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Tonight Spend Together

1 名前:瑞希 投稿日:2001年08月27日(月)03時08分59秒
ちょっと思うところがありまして、初めてカキコします。
「娘。」関連の小説は初めてなので未熟な点もあると思いますが、
よろしくお願いします。

まずは、マイナーのようですが、「みちごま」です。



2 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月27日(月)03時19分31秒
みちごま好きなんで期待てます。
3 名前:瑞希 投稿日:2001年08月27日(月)03時35分37秒
「梨華ちゃんって、メッチャ可愛いよなあ」
テレビの歌番組を見ながら感嘆の溜め息と一緒に平家の口から出た言葉。
「・・・そうですかあ?」
ソファに並んで座って一緒にそれを見ていた後藤は、平家とは全く異なる溜め息を
付きながら、ほんの少し唇を尖らせて言った。
「えーっ! 可愛いやん! ごっちんはそう思ったことないんか?」
隣の後藤に目を向けて、平家は不思議そうに尋ねる。
そうする彼女に、後藤は敢えて答える言葉を噤んだ。
「・・・梨華ちゃんの事、キライなワケと違うやろ? 仲悪いとかでもないやんな?」
何も答えない事をどう思ったのか、どこか早口で質問を投げかけてくる平家の表情は、
後藤には少し焦っているように見えた。
「キライじゃないですよ。仲も悪くないです」
困惑気味の平家の顔を見ていると、なんだか自分のほうが悪い事をしたような気分に
なって、後藤は慌てて平家の質問に答えた。
「そうか? ならええねんけど」
けれど、後藤の答えを聞いて途端にホッとしたように口元をやわらげた平家に対して、
今度は逆に彼女を困らせてみたくなった。
「・・・だからって好きってワケでもないですけど」
平家の眉がまた困ったように下がる。
思っていた通りの反応に、後藤は少しだけ満足した。
4 名前:瑞希 投稿日:2001年08月27日(月)03時51分04秒
「それは・・・、どういう・・・?」
「ヤダな、嘘ですよ、う・そ! 仲良いですよ、あたし達。でも、あたし、もっと
可愛いひと知ってますから」
「梨華ちゃんより可愛い・・・?」
うんうん、と後藤は頭を上下に振りながら笑顔で平家を見た。
「結構身近にいますよぉ。歌ってる時とか普段はむしろカッコイイんだけど、ちょっと
した仕種とかふとした時の雰囲気とか、メチャメチャ可愛いって思うんです」
――気付け!
言葉とともにテレパシーも送ってみる。
「うーん、カッコよくて可愛いひと、なあ・・・。あ、判った! よっすぃーやろ!」
しかし、まるで見当違いの答えが返ってきた事で、後藤はがっくりと頭をうなだれさせた。
――に、鈍すぎる・・・。
「せやなあ、よっすぃーも美形もんなあ。でもよっすぃーは可愛いっていうより、
美人ーってカンジと違うかぁ?」
「・・・もー、平家さん、全然わかってないですね、ハズレです、ハ・ズ・レ!」
「えー、違うのん? じゃあ誰なん? 辻? 加護? でもカッコイイんやったらこの子らと
違うよな。じゃあカオリン? それとも圭ちゃんかになあ? ・・・あ、待って待って、
今度こそ判ったで、市井ちゃんやろ?」
平家の口から市井の名前が出た事で、後藤のカラダがびくんっと大きく揺らいだ。
その揺れは平家の答えが正しかったからというワケではなく、思い出したくなかった
名前を、言って欲しくないひとの口から聞かされたせいだった。
勿論平家も、後藤の様子がその一瞬で変わった事にはすぐに気が付いた。
自分が不用意に発したその名前が、後藤にとっては禁句にも近い名前になっていると、
知らないワケでもなかったのに。
5 名前:瑞希 投稿日:2001年08月27日(月)03時59分35秒
「・・・ゴメン」
呟くに言って、平家は視線を落とした。
「・・・なんで謝るんですか」
「・・・だってごっちん、今、スゴイ怒った顔してんねんもん」
「そりゃ怒りますよ。なんで平家さんの口から市井ちゃんの名前きくかなきゃ
なんないんだろって」
「せやから、ゴメン」
「でも、だからって何で謝るんですか」
「何でって・・・」
――思い出したくなかったんやろ?
そう続けようとした時、膝の上に置いていた平家の左手に、後藤が自分の右手を重ねて
きた。そっと握られて、その手の持つ熱が伝わってくる。けれど不思議と不快な熱では
なく、平家も、その心地良さに甘えるように、敢えて後藤のその手を振り払うというよ
うな事はしなかった。
「・・・あのね、平家さん」
「うん?」
「何で、とか考えた事ないんですか?」
「何を?」
「だから・・・、あたしが、その・・・、何でこう、仕事終わってそのまま平家さんの
家に来るのか、とか、何で毎日ケータイにメール送るのか、とか」
「え、何でって、それは・・・」
ドキリと平家の胸が高鳴る。
6 名前:瑞希 投稿日:2001年08月27日(月)04時10分21秒
「ただ懐かれてるだけだ、とか、思ってませんか?」
「え、え? ・・・だって他に理由なんて・・・」
ない、とは続けられなかった。
後藤が今、何を言おうとしているのか、それに思い当たることなら幾らでもあった。
そこまで自分も鈍くはないつもりだ。
ただ、認めてしまうが怖かっただけで。
「・・・ゴメン」
「何で謝るんですか?」
それには答えられなかった。
「・・・気付いてないフリ、してたんですか?」
静かだったけれど、尋ねる声が震えているように聞こえて、平家は思わず顔を上げて
後藤を見た。けれどそこにある少し潤んだ瞳は直視出来ず、すぐにまた目を逸らすよ
うにして俯いた。
「・・・意識、せんようにしてた」
「じゃあ、気付いてたんだ?」
「ていうか、気付かんほうかおかしいやん。・・・でもごっちん、何も言うてけえへんし、
そんなんこっちから聞けるワケないし・・・」
そっと握られていただけの後藤の手に力が入ったのが伝わる。平家は振り払わなかった。
自分のカラダが高揚していくのも判る。
「・・・しょっちゅう来てるりには特別な何かするってワケでもないし、何か話すって
言うても仕事の話とかが多いやんか。そんなんばっかりやったら、やっぱり懐かれてる
だけやって思うのが普通と違うか?」
言いながら、それが告白めいた言葉である事は自覚していた。けれどうまくかわせる言
葉が容易く言えるほど、平家もまだオトナではない。
7 名前:瑞希 投稿日:2001年08月27日(月)04時21分20秒
「・・・平家さんが好きです」
突然ストレートに言われた平家のカラダは、さっき平家が市井の名前を出して後藤が
カラダを揺らした時よりも大きく揺れた。
「好きなんです」
もう一度、後藤はキッパリと告げた。それから左手を伸ばして平家の右手を掴む。
その反動で屁イケが俯かせていた頭を上げた。
「ごっちん・・・」
「平家さんは、あたしの事、キライですか?」
「きっ、キライなワケないやん!」
「・・・よかった」
平家の即答にも近い返事に、強張っていた後藤の表情が俄かに崩れ、いつも通りの
ほんわかした笑顔になる。けれどその目元に一粒の滴が零れたのが見えて、平家は
焦った。
「な、何で泣くねん?」
「泣いてないですよぉ」
笑う後藤の細くなった目尻からまた滴が零れ落ちる。
「・・・じゃあこれは何や?」
掴まれていた右手を離し、指先で後藤の涙を拭い取る。後藤は答えなかった。
「・・・ごっちん」
平家は、敢えて追及する事をやめて、もう一方の自分の手も離すと、ゆっくり後藤の
肩に腕をまわした。そしてそのまま自分の元へ引き寄せ,自分の膝に後藤の頭を乗せ
るようにして横たわらせた。
「へ、平家さん?」
突然のこの状況に後藤の声も上ずる。起き上がろうとしても、平家の腕がそれを阻んだ。
「ええやん、ちょっとだけ、このままでいようや」
8 名前:瑞希 投稿日:2001年08月27日(月)04時30分59秒
目の前のテレビではもうとっくに自分達の出演場面は終わっていて、違うゲストが
歌っている。平家はゆっくり手を伸ばしてビデオのリモコンを取り、巻き戻しのボ
タンを押した。
「イヤか?」
「イ、イヤじゃないです・・・」
後藤が答えた時,冒頭まで巻き戻されたビデオテープが再生を始めた。さっき見て聞い
たばかりの会話が再び繰り返される。
「・・・また見るんですか?」
「アカン?」
「そんな事ないですけど・・・」
――・・・また梨華ちゃんの事、可愛いって言うのかな。
「可愛いのんは、何回見ても飽きへんねん」
そう言って平家がビデオを早送りする。しかし、石川が喋っているところが映っても
画面は停止させない。不思議に思いながらも後藤が黙っていると,不意に画面が停ま
り、再生を始める。そこに映し出されている自分の顔に後藤はハッとして平家を見上
げた。
「・・・平家さん? あの・・・」
「あたしな、ごっちんのこの顔、メッチャ好きやねん」
ピッと機会音が鳴って一時停止された画面に映る自分の笑顔。どちらかといえば情け
なくも見える相槌を打つ時の自分の顔が、そこにあった。
9 名前:瑞希 投稿日:2001年08月27日(月)04時44分13秒
「もう何十回も見てるから、テープも切れそうやわ」
言いながら平家の左手が後藤の前髪をかきあげるに撫でる。
「・・・今、あたし、この画面に映ってる子の髪撫でてんねんなあ」
後藤は、自分の髪を撫でている平家の手に自分の左手をそっと重ねてみた。少しの抵抗も
なく、撫でる手の優しさも変わらない。
「平家さん」
呼んでも返答はなかった。
平家の膝に頭を乗せているという態勢でも,彼女の顔までははっきりとは見えない。
後藤はゆっくり、触れた手で平家の手を捕まえた。その細さに、ドキドキと胸が高鳴る。
少し強めに引いて自分の頭から平家の手を離すと、細い手首の先の手のひらが後藤の
目の前に現れた。その手のひらに、後藤はそっと唇を寄せる。
と、その時、平家のカラダが大きく揺らいだ。
ただ驚いただけではない様子のその揺れに、思わず後藤も起き上がる。そしてそこに、
後藤に掴まれていないほうの手で顔を覆う平家を見る。
「・・・どうしたんですか?」
「ごっちん・・・、アンタ、そんなんどこで覚えたん?」
顔を隠したまま尋ねる平家の声は心なしか上ずっている。
後藤はソファの上に正座して平家の続きの言葉を待つ。けれど平家は、自由になった
両手で更に顔を覆い隠して言った。
「・・・アカン。やっぱりアカンわ、こんなん・・・」
10 名前:瑞希 投稿日:2001年08月27日(月)05時01分47秒
「え? 何がダメなんですか?」
平家は答えない。それどころか後藤に背を向けてしまった。
「あの、平家さん?」
「・・・ゴメン,今日はもう帰ってくれへん?」
「え?」
「ホンマ、ゴメン。・・・でも、お願いやから帰って・・・」
振り返らない平家に戸惑いながらも、いつもと違う様子に強くは反論出来ず、後藤は
言われた通りに帰り支度を始めた。
「・・・あの、じゃああたし、帰ります、ね」
まだソファに腰掛けたままの平家に声を掛けると、彼女はゆっくり立ち上がって後藤を
見送ろうと玄関まで歩いてきた。しかし、その目は後藤を見ようとしない。
「・・・ゴメンな」
「いえ、あの、また来ますね」
「・・・それは、アカン。もう来たらアカン。もう来んといて」
「えっ、ど、どうしてですか?」
後藤から目を逸らしたまま、平家はドアノブに手を伸ばす。
「ちょっ、イヤです。どうしてですか? どうしてもう来ちゃダメなんですか?」
ドアノブを掴む平家の細い右腕を捕まえながら,後藤はまくしたてるように言った。
けれど平家は答えない。
「平家さん!」
「・・・お願いやから、もうこれ以上あたしに近付かんといて」
顔を伏せたまま、絞りだすような声で平家が告げる。
ついさっき、テレビ画面に映る自分を好きだと言ってくれたばかりなのに。
確かにお互いの気持ちが通じ合ったのだと、そう思えたばかりなのに。
「・・・どうして? 理由を教えて下さい。でなきゃまた来ますよ? だってあたし、
平家さんの事が好きだって言ったじゃないですか」
細い、細い平家の腕。力任せに掴んでいては、きっと痕が残るだろう。
そう思っても、後藤は力を緩めたりはしなかった。
11 名前:瑞希 投稿日:2001年08月27日(月)05時13分15秒
すいません、今読み返したら誤字が多すぎますね。
以後気をつけますので、今回は笑って見逃してやって下さい。

12 名前:瑞希 投稿日:2001年08月28日(火)01時07分59秒
「は・・・、離して」
「イヤです」
「ごっちん・・・!」
引き戻そうとする平家の力はどこか頼りない。
自分よりも6つも年上なのに、華奢な肩もどこか頼りなさげで繊細に見える。
微笑む口元とは対照的に、何かを憂いていたような瞳が淋しげにも見えたあの時、
後藤は初めて平家という人間に対して興味を持った。
漠然と、平家を守ってあげたいと思った。
守れるような人間になりたいと思った。なのに・・・。
「・・・教えてくれるまで、離しません」
後藤の視線にその言葉の真剣度が平家にも伝わったのだろう。引き戻そうとする力が
ほんの少し弱まった。けれど、一度後藤に向けられた平家の目はまたすぐ逸らされて
しまい、後藤の胸がチクリと痛む。
「・・・ごっちん、お願やから、もう帰って・・・」
あくまで逃げようとする平家に、後藤も遂に痺れを切らした。
掴んでいた平家の腕を更に強く掴み、そのまま自分のほうへと引き寄せる。
バランスを失いかけてよろめいた平家のカラダを自分の胸で受け止め、自身のカラダを
半転させて壁へと平家のカラダを押し付けた。
「ご、ごっちん・・・?」
困惑している平家の左腕も捕まえ、両腕を広げさせてそれも壁に押し付ける。
「い、痛い・・・、離し・・・!」
半ば噛み付くように、後藤は平家へと唇を重ねた。
実際、慣れていないせいで歯がぶつかり、血の味が口の中まで広がる。
13 名前:瑞希 投稿日:2001年08月28日(火)01時17分17秒
「ん、んんっ!」
短い拒絶の声。激しい抵抗。
そのどちらも受けながら、その時の後藤には、自分が平家に対してひどい事を
しているという自覚はあまりなかった。
平家の真意が知りたかった。ただそれだけだった。
不意に、それまで激しかった平家の抵抗が薄らぎ、後藤もそこでようやく我に返る。
掴んでいた平家の腕から思い出したように力を抜いた時、後藤のカラダはとてつもない
強い力で突き飛ばされた。バランスを崩し、床に尻もちをつく。
「へ、平家さん」
目前で、怒っているというよりも、今にも泣き出してしまいそうな哀しい瞳で
立ち尽くす平家を見上げたその時、来客を示す玄関のチャイムが鳴った。
その音に平家も後藤も同じくらいの比率でカラダを揺らす。
しかしその次の瞬間には、
「みっちゃーん、おるかー?」
後藤の耳に、毎日聞いている聞き慣れた声が届いた。
咄嗟に平家を見たけれど、彼女は後藤と目が合うより先にドアを開けてしまっていた。
14 名前:瑞希 投稿日:2001年08月28日(火)01時28分02秒
「・・・裕ちゃん」
「突然来てゴメンやで、ちょお付き合うてくれへん? ・・・て、あれ? 後藤?」
悪びれた様子も見せずに持っていたコンビニ袋を掲げた中澤が、目の前の床に、腕で
上体を支えながらもほぼ仰向けの状態で倒れこんでいる後藤を見て、不思議そうに
眉をひそめた。
「・・・なんで後藤がみっちゃんの部屋におるんや?」
「裕ちゃん」
呼ばれた中澤が視線を平家に向けて、彼女の唇に滲む鮮血に気付いて目を見張る。
すぐさま後藤と平家を見比べて、その目と口元が歪んだのが後藤にも判った。
「・・・アンタ、みっちゃんに何したん?」
「な、何もしてへん!」
反論したのは平家だった。
「・・・みっちゃん?」
「何もしてへん。ちょっとぶつかっただけや。そしたら唇切れてしもて、それで
血が出ただけやから」
それがその場凌ぎの言い訳だと気付かないほど中澤は鈍くない。
後藤もそれは知っていた。けれど他の言葉は何も見つからない。
「・・・それより、飲みに来たんはええけど、ツマミになるものも買うてきた?
ウチの冷蔵庫、今、何にもないで?」
「・・・あ、うん。ちゃんと買うてきたよ」
「そうか、なら早よ上がってよ。用意するわ」
何事もなかったように横をすり抜けた平家を茫然と見送る後藤。
その平家のあとを中澤がゆっくり追いかけた。


15 名前:瑞希 投稿日:2001年08月28日(火)01時48分18秒
「・・・ごっちん、気ぃ付けて帰りや」
キッチンから平家の声が聞こえてハッとする。
「あっ、あの、平家さん・・・」
けれど、呼んでも振り向いたのは中澤で・・・。
「・・・なあ、裕ちゃん。アレ、してくれへん?」
「・・・アレ?」
言われて平家に向き直った中澤が眉をしかめる。
それまで死角になっていたせいで見えなかったキッチンから平家が姿を見せた。
「うん、アレ」
暗号のような言葉に、後藤は自分の胸がドキドキと早鐘を打ち始めたのを感じていた。
眉をしかめている中澤に、平家がにっこり微笑んで左の手のひらを見せる。
それをそのまま差し出すように中澤に向けた。
そうされてようやく、中澤が何かを悟ったように、ゆっくりとした動作で平家の
左手首を捕らえた。
後藤は、玄関先でそれをただじっと見ていた。声を掛けることすら出来なかった。
平家の手首を捕らえた中澤が、平家の目を見つめながらそっとその左の手のひらに
唇を寄せていく。触れる直前、中澤の唇から赤い舌が覗いたのが見えた。
ゾクリとした感覚が、後藤の背筋を下りていく。
「・・・噛んで」
平家の甘い声が聞こえた。中澤の口元がニヤリと綻ぶ。
言葉通りに平家の指先を噛み、それを口の中へと運ぶ。平家のカラダがぴくりと
揺れる。そのカラダを中澤はゆっくりと抱きしめた。
「・・・何や、今日のみっちゃん、えらい積極的やな?」
「・・・たまには燃えるやろ?」
答える平家の表情は、背中を向けられているせいで後藤には判らない。けれど、平家の
肩先から見えている中澤の口の端が僅かに上がった事で、後藤は自分の敗北を悟った。
「・・・何してるん? これからはオトナの時間やで。コドモは早よ帰って寝なさい」
明らかに挑戦的な中澤の視線。彼女は気付いてしまった。
何故後藤がこの部屋にいたか、何故、今、目を離せずにいるかを・・・。
「・・・お、お邪魔しました」
もたつく足を焦りながらも何とか立たせ、後藤は平家の部屋をあとにした。
16 名前:瑞希 投稿日:2001年08月28日(火)02時09分43秒
平家のマンションの前ですぐに捕まったタクシーに乗り込み、
家の近くの住所を告げてからシートに深くカラダを預ける。
窓の外を流れるテールランプやネオンサインを見ているはずの今の後藤の瞳は、
それらを的確には映していない。ただ、平家の部屋を出た時からずっと同じ言葉だけが
後藤の脳裏を支配していた。
『・・・アンタ、そんなんどこで覚えたん?』
言われた時は何だか判らなかったことも、さっきの中澤と平家の会話で理解した。
同じことを、中澤が平家にしていたのだ。
それも一度や二度ではなく、何度も何度も、繰り返し繰り返し、暗号のような言葉で
相手に伝わるくらい、何度も・・・。
それは、中澤と平家の二人の関係がただの『友人』の枠を越えていることも意味する。
そして同時に、後藤が平家を初めて意識した時の、平家の視線の先にいた人物が、
中澤であったことも思い出す。
――いつからなんだろ・・・。でもきっと長いよね・・・。
中澤と平家の付き合いは、後藤と中澤、後藤と平家よりも遥かに長い。つい最近知り
合ったばかりのような他人が簡単に割り込めるような、そんな中途半端な長さでは
ないだろう。後藤もそれはよく判っていた。知っていたつもりだった。
平家の目に、中澤がいろんな意味で特別に映っていることも、
そして中澤のほうも、平家をとても大切に思っているであろうということも・・・。
――裕ちゃん相手じゃ、かないっこないよ・・・。
後藤の目に涙が浮かぶ。
運転手に気付かれたくなくて、歪んでしまいそうになる口元を隠そうと指で唇に
触れた時、平家の唇の感触が蘇ってきた。
――こんなに・・・、こんなに好きなのになあ・・・。
言葉になんて出来ないくらい、ありふれた言葉だけでは足りないくらい、
いつだって平家のことを考えているのに、守ってあげたいと思っていたのに、
結局自分は、彼女を困らせるようなことしか、悲しい瞳をさせてしまうことしか出来なかった。
『ごっちんのこの顔、メッチャ好きやねん』
『今、この画面に映ってる子の髪撫でてんねんなあ』
『キライなワケないやん!』
次々に脳裏に浮かんでくる平家の声や顔に、想いはただ、膨らむばかりで・・・。
――・・・もう来るなって言われたけど、やっぱりちゃんと謝らなきゃ・・・。
後藤がそう決意した時、タクシーは後藤が指示した目的地に辿り着いた。
17 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月28日(火)04時09分58秒
久方ぶりのみちごま、期待してます!!

>>作者さん
確かに一箇所だけ誤字でワラいました。
18 名前:瑞希 投稿日:2001年08月29日(水)14時26分26秒
翌日。
あまり眠れず、予定の集合時間より大幅に早く来てしまった後藤は、楽屋でメンバーが
揃うのを待ちながら、いつものように平家に朝の挨拶メールを送った。
さすがに今日は、いつものような返事は期待していないけれど。
「おはようさん」
送信完了直後、中澤がやって来た。
聞こえた声にギクリと後藤が肩を揺らすより先に、隣にいた矢口と吉澤が挨拶を交わす。
「おはよー、裕ちゃん」
「おはようございます」
中澤の目が後藤に向けられる。
いつも通りの眠そうな目元。
「・・・おはよう、後藤」
「お、おはよ・・・」
――あのまま泊まったの?
気になっても、やはりそれは聞けない。
「・・・うう、アカン、飲みすぎた。頭ガンガンする」
「またぁ? ダメじゃん、仕事に響くくらい飲んじゃ」
「・・・うーん、矢口ぃ」
荷物を降ろした中澤が腕を伸ばして矢口を捕まえる。
「うわっ、マジで酒クサイよ、裕ちゃん! 離してよぅ」
抱きしめられている、というより、捕まったという表現が正しく思えるような二人の
態勢に吉澤が笑っている。後藤も、いつも通りの風景に曖昧な笑顔でやり過ごす。
その時、後藤のケータイが震えながら音を鳴らせた。
メールではなく、着信を知らせるそのメロディに後藤の胸が跳ね上がる。
平家にメールを送ってもその返事を期待していなかった後藤は、
ディスプレイに表示されている平家の名前に更に驚いて、危うく座っていた椅子から
転げ落ちそうになった。
周囲から向けられる不審そうな視線には苦笑いで誤魔化しながら、慌ててボタンを押した。
19 名前:瑞希 投稿日:2001年08月29日(水)14時40分12秒
「もっ、もしもし?」
「・・・ゴメン、仕事中か?」
「い、いえ、まだ時間あります」
視線を感じてそちらに目を向けると、捕まえた矢口の頭に顎を乗せている中澤が、
じっと後藤を見ていた。目が合って、胸がドキリと鳴る。
「・・・あの、どうかしたんですか?」
何故だか中澤には会話を聞かれたくなくて、語頭はさりげなさを装って椅子から立って
楽屋を出る。
廊下を歩きつつ、ケータイの向こうにいる平家を想いながら、きょろきょろ辺りを
見回して人通りの少なそうな場所を探す。
「・・・珍しいですよね、平家さんから電話かけてくるなんて」
「ゴメン、迷惑やったな」
「ちっ、違いますよ! ・・・嬉しいです、電話くれて。今まで平家さんから
電話もらった事ってあんまりないし・・・」
言いながら、平家がわざわざ後藤のケータイを鳴らせた理由を、これを最後にしようと
思っているからだと解釈する。
「・・・昨日はゴメンな。・・・それだけ言いたかってん」
「あ、謝らないでください。悪いのはあたしのほうじゃないですか」
「けど・・・」
何か続けようとして、続きの言葉を捜すように平家は黙り込んだ。
慣れない沈黙が続く。
平家が今どんな顔をしているのか考えたら胸が痛み、後藤は思い切って声を出した。
20 名前:瑞希 投稿日:2001年08月29日(水)14時56分15秒
「・・・今日、仕事が終わってから平家さんの部屋に行ってもいいですか?」
「え? あ・・・、それは、アカン。昨日も言うたやろ。もう来んといてって」
「・・・でも、平家さんの部屋に忘れ物しちゃったんです、あたし。それを取りに
行くだけですから」
「忘れ物?」
勿論嘘である。咄嗟に口から出た作り話だ。
このまま平家があっさり電話を切ってしまいそうなのがイヤで、
もう少し長く、平家の声を聞いていたくて・・・。
「はい。・・・行ってもいいでしょ?」
しばらく考え込んでいる様子の平家。姿など見えなくても、それはケータイを通して
伝わってくる雰囲気だけで容易に想像できた。
後藤は緊張しながら平家の言葉を待つ。
作り話だと気付かれて断られるかも知れないと、半分は祈る気持ちで。
「・・・判った。でもあたしも今日は夕方まで仕事あるねん。せやから
ごっちんのほうの仕事終わったら電話してきて」
「は、はいっ。じゃあ、またあとでかけますね」
「うん」
平家が切るのを待ってから終話ボタンを押す。
ケータイを握り締めながら、後藤はそばの壁に右半身を預けるようにして凭れ、
深く深く、息を吐き出した。
――未練がましいなあ。
自分の言動に自己嫌悪しつつ、後藤は心の中で呟いた。
でも仕方ない。
だってしょうがない。
こんなに、こんなに好きで好きでたまらないから。
――昨日のことちゃんと謝って、それから・・・どうしよう。
叶わない恋でも、ほんの少しでいいから繋がりが欲しい。
些細なことでかまわないから、
多くは望まないから、
平家の負担にならない程度でいいから、
せめて何かひとつだけでも、平家と自分とを繋いでくれる何かが欲しい・・・。
もう一度深い溜め息を吐き出したあと、後藤はくるりと踵を返して楽屋に戻った。
21 名前:瑞希 投稿日:2001年08月29日(水)14時58分18秒
>17さん
どこなのか、予測がつきます。は、恥ずかしい〜〜!
22 名前:瑞希 投稿日:2001年08月29日(水)15時04分46秒
・・・そしてまた >19 で誤字発見・・・。
我ながら情けない・・・(T_T)
23 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月30日(木)03時32分55秒
一箇所だけ間違うところがイイ!!
あ、中身のほうがもっと気になりますよ(w
24 名前:瑞希 投稿日:2001年08月31日(金)00時48分24秒
「後藤」
仕事を終えて急いで帰り支度を済ませ、今まさに平家に電話をかけようとケータイを
持った時に背後から呼ばれた。振り向くと中澤が立っていた。
「えっ、な、何?」
意外そうで、けれどそうでもない相手に後藤は僅かに身構える。
「あ・・・、悪いな、電話するとこやったんか?」
後藤の右手に握られているケータイを見た中澤がすまなさそうに告げる。
「あ・・・、ううん、いいよ。何?」
「みっちゃんのことやねんけど」
ギクッと胸が鳴る。
その動揺は顔にも顕著に出たようで、後藤の目には苦笑いを浮かべた中澤が映る。
「・・・判りやすいなあ、後藤は」
「な、何? 平家さんの話って」
「うん・・・。まあ立ち話も何やし、どっか座って話そうや。おいで、落ち着いて
話せそうなとこ行こ」
促されるまま、後藤は荷物を置いて自分の前を歩き出す中澤を追いかけた。
25 名前:瑞希 投稿日:2001年08月31日(金)00時58分16秒
中澤が後藤を連れてきたのはスタジオの隣にある休憩所だった。
壁に並ぶように紙コップの自動販売機が二台あり、その前には背もたれのない長椅子が3つ、
等間隔で並んでいる。
「何飲む?」
「・・・いい、いらない」
「そう遠慮せんと。オレンジでええか?」
後藤が頷くのを見てから小銭を投入してオレンジジュースと表示されたボタンを押す。
コップへの注入が完了する前に隣の販売機に移動して、そこではコーヒーのボタンを
押した。
完了の点滅を確認してから後藤は自分でそれを取り出し、そばの椅子に座る。それに
続くようにして中澤が後藤の隣に座った。
しかし、お互いに何となく切り出せないまま、緊張感を孕んだ沈黙だけが続く。
それを先に破ったのは中澤だった。
「・・・後藤、いつからみっちゃんのこと好きやったんや?」
26 名前:瑞希 投稿日:2001年08月31日(金)01時08分48秒
唐突で、更には直球ストレートな質問に、後藤は危うく飲んでいたジュースを吹き出し
そうになった。
「なっ、なっ、何よ、急に!」
「ええやん、教えてくれても」
「そ、そんなのどうでもいいじゃん。・・・裕ちゃんの話ってそれなの?」
「いや、これが本題ってワケじゃないけど、聞いとこと思て」
「・・・何で?」
一瞬の沈黙。後藤の胸が少し騒ぐ。
「・・・昨日、みっちゃんとこに泊まってんけどな」
中澤の不意の言葉に後藤の胸の奥がズキン、と痛い音を起てた。
「後藤、結構前からみっちゃんの部屋に出入りしてたんやな」
それまで前を見ていた中澤の視線が後藤に向けられる。
けれど後藤はその中澤の目を見つめ返すことが出来ず、ただ俯き、頷くだけだった。
「・・・でも、いつからなんてそんなのよく判んないよ。気付いたら目で追うように
なってて、話とか出来たらすごく嬉しくて・・・」
「誰かを好きになる時って、そういうことから始まるからな」
微笑む中澤に、後藤もほんの少し緊張が解けて、胸が安らぐ感じを覚えた。
27 名前:瑞希 投稿日:2001年08月31日(金)01時19分12秒
「・・・うん。好きなんだなあって、思った。だからケータイの番号交換したときなんか
すっごいすっごい嬉しくて、その日のうちに何回もメール送ったし」
――さすがに電話はかけられなかったけど。
「あははっ、後藤らしいなあ」
「・・・でも、部屋に遊びに行くようになっても、平家さんは全然いつも通りで、
あたしの気持ちには気付いてないみたいだった」
「・・・そらまあ、後藤が自分を、とは、まさかと思うやろ」
「うん・・・、最初はね、あたしもそう思ってたの。女同士だもんね。でも・・・、
裕ちゃんと付き合ってるんなら、気付いてくれてもおかしくなかったんじゃないかって、
今は、ちょっと、そう思ってる」
「ちょい待ち、あたしとみっちゃん、付き合うてないで?」
後藤の言葉尻を奪うように中澤が反論する。
「嘘ばっか。じゃあ昨日のアレは何よ?」
「いや・・・、アレは、その・・・」
途端にもごもごと口ごもる中澤を後藤はじっと見つめた。
28 名前:瑞希 投稿日:2001年08月31日(金)01時30分06秒
「う・・・、スマン。前は付き合うてました、スイマセン」
ペコリと中澤が頭を下げる。
けれどすぐ頭を上げて、咄嗟に顎を引いた後藤に告げた。
「けど、ホンマに今は付き合うてないで。昨日のはあとでちゃんと説明する。みっちゃんは
潔白や。今のみっちゃんはフリーやで。それに、みっちゃんかて後藤のことが好きなハズや。
それはあたしが保証する」
妙なくらい力説する中澤から、後藤は苦笑混じりに視線を外す。
「・・・キライじゃないって、言ってくれたよ。でもダメって言われた。何がダメなのか、
何でダメなのか、教えてくんないけど」
昨夜掴んだ平家の腕の細さや肌の感触は、一晩たっても後藤の手のひらにはっきりと
残っていて、思い出すだけで涙が出そうになった。
「・・・それは、後藤が紗耶香と付き合うてたことを知っとるせいやろ」
今はまだ、メンバー同士でも後藤や保田の前では敢えてその名前を出さないようにと
気遣っているのに、中澤は何でもないことのようにさらりと言った。
後藤のカラダが大きく震える。
29 名前:瑞希 投稿日:2001年08月31日(金)01時44分48秒
「・・・何でそこで市井ちゃんの名前が出てくんの?」
平家といい、中澤といい、どうしてこの二人は・・・。
そう言いたくなるのを抑えて、自ら気持ちを落ち着かせるように静かに問い掛ける。
「だってみっちゃん、知っとるもん。アンタと紗耶香のこと。あの頃はまだあたしと
付き合うてたけど」
「だからって何で・・・」
「紗耶香がおらんようになってからのアンタのことも知っとるからやん。テレビとか
ラジオはともかく、あの頃の後藤いうたら、普段はもう、グチャグチャやったやん。
みっちゃんはそれ知ってるんやで。後藤にとっての紗耶香の存在の大きさっていうのを
知ってるんや。迂闊に応えられるワケないやろ?」
「何で・・・? 何でそんなこと言うの? だってもう市井ちゃんはここにはいないんだよ?
戻っても来ないじゃん。何で、何で今更市井ちゃんのこと・・・」
そんな風に言いながらも、後藤の胸の奥は、市井の名前を出すたびにチクチクとした
痛みを教える。忘れたハズの想いや願いを思い起こさせる。
平家を想ったさっきとは違う涙が出そうになって、ますます後藤は俯いた。
30 名前:瑞希 投稿日:2001年08月31日(金)01時58分16秒
「・・・ほら、まだ完全に消えてないのに、こっちばっかり本気になるのは怖いやん」
抑揚のない静かな中澤の声。
「・・・後藤はまだ15やし、まだまだこれからもある。6つも年上の自分を好きに
なることで、後藤のことを縛り付けそうで怖いんと違うかな」
「・・・縛り付けるなんて、そんな・・・」
「そんなつもりなくても、みっちゃんに目を向けてる間、もしかしたらホンマに後藤に
相応しい人との出会いを邪魔してしまうかも知れへんやんか」
「そんなことないよ!」
思わず顔を上げて怒鳴るように叫んだ後藤。
その言葉の勢いに揺らされたように、飲み干したジュースのコップに残った細かな氷が、
後藤の手の中で小さくカラカラと音を起てる。
コーヒーを飲み干した中澤は、後藤のコップを受け取って椅子から立ち上がった。
「・・・そんなことない。あたし、平家さんのことが好きなんだもん。他の人なんか
興味ないよ。市井ちゃんだってもう関係ない。ずっとずっと、平家さんのことだけ
好きだよ」
追うように立ち上がった後藤が中澤の背中に向かってキッパリと告げる。
「・・・ずっと、か・・・。そう願いたいけどな。実際にはそんな甘いもんと違うやん」
呟くような抑揚のなさが、中澤が発する言葉の重みを伝えているようだった。
31 名前:瑞希 投稿日:2001年08月31日(金)02時06分08秒
というわけで、更新です。
うう、「みちごま」なのに、今回、平家さん名前でしか出てないよ・・・
ついでに次回の更新もきっと同じ・・・

>23さん
笑ってやってください・・・。
32 名前:瑞希 投稿日:2001年09月01日(土)00時43分28秒
「・・・裕ちゃん?」
コップを重ねて軽く握り潰し、コントロールよくゴミ箱に放り投げてからくるりと
振り向く。
「キツイ言い方やな。でも、事実なんやで。・・・付き合い出したら判ることもある。
見えてくるもんもいろいろあるよ。あたしらがしてるような恋愛は、将来のこと思たら
それこそ不安と疑惑ばっかりや。・・・そういうのに巻き込みたくないって言うたら・・・
判るか?」
後藤は少し考えて、ゆっくり頷いた。
「・・・将来なんて考えたら考えただけ怖いで。まして相手はまだ15のコドモやん。
明るい希望やら夢やら持ってる子の過去に、自分からすすんで黒いシミみたいなんを
付けようと思うワケないやんか、あのみっちゃんが」
中澤の言おうとしていることが少しずつ理解出来てきて、後藤は返す言葉に詰まった。
「・・・それとな、みっちゃん、アカンって言うたんやろ?」
頷く後藤。
「何がアカンのか、一番引っ掛かってんのは、たぶん・・・あたしとのことやと思うねん」
言いながら、さっきまで座っていた場所に中澤が戻ってくる。
後藤も倣うように腰を降ろした。
33 名前:瑞希 投稿日:2001年09月01日(土)00時54分01秒
「・・・付き合いはもう結構長いからな、みっちゃんの考えそうなことはだいたい判る。
ホンマやったらあたしと付き合うてたことを後藤に知られるのなんか、一番避けたかった
ハズや。せやのに昨日のアレやろ? よっぽど後藤に惚れてんねんなーと思たわ」
「なっ、何でそーなんの? まだ裕ちゃんのことが好きだから、だからあーゆーこと
したんじゃ・・・」
「違う違う。あんなんアンタを呆れさせるために決まっとるやん。嫌われようと
したんやんか」
「そんな・・・、何で・・・」
中澤が話す平家の真意は少しも判らなくて、後藤は困惑する。
言葉が見つからない。思考がまとまらない。
そんな後藤を見て中澤が苦笑いを浮かべた。
「・・・後藤のことが好きで好きでしゃあないんやろ。アンタの将来のこと考えて、
身を引くっちゅーか、諦めようとしてるんやん。・・・健気っちゅーか、何ちゅーか、
ホンマ、相変わらず不器用な子やわ」
言葉とは裏腹に、遠くを見つめて愛しそうに平家を語る中澤の目に、後藤は中澤の
本心が知りたくなった。
34 名前:瑞希 投稿日:2001年09月01日(土)01時09分22秒
「・・・裕ちゃん、ひょっとして、まだ平家さんのこと・・・?」
「んー? うん、好きやで? 何か、放っとかれへんねんもん、みっちゃんて」
「じゃあ何で別れたの」
「・・・イタイとこ突くなあ・・・。みっちゃんから言われたんや、別れてくれって。
あたしはホラ、来る者拒まず、去る者追わずのオンナやし?」
「・・・理由とか、聞かなかったの?」
「そんなんひとつやろ、あたしがだらしないからやん。あたしは誰か一人、なんて
絞られへんしな」
別の誰かが今の中澤と同じことを言えば、きっと大多数の人間が非難の目を向けそうなのに、
不思議と中澤からは悪意も他意も見られない。
「そんなあたしと付き合うてた自分自身のこと、みっちゃんはあんまり好きやないと
思うねん」
「・・・裕ちゃんと付き合ってたことを後悔してるって意味?」
「んー、ていうか、自分は後藤に相応しくないって思たんやろな。せやからあんな、
見せつけるみたいなことしたんやと思う。・・・みっちゃんの名誉のために言うとくけど、
あんなんしたん、別れてからは初めてやで? 後藤が帰ったあとかて、ホンマに何も
なかったからな」
そう言って後頭部を撫でる中澤の手は優しかった。
35 名前:瑞希 投稿日:2001年09月01日(土)01時19分47秒
中澤の手のぬくもりを感じながら、どちらかと言えば気ままな自由人でいながら、
どうして彼女が周囲の人間からあんなにも好かれるのか、何となく判ったような
気がした。
「・・・でも、キスはしたでしょ」
しかし、だからと言って素直に甘えてしまうのも何だか癪に感じて、後藤はチラリと
横目で中澤を見ながら聞いたみた。
「してへんよ」
「嘘だあ。キス魔の裕ちゃんが飲んでもキスしないなんて有り得ないじゃん」
「ホンマにしてへんって。・・・っていうか、させてくれんかった」
「ほら、やっぱり」
「口はともかく、ほっぺたにもさせてくれんかってんで?」
「・・・何が言いたいの?」
「・・・後藤とキスしたからやろ?」
言って手を下ろした中澤の台詞に後藤はドキリとする。
「・・・なーんか、アホらしなってきた」
呆れたように吐き出された溜め息と言葉。
けれどそれらとは明らかなまでに対照的な好意的口調。
「・・・みっちゃん、後藤に嫌われようとするクセに、純愛するつもりやねんもん」
36 名前:瑞希 投稿日:2001年09月01日(土)01時29分58秒
「純愛って・・・」
「見てるこっちがムカつくくらい、アンタに惚れとるっちゅーこと!」
ペシッと軽く肩を叩かれる。
「みっちゃんのことはアンタに任すわ。もうあたしじゃアカンねん、後藤やないと。
・・・いくらアンタがまだ15のガキや言うても、そんなん関係ないくらいみっちゃんは
後藤のことが好きなんやなって、昨夜一緒に飲んで、話聞きながらよう判ったんや。
・・・ホンネ言うたら、ちょっと悔しいんやけどな」
「裕ちゃん・・・」
中澤がニヤリと笑ってもう一度後藤の肩を叩く。
「話はこんだけや、早よみっちゃんに会いに行っといで」
「う、うん」
急かされ、少し戸惑いつつも後藤は立ち上がった。
「みっちゃん、きっと意地張ってなかなかホンマのこと言わへんかも知れんけど、
負けなや」
「・・・うん」
「後藤のホンキ、見せたったらええねんからな」
「うん」
「けど、もし泣かしたりしたら、あたしが許さんで」
「うん、判ってる! ありがと、裕ちゃん!」
答えて、手を振りながら後藤はその場をあとにした。
37 名前:瑞希 投稿日:2001年09月01日(土)01時40分40秒
更新です。
予告どおり、平家さん、名前しか出てませんね・・・。

さてさて、ちょっとここで視点を変えて、
>36 の直後の中澤さんを書こうかと思います。
番外編ということで、大目に見てやってくださいね。
明日、仕上げます。
38 名前:瑞希 投稿日:2001年09月02日(日)00時56分01秒
後藤の後ろ姿を角を曲がるまで見送っていた中澤は、彼女の姿が見えなくなってから、
ゆっくり、椅子に右手を置いてその腕で上体を支えるようにカラダの重心を傾けた。
それから深々と溜め息を吐き出す。
「・・・立ち聞きはあんまり感心せんなあ」
言いながら背後に振り返る。けれど反応はない。
「・・・別に、怒っとるワケと違うから、出ておいで」
幾らか声のトーンを和らげて声をかけると、廊下の影から出て来たのは、小さなカラダを
更に恐縮させて小さくなっている矢口だった。
「・・・ごめんなさい」
「謝らんでもええよ。・・・けど、誰にも言うたらアカンで?」
「うん」
真摯な瞳で力強く頷いた矢口に中澤の口元が綻ぶ。
39 名前:瑞希 投稿日:2001年09月02日(日)01時04分36秒
「ええ子やな。こっちおいで」
さっきまで後藤が座っていた場所を軽く叩いて矢口を招くと、彼女はそれを待っていた
ように、ぴょんっと飛び跳ねるようにしてやって来た。
嬉しそうに笑って、中澤の隣に腰を降ろす。
「・・・へへっ」
「? 何や?」
「ううん、何でもない」
そう答えながらも、中澤の顔を見て、また微笑む矢口。
「・・・何やねんな? あたしの顔に何かついてるんか?」
「うん。目と鼻と・・・」
そこで言葉を切った矢口が中澤に顔を近付けてきた。
中澤が事態を把握するより先に、矢口の唇が中澤のそれに重なる。
「・・・唇!」
すぐに離れた矢口が、テレくささを隠すようにペロリと舌を出す。
あまりに唐突な出来事に一瞬我を失いかけた中澤だったけれど、矢口の行動はとても
微笑ましくて、中澤の心がほんのり安らいだ。
40 名前:瑞希 投稿日:2001年09月02日(日)01時12分39秒
「・・・甘いな、矢口」
「へっ?」
「キスっちゅーのは、こうやるねん!」
言うなり、中澤は両手で矢口の顔を固定して唇を奪い、深く深く口付けた。
最初は驚いた様子だった矢口の手が、そこにその存在を確かめるかのように中澤が
着ている服の袖を強く掴む。
重なる唇の隙間から矢口の吐息が漏れた時、中澤はゆっくり矢口から離れた。
「・・・どうや?」
ニヤニヤ笑って尋ねる中澤。途端に頬を赤くさせる矢口。
「・・・わ、判ってて聞かないでよぅ」
俯いてしまった矢口に、中澤の胸には愛しさが込み上げてきた。
「可愛いなあ」
何気ないようなそんな言葉にも矢口はますます頬を赤らめていく。
41 名前:瑞希 投稿日:2001年09月02日(日)01時21分53秒
中澤はゆっくり椅子から立ち上がり、俯いている矢口の目の前に右手を差し出した。
「今日は一緒に帰ろか」
その一言で矢口が頭を上げる。けれどすぐにまた俯いてしまった。
「ん? イヤなんか?」
ふるふると、頭だけを左右に何度も振ってみせる。
引き戻そうとした中澤の手を、矢口は一瞬早く掴んだ。
「・・・今日だけ?」
矢口の本当に言いたい続きの言葉が判って、中澤の口元がまた綻んだ。
「ほな、これからは毎日一緒に帰ろか」
言いながら繋いだ矢口の手を引っ張って、椅子から自分の腕の中へと抱きとめる。
「うん!」
中澤の腕の中で、矢口は嬉しそうに大きく頷いた。
42 名前:瑞希 投稿日:2001年09月02日(日)01時26分18秒
はい、短いですが、番外編終了です。
ちょっぴり「やぐちゅー」テイストで。
こういう甘々、実は結構スキなんで、
「みちごま」でも、そのうちちゃんとやりますね。
43 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月02日(日)05時07分59秒
おお!やぐちゅーも嬉しいです!!
44 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月02日(日)06時44分11秒
ごまゆう&やぐちゅー&みっちゅー大好き。にはたまらないスレです。
メインは、みちごまみたいですが。ごまもみっちゃんも好きなので先が楽しみです。
45 名前:瑞希 投稿日:2001年09月03日(月)00時50分57秒
荷物を置いたままだった楽屋に戻るなり平家に電話をかけると、後藤の耳に響いていた
ケータイの呼び出し音はすぐに途絶えた。
「あっ、平家さん? 後藤です、今、終わりました」
「そうか。あたしもさっき帰って来たとこや」
「ホント? じゃあ今からすぐ行きますね!」
返事の声も聞かずに電話を切って、急いで楽屋を出る。
建物の前に停まっていたタクシーに乗り込み、逸る気持ちを抑えつつ、平家の住む
マンションの近くの住所を告げた。
――まず昨夜のこと謝って、それからもう一回ちゃんと平家さんのことが好きだって
言って、それから、それから・・・。
本当はまだ少し拒絶されそうで怖いけれど、中澤が背中を押し出してくれたから、
平家とちゃんと向き合って、お互いの気持ちを確かめたいと、後藤は思っていた。
もしホントは中澤の言った言葉とは違い、自分のことを好きじゃなかったとしても、
後藤は平家が好きだから。
もう今は過去のひとになろうとしている市井とのことも含めた、自分のことを好きに
なってほしいから。
――諦めたく、ないもん・・・。
46 名前:瑞希 投稿日:2001年09月03日(月)01時00分41秒
目的地に着いたタクシーから降り、昨日とは明らかに違う気持ちで平家の部屋へと
向かう後藤の胸は、いつもより数十倍の速度で早鐘を打っていた。
部屋の前まで来ても、すぐには玄関チャイムを鳴らせないほどに。
幾度か深呼吸を繰り返してからチャイムを鳴らすと、あまり待たされることもなく
ドアはすぐに開かれた。
しかし、そこにある、昨日も見た大好きなひとの顔は笑顔ではない。
だからと言って怒ってるという様子でもない。
平家は、どこか哀しそうな瞳で後藤を見ていた。
「・・・入っても、いいですか?」
頷く平家が後藤を部屋の中へと促す。
「・・・あ、あの、ごめんなさい!」
キッチンに入った平家の後ろ姿に向かって、後藤はそう言って頭を下げた。
「・・・何?」
「あの、えっと・・・、う、嘘なんです」
「・・・嘘?」
冷蔵庫からミルクティーのペットボトルを取り出した平家の表情が歪む。
「だから・・・、その・・・、ここに忘れ物したって話、です」
平家の顔を見ることが出来ず、俯き加減に後藤は白状した。
47 名前:瑞希 投稿日:2001年09月03日(月)01時10分42秒
「・・・昨日のこと、ちゃんと謝りたかったのと、あのまま・・・、もう平家さんと
会えなくなるのがイヤで、嘘ついたんです。だから・・・、ごめんなさい」
戸棚からグラスを二つ取り出した平家がゆっくりとした動作でミルクティーを注ぐ。
驚くか、怒るか、そのどちらかだと思っていた後藤は、平家の態度が少しも変わらないことに
少なからず拍子抜けしながら、恐る恐る頭を上げた。
「・・・そんなん、判っとったよ」
「えっ?」
「・・・何、ボーッとしとるん? 座ったら?」
両手はグラスを持ってて塞がっているから、平家は顎でソファを指した。
指示されるまま、後藤はソファに座る。
その後藤に平家はミルクティーの入ったグラスを差し出した。
「平家さん、知ってて・・・?」
「気付かんワケないやろ。ここ、あたしの部屋やで? ごっちんの物があったら気付くわ」
「じゃ、どうして」
――もう来るなって言ったのに、嘘だって判ってて、どうして・・・。
続きの言葉を飲み込んだ後藤の心の声を聞いたのか、中途半端な後藤の質問に平家は
目を逸らしてグラスに口を付けた。
48 名前:瑞希 投稿日:2001年09月03日(月)01時18分45秒
「・・・平家さん?」
呼んでも答えない。それどころか背を向けてキッチンに入ってしまった。
後藤は受け取ったグラスを置いてソファから立ち上がり、早足で平家を追う。
「・・・昨日のことは気にせんでもええよ。ごっちんは何も悪くない。あたしが
悪いねん」
「でも・・・! ・・・でも、あたし、平家さんにひどいこと、しました」
感情の赴くまま力任せに腕を掴んで、強引にその唇を・・・。
「気に・・・、してへん。・・・もう忘れた」
何でもないことのような口調に後藤の胸がチクリと痛む。
「・・・用が済んだんやったらもう帰り。そんでもう来んといて」
「イヤです!」
「・・・ごっちん、頼むから」
「イヤです・・・」
グラスを置いて、くるりと平家が後藤に振り返る。
しかし、後藤のその真っ直ぐな視線を受け止めることは出来ず、平家はまた目を逸らし、
逃げるように後藤の横を擦り抜ける。
49 名前:瑞希 投稿日:2001年09月03日(月)01時27分39秒
「平家さんっ」
擦り抜けようとして腕を捕まれた平家が弾かれたように振り向く。
「あたし、ホンキですよ。ホンキで平家さんが好きなんです」
「・・・あたしは」
「裕ちゃんがいるから、なんて言わないで下さいね。聞きましたから、裕ちゃんに」
「聞いたって、何を・・・」
「裕ちゃんと付き合ってたって。でももう別れてるって。だから昨日のアレも演技だって」
それを聞いた平家のカラダが揺れたのが、腕を掴んでいる後藤に振動で伝わる。
再び目を背けた平家の頬が朱に染まったのを後藤は見逃さなかった。
「・・・は、離して」
「イヤです」
「ごっちん・・・!」
後藤に掴まれた手を振り解こうともがく平家を自身のカラダで制し、もう片方の腕も
捕らえる。
昨夜と同じ態勢になったことで、平家のカラダがまた少し震えを見せた。
50 名前:瑞希 投稿日:2001年09月03日(月)01時36分24秒
ちょこっとだけ更新です。
あと2回ぐらいでENDマークがつけられると思います。

>43さん
ありがとうございます。
喜んでいただけて、私も嬉しいです。

>44さん
ありがとうございます。
「ごまゆう」「やぐちゅー」「みっちゅー」私も大好きです。
いずれ、このうちのどれか、書くかも・・・?(謎)
51 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月03日(月)03時18分54秒
後藤積極的ですね!!
作者さんの意味深発言にも注目しつつ…
(俺もごまゆう、やぐちゅー、みっちゅー全部好きです!)
続きに期待しています。
52 名前:瑞希 投稿日:2001年09月04日(火)02時13分47秒
「・・・あたし、平家さんが好きです。平家さんだってあたしのことキライじゃないって
言ってくれたじゃないですか」
「す、好きやとも言うてへん」
チクッとまた後藤の胸が痛んだ。
「・・・信じません」
「ええ加減にして。ホンマに怒るで」
「いいですよ。でも、この手は離しませんから」
言うなり後藤は平家を抱きしめた。勢いづいて平家の背を壁にぶつけてしまったけれど、
後藤は構わず腕に力を込める。
華奢な平家の肩に額を乗せて、高鳴る心音を抑えながら、溢れ出る平家への想いを、
もう何度も言葉にしたその想いを口にする。
「好きです」
平家のカラダがまた揺らぐ。
「・・・アカン。こんなんはアカンよ、ごっちんは・・・」
平家が言おうとしたことが何となく判って、その先を平家の口からは聞きたくなくて、
後藤は平家を抱きしめる腕の力を更に強めた。
「・・・もう、市井ちゃんは関係ないです」
53 名前:瑞希 投稿日:2001年09月04日(火)02時22分30秒
腕の中の平家のカラダの微妙な揺れが、後藤が発した言葉に間違いがないことを伝える。
「・・・平家さんが、平家さんのことだけが好きです」
それまでは抵抗気味だった平家も、後藤から繰り返し聞かされる告白の言葉に、
半ば諦めたように強張らせていたカラダをやわらげた。
「・・・判った」
「平家さん?」
「ごっちんの気持ちはよう判ったから・・・、せやから離して。・・・苦しいねん」
苦しい、と言われて、後藤は慌てて平家から離れた。
自分の腕力が華奢な平家とは比較の必要もないくらいなのは判っていたハズなのに、
感情のコントロールさえ出来ない自分の幼さに自己嫌悪する。
「ごめん、なさい」
「・・・ホンマ、噂通りの馬鹿力やな」
掴まれていた腕を撫でさすりながらの苦笑いと、どこか呆れたようなその声に、
後藤はますます恐縮した。
「すいません・・・」
「ええよ。・・・それより座らへん? 立ちながら話すようなことと違うし」
54 名前:瑞希 投稿日:2001年09月04日(火)02時30分14秒
促されるまま後藤がソファに座ると、平家も追うように後藤の左隣に腰を降ろした。
勿論、昨日まで感じていたような密着感はない。
お互いがお互いとも、不自然に空いた距離をもどかしく思いながら、
切り出すタイミングが見つけられず黙り込んでいた。
「・・・あの」
たまらず後藤が先に口を開く。
声と一緒に頭だけで隣にいる平家に振り向くと、ビクッと平家の肩が揺れたのが判った。
「・・・何や?」
怯えさせている、と感じた後藤の唇が僅かに凍る。
そんな顔をさせたいワケじゃないのに。
守ってあげたい、ただそれだけなのに。
「・・・どうして平家さんは、あたしの気持ちに、応えたく・・・ないんです、か?」
言葉が途切れ途切れになってしまったワケは、その質問の答えを聞くことに、後藤自身が
怯えてしまったせいだ。
55 名前:瑞希 投稿日:2001年09月04日(火)02時40分19秒
歯切れの悪さをどう解釈したのか、平家が怪訝そうに後藤に振り向く。そしてそこに
涙目で自分を見つめている後藤を見つけて、平家の胸の奥では大きな波が打ち寄せていた。
「・・・そんな、何も泣かんでも」
「・・・キライじゃないって、昨日は言ってくれたじゃないですか。どうしてですか?
あたしが6つも年下だから?」
平家の胸が鳴る。思わず後藤から目を逸らしてしまった。
逸らされて、きっと傷ついたであろう後藤の表情が想像出来て、平家は溜め息をついた。
「・・・ごっちん、もしかしたら好きって気持ちを勘違いしてるかも知れんって、
思ったことないか?」
「ないです」
間髪入れない返答に思わず平家は笑ってしまう。
「早いな」
「勘違いなんかじゃないですよ。たとえばこれが初恋だったらそれも考えられるかも
知れないけど、でも初めて好きになったひとは他にいます。だから判る。あたしは、
平家さんのことが、ホンキで好きです」
「・・・けど、ごっちんのココには、その初めて好きになったひとがおるやんか。
一生忘れられんひとが・・・おるやろ?」
目線は外したまま、平家が後藤の胸元を指差す。
56 名前:瑞希 投稿日:2001年09月04日(火)02時48分44秒
「・・・市井ちゃんのこと?」
後藤の問いかけに、平家はどこか淋しそうな、曖昧な表情で小さく笑った。
「・・・それは、だって、市井ちゃんはあたしにとってすごく大事なひとだったから、
忘れるなんて出来ないですけど、でももうとっくに終わってることだし・・・」
市井のことはとても、とてもとても好きだった。
この世界に入ったばかりの頃、右も左も全然判らなくて、戸惑いの気持ちと不安ばかりが
先走ってた後藤は、それでも市井がいてくれたから頑張れた。
いつだって市井のあのあったかい笑顔に守られている感じがした。
ずっと守っていてもらえるのだと感じていた。
市井の決意を聞く、その日まで・・・。
「・・・あたしのこと、見守っててくれたひとだから・・・。あたしがこうしていられるのも、
市井ちゃんのおかげだって今は思えるから、たぶん、一生忘れられないひとではあるけど・・・」
「・・・そういうひとと比べられるの、辛いやん」
不意に、後藤の脳裏に中澤が言っていた言葉が思い起こされた。
『こっちばっかりホンキになるのは怖いやん』
57 名前:瑞希 投稿日:2001年09月04日(火)02時56分31秒
自分を困惑気味に眺める平家の視線が後藤の胸を熱くする。
「・・・平家さん、それ、あたしのことが好きだって聞こえます」
答えた後藤の言葉に平家の顔がカッと一瞬で赤くなった。
見られまいと、後藤から顔を背ける。
「そんなん・・・言うてへん」
背中を向けてしまった平家に、後藤はそっと手を伸ばした。
肩に手を置き、細いカラダのラインを辿るようにそのまま腕へと滑らせてみる。
平家からの抵抗はない。
「・・・じゃああたしは、裕ちゃんと比べられるのかな」
その背に額を押し付ける。
「・・・裕ちゃんはあたしと違ってオトナだし、平家さんのこと、困らせたり
しなかったんだろうなって思ったら、それだけで辛いです」
自分に背を向けている平家のカラダの前へ腕を伸ばし、彼女をそっと抱きしめる。
「・・・市井ちゃんのことは、ホントにもう関係ないです。大事なひとではあるけど、
今のあたしには平家さん以上に好きなひとなんていないんです」
58 名前:瑞希 投稿日:2001年09月04日(火)03時04分25秒
少し冷たい平家の手が、彼女の前で組まれた後藤の腕に触れる。
「・・・キライじゃないって、そう言ってくれたじゃないですか」
触れていただけの手に、ほんの僅かだけれど、力が込められた気がした。
「・・・ビデオに映ってる、あたしのあの顔が好きだって言ってくれたじゃないですか」
駄々をこねるコドモのような気もしたけれど、このまま平家を離してしまうのだけは
イヤだった。
「・・・ごっちん」
カラダが密着しているからか、自分を呼ぶ平家の声は耳元のすぐ近くで聞こえた。
「・・・ずっとこうしていたいと思うのって、あたしだけのワガママなんですか?
平家さんはホントにあたしのことなんか何とも思ってないの?」
後藤のその言葉のあと、しばらく沈黙が続いた。
後藤の腕の中の平家は大きな抵抗をみせることはなかったけれど、だからといって
後藤の想いに応えてくれそうな雰囲気もなく、半ば諦めかけた後藤が小さく溜め息を
漏らした時、ぽつりと、呟くように平家が声を出した。
59 名前:瑞希 投稿日:2001年09月04日(火)03時12分32秒
「・・・6つの年の差は気にならんの?」
「なりません。それを言うなら平家さんと裕ちゃんだって同じくらい離れてるじゃないですか」
「・・・そうやな」
相変わらずの即答に自嘲気味に笑った平家のカラダの揺れが後藤にも伝わる。
後藤は平家のカラダの前にまわした自分の腕の力をほんの少しだけ弱めた。
「・・・何が、怖いんですか?」
平家のカラダがまた揺らぎ、それが的を射た質問だったことが判る。
「・・・何もかも。全部やなあ」
平家が静かに答えた。
「全部が全部怖いなあ。年の差も、市井ちゃんのことも、ごっちんの将来のことも。
考えたら怖いよ。応えたらアカンと・・・」
「・・・平家さん、ズルイ」
弱めた腕に再び力を込めて抱きしめ、後藤は言った。
60 名前:瑞希 投稿日:2001年09月04日(火)03時19分58秒
「ズルイ? 何が?」
「あたしのことが好きなくせに、どうして怖いからって理由だけで逃げるんですか?
年の差は・・・、それはもうどうしようもないけど、でも、市井ちゃんのことはもう
終わったことだって、そう言ってるのに、何でまだ気にするんですか? あたしの将来の
ことだってそうですよ。まだ何にも始まってないのに、何で終わっちゃうことばかり
考えるんですか? ホントにまだ何も、なーんにも始まってないのに」
「ごっちん・・・」
「・・・他のことは考えなくていいですから、今のあたしのことだけ考えて下さい。
今のあたしを好きになって下さい・・・!」
格好悪く縋っているだけの自覚は後藤にもあった。
けれど、そうしてでも平家を手放すことだけはしたくなかった。
今、確かに腕の中にいる平家から感じる、その体温すらも・・・。
61 名前:瑞希 投稿日:2001年09月04日(火)03時25分33秒
更新しました。
次、ラストまで一気に仕上げます。

>51さん
普段は「ぼんやり」なごまも、好きなひとには積極的ってのが、イイかなっと(笑)
62 名前:瑞希 投稿日:2001年09月04日(火)23時44分37秒
また、沈黙が訪れた。そして今度もまた平家がそれを破る。
ただ、さっきとは確実に違う雰囲気で。
「・・・負けた」
ぽつっと言うなり、平家は自身の上体を背中から後藤へと凭れかかるように
傾けてきた。
重心が移り、後藤は平家を抱きしめるカタチから、その華奢な肩ごと
受け止める態勢になる。
「・・・平家さん?」
「負けたわ、もう。・・・降参する。・・・ごっちんの言う通りや」
「え?」
「あたしも、ごっちんが好きや」
「ええっ!」
「・・・何やねん、何でそんなにビックリするん?」
後藤の右肩に支えられるようにあった平家の頭が動く。
ほんの少し右に顔をずらせば、平家の頬に当たりそうな、そんな至近距離。
見えた彼女の表情はどこか不満気だった。
63 名前:瑞希 投稿日:2001年09月04日(火)23時54分35秒
「だ・・・、だって、いきなり言うから・・・」
詰まりながら答えた後藤の後頭部に平家は左手を伸ばした。
そのまま顔をずらし、後藤が戸惑っていることに気付きながらも、ゆっくり唇を寄せていく。
触れる直前、平家が先に目を閉じた。
「ん・・・」
平家に誘われるようにして目を閉じた後藤の耳に届いたのは、
カラダが震えそうなくらいの、平家の甘い吐息だった。
慣れた唇の動きで歯を割って舌を挿し込んでくる平家に、後藤の頭の奥が痺れを起こす。
態勢を変えた平家が後藤の肩を掴み、そのまま自身の体重でソファへと押し倒す。
触れては離れ、離れては触れる。
浅く、深く、互いの存在を確認しあうようなキス。
そんなキスを繰り返して届く平家の、耳に心地好い息遣いや声に、
後藤の思考は次第に深い海へと連れ去られようとしている。
64 名前:瑞希 投稿日:2001年09月05日(水)00時01分29秒
ふと、それに溺れかけていた後藤は、平家の唇が自分のそれから離れて顎を辿り、
喉元を滑ったときにハッと我に返った。
思わずカラダを硬直させて、自分に半ば覆い被さるようにして口付けていた平家の、
その細い肩を押し返してしまう。
「あっ、あのっ」
思いがけず行為を中断された平家の表情は困惑気味で、後藤は少し恥ずかしくなった。
「・・・何や?」
「あの・・・、えっと・・・」
後藤のカラダを挟むようにして両腕を突っ張らせ、上体を支えている平家が
じっと後藤を見下ろす。
「・・・あの、その・・・、へ、平家さんが『上』・・・なの?」
途端に訪れた沈黙。
後藤の目前には凍り付いた平家がいた。
65 名前:瑞希 投稿日:2001年09月05日(水)00時09分30秒
「あ、あの、平家さん?」
とんでもないことを口走ったような気分になって恐る恐る後藤が声をかけたとき、
平家は堪えきれないと言いたげに、それまで強張らせていた表情を崩して、
ぷっと小さく吹き出した。
カラダを起こし、後藤から離れ、ソファに座り直してもまだ顔を覆いながら
肩を震わせて声もなく笑っている。
どうして笑っているのか判らない後藤は、のろのろと起き上がって平家を見た。
「・・・あの、あたし、何かおかしなこと言いました?」
そう聞いても平家は肩を小刻みに揺らしながら、ただ首を左右に振るだけだ。
けれど、自分の言葉が平家を笑わせているりだということは判った。
66 名前:瑞希 投稿日:2001年09月05日(水)00時17分56秒
ひとしきり笑って気持ちも落ち着き始めた頃、平家は自分の弾む息を整えながら、
隣でまだ首を傾げて自分を見ている後藤に振り向いた。
「・・・ゴメン、笑うとこ違うよな」
言いながらも、考えるただけで綻んでしまう口元は隠せない。
「ゴメンやで。ごっちんがあんまりにも可愛いこと言うから、つい・・・」
右手をのばして後藤の前髪をかきあげる。
現れた額に唇を寄せ、触れてすぐ、自分の額を押し付けた。
「・・・あたしは、どっちでもええよ?」
「平家さん?」
「ごっちんがしたいのはどっちなん?」
「えっ?」
「したい? されたい?」
尋ねる平家からオトナの余裕が感じられ、同時にからかわれているような
気分にもなった後藤は、真っ赤になりながら思わず唇を噛んだ。
それでも、意地悪な微笑みを浮かべている平家はとてもキレイで、艶やかで、
胸の奥が熱くなっていくのを感じた後藤は、腕を伸ばして平家に抱きついた。
67 名前:瑞希 投稿日:2001年09月05日(水)00時24分05秒
「・・・したい」
「ん、正直でよろしい」
平家の唇が今度は頬に触れた。
「・・・でもね、平家さん」
「うん?」
「今日はこのままでいたいって思うのは、ワガママかな?」
背中にまわされている平家の手が撫でるように肩口から下方へと滑り落ちる。
くすぐったさに身をよじりつつ、後藤はもう一度尋ねた。
「・・・ダメ?」
「・・・この火照ったカラダを、どう鎮めてくれるん?」
「えっ」
「あたしとはしたくないってことと違うやんな?」
「ちっ、違いますよっ」
「じゃあベッド行こ」
「ええっ? ちょっ、あの、平家さん?」
68 名前:瑞希 投稿日:2001年09月05日(水)00時30分41秒
ソファを降り、後藤の手を引っ張って寝室へと足を進める平家。
後藤は戸惑いながらも平家に手を引かれるまま寝室に入った。
その部屋に入ったのはこれが初めてというワケでもなかったけれど、
それでも今までとは状況はまるで違っていて、後藤は自分の心臓が
口から飛び出してきそうなくらい胸を高鳴らせていた。
「へ、平家さん、あの・・・」
後藤の手を離し、先にベッドに腰掛けた平家が着ている服を脱ぎ始める。
「平家さぁん・・・」
後藤が情けなく声を漏らしたとき、シャツのボタンに手をかけていた平家の手が
ピタリと止まった。そしてそのすぐあと、平家のカラダが小刻みに震えだした。
「えっ? あれ? 平家さん?」
「・・・・・・くっくっくっ」
「・・・あのぅ?」
「・・・ホンマ、もー、何でそんな可愛いねん」
69 名前:瑞希 投稿日:2001年09月05日(水)00時39分08秒
からかわれていたことをようやく悟った後藤は、頬を膨らませて平家の隣に座った。
「ひどいよ、平家さん!」
「ゴメンゴメン。せやけどごっちん、あたしの思った通りの反応するから可愛くて」
キレイなキレイなその笑顔に可愛いと言われてしまえば、もう何も言い返せなくなる。
惚れた弱みなんて、そんなものだ。
「・・・ゴメンて、な?」
ちゅっと音を起てて頬にキスされる。
誤魔化されているような気がしないでもなかったけれど、
それはそれで、後藤にとっては幸せだったりするワケで。
「うー、・・・平家さんて、意外と意地悪だぁ」
「そうかなあ?」
悪びれた様子もなく顔を覗き込んでくるその笑顔もやはりどこか小悪魔的で、
けれど目を逸らすのなんか勿体ないくらいキレイで、思わず見とれてしまう。
70 名前:瑞希 投稿日:2001年09月05日(水)00時46分47秒
ちょっと悔しくなった後藤は、平家に腕をのばし、その細い肩を捕まえて
ベッドに二人して倒れこんだ。そしてそのまま覆い被さるようにして
平家を抱きしめる。
「・・・どした?」
ぎゅうっと更に強く抱きしめ、そのぬくもりや存在を再度確認する。
耳元に届く平家の吐息が後藤のカラダを熱くさせた。
「・・・離しませんからね。ずっとずっと、平家さんのことが好きですから」
髪を撫でていた平家の手の動きが一瞬だけ止まる。
けれどすぐにまたその指に後藤の髪を絡めた。
「・・・うん、離さんとってな」
平家の答えを聞いて、後藤はゆっくり頭を上げた。それからその唇へ自分の唇を
そっと重ねる。
平家の腕が後藤の背にまわされる。
深く深く、貪るように唇を求めてくる平家に応えるように、後藤も同じくらい
平家を求めた。
そうすることで、すべての不安や疑惑、怯えを拭い去るかのように。
71 名前:瑞希 投稿日:2001年09月05日(水)00時54分03秒
「・・・あのな、ごっちん」
名残惜しそうに唇を離し、平家が声を出す。
「・・・何ですか?」
唾液で艶めいた後藤の唇。その唇を、後藤は平家の頬へと滑らせていく。
「・・・実は昨夜から気になっとったんやけど」
「何をですか?」
答えながらも、後藤のキスは平家の顔中に降らされていく。
「・・・梨華ちゃんやよっすぃーよりも可愛くてカッコイイひとって、誰なん?」
思わず後藤はコケそうになった。
「・・・ホンキで聞いてます?」
「うん」
覗き込んだ先の平家の表情は真剣で、嘘もからかいも見えない。
「・・・あのね、平家さん」
一呼吸置いて、後藤は言った。
「今のあたしは平家さんしか見えてないんですよ? 平家さんの他に
誰がいるって言うんですか?」
72 名前:瑞希 投稿日:2001年09月05日(水)01時01分48秒
少し思案に暮れたあと、平家の顔が仄かに赤くなる。
「・・・何や、じゃああれはあたしのことやったんか」
「そうですよ。なのに平家さん、市井ちゃんだとか言い出すからますますムッときて、
だから怒ったんですよ?」
言いながら平家を抱きしめる。
「・・・そうか、ゴメン」
「もう、いいですけどね」
笑顔で返し、再び平家の唇を奪いにいく。
けれど唇が触れるその直前になって、平家に顎を引かれてしまった。
戸惑う後藤の首に平家がするりと腕をまわし、その耳元に顔を寄せる。
「・・・あたしな、ごっちんの笑てる顔も好きやけど、唇も好きやねん。
せやから、もっといっぱい・・・キスして?」
甘い囁きは、後藤を一瞬で幸せな気持ちへと導く。
自分の首にしがみつくように抱きついている平家の体を抱き返し、
後藤は微笑みながら大きく頷いた。


― END ―
73 名前:瑞希 投稿日:2001年09月05日(水)01時12分13秒
はい。「Tonight Spend Together」の「みちごま」編、終了です。
今までお付き合いくださった方々、ありがとうございました。
途中、レス内の字数制限に引っ掛かり、
それ以降は当初と字数が大幅に変わってしまいました。
読みづらくなってしまったと思います。大変申し訳ありませんでした。

えーと、それで、次なんですが・・・、
ちょっと1週間ほど期間をいただいてから、
「いしよし」に挑戦したいと思っています。
途中のレスで意味深発言しといて、何だとーーっ、と思われそうですが(爆)

では、それまでしばし、さようならです。
感想などありましたら、よろしくお願いします。
74 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月09日(日)00時03分25秒
いしよし期待してます♪
75 名前:瑞希 投稿日:2001年09月14日(金)00時35分21秒
> 74さん
ありがとうございます、ご期待に添えられるかどうかわかりませんが、頑張ります。
76 名前:瑞希 投稿日:2001年09月14日(金)00時39分57秒
お待たせ?しました、「いしよし」編です。
今回は前作の「みちごま」よりかなり短いです。
そんでもって「エロちっく」にいきます。

それでは、スタートです。
77 名前:瑞希 投稿日:2001年09月14日(金)00時46分56秒
ただ漠然と、他意も勿論含まずに、可愛いなあ、と思う。
仕種とか、表情とか、スタイルだって、
世間の男性ファンには、たまらないんだろうな、と。

メンバー待ちの楽屋で、加護や辻とじゃれている石川を見ながら、
吉澤はそんなことをぼんやり考えていた。
「…ひとみちゃん?」
吉澤の視線に気付いた石川が笑顔で呼びかける。
腕に絡む加護の手を離し、ゆっくりした歩調で近付いてきた。
「何読んでるの?」
膝の上に広げた雑誌を読むフリで石川達を盗み見ていた吉澤は、
目が合ってもさほど慌てることもなく、何でもない素振りで、
その端正な顔をにっこりと微笑ませた。
78 名前:瑞希 投稿日:2001年09月14日(金)00時55分35秒
それを見て、石川も笑顔を崩すことなく両手を後ろに組んで、
吉澤の手元にある雑誌を覗き込む。
「ひとみちゃんの?」
「ううん。誰のか知らないけど、そこに置いてあったから」
テーブルの上を差して雑誌を閉じる。
「見る?」
「ううん、いい。……それよりひとみちゃん、今日、ウチ来ない?」
椅子から立ち、読むフリをしていただけのその雑誌を、
テーブルの上に戻した吉澤の背中に石川が告げる。
「……何で?」
「何でって……、ウチに来るのに、理由が必要かな?」

上目遣いで、唇をほんの少し尖らせて、甘えたようにちょっと鼻にかかる声で…。

吉澤は、それが石川の無意識の誘いであることに気付いている。
「ないよ。聞いてみただけ」
言って、そのまま石川に顔を近づけてその唇を奪った。
79 名前:瑞希 投稿日:2001年09月14日(金)01時03分46秒
「ひっ、ひとみちゃん?」
軽く触れただけのキスだったのに、
石川はひどく驚いたように吉澤からカラダを引いた。
口元を手で押さえ、頬も少し赤らめている。
「……こ、こんなところで」
俯き加減で声を出した石川を、そっと抱きしめるようにして両肩に手を乗せる。
「こんなところで……、何?」
肩に乗せた手で石川の耳を撫でる。
吉澤の指の感触を感じた石川が肩を竦ませた。
「みんな…見てるのに」
言われた吉澤がちらりと自分の後方へ振り向くと、
そこには石川よりも頬を赤くしている加護と辻、その隣には
いつものように思考の読めない表情でぼんやり天井を見ている飯田がいて、
更にはドア付近に、今着いたばかりと思われる保田や安倍もいた。
80 名前:瑞希 投稿日:2001年09月14日(金)01時09分55秒
「あ、おはようございます」
「おっ、おはようございますっ」
石川から離れずに保田と安倍に頭を下げる吉澤。
それに続くように吉澤の影から焦り気味の石川も挨拶をした。
「朝から熱いねぇ」
「年中常夏ってカンジ?」
手で顔を仰ぐようにしながら保田が言うと、
嫌味のないニコニコした笑顔で安倍が続けた。
「かっ、からかわないで下さいよぅ」
頬の朱が引かないまま、石川が肩に乗せられている吉澤の手を払おうと掴む。
けれど吉澤はそれを拒むように掴む手のひらに力を込めた。
石川のカラダが、ほんの少し困惑したように揺れる。
81 名前:瑞希 投稿日:2001年09月14日(金)01時16分32秒
「…ひとみちゃん?」
見上げる石川の目にも戸惑いが見えた。
そこでようやく吉澤は石川を解放する。
自分自身でも持て余している感情をうらめしく思いながら。

「裕ちゃん達はまだ来てないんだね」
楽屋をくるりと見回して保田が言い、荷物を下ろす。

体温と思考とが比例するかのように、吉澤の感情が複雑に入り混じる。

「ちょっと…、手を洗ってきます」
石川から離れて保田達に振り返り、笑顔を崩さず言ってから吉澤は楽屋を出た。
勿論、あとから石川が追いかけてくるだろうということは承知の上で。
82 名前:瑞希 投稿日:2001年09月15日(土)00時41分05秒
吉澤が、誰もいなくなった化粧室の鏡に自分の姿を映したとき、
走って来たのか、少し息を弾ませながら石川がやってきた。
「…ひとみちゃん、どうかしたの?」
「何で?」
「何でって…、何か今日のひとみちゃん、いつもと違うから……」
「そう? じゃあいつものあたしってどんなの?」
「…ほら。そういうこと、いつもなら言わないじゃない」
困ったように眉間にしわを寄せた石川の細い腕を掴む。
そしてそのまま引き寄せて抱きしめる。
「ひとみちゃん? ダメだよ、誰か来……」
言うが早いか、吉澤は石川の唇を奪いながらそのカラダごと個室へと誘導する。
蓋が閉じられている洋式の便座に彼女を座らせ、ドアを閉めてカギを掛けた。
83 名前:瑞希 投稿日:2001年09月15日(土)00時48分20秒
「ふ……」
塞いだ唇から吐息が漏れ、それを聞いた吉澤のカラダの熱が一気に上昇する。
「梨華ちゃん……」
耳元で囁き、その声に震えて身を竦ませた石川の肩に手を置く。
それからゆっくり撫でるようにして手をずらし、細い腕を掴み、腰へと滑らせる。
石川のカラダはその手の動きに素直に反応し、吉澤の手が、
石川の着ているシャツの裾から中へと進入して素肌に触れたときも、
その反応をとても顕著に吉澤に伝えた。
「ひとみちゃん……」
しゃがんで、座る石川の腹部に顔を埋める。
シャツのボタンを外し、あらわになった肌に唇を寄せ、
ちろっと舌先で臍の辺りを舐めてもみる。
「あん…」
84 名前:瑞希 投稿日:2001年09月15日(土)00時51分13秒
切なげな吐息。

――それは、誘惑の、声。

石川と知り合うまでは知らずにいた、
快楽という名の、甘くて、深い海へと連れ去る……。
85 名前:瑞希 投稿日:2001年09月16日(日)00時00分21秒
「梨華ちゃん」
その名を呼びながらフロントホックのブラを外し、
現れた胸のふくらみをその手のひらで覆う。
指先でそのふくらみの突起に触れ、
カラダを揺らした石川に満足してから口の中へと含む。
「あ…ッ」
短い声が吉澤の耳へと届く。
石川の両腕が、胸元に沈む吉澤の頭を抱えるように抱きしめた。
「ひと、み…ちゃ……」
軽く吸い上げては甘噛みする、という行為を何度か繰り返す。
そのうち、石川がカラダを小刻みに震わせながら
両膝を擦り合わせているのが判った。
86 名前:瑞希 投稿日:2001年09月16日(日)00時09分19秒
「…ダ、メだ、よぅ……。誰か、来ちゃ…うぅ」
けれどそれが決して本意からの拒絶の言葉でないことは、
次第に固くなってくる胸の突起が教えてくれた。
閉ざすように合わされた石川の膝に手を滑らせて開かせ、
スカートの中へと手を差し入れる。
僅かにたじろいだ石川に構わず、指先だけをのばしてその中心をそっと撫でると、
彼女のカラダが今までよりも更に大きく揺らいだ。
「んん…っ!」
唇を噛んでいるせいで、吉澤が聞きたい石川の声はくぐもって聞こえない。
「…声、聞かせて」
「だ…、ダメだって…、あんっ」
撫でていただけの指を強く押してみると、
吉澤の頭を抱く石川の腕に力が入った。
87 名前:瑞希 投稿日:2001年09月16日(日)00時15分58秒
「誰か…、来ちゃう、よぉ……」
「……来ないよ」
とりあえず、楽屋にいたメンバーは来ないだろう。
石川と吉澤の関係を知っていれば、
今ここに来たって邪魔になるだろうということは予測がつくはずだ。
「…か、帰ってからに……、しよう、よぉ」
「……ガマン出来る?」
「い、意地悪…、しないでぇ…」
手の動きを休めずにゆっくり吉澤が頭を上げると、
石川の目尻から滴が零れたのが見えた。
涙を見てしまうと、さすがに罪悪感が生まれる。
88 名前:瑞希 投稿日:2001年09月16日(日)00時22分17秒
スカートの中に差し込んでいた手を引き、
小刻みに震えながら吉澤の肩を掴んで自身のカラダを支えている、石川の腕を掴み返す。
「……ゴメン」
立ち上がり、零れた涙を唇で掬い取って目尻にキスをする。
ゆっくり唇をずらし、何か言いたげな声を奪って頬を撫でると、
石川のほっとしたような吐息が吉澤の耳にも届いた。
はだけたままの石川の衣服を口付けながら直し、そっと腰に腕をまわして立たせる。
「ひとみちゃん」
石川の、自分を呼ぶ声が吉澤はとても好きだった。
愛しさが込み上げてきて、思わず強く抱きしめてしまう。
89 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月16日(日)02時37分03秒
おお!気付かなかったです!!
いしよしはじまってたんですね!!
期待してます♪
90 名前:瑞希 投稿日:2001年09月16日(日)23時52分28秒
>89さん
今回、ちょっと短めなのと、「エロちっく」なんで、
終わるまでsageでいきます。

ではでは、続きです。
91 名前:瑞希 投稿日:2001年09月16日(日)23時59分29秒
「……何かあったの? やっぱり今日のひとみちゃん、変だよ?」
不意な人の訪れを警戒してか、石川は吉澤の腕に甘えながらも、
その耳元に囁くような小さな声で尋ねた。
その声色から本当に心配しているのが伝わって、抱きしめる腕にも力が入る。
「……あたし以外のひと、見ちゃイヤだ」
「え…?」
「このまま、他の誰にも梨華ちゃんのこと、見せたくない」
言葉にしてみて、改めて自分自身の独占欲の強さを知る。
子供じみた、その願望。
腕の中の石川の動きがほんの少しだけ強張る。
「……こんなの、ただのワガママだって、判ってるんだけど、
でもさっき、あいぼんやののとじゃれてる梨華ちゃん見てたら、
何か…、すごく、イヤだった」
92 名前:瑞希 投稿日:2001年09月17日(月)00時04分31秒
言いながら、だんだんと石川の顔を見るのが怖くなる。
呆れられてしまいそうで。
幻滅させてしまいそうで。
「なーんだ、そんなこと?」
けれども、返ってきた答えはあまりにも単純明快で。
「じゃあ、ひとみちゃんの好きなようにしてくれたらいいのに」
「…梨華ちゃん?」
思わず石川からカラダを離した吉澤に、今度は石川のほうから抱きつく。
「あたしだって、ひとみちゃん以外のひとに見られたいなんて思ってないよ?
ホントにどっかに閉じ込めてくれてもいい。そしたらもう、
ひとみちゃんのことだけ見ていられる」
92 名前:瑞希 投稿日:2001年09月17日(月)00時09分18秒
腕の中の石川の表情は見えないのに、
そう言った彼女が満面の笑顔でいるのが何となく判る。
「…そんなの、出来っこないじゃん」
「そう?」
「出来ないよ、そんなの」
「……あたし、ひとみちゃんになら、何されてもいいんだけどな」
「梨華ちゃん……?」
「……ホントは今も…、さっきの続きしてくれたらいいなって…、
思ってるんだけど」
「えっ」
「…でも誰か来そうだし、邪魔とか…、そういうの入ったらやっぱりイヤだし、
声とかも、聞かれたら恥ずかしいから……」
93 名前:瑞希 投稿日:2001年09月17日(月)00時14分42秒
無意識なのか、それともこれが周囲からもよく言われている『計算』なのか。
言葉を選んでいるようでいて、それでも直接的なその口調は、
吉澤自身が抑えていた欲望にいとも容易く火を付ける。
「梨華ちゃん……!」
また更に抱きしめる腕に力を込める。
頬を擦り寄せ、見えた耳を噛んでもみる。
「あ…っ」
耳の淵をなぞると、それだけで石川のカラダが大きく揺れる。
「ひ…、ひとみちゃ……」
背中にまわる石川の手にも力が入る。
けれど、そこにさっきは感じた抵抗の影はない。
94 名前:瑞希 投稿日:2001年09月18日(火)00時22分23秒
舌で触れてみる。石川のカラダがまた大きく揺らぐ。
「…ん、んっ」
短い吐息混じりの声に応えるように舌先を突っ込むと、
また更にカラダが揺れて、背中には痛くない程度の爪の感触を覚えた。
整えたばかりなのに、再びシャツの中へと手を滑り込ませる。
腰から撫で上げるようにして胸に触れる。
ブラの上から弧を描くようにしてそのカタチを楽しむ。
「あ…んっ」
さっきとは違う、求めるような声に吉澤の欲望も加速づく。
左腕で石川を支えながら、胸を撫でていた手を下ろしてスカートの中へと向かう。
石川の脚がほんの少し震えた。
けれどカラダは応えるように、脚を肩幅ほどに開いて吉澤からの愛撫を待っている。
95 名前:瑞希 投稿日:2001年09月18日(火)00時27分06秒
「梨華ちゃん……」
舌先を突っ込んだ耳元で囁き、下着の上から指を擦り付ける。
「あ…っ、あんっ」
吉澤の指先がジワリと濡れてくる。
石川の吐息も乱れ始めた。
「ん…っ、はっ、ああっ」
吉澤の耳元で漏れる石川の官能的なその声。
もっと聞きたくて、
もっと乱れさせたくて、
吉澤が指を中へ進ませようとした、そのとき…、
「…よっすぃー?」
自分を呼ぶ聞きなれた声に、飛んでいたハズの理性が瞬時に舞い戻ってきた。
二人してカラダが強張る。
息さえも止まってしまいそうだった。
96 名前:瑞希 投稿日:2001年09月18日(火)00時33分38秒
「梨華ちゃん?」
続けて呼ばれた名前に吉澤はそっと石川からカラダを離し、その顔を見た。
乱れていた吐息を整えようと、頬を朱に染め、
閉じられた目尻に涙を浮かべている。
「いないの? …あれぇ? こっちじゃないのかなあ?」
呟くような独り言のあと、少ししてから人の気配がなくなる。
吉澤は、はーっと深く息を吐き出し、
緊張を解いて凭れるようにドアにカラダの重心を移した。
きっと、メンバーが揃ったのだろう。
自分達を呼んだ声は、遅刻常習犯の後藤だった。
「……びっくりしたぁ」
言って、石川を見た。
まだ目尻に浮かんでいる涙が吉澤の胸に響く。
97 名前:瑞希 投稿日:2001年09月18日(火)00時42分23秒
手をのばし、その涙を拭う。
「……大丈夫?」
石川はゆっくり閉じていた目を開けて頷いた。
潤んだ瞳が、また更に吉澤の胸を打つ。
「……行かなきゃ、ね」
抱きしめたくなる衝動をグッと堪えて右手を差し出すと、
石川は僅かにためらいながらも左手を重ねてきた。

ドアのカギを開け、そっと顔を出して辺りを見渡し、
誰もいないのを確認してから石川の手を引っ張るようにして個室を出る。
「あ…っ」
出てすぐ、石川が短い悲鳴のような声を漏らした。
振り向いた吉澤の目には、頬を赤らめている石川の顔が映る。
98 名前:瑞希 投稿日:2001年09月18日(火)00時48分20秒
「……どうしたの?」
「……ひとみちゃん、先に行ってて」
少し俯き加減で石川は言った。
「え? どうして?」
「……お願い、先に行ってて」
答えるなり吉澤の手を離して再び個室に入る。
「ちょっ、梨華ちゃん?」
呼んでも返答はない。
だからと言って言われた通り素直に先に戻ることも出来ない。

次の行動に困惑していた吉澤の耳に水を流すためのコックを捻る音が聞こえ、
続けてトイレットペーパーを取る音も聞こえた。
流れる水音が吉澤に卑猥な妄想を呼び起こさせる。
99 名前:瑞希 投稿日:2001年09月18日(火)00時54分53秒
「……梨華、ちゃん?」
「……ひとみちゃんのバカ」
個室のドア越しの、石川からのそんな非難めいた言葉に吉澤の胸が痛みを訴える。
「先に行ってって言ったのに」
「……だって、気になるじゃん」
カチリとカギの開く音がしてすぐ、顔を俯かせた石川が現れる。
「…だって、あのままいたら、下着が汚れそうだったんだもん……!」
吉澤が尋ねるより先に顔を赤くしながら石川は言った。
その意味が判らない吉澤ではない。
行為の途中で邪魔が入ったのだ。
確認しなくても、邪魔が入る寸前の石川のカラダがどんな状況だったのかは判る。
ひょっとしたら今も、石川のカラダは疼いているのかも知れない。
そう考えたら、また吉澤の欲望に火が付いた。
100 名前:瑞希 投稿日:2001年09月18日(火)01時00分03秒
「梨華ちゃん……」
声に何かを感じ取ったのか、石川が俯き加減にしていた顔を上げた。
そして幾らか強い目線できっぱりと言い放つ。
「続きは帰ってから」
「えっ」
「ガマンしてね。…あたしだって…、ツライんだから」
くるりと踵を返して手を洗うと、
吉澤をそこに残して、石川は先に化粧室を出て行った。
出て行く直前、チラリと振り返った石川の顔は、
吉澤が今日見た彼女の表情の中で一番頬が赤かった。
その恥じらい顔は、すぐそばで見ていたら、
それこそ抱き竦めてしまいそうな、そんな可愛さで……。
101 名前:瑞希 投稿日:2001年09月18日(火)01時05分52秒
「……そ、それは反則だよぅ」
独り言のように呟いて、吉澤は思わずしゃがみこんだ。
膝に額を擦り付け、さっきまで確かに感じていた石川の体温を思い起こす。

抱きしめたい。
もっともっと触れ合っていたい。

そんな子供じみた欲望や願望は、いつだって吉澤を自己嫌悪に陥らせるだけなのに、
石川はさらりと、まるでそれが当り前のように言って、
吉澤の心を捕らえていく。離れられなくする。

それはきっと、先に恋に落ちた者の弱みなのだろう。

吉澤は溜め息と一緒に立ち上がると、
鏡に映った自分の衣服の乱れを整えてから、ゆっくりと石川を追いかけた。
102 名前:瑞希 投稿日:2001年09月18日(火)01時09分14秒
−Tonight Spend Together−
「いしよし」編

―― END ――
103 名前:瑞希 投稿日:2001年09月18日(火)01時14分38秒
はい、以上で「いしよし」編、終了です。

とある方の「らぷらぶえっちで!」という、熱烈なご要望の「いしよし」だったんですが、
果たしてご期待に添えられたでしょうか…(汗
「エロちっく」を目指したんですが、ダメダメっすね…。
精進します。
104 名前:瑞希 投稿日:2001年09月18日(火)01時17分42秒
で、次なんですが、またまたちょっと時間を頂いて、
今度は「やぐちゅー」に挑戦したいと思ってます。

ではでは、それまでまたしばしのさようならです。
感想などありましたら、よろしくお願いします。
105 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月18日(火)01時40分26秒
最高っす
106 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月18日(火)17時08分28秒
いしよし、凄い良かったっすよぉ!
とある方とやらもきっと満足しているでしょう・・・
107 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月23日(日)16時12分47秒
いいっす!

やぐちゅーも期待大。ここの矢口はなんか健気で可愛いし。
108 名前:瑞希 投稿日:2001年09月26日(水)23時30分12秒
>105さん
ありがとうございます。
「エロちっく」だったんで内心ドキドキだったんですが、そう言っていただけてウレシイです。

>106さん
ありがとうございます。
とある方…、めちゃくちゃ喜んでました(w

>107さん
ありがとうございます。
「やぐちゅー」、ご期待に応えきれるかイマイチ不安ですが、頑張ります。
109 名前:瑞希 投稿日:2001年09月27日(木)00時04分39秒
お待たせ(?)しました、「やぐちゅー」編です。
でもごめんなさい、今回ちょこっと反則ワザです。
ずっと読んで頂いてる方々には申し訳ないです。(と、先に謝る…)
先が読めても、どうか最後までお付き合いください。

では、スタートです。
110 名前:瑞希 投稿日:2001年09月27日(木)00時08分35秒
喋ってるとき、ちゃんと目を見て聞いてくれるところが好き。
普段はふざけてばかりなのに、いざというときは頼りになるところが好き。
なのに、意外と怖がりで泣き虫なところも好き。

――なんだ、結局全部ってことじゃん。

自分の考えに思わず笑ってしまう。
それに気付いてそっと口元を隠し、平静を装いながら楽屋のドアを開ける。
111 名前:瑞希 投稿日:2001年09月27日(木)00時13分27秒
「おはよー、…て、あれ? よっすぃーだけ?」
今日は普段より少し早めに来たせいか、楽屋にはまだ吉澤の姿しかなかった。
「あっ、おはようございます、矢口さん」
笑顔で振り返った吉澤の隣に矢口が腰を降ろしたとき、
今度はもっと予想外の人物がドアを開けた。
「…おはよー」
「おは…、って、うわあっ、ごっちん?」
「ど、どしたの、珍しいじゃん、こんな朝早いの!」
「……あんま、眠れなくて」
ふにゃ、と表情を崩した後藤の目元が何だか赤く見えて、
矢口は続けようと思った言葉を思わず飲み込んだ。
112 名前:瑞希 投稿日:2001年09月27日(木)00時18分38秒
「朝寝坊常習犯のごっちんがこんなに早いなんて、今日は台風でも来るのかなー」
しかし吉澤は、後藤の様子がいつもと少し違うことには気付かなかったのか、
普段どおりに同い年の彼女をからかった。
「ひどーい、よっすぃー。あたしだってたまにはさぁ」
答える声もなんだかやっぱり元気がない。
けれど、だからと言って矢口にそれを問い返すつもりはない。
と言うより、後藤にそれを尋ねさせる雰囲気がなかった。

唇を尖らせながら、すとん、と吉澤と矢口のいる場所からは
少し離れたところにある椅子に座ると、すぐに鞄からケータイを取り出した。
113 名前:瑞希 投稿日:2001年09月27日(木)00時24分03秒
ケータイを見つめ、何だか淋しそうな瞳で考え込んでいる後藤。
それは、矢口にはあまり見慣れない表情でもあった。

ん、と何かを決意したようにボタンを押し始めた後藤の目は、
さっきよりは幾らか明るさも見えたけれど、
それでもまだどこか不安そうな、淋しそうな口元。
「……矢口さん? どうかしましたか?」
「えっ? あ、いやいや、何でもないよ」
呼びかけた吉澤に矢口が意識を向けたとき、楽屋のドアがまた開いた。
「おはようさん」
いつも通りの眠そうな目元は、欠伸を噛み殺しでもしたのか、
ほんの少し潤んでいるようにも見えた。
114 名前:瑞希 投稿日:2001年09月27日(木)00時29分55秒
「おはよー、裕ちゃん」
「おはようございます」
矢口と吉澤が揃って言ったあと、中澤の視線は当然後藤にも向けられた。
「……おはよう、後藤」
きっと、いつもよりもかなり早く来ている後藤に驚いて、
自分達のように何か言うだろうと思っていたのに、
中澤はそう一言言っただけで、あとは何も言わなかった。
言われた後藤の表情も、何だかカタい。
「…うう、アカン、飲みすぎた、頭ガンガンする」
中澤を見ると、気持ち悪そうに眉をしかめている。
「またぁ? ダメじゃん、仕事に響くくらい飲んじゃ」
言いながら、矢口はちょっと自分がイヤになる。
どうしてもっと、優しい言葉を掛けてやれないんだろうか、と。
115 名前:瑞希 投稿日:2001年09月27日(木)00時37分16秒
「……うーん、矢口ィ」
荷物を下ろした中澤が腕を伸ばしてきた。
矢口の胸が途端に跳ね上がる。
そしてまた、思ってもない言葉が出た。
「うわっ、マジで酒クサイよ、裕ちゃん! 離してよぅ」
抱きしめられている、なんて表現より、
捕まえられたと言われたほうが正しいようなその状況。
実際、矢口はとうに中澤に『捕まって』いるのだから、
たとえばそれを誰かに言われたら、どうしようかとさえ考えてしまう。
きっと、そのときは嘘がつけないだろうから。
小さい自分のカラダがすっぽりと中澤の腕の中におさまってしまう、その安心感。
口では抵抗しても、カラダはもう、
その腕やぬくもりの心地好さを覚えてしまったから、
抵抗らしい抵抗なんてしたことがない。
もう抵抗なんて出来ない。
116 名前:瑞希 投稿日:2001年09月27日(木)00時44分19秒
きゅ、と、抱きしめる中澤の腕に何だか力が入ったように矢口が感じたのは、
後藤のケータイが鳴ったとき。
背中から感じていたぬくもりが、
それまでとは違う熱を孕んだように思えたのは、気のせいだろうか。
何となく胸が騒ぐ矢口の視界の端に、
後藤が椅子から転げ落ちそうになった姿が映る。
少し驚いて振り向くと、矢口達に苦笑いを浮かべて見せながら、
後藤がケータイの応答に出た。
「もっ、もしもし? ……いっ、いえ、大丈夫です」
敬語だったことにほんの少し驚く。
しかし、更に矢口を不審がらせたのは、
背後から自分を抱きしめている中澤のカラダが、ほんの一瞬だけ揺らいだことだ。
けれど、確かに動揺したように揺れたはずなのに、
中澤はそれ以上微動だにしなくなった。
117 名前:瑞希 投稿日:2001年09月27日(木)00時48分38秒
頭のてっぺんに感じる中澤の顎の感触。
いつもならそのままキスだってしてきそうな勢いの態勢なのに、
今は何だかいつもとはまるで違う雰囲気を醸し出していて、
矢口から問い掛けたい気持ちを自然と奪ってしまう。
「……あの、どうかしたんですか?」
矢口を、いや、たぶん正確には中澤を見た後藤が気まずそうに楽屋を出て行く。
会話を聞かれたくないのがそれで判って、
矢口は自分の胸元にある中澤の手にそっと触れてみた。
「…裕ちゃん?」
118 名前:瑞希 投稿日:2001年09月27日(木)00時53分26秒
ぴくん、とほんの僅かに指先が震えたのが矢口の目に映る。
「……んー、やっぱり矢口は抱き心地ええなあ」
言葉とともに髪に唇が埋められているのが判って、矢口の心音が一気に上昇した。
「や、やめろよぉ」
嬉しくても、素直にそうだとはどうしても言えない。
今はまだ…、彼女の心に『あのひと』がいるから。
だから今は、もう少しだけ、
無条件に伸ばされてくるこの腕の心地好さに甘えていたい。

矢口は、中澤の腕に、
気付かれないようにそっと、そっと頬を擦り寄せた。
119 名前:瑞希 投稿日:2001年09月28日(金)00時12分13秒

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
120 名前:瑞希 投稿日:2001年09月28日(金)00時17分04秒
「お疲れさまでしたー」
今日の撮影や取材は、普段に比べれば予定よりも意外と早く終えたものの、
それでも疲労感は終了とともに押し寄せてくる。
個別のスチール撮影が最後になってしまった矢口が溜め息混じりで楽屋に戻ったときには、
もうほとんどのメンバーが帰り支度を済ませていた。
「お疲れ、また明日ね」
鞄を脇に抱え、保田が忙しそうに矢口の肩を叩いて出て行く。
「うん、お疲れ、圭ちゃん」
保田の背中を見送ってから部屋の中に入る。
そしてそこで、ちょっとした違和感が矢口のカラダにまとわりついてきた。
121 名前:瑞希 投稿日:2001年09月28日(金)00時24分02秒
「……あれ? 裕ちゃんと後藤ももう帰っちゃったの?」
楽屋内で、今出て行ったばかりの保田以外に見つからないメンバーの姿に、
矢口は首を傾げて近くにいた安倍に尋ねた。
「え? …でも、鞄あるし、まだいるんじゃない?」
安倍が指差した先に、今朝見た後藤の鞄と、
そこから少し離れたところに中澤の鞄もあった。
「……ホントだ。どこ行っちゃったんだろ?」
今朝の後藤と中澤はいつもとなんだか雰囲気や様子が違っていて、
それがいやに気にかかっていた矢口は、
その二人ともがいないことに妙な胸騒ぎを覚えた。
――ヤダな、あたし。二人が一緒にいるとは限んないじゃん…。
122 名前:瑞希 投稿日:2001年09月28日(金)00時28分52秒
「二人に何か用なの?」
静かに声を掛けたのは飯田。
矢口が振り向くと、ちょうど着替え終えた辻の衣服の乱れを正していた飯田と
目が合った。
「そういうワケじゃないけど…」
「カオリ、さっき二人が一緒に出てくとこ見たよ。
どこ行ったかまでは判んないけど」
ぽん、と嬉しそうに笑っている辻の頭を優しく撫でてやってから矢口に向き直る。
「何か、ちょっと深刻っぽくて、声掛けらんなかったんだけどさ」
ドキリ、と矢口の胸が高鳴り、言いようのない不安が押し寄せてくる。
123 名前:瑞希 投稿日:2001年09月28日(金)00時33分15秒
「ふうん……」
表面上と声は何とか興味なさげを装って、矢口も帰り支度を始める。
けれど胸の中はどんどん騒がしさを呼び覚ましてきて、落ち着かなくなってくる。
「やーぐちっ、帰ろ?」
鞄の中に手を突っ込んだまま動きを止めてしまった矢口の顔を、
不思議そうに覗き込みなかがら安倍が話し掛けてきた。
「ん……」
それに答えようと矢口が安倍を見たとき、不意に中澤の顔が浮かんできた。
どうしてだか判らないけれど、
はっきりした理由だってないけれど、
今日はこのまま中澤と会わずに帰ってはいけないような気がしてきたのだ。
124 名前:瑞希 投稿日:2001年09月28日(金)00時39分26秒
「……やば…、矢口、忘れ物しちゃったみたい。取ってくる」
「あ、じゃあ待ってる」
「ううん、いいよ。先に帰ってて」
「でも」
「いいって、ホント。バイバイ、なっち、気を付けてね」
困惑顔の安倍に手を振って楽屋を出た矢口は、まず、
さっきまで自分たちがいたスタジオに向っかった。
カムフラージュとして、一度はそちらに向かわねばならない。
けれど、当然そこに矢口が探している人の姿はない。
ついさっきまで矢口自身がそこにいたのだから、
中澤や後藤が来ればイヤでも気付くはずだ。
小さく溜め息を吐き出して、矢口はそのスタジオを出た。
125 名前:瑞希 投稿日:2001年09月28日(金)00時43分19秒
今朝の後藤の様子を思い出してみる。
笑った顔とか、声の抑揚のなさとか、
普段の彼女の雰囲気とは明らかに違う感じがしたのに、
取材中や撮影中はいつも通りで、
むしろ、どちらかと言えばいつも以上に気合いみたいなものが感じられた。
――でも、絶対何かあった。
それは漠然としたものだったけれど、矢口自身が戸惑ってしまうくらい、
確信めいたものがあった。
126 名前:瑞希 投稿日:2001年09月28日(金)00時45分42秒
それから中澤のことを思い出す。
はっきりと彼女の表情を見たワケではないけれど、
今朝の中澤の様子もいつもと少し違っていた。
それは、後藤に対して持つ違和感よりももっと確信が持てる。
――うー、何処だよぉ。
二人の間に、きっと何かがあったのだろう。
それだけは判った。
127 名前:瑞希 投稿日:2001年09月28日(金)00時49分54秒
溜め息混じりにスタジオを出たとき、
矢口が歩いてきたほうとは反対側の通路から話し声が聞こえた。
――! この声、裕ちゃん?
思わず早足になる。
声は、スタジオの隣の休憩室から聞こえてきていた。
「……それとな、みっちゃん、アカンって言うたんやろ?」
中澤の口から出た名前に矢口の足は条件反射のようにピタリと止まった。
誰かと一緒なのも判ったが、その相手が後藤であることは明白だった。
128 名前:瑞希 投稿日:2001年09月28日(金)00時55分16秒
ちょうど壁と壁の死角になっていて、
休憩所の椅子に座っているであろう二人からは見えないところに立つと、
矢口は息を潜めて二人の会話に耳を傾けた。
「…付き合いは結構長いからな、みっちゃんの考えそうなことは大体判る。
ホンマやったらあたしと付き合うてたことを後藤に知られるのなんか、
一番避けたかったはずや。せやのに昨日のアレやろ? よっぽと後藤に
惚れてるんやなーと思たわ」
中澤の言葉に矢口の心音が一気に跳ね上がる。
『あのひと』を語る中澤自身の声色が矢口を切なくさせたのと同時に、
意外な事実まで知ってしまったからだ。
――み、みっちゃんが後藤を?
129 名前:瑞希 投稿日:2001年09月28日(金)01時00分13秒
中澤の心に今もいる、
矢口がどうしても中澤に対して素直になれない第一の理由。
平家みちよ、という存在。
中澤が過去に彼女と『友人』の枠を越えて付き合っていたことを矢口は知っている。
勿論本人に聞いたワケではないが、
ずっと中澤を見ていた矢口が、中澤の視線の行方に気付かないワケがなかった。
そして、二人の関係が既に終わってしまった今も、
変わらず中澤が平家を想っていることも、矢口は知っていた。
その彼女が後藤に惚れていると中澤は言った。
そう聞こえた。
130 名前:瑞希 投稿日:2001年09月28日(金)01時07分31秒
「な…っ、何でそうなるの? まだ裕ちゃんのことが好きだから、
だからあーゆーことしたんじゃ……」
後藤の話し方から、後藤も平家を好きだということも判った。
そして昨日、何かがあったのだということも……。
「違う違う、あんなん、アンタを呆れさせるために決まっとるやん。
嫌われようとしたんやんか」
「そんな……、何で……」
後藤の困惑している声に矢口の緊張感も次第に高まっていく。
「…後藤のことが好きで好きでしゃあないんやろ。
アンタの将来のこと考えて、身を引くっちゅーか、諦めようとしてるんやん。
…健気っちゅーか、何ちゅーか…、ホンマ、相変わらず不器用な子やわ」
中澤の声は、聞いているだけでも平家に対する言葉にならない愛情を伝えてくる。
矢口の胸の奥が、その声色にぎゅうっと締め付けられた。
131 名前:瑞希 投稿日:2001年09月28日(金)01時12分00秒
「…裕ちゃん、ひょっとしてまだ平家さんのことが……?」
さすがに普段はぼんやり気味で鈍い後藤も、
今の中澤の口調には何か気付いた様子だった。
「んー? うん、好きやで? 何か、放っとかれへんねんもん、みっちゃんて」
改めて平家を好きだと答えたことに、また矢口の胸が痛くなる。
判っていたことなのに、
それを中澤の口から聞いたことでどんどん思考が暗くなる。
――……裕ちゃん…。
132 名前:瑞希 投稿日:2001年09月29日(土)01時22分13秒
「じゃあ何で別れたの」
「…イタイとこ突くなあ……。みっちゃんから言われたんや、別れてくれって。
あたしはホラ、来る者拒まず、去る者追わずのオンナやし……?」
「……理由とか、聞かなかったの」
「理由なんてひとつやろ。あたしがだらしないからやん。
あたしは誰か一人、なんて絞られへんし」
悪びれた様子のない中澤の台詞に思わず矢口の口の端が上がる。
――そんなこと言って許されるの、裕ちゃんだけだよ。
133 名前:瑞希 投稿日:2001年09月29日(土)01時28分54秒
「そんなあたしと付き合うてた自分自身のこと、みっちゃんはあんまり
好きやないと思うねん」
「…裕ちゃんと付き合ってたことを後悔してるって意味?」
「んー、ていうか、自分は後藤に相応しくないって思たんやろな。
せやからあんな見せつけるみたいなことしたんやと思う。
…みっちゃんの名誉のために言うとくけど、あんなんしたん、別れてからは
初めてやで? 後藤が帰ったあとかて、ホンマに何もなかったからな」
二人の会話を聞きながら、矢口が気になっていたことの靄が
だんだんと晴らされていく。
後藤は平家が好きで、平家も後藤を好きなはずなのにその想いを拒んだということ。
その場に中澤がいたということ。
…そして、今でもやはり中澤は平家を想っているということ。
その最後の事実だけが矢口の脳裏をぐるぐる回る。
134 名前:瑞希 投稿日:2001年09月29日(土)01時32分21秒
『好きやで?』
たとえばそれが純粋な好意から出た言葉で、
告白の意味を少しもふくんでいないのだとしても、
中澤本人の口から出たということにその重大さがある。

――裕ちゃん……。

胸の痛みは、矢口に涙を思い出させる。
目頭が熱くなって、矢口は咄嗟に手で顔を覆った。
135 名前:瑞希 投稿日:2001年09月29日(土)01時38分36秒
最初はただ、見ているだけで幸せだった。
笑顔とか、寝顔とか、リーダーというだけで背負わされているものを、
何でもないことのようにこなしていく姿とか。
だけど、中澤の腕のぬくもりを覚えてしまってからは、
見ているだけでは満たされなくなった自分を知った。知らされた。
それは何だかとても浅ましく、卑しく思われて、
抱きしめられたときの心地好さとか、何気なく向けられる言葉の優しさとか、
中澤自身を知れば知るほど、
どんどん彼女に惹かれていく自分を、だんだん素直になれなくなる自分を、
矢口は次第にキライになっていった。
ただ想っているだけでは、ただ見ているだけでは、切なくて、苦しくて。
そばにいるだけでいいなんて、そんな風にはもう思えないくらい、
中澤だけが矢口の心を支配してしまっていて。
136 名前:瑞希 投稿日:2001年09月29日(土)01時45分14秒
「見てるこっちがムカつくくらいアンタに惚れてるっちゅーこと!」
ペシ、と何かを叩く音がして矢口はハッとなった。
誰かに見られたワケでもないのに、焦りながら目尻に浮かんだ涙を拭う。
「みっちゃんのことはアンタに任すわ。もうあたしじゃアカンねん、後藤やないと。
……いくらアンタがまだ15のガキやいうても、そんなん関係ないくらい
みっちゃんは後藤のことが好きなんやなって、昨夜一緒に飲んで、話聞きながら
よう判ったんや。…ホンネ言うたら、ちょっと悔しいんやけどな」
そんな風に言っても、中澤の声にはあまり悔しさがないように矢口には感じられた。
平家のことをまだ想っていても、それでも彼女が望んでいるのは、
きっと、もっと、別なもの。
137 名前:瑞希 投稿日:2001年09月29日(土)01時49分45秒
「みっちゃん、きっと意地張ってなかなかホンマのこと言わへんかも知れんけど、
負けなや」
「…うん」
「後藤のホンキ、見せたったらええねん」
「うん」
「けど、もし泣かしたりしたら、あたしが許さんで」
「うん、判ってる。ありがと、裕ちゃん!」
力強い返事のあと、走り去る足音が聞こえた。

矢口はホッと息をついた。
気付かれずに済んだ、そう思ったときだ。
「……立ち聞きはあんまり感心せんなあ」
中澤の、呆れたような溜め息混じりの声が矢口の耳に届いた。
138 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月30日(日)00時05分12秒
矢口が可愛い。
139 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)00時14分09秒
>138さん
ありがとうございます。
そう言ってもらえると、書いててホッとします。
140 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)00時20分41秒
当然矢口はぎょっとなった。
――き、気付かれてたの?
しかし、だからと言ってこのあとどうすればいいか矢口には判らなかった。
今更、何もなかったような顔や知らないフリは出来ない。
――だって、立ち聞きしてたのバレてるし…。
そ、それに、後藤とみっちゃんのことだって……。
うわ、どーしよ、裕ちゃん怒ってる。絶対怒ってるよ。どーしよう、何て言えば……。
「……別に、怒っとるワケと違うから、出ておいで」
矢口がパニくる寸前、まるで矢口の心の声を聞いたように中澤は言った。
発せられた声色にも確かに怒気は感じられず、
矢口は肩を竦めながら、おずおずと中澤のいる休憩所に姿を見せた。
141 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)00時24分54秒
けれど、じっと自分を見ている中澤の表情はやはりどこかカタく、
矢口のカラダが無意識に強張る。
「……ごめんなさい」
「謝らんでええよ。…けど、誰にも言うたらアカンで?」
「うん」
矢口は力強く頷いた。
だってそれは、中澤の自分に対する信頼度にも繋がるから。
矢口を見つめていた中澤の口元がふっと綻ぶ。
同時に、矢口の緊張感もほんの少しやわらいだ。
「ええ子やな。こっちおいで」
中澤のそばに行くことを許されて、矢口は途端に嬉しくなる。
カラダ中が幸せでいっぱいになった。
142 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)00時29分40秒
中澤が自分を呼んだことに他意なんかないことは承知している。
けれど、それでもそばに行くことを、
今、この時間を共有してもいいのだということを許されて、
矢口はただ素直に嬉しかった。
「……へへっ」
今さっきまで後藤が座っていたと想われる場所に座ったとき、
込み上げてくる嬉しさで思わず声が漏れてしまった。
「何や?」
「ううん、何でもない」
不思議そうに矢口を見る中澤。
そんな彼女のグレーの瞳が、矢口はとても好きだったりする。
いつでも、どこでも、この瞳に映るのが自分だったらいいのに、と思う。

その願いは、簡単に叶うものではないけれど。
143 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)00時33分49秒
「…何やねん? あたしの顔に何かついてるか?」
締まりのない矢口の口元を見ていた中澤がますます不思議そうに見つめる。
そのとき、矢口の頭でちょっとした悪戯心が生まれた。
いや、むしろそれは、そのときの矢口にとってこの上もないくらいのチャンスだった。
「うん。目と鼻と……」
きっと、こんなチャンスはもうない。
そんな考えが矢口に次の行動を起こさせる。

――…たまには、いいっしょ?
144 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)00時37分58秒
いつも自分ばかりが驚かされているから、一度くらいは驚かせてみたい。

矢口の唇が、ほんの一瞬だけ中澤の唇に触れる。
もうとっくに知っているカタチと感触だけれど、
今までとは格段に違う感動が矢口を包む。
「……唇!」
すぐに離れて、テレくささを隠すように矢口はペロリと舌を出す。
さすがに恥ずかしくなり、すぐに俯いてしまったせいで中澤の表情は見えなかったけれど、
視界には硬直している中澤の腕が見えた。
145 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)00時42分13秒
しかし、矢口の満足感はあっさり覆されることとなる。

「……甘いな、矢口」
「へっ?」
「キスっちゅーのは、こうやるねん!」
そう聞こえて頭を上げた直後、
矢口は中澤の両手によって顔を固定され、唇を重ねられていた。

キスは、何度もしたことがある。
『した』というより『された』というほうが正しいけれど。
それでも、今までのキスはほんの僅かに触れるか触れないかというようなもので、
それこそ今さっき、矢口が中澤の唇を奪ったぐらいのような、
それぐらい短くて、浅くて、軽いものだったのに。
146 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)00時46分53秒
息苦しささえ感じるくらい、深く深く、中澤は矢口の唇を奪いにきた。
初めて唇で知った中澤の舌の感触。
それを覚える前に歯を割られてしまう。
挿し込まれた舌の熱が矢口の頭の奥を痺れさせる。
矢口は思わず中澤の服をぎゅっと強く掴んだ。
この唇の熱が、嘘ではないことを確かめるように。

中澤の舌先が歯の裏まで舐めている。
慣れた舌使いに矢口の口から吐息が漏れ、
呼吸の苦しさにカラダが僅かでも強張ったとき、ようやく中澤は矢口から離れた。
147 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)00時51分19秒
「……どうや?」
目の前で、勝ち誇ったようにニヤニヤ笑う中澤を見て矢口の頬が熱くなっていく。
適わないな、と思う。
きっと、中澤はとうに気付いているのだ。
矢口の、ずっと隠していたはずの、その想いを。
「……わ、判ってて聞かないでよぅ」
何もかも見透かしているようなグレーの瞳に映る自分を見ていられなくて、
矢口はそう言いながら俯いた。
「可愛いなあ」
普段ならそんな言葉も何気なく受け止めて切り返すことだって出来るのに、
今の矢口にそんな余裕はなく、顔だけがどんどん熱くなっていく。
148 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)00時57分21秒
ゆっくり、中澤が立ち上がる。
まだ顔を上げられない矢口の目の前に、細い、カタチのいい指を持つ手が差し出された。
「今日は一緒に帰ろか」
咄嗟に矢口は頭を上げた。思ってもない嬉しい言葉だった。
けれど、中澤の笑顔に他意のなさを感じ、途端に淋しくなってまた俯く。
「ん? イヤなんか?」
――違う、違うよ、裕ちゃん…、そうじゃなくて……。
何度も首を振ることでその問いに答える。
差し出された手を、引き戻そうとしたその手を、
矢口は一瞬だけ早く掴み返し、ぎゅっと強く握り締めた。
「……今日だけ?」
それは、今まで素直になれずにいた矢口の精一杯の勇気の一言だった。
149 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)01時01分28秒
中澤の心の中にはまだ別の誰かがいるけれど、
それはもうとっくに知っていることだけれど、
せめて今、この瞬間だけでも自分のことを見てほしい。
自分のことだけ考えてほしい。
「ほな、これからは毎日一緒に帰ろか」
予想していたものとは違う中澤の言葉が耳に届いたとき、
繋いでいた手に強く引っ張られた矢口の小さなカラダは、
まるでそこが彼女自身の居場所であるかのように、
すんなりと中澤の腕の中に抱きとめられた。
150 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)01時04分26秒
嬉しかった。
幸せだった。
もうそれだけでいいと、矢口は思った。
たとえば中澤が自分を好きでなくても、
別の誰かを想い続けているのだとしても、
今は、こんなにも彼女の近くにいることを、許してくれるから。
「…うん!」
大きく頷いたあと、矢口はうっとりと中澤の心地好い腕のぬくもりに甘えた。
151 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)01時07分53秒
― Tonight Spend Together ―
「やぐちゅー」編

――― END ―――
152 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)01時19分54秒
はい、以上で「やぐちゅー」編、終了……、と言いたいところですが、
実はまだ続きがあります。
言い訳っぽいですが、たとえ反則ワザと言われても、
コレ(矢口からの視点)を書いておかないと、続きが……。

ですが、その前に「みちごま」のちょっと甘々を書いてみたいので、
またちょっと期間を頂いて、そっちを先に書こうと思ってます。

ではまた、それまでしばしのさようなら、です。
感想などありましたら、よろしくお願いします。
153 名前:瑞希 投稿日:2001年09月30日(日)01時23分54秒
一応、完結したんで、ageときます
154 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月30日(日)10時28分53秒
やっぱやぐちゅー最高っす!!
姉さん男前!さすが「娘。ブラザーズ」の長男だけあります。

お暇があれば、よしかお(吉攻)…なんてもの見てみたい。(普段はいしよし派なんですが)

「みちごま」も楽しみにしています
155 名前:瑞希 投稿日:2001年10月02日(火)01時11分04秒
>154さん
ありがとうございます。
…って、ええっ!? よ、よしかお!?
………うーむ……。
一応ここでは「みちごま」「いしよし」「やぐちゅー」をメインにしたいので……。

でも
実は今、雪板でも書いてるので、ネタが浮かべば、善処したいと思います。
156 名前:LINA 投稿日:2001年10月02日(火)02時02分46秒
今日はじめて読みました!
みちごまイイ・・まじで♪
甘々ダイスキなんで、これからも頑張ってくださいね〜!
157 名前:瑞希 投稿日:2001年10月04日(木)00時27分07秒
>156:LINAさん
こっちでもレス、どうもです。
私も甘〜いのダイスキ! でも、私のはどうだろう……(汗
頑張りまっす。

こっちの更新は、連休明けになりそうです。
もうしばらくお待ちください。
158 名前:瑞希 投稿日:2001年10月07日(日)00時57分48秒
連休明けになりそうと言いながら、
ちょっと早めに仕上げられたので書きます。

あんまり長くないうえに、作者が楽しいだけの話かも(w

では、どうぞ。
159 名前:With Me …? 投稿日:2001年10月07日(日)01時04分18秒
「お願いがあるんですけど」
そう言って、後藤はそれまで座っていたソファから下り、
ちょこん、と正座しながら上目遣いに平家を見て言った。
「…な、何やの、急に。そんなかしこまって?」
ソファの上で膝を抱えながら後藤と並んでテレビを見ていた平家も、
さすがに後藤のその態度の急変には少し慌てる。
「…そろそろ、いいかなって、思うんですね」
「は?」
「だから、あたしと平家さん、付き合いだしてそろそろ1ヶ月になるでしょ?」
「うん、そやな…、それぐらいかな」
160 名前:With Me …? 投稿日:2001年10月07日(日)01時09分35秒
改めて『付き合ってる』と言われて平家の胸が鳴る。
目の前にいる、無邪気な笑顔の持ち主に告白されて、
それを戸惑いつつも受け入れて、もうそれぐらいになるのか、と実感もする。
「そろそろ…、いいと思いません?」
「へっ? 何が?」
すぐには判らず間の抜けた返事を返した平家だったが、
上目遣いの後藤の頬がほんの少し赤らんだのが見えて、
平家の脳裏に、ある考えが過ぎった。
膝を抱えていた腕を解き、
ソファから足を下ろして続きの言葉をドキドキしながら待つ。
161 名前:With Me … ? 投稿日:2001年10月07日(日)01時13分14秒
「だから、その…」
恥ずかしそうに俯かれて胸の高鳴りが増していく。
「なっ、何?」
尋ね返す声も心なしか上ずる。
「平家さん…」
正座を崩して膝で立ち、にじり寄ってくる後藤に思わず下ろした足を再び抱えた。
「やから、…何?」
両手を広げてソファに手を掛けられ、逃げ場を失う。
「いいです…よね?」
ゆっくりと、後藤が顔を近付けて来た。
162 名前:With Me … ? 投稿日:2001年10月07日(日)01時17分57秒
キスはもう何度となく繰り返していたから、
平家も今更戸惑ったり尻込みしたりすることはない。
そのおかげで、顔が近付くときに見る後藤のアップにもかなり慣れたつもりでいたのに、
そのときの平家はいつも以上に胸が高鳴り、それと同じくらい焦っていた。
「わ…、あ、アカン! まだ早い!」
「えっ?」
「は…、早いと…、思う」
緊張して、恥ずかしくて、咄嗟にそんな言葉が出る。
途端、後藤の表情がみるみる落胆の色を見せた。
163 名前:With Me … ? 投稿日:2001年10月07日(日)01時23分04秒
「ダメ…、ですか」
「や、あの…、その…、だ、ダメやなくて、えと」
ガッカリと肩を落とし、頭もうなだれさせた後藤に罪の意識にも似た感情が起きる。
「…ま、まだ1ヶ月やし」
何も答えず、くるりと平家に背を向けてソファ自体に背中を預ける。
「……ごっちん?」
「つまんない」
「つ、つまらんって、アンタ…」
「だって、だってこの部屋……」
「…ウチ? この部屋がどうしたん?」
何となく、平家が考えていたような雰囲気ではなさそうで、
ゆっくり後藤に顔を近づけた。
164 名前:With Me … ? 投稿日:2001年10月07日(日)01時28分36秒
「……まだ、許してくれてないみたい」
「許す? …許すって、何を」
最後まで言い終える前に後藤も平家と同じように膝を抱えた。
「……平家さんがいないときに、ここに来たらダメってことでしょ?」
「…はあ?」
後藤の言いたいことが把握出来なかった平家の口からは間抜けた声が漏れた。
「…何それ。どういう意味?」
「どうって、言葉通りですよ。まだまだってことなんでしょ?」
「…ちょお待って。ホンキで判らんねんけど?」
振り向いた後藤がほんの少し尖らせた唇。
それがゆっくり解かれて、眉も下がった。
165 名前:With Me … ? 投稿日:2001年10月07日(日)01時32分03秒
「……」
ぽつん、と呟くような声を漏らし、また俯く。
しかし、聞き取れなかった平家は、今度は横を向いて耳を後藤に近づけた。
「何? 聞こえへん」
「……合鍵が、欲しいんです」
「はあっ?」
ようやく聞き取れた平家だったが、またしても間抜けた声を出してしまい、
さすがに後藤から非難の目を向けられる。
「あ…、ゴメン」
「……ダメ?」
再び上目遣いで見られた平家の胸が、思い出したように高鳴ってくる。
166 名前:With Me … ? 投稿日:2001年10月07日(日)01時36分02秒
「……ってゆーか、予備が……」
スペアとしてもう一本、確かにカギはあるのだけれど。
「えっ、ないん…ですか?」
残念そうに眉尻がまた下がる。
ソファの上にいるせいで平家よりは低い目線の位置にいる後藤。
その目の奥には、平家がさっき、たとえそれが勘違いだったとしても、
確かに脳裏を過ぎったような、そんないやらしさは少しも見えなくて。
「……あるよ」
ゆっくりソファを立ち、寝室に向かう。
ベッド脇のサイドテーブル。
その上に置かれた小物入れの引出しのひとつに、そのカギはある。
167 名前:With Me … ? 投稿日:2001年10月07日(日)01時40分26秒
それを持って後藤の元に戻り、いつのまにかソファに座っていた後藤の前に、
カギを握り締めた右手を差し出す。
「……あげてもええけど」
握られた右手の中身が何かを悟り、
受け止めようと差し出された右手の下で両手を重ねて待つ後藤に、
平家はそっと、呟くように言った。
「……けど?」
「……あげる意味、ちゃんと判って受け取ってな」
「え…?」
後藤が把握する前に力を抜いて手の上にカギを落とす。
そしてすぐに後藤の隣に腰を下ろした。
168 名前:With Me … ? 投稿日:2001年10月07日(日)01時44分34秒
「あの…、意味って?」
判らない、と言いたげに見つめてくる後藤の目が平家を少し落ち込ませる。
「…いや、ええよ。判らんかったら、別に」
答えて、そっとその肩に額を押し付ける。
「でも」
「…ええねん、ホントは判らんでも」
それは、ただの独占欲だから。
「…いいんですか?」
「うん、あげる。けど失くさんとってな?」
頭を上げると、そこには嬉しそうな満面の笑顔で平家を見つめている後藤がいて、
自然と平家の心音も跳ね上がる。
169 名前:With Me … ? 投稿日:2001年10月07日(日)01時48分20秒
「大事にします」
「…ったり前やろ」
再び後藤の肩に額を押し付け、目を閉じる。
薄く影が動いて、頬に手が触れてきた。
予想できた事態なので、平家も驚きはしない。
「……ごっちんにだけやで」
「うん」
「ごっちんにだけやから」
「うん」
他の誰も、付き合い始めてたった1ヶ月で、こんな風に平家の心を捕らえた者はいない。
そばにいるだけでは足りなくて、
もっともっと、触っていてほしいと思うなんて。
170 名前:With Me … ? 投稿日:2001年10月07日(日)01時50分54秒
後藤の腕がすっと平家の肩先までのびて、抱きしめられる。
「あたしも、平家さんだけです」
大好きです、と耳元で囁かれて唇を奪われる。
まだ少しぎこちなさの残る、幼いキスが愛しさを増す。
後藤の背中にゆっくり腕を回して、平家はそのキスに応えた。
171 名前:With Me … ? 投稿日:2001年10月07日(日)01時52分19秒
今はまだ、コドモのままでいて欲しい。
急いでオトナにならないで。
今は、まだ、この腕の中にいるのだと、強く抱きしめて、安心させて……。
172 名前:With Me … ? 投稿日:2001年10月07日(日)01時54分47秒
― With Me … ? ―

――― END ―――
173 名前:瑞希 投稿日:2001年10月07日(日)01時59分41秒
はい、短いっすけど、甘々(?)な「みちごま」、終了っす。
また甘いの書きたいな〜。今度はエロなんてどうかしらん?(w

さてさて、次は「やぐちゅー」です。
上の「やぐちゅー」のその後です。
ちょこっとだけ、お時間下さいね。

ではそれまでしばしさようならです。
感想などありましたら、よろしくお願いします。
174 名前:154 投稿日:2001年10月07日(日)08時30分46秒
やっぱ書き方がわるかったかな
ちょっとカオに目移りしちゃうヨシって意味でよしかおと書きました。
私もいしよし派なのでもち基本はいしよし応援です。
わかりにくくてゴメンナサイ
175 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月07日(日)17時52分40秒
Hな方向に誤解しちゃう平家さんに萌。
誤解したままシちゃえばいいのに(w

甘エロ大歓迎(W
つぎのやぐちゅーはそっちの方向すかね〜
176 名前:瑞希 投稿日:2001年10月10日(水)00時20分40秒
>174(154)さん
あ、そういう意味だったんですか。
うーん、そうですね〜、それもまた萌えますね〜(w
じゃあそちらの方向で善処してみますね。

>175さん
「誤解の内容を突っ込んで押し倒すごま」ってのも考えてたんですが(w
でも次の「やぐちゅー」、ゴメンナサイ、ちょっち痛めの方向です(汗
177 名前:瑞希 投稿日:2001年10月10日(水)00時26分01秒
お待たせしていた(?)「やぐちゅー」その後、です。
でもゴメンナサイ、ちょっち痛めです(汗 ←先に謝る…

では、スタートです。

178 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)00時27分47秒

あなたの心の中にいることを、あたしはどれくらい許されてますか?
179 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)00時32分28秒
「……ノロケてる?」
呆れ口調で保田に聞き返され、矢口は言葉に詰まった。
「そーゆーんじゃ、ナイ、よ」
でも。
聞きようによっては、やっぱりそう取られるんだな、とぼんやり考える。
自分だって、そんな気もしたりするから。
「それってかなりな特別待遇だと思うけど?」
話に真剣に聞き入ってしまったせいで少し冷えてしまったホットレモンティー。
それを飲み干し、さっきの呆れ口調からは幾分やわらかい口調で保田は言った。
「…ってゆーか、それで付き合ってないって?」
180 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)00時37分17秒
仕事終わりのフリータイム。
矢口と保田は局内の喫茶室にいた。
今日の矢口は個別の新曲インタビューだけだったため、
本来ならもう帰っても支障はないのだが、
このあとプッチモニのラジオ収録を控えている保田の、
後藤と吉澤の到着を待つ時間の時間潰しの相手となっている。
「……だって、付き合おうとか、言われたワケじゃないし」
「…ベロチューかましといて?」
「べ、ベロチューって…」
時々、キワどい台詞をさらりと言ってしまう保田は、矢口を少し戸惑わせる。
181 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)00時42分49秒
「……まあ、もともと裕子さんは本心見せたがらないし、読めないひとだからなあ」
真っ赤になって俯いた矢口に、保田が深々と溜め息を吐き出す。

そもそも今、何故矢口と保田がこんな話をしているのか、というと、
先日、楽屋で一人で中澤を待っていた矢口に、戻ってきた中澤がいきなりキスをして、
その場面を保田に見られたところから始まる。
普段から中澤の、いわゆる『セクハラオヤジ』の標的となっていた矢口ではあるが、
そのときの雰囲気は確かに普段のものとは違っていた。
それはドアを開けた瞬間で判るほどで、
見てしまった保田自身が茫然とそこに立ち尽くしたくらい、明らかに違うものだった。
182 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)00時47分16秒
「いやーん、遂にあたしらの秘密が見られてもうたわぁ」
中澤はいつも通りにおどけて見せたが、
そんな中澤に抱きしめられている矢口の顔が、
動揺を隠し切れずに真っ赤になっていたのを、保田は見逃さなかった。
「そろそろ帰ろか。…ほな、圭坊、また明日なー」
矢口の手を引き、ドアの向こうへと出て行く二人をただ見送るだけの保田に、
矢口は赤くなりながらも手を振った。
その表情は、保田には『誰にも言わないで』と、言っているようにも見えた。
183 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)00時50分41秒
そして今……。
『時間が合うときは、ほとんど一緒に帰ってる』
『たまにだけど、恋人同士がするようなキスもする』
『家にも行った。泊まったことはないけど』
『裕ちゃんが好きっていう矢口の気持ちを、裕ちゃんは知ってる』
その4つを聞かされた保田の台詞が、冒頭のそれに繋がる。
184 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)00時54分35秒
「……そういうひとを好きになっちゃった矢口が、もう最初から負けてるんだよぉ」
大きな目が涙で潤み始め、保田もさすがに慌てた。
「な、泣かないでよ」
「だって…、だってさぁ」
「……よしよし」
頬杖をつき、右手を伸ばし、
テーブルを挟んで目の前にいる矢口の頭を撫でてやる。
「うー、…圭ちゃーん」
「判った判った。だから泣くなって」
零れそうな涙をグッと堪え、こくこくと小さく何度も矢口は頷いた。
185 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)00時59分23秒
「……裕ちゃんが誰を好きでもいいって、最初は思ってて……。
けど、そばにいることを許してもらえたのがすっごい嬉しくて、
…そうなったら、今度はもう、それだけじゃ足りなくなっちゃって」
「うん」
「でも、嫌われたくないから、何も言えないの」
「うん」
「だけど、どんどん、どんどん、好きになってくの、ワガママになってくの」
「うん」
保田の手は、変わらず矢口の頭を撫でている。
「……マジ、なんだね」
こくん、と矢口は大きく頷いた。
「……こんなに好きになったひと、他にいない」
「……ったく、罪作りなリーダーだなあ」
呆れたように吐き出された言葉でも、矢口にはちゃんと好意的なものとして届く。
186 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)01時02分12秒
「…で? 矢口はこれからどうするの?」
「どうって……」
「今のままでいるの? このままでいいの?」
「だ…、だって矢口からは聞けないよぅ」
中澤には嫌われたくない、その一心だから。
「…むぅ」
矢口から手を離した保田は、椅子の背凭れに上体を深々と預けると、
腕組みをして小さく不満の声を漏らした。
187 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)01時04分59秒
「あたしから聞いてやろうか?」
「えっ?」
「矢口のこと、どう思ってんのか」
「ええっ?」
「だってさ…、なんつーか、見てらんないんだよね。
裕ちゃんが、矢口以外のメンバーを構ってるときの矢口が」
う、と矢口は返す言葉を詰まらせた。
人前では絶対しなかったキスを保田に見られて以来、
どうも彼女には弱い面ばかり見られている気がした。
188 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)01時08分29秒
「……いいよ、今のまんまで」
「けどさぁ」
「…だって、もしそれで裕ちゃんの本音知っちゃったら、あたし、たぶん…、
立ち直れないよ」
だって、知っているから。
中澤の心に、今でも誰がいるのかを。
自分にとっての一番は中澤でも、
中澤にとっての一番が自分じゃないことを知っているから。
「…むぅ」
同じ台詞を、同じ格好でもう一度保田が口にしたとき、喫茶室に吉澤が現れた。
189 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)01時12分13秒
「あ、こっちこっち」
入り口できょろきょろ辺りを見回す吉澤に気付いた保田が軽く手を挙げると、
幾らかホッとしたような顔付きで吉澤が矢口達のもとまでやってきた。
「後藤は? 一緒じゃないの?」
「外で電話してます。もうすぐ来ると思いますよ」
言いながら、すとん、と矢口の隣に座る。
「…? 矢口さん?」
「ん? 何?」
「…あれ? あ、いや…」
不思議そうに首を傾げる吉澤に矢口も困惑する。
190 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)01時16分39秒
「何? 何だよ?」
「何でもないっすよ。見間違いっす」
にっこり微笑んだ吉澤に矢口はハッとして目線を外して俯いた。
涙は出なかったけれど、目はまだ赤いのかも知れない。
「……後藤の電話って長いんだよね。ったく、毎日毎日、誰と喋ってんだか」
矢口の胸中を見抜いたのか、
話題を変えるように言ってくれた保田の言葉に、ギクリ、と矢口の胸が鳴る。
後藤が毎日電話を掛けている相手。
それが誰か矢口は知っている。
いや、たぶん、矢口と中澤だけしか知らない。
191 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)01時18分05秒
「…おっ、来た」
吉澤にしたのと同じようにひょいっと手を上げて位置を知らせる保田。
「ゴメーン」
「電話、済んだの?」
「うん」
「毎日毎日、」
192 名前:瑞希 投稿日:2001年10月10日(水)01時19分13秒
↑ すいません、投稿ミスです(汗
193 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)01時24分32秒
「毎日毎日、誰に電話してんのよ」
「えへへー、ナイショだよーん」
幸せそうな笑顔が矢口の胸をまた更に騒がせていく。
「…さて、んじゃ行くわ」
伝票を掴んで保田が立ち上がる。
「うん、また明日ね」
「……大丈夫? 一人で帰れる?」
「もー、そこまでコドモじゃないよぅ」
「気を付けて帰りなよ」
ぽんぽん、と軽く頭を叩くように撫で、保田はニヤッと笑った。
194 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)01時28分35秒
「ばいばい、やぐっちゃん」
つられてこちらも自然と笑顔になりそうな、
あたたかでほんわかした笑顔で後藤が手を振る。
「うん、ばいばい」
「…ほら、吉澤も行くよ」
「あっ、はい」
保田と後藤が先に歩き出しても、そんな返事をしたまま、まだ吉澤は矢口の隣に座っていた。
「…よっすぃー?」
不思議に思ってその愛称で矢口が呼ぶと、
彼女は着ている薄い水色のパーカーポケットからそっと小さな包み紙を取り出した。
195 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)01時31分21秒
「どうぞ」
「何、コレ?」
「元気が出る薬です」
「へっ?」
「…なーんて、ホントはただの喉飴なんですけど」
にっこり微笑んで立ち上がる。
「じゃ、また明日」
「あ…、うん、また明日ね」
矢口の返事を聞いて、
吉澤は店の入り口で振り返って待っている保田と後藤のもとへと小走りに向かった。
196 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月10日(水)01時36分28秒
3人の姿が見えなくなってから、矢口は自分の手の中の包み紙を見た。
――…バレバレってことか。
言葉にしないクセに、こういう優しさを持っている後輩に思わず口元が綻ぶ。
――よっすぃーって、裕ちゃんと違った意味でタラシの素質充分あるよなあ。
…そんでまた本人が無意識だから…、梨華ちゃん、苦労しそう…。
もらった包み紙を広げ、それを口の中へと放り込む。
喉飴のわりには意外と苦くないその味に、吉澤の味覚の幼さを知る。
不思議と、さっきは堪えきれた涙が出た。
――やば…、涙腺弱くなってる。
俯き、零れた涙を慌てて拭った矢口の前に人の影が出来た。
197 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月11日(木)00時11分01秒
「……何で泣いとんの?」
その声にドキリと胸が高鳴る。
俯いたときより倍以上の速さで見上げると、
そこにはひどく怒ったように眉間にしわを寄せているグレーの瞳があった。
「誰かに何か言われたんか?」
「ちっ、違うよ!」
「じゃあ何で泣いとんねん? いらんことでもあったんか?」
「…泣いてないよ、ちょっとゴミが入っただけだよ」
ついさっきまで保田が座っていたところに当然のように腰を降ろした彼女は、
オーダーを取りにきたウエイターに『コーヒー』とだけ告げ、テーブルに肘をついた。
198 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月11日(木)00時16分52秒
「…っていうか、裕ちゃん、何でここにいるの? ラジオ録りって言ってなかったっけ?」
だから今日は一人で帰るはずだったのに。
「ああ、アレ。まだちょっと時間あんねん」
答えて、中澤はまたじっと矢口を見つめた。
「な、何?」
「……ホンマに、何でもないねんな?」
険しい表情はまだ薄れない。
嘘をつく心苦しさはあるが、
涙の本当の原因である本人にそれを言うことは出来ない。
199 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月11日(木)00時22分14秒
「うん」
「…そぉか」
ふっ、と息を吐き出し、幾らか表情もやわらかくなって、ゆるりと上体を背凭れに預ける。
「まだ結構時間あるから、矢口のこと探しててん。ケータイ鳴らしても出えへんし……。
そしたらこんなトコで一人で泣いてるし、ちょっとビックリしたわ」
「え? ケータイなんて鳴らなかったよ?」
言いながら鞄を探ってケータイを取り出すと、
着信履歴には確かに中澤のケータイ番号が表示されていた。
「……ゴメン。バイブモードのままだった」
仕事が終わったあと、切り替えるのを忘れていたようだ。
それを聞いて中澤は小さく笑った。
200 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月11日(木)00時26分25秒
「でも、一人じゃないよ。さっきまで圭ちゃんといたの」
「…圭坊と?」
「うん。プッチのラジオ録り行くまで、後藤とよっすぃーを一緒に待ってたの」
そこまで聞いて、中澤がぐっと身を乗り出してきた。
「…圭坊に何か言われたんか?」
「もぉ! だから違うって言ってるじゃん! 何回も言わせないでよぉ!」
思わず腕を振り上げる。
「わわっ、ゴメンゴメン」
両手を交差させて身を守ろうとする中澤に、矢口もすぐ振り上げた腕を下ろす。
そのとき、中澤が注文したコーヒーが運ばれてきた。
201 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月11日(木)00時29分58秒
「……何や?」
一口飲んでから、それを見守っていた矢口に目を戻す。
「……矢口のこと、探してたって、どうして?」
「別に、理由なんてないけど…。まだ帰ってないんやったら、
一緒に時間潰してもらおと思ただけ」
果たして喜ぶべきなのか、それとも落ち込むべきなのか。
自分自身のフリータイムに矢口と一緒にいてもいいと思ってくれたことは
喜んでいいかも知れない。
けれどそこにそれ以上の他意はないのだ。
『時間潰し』の相手になってほしい『だけ』だから。
202 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月11日(木)00時35分24秒
だけど、思いがけず中澤と時間を共有出来たことは、
矢口には無条件に嬉しい出来事だった。
「どれくらい時間あるの?」
「んーと…、あと30分くらいかな」
店内の中央にある、
どこから見ても見えるように位置付けられた柱時計に目をやってから答える。
「……なーんだ、ちょっとだけじゃん」
ちょっとだけでも嬉しいんだけれど、やっぱり物足りなさはあるワケで。
「…何や、つまらんか?」
「つっ、つまんないワケじゃ……」
いつのまにかテーブルに頬杖をついていた中澤がニヤニヤ笑って矢口を見ている。
何もかも見透かしているようなその目さえ、
矢口の胸を高鳴らせるだけだということも、きっと、気付いているのだろう。
203 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月11日(木)00時39分07秒
「……ねえ」
「うん?」
「今度、また裕ちゃんの家に遊びに行ってもいい?」
「ええよ」
「ホント?」
「うん。…そんなん何でわざわざ聞くん?」
「え…、だって」
「気にせんといつでもおいで」
コーヒーのカップを持っていた手がすっと伸びてきて頭を撫でられる。
「うん」
今はこれでいい。
これで満足していよう。
そばにいることは、許されているのだから……。
204 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月11日(木)00時41分20秒

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
205 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月11日(木)00時45分44秒
3日間降り続いた雨がようやく止んだ、気持ちのいい午後。
楽屋の窓際でひとり、ぼんやりしながら外を眺めていた矢口は、
ドアをノックされる音でハッと我に返った。
「はーい」
返事して、ゆっくり開かれたドアからひょいっと顔だけを覗かせたその人間に、
矢口の胸がドキリと鳴った。
「あれ? やぐっちゃんだけ?」
中澤とはまた違ったイントネーションの関西弁で話す彼女は、
ちょっとガッカリしたように言って、少し開けただけのドアから全身を滑り込ませてきた。
206 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月11日(木)00時51分47秒
「ううん。まだ来てないのは裕ちゃんと梨華ちゃんとよっすぃーの3人で、
後藤となっちは近くのコンビニに買い出しに行ったし、圭ちゃんと圭織は
さっきマネージャーさんに呼ばれて出てったし、辻と加護は……」
「あ、そのふたりにはさっきそこで擦れ違うたよ」
言いながら矢口の隣に座る。
「じゃあ、やぐっちゃん、留守番やねんな」
「うん」
「大勢やと、せめてひとりは楽屋に残っとらんとアカンもんなあ」
「いろいろ連絡とか入ったりするからね」
うんうん、と目を閉じながら幾度か頷き、矢口の隣に座る彼女、
平家みちよはそっと腕組みをした。
207 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月11日(木)00時56分07秒
「…でも、そか、出てったんか」
ふうっ、と残念そうな溜め息が漏れて、
今、彼女の頭に浮かんでいると思われる人物を矢口も思い浮かべた。
「すぐ戻ってくるよ」
と、言葉にしてからハッとする。
慌てて口元を押さえて平家に振り向き、きょとん、とした彼女と目が合う。
「…何?」
「えっ、いや…、あの、誰かに用だったんでしょ?」
「うん…、そやけど」
疑惑を抱いている、困惑した視線から逃げるように目を逸らす。
「……やぐっちゃん?」
そのとき、軽い二度のノックでドアが開いた。
208 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月11日(木)00時59分03秒
「おはよう…、さん」
挨拶の言葉が途中で一度切れたのは、
彼女の目の前にいる人物が意外だったせいだろう。
びっくりしたように大きく目を見開いている。
「…何でここにみっちゃんがおるん?」
――…どうして、こう、タイミング悪いかなあ。
矢口の胸がズキズキ痛み始める。
出来れば今、一番会いたくて、
けれど、出来るなら今、一番会いたくなかった中澤が、そこにいた。
209 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月11日(木)21時26分58秒
うおぉ…もどかしい…
210 名前:瑞希 投稿日:2001年10月12日(金)00時26分23秒
>209さん
す、すいません、まだまだもどかしくなります…(汗
211 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)00時31分45秒
「……みんなは?」
楽屋全体を見回しながら矢口に問いかける。
「あ…、えと、圭ちゃんと圭織はマネージャーさんに呼ばれて、
後藤となっちは買い出しで、よっすぃーと梨華ちゃんがまだ来てなくて、
辻と加護は」
「ああ、そのふたりやったらそこで遊んでたわ」
最後まで言い終わる前に荷物を下ろす。
「で、何でみっちゃんがここにおるん?」
「何でって、おったらアカンのかい」
「アカン言うてへんやん。何や? あたしに会いに来たんかぁ?」
「アホ、違うわっ」
――…裕ちゃん。
212 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)00時36分57秒
「うーんもぉ、素直になりやぁ」
言いながらするりと平家の首に右腕を巻きつける。
「やから! 違う言うてるやん。離して」
「イヤですぅ」
――裕ちゃん、イヤだよ…。
「やめてって、もぉ」
巻きつく中澤の腕を掴んで外そうともがく平家に構わず、
左腕も加えて抱きつく格好になる。
「裕ちゃーん」
呆れ声で抵抗は示してても、決して本心からイヤがってないのは表情で判る。
そして、おそらく今の中澤の目には平家しか映っていない。
こんなに近くにいても、きっと、矢口のことは考えてもいない。
――…ねぇ、矢口もここにいるんだよ?
213 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)00時41分02秒
「マジでやめてって。やぐっちゃんも呆れとるやん」
平家の言葉と一緒に中澤の視線が矢口に向く。
「何や、矢口、今日はえらい静かやなあ? …拗ねとんの?」
小さく笑って言った中澤のその言葉は、
どん、と拳で胸を叩かれたような気分にさせた。
いっそのこと、本物のナイフで刺されたほうがもっとはっきりしていて、
もっと範囲も狭いのではないかと思えるくらい、
その痛みは矢口の胸の辺りでどんどん広がっていく。
214 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)00時44分45秒
「矢口?」
見ているのが耐えられなくて、矢口は俯いた。
膝の上で、ぎゅっと手を握り締める。
「どうしたん?」
薄く影が動いて、矢口の頭に手が乗せられたのが判る。
けれど矢口は身を翻すようにして中澤のその手を振り払った。
「矢口…?」
困惑している中澤の目元が、矢口の心をまた違った痛みで震わせる。
――…ズルイ。
傷ついたような、淋しげな顔。
そんな顔をしていいのは、今は誰が適当なのだろう。
215 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)00時50分10秒
「……触んないで」
「え?」
「みっちゃんに触った手で、あたしに触んないで!」
「な…、何や、それ! どういう意味や!」
今の矢口の暴言に対して怒らなければならないのは、怒ってもいいのは平家のはずなのに、
どうして中澤が怒るのか。
そんなことすらも、切なくて、淋しくて、胸が痛い。
「…みっちゃんに謝り。何か機嫌悪いみたいやけど、今の言い方は失礼すぎるで。
八つ当たりも…」
「……っ、裕子のバカ!!」
堪えきれずに立ち上がり、矢口はそう叫んで楽屋を飛び出した。
216 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)00時53分49秒
知っている。
知っていた、もう、ずっと前から。
中澤の目が誰を追って、誰を見つめているかなんて、
もうとっくに承知していたはずなのに。
それを知ってて、それでも好きになったはずなのに。
ただ、好きで。
好きで好きで仕方なくて……。
そばにいられるだけでいいなんて、そんなのはキレイごとだ。
好きになったらその人の全部が欲しい。全部を知りたい。
何もかも、その人自身の全部が欲しくなる。知りたくなる。
……自分のことだけ見ていて欲しいと、思うようになる。
217 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)00時58分12秒
「…うわっ、て、あり? やぐっちゃん?」
泣きそうになるのを堪え、少し俯きながら廊下を小走りに歩いていた矢口は、
角を曲がろうとして、先にそこを曲がってきた後藤と安倍にぶつかった。
「……どしたの?」
お菓子やジュースで満杯のコンビニ袋を両腕で抱えていた安倍が、
心配そうに矢口の顔を覗き込んでくる。
「な、んでも、な…」
途切れがちになりながらもそこまで答えたとき、
「矢口!」
背後から呼ぶ中澤の声にびくんっと大きく肩が揺れた。
218 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)00時59分46秒
「あ、裕ちゃんだ」
後藤の声を聞いて思わず矢口は彼女の腕を掴む。
「……みっちゃん、来てるよ」
「えっ、」
219 名前:瑞希 投稿日:2001年10月12日(金)01時02分23秒
↑すいません、またしても投稿ミスです…(滝汗
220 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)01時07分00秒
「えっ、ホント?」
たったそれだけで、見上げた後藤の表情が途端に明るくなった。
次第に近付く中澤の足音。
走ってはいないけれど、
今は立ち止まっているさっきの矢口と同じように小走りに歩いているのが判る。
「…ごめんって、言っといて」
きっと、今はまだ、その言葉は本人には言えないから。
「えっ?」
首を傾げた後藤に苦笑いしてみせて、ゆっくり掴んだ腕を離す。
221 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)01時11分44秒
「…! 後藤、離すな!」
中澤の台詞より早く、矢口は後藤から素早く離れて走り出した。
「矢口!」
矢口の肩を捕まえようと、のばした中澤の手が後藤の目前で空を切る。
「ちょお、待ちって!」
背中から聞こえる中澤の声を振り切るように必死で走る。
逃げて、逃げて、逃げて……。
それでも、きっと、この気持ちからは逃げられない。
222 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)01時17分17秒
身長差、体格差から、追いつかれるのは時間の問題だった。
矢口は近くの化粧室に駆け込み、個室に入ってカギを掛ける。
と、同時に外からそのドアを乱暴に叩かれた。
「開けてや、矢口」
「…やだ」
「早よ開けって! 怒るで!」
「もう怒ってるじゃん!」
中澤の声にも負けない矢口の声の勢いに、たじろいだように中澤が息を飲む。
それから深く深く息を吐き出した。
「…何やねん。何で逃げんねん」
少し弱めのノックが、一回。
「何があったんや?」
優しい声色が矢口の胸を揺さぶる。
223 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)01時21分02秒
「……裕ちゃんには関係ない」
「あたしにバカ言うといて、関係ないワケないやろ。あたしが何したっちゅーねん」
「……キスした」
「は?」
「あたしにキスした。……抱きしめたり、優しくしたり、
家に来てもいいって言ったり、一緒に帰ろうって言ったり……」
そして、こんなにも、好きに、させた。
声を聞かないと淋しくなるくらい、
顔を見ないと落ち着かなくなるくらい、
触れられないと眠れなくなるくらい、こんなにも……。
224 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)01時23分02秒
「……イヤやったんか」
違う。
嬉しかった。
幸せだった。
だから、いつでも足りなかった。
哀しくて、切なくて、たまらなかった。
本当に…、心の底から中澤が本当にそうしたいと望んでいる相手は、
自分では、ないから。
225 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)01時27分03秒
「……矢口はバカじゃないから、裕ちゃんがホンキじゃないってことぐらい
知ってるよ」
「…何って?」
「…矢口にホンキじゃないって、知ってる」
言ってしまえば終わりになると知っていて、
それでも言ってしまいたくなる。言おうとしている。
そばにいたいのなら、言ってはいけない、その言葉を。
「…裕ちゃんがホントに好きなのは、みっちゃんでしょ」
静まり返る、その空間。
取り返しのつかない言葉を言ったのだと、耳に響く沈黙が痛切に伝える。
226 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)01時31分48秒
「……あたしにどうして欲しいねん」
矢口の言葉を否定しない、中澤の潔さにも胸が鳴る。
ズルイのではなく、嘘がつけないだけなのだと、改めて知る。
「……優しく、しないで」
――もっと、優しくして。
「…他には?」
「……触んないで」
――もっともっと、触って、抱きしめて。
「それから?」
――もっともっともっと……、そばに、いて。
一番言いたくて、けれど口には出せない言葉を飲み込んだ矢口の目に涙が溢れる。
「……矢口?」
ドア一枚隔てただけのとても近い距離にいるのに、とてつもなく遠くに感じるひと。
227 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)01時36分33秒
「……判った」
深い、長い溜め息と一緒に吐き出された落胆の声。
「もう構わんし、もう触らん。それでええんやな?」
――イヤ。イヤだよ、もっと触って、もっと優しくして。
なのに、声にはならなくて。
「……矢口の好きなようにしたらええわ」
軽いノック。さっきより更に弱めのその音。
「…先に戻ってるから、遅れんようにおいで」
次第に遠ざかる足音。薄れる気配。
「……優しくしないでって、言ったのに…」
優しくするなと言われてすぐに冷たい態度がとれるほど、
中澤が器用じゃないことぐらい、矢口は知っていた。
それこそが中澤の優しさで、魅力でもあるから。
228 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)01時40分17秒
「…裕、ちゃん」
返事の返らない名前を呼んでみる。
名前を呼ぶだけで、胸の辺りがじわりと熱くなる。
「裕ちゃ……っ」
好きなのに。
こんなにこんなに好きなのに。
先に、手を、離してしまった。
あの優しい腕が、自分だけのものじゃないのが哀しくて。
あの優しい笑顔が、自分だけに向けられているワケじゃないのが淋しくて。
この想いが、簡単に消し去れないくらいなのが、切なくて。
矢口は、堪えても堪えても溢れてくる涙を拭いもせず、
ただ、声だけは押し殺して、泣き続けた。
229 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月12日(金)01時42分07秒

雨上がりの午後。
その日を境に、中澤が仕事以外のプライベートで矢口を誘うようなことは、なくなった。

230 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月12日(金)03時27分29秒
おいっ!!!!!ここでやめるんかい!そんな殺生な…
めちゃめちゃ切ないなー。胸がチクチクする。矢口、負けるな!
231 名前:LINA 投稿日:2001年10月12日(金)05時17分59秒
やぐちが切ない…
読んでて号泣したのは、久ぶりです(w

みんな幸せにしてやってください!
232 名前:名無し読者。 投稿日:2001年10月12日(金)14時11分46秒
裕ちゃん、矢口の本心気付いてあげてよ〜(泣)
やぐちがんばれ!!あきらめちゃダメ!!
233 名前:瑞希 投稿日:2001年10月14日(日)20時00分07秒
>230さん
すっ、すいませんっ、そんなツッコミが来るとは…(w

>231:LINAさん
みんな幸せに…、なるといいんですが…。<何

>232さん
気付いてるハズなんですがねぇ…。


では、続きです。
234 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月14日(日)20時01分31秒
そしてそれは、矢口が中澤とプライベートで話さなくなってから、
ちょうど五日目の午後に起きた。
235 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月14日(日)20時09分14秒
まだ細かな埃が舞うスタジオの一角で、
床に尻持ちをついたまま、矢口は茫然としていた。
目の前には、
下半身が折りたたまれた無数のダンボールに埋まっている中澤がうつ伏せに倒れている。
矢口が覚醒したのは、ほんの数センチ先にある中澤の指が僅かに動いたとき。
「ゆっ、裕ちゃんっ?」
慌てて近付いてその手を握り締める。
「だっ、誰かっ、誰か来て!」
叫んだ矢口の手を中澤がゆっくり握り返す。
とても、とても弱々しい力で。
「……や、ぐち? …怪我は?」
「矢口は平気だよ! けど裕ちゃんが」
「…そぉか、よかった……」
ふっ、とやわらかく微笑んで、中澤の目が閉じられる。
その手を掴んでいた矢口の手からも、力が抜ける。
「や、やだっ、裕ちゃん! しっかりして! 目を開けてよぉ!」
矢口の声を聞きつけたスタッフ達が駆け寄ってきたのは、その直後だった。
236 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月14日(日)20時11分32秒
スタジオの隅に無数に積み上げられた、
折りたたまれただけで放置されていたダンボール。
それは普段からかなりの高さになるまでそこにあった。
さすがに天井に届く前には処分されていたけれど、
そのときはさほど高さもなく、誰もが油断していた。

そして、偶然が偶然を呼び、事故は起こった。
237 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月14日(日)20時16分57秒
中澤と距離をおくようになって五日目。
さすがにメンバーの前では何事もなかったように振る舞ってはいたけれど、
そうすることにもそろそろ限界を感じ始めていた矢口は、
ただぼんやりと、CM録りで賑わうスタジオで、
自分の撮影シーンまでの待ち時間を過ごしていた。
言った通り、中澤はカメラの回っていないところでは矢口に一切構わなくなった。
楽屋では目も合わそうとしない。
勿論それは、矢口自身が中澤の視線から逃げていたせいもあるが。

話さなくなって五日。
触れられなくなって五日。
たった五日しかたっていないのに、
矢口にはその期間はとてもとても長く感じられていた。
もう何年も中澤と離れているような、そんな気分だった。
淋しくて淋しくて。
あの日以来、ほとんど眠れずにいた。
238 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月14日(日)20時21分19秒
「そっち、気を付けろよ」
「ゆっくりだぞー」
寝不足が重なっていたせいか、
そんな男性スタッフの声もどこか遠くにしか聞こえなかった。
「すいませーん、この次、矢口さん入ってくださーい」
「あっ、はーい!」
呼ばれてハッとする。
それでもいつものクセでつい中澤の姿を探すと、
彼女はスタッフと何やら真剣に話し込んでいた。
――見るぐらいは、いいよね。
触れてもらえないなら。
優しくしてもらえないなら。
せめて、その姿だけでも見つめていたい。
239 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月14日(日)20時25分28秒
「…矢口さーん?」
「あっ、はいっ、スイマセン!」
中澤の姿に見とれていた矢口を心配そうに呼ぶ。
セッティングされたカメラなどの機材の向こうには保田や安倍がいて、
そのふたりも心配そうに矢口を見ていた。
特に保田は、あえて言葉にしたりはしなかったけれど、
接する態度の優しさから、さりげなく気遣われていることを矢口も感じていた。
――ごめんね、圭ちゃん。
目での訴えを感じたのか、保田も僅かに苦笑いを浮かべる。

そしてそれを、矢口が、確認したときだった。
240 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月14日(日)20時30分57秒
ドスン、と何かが何かに当たった音が聞こえたあと、
矢口のそばにあった、高く積み上げられたダンボールの壁が、
グラリ、と揺らいだように見えた。
「危ないっ!」
そんな声が聞こえて、矢口は咄嗟に上を見た。
見た先では、ダンボールが今にも矢口に襲い掛かろうと崩れ始めている。
――落ちるっ?
矢口がそう感じて身構えるより早く、どんっ、と強い力で背中を押された。
いや、押されたというより突き飛ばされたような感覚だった。
突然襲われたその感覚に逆らえず、矢口は前のめりになって床に倒れる。
どさどさっ、と、物の散る大きな音が矢口の耳にも届く。
砂埃がそこらじゅうに充満し、振り返った矢口の視界を奪う。
そして、その直後に矢口が見たものは……。
241 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月14日(日)20時37分02秒
「裕ちゃん! やだよ! 目を開けてよお!」
ほぼ錯乱状態の矢口を保田と安倍が青ざめながらも支える。
スタッフに抱きかかえられた中澤は、担架に乗せられて救急車に運び込まれた。
「あたしも行く!」
走り出した救急車を、泣き叫びながら追おうとする矢口。
その彼女を両脇から保田と安倍が支えて、後続の車に乗り込む。
「…裕ちゃん、裕ちゃん……」
両手で顔を覆って中澤の名前を呼び続ける矢口の脳裏には、
目を閉じる前の中澤の微笑みだけが灼きついていた。
242 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月14日(日)20時41分00秒
『そぉか、よかった』
――よくないっ、ちっともよくないよ!
『もう構わんし、もう触らん』
『…矢口の好きにしたらええわ』
そんな風に突き放したクセに。
離れても、そばにいられなくても、
どんどん好きにさせていくばかりで……。
――ごめんなさい、ごめんなさい。もうワガママは言いません。
裕ちゃんを困らせるようなこともしません。仕事もちゃんとします。
だから、だから、裕ちゃんを助けて……。
243 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月15日(月)02時30分56秒
こんなとこで切るとは・・・
ああ、矢口。ああ、中澤。
244 名前:瑞希 投稿日:2001年10月15日(月)22時39分09秒
>243さん
すっ、すいませんっ、すいませんっ。
こんなことも今日で終わりますんでっっ(汗


では、続きです。
245 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月15日(月)22時45分07秒
矢口達を乗せた車が病院に到着したとき、中澤は既に治療を終えていて、
ちょうど病室に移動したところだった。
幸い命に別状はなく、
意識も搬送中の救急車の中で取り戻したという中澤の怪我は、
右足首の捻挫と、あとは擦り傷だけらしい。
しかし、頭を打っているので、
念のため2日ほど検査を兼ねて入院することになった。
「よ、よかった…」
医師から説明を聞いた矢口の膝から力が抜け、へなへなとそこにへたり込む。
保田と安倍の表情にも安堵感が見えた。
「会えますか?」
「勿論。でも、面会時間は過ぎてるから、静かにね」
保田の質問に看護婦は笑顔で頷き、説明がてら中澤のいる病室へ案内される。
246 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月15日(月)22時50分13秒
保田に促され、矢口はそっとドアを開けた。
「裕ちゃん…?」
独特な清潔感の漂う個室。
そこの中央に位置された、上体を起こしたベッドに、中澤はいた。
「……矢口か」
呼ばれた中澤がゆっくりドアに振り向き、矢口の姿を確認してから微笑む。
「裕ちゃんっ」
思わず叫んでベッドに駆け寄る。
「ごめんね、ごめんねっ」
「…何で謝るん?」
「だって、だって矢口のせいで……」
「あたしが勝手にしただけや。ちゃんと生きてるし、たいした怪我もしてへん。
まあ、擦り傷多いから、しばらくは足出すような衣装は着られへんけどな」
苦笑いで答えてから、視線を保田と安倍に向ける。
247 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月15日(月)22時54分03秒
「すまんな、心配かけて」
「まったくだよ」
突き放すような口調でも、保田の声には安堵感があった。
安倍は何も答えなかったけれど、保田と同じような、ホッとした表情で中澤を見つめている。
「…みんなには連絡したんか?」
「ううん。顔見てからと思って。あたし、電話してくる」
「あ、なっちも行く」
残ると思われた安倍も保田とともに出て行き、急に室内が静まり返った。
「……ごめんね」
「もうええって。矢口に怪我なくてよかったわ」
ふっ、とやわらかく微笑んで目を閉じる。
248 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月15日(月)22時58分01秒
矢口はそばに置いてあったパイプ椅子に座ると、
投げ出されるように出ている中澤の右腕にそっと手をのばした。
手を握られた中澤のカラダがびくんっ、と揺らぎ、困惑気味に矢口を見つめる。
「どした?」
「……ごめんね」
「もうええって言うてるやん」
「ううん、違うの。…聞いて」
中澤の顔付きが少し強張る。
「あたし、嘘ついたの」
「…嘘?」
「うん」
頷いて、掴んだ中澤の手のひらを自分の頬へと触れさせる。
少し冷たい中澤の手が、矢口の頬の熱を奪っていく。
249 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月15日(月)23時02分05秒
「…触らないでって言ったけど、ホントはずっと、こうやって触っててほしいの」
「…矢口?」
「触ってほしい。優しくしてほしい。……矢口のこと、ちょっとでいいから、
好きに、なってほしい」
掴んでいた中澤の手に力がこもる。
矢口は目を伏せ、離すまいと強く掴み返した。
「……裕ちゃんが誰を好きでもいい。一番じゃなくていい。
……ううん、何番目でもいい。矢口のこと、好きになって」
誰を好きでもいいなんて、
ホントはそんなこと、辛くて、切なくて、哀しいけれど。
そばにいられるなら。
少しでも好きになってくれるなら。
250 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月15日(月)23時06分37秒
「……好きやで?」
「えっ?」
矢口に掴まれていない左の指でぽりぽりと鼻の頭をかく。
少し頬が赤いように見えたのは、気のせいだろうか。
「……触っても、ええの?」
恐る恐る、中澤の手が矢口にのびてくる。
ゆっくりと、
まるで壊れ物に触れるかのように中澤の指が矢口の紙の中に差し込まれた。
「……もっと、こっち来て」
請われるままに、矢口は椅子を立ってベッドに腰掛けた。
中澤のキレイな顔が目前で自分を見つめていて、
その目があまりにも真っ直ぐで、
恥ずかしくなった矢口は思わず俯いてしまった。
251 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月15日(月)23時10分13秒
「矢口…」
囁くように呼ばれた直後、そっとそっと抱きしめられる。
そんな風に抱きしめられたことはあまりなくて、矢口の心音が跳ね上がる。
「裕…ちゃん?」
「……あたしのモンになってくれるん?」
「や…、矢口はずっと、裕ちゃんのだよ」
最初に『捕まった』のは、矢口のほうだから。
「……そぉか」
抱きしめる腕の力が増す。
「……もう、こんな風に、触られへんと思てた」
252 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月15日(月)23時27分49秒
「裕ちゃん?」
「あたしが悪いんやって判っててもどうしたらええんか判らんくて、
矢口にイヤなこと言わせた。ゴメンな」
「な、何? 何で?」
言葉の意味がよく判らなくてカラダを離すと、中澤は困ったように矢口を見つめていた。
「ちゃんと言うといたらよかったって、ずっと思てたよ」
「言うって…」
「好きや。…あたし、矢口が好きやねん」
「裕ちゃ……」
離したカラダを再び引き寄せられて抱きしめられる。
「そばにおって。こうやって、あたしがいつでも手のばしたら届くとこにおって」
触れ合うとろから伝わる中澤の体温。
矢口がずっと欲しくて欲しくてたまらなかった、その、ぬくもり。
253 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月15日(月)23時34分08秒
「……矢口でいいの?」
「矢口しかいらん」
「だって、だって、みっちゃんは……」
その名前を出してから後悔する。
けれど中澤は少しの動揺も見せなかった。
「知ってるやろ? みっちゃんは後藤のや。あたしは矢口がええ」
「裕ちゃん……」
「嘘と違うで? 無理もしてへん。代わりでもない」
名残惜しそうに矢口から離れた中澤が、それでもキッパリと告げる。
「みっちゃんは大事な友達や。あの子には幸せになってほしいと思てる。
でも、あたしが幸せにしたいんは矢口だけや。
……あたしが矢口を、幸せに、出来るんやったらの話やけど」
254 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月15日(月)23時45分54秒
矢口のよく知る中澤は、いつだって自信に満ち溢れてて、
ふざけたりしても、何事も無駄なくそつなくこなす、オトナの雰囲気を醸し出していたのに、
今、目の前で眉尻を下げて不安そうに、
自信なさげに自分を見つめる彼女からは普段の様子は微塵も見られなくて、
逆に中澤の言葉が、矢口の中で真実味を帯びてくる。
「……あたしは、裕ちゃんが好きなんだよ?」
「うん」
「…だったら、だったらさ、裕ちゃん以外の誰が、あたしを幸せにしてくれるの?」
「矢口……」
「……もうダメだよ」
「え?」
「そんなこと言われたらもうダメだよ。もう何て言われても聞かないからね」
主語をつけない矢口の言葉に困惑したように、中澤の眉尻がますます下がる。
255 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月15日(月)23時51分08秒
中澤の右手をそっと掴んで、もう一度それを自分の頬に押し当てる。
「もう離れないから。ずっとずっとそばにいる。そばにいたい。
裕ちゃんのそばに…、いさせて」
「……それはあたしの台詞やろ」
中澤の口元がやわらいだことを矢口が確認してすぐ、
矢口の小さなカラダは再び中澤の腕の中に抱きとめられた。
「…イヤや言うてももう離さへんからな」
耳元に響く声に、矢口は静かに目を閉じる。
「ずっとこうやって、あたしのそばにおって」
「うん…。いるよ。ずっとずっと、矢口は裕ちゃんのそばにいる」

だってここは、
あたしだけの、あなただけの、
本当に、いるべき場所だから。
256 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月15日(月)23時51分58秒

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
257 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月15日(月)23時56分20秒
「……大丈夫?」
保田は、ドア幅の分だけ離れて自分の左側に立つ安倍に、溜め息混じりに尋ねた。
「…ちょっと待って」
小さく笑いながら安倍が俯いて目元を拭う。
保田はそっと目線を外してそれを見ないようにした。
「…矢口は、裕ちゃんが好きだったんだね」
誰に言うともない言葉。
保田もあえてそれに返事はしなかった。
けれど、声につられて目を向けた先で光る粒を見た保田は、
さりげなく目を背けながらぽそりと呟いた。
「……ホント、罪作りなヤツら」
こうなってほしいと願っていたことだけれど、
それでも、やっぱり少し、切ない。
258 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月15日(月)23時59分28秒
「…圭ちゃんは、知ってた?」
「……矢口の気持ちはね」
出来るだけ、平静を装って答える。
この気持ちは、まだ、誰も知らないはずだから。
そしてこの先も、誰にも知らせることはないから。

今はまだ、まだ少し、隠した想いで胸は痛むけれど。
キミが、
あなたが、
笑ってくれるなら。
それが、幸せな笑顔なら。

「……もういいよ、圭ちゃん」
安倍のいつもの笑顔に頷いて、保田はゆっくり、ドアを叩いた。
259 名前:Give me your love 投稿日:2001年10月16日(火)00時00分33秒

――― END ―――
260 名前:瑞希 投稿日:2001年10月16日(火)00時05分00秒
はい、「Give me your love」終了です。

途中のイタイ展開に自分でも迷いがあったんですが、
終わらせることが出来て、正直ホッとしてます。
よかったよかった。(自分で言うか…)

とか言いつつ、ラストではまた違う痛さが残りましたね、すいません。
でも、これは決めていたラストなので…。

批判されちゃうかなー(汗
261 名前:瑞希 投稿日:2001年10月16日(火)00時09分06秒
次の予定はまだたってません。

雪板で、ここより遥かに(?)痛めを始める予定なので、
そちらが一段落つくか、こちらのメインで書いてるカップリングで何か浮かべば、
また書きます。
ので、それまでまたしばしのさようならとなります。

感想などありましたら、よろしくお願いします。
262 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月16日(火)12時46分24秒
よかった。よかった。
これでひと安心。仲良しやぐちゅーに期待します。
263 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月21日(日)00時56分39秒
申し訳ない読解力がなくて・・・
保田が矢口を?
安倍が矢口を?
それとも保田が中澤を?
もう一度小学校からやり直します。
なにはともあれ二人が素直になってくっついてよかった。
途中、読んでて胸が痛かったので。次回作、期待してます。
264 名前:瑞希 投稿日:2001年10月21日(日)01時47分59秒
>262さん
ありがとうございます。
そーですねー、次に「やぐちゅー」書くなら、ラブラブで(w

>263さん
いえいえ、私がまだまだ未熟なのです。
>257 での圭ちゃんの台詞が複数形だったのと、
>258 での「キミ」「あなた」に、一応伏線張ったつもりなんですが…。
やっぱり判りづらかったみたいですね、スイマセン。
265 名前:瑞希 投稿日:2001年11月05日(月)23時57分42秒
久々にこっちに戻ってきました(w

今回も「みちごま」です。
甘いふたりが書きたくて(w
ついでに、この二人でエロいのもやりたくて(w

きっとまた書いてる本人が楽しいだけのお話だと思いますが、
おヒマでしたら、お付き合いください。

では、どうぞ。
266 名前:sweet 投稿日:2001年11月06日(火)00時02分50秒
「好きです」
耳元で囁かれて、カラダの芯が疼く。
「離しませんからね」
抱きしめられて、カラダは熱を帯びていく。

卑しいまでの欲望には嫌悪すら感じるのに、
それは確かに自分の中に存在する願望で……。

唇が塞がれ、挿し込まれる舌のねっとりとした触感。
貪りたい衝動に突き動かされそうになる自分とはまるで裏腹な、
まだ少しためらい気味のキス。
267 名前:sweet 投稿日:2001年11月06日(火)00時07分14秒
「……いい?」
聞くなと何度言っても、はじめに確認してくるその幼さが愛しくてたまらない。
「うん、…して」
そして降らされるキスの嵐。
額に、瞼に、頬に、唇に……。
それは顔だけでなく、全身にも降り注がれる。
首にも、肩にも、胸にも……。
――…溺れるって、こういうことかな。
ぼんやり脳裏を掠めた考えは、すぐに快楽という名の波が攫っていった―――。
268 名前:sweet 投稿日:2001年11月06日(火)00時08分28秒
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
269 名前:sweet 投稿日:2001年11月06日(火)00時12分40秒
「おはようございます」
目の前の笑顔に、平家は文字通り飛び起きた。
「…おっ、おはよ……」
頬杖をつきながら隣で自分を見上げている後藤は、
本当に幸せそうなニコニコ笑顔で、それがまた何とも可愛らしくて。
「……ごっちんが先に起きるのなんか、珍しいな」
なのに、口をついて出る言葉は素直じゃない。
「何となく目が覚めただけなんですけど……、
でも早起きすると得するって、ホントですね。
あたし、初めて平家さんの寝顔見たけど、スッゴイ可愛くて、
時間たつの忘れちゃうくらいだったもん」
270 名前:sweet 投稿日:2001年11月06日(火)00時16分50秒
「……そら、どうも」
テレくささを隠すように目線を外し、
昨夜、ベッドの下に脱ぎ捨てたシャツに手をのばしたら、
何も身に着けていなかった平家の腰の辺りに指が滑った。
「ひゃっ」
振り向くと、後藤が頬杖の態勢は変えないまま、
空いた手で平家の腰のラインを撫でていた。
「ちょ…、やめ…」
聞こえない、と言いたげなそんな素振りで、
後藤の手が平家の胸元にのばされてくる。
271 名前:sweet 投稿日:2001年11月06日(火)00時21分13秒
「…こらっ」
軽く戒めて後藤の手を平家が掴むと、ほんの少し拗ねたように唇を尖らせる。
「……拒まないって、言ったクセにぃ」
以前、自分が言った台詞で切り返され、平家も一瞬たじろぐ。
「……もう朝やで?」
「関係ないでーす」
ちゅっ、と腰に唇の感触。
「あっ、アカンて、ホンマ」
「…どーして?」
「……昨日、あのまま寝てしもたから……き、汚いし…、
汗とか、その、いろいろ……」
言い訳しながらベッドから降りる。
とりあえず、居心地や着心地が悪くても、昨夜脱ぎ捨てた衣服を着込んだ。
272 名前:sweet 投稿日:2001年11月06日(火)00時26分37秒
「……シャワーしてくる」
「じゃあ一緒に入っていい?」
「ええっ?」
ニコニコ笑顔に見つめられて、平家は一瞬返す言葉に困った。
「……せ、狭いで?」
――…アホか、あたし。こんなんいいって言うてんのと一緒やん。
「大丈夫、気になんないですよ、そんなの」
その言い回しが妙に意味ありげで、さすがに平家もピンとくる。
「……何か、ヘンなことしようとか考えてへん?」
「ヘンなことって何ですかぁ?」
ニコニコ笑顔が、心なしかニヤニヤ笑いに見える。
「……やっぱアカン。あたし一人で入る」
「えーっ、どーしてですかぁ?」
「……絶対、のぼせるもん」
あかんべをして、平家はさっさと寝室を出た。
273 名前:sweet 投稿日:2001年11月06日(火)23時28分25秒
バスルームから出てくると、
後藤はリビングのソファに座ってテレビを見ていた。
位置の関係で、風呂上がりの平家には後藤の後ろ姿しか見えない。
「……何か飲む?」
頭を左右に振られる。
冷蔵庫に冷やしておいた麦茶をコップに注ぎ、
それを左手に持って、まだ半乾きの髪をタオルで拭いながら後藤の隣に座る。
一口飲んでからテーブルにコップを置いて後藤に振り向くと、
それとほぼ同時にソファに押し倒された。
「えっ、何? どしたん?」
「……いいでしょ?」
「ええっ? ちょっ、今、風呂入ったばっか……」
反論の言葉が唇で奪われる。
付き合い始めの頃はまだぎこちなさも感じられたのに、
今ではもう、時折しかその幼さを感じない。
274 名前:sweet 投稿日:2001年11月06日(火)23時34分36秒
「ん…、ん」
唇も、いつのまにこんなに大人びた熱を持つようになったのか。
「…好きですよ、平家さん」
離れた唇が耳元に近付く。
触れた吐息に平家のカラダが揺れる。
「あ…っ」
ちろっ、と耳の淵を舐められ、思わず声が漏れる。
その声を合図にしていたように、
後藤の手が平家のTシャツの中へと滑り込んできた。
「や…、いや…っ」
下着を着けていない素肌に直に触れてくる後藤の指に、
平家のカラダは小刻みに震え始めた。
思わず後藤の肩を押し返してしまう。
それに構わず、今度は両手で抱くように平家の腰に触れる。
そのままカラダのラインを辿るようにしてシャツを脱がせ、ソファの下へ落とす。
275 名前:sweet 投稿日:2001年11月06日(火)23時40分51秒
顕わになった平家の上半身を眩しそうに、愛しそうに見つめる後藤とは対照的に、
平家は腕を交差させて顔を隠した。
「……平家さん、顔、見せて?」
顔を隠す腕はそのままで、平家は首を振った。
朝の光が差し込む明るいその部屋に、平家のしなやかなカラダが晒される。
風呂上がりのせいか、それとも羞恥のせいか、
平家の素肌は、火照っているかのようにほんのりと赤い。
後藤は、ゆっくりと胸の先を口の中へと含んだ。
びくん、と大きく揺れたカラダに満足して、軽く吸い上げ、転がして、舐める。
「んん…っ」
言葉や行動とは裏腹に、揺らぐカラダの素直さが後藤を嬉しくさせる。
平家の胸を堪能するように、何度も何度も口の中で転がしては吸い上げた。
そのたびに反応して揺れたり、震えたりする平家が愛しくてたまらなくなる。
276 名前:sweet 投稿日:2001年11月06日(火)23時47分43秒
そこでふと、まだちゃんとした声を聞いてないことに気付いた後藤は、
さっきと変わらず腕で顔を隠したままの平家に目を移した。
「……平家さん?」
交差された腕に隠れた顔、と言っても、正味で隠れているのは目元だけで、
何かを堪えるように噛み締められている唇はハッキリ見えた。
「…何でガマンするんですか?」
肘にそっと口付けて尋ねても返事はない。
何だか様子が違うことに気付き、隠すように交差されている腕を掴んで、
それをそっと左右に広げた。
「…! えっ、な、何で?」
噛み締められた唇からは何も答えがない。
けれど、後藤の目には涙で目を潤ませている平家の顔が映った。
「そ…、そんなにイヤだったんですか?」
肌に触れたとき、漏れた拒絶の声を後藤は確かに聞いていた。
けれどもそれは、雰囲気を効果的にするための、
いわゆるポーズなのだと思っていた。
277 名前:sweet 投稿日:2001年11月06日(火)23時51分51秒
「ち…がう」
目を伏せて、顔ごと逸らす。
「…こんなトコで、したくない」
「え?」
「……まだ朝やのに。こんな、こんな明るいトコでなんかイヤや」
次第に染まる平家の頬。
「平家さん?」
後藤から腕を取り返し、両手で顔を覆って身を返す。
「……テレてる、の?」
指の隙間から見える平家の頬がまた赤らむ。
場所を嫌っただけで、決して行為の続行を拒んだワケではないという、
言葉よりも素直なその反応が後藤を更に嬉しがらせた。
背中を向けてしまった平家がますます愛しくなる。
278 名前:sweet 投稿日:2001年11月06日(火)23時57分24秒
色素の薄い、華奢な肩口に唇を寄せる。
うなじに滑らせ、背骨を辿ると、顔を覆っていた手が外れた。
それを逃さず、手首を捕らえて自分のほうへ引き寄せ、
まだ赤みの引かない平家の顔を真正面から見つめた。
目が合うと、恥ずかしそうに頬を染め、きゅっ、と唇を噛んで目を閉じる。
捕まえた手首を更に強く引き寄せてカラダを起こす。
下から覗き込むように平家に顔を近づけ、唇を重ねる。
「……ベッド行こ」
「イヤです」
縋るような声は、後藤を少し意地悪な気分にさせた。
「……あ、明るすぎる…」
「あたししか見てませんよ」
もっとも、もう他の誰にも見せるつもりなんてないけれど。
「……平家さん、キレイです」
呟くように耳元で囁き、もう一度唇を奪いにいく。
279 名前:sweet 投稿日:2001年11月07日(水)00時01分28秒
「……なあ、ホンマにやめてくれへん? …こんな、こんなトコでしたら……」
「……したら?」
ぺろりと唇を舐めながら問い返す。
「も…、もうここに誰も呼ばれへんようになる……」
「え?」
「誰が来ても、ごっちんと、ここでしたこと、思い出すもん。
…あたし、嘘つかれへんやろうから…、きっとバレる」
思いがけない答えに、後藤もすぐには返す言葉に詰まった。
「……じゃあ、もうあたし以外、誰も呼ばないでください」
「そん……」
280 名前:sweet 投稿日:2001年11月07日(水)00時05分33秒
平家の言葉が後藤の唇によって奪われる。
唇を重ねながら、後藤はゆっくり腰を撫でた。
そしてそのまま、
平家が履いていた膝丈の短パンを下着と一緒に引き下ろす。
「や…!」
顔を逸らして後藤のキスから逃れる。
けれど後藤は、それに代わるようにソファから降り、
態勢を変えて平家の足元に跪いた。
下ろした短パンを足から引き抜き、
生まれたままの姿になった平家の両膝を裏側から掴んで自らの肩に乗せる。
281 名前:sweet 投稿日:2001年11月07日(水)00時10分36秒
「い、イヤや! 見んといて!」
言葉とは反対に、次への期待に震える平家の秘密の泉。
指で触れたことは何度もあったが、実際に目で見るのは初めてだった。
後藤はゆっくり、ドキドキと胸を高鳴らせながら、
不透明な蜜が溢れ始めたその泉に顔を近づけた。
「や…、ああっ」
ソファの背凭れに上半身の重心を預け、喉を反らす。
「あ、あ…っ、んん!」
後藤の舌の感触が平家の理性を攫いにやってくる。
僅かに残るそれに縋るように、漏れる自分の声を抑えるために手で口を覆った。
282 名前:sweet 投稿日:2001年11月07日(水)23時42分53秒
「んっ、んんっ」
声がこもり始めたことに気付いた後藤が顔を上げる。
「ダメですよ、平家さん。声聞かせてください」
腕をのばして平家の腕を掴み、強く引っ張る。
「こ、こんなん、イヤや…」
「……聞こえません」
聞こえてないワケがないのに。
「あっ、ああ!」
再び触れてきた舌先にまた平家のカラダが震え出す。
溢れる蜜を舐め取り、そのまま焦らすように足の付け根へと唇を滑らせると、
後藤の肩に乗せられていた足が、びくんっ、と大きく跳ねるように揺れた。

太陽の光が差し込むリビングで、生まれたままの格好で、
6つも年下の同性に組み敷かれている己れの姿を思い浮かべて、
平家のカラダが羞恥でみるみるうちに赤らんでいく。
283 名前:sweet 投稿日:2001年11月07日(水)23時48分39秒
「は…、んん…っ」
意外と骨ばった後藤の指がそろりそろりと押し込まれてきたのが判り、
自然と平家のカラダが強張る。
「……平家さん、力抜いて」
もう片方の手が平家の太腿の内側を撫でる。
言葉にならないくらい恥ずかしいのに、カラダはとても正直で。
もう今では難無く後藤の指を受け入れられるようになった自分のカラダが
とても浅ましく思え、平家の目尻にジワリと涙が浮かぶ。
けれど、後藤がそれに気付くことはない。
平家はそっと自分の手で目元を覆い隠した。
「…あ…っ、ん、ああ…」
後藤の指が、深く、深く沈められてくる。
284 名前:sweet 投稿日:2001年11月07日(水)23時54分35秒
「あっ、あん!」
「……平家さん」
呼ばれて腰の辺りがざわつく。
無意識に腰を上げて揺すっている自分に気付き、
もう羞恥心より快楽のほうが勝っていることを思い知らされる。
後藤が、ゆっくりした動作で肩から平家の足を下ろし、
指の動きは止めないで平家の隣へと移動する。
「……イイ?」
耳元で囁かれて体温が上がる。
平家は、自分の目元を隠していた手を外してそのまま後藤にしがみ着いた。
「ご…、ごっちん…、…ああ!」
更に奥へと突き上げられ、ますます強くしがみ着く。
もう、理性のカケラもない。
285 名前:sweet 投稿日:2001年11月08日(木)00時00分50秒
「イイ…ッ、あ、ああん!」
やんわりと指先で擦られ、親指の腹で蕾を刺激された平家のカラダがびくつく。
「は…あっ、あん! …そ、そんなん…、あっ、ああっ」
「ヨクない…?」
「ちが…、…あ、…あ…っ、へ、ヘンに、ヘンになる……!」
ぎゅうっと強く、後藤の背中にまわされた手に力が入る。
「…あっ、…アカン、もう…!」
後藤の指がきゅっと締め付けられたのと同時に、背中には鋭い痛みが走る。
それが自分にしがみ着く平家の爪であることは、
今まで何度も経験していて、承知している。
それは、平家に愛されているとカラダで感じる、感じられる、その瞬間……。
286 名前:sweet 投稿日:2001年11月08日(木)00時04分24秒
頂点に達した平家がぐったりと後藤の肩に凭れかかる。
平家を貫いていた指をゆっくり引き抜くと、
ぴくん、と小さくカラダが揺れた。
「…平家さん」
見えている耳に唇を寄せてぺろりと舐めて囁く。
「…大丈夫?」
いつもより疲労感が見える様子の平家に恐る恐る尋ねる。
「……なワケないやろ」
ぐっと両腕を突っ張らせて後藤の胸の中から逃げる。
287 名前:sweet 投稿日:2001年11月08日(木)00時08分47秒
「…こんなトコで、しかもこんなカッコで…、シャワー、したとこやったのに……」
「じゃあ、今度こそ一緒に入りましょうよ」
「絶対イヤ!」
ぷいっと顔も背けてソファから下りる。
しかし、足をつこうとしても力が入らず、ガクン、と膝からそこへへたり込んだ。
「平家さん?」
「……嘘」
「どうしたの?」
「た…、立たれへん……」
「ええっ?」
腰が抜けたらしい、と気付いた平家は、そのあとしばらく、その事態に茫然となった。
288 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月08日(木)07時40分32秒
ドキドキ……
289 名前:瑞希 投稿日:2001年11月08日(木)23時14分06秒
>288さん
ドキドキ、しました?(w


では続きです(っちゅーか、今日の更新で終わりますが)。
290 名前:sweet 投稿日:2001年11月08日(木)23時19分53秒
「……カッコ悪」
唇を尖らせた膨れっ面で平家は呟いた。
「誰にも見せられへんわ、こんなあたし」
「見せなくていいですよ」
平家の背中にいる後藤が嬉しそうに笑って抱きしめる。

あのあと、さすがに後藤も大慌てとなったけれど、
パニくる後藤を見ているうちに平静を取り戻した平家は、
オロオロする後藤にタオルをお湯で絞って用意するように言った。
言われた通りにした後藤から手渡されたタオルで
ゆっくりカラダの汗を拭い取って、脱がされた服を着込む。
立てないといっても一時的なものだろうから、
休んでいればすぐ立てるようになるだろう、と推測したのだ。
291 名前:sweet 投稿日:2001年11月08日(木)23時25分16秒
そして今、まだ自力で立つには難しい平家を守るように、
ソファに座る平家の背後に後藤がいた。
「……アンタのせいやって、判っとる?」
「そんなにヨかったんですか?」
「あっ、アホかっ!」
「あはっ、テレてるぅ」
ちゅっ、と、僅かに染まる頬に後藤の唇が触れる。
「…アンタなぁ…」
唇が触れた頬を撫でながら、呆れ口調で呼びかける。
「……頼むから、もう、こんなんやめてや?」
「…ベッド以外でするなって?」
「うん」
「誰も呼べなくなるから?」
「そうや」
「じゃあ、今度はキッチンとか、お風呂とかでしましょうね」
「なっ、何言うてんねん! 人の話聞いてんのかっ」
292 名前:sweet 投稿日:2001年11月08日(木)23時30分18秒
預けていたカラダを起こして振り返り、悪戯っぽく笑っている後藤に怒鳴る。
「聞いてますよぉ。だから言ってるんですもん」
ちょこん、と首を傾げて微笑み、
離れてしまった平家を再び強く引き寄せて抱きしめる。
「……この部屋に、あたし以外の誰も来られないようにしたい」
「ごっちん……?」
「あたしだけが来てもいい部屋にしたい。平家さんが、
他の誰かのことを考えなくても済むように、あたしのことだけ考えてくれるように」
なんてコドモらしい、コドモ特有の独占欲だろう。
平家の胸の奥に、そんな考えが過ぎる。
そんな独占欲は、ともすれば息苦しいだけのものでしかないと、
以前の平家ならば確かにそう思っていたのに。
293 名前:sweet 投稿日:2001年11月08日(木)23時33分51秒
「……呆れてます?」
不安そうな声。
平家は自身のカラダの力を抜き、ゆっくりと後藤に凭れかかった。
「何で?」
「だって…、黙っちゃうから」
「うん…、まあ、ちょっと呆れてるかな」
「やっぱり……」
しゅん、となってしまった後藤の頭にそっと手をのばし、
その髪に指を絡めて苦笑いする。
「……けど、そう思われんのって意外とキモチええな」
294 名前:sweet 投稿日:2001年11月08日(木)23時38分04秒
「えっ?」
「ちょっと呆れたけど、でも嬉しいで? 愛されてるカンジ、すごくする。よう判る」
「……でも、こういうのって、重たく、ないですか?」
「うーん…、前のあたしやったら思たかもなぁ。けど、
ホンマに重たかったらずっと前からそう思てると思うで?
ごっちん、いつでもどこでも言うてくるもん」
「……そ、そんなにしょっちゅうは言ってないと思いますけどぉ」
「言うてるって、耳タコやもん」
言いながら笑った平家のカラダが後藤の腕の中で揺れる。
295 名前:sweet 投稿日:2001年11月08日(木)23時42分26秒
「……迷惑?」
「やったら、今ここでこんなことしてへんわ」
髪を撫でていた手が怒ったようにぎゅっと後藤の耳を掴む。
「痛いよ、平家さん」
「アホなこと言うからや」
すいっとカラダを起こして振り向く。
そこにある、まだ少し不安気な目元が平家の胸の奥を震わせる。
愛しさが、増していく。
「…そろそろ自信持ったら? あんなん許すんも、アンタやからやねんで?」
許す、という言葉に後藤の眉尻が少し下がる。
「じゃあまたしてもいい?」
「……ベッドでな」
呆れ混じりの溜め息で答え、ゆっくり顔を近づけていく。
ほんの少し触れるだけの、幼いキス。
296 名前:sweet 投稿日:2001年11月08日(木)23時47分40秒
「……でも今日はここまで。この続きはまた今度な」
今まさに平家のシャツに手を掛けた後藤の手を掴んで、平家はニヤリと笑った。
「ええっ、何でっ」
「…アンタ、やっぱりまだする気やったんか? まだ自力で立たれへんっちゅーのに…。
誰のせいやと思てんねん、あたしを壊す気か?」
思った通り、平家の反論にまたしてもしゅんとなった後藤。
そんな彼女に平家も満足する。
「……お仕置きや。今日はもうずっとこのまんまでいなさい」
「え? このままって…」
「やから、このまんま」
ゆっくり後藤の手を取り、
態勢を変えてさっきと同じように背中から後藤に凭れる。
捕まえた手を自分の胸元で組ませて、甘えるように後藤の肩に頭を預けた。
297 名前:sweet 投稿日:2001年11月08日(木)23時51分08秒
「平家さん……」
呼ぶ声がとても嬉しそうに聞こえて、平家の胸のうちもほんのりあたたかくなる。
「……何喜んでんの。お仕置きやで?」
「こーゆーお仕置きなら、いっくらでも受け付けます!」
ぎゅっ、と強く抱きしめてくる腕。
まだ少し頼りなさ気なその強さも、平家にはとても愛しいものだった。
「平家さん…、大好き」
「はいはい」
何度言われても飽きない告白にテレくささを隠して返しながら、
平家はうっとりと目を閉じた。
298 名前:sweet 投稿日:2001年11月08日(木)23時52分30秒
――― END ―――
299 名前:瑞希 投稿日:2001年11月08日(木)23時59分03秒
ハイ、「sweet」終了です。
ってか、ホントに書いてる私だけが楽しかった内容ですな(w

次回作の予定は、またまたたっておりませぬ…。
雪板のほうが一段落ついたのでこっちに戻ってきたんですが、
今回の「sweet」が今の私の精一杯…。
でもまた何か浮かべば、甘々で書きたいと思ってます。

それではまたしばし、さようならー。
感想などありましたら、よろしくお願いいたします。
300 名前:undefined 投稿日:2001年11月09日(金)10時20分37秒
またまた雪板からお引っ越しですね。雪板でもかなりはまってしまいました。
みちごま、ドキドキ読みました。次回は、ゼヒゼヒやぐちゅ〜を甘々で・・・(w
301 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月10日(土)17時06分29秒
平家さん可愛すぎ…

だれも呼べなくなる場所、どんどん増やしましょう。(w

( ´ Д `)<んー。じゃ、あと洋服ダンスのなかかなあ。
(; `◇´)<そ、それは無理やろ。
302 名前:名無し殺生 投稿日:2001年11月11日(日)20時28分40秒
密かにやってたとは・・・今気付いた。連絡なかったぞ、ゴルァ!(w
おいおい、みちごまにデレデレ〜。
読んでる人もめちゃくちゃ楽しかったですよ。
ご馳走様でした!これからももっと甘々作品をおねゲーします。
次は大胆にベランダあたりで(w
303 名前:名無し読者。 投稿日:2001年11月12日(月)11時32分22秒
今日全部読ませてもらったよー。
みちごまは、ほのぼのさがたまりません。
やぐちゅー・・・裕ちゃんはいつから平家から矢口へ心が移行したのだろう?
何となく分かるけど出来たらサイドストーリ書いて欲しいな。裕ちゃん視点で(w
後、Give me your love で平家が裕ちゃんに会いにきた時の出来事。平家の心情とかも
入れて。無理ですか?作者さん。ヒマな時でいいのでお。ね・が・いでーす!!
304 名前:瑞希 投稿日:2001年11月19日(月)01時18分10秒
>300:undefinedさん
ありがとうございます。
うーん、やぐちゅーっすか。やはり王道は需要が多いですね〜。<ヒトゴトみたいに言うな

>301さん
ありがとうございます。
>洋服ダンス…
なるほど、やってみますか… <ヲイ

>302:名無し殺生さん
ありがとうございます、そして、連絡しないでゴメンナサイ(w
>ベランダあたりで…
おおっ、そこもありましたねっ!(w

>303さん
ありがとうございます。
えっと、みっちゃんは、裕ちゃんに会いに行ったワケじゃないですよ(^^)
でも、このへんのサイドストーリーは、ちょい、ム、ムズカシイ…(^^;
私としては「Give〜」に関しての「みちごま」「やぐちゅー」は、既に完結してるので…(^^;
善処できるよう、頑張ってはみますが、あまり期待なさらないで下さい。
申し訳ないっす。
305 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月19日(月)06時42分23秒
良いです、みちごま
作者さんに感謝
306 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月28日(水)04時46分34秒
おいしいゴハンにはおかわり。
待ってます。
307 名前:瑞希 投稿日:2001年11月28日(水)23時39分13秒
>305さん
ありがとうございます。
「みちごま」書いてて、感謝されるとは思いもしませんでした(照

>306さん
ありがとうございます。
おかわりは…、「みちごま」で? それとも「やぐちゅー」で?
308 名前:瑞希 投稿日:2001年11月28日(水)23時42分41秒
約3週間ぶりの更新でござる。

今回は「やぐちゅー」です。
ちと長くなってしまったので、2回に分けますね。

では、どうぞ。
309 名前:だいすき 投稿日:2001年11月28日(水)23時46分15秒
最近、ちょっと、調子が悪い。
体調不良とかじゃなくて、何か、とにかく何か、おかしい。
うまく仕事もこなせてない。
みんなはいつも通りじゃんって笑うけど、でも違うんだよ、何だか。
「はあ…」
溜め息だってさ、出ちゃうんだよ。
それも気がついたら結構な回数になってたりするし。
「そんなに溜め息ばっかついてたら、幸せ逃げちゃうぞぉ」
って、なっちにからかわれた。
310 名前:だいすき 投稿日:2001年11月28日(水)23時48分49秒
…幸せ、か。
あたしにとっての幸せってひとつだから、それが逃げちゃうのは絶対イヤだなあ。
なんて思っても、やっぱり溜め息は出た。
「はあ…」
今日はもう、これで何度目かな。
まだ朝だってのに、両手じゃ足りなくなってんじゃないかなあ。
何でかな。
何でいつもの調子が出ないんだろ。
311 名前:だいすき 投稿日:2001年11月28日(水)23時52分06秒
「あ、裕ちゃんだ」
なっちの声が合図だったみたいに頭が上がる。
目の前に、スタッフと真剣に話し込みながら歩いてる裕ちゃんがいた。
「おー…」
「わっ、だ、ダメだよ、なっち」
呼び止めようと手を挙げかけたなっちを慌てて制すると、
なっちはちょっと不思議そうに首を傾げてあたしを見た。
「何で?」
「え…、だって…、何か、深刻っぽいし」
チラリと目だけで見たら、もう裕ちゃんの姿は見えなくなってた。
312 名前:だいすき 投稿日:2001年11月28日(水)23時55分49秒
「……あっちはあっちで、仕事みたいじゃん?」
ホントは、今すぐにだって駆け寄りたいけど。
なっちの顔が、少し、不満そうに歪んでくのが判る。
「…矢口さぁ、無理してない?」
「え?」
「無理してますっ、て顔」
ぴこん、て眉間を突っつかれる。
「最近の矢口の溜め息の原因てさ、裕ちゃんじゃないの?」
ギクリ、と胸が鳴る。
「……そんなんじゃ」
すぐに違うと答えられなくて、続いた言葉は言い訳じみてる。
313 名前:だいすき 投稿日:2001年11月28日(水)23時58分42秒
不調の原因が何か、なんて、ホントは判ってた。
最近、裕ちゃんと全然キスしてないんだ。
キスどころか、せっかく会えても、
お互い忙しくてゆっくり話せる時間もなくて、二人きりにさえなれない。
認めるのはすごく不本意だったりするんだけど、でも、
ホントだから仕方ない。
裕ちゃんに触ってもらえないんだってことがあたしを落ち込ませてる。
こんなに好きだったんだなあって、思い知らされる。
314 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)00時02分02秒
「……淋しくないの?」
なっちが、あたしの頭をぽんぽんって、優しく撫でてくれる。
「……淋しい」
「じゃあ裕ちゃんにそう言えばいいのに」
「…言えないよぉ」
言うのは、きっと簡単。
言ってしまえば、きっと裕ちゃんはすぐにでも会いに来てくれる。
それが判るから、言えないんだよ。
「……あたしのために、無理してほしくないんだよ」
だから、ガマンする。
裕ちゃんには、あたしのことで無理させたくないから。
315 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)00時05分40秒
「…矢口」
あたしの頭を撫でていたなっちの手がそのまま肩に下りる。
撫でていた優しさと違う何かを、手のぬくもりに感じた。
「…なっち、そういうの、フェアじゃないと思う」
言うなり、またあたしの眉間を指で弾く。
「……元気の素、補充しに行こ?」
「え?」
「行こ、今ならまだ時間あるよ」
あたしの返事を聞く前に、あたしの手を引っ掴んで歩き出す。
「い、行くって、まさか」
「裕ちゃんとこ。…他にどこがあるべさ」
316 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)00時09分17秒
「だ、ダメだって!」
予想のついてた返答に、あたしは強く抗議した。
勿論、カラダでも。
足を止めて、腕を取り返そうともがくけど、
そのカラダのどこにそんな腕力があるのか、なっちの手は振り解けなくて。
「ダメはこっちの台詞! ほらっ」
半ば引きずられるようなカタチで、あたしは裕ちゃんのいる楽屋に連れてかれる。
……でもホントは、本気で抵抗なんてしてなかった。
どんな理由ででも、それがなっちの好意だって判ってても、
裕ちゃんに会える口実になるなら。
317 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)00時13分35秒
楽屋の前まで来て、急に心臓が早く高鳴り出す。
なっちがノックして、あたしの肩が竦む。
聞こえてきた声が疲れてるようで、途端に後悔が押し寄せる。
ドアを開けると、裕ちゃんは少し驚いたように目を見開いて、
でもすぐに嬉しそうに笑った。
「どしたん? 二人揃って」
「裕ちゃん、今、時間ある?」
「ん? んーと、30分くらいやったら」
「じゃあ、それまで矢口預けといていい? あとで迎えに来るから」
「は?」
裕ちゃんが間の抜けた返事をしてすぐ、なっちはあたしを裕ちゃんの前に押し出した。
318 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)00時16分38秒
「じゃ、よろしくねー」
「う、うん」
手を振って出て行くなっちに、裕ちゃんも戸惑いながら振り返す。
ぱたん、とドアが閉じて、室内が静まり返る。
「…何なん?」
答えられなくて、思わず俯いてしまう。
「矢口?」
沈黙が耳に痛くて、胸の高鳴りが息苦しくさせる。
「…久しぶりやな、二人きりなんて」
優しい声色に頭を上げると、にっこり微笑む裕ちゃんが両手を広げてて。
「おいで」
呼ばれて、急いで駆け寄って、椅子に座る裕ちゃんに抱きついた。
319 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)00時18分55秒
「…矢口、痩せたか?」
「裕ちゃんこそ」
「…顔見せて」
離れて、顔を見る、
見慣れた顔のはずなのに、こんなに間近で見るのは本当に久しぶりで、
何だか気恥ずかしくて。
「チューしていい?」
「…聞くな、バカ」
小さく笑った裕ちゃんに、あたしのほうから顔を近づける。
320 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)00時22分16秒
「あー…、ホンモノの矢口や」
「…何それ」
「最近、矢口不足で、ヘコんでてん、実は」
「え…?」
「会いたかってんけど、矢口、忙しそうやったし…、あたしのために
時間割かすんも悪いと思て」
「……裕ちゃん、も?」
「も…、って、矢口も?」
お互い、しばらく無言で顔を見合わせた。
それから裕ちゃんがまた小さく笑って、あたしを抱き寄せる。
321 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)00時24分38秒
「ゴメン、あたしだけが会いたいって思てると思てた」
「そ、そんなワケ…!」
そんなこと、あるはずない。
いつだって会いたい。
いつだって触っててほしい。
「うん、せやな。もっと矢口のこと信じるわ」
「…え?」
……信じるって?
「ガマンしてんの、あたしだけと違うって。……矢口も、してたんやろ?」
322 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)00時28分04秒
諭すような優しい声で問い掛けてくる裕ちゃんの声が、
じんわりとあたしの心に染み渡ってくる。
「……してた」
答えたあたしの腰に腕を回して引き寄せ、すとん、て膝の上に座らせる。
さっきよりずっと近くに裕ちゃんの顔があって、何となく恥ずかしくなったけど。
「……裕ちゃんに会いたくて会いたくて、たまんなかった」
「うん、あたしも」
抱きしめてくる腕の強さは、そんなに強いとは思わなかったけど、
でも、力強く抱きしめられるよりもカラダを熱くして……。
323 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)00時30分49秒
「……裕ちゃん」
「んー?」
あたしを抱きしめたまま、曖昧に答える声が甘くて。
「……今日、裕ちゃんの家、行ってもいい?」
「ええけど……、でもたぶん、遅なるで?」
「いい。待ってる」
「矢口、明日仕事ないん?」
「あるけど…、でも」
ちょっとでもいいから、そばにいたいんだよ。
言葉にするかわりに、思い切り抱きついた。
324 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)00時33分26秒
「矢口…?」
耳のすぐそばで、裕ちゃんの声がした。
抱きしめてくれる腕の強さもまたちょっと強くなって。
「矢口」
呼ばれただけなのに、声色はさっきと全然違ってて。
「……そんなんされたら、裕ちゃん、抑えきかんわ」
くすぐるようない息が耳にかかって、身震いする。
「……時間、あんまないねん、ゴメン」
325 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)00時36分33秒
そう言って、唐突に裕ちゃんはあたしから離れた。
一気に逃げ出す甘い熱。
あたしを立たせて、ドアに向かう裕ちゃんの背中を、あたしはただ見つめるしかなくて。
「裕ちゃん…」
泣きそうになって思わず呼んだあたしの耳に、次の瞬間聞こえた音は…。
――カチリ。
カギの、閉まる音だった。
326 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)23時49分14秒
「…裕、ちゃん?」
くるりと振り向き、足早にあたしに近付いてくる。
「ゴメンな」
謝られる理由が判らなかった。
「好きやで、矢口」
近付いてくる顔と、声と。
のびてきた、腕。
その手に二の腕を掴まれて、そのまま机の上に倒された。
327 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)23時53分01秒
「え、ちょっ、裕ちゃ…っ?」
「…ガマンしすぎて、キレてもうた」
キスのようでキスじゃない、噛まれるような感覚で、裕ちゃんの歯が唇に当たる。
「ゆう……」
呼ぼうとしたのに、口の中に軽く曲げられた指が入ってきた。
「痛かったら、噛んでええから」
机の上に横たえられたあたしの視界から、
裕ちゃんの頭が沈むように見えなくなってすぐ、スカートがめくり上げられた。
そこでやっと、裕ちゃんが謝った理由が判る。
328 名前:だいすき 投稿日:2001年11月29日(木)23時56分57秒
裕ちゃんの目の前に晒されている、足の付け根に唇が触れた。
何が起きようとしているのかも判って、体温が上がる。
「…矢口」
囁くような声と一緒に下着を下ろされる。
急に外気に触れた寒さと恥ずかしさとで、カラダが小刻みに震え出す。
膝を掴まれて、曲げられて…。
今、裕ちゃんの目に映っているのが何かを思って、あたしはぎゅっと目を閉じた。
その次の瞬間、全身を電流が走るような感覚に襲われる。
ザラリとした、舌の感触が腰の辺りを揺さぶる。
329 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時01分11秒
「んっ、う…」
知らずに声が漏れて、口の中にある裕ちゃんの指を噛んでしまう。
「矢口…」
敏感になっているそこに息が触れて、また電流が走る。
ゆっくりと、沈められてくる、舌。
「く…、あっ」
そのとき、薄く開かせたあたしの目には、
伸びてても、綺麗に整えられている裕ちゃんの爪が見えた。
自分の足の内側を撫でている、もう片方の手の爪もそれと同じだと判って、
裕ちゃんが言った、『痛かったら』という言葉の意味も悟る。
330 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時04分55秒
生暖かだった舌の触感が薄れたと同時に、そっと、あしの中に入ってきた指。
傷つけないように、と、細心の注意が払われているのも判る。
「ん…っ」
舌とは明らかに違う硬質的な爪の先が冷ややかで、思わずカラダが震える。
「……噛んでもええから」
言葉のあと、一気に深く沈められてきた。
「んん…っ!」
突然過ぎて、構えるヒマもなくて、そんなつもりはなかったのに、
歯型が残りそうなくらい、裕ちゃんの指に強く噛み付いてた。
331 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時08分12秒
「矢口…」
耳元で聞こえる裕ちゃんの声。
「痛いか…?」
薄く目を開けると、心配そうにあたしを見てる裕ちゃんがいて。
指を噛みながら、それでもあたしは首を振った。
「…ゴメンな」
また謝って、それから指を動かす。
「ん…、んんっ」
裕ちゃんの指を感じながら、
あたしはあたしの口を塞ぐ指を外して裕ちゃんの首にしがみついた。
332 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時11分56秒
「…ゆう…、ちゃ…っ」
痛いと思うより、それが裕ちゃんの爪だというだけで感じてる自分が判った。
「あ…、あっ」
「矢口…っ」
指の動きが少し早まって、頭の中も真っ白になって、
頂点がすぐそこまできているのも判る。
自分でも、早いな、なんて思いながら。
「裕ちゃん……っ!」
言葉にならない熱い電流が全身を一気に駆け抜け、
あたしは愛しいひとの名前を叫んで、崩れた―――。
333 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時14分25秒
「…ゴメンな」
まだ荒ぐ息を整えようと起き上がったあたしを、
裕ちゃんがそう言って抱きしめてくる。
「…爪、痛かったやろ?」
その腕の中に甘えながら首を振る。
「……ゴメンな」
「いいよ、謝んないで」
「…けど」
「謝るぐらいなら、最初からしないでよ」
334 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時17分08秒
腕を突っ張らせて裕ちゃんから離れ、乱れた服を直す。
「う…、ゴメン」
整え終えてから裕ちゃんを見ると、
申し訳なさそうに頭を垂れて、上目遣いにあたしを見てた。
……5分前までの強引さはどこへやら。
「……痛かった」
「え?」
「爪。痛かったよ」
「ご、ゴメン!」
のびてきた腕に、あたしは逆らわないでそのままその中におさまった。
335 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時20分03秒
「でも…、許す」
「矢口?」
「だから…、爪、切るとか言わないでね」
「え? 何で? そんなに悦かったん?」
「…っ、違うよ! バカ!」
ストレートに言うなよっ!
抱きしめるその腕を振り解いて離れる。
「ゴメン…」
「ホンット、デリカシーないんだから!」
「ゴメンて、矢口」
336 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時23分14秒
顔を見るのが恥ずかしくて、怒ったフリで背中を向けたあたしを、
裕ちゃんは、そっとそっと抱きしめてきた。
「無理させたんやったら、悪いなあ、と思たんやん」
「……無理なんかしないもん」
「うん、ありがと」
「…何だよ、それ」
「ええねん。言いたいだけ。ありがとな、矢口」
耳元をくすぐる息と声を甘く感じて、痺れたようにカラダが震える。
「…矢口、こっち向いて」
誘うような声に振り向いたら、思った通り、キスされた。
337 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時26分50秒
触れるだけの軽いキスが、だんだんと深くなる。
「ん…」
歯をなぞる舌の動きが優しくて、甘くて、
あたしのカラダの前に回されている、裕ちゃんの腕を掴む手に力が入らなくなる。
「…ゆう……」
少しだけ唇が離れて、息がしやすくなって、名前を呼ぼうとしたら、
「中澤さん、お願いしまーす!」
ドアをノックする音と、まだ若そうな男の声がして、あたし達は慌てて離れた。
「はいっ、すぐ行きます!」
ドアの前にあった影が、裕ちゃんの声に頷いて消えていく。
338 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時30分33秒
「…時間切れか。しゃあないな」
溜め息と一緒に前髪をかきあげる。
「…裕ちゃん」
「ん?」
目線の下りたその顔に、ゆっくり顔を近づけてキスをする。
「……今日、待ってるね」
唇を離してからそう言うと、
少し驚いたようにあたしを見てた裕ちゃんの顔付きもすぐに柔らかくなって。
「…よっしゃ。速攻で終わらせて帰るわ」
綺麗な、綺麗な笑顔で答えて、あたしの頭を撫でてから部屋を出て行った。
339 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時35分18秒
それと入れ替わるようにして、なっちがあたしを迎えに来た。
「ありゃ、もう裕ちゃん、行っちゃった?」
「今出てったとこ」
部屋を出て、少し小走りに自分達の楽屋に向かう。
「…元気の素、補充出来たみたいだね」
「あー…、うん」
思い出して、少しテレくさくて、頭をかきながら曖昧に頷いた。
短時間で、思いがけずいろんなことしたなあ、なんて思ってたら。
「……さては…、チュー以上のこともしたな?」
ニヤニヤ笑って、なっちが言った。
「へっ? ま…、ま、まさかあ」
「隠すでないっ、吐けっ」
そんなの、言えませんって、アナタ。
340 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時39分12秒
「な、何にもないよぉ」
でも、声は裏返っちゃった。
「…矢口のえっち」
「違うっ、それは裕子のほうだよ!」
思わず叫ぶと、ニヤリ、と悪戯好きするなっちの笑顔が。
「そーかそーか、えっちなことされたか」
……今日のなっち、誘導尋問、うますぎ。
「もーっ、いーじゃん! 恥ずかしいじゃんかよぉ」
顔が熱くなって、手でパタパタ扇ぎながら答えたら、なっちはまた笑って。
「うん、いつもの矢口に戻ったべさ」
ぽんぽん、て頭を撫でてきた。
「なっち……?」
「矢口はやっぱ、ウルサイくらいでないと」
341 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時41分59秒
にっこり微笑むなっちは、それはもう、筆舌しがたいぐらいに可愛くて。
…うーん。
こーゆーとこが、かなわないんだよなぁ。
「ほら、急ぐべ。そろそろ時間だべさ」
「あ、うん」
……あれ?
ちょっと待てよ?
何か今、ちょっと引っ掛かったぞ?
「…ねえ、今さ、ウルサイって、言った?」
342 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時46分10秒
あたしの声に振り向いたなっちは、またニヤニヤした笑いを浮かべてた。
「…気付いたか」
「! なっち!?」
「さーき、行くべー」
笑いながら走っていくなっちの後ろ姿を見て、
あたしは大きく息を吐き出しながら叫んだ。
「待て、こらーっ!」

素直じゃなくて、ごめん。
…でも、ありがとね。
ホントは年上なのに、全然そう思わせないで、
でも、結構頼りになるところが大好きだよ、なっち。
裕ちゃんの次に、だけどさ。
343 名前:だいすき 投稿日:2001年11月30日(金)00時46分50秒
――― END ―――
344 名前:瑞希 投稿日:2001年11月30日(金)01時48分33秒
…はい、「だいすき」、終了でござる。

何か、今回(も)、ダメダメっすね…
センセイ、ゴメンナサイ…。<誰に言ってるのよ…。
でもっ、これでも「やぐちゅー」なんです、「やぐちゅー」!!
…「やぐちゅー」でえっち書きたかっただけなのです… <ヲイ
精進いたします……
345 名前:瑞希 投稿日:2001年11月30日(金)01時51分36秒
えーと、次回作は、またしても未定でござる。

季節ネタで「みちごま」あたりが書ければな、と…。


近々、よその板で新作始めますが、見つけたらよろしくです。

ではまた。
346 名前:名無し殺生 投稿日:2001年11月30日(金)02時02分38秒
おおっ!リアルで見付けた。ってか連絡(略
くわ〜、いいですねーやぐちゅー。そして、なっちの温かさ。
実はなっちがやぐちをとかだと、おy:;ぞpじ^cんmkdjぱあですわ(w
寝る前にいい物が読めて、今夜はぐっすり眠れそうです。
季節のみちごま、そして新作。ありがとう、本当にありがとう!
次回作、楽しみにしてます!
347 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月30日(金)05時56分56秒
おいしいゴハン、ごちそうさまでした。
情景描写と台詞がおいしいんだろうね。
また書いてください。ごちそうになりにきます。
348 名前:瑞希 投稿日:2001年12月04日(火)23時29分10秒
>346:名無し殺生さん
>なっちが矢口を…
さて、それはそれで考えてみたんですが、
ワタシが書くと、どーもイタイ展開になりそうなので…(^^:

>347さん
お粗末さまです、お口に合ってよかったです(^^)
349 名前:瑞希 投稿日:2001年12月04日(火)23時33分07秒
おかわりを望む方がいらっしゃったので、
「みちごま」で季節モノ。
なんて言っても、えっちじゃないですー(^^;

甘いカンジが出せればいいな。
では、どうぞ。
350 名前:sweet lovers 投稿日:2001年12月04日(火)23時39分10秒
それは、関東地方で初雪が観測された日の翌日。

それまで喋っていた声が不意に途切れ、
相手が何かに気をとられて立ち止まったことに気付く。
あたしのすぐ隣を歩いていたはずの彼女が、
今はそのあたしよりも半身ほどうしろにいて、
何やら見とれるようにショーウィンドーを眺めていた。
「…どしたん?」
351 名前:sweet lovers 投稿日:2001年12月04日(火)23時44分47秒
吹く風の冷たさに負けてコートのポケットに突っ込んだ手はそのままで、
ぴょんっと相手の元へ飛ぶようにして戻ると、
彼女はゆっくり振り向いて小さく笑った。
「スゴイですね、コレ」
そう言って彼女が目で差した先には、西洋のおとぎ話にも出てきそうな、
アンティークな造りの天蓋付きのダブルベッドがあった。
真っ白なレースでカタチどられたシーツや枕が、
その豪華さを更に際立たせるように彩っている。
「うわ、ホンマやなあ」
と続けて、二人並んでしばしそれを眺める、
352 名前:sweet lovers 投稿日:2001年12月04日(火)23時49分52秒
正確な時間にすれば数10秒だろうか。
しかし、いくら昼間とはいえ、
12月も半ばになれば僅かな風すらも頬を刺すような冷たさを持っている。
更に相手は、自分が日本全国に知れ渡っているトップアイドルだという、
自覚の薄い高校生だ。
今日だって、さして変装らしい変装をしていないのがその証拠だろう。
特定の場所にあまり長居して、一般人にバレるといろいろ面倒である。
それぐらいにして、と言いかけてチラリと横へ視線を向けると、
彼女はまだ微笑みを崩さず、ぼんやりとそのベッドを見ていた。
あんまり熱心に眺めるから、ふと、そのベッドの脇に示された値段に目がいく。
353 名前:sweet lovers 投稿日:2001年12月04日(火)23時53分40秒
――げっ!
思わず、しかし何とか堪えて心の中だけで毒づいた。
そこには、並みの稼ぎでは到底手に入りそうにないくらいの、
天文学的な数字の金額が書かれていたから。
「…ほ、欲しいんか?」
聞いてはみたけれど、買ってやる気なんかサラサラなかった。
と言うより、そんな金はどこにもない。
たとえ買えたとしても、こんな大きな物を置く場所もない。
彼女はゆっくり振り向いてこっちを見ると、
すぐまたそのショーウィンドーに目を戻した。
354 名前:sweet lovers 投稿日:2001年12月04日(火)23時56分31秒
「ううん」
けれど、再びあたしに向き直ってそんなふうに笑って答えた顔が、
あまりにも幸せそうで、嬉しそうで、途端に買ってやりたくなった。
本当に、彼女は欲しいなんてこれっぽっちも思わなかったのかも知れないけれど、
それを買ってやったときの彼女の笑顔を思い浮かべたら、
もしかしたらもっともっと幸せそうに、嬉しそうに笑うかも知れない。
そんな考えが自然と湧き起こった。
355 名前:sweet lovers 投稿日:2001年12月04日(火)23時59分47秒
「こーゆーのもスゴくていいけど、あたしは平家さんちのベッドが好き」
「あ…、アホかっ」
「にゃ? テレてる?」
悪戯っぽく微笑んで、ひょいっと組むように腕を絡ませてくる。
「わっ、コラ、アカンて、離し」
「どーして?」
「誰かに見られたら、ヘンに思われるやん」
恥ずかしさも同調して、そんなふうに言ってしまう。
ホントは、いつだってこうしていたいと思ってるんだけれど。
356 名前:sweet lovers 投稿日:2001年12月05日(水)00時03分01秒
「だーいじょーぶ。みんな、寒いからくっついてるだけだって思いますよ。
…ホラ、あっちでも似たような子達がいるし」
彼女が指差した先に、自分達と同じように腕を組んで歩いている女の子達がいた。
「ね?」
「…せやな」
気にならないといえば嘘になる。
だけど、気にしてたら何にも出来やしない。
あたしはポケットに突っ込んだ手を出して、腕に絡む彼女の手を握った。
少し驚いたように彼女のカラダが揺れる。
357 名前:sweet lovers 投稿日:2001年12月05日(水)00時05分44秒
「…平家さん?」
ほんのりと頬が赤い。
――言い出したんはそっちやん、今更テレんといてや。
「…冷たい手やなあ」
ひんやりした感覚が手のひらに伝わる。
それをそのままポケットに押し込んだ。
「寒ないか?」
「うん、平気!」
「…せっかく久々に重なったオフやし、遊び倒しましょ」
「うん!」
358 名前:sweet lovers 投稿日:2001年12月05日(水)00時08分53秒
まだ16なのだと、向けられる無邪気な笑顔が教えてくれる。
同時に、彼女を好きだという気持ちも再認識させられる。
――先に好きになられたんやとしても、『堕ちた』のは、やっぱりあたしが先かな。
6つも年下の、ちょっと強引でワガママやけど、
それでも可愛いこの子にかなり骨抜きになってます…、なんて、
恥ずかしくて本人には絶対いえないけれど。

繋いだこの手は、もう、離さないから。
359 名前:sweet lovers 投稿日:2001年12月05日(水)00時11分41秒
――― END ―――
360 名前:瑞希 投稿日:2001年12月05日(水)00時26分17秒
はい、「sweet lovers」、終了です。
やっぱり今回もワタシだけが楽しんでました(^^;

なんとなく、この時期に似合うふたりだなあ、と思ったので。
いかがだったかしら・・・
361 名前:瑞希 投稿日:2001年12月05日(水)00時32分14秒
さて、次回作ですが・・・。
しばらく、こちらの更新は難しくなりそうです。
今回、その連絡もかねての更新でした。

金板にて、新作を始めましたので、もしよろしければ、探してみてやってください。
(続き物ならともかく、自分で、稚拙な自分の作品のリンクを貼るのは恥ずかしいので…)

では、また。
362 名前:LINA 投稿日:2001年12月06日(木)16時11分06秒
気づいたら新作が2本も!
やぐちゅもみちごまも甘くてイイっす♪
っつーか、みちごま・・・(・∀・)イイ!

瑞希さんがんばってくらはーい!
363 名前:名無し殺生 投稿日:2001年12月13日(木)01時26分08秒
えっ?自分も楽しんだんですが、何か?
くぅ〜みっちゃん、やってくれるね〜。
何気ない日常の中でのみちごま、これを萌えずしてどうする!?
どんな風に二人が歩いてるとかショーウインドウを覗いてるとか
すぐに画が浮かんできました。相変わらずうまいっすね〜。
これ、まだ終わりじゃないですよね。また気が向いたらお願いします!
364 名前:女子中学生 投稿日:2001年12月31日(月)15時41分47秒
面白いですぅ〜!みちごま大好き♪
っていうか、みっちゃんマジ可愛いっすねぇ。
もっと前の、腰ぬけちゃったみっちゃん、反則だぁ〜〜〜!!
365 名前:瑞希 投稿日:2001年12月31日(月)21時43分35秒
>362:LINAさん
ありがとうございます。
てへ、甘いの書いてホメられるとメチャ嬉しいっす。
頑張りま〜す♪

>363:名無し殺生さん
>自分も楽しんだんですが…
ありがとうございます。
甘い(?)お話って、書いてる自分が楽しんでるだけって部分が多いんで、
そう言っていただけると……(°Å)
>これで終わり…
って、ちょっと思ってたんですが、需要の少なさに負けずに(^^;)
これからもちょくちょく書きたいと思ってますんで、よろしくです。

>364:女子中学生さん
ありがとうございます。
>反則
えっ、そっすか? ごまのテクに負けたのでは…<ヲイ
366 名前:瑞希 投稿日:2001年12月31日(月)21時49分26秒
新作はまだまだ出来てないんですが、
スレの容量的に、ここで続けるのはちょっと苦しくなりそうなんで、
ここでの更新は、前回のお話で終わらせようと思います。

でも、もう書かないっていうワケではないので。

新スレをたてるときも、判りやすいように今回と同じタイトルにしますね。

それでは、そのときまで、しばし、さようならー。

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