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めぐる気持ち 〜another story〜

1 名前:aki 投稿日:2001年09月04日(火)14時33分51秒
銀板で連載していた「めぐる気持ち」のもう一つのストーリーです。
舞台は同じ学園です。
読んでくれる方がいつ限り気を抜かず頑張りますのでよろしくお願いします。

それでは「めぐる気持ち 〜another story〜」の始まりです。
  
2 名前:aki 投稿日:2001年09月04日(火)14時52分17秒
学校の校庭を本当に幸せそうに歩く二人。
二人があんな風になるまでにはいろいろな気持ちが彼女たちの心を
廻っている事ということも知っている。
矢口は窓から松浦の後ろで二人を見つめていた。
やっと手に入れたものだから、いろんな気持ちが行き交いやっとつかむ事ができた
ものだから、それは何よりも愛しくて大切で。
なにものにも変える事のできないかけがいのないものになる。
それは二人の表情からも容易に窺い知れる事ができる。
そしてなにより自分も同じものを手にして持っているから。

何ものも変わることのできないかけがえのない彼女との出会い。
今、矢口の中でそれは鮮明に思い出され始めていた。

何一つ忘れてなどいない彼女との思い出。
それは私がこの学校に入学して2ヶ月ほど経ったある日だった。
3 名前:aki 投稿日:2001年09月04日(火)15時10分10秒
私の受けたこの学校は大学付属のまあまあの高校だった。
勉強など嫌いで中学の時など真面目に授業など受けもしなかったが
塾の講師である父と高校教師である母は今時珍しく本当に真面目な
両親で私のこともほったらかしにはせず一生懸命私のことを思ってくれ
勉強も夜遅くまで教えてくれた。

昔ながらの口うるさい親などとは違う人からいわせるお人好し、いわゆる「いい人」
に入る人格プラス気持ちを遠まわしに言わないでまっすぐ伝えてくるため
私も自分の進学に対しては真面目に取り組んだ。
プライベートのことにはほとんど口出しせず門限もない。
今時珍しく私から言わせてもいい両親だと思う。
そのせいか門限がなくてもちゃんと帰ってしまう。
そんな両親のおかげで大学まで付いているいい高校に入れたけど
入ってすぐ授業も真面目には受けなくなりどうでもいい日々を毎日過ごしていた。
何事にも面倒くさがってすぐ投げ出す自分の性格には自分自身すでに
愛想尽かしていた。
そんな時ある出来事が起きた。
4 名前:aki 投稿日:2001年09月04日(火)15時58分43秒
「突然だけどこれから生徒会役員選挙に出る生徒をうちから一人決めてもらうから。」
それは朝のホームルームの担任の保田のその一言から始まった。
教室が少しざわつく。

この学校の生徒会長は毎年一年生の中から選ばれる。
そしてその生徒が三年になったとき副会長になり次の生徒会長の手助けをする
そんなシステムだった。
本当なら一年生が二年になるときにいつも生徒会役員は決められているのだが
前の選挙の時結局決まらず今年卒業した生徒会長が卒業するまでやることになり
今年の選挙がこんな時期になってしまったというわけ。
生徒会の事は生徒中心に管理されているため教師もほとんど口を出さない。
しかし今年は必ず決めなければいけないのでクラスから一人絶対に出ることになっていた。

「というわけで立候補、推薦する人は・・・・いないわね。」
教室を見渡してみるがやっぱりやりたい人などいなかった。
「こういう事態はちゃ〜んと予測してました。だから今からくじで決めます。
自分がなっても誰がなっても文句言わないように。一切受け付けません。」
そういうと保田は教室の生徒全員分のピンポン玉を入れた箱を出した
5 名前:aki 投稿日:2001年09月04日(火)15時59分42秒
「え〜!?なにそれ!?」
「最悪〜。」
「やだなぁ」
教室が一気にざわつき始める。
その様子をただ矢口は興味なさそうに見ていた。。
席が窓側のため矢口は外を肘をつき眺める。
相変わらずいつもと変わらないのどかな風景。
自分はこういうくじには自慢ではないが当たった事がない。
他の誰がなっても別に自分には関係のないことだし全く興味なかった。
教室がいきなり静かになる。
保田が箱の中をかき混ぜる音だけが教室に響く。
そして箱の中に手を入れボールを取り出した。
保田がそのボールに書かれている名前を生徒には見えないように自分だけ確認する。
「あらま。」
素っ頓狂な声で意外な顔をしてそれだけ呟いた。
「矢口、あんただ。」
保田の言葉を合図に全員が矢口の方に向いた。
「え?」
外を眺めていた顔を保田の方に矢口は戻した。
教室ではほっと息をつく生徒で一杯になる。
「だからあんたがうちから選挙出ることになった。」
「はぁ?」
突然のことにうまく言葉が出てこない。
確信に近いほど信じて疑わなかったため無理もない。
その時の私はそれが彼女と出会う序曲になるなんて知る由もなかった。
6 名前:aki 投稿日:2001年09月04日(火)19時13分52秒
ちょうどその時ホームルームを終わりを告げる鐘が校舎に鳴り響いた。
「それじゃ、よろしく頼むよ。あたしは次の授業ここじゃないからもう行くから。」
それだけ言いさっさと教室を後にしてしまう。
「ちょ、ちょっと待ってよっ。」
矢口はしばらく呆然としていたが教室を出てった保田を後ろのドアから
出て廊下で捕まえた。
「最初に言った通り苦情は受け付けないわよ。」
「そんなっ!なんで私なの!?」
「それはあたしに言われたって困るわよ。くじで決まったんだから。」
保田の右手には今さっきのピンポン玉の入っている箱が持たれていた。
「先生も暇だね、こんなの作る時間あるなんて・・・。」
「余計なお世話よ。」
「それにしても・・・・本当に全員分の名前書いてあるの?」
矢口がそれをジトーッと見つめながらそう言葉を漏らす。
「なっ、あたしを疑うんかい!往生際が悪いわよ。」
「だってさぁ・・・・。」
「見たいんなら見なよ。神様に誓ってあたしはそんな不正行為してないから。」
「本当かよ〜。」
保田は矢口にその箱を差し出す。
矢口は箱を受け取り中のピンポン玉を何個か取り確かめた
7 名前:aki 投稿日:2001年09月04日(火)19時14分46秒
しかしやっぱり保田の言うように生徒全員の名前がそれぞれ書かれていて
だぶっている様子はない。
「・・・・・・。」
「ね?いい加減観念しなさい。」
保田は矢口が一通りピンポン玉を確かめるのを確認し、矢口から箱を
取り上げさっさと歩いていってしまった。
「ちょっと待ってよぉ。マジで私がやんの〜?」
「そう。いくら聞いたってそうなの。」
「そんなぁ・・・・超面倒くさい・・・。」
「・・・・・・。」
そんな往生際の悪い矢口の様子に保田は軽くため息をつく。
そしてある行動に出た。
ピンポン玉の入っている箱の中に手を突っ込み今さっきのようにかき混ぜる。
「これでもう一回矢口が出たらうけるけどな。」
「・・・・あっ!もしかしたら先生今さっき取り出すとき最初から
私の確認して取ったんでしょ。」
「あんたねっ!!」
矢口の言葉にいい加減保田は呆れながら突っ込んだ。
「疑うのも大概に・・・・」
「それじゃ、私にやらせてよ。」
矢口は保田の手を箱から払いのけ自分の手を入れ軽くかき混ぜた後取り出した。
8 名前:aki 投稿日:2001年09月04日(火)19時15分47秒
「っ!」
「あらま。」
まぎれもない目の前の事実に二人は驚く。
あまりのことに矢口本人は言葉がでなくなる。
保田も今さっき同様の言葉しか出てこなかった。
矢口の取り出したピンポン玉にはまぎれもなくほかの誰でもない
矢口の名前が書かれていた。
9 名前:aki 投稿日:2001年09月04日(火)19時51分46秒
あっという間に選挙当日

この学校で一番大きい体育館に全校生徒と教師が集まった。
矢口は体育館の舞台裏に集合していた。
手には放課後、保田と一緒に考えた(ほとんど保田の文章だが)紙が持たれていた。
面倒くさいが自分が決まった以上どうすることもできないので
あれ以降はとりあえず素直に現実を受け止めた。
ここに集まっているほとんどの生徒がクラスから選ばれた生徒達だった。
今回の選挙は生徒会長と会計の二つだけだった。
とりあえず必要最低限の役員を集める選挙だった。
この学校の生徒会は人数が少なければクラス委員や同じクラスの子に協力してもらったりとどちらかというとオープンなこともありただでさえやりたがらないものをやたらに
押し付けないのだろう。
なんとじゃんけんの結果、矢口が一番最初に演説することになってしまった。
(なんか、近頃かなり運が悪い気がする・・・。)
今まではじゃんけんも負けたこともほとんどなかった矢口なだけに
この頃の運の悪さにいい加減嫌気がさす。
10 名前:aki 投稿日:2001年09月04日(火)19時52分35秒
緊張などは全くすることもなくさっさと文章を棒読みで読み上げた。
一番最初で気付かなかったが自分以外のあとのみんな適当に挨拶するだけで
矢口のように特別用意などしていなかった。
結局なんだかんだいっても根本的に矢口は真面目な性格なのかもしれない。
(あ〜、あたし馬鹿見たいじゃん。なに真面目にやってるんだろ。)
舞台裏に引っ込んでからというものの他の人の適当な演説に
真面目にやってしまったことに心の中で愚痴をこぼす。
生徒会長の演説が全て終わり次は会計の選挙が始まった。
矢口が彼女を始めて見たのはその時だった。
11 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月04日(火)22時53分57秒
はじまりましたね
今度はやぐなち♪

期待してます〜
頑張って下さい〜
12 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)13時00分08秒
「会計立候補の安倍なつみです。私が会計に当選したら・・・・・」
自分以外であらかじめ演説の紙を用意し真面目に取り組んでいる生徒は
自分以来彼女が初めてだった。
矢口は同学年だが彼女を見るのはこれが初めてだった。
整った顔、しっかりとした口調、落ち着いた物腰。
自分とは正反対の優等生のような印象を矢口は彼女に感じた。
緊張はほとんどしていないようで淡々と用意した文章を読み終わり
彼女も舞台裏に戻った。
その後の会計立候補の生徒の演説はさっさと終わり
生徒達は持ってきていた投票の紙の立候補者達の名前のところに
マークをつけ体育館の出入り口にある投票口に用紙を入れ
選挙は何事もなく終わった。
矢口もとっとと体育館を後にし教室に戻ることにする。
「矢口、なんかあの中じゃ結構真面目な方だったね。」
保田が帰る矢口に後ろから話し掛けた。
振り向いて矢口も保田の姿を確認する。
「先生の言うとおりにしたらああなっちゃったじゃん。」
「もしかしたら当選するかもよ。」
保田の言葉に矢口ははっと気がついた。
そうだ。
ただやることになってとりあえずやったことだけど私を含めたあの中から
生徒会長が決まることに今更気付く。
13 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)13時01分38秒
「うわっ、忘れてた・・・・。」
「文章一生懸命考えたかいがあるわ。」
「・・・・当選するわけないじゃん。したら最悪・・・・。」
「そのときはあたしに感謝してよ。」
「恨むよ。」
「恨むなら自分の運の良さに恨みなさい。」
保田はそれだけ言い矢口を残し職員室に向かっていってしまった。
「・・・悪夢だ・・・。」
14 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)13時03分56秒
11:名無し読者さん
 >いよいよ始まりました〜。
  期待にそぐえれば幸いです。
  頑張りますよ。
15 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)13時06分00秒
その日のお昼休み
クラス委員やそのクラスメート達が集まり昼休み返上で教師が見つめる中、
開票は行われた。
お昼休みがもう少しで終わるという時、学校内にある放送が流れた。
「選挙結果が出ました。生徒会室前の掲示板に結果を張り出します。選挙結果が出ました。生徒会室前の掲示板に・・・・」
繰り返して放送は流れる。
その放送に聞き同時に生徒会室前に向かって駆け出した。
(当選してるわけないよね・・・まさか私がするわけない、ないよね!?)
何かに訴えながら矢口は走った。
階段を登り生徒会室のある階の廊下にたどり着く。
生徒会室前には既に人が集まってきていた。
矢口は人ごみを掻き分け掲示板の前にたどり着いた。
掲示板には縦書きで右を一番端にして書かれていた。
16 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)13時06分31秒
生徒会長

掲示板の一番右にしっかりそう書かれていた。
視線を徐々に左に持っていく。
するとそこには立候補した生徒の名前が演説した順番に書かれていた。
そして次に自分の名前を見つけたとき矢口は驚愕した。
「なっ・・・・。」
あまりのことにそれしか言葉が出てこない。
そう矢口真里と縦に書かれているその上にはなんと当選を示す
シールでつけるよくプレゼントの箱などの右上などにつけるあの赤い花の形をした
あれが張られていたから。
「うそっ・・・・」
矢口はただ呆然とその場に突っ立ってしまった。
そんな時また放送が流れるのを知らせる音が響く。
そしてその後に流れた放送はまぎれもないこの事実を矢口に改めて告げるものだった。
「今から選挙結果を発表します。生徒会長、一年Cクラス、矢口真里。会計、一年Aクラスの・・・・」
まぎれもない自分の当選を知らせる放送は矢口には自分の名前もただの言葉の
音のようにしか聞こえなかった。
17 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)13時07分01秒
唖然として掲示板の前に佇む矢口の姿に保田が気付き側に近寄る。
「矢口!当選しちゃったじゃん!」
「・・・・・・・。」
矢口は保田の言葉が聞こえてるのか聞こえてないのかただ掲示板の自分の
名前を呆然と見つめている。
「お〜い、矢口!聞こえてる?戻って来〜いっ。」
保田は自分の口に手を添えよく聞こえるように矢口の耳近くで言った。
「聞こえてるよ・・・。」
「やったじゃん。」
「どこが・・・・。悪夢が現実になっただけだよ・・・・。」
「まあまあ。そんなに落ち込まないで。部活にも入ってないんだし。」
「・・・はぁ。生徒会長なんてやってたらもっと馬鹿になるよ、私。」
落ち込む矢口を保田はぽんぽんと頭を撫でてやった。
「そういえば会計の子知ってる?」
「知らないよ・・・。」
「一年Aクラスの安倍さんって子よ。超優等生の。」
「あぁ・・・・。」
矢口はなんとなく見たときからあの子は当選するだろうと予想していた。
そして保田の優等生という言葉にも納得する。
見た感じでもう頭が良さそうって思ってたから。
18 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)13時08分54秒
「知ってるの?友達?」
「そんなんじゃないけど。今さっき体育館で演説してる時なんとなく目に付いたから。」
「そっか。」
そんな会話を保田をしている中、昼休みの終わりを告げる鐘が校舎に響いた。


「あ〜あ、参ったなぁ・・・・。」
そう小さくぼやきながら矢口は教室にとぼとぼと向かっていた。
階段を下り廊下に出てすぐの自分の教室に入るとき矢口の目にある光景が
映った。
「当選したね!」
「あたし、票入れたんだよ〜。」
「おめでとう〜!」
自分の教室のすぐ横のクラスで小さな固まりが出来ていた。
そのちょうど真中辺りにいるのは会計に当選した安倍なつみだった。
彼女はクラスメートの言葉に軽く微笑んで言葉を返していた。
はたから見れば人当たりの良いように印象を受けるのだろうが
矢口には彼女の姿はそうは映らなかった。
まるでただ適当に言葉を返しているような、クラスメートに交わす彼女の
微笑みはどこか中身がなく冷たいような、表情のないただの愛想笑いのよう
になぜか矢口の目には映っていた。
19 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)13時09分31秒
彼女がクラスメート共に教室に入ろうとした瞬間、彼女がふとこちらを向いた。
一瞬だけ矢口と安倍の視線が交差する。
矢口が見た安倍の瞳はどこか冷たく物悲しいものだった。
安倍はすぐに視線を教室の方へ戻し中へ入っていった。
彼女が教室に入るまでずっとただその姿を見つめてしまった。
「・・・・・・。」
しばらく矢口は生徒会長のことも、何も考えられなくなった。
何かを秘めたその瞳に矢口は無性に彼女の事が気になり始めた。
20 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)18時56分54秒
「受かっちゃったじゃん、矢口。」
教室に入ってすぐ一言がクラスメートのその言葉だった。
「最悪だよ。」
「生徒会長立候補の中じゃ矢口だけ真面目にやってたもんね。」
「票あたし矢口に入れたもん。」
「あたしもだし。」
次から次へと発展していくクラスメートの自分の当選話、聞いているとだんだん
頭が痛くなり始める。
「真面目って言えば安倍さんなんてかなり生徒会役員なんて適役じゃない?」
「だよね〜。だってあの子この学校なんかより全然良いところから
移って来たんでしょ?」
「そうなの!?」
クラスメートの気楽に話す会話の中に気になる部分を見つけ突然二人の会話に矢口は
割り込んだ。
21 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)18時57分31秒
「知らないの?有名だよ、この話。中学からのエスカレーター式のここなんかより
ずっと良い学校からそっちの高校行かないでこっち受けたんだよ、安倍さん。」
「・・・・初めて知った。」
矢口はあんぐりと口を開け呆然としてしまった。
彼女を知ったのが今日始めてなのだから無理ないのだが。
「変わってるよね。なんかあったのかな?」
「さあね、興味ないし。」
クラスメートは矢口の様子など気付かずキャハハと乾いた笑いで二人して
笑っていた。
今さっきの彼女の瞳、それだけでも気になり始めていた。
それにプラス、出回っている彼女の逸話。
いつもまにか私は「安倍なつみ」という存在が知りたくて
しょうがなくなっていた。
22 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)19時00分16秒
その後、初めての生徒会役員の集まりがあった。
ただ放課後生徒会室に集まり軽く挨拶する程度のものだった。
書記は二年生の人、そして会計も二年生の人が一人前の人がいた。
本当なら副会長もいつはずだが当然今年はいない。
二年生のどちらの人も良さそうな人であまり細かいことを気にしない
さっぱりした人たちだった。
生徒会長だから何か特別なことをさせられるかと思ったが
ほとんどそれはただの肩書きだけといっていいほどのものだった。
自分の挨拶をさっさと終わらせ自分の次は彼女だった。
「一年Aクラスの安倍なつみです。よろしくお願いします。」
私とは違い軽く頭まで下げるほど本当に丁寧な言い方の挨拶だった。
彼女が話している間ずっと私は彼女のほうを見ていた。
すると彼女が私の視線に気付く。
彼女は言葉は発さずただにこっとこちらに微笑んだ。
こちらも戸惑いながら返す。
今の彼女にはあの時感じた冷たいような雰囲気は全く感じられなかった。
でもなぜか何か違和感が拭い去れなかった。
どうしてなのかは自分でも分からなかった。
23 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)19時00分48秒
ある日、私は意外な場所で彼女を見つけた。
そしてあの人と関わりを持つようになったのはこの日からだった。

矢口は数学の居残りで放課後、授業が終わってからも残させられていた。
「あ〜、頭が痛い。」
こめかみを微かに押さえ首を回したりなんとか疲れを取りながら矢口は
陽も沈みかけ生徒もほとんどいない静かな校舎を歩いていた。
ただとぼとぼと歩いていて昇降口に向かって廊下を歩いているとどこからか
話し声が聞こえた。
「別にいいじゃないですか。私がどんな考え持っていたとしても・・・」
「そらそうやけどな・・・・」
どこかで聞いたことのある声と大阪弁の声。
矢口は廊下に立ち止まりどこからか聞こえてくる声に耳を傾けた。
しばらくして大阪弁の声は保健室の先生だということに気付く。
保田がよく一緒にいるのでよく姿を見るし声もよく聞いていた。
そして問題はもう一つの声。
どこかで聞いたことがあるのにこんなニュアンスではなかった。
「誰だっけ・・・・・」
矢口は考えながらゆっくりと保健室に静かに向かってみた。
24 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)19時04分25秒
「誰も信じないって決めたんです。それにこの方が楽なんです。」
「あっ。」
保健室まであと少しのところで矢口は手をポンッと叩いた。
その声の主が誰か閃いたのだ。
なぜすぐに気づかなかったかというとこの声の主はいつもはこんな感じでは
話さないから。
でも矢口にはこっちの方が彼女らしい気がした。
矢口の感じた第一印象はこんな感じで、普段は何かどこか違和感があったから。
しかし謎が解けた後もすぐに気になりだした。
なぜこんな時間に彼女が保健室にいるのか。
そして一体何を話しているのか。
何について今のような口調になっているのか。
なぜいつもは今とは正反対の彼女になるのか。
疑問は矢口の中で増える一方だった。
そっと矢口は保健室のドアに近づく。
25 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)19時05分06秒
その時

ドンッ!

何かとぶつかった。
「うわっ。」
「っ!」
何かと思って前を見たがそれはまぎれもない安倍の姿だった。
向こうも声には出さないがこんな時間にドア近くに人がいることに少し驚いているようだった。
彼女もすぐにこちらの姿に気付く。
「ご、ごめん・・・・」
「・・・・・。」
矢口はとりあえず誤ったが安倍のほうは視線が泳ぎ言葉が出てこない。
いつもの人当たりの良い物腰の落ち着いている彼女の姿はこの時の彼女には
微塵にも感じられなかった。
しばらくして安倍は何も言わず言葉を発さないままその場を走り去っていった。
「あっ・・・・」
行ってしまった彼女の姿を矢口はただ目で追いかけることしかできなかった。
今の自分は彼女のことを知らなさ過ぎる。


「何や、誰かいるんか?」
出て行こうした安倍の様子に何かあったのかと思い保健室の中澤がドアから顔を出した。
26 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)19時05分43秒
ドアの外にいる矢口は唖然とした顔で中澤の登場を見ていた。
向こうを見ていた中澤が振り向き、矢口の姿に気付く。
「ん?見かけない顔だけどどこかで見たことのあるような・・・・・」
そう言いながら中澤はジーッと矢口の顔を見る。
「・・・・・・・。」
「あっ!思い出した。あんた生徒会長になった子やろ?」
「・・・そうですけど。」
「なんや?どっか怪我でもしたんか?」
「聞き覚えのある声が聞こえたから来ただけです。」
「あっそ。まあ、立ち話もなんだから入ったら?」
中澤は矢口に保健室に入らるように催す。
「・・・・・・。」
この人とは初対面だったがこのまま帰るのもなんとなく嫌だった。
それに彼女がこの人と何を話していたのかも気になったから。
中澤も保健室に入り自分のデスクの椅子に座る。
矢口も保健室の中央にある机の椅子に座った。
「・・・・・。」
「・・・・・・。」
しばし沈黙が流れる。
その間中澤は矢口のことを今さっきのようにジッと見ていた。
27 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)19時06分51秒
「・・・なんですか?」
中澤の視線に気まずそうに矢口は聞いた。
「あんた、ちっちゃいなぁ。」
真面目にそんなことを言うので矢口は机にガンッと頭をぶつけそうになる。
「小さいですよっ!これでも気にしてるんです!」
「あ、そなの?ごめんごめん。でもちっちゃいほうが可愛いやん。」
中澤は軽く笑いながらそう言葉を返した。
「ったく・・・」
矢口は小さく愚痴をこぼした。
中澤はというと椅子から立ち上がり小さな紙コップ二つに即席のお茶のパック一つでお茶を作っていた。
「はい。」
自分の分を飲みながら中澤は矢口にそれを差し出した。
「どうも。」
矢口はそれを受け取り少し冷ました後口を付けた。
そして中澤は矢口の隣でお茶をすすりながら言った。
「ただ声が聞こえたから覗いただけちゃうやろ?」
「え?」
突然の中澤の言葉に矢口は咄嗟に聞き返す。
28 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)19時07分28秒
「あんた生徒会長ってことならあの子とも面識あるんか?」
「まぁ、顔見知り程度だけど。」
「顔見知り程度の関係で気になって覗いたんか?」
「覗いただなんて!声がするから近づいただけで、ぶつかったのも
彼女と私がちょうどドアのところで出くわしただけっ!」
矢口の勢いに少し中澤は驚いたように目を丸くする。
「でも気になってきたんでしょ?ぶつかる直前まで廊下静かだったもん。」

的をつく中澤の言葉に矢口は否定することもできずただ黙ってしまった。
「声が聞こえたから来たんちゃうよな?もう一つ付け加えればあんたにとっちゃ
彼女の存在は顔見知り程度だけじゃないやろ?」

矢口はまるで中澤は自分の心を見透かしているのかとも疑いもした。
それだけ彼女の言葉は的を得て話している。
29 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)19時08分07秒
「なんで、そんなこと分かるんですか?」
「だって安倍のいつもと正反対の様子見てもあんたちっとも驚かなかったじゃない。」
「・・・・・。」
中澤は言葉を続ける。
「あんたも私と同じ事感じたと思ったんよ。」
矢口の戸惑う表情を捉え中澤はお茶をすすりながらそう言った。
「え?」
「あんたも何か感じたんやろ。普段のあの子のどこか醸し出す違和感に。」
違和感。
そうなのかもしれない。
初めて見た時、そして普段も時々微妙にだが垣間見られる彼女のどこか
冷たい表情、瞳。
それは普段彼女がクラスメートと接している態度とは正反対のものだから。
「・・・・何話してたんですか?彼女と。」
しばらくしてから矢口は口を開いた。
聞いてはいけないことなのかもしれないけれどそんな理性とは裏腹に
思ったが早く口から言葉が出てしまった。
30 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)19時08分41秒
「聞きたい?」
「・・・・・・。」
矢口は彼女のことが始めてみた時から気になった。
何かを秘めるその瞳は何を隠しているのか。
知ろうとすれば知ろうとするほど分からなくなる彼女の本当の姿。
外からは偽っている彼女しか知ることができないと思う。
これ以上分からないことだらけは嫌だった。
普段かぶっている仮面の向こうには彼女のどんな素顔があるのか。
ただ矢口は気になった。
知りたかった。
その時の矢口にはまだ何が自分の行動を起こさせているのかには
気付いていなかった。
「・・・・うん。」
中澤の言葉にしばらく自分の心の中をめぐる気持ちを整理し中澤の
質問からは少し経ってからそれだけ、必要最低限の返事をした。
中澤はその間考えている矢口の表情から決して視線を外さなかった。
(この子ならあの子を救えるかもしれんな。)
そう心の中で中澤は呟きそして静かに口を開き話し始めた。
31 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)19時10分45秒

「あの子が他の学校から来たってのは知ってる?」
「うん。」
「そしてそれがうちなんかより全然レベル高い進学校ってことも?」
「うん。クラスの子が言ってた。」
「なんでかは知ってる?」
矢口は首を左右に振った。
「ううん、知らない。」
「そっか。」
「実はな、あの子・・・」
中澤が話し出そうとしたとき矢口の中で何か引っかかるものを感じた。
「ちょっと待って!」
それが何か考える前に話し出そうとする中澤の口元を矢口は両手でとっさに塞いだ。
「ん?」
「やっぱり聞かない。なんか・・・ずるくない?先生から聞くのって。
私、安倍さんの口から聞く。彼女の口から、彼女の言葉で聞きたいし・・・。」
中澤は少し目を丸くし目の前の矢口を見つめる。
「だからいいや。ごめん、なんか話そうとしてくれたのに・・・。」
「・・・・あんた、偉いなぁ・・・。」
心から関心したように中澤が言葉を漏らす。
32 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)19時18分41秒
「そう?あはは、照れるじゃん。」
照れているのか笑いながら中澤の背中をバシバシと自分では気が付いていないが
結構な力で叩いていた。
「うわっ、力入れすぎやっ!痛いっちゅうに。」
持っていたお茶をこぼしそうになり必死に持ち直して言った。
「でもま、あの子にとってあんたがいて良かったわ。」
中澤は小さくそう呟いた。
「なんか言った?」
お茶を飲みながら矢口が中澤に向かって聞く。
「なんでもない。ただの独り言。」
「?」

しばらくして中澤と話した後矢口は保健室を後にした。
不気味なぐらい放課後の校舎は静まり返っていた。
ふと矢口の頭の中を今さっき保健室前でぶつかった時の安倍の姿が
よぎった。
本当の彼女はあんな感じなのだろう。
矢口は靴に履き替え校庭に出た。
そして夕日が赤く染める空を仰ぎ見た。
「あなたのことだから、あなたの口から、あなたの言葉で聞かなきゃね・・・・。」
そう呟き校庭を後にし矢口も帰路についた。
33 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月05日(水)21時16分54秒
なっちの本当の姿って。にしても矢口かっこいい!
34 名前:aki 投稿日:2001年09月05日(水)21時38分44秒
33:名無し読者さん
 >レスありがとうございます〜。
  反応があまりないので読まれてないかな?と思っていたので
  とても嬉しいです。
  矢口のことかっこいいと思ってくれてそれも嬉しい限りです〜。(T_T)
35 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)13時20分55秒
文化祭が近づくこの時期、生徒会も少しづつだが忙しくなり始めていた。
あの後矢口はクラスも違うこともあって安倍とはまともに話すことは
なかった。
保健室の出来事があってから約一週間後。
それは起こった。
文化祭の出し物や予算などやらなければいけないことが明確に
なりだしたこともあり生徒会には召集がかかった。
生徒会役員含め、自分から進んで出席してくれたクラス委員なども集まり
ちょうどいい人数に生徒会室には生徒が集まっていた。
大体の予算、各クラスの出し物、スペースの確認、体育館での部活
の出し物の時間配分などやることはたくさんだった。
手分けして全員で片づけるが時間はどんどん迫り、窓からの夕日も
少しづつ顔を隠そうとしていく。
徐々に手伝ってくれていたクラス委員達が帰り始め生徒会室も
寂しく静かになり始めていた。
36 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)13時21分40秒
矢口はずっと作業をしている間も安倍の様子を伺っていた。
先輩、同学年でも違うクラスの委員と協力して作業に取り掛かっていた。
そしてやっぱりその時の人と接する時の安倍は誰が見ても
人当たりの良くて、落ち着いていて「良い人」だった。
でもなぜか漠然と矢口の中に残る違和感。
矢口の目にはどうしても安倍が心から微笑んだり楽しがっているよう
には映らなかった。
辺りも暗くなり始めいよいよ残っているのも生徒会役員だけに
なった時教室を出てトイレに向かった。
校舎に張られる窓からは暗くなり始める空が見える。
トイレをさっさと済ませ手を洗い矢口はまた生徒会室に向かった。
「あ〜、もう帰りたい。」
ため息をつくように矢口はそれだけ呟いた。
こんな時間に残っている生徒は部活を覗くといるはずもなく
明りの付いている教室はうちを含めて数えられるほど。
廊下を歩きながら伸びをして矢口は生徒会室のドアを開けた。
37 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)13時22分33秒
するとそこには誰の姿もいない。
「なんじゃこりゃ!?」
明りは付いているし机の上にはたくさんの紙が机の上を占めていた。
矢口は思ったまま誰もいないせいか口に出してしまった。
生徒会室に入り中を見渡すがやっぱり誰もいない。
自分がトイレに言ってる間にみんな帰った?
それともどっきりなのか。
そんなことを考えながら生徒会室を徘徊しているとドアの開く音が
生徒会室に響いた。
矢口はそっちにくるっと振り向いた。
するとそこにはホチキスを手に持つ安倍の姿があった。
人がいることに矢口は心の中でほっと安心する。
安倍はそのまま生徒会室に入りばらばらび散っている紙をまとめだした。
(あ〜良かった。マジびびった・・・。)
しかしほっとしたのもつかの間、矢口は保健室での出来事を思い出した。
38 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)13時23分50秒
矢口は横目で安倍の姿を確認する。
矢口からは安倍の机の上を整理する後姿が映った。
(自分で聞くって決めたのに実際聞くとなるとなんかドキドキするな・・・)
 どうやってその話しまで持っていこう・・・。
 最初はなんかどうでもいい話からし始めたほうがいいの?
 いや、ちょっと待て。そういえば安部さんとまともに話したこと
 一度もないじゃん!!
 うわ〜。そうだよ、そういえばあの時だってぶつかっただけだし・・・。

矢口は腕を組んでう〜んと考え込んでしまう。
あの時中澤に言った時の決心はどこへやら。
(え〜いっ!うだうだ考えてたって無駄無駄!当たって砕けろっ!
・・・いや、砕けちゃ不味いんだけど・・・。)
頭の中をぐるぐる回るどうしようもない雑念を矢口は頭を振って
消し飛ばした。
39 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)13時24分37秒
「え〜い!こうなりゃままよ!」
「あの・・・・」
「考えたって無駄無駄。それに私の場合考えたってどうにかなるってわけ
でもないしー!」
「あの〜っ。」
「へ?」
声のするほうに気付き見ると気まずそうに安倍がこちらに向かって珍しく
声を上げて呼んでいた。
「どうかしたんですか?」
「・・・・・もしかして私言葉に出てた?」
「はい。」
安倍の返事に矢口はぼっと頬を赤くした。
「ど、どの辺から?」
「え〜いっ!こうなりゃままよ!ってところから・・・・。」
矢口の様子に気付いてか安倍はまだ気まずそうに矢口に告げた。
「うっわ〜・・・・。」
(超馬鹿だ、私。すっげー馬鹿。うっわ〜マジで恥ずかしい・・。)
矢口は無意識の自分の行動に無性に恥ずかしくなった。
それが余計に考えていた本人の前だから。
40 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)13時25分24秒
「あのさ、頼むから今の独り言気にしないで。なんでもないから・・・」
「はい。」
安倍は矢口の言葉を素直に受け取り答えた。
「・・・・そういえば私に話し掛けてた?」
「あ、そうです。ずっと話し掛けてたけどなんか矢口さん考え事
してたみたいで・・・。」
「・・・ごめん。それでどうしたの?」
「今日はこれで終わりになったんです。」
「そうなの?やっと帰れる〜。」
「先輩達は帰ったんで今からこれ全部片づけないといけないんです。」
「帰ったの?」
「はい。」
「それじゃ、これ全部二人だけで片づけるの?」
「そうです。」
にこっと笑い安倍は答えた。
その言葉に矢口はがっくり肩を落とす。
たぶん彼女が先輩達に気を使ったのだろう。
彼女の普段の行動からしてそれは容易に想像できる。
安倍がホチキスで紙をまとめ片づけていくので矢口も重たい腰を
なんとか上げ片付けに取りかかった。
41 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)16時31分38秒
「生徒会室戻ってきたら一人だからびっくりした。」
「ホチキスを教室に取りに行ってたの。」
片づけながら言う矢口の独り言に近い言葉にもちゃんと安倍は
言葉を返していた。
(あれ?そういえばいつのまにか話してるし。)
今更そのことに矢口は気が付いた。
(しかも今二人だけじゃん。これチャンス?今しかない!?)
矢口は自分の質問に黙って深く頷いた。
「あのさ・・・・。」
矢口は決心してゆっくりと口を開いた。
「はい?」
「・・・・・」
安倍からの返事がきても矢口はすぐに言葉を返すことができなかった。
聞きたいことはいっぱいあるのにうまく言葉が出てこない。
安倍がこちらに向き直るが矢口は視線を合わすことができず
にいた。
「矢口さん・・・?」
今までとは違う様子の矢口に安倍は心配そうに矢口の顔を覗いた。
矢口はつばを飲み込みそして顔を上にあげ言った。
42 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)16時33分28秒
「あのさ、この前の保健室での・・ことなんだけど・・・・・・」
安倍は突然の矢口の言葉に少なからず反応する。
少しの間だけ安倍も何も言わず生徒会室に沈黙が流れる。
片づけていた二人の作業が中断される。
「先生と話していたこと、聞いてたんですか?」
普段とは違う少し冷たい声が返ってきた。
「聞いてはない!声がしたから何かと思ってするほうに行ってみた
だけだから・・・・。」
「・・・・・・。」
必死に矢口はそれだけは否定した。
安倍はそんな矢口の様子を見つめていた。
「それじゃ、なんですか?先生に何か聞いたんですか?」
いつもの口調とは全く反対のものだった。
矢口はこのとき思った。
自分は今、素顔に近い彼女と話しているのではないかと。
43 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)17時05分26秒
「先生からは何も聞いてない。これも本当。だけど、聞こうと思ったのは
事実・・・・。」
「・・・・・。」
そんな矢口の言葉を安倍は黙って聞いていた。
「でも先生が話す直前でやっぱりやめたの。あなたのことはあなたの
言葉で聞こうと思って。」
「・・・・ただ話ししてただけですよ。先生と。」
矢口は安倍の言葉に首を左右に振って言った。
「保健室の時のことだけじゃない。聞きたいことはたくさんあるの。」
「一体私の何が聞きたいの?」
安倍はいらついたような口調で聞く。
矢口は顔を上げて安倍の瞳を見て言った。
「本当のあなたが分からない。」
矢口ははっきりとそれだけ言った。
44 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)17時06分02秒
日も沈んだ校舎の生徒会室。
矢口の声は綺麗に生徒会室に響いた。
「・・・・・・。」
矢口の言葉が耳から体全体に通り抜ける。
安倍は矢口の言葉に反応し動揺した。
矢口の口から発せられた言葉は安倍の心の中の一番中心部分にある
場所に響き貫く。
「何、それ・・・・」
平静を装って言葉を返したが心の中では思いっきり動揺していた。
今の安倍にはそれだけしか言うことができなかった。
そしていつも被る素顔を隠す仮面もつけることができなかった。
「あなたを始めてみた時からずっと思ってた。そしてそれは
あなたのことをあれから見ていても、あなたのことを人から聞いても
疑問は消えることなく膨らむばかりだった。」
「・・・・・。」
「知ろうとすればするほど分からなる。・・・本当のあなたがどれなのか・・。」
45 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)17時06分52秒
「それ、ここに来てからあなた入れて二回言われた。」
矢口の言葉を聞いていた安倍が口を開いた。
「一番最初は、そう保健室の先生。」
矢口の目の前にいる安倍はもういつもの違和感のある彼女じゃなかった。
最も素顔に近い何もつけていない彼女。
「頼んでもないのに気にかけてきて。迷惑なんだよね。」
「・・・安倍さん・・・。」
「あなたの察する通り今あなたの目の前に入る安倍なつみが本物。
いつも学校でクラスメートや先輩、先生と接する安倍なつみは偽者。」
安倍は矢口に近づいてすぐ目の前に向かい合うように立った。
そして右手を矢口の頬に添え視線を合わさせ言った。
「これがあなたの知りたかったこと。分かった?」
矢口から離れて安倍は片づけに戻ろうとした。
それを矢口の言葉がとめる。
46 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)17時07分27秒
「・・・どう、して?」
「・・・・まだ何かあるの?」
振り向いて安倍は矢口の言葉に答えた。
「・・・どうしてそんなことする必要があるの?なんで?
・・・何のために?」
「聞きたい?」
「・・・・・・・。」
「このほうが楽だからだよ。」

安倍は真っ直ぐ矢口の目を見つめ言った後、片付けもさっさと終わらせ
生徒会室を後にしてしまった。

暗い校舎の中で蛍光灯だけが光を照らす生徒会室の中で矢口は
安倍の言葉を最後に何も考えられなくなり佇んでしまった。
47 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月06日(木)19時23分08秒
なっちが昔そんな子だったとは…。
矢口が動き出すんですか?
48 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)20時18分01秒
47:名無しさん
>レスありがとうございます〜。
 そうですね。矢口が頑張ります。
 詳しい事は言えませんができるだけ期待に答えられるように
 頑張ります。
49 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)20時46分21秒
翌日
矢口は昼休み中澤の所に尋ねた。
保健室に入るとそこには保田と中澤の姿があった。
「お、矢口やんか。あれからどうなったん?」
矢口の姿が現れたと同時に中澤が声をかけた。
「あれ?仲良いの?二人。」
保田がクエスチョンマークを頭の上に浮かべ二人に聞いた。
「別に・・・・。」
「仲ええよ。」
矢口と中澤の言葉が同時に重なった。
矢口がそのまま保健室の中央の机の椅子に腰をかける。
「別にってなんやそれ!?」
「どっち?」
中澤が矢口の座った椅子の隣に腰をかけながら言うが
また同時に保田が中澤に聞いた。
「仲ええに決まってるやん。矢口は照れてるだけ。」
いつもなら適当に言い返すだろう矢口も今日だけはぼーっと
誰が見ても元気のない風だった。
「・・・・なんや、かなり落ち込みモード?」
中澤も予期していた矢口の返事がないので首を傾げ尋ねた。
50 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)20時47分11秒
「ちょっとね・・・」
「なんや、あの後なんかあったんか?」
「あったもなにも昨日の放課後、聞いたんだよ。」
「ねぇ!ちょっと二人で何の話してんのー?」
二人でどんどん話を進めていくので保田が中澤の腕を掴み
揺すりながら言う。
「圭ちゃんの知らんこと。」
「なんじゃそりゃ!!」
「それでどうだった?なんでも聞くで。」
中澤は保田に適当に言葉を返すとまた矢口に向き直った。
「ったく。なにさ、もう聞かないわよーだ。」
保田はそれだけ言い勝手に保健室の紙コップでココアを作って
保健室のいつもの中澤の席にどしっと腰を下ろした。
それに対していつもならなにか反応を示す中澤だが今日は何も
言わなかった。
保田は楽しそうにゆったりとした椅子でくるくる椅子ごと回ってる。
「昨日、生徒会で集まりがあって放課後二人だけになったから聞いたんだ。」
矢口は机に両肘をかけ手に首を乗せながら話し出した。
「安倍さんも素で話してくれた。」
「ほお。」
51 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)20時50分00秒
「でも・・・・」
そう、一番重要なことを聞いていない。
なんで自分を偽って人と接するようになったのか。
どうしてそれが楽だと思うようになってしまったのか。
もし自分がその事を聞いたとき彼女は果たして答えてくれるのか。
分からない。
何があったのかは知らないが彼女にとって苦い過去なのだろう。
それをつい最近知り合ったたかが同じ生徒会役員同士ってだけなのに
聞いてもいいのだろうか。
友達ともいえない関係、今の彼女との関係はただの顔見知り、挨拶する程度。
52 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)20時51分53秒
黙って真剣に考え込む矢口の顔を中澤もただその間黙って見つめていた。
「これ以上私なんかに彼女のこと聞く権利なんてあるのかな・・・。」
小さな声で矢口はそう呟いた。
「それはあんたが彼女のことを知ろうとする理由にあるんとちゃう?」
中澤は聞き逃さずそう矢口に言った。
「どういう意味?」
中澤の方に向き直り矢口は聞いた。
「つまりそれがただの興味本位なのか、それとも・・・・」
それだけ言い中澤は言葉を止めた。
「・・・・それとも、何?」
続きの言葉が出てこないため矢口は首を傾げて聞いた。
「あんた、なんでそんなに彼女のこと気になるの?」
「え?」
中澤の突然の言葉は矢口の心にそのまま問いかけられた。
「なんでって・・・・・」
中澤の言葉に矢口は考えてみた。
53 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)20時52分38秒
なぜ自分がこんなに彼女のことを知りたがるのか。
興味本位?
違う。
そんなんじゃない。
それだけは確かに言える。
・・・・じゃあ一体何?
「何だろう・・・・。」
答えは心には出てこなかった。
「矢口の中にあるはずや、その答え。」
「なんで分かるの?」
まるでその答えを知っているかのような中澤の言葉に矢口は
疑問を感じた。
「先生は先生だから。何でも分かるんよ。」
「なんじゃそりゃ。」
なにやら意味ありげな曖昧な中澤の言葉にその時の矢口は別段深く考えなかった。
54 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月06日(木)21時23分38秒
さすが中澤先生って感じです。
この小説大好きなんですよね。前作のいしごまもよかったです。
このやぐなちも二人がどう惹かれあっていくのがすごい楽しみです。
文章の表現とかも上手なんで、頑張ってください。
55 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)22時59分07秒
54:名無し読者さん
>レスありがとうございます〜(T_T)
 すっごく嬉しいです。とても励みになりますっ!
 これからも頑張りますー!!
56 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)23時30分26秒
しばらくして昼休みも残り少なくなってきたので矢口は
教室に戻ることにした。
「はぁ〜。肩こった。」
昨日は結局家に帰ったのが午後7時を超えていた。
部活にも入っていない矢口にとって今までの中で一番帰宅時間が遅かった。
矢口は首を左右に横に倒し、最後に軽く伸びをした。
(次はいつ集まるんだろう。疲れるし嫌だけど彼女と私が会うのって
悔しいことに生徒会でしかないんだよね・・・・。)
複雑。
最初はあんなに嫌だったのに今はこんなこと考えてる自分に対して。
でも分かってる。
もし彼女がいなかったら最初と同じように嫌でしょうがなかったはず。
彼女が生徒会に入ってなかったら、もし私が彼女と出会ってなかったら
今のこの時間も彼女と出会う前までずっと感じていた同じ事の繰り返しのような
どうでもいい日々のままだったのだろう。
57 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)23時31分33秒

一方保健室では。
「ね、一つ聞いていい?」
保田が中澤の席に座りながら言った。
「ん?何?」
「裕ちゃんって何者?」
「何その質問。」
軽く笑いながら中澤は保田に向き直った。
「だってさ、なんか意味不明な行動取るんだもん。あたしにはさっぱり
何考えてるのか分からない。それなのにいつも何か裕ちゃんの行動って
何か意味があるし。」
「あたしはただの平凡な保健室の先生よ。」
「平凡には見えない。そういうこと言う人に限ってそうじゃないんだよ。」
「それじゃ、あたしは一体何のさ。」
「さぁ。」
「さぁって!質問しといてそれかい。」
中澤と話しながら保田はふと時計を見た。
58 名前:aki 投稿日:2001年09月06日(木)23時32分06秒
「あ、そろそろあたし戻んなきゃ。」
「あっそ。それじゃ退いて退いて。」
保田の言葉を聞くなり中澤は椅子から保田を退けた。
「ひどっ!」
言いながら保田は椅子から立ち上がった。
「あ、そういえば矢口って圭ちゃんとこのクラスだったん?」
「そうだよ。」
「へぇ。そうだったんか。」
「そういえばいつ矢口とあんな話すようになったの?」
「つい最近。しかしあの子見た目と違って真面目やな。」
「そう?」
「うん。今一番のお気に入り。」
「なにそれ。」
保田が中澤に聞き返したところでちょうど学校の鐘が鳴った。
59 名前:aki 投稿日:2001年09月07日(金)18時37分08秒
矢口は教室に戻り廊下の自分のロッカーから辞書を取り出すため
廊下に出ていた。
矢口が辞書を手に持ち教室に戻ろうとした時ちょうどとなりの
教室から出てきた安倍の姿が矢口の目に映った。
「!」
とっさに矢口はそのまま教室側のロッカーでできる壁の影に隠れた。
(ん?なにやってるんだ。私・・・。隠れるなんて馬鹿みたい・・・。)
「何やってんの?」
クラスメートが話し掛けてくる。
「自分でもよく分からない。」
矢口は素直にそれだけ答えた。
本当に自分も自分のことなのに今の行動は良く分からない。
「?」
クラスメートは首を傾げそれ以上何も聞かず教室に入っていった。
安倍はロッカーに辞書を戻しそしてまた新しい辞書を出していた。
(ほんとアホじゃん、私。)
思いながらも今の体勢をやめることのない矢口。
安倍はその間あちらも教室から出てきたクラスメートと談笑していた。
60 名前:aki 投稿日:2001年09月07日(金)18時37分40秒
普通に見ればクラスメートと楽しそうに話をする安倍なつみなのだろう。
何を話しているかは分からないけどでもやっぱりその表情は
始めてみた時から変わらない。
昨日の安倍の言葉どおり今の彼女は彼女の作り出す「偽者」
なのだろう。
矢口には昨日彼女から聞く前から感じていたことだ。
『このほうが楽だからだよ。』
昨日安倍はそう矢口に答えた。
(楽になっちゃったんでしょ?本当は・・・。最初は、そんなこと
思ってるはずないよ・・・。)
そう矢口が安倍を見ながら心の中で呟いている時、
ちょうど昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。
安倍も学校の鐘を聞き、辞書を手にすると教室に入っていった。
その時の横顔はやっぱりどこか寂しいもの。
(・・・・やっぱり、ほっとけないよ・・・。)
矢口は心の中でそう呟いた。
聞く権利があるのかないのか自分にあるのか分からないけど
今の安倍をただ黙って見ていることなんてできなかった。
61 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月07日(金)23時40分32秒
なっちはこの時点で矢口に別に関心ない感じですね。
あー、続きが気になる。
62 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)14時33分38秒
次の日

矢口は昨日と同じ昼休み、お昼を素早く済ませある場所へ向かった。
ある場所、それは隣の安倍の教室だった。
矢口は安倍のAクラスのドアをがらっと勢いよく開けた。
昼ご飯もようやく取り終えたところ、それかまだ食べ途中の生徒が
大半のためみんなが一斉に矢口の方を見た。
「安倍さん!」
矢口は教室の中からすぐに安倍の姿を見つけ呼んだ。
安倍はちょうど昼ご飯のごみらしき者をごみ箱に入れているところだった。
少しびっくりしたような顔で矢口を見つめる。
「お邪魔します。」
矢口は教室の視線を浴びているのも特に気にせずそのまま安倍のところに向かった。
突然の登場、そしてずんずん近づいてくる矢口に安倍は正直戸惑った。
63 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)14時34分16秒
「少し時間いい?」
「え?」
「とにかく来てっ。」
安倍の元に来るなり矢口は安倍の手を掴みそのまま引っ張って教室を出て行こうとする。
「ちょ、ちょっと・・・・。」
引っ張られる形になりながらそのままずるずる安倍は矢口に廊下まで
出されてしまった。
「矢口さんっ!一体何なんですか!?」
廊下で安倍はやっと矢口を止め、そう聞いた。
「あとで言うから黙って着いてきて。」
「何言って・・・」
その時安倍が言いかけている時矢口は安倍に向き直り目を見て言った。
「今のあなたといくら話しても意味ないの。」
「・・・・・・。」
はっきりと自分に言った矢口の言葉がどういう意味か安倍にはすぐに分かった。
64 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)14時34分46秒
そんな2人を教室の中からは多少の生徒がちらちらと眺めていた。
その視線に安倍は横目で気付く。
昨日のことがあったせいか幾分矢口と話していると少し学校でのいつもの安倍なつみを
演じにくかった。
現に今も微かに素が出てしまっている。
傍観する生徒達も興味深そうにこちらを見ている。
「分かりました。」
安倍はその事に気付き今はいつもの演じる自分でそれだけ答えた。
そのまま安倍は黙って矢口に手を引っ張られその場を後にした。
65 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)14時38分09秒
61:名無し読者さん
>レス有難うございます〜。
 とても励みになります。
 続きも頑張りますっ!。
66 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)14時38分47秒
矢口が連れてきたのは誰もいない屋上だった。
「・・・・いつまで手掴んでるんですか?」
「嫌?」
「嫌ってわけじゃないけど・・・。」
予想とは違う矢口の答えに安倍は少し戸惑った。
「いきなり教室来て屋上まで拉致して一体用件はなんですか?」
「拉致してだなんて・・・用がないと連れてきちゃダメなの?」
「・・・矢口さん。」
今さっきから似たような答えに安倍は軽くため息をついて言った。
「もう一度話しがしたくて。」
「・・・昨日のだけじゃ満足じゃなかったんですか?」
「昨日のことだけじゃ分からないことがありすぎる。」
「はぁ・・・・。」
安倍はため息をついた。
「楽しい?私なんかの内情知って。なんでさ、そんなに聞きたがるの?。」
67 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)14時39分37秒
「楽しいとかじゃないっ!ただ・・・・気になるから・・・。」
「ほっといてよ、私の事なんか。」
安倍はそう言い屋上を後にしようとした。
その腕をまた矢口は掴んだ。
「ほっとけないよ!!」
「・・・・・。」
安倍は振り向いた。
そこには矢口の真剣な表情があった。
そしてその矢口の顔を見た瞬間安倍の口からは自分でも予想もしない言葉が出た。
「それって誰にでも言うんでしょ?どうせ。」
「え?」
安倍は小さな声で呟くように言った。
そしてすぐに自分の今何を言ったのか混乱し分からなくなった。
矢口から安倍は自分の発言に動揺しながらさっと視線を外した。
(・・・・何て言った?今私・・・・。)
矢口の顔を見て思ったことを考える前に言葉が口から発せられていた。
安倍は心の中の動揺を鎮めるためも言った。
「あと一つだけ答えてあげる。あなたの疑問に。」
68 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)14時40分46秒
「本当に?」
「本当だから早くして。」
「このほうが楽だから。なんで偽者を作るのかに対して昨日私そうに言ったよね。」
「言ったけど?」
「昨日一番重要なことを聞き忘れたってあとで気付いた。
どうして・・・・・なんでそう思うようになっちゃったの?」
「・・・・・・。」
矢口の言葉に安倍は少し黙った。
「それについてもやっぱり聞きたいんだ?」
「・・・・うん。」
「知ってどうするの?」
「どうするだなんて・・・・そんなの分かんないよ。」
「私がその疑問に対して全て答えた時、あなたは私を見る目が変わると思う。」
「そんなことないっ!」
「絶対とは言い切れないでしょ。聞かないほうがいいよ。」
安倍はそれだけ言い矢口を残し屋上を後にした。
今度は矢口は追いかけては来なかった。
69 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)14時42分41秒
なんか実際の安倍と雰囲気かなりかけ離れちゃってますかね?
少し書いててこういうキャラってどっちかというと
後藤とかかなと思ったので・・・。

70 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)15時39分24秒
実際安倍も引き止められて何か矢口に言われたとしてもその時
返す言葉など今の安倍には考えられもしなかった。

何を言ってくるのか分からない。
そしてその時また自分は今さっきのような予想しなかったことを言うかもしれない。
何を言うのか自分でも検討が付かない。
追いかけてこない矢口に安倍は心の中で安心した。

もし矢口が今の自分の言葉に対してそれでも聞くといってら
自分にはどうしたらいいのか分からなかった。
自分が話したとき、矢口が知ったとき。
彼女は自分に対してどんな表情を向けるのか。
そしてどんな行動を取るのか。
特に、悲しむような目でもされたら、同情でもされるような目でもされたら。
それだけは嫌だった。
どんなことよりもそれだけは自分の心を傷つけるだろう。
今、自分がやっていることはこれ以上傷つかないために。
「もう二度と、裏切られたくないから・・・。」
そう小さく安倍は呟き、階段を下りた。
71 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)15時39分58秒
「絶対とは言い切れないでしょ。聞かないほうがいいよ。」
安倍がその言葉を言った時の表情は寂しげな切なそうなものだった。
自分が知ったとき彼女を見る目が変わる?
「そんなこと・・・・・」
するわけない。
でも、それは安倍の言う通り絶対とは言い切れなかった。
もしそれを聞いたとき自分はどんなことを言うのだろう、何をするのか
どんな目で彼女を見るのか。
それは例え自分のことでも予測のつかないことだった。
そしてもし自分が彼女の一番恐れる行動を取ったら、今以上に
他でもない自分が彼女を傷つけることになるだろう。
それだけは絶対に嫌だった。
72 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月08日(土)17時27分34秒
デビューしたてのときのなっちみたいですね。
なっちの性格いいと思いますよ。
なんかなっちが矢口を意識しだしましたね。どうなるんでしょう。
73 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)18時06分22秒
72:名無し読者さん
>レスありがとうございます〜(T_T)
 いいと言ってくれて安心です。
 私もなんか書いててデビュー当時のなっちっぽいなって思ったりもしました(^^;
 頑張りまっす。
74 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時22分16秒
なんか考えもしなかった展開が思いつきました。
ので入れることにしました。
前作もこんなことありましたが前作より予想もしなかったストーリーに
なりつつあります。
期待に答えられるか不安ですが少しだけご期待あれ。
75 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時23分20秒
しばらくしてから矢口も屋上を後にした。
階段を下りて教室に戻ろうとした時ふと矢口の視界にある人が映った。
「何してんの?」
「ん?あ、矢口やんか。」
自分の教室の前に中澤がいたので矢口はいつものように話し掛けた。
「ここ矢口のクラスなんか。」
「うん。」
中澤の手には生徒の鞄が持たれていた。
「誰か早退するの?」
「あ、そうそう。ここのクラスの子が熱出してな。今鞄取りにきたところ。」
「そうなんだ。」
「この季節も油断できんで。」
中澤は話しながら少し矢口に元気がないのに気付いた。
76 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時24分03秒
「なんかあったんか?」
「え?」
「いつもの元気がないで。」
「・・・ねぇ、教えて欲しいことがある。」
「ん?」
「なんでこんなにあの人の事が気になるんだろう。どうして知りたがるんだろう。」
「矢口・・・・」
「何でも知ってるんでしょ?先生は。なら教えてよ。」
その時ちょうど学校の鐘が鳴った。
「授業が始まるで。」
「サボる。」
「・・・・ほな、行こか?」
中澤は矢口にそう言うと鞄を持って歩き出した。
矢口も黙って中澤の後について教室を後にした。
77 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時24分53秒
保健室に戻り中澤はベッドで眠る生徒に鞄を渡した。
連絡もしてあったのか同じクラスの子は鞄を受け取りふらふらと保健室を
後にして玄関まで中澤に付き添ってもらい帰っていった。
中澤のいない間矢口は勝手にいつもの紙コップを取りココアを入れ
椅子に座りながらそれを飲んでいた。
しばらくして中澤が保健室に戻ってきた。
「ふぅ、ただいま。」
「おかえり。」
「ん?ココアのにおいが保健室中に溢れ取る。」
中澤はそう言いながらそのまま保健室のベッドに向かっていき
枕やら毛布やらシーツを整え始めた。
「保健室の先生も大変だね。」
「そうやで。結構仕事あるもんよ。」
中澤は軽く整えるとやっといつもの席に戻り一息ついた。
「はぁ、一件落着。」
「残念だけどもう一件あるんだな。」
「あ、そういえばそうやんかぁ。」
「・・・・ねぇ、なんでこんなに気になるんだろう。」
「どうしてだと思う?」
中澤は椅子から一旦立ちお茶を入れまた座りなおした。
78 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時25分40秒
「分からない。でも・・・・」
「でも?」
「でもね、たぶん同じ状況だったとしても安倍さんじゃなかったら
こんなに気にならなかったかもしれない。」
「・・・・・・・。」
「話せば話すほど知りたくなる。でもだんだん分からなくなることもある。」
「どうしたん。」
「今さっき思い切って屋上に連れ出してみたの。それで聞いてみた。
一番疑問に感じたこと。」
中澤は返事の変わりにお茶を少しすすった。
「でもさ、安倍さんは言ったの。私がその事知ったらその時私の彼女を
見る目が変わるって。」
「そんなことないって今までなら言えて来ただろうになんかだんだん
自信がなくなってきちゃった。」
「矢口・・・・」
「そのときの自分なんて予想できないし、大丈夫とも絶対言い切れない・・・・。」
そこで矢口は話すを止めた。
保健室にしばらく沈黙が流れる。
79 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時26分55秒
「そんなに焦らんでもいいんとちゃうかな。」
「・・・・・。」
「気になるから知りたくなる。でも聞く自信がないんなら聞かんでいいと思うよ。」
中澤はゆっくりと言葉を続けた。
「不安なら聞かないほうが良いと思う。いつでも聞くことはできるんやから。
・・・たぶん、いつか不安は取り除かれ受け止めることができる日は
いつか必ず来ると思うよ。」
「必ず?絶対に?」
「うん。絶対。」
「・・・・そっか。」
「だから今はまだこのままの関係でええんとちゃう?」
「うん。」
矢口は中澤の言葉に少し安心した。
絶対って言ってくれたのが嬉しかった。
どんな物事に対しても絶対と言い切るのは難しい。
でも中澤が絶対と言ってくれた。
言葉に出すことで言葉で耳にすることでそれは本当にそのように思えてくる。
もしものこととか心の中に出てこなくなってその「絶対」の可能性しか
ないような気がしてきた。
80 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時27分33秒
あれから二、三日経ちまた生徒会で集まることになった。
「また放課後残ることになるのかな・・・・。」
そうぼやきながら一日全ての授業が終わったのでまた矢口はとぼとぼ
生徒会室に行くところだった。

今日も前と同じく生徒会役員以外の人も集まってくれていた。
もちろんそこには生徒会役員である安倍の姿もある。
下手な挨拶はなくみんな個々で分担し仕事を片づけていっていた。
前と同様、まだまだ残る文化祭の予算を計算することに矢口は決めた。
教室をほとんど占めるU字型の机の自分の座った向こうに彼女の姿はあった。
安倍も計算された予算を間違えがないか再度計算していた。
でも何か少し様子が違う。
(あれ・・・・?)
電卓を叩く指はほとんど動いてはいず右手は額を押さえている。
(なんか考え事かな、それとも寝てる?・・・安倍さんに限ってそれは
ないか・・・・。)
81 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時28分20秒
そんなことを矢口が考えていると安倍は椅子から立ち上がり
教室をドアを開け出て行こうとする。
しかしその歩みはふらふらして危なっかしい様子だった。
実際に生徒会室のドアのところまで行ったところで壁にふらっと
寄りかかっていた。
矢口は気になって安倍が完全に出て行った辺りで矢口も生徒会室を後にした。
「安倍さん・・・ってあれ?」
矢口はもう既に安倍は廊下を歩いて行ってしまったと思ったが
先の廊下には誰も居ず安倍はまだ生徒会室を出てすぐに廊下の壁に寄りかかっていた。
「安倍さんっ!どうしたの!?」
矢口は安倍の側に行き体を支えようとした。
「やめてっ!」
安倍はさし伸ばした矢口の手を手でパシッと弾いた。
それから安倍は矢口だということに気付いた。
「またあなた・・・・?」
そう安倍は小さく呟いた。
82 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時29分39秒
「具合悪いの!?」
「・・・うる、さいな・・・・トイレに行こうと思っただけ、だよ。」
「嘘だっ!こんなにふらふらしてるじゃん!」
矢口はそう言い安倍の額に自分の手を当てた。
「っ!すごい熱・・・・保健室に行かなくちゃ・・・。」
「ほっといて!!」
安倍は矢口から体を離し叫んだ。
「一体あなたどういうつもりなの!?頼んでもないのにこの頃ずっと
構ってくるし・・・。興味があるってだけで人のこと知ろうとしてくるし・・・・
私は、あなたのおもちゃじゃないんだか・・らっ・・」
安倍はそこまで言った時ひどい目眩に襲われた。
思わず体がふらっと倒れそうになり壁に寄りかかった。
「早く保健室に行って帰る準備しなきゃ・・・・」
「迷惑なの!!関係ないじゃん、あなたには。ただの生徒会役員同士って
だけなのに・・・・・・ほっとい、てよっ・・・・」
安倍は感情を込めてそう言うと同時に前にそのまま気を失い倒れた。
83 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時30分42秒
「安倍さんっ!!」
倒れかけた安倍の体を矢口はなんとか支えた。
矢口にもたれかかる安倍の体は洋服の上からでも分かるほど熱く火照っていた。
「どうせ・・・・みんな最後は・・・・・」
安倍は無意識のうちにそう小さく呟いていた。
「え・・・・?」
矢口の言葉に安倍はそれ以上答えることはなかった。
「誰か・・・・誰か、先生を呼んできてーっ!」
生徒会室からちょうどトイレに行くために出てきた生徒がいた。
矢口は無我夢中で事情を説明した。
何事かと教室からも生徒が出てくる。
あっという間に生徒会室から人は出て来てその場は騒然となった。
84 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時32分20秒
「・・・・あれ?」
目を開けるとそこは白い天井だった。
横には白い布の仕切りが目に入る。
体は横になっていて背中が柔らかい。
「私一体・・・ここは・・・・・・?」
そこまで呟いてここがどこか分かった。
(あぁ、そうか。保健室のベッドの中か、ここ。)

安倍はあの後、あの場に到着した中澤によって保健室に運ばれたのだ。
なんとなく体がゆらゆら揺れているのを朦朧とした意識の中で感じていた。
そう、中澤は安倍を背中に抱っこして保健室まで連れてきたのだ。

(倒れた直前のことあまり覚えてない・・・。確か・・・そうだ。矢口さんが
来て・・・・)
まだ熱い額を押さえながらそこまで記憶をたどっている時しきりの向こうで
流れる水の音に気付いた。
85 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時33分01秒
すぐに水はきゅっという音と共に音を消す。
そしてしきりの向こうから水で濡らしたタオルを持った彼女が現れた。
「あっ、気が付いたんだ。」
しきりから現れた彼女、そう矢口はタオルを安倍に手渡しながらそう
言った。
「矢口さん・・・・・」
「あの後倒れちゃって先生が安倍さん背負ってここまで来たんだよ。」
「・・・そう。」
貰ったタオルを安倍は額の上に置いた。
「矢口さん、今まで看病しててくれたの?」
「え?あ、うん。」
安倍にはなんだかこのときの矢口は少しぎくしゃくしたような
むやみに明るくしているような感じがした。
(なんか、倒れる直前変な事言っちゃったのかな私・・・・)
ついこの間までの安倍ならこんなこと考えもしなかっただろうに
安倍はそんなことにも気付かずただそんなことを考えていた。
86 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時33分34秒
「そういえば先生は・・・?」
「あ、先生なら今安倍さんの家に連絡してるはず・・・大分前に言ったから
もう帰ってくると思う・・・」
「ただいま〜!」
矢口が「思う」を言っている途中で保健室のドアを開ける音と中澤の声が
二人に届いた。
「本当だ。」
矢口の言葉に安倍は軽く笑いながらそう答えた。
「ん?あ、気がついたんか?」
中澤が2人の気配に気付きこちらに来た。
「まだ頭熱い?」
「今さっきよりは良くなったけど・・・・」
「そっか。でも顔色も大分良くなったやん。全く、倒れるまで無茶したら
あかんやろ。風邪をなめると大変なことになるで?」
「すいません。」
「お、珍しく素直やな。」
「先生、一応病人なんだから・・・。」
矢口が中澤にそう注意する。
87 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時34分25秒
「そういえばそうやったな。」
中澤が思い出したように笑う。
そんな2人のやり取りに安倍も小さく微笑んだ。
「そう、それでな。安倍ちゃんのうちに電話したんだけど誰も出ないのよ。
結構粘ったんだけどなんか家に居ないみたいだから留守電に入れといた。」
「うち共働きなんです。帰ってくるのも遅いし。」
「そうなんか。帰り、大丈夫?」
「はい。」
「病院行くんやで。」
「はい。」
「それじゃもう帰ろか。早く帰って温かくした方がいいだろうし。
体大丈夫?」
「大分良くなったから・・・」
安倍は中澤にそう答えタオルを枕の横に置きベッドに手をつき起き上がろうした。
「あっ・・・・」
矢口はとっさに安倍の体を支えた。
「ごめんね。」
「ううん。」
中澤はそんな2人のやり取りを黙ったまま微笑ましく眺めていた。
88 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時34分57秒
安倍はベッドから出て中澤から鞄を受け取った。
「それじゃ、私生徒会室戻る。」
「え?いいんか?見送らんでも。」
「まだやること残ってるからそろそろ戻らないとまずいし。気を使わせても悪いから。」
「ごめんね。」
安倍はただそれだけ矢口に言った。
生徒会の仕事を抜け、仕事を増やしてしまったこと。
そして今まで保健室で看病していてくれたことに対して。
「ううん、気にしないで。」
「うん・・・。」
「それじゃまたね。」
矢口は言うと手を振りながら生徒会室へ戻っていった。
安倍は姿が見えなくなるまで黙ってその姿を見ていた。
「それじゃ行こか。」
中澤がそう催し安倍は一緒に学校の玄関まで向かっていった。
89 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時36分03秒
「あんたで今週二人目やわ、熱出したの。」
歩きながら中澤はしゃべっていた。
「そうなんですか・・・・」
玄関が離れているが2人の目の前に現れた。
「・・・・矢口なぁ。」
「どうかしたんですか?」
「矢口な、あんたが倒れた後ずっとうちが来るまで必死に叫んでたんよ。
あんたの名前。」
「・・・・・・。」
「うちが付いてからもすごい必死やった。」
「・・・そう、ですか。」
「あの子、良い子やで。真面目で優しくて。」
「そうですね。」
「矢口はあんたが出会った人とちゃうんやで。・・・・あの子なら
信じられんとちゃう?」
「・・・・・。」
それには安倍は答えなかった。
90 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時36分52秒
玄関前につき、外に出て安倍は中澤と別れた。
「明日はゆっくりしいや。」
安倍は軽く頭を下げ校庭を歩いていった。
外の少し涼しい風がとても肌に気持ち良かった。
91 名前:aki 投稿日:2001年09月08日(土)20時37分24秒
更新するのに面倒なんで上げちゃいました。
92 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月08日(土)23時32分39秒
むっちゃいい展開!もう面白くてたまんないですね。
93 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月09日(日)01時18分36秒
本当に、更新が楽しみでしょうがないです!
94 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月09日(日)01時46分10秒
つなぎ3名大好き!
皆に愛想がいい安倍が、中澤に対して素だったのは何故だろう?
かなり気になるよー
95 名前:読んでる人 投稿日:2001年09月09日(日)10時57分38秒
初めて読んだけど、すっごくおもしろい!
96 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)13時07分56秒
たくさんレス本当にありがとうございます〜(T_T)
かなり感激です。

92:名無し読者さん
>レスありがとうございます! 
 かなり励みになります。
 これからも頑張りますっ。

93:名無し読者さん
>更新しまくりです(^^;)
 これからも頑張ります!

94:名無し読者さん
>そうですね、私も少し今考えてこの後そのことも少し触れて
 見ようかと思います。
 レスありがとうございます!

95:読んでる人さん
>ただ一言「おもしろい」といってくれるのは
 とても励みになり嬉しいです。
 これからも頑張りますのでよろしくお願いします。

今日はとってもレスが多くてびっくりと感激です。
これからも気を抜かず頑張りますっ

97 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)13時11分59秒
訂正です

84のところ「抱っこ」じゃないですね。「おんぶ」です・・・。
ちょっと気になったので訂正です。
98 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)13時12分35秒
校庭を髪を風になびかせながら歩く安倍の姿を矢口は三階の生徒会室から
眺めていた。
「・・・・・・・。」
その姿を見つめながら矢口はそっと指で自分の唇に触れた。
(今さっきの感触、今でもちゃんと残っている・・・。)
矢口は軽く目をつぶり今さっきのことを思い出した。
99 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)13時13分15秒
安倍が熱で気を失い倒れた時のことは矢口自身もあまり覚えてなかった。
ただ夢中で安倍の名前を呼んでいたことだけは覚えている。
混乱してどうしたらいいのか分からなくなって目の前の安倍の姿以外
何も目に入らなくなっていた。
しばらくして中澤が駆けつけて安倍の額に手を添えた後、すぐに安倍を
背負って保健室へ連れて行った。
矢口も生徒会室の先輩に事情を簡単に説明しすぐに中澤の後に続いた。
中澤の背中におぶされている間も安倍はずっと苦しそうだった。
「大丈夫だからそんなに心配せんでも平気。」
よっぽど心配そうな顔をしていたらしく中澤は保健室に向かう途中
矢口にそう声をかけた。
保健室に着いた後安倍はすぐにベッドに寝かされた。
「氷枕は冷蔵庫、タオルはそこにあるの使っていいからちょっと看病しといて。」
「って先生どこ行くの?」
「電話してくる。こんなに熱が高いんじゃできるなら迎えに来て
もらった方がいいし。」
そう言うなり中澤はすぐに職員室へ向かって行った。
100 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)13時14分07秒
「ん・・・・・。」
小さく安倍が声を漏らした。
静かな保健室でその声はかき消されることなく矢口の耳に届く。
すぐに矢口は安倍の元に行った。
「安倍さんっ!」
「・・・・・・・。」
声をかけても返事は返ってこなかった。
ただ苦しそうにしている。
矢口はすぐに氷枕を冷蔵庫から取り出しタオルで巻き枕のところへ置いた。
そしてもう一つタオルを水で冷たく冷やし安倍の額のところにそれを置いた。
「体温計は・・・・」
少し保健室の中をうろついていると机の上に体温計が鉛筆立ての中に
置かれていたのを見つけ軽く拭いた後すぐに使った。
しばらく経ちピピピという電子音が鳴る。
「・・・・38,5℃・・・。」
体温計にはそう表示されていた。
101 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)13時15分15秒
体温が分かったところで矢口に何かできるというわけではなくただ額の
タオルを裏返したり様子を見ていたりとできることなど限定されていた。
「安倍さん・・・・・」
しょうがないことなのかもしれないが何もできない自分にいい加減嫌気が差す。
中澤は帰ってくる気配はなかった。
「熱い・・・・・」
安倍はそう言葉をもらす。
実際安倍の体は火照り息も荒く汗も少しかき苦しそうだった。
矢口は熱くなったタオルをまた水にさらし冷やしまた安倍の額に置いた。
「熱いよ・・・・」
うなされるようにそう言葉を漏らしながら安倍は寝る体勢を横にした。
右肩を下にして横になる。
そのためタオルが額から落ちてしまった。
「タオル・・・・」
タオルを拾おうと矢口が手を伸ばした時、ぎゅっと何かに掴まれた。
「あ・・・・・。」
それは安倍の手だった。
102 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)13時15分46秒
細長い綺麗な手さえも熱く火照っている。
そのまま安倍は矢口の手とも思わず自分の頬に当てた。
今の安倍には矢口の手さえも冷たくひんやりし気持ちいいのだろう。
今の安倍の容態での行動だとは知りつつも矢口は心の中でどきどきと
ときめいていた。
(な、何ときめいてるんだよ、私。安倍さんは苦しんでるって時に・・・。)
理性では分かっていても胸の高鳴りは止めることはできなかった。
しばらくして安倍の手からは力が抜け矢口の手も解放された。
横に肩を下にした体勢で寝ていたが安倍はゆっくり最初の仰向けの
姿勢に戻った。
すぐに矢口はタオルを額の上に乗せ直した。
しかし一向に安倍の具合は良くならず熱を測りなおしてもまだ38,2℃
だった。
汗もかきはじめ矢口はタオルをもうひとつ取ってきて首筋辺りや鎖骨辺りの
汗を拭ってあげた。
その間も安倍は相変わらず体は熱く火照り息も荒い。
103 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)13時16分20秒
「・・・・・・。」
今さっきのことがあるせいか今の矢口には今の安倍の状態が
変な風に目に映っていた。
(な、なんか色っぽい・・・・。肌白いし・・・・)
体温計を図るためと体を楽にさせるため制服のシャツは上から二つ
開けていた。
そこから覗く素肌が熱のせいもあり嫌に艶めかしい。
自然と収まりかけていた胸の高鳴りがゆっくりと戻ってくる。
(あう・・・・熱だってのに・・・私ってやばい・・・?)
分かっていても気持ちは止められなかった。
矢口は安倍に向かって手をさし伸ばした。
そして今さっきのように自分の右手を安倍の右頬に当てた。
安倍は息を荒くしながら自分の頬を触れる矢口の手の上に自分の
手を重ねた。
気持ちいいのか少しだけ息が荒くなくなる。
矢口は頬に手を添えながらゆっくりと安倍に顔を近づけていった。
「・・・・・・・。」
唇が触れる直前矢口はすっと止まった。
胸の中は高鳴りどうしようもなくなっているが自分の今の行動が何を
しようとしているのか理解し後少しのところで思いとどまった。
104 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)13時18分03秒
(何しようとしてるんだよ、私・・・。熱でうなされてるってのに・・・・。)
そう思いやっぱり止めようと顔を離れさせている時、
「ん・・・・・」
安倍が頬に添える自分の手に少し顔を落とした。
「あっ・・・・」
矢口に目には顔を横にしたため安倍の白い綺麗な首筋が映っていた。
体は火照り汗をかいている。
それは一瞬にして今さっきの思いとどまった矢口の理性を吹き飛ばした。

気付いた時矢口は安倍と唇をあわしていた。
横になった顔を添えていた手で真っ直ぐに戻しそして唇をあわした。
矢口はほんの少しだけ舌を入れすぐに唇を離した。
唇をあわしたと同時に安倍の容態は今までより少し良くなっていた。
105 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)13時20分19秒
矢口はそのまま唇で首筋、鎖骨へと優しく触れていった。
「っ・・・・・。」
触れるたびに小さく安倍は言葉を漏らした。
火照る体に矢口の唇はちょうど良いようだった。
しばらくして安倍の息も整い大分今さっきより楽になったようだった。
(良かった・・・・。)
ほっと安心したと同時に矢口は我に帰った。
安倍の容態は落ち着いたから良いものの夢中になっていて最中なんと
も思わなかったが自分が今まで何をしていたのか思い出され
矢口は安倍からばっと離れ恥ずかしさのため紅くなった頬を両手で
押さえた。
(う、うわっ・・・・・)
安倍の姿を見て理性を失ったこと、そして実際したことに
これでもかというくらい矢口は恥ずかしくなった。
106 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月09日(日)19時01分47秒
寝てる間とはいえ…。なっちに対する気持ちを自覚し始めましたかね。
かんなり面白いですね。更新が多いのは嬉しい限りですよ。
107 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)19時07分01秒
「・・・・・。」
矢口は黙って自分の唇に指を当てた。
今でも残る、すぐに思い出せる感触。
(柔らかかった・・・・。)
「!!」
心の中で無意識に近くそっと出てしまった本音に自分のことながら
矢口はびっくりする。
矢口は黙って安倍に顔を向けた。
そこには息も整い今さっきとは比べ物にならないほど安らかに眠っている
安倍の姿があった。
(ま、いいか・・・・・。)
矢口はとりあえず今はそれで納得することにした。
熱くなったタオルを取りまた矢口は保健室の水道で冷やすことにした。
108 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)19時08分51秒
タオルをしぼっている時矢口の耳に小さくベッドの方から声が届いた。
急いでタオルを絞り終え戻ってみるとそこには額を手で押さえる
安倍の姿があった。
「あっ、気が付いたんだ。」
矢口は冷えたタオルを安倍に渡しながら言った。
「矢口さん・・・・・」
「あの後倒れちゃって先生が安倍さん背負ってここまで来たんだよ。」
「・・・そう。」
貰ったタオルを安倍は額の上に置いた。
今さっきのことがあるせいかなんだかいつもと態度が変わってしまう。
自分でもむやみに明るくぎくしゃくしているような気がした。
「矢口さん、今まで看病しててくれたの?」
「え?あ、うん。」
とりあえず矢口はしどろもどろになりながら頷いた。
看病。
確かにずっと看病してたけど・・・・。
今さっきのように矢口は一度納得したものの何も知らない安倍の様子に
なんてことをしてしまったかと思い恥ずかしくなり頬も紅くなる。
109 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)19時13分31秒
(気を失って寝込んでるってのにその間に私、なんてことを・・・・。)
黙々と自分を責める矢口だったがとりあえず安倍の体調も
こんなに良くなっているので今さっきのも一応「看病」の一つとして
今さっき同様ひとまず納得することにした。
110 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)19時14分12秒
しばらくして中澤が戻ってきて安倍は帰ることになった。
本当は見送りたかったがまだなんだか少し安倍を見ていると胸が
ときめくのでやめた。
「それじゃ、私生徒会室戻る。」
「え?いいんか?見送らんでも。」
「まだやること残ってるからそろそろ戻らないとまずいし。気を使わ
せても悪いから。」
別に早く戻りたくとも戻らなきゃいけないわけでもなかった。
思いついたことを適当に言葉を並べそう矢口は二人に告げた。
「ごめんね。」
そんな矢口に安倍は少し落ち気味で答える。
風邪と、真面目な性格がそうさせているのだろう。
いつもの本当の安倍なつみの勢いは今は微塵も感じられなかった。
しかしそんなところにも何気に素顔の彼女を見た気がして矢口は少し
嬉しかった。
「ううん、気にしないで。」
「うん・・・。」
「それじゃまたね。」
矢口は安倍の気持ちを察しそう言った後手を振りながら保健室を後にした。
111 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)19時17分00秒
106:名無し読者さん
>レスありがとうございますっ!
 矢口の気持ちがこれから動いていきますね。
 面白いの一言がとても励みになります。
 
 
112 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)19時18分35秒
回想終わり。
そして今自分は生徒会室にいる。
終わった後すぐ矢口の頬はぼっと赤く染まった。
安倍はちょうど学校の門を抜け少しおぼつかない歩みで消えていった。
(ドキドキ)
安倍のことを見ている間ずっと胸はときめいていた。
今さっきも今も。
矢口はくるっと窓から離れ机に戻り予算をまた計算し始めた。
しかし計算する指はすぐに止まる。
「・・・・・・・。」
机には向かったまま矢口は高鳴る胸を手で押さえた。
(なんでだろ・・・・。今までは安倍さんといてもこんなことなかったのに・・・・。)
自分の今の状態に矢口は戸惑った。
『矢口の中にあるはずや、その答え。』
中澤のある言葉が頭をよぎった。
確かその時のそれに対する質問は・・・・。
(なんだっけ・・・・確か・・・・)
113 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)19時19分35秒
『あんた、なんでそんなに彼女のこと気になるの?』
「・・・・・・。」
頭の中に鮮明にその言葉が思い出された。
思い出したはいいがすぐに何も考えられなくなる。
 
なんでこんなに彼女のことが気になるのか。

私の中にその答えはある。
 
あの時なんとも思わず受け取った中澤の言葉。
「もしかして・・・・・」
その答えがこの胸の高鳴り?
じゃあなぜ胸が高鳴るのか。
それは私が彼女のことを・・・・・
「だから、なの・・・・?」
矢口は何かに問い掛けるように小さく呟いた。
誰に言うわけではなく自分に問い掛ける。
胸は今も高鳴る。
まるで矢口の疑問に答えるように。
114 名前:aki 投稿日:2001年09月09日(日)19時20分12秒
もしかしたら所々ミスがあるかもしれません。
書きながらでも結構ミスに気付くので・・・・。
115 名前:空唄 投稿日:2001年09月10日(月)02時02分04秒
相変わらず更新早いですね。
でも、いしごま好きのはずなのに、なぜかこのやぐなちの方が楽しい(w
これからのなっちに期待。
116 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)12時10分46秒
115:空唄さん
>レス有難うございます!
 ですね、私もいしごま好きですが自分でもなんか書きながら
 前作より面白いのかもと思ってたりします。
 たまに書いててこれがいしごまでもいける?・・・なんて考える時も。(^^;)
117 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)16時50分19秒
翌日は第2土曜日

「ふぅ・・・・」
小さくベッドの中で横になりながら安倍はそう呟いた。

昨日、安倍は学校からそのまま近くの病院に寄り薬を貰って
帰っていた。
両親が帰ってきたのは遅かったがそれからお母さんがおかゆを作り
タオルを取り替えたりと安倍の看病をした。
そのかいあり翌日の今日には体温は38℃から37,2度と大分下がった。
休日だが今日も両親共朝早くから仕事。
会社を休もうかと言ってくれたが安倍はそれを断った。
言うことには言ってくれたが両親の望む答えなんて分かっていた。
悪気のないのは分かっている。
どれだけ両親が忙しいのか分かっている安倍にはその言葉に甘えることなんて
できなかった。
早めに帰ると言い残し2人は安倍を残し家を出て行った。
現在7時ちょうど。
2人が出て行くので一緒に目が覚めたが朝食を作る気も食べる気もしなく
安倍はまた眠りについた。
118 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)16時51分07秒
ピンポーン

「ん・・・・・?」
次に安倍が目が覚めたのは家に人が来たことをしらす玄関のチャイムの
音だった。
しばらく経ちまた「ピンポーン」と相変わらず変わらないのどかな音は
家に響く。
「・・・・・・。」
安倍は黙ったままベッドの横の時計を見た。
現在10時半。
今の安倍にはまだ早い時間だった。
「郵便屋さん?それとも新聞・・・・?」
そう小さくぼやきながら安倍はゆっくりベッドから身を起こすと
ふらふらのろのろと玄関に誰が来たか分かるカメラに向かって歩るき始めた。
(どうでもいいセールスだったら居留守使お・・・・・)
そんなことをぼんやり考えながら安倍はカメラのところまで
歩き覗いた。
119 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)16時52分18秒
「・・・・・・」
カメラに映る人物を見たが朦朧とする頭の中では何も考えられなかった。
しばらくぼーっと見ていた安倍だがまた家に響く「ピンポーン」の音で
我に返る。
「・・・・矢口さん!?」
思ってもいなかった人物が家に来ていることを知り安倍は思いっきり
びっくりした。
120 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)16時52分58秒
安倍は急いで階段を下り玄関の戸を開いた。
「矢口さん・・・!」
安倍が戸を開いた時ちょうど矢口は安倍の家に背を向け帰ろうとしている
ところだった。
戸の開く音と安倍の声に矢口は振り向いた。
「あ・・・もしかして寝てた?」
矢口は安倍の姿を見てそう言った。
「え?あ・・・・。」
安倍は矢口の言葉に自分の姿を見てそう呟いた。
そう、安倍はパジャマ姿のままだった。
髪も当然整えられていず無造作。
事実寝ていたのでNOとも言えずYESと言ったら気を使わせて
しまうかと思いどちらとも答えられず曖昧な返事になってしまった。
「お見舞いに来たんだけど・・・・。」
矢口の手にはケーキの紙でできている箱が持たれていた。
「わざわざごめんね・・・・。」
そう言い安倍は差し出された箱を受け取った。
121 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)16時56分51秒
「それじゃ・・・・もう帰るね。安静にしてないといけないだろうし・・。」
矢口はそう言いきびすを返し安倍の家を後にしようとした。
「ちょっと待って。」
矢口が帰ろうとするのが目に映ると同時に気が付いたら安倍はそう
呼び止めていた。
「・・・寄って、いってよ。わざわざ来てくれたのにそのまま帰っちゃうなんて
・・・悪いよ・・。」
安倍はしどろもどろになりながら言った。
「うん・・・・。」
矢口は安倍の言葉に遠慮せず素直に受け取った。
せっかく具合が悪いにも関わらず誘ってくれたから・・・違う。
本当は心の中でどこか期待してた。少なからず微かに確信し予想していた。
家に誘ってくれるかなって。
帰ろうとしたとき引き止めてくれるかなって。
心のどこかでそう信じていた。
でもそれもダメな時はダメだったとすぐに納得できるほどの少ない自信だった。
そして来るまでずっとどきどきしていた。
122 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)16時57分35秒
昨日、この前同様遅くまで残り帰ろうとしていたところで
靴を履き替えていると中澤に声をかけられた。
そして紙を渡された。
安倍の住所だって言って渡された。
明日お見舞いに行ったらどうかと提案された。
そのときはただ曖昧に頷き受け取った。

夜中紙を見ながらずっと考えていた。
行くか行かないか。
でもやっぱり考えているのは外見だけで本当は心の中では
行くほうに決められていた。
中澤に話し掛けられたときからそうどこかで決めていた。
123 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)16時58分25秒
家を出てからずっと緊張していた。
連絡も取っていないため突然の訪問になるし何より初めて行くから。
でも安倍の出てくるまでの胸の高鳴りはただの緊張だけだった。
初めての人の家に行く時によくある緊張感。
安倍の家に来てチャイムを鳴らしている時までずっとそのままだった。
でも家から安倍の姿が現れて振り向いてその姿を見たとき
その胸の高鳴りは今さっきまでのものとは全く違うものになった。
今さっきまでの初めて来るとかそういう気持ちは全く入っていない。
ただ目の前にいる人だけに感じる胸の高鳴り。
パジャマ姿で髪も整えられてなくて、初めて見るそんな姿に余計に
どきどきする。
帰ろうとしたとき引き止めてくれた。
期待してた。
でも少しだけ不安だった。
どういう反応が返ってくるのか分からなかったから。
でもあなたはそんな不安をすぐにかき消してくれた。
照れているのか視線を外しながら不器用にだが誘ってくれた。
ついこの間までは見ることのなかったそんな表情、態度、様子。
ここ最近安倍のいろんな姿を見ているなと矢口はふと思った。
124 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)17時00分03秒
家の中に案内されそのままリビングへと向かった。
「うちの住所、どうして分かったの?」
「あ、中澤先生が教えてくれて・・・。」
「そっか。」
家の中には安倍以外の人がいる気配はしなかった。
それにしてもとにかく家がでかい。
「お母さんとお父さんは・・・・・」
「2人とも仕事で朝から出かけてる。」
「あぁ・・・。」
安倍の言葉に矢口はただそう頷くことしかできなかった。
なんとなく安倍さんのうちはそんな感じがする。
でもそんなこと口に出しては言えるはずがない。
「そこ座ってて・・・・。」
安倍は少しおぼつかない足取りで矢口をリビングまで案内し
そこのソファを指差し言った。
そしてそのままふらふらとキッチンへと向かう。
「あ、いいよっ別に。お見舞いできたんだから。」
安倍の様子に一旦座った矢口だがすぐに立ち上がり安倍も元に行った。
125 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)17時02分37秒

間違え訂正です。
一番最後の段の右から6行目、「も」じゃなくて「の」です。
126 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)17時04分01秒
「そう・・・?」
「うん、それにこんなにふらふらして・・・・」
矢口が話している時ちょうどぐーっと間抜けな音が安倍のお腹から響く。
「・・・・まさか・・今まで寝てたって事はもしかして朝食食べてない?」
「うん・・・・・。」
恥ずかしかったのか俯き加減に安倍は答えた。
「熱は・・・・」
「37℃。」
「それじゃまだダメだよ、歩いちゃ。おかゆ作るよ。それまで部屋に
戻ってて。」
「いいの・・?」
「お見舞いに来たんだから。」
安倍の言葉に矢口は深く頷いて言った。
「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらう・・・・」
37℃まで下がったにしても今だ安倍の体は火照り頭もぼーっとしていた。
「うん、行ってて。あ、キッチン借りるね。」
「どうぞ・・・。」
それだけ言い残し安倍はふらふらキッチンを後にしゆっくり階段を登っていった。
「来て悪かったのか良かったのか・・・。」
安倍の後姿を見つめ矢口はそんなことをぽそっと呟いた。
127 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)17時04分35秒
安倍は矢口の言葉に素直に従い自分の部屋に戻りまたベッドに戻った。
毛布を顔だけ残し全部かけて少しぬるくなったタオルをまた額の上に乗せた。
「・・・・・・・。」
そのまま目を瞑ったが眠気がないため眠ることはできず目を閉じたまま
少し考えた。
安倍はこの頃学校で演じている自分と本当の自分の隔てる壁が低くなって
いること感じていた。
今までずっと誰にも気付かれなかった。
中学のある時から作ってきた偽者。
本当の自分を裏にして誰からも好かれるただの「いい人」を表にした。
そして誰にもとらわれない自由な、そんな人間を演じていた。
他人が接するのは偽者に自分。
本当の自分で他人と話すことなく厚い壁を作っていた。
それなのにわざわざ移って来た学校で2人の人間にも本当の自分に気付かれるとは
思ってもみなかった。
128 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)17時07分03秒
中澤に関しては見たときから、話したときから何か見透かされてる気がしていた。
だから隠しても無駄。
そう納得して中澤とだけは素で話していた。
そしてなぜか疑うことなく受け止めてくれるような気もして中澤には
自然と昔のことも話していた。
そしてそれからしばらく経って彼女とであった。
彼女も出会ったときから中澤同様自分のことを見抜いていたのだろう。
それでも同じ年齢の同じ学年の生徒に知られたのは少なからず動揺した。
不安だった。
どういう人間が自分の本当のことを知ったのか分からない。
だから精一杯演じようとした。
でもダメだった。
彼女の存在は触れれば触れ合うほど不安が自分の中から消えていく。
いつしか彼女の前では素顔で話す自分がいた。
129 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)17時15分47秒
そして近頃、2人の影響か他人に対する壁が低くなってきているの
を感じている。
普段クラスメートと話していても少しだけ前より自然と演じることを
する以前の自分が時々微かに顔を出す。
雰囲気が前より柔らかくなったとたまに言われる。
自分でも少なからずそのことには気付いている。
(出会いは人を変えるってか?)
そう心の中で呟く。
(良い意味でも悪い意味でも・・・・)
だんだん眠気が戻り意識が途切れていく。
(こっちはたまんないよ・・・・)
安倍は最後にあまり嫌そうにではなくそう小さくぼやきそっと眠りについた。
130 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)17時16分21秒
矢口はその頃残っていたご飯でおかゆを作り湯気の立つ中、お盆に載せて階段を登り
二階へ来た。
ところがドアがいっぱいありどれが安倍の部屋なのか分からなくなる。
「・・・・部屋がいっぱいあって分かんないよ〜っ。」
部屋にいても分かるぐらいの声で矢口はおかゆを持ったまま
叫んだ。
「こっちー・・・。階段上ってすぐ右に行った突き当たりのドア。」
しばらくしたら寝ぼけたような返事が返ってきた。
「右の突き当たり・・・・」
言われた通り移動してみるとそこの突き当りには説明どおりドアがあった。
「おかゆ作ってきたぁ。」
ドアを開け部屋に入りながら矢口はそう言った。
安倍はというとベッドに右肩を下にしてこっちに背を向け寝ていた。
「後で食べる・・・・。」
「ダメだよ。朝の薬まだ飲んでないんでしょ?食事とんなきゃ
薬飲めないじゃん。」
矢口はなんだか我侭を言う子供をなだめる母親のような図が頭によぎった。
「だだっ子な子供を叱る若いお母さんみたい・・・・。」
安倍はそう小さくぼやきむくっと毛布の中から顔を出した。
同じ事を考えていたんだと思い矢口は軽く笑った。
131 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)17時17分00秒
「はい、口開けて。」
起き上がった安倍の足元に毛布の上からお盆を置くとれんげでおかゆを
すくいながら違和感なく自然とすごいことを言って見せた。
「はっ!?今何て言ったの?」
「だから、口あけてよ。食べさせたげる。」
「・・・・いいよ、そこまでしなくて。自分で食べれるし。」
「えぇ、つまんない・・・。一口だけでも・・・」
「遠慮します。」
安倍は矢口かられんげを取るとそう言い息で冷ましながら食べ始めた。
「言ってくれれば私が冷まして食べさしてあげるのに。せっかくのお見舞い
なんだからさ・・・・・。」
安倍の食べる横でそんな愚痴を小さくこぼす矢口。
「悪いからいいです・・・。」
食べながら安倍はそう答えた。
132 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)17時24分35秒
しばらくして全部食べ終わり朝食の薬も飲み終わった。
「それじゃもう帰ったほうがいいかな。これ片していくから。あ、持ってきた
プリン冷蔵庫に入れておいたから。あれおいしいよ。」
矢口は言いながら食べ終わったおかゆの小さな一人用の土鍋が乗った
お盆をもち立ち上がった。
「あっ・・・・・」
「それじゃね。」
安倍の小さく呟いた声は聞こえず矢口はお盆を持ち部屋を出て
階段を下りていった。
部屋に階段の下りる音が響いた。
133 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)17時25分08秒
土鍋も洗いお盆も軽く布巾で拭いて矢口は帰る支度をし帰ろうとしたとき
「矢口さんっ!」
後ろからそんな言葉共に右腕を掴まれた。
振り返ってみるとそこにはまだ少しふらふらして火照ってる体の安倍がいた。
「安倍さん?どうしたの・・?」
「今さっき言い忘れて・・・っていうか言い逃しちゃって・・・。
あの、今日はありがとう・・・。いろいろしてもらっちゃって・・・。」
「そんなこと・・・」
「あるの。すごく・・・嬉しかった。明日は、学校行けると思うから・・・。」
恥ずかしいのか照れているのか俯きながら安倍はとぎれとぎれ言葉を足しながら
そう言った。
そんな安倍の様子がとても矢口には嬉しかった。
「うんっ!明日学校で待ってるよ。」
心からそう矢口は安倍に言った。
134 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)18時25分11秒
なっちも確実に矢口へと。
話がスムーズで読みやすいです。こういうやぐなちってあんまりないから
新鮮で面白いわ。
135 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)20時03分44秒
134:名無し読者さん
>レスありがとうございます。
 スムーズですか?自分では書いててあまり気付きませんが
 読みやすいということで嬉しいです。
 やぐなちは私自身あまり目にしないんですが私も始めて書きます。
 こういう話ししか書けないんですけどね(^^;)
136 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)23時13分36秒
本編より面白いですわ。本編も面白いですけど。
私がやぐなち好きだからかな。
それと、133の明日は日曜なんじゃ・・・?気に障ったらすみません。
137 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)23時22分50秒
136:名無し読者さん
>レス有難うございますっ!
 なんか私も本編より面白いと思います。書いておきながら(^^;)
 最初は緊張してて固まって書いてたものでだんだん慣れてきたんだと思います。
 それと・・・・今見てみると確かに明日だと日曜ですね。
 間違いです。訂正しますね。
138 名前:aki 投稿日:2001年09月10日(月)23時25分19秒
訂正

177の「第2土曜日」を「祝日」にします。
133の台詞を直しちゃうと違和感が残ると思うので・・・。

139 名前:aki 投稿日:2001年09月11日(火)14時59分24秒
あれから矢口は安倍に玄関まで見送ってもらい家を後にした。
今は家へ帰る道を歩いているところ。
「・・・・・・。」
矢口は黙って今さっきいきなり安倍が触れた右腕を上げて見た。
安倍の今さっきの行動が鮮明に頭の中に蘇り人知れず矢口の頬が
ぼっと紅くなった。
「お見舞いなんてしたのいつ以来だろう・・・・」
頭の中に小さく浮かんだ疑問を小さく呟いた。
しかし頭の中の記憶をたぐり寄せてもすぐには思い出せなかった。
(でも、今日行って良かった・・・。)
彼女の役に立てて良かった。
矢口はそれだけで本当に心から嬉しかった。
「先生にも感謝しなきゃ。」
そう独り言を小さく呟きながら矢口は空を仰ぎ見た。
自分の頭の上の空は雲ひとつない真っ青な全てを取り込みそうなぐらい
深い綺麗な空。
そして地上に降り注ぎ照らす太陽の光を邪魔するものは何もなかった。
140 名前:aki 投稿日:2001年09月11日(火)15時00分27秒
『私がその疑問に対して全て答えた時、あなたは私を見る目が変わると思う。』
『絶対とは言い切れないでしょ。聞かないほうがいいよ。』

矢口はふとこのまえの安倍の言葉を思い出した。
(そんなことない・・・!)
あの時言えなかったこの言葉。
今ならはっきりと言うことができる。
それは自分の本当の気持ちに気付くことができたから。
確かな彼女への想いは「絶対」と言えるほどの勇気と自信へと変わっていくから。
141 名前:aki 投稿日:2001年09月11日(火)15時05分29秒
そして翌日の学校

矢口は学校に来て自分の教室に向かう前にそれまでにあるAクラスの
教室を歩きながら覗いた。
安倍の様子が気になったのだが安倍はまだ来ていなかった。
いつも遅めに来る矢口の登校時間でいないので少し矢口は心配になった。
遅れてくるのかもしれないが来たらすぐに会いたかった。
でもそんな矢口の気持ちとは正反対に今日の午前中の授業は今日に限って
変更などありほとんど移動だらけで安倍が来ているのかを窺うことも
その間できなかった。
142 名前:aki 投稿日:2001年09月11日(火)15時06分20秒
やっと昼休み。
さっさと食事を取り安倍の教室へと向かった。
「・・・・・・。」
しかしそこには捜し求める彼女の姿がなかった。
「あれ、矢口さん?」
安倍のクラスメートのクラス委員の子が教室のドア付近にいた
矢口に話し掛けた。
生徒会を手伝ってくれたり前、一度補習が一緒になったことがあるので
少しだけその子とは面識があった。
「安倍さん、来てる?」
「安倍さんなら確か遅刻して来たよ。」
「!今どこにいるか分かる?」
「さぁ・・・今さっき教室出て行ったけど。」
「そっか。ありがとう!」
矢口はそう言うと教室を後にした。
143 名前:aki 投稿日:2001年09月11日(火)15時07分48秒
そして自分の教室には戻らず歩きながらどこにいったのか考えた。
(安倍さんが行くところって行ったら・・・・どこだ?)
保健室、図書館、職員室、屋上、生徒会室・・・・などなど。
いろいろ出てきたがどこもぴんと来なかった。
その中から矢口は屋上か生徒会室の二つにしぼった。
理由は二つともここからすぐだから。
しばらく考え矢口は結局生徒会室に向かうことにした。
熱を出した後治ったとしても屋上の屋外にいるとは思えなかった。
決めてすぐ矢口は生徒会室へと駆け出した。
144 名前:aki 投稿日:2001年09月11日(火)15時08分30秒
階段を登り校舎の最上階の生徒会室のドアを静かだが素早く開け放った。
「あっ・・・・・」
窓の方に顔を向けるとそこには捜し求めていた人がいた。
彼女は窓の方に体を向け窓から昨日のように真っ青で立体的な雲が
浮かんでいる外を眺めていた。
太陽の光は綺麗に空から生徒会室の部屋全体へ暖かく降り注いでいる。

とりあえず探しに来てみた生徒会室で本当にいるとは思わなかった。
「安倍さんっ!」
彼女の元に近寄りながら矢口は安倍の名前をはっきりと呼んだ。
「え?」
聞き覚えのある声にまさかと思いつつ安倍は後ろを振り向いた。
その間に矢口は安倍の元に来ていた。
145 名前:aki 投稿日:2001年09月11日(火)15時12分21秒
「遅刻してきたんだって?」
「うん。朝だるくて起きられなかったから・・・」
「それじゃ熱下がったんだ?」
「うん、もう大丈夫。」
「そっか、良かった。ずっといつ来るのか気になっちゃって。」
「ごめんね。」
「ううん、いいのいいの。」
そんな会話をしていた時安倍はティッシュを取り出し小さくくしゃみをした。
「・・・そういえばなんで生徒会室に来てたの?」
「熱が下がったのは良いんだけど・・・堰とくしゃみが出ちゃって、
教室にいたら他の人に移っちゃうと思って。」
「そっか。マスクは?」
頷きながら矢口が聞いた。
「持ってきてない・・・持ってたとしても付けたくないし。」
「確かに・・・・。」
その時また安倍はくしゃみをした。
その次は鼻水を中ですすったり堰が出たり見ていてもなんだかすごく
大変そうだった。
146 名前:aki 投稿日:2001年09月11日(火)15時18分05秒
「一日ぐらい休んじゃえば良かったのに。」
「・・・・・・・」
その矢口の言葉に安倍は少し黙り込んだ。
「またぶり返してきちゃうよ?」
「だって・・・・約束したじゃん。昨日・・・。」
小さく拗ねたように安倍はそう呟いた。
「あっ・・・・・」
その言葉ですぐになんだか矢口は気付いた。
「まさか、そのために来たの?」
「そういうわけじゃないけどっ!」
「そっか、ごめんごめん。それなのに聞いちゃって。」
「だからそれだけじゃないって言ってるじゃん〜・・・」
言いながらまた安倍はくしゃみした。
そんな安倍の横顔を矢口はそっと見つめた。
そしてすぐに窓の方に体を向け、窓の向こうの外を見ながら言った。
147 名前:aki 投稿日:2001年09月11日(火)15時19分05秒
「・・・・初めて見た時、初めてここで放課後話した時、今あなたと
こうなってるなんて思っても見なかった。」
「・・・・・私も。」
「だからすごく嬉しい。今こうしている事が。」
「・・・・なんでそういう恥ずかしい事平気で言うかな・・・。」
「やっぱくさかった?」
矢口は安倍に向き直るとそう言いながら軽く笑った。
「でもね、本当だよ。嘘じゃない。」
「・・・うん。」
少し照れているのか安倍は視線を横にはずしそれだけ答えた。
「こうしてるだけでも嬉しい。でもね・・・・やっぱりこの前屋上で質問
したことまだ気になる。」
その言葉に安倍は少しだけびくっと反応した。
その安倍の様子に矢口はちゃんと気付いた。
148 名前:aki 投稿日:2001年09月11日(火)15時20分46秒
「昨日、帰り道はっきり自分の気持ちに気付く事ができた。
ただの、興味本位なんかじゃないの。その・・・・」
「・・・言ったら今のこの時間がもうなくなっちゃうんじゃない?
過去のことになっちゃうんよ・・・。」
「そんなことないっ・・・!」
「あなたが知ったとき今のこの時間はもうなくなる・・・。そしてこれからも
こなくなっちゃうよ。」
「そんなことない!!」
今さっきとは違く今度は力強く矢口は安倍の目を見て言った。
「なんでそんなこと言えるの?」
「言えるの。この前は不安になって言えなかった・・・。でも今なら言えるの
絶対って言う事ができる。」
「どうして?」
静かに言う安倍の目、言葉に矢口は少し黙った。
「そ、れは・・・・」
「なんで?絶対なことなんてそんなにないよ。どうして未来の自分にそんなに
自信持てるの?」
149 名前:aki 投稿日:2001年09月11日(火)15時22分33秒
「それは・・・・・」
自分のすぐのど元に来ていて出かかっている言葉。
だけど言葉を発する勇気がない。
「と、とにかく絶対約束できるっ!例えどんなことだろうと絶対に
安倍さんを見る目が変わったりなんかしないの!この時間が消えることなんてない。
なにも変わる事なんてない。」
「もう止めて!!」
静かだった安倍が突然そう叫んだ。
「これ以上信じさせないで・・・。私はそんな自信ないの・・・。怖いの・・・
絶対なんて言葉信じる事できない。だってもし・・・」
安倍は少し潤目になりながら言ったが全て言い終わる前に矢口が言葉を止めた。
150 名前:aki 投稿日:2001年09月11日(火)15時23分43秒
「っ!」
その時矢口は安倍の両腕を前から掴み安倍にキスをした。
「・・・・・・。」
そのまましばらく唇をあわした。
そして静かにゆっくりと矢口は触れる唇を離した。
「・・・好きなのっ。昨日、帰り道この事にはっきり気付く事ができたの。安倍さんのこと、好きになっちゃったの。」
「・・・・・・。」
安倍は驚きやいろんな感情が心の中を駆け巡り何も言葉を発することができず
黙って指で今矢口の触れた唇にそっと触れた。
「だから、もしものことなんてないって言える。好きだから好きな人の事
気になるの、知らない事知りたくなるの。分からない事があるなんて嫌なの。」
少し頬を紅く染め矢口はやけっぱりに近いぐらいの口調でそう叫んだ。
151 名前:aki 投稿日:2001年09月11日(火)15時26分26秒
「だから絶対って約束できるっ!」
そこまで言った時微かに矢口は息を切らしていた。
せきをきったように矢口は自分の心の中の気持ちを全部目の前のその
気持ちの相手ににぶつけてしまった。
その事に今更気付き矢口はぼっと完全に顔を紅くさせた。
(う、うわっ・・・勢いでやったこととはいえキスまでして・・・
全部言っちゃった・・・・な、なんてことを・・・)
熱を持ち熱くなった頬を矢口は両手で冷やした。
当の本人、安倍はというと矢口からは俯かれていて様子が分からなかった。
(なんか自分のしたこととはいえ勢いでコクっちゃった・・・・。
返事聞く準備なんてできてないよ〜・・・)
そんなことを頭の中でぐるぐる思い巡らせていた矢口だったが
安倍から足元へ静かにゆっくり落ちていくものに気付く。
152 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月11日(火)19時17分55秒
おもしろいですね。
更新もすごく早くて毎日楽しみです!
153 名前:aki 投稿日:2001年09月11日(火)19時29分17秒
152:名無し読者さん
>レス有難うございますっ!
 これからも頑張りますよーっ。
154 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時11分23秒
「本当に?信じていいの?」
「もちろんっ・・・ってあ、安倍さんっ!?」
安倍が顔を起こしてそう言った目からは涙がこぼれていた。
涙目に上目遣いで言われとっさに矢口はどきっとときめいていたりなんかしていた。
「嘘じゃない?信じちゃう、よ・・・?」
「嘘なんかじゃない!絶対に約束できる。私のことだけは信じていいから・・・・
信じても大丈夫だから・・・・」
言いながら矢口は安倍を抱きしめた。
優しく、そして強く。
「うん・・・・・。」
そして安倍はゆっくりと話し出した。
どうして他人に対して自分を偽って偽者を作るようになったのか。
155 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時13分15秒
「私さ、中学の時幼馴染で親友の友達が2人いたんだよね。」
安倍は涙を拭い静かに話し出した。
「一人は男の子だったけど性別関係なく昔からずっと一緒ですっごく
仲良くて、大好きだった・・・」
「中学を有名な私立の学校に受験したのも、その2人と約束したから。
中学も高校も同じところに行ってずっと一緒に居ようって。」
「だから頑張れた。勉強なんて好きでもなかったけど時には励ましあって
一生懸命勉強した。」
「・・・・・。」
矢口は黙って真剣に安倍の言葉に耳を傾けていた。
「めでたく三人は同じ有名な私立の高校に入る事ができた。すごく嬉しかった。
入学してからも変わらず仲が良くて本当に楽しかった・・・・。」
安倍はそこまで話すと少しだけ間を置いてからまた話し出した。
「でもね、それも中学のある日までだったの。」
「ある日?」
安倍は静かに頷き話を続けた。
156 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時14分14秒
「その日、私たちは三人で遠くへ遊びに行ったの。」
「自然がいっぱいのところで川で遊んだりしてた。」
「でもしばらくして上に展望台のある山に登ろうってことになったの。
その日は最初は今日みたいな空も雲も綺麗でいい天候だったけど山に登り
始めてから不幸にも変わりやすい天候は一変した・・・。」
安倍は淡々と話していたが頭の中では話すごとにその光景がおぼろげに
思い出されてきていた。
「展望台まではなんとか着いたんだけど帰りはもう霧が立ちこんでて最悪だった。」
「しかも霧が発生し始めたのが降りてる途中、道もどこかで間違えたようで
後にも戻れない。」
「気付いた時には私の周りには2人はいなかった。」
「・・・・・。」
「怖かった、どこに行ったのか分からなくなって・・・・だから
必死になって探したの。そして2人の姿が見つかった時駆け寄ろうとした時
2人の会話、聞いちゃったんだよね。」
157 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時25分14秒


「なつみと離れちゃったじゃんっ!戻らなきゃ!」
霧の立ちこむ山の中で女の子が一人そう言い降り途中の山を上り始めた。
「待てよ!」
その女の子の手を同い年の男の子が掴んだ。
「もう戻れねえよ!霧がこんなに濃いし・・・」
「だからって見捨てろっての!?」
「俺達も助かるか分からないんだぞ!?」
「でも!あたしたちは昔からずっと一緒だったじゃん!」
「・・・・・俺は、本当は・・・。」
女の子が掴まれる手を離し山に叫びながら駆け出そうとした。
「なつっ・・・・」
叫ぼうとした瞬間、女の子の体を男の子が後ろから抱きしめた。
「俺は、ずっとおまえの事が好きだった!」
「こんなときに何言って・・・」
男は彼女を正面に向かせ言った。
「俺だってこんな状況の中で告白なんかしたくなかったよ!でも
俺はずっと三人でいるのがつらかったっ!ずっと俺達三人、幼馴染じゃなっかったらって思ってた。」
「・・・・・。」
冗談ではない真剣そのものの言葉に彼女は黙ってしまう。
158 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時26分41秒
「お前は俺の事、どう思ってるんだ?」
「あたし・・・は・・・。」
「今、答えてくれ。」
「あたしも・・・ずっと好きだった。でも・・・・。」
「本当か?」
「嘘じゃない・・けど・・・・。」
彼女が言い終わらないうちに男が彼女を再び前から抱きしめた。
そんなことをしている間にもだんだん霧は今まで以上に濃くなっていく。
「!霧がすごい・・・。早く行くぞっ!」
「だってなつみがまだ!!」
「今の俺達じゃどうすることもできねぇよっ!」
「ダメだよっ!見捨てる事なんてできない!」
「俺はそうだけど、お前に一番助かって欲しいんだよっ!」
男は彼女の手を強く掴み引っ張り2人は山を下っていった。

「そう、だったんだ・・・・・・。」
すぐそこで見ていた自分は2人の会話に呆然しそれだけしか言う事ができなかった。



159 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時29分20秒
「それからのことはあまり覚えてないの。気がついたら病院のベッド
の中にいて・・・・。」
「あとで聞いたんだけど通りかかった人が道路の横に私が倒れてるのに
気付いて病院まで連れて行ってくれたらしいんだけど・・・・。」
「いろんなことが一度に起こりすぎて訳分からなくなってきちゃって
ぼーっとしながら病院で気がついてから二、三日経った時突然2人が
病室に姿を現した。」
「・・・・・・・。」
「その時2人が何を言ってたのかもあまり覚えてない・・・・いろいろ
言われたけどその言葉を素直にとる事なんてできなかった・・・・・。
2人は謝ってた、私も表面だけでいい人ぶって適当なこと言って許してた・・・
と思う。」
そこまで話した時安倍の目からは涙はこぼれていなかった。
遠い昔の事を話すように窓から空を見つめながらただ冷静に話していた。
160 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時30分20秒
「それからかな、表面上で誰からも好かれるようなただの「いい人」を作って
本当の自分を周りのいろんなことから護るために心の奥底に閉じ込め始めたのは。」
「そんないろいろなことがあって私はその中学を辞めた。そして大学付属って
ことで親も納得させてここの学校に逃げてきたってわけ。」
「そう、だったんだ・・・。」
「これがあなたの知りたがってた疑問の答え。やっとこれで満足?」
「満足だなんて・・・・」
「絶対見る目が変わらないって言ってたけど、どう?同情心とか出て来た?」
「!同情心なんて出てくるわけない!そりゃ、いざ本当の事を聞いたら
・・・・びっくりしたけど・・・。」
「ありがとう。」
安倍は軽く笑ってそう矢口に言った。
「え?」
「中澤先生にも実はこんなに細かくは話さなかったんだよ。でもすっきりした。
不安だったけど言ってみたらなんか少し楽になった。あなたがどう取っていたと
してもね。」
「だから私は別に・・・・」
161 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時36分23秒
「これで全部だけど全てを知った今でもまだ言える?今さっきの言葉。」
「言えるに決まってるじゃん・・・。」
間髪を居れず矢口ははっきりとそう言った。
「大事な部分は何も変わってないよ。でもたぶん、何かが今までよりもいい意味で
変わったしこれから変わっていくと思うっ!」
「本当に?」
「信じて!」
「分かった。」
笑いながら安倍は矢口に答えた。
その後安倍は黙りいつものようにただ真っ直ぐ外を見た。
何か考え事でもしているのかもしれないと矢口は思い話し掛けず矢口
もただ黙って同じ方向を窓から見ていた。
(あれ?ちょっと待って。そういえば・・・・)
ふとある事に気付いた矢口は黙っていたがしばらくして気まずそうに口を開いた。
162 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時38分00秒
「ところでさ・・・。」
「何?」
「・・・・・その・・・今さっきのに対しての返事は・・・?」
おそるおそるといった感じで矢口が安倍の顔を覗きながら聞いた。
「っ・・・!」
その時覗いてきた矢口の頬にちょんっと安倍は軽くキスをした。
「あっ・・・・・。」
矢口は顔を紅くし触れた頬を手で押さえた。
「聞かなきゃ分かんないの?」
矢口の様子に楽しそうに笑いながら安倍はそう答えた。
「ってことは!?」
「・・・好きだよ。決まってるじゃん。」
安倍の言葉を最後に2人は2人以外誰もいない昼休みの生徒会室で
唇を合わした。
それは気持ちが通い二人の想いが通じ合って始めてのキスだった。
それ以上今の2人には言葉はいらなかった。


 〜end〜
163 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時38分59秒
「・・ぐち・・・」
「・・・・・・。」
「矢口ぃー・・・!」
「え?・・・・・ってあれ?」
自分の名前を叫ぶ声に矢口は我に帰った。
ずっと思い出の記憶の糸を手繰り寄せていた矢口にはずっと声が
届いていなかったらしい。
矢口はそこまでこと細かく鮮明に思い出していた。
はっと思い出し矢口は目の前の校庭を向き直り見てみたがそこには
後藤の姿も含め誰も居ず、静かな少し寂しさを感じる校庭だった。
「矢口ぃー!!こっちだってばー!」
いつもの声に矢口は窓から顔を外し後ろに振り向いた。
「あっ・・・・・」
するとすぐそこに安倍と松浦の姿があった。
「さすが安倍先輩ですね。」
松浦は感心したように目の前の矢口を見ながら頷きながらそう言った。
164 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時41分17秒
そんな2人のやり取りをしばしぼーっと見ていた矢口だがしばらくして
口を開いた。
「私、何してた?」
「何してたって、矢口ずっとぼーーっと校庭見つめてたの。呼んでも何も応答なしで動かないから立ったまま寝てるのかと思ったけど本当に?」
「寝てはいないと思うけど近いものはあると思う・・・・。」
「何それ。」
「後藤先輩の姿がなくなっても先輩動かないから私もずっと先輩の事呼んで
たんですけど今ちょうど安倍先輩が来て頼んだんですよ。」
165 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時44分04秒
「そっか・・・。」
安倍と松浦の言葉に矢口はそう言いただ頷いた。
「「「・・・・・・。」」」
その後、矢口の言葉を最後に誰も話さず少しの間だけ三人の間に沈黙が流れる。
「・・・なっち。」
しかしその沈黙もすぐに矢口の言葉で消えた。
「ん?」
突然の矢口の呼びかけに安倍は首を傾げる。
「ちょっと・・・。」
矢口は手でこっちに来るように合図する。
「何?一体。」
「?」
矢口の少し違う様子に松浦も首を傾げる。
安倍は手に導かれ側に近づいていった。
ギュッ。
矢口が前からいきなり安倍に抱きついた。
「な、何!?」
「!???」
横にいる松浦の頭の上には安倍と同じくクエスチョンマークが飛び交う。
「矢口!?」
166 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時45分06秒
安倍に構わず矢口は強く抱きしめていた。
安倍の存在を確かめるように。

出会えてよかった。
今、本当にそう想う。
今更のように強く想う。
あなたと出会えられてあなたを好きになれて良かった。
今、こうしていられるのが本当に嬉しくてしょうがない。

鮮明に安倍と出会った頃の事を思い出したせいか今、普通にこうしていること、
いつものいつもと変わらないこの時間、今が矢口にはとても愛しく思えた。
167 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時46分16秒
この頃あなたといるのが普通の事に、当たり前の事になっていた。
それだけ一緒にいるということだけどその時間がどんなに自分の中
で大切で大事なものなのかと今更のように気付く。
隣を見ればいつもあなたがいる。
それは小さいことのようだがとても大きく自分の心の中を広く占め
暖かくしている。
いつものことのように慣れていたせいか今の矢口にはいつもの安倍の存在が
とても愛しく、かけがいのないものに感じる。

すっかり「?」の安倍に矢口は小さな声で囁いた。 
「これからもずっとこうしてようね・・・。」

他愛ないこの「今」という時間をこれからもずっと
あなたと過ごしていきた 


          〜real end〜
168 名前:aki 投稿日:2001年09月12日(水)18時53分23秒
めぐる気持ち another story 終わりました〜。
今日で終わらせようと思って書きました。
実はずっと安倍の過去の話を煽ってた割にはどうしようか
迷ってたんです。
迷いながら書いていってそのとき思いついたのがこういう形になりました。
煽ってた割には拍子抜けって思われる方がいるかもです。
読んでいただいている皆様に少しでも多くおもしろいと感じていただけていたら
幸いです。
ご愛読ありがとうございました。
169 名前:LVR 投稿日:2001年09月13日(木)02時47分39秒
お疲れ様でした。やぐなちよかったです。
きっかけの事件をどうするのかと思いましたが、あれなら転校した理由も納得できます。
幼馴染の女の子は、メチャメチャいい人でしたが。
次回作期待しています。
170 名前:aki 投稿日:2001年09月13日(木)13時18分36秒
169:LVRさん
>レス有難うございます。
 良かったですかそう言ってもらえると安心です。
 過去の事はあまりとげとげした風にはしたくなかったんで
 2人をあんな感じにしてみました。
 ご愛読ありがとうございました。 
171 名前:Endless Story 投稿日:2001年09月14日(金)12時32分34秒
終わる事のない物語
あなたといることで書かれていくこの世に一つしかない物。

This is the endless story.

なんでもないようなこんな時間が一番意味があり、かけがえのないもの―――――
172 名前:endless story 投稿日:2001年09月14日(金)13時40分53秒
あれからしばらく経ち文化祭も終わった最初の休日。

今日、石川は後藤の家に遊びに来ていた。
「明日、うちに来ない?」
そんな昨日の後藤のふとした言葉から今に至る。
想いが通い合ってから今日まで約一ヶ月ほど。
石川は後藤の家に来るのは初めてだった。
なんでもない風に後藤がさらっと言ってしまうので石川も
その時はすぐに頷いたが今、実際に来てみると緊張する。
しかしその緊張はただ始めてうちに来るからというだけでなかった。
誘われた後石川はうれしくてその日廊下ですれ違った中澤と保田と矢口と安倍に
話したのだ。

173 名前:endless story 投稿日:2001年09月14日(金)13時41分52秒
「聞いてくださ〜いっ!」
姿を見つけたと同時に石川が自分達の方に駆け寄ってくるので少なからず
びっくりする四人。
「どうしたん?何かあったんか?」
「聞いてくださいよ〜。私誘われちゃったんですよ。家に。」
「誰の?」
肝心の主語がないので矢口が聞く。
「真希ちゃんに。」
「あらま、後藤が人から真希ちゃんなんて呼ばれてるんの初めて聞いたわ。」
「それがどうしたの?」
保田が首を傾げて聞く。
「初めてなんですよ〜。」
「そうなんだぁ、良かったじゃん。」
保田は喜ぶ石川に素直にそう声をかけた。
「「「・・・・・・。」」」
しかし保田を除く三人は意味深な表情で黙ってしまっている。
「どうかしたんですか?」
そんな三人に石川が傾げながら尋ねた。
174 名前:endless story 投稿日:2001年09月14日(金)13時43分08秒
「もう2人が付き合い始めて三週間ぐらいだよね?」
安倍が石川に聞く。
「はい。」
「ふ〜ん・・・・。」
それだけ尋ね安倍は黙ってしまった。
「初めて家に行くんだ?」
今度は矢口。
「はい。」
「そっかぁ・・・。」
矢口もまたそれだけで黙ってしまった。
「どうかしたんですか?」
「「・・・・・・・。」」
様子のおかしい矢口と安倍に石川は保田を顔を見合わせそう聞くが返事は返ってこない。
「あんたさ、付き合ってそのくらいで家に呼ばれたっていうとそら・・・・」
「!」
そこまで言いかけた中澤の口を矢口がとっさに手で塞いだ。
175 名前:endless story 投稿日:2001年09月14日(金)13時43分57秒
「ま、まあ何はともあれ良かったじゃん。」
「そうそう、一概にあるとも思えないし。」
「なっちっ!」
「あ・・・・。」
思わずこぼしてしまった言葉に安倍は矢口に言われ今気付く。
「何が一概なんですか?」
「・・・・だからあんたたち一応恋人でしかも土日で休みだったら
なんか思わんかー?」
「・・・・・・!」
矢口の手から抜け中澤が言った。
最初はなんのことか分からなかったがすぐに石川はなんのことか
察ししばらくたってから頬をぼっと紅く染めた。
「あーあ、言っちゃった・・・・。」
「ええやんか!別に言うてもっ。」
矢口がため息をもらすように言う。
「可愛いねぇ。」
安倍がにこにこしながら石川の様子にそう言葉を漏らす。
176 名前:endless story 投稿日:2001年09月14日(金)13時44分55秒
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。ま、まさかそんなこと真希ちゃんに
限って・・・・」
「何がどうしたのー?」
一人保田は話の内容がつかめず頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
「ないとも言えへんで。あーでもええやんかぁ。後藤まじで綺麗やし
かっこいいし。」
「なんじゃそりゃ。」
矢口が中澤にそう言う。
「初々しい・・・私たちの時なんてさー」
「な、なっちぃ!!!」
続けて言う安倍の言葉にまた矢口が赤くなりながら止めた。
「・・・・・・。」
石川は頭の中でいろんな考えをめぐらせそのまま黙ってしまった。
「ま、まぁ良かったじゃん。誘われて。」
矢口はそう言いながら両手に頬を当てながら悶々とする石川の背中を押した。
「そ、そうですよね・・・・。」
とりあえず石川はそう答えその場は四人と別れた。
177 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月14日(金)16時49分57秒
続きが始まってたなんて。いしごまの続きですか?
すんごい楽しみです。
やぐなちむっちゃ面白かったですよ。強い二人の絆が見れてうれしかったです。
178 名前:aki 投稿日:2001年09月14日(金)18時26分44秒
177:名無し読者さん
>レスありがとうございます〜(T_T)
 この頃ちょっと書いてて寂しかったもので嬉しいです。
 これはやぐなちを書き始めた頃考えたもので終わったらやろうと
 思っていた外伝というかおまけみたいなものです。
 話の趣旨は題名のような感じです。
179 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月14日(金)19時28分58秒
お〜前の話の外伝ですか〜。
どんな話になるのか楽しみです。
ラブラブなのかな?
180 名前:aki 投稿日:2001年09月14日(金)19時40分52秒
179:名無し読者さん
>レスありがとうございます〜(T_T)
 ラブラブに・・・なりそうですね。
 頑張りますっ!
181 名前:読んでます 投稿日:2001年09月14日(金)19時41分54秒
いしごま、凄く好きでした。
なんか、情景がぱーっと浮かぶ感じで。
続きかなり嬉しいです。
182 名前:ごめんなさい 投稿日:2001年09月14日(金)19時46分26秒
ageてしまいました。
183 名前:aki 投稿日:2001年09月14日(金)19時47分51秒
181さん
>レスありがとうございますっ!
 私もいしごまかなり好きです。 
 頑張りますよー。
184 名前:aki 投稿日:2001年09月14日(金)19時48分53秒
182さん
>いえいえ(^^;)
 この頃ただsageにしてただけなのであまり上げ下げは
 気にしないで大丈夫ですよ。
185 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)13時56分17秒
そして今日、初めて家に行くため後藤の家から最寄の駅で待ち合わせした。
後藤が来るまでずっと昨日の四人の言葉が石川からは離れなかった。
(初めてなわけじゃないけど経験なんて一回だけだし・・・・それより後藤さんと
は初めてだからつまり初めてってことと同じだよー・・・・)
石川の中では気付かないうちに後藤の呼び方が「後藤さん」に戻っていた。
「・・・・・・・。」
少しだけシュミレーションしてみた。
「うわわわわっ。」
頭の上に思い描いた空想を石川は両手でかき消すように拭った。
「ど、どちらにしても私は真希ちゃんなら・・・・」
「梨華ちゃ〜〜んっ!」
そこまで言いかけたとき自分を呼ぶ声に振り向いた。
するとそこには後藤が手を振りながらこっちに向かってきていた。
186 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)13時57分15秒
「ごめん。待ったぁ?」
「全然っ。」
首を左右に振り石川は必死にそう答えた。
「?どうかしたの?」
「だ、大丈夫。なんでもないの。」
「顔紅いよー?風邪でも引いた?」
何も知らない後藤が石川の顔を覗きながら心配そうに言った。
「!へ、平気だから・・・・」
すぐそこに後藤の顔が来ていた。
(わっ・・・・)
さらさらの髪、整った顔。
やっとこの頃見慣れてきたはずなのに今は最初の頃のようにどきどきする。
石川は視線を外しそれだけしか言えなかった。
「ならいいけど・・・・それじゃ行こうか。」
後藤は石川の手を取り歩き出した。
「う、うん。」
石川は後藤に手を引かれ歩きながら答えた。
187 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)13時57分47秒
そして案内されるまま来て見ると大きな家だった。
石川の心のうちなど知る由もなく後藤はさっさと部屋まで案内する。
家もでかいが部屋も大きい。
ソファなんかあったりして言われるままそこに座る。
家に来てから部屋に来るまで石川には気になることがあった。
それは家全体がとても静かだった。
というより人のいる気配がしない。
「今日って家の人いるの?」
後藤がお盆に飲み物をのせて部屋に戻ってくるなり石川はそう聞いた。
返ってきた答えはというと・・・
「ううん。弟とお母さんはおばあちゃんのところ行って明日遅く帰ってくるし
お父さんは仕事で出張中。」
「!!」
またもさらっと言いのける後藤だがその言葉に石川は思いっきりびっくりする。
「静かでいいでしょ?」
「そ、そうだね。」
軽く笑いながら言う後藤に石川はそれだけしか答えられなかった。
この後藤の微笑みはさわやかでいつもと一緒で隠し事なんてしてるよ
うにも思えない。
そして作っているようにも思えない。
188 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)13時58分45秒
全部書き終わったんで全部今日載せちゃいます。
189 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)13時59分17秒
(でも・・・家の人全員土日出払ってるなんて偶然?それともだから誘ったの・・・?)
そこまで考えてまた頬がぼっと紅くなるのを石川は感じた。
「だから家に2人だけなんだよね。」
後藤がお盆からグラスを机の上に置いた。
「そ、そっか。」
「いつもはすっごいうるさいんだよ。今は静まり返ってるけど。」
「そうなんだ。」
「・・・・・どうかした?」
「え?」
後藤が石川の方を見て言った。
突然の言葉に石川はうまく言葉を返せなかった。
「だってさ、さっきから梨華ちゃん様子変だし・・・・。なんかあった?」
「・・・・・・。」
なんかあったと言えばちょっとしたことを吹き込まれたけど・・・。
「それともつまんない?」
「違うの!その・・・・」
後藤のその言葉だけは石川は必死に否定した。
でもそのあとが続かない。
190 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時00分00秒
「えーと・・・・」
「?」
「その・・・そう、真希ちゃんの家来るの初めてだから緊張しちゃって。」
これも石川にとってまんざら嘘でもない。
「あはっ、そうなんだ?全然緊張しないでいいよー。自分の家だと思って
くつろいじゃって。」
「・・・うんっ。」
今の後藤の表情に石川は少しだけ見とれてしまった。
ついこの間までは見たことのなかった笑顔、後藤がこんな表情で心の中で
何か思っているとは思えなかった。
石川の心の中のうやむやは一瞬で拭われかき消された。
「真希ちゃん。」
「ん?」
テレビを付けお菓子をほお張りながら後藤は石川に振り向いた。
「実はね・・・」
石川は今までの様子の変だった理由を話し出した。
目の前の彼女に隠し事はしたくなかったから。
191 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時00分43秒
「ってことが昨日あったの。」
「・・・先生も先輩も憶測で言いたい放題言って・・・どうしょもないね。」
打ち明けたはいいが全て話したとき石川はすっかり紅くなってしまい
手でぱたぱたと風をつくり冷ましていた。
そして後藤も話を聞き終わった後少しだけ頬を微かに紅くなっていたりしていた。
石川から聞かされるまでそんなこと考えもしなかった。
ただ遊ぶって事と偶然に家に2人以外誰もいない。
それをそういう風に取ろうと思えば取れることも納得できるし
今までそう取られているのかと思うと後藤も少しだけ恥ずかしかった。
「「・・・・・・・・。」」
しばらく2人の間に沈黙が流れる。
192 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時01分28秒
「あのさ、今日私はさ、その別にそういうわけじゃなくてね。」
「うん、分かってる。」
「なら、いいんだけど・・・・」
「「・・・・・・・・。」」
また沈黙が流れてしまう。
「あっ。」
「何?」
石川が突然口を開いた。
「その・・・私はあの別に嫌とかじゃなくてね、ただちょっとどきどきしてた
ってだけで真希ちゃんなら私は・・・・・」
そこまで言って石川は言葉を止めた。
それと同時に今度は後藤がぼっと紅くなった。
石川と出会う前までの後藤からは察する事もできない後藤の様子。
「う、うん。分かってる。大丈夫・・・だから・・・・。」
「うん・・・・。」
「私・・・・そういうこと全然考えてなかった・・・・。あっでも別に
その考えなかったってだけでその意識してないとかそういうんじゃなくて
やっぱり考える事もあるけどってあ・・・・・。」
「・・・・・・・。」
別に言わなくていいことまで言ってしまいそこまで言ってやっと後藤は
気が付き言葉を止めた。
石川はもう紅くなって俯き何も言えなくなってしまっている。
193 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時02分06秒
「あー!もう止めっ!こういう話!!」
「う、うん。」
「元はといえば先生と先輩達が悪いっ!先生達が余計なこと言わなきゃ良かったって
だけでそれでいいとしよ?」
「うんっ。」
後藤の言葉以後2人はその話をやめいつも通りにいろんなことを話したり
してすっかり部屋の雰囲気は元のいつものものに戻った。
テレビを見たり他愛無い会話をしたり・・・・。
時間はあっという間に過ぎていく。
一緒にいて、同じ時間を共有して、それだけで2人の心は満たされていた。
ただ側にいるだけで満たされる。
いつものどうでもいい時間さえもあなたといるだけで全く変わったものになる、
かけがえのないものになる。
そんな小説やドラマの台詞みたいなことを2人は共に今しっかりと
感じ取っていた。
194 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時02分39秒
時間はあっという間に過ぎもう夕方になっていた。
空は紅く染まっているが薄く雲が漂い雨がぽつぽつと降り始めてきた。
「あ、雨だー。」
「本当だ。」
「傘持ってきた?」
「持って来てない・・・。」
石川は首を左右に振りそう落ち気味で答えた。
「でもなんか通り雨って言うかにわか雨って言うかすぐに止んじゃうよ。」
窓から空を仰ぎ見ながら後藤がそう石川に言った。
「うんっ。」
しかし空はだんだん雲が厚くなり雨はだんだんと強くなっていく。
地面を打つ音は家の中にもしっかりと響いてきていた。
「すごい雨・・・・。」
石川は窓側に立ち外を眺めながらそう呟いた。
195 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時03分13秒
「・・・・・・・・。」
後藤はその石川の横顔を何も言葉を発さずただ見つめていた。
「あっ・・・・!」
そんな石川を見ている中、後藤はある事に気が付いた。
「?」
後藤が何か言葉を発したので石川はなにかと振り向いた。
「梨華ちゃん、あのさ・・・・・」
「どうしたの?」
後藤が思い出したのはまだ石川とこういう風になっていないときのことの
松浦の言葉だった。
気になってはいたりしたが忘れてしまったりしていて聞けずにいた。
『あの後泣いてました。石川先輩。』
そのことを尋ねることもなく二人は両思いになり今に至る。
昔の事かもしれないがやっぱりどうなのか気になっていた。
196 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時03分48秒
「前さ、今こうなる前の時屋上でその、あったじゃん。覚えてるかな、その・・・
口喧嘩みたいなの・・・。喧嘩って言っても私が一方的だったけど・・・。」
「・・・あぁ。」
少し考え石川はしばらく経ってから思い出しそう言った。
「覚えてるよ。あれがどうかしたの?」
首を傾げて石川はただ平然と聞いた。
「あの後さ、泣いた・・・?」
「え?」
石川は身に覚えのないことを言われもう一度記憶をたどってみた。
しかしそんな記憶出てこない。
「泣いてないよ。」
「へ?」
「どうして?」
「いや、いいのいいの。こっちの話・・・。」
石川の言葉に後藤は良く分からない返事をした後首を捻り考えた。
(あれ?泣いてなかったのか・・・・。それならそのほうが断然いいんだけど・・・。
・・・・・もしかして私、松浦さんにしてやられた?)
ソファの上で寝転がりながら後藤は悶々と考えた。
197 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時04分36秒
「う〜ん・・・・。」
天井を見つめながら考えているとふと目の前が真っ暗になった。
「梨華ちゃん?」
その正体は石川だった。
「真希ちゃん・・・・。」
「っ!」
後藤の唇に一瞬何か柔らかいものが触れた。
姿が現れると同時に石川は後藤に目を瞑りながら軽く触れるだけのキスを
したのだ。
「ご、ごめん。」
石川はすぐに顔を外し紅くなりながら言った。
「なんで謝るの?・・変だよ・・・。」
後藤は横になっていたソファから身を起こし言いながら石川の頬に手を添えた。
「うん・・・・。」
2人はその後また距離を近づけ唇をあわした。
今度は長く深いキス。
198 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時05分12秒
後藤の舌が石川の口に入り舌に触れ絡みつく。
部屋に微かに2人のキスの音が響いた。
「んっ・・・・。」
微かに石川から言葉が漏れる。
構わず後藤は続けた。
2人は長い間貪るようにキスをし続けた。
やっと唇を離したとき二人の間には唾液の糸が引いていた。
後藤は普通だが石川の息は少なからず荒くなっている。
「初めてだよね、梨華ちゃんからキスしてくれたの。」
「うん・・・。」
石川はソファに座りなおした。
2人はまた唇をあわした。
そんな間にも外の雨は勢いを増し雷も少しだけ空から低く唸り出していた。
「・・・んっ・・・。」
唇を離し首筋に吸いそのまま後藤はソファに石川を押し倒した。
「今日さ、泊まって・・いかない?」
石川は後藤の言葉に黙って紅くなりながら頷いた。
「好きだよ・・・」
「私も・・・・」
後藤は石川の耳に軽くキスし手が洋服の下に潜り石川の胸に直に触れる・・・
触れようとしたその時、
199 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時05分47秒

ピンポーンッ!

勢い良く時を見計らったかのように家のベルが鳴った。
「「・・・・・・。」」
2人は黙ったまま一瞬動けなくなってしまった。
((何でこんな時に・・・・。))
同時に2人は同じことを考えていた。

ピンポーンッ

しょうこりもなくベルは家の中に響き渡る。
「真希ちゃん、人が・・・・・。」
「いいよ、出なくて。しばらくしたら帰るでしょ。」
後藤が気にせず行為を続けようとした時、
200 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時06分32秒
「ちょっとーーーっ!!後藤に石川ー!開けやー、いるのは分かってんやでーー!」
「「!!」」
2人は同時に反応した。
聞き覚えのあるこの関西弁のどでかい声。
「この声は・・・・」
「中澤先生!?」
後藤は石川から体を離し後藤は急いで玄関を見れる部屋の窓からそーっと
覗いた。
するとそこには中澤、矢口、安倍、保田、松浦、吉澤、加護に辻のいつもの
メンバーが集まっていた。
そして両手にはスーパーの袋らしきものを抱えて。
「なんなの一体・・・」
ピンポーン

後藤が上から見ているとは気付かず中澤がまた家のベルを鳴らした。
「みんな来てるみたい・・・・。」
「え!?」
石川は乱れた洋服を直しながら後藤の言葉に驚く。
このときの2人にはもう今さっきのムードは消え去ってしまい一切漂っていなかった。
「行こっか。」
後藤はしょうがないといった感じな笑いを浮かべ石川の手を取り玄関まで
迎えに行った。
201 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時07分48秒
「いいんですかー?いきなり来ちゃって。」
「ええのええの。」
「何を根拠にしたらそう言えるんだろう。」
外から聞こえてくるいつもの松浦の声に、答える中澤の声に不思議がる保田。
「いくらなんでも多すぎないかこの量?」
「「多くないですよー。」」
矢口の声に、同時に答える加護と辻。
「お腹空いたねー。」
「そうですねぇ。」
安倍に吉澤。

ガチャ

そんな会話を外の全員がしているなか後藤が玄関のドアを開けた。
「・・・・何やってるんですか?みんなして。」
両手にスーパーの袋を持ち少しみんな濡れている姿を見て後藤は
言った。
202 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時11分39秒
「何?ムスッとしちゃって。」
したつもりはないが無意識に後藤の態度には気持ちが現れていたらしい。
「別に・・・・」
「これからしゃぶしゃぶでもしようおもてな。」
「誘いに来たんですよー。」
中澤はスーパーの袋を顔辺りまで持ち上げながら言い、隣ではにこにこしている松浦
がいた。
「祐ちゃん家でやろうと思ってんだけど・・・」
「後藤ん家開いてるー?」
保田に矢口。
「今日は、家のみんな出払っちゃってるけど・・・・」
「なら後藤ん家でやろうや。」
「え?あ、ちょ、ちょっとー!」
後藤の言葉も空しく中澤を合図にみんなが一斉にどんどん後藤の家に入り込む。
「そういえば今日、石川来てるんやろ?」
そう中澤が言いながら靴を脱ぎ顔を上げた先には石川が軽く頭を下げている。
「ど、どうも・・・。」
石川が気まずそうに答えた。
203 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時12分14秒
「ん?なんやそのリアクション。そういえば今さっき後藤家の人みんな出払って
るってゆうて・・・・。」
「なになに!?2人以外誰もいない後藤の家で今まで何してたわけー?」
「「!!」」
冗談半分からかった風に言った矢口の言葉は2人にそのままストライク。
石川はぼっと頬を紅くさせ後藤も少なからず反応し態度に出てしまう。
「こらっ矢口、そういうこと言っちゃダメじゃん。」
「あらら?ど真ん中命中しちゃった?」
たしなめる安倍だが真っ赤になるのはともなくなりながら反論すると思っていた
矢口は予想もしなかった反応に意外そうな表情を浮かべる。
「お邪魔しちゃったってわけか・・・・。」
「そら災難やったなぁ。」
「あんたたち・・・」
矢口と中澤の様子に呆れる安倍。そして言っているが明らかにそう
思っていない様子の中澤。
「・・・・誰が邪魔したのよ・・・・。」
ぼそっと後藤はむっと怒った口調で呟く。
204 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時12分48秒
「先輩、どうかしたんですかぁ?」
「ううん、なんでもない。」
とっさににこっと笑い松浦に後藤は答えた。
「後藤も変わったな・・・。」
中澤が誰にも聞こえないぐらいの小さな笑みを浮かべ呟くとそのままさっさと
家の中をどんどん歩いていってしまった。
「よっすぃー・・・・」
石川は吉澤の姿を見つけ気まずそうに声をかけた。
「ん?どうしたの?・・・なんかつまらないこと心配してないよね?」
「・・・・・。」
「ずっとこれからも友達でしょ?」
にこっと吉澤が微笑みながら石川に言った。
「・・・うんっ!」
石川は吉澤の言葉に頷き両手の荷物を一つ持ち一緒に入っていった。
「「早く食べましょー!」」
続いて加護と辻もどたどたと家の中を走り抜けていった。
205 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時13分36秒
さっさと材料などを用意し二つの鍋を用意しダイニングの大きい机にみんな腰掛けた。
「いやー後藤の家がいろいろ揃ってて助かったわ。」
「こんなに人来たの初めてだよ。」
みんなの手にはグラスが持たれている。
「それじゃ乾杯しよかー。」
「「は〜いっ!」」
加護、辻、そしてみんなグラスを上に向けた。
「ではやっと晴れて後藤が石川をモノにしたことを祝福して、」
「先生―っ!」
「・・・・・・。」
後藤はもはやなにもリアクションしないがたまらず石川が声を上げる。
「あ、まだやったっけ?まぁええわ。」
「なんじゃそりゃ。」
みんな笑い矢口が中澤に突っ込む。
「そしてここにいる全員がめぐり会え今こうしていることに感謝し、」
中澤の言葉にみんな良い顔をして微笑んでいた。
「かんぱ〜〜いっ!!」
一斉にみんなが一緒に言いグラスを合わしそして口にした。
206 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時14分15秒

「うめ〜っ!」
飲んでいる間沈黙が流れ一番に声を発したのは辻だった。
「親父みたいだぞ、辻。」
「はやく食べましょー!」
矢口に加護、
「あ、普通いきなりそんなに肉持ってくか!?」
「私も今日は一杯食べよ。」
中澤に安倍、
「おいしいですねぇ!」
「亜弥ちゃんどっちで食べたー?」
松浦に吉澤。
今さっきまで静かだった家が途端ににぎやかなものに変わっていた。
207 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時15分27秒
後藤はそんな光景をしばらく微笑ましそうに見ていた。
そして石川とふと目が合う。
「食べよ。」
「そうだね。」
隣には大切な人がいて、その周りにはみんなが居てくれる。
どんな時でも今もそしてこれからもずっと離れない仲間。
つい最近前は持って居なかったかけがえのないもの。
「ちなみにこれ圭ちゃんとうちのおごりー!」
「・・・今月ヤバイよ。」
「「「肉、うめー!」」」
加護と辻と吉澤が揃って言う。
「奮発して良い肉買って良かったね。」
「先生方のお金だけどもね。」
「先輩達も食べましょー。」
「そや、遠慮せず食べー。」
「はい。」
「はいはい。」
石川は笑いながら、後藤もそう言いながら楽しそうに答えた。
208 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時16分05秒
外の雨はいつのまにか止み、空から雲もなくなり夕日が綺麗に地上を紅く
染めていた。
にぎやかな時間はいつまでも続いた。
そしてこれからもこんな時間が続くようにと星に願いを託す。

終わる事のない永遠の物語、
私たちの中に刻まれる、そしてこれからも書かれつづけるストーリー。
それはこの世に二つとないたった一つだけのもの。

This is the Endless Story.

かけがえのない大切な人たちよ、これからもずっと・・・・・

 
       ―See You again――
209 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)14時21分54秒
Endless Story とりあえず終わりました〜。
題名がこうなので最後は「end」にはしませんでした。
今日一気に更新したのでミスがないか心配です。
この話は途中で書いたようにこのめぐる気持ちのやぐなちの話を
書き始めた時から書こうと思っていたものでした。
外伝よりおまけに近い感じのものです。
たくさんのレスや読者さんの存在に励まされ書けた物だと思います。
次回作も少しだけ考えてあります。
これとはまた別のもうちょっとコメディ風のものを・・・。

とりあえずたくさんの読者の皆様ご愛読ありがとうございました。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
210 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月15日(土)15時20分50秒
ホントいいお話ですね(^^)
なんだか、最後の方はカンジ的にエピローグにピッタリで寂しかったのですが、
ホントよかったです。
よっすぃーまでいてね(^^)

次のお話の舞台は今までと一緒ですか?
これからも応援してますんで、頑張って下さい〜
211 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月15日(土)16時00分26秒
幸せな終わり方でよかったです。
特にごっちんが幸せそうな所がいい感じでした。
次回作も楽しみにしています。
212 名前:aki 投稿日:2001年09月15日(土)18時00分18秒
210:名無し読者さん
>レスありがとうございます(T_T)
 ちょっと寂しくなりますね。私もです^^;
 次の話はこことは全く舞台が違くなりますね。
 後藤のキャラクターも全く正反対になると思われます。(^^;)
 これからも頑張ります!ありがとうございます!

211:名無し読者さん
>レスありがとうございます。
 幸せだけどどこか寂しさが残っちゃいました。
 これからも頑張ります!ありがとうございました!
213 名前:aki 投稿日:2001年09月16日(日)17時27分03秒
終わって間もないのにさっそくですが次回作書いてみようと思います。
場所は月板になるかと思います。
これからもよろしくお願いします。

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