インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板

Dear Friends 2

1 名前:すてっぷ 投稿日:2001年08月28日(火)21時38分49秒
少し短めの話を書いていきたいと思います。
(以前、緑板にて書かせて頂いていたスレと同名なのですが、
前スレからの続きモノではありません)

お付き合いいただけると、うれしいです…。
2 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月28日(火)21時40分46秒

<一日目>


あーあ、あっついなぁー……。
世間の高校生たちは今ごろ、楽しい夏休みを過ごしてるんだろーなぁ……。
最高に暗い気持ちで校門をくぐる。

出席日数の不足を補うため、今日から5日間の補習授業に参加する羽目になってしまったあたし。
毎日多忙なあたしたちのコト、もちろんその間も仕事と掛け持ちでやらなきゃいけない。
夏休み最後の一週間だっていうのに…照りつける日差しが、ますます気持ちを滅入らせる。
玄関で上履きに履き替えて、階段を上る。

希望者を募っての補習授業(あたしだけ強制参加)、どうせ誰も来てないんだろうなぁ…。
せっかくの夏休み、しかも残り一週間しかないっていうこの時期に…誰が好き好んで補習なんて。
深いタメ息とともに、教室のドアを開ける。


そしてドアを開けた瞬間、教室を埋め尽くした生徒たちが一斉にあたしを見る。
無人の教室を想像していたあたしは、驚きでその場に立ち尽くしてしまった。
3 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月28日(火)21時41分58秒
「なにやってんだ。早く入れ」
すぐ後ろから聞こえた声に振り返る。

「吉澤…?お前も…参加希望?」
声の主は、あたしの担任の先生。
ドアの前に突っ立ってるあたしを、先生は不思議そうな顔で見ている。

「いや、希望って…」
なに言ってんだろ、このヒト…先生が受けろっていうから、この暑い中出てきたんじゃないか。
(『出ないとお前…どうなっても知らんぞ?』)
終業式の日の、悪魔のような彼の一言を思い出す。

「まあ、いいから入れ」
先生に急かされて、教室の中へ入る。

教室は、あたしの予想に反してほとんどの席が人で埋まっている。
それも不思議なコトに、座っているのは…あたし以外、すべて男子生徒。
みんな真面目だなぁ…それともココにいるコたちみんな、あたしと同じように半強制的に連行されてきたんだろうか。
とまどいつつもあたしは、唯一空いていた窓際の最前列の席に着いた。
4 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月28日(火)21時42分57秒
「テキスト配るぞ」
そう言って、最前列に座るあたしの前に小冊子を抱えた先生が歩いてくる。
テキストの束を受け取りながら、あたしの胸に一つの疑問が浮かんだ。

「今日って…理科、ですよね?」
夏休み前にもらったプリントによると、今日の授業は物理のはず。
しかし、あたしの目の前にいる先生の担当は数学。
予定変わったのかな…数学の教科書持ってきてないのに、どうしよう。

「そうだよ」
すると先生は、あたしの質問をあっさり肯定。
この先生、数学以外も教えるんだ…知らなかった。
予定に変更がなかったコトに、とりあえずホッと胸をなでおろす。


「おーし、じゃあ始めるぞ。初日だからな、とりあえずプロフィールからいっとくか」
「え…?」
プロフィール??
学校の授業で聞くにはあまりに耳慣れない言葉に、一瞬自分の耳を疑った。
5 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月28日(火)21時44分08秒
「まず、生年月日は…吉澤、言ってみろ」
「へっ?」
いきなり質問されて、あたしはマヌケな声で反応してしまう。
黒板にはチョークで『生年月日:』の文字。

「えーっと…1985年4月12日です」
ワケがわからなかったが、あたしは座ったままでとりあえず先生の質問に答えてみる。
「はあ?誰のだよ、それ」
あたしが答えると、先生はこっちを見て少し不機嫌そうに言った。

「あたしの…ですけど」
だって、いきなり『生年月日は』なんて聞くから…あの聞き方じゃ、普通は自分のを聞かれてると思うと思うんだけど。

「もういい。お前ならすぐわかると思ったのに…」
「ハイ!!」
少しがっかりした様子で先生が黒板に向かおうとした瞬間、教卓の正面に座っていた男子が元気良く右手を挙げた。

「1985年1月19日です!!」
手を挙げた彼は、先生が当てるのを待たずにこれまた元気良く答える。
「そう、正解」
先生はその答えに満足げに頷いて黒板に向かうと、既にあった『生年月日:』の後に『1985年1月19日』の文字を書き足した。

『生年月日:1985年1月19日』
誰の…生年月日?
6 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月28日(火)21時45分27秒
「じゃあ、血液型は…吉澤」
「え…?」
また?何であたしばっか集中して当てるかなぁ、このヒトは。
黒板には白字で『血液型:』の文字。

「O型です」
ワケがわからんので、とりあえず自分の血液型を答えてみる。
「誰のなんだよ、それは」
そして一層不機嫌になる、先生の声。

「あたしのです」
先生が誰のコトを質問しているのか見当もつかないあたしは、不機嫌そうな彼に開き直ってそう答えるしかなかった。

「もういい。何でわかんないんだ、お前…」
「ハイ!!」
かなり落胆した様子で先生が再び黒板に向かおうとした瞬間、教卓ド真ん前の彼がまたもや元気良く手を挙げる。

「A型です!!」
そして、満面の笑みを浮かべてさっきよりもさらに元気良く答える彼。
「そう、正解」
満足げに頷いて黒板に向かい、『血液型:』に続けて『A型』と書き足す先生。

『血液型:A型』
誰の…血液型?歴史上の人物だろうか…。
7 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月28日(火)21時46分15秒
「それじゃあ、出身地は…吉澤」
「はあ?」
何でそこまであたしにこだわる?これ以上あたしに何を期待する?
生年月日、血液型に続いて…三行目には『出身地:』の文字。

「埼玉、です!!」
先生の質問攻めにカチンときたあたしは、強い口調で先生の問いに答える。
「だから誰のなんだ、それは。いい加減にしろ」
不機嫌を通り越してキレつつある先生の声に、あたしの疑念は深まるばかり…一体、誰のコトを言ってるんだろうか。

「あたしのです!!」
完全に開き直ったあたしは、機嫌の悪そうな彼の目を見てきっぱりと答える。

「もういい。お前には聞かん」
「ハイ!!」
くるりと背中を向けて黒板に向かう先生と、例によって元気良く手を挙げる教卓正面の彼。

「神奈川県です!!」
イスから立ち上がって発言した彼の顔は、自信に満ち溢れていた。
「はい、正解」
見事正解した彼にそう答えながら、先生はちらりとあたしを一瞥。
答えられなかったあたしに、責めるような視線を送ってくる。
なんなの、一体…?

『出身地:神奈川県』
誰の…出身地?さっぱりわかんないんだけど…。
8 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月28日(火)21時47分16秒
『生年月日:1985年1月19日』
『血液型:A型』
『出身地:神奈川県』

黒板に書かれた謎の人物のプロフィール。
一体誰のモノなのだろうか、っていうか物理の授業と何の関係があるのだろうか。


…ん?あれ?えっ?うそっ!?
ちょっと待って、コレどこかで…。

「じゃあ最後のチャンスだぞ、フルネーム言ってみろ…吉澤」
半分あきらめたような先生の問いかけに、あたしは半信半疑ながらも口を開く。


「…石川、梨華」
先生に対して応えるというより、ほとんど独り言のように小さな声でそう呟いた。


「はい、正解。よくできました」
茶化すような口調でそう言うと、先生はプロフィールの一番上に大きく『石川梨華』の文字を刻む。

普段めったに正解を導き出すことのないあたしだけに、コレはうれしい出来事なはずなんだけど…
喜んでいいモノなのかどうなのか、いや喜ぶ前に驚いた方がいいんじゃないだろうか、そんな気がする。

マジでコレ…何の授業?
9 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月28日(火)21時48分12秒
夏休み前に知らされていた予定表によると、今日の授業は物理のはず。
あたしだってそのつもりで、物理の教科書とノートを持参して今日の補習に参加したんだから。
それに、さっきもらったテキストだって…。

あたしはハッとして、開始早々に配られたまま無造作に机の上に置かれている補習用テキストに目をやる。
そして裏返しになっていたそれを、表が見えるようにひっくり返した。

『梨華T』

まばたきを繰り返しながら、何度も何度も確認するも…表紙に踊っていた文字は間違いなく、『梨華』。
物理でもなければ生物でもない、『梨華』の文字。
えーっと、コレはどういうコトなのかなー…ちょっと考えてみようかなぁ。


物理、理科、りか……梨華。
ははっ…

「ははははは」
そっかぁ、コレは…理科(物理)の授業じゃなく、梨華の授業なんだ。
それでさっきから先生は、梨華ちゃんに関する問題ばかりを出題してたってワケか。
それでさっきから先生は、同じグループのメンバーであるあたしばかりに集中して当ててたってワケか。

なるほどー、納得……できるか!!
10 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月28日(火)21時49分21秒
なんなの、なんなの!?『梨華T』って!!
っていうか、『T』って!?『U』とか『V』とかもあるってコト!?
授業ってコトは…なんだろー、文部省とか、そーゆートコで正式に認められた教科だったりする!?
いや、そんなはずはない!!
でも、事実あたしの目の前で『梨華』の授業は行われているワケで…ああああ、もーっ、ワケがわからん!!

「どうした、吉澤…具合でも悪いのか?」
突然笑い出したあたしを見て、先生が心配そうに聞いてくる。
気が付けばあたしは、教室にいる全員の視線を一斉に浴びていた。

冗談じゃない…具合が悪いのはあたしじゃない、あんたらの方でしょ?
なに普通に『梨華T』の授業とか受けてんのよ…ちょっとは疑問抱けよ。

「帰ります」
なんだってこんな変な世界に迷い込んじゃったんだろ…。
きっと、連日のハードスケジュールで疲れてるせいだな…そういうコトにしとこう。
家に帰ってゆっくり眠れば…こんなアホな幻も、きっと消えてなくなっているはず。

「そうか。ゆっくり休めよ」
「はい」
心配そうな先生の視線と、男子たちの好奇の視線を浴びながら、あたしはカバンを出して帰り支度。


「逃げるんだろ?わかんないから」
『梨華T』のテキストをカバンに収めようとした瞬間、斜め後ろから聞こえた声に振り返る。
11 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月28日(火)21時50分21秒
「なにそれ…どういう意味?」
その挑戦的な発言にカチンときたあたしは、帰り支度の手を止めて斜め後ろに座る彼に切り返した。

「あんな問題も答えらんなくてさ…ホントは仲悪いんじゃねーの?」
ちょっと、なにコイツ!?
見かけない顔だから、同じクラスのコじゃないと思うんだけど…入学して4ヶ月、こんなヤツが同じ学年にいたなんて!!
「そんなコトっ…ないもん!!」
ヤツの挑発に乗っかって、あたしは思わず声を荒げてしまった。

「じゃあ、何で逃げんだよ!!」
あたしの大声に弾かれたように、イスから勢い良く立ち上がる彼。
「逃げてない!!」
そしてそれに負けじと、あたしも立ち上がった。

「コラ!止めろ、山崎」
「………」
先生に止められて…ヤツ、ヤマザキと呼ばれた生徒は渋々席に着く。


『…先生、お客様がお見えです。至急、職員室にお戻りください』
教室内に気まずい空気が流れる中、タイミングよく割り込んできた校内放送の声。
「あっ!?そうだ、忘れてた!!悪い、今日はここまでにしよう」
言いながら教卓に置かれた資料類を片付けると、先生はさっさと教室から出て行ってしまった。
12 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月28日(火)21時51分36秒
「取り消してよ」
あたしは、カバンを持って出て行こうとする彼の前に立ちはだかって進路を塞ぐ。
「あ?」
さっき先生に怒られたせいか、帰ろうとする彼はかなり不機嫌そう。

「さっきの…仲悪い、っての」
同じ学校の生徒とはいえ、はじめて会ったヤツにあんなコト言われて…あたしは相当アタマにきていた。
あたしは、自分よりも少し背の高い彼をキッと睨み付ける。

「何でだよ。あんな問題もわかんなくて…」
「違うよ!!アレは油断してただけだもん!!あたしは、あたしは…」
暴言を撤回しようとしない彼にまたもやカチンときたあたしは、目の前の彼に向かって大声で反論する。
教室中の生徒が、あたしたち二人のやりとりを見守っていた。


「はいはい、わかったわかった。どうもすいませんでしたぁー」
「なっ!?」
うおおーっ!!ちっくしょぉぉーーーっっ!!!やぁぁーまざきぃぃぃぃーーーーーっっ!!!
13 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月28日(火)21時53分03秒
「あたしはっ…梨華ちゃんのコトなら何だって知ってるんだからね!!!」
怒りがついに頂点に達したあたしは…みんなの前で、とんでもない大ウソをブチかましてしまっていた。

「なにぃ…!!」
そしてそんなウソを鵜呑みにしたヤマザキは、あたしの目の前で悔しそうにこぶしを握り締めている。
見えない火花を散らしながら、向かい合ってお互いをじっと見据えるあたしたち。

負けるもんか…あたしと梨華ちゃんは、一年以上もずっと一緒にいるんだ。
一年以上も一緒にいるのに、あんまり梨華ちゃんのコトちゃんと知らないけど…コイツにだけは絶対負けたくない!!


一体、なぜこんなワケのわかんない世界に突然迷い込んでしまったのか…それはわからない。
いや、今はそんなコトどうだっていい。誰が何と言おうと、そんなコトはどうだっていい!!

『嘘も方便』、矢口さんに教わったことわざを思い出す。
今のこの状況では、あんな嘘が必要だった…あたしのプライドを守るために。
もう後には引けない、あたしの戦いは始まってしまったんだ。

あたしは、決意した。
こうなったら、いっぱい勉強して…学年イチの『梨華ちゃんハカセ』になってやろーじゃんかっ!!!


「「くっ……!!」」
教室の大観衆が見守る中、こぶしを震わす彼と睨み合いつつ…あたしの、補習第一日目は終了した。
14 名前:すてっぷ 投稿日:2001年08月28日(火)21時55分16秒
とりあえずここまでです。
不定期な更新になるかと思いますが、最後までお付き合い頂けるとうれしいです。
15 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月28日(火)22時26分55秒
よっすぃーなら、梨華ちゃんのことほんとに何でも知ってそう。(笑)
楽しみにしてますねー!!
16 名前:名無しさん 投稿日:2001年08月28日(火)22時55分19秒
なんかまたすさまじく訳分からん設定(w
でも、すてっぷさんの作品だと安心して読めるわ
16 名前:ぺぷし 投稿日:2001年08月28日(火)22時55分21秒
読ませていただきました。
おもしろいです
更新を楽しみに待っています!
17 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月28日(火)23時35分57秒
あいかわらず面白い設定だ(w
何度もむちゃくちゃな世界にぶち込まれる
よっすぃーに萌え。
18 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月29日(水)01時13分20秒
く、くだらね〜(w
よっすぃー以外男子生徒・・・この授業なら納得。
山崎・・・って山崎直樹?
19 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月29日(水)01時58分09秒
設定意味分かんねー!でも面白そう!
頑張ってください!
20 名前:LVR 投稿日:2001年08月29日(水)11時16分57秒
これが考えていると言ってたいしよしですか。
更新楽しみにさせてもらいます。
21 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月30日(木)01時57分09秒
始まってんの気づきませんでした。(赤板覗いて知った)
わはは、今作も初っ端からすてっぷ節全開ですな。
『梨華T』俺も受講して〜! 山崎は憎たらしいやつだな(笑)。
続き期待してます。
22 名前:ポルノ 投稿日:2001年08月30日(木)03時38分54秒
赤板ではすんばらしい作品を読ませてもらいました!
今回はいしよしですか。
更新かなり楽しみです!
がんばってください!
23 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月31日(金)22時37分47秒

<二日目>


「えっと、3位がくつ下で、2位がマフラー…で、1位がマスク。ぷっ…くくくっ」
梨華ちゃんの『寝るときにないと困るモノ』ランキング、上位3つ。
そのすべてを完全装着して眠る梨華ちゃんの姿を想像して、思わず笑ってしまった。
冬になるとそんなに寒いのかなぁ、梨華ちゃん家って…。うっそぉ、極寒の地ってやつ?
くくっ、やばい、ツボ入った…!!

「なにやってんの、よっすぃー。勉強?」
向かいの席でお菓子を食べていた矢口さんに広げたノートを覗き込まれそうになって、慌ててページを手で覆い隠す。
「あっ!?は、はい!!全然、やってなくて…宿題」
言いながらあたしは、ひざの上で広げていた雑誌を気付かれないようにそっと閉じた。


「やっぱエライねー、よっすぃーは。おい、加護・辻。あんたらもちょっとは見習いなさいよねー」
「「はーい!!」」
「もー、返事だけは良いんだから…」
タメ息まじりに、矢口さんが言った。
24 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月31日(金)22時39分09秒
夏休みも終わろうとしているのに遊んでばかりいる加護&辻の姿を嘆く矢口さんは、もちろん知らない。
あたしがやっているコトは、決して2人に見習わせて良いような行為ではないコトを。
なぜなら、あたしが夏休み返上で勉強しているモノは…『理科』ではなく、『梨華』なのだから。


昨日は家に帰ってから、ひたすら過去の雑誌やら写真集やら…とにかく梨華ちゃんに関する情報を得られそうなモノを
引っ張り出してきて、夜中まで調べまくった。
そのせいで今日は寝不足でかなりツライんだけど、それもこれも補習でみんなに良いトコ見せるためだ…やるしかない!!

って意気込んだのは良いんだけど、今日は朝っぱらから昼過ぎまでお仕事。
それが終わったら急いで学校行くつもりなんだけど、その間もみんな、つまりあたしのライバル達は朝からみっちり
授業を受けているワケで…基礎知識で既に遅れをとっているあたしは、さらに置いてかれそうで不安でしょうがない。
あたしは少しでも遅れを取り戻そうと、休憩時間中もこうして持参した資料(雑誌)で勉強してるってワケ。
25 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月31日(金)22時40分00秒
「よっすぃー」
取材を終えた梨華ちゃん(特技:Y字バランス)が、楽屋に戻ってくるなりあたしの所へやってきた。
「あ、梨華ちゃん。おかえりー」
あたしが声をかけると、梨華ちゃんはにっこりと微笑んであたしの隣のイスに腰を下ろす。
身長155cmの梨華ちゃんだけど、座高はどれくらいあるんだろう…今度、こっそり測ってみよう。

「よっすぃーは?もう終わったの?」
「うん。終わった」
彼女よりも先に取材を終えていたあたしは、とにかく時間が惜しくてさっきから暇を見つけては勉強してたんだけど…
梨華ちゃんはあたしの隣でお菓子なんか食べ始めちゃって、すっかり居ついてしまっている。
困ったなぁ…これじゃ、予習できないよぉ。

と、そこまで考えてふと気付く…そうだ、一番良い教材が目の前にあったんだ。

学習対象である梨華ちゃんが目の前にいるのに、雑誌なんかで勉強しててどーすんだ、あたしは。
このチャンスを逃す手はない、あたしにしか入手できない貴重な梨華ちゃん情報を収集しなきゃ!!
そうすれば、授業で目立てる!!みんなより1歩リードできるよ、やったね!!
26 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月31日(金)22時41分00秒
「あのさぁ…ちょっと聞いてもいいかな?」
「なに?いきなり」
テーブルの上のペットボトルに手を伸ばしかけていた梨華ちゃんは、あたしの問いかけにその手を止めてこっちを見る。

「梨華ちゃんのさぁ、好きなモノってなに?」
「えっ?好きなモノ?えーっ、そうだなー…」
言うなり、梨華ちゃんはテーブルに頬杖ついて考え込んでしまった。

「…よっすぃー、とか言って」
梨華ちゃんはしばらく考えた後、隣にいるあたしにだけ聞こえるぐらいの小さな声でそう言った。
そして両手をひざの上で組むと、照れくさそうに目を伏せた。

「はあ?違うよ、そういうコトじゃなくて。食べ物とかさ」
もー、こっちは遊びでやってるワケじゃないんだから…ちゃんと真面目に答えてほしいよ。

「なに怒ってるの?」
彼女の答えにあたしが苛立っているのを感じたのか、梨華ちゃんが上目遣いで聞いてくる。
27 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月31日(金)22時42分09秒
「…べつに、怒ってないけど」
こっちは真面目に質問してるのに、梨華ちゃんが意味不明なコト言うからじゃんか。
ったく誰のために必死で勉強してると思ってんだよぉ…。
って言っても、梨華ちゃんはそんなあたしの事情を知らないんだから無理もない、か…。


「食べ物だったら、やっぱり甘い物かな…ケーキとか」
「ああ…だよね」
しまった、コレは既にリサーチ済みの情報だった。
そもそも『好きな食べ物』なんて、雑誌とかで普通に調べれば載ってんじゃん…なに聞いてんだろ、あたし。
もっと、もっとあたしにしか得るコトのできない貴重な情報を…あー、でもいざとなると何も思いつかないなぁ。

「よっすぃー…?」
「そうだ!ねぇ、今日何時に起きた?」
自分の思いつきに、質問する声も自然と明るくなる。
コレは梨華ちゃんの側にいるあたしにしか知り得ない、まさに彼女の『最新情報』…アタマ良いなぁ、あたし。
28 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月31日(金)22時43分55秒
「え…6時、だけど」
「6時ね」
唐突な質問に戸惑いつつも返してくれた彼女の答えを、あたしは素早くノートにメモる。

「…ねぇ、なに書いてるの?」
「何でもない、何でもない…じゃあ、起きてから何した?最初に」
訝しがる梨華ちゃんの問いかけを軽く流して、あたしはさらに次の質問へ。
なんだか楽しいなぁ、こういうの…雑誌記者のヒトにでもなった気分。

「えっと…顔、洗ったかな」
「洗顔ね」
2つ目の答えを、あたしは素早く『梨華ちゃんノート』に記録。

「ねぇ、何なの?なに書いてるの?」
「何分?何分ぐらいかけた?顔洗うのに。ねぇ」
「何分って…わかんないよぉ、そんなの。ねぇ、何なの?さっきから」
「わかんない、と…」
もーダメじゃん、それぐらいちゃんと測っとかなきゃ。
3つ目の質問に対する答えは…『わかんない』(と、梨華ちゃんノートにメモ)。
29 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月31日(金)22時45分17秒
「じゃあさ、テニスとY字バランス、どっちが得意?」
「よっすぃー…」
「鳥、嫌いなんだよね。ひよこも?ひよこもダメ?」
「ねぇ、よっすぃー…」
「ひよこはOKなの?ねぇ、どっち?でもさ、ひよこは大っきくなったらニワトリになるよね」
「よっすぃーってば」
「だからさ、ひよこは…あっ!?」
質問の途中で梨華ちゃんにノートを取り上げられそうになって、あたしは慌ててそれを手で押さえる。

「なんで隠すの?変なのー」
「べつに隠してないよ…宿題だって、宿題」
「ふーん…」
怪しいヒトでも見るかのような目つきであたしを見ている梨華ちゃん(行ってみたい国は、『もちろんアメリカ』。
なぜ『もちろん』なのかは不明)、テーブルの上のクッキーを頬張る…午前10時34分。


その後もあたしは…楽屋での梨華ちゃんのあらゆる言動を(怪しまれるので)影からこっそりチェック、
ひとみ特製の『梨華ちゃんノート』は、そのページをどんどん埋めていくのであった。
30 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月31日(金)22時46分14秒

―――

「へぇー、逃げずにちゃんと来たんだ。えらいえらい」
教室に入って席に着くなり、あたしの斜め後ろのヤツ…ヤマザキの挑発的な一言。
先生に聞こえないように、小声で話し掛けてくる。

「うるさい、バカ」
あたしは、ヤツの方を振り返ることもなく(もちろん小声で)言ってやった。
「なっ…!」
ご自慢のイヤミをあっさり斬り捨てられてくやしがるヤツの声が、すぐ後ろから聞こえる。

今日はお昼過ぎに終わるはずだった仕事が予定以上に長引いてしまい、終わってすぐに登校したものの
校門をくぐったのはもう午後3時。
あと1時間足らずで授業が終わってしまう…あーあ、せっかく来たのに。


「えー、そして2000年の6月4日、めでたくタンポポの一員になるワケだが…」
カバンからノートと筆記用具を出しながら、先生の話に耳を傾ける。
黒板には年表のようなものが書かれていて、年月日の部分が虫食い状態で空けてある。
31 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月31日(金)22時47分39秒
「吉澤」
「はい」
ノートを広げて下敷きを挟もうとしたところでいきなり先生に名前を呼ばれて、あたしは顔を上げた。
なんだろう…また、質問されるのかなぁ。

「お前もちゃんと手を挙げて答えろよ。今日からは優先して当てたりしないからな」
「…はい」
チッ…今日からは早押しか。梨華ちゃんフリークの男子たちに混じって…自信ないなぁ。


でも、ご安心あれ。
あたしには、あたしにしか調べられないような秘密の梨華ちゃん情報がたくさんあるんだから…。
少しくらい、答えるのが遅くたってそんなコトは全然大した問題じゃないモンね。
だって、答えはあたしにしかわからないんだから…。
32 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月31日(金)22時48分43秒
「それじゃあ、タンポポに入って最初のイベントはどこで行われたか」
知らないよ、そんなの…。
先生の質問が終わるか終わらないかの内に、数人の生徒が一斉に手を挙げた。
ま、このテの問題はあなたたちに任せるわ…。
考えたところで分かるような問題でもないのであっさり諦め、あたしは黒板の内容をノートに写す作業に取り掛かった。

「横浜」
後ろから聞こえる勝ち誇ったような憎たらしい声に一瞬、手が止まる。

「なんでも知ってるんじゃなかったのかなー」
ボキッ、という鈍い音がしてハッと我に返る。
見るとノートの上には、無残に折られた芯の欠片が転がっている。
小声ながらしっかり耳に飛び込んできたヤツの嫌味に反応して、シャーペン持つ手に力が入り過ぎてしまった。
耐えろ、耐えるんだ、ひとみ…まだまだ、あたしには秘密の梨華ちゃん情報があるんだから。
33 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月31日(金)22時49分49秒
「日付も言っちゃっていいっすか?」
動揺するあたしの様子に満足げのヤマザキがさらに言葉を続ける…調子ノリやがってぇー、コイツ!!
先生お願い、『ダメ』って言って!!

「いいぞ、言ってみろ」
バカ…ダメ教師!!
「2000年7月8日」
誇らしげなその声に、シャーペンを持つ手が震える…くぅーっ、くやしいぃぃぃぃ!!


しかし、その後の質問も過去のデータ系の問題ばかりであたしの出番は全くないまま…二日目の授業も終わろうとしていた。
何だってこんな問題ばっかり…このままじゃ、あたしが今日楽屋で学んできたコトが全く活かせないまま終わってしまう。

「先生!」
終業10分前、たまらずあたしは立ち上がって抗議。
「ん?どうした、吉澤」
黒板に向かっていた先生が、あたしの方へ振り返る。

「何でそんな問題ばっか出すんですか!?もっとプライベートなコトとか聞いてくださいよ!!」
あたしの一言で、それまでザワついていた教室が一瞬にして静かになる。
こんな瞬間を、飯田さんならきっとこう言うだろう…『今、神様が通ったよ』。
34 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年08月31日(金)22時51分20秒
「そんなの、オレにわかるワケないだろ」
「…あっ」
静寂を打ち破る先生の一言に、あたしはハッとする。

そっか…確かに、先生の言う通りだ。
あたしにしかわかんないような情報集めたところで、この教室でそんな問題が出題されるワケがない。
しまったぁ…勉強するトコ間違えてた。


「なんだよ、プライベートって!?」
「なになに!?お前、どんな情報握ってんだよ!?おい、教えろよ!!」
ケーキにたかるアリのように群がってくる男子たちを軽く無視して、窓の外に広がる空を仰ぎ見る…もうすぐ夕暮れだなぁ。

ゴメンね、梨華ちゃん…今日は、ぜんぜんダメだったよ。
そしてあたしは、黒板の横に誰かが貼った彼女のポスターに誓う…明日は、明日こそは必ず!!!


決意も新たに、二日目終了。
35 名前:すてっぷ 投稿日:2001年08月31日(金)22時53分36秒
>15 名無し読者さん
ありがとうございます。何でも知ってそう…ですね。この話のよっすぃーはダメダメですが(笑)

>16 名無しさん
ありがとうございます。安心ですか…しない方がいいかも知れないです(笑)

>16 ぺぷしさん
ありがとうございます。毎回そう感じていただけるよう頑張りますので、これからもよろしくです!

>17 名無し読者さん
ホントに何度も何度も…。
というか、そのむちゃくちゃな設定に何度もお付き合い下さっている(と思われる)17さんに感謝なのですが(笑)

>18 名無し読者さん
しょーもない話にお付き合いいただき、本当にありがとうございます(笑)
名前は何でも良かったのですが、とりあえず縁のある名前にと思いまして…。
36 名前:すてっぷ 投稿日:2001年08月31日(金)22時54分26秒
>19 名無し読者さん
ありがとうございます。頑張ります!
意味不明な設定は置いといて(笑)、また読んでいただけるとうれしいです。

>20 LVRさん
ありがとうございます。考えていた『いしよし』…実はこんなくだらない話でした(笑)

>21 名無し読者さん
ありがとうございます。
『梨華T』…今回とくに発想がアホすぎて、書こうかどうしようか散々迷いました(笑)
授業のネタ探しのために彼女のファンページ等を漁ってみたり…かなり空しい作業をしております(笑)

>22 ポルノさん
赤板に続いてこちらもお読み頂き、ありがとうございます。
コレをいしよしと呼んで良いものかどうか分かりませんが(笑)、お付き合い頂ければと思います…。
37 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月01日(土)00時35分19秒
そのうち、世界で「梨華」にもっとも詳しい人物は
吉澤になるんですね。
なんて素晴らしい。まさに究極のいしよし。
石川の事知りたがる吉澤が読めるのはこのスレだけ!
38 名前:空唄 投稿日:2001年09月01日(土)00時43分49秒
相変わらずオモロイ(w
39 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月01日(土)02時32分39秒
>照れくさそうに目を伏せた。→「はあ?」って流れがサイコー、ワラタ。
しかしこれ、書くほうもデータ集め大変そう。
ファンページ漁り、がんばってください。(笑)
40 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月01日(土)06時19分09秒
だめだ、面白すぎる。
取材を終えた梨華ちゃん(特技:Y字バランス)
あたしを見ている梨華ちゃん(行ってみたい国は、『もちろんアメリカ』)
最高。
41 名前:もんじゃ 投稿日:2001年09月02日(日)03時01分05秒
新作に気付くの遅れてしまった…。
そんな反省を軽く無視して時計を見れば、もうすぐ丑三つ時だなぁ。
34のよっすぃの行動サイコーに笑えました。
明るく爽やかにすごいポジティブっすね(笑

また小説を読む楽しみが増えました。頑張ってくださいね♪
42 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時17分05秒

<三日目>


「ハイ!!」
「吉澤」
誰よりも早く手を挙げたあたしは、先生に指名されてイスから立ち上がる。

「パンチ犬です。ボールとか、丸いモノに寄っていく習性があるみたいです」
「おお、正解。すごいな、どうしたんだ?」
「へへっ…」
先生に誉められて、照れ笑いを浮かべつつ着席する。
なんだか、すごくアタマの良いコになったみたいな気分…やっぱ良いなぁ、こういうの。

昨日の失敗を反省して、帰るなり『梨華T』の勉強に没頭したあたしの学習範囲は…梨華ちゃんに関する知識はもちろん、
彼女が凝っているアフロ犬の情報にまで及んでいた。
まさかとは思ったけど、やっぱり勉強しといて良かったなぁ…見事ヤマが当たって、今日のあたしは絶好調!!

ちらりと後ろの彼、ヤマザキの表情を伺うと…どうやら今日の彼は完全にヤマを外したご様子。
俯いてくやしそうに、こぶしを握り締めて震えている。


「みんな、かなり良くなってきたなぁ。最終日はテストやるから、しっかりがんばるようにな。それじゃ、今日はここまで」
満足げにそう言って、教室を出て行く先生…本日の授業、これにて終了。
43 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時18分04秒
「んじゃねー、おつかれ」
「おう、おつかれっすー」
隣の席のコに別れのあいさつを残し、あたしはさっさと教室を後にした。


あたしが急いで帰ろうとしているのには、ちゃんと理由があった。
先生の都合とかで本日の授業は午前中のみ、しかも今日はめずらしく仕事の方もオフ。
今日はこれから、梨華ちゃんがウチに遊びに来るコトになっているのだ。

今日は梨華ちゃんにどんなコトを聞こうかなぁ…。
あんまりプライベートなコト聞いても、授業の役には立たないし…うーん。
下校時間とはいえ夏休み中で空いている駅の改札を抜け、梨華ちゃんとの待ち合わせ場所へ向かう電車に乗り込む。
44 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時18分56秒
あー、ホントなに聞こう…好きな食べ物、好きな色、趣味、特技。
考えても頭に浮かんでくるのは、どれも既に調査済みの情報ばかり。
テレビや雑誌から手に入るようなコトは、もう全部勉強しちゃったもんなぁ…。
ふと腕時計を見ると、待ち合わせの時間まであと10分…梨華ちゃん、もう来ちゃってるかも知れない。

駅前の広場でひとり待つ梨華ちゃんの姿を想像したりしながら、ふと気付く。
補習が始まってからの3日間、あたしは…一日中、梨華ちゃんのコトばかり考えてる。
今までこんなコトなかったのに、彼女のコト何にも知らなかったくせに…変なの。
だけど5日間の補習授業が終わったら、こんなコトもなくなるんだろう…きっと。
45 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時19分49秒

―――

「おじゃましまーす」
ドアを開けたあたしに続いて、梨華ちゃんも部屋の中に入る。

「梨華ちゃん一人で来んの初めてだよね、そういえば」
「うん、はじめて。こないだ来た時も思ったけど…やっぱり、よっすぃーの部屋ってキレーだよねぇ」
部屋の中を見渡しながら、梨華ちゃんは側に荷物を置くとテーブルの前に腰を下ろした。
あたしも、ベッドの上にカバンを置いて梨華ちゃんと向かい合わせに座る。

「梨華ちゃんの部屋に比べたらね」
「………」
やばい、冗談で言ったつもりだったのにちょっと気マズくなってしまった…話題変えなきゃ。

「あっ、アフロ犬。いちばん普通のやつだよねー、それ」
苦し紛れにあたしが指差したそれは、梨華ちゃんのカバンにぶらさがってる例の犬のキーホルダー。
数ある仲間たちの代表格(?)である、赤・青・黄の3色アフロの犬…そっか、信号機の色になってんだ。今気付いた。

「うん!カワイイでしょ?」
「そう?」
「………」
やばい、フォローするつもりだったのにまた梨華ちゃんを黙らせてしまった…話題変えなきゃ。
46 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時20分55秒
「梨華ちゃん」
「なに?」
あたしが話しかけると、下を向いて例のキーホルダーを見つめていた梨華ちゃんが顔を上げた。

「今、なに考えてる?」
「え…?」
「当てよっか」
「どうしたの?なんか変だよ、よっすぃー」
あたしはテーブルに頬杖をついて、訝しがる梨華ちゃんの顔をじっと見つめる。

「『よっすぃーはいつ見てもカワイイなぁ』って、思ったでしょ」
「えっ!?なっ…なにそれー!!思ってないよ、そんなの!!」
あたしの冗談に、梨華ちゃんは予想してた以上のオーバーリアクションを返してくる。
テーブルを叩いて力いっぱい否定する彼女の様子に、あたしは思わず吹き出してしまった。
47 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時21分39秒
「そんな怒んないでよー。わかるワケないじゃん、超能力者じゃないんだからさぁ」
「もー…」
そっか、こういう冗談でからかわれたら怒るんだ…ふくれ顔の梨華ちゃんを見ながら、そんなコトを考えていた。


どんな言葉をかけたら、笑ってくれるんだろう。
哀しいカオになるのは、どんなとき?
どんなコトで、泣いたり怒ったりするの?
そういうの、ぜんぶわかるようになれば…梨華ちゃんが今考えてるコトも、ちゃんと当てられるかも知れないね。

って言っても…そんな問題が授業で出題されるワケはないんだけど。
48 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時22分41秒
「あ、そうだ」
ふとあるコトを思い出し、あたしはベッドの上に置いたカバンの中身を漁る。
「写真。たまってたからさぁ、まとめて出しといたんだよね…見る?」
写真屋さんから今日取ってきたばかりの袋を梨華ちゃんに手渡す。

「すごーい、何かいっぱいあるよ?」
袋を開けて中の写真を出しながら梨華ちゃんが言う。
「うん。カメラ4個ぶん」
梨華ちゃんが持っている袋の中身には、夏のツアー中に楽屋で撮った使い捨てカメラ4個分の写真がぎっしり詰まっている。

「そんなに撮ったんだ」
「ののたちがさぁ、すっごいムダ遣いすんの」
「あはっ、でもいいじゃん。いっぱいあった方が楽しいもん」
「そうだけどさぁ」
あたしたちは、床の上に写真を広げて見始めた。
49 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時23分29秒
「あ…梨華ちゃん、また小指立ってるよコレ」
「うそぉ?」
すぐ目の前に座っている梨華ちゃんが、あたしの持っている写真を覗き込んでくる。
その写真には少し離れた位置から撮ったと思われる梨華ちゃんの横顔が写っていて…紙コップを持つ右手の小指が
微妙な角度で立っている。
カメラ目線でないコトと少し遠目から撮影されているコトから察するに、あいぼん又はののによる隠し撮り写真と思われた。

「ホントだ…気をつけようって思ってたのになー」
「無意識でやっちゃったんじゃない?」
「もー、誰?こんなの撮ったの」
「あの2人に決まってんじゃん」
「もー」
牛か、おまえは。


「でも、コレ…」
問題の写真を見ながら、あたしはあるコトに気がついた。
「なに?」
写真から目を離してむくれていた梨華ちゃんが、再びあたしの手許を覗き込む。
50 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時24分30秒
「最初の頃に比べたら全然良くなってるよ」
「え…良くなってる、って?」
あたしの言葉に、写真を覗き込んでいた梨華ちゃんが顔を上げる。

「だからさ、角度が」
「え…?」
あたしが言っているコトの意味が全くわかっていない様子の梨華ちゃんは、きょとんとした顔であたしを見ている。
気分はすっかり優等生のあたしは…ゴホンと一つ咳払いをした後、目の前の梨華ちゃんにその知識を披露すべく口を開いた。

「最初の頃…あ、あたしたちがまだ入ったばっかの頃。その頃の梨華ちゃんの小指の角度は、90度近かったのね、
いつも。まあ、平均だけどね。あ、90度ってのは薬指を水平面として測った場合なんだけど…ホラ、こんなカンジ」
言いながらあたしは、右手の小指だけをまっすぐ上に立てて当時の梨華ちゃんの小指の様子を再現してみせる。
「えっ…そんなに?」
あたしの小指を見て、梨華ちゃんは驚きの表情を浮かべている。

「そう。すごいっしょ」
「…うん」
神妙な面持ちで頷く梨華ちゃんを見て、あたしの中のハカセ心が目を覚ました。
51 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時25分44秒
「そんで、昨日ずっと昔のビデオ観てたんだけどさ、けっこー梨華ちゃん立ってるよ。まだ年末ぐらいのまでしか
観れてないんだけどー、ごっちんの隣で見切れてた時のとかも含めるとトータルで…」
かなりイイ気分で3日間の研究成果を発表しながら、あたしは目の前に座る梨華ちゃんの反応を伺う。

すると、最高の笑顔で説明するあたし(梨華ちゃんハカセ)とは対照的に、彼女の表情は…『驚き』から、『怯え』に変わっていた。
うそっ、もしかして梨華ちゃん…引いてる?

「よっすぃー…変」
あ、やっぱし。
ちょっとやり過ぎたかなぁ…。
あたしは、調子に乗ってついつい教室で彼らと話してるみたくディープな内容をまくしたててしまったコトを深く反省。


「あのね、昨日から思ってたんだけど…よっすぃー、何か隠してない?」
あ、やばい。
梨華ちゃん、あたしの研究ぐせに気づき始めてる…やっぱり、ちょっとやり過ぎたみたい。

「なんで?べつに…何もないよ」
ご指摘どおり隠してるコトだらけのあたしは、梨華ちゃんの顔をマトモに見るコトができなかった。
52 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時26分52秒
彼女にすべてを打ち明けて、そしてあたしの勉強に協力してもらえば、さらなる成績アップは確実。
だけど、それだけは絶対にしたくなかった。
タダでさえ、毎日のように梨華ちゃんと行動を共にしているあたしは教室のみんなに比べて有利な立場に立ってるのに、
この上彼女に勉強まで手伝ってもらったりしたら…そういうのって、やっぱりフェアじゃないって思うし。
卑怯な手段使ってあのにっくきヤマザキに勝ったところで、それはホントに勝ったコトにはならないと思うワケで…。


「…昨日もさ、あたしのコトいろいろ聞いてきたでしょ?」
あたしが否定しているのにも関わらず、梨華ちゃんはさらに問いただしてくる。

「えー…そう、だっけ」
「そうだよ!どうして!?何でそんなコトするの!?」
歯切れの悪い返答に怒ってしまったらしい梨華ちゃんが、あたしに詰め寄る。
逸らしていた視線を梨華ちゃんの方へ戻したあたしは…すぐ近くに彼女の顔が迫っていたコトに驚いて、強く息を吸い込んだ。
もう少しでひざとひざがぶつかってしまうくらい、あたしたちの距離は近くなっていた。
53 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時28分00秒
「ねぇ、どうして…?」
ちょっと泣きそうになってる梨華ちゃんの問いかけに、あたしは俯いて言葉を探した。

『どうして?』
自分に問いかける…どうして梨華ちゃんのコト、こんなに『知りたい』と思うのだろう?

補習のため。学年イチの『梨華ちゃんハカセ』になるため。ヤマザキに勝つため。
でも…それだけ?
梨華ちゃんは友達。メンバー。そして今は、ドクター吉澤の研究対象でもある。
それでも、やっぱりなんか違う気がする。
教科書にも載ってないこんな気持ちを、あたしはどうやって説明したらいいんだろう。


「今は言えない。けど…梨華ちゃんのコト、もっと知りたい」
”どうして梨華ちゃんのコト、こんなに『知りたい』と思うのだろう?”
ココからもう少し先に進めば、その答えを見つけるコトができるだろうか。
彼女との距離をもう少しだけ埋めるコトができれば、もしかして。

「梨華ちゃんのコト…」
「よっすぃー…」
床についている彼女の左手に、自分の右手を重ねる。

「もっと、教えて」
そっと瞼を閉じた梨華ちゃんの長いまつげには、涙の雫が光っていた。
54 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時29分25秒
「………!」
梨華ちゃんの顔が間近に迫ったところで、あたしもゆっくり目を閉じ…ようとして、ハッとする。
彼女の唇に触れたい衝動とは別に、たった今生まれたもうひとつの欲求があたしを駆り立てていた。

どうしよう…こっちもしたいんだけど、アレもしたい。どっちもしたい。すっごくしたい。
というワケで、どっちもするコトにした。

あたしは梨華ちゃんに気付かれないようにそーっと腰を浮かすと、彼女の後ろにある学習デスク(小1より使用)に手を伸ばす。
そして梨華ちゃんの肩越しに見えていたペン立てから、目的のモノを取り出すコトに成功。
とりあえず、先にこっちやっちゃってから…閉じられた梨華ちゃんの瞼に、ゆっくりとそれを近付ける。


「なっ…!?なにしてるの!?」
ああっ、しまった!!
なかなか行動を起こさないあたしを不審に思ったのか、梨華ちゃんが突然目を開けた。

「あ、あの…違うの!!コレは、」
「なにが…違うの?」
「あ、あの、えっと、えっとぉ」
確かに、三角定規片手に『違う』も何もないよね…上手い言い訳が見つからず、あたしはしどろもどろ。
55 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時30分43秒
「梨華ちゃんの…まゆげ、測ろうと思って」
言い訳のしようもないのであたしは素直に罪を認め、自分が取ろうとした行動について白状した。
「まゆげ!?」
あたしの言葉に、当然ながら梨華ちゃんは目を丸くする。

「あっ間違えた、まつげだ」
「どっちだっていいよ、そんなの!!」
「よくないよ!!まつげの長さが測りたかったんだもん!!」
「なんでよっすぃーが怒るの!?」
「あ、ゴメン」
熱くなったあたしは、梨華ちゃんに対してホントにつまんないコトで逆切れしてしまっていた。


「よっすぃー…ひどい」
下を向いてしまった梨華ちゃんがひざの上で組んだ手に、涙の雫が落ちる。
どうしよう…泣かせちゃった。

「ゴメン、梨華ちゃん。あのね、学校の補習でさ、梨華ちゃんのコト…」
彼女に泣き止んでほしくてあたしは、気持ちイイほどあっさりと『梨華T』クラスの仲間たちを裏切ろうとしていた。
56 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時32分03秒
「…うんでしょ」
「えっ?」
俯いたまま梨華ちゃんが発した言葉は独り言のように小さな声で、ちゃんと聞き取れない。

「今のコト…あいぼんに言うんでしょ?」
「なんで?言わないよぉ」
っていうか、何であいぼんの名前が出てくるの?
顔を上げた梨華ちゃんの目には、涙がいっぱい溜まっている。

「うそ、ぜったい言うもん。そうやって、あたしのコトからかって遊んでるんでしょ!?」
「言わないって!っていうかさ、からかったワケじゃないから、ホントに」
「うそ、ぜったい言うもん」
さっきのあたしの行動を完全に誤解して怒っている梨華ちゃんは、あたしの話に耳を貸そうともしない。

「…それで、あいぼんがののにバラして」
「え?」

「…そしたら、飯田さんとか中澤さんとかみんなにも伝わって」
「ねぇ、」

「…テレビとかラジオで矢口さんが発表して」
「梨華ちゃん?」

「…インターネットで全世界に広まって」
「いや…大丈夫だって」

あたし→あいぼん→全世界、って…すごい図式。
心配性を通り越して、こういうの…『被害妄想』って言うんだよね。
57 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時33分34秒
「あいぼんには言わないからさぁ…大丈夫だよ?」
何だか話がずれてきて、全く無関係なはずのあいぼんが全ての原因みたくなってるけど…とりあえずあたしは、
梨華ちゃんが怒りを鎮めてくれそうな言葉で必死にフォローする。

「あたし…帰るね」
小さな声でそう言うと、梨華ちゃんは荷物を持って立ち上がった。

「待って、梨華ちゃん!」
「来ないで!!」
後を追って立ち上がろうとするあたしを、梨華ちゃんが厳しく制する。
その強い口調に、あたしはその場から動けずに座ったまま彼女を見上げていた。

「梨華ちゃん!ねぇ聞いてよ、梨華…ちゃん!?」
目を見開いて左手にカバン、そして右手でゴミ箱を振り上げる梨華ちゃんの姿に…あたしは恐怖のあまり、座ったまま後ずさり。
ちょっと待って梨華ちゃん、そのゴミ箱…一体どうするつもり!?
プラスチック製とはいえ当たったら相当痛いだろう、しかも昨日捨てたばかりの古い雑誌が2・3冊ほど入っていたはず…!!
58 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月02日(日)15時35分01秒
とりあえず頭をガードしようと両手を上げかけた瞬間、梨華ちゃんのカバンで揺れるアフロ犬と目が合う。
なんだか…ヤツに、笑われてる気がした。

「…っ!!」
犬に目を奪われている隙に、梨華ちゃんの手を放れたゴミ箱(満載)は…見事あたしのアタマを直撃。
あまりの痛さに声も出ず、あたしはその場で頭を抱えてうずくまった。
怒って出て行ってしまった彼女が勢いよく閉めたドアの音が、あたしのアタマとココロに重たく響く。

『二兎を追う者は一兎をも得ず』って、誰か言ってたなぁ…保田さんだっけ。
アレもコレも、って欲張りすぎるからこうなるんだよね。
素直に、まつげ測らせてもらっときゃ良かった…。

っていうか、ホントに痛いんだけど…やばい、記憶飛びそう。あいぼんたすけて。
薄れゆく意識の中、梨華ちゃんのプロフィールを何度も何度も復唱する。
コレだけは忘れないように。ぜったいぜったい、忘れないように。



こんなカンジで補習三日目、あっさり終了。
59 名前:すてっぷ 投稿日:2001年09月02日(日)15時36分47秒
>37 名無し読者さん
ありがとうございます。
石川の事知りたがる吉澤…今のところ、かなり嫌な意味で『知りたがって』ますが(笑)。違った意味で究極かもですね。
世界一詳しい人物になれるかどうか、(補習)残り二日ですが見届けていただけるとうれしいです…。

>38 空唄さん
ありがとうございます。最後までそう思っていただけるよう、頑張ります!

>39 名無し読者さん
ありがとうございます。データ収集にはあまり時間かけてなくて、大した情報じゃなくて申し訳ないです。
ファンページより、脱線してアフロ犬のサイトにハマってました(笑)

>40 名無し読者さん
ありがとうございます。『梨華ちゃん情報』、せっかく調べたので入れてみました。
と言っても、かなり古いのではと思われる上に、正しい情報なのかも責任は持てませんが(笑)

>41 もんじゃさん
丑三つ時って…なんだか不吉な時間帯に、ご感想ありがとうございました(笑)
34で決意を新たにしてからは、かなりポジティブに暴走していくと思いますが…
見届けていただけるとうれしいです。
60 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月02日(日)15時54分47秒
こんなおもしろい作品ありがとうございます。
画面の前で大爆笑してたら妹に変な目で見られましたが(笑)
61 名前:空唄 投稿日:2001年09月02日(日)15時55分03秒
ドクター吉澤て(w
かなり大事な場面なのに。
とりあえずここの吉澤さんは、シリアスになりきれないんですね(w
62 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月02日(日)20時22分34秒
最高ですよ〜!
ゴミ箱で殴りかかってくるとは・・・!
63 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月02日(日)21時48分15秒
>素直に、まつげ測らせてもらっときゃ良かった…。
いや、違うだろそれは(w
ほんと、突っ込み甲斐のあるよしこ。
64 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月03日(月)09時30分02秒
よっすぃー→あいぼん→全世界って図式、この被害妄想はすごく石川らしい(w
ってゆうか本当にこの図式が成り立ちそうで怖い・・・・
65 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月03日(月)21時05分33秒
本当に大笑い(笑)
66 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月04日(火)01時13分55秒
どこかズレてる者同士は面白いね。読んでいて思わずニヤついちゃうのは久しぶり。
会話のリズムが抜群。しかし石川の行動って読めん(w
吉澤のどこかトロいところとさばけた口調もハマってる。
67 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月04日(火)01時18分52秒
あ〜 やっぱおもしろい。
爆笑しつつも、すてっぷさんの作品はちょこっと切なくて好き。
がんばってください。
68 名前:R 投稿日:2001年09月04日(火)22時34分30秒
バカだ・・・よっすぃ〜・・・(ワラ
でも、そんなよっすぃ〜が素敵。
面白すぎ!!
「こっちもしたいけどあっちもしたい」って眉毛測るんかい!!!!!
と、つっこみながら一人で大笑いでした。
最後には梨華知識だけじゃなく、梨華ちゃんの心もGETできることを祈ってます。
69 名前:もんじゃ 投稿日:2001年09月04日(火)22時35分38秒
よっすぃのばかばか。
せっかくのチャンスを…。
何が、というわけでどっちも…なんだか胸ぐらつかんで
問いただしてみたいです。
でも、こんなすっとぼけたよっすぃとちょっと被害妄想な石川は
きっとお似合いだと思います(笑)
70 名前:あべし 投稿日:2001年09月08日(土)22時14分16秒
おもしろーい!まず設定でワラタ。
頑張ってください!
71 名前:すてっぷ 投稿日:2001年09月09日(日)18時56分08秒
>60 名無し読者さん
こちらこそ、こんなバカ話にお付き合いいただいて感謝です!60さんがさらに変人扱いされるよう、頑張ります(笑)

>61 空唄さん
ありがとうございます。ドクター吉澤、ハカセ吉澤、吉澤博士、etc…どれにしようか真剣に悩む自分が
哀しかったのですが、そう言っていただけて救われました(笑)

>62 名無し読者さん
ありがとうございます。最初はクッションにしようと考えていたのですが、手ぬるいかと思いゴミ箱にしました(笑)

>63 名無し読者さん
ありがとうございます。視点が吉澤なだけにボケが垂れ流し状態ですので、要所要所で突っ込みながら
お読みいただけるとありがたいです(笑)

>64 名無し読者さん
ありがとうございます。確かに妄想とは言い切れないかも…。全世界に発信したところで、
世界の人々にとっては『誰?』ってカンジなんでしょうけども(笑)

>65 名無し読者さん
ありがとうございます。また笑っていただけるよう頑張ります!
72 名前:すてっぷ 投稿日:2001年09月09日(日)18時58分03秒
>66 名無し読者さん
ありがとうございます。会話のリズム…今回は、めずらしく会話だけを繰り返す場面をいくつか入れてみました。
誰が喋っているのか分からなくなりそうで、必ず間に心の声を挟んで説明することが多いので、
そう言っていただけて安心しました。

>67 名無し読者さん
ありがとうございます。ちょっとでも切ない場面を書こうとすると、途端にペースが落ちるのは
向いてない証拠なのかも知れませんが…頑張ります(笑)

>68 R さん
気持ちの良いツッコミ、ありがとうございます!
今回は、いつにも増して突っ込みどころが多かったのではと思います(笑)
梨華知識(笑)とともに、心もGETできるか…残り、あと少しですので見届けていただけるとうれしいです。

>69 もんじゃさん
ありがとうございます。
もんじゃさんの逆鱗に触れてしまった吉澤ですが…もう少しで終了しますので大目に見てあげてください(笑)
すっとぼけ&被害妄想…言われてみるとすごい組み合わせですね(笑)

>70 あべしさん
ありがとうございます。こんな設定に笑っていただけるとは…最後までよろしくです!
73 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)18時59分45秒

<四日目>


「『あいさつをしっかりする』」
「残念。それは辻ちゃんの座右の銘でした」
えっ…そうだっけ。
『梨華ちゃんの座右の銘』という問題に、誰よりも早く手を挙げて答えたまでは良かったんだけど…結果は不正解。
自信満々の回答を先生にばっさり斬り捨てられ、あたしは立ったまま次の答えを探す…梨華ちゃんの座右の銘、何だっけ?

「あっ、わかった!!『人にうそをつかない』」
「こら、勝手に答えるな。しかも間違ってる」
「あれぇ?違います?」
周りでは既に数人の生徒が手を挙げて、先生に当ててもらえるのを待っている。
どうやら、これ以上あたしが回答を続けるのは無理みたい。
しっかし、こんなに活気のある授業ってなかなかお目にかかれるモンじゃないよなぁ…みんな、ホントに楽しそうだし。

「山崎」
「『人に迷惑をかけない』」
ああ…そうそう、それ。

「おーい、何でも知ってる『よっすぃー』じゃなかったのかぁ?」
ははっ…みんな、ほーんと楽しそうでいいよねー……。


ヤマザキの嫌味に言い返す気力もない、今日のあたしは……絶不調。
74 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時01分13秒
ハカセっぷりが暴走しまくって梨華ちゃんを怒らせてしまった、昨日のあたし。
昨日の夜も、今朝だってずっと梨華ちゃんに電話してるのに…留守電になってて全然つながらない。
その度にメッセージを残しているにも関わらず返事がないってコトは、意図的に避けられてるのは明らか。
『人に迷惑をかけない』主義の彼女だから、迷惑かけっぱなしのあたしの行動にすっかりあきれてしまったのだろう。

(『梨華ちゃんの…まゆげ、測ろうと思って』)
あたしの脳裏に、昨日の悪夢が蘇る。
あんなコトさえしなければ…あんなコトやこんなコトや、もっともっといろんなコトができていたかもしれないのに。
順番さえ間違えなければ…梨華ちゃんとのいろんなコトより、まつげ測定を優先させてしまった自分のドクター魂に腹が立つ。
せめてまつげの長さだけでもちゃんと測れてたのなら、あきらめもつくんだけど…。

あーあ、いとしいあの人。まつげの長さ、どれくらいあるんだろう…。


「…!」
くだらないコトを考えていると突然、カバンの中から携帯の震える音がしてカラダがびくっと反応する。
あたしは、あわててカバンから携帯を取り出す。
75 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時02分18秒
幸い、先生やみんなは授業に集中しててあたしの行動には気付いていない。
携帯を机の下に隠しながら、届いたばかりのメールを確認する。

こっ、コレは…梨華ちゃんからだ!!やったね!!
あたしは少しの間目を閉じて、両手で携帯を握り締めた。うれしさに、思わず口元がゆるむ。
目を開けて深呼吸すると、彼女から届いた幸福のメールを開く。


『吉澤さんへ。もう2度とかけないでください。石川』

うわっ、なにコレ…敬語だよ。こりゃ相当怒ってるなぁ。
かけないでください、ってのは『迷惑』?それとも『電話』?
ああ、どっちも…か。
つまりあたしからの電話は迷惑、あたしからの電話は…『迷惑電話』ってコトね、あっそう。

てっきり仲直りのメールかと思ったのに、不幸のメールだったか…負けた。
やっぱり『梨華』は奥が深いなぁ…あたしももっと勉強しなくちゃね。

だけど、そろそろ限界だよ。
だって、梨華ちゃんのコト知ろうとすればするほど…梨華ちゃんがどんどん遠くなってくような気がするんだよ?
どうすれば、もっと近づけるの?
ねぇ、おしえてよ…梨華ちゃん。
76 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時03分33秒

―――

「よっすぃー、おつかれぇ」
楽屋へ戻ってきてドアを開けると、一足先に戻っていたごっちんに迎えられる。
「おつかれー」
彼女にあいさつを返しながら…ふと、今日の授業であたしが間違えた問題を思い出した。

『人にうそをつかない』
そうだ、コレはごっちんの座右の銘だったんだ(正解:梨華ちゃんの座右の銘は、『人に迷惑をかけない』でした)。
ったく、ちょっと似てるから間違えちゃったじゃないか…ごっちんのばかやろー。

「ん?どしたの?」
あたしの恨みのこもった視線に気付いて、ごっちんが聞いてくる。
あたしはその問いかけに言葉ではなく首を横に振って『何でもない』のサインを示しつつ、彼女の隣のイスに腰を下ろした。


午後はレギュラー番組の収録が控えていたため、今日も途中で補習を抜け出すコトになってしまった。
しかも今日の授業は、ヤマが外れっぱなしでまったく良いトコなし。
梨華ちゃんとも、まだケンカしたままだし。
明日は最終日、しかも授業の終わりには大事なテストが待ってるってのに…大丈夫かなぁ、こんなんで。
77 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時04分39秒
「ねぇ、よっすぃー」
連日の勉強疲れでぐったりしているあたしがテーブルに突っ伏して休憩していると、隣のごっちんが話しかけてきた。
「…なに?」
次の収録まで寝てようと思ったのに…顔を伏せたまま答えたんで、少しくぐもった声になる。

「梨華ちゃんは?」
「知らないよぉ…疲れてんだから寝かせて」
あたしは顔を上げてごっちんに答えると、再びテーブルに突っ伏して仮眠態勢をとる。

ハカセはただいま絶不調なんだから…今のあたしに、梨華ちゃんについて答えられるコトなんて何ひとつない。
梨華ちゃんがどこでなにしてようと、夜は黒のジャージとトレーナーで寝てようと(夏はTシャツ&学校の体育で使っていた短パン)、
そんなのあたしの知ったこっちゃないもん…ちきしょー。


「外行っちゃったよ、梨華ちゃん」
ドン底の気分で寝ていると、頭上からあいぼんの声。
「外ぉ?外って?」
「わかんない。ちょっと行ってくる、って…」
あたしは顔を伏せたままで、ごっちんたちの会話に聞き耳を立てる。
たとえケンカしてても、やっぱり梨華ちゃんのコトが気になってしまう…なんて研究熱心なんだ、あたしは。
78 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時06分08秒
「梨華ちゃん、すごい暗かったけど…何かあったのかな?」
安倍さんの言葉に、あたしは思わず顔を上げる。
「おぉ、生き返った」
「梨華ちゃんが、どうかしたんですか!?」
いきなり起き上がったあたしに驚くごっちんを無視してあたしは、ドアの側に立つ安倍さんに尋ねる。

「だからぁ、なっちにもわかんないんだってば。そこですれ違った時すっごい暗いカオしてたからさぁ…何かあったのかなーって」
あたしの質問に、安倍さんが困惑した表情で答える。
「ドコ!?ドコ行くって!?」
あたしは立ち上がって、ドアの側の安倍さんに詰め寄る。
「えーっ…わかんないよぉ。聞いとけば良かったかな?」
申し訳なさそうに、安倍さんが言った。

「ま、そーゆーコトもあるさ。まだ時間あるんだし一人にしといてあげなよ。ね、よっすぃー」
そう言う矢口さんに背を向けて、あたしはカバンから携帯を取り出す。

「おーい、よっすぃー。聞いてる?」
「聞いてません」
「あっ、むかつくぅ」
やっぱり梨華ちゃん、昨日のコトまだ気にして…。
矢口さんのアドバイスにも耳を貸さず、あたしは梨華ちゃんを追って楽屋を飛び出した。
79 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時07分16秒
確かに、矢口さんの言うコトもわかる。
あたしだって落ち込んでるときは、一人になりたいって思うコトあるし…だけど、彼女はちがう。
一人になんかしたら、ぜったいにダメだ。
一人ぼっちになったら、梨華ちゃんは…もっともっと落ち込んでくだけだもん。

エレベーターの中から、梨華ちゃんに電話する…けど、やっぱりつながらない。
昨日から何度も何度もかけてるのにココまで無視されると(不幸メールはもらったけど)、悪いのはあたしの方なんだけど…
なんか納得いかない。
何としても梨華ちゃんをつかまえて、直接抗議してやる…電話はあきらめ、エレベーターが1階に着くのを待つ。
そして、ドアが完全に開くのを待たずにあたしは外へと飛び出した。

走って通りへ出ると、まだそう遠くへは行っていないはずの梨華ちゃんを必死に探す。
日も暮れかけて薄暗いから周りが見えにくいんだけど…人通りがほとんどないから、居ればすぐ目につくはず。

まだそう遠くへは行ってないはずの梨華ちゃん、のはずだったのに…走っても走っても、彼女の姿はどこにもない。
信号の前まで来たところで立ち止まって、あがった息を整える。
80 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時08分23秒
全力疾走のせいで爆発寸前の左胸を押さえながら、目を閉じる。
目を開けてても瞑ってても、寝ても覚めても、真っ先に浮かんでくるのはあのコの顔ばかり。
あたしがいつも彼女を追いかけるのは…補習のためなんかじゃない、ヤマザキに勝つためでもない、答えはもっと単純なコト。

あたしは…誰よりもイチバン、梨華ちゃんのコトを知っていたい。


おねがい、神様。
あたしを今すぐ、梨華ちゃんに会わせてください。
今日から一年間、ベーグル食べるのガマンしますから…あ、あとタマゴも。
81 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時09分41秒
「あっ!!」
あたしの願いが通じたのか、目を開けると向かい側の通りに梨華ちゃんの姿が見えた。
俯いて歩く梨華ちゃんの後ろ姿を見失わないように目で追いながら、信号が変わるのを待つ。

遠ざかっていく後ろ姿を見ながら、ムダとは思いつつも彼女の携帯にかけてみる。
呼び出しが始まると、梨華ちゃんは立ち止まってポケットからそれを取り出した。

『ただいま、電話に出られません』
「………」
次の瞬間あたしの耳に飛び込んできたのは、梨華ちゃんではなく知らない女のヒトの機械的な音声。
どうやら、相手があたしだったんでいきなりブチ切ったらしい。

梨華ちゃん、あたしからの電話だけを選んで避けてる…けっこー、傷ついちゃったんですけど。
こうなったら非通知で…そう思った瞬間、梨華ちゃんがいきなり全速力で走り出した。

「ちょっ…!!」
このまま信号が変わるのを待っていたら、梨華ちゃんを見失ってしまう…車道を挟んだ向かい側の通りを疾走する彼女を追って、
あたしも走る。
82 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時10分44秒
「梨華ちゃん!!梨華ちゃーーーーんっ!!!」
電話も完全無視され、このまま並行して走ってても彼女に会えるワケはないので…あたしは思い切って大声でその名前を呼んだ。
あたしの呼び声に梨華ちゃんは、立ち止まって周りをキョロキョロと見回した後…反対側の通りに立つあたしに気付く。

「梨華ちゃん!!」
あたしは大きく手を振りながら、もう一度大声で彼女の名前を呼ぶ。
梨華ちゃんが立ち止まっている間にやっと、車道を挟んだ彼女の真正面の位置まで走りついた。

「梨華ちゃん!梨華ちゃん!!」
呆然と立ち尽くす彼女に、あたしは手を振りながら何度も呼びかける。
ひっきりなしに通り過ぎる車やバスの隙間から見える彼女の表情は…あたしの予想とは少し、いやかなり違って見えた。
心配して追っかけてきたんだから、もっとうれしそうなカオするかと思ったのに…なんか、すごい勢いでニラまれてる気がするんだけど。

「…っ!!」
睨みつけられて固まるあたしを、突然鳴り出した着信音がさらに驚かす。
本来ならうれしいはずの梨華ちゃんコールだけど、この時ばかりはとってもいやーな予感がしてあたしは少し躊躇した。
83 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時11分52秒
『もーっ、やめてよ!!』
ああ、やっぱり…電話の向こうから聞こえた彼女の第一声は、予想通りの怒鳴り声。
でも、何をそんなに怒ってるんだろう…?

『あんな大声で…恥ずかしいよ!!』
なるほど、あたしが大声で彼女の名前を呼んだコトに怒ってたのか…。

「大丈夫だよ、誰もいないもん。車しか通ってないじゃん」
『車の中から見られてるよ!どうしてあんなコトするの!?』
「見られてないよ!っていうか梨華ちゃん、気にしすぎ!!誰も梨華ちゃんのコトなんか見てないんだから平気だよ!!」
『…ひどい』
「やっ、ちがっ…そういう意味じゃなくて。なんか梨華ちゃん、いろんなコト気にしすぎだって思ってそれで…」
うっかり暴言を吐いてしまった上にフォローする言葉も見つからず、あたしはしどろもどろ。
地道な研究活動も、発表の場で全て台無し…吉澤ハカセは、本番に弱い。


『もういい…じゃあね』
「お願い、待って!!」
会話を終わらそうとする梨華ちゃんを、必死の思いでひきとめる。
あたしの懇願に無言ながらも、梨華ちゃんは電話を切るのを思いとどまってくれた様子。
84 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時13分16秒
「あたしの、せい?」
『…なにが?』
あたしの問いかけに、梨華ちゃんは小さな声で聞き返してくる。

「落ち込んでるの…あたしが、原因?」
『ちがうよ』
「えっ、違うの?」
彼女が昨日のコトを気にして落ち込んでいるのだとばかり思っていたあたしは、その答えに拍子抜けしてしまった。
同時に、彼女のフキゲンの理由があたしじゃなかったコトに少しだけがっかりしている自分に気付く。

『それもあるけど、でも…それだけじゃないから』
「何か、あった?」
次々と流れていく車の隙間から見える梨華ちゃんは完全に下を向いてしまっていて、その表情を窺い知るコトはできない。


『……今日、どうだった?あたし』
「えっ?」
少し間を置いて、梨華ちゃんが唐突な質問を浴びせてくる。

『ねぇ、どうだった?』
「可愛かった」
『………』
「あっ、そういうコトじゃなくて?」
ここ数日間の経験からそろそろ引かれるコトにも慣れてきたあたしは…梨華ちゃんのシカトにもめげず、彼女が
落ち込んでいる原因について考えてみる。
85 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時15分15秒
「仕事の、コト?」
『…うん。歌、撮ったでしょ?今日』
梨華ちゃんが言ってるのは、今日ココへ来て最初にやった仕事…新曲のスタジオ収録。

「何で?うまくいったじゃん。別に、問題なかったっしょ?」
『ホントに、そう思う?』
いっつもいろんなコト気にして、自分を追い込んで落ち込んで…梨華ちゃんのそういうトコ、娘に入った時からあんまり変わってない。

「思うよ。梨華ちゃんは、ちがうの?」
『わかんない。わかんないから…すっごく不安』
「うん」
『あたし…まだぜんぜん自信ないのに、なのに新しいコたちが入ってきたらまた…』
「ああ…そっか」
数日前に決まった新メンバー、つまりあたしたちの後輩…まだ一回会っただけだから、どんな人たちなのかもよくわからないけど。

今度の新曲で初めてセンターを任されて、タダでさえプレッシャー感じまくってた梨華ちゃんだから…この上メンバーが4人も
増えるコトになって混乱しちゃってるんだろうなぁ。
原因は…とても梨華ちゃんらしい、わかりやすいモノだった。
86 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時16分30秒

「梨華ちゃん」
『え?』
「ばーか」
『えっっ!?』
とりあえずあたしは、彼女から今朝届いた意地悪メールのお返しを済ませると…一方的に電話を切った。
続いて驚くべき早業で、梨華ちゃんに今度はメールを送信する。


『梨華ちゃんへ。勇気をあげます。サンタクロースより。』


梨華ちゃん…おぼえてる?
雑誌で読んだ、梨華ちゃんの『サンタさんにお願いしたいコト』。
勇気をください、って書いてあった。
87 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時17分34秒
「もしもし」
しばらくして、あたしの携帯を鳴らす梨華ちゃんコール…今度は、怒ってなきゃいいけど。

『よっすぃー…ありがと』
「なにが?」
『メール』
「あれは…あたしじゃないよ?サンタさんからだよ」
電話の向こうで、梨華ちゃんがくすっと笑う。

『夏なのに?』
「ちょっと間違えちゃったんじゃない?サンタクロースの国はさ、一年じゅう真冬なんだよ。たぶん」
『そっか、ちょっとマヌケなサンタさんだね』
「うん。でも、梨華ちゃんのコトなら何だって知ってるサンタさんだよ?」
『そっか、すごいね』
「すごいっしょ」
車と車の間から、楽しそうに笑う梨華ちゃんの姿が見えた。

「さっきのコトだけど…」
『え?』
「梨華ちゃん、不安だって言ってたけど…そんなの、あたしだって一緒だよ?」
『………』
「だからさぁ、だから…いっしょに、がんばろ?」
『…うん』
あたしの言葉に頷く梨華ちゃんの顔は走る車に遮られて見えなかったけど、たぶん…いつもみたいに笑ってくれていたはず。
88 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月09日(日)19時18分51秒
「あのさ、おなかすかない?コンビニ寄ってこうよ」
『うん』
梨華ちゃんが歩いてる通りの先にあるコンビニに向かって、あたしたちは歩き出した。
沈みかけた夕日が、梨華ちゃんの笑顔を照らし出す。

補習は明日で終わっちゃうけど…誰かのコトを知るための勉強に、終わりなんてないんだ。
これからいろんなコトたくさんあると思うけど…そのたびに増えてく新しい梨華ちゃんを、そのたびにあたしも勉強していくから。

本当に知りたいコトは、三角定規じゃ測れないようなモノばかりだけど…そういう勉強の方が、あたしには向いてると思った。
理科は超苦手だけど、梨華ちゃんの問題なら何だって解けそうな気がする。
みんな、悪いけど明日のテストは…もらったよ?


『また、ゆでたまご買うんでしょ?』
「あー、どうしよっかなぁ…」

(今日から一年間、ベーグル食べるのガマンしますから…あ、あとタマゴも。)
神様、ベーグルとタマゴ…明日から一年間にしてもイイですか?



ちょっとだけ幸せな気分で、四日目の夕日が沈んでゆく。
89 名前:すてっぷ 投稿日:2001年09月09日(日)19時20分07秒
更新遅れましたが…次で最終回の予定です。
90 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月09日(日)19時53分41秒
やっぱ、すてっぷさん最高だわ。(w
前の話からも、ずっと読んでます。
がんばって下さい。
91 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月09日(日)20時27分33秒
寝る時は黒のジャージとトレーナーか φ(..)メモメモ
座右の銘も知らなかった
ヲタ歴長いはずなのに・・・
92 名前:あべし 投稿日:2001年09月09日(日)20時38分35秒
いやー、楽しいっすね!
吉澤の言葉も石川の言葉もどことなく笑えるし(w
頑張ってください!応援してますよ!
93 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月09日(日)21時47分18秒
甘痛ならぬ甘ネタって感じですね(w
最終回楽しみにしてます。
94 名前:空唄 投稿日:2001年09月10日(月)02時03分51秒
やっぱり、補習期間が終わると同時に、この話も終わるんですね。
残念っす。
とりあえず、最終回でのドクターの活躍に期待。
95 名前:すてっぷ 投稿日:2001年09月15日(土)05時05分33秒
>90 名無し読者さん
ありがとうございます。毎回お付き合いいただいているようで、本当に感謝です!!
最終回でもそう言っていただけるかどうか、不安なのですが…(笑)

>91 名無し読者さん
メモまで取っていただき、ありがとうございます。
でも慌てて調べた、にわか知識ですので…あまり信じない方が(笑)

>92 あべしさん
ありがとうございます。2人の会話については、なるべくそれぞれの『らしさ』を出したいと
思っているのですが…とりあえず、笑ってもらえたってことで安心しました(笑)

>93 名無し読者さん
ありがとうございます。甘ネタ(笑)…シリアスなシーンに使えそうなネタがなかなか見つからず泣けてきました。
笑えそうなネタはたくさんあったんですが(笑)

>94 空唄さん
ありがとうございます。補習終了と同時にこの話も終わりですが…そう言っていただけて本当にうれしいです。
最終回、ドクターのがんばりが報われるかどうか…期待、していいかどうか分かりませんが(笑)
96 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月15日(土)05時07分30秒

<最終日>


「周囲の人もファンの人たちも新メンバーということで、まだいろいろできなくても、あたたかい目で見てくださったと思うんです。
けど、もう新メンバーという部分にあまえてちゃいけないんですよね。

(中略)
私の場合、ゆっくりやっていけばいいなんて言ってられないです。
『別にアセらなくてもいいや』って気持ちでいると、もうダメになっちゃうと思うんですよぉ。
もちろんアセらなくてもいいとこもあるけど、でも不得意な部分に関しては、しっかりアセんないといけないと思う。
前に前に。積極的に。でも、空回りはしないように…と思ってても、なかなかそうはいかないんですけどねー(苦笑)。
私ねー、すっごい悩んじゃうタイプなんですよ、ほんとに。もうねー、まわりから『ネガティブ石川』とか言われたり。
お仕事の部分で悩むことも多いし、家族のことで悩むこともあるし…。

(中略)
これからは『新メンバー』と呼ばれなくなってくると思うんですけど…でもモーニング娘。に選ばれた時の、あのうれしい気持ち、
心臓が高鳴るようなドキドキ感は、ずっとずっと忘れないようにやっていきたいですっ」
97 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月15日(土)05時09分37秒
「「「おおーっ…」」」
周囲から、感嘆の声が漏れる。
昼食後のひととき、あたしは周りの男子に梨華ちゃんのインタビュー『これからの私』(もちろん暗唱。ちょっとモノマネ入り)を披露。

「すげー…さすが吉澤」
「でしょぉ?もー、何でも聞いてよ」
ジュース片手に尊敬のまなざしを向けてくる彼らに囲まれて、気分はすっかり天才少女。


長かった5日間の補習も、今日が最終日。
この5日間、本当にいろんなコトがあったけど…あたしにとっては忘れられない大切な5日間だった。
98 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月15日(土)05時11分03秒
(『あたしはっ…梨華ちゃんのコトなら何だって知ってるんだからね!!!』)
はじまりは、とんでもない大ウソだったけど…最後にはちゃんとホントのコトになったもんね。

『終わりよければすべてよし』、あいぼんに教えてもらったことわざを思い出す。
中2のあいぼんにことわざを教わる高1のあたしもどうなんだろ、って思うけど…そんなコトは気にしない。
だって学校の勉強よりももっと楽しくて大切なコトを、あたしは夏休み最後の一週間で学ぶコトができたのだから。


「ねーねー、他には?」
「じゃあねー…さっきのよりちょっと古いけど、『恋愛レボリューション21について』」
「「「おおーっ!!」」」
「いきます…。えっとぉ、21世紀に向けてぇ」
低めの地声を数オクターブ上げて梨華ちゃん風に語り始めたところで、突然ポケットの中で携帯が震える。

「ちょっとゴメン」
あたしは発表を一時中断し、取り囲む男子たちをかき分けて教室を出た。
99 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月15日(土)05時12分07秒
『よっすぃー…今、だいじょうぶ?』
「うん、へーき」
梨華ちゃんからの電話に、あたしの返事も自然と弾んだ声になる。

『今、お昼休みだよね?』
「うん、そうだよ」
『なに食べたの?おべんとう?』
「ううん、コンビニのパン。夏休みだからってお母さん作ってくんなくてさぁ」
『そうなんだ…あっ、わかった。またコンビニでタマゴ買ったんでしょ』
「ひっどぉ、梨華ちゃんさぁ…あたしがいっつもタマゴばっか食べてると思ったら大間違いだからね」
『ちがうの?』
「ちがいますぅ」
食べれなかったんですぅ、ある事情から。(→四日目の誓い)


『あの…』
一通りの会話の後で、梨華ちゃんが切り出した。
『がんばってね』
「へっ?」
予想もしなかった彼女の言葉に、あたしは思わずマヌケな声で聞き返してしまった。

『今日…テストだって言ってたから』
ああ、そっか…それで電話してきてくれたんだ。
そう言えば、補習の最終日にテストがあるってコト、梨華ちゃんとの何気ない会話の中で話したような気がする。
もちろん、それが何のテストかってコトは喋ってないはずだけど。
100 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月15日(土)05時13分49秒
「ありがとう。今日はねー、これから…梨華のテストなんだ」
『理科?そっか、がんばってね』
「うん。っていうか、楽勝だけどね」
『あははっ、ホントにぃ?』
電話の向こうで、梨華ちゃんが笑う。

でも、ホントだよ?
吉澤さんは梨華ちゃんの問題なら、何だって解けるし誰にだって負けないんだから。


「ゴメン梨華ちゃん、授業始まっちゃう」
『あっ、ゴメン…お昼休みつぶれちゃったね』
「いいってそんなの。終わったら、電話するね」
『うん、がんばってね』
「もー、何回言うんだよぉ。逆にプレッシャーだって」
『あはっ、そっかそっか』

衝撃の告白も重大発表も何もない、いつも通り普通の会話なのに…こんなに元気になれて、こんなにしあわせで。
何でもない会話や何気ないひとことで傷ついたりはしゃいだりしちゃうのは、きっと…梨華ちゃんが、特別で大切なヒトだから。
コレが、5日間の補習であたしがたどりついた…『梨華T』の答え。
101 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月15日(土)05時15分18秒
「はじめ!!」
先生の開始宣言と同時に、伏せてあった机の上の問題用紙を裏返す。
あたしは大きく一回深呼吸すると、シャーペンを手にとって問題に取りかかった。

冒頭の問題は、梨華ちゃんのプロフィール。
誕生日に星座に血液型…どれも、『梨華T』クラスのあたしたちにとっては常識的な問題。
誰一人として間違える者などいないだろう、しかしそれだけにミスは許されない。
プロフィール問題を一通り解き終えた後、自分の答えを何度も確認する…よし、カンペキ。


問5>ハロウィンで仮装したい衣装は?
おっ、このへんからちょっとマニアックな問題になってきたよ?
答えは…『白いカーテンを被ったオバケ』っと。
回答用紙に答えを書きながらあたしは、ハロウィンにて甲高い声で『お菓子をよこせ』と迫る梨華ちゃんの姿を想像して
思わず吹き出してしまった。

問6>短所(本人談)は?
本人談ね、えっと…『1.すぐに眠くなる(メイク中でも寝る)、2.記憶力がない』って…梨華ちゃん、のび太くんみたいだなぁ。

こんな調子であたしは…常識問題からちょっとしたカルト問題まで、次々と順調に回答していった。
102 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月15日(土)05時17分06秒
「うわっ、すげっ!!」
突然、教室の後ろの方で声があがる。
50分間にわたるテストも無事終了し、ただいまクラスみんなの回答用紙をシャッフルして全員で採点中。

「こら!まだ言うな。じゃあ、裏返しにして前に回せー」
先生の指示通りに裏返された回答用紙の束が、後ろの席のコから回ってくる。
一番前に座っていたあたしは机の上でその束をキレイに揃えると、回収しに来た先生にそれを手渡した。

「どれどれ…うん、いいぞ。みんな、よくがんばったな…うれしいなぁ、うん」
わかったから早く発表してよ…採点済みの回答用紙を一枚ずつ見ながらニヤつく先生の様子に、あたしの苛立ちは増すばかり。
「センセー、いいから早くしてよ」
あたしに代わって先生に抗議してくれたのは、ひさびさ登場の彼、ヤマザキ。
コイツに同意するのはかなり気に入らなかったけど…彼の言葉に、あたしもうんうんと頷いて無言の抗議。

「わかったわかった。じゃあ、言おうかな」
先生の言葉に、教室中が緊張の空気に包まれる。
103 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月15日(土)05時18分59秒
「実は一人だけ、満点を取ったすごい人がいます。彼女こそ、『梨華T』の王様、キングオブ梨華ちゃんです!!
さあ、発表するぞ!!誰かな!?そのすごい人は!!」
自分が握っている情報をなかなか教えてくれようとしない先生は、見守るあたしたちに向かってこれでもかと話を盛り上げてくる。

「いや、発表もなにも…『彼女』っつっちゃったよ、先生」
「この中で女子は吉澤さんしかいないと思うんですけど…」
「ああーっ、やってもーたぁ…」
男子たちの鋭い指摘に、がくりと肩を落とす先生。

「………」
ダメ先生のうっかりミスのおかげで、満点を取った喜びもなんだか半減してしまったが…それでも、うれしいモノはうれしい。
他のコの回答を採点しながら、もしかしたら…とは思ってたけど、まさか1問もミスらず解けていたなんて。

「おめでとう、吉澤」
「すごいよ、吉澤さん」
教室のあちこちから聞こえてきた声に、思わず振り返る。
うそっ、もしかしてみんな…あたしのコト、祝福してくれてる?

そして教室中で巻き起こる、拍手の嵐。
ああ、みんな…。
104 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月15日(土)05時20分52秒
「吉澤」
はっ、この声は…聞きたくもなかったイヤな声にあたしは、せっかくの浮かれた気分が一気に冷めてゆくのを感じた。
斜め後ろの席に座る彼が、立ち上がってあたしの方へ歩み寄ってくる。
コイツに上から見下ろされるのは嫌だったので、あたしも立ち上がって彼の正面に立った。

「あの、さ…こないだのやつ取り消すよ、『仲悪い』って言ったの」
「えっ!?」
嫌味しか出てこないと思っていた彼の口から、こんな言葉が聞けるなんて…あたしは、自分の耳を疑った。

「おめでとう。梨華ちゃんは…お前にやる」
いや、『やる』って言われても…という戸惑いと、っていうかはじめっからお前のモンじゃないだろ…という怒りを
そっと胸にしまって、あたしは微笑んだ。

「ありがとう」
ありがとう、ヤマザキくん。
ありがとう、みんな。

あたしを祝福する拍手は鳴り止むどころか、どんどん大きくなっていく。
そして数人の生徒が立ち上がったと思ったら、次々と…気がつけば教室中の生徒全員が立ち上がって拍手を送ってくれていた。
コレは…スタンディングオベーション、っつーやつじゃん!!すっげー!!!
105 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月15日(土)05時22分46秒
『梨華T』クラスのなかまたちに称えられてあたしは今、長かった補習を終えた充実感とクラスでイチバンになれた喜びを
カラダいっぱいに感じていた。
黒板の前に立って教室中を見渡すと、そこには…あたしに心からの拍手を送ってくれる、みんなの笑顔があった。

「みんな、ありがとーっ!!」
ありがとう、みんな…よっすぃーはこれからも、(梨華ちゃん)ファンのみんなのために一生懸命がんばるからね!!
だからこれからは梨華ちゃんだけじゃなく、吉澤ひとみもよろしくねっ!!


教室を出たらすぐ、梨華ちゃんに電話しよう。
そして、いちばんに伝えるんだ。
『あたしは、梨華ちゃんのコトなら何だって知ってるんだから』…って。

鳴り止まない拍手、湧き上がる歓声、すべてがあたしに向けられている…もー、さいっこーの気分!!!
愛してる。大好きだよ、梨華ちゃーーーーん!!!


「こらーっ!!!何やってるんだ、おまえらーっ!!!」
勢いよく開けられたドアの音と怒鳴り声に、さっきまでの大騒ぎがウソのように教室中がしんと静まりかえる。
びっくりしたあたしは、その場に突っ立ったまま固まっていた。
106 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月15日(土)05時24分58秒
「隣は今テスト中なんですよ!?何考えてるんだ!!」
「…すみません」
突然教室に入ってきた先生(担当教科は理科)に叱られてペコペコと頭を下げる、あたしのクラス担任(担当教科は数学と梨華)。

「ん?吉澤…お前、何やってんだ」
怒鳴り終えて少し落ち着いた様子の先生が、教卓の横に立つあたしに気付いて話しかけてくる。

「補習に出てこないと思ったら、こんなところで…そうかそうか、よーくわかった。そっちがその気ならこっちもそれなりの…」
「えっ?えっ?補習って…だって、補習って、コレが補習じゃないんですか!?」
いきなり怒鳴り込んできた上にワケのわからない言いがかりをつけられて、あたしはすっかり混乱してしまった。

「コレのどこが補習なんだよ」
「えーっ!?だって、『梨華T』って、『梨華T』って…ちゃんとした教科なんですよねっ!?ねっ、先生!!」
パニクったあたしは、思わず隣にいた先生(梨華T)に助けを求める。


「いや…オレらは、趣味でやってんだけど」
「ええーっっ!?」
趣味って!?趣味っつった、今!?うそでしょぉー!?
107 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月15日(土)05時26分44秒
「てっきりオレ、お前が補習よりこっちの授業選んだのかと思ってたんだけど」
「そんなワケないっしょー!!!」
先生に猛抗議しつつあたしは、ようやく事態を把握した。
てっきり変な世界に迷い込んでしまったと思っていたこの授業は先生たちが教室を借りて勝手にやっていた単なる『趣味』で、
あたしが本来受けるはずだった補習は、この5日間ずっと隣の教室で行われていた…そういうコトなんだろうなぁ、たぶん。

「吉澤、覚悟しとけよ」
「えーっ!?だってあたしはてっきり、変な世界に迷い込んじゃったって思っててそれで、だからっ…」
哀れな生徒をばっさり斬り捨てる先生(理科)の冷酷な一言に、あたしは何とか許してもらおうと必死で言い訳を探す。

「まあ…確かに、『変な世界』には違いないけどな」
しかしその必死の言い訳も、逆に鼻で笑われる結果に終わってしまった。
「なにぃ!?失礼ですよ、撤回してください!!」
そしてそれを聞き逃さなかった先生(梨華)が、暴言に対してすかさず食ってかかる。
108 名前:知りたい!君のすべて!! 投稿日:2001年09月15日(土)05時29分54秒
「嫌だね。とにかく静かにしてくれ、こっちは隣でまともな授業やってるんだから」
「うるさい、このバカ!!」
「なっ!?バカとはなんだ、バカとは!!」
理科の先生 VS 梨華の先生。
哀しいけど…バカは、明らかに後者だと思った。

「吉澤」
カバンを開けて帰る準備をしていると、ケンカを一時中断したらしい先生(理科)に呼ばれて顔を上げる。

「休み明けたら、お前だけ追試な」
「…はい」
梨華ちゃんの『これからの私』なんて暗記してる場合じゃなかった…誰か、これからのあたしはどうなっちゃうのかおしえてください。

「吉澤」
「なに?」
席を立ったあたしの腕を、ヤマザキが掴んで引き留める。

「今度、梨華ちゃんのサインもらってきて」
「うるさい。放せ」
彼の手を振り解きながら、そういえば最近セミの声を聞かないなぁ…なんてコトを考えていた。
吉澤ひとみ16歳の夏が、もうすぐ終わろうとしている。


教室を出たらすぐ、梨華ちゃんに電話しよう。
そして、いちばんに伝えるんだ。

新学期が始まったら、あたし…転校するかもしれない、と。



<END>
109 名前:すてっぷ 投稿日:2001年09月15日(土)05時32分37秒
むちゃくちゃに始まったこの話も、とりあえず何とか終了することができました。
お付き合いいただき、ありがとうございました!!
110 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月15日(土)06時55分17秒
おつかれさまでした。
天然ぎみのよっすぃ〜が最高でした。
次回作?もあるのでしょうか?
あれば楽しみにしています。
111 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月15日(土)07時04分08秒
吉澤は満点も取ったし、梨華ちゃんももらえたことだし、めでたしめでたし、
かな。「変な世界」(笑)でのことではあるけど。
わざわざ休み中に出てきて、趣味で! 先生までこんなことやってるとは、な
んておバカな、しかし楽しい人たちなんだ。
なんだか梨華ちゃんとひきかえに、結構な代償を支払うことになりそうな吉澤
ではあるけれど、梨華ちゃんにつりあうものなんてないやね……ってそういう
問題じゃないかも。(笑)
まずはお疲れ様でした。また、次回作を楽しみにしています。
112 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月15日(土)07時21分25秒
やられた(w ある意味前作が壮大なネタ振りだったんですね。
とっても楽しかったです。
次回作もがんばってください。
113 名前:LVR 投稿日:2001年09月15日(土)15時56分46秒
今回の話、実は全て現実世界だったんですね。
すてっぷさん初の快挙です(w
でも、ステップさんの作品が終わるたびに、もう読めないのかと寂しくなります。
ともかく、最後の一行はワラタ。
114 名前:もんじゃ 投稿日:2001年09月18日(火)17時56分19秒
すてっぷさん、お疲れ様でした。
私も104のヤマザキとのやりとりと、最後のセリフが最高に笑えました(笑)
あぁ、でもこんなよっすぃーに梨華ちゃんが付いてけるのか心配です。
でも梨華ちゃんなら大丈夫か…。

115 名前:あべし 投稿日:2001年09月18日(火)20時16分46秒
いや〜、裏切られましたね!
「趣味で」って、予想外だったですよ!
とても面白かったです!お疲れさまでした!
116 名前:すてっぷ 投稿日:2001年09月19日(水)22時25分52秒
>110 名無し読者さん
ありがとうございます。天然ぎみに暴走していく様子が伝わりましたでしょうか?(笑)
次回もまたバカな話になると思いますが、お付き合いいただけるとうれしいです。

>111 名無し読者さん
ありがとうございます。今回は別なイミで「変な世界」の出来事でした。
めでたしめでたし、ハッピーエンドと受け取ってもらえて良かった良かった(笑)。
先生といいヤマザキといい、娘より架空の人物たちの方が活躍してたような気がしなくもないですが。
次回もいつもながら、むちゃくちゃな話になりそうです…。
とりあえず書いてみて最後まで続けられそうだったら(笑)、またここで始めたいと思います。

>112 名無し読者さん
ありがとうございます。なるほど、ココでおとすために前作があったんですね…(笑)
次回以降も、全て今回のようなオチにできれば楽ですよね(笑)
117 名前:すてっぷ 投稿日:2001年09月19日(水)22時27分51秒
>113 LVRさん
ありがとうございます。初の快挙(笑)、気付いていただけましたか…。
最後の一行は、散々悩んで決めておきながら更新直前に付け足したり差し替えたりすることが多いです。
今回もそうだったのですが…気に入っていただけて何よりです(笑)

>114 もんじゃさん
ありがとうございます。(一応)架空の人物であるヤマザキ、ちょっと出しすぎたかもと思っていたのですが
…感想いただけてうれしいです。確かに今回はよっすぃーがかなり暴走しましたね、付いていけないほどに(笑)

>115 あべしさん
「趣味で」…かなり強引なオチだったので怒られやしないかとちょっとビクビクしていましたが(笑)、
そう言っていただけて安心しました。ありがとうございました!
118 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時33分50秒
「ただいまー…」
玄関のドアを開け、誰もいない真っ暗な部屋に向かって呟く。
ただいま、なんて言ったって返事を返してくれるヒトなんか居ないコトは分かっている。居たら恐いし。
靴を脱いで中へ入るとキッチンへ直行、冷蔵庫から良く冷えた缶ウーロン茶を取り出す。

出かけるときは、『いってきます』。帰ってきたら、『ただいま』。
上京して四年、一人暮らしにも慣れたつもりでいるけど…この習慣だけは変わらない。
一人ぼっちの寂しさからっていうのもあるんだけど、それよりも自分への励ましっていうか、そういう気持ちを込めて。
私から私への『いってきます』は、私から私への、『今日も一日がんばってくるからね』。
私から私への『ただいま』は、私から私への、『今日も一日がんばってきたからね』。

一人ぼっちの寂しさなんて感じているヒマも無いっていうのが現実だもんね。
ただひたすら、『がんばれー、がんばれー』って自分を励まし続ける日々。
最近は、ゆっくり考え事(メンバーには『交信』なんて言われてるけど)してるヒマも無いし。


ああ、今日も疲れたなぁー……。
119 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時35分18秒
今日だけじゃない。昨日も一昨日も、その前の日も、さらにその前の日だって…『疲れた』って思わない日はない。
ついこないだだって24時間ずーっと起きっぱなしで仕事してさ、だけどそれが終わったってほとんどお休みもなくてさ。

「リーダー、飯田圭織です」
鏡に向かって一人呟く。
たった今言葉を発したのは他の誰でもない、私なのに…鏡に映る自分は何だか別人のようで、変な感じ。

卒業した裕ちゃんからリーダーという立場を引き継いで、忙しい日々に追われながらも私なりにみんなをまとめようと
頑張っているつもりだけど…ふとした瞬間に湧き上がる、疑問。

『どうして、私なんだろう?』
『みんな、本当に私で良いと思ってる?』


……そんなことを考えながら一体どれくらいの間、鏡に向かっていただろう?
何時ごろ家に着いたかも覚えていない。そもそも、帰ってから時計も見てないし。
こんなことじゃいけないよね、リーダーなんだから。
明日からは、時計見てから鏡見るようにしよう。うん、そうしよう。

今日もまた一つリーダーとしての課題を自分に課した私は、疲れた体を引きずってバスルームへと向かった。
120 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時36分22秒

―――

『…圭織、飯田圭織よ。起きなさい』

「……?」
ベッドに入ってウトウトし始めたところで…どこからともなく聞こえてきた不思議な声に起こされて、私は目を開けた。

「どちら様ですか?」
私は仰向けに寝たままで、声の主に尋ねる。

『もう少し驚くかと思って身構えていたのだが、その必要はなかったようだな。私は神だ』
その声は耳から入ってくるというのではなく、私の中に直接語りかけてくるような不思議な感覚で伝わってくる。

「へぇ」
私は仰向けに寝たままで、声の主に答える。

『もう少し驚くかと思って身構えていたのだが、その必要はなかったようだな。驚かないのか?神だと言っているのだが』
その声は耳から入ってくるというのではなく、私の中に直接語りかけてくるような不思議な感覚で伝わってくる。

「…ちょっと待って。電気点けるから」
眠い目をこすりながら、むくっと体を起こす。

『その必要はない。明るくしても私の姿はお前には見えんから意味が無い』
その声は耳から入ってくるというのではなく、私の中に直接語りかけてくるような不思議な感覚で伝わってくる。
121 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時37分14秒
「え……?ええええーーーっっ!?」
見えないって、見えないってどういうこと!?やだ、うそっ、オバケっ!?

『なんだなんだ!?いやー、そこで驚くとは思わなかった…油断したぞ、飯田圭織よ』
「きゃーーーっっ!!」
なになに!?明るくしても見えない上に、私の名前まで知ってるなんて!!しかもフルネーム!?どういうこと!?
私は慌ててベッドから飛び起きると、何か武器になるようなモノを探して部屋中をウロウロと歩き回った。

『落ち着きなさい。姿が見えないのにどうやって戦うつもりだ』
「………あっ!」
そっか、そうだよそうだよ、どうしよう…。

『お前は気付いていないようだから一応教えておくが…なぜお前が私と戦おうとしているのかが私に分かったかというと、
それは私がお前の心の中を読んだからだ』
「………えっ?」
どういうこと?

『だからー…。お前は今、武器になるような物を探そうと思っていただろう?』
ええーっ!?
「何で!?何でそんなことがわかんのー!?」
姿の見えない、声の主に向かって叫ぶ。

『私がお前の心の中を読んだから』
「………えっ?」
どういうこと?
122 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時38分12秒
『だからー!!私は神で、神にはそのような特別な能力が備わっているからだ!!
お前の考えていることも、私には全てお見通しなんだ!!わかったか!!』
「………はい」
理由はわからなかったが声の主は何だか怒っているようだったので、半信半疑ながらも私は頷いた。

『まあいい。今日ここへ来たのは他でもない。あ、立ったままでは疲れるだろう?座りなさい』
「………はい」
声の主に言われるがまま、私はベッドへ戻るとその上に正座した。

『お前の疲れを、癒してやろう』
「………はい。………えっ?」
眠いのでつい適当に相槌を打ってしまった後でその突拍子も無い内容に気付いて、私は声の主に聞き返す。

『眠いのはわかるが出来れば真面目に聞いてもらえるだろうか。あと、さっきからお前は私の事を『声の主』と呼んでいるが…
何度も言うように私は『神』だからな』
「………はい。あっ!?そっかそっかー、神様!!神様なんですよね!!うそっ、やっ…すごっ、すごい!!すごいすごい!!」
今私の目の前にいる(姿は見えないけど)声の主は、神様なんだ!!
どうしよう、かなり感動だよぉ。もー、青春ってカンジだよぉ。
123 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時39分12秒
『では手短に済ませよう。お前は今、疲れているな?肉体的にも、そして精神的にも』
「はい…すっごく、すっごく疲れてます!!裕ちゃんがいなくなって突然リーダーだって言われて、毎日忙しくて
睡眠時間だって少ないし、それにそれに…」
自分が抱え込んでいる悩みを誰かに聞いてもらいたくて一気にまくしたてた私だったが、その後に続く言葉に詰まってしまった。

『どうした?言ってみなさい』
さっきまでとは打って変わって本当に優しい声で、神様が聞いてくれる。

「それにもうすぐ、本当にもうすぐなんだけど…また新メンバーが入ってくるから。嫌とかそういうことじゃなくて、
リーダーとしてちゃんとやってけるかなぁって。これからは自分のことだけじゃなくて、グループ全体のこともちゃんと
考えてやってかなきゃとか、いろいろ考えてたら…何か、すっごい恐くて」
その優しい声音に導かれるように私は、誰にも言えなかった不安な気持ちを口にした。


『たった一つだけ、願い事を叶えてやろう。その疲れを癒してくれるような願いを、一つだけ言いなさい』
私の話を聞き終えた後で、神様が言った。
124 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時40分05秒
「一日だけ、一日だけでいいから…北海道に、帰りたい」
簡単なようで、今の私たちには到底叶えられない願い事。
たったひとつの願い事…例えばなっちに聞いたとしても、きっと同じことを願うはずだと思った。

『良いだろう。いつにする?』
「明日」
『明日!?』
私の答えに驚いたのか、神様の声が裏返る。

「ダメですか?」
『いや…仕事は、大丈夫なのか?』
「え…」
なに、この神様。神様のくせして妙に現実的…神様のくせして。

『失礼なやつめ。良いだろう、私に任せておきなさい。仕事と北海道、万事上手くいくことだろう』
「ホントにっ!?ありがとう!!ありがとう、神様!!」
神様への願い事だなんて…まるで奇跡みたい!!
うれしくて飛び跳ねたせいで、乗っていたベッドが大きく軋んだ。

『では、今日はゆっくり休むが良い』
「はい。ありがとうございます…神様」
明日になれば北海道に帰れる、明日になれば…でも神様の言う通り、今日はゆっくり休んで疲れをとらなきゃね。
逸る気持ちを押さえてベッドに横になると、目を閉じて…メンバーひとりひとりの顔を思い浮かべる。
125 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時41分27秒
おやすみ、矢口。
もうすぐミニモニの新曲、出るね。
矢口も最初は『こんな恥ずかしいのやってらんないよ…』なんて、よくカオリにボヤいてたもんだけど…最近は何だか
吹っ切れたみたいだよね。カオ、ちょっと安心したよ?

おやすみ、石川。
いつもいつも、がんばってるよね。トークもだいぶ慣れてきたみたいだけど、油断は禁物だよ?カオはそう思う。
いつもボーッとしてるって言われるカオリですら、石川が喋ってるの見ててちょっとドキッとしちゃう瞬間がたまにあるから。
がんばれ、石川。あ、でも…あんまりがんばりすぎるのも良くないか。難しいね。
あんまりがんばらないように、ほどほどにがんばって石川!

おやすみ、加護。
夏休みの宿題は終わった?終わってるワケないか。メンバーに手伝ってもらおうとか思ってるみたいだけど、
あんまり期待しない方が良いと思うよ?カオも、絵日記ぐらいだったら手伝ってあげても良いけど…ところで、
中学校の宿題で絵日記とかあるのかなぁ。とにかく宿題がんばれ、加護。
126 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時42分20秒
おやすみ、辻。
毎日暑いねー。でも、アイスとかき氷は食べ過ぎないようにしようね。
そう言えばカオ、こないだすっごい美味しいケーキ屋さんを見つけたのね、でね…

『わかったから…早く寝なさい』
まるで子守唄のように優しい神様の声を聞きながら…私は、ゆっくりと眠りに落ちてゆく。

おやすみ、みんな。





あっ、そうそう辻。さっきの話の続きだけど…

『寝なさい』
はい。おやすみなさい、神様。おやすみなさい、辻。
127 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時43分22秒

―――

「ふわぁぁー……ん?」
朝。目覚めてすぐ、大きなあくびをして窓の方に目をやると…カーテン越しに差し込んでくる日差しが妙に強いことに気が付く。
あれ?何でこんなに明るいの………?

「………!!うそっ、寝坊した!?」
ひょっとして、目覚まし鳴らなかったのかな!?
私は、慌てて枕元の目覚し時計に手を伸ばして時間を確認する。

「…なんだぁ」
見ると時計の針は起床予定時刻よりも10分早い、AM6時50分を指していた。

「さーってと…今日も一日、がんばりますかぁ」
上半身を起こすと、両手を上げて大きく伸びをする。
良く晴れた朝、しかも今朝は昨日までの暑さが嘘のように涼しくて…涼しいどころか、少し肌寒いような気さえする。
もしかして、エアコンつけっぱなしで寝ちゃったのかな…。

しばらくボーッとして目も覚めてきたところでベッドから下りると、ゆっくりとした足取りで窓際に近づく。
そしてカーテンの端に手を掛けると、一気に引いた。
そこから差し込んできた日差しのまぶしさに、思わず目を閉じる。


そして目を開けるとそこは…一面の、銀世界だった。
128 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時44分19秒
コレは……雪?
ああ、そっかそっか。窓の外があんなに明るかったのは、雪の照り返しのせいだったんだ。
どうりで寒いと思った…雪降ってるんじゃねぇ、そりゃ寒いよね。

雪……あっ、そうだ!
今日は少し早めに家出た方が良いかも知れない。
雪降ると必ず渋滞するもんね。北海道と違って東京は雪に弱いから…道は混むし、電車なんかすぐ止まっちゃうし。
そうだそうだ、そうと決まったら早く準備して出かけなくちゃ。


洗顔と歯磨きを済ませると、キッチンにてやかんを火にかける。
私の素敵な一日は、目覚めのコーヒーから始まる…超多忙な私に許された、ほんのひと時の安らぎ。

「モーニングコーヒー飲もーよぉー……ひとーりでぇ。ははっ、なーんちゃって」
どうしたんだろう、今日の私って…いつにも増してギャグも冴えてるし、それにノドの調子も、ベストコンディションって感じだし。
なんだか今日はいつもよりひんやりしててキレイに澄んでる、この部屋の空気のせいかな?

私は大きく深呼吸をして、朝の爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
よし。今日も一日、がんばれそうな気がしてきた。
129 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時45分20秒
今日は、朝からレギュラー番組の収録。
裕ちゃんが司会を務めるこの番組の収録がある日は、リーダーとしての重責から少しだけ解放されたような気分になれる。
だけど同時に、あの大所帯をきっちり仕切る裕ちゃんの姿を見ていると…自分の力量不足というか、ふがいなさみたいなモノを
痛感しちゃったりして、ちょっと情けない気分になってしまったりもするのだけれど。


「はいはいはい。わかったわかった」
ベッドに腰掛けて考え事などしていると、キッチンから聞こえてきたやかんのピーッというけたたましい音に私の思考は中断された。

「熱っ…!!」
火を止めたばかりでまだかなり熱を持っているやかんの取っ手に、うっかり素手で触れてしまった…熱いじゃんよー、もぅ。
水道の蛇口をひねると、冷たい水でやかんに触れた左手を冷やす。
ああ、びっくりした…すっごい熱くなってんだもん。

熱く、熱……あれ?
何だろう、何かひっかかる……うん、やっぱり何かおかしい。
熱い、厚い、暑い、夏は暑い、今朝は寒い、窓の外は雪、雪が降るのは冬、でも今は……夏。

…………?
………………!?
……………………!!!
130 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時46分38秒
「えっ!?えっ!?えっ!?ええええええええーーーーーーっっっ!?」
水を止めると窓の側までダッシュで駆け寄り、さっき見た景色をもう一度この目で確かめる。

「雪降ってる…雪降ってるべさああーーーーーっっ!!」
夏なのに、夏なのに…こんなことってあるの!?
地球温暖化?ううん、違う。それは逆。じゃあ一体なに!?
どうしよう、ねー、どうしよう!!

起きたばかりの時はキレイに晴れていた空が、今はどんよりと曇って外は物凄い吹雪。
ふと気が付くと、部屋の中の空気は肌寒いなんて言っていられないほど冷え切っている。
私はたまらず、エアコンのリモコンに手を伸ばした。
昨日まで『除湿』モードで作動させていた運転を『暖房』に切り替えて、スイッチを入れる。


そんなことより、どうしよう…どうしたらいいんだろう。
腕組みして部屋の中を歩き回っていると、ふとテーブルの上のコードレスフォンが目に入った。

そうだ!こういう時こそ、頼りになるあの人に…。
131 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時47分31秒
トゥルルル、トゥルルル…。
祈るような気持ちで受話器を握り締める私の耳に、12回目の呼び出し音が空しく響く。あ、今13回目鳴った。
ひょっとしてまだ寝てるのかな…そろそろ起きないと、遅刻しちゃうと思うんだけど大丈夫なのかなぁ。

『………』
「あっ!裕ちゃん!?」
半分諦めかけた頃、15回目のコールが途中で中断された。
まだ声は聞こえてこないものの、電話の向こうの裕ちゃんはやっと受話器を上げてくれた様子。

「裕ちゃん!裕ちゃん!聞こえる!?」
私は恐らく起きたばかりと思われる裕ちゃんに早く目覚めてもらうため、少し大きめの声でその名を連呼する。

『……………あ?』
受話器の向こうから聞こえてきた裕ちゃんの不機嫌そうな声に、私は彼女に電話したことを少しだけ後悔した。
どうしよう、やっぱ寝てたんだ…。

「あのね裕ちゃん、落ち着いて聞いて!!すごいの!!ものすごいコトが起こってるの!!」
寝起きの裕ちゃんはハンパじゃなく恐かったが、私は何とか気を取り直して今朝の異常気象についての説明を開始した。
132 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時48分28秒
『……誰やー……こんな夜中に…』
「夜中じゃないよ、もう朝だよ、裕ちゃん」
裕ちゃんは私の説明に驚くどころか、私の言葉などまるっきり聞いちゃいない様子。

『……チッ』
舌打ち!?

『イタ電かいな…』
「違うよ、外!!外見てよ、雪降ってんだよ!?ねぇ、お願いだから外…」
『今度やったら…知らんで?どうなっても…どうなってもな』
その言葉を最後に、裕ちゃんへの電話は一方的に切られてしまった。
ツー、ツー、ツー…私の耳元で、回線切断状態を知らせる機械音が規則正しくどこか哀しいリズムを刻んでいる。

「ああっっ…!!」
裕ちゃんひどい、ひどすぎるよ……信じてたのに。
失意のどん底に突き落とされたような気分で、ゆっくりと受話器を置く。
(寝起きの)裕ちゃんなんか、裕ちゃんなんか…大っ嫌い。


窓の外は、相変わらずの荒れ模様。
こうしちゃいられない…仕事、行かなきゃ。
133 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時49分50秒

―――

「あ、カオリおはよー」
「なっち!?」

集合時間の一時間前、誰もいないと思っていた楽屋のドアを開けると…そこには、意外にもなっちの姿。
自分より早く集合した者がいたことよりも、それが他の誰でもない、なっちであったことに驚いて…私は思わず
素っ頓狂な声を上げてしまった。
あの遅刻魔のなっちが…この現象も、やはり今朝の異常気象と何か関係があるんだろうか。

「そんな驚かなくたっていいじゃん、なっちだってたまには早く来るコトだってあんだよぉ?」
少しむくれてそう言ったなっちが今まさに口に運ぼうとしているモノに、私は目を奪われた。
なっちの目の前には、皮を剥かれた黄色い物体。
そしてテーブルの中央には、まだ手付かずの状態にあるそれが3個程、赤い筒状のネットに包まれて転がっている。

「なっち、それ…みかん?」
下を向いて渋皮をとる作業に没頭しているなっちに、恐る恐る尋ねる。
雪、冬、と来て連想されるモノと言えば、確かにみかんをおいて他には無いと思うけど…この季節に一体どこで
入手したのだろう?
134 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時50分49秒
「へへー、びっくりしたっしょ?でも夏みかんだよ、コレ。なーんか雪降ってんの見たらさぁ、急にみかん食べたくなっちゃって。
カオリも食べる?」
「あ、うん」
なんだ、夏みかんかぁ…なっちに勧められ、テーブルの上に転がった夏みかんに手を伸ばす。

「うん…おいしい」
なっちにもらった夏みかんの皮をキレイに剥いて一房を口に入れると、甘酸っぱい味が口いっぱいに広がった。
「でしょでしょ?やっぱ冬はみかんだよねー。あっ、でも冬じゃないのか…なーんか、変なカンジだねぇ」
私の反応を見てうれしそうに笑った後、視線を窓の外へ移してなっちが言った。

「今日はさぁ、すっごい寒かったじゃん、朝。で、寒くて目ぇ覚めたらいきなり雪降っててさぁ!!
そんで、ぜったい道混むべさって思ってすっごい早く家出たの。正解だったねー。どんどんひどくなってるモン、雪」
「あ、なっちも?あたしもさ、外見てたらどんどん暗くなってくし、何か大雪の予感したっていうか…早く行かなきゃ
やばいって思ってさー」
夏みかんを頬張りながら、今朝の大雪の話で盛り上がる私たち…やっぱり、同郷の仲間っていいなぁ。
135 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時51分47秒
誰よりも雪の恐さを知ってるっていうか、同じ話題を共有し合える友達ってかけがえのないものだもんね。
考えてみたら、なっちとこうやって二人きりで話すのって本当に久しぶりな気がする。

私もなっちも上京したばかりの頃は自分のコトだけで精一杯で、お互いを思いやる気持ちが持てなくなって
些細なことでぶつかったりしたコトもあったけど…あの頃より少し大人になった今はそんなコトももう、ただの笑い話。
今は良い意味で、お互い距離を置いて付き合えるようになったっていうか…。
誰かと向き合おうとする時、近くにいるだけじゃ見えないモノもあるっていうことに気付かせてくれたっていうか…そんな感じ。

「なに…なっちの顔、何か付いてる?」
なっちの言葉に、ふと我に返ると…考え事をしながら私は、なっちに対して射るような視線を送っていたことに気が付いて
慌てて首を横に振る。

「びっくりした。カオリ、ときどき恐いんだもん」
言いながらなっちは、2コ目のみかんに手を伸ばす。

そして私が自分の食べかけの夏みかんを一房口に運ぼうとしたところで、カチャリとドアが開いて誰かが中へ入ってきた。
136 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時52分48秒
「はあ、はあ、はあ、はあ」
コートのフードをすっぽりとかぶって全身ずぶ濡れの矢口は、ひざに両手をついて肩で息をしている。
エスキモーのようなボア付きのフードに、コートの中はしっかりとマフラーで隙間を密閉して完全防備。
もともと身長が低いのに、横方向に着ぶくれしちゃって…ボールみたくなってる。ドンって押したらそのまま転がっていきそう。

「どしたの、矢口。息切れてるよ?」
2コ目のみかんを剥きながら、なっちが言った。
「知ってるよ、はあ、はあ…。もー、すっごい!!すっごい、外!!マジで!!」
興奮覚めやらぬといった感じで、矢口が一気にまくしたてる。

「矢口、びしょびしょじゃん。どしたの?」
2コ目のみかんを剥き終えたところで、なっちが言った。
「どーしたもこーしたもないよ!雪のせいに決まってんじゃん、イチイチ聞くなよー」
少しムッとした表情で、矢口が答える。

「なに怒ってんの、矢口」
2コ目のみかんを口に運びながら、なっちが言った。
「なに食べてんの、なっち」
そう言った矢口の表情は、不機嫌そのもの。
137 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時53分59秒
「夏みかん。矢口も食べる?」
なっちはそう言って、目の前に立っている矢口に夏みかんを差し出した。
「いらない」
座っているなっちを上から見下ろしながら、矢口は差し出されたみかんを冷たく拒絶する。

「あっそ。食べたくない人にはあげませんよーだ」
「オイシイのにね」
「ってゆーかバカじゃないの、バカじゃないの!?あんたら!!」
矢口は鼻息を荒くして、向かい合って座る私たちの間に割り込んでくる。

「これでさぁ、こたつがあればカンペキでない?ねぇ」
「あー、ホントだね…」
「もーっ、ほんとバカ!!」
矢口は楽屋に入って来るなり挨拶もせずに、ずっと怒りっぱなし。
何が気に入らないのか知らないけど、もっとゆとりを持って行動した方が良いと思う。私たちは先輩なんだから。
なんて、そんなコト思ってても本人を前にしてビシッと言えない所が情けないんだけど…私が言わなくても、
ちゃんと自分で気付いてくれるはず。矢口はそういう子だって、カオリは信じてるから。

「矢口ぃ、そんなイライラしないの。ね?」
イラつく矢口を、なっちが優しくなだめる。
138 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時55分20秒
「はあ!?あんたたちこそ何でそんなに冷静でいられるワケ!?雪だよ、夏なのに大雪降ってんだよ!?
矢口が埋まるぐらいの!!ねー、聞いてんの!?」
あ、矢口埋まっちゃったんだ…それでこんなにずぶ濡れになってんだね。

「失っ礼だねー、なっちだって起きたときはびっくりしたに決まってんじゃん。でもさぁ…コレって、うちら人間への
罰ゲームみたいなものなんじゃないかなぁ。ねぇ、そう思わない?カオリ」
「うん…そうかもね。環境汚染とか?そういう愚かなコト繰り返してる人間たちへの罰ゲーム、なのかも知れないよね」
なっちの意見に同意して、大きく頷く私。

確かに私たち人間は、地球上のいろんな生物たちよりも後からこの地球に住みついたくせして、一番大きな顔して
居座ってるんだもんね。
それを見てて怒った神様が、こんな罰ゲームを私たちに与えたのかも知れない。

「だったら『罰』でいいじゃん、なんで後ろに『ゲーム』付いちゃってんだよ!ってゆーかイチイチ突っ込ませんなよ、もー!!」
全てを受け止め、そして受け入れようとしている私たちを尻目に、矢口は頭を抱えて何やらうなっている。
139 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時56分31秒
「「矢口ぃ、イライラしないの」」
私となっちの声が、キレイにハモる。名付けて、道産子ハーモニー。なんちゃって!やっぱり今日の私、冴えてるみたい。

「もー、やだ。早く誰か来てくんないかな…けーちゃーん、たすけてー」
さっきまで怒ってたと思ったら、今度は泣きそうな声を出してドアを見つめている矢口…この子との付き合いも
結構長いけど、たまに何を考えているのか理解に苦しむことがある。

「ねぇ、カオリ」
「ん?」
半ベソの矢口を見守っていると、突然なっちに話しかけられて私は視線を彼女の方へ向けた。

「今日の雪ってさ、北海道のと似てない?なーんか、サラサラしててさぁ」
「え?ああ…うん。そう言えば似てるかも」
言われてみれば今日の雪は、東京に降るベタ雪とは違ってサラサラとした触感だったような気がする。


「でしょでしょ!?来る途中、すっごい懐かしい気分になったもん!なんかさぁ、なっちさぁ、遊びながら来ちゃった。へへ」
そう言ってなっちは、私に向かってうれしそうに両手で雪を掬う振りをして見せた。

「思い出しちゃったなぁ…室蘭のコト」
独り言のように、なっちが呟く。
140 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月23日(日)21時58分03秒
北海道の雪、か…なっちじゃないけど、何だかカオも札幌のコト懐かしくなってきたなぁ。
パパもママも、元気にしてっかなぁ…帰りたいなぁ、北海道。

帰りたい、帰り…あれ?
何だろう、この感じ。
今朝からの雪、矢口が埋まるぐらいの大雪…私の中に何か、『思い当たるフシ』があるような気がしてならない。

(『一日だけ、一日だけでいいから…北海道に、帰りたい』)
(『仕事と北海道、万事上手くいくことだろう』)
記憶の片隅にひっそりと影を潜めていた昨夜の会話が、私の中で鮮やかに蘇る。

謎が、解けてきたような気がする。
昨夜のアレは夢じゃなかったんだ。私はついに…!!


「…だ…様だ…神様だ…神様だ…神様だ!神様だ!!神様だよっっ!!!」
「カオリうるさい」
氷のように冷たい矢口の言葉をもってしても、今の私のテンションを下げることは到底無理な話。
そっかそっか!神様が、カオリにごほうびくれたんだ(リーダーがんばってるから)!!


パパ、ママ、やったよ!!
ハタチの夏、カオリはついに、カオリはついに……神様と交信できるまでに成長しましたぁーーーーっっっ!!!!
141 名前:すてっぷ 投稿日:2001年09月23日(日)22時00分31秒
今回の主人公は、読んでいてかなりイライラするかも知れませんが…
お付き合いいただけるとうれしいです。
142 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月23日(日)22時14分18秒
どういう展開になるんだろう……。

道産子コンビがかわいいですね。
この続きも期待しています。
143 名前:あるみかん 投稿日:2001年09月23日(日)23時44分39秒
家で一人で笑うという行為を久々にしました。
リーダーおもしろすぎです。
続き、楽しみにしてます。
144 名前:名無し作者。 投稿日:2001年09月24日(月)22時06分20秒
リーダー、カナーリ笑わせていただいてます。
イライラ、というよりも、マイペースなこういうテンポがすごく好き。
最も早く続きを読みたい小説のひとつになってます。
145 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月24日(月)23時59分22秒
すてっぷさんの飯田もかなり好き。
矢口のするどいつっこみにもひそかに期待。
146 名前:もんじゃ 投稿日:2001年09月25日(火)18時21分27秒
飯田リーダーが主人公ですね。
ラストの叫びには、かなり笑かせていただきました。
今までは一方的な交信だったわけですね(笑)

しかし、すてっぷさんの描く裕ちゃんはやっぱし良い味だしてて好きっす。
続き楽しみに待ってます♪

147 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月29日(土)02時23分45秒
今回は吉澤、あまり出番がない様ですね。
でも、それもOKですよ!
だってリーダー、面白すぎるから。
続きが早く読みたいっす。
148 名前:すてっぷ 投稿日:2001年09月29日(土)17時06分51秒
>142 名無し読者さん
ありがとうございます。
道産子コンビ、特になっちは今まであまり登場させたことがなかったので手探り状態で書いてますが…
そう言っていただけて安心しました。ほのぼのした感じになれば、と思っております。

>143 あるみかんさん
そんな恥ずかしい行為を…ありがとうございました(笑)。
リーダー視点だと、話が進まなすぎるのが悩みなのですが…続きも、お読み頂けるとうれしいです。

>144 名無し作者。さん
ありがとうございます。イライラして読んでる途中で投げ出されるかもと思っていたので、
そう言っていただけて…本当に本当に、ほっとしました(笑)。
リーダー、これからはさらにマイペースで突っ走ると思いますが…よろしくです。
149 名前:すてっぷ 投稿日:2001年09月29日(土)17時08分27秒
>145 名無し読者さん
ありがとうございます。矢口のつっこみ…コレがないと話が先に進まなそうなので、
これからも活躍してもらうことになるかと思います(笑)

>146 もんじゃさん
ありがとうございます。ラスト一行が最初に浮かんで、初回はここで切ろうと決めて
書き始めたのですが…長い道のりでした(笑)。やはり主人公に問題アリでしょうか。
初回はほんの少ししか出てこなかった中澤、注目していただけてうれしいです(笑)

>147 名無しさん
ありがとうございます。もう少し先になると思いますが、吉澤も登場の予定ですので…
とりあえずリーダーのリーダーっぷりを温かく見守っていただければと思います(笑)
150 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時09分53秒

―――

(『一日だけでいいから…北海道に、帰りたい』)

超多忙で超人気者で超クール(→北海道だけに。なんちゃって!)なモーニング娘のリーダーこと飯田圭織のために
神様が叶えてくれた、たったひとつの願い事。

しかも神様ってば私の仕事のこともちゃんと考えてくれて、わざわざ私が住んでいるこの東京に北海道ばりの大雪を
降らせてくれるなんて…こういうの、至れり尽せりって言うんだよね。
でも何だかあんまりうれしくないような気がしなくもないんだけど、きっと気のせいだろう。
何にせよ、カオリの勝手なお願いを聞き届けてくださって…本当にありがとうございます、神様。


「…リ!カオリ!!」
「えっ」
胸に手をあてて神様に感謝の祈りを捧げていた私は、突然割り込んできた矢口の大声でハッと我に返る。

「カオリ、またどっか行っちゃってたでしょ?」
なっちが、食べ終えた夏みかんの皮を片付けながら言った。
「ちょっとね。お礼言ってたの、神様に」
「もー、意味わかんない。もぅやだ…」
私の答えに、なぜか頭を抱える矢口。
151 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時12分13秒
「なんで?なんで神様にお礼言うの?」
なっちに質問され、私はハッとする…そうだ、昨日のコト2人に説明しなきゃ。
夏なのに、東京の街に矢口を埋め尽くすほどの大雪が降った理由…それを知ったら2人とも、きっとものすごく驚くはず。
そして、その驚きは私に対する尊敬の念に変わったりして(→『神様と交信できるなんて、さすがリーダーだねっ!』)。

「もー、んなコト聞かなくていいよ。話ややこしくなるんだからさぁ」
「あのね!昨日の夜ね、神様がっ…」
あまり乗り気ではなさそうな矢口の言葉を無視して、私は昨夜の出来事を語り始めた。

「誰っ!?」
話の腰を折る矢口の声に振り返った私の視界に飛び込んできたのは、ドアを開け入ってきた全身黒ずくめの謎の人物。
黒い革ジャンにジーンズも黒、黒いサングラスに黒の革手袋、そして右手に握られている…アレはなに!?
アクション映画なんかでよく見る殺し屋さんみたいな格好をした謎の人物を、私たちはしばし呆然と眺めていた。
そして左手で肩に付いた雪を払い落とし、殺し屋がおもむろにサングラスを外す。


「圭…ちゃん?」
矢口が言った。
152 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時13分26秒
「あんたたち早かったんだね。てっきり一番乗りかと思ってたのにさ」
怯える私たちをよそに殺し屋、もとい圭ちゃんはあっけらかんとした口調で言った。

「圭ちゃん…何てカッコしてんの?ってゆーかその、手に持ってるモン何よ」
そう言った矢口の視線は、圭ちゃんの右手に握られた謎の物体に注がれていた。
黒地に白抜きで『GAS』の文字が入った缶に、噴射ノズルのようなモノがくっついているそれは…
ゴキブリや蚊などを退治する殺虫スプレーの形に似ていた。


「あ、コレ?ガスバーナーだけど」
たった今『ガスバーナー』であることが判明した謎の物体を、圭ちゃんは私たちの目の前で得意げに振ってみせる。

「ああ、なーんだ。ガスバーナーねー…ってオイ!!何でそんなモン普通に持ち歩いてんだよ、オカシイじゃん!!」
一旦は納得するくせにすぐさま厳しい突っ込みを入れる。そんな矢口の思考パターンが、私には未だに理解できない。

「すごーい!圭ちゃん、もしかしてコレで雪焼きながら来たの?」
圭ちゃんから受け取ったガスバーナーを観察しながら、ひどく感心した様子でなっちが言う。
153 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時14分50秒
「そ。渋滞しててなかなか進まないからさー、途中でタクシー降りて歩いて来たの。それ、持ってきて正解だったわ」
「「すごーい!!」」
不敵な笑みを浮かべる黒ずくめの彼女に羨望のまなざしを向ける、なっちと私。
そっか、コレなら雪も解かせるし暖も取れて一石二鳥ってわけなんだね…さすが圭ちゃん、殺し屋は殺し屋でも
ただの殺し屋じゃない。ちょっと素敵な殺し屋さんって感じ。

「正解?それって正解なの?バーナーだよ?雪降ったからってガスバーナー持参するのが正解?」
ただ一人、圭ちゃんの偉業を素直に称えることのできないひねくれモノ矢口が私たちの感動に水を差す。
「うっさいなー、家にあったから持ってきただけじゃん」
不機嫌そうに反論する圭ちゃんを見ながら、私はまた一つ新たな発見をしてしまった。
今の圭ちゃんの格好、黒ずくめにグラサン(外しちゃったけど)…殺し屋というより、昔ビデオで見たターミネーターにそっくりだ。

「だからそれがオカシイっつってんの。フツーに家にあるコトが!!」
ターミネーターに敢然と立ち向かう矢口はさしずめ…えーっと名前忘れちゃったけど、あの主人公の女の人ってトコかな?
154 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時16分01秒
「おかしいって…コレ、料理にも使えるんだよ?知らないの?矢口」
サングラス片手に腕組みして壁にもたれるターミネーター圭ちゃん。略して『TK』、わーっ、何かカッコイイ!!
「知らないし知りたくもないね」
そしてそんな圭ちゃんの真正面に挑むようにして立っている矢口は、相変わらず不機嫌そう。

「あんた、なに怒ってんのよ?」
「来たときからごきげんナナメなんだよねー?矢口は」
茶化すような口調でなっちが言う。

「あんたらのノンキさ加減にアタマきてんでしょーが…」
「矢口。急がば回れ、だよ?」
登場してからずっとイライラしっぱなしの矢口に、リーダーの私からとっておきのアドバイス。

「意味わかんない。ってゆーかカオリは回りすぎ!ちょっとは急ぎなよ!」
悲しいことだけど、どうやら私の気持ちは彼女に全く伝わっていないらしい。
155 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時17分31秒
「黒いカッコしてればさ、雪に埋もれちゃっても発見されやすいでしょ?」
苛立つ矢口を横目で見ながら、圭ちゃんが説明してくれる…なるほど、それで全身黒ずくめの格好してたんだ。
「なっち、実際埋まっちゃったヒト知ってるけどねー。ね?矢口」
「っさいなー!」
火に油を注ぐなっちの一言に、矢口の怒りの炎はさらに燃え盛ってしまった様子。

「それにしても、一体何なワケ?今日の雪は」
革手袋を外しながらそう言った圭ちゃんの言葉に、私はハッとする…そうだ、昨日のコトみんなに説明しなきゃ。
「あのね!昨日の夜ね、神様がっ…」
私は、圭ちゃんの登場により中断された話の続きを再び語り始めた。


「「おはようございまーっす!!」」
もぅ、タイミング悪いなぁ…。
ドアが開くのと同時に飛び込んできた元気の良い声は…もちろんあの二人、辻と加護。

「あんたたち、よく来れたね?大丈夫だったの?」
ドアのすぐ側に立っていた圭ちゃんが、入ってきたばかりの二人に声をかける。
156 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時18分58秒
「加護たちぃ、ずーっと前から来てたんだよねー?」
「ねー。外で雪合戦してたんだもんねー」
本当についさっきまで遊んでいたらしく、二人の頬は紅潮している。
彼女たちはエアコンの効いた室内に入った途端、暑い暑いと言いながら手袋とマフラーを外した。

「雪降ったからって早く来て遊んでたの?ったくあんたたちは…学校じゃないんだから」
その言葉とは裏腹に、圭ちゃんは楽しげに笑う二人を温かく見守っているようだった。

「あのね、あのね!」
辻が、私を見つけてうれしそうに駆け寄ってくる。
「あのね、いっぱい作ったんですっ!ねー、あいぼん」
辻はイスに腰掛けている私の腕を掴みながら、後ろの加護に向かって言った。

「うん!雪うさぎとかぁ、雪だるまとかぁ、雪やぐちさんとかぁ、いろいろ作ったよねっ!」
「ねっ!」
すると加護も興奮した様子で私の元へやってきた。
さっきまでの楽しいひとときを思い出したのか、二人は顔を見合わせてくすくすと笑った。

「ちょっと待って、『雪やぐちさん』って何よ」
二人の間から、矢口がにゅっと顔を出した。
157 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時20分20秒
「雪のぉ、やぐちさん」
雪やぐちさん、について説明する加護。
でもそれって、そのまんまって感じがして説明になってないような気がするのは…カオリの気のせい?
「雪だるまの矢口版ってコト?」
数秒の沈黙の後、その謎を解明したのは圭ちゃんだった。

「で、で、ミニモニなんだよねっ」
しかし加護は圭ちゃんの問いには答えず、さっさと話を先に進めてしまう。
でも否定しないということは、きっと『雪やぐちさん』=『雪だるまの矢口バージョン』と考えて間違いはないだろう。
「そう!あたまがねぇ、ミニモニなんだよねー!」
加護の問いかけに答えた辻は、思い出し笑いなんかしちゃって一人で楽しんでいる。

「頭がミニモニ、ってどーゆーコトだよ!ちゃんとわかるように説明しなさい!!」
ねぇ、矢口…二人に対して厳しいのはミニモニのリーダーとして?
それとも、もっと個人的な理由(単に『雪やぐちさん』が気になる)から?

「やぐちさんの髪型がぁ、ミニモニ」
圭ちゃんの質問はあっさり無視した加護だったが、矢口の言葉にはまるで飼い主に名前を呼ばれた犬のように
素早く反応した。
158 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時21分37秒
「髪型?ああ…いっつも2つにしばってるよね、ミニモニの時」
加護の説明を受けて、思い出したようになっちが言った。
「でも、髪の毛なんて…どうやって作ったの?」
私は、目の前でにこにこ笑っている辻に素朴な疑問をぶつける。
もしココが学校ならモップとかで作れそうだけど…二人は一体、何を使って矢口の髪型(ミニモニ仕様)を表現したのだろう。

「あたまにー、ぼうをさしましたっ!ざくっ、って」
言いながら辻は、『ざくっ』の部分で頭に棒を突き刺すマネをして笑った。
「ちがうよ、のの。2本だから、ざくざくっっ!!だよ、きゃははは!!」
加護は辻の説明に横やりを入れてきたものの、こらえきれなくなって途中で笑い出してしまった。

「なるほどねー、棒2本で…ああ、確かに見える見える。雰囲気でてるよ」
「出てねーよ!」
一人で納得するなっちの言葉を聞きつけて、矢口が耳ざとく反応する。
159 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時22分58秒
「「ザクッ!ザクッ!」」
気が付くと二人は入り口付近の圭ちゃんの前に移動して、側頭部に両手で棒を突き刺すマネをして遊んでいた。
「ははははは!!やめてよ、あんたたち…おなか痛いってー!くくっ…」
そしてそのショーは、見事圭ちゃんのツボに入ったらしい。
「おまえら、いいかげんにしろよー」
半ば諦めたような口調で、矢口が言った。

「じゃあ、後で見に行こっか。二人が作った『雪やぐちさん』」
二人の話を聞いて実物を見てみたくなった私は、他の三人(なっち・矢口・圭ちゃん)に提案してみた。
「あっ、なっちも見たい!なーんか面白そうだもんねぇ」
私の提案に、なっちも同意してくれる。

「あ、でも……。ねぇ?」
何やら意味深な微笑を浮かべながら、加護の視線が辻に向けられる。
「ねぇ…。くすっ」
そんな加護と目が合って、辻も何かを思い出した様子。

「ちょっとー!何なの?ハッキリ言いなさいよねー!」
どうやら矢口は『雪やぐちさん』のことが気になって仕方ないらしく、入り口に立つ二人に詰め寄る。
「あのー、辻たちぃ、雪合戦してたんですぅ」
笑いをこらえながら、辻が語り始めた。
160 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時24分42秒
「でぇ、辻がぁ、雪をでっかくまるめてカチカチにしてぇ、ボンってなげたんですね、ボンって!あいぼんに、ボンっ!って」
「きゃははは!あいぼんにボンっ!あいぼんにボンっ!それってシャレ?のの!」
「そおでーっす!あはははっ!!」
話に付いていけない私たちを置いてけぼりにして、二人で勝手に盛り上がる辻と加護。
彼女たちのこういうとこ、リーダーとして本当はきちんと注意すべきなのかも知れないけど…まあ、これも個性だと思えば。

「でぇ、ボンってなげたらぁ、それがやぐちさんのあたまにドンって当たってぇ、バァーン!ってなってぇー!!」
『バァーン!』の部分で辻は、両手を大きく広げて矢口、もとい『雪やぐちさん』の頭が砕ける様子を的確に表現した。
「やぐちさんの首、とれちゃったんだよねー」
「ねー」
和やかな笑顔で恐ろしい言葉を吐く加護と、うれしそうに頷く辻。
「テメーらーーっっ!!」
そんな二人に、矢口の怒りも頂点に達した様子。


「あ…いっぱい取ってきたねぇ、辻」
ふいにそう言ったなっちの視線の先には…辻が外で集めてきたらしい、コンビニ袋いっぱいに詰め込まれた雪。
161 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時26分04秒
「コレでぇ、かき氷つくりますっ!」
胸を張って言った辻の右手に提げられたコンビニ袋からは、中の雪が解け始めて水滴がボタボタと落ちてきていた。
「あっ、早くしないと解けちゃうよ!?ジュース買いに行こ、のの!!」
言いながら加護が、辻の腕を引っ張って急かす…そっか、シロップの代わりにジュースを使おうと思ってるんだ。

「そんなん食べるなよー、きたないなぁ」
「キレーだもん!ちゃんと人がふんでないトコのやつ、とってきたもん!」
辻は唇をとがらせて、矢口の忠告にも一切耳を貸さない。
「そーゆー問題じゃなくて。雪にはさー、空気中のいろんなゴミとかがいっぱい含まれてんだよ?お腹こわすから止めな」
「特に東京は、空気がよごれてっからねー。止めた方が良いよ」
「だいじょうぶだもん…」
矢口だけじゃなく圭ちゃんにまで反対されたものの、辻はまだ諦めきれない様子。


「おいで、辻」
私は、下を向いてしゅんとしている辻に手招きした。
「はい、コレ」
そして私は雪の入ったコンビニ袋を握り締めてトコトコと歩いてきた辻の目の前に、自分の右手を差し出した。
162 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時27分34秒
「………?」
辻は私の手のひらに乗っているイチゴ味のアメ玉を、きょとんとした顔で見つめている。

「雪といっしょに口に入れてごらん?氷イチゴになるから」
「ああ…!」
そっかー、と言ってうれしそうに笑いながら、辻は私の手からアメを受け取った。

「……ホントだー!!イチゴ味になった!」
イチゴあめ+雪のブレンドを口の中でしばらく味わった後で、辻が叫び声を上げた。良かったねー?辻。
「あーあ。食っちゃったよ、コイツ…」
矢口はそう呟きながら、浮かれる辻を心配そうに見つめている(ように見えたのはカオリの気のせい?)。

「加護もー!加護もください、飯田さんっ!!」
ジュースを買いに行こうとしていた加護が、慌てて私のところへ駆け寄ってくる。
「ああ、そっかそっか。ちょっと待ってね?」
加護に急かされて、自分のバッグを漁る私…まだあったかなぁ、イチゴキャンディー。
163 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時29分48秒
「ゴメン、加護…ごまクッキーしかないけど、いる?」
バッグの中にはイチゴ味どころかキャンディーは全滅、あったのは今朝出かけるときに持ち出したごまクッキー3枚だけ。
シロップ代わりには使えそうもないけど、何もあげないのも可哀相なので…とりあえず私は、期待に満ちた表情で待つ
加護の目の前にそれを差し出してみた。

「えっ…」
そして案の定、戸惑いの表情を浮かべる加護。
「ははははっ!!ごまクッキーって!!どーしろっつーんだよ、カオリさいこー!!」
加護に対して申し訳ない気持ちでいっぱいの私をよそに、矢口はお腹を抱えて爆笑している。


「見て見て、加護。ホラ!『冷凍みかん』」
戸惑う加護の前になっちが差し出したのは、さっきまで辻が提げていた雪入りのコンビニ袋。
なっちが両手で広げた袋の中を覗き込んでみると…真っ白な雪の中に夏みかんが1コ、埋められて少しだけ
顔を出していた。

「あーっ!食べていいですかぁ?」
「うん。いいよぉ」
うれしそうに笑って、袋の中のみかんを取り出す加護。良かったねー?加護。
164 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年09月29日(土)17時32分21秒
「止みそうにないね、雪」
さっきから壁に寄りかかって腕組みしたままの姿勢を崩さない圭ちゃんが、窓の外を見ながら言った。

「止まないどころかさぁ、どんどんすごくなってってない?」
テーブルに頬杖をついているなっちは少し目線を上げて、すっかり太陽を覆い隠してしまった曇り空を見上げている。
辻と加護の二人は向かい合わせに座って、1コの夏みかんを半分ずつ分け合って食べている。

「どのくらい積もってんのかなぁ…………はっ、やばい!!」
外を眺めながら、矢口がぽつりと呟いた…と思ったら、いきなり大声を上げてみんなの注目を集める。
「どうしたの?矢口」
私はイスに腰掛けたままで、窓際に立つ矢口に尋ねる。

「みんなにつられて、まったりしちゃうトコだった…あっぶねー」
もぅ…そんなことで驚かなくたって。

「いいじゃんよぉ、別に。のんびりいきまっしょい!ね、矢口?」
そんな矢口をなだめるように、優しい口調でなっちが言った。


「やーだ」
もぅ…素直じゃないんだから。
165 名前:すてっぷ 投稿日:2001年09月29日(土)17時34分21秒
一向に話が進まないのですが…
ゆっくりお付き合いいただければと思います。
166 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月29日(土)20時04分46秒
やっぱ圭ちゃんがさいこー!
ターミネーター圭、略してTKって小室じゃないんだから(w
167 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月29日(土)20時30分39秒
道産子コンビはなんだか、今までの吉澤、矢口コンビと反対のキャラクターって感じ
だけど、とぼけた感じがいい味出してますね。そこに圭ちゃんはともかく、辻加護まで
加わって、矢口には胃が痛くなりそうな展開だ…
みんなで話を引っ掻き回して、作者さんも話をすすめるのが大変そうですが…(笑)
そういや以前神様にレスをされていたと思いますが、今回は作中に登場ですか。
神様って案外御茶目なんだな…
168 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月01日(月)02時12分46秒
け、圭ちゃんまで・・・矢口以外は全員ボケか?
こりゃ矢口たいへんだわ(w
169 名前:すてっぷ 投稿日:2001年10月01日(月)22時36分15秒
>166 名無し読者さん
ターミネーター圭(TK)、注目していただいて…ありがとうございます。
アホな事ばっかし考えていた甲斐がありました(笑)

>167 名無し読者さん
ありがとうございます。ボケ&ボケのコンビは、やっぱり辛いものがありますね…
突っ込みながらお読みいただければと。
神様については…確かにアレ以来、我ながら神憑ってきたように思います(笑)
と言うと何かアブナイ人のようですが、やたらと『神様…』って台詞を多用してる気が(笑)

>168 名無し読者さん
ありがとうございます。さすがに矢口一人では大変そうなので圭ちゃんにも
その役割を…と思ってはいたのですが、登場から既にダメでしたね(笑)
170 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月01日(月)22時38分02秒

―――

「すごいねぇ…。なーんも見えないよ、外。すっごいねぇ」
「うん。すごいねー」
窓の外を見ながら、しきりに『すごい、すごい』を繰り返しているなっちに同意して私も頷く。
朝早くから降り続いている雪は時間が経つにつれて激しさを増し…空は真っ暗、窓の外は吹雪で何も見えない。

「寒いね。カーテン閉めよっか」
そう言って、壁にもたれて立っていた圭ちゃんは窓際まで歩くとカーテンを完全に閉めた。
夏用の薄地のカーテンが、すきま風防止にどれぐらい役に立つのかはわからないけど…まぁ、気休めにはなるかな。

「もーやだ。来るんじゃなかった…帰りたい」
私、何か大事なことを忘れている気がする…そう考えていた矢先、矢口が言った『帰りたい』の一言にハッとする。
そうだ!圭ちゃんと辻と加護が入ってきて中断されちゃったけど、私…昨日のコトみんなに説明してる途中だったんだっけ。
「あのね!昨日の夜ね、神様がっ…」
私は、昨夜の出来事について再び語り始めた。

「待って!……誰かいる!!」
圭ちゃんが登場した時と同様、私の話は矢口の声によって再び中断された。
171 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月01日(月)22時39分12秒
「は?何言ってんの、矢口」
「だって、音…音したもん、誰かいるって!ホラ、そこ!」
圭ちゃんの問いに答えて矢口が指差した先は、部屋の隅…ずらりと並んだメイク台の一番奥。

「やだ…ちょっと、変なコト言わないでよ」
一見殺し屋のようでターミネーターのようでもある、その強そうな外見に反して意外と恐がりな圭ちゃんが、
後ずさりしながら怯えた声で言った。

「ホントだってば!ねぇカオ、見てきてよ」
「えっっ!?」
矢口に突然指名されて、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。
ちょっと待ってよ、何で私が!?

「やだよっ、矢口が行けばいいじゃん!」
「やだよ!カオリ見てきてよ!!」
「だから何であたしなの!?」
「だってリーダーじゃん!!」
矢口、ひどい…こんな時ばっかり『リーダー』なんて。


みんなのために一人だけ恐い目に遭ったり、一人だけ嫌な思いしたり…リーダーってそういうコトなの?
そんなのって、そんなのって…ただの、『罰ゲーム』じゃん。
172 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月01日(月)22時40分31秒
「わあっ、ごっちん!?ごっちん!!」
少しだけ傷ついてしまったブロークンマイハートに、突然飛び込んできた加護の大声がグサリと突き刺さる。
かなりドキッとしちゃったけど、これは別にときめいたからじゃなくて…単に加護の声が大きくて驚いただけ。

「……んぁ?あれ…?あー……加護ちゃん。おはよー…」
部屋の隅で腰を抜かしている加護に全員が注目した瞬間、メイク台の下からくぐもった声が聞こえてきた。
とても眠そうな、聞き覚えのあるこの声は…加護の言う通り、間違いなく後藤のモノ。

「ちょっ…あんた、何でそんなトコいんのよ!?」
「……あ?あー…けーちゃん、おはよー…」
何とか立ち直った加護に手を引いてもらって、後藤が潜り込んでいたメイク台の下から出てきた。
「早く来すぎちゃってさー…寝てた」
眠そうに目をこすりながら、後藤が言う。
「なんかさー…落ち着くんだよね、ココ」
暗くて狭い場所が落ち着く、か…ドラえもんがいつも押入れで寝てるのと同じ感覚なのかな?

「なんだかんだ言ってウチら優秀だよねー、こんな状況でもちゃんと時間前に集合してんだからさ」
圭ちゃんが言った。
173 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月01日(月)22時41分39秒
「そうだ、みんな聞いて!!」
「どしたの、カオリ?」
突然立ち上がった私を、なっちが不思議そうな顔で見上げる。

「あのね!昨日の夜ね、カオリ…神様に会ったの!」
やっと言えた…これを言おうとして、ここまで何度ジャマが入ったことか。
「はあ?なに言ってんの?」
ある程度予想はしていたものの、矢口の反応はやはり冷たかった。
けど、そんなことで挫けるような私じゃない。
次に続く爆弾発言に備えて、私は大きく深呼吸した。

「あのね、今日すごい大雪じゃん?これね……実は、カオリがやったの」
ついに言った…大きな満足感で、胸が一杯になる。
「あっ!正確にはカオリじゃなくて、神様がやったことなんだけど」
ごめんなさい、神様…緊張して、ついカオリがやったことにしちゃいました。
だけど、すぐに訂正したから許してもらえますよね?

「あの…よく、わかんないんだけど」
「慌てないで圭ちゃん、ちゃんとわかるように説明するから」
私の言葉に、圭ちゃんは黙って頷いた。
174 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月01日(月)22時42分47秒
「昨日の夜…神様が来たのね、ウチに」
「いや、出だしからイキナリ間違ってるから」
「待ってよ矢口、とりあえず聞こ?」
助け舟を出してくれたなっちに、私は目で合図する…『ありがとう』。

「でね、言ったの。『たった一つだけ、願い事を叶えてやろう』って」
神様、似てました?今の声マネ。
「で?なんつったの、カオリは」
窓際に立って腕組みポーズの圭ちゃんが、話に乗ってきてくれる。

「あのね、『帰りたい』って言ったの。『北海道に、帰りたい』って」
「そしたら?そしたらどうなったの?」
なっちが興味津々といった感じで身を乗り出してくる。

「そしたらね、神様がこう言ったの。『いいだろう。カオリちゃんは頑張ってるから。カオリちゃんはリーダーとして
本当に良く頑張ってるから、神様がご褒美をあげよう。カオリちゃんは本当に頑張ってるね』って」
「嘘くさい。それ絶対ウソ」
「本当だもん!」
相変わらず信じようとしない矢口に、自然と強い口調になる。
「神様が自分のコト『神様』って言うかぁ?それに何?『カオリちゃん』って…絶対うそだね」
「本当だもん!」
本当ですよね?神様!!
175 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月01日(月)22時44分17秒
「で?それと今日の大雪と、何の関係があんのよ?」
「えっ?わかんないの、圭ちゃん」
「なっち、わかんの?」
「わかるよー。カオリは、『北海道に帰りたい』って言ったんでしょ?」
私は、なっちの言葉に大きく頷く。

「神様がカオリの願い、叶えてくれたんだよ。東京に北海道の雪、降らせてくれたんだよ!すごいじゃん、カオリ!!」
「でしょ!?すごいっしょー!!」
「すごいよ、すごいよ!だってさぁ、ぜったい北海道の雪だもんね!サラサラしてたもん、絶対そうだよ!」
なっちと私は、互いに手を取り合って喜びを分かち合う。

「えーっ、絶対ウソだってー」
「まぁ、神様の件は百歩譲ってホントだとしてもさー」
盛り上がる私たちとは対照的に、圭ちゃんの口調は冷静そのもの。

「カオリが、北海道に帰りたいんだよね?」
圭ちゃんの問いに、黙って頷く私。
176 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月01日(月)22時45分50秒
「だったら……東京を北海道にしちゃってどーすんのよっ!!」
「違うもん!カオリがやったんじゃないもん、神様がやったんじゃん!悪いの神様だもん!!」
そりゃあ、神様にきちんと説明しなかったカオリも悪いけど…そんなに怒ることないじゃん、ひどいよ。

「ねー、待ってよ」
先ほど眠りから覚めたばかりの後藤が、突然話に割り込んでくる。
「あのさ、単純に思ったんだけどー…カオリ一人がお願いしたところで、東京が北海道になっちゃったりするワケないよ」
ごっつぁん…かばってくれるのはうれしいけど、本当なんだよ?
カオリ本当に、神様に会ったんだよ?

「なっちもいっしょにお願いしたんだよね?」
「えっ!?」
いきなり自分の名前が出てきて、なっちが驚きの声を上げる。

「あんたね…一人増えただけで何が変わるっつーのよ」
「えー?違うの?だって、一人より二人じゃん」
「うわー、説得力ねー」
責められている私を弁護してくれた(ように感じたのはカオリの気のせい?)後藤だったが…すぐさま圭ちゃんと矢口の
容赦ない突っ込みを浴びてしまう。
177 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月01日(月)22時47分19秒
「あーっ、キツネだ!キツネだー!!」
一人でテレビを見ていた辻が、突然大きな叫び声を上げた。
「ホントだーっ!!」
それを聞いた加護が、すぐさまテレビの前に駆け寄る。
辻が観ていたワイドショー番組では、今朝の大雪に関するニュースの特集が組まれていた。
こんな異常現象なんて、そう滅多にあるコトじゃないから…今日はどの局でも、このニュース一色なのだろう。

テレビには、どこかのビルのロビーらしき場所の静止画像が映し出されている。
画面の左端には、立ち上がって身を乗り出している受付のお姉さんたち。
画面の右端には、今まさに爆走中といった感じで宙に浮いた瞬間の茶色い生物が小さく映っていた。
そして、画面下には…『目撃されたキタキツネ』のテロップ。

「「キタキツネぇぇーー!?」」
圭ちゃんと矢口の声が、キレイにハモる。
私となっちが道産子ハーモニーなら、この二人はさしずめ…思いつかない。

「ほらあーっ、ホラホラ、絶対そうだって!北海道なんだよ、ココ!!」
なっちが、興奮してテレビの前に走り寄る。
「うそ…でしょ」
矢口が、ぽつりと呟いた。
178 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月01日(月)22時48分53秒
「あれぇ?これってさー…この下のロビーじゃない?」
のんびりとした口調で、後藤が言った。
「…ホントだ。ここだよ、コレ」
独り言のように圭ちゃんが呟く。

画面はさっきまでの静止画像から切り替わり、同じ場所の現在の様子を中継で伝えていた。
後藤や圭ちゃんの言う通り、その景色は確かに私たちが今いるテレビ局のロビーと同じモノ。
レポーターさんの話によると…何かの番組の撮影途中に偶然捉えられたキタキツネは、物凄いスピードで
ロビーを突っ切るとそのまま行方不明になってしまったらしい。
と、いうことは…迷子のキタキツネは、まだこの局内をウロウロしてるかも知れないってこと?

雪、(夏)みかん、雪だるま、雪やぐちさん、殺し屋、そして…キタキツネ。
すごい、素晴らしい、まさにココは……北海道。誰がなんと言おうと。


「すごい……ここにいるんだ!ここにいるんだよ、キタキツネ!!」
感動は心の中でじっくりかみしめるタイプの私とは正反対に、『喜びは体全体で表現』タイプのなっちは
テレビにしがみつき、キタキツネの出現にその瞳を潤ませて感動している。
179 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月01日(月)22時50分19秒
「のの!探しに行こ!!」
「うん!」
「待って、なっちも行く!!」
まさに『ダッ!』という表現がぴったりのスタートダッシュで、楽屋から走り去ろうとする三人。

「待って!!」
突然の圭ちゃんの制止に、足を止め『バッ!』と一斉に振り返る三人。

「どうしたの?圭ちゃん」
「ねぇ、カオリ…北海道、なんだよね?ココ」
圭ちゃんは私の問いかけには答えず、逆に私に質問してくる。
「そうだよ」
なに言ってるんだろう、そんな当たり前のこと聞いちゃって…変な圭ちゃん。


「いや、キタキツネが居たってことはさ、もしかして……熊とか、出ちゃったりするんじゃない?」
「「「ええええーーーーーっっっ!?」」」
私となっち、そして矢口の声がぴたりとハモる。道産子ハーモニー(with矢口)、ふたたび。

「なーんてね。んなコトあるワケない、っか…」
「もーぅ…やめてよ、圭ちゃん」
胸を押さえながら、ホッとした様子でなっちが言う。
同じく私も、ホッとして深いため息をついた。
だけど圭ちゃんに恐い話とかされると、冗談に聞こえないのはどうしてだろう?
180 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月01日(月)22時51分55秒
「かっ、かかかかかっ」
「なに言ってんの、矢口」
突然部屋の隅で口をパクパクして震えだした矢口に、なっちが問いかける。

「かかかかっ…カゴ閉めて、カギ!!」
「矢口…もしかして逆?」
なっちがぽつりと言った。
「いいから!!カギ閉めて、加護!!」
「は、はいっ」
矢口に言われるがまま、加護がすぐさまドアのカギを閉める。

「みんな!ぜったい外出ちゃダメだからね、生きて帰れないよっ!!」
突然何かに怯え始めた矢口を、私たちはただ呆然と見守っているしかなかった。

「矢口…もしかして熊、ホントに出ると思った?」
さっきの発言は冗談だとわかっているのに、圭ちゃんの口から『熊』等の恐ろしい言葉が飛び出すと反射的に
ビクリと身を固くしてしまうのはどうしてだろう?

「思ったも何も、出ないなんて保証ある!?ないでしょ?キタキツネが出たんだもん、熊が出たっておかしくないよっ!!」
みんな、言葉を失った。
確かに矢口の言う通り、キタキツネが出て熊が出ないなんて保証はどこにもない。
181 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月01日(月)22時54分17秒
「そう、だね。矢口の言う通りだよ。こっから、出ない方が良いね」
なっちの言葉に、みんなは黙って頷いた。
「やぐっつぁん…プーさんは大好きなのにね」
と思ってたら、ごっつぁんだけ頷いてなかった。

「プーさんは熊じゃないもん!!」
「熊だろー…おもっきし」
圭ちゃん、お願いだから『熊』って言わないで。圭ちゃんが言うと、ホント恐いから。

「とにかく!!みんな絶対に、ココから出ないこと!!いい!?」
「少しぐらい、いいんじゃないの?」
仁王立ちして腕組みポーズの矢口に、恐る恐る圭ちゃんが尋ねる。

「ダメ!!ぜったい、ダメ!!ホラ、わかったら返事!!」
本当に恐いのは、熊でもなく圭ちゃんでもなく…矢口なのかも知れない。


「「「「「………はい」」」」」
「やぐっつぁん…プーさんは大好きなのにね」

こうして私たちは、まだ見ぬ凶暴な熊の存在に怯えまくるのであった(とくに矢口)。
182 名前:すてっぷ 投稿日:2001年10月01日(月)22時56分51秒
だんだん、収拾がつかなくなってきました。
最後までお付き合いいただけると、大変うれしいです…。
183 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月02日(火)01時16分58秒
めっちゃおもしろいです!
特に矢口!
「カゴ閉めて!カギ」って(w
もちろん最後まで付き合います。
184 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月03日(水)05時04分19秒
なんだか本格的に北海道になってきましたな。
しかし相変わらずとぼけた飯田の語り口が面白いです。
毒舌師弟コンビとはまた別の魅力が。
あと今回は、毎回なんだか困惑気味で投げやりっぽい、すてっぷさんの
更新後のレスも笑えるというかなんというか。(笑)
185 名前:名無し娘。 投稿日:2001年10月05日(金)20時19分24秒
吉澤が主人公かいしよしものの小説しか
読まない俺に読ませてしまうステップさん・・・・・・や、やるな!(w
186 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)20時46分46秒

―――

「ガオーッ!!」
ノートに描いた熊の想像図(顔アップ)をお面のように顔に当てて、低い声で唸る加護。

「ねぇねぇ、あいぼん。名前なんにするぅ?コイツ」
「えっとねー、やすださん」
「あはっ、いいねぇ。貸して貸して」
後藤は加護から似顔絵を受け取ると側にあったペンを取り、絵のすぐ下に何やら文字を書き足した。

「ジャーン!」
ペンを置いて、後藤が得意げにノートを広げる。

『YA・SU・DAAAAAAAAA!!』
凶暴そうな野生熊の想像図(リアルタッチ。作・飯田圭織)の下に太字の黒ペンで後藤が書き足した文字が、
その迫力を一層際立たせている。

「あっははは!何かカッコイイよ、それ。『ダーッ!』ってカンジするもん。ダーッ!って、強そう!!あはははは!!」
私と後藤による傑作を見た瞬間、なっちがテーブルを叩いて爆笑する。

「あんたたちねー…遊んでんじゃないわよ」
自分の名前を勝手に使われた圭ちゃんは、野生熊(やすださん)のイラストにちょっと不機嫌そう。
187 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)20時47分44秒
「あと来てないのは、よっすぃーと梨華ちゃんと……裕ちゃんか」
壁に掛かった時計を見ながら、矢口が言った。
時刻は既に集合時間を30分も過ぎているにも関わらず誰も呼びに来ない上、未だマネージャーすら現れない。

「裕ちゃんが来ないのって珍しいよね」
同じく時計を見ながら、圭ちゃんが言う。
「この雪じゃねぇ…。ちゃんと来てるウチらの方が珍しいんじゃない?」
矢口の言葉に頷きつつ、少しだけ後ろめたい気持ちになる。
神様の勘違いとはいえ、こんな大変な状況を作り出してしまったのは他の誰でもない、私なんだから…。


「カオリ、裕ちゃんに電話してみたら?」
「えっ……ああ、うん」
圭ちゃんの提案に戸惑いつつも頷くと、私は自分のバッグから携帯を取り出した。
震える指で、裕ちゃんの番号を呼び出す。

(『今度やったら…知らんで?どうなっても…どうなってもな』)
今朝の裕ちゃんとの会話が、私の中でちょっとしたトラウマとなっていた。
188 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)20時49分55秒
『はいは〜い』
着信表示を見て私からだとわかっていたのだろう、電話の向こうから聞こえてきた裕ちゃんの声は
今朝とは打って変わって穏やかなモノだった。
とりあえず私は、ホッと胸をなでおろす。

「裕ちゃん、カオリだけど」
『久しぶりやーん、元気してた?』
久しぶりって…今朝電話したばかりなのに。
やっぱりあの時、カオリだって気付いてなかったんだ…ひどいよ裕ちゃん。

「うん。裕ちゃんは?」
『アタシ?最悪やで。昨日はみっちゃんと飲み過ぎてなー、まだ酒ヌケへんし。今朝は今朝でな、朝っぱらから
変なイタズラ電話に起こされるし…ホンマ最悪やわ』
「へぇ…そう」
裕ちゃん、それ(変なイタズラ電話)…カオリだよ。
189 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)20時51分01秒
『朝方やで!?朝方にイタ電!!たまらんわ、何時やと思てんねん!!』
「何時だったの?」
『いやー、時計見てへんかったから』
「………」
私は言葉を失った。

裕ちゃんに電話した時、もう7時(AM)過ぎてたんだよ?
カオリの常識がずれてなければ、午前7時を朝方とは言わないと思うんだけど…しかも裕ちゃん、カオリが起こした時
『こんな夜中に…』って言ってたよね?
裕ちゃんの体内時計って、一体どういうしくみで動いているの?
原動力はお酒?裕ちゃん時計はお酒が電池の代わり?お酒が切れると止まっちゃうとか?
190 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)20時51分56秒
『昨日はホンマ最悪やったわ。飲み屋でおっさんに絡まれるし、みちよの愚痴は止まらんし…。
全部、あのイタ電のせいやで』
ひどいよ裕ちゃん、何でもかんでも…。それって明らかに、カオリが電話するよりも前の出来事じゃん…。

何でもかんでも人のせいにするのは、良くないことだよ。
私は、そう言いたいのをぐっとガマンした。
いつだって人は、嫌なことや気持ちよくないこと、誰かや何かのせいにしないと生きられない動物なんだもんね。
そういうの全部自分で背負い込んじゃったら、重くて重くてつぶされちゃうもんね。
そうやって人は、自分が抱えているストレスから解放されようとするんだもんね。
そうやって人は、うまく生きていこうとするんだもんね。


「…そっか、大変だったね」
カオリってつくづく…おとなだなぁ。
191 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)20時53分28秒
「裕ちゃん、今どこ?」
『あー?まだ車ん中。もー、この大雪やろ?渋滞しててぜんっぜん、前進まへんねん』
「そうなんだ…」
『なんや、さっきから屋根がミシミシいうてんねんけどな…。うわっ!?なに!?ちょっ…今、ヘコみませんでした!?
ねー、屋根ヘコんだでしょ!?ちょっと大丈夫なん!?おじさん!!』
突然、電話の向こうから裕ちゃんの取り乱した声が聞こえてきた。

「裕ちゃん…?」
『あっ、ゴメンゴメン。今な、ベコッ言うてん。ベコッ、て。絶対ヘコんだわぁ、屋根』
「がんばってね、裕ちゃん」
『え?ああ、そらまぁ、がんばらなしゃあないけどなー…何を?』
「じゃあね」
『えっ、もう切んの?もうちょっとええやん。なんや心細いねん、なぁカオ…』
ピッ。
電話って不思議。
ついさっきまで、まるで相手が自分の目の前にいるかのように近くに感じられたのに…ボタン一つで消えちゃうんだもん。
ボタン一つでいつでも会えて、ボタン一つでいつでもさよならできて。

別に今のは、今朝のカオリの電話がイタ電と間違われて挙句の果てに一方的に切られたことへの仕返しじゃないからね?
ね、裕ちゃん。
192 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)20時54分28秒
「どこにいるって?」
電話を切るとすぐに、圭ちゃんが聞いてくる。
「まだ車の中だって。なんか、屋根がへこんだとか言ってたけど」
「はあ?なにそれ。ちゃんとたどり着けんのかなー、裕ちゃん」
矢口が言った。

「…ダメだ。よっすぃーも梨華ちゃんも全然出ないよ?」
携帯片手に後藤が言った。
私が裕ちゃんと話している間に、後藤は吉澤と石川に連絡を付けようとしていたらしい。

「ガオーッ!グアーッ!!グアオオオオゥゥゥゥ!!!」
「こりゃ、今日は中止かねー…」
だんだんと進化を遂げていく野生熊やすださん(お面を付けた加護)をちらりと横目で見ながら、圭ちゃんが言った。
「なんだよー…家で寝てれば良かった」
言うなり、矢口は机の上に突っ伏した。


「んあっ!?」
びっくりした矢口が飛び起きるのと、みんなが一斉に窓の方に注目したのとはほぼ同時だった。
「なに…今の?ねぇ、音したよね!?ねぇ!?」
矢口の問いかけに、全員が頷く。
凶暴化した野生熊やすださん(加護)ですら、怯えた表情で立ち尽くしている。
193 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)20時55分35秒
ドンドン!!
今度は、はっきりと聞こえた。
部屋の窓を、誰か(何か)が…外側から、叩いている。

「かっ、風の音じゃない?ねぇ?」
ドンドンドンドン!!
なっちの言葉を嘲笑うかのように、その音は窓の外から再びはっきりと聞こえてくる。
「よよよよ、四回もっ、四回も鳴ったよ、四回も!!」
矢口は声を上ずらせて完全に取り乱している。

「誰か…いるんだよ、外に」
「やめてよ、カオリ…9階だよ、ココ」
圭ちゃんの言う通り、ビルの9階で外から誰かが窓を叩いているとしたらそれは…間違いなく、普通の人間じゃない。
恐らくオバケか、ロボットか、圭ちゃんか…あっ、でも圭ちゃんは今ココにいるから却下。
だけど圭ちゃんなら…可能かも?(分身の術など)


「みんな、いい?開けるよ?」
(私の中だけで)噂をすれば影。
我らがヒーロー圭ちゃんが勇敢にも、今も叩き続けれている窓のカーテンに手をかける。
そしてみんなが頷いたのを確認すると、完全に閉め切られたカーテンを…一気に開けた!!
194 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)20時56分57秒
「「「「「「「ギャーーーーーーーーッッ!!!」」」」」」」
次の瞬間私たちが目にしたのは世にも恐ろしい、窓にへばりついた『何か』…人間らしき姿をした、謎の生物。

「ゆ、ゆきっ、ゆきっ、ゆきおとこぉぉぉーーーっっ!!!」
矢口の甲高い大声に、耳がキーン…ってなった。

「ちょっと矢口!!いっくら北海道だからって、雪男はないでしょー!?北海道バカにしてるんでない!?」
「あー…ヒマラヤだっけ?ゆきおとこって」
なっちも後藤も、今はそんなコト言ってる場合じゃないんじゃないかな?カオはそう思う。

問題の雪男は外側から窓枠に足を掛けて立ち、窓に両手をついて左頬をべったり押し付けている。
後ろから何かに押しつぶされているようにも見えるんだけど…背景は降りしきる雪で真っ白、彼がどういう状態で
そこに立っているのかを窺い知ることは出来ない。

「見なかったことにしよう」
圭ちゃんは冷静な口調でそう言うと再び窓際に近付き、全開状態のカーテンに手を伸ばす。
無かったことにされようとしているのに気が付いたのか、頬を窓に押し付けていた雪男の左眼がカッと見開かれた。
195 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)20時58分08秒
「あれぇ?」
「どうしたの?ごっちん」
カーテンが雪男の体にさしかかったところで、後藤の言葉に圭ちゃんがその手を止める。

「アレさぁ…よっすぃー、じゃない?」
みんなが一斉に雪男に注目すると、彼はその両手に力を込めてゆっくりと体を後ろへ押し戻した。
そして正面を向いたその顔は、さっきまでの無残に潰れた横顔と同一人物とは思えないほど端正な顔立ちをしている。
その姿を呆然と見つめる私たちを…雪男改め吉澤ひとみは、哀しげな眼差しで見下ろしていた。

「何か言ってるよ?」
なっちが、口を大きく開けて何かを伝えようとしている吉澤に気付いて言った。
どうやら同じフレーズを繰り返しているらしい吉澤の口の動きを読もうと、みんなが一斉に注目する。


『お・と・こ・じゃ・な・い』


「男じゃない、ってアンタ…『ゆき』の部分は否定しなくていいのか?」
圭ちゃんが言った。
196 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)20時59分20秒
「よっすぃー…どうやってココまで登ってきたんだろ」
矢口は、雪男の正体が判ってようやくショックから立ち直った様子。
「あーっ!またココでてるよ!!」
辻の言葉に振り返ると、テレビには私たちがいるテレビ局の上空からの映像が映し出されていた。

「なにコレ、うそでしょ!?ココまで雪が積もってるってコト!?9階まで!?」
その映像を見た瞬間、矢口が驚きの声を上げた。
お天気おねえさんのコメントによると、朝方からの雪は今もまだ降り続いていて、『ひどい所ではビルの9階まで
雪に覆われてしまっているようです。みなさん、出かけるときは傘を忘れないようにしましょうね!』とのこと。

「お天気コーナーでのんびり取り上げてる場合か?」
圭ちゃんが言った…あ、そう言われてみればそうだよね。
「ってゆーか、既に北海道じゃなくなってる気がするんだけど…」
矢口の言う通り、いくら北海道でもビルの9階まで雪が積もったって話は聞いたことがない。
神様の北海道に対する認識に誤りがあることに、私は気付き始めていた。
197 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)21時00分29秒
「でもさー…他はそうでもないよ?なんかココだけ、すごくない?」
後藤の言葉に再びテレビの映像に注目すると…確かに私たちがいるこの建物は、周りに比べて雪の深さがダントツ。
他の場所も北海道並みに積もってはいるものの、あくまで北海道並みという程度の積雪だし。
道路も既に除雪車が出動して、着々と除雪作業が進められている様子。
北海道を通り越してもはや何処の景色を再現したいのか理解に苦しむこの場所は、常識を超えた今日の東京地方の
中でも一際異彩を放っている。
なぜ………??

「カオリ…ピンポイントで狙われてんだよ、アンタ」
あっ!そういうことかぁ。
「ああああ、もぉー!来るんじゃなかった、ほんっと来るんじゃなかったよぉぉ…」
そう言って机の上に突っ伏した矢口は、泣いているみたいだった。
泣かないで、矢口。矢口が泣くと、カオリまで悲しくなっちゃうよ…。


ドンドンドン!!
激しく窓を叩く音に、みんなが一斉に注目する。
「あっ、忘れてた」
9階まで積もった雪に押しつぶされている吉澤を見上げる矢口の瞳は…涙に濡れていた。
198 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)21時01分41秒
「雪の上を登ってきたのかなぁ…すごいね、よっすぃーは」
みんなに忘れ去られたのが悲しかったのか半泣き状態の吉澤を見ながら、後藤が言った。

「よいしょ、っと」
矢口が自分の座っていたパイプイスを窓の下まで運ぶと、その上に立ち上がる。
窓のカギは私が背伸びをしてようやく届くぐらいの高さに位置しており、台などを使わずに矢口が開けるのは当然無理。
矢口も言ってくれればいいのに…でも、きっと自分の手で吉澤を助け出したいんだね?
いいなぁ、友情って。いいなぁ、青春って。

「ちょっと、なにやってんの!?矢口!?」
突然割り込んできたなっちの声に、顔を上げて窓の方を見遣ると…当然カギを開けるのだと想像していた
矢口の行動がおかしいことに気が付く。
イスの上に立ち上がっている矢口は窓に両手を付いて少し背伸びをすると、吉澤の口元に自分の唇を近づけている。
そして照れたような表情の吉澤はほんの少し躊躇した後、ゆっくりと目を閉じた。
矢口…何をする気!?
199 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)21時02分56秒
「はあーっ」
固唾を飲んで見守っていると、みんな(かどうかは知らないけど)の予想に反して矢口は窓に向かって息を吹きかけた。
矢口はキュッキュッと音を立てながら、白く曇った窓ガラスに指で文字を書き始めた。

「いいの?何かを期待しちゃってるよ、あのコ」
圭ちゃんの言葉を無視して、作業に没頭する矢口。
目の前に記されている矢口のメッセージにまるで気付いていない吉澤は…固く唇を結んだまま、まだ目を瞑っていた。

「よし、できた!」
そう言うと矢口は、ドン!と強く窓ガラスを叩く。
突然の出来事に驚いた吉澤が、バランスを崩して後ろによろける。

「器用だねぇ、矢口」
イスから下りた矢口に、感心した様子でなっちが言う。
見ると矢口が窓ガラスに記した文字は、吉澤側から読めるよう裏返しに書いてあった。
私たちはしばし無言で、矢口が書いたメッセージを解読する。

『よっすぃーへ。玄関はこっち。↓』

「もっかい下降りろ、ってコト?無茶だって矢口」
「だって、ここで窓開けたらどうなると思ってんの?雪崩おきるよ」
パイプイスを元の位置に戻しながら、矢口が圭ちゃんに反論する。
200 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)21時04分00秒
「ねぇ、冗談やめて開けてあげようよ。よっすぃー泣いてるよ?」
なっちの言葉に、私も圭ちゃんも顔を見合わせて頷いた。
矢口に裏切られて失意のどん底にいると思われる吉澤は窓にしがみつくのを止め、背後に積もる雪の中に埋没し始めていた。
よく見ると、涙で濡れたまつげが凍っている。

確かに矢口の言う通り今ここで窓を開けようものなら、外にいる吉澤と一緒に大量の雪がこの部屋に雪崩れ込むのは
避けられない。
だからと言って、雪の中をこんな高さまで登ってきた吉澤をこのまま追い返すのはあまりに可哀相……というか、
命に関わるのではないだろうか。そんな気がした。


「みんな、準備して。開けるよ?」
私は背伸びをして、窓のカギを外した。
立ったまま雪に埋もれていた吉澤が、希望に満ちた表情で私を見る。
「準備って、何すりゃいいんだよー」
「心の準備」
ようやく吉澤を救出する気になった様子の矢口に、短く答える。

私は全員が身構えたのを確認すると、窓の端に両手を掛けた。
201 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)21時05分13秒
「「「「「「「「キャーーーーーーッッ……」」」」」」」」
みんなの悲鳴が、雪崩れ込んできた雪に掻き消されてフェードアウトしていく。

しりもちを付いて完全に雪に埋もれてしまっていた私は、雪を掻き分けて何とか立ち上がった。
気が付くと私は、雪崩の勢いで入り口付近まで流されてしまっていた。
部屋の中を見回すものの、誰の姿も確認できない…どうやら、みんな雪の中に埋まってしまった様子。

「みんな、大丈夫っ!?矢口!辻!加護!」
私の胸の高さまで積もっている雪の中、心配なのはやはりミニモニの三人組。
そしてここへ来る途中にも埋まったと言っていた矢口の名を、私は一番最初に呼んでいた。

「ふざけんな!よっすぃー!!」
姿は見えないものの空気穴を確保したらしい矢口のくぐもった怒鳴り声が聞こえて、とりあえず私は安心した。
「…すいません」
矢口には怒られたけど、助かって良かったね?吉澤。

「「だいじょうぶですー」」
矢口と同じく、辻と加護も空気穴を確保した様子。
「こっちもオッケーだよぉ、カオリ」
後藤はいつの間にか雪の中から顔を出して、こちらに向かって手を振っている。
202 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月06日(土)21時06分40秒
「なっちも大丈夫だよー」
「アタシも何とか生きてるよ」
良かった…なっちも圭ちゃんも、みんな無事みたいだね。

「「「「「「「「はあ……」」」」」」」」
無事なのは良かったけど、どうしよう…。
雪に埋め尽くされた部屋の中、全員が一斉にため息をついた。


「ああーーーーっっ!!!」
突然叫び声が聞こえたかと思うと、雪の中から吉澤が顔を出した。
「なに!?どしたの!?」
続いて聞こえてきたのは、なっちのくぐもった声。

「梨華ちゃんが、梨華ちゃんがまだ外にっ!!」
「はあ?一緒に来たの?」
ガサガサと音がして、圭ちゃんが顔を出す。

「はい。でも梨華ちゃん、途中で寝ちゃって…すぐそこなんで、連れて来ます!」
言うなり吉澤は、窓の外へ飛び出していった。
すぐそこ、って…石川はまだ、外で雪に埋まってるってコト!?

「寝ちゃったの置いてくんなよー!あぶないよ!!バカ!!」
そんなにキツク言わなくてもいいのに…いつもそう思いながら傍観していた矢口の突っ込みだけど、
今回ばかりは私も同じ気持ちで深く頷いた。

大丈夫かなぁ……石川。
203 名前:すてっぷ 投稿日:2001年10月06日(土)21時08分19秒
次回こそは、少しは緊迫した展開になるかも…(たぶん)。

>183 名無し読者さん
ありがとうございます。
矢口まで壊れてきて収拾つかなくなってますが(笑)、最後までよろしくです!

>184 名無し読者さん
毒舌師弟コンビ(笑)、素敵なコンビ名をありがとうございます。
最近書いてないので一瞬誰のことかわかりませんでした(笑)
話が先に進まず、毎回ついボヤいてしまうのですが…よろしくお付き合いください。

>185 名無し娘。さん
ポリシーに反してまでお読みいただけるとは…光栄です(笑)。
最後まで読んでいただけるよう、がんばります。
204 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月06日(土)21時48分16秒
ああ、今回は主役じゃないのに……。
よっすぃー……アホや(w
205 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月07日(日)02時10分07秒
寝てるて……(w
206 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月07日(日)03時41分44秒
ああ、よっすぃー、なんて悲惨な…… なんと間抜けな……
石川は、早く起こしてあげないと死んじゃうぞ(笑)
207 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月08日(月)23時45分47秒

―――

(『すぐそこなんで、連れて来ます!』)
その言葉通り吉澤は窓から飛び出して5分も経たないうちに、石川を伴って再びこの部屋に戻ってきた。
吉澤に肩を借りて窓から入ってきた石川は顔色こそ青ざめているものの、その足取りはしっかりとしていた。

「「わっ!?」」
二人は部屋に入るなり、ズボッという音と共に雪の中に埋没した。
「しっかし、どーすっかねぇ…」
雪の中から圭ちゃんのくぐもった声が聞こえる。

次いで、う〜んと唸る声が部屋のあちこちから聞こえてくる。
吉澤が石川を連れて戻るまでの間…雪に埋まった私たちは、それぞれ自分が座り込める程度の巣穴を堀り、
そこに座って待機していた。
雪は私の胸の高さ程まで積もっており、床に座り込んでいる今の態勢では頭まですっぽりと雪に隠れてしまっている。

吉澤も石川も、それから他のみんなも無事だったのは良かったんだけど…どうしよう、これから。
外には凶暴な熊(野生熊のやすださん)がいるから出られないし、部屋の中はこんな状態だし…どうしよう。

どうしたらいいんだろう……。
208 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月08日(月)23時47分11秒
「よっ、すぃー…」
私たちのこれからについて考えをめぐらせていると、少し離れた場所から石川の消え入りそうな声が聞こえてきた。
「なに?」
続いて聞こえてきたのは、石川と同じ巣穴にいると思われる吉澤の声。
何か元気なさそうな声だったけど…大丈夫かなぁ、石川。
心配になった私は、中腰になって二人の会話に聞き耳を立てる。

「あたし……もう、ガマンできない」
「梨華ちゃん?」
え?

「お願い、よっすぃー…」
「梨華ちゃん!?ちょっ、ダメだよ!こんなトコでそんなっ!?」
えっ??

「こわいから…手、つないでて。よっすぃー」
「……うん」
ええーっ!?

なになに!?
一体ナニをしてるの、二人とも!?
青少年(辻と加護)の教育上、良くないコトじゃないよね!?
ダメだよ!ダメだよ!そんなコト!!
注意しなきゃ、止めなきゃ…その前にこの目でしっかりと確認しなくては!!
現行犯で逮捕するには、まず犯行現場を押さえなくては!!

(決して好奇心などではなく)リーダーとして一言注意するため、私はすっくと立ち上がった。
209 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月08日(月)23時48分54秒
「「「「「あっ」」」」」
まるで申し合わせたかのように同時に立ち上がった矢口、圭ちゃん、なっち、そして後藤の四人と目が合ってしまい、
気まずさから全員が一斉に目を伏せた。
もぅ、みんな…私はリーダーとして一言注意するために仕方なく確認しに来たワケだけど、みんなはアレ?好奇心?
やだなぁ、もぅ。

「梨華ちゃん…」
「よっすぃー…」
窓際に作られた二人の巣穴(これがホントの『愛の巣』。なんちゃって!冴えてるね!)を覗き込もうと、
私を含む5人のウォッチャーたちは一斉に身を乗り出した。


「梨華ちゃん……やっぱダメだよ、こんなコト!!起きて!起きろ!梨華ちゃああああーーん!!!」
無駄にバカでかい吉澤の声が、私の左耳から右耳へ…キィィーンと一気に駆け抜けていった。

「「「「「はあ?」」」」」
なにそれ?
一体ナニをしてるの、二人とも。
青少年(辻と加護)の教育上、良くないコトしてたんじゃなかったの?
ダメだよ!ダメだよ!そんなコトじゃ!!
210 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月08日(月)23時50分51秒
「ガマンできない、って…眠気かよ!!」
「紛らわしいよ、あんたたち!!」
「いやー。なっち、マジでドッキドキしたよぉー!」
「梨華ちゃんってホント、ねぼすけだよねぇ…」
二人の元に、勝手にアヤシげな出来事を想像してしまっていた人々から続々と不満の声が寄せられる。
もぅ…なに想像してるんだよー、みんな(カオリ・辻・加護を除く)。

「「チッ」」
と思ってたら、背後から微かに二つの舌打ちが聞こえてきた。
どうやらこの子たちも、密かに何かを期待していたらしい。
もぅ…なに想像してるんだよー、みんな(カオリを除く)。


「………?」
石川の手を握ったまま、吉澤は困惑顔で私たち(ウォッチャー集団)を見上げている。

「起きろ、石川!」
「キャッ!?」
そして怒りにまかせて放られた矢口の雪球が、眠っていた石川の頭を直撃する。
211 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月08日(月)23時52分32秒
「もぅ、大変だったんですよー…一階は埋まっちゃって入れないし。仕方ないから積もってるとこ登り始めたら、
登ってくうちにまた降ってきてどんどん高くなってくし…」
みんな立ち上がって自分の巣穴から顔を出し(ミニモニの三人に至っては顔の上半分しか出ていない)、
吉澤がココへ辿り着くまでの苦労話に耳を傾けていた。

吉澤が到着した頃には既に局の入口は雪で埋まっており、その上を登って二階の窓から侵入しようとしていたところで
同じく下で立ち往生している石川を発見、二人で一緒に登ってきたらしい。
どうやらこのビルは集中的に雪に狙われているらしく、その勢いといったら常識を遥かに超えている。
吉澤たちの歩みはその降雪の勢いに追いつかず、地道に歩を進めるうちにこの9階まで辿り着いてしまったとのこと。


「梨華ちゃん、途中で何回も寝ちゃいそうになるし。でもぉ、やっぱ雪山で寝ちゃったらマズイじゃないですかぁ」
「まぁ、そらマズイわなー。でもアンタ、しっかり置いてきてたよね」
得意げに語る吉澤だったが、発言の矛盾点を圭ちゃんに指摘される。
212 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月08日(月)23時53分58秒
「あっ、そう言えばそうですよね。やばー。ゴメンね、梨華ちゃん」
こんな人物に命を預けていた石川が、とてもとても不憫に思えた。
「う、うん…」
本当に、無事で良かったね…石川。

「でもぉ、私ってどこでも寝れるんですよぉ。枕替わっても全然平気だし」
「ははっ、雪山に枕なんてないよー!梨華ちゃん、おっかしー!!ははははは!!」
「やだぁ、違うよー!たとえだってば、たとえ」
何がそんなに面白いのかはよくわからないけど…とにかく吉澤も石川も元気そうでなによりだな、って思った。

「寝てたんじゃなくて意識なくしてたんでしょ!ってゆーかココは雪山でもないし、命懸けてまで登ってくる必要もないし!!」
「もぅ…怒んないの、矢口」
「そんなに怒るとカルシウム足んなくなっちゃいますよ?」
「逆だよ!足んないから怒ってんだよ!ってゆーか余計なお世話だよ!」
せっかくなっちがなだめようとしているのに、吉澤の余計な一言が矢口の導火線に火を点けてしまった。
213 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月08日(月)23時55分57秒
「あー…そっかぁ、アレだね。やぐっつぁんは牛乳飲めないからねー…」
「矢口さん、牛乳飲まないと大っきくなれないんですよ?」
「っさいなー、知ってるよ!バカ!!」
「矢口さん、ひどいっ!」
石川のマメ知識に、さらに荒れ狂う矢口。


「っくしゅっ!」
「辻…?寒いの?」
突然背後から聞こえたくしゃみに振り返ると、雪の上に顔半分だけ覗かせている辻が鼻と口を両手で覆っている。
「…さむい」
「あ、窓開いてるもん」
吉澤は慌てて雪の上に這い上がると、窓枠に溜まった雪を退かしながら窓を閉めた。

「あれ?エアコン止まってるよ。何で?」
見ると、矢口の言葉通りエアコンのスイッチはオフになっている。
誰も止めるはずがないのに…一体なぜ?

「あーっ!ゴメン、タイマーにしてた」
犯人はなっちだった。
「うそーっ!?」
驚愕する矢口。
「だってぇ…なっちが着いた時はこんなにひどくなるなんて思わなかったんだもん。
みんなが集まるまでで良いかなぁーって思って。もったいないし」
言い訳するなっち。
「自分ちじゃないんだからいいんだよ、んなコトしなくてさー!」
許さない矢口。
214 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月08日(月)23時57分32秒
「怒んないでよ、矢口…またつければいいじゃん。リモコン、どこだっけ?」
我ながら、なんて冷静なんだろう…自分の発言に惚れ惚れしてしまう。
「テーブルの上」
私以上に冷静な口調で、圭ちゃんが回答してくれる。

「テーブル、どこだっけ?」
部屋の中は見渡す限り一面の雪景色。テーブルの上のリモコンはおろか、テーブルすら見えていない状態。
「埋まってます」
「………」
わかりやすい回答をありがとう、吉澤。

「あれ?そう言えば、なんで外出ないんですか?廊下は雪積もってないんですよね?」
今ごろそんな疑問を抱いたんだね、吉澤。

「熊が出るんだよ、外は」
そう言った矢口の表情は、真剣そのもの(顔半分しか見えてないけど)。
「「ええーっ!?」」
吉澤と石川の叫び声がハモる。
私となっちが道産子ハーモニーなら、この二人はさしずめ…青少年(辻と加護)の教育上良くないハーモニー。うーん、いまいち。
215 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月08日(月)23時59分02秒
「やすださんが出るんだよ、外は」
矢口のマネをして、真剣な口調で加護が言った。
「「ええええーーーーっっ!?」」
吉澤と石川の叫び声が再びハモる。

「保田さんも出るの!?」
「ちょっと吉澤!やすださん『も』って何よ!あのね、『やすださん』ってのは熊の名前で…って何でこんなコト
説明しなきゃなんないのよ!!」
「えー、保田さんとかけましてぇ、熊とときます」
圭ちゃんの怒りを全く無視して、加護が暴走を開始した。

「そのココロはぁ?」
隣の辻が合いの手(?)を入れてきて、加護はご満悦の様子。
「どちらも恐い」
「あははははは!!加護!!なんかよくわかんないけど、面白いよ!!はははは!!」
エアコンの件で頂点に達していた矢口の怒りも、どうやら解けたみたい…良かったね、なっち。

「熊かぁ…やっぱ、シャケとか持ってたりすんのかなぁ」
緊張感の全く感じられない声で、吉澤が言った。
「あーっ、それウチにもあるよ。置物でしょ?」
「そうそう。重いしジャマなんだよねー、アレ」
吉澤も後藤も、今はそんな話題で盛り上がってる場合じゃないんじゃないかな?カオはそう思う。
216 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月09日(火)00時00分58秒
「もーやだ…冬眠しちゃおっかなぁ。圭ちゃん、あとヨロシク」
緊張感ゼロの二人に呆れたのか、矢口は再びしゃがみ込んで巣穴に戻ってしまった。
だけど、冬眠するのは圭ちゃんの方なんじゃないかな(熊だけに)…そう思ったけど、恐くて言えなかった。

「っくしゅっ!」
「っくしゅんっ!」
「辻!加護!」
私は、少し離れた巣穴でくしゃみを連発する二人に声をかける。
「「だいじょうぶですー」」
そうは言うものの、どうしよう…このままじゃ二人とも風邪ひいちゃうよ。

「どうしよう…みんな、凍えちゃうよ」
独り言のように、なっちが言った。
「すいません…なんか、ウチらのせいで」
「ごめんなさい」
申し訳なさそうな表情の吉澤と石川に、私は黙って首を横に振った。
二人は何とかしてココまで辿り着こうと、吹雪の中を頑張って登ってきたんだもんね。
いつもなら憎まれ口の一つでも叩いてくる矢口も、巣穴に潜ったまま一言も喋らない。

そうこうしてる間にも、部屋の温度はどんどん下がっていく。
窓の外は吹雪、部屋の中は雪で埋め尽くされ、一歩外へ出れば獰猛な熊がいる。
考えなくちゃ…みんなが助かる方法。
217 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月09日(火)00時03分12秒
「あーあ、裕ちゃんが居てくれたらなぁ…」
矢口の言葉に、一瞬自分の耳を疑った。

「やめなよ、矢口。裕ちゃんが居たって一緒だよ、そんなの…何も変わるワケないでしょ?」
私を気遣ってくれるなっちの言葉が、逆に悲しかった。
「そうだけどさ…裕ちゃんなら、何とかしてくれる気がするんだもん」
情けないし悲しいけど、私もそう思う。

私は裕ちゃんみたいに、みんなの悪い所を注意したり厳しく叱ったりできないし…だけどそういうの、みんながそれぞれ
自分で気付いて自分で直してくれれば良いって思ってた。
私は裕ちゃんみたいに、『ついて来い!』って引っ張ってくようなタイプじゃないし…だけどそんなコトしなくたって、
みんなで一緒に歩いていければ良いって思ってた。
私は裕ちゃんみたいに……。


「矢口、まだそんなこと言ってんの?リーダーはカオリなんだよ?カオリなんだよ!!」
「……ゴメン。そーゆーつもりじゃなかった」
「やめてよ。圭ちゃんも矢口も、もういいよ。あたし、気にしてないから」
嘘。
ホントはすごく気になるし、ホントはすごく傷付いてる。
218 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月09日(火)00時05分07秒
なっちや圭ちゃんが言ってくれた言葉も、それから矢口が言ったコトも、よくわかるから…余計に、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
悪いのは私なんだ。
リーダーのくせに頼りなくて、いつもみんなに頼ってばかりで、何も言えなくて、何もできなくて。

あふれだした涙を悟られたくなくて、私は巣穴に隠れ込む。
ゴメンね、みんな…こんな情けないヤツについていかなきゃいけないみんなは、本当に可哀相だよ。
まただ…自信がなくて落ち込んだとき、決まって私の中に湧き上がってくる疑問。

『どうして、私なんだろう?』
『みんな、本当に私で良いと思ってる?』

そして巣穴の中で膝を抱えながら私は、それよりももっと恐ろしいことを考えていた。
もしかしたら他のみんなも…私と同じことを思っているんじゃないか、って。

『どうして、圭織なんだろう?』
『みんな、本当に圭織で良いと思ってる?』

考えすぎかも知れないけど、もしかしたらみんな…そう思ってるんじゃないかって。
219 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月09日(火)00時07分13秒
「カオリ、ねぇどうしたの?カオ?」
矢口が心配して呼びかけてくれる。
返事を返したかったけど…涙があふれて、言葉が声にならない。
深い雪の中、声を押し殺して一人で泣いた。

傷付くことを恐れていては前には進めない、って…いつもそう言って頑張ってきた私だけど。
石川にはいつも、『ポジテブ、ポジテブ』なんて偉そうに言ってる私だけど。
悩んだり傷付いたり、それがこれからの私たちに必要なコトだってわかってても…やっぱり、嫌だよ。


こんな気持ち…ホントはすごく嫌だよ、神様。
220 名前:すてっぷ 投稿日:2001年10月09日(火)00時09分02秒
>204 名無し読者さん
ありがとうございます。ある意味、主役級の不幸っぷりでしたね(笑)

>205 名無しさん
ありがとうございます。石川、寝てました(笑)

>206 名無し読者さん
ありがとうございます。
話は変わっても吉澤はやはりこんな登場の仕方しかできないようです(笑)
221 名前:もんじゃ 投稿日:2001年10月09日(火)16時16分06秒
リーダー筆頭に何を期待してんだか(w
…すみません。私もちょっぴり期待してました。
気まずさから…のあたりその様子が頭に浮かんでめちゃ笑えました。
加護・辻の舌打ちも(笑)
222 名前:すてっぷ 投稿日:2001年10月13日(土)17時11分06秒
>221 もんじゃさん
やれやれ。もんじゃさんこそ、まったく何を期待してんだか。
今回は、加護&辻がちょっと悪めのキャラになってますが(笑)
223 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月13日(土)17時12分38秒

―――

リーダー…リーダー…リーダー…リーダー…リーダー…
リーダー…リーダー…リーダー…リーダー…リーダー…
大好きだったはずのこのフレーズが、今や呪われた言葉となって私に襲い掛かる。
寒い部屋、凍えた心、みんなのために何も出来ない私、役立たずの…リーダー失格の、私。


「でも実際、来週のコト考えると暗くなっちゃいますよ…」
「どしたの?よっすぃー」
「ホラ、矢口。アレだよ」
巣穴に篭って膝を抱えたままで、圭ちゃんたちの話に聞き耳を立てる。

吉澤が言った、『来週のコト』。それは圭ちゃんと同じく、私にも察しがついた。
来週、正確には次の日曜だけど…私たちに新しい仲間が増える日、新メンバーの追加オーディションがある日だ。

それにしても…カオリから見てもいつもぼーっとしてるように見える吉澤ですら、やっぱり不安に感じてるんだ。
みんなの間でそのコトが話題に上ることはあまり無かったけど、みんなきっと同じような気持ちでいるんだろう。
私だって、こんな気持ちのままじゃ…新しいコのこと、ちゃんと迎えてあげられそうにないよ。
224 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月13日(土)17時13分55秒
「ほんっと、どーしよっかなぁ…補習」
「「「「「「「「「はあ!?」」」」」」」」」
予想もしなかった吉澤の言葉に、思わず声に出して驚いてしまった。

「そっちかい!」
「カンベンしてよ、よっすぃー…それってウチらに全く関係ないんだけど」
「だって、最後ですよ!?最後の一週間なのに…」
圭ちゃんと矢口に突っ込まれ、必死に反論する吉澤…そういえば、そんなコト言ってたような気がする。
夏休み最後の週に補習受けなきゃいけなくなった、って…世界一暗い顔で語っていた吉澤の姿を思い出した。

「わかったわかった。がんばれがんばれ」
「あっ!矢口さん、ひっどー」
「がんばって!よっすぃー」
「やだよ。梨華ちゃん、代わってよ」
「ええっっ!?」
吉澤の言葉に、石川は本気で驚いているようだった。
安心して、石川。
答えはカオリにもわかるぐらい簡単なコトだよ…そんなコト(代わりに補習を受ける)、できるわけないじゃない。

「こらこら!あんたたち、また話ずれてるから」
話が脱線しかけたところで、圭ちゃんが割って入る。
225 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月13日(土)17時15分26秒
そうだよね…。
いつだってしっかりしてるのはリーダーの私じゃなくて、サブリーダーの圭ちゃんの方だもん。
普段は私に気を使ってくれているのか何も言わない彼女だけど…私なんかよりずっとしっかりしてる
圭ちゃんの方が、リーダーに向いているんじゃないだろうか。

「梨華ちゃん、代わっちゃえば?そんでさー、わざと0点取ってー、よっすぃー驚かすの」
「ごっちん、聞いてた?その話はもう終わってんの」
そう、いつだって丸く収めてくれるのは…圭ちゃんだもんね。
そう、いつだって丸く、丸く、収めて…。

あれ?ちょっと待って、ちょっと待って。何かイイコト、思いつきそう。
考えて、カオリン。もうちょっとだから。

えーっと…………チッ、チッ、チッ、チッ(考えるときの効果音)、チックタック、チックタック。
丸く、丸く、丸く………収める!!!
よっしゃ!コレだ、もらった!!わかったよっ!!!


「かまくらだっ!!かまくらだよ、みんな!!!」
すっくと立ち上がった私に、みんなの視線が集中する。
226 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月13日(土)17時17分12秒
「かまくら?」
「うん。雪のおうちだよ」
大して興味もなさそうな辻の問いかけに少々トーンダウンしながらも、私は答えてあげた。
「いいね!懐かしいなぁ…ねぇ、作ってみようよ!」
一方なっちは、私の期待通りの反応を示してくれる。

「かまくらも何も、早いとこリモコン探してさー、エアコンつければ済むコトじゃ……んぎゃあっ!?」
バシュッ!と鋭く風を切る音がしたと思った次の瞬間…モロに顔面に雪球をくらった矢口が、雪の中に埋没した。
さよなら、矢口。
「ちょっとー!なにすんだよ、圭ちゃん!!」
おかえり、矢口。

「さ。やろっか、かまくら」
圭ちゃん…。

「だってさ、外には熊がいるって言うし、ココはこんなだし。それしか方法ないじゃん。そうでしょ、矢口?」
「………うん。そうだね」
ありがとう…圭ちゃん、矢口。


「あっ!そういえば、いいモノ見つけたんですよ。ココ来る途中で」
そう言うと吉澤は、自分の巣穴に潜り込んでゴソゴソと何かを取り出してきた。
「ホラ!」
そして中から出てきたのは、雪かき用のスコップだった。
227 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月13日(土)17時18分41秒
ザック、ザック、ペタ、ペタ。
スコップで雪を崩す音と、その雪を集めて固める音とが、規則正しいリズムを刻んでいる。
雪かき担当の私がかまくらの元となる雪を崩し、みんながその崩れた雪を部屋の隅まで運んでかまくらを作る。
私たちはいつの間にか、寒さも忘れてひたすらその作業に没頭していた。


「ねぇ、カオリ。楽しいね!ホント楽しいねぇ…こういうの、なっち大好きなんだぁ」
私が崩した雪を両手で掬いながら、息を弾ませてなっちが言う。
「うん…そうだね」
みんなで一つのコトをやるのって、本当に本当に楽しいんだね。

そして、カオリは思ったんだ。
自分が楽しいからうれしいんじゃない、みんなの楽しそうな顔を見れることが…カオリは、いちばんうれしいんだって。
228 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月13日(土)17時20分21秒
「「できたーーっっ!!」」
辻と加護による完了宣言で、私たちのかまくら作りは無事終了。
9人で入るのにはちょっと狭かったけど…みんなで肩を寄せ合って、何とか中に収まることができた。
ホラ。これでみんな、『丸く収まった』もんね!
やっぱり今日の私って、恐いくらいに冴えてるかも知れない。

「ちょっとー、詰めてよ。アタシ、体半分出ちゃってんだけど」
あ、圭ちゃんだけ収まってなかった。

「あったかいんだねー…かまくらって」
後藤が言った。

「まっ、こんだけみんなでくっついてればねー」
「ちょっと矢口!一人で入ったってかまくらは暖かいんだからねー!かまくら、バカにしてるんでない!?」
「なっつぁん、くだんないコトで怒んないの」
相変わらず、みんなを丸く収めてくれるのは圭ちゃんだけど…。

「でも、かまくらなんて…さすが飯田さんですよね!」
石川の言葉はうれしかったけど、何だか私に気を使って言ってくれているような気がして…素直に喜べなかった。
「ありがとう。でもゴメンね、なんかあたし…ぜんぜん、頼りなくてさ」
「飯田さぁん…」
ゴメンね、石川。ゴメンね、みんな。
229 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月13日(土)17時21分55秒
「カオリ、べつに誰も頼りないなんて思ってないよ」
かまくらの入り口に座る圭ちゃんが、身を乗り出して私に言った。

「嘘だよ、思ってるよ!みんな、言わないだけじゃん!どうしてカオリなんだろう、って思ったでしょ!?
ねぇ、どうしてあたしなの?どうして?教えてよ、どうしてカオリなんだよ!?」
全部言ってしまってから、後悔した。
どうして私、みんなを困らせるようなコト言っちゃったんだろう…。


「なーに言ってんの」
あきれたように、なっちが言う。

「圭織じゃなきゃダメだからでしょ?」
なっちは本当にあっさりとした口調で、当たり前みたいにあっさりとした口調で、そう言って笑った。
なーに言ってんの。もう一度、そう言って笑うなっち。

…そっか。
ホントだね。なに言ってんだろうね、私。
うん、わかったよ。

「カオリは、ピース号の船長さんなんだからさ」
矢口の言葉に頷きながら私は、水兵さんの服を着たみんなの姿を思い出した。
うん、もう迷ったりしないよ。
230 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月13日(土)17時23分25秒
「ありがとう」
みんな。
たったひとつのちいさな船で、こわれそうになっても、沈みそうになっても…みんなで乗り越えていこうね。
たよりない船長さんだけど…よろしくね?

たとえば。
みんなのために一人だけ恐い目に遭ったり、一人だけ嫌な思いしたり…そういうのが、リーダーなんだとしても。
それでも私はみんなのためなら、恐い目に遭うのだって平気だし、嫌な思いするのだってなんともないよ?
それは他の誰でもない、みんなのためだから…できるんだよ?
そう思わせてくれる、みんなのためだから…できるんだよ。

小さなかまくらの中で、ひとりひとりの顔を見ながら私は…裕ちゃんも、今の私と同じ気持ちだったのかなって思った。
もしそうなら、こんなカオリでも裕ちゃんみたく、良いリーダーになれるかな。
ね、裕ちゃん。
231 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月13日(土)17時25分14秒
ドンドンドン!!!
「「「「「「「「「……っ!!」」」」」」」」」」
激しくドアを叩く音に、みんなの表情が一瞬にして凍りつく。
かまくら内の温度が、一気に下がったような気がした。

「なに…今の?」
恐る恐る、なっちが切り出す。
「く、くくくくくく、熊だっ、熊だよ!!どうしよう!ねぇ、どうしよう!!」
熊に関しては人一倍臆病になる矢口は、膝を抱えてうずくまったままガタガタと震えている。

ドンドンドンドン!!!!
ドアを叩く音は相変わらず鳴り止まない。
このままでは、外側からドアが破られるのは時間の問題…ということは、やっぱりアレしかない。

「あたしが、行く」
私はかまくらの中でひしめき合うみんなをかき分けて外へ出ると、ドアに立て掛けてあったスコップを手に取った。
先手必勝、熊が入ってくる前にこっちから叩く!やる!!仕留めてみせる!!!

「あたし、ドア開けます!」
私は吉澤の頼もしい言葉に頷くと、ドアの前に立ってスコップを振り上げた。
「行きますよ」
吉澤はカギを開けてノブに手を掛けると…内側に向かって勢い良くドアを開けた!
232 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月13日(土)17時26分49秒
「おーい、あんたら無事かぁー……って、ぬあああああーーっ!?」
「とりゃあああああーーーーーっっ!!」
私は掛け声とともに、構えていたスコップを一気に振り下ろした。

「あっ!待って飯田さん、それ熊じゃないっ!!」
「よっすぃー、『それ』とか言っちゃってるし」
吉澤の声も、後から聞こえた圭ちゃんの声も…振り下ろされた私のスコップを止めることはできなかった。

「あうっ!!」
腕に激痛を感じて、私は思わずその場にうずくまってしまった。
スコップを振り下ろしたときの、固い感触…どうやら私は、熊が入ってくる前に腕を振り下ろしてしまったらしい。
ドアの上の壁を思いっきり叩いてしまった衝撃で、両腕にじんじんとした痛みが残っている。
あっ、そうだ!!

「熊は!?」
問いかける私に吉澤が無言で指差した先を見ると…ドアの前で、一人の女の人がぶったおれていた。
「裕ちゃん!?」
うっそぉ…私ってば、何てコトを。
233 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月13日(土)17時28分16秒
「良かったね、当たんなくてさ」
圭ちゃんの言葉に、とりあえずほっと胸をなでおろす。
タイミングを外して壁を叩いてしまったおかげで、裕ちゃんに危害を加えることはなかったみたいだけど…
裕ちゃんは、そのショックで気絶してしまった様子。

周りのスタッフによって医務室へと運ばれていく裕ちゃんの姿を見ながら私は、真のリーダーになれたような気がしていた。
っていうのは、うそだよ。ゴメンね、裕ちゃん。本当にゴメン。


「さてと。じゃ、あとよろしくね、カオ」
さっきまであんなに怯えていたのが嘘のように平然とした口調で、矢口が言う。
「えっ?」
「『えっ?』じゃないでしょ。かまくら。あとかたづけ」
冷酷に言い放った矢口が指差したモノは…私たちの友情がたくさん詰まっていたはずの、みんなで作ったかまくら。

「なんで?みんなでやろうよ」
「だって、スコップ一つしかないじゃん」
うそ!?圭ちゃんまでそんなコト言うの!?
234 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月13日(土)17時29分55秒
「飯田さん」
後ろからポンポンと肩を叩かれて振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた吉澤がスコップ片手に立っていた。
そっか。やってくれるんだね、雪かき…ありがとう、吉澤。

「はい!」
「……え?」
戸惑いながら、目の前に差し出されたスコップを見つめる私…コレを受け取れって言ってるの、吉澤。
「雪かきと言えば、やっぱ飯田さんですよね!!」
へー、そうだったんだ。知らなかったよ。
溢れ出した涙を悟られたくなくて私は、俯きながらそれを受け取った。

「辻…出て」
「えーっ、もうこわしちゃうんですかぁ」
辻と加護の二人は、まだかまくらの中に残って遊んでいた。
「加護も」
「えーっ、まだ遊びたいのにー!」
「いいから早く出なさい!!」
「「ケッ」」
気に入らないと途端にガラの悪くなる二人を追い出しつつ、かまくら解体作業に取り掛かる。

「おおーっ、飯田さんかっけー!!突き刺すときの角度が違うねぇ」
「ホントだー、腰の入り方がねぇ、違うよねー…」
「ありがとう…」
吉澤と後藤の二人に雪かきっぷりを絶賛されて、うれしいんだか哀しんだか何だか複雑な気持ちになる。
235 名前:リーダー、冬を越す。 投稿日:2001年10月13日(土)17時32分48秒
「あっ、保田さん、水が!なんか水が出てますよぉ?」
「石川ぁ、んなコトでいちいち驚かないでよ」
「梨華ちゃん、コレは雪解け水だよ。雪解け水はね、小川になって山から海へ流れ込んでいくんだよぉー…。
いやー、いいねぇ…北海道は」

なっちの言葉で私は、ココが北海道であったコトを思い出した。
勘違いしてしまったコトへの気まずさからなのか、あれきり私の前に一切姿を現さない神様の存在を
久しぶりに思い出してしまい…怒りとも憎しみともつかない、何とも言い表せない感情が込み上げてきた。

「なっち、残念でしたー。この雪解け水は、ぞうきんに吸い取られて捨てられる運命なんだもん。ねー、カオリ?」
そこまで言うんだったら、雑巾がけやってよ…矢口。

こんな人たちを一つにまとめることって、本当に可能なんだろうか。
これ以上ふえたら、どうなっちゃうんだろー……。


できれば。
いっしょに雪かき手伝ってくれるような、そんな優しいコが入ってくれるといいなぁ…。

だけど、神様にお願いするのだけは二度とやめようと思った。



<終了>
236 名前:すてっぷ 投稿日:2001年10月13日(土)17時35分29秒
とりあえず何とか、完結させることができました。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
237 名前:キャメルさん 投稿日:2001年10月13日(土)17時41分56秒
お疲れ様っす!
いやー、非常に面白かった!
いつもの話とは違う味付けの話で最高でしたよ〜!
238 名前:LVR 投稿日:2001年10月13日(土)20時27分46秒
ただの笑い話と思わせておいて、やっぱりメッセージ性がありますね。
まあ、最後はいつものようにオチ付きですが(w
それにしても、飯田さんの一人称と辻加護がおもしろくて、作者さんの新しい作風を見ました。
239 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月14日(日)04時12分21秒
「チッ」だの「ケッ」だの辻加護はほんとにもう(笑)
完結おめでとうございます。御疲れ様でした。
今回は語り手が今までの感じとは違ったけど、なんだか飯田さんらしくて
面白かったです。中澤を倒して(笑)新リーダー襲名ですな。
でも、このまんまじゃなくても、9人時代に本当にこういう光景ありそう
だもんなあ。変化し続けるのがモーニング娘。の常だとはいえ……
ちょっとした感傷に浸ってしまいました。
で、吉澤はあの補習に出ることになるわけですな。(笑)
240 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月14日(日)22時13分28秒
お疲れ様でした。楽しく読みました。
今回は飯田が主役のせいか独り言が多いですね(w
むちゃくちゃな展開でも最後はホロリとさせてくれる・・・さすがすてっぷさん。
でも他のと比べてオチがちょっと弱いかなぁ〜 なんて。
まぁあまり気にしないでください。次回作も楽しみにしてます。

241 名前:すてっぷ 投稿日:2001年10月14日(日)23時19分10秒
>237 キャメルさん
ありがとうございます。いつもと違う味付け…楽しんでいただけて良かったです。
かなり自由のきく主人公で(笑)、書く方も楽しんで書けました。

>238 LVRさん
ありがとうございます。最近ちょっとオチに疲れてきたので(笑)、
次は今までとは少し違う感じのものを書いています。
飯田の一人称、どうなることかと思いましたが…受け入れてもらえて良かった(笑)

>239 名無し読者さん
ありがとうございます。今回の辻加護は、かなり悪ガキなイメージで書いてみました。
語り手も暴走しっぱなしで、話進まず文字数がかさんでゆくだけ…泣けてきました(笑)
9人時代の光景…少しはリアリティがあるように感じていただけたのなら、光栄です。
補習、気付いてもらえましたか。二つの話が繋がってたという、初の試みでした(笑)
242 名前:すてっぷ 投稿日:2001年10月14日(日)23時22分02秒
>240 名無し読者さん
ありがとうございます。飯田、ストーリーとは無関係のムダな独り言が多かったですね(笑)
それと確かに今回はオチらしいオチもなく、何となくダラけた終わり方してますもんね…反省。
貴重なご意見、どうもです!次回は、ちょっと違った感じになると思いますが…
またお付き合いいただけるとうれしいです。
243 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時02分53秒

―――

慌しい夏が終わり、そしてさらに慌しい秋に突入して…過ごしやすい季節になったなぁ、読書でもするか。
なんて、そんな気持ちはサラサラ無いのだけれど。
もともと本読んだりするのって、あんま好きじゃないし。

読書がダメならスポーツかなぁ…と思ったりもしたけど、そんな時間は無い上に連日のコンサートや
そのためのダンスレッスンが既にスポーツみたいなモノだし。
とすると、やっぱ映画かなぁ…芸術の秋。よし、今年はコレで行こう。

などと、忙しい日々を送りながらもどうにかして秋を満喫してやろうと自分なりに模索していたのだが…
まさかいきなり秋をすっとばして、冬を満喫させられる羽目になろうとは思いもしなかった。


10月も終ろうとしていたある日のこと、アイツは突然あたしの前に現れてこう言った。

「われは、ふゆしょうぐんなりっ!!」
244 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時03分57秒
「はあ?なに言ってんの?」
「なんだ、そのくちのききかたは!?しょうぐんにたいして、ぶれいだぞっ!!」
休憩時間、楽屋でくつろいでいたところを連れ出されて少々不機嫌な言い方をしたあたしに、
辻がくってかかってきた。

「いや、将軍ってあんた…辻でしょ?」
「『つじ』ではない!しょうぐんだ!ふゆしょうぐんだ!!」
もぅ、疲れてんだからカンベンしてよぉ…タメ息を一つついて、トイレの冷たい壁にもたれる。

「あのさ、辻。そーゆー冗談は、加護相手にやってくれる?もしくはカオリ。わかった?」
「むぅっ!しんじていないな?おぬし」
そう言うと辻は、頬をふくらまして腕組み。いかにも、『怒ってます』のポーズ。

「ってゆーか、さっきから何なの?その口の利き方は…あんたこそ失礼でしょーが!!
何が『おぬし』だよっ!!ちゃんと『矢口さん』って呼びなさい!!いいかげん怒るよっ!!!」
「ひっ…ひぃぃぃぃ!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃぃ」
あたしが叱り付けると、辻は意外にもあっさりと自分の非を認めた。
どうしたんだろう…いつになく素直だけど?
245 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時04分57秒
「辻、辻!ちょっとー、なにやってんだよ?怒んないから出ておいで?ね?つーじーちゃーん」
「ひぃぃ、ひぃぃぃぃ」
「辻ぃ、いいかげんにしろよー。つーじー!」
『ごめんなさい』を連発しながらトイレの個室に篭ったきりなかなか出てこない辻に、自然と語気も荒くなる。

「ほんとに、ほんとに、もうおこりませんか?ほんとうですか?」
個室の中から、くぐもった声が聞こえてきた。

「ホントだってば。怒んないから…出ておいで?」
「それからそれから、わたしのいうことをしんじてくれますか?」
「は?なにそれ?」
説得も空しく、辻はまだ個室から出ようとしない。

「ですからぁ、わたしは『つじ』ではないのです。ふゆしょうぐんなのです」
「…わかったから、とにかく出ておいで」
「ほんとに、もうおこりませんか?」
さっきから同じ質問を繰り返す辻にカチンと来たあたしは、思わず拳を握り締めた。

「だーかーらー!!怒んないっつってんでしょーが!!怒るよ、いいかげん!!」
「ひぃぃぃ!?どっちなんですかー!?」
辻は…ますます殻に閉じこもってしまった。
246 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時06分35秒
「ふゆしょうぐん、って…あの、冬将軍?ニュースとかでよく言ってるやつ?」
「はいっ!」
説得するコト、約15分。
ようやく個室から出てきてくれた辻(自称『ふゆしょうぐん』)は、あたしの問いに満面の笑みで元気良くお返事。

「いまはぁ、わたしのちちうえがしょうぐんのざについているのですが…このしゅぎょうをおえたとき、
わたしがつぎのふゆしょうぐんとして、ちちうえのあとをつがなければならないのです」
「ふーん」

「えーっと…『つじ』どののからだは、ちょっとおかりしているだけですので、しゅぎょうがおわったら
ちゃんともとどおり『つじ』どのにおかえしいたします」
「ふーん」

「あのぉ、やぐちどの?」
「ん?」
辻(冬将軍)の喋り方は、出会った時とは打って変わってとても丁寧な言葉遣いに変わっていた。
よっぽどあたしが恐かったんだろう、呼び名も『おぬし』から『やぐちどの』にまで大出世してしまった。

「しんじてくれるのですか?わたしを」
「信じるってゆーか…まぁ、とりあえず話だけは聞いてあげるけど」
そうでもしないとコイツ、また個室に篭っちゃいそうだし…。
247 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時07分48秒
「へへ、よかったぁ…やぐちどのになら、しんじてもらえるようなきがしていたのです。
わたしとやぐちどのは…どこか、にているとおもいました」
そうかぁ?似てるっていったら、小っちゃいトコぐらいだと思うけど。
そんなコトを思いつつも、目の前でにこにこ笑ってる辻(冬将軍)を見ていると…
こっちまでつられて笑顔になってしまった。

「でも、修行中ってコトは…まだ将軍じゃないワケ?さっき、『冬将軍です』って言ってたじゃん」
「…すみません、うそつきました。そのほうがかっこいいかなー、っておもって」
別にかっこいくはないと思うけど…本人に言うと傷付きそうなので、あたしはそっと胸にしまった。

とりあえず、このコの言ってるコトが本当だとしたら…すごいコトなんでないかい?コレは。
冬が始まるとよくニュースで言ってる、『冬将軍の到来です』ってフレーズ。
『冬将軍』が実在の人物(?)だったってだけでも驚きなのに…当のご本人が今こうして、
あたしの目の前に立ってるんだから(見た目は辻だけど)。

それなのに割と冷静に受け止められるのはきっと、実感が湧いてないせいだと思うんだけど。
248 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時09分02秒
「ちちうえは、ことしから『いんきょ』なさるので…。わたしがあとをつがなくてはならないのですが…」
「隠居、って…もうそんな年なの?お父さん」
つい親身になって聞いてしまい、質問した後で恥ずかしさがこみあげる…なにマジに聞いてんだ、あたしは。

「いえ、そうではないのですが…ははうえが、『みおも』なもので」
「へぇ、そうなんだー…。ってゆーか、お母さんが身重なんでしょ?お父さんカンケーないじゃん」
むしろ、子供作れるぐらい元気なら隠居する必要なんてないじゃん…と思った(もちろん口には出さなかったけど)。

「ええっ!?いま、なんて…かんけいない、って!?かんけいない、っていいました!?」
あたしの何気ない一言に、過剰反応するショーグン。
「ああ、いや…まぁ、関係ないってコトはないけどさぁ。そんなモン一人じゃ作れないワケだし…ねぇ」
やだ…コドモ相手に何焦ってんだろ、あたし。

「やぐちどの?なぜ、にやにやしているのですか?」
「っさいなー!そりゃ一人じゃ子供は作れないけども!!あたしが言ってんのはそーゆーコトじゃなくて!!」
つい、熱くなってしまった。
249 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時10分10秒
「あのさ。お母さんに子供ができたら、今までより仕事とかもっと頑張るのがお父さんでしょ?フツーは」
「ふっ…それはどうでしょうか?」
ショーグンが、あたしの『正しいお父さん論』を鼻で笑いながら言った。

「こそだてに、ちちおやもははおやもありません!こどもがうまれたら、なにもかもなげすてて、こそだてに
せんねんするのがちちおやのつとめなのです!こどものめんどうをみるのは、ちちおやとしての、ぎむ・なの・ですっ!!」
言ってるコトはわかるんだけど、まったく金持ち的発想というか…フツーの一般庶民にはマネできないよねぇ。

「へぇ、ずいぶん理解あるパパだねー。ってゆーか、ショーグン家的にはそれでいいワケ?」
子供が生まれたからって、その度に退陣されてたらかなわんと思うのだけど。
「じょーしきですっ!」
胸を張って答えるショーグンの姿を見ながら、あたしはあるコトに気が付いた。

「ねぇ。隠居ってコトは、二度と復帰しないってコトだよね?」
「はいっ!」
相変わらず、自信ありげに胸を張るショーグン。
250 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時11分28秒
「じゃあ、あんたの時はどうだったの?お父さん、引退してくんなかったの?」
ショーグンの言う『じょーしき』ってやつに則るならば、このコが生まれた時点でお父さんは既に
引退してなきゃいけないハズ。

「………ほんとだ。ほんとだ、なぜ…なぜ…」
『なぜ』を繰り返しながら、ショーグンは下を向いてしまった。
どうしよ…まずいコト聞いちゃったかなぁ。

「あのさっ、ホラ、アレだよ!どうしても世継ぎが居なくて、仕方なく…とかじゃないの?
別にショーグンのコト大切に思ってなかったワケじゃないよ。ね?絶対そうだって」
「よつぎなら、ちちうえのおとうと…おじうえがいたはずです。なのになぜ、なぜなのですか…ちちうえ」
「ちょっとー、元気出しなって。ねっ?ショーグン」
何が哀しくて、こんなガキ(見た目は辻)のゴキゲンとんなきゃなんないんだよぉ…。
あたしはコイツ(ショーグン)の『じいや』じゃないっつーの。

「あっ!おもいだしました!」
「何だよ、もー…」
さっきまで最高に暗かったショーグンの顔が、急に明るくなる。
251 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時12分49秒
「わたしがうまれたのとおなじとし、おじうえにもあとつぎがたんじょうしたのです」
「あ、なるほど。かぶっちゃったんだ」
それで仕方なく、ショーグンのお父さん(現在の冬将軍)が身を引いたってワケね。

「そして、わたしのちちうえがいくさにまけて、なくなく『いんきょ』をとりやめたというわけです」
「戦っ!?」
将軍の座を巡って…なんて物騒な。
だけどこの場合、どちらが将軍の座に『就かない』かを巡って争ってたワケよね。
そう考えるとなんだか、アホというかマヌケというか…。

「なんでも、れきしにのこる『めいしょうぶ』だったときいています」
「へぇー…」
やだなぁ、何か恐そうな話じゃないよね…苦手なんだよなー、そーゆーの。

「わたしのちちうえが『あがり』まであと2つというところで『5つもどる』をふんでしまい、すぐうしろに
つけていたわたしのおじうえが、つぎのてでだいぎゃくてんをおさめたという」
「すごろくかよ!!」
ったくノンキな家系だなー…。
252 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時14分06秒
「…というわけなのです」
「ふーん」
ポイントが多すぎて全てに突っ込むコトはできなかったものの、あたしは何とかショーグンの話を一通り聞き終えた。

お母さんに子供ができたため隠居して子育てに専念するコトになった現在の冬将軍に代わって
今年から冬将軍としてデビューする羽目になってしまった冬将軍見習いの、『ショーグン』(←矢口が命名)。
『ショーグン』は長い修行生活を終え、ニュー冬将軍として認めてもらうための最終試験を
受けるために辻のカラダを借りてついさっきこの人間世界へ降り立ったばかりだと言う。
辻のカラダをそのまま拝借してるだけあってショーグンは、舌足らずな喋り方から仕草まで
見た目は辻そのもの。

「最終試験ってさ、何やんの?」
日本の冬をまるごと仕切るという大役を任せられるんだから、それなりに難しい試験なんだろうなぁ…きっと。
いや、そうであってもらわなくては困る。

「だれかを『さむさ』でこおらせることができれば、ふゆしょうぐんとしてみとめられるのです」
「寒さって、『ふとんがふっとんだ!!』とかそーゆーやつ?」
コドモ相手に、ちょっとボケてみたりして。
253 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時15分06秒
「………は?」
「…なんでもない」
将軍たるもの、突っ込みぐらいは会得していて欲しいところだったが。

「つきましては、あのなかの、どなたかをこおらせたいのですが…」
下を向いてもじもじしながら、恐る恐るショーグンが切り出した。
なるほど。あたしをココへ呼び出したのは、それが目的だったんだ。
冬将軍デビューへ向けての最終試験で、楽屋にいるメンバーの誰かを(冷気で?よくわかんないけど)
冷凍状態にしたい、ってコトか…。

「しゅぎょうをおえてわたしがここからはなれれば、ちゃんともとにもどりますのであんしんしてください」
「それって、矢口じゃダメなの?」
「たちあいにんのかたがいないと、だめなんです」
ショーグンの言う『立会人』ってのは、この場合あたしのコトだろう。
楽屋に戻って他のメンバー連れてくるのも面倒だからココでやっちゃえ…という目論見は見事打ち砕かれた。
254 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時16分11秒
「メンバーの誰かねぇ…」
じゃ、とりあえず石川で。

そう言いたいところだったが…ショーグンが辻の体から離れれば元に戻るとはいえ体を凍らせるなんて危険なコト、
中身はともかくとして体の構造は普通の女のコである石川に体験させるワケにはいかない。
やはりココは、一番打たれ強そうなあのコにしておくのが無難だろう。

「じゃ、とりあえず圭ちゃんで」
「そんなにけつろんをいそがないでください、やぐちどの」
「なにそれ!?誰のために考えてやってると思ってんだよ!調子のんなよー!!」
「ひぃぃぃぃ!?」
「あっ、ゴメンゴメン。もう怒んないから」
あたしは、再び個室に逃げ込もうとしたショーグンの腕を掴んで逃げられないよう拘束する。
255 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時17分05秒
「やぐちどののきもちは、たいへんありがたいのですが…いちばんてきしたひとを、わたしにえらばせては
もらえないでしょうか?あの、さきほどは『あんしんしてください』ともうしましたが…にんげんのからだを
こおらせるということは、それなりのきけんをともないますので。ましてやわたしはまだ、しんまいですので
なにがおこるかわかりません。それゆえ、しんちょうにことをはこびたいのです。ですから、」
…セリフ長すぎだよ、ショーグン。

「はいはい、もう分かったから」
『あんしんしてください』なんて言っといて、やっぱり危険なんじゃないか…。
ショーグンの話を聞きながら、この人体実験、もとい最終試験に耐えられる人物は…
圭ちゃん以外にありえないと思った。
256 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時18分10秒
「だけど、凍らせるって…たった一人だけでいいワケ?もっと難しい試験じゃなくていいの?」
人間を凍らせるという行為がどれほど難易度の高いモノなのかは知らないけど、日本の冬を司る存在である
冬将軍になるための試験ならば…たとえば何百人とか何千人とかそれ位の規模であって欲しい、みたいな
願望を抱いていたあたしにとってその試験の内容は少々期待外れなモノだった。

「ひとりこおらすも、ふたりこおらすも、いっしょですから」
かわいいカオして(見た目は辻)、殺人犯みたいなコト言うなよー…。


「…じゃあ、とりあえず戻ろっか」
「はいっ!」
お返事だけはよろしいトコは、辻と一緒だなぁ…なんて思いながら、ショーグンを連れて楽屋へと戻る。
257 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時19分23秒
「おっ、辻ぃ。どこ行ってたのよ、アンタ」
楽屋へ戻るなり、(矢口の中では)冷凍人間候補No.1である圭ちゃんに迎えられる。
それにしても、圭ちゃんが辻のコト探してるなんて珍しいなぁ…。

「辻?どうしたの?」
にじり寄る圭ちゃんを避けるようにショーグン(見た目は辻)は、さっとあたしの後ろに隠れてしまった。
ちょっと、いきなりなに恐がってんのよコイツは…怪しまれちゃうでしょーが。

「ああ、あの、辻ね、なんか疲れてるみたいでさ。ね?そうだよね、辻?」
何とかその場を取り繕おうとするあたしの腕を引っ張りながら、ショーグンがそっと耳打ちしてくる。
「『つじ』ではありません。ふゆしょうぐんです」
「わかってるよ、バカ!」
圭ちゃんに聞こえないように、あたしもショーグンへ耳打ち。

あたしはあんたのために、あんたのためにこんなコトやってるんでしょうが…。
辻の体が乗っ取られているコトがみんなにバレて事態が混乱するのを防ごうとしているあたしの
親心を全く理解していないショーグンに、腸が煮え繰り返る思いだった。
258 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時20分30秒
「ウチのお母さんが作ったんだけどさー、おにぎり。食べない?辻」
あたしの後ろで怯える辻の様子を特に気にする様子もなく、圭ちゃんが言う。
いつもの辻なら、喜んでおにぎりにパクついてるとこだけど…この辻(ショーグン)はどうかなぁ?

「ホラ」
そんなあたしの懸念をよそに、あたしの後ろにすっぽり隠れていたショーグンはちらりと顔を覗かせて、
圭ちゃんの差し出したおにぎりを見つめている。
なんだ、おなかすいてたんじゃん…生意気なトコや、くいしんぼうなトコ、辻とショーグンって意外と共通点あるかも。
言葉遣いが丁寧なトコは、ホンモノの辻にも見習って欲しいところだけど。

「………」
「辻、食べないの?」
しかしショーグンは差し出されたおにぎりを見て固まったまま、それを受け取ろうとはしない。

「食べろよ。食べろよ、辻!ショーグン!」
そんな辻を訝しそうに見つめる圭ちゃんの視線に気付いたあたしは、ショーグンに必死の耳打ち。
「ショーグン!?」
しまった、あたしってばつい大声で『ショーグン』の名を。
突然部屋から飛び出していってしまったショーグンの後を追って、あたしも外へ出る。
259 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時21分44秒
「ショーグン!もー、お願いだからあんまり困らせないでよぉ」
ショーグンを追ってトイレまでやって来たあたしは、隅でうずくまっているヤツを発見して声をかけた。

「よるなっ!かえれーっ!!」
うずくまって下を向いたままで、ショーグンが大声を張り上げる。
それにしても…なに、その態度は。
いくら『仏の矢口』とて、いいかげんキレるんだからねっ…!

「ちょっとー!!なによ、その口の利き方は!!」
「ひぃぃ!すみません、すみっ…ひっ、ませっ…っく」
勢いにまかせて怒鳴りつけたあたしは、今さらながらショーグンの様子がおかしいコトに気付く。
横柄な態度、さっきから下を向いたまま顔を上げようとしないショーグン、もしかして…。

「ショーグン、あんた…泣いてんの?」
「っ、っく、うぐっ、ぐっ…ひっく」
あ、やっぱし。
あたしが言い当てた途端、ショーグンは堰を切ったように激しく泣き出した。
260 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時22分53秒
「どうしたんだよぉ、そんな恐かった?」
「っ、っぐ、うぐっ、うぅぅっ…っく」
もー、何なんだよコイツは…。

「あのね、ショーグン。圭ちゃんは一見恐そうに見えるかも知れないけど、ホントはすごくいいやつなんだよ?
努力家だし。ってゆーか、あんたそんな恐がりで将軍なんてつとまんの?
家来が付いてこないよ、そんなんじゃ」
まだ幼い次期将軍を励ましながら、あたしはちょっとした『家老』気分に浸っていた。

「…っ、っ、ははっ、ははっ、はは、うえ、ははうえのっ」
「え?なに?」
ははうえ?
お母さんがどうしたんだろう…圭ちゃんが恐かったから泣いてたんじゃなかったのか。
261 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月16日(火)21時24分53秒
「ははうえのっ、ははうえの、おむすびがたべたいぃぃぃ…っく、うぐっ、えぐっ」
「………アホか、おまえは」
親元を離れて(辻の体に乗り移って)1時間足らず…もうホームシックですか、ショーグン様。

「えぐっ、えぐっ、ははうえぇぇ…っく」
このコの世界に修学旅行とかあったら、きっとすごく大変だろうなぁ……とか。

「おむすびぃぃ…っ、ぐっ、うぐっ」
我が子のために奥方様が直々におにぎり作るなんて、なんてアットホームな将軍家なんだ……とか。
思うところは本当にたくさんあったのだが、それよりなにより。


「えぐっ、えぐっ、ううっ…っ、くっ、ひっくっ…」
コイツに、日本の冬を任せてしまっても良いのだろうか…。
これから冬を迎えるにあたり言い知れぬ不安に襲われる、矢口真里18歳の秋だった。
262 名前:すてっぷ 投稿日:2001年10月16日(火)21時26分27秒
わかりづらいネタかも知れませんが…。
次回、後編です。
263 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)23時05分05秒
本当にすてっぷさんの世界は独創的ですなー
冬将軍か…もうそんな季節もすぐそこなんですねえ。
264 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
( `.∀´)ダメよ
265 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
( `.∀´)ダメよ
266 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月17日(水)00時27分53秒
わたくし、前々から冬将軍について考えてまして、
「やっぱ馬にのってくるんだろうなー」とか「ヒゲとかすごいんだろーな」とか。
いやーすてっぷさんが冬将軍を書いてくださるとは…感激です。
私の妄想と違い、随分とかわいいショーグンですが(w
これからも楽しみにしています。
267 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月17日(水)07時48分23秒
なんだかえらく可愛げな映像が浮かぶお話ですねえ。
今度はシチュエーションじゃなくて、人が変わっちゃいましたか。
怒ったり心配したりで大変そうだけど、結局世話をやくことになってしまう
お姉さん(家老?)矢口もらしくていい感じです。
268 名前:すてっぷ 投稿日:2001年10月17日(水)21時13分31秒
>263 名無しさん
独創的とは…ありがとうございます!発想がアホすぎて誰も書かないだけかも(笑)。
そろそろあちこちで冬将軍が出没(?)する季節ですよね。

>264 265 さん
ぜんぜんオッケーです!どうかお気になさらず…。

>266 名無し読者さん
ああ、同志が…こちらこそ感激です(笑)。
266さんの中の冬将軍はかなりの荒くれ者のようで(笑)、
暴れ馬に跨るヒゲ将軍を想像して…笑わせていただきました。

>267 名無し読者さん
ありがとうございます。今回、辻であって辻でないというワケわからん
展開になってますが…後半、辻っぽい部分(?)も出てくるかと。
矢口は相変わらずな役どころですが、彼女視点だと話がサクサク進みますねー…(笑)。
269 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月17日(水)21時15分14秒

―――

「…ぐすっ、ずっ、っ」
「そんなにおいしいんだ、お母さんのおにぎり」
あたしの言葉に、鼻をすすりながら無言で頷くショーグン。

「じゃあ早いとこ修行終わらせちゃってさ、お屋敷に帰ってお母さんのおにぎり
いっぱい食べればいいじゃん。ね?がんばろうよ」
こんなガキ相手に、あたしもよくやるよ…。

「…できっ、できるっ、でしょうか?わたっ、わたしにっ」
さっきまで元気に『はいっ!』とか言ってたくせに…楽屋で圭ちゃん家のおにぎり(作:圭ちゃん母)を
見た途端、ネガティブモード全開だもんなぁ。ホームシックって恐いわ。

「ショーグンさぁーん?ダメですよぉ、そんなコトじゃ!チャーミーみたくポジティブにいかなくっちゃ!!」
ネガティブといえば石川、石川といえばポジティブ。
あたしはショーグンのために恥を忍んで右手でエル(L)の指文字を作り、先ごろ復活を遂げたばかりの
『チャーミー石川』のポーズを真似て見せた。

「…できっ、できるっ、でしょうか?わたっ、わたしにっ」
「放ったらかしかよ」
やんなきゃ良かった。

恥かかせやがって、おぼえてろよ…石川。
270 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月17日(水)21時16分43秒
「わっ!?びっくりしたー…矢口、いたの?」
「あっ!カオリ」
突然入ってきたカオリによって、あたしとショーグンの密談(in トイレ)は中断された。

「辻…?どうして泣いてるの?」
あっ、やべ。
「矢口に、何か言われたの…?」
「あっ、ちがっ、違うのカオリ!これはね、」
トイレの隅で向かい合ってしゃがみ込むあたしたちの元へ、カオリが近付いてくる。

「いいえ、わるいのはわたしですから。わたしですからっ…」
「ちょっと、なに意味深なコト言ってんだよ!」
それじゃ、まるであたしが泣かしたみたいじゃん…あんな恥ずかしいマネ(チャーミーのモノマネ)までしたのに!

「あの、違うのカオリ。ミニモニのコトとか、まぁ…いろいろあってさ。
ちょっと相談乗ってただけだから、うん。ぜんぜん、心配ないから。ははは」
いかにも怪しげな言い訳をしつつ、あたしはショーグンの手を引いて逃げるようにその場を後にする。
271 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月17日(水)21時17分51秒
「ああ…サイアク」
ショーグンを連れて楽屋へ戻る途中、あたしの口から思わずタメ息がもれる。

「やぐちどの」
「ん?どしたの?」
繋いでいた手をはなして、ショーグンが立ち止まった。

「きめました。あのひとにします」
「なにが?」
「さっきのひとを、こおらせてもよろしいでしょうか?」
ああ、冷凍人間の件ね。
でも、『さっきのひと』って……。

「トイレで会ったヒト?カオリ?」
あたしの言葉に無言で頷いたショーグンの表情は、真剣そのもの。
カオリか…それはちょっとノーマークだったなぁ。
てっきり、圭ちゃんで決定かと思ってたのに。
272 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月17日(水)21時19分03秒
「なんで、カオリなの?」
「うーん…わたしにもわかりません。ただ、あのひとをみたしゅんかん、わたしのなかの『なにか』が
わたしにうったえかけたのです。あのひとをこおらせよ、と。あのひとなら、だいじょうぶだと」

なるほど…大した理由もなくカオリを指名したショーグンの話を聞きながら、あたしはピンときた。
ショーグンに語りかけた、ショーグンの中の『なにか』…さては、辻だな。
肉体を乗っ取られながらも、その奥ではしぶとく息づいているのね…『くさっても辻』とはよく言ったモノだ。

「じゃあ、戻ったら矢口がカオリのコト呼び出してあげるから、うまくやるんだよ?」
「はいっ!」
ホント、返事だけは良いんだから……。
273 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月17日(水)21時20分09秒
「カオリ、ちょっといいかな?」
楽屋の前、トイレから戻ってきたカオリをすかさず捕獲する。

「なに?」
「あの、さ…ちょっと話あるんだけど」
言いながら、柱のかげに隠れてじっとこちらを見ているショーグン(見た目は辻)の姿が目に入る。
中学時代、友達に頼まれてそのコが好きだった男子を体育館脇に呼び出した時のコトを思い出した。
なにやってんだろー、あたし…って思った。

「ゴメン。これからカオリの番だからさ、取材」
「えっ、そうなの?」
しかも空振りに終わってるし…ホント、なにやってんだろあたし。


「カオリ、今忙しいんだって。後にしよ」
カオリが部屋の中へ入っていくのを見届けてから、柱のかげに潜むショーグンの元へ駆け寄る。
「…そうですか」
あからさまにがっかりした様子のショーグン。
とっとと修行を終えてお母さんの元へ帰りたいのはわかるけど、こればかりはどうしようもないもんね。

「ねぇ、散歩行こっか」
「はいっ!」
気晴らしにと、あたしはショーグンを外へ連れ出した。
274 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月17日(水)21時21分30秒

―――

「うあっ、けっこー寒いね。だいじょうぶ?ショーグン」
「わたしはぜんぜんへいきですが」
「あ、そっか…冬将軍だもんね」
テレビ局を出たあたしたちは、近くの公園に来ていた。

午後7時、辺りはすっかり暗くなって誰もあたしたちの正体(矢口と辻)に気付いていない様子。
すぐ目の前に広がる海からの冷たい潮風が、容赦なく肌をさす。

「えへっ」
「なにー?なに笑ってんの?」
「やぐちどのが…いま、『ふゆしょうぐん』っていったから。すこしうれしくなりました」
「そっか、まだ見習いだったね。じゃ、今のは取り消し」
「ええーっ!?」
あたしは慌てて、大声を上げたショーグンの口を手で塞ぐ。

「しーっ!大っきな声出しちゃダメだってば」
せっかく周りの人にバレてないんだから…あたしは、自分の唇に人差し指を当ててショーグンに言い聞かせる。
「…すみません」
ショーグンは、しゅんとして俯いた。
275 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月17日(水)21時22分49秒
「でも、夏が終わっちゃうと寂しいよねー…海もさ」
あたしとショーグンは並んで公園の柵に足をかけて乗り、両手をついて目の前の海を眺めている。

「にんげんは、なぜふゆのうみをみないのでしょうか?」
隣に立っているショーグンが、ぽつりと言った。

「うーん…やっぱさぁ、海っていったら夏だよ。泳ぐのもそうだけど、花火とかさ!
どっちかってゆーと、矢口は花火とかやる方が好きだね。砂浜でね、夜にやんの。友達とさぁ…楽しいよ?」
つい夢中になって夏の海を語ってしまったあたしとは対照的に、ショーグンは何やら浮かない顔。
どうしたんだろ…あたし、また何か悪いコト言っちゃったのかな。

「ふゆになると、ちちうえのあとについて、にほんじゅうのうみへいきました。
そして、ちちうえがうみにゆきをふらせるのを、わたしはいつもとなりでみていました」
「へぇー、それも修行の一環ってやつ?」
あたしの言葉に頷いたショーグンの視線は、目の前に広がる海に注がれている。
276 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月17日(水)21時24分56秒
「まっしろなゆきが、そらからたくさん、たくさんふってきて、そのひとつぶひとつぶが
みなもにきえてゆくすがたは、ほんとうにうつくしいとおもいました。
ほんとうに、ほんとうにうつくしいのに…だれも、みてはくれないのです」
遠くを見ながらそう言ったショーグンは、とても悲しそうな顔をしていた。

誰もいない海に、誰も見ることのない雪を降らせる。
きっと、もっとたくさんあるんだろうなぁ…。
あたしたちが知らない景色、きっと日本中にまだまだたくさんあるんだろうな。

将軍家の人々が地味にがんばってた頃、あたしは暖かい部屋で鍋奉行でもやってたんだろうか。
って、矢口も上手いコト言うねぇー…なんてコトを考えながら。

今年の冬は、ショーグンたちが作った素敵な冬景色を一つでも多く見つけられるように…
寒くてもいっぱい、お出かけしようと思った。


「さて、と。そろそろ行こっか」
「はいっ!」
あたしは、ショーグンの手を引いて歩き出す。

冬将軍のくせして、ショーグンの手は……すごく、あったかかった。
277 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月17日(水)21時26分22秒

―――

「なに矢口?話って」
「うん、実はさ…」
あたしは、既に取材を終えて楽屋へ戻ってきていたカオリを例のトイレに呼び出した。

「おいで、辻」
あたしが呼ぶと、隠れていたショーグンが入口から顔を出す。

「辻…どうしたの?」
「いいだどの。しばらくのあいだ、じっとしていてください」
呆気に取られるカオリをよそに、ショーグンは早速カオリを凍らせるための準備を開始した。

ショーグンは左手を腰に当て(『前ならえ』の最前列のコみたいなポーズ)、右手を伸ばして
手のひらをカオリの顔にかざす。
なんか、えらくベタなポーズだけど…こんなんで、ホントにカオリを凍らせることができるんだろうか。

「はあーーっ!!」
「え?辻?つ…」
ピシッ!という鋭い音とともに、一瞬にしてカオリの全身が氷に包まれる。

「うっそぉー…マジで凍っちゃったよ」
「さわるな!」
凍りついたカオリの肩に手を伸ばしかけたところで、ショーグンに厳しく制される。
278 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月17日(水)21時28分02秒
「あっ、すみません、つい…。いいだどののからだをおおっているこおりは、とてもつめたいのです。
やぐちどのがふれると、やけどをしてしまいますから」
「そうなんだ。ねぇ、ホントに大丈夫なの?カオリ」
ショーグンのコト、信用してないワケじゃないけど…ここまでカチカチに凍ってる姿見せられちゃうと、
カオリが本当に元に戻れるのか心配になる。

「はい。あんしんしてください。わたしはすぐに、ここからいなくなりますから。
そうすれば、いいだどのもちゃんと、もとのすがたにもどります」
「そっか」
なんだか…ショーグンがすごく、大人びて見えた。

そっか。
もう、見習いの『ショーグン』じゃないんだね。
たった今から君は、一人前の『冬将軍』なんだもんね。
立会人ヤグチが、ちゃんと見届けてあげたんだからね。
279 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月17日(水)21時29分48秒
「やぐちどの。おせわになりました」
そう言うとショーグンは、あたしに向かってぺコリとおじぎする。

「もう帰っちゃうの?まだいいじゃん」
「でも、わたしがかえらなければ…『つじ』どのも、『いいだ』どのも、もとのすがたにもどることができません。
ですからわたしは、かえります」
「そっか」
ちょっと寂しいけど、ショーグンの言う通りだ。
ショーグンだって晴れて冬将軍になったんだから、冬の準備とかで忙しいだろうし。

「じゃあさ、今年からは…ニュースで『冬将軍の到来です』とかって言ってたら、それってあんたのコトなんだよね?」
「はい、わたしのことです」
なんだよ、コイツ…一人前になったからって、ちょっと大人ぶっちゃってさ。

「楽しみにしてるね。ショーグン様」
「えへっ、やめてくださいよぉー。しょうぐん『さま』だなんて」
あたしがからかうとショーグンは、半人前の顔に戻って笑った。
280 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月17日(水)21時31分38秒
「ねぇ、ショーグン」
「はい」
「最初会った時さ、言ってたじゃん?矢口とショーグンは、『似てる』って」
「はい、いいました」
「どうして?どうしてそう思ったの?」
腕組みして、うーん、と考え込むショーグン。

「やぐちどの。ふゆは、きらいですか?」
「冬?ううん、大好きだよ」
「わたしも、ふゆはだいすきです」

「なるほどね。ってゆーか、あんたそれ今考えたでしょ?」
「えへっ、ばれましたか?」
「ばーか、バレバレだよ」
「えへっ」

「じゃあねぇ…罰として、ひとつだけ矢口のお願い、聞いてくれる?」
「はい。わたしにできることなら、なんだって」
そして、あたしはショーグンに『たったひとつの願い事』を伝える。

「おやすいごようです」
ショーグンは、八重歯をのぞかせてにっこりと笑った。
281 名前:やぐちと冬将軍 投稿日:2001年10月17日(水)21時33分45秒

―――

その年のクリスマス。


矢口の住むこの街に、矢口の大好きな、雪が降った。



<おしまい>
282 名前:すてっぷ 投稿日:2001年10月17日(水)21時35分06秒
いつもに比べてかなり短い話でしたが…。
よろしければ感想などいただけると、うれしいです。
283 名前:名無し梨華 投稿日:2001年10月17日(水)22時11分56秒
ちょこっと雰囲気が違うように感じましたぁ。
ちょっと落ち着いた感じ、っていうのかな。
でもこういうのもスキです。

これからも楽しみにしてますよん♪
284 名前:名無し 投稿日:2001年10月18日(木)00時51分36秒
ほのぼのしてて良かったですよ〜。
『くさっても辻』がツボでした(W
285 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月18日(木)02時46分14秒
最後の一文にやられた。
うまいなー。
286 名前:読んでる人 投稿日:2001年10月18日(木)11時00分06秒
おもしろかったよ〜
次回作も楽しみにしているよ。
287 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月18日(木)20時25分13秒
小説のうえだからありえない話なんだけど、なんか実際の画が目にうかぶなー。
288 名前:LVR 投稿日:2001年10月18日(木)20時42分28秒
なんか、すごいほのぼのしました。
僕は、小さい頃から雪と一緒に過ごしてきたようなものなので、
なんかすごく懐かしかったです。
今年初めて雪の少ない地域に来たけど、
最後の一文の矢口の気持ちが分かれるようになるのかな。
289 名前:もんじゃ 投稿日:2001年10月18日(木)23時48分37秒
私も最後が良かったですね。
ほのぼのしました。
そしてきっとこのちびっこ冬ショーグンが神さまに頼まれて
圭織のために大雪を降らすんですね(笑)
290 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月19日(金)02時09分33秒
あぁ〜ホンワカ。
みんなでワイワイもいいけど、少人数でシミジミもいいですね。
私の冬将軍のイメージは、鬚武者ではなく辻になってしまった(w
291 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月20日(土)01時40分05秒
矢口吉澤の毒舌師弟コンビの話もいいけど、こういうさらっとしたほのぼの話も良いですね。
次回作は誰を中心に置くんでしょうか?
あとはなっちとごっちんと圭ちゃん、あいぼんですね、話にあまりからんでないのは。
292 名前:すてっぷ 投稿日:2001年10月20日(土)21時13分03秒
たくさんの感想をいただき、ありがとうございました!

>283 名無し梨華さん
いつもとは違った雰囲気の話で、読んでいただけるかかなり不安だったのですが…
感想いただけてうれしいです。
また、こんな感じの短編を書きたいと思っています。

>284 名無しさん
『くさっても辻』。ちょっと意味違ってるだろー、って感じですが…
気に入っていただけて良かったです(笑)。

>285 名無し読者さん
今までで一番悩んだ、ラスト一文でしたので…そう言っていただけるとうれしいです。

>286 読んでる人さん
次回もこれぐらいの短い話になるかと思いますが、よろしければお付き合いください…。

>287 名無し読者さん
毎回、絶対にありえない話ばかり書いてますが…冬将軍=辻、イメージしやすかったでしょうか?

>288 LVRさん
雪…LVRさんとは逆にほとんど雪の降らない地方で育ちましたので、
子供の頃から雪景色には憧れていたものでした。
こんな物語で、少しでもほのぼの懐かしい気分になっていただけたのなら光栄です。
293 名前:すてっぷ 投稿日:2001年10月20日(土)21時15分06秒
>289 もんじゃさん
最後、気に入っていただけましたか。悩んだ甲斐があったなぁ。
神様に頼まれて…なるほど、もんじゃさんの想像(妄想?)力には負けました(笑)。

>290 名無し読者さん
何だか、290さんのイメージをぶっ壊してしまったようで…。
辻ショーグンが立派に成長した姿=鬚将軍ってことでどうでしょうか?(笑)

>291 名無しさん
毒舌師弟コンビもまた書きたいですね。今は後藤中心の話を書いているところです。
加護の話も考えてはいるのですが、どうなることやら…。
294 名前:すてっぷ 投稿日:2001年10月21日(日)12時18分30秒
サイズが大きくなりましたので、赤板に新スレを立てさせて頂きました。
赤板「Dear Friends 3」です。

Converted by dat2html.pl 1.0