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マインド サーカス
- 1 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月06日(月)01時31分14秒
- 緑で書かせて頂いていた『クロニック ラブ』の続きモノです。
容量の問題でこちらに引越ししてきました。
続きモノという事でここに載せてる話だけでは
意味がわからない点が出てくるかと思われますので
緑の『クロニック ラブ』を読んでから、この話を読んで頂けると有難いです。
- 2 名前:マインド サーカス 投稿日:2001年08月06日(月)01時32分14秒
- 何でも叶えてあげるって言われたら何を願う?
何でも自分の欲望のまま行動出来たとしたら何をする?
貴方なら何を望む?
- 3 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時33分25秒
- 「なんやねんー!ここは!!」
「ホント…どうなってんだろね、これって…」
…なんか、周りがうるさいなー。
なんだか意識がぼやけている。
目を開くのもおっくうだ。
そもそも、いつの間に眠ってしまったんだろう。
えっと…頭の中に残っている記憶で一番新しいのは…。
仕事が終わってから家に帰って疲れたからそのままベットに入って…。
あぁ…そのまま寝ちゃったのか。
………あれ?
なんで自分の部屋なのに騒々しいんだろ。
疑問に思いながら目を開くと、そこは自分の部屋の天井ではなく…。
「…あれ?」
気がついたら私は学校にいた。
「よっすぃー!!やっと気がついた!!」
「り、梨華ちゃん?!」
何故か廊下で眠っていた私を梨華ちゃんは泣きそうな顔で見下ろしていた。
- 4 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時34分35秒
- おかしい…。
ここは私が通ってる学校じゃない。
何故なら今着てる制服は自分の学校の制服とは違うから。
それに、梨華ちゃんと同じ学校じゃないし…っていうか、梨華ちゃんは学校行ってないじゃん。
それなのになんで私達は同じ制服着てるんだろう。
………っていうか!
「どうなってんの!?これ!!」
「きゃっ!」
突然、叫んだ私に梨華ちゃんは驚き、腰を抜かしてしまった。
「あ…ごめん」
「ビ、ビックリさせないでよー…」
「だって!どこなの?ここは…」
そう言いながら辺りを見回すと奇妙なモノが視界に入ってきた。
「なっ!!」
「おうー。よっさん!やっと目を覚ましたんかいな…って
何で口パクパクさせてんねん?」
中澤さんの言う通り、私は中澤さんを指差したまま言葉を発せずにいた。
- 5 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時35分30秒
- 「矢口にはわかるね。よっすぃーが凍っちゃってる理由は
きっと裕ちゃんのその格好がヤバ過ぎるからだよ」
「なんでやねん!?別におかしくないやんか!」
「うわー、怖っ!よくそんな事が言えるねー」
「ですよねー」
「石川ー…アンタまでそんな事言うんか?」
中澤さんと漫才みたいな会話をしている矢口さんと梨華ちゃんは
すでに慣れてしまっているようだ。
二人共、絶対おかしいよ…。
…中澤さんは私と同じ制服姿なのに。
今、私の目の前にいる中澤さんの姿。
それは、今まで通りの金髪に近い髪、青いカラコンに厚化粧。
…あ、これは本人には言えないけど…何故なら命が惜しいから。
そんないつもの姿に+セーラー服。
しかも超ミニスカ。
…………恐ろしい。
違和感がありありと…。
- 6 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時36分07秒
- 「そういや、他のメンバーはいないのかな?」
矢口さんはキョロキョロと周りを伺う。
いや、そんな事より…。
「あの…どういう事なんでしょうか?」
「何が?」
キョトンとして矢口さんが聞いてくる。
…本当におかしいよ。
だって、こんな変な状況なんだから普通はすぐに疑問に思うじゃん。
「いや、だって…ねぇ?」
私は梨華ちゃんに救いを求めた。
「これって夢なんですかねー?私、家で寝てたはずなんですけど」
「私も!」
「そういや矢口もそうなんだよね、仕事終わってから家に帰って寝てたはずなんだよ」
「私は覚えてへんなぁ…飲んでたし」
「裕ちゃん…最近太り出してるんだからさ、ちょっとはお酒控えないと」
「うっさいわ!酒飲まなやってられへんねん」
「へー、なんか悩み事でもあんの?」
「…別にあらへんけど」
「何だよー、言えよー、矢口が相談にのってあげるから!」
「いや、ええねんて…」
変な夢だなぁ。
なんだか会話が凄くリアルなんだけど。
じゃあ、みんな一緒に同じ夢を見てるってわけ?
うーん…そんなの普通は有り得ないし。
- 7 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時37分00秒
- でも、本当になんでこのメンバーなんだろう…。
もしかしたら、他のメンバーもどこかにいるのかもしれない。
中澤さんと矢口さんの脱線した会話はどこまでも続きそうだし。
ほっといて他を見てこようかな…。
私は中澤さんと矢口さんにちょっと周りがどうなってるのか見てきます、と告げ
校内を歩き回っていた。
見た事もない学校の校舎内に戸惑いながら。
古くもなく、かといって新しいわけでもなく。
中途半端な歴史を刻んでいる建物。
妙なリアリティがあるけど…。
これって昔懐かしのドッキリカメラとかじゃないだろうな…。
ちょっと心細くなっていた私は隣にいる梨華ちゃんの存在に助けられていた。
- 8 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時38分06秒
- 「本当に不思議だよねー、どうなってるんだろう?」
梨華ちゃんは私のような不安を持ってないのか、何でもないように言う。
「これが夢なら起きた時、夢見が悪くて最低な気分になってるんだろうね」
「えー?どうして?」
キョトンとしている梨華ちゃんを見て、私は大きくため息をついた。
「…だって、あの中澤さんの姿がね」
「あははっ!」
こんなどうでもいい会話をしながらも私はどこか違和感を感じていた。
…何だろう?
私がそんな事を思っている間も梨華ちゃんは一人喋り続けている。
梨華ちゃんの甲高いアニメ声は廊下中響いていた。
…あ。
「ねぇ!やっぱおかしいよ!」
「きゃっ!ど、どうしたの?よっすぃー…」
突然、大声をあげた私に梨華ちゃんは心底驚いていた。
「…変だよ、ここ全く人がいない」
- 9 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時38分52秒
- 「本当だ!そういえば中澤さん達と別れて結構歩いたけど誰にも会わないね」
梨華ちゃんは手をポンと叩いて納得する。
「っていうことは、やっぱり現実じゃないって事なのかなぁ?」
学校の中に誰もいないっておかしいよねぇ…。
休日で私達が勝手に入り込んだっていうのも変だし…。
新しいTVの企画?
…そんなの聞いたことない。
結局は夢ってことになるのか…。
「私はよっすぃーと一緒ならどこでもいいけどね」
「…そ、そう。ありがと」
何時の間にか梨華ちゃんに腕を組まれていた。
そこから梨華ちゃんの体温が伝わってくる。
なんだか、とってもリアルだ…。
「本当に本当なんだからね。私、よっすぃーの事大好きだから」
「…は、はは。ありがと」
梨華ちゃんのうっとりした顔を見て、ちょっとひいてしまった。
- 10 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時39分25秒
- な、何を期待してるんだろう…。
梨華ちゃんの事は好きだけど…。
私の梨華ちゃんに対する好きと彼女が言ってる好きは別物のような気がして。
どうにも居心地が悪い…。
深く考え過ぎなのかなぁ…。
私は梨華ちゃんと話しながら中庭らしき場所に出ようと扉に手をかけた。
「あれ?」
「よっすぃー、どうしたの?」
「開かない…コノヤロー、ふんっ!」
気合を入れて扉を開けようとしたけど、全く歯が立たない。
「開かないの?壊れてるのかもしれないね」
「うーん、他の扉を探した方がいいかなぁ」
私はその後、他の扉も開けようとしたけど全く開かなかった。
- 11 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時41分01秒
- 「つまり…矢口達はこの中に閉じ込められてるってわけ?!」
「そうなんですよ…出られないんです」
私と梨華ちゃんは中澤さんと矢口さんのとこへ戻ってきて
自分達が見てきたものの報告をしていた。
不安になっている私達とは対照的に中澤さんは落ち着いていた。
やっぱり矢口さんは予想を裏切らずに騒いでたけど。
「アンタ等、やっぱアホやなー。そんなんドアとか窓のガラス割ってもうたら速攻解決やん」
あ…そっか。
「じゃあ、中澤さん、よろしくお願いします」
「はぁ?なんで私がせなアカンの?こういうのは男前のよっさんの仕事やろ?」
…なんでだよ。
「キャー!よっすぃー、頑張って!!」
いや、ちょっと待ってよ…梨華ちゃん。
「よっすぃー、頼りにしてるからね!」
いや、だから待って下さいってば…矢口さんも。
- 12 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時41分34秒
- 三人の視線は私に集中したまま。
私はため息をつきつつ、近くにあった掃除用具置き場からホウキを取り出してきた。
「危ないですから、少し下がってて下さいよ」
「「「オッケー!」」」
声を揃えて私に返事をする三人。
…なんかムカつく。
ちょっとは手伝おうとか思えよ。
三人と一緒にいる事が苦痛になってきた私は窓に向かい
ホウキを手にして大きく振りかぶった。
- 13 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時42分32秒
- ――しばらくして。
「…な、なんで?」
私は呆然としていた。
ホウキを持っている手は痺れている。
「…よ、よっすぃー、もう一回やってみたら?」
矢口さんも信じられないという顔になっている。
「やめとき。この状態じゃ、無駄やろ」
中澤さんはため息をついている。
「すっごーい!防弾ガラスみたいな硬さですね!!」
梨華ちゃんのコメントはどこかズレている。
「…どうするんですか?これじゃ、本当に外に出られないですよ…」
「諦めも肝心やでぇ。別にええやん、これって夢やろ?いつか目覚ますって」
「裕ちゃん…何を呑気に」
そう言う矢口さんは呆れ顔になっていた。
「ええやん。夢は夢で楽しもうやー。矢口ー、好きやでー!」
中澤さんはどさくさにまぎれて矢口さんを襲っている。
「やめろー!裕子!!」
本当に嫌そうに中澤さんから自分の身を守る矢口さんを見ながら
私はため息をついた。
- 14 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時43分05秒
- 「二人とも、本当に仲いいよね」
梨華ちゃんはじゃれあっている中澤さんと矢口さんを羨ましそうに見ている。
「…本当だね」
「夢ならここから出られない事を深く考えなくてもいいよね。
別にこれから何か起きるってわけじゃないし」
梨華ちゃんももうここについて考える事を止めたようだ。
夢ねぇ…。
どうせ夢なら自分が見たい夢にして欲しいよ。
よりにもよって、どうしてこのメンバーしかいない夢なわけ?
私、こんなの見たいって思ってたんだろうか…。
そんなはずないと思う、決して。
夢なら早く覚めて欲しいんだけど…。
- 15 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時43分43秒
- …しばらくして。
「そういや、ここ壁時計とかないね」
矢口さんは傍にある『3−11』と書いてある教室に勝手に入り込み
首を傾げていた。
そう言われて初めて気がついた。
本当に時計がない。
学校なら普通あるはずなのに。
「矢口ー、私な、さっきから疑問に思っててんけどな。
ここにいる四人ってお揃いの腕時計してへん?」
「…あ、ホントだ!」
「でも…これっておかしいですよ」
梨華ちゃんは時計を見つめながら戸惑いの表情。
確かに私達はデジタルタイプの同じ時計をしているんだけど。
そのディスプレイには時間が表示されていなかった。
- 16 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時44分38秒
- 「…あの、この大きく表示されてる『11』って何でしょう?」
梨華ちゃんの言うとおり、表示されてるのは『11』という数字のみ。
「そんなん知らん」
「そういや、ここの教室は『3−11』ですね」
「それはたまたまじゃん」
「何だろ?なんかひっかかるなー…あ!」
「矢口さん、どうしたんですか?!」
「『11』って紗耶香のゼッケンの文字じゃん!」
「ア・ホ」
「…別に間違ってないじゃん」
バカにしたような中澤さんの顔を見て矢口さんはふくれる。
『11』って何だろう?
本当に市井さんを表してる?
何のために??
それとも偶然?
別の意味があるんだろうか?
- 17 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時45分12秒
- 私の頭の中には『?』が渦巻いていた。
「あ〜!!!裕ちゃん達発見!!」
一人の世界に入り込んでいた私を呼び戻す声。
「ごっつぁん!それに……さ、紗耶香ー!?」
矢口さんは心底驚いた顔になっていた。
それは私を含め、あとの二人も同じだった。
「会えてよかったよ〜、気がついたら後藤達もここにいたんだよね〜」
ごっちんは、ね〜?と、自分がべったりとひっついている市井さんに話をふる。
「紗耶香ー!!元気だった?」
矢口さんは市井さんに会えた事がよっぽど嬉しかったのかすぐさま飛びついていた。
中澤さんはそれを見て、小声で矢口ー…、と寂しそうにぼやく。
そして、ごっちんと矢口さん二人に抱きつかれている市井さんはニコニコしていた。
その光景を見ながら私は憤りを感じられずにはいられなかった。
ごっちん…なんで?
「まさか皆に会えるとはねー、さっき、圭織達も見つけたんだ」
「え!?」
「追い抜いてきちゃったから後からすぐ来ると思うよ」
あっちは人数が多いからね、と市井さんは何でもないように言うけど。
あっちは人数が多い?
…っていうことは、娘。のメンバー全員がここにいるって事?
- 18 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時46分05秒
- そして、しばらくすると『3−11』の教室にメンバー全員が集まった。
「これってどうなってんだろうね?」
窓際の一番後ろの席に座っている飯田さんが大きくのびをしながらぼやく。
「うーん…私達以外に誰もいない学校で外に出られない状態。
そして、みんなお揃いの時計に謎の『11』っていう数字…うーん」
梨華ちゃんは黒板前のセンター席に座って考え込んでいる。
「っつーか、なんで紗耶香もいるんだろ?」
保田さんは暇つぶしに後ろの黒板に謎の絵を落書きしながら首を傾げている。
その絵を見て一緒に落書きをしていた安倍さんは圭ちゃん、ヘッタクソー、とツッコミ。
そういうなっちの絵はまたペーやないか、と更に中澤さんがツッコミを入れている。
そして、いつもはうるさい辻と加護はこの状況に戸惑っているのか静かだ。
「本当だよね、自分でもわかんないよ」
市井さんはセンターの一番後ろの席に座っている。
右にごっちん、左に矢口さんを引き連れて。
- 19 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時47分05秒
- 「別にどうでもいいじゃん〜。ずっとこのままでもいいや」
そう言ってごっちんが市井さんに抱きつくのを見た矢口さんも負けてはいない。
「えー!?ごっつぁんだけズルイ!矢口も甘えるー!!」
二人に思いっきりホールドされている市井さんは苦笑い。
「そういうのはまた後でいいから…っていうかさ…」
市井さんはそう言いながら肩をすくめる。
「なんで新メンバーの諸君はあたしに近寄ってくんないのかな?」
中澤さん、飯田さん、保田さん、安倍さん、矢口さん、ごっちんは後ろの席。
そして、他の私達四人は一列目に横に並んで座っていた。
「そんなの決まってるじゃないですか!市井さんはごっちんの敵だからです!」
私は声を荒げて言う。
市井さんが脱退してから再会した数ヶ月前。
市井さんは突然現れてごっちんを傷つけるだけ傷つけて。
そして、また突然姿を消してしまった。
- 20 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時47分55秒
- ずっと許せないと思ってた。
でも、何故かごっちんは穏やかな表情になってたけど。
それはきっと市井さんがいなくなったからホッとしてたのかと思ってたんだ。
その事をごっちんに聞いても笑ってるだけで何も言ってくれなかったし。
それなのに、例えこれが夢だったとしても。
何もなかったかのように仲良くしてるだなんて…。
おかしいよ、二人共。
「敵って…随分な言われようだね、あたしって」
市井さんは苦笑いしている。
それがまた気に障る。
「ごっちん、なんで市井さんの隣になんか座れるの?あんなに酷い目にあったのに!」
「え〜?だって、もう仲直りしたもん〜」
「……え?」
さらっと言ってのけるごっちんに対して私は呆然。
…仲直りしてたんだ。
なんだよ…それならそうと早く言ってよ。
すげーカッコ悪いじゃん、私。
- 21 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時49分08秒
- 「もう、気がすんだか?いい加減、本題に入ろうや」
中澤さんが仕切りだす。
「裕ちゃんー、本題って言っても何一つわかんない事ばっかじゃん」
矢口さんがぼやいていると。
「ねぇ?これ何だろ?」
それまで静かにしていた飯田さんが自分の席の後ろにある掲示板を指差す。
- 22 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時49分59秒
『――貴方の願いを一つだけ叶えます――
ここから重要なのでよく読んでおいて下さい。
どんな内容の願いでも一つだけ叶えてあげます。
ちなみに願いを叶えての身体・心の変化はこの世界だけです。
ただ、この世界で起きた事は元の世界に戻っても全て覚えています。
つまり、記憶だけは持って帰る事になります』
- 23 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時50分59秒
- 「…はぁー?何コレ?」
矢口さんが掲示板に貼り付けられていた紙を凝視したまま首を傾げている。
掲示板の前に勢揃いした私達全員が同じ状態だった。
「この世界?元の世界?…うーん。ってことは、やっぱし普通の夢じゃないって事か」
保田さんは顎に手をやり考え込んでいる。
「つまり…ここは異世界って事ですか?」
梨華ちゃんも唸っている。
「なんか胡散臭いねー。何でも願いを叶えてくれるなんてさ」
飯田さんがそう言いながら拒否反応を起こしているのとは対象に喜んでいる人達がここに。
「本当だべか!?」
「マジで?何でも叶えてくれんの!?」
「なっち、裕ちゃん…まさか本気で叶えてもらおうとしてんの?」
市井さんは呆気にとられている。
「ここだけしか通用しない願いなんて意味ないじゃんー」
ホントに叶うかどうかもわかんないし、と矢口さんは眉間にしわを寄せて訴える。
「ええねん、面白そうやないか…っちゅーわけで、私の願いはこれや!」
「ちょっと!!裕ちゃん!?」
矢口さんの言葉を無視して中澤さんは続ける。
- 24 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時51分48秒
- 「私を10歳若返らせてくれー!」
「「「「「「「「「「はぁーっ?!」」」」」」」」」」
10人分の声が響き渡る。
その時…腕時計がピカッと激しく発光した。
そして、私はあまりの光の強さに目を閉じてしまった。
「裕ちゃんー!!!???」
矢口さんのキンキン声が部屋中をこだまする。
目を閉じていた私には何が起こってるのかわからない。
それはみんな同じだったようで…。
それぞれが目を擦りながら目を開ける。
そこにはなんと…。
本当に若返った中澤さんの姿が…。
セーラー服を着てても違和感なんて感じられなくなっている…。
- 25 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時52分36秒
- 「ちょお!ホンマに若くなってるやん!」
見て見てー!と、中澤さん(女子高生バージョン)は嬉しそうに
自分のスカートをピラピラさせながらグルグル回っている。
…キショ。
いや、若返ってるから見た目は普通の女子高生なんだけど…。
でも…中身は今まで通り三十路が手前である中澤さんなわけだから…。
そう考えるとやっぱり…キショ。
「くぅーっ!!肌の張りとか全然ちゃうわー!今ならスッピンでTVに出てもええねっ!」
若いってやっぱええな!と中澤さん(女子高生バージョン)はとってもご満悦のようだ。
しかし、中澤さん(女子高生バージョン)以外は皆、言葉を失っていた。
「…マ、マジ?」
しばらくして矢口さんが口を開いた。
中澤さん(女子高生バージョン)の変貌ぶりに他のみんながざわめいている。
「ね〜、ちょっとコレ変わってるよ〜」
ごっちんが腕時計を指差して言うのを見て、メンバー全員が自分のを見る。
- 26 名前:−吉澤ひとみ視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時53分19秒
- …あれ?
「本当だ。『10』になってますよ…」
辻がキョトンとしている。
「ホンマや〜、さっきの光に関係してんのかなぁ〜?」
加護はどういう仕掛けだろう?と、時計をコンコンと軽く叩いている。
「わかりました!願いを叶えると時計が光って数字が減るんですよ!」
梨華ちゃんは誇らしげに言ってるけど、そんなの他の皆ももう気付いてると思うんだけど。
「元からそう仕組まれてたんやなぁー」
と中澤さん(女子高生バージョン)が妙な関心をしていた。
「本当にまた数字が減るかどうか、なっちが試してみる!」
安倍さんが嬉しそうに言うと市井さんがツッコミを入れる。
「試すとか言って、ただ単に願い事を叶えたいだけなんじゃないの?」
「別にいいっしょ。問題ないって」
そう言って安倍さんは大きく息を吸い込んだ
そして、安倍さんは中澤さん(女子高生バージョン)に続いて自分の願いを叫んだ。
- 27 名前:マインド サーカス 投稿日:2001年08月06日(月)01時54分11秒
- 不思議な世界。
何でも自分の思い通りになる世界。
ここはきっと私達の為だけの世界。
- 28 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時54分45秒
- 光が消えた後、腕時計を確認するとやはり『9』になっていた。
「これってやっぱり願い事の数なんだね〜」
後藤さんは何事もなかったかのように納得してるけど。
「…安倍さんの願いって」
梨華ちゃんはこれ以上何も言えなかったらしい。
顔が引きつっている。
「すごーい!本当にサマナイくらいまで痩せた!すっごーい!あははははっ!!」
歓喜のあまりテンションが林屋パー子さんみたいになっている。
安倍さんは激ヤセした身体を願ったのでその通りの姿になってんけど…。
おばちゃんキャラは変わってないで…。
っていうか、怖っ!
これやったら骸骨みたいやんか…。
安倍さん、最近頑張ってダイエットして痩せてたけど、やっぱ気にしててんなぁ…。
…でも、本当に何でも叶えてくれんのかぁ〜。
- 29 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時55分21秒
- 姿が変わった二人をポーっと見てる人間が私の隣にいる。
「ののはもう決めたん?」
「えー?迷ってるんだよね!お菓子いっぱい出すとか
最近太り出したから安倍さんみたいに痩せるとか」
…もうちょっと派手な願いを考えたらええのに。
なんか、ののらしいけど。
「あいぼんは何か考えたの?」
「いや〜、まだやけど」
「…知らないよ、見返りとかあっても」
私達の後ろから聞こえたその言葉にハッとした。
「圭坊は夢も希望もないこと言うなぁー。絶対、人生損して生きてるやろ?」
「裕ちゃんとなっちが考えなしなのよっ!」
キレてる保田さんを相手にせず、中澤さんはバカにしたように鼻で笑っている。
「意地はってないで、圭坊もそのエラ治してもらったらええやんか」
「な!何て事言うのよーっ!?」
保田さんに対する御法度な言葉を言う中澤さんに対してキーッと発狂する保田さん。
「ま、ええやん。こうやって姿変えられるのも今だけなんやから」
「そうそう。こんくらいなら元の世界に戻っても何の影響もないっしょ」
二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。
- 30 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時55分58秒
- 他の人等も自分の願いを何にするか考えてるみたいやねんけど。
「はい!は〜い!!後藤は市井ちゃんを男の人にしたい!」
後藤さんは手を挙げ、嬉しそうに言っている。
「はぁー?!後藤ってば何言ってんの!?」
突拍子もない後藤さんの言葉に驚いている市井さん。
「え〜、だって……ねぇ?」
「何が、ねぇ?…だか。そんな願いしたら絶交だからね」
「え〜!?…ちぇ。じゃあ、せめて学ランってのはどう?」
「だから、何がせめてなんだか…」
市井さんは呆れている。
「…じゃあ、市井ちゃんは何をお願いするの?」
市井さんの男性化案を仕方なく諦めた後藤さんは心底残念そうに聞く。
っていうか、今の願いにどういう意味があんねん?
「あたしは別に何も願わないよ」
当たり前のように言う市井さん。
そしてそれに対して後藤さんはえ〜!?と大声を出して驚いている。
「もったいない〜!どうして!?」
「だって、別に叶えてもらいたい事なんてないもん」
「…欲がないねぇ〜、市井ちゃんって」
- 31 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時57分13秒
- 市井さんと一緒にいると、こんな風になるのかぁ〜。
後藤さんがこんなに幼いとは思わなかった。
私や他の新メンバーが市井さんと一緒に活動してたのは数ヶ月。
その時はすでに後藤さんは私の教育係だったからビシッとしてたのに。
いや、ビシッとしてるっていうよりはボーッとしてたのかもしれないけど。
前に市井さんが現れた時も何故か険悪だったから仲良くしてるとこを見た事がなかった。
だから、本当に変な感じがした。
- 32 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時57分50秒
- 「矢口の願いは背を伸ばすってのはどう?」
飯田さんがそう言うと矢口さんは人差し指を立て、チッチッチッと横に振った。
「そんな事したら普通の人になっちゃうじゃん。チャームポイントがなくなっちゃう」
「そりゃそうだ。じゃあ、何を願うの?」
「うーん…紗耶香の心を矢口のものにするとか?」
矢口さんのこの言葉にすばやく後藤さんと中澤さんが反応する。
「ダメ!ダメ!!ダメ〜!!そんなの却下!!」
「アカン!そんなん絶対アカン!」
「別にいいじゃん、矢口の願い事なんだしー。
っていうか、なんで裕ちゃんまでダメ出しすんだよ?!」
矢口さんは首を傾げている。
「矢口ー、そんなのしても現実に戻ったら虚しくなるだけだよ」
飯田さんが願いで心を変えても現実では元通りって書いてたじゃん、と諭すように言う。
「…わかってるよ。言ってみただーけ」
矢口さんはすぐに諦めた。
それを聞いて、後藤さんと中澤さんはホッとしている。
「あのー、あたしの意志はおかまいなしなわけ?」
市井さんは苦笑いしている。
- 33 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時58分21秒
- よっすぃーと梨華ちゃんはぼんやりこの光景を見ていた。
「よっすぃーは何か考えたの?」
梨華ちゃんが聞くとよっすぃーは首を横に振り、逆に梨華ちゃんに聞く。
「梨華ちゃんの場合は色白にしてもらうっていうのはどう?」
「酷いー!!よっすぃー!どうしてそんな事言うのー!?」
よっすぃーが何気なく言ったこの言葉に心底ショックを受ける梨華ちゃん。
「な、なんでそんなに怒るのさ?!」
よっすぃーはうろたえている。
「そりゃ、よっすぃーは色白だからいいよね…どうせ私は色黒だもん……」
どうせ自分の力だけじゃどうやっても白くなれないよ、と泣きそうな顔をしてぼやく梨華ちゃん。
よっすぃーはその様子を見て途方に暮れていた。
ネガティブモードに入ってしまった梨華ちゃんはもう誰にも止められない。
- 34 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)01時59分23秒
- よっすぃーがため息をついているのとは対照的に隣で大声をあげる人が。
「あ!いい事思いついた!矢口、天才ー!!」
「…どうせろくでもない事なんでしょ?」
保田さんのツッコミをシカトして矢口さんは興奮している。
「願いを叶えなくてもこの世界にいるうちに紗耶香の気持ちを自力で矢口に向けたらいいわけだよ!」
「……は?」
それを聞いて市井さんは呆然としている。
「なんでそうなんの〜!?」
後藤さんは本気で焦っている。
「だって、記憶は残るわけでしょ?
そりゃ、紗耶香がごっつぁんの事を好きなのはわかってるけどさー。
今後どうなるかわかんないじゃんー?
へへへ…もう、ごっつぁんに気を使ったりしないからねー。
紗耶香の気持ちを変えてみせるぞー!!」
これってスッゴイ名案!と矢口さんは自分の閃きにご満悦。
市井さんは相変わらずこの流れについていけていない様子。
- 35 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時00分15秒
- 「…矢口ってば、マジであたしの事好きだったの?」
「何回も言ってんじゃん!紗耶香がいつも真剣に受け止めてくれてないだけだよ!」
その言葉に激しく反応する中澤さん。
「なんやとー!!矢口ー!酷いわ!!
いつも紗耶香、紗耶香って言いよってからに!
裕ちゃんはメッチャ矢口の事が好きやねんで!!」
「はぁー?それとこれとは関係ないじゃん!それに裕ちゃんのは冗談でしょ!」
「なんちゅー酷い事を!」
「そうだよ、矢口。裕ちゃんの気持ちも考えてあげなよ」
「なっちまで何言うんだよー!?裕ちゃんこそ、ふざけて言ってんじゃん」
「紗耶香も矢口もモテモテだね」
「も〜!ホントにやめてよ〜!!」
それぞれが異様なテンションで騒ぎまくってるからやかましい。
なんだかよくわからへん状態になってんけど…。
「なんだかんだ言って皆仲がいいよね」
「そうだねー」
よっすぃーとネガティブモードが何時の間にか解除されていた梨華ちゃんは顔を見合わせている。
横を見るとののはまだ自分の願いを何にするかひたすら悩んでいた。
- 36 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時00分49秒
- ようやく騒ぎが落ち着いて来たら今度は何もする事がなくて
皆、退屈し始めた。
「暇やなぁー。誰かなんか面白い事やってや、暇でしゃあないわ」
中澤さんはあくびをしながら行儀悪く机に足をかけた状態で座っている。
若返ってもこういうとこは変わらへんのか。
「でも、確かに暇だけどたまにはいいんじゃない?
こんなにのんびりした時間を過ごす事が出来るっていうのも滅多にないもんね」
飯田さんはそう言いながら中澤さんのスカートがめくれあがっていたのを直してあげている。
「そうだ!ちょうどいいわ!!」
保田さんは何か閃いたのか、勢いよく私達の方へ振り向いた。
どうも不敵な笑みを浮かべているように見えるのは気のせいやろか。
「…どうしたんですか?」
「あんた達、最近ちゃんとしたボイトレしてないでしょ?
せっかくだからここでやりなさいよっ!」
梨華ちゃんがおどおどしながら聞くと保田さんはニヤリと笑ってこう言った。
「「「「えー!?」」」」
叫んだのは私とののと梨華ちゃんとよっすぃー。
保田さんがあんた達と言ったのはこの四人だからだ。
- 37 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時01分21秒
- 「えー?じゃないわよ!大体、娘。っていうのはねー、最初は歌で勝負してたのよっ!
何時の間にかアイドルなんて呼ばれるようになっちゃったけどっ!!
まだまだアーティストとしての志は持ち続けないとダメなのよ!」
胸の辺りに拳を作って保田さんは力説している。
「いいねー。圭ちゃんは相変わらずカッコいいねー」
市井さんはそんな保田さんを見て感心していた。
「あのぉ…」
ののがポカンとした表情のまま手を挙げる。
それを見て保田さんはキリッとした顔でののを見る。
「何よ?」
「『志』ってなんですかぁー?」
ののの言葉に保田さんはずっこけた。
「…辻は学校の勉強も頑張れ」
飯田さんがののの頭を撫でながらフォロー。
「コラ!加護!!どこ行くのよっ!!」
その間に私はこの場から逃げ出そうとしたが、あっさり保田さんにバレる。
「ちょ、ちょっとトイレに行ってきます」
「あ、辻も一緒に行ってきますぅー」
ののも逃げるようにして私についてくる。
「早く戻ってきなさいよっ!じゃあ、残った二人は早速始めようか」
「「えー!?」」
逃げ送れたよっすぃーと梨華ちゃんの悲痛な声を聞きながら
私とののは悪魔の住む部屋から逃げ出した。
- 38 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時01分59秒
- 結局、願いを叶えたのは中澤さんと安倍さんだけ。
他の人等はいまだ何にするか考え中のようやねんけど。
「なんか変なとこだよねー」
ののはキョロキョロしながら歩いている。
悪魔の住む部屋に戻る気が全くなかった私達は
かなりの時間をかけて校内探検をしていた。
あれからどれくらい時間が経過しているのかどうかなんてわからないけど。
それでも、やっぱり私達以外の人を見つける事は出来なかった。
「ホンマやなぁ〜。それに、ここに来て結構時間経ってるのに…ほら見てん?」
私は窓の外を指差す。
窓の外は真昼間って感じで、太陽がちょうど真上にあった。
「時間が止まってるのかも。来た時も太陽の場所同じくらいのとこにあったやろ?」
「本当だねー。うーん…どうしたらいいのかなぁー?」
「でも、これってただの夢やろ?あんまし深く考える事もないような気がすんねん」
自分自身にボヤいたつもりやってんけど、ののはそうだよね、と返してきた。
なんかおかしいなぁ、ののがホンマもんみたいやわ。
それは他の人等にも言えることやねんけど。
どうでもええけど、いつになったらこのヘンテコな夢から覚められるんやろ…。
- 39 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時02分39秒
- 今のこの状況に戸惑いを感じて、ため息をついていると。
「きゃっ!!」
遠くから叫び声が聞こえた。
その声に驚き、肩をビクつかせるのの。
今の声は…。
「あいぼん…今の」
ののはおどおどしながら私の顔を見る。
私も少し緊張気味な表情になる。
「ひ、悲鳴…やんなぁ?」
そう言ってまた何か聞こえてくるかどうか待ってみたけど。
辺りは静まり返っている。
「…何も聞こえないね」
「きっと、ここが悲鳴があったとこから離れてるんや。
とりあえず聞こえてきた方へ行ってみよ!」
声が聞こえた階段へののと二人で急いで走る。
その時、誰かの影が見えた。
私がそれを確認しようとすると後ろから声をかけられた。
「何があったの?今の叫び声は何?」
「あ!よっすぃー!!」
「わからへんねん。あっちの階段やと思うんやけど」
私が指差して言うとよっすぃーは先に行ってしまった。
「のの、急ご」
青ざめた顔をしているののの手を引っ張り私達も駆け出した。
- 40 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時03分09秒
- 「大丈夫?!」
私達が階段についた頃にはよっすぃーが倒れている主に心配そうに声をかけていた。
私とののは何が起こったのかわからずにその場で立ち尽くしてしまう。
「後藤!大丈夫!?」
その声を聞いてハッとする。
私の視界には階段の一番下で倒れている後藤さんの姿があった。
後藤さん…もしかして階段から落ちたんか…。
市井さんが倒れている後藤さんを抱き起こし、激しく揺らす。
もし頭打ってたら揺らしたらマズイんちゃうのかなぁ。
「…ん。大丈夫」
気絶はしてなかったようで、すぐ返事が返ってきた。
「よかったー、ビックリしたよ」
よっすぃーはホッとしたようだ。
「…い、一体、どうしたんですか?」
ののが聞くと。
市井さんは言い辛そうな顔をして、こう言った。
「…あたしと後藤が階段を降りてたら後ろから誰かに突き落とされた」
「え!?」
市井さんの衝撃の告白によっすぃーとののも驚く。
もちろん、私も。
そして、私はさっき見た人の顔を思い出した。
まさか…そんなアホな。
「ここには私達しかいないはずですよ…ね?」
この…ののの言葉を最後にみんな黙り込んでしまった。
- 41 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時03分50秒
- それからしばらくして全員を招集する為に私達は他の人達を探し歩いていた。
私達の周りの空気は重い。
自らさっきの話題を振る者もいなかった。
「市井ちゃん〜…後藤、重いんだから降ろしてくれていいよ〜」
後藤さんは市井さんにおんぶされたまま控えめな発言をする。
「いいからジッとしてなよ!大きな怪我がなかったからいいものの…」
市井さんは何故か怒っている。
後藤さんはこれ以上、何も言う事が出来ずに黙り込んでしまった。
一番先頭を歩いているよっすぃーも何故か怒ってるように見えるし。
隣で歩いているののはずっと下を向いている。
…なんで、こんな事になったんやろ。
私はため息をついた。
- 42 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時04分29秒
- 教室に全員が揃ったのはいいが、やはり空気が重い。
現場にいなかったメンバーは後藤さんが誰かの手によって怪我した事に心底驚いていた。
それぞれの表情が硬い。
「後藤の怪我は右肩の軽い打撲ってとこか。よかったなぁ、大したことなくて」
しばらくして中澤さんが安心した顔で言ったのだけど。
「……何がいいのさ?!」
後藤さんの肩を抱いたまま、市井さんは顔を強張らせて大声を出す。
その声に他のメンバーはビクッとした。
「…さ、紗耶香?」
「考えてみなよ?ここってあたし達しかいないんでしょ?」
「そうやなぁ…って、ことはつまり…」
「この中に後藤を怪我させた人がいるって事だよ!」
市井さんは本気で怒っている。
「ちょ、ちょっと待ってよ、紗耶香。
もしかしたら私達の他に誰かいるのかもしれないじゃない?」
見つけられなかっただけかも、と保田さんが慌てて言うけど市井さんは聞く耳を持たない。
「まだそんな事言ってんの?あれだけ探して誰も見つからなかったんだよ?
いい加減にここにはあたし達しかいないって認めようよ。
真実から目を背けちゃダメだよ、この中に確かに犯人はいるんだ」
「そんな、バカな…」
矢口さんは言葉を失っている。
- 43 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時06分04秒
- この中に犯人がいる。
市井さんのこの言葉を聞いて、それぞれが自分以外の人を意識し始めた。
誰一人として、いつもと何も変わらない態度を取っているように見える。
後藤さんを階段から突き落とした後に普通の態度をとっていられるなんて
よっぽどの演技派か神経が麻痺してるとしか思えない。
それでもこの中に犯人がいるのは確かやねん…。
さっきまでピリピリしていた市井さんも徐々に落ち着きを取り戻したようだ。
それでも市井さんは後藤さんに他に怪我していないのか何度も聞いている。
こんなに自分に余裕のない市井さんを見るのは初めてや。
私が娘。に入る前の市井さんはよく知らへんねんけど。
一緒に活動してる時はいつも生き生きしてて、自信に満ち溢れていて。
そんな姿しか見た事がなかったから、なんや不思議な感じがした。
私はそんな事を思いながら、横目である人を見ていた。
彼女の顔色は悪い。
悲鳴を聞いた時に見た人。
でも、その後決して現場には近づかなかった人。
私に自分の姿を見られた事に気付いているはず。
だって、目が合ったから。
- 44 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時06分36秒
- 彼女が犯人?
突き落とす瞬間を見たわけじゃないからハッキリそうだとは言い切る事が出来ないけど。
それでもこれだけ不自然な行動をしてたら怪しいと思わない方が変だ。
本当に…彼女なのやろか…。
私が考え込んでいると横からののが困り顔をして小声でささやく。
「…ねぇ、あいぼん」
「何?」
どうしたんやろ?
ののは何か知ってんのかなぁ〜?
私が呑気にそんな事を思っていたら、ののは泣きそうな顔になってこう言った。
「あいぼんは違うよね?何もしてないよね?」
はぁ?!
私はののの問いかけに度肝を抜かれた。
「ちょ、ちょっと待って。ののは疑ってんの!?」
この私を!?
私がビックリしているとののは慌てて首を横に振った。
「ち、違うよぉー!ちゃんと確かめておきたかっただけだよ!
あいぼんの事、ちゃんと信じてるからこうやって聞けるんだよぉ!!」
「ホンマ、止めてや〜、ビックリするやんか。
もちろん犯人ちゃうで。大体、悲鳴が聞こえた時に一緒にいたやんか。
それにこっちだって、ののがそんな事するわけないって思うてんねんから!」
「ゴメン…。でも、それを聞いて安心した」
ののはすまなさそうな顔をして笑った。
- 45 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時07分22秒
- そっか。
ののはちょっとでも今、自分が抱いている不安を取り除きたかったんや。
誰一人、信じらないまま一緒に行動するって嫌やもんなぁ。
周りはまだ疑心暗鬼のままで、会話らしい会話も聞こえてこない。
私とののみたいにすればいいのに。
でも、そう簡単にはいかへんねんな。
「そういえば、のの達はお願い使ってないけど、もう何もしない方がいいかもしれないねぇー」
しばらく前まではあんなに願い事を何にするか考えてたののが
イキナリ否定的になっていたので少し驚いた。
「何で?」
私が聞くとののはだってー、と唇を尖らせる。
「保田さんが言ってたみたいに見返りとかあったら嫌だし。
それに今はそれどころじゃないもん…」
「まぁ、確かにそうやなぁ〜」
私はそう言いながらも上の空だった。
実は少し前から自分の願いの事を考えていたのだ。
一つ閃いたんやけどなぁ〜…。
でも、今その願いを言う状況やあらへんねんもんなぁ…。
どうしよかな…。
しばらく様子みとこかな。
事態が変わったら、その時どうするか考えよ。
- 46 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時08分02秒
- 「ね、ねぇ?これなんか変わってない?」
安倍さんが教室の後ろを指差す。
それは例の願いを叶えますうんぬん〜の紙があった掲示板。
「あれ?ホントだ。なんか紙が一枚減ってない?」
矢口さんのこの言葉を聞いて初めて気がついた。
願い事を叶えると書いてあった隣の紙が剥がされている。
その紙を固定していた画鋲はそのままに。
「何が書いてた紙なんだろ?誰か内容を見た?」
保田さんがみんなに聞くけど一同に首を振る。
「剥がされてるのって何か意味があるんでしょうか?」
何か重要な事が書いてあったとか…と、梨華ちゃんが言うと。
「ちょお、待って。みんな誰も剥がしてないねんな?」
中澤さんが何かに気付き、真剣な顔をして聞いてくる。
その質問にもみんな自分は違うと首を振っていた。
- 47 名前:−加護亜依視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時08分42秒
- 「中澤さん、どうしたんですか?」
よっすぃーが尋ねると中澤さんは口をつぐんでしまう。
それを見て市井さんはため息をついた。
「…裕ちゃんが言いたい事はわかるよ。
ここにあったはずの張り紙はこの中の誰かが剥がしたんじゃないか、って事でしょ?」
市井さんの言葉にまたみんな黙り込む。
それでも市井さんは気にせず、言葉を続けた。
「この中にいる嘘つきさんは剥がした紙の内容を誰にも見せたくなかったって事か…」
- 48 名前:マインド サーカス 投稿日:2001年08月06日(月)02時09分16秒
- 何が真実で…。
何が虚空で…。
そんなもの何もわからない…。
道に迷っても自分を信じて進むだけ。
ただ、それだけ…。
- 49 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時09分53秒
- 市井ちゃんはしばらく後藤と二人っきりにして、とメンバーに言い
私達は美術室に入った。
「やっと二人っきりだ〜」
私が嬉しそうに言うと市井ちゃんもニコっと笑ってくれた。
「あの時、以来だね」
「へ?あの時って?」
「前に指輪あげた時だよ!忘れんなよー」
まったくもー!とブツブツ言っている市井ちゃんを見て、まさか…と思った。
「い、市井ちゃん…。ちょっと質問してもいい?」
「んー、何?」
「……市井ちゃんも前の夢の記憶があるの?」
「うん、あるよ。だから、あの時に言ったじゃん。また会えるさって」
いや、それはそうだけど…。
まさか本当に会えるなんて…。
っていうか、なんでまた会えるって市井ちゃんはわかってたんだろう?
- 50 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時10分33秒
- 『この世界で起きた事は元の世界に戻っても全て覚えています』ってあの紙に書いてあったけど。
前回の夢の内容もこの世界での出来事だったって事?
ってことは今回も同じ夢を皆で共有してるって事になるのかなぁ…。
そういえば市井ちゃんから貰った指輪も不思議だったんだよね…。
今の私達二人の指にはペアリングがある。
もちろん現実の私もこのリングをしてるんだけど。
う〜ん…って事は…。
この世界=異世界=皆が一緒に見てる夢の中
…こういう事?
- 51 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時11分14秒
- 「後藤…大丈夫?ホントは怪我したとこ痛いんじゃないの?」
黙り込んでしまった私を見て市井ちゃんは心配そうな顔になってしまった。
私が黙った理由はちょっと違うんだけど…。
「あ!まさか頭もブツけてたとか!?これ以上頭悪くなったらどうすんの!?」
……?………っ!?
「い、市井ちゃん!何て事を言うのさ!!
せっかく、この変な世界の謎について考えてたのに!」
私の頭が悪いのは事実だけど、あんまりだ。
いくら市井ちゃんだって言って良い事と悪い事があるよ。
まったくも〜。
私が怒ってるのにあまり気にしていない様子で平謝りする市井ちゃん。
「あー、そうだったんだ。ゴメン、ゴメン。
ま、いいじゃん。深く考えたってわかんないもんはわかんないさ」
「う〜ん、そりゃそうだけどさ」
なんか変なの。
なんでこんなに市井ちゃんは落ち着いてるんだろ。
だって普通は誰だってもっと戸惑ったり、不安になったりすると思うんだけど。
何時の間にか市井ちゃんって楽観的な思考の持ち主になったんだね。
…って、そういう問題なのかな。
- 52 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時11分56秒
- 「でも、マジで怪我は大丈夫なわけ?」
「大丈夫だよ〜、後藤って頑丈だからね!
そんな事より市井ちゃんが階段から落ちなくてよかったよ〜」
市井ちゃんの身体ってなんか直ぐ折れそうだもんね、と私は笑いながら言ったのに
市井ちゃんは真剣な顔をしていた。
…まさか、市井ちゃんも私と同じ事を考えてるのかなぁ。
「あのさ…あれって本当はあたしを狙ったんだと思うんだよ」
…やっぱり。
「…うん、後藤もそんな気がしてたんだ。でも、今までにも現実世界で誰かの視線を感じてたから
本当に後藤を狙ってやったのかも…とも、思うんだけど…」
「どっちも考えられるね。あたしも気付いてないとこで誰かの恨みを買ってるかもしんないし…」
市井ちゃんは苦笑いしながらそう言い、さらに言葉を続ける。
「もし、狙われてるのが後藤だとしたら、それって現実でも感じてた視線の主だろうね。
現実では何もしてこなかったけど、ここは異世界みたいなもんだから
犯人のやりたい放題出来るってわけだ」
- 53 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時12分34秒
- 「や、やりたい放題って…後藤、何されるわけ?」
私がおどおどしながら言うと。
「相手がどこまで本気なのかがわかんないから何とも言えないけど…。
嫌がらせはこれだけじゃ終わらない気がする。
ここでは何でも願いを叶えてくれるらしいし。
もしかしたら、その願い事で後藤に何か仕掛けてくるかもしれない…」
「じょ、冗談でしょ〜!?」
「冗談だといいんだけど…」
「市井ちゃん〜…」
泣きそうな顔をしている私を安心させようとしたのか市井ちゃんは抱き締めてくれた。
「まだわからないよ。あたしを狙ってる可能性もあるわけだし」
「そんなのもっと嫌だよ!市井ちゃんに危険な目にあって欲しくないもん!!」
私は思いっきり市井ちゃんを抱き締め返す。
「へへ…ありがと。それはあたしも同じ気持ちだよ」
それでも私の中にある不安は取り除けなかった。
だって、市井ちゃんめがけて手が伸びてきたのを私は見たから。
とっさに自分の身体をその手に寄せたら自分が落ちちゃったんだけど。
あの時、ちゃんと相手の顔を見てたらなぁ…。
- 54 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時13分07秒
- 市井ちゃんは私の両肩に手を置き、そしておでこを合わしてきた。
「あたしはさ、物理的な攻撃にはなんとか耐えられると思うんだよ。
でも、精神的な攻撃をされた時には…自信がない」
「…え?」
市井ちゃんが何を言ってるのかわからない。
「市井ちゃん…後藤、バカだから意味がわかんないよ」
「つまりさ、あたしが攻撃されると一番ダメージを受ける事ってのは後藤に何かあった時って事だよ」
正直、今もまいってる…と、市井ちゃんは眉間にしわを寄せ目を閉じた。
「そ!そんなの後藤だって一緒だよ!!」
「うん、だから…また、そこを突かれたら痛いなーと思ってさ。うちらってまだ願い使ってないじゃん?」
「うん」
「後藤はあたしに何があっても願いを使わないでね」
「え?!どういう意味…?」
「もし、仮にあたしが相手に何かされた後じゃ後藤を守る事が出来ない。
だから、後藤はあたしの事なんて構わず自分の為に願いを使って自分を守って」
「そんなの嫌だよ!!」
私はそう言いながら市井ちゃんを強く抱き締める。
- 55 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時13分48秒
- 「いいからそうしろっつーの!
それに、別にこれから絶対に何かが起きるってわかってるわけじゃないし。
とりあえずは何かあった時の為に備えて、簡単に願いを使おうとすんなって事が言いたかっただけだから」
市井ちゃんは優しく背中をポンポンと叩いてくれる。
「…う、うん。市井ちゃんの言う事ならなんでも守るよ」
「よーし、いい子だ」
市井ちゃんは私の頭を乱暴に撫でる。
「でも、市井ちゃんも守ってよ?」
私は市井ちゃんの肩に両手を置き、市井ちゃんの顔をよく見えるようにする。
「何を?」
「逆に後藤に何かあっても同じだからね!」
「…うん、わかった」
市井ちゃんはニッコリと笑ってくれた。
市井ちゃんの事を信じてるから。
後藤は何でもその通りにするよ。
- 56 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時14分37秒
- そういえば、一つだけちょっとした疑問があるんだけど。
「ねぇ?市井ちゃん…」
「どした?」
市井ちゃんは私の顔を見て首を傾げる。
「さっき絶対に願いを使わないって約束したけどさ。
また危ない目に合わない為にも、もう元の世界に戻りたいっていう願いはしちゃダメなの?」
「え?」
「その方が早くない?」
また怪我するかもって不安に思ってるより、さっさとここから逃げた方が安全だと思うんだけど。
私がそう思ってると市井ちゃんは腕を組んで考え込んでいた。
「そりゃそうだけどさー…。
でも…ここなら後藤がずっと元の世界で感じてた視線の相手がわかるかもしんないんだよ?」
「…う」
それを言われたら何も言えなくなる。
確かに知りたい。
誰が私の事を良く思ってないのかを。
でも…。
- 57 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時16分06秒
- 「仮にだよ、あたしが後藤の事を嫌っててそれを元の世界でそれを隠してるとするじゃん?
で、たまたまこんな変な世界にやってきて。
じゃ、何するか?って考えたら自分の日頃の鬱憤を晴らすと思うんだよ」
「や、止めてよ!そんな事言うの〜!!」
「…だから、仮の話だってば」
「……仮でも嫌だよ」
そんな話聞いたら私がこれから市井ちゃんに意地悪されるように聞こえて嫌だ。
「んー、だから絶対にここなら…言い方悪いけど犯人が判ると思うんだよ。
だから頑張ろう!
もし、犯人が誰なのかを知る為に様子を見てようよ。
確かに危険な目に合うかもしんないけどさ」
「…わかった。自分から元の世界に戻るとかってのは考えないようにする」
私は仕方なく言うと市井ちゃんは苦笑いしていた。
「でもさ〜、よく考えたらなんで誰一人、元の世界に戻るっていう願いを思いついてないんだろ?
不思議だよね」
私が頭を傾げながらそう言うと市井ちゃんは軽く唸る。
- 58 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時16分36秒
- 「うーん…確かにそれはそうだよね。
犯人はもちろんの事、あたし達にはここに残る目的がある。
でも、あとのメンバーにはここに残る理由なんてないか…」
「あんまし、そこまで深く考えてないのかな?」
「そうかもね。それに皆は後藤と違って危険な目にあったわけじゃないからだろうね」
「やっぱ、願い事を叶えてくれる〜って言われたら普通は自分のしたい事しか考えないか」
「だね」
私も本当は自分の願いを叶えたいとこだけどね。
元の世界でも市井ちゃんと会えますように〜、って願いかけても
そういうのは叶えてくれないみたいだし。
ま、私の願いは別にいいや。
市井ちゃんとこうやって一緒にいられるだけでも充分幸せだもん。
だから、今のうちにイチャイチャしとこっと。
- 59 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時17分07秒
- 私は甘えるように市井ちゃんに頬擦りする。
「くすぐったいよ…後藤」
「じゃあ…これでどうだ〜!」
そう言いながら私は市井ちゃんのほっぺに軽くキスをする。
市井ちゃんは少し驚いてみせて、それから白い歯を見せてニカッと笑う。
「何だー?積極的だなぁ」
「だってさ〜、折角市井ちゃんとまた会えたのに辛い思いばっかなのは嫌じゃん。
だから、二人っきりの時は何も考えずに楽しみたいだもん」
「そりゃそうだ。じゃ…」
そう言いながら市井ちゃんは顔を近づけてくる。
私はそれを確認して、そっと瞳を閉じた。
- 60 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時17分43秒
- ……。
あ〜、やっぱ幸せ。
現実でも早くこうなればいいのに。
「ねぇ…市井ちゃん」
私は市井ちゃんの首に腕を絡めて市井ちゃんの顔を覗き込む。
「どした?」
市井ちゃんは私に抱きつかれたまま、軽く私の背中に腕を回す。
「そういえば、前に手術は成功したって言ってたよね」
「何?突然。……ったく、相変わらずムードも何もないな、後藤は…」
市井ちゃんは呆れている。
「相変わらずとか言わないでよ…で、言ってたよね?」
しつこく聞く私を無言で見つめて市井ちゃんはため息をつきながら私を抱き締めていた腕を離した。
「うん、言ったね」
「じゃあさ、戻ってこれる時期とかまだわかんないの?」
「それって元の世界で…って事?」
「…当たり前じゃん」
私はむぅ〜、と頬を膨らせる。
…なんでそんなつれない返事するかな。
- 61 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時18分16秒
- 「後藤は何時だと思う?」
逆に市井ちゃんは質問してくる。
「わかんないから聞いてんのに…」
「だって、簡単に教えたら面白くないじゃん」
「面白いとか面白くないとかそんなんどうでもいいじゃんか〜!!」
ますます不機嫌になる私を見て市井ちゃんは笑っている。
ハッキリ言って私にとっては全く面白くも何ともないんだけど。
そんな意地悪してないで早く教えてくれればいいのに。
「あー、もうそんなに怒るなってば」
そう言いながらも、まだクスクスと笑っている市井ちゃん。
「怒らずにいられないもん!」
イジけ始めた私を見て市井ちゃんは笑いを止める。
「ありゃりゃ…そんなに怒るなってば。
大体、後藤が悪いんじゃん…」
「なんで〜!?後藤、何もしてないじゃんか!」
「……まぁ、いいけどさ。あー、もう怒るなって」
ちょっとやり過ぎたと思ったのか、市井ちゃんは頬をポリポリと掻いている。
「…ちゃんと教えてくれたら機嫌直すよ」
「わかった、わかった。ちゃんと言うよ。だから、もう機嫌直してよ」
やっと市井ちゃんは言う気になったようだ。
- 62 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時18分46秒
- やった〜!
市井ちゃんと元の世界でまた会えるのは何時だろう?
もしかしたら案外もうすぐだったりするのかな?
それともまだ時間がかかるのかな?
…どっちだろう?
かなりドキドキしてきた…。
私が今か今かと市井ちゃんの口が開くのを待っていたら
その時、市井ちゃんの声ではない誰かの声が先に私の耳に入った。
- 63 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)02時19分56秒
- 「…あの、ちょっといいですか?」
ドア越しからの声。
「いいよ、入ってきても」
市井ちゃんは迷いもなくドアに歩み寄り、そして扉を開けた。
そこには加護の姿があった。
「どうした?」
困ったような顔をしている加護を見て首を傾げる市井ちゃん。
「お話したい事があるんです」
関西弁特有のイントネーションで、それでも標準語を使いながら加護は言う。
「……何?それって大事な事?」
私は市井ちゃんとせっかくいい雰囲気になっていたのを壊されて少し不機嫌だった。
っていうか、今が一番大事な時だったのに!
市井ちゃんを見るとさっきまで私達が話していた内容なんて忘れたかのように
加護をすすんでこの部屋に入れている。
何だよ〜!?もう!!
こんな状態で私の機嫌が悪くならないわけないじゃん!
でも、加護は私から何かを感じ取った…というわけではなく、最初っから気まずそうにしていた。
これから言う言葉がそんなに言い難い言葉なんだろうか?
そして、加護は重い口を開いた。
「加護…見たんです。後藤さんを階段から突き落とした人を…」
- 64 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月06日(月)02時23分10秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<引越し完了ー!
うーん、これだけで50も超えるとは。
まだ半分もいってないのに嫌なペースだなぁ(爆)
スレを渡り歩く事だけはしたくないんだけど。
- 65 名前:マルボロライト 投稿日:2001年08月06日(月)03時14分21秒
- ( ´ Д `)<1番乗りだよぉ〜
新スレ引越し祝いは何もあげられないですが(w
こっちでも頑張って下さい♪
- 66 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月06日(月)03時42分21秒
- ( ´ Д `)<ふぁ?2番かぁ〜
‥‥ってことでこんなHNですが、実は前擦れ424です(w
マルボロライトさんのパクりです(爆
こんな私ですが応援させてもらってます(ポジティブ、ポジティブ!
- 67 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)22時51分04秒
- 「…え?」
市井ちゃんは言葉を失った。
それは私も同じ事。
「あのぉ…だから、後藤さんを…」
「誰!?誰なの!!!」
加護の言葉を遮って市井ちゃんは叫ぶ。
私を階段から突き落とした相手…。
やっぱりメンバーの中にいたのか…。
わかっていたけど、こうやって改めて知るとショックを隠しきれない。
そんな事を考えてると辺りが静まっている事に気付いた。
市井ちゃんの剣幕に驚き、加護が固まってしまっていたのだ。
市井ちゃんは市井ちゃんで今か今かと加護が話し始めるのを待っている。
「市井ちゃん〜…、加護がビビってるじゃん」
「…あ、ごめん。ビックリさせる気はなかったんだけど…」
興奮状態だった市井ちゃんは大きく深呼吸をして肩の力を抜く。
そして、しばらくしてやっと落ち着いた加護は口を開いた。
「…加護が見たのは安倍さんなんです」
- 68 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)22時55分55秒
- 「「なっち!?」」
私は市井ちゃんとハモって叫んでいた。
私達のあまりのも大きい声を出したものだから加護はとっさに耳に手を当てて顔をしかめる。
「…安倍さんに間違いないです。加護と目が合ったし」
なっちが…なんで…?
市井ちゃんも私同様に混乱しているようで。
私達二人が何も話さなくなってしまった事で居心地が悪くなったのか加護はおろおろしている。
「あ、あの…一応、言っておいた方がいいかと思って…じゃ、戻ります」
そう言ってそそくさと皆の下へ戻ってしまった。
二人っきりに戻ったのはいいけど。
加護が入ってくる前と後では全く気分の重さが違っていた。
「…ま、まさかなっちだとは…ね」
市井ちゃんの顔はひきつっている。
多分、私も同じ顔になってるのだろう。
「……市井ちゃん」
「……」
市井ちゃんもショックだったのか言葉少なになっている。
「なんで…なっちが?」
どうして…?
今までの私に対する悪意のこもった視線の主はなっちだったの?
…わからない。
ただ、自分の頭の中がパニくっている事だけはわかる。
- 69 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)23時02分42秒
- 「なっちがなんで後藤の事を嫌うんだろ…」
私がポツリと呟くと。
「うーん…」
近くの椅子を引き寄せて市井ちゃんはドカっと座り、腕を組んだ。
「理由ねー…世間一般的な考え方でいくと、今の娘。の顔的な後藤に嫉妬してるとか。
前はなっちが娘。の顔だったじゃん。
それなのに何時の間にか後藤に自分の場所を奪われたわけだからムカついててもおかしくないよね。
後藤はプッチもあるし、ソロデビューもしたし、ドラマもやったし」
「う、う〜ん…」
内容が内容なだけにちょっと賛成し難い。
「でもなー、なっちってそんなに心狭い奴だったっけ?その点が腑に落ちないんだよね」
「だよね!後藤は絶対に加護の見間違いだと思う!」
なっちがそんな事するわけないよ〜と、私が勢いよくそう言うと、市井ちゃんはため息をついた。
「後藤…なっちが犯人だって思いたくない気持ちはわかるけど」
「え?」
「気をつけた方がいいよ」
「……何が?」
- 70 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)23時03分58秒
- 「加護は目が合ったって言ってるくらいなんだから見間違いってのはないでしょ。
ってことは、なっちが現場にいたのは本当なんだよ。
犯人かどうかまでは確定出来ないけど、注意しとくべきだと思う。
だって現場にいた事をなっちは自分から話してくれなかったから。
別にやましい事がないならあの時にさ、普通話すと思うんだよね。
本当なら誰も疑いたくないけどさ…こんな状況だったらしょうがないよ。
何が起こるのかわかんないから」
市井ちゃんは私に諭すように言う。
う…。
でも、信じたくないよ…。
「でも、あたしを狙ってたんじゃなかったのか」
あたしの思い違いかー、とボヤいている市井ちゃんを見ながら、私は首を傾げていた。
…おかしいなぁ。
確かにあの時、市井ちゃんに向かって手が伸びてたと思ったのに。
う〜ん…これって喜んでいいのか、よくわかんないや。
「しかし、もし本当になっちだったら…意外だなー。
人の気持ちってやつはその人にしかわかんないから本当の理由なんて知る事は出来ないけど」
市井ちゃんはそう言いながら深々とため息をついた。
- 71 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)23時05分03秒
- 戻ろっか、という市井ちゃんの言葉に素直に従い、私達は皆がいる部屋に戻って来た。
周りを見渡すと…なっちがいない。
私がそれに気付き、不安そうに市井ちゃんの顔を伺うと市井ちゃんも気が付いていたようだ。
ニコっと笑い、頭をポンポンと軽く叩かれた。
他のメンバーは私達がいない間、一人で考え事をしてたり、何人かで話し込んだりしていたようだ。
「ごっつぁん、もう大丈夫なのー?」
やぐっつぁんは私の姿を発見するなり、声をかけてきた。
「ん〜、大丈夫!もう痛くないし」
「あーあ。あんなに心配したのにコレだもん。やってらんないよ」
「市井ちゃん、酷いよ〜!」
市井ちゃんが大げさにため息をつくのを見て私は市井ちゃんに抱きついた。
すると市井ちゃんは他の誰にも聞こえないくらいの声でこう言った。
「周りがあんまし不安にならないようにしとこ」
「そうだね…皆、無関係なのに巻き込まれてるんだもんね」
私達が小声でやりとりしてるとやぐっつぁんは眉間にシワを寄せていた。
- 72 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)23時10分03秒
- 「なーに、二人の世界に入ってんのさ!なんかムカツクー!!」
「怒んなや、矢口ー。矢口には裕ちゃんがおるやろー」
「怒らずにいられるかー!それに裕子は関係ないでしょ!」
「矢口の為に若返ってやったのに私の気持ちも知らんと酷いわ!ひとでなし!!」
「なんで裕ちゃんが若返るのが矢口の為なわけ!?それにひとでなしって何だよ!!」
「やっぱ同年代くらいになったら好きになってくれるかなー?とか思った私の乙女心がわからんのか?!」
「わからん!…っていうか、乙女心ってよくそんな恥ずかしい言葉平気で使えるね」
「なんやとー!?」
二人のやり取りを見て市井ちゃんと私は顔を見合わせて苦笑いした。
きっと、二人とも無理してる。
暗い雰囲気に耐えられないのか、無理にその場の雰囲気を明るくしようとしてるんだ。
この部屋でうるさいのはここだけ。
他のメンバーは静かにしている。
- 73 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)23時11分02秒
- 「あれ?圭織は…寝てるの?」
私が言うと市井ちゃんも窓際で腕を組んだまま、目を閉じて固まっている圭織を見る。
「そうみたいだね」
「この状況で眠れるなんて、やっぱ圭織っておかしいよ」
やぐっつぁんがため息をついている。
「まあまあ、いいじゃん。そうだ、やっぱ10歳くらい若くなったらなんか違うもん?」
市井ちゃんが裕ちゃんに質問すると。
「そりゃもー!身体が軽いでー。若いってええな!!」
ハッハッハーと、笑っている裕ちゃんのテンションはいつもより高い。
「今はいいけど現実に戻ったら、その差にガッカリするんだろうなー」
やぐっつぁんが面白そうにそう言う。
「うっさい!…腹立つわ、クソー」
裕ちゃんがブツブツ言っているとドアの開く音がした。
そこにはなっちの姿があった。
- 74 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)23時11分58秒
- それを見た私の身体は自然と強張る。
まだわかんないよ…。
普通にしてなきゃ…。
私が何を考えているのかわかっている市井ちゃんは自然に私を抱き寄せてくれた。
心配ばっかかけてゴメンね。
気を遣わせてばっかでゴメンね。
「…後藤は大丈夫だよ」
私はそう言って市井ちゃんに笑顔で返す。
市井ちゃんは少し驚いたような表情。
これから何があっても。
たとえ何が起きても。
私は市井ちゃんが傍にいてくれるだけで、どんな事にでも立ち向かう勇気を持てる。
だから、大丈夫だよ。
- 75 名前:−後藤真希視点− 投稿日:2001年08月06日(月)23時12分38秒
- 「なっち、なんか顔色悪いでー?」
なっちの傍に行って顔を覗き込む裕ちゃん。
確かになっちの顔色は良くなかった。
「急に痩せたのがマズかったんじゃないの?」
やぐっつぁんはそう言ってたけど、なっちは裕ちゃんしか見ていなかった。
なっちの様子が明らかにおかしいのは誰にでもわかっているようで他になっちに声をかける人はいない。
「裕ちゃん…ちょっと、いいかな?話したい事があるんだ」
「…え?別にええけど…ここじゃアカンの?」
「……う…ん。二人っきりの方がいい」
なっちは下を向いてしまう。
「ほな、外出よか。ちょっと行ってくるわ」
裕ちゃんは何かを感じ取ったのか、なっちのか細い肩を抱いて廊下に連れ出した。
静まり返る部屋。
「どうしたんでしょう?安倍さん…」
梨華ちゃんが心配そうな声を出す。
「……さぁ?どうしたんやろうなぁ」
加護は何も知らないふりをしていた。
私は無言で市井ちゃんと顔を見合わせていた。
「なっちは裕ちゃんに何の用があるって言うんだろ?」
市井ちゃんは首を傾げていた。
- 76 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月06日(月)23時21分23秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<ごっちん視点、終了ー!
>マルボロライトさん
一番乗り、ありがとうッス!
引っ越し祝い・・・気持ちだけで嬉しいッスよ。
とりあえずラブレターでも(なんだそれ?)
>ラークマイルドソフト
二番乗り、ありがとうッス!
タバコの絡みのHNですね。
じゃ、自分は今吸ってるサムタイムを(・・って、名乗るのか?)
- 77 名前:マルボロライト 投稿日:2001年08月07日(火)06時35分56秒
- う〜ん、なっちは一体…
後藤じゃなくて市井ちゃんを突き落とそうとしたのなら…あ〜でもみんな怪しい(w
自分なりに予想しておこうかな(多分当たらないけど)
- 78 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月07日(火)15時55分33秒
- なんか話が進むにつれてムツカシクなってきてる‥‥
頭がこんがらがってきてる(w
- 79 名前:マインド サーカス 投稿日:2001年08月07日(火)20時14分48秒
- 自分のした事、しようとしてる事に自信がある?
何が正しくて、何が間違っているかわかる?
正解なんて何一つわからない…。
- 80 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月07日(火)20時17分11秒
- 誰にも見つからないようにする為に一階の玄関口まで裕ちゃんとやってきた。
裕ちゃんを連れ出してみたものの、自分から会話を切り出す事が出来ない。
私が話し出すのを裕ちゃんは待っているようで、ジッと私の顔を見ていた。
そして、私は何となく目を合わす事が出来なくて下を向いてしまう。
この世界はメンバーがいない場所は全て静寂に包まれる。
人がいても口を開かないと同じだ。
だから、私達がいるこの場所も静寂に包まれていた。
何時まで経っても口を開こうとしない私に見切りをつけたのか、裕ちゃんは自分から話し掛けてきた。
「…で?どうしてん?なんか、なっちおかしいで?」
「……そんな事ないよ」
私は今の自分が出来る精一杯の笑顔を裕ちゃんに返した。
でも、それはきっと成功してないとわかってた。
何故なら裕ちゃんは渋い顔をしていたから。
「いきなり痩せてもうたから辛いんちゃうの?私の場合は元の身体より楽やねんけどなー」
裕ちゃんは笑いながらそう言ったけど。
これ以上、裕ちゃんに気を遣ってもらうのも私としては辛い。
本題に入らなくちゃ。
「身体は関係ないよ」
「…そっか」
私は意を決し、顔を上げて裕ちゃんを見つめる。
- 81 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月07日(火)20時18分15秒
- 「そんな事より裕ちゃんに渡したいものがあるんだ」
「渡したいもの?なんやねんな、改まって…」
裕ちゃんは首をポリポリとかきながら肩眉を上げる。
私はそれに答えず、無言で胸ポケットに入れていたモノを裕ちゃんに差し出した。
「何やコレ?」
裕ちゃんは素直にソレを受け取る。
「誰にもまだ見せないでね。まだ時期が早いと思うから…」
そう、まだ見せられない。
これから何かが起きた時に見せてあげて欲しい。
裕ちゃんはわけがわからないといった表情でそれを見た。
そして内容を確認していく内に表情がドンドン変わっていった。
「なっち!コレ…アンタ………まさか」
裕ちゃんは驚きを隠せない表情になっている。
「…違うよ。拾ったんだ」
- 82 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月07日(火)20時19分06秒
- これは本当。
ごっちんと紗耶香がいなくなってから、私は一人校内をうろついていた。
自分の頭の中を整理する為に。
そして、廊下に倒れているゴミ箱を見つけた。
遠くから見たらそれは空っぽなゴミ箱に見えて。
でも、何故か気になって中を見てみたら。
その中には今…裕ちゃんが手にしているあの張り紙があったのだ。
「ホンマにコレを剥がしたんはなっちやないんやな?」
「裕ちゃんに嘘はつかないよ」
貴方には絶対に嘘はつかない。
本当だよ。
「よし!信じるで!なっちがそんな事するわけないもんな!」
なっちが後藤に酷い事なんてするわけないわなぁー、と裕ちゃんはニカっと笑う。
「でも…誰が捨てたんやろ?」
「多分、ごっちんを階段から落とした人だと思う…なっちはその人を知ってるよ」
「え!?な、なんやて!?」
アッサリと言った私に裕ちゃんはビックリする。
「なっちね…その瞬間を……階段でごっちんが押されるとこを見たの」
「…げ、現場を見たっちゅーことか?」
「そう」
その後、加護に会ったけど、多分私がやったって勘違いしてるような気がする。
でも、私がやったんじゃない。
- 83 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月07日(火)20時20分09秒
- 「だ、誰やねん?!やっぱりメンバーの中におるんか?」
「うん…でも、ゴメン。誰かは言えない」
「な、なんでや!?」
「もしかしたら偶然なのかもしれないし…わざとやったのかどうか自信ないから」
落とす瞬間しか見てないから、と私は続けた。
それを聞いて裕ちゃんは深いため息をついた。
「『誰にもまだ見せるな。まだ時期が早い』っちゅーのは
こんな言い方嫌やけど…この紙を捨てた犯人の意思がわからへんからか。
なっちが見た人で確定なら皆にコッソリとこの紙を見せても問題ないけど
他の人間が犯人の場合があるから見せん方がええっちゅー事か?混乱するから」
「うん…」
「しかし…うーん、どうするかなぁ?やっぱ、この内容は早よ皆に見せた方がええと思うんねんけど。
ヤバ過ぎるやん、これ」
裕ちゃんは唸っている。
「あのね、皆に見せないで先に裕ちゃんに渡したのには意味があるんだ」
「は?」
裕ちゃんはどういう事やねん?と眉をひそめる。
「なっちね…その人と今から会う約束をしてるんだ」
- 84 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月07日(火)20時21分23秒
- 「はぁ!?二人っきりでか?」
「うん…」
確かめに行ってくる、と私が言うと裕ちゃんは私の両肩を持った。
「危険やわ!後藤を突き落とすような人間かもしれへんのに何が起きるかわからへんねんで!!
確かにこの世界で怪我とかしても元の世界に戻ったら何ともないやろうけど!
それに、なんで一人でそこまでやろうとすんねん!」
裕ちゃんの必死そうな顔を見たら、逆に私の顔は笑顔になってしまう。
私の顔を見て裕ちゃんは片眉を上げる。
「…なんで笑ってんの?」
「裕ちゃんにこんなに心配されて幸せだなーって思ってさ」
「アホ!」
裕ちゃんはちょっと怒ったような顔をして私をギュッと抱き締めた。
私も軽く裕ちゃんの身体に腕を回す。
「なんか若い裕ちゃんって変な感じ。裕ちゃんはいつものままの方がいいよ」
「こっちもそっくりそのままその言葉返すわ。抱き心地悪いで」
抱き合ったまま、二人で憎まれ口を叩きながら軽く笑い合う私達。
でも、そんな明るい雰囲気はやっぱり長く続くわけもなく。
- 85 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月07日(火)20時22分13秒
- 「なっちはね…本当に娘。の事が大好きなんだよ」
「…うん」
ちょっとしんみりしながら頷く裕ちゃん。
「今までなっちにも色んな事あったっしょ?
最初はメインで娘。の顔的な扱いだったけど『ふるさと』がコケてから人気も落ちちゃったし」
「また、そんな事言うてからに…あれはなっちのせいやないって何回言うたらわかんの?」
裕ちゃんは少し怒りながら私を抱き締めてる腕に力を入れた。
「うん。でも、ある程度の事実は受け止めないと」
「……」
「今までさ、デビューしてから色んな事があったね。
なっちにもあったし、裕ちゃんにもあったし、娘。自体にも色々ね。
でも、娘。が好きって気持ちはデビューしてからずっと変わらないんだよね」
「それは私も同じや…」
「だから、あんまりモメ事とかさ…そういうのはあって欲しくない」
「…うん」
「こんな心配、杞憂であって欲しいけど嫌な予感がするんだよ」
私はそこまで言ってため息をついた。
- 86 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月07日(火)20時23分12秒
- 今までもメンバー内で険悪になったり色んなトラブルはあったけど
それでも今まで上手くやってきた。
でも、今回はちょっとヤバイ気がする。
例えここが現実じゃないからといってメンバーを傷つけるなんて…。
今まで裕ちゃんが守ってきた娘。を…。
脱退して今はもういない、かつての戦友達と一緒に築き上げたこの娘。を…。
こんなところで壊すわけにはいかない。
いつも裕ちゃんは私の事を慰めてくれる。
いつも叱ってくれる。
家族以外でここまでしてくれる人は裕ちゃんだけしかいない。
デビューしてから今までずっと。
そんな裕ちゃんの為に何か出来ないかと思ってた。
だから私が動く。
例え…この後どうなるかわからなくても。
私は裕ちゃんから少し身体を離し、裕ちゃんを見つめる。
「なっちがこの後、姿を見せなくなったら…裕ちゃん、あとは頼むね」
この言葉に裕ちゃんは固まってしまった。
- 87 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月07日(火)20時28分13秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<暗い!暗いわよ!なっつぁん!!
>マルボロライトさん
色々と考えてみて下さいませ。
下手に自分がここで余計な事を言うと意味なくなりますもんで(^^;
っつーか、マジで早起きですな(笑)
>ラークマイルドソフトさん
前のレスではすみません!!「さん」が抜けてました!(爆)
話がややこしいとは思います、自分でも(爆)
文才ないので申し訳ないですわ(^^;
- 88 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月07日(火)21時54分19秒
- うわっ!なっちがなんかせつない!!
- 89 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月08日(水)09時26分57秒
- なちの見た相手って一体誰なんだ…さっぱり予想がつかないっす。
作者さん、マイペースで書いてって下さい。
あと、この子はめっちゃ分かり易い感じでええですねえ→(0^〜^0)
- 90 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月08日(水)20時31分08秒
- そして、しばらくしてからやっと口を開いた。
「…あとは頼むって……」
「なっちがいなくなったら今から会う人に何かされたって事。
だから、その時はその紙を皆に見せてあげて」
あまり空気が重くならないように笑顔で言ってみたけど
裕ちゃんは砂を噛んだように顔をゆがめる。
「なっちが行くのはアカン。危険過ぎるわ…私が行く」
「気持ちは有難いけど、なっちが会う約束したんだからさ」
「なら、一緒に行こうや」
「裕ちゃん…」
私は裕ちゃんの手を取り、そして笑顔でこう言った。
「裕ちゃんにはここでもうちらをまとめてもらう役をしてもらわないと」
「…どういう意味や?」
「多分、この紙を見たらみんな混乱すると思う。だから、ちゃんとフォローして」
「……でもな」
辛そうな顔をしている裕ちゃん。
私が言ってる意味がわかってるからだろう。
でも、私をほっておけないんだね。
優し過ぎるよ、裕ちゃん。
だから…こう言ってあげる。
「なっちの代わりに裕ちゃんが行って、その後もし矢口が危険な目にあったらどうするの?」
「……」
「矢口の事…好きなんでしょ?なら、ちゃんと傍にいてあげないと。なっちは大丈夫だからさ」
「…なっち」
- 91 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月08日(水)20時32分06秒
- 裕ちゃんはすっかり気持ちが沈んでしまっていた。
「…何時の間にこんなに大人になったんやろうなぁ」
裕ちゃんはしみじみそう呟く。
「だって、もうデビューしてどれだけ経つと思ってんの?」
私が笑いながらそう言うと。
「そりゃ、わかってんねんけどな。でも、なんて言うたらええのかなぁ…。
精神的な成長っちゅーか、そういうのって年齢とはあんまり関係ないやん?」
「確かにそうだね」
「私が脱退して一緒に過ごす時間が短くなったわけやけど。
そういうのも関係してんのかもなぁ…。
ずっと一緒にいたら気がつけへんかった事も離れてみたら案外簡単にわかるっていうか」
「何だよー?裕ちゃん、もしかして寂しいわけ?」
私がからかうように言うと裕ちゃんは意外にもまだ真面目な表情をしていた。
「…そうかもしれへんなぁ。
こういうのって私のワガママなのかもしれへんけど、ずっと変わって欲しくないっていうか。
なっちにはずっと手のかかる娘でおって欲しいのかもなぁ…」
裕ちゃんは寂しそうに笑う。
「そんな事言っておいて、ずっと手間のかかる娘のままだったら裕ちゃん怒るっしょ?」
「…まぁな」
私達は二人で笑い合う。
- 92 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月08日(水)20時32分47秒
- 「でも、ホンマ皆の為に一人で何とかしよって思う事が出来るなっちは凄いと思うで」
私には出来へんから、と裕ちゃんは苦笑いする。
「別に…そんなんじゃないよ…」
私は目を伏せ、呟いた。
そうじゃないんだよ…。
私が今からしようとしてる事は娘。の為だけじゃない。
ううん…娘。の為じゃない。
一番の理由は裕ちゃんの為。
裕ちゃんがこれ以上、悲しむ姿は見たくないから。
本当はこれだけの理由なんだよ。
裕ちゃんが矢口の事を本当に好きな事を私は知ってる。
いつも冗談みたいに矢口に告白してるけど。
裕ちゃんは本当は照れ屋だからそんな風にしちゃうんだ。
そのせいで矢口に本気だと受け取ってもらえてないけど。
それでも私にはわかっていた。
だって、私は裕ちゃんの事が好きだから。
- 93 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月08日(水)20時33分48秒
- 「そうだ、お守りとして裕ちゃんの時計となっちの時計を取り替えっこしない?」
明るくそう言いながら私は裕ちゃんの時計と自分の時計を取り替える。
裕ちゃんは私にされるがままの状態になっている。
きっと、色々と頭の中で考え込んでいるんだろう。
「うん、これで裕ちゃんが一緒にいてくれるような気持ちになれるよ」
「……そうか」
「…じゃ、そろそろ行くね」
私はそう言って裕ちゃんから離れようとした。
すると裕ちゃんはまた私を力強く抱き締めた。
「絶対…帰ってきてや。ここが現実と違うって言うても、なっちに何かあったら嫌やで」
「…わかってるよ」
私はそう言って、裕ちゃんの胸に顔をうずめた。
「あんなぁ……今から会う人間の名前は……やっぱり聞いても無駄か?」
「ふふ…しつこいよ」
私の口から名前を聞かなくてもいつかわかると思うけど。
いや、違ってる方が私に取ってはいいのかも知れないけど。
その方が私の身は完全に安全だって事だし。
でも、それじゃ何にも解決しないから。
- 94 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月08日(水)20時34分30秒
- 「裕ちゃん、あのね…」
私は裕ちゃんを見上げておどけて言う。
「何や?」
裕ちゃんの顔は真剣だ。
名前を言うつもりになったのかと思ったのだろう。
でも、ゴメンね。
「なっちの保険に気付いてね」
「はぁ?」
私の言葉に拍子抜けしたという顔をする裕ちゃん。
そして私はじゃあね、と笑顔で裕ちゃんに言い、その場を去った。
- 95 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月08日(水)20時35分41秒
- 静かな廊下を一人歩く。
一歩、一歩ゆっくりと前に進む度に身体の震えが増す。
本当は怖い。
いくらここが現実の世界じゃないとは言っても。
現実の世界じゃないから余計に何が起こるのかわからないし。
それに今から会う人物…。
彼女はどういう対応をしてくるんだろう…。
彼女がどういう理由でごっちんにあんな事をしたのかわからない。
いくら考えても答えなんて出なかった。
あの張り紙を捨てた理由もわからない。
これはまだ同一人物がやった事かどうかわかんないけど。
でも、例えば…あの内容を他のメンバーが知ってて彼女が不利になる事といったらなんだろう?
…わからない。
これから全て種明かししてくれるだろうか。
私は彼女に会って彼女のした事が間違っているとちゃんと説得出来るのだろうか。
自分のやった事を悔やんでくれるだろうか。
- 96 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月08日(水)20時36分13秒
- 偶然だったのかもしれない。
でも、故意じゃなかったとしても
なんで、ごっちんを階段から落とすような事になったんだろう。
その理由が思いつかない。
何一つ、わからない事だらけだ。
ただ、わかっているのはもしかしたら自分の身が危険かもしれないという
可能性があるって事だけだ。
彼女が犯人だったとして…。
私が彼女の姿を見た事知ったら口封じを仕掛けてくるかもしれないから。
でも、私は進む。
彼女と約束している場所まで。
私の居場所を壊す事なんて絶対させない為に。
- 97 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月08日(水)20時36分44秒
- 約束の場所に着いた。
ゴクリと喉を鳴らして周りを見回してみるが誰もいない。
…なんだ、まだ来てないんだ。
何時の間にか身体中に入っていた力が抜ける。
そして、大きく息を吐いた。
その時。
ガタッと私の背後の方で物音がした。
ビクッと身体を震わせて振り向くと…。
そこには笑顔で私を見ている人がいた。
それは私とここで会う約束をした人。
ごっちんを階段から突き落とした人。
「…来てくれたんだね」
私がそう言うと。
彼女は更にニコッと笑った。
- 98 名前:−安倍なつみ視点− 投稿日:2001年08月08日(水)20時37分20秒
- 裕ちゃん…。
私が残した保険に気付いて…。
そして、裕ちゃんだけは私の二の舞にならないで…。
- 99 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月08日(水)20時42分54秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<なっち視点、終了ー!早っ!
それにしても暗過ぎて加護視点の時と同じ人間とは思えないわね!
>88さん
自分がなっちを書くと何故か暗くなるのです。
・・・なんでだろ?
>89さん
ドンドン予想しちゃって下さい。
(0^〜^0)<わかりやすいって何がー!?
既にわけわからん内容になってますが今後さらにわけわからん状態になりますので
今のうちに整理して頂けたら・・・。
・・・っていうか、わかりやすく書けよ!って感じなんですが(爆)
- 100 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月08日(水)23時02分09秒
- 手に汗握る展開になってきましたね!
足りない頭フル稼働させて読ませてイタダキマス!
- 101 名前:マインド サーカス 投稿日:2001年08月10日(金)00時00分34秒
- 皆の為に行動する者。
たった一人の為に行動する者。
どちらが正しいのですか?
- 102 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月10日(金)00時01分47秒
- なっちが立ち去ってからも、しばらくはその場から動けなかった。
あのまま行かせてよかったんやろか…。
やっぱり一緒に行くべきやなかったんやろか…。
ずっとそんな言葉が頭の中でグルグルグルグルと回っている。
しかし、約束したからには私は皆のフォローをしなければならない。
この紙を持って皆の元へ行かねば。
『3−11』の教室の前に立ち、深くため息をつく。
今…この中にいない人間がなっちと会ってるっちゅーことやんな。
しっかし、全く検討もつかへんな…。
何時までもここで立ちっぱなしというのも意味がないので
ゆっくりとドアを開けた。
- 103 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月10日(金)00時03分20秒
- 「裕ちゃん!」
私の姿を確認した紗耶香が駆け寄ってきた。
「な、何やねん…?」
「なっちと何を話してたの?!」
ウオ。
そんなん言えるわけないやろぅ…。
「…あれ?そういえば、なっちは?」
矢口…止めてくれ。
更に答え難いわ。
「裕ちゃん、なんか顔色悪いよ〜?」
後藤もマジで止めてくれ。
…これ、イジメか。
ど、どうにか話を逸らさねば。
動揺して視線をキョロキョロとさせている私はさぞ挙動不審だろう。
「…あれ?ちょお、待って…他の奴らはどこ行ってん?」
この教室の中には紗耶香、後藤、矢口しかいない。
「皆、暇だからまた校内探検に行くってバラバラーッと散っていったよー」
- 104 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月10日(金)00時04分34秒
- …………は?
バラバラーッと?
…って。
「な!なんやとー!!!!!??」
「「「わーっ!!」」」
突然、叫んだ私に三人は驚く。
なんてこった。
こんな状態じゃ、今なっちが会ってる相手の予想が出来へんがな。
最悪やん…。
「…な、なんかマズかったの?」
後藤がおどおどしながら聞く。
「バラバラーッと…って、いう事は何人か固まって移動してるわけやないんやな?」
「うん、多分。一人でブラついてる人もいるんじゃない?」
紗耶香は何でそんなに気にしてんの?と、首を傾げている。
「で、どうなの?なっちはどうしたの?」
せっかく話が逸れ出してたのに矢口が元に戻してしまった。
余計な事言わんでええっちゅーの。
三人の視線が私に集まったその時。
「「「「うわっ!」」」」
私達、四人の腕時計が発光した。
- 105 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月10日(金)00時06分28秒
- 突然の発光に油断していた為、私達はしばらく目を開けられない状態になっていた。
不意打ち食らったわ…。
ムカツク。
「…くそ、なんなんだよー!!」
矢口も半ギレ状態。
「やっと、目が慣れてきたかもしんない…」
紗耶香は片目を閉じたままだけど、なんとか見えるようになりつつあるようだ。
「え〜?後藤、全く見えないよ!?」
後藤は両手で目を擦りながら頭を振っている。
「うー…まだ目がチカチカするー。っていうかさ、コレって誰かが願いを叶えたって事だよね?」
矢口は目をパチパチとさせながら言う。
「だね。時計も『8』に減ってる」
紗耶香の視界はもう戻ったのか、自分の時計を見ている。
「なんで皆もう見えるの〜?後藤、全く見えないんだけど〜…」
後藤はいまだに目を擦っている。
「一番、光を受けたんじゃない?しばらくしたら戻るよ」
紗耶香が後藤を不安にさせないようにギュッと抱き締める。
それを見て矢口はムッとしている。
その様子を見ていて思わず、ため息が出た。
- 106 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月10日(金)00時07分23秒
- その後、しばらく後藤の様子を見るために回復するのを待ってみたが一向に戻らない。
「…何時まで経っても見えないんだけど」
不安そうに言う後藤。
「うーん…おかしいなー……なんで後藤だけ?」
矢口も首を捻っている。
「ねぇ…嫌な事考え付いたんだけど…」
紗耶香は渋い顔をしてそう言った。
「何やねん?嫌な事って」
紗耶香は何を思いついたんやろか?
光を受けて見えなくなった後藤の目…。
この光は願い事が叶えられた時に発生するもの。
…。
……。
………まさか。
そして、紗耶香のこの言葉で決定的になった。
「後藤のこの状態ってさっきの願いのせいじゃないの?」
- 107 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月10日(金)00時14分21秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<裕ちゃん視点だとシリアスな話もギャグになっちゃうわ!
>ラークマイルドソフトさん
ありがとうッス。
足りない頭を持つのは自分の方なんですが。
毎日更新を目指していますが、ちょっと怪しい雲行きに・・・。
ま、次回の更新はのんびり待ってて下さい。
新メン発表までには完結させたいと思ってるんですけどね。
- 108 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月10日(金)00時15分03秒
- 楽しみに待ってるッス!
- 109 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月10日(金)02時58分16秒
- ゴチーンの眼が…死んだ魚の眼に…
なんてこった!!
両手で顔を隠すもその指の隙間から読ませてイタダキマス…
- 110 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月11日(土)22時04分41秒
- その言葉を聞いて一同黙り込んでしまう。
こんな願いを叶えてくるのは犯人だけやろ。
でも、犯人は今頃なっちといるはずや。
それやのに願いを叶えてきた。
っちゅー事は、なっちと今会ってる人物と犯人は別人って事か?
目の前で願いを叶えようとしたらなっちが止めるやろうし…。
それとも、なっちの身に何かがあって止められない状態になっている…とか。
そんな事を考えて私は頭をブンブンと振った。
「ちょ、ちょっとマジで!?偶然とかじゃなくて??」
矢口はパニくっている。
「…ねぇ……じゃあ、後藤の目はずっとこのままって事?」
後藤は顔をしかめる。
「…そうだと思う」
紗耶香はそれだけ言って黙り込む。
「じゃ、じゃあさ、元に戻してって願いをしたら戻るんじゃない?」
矢口が名案を出してきた。
「そうやん!私は使ってしもうたけどアンタ等三人はまだやんか!」
矢口、偉い!と私がそう言いながら矢口の頭を撫でていると。
「……ダメ」
後藤がポツリと呟いた。
「え?」
一瞬、後藤が何を言ったのかわからなかった。
- 111 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月11日(土)22時09分36秒
- 「ダメってどういう事さ?」
矢口が信じられないといった顔をする。
私と矢口が唖然としている横で紗耶香はジッと後藤を見つめていた。
そして、後藤は迷いもなく、こう言った。
「…後藤はこのままでいい。願い事をこんな無駄な事で使いたくない」
後藤の言葉に絶句する。
「む、無駄な事って…どこが!?」
矢口は納得いかないという顔になっている。
「目くらい見えなくなっても大丈夫だよ。今だけで元の世界に戻ったら問題ないし。
それに、この願いをかけた人物がまだ何かやってくるような気がするし…」
正直、マジで驚いた。
こんなにしっかりした後藤を見るのは初めてかもしれない。
「相手はこれでもう願いを使えないだろうから今度からは自分の手で何か仕掛けてくるんだろうね」
紗耶香も落ち着いてそう言う。
そんな二人とは対照的に矢口はおどおどしていた。
「な、なんで二人共、そんなに落ち着いてるのさ?!」
「階段から落とされた時から色んな事を仮定してたから。
だから最悪の状況になるまでは願いを使わないって決めたんだ」
後藤はそう言って自分の目では見えないけれど紗耶香の声がした方を向き軽く微笑んだ。
- 112 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月11日(土)22時10分57秒
- 紗耶香は後藤の手を両手で包み込む。
少しでも後藤が持つ不安を取り除く為に。
後藤にそう言われて、しょうもないことに願いを使ってしまった自分に腹が立った。
クソ。
こんな事になるなら自分のも残してたわ…。
「だから、市井ちゃんもやぐっつぁんもこんな事で願いは使わないでね」
もしも、二人に何か会った時に困るから、と後藤は続けた。
「…うん」
そこまで言われたらさすがの矢口もこう言わざるを得ない。
それに矢口も私も気付いていた。
後藤の手を握っている紗耶香の手の方が少し震えている事に。
後藤の手が震えてるのか、紗耶香の手が震えてるのかは見分けがつかないけれど。
表には出していないが相当堪えてるのだろう。
私達より辛いのはこの二人だ。
だから、これ以上気を遣わすような態度を取るのは止めよう。
「でも、これでわかったね。後藤を落とした人、後藤の目を見えなくさせたのはなっちじゃなかったんだ。
なっちはもう願いを使ってるからね」
紗耶香は真剣な顔をしてそう分析した。
- 113 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月11日(土)22時12分26秒
- …ん?……あっ!
「そういや、なっちは!?」
私が突然叫んだので三人は肩をビクッとさせた。
「裕ちゃんってば何言ってんの?さっきまで会ってたんでしょー?」
矢口が呆れた顔で言うけど。
「アホー!!ちゃうねんて!なっちは私と別れて後藤を落とした人間と会うって言いよったんや!」
それを聞いて三人は驚く。
「ちょ、ちょっと待ってよ!じゃあ…今、なっちは後藤をこんな目に合わせた奴と会ってるって事!?」
さすがの紗耶香も少し取り乱している。
「故意にやったのかどうか確実な事はわからんって言うてた。
そやから会って確かめるって言うとってん」
「誰!?なっちが見たのは誰って言ってたの?」
私は矢口に腕をガッチリ握られてブンブンと乱暴に振られるのをされるがままでいた。
「教えてくれんかったんや…。まだわからへんって言うてな。
それより、なっちが危ないかもしれん!探しに行かな!!」
そして、教室から出ようとした、その時。
誰かの悲鳴が聞こえた。
- 114 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月11日(土)22時17分56秒
- 場所は調理室。
そこには床に横たわったなっちの姿があった。
何時の間にかメンバー全員がこの部屋に集まり、そして誰一人口を開く事が出来ない状態だった。
最初に見つけたのは吉澤だったらしく、なっちを抱きかかえていたが反応は全くない。
彼女の腹には包丁が刺さっている。
床には大量の血が。
圭織は一応、なっちの手首を取り、脈を取ってみる。
「ダメだ。脈がないよ…」
「…なっち」
矢口は口を震わせたまま、その後の言葉を続ける事が出来ない。
辻、加護は何が起こったのかわからないようだ。
それは他のメンバーも同じだった。
「…ねぇ?市井ちゃん…何が起こったの?」
紗耶香に引き連れられて私達より遅れて来た後藤には本当に何が起こったのかわからないようだ。
当たり前だ、見えないのだから。
「後藤…見えなくてよかったよ。なっちが…ここで殺されてる…から」
紗耶香が重々しくそう言うと、後藤は見えない目を見開いた。
私はフラフラとなっちの元へ歩み寄った。
吉澤は私に気を遣ったのか、なっちの身体を床に戻す。
そして、私はなっちを抱き抱えた。
- 115 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月11日(土)22時18分46秒
- こうして間近で顔だけ見てるとなっちはただ眠っているだけのように思える。
色白な肌はいつも以上に真っ白で。
それでも、やっぱり彼女の呼吸は止まっていて。
そして、彼女の体温は既に失われていた。
全く動かなくなったなっちを思いっきり抱き締める。
さっきまではこうしたらちゃんと抱き締め返してくれたのに…。
「ゴメンな…私が一人で行かせたからこんな目に……」
ボロボロと悔し涙が零れた。
なっちは殺された…。
この中の誰かの手によって…。
これでなっちを殺した犯人が後藤を階段から突き落とした人物と同一人物だという事もハッキリした。
そして、後藤の目も見えなくされたのも、あの紙を捨てたのも全部同じ人物の仕業。
なっちは自分の身を犠牲にして全てを証明したのだ。
- 116 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月11日(土)22時28分03秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<なっちヲタの人、ごめんなさいね!
>108さん
有難うございます!
リアルタイムだったみたいッスね。
>ラークマイルドソフトさん
死んだ魚の眼って・・・。
少しワラタ。
案外、早く復活したんですが今度はルーターの調子が悪く・・・。
そろそろ話の方は半分くらいになったんだけども。
最後、未完結っぽい話になりそうで・・・先に謝っておきます(爆)
- 117 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月12日(日)04時03分50秒
- ツライですね…酔ってますが、ワカリマス…
- 118 名前:マルボロライト 投稿日:2001年08月12日(日)23時59分59秒
- なっち…うぅ…夢の中でも辛いなぁ。
未完結っぽいとなると謎は謎のままとかですかね?
- 119 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月13日(月)02時42分30秒
- なっちの変わり果てた姿をそのままに私達は『3−11』の教室へ戻ってきた。
そして、なっちから渡された例の紙を皆に見せる事にした。
自分に何かあった時に見せてくれって言われたけど…。
こんな事になるくらいなら見せる必要がない状態だった方がよっぽど幸せだ。
結局、まだ犯人はわからないままだけどなっちは私に何かヒントをくれているに違いない。
なっちが言ってた保険とやらに早く気付く為にもこの紙を利用しよう。
私は掲示板の所へ皆を寄せ集め、そして紙をスカートのポケットから取り出した。
「さっき、私となっちが二人きりで出て行ったやろ?
その時になっちから渡されたモノや・・・皆、気を落ち着けて見てや」
私の真剣な顔を見て、皆はゴクリと喉を鳴らした。
そうでなくても、こんな状況だ。
気を張った状態のままなのは仕方がない。
ガサッと音を立てながら私は剥がされていた紙を元の場所に貼り直した。
- 120 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月13日(月)02時43分22秒
- 『−追記−
先ほども述べた通り、ここの記憶は元の世界に持って帰る事になると言うのを覚えておいて下さい。
つまり人を憎んでその人に嫌な思いをさせたり、もし誰かに危害を加えた場合は
元の世界に戻ったらお互いの関係に支障が出るという事です。
なるべくこれらの願い事は止めておいた方が貴方の為です。
この世界は普通の夢とは一味違います。
それぞれが腕にしている時計は願い事の数です。
この数字が『0』にならない限り、全員元の世界には戻れません。
つまり願いを11人分、叶えないと戻れないという事です。
そして、異世界だからといって死が存在しないわけではありません。
もし誰かがこの世界で死を迎えた場合、その人意識は強制的に元の世界に戻る事になります。
この場合も時計の数字は減ります。
ちなみに元の世界に戻りたいという願いは認められません。
あしからず』
- 121 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月13日(月)02時51分29秒
- 「な、何よ、これ…」
圭坊は誰よりも前に歩み出て、張り紙を凝視したまま固まっている。
他のメンバーも呆然としたまま、自分の時計を見て現在のカウントを確認していた。
なっちは自分の願いを叶えていたので腕時計のカウントは減ることはない。
もし、他に誰かが同じような目にあった場合は願いを叶えてなくてもカウントは減るという事だ。
「…この紙によるとうちらの意識だけがこの世界にあるって事?」
って事は本当に夢みたいなものなのか、と矢口は無表情で呟く。
「じゃあ、安倍さんは一足先に元の世界に帰ったって事ですよね」
でも、先に帰れてもあんな目にあうなんて嫌ですよ、ここにずっといるのも嫌だけど…と吉澤は片手で顔を覆う。
「もうこんなとこいたくないわよ!さっさと願い叶えて帰るわよ!!」
圭坊は発狂しながら皆に訴えかける。
「そうですよー!戻りたいっていう願いを言わなければいいって事だから、いい加減な願いを言ってカウントを減らしてもOKなんですよね!!」
石川は半ベソかきながら同意する。
帰ろう!帰ろう!と皆が騒ぎ出す中、今までずっと黙っていた後藤が口を開いた。
「もし皆が願いを叶えても後藤は何も叶えない…」
- 122 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月13日(月)02時52分55秒
- その言葉を聞いて騒ぎも一瞬にして止む。
「ど、どういう事よ?」
圭坊は信じられないという表情。
それは他のメンバーも同じだった。
「犯人を見つけるまでは元の世界には戻らない。なっちをあんな目にあわした人がこん中にいるんだから」
後藤が静かにそう言ったのを聞いてハッとするメンバー。
「それに後藤を階段から落として…」
言いながら後藤は険しい顔になっていく。
それを見て加護がオロオロしだす。
「ス、スミマセン。加護が後藤さんを落としたのは安倍さんだって言ったから安倍さんがあんな事になったのかも…」
半泣き状態で加護が言うと。
「加護ー!!どうしてそんな事言ったのさ?!」
なっちがそんな事するわけないでしょー!と、矢口が口を挟む。
「だって、後藤さんが階段落ちた時に現場に安倍さんがいたんです…だ、だから…ひっく…」
加護はとうとう泣き出してしまった。
圭坊はそんな加護を抱き締めあやす。
「それに…」
後藤の言葉はまだ続いていた。
しかし、怒りが止まらないのか肩を震わせたまま次の言葉が出ない状態になっている。
そんな後藤に紗耶香が助け舟を出した。
「そして…後藤の目も願いで見えなくさせた…でしょ?」
- 123 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月13日(月)02時55分29秒
- 「後藤の目が見えなくなったの?!」
圭織は心底驚いた顔をする。
「な、なんかさっきから様子がおかしいと思ってたけど…」
安倍さんの事で他に余裕がなかったから気がつかなかった、と吉澤が言う。
「そういえば、さっき腕時計が光りましたよね…。
あれって後藤さんの目を見えなくさせるっていう願い事を叶えた光だったんですか…」
ショックで身体が固まってしまっている辻は口だけ動いていて
その姿はまるでロボットのようだ。
もはや辻だけではなく、メンバー皆が固まっている。
「…とりあえず、そういう事だから。
全然関係ないメンバーには悪いけど犯人を見つけるまではあたしも後藤も願いを叶えない。
それに、これはもう個人だけの問題じゃなくて娘。全体の問題でしょ?
犯人がどういう理由でこんな事やってんのかはわかんないし、わかりたくもないけど
絶対に許せない。絶対に見つけ出してやる…」
紗耶香はドスの効いた声で言い放った。
- 124 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月13日(月)02時56分27秒
- 私はずっと黙ってこの様子を見ていた。
紙を出した時からずっとメンバー全員の様子を伺っていたのだ。
きっと、それによって怪しいリアクションや言葉を出す者が現れると思っていたから。
それなのに…。
さっぱりわからへん。
犯人は全くボロを出さへん演技派な奴なんか…。
なっち…。
スマン…私にはどうする事も出来ひんかもしれへん…。
- 125 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月13日(月)03時00分45秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<ホルモン食いてー!!
>ラークマイルドソフトさん
酔ってるんスか・・・ちなみに自分も今酔ってますが。
>マルボロライトさん
これからもまだまだこういう状況が続くんですけどね。
謎は謎のままっつー前回みたいなのはないと思われ。
だがしかし、最後まで読んでスッキリするか?と言われたら自信がないんですけどね(苦笑)
- 126 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月13日(月)04時09分47秒
- 久々に来てみたらクロニックの続きが始まってて、しかも推理ものになってるんでびっくりです。
いや〜、面白いっすね!!しかし、自分には全然、犯人がわかりませんぞ(w
アリガチさん、ルーターの調子が悪いみたいですけどそんなのに負けずガンバッテネ!!(w
- 127 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月13日(月)06時24分40秒
- あの時教室にいなかった人物で、辻加護は除いて……
駄目だ。さっぱり犯人分かんねっす。
最後まで頑張って下さい、作者様。
- 128 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月13日(月)22時55分13秒
- うぅ・・・・続きが気になる・・・
ガムバッテ!!!
- 129 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月14日(火)01時57分08秒
- その後、メンバー達はお互いにぎこちない関係になってしまっていた。
その態度は当たり前だろう。
誰がなっちをあんな目にしたのか誰一人わかっていないのだ。
…犯人以外は。
一つの場所にまとまっていた方が安全だと言ったのに
いつもに増して協調性がなくなった今
誰一人、私の言う事を聞く者はいない。
各自でバラバラに行動する事になってしまっていた。
フォローするってなっちと約束したのにこの有様とは…。
我ながら自分が情けない。
私は矢口、紗耶香、後藤と行動を共にしていた。
このメンバーが一番安心だ。
あきらかに犯人じゃないのはわかっている。
犯人がなっちをあんな目にあわせている間ずっと一緒にいたのだから。
しかし、どうしたらええねんやろ…。
そう思いながら腕時計を見ながらため息をつくと
それはたった四人しかいない教室の中では大きく聞こえた。
- 130 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月14日(火)01時58分22秒
- これってある意味、形見になるんかなぁ…。
元の世界に戻ったら元気ななっちにまた会えるっていうのはわかってるけど…。
めっちゃ辛いわ…って、あれ?
なっちと時計を交換して一度もじっくりと見てなかったんだけど。
ディスプレイの所が何か変だ。
今、表示されている文字は『8』のはず。
しかし、私がしている時計の数字はハッキリと文字を表示していなかった。
アナログ表示なので二つの『□』が合体してるように見えるはずなのに
上下あるはずの『□』の部分の縦棒が消えている。
…コレ、マジックで塗りつぶしてんのか?
そして、白っぽいマジックで消えてる縦棒の代わりの棒が足されている。
まさか…。
これって…。
これがなっちの言ってた保険か?
- 131 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月14日(火)02時01分42秒
- 「裕ちゃん、どうしたの?」
矢口が固まってしまっている私を見て不安そうな顔をしている。
「…あんなぁ、これなっちのと取り替えたんやけど……何に見える?」
私はそう言いながら時計が皆に見えるように手を伸ばした。
矢口と紗耶香が身を乗り出してそれを見る。
「「……」」
二人は黙っていた。
「…あのさ〜、後藤には見えないんだけど…何が見えるの?」
それを見る事が出来ない後藤は首を傾げている。
後藤の問いにすぐに答えず、紗耶香はあきらかにショックを受けた顔をして私の顔を見た。
「裕ちゃん…これ、なっちが?」
「そや。犯人と会う前にお守りとして時計を替えようって言われてんけど
その時になっちが言うとった…。
『なっちの保険に気付いてね』って。
なっちは名前を口にはせんかったけど、やっぱりちゃんとヒントくれてたんやな…」
私が真剣な顔をしてそう言うと。
「ねぇ!だから一体何なのさ!?」
一人時計を見る事が出来ない後藤は苛立っている。
「ごめん、ごめん。なっちが犯人を教えてくれてたんだよ」
紗耶香はそう言いながら穏やかな顔をして後藤の頭を撫でる。
- 132 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月14日(火)02時02分48秒
- 「え!?犯人がわかったの!?」
後藤は誰?誰??と、心底驚いた顔をして犯人の名前を聞き出そうとする。
しかし、紗耶香は黙り込んでしまっていた。
後藤も何かを感じ取ったのか黙り込む。
教室中が静まり返る。
そして、しばらくしてその沈黙を破ったのは矢口だった。
「…今からどういう事なのか聞きに行く!」
今まで黙っていた矢口は静かにそう言ったのを聞いて私は驚いた。
「ア、アホ!そんなん危ないやないか!」
「そうだよ、皆で行こう」
紗耶香も真剣な顔をして矢口を止めようとした。
「紗耶香はダメ」
「なんで!?」
「ごっつぁんをどうすんの?今の状態で連れて行ったら余計に危ないでしょ?!
安全なとこに一緒にいてあげなよ」
その言葉を聞いて、紗耶香も後藤も黙り込んでしまった。
矢口の言う事はもっともだ。
今、一番危険なのは後藤なのだから。
こっちの状況は不利過ぎる。
「…じゃ、私は一緒に行っても構わへんねんな?」
「本当は矢口一人で行きたいところだけど…裕ちゃんは意地でもついてきそうだしね」
そう言って矢口は苦笑いした。
- 133 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月14日(火)02時04分23秒
- 「でも、なんで自分一人で行こうとしたんや?」
私は矢口とある人物を探しながら校内を歩いていた。
「いてもたってもいられなかったから…。
ごっつぁんに対して酷い事ばっかしてるのも許せないし
その姿を見て心を痛めている紗耶香なんてもう見たくない。
それに、何よりなっちをあんな目にあわせたのが許せない」
矢口は静かにそう言ったが余計に怒りの感情がありありと伝わってくる。
でも、きっと矢口の中で一番大きいのは紗耶香の事だろう。
「アンタはいつでも紗耶香の事を想ってんねんな…」
「…本当は諦めないといけないのはよくわかってる。
でも、やっぱそんな簡単に気持ちの切り替えって出来ないよ」
「……」
「この世界にいる内に紗耶香の気持ちを変えさせてみせる!…なんて言ったけど
そんな事してる場合じゃないし。
それに、そんなの無理だってわかってるし…」
寂しそうに笑っている矢口を見て、こっちまで胸が苦しくなった。
気がついた時には私はギュッと矢口を抱き締めていた。
- 134 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月14日(火)02時05分22秒
- 「…裕ちゃん?」
「矢口はやっぱりええ子やなぁ…。
私が卒業してから矢口が私の代わりっぽく他のメンバーをイジってる姿を見て心苦しかったわ。
今の矢口の立場って絶対、辛いと思うねんもん。
私も通ってきた道やしな…よーわかんねん」
「…へへ。裕ちゃんのように上手くいかないけどね」
矢口は私を軽く抱き締め返しながら軽く笑う。
「自分を犠牲にしてまで仕事に徹して悪者になってしもうて…でもな、そんな矢口が私は大好きやで」
私はそう言いながら抱き締めてる腕に力を込めた。
「裕ちゃん…」
「ホンマに好きやねん。せやから、アンタをこれ以上、危険な目に合わせたない」
私はそう言いながら矢口から身体を離し、ニコッと笑って見せた。
矢口は私の笑顔に戸惑っている。
「それってどういう…」
そこで矢口の言葉は途切れた。
- 135 名前:−中澤裕子視点− 投稿日:2001年08月14日(火)02時06分13秒
- 「ゴメンな…」
「裕ちゃ…ん……な、なんで……」
矢口はみぞおちを抑えながらその場に崩れ落ちた。
「ホンマにゴメンなぁ…」
「……」
私は気を失って倒れこんだ矢口の身体を抱え、そして壁にもたれさせた。
「私一人で行ってくるわ…矢口の意志を持ってな」
そう言って、私は軽く矢口にキスをした。
これで最後かもな…。
紗耶香と後藤はあのまま教室に残っている。
今頃、時計に何が見えたのか後藤に教えている頃だろう。
なっちは娘。全体の事を思って一人で行動に出た。
きっとなっちは元リーダーの私に全てを任せたかったのだろう。
でも、私が今でもリーダーのままだったら完璧に失格だ。
なっちは皆のフォローを私に願ったけど…。
ゴメンな。
私は何にも出来なかった…。
でもな…。
せめて、自分の大切な人だけは守りたいんや…。
- 136 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月14日(火)02時11分13秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<裕ちゃん、かっけーわ!
>126さん
ちゃんとした推理モノになってないあたり、自分のダメダメっぷりが出てますが(爆)
ネットの接続・・・今、かなり辛いッス・・・。
>127さん
もうちっとで犯人わかるですよ。
予想通りになるでしょうけど(爆)
>128さん
この続きは明日・・・アップ出来ればいいんスけど。
かなり不安です・・・。
明日・・・更新出来たらいいなぁ・・・。
- 137 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月14日(火)03時50分11秒
- 明日、更新されますように……
祈りは通じるか!?(w
- 138 名前:マルボロライト 投稿日:2001年08月14日(火)04時14分14秒
- 誰だかわかった気がする…
けど…何でだろう。う〜ん、更新待ち!
- 139 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月14日(火)05時44分04秒
- 腕時計の謎がさっぱり分からん俺は逝って良しですか(w
更新、マイペースにやってって下され
- 140 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月15日(水)01時18分15秒
- ワカタ!…よ〜な…
多分あってるとは思うのですが、でもあの関係って…
また解らなくなってきました…鬱だ。
- 141 名前:マインド サーカス 投稿日:2001年08月15日(水)02時34分33秒
- 誰の事が一番好きか。
誰の事が一番大切か。
自分で気付いてない事は案外沢山あるのかもしれない。
- 142 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月15日(水)02時37分03秒
- 「………ち!……ぐち!…矢口!」
どこかで私を呼ぶ声が聞こえる。
ぼんやりする意識。
それでも何とか時間と共にそれは戻り始めた。
「……ぅ、ん」
私は片手で頭を押さえて頭を振る。
「やっと気がついた…どうしたのっ!?……こんなとこで」
私のぼやけた視界に映ったのは圭ちゃんだった。
「圭ちゃん…イキナリこんなとこでって言われても…」
頭を押さえたまま自分が今いるこの場所を確認すると
私はずっと廊下の壁にもたれて座り込んでいたようだ。
「ビックリしたじゃないの…矢口まで…その…死んでるのかと思ったわよ」
圭ちゃんは胸を撫で下ろしている。
私、どうしちゃったんだっけ…。
- 143 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月15日(水)02時37分46秒
- 「縁起でもない事、言わないでよー…って、ィテテテテ…」
そう言いながら立ち上がろうとした瞬間、お腹に激痛が走った。
私はこのみぞおち辺りの痛みで思い出した。
あの後、ずっと気を失ってたんだ…。
圭ちゃんはお腹を押さえている私を見て慌てている。
「ちょ、ちょっと矢口、どうしたのよっ!?」
「そんな事より圭ちゃん!裕ちゃん、見なかった!?」
「はい?裕ちゃん?知らないけど…どうかしたの?」
「裕ちゃんが危ないの!早く探さないと!!」
「ちょ、ちょっと待ってよ。落ち着いてよ、矢口。一体どういう事なのよっ?」
何が起きてるのかサッパリわからないらしく圭ちゃんはひたすら戸惑っていた。
- 144 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月15日(水)02時38分38秒
- 「裕ちゃんが一人で?!」
「あんなに一人じゃ危ないって言ったのになんで?!」
後藤と紗耶香は驚きを隠せないといった表情をしている。
とりあえず、私は圭ちゃんと一緒に紗耶香達がいる教室に戻ってきていた。
そして全ての事情を話したのだ。
「そんなのは後にして早く探しに行かなきゃ!」
私は皆を急かす。
「よし!後藤、あたしの背中に乗って。おんぶしてくから一緒に裕ちゃんを探しに行くよ!」
「え〜!?後藤は置いていっていいってば!」
これ以上、お荷物になりたくないもん、と後藤は首を振っている。
「一人にしとけるわけないでしょ!」
「でも…後藤、重いんだから……って、わっ!!」
- 145 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月15日(水)02時39分38秒
- 「早く行こう。時間がもったいないよ」
後藤と紗耶香がちょっとした口論をしている間に誰かが後藤を抱える。
「圭織っ!!」
圭織が後藤を抱えていた。
何時の間にか圭織が私達の傍にいたのだ。
後ろに加護と辻を連れて。
「何時の間に…」
私は口を開けたまま呆然としていた。
「事情は何となくわかったから」
圭織は真剣な表情でそう言った。
「…サンキュ。圭織」
紗耶香はお礼を言って、そして早足で廊下に出て行った。
後藤も呆気にとられたまま圭織にお礼を言っている。
「ありがと」
「早く探しに行くよ」
「皆、一緒に行動しよう。離れ離れになると後でまた探さなくちゃいけなくなるから」
「じゃ、行こう!」
でも、一体どこにいるんだろう…。
裕ちゃんはあの後、すぐに犯人と会えたんだろうか…。
それに私はどれくらい気絶してたんだろう…。
ちょっとの時間ならまだ間に合うかもしれない…。
そうあって欲しい…。
でも、どうして裕ちゃんは一人で…。
- 146 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月15日(水)02時42分13秒
- 「きっと裕ちゃんは矢口を危険な目にあわせたくなかったんだよ」
圭織は私の心の中を読んでるかのようにそう言った。
「…なんで」
「そんなのわかってんじゃん。矢口の事が好きだからだよ」
「……」
私はそれを聞いて言葉を無くす。
裕ちゃん…マジだったんだ。
てっきり冗談なのかと思ってたよ。
私も紗耶香の事言えないじゃん…。
「だからって、無謀過ぎだよ。裕ちゃんには無理だ」
「はぁー?どういう事よ?何が無理なわけ?
それに紗耶香達は裕ちゃんが誰と会ってるのか知ってんの?」
圭ちゃんは一気に質問ばかりぶつける。
「あ、ゴメン。圭ちゃん達にはまだ誰なのか言ってなかったんだっけ?」
「そうだよ。まだ何も詳しい事なんて教えてくれてないじゃないのよ」
忘れてた、と私が言うと圭ちゃんはムッとする。
大体で何でわかんないかな?
だって、ここにいないメンバーなんて残り少ないじゃんか。
その時、紗耶香が何かに気付き、大声をあげた。
「ねぇ!あれ!!」
- 147 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月15日(水)02時45分22秒
- 私達がいる廊下の先に人の姿が。
「……ゆ、裕ちゃん」
私はそれだけの言葉しか口に出来なかった。
他の人間も言葉を失っていた。
しかし、何も見えてない後藤だけは違っていた。
「裕ちゃん、見つかったの?」
「おう…おるで。元気してるか?」
口調や表情は明るい裕ちゃん。
でも、裕ちゃんの身体中からは大量の血が。
そして、裕ちゃんはよろめいた。
私は慌てて傍に駆け寄り、裕ちゃんを抱きとめる。
「矢口…離れてや。汚れてしまうやろ…」
「そんなのどうでもいい!」
私は裕ちゃんを抱き締めてる腕に力を入れた。
「…っちゅーか、なんで来たんや?危ないから来るなって言うたやんか…」
裕ちゃんは寂しそうに笑った。
「……裕ちゃん」
後藤は状況を把握出来たらしく、悲しそうな顔をしていた。
- 148 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月15日(水)02時46分38秒
- 「裕ちゃん…一体、誰に…?」
まだ誰が裕ちゃんをこんな目に合わせたのか知らない圭ちゃんが目を見開いたままやっとのことで呟く。
圭織は後藤をおぶったまま苦しそうな顔をしている。
その顔は決して後藤が重いからじゃなくて、この有様を見てショックを受けての表情なのだろう。
辻と加護は固まったままだ。
ただ、紗耶香だけは真剣な表情のまま、真っ直ぐ前を見ていた。
「へへ…そこにおるわ。説得しようかと思ったけどこの有様や。
ったく、一人で何とかしよ思うたのにカッコ悪うてかなわんわ」
裕ちゃんは苦笑いしながら自分の後ろの方向を親指で指差す。
そこには何時の間にか私達の様子をずっと眺めていた犯人が立っていた。
私達が自分の事にやっと気がついたのを確認して
なっちを刺した包丁と同じ型のモノを持った犯人はニコッと笑う。
…そうか。
傍の教室はなっちが殺されたあの『調理室』だ。
- 149 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月15日(水)02時54分10秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<次回、詳細発覚!
>137さん
ありがとうございます。
無事に願いは届きました(笑)
>マルボロライトさん
もうわかりましたかね?(笑)
次回更新分で明らかにしますよ。
>139さん
時計の謎も次で明らかにします。
かなり、無理があるんですけどね(笑)
>ラークマイルドソフトさん
わかりましたか?
多分、あってると思いますよ(笑)
無事に戻れました。
これからも更新サクサクと行きますよ。
あるファンの人達に謝らないといけない展開になるんですけどね(苦笑)
- 150 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月16日(木)00時37分47秒
- 「…よ、吉澤……アンタ」
圭ちゃんは心底驚いている。
「中澤さん…一人で来たなんて言っておきながら大人数連れてるじゃないですか」
よっすぃーはまだニコニコしている。
自分が何をやってきたのかわかってるのだろうか…。
「…どうしてよっすぃーがこんな事を?」
辻は無表情のまま呟く。
「ウソやろ…よっすぃー…」
加護もこれだけの言葉を口にするのがやっとのようだ。
しかし、すでによっすぃーだとわかっていた私や紗耶香と後藤は無言でいた。
皆の顔を一通り眺めていたよっすぃーはため息をついた。
「どうして全員で驚いてくれないんですか?
面白くないなぁ…もしかして、安倍さんから全部聞いてたんですか?」
それとも中澤さんが言ったとか?、とガッカリした表情で
そう言ってのけるよっすぃーを見て、裕ちゃんは私から離れて何かを投げつけた。
「いい加減にせーや!ボケッ!!」
「おっと!何するんですか、中澤さん」
いともたやすくよっすぃーは裕ちゃんが投げつけたものをキャッチする。
- 151 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月16日(木)00時39分22秒
- 「なっちは何も言うてへんわ!それ見てみ!
なっちがな、アンタにやられる前に私に渡しとったんや!!」
裕ちゃんはフラフラしながらも、よっすぃーに激しく怒鳴りつける。
よっすぃーは素直にそれを見た。
そして、笑い出した。
「ははははっ!安倍さん、こんな小細工をしてたんだ!
でも、こんな事しないで手っ取り早く教えてあげたらよかったのに。
…バッカだなぁ」
よっすぃーは笑いながらそれを投げ捨てた。
それは…なっちが裕ちゃんと交換したというその時計は地面に落ち、パキッという音を立てて壊れた。
文字盤にはいびつだけど『吉』の文字が見える。
「なっちが最後まで名前を教えてくれなかったのは吉澤の事を信じてたからだよ」
紗耶香が真剣な表情で呟いた。
「信じる?はっ、止めて欲しいなぁ、そういう馴れ合いって大嫌いなんですよね」
そう言って、よっすぃーは鼻で笑った。
「…ねぇ……よっすぃー…どうして?」
ボソボソっと後藤が口を開いた。
- 152 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月16日(木)00時42分49秒
- 後藤はとても哀しそうな顔をしている。
目は見えてなくても、大体の状況は把握出来てるらしい。
「ごっちんに恨みがあってこんな事したんじゃないんだ…ゴメンね」
よっすぃーは後藤の顔を見る事が出来ないのか、俯いているので表情がわからない。
「後藤に恨みがないってどういう事よっ!?こんな事しといて!!」
圭ちゃんは半ギレ状態になっている。
「圭ちゃん…つまり吉澤の狙いはあたしだったって事だよ」
紗耶香が真っ直ぐよっすぃーを見つめたまま言う。
「ふふ…わかってたんですか。
…っていうことは、思いっきり今回の事が堪えたって事ですかね?」
嬉しそうにそう言うよっすぃーを見て私は背筋がゾクッとした。
「さぁー?どうだろうね」
紗耶香は表情を変えないまま顎を少し上げる。
- 153 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月16日(木)00時43分49秒
- 「どういう事かわからないんですけどぉ…」
辻は混乱しながらキョロキョロと視線を動かしている。
「全部白状しちゃえば?もう何も隠す必要なんてないわけでしょ?」
それまでずっと静かに状況を見守っていた圭織はさすがに疲れてきたのか
背負っていた後藤を降ろしながら言う。
「さぞ、ご立派な理由があるんでしょうね?
ここで人を傷つけたりしたら現実に戻った時のリスクがあるって
わかっててこんな事をやってんだから」
圭ちゃんはまだまだ怒っている。
「そうですね。全部話しましょうか…。
期待に答えられるって事は出来ないだろうけど。
理由を言っても皆にとってはどうでもいい内容だと思うし」
よっすぃーの話はこうだった。
- 154 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月16日(木)00時44分52秒
- 後藤を狙ったのは紗耶香に精神的なダメージを与える為。
最初、階段から落とそうとしたのは後藤ではなく紗耶香だった。
でも、結果としては後藤が落ちて、そして紗耶香の頭に血が昇っている様を見て後藤を狙う事にしたのだ。
直接紗耶香本人を傷つけるより効果的だとその時に知ったから。
それは確かにそうかもしれない。
でも、本当は後藤の事を傷つけるのは辛かったという。
そして、よっすぃーがここまで紗耶香の事を憎んでいる理由。
それは自分の今のポジションが問題だった。
プッチとしても、娘。としても…何をしても紗耶香と比べられるよっすぃー。
そして、それを超えられないと自分で感じている。
所詮オリジナルには勝てないと。
でも、紗耶香が娘。を抜けなければこんな事にはならなかった。
今の自分とは違うポジションが用意されていたはずなのに。
だから、自分が紗耶香に対して憤りを感じるのは当たり前だと。
- 155 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月16日(木)00時46分16秒
- 紗耶香が娘。を抜けてからの後藤の落ち込み様といったらそれはもう酷かった。
支えとなる人物がいなくなったのだから当たり前なんだけど。
そして…その時、同年代だったよっすぃーが後藤と急接近したのは後藤にとっては有難かったことだろう。
気の合う仲間を見つけたのだから。
しかし、二人がより仲良くなるにつれて仕事への気の緩みが出てきたのはあきらかだった。
よっすぃーは上の人から見たら後藤をダメにする張本人としか見えなかった。
だから、一時期よっすぃーはわざと干されているような扱いをされてしまっていた。
よっすぃーとしては後藤に恨みはない。
むしろ仲のいい友人という気持ちに変わりはなかった。
けれど、どうして自分がこんな目に合わなくてはならないのかという理不尽な思いがあったらしい。
そして、やっぱりここで紗耶香がいればこんな事にはならなかったという思いが出てきた。
- 156 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月16日(木)00時47分39秒
- そして…何より紗耶香が前に後藤にキツクあたっていたのも気に入らなかった。
突然、ひょっこり現れて嵐のように去っていって。
後藤を深く傷つけたかと思いきや、あっさり仲直りしてて。
自分がどれだけ後藤を想い、慰めの言葉を言っても何も変わらなかったというのに。
二人の絆を見せ付けられたのが凄く悔しかったのだ。
よっすぃーの告白を聞いてみんな黙り込んでいた。
「でも、そんな理由でこんな事を?」
私は正直に思った事を口にしていた。
「…そんな理由?私にとっては深刻なんですけどね…まぁ、いいや。
それに言ったでしょ?期待に答えられないって」
よっすぃーは笑いながら言う。
「なんか私、腑に落ちないんだけど」
圭ちゃんは眉間にシワを寄せて考え込んでいる。
「アンタ…ホンマにアホやなぁ……」
今までずっとよっすぃーから受けた傷に黙って耐えていた裕ちゃんが口を開いた。
「…どういう意味ですか?」
よっすぃーは少し真顔になって聞き返す。
- 157 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月16日(木)00時49分19秒
- 「私の座右の銘を覚えてないんか?いつも言ってるやろ…芸能界は弱肉強食やって…。
自分でチャンスを呼び寄せて、そして自分でそれをちゃんとモノにせなアカンって…そういうもんやでって」
「私だって頑張ってるんですよ」
よっすぃーが反論する。
「頑張る?はっ…ええ響きの言葉やなぁ…ちゃんちゃらおかしいわ…」
あきらかによっすぃーを煽る裕ちゃんを見てヒヤヒヤする。
「それにな…紗耶香やって、最初の頃は全くアカンかってんで?
せやけど、ちゃんと自分でチャンスをモノにした…紗耶香だけやない、他の娘らもそうや。
アンタはそれを妬んでどうすんねん…」
確かにそうだ。
初期メンや追加組だって最初は全く自分っていうものを出せていなかった。
TV慣れしていない素人なんだから当たり前なんだろうけど。
こうして今の自分があるのは、ここ数年の経験からだ。
それは努力だったり、裕ちゃんが言うところのチャンスだったり。
でも、どうしてだろう?
よっすぃーだって、この一年である程度そんな事に気付いてるはずなのに…。
それだけ紗耶香への憎しみの感情が大きいって事なんだろうか…。
- 158 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月16日(木)00時50分10秒
- 「きっと、なっちもこうやってアンタを説得しようとしたやろ?
なっちは今まで娘。の中でも一番辛い目にあった娘やからアンタの気持ちはよーわかるはずや。
だから、娘。の事を考えて誰にもアンタの事を言わず一人で行動した。
後藤への仕打ちを自分以外の誰にも知らないままで
アンタが思い直したらこれ以上酷い事にはならんはずやと思って。
それやのに、アンタは自分一人の事しか考えんと、なっちをあんな目に合わせた。
元の世界に戻ってからの事を本当によー考えたんか?
記憶は残るんやで?
こんな事したアンタの事を誰が今まで通り快く迎えるっちゅーねん?」
裕ちゃんは悲しそうに呟く。
よっすぃーは肩を震わせながら言う。
「…もうどうなってもいい……自分の気が済めば…それだけで」
「……どうしようもないくらいアホやな…アンタって…」
裕ちゃんはぼやく。
他のメンバーは皆まだ黙り込んでいた。
いや、何も言えなかった。
- 159 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月16日(木)00時51分16秒
- 誰かと大喧嘩するわけでもなく、いつもニコニコしていたよっすぃー。
実はこんな感情をずっと持っていただなんて誰が予想出来ただろう。
ある意味、自分の身の破滅まで覚悟して。
もうどうする事も出来ないんだろうか…。
「…で?結局さ、最終的に吉澤はどうしたいわけ?」
退屈そうに首をコキコキ鳴らしながら紗耶香が言う。
紗耶香のこの態度にビックリした。
どこから、そんな余裕が出てくるんだろう…。
「そうですね…ここまで来たら市井さんを殺しちゃいましょうかね?」
よっすぃーは投げやりな口調で苦笑いする。
「あたしを今ここで殺す事で吉澤の気が済むんならいいけどさ…もう手遅れだね。
きっと、何も変わらないよ…むしろ、今回の事は自分で自分の首を締めたって感じ」
紗耶香がため息を付きながら言うとよっすぃーはキッと紗耶香を睨みつけた。
「例え、そうだったとしても…アンタにそんな風に言われるのだけは我慢ならない!」
「よっすぃー!!止めてよ!!これ以上、もう何もしないで!!」
思わず後藤が叫ぶ。
それを聞いて一瞬よっすぃーの動きが止まる。
- 160 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月16日(木)00時53分03秒
- 「後藤…、無駄だよ。今の吉澤に何を言ってもさ」
紗耶香はよっすぃーを見つめたまま言う。
「…よくわかってるじゃないですか」
「正直…あたしだって後藤をこんな目に合わせた吉澤がムカつく。
けど吉澤とあたしは違う。
あたしは吉澤に対して別に何もしようとは思わない」
アンタと一緒にしないで欲しいね、と紗耶香はよっすぃーを見下す。
「でも…」
紗耶香の突き放した言葉を聞き、後藤は心底悲しそうな表情になる。
その二人の様子が気に障ったのかよっすぃーは私達が今まで見た事がないくらい怖い表情になった。
そして、紗耶香に向かって包丁を振りかざしてきた。
それに対して紗耶香は顔色ひとつ変えずに
傍にいる後藤を庇うようにして身を固める。
本当に抵抗しないまま殺される気!?
私は思わず紗耶香の目の前に飛び出していた。
そして、私は目を固く閉じる。
「あっ!!」
誰かの声が聞こえた。
- 161 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月16日(木)00時56分29秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<犯人、発覚!
・・・なんか激しく怒られそうな内容なんですが(汗)
こんな内容で誰が納得してくれるというのか(爆)
- 162 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月16日(木)02時54分57秒
- やった〜!!犯人が当たってた……といっても前回の更新分でやっと解ったんですけどね(w
俺的には全然OKな話なんですけど、吉澤ファンじゃないから参考外かな(w
- 163 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月16日(木)03時15分32秒
- 深い想いが狂気に駆り立てたんですから
彼女が適任だったとしか……
よっすぃ〜ファンではなく、面白ければヨシの
小説ヲタの戯言ですが(w
- 164 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月16日(木)19時28分36秒
- 当たってましたが、この関係妙にリアリティーがあるから怖い…
娘。達(特にゴチーン)は救われるのでしょうか…
- 165 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月17日(金)01時20分14秒
- …い、痛くない?
どうして…。
「いくらここが現実やないっちゅーても、こんな物騒なモノ振り回すのはよくないで…」
目を開くと、私の前に裕ちゃんが立っていた。
よっすぃーの手に握られていた包丁の刃をそのまま自分の手で握っている。
ポタポタと裕ちゃんの右手からは血が流れる。
「…邪魔しないで下さいよ」
よっすぃーはそのまま力任せに包丁を裕ちゃんの手から離そうとするが
裕ちゃんもガッチリ握ったまま離さない。
「そうはイカンなぁ…」
裕ちゃんはニヤリと笑う。
「裕ちゃん!止めてよ!」
紗耶香もさすがに顔色を変える。
「止められんわ…この娘がここまで思い込んでたっていうのを自分がリーダーの時から
ずっと気がつけへんかった私の責任でもあるんやから…」
裕ちゃんは真剣な表情になっている。
「今のうちにロープかなんか持って来い!私がこうして吉澤の動きを止めてる間に縛ってや!」
裕ちゃんはそう言いながら、よっすぃーの包丁を持っていない方の手もガッチリと握る。
「離せっ!…っく!いつもならこっちの方が力が強いのに…なんで!?」
どうやっても裕ちゃんの手を離す事が出来ないよっすぃーは苛立っている。
「若返ったのが良かったのかもしれへんな。あと、火事場のバカ力っちゅーもんを舐めたらアカンで…」
本当は余裕がないはずなのに裕ちゃんは汗を流しながら静かにニヤリと笑う。
そして、どこからか圭織が持ってきたロープによってよっすぃーは動きを封じ込められた。
- 166 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月17日(金)01時21分58秒
- 観念したのか、よっすぃーは大人しくロープで縛られたまま、無言でその場に座り込んでいた。
「はぁー…さすがにキッツイな。なんぼ現実の世界やない言うてもこんな身体じゃ…」
裕ちゃんは傷だらけの身体で窓にもたれながらズルズルとしゃがみ込む。
「裕ちゃん!」
私は裕ちゃんの傍に駆け寄った。
すると、裕ちゃんは私の顔を見て嬉しそうに笑った。
「矢口に心配されるのってホンマ感動やわ」
「バカ!そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
私は呑気に笑う裕ちゃんを叱りつける。
今までの出来事が信じられないのか皆、静かだ。
「なんでこんな事になったんやろう…」
加護は自問自答するかのように呟く。
「あれぇ?…そういえば梨華ちゃんは?」
辻がようやく一人いない事に気がついた。
と、いうか私も言われて初めて気がついたんだけど。
「そういや…いないわね」
圭ちゃんがキョロキョロと辺りを見回すが石川の姿はない。
「きっと、どこかで迷ってるんじゃないの?」
圭織がため息をつきながら言うのを聞いてみんなで納得した。
いつもどこか抜けてる石川の事だ。
一人、不安そうな顔で校内を彷徨っている姿は簡単に想像がつく。
充分に有り得る事だ。
でも、皆にこうして納得されるのもどうかと思うけど。
「…これからどうするつもりなんですか?」
よっすぃーがどうでもよさそうに声をかけてきた。
「これから残された時間を使ってアンタの性根を他のメンバーに叩き直してもらうで。
残念ながら私にはそんな力は残ってへんからな…」
そう言いながら裕ちゃんは私の方へガクッと身体をもたれさせた。
「裕ちゃん!?しっかりしてよ!!死んじゃヤだ!!」
「…アホか…勝手に殺すな。まだ、死んでへんっちゅーねん…」
不満そうに苦しそうな呼吸をしながら裕ちゃんは答えてくれたけど。
今にもその呼吸が止まってしまいそうだ。
ずっと私達のやり取りを見ていた紗耶香はパンパンッと手を叩いた。
「裕ちゃんは矢口に任せて、あたし達は吉澤を連れて教室に戻るよ!」
「おう…そうしてくれた方が私的にはメッチャ嬉しいわ」
裕ちゃんは紗耶香に笑ってみせる。
それを見た紗耶香はウインクして見せて皆を誘導する。
もしかして…二人っきりにしようとしてくれてるの?
嬉しいけど、紗耶香に言われるとちょっと複雑。
そして、紗耶香に寄り添うようにしている後藤を見て私はある事を思い立った。
- 167 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月17日(金)01時23分38秒
- 「ちょっと待って!」
私がそう呼び止めると皆の動きが止まった。
「どうしたの?」
紗耶香はキョトンとしている。
「もう自由に願いを叶えていいでしょ?」
私がそう言うと紗耶香は微妙な表情をした。
そして、紗耶香が何かを言う前に私は目を瞑ってこう言った。
「矢口の願いはコレ!ごっつぁんの目を見えるようにして!!」
そして、時計が眩い光を放った。
「矢口…」
紗耶香は少し光を受けたせいで片目を瞑ったまま呟いた。
「…どう?後藤…見えるようになった?」
私が後藤に言うと、後藤は目を擦りながら必死で視界を取り戻そうとした。
そして、私を見てこう言った。
「やぐっつぁん…見えるよ…ちゃんと…」
「よかった」
「でも…なんで……あんなに言ったじゃん。後藤の為に願いを使わないでって…」
複雑な表情をする後藤。
「だって、もう問題ないじゃん。
心配事なんてもうないんだし、好き勝手な願いを叶えてもいいでしょ。
それに別にこれはごっつぁんの為の願いじゃなくて矢口自身の為の願いだもん」
このまま後藤の目が見えない状態だと紗耶香が悲しむから。
そんなのもう見たくないし。
紗耶香は表には出さないようにしてたけど矢口にはよくわかったよ。
このまま後藤の事なんて気にしないで紗耶香と仲良くなれる願いとかを叶えてもいいけど
そういうのはやっぱいいや。
紗耶香の気持ちを無視した願いなんてしたくないから。
自分でもバカだとは思うけどしょうがないじゃん。
「矢口さんはいい人ですね!」
辻が何故か感動している。
「人の為に願い事を使うやなんて…」
加護も少し驚いているようだ。
「いいカッコしちゃってさ。似合わないよ」
圭ちゃんは相変わらずの憎まれ口。
「でも、それが一番いいんだよ」
圭織は私の考えてる事がわかるのか一人納得していた。
「ありがと…」
後藤は顔をクシャクシャにしながら礼を言った。
紗耶香は私の気持ちがわかっているのか、そうでないのかわからないけどよっすぃーの方へ振り向き、こう言った。
「このメンバーにはさ、こうやって人の為に行動してくれる人もいるんだよ」
その言葉を聞いてよっすぃーは顔を背けた。
「別に矢口は特別な事をしたわけじゃないよ」
私はなんだか照れて頭をかいていると裕ちゃんはまだ眩しそうな顔をして私を見ていた。
- 168 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月17日(金)01時26分21秒
- 「ったくもー!じゃ、これから本当に吉澤の性根を叩き直そうか」
圭ちゃんはイライラしてるのか胸の前に拳を作ってそう言い
他のメンバーに行くわよっ!と声をかけた。
裕ちゃんの事について全く触れないのはもうここで会えない事がわかってて
その事実を受け止めたくないから。
他のメンバーも同じ気持ちなのだろう。
素直に圭ちゃんの後についていく。
ただ、紗耶香だけは違っていた。
「じゃ、またね。裕ちゃん…」
そう言い残して紗耶香は去っていった。
裕ちゃんと私だけになったこの廊下。
周りは静まり返っている。
「…アンタならああいう願いを言うて思ってたわ…ホンマに紗耶香の事だけを考えてんねんな」
軽く笑顔を作って裕ちゃんはそう言った。
「別にそんなんじゃないよ」
私はどういう返事をしたらいいのかわからなくて曖昧に答える。
「らしくてええわ…。そや、一つお願いがあんねんけど」
「何?」
「膝枕してくれへん?」
「…ま、いいか」
いつもだったら嫌がるとこだけど今回は何を言われても答えようと思った。
私に膝枕された裕ちゃんは幸せそうな表情をする。
「いやー、ホンマやったらこんなとんでもない悪夢みたいなのはゴメンやけどなぁ。
こうやって矢口が優しくしてくれるから、もーどうでもええわ」
「現金だよ、裕ちゃんってば」
「アホ、正直や言うて欲しいわ」
いつものノリに戻っている裕ちゃんを見てるとこっちまで笑ってしまう。
でも、本当はまだまだ笑えるような状況ではないんだけど。
血だらけ、傷だらけな姿の裕ちゃんを見てたら…。
「裕ちゃん…痛くないの?」
「そら、メッチャ痛いわ。正直、意識がヤバそうやねんけどな…」
「でも…本当に裕ちゃんは凄いね。娘。の為にここまでして…」
「私は何もしてへんがな。むしろ、なっちの方がエライわ。
大体、私の場合は娘。の為やなくて…」
「娘。の為じゃなくて?」
私は裕ちゃんが言った言葉をそのまま繰り返す。
裕ちゃんは私から視線をわざと外し、こう言った。
「矢口を危険な目に合わせたくなかっただけやから…」
「……」
「そ、それにやな…こんな小さな矢口連れて行ったとこで役に立つとも思えへんしな!」
「…一言多いんじゃないの、それって…」
「……スマン」
- 169 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月17日(金)01時27分39秒
- 圭織が言ってた言葉を思い出す。
『きっと裕ちゃんは矢口を危険な目にあわせたくなかったんだよ』
『そんなのわかってんじゃん。矢口の事が好きだからだよ』
「裕ちゃんは本気で矢口の事が好きなの?冗談とかじゃなくて?」
「何やねん……私今までに矢口に冗談でそんな事言うた事あらへんで」
「だって、矢口の他にも好きや!好きや!って言ってんじゃん!!」
「あんなぁ…雰囲気とかあるやろが」
ヤレヤレといった表情の裕ちゃん。
だって……わからないよ、そんなの。
「っちゅーか、ホンマに何やねん?
私の事をちょっとは気にしてくれるようになったんかいな?」
「…べっつにー」
「何や?何や??図星か?」
面白そうに言う裕ちゃんに対して私はムッとした顔になる。
図星…そうなんだろうか。
自分ではよくわかんない。
まだ紗耶香の事が好きって事に変わりないと思うんだけど。
それでも裕ちゃんの事が気になるっていうのもある。
何時もバカばっかりやってて…。
もういい歳なのにまだまだ子供っぽい所ばっかで…。
誰よりも泣き虫で…。
それなのにいざとなったらしっかりした大人の女性で…。
そして、何より何時も私の事を心配してくれて…。
- 170 名前:−矢口真里視点− 投稿日:2001年08月17日(金)01時29分07秒
- 「ま、気長に待っててくれたらいい事あるかもね」
強がりで私はこう言うと裕ちゃんは嬉しそうな顔になった。
「はは…私は誰かを待つっちゅーのは苦手やけど矢口の事を待つのは朝飯前やで」
「よく言うよー…っていうか、うちらって女同士なのに変な会話してるよね」
「別にええんちゃう?本気で誰かを好きになったら別に異性か同姓かなんて関係あらへんと思うわ。
ま、世間体とか考えたら普通は躊躇するところやろうけどな」
…だからそこを気にしろよ…っていう台詞は私には言えないんだけどね。
「うーん…そろそろ眠なってきたわ…」
「…え?」
裕ちゃんがいつもの明るい調子で話していたから今まで気がつかなかったけど裕ちゃんの呼吸はかなり乱れている。
出血の量が半端じゃないから意識も朦朧としてるのかもしれない。
「悪いけど後は任せたで…私は一足お先に戻らせてもら…うわ。
それに…まだ気を抜かん方がええで…何かまだ……嫌な予感がすんねん……」
「どういう事?」
裕ちゃんが何を言ってるのかわからない。
だけど、私の問いかけには答えず裕ちゃんは笑顔でこう言った。
「矢口が帰ってきたら熱烈チューの歓迎したる…から…な」
もしかしたら、もう私の声は裕ちゃんに届いていないのかもしれない。
「バカ…」
「…な…んで泣くん?永遠の別れ…みたいで嫌やわ…」
私の目からは何時の間にかポロポロと涙が零れていた。
裕ちゃんはフラフラと腕を伸ばし、私の涙を拭ってくれる。
弱々しい笑みを浮かべて裕ちゃんは最後にこう言った。
「アンタ…に泣き顔は似合わへんで。ずっと笑っといてや…」
裕ちゃんが動かなくなってもしばらくの間、私はそのままで
ずっと涙が止まらなかった…。
- 171 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月17日(金)01時34分47秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<裕ちゃんー!!
>162さん
犯人当たってましたか(笑)
OKですか?その言葉を見てホッとしました・・・。
>163さん
フォロー有難うございます。
面白ければヨシって言うのもまた怖い言葉ッスよ(笑)
>164さん
リアリティーですか・・・どうなんでしょうね。
最後に救われる人はいる・・・と思います。多分。
えーっと、犯人はわかりやすかったでしょうね(笑)
自分で作っててバレバレじゃんとか思いましたから(爆)
話はまだまだ続くので見守っていてもらえると嬉しいです、はい。
- 172 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月17日(金)02時26分51秒
- ワオ!アタテました!
( `.∀´)<なにがワオよ!遅いわよ!
…って呑みなどで2、3日読めなかったのですが、
早い展開&まだひっぱりますね〜!
続きが凄い楽しみです♪
- 173 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月17日(金)18時46分58秒
- まさか石川さんも(ドキドキ
- 174 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月17日(金)18時47分59秒
- やっとやぐちゅうの始まりですね。
- 175 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月17日(金)18時48分56秒
- 嗚呼ゆうちゃん・・・
- 176 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月18日(土)00時47分50秒
- >>174
ツッコミ待ち?
- 177 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月18日(土)01時42分33秒
- >>176
ワラタ
- 178 名前:マインド サーカス 投稿日:2001年08月18日(土)01時58分36秒
- 届かない想い。
諦める人もいれば。
いつまでも諦めない人もいる。
これは全て自分の意思次第。
- 179 名前:−石川梨華視点− 投稿日:2001年08月18日(土)02時00分17秒
- さっきからずっと同じ所をグルグル回ってるような気がする。
もしかして私って方向音痴なのかなぁ。
誰もいない学校って気味が悪い。
一人で校内をウロウロするんじゃなかった。
早く皆と合流しなくっちゃ。
もし、このまま会えなくなったらどうしよう…。
ダメだよ、こんな考えじゃ。
前向きに考えないと!
俯き加減だった視線を上げるとある教室から出てくる人を発見した。
「あー!矢口さん!」
『調理室』と書かれたプレートのドアから出てきたのは矢口さんだった。
「あ…石川、いたの?」
…酷い。
散々、迷ってやっと人に会えたっていうのに。
っていうか、矢口さん…。
「どうしたんですか?目が赤いですよ??」
それにちょっと瞼が腫れぼったい気がする。
「…どうせ後で知るだろうから全部言うけど
さっきよっすぃーに裕ちゃんが殺された」
…はぃ?
「………今、何て言いました?」
「だから、ごっつぁんをあんな目に合わせたのも、なっちを殺したのも…
そして、裕ちゃんも殺したのも全部よっすぃーだったんだよ」
「な、何を言うんですか!?ヤだなぁ…そんな冗談笑えないですよぉ!」
「…冗談だったらホント幸せだよね」
犯人はよっすぃーだったんだ、と矢口さんは憔悴しきった表情でため息をついた。
- 180 名前:−石川梨華視点− 投稿日:2001年08月18日(土)02時02分51秒
- 『3−11』の教室に皆集まっていた。
そして、そこには後ろの黒板の下にロープで
身動き取れないようにされているよっすぃーの姿がある。
「…あの、サッパリわけがわからないんですけど…」
「石川っ!アンタねー、人の話をちゃんと聞いてんのっ!?」
戸惑っている私を見てさっきまで説明をしてくれていた保田さんは怒り狂っている。
私は何か悪い夢を見てるんだろうか。
たった今、説明を受けたけど何もかもが信じられない。
「よっすぃー…なんで……」
信じられないといった表情を浮かべている私をよっすぃーは無表情で見ている。
そして、私の問いには答えてくれない。
「アンタねーっ!!さっきから何なのよっ!?黙り込んじゃって!!」
保田さんはよっすぃーの態度を見てますます怒りをあわらにする。
私がオロオロしながら周りを見回すと皆バラバラに席に座り、この状況を見守っていた。
ごっちんは市井さんの傍で暗い表情。
市井さんは視線をよっすぃーに。
矢口さんは肩肘ついて頭を押さえ、何か考え込んでいる。
あいぼんはののの手を握り、ののはおびえた表情で飯田さんの傍にいた。
飯田さんは静かに腕を組んだまま見守っている。
そして、よっすぃーは終始無言だった。
- 181 名前:−石川梨華視点− 投稿日:2001年08月18日(土)02時05分15秒
- 「あのー…一つ疑問に思ったんですけどいいですか?
あの張り紙をわざと剥がした理由ってあるんでしょうか?」
私が軽く手を挙げながら言うと保田さんはため息をついた。
「知らないわよ。それについて吉澤は何も語ってくれないからね…」
保田さんがよっすぃーの方を見ながら、またため息をついていると
市井さんが突然、口を開いた。
「あたしが思うに…見せたくなかったのはどの文章もなのかもしんないけど。
『この数字が『0』にならない限り、全員元の世界には戻れません。
つまり願いを11人分、叶えないと戻れないという事です』…っていうのあったじゃん?
吉澤はこの言葉を一番隠したかったんじゃないの?
皆がさっさと願いを叶えて元の世界に帰ってもらうわけにはいかなかった。
何故ならこの世界でなら社会的な罪とか関係なく、思う存分
あたしに嫌な目あわせる事が出来るからってね。
そういう事でしょ?」
市井さんはそう言ってよっすぃーを見つめる。
でも、よっすぃーはそれでも何も答えようとしない。
これじゃ、よっすぃー自身の本心がわかんないよ…。
「黙り込み作戦に入ったってわけか…。
ま、長期戦になっても諦めないよ。
元の世界に戻ったら話し合う時間なんてないんだし。
それにスケジュール的にこんなに時間に余裕なんてあるわけないんだから」
飯田さんは腕を組んだまま目を閉じてこう言ったのを聞いてののは嘆く。
「えー!?このままの状態がずっと続くんですかぁ!?」
「せや。もうええやないですか〜!」
加護も困り顔になっている。
「しょうがないじゃん。それに、ここで起きた事はここで決着をつけるべきだよ。
このまま諦めて何も解決しないまま元の世界に戻ったって何一ついい事なんてない。
よっすぃーの為にも…そして、娘。の為にも。
裕ちゃんもきっと同じ事を思ってたから後を頼むって言ったんだと思う…」
矢口さんは暗い表情のまま呟いた。
- 182 名前:−石川梨華視点− 投稿日:2001年08月18日(土)02時07分09秒
- 時計がないからどれくらいその後に時が経ったのかわからないけど。
しばらく時間が過ぎて。
それでも、よっすぃーは何も語ろうとはしなかった。
「ったくもー…これからどうすんの?」
一向に話が進まない事にイラついている保田さんはよっすぃーから視線を変え
私達がいる方を振り返る。
「この問題って解決するんですかぁ?」
ののは首をのんびり傾げながら飯田さんに聞く。
「うーん…今回の件での吉澤へのうちらの不信感みたいなのを
どうするかってのも解決しないとね」
その言葉によっすぃーはピクッと反応した。
「あ、あのぉ…各自で少し考える時間とか作りません?」
私がオドオドしながら言うと矢口さんがどういう事?と首を傾げた。
「一人っきりになった方が考えとかまとまりやすいと思うんです。
私達ももちろんそうですけど…。
よっすぃーももしかしたらそうしたいのかもしれませんよ。
こんな状態じゃ何も考えられないから口を開こうとしないとか…」
「石川っていつもよっすぃーの肩持つよねー」
そう言いながらも矢口さんもその方がいいか、と呟く。
「じゃあ、皆しばらくこの教室から出て考えを整理してこようか」
皆、これに賛成らしく自分から席を立つ。
この雰囲気に耐えられなかったというのもあるのだろう。
教室を出かけて保田さんは立ち止まる。
「ねぇ?吉澤、このまんまにしとくの?」
「あ、そっか。どうしよ…誰か一人いた方がいいのかなぁ…」
矢口さんが眉間にシワを寄せ、考え込む。
「別にいいんじゃない?身動き取れないんだから逃げるってことはないでしょ」
市井さんがどうでもよさそうにそう言って出て行ってしまった。
「…紗耶香がそう言うんならいいんじゃない?うちらも出ようよ」
矢口さんは何時までもよっすぃーを見ていた私の背中を押しながら廊下へと進んでいった。
最後によっすぃーの方へ振り返ってみると、よっすぃーは下を向いたまま何か考え込んでいた。
- 183 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月18日(土)02時11分44秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<あれ?石川いたの?
>ラークマイルドソフトさん
小説書き始めたようで・・・楽しみにしてますよ。
お互いに頑張りましょう。
>173さん
りかっちは大丈夫ですよ。
普通に登場しました。
>174さん、176さん
あ、いや・・・あれは始まったのかなぁ?どうなんでしょう?
>175さん
ねーさんはこんな事になりましたが結構おいしい役だと思われ。
- 184 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月18日(土)02時48分40秒
- いざ自分でやってみると、作者さん達の凄さがわかりますよ…
いっそのことよっすぃー殺されたい…
( `.∀´)<何言ってんのアンタ!早く帰って自分のウプしなさいよ!
ホラ行くわよ!
…………………………………ガムバテください(泣
「………いたたた!耳は引っ張らないで…………………………………
- 185 名前:−石川梨華視点− 投稿日:2001年08月19日(日)00時44分02秒
- 廊下に出てきた私達はとりあえず時計がないから時間の指定は出来ないけど
自分の考えがまとまり次第、ここへ戻ってくる事にした。
それぞれ散らばっていく。
私はボーッとしてその様子を見ていた。
その中に市井さんと一緒に歩いているごっちんの姿があった。
そういえば、さっき…ごっちん何も話さなかったなぁ…。
やっぱりショックが大きかったんだろうな…。
私がぼんやりそう思っていると肩を叩かれた。
「石川…アンタもちゃんとここから離れて考えてきなさいよ」
「保田さん…はい、わかりました」
「間違っても吉澤のとこに戻ったらダメだからね」
「…わかってます」
私がため息をつきながら歩き出すと保田さんもため息をついた。
「何でかな…もっと上手くいってるって思ってたのにさ…」
独り言のように呟く保田さん。
「何がですか?」
「誰も妬みとかそういう感情とか持たずに
仲良く一緒に活動出来てるって思ってたんだよね」
甘い考えだったのかな、と保田さんは肩を落とす。
「妬みの感情を持たない人間なんていないんじゃないですか?」
私がそう言うと保田さんは驚き、顔を上げて私を見た。
「アンタもそうなの!?」
「嫌だなぁ…例えばの話ですよぉ。保田さんにはそういう感情ってないんですか?」
「そりゃ、全くないって言ったら嘘になるけどさ…。
でも、もう自分の扱われ方ってのに慣れちゃってるから」
保田さんも今まで結構、大変だったんだろうな…。
最初の追加メンバーの人って最初からいたメンバーと
仲良くなるまでに時間がかかったって言うし。
そういう意味では私達は三度目の増員メンバーだからマシだったんだろうけど。
- 186 名前:−石川梨華視点− 投稿日:2001年08月19日(日)00時45分43秒
- 「じゃ、後でね」
保田さんはそう言い、階段の所で私達は別れた。
「一人っきりになっちゃった…」
私はポツリと独り言を言う。
ノロノロと廊下を歩く。
周りには誰もいなくなっていた。
寂しいよぉ…。
自分から言った事とはいえ、何をしたらいいんだろう…。
どうしたらいいんだろう…。
考えをまとめるって言っても…。
そりゃ、よっすぃーが市井さんの事を憎んでるっていうのも驚いたし。
そのせいで安倍さんや中澤さんをいくら現実の世界じゃないとしても
殺すだなんて思ってもみなかった。
どうしてそんな事をしたんだろう…。
皆も言ってた通り、現実に戻った時のリスクを考えたら
たとえここが異世界だとしてもメンバーを傷つける事なんて出来ないと思うんだけど…。
何か他に理由があったのかなぁ…。
私はよっすぃーの事が好きだし。
こんな事になっても、その気持ちは変わらない。
よっすぃーの意外な一面を見たって感じで深くは考えないようにしてるのかな…。
…こういう考えって普通じゃないんだろうな。
こんな事、矢口さん辺りに言ったら思いっきり罵倒されそう…。
- 187 名前:−石川梨華視点− 投稿日:2001年08月19日(日)00時49分26秒
- ため息をつきながら階段を下りていると誰かの話し声が聞こえてきた。
…誰だろう?
ヒソヒソと小声で話しているようなので自分の姿を見せない方がいいような気がして
こっそり階段の影から覗き込んでみた。
階段の下にいたのは市井さんだった。
もう一人の姿はここからでは見えない。
二人は真剣に何か話し込んでいるみたいなんだけど。
残念ながら二人の声が小声なので会話の内容までは聞くことが出来ない。
誰だろう?
ごっちんかなぁ?
今のこんな状態で市井さんからごっちんが離れるなんて不思議だし。
ごっちんって何だかんだいって大事にされてるなぁ。
市井さんはもちろん。
飯田さんも何気によく気を遣ってるみたいだし。
よっすぃーもここでは一悶着あったけど、現実では親しくしてるし。
プッチでも一緒な保田さんだってよく構ってる。
それってかなり幸せ者って事だと思うなぁ…。
私はため息をついて、そのままその場を立ち去った。
- 188 名前:−石川梨華視点− 投稿日:2001年08月19日(日)00時51分47秒
- ちゃんとした考えがまとまるわけではなく
それでもやっぱり自分はよっすぃーが好きって事は変わらないので
教室に戻る事にした。
『3−11』の教室まであとわずかという所まで私が戻って来た時に
誰かが大声をあげた。
聞こえたのは『3−11』からだ。
私は何事かと思って慌てて教室に入った。
「あ!!石川っ!」
そこには慌てている保田さんの姿があった。
「どうしたんですか?」
私が聞くと保田さんは驚くべき事実を口にした。
「吉澤がいないのよっ!!」
- 189 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月19日(日)00時56分49秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<ドラマの出番があんなに少ないだなんて!!
>ラークマイルドソフトさん
ヽ^∀^ノ<頑張ってくれよぅ!!
物語を作るっつーのは大変ですよね、確かに。
自分はヘボヘボなので・・・。
- 190 名前:−石川梨華視点− 投稿日:2001年08月20日(月)00時27分34秒
- 「…逃げたか」
市井さんはさっきまでよっすぃーがいた所に立ち
そこに残されていた切られたロープとカッターを見下ろして呟いた。
「…よっすぃー」
ごっちんは市井さんの腕を取り、悲しそうな表情をしている。
「アイツ、何個刃物を持ち歩いてんのかしら…」
保田さんはため息をついた。
「最初っから持ち物検査とかしたらよかったんじゃんかー!」
矢口さんは不安なのを見せないようにわざと大声を上げる。
「それより、やっぱ誰か見張りをつけるべきだったって事じゃないんですか?」
あいぼんが困り顔でぼやく。
「でも、どうして逃げ出したんでしょうか?」
ののが不安そうに言うと。
「もしかして…まだ紗耶香を狙ってる…とか?」
矢口さんがおずおずと言う。
その言葉を聞いて皆、静まり返る。
「そ、そんなのまだわかりませんよ!とにかく探しに行きましょうよ!」
私が慌てて言うと皆一同に頷いた。
「連絡とかとれないからマメにここに戻ってくるようにね」
飯田さんは隣で泣きそうな顔をしているののの頭を撫でながら皆に言う。
そういえば携帯とか持ってないんだった。
文明の機器が全く使えないのってかなりキビシイ。
- 191 名前:−石川梨華視点− 投稿日:2001年08月20日(月)00時30分42秒
- 私達はそれぞれ散らばってよっすぃーを探す事にした。
一人になるのってかなり不安なんだけど…。
私はよっすぃーを信じてるから怖くない。
もうこれ以上、何もしないと思いたい。
ここの校舎の外には逃げられないはず。
出口がない事は皆知っている。
だから、校内のどこかによっすぃーがいるはずだ。
捕まるのは時間の問題。
出来る事なら私が一番によっすぃーを見つけたい。
そして、説得出来るならしたい。
何をどう説得したらいいのかわかんないけど。
- 192 名前:−石川梨華視点− 投稿日:2001年08月20日(月)00時32分59秒
- しばらく時間が経って。
私は校舎内を走り回ったせいでかなり疲れていた。
そして、やっとよっすぃーを見つけた。
よっすぃーがいたのは『調理室』だった。
安倍さんと中澤さんが大きな白いテーブルクロスにかけられて
横たわっているのを静かに見下ろしていた。
皆、ここに来るのは避けているはずだ。
出来る事ならもう二人のこんな姿を見たくはないから。
よっすぃーにはそれがわかっていてここに逃げ込んで来たのだろうか。
そういえば、犯人は一度現場に戻るってよく言うけど本当にそうなのかもしれない。
「…よっすぃー」
私はそれだけしか口に出来なかった。
よっすぃーは私の声が聞こえなかったのか無言のままだった。
これでは私の存在に気付いているのかわからない。
それが凄く悲しかった。
「よっすぃー!!」
私はもう一度大きな声で呼んだ。
「……梨華ちゃん」
よっすぃーはやっと私の方を見た。
彼女の表情は憔悴しきっていた。
- 193 名前:−石川梨華視点− 投稿日:2001年08月20日(月)00時37分39秒
- 「よっすぃー…私……どんな事があってもよっすぃーの事、好きだよ」
私は自分の本音を正直に口にする。
「嘘ばっか……ここは現実じゃなくても私は殺人者って事に変わりはないんだよ?
ここでの記憶は残ってるってわかってても自分の感情は止められなかった…。
後の事を全く考えられなかった…。
私ってバカだね…」
よっすぃーは疲れたような笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ!皆、許してくれるよ!!」
私は必死でそう言うとよっすぃーは突然、ボロボロと泣き出した。
それを見て私は絶句する。
まさか泣き出すなんて思わなかったから。
もしかしたら今になって罪悪感とかを感じ出したのかもしれない。
「よっすぃー…泣かないで」
私は優しくそう言いながらよっすぃーを抱き締める。
よっすぃーは私にされるがままでいた。
抱き締め返すような事はしてこない。
「…本当は傷つけたくなかったんだ……。
でも、それ以上に憎しみの感情の方が大きかった…」
「…え?」
どういう事だろう?
最初は市井さんを傷つけるつもりがなかったっていう事?
それとも…。
「…ゴメンね……梨華ちゃん」
「どうして私に謝るの?」
私に対して別によっすぃーは何もしてないと思うんだけど…。
どうして…?
よっすぃーはやっぱり身動き一つしない状態のままこう言った。
「私、ずっと私への梨華ちゃんの想いに気付いてたから…」
- 194 名前:−石川梨華視点− 投稿日:2001年08月20日(月)00時39分31秒
- しばらくして突然、あの時計が発光した。
私とよっすぃーは目を思いっきり閉じた。
最初の時に比べて眼の眩みはすぐに戻るようにはなったけど…。
「…梨華ちゃん…まさか……」
よっすぃは片目を開けて私を凝視する。
「何が?どうしたの?よっすぃー…」
私がニコッと笑うとよっすぃーは言葉を無くしている。
そして、よっすぃーは無言のまま自分の時計のディスプレイを確認する。
私も同じようにそれを見る。
ディスプレイの表示は『6』になっていた。
カウントが一つ減っている。
「……」
よっすぃーは驚きを隠せない表情になっていた。
「よっすぃー…私とずっと一緒にいようよ」
私はそう言ってよっすぃーをまた抱き締めた。
- 195 名前:−石川梨華視点− 投稿日:2001年08月20日(月)00時40分32秒
- 時計のディスプレイのカウントが11から減った理由は。
11から10になったのは中澤さんが願いを使ったから。
10から9になったのは安倍さんが使ったから。
9から8になったのはよっすぃーがごっちんの目を見えなくさせる願いを使ったから。
8から7になったのは矢口さんがごっちんの目を元に戻したから。
じゃあ、7から6になったのは?
- 196 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月20日(月)00時44分34秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<今日の私は一段と顔がデカかったわ!
ラブ度低い話ッスね、コレ・・・。
相変わらずわけわからんし。
- 197 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月20日(月)01時00分59秒
- いえいえ!!こういう静かなラブもいいっす!!
- 198 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月20日(月)01時03分24秒
- いやいや、いしよし風味なのが純粋に嬉しいっす
吉澤を救ってやってくれ、石川………大丈夫かな(w
- 199 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月20日(月)04時48分54秒
- てめえのをウプしてから来たんですけど…
ヤパーリ面白い展開を見せてますね〜(泣
ガムバッテください!
- 200 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月20日(月)14時43分30秒
- どんな時でもヨッスィのことが好きな梨華ちゃん萌え〜(w
続き気になるっす!
- 201 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月20日(月)22時49分16秒
- あの人はいつも優しい。
だから、私はいつもついていく。
皆もあの人を信じてついて行って欲しい。
それが私の望み。
- 202 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月20日(月)22時50分34秒
- さっき時計が光った。
これが何を意味しているのかなんて誰にでもわかる。
誰かが願いを叶えたか、もしくは誰かがこの世界からいなくなったか。
そして私にはどっちか判る。
私は急いで『3−11』の教室へ戻る。
そこに戻ってきていたのは市井さん、後藤さん、飯田さん、矢口さんの四人だった。
「い、今…時計が……ハァ、ハァ…」
私は自分の時計を指差しながら肩で息をする。
「辻…よかった、無事だったんだね」
飯田さんはそう言って安心した表情をして私を抱き締める。
「辻は大丈夫ですけど…他の皆は…?」
まだ息が乱れたまま私は聞くと。
「まだ戻ってこないんだ。それに吉澤も見つかってない」
飯田さんは暗い表情でそう言う。
「そ、そうですか…」
さっきから飯田さんの様子がおかしい。
それに後ろにいる市井さん、後藤さん、矢口さんの様子はもっとおかしかった。
「あ、あの…」
私がその後の言葉を続けるより先に飯田さんは重い口調でこう言った。
「紗耶香の記憶が…なくなったんだ」
- 203 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月20日(月)22時52分09秒
- 私がボーッとしていると私達から離れている矢口さんと後藤さんの声が聞こえてきた。
「紗耶香!ホントに何も覚えてないの!?」
矢口さんは市井さんの両肩を揺さぶりながら必死で聞いている。
「痛いよ…矢口。そんなに力一杯揺さぶらないでよ」
市井さんはされるがまま非難の声をあげる。
「市井ちゃん…嘘でしょ……冗談だって言ってよ〜!」
後藤さんは泣きそうになっている。
「市井ちゃんっていう呼び方されるのって初めてだなー…っていうか、本当に誰?」
後藤さんを見て市井さんはキョトンとしている。
それを聞いて皆黙り込んでしまう。
落ち着かない様子の市井さんと私の視線が合った。
「あれ?圭織、その娘は誰?」
私は呆気にとられていた。
「あ、あの…飯田さん」
「さっきの光は誰かが紗耶香のある時期からの記憶を消すって事だったみたい…」
飯田さんは肩を落とす。
ある時期って…。
後藤さんと私の事を知らない様子の市井さん。
つまり、それは後藤さんが入る前までの記憶しかないって事になる。
私は無意識にビクッと肩を震わせた。
「辻?どうした?」
飯田さんが私の様子に気がついたのか、心配そうに声をかけてきてくれた。
「い、いえ…何でもないです」
私は冷や汗をかきながら俯いて答えた。
その時、後ろから声が聞こえた。
「い、今、何って言った?…紗耶香が何だって?」
保田さんが何時の間にか戻ってきていた。
後ろにはあいぼんと梨華ちゃんもいた。
私がさっき見た事をここで口にする事は出来ない…。
- 204 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月20日(月)22時54分25秒
- 皆が教室に集まって市井さんに色々各自で自分の事を聞いてみたけど
やっぱり記憶がスッポリ抜け落ちているみたいだった。
後藤さんはこんな状態の市井さんの傍にいるのは辛いらしく
少し離れた所で心底落ち込んでしまっている。
そんな後藤さんを飯田さんは肩を抱いて心配そうに見ていた。
「よっすぃーがやったんですかね?」
あいぼんが本題に入ろうとする。
「アンタ、バカね!吉澤はもう願い使ってるじゃないのよっ!」
「あ、そっか」
あいぼんは自分で頭をコツンと軽く叩く。
「…と、いう事は他の誰かが…って事?」
矢口さんは眉間にシワを寄せて呟く。
その言葉を聞いて後藤さんは突然立ち上がった。
「一体誰なのさ!?こん中の誰かしか考えられないじゃん!!
後藤に何かするのはいいけど市井ちゃんに何かするのは許せないっ!!」
「…後藤、落ち着いて」
飯田さんが後藤さんの肩を持って座らそうとするが後藤さんは怒りが止まらないようだ。
市井さんはそんな後藤さんをぼんやり眺めている。
「この中で願いを使ったってわかってるのは矢口さんだけですよね…。
私を含めて7人はまだ使ってない…」
梨華ちゃんがそう言うと。
「だから、アンタもバカねっ!
この中の誰かは使ってるんだから使ってないのは6人でしょっ!」
保田さんがそう言うと。
「わかってますよぉ。
ただ、疑いのあるのはこの7人って事じゃないですか?って言いたかったんです」
「……」
梨華ちゃんと保田さんの会話が止まった所で後藤さんが口を開く。
「市井ちゃんが自分からこんな願いするわけない…だから、やっぱ6人だよ」
「そだね。ってことは…圭織、後藤、辻、加護、石川、圭ちゃんの誰かって事になるね」
飯田さんは指折りしながら言う。
- 205 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月20日(月)22時55分47秒
- 「さっぱりわけわかんないんだけど…あたしって記憶消されてるの?」
市井さんは首を傾げている。
「…うん、そうだよ」
矢口さんは言い難そうにそれだけ言う。
「今までここで起きた事も覚えてないんでしょうか?」
私が聞くと市井さんは首を振った。
「そういや、ここってどこなの?皆、なんでこんなカッコしてんの?」
「それはちょっと説明し難いんだけど…」
保田さんは言葉を濁す。
「じゃ、他のメンバーはいないの?それと知らないメンツがいるんだけど一体誰なの?」
市井さんは落ち着きなくキョロキョロしている。
それを見て他のメンバーはため息をついた。
「でもさー、ホントに誰がこんな事を…?
吉澤の事でこんな事したって自分に見返りがあるってわかったばっかじゃん。
それなのに何で…?」
矢口さんは本当に落胆している。
「っていうか、紗耶香って皆の恨みばっかり買ってるわけ?」
保田さんがそう言うと。
「何で!?あたし、何かした!??」
市井さんは慌てている。
「知らないわよ。でも、何かしたからこんな仕打ちにあってるんじゃないの?」
保田さんはアッサリそう言うと後藤さんはまた怒り出した。
「圭ちゃん!そんな冗談言ってる場合じゃないでしょ!!」
「あ、ごめん」
「…なんだ、冗談か」
ホッと胸を撫で下ろしている市井さんを見て私は呆気に取られていた。
なんかさっきまでの記憶無くすまでの市井さんと同一人物とは思えない。
- 206 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月20日(月)22時57分53秒
- 「多分、犯人は自分から名乗り出る事なんてしないだろうから
とりあえず吉澤探しを続行しようか」
飯田さんがそう言うと後藤さんは反論する。
「ダメだよ!市井ちゃんをずっとこの状態にしとく気!?」
「だって、話が進みそうにないですよぉ?」
あいぼんも飯田さんの意見に賛成らしい。
「だから、犯人は早く名乗り出てよ!!」
後藤さんの怒りは止まらない。
「ごっつぁん、無理だって…。
それに、ごっつぁんの願いで元に戻したらいいんじゃないの?」
矢口さんがそう言うと後藤さんはシュンとしてしまう。
「ごっちん、どうしたの?」
梨華ちゃんが首を傾げていると、後藤さんは弱々しく口を開いた。
「どんな事があっても願いを使っちゃダメって市井ちゃんと約束したから…」
「あ…そういや、言ってたね」
矢口さんはため息をついた。
「なんでそんなに怒ってんの?約束って何?」
市井さんは後藤さんの剣幕を見て首を捻っている。
それを見て後藤さんは黙り込んでしまった。
「結局、このままじゃ話は進まないんだから吉澤探しに行くよ」
パンパンと手を叩きながら飯田さんは皆にそう言う。
その時、梨華ちゃんがビクッとした。
「梨華ちゃん…どうかしたの?」
私がそう言うと。
「飯田さんが突然手を叩くからちょっとビックリしただけだよ」
梨華ちゃんはそう言って苦笑いした。
- 207 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月20日(月)22時59分22秒
- そして、私達はよっすぃー捜索を再開した。
教室を出る時にあいぼんに一緒に行こうと誘われた。
「ゴメン。ちょっと飯田さんに話したい事があるんだ」
「へ〜、何やねん?」
「へへ…ナイショ」
「何やそれ?ま、ええわ。じゃあ」
あいぼんは首を捻りながらどこかへ行ってしまった。
私は一人っきりになってため息をついた。
本当にもう元の世界に帰りたいよぉ…。
何も心配事なんてなかった時に戻りたい…。
もう何をやっても修正不可能なんじゃないのかなぁ…。
これ以上問題が増えない内に早く元の世界に戻った方がいいんじゃ…。
よっすぃーの時も何を言っても無駄だったような気がする。
今回の犯人もきっと同じ。
でも、どうにかして説得出来ないかなぁ…。
安倍さんや中澤さんのような目にあうのは嫌だけど。
気分がもの凄く重い。
あんなの見なければよかったのかなぁ…。
そういたらこんな想いなんてしなくてよかったのに…。
実は…私は偶然、ある人が願いをかけている所に遭遇してしまったのだ。
きっと、相手は私が知ってる事に気付いていないと思うけど。
私は市井さんの記憶を消した人を知っている…。
- 208 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月20日(月)23時06分44秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<さーやーかー!!
>197さん
ありがとうです。
静かなラブ・・・そう言って頂けると救われます・・・。
>198さん
いしよし風味・・・今回から視点がののに代わっちゃったんで(苦笑)
救われるんでしょうかね、よっすぃー・・・。
>ラークマイルドソフトさん
そちらの話読みましたよー。
続き、楽しみにしてます。
>200さん
うわー、もう200レスですか・・・早っ。
りかっちは一途キャラっていうイメージがあるんですよね。
- 209 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月21日(火)03時41分35秒
- 後藤の記憶が無いちゃむなんて、そんなのちゃむじゃないよ〜!!(w
- 210 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月21日(火)03時58分26秒
- ( `.∀´)<ヒ−ヒ−フ−!ヒ−ヒ−…み〜た〜わ〜ね〜!
( ´D`)<やすらさんがらまーずほうしてるのれす……
こんどはののの視点からすか!
ひとつのものをこれだけ多角的に観れるって凄いですね…本当に。
続きが楽しみです!
- 211 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月21日(火)11時53分08秒
- ヽ^∀^ノ<後藤っていうんだ・・・結構かわいいじゃん
( ´ Д `)<いちーちゃん・・・(泣
あぁ、ちゃむ・・・
- 212 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月22日(水)00時02分45秒
- 「飯田さん!」
私はやっと飯田さんを見つけた。
「あれ?どうしたの辻?吉澤、見つかったの?」
キョトンとした顔の飯田さん。
「いえ、違うんですけどぉ…あの……ちょっとお話したい事があるんです…」
私が俯いてそう言うと飯田さんは私の頭を優しく撫でてくれた。
「そっか。誰にも聞かれたくない事なんでしょ?
誰にも見つからない二人きりになれるとこに行こっか」
飯田さんは私の右手を取り、歩き出した。
「どこへ行くんですか?」
「うーん…どこだと見つからないかな」
キョロキョロしながら飯田さんはいい場所がないか探している。
「あそこはどうですか?」
私はある場所を指刺す。
飯田さんはその刺した場所に視線を向け、頷いた。
「…音楽室か、いいね」
- 213 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月22日(水)00時04分29秒
- 音楽室には誰もいなかった。
「防音も効いてるだろうし、ちょうどいいね」
飯田さんは壁をコンコンと叩きながら辺りを見回す。
私は今からいう言葉が飯田さんに上手く伝わるかどうか不安になっていた。
そんな私に気付いていないのか、飯田さんはいつもの調子で聞いてくる。
「で?辻の話って何?」
「……」
上手く口が開かない。
思わず俯いてしまう。
ちゃんと話さなくちゃ…。
「どうした?そんなに言い難い事なの?」
私はゴクッと喉を鳴らして飯田さんを見上げた。
「辻…実は誰が市井さんの記憶を消したのか知ってるんです…」
その言葉を聞いて飯田さんは息を飲んだ。
「…どういう事?」
飯田さんは表情を無くして私に聞く。
「さっき、よっすぃーを探してる途中に…偶然、願いを叶えてるとこを見ちゃったんです…」
「…見ちゃった、か」
飯田さんは私の言葉を反芻する。
「辻はどうして圭織だけにそんな大事な事を言うの?」
「…え?」
どうしてって…。
そんな問いかけが返ってくると思ってなかった。
「だって、辻は飯田さんを信じてるから…だから、もう終わらせましょうよぉ…」
私がそう言うと飯田さんは悲しそうな顔になった。
「……辻、ゴメンね。圭織は途中で終わらせるつもりはないんだ…」
「…飯田さん?」
「このまま…あやふやなままで終わらせたくないんだよ…」
- 214 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月22日(水)00時07分58秒
- 飯田さんの言っている意味がわからない。
終わらせたくない?
それってどういう…。
「辻は優しい子だね」
そう言って飯田さんは私を抱き締める。
「…どうしてですか?」
「辻は犯人の説得をするつもりなんでしょ?」
「……」
私は黙り込んでしまう。
「でも、そんな事をしたらなっちや裕ちゃんみたいな目にあうかもしれないんだよ?
それでもいいの?」
抱き締められてる為に飯田さんがどんな表情をしてるのかわからない。
普段の会話通りの口調。
「あ、あの…辻はまだ犯人の名前を言ってませんよ。
もしかしたら見間違いかもしれないです…。
だから、説得とかっていうのは…まだ、あの…別に……」
私がしどろもどろに答えると飯田さんは少し私から身体を離し、肩に手を置いて私を見つめた。
「でも、見たんだよね?
願い事の内容も聞いたんでしょ?
辻はこの人が犯人っていう自信を持ってるんだよね?」
飯田さんの顔は真剣だ。
「………はい」
消えそうな声で私が答えると飯田さんは弱々しい笑みを浮かべて
また私を抱き締めた。
- 215 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月22日(水)00時10分41秒
- 「辻はこの世界にもういたくないんだよね…」
「…え?」
そ、そりゃもちろん。
好きな人達のいざこざなんて見たくないもん…。
私だけじゃなくて、他の皆も同じ事を思ってると思うけど。
「なんでこんな事になっちゃったんだろうね…。
こんな事、望んでなかったのに…。
はは…何言ってんだろうね…自分で言っててよくわかんないよ…」
飯田さんは少し混乱しているみたいで。
私は飯田さんのこんな姿をこれ以上見たくなかった。
「でも、市井さん絡みの問題ばかりじゃないですか!
きっと現メンバーだけの付き合いは大丈夫ですよ!」
「紗耶香絡み、ね…」
「あの、辻…わからない事があるんです…。
よっすぃーが市井さんを憎む理由はわかりました。
でも、今回の願いをかけた理由がわからないんです…」
本当にわからない。
どうして市井さんの記憶を消す必要があったんだろう…。
私だけがわからないんじゃないよね。
きっと、犯人にしかこの理由はわからない…。
- 216 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月22日(水)00時12分14秒
- 「辻は何も知らない方がいいよ」
「…どういう意味ですか?」
「知らない方が幸せって事も時にはあるんだよ」
「飯田さん…辻には何も教えてくれないんですね」
「…ゴメンね」
飯田さんは何を言ってるんだろう…。
でも、ショックだった。
何も私には教えてくれない事が。
なんだか、物凄く悲しくなって私は自分から飯田さんの腕を乱暴に振り解いた。
「辻?!」
飯田さんは少し驚いていた。
「辻はまだ願いを使ってません!」
「…だから?」
「市井さんの記憶を戻すっていう願いを言ってもいいはずですよね?」
私が今までにない真剣な表情で言うと飯田さんも真剣な顔になった。
「そんな願いはダメ」
「どうしてですか!?」
「ダメなものはダメ!!」
「…っ!」
飯田さんの表情が怖くて私は言葉を失った。
- 217 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月22日(水)00時14分23秒
- 飯田さんは大きく一つため息をついた。
自分の感情を押さえるかのように。
「もう…辻はここにいない方がいいよ」
「ど、どういう意味…ですか?」
「圭織が辻を元の世界に戻してあげる…」
目を細めてそう言う飯田さんを見て、私は後ずさりした。
「辻を…殺すんですか?」
私は泣きそうになったけど必死でそれを堪えて飯田さんを見つめる。
「元の世界に戻してあげるだけだよ…」
それって結局、私を殺すって事じゃ…。
「飯田さんはその後…どうするつもりなんですか?」
ゴクッと喉を鳴らして私が聞くと。
「さぁ…どうしよっか?とりあえず、しばらくはまた周りの様子を見てるよ…」
「……」
「圭織の事が怖い?」
無表情な飯田さんを見て正直少し怖いと思った。
- 218 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月22日(水)00時20分49秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<怖っ!!圭織!
>209さん
まったくもってその通りですな。
っつーか、ごっちんだけじゃなく新メン全員の記憶が消えてますから(笑)
>ラークマイルドソフトさん
何故にラマーズ法!?(笑)
素直に前回通り、いちごま視点にしておけばと後悔中なんですが。
>211さん
しまった。そういう会話させたらよかったです(笑)
視点がごっちんだったら痛い話ですよね、これ。
- 219 名前:マルボロライト 投稿日:2001年08月22日(水)02時22分19秒
- ウォ〜話めっちゃ進んでる!
なんか次々と事件が…どうなるんですか〜(w
- 220 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月22日(水)21時25分53秒
- でも…。
その時、飯田さんがふいに私の両手を取った。
「…やっぱ少し怖いか…でも、よかった。辻は圭織の事嫌ってないんだね」
「え!?」
な、なんでわかるんだろう…。
私が戸惑っていると飯田さんはニコっと笑った。
「こうして手を繋いでるとね…相手の気持ちがなんとなくわかるっていうか…」
なんとなく飯田さんが言おうとしてる事がわかるような気がする…。
だって、私にも飯田さんの気持ちがなんとなくわかるから。
そう思ってると堪えていた涙が自然と零れ出す。
「泣かないで…辻」
「ひっく…つ、辻は…飯田さんが好きです…っく……」
涙でぼやけた視界に弱々しい笑みを浮かべる飯田さんが映る。
「…これ以上…い、飯田さんが…っく…つ、辛い想いをするのは……嫌ですぅ…っ」
だから、もう終わりにしましょうよ、と私は飯田さんに抱きついて言う。
飯田さんは何時も以上に優しく私の頭を撫でてくれる。
「いつも、こんなダメリーダーについてきてくれてありがとね。
本当に感謝してるよ、辻…」
「そ、そんな…ダメリーダーだなんて言わないで下さいっ!!」
「でもね…こんな状況を自分から作り出してるんだから…やっぱ、圭織はダメなんだよ」
「飯田さん…」
私は泣きながら飯田さんの顔を見上げると。
…飯田さんも泣いていた。
- 221 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月22日(水)21時27分51秒
- 「辻がこれ以上、嫌なものを見なくてすむように…。
だから、元の世界に戻してあげる」
飯田さんの決意は固い。
きっと…もうこれ以上何を言ってもその飯田さんの意思は変わらないのだろう…。
それなら…。
私は右手で涙を拭い、飯田さんに笑いかけた。
その顔を見て飯田さんは少し驚いていた。
「わかりましたっ!飯田さん…辻は飯田さんの言う通りにします」
「辻…」
「飯田さんが間違ってる事をするわけないもん。
それにたとえ間違ってる事をしてても…。
それでも辻は飯田さんについていきます。
辻は飯田さんを信じてますから!」
「…ありがと」
飯田さんは顔をクシャクシャにして泣いていた。
- 222 名前:−辻希美視点− 投稿日:2001年08月22日(水)21時29分39秒
- 「元の世界に戻ったらまた一緒に遊んで下さいね」
私がニコッと笑って言うと飯田さんも泣き顔のまま笑顔になる。
「…うん。それに美味しいものを沢山一緒に食べようね」
「絶対ですからね!」
「約束は守るよ」
私達はお互いにニコッと笑う。
私は一度俯き、そして、雑念を捨てるように顔を上げた。
「じゃあ…早く戻ってきて下さいね」
「…わかった。それも約束する」
「それじゃ…」
「…圭織の言う通りにしてね」
そう言われて私は瞳を閉じた。
この後、この世界で何が起こるかなんて私は知る事が出来ない。
でも、一つだけ願う事がある。
飯田さんがこれ以上苦しみませんように…。
ただ、それだけを願いたい。
「…飯田さん、大好きです」
最後に私はそれだけ呟いた。
そして、私の意識は遠くなった。
意識が完全になくなる前に圭織も好きだからね…、と聞こえたのは空耳かもしれない。
- 223 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月22日(水)21時34分41秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<辻はどうなったのかしらー?!
>マルボロライトさん
この話、もう半分は過ぎました。
時間を空けちゃうと余計にわからなくなると思うので毎日更新をば。
本日、余裕があればテレホ時にもう一回更新します。
余裕があればですけど。
- 224 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月22日(水)23時00分41秒
- 更新はやくてめちゃくちゃ嬉しいッス♪
- 225 名前:マインド サーカス 投稿日:2001年08月23日(木)01時11分42秒
- 私にとっては歌が全て。
人気があるとか、ないとか。
そんなものは関係ない。
私にとって歌が全て。
- 226 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月23日(木)01時12分33秒
- 廊下をウロウロしながら私はため息をついた。
もう、いい加減にして欲しい。
私はこんなわけのわからないいざこざに巻き込まれる為に娘。に入ったわけじゃない。
自分の歌を色んな人に聴いてもらう為だ。
決して個人的な恨みや感情に巻き込まれる為じゃない。
他の皆だってそうでしょ?
純粋に歌手を目指してオーディションを受けて、今こうして歌ってるんじゃないの?
全くもー。
皆、大事な事を忘れてるんじゃないの?
- 227 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月23日(木)01時13分55秒
- 吉澤は相変わらずどこにいるのかわからない。
紗耶香の記憶を消した人なんてサッパリわかんないし。
一人になって色々考えてても文句しか出て来ない。
「やってらんないわ…ったく」
思わず独り言が出た。
「保田さん〜。独り言、言うなんて怖いですよ?」
「わっ!!」
突然、声をかけられてビックリした。
「な、なんだ…加護か…。あー、ビックリした」
私が胸を撫で下ろしていると加護はキョトンとしていた。
「それより…よっすぃー、見つかりました?」
「見つかんないわよ…そういう、アンタもまだみたいね…」
「…はい。ののもどっか行っちゃったし。あ…さっき、市井さん達に会いましたけど」
「紗耶香達?『達』って誰か他にもいたの??」
なんだよ、一人で探しに行くっていう決まりじゃなかったわけ?
ま、決まりっていうのもおかしいけど。
「後藤さんと矢口さんが一緒でした」
「あっそう」
ごっちんはまだ落ち込んでるんだろうなぁ…。
ま、矢口もだろうけど。
「しっかし、何の為に紗耶香の記憶を消したんだろう?」
私が大きく伸びをしながら言うと加護はゆっくりと首を捻る。
「どういう意味があるんでしょう…加護にはわかりませんけど」
「私だって犯人じゃないからわかんないわよ」
「そりゃそうですよねぇ〜」
アハハッと笑って加護は私の先へ行く。
なんで笑うのよ?
「加護は他を見てきますね」
「今、なんで笑ったの?」
私が眉間にシワを寄せて聞くと加護は素の表情になってこう言った。
「だって、本当の犯人も理由を聞かれたらわかんないってシラを切るだろうなーって思って」
…私が犯人みたいな言い方やめてよね。
でも、そうか…。
皆、まずはこうやって誰にでも疑いをかけるって事か。
当たり前なんだろうけど、それってちょっと悲しいね…。
- 228 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月23日(木)01時16分34秒
- 加護と別れて階段を下りたり、昇ったりしてると
今度は紗耶香達に会った。
「あ、圭ちゃん」
矢口が私に気付いて声をかけてきた。
「どう?紗耶香の様子は」
「様子も何も…」
ごっちんはそう言いながら紗耶香の方を悲しそうな顔をして見る。
紗耶香はあくびをしながら廊下の窓から外の風景を見ていた。
「なんで、ここ雲とか動かないんだろうねー?」
変なのー、と言いながらまたあくびをする。
「…相変わらずなわけね」
私がため息をつくと。
「「うん」」
矢口とごっちんは声をそろえて返事をした。
「私の願いを使って元に戻そうか?」
これ以上、紗耶香のこんな姿見たくないから、と私が言うと。
ごっちんは激しく首を振った。
「ダメ!ダメダメ!!」
「な、何でよ?」
「言ったでしょ!?何が起きても願いを使っちゃダメって市井ちゃんに言われたって!」
「そうだけどさー、それにそれ言われたのはごっちんだけでしょ?
別に私はいいんじゃないの?」
「ダメ〜!!市井ちゃんに怒られるの嫌だもん!!」
…ここまで拒否されちゃ、何も出来ないな。
「…わかったわよ。でも、ごっちんはそれで本当にいいの?」
「そりゃ、早く元の市井ちゃんに戻って欲しいけど…」
そう言いながらごっちんは悲しそうな顔で紗耶香を見る。
紗耶香は相変わらず窓の外の風景をのんびり眺めていた。
- 229 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月23日(木)01時18分22秒
- 好きな人に自分の事を忘れられるってどんだけ辛い事なんだろう…。
私にはわからない。
でも、こんな辛い目にあってるのにごっちんは意外にもシッカリしていた。
もっと取り乱すと思ってた。
何だかんだいって成長してんのね。
「矢口も結構、辛いんじゃない?紗耶香がこんな目にあってさ」
私が聞くと矢口はため息をついた。
「そりゃ、辛いけど…ごっつぁんに比べたらまだまだ…。
っていうか、マジで誰だよ!!こんな事する奴はっ!!」
段々、腹が立ってきたのか矢口は大声を張り上げる。
それを見て紗耶香はキョトンしている。
「矢口ー、何怒ってんのー?」
「…紗耶香の為に怒ってんだよ」
紗耶香の反応に対し、ガックリ矢口は肩を落とす。
ごっちんも同じく。
このメンバーには犯人はいないだろう。
矢口はもう願いを使ってるし。
紗耶香が自分から記憶を消す事なんて願わないだろうし。
ごっちんも自分が不利になる願いなんてしないだろう。
ってことは?
- 230 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月23日(木)01時19分13秒
- ちょっと整理してみるか…。
今この世界に残っているメンバーの中に紗耶香の記憶を消した犯人はいる。
矢口、紗耶香、ごっちんは違うだろう。
なっつぁん、裕ちゃんはもうここにはいない…。
それに逃亡中の吉澤はもう願いを使ってるし。
…ってことは、残りは私を除くと4人。
圭織、石川、辻、加護。
この中の誰かが紗耶香の記憶を消した事になる。
サッパリわからない。
っていうか、そもそも記憶を消すっていう理由がわからない。
そんな事をしそうな人もわからない。
「圭ちゃん…いきなり黙り込まないでよ。
何か怒ってんの?」
矢口が考え込んでいる私を邪魔をしたその時。
また時計が発光した。
- 231 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月23日(木)01時22分18秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<ようやく保田様の登場よっ!!
>224さん
ありがとうです。
更新の早さだけしか売りがないもんで。
っつーか、読んで頂いている人はこの更新ペース大丈夫なんでしょうか。
このままいけば今週中に終わる事が出来るんですけどね。
新メン発表までには終わらせたい・・・。
- 232 名前:176 投稿日:2001年08月23日(木)03時01分16秒
- 更新早くて困る読者は基本的にいないと思う。
婚前旅行で温泉逝ってたのね > ( `.∀´)
- 233 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月23日(木)04時58分18秒
- ( `.∀´)<さーやーかー!さーやーかー!サーヤーカー!…ヒーヒーフー!ヒ−ヒ−フ−!!
( ´D`)<やすらさんもいろいろつらいのれすね……
盛り上がってきましたね!
それにしてもそれぞれのメンバーの絡ませ方うまいっすね〜!
否が応にも期待してしまう自分がいます…
あ、いや気にしないで下さい。戯れ言です(w
- 234 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月23日(木)21時47分54秒
- 数回目だといっても目が眩む。
いつも不意打ちなんだから慣れろって言われても無理だわよ。
それより…。
「…何、さっきの?」
事情が全くわかっていない紗耶香は目を瞑ったままだ。
直に光を受けたのだろう。
「…うぅ……まさか…また?」
矢口は片目を瞑った状態で唸る。
「見て!時計の数字が…」
ごっちんは目を瞬かせながら自分の時計を指差し、皆に言う。
言われるまま自分の時計を見ると。
ディスプレイに表示された数字は『5』になっていた。
「…数字が減ってる。だ、誰かがまた願いを使ったって事?」
矢口が信じられないという表情をする。
「願いって何の事?」
この世界の願いについての説明を全く受けていない紗耶香はキョトンとしている。
「ちょっと待ってよ。願いを使ったかどうかなんてわかんないじゃない」
私はそう言うがごっちんは混乱している。
「それってどういう…まさか誰か殺されたとか!?」
私は落ち着いて、とごっちんを宥める。
「まだわかんないわよ。でも、そういう可能性もあるって事よ」
「け、圭ちゃん…何を冷静に!!」
「…なんかちょっと神経がマヒって来たのかも」
自分でもこんなに落ち着いていられるのがビックリだ。
っていうか、こんな事に慣れたくないわよ…。
- 235 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月23日(木)21時49分13秒
- 「教室に戻ろうよ!」
ごっちんが急かす。
そうだ。
一体、何が起こったのか皆で確認しないと。
私達は急いで教室に戻る。
しかし、足の遅い私はドンドン三人に差を広げられる。
「ちょっと待ちなさいよっ!」
「圭ちゃん、遅い〜!」
「うるさいわねっ!!」
私が文句を言ってても三人のスピードは落ちない。
…なんて奴らなのかしら。
紗耶香はわけがわからないまま、ごっちんに腕をひかれて走ってるだけなんだけど。
階段がある所まで走ってくると何か物音がした。
「?」
私は足を止め、音がした方へ歩み寄る。
それに気付いたのかごっちんが足を止める。
「圭ちゃん〜?何してんの??置いてくよ〜」
「先に行ってていいわよ」
私はそう言って階段を降りた。
- 236 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月23日(木)21時50分00秒
- 階段を降りるとそこには何もなかった。
「おかしいなー?何か聞こえたのに…」
この階の教室の中に誰かいるとか?
私はなるべく足音を立てないようにそれぞれの教室を覗き込んでいった。
そして、ある教室でやっと物音を立てた人物の姿を発見した。
その教室とはあの『調理室』だった。
私はドア越しに見た光景に思わず息を飲んだ。
無意識にドアに軽く触れてしまい、音を立ててしまう。
「…保田さん」
そこにいたのは石川だった。
「ア、アンタ…何やってんのよ……」
私が口を震わせながら言うと私に背中を向けて座り込んでいた石川は無表情で立ち上がる。
「何って?別に何もしてないですよ。
ただ、よっすぃーを見てたんです…」
石川はそう言って自分の足元にいる吉澤を見下ろす。
「そ、それ…」
嫌な汗がダラダラと流れる。
ここでなっちを見つけた時と同じだ。
石川の手は真紅に染まっていた。
そして、石川の足元で吉澤が息絶えていた。
- 237 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月23日(木)21時51分28秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<くっ!お呼びがかかったのでここまで!!
また、後で続きをアップします。
こんなとこで止めるなよって感じッスね・・・。
あとでレスつけますです。
- 238 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月23日(木)23時27分14秒
- なんかこう、調理室が嫌いになりそうですね…
- 239 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月23日(木)23時28分07秒
- なんかこう、調理室が嫌いになりそうですね…
- 240 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月23日(木)23時28分32秒
- なんかこう、調理室が嫌いになりそうですね…
- 240 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月23日(木)23時28分34秒
- なんかこう、調理室が嫌いになりそうですね…
- 241 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月23日(木)23時29分27秒
- なんかこう、調理室が嫌いになりそうですね…
- 242 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月23日(木)23時31分43秒
- なんかこう、調理室が嫌いになりそうですね…
- 243 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月23日(木)23時32分22秒
- なんかこう、調理室が嫌いになりそうですね…
- 244 名前:ぐれいす 投稿日:2001年08月23日(木)23時36分37秒
- すいません、本当にすいません、邪魔してすいません(泣)
- 245 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月24日(金)12時21分22秒
- 吉澤の真っ白な肌には真っ赤な鮮血がよく映えている。
こんな風に冷静に見れるのも、やはりもうこの世界に慣れてきたからかもしれない。
何か殺人事件とかのドラマに参加してるような気分だ。
でも、こう思っていても身体は正直に震えている。
「……石川が殺ったの?」
私がおどおどしながら言うと石川は無表情のまま呟く。
「だってー…酷いんですよ……よっすぃーったら」
「…な、何がよ?」
「私がこんなに大好きだって言ってもよっすぃーはごっちんが好きだから
私の気持ちは受け取れないって…」
…なるほどね。
吉澤があんなに紗耶香の事を憎んでいた本当の理由はコレか。
やっと納得出来たって感じがする。
それにもう一つ、私が抱いていた疑問もこれで解けた。
吉澤の行動でずっと腑に落ちない点があった。
この世界で紗耶香が一番ダメージを受けるのは
自分の目の前から後藤がいなくなる事だと思ってたから。
いなくなるって事はすなわち死ぬって事。
でも、吉澤は後藤を殺す事はしなかった。
なっつぁんや裕ちゃんに対して出来た事が後藤にだけは出来なかったのだ。
それはつまり吉澤は後藤の事が好きだから。
後藤を階段から落としたのも吉澤にとっては予期せぬ事だったらしいし。
今考えてみたら、あの願いは吉澤なりのギリギリの選択だったに違いない。
後藤への負担をいかに減らしつつ、そして紗耶香により大きい精神的な攻撃を与えられるような願い。
目を見えなくさせたのはこういう理由からだったんだ。
- 246 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月24日(金)12時22分22秒
- 「……それで石川は自分の事を好きになってくれないからっていう理由で吉澤を殺したの?」
私のこの言葉を聞いて今まで無表情だった石川は突然笑顔を見せた。
それを見て思わずギョッとした。
「折角、ここで隠れてる事を黙ってたのに私の気持ちなんて全然わかってくれなくて…。
それで、いくら言ってもわかってくれないからついカッとなっちゃって。
元の世界に戻った時のリスクとかそんなの頭の外にいっちゃうもんですよ、案外。
きっと、よっすぃーも安倍さん達を殺した時、今の私と一緒だったんだろうなー。
やっとよっすぃーの気持ちがわかったような気がするー」
エヘッと笑いながら言う石川を見て私は言葉を失う。
…頭おかしいんじゃないの?
大体、グループ内恋愛って…。
同姓同士のカップルって言うのも私には理解出来ない。
私は同姓に恋心を持った事がないから本当にわからない。
紗耶香と後藤を見てる時も実はそう思ってたんだけど。
でも、好きっていう気持ちはどうしようもないっていうのはわかる。
だからといってメンバーの皆が皆、同姓同士のカップルを作ろうとしてるってのはどうなのよ!?
「…それによっすぃーったらここでやった事を後悔してるって言い出すし」
面白くなさそうに言う石川。
さっきから表情がコロコロ変わっている。
「い、今、何って言った!?」
「だから、よっすぃーはごっちんを傷つけた事を後悔してるって言い出したんですよ。
失礼だと思いません?
私が告白してるのにごっちんの心配するだなんて」
「……」
「保田さんはどう思います?」
「…カね」
「え?」
「バカね!アンタってどうしようもないくらいにバカよっ!!」
私は頭に血が上って大声を上げた。
- 247 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月24日(金)12時23分23秒
- 「せっかく吉澤が心を入れ替えようとしてたのに自分の事しか考えずに
こんな事をするなんてっ!!アンタって正真正銘のバカよっ!!」
「なっ!ひ、酷い…保田さん……っ」
石川は瞳を涙でウルウルさせる。
「酷いのはアンタの方でしょっ!」
やっぱり普通じゃないわ、石川って。
私がため息をついていると石川は肩を震わせていた。
「これ以上、私をバカにしたら許しませんよ…」
その言葉を聞いて私はハッとした。
石川の右手にはまだ吉澤を刺したと思われる包丁が握られていた。
「な、何する気よ…」
「余りにもうるさいから黙ってもらおうと思って」
「……」
背中の辺りで汗が流れる感触がした。
「あ、そうだー、ちょうどいいわ。前から聞きたかった事があるんですよね。
私の質問に答えてくれます?」
「…何よ」
「前からずっと思ってた事があるんですよね…。
保田さんってどうして何時も私に歌の練習しろってクドイくらいに言うのかなぁって」
そう言いながら私に近づいてくる石川。
逃げようかと少し思ったけど、私の足では無理だとわかっていた。
「それはアンタに歌唱力がないからよ」
「…本当にそれだけなんですか?」
「どういう意味よ?」
「本当は私の事、妬んでるんじゃないんですか?」
ニコッと笑いながら石川は包丁を私の頬に当てた。
- 248 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月24日(金)12時24分16秒
- 私の左頬で光っている包丁を横目で見て私はゴクッと喉を鳴らす。
「…妬むって?」
石川は楽しそうにペタペタと包丁の腹で私の頬を叩きながら口を開く。
「だって、保田さんより後に入ってきた私の方が今、娘。の中で目立ってるじゃないですか」
確かにここ最近の事務所の石川押しは凄い。
カントリーへのレンタルからというものその勢いは凄いと私も思う。
けど…。
「……で?目立ってる石川に対して私がジェラしってるとでも言いたいわけ?」
「だって、本当はそうなんでしょ?正直に言って下さいよー。
前に出られない自分の方が歌が上手いのになんで石川の方がセンターなの?って悔しいんでしょう?
だから、必要以上に私に歌の練習を勧めてくるんですよね?
自分より下手な奴に目立って欲しくないから」
「…はっ。バカにしないでよね」
私が鼻で笑うと石川の頬がピクッと動いた。
「アンタに歌の練習をしろって何度も言ってるのは娘。の歌のレベルを下げない為よ。
そういう意味では私のプライドがかかってるって言ってもいいわ。
私は歌の下手なお遊戯グループに入ったつもりなんてないのよ。
アーティストであるグループに入ったつもりなの。
人気で誰に負けてるとか買ってるとかは関係ないわ。
私が大事にしてるのは歌い手としてのプライドだけよ」
「……っ!」
「アンタは違うの?オーディションを受けた理由は何?愛する吉澤と出会う為なわけ?」
「それは…」
石川は悔しそうに唇を噛んだ。
- 249 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月24日(金)12時25分11秒
- 「…もう何も聞きたくないですよ。
もうその口が開けないようにしましょうか…」
俯き加減で下から睨むように私を見る石川。
目つきが危ない。
本気で殺す気だ…。
しまった!
説教するつもりが結果的に煽っちゃったんだっ!!
ヤバイッ!、ヤバイ…ッ!!
「お、落ち着きなさいよ…」
「私は落ち着いてますよ……ほら」
「…っ!」
私は目を見開いて石川の顔を見ると何でもない表情をしていた。
そのまま視線を自分のお腹に移動させると、見事に石川の右手があった。
ボタボタと私の身体から血が流れる。
…本当にやりやがったわね…。
「い、石川…アンタ……っ!」
私は身体に力が入らなくなってその場に崩れ落ちる。
「痛いですかー?おかしいな…よっすぃーの場合は直ぐに眠ってくれたんですけど」
ふ、ふざけるんじゃないわよ…。
コイツ…。
「急所が外れてたのかなぁ?よいっしょっと」
「っ!!」
私は声にならない叫びをあげた。
もう一度胸の辺りを刺されたのだ。
「これで時間が経てば元の世界に戻れると思いますよ」
機械的な喋り方をする石川。
精神的にどこか壊れているとしか思えない。
「……っ」
もはや私の口からは言葉は出ない。
- 250 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月24日(金)12時25分57秒
- 「じゃ…私、手を洗って皆の所に戻りますから」
保田さんは皆に姿が見えないようにこの部屋にいて下さいね、と言い
石川は私の身体を無理矢理教室の中に放り込んだ。
そのまま教室を出ようとする石川を私は止める。
「…っ、……ちゃ、んと考えて…みなさいよ。
あ、んたがなんで…私達と一緒に活動してるのか…を……っ。
……どうして…っ、自分で、娘。に入ろうと思ったのかを、さ…」
私は朦朧とする意識に耐えながらこれだけ呟いた。
石川は私に背を向けたまま、しばらく立ち尽くしていた。
私は痛みに耐えながら何か言ってくるのを待っていたが
結局、石川は何も言わず立ち去ってしまった。
「……クッ」
私はうつ伏せになっていた身体を息を乱しながら仰向けにする。
あんな普通じゃない状態の石川に何を言っても無駄って事か…。
クソッ…。
それにしても、やりたい放題やりやがって…。
ムーカーツークッ!!
あいつ絶対に許さないわっ!!
それに、このまま死ぬのってかなり納得いかないわよっ!!
- 251 名前:−保田圭視点− 投稿日:2001年08月24日(金)12時26分41秒
- …あれ?
そういえば…願いを叶えたのって石川だったのかしら…。
でも、石川が紗耶香の記憶を消したとしたら何の為だろう?
じゃあ…さっきもう一回時計が光ったのは?
吉澤はもう願いを叶えてたからカウントされないはずよね…。
クソ…聞いておけばよかったわ。
そして、私は薄れゆく意識の中で一つの考えを思いついた。
- 252 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月24日(金)12時30分43秒
- ++ちょこっと休憩++
( □.∀´)<昨日から踏んだり蹴ったりよ!
>176
ありがとうです。
婚前旅行ですか?はて??
>ラークマイルドソフトさん
だから、なんでラマーズ法なんですか?(笑)
ヤッスー辛そうですね。
>ぐれいすさん
調理室嫌いはよくわかりました(笑)
っていうか、ちょっと掲示板の調子がおかしかったみたいですね。
自分も続きをアップしようとしたのですが出来なかったですし。
しかし、ヤッスー弱いなぁ・・・。
- 253 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月24日(金)19時58分12秒
- 圭ちゃん…
- 254 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月24日(金)22時42分58秒
- >>208で
( `.∀´)<さーやーかー!!って言ってたんで、
ちょこっともじってといいますか…ホント恥ずかしい…
わけわかんなくてごめんなさい(爆
- 255 名前:176 投稿日:2001年08月24日(金)23時30分30秒
- 連日の更新ありがたや。読むのが日課になりつつあり。
> しかし、ヤッスー弱いなぁ・・・。
たしかに。でも現実のヤッスーってそんな感じがする。
それにしても婚前温泉旅行 (しつこいな、俺) の相手に葬られたか・・・
- 256 名前:マインド サーカス 投稿日:2001年08月25日(土)01時01分01秒
- この世界は虚空のモノで。
それぞれの想いは本物で。
でも…。
何もかもを偽っている人間が確かにここにいる。
- 257 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)01時03分41秒
- あたし達は教室に戻って来た。
矢口と後藤はあたし達より先にここに戻っていた圭織と加護に
願いを使ったかどうかを聞いている。
加護はブンブンと勢い良く首を横に振って否定していた。
そして、それまでずっと眼を瞑っていた圭織もぼんやりしながら首を振っている。
あたしがその様子をぼんやり見てると疲れた表情をした石川が戻って来た。
「石川!アンタ、願い使った!?」
「いえ…使ってませんけど?」
その答えを聞いて残りは圭ちゃんと辻か…と、矢口は呟く。
その時、また突然、時計が発光した。
「な、何で!?」
矢口はビックリしていた。
「また…?」
後藤が呆然としながら時計のディスプレイを見る。
「やっぱり『4』になってるよ…」
「もうわけわかんないよーっ!!」
矢口はパニくっている。
「ここにいない人が今願いを使ったって事でしょ?」
誰も今使わなかったよね?と圭織がメンバーを見回す。
「ってことは、圭ちゃんか辻が今使った…って事?」
「そういや、二人共どこ行ったんだろ?」
圭ちゃんはさっきどこか行っちゃったし。
辻もそういや、さっきから見ないなぁ。
「もしかして死んじゃったってことも考えられますよね?」
石川がそう言うのを聞いて、皆無言になってしまう。
そんな中、一人だけ口を開いた人がいた。
- 258 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)01時05分46秒
- 「…残念ながら私ならここにいるわよ」
その声を聞いて人一倍ビックリしたのが石川だった。
「や、保田さん!?どうして??!!」
「ふんっ!悪かったわねー、こうしてピンピンしててさー」
圭ちゃんは鼻で笑ってドアにもたれニヤッと笑う。
「…どういう事なのさ?二人だけで意味深な会話しないでよ」
矢口が戸惑いながら言うと圭ちゃんは自分の服を見せるようにドアにもたれ直す。
その服を見て皆、絶句した。
「け、圭ちゃん…何なのさ、その血まみれの制服…」
矢口は顔を引きつらせながら言うと。
「まさか!圭ちゃん、辻を殺したの〜!?」
後藤が圭ちゃんを指差して叫ぶ。
「バカーッ!なんで私が辻を殺さないといけないのよ!!それにこれは私の血よっ!!」
キーッと発狂する圭ちゃん。
…怖。
「ちょっと待って…どういう事?
それが圭ちゃんの血ってことは…圭ちゃんが殺されかけたって事?」
矢口がおでこに手を当てて頭の中を整理しようとする。
「そうよ!そこのおバカさんに殺されかけたのよっ!」
圭ちゃんはそう言いながら顔色が悪くなっている石川を指差した。
「え〜!?梨華ちゃんがっ!?」
後藤は激しく驚く。
「ついでに言うと石川が吉澤も殺したのよ、あの調理室で」
更に続く圭ちゃんの言葉を聞いて皆言葉を失う。
「…どうして?さっき、時計が光ったのに…どうして生きてるんですか?」
震えながら石川がそう言うと圭ちゃんはまたニヤリと笑った。
「アンタって本当にバカよね。私の願いを使ったのよ」
「つまり…自分が死なないようにっていう願いをかけたって事ですか…」
「その通り!私って頭いいと思わない?」
圭ちゃんはまたニヤッと笑った。
- 259 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)01時07分44秒
- 「石川がいうには吉澤は心を入れ替えようとしてたらしいわよ。
でも、吉澤が後藤の事が好きだっていうのを知って頭に血が上って殺しちゃったらしいわ」
「よっすぃー…ちゃんと反省してたんや」
加護はポツリと呟く。
「よっすぃーが後藤の事を!?」
後藤はビックリしている。
「気付いてなかったんだ…よっすぃー可哀想…ごっちんって酷いよ」
その言葉を聞いて後藤は石川の方をキッと睨みつけ、石川の頬を叩いた。
「梨華ちゃんがそんな事言えるわけ!?…よっすぃーの事想ってるならどうしてこんな事したのっ!!
それに市井ちゃんから記憶を奪ったのも梨華ちゃんなの!?」
「ちょ、ちょっと待って!市井さんの記憶を消したのは私じゃないよぉ…」
弱々しく返答する石川の胸ぐらを後藤は掴む。
「嘘ばっか!他に誰がするっていうわけ!!」
「本当だってば!じゃあ、見ててよ!!」
泣きそうになりながら石川は大声を上げた。
「市井さんの記憶を戻して下さいー!!」
ピカッとまた時計が発光した。
- 260 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)01時09分47秒
- 「……市井ちゃんっ!!」
瞑っていた眼を開けるとそこには泣いている後藤の顔が間近にあった。
「後藤…なんで泣いてんの?」
「よかった〜!!元に戻ったんだねっ!!」
後藤は力一杯あたしを抱き締めてきた。
周りを見渡すと、そこには安心した表情のメンバーがいた。
ただ一人、石川だけは暗い表情をしていた。
しばらくして全ての事情を教えてくれた。
あたしの記憶を消されていた事。
吉澤は心を入れ替えてたけど後藤への嫉妬によって石川が殺した事。
そして、その石川に殺されかけた圭ちゃんは自分を復活させる願いをかけてた事。
「紗耶香の記憶を戻してくれたのはいいけど、アンタだけは許せないわっ!」
圭ちゃんは怒り狂っている。
「け、圭ちゃん!!落ち着いてよ!!」
「うるさーいっ!!」
ダメだ、誰も圭ちゃんの怒りを止められない。
「…すみません。今、こうやって冷静になってみたら…あの時の私ってどうかしてました…。
保田さんを殺そうとした後にずっと考えてたんです。
そして、どうして娘。に入ったのか?って保田さんに聞かれて気がついたんです。
そういえば私はなんで娘。に入ろうと思ったんだろう…って」
「アンタね!殺そうとしたってアッサリ言うなーっ!」
更にキレながらツッコミを入れる圭ちゃん。
「す、すみません!でも、保田さんのおかげでやっと思い出しました!
私も娘。が好きで娘。が歌う歌が好きでこうしてメンバーになったっていうのに…。
そんな大事な事も忘れて大変な事をしちゃったって…」
「アンタ!気付くのが遅いのよ!!私を刺す前にそういうのは気付きなさいよ!!」
バカーッ!!と更に圭ちゃんは怒鳴る。
「はいっ!スミマセンッ!!保田さん!石川はこれからちゃんと歌の練習をしますっ!!」
「当ったり前よっ!!じゃあ、こんなとこでのんびりしてられないわね!」
「え?」
皆で声を揃えて聞き返す。
- 261 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)01時11分01秒
- 「さっさと帰って歌の練習をすんのよ!
やっぱさー、ちゃんとしたボイトレの先生とかについてもらわないとね!
安心しなさいよ!私がいい先生を紹介してあげるからっ!!」
「え?え??」
石川は圭ちゃんのペースについていけていない。
もちろん、他のメンバーもだけど。
なんなんだ、このテンションは…。
「帰るってどうやって?」
矢口が呆気に取られたまま聞くと。
「願いはもう使えないからこうやるのよ!」
そう言って圭ちゃんは手にしていた血みどろの包丁を石川に突き刺した。
「……っ!!?」
石川は何が起こったのかわからないという表情。
「痛いのは今だけよっ!我慢しなさい!!」
「け、圭ちゃん!?」
あまりの光景に思わず大声を出してしまう。
「この方が手っ取り早いでしょ!」
そう言って圭ちゃんは自分の身体にも包丁を刺す。
…グロイ。
二人は仲良く床に崩れ落ちる。
「…保田さん…石川は一生保田さんについていきます…」
「いい言葉ね。それに帰ったら吉澤に謝っておきなさいよ…」
そして、二人はまた仲良くガクッと意識を失った。
私達は誰一人としてその壮絶な状況についていけてなかった。
「こ、これでよかったんですかね?」
加護がポツリと呟いた。
- 262 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)01時12分09秒
- 「で?あたしの記憶を消してたのは石川じゃないって事だよね?
じゃあ、誰がやったの?」
あたしが疑問を口にすると一同首を振る。
「そういえば…ののはどこ行ったんでしょう?」
加護はここに辻がいない事をわかっていながらもキョロキョロする。
「そういや、一回分の光の説明が出来ないんだけど…」
後藤はそう言いながら首を捻る。
「もしかして…辻が死んじゃってるっていう可能性もあるわけ!?」
矢口が大声をあげる。
「アリじゃないかなぁ…あたしの記憶を消した奴が辻を殺したってのも…」
単純に、辻が自分の願いを叶えて今は迷子になってるっていう可能性もあるんだけど。
「そういえば、ののを最後に見た時…飯田さんに会うって言ってましたよ?」
加護が圭織に向かって言う。
それに対して圭織は無言だ。
「圭織、そうなの?」
矢口が聞き直す。
あたしが圭織を見ると視線が一瞬絡まった。
すると圭織は突然、ガタンと音を立てて席を立ち、そしてこの教室から立ち去った。
「ちょ!ちょっと圭織っ!!」
後藤は驚く。
「圭織が犯人…?」
矢口は呆然として呟いた。
- 263 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月25日(土)01時18分06秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<急展開!っていうか、私の最後ってギャグじゃん!
>253さん
ヤッスー、一瞬だけ復活しました。
タダでは死にませんし、死なせませんよー。
>ラークマイルドソフトさん
そういう意味だったんスか<ラマーズ法
やっと意味がわかりましたわ。
>176さん
ありがとうです、ちなみに・・・あと1、2日くらいで終わりますけどね。
婚前温泉旅行のネタは知らなかったですねぇ。
弱いけどタダでは死なないヤッスー。
っていうか、マジでここの話だけギャグになってる・・・。
ようやく市井ちゃん視点になり、この話もやっとこさ終盤です。
最後までお付き合い下さいませ。
- 264 名前:マルボロライト 投稿日:2001年08月25日(土)03時07分32秒
- やっぱただ者じゃないなぁヤッスー。
やすいし…あの状況なのにコントみたいだ(w
- 265 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月25日(土)03時58分51秒
- わ、笑っちゃいけないんだろうけど…笑ってしまった保田の最後(w
ついに終盤ですか。寂しいけど頑張って下さい
- 266 名前:176 投稿日:2001年08月25日(土)12時50分10秒
- ヤッスーまんせー。
しかし、このまま死ぬのってかなり納得いかないわよっ!!、だったのが
言いたいこと言って、連れて逝くなら納得だったのか・・・
> 私って頭いいと思わない?
思わない (キッパリ)
- 267 名前:ななし 投稿日:2001年08月25日(土)14時06分44秒
- さやかおになんの?
- 268 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)21時48分27秒
- 「圭織を探しに行くよ!」
矢口がそう言い、あたし達もそれに続く。
「でも、皆でですか?」
加護はいつもの困り顔になっている。
「バラバラになって探そうよ、ここ広いんだし」
あたしがそう言うと皆頷く。
ただ一人、後藤だけは不安そうな顔をしてあたしを見ていた。
「そんな顔すんなってば」
あたしは後藤の頭を撫でて、そして抱き締めた。
後藤の耳元にちょっとした言葉を呟く。
「…え?」
後藤はあたしの顔を見て聞き返す。
「いいから。あたしを信じなさいって」
そう言って後藤に微笑みかけると後藤も笑顔になった。
あたし達のやり取りを見て矢口がため息をついた。
「こんなとこでイチャイチャすんなよー。
それに、そんな事してる場合じゃないでしょー!」
「ゴメン、ゴメン」
あたしが謝ると矢口はもう行くからね!といい走り去ってしまった。
そして、後藤も加護もそれぞれ散らばって行く。
誰もいなくなったのを確認してあたしは大きく一つ深呼吸をした。
「…さて、どうするかな」
どうするって…やるべき事はただ一つってわかってんだけどね。
犯人を捕まえる事。
ま、こっちの思い通りにいけばいいけどね。
そろそろいいかな…。
余裕がないだろうからすぐ仕掛けてくると踏んでるんだけど。
あたしはある場所を目指して走り出した。
- 269 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)21時49分24秒
- 「おい!ちょっと待ったー!!」
あたしは後藤と一緒にいた人物にストップをかけた。
相手の動きが止まる。
後藤には見えないように後ろ手に包丁が握られていた。
「市井ちゃん!」
あたしの姿を確認して後藤は歓喜の声をあげる。
それとは対照的に後藤の目の前にいる人物はチッと舌打ちした。
誰にも見つからないと思っていたのか物凄く悔しそうな表情をしている。
さっき後藤にここに来るようにって伝えたんだよね。
絶対、犯人が後藤を狙って追いかけてくるって思ってたから。
ま、案の定ノコノコとやってきたわけだ。
「悪いけどあたしだけじゃないから…ここに来たのは」
あたしがそう言うと背後から圭織が現れた。
「ゴメンね。全部、罠だったんだよね」
圭織がそう言うと続けて声が。
「わーお!ナイスタイミングー!!」
あれ?!
この声は…。
あたしがビックリして振り返ると矢口が立っていた。
「矢口!?なんで!?」
「いたら悪いわけ?ま、たまたま遭遇って感じなんだけど」
矢口は笑いながらそう言った後、真剣な表情になった。
「どういう事か包み隠さず教えてもらおうかー?」
矢口は不敵な笑みを浮かべたまま更に言葉を続ける。
「加護ちゃんー…?」
- 270 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)21時50分53秒
- 「市井ちゃんの記憶を消したのって加護なの!?どうして…?」
後藤に犯人の名前を教えてなかったので心底驚いている。
「さあー?それは本人に聞こうよ。あ、先に白状しとくけどさー。
実はあたしの記憶がなくなったのって全部演技だったんだよね」
その言葉を聞いて後藤、矢口はもちろんの事、加護も驚いている。
「演技って…どういう事やねん…?」
「確かに加護はあたしの記憶を消す願いをかけたけどあたしには効かなかったって事」
「…な、なんでやねん?」
加護は悔しそうな顔をする。
「なんとなくそういう願いをしてくると思ったから。
吉澤の他に誰かがあたしを狙ってくるってわかってたんだよね。
っていうか、むしろ吉澤の方が予想外だったんだけど」
吉澤が自分のポジションやら何やらであたしを憎んでるなんて知らなかったし。
だって、最近の吉澤ってテレビとかで見た感じじゃ、いい感じに思えてたから。
それにまさか後藤を傷つけるだなんて。
マジでビックリした。
ま、理由はそれだけじゃないんだろうけど。
とりあえず、吉澤の行動は予想外だった。
あたしの当初の狙いはそこじゃないのに。
「……どういう事?」
矢口は首を捻っている。
後藤も、そして加護も同じ状態だ。
「後藤の事を良く思ってない人物がメンバーの中にいるってのは最初から知ってた。
それでその人が後藤に何かしようとすると、まずあたしがそれを邪魔するでしょ?
これは誰にだってわかるよね。
だから、まずあたしの動きを封じ込めにくると思ったわけ。
そうでしょ?…加護」
「……」
加護に話を振ってみたが答えない。
ただあたしを睨みつけていた。
「ねぇ?なんで加護が紗耶香の記憶消すっていう願いを使うってわかったのさ?」
矢口はまだまだ首を捻って問い掛けてきた。
あたしはそれに対して即答する。
「ただの勘!」
- 271 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)21時52分30秒
- 「勘かよ!」
矢口はずっこけた。
「いや、冗談とかじゃなくて、ホントに勘だったんだよね。
願いが怪我させるとかだったらあたしが耐えればいいだけで問題ないし。
ま、存在を消してくれとか言われてたらその時点でアウトだったんだけど」
いやー、ラッキーだった、とあたしがなんなく言うとそれまで黙っていた後藤が口を開いた。
「…市井ちゃん、演技してたっていうのはどういう事?」
「あぁ。ちょっとした力を使ってね、防いだんだ。
でも、全く記憶が消えてないってなると願いが叶ってないってバレバレになるから
ちょっとだけ記憶が消えるようにしてたわけ。
ちなみに消えた記憶ってのは新メンの下の名前だったわけだけど」
「なんだそれー!?」
矢口から激しいツッコミが入る。
「…それってホンマに意味ないやん」
加護は顔をゆがめて更に悔しがる。
まあ、そうだよね。
下の名前で呼んだことなんてないし。
だから記憶が消えても問題ないとこだけプロテクトしてなかったんだよ。
「っていうか、まだわけわかんないんだけど…だって、紗耶香はまだ自分の願いを使ってないわけでしょ?
時計のカウンターは『3』のままだし。
どうやったら自分の願い以外で加護の願いを防御する事なんてなんで出来るのさ?}
矢口は顔をしかめている。
「それは企業秘密」
さすがに今ここでこれは話せない。
最初っから説明するととんでもなく時間を取られそうだから。
ちゃんとした説明をしないあたしに対して後藤と矢口はついに納得出来ないと怒り出した。
「酷いよ〜!大体ね!それならそうと、どうして後藤に教えてくれなかったのさ!?」
「だって、後藤って演技下手なんだもん」
あたしがそう言うと更に後藤は怒り出す。
「失礼な!ちゃんとドラマとかで演技力つけてるよ!」
「ごっつぁんはともかく!どうして矢口にまで黙ってたんだよー!!」
「やぐっつぁん!!後藤はともかくって何さ〜!?」
「…二人とも、そういうのは後でいいから」
二人の言い合いが激しくなる前に圭織が止めに入ると、とりあえず黙り込んだけどムスッとしている。
後でこっぴどく叱られそうだなぁ…。
ま、しょうがないか。
- 272 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)21時55分30秒
- 「さー、どういう理由があってこんな事をしたのか全て話してもらおうか?」
あたしはボキボキと指の関節を鳴らしながら加護を睨みつける。
加護は無駄な抵抗をするのを諦めたのか、開き直った態度になっていた。
「加護は後藤さんが嫌いやねん!
後藤さんがおらへんようになったら加護が娘。のナンバー1になれるんや!」
それを聞いて矢口は呆気に取られる。
「はぁー?何だよ、矢口達はシカトかよ!?」
「アンタ等はどうでもええねん」
「何だとー!?」
「矢口…話が進まないっしょ」
怒り狂う矢口を圭織が後ろから押さえる。
矢口は大きく深呼吸をして感情を押さえながら加護に改めて聞く。
「…結局、加護が願いを使ったのは、さっき紗耶香が言ってた通りの理由なわけ?」
「それもあんねん。あと、よっすぃーの時にわかったんや。対象になる人を直接攻撃するよりも
その人が大切に思ってる人を攻撃した方がダメージが大きいって。
あっさり殺しても面白ないし」
確かに吉澤に後藤を攻撃された時は辛かった。
しかし、よく見てるなぁ。
「それに市井さんの記憶がなくなれば余計な邪魔されへんとも思った。
何時も後藤さんを助けてばっかやったからホンマ邪魔やねんもん。
梨華ちゃんがあんな願い使うなんて予定外やったけど、そんなん関係なかってんな。
演技だったやなんて……ホンマ…腹立つわ」
本当に悔しそうに加護は言う。
「でも、確かにダメージは受けたよ…後藤は市井ちゃんが演技してるなんて知らなかったんだから」
後藤は悔しそうに唇を噛んでいる。
相当、根にもってるなぁ…。
やっぱ、辛かっただろうなぁ…。
演技だったとはいえ、ちょっと申し訳ないと思ってしまう。
- 273 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)21時57分12秒
- 「でも、ののの事は知らんで?飯田さん…アンタ、ののに何したんや!?」
加護は圭織を睨む。
「別に何も?辻は今回の事に何も関わってないってわかったから
安全な場所に行ってもらっただけだよ」
「ってことは、やっぱりあの内容不明な光は辻がここからいなくなったっていう事?」
矢口が聞くと圭織は素直に頷いた。
「ま、これでわかったね。後藤がずっと感じてた自分への憎しみの視線の正体」
あたしがそう言うと後藤は首を傾げていた。
「でも…なんで後藤なの?梨華ちゃんだって最近、凄い人気じゃん」
「だって、梨華ちゃんなんか相手にしてないもん。
あんな歌の下手なただ顔やスタイルだけの奴なんかライバルやと思ってへんねん」
「おいおい…酷い事を平気で言うなよー…」
矢口さんは呆れている。
加護はそれを気にせず続ける。
「ここで後藤さんがボロボロになったら現実に戻ってもそれを引きずるって思った。
後藤さんって結構、表に出しやすいもん。そしたら絶対に勝てるって思った。
別にこれで他のメンバーと気まずくなっても構わへんねん。
後藤さんさえ、調子が悪くなってくれたら。
ま〜、それに私も別にずっと娘。におるわけやあらへんし」
…なんて考え方してんだ。
頭良いんだか、悪いんだかよくわかんないな。
「一つ聞きたいんだけど何に対しての勝ち負けなわけ?」
あたしがそう言うと加護は迷わずこう言った。
「そんなんわかってるやん、人気や!」
あたしはため息をついた。
矢口も同じようだ。
「…あのさ、加護は石川が言ってた言葉聞いてなかったの?
圭ちゃんが石川にどうして娘。に入ったのか?っていう問いを聞いて。
『私も娘。が好きで娘。が歌う歌が好きでこうしてメンバーになったっていうのに…。
そんな大事な事も忘れて大変な事をしちゃったって…』って言ってたっしょ?
加護にも聞いてみたいね…どうして娘。に入ったのか?ってのを」
圭織は腕を組んで大きくため息をついてそう言った。
- 274 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)21時58分01秒
- 「そんなん決まってるわ。歌手になりたかったからや!」
「へー…そんじゃ、別に娘。じゃなくても自分がデビュー出来ればよかったと?」
あたしがそう言うと。
「そうや。娘。なんかただの踏み台やもん」
加護の言葉を聞いて矢口はまた怒り出した。
「いい加減にしろよ、このクソガキ!!なら、上の人にお願いしてさっさと脱退しろよ!!」
「それはアカンねん。娘。で一番になってソロになるのが加護の未来予想図やねんもん」
「そんなん知るか!ボケ!!」
散々、罵倒しまくる矢口に加護もキレたのか矢口に睨みを利かす。
「…ホンマにうるさいな〜、このチビスケは!」
「チ、チビスケ!?お前だってチビじゃんかー!!」
矢口はますますキレる。
どこまでこの言い争いが続くのかと思っていたら…。
「もう〜!!うるさ〜いっ!!!!!!」
「…ご、ごっつぁん」
矢口はビックリして後藤の顔を見た。
後藤は思いっきり大声を出したせいで肩で息をしていた。
「…加護さぁ…後藤に勝ちたいって人気だけなわけ?
だとしたら……加護って案外、つまらない奴だったんだね」
「な、なんやと?!」
「わかんないかなー?歌手になりたくて芸能界に入ったんなら歌で勝負しろって事だよ」
あたしが後藤の代わりに答える。
皆にバカにされてるのが気にいらなかったのか、加護はずっと手にしていた包丁を握り直した。
あたしはそれを見ても別に表情を変える事はなかった。
後藤も加護が包丁を手にしている事に気付いていた。
それでも普通の態度で口を開く。
「加護…ここで後藤を傷つけても無意味だよ、止めときなよ」
「うっさい!」
そう叫びながら加護は後藤を襲ってきた。
- 275 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)22時02分49秒
- 「紗耶香!」
「市井ちゃん!」
矢口と後藤の叫び声が重なる。
「…って」
ポタポタと血が地面に落ちる。
加護が持つ包丁がとっさに後藤を庇ったあたしの左腕をかすめたのだ。
現実の世界で怪我した時と同じような痛みだ。
これって結構キツイものがあるなぁ…。
他の傷つけられたメンバーもこの痛みを味わったのか…。
「邪魔せんといて…市井さん」
加護の目は据わっている。
「悪いけど加護が後藤に何かしようとする限り、あたしは邪魔し続けるよ」
「思ってた通り、ホンマにウザイ人やなぁ…」
加護は鼻で笑い、呆れた表情をする。
「あたしに邪魔して欲しくなかったら、今直ぐにでもそのバカな考え方を止める事だね。
現実でもそうだけど、この世界で後藤を傷つけても絶対に加護にとってプラスにはならないんだから」
あたしは切られた腕を右手で押さえながら加護を見つめる。
それでも加護は表情を変えなかった。
「別にそんなん構わへんって言うてるやんか。それにここで後藤さんに痛い目あわせてたら
現実に帰った時、後藤さんは加護の事を恐れるやろ?それだけでもええねん」
やっぱ、加護の考えはそう簡単には変わらないか…。
どうしたらいいんだろう…。
ずっと良い方法、良い答えはないかって考えてたけど何も思いつかない。
とりあえずは後藤の身の安全を考えなくちゃ。
あたしが後藤の身を守る為にまた後藤の身体を抱きしめようとしたその時、後藤が口を開いた。
- 276 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)22時04分07秒
- 「…あんまし後藤を甘くみないでよね」
後藤の顔を見て見ると後藤は口元に笑みを浮かべていた。
しかし、目は笑っていない。
「どういう意味やねん?」
加護はちょっと狼狽している。
「後藤は加護に何をされても怖くない。
だから、加護に恐れる事もない。あんまし後藤をバカにしないでよね」
「強がり言うの止めた方がええと思うで…これは後藤さんの為や。口では何とでも言えるんやし」
加護は後藤の言葉を全く信じていなかった。
でも、あたしには今の言葉が虚勢や偽りのように思えなかった。
だって後藤の顔を見たら、それはよくわかるから。
「強がり?後藤が誰に対して強がってるって言いたいわけ?
確かに市井ちゃんが傷つくのは見たくない、それって何よりも後藤にダメージを与えると思う。
…でも、これだけは言っとく。市井ちゃんにこれ以上何かしたら…」
後藤はその後の言葉を言わなかった。
ただ、凄みのある目で加護を睨みつけていた。
それを見て加護は言葉を失う。
後藤…成長したね。
今までずっとあたしを頼ったりしてたのに。
なんかこうやって見てて凄く安心したよ。
この世界に来た意味があったって、これでやっと心から言える。
ありがとう…。
- 277 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)22時05分01秒
- しばらくあたし達がいるこの場所は何とも言えない異様な空気が流れていた。
後藤はずっと加護を睨み付けてるし
それに対して加護も睨み返している。
圭織はずっと静かにこの状況を見守っている。
矢口は落ち着きなく、視線だけそれぞれの顔に移している。
「ふぅ……」
加護が大きくため息をついた。
「もう止めたら?」
あたしがそう言うと加護はあたしを見てニヤッと笑った。
「市井さん?」
「何?」
とりあえず表情を変えず、返事してみたけど。
今の加護の笑顔はどう見ても良い印象を持つ笑みではなかった。
「やっぱ後藤さんをやっつけるより市井さんやった方がええと思いません?」
そう言って加護はあたしに包丁を振りかざしてきた。
やっぱり、そうきたか。
「市井ちゃん!」
後藤がそう叫んであたしを庇おうとするのをわざと振りほどく。
そして逆に後藤の身体を庇う。
いくらここが現実じゃないからって後藤にこれ以上怪我させるわけにはいかない。
死なす事なんて問題外だ。
あたしがここで死んだって加護に負けんなよ。
今の後藤なら誰にも負けないからさ…。
あたしは強く瞼を閉じた。
- 278 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)22時07分07秒
- 「…こんのクソガキ。ちょっと……頭冷や、せよ…バカ」
何時の間にかあたしの前に矢口が立っていた。
「な、なんで邪魔するん!?」
加護は驚いている。
圭織も後藤もそしてあたしも驚いていた。
矢口の胸には加護が手にしていた包丁が刺さっている。
「いくら…ここが現実じゃなくても…
こ、これ以上、仲間を傷つけられるのは耐えられな、い…」
矢口は自分の胸に刺さった包丁を無理矢理引き抜く。
そして、刺さっていた胸から大量の血が噴出し、加護の顔が真っ赤に染まる。
返り血を浴びても加護は何も言えなかった。
それは矢口の手にある包丁の向きが自分に向いていたから。
「な、何するつもりやねん…!?」
「…っ…へへ……加護に、お返してあげ、るだけだ……よっ!」
矢口はニヤリと笑って包丁を加護に突き刺した。
「…っ!!」
加護は声にならない声をあげる。
そして、崩れ落ちた。
それは心臓を直撃していたらしく、加護はすぐに動かなくなった。
矢口はそれを確認するかのように続けて床に崩れ落ちた。
「矢口!!」
あたしは慌てて矢口の身体を抱き起こした。
「へへ…ちょっと…い、今の矢口、カッコよくなか…った?」
矢口は苦しそうな表情で、それでも笑顔であたしを見る。
「…うん、カッコよかったよ。……矢口、ありがとう」
あたしがそう言うと嬉しそうな顔をして矢口は更に笑う。
ゴメン…嫌な役させて…。
本当ならあたしがやるべき事だったのに…。
「アイツ…元の、世界に戻ったら…説教しない…と、ね」
「……」
「矢口は…これで吹っ切れたよ、さ…紗耶香の、事」
「…本当にずっとあたしの事を好きでいてくれてたんだ」
「うん、…でも、元の世界に…戻った、らさ…。
今まで、ずっと…矢口の事を大切に…想ってくれ、てた人に……一番に会い、に行こうと思う…」
「……そっか。きっと喜んでくれると思うよ」
あたしのこの言葉に圭織も静かに頷いた。
「へへ…誰の、こ…とを言ってるか……バレバレだね…。
じゃあ…一足先に…矢口は戻る、ね……」
そう言って矢口は首をガクッと落とした。
ありがとね…矢口。
矢口の言葉、矢口の気持ち。
何もかもホントに嬉しかったよ…。
- 279 名前:−市井紗耶香視点− 投稿日:2001年08月25日(土)22時08分08秒
- あたしは矢口を静かに床に降ろし、立ち上がった。
「やっと…全部、終わったね」
あたしがそう言うと圭織は頷いた。
もうこの世界に残っているのはここにいる三人だけだ。
後藤の方へ振り向くと放心状態になっていた。
「後藤…大丈夫?」
あたしが後藤の肩に手を当てると後藤はそのままあたしの手に自分の手を重ねた。
「…市井ちゃんと圭織は全て知ってたの?ここで何が起きるかって…」
無表情のまま後藤は呟く。
「うん、知ってた。…っていうより、さっきも圭織が言った通り
全て罠だったんだよ。
それで、ここでも二人で相談してたんだ」
後藤が目を離した隙とかにね、とあたしがそう言うと後藤は眉間にシワを寄せた。
「…どういう意味?」
「後は圭織が話してよ」
その言葉を聞いて圭織は素直に頷く。
「この世界は現実に後藤が感じてた憎悪を含んだ後藤への視線の主を捕まえる為の罠だったんだ」
「はぁ!?」
後藤はわけがわからないという表情をしたけど、それでも圭織は話を続ける。
「圭織には誰が後藤の事を憎んでるかなんてわかってなかった…だから、その為の罠だったんだよ。
でも、紗耶香が狙われるなんて最初は思ってなかったし。
あんなに他のメンバーが殺されるなんて想像もつかなかった。
いくら現実の世界じゃないっていっても。
こんなにゴチャゴチャした感情を皆が持ってるだなんてさ…」
圭織はそこまで言って大きくため息をついた。
「ちょ、ちょっと待ってよ?」
後藤は片手で自分の頭を抑え、もう一方の手をあたし達に突き出し圭織の言葉をストップさせる。
「何?」
「この世界が犯人を捕まえる為の罠で……。
で、その罠は圭織が張った…って事は………」
後藤は混乱しながら自分の頭の中を整理しているようだ。
圭織はそんな後藤を見て、弱々しい笑みを浮かべてこう言った。
「後藤…この世界は圭織が作った世界なんだよ」
- 280 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月25日(土)22時17分13秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<文字多くて読む人は大変だわね!ごめんね!!
>マルボロライトさん
緊迫感が全くありませんでした・・・ヤッスー編は。
あれじゃ、マジでコントです(笑)
>265さん
笑っていただけたのなら嬉しいです(笑)
明日には無理矢理にでも終わらせます。
>176さん
ヤッスー、頭いいのか悪いのかわからんですね。
りかっちの更正、自分の気が済めばそれだけでよかったのだと思われ。
>267さん
残念ながらさやかおにはなりません。
あくまでこれはいちごまですから(笑)
更新の量(文字)が多くてスンマセン。
ラストの圭織編は量が多いので数回に分けますが明日で完結させます。
しかし、この話って内容バレバレっていうか、無茶苦茶ですな・・・。
- 281 名前:176 投稿日:2001年08月25日(土)22時30分43秒
- PJ始まるぞと思いつつ初のReal Time。
あとでまとめて読ませていたらきます。
- 282 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月25日(土)22時51分06秒
- ってカオリーーーっ?!
- 283 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月25日(土)23時21分59秒
- 難しいお話ですね。
- 284 名前:176 投稿日:2001年08月25日(土)23時44分11秒
- 更新分読み終わった。
私はアタマ弱いのでさっぱり内容は予想ついてませんでした。
あと、おもしろい話 (御幣のある表現か?) は量が多くてうれしいことはあれ、
いやだったりすることはまったく無いです。
カオリンゴ編楽しみにしてます。
- 285 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月26日(日)01時58分28秒
- うお!凄い事になってる…
こっからネタが…
あ、あと加護の《歌手になりたい》は卒業文集ッスか?
- 286 名前:マインド サーカス 投稿日:2001年08月26日(日)12時16分34秒
- 人は弱い生き物だという言葉をよく聞くけど。
自分もその言葉通り、やっぱり弱くて。
たとえ自分が傷ついたとしても、それでも大切にしたいものはある。
損得とか関係なく。
この想いを皆に知ってもらおうとは思わない。
ただ、もし気付いてくれれば嬉しいと思うだけ。
- 287 名前:マインド サーカス 投稿日:2001年08月26日(日)12時17分40秒
- 「ここが圭織が作った世界って…どういう……」
後藤は混乱している。
それはそうだろう。
普通だったら有り得ないもん。
「前にさ、あたしが後藤に指輪をあげた事あったじゃん?」
紗耶香が助け舟を出してくれる。
「…う、うん。これだよね」
後藤はそう言って自分の左手の薬指にしている指輪を見せる。
「あの指輪をあげた不思議な夢の世界、あれも圭織の世界だったんだよ」
「え〜!?」
後藤が心底驚く。
「ま、あそこでは願いを叶えるとかっていうのはなかったけどね。
そりゃ、あたしだって最初は信じられなかったさ。
でも、実はあれより前にさ、あたしだけここに何回か呼び込まれてたんだよね」
「…なんで?」
後藤は何一つ理解出来ないまま問い掛ける。
「圭織曰く、今回のこの罠を張る為のテストをしたかったんだって」
紗耶香はそう言って私に笑いかけた。
「…圭織はずっとね、メンバー内の空気がおかしいって思ってたんだ。
でも、それが何なのかわかんなかった…確か前に後藤も同じ事を言ってたよね?」
後藤は素直に頷く。
「後藤も自分に対する雰囲気の悪さを感じてショゲてたみたいだったし、それも心配してたんだ。
で、思いついたんだよ…圭織の世界に皆を呼べないかなって」
「圭織の世界って…いつも交信してる所の事?」
「そう。いつもは一人で妄想してるだけだったんだけど…。
結構、圭織の思い通りの世界が作れるからそこに皆の意識をここに呼び込んで
自分の意思通りに行動出来る環境を作ったら現実では出来ない何かを仕掛けてくるかなって思ったんだ。
そして、その思いつきのヒントをくれたのは後藤だった」
私がそう言うと後藤は驚く。
「後藤が〜!?後藤、何か圭織に言ったっけ!?」
「うん。後藤、覚えてないかな…。
圭織が後藤に対して紗耶香に甘え過ぎなんだって説教した時の事なんだけど」
ここまで言っても後藤はしきりに首を捻っている。
私の横にいる紗耶香は怪我した腕の止血をしながら面白そうにその様子を見ていた。
- 288 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)12時20分36秒
- 「あの時、後藤は圭織にこう言ったんだよ。
『いいなぁ〜、後藤も交信出来たらそっちの世界で市井ちゃんと会えるのかなぁ…』…ってさ」
私がそこまで言うとあぁ〜!!っと後藤は大声をあげた。
「確かに言った!」
「で、最初は後藤が紗耶香と会える事で少しでも元気になるならやってみようかな、って思ったんだ。
でも、そんなのやった事なかったから本当に上手くいくかどうかなんて自信なかったし
何も知らない紗耶香にとってはイキナリ何事だ!?って事になるだろうから
先に紗耶香をこの世界に呼ぶ事から始めたんだよ」
「そうそう。最初ここに連れられて来た時はマジでビビったね。
そんで、あたしは全ての事情を知ったわけ。
圭織の相談を受けてて元気付けに抱き合ってた時に後藤が現れてさ。
あん時は焦るっていうより、タイミングの悪さに思わず笑っちゃったよ」
あ〜!あの時も!!と後藤がまた叫ぶ。
「こっちは笑い事じゃなかったよ!!」
後藤は怒り出すのを見て、紗耶香はゴメン、ゴメンと平謝りする。
「あの時の後藤ってこの世界でも荒れてたからさ、正直あたしも困っちゃって…。
元気つける所か更に荒れちゃったじゃん?
だから、あの後に圭織と現実で連絡とって指輪を渡すように言ったんだ」
「だからか!あの時最後に『あたしをみくびるな』って言ったのは!
最初っから現実でも指輪渡すつもりだったんだ!!!」
「へへ、ご名答ー!」
紗耶香はニヤニヤしながら後藤の頭を撫でた。
後藤もだんだん機嫌が直ってきたらしく、自分の頭の中を整理し始めた。
「そっか、だからか〜…あの張り紙に書いてた元の世界に戻っても記憶が残りますって言うのは。
前に市井ちゃんと会った世界とここが一緒ならそりゃそうだ。
目を覚ましても記憶残ってたもん」
何となくそうかと思ってたんだ〜と、続けて言った途端、後藤があれ?と首を傾げた。
その様子を見て紗耶香はキョトンとしている。
「後藤、どうしたー?」
「あんね…この世界も普通の夢の世界なの?」
「あのなぁ……何を今更」
紗耶香はため息をついた。
- 289 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)12時22分37秒
- その瞬間、この世界が揺れた。
しまった…油断した。
もう限界かもしれない…。
「な、何!?」
後藤と紗耶香は突然の揺れに驚き、周りを見渡している。
グラグラ揺れる地面。
ピシッと音を立てて軋む壁。
それらは全てこの世界が崩壊する前兆…。
「ゴメン…もうタイムオーバーかもしんない」
「タイムオーバー!?」
二人は声を合わせて驚く。
「やっぱ、最近のハードスケジュールが堪えてたみたい。
後もう少ししかこの世界を保てない…」
私がそう言うと、紗耶香と後藤は焦り出す。
「べ、別にもう現実に戻ってもいいよ!だから、無理しないで〜!!」
「そうだよ…この問題は簡単には解決しないから、とりあえず帰ろう!」
後藤、紗耶香は二人で慌ててそう言う。
「それより二人とも…早く願い事言って?」
「え?なんで…もういいよ」
二人は私のこの言葉の意味がわからないようだ。
「それが…ダメなんだよ。
この世界を作る時の設定みたいなものがあって本当にこの時計のカウンターが
『0』にならないと本当に三人とも元の世界に戻れないんだよ」
「何だ、それー!?」
そんなの聞いてないぞ!と、紗耶香は混乱している。
「それってここを作った圭織本人も願いを使わないとダメって事なの?」
後藤が呆然として言う。
「そう…だから、二人とも早く願いを言って。
じゃないと、ここの世界が壊れた後の二人の意識の保障は出来ない。
案外、普通に現実で目を覚ましてるかもしれないし
この世界に意識を置いたままになって目が覚めないかもしれない…」
それを聞いて二人は絶句する。
正直に言うと本当にどうなるのか自分でもわからない。
ある程度、他のメンバーよりは自由にこの世界で過ごす事が出来ていたけど。
でも、今まで他人を自分の世界に呼び込んだ事なんてあんまりないし。
それに今回は今まで試した事のない設定の元、この特殊な世界を作ったから。
設定っていうのは言ってみればコンピューターのプログラムみたいなものだ。
一度、作ってしまった世界を後で修正するという事は出来ないようにしてある。
自分で自分の首を締めるってこういう事を言うのか…。
- 290 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)12時24分47秒
- 「紗耶香の願いは何?後藤と一緒にいられるようにっていうのはどう?」
もうしばらくの間だったら何とかなるよ、と私が言うと紗耶香は静かに首を振った。
「…これ以上、圭織の負担になるような事は嫌だ。
でも、願いなんて本当にないんだよ…思いつかない」
紗耶香は苦しそうにそう言った。
「……」
私は言葉を失った。
気持ちは嬉しいけど…。
本当に嬉しいけど…。
私達が黙り込んでいる間も周りは崩れ続ける。
そして、その様子を静かに見ていた後藤は意を決し、突然こう叫んだ。
「しばらく世界の崩壊を止めて、市井ちゃんに考える時間をあげて下さい〜!」
ピカッと時計が発光する。
後藤…。
まさかそんな願いを使うだなんて…。
でも、これって紗耶香の事を一番に考えてる証拠だね…。
目が慣れた頃には地面の揺れも止まっていた。
「…よかった。頑張って最後まで願い事使わなくて」
後藤は胸を撫で下ろしていた。
「だからって、こんな内容の願いをするなんて…」
紗耶香は後藤はバカだなぁ、と言いながらクシャクシャな顔をして笑った。
「…後藤らしい願いだね。ちょっと圭織は席を外すからその間に紗耶香の願いを考えて。
それとせっかく二人っきりの時間が出来たんだから圭織の事は気にせずにね」
私はそう言って二人から離れるのを見て、紗耶香が慌てる。
「ちょ!ちょっと、圭織!?」
「圭織の身体とかは大丈夫だよ。じゃ、『3−11』の教室で待ってるから」
笑顔で二人に手を振り、私はその場を離れた。
正直、身体の調子は良くない。
現実の世界ではもう夜明けを迎える時間だ。
実は現実の体調とこの世界にいる圭織の体調みたいなものはある程度比例している。
数時間も一睡もせずに交信してたら疲労困憊するわけだ。
ただ、後藤がこの世界の崩壊を止めてくれたのは有難かった。
おかげでまだこの世界を保つ事は出来そうだから。
- 291 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)12時26分39秒
- 私は一人、『3−11』の教室に戻って来た。
そして、窓際の席に腰掛ける。
授業中に居眠りしている学生のように机に身体を預け、大きなため息をついた。
何もかもが辛い。
身体の不調からではなく、精神的な打撃を散々受けたから。
こんな世界を作って皆の意識を呼び寄せて…本当にそれで何か意味があったんだろうか。
皆を呼んだ事で何が起こるかなんて深く考えずに行動に出たのは間違いだったのかもしれない。
私は何もわかっていなかったのだ。
最初はただ後藤の心配事が解消される事だけを願っていた。
でも、結果的に実はメンバー同士で憎しみ合っている事を思い知らされただけだった…。
何も変わらなかった…いや、変わるどころか悪化させたと言ってもいい…。
こんな風になる為にこの世界を作ったわけじゃない。
メンバー内の問題を無くす為に作ったはずだったのに。
この世界を作った事で現実で何も問題なく
皆が仲良く活動出来るようになればいいなって思ってたのに。
私の考えは浅はかだったのかな…。
誰もそんな事、望んでいなかったのかな…。
このまま現実に戻ったとして、ここで起きた記憶は皆残っている。
現実に戻って実感するまでなく、今まで以上に酷い雰囲気になるのは目に見えている。
じゃあ、どうするか?
元の世界に戻る為には全ての願いを使わなければならない。
後藤の願いはさっき使った。
残りは紗耶香と私だけだ。
…私の願いは既に決まっていた。
- 292 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)12時27分58秒
- ピシッとこの教室のどこかで音がした。
私は顔を上げて音がした方向を見ると壁に大きな亀裂が走っていた。
もう時間がない。
早く、二人とも来てくれないと…。
私がそう思っていると教室の入り口から紗耶香の声が聞こえた。
「圭織ー、大丈夫?!」
紗耶香と後藤は走ってきたらしく、額に汗を光らせ息を軽く切らせていた。
もっと二人っきりの時間を楽しみたかっただろうに…特に後藤なんかは。
私は席を立ち、二人に近づいた。
「もう願い事は決まったの?」
「…まぁね」
紗耶香は少し不可解な笑みを浮かべた。
私はそれが気になって紗耶香に何か言おうとしたその時…。
私がさっきまでいた場所の天井が抜けた。
そして、激しくこの世界が崩壊し始める。
「ヤ、ヤバイよ!!早く二人とも願いを言ってよ〜!」
教室の原型を無くし始めたこの部屋を見て、後藤の顔が青ざめる。
「紗耶香…一緒に願いを言うよ!」
私がそう言うと紗耶香は静かに頷き、こう言った。
「後藤、圭織…また会おうね」
その言葉を聞いて後藤は笑顔を見せた。
紗耶香の願いが何なのかわからないままだけど仕方ない。
あれだけ言ったのだからちゃんとした願いを言うだろう。
二人の手を取り、紗耶香と後藤の目を見て無言で合図を送ると二人は目を閉じた。
私はそれを確認して自分も目を瞑り…。
私達がつけていた時計が最後の光を放った。
- 293 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月26日(日)12時34分04秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<次回更新でラストよ!
>176さん
いつも嬉しく思うお言葉、ありがとうです。
PJは見事に地震のせいで中断とかされてましたね。
ラブマで圭織が「ディアー」って言ったら、うちの地方も揺れました(笑)
>282さん
圭織はやっぱり普通じゃなかったんです・・・。
>283さん
力不足がアリアリで読みにくい文章だと思われ。
申し訳ないです。
>ラークマイルドソフトさん
今までの話の種明かしをある程度してると思いますがどうだろう?(爆)
ちなみにあいぼんの言葉は噂で聞いただけです。
- 294 名前:176 投稿日:2001年08月26日(日)12時54分39秒
- > ラブマで圭織が「ディアー」って言ったら、うちの地方も揺れました(笑)
感動。PJ見てから更新分読もうと思ってたのだが、あれはいいらさんの
早く読みなさい、
って取り計らいだったんだ。ありがとう、リーダー。
- 295 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)23時22分17秒
- 窓からの日差しが眩しい。
「………朝だ」
私は窓際の椅子に座ったまま、その窓から見える朝日をぼんやり眺めた。
現実の世界だ…。
無事に戻ってこれたという事は私の願いは叶っているはずだ。
もちろん、紗耶香の願いも無事に叶っているという事になる。
叫んだ瞬間が一致していたので紗耶香が言った言葉を聞き取る事が出来なかった。
紗耶香は何を願ったんだろう…。
今の私がそれを知るすべはないけれど。
「…やっぱり、一晩中起きてるとキツイなぁ…」
私は椅子から立ち上がり大きくのびをする。
身体中がギシギシと悲鳴をあげていた。
でも、本当に悲鳴をあげているのはこの心かもしれない…。
ピンポーン、と部屋の呼び鈴が鳴る。
そうだ、ここは地方のホテルだったっけ。
ドアを開けるとそこにいたのは辻だった。
「おはようございまーす、飯田さん!」
ニコニコしながら辻は元気に挨拶をしてくれる。
「おはよう。どうした?珍しく早いじゃん」
「でも、皆もう起きてますよぉー?」
「え?皆??」
私が驚くと辻はあ、と自分の頭を軽く叩いた。
「そういえば後藤さんはまだみたいでした…」
「…そっか」
そりゃそうだろう。
後藤だって今さっき戻って来たばっかりなんだから。
- 296 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)23時23分55秒
- 今日はコンサートの日。
昼と夜の二公演だからなかなかハードだ。
一通り、リハを終えて控え室に戻って来た時にはかなり疲れ果てていた。
私はソファーに座り、ぐったりしていると矢口が声をかけてきた。
「圭織ー?どうした?昨日あんまり寝てないんじゃないのー?」
その言葉にドキッとする。
「…なんで?圭織、どこか変?」
「変って…それはいつも変だけどさ」
「……」
「って、そうじゃなくて!今日の圭織すっごいクマが出来てるよ?ちゃんと昨日眠れた?」
矢口は自分の目の下を指差しながら心配そうな顔をした。
「あー…また、クマ出てる?どうしてこんなにクマが出来やすいんだろう?」
私は苦笑いしながら誤魔化す。
「そういう体質なんだろうねー。ま、あんまし無理しないようにね!」
「ん、ありがと」
「さーてっと、矢口は裕ちゃんをからかいに行こうーっと」
矢口はあまり話し掛けてては私の疲れが取れないと判断したらしく
すみやかにその場を離れていった。
直ぐに裕ちゃんの嬉しそうな声が部屋の中こだまする。
自分の控え室があるくせに裕ちゃんは矢口に会いたいが為にこの部屋に来ていた。
私はぼんやりと控え室の中を見回す。
じゃれ合う矢口と裕ちゃん、吉澤と楽しそうに会話してる後藤
石川に説教している圭ちゃん、メイクに夢中になっているなっち
お菓子に夢中な辻と加護。
ここにいるメンバーの様子はいつもと何も変わらない。
よかった…。
私の願いが叶っている証拠だ。
…そう。
私の願いは私以外の…。
皆の夢の中での記憶を消す事だった。
- 297 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)23時25分23秒
- 何もなかった事にすれば記憶が残ってる時よりは最悪な状況にはならない。
前と同じなだけ。
実はこことリンクした内容の願いが叶えれるかどうかという不安はあった。
でも、あの張り紙に記したように元の世界に戻りたいという願い以外は
どうやら大丈夫だったらしい。
今回の世界は自分で作った世界なのに簡単には自分の思い通りにはいかない
融通の効かないとこだったというわけ。
辻を元の世界に戻したり、加護が使った紗耶香への攻撃の防御くらいしか私が願い以外に使えた力はなかった。
ただ、後は最初の目的であった後藤への不安材料をどうするかという事になるんだけど。
自分の記憶は消さなかったのはその対応の為だ。
皆がどういう想いを抱いているかがわかっていればある程度
フォローする事が出来るかもしれない。
皆が記憶を残している状態、皆がそれぞれを想いを知っているよりは
フォローしやすいと思うから。
それくらいしか今回の件は救いがなかった…。
これからのフォローが大変だという事はわかってる。
何しろ問題が多過ぎだ。
誰の問題から解決するべきなのか悩んでいると後藤の姿が目に入った。
やっぱ後藤からだよね。
まずは後藤の問題を解決しないとこんなに苦労してきた意味がない。
ふと加護の方を見るとチラチラと後藤を見ていた。
やはり加護にとっては後藤は気になる存在なんだろう。
表情を見るとあきらかに好意的な表情はしてなかった。
さすがにあの世界みたいに何かを仕掛けるような事はないだろうけど。
- 298 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)23時27分12秒
- 私は吉澤と話し込んでいる後藤の傍に行こうとすると途中で石川に止められた。
「飯田さん!」
「何?」
「ちょっと石川の決意を聞いて下さい!」
「何さ?イキナリ…それに決意ってまたおおげさな言葉出して…」
…どうしてこんなにテンションが高いんだろう。
今日の私には石川のキンキンしたアニメ声を聞くと頭痛が増す。
私がため息をついていると思いがけない言葉が石川の口から出た。
「今、保田さんと話してたんですけど今度ボイトレの先生を紹介してもらう事にしたんです!」
「…え?」
私が戸惑っていると石川の隣にいた圭ちゃんが続けて口を開く。
「やっぱ娘。のレベルを上げる為にまずは弱点克服から始めないとねっ!」
圭ちゃんはそう言いながら石川の肩を抱く。
「弱点って言い方はよして下さいよぉー…傷つきます……」
泣きそうな顔をしている石川を圭ちゃんは笑い飛ばす。
「傷つく前に歌えーっ!そして、上手くなってみなさいよ!
皆がビックリするくらいに!!
そしたら、みんなアンタの事を認めてくれるわよっ!」
圭ちゃんはフォローにならないフォローをする。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ…じゃあ、今は認めてないって事ですかー!?」
「さぁー?考え方は人それぞれだから」
「ちゃんと答えて下さいよぉー!!」
圭ちゃんはどうも石川で遊んでいるようだ。
そして、私は二人に気付かれないようにその場から離れた。
あの世界での出来事は全て把握している。
たとえ自分がその場にいなくてもどんな会話をしてたかっていうのは
ある程度知る事が出来た。
夢で圭ちゃんが石川に言ってた事が現実でも起きてる…。
どうして…?
- 299 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)23時28分48秒
- 私が入り口のドアの傍の壁にもたれ考え込んでいると後藤と吉澤の会話が聞こえてきた。
「よっすぃ〜はさ、今の自分をどう思う?」
「はぁー?イキナリ何?」
吉澤は後藤の質問に戸惑っている。
「ん〜、なんて言うのかな…なんか悩みとかない?
よかったら相談にのるよ。いつも後藤ばっか相談にのってもらってるしさ」
だから、今日は後藤が相談聞く番ね、と後藤はニコニコしながら言うと吉澤は微妙な表情になった。
「じゃあ…一つ聞いていい?ごっちんはまだ市井さんの事が好きなの?」
「うわ〜、直球だねぇ〜。ちょっとビビっちゃった」
な、何て会話してんだろ。
それに後藤…。
「答えて…くれる?」
吉澤の真剣な表情を見て後藤も軽く一息ついて真剣な表情になった。
「うん、好きだよ。
前にケンカみたいなのしちゃってたけど
あれは後藤の事を想って市井ちゃんがわざと意地悪してただけなんだ。
それに、後藤の市井ちゃんが好きっていう気持ちは何があっても変わんないから」
そこまで聞いて吉澤は口を歪め、そっか…と深いため息をついた。
「えっとね…後藤はよっすぃーの気持ち嬉しいよ」
「え?」
「ゴメンね…ちゃんと受け止めてあげる事が出来なくて」
吉澤はしばらく固まっていたけどぎこちなく口を開く。
「…いや、ごっちんが幸せなら…うん、それだけでいいよ、私は」
「本当は何も言わないままでいようと思ってたんだけど…でも、その方が惨いと思って。
だからさ、よっすぃーもちゃんと考えてね」
「私が?どういう意味?」
吉澤は首を傾げる。
「だって、よっすぃーも後藤と同じ状態でしょ?傍で見てたらよくわかるよ」
そう言いながらまだ圭ちゃんに遊ばれている石川を見る後藤。
その視線を追った吉澤は後藤の言っている意味を理解したようだ。
- 300 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)23時30分24秒
- 「そうだね…ずっと知らないふりして答えをはぐらかすのは卑怯かもしれないね」
吉澤がそう言うと後藤は吉澤の肩を勢いよく叩いた。
「頑張って、よっすぃー。後藤が応援してるからさ〜」
「応援って…なんか複雑なんだけど…」
「あは。でも、よっすぃーの気持ちを受け止められないって言っても後藤はよっすぃーが好きだよ?
そりゃ、やっぱ市井ちゃんへの気持ちとは違うもんだけどさ。
よっすぃーと市井ちゃんは後藤の中では違う人種だから」
「市井さんと私が違う人種?」
「だってさ〜、当たり前の事なんだけど同じ人間なんているわけないじゃん?
よっすぃーは市井ちゃんの代わりじゃないし
市井ちゃんもよっすぃーの代わりは出来ないって事だよ」
「…イマイチ、ちゃんと理解出来ないけど…ありがと」
吉澤は歯切れの悪い言葉を口にしていたけど、その表情は嬉しそうだった。
自分が抱いていた誰かの代わりではないかというコンプレックスを
好きな人に否定してもらえたらそりゃ嬉しいだろう。
その微笑ましい光景を見ながらも私は不安になっていた。
さっきの圭ちゃんといい、今の後藤といい…。
もしかして記憶は消えてない…?
そんなはずない…のに。
私が頭を抱えていると突然、誰かが後ろから声をかけてきた。
「圭ちゃんのは天然だと思うよ?」
その声に驚き、私が振り返るよりも前に後藤が大声をあげていた。
「市井ちゃんっ!!」
「こんちはー」
笑顔で皆に挨拶している紗耶香がそこにいた。
「紗耶香ー!!」
圭ちゃん、矢口、裕ちゃん、なっちはこう叫び
「市井さん!!」
石川、吉澤、加護、辻がこう叫んだのは同時だった。
「市井ちゃ〜ん!やっと来た〜!」
後藤は満面の笑みを浮かべ紗耶香に飛びつきながら意味深な事を言った。
- 301 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)23時31分41秒
- 「この前、指導役だなんて言っておいて突然姿消しちゃってゴメンね。
あん時さー、ちょっと急用が出来ちゃって」
紗耶香は頭をかきながら照れ笑いしている。
心配したんだからねー!と矢口が文句を言っているのを無視して私は紗耶香の腕を引っ張った。
「っわ!痛いよ、圭織」
紗耶香にそう言われて思いっきり手に力が入ってた事に初めて気付いた。
「紗耶香…どういう事なの?」
「…ここではなんだからちょっと場所替えよっか?」
ニヤッと笑う紗耶香。
なんなのよー?!と圭ちゃんが騒いでるけどそれも無視。
こっちはそれどころじゃない。
「じゃあ、ちょっと来て」
私はそう言いながら紗耶香の腕を掴んだまま外に出ようとする。
「後藤ー、アンタも一緒においで」
「は〜い」
紗耶香は私にされるがままの状態で後藤に呼びかけ、後藤も素直についてくる。
部屋を出る時に残される形になったメンバーが不満を口にしているのが聞こえた。
- 302 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)23時32分54秒
- 私達はコンサート会場の裏から外に出た。
まだまだ開場までに時間はあるといっても表から出たらファンにバレる。
ここは地方という事もあって、会場裏には何もない。
人の姿を確認する方が難しいくらいだった。
「…まさか、今日会いにくるとは思わなかったよ」
実は紗耶香が既に日本に戻ってきてる事は少し前から知っていた。
だから、たまに連絡とかして相談にのってもらっていたのだ。
「まぁね。そろそろちゃんと皆の前に顔出さないとって思ってたし。
もちろん後藤にも会いたかったしね」
そう言いながら後藤に微笑みかける紗耶香。
後藤は嬉しそうな顔をして紗耶香の腕を取る。
「そっか。よかったじゃん、後藤」
私がそう言うと後藤は笑顔で頷いた。
やっぱりこの二人が一緒にいると見てる方も安心する。
お互いにお互いの存在を大切にしてるってよくわかってるから。
今日も暑いねー、と手で自分の顔を仰ぎながら紗耶香はこう言った。
「圭織は皆の記憶を消す願いをかけるつもりだったんでしょ?」
「……」
「しかも、自分だけは記憶を消さないで…」
紗耶香は寂しそうにそう言った。
後藤も同じような表情をしている。
私は思わず唇を噛んだ。
そうか…紗耶香には私の考えていた事、全てを読まれてたんだ。
- 303 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)23時35分36秒
- 「紗耶香はあの時…なんてお願いしたの?」
私は下を向いたまま、そして紗耶香の問いかけには答えず聞く。
わざわざ聞かなくても、もう既に何となくわかってるけど。
「あたしの願い?へへー、圭織と一緒だよ」
「…一緒」
「あたしはあの時『あたしと後藤のここでの記憶を現実でも残しておいて下さい!』って言ったんだ」
「……そういう事か」
やっぱね、だからか。
さっきの後藤の吉澤への言葉。
後藤は何もかも覚えてて…それであんな事を言ったんだ。
あの時、私は紗耶香と同時に願いを言ったつもりだった。
でも、微妙に紗耶香の方が遅かったんだ。
きっと紗耶香はわざとそうしたんだろう。
「紗耶香…どうして……」
私が弱々しくそう呟くと紗耶香は真面目な顔でこう言った。
「圭織だけに嫌な想いをさせておきたくないよ…。
これはあたしだけじゃなくて後藤も同じ気持ちなんだ。
だから、あの時に後藤と二人で話し合ってこの願いにしたんだよ」
「……」
「圭織はいつもさ、脱退しても仲間って事には変わりはないから…って言ってくれてたじゃん?
その言葉って凄く嬉しかったよ。
だから、あたしも仲間が傷ついてるなら助けてあげたいし、痛みも分かち合いたいんだよ…」
そう言って紗耶香は私を抱き締めてきた。
無意識に涙が零れる。
「でも…後藤が…」
「…圭織。後藤は…これで良かったと思うよ……」
しばらくして後藤がポツリと呟いた。
- 304 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)23時37分24秒
- 「え?」
後藤が何を言ったのかわからなかった。
「誰に憎まれてるとか疎まれてるとか…そういうのは知っておいた方がいいと思ったんだ。
見て見ぬふりとかそういうのは良くないって…ちゃんと真正面から受け止めないといけないんだって思う。
そりゃ、そういうのって辛いし、本当なら何もない方がいいんだけどさ」
後藤はそう言って苦笑いした。
「…そっか」
私はもうそれだけしか言えなかった。
「もう後藤は大丈夫。加護には腹割って話してみるつもり。
あの世界で市井ちゃんが言ってくれたように歌で勝負しようって言うつもりだよ」
勝負するのは人気とかじゃなくてね、と後藤は笑顔でそう言った。
…後藤、なんだかんだいって成長してんだね。
前は紗耶香に会えなくてショゲてばっかだったのに。
これからは紗耶香が傍にいてくれるからもう私が心配しなくても大丈夫かもしれないね。
「前までの後藤だったらさ、こんな風に思えなかったはずなんだけどさ。
でも、今…こうやって思えるようになったのは市井ちゃんと圭織のおかげなんだよ」
そう言って後藤は満面の笑みを浮かべた。
「圭織の…おかげ?紗耶香のおかげだけだよ、後藤が前向きになれたのは。
…圭織は後藤に何もしてあげられてないよ…。
いつも口ばっかで…それなのに……」
それなのに、どうしてそんな事を言ってくれるの…?
「うぅん。圭織にはいつも助けてもらってる、励ましてもらってる、いつも気を遣ってくれる。
それだけで後藤は勇気百倍なんだよ〜!」
後藤はそう言って嬉しそうにガッツポーズしてみせる。
「そうそう、圭織は自分の事を過小評価し過ぎだよ。
圭織はすっごい心の大きな人なんだよ。
たとえ自分が傷ついても誰かを守ろうとしてくれるんだから。
普通はさー、そんな事、簡単に出来ないって。
もっと自信持てよ!新リーダー!!」
紗耶香はそう言って私を抱き締めたまま、背中をバンバン叩く。
私はボロボロと泣きながら静かに頷き、小さな声で…それでも二人に聞こえるようにこう呟いた。
「ありがと…」
- 305 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)23時39分08秒
- そろそろ控え室に戻らないといけない時間になっていた。
「さぁ〜、これから頑張ろ〜!!」
後藤は両腕を思いっきり伸ばして楽しそうに言う。
「そうそう、その調子で頑張れ。あたしは観客として拝見させてもらうからさ」
そう言って紗耶香はコンサートのチケットをピラッと見せて笑う。
「わざわざチケット買ったの!?」
私が驚くと、紗耶香は首を振った。
「後藤にもらったんだ。今日のコンサート見に行くって
あの世界で二人っきりになった時に約束してたからね」
そんな会話までしてたのか。
だから、後藤は紗耶香を見てやっと来たって言ったんだ。
「じゃあ、行ってきますか」
私はそう言って後藤と肩を組みながら笑い合う。
「これからの為に、ここらで自分の実力を思いっきりみせつけてやりなよ、後藤」
今の後藤の姿を見て何も言えなくなるくらいにね、と紗耶香がガッツポーズしてみせる。
後藤は紗耶香のその仕草を見て同じくガッツポーズをしてみせて笑う。
「そだね〜、少しづつ、前に進んでみるよ!」
「うん、皆一緒にね」
「不思議だよね。考え方一つ変えるだけでこんなにも前向きになれるんだから」
私達は笑顔で頷いた。
なんだか、今まで散々悩んでたのがバカらしくなってきた。
ずっと、どうしたらいいんだろうって思ってたけど
それでもハッキリした答えなんて出なかった。
でも、こうやって話してるだけで本当に前に進めるっていう自信が沸いてくる。
- 306 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)23時40分25秒
- 「仲間って本当にいいよね。なんか家宝みたいなもんだと思わない?」
私がそう言うと二人は吹きだした。
「何で笑うのさ?!」
私が戸惑っていると紗耶香はだってさー、とまだ笑いをかみ殺しながらこう言った。
「今時、家宝なんて言葉がスラッと出るのって圭織くらいだと思ってさ」
後藤も同意して笑い続けている。
「そんなにおかしいかなぁ…」
私は一人納得がいかない表情をしていると更に二人は笑い出す。
「ま、そんなに気にしないでいいじゃん。圭織らしくていいよ」
紗耶香はそう言い、後藤もそうだよ〜、と笑顔で頷く。
「さ〜、皆のとこに戻ろう〜!」
そして、後藤はそう言いながら駆け出した。
紗耶香は笑顔で私の肩を軽く叩いて後藤の後を追う。
私は二人の後姿を眺めながら笑みを浮かべた。
…ま、いいか。
こうやって誰かと笑い会えるって事は素敵な事だ。
これからもずっとこうだといいな。
こうしていられるように努力しなくちゃね。
- 307 名前:−飯田圭織視点− 投稿日:2001年08月26日(日)23時41分28秒
- 何でも叶えてあげるって言われたら何を願う?
私は何も願わない。
でも、例えば。
どうしても何か願わないといけないとしたら。
私はきっとこう言うだろう。
皆が幸せでいられますように…。
皆で幸せでいられますように…。
- 308 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月26日(日)23時48分08秒
- ++あとがき++
無理矢理、今日中に終わらせました(笑)
今まで読んでいただいた方に感謝。
滅茶苦茶な設定及び内容になってしまい、大変読みにくかったと思われ。
新メンファンの方にはなんじゃこりゃ?って内容で申し訳ないです。
あ、もう新メンって言い方もおかしいですな。
『クロニック ラブ』以降の話の内容を入れたんですが
謎が解決してなかったらスミマセン。
- 309 名前:アリガチ 投稿日:2001年08月26日(日)23時51分22秒
- >176さん
PJは再放送があるみたいでよかったッスね。
リーダー、かっけーッス(笑)
いつか圭織が普通な話も書いてみたい気がしますが
もう小説書かないかもしれない。
予定は未定ですが。
- 310 名前:ハル 投稿日:2001年08月27日(月)00時02分16秒
- リアルタイムで読めた(笑)
本当いろんな意味で感動しました!!
終わってしまうのは寂しいですけど、作者様、お疲れ様でした。
- 311 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月27日(月)00時02分48秒
- 終わっちゃいましたね。新メンもはいったしがんはって!ヤッスー!!
- 312 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月27日(月)00時03分38秒
- たのしかったです(作文ふう
- 313 名前:kiki 投稿日:2001年08月28日(火)00時46分53秒
- 2日かけてイッキに読ませていただきました
要所での( `.∀´)のキャラ最高でした
次回作も期待します
- 314 名前:マルボロライト 投稿日:2001年08月28日(火)02時24分22秒
- ものすごいハイスピードの更新で頭が下がります。見習いたいものです。
最後もよかったです。特に圭織の気持ちは泣けてきました。
連載お疲れ様でした。
- 315 名前:ななし 投稿日:2001年08月28日(火)12時54分07秒
- 終わっちゃったんですかぁ。楽しみが減るなぁ。
新作!!を期待してます。
- 316 名前:ラークマイルドソフト 投稿日:2001年08月28日(火)18時33分19秒
- どうもお疲れ様でした。
とても良かったです。
自分はなんか読み終わった後、ふっと力が抜けました。
- 317 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月30日(木)05時22分54秒
- クロニックにマインドですか・・・フムフム(ニヤケ
- 318 名前:アリガチ 投稿日:2001年09月01日(土)01時44分44秒
- 感想レスありがとうです。
ではでは、レス返しを。
>ハルさん
リアルタイムで読まれてる方を初めて発見(笑)
こんなヘボ作品で感動だなんて・・・ありがとうです(TT
>311さん
( `.∀´)<やっぱここの交信と言ったら私よね!
いつの間にかここの交信キャラになってましたね、ヤッスー(笑)
>312さん
ありがとうです(お礼ふう)
一言感想でも充分嬉しいです。
>kikiさん
一気に全部読んだんですか・・・それはお疲れさまでした(笑)
( `.∀´)を気に入ってもらえて光栄です。
>マルボロライトさん
更新スピードが早かったのはある程度出来上がってたからで。
あ、ちょこっと迷惑かけて申し訳なしでした。
>315さん
最後は特にスピード上げて終わらせました。
新作・・・また〜り待ってて下さい・・・はは、は。
>ラークマイルドソフトさん
力抜けましたか・・・。
そちらの連載も頑張って下さいね、楽しみにしてますので。
>317さん
クロニックと話が繋がっているという事でマインドも中谷美紀さん繋がりで。
でも、今回の話のイメージは「天国より野蛮」なんですけどね(笑)
新メンも決まって色々とバタバタとしてますな。
新作の方はイメージは出来てるものもあるのですが、なかなか形にならないです。
とりあえず、しばらくは引き篭もりしときます。
ではでは。
- 319 名前:名無し読者なリズム 投稿日:2001年09月02日(日)21時57分39秒
- 土日つぶして一気に読みました(w
娘。たちが殺されて行くような話は苦手なんですが、夢だとわかっているからか
安心して(?)よめました。
やすいしの心中シーンも笑ってしまった。
HPのほうのも読ませていただきます。(全然隠れてないし…)
- 320 名前:ひとつだけ 投稿日:2001年09月17日(月)02時10分55秒
- 昨日、夜更かししてしまい、昼前にようやく目覚めた。
そして昼御飯どうするかなー、と思ってた時。
こんなメールが届いた。
『昼の一時に駅前集合! 後藤より』
…なんだ、これ?
集合って他にも誰か来るのかな?
っていうか、用件を書けっつーの。
それに一時ってもう一時間もないじゃん。
ブツブツ言いながらもあたしは慌てて出かける準備に取り掛かった。
- 321 名前:ひとつだけ 投稿日:2001年09月17日(月)02時11分57秒
- ――約束の時間、10分前。
「あれ?」
あたしが目的の地に着いた途端、発した言葉がこれだった。
「おっはよー、市井ちゃん!」
そう言いながら後藤があたしに抱きついてくる。
「後藤があたしより早いだなんて…ちょっとショックだ」
「何それ〜?あのね、さっきまで近くで雑誌の撮影してたんだ」
ニヘッと笑って後藤は腕を組んでくる。
「あー、もう暑い。今日暑いんだからそんなにくっつくなってば」
「いいじゃん〜、ケチ〜」
「誰かにバレたらどうすんの」
「え〜?案外バレないもんだよ?」
…相変わらず呑気なヤツめ。
確かにあたしも後藤も帽子とサングラスをかけてはいるんだけど。
それでもじっくり顔を見られたらバレちゃうだろうに。
「…で?他に誰が来るの?」
あたしはメールを貰った時から疑問に思ってた事を口にする。
それを聞いて後藤は首を傾げた。
「へ?誰も来ないし、呼んでないよ」
「はぁー?!あのねー…だったら集合っていう言葉使うなよ。勘違いするじゃんか…」
…紛らわしい。
でも、久し振りに二人っきりになれるっていうのは嬉しいけど。
- 322 名前:ひとつだけ 投稿日:2001年09月17日(月)02時12分45秒
- 昼御飯をまだ食べていなかったので、あたし達は近くのファミレスに入り
向かい合って席に着いた。
「はい、これ」
後藤がそう言ってテーブルの上に出したのはCD。
あたしはCDを手にしてジャケットを確認すると
それは前にあたしが後藤に貸していたものだった。
「すっかり渡すのが遅くなっちゃったけど約束が守れて良かったよ」
嬉しそうな表情の後藤。
あたしはテーブルの上にあった後藤の手を取る。
そして後藤の目を見て微笑みかける。
「それはこっちの台詞だよ。
色々あってどうなる事かと思ってたけど、こうしてまた会う事が出来て良かった」
もう二度と会えないと思ってた時もあったけど
でも、もうそんな心配する事もなくなった。
「これからはずっと一緒にいられるよね?」
後藤は繋いでいる手に力を入れる。
「うん。でも後藤の方が忙しいからなぁ。
前みたく、何時でもどこでも一緒ってわけにはいかないでしょ」
「それはそうなんだけどねぇ〜…」
後藤が残念そうにため息をついたところで注文したものを持って
ウェイトレスがやって来た。
- 323 名前:ひとつだけ 投稿日:2001年09月17日(月)02時14分50秒
- 「今日はCD渡す為にあたしを呼び出したの?」
グラタンを口に運びながらあたしが聞くと
後藤は口にしようとしたアイスティーをテーブルに戻した。
「そういや、この後も仕事なんでしょ?…アチチッ」
「そうだけど…って、大丈夫?」
「…んー」
あたしは熱々のグラタンで軽く火傷しそうになりながら急いで水で口の中を冷やす。
「ちょっとだけでも市井ちゃんに会いたかったからさ」
「何だよー、嬉しい事言ってくれるじゃん」
あたしはそう言って後藤の頭を乱暴に撫でてやる。
幸せそうな顔をする後藤。
本当に忙しいだろうに、いじらしいヤツだなぁ。
こういうとこが可愛いんだよね、後藤って。
「えへへ…、そうだ。今度の日曜日は何の日だ〜?」
「知らない」
「え〜!?」
いや、本当は知ってるけど。
だけど、わざと意地悪してみる。
「後藤の2ndシングルが出る日だっけ?TVで見たよ、カッコよく踊ってたじゃん」
「ダンスレッスン大変だったんだよ〜…って、そうじゃなくて!」
むぅっと頬を膨らませ、後藤は不機嫌になる。
「冗談だってば。誕生日でしょ、後藤の」
「も〜!わかってるなら意地悪しないでよ!」
「わかってるから意地悪してるんだよ」
イヒヒと笑いながら言うと後藤は全くも〜、とため息をついた。
- 324 名前:ひとつだけ 投稿日:2001年09月17日(月)02時15分51秒
- ファミレスを出て、後藤の次の仕事までの時間
あたし達はブラブラと歩く事にした。
「しっかし、もう16歳になるのかぁ。
早いもんだね、最初に会った時は13歳だったのにさ」
「おかげ様で後藤も大人になりました!」
後藤はエッヘンと胸をはる。
「最初っから大人っぽかったけどね、最近また更に大人っぽくなった気がするよ」
「ちょこラブの頃は幼児化してたけどね〜」
「あれはただ太ってただけなんじゃないの?」
「あ〜、酷い。それは言っちゃダメ〜!」
最初会った時は正直ビックリしたけどね。
13歳で金髪だったから。
あの時、あたしが教育係をかって出てなかったら今こうして一緒にいる事も
なかったんだろうな。
人の縁って不思議だ。
「この二年とちょっとの間に色んな事があったね…」
後藤は遠くを見つめながら呟いた。
「そうだね…」
娘。の中でも、あたし達個人の中でも色んな事があった。
でも、あたしは何も変わってない気がする。
ちゃんと成長していってる後藤を見てると自分は何にも成長出来てないような気がして
そう思うとちょっと焦る。
これから頑張らないとなぁ…。
ふと後藤を見ると後藤もあたしの方をじっと見ていた。
- 325 名前:ひとつだけ 投稿日:2001年09月17日(月)02時16分47秒
- 「プレゼント何が欲しい?」
働いてないから高いものは勘弁ね、と一応、付け足して。
「ん〜とね、指輪にサングラスでしょ。それにバック、時計…」
そう言いながら指折りしていく後藤の頭を軽く叩く。
「そんなに買えるわけないでしょ」
それに指輪は前にやったじゃんか、と文句を言う。
結構、高かったんだよ…あの指輪。
「冗談だよ〜。言ってみただけ」
からかうように笑う後藤。
誕生日を知らないふりしたあたしへの仕返しらしい。
「今のあたしがあげられるものにしてよ?」
「後藤は市井ちゃんから貰えるならなんでも嬉しいよ」
「そう言って貰えるのは嬉しいけど本当に何かないの?」
「そうだなぁ〜…」
後藤は腕を組んで考え出した。
プレゼントする側からすれば何か欲しいものを指定してくれた方が楽なんだよね。
驚かせる為に何も聞かないで後藤が欲しがってるものをあげるのが一番いいんだろうけど。
前みたく何時も一緒に行動を共にしてたら後藤が欲しがってるものなんてすぐわかるのに。
なんだかものすごくもどかしい。
こんな事を考えると、ここ一年とちょっとで出来た距離みたいなのを感じる。
これから頑張ってそんなもん埋めて行くけどさ。
あたしが軽くため息をついていると。
「…市井ちゃん」
後藤はあたしの顔を見てニコッと笑う。
そしてあたしの手を取り、今まで進んでいた方向から外れて
ドンドン進んで行く。
「ちょ、どこ行くの?」
戸惑っているあたしの事なんて気にせず
後藤は笑顔のまま傍の路地へ進んでいった。
- 326 名前:ひとつだけ 投稿日:2001年09月17日(月)02時17分36秒
- この路地はかなり狭い。
二人で横に並ぶ事が出来ないくらいの狭さ。
それなのに後藤はあたしの首に腕を回し、抱きついてくる。
あたしの背中には冷たく感じる壁。
「…狭い」
「……だね」
間近にある後藤の顔。
目を細めてあたしを見つめている。
その目を見てるとあたしの胸はドキドキしてきた。
「…こんなとこに入ってなんの意味があんの?」
「だって、急に二人っきりになりたくなったんだもん」
そう言いながらあたしの首に回している腕に少し力を入れる。
あたしも後藤の背中に腕を回す。
「あのね、プレゼント…後藤は何もいらないよ」
「え?」
「市井ちゃんが傍にいてくれれば他に何もいらない…」
「…後藤」
抱きつかれてる為、後藤がどんな顔をしてるのかわからなかったけど
伝わってくる体温がドンドン高くなっていくのはわかる。
きっとあたしも一緒なんだろうけど。
- 327 名前:ひとつだけ 投稿日:2001年09月17日(月)02時18分20秒
- 「これって独占欲が強いお願いかな…」
「そんな事ないさ」
あたしはそう言いながら、抱きしめていた腕を緩めて後藤のおでこに軽くキスをした。
後藤は右手でおでこを抑え、顔を真っ赤にして照れている。
「でも、そんなんでいいの?
お願いとかされなくても、あたしは後藤の傍にいたいって思ってるのに」
後藤の頬を撫でながら言うと、気持ち良さそうな顔をする後藤。
めちゃくちゃ可愛い。
「じゃあ、ひとつだけ…」
「何?」
「市井ちゃんの相談役は後藤一人だけにして」
「…相談役?」
あたしの相談役?
後藤の悩みをあたしが聞くんじゃなくて
あたしの悩みを後藤が聞くの?
それって逆じゃないのかな?
「市井ちゃんって自分の事とか全く話そうとしないでしょ?
辛い事とか、悲しい事とか、色々さ。
自分の中に溜め込むのは良くないよ。
市井ちゃんが思ってる色んな事を教えて欲しい。
後藤に出来る事なんて何にもないかもしんないけど少しでも市井ちゃんの力になりたい。
市井ちゃんが嬉しい時も寂しい時も一緒にいたい。
市井ちゃんにとって後藤ってこんなにも必要な人なんだって思って貰いたいんだ」
「……」
…バカだなぁ。
今でも充分あたしにとって後藤は必要な人だよ。
- 328 名前:ひとつだけ 投稿日:2001年09月17日(月)02時19分12秒
- 「そんなんのでプレゼントになるの?」
どちらかと言えば、あたしがプレゼント貰ってるような気分なんだけど。
いいのかなぁ…。
「うん。後藤はそれだけで充分だよ」
やっぱ可愛い。
愛しさが一段と増したね、今日一日だけで。
「ありがと」
後藤の顔を両手で包み込み、顔を近づける。
「後藤…好きだよ」
「…市井ちゃん」
あともう少しでお互いの唇に触れ合うというとこで
突然、けたたましく後藤の携帯が鳴り出した。
「あ…タイマーにしてたんだった」
残念そうに携帯を手にしたまま呟く後藤。
そして呆気に取られるあたし。
…なんてタイミングで鳴り出すんだ、この携帯は。
正直、ガックリ。
後藤の髪を直してあげながら後藤の顔を覗き込む。
「…もう仕事の時間?」
「………うん」
「そっか…」
後藤が大きくため息を見て、あたしは少し笑って見せて乱暴に後藤の頭を撫でた。
- 329 名前:ひとつだけ 投稿日:2001年09月17日(月)02時20分01秒
- 路地を出てあたし達が別れる交差点までやって来た。
「仕事、頑張って来いよ」
「…うん」
俯いている後藤。
まだ離れたくないって思ってるんだろうな…。
本当にわかりやすいヤツだなぁ。
「そんな顔すんなってば。あたしも同じ気持ちだけどさ」
苦笑いしながらあたしがそう言うと後藤は顔を上げた。
「本当に?」
「嘘なんてつかないって。
それに、これからはちゃんと後藤に自分の気持ちを素直に言うって約束でしょ?」
後藤には何でも言うってば、と付け足し。
「えへへ。すっごい嬉しい!」
後藤は本当に嬉しそうな笑顔をくれる。
それを見て、あたしの顔も自然と緩む。
あー、チクショ。
めっちゃ可愛い。
さっき携帯に邪魔されたのがかなり悔しい。
「じゃ、またメールするね」
「あ、ちょっと待って」
後藤が信号を渡ろうとするのを腕を掴んで引き止める。
「どうしたの?市井ちゃ…んっ」
- 330 名前:ひとつだけ 投稿日:2001年09月17日(月)02時20分50秒
- 顔を離して後藤に笑いかける。
「誕生日に会えるかどうかまだわかんないから先にちょっとしたプレゼントって事で」
「…人が沢山いるのに…バレたらどうすんの」
「案外バレないもんだって言ったの後藤じゃん」
後藤は真っ赤になって俯いている。
あたしもきっと真っ赤になってるんだろうなぁ。
だって顔が熱いから。
周りを見回すと誰一人として気付いた人はいなかったみたいだ。
一瞬だったしね。
「嫌だった?」
「そんなわけないじゃん」
はにかんだ表情の後藤。
「じゃ、今度こそ行ってらっしゃい」
「うん!」
そう言ってあたし達は拳を突き出して
左手にあるペアリングをカチンと鳴らした。
これがまたね、っていう合図。
かなり時間が迫っていたのか、後藤はパタパタと走って行く。
そして何度も何度も振り向きながらあたしに手を振る。
あたしはその場で姿が見えなくなるまで後藤を見送った。
- 331 名前:ひとつだけ 投稿日:2001年09月17日(月)02時21分23秒
- あたしの誕生日にはどんなプレゼントをくれるのかなぁ。
ま、欲しいものなんて今のあたしには特に何もないんだけどね。
ただひとつだけ、後藤さえ傍にいてくれたら。
- 332 名前:アリガチ 投稿日:2001年09月17日(月)02時25分51秒
- ++あとがき++
( `.∀´)<アンタ!もう書かないって言ったじゃないのさ!
・・・甘いいちごま書いてみたかったもんで(苦笑)
マインドサーカスでそういう内容書けなかったし。
一応、その後の話って事で。
でも、あんまし甘くないなぁ・・・これが限界。
>319さん
ありがとうです。
現実話で殺す、殺されるっつー話は自分も苦手なもんで。
HPの隠しリンクが隠れてないっていうのはそれを言ってはダメです(爆)
- 333 名前:道化師 投稿日:2001年09月17日(月)15時13分17秒
- お疲れさまでした。とはいうものの、まだ読んでないので感想は書けません。
久々に来たんですね、だからもう時差ボケみたいな(爆)
これから読ませていただきます。前作の続き……ですか、楽しみです。
- 334 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月19日(水)02時46分50秒
- 作者さんが書く純粋に甘いいちごまは初めてかな?
やっぱりいいな〜、甘いのって!!
- 335 名前:アリガチ 投稿日:2001年09月23日(日)01時46分26秒
- >道化師さん
ヒサブリですね。
これで多分、この続きものは書かないと思います(多分)
>334さん
そうですね、甘いだけの話を書いたのは初めてですね(笑)
他人様の甘い話は萌えるんですが自分が書いたのは全く萌えないので。
っつーか、これ甘いんでしょうか・・・(自信なし)
- 336 名前:アリガチ 投稿日:2001年09月26日(水)00時01分32秒
- ++ちょこっと宣伝++
( `.∀´)<紫板にて新作始めてみたの!
読んでとは言わないから見て!
( ´ Д `)<わけわからん〜。
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