363 名前:Inside stories-I was born to love all- 投稿日:2001年10月26日(金)20時08分05秒
- 「おかぁさん!今度はディズニーランドに行きたいな!」
「わかった!亜依がもうちょっと大きくなったらね。」
「はっはっは。牛乳飲んで早く大きくなるんだぞ〜。」
どこにでもいる、楽しそうな家族。
遊園地の帰りの会話は弾んでいた。
「いやや〜、牛乳嫌いだもん。」
そう。
どこにでもいる、優しい父親
……のはずだった。
- 364 名前:Inside stories-I was born to love all- 投稿日:2001年10月26日(金)20時08分42秒
- 「おとうさん!!やめて!!!」
「おまえは黙ってろ!!」
「ゲホッ!!!」
父親は、加護が知らないうちに
別人になっていた。
暴力を振るう父親の姿に、
恐怖のあまり身体は固まったまま動けない。
目の前で母親は崩れおちていく。
そんな様を幾度となく見ることになるとは。
- 365 名前:Inside stories-I was born to love all- 投稿日:2001年10月26日(金)20時09分14秒
- こんな男がいる家庭で暮らしたくない。
加護は何度も思ったが、どうにかなることでもなかった。
やがて、父親の暴挙の矛先は加護に向けられるようになる。
母親は病院に行っている。
遊びに行っている間に母親が帰ってきたら…。
学校から帰ってきた加護は、
狂った父親と同じ家で時間を過ごさねばならなかった。
自分が母親を守る。
そのつもりが…。
- 366 名前:Inside stories-I was born to love all- 投稿日:2001年10月26日(金)20時09分49秒
- 「亜依、お父さんが悪かったよ。」
突然何を言い出すのか?
加護は混乱し、父親を信じていいのか分からなかった。
「さぁ…こっちへおいで…。」
「お父さん…。
もうお母さんに酷いことしないよね?」
「しないさ。」
「ホンマに?」
「しない言うてるやろ!!」
- 367 名前:Inside stories-I was born to love all- 投稿日:2001年10月26日(金)20時10分28秒
- その瞬間、父親はいつもの形相に戻った。
いや、これが本当の姿ではない。
加護はずっとそう信じていたが、
もはやそれは無駄なことだった。
父親は注射器を持ち出して
加護の腕を捕まえた。
「やめて!!!!放してよ!!!!」
むなしく響く叫び声は、しばらくしておさまった。
昼下がりの太陽光が眩しすぎて、
意識が朦朧としてきた。
気がついたら、家には父親の姿はなかった。
「つらいはずなのに…こんなにお日様がきもちいい。」
不意に加護の顔に笑みが浮かんだ。
- 368 名前:Inside stories-I was born to love all- 投稿日:2001年10月26日(金)20時11分25秒
- その後も母親への暴力は止まることはなかった。
しかし、加護にはどうでもいいことだった。
父親は、ただの覚醒剤ブローカーでしかなかったのだから。
「…クッ!……ハァハァ…。」
いつしか加護はクスリ漬けになっていた。
常に身体が欲しがっている。
左腕は青く変色していた。
「クスリくれや!」
「おまえ…いつまでもタダでもらえる思っとんか?」
「???」
「金や。1回分1万で売ったるわ。」
「そんな金あるわけないやろ!?」
「……。」
- 369 名前:Inside stories-I was born to love all- 投稿日:2001年10月26日(金)20時12分02秒
- 久しぶりに父親が怖かった。
それは、殺気とは違う。
13歳の女の子には、耐えがたい仕打ちが始まることを意味していた。
「ちょ、ちょっと!!何すんねん!!!」
「大人しくしとればすぐに済むわ!!」
「放せや!!!ちょっ!!!あかん!!!やめて…」
加護は床に押し倒され、
無防備な彼女に父親が襲い掛かる。
服のボタンは引きちぎられ、
その未発達な乳房に顔を埋める父親。
- 370 名前:Inside stories-I was born to love all- 投稿日:2001年10月26日(金)20時12分41秒
- 加護は涙を流している自分にやっと気づいた。
蝉時雨の中、父親の荒い息遣いと加護の嗚咽が交錯している。
天井はいつも通り、何の変わりもないのに、
自分と父親は全く別人になってしまった…。
不意に遊園地での思い出が頭をよぎる。
「(もうあの頃には戻られへんのかなぁ…)」
催眠術のような蝉の泣き声が、加護を誘う。
脳はやられ、意識がとんだ。
- 371 名前:Inside stories-I was born to love all- 投稿日:2001年10月26日(金)20時13分16秒
- どれだけ違う世界に居ただろうか。
目を開けると、床には濁った血液が染みを作っていた。
しかし、そんなことは気にならなかった。
そばには、母親が冷たくなって倒れていた。
そして、しばらくして警察官が父親を連れて行った。
- 372 名前:Inside stories-I was born to love all- 投稿日:2001年10月26日(金)20時13分46秒
- 歩く。
どこまで行けるか分からない。
家中の金をかき集めて、そしてギターを肩にかけて。
ふと、目の前に駅が現れた。
とりあえず、一番遠くまでの切符を買って、
車内で寝よう。
疲れ果てた精神と廃れきった肉体は、
しばしの安息を求めた。
「もう、この街に戻ってくることはないな…。」
誰に言ったでもない。
しいて言うなら、自分への別れの言葉だった。
そして、目をつぶる。
今度目を開けたときから、新しい人生を始めることを決心して。
- 373 名前:Inside stories-Spread my wings- 投稿日:2001年10月26日(金)20時14分52秒
- とある中学校の音楽室からは、いつも笑い声と激しい音が絶えない。
軽音楽部の3人は、精力的に練習を重ね、それが楽しみでもあった。
「いちーちゃん、ここんとこどうしても巧くいかないんだけど〜」
「あ〜っとねぇ、こっからここまで指もってきて…そうそう、ごとーできてるじゃん!」
「ホント!?やった〜!!」
2人の仲のよさは有名で、それだけに吉澤はストイックに見られがち。
後藤はギター&ヴォーカル担当だが、来年市井が卒業するために
ベースも練習しているのだが。
- 374 名前:Inside stories-Spread my wings- 投稿日:2001年10月26日(金)20時15分26秒
- 「「「おつかれさま〜!!」」」
後藤は時が経つのが嫌だった。
市井と一緒に居たい、でもそのために残された時間は刻々と経過していく。
「あのさぁ、卒業したら音楽勉強しようと思うんだ。」
「そうなの?いちーちゃんなら絶対大丈夫だよ!!ごとーが保証するよ!!」
「……ありがと。」
「どうしたの?ごとーの言葉じゃ嬉しくない?」
「ううん…嬉しいよ。」
思い出すだけで涙が溢れてくる。
あの言葉を…一生忘れない。
- 375 名前:Inside stories-Spread my wings- 投稿日:2001年10月26日(金)20時15分58秒
- 「ごとーはずっと音楽やる?」
「う〜ん…やる!!いちーちゃんと一緒にできるならずっと続けるよ!」
「あのね…イギリスに行こうと思うんだ。」
「えっ!?……なに?どういうこと??」
「イギリスで音楽の勉強しようと思ってる…。
……ごとーは、わたしがいなくてもやっていけるよね?」
突然の宣告。
言葉の意味は全く理解できない。
自転車を押す音が大きく聞こえる。
言いたいことはたくさんあるのに…
前を向けない、市井に涙を見せたくない。
- 376 名前:Inside stories-Spread my wings- 投稿日:2001年10月26日(金)20時16分33秒
- 「…い、いちーちゃん……がんばってね…。
ひっぐ…ごとー…応援してるから…」
「泣くなよぉ…なんで泣くんだよ…もう会えなくなるわけじゃないんだよ?」
「…泣いてないよ……」
市井の胸に顔を埋めると涙は止まらなくなった。
嬉しいはずなのに…悲しみがこみ上げてくるのはなぜだろう…。
卒業まであと3ヶ月。
心の整理なんて出来るはずない……。
- 377 名前:Inside stories-Spread my wings- 投稿日:2001年10月26日(金)20時17分07秒
- 仰げば尊し
ロックばかりの音楽生活にとって、耳慣れないこの曲は
余計に心に響き渡る。
体育館の外で待っていた後藤。
そばにいた吉澤はいつの間にか居なくなっていた。
複雑な気持ちで立ち尽くす後藤の元に
風がほのかに春を含んで届けてきた。
別れの季節。
そんなもの認めたくない。
- 378 名前:Inside stories-Spread my wings- 投稿日:2001年10月26日(金)20時17分37秒
- 体育館から拍手が聞こえると
後藤の心臓の鼓動はにわかに速さを増して
感情は爆発しそうになる。
「ごとー……」
その声を胸に焼き付けたい。
こみ上げる涙をグッと堪えて、
不器用な笑顔を取り繕った。
「いちーちゃん!!……ご卒業おめでとーございます♪」
「ごとー…変な顔、あはは。」
あの時とは違う。
いつもの温もり。
- 379 名前:Inside stories-Spread my wings- 投稿日:2001年10月26日(金)20時18分41秒
- 『あっ……そのベースって…。」
『これ、懐かしいよね…高校のときに使ってた。』
『市井先輩から貰ったやつ?』
『そう……いちーちゃんに負けてられないよ…。』
部屋の片隅に立てかけられたベース。
それは今も後藤の心の中で一番の存在感を放ち続けている。
- 380 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月26日(金)20時20分43秒
- こんだけです。
まだ、いくつか『Inside stories』は書くかもしれません。
次からまた、現在の話に戻りますんで。
- 381 名前:レイク 投稿日:2001年10月28日(日)00時54分50秒
- 多量更新お疲れ様です。
- 382 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月29日(月)02時08分19秒
- 「ジョニ黒」(・∀・)カコイイ!
- 383 名前:Come Back 投稿日:2001年10月29日(月)21時57分21秒
- ピンク・スコーピオンズがメディアから姿を消して
3回目の春が過ぎた。
初めのほうこそ、
『このまま解散するのではないか』
という憶測が飛び交ったが、
次第に世間の話題に上ることはなくなった。
そんな一般社会の時間軸から外れたところで
彼女達は黙々と復活へのシナリオを練っていた。
石川は歌う喜びを取り戻し、魂の咆哮は荒々しさを増した。
- 384 名前:Come Back 投稿日:2001年10月29日(月)21時58分06秒
- 彼女達は、1つの提案をレコード会社に持ちかけた。
「CDは作らなくて、これから全てインターネット配信にしてもらえませんか?」
後藤は独りで責任者との話し合いに臨む。
なにしろ、まだインターネット配信が普及していない日本で
売上的にも中堅バンドが提案する企画に易々と応じてくれるはずもない。
『毎年1枚CDを出す。それを守れるなら君の案に賛成してあげよう。』
それは、ピンク・スコーピオンズにとって難しい選択であることは違いない。
かといって、責任者に睨みを利かせるわけにもいかず、
後藤は廊下に出てタバコの煙を荒く吐き出した。
- 385 名前:Come Back 投稿日:2001年10月29日(月)21時58分41秒
- 夜、会議室にて…といっても後藤の部屋に集まっただけだが。
「あの禿げ野郎、足元見やがって。」
汚い言葉で罵る加護だが、表情にはまだ余裕があった。
彼女達が、どうやってこの考えを導き出したのか。
インターネット配信のほうが、
より広い世界の多くの人たちに自分達の音楽を聴いてもらえるから。
売上で判断される日本でのCD形態での楽曲発表は
彼女達にとって何のメリットもない。
そしてそこには、
後藤の広い世界を見据えた考えがあるのだ。
しかし、現状ではどうやらこの案は通りそうもない。
渋々4人は諦めて後藤の部屋を出て行った。
「あの禿げはいつか……」
加護の毒舌は、ドアが閉じるとともに
聞こえなくなった。
- 386 名前:Come Back 投稿日:2001年10月29日(月)21時59分15秒
- 4月1日
ピンク・スコーピオンズは
カヴァー・アルバム、『Black Out』を発表した。
全曲Scorpionsのカヴァーで埋め尽くされたこのアルバムは
石川と同じく、喉を痛めてそこから克服した
Scorpionsのヴォーカリスト、クラウス・マイネへのオマージュである。
そして、満を持して発表するニューアルバム
5月1日、『White Out』が発売された。
真っ白なジャケットの奥には微かな光が見える。
興味深いデザインが何を示すのか
それは知る術もない。
なぜなら、彼女達はメディアに現れることはなかったのだから。
- 387 名前:Come Back 投稿日:2001年10月29日(月)21時59分45秒
- 「この曲の次に…ああ、そうしようよ…。」
4人は大規模なライヴツアーを企画していた。
1年間で130本のライヴを日本全国で演る。
彼女達にとって初のツアーは、
想像もできない過酷なものになることは必至だった。
それでも敢えて踏み切った理由を、
石川がある雑誌のインタビューで打ち明けた。
『とにかく色んなところでライヴしたいのとぉ、
あとは…テストです。
あっ、テ、テストって言うか…あの…何なんでしょう?』
しどろもどろで、結局何なのかよく分からないインタビューに
インタビュアーも苦笑いを浮かべざるを得なかった。
『あの、これからも長期のライヴツアーやりたいんで、
早いうちから慣れといたほうがいいかなぁ、って。
そういうことです!』
そういうことらしい。
もちろん、この雑誌のインタビューは、
メンバーの間で2日間笑いの種になったことは言うまでも無い。
- 388 名前:ジョニー 投稿日:2001年10月29日(月)22時01分46秒
- >>381
レイクさん
どうもありがとうございます。
これからもがんばります。
>>382さん
ジョニ黒 って、アルコールっぽいですね(w
でも、そんなに黒くないようにしたんですよ。
- 389 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 390 名前:Day 0 -the previous night- 投稿日:2001年10月30日(火)22時48分58秒
- 最近になって使う機会が増えた
赤茶のスーツケース。
1週間分の着替えとMDプレイヤー、雑誌で溢れかえって
とても口が閉まりそうにないくらい。
「……。」
自らの部屋での無感情な物体とのシングルマッチは
30分を超え、長期戦の様相を呈してきた。
無音の場内に殺伐とした空気は少しもなかった。
- 391 名前:Day 0 -the previous night- 投稿日:2001年10月30日(火)22時50分19秒
- 「……アレをやるか……。」
後藤はベッドで反動をつけ、必殺のフライングニープレスを放った。
手ごたえは抜群。
『ガチッ』という音と共に、スーツケースは遂に閉口したかと思われた。
1、2、……その時、必死の抵抗によりフォールを跳ね除け
スーツケースの中からは、
Tシャツがしてやったりといった顔で後藤を挑発する。
- 392 名前:Day 0 -the previous night- 投稿日:2001年10月30日(火)22時51分01秒
- 「ごっち〜ん、明日出発何時だっけ〜?」
「ふぅ……えっ?出発?…さぁ、何時だっけ?」
「何やってんの?」
「コイツが閉まらなくてさぁ…悪戦苦闘、あはは。」
「詰め込みすぎじゃない?
というか、畳んで入れないからだと思うけど。」
吉澤にはスーツケースの弱点は丸見えだった。
「え〜、今から畳むのめんどくさいよ〜!
よっすぃ〜やっといて。
ごとーは疲れたから寝る!おやすみぃ〜…。」
こんなことなら来なきゃよかった、と今更思ってももう遅い。
それと同時に、初ツアー前日にこれだけぐっすり眠れる神経のず太さに
あらためて驚いた。
- 393 名前:Day 0 -the previous night- 投稿日:2001年10月30日(火)22時51分32秒
- 早くもスヤスヤと寝息を立てるその横で、
タッチを受けた吉澤は仕方なく試合にカタをつけた。
○吉澤ひとみ−後藤真希のスーツケース×
(整理整頓→ピンフォール)
「あっ!!ごっちん、出発の時間聞かないでいいのかな……。」
- 394 名前:Day 0 -the previous night- 投稿日:2001年10月30日(火)22時52分05秒
- 同じ屋根の下、眠れぬ夜を過ごす者も…。
部屋の明かりを消して2時間、
しかし彼女の中で、2時間ほどの時はほんの一瞬にしか感じないのかもしれない。
客前で歌うのは2年ぶり。
そのことを考えれば、今夜は短く長い夜。
不意に枕元の携帯電話を手に取った。
『まだ起きてます?』
石川の中の時間感覚は軽い錯覚を起こし
返信されるまでの時を持て余す。
- 395 名前:Day 0 -the previous night- 投稿日:2001年10月30日(火)22時53分05秒
- 「あ〜あ……。」
誰に言ったでもない。
何について言ったでもない。
混乱を自覚できないまま、
石川の声帯は無意味な音を発する。
暗闇の中で鳴り響く着信音。
『起きてるよ。明日からツアーじゃなかったっけ?
こんな時間まで起きてて大丈夫?』
無機質な文字の羅列に心を癒される石川。
それはもちろん矢口の顔を思い浮かべてのことだから。
- 396 名前:Day 0 -the previous night- 投稿日:2001年10月30日(火)22時53分40秒
- 30分…1時間…
時が経つにつれて、
100%の不安は、90%の安堵と10%の緊張感へと姿を変えた。
『それとさぁ、梨華ちゃん敬語はやめてって言ってるじゃんか(笑』
無限大の愛おしさは胸にしまったまま…。
- 397 名前:Day 1&2 -creeping uneasy- 投稿日:2001年11月01日(木)23時33分57秒
- 初日、2日目は地元でのライヴ。
敢えてGrape Recordsで演ることを避けたが、
それは、ファイナルに取っておいたからに他ならない。
「ほんじゃ、気ぃつけてな!」
中澤の見送りに笑顔で応える3人と、アクビする1人。
「わたしが起こさなかったらどうなったか…」
「んぁ?…さぁ?あはは。」
車内を通り抜ける風が心地よさを増し、
黒く染めたばかりの4人の髪を揺らすと、
その香りはまた夏がやってきたことを確認させる。
アクセルを踏み込むと
忙しさを増す風の中
車はスピードを上げて駆け抜けていった。
- 398 名前:Day 1&2 -creeping uneasy- 投稿日:2001年11月01日(木)23時34分31秒
- ホテルにチェックインしたのは午前11時ごろ。
部屋はジャンケンによって
後藤・吉澤と石川・加護という組み合わせになった。
「梨華ちゃん、夜泣きとかせんといてよ〜?」
いつもの調子で石川をからかうが、
たいした反応もなく、荷物を置いて昼食をとった。
- 399 名前:Day 1&2 -creeping uneasy- 投稿日:2001年11月01日(木)23時35分10秒
- 夏の太陽もようやく沈み
それを待ちわびたかのように街の明かりがにわかに灯りだす。
午後7時 ライヴハウスは開場を迎え
その客足がメンバーの心を躍らせていた。
石川の表情はいつも通り
加護はチェックイン後の違和感が
勘違いだったのだと考え
自らの集中に時間を割く。
楽屋には緊張感が張りつめ
そこに響くのは、加護が爪弾くギターの音色だけだった。
- 400 名前:Day 1&2 -creeping uneasy- 投稿日:2001年11月01日(木)23時35分40秒
- 『そろそろ時間です。』
ツアースタッフの声に、
耳は傾けても誰も目を向けることはなかった。
「そんじゃ、行こうか。」
2年以上の沈黙を破り
今、ピンク・スコーピオンズが姿を現わす。
「「「「1、2、3、おし!!!」」」」
- 401 名前:Day 1&2 -creeping uneasy- 投稿日:2001年11月01日(木)23時36分22秒
- 『そろそろ時間です。』
ツアースタッフの声に、
耳は傾けても誰も目を向けることはなかった。
「そんじゃ、行こうか。」
2年以上の沈黙を破り
今、ピンク・スコーピオンズが姿を現わす。
「「「「1、2、3、おし!!!」」」」
- 402 名前:Day 1&2 -creeping uneasy- 投稿日:2001年11月01日(木)23時36分57秒
- 場内が暗転。
その瞬間、このツアーのオープニングテーマ、
Metallicaの『Enter Sandman』が流れ、
歓声のヴォルテージは早くも最高潮に達した。
4つのスポットライトがステージに降り注ぎ、
それに呼応するかのように登場する4人。
ピンクのTシャツと、青色のユニフォームから覗く4本の二の腕には
蠍のタトゥーが刻まれ、怪しく影をちらつかせる。
数百人の観衆は蠍の毒針に冒され、
その口笛を止めようとしなかった。
- 403 名前:Day 1&2 -creeping uneasy- 投稿日:2001年11月01日(木)23時37分32秒
- ピンク・スコーピオンズのライヴにおいて、
石川が1曲目のギターをかきむしると、
空気が一変するのはもはや当たり前である。
その瞬間から、観客は沸き立つ湯のように縦乗りを開始し、
その鼓動はさらにステージ上の4人を刺激して熱気が溢れる。
すでにライヴバンドとしての地位を築きつつあるピンク・スコーピオンズが
突如活動を停止したことは、
ファンにとってショックだったに違いない。
しかし、今こうして目の前で繰り広げられている光景は
紛れもなく、あのピンク・スコーピオンズ。
その熱狂性はまるで失われることなく、
むしろパワーアップを施されている。
それは、ファン達以上に、メンバー達がもっとも喜ぶべきことだった。
なぜなら、彼女達がこの空気を一番欲しがっていたのだから。
- 404 名前:Day 1&2 -now or future- 投稿日:2001年11月02日(金)23時48分29秒
- 日付も変わりホテルの窓には鮮やかな月が顔を覗かせている。
石川はそれをずっと見つめながらベッドに寝転んでいた。
「梨華ちゃん、シャワー空いたよ。」
「……。」
「お〜い!!シャワー浴びないの!?」
「…えっ!?あ、ああ…じゃ、浴びようかな…。」
石川とすれ違うように、
加護は冷蔵庫のほうへ向かった。
「なんや…ずっと月見てておもろいかなぁ…。」
何の変哲も無い、ただウサギがいるだけの
普通の月だった。
- 405 名前:Day 1&2 -now or future- 投稿日:2001年11月02日(金)23時49分11秒
- 「ふぅ〜。気持ちよかった。」
「ビール飲むでしょ?」
出てきた石川に、敢えて決めつけるかのように誘ってみる。
性格的に断れない石川を知ってのことだ。
「う〜ん……ちょっとだけね。」
2人はしばらくの間、他愛も無い話に終始した。
矢口のこと、吉澤のこと、そして今日のライヴの反省会も。
- 406 名前:Day 1&2 -now or future- 投稿日:2001年11月02日(金)23時49分54秒
- 「…ねぇ?」
「何?」
「喉、大丈夫やった?」
突然何を言い出すのか、という表情だった。
加護の目は柔らかくなかったが、構わず笑い飛ばす。
「大丈夫だよ♪ほら!あーあーあー♪」
石川の声に紛れたが、加護は1つため息をして
ビールを飲み干した。
「それよりさぁ、そのうちあれカヴァーしようよ…あのぉ…」
カラ元気にも見える石川の振る舞いに
加護の戸惑いは消えることはなかった。
外は、いつの間にか朝焼けが月を隅っこへ追いやっている。
- 407 名前:Day 1&2 -now or future- 投稿日:2001年11月02日(金)23時50分25秒
- 「梨華ちゃん、寝てる?」
加護に背を向けたまま石川はベッドに横になっている。
「梨華ちゃんって嘘つくの下手だからすぐ解るからね…。」
寝ているはずの石川にそう言うと、加護も目を閉じて眠りに落ちた。
数分後、石川の方からため息が聞こえたような気がした。
「おはよ〜♪」
午後2時
加護が目を覚ましたときには、石川は着替えてテレビを見ていた。
「ん……おはよ……。」
その表情は、いつもと別段変わりはしなかった。
まだ回転し始めてまもない頭で、
とりあえず昨日は思い過ごしだったということで片付けた。
- 408 名前:Day 3&4 -exciting performance- 投稿日:2001年11月04日(日)02時35分23秒
- 「えっ?う〜ん…そんなことはないと思うけど…。」
自分が疑心暗鬼なだけか…。
ツアー3日目
移動先のホテルで、加護は吉澤に相談を持ちかけた。
実際、今まで2回のライヴで石川の声に異常は感じられなかった。
しかし、声よりもその表情、一瞬の表情に影を感じたのも確かだった。
そして吉澤の答えも、石川と同じくそれだった。
「……思い過ごしかな…。」
口をついて出た言葉は、
吉澤にとっては逆に心配を煽るような言葉になった。
「なんかおかしな事でもあったの?」
「いや…別に。」
確証のない不安をこれ以上蔓延させるわけにもいかず、
かといって忘れることも出来ない。
強引に胸のうちにしまい込むことしかできなかった。
- 409 名前:Day 3&4 -exciting performance- 投稿日:2001年11月04日(日)02時36分01秒
- 同じ頃、後藤と石川の部屋は静まり返っていた。
後藤は窓際のガラスのテーブルに縦肘をついたまま
ずっと外を眺めている。
石川はというと、その空気に馴染めずにどうすることもできないだけ。
「(ごっちん、たま〜にこういう雰囲気作っちゃうんだもんなぁ…。)」
いまさらぎこちないというのもおかしな話だが、
久々にそれを自覚した石川だった。
「あのさ、梨華ちゃんって小学校のときに
どこかしら身体の調子が悪くなる人だった?」
やっと口を開いたかと思うと、
『なぜ今それを?』という質問が飛び出した。
「そんな、真顔で尋ねられても…。」
石川の当然の返事に、ニコッと笑うとまた無言で
外に目線を移してしまった。
また残された1人。
- 410 名前:Day 3&4 -exciting performance- 投稿日:2001年11月04日(日)02時36分37秒
- 「えっと…ああ…どうだったかなぁ…そうだったかもしんない…。」
返事は返ってこない。
この噛み合わない空気に、
石川も少々苛立ってきたのはしょうがないのかもしれない。
「ちょっとぉ!聞いてる!?」
「ん?……あああ、聞いてるよ。
テニスしよっか?梨華ちゃんって中学んときにテニス部だったよね?
ほら、あそこにコートあるし。」
指さす場所には確かに緑のハードコートが2面見えた。
だが、後藤はそんなところを見ていたようには思えない。
もっと遠くの景色を見ていたはず。
「えっ?…いや、あんまり巧くないから、いいよ。遠慮しとく。」
「ふぅ〜ん…。」
このやり取りが終わると、やっと後藤の醸し出した空気はなくなり、
2人は今更ながら普通の会話をすることができるようになった。
- 411 名前:Day 3&4 -exciting performance- 投稿日:2001年11月04日(日)02時37分44秒
- 翌日、空は快晴。
日中、北国の木々達は燦々と日差しを浴び、
その青みを増そうとする。
日が落ちると人々は、それでも暑い特設ステージへ
ひたすらロックするために集い始める。
荒々しいサウンドが流れ始めたのは午後7時。
今日も、いや、いつも以上に激しくエキサイティングなプレイを見せる4人に
観客も熱狂の渦に飲み込まれている。
加護のメロディアスでうねり狂ったソロ
後藤と吉澤の響き渡るリズム
そして、石川のガッガッガッという高速ダウンピッキングは
時を増すにつれてどんどん激しさを増していった。
そして何より、4人の形相は何かと戦っているかのように
必死なものになっていた。
- 412 名前:Day 3&4 -exciting performance- 投稿日:2001年11月04日(日)02時38分15秒
- 1時間ぶっ続けのステージは、
ようやくしばしの緩和を許された。
コップの水を一口含み、
石川は右手のリストバンドで額の汗を拭った。
「(!!!…。)」
その刹那、顔を歪めたのは気のせいだろうか。
顔の前を塞ぐ右腕によって誰の目にも映らなかったが、
しかし本人だけにはその状況を把握することが容易に可能だった。
「おしっ!演ろうよ!!」
自ら休憩を断ち切ると
吉澤を急かしてまた正面に顔を向ける。
観客が目にした表情は、
普段の笑顔の石川梨華だった。
しかしそれもつかの間。
『Fight With Fire』のリフを弾くその額には
大量の汗がにじみ出ていた。
- 413 名前:Day 3&4 -exciting performance- 投稿日:2001年11月04日(日)02時39分04秒
- シャワーの音が室内まで聞こえる。
石川は冷蔵庫からビール瓶を出したまま
机に放置した。
汗のように水滴を滴らせるだけのビール瓶。
しばらくすると、シャワーの音は止み
部屋には2人だけの空間が形作られた。
「ふぅ〜……これ、こんなところに置いといてどうすんの?」
タオルで髪を拭く手を止め、
水滴で円形を作った机を指差した。
「えっ?…栓抜きがどこにあるかわからなかったから…」
「そこだよ。冷蔵庫の上。」
そして後藤が向かう先は…
栓抜きの所ではなく、石川の所だった。
「痛っ!!……」
無造作に石川の右腕を掴み上げ、
つけたままのリストバンドを捲り上げた。
- 414 名前:Day 3&4 -exciting performance- 投稿日:2001年11月04日(日)02時39分37秒
- 「……。」
ある程度は予想できたものの、
その状況に出くわしてみるとどうすることもできない。
腕を掴まれたままの石川はばつが悪そうに
決して後藤と目を合わそうとしなかった。
「まだ酷くないみたいだけど……あんまり無理しないほうがいいよ
……秘密にしといてあげるから。」
イスに座ったままの石川を見下ろして
あくまで冷静に事を進める。
石川が目を合わせなくても、
後藤には心のうちを読むことは容易だった。
「…シャワー浴びてくるよ……。」
掴まれたままの腕を強引に振り解くと
平静を装ったまま、タオルを右手で取ってバスルームに姿を消した。
「……はぁ…梨華ちゃん、言っても聞かないからなぁ…。」
温くなったビールの栓を開けると、
コップに注いで一気に飲み干した。
しばらくして、水滴の音がにわかに聞こえてくると
後藤はベッドに勢いよく倒れこんで、明かりを消した。
- 415 名前:Day 5 -off at the north ground- 投稿日:2001年11月06日(火)23時23分08秒
- 有名人は休みの日にどんなことしてるんだろうか。
加護もそんな疑問を抱いたことは少なからずあった。
でも、いざ自分がその立場になってみると
案外普通のことをするしかないんだなぁ、と実感した。
まあ、本人は、自分が有名人という括りに
入っているとは思ってないだろうが。
この日は、独りぶらぶらと街へ乗り込んだ。
出かけるときに渡された帽子は
ホテルのロビーを抜けるとすぐに脱いで、
折角の日差しを身体いっぱいに浴びて歩き出す。
夏の太陽も決して暑く感じず、まさに快適な気候。
思わず空を見上げてしまう気持ちを分かる。
- 416 名前:Day 5 -off at the north ground- 投稿日:2001年11月06日(火)23時23分42秒
- 「空が広いって、まさにそれやなぁ…。
こう…なんて言うか…空が広い…何言うてんねん。」
独り言もその広い空に吸い込まれていった。
とりあえず、目的の品はCD。
日頃あまり聴かないアーティストを中心に買う予定は立ててきた。
「Queenやろ…Guns&Rosesやろ…あと…は……!!!」
買い物しようと街まで出かけたが
「ポケットには入れてないし……」
財布を忘れて愉快な加護ちゃん。
「……。」
今日も…
「ホンマ、いい天気やなぁ。何て言うか…空が広い…。」
ホテルへ引き返した。
- 417 名前:Day 5 -off at the north ground- 投稿日:2001年11月07日(水)22時53分18秒
- 酔っ払い:酒に酷く酔った人。(大辞林第二版より)
「かっごちゃ〜ん♪」
「……よっすぃ〜飲みすぎや。」
酔っ払いと2人きりの部屋というのは、
最も耐えがたい空間の1つかもしれない。
それが、たとえ好意を寄せる相手であっても。
「そぉんなに飲んでないよ〜。ブランデーをちょこっっっとだけ♪」
加護は酔っ払いが大嫌いだった。
それは、あの忌まわしい父親のせいかもしれないが、
吉澤が酔っ払っているのは、見るに堪えない光景である。
- 418 名前:Day 5 -off at the north ground- 投稿日:2001年11月07日(水)22時53分55秒
- 「…はぁ〜……。」
生温いため息は部屋の空気に昇華されずに
顔の前で浮遊している。
「シャワー浴びてくるわ。」
心なしか呆れた口調でそう言うと
吉澤を避けるようにバスルームへ向かっていった。
長い廊下。
いや、本当はすぐそこなのに
吐き気すら催すような記憶を押さえ込むことに精一杯で、
時間がものすごくゆったりと流れているような錯覚に陥った。
- 419 名前:Day 5 -off at the north ground- 投稿日:2001年11月07日(水)22時54分43秒
- 「はぁ〜…何かにつけて蘇ってきやがる…クソ!」
姿の無いものへの怒りのおかげで、
熱めのシャワーは1日の疲れを全く取り除くことができなかった。
それどころか……
身体の一部はそれに伴って嫌な疼きを始めた。
あのときの記憶が蘇る。
奇しくも同じ真夏の日
シャワーの音は加護にだけ蝉時雨となって
脳を冒し始める
少し前の加護なら、悲しくも注射器を手にしていただろう
その悪癖も、やっと出会えた信頼できる吉澤のおかげで
断ち切ることができたのに…。
- 420 名前:Day 5 -off at the north ground- 投稿日:2001年11月07日(水)22時55分15秒
- ゴンッという衝突音と共に、
蝉時雨はシャワーの音へと戻った。
そして、力なく振り下ろされた右腕は
だらりと腿のあたりにぶら下げられたまま。
シャワーの水が滴るそのうでには
黒ずんだアザはもう見当たらなかった。
そのとき、すぐ外に人の気配を感じた。
「誰!?」
問うまでも無い。
「加護ちゃ〜ん、わたしも入っていい〜?」
ビクッと反応する肉体
バスルームのドアを見つめるその瞳は
怯えきって、今にも崩れそうだった。
- 421 名前:Day 5 -off at the north ground- 投稿日:2001年11月07日(水)23時18分12秒
- 「も、もう出るから!!」
加護は12歳のあの夏以降
「いいじゃんか〜。もうちょっと浴びてればさぁ〜。」
男に近づかれることを極端に嫌った。
もちろん、仕事の上でしょうがない場面も多々あるのだが。
「ダメ!!来ないで!!!」
今、確信したことがある。
「入るよ〜?」
裸を見られるのが……怖い…。
- 422 名前:Day 5 -off at the north ground- 投稿日:2001年11月08日(木)00時27分22秒
- 熱気によって微かに膨張した空気が開放されると
しゃがみこんだまま動くことはできなくなった。
「加護ちゃん?」
「出てって……出てってよ!!!」
強い口調の影には、
怯える心と硬直した肉体が隠されている。
決して顔を向けることはない。
吉澤が怖いのではなく
吉澤に見られることが怖い。
「早く!!!」
- 423 名前:Day 5 -off at the north ground- 投稿日:2001年11月08日(木)00時27分52秒
- ドアは、ようやく重い音と共に閉ざされた。
そしてシャワーは再び姿を変え、
今度は冷たい雨になって
しゃがみこんだままの加護を打ちつける。
雨音は、いつまでもすすり泣くその声をかき消す。
しかし、その傷までは洗い流すことはできそうもない。
- 424 名前:Day 5 -off at the north ground- 投稿日:2001年11月08日(木)00時28分22秒
- 部屋に独り。
吉澤はいつの間にか酔いが醒め、
自らのとった行動を思い起こしていた。
ただ、納得できる結論はまるで思いつかない。
目に飛び込んできた現実は、
バスルームのドアを開けると
加護がしゃがみこんでいた。
バスルームを出てきた加護は
逃げるように部屋を出て行った。
それだけ。
忘れていたことは無いか
どれだけ探しても見つかることはない。
探し物に必死で、いつしか
自分の心にも大きな穴が開きそうになっていることには
気づくことはなかった。
- 425 名前:Day 6〜 -the sinner- 投稿日:2001年11月09日(金)21時01分52秒
- 「ん?……。」
午前10時
朝起きると、
後藤の目には横で眠る加護の顔が
一番に飛び込んできた。
その寝顔は、太陽が昇る前の表情とは違って
安らかなものだった。
- 426 名前:Day 6〜 -the sinner- 投稿日:2001年11月09日(金)21時02分37秒
- 明かりの消えた部屋をノックする音が聞こえた。
後藤には気のせいかと思われたが、
そのノック音は、弱いながらも何度も繰り返された。
石川の方を見ると、すでに眠っているようだった。
『んん……誰だろ?』
暗闇を足で探りながら
スリッパを履いて入り口へ向かうと
ドアの向こうからは微かに鼻をすする音が漏れてくる。
『誰ですかぁ?』
『…ごっちん。』
答えた声はか細く、それでも聞きなれた声。
そして、ドアを開けると勢いよく抱きついてくる。
- 427 名前:Day 6〜 -the sinner- 投稿日:2001年11月09日(金)21時03分13秒
- 『加護ちゃん……どうしたの?』
加護の口から聞かれた言葉は、
結局後藤の名を微かに呼ぶものだけで
それ以後は何も喋ることはなかった。
どうしたのか尋ねても。飲み物を勧めても、
返ってくる反応はただ首を横に振るだけ。
ただ、後藤には少しだけ察しがついた。
同じ部屋の吉澤がこの異変に気づいていない
ということは考えにくい。
それなのに様子を伺いに来ないということは
原因はその人であろう。
後藤は無理やり探ろうとは思わなかった。
日が昇ってから、もう一度尋ねてみる。
それでも答えようとしなければ
それは、自分がどうにかできることではない
ということだろう、と。
- 428 名前:Day 6〜 -the sinner- 投稿日:2001年11月09日(金)21時03分55秒
- 「おはよぉ。」
カーテンを開けると
今日も光ることをやめない太陽が
部屋の中へと光を注ぐ。
それに促されるように後藤のいなくなったベッドで
加護は目を覚まして眩しそうな表情をみせる。
しかし、それもつかの間。
後藤の挨拶に応じることなく
頭から布団を掛け直して光を閉ざす。
- 429 名前:Day 6〜 -the sinner- 投稿日:2001年11月09日(金)21時04分34秒
- その傍らで石川も目を覚まし
眠たそうな表情で目を瞬かせている。
「……。」
喉が温まってないのか、
無声のまま、隣りのベッドの膨らみを気にして
凝視したまま止まっている。
「梨華ちゃん!……。」
その不審な掛け布団に手を伸ばそうとしたとき
窓際のほうから名前を呼ばれたのに気づき、
光の方に視線を遣る。
逆光の中
しかし後藤の身振りに気づくのに
さほど時間はかからなかった。
結局、後藤には詳しい原因は分からなかった。
しばらくして石川も異変に気づいたが
それには『なんでもない』と気にかけないように
流しておいた。
そして、昼からのライヴのことを
加護に念を押して
その部屋を離れた。
- 430 名前:Day 6〜 -escape from darkness- 投稿日:2001年11月10日(土)00時03分08秒
- 独りでの起床。
二日酔いのサインが脳に響くごとに
加護の怯える表情がフラッシュバックする。
カーテン越しには、
すでに何時間も太陽が朝の知らせを放ち続けている。
ぼやけた眼でカーテンの端を掴み
一気に開こうとして躊躇する。
焦らされるように差し込んだ光は
闇に慣らされた両目を激しく刺激し
クラクラと眩暈を誘発する。
- 431 名前:Day 6〜 -escape from darkness- 投稿日:2001年11月10日(土)00時03分52秒
- もしかしたら自分は
光の当たるべきではないところを
無理からに照らしてしまったのではないか。
無神経に輝き続ける恒星
光を反射し続ける惑星
自らを恒星に位置付けるのは傲慢だ、と
思考を停止した。
停止したはずの思考が
再開を余儀なくされるまでに
さほど時間はかからなかった。
- 432 名前:Day 6〜 -escape from darkness- 投稿日:2001年11月10日(土)00時04分47秒
- ノックに促されドアを開くと
後藤が立っていた。
加護はあの後
後藤達の部屋に行った
そのことが吉澤の中で今はっきりした。
そして、後藤が何をしに来たのかも
察しがついた。
「何?」
今日初めて会った人物に
挨拶も無しにそう言った。
「昨日、加護ちゃんが私達の部屋に…」
「知ってるよ。」
知っているのではない。
今、分かったのである。
加護のことを何も知らないということを
認めたくなかったために、強がった。
- 433 名前:Day 6〜 -escape from darkness- 投稿日:2001年11月10日(土)00時05分29秒
- 無言で中に入れると
テレビの電源を入れ
その雑音で空気を和らげようと試みる。
後藤の表情には怒りは感じられなかった。
それだけに、
吉澤は不謹慎ながらも
後藤が次に口にする言葉に興味をそそられた。
そして、ゆっくりと口が開く。
「昨日さぁ、加護ちゃんが…」
「だから知ってるって。」
- 434 名前:Day 6〜 -escape from darkness- 投稿日:2001年11月10日(土)00時06分02秒
- さっきドアの所で聞いた言葉が繰り返されただけ。
それだけで後藤は去っていった。
最後に一言呟いて。
「ホントに知ってるんだぁ。」
ホテルのドアは品良く、音を立てずに閉まる。
そのゆっくり加減がひどく吉澤の心を揺さぶった。
「…何それ?」
素直な感想を漏らすと着替えを始めた。
嘘偽りのないその言葉は、
短いながらもはっきりと
吉澤の心と言葉の矛盾を示してみせた。
- 435 名前:Day Unknown -guilty feeling- 投稿日:2001年11月11日(日)01時31分21秒
- どれだけのライヴハウスを回ってきただろうか。
初めのうちを除けば、
あとのライヴは可もなく不可もなくという出来に終始した。
加護のギターには明らかに覇気がなく、
吉澤も同じだ。
石川は何かを庇っているようなプレイしかできない。
それだけに後藤のベースプレイは素晴らしかった。
色々な音楽雑誌の記事でも
後藤への賞賛の言葉は数多く見られた。
周りを活かしながらも、自らを主張する音は
いつしか日本での後藤のベーシストとしての地位を不動のものにしていた。
- 436 名前:Day Unknown -guilty feeling- 投稿日:2001年11月11日(日)01時32分04秒
全く嬉しくない
その思いは後藤だけではなかった。
石川は不本意ながら満足にプレイできない自らの右手を悔やんだ。
そして、もちろんこのバンド自体の低調なパフォーマンスも。
苛立ちは募るばかりで、一向に発散されることはない。
残りのツアーを、今すぐにでもキャンセルしたい。
許されるなら…。
- 437 名前:Day Unknown -guilty feeling- 投稿日:2001年11月11日(日)01時32分48秒
- 加護の脳裏には、遅すぎる後悔の念がよぎり続けている。
全てはあの夜のこと。
よっすぃ〜は悪くない
よっすぃ〜は悪くない
よっすぃ〜は悪くないのに…。
何十日もまともな会話をしていないその口は
まるで言葉を忘れてしまったかのように
開くことができなくなっていた。
発作的に部屋を飛び出してしまったあの時の自分が
吉澤を傷つけたに違いない。
自ら吉澤と同じ部屋に泊まることを望んだにもかかわらず
この日も交錯する思いに整理をつけられないでいた。
- 438 名前:Day Unknown -guilty feeling- 投稿日:2001年11月11日(日)01時33分35秒
- トイレの中でビニール袋を手に、青ざめた表情をしている。
自分がこんなものを手にすることになるなんて…。
袋の中には、1つのタバコ状のものと、葉と紙。
特別知識があるわけではないが、
これが危ない道への第1歩であるとこは
十分承知できた。
渡されたときの言葉が思い出される。
『タバコよりも害は無いから。』
その言葉の真偽を確かめる前に、
すでに石川はライターの火を近づけていた。
甘い言葉には裏がある。
そのことに気づくことなく、吸引は始まった。
キモチイイ脱力感
全ては悪魔の誘いだというのに
一時の過ちは大きな代償を生む…。
- 439 名前:Day Unknown -guilty feeling- 投稿日:2001年11月11日(日)01時36分09秒
- 「あのさぁ…」
沈黙を破ったのは加護の方ではなかった。
沈痛な面持ちで、加護の方をチラッと見遣るが
加護は吉澤の方を見てはいない。
「なんか…加護ちゃんを傷つけちゃって…」
違うよ
傷つけたのはこっちのほうなのに
よっすぃ〜は悪くないよ
「ごめん…。」
なんで…なんで謝るの?
よっすぃ〜は謝る必要なんかないよ
謝るのは…
- 440 名前:Day Unknown -guilty feeling- 投稿日:2001年11月11日(日)01時36分47秒
- 「ごめん。」
「えっ?」
よっすぃ〜は悪いことなんかしてないよ。
ウチが混乱しておかしなことしちゃったから
今まで気づかなかったんだ
裸を見られるのが怖い、なんて
ダメなのは男の人だけかと思ってたのに
よっすぃ〜を拒絶してしまった
自分が嫌だったんだ…
だから
「ごめん。」
2度目は、お互いの目が合った上での言葉だった。
- 441 名前:ジョニー 投稿日:2001年11月12日(月)17時19分43秒
- 1週間くらい休みます。
- 442 名前:パスカル 投稿日:2001年11月14日(水)21時39分03秒
- はぢめてのレスですが…
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ーーーーーーー!!!!
梨華ちゃんが壊れちゃうよおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
続きに期待。石川さんの復活にも期待(半泣&切望
- 443 名前:Day Final -pine&buttercup- 投稿日:2001年11月17日(土)00時04分13秒
- 1年にわたるライヴツアー
決していい思い出だけではなかった。
それでも『Grape Records』で無様なライヴを見せるわけにはいかない。
士気は自ずと高まっていく。
「梨華ちゃん、どこ行くん?」
どこからか、自分の名を呼ぶ声が聞こえ辺りを見回す。
リハーサル中、そのことを忘れていたなんて
言うわけにもいかない。
自分がおかしいのを、まだ自覚できた。
「…ちょっとトイレ。」
- 444 名前:Day Final -pine&buttercup- 投稿日:2001年11月17日(土)00時04分48秒
- 軽い気持ちで吸い始めた大麻が
自らを滅ぼし始めていることを、まだ自覚できた。
でももう止められない。
咳の数が増え、思考がまともでなくなってきたことまでは
自分では気づかなかった。
トイレには、リハーサルの大音量と擦れた呼吸音が
静かにこだまする。
個室から出てきた石川の眼は
悪魔に洗脳されたかのように赤く充血していた。
- 445 名前:Day Final -pine&buttercup- 投稿日:2001年11月17日(土)00時05分22秒
- 『ちょっと梨華ちゃん借りていい?』
ライヴに招待されていた矢口は昼頃に現れ
石川を食事に連れ出した。
「梨華ちゃん!矢口さんが呼んでるよ!」
楽屋で鏡をボーっと眺めている石川は
矢口に気づいていなかった。
そして、吉澤の声にも。
「りーかーちゃん!!」
「…えっ、何?」
- 446 名前:Day Final -pine&buttercup- 投稿日:2001年11月17日(土)00時05分59秒
- 「梨華ちゃん、大丈夫?寝不足なんじゃない?」
近くの小さなイタリアン・レストランは
それほど混み合っておらず、
店内は石川と矢口を含め、2、3組ほどだった。
矢口の言葉に意識を傾け、
やっと会話は成り立つ。
「寝てますよ……や、ぐちさん…。」
石川の顔はみるみる青ざめていった。
これ以上無様な姿を『この人』に見せたくない。
衰えゆく神経を感じながらも
その思いははっきりと脳に留められた。
「ちょ、ちょっと梨華ちゃん!!」
- 447 名前:Day Final -pine&buttercup- 投稿日:2001年11月17日(土)00時06分31秒
- 店を飛び出す
目に涙を浮かべながら
楽屋へ逃げ込んだ
息を整えることも忘れて
ドアに持たれかかって泣きじゃくった。
「どしたの?」
ベースを弾きながらライヴに向けて集中を高めていた後藤は
狂った石川を見てその表情を崩した。
それもつかの間、ただならぬ様子にすぐに顔を強張らせる。
そして
石川の一言で、事の重さを認識した。
「もう、やめたい!!」
「はっ!?ちょっと落ち着いてよ!
どういうことなの?」
- 448 名前:Day Final -pine&buttercup- 投稿日:2001年11月17日(土)00時07分14秒
- どういうこと
なぜ泣いているの
何をやめたいの
思い出しても出てこない
収まったかと思った涙はまた溢れ出す
そして、後藤の言葉が心に響く
「梨華ちゃん、ちょっとおかしいよ?」
わたしはおかしくなんかない
これが今のわたしなんだから
今の…
- 449 名前:Day Final -pine&buttercup- 投稿日:2001年11月17日(土)00時07分56秒
- 昔のわたしって…どんな人間だったの?
アレを始める前のわたしって…
アレって何だっけ…
「アレ!?アレって何!?」
ワカラナイ
タバコみたいな…
すごいリラックスできるんだよ
「!!!……大麻…大麻やってたの?」
後藤の強いまなざしが石川に突き刺さる。
「もうなくなっちゃったよ……売ってもらいに行かなきゃ…。」
- 450 名前:Day Final -pine&buttercup- 投稿日:2001年11月17日(土)00時08分26秒
- 後藤は目を閉じた
そして唇を噛みしめて石川の頬を張った。
2発…3発…石川は何の感情も表さない。
「…病院行こう。ライヴどころじゃないよ…。」
相変わらず反応のない石川を無理やり車に乗せて
エンジンをかけた。
痛々しい光景。
助手席でシートベルトを括りつけられたその人は
小声で独り言を呟いている。
- 451 名前:ジョニー 投稿日:2001年11月17日(土)00時10分58秒
- >>442
パスカルさん
ありがとうございます。
梨華ちゃんが、どうなるんでしょうか…作者のみぞ知る…(w
新スレ立てますかね…。明日あたりに。
- 452 名前:ジョニー 投稿日:2001年11月17日(土)22時39分32秒
- 新スレ立てました
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