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greenage 

1 名前:☆☆☆ 投稿日:2001年08月19日(日)21時35分26秒
 greenage -Part.2-
2 名前:作者 投稿日:2001年08月19日(日)21時36分04秒

新スレ立てました。
今後はこちらをどうぞ御贔屓に願います。

ちなみに前回の感想レスのお礼等は前のスレにありますので、良かったら目を通してやってください。

3 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月19日(日)21時37分21秒
 
 今までで、一番楽しかった夏休みが終わって、新学期がはじまった。
毎年、長い休み明けのこの時期はだるくてしょうがないけど、今年は違う。
夏休み、あたしと市井ちゃんは、ほとんど毎日のように一緒に過ごした。
いろんな所に遊びに行ったり、一緒に買い物にいったり…
とにかく、市井ちゃんが一緒ってだけで、すごい楽しくて、嬉しくて、幸せだった。

やぐっつぁんやよっすぃーも一緒に遊んだりするんだけど、
やぐっつぁんは、中澤先生が、京都に行っちゃって、ちょっと寂しいみたいで、
よっすぃーを連れて、2人で遊びに行って、それを紛らわしてるみたいだ。
なんか2人は、いいコンビで姉と妹というか、しっかりしたお兄ちゃんと、
のんびりしてる弟って感じなんだよね。
4 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月19日(日)21時38分20秒
そして、あたしと市井ちゃんはといえば…
2人の間の距離は、前よりもずっと近づいてる実感はあるんだけど、お互いに
すぐ近くの距離をそれ以上離れることもなく、でも近づいて、ひとつになることもなく
微妙な距離を保ったままって感じかな…。

その距離に、不満があるわけじゃないんだけど…
だけど、本当はもっと、もっと、近づきたいよ…。





5 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月19日(日)21時39分07秒

「市井ちゃ〜ん、今度の土曜日休みじゃん?どっか行こうよ〜」

放課後の図書室で、
あたしは、机の上に突っ伏して、顔だけ隣に座ってる、
市井ちゃんの方に向けてちょっと甘えるように言ってみた。

「ん〜、土曜日か…あのさぁ、今度の土日にうちの親、法事に行っちゃって、
家に誰もいないんだよね。だから、なるべく家にいろって言われてるんだけど…
まぁ、いっか。  後藤、どこ行きたい?」

市井ちゃんの問いかけに考え込んでいるあたしより先に、
市井ちゃんの前に座ってるやぐっつぁんが口を開いた。

「フッフッフッ…紗耶香、そういう前置きしといて、『どこ行きたい?』はないだろ〜。
行き先は、紗耶香の家に決まってんじゃん。ねっ、ごっちん」

「ほぇ…‥う、うん」

そんなの思いつかなかった…
さすがやぐっつぁんだ!
実はまだ市井ちゃんのうちにいったことないんだよね。
6 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月19日(日)21時39分45秒

「…別にいいけどさぁ、何すんの?ウチで。なんもないよ」

「べつに、朝から紗耶香のうちで、遊ばなくてもいいじゃん。昼間どっかいって
夕方から紗耶香の家、そんでそのままお泊りコースで完璧だよ」

「えっ、うちに泊まんの?…いいけどさぁ…布団とかあるかなぁ〜」

なんか、市井ちゃん困ってるみたいだな…
別にあたしは泊まらなくてもいいけど…
でも、ホントは泊まりたいけど。
一人で考え込んでるあたしをほっといて、市井ちゃんとやぐっつぁんは、
話をどんどん進めている。
7 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月19日(日)21時40分18秒
「別に布団なんかなくていいじゃん。紗耶香のベッドがあれば十分でしょ」

「3人でベッドに寝るの!?ちょっと無理じゃないか?」

「何で3人なの?2人でしょ。ごっちんと紗耶香の」

「ええっ!や、矢口来ないの?何でだよ!言い出したの矢口だろっ」

って、なんだよ…なんでそんなにむきになってるの市井ちゃん。
市井ちゃんそんなにやぐっつぁんに泊まりに来て欲しいのかな?
あたしと2人だけじゃ嫌なのかな…・。
ちょっと、つっこみたかったんだけど、会話のスピードについて行けなかったから、
だまって、2人のやり取りを見ていることしかできなかった。
8 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月19日(日)21時40分53秒
「だって矢口、今度の週末は裕ちゃんと会うことになってるんだもん♪
紗耶香の家になんか泊まるわけないじゃん」

「く、くそ〜… あ、後藤、吉澤は?土曜日、暇かどうか知らない?」

「…よっすぃー、土曜日は試合があるって言ってた…」

「吉澤もかよ…」

何で市井ちゃんそんなに、残念そうな顔してるの?
あたしと2人だけじゃ、面白くないの?
あたしは、市井ちゃんの家に泊まれたらすごい嬉しいのにな。
でも市井ちゃんが迷惑に思ってるなら、押しかけていって嫌われちゃうのは嫌だし…

「…市井ちゃん、迷惑だったら、後藤、別に行けなくてもいいよ?」

「あっ、…違うって、迷惑とかそんなんじゃなくて、…」
9 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月19日(日)21時41分24秒
やっぱ、困ってるよ市井ちゃん。
あたしが、落ち込んでるのが顔に出てたらしくて、やぐっつぁんが
フォローするように言ってくれた。

「もぉ〜、紗耶香もさぁ、素直に泊まりにきてっていいなよ。
かわいそうじゃん、ごっちんが」

「うるさいな〜  
…後藤?…あのさ、後藤が土曜日の夜暇で、
家の人もいいって言ってくれたら、…おいでよ…」

「…うん」
10 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月19日(日)21時42分02秒
市井ちゃんは、困ってるのか、照れてるのか、
あたしのほうを見て言ってくれなかったけど、「おいで」って言ってくれたから、
いいのかな、泊まりに行っても。
親がダメって言っても、絶対、無理やりにでも行くもんね。
でも、市井ちゃんにバレたら怒られそうだけどさ…。


その後で土曜日に遊びに行く約束もしてくれたから、いじけてたのも
おさまっちゃったんだよね。
早く土曜日にならないかな…。



11 名前:作者 投稿日:2001年08月19日(日)21時43分08秒
ココまでです。
一足先に二学期のお話です。

このお話を始めてから、はや三ヶ月…
いいかげんに、もうよい時期ではないかなと思われ…
という事で、この後の展開はバレバレですね。
12 名前:作者 投稿日:2001年08月19日(日)21時53分27秒
前スレ(銀板)へのリンクです。
http://mseek.obi.ne.jp/silver/index.html#990105142
初めて読む方は、こちらも読んでいただければ幸いです。
13 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月19日(日)23時58分33秒
早く土曜日にならないかなと思ってるのはごまだけじゃなく、、俺も
14 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月20日(月)00時52分55秒
…俺も…
15 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月20日(月)03時37分40秒
つ、ついに、この時が来たのですね!!
待ち切れないよ〜(w
16 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月24日(金)23時46分30秒
( ´ Д `)<市井ちゃん、もうすぐ土曜日だね。あはっ
17 名前:作者です。 投稿日:2001年08月25日(土)21時03分40秒

誰も移転先に着いてきてくれなかったらどうしようと、実は不安だったんですが、
レスしていただけて安心しました。ありがとうございます。

>>13-14さん
お待たせしました。土曜日です。
土曜日にはなりましたけど、まだまだこれからですからね。
といっても、あんまり焦らし過ぎないようにはしますので…

>>15さん
作者の身に何か起こらない限り、その時はやって来ますので…(w
もうちょっと待っててください。
…向こうのやつ、誰も読んでくれなかったら寂しすぎるって心配してたんですが、
  ありがとうございます。

>>16さん
ヽ^∀^ノ<間に合った…。まだ後何時間かは土曜日だもん。
18 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月25日(土)21時04分30秒

― そして、土曜日 ―


「あ゛〜喉いて〜…2人で3時間はちょっとなぁ〜…
昔は、全然何ともなかったのに…疲れた…」

「何言ってんのぉ、市井ちゃん。おばさんくさ〜い、後藤は、ぜんぜんへーきだよ〜」

「わっかいよね〜…後藤はさぁ…」

「あはっ、ふたつしか年、変わんないじゃ〜ん」


2人でふざけあいながら、市井ちゃんの家の玄関に入る。
今日は、お昼から2人でちょっと買い物したあと、カラオケに行ったんだよね。
その後、「ご飯作るのめんどくさい」って市井ちゃんが言ったから、ファミレス行って
コンビニ行って、今に至る訳なんだけど。
無事に、親からも許可がもらえて、(だって、市井ちゃんが親が許してくれなきゃ
だめだっていうんだもん)きょうは、市井ちゃんちにお泊りなのです。

19 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月25日(土)21時05分04秒
しばらく2人で、リビングでテレビ見ながら、コンビニで買ったお菓子を食べて
ダラダラしてたんだけど…なんか、市井ちゃんそっけないんだよね。
いつもそんなに、くっついたりさせてくれないんだけど、他に人がいなかったら、
まぁ、それなりに…あたま撫でてくれたり、手をつないでくれたり…
抱きしめてくれたり…キスとかもね…そこから先は、まだですけど…。

でも、今日はいつもよりも、なんか冷たいような気が…なんでだろ、
2人っきりなのに。
今、座ってる位置も微妙に離れてるし…。
あたしが、テレビを見てる振りしてそんなことを考えていると、市井ちゃんの
携帯の着信音がなった。すぐに切れたから、メールが届いたみたいだ。

「…あ、矢口だ… 」    

   『わかんない事があったら聞いてこい。がんばってね、イロイロと』

「…なに、送ってきてんだこいつ。訳わかんねーよ」

市井ちゃんは、メールを読んだ後、返事も送らずに携帯をテーブルにおいて、
すぐにテレビに向き直った。
20 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月25日(土)21時05分50秒
「やぐっつぁんからだったの?」

「ん〜まぁね…」

「メール送り返さないの?」

「いいよ、別に。なんか、わけわかんないメールだったからさ…
あいつも、自分でうちに泊まるとか、言い出しといてさ…
変なメール送ってくるし…むかつくんだよな…」

「……」

まただよ。市井ちゃんこの間も、やぐっつぁんが来ないって言ったら、
面白くなさそうにしてた。
そんなにやぐっつぁんと一緒にいたいのかな…仲いいのはわかるけどさ。
あたしだけじゃ、物足りないのかな…。
あたし、やぐっつぁんみたいに面白い話とかできないから、つまんないのかな…。


21 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月25日(土)21時06分51秒
「市井ちゃん?…やぐっつぁんいないと、つまんない?」

「な、何だよ急に…なんでそんな事…」

「…だって、そういう顔してるもん…」

「…そんなこと…ないよ…」

ポツリとそう呟いて、黙ってテレビを見始めた市井ちゃん。
あたしもそれ以上は聞けなくて、同じようにテレビに視線を移した。
テレビに映るバラエティ番組を見て、市井ちゃんは笑っていたけど、
あたしには何が面白いのかわからなくて、ただぼんやりブラウン管を眺めていた。


なんか、期待してたのと違うな。
2人だけだから、市井ちゃん、もっと甘えさせてくれると思ったのにな。
あたしは、いっぱい甘えたかったのに…・。
やぐっつぁんには、悪いけど、2人だけになれて嬉しかったのに…。
市井ちゃんは、みんなと一緒のほうが、よかったんだ…。
なんでだよ。市井ちゃんの、ばか…。

22 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月25日(土)21時07分34秒
あたしは、よっぽど泣きそうな顔をしてたみたいで、市井ちゃんが、
不思議そうな顔でこっちを見てるのに、声をかけられるまで気付かなかった。

「後藤、どうしたの?…具合でも悪いの?」

…具合悪いのかって…そうだよ、市井ちゃんのせいだよ。
市井ちゃんが、冷たいから…なんか苦しいんだもん。

「…うん」

「えっ、熱でもあるの?お腹痛いの?」

市井ちゃんは、ちょっと慌てたみたいに、立ち上がって、ソファのあたしの
隣に座って、顔を覗き込んだ。

「ん〜…昼間は元気そうだったのになぁ。なんか悪いもん食べたかなぁ」

…昼間は、楽しかったから、元気だったんだもん。

「…なんか、苦しい…」

「ええっ、苦しいってどこが?お腹?」

「……胸が苦しい…」

「む、胸!?…心臓って事?それとも胃かな…どうしよう」
23 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月25日(土)21時08分53秒
市井ちゃん、どうしてあたしの胸が苦しいのかわかんないの?
どうして、あたしのことわかってくれないの?
…あたしも、市井ちゃんのこと、わかんないよ…。

「…市井ちゃんが、つまんなそうな顔してるから、苦しい…」

「え…」

「市井ちゃんは、やぐっつぁんが泊まりに来ないとつまんないの?
後藤と、ふたりだけじゃ、おもしろくない?
……ホントは、いつもそう思ってるの?」

「あ…」

何で黙っちゃうんだよ。
あたしの言うとおりってことなの?
だから何もいえないのかな…。
なんか言ってよ…言ってくれないと…
…絶対泣かないもん。泣いたら、市井ちゃん余計うざったく思うよ。
市井ちゃんに、嫌われたくないから…泣かないもん。
24 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月25日(土)21時09分39秒
「…市井ちゃんこの間も、やぐっつぁんが来れないって言ったら、
嫌そうな顔してたよ?その後、よっすぃーのことも誘おうとしたし…。
後藤は、市井ちゃんちに泊まりに来れて、すっごい嬉しいのに、
2人だけだって思ったら、すごい嬉しかったのに…。市井ちゃんは…」

「っ…違うって!」

「なんで、そんなに怒って言うの?
後藤の言うことあたってるから?」

絶対泣かないって思ってたのに…もう限界かな…。

「…違うから、後藤…そんなんじゃないから」

「……」

「なぁ…後藤…」

「……」

「後藤…どうしたら、機嫌直してくれんの?」

どうしたらって…そんなの決まってるじゃんか。
後藤が泊まりにきてくれて嬉しいって、言ってくれればいいんだよ…。
でも、それだけじゃ、わかんないから…足りないから…
25 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月25日(土)21時10分39秒


「…キスして…欲しい…」

「えっ…」

あ、やっぱり困ってる。ちょっと突然すぎたかな…。
あんまり、今の話と関係ないし…なに言ってんだろ、あたし…。

「…うそだよ、ゴメンね。いじけちゃって。…こういうのってウザイよねっ」


あたしが、精一杯明るく言って、俯いてた顔をあげたら、
すぐ近くに、市井ちゃんの顔があった。
そしてそのまま、首を少し傾けて、唇をあたしの唇に重ねた。

唇が、触れ合っていた時間は、ほんの数秒だったけど、その数秒で
あたしの胸の中は、さっきの苦しさはどこかに消えてしまった。
でも今度は、キュッて締め付けられるような感じがするけど、
それは凄く、心地よくて、あったかくて、また泣きそうになってしまう。

26 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月25日(土)21時11分27秒

「ごめんね、後藤。…なんかさ、へんに意識しちゃってさ。
後藤といるのがつまんないとか、そんなんじゃ絶対無いから…」

「…うん」

市井ちゃんは、あたしの頭を自分の肩に引き寄せて、しばらくそうしててくれた。
なんでだろう、あんなに苦しくて、悲しかったのに、たった一回の触れるだけの
キスで、全部消えてなくなっちゃった…。
…ずるいよ、市井ちゃんは…あたしはあんなに悩んだのに…。




そのあと、あたしの胸の苦しさは消えたんだけど、
やっぱりまだ、妙な空気はそのままだった。
27 名前:作者 投稿日:2001年08月25日(土)21時12分36秒

ココまでです。

ふぅ…土曜日中に更新できてよかったです。
28 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月25日(土)23時09分28秒
>…絶対泣かないもん

ごまキャーイイッ
どっちがリードするのかな・・(ワクワク
29 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月27日(月)03時59分36秒
相変わらずちゃむはじれったいので、後藤からいっちゃえ〜(w
30 名前:作者 投稿日:2001年08月29日(水)21時16分00秒
新メンバー決定でメチャメチャ引きまくってるなか、
何とか更新できそうです。
追加はあの子ひとりでいいよ…(ブツブツ

>>28さん
〜だもん、って語尾につけるのが好きみたいです、自分。
どっちがリードするかは…どっちだろ?(オイッ

>>29さん
どうしてもじれったく書いちゃうんですよね〜
でも、ヽ^∀^ノをへなちょこなままで終わらせません。

という事で、続きはこうなってます。
31 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月29日(水)21時17分13秒
 お風呂上りの濡れた髪が大分乾いた頃、
ふたりで二階にある市井ちゃんの部屋に行った。
シンプルできれいに片付いていて、ちょっと大人っぽい雰囲気の部屋だ。

そして、ベッドの横には、布団が一組敷いてあった。
多分、あたしがお風呂に入ってるときに敷いといてくれたんだ。
…やっぱり、別々に寝るんだな…。
いや、期待してた訳じゃないけど…
でも、少しは有りかなって思ったりもしたけどさ…。

「あ、後藤、ベッドで寝る?」

「…いや、いいよ。下で寝るから」

「…そっか。…おやすみ」

「おやすみなさい…」


32 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月29日(水)21時17分50秒
布団の中にはいって、目を閉じても眠れないし、暗さに目が慣れてきて、
部屋の中を見渡しても、この部屋に慣れることができない…・。
それに、隣のベッドで寝てる市井ちゃんが、寝返りをうったり、咳払いをしたりする音が、
なぜか、大きく聞こえて、気になるというか、落ち着かないというか…。
市井ちゃんも起きてるみたいだな。
やっぱり、あたしがいると気が散るのかな…。
あたしが、どうにかして眠ろうと、目を瞑って布団の中に潜り込もうとしたとき、
市井ちゃんが声をかけてきた。

「後藤、起きてる?」

「うん…起きてるよ…」

なんだろう…市井ちゃんは、そう言ったあと、何も言わないで黙ってる。
あたしが何か喋ったほうがいいのかな。何を言ったらいいのかな。
どうしよう…わかんないよ…

でも、先に口を開いたのは市井ちゃんだった。
33 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月29日(水)21時18分30秒
「後藤……やっぱり一緒に寝ようか…」

「えっ…あの」

「あ…嫌だったら、いいけど」

「嫌じゃないよ!一緒に、寝たいよ…」

嫌なわけないじゃんか…嬉しすぎて、返事がすぐにできなかっただけだもん。
でも市井ちゃん、どうしたんだろ、急に…。
どうしたらいいのかな。
あたしが、向こうに行ったほうがいいのかな。そうだよね…。
体を起こして、布団をはぐろうとしたら、市井ちゃんの声に止められた。

「あ、そっちに行くよ。ベッドだと、どっちかが落ちちゃうかもしれないし…」

市井ちゃんが、そう言いながら体を起こした。
ベッドから出て、そのまま、あたしが寝ている布団まで来たから、
慌てて、市井ちゃんが入れるスペースを空けた。
市井ちゃんは、「ありがと」って言いながら、布団の中に入ってきた。
どうしよ、なんかドキドキしてきた。
何喋ったらいいのかな。
…すぐに寝ちゃうのかな。
34 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月29日(水)21時19分11秒
「よいしょっと…あ、なんか人が寝てた布団の中って、変なあったかさだね…」

「……」

「なんか変な感じだな〜…いつもベッドに寝てるからさ、天井が高く感じるよ」

「……」

「…なんだよ、後藤…おとなしいなぁ。…あ、もう眠いか…こんな時間だし」

「…眠くないよ。…ちょっと緊張してるだけだもん…」

「ハハッ、緊張ってなんだよ…
あたしも、なんか妙な感じだけどさ。…そうだなぁ…」

市井ちゃんはそういって、しばらく天井を見つめて何か考え込んでいるみたいだったけど
何か思いつくと、そのまま天井を見つめて話しだした。

「あっ、あのさ、あたし昔、猫飼ってたんだけどね。子猫のときにどうしても
一緒に寝たくて、布団の中にいれてあげたんだけどさ、なんか嬉しいような
くすぐったいような、変な感じでなかなか寝れなかったんだよね。
…その感じに似てるかな…」

「子猫かぁ…へへ、なんかカワイイかも…」

市井ちゃんの方を向いてそう言うと、市井ちゃんもこっちを向いて
ちょっと笑ってくれた。
あたしはその一瞬の優しい笑顔だけで、心臓の鼓動が早くなり始めるのを
押さえられなかった。
35 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月29日(水)21時19分51秒
「後藤、ごめんね。…さっきは、変な態度取ったりして…」

「…ううん、後藤が勝手に拗ねてただけだから…」

「いや、後藤が怒るのは当たり前だよ。…でもさ、ホントにつまんないとか、
面白くないとか思ってたわけじゃないからさ。
なんかさ、今日は、後藤が家に泊まるってこと、過剰に意識してたんだよね。
…後藤に、へんに思われたらどうしようって」

「へんに思うって?」

「だからさ、あんまりベタベタしたら、変なこと考えてるんじゃないかって、
思われたら、嫌だなって…」

「そんな事、思わないもん。…後藤、ベタベタして欲しい…」

…市井ちゃんは、難しく考えすぎなんだよ。
それに、変な事ってなんだよ…
あたしは、市井ちゃんに何されても、変な事なんて絶対に思わないもん。
36 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月29日(水)21時20分37秒
「…後藤は、そうやって素直に口に出せるから、羨ましいよ。
それに、悲しくても、嬉しくてもちゃんと表情に出せるし…。
さっきもさ、あたしと2人っきりだと嬉しいって言ってくれたよね。
あたし、そう言われて…すごい嬉しかった。でも、あたしは、
素直にそういうこと言えなくて、嬉しいって顔に出せなくて、
後藤に辛い思いしかさせてやれなくてさ…」

「ちがうよ、後藤もキスしてくれて、すごい嬉しかったよ。
嫌な気持ち全部、ふっとんだもん」

あたしは、ちょっと気持ちが昂ぶって、声も少し大きくなってしまう。
そして、顔だけじゃなくて、体も市井ちゃんの方に向けて、
ちょっと、近づいてしまった。
市井ちゃんは、優しい顔のままだ。でも、体は、こっちに向けてくれた。

「うん。…だからさ、あたしも、がんばって一緒に寝ようって言ってみたんだ」

「後藤、嬉しかったよすっごく。…いつも、そういうふうに言って欲しい…」

あたしがそう言うと、市井ちゃんは、ちょっと照れたように微笑んで、
布団から手を出して、あたしの頭を撫でた。
37 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月29日(水)21時21分19秒
「そっか…後藤はホントに素直で…可愛いな…」

「…ありがと」

普段は、滅多にそんなこと言ってくれないから、すごく嬉しいんだけど
ちょっと恥ずかしくて、視線を下にずらしてしまう。
でも、市井ちゃんはあたしの顔を見つめたまま、優しい声で
言葉をつづける。




「…じゃあ、あたしも素直になって正直に言うね…。
あたし…本当は…今のこの距離よりもっと近くで
あたしの体全身で後藤の体温を感じたいよ…」


「え…」



38 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月29日(水)21時21分56秒
それって、…やっぱりそういうことだよね…どうしよう。
市井ちゃん急に積極的になるんだもん。
嬉しいんだけど、どうやって返事したらいいのかわかんないよ。
あたしもだよって、抱きついちゃえばいいのかな…
でも、そういう意味で言ったんじゃなかったら、恥ずかしいし…

戸惑って、視線をウロウロとさまよわせているあたしに、
市井ちゃんは、あたしの頭にあった手を、頬の辺りに移動させて、
包み込む様にすると、さっきよりちょっと小さい掠れ気味の声で言った。

「…いいかな…後藤」

「…うん」


39 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月29日(水)21時22分43秒

市井ちゃんを拒むはずなんてなかった。
だから、市井ちゃんが、あたしの頬にあった手を後頭部にずらして、
そのまま引き寄せる力に、素直に従った。
市井ちゃんは引き寄せたあたしの頭に、自分の頭も近づけて、額をくっつけた。
そして、手はあたしの背中へ移り、自分のほうへ抱き寄せようとするから、
あたしも、その手の力に押されるように、自分から市井ちゃんの体に
手をかけて近づいた。

お互いの体が触れ合うと、市井ちゃんは、合わせていた額を離して、
今度は、唇をあたしの唇に触れさせた。
そして、あたしの背中に回されている腕の引き寄せる力も強くなる。

触れているだけのキスは、繰り返すたびに、触れている時間も、深さも増していく。
そしてキスをしながら、あたしの体は、いつの間にか市井ちゃんの上半身の
下になっていた。

市井ちゃんは、一旦キスをやめると、すぐ近くであたしの目を見つめながら、
あたしが、ずっと待ってた、一番言って欲しかった言葉を、囁いた。
40 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年08月29日(水)21時23分34秒

「…好きだよ…後藤」

「あたしも…市井ちゃんが大好き…」

少し潤んでる市井ちゃんの目を見つめ返して答える。
市井ちゃんは甘く微笑んだ後、もう一度キスしてくれた。
あたしも市井ちゃんの身体をギュッて抱きしめた。
抱きしめた市井ちゃんの身体は驚くほど華奢で、力を入れすぎたら
壊れてしまうんじゃないかって思ったけど、
でも、その儚さが、すごく愛しくてたまらなかった。


41 名前:作者 投稿日:2001年08月29日(水)21時24分44秒

…すみません。じれったいのが好きなんです。(w


今までかわいい感じで書いてきたんで…詳しく書いて引いちゃう人とかいるのかな。
といっても、そんなに激しいのは書けませんので、急にエロくはならないとは思うんですけど。
う〜ん……

42 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月30日(木)00時58分44秒
引くなんてこたぁありえません。
どーんと構えてますんでいくらでも攻めてきて下さいませ(ナンカヤラシ…
43 名前:名無し読者。 投稿日:2001年08月30日(木)02時39分37秒
引きませんよー。つづき楽しみです。
矢口と裕ちゃんも気になる〜。
44 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月30日(木)03時11分35秒
逆に、作者さんが引く位の妄想を勝手に(w
45 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月30日(木)04時42分08秒
みなさんと同意見です。
自分も、むしろ待ってたぐらいです(w
46 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月30日(木)12時18分50秒
いちごまはかくあるべきです。実に甘美だ。
じらしてじらして、最後にどーんと・・・。
47 名前:すなふきん 投稿日:2001年08月30日(木)16時40分20秒
文章が綺麗でとても読みやすく、ついつい見入っちゃいました。
48 名前:作者です 投稿日:2001年09月01日(土)21時37分21秒
>>42さん
…それじゃ、お言葉に甘えて…
なにぶん初めてなもので(ポッ

>>43さん
矢口と裕ちゃんは…
…作者も気になります(w
ごめんなさい。忘れてるわけじゃないんですけど…

>>44さん
読み終わって消化不良なようでしたら、妄想をフルにふくらませてください。(w

>>45さん
お待たせしました。
御期待に沿えればいいんですけど。

>>46さん
>じらしてじらして、最後にどーんと・・・。
 …すみません。もう我慢できません。いかせてもらいます。
 しかし、「どーんと」なっていますかどうか…

>>すなふきんさん
ありがとうございます。
てか、読んでますよ!すなふきんさんの。
…実は、よしごまもかなり『萌え』なのでございます。
なので、すなふきんさんの作品には萌えさせて頂いてます。


みなさん、本当にレスありがとうございます。
それでは、続きです。
49 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年09月01日(土)21時38分29秒

市井ちゃんの唇は頬にずれて、そのまま耳の下辺りに、
軽く吸い付くようなキスをした後、首筋に移り、音を立ててキスを繰り返している。
そのキスと、市井ちゃんの少し荒くなってる吐息が首筋にかかるのが心地よくて、
ため息を漏らしてしまう。
市井ちゃんの手は、Tシャツの下に滑り込んで、
わき腹を撫でながらそのまま上に上がっていき、胸を包み込むようにして、
優しく動かした。

「…ん……ぁ…」

優しい手の動きに反応して、あたしのため息に声が混じると、市井ちゃんは、
もう片方の手もTシャツにかけて、あたしの体から引き抜いた。
そして、下にはいていた、ジャージと下着も脱がしてしまう。
市井ちゃんが、服を脱がすときに起き上がっていたので、
布団はめくれてしまって、体が外気に触れてちょっと寒いんだけど、
市井ちゃんがあたしを見下ろす視線を意識すると、体の中から熱くなってくる。

「…市井ちゃんも、…脱いでよ…」

「…ん、わかった…」
50 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年09月01日(土)21時39分35秒
あたし一人が裸でいるのは、ずるいと思ったから、市井ちゃんにそう言うと、
市井ちゃんは、視線をあたしから外して、照れたように返事をした。
市井ちゃんの、その返事の仕方と、服を脱ぐ仕草があまりに可愛かったから
ちょっとニヤニヤしてその様子をじっと見つめてしまう。

「後藤…なにニヤニヤしてんの…?」

「…だって…かわいいんだもん…」

「…なに言ってんだ、ばか…」

市井ちゃんは服を脱ぎ終わると、ちょっと怒った顔をつくって、
またあたしに覆い被さった。
でもあたしの顔は、まだニヤニヤのままだ。

「…その顔やめなさい、ヤラシイから…」

51 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年09月01日(土)21時40分10秒
市井ちゃんはペチッってあたしのほっぺたを軽く叩いて、そのままあんまり
力を入れないで、プニッとつまんで引っ張った。
そんなことされたら、余計に嬉しくなって、ほっぺたをつねられているのに
顔がもっとにやけてしまう。

「…市井ちゃんが、かわいいから悪いんだもん」

「…そりゃ、後藤のナイスバディに比べれば、市井の体なんて
かわいいもんかもしれないけどさぁ…」

「あはっ、なにそれ〜、そういう意味じゃないもん…」

「…まだ、その顔やめないなら、強制的にやめさせてやる…」

市井ちゃんは、そう言いながら、頬にあった手を離すと、あたしに口付けた。

あたしの下唇を、自分の唇で挟み込んで吸い上げるようにした後、
唇を割って、舌を挿し入れてくる。そして、その舌であたしの舌を絡めとる。

52 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年09月01日(土)21時40分47秒
「…んぅ…・ふ…」

あたしの口の中の舌の動きと、ふたりの口の間から漏れてる、甘い吐息で、
キスに夢中になっていても、体を撫でている市井ちゃんの手の動きは、敏感に感じられた。

胸のふくらみを包んでいた手は、腰の辺りを撫でた後、
太腿を通って、膝まで下りると、内腿を通ってまた上に上がってくる。

そして市井ちゃんは自分の片足の膝を、あたしの両足のあいだに割り込ませる。
そのまま膝から上がってきた手が、たどり着いたそこに触れると、
今までよりも少し指に力を入れて、撫で始めた。
市井ちゃんの指が触れてすべるような感触で、あたしのそこが、
ずっと市井ちゃんを待ってたのが分かって、ちょっと恥ずかしかった。

「あっ…ぁん…」

今までの優しい心地よい感覚よりも、ずっと強い快感に、市井ちゃんの口から、
自分の口を離して、顔を横に背けて声を上げてしまう。
あたしが顔を背けてしまったので、市井ちゃんの唇は、下に下がっていき、
胸の周りでキスを続けている。

そして、そこを撫でていた指は、あたしの体の中にゆっくりと入ってきた。
あたしのそこも市井ちゃんの指を拒むことなく、スムーズに受け入れた。
53 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年09月01日(土)21時41分44秒
市井ちゃんは、あたしの胸を唇と舌で刺激しながら、体の中にある指を
ゆっくり動かしている。
あたしの胸に繰り返しているキスの音と荒い息づかいが、
静かな部屋に響いて、体だけじゃなくて、あたしの耳も刺激して気持ちを昂ぶらせる。


「…っん…ん…んぁ」

そして市井ちゃんの指の動きが早く、激しくなっているのに比例して、
あたしの息も荒くなって、快感も高まっていく。
そして……その時。体の中で、何か熱いものがはじけて広がるような感覚がして、
その後、全身の力が抜けていくのを感じた。




…そうか…これが、この感じがそうなんだ…初めて知ったよ…あたし。
すごい、気持ちよかった…。
なんか、みんながこういうことしたがるの、やっとわかったような気がする。
もちろん、あたしは市井ちゃんとしかしないんだけどさ…。

54 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年09月01日(土)21時42分27秒
市井ちゃんは、あたしの上になっていた体を横にずらすと、
額、頬、唇とキスをしたあとで優しく抱き寄せくれる。
あたしも、抱き寄せられるままになって、顔を市井ちゃんの喉下にうずめた。
そして、鼻先にある市井ちゃんの、汗ばんだ肌の甘い香りにまた、ちょっとだけ
気持ちが昂揚して、汗の浮かんだ鎖骨に口をつけて、舌を出して舐めてみた。

「…んっ…くすぐったいよ」

「へへ…しょっぱい」

「…じゃあ、もうすんなよ」

「やだ…」

そう言ってすぐに、今度はチュッて音をたてて同じところにキスしてみた。
でも市井ちゃんは、何も言わずにあたしの体に回している腕に力を込めてギュッって
するから、その後は市井ちゃんの腕の中でおとなしくしていた。


こうやって抱きしめられて、汗ばんだ肌同士が触れ合って吸い付くような感じとか、
あたしの肌に市井ちゃんの吐息がかかる感じとか、それだけで
十分心地よくて、安心できて、幸せで…。

本当に大好きな人とすると、こんなに安心して、優しい気持ちになれるんだね…。


55 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年09月01日(土)21時43分08秒
次の日の朝、目が覚めると市井ちゃんはもうすでに起きていて、あたしの隣で
腹ばいになって、枕もとに肘をついて雑誌を広げて読んでいた。

「…市井ちゃん…おはよ…」

「ん、おはよ。まだ寝ててもいいよ、後藤」

市井ちゃんは、雑誌からあたしに目を移して、優しい声で言ってくれる。

「…やだ、市井ちゃんが起きてるから、後藤も起きる…」

あたしは、眠い目を擦りながら市井ちゃんと同じように枕もとに肘をついて、
市井ちゃんが読んでる雑誌を覗き込んだ。
あたしが覗き込んでいるのも構わずに、市井ちゃんは自分のペースで
ページをめくっていく。

56 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年09月01日(土)21時43分42秒

「もぉ、市井ちゃん、読むの速いよぉ。
後藤まださっきのページ読み終わってなかったのにぃ」

「…後藤が、遅いんだろ…じゃあ、別の見ればいいじゃん」

「やだもん。市井ちゃんと同じのがいいもん」

「あっそ、だったら市井の読むスピードに合わせろ」

「なんだよ、いじわるぅ〜」

あたしが、拗ねた顔で市井ちゃんの方を向いて言うと、
市井ちゃんは意地悪そうな笑顔で、あたしに返してくる。

そして目が合うとしばらく見つめ合って、どちらからともなく顔を近づけてキスをした。
57 名前:greenage ― yes,― 投稿日:2001年09月01日(土)21時44分33秒

唇が離れると、ごく近い距離のまま、あたしは市井ちゃんに話し掛ける。

「…市井ちゃん、今度は後藤のうちに泊まりに来て欲しいな…」

「うん…そうだね」

「へへぇ…そしたら今度は後藤が市井ちゃんにしてあげるね」

「…ん」


いつもなら、市井ちゃんはあたしがこんなこと言うと、すぐに照れて目を
逸らすんだけど、今日は一旦視線を下に落としても、すぐに見つめ返してくれる。

…だから、その瞳に吸い込まれるように、もう一度顔を近づけてキスをした。
さっきよりも長く、さっきよりももっと心をこめて…。








― end ―
58 名前:作者 投稿日:2001年09月01日(土)21時45分56秒
一応、始まりから終わりまで書きました。(w
内容の良し悪しは別として。
もったいつけといてこんなもんよ、って思った方がいたらすみませんです。

でも、なんか、書き始めたらスラスラ書けちゃうんですね、こういうのって。(w
次からはもう大丈夫です。(え?
という事で、「greenage ― yes,―」でした。
59 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月01日(土)23時17分07秒
素晴らしい!
なんかみょ〜にやらしくてよかったっす!
二人の距離がより近づいたのが伝わって、続きがとても気になるッス!
60 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月02日(日)04時04分18秒
ついに、ふたりは・・・・・。
ホント、よかったです。
次は、ごま家宿泊ですか?
ん〜ん、楽しみだぁ。
61 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月02日(日)05時02分43秒
感動した!!
いやぁ〜なんか、独特の雰囲気がいいっすねぇ。
こう、どっかマターリしてて、ヤラシいようでヤラシくないというかなんというか、、。
ごまんちお泊り編はあるのかしら・・(ワクワク
62 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月03日(月)04時30分49秒
二人の甘い夜をしっかり堪能させていただきました。
本当、最高です!!
この先もこの続きを楽しみに待っております。
63 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)12時13分00秒
次回作も期待しております。
64 名前:作者。 投稿日:2001年09月10日(月)22時50分06秒
>>59さん
やらしかったですか…?
いや、正直嬉しい感想なんですけど。
「みょ〜に」っていうのがポイントですね(w

>>60さん
はい、ついに…やっとです。
ここまで長かったっす。
ごまんち宿泊かぁ…
やっぱ、ああいう終わらせ方してたらそう思いますよね?
どうしよっかな…

>>61さん
ごっつぁんですっ!!
基本は甘く、なんですが、やっぱりえっちもちょっとは入れたいんで。
再び、ごまんちですか…(w
実は、全然考えてなかったんですけど。
また書くネタが一個増えたと思って、前向きに考えたいと思います(w

>>62さん
甘い夜か…いい響きだ(w
続きを楽しみにしてくれているって言うレスは、書いてく上で
とても励みになります。ありがとうございます。

>>63さん
ありがとうございます。
という事で、新作書きました。

次はやぐちゅーです。
悩みました。やっと書く事が出来ました。でも、短いです(w
なんで、急にやぐちゅーなのかとか、どうしてふたりが離れ離れなのかとか、
疑問に思った方は、銀板にある同名スレを読んでやってください。
65 名前:greenage ― TRIP SKY ― 投稿日:2001年09月10日(月)22時50分46秒

『greenage ― TRIP SKY ―』
66 名前:greenage ― TRIP SKY ― 投稿日:2001年09月10日(月)22時52分01秒



「裕ちゃん、あのさ…今度いつ会える?」

『ごめんなぁ。最近忙しくて、今度の週末もダメやと思う…』

「…そっか、しょうがないね。…ごめんね、我がまま言って」

『やぐち…』





…ねぇ、裕ちゃん。
あの時は、裕ちゃんにもらったこのリングが一緒だから、
会えなくても、声が聞けなくても我慢できるって思ってたけど、
でも、やっぱり、ダメみたいだよ。

会えない時間が長すぎると、会って裕ちゃんに触れられないと、
電話で話す声を聞くだけじゃ、リングを触って裕ちゃんの事想うだけじゃ
…余計に切なくなっちゃうよ。



67 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月10日(月)22時52分54秒
昨日の夜、どうしても声が聞きたくて、深夜に近い時間に電話をかけた。
そんな時間になったのは、最近忙しいらしくて、帰りが遅い日が続いてたから、
あたしなりに気を使って、帰宅時間を見計らってかけたから。

でも、短い会話の後、電話を切ってから後悔した。
だって、たとえ電話越しの数分の会話でも、声を聞いてしまったら、
どうしようもなく会いたくなって…
声を聞けば満足できるって思ってたのに、会いたいって気持ちばかりが込み上げてくる。
そして、会えないって事がわかると、余計にその気持ちが大きく膨らんで、
どこにその気持ちをぶつけていいのかわからなくなって…

…裕ちゃん、矢口はどうすればいい…?




68 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月10日(月)22時53分56秒
次の日の朝、駅から学校への道を歩きながら、見上げた空は、
真っ青で澄み切ったきれいな空で、もうすっかり秋なんだなぁ、なんて
柄にもないこと思ってしまう。
そして、空はこんなに澄み切ってるのに、あたしの心の中はどうして
こんなに暗いんだろう…って思うのは、昨日の電話のせいなんだろうな。

…あ〜ぁ、学校行くのめんどくさい。
一学期までは、そんなふうに考える事なんて一度もなかったのに。

……一学期までは、か…。


「やぐちっ、おはよ!」

「んぁ…」

俯いてとぼとぼと歩いてる後ろから、声をかけられて振り返る。
そこにいたのは、あたしとは正反対に、朝からさわやかに微笑んでいる親友と、
その隣でいまだに眠そうな顔のままの後輩だった。

「なんだ、紗耶香とごっちんか…」

「『なんだ』って何だよ。おはようって言ってんだから返事くらいしろよな〜」

「あぁ…おはよ…」

「ったく、朝から調子狂うな…まともなのはあたしだけかぁ?…まぁ、後藤が
朝からボケッとしてるのはいつもの事だけど…」

69 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月10日(月)22時54分26秒
紗耶香は、呆れ気味にそういいながら、隣のごっちんを横目でちらりと見た。
ごっちんは、紗耶香の口から自分の名前が出た事に、ボーっとしながらも
何とか反応したみたいで、口を尖らせて反論する。

「もぉ、何でそういう事言うのぉ…今日はがんばって早起きしたのにー」

「うそつけ、さっき電車に乗ってきたとき時間ギリギリで駆け込んできたじゃんか」

「…うぅ〜…でも、ちゃんと間に合ったもんっ」

…おいおい、こいつら同じ電車に乗り合わせて来てんのかぁ?
わざわざ、10分ちょっとの時間、同じ電車に乗るために?
…くっそ〜いちゃつきやがって。
紗耶香のやつ、前はごっちんにくっつかれると恥ずかしがって逃げてたくせに
最近はなんか妙に余裕もってあしらってるんだよな…
…絶対なんかあったな、このふたり…だとしたら、あの時に違いない。
思い当たるのは、ひと月ほど前のこと。
あたしは、あれから裕ちゃんとは会ってないって言うのに…

少し、ムカッとしながらふたりのほうを見やる。

70 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月10日(月)22時55分06秒
「市井ちゃんが、起きたかどうか電話くれるって言ってたのに、
くれなかったから、起きるのがちょっと遅くなったんだよぉ」

「なに言ってんの!?ちゃんと電話したけど、後藤が出なかったんだろっ、履歴見てみなよ!」

「えぇ〜……あっ、ほんとだ…」

はいはい、今度はモーニングコールですか…
朝っぱらから、ご馳走様です。
でも、今日はふたりのラブラブっぷりに突っ込んであげられる気分じゃないんで
お先に失礼します。

携帯を取り出して見ているごっちんのおでこを、紗耶香がぺちっと叩いているのに
さらにムカつきながら、ふたりを置いて先を急ぐ事にした。

「あっ、ちょっと待てよ。矢口っ」

「やぐっつぁ〜ん」

…ぜぇ〜ったい、待たないから。





71 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月10日(月)22時55分42秒
その日一日、あたしはずっと不機嫌なままだった。

休み時間、紗耶香は、その理由を何気なく探ろうとしたけど、そっけなくあしらった。
キミらのいちゃつきぶりもその理由のひとつだって事は、気遣いが出来て、
優しいあたしは、言わないでいてあげるよ。


昼休み、廊下でよっすぃーと会った。
何で忘れてたんだろう。今のあたしには、唯一の心のオアシスなのに。

「よっすぃー、元気ぃー?」

「あ、矢口さーん、どーも」

この落ち着いた声と、間延びした口調に、やわらかい笑顔。
あぁ、やっぱりよっすぃーだけだよ。
あたしの心を落ち着かせてくれるのは…

「よっすぃーさぁ、今日暇だったら、どっか遊び行こうよー」

「あ…すいません。…行きたいんですけどぉ…試合近いんで、
今は部活休めないんですよ…」

「…そっか、じゃあ、しょうがないね。…また今度付き合ってよ」

「はい、ホントごめんなさい」

「そんな、あやまんないでよー」

申し訳なさそうに謝るよっすぃーに、平気な振りして笑顔で返す。
でも……はぁ、よっすぃーまで…

あたしが、何したって言うんだよぉ…

…裕ちゃん……。



72 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月10日(月)22時57分45秒
放課後、一日中もやもやとしていた気持ちを引きずったまま学校から帰る。
紗耶香とごっちんを前に、朝のように耐えられる自信はないし、
よっすぃーにはすでにフラれちゃってるから、ひとりでまっすぐに家に帰ることにした。

電車を降りて、改札口を出ると、まだ外は明るくて、やっぱりこのまま家に帰るのは
面白くないような気になってくる。
本屋にでも寄ってくかな…。
そう思って、駅前のいつも行く本屋さんに向かって歩き出すと、カバンの中から、
携帯の着メロが鳴る音がする。
もしかしてよっすぃーかな?気が変わって付き合ってくれるとか。
あ、でも、紗耶香かごっちんだったら、無視しよう。
どうせふたりは一緒に居るだろうから、これ以上見せ付けられるのはいやだもん。
取り出して、ディスプレイを見る。

「裕ちゃん…!?」

思わず声に出して言ってしまったあとで、恥ずかしくなって周りを伺う。
良かった、誰も気付いてないよ…

73 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月10日(月)22時58分23秒
少し震えてる指で、携帯の通話ボタンを押す。

「も、もしもしっ、裕ちゃん!」

『…あははっ、なんや、元気やんか、矢口。
裕ちゃん、昨日の矢口の寂しそうな声が耳について離れんで、心配になって
こうやって、電話したのに』

「だって!…だってさ…」

元気なわけないじゃん。もうずっと裕ちゃんと会ってないんだよ。
電話だって、毎日してるわけじゃないんだよ。
それで、めちゃくちゃ気分が暗くなって、落ち込んでるときに、
急に、裕ちゃんから電話かかってきて、嬉しすぎるけど、もうパニックなんだもん。

「元気じゃないよ…そんな訳ないじゃんかぁ」

やばいよ、涙声になってきた。
せっかく電話くれたのに、これじゃ、いじけてるみたいだよ。
74 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月10日(月)22時59分49秒
「…そうか、ごめんな。
そうやんな、こんなにしょぼんとしてるのに、元気なわけないやんな…」

そうだよ…そうだけど…あれ?
裕ちゃんの声が電話から聞こえてくる声と、後ろのほうからもダブって聞こえるのは
何でだろ…?

頭の中がごちゃごちゃで、思考がついていかないで、言葉が出てこないあたしの
後ろから、誰かにフワリと肩を抱かれた。一瞬びっくりしたんだけど、
驚いて、息を吸いんだときに、かすかに香った、甘くて、優しくて、胸を締め付けられる
香りと、耳元であたしの名前を呼ぶ、ずっと待ってた、大好きな声に、今までずっと
我慢してたいろんな感情が、一気に溢れ出した。

「…うぅ〜…っく…ゆうぢゃ〜ん」

「やぐちー、泣くなやぁ」

「…だってさぁ…うぅ〜」

裕ちゃんは、あたしを包み込むように抱きしめてくれて、頭を「よしよし」って言いながら
撫でてくれた。あたしが泣き止むまでずっとそうしててくれて、時々通り過ぎる人たちに
珍しそうに見られたみたいだけど、そんなの気にならなかった。



75 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月12日(水)22時14分41秒
ええ話やなぁ〜。いちごま、やぐちゅー最高です。
やけど、よっすぃ〜が一人身で可哀相やと思うんは私だけなんかなぁ。
ここのよっすぃ〜すごいエエ奴やし…。
こうなったら誰でも良いからよっすぃ〜にも彼女を!(誰でもいいってもはよしこに失礼かな)
76 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月13日(木)21時43分51秒
優しい裕ちゃんの温もりは、あたしの昂ぶった心を少しずつ落ち着かせてくれて、
溢れてくる涙も、いつの間にか止まってしまった。

「…裕ちゃん、どうして?。今日、学校は?…もしかして休んだの?」

泣き止んだあたしは、ふと疑問に思ったこと裕ちゃんに聞いてみた。
あたしが電話で寂しそうにしてたから、わざわざ仕事を休んで来てくれたとしたら、
ちょっと、申し訳ないな、なんて…でも、だとしたらメチャメチャ感動だけど。
だけど、裕ちゃんは、なんてことない顔して、至って普通に言ってくれた。

「そう言いたい所やけど、実は出張でこっち来る事になってな、
今日は、移動日なんや。だから、別にずる休みやないで」

「じゃあ、何で昨日電話したときに教えてくれなかったの!?」

「いやぁ、せっかくやら、驚かせてやろうと思ってな…あはは」

「もう!裕ちゃん、子供じゃないんだから、そんな事……ばかっ!」

驚かせるって、そんなことしなくていいよ。
昨日教えてくれてたら、今日一日こんな思いしなくてすんだのに!
…でも、嬉しさは、倍だったかもしれないけどさ…。
77 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月13日(木)21時44分23秒
「それで、いつまでいられるの?」

「あ…明日、仕事が終わったら、そのまま帰らんとあかんねん」

「…そか」

明日仕事終わりで直帰ということは、会えるのは今日だけって事か。
いけないとは思いながらも、やっぱり落胆を顔に出してしまう。
裕ちゃんにがっかりした顔を見せないように、少し俯いて顔を伏せた。
でも、裕ちゃんは、そんなあたしの肩をポンと叩いてあたしの顔を上げさせると言った。

「よっしゃ、ほんなら行こか!」

「へっ?行くってどこに?」

「う〜ん…そうやなぁ…どこ行く?」

「…どこって言われてもなぁ」

今日はもうこのままうちに帰って、ごろごろするつもりでいたから、急にどこに行きたいって
聞かれても、すぐには出てこない。
ふたりで向かい合ったまま、ああでもないこうでもないと、しばらく悩む。
でも、本音は、裕ちゃんとふたりなら、どこだっていいんだけど。
というより、裕ちゃんとふたりだけになれるとこがいいよ…。
78 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月13日(木)21時44分55秒
「…裕ちゃんさ、今日の夜はどこかに泊まるんでしょ?」

「ん?…うん、ホテルとってあるけど」

「……じゃぁさ、そこがいい…」

「…ん、ほんなら…そうしよか」

別に、ホテルがいいって言っても、深い意味はないんだけどさ…
ただ、裕ちゃんとふたりっきりになりたいだけなんだからね。



「矢口…かわいいな。顔、耳まで真っ赤やで」

「…うるさいよ」







79 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月13日(木)21時45分25秒
裕ちゃんが泊まるホテルは、正直言ってそんなに大きなホテルじゃなかった。
いわゆる、ビジネスホテル風の駅の近くの小さなホテル。
出張で来てるし、学校から宿泊費もそんなに出ないから、いいホテルには泊まれないって、
裕ちゃんは言ってた。
でも、今度矢口に会いに来るためだけの時は、ちょっとがんばって
いいホテルにするって言ってくれた。そんなこと言ったら、あたし期待しちゃうよ?


部屋に入ると、なんとなく所在のなさから、手をぶらぶらさせて、部屋の中を見渡す。

「部屋、狭いね…」

「そうか?…こんなもんやろ」

「裕ちゃん、出張って一人で?」

「…いや、もう一人、一緒やけど」

「…ふ〜ん…男の人?」

「えっ?そうやけど…かなりの、おっさんやで」

「…そっか」

「もしかして、ヤキモチ?」

「…べっつにぃ〜」

「ははっ」



なんでかな、久しぶりに会ったからかな…?
せっかくふたりっきりになれたのに、なんだか、どうしていいのかわからないよ。

裕ちゃんもそう思ってるのかな。
さっきから、窓際に立って、外の景色を眺めている。
でも、あたしが自分のことを見つめているのに気づくと、フッと微笑んでくれた。
80 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月13日(木)21時46分03秒
「…矢口、こっちおいで」

その微笑に吸い込まれるように、窓枠にもたれて立っている、裕ちゃんのもとへと
近づいていく。裕ちゃんは、近づいたあたしの腕を取ると、自分へと引き寄せて
抱きしめてくれた。

「言うの遅くなったけど…会いたかったで、矢口…」

「…矢口だって」

会えなかった時間を埋めるように、裕ちゃんの身体を抱きしめて、
裕ちゃんの匂いを体中に吸い込んだ。

ずっとずっと、こうしたかった。
電話で裕ちゃんの声を聞くたびに、ふとしたときに裕ちゃんのことを想う度に、
こうやって裕ちゃんに抱きしめられて、裕ちゃんの温もりを体中で感じたいって
泣きたくなるんだ。
でも、今抱きしめられて、裕ちゃんが自分の腕の中にいることを実感すると
そんなふうに思ってたことなんて、全部忘れちゃうよ。
そして、あぁ、あたしってこんなにこの人のことが好きでたまらないんだなって、
改めて、思い直すんだ。


「…矢口は、やっぱり小さいな…」

「何だよ、いまさら」

「いや、なんかな…久しぶりやからかな、こうやって矢口のこと抱きしめるの」

「ふーん…裕ちゃんも、やっぱりあったかいよ…?」
81 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月13日(木)21時47分09秒
抱きしめられたまま、裕ちゃんの顔を見上げると、さっきと同じように
優しく微笑んでくれて、そっとキスをあたしのおでこに落としてくれた。
裕ちゃんの唇は、そのままあたしの頬に滑っていく。
あたしが目を閉じると、頬やまぶたや、耳に何度もキスをしてくる。
だけど、肝心な所にはいつまでたっても、たどりつかない。

「…裕ちゃん…キスしてよ」

「してるやろ…」

「そうじゃなくて…っん」

やっとそこにたどり着いたキスは、初めは優しいキスだったけど、
段々と激しくなってくる。
絡められた舌の感触に、一気に体中が熱くなって、裕ちゃんの背中に回した手で
ギュッとシャツを握った。
息を弾ませて顔を離すと、裕ちゃんはあたしの口元を指で拭ってくれる。

「あれやな、こういうキスは、立ったままするキスやないな…」

「え?…どういう意味?」

「…こういうことっ」

「うわぁ」

あたしの身体は、裕ちゃんに押されてそのまま後ろのベッドの上に倒れこんだ。
押されるといっても、裕ちゃんは優しいから、あたしの身体をかばうようにしながら
一緒に倒れこんで、あたしにかぶさってくる。
82 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月13日(木)21時48分56秒
「ゆ、裕ちゃんっ」

「なんや?ホテルに行きたいって言うたのは、こういう事とちゃうの?」

「えっ!?…あの…」

確かに、少しはそういうことも思ってたけど…
…でも、もうちょっとムードがあるほうが良かったな。
だから、ちょっとだけ、抵抗する振りをしてみる。

「裕ちゃんは、エッチだね。仮にも裕ちゃんは、教師なんだよ…?」

「でも、今は、矢口の先生やないで。…教え子に手ぇ出してる事にはならんやろ?」

「何言ってんの…矢口の先生の時に、すでに手、出してたじゃん」

「そうやったなぁ…それに、今日は矢口が制服姿やから、ちょっと後ろめたいかな…」

「…そんな事…関係ないよ」

下から、裕ちゃんの首に手を回して引き寄せた。
抵抗する振りをしてたのに、裕ちゃんがそんなこと言うから、結局あたしのほうから
誘うような感じになっちゃったよ。
83 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月13日(木)21時50分14秒
2人の唇が重なると、自然にその唇は開かれて、お互いを求め合う。
裕ちゃんの手は、器用にスルスルとあたしのシャツのボタンをはずしていって、
シャツの前を開くと、首筋にキスしながら、わき腹を優しくさすった。
その手の温もりは、少しの間忘れていた感覚を、一瞬でよみがえらせてくれた。
そして、そのよみがえって溢れてくる感覚に、抗わずに身を任せていった。




ねぇ、裕ちゃん。あたし思うんだけどさ。
裕ちゃんって、こういう事って絶対上手なほうだよね。
だって、いっつも裕ちゃんが、あたしの身体にキスしたり触れるたびに、すごく気持ちよくて…
自分が自分じゃなくなってくような、すごく不思議な感覚になるんだよ。
あたしも、裕ちゃんにそうなってもらいたくて、がんばるんだけど、思うようにならなくて
自分が歯がゆくなるんだ。
それはあたしが裕ちゃんより全然経験不足だからかなって思うと、裕ちゃんが
あたしと会う前の誰か知らない人の事を思って、また悲しくなったり…
でも、あたしが一人でいじけてるのに気付いて言ってくれた言葉で、ちょっと…
ううん、かなり安心したよ。
84 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月13日(木)21時51分22秒

「矢口…焦らんでもええよ。…矢口にイロイロ教えるの楽しいし(笑)
だから、矢口が成長して行くの見守るのは、裕ちゃんだけにさせといてな?」

それって、これから先も、ずっと一緒に居てくれるってことでしょ?
あたしが、大人になるまで…大人になってからも一緒に居てくれるって事だよね?

「あ…でも、矢口が裕ちゃんより上手になったとしても、裕ちゃんから卒業させたりせんで?」

そんなの、当たり前だよ。
でも、その時は今まで教えてもらったお返しをちゃんとするからね。




85 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月13日(木)21時53分03秒
 


 夜、2人でホテルを出て、食事をした後(もちろん裕ちゃんのおごりで)、
あたしのうちまで送ってもらった。
親には、途中電話をしていたから、遅くなっても別に怒られなかった。
電話で、「中澤先生と、久しぶりに会って一緒に居る」って言ったら、
「迷惑かけないようにしなさいよ」って言われただけで、後は何も聞かれなかった。
学校の先生で、しかも女の人だと、こういう時便利だなって思ったのと同時に、
ちょっぴり、後ろめたかったり…。

駅から、あたしの家までは、もう辺りは暗かったから、ずっと手をつないだまま歩いた。
家の前で別れるときに、裕ちゃんはあたしと向かい合うと、あたしの右手を取って、
ギュッと握った。裕ちゃんも自分の右手であたしの手を握ってたから、なんだか
握手してるみたいで変だなって思ってたら、あたしの薬指のリングと、裕ちゃんのリングが
触れ合って、小さくカチって音を立てた。その音を聞いて、あぁ、そういう意味かって
気付くと、なんだか、急に泣きそうになってしまった。
86 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月13日(木)21時53分55秒
裕ちゃんが帰っちゃうのが悲しいのもあるだろうけど、もっと別の、もっと心の奥にある
何か他の想いが、急にフワッと溢れ出てきた様な…そんな感じ。


「なぁ、矢口。最近うちが忙しかったんは、今回の出張のためやったから、
これからは、毎週は無理やけど、ひと月に何回かは、会えるから。
だから、会えるから……」

「うん、大丈夫。…もう泣き声で電話したりしないよ。
こうやって、裕ちゃんは必ず会いに来てくれる事がわかったから、大丈夫だよ」

「必ずて…まぁ、ええか(笑)」


裕ちゃんは、手を握ったまま、あたしの唇にチュって軽くキスをして、抱きしめてくれた。

「うぅ〜、これ以上のキスは、したいけど、無理や…
せっかくメイク直したのがまた、台無しになるからなぁ…」

あたしの耳元で、そんなムードのないことを呟くから、思わず吹き出してしまう。

「もぉ〜、こんなときくらい、もっとロマンチックな事言ってよ」

「そうかぁ…なら…」
87 名前:TRIP SKY 投稿日:2001年09月13日(木)21時55分00秒

裕ちゃんは、あたしの身体を抱きしめなおして、さっきのふざけ声とは違う、
少し低めの落ち着いた声で、あたしの耳元に囁いた。

「…愛してる」

「……」

真っ赤になって固まってしまったあたしを見て、裕ちゃんは顔を、
真面目な顔から、得意げな笑顔に変えて、嬉しそうにしていた。

…なんで、こういう事をすらっと言えちゃうのかなぁ…?
それと、その得意げな子供っぽい笑顔。
すごく憎たらしいけど…でも、やっぱり……大好きだよ!







end.
88 名前:作者 投稿日:2001年09月13日(木)21時57分05秒
>>75さん
以前にも前のスレでよっすぃーについては、つっこまれた事がありまして。
……う〜ん、これ以上カップリング増やして書ききる実力も自信もないっす。
実は、やぐちゅーでさえ、最初はいちごまがくっつくきっかけぐらいにしか考えてなかったんですよね。
それに、他の方の小説では、よっすぃーがモテモテのが多いじゃないですか。(w
つーことで、ここでは、よっすぃーは「娘。」内での位置と同じように、みんなから愛されるキャラにしといてください。

で、やっと、やぐちゅーを書いたわけですが…
…あれですね。こないだテレビで「ミニモニ。テレフォン〜」歌ってるの見ちゃったからかな?
(今日のうたばんでも、ロッカーに収まる矢口さんにめちゃ萌えてしまいました。)
なんか、矢口さんで、そういうシーンって想像しづらくて…ぼかしちゃいました。ごめんなさい。
その分、かわいく書いたつもりではあるんですが。
でも、ごまの新曲はいろいろとイメージがわきそう…(w

それにしても、陽世ぉ…よかった、よかった…(泣
こういうご時世ですから、希望が持てるハッピーエンドがなによりです。
ついでに、陽世の制服姿、萌え〜(w
89 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月14日(金)03時02分38秒
いや〜、やぐちゅうー良かったっすよ!!
やっぱり矢口にも幸せになって貰わないとね。

さて、次は本編に戻るのかな?
ごまの新曲に作者さんのインスピレーションも刺激されたみたいですし(w
期待して待っております。
90 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月14日(金)04時34分51秒
このやぐちゅーなんか教師と生徒ってのが(w
もう。ありがとう!!!
またいつか・・・その後のやぐちゅーを・・・お願いします。
中澤の父がとうとう・・・落ち込んでる中澤を矢口が支えるみたいなの希望
91 名前:作者です。 投稿日:2001年09月18日(火)21時37分23秒
>>89さん
ありがとうございます。
 >やっぱり矢口にも幸せになって貰わないとね。
  そうですよね、矢口さんは今まで作者の都合いいように動いてもらってましたからね(W
  

>>90さん
学園ものでやぐちゅー書くなら、この設定しかないって決めてたんです。
というよりも、こういう設定にしかならないような気もしますが(W
その後のやぐちゅーですか…うーん
…参考にさせていただきます…。


という事で、『yes,』の続き(?)で、『cherish our love』市井ちゃんごま家へ行くの巻。


92 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時38分31秒

土曜日の午後。
午前中で授業が終わると、一旦自宅に戻って、またすぐに家を出る。
行き先は、後藤の家。
なぜ後藤の家に向かっているかというと…


…話はさかのぼって数日前。

「ねぇ、市井ちゃん。今度の土日ひま?」

「え?…暇って言えば、暇だけど…」

「じゃあ、いいよね」

「…なにが?」

「あのね、土曜の夜うちの親旅行に行っちゃって誰もいないんだよね。
…だから、前に市井ちゃんの家に泊まったとき約束したでしょ。
今度は後藤のうちに泊まりに来てって」

「…あぁ、そんな事言ってたような気が…でも、親はいなくても弟とかは?」

「お姉ちゃんたちは一緒に旅行に行くし、弟は親がいないからどうせ遊びに行ったまま帰ってこないよ」

「…ふ〜ん」

「…ダメ?」

「ダメじゃないけど…」

「じゃあ、来てくれる?」

そんな、期待を込めた目で見つめられて、断れるわけないじゃんか…


93 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時39分45秒

……という訳で、今日は後藤の家に泊まることになったのだ。
しかしあれは、約束したっていえるのかな…まぁ、いいんだけど、別に。
それに、もうひとつ、なんか言われてたような気が…。




後藤の家の近くの駅まで来ると、迎えに来てくれていた後藤と会う。
あたしの姿を見つけると、「いちーちゃーん」と、大声で呼ぶから、
すぐに会えたんだけど、周りの人に振り返られて凄く恥ずかしかった。
でも後藤は、そんな事お構いなしに、嬉しそうに駆け寄ってくる。
ちょっと文句を言おうと思ったんだけど、その笑顔に言葉を飲み込んでしまった。
それに本当は、「着いたら電話するから」って、いつの電車に乗るかは詳しく言って
なかったのに、どちらかと言えば時間にルーズな後藤がこうやって、あたしのことを
待っていた事に、ちょっと感動してしまったのもあるんだけど。

そして、いまだに嬉しそうな顔の後藤に連れられて、後藤の家に向かった。



94 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時40分35秒
後藤の家に着いて中に入ると、シンと静まり返っていてふたりの足音しか聞こえない。
そのせいで、なんだか妙な緊張感を感じずにはいられない。
初めて来た後藤の家の中を、キョロキョロと伺いながら、2階への階段を上る。

そして、後藤の部屋。
初めて入った後藤の部屋の感想は…

「後藤、人がくるんだから少しは片付けなよ…」

「えー、これでも片付けたほうなんだけど」

「……(マジかよ…)」

言葉もなく突っ立ってるあたしに構わず、後藤はテーブルの上に、
来るときに寄ったコンビニの袋を置いて、ベッドに腰掛けた。

「市井ちゃんも適当に座ってよ」

「…うん」

…って、どこに座んだよ。カーペットの上は洋服が散乱してるし、
だからって、後藤と同じようにベッドの上は、なんとなく……

ちょっと迷って、服や雑誌を掻き分けてカーペット上に場所を確保して座った。
そして、後藤の何か言いたげな視線を感じつつも、それを他に逸らしたくて、
さっき掻き分けた、服や雑誌に混ざっていたレンタルらしきビデオテープを手に取った。

「…あのさ、後藤っ。ビデオ見ない?…これ見たかったんだよね〜…」
95 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時41分08秒
そう言って、改めて手にあるビデオテープを見ると…見たことあるやつじゃん。
それも、やたらキスシーンやベッドシーンが多いフランス映画…。
後藤、こんなん見んのかよ…って、あたし「見たかった」って言っちゃったし。
いまさら、止めようともいえないし…。
後藤はベッドから降りて、テープを見つめたまま固まってるあたしの隣に座ると、
リモコンでテレビの電源をつけた。そして、あたしの手からテープを取り上げると
デッキに挿入した。

「…市井ちゃん、コレ見たかったんだ?」

「…うん」


「あっ、これお姉ちゃんが借りてきたんだからね…言っとくけど」

「…うん」






そして、ふたりで無言でテレビの画面を見詰める。
フランス映画独特の静かで落ち着いた雰囲気。やたらに多いラブシーン…
96 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時41分43秒
なんか、後藤いつもよりあたしにくっついてるような気がするんだけど、意識しすぎかな。
部屋が散らかってて座る場所がないからかな…
いや、でもやっぱりかなり密着してるような気が…

「ご、後藤…もうちょっと離れない?」

「なんで?…いや?」

「嫌じゃないけど…ちょっと暑いかなって…」

「…いいじゃん。市井ちゃん他に誰かいたらくっつくと嫌がるでしょ。
だから、ふたりだけのときぐらい、くっつきたいもん」

「……」

結局その体勢のまま、映画を見続けた。それも、ラブシーンになる度に
落ち着きなくモジモジしながら…

テレビ画面にはエンドロールが流れる。
だけど、映画の印象なんてほとんどない。
あたしにぴったりと寄り添ってる後藤が、身じろぎするたびに意識がそっちに行っちゃって
映画の内容が全然頭に入ってこなかったから。

97 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時42分31秒
そんな状況の中、かなり頑張ってはいたんだけど、やっぱり、ふたりっきりで
こんな近い距離にいて、しかも、あんな映画みたら、自然にそういう雰囲気は
出来上がっちゃうわけで…

「…いちーちゃん…」

熱っぽい瞳であたし名前を呟く後藤に、吸い込まれる様に顔を近づけて口付ける。
すぐに離れるつもりだったけど、後藤のキスがいつもよりも積極的で
ついそれに応じてしまうから、段々と、長く深くなってくる。

いつもより、さらに積極的な後藤は、キスしたままあたしに体重を掛けてきて、
あたしはそのまま、押し倒された。
…んだけど、このままされるがままってわけにはいかないだろ。
まだ外は明るいし、しかもこんな散らかった床の上に押し倒されて。
全然いろんな準備とかできてないし…何の準備って聞かれても説明できないんだけど。

「ちょっ、ちょっと待って、後藤」

「ん…なに?」

「いや、あのさ…まだ、こんな明るいうちから……するの?」

「なんで?もう夕方じゃん。気になるならカーテン閉めようか?」

98 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時43分16秒
出来ればそうして欲しい…って、そういうことじゃなくって。
後藤を説得する言葉が思いつかなくて、黙ってしまっているあたしを尻目に
さっさと立ち上がってカーテンを締め始める後藤。
部屋はカーテンで明かりが遮られて、薄暗くなった。
そのせいで、なんとなくそういう雰囲気になってるし…。

後藤は、部屋のカーテンをすべて閉め切ると、ただ黙って座り込んでその様子を
見ているあたしの目の前にちょこんとしゃがみ込んだ。

「市井ちゃん、この前後藤が市井ちゃんちに泊まりに行ったときに、
もうひとつ約束したの覚えてる?」

「…もうひとつ…?」

「…だから…今度は、後藤が…ってやつ」

「あ…」

「…約束、守ってくれるよね…」

「…えっと…」

どう返事をすればいいの?…「嫌だ」なんて言えるわけないじゃん、この状況で。
もうすっかりその気の後藤を目の前に、拒否なんて出来るわけないじゃん。
でも、でもさぁ……
99 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時44分41秒
ただ黙って見詰め合ってるふたり。
その沈黙を埋めるかのように、さっきからほったらかしのビデオテープが
やけに大きな音を立てて、ガチャリと止まると、自動的に巻き戻り始めた。

そして、テープが巻き戻る音だけが響く中、黙ったままの後藤は、あたしの返事を
待ちきれなかったのか、カーペットに膝をつくとそのまま抱きついてきた。

「…いちーちゃん」

抱きついたまま、耳元で小さな掠れた声であたしの名前を呟く。

…あぁ、もうダメだ。
その声聞いたら、後藤の泣きそうな切ない声を聞いちゃったら、
もう……
自分でも、今までなんで意地張ってたのかわからなくなってくる。
緊張も戸惑いも、後藤の甘い髪の香りと、締め付けられる感触に掻き消されていく。
飛んじゃいそうな意識の中、どうにか捕まえた答えはただひとつ。
ギュッと後藤の体を強く抱きしめ返すことで、その答えを後藤に伝える。

100 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時45分12秒

でもさ、覚悟は出来てるんだけど、…だけど、もうひとつだけ言わせてよ。

「…あのさ、出来れば、ここじゃなくて……ベッドがいいんだけど」

「…うんっ」

今まで、あたしの言い分を強引に押し切ってきた後藤は、この言葉すんなりと受け入れた。

まったく、調子のいいやつだな…。





101 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時46分03秒


―――

後藤の体の重みと、触れ合う肌の温もりと感触と、首筋に感じる吐息と…
すべてが、うっとりと心地よくて、時間や場所の感覚がなくなってしまう。

そしてさっきまでの、後藤の積極的というか、どちらかというと強引な態度から、
きっと、……こういう時もそうなんだろうと思ってたけど、ちょっと違うな。

後藤が、体に触れたり、キスしたりするとき、積極的な押しの強さは感じられない。
なんていうか、…すごく優しく、というよりこわごわ、あたしの反応を気にしながら
ぎこちなく触れているような気がする。

もしかして、緊張してんのかな。らしくないぞ、後藤。
あたしは、もう観念してるんだからさ。
後藤がそんなんだったら、あたしが…してもいいんだけど。
でも、約束は約束だからね。
後藤の肩を少し押して体を離させて、顔が見えるようにする。

「…後藤。…後藤が、したいようにすればいいよ。
あたしは、全然大丈夫だから。…後藤なら、全部受け入れられるから…」

「……うん」

…って、後藤。いまさらなんでそんなに赤面してるんだよ。
言ったあたしのほうが恥ずかしくなってくるじゃんか。
102 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時46分44秒
あたしのそのセリフがよっぽどツボだったのか、今まで以上に真っ赤になって
両手を突いてあたしを見下ろす体制のまま、動かない後藤。
その後藤のリアクションのせいで、あたしにもそれが伝染して、
自分が言った言葉を思い出して同じように赤面してしまう。


…後藤、どうしたんだよいつもの元気は。
固まってないで、なんか行動してよ。…
…やっぱり、ここはあたしがリードしないとダメなのか…?

「……後藤」

名前を呟いて、ゆっくりと後藤の顔へと片手を伸ばし、頬にそっと触れる。
後藤は、気が付いたみたいにビクッてなって、あたしの目に視線を合わせた。

「……いちーちゃん」

消え入りそうな声で答えた後藤は、ゆっくりと顔を近づけて、あたしの頬に軽くキスすると、
自分の体を支えていた腕の力を抜いて、あたしにしがみつく様に覆いかぶさった。

「…重い?」

「…うん、重い」

「……」

「ふふっ、冗談だよ。大丈夫だから…」
103 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時47分23秒
笑ってそう答えたものの、ホントは少し重かったんだけど、でもその重さは、
息苦しいとか不快な感じじゃなくて、なんとなく心地いいというか安心できる重みで。
重いのが気持ち良いなんて感じる事って、こういう時でしかないよな…


後藤の体に腕を回して、滑らかな背中をなでると、後藤はあたしの耳元で
ため息を吐いて反応する。
首筋にかかる後藤の吐息が心地よくて、そのまま背中を撫で続ける。
後藤は、すっかり大人しくなってしまっている。…って、これって…

「…後藤、寝るなよ?」

「だって…なんか、すごい気持ちいいんだもん」

「じゃあ、もうこのまま寝ちゃう?」

「…やだ」

後藤はそう呟いて少し上半身を起こして、あたしの顔を見下ろす。
すぐ近くにある後藤の顔は、頬がほんのり赤く染まっていて、
眠そうなポヤンとした表情で、すっごくかわいい。

104 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時47分56秒
「…市井ちゃん?」

「ん?」

「……だいすき」

「…うん」

微笑んで返事をして、見つめ返した後藤の瞳はすごく優しくて。
その瞳が少しずつゆっくりと近づいてきて、まぶたを閉じると
唇が、柔らかで温かい感触で覆われた。

ついばむようなキスをしながら、後藤の手はあたしの耳に触れて、そのまま優しく
指でくすぐる様に愛撫する。それがくすぐったくて反射的に首をすくめると、
後藤は、一旦顔を離して、「フフッ」って嬉しそうに微笑んだ。
なんとなく恥ずかしくなって、目を逸らすと、後藤は今度は唇をあたしの耳に触れさせて
耳の端を挟むと、そのまま舌でなぞるように舐めた。

「んっ…」

なんともいえない感覚に、後藤の唇から逃げようとして動いても、
後藤は許してくれなくて、あたしの両肩を掴んで動けないようにすると、
今度は舌先で耳の中をくすぐる。

「…んっ…やめっ…」

「だめだよ…市井ちゃんが、したいようにしていいって言ったんだよ…」
105 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時48分28秒
確かにそう言ったけど、吹っ切れた後藤がこんなに強気になるなんて思わなくて
…ちょっと、後悔かも…。

後藤はあたしの耳たぶを口に含んで吸い込むと、
唇を、耳の下から首筋を通って肩まで、時間を掛けて這わせていく。
普段は大雑把でめんどくさがりなのに、こういうときはすごく丁寧で
優しいんだな。…でも、ゆっくりでマイペースなとこはそのままだけど。


後藤の唇はあたしの身体を通って下へと、下がっていく。
ゆっくりと時間を掛けて、空いている手でも優しく肌を撫でながら。
そして、後藤は意識してないかもしれないけど、後藤の髪が肌を撫でる感触が
…たまらなく気持ち良かったり。

でも、後藤の唇がおへその辺りまでたどり着くと少し不安になってくる。
だって、そのまま下に下がっていったら…
おそらく無駄だろうとは思いながらも、後藤の肩を少し押して引き離そうとする。
やっぱり後藤はそんなのお構いなしに、自分の肩を押している、あたしの片方の手を取ると
指を絡めるようにして、シーツの上に組み伏した。

そして、そのまま、後藤の唇は、下へと…。


106 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時49分30秒
「…っ…あっ…」

…くそっ、我慢してたのに…。
我慢してたんだけど、無意識に…
もう、限界…

…もう、いいや…どうなっちゃっても…


「…いちーちゃん、きもちいー?」

「…っ…そういうこと、聞くなよ。…ばか」

「はーい…」

一旦上げていた顔を、再びそこへとうずめる後藤。
時々漏れてしまう声を我慢するのも、もうとっくにあきらめた。
そして、自分の意思とは関係なく、腰がビクッと浮き上がってしまうのは、抑えようがない。
呼吸は、荒く、短くなって、その合い間には自分のものとは思えない声を伴って。




107 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時50分06秒
「…市井ちゃん…いい?…しても…」

「…ん」

そう、短く返事をするのが精一杯だった。
でも、身体を起こした後藤の顔は、余裕の表情で、なんか、悔しい。
あたしの顔を見ると、ちょっと微笑んだりなんかして。
そして、微笑んだままの顔をあたしの顔の前まで近づけると、あたしの太股に
手を這わせながら、お互いの唇が触れるか触れないかの距離で、呟いた。

「…上手くできなかったら、ごめんね…」

返事をしようとして、開いた唇は、そのまま後藤にふさがれた。

後藤の手がそこに触れて、我慢するのをあきらめていたはずの声も、
ほとんどが、後藤のキスに吸いこまれてしまった。

そして、結局…後藤の心配は、無駄に終わったみたいだった。






108 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時50分45秒


目を覚ますと、周りは真っ暗だった。
一瞬、ここがどこなのかとか、今何時なのかとか
隣に寝ている後藤を認めるまで、思い出すまでに時間がかかった。

枕もとの目覚まし時計を見ると、針は7時を少し過ぎた所を指している。

もうこんな時間か…。
結構寝てたんだな。…後藤が、やけに張り切るから、疲れちゃったんだよ多分。
当の本人は、めちゃくちゃ満足そうな顔して、気持ちよさそうに寝てるし。

それにしても、なんかお腹すいた…。
でも、ここは後藤の家だし、勝手に一人でなんか食べるわけにもいかないし。
後藤を起こすべきか悩んでしまう。
後藤もまだ夕食を食べてないんだから、起こせばいいんだろうけど、
この、油断しきった寝顔を見てると、なんだか起こしてしまうのが
かわいそうというか、もったいないというか。
もう少し空腹を我慢して、後藤の寝顔を見ててもいいかな、なんて思ってしまう。
でも、お腹空いたの我慢してるんだから、見てるだけじゃなくて、少しくらい
その寝顔で遊んでもいいでしょ。

109 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時51分25秒
後藤のほっぺを軽くつついてみる。
うーん…なんか、癖になりそうな感触。
今度は、鼻をつついてみる。

「…ん」

後藤は、一瞬声を漏らして眉をひそめた。
…やべぇ、今のめちゃかわいいかった。
もう一回…と思ったとき、うすくまぶたを開いた後藤と目が合った。

「あ…おはよ」

「…んー…おはよ…って、今何時?」

後藤は、少し頭を持ち上げて、さっきのあたしと同じように目覚まし時計を見た。

「…7時って、…ちょっと寝すぎた…」

そう言って、何かむにゃむにゃとよくわからない言葉を呟きながらあたしに抱きついてくる。
素肌が密着して触れ合って、後藤の体温を体中で感じると、数時間前までの
感覚がよみがえってくるような気がする。
思わず、目を閉じて後藤の身体をギュッと抱きしめ返してしまう。

もうこのままベッドで…っていうのも、それはそれでいいんだけど、
やっぱりお腹空いてるし、…夜は、まだ長いんだし。
110 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時51分56秒
「…後藤、お腹空かない?」

「…うん。空いた」

後藤の髪を指で梳きながら聞くと、後藤はあたしの喉元に顔をうずめたまま
返事をするから、ちょっとくすぐったい。

「なんかつくろうよ」

「んー…じゃあ、後藤が作るよ」

「えっ、あたしも一緒にするよ」

あたしがそう言うと、後藤は体を起こしながら顔をニヤニヤさせていった。

「いいよ、市井ちゃんはお客さんなんだし。
それに…さっきは、後藤が市井ちゃんを思う存分ご馳走になったからね」

「…バッカじゃないの」




111 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時52分39秒

キッチンのテーブルを挟んで二人で向かい合って座る。
テーブルの上にはふたり分の料理が並んでて…なんだか、くすぐったい感じ。
しかも、後藤の手料理…。


後藤は料理が得意だと自分で豪語するだけあって、
悔しいけど、はっきり言っておいしかった。
後藤が「おいしい?」って聞いてくるから、うなずいて
「いいお嫁さんになれるよ」なんて言ってしまってすぐに、しまった、と思った。
ホントに深く考えずに、会話の流れから出た言葉なんだけど、その言葉には、
自分はそうは思ってなくても、いつか後藤が誰かと結婚してっていう意味も含まれてて、
…気まずくて。

112 名前:cherish our love 投稿日:2001年09月18日(火)21時54分08秒

でも後藤は、「ありがと。市井ちゃんは幸せ者だね」って、めっちゃスマイルで返事をするから
一瞬意味が解らなくて、キョトンとしたんだけど、その言葉の意味がわかると、
キッチンに立つエプロン姿の後藤と、テーブルに着いてそれを見ている自分を想像してしまって、一人で赤面してしまった。

後藤は、あたしが一人で赤面して照れているの見て、満足してるみたいだ。
それが、かなり悔しいんだけど…まぁ、いっか。
またこの後に、あたしが今日の仕返しすればいいんだからさ。




   end.


113 名前:作者 投稿日:2001年09月18日(火)21時56分21秒


こんな感じで、短編ですがごま家お泊り編でした。
えー、結局書いてしまいました。(W
なんかね…。我ながら、相変わらずな感じで…。

それでは、また。
114 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月19日(水)03時18分24秒
感想というかもう、ただ純粋によかったっす!!
特に、最後のお嫁さんの話の部分は思わず二人の新婚生活を想像してしまうほど萌えました(w
この先も、頑張って下さいね。
115 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月19日(水)05時42分42秒
ごま家お泊り編も、あま〜くて萌え萌えって感じで、ホント良かったです。
もうここ大好きだし、ずっと続いて欲しかったりするから、前回に続いて作者さんが
最後に残した(前回同様「残してしまった」かな?)「市井ちゃんの今日の仕返し編」を
期待したりしちゃいます。
116 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月19日(水)08時39分58秒
ごまいち!!いいねぇ・・
なんかこのマターリしたエロと言うか、、いやもうエロとかそんなカテゴライズじゃなく、新たなものを見た気がしました(?
作者さんリク答えてくれてありがとう!!

117 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月19日(水)20時45分46秒
(・∀・)イイ!! とにかく(・∀・)イイ!!
お腹一杯でございます。顔がニヤニヤしてますよ。
こんな感じの甘々ないちごまをもっともっと書いて下さい。
ほんとご馳走様でした!
118 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月21日(金)05時36分37秒
エロスと甘さの合わせ技一本てかんじです。
作者さんに脱帽。
119 名前:作者 投稿日:2001年09月23日(日)01時37分33秒
>>114さん
ありがとうございます。メール欄のお言葉、泣きました(w
>特に、最後のお嫁さんの話の部分は思わず二人の新婚生活を想像してしまうほど萌えました(w
 わたくしも、自分で書いといて萌えました。ごまを嫁にもらった市井ちゃん…別の話が出来そうなくらい、妄想できます。


>>115さん
…やっぱり、そうきましたか。(w
実は、書き終わったあと自分でもそう思って、別の終わり方を考えたんですけど、
そのためだけにラスト変えるのは、ちょっとイヤだったんで、結局元のままで上げました。
ですから、市井ちゃんが張り切るのはまた別のお話という事で、ご勘弁を…


>>116さん
エロだけを書く事ができないんで、なんとかごまかしつつ書いてるんですが、
そう言って頂けるとありがたいです。
自分も読み手の側になると、少しはエロが入ってるほうが萌えますからねぇ…
今後もがんばりますよ(w

120 名前:作者 投稿日:2001年09月23日(日)01時38分12秒

>>117さん
ありがとうございます。
甘いのしか書けませんから、その辺は大丈夫です。


>>118さん
甘さの中にも、少しでもえっちぽさを入れたくて努力しております。
ありがたきお言葉、ありがとうございます。



ということで、日付も変わって23日です。
16歳ですか。若いですね…(シミジミ
とにかく、お誕生日おめでとうございます。


   『BABY BABY BABY』
121 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時38分58秒

もうすぐ、9月23日。
9月23日といえば、世間では秋分の日と言うことになってるけど、
あたしに限って言えば、もうひとつ特別な意味のある日だ。
どんな人にも一年に一回必ずやって来る、自分だけの記念日。
…そう、誕生日だ。
毎年家族や友達にお祝いしてもらって、それなりに楽しく過ごしてたんだけど、
今年は、ちょっと今までとは違う誕生日になりそう。
だって…今年は、市井ちゃんが一日かけてあたしの誕生日をお祝いしてくれるんだもん。



それにしても…どうしよっかなぁ〜♪市井ちゃんに何してもらおうかな〜
…だって、市井ちゃんが誕生日だから、何でもあたしの我がまま聞いてくれるって言ってくれたんだよね。
市井ちゃんは言葉のあやで言ったのかもしれないけど、後藤は言葉のままの意味に取っちゃったからね♪
むふふ…楽しくなりそうだぞぉ…



122 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時39分44秒





………って、思ってたのに…


それは、金曜日のお昼休み。

珍しく市井ちゃんが、あたしの教室まで会いに来てくれた。
クラスメートに呼ばれて、入り口に立ってる市井ちゃんのところまで駆け寄ると、
市井ちゃんはなんだか、居心地悪そうにちょっと俯き気味に立っていた。
たまにあたしの教室に来ると、みんなの視線を感じるらしくて、それがうっとうしい
みたいな事を言ってたからだろうと、そのときは思ってたけど、違ってたみたいだ。


「えへへ、なぁに、市井ちゃん。めずらしいね、会いに来てくれるなんて」

「…ん、まぁね……ちょっと、話が…ね」

「話って…?」

「…うん…あのさ」

市井ちゃんは、落ち着きなく髪を触ったりして、なんだか言いづらそうだ。
もしかして…もしかすると、今度の日曜日の事に関係あること…?

「…なに?」

「…あの…さ…。…ごめん、後藤」

「……」
123 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時40分15秒
「…日曜日、ダメになっちゃったんだ。…あの、親戚に不幸があって…
…それで、土曜と日曜は、田舎に帰んないとダメなんだ。だから……
ホント、ごめん…ごめんな」

「…そうなんだ」

「うん、…でも、月曜日は帰ってくるからさ、ほら、振り替え休日でしょ。
だから、一日遅くなっちゃうけど…」

「…そうだよねっ、月曜日があるもんね!…よかったぁ、振り替え休日があって」

「……ごめん」

「いいよぉ、一日遅れるだけだもん。…後藤は、大丈夫だよ。
…誕生日は毎年あるんだから!」

そうだよ、誕生日は来年だって、再来年だって、毎年やって来るんだし、
その度に、市井ちゃんは、一緒に居てくれるよね…きっと。

…でも、でもさ…十六歳の誕生日は、一回きり、なんだよね…。





124 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時40分58秒


そして、今日は23日。あたしの十六回目の誕生日。

市井ちゃんと過ごすつもりでいたから、友達との予定は入れてなくて、
丸一日ごろごろとして過ごした。
家族は、そんなあたしに何か言いたげな視線を向けつつも、ケーキとプレゼントで
お祝いしてくれた。

そして、何事もなく一日は終わりに近づいて、お風呂から上がって自分の部屋に入ると、
そのまま、ベッドに倒れこんだ。
仰向けになって、天井を見つめながら、今は田舎の親戚の家にいる市井ちゃんのことを
想っていた。

市井ちゃん、何してるかな…
まだ起きてるかな。それとも、気疲れしてもう寝ちゃったかな。
明日は会えるんだよね。朝からってわけにはいかないけど、
お昼からは大丈夫かな…
それとも、夕方になっちゃうかな…
…早く逢いたいよ…市井ちゃん。

いつの間にか目を閉じていて、そして、意識もぼんやりと、途切れ途切れになって、
市井ちゃんの事を考えながら、ウトウトと眠りについた。

125 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時41分48秒



………。


……どれくらいの間、眠ってたのかな…?
薄くまぶたを開くと、つっけぱなしだった蛍光灯がまぶしくて、またギュッと目を瞑った。
そうしていると、、どこからか聞き覚えのある電子音のメロディが聞こえてくる。
そうか、この音で目が覚めたんだ。
段々と、頭がはっきりとしてきて、それが携帯電話の着信音だとわかった。

市井ちゃん…!

なぜだかわからないけど、直感でそう思った。きっと、そうだと思った。
飛び起きて、携帯のディスプレイを見る。
…やっぱり…!

「もしもし!?」

『もしも〜し、起きてた?』

「…うん」

嘘をついた。でも、ばれてはないみたい。

『ごめんなぁ、バタバタしてて、なかなか電話できなくてさ』

「…うん」

『…あ、怒ってる?…こんな時間になっちゃって』

「そんなわけないじゃん!…声が聞けて嬉しい」

『そっか、良かった。…でも、何とか間に合ったな。あとちょっとで24日になるとこだったよ』
126 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時42分20秒
そういわれて、時計を見ると、11時過ぎを指している。
市井ちゃん、気にしててくれたんだ。あたしの誕生日。
23日中に、「おめでとう」って言ってくれるつもりで電話くれたんだよね。

でも、市井ちゃんはそのあとは、なかなかあたしの誕生日の事は触れなくて、
世間話みたいなことばかりを一方的にしゃべっている。
どうしたんだろう。
…でも、あたしからそのことを言い出すのは、やっぱり、ちょっと違うよね…。

「…市井ちゃん、なんか夜なのにテンション高い…」

『そっかぁ?そうでもないよ…あ、それにしてもさ、後藤んちの前の家の犬さぁ、
今日はいないの?市井、いっつも前通ったら吼えられるじゃん?今日は静かだね』

「あぁ、夜は家の中に入れてあげてるらし…」

…ん?…いま、『今日はいないの?』って言ったよね…?

今日は、って…

……もしかして!

携帯を握り締めたまま、部屋の窓を勢いよく開ける。
下の道を見下ろすと、街頭に照らされた市井ちゃんが、「おーい」って
手をひらひら振りながら、こっちを見上げていた。

「…市井ちゃん!」

127 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時43分04秒

何で市井ちゃんがこんな所にいるの?
帰ってくるのは、明日じゃなかったの?
次々に言いたい事は胸に沸いて出てくるのに、言葉になって出てこない。
市井ちゃんが自分の視界の中にいることが信じられなくて、もしかしたら、
まだ夢を見てるんじゃないかって、一瞬思ったくらいだ。
でも、市井ちゃんの声が自分の手にある携帯から聞こえてきて、やっと夢なんかじゃなくて
本当なんだってことを理解した。
携帯電話から聞こえてくる、あたしの名前を呼ぶ声に、いても立ってもいられなくなって、
電話をベッドの上に放り投げると、窓を開け放したまま、部屋を飛び出した。
家族が寝ている事も忘れて、階段を勢い良く駆け下りていく。
玄関の鍵を開ける少しの時間さえも、もどかしい。
異常なくらい高鳴っている心臓の音は、きっと、階段を駆け下りたせいだけじゃない。
家の前の道路に立っている市井ちゃんに駆け寄ると、やっぱり、なかなか最初の
一言が出てこなくて、ただ市井ちゃんを見つめることしかできない
市井ちゃんのほうも、そんなあたしを、ただ微笑んで見つめているだけ。
でもしばらくして市井ちゃんは、息を漏らして笑うと、口を開いた。

128 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時43分36秒
「へへっ、驚いた?」

「…うん」

「やっぱりさ、直接逢って言いたいじゃん?こういうことって。
…十六歳の誕生日は一回きりなんだからね」

「あ…」



市井ちゃんに、誕生日を一緒に過ごせないって言われたとき、
すごくがっかりしたけど、そんな素振り見せたら、困らせちゃうと思って、
平気な振りして笑って返事をした。
でも本音は、誕生日に一緒に居て欲しかった。
市井ちゃんと出会って、最初のあたしの誕生日。
十六歳の誕生日は一回きりだから。…だから、一緒に居て欲しかった。


「十六歳の誕生日、おめでとう」

「……」
129 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時44分10秒
ありがとう、とか嬉しい、とか言わなきゃいけないんだろうけど、でも、
そんなんじゃ全然足りないような気がして…
…かといって、それに代わる言葉も思い浮かばなくて。
どうやってこの気持ちを、市井ちゃんに伝えればいいのかな…?

「…後藤?」

ただ黙って、おそらく、嬉しそうとはいえない顔をしているはずのあたしを
不思議に思ったらしくて、市井ちゃんは俯いているあたしの顔を覗き込んだ。

そのとき、市井ちゃんの周りの空気が動いて、あたしのもとに市井ちゃんの香りが
フワリと届くと、押さえ切れない衝動に身を任せて、目の前で、あたしの顔を覗き込んでいる
市井ちゃんに、抱きついた。

「…り…がと、いちーちゃん…」

やっといえた一言は、涙声で震えてて、ちゃんとした言葉にはならなかった。





130 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時44分42秒
降りてくるときは反対に、こっそりと音を立てないように、階段を上って自分の部屋に向かう。
そして、そんなあたしの後ろから、市井ちゃんも同じようにソロソロとついてくる。
部屋に入ると、開けっ放しだった窓に気付いて、あわてて閉めた。

「…あのさ、後藤」

カーテンを閉めていると、後ろから市井ちゃんに呼びかけられて振り向いた。
市井ちゃんは、ドアの前に立ったままなんだかソワソワした感じだ。

「なに?」

「あのさぁ…プレゼントなんだけど…」

「えっ、うん!」

そうだ、誕生日といえばプレゼントだ。
市井ちゃんが会いに来てくれた事だけで、頭がいっぱいになって忘れてた。
それに、市井ちゃんからプレゼントもらえるなんて、初めてだもんね。

「プレゼント…なんだけどぉ…」

「うんっ」

「…ごめんっ!」

「へっ…」

「家に取りに帰ってたら、日付変わっちゃうと思って…
…その代わりってわけじゃないんだけどさ…」

131 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時45分22秒
市井ちゃんは、手に持っていたコンビニのビニール袋をあたしの前に差し出した。
その袋を前に思わず、キョトンとして袋を見つめてしまう。
…だって…誕生日プレゼント…の代わりがコンビニの袋の中に入ってるなんて…そんな…

市井ちゃんはあたしのリアクションに苦笑いしながら、袋の中から、
買ってきたものを取り出した。

「だってさ、こんな時間にケーキ屋さん開いてないからさぁ…」

市井ちゃんが袋から取り出したのは、プラスチックのカップに入ったケーキだった。
黙ったまま立ち尽くしていると、市井ちゃんにそのカップケーキを手渡された。

「一応、バースデーケーキ、のつもり…」

「……」

「手ぶらで行くよりは、マシかなって思ったんだけど…」


「うん、嬉しいよ。…ありがと」

コンビニの袋を見たときは、正直言って「そんなぁ…」って思ってしまった。
けど、市井ちゃんが袋の中から取り出した、小さなカップケーキを見た瞬間、
なんだか、胸がポワッと暖かくなって、自然に自分の頬が緩んでくるのがわかった。
市井ちゃんもそんなあたしを見ると、照れたように微笑んでいる。

132 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時45分55秒
「市井ちゃん、これひとつだけなの?」

「そうだけど…あ、あたしのことは気にしないで食べていいよ。」

「…じゃあ…はいっ」

あることを思いついて、市井ちゃんにケーキを手渡した。
ポカンとした顔で、ケーキとあたしを交互に見る市井ちゃん。

「あの…やっぱ、こんなんじゃダメかな。あ、それに、寝る前だしね…」

「ち、違うよ!そうじゃなくてさ…」

市井ちゃんは、何であたしがケーキを渡したのか、意味がわからないみたいだ。
あたしは、市井ちゃんが照れてクシャクシャに丸めてしまったコンビニの袋を手から取ると、
もう一度広げて、中にあったプラスチックのスプーンを見つけ出して、
それも市井ちゃんに渡した。
でも、まだ市井ちゃんは、ハテナって顔をしている。
もぉ、まだ分かんないのかなぁ…

133 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時47分20秒
「あのね…食べさせて欲しいなぁ…なんて」

「はっ?」

「いいじゃん、誕生日なんだから。…それに、我がまま何でも聞いてくれるって
市井ちゃん、言ったもん」

「言ったけどさ……しょうがないなぁ」

市井ちゃんは、顔を横へ向けながらそうポツリと言うと、立ったままじゃ行儀が悪いからって、
あたしにベッドに座るように促した。
市井ちゃんもあたしの隣に座ると、カップの蓋を開けて、スプーンでクリームを掬った。

「はい、あーんして」

「あーん」

口元に差し出されたスプーンを、パクッと口に含む。
もう一口、と思って市井ちゃんを見ると、なんだか呆れたように微笑んでいる。
134 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時48分05秒
「…なに?」

「いやぁ、すっごい嬉しそうな顔して食べるなって思ってさ。
コンビニのデザートひとつでこんなに喜んでくれるなんて、後藤ってイイ子だねぇ」

「んー…でも、嬉しいのはデザートが食べられるからだけじゃないよ。
市井ちゃんが『あーん』って食べさせてくれなきゃ、嬉しさは半分以下だよ、きっと」

「…そう?」

「そーだよぉ。…だからぁ、はやくもう一口ちょーだい」

「はいはい(笑)」

市井ちゃんは、何回かに一回、自分の口にもスプーンを運びながら、
結局、最後まで全部食べさせてくれた。


135 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時48分40秒
ケーキを食べ終わると、もうすぐ日付が変わるころで、いつもなら、
あたしは、ベッドの中にいる時間だ。

「ねぇ、市井ちゃん。今日はもうこのまま泊まっていくよね?」

「ん〜…そのつもりだったんだけど、いいかな?」

「当たり前じゃん!」

そして、ふたりでこっそり一階に下りて、並んで歯磨きをした。
市井ちゃんにシャワーだけでも浴びるように勧めたんだけど、家族を起こすと
悪いからって遠慮して、顔だけ洗ってあたしの部屋に戻った。

部屋に入ると、市井ちゃんは、あたしのベッドにすぐに腰掛けて、
「疲れたー」って溜息交じりに呟いて、そのまま後ろに倒れて寝転んでしまった。
そりゃ、昼間は親戚の葬儀に出て、それから、長距離移動でこんな時間に
あたしに逢いに来てくれたんだもん。疲れるよね…
…ちょっと残念だけど、今日はもうこのまま寝させてあげよう。
136 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時49分19秒
「市井ちゃん、そのままじゃ寝れないでしょ、服脱ぎなよ」

「え〜、今日は後藤の我がまま聞いてあげたいけどさぁ…
ここへ来るまでに疲れちゃったから、そんな元気ないよ…」

「ちがっ、そういう意味じゃなくって、ジーパン履いたままじゃ寝られないでしょ!」

「あはは、わかってるよ。ジョーダンだって」

「もうっ!」


市井ちゃんは寝転んだまま、もそもそとジーパンを脱いで、ベッドの下に放り投げると、
上はTシャツ一枚になった。
市井ちゃんの下着姿なんて、今までだって何度も見てきたのに、こうやって少し離れた所から、
ベッドの上に寝転んでいるの見ていると、不思議とドキドキしてくる。
…でも、今日はこのまま寝かせてあげるって決めたから、ガマンしないとね。
市井ちゃんだってあんなにリラックスしてるのは、完璧に寝る態勢に入ってるからだろうし。

「ん?後藤、なに突っ立ってんの?早くおいでよ…って、これ後藤のベッドなんだけど(笑)」

「あっ、うん」

137 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時49分51秒
市井ちゃんは布団をめくると、自分の隣をポンポン叩いて、「早くきなさい」とか言ったりしてる。
あたしはこんなにドキドキしてるのに、市井ちゃんは…
…少しも、ソノ気がないからこういう事できちゃうんだろうね。

電気を消してベッドの中の市井ちゃんの隣に潜り込んだ。
狭いベッドだから自然と、すぐ近くに寄り添うような感じになる。



「市井ちゃん、今日はホントにありがとね」

「…うん」

「今日逢えるの諦めてたからさ、すっごい嬉しかった…」

「そっか…」

いつの間にか、ふたりとも向かいあう体勢になっていて、こんな近くで見詰め合ってるのに、
不思議と照れとか恥ずかしさはなくて、逆に心はすごく落ち着いている。
だからかな、自然にこういう事言えちゃうのは…

138 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時50分41秒
「あたし、市井ちゃんのこと好きになって本当に良かった」

「…」

「誕生日をお祝いしてもらって、こんなに泣きそうになったり、嬉しかったり、
感動させてくれるのは、市井ちゃんだけだもん。」

「あたしもさ…、さっき外で後藤があたしの顔見たとき、なんか、驚いたような泣きそうな
なんともいえない顔してたじゃん?」

「…うん」

「それで、最後には泣いちゃってさ…その時にね…、後藤の事抱きしめた時、
この子の事すごい好きだなぁって思った。誕生日に間に合うようにって、
結構無理して頑張って逢いに来たのは、後藤を喜ばせたいって気持ちも勿論あるけど、
でも何より、自分が少しでも早く後藤に逢いたかったからなんだなって」

「……」


139 名前:BABY BABY BABY 投稿日:2001年09月23日(日)01時51分22秒

眠る直前まで、何度も何度も交わしたキスは、さっき食べたケーキよりもずっとずっと甘くて、
市井ちゃんの温かい優しい体温に包まれながら眠りについて、今日はすごくいい夢が見れそうだよ。







「ねぇ、市井ちゃん。来年も、再来年も、ずっとこの先も、
こうやって一緒に誕生日を過ごしてくれるよね?」


「当然でしょ。…でも、その前にあたしの誕生日もあるけどね(笑)」





    end.
140 名前:作者 投稿日:2001年09月23日(日)01時53分30秒
以上です。

この日に間に合わせたくてちょっと前から書いてたんですが、
…今まで書いた中で、一番悩んで、一番時間がかかりました。

自分から言っておきますが、市井ちゃんの誕生日プレゼントが、結局何だったのかとか、
また変な終わり方して、市井ちゃんの誕生日編もあるのかとか…あまり、お気に留めないようお願いします(w


それにしても、16歳ですよ。見えないですね、ホント…
最初の頃の、プクプクした感じの妹キャラのごまもかわいかったですけど、
今のクールな感じも好きです。でも、プッチのときのはじけたトークとか、
ふとした時の笑顔がすごくかわいかったり…すみません。私の思い入れはどうでもいいですね(w

ともかく、誕生日おめでたいですね、ということで。
それでは、また。



141 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月23日(日)03時00分53秒
やっぱり(・∀・)イイ!! とっても(・∀・)イイ!!
読んでいてちゃむやごまのようにドキドキします。
とても想像力が掻き立てられます。ありがとうと言いたいです。
これからもいちごま沢山書いて下さいな。
142 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月23日(日)17時57分51秒
お疲れ様でございます。&ご馳走様でした(w
やっぱ作者さんの書く初々しいいちごま、凄く好きです。
そっかごま誕生日なのか・・こりゃある意味いちごま祭りだよなぁ・・
俺も書くかな・・(ボソッ
143 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月23日(日)21時05分09秒
やるね、市井ちゃん。漢だね(w
そりゃごまも惚れるわ。

144 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月24日(月)04時00分29秒
ほんとここはもう、甘々いちごま小説の最後の砦ですね。
作者さんにはもう感謝するだけです。
145 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月24日(月)05時19分49秒
むほほ〜、とってもよかったれす。
作者さんの思い入れが伝わってきました。
これからも暖かくなる話を期待してます。
146 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月27日(木)00時42分47秒
個人的にはやぐちゅー未来より、馴初め(過去)のほうが気になる。
先生である裕ちゃんは、生徒の矢口をどうやって口説いたのかな?
147 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月07日(日)23時29分05秒
>>3->>57
>>92->>112
>>121->>139
148 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月07日(日)23時30分58秒
>3->>57
149 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月07日(日)23時37分00秒
>>3-57
>>92-112
>>121-139
150 名前:作者です。 投稿日:2001年10月11日(木)21時38分59秒
>>141さん
こちらこそありがとうございますですよ。
ここまで書いてこられたのも、読んでくださっている方あってのことですから。
今のペースを守れるかはわかりませんが、がんばりますね。

>>142さん
ありがとうございます。
私も、あなたが書く甘々ないちごまも、アレないちごまも大好きですので、
…待ってますよ(w

>>143さん
「いちーちゃんはロマンチック」(ごま談)
だそうですから、こういう事しそうじゃないですか(w

>>144さん
ただでさえいちごまは減ってますからね。シリアス系でもはまってるのはあるんですが、
でもやっぱり、甘系が読みたいっす。他の作者さんが書いた甘いのが。
はぁ〜、甘々いちごまが読みたいよぅ。誰か書いてくれないかなぁ、誰か…(w

>>145さん
私のいちごまへの愛が伝わったようで嬉しいです(w
作者の妄想が続く限りはがんばらせて頂きます。

>>146さん
やぐちゅーの過去ですか。
このスレに収まるようだったら、がんばってみようかなぁ…


つーことで、ちょっと間があいてしまいましたが、
何とか、短編を書いてみました。
ごまいち…になるのかな?
151 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時39分57秒
 もうすぐお昼休みの終わりを知らせる予鈴が鳴ろうという頃だ。
だけどあたしは、廊下に立って窓から見える景色をぼんやりと眺めたり、時計を気にしたり。
そして、矢口はあたしの事はほっといて他の子とのおしゃべりに夢中で。
五時間目の移動教室のために教室を出て廊下を歩いていたんだけど
途中で矢口が他のクラスの友達に呼び止められて、立ち話が始まってしまったのだ。

次の授業の、化学の先生は、厳しい事で生徒から怖がられているので有名だから、
遅刻はしたくないのに…

なかなかはお喋りを切り上げようとしない矢口を置いて、先に一人で行ってしまおうかと
矢口に声を掛けようとしたその時、少し離れたところから聞こえてきた会話に、
耳を奪われてしまった。

「―――あぁ、それ、一年の後藤だよ」

152 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時40分39秒
…『後藤』?

あたしの1メートルくらい隣りに、廊下の窓から、向かいの校舎を並んで眺めている
隣のクラスの女の子がふたり。
ふたりの視線の先の向かいの校舎の廊下には、あたしの良く知っている「後藤」と、
隣に並んで歩く吉澤の姿。
…やっぱり、この子の言ってる「後藤」って…あの「後藤」のことだよね…

矢口は、まだ友達とのお喋りに一生懸命だから、あたしは隣りの会話を盗み聞く事にした。


「後藤って言うんだ、あの子」

「うん、中学の後輩なんだよね」

「ふーん…ってかさぁ、かわいくない?あの子。ちょっとタイプなんだけど。
実は前から目ぇ、付けてたんだよねー(笑)」

「えー、あたしはどっちかって言うと、隣の子の方がかわいいと思うけど――」

「いや、後藤さんのほうがかわいいよ絶対。お友達になりたいわー(笑)」

「アハハッ、なにそれぇ〜」

ふたりは、冗談ぽく笑いながら、どっちのほうがかわいい、とか盛り上がっている。
153 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時41分20秒
…なんか、すっごい複雑な気分。
同級生とは言え、自分のよく知らない子達の話題の中心が、自分のよく知ってる子の事で、
しかもその内容が、ふざけ半分とは言え、ちょっと聞き捨てならない内容で。
いや、このふたりがただ単に、会話のネタとしてたまたま目に付いた後藤と吉澤の
事を話しているのは分かっているんだけど…でも、…どうしても気になる。

顔では全然興味がないような振りをして、でも意識は全部、
隣のふたり組みの会話に集中して。
だから、いつの間にか矢口が友達とのお喋り終わらせて、あたしの名前を呼んでいることに
しばらく気付く事が出来なかった。

「――やか、…紗耶香ってば」

「へっ、あぁ…なに?」

「…なにって…あっ、もしかして、ほっといたから怒ってんの?」

「えっ、なんで?全然怒ってないよ」

「だってさぁ、なんか無表情で一点見つめて、呼んでも返事してくれないし…」

「はは…」

怒ってないなら、何で返事をしてくれなかったのかと、矢口に問い詰められて、
何とかごまかしている間に、例のふたり組みは自分の教室へと戻っていってしまった。

154 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時42分16秒
「まぁ、なんでもいいや。早く行かないと、授業に遅れちゃうよー」

「……」

矢口が立ち話に夢中にならなかったら、余裕で間に合うのに…。
…それに、あの子達の会話を聞いちゃって、こんなにモヤモヤした気分になんか
ならないですんだのに…。

ここで余計な事を言ってしまうと、矢口に突っ込み返されるのは、分かってるから
黙って次の授業のある教室に向かう事にした。




155 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時42分46秒
―――



そして、放課後。

担任の先生に廊下で捕まって、テキストの山を職員室まで届けた帰り、
渡り廊下から、何気なく下の中庭を見下ろして、思わず足が止まる。

…何なんだ、今日は。
お昼休みのことと言い、…続けば続くもんだな。

校舎と校舎をつなぐ様に敷かれているレンガの道の上、女の子が三人、
何か楽しそうに笑いあいながら、立ち止まって話をしている。
そんな光景、別に思わず立ち止まって見るような、衝撃的な光景じゃない。
良く見かける光景だ。でもその人物が誰かによっては話が違ってくる。
…あのふたり…お昼休みの、例のふたり組みだ。

ふたりはあたしに背中を向けているから、表情はよくわからないけど、
時々見える横顔は間違いなく、あのふたりだ。

そして、ふたりと向かいあって楽しそうに笑っているのは……後藤だ。

156 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時43分26秒
上から見てるせいかな…
後藤って人見知りするほうだと思ってたのに、あんな風に笑えるんだ、なんて思ってしまう。
あたしが知らない後藤を見てしまったような、後藤があたしにはまだ見せてくれない一面が
あるんじゃないかとか、そんな風にさえ思ってしまう。

やめよ…。
このまま見てたら、どんどん変な方向に考えが進んでいっちゃうよ。

早足でその場から離れた。
でも、歩くスピードはどんどん遅くなっていって、渡り廊下を渡りきって、
突き当たった所にある昇降口まで来ると、ついに足が止まった。

…やっぱり、気になるよ。
どんな会話をしてたのか。何をあのふたりに言われたのか。
そりゃ、本気であの子が後藤をどうこうしようって訳じゃないとは思うけど…
もし、あの子が本気だったとしても、あたしは後藤のことを信じてるけど…
157 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時43分59秒
そこで立ち止まっていた足は、階段を下に降りる方へ、そして中庭へ向かうために歩き出した。

…でも、行ってどうすんだ?
また、影からこっそり隠れて見てるだけ?
それとも、偶然を装ってわざとらしく声を掛けるか…?
どうしよ…

でも、あたしのくだらない心配は、取り越し苦労だった。
中庭の見えるところまで来ると、後藤と例のふたりは別れた後で、
後藤はすでにそこを離れて、あたしのいる校舎へ向かって歩いてくる所だった。

そして、後藤はあたしの姿を見つけると、無表情を一変して、嬉しそうな笑顔で駆け寄ってきた。


「いちーちゃーん!今、市井ちゃん探しに行くとこだったの。やぐっつぁんに聞いたら
職員室行ってるって言ってたからさぁ」

「…そっか、もう用事は終わったからさ…」

「じゃあ、一緒に帰ろ!」

「…うん」
158 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時44分34秒
くそー…なんだよ…あたしはこんなに心を乱していろいろ不安になってたのに。
こんなカワイイ顔で、あたしの事探してたとか言われちゃったら、不満も言えなくなっちゃうよ。
…けど…でも…やっぱり…気になるんだよね。


「…さっきさぁ…話してたの誰?」

後藤の中学の先輩とその友達。…誰かなんて聞かなくても知ってるんだけど。
でも、いきなり何を話してたのかなんて聞くの変だし…

「んー…よく知らないんだよね」

「はぁ?でも、仲良さげに話してたじゃん」

「いやぁ、一人は中学の先輩だから知ってるんだけど…
でも、そんなに話したこともない人だし…なんか、急に話しかけられたんだもん。
上級生だし、無視するわけにはいかないでしょ?」

「…そうだけど…それで、なに言われたの?」

そうだよ、あのふたりが誰かなんて事聞かなくても知ってるし、
なんで後藤に声かけたかも、予想はつくし…これを聞いとかないと…、
159 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時45分22秒
「別になに言われたって事もないけど…ただ、中学で一緒だったの覚えてるかとか、
あたしの友達と部活が一緒で仲良いとか…」

「…ふーん」

…なんだ、そんな事か。…でも、ホントにただそれだけ…?

「あっ、でもねー…もう一人の人が、後藤のことカワイイって言ってくれたんだよー。
あとねー髪がきれいだねとか、めっちゃ褒められちゃった♪
だから、別に『生意気だ』とか『ウザイ』とか言われたわけじゃないから、安心してよ、市井ちゃん」

「……」

…安心って…できるわけねーだろ。余計にムカついてきたっつーの。

後藤は、かわいいと褒められたのがよっぽど嬉しかったのか、
すごく機嫌が良さそうだ。…あたしには、そう見える。
そりゃ…あたしはあんまり、「かわいい」とか言葉にして言った事はないかも知れないけどさ。
だからって訳じゃないだろうけど、そんなに嬉しそうにしなくても…
160 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時45分55秒
あたしの前を歩く後藤は、時々あたしを振り返りながら、まださっきのふたり組みとの
ことを嬉しそうに話している。
…自分から振っといて勝手なのは分かってるけど、あたしは早くこの話題から離れたいのに。

「それでね、あの人たち三年生なんだって。市井ちゃん同級生でしょ。知らない?」

「…さぁ」

ホントは、名前もクラスも知ってるけどね。
でも、ここで知ってるって言っちゃったら、話がまた広がっちゃうから、
知らない事にしておこう。

「えー、でも同じ学年でしょ?見たことくらいあるんじゃない?
…あ、でも市井ちゃん、あのふたりの顔まで見てないか。」

「……」

いや、渡り廊下からじっくり見てたけどね…
それにお昼休みは、かなりの至近距離から観察してたし。
…って、もういいじゃんそんなこと。
くそー、イライラする。
後藤も、そんな嬉しそうな顔で話してんじゃないよ。
あたしだってさ、「カワイイ」くらい言えるっちゅーの…


161 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時46分29秒
「…市井ちゃん?」

「なにっ」

「…なんか、怒ってるの?」

「…べつに、怒ってなんかないよ」

怒ってなんかない。…ただ、後藤があんまり嬉しそうな顔してるから、
それが面白くないだけ。
でも、そんなこと口に出してなんか絶対に言えないから、ただ黙って歩く。

「市井ちゃん、ちょっと…」

「へっ…」

後藤はあたしの手を引っ張って立ち止まらせると、そのまま通りがかった
空き教室に入っていく。
今は使われていないその教室は、窓が全部カーテンで締め切られていて、薄暗い。
そして物置代わりにされてるみたいで古ぼけた机や椅子が
一箇所にかためて置いてある。
162 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時47分16秒
な、なんだよ…そんなに黙ってるのが気にくわなかったのかな。
後藤って普段はおっとりしてるけど、絶対ケンカとか強そうなんだよな。
前から、怒らせたら怖そうだから、気をつけようと思ってたんだけど…
…怒ったのかな?…ヤバイかも…。

後藤は、怯えているあたしに構わずに、どんどんと教室の奥にあたしを引っ張っていく。
そして、教室の後ろの窓際まで来ると、立ち止まってあたしの手を掴んだまま向き合った。
向かいあった後藤の顔は、なんだか真剣な顔で…やっぱ怒ってる?

「市井ちゃん…」

「は、はいっ」

「…あのね、後藤もやっぱり女の子だから、人から『カワイイ』とか褒められたら、
すごく嬉しいんだけど…」

「…はぁ」

「でもね、…ホントにたまーにしか言ってくれないけど、市井ちゃんが『カワイイ』って、
言ってくれるのが一番嬉しいよ?」

「……」
163 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時47分47秒
なんだ、怒られるんじゃなかったのか…
…って、そんなことより…後藤に考えてる事を読まれてたのが、ちょっとショック…
というより、恥ずかしい…
まともに後藤の顔が見られなくて、思わず俯いてしまう。

「だからね、心配しなくても大丈夫だよ…市井ちゃん」

後藤はそう言いながら、あたしを優しく包み込むように抱きしめた。
そして腕をあたしの身体に回したまま、髪をその手で優しく撫でている。

…これじゃ、あたしは我がままを諭されてる子供みたいじゃんか。
この状況を抜け出したくて、何とか顔を上げて言ってみる。

「…大丈夫って、何が大丈夫なの?」

でも、何とか言えたセリフもやっぱり、子供のへりくつみたいで。

「だからぁ…あたしは市井ちゃんにしか、こういう事はしないって事だよ…」

耳元でそう囁いた後藤の唇は、頬をかすめて、あたしの唇に重なった。
後藤の唇は軽く触れていただけで、すぐに離れてしまったけど、
ふたりの距離は、お互いの吐息が肌に感じられるほど近いままだ。
164 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時48分32秒
「えへへ…市井ちゃんが拗ねてるのがかわいくて、ちょっといじわるしちゃった…」

拗ねてるって…いじわるって、何だよ…
あたしが面白くないって思ってるの気付いてて、わざと嬉しそうな顔してたって事?
後藤に全部見透かされてた上に、からかわれて、さらになだめられるなんて…
情けないというか、恥ずかしすぎるというか…。
そのうえ、逆にカワイイとか言われてるし…。
はぁ…今日はずっと後藤に振り回されっぱなしだよ。
恥ずかしくて、カッコ悪くて、ちょっと落ち込んでいたんだけど、でも、
すぐ近くで、得意気に微笑んでいる後藤の顔を見ていると、なんだか
ムクムクと今までの鬱憤がよみがえって来る。
ちくしょー…後藤、このまま自分の思い通りに終われると思うなよ…?

165 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時49分13秒
あたしをやり込めて満足したのか、後藤はあたしの身体に回していた腕を解いて、
体を離しかけた。
でも、このまま離してしまう訳にはいかないんだよね。
さっき、このままじゃ終らせないって、胸に誓ったばっかりだから。
もうこうなったら、思いっきり開き直ってやる。
後藤があたしで楽しんだ分の倍は仕返ししてやる。

離れかけた後藤の腕を、ちょっと力を入れて掴んで引き寄せる。
後藤は、「えっ?」って顔であたしを見て、戸惑っている。

「な、なに?市井ちゃん…急に」

「急じゃないでしょ?…自分がこんな怪しげなトコに連れ込んだんじゃん」

「連れ込んだって…そんな……ちょっ、んっ」

まだ戸惑って無駄な抵抗をしようとするから、その口をキスで塞いでやった。
でも、後藤は口を塞がれても、あたしの肩を押し返してまだ抵抗しようとする。
…往生際の悪いやつだな。だけど、その肩を押してる手の力が本気じゃないって事は
あたしには、お見通しなんだけどね。
166 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時49分56秒
「…ん……市井ちゃん…誰かに見つかったらどうするの?」

「こんな何にもないところに入ってくる人なんかいないよ。
…それに、放課後、そこの廊下は滅多に人が通らないから、
助けを呼んだって、誰も来ないよ(笑)」

「…呼ばないよ、助けなんて…誰にもじゃまされたくないもん」

あたしの肩にある後藤の手首を掴んで、そのまま後ろの壁に追い詰めると、
後藤は観念したみたいで、もう抵抗はしなくなった。
もう一度、後藤の唇に自分の唇を重ねると、後藤はあたしの背中に腕を回して、
ブレザーの下に手を滑り込ませてシャツの上から撫で始めた。

もうお互い何も話さなくなって、聞こえるのはふたりの音を伴った吐息だけ。
でも、窓の外から微かに聞こえる人の声や、近くにある体育館での部活動の
喧騒が、ここが学校の中の一室だって事を思い出させて、ちょっとドキドキする。
ドキドキするんだけど、それが刺激になって、気分がだんだんと昂ぶってくる。
167 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時50分30秒

初めは、すぐに止めるつもりだったけど…ちょっと無理みたいだ。
後藤もその気になっちゃってるし、…自分も…

いつの間にか、ふたりの唇は開かれていて、その間からは湿った音が聞こえて来る。
絡み合った舌の動きが少し激しくなると、あたしの背中を撫でていた後藤の手は、
その動きを止めて、代わりにシャツをキュッと掴んでいる。


……時間が経つのを忘れて、どのくらいの間そうしていたんだろ…
廊下を通る誰かの足音に、心地のいい夢から現実に引き戻されたようにハッとなって、
あたしから、顔を離した。
しばらくふたりとも何も言えなくて、上がった息を落ち着かせようともしないで、
そのまま、放心したようになっていた。

168 名前:My Girl 投稿日:2001年10月11日(木)21時51分08秒
でも、すぐ目の前にある後藤の唇の端が濡れてるのが、なんとなく気になって
指でそっと拭ってあげると、後藤は一瞬視線を上げてあたしを見たんだけど、
照れているのか、すぐにまた、逸らしてしまった。
だけど、後藤が視線を逸らしているおかげで、あたしは照れずにじっくり後藤のことを
見つめる事が出来るんだけど。

そう、このキスしたあとの、ポヤンとした顔。…メチャメチャかわいいんだよね。
この顔って、絶対あたししか見たことないはずだ。
だから、この顔見てかわいいって思えるのは、あたししか居ないわけだ。
…今日の事は、この顔に免じて許してやるか。
それと、許してあげるついでに、特別大サービスも…。

「…後藤…お前、ホンットにかわいいな」


ほら、あたしだって結構自然に「かわいい」って言えるんだからな。
「たまーに」しか言わないけど、心からそう思ったときしか言わないから、
その分、あたしの「かわいい」はスペシャルなんだぞ。





   end.


169 名前:作者 投稿日:2001年10月11日(木)21時52分31秒

こんな感じで、「My Girl」でした。

いやー、それにしても、市井さんですよ。
久々の更新が、この日と重なったのは、ねらったわけではないんですが、
ちょっとうれしいです(w




170 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月11日(木)23時13分18秒
いやマジ復帰は嬉しいよ。
作者さん、これからも頑張って下さい。
171 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月13日(土)03時52分54秒
まさか本当にこんな日が来るとは……(爆
市井ちゃんの復帰で伝説のいちごまがまたテレビ見れるかも知れないと思うと……(号泣
それによって作者さんの執筆意欲が倍増するかと思うと(願望)(w
172 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月13日(土)05時17分14秒
おおおっと。やっぱチェックしなきゃダメですねぇ。
ん〜人のいちごまはヤパ萌える!!
作者さん今後もガムバッテ下さいきほし
あと、市井復帰ワショーイワショーイ
173 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月13日(土)22時20分34秒
>>151-168
174 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月17日(水)02時44分52秒
ああ、やっぱ甘いいちごまは最高だすなぁ〜。
自分もいちごま書いてますが、甘くはならねーは、暗いは
アホだわで結構へこみます(汗

甘いちごまよ永久に…!!
175 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月18日(木)00時59分27秒
やぐちゅーもいいけど、ここではやっぱり
いちごま三昧でお願いしたいです。
176 名前:作者。 投稿日:2001年10月23日(火)21時31分46秒
>>170さん
ありがとうございます。
市井さんの復帰で、いちごまも盛り上がる事を祈って、がんばります。

>>171さん
そうですね、またテレビなり雑誌なりでふたりの並んだ姿を見てしまった日には…
妄想が膨らむ事間違いなし、です(w

>>172さん
そうなんですよ、自分で書いたのはイマイチ萌えないんですけど、
他の作者さんが書いたの読むと、萌えるんですよね。
っていうか、例の…(略
カナーリ萌えさせていただきましたよ(w  
(「名無し」なのに、どなただか勝手に決め付けてますが…)
お互いガムバリましょう!

>>173さん
…? 気になります。

>>174さん
はい、甘いちごま、最高でございます。
しかし、痛いのも切ないのもハマってしまうのがいちごまです…
自分もこんな甘々なの書いてるくせに、いま更新を楽しみにしてる小説は
痛めないちごまなんですよね…。
174さんもがんばってください!

>>175さん
そーですか?
じゃあ、お言葉に甘えて次もいちごまで…(w


そんなわけで、書いてみました。


   『プライベイト』 です。
177 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月23日(火)21時32分28秒
…う゛ー…ぅう゛〜…ん〜…

……あ゛ーっ、もうっ!
イライラするっ!



今、あたしは自分の部屋で机に向かい、教科書や問題集を広げている。
そう、ただ広げているだけ。
数日後には、定期テストが始まる。
だから、テスト勉強のためにこうして机には向かっているんだけど…

シャーペンを一応は握って、問題を解く体勢は出来ているんだけど、
その気になれない。
いつも見てるドラマがもうそろそろ始まる時間、というせいもある。
…でも、ビデオの予約してるからそれはいっか。
それから、普段から勉強なんてし慣れていないせいも、勿論ある。
目の前の問題集が大嫌いな数学の問題集だって事も、理由のひとつ。
だけど…だけど、一番の理由は、もっと別の、精神的なところにあって…。
178 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月23日(火)21時33分01秒




それは今から一週間ほど前。
学校が終って、そのまま市井ちゃんの家に直行したときの事。

市井ちゃんの部屋で、別に何をするでもなくただ、マンガを読んだりCDを聞いたり、
まったりとした時間を過ごす。
一番心地よくて、大好きな時間。
ふたりっきりで誰にも邪魔されずに、市井ちゃんの近くに居られるだけで、安心できる。
こういうのを癒されるって言うんだろうな。
…でも、本音はもっとくっついて、いちゃいちゃしたいんだけど…

そして、いつもならあたしは自分の本音通りに動いて、何気なく市井ちゃんに寄り添うんだけど、
今は、なんだかそういう雰囲気じゃないんだよね。
市井ちゃんは、勉強机の前の椅子に座って、なんだか難しそうな顔でテキストを睨んでいる。

そういえば、市井ちゃんは受験生だし、もうすぐテストが始まるし、
さっき、この間の模試の結果がどうのこうのってブツブツ言ってたし…
…だから、ちょっとナーバスになってるのかな?
179 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月23日(火)21時33分34秒
今声をかけたら煙たがられそうだから、やめとこ。
そう思って、手にしていた雑誌に目を落とすと、反対に市井ちゃんは、
テキストから顔を上げて、あたしを見た。

「…なぁ、後藤」

「えっ、なに?」

声を掛けられて嬉しくて、勢いよく返事をすると、市井ちゃんはちょっと苦笑いをしたあと、
言い難そうに話し始めた。

「…あのさ、もうすぐテストが始まるじゃん?」

「うん」

「だからさ…、ちょっとの間、こうやって会うの止めない?」

「……」

思いがけない市井ちゃんのその言葉の意味が理解できなくて、
少し時間を掛けて、その言葉を反芻しながら考えてみる。
“―――コウヤッテアウノヤメナイ?”

……。

ちょっと待って…それってもしかして……


180 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月23日(火)21時34分18秒
泣きそうな顔を隠すように下を俯くと、市井ちゃんは慌てて付け足した。

「いや、別にもう会わないって事じゃなくて、学校では会えるわけだし、
テストが終るまでの間はちゃんと勉強に集中して、終ったらまた普通通りに遊んだりしようよ。
…あたし、一応受験生だし、…後藤だって、テスト勉強はしなくちゃダメでしょ?」

「……うん」

そういうことか…。よかったー、安心した。
…でも、テスト勉強の為って言うのが、ちょっとなぁ…
あたしが、頷いて小さな声で返事をすると、市井ちゃんは椅子から立って
カーペットの上に座っているあたしの隣まで来て座って言った。

「テスト期間中は、お互いにちゃんと勉強しようよ。
終ったら、またいつもみたいに放課後も休みの日も一緒に遊ぼ?」

「…ホントに?…ホントにテスト終ったら、また後藤と遊んでくれる?」

「あったりまえじゃん。それに、学校ではいつも通りに会えるんだよ?
ただ、放課後や休みの日は、集中して勉強しようよ」
181 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月23日(火)21時34分58秒
あたしが集中して勉強?
…んー…ちょっと不安だけど、市井ちゃんがそう言うなら頑張ってみようかな。
でも、じゃあ、こうやってふたりっきりで、こんな近くで寄り添っていられるのは
明日からテストが終るまではお預けって事だよね…
でも、まだ今日のうちは…いいんだよね?

「じゃあさ、市井ちゃん…今、チュウしてよ」

「は?何でそうなるの(笑)」

「…だってさぁ、明日からこうやってふたりだけでは会えないんでしょ。
という事は、テストが終るまではずっとチュウとか出来ないんだよ?
……だから…いいじゃん、してくれても」

「うーん…ま、しょうがないか…そういうことなら」

「…なんかその言い方、すごい偉そう」

「じゃあ、やめとく?」

「……やだ」

182 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月23日(火)21時35分53秒
市井ちゃんは意地悪そうに微笑んだあと、あたしの肩を引き寄せて、キスしてくれた。
軽くチュって感じで触れて、市井ちゃんは顔を離そうとしたんだけど、しばらくこの感触が
味わえないと思うとものすごく名残惜しくて、離れかけた市井ちゃんの肩を両手で固定して、
今度は自分からキスをした。
市井ちゃん、あたしの長めのキスに拒まないで応えてくれるって事は、
さっきの仕方ないなって態度は、ただの照れ隠しって事だよね。
本当は市井ちゃんも、しばらくあたしとキスできないのは、ヤなんだよね?
…こんなこと、口に出して聞いたら、市井ちゃんは恥ずかしがって絶対に
「違う」って言うだろうから聞かないけど。

183 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月23日(火)21時37分57秒






 次の日から、2,3日の間は「たまには、こういうのもあってもいいか」なんて
すこし強がりもあったけど、まだ余裕はあった。
学校で会えば今まで通りに接してくれるし、うちに帰っても電話をすればちゃんと相手をしてくれるから。
でも、あたしは市井ちゃんとの時間が持てなくなることを甘く考えすぎていた。
あの時、素直に市井ちゃんの提案を受け入れてしまった事を、少しずつ後悔し始めていた。


3日目を過ぎた頃から、段々とあたしの中で変化が起き始めた。

休み時間に、廊下で偶然会っても、友達と一緒に居る市井ちゃんはなんだか
態度もそっけなくて、周りに人が居るからそうなんだって事は、分かってるんだけど、
やっぱり、ちょっと寂しい。

だから、うちに帰ってから電話をしても、なかなか電話を切ることが出来なくて、
最後には市井ちゃんに「電話する暇があったら、勉強しなさい」なんて怒られてしまった。
あきらめて、机に向かって試験勉強を始めようと思っても、思い浮かぶのは市井ちゃんの
事ばかりで、勉強が手につかない。
184 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月23日(火)21時38分43秒
なんでだろう、いつもはここまで市井ちゃんのことばっかりって訳じゃないのに。
試験勉強なんて、いつもは前の日に一夜漬けでやり過ごしてたから、調子でないのかな。

はぁ…もう…なに?…このモヤモヤした感じは?
…いや、本当は何でこんなになってるかは、分かってるんだけど。
だけど、それを認めてしまって、市井ちゃんとの約束を破るような事をしてしまったら、
市井ちゃん、後藤のこと冷めちゃうよ。…そんなのぜーったいヤダ。


その日は、結局勉強が手につかないまま、諦めて寝ちゃったんだけど、
あたしにしてはめずらしく寝つきが悪くて、朝方近くまでベッドの中で寝返りを
何度も打って、悶々とした夜を過ごした。


185 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月23日(火)21時39分26秒


そして、次の日も朝からボーっとした頭のまま、1時間目の授業を終えた。
休み時間になって、机の上に突っ伏しているあたしに、よっすぃーが心配そうに
声を掛けてくれた。

「ごっちん、調子悪いの?…保健室行く?」

「…んー…いや、だいじょぶ…そんなんじゃないから」

一瞬、よっすぃーの言うとおり保健室でお昼ぐらいまで授業をサボって、
寝てやろうかと思ったけど、どうせ寝られないし、もしサボった事が市井ちゃんにばれたら
怒られるから、顔を上げて、よっすぃーにそう言って、力なく笑って見せた。

「…ごっちん、ほんと大丈夫?…なんか、変だよ?」

「……だいじょぶだよ」

大丈夫な訳ないけど…よっすぃーに「市井ちゃんに触れられなくて、欲求不満で
どうにもなんない」なんて、言えるはずもなく、なんとか4時間目までの授業を受けた。


186 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月23日(火)21時40分07秒


お昼休み、いつもなら待ちに待ったお弁当タイムなのに、食欲も沸かなくて、
とうとうガマンできなくなってあたしは、市井ちゃんのいる三年生の教室に向かった。

学校で会うのは禁止されてないんだから、べつに怒られはしないはず。
ふたりっきりになって、あたしが迫れば、市井ちゃんだって気持ちが揺らぐはずだ。
…だって、ここ何日か、市井ちゃんとキスどころか、触れる事だってなかったんだもん。
電話なんかで呼び出したりしても、多分理由をつけて逃げられるような気がしたから
直接会いに行く事にした。

何て言って会いに来た事を言い訳しようかと、廊下を少し緊張して歩きながら
考えていると、曲がり角で反対から走ってきた人とぶつかりそうになった。
驚いて立ち止まると、その人はなんだかすごく急いでいるみたいで、
ぶつかる寸前であたしを交わすと、また走り出そうとした。
すれ違いざまに、相手の顔を見て、あたしは慌てて声を掛けた。


「い、市井ちゃん!」
187 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月23日(火)21時40分43秒

呼ばれた市井ちゃんは足を止めて、立ち止まってくれたんだけど
でも、なんだか焦ってるみたいで、少し声を上擦らせて、
「あっ、ゴメン!ちょっと急いでるからっ」
って早口に言うと、すぐにそのまま階段を駆け下りて行った。

何をそんなに急いでるかは知らないけど…ちょっと冷たくない?
あたしは、こんなにも思いつめて、市井ちゃんに会いたくて、触れたくてたまんなくて
いつもの自分じゃいられなくなってるのに、市井ちゃんはそんな風には感じてないのかな?

……市井ちゃんは、三年生で受験生だから、あたしの事より受験の事のほうが
大事に思ってるの…?
その二つの事を比べられないって事は、わかってはいるんだけど、さっきの市井ちゃんの
態度には、どうしても不安になっちゃうよ。



188 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月23日(火)21時42分00秒


膨らみ始めた不安はすぐに、もう自分じゃ抑えられないくらい大きくなっていった。
テスト勉強どころか、学校にいる間の授業もいつもにもまして集中できない。

この広がっていく不安を治めるには、どうすればいいかは、考えなくてもすぐに分かる。
…市井ちゃんに会いたい。…会って、話がしたい。そして、市井ちゃんに触れたい。
最後に市井ちゃんの家に行った時から、あたしたちは廊下ですれ違ったときに、
短い会話を交わすくらいで、すぐ傍に相手の存在を感じて過ごす時間は無くなっていた。
最近は電話をかけるのも、迷惑に思われるんじゃないかと思って、毎日はできなく
なっていたし、たとえ電話で話していたとしても、市井ちゃんから
「ちゃんと、勉強してる?」
って聞かれると、まったく勉強が手につかない自分が後ろめたくなってしまう。

6時間目の授業中も、先生の話も上の空に、そんな事ばかりにグルグルと思いを
巡らせて、終業のチャイムが鳴ると、あたしはすぐに教室を出た。
向かう先は、市井ちゃんの教室だ。
189 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月23日(火)21時43分36秒
放課後、会わない様にしようって約束を忘れているわけじゃなかったけど、
もう、このまま大人しく家に帰って、また机の前でモヤモヤとして時間だけが
過ぎていくのは、ガマンできなかった。

普段なら、三年生の教室なんて、なんかちょっと怖くて行けないんだけど、
今はそんな事言ってる場合じゃない。
教室の中を外から覗いてみると、市井ちゃんの姿が見えない。
ドアの近くの席に座っている人に思い切って声を掛ける。

「あの、市井ち…市井先輩、いますか?」

「あぁ、紗耶香?…もう帰ったんじゃないのかな」

…帰ったって…ちょっと早すぎない?
あたしだって、授業が終わってすぐに教室を出たのに、
市井ちゃん、なんか用があって急いでたのかな?

どうしよう…。もし本当に用事があって帰っちゃったんなら、会ってくれないかも…
それじゃあ…このまま、諦めて家に帰る?
そんなのイヤだ。…やっと、思い切って会いに行こうって決めたのに。
会って、市井ちゃんに自分の気持ちを話そうって思ってたのに。
教室から離れて、廊下をとぼとぼと歩くたびに、ついさっきまでの勢いが、
だんだんと小さく、弱くなってくる。
190 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月23日(火)21時44分33秒
約束を破る事になるのを承知で、思い切って会いに来たのに、それが、
こんなにあっさり、終っちゃうなんて…
これは、市井ちゃんには会いに行っちゃいけないって事なのかな…

…いや、ダメだ。こんな事で諦めてちゃ。
そうだっ、電話してみよう!
でも、…電話をかけて「うちに帰って勉強しろ」なんて怒られたら…
やっぱり、直接会いに行くしかない!
市井ちゃんだって、追い返したりなんてしないだろうし。
…そんなに長い時間じゃなければ、大目に見てくれるよね。

「よし!」とこぶしを握って、自分に気合を入れると、急いで自分の教室に戻って、
カバンを持ち、再び教室を飛び出した。
早く追いかけないと、見失ってしまう。まだそんなには遠くに行ってないはず。
急がないと…。
全力で廊下を走るあたしに向けられる、周りの視線も気にならない。
ただ市井ちゃんの後姿を見つけて追いつく事しか頭の中になくて、夢中で走った。

191 名前:作者。 投稿日:2001年10月23日(火)21時47分33秒

今日はここまでです。
それでは、また。


192 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月24日(水)08時30分11秒
むちゃくちゃいいところで(w
後半楽しみに待っておりまする
193 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月25日(木)01時40分24秒
どこまでもまっすぐな後藤が羨ましい
194 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月25日(木)03時34分37秒
これは気になる終わり方ですね。
続き楽しみ〜
195 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月25日(木)18時46分46秒
テストはいつ終わるんだろう?(w
196 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月27日(土)21時30分55秒

校門を出ると、走るのをやめて自分と同じ制服の後姿を探しながら、少し早足で歩く。
制服姿のショートカットの女の子を見つける度に、心臓がドキッと高鳴るけど、
すぐにそれが市井ちゃんじゃないことに気付いて溜息を漏らす。
しばらく歩き続けて学校から大分離れて駅の近くまで来ると、人通りも多くなって
同じ制服を見つけ出すことさえ、難しくなっていた。
それでも諦められなくて、必死で目を凝らしてその姿を探すけど、見つからない。


信号待ちの間に足が止まってしまうと、気持ちまで沈んでしまって、大きく溜息を吐いた。
もう、電車に乗ってしまったのかな。
もしかしたら、本当はまだ学校にいてすれ違ってしまったのかも…
ちゃんと、確認してから学校を出て来ればよかった。

…やっぱり…電話しようかな…。
怒られても、呆れられてもいいよ…会いたいってちゃんと言おう。

信号が青に変わって、周りの人波が動いても、あたしはその場に立ち止まったまま
カバンからケイタイを取り出して、履歴から市井ちゃんの番号を探しだした。
呼び出しのコール音を聞きながら、人波に逆らって道路際の街路樹の下に移動する。

197 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月27日(土)21時31分50秒

『…もしもし』

何度目かのコール音が途切れたあと聞こえてきた市井ちゃんの声は、
なんだかいつもと違っていて、少しトーンを抑えた小さめの声だった。
電車とか、お店の中とか電話しづらい所にいるのかな?
それにしては、周りは静かなんだけど…

「市井ちゃん、今どこにいるの?」

『…学校の図書室。…ちょっと待って、外に出るから』

学校?やっぱり、まだ学校にいたんだ。
なんだよぉ…あの先輩の言ったこと、ウソだったんじゃん。
こんな事なら、最初から電話すればよかった…

あたしが、自分のバカさ加減にうな垂れていると、電話の向こうから、
図書室から出たらしい市井ちゃんの、さっきよりも大きな声が聞こえてきた。

『ごめん、ごめん。で、なに?どうしたの?』

「え?…あぁ…あのー…」

『何だよ、なんか用があって電話したんじゃないの?』

どうしよ…ただ「会いたいから」なんて言ったら、やっぱ怒られるかな。
でも、このままハッキリしなかったら、どっちにしても電話切られちゃうよ。

198 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月27日(土)21時32分39秒

「あっ、あのね…図書室でなにしてたの?」

『んー、試験勉強してた』

「…ふ、ふーん」

…試験勉強ですか。…余計、「会いたい」なんて言いづらくなってしまった。

『後藤も、ちゃんと勉強してんのかー?』

「…(ゲッ)…あー、うん。…ボチボチと…」

『なんだそれ(笑)』

…う゛〜…どんどん言いにくくなってきたぞ…
それに、勉強してるってウソついちゃった…

『それよりさ、なんか用があったんじゃないの?』

「えっ、いや…うん。……あ、市井ちゃん一人で勉強してるの?」

会ってもらえる理由を考えるために、
間を持たせるために、何気なく言ったそのセリフ。
それが、その後、もうまともに話すことが出来ないくらい、あたしにショックを与える
答えが返ってくるなんて、思いもしなかった。

市井ちゃんは、いたって普通に、こう答えた。

199 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月27日(土)21時33分41秒

『ううん、矢口と、あともう一人友達と一緒だよ』

「…え」

…やぐっつぁんと友達と一緒って…?
一人で勉強してるんじゃないの?
一人じゃないと、勉強できないから、あたしとは会ってくれないんじゃなかったの?
…どうして…ひどいよ…。


『どうしたの、後藤…おーい、聞いてる?』

「……」

『…ん?…後藤、聞こえてる?』

「…あ、うん」

『なんだよ。急に黙るなよなー』

「…うん、ごめん。…あの…切るね…ゴメンね、勉強してるのに」

『えっ?なんか、用があったんじゃなかったの?』

「…いや、いいよ。…ホントにたいした用事じゃないから…じゃね」


それだけ言うと、一方的に電話を切ってしまった。
…サイテー。
余計、会いづらくなったじゃんか。
あんな切りかたしたら、市井ちゃん、気分悪いだろうな。

200 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月27日(土)21時34分40秒

でもさ…市井ちゃんだってさ…
あたしとは会ってくれないのに、やぐっつぁんとは放課後会ってるんだし…
…まぁ、勉強してるとは言ってたけど…
それに、やぐっつぁんと一緒にいるって、なんでもないような口調で言って、
ちっとも、後藤に後ろめたいなんて思ってないんだ。
ひどいよ…市井ちゃんのばか…。

俯いてトボトボと駅に向かって歩き出す。
足元のアスファルトが涙でぼやけてグニャグニャに見える。
溢れた涙がこぼれだす前に、手の甲で拭った。




201 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月27日(土)21時36分05秒



まだ潤んだ涙目のまま、鼻をグズグズとすすりながら電車に乗って、
空いてる席にドサッっと座り込んだ。
いつもなら、空いてる席を見つけるとちょっと嬉しくなるんだけど、
今日はそんな事ぐらいで感動できなかった。
ブスッとした顔で座席に深くもたれる。
傍から見たら相当態度悪い女子高生に見えてるんだろうけど、
そんなのどうでもいいよ。


…もう、ホントどうでもいい。

勉強も、テストも………市井ちゃん、も。
テスト勉強なんてやっても、どうせいい点なんか取れないし、
市井ちゃんだってあたしに構うより、友達と勉強する事のほうが大事なんだ。

一人で暗く落ち込んでいるあたしとは対照的に、前の座席に座っている
中学生らしき女の子ふたり組みが、楽しそうにキャッキャとじゃれあっている。
少し静かにして欲しいなんてムッとした顔でじろりと睨みながらも、本当は
その仲の良さそうな様子が凄く羨ましかったり…。
髪型もおそろいでふたつに分けて結んでて、身長も同じくらいで全部がおそろいって感じ。
まるで双子の姉妹みたいだ。きっとすっごく仲良いんだろうな…。
202 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月27日(土)21時37分03秒

…それに比べてあたしは……
あたしと、市井ちゃんはあの子達と違って、見た目も好きなものも性格も
全然違うけど、それが逆にお互いに無い物を埋め合っていて、一緒にいることに
心地よさを感じているんだと思ってた。
マイペースなあたしを、市井ちゃんが上手に引っ張って行ってくれて、
真剣に一生懸命になりすぎて疲れちゃう市井ちゃんを、あたしが癒してあげて。
それで、バランスが取れてるんだと思ってた。
でも、もしかして違ってたのかな。あたしの思い込みだったのかな。
あたしは今のまま変わりたくなくて、子供のままでいたいと思うけど、
市井ちゃんには、将来の目標があってそれに向かって努力してて。
だから勉強も出来て成績だっていつも上位で、
面倒見が良いからみんなから信頼されて人気者で。
…だけどあたしは、勉強なんかやる気無くって適当で…


いいんだ、もう…あたしなんて…
勉強できなくて、テストの結果も最悪で、先生や親にも怒られて
市井ちゃんにも「約束が守れないダメな子」って思われて…
呆れられて、…それで、……



203 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月27日(土)21時37分46秒



電車が駅に着くと、家までの帰り道を、肩を落として俯いて歩く。
さっきまで止まっていた涙も、またじわじわと溢れてきた。
今は周りに人がいないから、流れる涙も放っておいた。

今日はもう、家に着いたら部屋に閉じこもってずっと寝てよう。
食欲なくてご飯も食べられないし、勉強なんかもうする気なんてないし。

結局さ、あたしにテスト勉強に真面目に取り組む事なんて、
最初から無理だったんだよ。
今までだって、何とか適当にやり過ごしてきたんだから、それでいいじゃん。
…市井ちゃんだってそのこと知ってるくせに、自分が勉強したくて、後藤のこと
邪魔に思ってこんな事言い出したんだよ。
……市井ちゃんはもう、あたしの事なんてさ……

なんだか、凄くヤバイ方向に気持ちが向かってる気がする…
自分じゃどうにも止められない。
それを止めてくれる人が、傍にいないから…。

204 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月27日(土)21時38分20秒

だけど、どんどん暗い方向に落ちていく自分を引き止めてくれた物があった。
突然、カバンの中のケイタイの着メロが鳴り始めて、意識がそっちに向かう。
すぐに鳴り止んだから、多分メールが届いたんだ。
カバンからケイタイを取り出してみると、やっぱりメールの着信の表示が出てる。
誰からだか分からないけど、なんとなくホッとした。
これで少しは気分がまぎれるかも知れないから。

でも、そう思えたのは一瞬で、メールを開いたとたんにまた、
胸が締め付けられるように、苦しくなった。

それは、市井ちゃんからのメールだった。


『さっきはちょっと元気がなかったみたいだけど、勉強で疲れちゃった?
 テストが終ったらどっか遊びに連れてってあげるから、がんばれよ』


……。

あれ?…さっき感じた胸の苦しさは、つらいから苦しいんじゃなかったんだ。
あたしの頭の中をいっぱいにしちゃってるその人から、ギリギリのタイミングで
届いたメールだったから、胸がいっぱいになって、それが自分じゃ抑え切れなくて
溢れ出しそうで、だから苦しくなったんだ。

205 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月27日(土)21時39分37秒

あぁ、でも…やっぱり市井ちゃん、……ダメだよ。
市井ちゃんは、わかってないよあたしのこと。
これじゃ、全然逆効果だよ。
だって、もうあたしは、このまま大人しく家に帰ることなんかできないもん。
会いたくて会いたくて、テストが終るまでなんて、待ちきれないもん!




ついさっきまで、暗く落ち込んでいたくせに、急に体中にパワーがみなぎって来て、
急いでケイタイをしまうと、迷わず今来た道を引き返した。

そして、モチロン目指すのは……
……目指すのは、市井ちゃんのいる場所なんだけど、学校に戻ればいいのかな?
でも、またすれ違ったら嫌だし。

すれ違うことなく絶対に会える場所へ行けばいいんだけど……


という訳で、あたしがまっすぐに目指したのは、間違いなく市井ちゃんに会える場所。
あそこなら絶対に市井ちゃんに会える。


206 名前:プライベイト 投稿日:2001年10月27日(土)21時40分23秒


駅に戻って再び電車に乗って、いくつかの駅を乗り過ごして目的の駅まで。
それから少し歩いてたどり着いたのは、市井ちゃんの家。
ここで待ってれば絶対にすれ違う事は無い。


家の前の道端に立って、市井ちゃんが帰ってくるのを何時間でも待ってるつもりでいた。
今までは、会いに行ったりなんかすると、怒られるんじゃないかとか、
呆れられるんじゃないかとか、ごちゃごちゃと考えてためらっていたのに、
不思議と今は迷いとかためらいとかはまったく無かった。
それを、開き直ったって言えばそうなんだろうけど、
でも、もうそれでもいいや。
市井ちゃんに会えたら、いつもみたいに変な言い訳なんかしないで、
ちゃんと市井ちゃんに会いたくて、会って触れたくてたまんなかったって言おう。


207 名前:作者 投稿日:2001年10月27日(土)21時43分07秒

 …またこんなトコで終ってるし(w


>>192さん
書き手の側にすると、こういう事ってやりたくなっちゃうもんなんですよね(w
今回分は中編ということで、もう少しだけ続きます。

>>193さん
市井ちゃん目がけてまっしぐら、なんです。

>>194さん
やっぱそう思います?
楽しんでもらえる展開になってると嬉しいです。

>>195さん
あはは、ホントにねぇ…
学生さんはもうテスト終った時期なんですかね?
でも、ココのテスト終わりの事はあんまり期待しないでくださいね…



それじゃ、また。
208 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月28日(日)13時14分42秒
後藤、行けー!!
209 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月28日(日)19時52分39秒
ごまガンガレ!!!(フーッフーッ
210 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月29日(月)03時37分37秒
後藤は本当に一途でキャワユイな〜(w
211 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時33分25秒

あたしが市井ちゃんの家に着いてから1時間くらい過ぎた頃、
待ち焦がれていた市井ちゃんは、学校から帰ってきた。

「ご、後藤!なにやってんだよこんなとこでっ!?」

やっぱり、予想通りのリアクションだ。
笑顔で「よく来たね」って歓迎されるとは思わなかったから、
そんなにひるんだりなんかはしない。

「市井ちゃんのこと待ってたの」

「…待ってたって…あのなぁ…」

まったく悪びれずに言い放ったあたしに、市井ちゃんは呆れた顔で、
大きく溜息をついた。
その溜息を聞いて、少し胸がチクッてなった。
…そんなに、露骨に迷惑そうな顔しなくったっていいじゃん…。

「…あのさぁ、後藤…テスト終るまでは、お互いの家に行ったりするのは止めようって
約束したじゃん。…なのになんで、ガマンできないの?」

「…っ…じゃあなんで、市井ちゃんはやぐっつぁんとは放課後一緒に居るのに、
後藤とは会ってくれないのっ!?」

212 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時34分10秒

市井ちゃんの、その呆れとイラつきが合わさったような言い方に、
思わずカッとなってしまって、あたしにしては珍しく大きな声で、
市井ちゃんに言い返してしまった。
市井ちゃんは少し驚いたみたいだけど、引かずに言い返してくる。

「何言ってんの?全然関係ないじゃん、矢口のことは」

「関係なくないよ!
後藤は市井ちゃんに会っちゃダメって言われて勉強なんか手に付かないのに、
市井ちゃんはやぐっつぁんや友達と放課後一緒に仲良く勉強してるじゃん!」

「……」

「それにっ、お昼休みだって後藤が声掛けてもシカトするし、今だって迷惑そうな顔してるし、
…後藤はずっと会いたくて、でもガマンしてたのに…市井ちゃんは全然そんな事思ってなくて、
後藤のこと勉強の邪魔だって思ってるんでしょ!?…市井ちゃんは、もう…っ…」

「…ごとぉ〜…泣くなよなぁ…」


213 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時34分46秒

あぁ…なに泣いてんだろあたし…。
こんな事言うつもりじゃなかったのに。
こんな、逆ギレして泣くなんて、余計に市井ちゃんのこと呆れさせるって分かってるのに。
ホント、バカだよ。あたし。
これじゃ市井ちゃんだって、勉強の邪魔だって思うのは仕方ないのかな…

泣くのを我慢しようとするんだけど、自分が情けなくて余計に泣けてくる。
本格的に泣き出したあたしに焦った市井ちゃんは、あたしを家の中に入れてくれて、
リビングまで連れて行ってくれた。
そして、ソファにあたしを座らせると、自分は少し離れた別のソファに座った。
家の中はあたしと市井ちゃんのふたりだけで、静まり返っている。
聞こえるのは時々あたしが鼻をすする音だけだ。
ずっとずっと、市井ちゃんとふたりっきりになりたいって思ってたのに、
今あるのは気まずさだけで、向こうに座っている市井ちゃんとの距離が、
すごく遠くに感じる。

214 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時35分31秒

黙って俯いているあたしを、市井ちゃんはソファに深くもたれて、
時々チラチラと見て困っているみたいだ。
そして、重苦しい空気の中、市井ちゃんはソファから身体を起こすと
一度咳払いをしてから大きく息をひとつ吐くと、話し始めた。

「…あのさ、後藤…矢口と図書室にいたのは、ちょっと数学で解んないトコがあってさ、
教えてもらってたんだよね……べつに毎日一緒だったわけじゃないよ。
それと、お昼休みに急いでたのは担任に呼び出されてたの忘れてて、焦ってて…
…でも、まぁ、あれはあたしが悪かったね…ごめん」

「……」


『ごめん』って…なんで市井ちゃんが謝るの?
どう考えても、自分勝手で我がままで、悪いのはあたしなのに。
市井ちゃんがやぐっつぁんと一緒にいたのは勉強を教えてもらってたからで、
…あたしじゃ、市井ちゃんに数学の問題を教えて上げられる訳ないし。
そうだ。市井ちゃんがこうやってきちんと説明してくれて「ごめん」って言ってくれたんだから、
あたしも本当のこと、自分の気持ちを言わないと。

215 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時36分02秒

「…市井ちゃん…後藤ね、本当は全然勉強なんてしてなかった。
市井ちゃんに会いたいって思ったらそのことで頭ん中いっぱいになっちゃって、
勉強が手に付かなかった。
だから、もう怒られても呆れらてもいいと思って家まで来ちゃったんだけど…
なのに、逆ギレして泣いちゃったりして…ごめんね」


それだけ言うと、またお互いに黙ってしまって沈黙が続く。
チラッと、市井ちゃんの様子を横目で伺うと、市井ちゃんは大きく溜め息を吐くと
ガシガシと頭を掻いて、片手を髪の毛の中に突っ込んだまま下をむいて、
何か考え込んでしまっている風だった。

……やっぱり、呆れちゃったよね。

なんだか、無性に悲しくなってきた。
悲しくて、自分が情けなくて、ここにこうやって図々しく座っていることに、
耐えられなくなってきた。

「…ごめんなさい。…急に家まで押しかけちゃったりして。…もう、帰るね」

「えっ!?」

「ごめんね…約束破ったりして」

「い、いや、ちょっと待てって!」

216 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時37分03秒

ソファから立ち上がって、ドアに向かおうとしたあたしの腕を、
慌てて追いかけてきた市井ちゃんが掴んで引き止めると、さっきまであたしが座っていた
ソファに連れ戻した。そして今度は自分もあたしの隣に座って顔を覗き込んだ。

「…あのさ、…せっかく来たんだし、あたしだって迷惑だなんて思ってないよ?
いきなりだったから、ちょっと驚いたけど……。
…あっ、そうだ!勉強、わかんないトコがあったら教えてあげるからさ、
まだ、帰んなくてもいいじゃん…」

「……」

また、勉強の話?…勉強だけ…?
勉強なんて、テストなんて…もうどうだっていいよ。
こんな事言ったら、怒られるだろうけど、でも、テストの事なんかより
頭ん中市井ちゃんだらけで、勉強する気なんてただでさえないのに、
それなのに、こんな状態でやる気が出るわけ無いじゃんか。

217 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時37分35秒

あたしはずっと市井ちゃんのことしか考えられなくて、
教室で授業を受けてても、家で何とか机に向かって教科書広げてても、
頭に浮かんでくるのは市井ちゃんのことばっかりで…
その度に、胸がキューってなって、泣きそうになっちゃうんだよ?
今だってもう、涙を我慢するのが精一杯で、返事をすることもできなくて…

市井ちゃんは、俯いて泣きそうなあたしの事をなだめようと、
肩に手を回して擦りながら、時々顔を覗き込んで話しかけてくれる。

でも、市井ちゃん…
…そんなに近くに寄り添ったりしないでよ。
肩に手を回して、顔を近づけたりしないでよ。
…あたしは、ずっと我慢して、我慢して、もう限界まで来ちゃってここに来てるんだから、
どうなっても、何しても、知らないよ…?

ゆっくりと顔を上げて、市井ちゃんの顔を、焦点の定まらない潤んだ目でぼんやりと見つめる。
泣くのをガマンしてたからなのか、なんだか、顔が熱くて頭がボーっとする。
そして、無意識にあたしの手が伸びて、市井ちゃんの頬にそっと触れるのが視界に映った。
あたしの指が触れて、市井ちゃんは一瞬戸惑ったような表情を見せたけど、
そのまま動かずにじっとしている。

218 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時38分10秒

「…ずっとこうやって、市井ちゃんに触れたくて仕方なかったんだよ、あたし…」

小さくそう呟くと、市井ちゃんの頬に触れていた指を横に滑らせて、唇に触れさせた。
あぁ、この感触だ。
初めてキスした時から、この柔らかな感触を失う事なんて、考えられなくなってた。
ずっとずっと、自分だけの物にしておきたいって思ってた。
それなのに、こんなに何日もの間触れることが出来なかったから、あたしは
おかしくなっちゃったんだね。

こうして指で触れるだけでも、すごくドキドキするよ。
触れているのは指先だけなのに、そこから温かい市井ちゃんの温もりが
全身に広がっていってるような感じがする。
すごく気持ち良くて、安心する…。

だけど…やっぱりそれだけじゃ物足りないよ…




219 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時39分00秒

あたしは、市井ちゃんに顔を近づけようと、自分の手を触れさせている唇から離そうとした。
でも、あたしがそうするより一瞬だけ早く、市井ちゃんは自分の唇に触れている
あたしの手を取った。

…あ…やっぱり、イヤだったのかな…?

でも、違った。
市井ちゃんはあたしの手を取ったまま、その指に軽く口付けると、
そのまま唇を手のひらから手首へと滑らせていく。
あたしはそんな市井ちゃんを、ただドキドキして見つめる事しか出来ない。
市井ちゃんが舌を出して、あたしの手首の脈の上をチロッと舐めると、
その少しの刺激だけで、あたしは大げさなくらい感じてしまって、思わず
手を引いてしまった。

でも、市井ちゃんは唇から逃げていったあたしの手を、再び自分の口元を引き寄せると、
シャツの袖をそっと捲りあげて、今度はさっきよりも大胆に、腕の内側の手首から
肘までの間を音を立ててキスを繰り返している。

「…んっ」

時々触れる唇の柔らかさとは違う舌の感触に、自然に声が漏れる。
そして、目を伏せてあたしの腕にキスを繰り返す市井ちゃんの顔を見つめていると、
だんだんと、込み上げてくるものが抑え切れなくなってくる。

220 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時39分47秒

「…いちーちゃん」

昂ぶって荒くなっている呼吸を飲み込みながら、やっとそう呟くと、
市井ちゃんはあたしの腕から顔を離す。でも、手首は掴んだままで、
あたしの身体を自分へと引き寄せると、反対の手で頬に優しく触れ、
ゆっくりと唇をあたしの唇に重ねた。
何日か振りの市井ちゃんの唇の感触に、頭の奥が痺れる様な感じを覚えて、
そして、市井ちゃんへの愛しさで胸がいっぱいになってまた泣きそうになってしまう。

…市井ちゃん、大好きだよ。

その想いを込めて、市井ちゃんの背中に回した腕にギュッと力を込める。
もっともっと、市井ちゃんのことを感じたかった。もっと深く市井ちゃんを感じたい。
少しだけ開かれた市井ちゃんの唇の隙間から自分の舌を滑り込ませて、
市井ちゃんの舌に触れさせた。その瞬間、あたしの胸の奥の方から熱い想いが
込み上げてきて、腕に更に力が入ってしまう。
だけど、そんなあたしに応える市井ちゃんのキスは、優しいままで、
髪や背中を撫でられる心地よさに、段々とうっとりしてくる。
そして、いつの間にかあたしのほうが、市井ちゃんの舌の動きに応える側に変わっていた。



221 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時40分23秒


市井ちゃんは、唇を少し浮かしてあたしの下唇を優しく舐めると、
もう一度軽くチュッとキスして、顔を離した。
あたしは頭がボーっとしたままで、まだ余韻から抜け出せない。
だけど、このまま離れてしまいたくなかった。
だから、市井ちゃんの首に腕を回して、喉下に顔を押し付けて抱きついた。
小さな子供みたいにギュッとしがみつくあたしの頭の上で、
市井ちゃんはフッと小さく笑うと、髪と背中を優しく撫でてくれる。

「…市井ちゃん、ごめんね。後藤、ガマンできなくて」

「…まぁ、後藤が素直に言うこと聞くわけないって思ってたけどね」

「…そんな事…ないもん」

「いーや、そんな事ある。後藤は人から『こうしなさい』って言われても
イヤだと思ったら、自分の意志を曲げないとこがあるからね」

「…市井ちゃんに言われたら、ちゃんと言う事聞くもん」

「ウソつけ、現にこうやってウチに居るじゃんか」

「……それは、だってさ…」
222 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時41分34秒

いじけるあたしを見て微笑む市井ちゃんと目が合う。
その目が優しすぎるから、再び胸が甘く締め付けられて、
市井ちゃんの目を見つめたまま、静かに顔を近づけてもう一度唇を重ねた。

二回目のキスは最初のキスよりも積極的で、あたしは段々と市井ちゃんへと身体を預けて、
唇が市井ちゃんの首筋に移る頃には、市井ちゃんの身体は完全にソファに沈められていた。
顎のラインにキスをしながら、市井ちゃんのシャツのボタンをはずしていると、
市井ちゃんはあたしの肩を押し返して身体を離させた。
「どうして?」と、少し身体を起こして市井ちゃんの顔を見る。

「…ダメだよ…ここから先は、テストが終ってからだよ。」

「…うぅ〜、いいじゃんかぁ…ごとー、もうガマンできない…
欲求不満で勉強なんか手につかないよ」

「…欲求不満って…後藤が勉強しないのはそのせいだけじゃないだろ」

「そ、そんな事ないもんっ」

「はいはい、もう分かったから、今日は家に帰って勉強しなさい」

「……いちーちゃんのケチ」

「…あのなぁ」
223 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時42分21秒

なんだよぉ…市井ちゃんがあんなエッチなことするから、興奮しちゃって
ガマンできなくなったんじゃんか…
ちゃんと責任とってくれないとダメだよ…。

市井ちゃんが、よいしょって起き上がろうとするから、あたしも体を起こすしかなくて、
ソファに座りなおすと、わざとボスッと音を立てて荒っぽく背中をもたれさせた。
むすっとした顔で、無言の抗議をしているつもりなのに、市井ちゃんはそんなあたしを
ニヤニヤした顔で見ている。

う〜…なんでそんなに余裕なんだよぉ…

なんか、そのニヤニヤ顔、ちょっとやらしいよ?
欲求不満なのは後藤だけじゃないんでしょ?



224 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時42分54秒



…そうだ、いいこと思いついた。
市井ちゃん、ちゃんと責任は取ってもらうからね…。

「ね、市井ちゃん?」

「ん?なに?」

「あのね、もし今度のテストの成績は良かったらご褒美くれる?」

「えーっ…ご褒美ぃ?」

「ごとー、なんか目標ないと頑張れないもーん」

「…んー…そうだなぁ、もし学年の順位が前のテストの時より、20番以上上がってたらいいよ」

「よ〜し、今の言葉、もう取り消しは聞かないからね!」

「おっ、おう、…ま、かなり頑張らないとダメだとは思うけどね」

市井ちゃん、無理だと思ってるな。
でも、いつも上位にいる市井ちゃんはわかんないのかな。
上位で20番順位を上げるのはかなり難しいけど、あたしがいるところから20番上げるのは、
がんばれば、何とかなる……はず。

市井ちゃん、後悔しても遅いよ。
後藤が本気を出したときの実力を思い知らせてやる!!




225 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時43分41秒






そして、テスト終了後…
テストの結果が返ってくると、あたしはすぐに市井ちゃんのところへ直行した。


満面の笑顔のあたしと、何か嫌な予感をすでに感じ取って落ち着かない市井ちゃん。


「いっちーちゃん♪テストの結果、どうだった?」

「……まぁまぁ、ってとこかな…」

「ふーん、そっかぁー」

「……」

「…ん?後藤のテストの結果はどうなのか聞いてくれないの?」

「…聞いて欲しい?」

「うん!」

「…ハァ……で、そっちはどうだったの?」

226 名前:プライベイト 投稿日:2001年11月01日(木)21時44分26秒

「むふふ…いちーちゃん、ご褒美くれるって言う約束は忘れてないよね?」

「……言っとくけど、そんな高いもん買えないぞ」

「えーっ、高いとか安いとか、そんなんじゃないよー。
っていうかぁ、お金なんかじゃ買えないものだよ。
後藤、テスト期間中、もうこれが欲しくて欲しくて、たまんなかったんだよね」

「……」

「…後藤が欲しいご褒美って、何か分かる?」

「……何となく…」


市井ちゃんと約束をした日、ご褒美に何が欲しいのか聞かれたんだけど、
その時になったら考えるってはぐらかしていた。
だけど、ホントは最初から決めてたんだよね。
後藤のこと、欲求不満にさせた責任は取ってもらうって。


「今度は市井ちゃんが、がんばる番だからねっ」

「……」





   end.



227 名前:作者 投稿日:2001年11月01日(木)21時46分07秒

『プライベイト』でした。


>>208-210さん
ありがとうございます。
けな気で一途なごまの想いが報われるようにしてみたんですけど、どうでしょうか?

それでは。

228 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月01日(木)22時09分16秒
報われすぎ!(笑)
市井ちゃんの顎のラインにキスできるごまが羨ましいよぉ(笑)
229 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月01日(木)22時21分16秒
はぁ、もう最高。
ご褒美は省略ですか?(w
230 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月02日(金)01時29分15秒
んー、ご褒美じゃなきゃ、後藤は市井に
頑張ってもらえないのかな?
231 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月02日(金)21時28分45秒
・・・至福。この描写がたまらなく好きです。
232 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月03日(土)03時35分15秒
ブラボ〜!!(w
233 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月10日(土)03時04分13秒
世知辛い世の中。
こんな時だからこそ甘いいちごまが読みたいのです。
234 名前:作者 投稿日:2001年11月17日(土)21時58分57秒
>>228さん
ちょっとサービスしすぎでしたか?
でも、どうしてもごまには甘くなってしまうのです。
市井ちゃんも、作者も(w

>>229さん
省略…出来ませんでした(w

>>230さん
ん〜、そういうわけではないんですけどね。
ご褒美っていうのは、焦らされた分いつもよりも…
という意味だと思います(w

>>231さん
ありがとうございます!
かなり悩みながら書いてるんで、そう言って頂けると嬉しいです。

>>232さん
ありがとうございます。
続き編は、前回よりもほんの少しだけ詳しく(そして甘めに)書いたつもりですが…
どうでしょう?

>>233さん
有難う御座居ます。
私の様な者の駄文が皆様に喜んで頂けるなら…
世知辛い浮世に“甘いちごま”を。



という事で、続き書きました…。
「プライベイト (ご褒美編)」
235 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)21時59分38秒


“ご褒美くれるって言う約束は忘れてないよね?”

ほんの数時間前、確かに後藤は得意気に満面の笑顔であたしにそう言った。
後藤の言う約束を忘れるわけが無かった。
忘れるどころか、テスト中も実は頭の隅にずっとそのことが引っかかってて、
何度もふとした瞬間に、あたしから約束を取り付けたときの、後藤がたまにしか
見せないやる気に満ちた顔を思い出してしまうほどだった。

そして、後藤がその“ご褒美”を得るために、どれほど慣れない努力をしたのかは
わからないけど、その貴重な努力が報われてここに――
あたしの部屋に今こうして、後藤はいるのだ。


236 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時00分37秒


学校帰りで制服姿のままの後藤は、あたしが寝転んでいるベッドにもたれて、
カーペットの上に座っている。

あたしは、仰向けになって雑誌を読む振りをして、ベッドの下にいる後藤の様子を
横目で伺う。
顔の前にある雑誌から垣間見えるのは、後藤の後姿。
その手にはテレビのリモコンが握られていて、チャンネルを次から次へと変えていっている。
面白そうな番組が無いのか、それとも初めからテレビを見る気なんて無いのか…
どう見ても、テレビに集中している様子じゃない。

なんで、後藤がそんななのか。

…その理由は分かってるんだけど。
今後藤がテレビの画面を睨んで何を思っているのかも大体予想はつく。
『市井ちゃん、いつになったら…』
とか。または、
『市井ちゃん、忘れちゃったの?』
とか…そんなトコだろう。

237 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時01分30秒

いや、別にご褒美を上げないつもりじゃないんだけどね。
確かに、後藤は勉強がんばったし。(その理由がどんなに不純な動機であれ…)
その、『ご褒美』が何を指してるのかもわかってます。

だけどさぁ…だけど、なんつーの?
なんか今回のテストことは、結局は後藤の思うツボって感じがして、
ちょっとおもしろくないっつーか、……悔しかったりすんだよね。
それに、自分だけが我慢してたみたいに思い込んでるみたいだけど、あたしだってさ…
…やっぱ、自分から言い出したことだからと思って、自分を抑えて抑えて、顔にださない
ように頑張ってたのにさ…。

だから、実は後藤があたしの家に突然来たとき、あたしはこんなに我慢してるのになんで、
って思った裏では、後藤のほうからあたしに会いに来てくれた事がめっちゃ嬉しかったり
したんだけど。
後藤が待ちきれずに会いに来ちゃったんだから仕方ないって、自分に言い訳して、
キスまでしちゃったし。

238 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時02分27秒

それで、はずみがついた後藤に押し倒されたりもしたわけだけど。
それは、年上の余裕で軽くかわして、「テスト終るまで我慢しなさい」と言い聞かせた。
…本当は自分もこのままいっちゃってもいいかなぁ、って思ってたくせに。

なのになんで、それをしなかったかと言えば…
…それは、あそこがリビングだからだった訳で、家族が帰ってきたら絶対に通る場所で、
そして、もうすぐ母親が家に帰ってくる時間が近かったから。
年上の余裕を装って、泣く泣く久々の後藤との…を諦めたのに、
なのに後藤のやつは、あたしの事をケチ呼ばわりして、その上テストの成績が
良かったらご褒美くれとか言いやがって…
あたしだって、我慢してたっつーの。
何で後藤だけが我慢して頑張った事になってるのよ?


だから、納得がいかないあたしは、後藤がこの部屋に来てからも、
こうやって、ご褒美の事には触れないでわざとらしくベッドに寝転んで、雑誌を読んでるわけだ。

239 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時03分12秒

後藤はあたしがそんな事を考えてなるなんて思ってないみたいで、
時々あたしの事をチラリと振り返って、ソワソワしている。

う〜ん、後藤のヤツ、あくまでもあたしから声かけるのを待ってるつもりだな…。
自分から言い出したんじゃ、意味ないと思ってるとか?
いや、別にこのまま後ろから抱きしめて後藤をその気にさせちゃっても、
「こっちにおいでよ」って囁いて、ベッドに誘ってもいいんだけどね。
でも、なんか面白くなってきたから当分じらして楽しんじゃおーっと♪


そうと決めたからには、ただこうやって後藤の後姿を雑誌の陰から盗み見してるだけじゃ
物足りない。
そうだなぁ〜…とりあえず…

240 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時03分57秒

「後藤、まだ時間いいの?門限あるんじゃなかったっけ」

なんて、ちょっと意地悪く聞いてみる。
後藤はあたしのその質問に、前を向いたまま、つまりはあたしに背中を向けたまま
いつもの間延びした声で答える。

「ん〜、平気だよ。こないだのテストの成績が良かったから、お母さん機嫌がいいんだよね。
……それに、まだそんな時間じゃないじゃん…」

いつもどおりの口調で答えてはいるけど、何気にテストの事持ち出してくるあたり、
やっぱり焦れてるんだろうな。
でも、ちょっとわざとらしかったかな。
後藤の言うとおり、まだ家に帰る時間じゃない。
外は明るいし、夕方というにはまだ早い時間帯だもんね。
まぁ、ワザとらしいのを承知でこんな事聞いてんだから、いっか。

「ふーん、そうなんだ」

さらにワザとらしく、そっけない感じで返事をしてみる。

241 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時04分49秒

「……うん」

あたしのそっけない返事に、そろそろ平気な振りをしてるのも限界に近づいてきたのか、
後藤の背中は、なんとなくしょぼんとしてきたように感じる。
膝を抱えるように座りなおして、抱えた自分の膝にあごを乗っけて、
テレビを見ている後姿がかわいくて、ニヤニヤしながらしばらく観察する。
後藤は、そんなあたしの顔は見えてないから、いくらニヤけてても気付かれる事はない。

しばらくすると、後藤は膝を抱えたまま、カーペットの編目を指でイジイジし始めた。

…かわいい。
これはもう、落ちるのは時間の問題かな…?





242 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時05分30秒



それから約10分経過。

とうとう、ついに、後藤は我慢しきれなくなったらしく、カーペットをいじる自分の
手元を見つめたまま、ボソッと呟いた。

「…市井ちゃん…、ご褒美の事、忘れてるわけじゃ…ないよね?」

忘れてるわけ無いじゃん。
それどころか、その事をネタに今まで楽しませてもらったし。
…だけど、もうちょっとだけ楽しませてもらうよん♪

「んー?忘れてるわけじゃないんだけどさぁ、後藤、何が欲しいかハッキリ言わないじゃん?
だからずっと考えてるんだけど、分かんないんだよねー」

「……うそだよ…絶対にわかってるんだよ、市井ちゃん」

「いっや、マジでわかんないんだけどぉ」


243 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時06分10秒


自分が主導権握ってるのって、何でこんなに気分いいんだろ。
なんか、後藤があたしの言う事にいちいち拗ねてるのがかわいくて
やめられなくなってきた…。

後藤は「もういいよっ」と怒って言って、またテレビのリモコンを持つと、
テレビを見始めた。

ちょっとやりすぎ…?
とは思ったけど、意地でもあたしから折れるわけにはいかないから
こっちも再び後藤観察を続ける。


244 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時06分59秒


さらに、10分経過…

やっぱり、我慢できなかったのは後藤だった。


今度は顔と身体をベッドに向けて、腕だけベッドの上に乗せて、
「もぉーっ」とうなりながら、眉間にしわを寄せて、あたしを睨んでくる。
それでも、あたしが雑誌を見たままでいると、泣きそうな声であたしの名前を呼んだ。

「…市井ちゃーん」

「ん〜?」

「…ねぇ」

「なにー?」

「…だからぁ」

「なんだよ」

そっけない態度のあたしに、我慢が限界まで来た後藤は、何かグズグズと言いながら
手を伸ばして、あたしのシャツの裾を持って、引っ張り始めた。

245 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時07分53秒

だけど、あたしはそれでも雑誌から目を離さずに寝そべったまま。

…っつーかさぁ、後藤がそんな泣きそうな声で、そういう事をするからさぁ…
ツボにはまっちゃって、なかなかやめられなくなるんじゃん。
後藤が何を待ってるのか分かってるだけに、思いっきり焦らしたくなっちゃうんだよね。

デパートのおもちゃ売り場で駄々をこねる子供よろしく、今にも泣きそうな顔と声で
ぐずりながらあたしのシャツをひっぱる後藤。
子供におもちゃをねだられる親は困惑するか、怒るかしかないだろうけど、
今のあたしは困るどころか、後藤のことがかわいくて仕方ない。
…ねだってるものが、モノなだけに…。

にやけそうになる顔を何とか我慢して、まだしつこく、しらばっくれるあたし。

しかし、ちょっと調子に乗りすぎてしまったらしい。
後藤が、いつまでも我慢してあたしのことを待ってるわけが無いのは、
今回のことで思い知ったのに。
限界を通り越した後藤が、予想もつかない行動を起こすことは知ってるつもりだったのに…。

246 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時08分32秒

ベッドの下から手を伸ばしてあたしのシャツをひっぱっていた後藤は、
「むぅ〜」っと短く唸ると、シャツから手を離して立ち上がった。
そして、おもむろにベッドの上に乗ってきて、そのまま、仰向けで雑誌を読んでる
あたしのお腹の上に馬乗りになった。

「ぐえっ」

突然の後藤の攻撃に、情けない悲鳴を上げて、ゴホゴホと咳き込んでしまう。
咳き込むあたしを見て、後藤は悪びれもせず口をキッと結んで、あたしを見下ろす。

「なっ、なにすんだよ!」

雑誌をベッドの下に放り投げて、取り合えず上半身を起こそうとする…けど、
後藤がお腹の上に乗っかってるから、背中が少し浮いただけで、すぐに元に戻った。
しかし、負けずに「どけろ」と後藤を睨んで見るけど、反対に睨み返されてしまう。
その後藤の視線に怯みながらも、でもちょっと怖かったから遠慮気味に抗議する。

247 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時09分21秒

「ちょっと…取り合えず重いから降りてくんないかな…?」

「やだ。市井ちゃんが意地悪するからいけないんだもん」

「意地悪なんかしてない…」

「したもん!」

言い訳なんて許さないというように、あたしの言葉をぴしゃりと跳ねつける。
やばい…さすがにやりすぎたかな?
普段、穏やかで滅多に怒ったりしないヤツがキレるとコワイって言うけど…
まさに、後藤がそれだよな…。
その上、後藤はのんびりしてる割には、相当頑固で言い出したら聞かないとこがある。
でも、あたしだってそう簡単に折れるわけにはいかないもんね。

「…してないって」

「したもんっ、知ってるくせに知らない振りした」

「だって、ホントにわかんないんだもん」

248 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時10分18秒

後藤の迫力に、実はびびっているのを顔に出さないように、
あくまでも、とぼけて返事をする。

「…ウソだね…後藤のことからかって面白がってるんでしょ?」

「なに言ってんの?んなわけないじゃん」

…いや、ごめん。本当は後藤の言う通り当たってるんだけど。
だけど、顔には出さないで真面目な顔と声で否定する。
あたしの作られたマジな顔に、後藤の勢いも段々と弱まってくる。
しっかし、後藤…あたしが言うのもなんだけど、人のこと簡単に信じすぎだよ…。
でも、そういう素直な所が、かわいいんだけど。

後藤は、そんな風に自分のことをあたしが考えているとも知らず、すっかり
最初の勢いがなくなってしまって、困ったような顔であたしの胸の辺りに視線を
落として俯いている。

なんだか、ちょっぴり良心が痛むけど…
ここで謝ってしまったら、また後藤の勢いを復活させてしまうに違いない。

よし…もう一押し、かな。


249 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時11分06秒

「ずっと考えてたんだけどわかんないんだよね」

「…ホントに?」

「うん、ホントに」

「……」

「…分かんないから…だから、教えてよ…後藤の欲しいもの」

後藤はついさっきまでの興奮の余韻でほんのり頬を紅潮させて、
どうすればいいのか分からないというように、あたしのことをすがるような目で見下ろす。
後藤があたしを見下ろす視線と、あたしが後藤のことを見上げる視線が絡みあって、
しばらく見詰め合って、沈黙が続く。

そうしていると、今までからかっていたつもりだったのに、なんだか本気で後藤の口から
後藤が欲しがっている物が何なのか、聞きたくなってきた。

250 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時11分58秒

「…ねぇ、後藤…教えて?」

「……」

…なんだ?
なんか、ちょっとエッチっぽい聞き方になってしまった。
いつの間にか、妙な空気になってきたし…。

後藤、なんか言えよ。
あたしは、かわいさあまってちょっと意地悪してみたくなっただけなんだよ…
決して、本気でいじめてたわけじゃないんだよ…。

だから、そんなウルウルした目で、あたしの事見ないでよ。
そんな目で見つめられたら…



…もう、いいや。…もうこのままいっちゃえ。
あたしだっていつまでも我慢してられないもん。



251 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時13分13秒

あたしの身体を跨いで、短めのスカートから除いている後藤の片膝にそっと触れてみる。
後藤はピクッと体を揺らして、反応する。
そして、何か言おうと唇を少し開いたけど、思いが言葉にならないらしく後が続かない。

そんな後藤を促すように、膝に触れていた手を少しずつ上に動かしていく。
でも、それ以上は何もしないし(それで充分な様な気もするけど)何も言わない。
あくまでも、『後藤から』じゃないと、続きはしないつもり。

そして、後藤はあたしが期待していた通りに動いてくれた。

後藤がゆっくりとベッドの上に両手を着くと、ベッドがギシギシと音を立てて軋む。
後藤の吐息があたしの顔にかかるまでに近づいて、
それでもあたしは後藤の目から視線を逸らさずに、
後藤が目を閉じるまでその瞳を見つめていた。

触れるだけのキスを何度か繰り返して、後藤はあたしから離れた。
ついさっきまで感じられていた後藤の体温が不意に消えて、目を開ける。
身体を起こした後藤の顔へと視線を向けると、後藤はあたしの事を普段は見せない
真剣な目で見つめていて……


252 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時14分37秒



……と、ここまではまだ、あたしが思い描いていた通りだった。
あまりにも自分の思い通りに事が運ぶから、忘れる所だった。
時に、後藤はあたしの予想のつかない行動に走ると言う事を。
そして、結局は自分の欲しいものを手段や順序がどうであれ、手に入れてしまうって事を。




後藤はあたしから視線を逸らすと、何の躊躇もなく、着ていたブレザーを脱ぎだした。
突然のその行動に、「ちょっと待てよ」と焦りつつも言葉にならなくて、
ただ唖然として見ていることしか出来ない。
後藤はブレザーをベッドの下に投げると、当然のように自分のシャツのボタンをはずし始めた。

「ちょっ、後藤…」

あたしがやっとひと言、声を上擦らせてそう言うと、後藤は一瞬あたしへと視線を向けただけで、
特に気にすることなく、シャツのボタンをはずし続ける。

そして、シャツのボタンをすべてはずし終えると、一旦手を止めて何か考えているような
素振りで動きを止める。
そして数秒後、後藤の視線があたしへと定まり、見詰め合う。
嫌な予感を感じて、「ヤバイ」と思ったときにはもう遅かった。

253 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月17日(土)22時16分15秒

あたしが身体を起こそうとするより早く、後藤の手はあたしの襟元へと伸びて、
今度はあたしのシャツのボタンをはずしにかかる。

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って、後藤っ」

後藤の腕を掴んで、抵抗を試みる。
途中で手を止められた後藤は、「なに?」と自分の手元からあたしの顔へと
不満そうに視線を移す。

「…いや…あの…」

「ん?どしたの」

…後藤、なんか…いつもと違う。…ちょっとコワイよ…。
いや、コワイって言うか、迫力があるっていうか…
いつもの、ホワンとしたマイペースな後藤じゃない…。

そして、そう感じるのも、このアングルから至近距離で目の前に見える、
シャツの前をはだけて前かがみになってる後藤の姿が
刺激的過ぎるせいに違いない…。


254 名前:作者 投稿日:2001年11月17日(土)22時17分19秒


……。

次回、後編に続く…。




255 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月18日(日)02時29分05秒
こんなところで止めるなんて・・・
いちーちゃん、やり過ぎはダメですぞ。
ごとうさんが暴走特急になる予感・・・
マジで面白いっす!
256 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月18日(日)02時57分03秒
なんとなく今日辺り更新してる予感がして来てみたらホントにしてた!ビクーリ
そろそろ読みたい時期だったんですよね・・
続き期待です。ガムバッテきほし
257 名前:名無し 投稿日:2001年11月18日(日)05時24分14秒
こんなところでキルなんて、毎回焦らしてくれますね(W
続き楽しみに待ってます。
258 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月18日(日)12時53分22秒
どこまでも目にすぐ浮かぶ、さりげない描写なのがすごい。
259 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月19日(月)14時32分45秒
いじめっ子いちーちゃん(w
260 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月20日(火)01時52分11秒
正直、続きが気になって眠れないんだが・・・
261 名前:作者 投稿日:2001年11月20日(火)21時19分39秒

>>255さん
ごま暴走特急は…ならないかも(w

>>256さん
256さんは勘が鋭い方なのか、
それとも、ふたりが通じ合ってるからなのか(ポッ
今回の更新はどうでしたか?

>>257さん
ごめんなさい。
焦らすの好きなんです(w
焦らしてしまった分、期待に応えられていれば良いんですが…

>>258さん
ありがとうございます。
こういう感想いただけると、純粋に凄く嬉しいです。

>>259さん
ヨソでは優等生なんですけど、
ごまの前ではいぢめっ子になったり、甘えんぼになったり(エッ
…なんですよ。

>>260さん
…ゴメンネ
これでゆっくり眠れるでしょうか?



では、後半です。
262 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時20分34秒


二人の動きが止まって、数秒間の沈黙が流れる。

後藤の胸元に釘付けになって…いや、後藤の迫力に押されて、
何も言えないでいるあたしにしびれを切らして、後藤は再びあたしのシャツのボタンを
はずし始めた。

おそらく、後藤のスイッチを入れてしまったのはあたしなんだろうけど…

あたしの思惑では、後藤があたしにキスしてきたら体勢を入れ替えてそのまま…
ってはずだったのに…。
まったく、いつも後藤は急なんだから。

あたしは後藤の勢いに押されて、されるがままになっていた。
…といっても、シャツのボタンをはずされてるだけなんだけど。


ボタンがすべてはずされてシャツの前を開かれると、肌が直接外の空気に触れて
涼しさを感じる。
あたしは、自分の身体を見下ろす後藤の視線に耐えられなくて、
顔を後藤から横に逸らした。


263 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時21分29秒


「…なんか市井ちゃん大人しいね」

「…だって、抵抗したって無駄なんでしょ?」

「まぁ、そうなんだけど…」


後藤の問いかけに、顔を横に逸らしたまま、ちょっとぶっきらぼうに答えた。
後藤はあたしのわき腹の辺りに指先で触れて、スーッと上に滑らせる。
後藤が触れた場所からゾクゾクする感じが広がって、小さく息を呑んで、
声を漏らさないように、唇をキュッと噛み締めた。

「…市井ちゃん」

「……」

小さく名前を呼びかけられても、後藤があのまっすぐな目であたしの事を
見つめていると思うと、なぜだか分からないけど、少しこわくて、
返事をすることも、後藤を見ることも出来なかった。

そんなあたしの事を、しばらく見つめていた後藤は、あたしの体を見下ろしたまま呟いた。


264 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時22分19秒


「…市井ちゃん…イヤ?」

後藤のどこか寂しそうな声に、ハッとして、逸らしていた視線を後藤へと向けた。
あたしを見下ろす後藤の顔は、さっきまでの強気な表情がすっかり消えて
不安そうで、そしてすこし悲しそうにも見える。

「…なに…?…急に…」

後藤のその不安そうな表情は、あたしにまで伝染する。
どうしてそんなに急に、不安そうな顔になるの…?
さっきまでは憎らしいくらいの自信満々な顔だったのに。
なんであたしが顔を逸らしたくらいで、急に不安になるんだよ。
なんで、そんな事、聞くんだよ…

「だって、…なんか、イヤそうな顔してる。後藤の顔見てくれないし」

「それは…」

265 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時22分56秒

それは、イヤなんじゃなくて…
後藤の顔をまともに見られないのも、そうなんじゃなくて。
ただ、…後藤があたしの事をまっすぐに見つめる目が、あまりにも真剣で、
後藤の心の中をそのまま映してるように感じるから、
あたしはまだ、それを受け止める準備が出来てなくて、だから…

言葉に詰まるあたしに、後藤はさらに不安そうな目であたしのことを見つめる。

「…イヤなら、…したくないなら、ちゃんと言ってよ」

「……」

もちろん嫌なわけなんてないんだけど。…っていうか、逆に――
でも、それを口に出して言えって言われて、堂々と言えてたらこんな展開には
なってないって…。

266 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時23分38秒

自分の気持ちをどうやって説明すればいいのか分からずに、
ただ黙っているあたしの態度を、後藤は拒否の表れと取ったのか、
一瞬、泣きそうに眉をひそめると、あたしにその顔を見せまいとしてか顔を横に逸らした。
そして、
「もう、いいよ…」
と、小さな声で呟いて、膝立ちになってあたしのお腹から離れると、
そのままベッドの足元の辺りへと移動して、ちょこんと座って俯いている。
俯いたまま何も言わなくなってしまった後藤。

あたしも、起き上がって後藤と向き合うように座ると、再びいじけ始めた後藤に
どうやって誤解を解いたらいいのか、考えるんだけど、思いつかなくて、
黙っているしか出来ない。

さんざん後藤の事からかったから、いじけ癖がついちゃったかな。
…やっぱり、あたしがそれを言わなきゃ収まらないってわけか…悔しいけど。
でもさ…なんて言ったら良いのかな?
こういうのって苦手なんだよ、あたし…。
後藤みたいに思ってること、そのまま口に出せる性格が羨ましい。

267 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時25分01秒

黙って思い悩むあたしの態度に、後藤はもう待てなくなったのか、
はだけていたシャツの前を合わせると、ボタンを留め始めた。

「いっ、イヤじゃないよ!」

その後藤の行動に焦ったあたしは、慌てて声をかけて止めさせる。
…だって、ここまでしといて、それは無いでしょ…

あたしの言葉に、取り合えず手を止めた後藤は、次の言葉を待って
ジッとあたしの事を見つめる。

どうしよう…そうは言ったものの、その先のことを考えてなかった。
でも、このまま黙ってたら、また後藤はいじけちゃうんだろうし。

「…イヤじゃないよ」

「……」

「後藤…?」

「…イヤじゃないなら、ちゃんと言ってよ…分かるようにちゃんと言葉にして言ってよ」

268 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時25分54秒

言葉にして言えって…
…それが、あたしは出来ないから、こんな事になってるんじゃんか。
後藤の視線が、痛いよ。
あたしが言わなきゃ、許してくれそうに無いみたい…。



「…だから…我慢してたのは、後藤だけじゃないよ…
あたしだって…ずっと、後藤のこと……我慢してたよ。
…けど、自分が言い出したことだからさ……
だから、嫌なわけないよ…うん…」

……恥ずっ
さすがに、面と向き合って座ってこんな事言うのは、恥ずかしすぎる…
…後藤、なんか言えよぉ。
あたしにはこれが限界っす。精一杯っす…。

頑張って後藤の顔を見ながら言ったけど、自分の顔に血が上って、
赤くなってくるのが分かって顔を上げていられなくなる。


269 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時26分41秒


「…ホントにそう、思ってた?」


正面から聞こえる後藤の小さな声。
さっきよりも、緊張や不安そうな感じは和らいでいて、いつもの甘えるときの声だ。
そして、後藤はその蕩けるような甘い声のまま、さらにあたしを追い詰める…
ハァ…。


「…じゃあさ、もうテスト終ったんだから、我慢しなくてもいいんだよね…
あたしも、市井ちゃんも。…それに、約束した事、守ってもらわないと…」

「……ぅん」

…ここでそれを持って来るか…。
まだ忘れてなかったんだ……、忘れるわけ無いか…


270 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時27分29秒



「…市井ちゃん」

後藤は座ったままあたしとの距離を縮めると、両手であたしの右手を握る。

「…こないだ我慢して途中で止めちゃったじゃん?…だからさ、…」

…だから、この間の続きを…、ってことですか?
後藤があたしの手を握る手に少し力を込めたのを感じて、思い出す。
そうだ、あの時は何だか後藤がフニャフニャになってて、あたしは余裕でいられたのに。
でも、後藤に強く出られると、どうしてもあたしの方が弱くなっちゃうんだよな…

もう、こうなったら…名誉挽回?汚名返上?…なんだっけ、どっちでもいいや。
とにかく、年上の威厳を取り戻さねば…。

あたしの右手を握っている後藤の手の上に、ぎこちなく自分の左手を重ねて、

「…じゃあ、この前の続き、しよっか?」

あぁ、とうとう言ってしまった。
っていうか、言わされた事になるのか、この状況は…。

271 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時28分11秒

あたしの言葉に、無言でコクッとうなずく後藤。

ここで、次の行動に移らなければ、またさっきの二の舞になってしまう。
焦れた後藤に押し倒されて、そのまま最後まで…なんてことになりかねない。
いや、別にそれが嫌なんじゃないんだけど、今日ばかりはそれじゃあ自分が納得できないんだよね。
今日は、あたしがリードする事に決めた。




後藤の手に重ねていた自分の左手を離して、震える指先で後藤の肩に触れる。
そして、顔を近づけて、その唇にキスを。
あたしの右手をグッと握っている後藤の手を握り返して、肩に触れていた手を
後藤の髪へとそっと触れさせた。
柔らかくてさらさらな手触り。
後藤には言った事はないけど、めちゃめちゃ好きなんだよね。
久々のその手触りを堪能しながら、後藤の額や頬にキスを繰り返す。
すでに後藤の顔は、上気して赤くなって、目は潤んでトロンとしてきた。

後藤の蕩けきった表情と、熱っぽくなってきた呼吸は、
確実にあたしの心拍数を上げさせて、気持ちを昂ぶらせる。

272 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時28分50秒

前がはだけた後藤のシャツに手を伸ばし、ゆっくりと脱がせていく。
そして、後藤の下着を外すために背中に両腕を回すと、
後藤もあたしのシャツの裾から手を差し入れて、下着に手をかける。


お互いの服を脱がせあって、ベッドに倒れ込んで、後藤を組み敷いた。

後藤は下からあたしの背中に手を回して、自分へと抱き寄せてその腕に力を込める。
あたしは後藤に自分の体重があまり掛からないように、後藤の顔を挟んで肘を付いて
前髪の上から額に唇を落とした。
そして、自分の額を後藤の額に合わせて、見詰め合う。

一番近い距離で見詰め合って、後藤の瞳から目を逸らせなくて、
あたしは息をするのも忘れるほどだった。
胸が苦しいのは、そのせいだけじゃないと思うけど、それに耐えられない訳じゃないけど、
ゆっくりと目を閉じて、後藤の唇に自分の唇を重ねた。

273 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時29分32秒

柔らかく重ね合わせるだけのキスを何度も繰り返す。
徐々に胸の奥から込み上げてくる高揚感に同調して、キスも激しくなってくる。

身体の下の、後藤の胸の膨らみに手を添えて、ゆっくりと上下に動かすと、
唇を塞がれている後藤は、鼻から吐息を漏らして反応する。

後藤の声が聞きたくなったあたしは、唇を開放して、首筋から胸元へとキスを続ける。
でも、胸に添えられてる手はそのままに。

「…ふっ…ん…」

…後藤、もっと声聞かせてよ。
あたしだけには、後藤の全部を見せてよ。

274 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時30分08秒

後藤の全部が欲しいって、思えば思うほど、なぜか胸は締め付けられて苦しくて。
さっきあたしが付けたはずの、後藤の胸の赤い跡が、
今はもう色が薄くなり消えかかっている事にも切なくなる。

後藤の身体に印をつけることが、それほど意味があることだとは、
思っていなくても、こうやって後藤と肌を重ね合わせる度に、
あたしは無性にそれをしたくなる。
いつもは、少し後ろめたくて我慢するんだけど、今日は後藤に我慢しなくてもいいって
許しをもらってるから、…いいかな。

唇を後藤の胸元に移して、少し強めにその肌を吸い上げた。

「…んっ…」

「ゴメン、…痛かった?」

顔を上げて、後藤の顔を覗き込むと、後藤は「大丈夫」と首を横に振った。
もう一度「ごめんね」と呟いて、後藤の胸元へと視線を移すと、
あたしが口付けた場所は、ポツンと赤く色づいていて、今まで付けたどの跡よりも
濃い赤色をしていた。

275 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時30分48秒

後藤は、自分の胸元を見ながら、赤くなっている場所を指でなぞって、

「…キスマークだ…」

と、呟いて、あたしの顔を見上げた。

「…ごめん…跡付けちゃったね」

キスマークなんて、つけようと思ってしないと付かないのに、
そんな事言ってる自分に恥ずかしくなってくる。
後藤のまっすぐな視線を受け止められなくて、自分がつけた胸元の赤い跡を
見ながらそう言うと、後藤はスッとあたしの頬に手を添えて、顔を上げさせる。

「あやまんないでよ…なんか、嬉しいもん。
 …後藤は市井ちゃんのモノって印みたい」

「……」

…なんだ
あたしが考えてた事、後藤にはお見通しって事…?

276 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時31分28秒

「あ、でも…ずっと前から、後藤の身体も心も、全部市井ちゃんの物だけどさ…」

「……」

…とどめのひと言。
そんな事言われたら、もう嬉しくて感動しちゃって、なんにも言えなくなっちゃうよ…。
愛しいって正にこういう気持ちだ。
後藤をギュッと抱きしめて、もう離さないってくらいに強く抱きしめて。
そのままずっと、あたしの腕の中に閉じ込めていたいよ。




「ねぇ、市井ちゃん?…後藤も市井ちゃんに、していい?」

下から首に腕を回しながら、熱っぽい瞳と声でそう言われて、
一瞬、ドキッと大きく心臓が波打って苦しくなる。
それでも、何とかコクリとうなずくと、後藤はあたしの身体を引き寄せて、
鎖骨の下辺りに唇を合わせた。

277 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時32分06秒

チリッとした痛みが走って、後藤の唇が離れる。
後藤の腕の力が緩んで、あたしは手を付いて上半身を起こしてさっき後藤が
キスした場所を確かめた。
少し見辛かったけど、自分の肌に赤い跡が付いてるのが分かった。

…でも、この位置はちょっと…

「…ボタンあけてたら、見えちゃうよ。…これじゃ」

困り顔で後藤を見る。
後藤は、そんなあたしにも悪びれずに、嬉しそうな顔であたしを見上げている。

「だって、ワザと見えるトコにつけたんだもん…」

「…マジで?」

「今まで後藤に意地悪したバツだよ」

「……」

得意気にそう言って、微笑む後藤はめちゃめちゃかわいくて。
文句のひとつでも言ってやろうと思ってたのに、どうしても頬が緩んでしまう。

278 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時32分47秒

「…あれ?怒んないの?」

「ん…明日になったら、消えてるかも知れないし」

「そーかなぁ…」

今度は少し寂しそうな顔で、あたしの肌に残ってる自分のキスの跡を見つめる。
あたしの言葉一つで、くるくると表情を変える後藤。
またあたしが何か言えば、かわいい顔で応えてくれるんだろうけど、でも、
これ以上はもう何も言わないよ。
だって、もっと別の、あたしにしか見せてくれない顔が見たいから。


後藤の顔に近づいて、何か言いたげに薄く開いている唇を、もう何も言わせないように
自分の唇で塞いだ。



たっぷりと気持ちを込めた、長いキスを止めて、後藤の唇を開放してあげる。
後藤はただ、熱っぽく潤んだ瞳であたしを見上げる。


もう、ここから先は言葉なんて要らないよね…




279 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時33分36秒


下から首に腕を絡められて、そのまま髪をクシャっと掻きまわされる。
もうそれだけで、あたしは頭の奥がジンと痺れたようになって、無意識に
溜息をついてしまう。

久し振りだから、身体が敏感になっているのかな?
そうだとしたら、それは後藤も同じだよね?
…後藤にも、あたしの事を、今まで待たせた分、いっぱい感じて欲しいよ。


さっき付けた胸元のキスマークの上に、今度はそっと唇を触れさせて、
優しくキスしながら、後藤の身体の上を徐々に下へと下りて行く。

肋骨の上を唇でなぞりながら、右手を後藤の太腿へ這わせ、撫で上げて
その付け根に近づけていく。

溜め息の合い間に聞こえる、あたしの名前を呼ぶ後藤の甘い声と、
鼻先で香るしっとりと汗ばんだ肌の匂いは、
どうしようもないほどあたしの胸を昂ぶらせる。



280 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時34分21秒


「…あっ」

とろりと潤んだそこにあたしの指が触れると、後藤の身体はビクンと跳ね上がり、
短く声を上げて反応する。

込み上げてくる想いを抑えて、力が入り過ぎないように優しく指を往復させる。

「…っん…くぅ…」

声を上げるのを躊躇っているのか、乱れるのが恥ずかしいのか、
後藤はギュッと目を瞑り、唇を結んで、身体は力が入り硬くなっている。

あたしの前では、そんな我慢なんてしなくてもいいのに…
あたしだけには、全部を見せて欲しいのに。

それでもまだ、我慢し続けるのなら、
さっきは、言葉なんて要らないなんて思ったけど、
…あたしが、自分の気持ちを正直に言ったら、後藤も素直になってくれる?



281 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時35分30秒


「…後藤…我慢しないで、声聞かせてよ。…後藤の声が聞きたいよ」

後藤の耳に柔らかく唇を押し当てて、囁く。

そして、触れさせていただけの指を、後藤の中へゆっくりと沈めていった。

「あっ…あん…ぃち、ちゃ…」


あたしの首にギュッと抱きつく後藤は、短くて苦しそうな呼吸の合い間に、
泣いてるみたいな甘くて切なげな声を、途切れることなく、最後まで聞かせてくれた。





282 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時36分12秒



――――――




あたしの腕の中で、後藤は脱力して肩で大きく息をしながら、
身体の昂ぶりが収まるのを待っている。

出来るだけ優しく、髪を撫でてあげると、後藤はあたしの胸に額を押し付けて
さらに身体を密着させて抱きついてくる。

「…市井ちゃん、しばらくこうしてていい?」

「…ん」

後藤がしゃべると、胸に熱い息を感じて、声の振動が直接伝わってくる。
くすぐったくて、思わず腕に力が入ってしまうと、後藤は「苦しいよ〜」と
声を上げたけど、離れようとはしないし、なんだか声も嬉しそうだから、
このまま抱き締めておくことにした。

「…ずっと、こうしてたいな…」

「…そうだね」

283 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時37分26秒



あたしの胸に顔をうずめたまま、くぐもった声で後藤が言った一言に
胸が締め付けられて、短く相槌を打つだけで何もいえなくなってしまう。

だけど、あたしだけが、後藤から甘い声と言葉を聞かせて貰えて、
柔らかくて暖かい身体を抱きしめる事が出来て、こんな幸せな気持ちにさせて貰ってたら
後藤へのご褒美じゃなくなっちゃうね。


だから、これは、嫌いな勉強を慣れない努力をして頑張った後藤へのご褒美。

「あたしだってこのまま、後藤のことを抱きしめて、独り占めしてたいよ。
この部屋に閉じ込めて、誰の目のも触れさせないで、あたしだけのものにしたい。
…他の誰の事も見ないで、…ずっと、あたしだけ見てて欲しい。……」

いつだって、そう思ってるよ。
後藤が甘えた声と仕草で、あたしに触れてくるたびに。
抱き合ったり、キスしたり、肌を重ね合わせるたびに。
想いが強すぎて、苦しくなって、泣きそうになることもあるくらい。



284 名前:プライベイト(2) 投稿日:2001年11月20日(火)21時38分15秒



…でも、まだまだ後藤に伝えたい事は、他にもたくさんあって、
だけど、想いを言葉にして伝えるのが苦手なあたしは、
それをどうやって言葉にすればいいのか、思い浮かばないから、
もう、カッコつけずに一番シンプルな方法で伝えるよ…。




あたしの身体に腕を回したまま、
瞳を潤ませてあたしの事を見つめる後藤にキスをして、
もう、離さないくらいにギュッと抱きしめて、
いっぱいの愛情を込めて、そっと耳元で囁くようにひと言だけ。


「…好きだよ」



そして、あたしだけに見せてくれる、
顔を赤くして、ふにゃっと蕩けそうに、はにかんだ後藤の笑顔が、
この2週間、後藤の事を我慢した、あたしへの“ご褒美”…。











    end.
285 名前:作者 投稿日:2001年11月20日(火)21時39分20秒

  『プライベイト(2)』 でした。
286 名前:作者 投稿日:2001年11月20日(火)21時40分13秒



…最後が見えてるの、なんとなく恥ずいんで、



287 名前:作者 投稿日:2001年11月20日(火)21時41分28秒




それでは、また。




288 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月20日(火)22時09分23秒
ごちそう様でした(ペコリ
いつも思うんですが、繊細で落ち着きのある丁寧な描写に脱帽です。
これだけはどうにも真似出来ない・・・
勉強になります。次回の更新楽しみに待っちゃったりきほし
289 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月21日(水)02時14分57秒
これで今夜は安らかに眠れそうです。
ありがとう。
290 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月21日(水)03時25分15秒
もう何も言うことはありません。
作者さんへの感謝の言葉以外は……。

“ありがとうございました”
291 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月21日(水)07時50分15秒
何でこんなに幸せな気分になれるんだろう?
ありがとうございました。
次回も期待してます。
292 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月21日(水)09時00分20秒
なんと言うか、もう神がかり的な文章の美しさに感動です
293 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月21日(水)18時33分05秒
「ありがとう」ってレスが多いようですけど、何故だろう、自分もこの心癒される
甘〜い小説読んでお礼を言いたい気持ちになりました。
作者さん、ありがとう、本当にありがとうございますって感じです。
294 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月24日(土)23時09分09秒
そろそろやぐちゅーもお願いします。作者さま。
295 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月27日(火)20時24分43秒
MUSIX!の放送時間の短さのショックは、
この小説でしか癒せません(w
甘いいちごま、期待してます!
296 名前:作者 投稿日:2001年11月30日(金)21時35分21秒

>>288さん
どうもありがとうございます。
他の方がどうなのかは知らないんですけど、自分は絶対書くスピード遅い方だと思うし、
書いてる途中も、全く進まなくて悩みまくって、結局1、2行しか進まず…なんて日もあるくらいです。
ですから、こういう感想いただけると、本当に励みになります!


>>289さん
ヘンなとこで切るのは、申し訳ないと思いつつ、やめられなかったりするんで(オイ
焦らしてしまった分、満足していただけてたら作者も嬉しいです。


>>290さん
こちらこそ、ありがとうございます。
読んで頂けてるだけでなく、こうして感想レスもつけて下さる方々には、
本当に感謝してますから。


>>291さん
“幸せ”ですかー…嬉しいです。
ありがとうございます。
次も頑張ります。


>>292さん
そんな、恐れ多いお言葉…。
とにかく、ありがとうございます。


297 名前:作者 投稿日:2001年11月30日(金)21時36分45秒

>>293さん
いやもう、しつこいようですけど、こちらこそありがたく思ってます。感謝です。
読んで下さっている方々にも、そしてこの場を提供してくださっている管理人様にも。
どちらも居なかったら、ここまで書き続けてないですからね。
(余談ですが、少し前の例の騒動で閉鎖になるんじゃないかと、ドキドキしてたんで…)


>>294さん
…。
やぐちゅーっすか…。
いやね、どうしても妄想が膨らむのはいちごまなんですよ。
って、全然答えになってないですね…スマソ


>>295さん
あれは、ひどいっすよね。
思わず「えっ、これだけ?」ってテレビに向かって言っちゃいましたもん。
てか、ごまがひと言もしゃべってなかったし…。




えー、新スレ立てさせていただきます。
まだ、容量は限界ではないんですけど、キリもいいですし、
途中で書き込めなくなるのは嫌なんで。

Converted by dat2html.pl 1.0