インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板

妖精

1 名前:語り手 投稿日:2001年09月01日(土)20時25分21秒
『妖精』
2 名前:語り手 投稿日:2001年09月01日(土)20時26分10秒
「よっすぃ〜にお話をしてあげます」
 加護はわたしに断りもなく、いきなり話し始めた。
「むかしむかしあるところに、よっすぃ〜がいました。
よっすぃ〜はたいへん働きもので、朝早くから夜遅く
までいっしょうけんめいお仕事してます。
 夜になっておうちに帰ると、黒くてちゃ〜み〜な
奥さんと、それはそれはとてもかわいらしい娘たちに、
お話を聞かせてあげました。
3 名前:語り手 投稿日:2001年09月01日(土)22時25分17秒
『お父さんが働いているところからずーっとずーっと
遠いところに、手のひらに乗ってしまうくらいの大きさ
の生き物がいるんだ』
『知ってるー。妖精って言うんだよね』
 黒い奥さんが横から口出ししました」
 ちょっと待って。もしかして、黒い奥さんは梨華
ちゃんで、娘たちというのは加護と辻のこと?
でなんでわたしがお父さんなの。
「よっすぃ〜は黙ってて。のの」
 辻が背後からわたしの口をふさいだ。暴れようとも
思ったが、ここはおとなしく加護の話を聞くことにした。
4 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月02日(日)00時37分16秒
読みにくいかと思われますが、ご容赦ください。
5 名前:語り手 投稿日:2001年09月02日(日)00時38分11秒
「黒い奥さんが話を横取りしました。
『その妖精たちの一人がね、名前はかおりんって
言うんだけど、仲間たちにこんなことを言い出したの。
「今この島にはわたしたちしかいないけれど、この島の
ずーっとずーっと遠いところには、他の誰かが暮らして
いるんだよ」
 もう一人の妖精が返事をしました。
「なっちも聞いたことがあるよ。わたしたちが一日で
飛んでいける道のりを、いっぱいいっぱいつなげて
ようやくたどりつけるところに、人間っていうのが
いるんだって」
6 名前:語り手 投稿日:2001年09月02日(日)00時39分11秒
 他の妖精たちは、ぜんぜん信じてくれませんでした。
「本当だよー。この前死んじゃった裕ちゃんが言ってた
もん。
『わたしが今よりずーっとずーっと若かった頃、ずーっと
ずーっと遠くに住んでいる人間に、会ったことがあるって
いう仲間がいたんだよ。みっちゃんって言うんだけど、
いろいろと想像もつかないような不思議なことをいっぱい
経験したそうだよ』
って言ってたもん」
 それでも仲間たちは信じませんでした。
「じゃあ、確かめてくるよ。行ってみようよ、なっち」
7 名前:語り手 投稿日:2001年09月02日(日)13時56分56秒
 なっちは内心乗り気じゃなかったのですが、かおりんが
強引に連れていってしまいました。なっちとかおりんは、
同じ年の同じ日に生まれたのでたいへん仲がよかった
のです』
『同じ日に生まれたってことは双子なんだー』
 娘たちが嬉しそうな声をあげましたが、黒い奥さんは
無慈悲にも首を横に振りました。
『同じ年の同じ日に生まれたからって、双子とは限らない
のよ。アメリカ大統領のアダムスとジェファーソンは
同じ日に死んだけど、双子どころかたいそう仲が
悪かったんだから』
 娘たちには、なんのことだかさっぱりわかりません
でした。
8 名前:語り手 投稿日:2001年09月02日(日)13時57分34秒
 お父さんが後を受け継ぎます。ここで黒い奥さんに
主導権を奪われては、夜の生活にも悪い影響が出るのを
恐れたからです」
 ちょっと待て。加護、おまえ変な小説の読み過ぎだ。
辻がかたく両手を結んでわたしの顔の下半分をおさえ
つけているので、だんだん息が苦しくなってきた。
9 名前:語り手 投稿日:2001年09月02日(日)20時26分37秒
「『かおりんとなっちは、島のずーっとずーっと向こうで
輝いている、だいだい色をした太陽に向かって飛び続け
ました。
 かおりんはちょっと不安になってきました。自分が
言い出したことなのに案外気が弱いのです。
「ねえねえ、本当に人間っているのかなあ」
「なっちも裕ちゃんに聞いたことがあるんだ。
『みっちゃんももうとうに死んでもうたけど、昔はよく、
人間の世界にいたときのことを懐かしそうにしゃべってた。
「人間も妖精といっしょで、太陽の光が大好きなんだ。
太陽が照っていると『いい天気』、雨が降ってきて太陽が
雲に隠れると『悪い天気』って言うんだよ」』って」
10 名前:語り手 投稿日:2001年09月02日(日)20時28分44秒
 かおりんとなっちは、来る日も来る日も飛び続けました』
『休みなしで飛び続けたの? 妖精さんかわいそう』
 娘たちかと思ったら、涙声になっていたのは黒い
奥さんのほうでした。お父さんは黒い奥さんをぎゅっと
抱き寄せました。
『泣くなよー。大丈夫だよ。妖精さんは手のひらに乗る
くらい小さく軽くて、海をただよっている木のきれはし
なんかの上で休息してたんだから。わかった?』
11 名前:語り手 投稿日:2001年09月02日(日)20時29分30秒
 黒い奥さんはうんうんうなずくと、お父さんの目を
じっと見つめ始めました。二人はしばし見つめあった
あと、お話の続きを始めました。娘たちの目の前では
さすがにことにおよぶわけにはいかなかったのです」
 だから、勝手に夫婦にするなって。ふと気がつくと、
辻が鼻をすすっていた。どうやら辻とお話の中の黒い
奥さんは同レベルらしい。
12 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時16分16秒
「お父さんは娘の一人をひざの上に乗せて、お話を
続けました。
『何日も、何か月も、二人は海の上を飛びつづけました。
何度もくじけそうになるのですが、そのたび二人は励まし
あいました。退屈になるとおしゃべりをしました。
もちろん話題は人間の世界についてです。
「わたしたち妖精でも、なっちはかおりんより背が低い
でしょ。人間でも同じだって。
13 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時16分46秒
『みっちゃんがお世話になった人間は矢口という名前で、
人間にしては背が低いほうだったそうな。
「人間にもたちの悪いのと良いのと二ついて、その悪い
のから守ってくれたのが矢口っていう人間だった。
矢口は、人間たちの中でもひときわ小さくてよく
からかわれたりもしたけれど、『ちっちゃい矢口が
でっかく答えます』とか言って、それをバネにして
せいいっぱい生きていた」
 みっちゃんもいい人にめぐりあえてよかったなあ』
なーんて、裕ちゃん言ってたもん」
14 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時17分17秒
「あー、その話知ってるー。矢口って人間のお友達で、
保田って人にも親切にされてたんだよね。
『「その保田というのは一見おっかない顔立ちをしてる
んだけど、性根はほんとにいい人で、ずいぶんとやさしく
してもらったよ。
『きゃははは。圭ちゃん、びっくりした? 妖精さんだよ。
遠い遠い果ての島からやってきたんだ』
『へー。みっちゃんって言うんだ。よろしくね』
 ねえ、なっち。わたしたちも矢口っていう人と、
保田っていう人に会えるかなあ」
「会えるといいよね」
「絶対会おうね」
 かおりんとなっちはうなずきあいました』」
15 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時17分50秒
 辻をだっこして、目をつむったまま聞いていたのだが、
ふと気がつくと、隣りに加護をだっこした梨華ちゃんが
座っていた。どうりで、見つめあっただのどうのこうのの
くだりで、きゃーきゃー騒ぐ声が聞こえたわけだ。
「黒くてやかましい奥さんも、めちゃくちゃかわいい
娘たちも、かっけーお父さんの話に聞き入っていました。
『月と太陽が何回も交代して空に輝きました。気が遠く
なるくらい飛び続け、それでも二人はくじけることなく
飛び続け、そしてようやく人間たちの住む世界にたどり
つきました。
「やった!」』
『やった!』」
「やった!」
 梨華ちゃんと辻が同時にさけんでいた。思わず
苦笑した。
16 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時18分23秒
「黒い奥さんとかわいい娘たちは同時にさけびました。
お父さんは苦笑いしました。
『二人は初めて見る人間の世界に目を奪われました。
緑でいっぱいだった妖精たちの島とは違い、銀色や灰色の
世界が広がっていました。何より、いろいろなものの
大きさが、自分たちの想像をはるかに超えていたからです。
「どうしようか」
「どうしよう」
 二人は裕ちゃんやみっちゃんが言ってたように、
人間にはたちが悪いのといいのがいる、という言葉を
思い出しました。
「じゃ、悪い人たちにつかまらないように、矢口と保田を
探そうよ」
17 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時18分53秒
 二人は、やみくもに探すのではなく、手がかりを
探しました。二人は、今はもう死んでしまった裕ちゃんの
ところで、人間の言葉についてもいくつか学んでいた
のでした。
「裕ちゃんがさ、あの台風が島に生えていた木をいっぱい
倒しちゃった日にね、こんなこと言ってたよ。
『そういえばみっちゃん、こんなことを言ってたなあ。
「矢口は小さくて(それでもわたしらよりずっと大きいよ)
かわいらしいので、いろんな人が矢口を見たがった。
かわいそうなことに見世物にされようとしていたんだな。
18 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時19分30秒
でも矢口は気丈な人だった。
『きゃはは。確かに見世物だけど、矢口を必要として
くれる人がいっぱいいてくることは嬉しいし、なにより
それでごはんが食べられるんだよ。わかるかなあ』」』」
 かおりんとなっちはよくわかりませんでした。食べる
ものなら島にはいっぱいあって、自分で自由に食べる
ことができていたからです。
「『「それでな。矢口はその見世物にされる人を選別する
テストを受けさせられた。矢口のようなかわいい人が
いっぱい集められていたんだ。矢口はテストに受かった。
受かった人の中には、保田もいたんだ」』」』」
19 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時20分01秒
 わたしは再び目をつむった。少し頭痛がしてきた。
「黒い奥さんとかわいい娘たちは
『どうなったの?』
と、お父さんをせかします。お父さんは
『んー、どうなったんだろうねー』
とはぐらかしたりして、奥さんと娘たちを苛立たせます。
奥さんがとうとう怒り出して、
『よっすぃ〜のばか! 今夜は相手してあげない!』
と言い出したので、お父さんはあわてて続きを話し
始めました。
20 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時21分10秒
『二人は、裕ちゃんがみっちゃんに聞いた話を思い出そうと
しました。
「それからどうなったんだっけ」
「ええとね、たしかねえ。
『みっちゃんは、矢口といつも一緒。
「そのままだと悪いのに見つかっちゃうから、バッグって
いうのに隠してもらって、見世物についていった。
見世物といっても、大勢の人間たちが矢口や保田に注目して、
声援を送ってるんだ。矢口はそれに応えようとして、
見世物小屋を走り回っていた」
21 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時21分43秒
 矢口や保田だけじゃなかったらしくて、たくさんの
かわいい人間の集まりだったそうな』
って言ってたよ、裕ちゃん」
「その見世物小屋の名前とか聞いたことある?」
「それがねえ、いろんなところにあるらしくて、いつも
行ったり来たりしてるって。名前も覚えてないよー」
22 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時22分19秒
 二人は途方にくれてしまいました。このままでは
矢口や保田に会えません。
「名前かあ。集まりなんだからさ。矢口、保田、
なになに、っていちいち言ってられないじゃない。
何かその集まりの名前があるはずだよ」』」
 梨華ちゃんと辻の息づかいが聞こえなくなった。
耳鳴りもしてきた。加護のたどたどしい声だけが響く。
「『二人はその、ほんとうに小さな小さな頭をかかえました。
「あーん、あとちょっとなのに」
「たしか、たしか、
『「その集まりの名前は……」』」』」
 しめつけられているような頭の奥に、耳鳴りでだめに
なりそうな耳の奥に、矢口さんの声が響いた。
23 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時22分51秒
「『「『「『みんな、モーニング娘。だよ!』」』」』」
24 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時23分22秒
 耳鳴りは頂点に達し、ほんのわずかな間、耳が聞こえ
なくなった。だが、きっと、辻も、梨華ちゃんも、黒い
奥さんも、二人の娘たちも、その名を口にしたことだろう。
25 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時23分54秒
「……
『二人は名前を思い出したので、それを手がかりに矢口と
保田を探し始めました。さっきも言ったけど、二人は
裕ちゃんに習っていたから、人間の言葉がわかるんだよ。
 いろいろなところを飛び回って、ときには悪い人たちに
つかまりそうになったけれど、とうとう二人は見つけました』
『何を?』
『何を?』」
 わかってるくせに。
26 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時24分26秒
「お父さんはにっこりと微笑みました。黒い奥さんも
つられてにっこりしました。
『数人の女の子が集まっておしゃべりをしていました。
「こらー加護ーおとなしく座ってなさい」
「だって梨華ちゃんがしつこいんだもん」
「人のせいにするのー」
「ごっちんドラマのほうはどう?」
「んーがんばってるよー」
「つじーまたお菓子食べてる」
「おなかがすいたのです」
「キャハハ、よっすぃ〜元気かー」
「元気っすよ、矢口さん」
 二人はカーテンの陰から、「矢口さん」と呼ばれた
女の子を見ました。みっちゃんがお世話になったという
矢口を、とうとう見つけることができたのです』
お父さんはゆっくりと口を閉じました」
27 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時24分59秒
 加護の声がとだえた。
「それから?」
「どうなったの、加護ちゃん?」
「ねえ、あいちゃん」
 辻と梨華ちゃんが加護に続きをうながすが、加護は
おし黙ったままだった。
28 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時25分31秒
 頭痛は止まらない。
 よっすぃ〜。
 まぶたを開くと、ごっちんが目の前に立っていた。
ごっちんはにっこりと微笑み、ゆっくり右腕を前に上げ、
わたしたちの後ろを指差した。
 辻、加護、そして梨華ちゃんに続いて、振り返った。
29 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時26分01秒
 かおりんとなっちが、そこにいた。
30 名前:語り手 投稿日:2001年09月05日(水)21時26分33秒
おしまい。
31 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月05日(水)21時27分04秒
オチを……
32 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月05日(水)21時27分40秒
隠さないと……
33 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月07日(金)19時31分39秒
『吉澤ひとみの妄想』よろしく!

Converted by dat2html.pl 1.0