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研修医 石川梨華
- 1 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)08時15分52秒
- 初めて書かせていただきます。なにぶん初心者ですので、
文章が下手だったり、表現が稚拙であるかもしれませんが、よろしくお願いします。
シリアスな病院ものの予定です。つまらないかもしれませんが、
もし、ご感想などございましたらレスしていただけると幸いです。
- 2 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)08時16分52秒
- 梨華、起きなさいよ、今日から仕事でしょ。」
「あ、もうこんな時間。早く起きなきゃ。」
着替えをすませ、下へ降りる梨華。リビングでは先に朝食を済ませた母がいる。
「今日からだね。やっとこっちに帰ってきたと思ったのに、もう仕事が始まるのね。」
「まあね。でもやっぱり緊張するよー。お母さんもそうだった?」
「そりゃ緊張したよ。でも忙しくてそれどころじゃなかったけど。」
5月、研修医としてのスタートをきる記念すべき日である。
彼女は6年間地方の国立大学医学部で学生生活を過ごしていた。
母親に負担をかけないようにと必死に勉強し、
なんとか国立の医学部に滑り込むことが出来たのである。
そして母親の母校でもある、帝都大学の整形外科へ入局したのであった。
「早くしないと間に合わないわよ。7時半には行かないといけないんでしょ。」
「いけない、じゃあ行ってくるね。」
母親のやっている整形外科の診療所と一緒になっている家から
新しい勤務先である大学病院へ急ぐ。
- 3 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)08時19分16秒
- 真っ白な巨大な建物が目の前に近づいてくる。
帝都大学附属病院は日本でも有数の大学病院である。
医局の入っている建物にはまだ7時過ぎだというのに沢山のひとがきていた。
「えっと、整形外科の医局は5階だったよね。」
案内板をみながら整形外科の医局へたどり着いた。
おそるおそるドアをあけると、数人のドクターがコーヒーをのみながら雑談している。
「失礼します。今日からこちらで研修させていただく石川梨華です。おはようございます。」
しかし、誰もこちらを向こうとはしなかった。
(どうしよう。部屋を間違えたかなあ。なんかこの人たち怖そうだし・・・。)
だまって立っていると一人の女医がちらりとこちらを見て話し掛けてきた。
「新入りか。まあ、とりあえず、俺らの邪魔はせんといてな。」
どすの効いた関西弁を聞き、ますます石川は恐縮した。
「は、はい。すみません。」
(うわー怖いよう。どうしよう、はやく誰か来ないかなあ。)
そこへ1人の女性が入ってきた。
- 4 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)08時20分28秒
- 「おはようございます。今日からお世話になります。吉澤ひとみです。よろしくお願いします。」
スラリとした、長身の女性である。吸い込まれそうな目が印象的である。石川も思わず息をのんだ。
(うわ、きれいな人。しかもかっこいい。)
「おう、吉澤か。後で医局長来ると思うからそこで待っとき。」
先ほどの関西弁の女医が親しげにはなしかける。
「はい、分かりました、中澤先輩、いやすみません、中澤先生。」
「おまえ、まだ学生気分が抜けてへんのとちゃうか?まあ、ええけどな。」
いきなり親しげに話しているのをみて石川は驚いた。
(え、同じ研修医だよね。なんでみんな知ってるの?)
「あ、吉澤、そこに新入りがいるから、相手してやってくれや。」
吉澤がちらりとこちらをみて、ニコリともせずに話し掛けてきた。
「はじめまして、吉澤といいます。よろしく。」
「あ、石川です。よろしくお願いします。」
挨拶を交わしているうちにもうひとり、一人の男性が入ってきた。
- 5 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)08時22分07秒
- 「医局長、おはようございます。」
雑談していたドクターたちが挨拶をする。
「新人はそろったかな、あ、まだ一人きてないな。まったく、初日だというのに。」
医局長がすこし怪訝そうな顔をしているところに一人の男性が息を切らせて走ってきた。
「すみません。今日からお世話になる後藤です。」
「遅いな。まあ、いいか。今からカンファレンスだから、会議室に行くぞ。
おわったら自己紹介してもらうからよろしくな。」
(今年の研修医はこの3人なんだな。うまくやっていけるかなあ。でも頑張らなきゃ。)
石川は緊張した面持ちのまま、気を奮い立たせるように会議室へ向かった。
- 6 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)08時25分08秒
- すでに、何人かのドクターが会議室で、カンファレンスの準備をしていた。
「あ、研修医は教授の後ろにすわって。」
石川たちは医局長に促されるまま前から二列目の席に座った。
ぞくぞくとドクターが集まってきて、最後に教授が入ってきた。
「おはよう。じゃあ、始めようか。」教授が合図をする。
シャーカステンの前に立っていた女医が話し始めた。
「おはようございます。えー、この症例は13歳女性、主訴は右下腿の疼痛と腫脹であります・・・。」
てきぱきと病状説明をしたあと、レントゲンやMRIなどの説明をしている。
石川はまだ場の雰囲気になじめず、ただ、ぼーっとそれを聞いているだけであった。
「・・・で、さきにケモをするわけだな。温存でいけそうか?」
「このMRIから判断する限り、なんとかいけそうです。いまのところメタもありませんし。」
「よし、わかった。生検の結果次第だがな。それでいこう、次。」
ドクターがかわり、次の患者の説明がつづく。
石川はただ、場の雰囲気に圧倒されて、黙って座っているしかなかった。
(すごい緊迫感。これが大学病院なんだあ。)
小1時間ほどたち、カンファレンスが終了した。医局長が、新入局員に自己紹介するように言った。
- 7 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)08時29分24秒
- 注釈
シャーカステン:レントゲンを診るための蛍光灯の入った箱
MRI:画像検査の1つ。磁力を使って体内の組織を画像化したもの。
ケモ:化学療法。抗がん剤をもちいた治療法のこと。
メタ:癌などの転移のこと。
生検:癌などを直接手術などで切り取って、その組織を検査すること
- 8 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)08時32分28秒
- 「まずは吉澤先生。」医局長が呼びかける。
「吉澤ひとみです。帝都大学出身です。よろしくお願いいたします。」
「えー、吉澤先生はうちの大学を3位の成績で卒業した才媛だ。
まあ、医局も期待してるから頑張ってくれ。」
「頑張ります。」
(え、帝都大学医学部で3位の成績?すごい優秀なんだあ。)
「次は石川先生」
「石川梨華です。秋山大学出身です。未熟者ですがよろしくお願いします。」
「石川先生はお母さんがここの出身だね。いい先生だったよ。まあ、頑張ってくれたまえ」
「はい。」
先生とよばれ、なにかむずかゆい気持ちと緊張感が石川の心に走った。
「最後に後藤先生。」
「後藤ユウキです。セントマリ大学出身です。よろしくお願いします。」
「後藤先生はあの、後藤病院のご子息だ。よく指導してやってくれ。」
(え、あの後藤病院の?)石川は驚いた。
後藤病院はこの近辺では有数の大病院である。かなり繁盛しているとの評判だが、
一方で悪い噂もたえない。
しかもセントマリ大学は学費が高いことで有名な私立医大である。
(なんか派手そうな感じだなあ。セントマリ出身だし。)
石川がそんなことを考えていると、医局長がにやりと笑いながら話し始めた。
「じゃあ、指導医を発表する。吉澤先生は平家先生、
石川先生は保田先生、後藤先生は中澤先生に指導してもらう。
先生方よろしくな。じゃあ、きょうのカンファレンスは終わりだ。」
- 9 名前:てうにち新聞新入社員 投稿日:2001年08月28日(火)08時35分00秒
- お!
新ジャンルだ〜
何気にやすいしだし〜
頑張ってください
- 10 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)08時35分25秒
- 5階医局
「うわー、俺指導医かよ。ついてないなあ。」
中澤がつぶやく。
「ま、ええやん。気楽にやろうやんか。」細身の女医が返事をする。
平家である。こちらも関西弁である。
帝都大学医学部は関西にある有名進学校の卒業生が多く、関西弁を話す人が多い。
「おまえはいいよな、仕事少ないし。研修医の相手できるやんか。」
「うるさいなあ。研究しとんねん、その分。そのうちいそがしくなるわ。」
「まあまあ、先生あきらめましょうよ、そんなことより
今年の連中はどんなんですかね。」
先ほど最初にカンファレンスで発表していた女医、保田が話し掛ける。
「おれなんか、あんなあほボンあてられて、かなわんわ。」
「せやけど、うちみたいに、えらい優秀なんもちょとあれやで。
保田先生のとこはどんな感じ?」
「まあ、おとなしそうな感じですね。
患者やナースに舐められなければいいのですが。」
「まあ、ここで話しててもあれやな、とりあえず病棟行こか。
あいつらも待ってることやろし。」
中澤が話しを切り上げ、3人は病棟へ向かった。
- 11 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月28日(火)08時41分30秒
- 8階整形外科病棟
「あー、かったりーなー。今日も仕事かよ。」
背の小さい金髪の看護婦が不機嫌そうに言う。
「まあ、そういうなよ、矢口。そういえば、今日から新人ドクターが来るんじゃなかった?」
背の高い看護婦が答える。
「どうせ、ろくなドクターが来るわけないじゃん。だいたいむかつくんだよね、
何も出来ないくせに命令しやがってさ。飯田はそう思わないわけ?」
「まあね。でも所詮研修医じゃん。たいしたことないよ。」
「まあ、今回はびしっと大学病院の看護婦の怖さを思い知らしてやるつもりさ。」
「とかいって、男前だったら態度変わるくせに。」
「え、わかった?」
- 12 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)08時43分10秒
- 「おはようございます。きょうからお世話になります。」
3人の研修医たちが病棟へ現れた。
「げ、女ばっかじゃん。」矢口が不服そうに飯田に話し掛ける。
「しっ、婦長に聞こえるよ。」飯田が矢口を制する。
「よろしくお願いします、先生方。ここが、整形外科病棟です。
物品とか、何か分からないことがあったら、看護婦に聞いてください。」婦長が答える。
(とうとう、医者になったんだあ。)
石川は初めて医者として病棟に入った緊張感をかかえながら思った。
「えー、いったい何をしたら良いんだろう。まず保田先生を探さなくちゃ。」
石川はきょろきょろしながら詰所をうろうろしはじめた。
- 13 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)08時46分02秒
- 「いたっ!」矢口に石川の体が軽く当たった.。
「あ、すみません。だいじょうぶですか?」石川はとっさに謝った。
「ちょっと、何処みてんのよ。だいたい狭い詰所をうろうろしないでよね。仕事の邪魔でしょ。」
(え、ちょっと当たっただけじゃない。わたしだって、仕事してるのに。)
石川はその剣幕の驚きながら疑問に思った。
「ったく、新しい先生ですか。これから気をつけてくださいよ。もし、針とか持ってたら大変じゃないですか。」
「す、すみません。」(そ、そうよね。危険なものもあるから気をつけないと・・・)
「あ、そうだ。今日、点滴まだなんすよね。先生方お願いできます?」
「え、でも・・・。」
「は?出来ないんですか?医者でしょ?」
- 14 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)08時48分17秒
- もちろん医師免許は来ているが、実際に患者さんに点滴をしたことなどあるはずもない。
石川は答えに窮していた。
(ど、どうしよう。いきなり点滴しろだなんて・・・。)
そこに突然後藤が矢口に向かって話し掛けた。
「え、僕らが点滴するんですか?うちの病院じゃ看護婦さんがしてましたけど。」
その答えをきいて、矢口が後藤をにらみながら言った。
「静脈注射はドクターの仕事です。看護婦がしてはならないと決まってるんです。
よその民間病院じゃしりませんが、ここは大学病院ですから。」
後藤もまた答えに窮してしまった。
「新人の女医さん。患者さんが待ってます。はやく点滴してください。」矢口が意地悪そうに石川に向かって言う。
「なに黙ってんの!それとも私たちにしろって言うの?」
(うわ、気まずいよう。私さえ周りを見ておけばこんなことにならなかったのに。どうしよう。)
石川は救いを求める目で吉澤をみた
。
カルテを眺めていた吉澤はその視線に気づき、ちょっと戸惑ったが、意を決して矢口に言った。
「分かりました。あとで回ります。」
「じゃあ、よろしくー。」にやりと笑いながら矢口は点滴の入ったトレイを吉澤に渡し、
詰所を出て行った。
- 15 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)08時52分44秒
- >てうにち新聞新入社員様
有難うございます。頑張ります。
専門用語が出たりして、読みにくいかと思いますが、よろしくお願いいたします。
また誤字、名前の間違いなどありましたら、御指摘ください。
- 16 名前:名無し男 投稿日:2001年08月28日(火)15時03分08秒
- うむ。どこか懐かしい匂いがする。
- 17 名前:てうにち新聞新入社員 投稿日:2001年08月28日(火)16時52分59秒
- >>15
了解って僕でいいのかな?
病院ってあんま詳しくないから設備はわかんないけど、誤字は気をつけてみとくよ。
ニヤリと笑いながらみたいにカタカナの方が読みやすくない?
僕だけだったらごめん
- 18 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)17時53分05秒
- 「ごめん、私のせいで。」石川が吉澤に謝る。
「いいよ、別に気にするなよ。」
「でも・・・。」
「いちいち、くよくよするなよ。どうせ、そのうちやらなきゃいけなくなるんだからさ。」
「それにしても、あいつ看護婦のくせにむかつくよな。」後藤が2人に向かって話し掛けた。
「まあ、しょうがないじゃん。俺たちまだ何もできないんだし。」吉澤が答える。
(看護婦のくせにって。やっぱり大病院の息子はちがうなあ。)石川は思った。
「それにしてもむかつくぜ。」後藤が叫んだ。
「おう、なにがむかつくんだ?」
中澤たち三人が病棟へ現れた。
- 19 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)17時53分49秒
- 「いえ、ちょっと看護婦さんにおこられちゃいまして。」石川が申し訳なさそうに答えた。
「お、さっそくやってくれたんかいな。きみら早いなあ。なにしたんや。」平家がたずねる。
「えっと・・看護婦さんとぶつかっちゃって、そしたらその・・・
看護婦さんに点滴に回って来いていわれて。」石川がおどおどしながら答えた。
「そんでどう答えてん。」中澤がたずねる。
「いや、僕らが点滴しなきゃいけないんですかって聞いたんですよ。」後藤が答える。
「あちゃー、やってくれたな。」保田ががっくりと肩を落とす。
「まあ、まだ何も教えてへんし、分からんのもしゃあないやろ。
点滴はどないした?あ、吉澤おまえが持ってるやつか。」平家がたずねる。
「はい、これです。どうしましょう。」
「どうするもこうするも、とりあえず、私たちがやっとくから後ろでみといて。」
保田が答える。
「え、やっぱり先生がするんですか。」後藤が驚いたようにたずねた。
「当たり前や、おまえら、ちょっとまだ大学病院が何か分かってないな。
点滴終わったら、みんな当直室に集まれや。」
中澤がいらいらしたように3人に向かって言った。
- 20 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)17時54分41秒
- 病棟で中澤たちが点滴に回る。その手馴れた手つきに石川たちは
ただ呆然と見ているだけであった。
「よし、これでぜんぶだな。」保田がつぶやく。
「おまえら、ちゃんと見たか。来週からはおまえらが点滴係やねんから練習しとけよ。」
平家が振り返り研修医たちに言った。
「え、来週からですか?」石川が驚いたように聞いた。
「あたりまえだよ、点滴は研修医の仕事。」こともなげに保田が答える。
(当たり前だよね。もう医者になったんだもんね。頑張らなきゃ。)石川がそうおもっていると、
中澤がこちらを向き研修医に向かって語った。
「よし、もうすぐ外来が始まるからちょっとその前に当直室いこか。」
- 21 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)17時55分33秒
- 整形病棟
「矢口、ちょっとやりすぎじゃない?」飯田があきれたように言った。
「えーそうかな?まあ、最初が肝心っていうじゃん。舐められたら困るしね。」
「でも、できないの知っててやったんでしょ。」
「あたりまえじゃん。でも、あのおどおどした女医、ちゃんとやってけるのかねー。涙目だったじゃん。」笑いながら矢口が言った。
「まあちょっとあれだね。ちょっと医者らしくないね。」飯田も相槌をうった。
「わたし、ああいう女の子女の子した女医、好きじゃないんだよねー。なんか媚売ったような目してさ。あんな女に指示されたらむかつくよ。」
「まあまあ、まだ初日なんだし、とりあえず様子見たら。」飯田はたしなめるように矢口にむかって言った。
- 22 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)17時56分46秒
- 8階整形外科当直室
「おい、後藤。おまえうちの医局で一番偉いひとだれか知ってるか?」
「教授ですか?」
「そうや。ほな、病院で一番偉い人は誰や、吉澤。」
「病院長ですか?」
「そうやな。ほんなら病棟で一番偉い人は誰だか分かるか?石川。」
「え、教授じゃないんですか?」石川は戸惑ったように答えた。
「全然わかっとらんな。一番偉いのは婦長さんや。そんで看護婦。
医者はその次。そのあとにいろいろきて、犬、猫、ねずみのつぎが研修医や。」
中澤があきれたように言う。
(ねずみ以下・・・。)石川が言葉に詰まってると、畳み掛けるように中澤が続けた
。
「大学病院ちゅうのはな、そんなところやねん。わかるか?おまえら宿舎もあたらんやろ。
看護婦は新人でもきれいな看護婦寮にすんどるわけや。
給料やっておまえらよりいい。それに看護の独立とかいうて、
医者の手伝いは看護婦の仕事ちゃうんや。すなわち、診療補助業務はせんちゅうことや。
雑用はみんなおまえらの仕事。もちろん俺らも君らよりましやけど、一緒みたいなもんや。」
(え、そんな・・・。)石川は呆然とした。
- 23 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)17時57分30秒
- 「でも、そんなんで病院はやっていけるんですか。」不服そうに後藤が尋ねる。
「まあ、親方日の丸やからな、働かん看護婦なんてなんぼおっても大丈夫や。
雑用はおまえらが全部やるしな。おまえのような私立病院じゃ、
そんなことしたら倒産してまうがな。」
「まあ、そういうことだよ。外来なんてもっとひどいよ。
8つも診察室があるのに看護婦2人だけだし。
忙しい外来の中でだれが注射の準備をする?患者さんを呼ぶ?
それはぜんぶ君らの仕事だよ。」保田が続けた。
後藤と石川の顔に不安が広がる。ただ吉澤は平然とその話しを聞いていた。
「そのうちなれるから心配せんとき。ただ看護婦には逆らったらあかんで。
仕事を手伝わないどころか、邪魔されちゃこまるから。とりあえず、
仲良くして君らは医者としての勉強をしてたらいいんや。中にはいい看護婦もおるし。」
平家が笑いながら言った。
(うわ、わたしなんて、看護婦さんもう怒らしちゃったし。どうしよう。)石川は不安に思った。
「分かりました。以後気をつけます。ところで、先生この後はどうしたら?」
吉澤は早くこの話しを切り上げたいと思った様子でたずねた。
「おお、そうやな。各指導医についていこうか。
おれと平家は今から外来やから後藤と吉澤は外来いって
、カルテとコンピュータ入力の仕方覚えとこうか。」中澤が答える。
「じゃあ、石川は私について病棟回ろうか。主治医を持ってもらうから
患者さんにも紹介しないといけないし。あとは病棟業務についておしえるよ。」
保田が続けた。
「分かりました。」三人は答え、当直室を出た。
- 24 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)17時59分35秒
- 病棟へ向かう途中で石川が消え入りそうな声で尋ねた。
「保田先生。あの、さっき看護婦さんを怒らしてしまったんですけど・・・。大丈夫ですかね・・・。」
「だれを怒らしたの?」
「金髪で背の小さい・・・」
「あー、矢口さんね。ちょっと難しいタイプかもね。ガンガン言って来たでしょ、あの人。」
「はい・・・。でもさっきの話しを聞いてると、私これからうまくやっていけるのかなあって・・。」
やや、涙目で保田を見上げる石川。
そんな石川の黒目がちな潤んだ瞳に一瞬ドキッと保田はしたが、気を取り直して答えた。
「石川先生、入って早々そんなネガティブなことでどうするの。
あとで、矢口さんには話しておくから、心配しないで。
そんなことより、いっぱい覚えなきゃいえないことがあるんだからね。」
「分かりました。」
でも石川の不安はまだ続いていた。
- 25 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)18時04分02秒
- 「はい、これが入院カルテ。書き方はポリクリでならってるよね。
指示はここに書いて。あ、指示は前の日の3時までだからね。
コンピュータ入力のときは3時きっかりで受け付けなくなってるから、気をつけて。」
「はい、分かりました。」
石川はいきなり沢山のことを教えられてやや戸惑いながらも、メモをとりながら一生懸命保田の言うことを聞いていた。
「保田先生。810号室の患者さん、昨日の晩から熱発してますけど。」
いきなり矢口が声をかける。
「ああ、分かってますよ。またあとで、抗生剤の指示かえる予定にしてます。」
「ちゃんと3時までにしてくださいね。今日の分はどうするんですか。」
「あ、ストックから行こうと思ってますけど。あ、矢口さん、
彼女新入局員の石川先生。もう会ってるよね。」
- 26 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)18時05分58秒
- 注釈
ポリクリ:大学5年、6年のときに行われる、臨床配属実習。
実際に患者さんを診察したりする実習。
ストック:病棟内においてある予備の薬
- 27 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)18時07分04秒
- はい、お会いしましたけど。」矢口が答える。
「まあ、まだ未熟者だから温かい目で見守ってあげてくれないかなあ。」
「はあ、まあ。でもドクターの仕事はちゃんとやってもらわないと。」
「あ、それはもちろんこちらでちゃんと指導するから。」
「分かりました。」矢口は石川のほうをすこし厳しい目でみながらかるく頭を下げた。
(なんか、きまずいなあ。でも保田先生、私のこと気にしてくれてたんだ。
よかった、優しそうな指導医で。)石川はそんなことを考えていた。
「ほら、石川先生、あいさつ、あいさつ。」
「は、はい。ふつつかものですが、よろしくお願いします。」
「ははは、それじゃ嫁入りじゃないですか。なんすかそれ。」矢口が笑う。
「石川先生、天然がはいってるんじゃないの?」保田もつられて笑った。
(ほっ、よかったなんか場が和んだみたい。)
石川は照れ笑いをしながら恥ずかしそうに下をむいた。
コンピュータ入力、処方箋の書き方など覚えることが山ほどある。
1時間ぐらいが過ぎた頃、保田が言った。
「じゃあ、石川先生に持ってもらう患者さんを紹介しようか。
はい、これが入院カルテ。レントゲンとかちょっと持ってきて。」
(えーと、これだ。うわ、沢山フィルムがある。重たいなあ。)
石川は彼女の細い腕が折れそうなぐらいの、分厚いレントゲン袋を抱えながら
シャーカステンの前に立った。
(なになに。あ、朝のカンファレンスの人だ。)
「先生、この患者さん。朝の・・・」
「あ、覚えてた?そうだよ。」
- 28 名前:RCT 投稿日:2001年08月28日(火)18時16分43秒
- 更新しました。なかなか初日が終わりませんね。まるでキャプテン翼のようです。(笑)
そのうち、展開を早くしますので、申し訳ありません。
ご指摘のとおり、カタカナのほうが良かったですね。
懐かしい感じですか。ちょっと、文章が古臭いですかね。(笑)
よろしかったらお付き合いいただけたら幸いです。
- 29 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月28日(火)19時50分50秒
- >>28
古臭いとかそう言うんじゃなくて、
昔やってたドラマをふと思い出しましてね。
こういうの好きなんで是非最後まで拝見させていただくつもりです。(-_-)
頑張って。
- 30 名前:てうにち新聞新入社員 投稿日:2001年08月28日(火)21時41分43秒
- 小説ってそんなもんだと思いますよ。
初日は大事だと思うし
ところで患者は辻かな〜加護かな〜
あるいは紺野かな〜
紺野だと良いな〜(w
頑張ってください
- 31 名前:RCT 投稿日:2001年08月29日(水)12時16分41秒
- 加護亜依 13歳女性。
病名:右下腿骨腫瘍
主訴:右膝遠位の疼痛と腫脹
カルテの1ページ目にはそう書いてあった。
(まだ、中学生なのに。これってもしかして・・・。)
「保田先生、この患者さんを私が・・・。」石川は恐る恐る聞いてみた。
「ああ、私たちは腫瘍班だからね。こういう患者さんをみるのが仕事。」
さらりと保田が答える。
「あ、あの・・・。」
「どうしたの?不安そうな顔をして?」
「あ、あの、もしかして悪性・・・でしょうか。」
「多分ね。前の病院で大体検査終わってるから。
まあ、確定診断は今週生検してからだけど。画像から見ると間違いないわよね。
多分オステオサルコーマ、すなわち骨肉腫だと思うわ。」
「そ、そんな。まだ13歳なのに・・・。」石川の顔が悲しげな表情に変わる。
(そ、それに、いきなり、こんな重症な患者さんをあてられて、
どうしよう。私まだ何も出来ないよう。)
- 32 名前:RCT 投稿日:2001年08月29日(水)12時17分45秒
- 不安そうな石川をたしなめるように保田が話した。
「不安そうな顔をしてちゃだめ。あなたが落ちこんでどうするの。
もちろん、本人に告知はしてないわけだし、悟られたらどうするの。
彼女は治すためにここに入院してるの。それをするのが私たちでしょ。」
「それに13歳といったら骨肉腫の好発年齢でしょ。みんなそのぐらいの子たちばかりよ。」
さらに続けた。
「は、はい。き、気をつけます。」
「今週中に生検して、しばらくケモして、それからオペ。で、その後またケモ。
あ、あと、肺メタのチェックに胸のレントゲンを定期的にとるのをわすれないで。」
「は、はい。胸のレントゲンですね。それで、本人はどんな感じの方なんでしょうか。」
「あ、明るくていい子よ。でも自分が重い病気かもしれないってちょっと気づいてるわ。とりあえず、挨拶しに行こうか。」
「はい。」
石川は重い足取りで詰所から病室へと向かった。
- 33 名前:RCT 投稿日:2001年08月29日(水)12時19分43秒
- 1階整形外来、手の外科診察室
「おまえ、なかなかやるなあ。」平家がうれしそうに話し掛けた。
「いえ、そんなことないです。」吉澤はこともなげに返事をした。
「いや、コンピュータも使いこなしてるし、カルテの記載もばっちりや。
注射の準備もきっちりしてる。もうおしえることないんちゃうか。
おかげで、もう外来も終わりや。まあ、おれは仕事少ないから、患者も少ないねんけど。」
笑いながら平家がいう。
「先生、時間があるみたいなので点滴の練習したいんですけど。」吉澤は言った。
「お、やる気あるなあ。よっしゃ、そこに点滴セットあるから生食つないで、まず点滴作ってみい。」
手際よく点滴をつくりあげる。その手つきは滑らかである。
「よっしゃ。基本は分かってるな。」
「はい。」
「よし、ほな刺してみ。」平家は腕をまくって吉澤の前に差し出した。
「あ、でもそのまえに。」吉澤はおもむろにテープを切り出した。
「おまえ、ほんまようわかっとんな。ちゃんと準備しておかなあかん。」
「いや、先ほどの先生の手際をみてましたから。」
「よし、刺してみ」
手早く駆血帯を巻いた後、正中肘静脈を指で確認しアルコール綿でさっと拭き、
血管が逃げないように指で軽く抑えながら、スッと針をさす。
血管を破った抵抗を感じさらに少し針を進める。
管に血液の逆流を確認し駆血帯をはずし、点滴を落とす。
漏れのないことを確認し、テープで固定する。
一連の動作はスムーズでとても初心者が行ったような手際ではなかった。
「おまえ、ほんますごいな。全然痛くないわ。」平家があきれたようにいう。
「いえ、先生方のやってるとおりを真似しただけです。」
「いやいや。まあ、もう出来るやろ。また分からんことあったりしたらいいや。」
「有難うございました。」
「ほな、昼飯いっていいで。午後からきみらオリエンテーションやろ。終わったら病棟まわろうか。おれは今からちょっと研究室いってくるから。」
「分かりました。失礼します。」吉澤は颯爽と外来を出た。
- 34 名前:RCT 投稿日:2001年08月29日(水)12時21分33秒
- 8階 整形外科病棟。
「ここ。813号室。」
そこには小柄で色白な、可愛い少女がベッドのうえに座っていた。
すんだ小さめの瞳がとても印象的である。
(うわ、かわいい。小さなお姫様みたい。)石川はその可愛さに思わず驚いた。
「おはよう、加護ちゃん。どう、今日の調子は。」保田が明るく声をかける。
「あ、先生。おはようございます。別に変わったことないよー。」
「ああ、それはいいねえ。大分病院になれたかな?」
「うーん、退屈だよー。いつになったら帰れるの?」
「検査とか色々あるからねえ。ちょっとしばらくはいなきゃ駄目だよ。」
「えー。いやだよ。はやくかえって遊びたいよう。」
「まあまあ。ところで、今日から新しい先生が来たんだよ。
石川先生だ。これから先生と二人で加護ちゃんの病気を治すために頑張るからよろしくね。」
「石川です。加護さん、よろしくね。」石川が明るく答えた。
「加護亜依です、加護ちゃんでいいよ、先生。みんなにそう呼ばれてるし。」
「じゃあ、加護ちゃん、足をみしてくれるかな。石川先生に。」保田が加護を促す。
「えー、またあ?なんか足腫れて太くなっちゃってるからいやなんだけどな。」
「いや、これを治さなきゃいけないんだから、ちゃんと石川先生にもみしてあげて。」
「はい、どうぞ。」しぶしぶと加護はパジャマのすそをあげて膝をだした。
- 35 名前:RCT 投稿日:2001年08月29日(水)12時23分10秒
- (あ、MRIでみた感じよりも大きい・・・。)石川の顔に笑顔が消える。
白くてまだ、子供のような加護の右膝のやや下側には直径5センチぐらいの
腫瘤がはっきりと現れていた。石川はそれにおそるおそるふれてみる。
(あ、かたい。それにごつごつしてる・・・。ちょっと熱い。)
その手に神経のすべてが走っているように石川は感じた。
そこには悪性腫瘍独特の雰囲気をなんとなく石川は感じることが出来た。
「先生、どうですか?」加護が不安そうな顔をして石川を覗き込む。
「あ、うん。ちょっと腫れてるねえ。」はっと我に返った石川は精一杯の作り笑いをして答えた。
「そうかー。これが治らないとおうちに帰れないんだよね。」
加護は悲しそうな顔をして下をむいた。
「そうだよ、今週中に腫れてるところを切り取って検査するんだよ。
それでお薬をつかってまずは腫れを小さくするんだよ。」
保田が加護にむかって優しく話し掛ける。
「うん。でも切るんだよね。痛くないかなあ。」
「大丈夫。痛かったらちゃんと痛み止めをしてあげるし
、我慢しないで私たちに言ってくれたらいいから。」
保田はさらに優しそうに加護に話し掛けた。
「うん、わかった。はやくおうちに帰りたいもん。がんばるよ。石川先生もよろしくね。」
加護は笑顔で答えた。
- 36 名前:RCT 投稿日:2001年08月29日(水)12時24分08秒
- 「先生、あの子の腫瘍、思ったより大きいですね・・・。」
石川は悲しげな表情で保田に話し掛けた。
「そうだね、進行が早いと思うわ。早くケモにはいらないといけないと思ってる。
来週にはスタートするつもり。」
「そうですか。」
「あ、ケモのメニューとか、副作用時の対処法とかは、文献をコピーしておいたらいいわ。あとで机の上においとくから。あと生検の準備もしなくちゃね。」
「はい。分かりました。」
「あ、あと残りの患者さんの挨拶しとこうか。」
「はい。」
石川たちは次の病室へむかった。
- 37 名前:RCT 投稿日:2001年08月29日(水)12時26分25秒
- 5階整形外科医局
「あー、つかれたなあ。」後藤が大きく伸びをする。
「確かに疲れたよね」石川が吉澤の方をみる。
「まあ、こんなもんじゃないの。もっと忙しくなると思うよ。」
吉澤が机に向かってなにやら手を動かしている。
「さっきから、なにしてるの?」石川が不思議そうに吉澤の手元を覗き込む。
「あ、糸結びの練習だよ。手術室研修が明日あるだろ。
あさってには僕らはもう手術室にはいって助手するんだよ。」
「え、それはわかってるけど、誰に教えてもらったの。」石川が不思議そうに聞く。
「ああ、平家先生にオリエンテーションのあと教えてもらった。君たちはまだなの?」
「うん。私はケモのこととか勉強してたし。」石川が答える。
「おれは患者多くてそれみてるので精一杯。」後藤が答える。
「あ、そう。」吉澤はあっさりと返事をして練習をつづけていた。
「おれ、今日はもう帰るわ。仕事終わったし。」後藤が白衣を脱いで立ち上がる。
「あ、おつかれー。また明日。」石川が声をかける。
「じゃあな。」後藤は疲れた足取りで医局をでていった。
(後藤君つかれてるなー。中澤先生厳しそうだし。大変なんだろうなあ。)
石川がそんなことを考えていると吉澤が手を止めて話し掛けてきた。
「石川先生、今日の点滴の件どう思った?」
- 38 名前:RCT 投稿日:2001年08月29日(水)12時33分23秒
- 更新しました。まだ初日おわりません。(笑)すみません。
研修医を題材にしたものといえば「研修医ななこ」とかいうドラマがありましたね。
あれ、漫画のほうは読んだことあります。
患者さん、加護ちゃんでした。新メンバーはまだ良く分からないので、使いにくいですね。
もう、皆さんは使われているのですかね。ちょっとチェックしてみようと思います。
- 39 名前:RCT 投稿日:2001年08月29日(水)12時43分11秒
- 注釈
下腿:膝から足首にかけての部位
遠位:心臓より遠い方向。膝遠位というのは膝の足首側の部位。
オペ:手術
骨肉腫:骨にできる悪性の腫瘍。英名、Osteosarcoma。昔、花王愛の劇場で、中学生の主人公が足を切断する
ドラマがありました。今でも患者さんのご両親はそれを思い出される方が多いみたいです。
糸結び:手術時、執刀医が皮膚にかけた縫合糸を手で結ぶこと。
- 40 名前:名無し男 投稿日:2001年08月29日(水)14時18分41秒
- うひょ〜医学は厳しい。土方の俺らとは偉い違いじゃ。
- 41 名前:RCT 投稿日:2001年08月30日(木)13時30分59秒
- 「あ、うん。やっぱり何も出来ないんだなあって。
あと、看護婦さんも怖いし。ホントにこれから大丈夫かなって不安になっちゃった。」
悲しげな表情で石川は答えた。
それをみて吉澤は鋭いまなざしで石川をみた。石川はそれにちょっと驚いた。
「私たちはもう医者なんだよ。それでもそんなネガティブなこと言ってるんだね。
悔しくないの?ホントに。」
今まで冷静だった吉澤のいきなりの剣幕に驚きながら石川は答えた。
「そ、そりゃ悔しいよ・・・。でもなんにも出来ないのは事実だし・・・。」
驚いた石川はなきそうな表情で下を向く。
吉澤はその表情をみて、少し考えてから石川に問い掛けた。
「いまから、点滴の練習しようか。」
「え、今から?でも誰が教えてくれるの?」
「私が教えるよ。」
「え、出来るの?」
「まあね。上の先生方に比べればまだ経験は浅いけど。どうするの?やるの、やらないの?」
「う、うん。やる。教えて。」
「じゃあ、病棟で点滴セット借りて、当直室でやろうか。」
- 42 名前:RCT 投稿日:2001年08月30日(木)13時31分33秒
- 病棟で点滴セットをかり、二人で当直室に入る。
「じゃあ、やろうか。まず・・・。」吉澤が手順について説明する。
「じゃあ、さしてごらん。」吉澤は石川に腕を差し出す。
「え、いきなり?」
「いいから、やってみないとできないだろ。」
「うん。」
石川は駆血帯をまき、恐る恐る針をさす。
(う、痛い。)吉澤の顔が歪む。
「あ、痛い?どうしよう、大丈夫」石川が手を止めてしまう。
「やめるな!つづけて。」吉澤が叫ぶ。
「え、でも・・。」そういっている間に、針は血管をはずれ、吉澤の白い腕に青いあざができる。
「あ、ご、ごめん・・・。」石川はあせった。
流れる血をアルコール綿で抑えながら吉澤は言った。
「私は大丈夫だから、恐る恐るやらないで、スパッと刺して。血管は軽く抑えて。」
「う、うん。」石川には不安と緊張が隠せない。
「さあ、もう一度。」
石川は再び針を刺した。
- 43 名前:RCT 投稿日:2001年08月30日(木)13時32分07秒
- 「大分出来るようになったね。」吉澤が微笑みながら言う。
「う、うん。ほんとに有難う。でも、どうしてわざわざ痛いのに、私のために・・・?」
吉澤は一瞬ドキッとした表情をしたが、石川の頭に軽く叩きながら答えた。
「まあ、ちょっとほっとけなくてさ。私らしくないけどね。これから頑張ろうよ。」
「うん。」石川も微笑みながら答えた。
「じゃあ、帰ろうか。」二人は当直室を後にした。
吉澤にはまだ、自分がなぜ石川を気にしてしまうのかまだ分かっていなかった。
- 44 名前:RCT 投稿日:2001年08月30日(木)13時32分37秒
- 朝、8階 整形外科病棟
「おはようございます。保田先生。」
「あ、おはよう。明日加護ちゃんの生検だから、準備を手伝ってもらっていいかな。
伝票の出し方も教えとくね。」
「は、はい。」
石川は保田とともに、忙しく伝票を記入し指示簿に指示をだす。
そしてコンピュータ入力を行う。
「ほら、後藤、何しとんねん。昨日いうたやろ!」中澤の怒声が病棟に響く。
「す、すみません。」
「ぼけっとすんな。ほら外来いくで。」
(うわー後藤先生おこられてるよ・・・。怖いなあ・・・。)
石川は落ち込んでいる後藤をちらりと見ながら、自分の仕事に追われていた。
- 45 名前:RCT 投稿日:2001年08月30日(木)13時33分08秒
- 時間は9時。保田が慌てながら石川に話した。
「あ、もう外来がはじまるからから、とりあえず、私の患者さんのガーゼ交換まわっといてね。
それが終わったら、すぐ外来に降りてきて。」
「は、はい。分かりました。」
(え、わたしがひとりで・・・。どうしよう。でも保田先生忙しそうだし・・・。)
石川は周りを見渡す。詰所には昨日起こられた矢口と飯田、他に数名の看護婦がいた。
矢口たちはなにやら話し合いをしているようである。
(うーん。矢口さんは怖そうだし。あ、あそこの看護婦さんはどうだろう。)
おそるおそるおとなしそうな看護婦さんを見つけて話し掛けた。
- 46 名前:RCT 投稿日:2001年08月30日(木)13時34分03秒
- 「あのー、すみません。ガーゼ交換回りたいんですけど・・・。」
おとなしそうな看護婦が石川のほうをみて答えた。
「あ、分かりました。それじゃ、回診車を持ってきますね。」
石川はホッとしたが、その瞬間、甲高い声が詰所にひびいた。
「こら、松浦!あんた今日処置係じゃないでしょ。
だいたい保田先生の患者の部屋もちでもないじゃない!
あなたの仕事じゃないでしょ。ちゃんと断りなさい。」
「は、はい。矢口さん。すみません。」
おびえた表情でその看護婦は答え、石川のほうをむき、申し訳なさそうに話した。
「先生、すみません。こういうことなので。回診車は向こうにありますから、
お一人でおねがいします。」
石川は驚いた表情で松浦に質問した。「あ、あの、じゃあ、処置係は・・・。」
「矢口さんです。でもいま、申し送りしてますので、無理だと思います。」
(ガーゼ交換に看護婦さん付かないの?ど、どうしよう。一人でまわらなきゃいけないの?)
石川は重い足取りで回診車を押しながら詰所を出た。
- 47 名前:RCT 投稿日:2001年08月30日(木)13時35分04秒
- 「あ、先生。一人でガーゼ交換ですか?」
松葉杖を廊下で練習していた加護が話し掛ける。
「え、う、うん。看護婦さんみんな忙しいんだってさ。加護ちゃんは練習?」
「うん、明日手術だからね。はやくちゃんと歩けるようになりたいし。
でも保田先生もよく一人で回ってるよ。前入院してた病院とは全然違うよ。
ここは先生がなんでもしてくれるんだよね。」明るく話し掛ける。
(へー、やっぱり他の病院はこんなことないんだ。そうだよね、普通じゃないよね。)
「加護ちゃんは先生と看護婦さんとどっちにしてもらったほうがいいの?」
「うーん、やっぱ先生かな。なんか安心だし、看護婦さんって怖いけど、
先生はみんなやさしいし。でも先生新米でしょ?ちょっと不安だなー。」
いたずらっぽく笑いかける。
「新米だけど、先生も頑張るね。加護ちゃんに安心してもらえるように。」
「がんばって、私の足も早く治してくださいね。」
「うん。がんばるね。加護ちゃんも、明日頑張ろうね。」
(患者さんに励まされちゃったよ。でもうれしかったな。がんばろっと。)
少し石川の気持ちが明るくなった。
- 48 名前:RCT 投稿日:2001年08月30日(木)13時36分00秒
- (ああ、後一人だ。えーと最後はTHAの患者さんか。)
病室に入り石川は挨拶した。
「おはようございます。ガーゼ交換しましょうか。」
「え、先生一人で、それは無理だよ。」
「え、なんでですか。」
「いや、横向いて足を抑えてもらわないと、脱臼したりしたら大変だし。
あと、このときに背中拭いてもらってシーツ変えてもらわないといけないから。」
(あ、そうだった。昨日保田先生と一緒にガーゼ交換したとき、
看護婦さん付いてたよ。しまった。)石川の顔色が青く変わる。
「先生、早くシーツかえて欲しいんだけどな。
看護婦さんにちょっと早くしてっていってくれない?先生がいったら早いでしょ?」
(え?そんなことないよー。やっぱみんなそうおもってるのかな?ど、どうしよう。)
石川はあせった。時間もない。外来では保田先生が一人でやっているはずである。
「わ、わかりました。ちょっとよんできますね。」
石川は急いで詰所に戻った。
- 49 名前:RCT 投稿日:2001年08月30日(木)13時36分49秒
- 「あ、あの、矢口さん、ガーゼ交換と清拭をいっしょにしていただきたいのですが。」
「は?いま申し送り中なんです。あと30分ほど待ってください。」
「で、でも私も早く外来に行かなきゃいけないし、患者さんも待たせてるし。」
「だから?そんなの先生の都合でしょ?私たちには私たちの都合があるんです。」
冷たく言い放たれてしまい、石川は途方にくれた。
(ど、どうしよう。は、早くしないといけないのに。)
しかし、矢口は石川を無視するように申し送りを続けた。
- 50 名前:RCT 投稿日:2001年08月30日(木)13時40分23秒
- 注釈
THA:Total hip arthroplastyの略。和名:全人工股関節置換術。
腫瘍や変形性関節症などで、股関節を人工のものに変える手術。
合併症に人工関節の脱臼がおこることがある。
- 51 名前:RCT 投稿日:2001年08月30日(木)13時41分54秒
- 更新しました。
やっと2日目に突入しました。(笑)
- 52 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月31日(金)01時40分45秒
- 質問いいですかね?
「申し送り」ってなんでしょう?事務処理の一環でしょうか?
- 53 名前:RCT 投稿日:2001年08月31日(金)02時28分52秒
- 申し送り
看護婦は交代制で勤務しており、(3交代(日勤、準夜、深夜)もしくは2交代(日勤、夜勤))、
交代時に担当部屋の患者の状態などを次の看護婦に説明する作業。
「安部さんが嘔吐したの、準夜さんに申し送ってくれた?」と動詞として使ったりもします。
時間がかかり、申し送り時の伝達ミスや、その間の看護が手薄になるために、
最近申し送り制度を見直す病院もあるようです。
- 54 名前:RCT 投稿日:2001年08月31日(金)02時30分28秒
- せっかくですから、実際のシーンを再現してみます。
飯田(深夜)「813号室、加護亜依さん、右下腿骨腫瘍の患者さんです。
昨日は体温36.3度、脈拍68、血圧120の65です。
食事は3食とも全量摂取です。夜間は特に著変ありません。
本日の検査の予定は在りません。」
矢口(日勤)「はい。」
飯田「明日、腫瘍生検の予定ですので、本日術前オリエンテーションお願いします。家族への
ムンテラは午後4時、保田先生と石川先生で行う予定です。術前投薬は指示のとおりで
す。確認お願いします。剃毛はいらないとのことです。」
矢口「分かりました。他にありますか?」
飯田「患者さん自身の手術に対する不安が強いので、そのあたりよろしくお願いします。」
矢口「分かりました。保田先生にも再度患者本人への説明をお願いしておきます。」
こんな感じだと思います。本当はもっと詳しくやってるのでしょうけど。
注釈
ムンテラ:患者への説明
- 55 名前:52 投稿日:2001年08月31日(金)23時18分13秒
- ありがとうございます〜。
やはり、専門用語になると外国語のように
わけわかんなくなりますねぇ〜。
なんとなく雰囲気はわかるんですけど。
では、次回の更新楽しみにしてます。
- 56 名前:RCT 投稿日:2001年09月05日(水)10時30分52秒
- 「吉澤、おまえもう、ばっちりやな。」
「いえいえ、まだまだです。」
明るく平家と吉澤が戻ってきた。
「おまえのおかげでもう病棟の仕事終わったわ。あさっての分まで指示だせるわ。
あ、明日の手術の方法おしえたるわ。研究室にでもいこうか。缶コーヒーおごったるわ。」
「はい、分かりました。有難うございます。」
吉澤が点滴のごみを捨てようとしたとき、石川が涙目でたたずんでるのが目に入った。
その表情は吉澤の心に突き刺さるのに充分であった。
思わず吉澤が石川に声をかけた。
「どうしたの?調子悪い?」
「あ、吉澤先生。ど、どうしよう、わたし・・・。」
今にも泣きそうな声で吉澤に話し掛ける。
「ガーゼ交換しようとおもったんだけど・・・・。」
詳しい事情を説明すると、平家がこういった。
「ま、ようあるこっちゃ。吉澤、手伝ってあげな。研修医どうし、助け合わないかん。
先いってるで。」
平家はちらりと矢口のほうをみた。矢口はちょっとばつが悪そうに目をそらした。
「わかりました。石川先生、行こうか。」吉澤は石川の肩を軽く叩きながら病室へ向かった。
- 57 名前:RCT 投稿日:2001年09月05日(水)10時31分23秒
- (また、吉澤先生にたすけてもらっちゃったよ・・・。ホントに私は情けないなあ・・・。)
「清拭の準備もできてるの?」
「あ、いけない、してないや。」
「まあ、俺たちは看護婦さんの仕事もできないといけないからね。」自嘲気味に吉澤がいう。
(吉澤先生もちょっと看護婦さんにおこってるのかな?)石川はふと思った。
「じゃあ、やろうか。」
手際よく、二人はガーゼ交換を終えた。
「あ、ホントにいつも有難う。」
「研修医は助け合わないといけないからな。遠慮するなよ。」
昨日と同じ微笑をしながら吉澤は答えた。
そして石川は外来へ、吉澤は研究室へと急いで向かった。
- 58 名前:RCT 投稿日:2001年09月05日(水)10時31分55秒
- 1階 整形外科外来 初診診察室
「おそかったね。なにかトラブルなかった?」
「いえ、吉澤先生に手伝ってもらってなんとか。」
「え、吉澤先生に?」
しばらく不服そうな顔をしてから保田は続けた。
「遠慮しないで私にも言ってね。指導医なんだから。」
「は、はい。すみません。」
(あ・・・。やっぱり保田先生に相談したほうがよかったのかな・・・。)
石川はまた失敗してしまったと思い落ち込んだ。
保田は悩んでいる石川を気にしていないかのように、続けた。
「まだ初診の患者さん沢山いるから頑張ろうか。
あ、あと手術室研修終わったら加護ちゃんのお母さんに
明日の手術のムンテラするからね。」
「あ、はい。」
「じゃあ、患者さんよぼうか。」
まだ沢山並んでいるカルテのひとつをとりだし、石川はマイクをとった。
「えー、辻さん、辻希美さん、3診にお入りください。」
- 59 名前:RCT 投稿日:2001年09月05日(水)10時33分24秒
- 夕方、8階整形外科病棟 面談室
「失礼いたします、加護亜依の母です。」不安に満ちた表情で恐る恐る面談室に入る。
厳しい表情で保田が話し始めた。
「主治医の保田と石川です。お嬢さんの現在の病状ですが右の膝の下側の骨に
5センチぐらいのできものが出来ています。で、だんだんと大きくなっているという状態です。
大体のことは前の病院でお聞きになられていると思いますが、
このできものを今回は直接手術によって切り取って調べるということをします。」
- 60 名前:RCT 投稿日:2001年09月05日(水)10時33分54秒
- はい。それで、その後は・・・。」不安げに保田を見つめる。
「検査の結果次第ですが、悪性の場合は抗がん剤による治療を行い、
腫瘍がやや小さくなったところで、根治手術をおこないます。」
「や、やはりわるいものなんでしょうか。」目に生気がなくなっていくのが石川にもわかる。
さらに厳しい表情で保田はつづけた。
「検査の結果をみないとなんともいえませんが、画像を見る限り、可能性は高いと思います。」
「ああ・・・。」
彼女にはすでに分かっていたことであろうが、ため息をつきながら肩を落とした。
「まあ、今は大分治療も進歩してますから、そう気をおとさずに。
ただ、命にかかわるリスクが高いことは念頭においてください。」
「は、はい。」気を取り直したように母親は答えた。
「次に、手術の一般的な危険性ですが・・・。」
緊迫感に包まれながらムンテラは続いた。
(す、すごい。保田先生の迫力。将来私にできるだろうか・・・。)
石川は圧倒されながらも必死にムンテラの内容をカルテに書き留めていった。
- 61 名前:RCT 投稿日:2001年09月05日(水)10時35分27秒
- 夜、整形外科医局
「はぁー。疲れたなあ。」後藤が伸びをしながらつぶやく。
「ほんとに。体もしんどいけど、精神的にもまいるよね。」石川が答えた。
「今日、結構怒られてたよね。」しばらくして石川が聞いてみた。
「ああ、中澤先生厳しいよなあ。いいよな、みんな。保田先生も平家先生も優しいじゃん。」
後藤がうらやましそうに言った。
吉澤は黙々と明日の手術の文献を読んでいる。
「吉澤先生、ほんとにがんばるねえ。」後藤が話し掛けた。
そのとき携帯の着メロがなった。吉澤の携帯であった。
- 62 名前:RCT 投稿日:2001年09月05日(水)10時36分08秒
- 「はい、吉澤ですが。ああ、久しぶり。うん、仕事始まったよ。」
古くからの友達のようである。
「ああ、彼も頑張ってる。え、ああ、大丈夫。週末ね。分かった。空けとく。それじゃ。」
電話を切った。石川が見つめる。
「友達?」
「ああ、学生時代からのね。今度週末飲もうかって。」
「おいおい、女の子かい?紹介してくれよ。」
吉澤はニヤッとわらって答えた。
「いや、ちょっと後藤先生には紹介できないなあ。」
「な、なんでだよ。別にいいよ。女には困ってね−よ。あした早いから帰るわ。」後藤は白衣を脱ぎ医局を出て行った。
「いいね、私なんか飲みに行く元気なんかないよ。」石川がつぶやく。
「え、でも金曜日に歓迎会があるみたいだよ。保田先生いってなかった?」吉澤が文献に再び目を落としながら答えた。
「そうなんだ。わたし、あんまり飲めないんだけどな。」
「新入りは飲まされるみたいだよ。」ため息をつきながら吉澤は答えた。
- 63 名前:てうにち新聞新入社員 投稿日:2001年09月10日(月)19時12分10秒
- 何か病院行くのが怖いな〜
だって看護婦さん来なくて、研修医にやってもらうんでしょ?
怖いな。何か失敗しそうで…。
本当によくあることなのかな?
- 64 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月13日(木)18時23分37秒
- リアルで面白い。
これからどんな人間ドラマがはじまるのか、期待大!
- 65 名前:RCT 投稿日:2001年09月14日(金)11時38分00秒
- 翌日、手術日、整形外科病棟。
「おはよう、加護ちゃん。昨日は眠れた?」
「うーん、あんまり。」
「じゃあ、手術前の点滴するね。」
「えー、先生が?大丈夫?」
「大丈夫。沢山練習したし。」
「じゃあ、お願いします。」
加護の細い腕に駆血帯をまき、血管を確認する。
(うわ、血管細い。ど、どうしよう・・・。)石川の顔に不安が広がる。
体の小さい加護の血管は普通の人よりも少し細かった.
- 66 名前:RCT 投稿日:2001年09月14日(金)11時38分46秒
- 「い、痛っ」加護の表情が苦痛に歪む。
しかし、不幸にも、点滴は上手いこと入らなかった。
(ど、どうしよう。手術の時間ももうすぐだし・・・。)
しかし、あせればあせるほど、上手くいかない。加護はじっと痛みに耐えている。
「点滴入った?」保田が運良く現れた。
「あ、先生・・・。それが・・・。」
「結構失敗しちゃったのね。加護ちゃん血管細いからねえ。医者泣かせだね。」
「そんなー。加護が泣いちゃいそうです。」ホントに泣きそうな顔をして加護が答える。
「私が変わるから。石川先生、針かえて。」
「あ、すみません。お願いします。」石川は申し訳なさそうに、保田に針をわたした。
「はい。じゃあ痛くないからねえ。」サッと針をさし、点滴は終了した
- 67 名前:RCT 投稿日:2001年09月14日(金)11時39分17秒
- (ああ、また失敗しちゃったよ・・・。加護ちゃん痛そうだったなあ。ごめんね・・・。)
石川はがっくりと肩を落とした。
「ほら、石川先生。手術室行くよ。いつまでも落ち込んでないの。」保田が優しく声をかける。
それが石川にはさらに自分が情けないものに思えてしまった。
「は、はい・・・。」(もう、どうしていつもいつもこうなんだろう・・・。)
「石川先生、どうしたの暗い顔して。」吉澤が声をかける。
「いや、点滴失敗しちゃって。」
「また、練習台になるから何時でもいいなよ。」
小走りで吉澤も手術室へ向かっていった。
(吉澤先生・・・。ほんとにいつも気にかけてくれて有難う。)
そう思いながら、石川も手術室へ急いだ。
- 68 名前:RCT 投稿日:2001年09月14日(金)11時40分01秒
- 午前10時手術室
「はい、それではお願いします。」保田が周りを見渡しながら言う。
「お願いします。」
手術台の上には全身麻酔をかけられた加護が横たわっている。
「それでは10番のメス下さい。」看護婦から手際よく保田の右手にメスが渡る。
加護の白い脚に4センチぐらいの皮切がはいる。じわじわと血が滲む。
「モスキート!石川先生、止血できる?こうやって・・・。」
「は、はい。」石川はおそるおそる皮膚の出血点をモスキートでとめていく。
「よしよし、点滴よりうまいじゃない。じゃ、メッチェンください。」
皮下を剥離し、筋肉を分けると、灰白色の腫瘍が顔を出していた。
保田の顔が険しくなる。
- 69 名前:RCT 投稿日:2001年09月14日(金)11時40分55秒
- 「うん、やっぱりよくなさそうな感じね。11番のメス下さい。」保田がつぶやく。
手際よく、メスを用いて、腫瘍の一部を切除した。
「じゃあ、これ迅速診断に、残りはホルマリンで固定して。」
「は、はい。」石川はそれぞれの組織をボトルにいれ、看護婦に手渡す。
「さあ、閉じようか。閉じてる間に迅速の結果が出るわ。」
手際よく、創を閉じている。
「糸結びできる?」保田がふと手をとめてたずねる。
「は、はい。やらせてください。」石川は緊張しながら答えた。
恐る恐る糸を結ぶ。しかし緊張のあまり手が震えてしまって上手くできない。
(ど、どうしよう。昨日あんなに練習したのに・・・。)悔しさが滲む。
「うーん。もう少し、練習してからね。石川先生は糸を切ってちょうだいね。」じびれを切らしたように保田が糸を石川から取り上げ、自分で結び始めた。
「す、すみません。も、もっと練習します。」
石川は消え入りそうな声で返事をした。
- 70 名前:RCT 投稿日:2001年09月14日(金)11時42分29秒
- 手術室に電話の音がなる。
「先生、病理部からお電話です。」
「つないでください。」
「病理部です。先ほどの検体ですが、マリグナントです。骨肉腫でほぼ間違いないと思いますが、まだ検討が必要かと思います。確定診断は、ホルマリンの標本で判定いたします。」
「はい、有難うございました。まだ検討が必要か・・・。」保田の表情が曇る。
石川にはその表情をよみとる余裕はなかった。
(やっぱり悪性だったよ・・・。加護ちゃん・・・。)
石川の目にうっすらと涙がたまる。
(来週からケモだよ・・・。しんどいよ、加護ちゃん・・・。)
石川は加護の横で手を握りながら、麻酔が覚めるのを待った。
- 71 名前:RCT 投稿日:2001年09月14日(金)11時43分29秒
- やがて、加護が苦しそうにもがき始める。
「はいはい、じゃあね、目あくかなー?はい、いいよ。
じゃあ、今からお口の管を抜くからねー。」麻酔科のドクターの明るい声が手術室に響く。
麻酔科医はすぐさま抜管を行った。苦しさで加護の体が少しのけぞる。
その後、加護は苦しそう咳をし、そして目を開いた。
「お、終わった?」
まだ、もうろうとしながらも枯れた声で懸命に石川に話し掛ける。
不安でたまらない様子である。
「うん、無事終わったよ。安心して。もうしゃべらなくていいから、早くお部屋に戻ろうね。」
石川もそれを見て必死で答えた。
加護はそれを聞いて安心したように再び目を閉じた。
- 72 名前:RCT 投稿日:2001年09月14日(金)11時50分45秒
- 注釈
10番のメス:先の丸いメス。皮膚を切るときに使うことが多い。
11番のメス:先のとがったメス。組織を剥離したり、切ったりするときに使うことが多い。
迅速診断:ここでは、癌などの組織をすぐに病理検査(細胞を顕微鏡で見て悪性かどうかをみる。)
に出して、手術中にその結果を確認する検査。
マリグナント:malignant 悪性のこと
抜管:ここでは気管内チューブをぬくこと。
- 73 名前:RCT 投稿日:2001年09月14日(金)11時55分40秒
- >てうにち新聞新入社員 様
一応、フィクションですので、そのつもりでお読みください。まあ、病院に行かずにすめばそれが一番です。
大学病院の設定ですので、普通は看護婦より研修医がほとんどの処置をすると思います。
でも、みんなちゃんとしている人がほとんどなんでご安心下さい。
>>64
お読みいただき有難うございます。更新のペースが遅いですが、何卒お付き合いください。
- 74 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月27日(木)14時39分28秒
- 待ってますよ
- 75 名前:RCT 投稿日:2001年10月06日(土)04時48分30秒
- 手術室前、患者家族待機場所
「あ、お母さん。手術は無事終わりました。」保田が加護の母を見つけ話し掛けた。
「有難うございます。それで、結果は・・・。」不安げに保田に尋ねる。
「確定診断はもうしばらくしてからですが、手術中の検査では、悪性と出ました。」
「そ、そうですか・・・。」母親はやっぱりと言った表情である。
「とりあえず、術後落ち着きましたら、抗がん剤による治療をはじめたいと思います。
その説明は来週行います。あと、確定診断がつきしだい、またご説明いたします。
なにかご質問は?」
「い、いえ。先生、有難うございました。」
「それでは、失礼いたします。」足早に保田は去っていった。
- 76 名前:RCT 投稿日:2001年10月06日(土)04時49分07秒
- 整形外科病棟
「どう、加護ちゃん?痛む?」石川が尋ねる。
「ううん、あんまり。さっき矢口さんに座薬いれてもらったから。」
加護はやや青白い表情でゆっくりと答えた。
「そう、よかった。」
「先生の点滴のほうが痛かったよー。」
「ごめんねえ。もっと上手くなるから、ゆるしてね。」
「別にいいよ。私でよかったら練習してね。」
「ありがとうね。」
病室を見渡す。クラスの友達が作ってくれた千羽鶴がベッドの上に飾ってある。
「これ、作ってもらったの?」
「うん。でも中学生になってすぐ入院になっちゃったから、一日も行けてないんだよね、学校。」
「そうかあ、早く良くならなきゃね。」
(1日もいけてないのかあ。寂しいんだろうなあ。)
- 77 名前:RCT 投稿日:2001年10月06日(土)04時50分41秒
- 「先生、検査の結果どうだった?」
(あ・・・。どうしよう、こ、告知しないんだよね。でも、どういっていいかわからないし・・・。)
石川はあせった。
(とりあえず、先送りしちゃおう。)
「うん・・・。まだはっきりとしないから、ちゃんと出たら教えるね。」
「わかった。良かったらいいんだけどなあ。」不安げな表情で加護は下を向いた。
「それじゃ、また来るね。痛かったら看護婦さんに言ってね。痛み止めしてもらうからね。」
石川は作り笑いをしながら病室を出た。
- 78 名前:RCT 投稿日:2001年10月06日(土)04時51分50秒
- ちょっとだけ、更新しました。遅くてすみません。
仕事の合間でかいているので、なかなか進みません。
なんとか完結させますので、よろしくお願いします。
- 79 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月07日(日)02時50分53秒
- 放置でないならいいですよ。
のんびり待ってますので、お仕事の合間にちろっと
書いていただけるとうれしいです。
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