インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板

TIME

1 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時44分04秒
激遅で書きます。
2 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時44分44秒
あまりに透明で遠くまで行こうと思わせる海にまんまと乗せられて
泳ぎ続ける私は、ぽつんとひとりだった。
息継ぎのために顔を出すと、海面に光りが反射して
すべてが輝いて見えた。水中メガネごしでもまったく色あせない。
「すっげ」
真っ白な光りが照らす中で日焼けの事なんてまったく気にしないで泳いでいると
お腹が空いた。私は海からあがって持って来たおにぎりを食べた。
自分でつくったまるいおにぎり。まるくつくったつもりのおにぎりと
言えなくもない形だったけど。
3 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時45分25秒
「うん」
おいしい。さっきまで塩水の中にいて、今食べてるのはしょっぱいおにぎり。
塩だらけたった。
「おいしい?」
うん。おいしい。私はそう心の中で答えてから振り向いた。
――誰だ?
そこには見た事の無い子が立っていた。つばの広い白い帽子をかぶっていて
レースのついた白いワンピースは風でひらひらしてる。
可愛い子だった。
私は口の中のおにぎりを飲み込むと「ワンピース、砂で汚れちゃうよ」と言った。
4 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時45分55秒
その子はぷくっと膨れると「おいしいか、って聞いてるのに」と言った。
だからおいしいって。私はまた心の中でそう答えて、実際には「私がつくった
おにぎりなんだけど」と全然違う言葉を返した。
「そっかぁ」
その子はうなづいた。答えを勝手に理解したようだった。
「私もつくって来たら良かったかな」
「言っとくけどおいしいんだよ」
そう答えるとその子はにっこり笑って「ひとくち、ちょーだい」と言った。
のせられた。私が食べかけのおにぎりを差し出すと、その子は手で受け取らずに
口を直接近づけて食べた。
5 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時46分53秒
「おいしいじゃない」
「そう言ったでしょ。飲み込んでから話しなよ」
「そっちこそ」そう言いながらその子は、私の横に座った。
「ワンピース汚れちゃうよ」
「そればっかりだね」
私は改めてその子の顔を見た。色白のショートカットで、まつげが長く、にっこり
笑った顔がとんでもなく可愛い子だった。
「泳がないの?」私が当然の疑問を口にすると、その子は「泳げないの」と
当然のように答えてきた。
私はもう一個のおにぎりを手に取ると半分に割ってその子にあげた。
当然のように受け取ろうとしたので、私は手をひっこめた。
その子はムッとした顔で「ありがと」と言った。
私はおにぎりを渡した。
6 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時47分23秒
名前は?
その言葉がのどまで出かかった時に、向うから「名前は?」と言われた。
「な…」『名』だけのどから出てしまった。
「な?」
「まき」
「なまき?」
「いや、真希」
「な、は何?」
「忘れて。それよりそっちは? 何て言うの」私は肩をぽりぽりかいた。
「な、つみ」
「つみ?」
「ううん。普通になつみ。なんだ残念。『な』つながりかと思ったのに」
私は意味が無さそうなつながりだな、と思った。
7 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時47分57秒
この状態でひとりだけ泳ぎに行くのも変なんで、私はおにぎりを食べ終わった後も
なんとなくそのまま一緒に居た。
なれなれしく年を聞くと年上でびっくりした。年下だと思ってた。
ついこの前が誕生日だったらしい。私は「おめでとう」と言った。
「なつみさん、って呼んだ方が良いね」
すると即答で「なっち、って呼んでよ」と返ってきた。なっち?
「なっち」
実際に口に出すと意外と言いやすかった。
「なぁに?」
「言ってみただけ」
自分で言ってからこのやりとりに照れてしまった。私は赤くなってると思われる顔を
見られないように海の方に顔を向けた。まぶしかった。
8 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時48分42秒
「泳がないの?」
なっちが聞いてきた。私は「泳ぐよ」と答えて、そのまま座ってた。
「真希って水泳の選手かなんかでしょ?」なっちは目を輝かせて言った。「泳ぐの
速かったしさぁ、海であんなに真剣に泳ぐ人いないもん」
私はどう答えようか迷った。うそをつこうかとも思ったけど、ちょっと考えて
それはやめた。
私が頷くとなっちは「やっぱり」と微笑んだ。
「前は選手だったんだ。今は補欠」
「うっそ。あんなに速いのに?」なっちは本当に驚いているようだった。
私は「みんなも速くて」と笑った。
9 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時49分16秒
「泳がないの?」
なっちが聞いてきた。私は「泳ぐよ」と答えて、そのまま座ってた。
「真希って水泳の選手かなんかでしょ?」なっちは目を輝かせて言った。「泳ぐの
速かったしさぁ、海であんなに真剣に泳ぐ人いないもん」
私はどう答えようか迷った。うそをつこうかとも思ったけど、ちょっと考えて
それはやめた。
私が頷くとなっちは「やっぱり」と微笑んだ。
「前は選手だったんだ。今は補欠」
「うっそ。あんなに速いのに?」なっちは本当に驚いているようだった。
私は「みんなも速くて」と笑った。
10 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時50分03秒
>>9 ごめん、かぶった
11 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時50分42秒
急に私の身体に冷たい感覚が戻って来た。水の中にいる感覚。手や足の先から
じんわりと冷えていく感覚。
私はある日突然、プールに飛び込めなくなってしまった。本当に突然。
飛び込みと、ターン。
今までどのようにやっていたんだろう?
飛び込み台の上で立ち尽くす私に監督と仲間の声がした。私はその声を聞きながら
ゆっくりと飛び込み台を降りて、大会を棄権した。
みんなの視線を感じながらも目を合わせずにベンチに座ると私は
バスタオルを羽織った。寒かった。
12 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時51分13秒
「ねぇ、もう一回泳いでるところ見せてよ」
なっちのその声は私を現実に引き戻した。
しまった。どれくらい意識飛ばしてたんだろう。私は何度かまばたきした。
「すぐ退屈するよ、きっと」
「泳げないから見るだけでも見たいんだよね」
私は立ち上がっておしりの砂を払うと、海に向かって歩き出した。
腰まで水に浸かったところで私は振り返って手を振った。
遠浅なので砂浜からは結構離れた。私は叫んだ。
「見てて!」
なっちは手を振り返してくれた。
私は水中メガネをして一度水の中に全身沈めて、それから泳ぎ出した。
13 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時51分45秒
気持ち良かった。
海の中は太陽の光りで青緑に輝いて、ゆっくりとした波が
私の泳ぐスピードを上げる。暖かかった。
私は色々な泳ぎをした。
クロールで泳いで、平泳ぎで泳いで、バタフライで泳いだ。潜水もした。
このやわらかさがプールにもあれば良いのに。そんな事を考えながら泳いだ。
「ふぅっ」
一通り泳ぎ終わって顔を上げると、なっちはどこにもいなかった。
「…帰っちゃったのかな?」
ぶるっ、と震えが来たので今日はあがる事にした。
14 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時52分34秒
砂浜にはなっちからの伝言が残されていた。
『具合が悪くなったので帰ります ごめんね まきは本当に
サカナみたいでした 顔も似てるかな 明日も来ます なつみ』
「よく言われるよ」
そう言いながら、足で砂をけって消そうとしてやめた。
私はしゃがみこんで手でなっちの名前をだけを消して、その下に
『明日は帰っちゃうんだ ごめんね 真希』と付け加えた。
「これでよし」
私は立ち上がって自分の書いた文をもう一度読み返してから着替えて
砂浜を後にした。
帰る前に振り返って海を見たけど、やっぱり誰も居なかった。
15 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時53分08秒
ふいに私は走って砂浜に戻ると、自分の名前の下に『来年また会おう』と
つけ足した。
「よぉし」
私は笑った。
帰る前にやっぱり海を振りかえった私は、砂浜の落書きに向かって
心の中でつぶやいた。
――じゃあね。
16 名前:1 投稿日:2001年09月03日(月)12時54分06秒
第1話 おしまい
17 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月03日(月)14時22分59秒
すっごくいいです!
なんかほのぼのしました。
18 名前:1 投稿日:2001年09月06日(木)12時44分44秒
>17
ありがと。
どうも読んでくれてるの君だけみたいなんで、君のために書くよ。
19 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月06日(木)14時35分20秒
少なくともここにもう一人いますよ〜
二人のキャラがすごくいいっす!
更新、コソーリとお待ちしてます。
20 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月08日(土)01時53分05秒
もう一人いますよ。次は一年後かな?
楽しみにしてます。
21 名前:1 投稿日:2001年09月09日(日)23時52分09秒
>19 >20
ありがと。やっぱり何でも良いから感想もらえるとやる気わきます。
誰も読んで無いかもと思うと消えたくなる…。
22 名前:1 投稿日:2001年09月09日(日)23時59分39秒
超申し訳無いんですけど、タイトル変えちゃって良いでしょうか?

『TIME』 → 『カィンドゥ・ギャルズ』

でお願いします。もうこんな事はありませんので。本当すみません。
23 名前:1 投稿日:2001年09月10日(月)12時40分27秒
授業なんてうわのそらでノートに落書きしていた私は、その絵にそのまま『先生』と
タイトルをつけた。我ながらかなり似てると思った。
お昼はいつも屋上でパンを食べた。
放課後は部活に行く友達を見送りながら私だけ家に帰った。
水泳部を辞めた私には、たっぷりと時間があった。
時間がなかった頃にはいっぱいしたかった事があったはずだったんだけど、なぜか
何も思い出せなかった。なんで私はあんなにも時間を欲しがっていたんだろう?
私は毎日たっぷりと眠った。そしてよくあくびをした。
24 名前:違った、2だ 投稿日:2001年09月10日(月)12時41分47秒
読書の秋って訳では無いが、私は図書館に通った。
学校の図書室は返却の催促がうるさいし、何より図書館には色々な人が居るのが
良かった。小学生、おばあちゃん、おじさん、お姉さん、そして私。
「あった」
図書室には置いてなかったシリーズも、ここでは全冊そろっていた。
主人公の女の子が悩んだり迷ったりして成長する話で、そのありがちなところが
気に入っていた。
薄い本なので、学校帰りに借りて夜読んで次の日に返す。
そして返したその足で続きを借りて帰る。
今の私の唯一の日課だった。
25 名前:2 投稿日:2001年09月10日(月)12時42分18秒
ふと気付いた。
私の後を追うように、同じシリーズを読んでる人がいる。
ちょうど一冊おきに借りているその人は、私と同じペースで
読んでいるようだった。一日一冊。
私は前の本を手にとって図書カードを見た。
――加護亜依。
私の次に借りているのは女性だった。
前のも、その前のも、全ての図書カードで後藤真希の次には加護亜依の
名前があった。
ちょうど同じ時期に同じ物を楽しみにしている女性。
「どんな人だろ?」
目を閉じた私の前には、主人公の少女が居た。
丸顔の少女が白いワンピースを着て、私を見つめ返していた。
26 名前:2 投稿日:2001年09月10日(月)12時43分06秒
シリーズ最終作を借りに行くと、ひとりの少女が棚を覗き込んでいた。
小学生もセーラー服を着る時代かと思わせるくらい背のちっちゃい子で
向こうにある窓からの光りで顔ははっきり見えなかったけど、その子の影と
夕焼けの混ざり具合はとてもきれいだった。
「んんっ」
目をこらすとなんとなく顔が見えた。可愛い横顔だった。
その子のじゃまにならないように本を手にした瞬間、近くで「後藤真希さん?」と
呼ぶ声がした。その子だった。
誰だ?
とは思わなかった。私は確信を持って言った。
「加護亜依――ちゃん」
その子はうなづいた。
27 名前:2 投稿日:2001年09月10日(月)12時44分00秒
「これ、読んでるでしょ」と私は本を見せた。
「はい」
「おもしろいよね」
私が笑ってそう言うと、加護亜依は何度もうなづきながら「大好きなんです」と
微笑んだ。
「あっ」
その微笑みを見た瞬間、私は飛んだ。潮風、砂浜、波音、そして――。
「なっち」
言った自分にびっくりした。
ずっと前のたった1日の事だからよく憶えてないけど、加護亜依となっちは
全然似てない気がする。
いくらなっちが子供っぽかったとは言えここまで本当に子供じゃなかったはずだ。
私は意識的にまばたきした。
「なっち?」
「あ、ゴメン」
「ごめんなさいね」この空間にもうひとり入ってきた。係員だった。
28 名前:2 投稿日:2001年09月10日(月)12時44分55秒
係員さんはさっき私の返した本を置いていき、置いたそばから加護亜依が取った。
「待ってました」
加護亜依は照れたように笑った。私も笑った。何だかやけに笑ってる。
ふいに加護亜依は一歩さがった。
「あの私。用事があるんでもう帰らなきゃ。後藤さん、さよなら」
「え、うん。さよなら」私は手を振った。
加護亜依はぺこり、と頭を下げると走ってカウンターへと姿を消した。
だんだんと小さくなっていく姿を見ながら思った。
一分も話していただろうか?
全てが一瞬の出来事だった。
私は目を閉じてゆっくりと十を数え、それからカウンターに向かった。
29 名前:2 投稿日:2001年09月10日(月)12時45分28秒
読み終えた私は「ふぅ」とため息をついた。
結局少女は悩んだ末に友達よりも恋を取った。それでも友情は壊れる事無く
ふたりは同じ学校に進学した。
良い子達だな、と思った。
ふたりが仲直りするシーンはなかなかに感動的で、加護亜依はここで泣くかな?
などと私は勝手に想像してみたりした。
お団子頭。
図書館。
セーラー服。
人なつっこい笑顔。
夕焼け。
「…ん?」
すでにベッドの中で、読み終わったらそのまま眠ろうと思ってた私は
あとがきのページに二つ折りのメモがはさまってるのを発見した。
――『後藤真希さんへ』
30 名前:2 投稿日:2001年09月10日(月)12時46分09秒
なるほど、と思った。加護亜依がすぐに帰った理由はこれか。
メモを広げると、中身は思った以上にあっさりしていた。
想像通り加護亜依からだった。
『はじめまして 加護亜依と言います
私の借りる前日に必ず後藤真希さんの名前がある事に気付いて
本を回し読みしてるような不思議な偶然だと思いこれを書いてます
お返事くれたらうれしいです 加護亜依』
「ふぅん」
割とていねいに書いてあった。
行動力があるな、なんて思いながら私は眠った。
目を閉じるとまた本の主人公の少女が現われた。
今日でお別れか、と思いながら見たその顔はどことなく加護亜依と重なって見えた。
31 名前:2 投稿日:2001年09月10日(月)12時46分44秒
授業中、空を眺める事にもいいかげん飽きた私は手帳を一枚
音を立てないように破いた。
『加護亜依ちゃんへ』
カゴアイ。フルネームで呼びやすい名前だ。
私はペンをくるっと一回転させて続きを書いた。
『私もそう思ってた 素敵な偶然だよね 亜依ちゃん最後泣いた? 真希』
我ながらびっくりした。
いくら何でも短すぎるだろう。でも他に書くことも無かった。
さんざん悩んで、私は小さくてるてる坊主の落書きを書き加えて本にはさんだ。
加護亜依に似せたつもりだった。
その時、私を呼ぶ声がした。
32 名前:2 投稿日:2001年09月10日(月)12時47分16秒
先生に呼び出しをくらってしまった私が解放されたのは
夜六時をまわった頃だった。
間に合わないだろうと向かった図書館は予想通り閉まっていた。電気が消えて
真っ暗で人の気配は感じられなかった。
私はメモをはさんだ本を取り出すと、夜間用返却ポストに入れた。
――ゴトン。
誰もいない図書館にその音が響き渡るのと同時に、私の心にも何かが落ちた。
刺さった。痛かった。気付いた。
本を借りられなかった加護亜依はどうしたんだろうか?
長いこと待っていたりしたんだろうか?
裏切られたと感じてるだろうか?
「ごめん」
音をたてたくなかった。私は出来るだけ静かに図書館をあとにした。
33 名前:2 投稿日:2001年09月10日(月)12時48分16秒
第2話 おわり
題名、「カィンドウ」じゃなくて「カインドゥ」だった。
34 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)23時05分04秒
>>21
俺も以前、書き手だったことあるからその気持ちはよく分かります。
でもここ面白いし、自信持って書き続けて欲しいな。
連載開始して最初の感想レスが2時間後って、なかなか無いよ!(w
35 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月11日(火)04時21分18秒
独特の雰囲気があってすごくいい。
更新待ってます。
36 名前:2 投稿日:2001年09月12日(水)12時42分12秒
>34 >35
ありがと。しかし更新後2時間でのレスって速い方なの?
私m-seekで書くの初めてなんだけど、だとしたらみんなよく続くよね・・・。
37 名前:17 投稿日:2001年09月14日(金)10時24分06秒
楽しみにしてるからがんがれ!!
38 名前:2 投稿日:2001年09月18日(火)12時04分21秒
>37 (17)
サンキュ。それはそうと凄い事に気付いた。ここ長編用だったんだ・・・。
39 名前:3 投稿日:2001年09月18日(火)12時04分55秒
街を行く誰もが皆幸せそうなのかと思ったら、そうでもなかった。
「みんな、あんまり幸せそうじゃないね」
梨華ちゃんもそう思ってたらしい。私はうなづいた。
「以外とうつむいてる人多いよね」
「うん。せっかくのクリスマスなのにね」
クリスマスがせっかくなら、バイトなんかしてるあたし達は何だ?
と思いながらも私は「うん」と答えた。
寒い。
雪が降るんじゃないかと思う程だけど降らない。
友達に誘われなかった訳でもないし、家族でお祝いしない訳でもないが、私は
クリスマスにはバイトをしようと決めていた。
今日だけのバイト。
お金が必要な訳でも、サンタの衣装が着たかった訳でもないのだけれど。
40 名前:3 投稿日:2001年09月18日(火)12時05分25秒
時計は三時半を指していた。バイト開始から三時間半たったって事だが
あとまだ四時間半もある。
ちら、と梨華ちゃんを見るとせっせとケーキを並べていた。
まじめだな、と思った。
ふたりでケーキを売っているとよく客にからかわれたが、梨華ちゃんは本気で
心配してたりした。その度に本当に同い年かと考えた。
「彼氏は?」
私が聞くと梨華ちゃんは真っ赤になって否定した。
「私、男の人ってだめなの。真希ちゃんは…いるの?」
「いない。いたらきっとバイトしてないよ」
「そっかぁ」
そう言って何か安心したように微笑む梨華ちゃんは、まだちょっと顔が赤くて
とても可愛いかった。私まで赤くなったかも知れない。
41 名前:3 投稿日:2001年09月18日(火)12時05分57秒
「真希ちゃんはさ、なんでクリスマスにバイトする事にしたの?」
何となく、という理由が許されないような雰囲気だったので私は「ケーキが
好きだから」と答えた。当たってなくもないし。
「そっかぁ」
「梨華ちゃんはどうして?」
「実はねぇ、あいぼんと一緒に過ごす予定だったの」
あいぼん?
「あいぼんってね。私のいとこで、妹みたいな子。『あい』だからあいぼん」
「ふぅん」
ここで会話は終わったのかと思ったら、梨華ちゃんはしばらく黙った後で
「あいぼんね、彼氏と過ごす、って言ったんだ」と言った。
42 名前:3 投稿日:2001年09月18日(火)12時06分29秒
夜の街は人であふれた。私達は笑顔でケーキを売り、ナンパ客をあしらい、たまに
休んで、そしていっしょうけんめい働いた。
これこそクリスマス、と言わんばかりにケーキは売れた。飛ぶように売れた。
私達の前に積まれたケーキも少なくなって来て、気がついたら七時を回っていた。
お客が途絶えた時に考えた。
ふたりで売ったケーキの数はいくらだったんだろう?
「今日だけで何個くらいケーキ売れたかなぁ」
梨華ちゃんも同じ事を考えていたらしい。
「百個は売ってるよね」
「あ、ううん。世界中で何個くらい売れてるのかなぁって」
違った。
梨華ちゃんはもっとスケールの大きい事を考えていた。
考えた事もなかったけど、私は肩をぽりぽりかきながら「一億」と答えた。
「そっかぁ」
「いや、適当」
43 名前:3 投稿日:2001年09月18日(火)12時07分03秒
「趣味は?」
梨華ちゃんが言った。何だ突然?
「水泳」と私は答えた。そして「海に限るけどね」と付け足した。あっ。
この感じは前にも。梨華ちゃんの瞳、私の言葉、そして私は飛んだ――。
海。
陽射し。
おにぎり。
白いワンピース。
笑顔――は梨華ちゃんの笑顔だった。
前は違う笑顔だったはず。
私は何度かまばたきしてから「梨華ちゃんは?」と聞いた。
「読書。出かけるのあんまり好きじゃないから」
「良いね」
私は笑った。
ふと、もしかして梨華ちゃんも白のワンピースを持ってるのかな、と思った。
やや色黒の梨華ちゃんにはとても似合いそうだった。
44 名前:3 投稿日:2001年09月18日(火)12時07分33秒
私が図書館で借りてたシリーズを、梨華ちゃんも読んでいた。
「友達がね、良い子だよね」
「主人公の子も頑張ってたじゃん」
「どっちも好きだったんだよね」
ぉゃ?
梨華ちゃんの様子が変な事に気付いた。
私は聞くか聞くまいか迷わずに「何かあったの?」と聞いた。
梨華ちゃんが微笑みながら話しだした話は、私の読んだシリーズとまったく同じもので
梨華ちゃんの役割は主人公の親友だった。
主人公と同じ人を好きになって――身を引く役割。
そして主人公役はあいぼんだった。
45 名前:3 投稿日:2001年09月18日(火)12時08分12秒
「私達三人はいとこ同士でね。小さい頃からずっと一緒だったんだ」
私は勝手にあいぼんの顔を想像してみた。
主人公と同じ顔、丸い顔が出てきた。そして私は図書館で出会った少女を思い出した。
なつかしいな。あれ以来会ってないけど、元気なんだろうか?
そう言えばあの子も亜依だったかな。そう思った時、なぜか私の心臓は痛いほど
速く鳴りだした。まさか。そんな可能性ゼロに近い。
「私だけ、置いてかれちゃった」梨華ちゃんは微笑んで言った。
46 名前:3 投稿日:2001年09月18日(火)12時08分46秒
夜八時をまわってバイトは終了した。
店長の「ご苦労様」と言う言葉と薄い封筒を受け取って、私達は解放された。
店長の言葉に微笑む私達の目が暗かった事に店長は気付いただろうか?
サンタの衣装から着替えながら私は聞いた。
「梨華ちゃんさぁ、あのシリーズ、どうして知ったの?」
想像と違う答えが聞きたかった。
「あいぼんがね、面白いって言ってたの」
想像通りの答えだった。
47 名前:3 投稿日:2001年09月18日(火)12時09分25秒
繋いでいた手に血が通ってなかったなんて思いたくない。
「あいぼんはさ、あんまり深く考えないであのシリーズを勧めたと思うよ」
私は加護亜依を思い出す。もやのかかったような記憶の中、夕陽を受けて影を落とす
人なつっこい笑顔が見える。私はまばたきした。
「うん、わかってる。そんな子じゃないから」
そう言って梨華ちゃんは微笑んだ。
「そっか」
本当に好きなんだな、と思った。あいぼんの事も、もうひとりのいとこの事も。
夜八時。
クリスマスイブの今夜はまだまだ明るかった。
「ねぇ、せっかくのクリスマスじゃない。このままちょっと遊びに行かない?」
48 名前:3 投稿日:2001年09月18日(火)12時09分59秒
私の突然の提案に梨華ちゃんは驚いていた。
「お金も入った事だしさ」私は封筒をひらひらさせた。「出会った記念に」
「でももう夜遅いし」
「まだ八時じゃん」
「ごめんね。うち厳しいんだ」
そう言って梨華ちゃんは微笑んだ。
私は右手を上げて梨華ちゃんを引き止め――ようとして止めた。
出来なかった。
右手は空中でぎゅっと握って、そのまま降ろす。
「…?」
「梨華ちゃんさぁ、白いワンピース持ってる?」あの、主人公の子が着ていたような。
「えっ、突然だね」
「突然はお互い様だよ」
「そっかぁ。うん、持ってるよ。お気に入り。でもどうして?」
「きっと」私の息が詰まりかけた。「白い帽子も似合う」
49 名前:3 投稿日:2001年09月18日(火)12時10分36秒
曲がり角で梨華ちゃんは「じゃあね、ごっちん」と言った。
ごっちん?
「私が今つけたあだ名。良くない?」
私は笑って首を横に振った。
「そっかぁ。あいぼんもね、あいぼんってあだ名、気に入ってなかったんだ」
梨華ちゃんも笑って、そして帰って行った。
私はだんだんと小さくなっていくその姿を追いかけるでもなく、帰るでもなくその場に
立ったまま見送った。
寒さも時間もわからなかった。
私は梨華ちゃんの笑顔を思い出すと、もう一度右手をぎゅっと握りしめた。
やっと吐く息の白さに気付く。
世界はこんなにも暗く寒いのに雪は降らなかった。
50 名前:3 投稿日:2001年09月18日(火)12時11分12秒
第3話おしまいです。
51 名前:3 投稿日:2001年09月22日(土)23時28分50秒
誰からの書き込みも無し…。そうですか…。
52 名前:4 投稿日:2001年09月25日(火)12時04分20秒
暖かい陽射しと暖かい風に包まれて私は歩きながらでも
眠ってしまえそうだった。
あくびをするとなかなか止まらない、鳥も花も太陽も輝く春。
――これで泳げれば最高なのに。
「おっと」
ふいに肩がぶつかる。
壁だ。私はまっすぐ歩いてなかった。久々の眠り歩き。
やばい。
私は手で口をふいた。よだれなんて無いと思うんだけど一応。
辺りを見まわすと誰も居なかった。
私は予定を変更して本を買ったらさっさと帰る事にした。
読む前に昼寝する。
53 名前:4 投稿日:2001年09月25日(火)12時04分59秒
私は身体にぴったりのサイズのガラスの箱に入ったまま、水の中を漂っていた。
真上も真下も同じ青さで、怖さよりも興味をそそる。
深海を思わせる。そして私は水着だった。
「すっげ」
あまりに静かで、わざと私が声を出してもすぐに無音に戻る。
手も足も動かない状況で感動していた。
全身水の中なのに、身体のどこにも水が触れる感覚はない。
魚も海草もなくて泡だけが下から上に流れている。
きれいだった。
夢だとわかる夢。
「泳ぎたいな」と私がまた声を出した瞬間、希望通りにガラスが砕けた。
54 名前:4 投稿日:2001年09月25日(火)12時05分33秒
電子音が鳴り響く中で、私は壁に寄りかかっていた。水なんてどこにもなくて
理解するのに数秒かかった。
振り返るとさっきぶつかった壁がまだ見えていて、私は眩暈がした。
夢まで見てたなんて…。
そしてたぶん寝言も言った。
目覚ましが鳴らなかったらどうなっていたかと思う。
こっそり口をふいて、ゆっくり周りを見まわした。ラッキーな事に私以外誰も
いなかった。
…なんだ。あのまま泳げるならもう少し眠ってても良かったかな。
私は目を閉じて思った。
口唇がほころぶのは春のせいかな。
止まんない。
55 名前:4 投稿日:2001年09月25日(火)12時06分14秒
壁にもたれかかった私はそっと目覚ましの正体を取り出して、さっき着信した
メールを読んだ。
『はじめまして。メル友になりませんか?』
男かも女かも年上かも年下かも解らない、何のひねりもない文。
でも、こういう文は嫌いじゃない。
すっかりメールなんてやらなくなっていた私は、あれこれ色々なボタンを押して
苦労しながら『いいよ』と何のひねりもなく返信した。
良いよ――なんて言っておいて何だけど長文は面倒だな。
おかげで頭はすっきりした。
私は「よっ」と壁から離れると、できる限り陽の中を歩くようにして
買い物の続きに向かった。
56 名前:4 投稿日:2001年09月25日(火)12時06分55秒
返事が来たのは遅く、すでに本屋に着いた私が立ち読みをしている最中だった。
さっきの続きだと解っている私は、すぐにメールを読まずにそのまま雑誌を
読み続けた。仕返しって訳でもないけれど。
結局三冊も立ち読みして頭がぼうっとなりながら店を出た私は、携帯を取り出して
メールを読んだ。画面に光りが反射する。
二通来ていた。
『名前は何て言うの?』『あと、年とどこに住んでるのかも教えて』
急に知的レベルが落ちてないか?
私は買った本を脇に抱えると、またゆっくり時間をかけて返事を打った。
『まずじぶんからなのれ』
男だな、となんとなく思った。
57 名前:4 投稿日:2001年09月25日(火)12時07分33秒
手の中の携帯は何度も鳴り、そのたびに私も応えた。
『漢字変換できないの?それとも小学生とか?』
『へんかんができないだけ』
『普段メール使わないの?』
『うん。しばらくぶり』
『本当に!?上とか下とか押すと変換出来ると思うよ』
『おお!出来たよ。有り難う』
『無理矢理漢字使うな。でもメール打たないって事は学生じゃないよね?』
『メール打たない学生だって居るよ』
『居ないよ。私の周りには居ないもん』
『私って事は女の子?そっちも学生?』
『そうだよ。小川麻琴。中二。そっちこそ男でしょ?』
…そっちこそ?
58 名前:4 投稿日:2001年09月25日(火)12時08分05秒
メールを送る度、読む度に立ち止まる私は一向に家へとたどりつかなかった。
家に着いたってこのやりとりが終わる訳じゃないけど、私は陽射しも風も暖かい
ここでメールを交換してたかった。
私の顔はまた笑っていた。
この偉そうな中二になんて言ってやろう。
そう思っていた時、強い風が吹いた。
「…?」
スカートを押さえながら私がふと見上げた坂の上に人影が見えた。
まぶしい光の中に浮かぶシルエットは透き通っていて、服を着ているのに
身体の線がわかる程だった。
季節はずれの薄い素材…ワンピースだろうか?
59 名前:4 投稿日:2001年09月25日(火)12時08分44秒
道と壁が光りを反射する。
全てが白くまぶしく、あまりに幻想的で動きが止まる。
目を細めた私には音が聞こえた。また来た、と思った。
時間がそっと流れ、私は飛ぶ。
風の音、波をかく音、砂を踏む音。
私の横を通りすぎる白いワンピースと白い帽子。
違った。
全てが白じゃなかった。まばたきをする私の目にうつる、緩くウェーブのかかった
黒い髪、ややきつそうな薄く黒いつり目と目があう。そして手の中の――。
幻想的な彼女を現実に結び付けてる、それがあるから夢じゃないと気付く
黒い携帯。
60 名前:4 投稿日:2001年09月25日(火)12時09分18秒
この子が小川麻琴だ――!
根拠なんてないが、そう思った。私にはこういう事がよくある。そして当たる。
すれ違った後もずっとその子を見ていたが、私を振り返る事はなかった。
私はメールを打った。
『今。私達すれ違った』
その瞬間から時間がまた動き出す。
どう?
私が見守る中、その子はゆっくり携帯を見た。
そしてそのまま角を曲がり、姿を消しても私の携帯は鳴らなかった。
しまった、と思った。
白が無くなった世界はとたんに暗く、寒くなった気さえした。
手足の先から冷えていく感覚。震えそうになる。
私はやや急ぎ気味に帰ると、眠くもなかったが、家に着くなり暖かいベッドに
頭まで潜った。
昼間見た夢の続きが見たかった。
泳ぎたかった。
61 名前:4 投稿日:2001年09月25日(火)12時10分08秒
真希、と呼ぶお母さんの声で目が覚めた。夢なんて見なかった。
「おはよ。何時?」
「七時半よ。夜の」
「ご飯は?」
「これから。早くいらっしゃい」お母さんは階段を降りていった。
私はそっと携帯を見たが、メールの着信は無かった。
小川麻琴だって私の事が解ったはずなのに。
二本の糸はからみあって強さを増すと思ったのに、ねじれて切れてしまった。
私の不用意なミスで――。
『私は後藤真希って言うんだ。高二。女だよ』
小川麻琴が欲しかったのはきっとこれ。そう思いながら私は、迷った末にそのメールを
送らなかった。
お母さんの後を追ってリビングに行った。おなかが空いていた。
そして、それっきり。
62 名前:4 投稿日:2001年09月25日(火)12時10分42秒
第4話おわり
63 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月28日(金)02時03分00秒
今後どうなるか気になる……
ひっそりsageが似合うイイ雰囲気!!
頑張れ作者さん
64 名前:4 投稿日:2001年09月29日(土)19時13分10秒
>63
うわぁ! もう誰も読んでないかと思ってたよ。
むりやり終わらそうと思ってたくらい。
ありがと…でもsageが似合わんでも良いからもっと感想ほしいよ
65 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月01日(月)07時30分30秒
こんなにひっそりとしていて、慎ましやかなのに、イイ文章だね。
無駄がなくて読んだ後にすごく気分が良くなるっていうか。うまく書けないけど、凄く好きだよ。
あんま、誉めると気持ち悪いかな(w
66 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時00分54秒
うだるような暑さの中、私はおなかにタオルケットをかけて
ベッドの上でごろごろしていた。
「んんっ」
たまに伸びをする。声が出せるかどうかの確認も含めて。
窓から外を見ると大きな雲が見えた。なのに陽は射す。どうなってんの?
夏休み。
時は止まってしまった――。
私は毎日同じ生活をしている。曜日の感覚なんてなかった。
きっと今日も、夕方涼しくなったらあてもなく散歩に行って、
コンビニで雑誌をぱらぱらと立ち読みし、アイスでも買って帰ってくるんだ。
昨日もそうだったし、おとといもそうだった。
顔をあげる。
時計を見ると三時過ぎだった。
もうちょっとしたら、とまた私は目を閉じた。
67 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時01分35秒
春と夏の間に、私はひとりでプールに行った。
ひんやりと冷たい水の中に身体を肩まで沈めて、前に一歩踏み出す。
――手が伸ばせない。
踏み出した足がそのまま地面について、終わり。
やっぱり泳げなかった。
誰もいない上級者用プールで私の目がうっすらにじみかける。
大好きだったのに。
賞状だっていっぱいもらったんだよ。
何よりあの頃は輝いていた――!
「もぅ…」
私は手で水をすくうと、バシャバシャと顔を洗った。
海なら。
海なら私を優しく、温かく包んでくれるはずなのに。
68 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時02分12秒
嫌な夢。
いつの間にか、って眠ってた間だけど、窓から射し込む光りは
オレンジになっていた。
――いっつもきれいだよなぁ。
すこしぼうっとした後で私はカーテンをさっと引き、汗で
べたべたになったシャツを着替えて財布をつかんだ。
携帯は持たなかった。どうせ鳴らない。
69 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時02分48秒
階段を降りる前でお母さんに会った。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
しなくても良いような、だけどしなきゃいけないような
会話をして、私は家を出た。
目的のない散歩。そう言うと聞こえだけは優雅だなぁ、と思った。
70 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時03分28秒
全てがきれいなオレンジの中、駆けて行く子供達とすれ違った。
私はそっと振り返ってその子達を見たけど、誰ひとり振り返らず、そのまま
夕焼けに溶けていってしまった。
胸に空いた穴。
――私、いつからこんなに孤独になったんだろう。
大事な何かを、知らないうちに失くしてしまった。
きっと見えないくらい遠くで光ってるはず。
わかってても戻れない。
時の迷子。
71 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時04分14秒
いつの間にか、自分に言い訳してた。
海でも泳げなかったらと思うのが怖かった。
72 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時05分01秒
街の中に白いワンピースの子がいっぱいいる気がする。
すれ違うたびに私の心に軽い痛みが走る。
――原因は、忘れてしまった。
ただ、胸が痛むと私は駆け出したくなる。
夏の終わりが近づいてる気がして、焦り出したくなる。
73 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時05分52秒
ふいにすれ違ったあの子。
同じ学校のいっこ上の…何て言ったっけ?
「あれ、後藤じゃん」
矢口さん…だったかな?
って私、何でそんなことまで忘れてるんだ?
「その白いワンピース、似合ってませんね」
「お前、相変わらず超失礼だな」
74 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時06分29秒
今日は何日――?
私の胸が大きく動く。ささいな約束なのに、胸を離れなかった。
今まで何回、私は後悔してきたの?
残りの人生がどれだけかわからないけど、同じ事をずっと繰り返すつもり?
感謝した。
75 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時07分26秒
振り返えると、うずくまって震える私が見えた。
私は駆け寄ってそっと抱きしめる。
嫌いじゃない。楽しかったんだよ。
でも、それじゃだめなんだ。
深く息を吸って、私は私に「さよなら」を告げた。
そう言うと震えがとまった。それが合図。
私は駆け出した。
76 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時07分56秒
戻れないけどさ、でもやり直せるだろう。
――時は動き出した!
77 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時08分37秒
根拠も理由もない。なんで私は海に行かなきゃ後悔するって思ってるんだ?
78 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時09分24秒
私は苦しくて何度も痛い咳をした。吐いたつばはちょっと赤かったけど、左右に
震える足をけんめいに前に出した。
命がけの旅だ。
こんなに息苦しいのに、頭は白く冴え渡ってる。
良いね、こんな感覚久しぶり――。
顔が笑ってるのがわかる。我ながら不気味だ。
駅は逃げないのに。――電車は逃げるだろ!
79 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時09分56秒
後悔が波のように押し寄せる。終わりが無い。
後藤真希さん?
あいぼんもね、あいぼんってあだ名、気に入ってなかったんだ。
おいしいか、って聞いてるのに。
メル友になりませんか?
良かったら返事ください。
するよ。少なくとも私の周りは全員する。
うち厳しいんだ。
真希って、水泳の選手でしょ!?
あぁ、もう!
80 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時10分33秒
たどり着いたそこは、すべてに見覚えがあった。
意識が一度飛んで、また戻ってきても、目の前の景色は変わらなかった。
すべてはここに呼ぶため。
一年前もここに来た。海で泳いで、おなかがすいてあがって、
おにぎりを食べて、女の子がやって来て、会話をした。
その子の名前は――。
「なっち」
私は砂浜に駆け寄った。
全て同じだ。あの落書きもあるんじゃないか?
息を飲む。
星の光りに照らされたその場所には落書きが――無かった。
いや、あった。
81 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時41分38秒
『うそつき』
それしか書いてない。誰宛とも、誰からとも。
でも私にはわかる。私には、そういう事がわかるのだ!
私の身体が大きく震えた。血液が逆流したのかと思った。夜でも読める。
すべてが繋がった。
82 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時42分14秒
夜の海は真っ暗で、空との境界線が無かった。
今までずっとこれを望んでいたんでしょ?
TシャツとGパン。
後悔はしないって決めたんだ。私は――いま泳ぎたい!
私は服のまま飛び込んだ。
83 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時43分03秒
ゼロの中を漂い続ける。
ねぇ、私は今どこにいて何をしてるの?
答えにたどりつかない。
84 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時43分38秒
「びっくりした。風邪ひくよ?」
星明かりに照らされた白いワンピース白い帽子。
死んで天国に来たのかと思った。
「『うそつき』は書きすぎたかなと思って、消しに来た」
「会えると…思わなかった」
「じゃあ、なんでいるのさ?」
「…会いたかったから」
85 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時44分23秒
「変なの。一年前に一度会っただけの仲なのに」
「でもなっちも来てくれたじゃん」
可愛い笑顔。
その笑顔は私に色んなものを与えてくれる。満たされるのがわかる。
86 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時45分11秒
私を縛っていた臆病という鎖は切れた。
今なら、加護亜依に会って素直に謝れる。
梨華ちゃんの腕をつかんで今度遊ぼうって言える。
小川麻琴に改めてつき合おうってメールも出せる。
すべて取り戻せる――!
「なっち」
「ん?」
87 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時46分37秒
「あなたと、友達になりたい」
「えっ?」
私の真剣さになっちは笑った。
そしてなっちの答え。
なっちには海で濡れたように思えただろうけど――私は泣いてたかもしれない。
嬉しさと淋しさがごっちゃになって。
88 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時47分07秒
このとき聞いた言葉を、私は一生忘れないでいたい。
時よ、止まれ!
89 名前:5 投稿日:2001年10月15日(月)12時47分44秒
 
time stop
 
90 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月16日(火)03時16分53秒
今回のめちゃいけで後藤の内面について、いろいろ語られたスレがあったよね。
そこで自分は後藤という人間を少しだけ理解したような気がするんだけど、それがこの小説にもリンクしてて、
嬉しい。
相変わらず、無駄のない、綺麗な文章ですね。もっと読みたい。

Converted by dat2html.pl 1.0