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さあゆけ! ミニモニ。探偵団

1 名前:しげプー 投稿日:2001年09月04日(火)03時16分29秒
はじめにおことわりしておきますが、これは「推理小説のようなもの」であって
間違っても本格派推理小説ではありません。もちろん社会派でもないです。

元はモ板(羊)で書いていたのですが、さあこれからクライマックス!
というところで、閉鎖騒動に巻き込まれてしまいました。
向こうで読まれていた方は、若干手直ししておりますが、
ストーリーには影響しない程度ですので、続きから読んでもらえれば結構です。
2 名前:しげプー 投稿日:2001年09月04日(火)03時17分42秒
 事件は石川のこの一言から始まった。
「ねえ、私のマメ大福、知らない?」
 収録直前の慌ただしい中、どこまでも呑気な石川に、保田は苛立ちを募らせた。
「知らないわよ! バカ言ってないでさっさと用意しなよ」
「えー、だって……」
「自分で食べたんじゃないの」
 鏡ごしに、後藤が化粧を直しながら興味なさげに言う。
「食べてないよ。さっき、ここに置いたんだもん」
 口を尖らせて、部屋の中央に置かれたテーブルを指さした。厳密に定められているわけではないのだが、楽屋での席順はそれとなしに決まっていた。
「おかしいなぁ。どこ行ったんだろ」
 自分の席の辺りを見渡しながら呟く。諦めがつかない様子で、人差し指を顎にあて、カバンの下を覗き込んだりしている。ヲタが見れば喜ぶであろうその姿も、たえず一緒にいるメンバーにしてみれば苛立ちの原因でしかない。
3 名前:しげプー 投稿日:2001年09月04日(火)03時19分02秒
 再度、保田の怒鳴り声が飛んだ。
「いいから、準備しなって! もうすぐ、本番だよ」
「はぁい……」
「私のベーグル食べる?」
 隣から吉澤が声をかけた。石川は力無く首を振って応える。
「ううん、いい」
 その仕草がかんに障ったのか、今度は飯田が怒鳴った。
「いつまでも、ウダウダ言ってんじゃないの。アンタ、いつものろいんだから、早く着替えなさい!」
 石川は、チラッと飯田の方を向いて、何も言わずに目を伏せた。――別にうだうだなんて言ってないのに。もういらないと思ったから、いいって言ったのに。それにこれ、衣装なのに――。反論したいことは山ほどあったが、やぶ蛇になるのでやめた。
「のの! 口んとこにアンコついてるよ!」
 突然、加護が声を張り上げた。全員が一斉に見る。注目され、辻は不安げに視線を巡らせた。無意識のうちに口元に手が伸びる。とそのとき、飯田が叫んだ。
4 名前:しげプー 投稿日:2001年09月04日(火)03時21分13秒
「辻ィ、そのまま! 動かないで!!」
 大声に怯えた辻の肩が、ピクリと上がった。飯田は足早に近づいて、まさに口元を触れようとしていた辻の腕を掴んだ。褐色に汚れた彼女の頬を指で拭うと、そのままぺろりと嘗めた。
「うん、これは確かにアンコだね」
 飯田は自分に言い聞かせるように呟いた。
「辻ィ!」
 あきれ返った保田が声をあげる。
「私のマメ大福、食べたのののちゃんだったんだ」
「もう、辻ちゃんは食いしん坊なんだからぁ」
 安倍がそうかぶせると、楽屋全体に笑いが起こった。石川もその口調から、特に咎める気はないようだ。加護が辻の肩を抱きながら、笑顔を見せている。飯田が「もう、しょうがないね」と言いながら、辻のおでこを軽くこづく。和やかな雰囲気の中、辻の表情だけはこわばったままだった。
「あのぉ。ののは食べてないんですけど」
5 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月04日(火)03時21分56秒
リアルタイムだ。頑張ってください。
モ板でも読んでたよ。
6 名前:しげプー 投稿日:2001年09月04日(火)03時22分03秒
 一瞬にして笑い声が消えた。飯田がいぶかしげに辻の顔を覗き込んだ。背後から石川が声をかける。
「いいのよ、気にしてないから」
「そうだよ。辻の意地汚さは、みんな知ってんだから」
 鏡に向かったまま、後藤がそう言う。辻はムッとして応えた。
「ホントに食べてないです!」
「じゃあさ、そのアンコはなに?」
 保田が辻に詰め寄った。その迫力に圧倒された辻は、なにも応えられない。
「なんとか言いなさいよ!」
「あのー」
 自分の放ったひとことが、とんでもない展開を産んだことに責任を感じたのか、加護が口を開きかけた。
 が保田がそれを「アンタは黙ってなさい!」と一蹴した。
「圭ちゃん、やめなよ。辻も加護もビビッてるじゃん。それに石川もいいって言ってるし」
「圭織は黙ってて。私が怒ってるのはね、大福食べたことじゃなくて、嘘をつくその態度が気に入らないのよ」
「嘘じゃないです!」
7 名前:しげプー 投稿日:2001年09月04日(火)03時22分52秒
 辻は涙ながらに訴えた。だが、状況証拠がそれを否定していた。
「泣いたってダメよ! 違うんなら、口元のアンコを説明しなさい!」
「それは……」
「ここにはアンコのお菓子なんて、石川のマメ大福以外ないじゃない! どうしてそんな嘘つくの?」
「もういいって。あとでカオリが言い聞かせるから」
「だいたいね、圭織は辻にあまいのよ。だから、こんなことになるのよ」
 この保田の言葉に、飯田は過敏に反応した。バカにされたように感じたのだ。
「なに? カオリのせい? 圭ちゃんは石川の大福がなくなったのは、カオリが悪いって言うの?」
「そうじゃないって! 私が怒ってるのは、何度も言うように黙って食べたことじゃないんだよ。食べたくせに、食べてないって嘘をつくのが許せないんだよ」
「なんでさ、辻が食べたって決めつけるんだよ。本人は食べてないって言ってんじゃん」
8 名前:しげプー 投稿日:2001年09月04日(火)03時24分01秒
「じゃあ聞くけど、圭織は誰が食べたって思ってんの。辻の口元に付いたアンコの説明は、どうつけんのさ」
「それはさ……やっぱ辻かな」
「ほらぁ、圭織もそう思うでしょ?」
「でもさ、どうしてそれがカオリのせいになんの?」
「もう、だから誰もそんなこと言ってないって!」
 ふたりの言い争いは一気にヒートアップしていく。そこへ矢口が割って入った。
「ちょっと、ちょっと。ふたりともやめなよ。もう本番、始まっちゃうよ。それにさ、なんか論点ずれてきてるし」
「そうはいかないよ。悪いことしたら、その場で叱んないと。それが躾ってもんなの」
「だからさ、なんでカオリが怒られないといけないのさ」
「いや、だからさ、圭織が叱られてるわけじゃないんだけど……と、とにかく、辻もさ、反省してるから、圭ちゃんも治めてよ。なっ! 辻、反省してるよな」
9 名前:しげプー 投稿日:2001年09月04日(火)03時25分17秒
「ののは……」食べてない、と言いかけたが、その前に矢口が口を挟んだ。
「辻!! とにかく、なんでもいいから石川にあやまんな!」
「……ごめんなさい」
「石川もそれでいいでしょ」
「え? は、はい。……ののちゃん、私は気にしてないから」
「はい! これでおしまい。圭ちゃんも納得した?」
「う、うん……」
 完全に納得したわけではなかったが、時間のないこの状況でまだこだわるのも大人げない気がして、しかたなく頷いた。
「さっ、じゃ本番、本番。スタッフさん待たせてんだから、みんな急いで!」
 矢口がそう言って手を叩く。だが、重苦しい雰囲気の中、誰も席を立とうとしない。
「もう、なんだよ。……石川! アンタのせいだよ。オマエが大福、大福って騒ぐから、変な空気になったじゃんよ!」
「私のせいですかぁ。そんなぁ! 矢口さん、酷いですよ〜」
10 名前:しげプー 投稿日:2001年09月04日(火)03時25分54秒
「そうだよね。ダメだよ、梨華ちゃん。辻のこと苛めたりしちゃあさ」
 クールにそう言って後藤が立ち上がった。
「ごっちんまで、そんなこと言わないでよ」
「まあ、梨華ちゃんらしいっちゃ、梨華ちゃんらしいけどね」
 安倍がそう笑ってスタジオへと足を向けた。
「そうだよ、石川のせいでカオリまで圭ちゃんに怒られたじゃん」
「だからそうじゃないって」
 矢口がそう言いながら、飯田の背中を押して出口へと促す。
「まあまあ、梨華ちゃん」
 不満げな石川の肩を吉澤が抱いた。みんな空気を変えようとして、自分をイジッてるのだ、自分はそういうポジションなんだと、頭で理解しながら、何故か釈然としない石川だった。
 憮然とした表情で保田もみんなの後を追って楽屋を出た。残された辻の目には涙がこぼれんばかりに溜まっていた。そこへ加護が声をかけた。
「のの……」
11 名前:しげプー 投稿日:2001年09月04日(火)03時26分40秒
 ここで下手に慰められたら、我慢できずに声を上げて泣きそうだ。何も言わずにそっとして欲しい――辻は黙ったまま、激しく首を横に振った。その思いに気づいたのか気づかないのか、加護は辻の手をそっと握った。
「行こ」
 辻はただ頷いて返した。――やっぱりあいぼんはわかってくれてるんだ――そう思うと、それはそれで泪が出そうになった。
 が、楽屋を出たところで、加護の口から出た言葉は、辻にとって意外なものだった。
「ののさぁ……マメ大福、美味しかった?」
「えっ…………あいぼん、ホントにののが食べたって思ってるの?」
「……ちゃうの?」
 加護の問いかけに、辻は本格的に泣きそうになった。
12 名前: 投稿日:2001年09月04日(火)03時34分25秒
場面転換の一行空けです。

>>5
おお!なんですか、いきなり感想というか応援をもらっちゃいました(W
ありがとうございます。がんばります。
ほぼ最後まで出来上がっているので、一週間から十日ほどで
仕上がると思います。
13 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月04日(火)03時59分04秒
羊で推理小説というものについて何度かレスさせていただいた者です。
なーんか最後に、今までした上のようなレスが痛いレスと化してしまう
(つまり作者さんにしてやられる)ような気がしてなりません……。
14 名前:名無し娘。 投稿日:2001年09月04日(火)04時15分11秒
あぁ、続きを探してました。
やっぱりM−seekでしたか。
解決編を期待してます。
15 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月04日(火)06時35分56秒
やった!再開だ!
羊時代から見てました。
がんばってください。
16 名前:sage 投稿日:2001年09月04日(火)15時22分40秒
ようやく復活!
犯人が気になってここ2週間ぐらい寝られませんでした(w
また一から読み直すというのもなかなか新鮮でいいです。
更新期待しています。
17 名前:しげプー 投稿日:2001年09月05日(水)03時37分09秒
 まだまだ若いといっても、さすがはプロである。楽屋でトラブルがあっても、本番に持ち込むようなことはしない。収録は順調に進んだ。
「OKで〜す! じゃ、15分休憩はいります!」
 スタッフに「お疲れさまです」と声を掛けながら、メンバーは前室へと戻った。大きなテーブルがあり、飲み物や週刊誌などが置かれていた。各々、喉を潤わせたり台本を読み直したりしている。スタジオからはセットチェンジしている大道具の音が漏れていた。
「矢口さん、矢口さん」
 台本片手に次の段取りの確認していた矢口に、加護が近づいた。その後ろには不安げな辻の姿が見え隠れしている。
「なんだよ、オイラ今、忙しいんだけど」
「さっきのですね、梨華ちゃんの大福の話なんですけど……」
「はあ? まだそんなこと言ってんの。それより、また本番中に2人で雑談してたでしょ。なんべん注意したらわかんのよ。矢口には背中にも目があるんだから。後列に座ってるからって気ィ抜いたらダメだろ」
18 名前:しげプー 投稿日:2001年09月05日(水)03時38分31秒
 当然のことながら矢口の背中や後頭部に、本当に目があるわけではない。前面に置かれたモニターをチェックしていたにすぎないのだが、日ごろからモニターなど見ずに好き勝手やっている辻加護にとっては、さすが矢口さんなにもかもお見通しだ、と関心するばかりである。
「ごめんなさい……で、その背中にも目がある矢口さんに相談したいんですけど……」
「なにぃ、もう……えっ、辻が食べたのは消え物!?」
「そうらしいんですよぉ」
 消え物とは収録で使う食べ物全般のことである。食べてしまうとなくなってしまうことから、そういう呼び名がついた。
 加護の話によると、辻が食べたのはこの後クイズの賞品で使われる、老舗名店のどら焼きだと言うのである。
「そうなの?」
 矢口が尋ねると、辻は頷いてみせた。
「じゃ、なんでそう言わなかったの」
「だって……」
 促され、辻はその経緯を話した。楽屋入りする時に、舞台裏に置かれたどら焼きを見つけたそうだ。
「スタッフさんが、いっこあげるから、みんなには黙ってなさいって」
19 名前:しげプー 投稿日:2001年09月05日(水)03時39分15秒
 辻のその言葉を聞いて矢口は台本をくった。確かに、ゲストを交えてのゲームが企画されており、勝者には賞品が出ることが記されている。なにが出るかまでは書かれていない。
「これのこと?」
「たぶん……」
「う〜ん」
 矢口は腕を組んで考え込んだ。辻の性格からして、スタッフに言うなと指示されれば守るだろう。今回のように、濡れ衣を着せられる状況なら、喋っても誰も咎めないだろうが、全員が集まっている楽屋で白状してしまうには、やはり抵抗がある。その辺りは十分に理解できた。
「じゃあさ、誰が食べたの? 石川の大福」
 加護と辻は揃って首を振った。
「わかんない……」
「でも、ののじゃないです!」
「わかった。辻の言いたいことはじゅーぶんわかった。でもさ、この件に関しては、もう治まったんだし、今さら蒸し返すことはないと思うんだよ、矢口は」
20 名前:しげプー 投稿日:2001年09月05日(水)03時41分28秒
 そう諭す矢口に、加護が反論した。
「でも、ののはホントに食べてないんですよ?」
「うん、そうだね。それは加護の言う通りだ。でもほら、辻はさ、前にもなっちの持ってきたお菓子を、黙って全部食べちゃったことがあったでしょ」
「……はい……食べちゃいました」
「この間もさ、差し入れのケーキを、お礼言う前に先に食べて、圭織に怒られてたじゃん」
「……はい……1時間ぐらい、説教されました」
「だろ? だったらさ、いいじゃん大福事件がいっこ増えるぐらい。今からさ、大福食べたの辻じゃないなんて言ったら、じゃあ誰が食べたんだってことになるでしょ。そしたらまた、さっきみたいに変な空気になっちゃうよ。そんなの辻もヤだろ?」
「……はい……ヤです」
 辻は憮然としながらも同意した。矢口は、自分の説得が通じたことに、満足げに頷いた。だが、そこに加護が割って入る。
「でもね、でもね、矢口さん」
「チッ、なんだよお前は。辻が納得してんだから口出すなよ」
「ちゃうんです、ちゃうんですよ」
「な〜にが違うんだよ! オメエは黙ってろバカ!」
 話の腰を折られた矢口は、苛立ちげに返した。だが、加護は怯まない。
「ののは嘘つきじゃないですよ!」
21 名前:しげプー 投稿日:2001年09月05日(水)03時42分30秒
「えっ……」
 思いもかけない言葉に、矢口は絶句した。返す言葉が見つからなかった。
「ののはね、嘘つく娘じゃないんです。安倍さんのお菓子食べたときも、自分から言ったし、先にケーキ食べたときも、ちゃんと謝ったし、矢口さんの口紅、折ったときも……」
「ダ〜! うるさぁい!! 加護の話は無駄に長いんだよ」
「でも……」
「わかったって。アンタは辻が嘘つきって思われるのが嫌なんだろ。わかったよ、矢口が悪かったよ」
「じゃあ」
 辻加護は顔を見合わせた。自然に笑みがこぼれる。
「ただし! あれは辻の仕業じゃありませんでした、だけじゃみんな納得しないだろうし、さっきも言ったようにメンバーに変な空気が漂うのも、矢口はゴメンだからね」
「……どうするんですか?」
「決まってるじゃん。ウチらで真犯人をさがすんだよ。で、本人の口からみんなに謝ってもらうの」
22 名前:しげプー 投稿日:2001年09月05日(水)03時45分24秒
「えー! 無理ですよぉ」
「加護は辻の無実を晴らしたいんだろ。だったらやるしかないじゃん。取りあえず、アンタたちは石川が最後に大福を見たのがいつだったのか、確認してきなさい。それから、他のメンバーの入り時間、楽屋に入ってからなにをしてたのか。その辺を探るの」
「わかりました。で、矢口さんはなにをするんです?」
「オイラ? オイラはねぇ。ほら、捜査の基本は現場百回って言うじゃん。だから、楽屋に戻って手がかりを探してみるよ」
「おお、加護はそんなの、初めて聞きました」
「ののもです。矢口さん、すごいですね〜」
「あったり前じゃん。アンタたち、矢口をなんだと思ってんの? さあ、休憩時間も残り少ないし、さっそく捜査に入るよ」
23 名前:しげプー 投稿日:2001年09月05日(水)03時45分55秒
 矢口が言うと、加護が元気に応えた。
「はい! ミニモニ。探偵団ですね」
「ミカちゃんはいないけどね」
 そう言って辻も笑顔を見せる。その様子に目を細める矢口だったが、厳しい顔つきになって付け加えた。
「ひと言だけいっとくけどね。今のところ、辻! アンタが食べてないって証拠もないんだからね」
 浮かれていた辻の表情が曇る。だが、加護がいっそうの笑みを浮かべて返した。
「矢口さんもね!」
「アンタ、言うね」それに応え、矢口も嬉しそうに笑った。
24 名前: 投稿日:2001年09月05日(水)03時47分07秒
場面転換の一行空けです。今回、完全にスレの割り振りをミスってしまいました。

>>13
思い当たるレスがいくつかありますが、決して痛いなんてことはなかったですよ。
>つまり作者さんにしてやられる
そうなるよう、がんばります(W

>>14
ありがとうございます。まあ、ここが飛ぶなんてことはないでしょうから
今度こそ、書き上げて見せます(W

>>15
おそらく、週末か週明けごろには、枕を高くして眠れると思います。
ひょっとすると「なんじゃ、この下らん結末はっ!!」と怒りのあまり
また眠れなくなるかもしれませんが(W

前からの読者さんが来てくれて、ホント嬉しいです。
でも、せっかく移ってきたんだから、ここの住民さんにも読んでもらいたいものです。
25 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月05日(水)10時09分22秒
祝・復活
前板から拝見していました
がんばれ〜
26 名前:しげプー 投稿日:2001年09月06日(木)04時05分17秒
「どうしたの、ののちゃん」
 ファッション雑誌を読みふけっていた石川が顔を上げた。
「あのぉ、大福のことなんだけどぉ」
「あっ、いいのよ。私、全然気にしてないし」
 辻のことを気づかってか、手を横に振って笑顔で応える。どう返せばいいかわからない辻に代わって加護が言う。
「あっ、梨華ちゃん。そやなくて、いつ大福がなくなったって気づいたん?」
「えっ、それは……みんなに知りませんか? って聞いたときだよ」
 それはそうである。ないとわかったから、声を上げたのだ。つまり本番直前、全員が揃って楽屋にいるときということだ。
「じゃあなぁ、最後に大福見たんはいつ?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「いいから、いいから」
「う〜ん、いつだろ。楽屋に入って、メーク道具とか色々カバンから出して……そんときに大福も出したんだよね。それから……そうだ、よっすぃーとスタッフさんに挨拶に行ったんだ。だから、2人で楽屋を出る前にはあったかな?」
27 名前:しげプー 投稿日:2001年09月06日(木)04時07分06秒
「よっすぃーと楽屋を出たんはいつ?」
「え〜っ、そんなの覚えてないよ」
「じゃあ、楽屋入りしたのは何時ごろ?」
「う〜ん、30分ぐらい前かな。マネージャーさんに、本番30分前には、必ず入れって言われてるでしょ。そうだ、今日は私、一番だったんだよ」
 それは本番じゃなくて、入り時間の30分前だろうと加護は思ったが、あえて言わなかった。実際、過密スケジュールの娘。たちは本番ギリギリに楽屋入りすることも少なくない。
「そしたら、梨華ちゃんが入ったときには、誰もおれへんかったの?」
「うん。衣装に着替えてたら、プッチの3人が来たの。で、よっすぃーに聞いたらまだスタッフさんとこ行ってないって言うもんだから、2人で挨拶に行こうってなって。帰ってきたら……ごっちんがひとりで化粧前にいたんだったかな」
「後藤さんひとりだけ? 保田さんは?」
28 名前:しげプー 投稿日:2001年09月06日(木)04時07分53秒
「えっ! そういえば……そうそう、楽屋に帰る途中で、飯田さんと保田さんに会ったんだっけ。これから打ち合わせだって言ってた」
「ふ〜ん。で、楽屋に帰ってきた時にはもう大福はなかったんだ」
「それはわかんない。ずっと大福だけ見てたわけじゃないし。でもね、その後ずっと席に座ってたし、持ってかれたら気づくと思う。なんで、そんなこと聞くの。大福食べたの、ののちゃんじゃなかったの?」
「そっか……うん、わかった。のの、行こ」
 石川の問いには答えず、ふたりはその場を離れた。
 大きな収穫だった。もし大福を盗まれたのが、石川が席を外した際であったとしたら、完全に辻の容疑は晴れるのだ。なぜなら、ミニモニ。の3人と安倍が楽屋に入ったのは、その後だからだ。
「あいぼん凄い! ののなんか、なんにも訊けなかったのに。古畑さんみたいだったよ」
「そう? ヘヘッ。……じゃ、次は後藤さんに話を聞いてみようか、辻くん」
「はっ! 警部」
29 名前:しげプー 投稿日:2001年09月06日(木)04時10分06秒
 後藤はテーブルから少し離れたところでひとりぼんやりしていた。加護は彼女の前に立つと、中指を額にあて考え込むような仕草を見せた。
「え〜、ちょっといいですかぁ、後藤さん」
「なに、それ? 新しい遊び?」
「いやぁ、実は後藤さんにですね、お聞きしたいことが、ありましてぇ」
「うん、いいよ」
「今日、楽屋入りしたのは何時ごろですか」
「今日はね、どうだろ。本番の30分ぐらい前かな。それまでプッチの仕事だったから、3人いっしょに入ったんだよ」
「フフッ……そうですかぁ。え〜、そのとき楽屋に誰かいましたか」
「梨華ちゃんがいたよ。ねえ、なんでそんな喋り方してんの。なんかのモノマネ?」
「え〜……どうも、古畑任三郎です」
「ああ、そうなんだ。でも全然似てないよ」
「……」
 モノマネを得意とする加護は、後藤の言葉に少なからずショックを受けつつも、尋問を続けた。
30 名前:しげプー 投稿日:2001年09月06日(木)04時10分43秒
 結果、後藤から聞き出したのは次の通りである。プッチモニ。の3人が楽屋入りしてすぐに石川と吉澤が出ていった。その後、飯田が楽屋入りする。電話が鳴り飯田、保田の2人が出ていったので、ひとり楽屋に残された。詳しい時間などはまったく覚えていない。
「そうですか、え〜では最後にお聞きしますが、楽屋にひとりでいたとき、メンバー以外の人間は訪ねてきませんでしたか」
「うん、誰もこなかったよ。もう似てないんだから、モノマネやめなよ。それともなんか意味あんの?」
「……」
 モノマネというアイデンティティーを完全否定され落ち込んだ加護に代わって、辻が言った。
「もういっこ、訊いていいですか?」
「いいよ、なに?」
「あの、梨華ちゃんの大福、最後に見たのはいつ?」
「いつもなにも……私は梨華ちゃんが大福持ってたことすら知らないよ」
「そうなんだ……。行こ、あいぼん……あいぼん、あいぼん!」
「そんなに似てなかったんかな……」
 放心状態の加護の手を、辻は無理矢理引いた。
31 名前: 投稿日:2001年09月06日(木)04時11分32秒
場面転換の一行空けです。どうでもいいことですが、古畑任三郎は警部補です。

>>25
ありがとうございます。がんばって書き上げます。
32 名前:しげプー 投稿日:2001年09月07日(金)04時07分09秒
 辺りを慎重にうかがいながら、矢口は楽屋のドアをそっと開けた。
「誰もいませんか〜」
 いるはずがない。メンバーはもちろん、マネージャーやスタッフも、スタジオもしくは前室で待機しているのだから。
 矢口は振り向いて廊下に人影がないことを確認すると、ドアの隙間から体を滑り込ませ、後ろ手でゆっくりと閉めた。
 楽屋は会議室ほどの広さである。長手方向の一面の壁が鏡張りになっていて、備え付けのテーブルがある。そこがいわゆる化粧前で、椅子は6脚。反対側の長手方向にはロッカーが並んでおり一番右側が入り口になっている。部屋の中央には、大きなテーブルがあり、やはり長手方向に4脚づつ、計8脚の椅子が置かれていた。
 つまり、今入ってきた矢口の右はロッカーの側面、左は壁になっており、正面の鏡には右手を後ろにまわしドアノブを掴んでいる自分の姿が映っていた。
33 名前:しげプー 投稿日:2001年09月07日(金)04時08分32秒
 メンバーの座る場所はだいたい決まっていた。化粧前一番端、いま矢口の立っている正面に後藤。真ん中あたりに安倍。逆側の端、つまり入り口から一番遠い場所が飯田の席。
 テーブルには後藤と背中合わせに石川、その隣に吉澤が座り、一番奥が矢口の席である。矢口の前には辻加護が並んで座り、石川の前には保田が座る。
 ちなみに、飯田が一番奥に座るのには理由がある。そこに内線電話が置かれているからだ。
 矢口は、部屋全体を見回しながら、楽屋入りしたときの光景を思い起こした。確か中にいたのは後藤、吉澤、石川の3人だった。
――ドアを開けて「おはようございます」と声をかける。肩を寄せ合って、雑誌か何かを覗き込んでいた石川と吉澤が顔を上げ「おはようございます」と返す。その後ろで、後藤が鏡越しに会釈するのが見えた――。
 あのときテーブルの上に大福はあっただろうか? まったく思い出せない。
 懸命に記憶の糸をたぐり寄せながら、テーブルへと近づいた。石川が座っていた場所は、今もカバンやら雑誌やらその他諸々で雑然としていた。
34 名前:しげプー 投稿日:2001年09月07日(金)04時09分27秒
「こんだけ散らかってりゃあ、あったってわかんないか」
 そう呟いて、石川のカバンに手を伸ばす。が一瞬、指先が触れそうになって躊躇した。下唇を噛みしめしっかりと頷くと、思い立ったように、自分のロッカーへと向かった。
「捜査にはこれがないと」
 取り出したのは赤と白の軍手だ。
「指紋が付いたら台無しだもんね」
 娘。の楽屋に矢口の指紋が付いてなんの不都合があるのかわからないし、今後指紋の照合など行われるはずがないのだが、なんでも形から入るのが矢口流である。
「さて、じゃあ始めますか」
 とは言ったものの、なにをして良いのかわからない。取りあえずいつも座っている席に着いて、他のメンバーの動きを思い出そうとするが、これもまったく浮かんでこない。
 化粧前に向かい、手持ちぶさたで前髪を直したり、電話の受話器を取ってみたりしていたが、そんなことをしても新しい発見があるはずもない。ふと足下に置かれたゴミ箱に目がいき、中を覗き込んでみたが、何も捨てられてなかった。
「どうしよう」
35 名前:しげプー 投稿日:2001年09月07日(金)04時10分09秒
 あらためて部屋を見渡す。全体的に散らかっているが、後藤の周りが一番酷い。脱ぎ捨てられた私服が散乱している。飯田や安倍も、上着をロッカーにしまわずに椅子の背もたれに掛けているが、後藤はそれすらせず、椅子の上やテーブルの上でクシャクシャになっている。
 辻加護の周りは、いつも矢口が注意しているし背後がロッカーであることも手伝って、衣類のたぐいこそないが、そのかわり封の開いたスナック菓子やペットボトルがところ狭しと並んでいる。今日は入り時間が遅かったが、いつもならそこにマンガが加わるところだ。
 壁の時計を見上げる。もう残り時間が少ない。楽屋に戻って矢口がしたことと言えば、軍手をはめたぐらいだ。これなら、辻加護に聞き込みを任せないで自分でした方が良かったと後悔したが、今さらもう遅い。
 取りあえず体を動かそうと、テーブルの下に潜ったりするが、何かが見つかるはずもなかった。
 が、彼女は見つけてしまった。ある物をある場所で。左手にはめた赤い軍手でそれを握りしめると、矢口は呟いた。
「そんな、そんなことって……」
36 名前: 投稿日:2001年09月07日(金)04時10分50秒
場面転換の一行空けです。
37 名前:しげプー 投稿日:2001年09月07日(金)04時11分44秒
 後藤から話を聞いた後、加護は保田、飯田に、辻は吉澤、安倍にと別れて聞き込みをすることとなった。時間がないせいもあったが、保田に激しく叱られた辻が抵抗を感じたことが大きい。
 保田からは目新しい情報を聞き出せなかった。が、後藤と違い、かなり正確な時間を覚えていた。
「楽屋入りしたのが25分前でしょ、その後圭織が来たのが20分前。すぐに電話が鳴って、打ち合わせするからスタッフルームに来いって言われたんだよ。ホントはなっちと矢口も呼ばれてたんだけど、2人はまだ来てなかったからね。……えっ、途中で石川たちと会ったかって? ……うん、会ったよ。ちょうどスタッフルームから出てくるところだったよ。で、私たちが楽屋に戻ったのが、そうだね、本番まで10分切ってたかな。アンタたちもいたよね? そうそう、なっちがまだだったんだ」
「ありがとうございました〜」
 その後、飯田にも事情を聞こうとしたのだが、本番の時間になってしまった。
38 名前:しげプー 投稿日:2001年09月07日(金)04時14分36秒
「はい! じゃ本番いきま〜す。5秒前、サン、ニィ……!」
 ADの合図と共に収録が再開される。隣り合わせに座った、加護が辻に小声で聞いた。
「どうだった?」
「うん、あのねぇ。よっすぃーは見てないって」
「なにを?」
「ん〜とねぇ、大福が置いてあったの」
「そうなんだ。見てないんだ。それで?」
「あと、安倍さんもねぇ、大福があったの知らないって」
「そっか、そっか。でも安倍さんはギリギリだったからね、楽屋入ったの。それから?」
「それだけだよ。あいぼんの方はどうだった?」
「へ? それしか聞いてないの?」
 辻は当然だと言わんばかりにしっかりと頷いた。加護は何か言おうと口を開きかけたが、そのとき、矢口が2人をキッと睨み付けた。(本番中よ)声は出てなかったが、口が確かにそう動いていた。2人は肩をすくめて下を向く。そしてしばらく経って、また加護が辻に囁いた。
「ののさぁ、なんで他のこと聞かないの? 入り時間とかさぁ」
「だって、よっすぃーは後藤さんと一緒に入ったんでしょ? そのあとは梨華ちゃんがよっすぃーとスタッフさんとこ行ったって言ってたし。安倍さんはののたちよりあとに来たから、聞かなくてもいいかなって」
39 名前:しげプー 投稿日:2001年09月07日(金)04時15分13秒
「でもさ、こういうのはみんなに、おんなじこと聞かないと。そいで、ム、ムジュンテン? ってのをついてくんだよ」
「ふーん。よくわかんないや」
「わかんないか。そういや、加護もよくわかんないや。ハハハッ」
「!!」
 再度、視線を感じた。矢口だ。目から光線でも出そうな勢いで睨んでいる。セクシービームでないのは確かだ。
 2人は、さも反省してますという風に首をすぼめた。もちろん、本心から悔いているのだが、それが持続しないのが彼女らの持ち味である。
「ところでさぁ、ののはなんでみんなにそんなこと、聞くの?」
「えっ、なんのこと?」
「ほら、大福が置いてあったの、覚えてないかって」
「う〜ん。ののはねぇ、思うんだけどねぇ」
「うん」
「梨華ちゃんって、ホントーに大福持ってきてたのかな?」
 そのとき、スタジオにこの後、行われるクイズの賞品が運び込まれてきた。
 それは老舗名店のどら焼きだった。
40 名前: 投稿日:2001年09月07日(金)04時15分52秒
場面転換の一行空けです。
41 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月08日(土)00時29分02秒
えっと、現在までの更新分と前板の分量を比べると、安眠できるのは
まだまだ先のような気が…
それしてもしげプーさん、生活不規則っすね(w
42 名前:しげプー 投稿日:2001年09月08日(土)04時01分10秒
「お前らなぁ、何回言えばわかるんだよ! 本番中は集中しろって言ってんだろーが。このっ、バカ、カス、ボケ、ハゲ、白痴!」
 収録を終えたスタジオの片隅に、矢口、辻、加護の3人の姿があった。もちろん、罵声を浴びせているのは矢口である。
「そんなことよりも矢口さん!」
「加護ォ、オマエはホントにめげない奴だな。矢口のことナメてんだろ! いいよ、今度ハロモニの収録んときに、裕ちゃんに叱ってもらうから」
 それはマズイ、と顔を歪めながらも、加護は続けた。
「ホントに出たでしょ。クイズの賞品は、どら焼きだったでしょ!?」
「ん? まあな。で、どうだったのよ。アンタたちの捜査は」
 加護は石川、後藤、保田に対する聞き込みの結果を報告した。例によって、回りくどい話し方だったが、矢口はそれを辛抱強く聞いた。その後、辻も吉澤、安倍の両名とも大福の存在に気づいてない旨を報告した。
43 名前:しげプー 投稿日:2001年09月08日(土)04時02分22秒
「……なるほどね」
「でね、加護は思うんですけど、大福がなくなったのは、梨華ちゃんが挨拶に行ってる間じゃないかなって。だからね、やっぱりののは違うんです」
「なんで加護はそう思うのさ」
「だって、梨華ちゃんは戻ってからずっと座ったままだって言ってるし、その隣のよっすぃーは、大福のこと知らないって言ってるし、そしたら、それまでに大福はなくなったって、加護は思うんですよ」
 矢口は加護の主張にいったん頷いてから、反論した。
「でもさ、その隣にいたよっすぃーが犯人かもしれないよ」
「えっ? んーと。それは……ある」
「だろ。まあだけど、みんながいるところで、大福食ってりゃあ、誰か気づくだろうし。加護の言う通りだろうね」
「やった!」
「とすると、取りあえずウチら3人となっちは容疑から外れるね。楽屋入りしたのが、その後だもん」
 矢口がそう言うと、辻と加護は顔を見合わせ、こぼれんばかりの笑みを浮かべた。
44 名前: 投稿日:2001年09月08日(土)04時04分15秒
「よかったね、のの!」
「うん!」
「お前ら、ホント単純だなぁ。言っとくけどね、真犯人がわからなきゃ、みんなには言えないんだからね」
 見る見るうちに2人の顔が曇る。辻なぞは今にも泣き出しそうだ。
「もう〜そんな顔すんなよォ。いちいちひとの発言に反応して。ホント、ホンットに単純なんだから」
「だってぇ……」
「まあ、後は矢口に任せな。悪いようにはしないから」
「矢口さん、楽屋でなんか見つけたんですか?」
 目を輝かせ加護が聞いた。対照的に矢口は顔を曇らせる。
「うん……まあね」と呟いてすぐに明るい表情に戻った。「とにかくさ、アンタたちの話は、すっごく参考になったよ。矢口はこれから頭ん中を整理して、考えなきゃいけないことがいっぱい、いっぱいあるから、アンタたちは先に楽屋に戻ってな」
45 名前:しげプー 投稿日:2001年09月08日(土)04時05分53秒
「……はい」
 よくはわからないが、後は矢口さんに任せるしかない。2人は頷いて踵を返した。が、スタジオを出かかったところで、矢口が呼び止める。
「ちょ、ちょっと!」
 辻加護が振り返ると、矢口が手招きしている。
「加護、おいで! 辻は行っていいよ」
 ふたりは顔を見合わせ、手を挙げて挨拶を交わすと、加護は小走りに矢口の元へ戻った。
「あのさ、加護に確かめて欲しいことがあるんだけど……」
 なにやら相談している矢口と加護を、名残惜しげに見つめながら、辻がスタジオを出る。
「……わかった?」
 矢口がそう確認すると、加護はしっかりと頷き、スタジオの奥へと駆け出した。矢口はその姿を見届け、ひとり考えを巡らせる。
「あれがこうなって、ああなって……もし、こうだとしたら……」
46 名前:しげプー 投稿日:2001年09月08日(土)04時06分27秒
「お疲れさまでーす」
 矢口の姿を見つけたスタッフがねぎらいの声をかけるが、彼女はまったく気づかない。それほどまでに集中していた。そして……。
「よし、これしかない!」
 思案の末、とうとう結論を導き出した。それは複雑な数学の証明問題を解いた感覚に似ていた。だが、違うことがひとつだけあった。苦心して解答を出したにもかかわらず、爽快感が伴わないのだ。
――損な役目だね――。矢口は思う。それでも使命感に燃えていた。だがこのとき、彼女の行動が、あのような悲惨な結末を導くことになろうとは、思いもしなかったのだ。
47 名前: 投稿日:2001年09月08日(土)04時07分49秒
一行空け。>>44名前欄、間違えました。…鬱だ
48 名前:しげプー 投稿日:2001年09月08日(土)04時10分07秒
 矢口が楽屋に戻ると、私服に着替えたメンバー全員が、テーブルを囲んで待ちかまえていた。
「もう〜遅いよ、矢口! ミーティング始められないじゃんよ」
 一番奥に座る飯田が苛立ちげに言う。
 矢口が楽屋に戻ると、私服に着替えたメン
「ごめん、圭織」
 矢口は気まずそうに頭を下げながら、加護に近づいた。
「どうだった?」
 加護は頷いて矢口の耳元で囁いた。そしてオーバーオールの胸ポケットを開いて見せる。覗き込んだ矢口は「よくやったね」と加護の頭を撫でた。
「なにやってんのさ、早く席に着いてよ」
 と飯田が急かす。
「あのさ、ミーティングの前に、ちょっと矢口に時間欲しいんだけど」
 矢口が言うと、飯田はあからさまに嫌な顔をした。
「なにぃ!? 後じゃダメなの?」
「うん、ごめんね」
 矢口は申し訳なさげに下を向いて応えた。そして、口元を引き締めると、あるメンバーの顔を見据えた。
49 名前:しげプー 投稿日:2001年09月08日(土)04時10分41秒
「ちょっと、こっち来て」
 そのメンバーは、戸惑いがちに確認するように自分の顔を指さした。
「そっ。個人的な話があるから」
 矢口が手招きすると、彼女はゆっくりと立ち上がった。他のメンバーは状況が把握できず、ただぼんやりと見ていた。
「あいぼん、違うよね」
 辻が不安げに加護の顔を見上げる。加護はそれに応えず、矢口の顔をジッと見つめていた。そう、この2人だけは、矢口の行動が何を意味するか、知っているのだ。
 呼ばれたメンバーが近づくと、矢口は背中を押して部屋の隅にと促した。そして、他のメンバーに聞こえないよう、小さな声で囁く。
「あのさ、正直に答えて欲しいんだけど」
 彼女は黙って頷いた。
「石川の大福、食べたでしょ?」
「えっ! だってあれは……」
「辻の仕業じゃないってことは、ウチらもう知ってんの。だからね、嘘つかないで欲しいのよ。もっかい聞くよ。……石川の大福、食べたの圭織でしょ?」
50 名前: 投稿日:2001年09月08日(土)04時11分23秒
場面転換の一行空けです。
51 名前: 投稿日:2001年09月08日(土)04時11分54秒
>>41
心配ご無用、明日はかなり長文の更新になります。
そして、明後日にはついに未公開ゾーン突入です(W

生活は他人様と多少ずれているだけで、割と規則的ですよ。
おかげで、ハロモニ見逃すことも多いのですが(W
52 名前: 投稿日:2001年09月08日(土)04時12分26秒
本文隠しのため、3スレ消化
53 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月08日(土)09時14分41秒
いよいよ終わりが見えてきたのですね。
ようやくぐっすり眠れる日がきそうです(w
54 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時43分10秒
 楽屋の空気は重かった。早くミーティングを終えて帰りたい。ほとんどのメンバーがそう思っていた。だが、部屋の隅で行われている、矢口と飯田の密談は終わりそうになかった。
「……だかさら、違うって」「……なんでそうなんの!」時折、漏れ聞こえてくる言葉の端々に棘があった。2人の表情も険しい。とてもではないが、声を掛けられる雰囲気ではない。
「なんの話してんのかなぁ」
 安倍が保田の耳元で囁く。
「さあ……」
 ここを治めるのは自分しかいない。保田はそう思いながら、声を掛けるタイミングをはかっていた。だが、事情がわからないだけに難しい。
「もう、いいよ!」
 突然、飯田が声を荒げた。
「ちょ、ちょっと声が大きいって。みんなに聞こえるよ?」
 矢口が慌てる。
「聞こえたっていいじゃん。そうさ、みんなに聞いてもらおうよ!」
「か、圭織、そんな興奮しないでよ」
55 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時44分37秒
「どうしたの?」
 ここぞとばかりに保田が訊ねると、飯田は鋭い視線を向けた。
「聞いてよ、圭ちゃん! 矢口がさ、カオリのせいにするんだよ!!」
「はぁ? なんのこと」
 話の見えない保田がそう言って眉をひそめる。飯田は顎でしゃくって、冷たく言い放った。
「言いなよ、矢口」
 矢口は気まずそうにいったん目を伏せた。――言うタイミングを間違ったかな。でも、今日中に解決しておかないと――不安げな表情で、上目遣いに全員の顔を見る。
「あのぉ、実は……石川のマメ大福食べちゃったの、辻じゃなかったん……です」
 消え入りそうな声でそう言うと、全員が辻の方を向いた。
「そうなの?」
 石川が優しく訊ねる。かぶせるように安倍が言う。
「じゃ、誰が食べたの? まさか、圭織……」
 辻はどう答えていいかわからず、黙ってかぶりを振った。苛立ちげな保田の声が飛ぶ。
「どうなの、食べたの、食べてないの? 答えなさいよ!」
56 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時45分18秒
「あのぉ!」これはまずいと矢口が大声をあげた。「……矢口が説明するから」
 本来なら、こんな形では言いたくなかった。圭織が正直に話すことで、解決したかった。だが、こうなっては仕方がない。矢口は覚悟を決めた。
「今日さ、収録でどら焼きがでたでしょ。辻が食べたのはあれだったんだよ。だから口にアンコが付いてたんだよ」
「そうなの?」
 安倍が訊く。辻は黙って頷いた。
「じゃあ、どうして言わなかったの」
 声を荒げる保田に怯え、萎縮してしまった辻はなにも応えられない。慌てて矢口が声をあげる。
「今日さ、ウチらミニモニ。3人で楽屋入りしたでしょ。その前にスタッフさんに挨拶に行ったんだけど、そんときに辻は収録で使うどら焼きを見つけたらしいんだ。みんなには黙ってるようにって、いっこ貰ったんだってさ」
「口止めされてたんで、言えなかったんだ」
 同情するように石川が呟く。実際、あの状況で馬鹿正直に言いつけを守るのは、この2人ぐらいである。他のメンバーなら、あっさりとどら焼きのことを話すだろう。
57 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時46分08秒
「そう言うこと」
 矢口が石川に視線を向けてそう返すと、今度は保田が訊いた。
「それはわかったけどさ。矢口はなんで圭織が食べたって思うわけ?」
 それに矢口が答える前に、後藤が口を開いた。
「ちょっと待ってよ。辻の口元についてたアンコは、本当にどら焼きのだったの?」
「なに? ごっちんは、辻ちゃんが嘘ついてるって思ってるの?」
 後藤の突き放したような言いようが面白くない安倍が訊いた。それに対し、後藤はクールに応える。
「いや、そうじゃないよ。でもさ、こうなったら、なんていうの? やっぱ証拠っつうかさ。一応、確認しとかないとダメじゃん。だって、ウチらの誰かが食べたんだよ?」
「それはそうかもしれないけど……」
「まあまあ、なっち。ごっちんの言うことも一理あるよ。その件に関しては、ちゃんとスタッフさんにウラとってある。矢口が訊いても、答えてくれないだろうから、加護に訊いてもらったんだよ。そしたらさ、確かに本番前、辻にどら焼き渡したって。なっ! 加護」
58 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時46分47秒
 加護は立ち上がって頷いた。
「みんなには黙ってなさいって、加護にもいっこくれました」
 そう言って胸ポケットからどら焼きを取り出し、全員に見えるようかかげた。
「ホントに辻ちゃんじゃなかったんだ」
 石川が呟いた。
「で、なんで矢口さんは飯田さんが食べたって思ったんっすか」
 今度は吉澤が聞いた。矢口はしっかりと頷いて返す。こんな形にしたくなかった割には、なにやら得意げである。
「じゃ、矢口の推理を言うよ。まず、一番に楽屋入りしたのは石川だった。これが本番30分前。そうだよね」
 声を掛けられた石川が慌てて頷く。
「次に入ったのがプッチモニ。の3人。これがだいたい25分前。すぐに石川とよっすぃーの2人はスタッフさんに挨拶に行こうと楽屋を出た。こんとき、テーブルの上に大福は置いてあったんだよね?」
 矢口が石川に確認を求める。石川は「そうです」と再度頷いた。
「それから5分後に圭織が楽屋入りして、電話でスタッフさんに呼び出される。圭ちゃんと圭織が2人して出ていったから、ごっちんが1人残されたんだよね」
 後藤が面倒そうに首を数回上下させると、矢口も満足げに頷きかえした。
59 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時47分19秒
「その後、石川とよっすぃーが戻って来るんだけど、圭織たちがスタッフルームの前で会ってるんだよね。するとごっちんが1人でいたのはせいぜい3分。ウチらミニモニ。が楽屋に入ったのが、15分前。つまり、石川たちが戻ってすぐにウチらが入ったんだよ」
「うん、そうそう。そうだったよ」
 吉澤が同意するのを目の端で確認しながら、矢口は続けた。
「で、圭織たちが戻ってきたのが10分前」
「そうだね。正確には10分切ってたよ」
 保田がそうフォローする。
「そいで、なっちが入ったのが、本番ギリギリ」
「なっちはいつもそうだからね」
 保田が言うと、申し訳なさそうに安倍が肩をすくめる。実際その時は、なかなか姿を見せない安倍に他のメンバーは相当慌てた。
「……ごめんね」
「まあ今はいいよ、その話は。で、大福がなくなったのがいつなんだろうって考えてみると……」
「もう、話長いよ。もっとさ、簡潔に言おうよ」
 そろそろ飽きてきた後藤が、テーブルにうっぷして言った。彼女にしてみれば、誰が大福を盗んだかなんて興味ないのだろう。
60 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時48分04秒
「そ、そう? ごめんごめん。じゃ、簡単に言うと、大福がなくなったのは石川が席を外した間だと思うんだよ、矢口は。だから、取りあえずウチらミニモニ。の3人となっちは違うんだよ。それと、ずっと一緒に行動していたよっすぃーも違う」
「えー! そんなのおかしいよ! なんで決めつけんのさ」
「落ち着きなよ、圭織。取りあえず矢口の話を聞こうよ」
 興奮する飯田を保田がなだめる。後藤は、また話が長くなるなと、面白くなさそうに下を向いた。
「なんでかって言うとね。戻ってから石川はずっと座ったまんまだったんだよ。着替えも化粧もその前に済ませてたし。少なくとも矢口は石川が動いてんの見てないよ。みんなはどう?」
「うん、そうだったね」
 安倍がそう応えたが、すぐさま保田がツッコミを入れる。
「いや、なっちはギリギリだったじゃん、楽屋入りしたの。……確かに、アタシが戻ってから席を立ったのは、そっちの方だけで、こっち側は誰も動かなかったよ。吉澤が後ろ向いて化粧してたぐらいで」
61 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時48分43秒
 保田の言う「そっちの方」とは楽屋の奥、ミニモニ。や飯田が座っているあたりで、「こっち側」とはプッチモニ。石川が座っているあたりのことである。
「さっすが圭ちゃん、頼りになるね。ウチらは楽屋に入ったとこだったから、着替えたり化粧したりしたけど、石川の席の方には行ってないよ。これで納得してもらえた?」
「でもさ、楽屋入りしたときはどうなのさ。圭ちゃんはカオリと一緒にうち合わせに行ってていなかったんだから、テーブルの上の大福、見つけて取ったかもしれないじゃん」
「えっ、どういうこと?」
「だからさ、そっから見えるじゃん。圭ちゃんいなかったら」
「ああ、障害物がないから、入り口からテーブルの上が見えるってこと?」
「障害物って、矢口……」
 障害物扱いされた保田が呟く。矢口は咳払いをひとつして、あえてそれには触れずに続けた。
「でもさ、こんだけ散らかってたら気づかないよ。それにウチらが入ったときには石川がいたんだし、取れるわけないよ」
62 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時49分15秒
「辻だったら気づくかもよ。食べ物センサーがピピピッて」
 後藤がそう言いながら、センサーのつもりなのだろう、頭の上に人差し指を立てた。それに吉澤が異を唱える。
「でも、そんときはどら焼きのことで頭がいっぱいだったんじゃないの? ……そう言えば、いつ食べたんだろ、どら焼き」
「ホントだ。いつ食べたの?」
 安倍が辻の顔を見た。辻は不安げに視線を巡らせながら、小声で答えた。
「あのぉ、着替えるときに、こうやってロッカーに頭つっこんで……」
「そっか、なるほどね」
「え〜と。これでいい?」
 ほとんどのメンバーは納得していたが、やはり犯人にされている飯田は面白くない。
「ちょっと待ってよ。なっちは? なっちはさ、自分の座るとこ行くとき石川の席の横、通るじゃん。石川がよそ見してる間に、サッて取ってさ……」
「いや圭織、それはいくらなんでも無理があるよ。あんときはそんな余裕はなかっただろうし、本番直前に入ってきたにも関わらず、なんか食ってたら、たとえ自分が持ってきた物でも、みんな怒るよ」
63 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時50分01秒
「もういいよ。先、進めて」
「そうなると、残ったのは圭織と圭ちゃんと後藤の3人。取りあえずごっつぁんは違うと思うんだよ、矢口は」
「なんでよ、1人でいたんだから、一番怪しいじゃん」
 飯田がムキになって返す。本当に後藤を疑ったわけではないのだろうが、容疑者の1人としては、仲間が減るのは寂しいものである。
「でもね、もしごっつぁんが食べたんだったら、嘘なんてつかないよ。自分が食べたって言うはず」
「さすがやぐっつぁん! よくわかってらっしゃる。アタシは正直者だもんね」
「てか、別にひとの物、勝手に食べてもそんなに悪いと思わないでしょ、アンタ」
「なんだ、そういうことか……」
「残されたのは圭織と圭ちゃんなんだけど」
「圭ちゃんは違うよね」
 後藤が言うと、吉澤も後に続く。
「うん、保田さんは自分が食べといて、辻ちゃんのこと、叱ったりしないと思うよ」
 やはりプッチモニ。の絆は強いようだ。ますます面白くないのは飯田である。なにせ、自分を一番に疑っているのは、同じタンポポのメンバーである矢口なのだから。
64 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時52分25秒
「なんだよそれ! じゃあ、カオリは自分べといて、辻のこと叱るって言うの!?」
「アンタ叱ってないじゃん。アタシが叱ってるとき、辻のことフォローしてたよ?」
 保田のその言葉を聞いて、加護が突然、叫んだ。
「ああ! そうだぁ」
 その声に驚いた保田が訊ねる。
「なになに、どうしたの、加護?」
「あのねぇ、前にねぇ、言ってた。加護とののが中澤さんに怒られてるとき、自分も悪いことしたのに、怒られると思って黙ってたって」
「ああ! それ見たよ!」
 吉澤も加護に負けないぐらいの大声をあげる。
「FUNでしょ! FUNだよね。確か、中澤さんと、タンポポとカン娘。が出てたときだ。なんだっけ? 遅刻だったっけ。2人が叱られてて、中澤さんに『なっ、圭織』みたいなこと言われたんだけど、そんとき飯田さんも遅刻してたんだけど、でも自分も叱られると思って言えなくって、『うん』って応えたって、そう言ってたぁ!」
65 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時53分03秒
 吉澤がそう言って飯田を指さす。辻加護が中澤に叱られていた理由は、遅刻ではなく忘れ物をしたからなのだが、この際どうでもいい。
「そうなんだよ、矢口が言いたいのはそこなのよ」
 後ろ手を組んで、クマのようにうろうろと部屋の中を歩き始めた。まるで名探偵気取りだ。さすがは形から入る矢口である。
「矢口が思うに、石川が大福がなくなったって騒いだとき、圭織は自分が食べたの忘れてたんだよ」
「うん、圭織ならあるかもね。交信してたんだよ、きっと」
「酷いよ! なっち」
「まあまあ。それでたぶんね、辻が圭ちゃん叱られてるときに思い出したのよ。『あっ! 大福食べたの、自分だ』って。でも、今さら言えやしない。でも、辻が叱られてるのは可哀想。で、辻のこと庇ったんだよ」
「なるほど、筋は通ってますねえ。あっ、そう言えば飯田さん、あんとき自分のせい、自分のせいって言ってたっけ」
「吉澤! いい加減なこと言うんじゃないよ! カオリ、そんなこと言ってないよ!」
66 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時53分41秒
「いや、言ってた、言ってた。たぶん罪の意識から自然と出たんだろね」
「違うって!」
 飯田は必死に否定するが、もう誰も耳を貸さなかった。全員が冷たい視線を飯田に送る。
「はい、これで一件落着! さっさとミーティングやって帰ろうよ」
 後藤が、重い空気を変えようとそう言った。いや、彼女は単純に早く帰りたいだけなのだろう。
「なんでだよ! おかしいよ。なんで、カオリが悪者になんのよ!」
 べそをかきながら飯田が叫ぶ。
「でも。ねぇ」
「うん、これだけ証拠が残ってりゃね」
「なにが証拠だよ! 全部言いがかりじゃん! そんなんで犯人にされたら、たまんないよ!」
 誰もなにも応えない。確かに証拠と言える物はなにひとつないが、全員を納得させるだけの説得力はあった。しんとした部屋の中で、苛立ち下に後藤が机を指で叩く音だけが響いていた。
67 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時54分19秒
「あのぉ、ののは思うんですけどぉ……」
「なんだよ、辻!」
 犯人扱いされているためか、無意識のうちに威圧的な態度をとる飯田に、辻が怯える。
「まあまあ、圭織……。辻、なに? 言いな」
 と矢口が飯田をなだめつつ辻に先を続けるよう促す。
「あのですね、ののはちょっと考えたんですけどぉ、梨華ちゃんって、ホントに大福持ってたのかなって」
「はあ? なに言い出すんだよ」
「だって、だってね、誰も見てないし。梨華ちゃんの大福」
「そう言やぁ……誰か覚えてる? そこに大福があったの」
 保田がそう言って挙手を求める。ほとんどのメンバーが首を横に振る。手を挙げたのは石川ただ1人だった。
「アンタ、本当に大福持ってきたの? 本当にテーブルに置いたの?」
「なんでですか、保田さん。持ってきましたよ。そこのコンビニで買ったんだもん」
「その、カバン中に入ってない?」
68 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時54分54秒
「入ってないですよ」
 石川は自分のカバンを逆さにしてテーブルに中身をぶちまけた。それを覗き込んだ後藤が言う。
「……ないね。ホントに買ったの?」
「えっ、ちゃんと買ったよ」
「じゃ、レシートは?」
「そんなのもらってないよ」
「なんでもらってないの? 買い物したら、必ず領収書もらいなさいって、言われてるでしょ!」
 リーダーとしての責任感からか、自分が疑われていることもわすれて飯田が指摘する。確かに、事務所からはそう指示されているが、大福一個で請求書をもらうのは野口五郎ぐらいである。
「ご、ごめんなさい……」
「じゃ、梨華ちゃんが大福持って来たって証拠はないんだ。これは決定的だね」
 後藤が言うと、吉澤が同意する。
「うん、そうだね。……で、なにが?」
 が、どうやらよく理解してないようだ。
「だからさ、大福なんて最初からなかったんだよ。だから誰も食べてな〜い! 辻が言いたかったのは、そういうことだよな?」
 後藤が訊くと、辻は頷いて応えた。
「……そう」
69 名前:しげプー 投稿日:2001年09月09日(日)03時55分52秒
「はい! これでおしまい。じゃ、帰ろ。おつかれさま!」
 どうやら、後藤は他のメンバーが理解する前に、うやむやにしてミーティングをせずに解散するつもりらしい。
 だが、そこで今まで黙ってやり取りを聞いていた矢口が口を開く。
「ちょっと待って。ごっつぁん、残念だけど、石川はちゃんと大福持ってきたんだよ」
 カバンを持って立ち上がりかけていた後藤が腰を落とした。
「もう、いいじゃん。それで納得しとこうよ」
「それはダメだよ。そんなことしたら、石川が可哀想だし。圭織……」
 矢口は飯田を見据えた。
「な、なによ」
「最後にもっかい訊くよ。ホントに、ホントに大福、食べてない?」
「もう、なんべん言わせんだよ! カオリはホントに食べてないって!!」
 矢口は視線をそらせた。しばらく思案した後、右手をポケットに突っ込む。
「そこまで言うならしかたないよ。ホントはさ、圭織のこと、追い込みたくはなかったんだけど。……これ、なんだかわかる?」
 矢口は右手を前に差し出した。
70 名前: 投稿日:2001年09月09日(日)03時58分07秒
ここで一行空けです。このブロックが一番長いです。
71 名前: 投稿日:2001年09月09日(日)03時59分31秒
>>53
お待たせしました。もうすぐですよ。
72 名前: 投稿日:2001年09月09日(日)04時02分23秒
本文隠しのため、3レス消化です。

モ板(羊)で読んで頂いた方々、たいへんお待たせしました。
明日更新分から未発表部分になります。楽しみにしていて下さい。
73 名前:しげプー 投稿日:2001年09月10日(月)03時46分17秒
 矢口の手には紙屑のようなものが握られていた。
「なに、それ?」
 メンバーが順に覗き込んでは首をひねる。そして最後になった石川が声をあげた。
「あっ! それ大福の袋!」
「そっ。これは大福の入っていたビニール袋だよ。間違いなく、アンタの持ってきたヤツだよね?」
 矢口が両手で15cm角ほどの小さな袋を広げる。石川は目を細めしっかりと確認してから、大きく頷いた。
「そうです、これです!」
「どこにあったの?」
 そう訊ねる保田を、矢口は見据えた。
「どこにあったと思う、圭ちゃん」
「そんなのわかんないよ。わかるわけないじゃん」
「もう、さっさとしようよ。言っちゃえ! まず言っちゃえ」
 早く帰りたい後藤が急かす。矢口は視線を保田から飯田に移した。
「言うよ。圭織、ホントに言っていいんだね?」
 飯田はなんのことかわからないといった表情で首を傾げた。そして鼻をすすると何度も細かく首を縦に振った。
74 名前:しげプー 投稿日:2001年09月10日(月)03時47分15秒
「そこ」矢口の指先は椅子に掛けられた飯田の上着を指していた。「ジャケットのポケットん中にあったんだよ」
「ホント?」
 保田が矢口の肩を引いて顔を覗き込む。
「うん。さっき休憩時間があったでしょ? そんときにさ、なんか手掛かりがないかなって、ここに戻ったんだ。で、見つけた」
「ウソ……ウソだよ!!」
 叫ぶ飯田の声をかき消すように、矢口は大声をあげた。
「ウソじゃないよ! 圭織、もうこれで言い逃れできないからね。たぶんね、矢口が思うにスタッフさんに呼び出されたときなんだよ、盗んだのは。圭織は自分の席から出口に行くのに、石川の席んとこ通るでしょ。そこで大福を見つけてポケットに入れた」
「違うよ、違うって!!」
 飯田が髪を振り乱し、激しくかぶりを振る。
「でもさ、これは決定的な証拠だよね」
 後藤が冷たく言う。
「うん、そうだよね。なっちショックだよ。矢口がなに言っても、圭織じゃないって信じてたのに」
「だから……ち、違う……」
75 名前:しげプー 投稿日:2001年09月10日(月)03時47分54秒
 飯田は力無くその場にへたり込んだ。矢口がそっと肩に手を掛ける。
「もうさ、正直に言おうよ。石川と辻に謝ろうよ。みんなさ、正直に言えば圭織のこと、責めたりしないよ。些細なことなんだからさ」
「あの、矢口さん……」
 石川が口を開いた。
「ん? 石川もそう思うだろ?」
「いや、ちょっと思ったんですけどね、飯田さんって、いつ食べたんですか?」
「えっ、それは……きっと辻と一緒で、着替えるときにロッカーの影に隠れて食べたんじゃない?」
「でも、大福の袋は椅子に掛けてあったジャケットのポケットから見つかったんですよね。それって変じゃないですか?」
 石川の言い分はもっともである。飯田が着替えるためにロッカーに向かったのは、打ち合わせから帰ってきてからだ。もし、そのときに食べたのなら、大福の袋、もしくは袋の入った上着はロッカーになければおかしい。
「じゃ、じゃあさ、スタッフルームに打ち合わせに行く途中で食べたんだよ、たぶん」
76 名前:しげプー 投稿日:2001年09月10日(月)03時48分43秒
「でも、打ち合わせは保田さんと一緒に行ったんですよね」
 いつもはおっとりとしている石川が、人が変わったように続けざまに疑問を投げかける。予期していなかった質問に、矢口は少し慌てた。
「そ、それはさ、圭ちゃんの目を盗んで、こそっと……」
「圭ちゃん! 食べてないよね? カオリが食べてるの、見てないよね?!」
 放心状態だった飯田が顔を上げて、泣きそうになりながら叫んだ。だが、保田はなにやら考え込んだまま、応えようとしない。
「なにか応えてよ! カオリは食べてないって言ってよ!」
 ついに大粒の涙を流しながら飯田が懇願する。すると、保田は首をひねった。
「な〜んか、おかしいんだよね」
「おかしくなんかないよ! カオリ、食べてなんかないよ」
 飯田は顔を覆ってうつむいた。
「そうじゃなくってさ……圭織、楽屋に入ったとき、ジャケットなんか着てたっけ」
「だって、そこにあるんだから着てたに決まってるよ」
 矢口が至極もっともな反応を返した。それに保田が応える。
77 名前:しげプー 投稿日:2001年09月10日(月)03時49分27秒
「いや、確かねぇ……片手にカバン持って、もう一方の手にジャケット引っかけてたように思うのよ。どう、圭織」
「……わかんない」
 飯田は顔を伏せたままかぶりを振った。覚えていない、というより、そこまで考える余裕がないようだ。保田は、飯田の反応など意に介さず、自分を納得させるように頷いた。
「うん、そうだったよ。だからさ、圭織が楽屋に入ってから、ジャケットはずっとあそこにあったんじゃないかな。一緒にうち合わせ行ったときも、着てなかった気がする」
 突然、飯田が立ち上がる。
「そうだよ! カオリ、この格好で行ったんだよ!」
「だよね。するとさ、ずっと椅子に掛けてあったジャケットに、大福の袋が入ってたってのは、おかしいんだよね」
「そうだよね! カオリは違うんだよね!」
 味方ができて嬉しい飯田が、わけもわからないまま歓声をあげる。懸命に理解しようとする矢口が、それを制した。
「ちょっと、うるさいよ圭織。なんで圭ちゃんはそう思うの?」
78 名前:しげプー 投稿日:2001年09月10日(月)03時50分01秒
「だってさ、考えてみてよ。なんで食べた大福の包みを、椅子に掛けてある自分のジャケットに入れるの? 意味ないじゃん」
「じゃ、なに。ってことは、誰かが圭織に罪をなすりつけるために入れたってこと?」
 矢口はそう言いながら、後藤の方を向いた。保田と飯田もそろって後藤を見る。
「なに。なんでアタシを見んの?」
「だって……ねえ」
「うん。ごっちんはたった1人で楽屋に残ってたんだもんね」
 保田と矢口は顔を見合わせて頷いた。
「え〜! 梨華ちゃんの持ってきた物なんて食べないよ、アタシ」
「なんでぇ! 酷いよ、ごっちん」
 と石川が声をあげるが、フォローする者は誰もいない。
「そりゃあさ、石川が作ってきた物ならそうだろうけど、買ってきた大福だからね」
「矢口さん、それ言い過ぎですよ!」
 石川がそう不満を漏らすが、またも無視される。後藤がその前の矢口に対して応えた。
「絶対、アタシじゃなって。だいたいさ、もっと怪しい人がいるじゃん」
79 名前:しげプー 投稿日:2001年09月10日(月)03時51分54秒
「誰よ」
 と聞き返す矢口を後藤は指さした。
「はぁ? なんで矢口が」
 なんで自分が疑われるかわからないと矢口が眉をひそめる。
「なるほどね」
 プッチモニ。は言葉に出さなくても意志が通じるのか、保田の感が恐ろしく鋭いのか、彼女は後藤の言わんとすることを即座に理解した。
「矢口、アンタその袋、いつ見つけたの?」
「さっきも言ったじゃん。休憩んときだよ」
「誰と?」
「誰とって、矢口1人でだよ」
「やっぱりね……そんときに入れたんだ。圭織のジャケットに袋を」
 後藤がそう言って相づちを打つ。吉澤はまだ理解していないらしく首をひねっている。やはり保田の感がいいのだろう。
「な、なに言ってんの。矢口がそんなことするわけないじゃん」
「うん、そうだね。矢口はしないね」
「そうだよね、圭ちゃん」
 意外にも保田が後藤の言い分を否定した。喜んだ矢口だったが、そう思い通りにいくものではない。
「矢口にそんなことする必要はないよ。だって、大福の袋が出てきたのは、圭織のポケットじゃなくて、矢口のポケットだもん」
「そっか、そうですよね。矢口さん以外、誰も飯田さんのポケットに入ってるの、見てないんですよね」
80 名前:しげプー 投稿日:2001年09月10日(月)03時52分32秒
 ようやく吉澤も理解したようである。これでプッチモニ。の3人が揃った。
「吉澤! オマエ、なに納得してんだよ。だいたいさ、もし、もしだよ、矢口が食べたんなら、いつ獲ったんだよ、大福」
「う〜ん。やっぱ楽屋入りのときじゃないかな」
 と保田が言うと、続いて飯田も叫び声をあげる。
「そうだよ! 石川が目をそらせてるうちに、サッて獲ったんだよ!」
「なんだよ、圭織。プッチの味方かよ! そんなの、無理だって。なっ、石川。矢口じゃないよな?」
「矢口さん、いいですよ。私、気にしてませんから」
「石川!? オマエなに言ってんだよ!」
 プッチモニ。の3人にとどまらず、同じタンポポのメンバーである石川からも見放されたようだ。と言うより、矢口の方が先にタンポポのメンバーである飯田を疑ったのだが。
「ああ! そうだぁ!」
 と突然、加護が叫んだ。
「どうした、加護。なんだ、言ってみろ」
 さすがはタンポポ、ミニモニ。とふたつのユニットで活動してきた仲である。心強い味方だと、矢口が続きを促す。
81 名前:しげプー 投稿日:2001年09月10日(月)03時54分49秒
「あのねぇ、さっき矢口さんにね、大福盗んだの、ののじゃないですよって言ったときに、矢口さんねぇ『そのことは、もう治まったんだから、みんなには黙ってろ』って言ったんですよぉ!」
 矢口の顔から血の気が引いた。――あんなにかわいがってやったのに。そりゃ、確かにピンクのヅラが似合わないとは言ったけど。ハナタレ小僧って言ったけど――
「矢口、アンタそんなこと言ったの?」
 放心状態の矢口は、保田の問いに答えられない。
「言ったよね、のの」
 代わって加護が辻に同意を求める。全員が注目するなか、辻は申し訳なさそうに頷いた。
――辻、アンタまで。そりゃ、中2のくせに泣くなって叱ったけど。アホかっ! ってツッコンだけど――矢口はミニモニ。の結束の弱さ、そして自分がいかにリーダーとして信頼されていないかを思い知らされた。
「矢口ィ! やっぱり言ったんだね」
 大声をあげる保田に、矢口は慌てて応えた。
「えっ! えっ! い、言った、言ったよ? いや、でもそれは、そういうことじゃなくて……なっち! なっちなら矢口のこと、わかってくれるよね?」
82 名前:しげプー 投稿日:2001年09月10日(月)03時55分22秒
 メンバーの中で、もっとも仲のいい安倍に救いを求める。矢口にとって、最後の砦だ。
「なっち、矢口がそんなことするなんて、も〜すっごいショックだよ! 信じられない」
 砦は脆くも崩れ去った。もう矢口を庇う者はいない。
「えっ、なに? どういうこと? この空気はなに? 矢口が犯人ってこと?」
 矢口の中で何かが壊れた。――みんな、なに? 矢口のこと疑ってるの? そんなのおかしいよ。矢口はモーニングのことを思ってやったのに。……でも、ここは「矢口が食べました」って言っといたら、治まるのかな。モーニングは、上手く行くのかな。でも、オイラ食べてないのに――。
「矢口さん、私ぜんぜん気にしてませんから。さっき矢口さんも言ってたじゃないですか。些細なことなんですから。ねっ」
「そうだよ。石川の言う通りだよ。白状しな。楽になるよ。誰もアンタのこと、怒ったりしないよ」
 その保田の言葉に飯田が反応する。
83 名前:しげプー 投稿日:2001年09月10日(月)03時55分56秒
「ダメだよ! カオリは犯人扱いされたんだよ! 許せないよ」
「アタシだってそうだよ。危うく疑われるところだったんだから。これはかなり悪質だね」
 後藤が冷たく言い放つ。矢口は2人の顔を、虚ろな目つきで交合に見る。
「もう、アンタたちはなんでそんなこと言うんだよ。矢口が正直になれないでしょ。矢口、アタシが一緒に圭織に謝ってあげるから、正直に言おう」
「あの、あのね、圭ちゃん……」
 自分が犠牲になれば上手く治まる。保田がフォローしてくれれば、そんなに悪い結果にはならないだろう。矢口はそう思いはじめていた。
「なに? 言ってごらん」
「あのね、矢口ね……ごめ……」
84 名前: 投稿日:2001年09月10日(月)03時56分34秒
最後の一行空けです。
85 名前: 投稿日:2001年09月10日(月)03時57分17秒
長らくお待たせしました。いよいよ明日でおしまいです。
全ての謎が明かされます。
86 名前: 投稿日:2001年09月10日(月)03時58分49秒
>>81からが新規分になります。羊で読んだ方は、その辺りから見て下さい。

しかし、ここの住民からのレスがつきませんね。
やはり、カップリングもの以外は、あんまりウケないんでしょうか。
87 名前:羊もここも好き。 投稿日:2001年09月10日(月)05時04分57秒
推理ものって間でレスつけづらいってのもあるかと。
まあ確かにここじゃあカップリングのが受けるってのは事実だが(w
88 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)05時17分25秒
うおーすげー気になる!!

おいらはここで初めて読みましたよ。
微妙な小ネタが面白いっす。
89 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)08時50分53秒
いや、おいらはこの話、めっさ好き。
羊で読んでたんで81以前のにはレス付けなかっただけ。
つーか、カップリングものより
こーゆー楽屋の裏話っぽいのの方が(・∀・)イイ!!
90 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)10時05分57秒
>>89
おいらも!
91 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)18時16分23秒
>>86
単に羊のスレで読んだ部分が終るまで待ってただけだと思うよ。
つーか何故か一気に窮地に追い込まれる矢口笑える。
92 名前:しげプー 投稿日:2001年09月11日(火)04時35分55秒
 矢口が言い終わるか終わらないうちに、突然楽屋のドアが開いた。
「ちわ〜す。みんな元気?」
 全員が入り口に視線を送る。現れたのは中澤だった。
「ゆ、裕ちゃん!?」
「矢口ィ! いつ見ても可愛いな〜」
 歓喜の声をあげながら、ぼんやりとしている矢口に近づき、両手を握った。
「どうしたの?」
 突然のことに、保田が驚きの声をあげる。
「いやな、今日ロケやったんよ。現地解散の予定やってんけど、時計見たらちょうどアンタらの収録終わるころやなぁ思て、局まで戻ってきてん。わざわざ、顔見せに来たんやで。感謝しいや〜。……なんやの、みんな変な顔して」
「聞いてよ、裕ちゃん! 矢口がね、自分が食べたくせに、カオリに罪を押しつけるんだよ!」
「はあ? アンタ、なにしたん」
 状況の把握できない中澤は、飯田にではなく矢口に訊ねた。飯田に聞かなかったのは、彼女の話では理解するのに時間が掛かると考えたからだ。さすがは元リーダー、賢明な選択である。
93 名前:しげプー 投稿日:2001年09月11日(火)04時36分50秒
「いや、あのっ、それは」
 口ごもる矢口をさしおいて石川が声をあげた。
「あのですね、本番前に私がそこに大福を置いてたんですけど、それがなくなったんです」
 とテーブルの上を指さす。すると、なにも知らないはずの中澤が、大きく頷いた。
「ああ、あれ石川のやったん。ゴメンゴメン」
 衝撃的な中澤の告白に、全員の視線が彼女に集まる。矢口が困惑気味に訊ねた。
「えっ、なになに。どういうこと?」
「そこ置いたあった大福やろ。それ食べたんアタシ。なんか美味しそうやったし、お昼まだやったから。そう、石川のやったん。ゴメンなぁ。また今度、なんか奢るわ」
 悪びれた様子もなく、中澤は応えた。ますます混乱したのは矢口だ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。裕ちゃん、ロケだったんでしょ? いつ来たの、娘。の楽屋」
「だって、局のロビー集合やったもん。そんとき、スタッフさんにアンタら収録で来てるって聞いたから。ちょうど本番前で楽屋におるちゅうんで顔でも見せよかなって来てんけど……」
94 名前:しげプー 投稿日:2001年09月11日(火)04時37分23秒
「でも、裕ちゃんの名前なかったよ?」
 楽屋口には受付があり、どの部屋にどのタレントが入るか、張り出してある。当然、メンバーはそこを通って楽屋入りするわけで、中澤の名前があれば気づくはずだ。
「正面玄関でオープニングとエンディング録るだけで、あとは移動やねんから楽屋なんかあるかいな。アンタら売れっ子と違ってな、辛いもんやでロケ芸人は」
 とシャレのつもりで応えたのだが、笑う者もツッコミを入れる者もいなかった。中澤は本当にロケ芸人と思われているのかと、不安になった。
「そっか、それはわかった。でも、でもさ。誰かいたはずだよ、楽屋に」
 石川がテーブルの上に大福を置いてから、なくなったことが確認されるまで、楽屋が無人になったことはないはずだ。
「うん、来たときな、後藤がおったよ」
「後藤!?」
 全員が後藤の顔を見る。加護が尋問したとき、はっきりと誰も来なかったと証言したはずだ。
「知らないよぉ! 裕ちゃんが来たなんて」
「そら、そやろ。アンタ寝とったやん」
「えっ、アタシ寝てたっけ?」
95 名前:しげプー 投稿日:2001年09月11日(火)04時37分54秒
「そやで。なんか、気持ちよさそうやったし、起こすのも悪いかなって思て。誰か来るまで待ってたかったんやけど、アタシも忙しいし」
「なんだ、もう……」
 全員が呆れ顔で後藤を見る。これで真犯人は判明した。だが、問題はもうひとつある。
「じゃ、じゃあさ、なんで食べ終わったあと、大福の袋を圭織のジャケットに入れたの?」
 矢口が訊くと、中澤は眉をひそめた。
「はあ? 圭織のジャケット? そんなんするわけないやん。ちゃんと、こうやってゴミ箱に捨てたよ」
 テーブル越しに内線電話の下にあるゴミ箱に投げ入れる仕草をする。
「そっから、投げたの?」
「そっ。もっとこっちからやったかな」
 そう言って部屋の奥へと体をずらした。だがそれでもゴミ箱からの距離は遠い。
「ちゃんとゴミ箱に入るの確認した?」
「失礼な。ひとさまの楽屋汚すようなマネ、するわけないやん」
「ホント? ホントに確認した?」
 矢口がしつこく訊ねると、中澤は困ったように首を少し傾けた。
「ん、うん……たぶん」
96 名前:しげプー 投稿日:2001年09月11日(火)04時38分35秒
 どうもあやふやなようである。矢口は考えを巡らせながら、ゴミ箱へと目をやる。置かれているのは部屋の隅にある内線電話の下、つまり飯田の席のすぐ横だ。ゴミ箱のすぐ隣に、飯田の上着が掛かっている椅子がある。
「ってことはさ、ゴミ箱に捨てようとして投げたら、たまたま圭織のポケットに入ったってこと?」
「ああ、そやったん。それは悪いことしたなぁ。なんもアタシは圭織のポケットがゴミ箱や、思ったんと違うんよ」
 と冗談めかして言ってみたのだが、やはり誰も笑わない。
「どうしたんよ。みんな深刻な顔して」
 楽屋はしんとしたままで、応える者はいなかった。
「なんやの。……そう言やあ、圭織が矢口のこと悪いとかって言ってたよな。なあ、矢口。それとアタシの食べた大福と関係あんの?」
 飯田が黙って矢口を睨み付けている。視線を感じた矢口は急に早口でまくし立てた。
「な〜んだ、裕ちゃんだったんだ。そっか、そっか。よかったな、辻! 疑いが晴れて。矢口もほっとしたよ。圭織も……」
「矢口ィ!!」
 飯田がものすごい剣幕で矢口に迫った。
97 名前:しげプー 投稿日:2001年09月11日(火)04時39分12秒
「な、なに。ちょっと待って……裕ちゃん助けて!」
 そう言って中澤の後ろに隠れる。
「ちょ、ちょっと矢口、なにしてんの」
「裕ちゃん、矢口のこと庇わないで!」
「いや、別に庇ってるわけやないやけど……なあ、どないしたん? これはどうなってんの?」
 戸惑う中澤に、保田が応えた。
「矢口が悪いんだよ。探偵ごっこみたいなことするから」
「圭ちゃん、酷いよ! 矢口は疑われた辻が可哀想だと思ったから……」
「カオリだってね、もっのすごく可哀想だったんだかんね!」
「そ、そうだけど。でもオイラだって最後は疑われて……石川! アンタが悪いんだよ。大福、大福って大騒ぎするから!!」
「えーっ! また私ですか?」
「いくらなんでもね。今回、それはないね」
 後藤が言うと、吉澤も首を縦に振る。
「そうだよね。矢口さんの自業自得だよね」
「ほらぁ、みんな言ってんじゃん!」
「ご、ごめん! ごめんって」
 捕まえようと手を伸ばす飯田から逃れるため、矢口は中澤を盾に逃げ回った。
98 名前:しげプー 投稿日:2001年09月11日(火)04時39分58秒
「ちょっとアンタら、アタシを巻き込むのはやめぇて! 痛い、痛いって。圭織、それアタシの手ェやて!」
 たまらず中澤が声をあげる。ついに矢口は楽屋の外に逃げ出した。
「あっ! 待て!!」
 それを追って飯田も外に出る。訳の分からないのは中澤である。
「なに。なんやの、あれ?」
 それに保田が応えた。
「気にしなくていいよ。いつものことだから」
 すると後藤が付け加えた。
「そっ! いつもの『トムとジェリー』。ねえ圭ちゃん、もう帰っていいでしょ?」
「う〜ん、そうだね。ミーティングできるような状態じゃないし。今日は解散しようか。……裕ちゃん、仕事は? もうアガリだったら御飯食べに行こうよ。詳しいこと、説明するよ」
「じゃ、なっちも一緒に行くよ!」
「よっしゃ。じゃあアタシが2人に酒の呑み方しこんだろ」
「私も連れていって下さいよ」
 石川が声をあげるが、中澤はそれを一喝した。
「あかん! 今日は大人の世界や。石川を連れてくわけにはいかへん」
「え〜、そんなぁ」
99 名前:しげプー 投稿日:2001年09月11日(火)04時40分37秒
「よっすぃー、帰ろ」
 後藤が立ち上がった。
「そうだね。なんか食べてく?」
 吉澤が後に続くと、またもや石川が声をあげる。
「じゃ、私も!!」
「え〜、梨華ちゃん、来るのぉ」
「酷いよ、ごっちん」
「ウソ、ウソ。一緒に帰ろ」
 メンバーは飛び出していった2人に構わず、帰り支度をはじめた。まあ、この程度のもめ事は日常茶飯事ということか。ただ1人、辻は入り口を不安げに見つめていた。
「矢口さん、大丈夫かな……」
 確かに矢口のやったことは出過ぎたマネだったかもしれない。だが、こんなことになったのも、そもそも自分を庇うためだったのだ。
 そう心配する辻の姿を見て、加護はポケットに手を入れた。先ほどスタッフからもらったどら焼きを取り出すと、2つに割った。
「ののも食べる?」
 半分になったどら焼きを、辻の目の前に差し出す。すると辻は、
「うん!!」
 と元気よく頷いて、今日一番の笑顔を見せた。

  (了)
100 名前:あとがき 投稿日:2001年09月11日(火)04時41分51秒
モ板(羊)に書き始めたのが7/22でした。それから1ヶ月半、
夏房大発生による良スレ大量dat逝きや、モ板閉鎖による名作板移転など
さまざまな苦難を乗り越え(ちょっと大袈裟か)ここに何とか完結する事ができました。
ひとえに応援して下さった読者の方々のおかげです(泪

実際、趣味で小説を書いているのですが、筆が遅いほうで
こんなに早く仕上がったのは初めてです。
やはり、とにかく書かなければdat逝きになるという緊張感と
感想や応援、それに保全レスに励まされた結果だと思っています。

厳しい意見、批判、誤字脱字などの重箱の隅をつつくような指摘、なんでもOKです。
これからの技術向上のためにも、できれば感想など頂ければ嬉しいです。
101 名前: 投稿日:2001年09月11日(火)04時42分40秒
>>87
なるほど、そうですね。確かに推理ものって終わってみなければ評価のしようがないですね。

>>88
ありがとうございます。初めての新規読者レスです(W
>微妙な小ネタ
オイラ的には、じみ〜な小ネタを織り交ぜているつもりです。
どれがウケてどれがウケないか、今後の参考にしたいので
どれが面白かったか、具体的に書いて頂ければありがたいです。
102 名前: 投稿日:2001年09月11日(火)04時43分18秒
>>89 >>90
ありがとうございます。
カップリングもの、というか恋愛ものは苦手で書けないんですよ。
作風を広げるためにも、挑戦してみたいんですが。

>>91
羊からの読者はそうだろうと思ってました。
ただ、新規の読者からのレスがつかなかったんで、心配してたんですよ。
>つーか何故か一気に窮地に追い込まれる矢口笑える。
ちょっと強引だったかな、とも思ってたんですが、喜んでもらえて良かったです(W
103 名前:ネタバレ注意 投稿日:2001年09月11日(火)06時12分27秒
 「推理小説のようなもの」ということでこういうオチもあるかなあと
は思ってました。もしそうなら、そりゃあ「なんじゃ、この下らん結
末はっ!!」ってなるだろうなあって。だから途中で「これ、収録は
ハロモニですか?」って聞こうかどうか迷ったことがあったんです
よね(w ネタバレになっちゃうかもしれないと思って踏みとどまりま
したけど(結局収録番組は関係なかったけど)。
 でもこういうオチならオチで、作中になんらかの伏線を張るべきだ
と思うのですが、そういう記述はあるのでしょうか? 私が気付い
てないだけでしょうか。

 もうひとつ考えてたのは後藤。っていうか普通に考えたら後藤し
かいないんだけど。矢口が楽屋に入ってきたとき後藤のあいさつ
が会釈だけだったのは口の中に大福が入ってたからじゃないかと
か思ってたりしたんですけど(w 考えすぎでしたか。
104 名前:てうにち新聞新入社員 投稿日:2001年09月11日(火)08時01分13秒
お疲れ様でした。
推理物って「主人公は絶対無実」という大前提が、暗黙の了解みたいなにあるから
漫画とか成立するけど、
素人が実際にやろうとすると、今回の矢口みたいな事になるんですよね〜。
勉強になりました。
因みに推理は103と同じ理由で後藤でした。
次回作も頑張ってください
105 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月11日(火)09時02分20秒
最近、名作集で一番楽しみにしてた作品でした。
デフォルメしすぎてないキャラでみんなかわいかったです。
ほのぼのしてて面白かったので、こういうオチもありかなと思います。
ただ、これだったら下手にタイトルを推理物っぽくしない方が良かったかも。
106 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2001年09月11日(火)13時44分45秒
たしかに伏線もなくあの結末では、なんでもありって感じで
途中までは良い作品だっただけに、終盤での強引な展開は
残念な感じがします。
次回作の構想があるのでしたら楽しみにしてますので
モー板。等で宣伝をしてください。
107 名前: 投稿日:2001年09月12日(水)04時02分07秒
あの結末だと賛否あるだろうなぁ、と思っていたのですが
みごとに否ばかりですね。まあ、覚悟はしていましたが…

>>103-106
厳しいご意見、暖かいお言葉ありがとうございます。
これを励みにがんばって生きていきます。

>収録番組
一応、MUSIXを想定していたのですが、最近は全員揃ってゲストとゲーム
ってパターンがなくなったので、あえて伏せていました。
番組名がない→きっとハロモニ→犯人は別の楽屋にいる中澤
という推理をされるだろうと思って>>42で矢口のセリフに
「いいよ、今度ハロモニの収録んときに、裕ちゃんに叱ってもらうから」
と入れておいたのですが、印象に残らなかったでしょうか。
やはり、最初から番組名を入れておいたほうが良かったようですね。

>矢口が楽屋に入ってきたときの後藤の態度
これですね、実は外部からの侵入をほのめかす、唯一のうす〜い伏線だったんです。
会釈したように見えたのは舟をこいでる状態で、つまりあの時点で後藤はまだ寝てたんです。
まあ、そこから外部犯人説には直接つながりませんけど。
108 名前: 投稿日:2001年09月12日(水)04時02分53秒
>デフォルメしすぎてないキャラ
これは今回、最大のテーマでした。多少、ストーリーに合わせたキャラもありますが
なるべく素の娘。たちに近い形にしようと努力しました。
ただ、安倍と吉澤のキャラがどうも上手くつかめなくて、その辺りで苦労しました。

>タイトル
元々、羊に「サスペンス小説『それいけミニモニ探偵団!!』」というスレがあったのですが
完結していて氏にスレになっていたので、そこに書こうと思ってはじめたのがこの小説です。
結果、アップする前にdat逝きになってしまったのですが、新スレ立てるときに
オマージュの意味合いも込めて、このタイトルにしました。

>伏線
結末につながる伏線は、上記の「眠っている後藤」と、同じあたりにある
「飯田の上着とゴミ箱の位置関係」のふたつだけです。
というより>>32-35は、このふたつを書くために用意したシーンです。
これだけでは不十分と思われるでしょうが、書く方としてはそれでも
あからさまに書くとネタバレになるんじゃないかと、ヒヤヒヤもんでした。
109 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月12日(水)12時37分27秒
いろいろ伏線はっていたんですね。アホな私は全く気づきませんでした。
こういう小説は書き手の意図が読者に伝わるかが、微妙ですねー。
でも、単純に面白かったです。ラストは私、アリだと思いますよ。
て言うか、最後の更新前の段階では、外部の人間の犯行以外考えられなく
なりました。
こういうのは構想自体が難しいと思いますが、また次回作を期待しています。
110 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月13日(木)14時26分37秒
やっとみつけました。
ここずっとどこにあるのか探してたものですから。
作者様、とても面白かったです。
特に加護ちゃんの「ののはうそつきじゃないですよ」
のくだりはよかったです。
矢口も矢口らしくて最高。
次回作ももちろん期待しておりますので
がんばってください。
111 名前: 投稿日:2001年09月14日(金)04時45分23秒
>109
ありがとうございます。
伏線は難しいですね。今回はちょっとビビリすぎてしまいました。
こういうのって作者は結末を知っているだけに、ばれるんじゃないかと
不安になります。今度はもう少し、大胆になってみます(W

>110
お手数かけました(W
羊の補完所には、リンク貼ってたんですけど、氏んじゃいましたから…
もしよかったら、宣伝しておいてください。自分では恥ずかしいんで(W
例のくだりは、自分でも一番のお気に入りです。

今回、辻のキャラが結構おとなしめだったので、次回作では
もうちょっとはじけさせたいと思っています。
112 名前:作者β 投稿日:2001年10月15日(月)01時09分40秒
一言お礼を言わせてください!
いい作品を読ませていただいてありがとうございました!
羊板にあった頃から読んでいたんですが、その後探しまくっていたんですよ。
物足りなかったという感想の方もいらっしゃるようですがなかなかどうしてよくできた作品だと思います。
勢いで最後まで読ませられました。
カップリングとかじゃない作品も新鮮味があってむしろ非常にいいと思います。
カップリングだとどうしても話しに枠が作られてしまって面白く展開させることができなくなってしまいがちなんですよね。
その結果、どこかで見たような結末の読めてしまう作品になったり。
暗めにならず、かといってエロにも走らず、完成度は高かったです。
個人的にはコメディータッチなところも好きでした。
とりとめもない文になってしまいましたが、次回もがんばってください!!
113 名前:1 投稿日:2001年10月27日(土)04時47分29秒
>>112
久々に覗いてみてレスがついてるのでビックリしました(w
お褒めのお言葉、ありがとうございます。
一瞬、誉め殺しかのとも思いましたが、素直に受け取っておきます(w

ここで色々ご意見いただいたことは、今後の参考にしたいと思います。
読んで下さった方々にお礼申し上げます。

実は狩板において、ここの番外編のようなものをひっそりと書き始めました。
あえてURLは貼りませんが、興味のある方は探して見て下さい(w
お手数かけて趣味の合わないものだと申し訳ないので、簡単に紹介しますと
今回は「ホラーのようなもの」です。登場人物はミカを含めたミニモニ。のみです。
以上、宣伝でした(w

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