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雨がよんでる
- 1 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月03日(月)20時14分58秒
ザァザァと降りしきる雨の中、彼女は空を見つめて立っていた。
「風邪ひくで。」
傘を差し出したらこっちをちょっと見た。
「なんでかえらへんの?」
睨みつけてきている。
「…ほっといて。」
搾り出された声。
「ほっとかれへん。」
手をつかんだ。
「!!何すん・・」
必死になって彼女は手を払いのけようとした。
そして倒れこんだ。
私の胸の中に。
- 2 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月03日(月)20時47分27秒
体がだるい。
私は目覚めると知らない所にいた。
「起きたんか?」
横を見ると知らない女がコーヒーを持って
壁によりかかって立っていた。
「雨でビチョビチョやったし、服きせかえたで。」
雨?そういえば昨日・・
私は体に残っている物を思い出した。
「見た?」
私は女を睨み付けていった。
「見たで。それ・・。」
「なんのつもり!?むかつく!!」
私は一分でも早くここから出るために立ちあがろうとした。
!?
態勢をくずした。
「危ない!!無理せんほうがええ。」
- 3 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月03日(月)20時54分52秒
- 持っていたコーヒーが床におちる。
女の細い腕が私をしっかりとささえている。
温かい・・
「さわんな!!!」
温かみなんてもういらない。
ハッとして私は力いっぱい女をふりはらった。
細い腕が私の体から離れる。
いつかなくなる温かみならないほうがいい。
もうあんな目にあいたくない。
「うっ!!」
壁にぶち当たった女は小さいうめき声をだして
床に崩れおちた。
スッキリした。
- 4 名前:矢口真理 投稿日:2001年09月03日(月)21時03分49秒
- 同情なんていらない。
偽善者。
なんで私をここにつれてきた?
怒りがこみあげる。
「同情で助けた女にこんな目にあわされて、
さぞ後悔してんでしょ?」
私は倒れている女を見下ろしながらいった。
「同情とかちゃう!うまくいいあらわせへんけど・・
・・うっ!!」
まだ偽善者ぶる。
一層私をむかつかせた。
私は女の腹を蹴りあげた。
「同情されるのが一番むかつくんだよね。」
「ゲッホゲホ!!」
倒れてむせている女。
きっとすぐにでも私にむかついてむかってくるだろう。
そのときいってやるんだ。
『やっぱり偽善者じゃん』って。
- 5 名前:矢口真理 投稿日:2001年09月03日(月)21時11分48秒
- なかなか向かってこない。
向かってくるまで好き放題してやろう。
私は無抵抗の女を蹴り続けた。
「むかつくならやりかえせば?」
私の言葉と女のうめき声。
女を蹴る音だけが部屋に響く。
どれくらいたっただろう?
足がつかれた。
蹴るのをやめた。
こんなに人を蹴ったことなんてなかった。
足をみると赤い点。
女の血だ。
女はとっくに気を失ったのか、ぐったりしていて、
声もきこえない。
「なんで黙って耐えてるの?」
わからない。
ただ涙が頬を流れていた。
- 6 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月03日(月)21時26分26秒
体が重い。熱い。そして裂けるような痛み。
気がつくと私はさっきまで女のこを寝かせていた
ベッドに横たわっていた。
あのこは?
「!!いたたた。」
起きあがろうとしたら激痛が体中に走った。
ガタッとおとがした。
「気がついた?」
あのこだ。
「看病しててくれたん?」
自分の頭にぬれたタオルがおいてあるのに気ついた。
「・・後でなんかあったらこまるし・・
聞きたいことがあったから・・。」
「何?」
「どうして?何で・・?」
女の子の目から涙がながれている。
私は悲鳴をあげている体を無視して起きあがって
女の子をだきしめた。
「何も心配うることないで。」
- 7 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月03日(月)21時35分55秒
女は中澤裕子といった。
「裕ちゃんってよんでくれたらええから。」
さっきまで溢れていた気持ちは、
裕ちゃんに抱きしめられていた瞬間に
吹っ飛んでいた。
「矢口真里です。」
私も自己紹介した。
「敬語はやめて。おちつかへん。」
裕ちゃんは笑顔だった。
さっきまで私貴方にひどいことしてたんだよ?
なんで私にやさしいの?
この温かみもいつかはなくなるんだろな・・
「矢口。何かんがえてんの?矢口は悪いことなんか
なんもしてへんで。矢口行くとこあんの?なかった
ら一緒にすまへんか?」
- 8 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月03日(月)21時42分53秒
-
「昨日矢口見かけた時、なんかもうすぐ消えて
なくなりそうなかんじがしてん。消えてなく
すんは惜しくて・・思いきって声かけてみてん。
覚えてへん?そっか。めっちゃ緊張してんで」
ベッドに横たわりながら裕ちゃんは私に昨日の事
を話しだした。
「雨にうたれすぎてたんやろな?すぐに矢口は倒
れてん。私が腕つかんだからやねんけど。んで
連れて帰ってきて・・ってゆーわけやねん。」
腕…私が一番反応しちゃう場所だ。
裕ちゃんもわかってる。
見たからだ。
私の自殺未遂のあとを。
- 9 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月03日(月)22時59分48秒
- 「なぁ。矢口。ほんまによかったら一緒にすまへん?
もちろん矢口に良く思われてへんのはわかってる。
よければでええんやけど・・。」
裕ちゃんはどうして私をうけいれるのだろう?
私はわからない。
「ごめん。困らしたな。いいねん。そらしらん人に
いきなりそんなんゆわれたらびっくりするわな。
怪しいもん。うちどうかしてんな。」
裕ちゃんは少し寂しそうな笑顔で言った。
違う!
「裕ちゃん!!」
私は裕ちゃんの手をとった。
「私も一緒に暮らしたい!!」
多分裕ちゃんは痛かったはずだ。
かなり力をこめてしまった。
「私、裕ちゃんのこと好きだよ。こんな姿にしといて
いえたがらじゃないけど。初めて会ったばかりの人
にこんなこといってる自分が自分で信じらんないけ
ど。」
私は必死で話した。
裕ちゃんと離れたくない。
本気でそう思った。
- 10 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月03日(月)23時22分25秒
- そうして私と裕ちゃんとの奇妙な二人暮らしは
始まろうとしていた。
裕ちゃんは決して聞いてこない。
私の傷の理由を。
私は理由を言うべきなんだろうか。
でも言えない。
言ったら裕ちゃんを失うかもしれないから。
「裕ちゃん。」
ベッドで少し荒い息使いの裕ちゃんに話しかける。
「ん?」
「仕事何してんの?明日いけるかな?大怪我だよ・・。」
「心配せんでええ。うちは家でしてるねん。休みでも
なんでもうち次第やし。」
「へ〜 そうなんだ。で、何歳?」
「レディーに歳をきいたらあかんで〜 何歳に見える?」
ちょっと裕ちゃんはおちょけて聞いてきた。
「30歳」
「!!まじで!!?」
裕ちゃんは相当ショックを受けたのだろう、頭に載せてた
タオルがずり落ちる。
「嘘だって。23歳くらいかな。」
今度はまじめに答えた。
「…なんや。よかった。若く見えてるやん。
うち26歳や。で、矢口は?」
「17歳。」
9歳も違うんだな・・とちょっとにやける。
「たいしてかわらん!!」
思っていた事がバレバレだったみたい。
- 11 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月03日(月)23時34分22秒
- 裕ちゃんはまるで古い友達のように接してくれた。
「嫌なとこあったらゆーてな。」
何かとあわせてくれる。
学校や親のことは何故か聞いてこない。
それがなんとなくうれしかった。
私は数日前に家を飛び出していたから。
だから裕ちゃんと暮らすことにあまり抵抗なかったのかな?
学校なんて前からほとんど行ってなかったし。
「今何時?」
突然裕ちゃんが聞いてきた。
「えっ?えっと4時過ぎだよ。」
「うち結構伸びてたんやなぁ。」
私が暴れたのは朝の11時くらいだった。
「ごめん・・。」
「あっちゃうちゃう!矢口がどうとかマジちゃうし。」
「暴力はよくないよ・・ね。もう絶対こんなことしない。」
「なんかあったらこれからは裕ちゃんが守ったるから。」
- 12 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月03日(月)23時47分42秒
- 裕ちゃんはもうだいぶ楽になったからといって起きた。
「おなかへってへん?夜ご飯つくろうか。」
裕ちゃんの顔には私は攻撃しなかったみたい。
綺麗な顔だった。
「うん。」
一瞬目をうばわれたが、なんにも食べてない事に気付いたとたん
ご飯が恋しくなった。
裕ちゃんは冷蔵庫の残り物でロールレタス(オリジナルらしい)などを作っ
た。ご飯を作っている間、私は全然料理をしたことがなかったの
でなんにもできないといったら、すごくわかりやすく教えてくれた。
裕ちゃんに無理させないようにゆっくり作業してたら時間は7時ぐら
いになっていた。
「ほな食べよか。」
「いただきます。」
はじめての裕ちゃんの料理はなんだか懐かしい味ってかんじだった。
裕ちゃんに言うと、
「おふくろの味ってやつちゃう?」
といって笑ってた。
- 13 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)00時15分10秒
-
ビールを飲みながら裕ちゃんはパラパラと雑誌を見ている。
私はTVをみていた。
「うちあんまりTVみーひんねん。でもあぶない刑事やったら
みんで。」
このおばさんとTVを見る日はくるのかな?
「矢口・・今歳の差感じたとか思ってんのちゃうか?」
「ギク・・ま・・まぁしかたないよ。感じたもん。」
「ひどい子やなぁ。うちかて知ってるっちゅーねん。
SPEEDやろ〜 deepsやろ〜」
古っ!!!!
「もう解散したけど…かなり前に・・」
しかもdeepsって・・・
「そっそうなん?」
自信満万だったらしく目を点にしてる。
「遅れすぎだよ。これからは矢口が教えたげるよ。」
「お願いします。先生」
裕ちゃんは綺麗な金髪だ。似合ってる。私も金に近い色
なんだけどね。
「どしたん?」
私の視線を感じたのか、雑誌から目を上げた。
「別に。なんか不思議だね。会ったばっかりなのに。」
「ほんまやな。ずっと前から知ってる気分やわ。」
- 14 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月04日(火)00時32分28秒
- 私はビールを飲んだ。
「飲みすぎじゃないの?」
矢口が4本目が終わって5本めを開けようとした私の手を
つかんだ。
「いつももっとのんでるで。」
「・・今日はもうやめて。怪我してるからさ。体に悪いよ。」
すっかり怪我の事など忘れていた。
「そう?ならそうするわ。」
矢口は私の怪我を相当くやんでいる。
私は恨んでもいない。当たり前のようにうけとめている。
「明日になったら絶対治ってるわ。もうあんまりいたな
いし。ほんま気にせんといてや。矢口の元気ない顔み
るほうが裕ちゃん心痛いわ。」
「でも…」
「デモもストもあるかい。裕ちゃんにとどめさすんかいな。
そんな顔されたらほんま胸痛いわ。」
ワタシハ、アナタニコノテイドノコトデハ、ユルサレナイ人間ナンデス。
「裕ちゃんがそう言ってくれんならわかった。」
でもごめんね・・、そう矢口は口をうごかしてた。
私達はあのベッドで一緒に眠った。
- 15 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月04日(火)01時46分46秒
- 読ませていただきました。
とても面白いです。
これからの展開が、楽しみです。
頑張ってください。
- 16 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)01時55分03秒
-
あれから3ヶ月がたった。
大抵裕ちゃんは朝から仕事部屋にこもって仕事を
する。その間にわたしが掃除、洗濯をする。
裕ちゃんの仕事は毎日絶対っていうわけじゃないから、
出かけたいっていえばよろこんで連れてってくれる。
仕事は何かはよくわからないんだけど。パソコンに向
かってなんかする仕事みたい。別にきかない。
「矢口、遊ぶ金なら心配せんでえええで。こうみえても
うちはかなりの高所得者やからな。」
だからバイトもしない。欲しい物があったら裕ちゃんに
いえば買ってくれる。なんか悪いよって言ったら掃除、
洗濯などのバイト代って思えば?っていわれた。
この3ヶ月。裕ちゃんも私もずっと二人で行動してきた。
「友達と遊ぶならいっといでや。」
裕ちゃんがそう言ってたけど、別に会いたい子なんて
特にいない。
だからずっと一緒にいるのだ。
料理の腕も上がってきた。朝、昼は私がつくる。夜も
たまに作るが、
「夜くらいうちがつくるわ。朝から晩まで大変やろ?」
と言って作ってくれる。
- 17 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)02時09分26秒
- 「なぁ今日な、仕事終わったらうちの友達んとこ
いかへん?」
朝ご飯を食べてたら裕ちゃんが言った。
「友達?家?」
「家兼店や。居酒屋らしいねん。明日OPENで今日
友達ばっか集めるんやて。」
居酒屋・・?だからこんなうれしそうなのかな?裕ちゃんは
毎日5本はビールを飲んでる。計算すると月に・・150本!?
「ぐち?矢口?お〜い!!」
「あっごめん。」
計算とかしてたら遠くにいっちゃってた。
「ってか裕ちゃん。ビール飲みすぎでない?月150本
ってかなりじゃない?」
「へ?」
いきなりの話の飛躍にびっくりしたのか、声が裏返って
いた。
「1年で計算したら〜ん・・3800本!?」
「なんでやねん!!1800本やろ?倍以上になっとるやないか。」
冷静につっこんできた。
「すっごい数だね。」
「わかった。んじゃ今日はいくのやめよ。」
少し残念そうにゆうちゃんはこたえた。
「えっ!?あっ居酒屋!別にいいよいこうよ。」
わたしはあわてていった。別に行きたくないわけじゃ
なかったのだ。勝手に妄想を膨らまして1人でびっくり
しただけなのだ。
- 18 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)02時17分08秒
- 「店でしょ?行こうよ。」
わたしは妄想にいたった説明を一通りして裕ちゃんにいった。
「よっしゃ。んじゃさっさと仕事終わらせてパ〜っといこか。」
「がんばって!!」
「矢口〜 やってくるわ〜 ん〜」
「わわっ いいって 」
裕ちゃんはキス魔だった。うれしい事があったり、酔ったり
するとすぐキスしてくる。最初はかなり抵抗したが、もう今
あいさつみたいなものだ。
裕ちゃんは気合の入った顔で仕事場にむかっていった。
いつもは、
「今日もーやめよーかなー。」
などとソファーの上でグダグダしてるのだ。
「褒美があると人ってかわるね。」
私はボソッとつぶやいた。
- 19 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月04日(火)02時32分29秒
- パソコンの前に座るととりあえず今日の仕事をチェックする。
そして引き出しから1枚の手紙をとりだす。
いつもの私の動き。
そして考える。
矢口は私のしたことをしればきっと私を許さないだろう。
この手紙の持ち主は…
このことは言えない。
矢口を失いたくない。
今の生活を捨てたくない。
私は矢口との生活と続けるためにあなたを忘れる。
恨むなら私だけ・・
- 20 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)02時51分53秒
- 「矢口〜 仕事終わったよ〜」
「お疲れ様。準備は?矢口はいつでもいけるよ。」
仕事部屋から飛び出してき裕ちゃんを見ると準備万端だった。
「仕事してたの〜」
「やってたっちゅ〜ねん!!さっいこか。」
裕ちゃんは車のキーを持つと戸締りをチェックして回った。
「オッケ〜 時間もちょうどええしいこか。」
6時30分。7時に集合らしい。
「なんかドキドキするなぁ。」
車で20分強、目的の居酒屋についた。
ガラガラ
「みっちゃ〜ん。」
裕ちゃんが中に入って声をかけた。
「姐さん。あれっ連れは?」
「ん?あれ?なんでや?小さいからおとしてもーたかな?」
振り返ってやっとまだ矢口が外にいることに気がついた。
「なんやってんの?はいろ。」
裕ちゃんが私の手を握った。
「紹介するわ。うちの矢口。」
- 21 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月04日(火)03時43分54秒
- やぐちゅーみっけ!
楽しみ。でも痛いの?
痛いのかな?
- 22 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)10時48分02秒
- 「こんばんわ。矢口真里です。」
私は裕ちゃんの友達らしき人に挨拶した。
「こんばんわぁ。私は平家みちよっていいます。
姐さんと同じく関西出身です。」
話し易い感じがする。
私は少し気が楽になった。
「まだほかの人きてへんの?」
裕ちゃんが私の手を握ったままキョロキョロ周りをみわたした。
「そやねん。来るゆーとったんやけどねぇ。まぁ座って。
ビールでええですか?」
平家さんは私に聞いてきた。
「あっ私は…。」
「ビール2つや。おつまみとはよもって来てんか。」
私が答える前に裕ちゃんが答えた。
「今日ぐらいのんだらええやん。飲んだことあるやろ?」
カウンター席に私を座らせ、自分も座りながらニカッと笑う。
手はつないだままだ。
「まぁね。強くは」ないけど。」
繋がれた手から裕ちゃんのぬくもりが伝わってくる。
なんでこんなにこの手はおちつくんだろう。
私の全てを知っていて、そして包み込んでくれるような
裕ちゃんの手。
離したくない。
- 23 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)11時03分54秒
- 「はいっおまちどーさん。」
平家さんが生2つといくつかのおつまみをだしてくれた。
そして3人でたわいもない話をしていると、扉が開く音
がした。
「ごめ〜ん。遅れた〜。」
「みっちゃんに裕ちゃん。久しぶり。」
私と同じぐらい若い子が2人入ってきた。
「沙耶香にごっちん。元気やったか?」
裕ちゃんが振り返るようにして話かける。
一体なんの知り合いなんだろ?
「??裕ちゃんの知り合い?」
1人が私に気付いた。
「あぁ。紹介するわ。」
「はじめまして。矢口真里です。」
私は立ちあがって二人にむかって頭を下げた。
「市井沙耶香です。」
ショーカットのボーイッシュな女の子だ。
「後藤真希です。はじめまして。」
肩ぐらいまでの茶髪が似合っている女の子だ。
「矢口と歳近いんちゃう?仲良くしてや。」
「歳が離れてると話題違うもんね。」
「沙耶香〜!!何ゆ〜た?」
裕ちゃんが睨みをきかせている。
「こっちおいでよ。」
後藤さんがテーブル席から私を呼ぶ。
「そうや。いっといでや。あのこら良い子やで。
襲われそうになったら裕ちゃん飛んでったるから。」
- 24 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)11時12分11秒
- 「裕ちゃんじゃないから襲わないよ!!」
市井さんが叫ぶ。
「んじゃちょっと行ってくる。」
「ん。楽しんどいで。」
私は裕ちゃんの手をはなした。
「やぐっつぁん!!ここ座りなよ。」
「!?」
「矢口さんでしょ?だからやぐっつぁん。」
ニヘラっと笑って後藤さんは私を座らせた。
「強引でごめんね。後藤いっつもなんだ。」
市井さんがカバーした。
すごくいい雰囲気の2人だ。
私は今までだったら絶対むかついていただろう。
裕ちゃんに会うまでの私だったら。
今はこんなやりとりが楽しく感じる。
私達3人は一気にうちとけた。
- 25 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月04日(火)11時25分58秒
- 「みっちゃん。」
私は矢口達がテーブル席で騒いでいるのを少し確認して
から話かけた。」
「今日あやっぺくんの?」
「いや、声かけへんかった。裕ちゃん連れてくるやろうし。」
ちらっと矢口を見る。
「ありがと・・」
「あやっぺと一回ちゃんと話した方がええよ。」
誤解があると思うから・・みっちゃんはそう続けた。
「そやな。」
誤解なんてない。あやっぺは事実を知っているのだ。
彼女は・・
「あの子なんも知らんの?」
みっちゃんは目線をあわせないで聞いてきた。
「なんもしらん。」
私は3人で騒いでいる矢口をみれなかった。
「ゆえへんわ。」
ビールを飲みほし、おかわりを頼んだ。
私と矢口の意外なつながりをみっちゃんは知っている。
- 26 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)14時42分39秒
- 「矢口〜 そろそろ帰るかぁ?」
裕ちゃんは私の横で酔っ払って寝ている2人の頭をワシワシと
触りながら私の隣にすわった。
「ん?どっちでもいいよ。」
私はちょっと飲みすぎて顔が真っ赤になっているのが自分
でわかった。
「このこらどうする?」
「あぁー、部屋連れてってねさしとくわ。」
ガチャガチャと洗い物をしながら平家さんが答える。
「なら運ぶわ。」
裕ちゃんが後藤をお嬢様抱っこした。
なんかお似合いだな・・。
「矢口ちょっとまっててな。2人運ぶから。」
「手伝うよ。」
私が立ちあがろうとすると、
「ええよ。矢口ちっちゃいから無理やん♪座っとき。」
そう言って軽々と後藤を店の奥に運んでいった。
「ちっちゃいはよけいだよ!!」
そういって私は3人で食べ散らかした後をかたしはじめた。
- 27 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)14時55分10秒
- 「ええよ、そんなんしんで。」
平家さんがお盆を持ってやってきた。
「ごちそうさまでした。すごくおいしかったです。」
「ありがと。また姐さんときてな。」
一緒にかたしていると裕ちゃんが帰ってきた。
「後は沙耶香やな。・・よいしょっと。」
「姐さんありがと。」
「みっちゃんには運べへんやろ?軽い軽いこんなん
うちにとっちゃぁ朝飯前やで。」
といってまた軽々と奥に運んでいった。
「力持ちだなぁ。」
裕ちゃんの後ろ姿をみながらつぶやいた。
「・…。」
隣でなんとも言えない顔をしてる平家さんに気付く
事もなく・・。
「みっちゃん今日はありがとな。近いしまたちょくちょく
くるわ。」
「いえいえ、ありがと。真里ちゃんもまたきてな。」
「はい。」
久々に外で食事して、人とはなした。
裕ちゃんの友達は今までの私のまわりの人とは違って
なんだかすごくおちついた。
- 28 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)15時08分31秒
- 「楽しかったか?」
「うん。なんかなごり惜しい。」
「そうか。今度家に皆呼ぼうか。」
裕ちゃんは私の満足顔をみてから車をだした。
「ねぇ。」
「なんや?」
家に帰って風呂に入って一服していた。
「みんなどんなつながり?」
まぁ、きくやろな、っという顔で裕ちゃんは答えた。
「仕事ゆながりかな。なんかややこしくてよーわからん
けど。2年ぐらいの付き合いやで。」
仕事?私より歳下の後藤も?
「まだ何人かつるんでんのがおんねん。そのこの友達
とかそんなんもあったりすんねん。今日の矢口みた
いにいきなり知り合ったりしてん。」
なるほど。よくわかんないけどまッ別にいいや。
「ふ〜ん ふあぁ お酒飲んだら眠くなってきた。」
「もう寝といで。」
私は一足先に寝室にいった。
- 29 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月04日(火)15時13分39秒
- 「矢口…」
寝室に消えた矢口の後ろ姿を見ながら私はいたたまれなく
なった。
いつかはやはり言わなければならない。
矢口のためにも。
あやっぺと早いうちにもう一回はなそう。
話を聞いてくれるかはわからないけど、
そこから全て矢口にばらされたとしても。
- 30 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)15時18分35秒
- ベッドの上で私はぼーっとしていた。
今の生活。
すごく心地良い。
私は裕ちゃんに全て話すべきだと思う。
嫌われても。
裕ちゃんが受け入れてくれる可能性にかけて。
それが例え1%でも。
明日話そう…
私は眠りについた。
- 31 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月04日(火)15時38分39秒
- 電話をとる。懐かしい番号に電話をかけた。
数回めの呼び出しでつながった。
「・・もしもし。」
懐かしい声。
「あやっぺか?」
「…何?」
突き放すような声。
「ちょっと話あんねんけど。」
「…電話で?」
電話で話すような事ではないだろ?っという声。
「いつ暇?会ってちゃんと話たい。」
「私も話あるし。今からきて。」
「わかった。どこいけばええ?」
「いつもの場所。」
私達がいつも集まっていた場所。
「30分でいくわ。」
電話をきって、寝室を見た。
寝ているだろう。
私は、『ちょっと出かけてきます。すぐ帰ってくるし。裕子』
とメモを書いて家をでた。
- 32 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月04日(火)15時47分19秒
- 錆付いて開きにくくなっているドアをあけた。
「裕ちゃん?」
奥から声がした。うす暗くて顔は見えない。
「うん。ここまだつぶされてないんやな。」
私は声の方にちかずいて行った。
「誰も来ないけどね。」
見なれた顔。久しぶりに見るあやっぺがいた。
「で、今頃何を話してくれるわけ?」
ソファーに座りながら煙草をふかしている。
「私のしたことや。」
- 33 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)15時57分46秒
- 頭が少し痛い。二日酔いか。
「あれ?」
いつも隣にいる裕ちゃんの顔が見えない。
カーテンの外は雨がふっているのか、うす暗かった。
「先起きたのかな?」
寝室を出てリビングにむかった。
メモ。
「まだ帰ってきてないってことか。」
話したかったのにな。
別に帰ってきてからでかまわないけど。
私はいつも通り朝食を作った。
違う事は・・
1人分。
「なんかいっつも一緒だったから変な感じ。」
声に出していた。
掃除や洗濯を一段落させてなんにもすることがなくなると
私は急に昔を思い出した。
雨のせいだろうか?
1人のせい?
- 34 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)17時12分18秒
- 3ヶ月前。裕ちゃんに会う前。
私はとても愛した人がいた。
付き合っていた。私が告白して付き合ったけど、もう1年ぐらい
続いていたんだ。
1歳年上で、私を包み込んでくれていた。
彼女とは毎日会うわけじゃなかった。
私の全然知らない友達関係があった。
私も学校の友達がいたし、そんなにその友達関係を
つっこんで聞いたりはしなかった。
でも、私の友達との関係とはちょっと違って、関係
がとても深かったみたいだ。
その友達と会う約束をしている時は彼女の私がどん
なにいっても、会ってくれなかった。
いつからだったかな?
彼女が少し冷たくなった。
いつもボーっとしてなにか考えているみたいで…
まるで恋した少女みたいだった。
でも私が望めばキスだってしてくれた。
望むことで私は2人の愛を感じていた気になってたんだ。
- 35 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)17時21分55秒
- ある日デートしていたら急に彼女が何かを見つけた様に、
立ちどまった。
私は彼女の見ているものをさがしたが何かわからなかった。
あの日後からだ…。
彼女が・・安倍なつみが私を試すようになったのは。
私の彼女への愛は絶対だった。
私が離れて行かないのを知ってか、彼女は
別れを予感させることを言ったり、私をうざがったり
した。
私はどうしても彼女をひきとめたかった。
彼女に愛の深さを尋ねられた。
私の為に死ねる?
迷わず手首をきった。
彼女の目の前で。
「なっち…なっちの為なら死ねるよ?」
彼女は少し笑ってそして救急車を呼んだ。
- 36 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)17時44分52秒
- なっちはほんとに手首を切るとは思ってなかっただろう。
病院で
「わかったから・・。」
と私につぶやいた。
私はなっちに愛が届いたことに喜んだ。
愛の余裕からか、なっちとあれ以来会っていないのに
気付いたのは2日後だった。
気付いたと同時に、私は・・
安倍なつみの死を知った。
お葬式はほとんどおぼえていない。
ただ1つ、なっちの情報を得たこと以外。
なっちは他に愛した人がいたらしい。
その人といた夜、別れた後、手首を切ったらしい。
そうしてゆっくり血を流して死んでいったんだ。
私はその人を探しだしてなっちのところへ送って
あげようと思った。
なっちはきっと望んでいる。
町をむやみに探しまくった。
雨もきにならなかった。
そんな時、私は裕ちゃんに出会った。
- 37 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月04日(火)17時52分58秒
-
裕ちゃんに会って今までなっちの事を忘れていた。
あんなに愛した人だったのに。
私の愛は狂っている。
こんな人間だって裕ちゃんが知ったら、
きっと今までのように接してくれないんじゃないかな?
でも、いわなきゃいけない。
これで裕ちゃんに嫌われたら…
私は裕ちゃんを愛していた。
いままでとは違う愛の形で。
でもどっちが本当の私の愛かわからない。
きっと受け入れてくれないだろうな。
3ヶ月私の全てを受け入れてくれた裕ちゃん。
離れたくないよ…
早く帰ってきてよ…。
- 38 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月04日(火)18時03分19秒
- 私はあやっぺとは以前からの知り合いだった。
彼女が友達と会う前にたまたまちょっと会っていたので、
ついでに待ち合わせ場所に送っていったげた。
今はもう使われていないこのバーだ。
数日後、あやっぺがどうしても一緒にバーに来て
くれとしつこくいった。詳しくはゆわないが彼女
も困ってる風だった。
別に他に用もないので断れず、しぶしぶいった。
そこで私は安倍なつみに出会った。
彼女は私に一目ボレしたらしい。
この前あやっぺを送っていった時に見かけたの
だろう。
私は複雑な気分だった。
相手は女。しかも8歳も歳下で…
それから私はよくこのバーに顔を出すようになった。
彼女はアレだが、ほかの人達は私に安らぎをもたらした。
- 39 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月04日(火)22時01分28秒
- いつだったかな?私は町でなつみに偶然でくわした。
距離もかなりあったし話かける事もないか・・
そう思って少し見ていたら、なつみもこっちに気付いた。
動きがとまる。
私はそのときなつみと一緒に歩いていた子に目をやった。
一生懸命なつみを見ている。
立ち止まったなつみをまるで子犬のような目で。
私は急いで立ち去った。
頭からなつみの隣の子の顔が離れない。
私はバーにいた。あやっぺ達と談笑の中なつみを待った。
私の心を奪ったあの子の事を聞くために。
なつみはそのうちにやってきた。
昼間会ったね。
そう言って腕に絡みついてくる。
私はあの子の事をきいた。
なつみの彼女だった。
『でもなっちは裕ちゃんが1番好き。』
あの子はなつみに夢中なんだ。
私はなつみに嫉妬を感じた。
- 40 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月04日(火)22時17分22秒
- 私はなつみに
『彼女がいるなら彼女大事にせぇ。』
といって絡みつく腕をはずしてバーから立ち去った。
心はそんなこと思ってない。
あの子を欲しがっている。
数日後バーに行くとなつみがいた。
ちょっと話してあの子のことを聞く。
内容が自分の事ではないが私と話す事がうれしいのか
いろいろおしえてくれた。
私はあの子のことを聞く為になつみとよく話すようになった。
ある日いつものようにバーにいくとあやっぺに呼ばれた。
「裕ちゃん・・なっちのことなんとも思ってないの?」
「思ってへん。」
即答した。
バーでなつみはアイドル的存在だった。
なつみを適当にあしらってる私に嫉みの視線は多かった。
「どうして最近なっちと仲良く話してるの?」
まさかなつみの彼女の情報を聞き出すためなんて言えない。
「別に。理由はないで。」
「裕ちゃん、気をつけなよ。」
- 41 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月04日(火)22時34分32秒
- このバーでみっちゃんや沙耶香や後藤と知り合った。
彼女達はなつみになんの興味もない。
ただ楽しむために集まってきている。
私と気があった。
ある時
「みっちゃんは?」
「知らない。トイレじゃないの?」
みっちゃんが突然バーからいなくなった。
まぁあんまり気にすることもなく酒を飲んでると、
「ちょっといい?」
後ろから2・3回見かけたことのある子が私を呼び出した。
「なに?」
バーをでて裏についていく。
別にいつもならついていかないのだが、真剣な顔をしていた
ので断ることもないからついていった。
5・6人いた。
「みっちゃん!!」
足元に倒れている女性。
「なんやってんねん!!どういうことや?」
5・6人はなつみのファンらしい。
なつみに気にいられている私が気にくわないらしい。
みっちゃんを通していろいろ言っていたが私の態度
に変化がないから強行手段にでたらしい。
私は何も知らなかった。
みっちゃんが言うわけがなかった。
- 42 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月04日(火)22時51分42秒
- 「こんなことしてただですむ思てんちゃうやろな?」
私は私のせいで痛い目にあってしまったみっちゃんに
申し訳なくてたまらなかった。
「なっちにもう会えないようにしてやるよ!!」
一斉にかかってきた。
勝負はすぐについた。
多少殴られはしたが、族にいた頃のケンカとは大違いだった。
「みっちゃん大丈夫か?」
急いで抱きおこしに行った。
「・・姐さん・・鬼みたいな顔してましたで。」
「誰が鬼ババやねん。」
「ゆってへんやん!」
みっちゃんはケンカなんかしたことなかったんだろう。
「あっというまにやられてましたわ。」
「あんまりしゃべらんとき。帰ろう、うちんち泊まり。」
「襲わんといてくださいよ。…あっ!!」
その瞬間私は背中に衝撃をくらった。
「いってーな・・コラァ」
私はその女を殴りまわした。
「やっやりすぎや!」
後ろからみっちゃんが止めるまでとっくに意識を失った
女を殴り続けた。
「いいからっ 帰ろっ!!」
- 43 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月04日(火)23時13分29秒
- 反抗したが、強引にみっちゃんを抱きかかえて私は部屋に
入った。
「ごめんな。うちのせいで。」
「気にせんとってください。でもよー私を抱きかかえれま
したね。」
「前の仕事がちょっとな。っちゅーか敬語やめてや、
むず痒いわ。」
すぐに沙耶香と後藤が部屋にやってきた。
大変なことなってるよって騒ぎながら。
電話で伝えておいたので私達の姿にあんまり驚いては
いなかった。
あれから私達はバーにいかなくなった。
なつみは知らないだろう。
だがもう関わらないほうがいいだろう。
頭からあの子の事が消えることはなかった。
- 44 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月04日(火)23時27分53秒
- あやっぺには行かなくなった理由はいわなかった。
忙しいとだけ言っておいた。
なつみの様子がおかしい。
裕ちゃんがこなくなったから。
一回話したいからきて。
私しかいないから。
私は電話で呼びだされ久々にバーにきた。
「久しぶり。元気だった?」
あやっぺは私に酒を作ってくれた。
あやっぺの知り合いの店だから自由にできるのだ。
「元気やで。」
なつみは少しノイローゼみたいになっている。
彼女にすごくきつくあたってるらしい。
いきなり会えなくなってすごくショックをうけている。
「私にはどうにもできないの。」
あやっぺは私に頼んだ。
「なんとかしてやって。」
「なっちの彼女のこと好きなんでしょ?」
「彼女を潰すかもしれないよ。」
私はなつみと会う事にした。
- 45 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月04日(火)23時45分13秒
- あやっぺが2人になれるようにバーをまた開けておいてくれる事になった。
私は時間より少し早めに店にいって中で待っていた。
「裕ちゃん!!」
なつみはとびっきりの笑顔で私に飛びついてきた。
「元気だった?」
「・・うん・・。」
何を話そう・・と戸惑っていると、なつみが話しだした。
彼女の自殺騒動を・・
「なんで…。」
そこまで追い詰めたんや…
声がでなかった。
「私、わかったんだ。」
笑顔で話し続けている。
「なっなんちゅーことしたんや!!」
私は叫んだ。
「…なんで?なっちはこんなに愛してるのに…
なんでわかってくれないの?」
「泣いたってあかん。もうしらん。二度とあわへん。」
私はそう言ってなつみから離れた。
「ねぇ!!私の愛の深さみてよ!」
カッターを握りしめてさけんでいた。
「そんなん持ち出したらなんでも自分の思い通りになる
っておもわんときや。」
私はふりかえることなく店をでた。
- 46 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月05日(水)01時33分45秒
- それから家に帰ってどれくらいたったろう?
『ピンポンピンポンピンポン』
部屋のチャイムがかなり激しくなった。
「誰やねん!!うっさいわ アホ!!」
私は激しくドアをあけた。
そこには肩で息をしているあやっぺがいた。
「なんや。あやっ・・」
最後まで口にすることができぬまま私は肩をつかまれ
壁に押し付けられた。
「あんた、何言ったんだよ!!」
あやっぺの目は涙でグチャグチャだった。
「なつみ死んだよ…。」
「なんやて?」
「手首から一杯血を流して…」
私はあやっぺの服についている血に気がついた。
「なっ…」
声がでない。
「何言ったか知らないけど、あんたが殺したんだよ。」
ワタシガ殺シタ??
「あんたなんかに頼むんじゃなかった!!」
私のほほに衝撃が走った。
あやっぺは部屋を飛び出していった。
「死んだ・・?」
頬を押さえ私はその場に座りこんだ。
『私の愛の深さ見てよ』
なつみは私が帰ってくるのを手首から流れる血を見ながら
待っていたのだろう。
そして冷たくなった。
思いでのあの店で・・・。
- 47 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月05日(水)01時44分49秒
- お葬式に私はノコノコいけるわけがなかった。
離れた場所で霊柩車を見送る。
みっちゃん。沙耶香。後藤。見なれた顔がある。
あやっぺ。
最後までなつみから離れなかった。号泣しながら…
あの子がいた。まだよくわかっていないのだろう。
呆然としていた。
私はあのこが命をかけられる世界で一番大事なもの
を奪ってしまった。
それから私はその子の後をつけた。
その子が探している物は私。
その子が壊す物は私。
それでも近付きたかった。
幸い、彼女はなつみの愛した人が誰かは知らないようだ。
もしもバレないのなら…
そうして私は矢口に話しかけた。
- 48 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月05日(水)02時04分46秒
>15さん
ありがとうございます。
かなり突っ走って書きました。
早く書き上げるつもりです。
>21さん
やぐちゅー好きですか?
最後には甘くできたらいいなと
思ってます。
- 49 名前:15 投稿日:2001年09月05日(水)02時11分50秒
- あまりの執筆の速さに、びっくりしているところです。
それでいて本当にすごく面白いです。
二人がどうなっていくのか、これからの展開が楽しみです。
頑張ってください!!
- 50 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月05日(水)10時08分53秒
- あやっぺは黙って私の話を聞いていた。
だからといって私の罪が消えるわけではない。
私もあやっぺもそれは十分わかっていた。
「ちょっと頭の整理したいから・・今日はもう帰って・・。」
帰って矢口に全て話せ、という様に言った。
「明日また夜来て。そこで私なりの結論だすから。」
「…わかった。ほなまた明日な・・。」
あやっぺじゃなかったら、なつみが死んでなかったら、
私は自分の話を人に聞かせたりはしない。
あやっぺだから…
矢口の様になつみを愛していた、あやっぺだから…。
あやっぺがそう言ったわけではない。
私の勘違いかもしれない。
だが私は何故かこの事に自信をもっていた。
- 51 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月05日(水)10時23分36秒
- 裕ちゃんがやっと帰ってきた。
丁度、私が昔を思い出してた時だった。
すごく疲れた顔をしていた。
「寝てないの?少し寝たほうがいいよ。」
私は話がしたかったが、今の疲れきった裕ちゃんに
話すことではないと思った。
「別に大丈夫や。ちょっと話あんねんけど。」
「私も…話したい事あったんだ。」
ドッとソファーに座りこんだ裕ちゃんに私はコーヒーをいれた。
「うちの話、先聞いてくれる?」
いつになく真剣な表情。
私は不安になった。
また1人になる予感。
「・…い…嫌。裕ちゃん・・私がいらなくなった?」
「何ゆーてんにゃ?違うで。でも・・。
(うちをいらなくなんのは矢口・・あんたやで。)
落ち着いて聞いてくれる?うちの過去を。
矢口にも・・関係してるから…。」
搾り出すような裕ちゃんの声・・。
「うん。」
言い表せない不安を、降りしきる雨の音が膨張させていった。
- 52 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月05日(水)10時28分25秒
- 私は全てを話した。
矢口の顔を1度もまともに見れなかった。
ただ、・・矢口がボーゼンと私の話を聞いている
のを感じていた。
これで全てがなくなる・・
雨の音が耳から離れない・・
- 53 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月05日(水)10時59分04秒
裕ちゃんは私の一番憎んだ人だった。
私は愛した人を殺した人を愛したのだ。
なっちの声が聞こえる・・
『一緒に居たいの・・』
なっち…
裕ちゃん…
私は部屋を飛び出した。
- 54 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月05日(水)11時04分24秒
- 矢口を追いかける事はできなかった。
追いかける資格なんてない。
私は今まで矢口を騙していたのだから。
私は雨の音に隠れて泣いた。
なつみに対しても・・
矢口に対しても・・
私は初めて泣いた。
- 55 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月05日(水)14時19分02秒
- 私は雨の中さまよった。
行く所はどこもない。
フラフラ歩いていると知ってる家の前にいた。
平家さんの居酒屋だ。
ボーっと見ていたら後ろから肩をたたかれた。
「真里ちゃんやん。なにしてんの?」
買い出しにいってたのだろう、ビニール袋に食材が山の様にあった。
「1人?…とりあえず入りなよ。さっ。」
平家さんに背中を押され、私は店に入った。
「話したんやな?」
平家さんもなっちを知ってる。
「姐さんを憎んでる?」
何故か平家さんに心を読みとられてるような気がした。
「…わからない・・憎んで・・たけど・・」
ワカラナイ。
憎しみは残っている。
でも裕ちゃんを愛してしまった。
なっちへの愛は絶対だったのに…
なっちは許さないハズだ。
私が裕ちゃんとうまくいくことなんて。
どうすればいいの?
わからない・・
- 56 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月05日(水)14時32分12秒
- なっちの為に、裕ちゃんを殺す…
裕ちゃんを殺す・・?
無理だよ。
でもなっちの声が…
『一緒にいたいの。…裕ちゃんと。』
頭の中でずっと聞こえる。
「真理ちゃん?あんたはどうしたいん?」
「えっ?」
「真理ちゃんが今どうしたいかやで。自分の気持ち
に従ったらええ。」
平家さんはやさしくそう言うと、お茶だすわ、と奥へ
行った。
私の気持ち・・?
私は…
- 57 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月05日(水)15時05分13秒
- 一晩あけたが、矢口は帰ってこなかった。
私は再びバーを訪れた。
「話した?」
店に入るや否やあやっぺの声がする。
「・・した。」
「裕ちゃん…私やっぱり許せないんだ。その子の為に
なっちに気があるふりして近ついて、なっち追い詰めて、
今幸せにやってるなんてさ。」
「そうやろな。」
「その子もなっちの事愛してたくせに、時間がたったら
忘れて・・。私2人とも許せない・・。」
「矢口は関係ない!!あの子はなんも知らんかったんや。」
「…あの時なっちがさ、最後に私にこう言ったんだ。」
あやっぺはゆっくり近付いてきた。
『裕ちゃんすぐ来てくれるよね?』
「なっちはあんたが帰ってしまったなんて信じなかった
のよ。すぐ店に戻ってきてくれるって・・。」
私は何も言わなかった。
「私はなっちの望みをかなえるわ。」
そういって私の前に立ち止まった。
- 58 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月05日(水)15時11分04秒
-
私の携帯が鳴った。
【真里ちゃん迎えにきてあげて。】
みっちゃんからだった。
私は疲れて店のソファーに座っていた。
あやっぺはとっくに店を出て行っていた。
「矢口。みっちゃんとこおったんか・・」
そう呟くと、重い足を動かして車に向かった。
矢口…
会いたいよ。
愛しています。
- 59 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月05日(水)15時23分56秒
-
私は平家さんに知っている全てのことをきいた。
「姐さんは自分を守る嘘とかつかへんし、全部ほんまの
事やと思う。わたしが聞いたんはこれが全部。」
私も裕ちゃんが無闇に嘘なんかつかないのはわかっていた。
その後、沙耶香と後藤がきてまた同じ話をした。
「あたしが言ったのはなっち側から聞いたこともあるから。」
私は3人の話を聞いて、なっちの態度の変化などとうまく関係
していた事に少し複雑だった。
外で車の止まる音がした。
音だけでわかる。裕ちゃんだ。
「真里ちゃんの気持ちぶつけや。」
平家さん達はなにがあってもとめへん、と言って
私の肩をポンっとたたいた。
私の気持ち
・・・
私は裕ちゃんを愛してる!!
なっちごめん。
裕ちゃんはまだなっちのとこいかせられないよ。
- 60 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月05日(水)15時36分38秒
-
車が止まってちょっとたつのに裕ちゃんはまだ店にはいってこない。
「裕ちゃん!!」
私は待ちきれずドアを開けた。
裕ちゃんはそこにいた。
「矢口・・ごめんな。」
いつもと違う裕ちゃん。
顔色が悪く、息が荒い。
少し汗をかいていた。
「裕ちゃん!!」
なによりもいつもと違ったのは
裕ちゃんのお腹から流れでる赤い液体・・。
- 61 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月05日(水)15時50分11秒
-
「きゅッ救急車!!」
みっちゃんが急いで電話に走る。
私は必死で血を押さえた。
もう流れないで!!
「矢口・・うちを許してくれたん?」
「裕ちゃん、しゃべらないでいいよ!!」
裕ちゃんを膝枕しながら私はあふれ出る血を押さえた。
「矢口…。愛してる。」
「裕ちゃん、そんな最後みたいな顔しないでよ〜!!」
涙が裕ちゃんの上に落ちる。
「泣かんとって・・。」
血まみれの手で私の目から溢れる涙をぬぐう。
「裕ちゃんっ矢口も愛してるよ!!」
私達は初めて愛し合ってキスをした。
血の味がした。
「救急車着たよ!!」
後藤が店に飛び込んできた。
- 62 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月05日(水)16時20分31秒
救急車の中で私は裕ちゃんにいろんな器具がとりつけられている
のを見ていた。
裕ちゃんの手をずっと握ったまま。
だんだん握り返す力が弱くなってきている。
「裕ちゃん!!もう少しだから。がんばって!!」
ゴボッっと裕ちゃんが酸素マスクの下で血を吐いた。
「裕ちゃん!!もう嫌だよ…なんで私が愛した人は皆…。」
私は呪われてるんだ。
私のせいで裕ちゃんが!!
その時裕ちゃんが握り合う手に力をこめた。
「!!裕ちゃん!!お願い!!」
裕ちゃんが頷いたように見えた。
その後、裕ちゃんの手から力が抜けた。
「裕ちゃん!!」
その瞬間救急車のドアが開いて裕ちゃんは手術室に
運びこまれた。
- 63 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月05日(水)16時26分22秒
- 何時間たったんだろう。
私は『手術中』と赤く光っているランプの下で待ち続けた。
後からきた平家さん達と一緒に。
誰も声をだせなかった。
裕ちゃん、皆待ってるんだよ?
なっち、裕ちゃんを連れて行かないで・・
体の震えが止まらない。
裕ちゃん。
『手術中』のランプが消えた。
- 64 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月05日(水)16時47分13秒
あやっぺに刺された時私は痛みを感じなかった。
力が抜けて倒れそうになるのをふんばってソファーに座りこんだ。
意識が朦朧としてお腹を押さえていた手が血だらけなのを
みていた。
そしてメールがなった。
・・矢口・・
会いたい。
急いで向かった。
車から降りたら急に足が動かなくなった。
力を振り絞ってドアの前にいった。
そしたら矢口が笑顔で出てきたんだ。
全て失っていいと思った。
この笑顔さえあれば。
すぐ泣き顔に変わってしまったけど、
私達はキスをした。
塩辛い血の味がした。
矢口がずっと手を握っていてくれた。
キスがしたくても口につけられた物が邪魔でできない。
矢口が何か言っている。
耳鳴りで聞こえない。
喉の奥から血があふれてきた。
『…なんで私の愛した人は・・』
それだけ聞こえた。
私は死なない。
手に力を込めた。
矢口を悲しませたくない。
- 65 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月05日(水)17時05分15秒
-
天気は晴れ。私はいつもの様に病院へ向かう。
手術はなんとか成功した。
ただ、傷が深く、出血が多すぎたのでなんらかの意識障害
があるかもしれないという。
意識もいつ回復するかわからない。
悪化することもあるという。
私達は病室に案内された。
ピッピッと心臓が一定して動いている音がする。
裕ちゃんはただ眠っている様に見えた。
私は裕ちゃんが生きている事になにより安心した。
あれから1週間がたった。
裕ちゃんはまだ目を覚まさない。
私は毎日会いにきていた。
裕ちゃんの綺麗な寝顔を見て安心し、話かける。
日課となっていた。
病室に向かう途中、胸騒ぎがした。
私は周りを気にせず走りだしていた。
病室に入ると裕ちゃんの周りに医者や看護婦が集まっていた。
- 66 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月05日(水)17時21分20秒
-
「裕ちゃん?」
心臓マッサージをうけている姿が見えた。
私は近付こうとしたが、周りの看護婦に押さえられた。
「裕ちゃん!裕ちゃん!!」
必死でもがいて叫んだ。
人工的に動かされる心音が聞こえる。
私はその場に泣き崩れた。
もう私から何も奪わないで!!
ピッ…ピッ・…ピッ・…
「・…矢口?」
私が顔を上げると裕ちゃんが私を見ていた。
「・・裕・・ちゃん・・」
私は裕ちゃんに駆け寄った。
「ごめんな・・・。心配かけたな。」
「ほんと・・心配かけさせて〜。」
涙で裕ちゃんがぼやけて見えた。
裕ちゃんは私の手を強く握った。
- 67 名前:作者です。 投稿日:2001年09月05日(水)17時32分31秒
-
>15さん。
また夜に更新します。
展開に満足いただけたでしょうか?
ちょっと中澤どうするか迷いました・・が。
読んで下さってありがとうございます。
- 68 名前:15 投稿日:2001年09月05日(水)19時16分16秒
- すばらしいです。
葛藤しているさまが、なんとも切なくよかったです。
幸せに、なれと願うばかり・・・。
続き楽しみにしています!!
- 69 名前:やぐちゅー大好き!! 投稿日:2001年09月05日(水)22時42分23秒
- 凄い!こんなとこころに、いつの間にやぐちゅーが!!!
ビックリ!!
夜の更新楽しみに待っています!
せつないよー(涙
でもそのせつなさがたまりません。
- 70 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月06日(木)00時02分30秒
- やぐちゅー発見!(w
3日間でこんなに・・・スゲ−
しかも、かなりツボにHITです。
ここの白版にあった、あの頃の思い出(やぐちゅーVr)って作品を読んでた気分
更新が気になって寝れないよ。(w
裕ちゃんの仕事前に読む手紙って???
前の仕事?力仕事?今の仕事?PC関係って???
その他気になる事がいっぱい。少しずつ解き明かされていくのが楽しみ。
- 71 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月06日(木)00時03分35秒
- すいません。あげちゃいました。
- 72 名前:作者です。 投稿日:2001年09月06日(木)00時50分50秒
- >>15さん
スピード落ちるかもしれないですけど
最後までおつきあいください。
>>やぐちゅー大好き!!さん
楽しみにしていただけて光栄です。
更新もう少し遅れますが、今夜中には
する予定ですので…
>>70さん
手紙、仕事のことはもうすぐ…
その他の気になる点が・・・
何か気付いたことがあったらまた教えてください。
この先、多少の矛盾点がでてくるかもしれないですが、
大目に見てくだされば光栄です。
読んでくださってありがとう。
- 73 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月06日(木)01時11分00秒
-
『裕ちゃん!!裕ちゃん』
遠くから私を呼ぶ声がする・・。
体がドンッドンッと押さえつけられてる感じがする。
かまわず寝ようと思った。
いや、もう寝てるのか?
なんだかわからないが寝よう。
『裕ちゃん!!裕ちゃん!!』
矢口… うっさいなぁ。
あかん・・ 後でな。
裕ちゃん眠たいねん。
そう思ったら矢口の泣き声がきこえた。
泣いてる?
悲しませたくないって。
寝てられへんな。
そう思って重たい目をがんばってあけた。
泣き崩れている矢口がいた。
「・…矢口?」
やっと顔をあげてくれた。
「…裕・・ちゃん」
パッ駆け寄ってくれた。
私は自分の状態を思い出した。
「ごめんな。心配かけたな。」
「ほんと・・心配かけさせて〜。」
涙を目にいっぱいためながら矢口は笑ってくれた。
もう離さない。
私は矢口の手を力一杯握った。
- 74 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月06日(木)01時45分44秒
- おーリアルタイムで読み(w
作者さんガンバ
更新のんびりでもOK OKよ!
ただいま感動チュ!
- 75 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月06日(木)03時04分22秒
「とりあえず様子をみてください。変わったことがあったら、
すぐ呼んでくださいね。」
医者はそう言って病室をでていった。
「裕ちゃん。 お腹痛い?」
私は医者を見送ると、ベッドの横のいすに座った。
「うんうん。痛くないで。」
「裕ちゃん1週間も寝てたんだよ。」
「嘘!!全然わからんかった。・・…ごめんなぁ。」
裕ちゃんは私の髪をかきあげながら言った。
「ず〜っと寝てた。さっき始めてあんなことになって、
ほっんと〜にびっくりしたんだから。」
「もうちょっとで死ぬとこやってんなぁ。危なかったわ。」
裕ちゃんがニヒヒと笑う。
「も〜死ぬなんていわないでよ。」
「うん。裕ちゃん矢口おいて死ねへんもん。」
そっとキスをした。
裕ちゃんの味がした。
- 76 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月06日(木)03時13分38秒
-
矢口がいなかったら私は確実に死んでただろう。
矢口が私のために泣いてくれなかったら。
1週間も寝ていたからか、傷はだいぶ治り、多少ズキズキするものの、
痛みはあまり持っていなかった。
矢口がそばにいるだけで、傷のことなど忘れられた。
矢口を堂々と愛せる。
矢口と愛しあえる。
1週間ぶりの矢口とのキスは、矢口の味がした。
- 77 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月06日(木)03時39分05秒
-
私は皆に連絡をとった。
公衆電話に行くのも一苦労だった。
「気ぃつけや。矢口ちっちゃいから危ないわぁ。
うちも行く。」
裕ちゃんがダダをこねたから。
「ちっちゃいは余計だっつーの!!すぐ帰ってくるから。」
平家さんはすぐに来てくれた。
「姐さん。大丈夫なん?」
「みっちゃん。ごめんなぁ。店汚して。」
「何ゆーてんの!早く治してまた食べにきてやぁ。」
平家さんは持ってきた林檎をむきはじめた。
「今日はタダでむいたるわ。」
「そんなん金とんのかい!!」
「あったり前やん!!料理人やで〜」
(関西人って2人集まったら漫才になるって本当だったんだ。)
私はまた関係ないことを考えていた。
「矢口、ちゃんと食べてるか?なんか顔こけてるで?」
裕ちゃんが私の顔をさわりながら心配そうに言った。
「・・うん。食べてるよ。」
「嘘やな。・・なぁみっちゃん。今日矢口に店でなんか食べさ
せてくれへん?一緒に連れて帰って。」
「えーよ。」
平家さんは林檎をむき終えて紙皿にのせていた。
「いいーよ!!ちゃんと食べてるって。」
「あかん!!」
- 78 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月06日(木)04時12分01秒
- 「姐さん、そんな言い方しなや。ちゃんと体壊してほしく
ないっていえばいいのに。」
平家さんは林檎を渡した。
裕ちゃんは無言でそれを食べた。
「真理ちゃんも。はい、どーぞ。」
礼を言って1つもらうと私は口にほおばった。
林檎の甘い果汁が口に広がる。
1週間ぶりに食べ物の味がした。
最近食べても味がしないので、ほとんど食べてなかった。
今キスしたら林檎の味がすんのかな?
ちょっと考えた瞬間、私の口は覆われた。
「林檎の味したやろ?」
なんでバレたんだろ?
「私先いくわ。仕込みとかあるし。」
ほな明日、っと手をヒラヒラさせた。
「真理ちゃん、後でね。」
入れ違いぐらいに沙耶香とごっちんが来た。
この2人は高校に行ってるんだ。
「痛くないの?」
心配そうなごっちんと、
「寝すぎダヨ!!」
と笑う沙耶香。
この2人は周りを和ませる力がある。
- 79 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月06日(木)04時30分10秒
-
面会時間が残りわずかになった。
「沙耶香ら今日暇?矢口とみっちゃんの店いったら?」
「うんいいよ。」
沙耶香達もいるのか。楽しくなりそう。
「矢口、これご飯代。お金なかったんちゃう?
ごめんな。」
5万円。
確かにいつもいる時にもらってたから手持ちはほとんど
なかった。
「いっつもいくら持ち歩いてんの?」
「これくらいや。なんか欲しい時とか、なかったら
不安になんねん。」
「今日はパーっといくか?」
沙耶香がおどける。
「裕ちゃんが汗水流してかせいだ金やで?
わかってる?・・景気良くパーって使ってき。
うちのかわりにビール飲んできてや。」
本日最後のキスをして、私は皆と病院を後にした。
「好きやで。」
キスをした後抱き着いてきた裕ちゃんが呟いた言葉。
私も好きだよ。裕ちゃん。
- 80 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月06日(木)07時01分09秒
- やぐちゅーだ。
朝起きは、さんもんのとくって本当だな。
- 81 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月06日(木)10時19分11秒
矢口達が帰ると病室は無意味に広く感じられた。
静かで…
矢口がいなくて…
倒れた間に私は弱くなってしまったのか?
傷がうずく。
コンコン。
見覚えのある医者が入ってきた。
「いかがですか?」
「少しいたむんですけど、それくらいです。」
「そうですか。あなたの担当医を紹介します。
・・入ってきて。」
ドアが開いて、女医が入ってきた。
「私が中澤さんを担当する飯田です。」
「おねがいします。」
「それじゃ、あとは飯田君頼んだよ。それじゃぁ、
失礼します。」
医者は飯田の肩をたたいて出て行った。
「先生。私いつ退院できます?」
はやく矢口と暮らしたい。
「そうですねぇ。傷が完全にくっつくのはだいたい
あと2週間はかかるでしょうね。」
「そんなにですか?」
「結構傷が深かったのでねぇ。ちょっと失礼。」
先生は私の腹部を触った。
「いっ!!!」
激痛が走る。
「まだ当分動けないですね。1週間後ぐらいには
車椅子に乗れる様になると思いますが。」
『退院は1ヶ月以上先です。』
そう言って部屋を出て行った。
- 82 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月06日(木)10時36分01秒
消灯時間が近い。
私は携帯の電源をいれて、メールをうった。
『入院してるから当分仕事みれません。
1ヶ月先には再開できる予定です。』
『暇や〜 矢口がおらんと寂しいよ〜』
ここまで作って、私は削除した。
『飲んでるか?あんまり無茶すんやないで。』
私は送信した。
すぐに着信音が鳴る。
『病院内で携帯電源いれちゃだめだよ。
沙耶香たちはまた潰れました☆
明日は10時頃行く予定。
首長くしてまってろよ〜☆ 』
顔がにやける。
ゆわれなくても矢口が帰った瞬間から、
私は矢口が来るのを待っている。
矢口からのメールをもう1度読んで、電源をきった。
早くまた一緒に暮らしたいな・・
私は眠りについた。
- 83 名前:15 投稿日:2001年09月06日(木)17時23分08秒
- 裕ちゃんが生きててよかったです。
あと、気になったのですが、どうも市井の名前の感じが違う模様。
沙耶香ではなく、紗耶香ですよ。
では、失礼しました。
- 84 名前:作者です。 投稿日:2001年09月06日(木)21時17分08秒
- ≫15さん。
失礼しました。紗耶香でした…。
ご指摘ありがとうございます。
- 85 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月06日(木)23時39分58秒
私は10時半頃に病院についた。
「矢口遅いやんか〜。」
待ちくたびれていたのか、ドアを開けた瞬間裕ちゃんの声。
「ごめん、ごめん。どう?体。」
「なんもかわらん。調子いいんちゃうかな?
なんか1ヶ月ぐらいかかんにゃて。退院まで。」
「そっか〜。…あっそうだ。仕事大丈夫なの?」
何してるか聞いた事なかった。でも1ヶ月もなにもしないで
大丈夫な仕事なんてあるのだろうか?
「仕事ならメールうっといた。まっ向こうからの返事は
届かんけどな。」
電源を切った携帯を手の中でもてあそぶ。
「ふ〜ん。」
何の仕事か聞いてもいいんだろうか?
裕ちゃんは今まで1度も職業を口にしない。
「・…そういや、なんか機械全然なくなったね。」
私は話しをかえた。
「…目覚めたしな。もうお腹の傷しかないからなぁ。
今日朝に全部もっていきおったわ。」
「そっかぁ。広いね、なんか。」
なんかぎこちない会話。
「矢口は私の仕事の事全然きかへんにゃな。」
「えっ?」
「私がなにやってるか、全然きかへんやん。」
「だって…。」
聞いていいのかわからなかったから。
- 86 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月06日(木)23時54分12秒
-
「今さっき、すっごい知りたそうやったで。」
話し変えてたけどって裕ちゃんは私を見た。
「気にならないって言ったら嘘になるけど、
裕ちゃんが特に言わないんなら、なんか
聞けなかった。」
「矢口すぐ顔にでるからなんでもバレるで。
聞きたいことあったらほんまなんでも聞いて。
溜め込んだりせんとって。だいたいなんで
聞いたらあかんなんて思うんや?
答えれへんねんたらちゃんとそう言うし。
そんなもん1個もあらへんけどな。
矢口に隠し事なんてもうしたないねん。」
「裕ちゃん・…。うん。わかった。」
- 87 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月07日(金)02時57分31秒
-
「ふぇ??」
裕ちゃんは以外な職業についていた。
京都の高校の理事長であるらしいのだ。
「こんな理事長ドラマでも見た事ないよ。」
私は裕ちゃんを凝視してしまった。
金髪。カラコン。付け爪。
しかもまだ26歳。
「うちも。学校なんて2回くらいしか行った事あらへん。」
少し恥ずかしそうに頭を掻いていた。
祖父がやっていたのだが2年前に亡くなり、裕ちゃんの父親が
後を継ぐことになっていたらしいのだが、裕ちゃんの両親は
すでに亡くなっていたので、裕ちゃんに必然的にまわってきた
のだ。
「おじいちゃんがそんなんしてんのも知らんかったから、
あの時はめちゃめちゃびっくりしたで。24歳で理事長なんか
考えられる?」
当時を思い出したのか、裕ちゃんはちょっと笑った。
「うちそんときもう違う仕事してたから引き受ける気
なんか全然なかってんけどな。その仕事、結構
やりがいあったし。」
- 88 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月07日(金)03時18分40秒
-
「そん頃からうちは東京でてきてたから、もう京都に帰る
んも実際嫌やったしな。しかもこんなナリしてるやんか?
格好とかファッションとか変えたくなかったしな。断ろう
って思ってる時におじいちゃんの遺品の中から学校の
将来についての計画とかいろいろ書いたもんでてきてん。
それ見てたらおじいちゃんが学校にめっちゃ力入れてたん
が伝わってきてんか。うちがやらんかったら、おじいちゃん
が目指してたもんは無理やろなぁって。他人になったら
変わっちゃうやんか。んならちょっとやったろかな?って
思ってん。」
「へ〜 凄い話だねぇ。」
「校長と会って話して、うちが東京にいたままでやる方法
相談してん。校長的にも年下の金髪が学校ウロウロされるんはアレ
やしよかったんちゃうかな?んでうちは今経理とか、まぁ
そういう事務てきなやつをやってんねん。メールとかでなんでも
送れるからな。どこでもできるんよ。便利な世の中なったでホンマ。」
裕ちゃんは『わかった?』と言う風に顔を傾けた。
「納得した。だから高所得者とかいってたんだね。」
「そういうこと。」
- 89 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月07日(金)03時45分25秒
-
「もう聞きたいことあらへんの?」
「んー…あっそうだ。前の仕事ってもうやめちゃったの?
何してたの?」
「ちょっと掛け持ちしてやってたけど、忙しいからやめた。
OFFとかが不定期やってんか。ボディーガードしててん。」
「ボっボディーガード!??」
私は予想だにしなかった職業にまた驚いた。
理事長といい、ボディーガードといい…
凄いレアな人生送ってる裕ちゃんをまた凝視してしまった。
「なんやけったいな顔して…。珍しいやろ?大変やったけど
充実した毎日やったで。忙しいのよ。女ってなかなかおらん
けど、女に依頼したい人ようけおってな。2・3人一気に担当
したり。時間単位で行ったり来たりしてなぁ。あれで東京の
道詳しなったわ。わっ今は1人やけどな。」
「えっやめたんじゃ・・?」
「一生矢口のボディーガードしたる。今はこんな体やけど治ったら
矢口を危険な目にはあわさんから。」
- 90 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月07日(金)04時01分58秒
-
「裕ちゃん・・。すごくうれしいけど裕ちゃんが危険な目に
あう方が嫌だよ。」
「やっ矢口ぃ〜。」
寝ていた裕ちゃんは私に抱きつこうとでもしたのか、勢いよく
上半身を起そうとした。・・…が、
「!!あたたたた。」
「ゆっ裕ちゃん!!」
ちょっと押すと痛みがある傷が今のような無謀な行為で痛まない
わけがなかった。
再び裕ちゃんは枕に頭をうずめた。
「抱きしめるんもできひんなんてほんま最悪やわ〜。」
天井に手を伸ばして空をつかむ。
「早く治そっ ならなんでもできるじゃん!!」
「なっなんでも?やらしいわ〜矢口は〜。」
「ちょっ・・ちょっと!そんなやらしい意味じゃないって!!」
「矢口大胆やわ〜。裕ちゃん体力もつやろか〜。」
「裕ちゃん!!」
『コンコン』
ノックの音がした。
「はい。どーぞ。」
私が答えると白衣をきた背の高い女性が入ってきた。
「中澤さん。傷どうですか?」
- 91 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月07日(金)22時54分36秒
「別になんもかわったとこないです。」
裕ちゃんがまじめな顔をして答える。
「それじゃちょっと見せてくださいね。」
その女医は私に軽く会釈をして裕ちゃんに近付いた。
『飯田』という名札がついている。
「傷口消毒しますね。ちょっとしみますよ。」
隣の看護婦と一緒にてきぱきと包帯をとりかえた。
「この調子だったら2・3日で痛みはだいぶなくなりますね。
そうなったら車椅子に乗って散歩ができますよ。」
「ほんまですか?寝っぱなしは暇でしょうがなかったんで
すよ。」
裕ちゃんがうれしそうに笑った。
「それじゃ、無茶しないで安静にしててくださいね。
また夕方に包帯取替えにきますから。」
飯田先生がでて行くと裕ちゃんが外を見ていた。
「どしたの?」
「いや〜早く散歩いきたいなって。矢口と2人でデート
したい。」
「今ね、風が気持ちいいよ。早くでたいね。」
ノックの音がした。
「警察の者ですが…。」
- 92 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月07日(金)23時30分50秒
「警察?」
ドアを開けた私はそこに立っていた二人の男に聞き返した。
「今回の件で中澤さんにお伺いしたいことがありまして。」
「わかりました。矢口、ちょっと外で待っといて。」
裕ちゃんがそう言うと、お願いします、と警察は私をみた。
外に出て、私は裕ちゃんが誰かに刺されたという事実を
思い出した。
怪我に驚きすぎて肝心な事を何も聞かなかった自分に
少し腹がたった。
10分弱しかたってなかったみたいだったが、再び目の
前のドアが開くまでの時間は、私には数時間に思えた。
「失礼します。」
と言って出てきた警察はどこか釈然としない表情をしていた。
私は警察に礼をする、急いで中に入った。
- 93 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月07日(金)23時55分30秒
-
「なんや?そんな焦って。」
裕ちゃんは驚いた顔をしていた。
「あっ・・い、今の・・」
「ちゃんと話すし落ち着き。ほら、ここ座って。」
ベッドの横のイスを指差した。
「病院から連絡いったみたいやねん。んで昨日目覚めたし
今日きはったみたい。」
「うん。」
「警察にはうちの不注意でささったってゆうた。まぁ、なんで
すぐ病院いかんかったんか、とか聞かれたけど適当にごまかし
といたわ。」
「な・・なんで?」
私は犯人をかばうようなことを言った裕ちゃんに驚いた。
「相手は警察なんかじゃ手におえへん子や。警察のやり方
なんか全部わかっとる。それにもう関わらん方が安全
や。警察に動かれた方が何してくるかわからんし
危ないねん。」
「で、でも!!」
「うちが生きてるとも思ってないんちゃうか?
矢口みたいになつみを愛しとったんや。
なら気持ちわかるやろ?」
私も裕ちゃんを殺そうって思っていた。
私が刺していたらどうするかな?
生きているのを知って、自分が警察に追われる身になったら。
もう1度殺しにいく…・
- 94 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月08日(土)00時29分13秒
「な?だからコレでええねん。」
裕ちゃんは目をとじた。
「なんかしゃべりまくりすぎて疲れた。ずっとしゃべってん
やんかぁ。ちょっと寝ていい?」
「うん。寝て。ごめん。」
「手握っててええ?しんどい?」
裕ちゃんが手を伸ばす。
「うん。起きるまで握っててあげる。」
裕ちゃんの手を握るとちょっと残っていた不安みたいな
ものがふき飛んだ気がした。
「矢口はなんも心配せんでええよ。…おやすみ。」
そう呟くと、すぐに眠りについた。
裕ちゃんの寝顔を見ていたらいつの間にか私も寝てしまっていた。
「寝てたんだ?」
裕ちゃんの胸に顔をうずめる形で寝ていた私が顔を上げると
まだ裕ちゃんは寝ていた。
そっと口にキスをしたら裕ちゃんが目をあけた。
「おはよう。」
今度はディープなキスをした。
- 95 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月08日(土)00時29分59秒
「な?だからコレでええねん。」
裕ちゃんは目をとじた。
「なんかしゃべりまくりすぎて疲れた。ずっとしゃべってん
やんかぁ。ちょっと寝ていい?」
「うん。寝て。ごめん。」
「手握っててええ?しんどい?」
裕ちゃんが手を伸ばす。
「うん。起きるまで握っててあげる。」
裕ちゃんの手を握るとちょっと残っていた不安みたいな
ものがふき飛んだ気がした。
「矢口はなんも心配せんでええよ。…おやすみ。」
そう呟くと、すぐに眠りについた。
裕ちゃんの寝顔を見ていたらいつの間にか私も寝てしまっていた。
「寝てたんだ?」
裕ちゃんの胸に顔をうずめる形で寝ていた私が顔を上げると
まだ裕ちゃんは寝ていた。
そっと口にキスをしたら裕ちゃんが目をあけた。
「おはよう。」
今度はディープなキスをした。
- 96 名前:作者です。 投稿日:2001年09月08日(土)00時31分26秒
2重になってしまいました。失敗です。
気になさらず・・・
- 97 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月08日(土)00時45分58秒
矢口が売店に行くというので私は本をたのんだ。
夜、消灯までがすごく暇なのだ。
「エロ本なんて売ってたかな?」
なんでもええから小説買ってきて、と頼んだら、財布を
取り出しながら矢口がつぶやいた。
「SM特集にしてや。・…ってなんでやねん!!」
「裕ちゃんエッチ〜。」
キャハハと笑いながらでて行く矢口を見送って、
私はイロイロ考えた。
矢口とのこれからのこと。
なつみのこと。
あやっぺのこと。
私は人間的にもっと強くならなきゃいけない、と窓の外をみた。
矢口が開けていってくれたので、風が入ってきている。
早く外にでたい。
とりあえず起きあがれるようになりたい。
動くこともままならないいまでは矢口を守ることなんて
できない。
- 98 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月08日(土)02時24分23秒
「ただいま〜!!って裕ちゃん何してんの!!?」
私が売店から帰ってきて病室にはいると、裕ちゃんが
起きあがって座ろうとしていた。
「おかえり・・。」
ちょっと顔を歪めながら裕ちゃんはこっちをみた。
「ダメだよ!!安静にしとかなきゃ。」
「座るんくらいええやろ?って思ったけど、きっついわ〜。」
パフっと後ろに倒れて枕に頭をうずめる。
「お腹動かしたらダメだよ。痛かった?」
「少し。でも昨日に比べたら全然ましや。」
「もー目を離したらすぐ無茶するんだから…。」
「ごめんごめん。で、何買ってきてくれたん?」
裕ちゃんは私のもつ袋を覗こうとしている。
「なんかはやってるんだって。」
少ない本の中から選んだ本をわたす。
「ありがと〜。今日矢口が帰ったら早速読むわ。」
複雑な気分。
「早く帰ってほしいの?」
「は?何ゆーてんねん。できるなら泊まってほしいぐらい
やわ。しかたなしに読むねんで。暇すぎて。矢口おったら
暇ちゃうやん。」
そんなやりとりをしていると平家さんがやってきた。
- 99 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月08日(土)12時29分33秒
- この小説面白い!!
- 100 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月08日(土)14時05分04秒
- おーやぐちゅー!!
彩裕も最後はなかよしにしたとってや!
みっちゃんは姐さんの事・・・???
作者さんとにかく最後までがんばってやー!
- 101 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月08日(土)15時25分39秒
- いいものみっけ!
可愛い矢口好き・・・精神的に強い矢口も好きだけど
矢口を守るってかっけー裕ちゃん好き・・・でも精神的に弱い裕ちゃんも好き
結局やぐちゅー大好き最高
- 102 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月08日(土)17時36分08秒
- 作者さんROMさせていただいています。一言だけ
かなりお気に入りです。
- 103 名前:作者です。 投稿日:2001年09月08日(土)23時13分41秒
-
≫99さん。
ありがとうございます。
≫100さん。
どうなるかは…まだ言えないので読んでくださいね。
≫101さん。
お気にめすものとなれば光栄です。
≫102さん。
ありがとうございます。
そう言っていただけるとうれしいです。
期待はずれにならないようにがんばります。
≫
≫
≫
≫
≫
≫
- 104 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月09日(日)04時36分41秒
- 待ってみたが今日は更新なさそうだな。
朝起きたらって事はないかな(w
- 105 名前:読んでる人 投稿日:2001年09月09日(日)10時52分51秒
- うわっ、なんじゃこの小説は!?
お も し ろ す ぎ る !!
- 106 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月09日(日)10時56分51秒
みっちゃんの顔はどこか真剣味をおびていた。
「体どう?」
「だいぶよくなってきてるみたいや。あと2・3日で車椅子載れる
みたいやし。」
私はみっちゃんが何か2人きりで話したいことがあるのを感じた
ので、矢口に少し席をはずさせようとした。
「みっちゃんもきたしちょっとコーヒーでも飲みたいなぁ。
矢口3人分いれてきてくれへん?」
「いいよ。ちょっと待っててね。」
なんの疑いもなく矢口はでていった。
「みっちゃん、何や?なんかあった?」
「うん…今日うちに警察きてんか。うちから救急車乗ったしなぁ。
んでいろいろ聞かれたんやけど詳しくはなんもしりません、って
ゆうといた。」
「うん。」
「ここだけの話、あれってあやっぺやろ?」
声を低くして呟く。
「・・…そうや。この話、また後でせーへん?矢口そろそろ
帰ってくるやろうし。」
「わかった。」
みっちゃんはそういってそれ以降その話しはしなかった。
- 107 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月09日(日)11時06分32秒
「おまたせ〜」
コーヒーで手が一杯だったので、平家さんにドアをあけてもらって
私は中にはいった。
「ありがとう。大丈夫かいな?」
「大丈夫。大丈夫。はい、どうぞ。」
私はコーヒーをテーブルに一旦置いて、平家さんに一つわたした。
「砂糖とか使います?」
「ありがとう。砂糖もらうわ。」
「裕ちゃんは…ちょっとベッドおこそっか。」
「ああ。頼むわ。」
ベッドの横についているボタンでベッドを少し起した。
「はい。コーヒー。」
「サンキュー。・…あぁ、久しぶりやしおいしいわぁ。」
裕ちゃんはコーヒーを飲みながら満面の笑みを浮かべていた。
このとき、私は全然知らなかったのだ。
あの人があんなに危険な人だって…・。
裕ちゃんや平家さんを悩ませるほどの人だったなんて…。
- 108 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月09日(日)11時22分37秒
「今日はそろそろ帰り。」
私は矢口とみっちゃんにそう言った。
「なんで?」
「みっちゃんは店あるし、矢口は毎日で疲れてるから今日は
もう帰ってゆっくり休んで。明日またきてな。」
私がそう言うと、みっちゃんは少し頷き、矢口はどこか不満そう
だった。
「さっき買ってきた本が読みたいから、とかじゃないだろうね!!」
「!?ちゃうちゃう!それ忘れてたわ。まじで。疲れた矢口見たない
んよ。」
本心だった。疲れている矢口はますます小さくみえる。
「・…わかったよ。」
不満はあるが、病人の言う事だからか、すんなり矢口は
言う事をきいた。
「んじゃ、姐さん。私帰りますわ。」
「あっありがとうな。」
みっちゃんは矢口にも別れを告げて、出て行った。
「んじゃ、矢口ももう帰るよ。そうそう、今度の土曜日
紗耶香とごっちんくるって。今学校あるからね。」
「ほんまぁ。楽しみやな。」
「んじゃね。」
そういって私にキスをして矢口は出て行った。
「帰り気ぃつけや。」
数分後、みっちゃんが部屋に入ってきた。
- 109 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月09日(日)11時37分53秒
-
「ちゃんと真里ちゃん出て行ったよ。」
みっちゃんは再び腰をおろした。
「そうか・・。素直やからな。矢口は。」
「で、あやっぺは…。」
「わからん。うちを刺してすぐ店出ていってん。」
「死ぬのを確認せんかったってことは、殺す気はなかった
んかな。」
「急所はずして刺してたし、ゆっくり殺そうとしたんやろ。」
あの場所じゃ、人に見つかることもない。私が動かなければ
勝手に死んでいただろう。
「んじゃなんですぐ出て行ったんかな?」
「・・…それは・・…!!もしかして…。」
私の頭に不安がよぎる。
「もしかして?」
「矢口のところ行ってた、とか。あんときたまたまみっちゃん
とこおったけど。」
「その可能性はあるね。」
「矢口を狙ってたんなら、なんで今狙わへんかがわからんけどな。」
私が刺されてもう1週間以上たつ。矢口は全然大丈夫である。
「もう大丈夫なんかな?」
みっちゃんが願いをこめて呟く。
「そうあって欲しいけどな。」
- 110 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月09日(日)12時03分06秒
-
私はあやっぺがなつみを愛していたことはみっちゃんに
いわなかった。はっきりとあやっぺの口から聞いたことでは
ないから。
「んじゃとりあえず、警察には何もいわんとくわ。」
「そうして、うちもゆわんし。警察動いてあやっぺ刺激
するほうがやっかいやしな。今なんもないってことは
もうなんもないってことやと思うし。」
みっちゃんは知っている。
私とあやっぺはボディーガードの時の同僚だ。
私達は警察の動きなど全て把握しているのだ。
また、あやっぺの優秀さは私達2人の頭に入っていた。
「あやっぺ、まだボディーガードやってんのかな?」
「知らんなぁ。やってんのちゃうか?」
「まっ姐さん達はもう関わらん事やね。」
「できる限りそうするわ。」
その後、少し話したが、たいした解決法もでず、
みっちゃんは帰って行った。
- 111 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月09日(日)12時21分13秒
-
それから2・3日して、私の傷は座っても痛まないようになった。
少し歩いたりはできるが、傷がひらかないため、移動は車椅子
となった。
「この部屋から自由にでんのって始めてやしうれしいわ〜。」
今日は土曜日。紗耶香や後藤、みっちゃんがきて、外の芝生で
皆で昼を食べることになっている。私も別に病院食を食べなけ
ればいけないわけじゃないので食べれる。
「みっちゃんの弁当楽しみやわ〜。」
「矢口も作ってきたのに〜。裕ちゃんにはあげない!!」
朝から来てくれていた矢口と皆を待つ。
「矢口〜。矢口のが1番楽しみやって〜。」
「うるさい!!もうあげない!!」
「え〜矢口〜。」
「うるさいよ。何いちゃついてんの?」
紗耶香が病室に入ってきた。
「おー紗耶香。聞いて〜や。」
「わかったわかった。怪我人はおとなしくね。」
「なんなんっもー。まぁいいや。早く外行きたいな。」
私は窓の外を見た。
天気がよく、今日も風が気持ちよさそうだった。
- 112 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月09日(日)13時50分24秒
私は紗耶香の後から中に入ってきたごっちんと目があった。
「おはよっす。天気よくてよかったね。」
「おはよ〜。も〜お腹すいたよ〜。」
「ごっちんが作ったの?」
私はごっちんが大きな弁当箱を持っているのを見て言った。
「そうだよ〜。どうしてもいちいちゃんが作るって言って
たんだけど、今日は私の料理で裕ちゃんをおもてなし
したかったからね。結局いちいちゃんも作ってたけど。」
紗耶香が手に持つ物を指さす。
「なんだよ〜。私も作っていいじゃん!!」
紗耶香がふくれる。
「えっごっちんも持ってきてんの?」
「うん!!裕ちゃんに元気だしてもらおうと思って!!。」
「あ・…ありがとう。ハハ。楽しみやわ。」
そうして私に裕ちゃんはコソッと言った。
「ごっちん、めちゃめちゃ味音痴やねん。」
紗耶香をみると裕ちゃんにすまなさそうな顔をしている。
止められなかった事をあやまっているのだろう。
「まっ気持ちはうれしいし食べるけどな。」
そう言って私の耳元から顔をはなした。
ごっちんは何も気付くことなく弁当箱を見ていた。
- 113 名前:15 投稿日:2001年09月09日(日)20時34分53秒
- 幸せの一時ですね。
ごっちんが味音痴・・・何となく分かるからいい感じです(笑)。
ではでは。
- 114 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月09日(日)21時11分14秒
程なく平家さんがきて私達は外に移動した。
「なんか車椅子って照れるわ。」
車椅子を押している私に話しかける。
「怪我人なんだからしかたないでしょ。」
「まぁ、歩いたらちょっと痛いしなぁ。早く治ってほしいわ。」
「安静にしてたらすぐだって。」
1ヶ月先って結構長いなっと思いながらも答える。
「ここがいい!!」
ごっちんが布をバッとひろげた。
「木陰だし、あんまり日もあたらないしいいね。」
平家さんが荷物を下ろしながら言う。
「裕ちゃんは車椅子のままだよ。」
車椅子から降りようとしていた裕ちゃんに紗耶香が釘をさす。
「ええ!?うちもそこ座りたいわぁ。」
「ダメ!!動きすぎるとよくないもん。早く治ってもらわないと
みっちゃんとこで暴飲暴食できないっしょ!!。」
「スポンサーかい!!!」
「姐さんおらんくてもこいっちゅーねん!!」
裕ちゃんと平家さんのつっこむ声が重なって、皆吹き出した。
「まっそこ座ってなよ。早く退院したいでしょ?」
私はそう言って裕ちゃんの隣に腰をおろした。
- 115 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月09日(日)21時26分46秒
-
「んじゃ、食べよっか。」
平家さんといっしょに皆の弁当を広げる。
「おいしそ〜。」
平家さんのはさすがプロって感じだった。
「紙皿と箸あけるよ。・…はい、まわしてね。」
平家さんは手際よく配っていく。
「裕ちゃん!!はいどうぞ!一杯たべてね。」
気がつくとごっちんが裕ちゃんの隣で自分の弁当箱を持ち上げて
いた。
「おっおお。ありがと。んじゃ、何もらおうかな。」
裕ちゃんは真剣な顔付きで弁当の中身を見まわしている。
「私がえらんであげる〜 皿かして。」
裕ちゃんの皿をとるとパッパッとイロイロな物をのせだした。
ごっちんの弁当を見る限りすごくおいしそうなのだが…。
「はいっ。」
満面の笑みで裕ちゃんに皿をわたすと早く食べろとせかした。
「いただきます。」
神妙な顔つきで裕ちゃんは卵焼きを食べた。
気が付くと私だけでなく、皆裕ちゃんに注目していた。
どうやら皆経験者らしい。
- 116 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月09日(日)21時36分28秒
- 嵐の前の静けさ・・・もといホノボノ
いい感じですね!
作者さんの更新ペースには尊敬の眼差しです。
姐さんが矢口を守って、もう一度怪我するぐらいはいいですが・・・
死ぬような結末にならないように祈ってます。(w
- 117 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月09日(日)21時49分17秒
「……うまっ!!!さすがごっちん!!!おいしいわ〜。」
「もっとあるから一杯食べてね〜。」
なんだ、美味しかったんじゃん、と思ってると、
「裕ちゃんも毎回あんなことゆうから殆ど食べさせられるんだよ。」
「姐さんアホやわ〜。」
というヒソヒソ声が聞こえてきた。
「え?」
私が振り返ると、
「いつもいつも。ほんっとに不味いよ。どうやったらああなるか
こっちが聞きたいくらい。」
紗耶香が少し頭を振りながら言った。
「皿早くうめたほうがいいよ。乗せてくるから。」
といって私の皿に適当にイロイロのせてくれた。
「紗耶香のはほんとおいしいよ。ごっちんのは・…さっ
私もたべよ。」
平家さんも自分の皿にイロイロのせだした。
「やぐっつぁんも食べてね。」
肩をたたかれ振り返るとごっちんが弁当箱をさしだした。
「ありがとう。」
私が答えると同時に、
「矢口の皿にはいっぱいあるでしょ。後で後で。」
と、紗耶香がごっちんを私からひきはなした。
- 118 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月09日(日)22時00分55秒
-
「裕ちゃん?」
私はこそっと裕ちゃんを見た。
「あかん。今回も… とんでもない代物になっとるわ。」
口治しっと言って私の皿から1品とって食べる。
「は〜 美味しいわ〜。」
すごく感情がこもってる気がした。
ごっちんの弁当を避けながら私達はワイワイとご飯を食べた。
裕ちゃんは定期的にやってくるごっちんのご飯をずっと
「おいしいおいしい。」
と言って食べていた。
私も1つ食べてみたのだが、飲みこむのもうまくできない
ぐらいの、なんともいえない物で、さっとお茶で流しこんだ。
平家さんのも紗耶香のもとても美味しくなんだか自分のが
恥ずかしかったのだが、
「全然おいしいよ。」
と言ってみんな食べてくれた。
「私のあんまり減ってなくない?」
ごっちんが不満をもらしたが、実際裕ちゃんとごっちんしか
食べていないのだ、紗耶香に、
「減ってるよ〜 そんなこと気にせず食べな。」
と、軽くあしらわれていた。
- 119 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月09日(日)22時25分07秒
「は〜お腹いっぱいだ〜。」
ごっちんがバタッと寝転がる。
「よ〜全部食べれたな〜。」
平家さんがお腹をさすりながら空っぽになった弁当箱をみる。
ごっちんのが少し残ってるくらいで後はすっからかんだ。
「裕ちゃんこりずによく食べたね。」
紗耶香がコソっと言う。
殆ど食べたのは裕ちゃんだったのだ。
「まぁ、作ってくれたんやしな。でもアレなんとかしてや〜。
教えたってや。」
「無理。教えても無駄だね。こりゃ裕ちゃんがいつまでも
食べなきゃなんないね。」
そう言って紗耶香もパタッと寝転んだ。
「矢口、お腹ふくれたか?」
「も〜限界!!裕ちゃんは?」
「ある意味限界や。量もハンパじゃなかったで。」
といってお茶を飲んだ。
「なんか飲み物買いに行ってくるけどなんかいらん?」
平家さんが立ちあがった。
「うちコーヒーたのむわ。」
「私らなんでもいい〜。」
紗耶香が少し起きて言った。
「真里ちゃんは?」
「あっ私も行きますよ。」
急いで立ちあがろうとすると、
「いいっていいって。なんでもいい?」
「はい。すみません。」
- 120 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月09日(日)22時51分29秒
「ねぇ、やぐっつぁん!」
平家さんを見送っているとごっちんに話しかけられた。
「何?」
「今日泊まりに行っていい?」
私は裕ちゃんを見た。
「ん?なんでうち見んの?あそこはもう矢口の家でもあるんよ?
好きにしぃや。」
「裕ちゃん。」
私は振り返って言った。
「いいよ!!」
「やったぁ。久しぶりだね。」
「裕ちゃん家ってなんも遊ぶもんなかったよね?」
「なかったかも?」
ごっちんと紗耶香は早速今夜の計画をたてているみたいだ。
「ちょっとあんたら!!プレステ2があるっての。」
「えぇ〜、買ったの?」
裕ちゃん家にそんなものが!?っと2人は驚く。
「矢口とたまにやっててん。な?」
「うん。あんまりゲームないけどね。」
「今日なんか買ってかえったら?」
私は裕ちゃんが入院してから銀行のカードを預かっていた。
食費などここから下ろすようにいわれていた。
そこには私が今までみたこともない桁のお金が入っていた。
しかも貯金している銀行はそれだけでないから驚きである。
- 121 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月09日(日)23時23分43秒
「んじゃ、帰りに店よっていこうよ。」
「なんでごっちんが答えんねん!!いいんやけどね。」
裕ちゃんは少し笑ってうちもやりたいなぁって言った。
「裕ちゃんは下手だから相手にならなかったんだよね。」
私がそう言うと、
「ちゃうねん!!ちゃんと動きおらへんねん!!」
「そういうのが下手って事だよ。」
紗耶香にそう言われてうっと黙った。
「おかえり〜。」
平家さんが帰ってくるのが見えた。
「ただいま〜。ほい、姐さんのコーヒー。」
「ありがと。」
コーヒーや紅茶、ジュースが結構たくさんあった。
「余ったら姐さんとこおいとけばいいし、まぁ飲むやろ?」
って言って平家さんは紅茶を飲んでいた。
私はポカリをもらった。
私達は飲みながらまた、ワイワイと盛り上がった。
こんな時間がいつまでも続けられたらなって思った。
いつまでも変わらず・…
- 122 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月10日(月)00時58分12秒
「風が気持ちええなぁ。」
私達が荷物をからずけ始めていたら、ボソっと裕ちゃんが
呟いた。
「また明日も散歩にこようよ。」
「うん。そやな。」
かたずけもすんで、裕ちゃんを押していると、
「なんか全部矢口にやってもらってんなぁ。なんか矢口
おらな裕ちゃん生きていけへんかもなぁ。」
ちょっと笑いながら裕ちゃんは私の顔を見上げた。
「裕ちゃん・…そうだよ。裕ちゃんは矢口がいなきゃ、
誰が世話すんの?矢口がずっとするよ。」
予想外の答えだったのか、裕ちゃんは凄く驚いた顔を
した。けどすぐに私の大好きな笑顔でこう言ってくれた。
「矢口もうちしか世話できひんな。」
私達はちょっと照れてすぐ視線をはずした。
裕ちゃんが前を向くのと私が横をみるタイミングは
まったく一緒だったみたいだ。
- 123 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月10日(月)01時13分29秒
「風がきもちええなぁ。」
思わず私は声にだして言ってしまった。
久しぶりの風、太陽の光、薬品のない自然の匂い。
全てが新鮮に感じる。
「また明日も散歩にこようよ。」
矢口がかたずけをしながらふいにこっちを見た。
聞こえたんか。
「うん。そやな。」
私はもう1度深呼吸した。
私は何も手伝う事もできず、今は車椅子を押してもらっていた。
「なんか全部矢口にやってもらってんなぁ。なんか矢口
おらな裕ちゃん生きていけへんかもなぁ。」
私は矢口があせって何ゆうだろう?と矢口を見上げた。
「裕ちゃん・…そうだよ。裕ちゃんは矢口がいなきゃ、
誰が世話すんの?矢口がずっとするよ。」
矢口の真剣な返事に私は一瞬度肝をぬかれたが、あまりに
うれしくて顔がほころぶのをとめられなかった。
「矢口もうちしか世話できひんな。」
私はそうとだけ言うと、すぐ前を向いた。
こんな真っ赤な顔はみせられない。
- 124 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)01時27分34秒
- お腹刺されたって事は・・・内臓も・・・
食事できるのか?(w
まー小説小説
作者さん頑張って!
- 125 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)09時32分04秒
- 雨がよんでる大好きです!
毎日読ませていただいております(W
- 126 名前:作者です。 投稿日:2001年09月10日(月)09時58分39秒
>15さん。
幸せな感じが伝わっていたのなら光栄です。
>116さん。
どうなるかは読んでくださいませ。
がんばって更新していきたいと思ってますが…
遅いですかね?書けるときにがんばって書いているんですが・…
>124さん。
小説小説(笑)
あんまり深くは・・・・・
気になさらないでくださると光栄です。
>125さん。
ありがとうございます!!!
うれしいです。
がんばって更新しますのでまた読んでくださいね。
- 127 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月10日(月)10時13分45秒
「何ニヤついてるん?」
平家さんがこっちを見ていた。
「思いだし笑い?やぐっつぁんもエロくなってきたね。」
「裕ちゃんがまたなんかしたんじゃないの?」
その前からごっちんと紗耶香が振り返る。
「なんや、その言い分!!なんや思てんねん!?」
「「エロ親父!!」」
「はぁ!?」
紗耶香とごっちんは笑いながら走り出した。
「ほっんまに、あいつらは〜。」
怪我さえなければ確実に追いかけてただろう。この人は…
病室に帰って裕ちゃんがベッドに寝るのを見守ると
「んじゃ帰るね。」
私達は帰る準備をした。
「ありがとうな。今日は。めっちゃ楽しかったわ。」
裕ちゃんが笑顔で言う。
「またやろうね。」
「また弁当作ってきてあげるから。」
ごっちんの言葉に一瞬ほうけながらも
「おっおう!!まってるわ。」
と答える。懲りない人だね。
「んじゃ、姐さん。またくるし。」
「あんまこんでええで。店大変やろ?」
平家さんは大丈夫っと手をヒラヒラさせた。
- 128 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月10日(月)13時02分57秒
「んじゃ、気をつけて帰ってな。」
「今日矢口は私らにまかせてね。」
紗耶香が胸をはって言った。
「うん。任せたで。」
「矢口に任せろっての!!」
私達は病院を後にすると、ゲーム屋さんによってから帰った。
「おじゃましま〜す。」
紗耶香達は手馴れたかんじで部屋に入った。
昔よく来てたのだろう。
「今日は腹をわってイロイロしゃべろうね。」
「後藤はすぐ寝るだろ!!」
「寝ないもん!!」
紗耶香達が騒いでる間に、私は飲み物を取りにいった。
その日は久しぶりのお泊まりで、なんだか昔が懐かしかった。
友達を家に呼んで遊ぶなんていつ以来だろう?
紗耶香達の話しを聞いて、初めて私は2人がつきあっているのを
知った。一緒に暮らそうと計画中らしい。
「矢口、気がつかなかったの?鈍感だねぇ。」
「怪しいな、とは思っていたよ!!」
「やぐっつぁんはいいなぁ。裕ちゃんと一緒に生活できて。
私らも早く住みたいねぇ。市井ちゃん。」
「後藤がお金貯めないからだろ!!!ちょっと矢口聞いて!!」
夜中まで私達は話しこんだ。
- 129 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月10日(月)13時19分23秒
2人は絶対なっちの事を聞いてはこなかった。
私は裕ちゃんの昔の事を聞いたり、紗耶香達のことを聞いたり
したが、あのバーについの事は1つも聞かなかった。
いつのまにか寝ていて、気がついたらもう昼前だった。
日曜日なので紗耶香達は学校が休み。2人とも爆睡していた。
紗耶香達はきっと昼過ぎまで寝るだろう。
私は裕ちゃんの所へ行くために準備をした。
紗耶香達は今日も泊まると昨日言っていたので置いて行く。
昨日あらかじめ決めておいたのだ。
「いってきます。」
私は寝静まった部屋に声をかけ部屋をでた。
昨日とはうってかわって天気はどんより曇っていた。
しめった風が頬を吹く。
- 130 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月10日(月)13時29分56秒
裕ちゃんの病室の前についた時、丁度中から裕ちゃんとは不釣合いな
中年男性が出てきた。
少し会釈をかわして中に入る。
「おはよ。ゆっくり寝た?」
「おぉ、矢口。おはよ〜さん。」
ベッドを起こして座っている裕ちゃんは何か書類を持っていた。
私の視線を感じたのか、
「これ?あぁ、今すれ違った人おったやろ?あれ校長やねん。
わざわざ来てくれたみたい。遠いのに。これは仕事の資料。
夜暇やしやろう思って。」
分厚い資料をバサバサとならす。
「へ〜。忙しいね。」
「目通すぐらいやけどな。」
バサっとテーブルに置く。
「昨日は楽しかったか?」
「うん。いろいろ聞いたよ。裕ちゃんのこと。」
「!?なんや?何きいてん?めっちゃ気になるわ〜。」
「何あせってんの?そんなやましいことしてたの?」
「しっ・・してへんわ!!」
裕ちゃんは急いで否定した。その姿はなんかすごくおもしろかった。
- 131 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月10日(月)14時46分17秒
「散歩にでも行く?」
私は車椅子を見て言った。
「なんやえらい雲ってんなぁ。雨降らへんかな?」
裕ちゃんが心配そうに外を見上げた。
「まだ大丈夫そうだよ?まっ降ってきたらダッシュで帰って
きたらいいよ。」
「そやな。・・…よいしょっ。」
裕ちゃんがゆっくりベッドからおりた。
「よいしょって歳よりくさいよ。」
車椅子に座らせながら私は呟いた。
「何ゆーてんねん!!めちゃめちゃピチピチやっちゅーねん!!。」
「・・・・ピチピチなんておもいっきり死語だよ・・・。」
「あぁ〜やっぱり病院の外はええなぁ。」
裕ちゃんが伸びをしながら言った。
「なんかこういうの新鮮やな。」
2人でゆっくり散歩することなんて初めてかもしれない。
買い物とかは行ったことあるけど、散歩は初めてだ。
しかも…
「気持ち言ってからのデートって初めてだね。」
「あぁそっか〜。初デートここになんのかいな?」
思いっきり残念そうに裕ちゃんはしていた。
「どっか行きたいとこあった?」
「海に行きたかったなぁ。」
- 132 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月10日(月)16時41分05秒
「海?」
「うん。・…一緒に行ってくれる?」
「うん!!」
私達は退院したら1番に海に行こうと約束した。
「ん?今ポツってこなかった?」
私は手のひらを広げて上を見た。
「ほんま?降ってき・・…」
「ん?どうしたの?」
裕ちゃんの動きが止まった。
私は裕ちゃんが凝視している方向に目線をやった。
黒ずくめの服を身にまとった金髪のお水にいそうな女性が
こっちを見ていた。
口元は笑っているようにみえた。
- 133 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月10日(月)17時10分03秒
気が付いた時にはもうあやっぺはどうこうできない距離に居た。
矢口は何かわからない顔をしている。彼女があやっぺとは知らない
からだ。
「裕ちゃん?知り合い?」
薄笑いを浮かべて近付いてくるあやっぺを見ながら矢口が私に
聞いた。
「…知り合いは知り合いや…。」
私は彼女があやっぺだと言っていいのだろうか?
あやっぺはもう復讐心をなくしたのか?
「矢口…うちから離れ…。」
復讐心をなくした者の顔でないのは一目瞭然だった。
「え?」
「ええから!早く走って病院いきぃ!!!」
私の真剣な怒鳴り声に矢口は
「裕ちゃん置いて行くわけないじゃん!!」
「今はおらんほうがええねん。早く行け!!」
「嫌だ!!もう裕ちゃんが変な目に会うのは嫌だよ!!。」
とゆっくりあやっぺを見た。
あやっぺはもうすぐそこまで来ていた。
- 134 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月10日(月)17時24分42秒
-
「・…何や?」
私は矢口を後ろにいさせあやっぺに話しかけた。
「ずいぶん警戒してんだね。」
クックックと笑いながら答える。目は真剣そのものだ。
「でもね、今日は裕ちゃんに用があったんじゃないんだ。
後ろの彼女にね…。」
矢口をジロジロと見ながら言った。
「矢口には関係ない。帰ってんか!!」
私は少し震えている矢口の腕をつかみながら叫んだ。
「こっちは関係あるんだよね。」
「矢口に近付いたらどうなるかわかってんにゃろうな。」
私はあやっぺを睨みつけた。
雨が結構降ってきていて下がぬかるみだした。
その瞬間、あやっぺは素早く動き、私の背後にまわった。
「っ!!」
私が振り向くのと同時にあやっぺは矢口をかついでいた。
「矢口!!!」
「んじゃ、借りてくよ♪」
そういって車椅子を蹴り倒した。
私は濡れた地面に投げ出された。
「待て!!」
私が立ちあがった時にはすでに走り出していて、近くに止めていた
車に乗り込もうとしていた。
- 135 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月10日(月)17時43分41秒
「矢口!!!」
私は傷がジンジンしているのなどかまわず、必死で走った。
車に辿りついたのは、エンジンがかかった瞬間だった。
「あやっぺ!!!ええかげんにせぇ!!!」
窓をドンドンたたいたが、あやっぺはニヤっと一瞬笑うと車を
発進させた。
「っつ!!!」
私は少し手が接触したが、とりあえず車を走って追いかけた。
「矢口〜!!!!!」
すぐに車は見えなくなってしまった。
助手席に乗せられた矢口・…
早くいかなければ危ない!!
私は自分が上にジャージを着ていたことに少し安心した。
これなら走りやすいし、そこまで変におもわれない。
下はパジャマのようなやつだが、そんなのは気にしてられない。
私はとりあえずあのバーに向かって走り出した。
雨はだんだん強くなってきた。
- 136 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月10日(月)18時03分56秒
-
あれからどれくらいたっただろう。バーについた時には
雨は豪雨と変わっていた。
「ハァハァ。」
私は息を切らしながら扉に手をかけた。
表に車がなかったからここにはいないようなのだが、
何か手がかりがあるかもしれない。
「なんやねん!!なんかないんか!?」
私は必死で引き出しなどをひっくりかえした。
「ん?」
雨で濡れた髪をかきあげて、私は一つの紙を見た。
倉庫の名前だ。
行ってるかもしれない。
その瞬間私は外に飛び出した。
傷は一定に痛みを訴えてきたがもう気にならなかった。
私は車を盗んだ。
自分の車を取りに行く時間なんてない。
車を発車させた後バックミラーを見たが人はいなかった。
結構離れていたのだろう。しかし、これで
当分警察などに見つかる事はないだろう。
私はアクセルを命一杯踏んだ。
雨で前がみにくく、道が少し混んでいる。
私はじれったくてたまらなかった。
今ごろ矢口は・…
そう考えるといてもたってもいられなかった。
- 137 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月10日(月)18時11分19秒
「・・…。」
目が覚めたら暗い場所だった。頬にコンクリートの冷たい
感触がある。
そうだ!さっき裕ちゃんと散歩に行ってて、変な女の人に
会って、女の人が素早くこっちにきたと思ったら、背中に
なんか衝撃かんじて…・そこからは覚えていない。
「裕ちゃん!!」
どうなったんだろう?無事かな?
ここどこ?あれ?手が前にこない。後ろで縛られてるみたい。
フラフラしながら置きあがるとなんか倉庫みたいな場所だった。
明かりがあまりなく、よく見えない。
「裕ちゃん!!」
私は叫んだ。
外で降っている雨の音にかき消された。
その時電気がついた。
「起きたんだ?」
- 138 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月10日(月)18時22分48秒
さっきの女性。ビニール袋を手にもっている。
「貴方、矢口真里でしょ?安倍なつみとつきあっていた。」
「・…。そうですけど。」
なっちの知り合い?
「私、石黒彩。」
イシグロアヤ?聞いた事・…もしかして
「あやっぺ!?」
「あれ?知ってんの?私のこと。」
「聞いたことがあります。」
なっちの友達で・…。
「私なっちのお葬式で貴方見たよ。」
石黒さんは袋の中からお茶を取り出した。
「・・…。で、なんなんですか?」
私が気を失う前に石黒さんは私に話があると言った。
話しはいいが、この状態はどういうことだ?
「なっちの事で数点聞かせてくれる?」
「・・…いいですけど。」
石黒さんはお茶を勢いよく飲んだ。
- 139 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月10日(月)19時06分46秒
-
「貴方はなっちのことが好きだったのよね?」
「・…は?」
「なっちが裕ちゃんの事好きだって知ってたの?」
石黒さんはお茶を手でもて遊びながら聞いてきた。
「…。まぁ、誰か好きになった人が居るのは気付いてました
けど…。」
私は石黒さんの言いたいことがよくわからない。
「なっちの前で自殺未遂したでしょ?」
「!?」
まさか知っている人がいるなんて思わなかった。
「それを見て…・なっちは裕ちゃんの前で同じ事したんだよね?」
「・…。」
石黒さんはもう私の返事など待ってもいなかった。
「ねぇ。なんでそんなことしたの?貴方が自殺未遂なんてしなきゃ、
なっちはあんな事しなかった。」
私は衝撃を受けた。
裕ちゃんのせいだってずっと思ってたのに…
私のせいだったなんて・…
私が殺したの?
「貴方が殺したのよ。」
石黒さんの声は私を絶望の淵にたたせた。
私はただ呆然と突っ立っていた。
「そんなことない!!!」
- 140 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月10日(月)19時16分58秒
私は知らない間に涙をながしていた。
「そんなことない!!!」
私は愛する人の声を聞いた。
「あやっぺ…前はうちのせい。今度は矢口のせい。
そんなになっちの死を人のせいにしたいんか?」
振り返ると裕ちゃんが立っていた。
「裕ちゃん…結構早かったね。」
石黒さんは髪をかきあげた。
「あんたはなっちが死んだことより、なっちの愛が一回も
自分にこんかったことが悔しいんやろ?」
裕ちゃんの言葉に明らかに反応した。
「・・…しゃべんないで。」
「あんたはなっちを愛してたもんな。」
その瞬間石黒さんは何かを裕ちゃんに投げた!!!
「危ない!!!」
私はとっさに裕ちゃんの前に飛び出していた。
「や…矢口ぃ!!!」
私の服は一気に真っ赤に染まった。
「裕ちゃ・・ん。大丈夫。ちょっとだけだよ。」
私に駆け寄ってきた裕ちゃんにそう言うと意識が朦朧とした。
- 141 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月10日(月)19時29分44秒
目の前に血があふれだしている矢口がいる。
私は無意識のうちに止血をした。
ゆっくり矢口を寝かせると立ちあがった。
私はあやっぺが憎くてたまらなくなった。
「裕ちゃん。いらないことしゃべんないで。」
あやっぺは私を睨んでいた。
「…あんた私を殺したいんやろ?」
「そうよ。一回も裕ちゃんに勝ったことなんてなかったけど、
今なら勝てるわ。」
「それはわからんで。」
「裕ちゃん。仕事止める時言ったよね?人は殺せないって。」
ボディーガードの仕事では依頼人を守る為に人を殺すこともある。
私はそれができず、身をひいたのもやめた理由だ。
「そんなあまちゃんに私は負けないわ。いくら他の技術が裕ちゃんに
負けてても。私はもう人を殺せるの。」
「あやっぺ??」
あやっぺのちょっとした変化に気付いたが、
あやっぺの顔は話しあいができるものではなかった。
「このナイフでいいや。これで真剣勝負よ。」
あやっぺは懐から2本ナイフをだして一本を私に渡した。
- 142 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月10日(月)23時10分40秒
私はそれを受け取ると決心した。
あやっぺを殺す事を…
矢口の傷は深い。時間をかけてる暇はない。
「さっさとやろか。」
「その怪我で勝てると思ってるの?」
あやっぺはゆっくり構える。
「やってみたらわかるやろ?」
私はそう言うとゆっくりあやっぺに近付いた。
あやっぺはお腹にむかってナイフを突き出してきた。
予想していたが、素早い攻撃によけるのが精一杯だった。
このままでは長引くだけだ。私は覚悟した。
あやっぺは的確に急所を目掛けてナイフを振り下ろす。
「教えた通りやな。」
私は少し離れた。
「裕ちゃんも相変わらずよけるのうまいね。」
あやっぺにナイフ裁きや、格闘の仕方を教えたのは私だ。
「時間かけたない。いくで!!」
私は勝負にでた。
- 143 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月10日(月)23時36分52秒
「っつ!!!」
あやっぺのナイフが腕に刺さる。
その瞬間私はあやっぺの腕を握り動きを封じ、
あやっぺの胸にナイフを突き刺した。
「ぐっ!!!」
私を刺したことで一瞬油断したのがあやっぺの敗因だった。
ここを刺せばもう助からない。私もあやっぺもそれを知っていた。
あやっぺは崩れおちた。
「…ごめんな。あやっぺ。矢口の為なら人殺せるわ。」
私は腕に突き刺さったナイフを放り投げた。
そして、矢口のほうを振り返った。
『ドンッ』
背中から何かが体を通りぬけた。
「裕ちゃん・・、最後まで・・油断しちゃダメって・・言ってたのにね。」
あやっぺの手には拳銃が握りしめられていた。
「ガハッ!!」
口から大量の血があふれ出た。
「急所を・・はずすから・・でも2人とももう助からない・・・・」
「…そやな。」
私はそう言うと矢口に再び近寄った。あやっぺはもう動かなかった。
「矢口ぃ…行こか。」
私は気を失っている矢口をかかえ倉庫をでた。
- 144 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月10日(月)23時48分48秒
体が誰かに抱えられている。
目をあけると裕ちゃんの顔が傍にあった。
「裕・・ちゃん。」
「矢口…痛ない?ごめんな。守るってゆーたのに。」
裕ちゃんの口から血が流れでていた。
「裕ちゃんこそ・…傷開いたの?」
「・・そんなもんや。…救急車よぶからちょっとまってや。」
「…もういいよ・・・自分の体のことは…自分が一番わかるから。」
私はもう体を動かせなかった。
「矢口・・」
裕ちゃんの目から涙が溢れでた。
「ねぇ…ここ、海の近くだよね…。海岸連れてって。」
海の匂いがする。
「そやな。デート行こういうてたもんな。」
私を抱える裕ちゃんの腕が震えている。
裕ちゃんの体を見ると胸からドクドクと血がでていた。
「裕ちゃん?」
「私も長くないみたいや…。」
口から流れでる血がそれを物語る。
海岸についた私達はよりかかって座った。
ここまで来れた事が奇跡だ。
- 145 名前:矢口真里 投稿日:2001年09月10日(月)23時57分30秒
「裕ちゃん。」
「・・…何や?」
「私・…裕ちゃんに会えて楽しかったよ。」
「・…そっか。・・…。」
「ねぇ。裕ちゃんは?」
「・・……楽しかったで。・・…ゴフッ。」
「・・…幸せだったよ・…」
「う…うちもや・…」
裕ちゃんは私にキスをした。
「愛してるで・・…。」
裕ちゃんの体から力が消えた。
「・…寝ちゃったの?」
裕ちゃんの顔を見ると安らかな顔をしていた。
私の大好きな笑顔…
「私も・…愛してるよ・・…雨やんだんだね…・・」
私達は一緒に永遠の眠りについた。
波の音が静かに私達を包んでいた。
END
- 146 名前:作者です。 投稿日:2001年09月11日(火)00時43分03秒
とりあえず、終わりました。
この後外伝みたいなのを書く予定です。
終わり方がちょっと望まれている物ではなくなって
しまい・…反応が怖くもあります。
感想などありましたらぜひ教えてください。
今までお付き合い、ありがとうございました。
>116さん。
殺さないでといわれてたのに・…ごめんなさい。
更新がんばったのでめっちゃ疲れたです。
読んでくださっている方の感想で元気がわきました。
本当にありがとう!!・・・・・・です。
- 147 名前:読んでる人 投稿日:2001年09月11日(火)02時11分43秒
- はうぅ〜・・・感動的なラストでした。
ハッピーエンドじゃないけど、決してバッドエンドじゃない(とオレ的には思う)
こーゆー終わり方も好きです。
作者さん、お疲れ様でした。次回作も期待して待ってます。
で、次回作はこの後の外伝ということは、やっぱりもう、やぐちゅうは登場しないんですか?
- 148 名前:15 投稿日:2001年09月11日(火)02時14分32秒
- 二人は、死んでしまいましたが、すッごく幸せだったんだろうなと思いました。
無茶苦茶感動してしまって、涙が止まらないっす。
とりあえず、更新お疲れ様でした。
外伝も期待しております。
では、失礼します。
- 149 名前:作者です。 投稿日:2001年09月12日(水)14時06分45秒
>>147さん。
こういう終わり方が受け入れてもらえて
ホッとしました。
外伝は中澤で行くつもりです。
近いうちに書くつもりですので…
今日か明日にでも。
また読んでください。
>>15さん。
最初から応援して下さってありがとうございます。
一番反応が気になってました。実は…
つたない文章で、読み難いものであったと思います。
それでも読んでいただいて・…
ほんとにありがとう。
外伝も是非読んでください!!
- 150 名前:15 投稿日:2001年09月13日(木)21時15分09秒
- 自分自身、書き手として、すごく尊敬してるッス。
外伝心待ちにしています。
では、失礼します。
- 151 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月14日(金)01時46分56秒
矢口を守れへんかった。
矢口が一杯血を流してる…
私のせいで…
私を守ってどうすんねん。
私がまもらなあかんかったのに。
あやっぺとやる前そう思ってた。
早く終わらせて急いで助けなって。
でも…私はもうあかん。
この傷やったらすぐ死ぬやろ。
あやっぺ、私を最後まで苦しめる為に急所はずしたんやろ?
でもちがうで。
矢口は答えてくれた。
「海岸つれてって」って。
その言葉が私の寿命をのばす。
矢口との時間の為に。
急いで救急車よんだら矢口は助かったかもな?
でも私はそうせんかった。
1秒でも矢口と一緒にいたい。
それ以上に、矢口と一緒に死にたい。
こんな弱い裕ちゃんを許してな、矢口…
- 152 名前:中澤裕子 投稿日:2001年09月14日(金)02時03分10秒
海岸で私は矢口によりかかった。
抱きしめたい。
でもな、腕にもう力はいらへんねん。
目もあかへん。矢口見れへん。
声もちゃんとでえへん。
口から出続けるんは血だけや。
でも矢口への気持ちは溢れでてんねん。
だから最後の力で、最後のキスをした。
私の想い全部伝わった?
こんな勝手でごめんな。
矢口が私を選んでくれたこと・・・絶対忘れへん。
今のキス、忘れへんで。
ほんまに最後にこれだけ伝えとくわ。
「愛してるで・…。」
これからも一緒に支えあって行きたかった。
矢口、ほんまに大好きやで…。
矢口の返事聞きたかったけど、もう限界や。
先行くな。
待ってるわ。
これから一緒に二人の思い出つくれたらええのにな。
めっちゃ好きやで・…
- 153 名前:作者です。 投稿日:2001年09月14日(金)02時11分23秒
外伝です。
中澤の最後の想いを書きました。
>15さん。
ほんとに最後までありがとうございました!!
短い外伝なんですけど、どうでしょう?
何を書いてらっしゃるんですか?
是非読みたいです。
よければ教えてください。
また、別の話を書き始めたいと思ってます。
もうちょっと構成ちゃんと考えて…
中澤が読んでた手紙はなっちからのものです。
なっちが死ぬ前にこっそり中澤の鞄にいれていたもの。
ちゃんと書きたかったのですが、こんな形での発表で
ごめんなさい。
- 154 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月14日(金)04時21分28秒
- ちょっと出張に行ってたものでレスが・・・
うんー終了ですか。残念です。&お疲れ様でした。
とても感動的なラストでした。
妄想スクリーンで中澤&矢口が本当に見えました。(w
伝外も中澤の気持ちが痛いようにわかりました。
質問の回答までありがとうでした。
でも、手紙の内容出きれば知りたかったです。(w
次の作品心よりお待ちしております。
- 155 名前:15 投稿日:2001年09月15日(土)00時03分58秒
- 裕ちゃんの想い、全て受け止めましたよ。
すっごいすっごいいいっす!!
下手に長く書くより、気持ちが伝わりました。
次回作、楽しみにしております。
で、私の小説は、ちと事情によりかなり中途半端に、
止まってしまっているんで、恥ずかしいのですが・・・(爆)
まぁ、たいしたものでないので、コソーリと。
では、失礼します。
- 156 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月15日(土)02時49分55秒
- 最初から一気に読ませて頂いたんですが・・・泣いてしまいました・・。
本当にこのお話・・・良かったですっ!!!
裕ちゃんの思いも矢口の思いも、ひしひしと伝わってきました。
次回作もかなり期待しています!!!
またやぐちゅーですかっ?!やぐちゅー、めちゃめちゃ大好きですvvv
- 157 名前:作者です。 投稿日:2001年09月15日(土)15時56分19秒
>154さん。
ありがとうございます。
中澤のラストをうまくかけたか心配だったのですが、
ちゃんと伝えることができたっぽいのでうれしいです。
>15さん。
短かったのですが、そう言っていただけてうれしいです。
是非また書き始められた時は教えてください!!
>156さん。
ありがとうございます!!
そう言っていただけると本当にうれしい…。
次もやぐちゅーで行きたいと考えております。
また、是非読んでくださいね。
- 158 名前:15 投稿日:2001年09月15日(土)22時19分58秒
- メール欄に、ヒントがあるですよ。
途中でいいなら、見に行ってみてください。
新作マターリ待ってます。
では、失礼しました。
- 159 名前:作者です。 投稿日:2001年09月15日(土)23時49分49秒
>15さん
ここに書くのはどうかと思いましたが書きます。
読ませてもらいました!!!
以前にも読んでました…が、1から読みました!!
ただ1言。
最高です。
おもしろすぎ!!やぐちゅー
また更新されるみたいじゃないですか!!
絶対読みますよ!!
今めっちゃいいところですね。
気になります。
なんか自分が恥ずかしいですよ…
素晴らしい物書かれている方に読んでもらっていたなんて…
あそこに感想かきこんでいいものかと思いここに書きました。
- 160 名前:15 投稿日:2001年09月18日(火)00時25分22秒
- いやはや、光栄です有難うございます。
ぼちぼち書いてますので、どうぞ見てやってください。
では、短めに失礼します。
- 161 名前:作者です。 投稿日:2001年09月27日(木)19時29分16秒
そろそろ第2弾を書こうかと思ってます。
やぐちゅーで…。
また読んでくださいね。
- 162 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月27日(木)20時06分06秒
昼は喫茶店。夜はバー。
そんなに広くもなく狭くもなく。
黒をベースにコーディネートされた店内。
店名は『・…』
- 163 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月27日(木)20時13分14秒
店主の名前は中澤裕子。
明日からのOPEN前に店で1人悩んでいる。
「なんちゅー名前にしよかなぁ。」
もうすぐバイトの子が面接にくる。
それまでに決めておきたいのだろう。
「自分のなまえいれんのもなぁ。ん〜…
バイトの子にきめさそかな。」
いいかげんである。
「バイトの子どんなんやろ?TELやったしなぁ。
元気そうやったけど。」
中澤がカウンターで1人ぶつぶつ呟いていると、
ドアがゆっくり開いた。
「あの〜面接にきたんですけど〜。」
金髪の少女がきょろきょろ中を覗いていた。
- 164 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月27日(木)20時20分19秒
-
「あー。んじゃここ座ってくれる?」
少女は中澤を見て明らかにビクッと反応したが、気を取り直して
カウンターに近付いた。
「よろしくおねがいします。」
座りながら、中澤を少し見てそう言った。
「何?なんや?」
「!?いっいえ…。」
少女は恐怖に震えたように小さくなった。
中澤には理由はわかっていた。
「髪の色にカラコン。んでこの関西弁にびっくりしたんやろ?」
金髪に青のカラーコンタクト。30歳前の女性ではまずいない
格好だろう。
「はぁ。」
少女は申し訳なさそうに中澤を見た。
- 165 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月27日(木)20時28分22秒
「まっ気にせんとって。んじゃ履歴書見してくれる?」
「はい。」
中澤は少女から履歴書を受け取ると一応目を通した。
「・…矢口真里さん。…今18歳か。…えっ18歳!?」
中澤は驚いて矢口を見た。
「はい。小さいからよく中学生に間違えられるんですけど、
もう高校も卒業してます。」
矢口もまたこういった反応には慣れているのか普通に返して
きた。
「…ふ〜ん。お互い誤解を招きやすいみたいやな。」
中澤はニッと笑ってごめんごめんと謝った。
「んで、矢口さんは週何回くらいが希望?」
「今なんにもしてないんで入れるだけ入りたいんですけど。」
「えっ週6回でもええのん?」
「はい。よろしければ。」
- 166 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月27日(木)20時48分12秒
-
中澤にとってこれほどおいしい話しはなかった。
「まじで?即決定!!頼むわ。時間とかは?
うちの店の営業時間は朝11時から夜の2時までやる予定
なんやけど、何時から何時まで入りたい?」
「別にこれと言って希望はないです。一人暮らしなんで時間も
大丈夫だし…。」
「ん〜 どうしょーかなぁ。さすがに毎日朝から晩までは嫌やろ?」
「いいですよ。ずっと入ってても。」
矢口は実際ずっと入りたかった。
「なら頼むわ。でも全然遊べへんで?いいん?事前に
ゆーてくれたら休みあげるけど。」
「はい。お願いします。」
- 167 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月27日(木)21時04分55秒
-
「おっしゃ。あっそうや。ここの店の名前考えてくれへん?」
「へ??」
矢口は驚いて唖然となった。こんなことまずありえないだろう。
普通では。
「全然思いつかんかってんかぁ。なんかない?」
自分とかなり年が離れている女性にこんなフランクに話される
のも、店の名前を考えさせられるのも初めてだった矢口は
なんとも言えない心境だった。
「・…何がいいんだろ?『Feather』とかはどうですか?羽って意味
なんですけど。」
一応案をだしておこうと、矢口は答えた。
「ええやんソレ。決定決定♪」
「えっ!!!」
フンフン♪と鼻歌を歌いながら奥に消えて行く中澤の背中を見ながら
矢口は呆然とした。
「そ、そんな簡単に決めて…」
矢口は中澤が心の底から不思議だった。
(でもいい人そうでよかった〜)
最初、店に入った時はどうなるかと思ったので、予想外の
中澤に安心した。
- 168 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月28日(金)01時47分56秒
- 待ってましたで!!
楽しみでーす。
- 169 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月28日(金)02時05分59秒
すぐに中澤は戻ってきた。
「明日には看板もくるし…幸先順調やわ。」
名前が決まったので電話をしにいっていたのだ。
矢口にオレンジジュースをだしながら笑う。
「ありがとうございます。」
矢口はジュースを一口飲んだ。
「んじゃ明日からこれる?これるんやったら10時40分入りで
きてくれる?」
中澤はビールをジョッキで飲みだした。
昼間から目の前でビールをあおりだした事に多少驚きながらも
矢口は笑顔で答えた。
「はい。…ところでお名前教えていただけますか?」
「あっゆーてへんかったっけ?うちは中澤裕子。よろしくな。」
「よろしくお願いします。中澤さん。」
昼間からビールをあおる女。
まるで中学生のように小さい女。
この金髪二人がこの店の全てである。
- 170 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月28日(金)02時19分39秒
-
翌日朝10時40分
「おはようございまーす。」
矢口はバイト初日ということで多少緊張しながら店にきた。
「おはよーさん。」
カウンターですでに営業準備を終えた中澤は新聞を読んでいた。
「ここの奥の部屋に荷物おいてな。あっこれ。」
新聞をたたみながら中澤は矢口に黒のエプロンを渡した。
矢口はエプロンを受け取ると奥に入っていった。
「矢口は何したらいいんですか?」
エプロンをつけ店にもどると矢口は中澤に問い掛けた。
昨日何の説明も受けてないのだ。
「注文とって、運んで、ってかんじで。だいたいできるやろ?
ここにメニューおいたあるし客きたら渡してな。」
「はい。わかりました。」
「まっそんな忙しくはならんやろー。大丈夫大丈夫。」
自分の店が繁盛しないと言いきる店長なんているものなのだろうか?
矢口は返答できず、笑ってごまかした。
- 171 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月28日(金)13時40分08秒
- 楽しみが戻ってきた。
ワッショイ!
- 172 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月28日(金)16時26分17秒
11時になり、中澤がドアにOPENという札をかけた。
看板は朝にでもきたのだろうか、店にかかっていた。
「ほんとにアレになったんだ。」
矢口はボーっと看板を見ていた。
ただのバイトの自分がつけた名前である。
少し複雑な気分だった。
カランカラン。
ドアに付けられた小さな鐘がなる。
お客第1号だ。
「いらっしゃいませ〜。」
矢口は緊張しつつも、客を席に案内した。
「・…中澤さんいますか?」
席に案内された女性は店をキョロキョロしながら矢口に聞いた。
「あっ、はい。少々お待ちください。」
矢口はカウンターに居ない中澤を探しに奥の部屋を急いで
覗きに行った。
「お客さんきた?」
調度階段から降りてきた中澤はキョロキョロしている矢口に声を
かけた。
「はい。あっあの、中澤さんを呼んでらっしゃるんですけど・・」
「えっ誰やろ?」
中澤と矢口は店に戻った。
- 173 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月28日(金)16時37分16秒
「裕ちゃん!!」
メニューを見ていた女性が顔をあげて中澤に手を振った。
「なんや、来てくれたんや〜。」
中澤が女性に駆け寄る。
「良い感じの店じゃん。アイスコーヒーもらえる?」
「ありがと。んじゃちょっと待ってや。」
中澤はカウンターに戻った。
矢口はする事なく、一応端に立っていた。
「知り合いやねん。矢口さんも暇やったら座ってていいんやで。」
アイスコーヒーを作りながら矢口に中澤は声をかけた。
「はい。」
カウンター席に少し腰をかけると隣に女性がきた。
「ここ座るよ。バイトの子?」
「そうやねん。はい、どうぞ。」
「ありがと。」
そう言うと女性は矢口の方を向いた。
「裕ちゃん怖くない?」
「いえっ、そんなことないです。」
矢口は手をパタパタと振った。
「私、石黒彩っていうの、よろしくね。」
ちょくちょくくるからさっといって矢口に満面の笑みを見せた。
「矢口真里です。」
- 174 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月28日(金)16時47分24秒
「ちょっと!!変なことゆわんとってや。なんも怖ないっちゅーねん」
中澤が石黒を軽く睨む。
「怖っ!!それが怖いんだってば!」
矢口はそんなやりとりがおもしろかったのか少し吹き出してしまった。
「真里ちゃん、なんかあったらすぐいいなよ。」
石黒が笑顔で話す。
「はい。」
「なんもせーへんっちゅーに…ってはいってどういうことやねんな。」
中澤も笑顔でつっこんだ。
「すいません。」
「まっえーえー。矢口さん…なんか堅苦しいな。なんてよんだらええ?」
「えっと・・矢口ってよばれるんで、矢口と・・」
「ふん、わかった。うちのことは裕ちゃんってよんでな。」
矢口は一瞬戸惑った。こんな年上をちゃん付けで呼ぶなんて
したことがないからだ。
「呼んだげて。呼ばないとすねるからさ。」
- 175 名前:undefined 投稿日:2001年09月28日(金)17時01分21秒
- わくわくo(^-^)o
矢口もねえさんも、かわうぃ〜〜
前作面白すぎ、新作楽しみです。
- 176 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月28日(金)17時09分56秒
-
「すねるって…ひどいなぁ、あやっぺは。」
1人ため息をつく中澤。
「で、でも…。」
矢口はさすがに呼べないと言った感じで答える。
「敬語もええで、ほんまに気軽によんでな。」
「そうだよ。私も裕ちゃんとかなり年離れてるけど
呼んでるしさ。」
「かなりってなんや。たったの5歳やんか。」
「矢口は何歳?」
「18ですけど。」
「なら裕ちゃんと10歳もはなれてんだ。」
「ええっ!!」
矢口は実際10歳も離れているなんて知らなかったので本気で驚いた。
「そんなおどろかんでも・…」
年齢がばれたのが少し恥ずかしかったのか中澤の声は小さい。
「あっごめんなさい。」
矢口もなんて失礼なことしちゃったんだろ、と小さくなる。
- 177 名前:作者です。 投稿日:2001年09月28日(金)17時16分28秒
>168さん。
ありがとうございます。
ちびちびですがやっていきたいと思います。
>171さん。
ご期待に添えられる様がんばります。
>175 undefinedさん。
ありがとうございます。
前作の感想かなりうれしいです。
展開ややゆっくりですが、どうぞ読んでやって
下さいマセ。
- 178 名前:読んでる人 投稿日:2001年09月28日(金)18時02分13秒
- >作者さん
あなたの新作をずっと待ってました。
この作品も激しく期待してます。がんばって下さい。
- 179 名前:読み人 投稿日:2001年09月28日(金)18時57分08秒
- 新作ですか。待ってました。
やぐちゅーは永遠だー。
- 180 名前:作者です。 投稿日:2001年09月28日(金)19時53分02秒
>178 読んでる人さん。
ありがとうございます。
そう言っていただけると…
本当にうれしい限りです。
がんばって期待にそえれるものにしたいと
思います。
>179 読み人さん。
同感です。
- 181 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月28日(金)20時07分44秒
-
「ちょっちょっと何っ二人して…」
石黒は飽きれてコーヒーをすすった。
「ええねん。どうせうちは年とってんねん。」
「は?何裕ちゃん、聞こえない。」
中澤が呟いているのを聞こうと石黒が身を乗り出して聞こうと
した。とどめをさしているようなものだ。
「・・…裕ちゃん。」
しょぼくれる中澤を矢口が少し照れながら呼ぶ。
「矢口〜 呼んでくれんにゃ〜 ありがと〜
裕ちゃんうれしいわ〜。」
中澤はカウンターの内から思いっきり身を乗り出して矢口に
抱き着こうとした。
ガンッ!!!
「!!!」
わき腹を角に強打して声にならない物を発してうずくまる中澤。
「だっ大丈夫ですか?」
目の前で笑顔から苦痛にゆがむ顔に変わったのを直視した矢口。
「ほんとバカなんだから…。」
うずくまる中澤を覚めた目で見つめ、コーヒーをすする石黒。
(いっ痛そう…それにしても石黒さん 冷静だよね。
いつもこんなのなのかな?)
矢口は中澤を少し哀れみながらもそんな事を考えていた。
- 182 名前:15 投稿日:2001年09月28日(金)21時51分39秒
- 新作始まりましたね〜。
待ってました!!
いやぁ、なんかもう、裕ちゃんとあやっぺと矢口のやり取りが良い感じです。
矢口のに抱きつこうとして、角に腹をぶつけちゃう裕ちゃんの間抜けさが、
すごく微笑ましいです。
では、この辺で失礼します。
- 183 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月29日(土)11時10分07秒
- やぐちゅーいいですね。どうやってラブラブになるのかな?
先が楽しみです。がんばって下さい。
- 184 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月30日(日)01時35分59秒
その後石黒は1時間くらい中澤らと話しながら店にいたが、
だんだん店に客が入りだし、忙しくなり始めたので、席をたった。
「なんや?帰んの?」
中澤はカウンター内で料理を作りながら席を立つ石黒に目をやった。
「忙しくなってきてるしね。夜さ、バーになったらまた来るよ。」
そう言ってピラピラと手を振た。
調度、注文の品を運んでいた矢口が帰ってきた。中澤は目で矢口
に、石黒の御代はいらないことをさっと告げた。矢口もそれを即
座に理解し、石黒がドアの方に向かうとすぐにドアを開けて待った。
「あっまだ払ってないよ。」
石黒が席を振り返って勘定を探す。
「ええよ。」
中澤が満面の笑みで石黒を送りだしにきた。
「また夜きてくれんにゃろ?待ってるわ。」
石黒は矢口が開けてくれているドアを抜け外へでた。
「ごちそうさま。んじゃまた後でね、お二人さん。」
「ありがとう。」
「ありがとうございました。」
ドアの前に並んでいる金髪のアンバランスな二人に笑いがこみ上げて
きたが、石黒はそれをなんとか押さえて帰って行った。
- 185 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月30日(日)01時57分02秒
「んじゃこれ2番に頼むわ。」
店に戻ると中澤はすぐに料理をしあげ、矢口に渡す。
「はい。」
矢口は初日ながらもテキパキと仕事をこなしていた。
それから3時間程して、ランチの客ひき、店も少し落ち着いた。
「矢口〜 おつかれさん。休憩入ってな、っちゅーかお腹
すいてるやろ?なんか作るし一緒に食べよ〜な。」
矢口はセカセカとテーブルを拭いたり、皿を洗ったり、なにかと
仕事を見つけて働いていた。
「はい。」
客席を整え、矢口はカウンターに近付いた。
「今調度客おらんし休んどかなな。」
中澤は矢口をカウンターに座らせ、フライパンを振るった。
矢口は実際中澤の料理を口にするのは初めてなのですごく楽しみ
にしていた。さっきからお客に運ぶたびに、おいしそうな料理だと
思い、味が気になっていたのだ。
「スパゲティーでええ?」
「はい。」
中澤はたらこスパゲティーを矢口に渡した。
「味、気にいってくれたらええけど…」
オレンジジュースを渡しながら矢口の隣の席に自分のぶんのも持って
やってきた。
- 186 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月30日(日)02時16分32秒
「いただきます。」
中澤は神妙な顔つきで矢口が食べるのを見ていた。
「…おいし〜。」
矢口が目をぱちくりさせながら中澤を見る。
「ほんま?はぁ、良かった。ならうちもいただきます。」
矢口の笑顔に満足した中澤は自分の顔がにやけているのを隠そう
と、スパゲティーを食べだした。
「これから矢口はちゃんと昼の時間決めなあかんな。今日みたいに
遅くなったりするしな。」
「別に大丈夫ですよ。」
「矢口〜遠慮せんとちゃんとゆーてや?しんどいやろ?
20席くらいやけどさっきそれなりに埋まりおったしなぁ。」
中澤が優しい笑顔で矢口に話しかける。
何故か矢口はその笑顔に、自分の顔が少し赤くなるのを感じたが、
「テーブル席は3つだし、全然大変じゃなかったですよ。」
と仕事を振りかえった。
「夜のほうが忙しくなるかもなぁ。とりあえず明日からは2時と
7時に休憩入ってもらうってゆーんでええ?裕ちゃん特製ご飯
付きで。」
「矢口は全然いいですよ。いいんですか?」
「もちろん。」
中澤の満面の笑みに矢口はなんとなく目線をはずしてしまった。
- 187 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月30日(日)02時32分46秒
「なぁ、敬語やめれへん?」
「へ?」
中澤が矢口の顔を寂しそうに覗きこむ。
「さっきからず〜っと敬語やんかぁ。うち敬語しゃべられるん慣れて
ないねんなぁ。」
矢口は少し中澤の寂しい顔に切なくなった。
「まぁ、・・無理にとは言わんけどな。」
ハハハ、と力無く笑って中澤はスパゲティーを食べほした。
「わかったよ。裕ちゃん。できる限りこうやって話すね。」
矢口がそう言うと中澤の顔が満面の笑みに変わる。
(かわいい人だなぁ。…っていうかなんでドキドキしてんだろ?
年上の人と話す事なんて初めてだったからかな?)
矢口が自分の心に何か引っかかりがあるきがしたが、すぐに忘れて
スパゲティーを食べた。
が、隣からの衝撃で続きを食べることはできなくなった。
「矢口〜 かわいいなぁ〜」
さっき抱きしめられなかった分、今度こそはと、力一杯中澤は
矢口を抱きしめた。
「ゆっ裕ちゃん!?」
矢口は照れくさかったが、なんだかうれしかった。
- 188 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月30日(日)12時15分42秒
遅目の昼食を食べ終えた二人は並んで紅茶を飲んでいた。
「でも矢口、毎日毎日休みなしでバイト入るって、なんか
お金困ってんの?」
「いえ、困ってる訳じゃないんだけど…。」
ちょっと返答に困る矢口を中澤があわてて制す。
「あっえーでえーで。別に、ちょっと聞いてみたかっただけやし。
プライベートは聞いたらあかんわな。」
中澤はハハハと笑って紅茶を飲み干した。
「まぁ、無理せんとやってな。」
中澤はそう言うとカウンターに入り皿を洗い出した。
「やりますよ。」
矢口もあわてて立ちあがる。
「まぁまぁ、ゆっくりしといて。お客さんくるまで休憩やねんから。」
中澤は皿を洗い終わると、またカウンター席に座った。
矢口は少し気まずいさを感じたが着付かれないようちょっと外を見た。
さっきから中澤に感じる微妙な気持ちも隠そうと。
「ええ天気やなぁ。」
中澤も外を見て呟く。
晴れた、気持ちの良い午後だった。
- 189 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月30日(日)12時30分11秒
その後まばらに客がやってき、それなりに忙しく過ごした。
カウンター席の客とちょっとした会話をする中澤をちらちら見ながら
矢口はレジをうったり、料理を運んだりした。
夜6時
「そろそろバー様に照明落とすか。」
中澤が矢口を手招きする。
「ここのスイッチ下げたら照明絞れるし。んでこのスイッチつけてな。」
中澤が見本でスイッチを押す。
店内が暗くなったと思ったら、テーブルや床からほんのりと赤い照明
がつく。
「これお金かかってんで〜」
そんな店内を満足気に見ながら中澤が呟く。
「色もなかえれんねん。」
赤、青、白、紫、緑、と次々に店内の雰囲気が変わる。
「紫が一番好きやねんけどな。」
「すごーい。すごくいい!!」
矢口が興奮した感じで証明を見る。
「夜が目的やからテーブル席とかソファーにしてんねん。気にいった?」
「すっごい気にいったぁ!」
隣でキャッキャとはしゃぐ矢口を見る中澤の顔は知らず知らずの内に
優しい笑顔になっていた。
- 190 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月30日(日)13時09分04秒
店内のライトアップも終わり、中澤達は夕飯を食べていた。
焼き飯といういたって簡単なものだったが矢口の口に合い、
ここでもまた美味しいと連発する矢口がいた。
「裕ちゃん、すっごく美味しいね。」
矢口の笑顔に少し照れながら中澤も焼き飯を食べる。
矢口が裕ちゃんと呼んでくれているのもうれしく感じる。
「そんな顔して食べてもらえたらうれしくて一杯作ってあげたく
なるわ〜。」
中澤は矢口にまた抱きついた。
「ゆっ裕ちゃん!?」
他人に抱きつかれることに慣れていない矢口は照れてどう対応
していいのかわからず、固まる。
(抱きつき癖があるんだね。)
しかし、嫌な感情などなく、むしろうれしかった。
「矢口かわいいわ〜。」
少し赤らめいた矢口の顔を覗きこむ中澤。
ますます赤くなる矢口。
そんな二人の静かな時間はドアの開く音によって阻まれた。
カランカラン
「元気〜 二人とも〜。」
石黒が数人の女性を伴って店にやってきた。
「いらっしゃい。おっ皆連れてきたんや?」
中澤が振りかえって話し出す。
「おっこの子がバイト?」
ワイワイと店内が騒がしくなった。
- 191 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月30日(日)14時40分58秒
「紹介するわ。バイトに来てくれてる矢口真里さん。」
中澤が矢口の肩をもって紹介する。
「矢口真里です。よろしくお願いします。」
少し緊張しつつも頭をさげる。
「あやっぺで〜す。」
石黒が手を挙げて言う。
「あんたはもーしっとんねん。」
すかさず中澤がつっこむ。
「はじめまして。安倍なつみです。」
少し小柄な女のこが矢口に握手を求める。
「どうも。」
「なっちってよんでね。」
「私は飯田圭織。よろしくね。」
長身の女性が矢口を見る。
矢口は少し後ずさり気味に会釈をする。
「かおり〜あんたの目怖いねん。力入りすぎやで!!」
矢口の後ろから中澤が笑う。
「裕ちゃんの目の方が怖いよ〜」
「なんやて〜!!」
そんな飯田と中澤を無視してショートカットの女のこが矢口に
近付いてきた。
「いっつもあんなんだよ。私は市井紗耶香。よろしくね、矢口さん。」
「よろしく。」
「さっ座って座って。裕ちゃん何してんの?」
石黒はさっさとソファーに身をうずめ、飯田を追いまわしていた中澤
にあきれていた。
- 192 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月30日(日)14時52分09秒
「何飲むん?」
肩で息をしながら中澤はカウンターに戻る。
「どうぞ。」
矢口は急いでメニューを渡した。
「とりあえず生6つ。」
市井が矢口にいう。
「6つ?」
「はいよー。矢口〜取りにきてんか〜」
すでにサーバーから生をついでいた中澤が矢口をよんだ。
「はっはい。」
矢口はとりあえず生6と書いて戻った。
「2つずつ持っていこか。」
中澤が矢口に生ビールを渡す。
自分も生ビールを2杯持ってカウンターから出てきた。
「どうぞ。」
それぞれが生を手にする。
中澤がまた戻って行くのを見ながら矢口も行こうとすると
安倍にエプロンを引っ張られた。
「どこいくの?そこ座って座って。」
意味もわからず座らせられる矢口。
そんな矢口の前に生ビールを持った中澤が帰ってきた。
「ほい。矢口も。」
「えっ私も??」
「開店記念に乾杯しょーや。飲めるやろ?」
(矢口未成年だけど…)
- 193 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月30日(日)15時05分24秒
「未成年?市井もだよ。」
「気にしない気にしない。」
口々に矢口に言う。
「はよ飲もっ」
中澤は矢口にやや強引に生を渡すと矢口の隣に座る。
「んじゃ、裕ちゃんの店の繁栄を願って〜」
「「「乾杯〜」」」
矢口が中澤を見ると半分ほどをすでに飲み干していた。
矢口もちょっと口をつける。
「うま〜 やっぱ仕事中のビールは最高やなぁ。なぁ?」
中澤が矢口に話しかける。
「う…うん。」
バイト初日にビールなんて飲んでいいのかな?と戸惑いながら
矢口は答えた。
「さっドンドン飲んでや。」
そう言うと中澤はもうビールをあけた。
「裕ちゃん早すぎだべ。」
「矢口ももっと飲みなよ〜」
安倍や石黒が中澤達を見た。
「裕ちゃん特製おつまみ持ってくるわ。」
空になったジョッキを持って中澤はカウンターに入っていった。
矢口も後にいそいで続く。
「あっ来てくれたん?ならこれ持っていったげて。」
サーバーから2杯目を注ぎながら矢口にチーズの盛り合わせを渡す。
- 194 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月30日(日)15時15分07秒
「どうぞ。」
矢口がチーズを持って行くと安倍が興味深々な顔で矢口を見ていた。
「?」
「裕ちゃんに変な事されてない?」
「いえ、別に何も。大丈夫ですよ。」
そこに石黒が参加する。
「今日裕ちゃん、矢口に抱き着こうとして思いっきりワキを角に
ぶつけてたよ。」
「あははは、バカだねぇ、裕ちゃんは〜。」
皆が一斉に笑い出す。
「何笑ってんねん?」
そんななかひょこっと当事者が顔をだした。
「相変わらずなんだね。裕ちゃんは。」
市井が飽きれ顔で呟く。
「は?そんなこと言う子にはこれあげへんで。」
中澤はポッキーやポテトチップスを大量に入れた皿を上に高々と
あげる。
「嘘嘘!!ちょーだい。」
そんな二人のやり取りにまた皆が声をそろえて笑った。
- 195 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月30日(日)15時29分12秒
「生以外飲みたなったらすぐゆーてや、作るしな。」
中澤が席に座って声をかける。
「ほいほい。裕ちゃんじゃないんだからそんなすぐに飲み終えないって。」
石黒が中澤に答えつつ、矢口を見た。
「矢口〜今日は腹をわっていろいろと聞くぞ〜」
そういうと矢口を強制的に隣に座らせる。
「ちょっと!!うちの矢口に何すんねん!!」
「まぁまぁ、裕ちゃんはそこで飲んでなって。」
「しかたないなぁ。なっちが相手したげるべ。」
安倍が中澤のテーブルに移動する。
矢口は隣に石黒、向かいに飯田と市井という席に座っていた。
「まぁ、飲んで飲んで。」
安倍からまわってきた矢口のビールを渡しながら飯田がすすめる。
「はい。」
矢口は1口含むと全て自分に注がれている視線を避ける様に少し
うつむいた。
「ごめんごめん。こんなに見られたら照れるよね。」
市井がポッキーを口に入れる。
- 196 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月30日(日)16時20分37秒
「なんや矢口いじめてんのちゃうやろな〜?」
いつのまにか中澤がカクテルとたくさん持って矢口の横にいた。
「これ矢口のんな。」
水色のカクテルをわたす。
「これはもらいっと。」
そう言って矢口のビールを飲み干した。
きょとんとしている矢口に
「間接キス〜。」
といって、安倍の待つ席に戻っていった。
「意味わかんないね。」
「ビール好きだねぇ。」
石黒たちはそれぞれカクテルを手にした。
「タイミングも好みもばっちりだけどね。」
「ちょうどビールなくなってるしね。」
「さすが裕ちゃん。」
それぞれ中澤に感謝の面持ちで振りかえった。
しかし…
- 197 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年09月30日(日)16時29分57秒
「なっち〜 いいやんかぁ〜」
「やだよっ裕ちゃん〜やめてよ〜」
中澤が安倍にキスをしようと襲い掛かっているところだった。
「・…前言撤回。」
「やっぱり・・バカだね。」
石黒達はそっとカクテルを飲んだ。
矢口もなんとなく同じ気持ちになった。
(矢口がビール苦手なのわかったのかな?だから飲んでくれた
のかな?)
と思っていた矢先に安倍を襲っていたのである。
皆のあきれ顔が見えたのか、
「なんやの?変な顔して…。」
安倍を押さえつけながら中澤は皆を見た。
「…うんうん。なんでもないから続きでもどうぞ。」
飯田が横目でみる。
「ちょっとかおり〜!!止めてってば〜。」
安倍の叫び声が店に響いた…。
- 198 名前:作者です。 投稿日:2001年09月30日(日)16時35分48秒
>15さん。
やっと新作書き始めました。
今回もぜひ読んでください!!
お願いしますね。
>183さん。
ゆっくりラブラブにさせようと考え中です。
更新もゆっくりになるかもしれませんが、
読んでやってください。
- 199 名前:15 投稿日:2001年09月30日(日)23時51分37秒
- 読ませて頂いてます。いいですね〜。
かなり面白いですよ。
抱きつき癖とキス魔な裕ちゃんが良い感じです(笑)
なんか、矢口の心の揺れみたいなのもいいっす。
メンバーは、この他に出るのでしょうかね?
まぁ、今後の展開を楽しみにしています。
では、失礼します。
- 200 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月01日(月)16時19分14秒
「まっあっちはほっといてこっちはこっちで盛り上がろうよ。」
市井がカクテルを持ち上げる。
「そうだね。矢口との出会いに乾杯しようか。」
石黒もカクテルを持ち上げる。続いて飯田も。
矢口もとまどいつつもカクテルを持ち上げた。
「「乾杯」」
カチンと音をさせるとそれぞれカクテルを飲む。
「矢口って呼んでいい?市井って呼んでね。」
市井がにこやかに矢口に話しかけた。
「かおりも〜。かおりって呼んでね。」
「あたしは彩っぺってよんでね。」
一斉に矢口につめよる。
「はい。」
「敬語なんていいって!!さっ飲もう飲もう。」
「でも、今仕事中だから・・。」
「へ?さっき裕ちゃん看板しまってたよ。今日はあたしらの
貸切りなんだから仕事なんてないない。」
石黒が笑いながらカクテルを飲む。
「えっ・・。」
まさか店がしまっているなんてしらなかった矢口は動揺した。
- 201 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月01日(月)17時23分48秒
「今日は飲んで飲んで飲みまくるぞー!!」
飯田は一気にカクテルを飲みほした。もう顔がほんのり赤い。
「かおりはすぐ酔って寝ちゃうだろっ。」
市井は横目で飯田を見つつ、矢口に話しかけた。
「何歳?市井は17だよ。」
「18。1つ違いなんだ?」
矢口は年下がいるのに少し驚いた。
「えっどういう知り合いなの?」
「なっちと裕ちゃん、なっちとかおり、彩っぺと市井、彩っぺと
裕ちゃんがもともとの知り合いだったんだ。たしか一杯集めて
飲もうって裕ちゃんと彩っぺが言い出して集められたって感じ。
もう1年くらい前だったけどね。」
「そうそう、それで楽しかったから皆でちょこちょこ飲むように
なったんだよね。紗耶香なんて酒全然飲んだことなかったから
酔って大変だったよね。」
「あのときは…自分の限界知らなかったからさ。」
少し照れくさそうに笑う市井。
「これからはこの会合に矢口も参加だね。」
「もちろん。だから早くあたしらに慣れてよ。」
飯田と石黒が矢口を見る。
「えぇっ!?」
矢口が驚くと市井が笑って矢口に言う。
「裕ちゃんが来ないと許さないよ。」
- 202 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月01日(月)22時06分41秒
「裕ちゃんが知り合いつれてくるなんてまずなかったもんね。」
「そうそう、人見知り激しいし市井の知り合いつれてきても
まったくしゃべんなかったもん。」
(人見知り?)
矢口は昨日の中澤の姿を思い出した。人見知りをする人とは
なんとなく思い難い。
「好き嫌い激しいしね。かおりとしゃべるのも結構時間かかった
んだっけ?」
「そうそう、なっちとしゃべってたら絶対近くにこなかったもん。」
「かおりはあんまり周り気にしないからよかったんだよ。市井の
連れは裕ちゃん怖がって2度と来ない様になったし。」
「へ〜そうなんだ〜。」
意外な事実に矢口はそう言うことしかできなかった。
「まっ矢口は裕ちゃんに気に入られてるってことかな?」
石黒が矢口の肩をポンポンっと叩く。
「悪い人じゃないからさ、気軽に相手したげなよ。」
- 203 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月01日(月)22時18分19秒
-
それからしばらく、矢口は石黒達といろいろと談笑していた。
だいぶ皆酒が入り、最初のちょっとした遠慮などなくなっていた。
「矢口、席交代してくれる?」
気がつくと安倍が矢口の隣にいた。
「うん。いいよ。」
矢口は中澤の居るテーブルに移動する。
「おっ矢口やんか〜。」
中澤の前には大量の空いたジョッキがあった。
「こんなに飲んだの?」
「まだまだ今日は飲むで〜。そや、矢口にいいカクテル作ったろ。」
そういうと中澤は矢口の手をひいてカウンターに入った。
「皆のも作ったるか。」
シェーカーにイロイロなものを手際よく入れてシャカシャカとふる。
(似合ってるなぁ。)
矢口はそんな中澤をぼーっと見つめていた。
中澤が作り出すカクテルは鮮やかな色をしていた。
「んじゃ、これ持っていったってくれへん?」
お盆に人数分以上のカクテルが並ぶ。
矢口はゆっくりと運んだ。
「どうぞ。」
「あっありがと〜。」
「矢口も裕ちゃんもサンキュー。」
矢口はカウンターにあいたグラスを持って戻った。
- 204 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月01日(月)22時28分40秒
「ありがと。まぁ、それは置いといて。これが矢口のんな。」
中澤の手元には紫色のカクテルがあった。
「さっさ、席戻って飲も。」
中澤にせかされてテーブルにつく。
「裕ちゃんは?」
「うちはこれや。」
焼酎の水割りセットを指さす。
「まぁ、それ飲んでみてや。」
中澤は自分の酒を作りながら矢口がカクテルを飲むのを見ていた。
「・・…あっこれすっごいおいしい。」
「ほんま?それ自信作やねん。」
うれしそうに笑う中澤を見て、矢口はまた胸がドキドキするのを
感じた。
(まただ・・。これってもしかして…。)
「!?」
矢口が考え事をしていると突然口がふさがれた。
「矢口のキスいただき〜。」
離れたと思ったら中澤がにんまり笑っているのが見えた。
(!!!キスされた!?)
矢口はどう対処していいのか少し口をあけたまま呆然としてしまった。
- 205 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月01日(月)22時38分44秒
「言い忘れとったけどな、うちキス魔やねん。」
焼酎をグビっと飲みながら平然と中澤が矢口に話しかける。
「・・…そ、そうなんだ。」
矢口は心の動揺を隠すように答えた。
そんな矢口を見て、向かいに座っていた中澤はサッと矢口の隣に
移動した。
「なっ何?」
ピクッと反応する矢口。
「別に。近くで顔見たかっただけやで。」
ジーっと矢口を覗きこむ。
矢口は自分で顔が赤くなっているのに気付いた。
「なんや、ちょっと酔ってきてんのちゃう?大丈夫か?」
中澤に気持ちがばれてないのに安心した矢口はカクテルを1口飲んで
答えた。
「まだ大丈夫。」
(裕ちゃんを…好きになっちゃった…)
- 206 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月01日(月)23時08分47秒
(とりあえず、今は考えるのよそう。気の迷いかもしんないし。)
矢口はとりあえず話をふった。
「裕ちゃんって酒強いね。」
「ん?そんなこともないで。」
「強いよ〜 何杯のんでんのさ?」
「まだ5杯くらいやで。それより矢口今彼氏おんのん?」
中澤の突然の話題に一瞬飲んでるカクテルを噴出しそうになる。
「いっ居ないけど・・。」
「ふ〜ん。好きな人は?」
「居ない・・かな?ゆっ裕ちゃんは?」
なんとかはぐらかす。
「うちっ!?まっまぁ一応は・・な。好きな子はおるよ。」
「へぇ・…。」
ちょっと気まずくなる二人。
(好きな子いるのかぁ…)
ショックをうけたが矢口は持ち前の明るさで話題を変える。
「それよりさっ。飲もう飲もう。」
グビグビとカクテルを飲む矢口に一瞬驚いた表情を見せた中澤
だったが、
「飲むで〜。」
と一緒になって焼酎をあおる。
この二人のピッチが早くなったのは言うまでもない。
- 207 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月01日(月)23時26分11秒
「なっ矢口も裕ちゃんもどんなけ飲んでんの!!」
市井が振りかえって見ると、矢口までもが焼酎を飲んで
いて、すでに焼酎のボトルの中には少ししか残っていなかった。
「矢口なかなかいける口やねんで〜。」
ニコニコしながら中澤が焼酎をあおる。
「半分以上は裕ちゃんが飲んだんだよ。」
チビチビと飲みながら矢口が市井を見る。
「裕ちゃんと飲みあえるなんて凄いね。…まっいっか。」
「い〜のい〜の。なっ?」
自分の焼酎を作りながら中澤は矢口を見る。
「うんっ。」
「こっちは彩っぺが潰れそうだよ。」
見ると石黒は眠そうに目をこすっている。
「なんやなんや、もうかいな。どうせ皆とまんにゃろ?
2階に布団ひいたあるから寝に行くか?」
中澤が立ちあがる。
「・…う〜ん、寝る。もう限界。」
石黒もフラフラしながら立ちあがる。
「相変わらず弱いんやから…。んじゃ連れて行ってくるし
飲んどきや。」
中澤は石黒を半分抱えて奥に消えていった。
- 208 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月01日(月)23時39分30秒
矢口は中澤の姿が見えなくなるとソファーに身をうずめた。
手の中にある焼酎の氷がカランっとなる。
「矢口?どうしたの?」
安倍が後ろから声をかけた。
「ううん。なんでもないよ。なっち飲んでる?」
矢口は後ろに身をかえして聞いた。
「飲んでるよ。かおりも紗耶香ももっと飲もうよ。」
「かおり?また交信中だね、これ。市井は次何飲もうかな。」
ぼーっとしている飯田を横目に市井はメニューを見る。
「一緒に熱燗なんてどう?」
安倍が市井に提案する。
「いいねぇ、裕ちゃん帰ってきたらみんなで熱燗飲もうか。」
市井が矢口にも確認した。
「そうだね。」
矢口はそう言ってもう1度席に身をうずめた。
(今日帰ったらゆっくり裕ちゃんのこと頭で整理しなきゃ。)
- 209 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月02日(火)00時04分56秒
中澤が帰ってくると同時に、飯田が寝に行った。
「いける?」
「うん、大丈夫。上行ったらわかるよね?」
飯田はお先、と手をヒラヒラ振って奥に消えて行った。
「ほんまあの二人は酒弱いなぁ。」
中澤はカウンター内で熱燗を作りだしていた。
矢口はテーブル席のグラスを片していた。
「矢口ありがとうなぁ。」
「うんうん。こんなことしかできないし。」
あまりにたまったので矢口はグラスを洗っていた。
「・・・。」
矢口が洗い終わると中澤が矢口をじっと見ているのに気がついた。
「ん?何?裕ちゃん。」
「矢口〜!!」
突然中澤が抱きつく。
「かわええなぁ〜。」
「ゆっ裕ちゃん!」
(ひっ人の気持ちも知らないで・・うれしいけど・・)
「うちのもんにしたいわ〜。」
「矢口は物じゃないっての!!」
とりあえず矢口は強気な態度で反抗した。
そんな二人をただ黙って見ている姿があった。
- 210 名前:作者です。 投稿日:2001年10月02日(火)00時12分33秒
>15さん。
ようやく矢口が中澤に想いを持たせることができました。
ちょっとダラダラなっちゃいましたが徐々に展開早くできるように
したいと考えてます。
痛くするか…甘くするか…
悩み所・…
- 211 名前:名無し読者。 投稿日:2001年10月02日(火)01時09分25秒
- 裕ちゃんの好きな子は誰なんだろう。気になる〜。
前作が痛めだったので、今回はできれば甘くしてほしいっす。
あ、でもどちらでも良いです。つづき楽しみです。
- 212 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月02日(火)02時34分20秒
- 確かに前回痛めだったけど・・・
やぐちゅーて甘めが多いので出来れば・・・痛めで・・・
でも最後は今度幸せにして欲しいな〜。
希望多すぎ(w
作者さんすいません。あくまで希望なので気にしないでください。
- 213 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月02日(火)09時01分18秒
- おいらも甘め希望!
しかし作者さん、かくペースが素晴らしく速いですね。
でも、見ている目はなっち?
ってことはやぐなっちゅー?TSUNAGI?
楽しみい
- 214 名前:15 投稿日:2001年10月02日(火)20時36分36秒
- 矢口の戸惑いとかいいっすね。
さりげない裕ちゃんの優しさも良いです。
裕ちゃんのキャラが、個人的に大好きです。
ストーリー展開が、とにかく楽しみです。
作者さんの感性に期待しています。
てゆーか、惚れてます(笑)。
では、この辺で失礼します。
- 215 名前:作者です。 投稿日:2001年10月02日(火)22時54分05秒
>211さん。
ありがとうございます。
中澤の方もそろそろ手をつける予定です。
甘めっすか?
どちらでもいいとの言葉に安心。
まだはっきりきめれてなく…
どうなっても許してください(苦笑
>212さん。
ありがとうございます。
希望大歓迎です。全部取り入れられるかはわからないけど。
痛めになるかもまだきめれてないので、
是非これからも読んでやってください。
>213さん。
バレバレでしたね…その通りです。
ペースはこんなものでいいと言って下さって光栄な限り・・。
今は順調な方です。
このままやって行くつもりですが。
まぁ、読んでやってください。
>15さん。
前回の質問に…一応まだメンバーだすつもりです。
中澤が気にいってもらえてうれしいです!!
毎度毎度ほんとにありがとうございます!!
期待はずれにならない事だけを願うばかり…
また感想お願いします。
- 216 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月02日(火)23時11分49秒
「熱燗!熱燗!!」
矢口は中澤の気をそらした。
「そやった、そやった。」
名残惜しそうに矢口から離れると中澤は火をとめた。
「おちょこ4つ持って行ってくれるか?」
戸棚から取り出して矢口に渡す。
「先行くね。」
矢口はこれ以上心の動揺が広がらないようにそそくさと戻って行った。
「おっできた?」
市井は席をつめた。その隣に座りながら矢口はおちょこを置く。
「もう持ってくると思うよ。」
そう言うとカウンターの方を見た。
中澤がお盆に乗せて持ってくる所だった。
「おまたせ〜。んじゃ飲もか。」
1人1人配る。
「…くぅぅぅ!!美味しいなぁ。」
「裕ちゃん年よりくさいよ。」
中澤の隣の安倍がそう言うや否や、
「なんやてっ!!」
中澤が安倍を襲った。
ズキンッ!!
矢口はそんな二人を見ていると少し胸が苦しくなるのがわかった。
安倍の笑顔がますます矢口の胸をいたませる。
しかし矢口はその痛みを熱燗のせいにした。
(熱燗はやっぱりきついなぁ。)
- 217 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月02日(火)23時29分58秒
それからどれくらいたったのかわからないが、時計を見ると
すでに12時をまわっていた。
「もうこんな時間なんだね。」
「わっほんとだ。酒飲むと時間たつの早いよなぁ。」
市井は小さくあくびをしながら矢口の時計を覗きこんだ。
「市井明日朝からバイトなんだった。もう寝るよ。」
いそいそと立ちあがる。
「泊まって行くやろ?上行ったらわかるし。」
相変わらず酒を飲みながら中澤が市井を見上げる。
「わかった。んじゃおやすみ〜。矢口っまたね。」
「うん。おやすみ。」
「なっちは明日大学か?」
中澤がソファーにもたれかかって安倍を見る。
「うん。かおりと一緒。」
「そっか…。うちらももう寝るか?」
中澤が酒を飲み干してグラスを置く。
「んじゃ、片付けたら矢口は帰るね。」
矢口はグラスを集めてお盆に並べた。
「え?なんで?泊まっていけばええやんか。明日もバイトあんねんし。」
「いいよいいよ。近いからさ。」
矢口は立ちあがって流しにグラスを運んだ。
- 218 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月02日(火)23時44分01秒
(考えたいこといっぱいだよ。)
矢口はグラスを洗いながら考えた。
「泊まっていき〜やぁ。」
中澤と安倍が運びきれなかった皿などを持ってやってきた。
「今日は全然酔ってないし、大丈夫だよ。」
矢口は二人をみた。
「…次の時は泊まってや。」
矢口の意思が固いのを見ぬいたのか中澤はそう言うとグラスを拭き
はじめた。
「あっ、なっちはもう寝といで。」
「・……ん。先行くね。矢口おやすみ。」
「うん、おやすみ。」
安倍の心なしか元気のない顔が矢口は少し引っかかった。
中澤と矢口は他愛もないことを話ながら片付けていた。
全てが終わったのはもう1時を回った時だった。
「ふぅ〜 終わった終わった。」
奥の部屋で一息つく。
「んじゃ、帰るね。」
矢口は自分の荷物を手に取ると中澤に声をかけた。
「大丈夫か?暗いで?」
そんな中澤に矢口は吹き出してしまった。
「ハハハ、これからは2時まで働くんだよ?」
- 219 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月03日(水)00時00分40秒
「そうやけど・・今日は初日やし…よっしゃ、送ってく。」
中澤はそう言うと立ち上がってエプロンをはずした。
「えっいいよ!!ほんとすぐそこだし。」
「やから送ってもええやろ?」
矢口のアパートは店から歩いて15分くらいの場所にるのだ。
「矢口は酒強いんやなぁ。」
中澤が矢口の横にぴったりとくっついて歩く。
「そんなこともないよ。」
矢口は強いことはなかったが、今日は中澤に対する感情の整理が
つかないこともあり、まったく酔えなかったのだ。
「また飲もうな。っちゅ〜か毎日会うからいつでも飲めんで。」
「うん。」
そうだけ言うと矢口は前を指差し中澤に言った。
「あれなんだ。だからもういいよ。」
「あれか〜。んじゃまた明日な。」
矢口は中澤に手をふるとアパートへ向かう。
その時、
「ぅわっっ!!」
矢口は後ろから中澤に抱きつかれた。
「かわえぇなぁ。ちっこくて・・。」
そういうとパッと離れていたずらっ子っぽく笑うと、手を
ふって帰って行った。
「明日待ってんで!!。」
- 220 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月03日(水)01時35分06秒
矢口は中澤の後ろ姿を少し見るとすぐに部屋に入った。
暗闇に明かりをつける。
冷蔵庫の電子音だけがやけに耳につく。
荷物を置くと意味も無くTVをつけた。
風呂からでると、濡れた髪をタオルでふきながらベッドに座った。
帰ってきてまだ20分もたってないだろう。
TVから聞こえる声も今の矢口には届かなかった。
(裕ちゃんのこと好きになっちゃった。これマジだよ。)
「でも…。」
無意識に声がでる。
(裕ちゃんは女の人だよ。いままで女の人を好きになったり
しなかったのに。)
「こんな気持ち言えないよ。言ったら絶対もう会えないもん。」
そう呟くと矢口は窓の外を眺めた。
綺麗な満月。
実際満月かどうかはわからないが、そう思った。
(夜風にあたるのも気持ち良いかもね)
もう1度頭を冷やして考えるためにも、月を見に、
矢口は小さなベランダに出た。
- 221 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月03日(水)01時56分02秒
「涼し〜。」
風呂上りの矢口に心地良い風があたる。
月を見ながら矢口はちょっとベランダの柵にもたれる。
「え?」
矢口が少し目線を下に下ろすとそこには中澤が立っていた。
「なっ何してんの!?」
声がうわずる。
「風呂入ってたんや〜?」
関係無い事を答える中澤に矢口はもう1度聞く。
「なにしてんのってば!!」
「月見てたんや。」
矢口は一瞬唖然としたが中澤にそこで待つように伝えると急いで
部屋をでた。
「裕ちゃん。」
急いで来た為少し息があがる。
「なんや?」
「なんや?って・…ちょっとあがってよ。」
矢口は中澤の手を引いて部屋へ戻った。
中澤も素直に矢口に着いていく。
- 222 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月03日(水)02時12分13秒
「汚いけど …。」
「おじゃまします〜。」
矢口は中澤をベッドに座らせると冷蔵庫からビールとお茶をとりだす。
「なんでビールあんの?」
矢口からビールを受け取りながら中澤は聞いた。
「もらい物。いっぱい余ってんの。」
そう言うと矢口は床に座った。
「で、なんであそこにいたの?」
「月がきれかったから…。」
「それだけ?」
「だから矢口に教えたろ、思って…。」
プシュッと音をさせて口をあけるとコクコクと喉をならして
中澤はビールを飲んだ。
「…っていうかさ、矢口がベランダ出なかったらどうするつもり
だったの?」
20分以上中澤はあそこに居たことになる。矢口の部屋から1番
良く見えるあの場所に。
「出てきたやんか。」
中澤はニンマリ笑ってベランダを指差した。
「そ、そうだけど〜。」
矢口はわけがわからなくなってお茶を飲み干した。
- 223 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月03日(水)02時27分30秒
「そういやビールあったら変?」
矢口が中澤に聞く。
中澤は1口飲むと矢口の顔見ていった。
「苦手やろ?ビール。」
(なんで知ってんの?)
無言の矢口に中澤が説明する。
「なんかビール好きな人、飲める人の飲み方と違うねん。
苦手な人の飲み方って。後ほとんど飲んでなかったりしたら
誰でもそうかんがえるんちゃう?んで甘いカクテルは結構
飲んでたし…焼酎、熱燗はまたあんま飲んでへんかったし。」
そう言うと中澤はまたビールを飲む。すごく美味しそうに。
(んじゃ、やっぱりあの時考えて飲んでくれたのかな。)
「ちゃんと髪かわかさな風邪ひくで?」
矢口の肩にかけていたタオルで髪を拭いた。
(近いよ、裕ちゃん)
さっき自分の気持ちをある程度まとめた矢口は顔が赤くなっている。
すぐにその距離はなくなった。
後ろから中澤が抱き着いてきたのだ。
「シャンプーのええ匂いする・・矢口あったかいなぁ。」
中澤の甘い声が矢口の鼓動を激しくさせる。
「ゆ、裕ちゃん??」
矢口は自分の気持ちを押さえられなくなってきていた。
- 224 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月03日(水)02時42分24秒
自分の背中でくたーっとなっている中澤を見ようと振りかえる
が、なかなか顔がみれない。
「裕ちゃん。」
なかなか離れない中澤に少し疑問を抱きながらも話しかける。
「・…ん?」
「好きな子ってどんな子?」
(何きいてんだ?矢口は!!)
口から出た質問に自分で驚いてあせる矢口。
「・……。」
中澤は答えない。
「…う・・嘘嘘。気にしないで。」
矢口は思いきって振りかえって中澤を見た。
「zzz。」
(寝とったんかい!!!)
矢口はおもわず中澤風に頭の中で中澤につっこんでいた。
「でも…よかった。」
矢口はそっと胸をなで降ろすと、中澤をベッドにひっぱりあげた。
(もうちょっとで言っちゃうとこだったよ。)
矢口は幸せそうに眠る中澤の顔をみながらちょっとした幸せを
感じていた。
「まだ、やっぱり言えないね。」
そう呟くと矢口は電気を消した。
- 225 名前:undefined 投稿日:2001年10月03日(水)15時29分32秒
- かなりイイ!!
あ〜、ずっとこのスレのファンでして・・・いつも楽しみにしています。
今日は、ねえさんを「いいとも」で見てから、ここをチェックしました。ねえさん、かわいかったすね。ここのねえさんとダブる、ダブる(笑)
- 226 名前:作者です。 投稿日:2001年10月03日(水)20時19分01秒
>undefinedさん。
それはそれは……めちゃめちゃうれしいです。
これからもよろしくです。
「いいとも」収録後のトークで自分を出してほしいですね。
- 227 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月03日(水)20時37分32秒
次の日の朝。
コーヒーの良い匂いが矢口の部屋を包み込む。
「・・…ん・…。」
中澤はベッドの上でうっすらと目をあけた。
(あれ?ここどこや?)
見なれない天井が中澤を見下ろす。
「あれ?起きちゃった?」
「へ?」
キッチンがあるのだろうか、ベッドから見えない所から矢口の声
がした。
(そうや、昨日矢口の部屋来たんやった。)
状況を思い出した中澤はごそごそとベッドから抜け出すと、
矢口の方へ向かった。
「おはよーさん。…っちゅーかごめんなぁ、昨日。」
インスタントではあるが矢口がコーヒーを入れていた。
「あっううん。飲むでしょ?」
矢口は少し笑うとベッドの向かいのテーブルに2つコーヒーを
運んで腰をおろす。中澤も隣に腰を降ろした。
「・・・。」
沈黙が2人の間に流れる。
コーヒーを軽くすする音がやけに大きく聞こえた。
- 228 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月03日(水)20時51分15秒
「なんか食べる?あんまりないけど。」
矢口が中澤を見る。
「ん?別にええで。」
「そういえば皆大丈夫なの?ほったらかしで。」
「はっ!!そうやった!!今何時!?」
中澤はすっかり忘れていたのかあわてて周りを見渡す。
「まだ7時過ぎだけど…。」
矢口は少し照れて下をむいた。
実は矢口は中澤が近くで寝ている事に緊張してほとんど寝れなかった
のである。
「なんや〜。まだ大丈夫やん。んじゃ、一緒にうちきてなんか食べる
か?もっと寝る?」
「別にもう寝ないけど…。」
「ほなら行こ行こ。」
中澤が矢口の手をとる。
「ちょっ・・ちょっと待って!!なんにも矢口準備してないよ。」
服も部屋着のままだし、化粧もしてない矢口は焦って中澤を止める。
「あっそやな。んじゃ待ってるわ。」
中澤はおとなしくコーヒーを飲んでTVを見ていた。
矢口は猛スピードで準備をした。
- 229 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月03日(水)21時03分44秒
外は晴れていた。矢口と中澤は仲良く並んでゆっくり歩いていた。
「っちゅーか、矢口おばあちゃんみたいやな。早起きしすぎ。」
中澤が軽く笑う。
「いつもはもっと遅いよ!!たまたま目が覚めたの!」
矢口は必死になって否定する。
「わかったわかった。で、気分は大丈夫なん?」
「気分?」
「二日酔いとかなってへん?」
「大丈夫。裕ちゃんは?」
矢口は中澤のそんな心使いがすごくうれしかった。
「うちは大丈夫や。いっつももっと飲んでるで。」
今日仕事なかったらなぁ、そう言って空を仰いだ。
「今日も月綺麗にみえんのちゃうかぁ?」
「そうかもね。」
矢口もつられて空を仰いだ。
まぶしく輝く太陽が2人を温かく包みこんでいた。
(一緒に見たいな。)
そっと隣の中澤を盗み見る。
朝日を浴びている中澤はすけるように美しかった。
- 230 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月04日(木)17時12分18秒
「ちょっと皆の様子見てくるわ。」
中澤が2階へ上がって行くのを見送りながら矢口は荷物を置いた。
とりあえず矢口は店で中澤を待つ事にし、店へ戻った。
「よー寝とんな。」
小さい声でそう呟くと中澤は静かに近付いた。
「…裕ちゃん…。」
「なっ・・なっち?」
突然の呼びかけに驚いて中澤は振りかえった。
端のほうに座っている安倍がいた。
「…昨日、矢口のとこ泊まったんだ?」
中澤は静かに安倍に近付くと隣に腰をおろした。
「ん。送るだけのつもりやってんけどいつのまにか寝てしもてん。」
「…そっか・・。」
隣で小さく呟く安倍の頭を中澤はそっと撫でてやる。
「大学は?時間か?」
「うんうん。目が覚めただけ。今日昼からだから。」
「そうか。ならもうちょい寝とき。」
- 231 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月04日(木)17時23分11秒
「かおりもやな?んじゃ紗耶香起こすわ。」
そう言うと中澤は立ちあがる。服に違和感を感じた。
「なんや?」
中澤の服をつかんでいる安倍に優しく声をかける。
「…ん?別に。」
安倍はそう言って微笑むと一緒に立ちあがった。
「なっちは彩っぺ起こしてや。あの子何時に用あるか、なんも
しらんねん。」
そう言うと中澤は飯田を起こさない様に市井を揺さぶって起こした。
「紗耶香、朝やで。バイトやろ?」
「ん…う…ん・・。」
まだ完全に起きれてないのか、目をこする。
「8時やで。」
「…起きるよ〜。」
「彩っぺ今日なんにもないって。」
安倍はまた寝入ってしまった石黒の隣から中澤にささやく。
「ん。ならなっちも寝ときや。何時に起きる?」
「ん〜。起きとくよ。」
「なら下おりよか。」
- 232 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月04日(木)17時33分21秒
中澤に続き、市井と安倍が店に入ってきた。
「おはよ〜。」
矢口が2人に話かける。
「…おはよ。」
市井は眠そうに矢口を見る。
安倍は声を出さずに、おはよう、と口を動かした。
「んじゃ朝ご飯作ったるからそこ座り。」
中澤はカウンターに入ってガサガサと棚をあさっていた。
「裕ちゃん、シャワー借りていい?」
「ええで、わかるか?」
「うん。」
そう言うと市井は奥へ消えて行った。
「矢口はやいねぇ。」
安倍が矢口とカウンターに座る。
「今日はなんか目が覚めちゃって。なっちは大学?」
「まだだけど、目が覚めてね。」
とは言いつつ、眠そうな顔をしている安倍と矢口。
そんな2人を見ながら中澤は少し笑った。
「あんたら似てるんちゃう?」
店に引き立てのコーヒーの匂いが充満しはじめた。
- 233 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月04日(木)18時17分31秒
3人で他愛もない話をしていると奥から市井が戻ってきた。
「ありがと、裕ちゃん。」
「ん、なっちも後で入りや。」
そう言うと中澤は4人分のトーストとサラダをカウンターに置いた。
「おっ!おいしそうじゃん。」
「ほんと。いただきま〜す。」
中澤はコーヒーを1つ1つ置くと市井の隣に座った。
「ありがとう。」
矢口は離れて座った中澤にそう言うとトーストをかじった。
朝食も食べ終わりしばらく一服していると、
「んじゃ、そろそろ行くよ。」
市井が立ちあがった。
「今日夕飯食べにくるから。」
「ん、がんばっといでや。」
「おうっ!!んじゃ、行ってきま〜す。」
3人に軽く手を振ると少し急いで店をでていった。
- 234 名前:undefined 投稿日:2001年10月04日(木)18時50分46秒
- すごいペースで更新されていますね。
毎度ながら楽しんでます。しっかし作者さん、心理描写も状況描写もうますぎる・・・
- 235 名前:作者です。 投稿日:2001年10月04日(木)19時15分46秒
>undefinedさん。
いつも読んで下さってありがとうございます。
こんなちんけな文章を誉めていただけるなんて恐縮です。
相変わらず展開遅くなってしまってますが…
ようやくなんとか、からめられそうです。
こんなペースでやっていきたいと思ってますので、
また読んでやってくださいませ。
- 236 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)00時02分08秒
「なっちも今日バイトだ〜。」
安倍は市井を見送ると、テーブルに顔をうずめた。
「なんのバイトしてるの?」
「なっちはねぇ…カテキョやってるの。」
「ええっ!!すごいじゃん!!」
「中2なんだけど…結構大変かな。」
会話がねぇ、っと安倍は笑った。
「うちにはできひんわ。」
中澤が顔をしかめる。
「裕ちゃんだったらキレて泣かしてるんじゃない?」
「なんでやねんっ!!ってきっとそうやわ。」
子供苦手やもんっとコーヒーをすする。
「裕ちゃんがカテキョできたら、なっちなら怖くて泣くよ〜。」
安倍が中澤を見る。
「こんなカテキョ来たら親もびっくりしよるやろなぁ。」
「その日で先生交代だね。」
「いろいろ教えたるのになぁ。」
中澤がチラっと安倍を見ると、安倍は矢口に抱きついて叫んだ。
「いや〜ん!!裕ちゃんのエッチ〜!!」
「なんや?2人とも教えたろか〜」
中澤は2人に向かってニヤリと笑った。
- 237 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)14時09分22秒
「おっさんっしょ!!」
安倍は中澤を指差し笑った。
「裕ちゃんエロ顔になってるよ〜。」
矢口も中澤を見て笑った。
「何ゆーてんねん。こんないろいろ教えたれる教師おらんで?」
ニヤニヤ笑いながら二人を見る中澤の目は優しかった。
矢口は皿を洗いにカウンター内に入った。
中澤は矢口に礼を言うと安倍とソファーに移動した。
「矢口よく働くねぇ。」
「ええこやでほんま・・。」
そう言うと中澤が安倍を眺める。
「何?裕ちゃん。」
「いや・・なんか朝元気なかったから。全然元気で安心したわ。」
そう言うと安倍の頭をポンポンと軽く叩いて立ちあがった。
「ちょっと風呂入ってくるわ。」
「うん。」
矢口と少し話して奥に消えて行く中澤を見ながら安倍はソファーに
身をうずめていた。
(裕ちゃん…なっちの気持ちに気付いてないのかな?)
ボーっと朝のことを考える。
(でも裕ちゃん…まだあの子の事思ってるのかな?)
- 238 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)14時30分26秒
喫茶店の客は様々だ。
1人で本を読んでゆっくりする人。
数人で長時間話している人。
さっさと帰る人。
開店時間を迎え、テキパキと働く二人。
安倍と飯田は大学へ行った。
石黒はまだ降りてこない。
「あの子いつまで寝とんにゃ?」
中澤が時計を見る。
3時になりかけている。
「まぁ、別にいいけど。」
客も2・3人になり、少し暇になったのか、中澤は矢口に
話しかけた。
「昨日楽しかった?」
「うん。最初はびっくりしたけど。」
「また皆で集まって飲もな。まぁ、うちらは毎日飲めるけどな。」
そういって矢口の肩に手を回す。
「矢口が酔ってるのみたいわ〜。」
「ちょっ裕ちゃん!!矢口はすぐ酔っ払うよ。」
肩の手をなんとかどけようと肩をくねらすが中澤の手は矢口の肩に
乗ったままである。
「昨日全然酔ってなかったやんか。」
「き、昨日は…まぁ、いろいろあったの!!」
そう言うと矢口はそそくさと中澤から離れた。
- 239 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)14時42分33秒
(あんな事されたら…・期待しちゃうよ!!)
矢口はあまりたまっていない皿を洗い出した。
矢口に逃げられた中澤はそんな矢口を寂しげに眺める。
矢口は気付いていない。
「矢口〜。」
「わっ!!裕ちゃん危ないよ!!」
後ろから抱き付いてきた中澤の衝撃に皿を落としそうになる。
「矢口はちっこくてかわええなぁ。」
「何やってんの?」
2人が振りかえると石黒があきれた顔をして立っていた。
「客こなくなるよ。」
2人を訝しげな顔で見ている数人の客。
カウンターに座りながら石黒はため息をついた。
「はぁ…。」
「なんやのん?だって矢口ペットみたいでかわいいんやもん!!」
矢口から離れた中澤は少し大きめの声で叫ぶ。
数人の客は矢口をちらっと見て、納得(?)したのか、また自分の
世界に入った。
「かわいいのはわかったけど、仕事中にするなっての!!」
「う〜ん。我慢するわ〜。」
- 240 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)14時58分00秒
矢口はそんな会話を隣で聞きながら皿を洗っていた。
「ちょっとトイレ行ってきていいですか?」
中澤に聞くと矢口はトイレに急いで行った。
(・…ショック…)
呆然とトイレの壁によりかかるとさっきの中澤の言葉を思い浮かべた。
『だって矢口ペットみたいでかわいいんやもん!!』
「ペットか…。」
矢口は知らぬ間に涙が頬を伝うのを感じた。
(早い終わりだったなぁ。)
涙を指でふき取ろうと目を手でおおう。
(・…でも好き…)
拭ききれない涙が次々と頬を伝っていた。
「とまんないよ…。」
「あんな急いで行って…そんなに我慢しとったんか?」
矢口の後姿を見ながら中澤が呟く。
(だから離れたがってたんかな?)
矢口の消えた方を見ている中澤と見ながら、
石黒は中澤に聞こえないほど小さなため息をついた。
(この人…マジ?)
- 241 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)15時09分50秒
「おかえり〜。」
中澤が矢口を迎える。
「ただいま。」
そう言うと矢口はカウンターには入らず、レジの辺りに立った。
(とりあえず、できるだけ普通にしなきゃ。)
中澤はカウンター内に入らず、レジの近くで物を整頓している
矢口を見ていた。
「裕ちゃん、コーヒーちょうだい。」
石黒は矢口の変化に気付いていた。
(これ以上裕ちゃんに変なこと言わさない様にしないと…)
「あっOK。」
矢口から目線を戻し中澤はコーヒーを入れ出した。
(昔っから他人の事は目ざといのに、自分の事となったら鈍感
なんだよねぇ、裕ちゃんは…。)
石黒は中澤の顔を見ながら考えていた。
「なんや?裕ちゃんに惚れたか?」
石黒の視線に気付いた中澤はニンマリ笑う。
「は?死んでもそれはない!!」
きっぱりとそう言うと入れたてのコーヒーを中澤から奪って飲んだ。
「・…なんやねんな…。」
- 242 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)15時40分31秒
どうやら石黒は今日も飲んで帰ることにしたらしい。
「暇なんだもん。」
そう言って矢口に笑いかけた。
「紗耶香も来るって言ってたよ。」
矢口はテーブルを拭きながら石黒と話していた。
中澤は裏で仕入れ業者と話している。
「ただいまぁ!!」
6時すぎぐらいに市井が店のドアを開けた。
「あんたぁ、家ちゃうで〜!!」
「家みたいなもんじゃん!!」
ドサッと音をたてて椅子に座る。
市井は矢口からメニューをもらうとペラペラとめくった。
「オムライスにするよ。」
矢口にそう言うと隣の石黒と何かこそこそ話し出した。
「オムライスはいりましたー。」
「はいよっ。」
矢口と中澤はそんな2人を見つつ仕事に戻る。
「これまず、2番テーブルに。」
中澤が仕上げる料理を矢口が運ぶ。
そんな2人を見ながら市井は、
「こりゃ、バーになってからだね。」
と石黒に呟いた。
- 243 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)15時52分35秒
「はいオムライス。矢口もオムライスでよかった?」
市井にオムライスを差し出しながら中澤は矢口に聞いた。
「あっうん。なんでも。」
「ほなこれな。」
市井の隣にもう1つオムライスを置くと中澤は仕事に戻った。
「ありがと。」
市井の隣に座ってスプーンを手に取る。
「うまいうまい!!」
「そやろ?裕ちゃん特製オムライスやで。」
「私も食べようかな?」
石黒がオムライスを覗きこむ。
「美味しいよ!!ねっ矢口?」
市井が口にほおばりながら矢口を見た。
「うん。かなり美味しい。」
結局4人ともがオムライスを食べていた。
「裕ちゃん料理うまいよね。いつでも結婚できるよ。」
「ただ相手が…。」
市井が言葉を飲む。
石黒の隣からの視線が痛い。
「紗〜耶〜香〜!!」
「ゆっ裕ちゃん・・エヘッ。」
「エヘッじゃないねん!!」
中澤は腕を伸ばして市井の頭を軽くこずく。
「いった〜!!」
そんな2人を矢口は心の底からは笑えなかった。
- 244 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)16時03分38秒
店内が青色にライトアップされる。
幻想的な雰囲気。
早速市井と石黒が酒を頼み出す。
「いつものカクテルって裕ちゃんに頼んでくれる?」
ソファー席に移動した二人が矢口に注文する。
「はい。」
矢口は中澤に近付いて注文を伝える。
中澤は手際よくシェーカーを振るとあっという間に作りあげた。
「これが紗耶香、これがあやっぺのだね。」
2人の前に丁寧にカクテルをおく。
「ありがと〜。」
市井は中澤に向かって叫ぶ。
「今客いないから矢口借りるよ!!」
カウンターから中澤は顔をだす。しゃがんでいたのだろう。
「ええよ〜。」
そういうとまたしゃがんだ。
「・…ちょっと待ってて。」
石黒が忍び足でカウンターに近付いていった。
矢口と市井はその姿を固唾をのんで見守る。
- 245 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)16時14分44秒
石黒が静かにカウンターに入っていった。
その瞬間、
「あいた!!」
中澤の声。
「裕ちゃん!!矢口働いてんのに、何隠れてビール飲んでんの!!」
石黒が頭をぶったのだろう、中澤は頭をさすりながら立ちあがった。
「えっええやんかぁ。ちょっと飲みたい気分やねん。」
「いっつもでしょ?まっいいや。一緒に飲んだげるよ。」
カウンターから出て、カウンター席に座る。
「裕ちゃんらしいね。」
市井はクックックっと笑いながら矢口を隣に座らせた。
「ちょっと話しよ。」
市井は矢口にわらいかけた。
「いいよ。」
中澤から許可もでたので矢口は市井と話す事にした。
ポツポツ客が入ってくると、矢口は注文を取りにいき、ドリンクを
運んだ。運び終えると市井の隣に座り、いろんな話しをしていた。
音楽の話やバイトの話。
市井とは気が合うのかキャッキャと笑う矢口の声が中澤の耳にはいる。
「楽しそうやなぁ…。」
「ちょっと?楽しくないの?」
行きたそうにしている中澤に白い視線を送る。
「いや、ちゃうちゃう!!」
中澤はいそいで視線を石黒に移した。
- 246 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)17時49分51秒
「矢口、聞いちゃっていい?」
市井が少しまじめな顔をする。
「えっ何?」
「矢口ってさぁ…。」
ちょっと話にくそうに市井は矢口の顔を見る。
「うん。」
「…今好きな人いる?」
一瞬の沈黙が生まれる。
「…いるよ…。」
矢口は勇気を振り絞って答えた。
(まさか相手が裕ちゃんなんていえないけど…
女だもん。変な目で見られるよね。)
「…市井もさぁ、好きな子いるんだけど…。」
「へぇ、そうなんだ?」
「女の子なんだ。」
「えっ…?」
矢口はどう言っていいのかわからなかった。
「矢口は?」
市井はジッと矢口を見る。全てをみすかしているような目。
「…矢口も。」
言うつもりはなかったが、嘘はつけなかった。
「初めて女の人好きになったからとまどってるんだ。」
矢口は正直に今の感情を市井に伝えた。
「市井も最初はとまどったよ。自分は変なんじゃないかな?って。
でもね、好きっていう気持ちは止められないから。」
市井はカクテルを飲んだ。
- 247 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)18時02分54秒
「矢口は告白するつもりはないの?」
「えっ・…そんな勇気ないよ。」
「嫌われたくない?」
「うん。近くにいれなくなるのが怖いよ。」
矢口は市井に気付かれない様に中澤をチラッと見た。
「市井はねぇ、告白して、うまくいったよ。もちろん最初は
すっごくためらった。向こうはこっちに恋愛感情もってるか
わかんないしね。でも、いいやっ、ゆっちゃえって思える
時がきたんだよね。」
「そっか。」
自分にその勇気はまだないな、と思いながら市井を見る。
「焦る事ないよ。ね?」
「裕ちゃんさぁ・・。」
「なんや?」
「まだあの子の事…。」
「・・・・。」
中澤は気まずそうに何も答えない。
石黒も何も言わず、ただ中澤を見ていた。
「・…最近わからへんねん。」
弱弱しい声でそう呟く。
「…裕ちゃん、焦らないでいいよ。でも、自分の気持ちは自分が1番
わかるからさ。その時はその気持ち1番に優先しなよ。」
「…そやな。」
- 248 名前:15 投稿日:2001年10月05日(金)20時06分54秒
- 更新途中かも知れませんが、失礼します。
なかなか、シリアスな展開になってきましたね。
あまり、組み合わせのことは言いたくないのですが、
市井の恋人は、後藤なのかなぁ〜って思ってみたり(笑)。
それならいいなぁ(笑)。
とりあえず、裕ちゃんと矢口がどうなっていくのか、
かげながら見守ってゆきたいです。
では。
- 249 名前:作者です。 投稿日:2001年10月05日(金)21時28分04秒
>15さん。
ありがとうございます。
市井の恋人は後藤にしましょう。
というか、やっぱり後藤かなぁ、と考えていたので…
裕ちゃんと矢口は徐々に近つけていきたいと思っております。
これからもよろしくお願いします。
- 250 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)22時03分38秒
「紗耶香はうまくいってるの?」
「うん、まぁ。」
少し照れながら市井はにやける。
「今度連れてくるよ。」
「うん。見たい見たい。」
「矢口も早く幸せになれよ〜。」
市井がふざけて矢口の頭をぐりぐりする。
「矢口もなりたいよ〜。」
頭をおさえつけられながら矢口は笑った。
「まっ裕ちゃん。いつでも相談してよね。好きな子現われたら。」
石黒はカウンター越に言う。
「・・わかったわかった。で、あやっぺはどうなん?」
「おかげさまで順調よ。」
「ふーん。まぁ、いいこっちゃ。」
中澤はそう言うとビールを飲んだ。
夜もふけ、店は客で溢れていた。
「ここ以外と客入るんだねぇ。」
石黒は市井に話かけた。
「駅近いし、周りに結構人でてきてるしね。」
市井は働く矢口達を見ながら答える。
「で、どうだったよ?」
「あぁ、矢口は本気だったよ。まぁ、まだ本人から誰かは聞かなかった
けどさ。裕ちゃんは?」
「微妙。まだ引きずってるもん。」
2人は矢口の気持ちをとっくに気付いていた。
それで話を聞いてみることにしていたのだ。
「でもさ、なっちも…。」
- 251 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)22時19分13秒
「そうなんだよね。」
2人は矢口も安倍も中澤を好きだと知っていた。
「裕ちゃんが気付いてないのがびっくりだよ。」
「ほんと。まぁ、でも結局は裕ちゃんが吹っ切ってから
なんだけどね。」
「でも、どちらかが泣く事になるかもしれないってのは
ちょっとつらいね。」
市井が矢口を見る。矢口は若い酔った男性客と話していた。
「そうだねぇ。」
石黒がそう言った時、
「ちょっと、矢口困ってるやろ!!」
中澤がその男性客から矢口を引き離している姿があった。
「なんだよ。しゃべってただけだろ?なぁ?」
酔っている男は矢口を気に入ったのか、中澤から矢口を奪おうとした。
中澤は矢口を自分の後ろに回して、
「この子はあんたに興味ないっちゅーねん。」
そう言うと矢口とカウンターに入って行く。
「は?ちょっと待てよ。」
「そんな女の子としゃべりたいんなら違う店いけ。」
中澤のその言葉に怒った男はおもわず立ちあがる。
しかし、周りの客の冷たい視線に気付いたのか、
「こ、こんな店で飲んでられるか!!」
と叫んで、テーブルにお金を叩きつけるとそそくさと出ていった。
- 252 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)22時33分09秒
「おねぇさんさすがぁ!!」
「かっこよかったぞ〜!!」
店の客が盛り上がる。
「ごめんねぇ。まぁ、また盛り上がってな。」
中澤は雰囲気を変えた事をあやまると奥へ行き、矢口と顔を合わせた。
ずっと手は繋いだままだ。
「大丈夫か?」
「うん。でも…怖かった〜。」
矢口は大きく息をはいた。
「あいつが怒鳴った時裕ちゃんなんかされんじゃないかと思って。」
「うちの事心配してくれたんかいな?かわいいなぁ。」
思わず中澤は矢口を抱きしめた。
「矢口がなんかされんのかと思って冷や汗かいたわ。」
「ありがと。裕ちゃん。」
矢口は抱きついている中澤に抵抗せずにいた。
「客もいろいろおるしなぁ。なんかあったらすぐ言いや。」
そう言うと、戻ろか、と2人で店に戻って行った。
- 253 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月05日(金)22時48分18秒
「ちょっと!!裕ちゃんすごいじゃん!!」
帰るなり石黒達はカウンター席に座っていた。
「かっこよかったよ!!」
「ありがと。まぁ、うちの店でいらんことすんなって話や。」
「でも市井が見た時普通にしゃべってるだけだと思ったよ。」
市井はさっき見た矢口の姿を思い出す。
「なんか矢口の顔が引きつってる様に見えたからよく見たら、
あいつや矢口の腕つかんどってん。」
「嘘〜!!きもいねぇ。」
石黒が心底嫌な顔をする。
「でも、ほんと裕ちゃんかっこよかった。ありがと。」
矢口もホッとした表情で中澤を見た。
「まぁ、なんもなくすんでよかったわ。」
「ほんとだねぇ。」
「さすが裕ちゃん!!元ヤンの迫力があったよ。」
「ちゃうわっアホ!!」
市井の一言に怒って中澤は市井の頭を軽くこずく。
「こえ〜!!そら急いで帰っていくよ。」
「人の顔見て何が怖いや!!失礼な奴やなぁ。」
石黒と矢口はそんな二人のやりとりをみて笑っていた。
- 254 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月06日(土)00時07分01秒
「あーもうこんな時間やん。」
時計は1時47分を指していた。
客はまだまだ残っている。
「矢口はそろそろ帰る準備し〜や。」
グラスを棚にかたずけていた矢口に中澤が声をかける。
「あんたらも明日なんもないんか?」
「市井はバイトだぁ。明日は昼からだけどね。」
「私は明日は学校。」
「んならもう帰りやぁ。良い時間やで、もう。」
中澤はラストオーダーをとる為にメモを手にカウンターをでた。
「矢口って毎日バイトでしょ?大変じゃない?」
石黒が時間を計算する。
「15時間ぐらい働いてるんじゃない?労働基準法とかにひっかから
ないの?」
「ひっかっかってるでしょ?やばくない?」
市井達は驚いて矢口の顔を見た。
「・…どうなんだろ?」
矢口は少し手をとめる。
「しかも未成年だし…。」
「裕ちゃん何考えてるんだか?」
2人は大量のラストオーダーを受けて帰ってきた中澤を見る。
「何?」
- 255 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月06日(土)00時31分56秒
「矢口の労働時間って大丈夫なの?」
「あー1週間40時間以上働かしたらあかんとかいうやつ?」
中澤は平然と答える。
「っちゅーか1日8時間以上働かしたらだめなんだって。」
「そういえばそんなんもあったなぁ。」
「15時間くらい働いてるよ?」
石黒は信じられない顔で中澤を見る。
「まっバレへんやろ。18越してるから夜とかは大丈夫なはずや。」
中澤はオーダーを取った酒を作り始めた。
「喫茶店とバーで、2つの店ってことになってるから、1つ1つの
時間はオーバーしてないんちゃうかな?」
「ふーん。でもかなり大変じゃない?」
石黒は矢口に尋ねる。
「別に。まだ毎日早いよ。あんまりしんどくないし。」
矢口は大変な事なのにあんまりわかっていなかった。
「なぁとりあえず、計算して、月に320時間以上働かせない
ようにしなよ。」
石黒は中澤にそう言うと不安になった。
(大丈夫なのかな?)
- 256 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月06日(土)02時43分09秒
矢口は誰よりも先に店をでた。
市井や石黒はもう少しいると言って飲んでいた。
(紗耶香にいっちゃったけど…もう裕ちゃんに告白なんて
できないよ。)
昼間の中澤の発言が矢口の胸をしめつける。
『ペットみたい』
(ペットとしてかわいがってくれてるだけなんだよね。)
中澤に男から助けられたときも、この言葉が喜びを邪魔していた。
中澤に惚れなおす度に苦しい。
しかし、中澤は矢口にあきらめさせる事のできない魅力を
常に放っていた。
トボトボと矢口は夜道を歩いていた。
空を見上げる。
雲がかかって月が隠れて、うっすらとしか見えない。
「月、みえないよぉ、裕ちゃん。」
無意識のうちにでた言葉はますます矢口の胸をしめつけていった。
2人が見ていた昨日の月が幻のようだ。
今の月のように、矢口の心にも不安なもやがかかっていた。
(裕ちゃんの嘘つき!!全然月綺麗に見えないじゃんかよぉ!!)
その不安を吹き消すかのように心の中で叫ぶ。
何度見上げても月は隠れたままだった。
- 257 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月06日(土)03時09分09秒
「裕ちゃん、すごいよく矢口に抱き着いてるよね。」
「そうか?まぁ、矢口はかわいいからなぁ。」
テーブル席を片付けながら中澤は答える。
「ペットみたいってやつ?」
石黒はあの言葉を聞いた瞬間の矢口の顔が忘れられないでいた。
悲しく、寂しい、そして希望を捨てたような顔。
トイレから帰ってきた矢口の目は涙を流した後の目だった。
「?あっあぁ。昼間のな?」
中澤は一瞬何の事だかわからないといった顔をしたが、
すぐに思い出した。
「えっペット?」
市井はその時のことを知らないので訳がわからないといった風に
聞き返す。
石黒は目配せして、また中澤に話しかけた。
「さっきのもじゃぁ、ペットを守ったってこと?」
「…なんやねんな。何が言いたいの?」
中澤は手を止めて石黒を見る。
「昨日なっちほとんど寝てなかったよ。」
「はぁ?」
「階段いったりきたりして…ずっと起きてたと思うよ。」
中澤は朝の安倍の様子を思い浮かべた。
- 258 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月06日(土)03時25分29秒
-
「そうやったんか…。」
「裕ちゃんは自分の周りが見えなさすぎだよ。私の事とか
ならすぐ気付くのに。」
そういうと石黒は立ちあがった。
「んじゃ帰るね。またすぐ来るけどさ。」
お金を置く。
「市井も帰るよ。こんど連れてくるよ。」
ドアの外まで中澤は2人を送った。
はぁ、と息をはいて伸びをする。
月が雲で隠れて見えない。
昨日の月を思い出す。
「綺麗かったのになぁ。」
そう呟くと、中澤は店に入った。
店を片付けながらも頭は違う事ばかり考えさせてきた。
- 259 名前:undefined 投稿日:2001年10月06日(土)14時33分54秒
- ねえさんが忘れられない人って一体・・・
一途な矢口、かわぅいです。いや、まじで。抱きしめちゃいたくなる気持ち分かるわ〜。
ところで、労働基準法はこの話に絡んで来るんでしょうか??
- 260 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月06日(土)18時00分32秒
- 忘れられない人…みっちゃん?圭ちゃんかな?
圭ちゃんだと忘れられない「顔」だけど。(w
( `.∀´)<どういう意味よ!
- 261 名前:作者です。 投稿日:2001年10月06日(土)23時56分15秒
>undefinedさん。
いつも有難うございます。
いえ、つっこみ入る前に一応書いただけで、
もう触れないつもりです。
よくわからないので…
矛盾点には目をつむってください…。
中澤に関しても近い内に書くよていです。
矢口、気にいっていただけてうれしいです。
またいつでも感想など教えてください!!
いつも有難うございます。
>260さん。
確かに・・。
インパクト大ですからね…。
そうですね、みっちゃんあたりいいかもしれないですね。
そうしましょう。
これからも読んでくだされば光栄です。
- 262 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月07日(日)00時39分52秒
矢口は風呂に入ってただボーっとTVを見ていた。
髪を適当に拭きながらTVから聞こえてくる笑い声を聞き流す。
たまにちらちらと外を見る。
(月でてきたかな?)
ただ外に出て、見る勇気はない。
月が出てない事実をなんとなく受け入れたくない。
時間は無常に過ぎて行く。
いつのまにかTVは何も写さなくなっていた。
朝と言ってもいい時間帯。
矢口はなんとなく外にでようという気になった。
月が見え様が見えまいがなんとなく風にあたりたい。
矢口はフラフラとベランダにでた。
「さっきよりはましじゃん。」
月を覆う雲が半分程に減っていた。
風が強いのだろうか?雲の流れがなんとなく速い。
もしかしたらもうすこしで雲が月の前から姿を消すかもしれない。
矢口はなんとなく祈るような気持ちで月を眺めていた。
月しか見ていなかった。
- 263 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月07日(日)02時55分50秒
- あの子って、明日香の事かと思ってた(滝汗
矢口のこと「かわええなぁ、ちっこくて…」のセリフは伏線かな?と
矢口ぐらい小さくて、初期メンでやめた(いなくなった)人物
となると明日香だったもので…考えすぎでしたね(笑
- 264 名前:作者です。 投稿日:2001年10月07日(日)09時55分45秒
>263さん。
一瞬その線も考えてたんですけど、福田のキャラを
うまく書けないとおもうんですよね。
んで、どうしようかなぁ、と思ってたら平家か保田って話が…
保田もうまいこと書けないっぽいのんで、前作にもだした
平家がいいかなぁ、と。
矢口にそっくりな子っていう考えもあったんですけどね。
いろいろ考えていただいてたのに、考え甘くてすいません。
- 265 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月07日(日)19時55分28秒
部屋から携帯の着メロが流れた。
矢口は誰だろう?と思いながら電話にでた。
「もしもし。」
「もしもし、矢口?」
安倍の声がする。
「なっち?どうしたの?」
「もうバイト終わったかな?って。」
「うん。今家だよ。」
矢口はベッドに腰掛けながら答えた。
「ちょっとね。今度会って話たい事があるんだ。」
安倍が遠慮がちに聞いた。
「うん。いいよ。何?」
「うーん…それは会ってはなすよ。」
そういうと次の日の朝会う約束をとりつけ、安倍は電話を切った。
「なんなんだろ?」
矢口は少し頭をかしげながら携帯を眺めていた。
まだ半渇きの髪を少し気にしながらベッドに入る。
仕事の疲れからか、もう瞼が重い。
『ちゃんと髪かわかさな風邪ひくで。』
中澤の声が聞こえた気がした。
- 266 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月07日(日)20時10分32秒
矢口は安倍と待ち合わせたファーストフードの店に、
約束の少し前に来ていた。
席に座って安倍を待つ。
「ごめんごめん。待った?」
安倍が店に走りこんできた。
「うんうん。」
とりあえず2人は食事を注文し、向かい合って席に座った。
「ごめんね。バイト前に呼び出して。」
「うんうん。いいよ。」
「まっとりあえず食べるべ?」
だいたい食事も終わり、まったりとする2人。
「で、昨日言ってたことって?」
矢口が安倍に聞く。
「・…うん。」
なんとなく話し難そうに安倍がきりだした。
「なっちの好きな人なんだけどね、裕ちゃんなんだ。」
「えっ!?」
「ずっと前から裕ちゃんが好きなの…。」
安倍はそう言うと目線を矢口から離して外を見る。
「でも、裕ちゃんには言ってない。無理だってわかってるから…。」
「・・む…無理って?」
矢口はなんとか声を絞り出す。手にじっとり汗をかいているのがわかった。
「裕ちゃん・…女の人とは付き合わないって…。」
矢口にとっても、それはショックな事だった。
- 267 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月07日(日)21時13分14秒
「イロイロあったから…。」
「・・・?」
「でも、諦められないっしょ?」
安倍はそう言って矢口を見た。
「裕ちゃんを好きな気持ちは誰にも負けないから・・。」
「なっち・・。」
「とりあえず、矢口にこの気持ち伝えておこうって思ったんだ。」
「なんで?」
そう矢口がいうと、安倍はフフフと笑って矢口を見た。
「裕ちゃん好きっしょ?裕ちゃんを見る目が乙女だよ。」
矢口は両手で顔を隠す。
「…嘘…?」
「でも、裕ちゃんはわかってないよ。」
安倍は立ちあがりながら言う。
「自分の事となると、すっごい鈍感だから。」
そう言うと自分のトレーを持って、
「大学だから、行くね。」
と、にこやかに店を出て行った。
- 268 名前:15 投稿日:2001年10月08日(月)02時13分49秒
- なっちのキャラが、爽やかですね。
なっちの格が、少し私の中でアップです(笑)。
後は、矢口を守る裕ちゃんが、いいですねー。
かっけーっすね、裕ちゃん。
いい感じです。
作者さんペースで、頑張ってくださいね。
- 269 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月08日(月)03時13分53秒
矢口は店に向かって歩いていた。
(なっちも裕ちゃんの事好きだなんて・・・。宣戦布告って事か・・。
それにしても、イロイロってなんだろ?)
矢口にとって1番気になることはそれだった。
中澤が女の人と付き合わない理由。
何か普通でない理由がありそうだ。
(紗耶香に相談してみようかな…)
矢口は携帯を取りだし、手早くメールを打った。
『いつか暇な時ある?相談したいことあるんだけどさ。 矢口』
(でも…、私本気だなぁ。)
安倍からの思いがけない告白に、中澤への思いは弱まる事なく、
強みを増す一方だった。
友達と同じ人を好きになっても、自分は譲るつもりはないと、
漠然と思っていた矢口だったが、
(それが現実となるとはねぇ。)
ボーっとそんな事を考えてるといつの間にやら、矢口は店の前にいた。
- 270 名前:セーラム 投稿日:2001年10月09日(火)00時21分05秒
- 第二弾に気付かなかったよ!やっぱり、やぐちゅー最高
- 271 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月09日(火)00時51分06秒
「矢口ってゆーてんのに!!」
突然目の前に中澤の顔が現れた。
「ぅわっ!!裕ちゃん!!」
「なんや、ほんまに気付いてへんかったんや?ずっと呼んでてんで。」
中澤は眉間に軽く皺をよせながら矢口の顔をみた。
「なんか問題あったんか?」
心配そうに矢口の顔を覗きこむ。
「う、ううん。なんでもないんだ。」
もちろん言えることもなく、焦ってうつむく矢口。
「そうか・・。まぁ、今日もがんばろうや。」
中澤は矢口の手を取って店に入った。
相変わらず、店はいそがしい。
昼の休憩時間、矢口が携帯を見るとメールが届いていた。
『オッケ〜!!今日夜店行くから。その時でも、その後でも
いいよ!! 市井』
矢口はなんとなくホッとし、顔がほころんだ。
『ありがと。んじゃ待ってます。矢口』
そうメールを送ると店に戻った。
「裕ちゃん!今日紗耶香来るって!!」
「そうなんや。あの子も毎日毎日ほんま…。うれしいけどなぁ。」
矢口の顔はイキイキしていた。
- 272 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月09日(火)01時00分27秒
「オッス!!」
ドアの鐘が鳴ると共に市井が入ってきた。
「いらっしゃいませ。」
「今日は照明赤なんだ〜。」
市井がニコニコと店を見渡す。
「カウンターでいい?」
矢口が市井を席に案内する。
「おっ来たな?」
カウンターの向こうから中澤が顔を出す。
市井は手を挙げてそれに答える。
「とりあえずビールで。」
「はいよ。」
中澤にそう注文すると、市井は矢口に、
「終わってから話そっか。」
と、こそっと話した。
矢口は軽くうなずいた。
(紗耶香にもばれてるのかな?)
中澤に聞こえないように言ってくれたことにそう確信した。
(なっち…バレバレってほんとだね。)
矢口は少し恥ずかしさを感じた。
- 273 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月09日(火)02時30分24秒
「今日は時間通り終わったなぁ。」
カチャカチャと皿を片付けながら中澤が言った。
「そうだね。裕ちゃんはいつも大変だもんね。」
矢口も隣で片付けをすながら答える。
「で、今日は一緒に帰んのかいな?」
「うん。」
市井はただそれだけ答える。
矢口はエプロンを外して荷物を取りに行った。
「んじゃ、また来るから。」
そう言うとドアの前で矢口を待つ。
程なく矢口が急いで現れた。
「ごめん!!んじゃ行こっか。」
そう市井に笑顔で言うと矢口は中澤に手を振った。
「じゃね、裕ちゃん。また明日。」
「気ぃ付けてかえりや。おやすみ。」
中澤は手を振り返す。
矢口が店を出た後に市井が出て行く。
「じゃっ!!」
そう言うとニヤリと中澤だけにわかる様に笑ってドアを閉めた。
- 274 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月09日(火)02時42分37秒
「なんやねん…。」
そう呟くと中澤は戸締りをし、2階へ上がって行った。
心に少しひっかかりを感じながら…。
「今日はいきなりごめんね。」
矢口と市井は肩を並べて歩いていた。
「うんうん。それよりどこで話す?」
「矢口の部屋くる?」
「行きたい行きたい。」
2人はコンビにで適当な夜食を買って帰った。
「で、何?」
お菓子を食べながら市井が矢口に聞いた。
「今日なっちと話したんだ。」
そう言うと矢口は安倍が言った事を全て市井に話した。
安倍が中澤を好きなことも、中澤が女の子とは付き合わないって
言っていることも。
「・…うん。でも矢口は裕ちゃんを諦める気なんてないんだろ?」
市井は静かに聞く。
「うん。でも…。」
「裕ちゃんの事だね?」
矢口の気持ちを市井は的確に当てる。
「そう。でも…。」
「他人から聞くのはちょっとって思ってるんだ?」
- 275 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月09日(火)02時56分26秒
「ほんとよくわかるね。」
矢口は感心しながら市井を見た。
「裕ちゃんの事はやっぱり裕ちゃんから聞いたほうがいいと思うよ。
でも、諦めないのならそんな事気にする必要ないじゃん。市井は
矢口の気持ち、伝える事ができるなら伝えたほうがいいと思うけど
なぁ。」
「う〜ん。でも裕ちゃんは矢口のこと全然そういう風には見てないと
思うんだよね。しかも好きな子いるって言ってたし。」
自信なさげにうつむく矢口。
(裕ちゃんも矢口の事好きだと思うんだけどなぁ。)
市井はそう感じていたが、確証がないので何も矢口には言わなかった。
その頃、中澤は1人ソファーに腰かけて酒を飲んでいた。
「…。矢口…紗耶香来たらえらい元気になっとったなぁ。」
中澤は矢口に普通とは違う感情を抱いているのは自覚していた。
ただ、それは恋愛感情などではなく、人間的に好きだという感情
だと理解していた。
「最後の紗耶香のあの顔…なんやねん・・。」
ぶつぶつと呟きながら酒を飲む。
- 276 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月09日(火)03時15分19秒
(でも…うちは矢口とは…あかん。あの子をあんなに傷つけた
のに、いまさら・・無理やわ。)
中澤は日に日に大きくなってくる矢口への思いを決して認める事は
できなかった。
「あかん。考えてたら頭おかしくなりそうや。」
中澤の酒のペースはドンドン上がっていった。
実際中澤は矢口を好きになっていた。
月を見た時も、矢口と一緒に見たいという思いが中澤をあのような
行動に走らせた。
ただ、この気持ちは誰にも言えない。
あの子を知っている子にはなおのこと…。
中澤はいつの間にか眠ってしまった。
- 277 名前:作者です。 投稿日:2001年10月09日(火)03時23分23秒
>15さん。
なっち気にいってもらえて光栄です。
ようやく中澤の気持ちに手をつけはじめました。
『あの子』の話ももうすぐ書くつもりです。
ペース遅くてすいません。
>セーラムさん。
第2弾です。お気にめすかどうか…。
やぐちゅーです!!やぐちゅーが1番好きなもんで…
また読んでくだされば光栄です。
連休にも関わらず、更新しなさすぎ!!
すいません。
明日からまた前程度のペースに戻して行きたいと思っております。
これからもお付き合いの程、よろしくお願いいたします。
- 278 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月09日(火)07時46分01秒
- いいなぁやぐちゅー…
マジで期待してますよ〜
- 279 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月09日(火)12時47分00秒
- 中澤とあのコの妄想がひろがって・・・(w
矢口と安倍の片思いの雰囲気がカワイくていい感じ!
中澤の葛藤も好きです!
- 280 名前:作者です。 投稿日:2001年10月09日(火)16時57分26秒
>278さん。
ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
>279 名無しさん。
よかったです。そう言っていただけて…
あの子の話しはもう少しお待ちください。
- 281 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月09日(火)17時05分06秒
次の日、中澤はチャイムの音で目覚めた。
「・・だれやねん・・。」
時計を見ると8時半。中澤にとってはまだ寝ていられる時間である。
「・・はい?」
不機嫌そうに中澤がドアを開けた。
「寝起き?ごめんね、裕ちゃん。」
安倍が立っていた。
「なっちかいな・・。まぁ、入って・・。」
中澤はそう言うとあくびをしながら部屋に戻っていった。
安倍も後ろをついて行く。
向かい合わせにソファーに座ると中澤はまだ重い瞼をこすりながら
安倍に聞いた。
「どうしたん?」
「うん・・。」
少し緊張した面持ちで中澤を見る安倍。
「ちょっと裕ちゃんに話す事があるんだ。」
中澤は姿勢を正して、安倍を見た。
「なんや?」
「なっちは…裕ちゃんが好きなの。」
- 282 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月09日(火)17時18分21秒
「え?」
「裕ちゃんはなっちの事…。」
泣きそうな目で中澤を見る安倍。
「す、好きやで。でもな、恋愛感情とかじゃなくて・・。」
「裕ちゃんはまだ女の人とは付き合わないって思ってる?」
安倍はうつむきながら尋ねる。
「・…そうやなぁ。女の人とは…。」
「それはみっちゃんとの事で?それとも裕ちゃん自身が女の人の
事を好きにならないの?」
「・・・。」
中澤の頭に矢口が浮かんだ。
(なに考えてんねん。うちは…。)
「…うち自身がや…。」
絞る様にそう言った。
「…嘘。」
そう言うと安倍は立ち上がった。
中澤は無言で安倍を見上げた。
「裕ちゃんはまだみっちゃんのこと引きずってるでしょ!?」
安倍はそう叫ぶと部屋を出て行った。
ソファーでただじっとしていた中澤は遠くでドアの音を聞いた。
「なっち…。」
中澤は頭を抱えてソファーに横たわった。
「どうしようもないねん…。」
力なくそう呟くと、ボーっとただ天井だけを見ていた。
- 283 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月09日(火)17時36分29秒
矢口が店に行くと妙に元気のない中澤がいた。
表面は平常を保っているが、考え込んだり、ため息をついたり。
「なんでもないで。」
中澤のその一言が矢口を今拒絶していた。
(何があったんだろ?)
心配になってちらちらと中澤を見る矢口。
中澤は矢口が心配してくれているのがわかっていた。
(あかん。いっぱいいっぱいやわ。)
あえて矢口と視線を絡ませないようにしていた。
夜、相変わらず元気のない中澤の前に、飯田と石黒がいた。
いつもの2人じゃない。
矢口はますます不安を感じたが、何も言えなかった。
真剣な表情を時たま見せる3人を置いて矢口は帰り道を歩いていた。
なにかあったんだろう。
しかし、知り合ったばかりの矢口が口をはさめるような雰囲気では
なかった。
「なっちから聞いた。」
飯田は静かに目の前で酒を飲んでいる中澤に言った。
「そうか。」
中澤はグラスを見たまま答えた。
- 284 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月09日(火)17時51分28秒
「裕ちゃんはそんな過去にこだわる人だっけ?」
「…過去って?」
中澤は普段ない飯田のその口調に少しムッとした様に答える。
目線はグラスに貼りついたままである。
石黒はただ黙って2人を見ていた。
「みっちゃんのこと。」
「別に引きずってへんけど。」
「嘘。なっちは何も言ってなかったけど、裕ちゃんは引きずって
るよ。絶対。」
中澤は顔を上げて飯田をみた。
「・・うちのどこが引きずってるねん。」
無意識に中澤の額にできた眉間の皺が中澤の不愉快さを表していた。
「裕ちゃん今好きな子いるでしょ?」
答えになっていない答えにますます皺が増える。
「はぁ???」
「ちょっと待って。裕ちゃん皺。圭織も落ち着いて。」
石黒は2人の間に割って入った。
「裕ちゃん、私等裕ちゃんもなっちもずっと友達だから今、
ここでこうして話してるの。だから事実話して。」
中澤はよそをみながら額をさする。
「圭織。ちゃんと自分の気持ちも伝えて。焦りすぎ。」
飯田はごめん、と口を動かす。
- 285 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月09日(火)18時05分42秒
「裕ちゃん、圭織は裕ちゃんんもなっちも好きなの。2人とも
幸せになってほしいの。」
酒を飲む中澤に飯田は自分の気持ちを伝える。
中澤も飯田の目を見て話しを聞いていた。
「だから、自分の気持ちを押し殺さないで。それがどうであれ、
私達はなんとも思わないよ。」
「…。」
「裕ちゃん。」
中澤はグラスを置いて、2人を見た。
「わかったわ。確かに、うちはみっちゃんの事引きずっとったわ。
でも私のせいでみっちゃんがああなって…。」
「裕ちゃんのせいじゃないよ!!」
飯田が中澤の腕をつかむ。
「圭織…。ありがと。でもわかってんねん。うちのあの言葉が
あの事件を引き起こしたんやから。そやのに、ちょっとして
あの言葉は嘘でした、なんかうちには言えへん。」
そういうとゆっくり飯田から腕を外した。
「・……なんで・・うちあんなことゆーたんやろ・・?」
目頭を親指と人差し指で押さえ、中澤は溢れ出る涙をぬぐった。
- 286 名前:とうりすがりの読者。 投稿日:2001年10月09日(火)19時02分41秒
- 作者さん。今日、このスレ発見しました。
前作の痛いやぐちゅーかなりスキです。
今回のやぐなちゅー&みっちゃん?かなりハマリました。
裕ちゃんは、みっちゃんの事・なっちとの事・矢口との事で悩み大変だ(w
へタレの裕ちゃんも好きですが・・・シリアスの裕ちゃんも好きです。
石黒・市井・飯田の絡みもスキです。
作者さん頑張ってください。
- 287 名前:作者です。 投稿日:2001年10月09日(火)22時26分37秒
>286 とうりすがりの読者。さん。
前作、気に入っていただけてうれしいです。
今作もぜひ読んでください。
キャラを気にいっていただけてるようなので、かなりうれしいです。
これからもよろしくお願いします。
- 288 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月09日(火)22時43分54秒
「裕ちゃん…ずっと悩んでたんだね。」
石黒はそう呟くと中澤の隣に座った。
「でも、今ここにみっちゃんがいたらきっとこういうよ。
姐さんのせいちゃいますからもう悩まんといてくださいって。」
石黒の言葉に中澤は目を押さえながらつっこんだ。
「イントネーションおかしいで…。」
「そっそれはおいといて、みっちゃんがこう言うに決まってるの
くらい圭織も私も、皆わかってるよ。」
石黒は中澤の顔を覗きこんだ。
「裕ちゃんが自分に素直になっても、私等の誰も裕ちゃんを恨まないよ。
もちろんみっちゃんもね。」
そういうと優しく中澤を抱きしめた。
「自分の道をしっかり持ってるのが裕ちゃんでしょ?」
「あやっぺ…。」
石黒は中澤から離れ、飯田も立ち上がった。
「自分の気持ちもうわかるよね。」
- 289 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月09日(火)23時10分17秒
「圭織…。」
残っていた涙を拭きながら中澤は飯田を見た。
「裕ちゃんが今女の人とうまくいっても、圭織はちゃんと
祝福できるよ。」
「…でもなぁ・・。」
「なっちも祝福してくれるハズだよ。告白してすっきりしたって
言ってたもん。ただ、裕ちゃんに会うのに時間が欲しいって
言ってたけど。」
中澤は今朝の傷付いた表情をした安倍の顔を思い出した。
「なっちは…ほんまに妹としか見れへん…。」
「裕ちゃん、それはしかたがない事だって。恋愛って
そういうものでしょ?」
石黒が中澤の肩を叩いた。
「なっちのフォローは私等にまかせてよ。裕ちゃんは裕ちゃんの恋を
考えて。なっちにも裕ちゃんにも幸せになって欲しいんだからさ。」
「あやっぺ・・圭織・・ほんまありがとうな。」
「紗耶香もなっちも、裕ちゃんの事心配してたんだから。
んじゃ、行くね。」
そう言って二人は帰って行った。
- 290 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月10日(水)01時20分09秒
風呂に入って、明日の準備もし終わった矢口はベッドの上で
眠れないでいた。
体は疲れているのに、頭はばっちり冴えたままだ。
意味もなく携帯をいじる。
「はぁ・・。」
静かな部屋に聞こえるのは時たまもらす矢口のため息だけだった。
(裕ちゃん…昔何があったんだろ?)
諦めきれない中澤へのこの恋心は中澤には受け入れられないのだ。
(なっちどうするんだろ…)
「はぁ・・。」
何十回めかのため息を吐き出すと、矢口はベッドの上をごろごろと
寝返った。
「…裕ちゃんの傍に居たいけど、つらいだけかなぁ。」
いつまでも実らない恋心を持って、好きな人と1日中一緒に居る事に
矢口はつらくなるだけだと思った。
「でも、離れたくないよ…。」
両思いから始まる恋を求めていたわけではない。
ただ、未来の二人がない恋に矢口はいっぱいいっぱいだった。
- 291 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月10日(水)02時02分54秒
「月でも見るか。」
矢口は勢い良く立ち上がり、激しく窓を開けた。
「おっ今日は見えてる!」
無理に明るく振舞い、全て口に出していた。
「微妙に満月じゃないけど…綺麗。」
伸びをして夜の空気をいっぱいすった。
「あんたさっきから何1人で遊んでんねん…。」
突然下から声がした。
「ゆっ・…裕ちゃん??」
ほんのり顔を赤くした中澤が矢口を見上げていた。
「何してんの?」
矢口は自分の顔がにやけるのを必死で止めた。
「何って?そんなん矢口の顔見にきたんに決まってるやんか〜。」
フラフラと真下にやってくる。
「あがれば?」
「ええんか?こんな時間に。」
「何しにきたのさ。いいよいいよ。もちろん。」
矢口の顔はもう歯止めがきかないくらいの笑顔になっていた。
「なら今から行くからおとなしぃ待っといて〜な。」
さっき店で見せていた暗い表情が中澤から消えていた。
矢口は中澤が階段の方にまわったのを見送ると急いでドアを開けに
行った。さっきまでの悩みなど、頭からとっくに消え去っていた。
- 292 名前:naka 投稿日:2001年10月10日(水)03時26分28秒
- う〜、なっちはどうなるんだ〜???
幸せになれるのかな???
可愛そうなまんまじゃない事を願う・・・
- 293 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月10日(水)15時36分07秒
「お邪魔しま〜す。」
中澤は矢口の前をすり抜けて部屋の中に入って行った。
矢口はドアを閉めると中澤の元へむかった。
「どうしたの?こんな時間に。」
時計は4時すぎを指していた。
「矢口こそなんでまだ起きとったん?」
「ん…ちょっと眠れなくて・・。」
中澤は矢口を隣に座らせた。
「裕ちゃん酒臭いよ。」
「飲んどったからな。」
少しの沈黙が二人を包む。
沈黙を破ったのは中澤だった。
「矢口・・。」
中澤が矢口を抱きしめた。
「なっ・・裕ちゃんどうしたの?」
「嫌か?」
中澤が少し体を離して矢口を見た。
「い、嫌じゃないけど…。本当にどうしたの?」
「変な事言うかもしれへんけど、聞いてくれるか?」
「うん。」
矢口はつばを飲みこんだ。
「今日なっちに告白されてん。」
矢口は自分の体の全てがその言葉に反応したのがわかった。
「えっ…そっかぁ。」
「でも、うちは断ってんかぁ。」
(やっぱり裕ちゃんは…女とはつきあわないんだね。)
- 294 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月10日(水)16時27分16秒
「なっちの事は、妹として好きやねん。うちはな…。」
「待って!!いいよ、その先は言わなくて。」
矢口は中澤の言葉をさえぎった。
「なんでや?」
「なっちから聞いた。」
中澤は矢口の顔を訝しげに見た。
「なにを?」
「…昔イロイロあったって…女の人とは…って。」
中澤の顔色が変わる。
「…全部話すわ。聞いてくれるか?」
そう言うとベッドにもたれかかった。
「みっちゃんって子がおったんや。いつものメンバーに。」
「ちょっ・・いいよ、話したくない事言わなくて。」
話し始めた中澤を矢口が見た。
「うちが矢口に聞いてほしいねん。聞いてな?」
中澤は頭を軽く振って矢口の顔を見た。
「同じ関西出身やったし、1番気があってん。よー一緒に朝まで
飲んでたわ。いつも一緒におった。」
- 295 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月10日(水)17時31分47秒
「あるとき、なんかみっちゃんの様子がいつもと違ってん。
なんか話あるみたいで。なんや思って聞いたらな、告白されてん。
・・・・もーうちびっくりしてなぁ。そんな風に全然思ってへん
かったし、しかも女・・やんかぁ。」
矢口は黙って聞いていた。
「女と付き合う気なんかないってゆーたんや。ひどいやろ?
んなら、皆がやっぱりひどいとか、イロイロゆってきたわけよ。
みっちゃんは黙ってうつむいとった。その時や。うちは最低
な事ゆーてん。」
中澤は矢口の顔を見た。
「ちゃんと聞いてるよ。」
矢口は中澤の手のひらに自分の手をあわせ、手をつないだ。
「・…気持ち悪いってゆーたんや。」
中澤の手は小さく震えていた。
「みっちゃんはその言葉聞いて飛び出していきおった。何人か急いで
後追いかけていったんやけどな、傍にはなっちがおったんや。」
- 296 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月10日(水)17時46分48秒
矢口は『気持ち悪い』という言葉に頭を殴られたような衝撃を
感じていた。しかし、なんとか心の動揺を隠す。
中澤は矢口の手を強く握っていた。
「なっちはなんもいわずにただ傍でうちをみとった。うちも最低な事
ゆーたなぁ、って考えててん。でも、ほんまにその時はそう思って
んか。人間的に最悪やと我ながら思うわ。」
中澤はそう言うと目をつむって息を吐き出した。
「みっちゃんって言う人と…」
矢口が聞き終わらない前に中澤が答える。
「死んだんや。」
中澤の手から力が抜ける。矢口はその手をしっかりと繋いだ。
「飛び出して行って…車とぶつかってん…。」
中澤の声が震えていた。矢口は思わず中澤を抱きしめた。
「裕ちゃん・・。」
「うちが…うちが殺したんや・・。」
中澤は力なくそう呟くと矢口の肩に顔をうずめた。
「事故だよ。裕ちゃんが殺したんじゃない…。」
矢口は中澤を抱く腕に力を入れる。
「矢口…ありがとう。」
「裕ちゃんずっと1人で悩んでたんだね。」
矢口が中澤の背中をさすりながら呟く。
- 297 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月10日(水)19時20分06秒
「うち…最低やろ?」
力なく中澤が矢口に尋ねた。
「ううん。裕ちゃんは最低なんかじゃないよ。」
矢口は腕に力をこめた。
「矢口…。」
中澤はそう言うと矢口から体を離した。
「あと1個話しあんねん。」
「何?裕ちゃん…。」
矢口は不安げな目で中澤を見た。
「あんな…。」
中澤が話し出すと矢口はぎゅっと目をつむった。
(きっと、矢口の気持ちに気付いてたんだ。それで気持ちは
うけいれられないっていうんだろな…。)
今までのつかの間の中澤との密着した時を思い出す。
「うちな、矢口…のことが・・…好きやねん。」
矢口は目をつむったままピクリとも動かなかった。
(えっ?今・…)
中澤の言葉が自分の妄想のように思える。
「矢口?」
なんの反応も示さない矢口を中澤は見た。
(顔見てもくれへん…)
「ご、ごめんな。気にせんといて。」
中澤は立ち上がって帰ろうとした。
- 298 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月10日(水)19時29分46秒
「ちょっ・・裕ちゃん??」
慌てて目を開いて中澤を見上げれる。
「ありがとうな。話し聞いてくれて。」
「矢口の返事は?」
矢口は中澤の服をつかんだ。
「矢口、ええねんで、気をつかわんでも。」
矢口は立ち上がり、中澤に再び抱きついた。
「矢口も裕ちゃんの事が好きだよぉ!!」
一瞬びっくりした顔をする中澤。
「ほんまか?」
「ずっと好きでどうしようもなくて…うれしいよ〜。」
矢口の目からポロポロと涙が溢れる。
「矢口…こんなうちでええんか?」
中澤は矢口の涙を拭いてやる。
「裕ちゃんじゃないと嫌!!」
二人はいつの間にか笑顔で見詰め合っていた。
「裕ちゃんこそ、矢口でいいの?」
「うちも矢口しか嫌や。初めて見た時から、もう心奪われててん。」
二人は自然にキスをした。
- 299 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月10日(水)19時38分52秒
唇を少し離しては、お互いを確認するように見詰め合い、
再び唇を合わせる。
「矢口・・。」
「裕ちゃん。」
お互いを呼び合い、すぐその唇をふさぐ。
「裕ちゃん、月見ようよ。」
抱き合ったまま、何十回目かのキスの後、矢口が中澤に言った。
「ええで。」
手を繋いだまま一緒にベランダに移動する。
外はもううっすら明るかった。
「この前ほど綺麗ちゃうなぁ、真っ暗じゃないと・・。」
「そうだね。また今度一緒に見ようよ。」
矢口の言葉に、空を見上げていた中澤が振りかえる。
「今度?」
「えっ・・嫌ならいいけど・・。」
不満げに矢口を見る中澤にたじたじとなる矢口。
「今晩見よ。嫌なわけないやろ〜?」
中澤はおもいっきり矢口に抱きついた。
「矢口、好きやで・・。」
「矢口もだよ、裕ちゃん。」
- 300 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月10日(水)19時53分33秒
弱くはあるが月の光が二人を包み込む。
二人は何度も何度もお互いを確認する。
その度に顔がほころぶ。
お互い叶うとは思っていなかった恋心が燃え上がる。
『好き』
その言葉だけじゃ伝わりきれない何かを伝えようと、
二人は飽きるほどキスをした。
「あの月見た晩も、好きでたまらなかったんだよ。」
矢口は中澤に寄りかかる様に座っていた。
「うちも、まだ自分で認めてなかったけど、矢口を求めとった。
だから帰れへんくて…矢口の姿ちょっとでもみたくて・・。」
矢口の肩を抱きながら中澤も座っていた。
「ここまでなれる恋愛ってあるんやな。」
矢口の頭に頬をよせる。
「矢口もだよ。裕ちゃんの事ばかりが頭にうかんで寝れなかった。」
「もう離さへんで。覚悟しときや?」
「裕ちゃんこそ覚悟しといてよ。」
そう言うと二人は目を合わせて笑った。
- 301 名前:作者です。 投稿日:2001年10月10日(水)20時00分32秒
>292 nakaさん。
なっちはこの後、いや、もうちょい後に
幸せにできたらいいと思ってます。
みっちゃん以外は幸せにできたらいいと…
とりあえずやっと…やぐちゅーにできました…
遅すぎんねんって話でしょう。
ひっぱりまくってごめんなさい。
途中展開遅すぎでした…。
あっ、そろそろ後藤をださないと…
終話まではま〜だまだでありますが、
お付き合いの程、よろしくお願いします。
- 302 名前:15 投稿日:2001年10月10日(水)22時31分40秒
- ついに二人くっつきましたね。
良いことです、良いことです。
すっごく甘々な二人がいい感じでした。
過去を背負いながらも、矢口を好きになっちゃう裕ちゃんが、
かっこいいです。
ジーンときたです。
後藤の登場楽しみにしております。
では、失礼します。
- 303 名前:セーラム 投稿日:2001年10月12日(金)00時42分09秒
- きた〜〜〜!やぐちゅー最高です。
- 304 名前:作者です。 投稿日:2001年10月12日(金)00時49分44秒
>15さん。
やっとくっつけれました。長々としてしまいましたが…。
甘さが伝わってよかったです!
よく考えたら中澤はいつも過去になんかある設定に…。
後藤の登場で明るくなるようがんばります。
なっちもいるから…。
- 305 名前:作者です。 投稿日:2001年10月12日(金)01時14分20秒
>303 セーラムさん。
あ〜よかった。
一応は好評のようで…
やぐちゅーが1番です!!!
- 306 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月12日(金)16時35分53秒
「ほんまに…こんな幸せでええんかな?」
中澤が小さく呟く。
「裕ちゃん?」
「うち…ほんまにええんやろか?みっちゃんに気持ち悪いゆーといて
矢口と付き合って。みっちゃん…許してくれへんのちゃうか?」
中澤が矢口を見る。
矢口は中澤の服をぎゅっとつかんだ。
「嫌だよ・・。裕ちゃんと離れたくないよ。」
「うちもや。でもな…。」
中澤が胸を押さえる。
「なんかつらいんや…。胸が…。」
矢口は中澤を見ることしかできなかった。
「うちの中でまだカタついてへん。矢口を好きになる度に
ここが痛みおる。」
中澤が胸をたたく。
「…カタつけてくるから…待っててくれるか?」
中澤は矢口を見た。
「・・うん。でもどうすんの?」
「今からなっちに会いに行ってくる。ほんで矢口との事言う。」
中澤は矢口の肩をつかんで見つめ合った。
- 307 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月12日(金)16時44分46秒
「あやっぺと圭織は許してくれた。紗耶香も許してくれる思う。
なっちは…今わからん。でも、なっちにも許してもらえてこそ、
うちらは幸せになれると思うねん。皆の心にいるみっちゃんに
許可もらうわ。こんなんしかうちにはわからん。」
「…うん。わかった。」
中澤は矢口を抱きしめた。
「ありがとう。なっちと話したらここ帰ってくるわ。」
「店は?」
「今日は休みにしよ。ほんでどっか行こうや。」
中澤は矢口から離れて立ち上がった。
「寝ときや。」
そう言うと中澤は玄関に向かう。
矢口も一緒に玄関に向かった。
「待ってるからね。裕ちゃん。」
「うん。ほな行ってきます。」
そう言うと矢口の頬に軽くキスをして出て行った。
- 308 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月12日(金)17時05分22秒
中澤は朝の町を歩いていた。
矢口のぬくもりを忘れない様に手はポケットにいれていた。
安倍のアパートには2・3回行ったことがあったので覚えていた。
安倍の顔を思い出す。あの時の顔を。
平家が飛び出した時、中澤を見ていた顔。
中澤にふられたときの顔。
同じ寂しい、悲しみにあふれた顔。
(なっちには笑っていてほしいねん。)
しかし、矢口のことをいえばまたその顔をみなければいけないかも
しれない。中澤はそれが嫌だった。
(なっち…あの頃から好きでいてくれたんか?)
中澤のあの言葉は安倍までもを傷つけていただろう。
(また笑って一緒にバカできるように…みっちゃん、許して
くれんねんたら力かしてや…。)
うす暗い朝日と少し肌寒い風が中澤を後押ししていた。
- 309 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月12日(金)17時30分22秒
中澤の訪問に驚いた顔をしていた安倍だったが、一応中澤を
部屋に通した。
気まずそうに中澤から離れた所に座る。
「寝てへんかったん?」
中澤に頷くことで返事をする安倍。
「そっか・…。」
中澤は部屋を見渡した。
「前より綺麗になってんな。」
「…汚かった?」
やっと安倍が声を発した。
「うんうん。前よりももっと綺麗って事。」
そう言うと中澤は安倍を黙って見た。
安倍は中澤から目線を外していたが視線が気になったのか、
「何?話あるんでしょ?」
と呟いた。
「…ごめん。」
中澤はただそれだけ言って頭を下げた。
「…しかたがないよ。裕ちゃんに振られた事はちゃんと納得する。」
ぼそっと安倍が言った。
「それだけちゃうねん。」
頭を下げたまま中澤は話を続けた。
「なっちにゆったこと、嘘ってゆわれたやつ、あれ嘘や。」
安倍は黙って聞いていた。
「うちは…好きな子おる。みっちゃんのことも引きずってた。
でも、ほんま許されるんやったら、うちは好きな子と…
やって行きたい。なっち…許してくれるか?」
- 310 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月12日(金)18時04分29秒
安倍は黙っていた。
中澤は頭をあげる。
「みっちゃんは裕ちゃんに幸せになって欲しいと思ってるよ。
自分のせいで幸せになれないほうがつらいよ。なっちもそう
思う。・…でもね、頭がそう思っていても、気持ちがついて
かない…まだ、裕ちゃんの事忘れられないよ…。」
涙を流しながら安倍がそう言った。
「そ…っか。」
中澤は静かに安倍を見ていた。
「なっちが裕ちゃんの支えになれたらってずっと思ってた。
でも、・…矢口なんだね。」
「なっち…気付いてたんか?」
矢口と言う名前に中澤は反応した。
「…時間かかると思うけど、裕ちゃんの幸せが1番だから、なっちは
裕ちゃんの恋応援するよ…。まだ頭ぐちゃぐちゃだけど…。」
「なっち・・ほんまの事ゆーてや。」
「・…うん。二人を温かく見れるのは先かもしんないけど…
矢口と幸せになって…。」
そう言うと近くにあったクッションに顔をうずめた。
「なっち…。」
中澤は安倍に近付いた。
「…優しくしないで…決心がにぶるよ…。ほんとに…」
- 311 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月12日(金)18時13分55秒
「恋ってこういう物でしょ。なっちはもう…大丈夫。
気持ち切り替えられるから。・・だから・・1人にして・・?」
安倍が目に涙をためながら精一杯の笑顔を中澤にむける。
中澤は安倍を包み込むように抱きしめた。
「ありがとう。ほんまに・・。あるがとうな、なっち。」
中澤は立ち上がって部屋を出た。
「・…裕ちゃん…。最後まで優しすぎるよ…。」
安倍はドアの閉まる音が聞こえると涙を押さえるのをやめた。
とめどなく溢れる涙。
「ちゃんと切りかえるから…」
クッションに顔をうずめ、声が漏れないように泣き出した。
中澤はあのまま安倍を残して行くのは心配だったが、自分のできる
ことは何もないと自覚していた。
(なっち。ありがとうな。こんなうちを好きでいてくれて。)
安倍の部屋を見上げて、中澤は矢口の待つアパートへ歩いて行った。
- 312 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月12日(金)21時38分18秒
ピンポーン
矢口の部屋の呼び鈴がなったのは朝の6時半頃だった。
ピンポンピンポンピンポンピンポーン
矢口はあわててドアを開けに行った。
「ただいま。」
ドアの前には中澤が笑顔で立っていた。
「おかえり…って鳴らしすぎだよ!!」
矢口もその笑顔を見て顔がほころぶのが自分でわかった。
「寝とった?」
部屋に上がりながら中澤は矢口に聞いた。
「ううん。」
「なんでや?眠たくなかった?」
一緒にベッドに腰かける。
「裕ちゃんをちゃんと待ってたかったんだ。」
中澤が心配で寝れるわけがなかったのだ。
「そっか。」
矢口の気持ちにうすうす気がついてはいるが中澤はあえてそこは
つっこまなかった。
- 313 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月12日(金)21時45分55秒
矢口に大きめのTシャツとジャージを借りると中澤は着替えた。
「なんやおかしない?」
ジャージのすそが短くてどこかの田舎者のような中澤。
その姿を笑いたいが、自分のジャージ故に矢口は微妙な反応しか
できなかった。
「寝る準備もできたし、寝よか。」
中澤はベッドに横たわって矢口のスペースを確保する。
「はい。ええで。」
矢口は中澤の横にスッポリと納まった。
「矢口あったかいなぁ。」
もぞもぞと体を動かし矢口に体をよせる。
「裕ちゃん冷たいね。」
矢口はひんやりとした中澤を包み込むように腕をまわした。
「は〜、気持ちいい。おやすみ。」
「おやすみ。」
矢口も中澤もお互いの温もりをもらさないように体を寄せ合って、
深い眠りに落ちた。
- 314 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月13日(土)04時25分19秒
- やぐちゅー幸せになりそうでよかった。前作辛かったし。
ああいうのもいいんですけどね。引きこまれちゃったし。
しかし、矢口の服を着る裕ちゃん…姿を想像してワラタ。(w
あとはみっちゃんだけが不幸になるのかな。気が早いですが次回作があれば、
そこでは幸せにしてやってくださいね。っていうか登場させて欲しい。
( `◇´)<うちは世界で一番不幸な少女や。
从#~∀~#从<少女って…あつかましいわっ。
そろそろスレッドサイズ Maxに達しますね。
このレスつけるのもドキドキ。(最終レス踏まないだろうな…)
- 315 名前:作者です。 投稿日:2001年10月13日(土)15時06分28秒
>314さん。
前作も今作も読んでいただけてるなんて光栄です。
前作はかなり悲惨だったので今回は悲惨にならないように
しました。
みっちゃんは…名前だけの登場で、しかも殺して・…
不幸ですよね。またいつか書けたら幸せにします。
次回作なんてあるのか…
とりあえず、今は続きがんばります。
裕ちゃんとみっちゃんのかけひきおもろかったです。
- 316 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月13日(土)15時19分56秒
矢口が目を覚ましたのは11時前だった。
「店ほんとに休みにするのかな?」
隣でスヤスヤ寝ている中澤の顔を眺める。
少し額に浮かぶ皺。
矢口はそっとその皺をさわった。
「…ん…。」
起きはしないが少し声をだす中澤。
すぐに皺はなくなった。
安心したような、少し微笑んだような寝顔。
矢口はそっとベッドを抜け出した。
出かけるにしても、とりあえず化粧などをし始める。
横目で中澤を確認すると、
(は〜幸せだな〜)
自然に顔に笑顔が浮かぶ。
中澤の顔を見るだけで胸にあふれる幸せな気持ちは矢口全体に
行き渡っていた。
この時間がずっと続けばいいと願うばかり。
中澤に近付くとそっと頬にキスをした。
- 317 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月13日(土)21時34分52秒
「・…おはよう。」
矢口のキスで中澤が目覚めた。
「あっ起こしちゃった?ごめん。」
「ええよ。っちゅーか起こしてくれたらよかったのに。」
中澤が起き上がりながら時計を見る。
「矢口もさっき起きたばっかだよ。」
「・…。今日どこ出かける?」
眠そうに目をこすりながら中澤が矢口を見た。
「んー。裕ちゃんにまかせるよ。眠くない?寝る?」
「大丈夫や。ほな準備するわ。」
とりあえず、1回中澤の家による。
中澤が準備しに上がっている間に矢口は店に『臨時休業』の札を
かけていた。
「いいのかな?休みにしちゃって…。」
頭の中では中澤と出かけられることがうれしくてしかたがないが、
少し心配になる。
「まっいいか。」
矢口は笑顔で店に入っていった。
- 318 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月13日(土)22時08分11秒
「ほな、行こか。」
中澤が2階から降りてきた。
「うん。」
二人は並んで駅までの道を行く。
「矢口はどっか行きたいとことかないの?」
「う〜ん。別に…。」
(ディズニーランドとか裕ちゃんは絶対いかなさそうだし)
「ほなどうしょうかな?まっとりあえずご飯食べる?」
「うん。矢口お腹へった〜。」
二人は適当に近くにあったレストランに入った。
それぞれランチセットを頼む。
「なんかあらへんかな?」
中澤はキョロキョロと辺りを見渡す。
「裕ちゃんいつもデートは何してたの?」
「うち?そやなぁ。部屋におる事多かったかな。後はハご飯食べに
行ったり、バー行ったりやったなぁ。矢口は?」
「矢口は学生だったからねぇ。遊園地行ったり、カラオケ行ったりかな。」
中澤はフンフンと頷きながら矢口の話を聞く。
「おっしゃ。行こうか。」
「へっ?どこに。」
矢口には話が見えない。
「遊園地。矢口好きそうやん。」
ニコニコと中澤が話す。
- 319 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月13日(土)22時25分12秒
「裕ちゃんは嫌いそうだよ。」
「矢口の行きたいとこ行きたいもん。」
あんま行った事ないけどな、と中澤は笑った。
「矢口も裕ちゃんが好きな所行きたいよ。」
「ほなら両方ちゃんと場所ゆおか。ほんでどっちかきめよ。また次
いけばええしな。」
そう言って中澤は少し考える。
そしてせぇのっで言う事にした。
「ウィンドゥショッピング!」
「ディズニーランド!」
中澤と矢口はお互いの顔を見た。
「全然ちゃうかったな。」
「ほんと。今日は裕ちゃんの方行こうよ。」
「なんでや?」
中澤は遊園地でええのに、と聞いた。
「遊園地はもっと早くから行かなきゃ、全部周れないじゃん。」
「なるほど。んじゃ、今日はちょっとブラブラして、ほんで帰って
一緒に飲も。」
「うん。」
今日は寝不足という点もあって二人の体調が万全でないのがわかって
いる為、矢口がそう言ったのを中澤はわかっていた。
(ほんまよう気使うなぁ。)
早く遠慮なくなってほしいとねがいつつ、矢口の顔を見ていた。
- 320 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月13日(土)22時44分43秒
- なんかかなりイイ。
ほのぼのやぐちゅー。
- 321 名前:263 投稿日:2001年10月14日(日)00時35分29秒
- やはり、あの子はみっちゃんしかいませんね。
飛出した所を車に撥ねられるような不幸っぷりは彼女じゃなきゃ(w
だって、明日香じゃ、車に轢かれても生きてそうだし(おい
- 322 名前:作者です。 投稿日:2001年10月14日(日)01時56分45秒
>320さん
ありがとうございます。
少しほのぼので小甘で行きたいと考えています。
>321 263さん
みっちゃんにして正解でしたね…。
(なんて、みっちゃんファンの方すいません。)
明日香と中澤だとちょっと年が離れすぎてて
女との恋愛をうけいれられないだけの問題じゃ
なくなりそうだったので、それなりに中澤に近い
みっちゃんに白羽の矢がたったのも理由です。
ここのやぐちゅー気にいっていただけて光栄です!!
- 323 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月14日(日)02時08分42秒
昼食も終わり二人はブラブラと町を歩いていた。
中澤も矢口も人目を気にしてか、はたから見たらただの
年の離れた友達同士にしか見えない距離をもっていた。
同性愛者が受け入れられている社会ではまだない。
周りに多かったのは珍しい。
矢口も、中澤も今まで自分の知り合いでは見たこともなかった。
しかし、近年増えてきているというのは耳にした事があった。
それでもまだまだ世に浸透していない。
こんな社会で、普通のカップルの様にどうどうとできる日は
くるのだろうか。
中澤の頭にそんな不安がつもる。
(手を繋ぐぐらいならかまへんかな?)
コソっと矢口の手に自分の手を近つけるが掴むことができない。
なんどくりかえしただろうか?
中澤の手はむなしく空をきる。
「どうしたの裕ちゃん?」
隣で何かコソコソしている中澤に気ついたのか、矢口が中澤を
覗きこむ。
「えっ!?なんでもないで。」
少しあせって返事をし、矢口に聞こえない様にため息をついた。
- 324 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月14日(日)02時19分23秒
矢口にも中澤ほど考えていないが、漠然とあまり人に見られたくない
という思いが頭にある。
自分としては何も恥ずかしいなんてことはないはずなのだが、
いままでこのような恋愛に否定的な世界で生きていたので、
しっかりその思想が頭に固定してあるのだ。
何か吹っ切るきっかけがあれば乗り越えられる問題だろう。
矢口も中澤と手をつないで歩きたかった。
しかし、隣で何かしていた中澤を気にとめた後、
中澤は腕を組んでしまったので、自然に繋ぐ事はできなく
なってしまった。
二人は同じような葛藤を同時にしていた。
町の仲の良いカップルを見るたびに何かひっかかる。
どんな人よりも相手を思う気持ちは1番だと言える自信はある。
しかし、狭い社会でずっと生きてきた二人には人の目をまったく
気にせず二人だけの道を行くというのはなかなか難しいことだった。
それが自分でも納得できない。
- 325 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月14日(日)14時35分37秒
買物といっても、二人の服装の好みは全然ちがったので、
結局あまりちゃんと見ることはなかった。
結局ただブラブラとしただけで、帰ることにした。
「うちがめっちゃおいしいもん作ったるからな。」
「楽しみ。」
帰りにスーパーで食材をイロイロと買いこむ中澤を見ながら
矢口は漠然とした不安を持っていた。
(こんなに好きなのに、いつかは別れて別々の道歩かないと
いけないのかな?)
中澤の背中を見ていると、無償に抱きつきたくなった。
しかしここはスーパー。矢口が抱き着けば、周りの人に裕ちゃん
まで変な目で見られるだろう。
矢口は我慢するしかなかった。
「どしたん?」
中澤が矢口の微妙な変化に気付く。
中澤が顔を近つける。
「なっなんでもないっ!!」
矢口はあわてて顔をそらす。
中澤は一瞬傷ついたような顔をしたが、
「そっそうか。ほな、これ買ってくるわ。」
とレジに向かって歩いて行ってしまった。
- 326 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月14日(日)14時45分49秒
矢口は中澤の傷ついた顔が頭から離れなかった。
(どうしてこんなことしちゃったんだろ?)
自分が嫌になる。
中澤はそっとレジで矢口の様子を見ていた。
「ただいま〜。」
ガサガサとスーパーの袋を両手に二人は店に帰った。
矢口は中澤が荷物を置くや否や中澤に飛びついた。
「裕ちゃんっ!!」
「おわっ!なんや?」
一瞬態勢を崩しそうになるが必死でたてなおす。
「さっきごめん!!」
「ええよええよ。でもどしたんや?」
中澤が矢口の髪を撫でながら優しく聞いた。
「さっき、無償に裕ちゃんに抱きつきたくなったんだ。」
矢口は中澤を見上げる。
「でも、スーパーだったし…。」
中澤は矢口をぎゅっと抱きしめる。
「そうか。なんや裕ちゃん矢口に嫌われたんかと思ったわ。」
「そんなわけないよっ!!」
「うれしいわ。矢口にそう言ってもらえると。」
そう言うと中澤は矢口の額に軽くキスをする。
「ほな晩御飯作るし2階行こか。」
- 327 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月14日(日)14時59分19秒
矢口は初めて2階に上がった。
店と同じように、シンプルなインテリア。
「綺麗にしてるんだねぇ。」
矢口が興味深そうにキョロキョロと周りを見渡す。
「そうか?まぁ、TV見るなりゆっくりしといてや。」
中澤はキッチンに入って行った。
矢口はソファーに座るとTVをつける。
NEWSしかしてない時間帯。すぐつまらなくなって矢口はキッチンの
中澤の様子を見に行った。
「なんや?見るもんないんか?」
野菜を手際良く切りながら中澤が矢口に気ついた。
「別にこれといって…手伝うよ。」
「ゆっくりしといてええんやで。」
中澤は矢口にそう言った時、矢口の携帯がなった。
誰だろ?と思いながら矢口は電話にでる。
『もしもし、矢口?』
「なんだ。紗耶香かぁ。どうしたの?」
『なんだ〜じゃないよ。今日店休みなの?』
「そうだよ。休み。」
『なんだ〜。せっかく行こうと思ってたのに〜。』
市井が残念そうな声を上げる。
「なんや?紗耶香やろ?」
中澤が矢口に話しかける。
「うん。今日こようと思ってたんだって。」
矢口が中澤に答えた。
- 328 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月14日(日)15時13分44秒
『何?裕ちゃんチにいんの?』
「そうだけど。」
『んじゃ、家行くよ。じゃねっ裕ちゃんによろしく。』
そう言うと市井は電話を切ってしまった。
「紗耶香なんやて?」
携帯を眺めていた矢口に中澤が話かけた。
「・…来るみたいな事言って切れた。」
「は?まじで?」
「裕ちゃんによろしくって。」
「まぁ、ええけどさ。」
中澤は料理に戻った。
矢口も市井が来ることに嫌な気はしなかった。
それに聞いてみたい事もある。
矢口は再びソファーに腰を降ろすと中澤の顔を見ていた。
- 329 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月14日(日)15時41分55秒
「ご飯食べんのかな?わからんからええか。」
中澤が料理をテーブルに運んできた。
矢口も一緒に運ぶ。たった40分ぐらいで仕上げられたとは
考え難い豪華な料理だった。
「おいしっそー!!」
「食べよ食べよ。」
さっそく二人は席につく。
「「いただきま〜す」」
二人は早速食べ始めた。
目の前で自分が作った料理をおいしそうに食べている矢口を
みながら中澤は昼間のことを考えていた。
(矢口は人目とか気にせんにゃろか?)
しかし、なんとなくその話題にふれられない。
自分達の未来がなくなりそうな気がするから…
この問題にふれると二人の関係が壊れるかもしれない。
どんな困難にでも打ち勝つ自信はあるが、この問題だけは
中澤は自信をもてなかった。
(紗耶香らはどうなんやろ?)
中澤達より先輩にあたる市井なら何か自分なりに結論を出しているかも
しれない。
中澤は心底聞いてみたかった。
- 330 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月14日(日)18時08分47秒
「裕ちゃん。」
夕飯を食べ終わり、片つけもすみ、少し休憩でもしようと
中澤がソファーに近付くと矢口がクッションをかかえて見ていた。
「ん?どしたんや?」
中澤はゆっくり隣に腰を下ろす。
「裕ちゃんは矢口の事好き?」
何を突然?といったように矢口を見たが中澤はすぐに答えた。
「あたりまえやん。うちは矢口が好きやで。」
中澤はゆっくり矢口を抱きしめた。
「不安なんか?」
矢口は黙って頷いた。
「うちはほんまに矢口が好きや。この気持ちは誰にもまけん。矢口は?」
背中にまわされた矢口の手がぎゅっと中澤の服をひっぱる。
「矢口も。一生裕ちゃんから離れたくないよ。」
中澤は本当に愛しそうに矢口を見た。
「かわええ〜なぁ。矢口は〜。もう絶対はなさへんで。」
「ゆっ裕ちゃん!?」
「一生裕ちゃんが矢口守ったるからな?うちから離れんといてや?」
「…うん。」
矢口は恥ずかしそうに下をむいた。
女であろうが関係ない。世間の目がなんであろうと、中澤は矢口としか
一緒に未来への道を歩き出せないと思っていた。
手の中にいる愛しい存在が中澤を成長させた。
- 331 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月14日(日)18時20分18秒
矢口は中澤の言葉で自分に自信ももてたし、悩む事など何も
ないと自覚した。
(裕ちゃんも矢口を好きでいてくれてる。こんなに幸せな事って
ないよ。)
中澤の温かみを体中で感じていた。
中澤と矢口は一緒に店に下りた。
どうせ市井がくるなら店の方が使い勝手がいい。
夕飯を多く作っていたので、残り物も持っておりた。
しばらくはちょっとしたつまみで二人で飲む。
ソファーでお互い肩を寄せ合いながら。
たまに目を合わせば言葉をかける変わりに口付けをかわす。
何気ない会話をしながら、二人は最高の時間を過ごしていた。
「おーっす!!」
勢い良くドアが開いたと思えば市井が入ってきた。
中澤と矢口は振り返って市井を見た。
「なんや、相変わらず元気やなぁ。」
「おっす、紗耶香。」
市井は笑顔で近寄ってくると矢口にドアの方を見させた。
そこには誰か立っていた。光がない所で顔がはっきりしない。
「なんや、つれてきたんかいな?」
中澤は市井を笑って見た。
「うん。こっちこいよ。」
市井が呼ぶとその子はゆっくり近付いてきた。
- 332 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月14日(日)18時32分49秒
「後藤!?」
「やぐっつぁん!?」
矢口と後藤は顔を見合わせた瞬間お互いを指差していた。
「なんや知り合いなん?」
中澤と市井は驚いた顔で二人を見た。
「うん。学校で…矢口が高校の時に中学に後藤いたんじゃなかった?」
「うん。たまにしゃべってたよね〜。」
矢口と後藤は懐かしそうに話していた。
「なら、紹介はいらないな。」
市井は中澤の向かい側に座る。
「そやな。うちもごっちんと面識あるし。」
市井と中澤は昔話しに少し花を咲かせた二人をちらっと見て苦笑いを
した。
「後藤!まぁ、座れって。」
市井が後藤の座るスペースを隣にとる。
後藤はそこに座ると中澤と矢口の顔を見比べた。
「お二人は・・・・?」
ニヤニヤしながら後藤は市井を見た。
矢口はパッと中澤を見たが中澤が軽くうなずいたので、
「矢口達も付き合ってるよ。」
市井は一瞬驚いた顔をしたが、予想していたのか、ニッコリ笑って
二人を見た。
「そうなんだ〜。私達といっしょだね。」
後藤は市井の腕に自分の腕を絡ませた。
- 333 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月14日(日)18時41分27秒
「とりあえず、何飲む?なんか食べる?」
中澤は席を立って市井達に聞いた。
「なんか食べ物とカクテル!!」
市井はそう叫ぶと矢口に話しかけた。
「うまくいったんじゃん?」
「うん。昨日ね。」
うれしくてしかたないのか、矢口は笑顔で答える。
付き合ってるって口にできたのもうれしかった。
中澤の方に行った後藤をみながら市井は矢口に聞いた。
「なんか問題は?」
矢口は心が読まれてるのかと思った。
「一瞬あったけど、解決したよ。」
解決って言うのかわからないけど。っと中澤を見る。
「そっかぁ。でもよかったね。」
市井は心の底から矢口を祝福していた。
「ありがと。」
矢口は市井の祝福が本当にうれしかった。
- 334 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月14日(日)20時27分08秒
「ちょっと裕ちゃん!!後藤もお酒がいいよ〜。」
「あかん!!あんたは酔ったら大変なんやから!!。」
中澤と後藤がカウンター内で大騒ぎしている。
「いいもん。市井ちゃんからもらうもん。」
中澤の腕をベシッとしばくとお菓子などを手に大量に持つ。
「いたっ!!後藤〜!!」
ふらつきながら後藤をにらむ中澤。
「やぐっつぁんとしゃべってこよっと。」
後藤はテーブルにやってきた。
「うわー。また大量に持ってきたな。」
市井がお菓子に埋もれる後藤を見てあきれる。
「食べるもん。やぐっつぁん、これ食べようよ。」
後藤はガサガサとお菓子を開けはじめた。
「紗耶香〜。後藤なんとかしてや。」
お酒を持ってきた中澤が腕をさする。
市井はお酒を飲みながら隣の後藤を見る。
矢口とお菓子の景品に夢中になっている。
市井と中澤はまた顔を見合わせ、今度は楽しそうに笑った。
- 335 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月15日(月)00時00分57秒
- なんか裕ちゃんの関西弁、作者さんが住んでる地方の方言が混ざってません?
「〜するから」→「〜するし」とか「〜やろ」→「〜にゃろ」とか。
私が関西弁を知らないだけかな……。
- 336 名前:作者です。 投稿日:2001年10月15日(月)01時10分06秒
>335さん。
変に混ざってますかね?
多々なる読み苦しい点、すみませんでした。
以後、気をつけます。一応関西方面に住んでるのですが、
多分作者自身の言葉がおかしいんです。
よく考えたら「〜にゃろ」って言わないんですかね?
普通に使ってました・…
これからはそういう点気をつけて書かせていただきますので、
これからも是非読んでください。
また、何か気になる点がございましたらお教えくださいませ。
- 337 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月15日(月)15時08分58秒
矢口と後藤は昔話で盛り上がっていた。
中澤と市井は隣のテーブルで酒を飲んでいた。
「裕ちゃん、ほんとよかったね。市井は本気でうれしいよ。」
「ありがとう。そう言ってもらうとホンマうれしいわ。」
「大切にしなよ。」
市井は矢口の顔を見る。
「わかってる。」
中澤はそう言って市井を見た。
「ん?何?」
市井は矢口達を見るのをやめ中澤に向き直った。
「こんなん聞いてええんかわからんのやけど、紗耶香とかは
外でも…なんちゅーか、普通に振舞ってるん?」
中澤がぼそっと呟く。
「うーん。多分。」
「うちも関係ないって思うんやけどな、なんかうまく接せへんねん。」
中澤が頭を掻きながら言葉をはきだす。
「最初はそうだったよ。でもね、外でそうするのがだんだん苦痛に
なってきて、今は変に意識しなくなった。二人が望むことをやれば
いいんじゃない?」
市井はゆっくり言葉を選びながら中澤に言った。
「そやな。話あうわ。」
「裕ちゃんなら暴走しそうなのにね。・…よっぽど矢口が大切なんだって
伝わってきたよ。」
市井がニンマリ笑いながら中澤をこずいた。
- 338 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月15日(月)15時16分56秒
「うっさいわ。」
少し顔を赤らめながら中澤は酒をあおった。
「自分かってごっちん見てるときの顔、いいおねぇさんなってんで。」
「うっうるさいな。」
市井も照れて酒を飲む。
二人で後ろを振り返ると矢口と後藤はお菓子の批評をしていた。
「後藤はこれが一番おいしいと思うんだよね。」
「え〜そう?こっちの方がおいしいって。」
ガサガサとお菓子を出しては食べ比べていた。
「…あんたらめっちゃ食べてんな。」
「後藤、食べ過ぎだって。」
飽きれ顔の中澤達に二人は自分の気に入ったお菓子をつきつける。
「これが一番おいしいよね。」
「これだって!!」
「矢口のゆうほうが美味しいわ。」
「後藤の方だって。」
お菓子の批評に4人は大騒ぎしていた。
皆それぞれ今の幸せをかみ締めていた。
- 339 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月15日(月)15時40分20秒
散々騒いだ後、それぞれにわかれて座る。
「矢口…。」
中澤はずっと矢口を膝に乗せていた。
「どうしたの?裕ちゃん。」
膝の上でおとなしく座りながら中澤に答える。
「外でた時…手、繋いでええか?」
ずっと聞きたかった事。
「矢口も思ってた。繋ぎたい。」
「嫌ちゃう?」
心配そうに後ろから矢口を見る。
「手を繋いだりしないほうがなんかやだ。」
中澤の手をしっかりつないでポンポンと揺らす。
「今日もずっと繋ぎたかったよ。」
中澤はぎゅっと矢口を抱く腕に力をいれた。
「うちもや…。」
二人の思いになんの問題がないのを確認した。
「いい雰囲気だね。」
「あはっ、ラブラブじゃん。」
市井と後藤は二人を盗み見ていた。
「市井ちゃん。」
後藤が市井に飛びつく。
「なんだよ〜。」
「こっちもラブラブしよ〜よ〜。」
後藤の甘えた笑顔に市井は優しく髪をなでてやった。
- 340 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月15日(月)18時55分33秒
- >>335-336
「〜にゃろ」というのは、音で聞けばそうおかしくはないと思いますよ。
作者さんの場合、「やろ→にゃろ」というわけではなくて
「〜ね(の?)やろ」の口語発音をそのまま表記した感じじゃないかと。
関西弁とひとくちに言っても、やはりいろんな訛りがありまして
大阪弁、神戸弁、京都弁、奈良弁、和歌山弁と大きく分けても
ずいぶん違ってるし、当然それぞれの中にも地域差がかなりあります。
裕ちゃん、みっちゃん、あっちゃんの3人でも当然のように違うわけで。
「〜ちゃうから」を「〜ちゃうし」のように言うのは、あっちゃんが
多いかな?これはけっこう広い地域で使われているとは思いますけどね。
個人的には、こういった小説中で裕ちゃんの訛りが本人の言い回しに
忠実に書かれているのなんて見たことがないくらいですし
言葉遣い等はそんなに気にする必要もないんじゃないかと思います。
作者さんの場合は特に、読んでいても関西の人なんだろうな〜って
わかるし、雰囲気は良いと思うから。ちゅーか横レスでマジすんません。
ここのやぐちゅー好きです。これからも楽しみにしてます。
>>314
じゃ…じゃリン子みっちゃん!?(w
- 341 名前:作者です。 投稿日:2001年10月15日(月)21時40分02秒
>340さん。
そう言っていただけるとうれしいです。
できれば実際に近い感じにしたいのですが、難しいので…
勝手にやらせてもらいます。気になる点あるかもしれませんが
目をつむってもらえたらいいと思う次第であります。
ここのやぐちゅー気にいっていただけて光栄です。
ほんとうれしいです。
ほんとそろそろやばくなってきました…。
まさかここまでくるとは…
自分でもびっくりです。ここまでお付き合いくださってる方、
本当にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
- 342 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月15日(月)21時53分34秒
「矢口えらいペース速いなぁ。大丈夫か?」
「ダイジョーブ!!おかわりー!!」
「もう止めといたほうがええんちゃうの?」
「いいから!!おかわりもってきてよ!裕ちゃん!!」
矢口は中澤をバシバシ叩いた。
「いたたっ。わかったって。」
中澤はしぶしぶカクテルを作りに行く。
(あかん、酔っとるな。)
ほとんどジュースみたいなカクテルを作りながら市井達のほうに
目をやると、
「市井ちゃ〜ん。」
「後藤〜。」
ラブラブ状態の二人。
「ん?」
中澤が二人の前の空き瓶に気がついた。
「あんたらっ何飲んでんねん!!」
あわてて中澤が二人に駆け寄る。
二人の前にはワインのボトルが散乱していた。
「…しかもこれ…楽しみにしてたやつやんかぁ。」
中澤がボトルを手に二人を睨む。
「裕ちゃ〜ん。これおいしいねぇ。」
「これもおいしかったよ〜。」
酔っ払った二人に中澤の睨みは効かなかった。
「あんたら…もうあかんで!!」
(あかん、完全に酔っとるわ。)
中澤は矢口用のカクテルを手に自分の席に戻った。
「裕ちゃん。遅いよ〜。」
矢口は中澤からグラスを受け取ると一気に飲み干した。
- 343 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月15日(月)22時08分03秒
「ちょっ!!」
中澤は急いで矢口からグラスを奪った。
「なんで一気に飲むねん!!」
「・…。」
矢口は黙って下をむいた。
「や、矢口?」
「ごめんなさい…。」
「いや、別にいいんやけどな。」
中澤は焦って矢口を慰めるように顔を見た。
「うっそ〜。キャハハ、裕ちゃん焦ってる〜。」
矢口は中澤の顔を見て大笑いし始めた。
中澤は唖然といていた。
(矢口…酔ったら無茶苦茶や…。)
完全に酔っ払った矢口をただ見ることしかできない中澤がいた。
「何?裕ちゃん焦ってんの?」
矢口の笑い声に二人の酔っ払いが参戦してきた。
「あかん…。手ぇつけられへん。」
中澤は盛り上がってる3人にいいように遊ばれていた。
「裕ちゃんかわいい〜。」
「最高!!」
「裕ちゃん大好き〜。」
3人に群がられ中澤は無茶苦茶にされていた。
(もう絶対飲ませたらあかんわ。)
- 344 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月15日(月)22時19分46秒
―数時間後―
「やっと落ち着いたな…。」
市井と後藤は寄り添う様に寝ていた。
矢口は妙に静かになっている。
「矢口ももう寝るか?」
中澤は矢口にそっと声をかける。
「…裕ちゃんはもう寝たいの?」
「ん?嫌、まだええけど。」
矢口が何かいいたそうにしているが中澤は何かわからなかった。
「忘れちゃった?」
矢口が中澤を上目使いで見る。
(か、かわいい…。)
お酒でふにゃふにゃになった矢口の顔が中澤の心をゆさぶる。
「・・・?なんやっけ?」
「本当に覚えてないの?」
矢口が心なしか元気なく呟く。
(なんの事ゆーてんのやろ?)
中澤は必死になって考えた。
(さっき別になんもゆーてへんかったよなぁ。)
ハイテンションの矢口を思い浮かべる。
思い出そうと必死な中澤を見ていた矢口はふーっと息をはいた。
「いいよ。思い出せないなら。」
「ちょっ待って〜な。」
- 345 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月15日(月)22時34分21秒
中澤は急いで記憶をたどる。
今にも隣を離れそうな矢口の手をしっかりと掴みながら。
「・・…絶対思い出すしちょっとまってや。」
矢口は必死に頭を整理する中澤を見ていた。
その目は優しい。
「…あっ!!」
中澤は思い出したのか、矢口の顔を勢い良く見る。
そして、何も言わず矢口を立たせた。
「行くで。」
矢口は黙って中澤の手にひかれるままに後ろを歩いた。
中澤は外にでると矢口を前にやり、後ろから抱いた。
「一緒に月見ようゆーてたな。」
矢口は思い出せないと思っていたので、この中澤の行動がとても
うれしく感じた。
「…うん。」
ちょっとスネた自分を恥ずかしがる。
「ごめん。忘れてまうとこやったわ。」
中澤が素直に謝る。
「素直に矢口も言えばよかったね。ごめん、裕ちゃん。」
そろって上を見上げるとだいぶ欠けてきた月が幻想的に浮かんでいた。
「綺麗やなぁ。」
「うん。綺麗。」
お互いの体温を感じながらじっと月を見上げていた。
- 346 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月15日(月)22時57分51秒
「裕ちゃん。ありがとう。中入ろう?」
矢口が中澤の腕の中から中澤を見上げる。
「…ん。」
中澤は矢口から腕を外す。
矢口は自分から中澤の手を握った。
「うち布団出してくるわ。」
この二人のん、と言って中澤は2階に上がっていった。
矢口はとりあえずテーブルをかたずける。
中澤がある程度片付けてはいたものの、まだ散乱している。
(さっきかなり酔ってたなぁ。)
なんとなく覚えている自分の酔った姿。
(裕ちゃん大変だっただろうな。)
冷静になって考えると中澤をからかっていた自分がおもしろかった。
(この二人もすごかったな。)
幸せそうに寝ている市井達を見た。
「何笑ってんねん?」
1人でニヤニヤしていた矢口を怪訝そうに中澤は眺めていた。
「うっううん。」
ニヤニヤしていた自分に気付いてあせって顔を隠した。
- 347 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月15日(月)23時09分47秒
「変な矢口・・。・・にしても起きるんか?この二人。」
中澤は矢口から視線を市井達に向ける。
「幸せそうに寝てからに・・。ちょっと!起きや!!」
中澤は二人を揺さぶる。
「上に布団ひいたあるから!!ちょっとだけ起きて!!」
中澤が激しく二人を揺らした。
矢口はカウンターでグラスを洗いながらその様子を見守る。
中澤の努力の結果、なんとか市井が目を覚ました。
「・…ぅ〜ん。」
「よっしゃ、紗耶香、上で寝ぇ。あとはごっちんや。」
「…後藤、上行こ。」
市井が目を半分閉じながら後藤に声をかける。
「…市井ちゃん?」
さっきなんど中澤にゆらされても目を覚まさなかった後藤が少し
目覚めた。
「上行くよ。」
「…ん。」
そう言って二人はフラフラと2階へ上がって行った。
「・…なんやねん、ごっちんは…。」
後藤にはまったく無駄な努力だった中澤は二人の背中を見ながら
ただそう呟いた。
- 348 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月15日(月)23時20分16秒
「さっそろそろ上行こか。」
片付けがほとんど終わると中澤はちょっと伸びをしながら
矢口を見た。
「えっ矢口帰るよ。」
「なんでぇ、泊まっていきいや。」
中澤が不満気に矢口を見る。
「だって…。」
「ええからええから。」
中澤は矢口の手をひいて2階へ上がって行った。
「もう寝る?風呂入る?」
中澤は矢口に短パンとTシャツを渡した。
「風呂入る。」
「OK、こっちや。」
中澤に案内されて風呂場に行く。
「ほなうちはリビングおるからな。」
そう言って中澤は風呂場から出て行った。
矢口はサッパリしたかったので急いでシャワーを浴びた。
(裕ちゃんこのシャンプー使ってつんだ。)
イロイロとある中澤の持ち物が新鮮だった。
- 349 名前:とある町の喫茶店 投稿日:2001年10月15日(月)23時33分41秒
「風呂ありがと〜。」
矢口はリビングで雑誌を見ていた中澤に声をかけた。
中澤は雑誌を閉じて矢口を寝室に案内した。
「うっわ〜。豹柄だ〜。」
「めっちゃ豹柄好きやねん。んじゃ、寝ときや。うちも風呂入ってくるから。」
「う…うん。」
中澤が寝室を出て行くのを見送るとベッドの端にそっと腰をかけた。
部屋をキョロキョロと見渡す。
「あっ!」
天窓からさっき見た月が見えた。
「今調度見える位置にあるんだ〜。」
早く中澤が帰ってこないかな?と思いながら矢口は月を眺めていた。
「あーさっぱりした〜。」
中澤が顔を赤らめながら部屋に入ってきた。
手には缶ビールが握られていた。
「まだ飲んでんの?」
「風呂の後は格別に美味しいやんか〜。」
矢口の隣に腰をおろす。
「月見えるね。」
矢口は再び上を見上げた。
「ほんまや。タイミングよかったんやな。」
一口ビールを飲むと中澤も上を見上げた。
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