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潮風を抱きしめて

1 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月06日(木)01時11分21秒
短編の森板で『おまじない』を書いていたものです。
今後も続きそうなので、板を移動しました。
こちらでもどうぞよろしくお願いします。

前スレッド『おまじない』
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=wood&thp=999364408

『潮風を抱きしめて』1(前編)はそちらにあります。

このスレは石川×後藤です。一応エロです。お気をつけください。
2 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月06日(木)02時32分07秒
前スレ
>88さん レス有難うございます。
 楽しく、が一番ですね。

>106さん 感想有難うございます。
 安倍さん‥‥良い方にとっていただけてホッとしています。
3 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月10日(月)03時11分04秒
結局『潮風を抱きしめて』2(後編)を、森版のほうにアップしました。
度々、勝手して申し訳ありません。
スレ名とは別になってしまいますが、こちらでは次からいしごまを書きたい
と思っています。

『潮風を抱きしめて』2(後編)
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=wood&thp=999364408


4 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月10日(月)04時47分45秒
森板の連作とってもよかったです。
健気な石川がいい感じ!
こちらも期待してます。
5 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時16分58秒
>4さん、感想有難うございます。
 こちらでも少しずつまとめて書ければと思います。

スレ名とは別になってしまいましたが
また『おまじない』『潮風を抱きしめて』の2人のお話になります。
『Everything』という題で、思い当たる方もいらっしゃ
るかもしれませんが、某シンガーさんの歌から取らせていただきま
した。このお話も一応エロを入れるつもりでいます。御注意ください。
6 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時21分22秒
『Everything』1

すれ違う季節の中で あなたとめぐり逢えた
不思議ね 願った奇跡が こんなにも側にあるなんて


石川のマンション。
後藤と石川はいつものように愛し合った後、お互いの匂いを感じながら
幸福の中で眠りについた。
7 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時25分45秒

枕元の時計が、確実に時を刻む。
薄明るくなった外は、シトシトと雨が降る音がしていた。
いつものように石川が先に、目を覚ます。
2人で朝を迎えるのはこれで何度目だろう。

後藤の腕をほどいてベッドから起き上がろうとする。
しかし彼女はまだ深い眠りの筈なのに、石川の身体を放そうとしない。

後藤が悲しそうな顔をしているようで
石川は無下にその腕を振りほどけない。
笑っちゃう話だけど、それで遅刻しそうになったこともあったくらいで。

私はあなたの前から消えたりしないのに。
石川は優しい笑み浮かべると、後藤の乱れた髪を指でととのえてやった。
8 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時28分00秒
後藤の寝顔はどこかいつも淋しそうで。
その長い睫毛にはしっとりとした露が宿っている。

この人は起きていても フッと
そんな表情をする時がある。
石川の指が後藤の頬にやさしく触れた瞬間だった。

「市井‥‥ちゃん。」

石川は思わず自分の指をひっこめた。
‥‥‥今、何て?

聞き間違いかもしれないと思った。
今、その人の名前を聞く事になるなんて。
9 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時28分54秒
後藤の夢はそこで途切れてしまったのか、彼女はそのまま目を覚ました。

「ふ‥‥あれ?
 ごとー、今、何か言った?」
「‥‥‥ううん?」

後藤はいつにもまして、石川をきつく抱きしめた。

石川は何も訊けないまま、
後藤の彼方に見える、雨を見つめていた―。
10 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時30分12秒
ツアーの控え室。
ごちゃごちゃと人が入り交じる中で、
辻と加護が『ちょこっとLOVE』の振りを楽しそうに確認している。
ツアーではみんなが舞台で歌い踊る構成なので、他のユニットのものも
踊れるようしていなければダメなのだった。

「あいぼん、イントロからもう一度やるのれす。」
「はぁ〜、ののぉ、いっぺん休まへん?」
11 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時31分04秒
めずらしく後藤が2人の側に寄ってきた。

「ツージー、かぼちゃん。
 首をこうキュッとして“ワタシ、イイ女ヨ”って感じで踊ってごらん。
 格好よく見えるから。」
「ありがとうなのれす後藤さん。やってみるのれす。」
「アリガトございます。ゴト−さん。」
(加護はぁ〜、『かぼちゃん』や、ないんやけど〜。)
12 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時32分05秒
近くで差し入れのおかしを食べていた安倍が笑い出した。

「くっくっく、ごっちん、“イイ女”って、なんだべ?(笑)」
「市井ちゃんがそうやって教えてくれたんだよ。
 昔、ごとーが全然踊れなかった時。」
「そうだったべか。」
「後藤、ほんっとに踊れなかったよね。あの頃。」

プッチのことになると、保田が口を挟む。
タンポポの石川には入ってゆけない世界だった。
少し淋しそうに遠くから、後藤を見守る。
‥‥あくまでも平静を装って。
13 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時33分34秒
市井が娘。を辞めてから、後藤は市井の話をあまりしなくなっていた。
だから石川も市井のことをさほど気に止めたりはしていなかった。
後藤が後輩として先輩の市井を慕っていたのは一応知っていたが、それは
やはりあくまでも敬愛というカタチの愛で、自分が想像するようなもので
はないと。

初めて口づけを交わした時、後藤は言ってくれた。
自分だけをずっと『好き』だと。

しかし、今朝のことがあってからは―
言いしれぬ不安が石川の中に広がっていた。

愛する後藤の口から「市井ちゃん」という言葉が出る度に、
石川はその部屋を飛び出したい衝動にかられた。
14 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時34分14秒
そこへ、思わぬ客がやってきた。
保田がまっ先に彼女に気が付いて、声を上げた。

「サヤカ!」

照れくさそうにショートヘアの髪をくしゃくしゃとしながら
人さし指で鼻先をこすっている少女。

市井紗耶香だった。
15 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時36分16秒
「よっ!」
「よっ!ってアンタどうしたの?」
「どうしたのって、激励に来たっス。今日9人で最後なんでしょ?」
「辻加護おっきくなったんじゃない?」
「吉澤と石川は元気にやってる?」
「なっちまたおかし食べてるの?」
「まりっぺあいかわらずちっちゃいね。」
「カオリ、リーダー大変でしょ?」
「圭ちゃん、眼帯どうしたの?ものもらいなの?」
16 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時36分58秒
一通り笑顔で言葉を交わすと、市井の視線は
その場で立ち尽くしている人物にだけそそがれた。

「後藤。」
「市井‥‥ちゃん。」

後藤の目には涙があふれていた。

「やっだ、おまえ泣いてんの?
 あいかわらず、涙が止まらないんだね。こんなことぐらいで。」

そう言うと、市井は愛おしそうに後藤を抱きしめた。
17 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時37分37秒
「元気してた?」
「‥‥うん。」
「ソロ、頑張ってるみたいだね。」
「‥‥うん。」

泣いているその表情は
自分が知ってる後藤のものではなかった。
石川はいたたまれなくなって、そっとその部屋を出た。
18 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時39分37秒
廊下に出たところで石川は吉澤に声をかけられて立ち止まった。

「梨華ちゃん!」
「よっすぃー。」
「どうしたの?市井さんが来てるのに、出てくなんてちょっと失礼だよ。」
「ごめんなさい。おトイレなの。」
「‥‥そっか。」
「まだ何か?」
「ううん。でもさぁ、やっぱプッチモニにとって市井さんの存在って
 大きいんだよね。市井さんを見るなり、保田さんもごっちんも普段
 見せない表情して喜んでさ。」
「そ、それは、市井さんが辞めるまではずっと3人でやってたんだし。」

石川は動揺を悟られたくなくて、ごく当たり前な返答をした。
おおざっぱな吉澤には自分のぎこちない表情が読み取れなかったようで
すこしだけホッとした。
19 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時40分45秒
吉澤はめずらしく自分の言いたい事だけを話している。

「私さぁ、市井さんの後にプッチに入ったじゃん。無言で比べられ
 ちゃって正直ツライ時、あるんだよね。あ〜あ、いつになったら、
 よっすぃーは市井さんを越えられるのかなあ。」

普段からよほどプレッシャーに思っていることなのだろう。
まくしたてるように話すと、吉澤は最後にこうつけ加えた。

「ま、タンポポの梨華ちゃんには関係のない話だよね。
 ごめん。こんな話で引き止めちゃって。じゃ、また後でね。」
20 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時42分14秒
どこをどう歩いて自分はトイレまで行ったのだろう。
バタン。ガチャ。

『市井‥‥ちゃん?』
朝聞いた後藤さんの寝言が耳の奥にこびりついて離れない。

『やっだ、お前泣いてんの?』
市井さんを見た時の後藤さんの表情が脳裏に貼り付いて取れない。
見たくなかったのに。

『市井さんの存在って大きいんだよね。
 いつになったら、市井さんを越えられるのかなあ。』
よっすぃーのつぶやきが、胸に引っ掛かって掻きむしりたくなる。

ジャー、ゴボゴボっ。
泣き声を聞かれたくなくて、石川はトイレの水を思いきり流した。
このまま、この不安がすべて流れてくれればいいと思った。
21 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時44分43秒


ブレイクタイム
(済みません、ちょっと時間経過させたいので)


22 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時46分02秒
石川がトイレから部屋に戻ると、市井はもういなかった。
市井はメンバーと少しだけ話すと、ライブ開始前なので遠慮してすぐ
客席に戻っていったらしい。

ライブは何事もなく、いつも通りに順調に進んだ。
モーニング娘。プッチモニ。タンポポ。ミニモニ。。
カントリー娘。に石川梨華(モーニング娘。)‥‥。

「梨華ちゃん、良かったよ。」

歌い終わってステージの袖に戻ってきた石川に、後藤が声をかけた。
その声はいつもより弾んでいるように思える。
石川は曖昧な笑顔を浮かべて「ありがとう。」とだけ言った。
23 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時51分01秒
途中の寸劇が終わると、次は後藤のソロだった。
広いステージに後藤だけが立っている。
数千の人が後藤に声援を送る。

その中に、あのひとの声もあるのだ‥‥と石川は思った。

カラオケが流れ、後藤の声が会場に響いた。
『愛のバカやろう』だった。

Ah 本当の恋 わからぬまま
あなたとは あれで終わりと

孤独なんて 皆同じと教えてくれた人
バカやろう

後藤の歌う歌詞の意味をふと考えて、石川は耐え切れなくなって
耳を塞いだ。舞台の裏の、誰も見えないところで。
24 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時52分03秒
「お疲れ様でした!」
コンサートの打ち上げには、もちろん市井も顔を出していた。

おかしやジュースを片手に話に花が咲く。
後藤は市井と逢うのは久しぶりらしかった。

「後藤は成長したよね。市井が娘。にいる時は手取り足取り
 教えてあげてたのに。(笑)」
「市井ちゃん。ごとー、もぉ、子どもじゃないよ。(笑)」
「でも安心したよ。元気にやってるからさ。」
「市井ちゃんはどうなの?」
「ん?市井は元気だよ。ちょっと家でイロイロあるけどさ‥‥。」
「なに、何かあるの?サヤカ。」
25 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時53分13秒
「おっと、市井はこれで失礼しよっかな。」
「なんで〜。最後までいればいいじゃん。」
「明日バイト入ってるし。」
「じゃ、引き止めちゃ悪いね。また来てよ。サヤカ。」
「うん。じゃあね。」

後藤は市井を見送る為に一緒に出ていった。
そして、そのまま、なかなか戻ってこなかった。
26 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時54分01秒
石川はいてもたってもいられなくなって保田に話し掛けた。

「後藤さん、戻ってくるの、遅いですね。
 市井さんとどこかへ行っちゃったんでしょうか。」
「見送って、話し込んでるでしょ。だけど、どうして?」
「え、その、あの、後藤さんと一緒に帰る約束してたから。
 ほら、石川の家は後藤さんと方向が一緒ですし。」
「じゃ、今日はもう先に帰ったほうがいいよ。
 あの子達待ってたら、いつになるかわかんないよ?」

保田にとっては何気なく言った言葉だったが、石川には
とてつもなく酷に聞こえた。
27 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時55分07秒
「いろいろ、積もる話があるのかもね。
 サヤカ、家のことでちょっと悩んでるみたいだったし。」
「え?」
「新しい父親のことじゃないかな。
 お母さんが再婚するって言ってたのは聞いてたけど。
 後藤んちも、お父さんいないでしょ。ココに、同じ傷が
 あるもの同士にしかわからないことがあるってわけ。」

保田は『ココに』と、自分の胸を指さしてそう言った。
28 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時56分57秒
石川は後藤を待つのを諦めて、吉澤と辻と一緒に帰った。
シャワーを浴び、明日の着替えを出して、もう寝ようかと思っていた頃、
後藤が石川のマンションに戻ってきた。

「梨華ちゃん、ごめん。一緒に帰る約束してたのに。」
「ううん。いいの。」
「市井ちゃんと話し込んじゃって、さ。」
「そう‥‥。」
「市井ちゃんも水臭いよね。来るなら来るってメールぐらい入れといて
 くれればいいのに。ごとー、びっくりしちゃったよ。(笑)」

後藤はシャワーを浴び、石川と同じベッドに入ってきた。

(市井さんのこと、どう思ってるの?)

聞きたい事があったけれど、これ以上後藤と話したら泣いてしまいそう
だった。 石川はどうすることもできずに眠ったフリをすることにした。
29 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時58分10秒
いつもなら自分がシャワーから出てくるまでは待っていてくれるのに。
どこか元気のない石川を見て、後藤は後ろから抱きしめてきた。
石鹸のいい匂いが、シーツの中にこもる。

「梨華ちゃん、どぉしたの?」
「‥‥‥‥。」
「元気、ないよね?」
「‥‥‥‥。」

後藤は石川の耳たぶにそっとキスをした。
後藤に背を向ける石川の肩は震えていた。まぶたが熱かった。
見当違いな嫉妬なのかもしれない、
けれど今の石川にはそういう風に取る余裕は、無かった。
30 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時58分53秒

ピルリロラララ〜。
ふいに後藤のケータイが鳴った。

「‥‥もぉ、ナニ?こんな夜中に。」

後藤はしらんぷりして石川の肩に口づけする。

ケータイは鳴り止まない。

「わかったってば。」
31 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)00時59分51秒
後藤は起き上がってベッドの脇においてあるケータイを手にとった。
ディスプレイに表示されたのは、『サヤカ』だった。

「あい。どぉしたの?」
(‥‥‥‥‥。)
「泣いてちゃわかんないって!」

大きな声に、 思わず石川も振り向いた。

「それで?」
(‥‥‥‥‥‥。)
「わかった。今すぐ行くから、そこで待ってて。」
32 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)01時00分51秒
後藤は起き出すと、すぐに着替え始めた。
石川は事態が飲み込めず、小さな声で訊いた。

「後藤さん、誰?どうしたんですか?」
「市井ちゃんが‥‥。なんかパニくってて。
 ごめん、ちょっと出てくる。」
「でも、こんな夜中に危ないです!」
「心配いらないって。すぐ帰ってくるよ。(笑)」

後藤は石川を心配させないように、額にやさしくキスをした。

「合い鍵持ってるから、梨華ちゃんは寝てて。
 明日も仕事だもんね。」

そう言うと、後藤は真夜中の街へ出ていった。
33 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)01時01分39秒
(どうしたのかな‥‥市井さん。
 でも、でもこんな夜中に後藤さんを呼び出すなんて。)

石川には市井が少々常識はずれに思えた。
市井に何があったのか石川にはまったくわからなかった。

市井のことよりも、後藤がずいぶん焦って出ていったことのほうが
石川の胸を締めつけていた。

(後藤さん‥‥。)

保田の言葉が胸の内によみがえる。
『ここに、同じ傷があるもの同士にしかわからないことがあるってわけ。』
34 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)01時03分58秒
市井と後藤にどんな過去があったのか、後からモーニング娘。に入って
きた石川には知る由もない。しかし、市井がモーニング娘。を辞めた時、
後藤が立っていられない程泣き崩れていたのは見て知っている。
市井と後藤の強いつながり思うと、石川は、今になってかなわないよう
な気がしてきた。

(ひょっとしたら後藤さん自身、その気持ちに気付かなかっただけで
 本当は市井さんのことをずっと―。)

(時々淋しそうな表情をするのも、一人で眠るのを嫌がるのも、市井
 さんを失った喪失感がそうさせているんじゃ―。
 だとしたら、自分の存在は何なのだろう?)

嫌な予感がした。
自分と後藤との時間が、まるで砂の城のように市井という波にさらわれて
あっという間に消えてしまうのではないかと。石川は後藤に愛されている
という自分の自信がこんなにもぜい弱なものなのだと気が付いてガク然と
した。
35 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)01時05分04秒
数十分後、石川は心配になって後藤のケータイに電話してみた。
ケータイは無情にも「電波の繋がらないところに‥‥」とだけ繰り返した。
市井に逢ってしまったら、後藤はもう自分の元には帰ってこないような気
がする。

(‥‥‥おねがい、早く帰ってきて!)

あふれてくる涙を手で押さえて、石川は祈った。
36 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)01時07分18秒
愛しき人よ 悲しませないで

泣き疲れて 眠る夜もあるから

過去を見ないで 見つめて私だけ

You’re everything 

You’re everything

あなたが想うより強く やさしい嘘ならいらない 

欲しいのはあなた
37 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)01時08分09秒


‥‥結局、後藤は朝が来ても石川の部屋には戻ってこなかった。


つづく
38 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月11日(火)01時11分47秒
ずっとリアルタイムで読ませていただいていました。
曲の歌詞ととっても内容が合っていて歌詞が出てきたときは
なるほど頷いてしまいました(^^;)
かなりいしごま好きなので更新も早くこれで三作品目!でとても嬉しいです。
続きが気になりますっ。これからも頑張ってください。
応援してます。
39 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)09時02分00秒
>38さん、感想有難うございます。
 気合いが入ります。続きもどうぞよろしくお願いいたします。
40 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年09月12日(水)01時00分47秒
初めて読みました。
すごくおもしろくて、せつないです。
いしごま好きの自分としてはかなりツボでした。
これからも頑張って下さい、期待してます。
41 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月12日(水)08時33分31秒
>40さん、感想有難うございます。
 そう言っていただけて嬉しく思います。

これまでレスをくださった方々へ。
一つ一つ、書いていてとても『迷い』があるのですが、くださるレスを糧
になんとかここまで来たという感じがいたします。
いろいろな点で及ばない部分も多々あり、お恥ずかしい限りですが、今後
も「いしごま」が『好き』という気持ちひとつで、『楽しく』書いていき
たいと思っております。

申し訳ありませんが訂正です。
 23『あなたとはあれで終わりと』→『あなたとはあれで終わるの?』

42 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)06時52分08秒
『Everything』2

チュン。
チュン。

鳥たちが起き出した音がする。
晴れることのないどんよりとした空の朝だった。
淡い色をしたカーテンの隙間からは弱々しい光が微かに差し込んでいた。

石川は後藤の帰りを玄関のすぐそばで座り込んで待っていたが、祈りも
虚しく、とうとう朝までドアの開く音はしなかった。
繋がらなかったケータイをぼんやりと見つめる。

昨日の保田のさりげない一言が、じわじわと胸を突き刺す。
『あの子達待ってたら、いつになるかわかんないよ?』

石川はケータイを床に置くと、うつむいて膝を抱えた。

(後藤さんは市井さんと逢って‥‥とうとう帰ってこなかった。)
43 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)06時55分16秒

チャッララーララララッラッ。

床に置いたケータイが、ふいに鳴った。

(後藤さん!?)

胸がドキっとして、ディスプレイに『後藤』と入っているか確かめる。
しかしそれは後藤ではなく、実家からの電話だった。今は家族と話す
気持ちになれなくて留守電に切り替えてしまった。

「ママです。梨華ったら、ちゃんと起きてるの?
 家から遠いから一人暮らしを良いって言ってしまったけど、やっぱり
 心配だわ。ねぇ、週末は家へ帰っていらっしゃいよ。パパも平気な振
 りをしてるけど淋しがってるのよ。じゃ、お仕事がんばって。」

(お仕事‥‥そうだわ、仕事に行かなきゃ‥‥。)

今日は午前10時から『ハローモーニング』の収録がある。
石川は朝食を取る気にもなれずにフラフラと着替えると、そのまま仕事
に向かった。
44 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)06時56分47秒
某テレビ局控え室。
集合しなければいけない時間になっても、後藤だけが姿を見せずにマネ
ージャーが慌てている。

その様子を耳にしながら、石川は鏡の前でメイクをしていた。
さっきからファンデーションを同じところに何度も塗っているようだが、
考え事をしている石川は気がつかないらしい。

鏡に写る自分の姿など、見えていなかった。
市井に寄り添っている後藤の後ろ姿だけがぐるぐると思い浮かぶ。

(後藤さん‥‥‥。)
45 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)06時58分27秒
鏡に、石川の背後であ然とする吉澤の顔が写った。

「梨華ちゃん、おかしいよ。さっきから同じところにばっかりファンデ
 つけてさ。顔色も悪いみたいだし、なんか心配事でもあるの?」

石川はふと我に返った。

「よっすぃー。」

力の無い返事をする石川に、吉澤は心配そうな顔をしている。
その場にあったコットンを手に取ると、メイクがそーとー厚くなってし
まった石川の頬を拭ってあげるのだった。

「ごめんなさい。なんでも‥‥ないん‥‥。」
「本当に?ピーター、イツデモ相談ニ乗ッテアゲマス。」
「ふふ、大丈夫よ。心配しないで。」

石川は微笑をうかべた。吉澤は「ならいいけどオ。」と言って石川の肩
をポンっとたたいた。吉澤はおおざっぱな性格でわりと無頓着な方だが、
石川には同期という事もあってか、いつもなにかと気をつかってくれる
のだった。
46 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時00分13秒


「あ、ごっちん!」

ふとドアのほうを見た吉澤が、突然叫んだ。
後藤だった。一度自宅に戻ったのか昨日とは違う服を着ている。

(後藤さん!?)

「‥‥おはよ。」


石川が一晩中待っていた声は、少しかすれていた。
吉澤がうれしそうに後藤の腕を引っぱる。

「おは‥‥って、ごっちん、遅いじゃんか!
 みんな心配してたんだYO!」

後藤は少しバツが悪そうだった。

「‥‥ちょっと取り込んでて、さ。」

そう言うと、そのまま石川の隣のイスに座ってメイクを始めた。
しかし、石川と後藤の視線は合わないままだった。

あれほど待ったのに、石川は後藤の方を見ることができずに自分の化粧
ボックスをいじっていた。声を聞いただけ胸が詰まって、泣いてしまい
そうだったから。
47 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時01分33秒
後藤がやってきたというのに一言も話さない石川に、吉澤は訝しげな顔
をしている。変に勘ぐられたくなくて、後藤はでまかせを言った。

「ヨシコ、今、圭ちゃんが呼んでたよ?」
「え、マジ!?やっぱー、また何かやっちゃったかな?」

吉澤は慌てて年長組のいる隣の控え室に走っていった。
この部屋にいるのは後藤と石川だけになった。



「梨華ちゃん、ごめん。連絡も入れなくて。」
「心配‥‥‥しちゃいましたよ?」
「本当に、ごめん。」

後藤は謝ると、やっときちんと石川を見た。
石川は無理に笑みをつくってみせた。心とは裏腹に。

(市井さんとゆうべ何があったの?朝まで何を話してたの?)

48 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時07分55秒
問い詰めたりするのは、みっともないことだと思ったから、石川はひた
すら自分の思いを隠して平静を装った。

「市井さん、大丈夫でした?」
「うん。行って話したらなんとか落ち着いてくれて。」
「そう、よかったですね。でも、どうして?」
「『お父さん』とケンカしてそのまま飛び出しちゃったって、さ。」
「喧嘩‥‥。」
「ごとーもよくやるんだよね。ユウキと殴り合いしてさ、顔も見たく
 なくなって家飛び出したり。(笑)」

後藤は明るく言うと、メイクを手早く済ませた。
対照的に石川の心は重く沈んでいった。
優等生な自分にうんざりする。
本当に聞きたいことは、何一つ聞けないままだった。

(朝まで帰ってこなかったのは、先輩を助けたかったから‥‥なの?
 それとも‥‥‥。)
49 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時10分41秒

まとめ撮りの収録は夕方に終わった。今日はもうこの後の予定はない。
石川が帰り支度を終えて楽屋を出ると、後藤もすぐにその後をついて
きた。

「梨華ちゃん、帰るの?
 昨日心配させちゃったおわびに、ごとーが晩ごはんつくるよ。
 後藤真希特製春雨入り春巻き!食べたいでしょ‥‥?(笑)」

後藤が自分に気をつかって無理をしているように見えて、石川は複雑な
気持ちになった。

「でも。今日はもうお家(自宅)に帰って、眠った方がいいですよ?
 昨日、寝てないんですよね?」
「んぁ、まぁ。でも明日は午後からの仕事だし、ゆっくりできるから。
 材料、買い物して帰ろーよ。ね?」
50 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時11分42秒
後藤は春巻き春巻き♪と鼻歌を歌うと、石川の腕をひっぱって局を出た。
楽しそうな後藤の様子に、石川も『市井さんのこと』を忘れたかった。
―何もかも自分の思い過ごしにしてしまいたかった。

石川は、苦しい気持ちを知られたくなくてピンクの帽子を深くかぶった。
後藤は石川の半歩先を歩いて、空を見上げていた。

「今日も天気があんまり良くないなぁー。夜、雨が降るかもだよ。」
51 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時17分12秒
2人は帰り道で春巻きの材料を買い、石川のマンションに帰った。

「梨華ちゃん、胡麻油ってドコ?」
「えー‥‥と、冷蔵庫の右の棚だと思います。」
「フフフ〜ン♪」

後藤は石川にエプロンを借りると、キッチンでテキパキと春巻きを
作りはじめた。趣味が料理と言う程の彼女は、実は石川よりも料理
上手なのだった。

野菜を切る包丁の軽快なリズムが、料理人の鼻歌とハーモニーを奏でる。
春巻きを揚げる油の音が、演奏を更ににぎやかにする。

石川がピンク色の可愛らしいランチョンマットをテーブルに敷くと、
あっというまに揚げ立ての良い匂いがする春巻きが並べられた。

「アハッ。ごとーの自信作『後藤真希特製春巻きアーンド中華風玉子
 スープ』の出来上がり〜。ポイントは春雨。
 そ〜と〜ウマいハズだよ。さ、アツアツのうちに食べてよ。」

正直言ってあまり食欲のない石川だったが、わざわざ自分の為に作って
くれたものなので、ちゃんと食べなくてはと思った。

「美味しそうですね。いただきます。」
52 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時17分58秒


チャッララーララララッラッ。

一口食べようとしたところで石川のケータイが鳴った。
石川は後藤を見て『ごめんなさい』と唇を動かすと、ケータイに出た。

「はい。」
(‥‥‥‥‥。)

意外な電話の相手に、石川は急に横を向いて小声になった。
53 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時20分31秒
「パパ!?どうしたの?」
(‥‥‥‥‥。)
「とくに用は無いって‥‥‥。
 私、今から友達と晩ごはんを食べるところなの、用が無いなら
 もう切るね!」
(‥‥‥‥‥。)
「友達って女の子に決まってるでしょ!」
(‥‥‥‥‥。)
「パパったら、またそのお話?
 あの衣装はお仕事だから仕方がないの!」
(‥‥‥‥‥。)
「え?週末はちょっと無理なの。
 ちゃんとやってますから大丈夫だってば。
 じゃ、切りますからねっ。」

ピッ。

父との会話を人に聞かれているという気恥ずかしさもあって石川は
さっさとケータイを切ってしまった。
54 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時21分50秒
後藤はアツアツの春巻きを口でもぐもぐさせながら、そのやりとりを
聞いていた。

「おいおい、梨華ちゃん、冷たいじゃないのさ。
 せっかく親父さんがカワイイ娘に電話してきたのに。」
「だってパパってば、用もないのに電話してくるなんて。」

石川は春巻きを箸でつかみながら頬をふくらませた。

「余計なことかもしれないけど、お父さん、大事にしてあげなよ。」
「え‥‥。」
「梨華ちゃんのこと、心配してるんだよ。イロイロとさ。」
「‥‥心配だなんて、ウチはちょっと過保護なんですっ。」

55 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時26分08秒
後藤は石川から視線を落とすと、玉子のスープを『フ−フ−』と冷ま
しながら言った。

「ごとーの家、お父さん事故で亡くなってるんだけどさ。
 もぉ慣れちゃって別に淋しくなんかないけど、やっぱそぉいう会話
 とか聞いたりすると、『父親』っていいなぁって思ったりするんだ
 よね。」

「後藤さん‥‥。」

「梨華ちゃんの家は『理想のかてー』じゃん。本当に心配してくれる
 良いお父さんもいてさ。
 なのに過保護とか言ってたらバチがあたるってモンだよ。(笑)」

石川は父親への自分の態度は、後藤対しても無神経だったと悔いた。
これまでにいろんな思いを抱えてきただろう筈なのに、それをなんでも
なさそうに淡々と話す彼女を見て、石川の胸は痛んだ。


後藤は急に考えこむような表情をしたかと思うと、小さな声でつぶやいた。
56 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時27分18秒

「‥‥今日は『お父さん』と上手くやってるのかなぁ。」

おそらく今、後藤は『あのひと』のことを考えているのだろう。
石川は辛かった。 市井のことを考え込んでいる後藤が、自分からは
遠いところにいるようで。

(それはあなたの優しさなの?それとも‥‥。)
57 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時28分39秒
「後藤‥‥さん?」
「‥‥‥‥‥。」

名前を呼んだのに、後藤には聞こえなかったようだ。
石川はせつなくなって、せかすように言葉をつないだ。

「この春巻き、美味しいですね!」
「‥‥‥えっ、う、うん。春雨がいい感じでしょ?(笑)
 これ思いついた時、ごっつぁん天才かなって思っちゃ‥‥。」

しーん。
とってつけたような後藤の笑顔に、ついに石川は聞いてみることに
した。

「市井さんの、ことを、考えてるんですか?」
「う。」
「やっぱり‥‥‥。」
58 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時32分51秒
後藤は伏し目がちに唇だけを動かして、低い声で苦しそうに言った。

「ほっとけないんだよね。」

それは石川が初めて見た後藤の表情だった。
後藤は新しい父親と折り合いの付かない市井の苦しみを思っていた。
まるで彼女の苦しみが自分の苦しみであるかのように。

「そーいうの、本当のお父さんが側にいる梨華ちゃんにはわからない
 かもしれないけど。ごとーは市井ちゃんと同じで、お父さんがいな
 いから、気持ちがわかるってゆーか。
 ゆうべもいろいろ話してて‥‥。」

後藤はとくに気に留めず『梨華ちゃんにはわからない』と言った。
59 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時36分03秒
それを聞いて、石川はまるでカギの閉められたドア(後藤の心)の前
に締め出されてしまった気持ちにさせられた。
何気ない一言だったが、今の石川には一番辛い言葉だった。

(『ココに、同じ傷があるもの同士にしか
            わからないことがあるってわけ。』)

石川の心の奥で、何かが耐えきれずに軋む音がした。

「そうですね。石川にはわからないことかもしれません。
 そんなに心配なら、市井さんにずっとついていてあげればいい
 んです。ここで春巻きを作っていないで。
 ‥‥ごちそうさまでしたッ。」

自分でもビックリするくらいひがみっぽい口調だった。
60 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時38分00秒
石川はいたたまれない気持ちになり、食べ終えた食器を片付けよう
とした。

「‥‥‥今日の梨華ちゃん、ヘンだよ。
 ごとーの知ってる梨華ちゃんはそぉゆうこと言わないヒトだもん。」

後藤の言葉には落胆と疑問がまじっていた。
石川は自分の言ったことが恥ずかしくて、うつむいてしまった。



「まさか、市井ちゃんに嫉妬してんの‥‥? (笑)
 なーんてね。アハハ。」



パシッ。

後藤は思わず頬を押さえた。
61 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時39分38秒
彼女の頬を打った石川の手は震えていた。


「‥‥‥非道(ひど)いです。笑うなんて。」

切羽詰まったような石川の声。
まばたきもせず、大粒の涙がフローリングの床にポトリと落ちた。

後藤は軽率だった自分の言葉を後悔した。

「梨華ちゃん、ごめん。」
62 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時41分32秒
後藤はすぐ隣に寄り添って石川の肩を抱いた。
落ち着かせる為に髪をやさしく撫でたが、石川の涙は止まらなかった。
突然のことに後藤は途方にくれていた。

「笑ってごめん。でもなんでそんなに泣いてるの?」

頭の中をどくどくと昨日の出来事がまわる。
こらえてきたことを今吐き出さないと、どうにかなってしまいそう
だった。

「‥‥‥後藤さん‥‥は‥‥‥。
 市井さんのことを‥‥どう思ってるんですか?」

「へ?」

「本当は‥‥市井さんのことが‥‥ずっと忘れられないんじゃない
 ですか?もしかして石川が娘。に入るまで‥‥2人は‥‥。」

後藤は苦笑いをしながら、答えた。

「あのね梨華ちゃん、市井ちゃんはごとーにとって大切な人だけど
 それとこれとは‥‥‥。」
63 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時42分28秒
石川は身体をこわばらせたまま、唇を震わせている。

「でも‥‥でも石川は聞いてしまったんです。
 昨日の朝、眠ってるあなたが‥‥市井さんの名前を呼んだのを。」

「!」

後藤の腕から逃れるように後ずさりする石川。

「私は‥‥あのひとの代わりじゃ‥‥ない‥‥ですよね?」

64 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時43分43秒


強く抱きしめてくれた腕は私の為のものじゃなかったの?
優しくキスしてくれた唇は私の為のものじゃなかったの?

65 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時46分46秒


「聞きたくなか‥‥った‥‥。
 耳の中から‥‥あなたの言葉、取り出せ‥‥たらいいのに‥‥。」

石川は口元に笑みを浮かべていたが、その瞳は切るように悲しそう
だった。か細い声が弱々しく震えている。もう涙で後藤の顔もはっ
きりと見えない。

「‥‥ごめんなさいっ。」

後藤の腕をふりはらうと、石川はそのまま傘も持たずに泣きながら
マンションを出ていった。
66 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時48分28秒

部屋にはボー然とした表情の後藤だけが取り残された。
一体何が起こったのか、わけがわからない。

「なんで‥‥そんなわけ‥‥ない‥‥。」

力なくつぶやくと、その場にへたりこんでしまった。
石川の悲しそうな瞳が胸を抉るようで、視線は彼女が出ていった
玄関をふらふらと彷徨う。

「市井ちゃんの名前って、もしかして‥‥あの時?」

まったく記憶にないけれど、そう言われてみれば言ったような
気もする。
67 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時49分09秒


『ごとー、今、何か言った?』
『‥‥‥ううん?』

68 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月17日(月)07時52分36秒
(本当はあの時、何も言ってなかったんじゃなくて『市井ちゃん』
 って言ってたんだ。でもどうしてそんなことを言‥‥。)

目の前が真っ暗になるような気持ちで前髪をかきあげる。
自分でもどうしてそんなことを言ってしまったのかわからなかった。

頬の痛みは石川の痛みだと思った。
いや、そんな痛みなんかよりももっと痛かったはず―。

後藤は激しい後悔の念に襲われながら、出ていった石川の後を追い
かけた。
外は、雨が激しく降っていた。

「梨華ぁ‥‥!」

ザ−‥‥‥ザ−‥‥‥‥ザ−‥‥‥‥ザ−‥‥‥‥。

後藤は石川の名前を何度も呼んだが、その声は夜の闇と激しい雨の音
にかき消されてしまうのだった―。

つづく
69 名前:aki (38 投稿日:2001年09月17日(月)14時13分07秒
なんか石川の気持ちがびしびし伝わってきて切ないです。
「おまじない」の時からずっと読ませてもらっていて
たびたびレスさせてもらってます。
これからもがんばってください。
70 名前:瑞希 投稿日:2001年09月18日(火)01時32分26秒
私も「おまじない」の頃から読ませてもらってます。
すごく切ないですけど、「石川、頑張れ!」って思います。
続きも楽しみです、がんばってください。
71 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月19日(水)06時01分59秒
>69さん、感想有難うございます。
 度々レスをしていただいて励みになっております。
 「びしびし」‥‥そう言っていただけるとは。うれしいです。

>70さん、感想有難うございます。
 「おまじない」の頃から‥‥ありがとうございます。
 「石川、頑張れ!」‥‥ここの石川さんに伝えておきます。(汗)
 
「おまじない」「潮風」は勢いで書いたのですが、今回はいろいろ
のたくたしております。更新が遅くなるかもしれませんが、今後も
どうぞよろしくお願い致します。
72 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)08時59分03秒
『Everything』3


―Ishikawa’s side―

「‥‥ひっく‥‥うぅ‥‥。」

夜の街を彷徨う石川の頬に、激しい雨が容赦なく打ちつける。
もう涙とも雨とも区別がつかないほどに。
どれだけ走ったのだろう。
ワンピースのすそと足下のミュールは泥で汚れていた。
73 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時05分19秒
ウォンウォンウォ−ン!
ブロロロン!バリバリバリ!

すぐ近くを、何台ものバイクが物凄い音を立てて走り去ってゆく。
その凄まじい爆音が胸を轢いていくようで、息が詰まりそうになる。

もう飽和状態になっている後藤への想いが、ぐちゃぐちゃになって
弾け飛ぶ。が、飛び散った想いの欠片(かけら)達は、それでもま
たすぐに石川の胸に戻ってくる。
何度轢かれても。

痛い。
痛いよ。
涙があふれて止まらない。

74 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時07分44秒


気が付いたら駅にたどりついていた。
しかし、財布もケータイも持たずに飛び出してきたので行くところ
はなかった。実家の近くなら頼る友人もいるが、都心ではそれもい
ない。

(どうしよう‥‥。でも後藤さんのところには‥‥マンションには
 帰れない。)

通行人がずぶ濡れの少女をじろじろと見る。
石川は怖くなってその場を離れようとした。
75 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時08分35秒
ドンッ。

「痛っ‥‥。」
「ごっごめんなさい!」

振り返った途端、人にぶつかってしまった。
頭を下げてあやまる。すると意外な声がした。

「‥‥‥もしかして、石川?石川なの?」

石川は自分の名前を呼ばれてびっくりした。
聞き覚えのある声。でも‥‥‥。

「人違いです。」
「人違いって、その鼻にかかった甘い声は石川でしょ。」
「‥‥‥。」

ぶつかった女の子が、うつむく石川の顔を上げさせた。
石川は‥‥‥市井紗耶香と目が合った。
76 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時09分20秒
市井は本当にびっくりしている様子だった。

「アチャ〜、マジっすか。なんで‥‥何かあったの!?」
「なんでもないです。」
「何もないのにそんな格好で駅をうろつくワケないじゃん。」
「私のことは構わないでください!」

石川は市井の腕を振りはらって、その場から逃げようとした。
こんな時に市井と出会ってしまったことを恨みたくなった。
77 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時11分22秒
「ばか。放っておけないよ。
 あたしはあんたの元先輩でもあるんだぞ。
 あのさ、誰かとケンカして飛び出してきたとか?
 (あたしみたいに。)」

石川は市井の質問には頑に答えようとしなかった。
ただごとでは無さ気の2人を、通行人がジロジロと見ていく。
市井はとりあえず人目を避けて石川を隅に連れていった。
よく見ると、石川の身体が雨に打たれた寒さで震えている。
このままでは埒があかないと市井は思った。

「ねぇ、行くところがないんだったらウチへおいでよ。
 今、レッスン帰りでさ、あたしも一人で帰るのは気が進まない
 ところだったんだ。(笑)」

冷たくなった石川の手を強引にひっぱってタクシー乗り場に急ぐ。
タクシーを呼び止めると、困惑する運転手を説き伏せて、ずぶ濡れ
の石川を車に押し込んだ。

タクシーに乗っている間じゅう、石川はずっと黙っていた。
市井も何も訊かなかった。2人はただぼんやりと街に煌めくネオン
をみつめていた‥‥。

78 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時13分55秒

―Goto’s side―

後藤は石川を見つけられないまま、街を走りまわって駅にたどり
着いた。人混みをかきわけて花柄のワンピースを探す。しかし、
すでに石川は市井とその場を去った後だった。

「梨華ちゃん‥‥どこに行っちゃったのさ。」

(「私はここにいますよ?後藤さんのすぐそばに。いつでも。」)

後藤は自分のてのひらを見つめた。

初めて2人が結ばれた日の翌朝、
石川が自分の手をとって触れさせた頬の温かさ。
すぐにでも誤解を解いて、もう一度あの温かい頬に触れたい。

けれども。

見知らぬ人の波。
流れてゆくざわめき。
どこを探しても、石川の姿は後藤の目に映らなかった。

「‥‥‥ぐすっ‥‥‥うぁ‥‥。」

後藤は人目も憚らず、声を急に吸い込むような動きを繰り返して
泣いた。

大切な人が自分から去っていくのはもう嫌だった―。
79 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時15分55秒
―Ishikawa’s side―

市井は家につくと、石川を招き入れた。

「ただいま。」
「紗耶香ちゃん、おかえり。あれ?そちらはお友達かな?」

廊下に姿を見せたのは、ご機嫌を取ろうとするような口調の、中年の
男性。石川は恐縮して、その男性に頭をぺコリと下げた。
ずぶ濡れの自分を見て、さぞかし不審に思うだろう。

「一晩泊めるから。母さんに言っといて。」
「‥‥‥ああ。」

硬い口調で言葉少なに言うと、市井はその男性には一べつもくれずに、
2階へと駆け上がった。

(この人が後藤さんの言ってた、市井さんの新しい『お父さん』?)
80 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時17分49秒
市井の部屋は、壁に友達との写真がたくさん貼ってある、にぎやかな
部屋だった。洋楽好きという言葉の通り、『レッチリ』のCD、音楽
雑誌、ギターが雑然と置かれていた。

「お風呂沸かしたから、入ってきなよ。着替えここにあるから。」

石川が戸惑っていると、市井は『心配いらない』と言って着替えを
持たせた。

市井が用意してくれたお風呂は温かかった。
その温かさが石川には辛かった。

(どうして私は今ここにいるんだろう。
          ‥‥よりによって、市井さんの家に。)
81 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時20分00秒
風呂から出て、廊下を歩いていると、キッチンから市井の父母が
ぼそぼそと話をしているのが聞こえた。

「あの子、あなたの何が気に入らないのかしら。
 もう私どうしたらいいか分からないわ。」

「仕方ないさ。難しい年頃なんだ。いきなり知らない男がやって
 きて『今日からお父さんです』と言われても整理がつかないん
 だろう。それを責めちゃ可哀相だ。あの子も僕と同じでどう接
 して良いのか戸惑っているのさ。僕は、あの子の気持ちが自然
 と僕達を認めてくれるようになるまで待つつもりでいるよ。」

後藤から聞いたように、やはり市井と父母はうまくいっていないらしい。
82 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時27分35秒
「石川、こっち!」

市井が2階の部屋から手招きしている。

「すみません、立ち聞きするつもりはなかったんですけど。」
「‥‥‥いいんだよ。それより、何か飲む?」

市井は部屋にあったペットボトルのジュースを石川に差し出した。
が、石川は丁寧に断わった。
市井は「あいかわらずだなぁ。」と言って笑った。そのまま石川
の前にすとんと座ると、市井はそのへんにあった雑誌をペラペラ
めくりながら話しだした。

「ウチは父さんが出てった後、母さんとお姉ちゃんとあたしで
 うまくいってたのにさ。突然、あの人が来て『君の新しい
 お父さんです』だって。笑っちゃうよね。」

「‥‥‥‥‥。」

石川は家族の問題に他人の自分が立ち入るべきかどうか迷ったが、
後藤のこともあり、思いきって言ってみることにした。

「あの、後藤さんがずいぶん心配してました。
 余計なことかもしれないですけど、家族みんな仲良くしたほうが
 いいと思います。」

市井は触れたくないことに触れられて、石川をじろりと睨んだ。
そして、拒絶するような冷たい口調で言った。

「‥‥‥‥。あんたに何が分かるの?」
「す、すみません。でも‥‥。」
83 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時29分19秒
思わず石川は市井から視線を外した。
市井の後ろの壁に、後藤の写真が見えた。
市井と後藤の2人がいたずらっぽい笑みを浮かべて写っていた。
84 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時39分22秒


「なーんてね、本当はわかってるんだよ。
 このままじゃいけないって。(笑)」

市井は苦しそうに笑みを浮かべた。

「あの人は悪くないって、わかってる。でも今すぐはとてもムリな
 んだ。あたしさ、自分は強いって思ってたのに、全然そうじゃな
 かった。後藤にも‥‥心配かけちゃってるね。
 あの子の前ではいつも胸張れるような先輩でいたかったんだけど。
 悪いなって思いつつ、すっかり頼っちゃって。」

そう言って、石川に背を向けた市井の背中は小さく見えた。
壁に貼られた、後藤との写真を見つめているのだろうか?

「‥‥後藤ってさ、最近しっかりしてきたと思わない?
 市井が娘。にいるときはさ、全然甘えッ子さんだったのに。
 あいつにも先輩の自覚が出てきたのかもね。」

石川は何も言えずにいた。
後藤が淋しそうに寝言で『市井ちゃん』と呼んだことが思い浮かん
で苦しかった。
85 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時44分17秒
市井はスックと立ち上がると、言った。

「あたしも、お風呂行ってくるね。
 何があったのか訊かないけどさ、石川が家出なんてそ〜と〜な
 ことがあったんだと思う。
 今日はもうゆっくり眠りなよ。あたしのベッド使っていいからさ。
 あたしはお姉ちゃんの部屋で寝るし。」

市井は優しく微笑むと、部屋を出ていった。
石川はため息をついた。

(この温かさに、後藤さんは惹かれたのかもしれない。
  市井さん、私に優しくなんてしないでください。
  どんどん自分が惨めになるよ‥‥。)

石川は自己嫌悪に陥っていた。
たとえ後藤が市井を忘れられないにしても、市井のことを訊いた
のは間違いだったと思った。
まして、感情にまかせて愛している人の頬をぶつなんて。
自分のことしか考えていなかったことがひどく最低に思えた。
86 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時45分35秒

ベッドのすぐそばの壁にも、写真はたくさん貼られていた。
プッチモニの写真もあった。保田と市井と後藤と。
市井に腕を絡めて笑っている後藤がずいぶん若く見える。

(私の知らない後藤さん。まるで市井さんと恋人同士みたい。
 悔しいけれど、お似合いかもしれない。)

石川はその写真の後藤にそっと触れた。

指が震えて、あふれてくるせつなさで胸がいっぱいになる。
やっぱり自分は後藤を愛している、と思った。
たとえ、後藤にとって自分が市井の代わりだったとしても。
87 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時48分09秒

「‥‥‥何、してんの?」

部屋に戻ってきた市井の声に、石川はドキリとして手を引っ込めた。
もしかして、見られた?

「その写真がどうかした?」

「いいえっ。別にっ。」

「ふうん。」

「‥‥あの、一つ聞いてもいいですか。
 市井さんは、どうして娘。を辞めたんですか?」

それは石川にとって理解の出来ない謎であった。
もしも後藤を愛しているのだったらできない筈だと思った。
市井は着替えをタンスから出すと、何で今更そんなことを
聞くのかという表情をした。

「言ったじゃん。シンガーソングライターを目指してって。」

聞いていた通りの答えに、石川は腑に落ちない様子をみせた。

「本当なんですか?」
88 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時51分12秒
市井はお手上げといったジェスチャーをした。

「はっきり言っちゃうとさ、後藤と一緒にいるのが辛かったから。」

「え?」

「あたし、後藤の教育係だったじゃん。
 後藤はあの通り、まわりから大物だってずっと言われててさ。
 実際日に日に成長してたし。娘。にいたら、いつか自分を抜
 かしていくって思った。」

「‥‥‥‥‥。」

「でも市井は先輩として、後藤には負けたくなかったんだ。
 ‥‥だからあたしはあたしの夢を選んだ。
 これで、ナットクした?」

「離れるのは淋しくなかったんですか?」

市井は苦笑いして答えた。

「そりゃあ、後藤は妹みたいにかわいかったし。
 後藤の存在は市井にとってトクベツだったから。
 あの子のことは何でもわかってるつもりだったし、離れることを
 選んだ時もあの子の顔思い浮かべたら本当に苦しかったよ。」
89 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時52分42秒


石川は思い出していた。
市井の最後のライブの時、後藤は立っていられないほど
泣き崩れていた。そして市井もまた同じように泣いてたことを―。

「すみません。もう寝ます。
 今日はいろいろ‥‥ありがとうございました。」

石川はそれだけ言うと、シーツをかぶった。

(やっぱり市井さんは後藤さんのことを―。)

市井は電気を消して、部屋を出た。そして立ち止まった。

(もしかして石川も後藤のこと―。‥‥‥‥まさか、ね。)
90 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時54分01秒
―Goto’s side―

激しい雨はすべてを飲みこんでしまった。
石川の行方さえも。

結局後藤は石川を見つけられずに、独りで戻った。
ひょっとしたらマンションに戻っているかもしれないという
微かな期待に賭けて。

しかし石川は戻っていなかった。


ピーポー!ピーポー!ピーポー!
けたたましい救急車のサイレンが街中に響く。
思わずドキっとして窓ガラスに駆け寄り、外を見る。
まさか事故にでも遭ったりしたら!

(梨華ちゃんに限ってそんなことには‥‥。)
91 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月25日(火)09時56分53秒

切るような悲しい瞳をして出ていった石川が、今どんな気持ちで
いるのかを考えたら、後藤はおかしくなりそうだった。

あんな表情をさせたのは、自分なのだ。
後藤は窓ガラスに映る自分を叩いた。

「ごとーの‥‥‥バカ!バカ!ばかぁ!
 ひっく‥‥‥うー‥‥‥。」

明日になったら、きっと逢える。
責任感の強い石川のことだから、仕事にはきっと姿を見せるだろう。
後藤はそれだけを頼りに、不安な夜を耐えるのだった。

つづく
92 名前:瑞希 投稿日:2001年09月26日(水)00時43分21秒
市井と後藤の過去がめっちゃ気になる…。
ってか、市井さんは、もしや…?
うううう、切ないぞ、石川〜〜〜〜。
93 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月27日(木)00時49分50秒
>92さん、感想有難うございます。
 一応ラストまでの流れはもう決めているのですが‥‥。
 続きもどうぞよろしくお願い致します。(汗)
 

『Everything』は次の4(長め?)でENDになる予定です。


94 名前:式神 投稿日:2001年10月02日(火)00時04分48秒
『おまじない』の時から愛読してました。
石川&後藤コンビがいいなぁと思うようになったのは
貴方様の作品を読んでからです。
今の作品が終わったら『いしごま』に挑戦しようかなと
思うぐらいにこの小説好きです。
これからも頑張って下さい。
95 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月05日(金)22時33分12秒
>94さん、レス有難うございます。
 そのように思っていただけてうれしく思います。
 どうぞ、次はぜひ『いしごま』を。
 一読者として楽しみにしております。
96 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月11日(木)23時16分39秒
申し訳ありませんが訂正です。

Everything3

89

石川は思い出していた。
市井の最後のライブの時、後藤は立っていられないほど
泣き崩れていた。そして市井もまた同じように泣いてたことを―。



石川は思い出していた。
市井の最後のライブの時、後藤は立っていられないほど泣き崩れていた。
そして市井もまた、舞台裏の誰もいないところで同じように泣いていた
ことを―。

97 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)07時49分29秒
『Everything』4で終わらせるつもりでしたが
まとまりませんでしたので、5でラストということに致し
ました。更新の間が開いたので、どんな話だったか忘れら
れてしまっていないことを祈りつつ‥‥。(汗)

注・『Everything』は『おまじない』と『潮風』
の後のお話なので、その時の回想が出てきます。わかりにく
くて申し訳ありません。

98 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)07時54分40秒
『Everything』4

―Ishikawa’s side―

雨音は叩き付けるように鳴り続けていた。
市井のベッドでシーツをかぶったものの、石川は眠れなかった。

(多分今でも市井さんは後藤さんのことを想ってる。)
 
石川はシーツを指で引き寄せながら、苦しそうに寝返りをうった。
無理に瞼を閉じると、後藤が『市井ちゃん』と呼んだ時の淋しそう
な顔が浮かぶ。

(そして、後藤さんも市井さんのことが忘れられないでいる。) 

後藤と市井の言葉が交互に浮かんでは消えて、石川の胸を苦しめた。

『後藤の存在は市井にとってトクベツだったから。』
『市井‥‥ちゃん。』

なにより石川は見てしまったのだ。
ツアーの控え室で市井と会った時の後藤が見せたとめどない涙を。

(あの2人は離れていても『想っている』とか『忘れられない』
 なんて言葉じゃ言い表せない強いつながりがあるの。)
99 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)07時56分14秒
(だけど私だって‥‥!)

暗闇の中で見開かれた石川の目に、熱いものが浮かんだ。

(私だって、後藤さんへの想いは誰にも負けないつもりでいた。
 ‥‥市井さんにだって!)

(‥‥でも、でもそれだけじゃダメなの。私は、私はどうしたら
 いいの?)

溢れる想いは目尻からこぼれ落ちると、冷たい絶望となって耳元を
濡らした。

100 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)07時57分30秒

長い夜だった。
ため息と寝返りは幾度となく繰り返された。
夜明けが近付くと、雨は止んだ。
物音ひとつしない静けさの中で、石川はひとつの固い決意をした。

(今大切にしなきゃいけないのは、私の想いなんかじゃない。
 愛する人の幸せ。もう後藤さんの淋しそうな顔は見たくないよ。
 そのためにはこうするのが一番いいんだ。)

(だから、悲しくなんかない。大丈夫。私は―。)

石川は涙を手で拭った。
もう泣いたりしないと誓いながら。
101 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)07時59分08秒
早朝。
ゆうべあれほど激しく降った雨が嘘のように、眩しい太陽が顔を
出していた。石川は起き出して、きれいに洗濯されていた自分の
ワンピースに着替えた。

「(お)はよっス。よく眠れた?」

声のしたほうを振り向くと、パジャマ姿の市井がコーヒーを持って
ドアの前に立っていた。部屋で一緒に朝食をとる。石川は極力普通
の素振りをしたが、市井とあまり目が合わせられなかった。
102 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時04分08秒

市井は近くの駅まで送ってくれた。

道すがら、石川は一晩お世話になったお礼を丁寧に言った。
貸してもらったお金は必ず返します等々、くどくど言うと、
市井は人さし指で鼻をこすりながら、そんなこと気にしなくいい
と笑った。
103 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時05分20秒

朝早い駅は、まだ人もまばらだ。
市井はホームまで一緒についてきてくれた。

「やっぱり朝はちょっと寒いなァ。」

市井は水色のパーカーのジッパーを閉めると、
すこし背中を丸めて腕組みをしている。
ねぐせが直っていないのは愛嬌だった。

「今日は仕事、早いの?」

「はい。今日から私だけ北海道でキャンペーンなんです。」

「あ、そっか、『カン梨華』?
 大変だね。一人だけレンタルなんだっけ。
 でもそれって逆に自分を出せるチャンスだからさ、
 がんばりなよ。」

「はい。」
104 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時06分44秒

「それからっ、あたしもあんまり人のこと言えないんだけどさ、
 仲直りも早めにしろよ!(笑)」

市井はやはり石川が誰かと喧嘩をしたのだと思っているらしかった。
だが、まさかそれが後藤だとは思っていない。

「‥‥‥‥‥。」

石川はあいまいな笑顔を浮かべた。
その瞳に別れの悲しみが宿っていたことを、市井が気付くはずも
なかった―。
105 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時07分49秒

「あ、そうだ。後藤によろしく言っといて。
 ちゃんとやってるからって。娘。のみんなにも―。」

………1番線に列車が入ります。
        白線の内側までお下がりください………

電車がゆっくりとホームに入ってきた。
まだガラガラの車内は朝日を浴びてキラキラしている。

‥‥ゴトン。
キー。
プシュ−。

停車して扉が開くのが合図だったかのように、 石川は一瞬だけ
小さく深呼吸した。そしてすがるような目で市井を見た。
106 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時09分33秒
市井は「ん?」という表情をしている。
唇が少し開いた後、切羽詰まった甲高い声で、石川は言った。

「あ、あのっ。後藤さん元気にやってるけど、
 時々淋しそうなんです。
 市井さん。後藤さんのこと、守ってあげてください。
 ‥‥石川のお願いです!」

「え?」

石川はそれだけを告げてすばやく電車に乗り込むと、扉が閉まる
直前につぶやいた。

「後藤さんのことをわかってあげられるのは
 市井さんしかいないんです。」

「石川!?」

プルルルル〜。
プシュ−。
ガタン‥‥。


電車は動き出した。
あっけにとられた表情をしている市井をホームに残して。


石川はガラスの窓に背を向けて、瞼を閉じた。
もう涙は、出なかった。

(これでいいんだ‥‥。)
107 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時10分33秒

石川は後藤のいる自分のマンションに立ち寄った。

昨日頬をぶったこと、一晩帰らず心配をかけたことをきちんと
謝りたいと思ったが、後藤に会ってしまったら自分の決心も鈍
りそうだったので、市井の家で書いたメモをドアの下に挟み、
そのまま後藤には会わずに実家へ戻った。
108 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時11分31秒
北海道へはお昼の便で行くことになっていた。
もうあまり時間がない。石川は実家で手際良く必要な荷物をまとめた。
(実家の部屋はそのままにしてあるので必要なものはだいたい事足りた)
突然の娘の帰宅に、びっくりしたのは両親である。
父親が心配そうな表情をして石川に訊いた。いつもより重々しい声だ。

「梨華。こんな朝早くに一体どういうことなんだい?
 なにかあったんじゃないのか?
 こっちにきて、パパに話してみなさい。」

「パパ‥‥。」

石川はふと、後藤の言葉を思い出した。

“過保護とか言ってたらバチがあたるってモンだよ。(笑)”

家族と同居していた頃は、親子で喧嘩もした。
父親のデリカシーの無さに失望したり、母親の干渉にうんざりしたり。
けれども今、離れて暮らしてみてあらためて自分がとても大切にされ
ていた事を感じる。
109 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時13分53秒
石川は両親を心配させないように精一杯明るく

「パパ、ママ。心配しないで。
 ちょっと寄っただけ。これからお仕事で北海道なの。
 ゆうべはこっちの方でお仕事があってマンションに帰るよりも
 近かったから‥‥。」

と言った。

「ゆうべって、じゃあなんでゆうべのうちに帰って来ないの。
 朝までお仕事だったの?」

母親はもっともな疑問を口にした。石川は言葉に詰まってしまった。

父親はどこか元気のない石川の言葉を鵜呑みにしたわけではなかった
が、目をつぶって

「わかった。でも体には気をつけなさい。」

とだけ言った。

「次はゆっくり帰ってくるね。(笑)」

石川は心配してくれる両親に心の中でお礼を言った。

突然帰ってきたと思ったら、あっというまに出ていって。
母親は「少し痩せたみたい。不規則なお仕事で無理をしてるんじゃな
いかしら。やっぱり芸能人になんかするんじゃなかったわ」と愚痴を
こぼし、父親は「梨華が自分で選んだ道なのだから」と言って母親を
慰めるのだった。
110 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時14分40秒

―Goto’s side―

後藤は石川のマンションで彼女の帰りを寝ないで待っていたが、
いつしか泣きつかれて、テーブルにつっぷして眠っていた。

ピルリロラララ〜。
ふいに鳴ったケータイの音に、後藤はあわてて目を覚ました。

「梨華ちゃん!?」

飛び起きて、すぐにディスプレイを見る。
しかし石川ではなく、マネージャーからだった。

「あい。」
(‥‥‥‥‥。)
「え、もぉそんな時間!?」

時計を見ると、お昼からという仕事の集合時間ピッタリである。
後藤は髪だけ一つにしばって、かばんとケータイをつかむと玄関に
走った。
111 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時15分31秒

(梨華ちゃん、帰ってこなかった‥‥。
 いったいドコへ行っちゃったんだよぉ。
 とにかく仕事場に来てくれてることを祈るしか‥‥。)

ガチャ。
玄関のドアをあけると、足下で小さな紙切れが舞った。

「?」

後藤は腰をかがめて紙切れを覗き込んだ。
見覚えのある可愛らしい文字が並んでいた。
112 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時16分14秒

後藤さんへ

昨日はぶったりしてごめんなさい。それから、帰らなくて心配かけ
てごめんなさい。ゆうべ私は自分のことしか考えてなくて飛び出し
てしまったけれど、あれから偶然にも市井さんに会って。
そして、私なりにいろいろと考えたんです。

石川は、わかっちゃいました。

市井さんだけが、あなたの淋しさを癒すことができる人だって。
あなたをわかってあげられる人だって。
とっても悔しいけど。 (笑)

次に会う時、私たちは普通のメンバー同士に戻りましょう。
短い間だったけど、私はとっても幸せでした。
 石川梨華
113 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時16分52秒

「市井ちゃんと‥‥会った?」

“私たちは普通のメンバー同士に戻りましょう”

「何ゆって‥‥。」

後藤は混乱してメモから視線を外した。
どうやら石川は一晩のうちに勝手に決着をつけてしまっているらしい。

(きちんと話し合わなくちゃ。)

メモをポケットにしまうと、後藤は仕事場へ急いだ。
114 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時18分08秒

やっとのことで後藤は仕事場にたどり着いた。
あたりを見渡したが石川の姿は見えない。

(梨華ちゃん‥‥いない。)

後藤の姿を見つけた安倍が、目を丸くした。

「ごっちん、おそいべ。大遅刻だべ。」

待ちくたびれてふくれっつらをしている。
後藤はそれどころではないという感じで石川のことを聞いた。

「‥‥‥梨華ちゃんは?
 まだ来てないの?」

「いつまで寝ぼけてるんだべ。
 今日から石川は別行動。『カン梨華』で北海道なんだべ。
 今頃、軽〜く空の上だべ。
 いいな〜、なっちも北海道に行きたいべさー。」

「えっ、北海道?」

「ごっちん、知らなかっただべか?
 北海道でキャンペーンをするんだべ。あさってまでは帰って
 こないっしょ。」

「そっか‥‥。」

「というわけで遅刻はごっちんだけだべ。残念さんだったべ。」

安倍は言いたいことを言って差し入れのムースポッキーをうれしそう
につまんだ。

「なっちのマイブームなんだべ。くふふ。」
115 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時19分22秒

(なんでこんな時に限って北海道‥‥。)

後藤はポケットから石川のメモを出した。

「このメモだと梨華ちゃんはゆうべ、市井ちゃんに会ったんだ。
 そうだ、話、聞いてみよう。」

後藤はじっとしていられずに、市井にメールを入れた。
ちょうど夕方に空き時間がとれたので、仕事場であるお台場近くの
公園で会う約束をした。
116 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時20分41秒

―Ishikawa’s side―

その頃、石川は北海道行きの飛行機に乗り込み、空の上にいた。
札幌でカントリー娘。と合流し、キャンペーンをすることになって
いる。北海道で仕事をしているうちに気持ちを切り替えて、帰った
ら後藤と普通に接しられるようにしておかなければと思った。

(早く、気持ちを切り替えなきゃ。
 これ以上、苦しくならないうちに。
 私にできることはもう全部したんだもの。)

そう自分に言い聞かせ、仕事のために少し眠るのだった。

117 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時22分37秒
―Goto’s side―

夕方。
海が見える公園(ここからはベイブリッジも見える)で、後藤は市井を
待った。

ほどなくして市井が姿を見せた。市井は少し黄色が入ったレンズの眼鏡
を外して、手を振って笑った。

「よっ!」

「市井ちゃん‥‥。」

「後藤、この間はありがとう。
 悪かったね。仕事があるのに夜中に呼び出したりして。
 おまえしか、考えられなかったんだ。
 ‥‥ああいう時に話聞いてくれるの。」

あらたまってお礼を言われると、後藤は口元を少しだけ緩めて笑み
をつくり「ううん。」と言った。その瞳の奥には、なんとなく憂い
がやどっている。

市井はそんな後藤を見て、また少し大人っぽくなったな‥‥と思った。
以前の後藤なら、子どもっぽく脳天気に「いいよぉ。(笑)」とか言
うはずだ。

後藤の変化は、市井にはまぶしかった。
まるで、今、目の前に広がっている海。あかね色の夕日に反射して
きらめく海の水面(みなも)のようだと思った。
118 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時23分39秒

後藤は自分と別れてからの石川の様子が知りたかったが、どうやって
尋ねようか少しとまどっていた。

沈黙が1分程、2人をつつむ。

具合よく、目を細めて水面(みなも)を見つめていた市井が石川の
話題に触れた。

「昨日さ、石川がウチに泊まってったんだ。」

「ふう‥‥ん。」

「レッスン帰りに駅で偶然石川に会ってさ。理由はきかなかったけど
 なんか行くところがなくて困ってたみたいだったから泊めてあげた。
 石川が‥‥なんて意外だったけど、いろいろあるよね。生きてるとさ。
 どんな人でも。」

「梨華ちゃん、市井ちゃんに何か言ってた?」
119 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時24分53秒

市井は別れ際に言われたことを思い出したが、別のことを答えた。

「後藤が時々淋しそうな顔をしてるって言ってた。」

「‥‥‥‥‥。」

「市井は後藤のこと、しっかりしてきたって誉めてたトコだった
 のにさ。(笑) ‥‥‥大丈夫、なの?」

「何が?」

「後藤が今でもそんな表情(かお)するの、もしかしてあたしのせい
 だとしたら‥‥。」

心配そうな市井の声を聞いて、後藤は口元を少し歪ませて言った。

「大丈夫。ごとーはもうあの時のごとーじゃないよ。
 淋しくなんか‥‥。」

「そっか。ならいいんだ。」

その時、初めて市井の目と後藤の目が合った。
風と一緒に“彼方にあるはずの過去”が吹いてきて、後藤と市井を
つつんだ。
120 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時25分40秒

<本当に淋しくなんか、ない?>

後藤の胸の中で、市井と別れたあの時の自分が現れて問いかける。
答えられないでいると、時計の針がぐんぐん逆まわりするような
感覚にとらわれた。

<思い出して。あの頃のことを。市井ちゃんと過ごした季節を。>
121 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時27分20秒
たった一人でモーニング娘。に追加された頃。
歌にしてもダンスにしても最初から完璧にできるはずもなくて、何を
するにしてもアタシはいつも一人だけ遅れていた。つらいって言いた
くなかったけど、その頃は本当に逃げ出したいと思ったくらいだ。

「後藤!今の何、そのダンス。
 それでステージに立っていいと思ってんの?」
「市井ちゃん‥‥ひっく‥‥。」
「 泣くなよ!」
「だってできないのが口惜しいんだもぉ!(泣)」

市井ちゃんにもいつも怒られてたっけ。
だけど―。

誰にも言えない孤独感と焦燥感にうちひしがれて独りで泣いていると、
市井ちゃんはどこにいてもアタシをみつけてくれた。

「大丈夫だよ。後藤ならできる。」

そう言って、いつも市井ちゃんはやさしく髪を撫でてくれた。
アタシは市井ちゃんにできると言われれば何だってできるような気がした。
122 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時28分01秒

自分のことを
真剣に叱ってくれたのも、
一緒に泣いてくれたのも、
一緒に笑ってくれたのも
市井ちゃんが初めてだった。

ずっと一緒に歩いていけると思ってた。
そうあの時までは。
123 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時28分39秒

「辞めるって‥‥市井ちゃん、それ本気なの?」

「うん。あたしはあたしの夢を叶えたいんだ。
 だから後藤は後藤の夢を叶えるんだよ。」

市井ちゃんはいつもみたいに明るく笑いながら言った。

突然の別れ。

どぉして?
なんでそんなコト言うの?
ごとー、何か悪いことでもした?
ねえ、市井ちゃん。
わかんない。ごとー、わかんないよ!
124 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時29分42秒
でも、市井ちゃんを困らせたくなかったから市井ちゃんの夢を
応援するフリをした。

だけどずっと一緒にいたかった。

アタシは市井ちゃんが最後の日、とうとうこらえることができなくて
泣いてしまった。もぉ、立ってられないぐらい。あんまり取り乱して、
何をわめいたのかも憶えていない。

ただ、泣いて市井ちゃんを引き留められるなら、一生分の涙を流しても
いいと思った。


125 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時30分56秒

後藤は“あの頃”を思い出して頬を少し紅潮させていた。
なんだか胸の奥がヒリヒリする。市井と離れてから気付かないフリを
していたあの頃の傷の痛みを、後藤はたった今自覚していた。

「‥‥‥‥。」

市井もあの頃の痛みを思い出していた。
「淋しくない」と言った後藤に感じたせつなさと、今も失われない感傷が、
市井を素直にさせた。

「市井はさ、最後のライブの時の後藤が今でも忘れられないよ。
 『市井ちゃん、ごとーを置いて行かないで!』って泣きじゃくってた
 時のおまえが。」
126 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時31分38秒

市井は後藤を見つめながら、ためらいを込めて言った。
後藤は今初めて聞いた市井の気持ちに衝撃を受けた。

「あは‥‥は。そんなハズないよ。
 だって市井ちゃんは‥‥あの時、ごとーのことなんか振り返りも
 しなかった!」

「違うよ。市井は後藤のこと‥‥。」

「!」

市井の顔を見ようとした、後藤の鼻の先にもうそれはあった。

後藤の唇は市井の唇と重なっていた。
127 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時33分02秒
初めて触れた市井の唇の感触。
あきらかに石川のそれとは違う―。

(アタ‥‥シは‥‥市井ちゃんがこうしてくれるのを‥‥ずっと
 待ってた? 夢の中で『市井‥‥ちゃん』って呼んで‥‥。
 ‥‥梨華ちゃんを悲しませて‥‥。)

後藤の定まらない視点の先には、石川がいた。

“‥‥‥非道(ひど)いです。笑うなんて。”

“私は‥‥あのひとの代わりじゃ‥‥ない‥‥ですよね?”

切るように哀しい目をして―。

後藤はその場に動けなくなっていた。
128 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時33分53秒

何の反応も返さない後藤の唇に居心地が悪くなって市井の唇は離れた。
後藤の脳裏には石川との思い出が次々とよみがえる。

“‥‥‥りがぢゃん、ぞばにいで。”

“私がついてます。安心して、眠ってください。”

“私はあなたのことが‥‥好きです!”

“それじゃあ‥‥ちゃんと『好き』って、聞かせて。
 お願い。一度だけでいいの。”

“‥‥お願いします。釣れるまで帰らないでください。”

“‥‥よかったぁ、イカさんですよー。”

“アハッ、梨華ちゃんって、エッチだなぁー。”

“ち、違います!石川そんなこと考えてません。”

“後藤さん。‥‥大好き。大好きです。”
129 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時34分45秒

“あなたのそばで永遠の好きをあげる。”

恥ずかしそうに微笑む石川。
後藤の胸は張り裂けそうになった。

“私はここにいますよ?後藤さんのすぐそばに。いつでも。”

(あぁ、梨華ちゃん‥‥‥‥!
 アタシは求めてる。梨華ちゃんの頬の温かさを。)

まばたきを忘れた後藤の瞳から、涙が頬にこぼれ落ちた。
市井が不審そうに後藤を見つめている。ようやく後藤は市井を見た。

(市井ちゃんを待ってたのは、あの頃のアタシ。
 あの時、泣くことしか出来なかったごとーなんだ‥‥!)

(今ごとーが好きなのは‥‥。)

過去と今と。
後藤の中でずっと絡み合ってもつれていたものが
ハラリとほぐれて、離れた。
130 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時35分23秒

「‥‥‥っく‥‥。ごめん‥‥市井ちゃ‥‥。」

後藤はひとしきり泣いた後、うつむいていた顔を上げて、
まっすぐなまなざしで市井に告げた。

「ごとーは、今、失くしたくないひとがいるんだ。
 すごく大切な人‥‥。」

頬の涙は夕日に照らされてキラキラとしている。
131 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時36分16秒

後藤の言葉に、市井がまっ先に思い浮かべたのは石川だった。
ゆうべと今朝の石川の様子から、どうしてもそう思わざるをえなかった
のだ。市井は動揺を押し隠して上目遣いに後藤を見ると、うわずった声
で言った。

「それって‥‥さ、もしかして、石川?」

首をこくりと縦に振る後藤。


「梨華ちゃんが市井ちゃん家に行った時も、実はごとーと
 ちょっとあってさ。市井ちゃんにも迷惑かけ‥‥。」

市井はすべてを知って、うつろな目をした。
そして、誰にも聞こえない微かな声でつぶやいた。

「‥‥あの時、おまえと離れなければよかったのかな。」
132 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時37分05秒

市井は一瞬だけ両手を腰に当てて前かがみになった。
しかしすぐに、頭を上げて胸を張った。

「ううん、ほら、さっ、あんまし深くとらないでよっ。
 裕ちゃんと同じっ。親愛の情だからっ。ねっ。
 全然気にしなくていいから。あたしとおまえの仲じゃん。
 こんなことで気まずくなるの嫌だしさ。(笑)」

「市井ちゃん‥‥。」

「後藤はさ、きっと石川の一途なところが好きなんでしょ。」

「‥‥うん。」

後藤はうなずいて、手で一生懸命涙を拭っている。
市井は思った。

(その涙はあたしの為に流してくれた涙とはもう違うんだね。)
133 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時37分59秒
「そっか、そーゆうことっすか。」

「市井ちゃんはごとーにとって、お姉ちゃんみたいな人で大切な人だし、
 これからだってそれは変わらないと思う。」

後藤の正直な言葉を市井はうなずいて受け入れた。
気休めを言っているのではなく、本当にそう思っているのだということ
が目を見て分かったからだ。

「うん。わかってる。
 だから‥‥だからはやく石川んとこ、行ってやれ!(笑)」

「市井ちゃん‥‥。」

後藤は真面目な顔をしてぺコリとすると、市井に背を向けて走っていった。

「もう(石川のこと)泣かすなよ〜!」
134 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時39分44秒
市井は彼女らしく威勢よく後藤を見送った。

後藤が前を向いてしっかりと歩き出していることに、先輩として安心
しようと思った。あの時の自分の選択(別れ)は間違っていなかった
んだと、自分に言い聞かせて。

(石川んとこ、行ってやれ‥‥か。
 あは、あたしやっぱり後藤の前では見栄張ってでも良い先輩で
 いたいんだ。)

(後藤はあたしのこと、大切な人だしそれは変わらないって
 言ってくれた。それでいいんだってば。
 そう、あたしにとって後藤はずっとずっと大切な妹。
 そしてライバルだよ。)

(あ〜、夕日が目に染みる。でも泣かないぞっ。)

目の前の海を小さな船がゆっくりと通り過ぎていく。
夕暮れの風は少し冷たかった。

(石川、確かにあたしは後藤のことを一番わかってあげられるかも
 しれない。けど、後藤を幸せにできるのはあんたしかいないんだよ。)

「あ、でも石川北海道なんだっけ。
 後藤のヤツ、北海道まで行く気か?(笑)」
135 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時40分22秒

仕事場まで、後藤はひたすら走った。
足がすごく軽い。

心にもう翳りは無かった。

今すぐ石川に逢いたい。
逢って強く抱きしめたい。キスしたい。
この気持ちを伝えたい。

想うのは石川のことだけだった。
136 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時41分15秒
後藤は仕事場に戻ってすぐ、マネージャーに石川の居場所を聞いた。

「梨華ちゃんが札幌で泊まってるホテルって何ホテルですか?」
「石川?たしか札幌◯×ホテルだったと思うけど。」
「何号室?」
「723号室だけど。そんなこと聞いてどうするの?」
「あ、う、ツージーと賭けしててさ。何号室だか当てるの。
 負けると言うこときかなきゃなんないの。ふぅん、わかりました。
 ありがと。」

デタラメだった。

「あ、後藤。この後の雑誌の取材、キャンセルになったから。
 今日はもう帰っていいよ。それからわかってると思うけど、明日は
 14時から写真集の撮影ね。今日みたいに遅れないでよ?」

「はい。おつかれさまでしたっ。」

後藤はカバンを持つと大慌てで仕事場を飛び出していった。
137 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月16日(火)08時43分02秒

―Ishikawa’s side―

夜。
石川はカントリー娘。と札幌でのイベントを終了させて市内のホテル
に戻った。イベントは盛況でそれは石川もうれしかった。仕事をして
いれば気が張って余計なことを考えずに済む。
その分、ホテルに戻ると疲れがどっと出た。しばらく誰にも会いたく
ない気分だった。いつも一人の仕事の時はマネージャーと一緒の部屋
になるのだが、珍しく無理を言って今日は一人にしてもらったのだった。

ホテルの部屋は落ち着いたベージュで統一されていた。
石川はキーを部屋の窓近くのテーブルの上にそっと置いた。
ふと、外が気になって街の夜景を見つめる。
きらびやかなのに、石川の目にはもの悲しく映った。
ため息をひとつだけつく。
細い手が、カーテンを閉めた。


石川は早めにシャワーを浴びて、ベッドに入った。
明日は、今日とは別の場所でまたイベントがある。

とにかく、今は仕事を頑張ろう。
追い立てられるような忙しさに自分を埋没させてしまいたいと石川は
思うのだった―。

つづく
138 名前:aki  投稿日:2001年10月16日(火)15時33分51秒
以前の内容忘れてませんよ^^
なんかこっちまで胸の中がジーンと来ちゃいます。
後藤が本当の自分の気持ちに気付いた辺り本当に
伝わってきて胸に響きました。
次でラスト!
最後ませ読ませてもらいますっ。
頑張ってください^^
139 名前:瑞希 投稿日:2001年10月16日(火)22時33分37秒
後藤の、石川への気持ちを再確認したシーンは、
とても胸が熱くなり、切なさも伝わってきて、涙が溢れました。
ドキドキしながら、続き、お待ちしてます。

後藤、石川、がんばれー。
140 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月17日(水)08時07分38秒
>138さん、感想有難うございます。
 
 >忘れてませんよ^^

 嬉しかったです。
 最後まで読んでいただけるようなラストになるよう頑張ります。

>139さん、感想有難うございます。
 
 >後藤、石川、がんばれー。

 次は後藤さんが頑張る番!?
 ラストまでどうぞよろしくお願い致します。

141 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時26分05秒
『Everything』5


東京―北海道

想いは遠い距離を越えて、伝わるのだろうか?

142 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時26分53秒
―Ishikawa’s side―

札幌◯×ホテル・723号室。
石川がやっとたどり着いた眠りの先には、後藤がいた。

143 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時28分05秒

色の無い草原。
空気が重くて息苦しい。

(ここは‥‥どこ?)

石川はまわりを見渡した。

100メートルぐらい離れているだろうか、
後藤が独りで―。
こちらを向いて泣いている。

 ……ひっく……うぅ……。  

(後藤さん‥‥!)

石川は一歩踏み出そうとした。
 
(あれ?動けない。どうして?
 それに後藤さんからは私が見えていないみたい。)

 そうよ。見えていないの。  

自分と同じ声。
背後に人の気配を感じて石川が後ろを振り向くと―。
144 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時29分23秒

もう一人の、石川がいた。
とても哀しそうに遠くの後藤を見つめている。
花柄のワンピースはずぶ濡れで、なぜか裸足だった。


現実離れした状況を整理してみる。

(あぁ、私、夢を見てるんだわ‥‥。)

145 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時30分40秒

ふいに、後藤の泣き声が止んだ。


後藤を見つめていた、もう一人の石川の瞳から涙が流れる。
感情を閉じ込めた無表情な瞳をしていた。

石川は遠くにいる後藤の方を振り返った。

目に映ったのは―。
泣いている後藤を、つつみこむように抱きしめる市井。
後藤の耳元に何かを囁いて、サラサラな長い髪をゆっくりと撫でた。

石川は思わず、あっと小さく口を開いた。
遠くなのに、後藤の安心した表情がはっきりと見える。


胸が、胸がズキっとする。
見ていられなくて、石川はもう一人の石川のほうを振り返った。
146 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時31分46秒

もう一人の石川は唇をかみしめて後藤だけを凝視していた。
涙は頬をつたい、裸足の足もとに落ちた。

 どうしたら私を見てくれるのかな?
 おねがい、教えて。

(え‥‥‥。)

夢は深層心理を表わすのだと何かの本で読んだことがある。
石川は答えに詰まってしまった。

(もう、いいの。
 いいのよ。後藤さんのことは―。)

首をぶんぶんと横に振って答える。
鼻にかかった声は、色の無い世界で虚しく響いた。

147 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時34分34秒

石川の言葉を、もう一人の石川はまるで聞いていなかった。

 私を、見て。

 おねがい、私を―。

そう呟くと、すでに駆け出していた。
遠く、市井と後藤が笑いあっている方向へ。

(ダメ!そっちに行っちゃ‥‥!)

石川は引き止めようと追いかけた。
しかし、その後ろ姿はどんどん小さくなっていく。

(なんて足が速いの!?
 追いつけな‥‥。)
 
(ダメだったら!)
148 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時35分23秒

「‥‥だめぇ!」

(はっ。)

自分の声で目が覚めてしまったらしい。
肌に感じるシーツはしんとして冷たかった。

「‥‥夢‥‥‥。」

(続きは‥‥どうなったんだろう?
 ‥‥‥ううん。考えたってそんなの決まってる。)

「でも。」

(後藤さんの幸せを願おうと心に決めてた筈なのに。
 私、止められなかった。もう一人の私を。)

149 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時36分55秒
 
‥‥旭川は晴れ時々曇り‥‥帯広は曇り一時雨‥‥。

我にかえって聞こえてきたのは、
ひとりで勝手にしゃべっているテレビだった。

どうやらスイッチを消し忘れて眠ってしまっていたらしい。
天気予報をやっている。

 ‥‥札幌は晴れでしょう。降水確率は午前午後ともに0%です。
 つづいて全国の天気です。東京は曇りのち晴れ‥‥

「東京‥‥。」

現実が石川を引き戻す。

(東京に帰ったら、あなたの前でちゃんと普通に笑うの。
 ‥‥‥ポジティブの魔法をかけて。)

自分にそう言い聞かせると、額をコチっと叩いてため息をついた。


“次に会う時、私たちは普通のメンバー同士に戻りましょう”





150 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時37分53秒

石川はテレビを消して再びベッドに入った。
今みたいな夢はもう見ませんように‥‥と、願いながら。



151 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時38分43秒

どのくらい時間が経ったのだろうか。
騒がしい音で石川は目が覚めた。

ピンポーン。ピンポーン。

部屋の中に響くインターホンの音。

152 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時40分02秒

(こんな夜中に一体誰!?マネージャーさん‥‥かな?
 でもひょっとしたら怖い人かもしれない。どうしよう。)

石川は怖くなって水の入ったペットボトルを持って、恐る恐る
ドアに近付いた。腰がかなり引けている。

するとドアの向こうから小さな声がした。

「おそくにごめん。ごとーだよ。ここを開けて。」

石川の胸は誰の声を聞いた時よりも熱く『どくんっ』と鳴った。
思わず、足下にペットボトルを落としてしまった。

ゴトン。

ドアの外から再び声がした。

「梨華ちゃん、そこにいるんでしょ?
 お願い、開けて。」

たしかに後藤の声だった。
153 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時43分05秒

(後藤さん!?)

動揺を抑えて鍵を外す。
ドアをあけると、見慣れたデニムのジャケットを着た後藤が立って
いた。

また夢なのかと思い、石川は目を丸くした。
息が止まりそうだった。

「ど、どうやってここまで!?」

「仕事が終わってから、誰にも内緒でぶっとんで来ちゃった。
 いやぁ、さすがに北海道まではキツかった。(笑)」

宿泊客でもない者がホテルをうろついているのを見つかれば大問題
である。石川はあわてて後藤を部屋に入れた。

「あぁ‥‥どうしてこんな‥‥。
 もしホテルの人にでも見つかったりしたら‥‥。」

「だいじょうぶ。そんなヘマはしないよ。
 それよか、なんでこんなに暑いのー?北海道だってのにさぁ。」

後藤はいつものように事も無げに言ってみせると、苦笑いしながら
ジャケットを脱いだ。

154 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時45分34秒

石川の心は乱れていた。
別れの覚悟がくじけてしまいそうで、悲鳴のような声で後藤を
責める。

「あの、私のメモを読んでくれなかったんですか?」

「読んだから来たんだよ。
 梨華ちゃん、ごとーは‥‥。」

後藤は石川に近付こうとした。
石川はどうしたらいいのかわからなくて思わず後ずさった。

「梨華ちゃん‥‥。」

さらに後藤が石川に近付く。
石川は窓のほうに退いて、後がなくなった。
155 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時46分45秒

バンッ。

石川の耳元で大きな音がした。
後藤が両手でカーテンに手を付き、石川を押さえたのだ。
身体を窓と後藤に挟まれて、身動きがとれない。

石川の視界には後藤しか入らなくなった。
後藤の視界にも石川しか入らなくなった。

息がかかりそうなほどの距離で、2人は見つめ合った。

「あれから市井ちゃんに会って、ちゃんとゆったから。」

「え?」

「ごとーには失いたくない人がいるって。すごく大切な人だって。
 それが梨華ちゃんだってこと、市井ちゃんもわかってくれた。」

「‥‥市井さんが?」

「『泣かすなよ〜!』って言ってくれたよ‥‥。」
156 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時47分30秒

「梨華ちゃん、聞いて。
 ごとーにとっては、市井ちゃんはお姉ちゃんみたいな人で‥‥。」

「でも‥‥‥。」

“市井‥‥ちゃん。”

胸に突き刺さったあの言葉が忘れられない。
やはり石川は市井と後藤の絆の深さ思うと戸惑いを隠せなかった。

(後藤さんのことを幸せにできるのは市井さんなんだもの。
 私じゃ‥‥ダメなんだ‥‥もの。)

斜め右下に視線を落とす。
157 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時49分02秒

目をそらされた瞬間。
後藤は両手で押さえていたカーテンを苦しそうに握り締めると、
石川の胸に顔をうずめて駄々をこねるように激しく言った。

「ごとーは梨華ちゃんじゃなきゃ、ダメなんだよぉっ!」

158 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時49分55秒

後藤は石川の胸に熱い息を吐いた。
石川の心に届くように。

「それが‥‥どうしても言いたくて‥‥ここまで来た‥‥。
 ‥‥‥梨華ちゃ‥‥。」

顔を上げて、後藤はすがるように石川を見つめた。
159 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時53分28秒

(私じゃなき‥‥‥だめ?)

どくん。
どくん。
どくん。

何よりも。
後藤のまっすぐな瞳と言葉に激しく打つ自分の鼓動を、石川は
感じていた。
160 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時54分45秒

後藤の髪から漂う汗の匂いが石川の鼻腔をくすぐる。

(こんな時間にこんな遠くまで飛行機と、タクシーを飛ばしてきて
 くれた。私に気持ちを伝えるだけのために。)

石川の胸に打たれていた楔が外れる。
これ以上の真実(まこと)は無いと―。


「後藤さん‥‥‥!」

石川はありったけの力で後藤を抱きしめた。
もう泣かないと誓ったはずの、その瞳には涙が溢れていた。

161 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時55分45秒


部屋にはぼんやりとした間接照明だけが灯っている。
抱きしめ合ったまま、2人はベッドの中に身を投げた。



162 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時57分44秒

アタシは恐る恐る手を差し伸べて、梨華ちゃんのやわらかい頬に
触れる。

息を殺して、大切なものをさわるように。 指先が緊張してる。

梨華ちゃんの存在をてのひらで実感してる。
それだけで、アタシは天にのぼってる心地がする。

“私はここにいますよ?後藤さんのすぐそばに。いつでも。”

梨華ちゃんの頬はあの時と同じに温かくて、なにもかも癒される思い
がした。

163 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)07時59分02秒

アタシが頬をそっと撫でると、梨華ちゃんの手が重なった。

重なった手は唇に導かれて。
梨華ちゃんは瞼を閉じたまま、愛おしそうに、アタシの指に唇を
あててくれた。

『あぁ‥‥梨華ちゃんの‥‥くちびる‥‥だ。
 ずっと欲しかった‥‥。』

低い声で呻くと、 アタシの指先がどんどん熱くなっていく。
ドクドク言ってる。

まるで血がすごい勢いで身体中を駆けめぐってるみたいだ。
身体中が熱くなって、涙が溢れてきた。



164 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)08時00分16秒


頬に雫(しずく)を感じて私は目を見開いた。

目を真っ赤にして、唇をかみしめて、私を見つめるあなたの顔。
涙をこらえてるの。
私はあなたの濡れた瞼を指でそっと拭う。

『‥‥ふうっ。(笑)』

吹き出すように唇がゆるんで、照れくさそうに笑うあなた。
そんなあなたを見ただけで、私は胸がいっぱいで何も言えなくなっ
ちゃったの。
165 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)08時01分21秒


ねぇ、夢なら覚めないで。
今、私はあなたと一緒にいるの?

ずっとそばにいてもいいの?


ねえ、夢なんかじゃないよね。
今、ごとーは梨華ちゃんと一緒にいる。

ずっとそばにいたいんだ。


166 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)08時04分14秒

アタシはシャンプーされた梨華ちゃんの前髪のいい匂いを、
胸いっぱいに吸い込みながらその額に唇をつけた。

梨華ちゃんは瞳を閉じて、小さな吐息を漏らした。

アタシは無防備になった梨華ちゃんの頬や、瞼、唇にキスの雨を
降らせる。くちづけをしている間、梨華ちゃんはアタシの髪を優
しく撫でてくれた。アタシは右手を下にのばして、梨華ちゃんの
パジャマのボタンを外す。

きれいに浮き出た鎖骨にくちびるを這わせてきつく吸った後、
手を梨華ちゃんのやわらかな胸に降ろしていった。

梨華ちゃんはアタシの首に腕をまわして、せつなそうにため息
をついた。
167 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)08時05分34秒

しっとりとした胸のふくらみの奥には、ごとーが一番キスしたい
モノがある。

アタシはここに、どれだけ痛みを与えたのだろう?
どれだけ傷つけたのだろう?

きっといっぱい痛くしちゃったよね。
もう絶対にそんな思いはさせないから。誓うよ。

アタシは梨華ちゃんの胸に顔をうずめて囁く。

『ここ、痛かったよね。ごめんね?
 梨華ちゃんは市井ちゃんの代わりなんかじゃない‥‥。
 ごとーにとって誰よりもそばにいてほしい人。
 いちばん、大切な人‥‥だよ。』

アタシは愛する人の名前を何度も呼びながら、夢中になって胸に
キスを浴びせた。

168 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)08時07分09秒

私の身体にキスをする度に、私の名前を何度もせつなそうに
呼ぶあなた。

『梨華。』

まるで泣き出しそうな声で。

『‥‥‥梨華。』

甘える囁き声で。

『梨華っ。』

つつみ込むような力強い声で。


あなたの唇がやさしく激しく私の胸にふれる。
ふれたところに、深い想いが染み込んでいく。

ねぇ、消え去っていくの。張り裂けそうだった胸の痛みも。
あなたのくちづけで‥‥。
他の誰でもない、私だけを見てくれてるあなたの―。

私はからだじゅうの力が抜けてしまって、吐息の中であなたに
身を任せた。
目からは涙がこぼれて、枕を濡らして。

「私にとっても、後藤さんは‥‥一番大切な人。
 私の‥‥ふ‥‥‥。」
169 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)08時08分23秒


アタシは梨華ちゃんの言葉を吸い込むようにくちづけると、
やわらかい唇を舌でゆっくりとなぞった。

半開きになった梨華ちゃんの口の中から吐息が漏れる。

(言葉は、もういらない。)

ひとまわりして、梨華ちゃんの中になだれ込む。

狂おしいほどの、長い長いくちづけ。
くちびるが離れてもさみしくならないように、梨華ちゃんの中で
思いきり絡みあう。

『……んっ……くう……っ。』

息苦しさも、胸苦しさも、梨華ちゃんの中に、全部吐き出して。



170 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)08時09分32秒

私は感じてた。
私の中で溢れるあなたの熱い激情を。

痛み。
苦しみ。
悲しみ。
喜び。

淋しがりなあなたのぜんぶを受け止めたい。
私の力でできることならなんだってしてあげたい。

‥‥‥あなたを、愛してる。


171 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)08時11分17秒

梨華ちゃんはアタシの頬を両手で支えてくちづけに応える。
アタシを受け止めると、口の中いっぱいに満たされたそれを
ゴクリと飲み込んだ。


お互いの服をすべて剥ぎ取って
アタシ達は身体を重ねる。

絡み合う指と指。
見つめ合う瞳と瞳。
同じ思いを分かち合いたい。
アタシは梨華ちゃんの耳に囁いた。

『‥‥は‥‥梨華ちゃんと一緒に‥‥いき‥‥たい。』
「う‥‥ん‥‥一緒に‥‥いこ?」





   
   “未来へ。”



172 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)08時12分10秒

愛しき人よ 抱きしめていて 

いつものように やさしい時の中で

この手握って 見つめて私だけ

You’re everything

You’re everything 

あなたが想うより強く

愛せる力を勇気に 今かえていこう


173 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)08時13分06秒


朝。
恋人達の一夜が明けて、
やわらかい陽射しがベッドの中の2人を包んでいる。

石川は頬に心地よい温かさを感じて目が覚めた。

「ん‥‥‥‥。」

「ふ‥‥おはよ。」

まっ先に目に映ったのは、おだやかで深い色を宿した後藤の瞳。
心地良かったのは後藤の手のひらだった。

「眠るのもったいないから、起きてた。(笑)」

後藤は照れくさそうに笑った。

「え、じゃあ‥‥私の寝顔をずっと見てたんですか?」

「うん。」

真顔で答える後藤に、石川は少し恥ずかしそうに笑った。

174 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)08時14分12秒

目が覚めても、確かに有る幸せな現実。

それは温かくて、いい匂いで、
石川はちょっとだけ泣きそうになった。

見つめ合って、2人だけのゆっくりとした時間が流れていく。

175 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)08時15分22秒

「あっ、後藤さん、飛行機の時間‥‥!」

石川は大変なことに気が付いて、バッと身体を起こした。
後藤にも午後から仕事が入っている。急いで東京へ戻らなくては
いけない。しかし後藤は服を着る気配も見せずに言った。

「だいじょうぶ、だよ。ギリギリまで。
 梨華ちゃんが目を覚ますまで待ってたかったから‥‥。」

「起こしてくれればよかったのに。」

「あはっ。だってきもちよさそーだったんだもん。」

後藤は上半身を起こすと、石川の濡れた口元を指で拭った。
石川は口元をバッっと両手で覆って、赤面した。

「エへへッ。(笑)」

石川の赤く染まる頬を、後藤は目を細めて見つめながら、口元を
ゆるめゆっくりと微笑む。ひざと一緒に抱えていたシーツに顔を
半分かくして。

「ゴホン。あの、後藤さ‥‥。」

「しーっ、なにも言わないで。
 もぉ少しだけ、ひたっててもいいでしょ?」

「‥‥‥‥あ‥‥‥。」
176 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)08時16分43秒


やさしい時の中で

あなたは私をぎゅっと抱きしめてくれて。

私はゆっくりと瞼を閉じた。

あなたのぬくもりだけを感じて。

想うのはいつも‥‥。


You’re everything 
       
            My everything....



HAPPY END
 
177 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月31日(水)08時34分33秒
『Everything』、なんとか終了致しました。

最初はもっとドロドロしたお話にしたかったのですが、力が無くて
書けませんでした。泳げもしないのに、大河を渡ろうとして案の定
溺れたという‥‥。(笑)
開き直って書けるものだけを書こうと思いました。(汗)

最後までおつき合いくださった方、どうも有難うございました。
178 名前:aki 投稿日:2001年10月31日(水)20時17分36秒
今更新されているのに気が付き読みました!
あうぅ感動です(T_T)
素朴だしとてもシンプルに書かれているのに私の書くような物とは
全く比べ物にならないほど二人の感情が伝わってきます。
二人が交互に感じている胸の中の気持ちの表現などとてもすごいなぁと
感心しちゃいます。
ハッピーエンドで良かったです。
いしごまでもとても素敵な作品を読めて嬉しかったです。
そして最後に、お疲れ様でした^^
179 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月01日(木)00時30分19秒
前スレからずっとずっと読ませて頂いてました。
大量更新お疲れ様でした!
本当に本当によかったです。
感動しました!
後藤も石川も、ふたりが一生懸命で大好きです。
ステキな作品をありがとうございました。
180 名前:瑞希 投稿日:2001年11月01日(木)01時21分29秒
ふたりの気持ちがちゃんと通じ合って、本当によかったです。
途中で何度も泣きましたが、感動しました。
切ないくらいに互いを想い合う描写に、毎回胸を鳴らせていました。
ステキな作品を、どうもありがとうございました。

最後に、作者さん、お疲れ様でした。
181 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月02日(金)04時16分59秒
ありゃりゃ〜?
いつのまにか終わってますね!
作者さん、とても感動しました。
終わり方も、無理やり終わらせるようなやり方ではなかったので、
とてもよかったです。
最後に、素敵な作品をありがとうございました。
そしてお疲れ様でした。

ところで、次回作はここでやるんですか?(w
182 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月02日(金)19時13分20秒
>178さん、感想有難うございます。

 >二人の感情が伝わってきます。
 そう思っていただけるのも、読み手の方の豊かな想像力が
 あってこそだと思っております。

 >嬉しかったです。
 こちらこそ、そのように思って頂けてとても嬉しいです!
 ここ一ヶ月ああでもないこうでもないと考えましたが
 『Every‥‥』を最後まで書くことができてホッと
 しております。度々のレス、本当に有難うございました。

>179さん、感想有難うございます。

 >ふたりが一生懸命で
 気に入っていただけて、本当に嬉しく思っております!
 こちらこそ読んで下さってどうも有難うございました。
183 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月02日(金)19時14分10秒
>180さん、感想有難うございます。

 途中、「後藤と市井の過去が‥‥」とのレス(92)をいた
 だいて、確かにそこが書けてないと駄目だと思い、後藤市井
 の回想を入れてみたのですが。きちんと描ききることができ
 ず、力不足を痛感致しました。(汗)

 しかし、180さんのそのレス(92)が『Every‥‥』
 の道しるべになったのは間違いありません。
 本当に感謝しております。

 レスを読ませて頂いて、振り向いてくれない後藤さんに石川
 さんがずうっと片思いしているお話などを書いてみたいと思
 うようになりました。(笑)
 感想を頂けて嬉しかったです。どうも有難うございました。 
184 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月02日(金)19時16分51秒
>181さん、感想有難うございます。

 >無理やり終わらせるようなやり方
  それだけはなんとか避けたいと思っておりました。
  ラストをいい方にとって頂けて嬉しいです。

 >次回作はここでやるんですか?(w
  最後と書いたので、誤解が‥‥すみません。
  『Every‥‥』のお話がラストということで。
  まだこちらで「いしごま」を書かせて頂きたいと思って
  おります。(汗)
  『おまじない』のいしごま以外のいしごまにも挑戦して
  みたいと思っております。
185 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月02日(金)21時08分13秒
今から作者さんの次回作期待しております
それにしても、ついにいしごまの時代が来ましたね(ニヤリ
186 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時08分42秒
>185さん、レス有難うございます。
 >ついにいしごまの時代が
  良い時代ですね。(笑)
  少しでも盛り上げることが出来れば。微力ですが‥‥。

御期待に添えるかどうかわかりませんが、更新したいと思います。
実は『Every‥‥』前半部分で行き詰まった時、憂さ晴らしの
ように一気に書いたのが、以下のお話になります。
一応『おまじない』の2人の話なのですが、タイトルからしてベタで、
内容も‥‥。『Every‥‥』の後にコレを続けていいものか迷い
ました。(汗)

以前、ハロモニで王女様を救え!というコーナーがあり、それを
若干(?)別物にして再構成したものです。後藤さんの『一気食い』
と『梨華ちゃ〜ん愛してるよ〜』を見た時に、どうしても使いたいと
思って作りました。

このお話にはエロが含まれています。御注意下さい。
それでは、以下、『お姫様と騎士(ナイト)』です。
187 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時10分26秒
『お姫様と騎士(ナイト)』


今日もあいかわらず仕事がいそがしく。
それはいいんだけども。
娘。のみんなは収録の出番を待っている間に、楽屋で雑誌に載るポラ
のチェックをしてる。

「ののぉ。これすごいへんがお。」
「あいぼん、写真の目がよっているのれす。」
「ねぇ、へんがおゴッコしない?」
「やるのれす。いっせーのーでっ。」

「ぷっ。ワハハハハッ」
「ひひひひひっ」

「ちょっとおまえら、うるさいんだよっ。ちったぁしずかにしろ!」

「やぐちさんがおこった〜。」
「やぐちさんがおこったのれす〜。」

あーあ、辻加護また怒られてるよ‥‥。
一つのテーブルに集まってさ、こぉいう時ってほんっとさわがしいん
だよね。
188 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時12分45秒
でも今、アタシはその輪に入ってなくて。
アタシはナニしてるかっていうと、一人部屋の隅っこでMDを聴いてる。
ヘッドフォンから流れてるのは今度リリースされる『溢れちゃう‥‥BE
IN LOVE』。レコーディングにそなえて歌詞とメロディーを完璧に
覚えなくちゃいけないんだ。2曲目がリリースされるのはごっつぁん的に
超ウレシーんだけど、これがまたほんとにエロい曲でさぁ。
エロいのは嫌いじゃないけど、やっぱね。こうもストレートだとさぁ。
親も心配するじゃない?あれ?しないってか。
189 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時14分28秒
‥‥って、何が言いたいんだアタシ。
本当は難しいR&Bでハードなダンス(かっこいいダンサーさん付き)
の、よーするにごまかしが効かない歌だから、ごとーマジでがんばらな
きゃって思ってる。うん。
190 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時16分19秒
がんばらなきゃだけど、アタシはイマイチ御機嫌ナナメ。
なんでかっていうと最近梨華ちゃんがヨッスィーと仲よさげなんだよぉ。
ほら今だって2人、あんなにくっついてポラ眺めちゃってさ。

「梨華ちゃん、これそ〜と〜かわいく写ってるよ。」
「ヨッスィーも、ほら、こっち。カッコイイ。」
「あ、いいねー。梨華ちゃんと一緒に写ってるやつ。
 一番イイかもしんない。」
「うふふ。ポラのチェックって楽しいね。」

あぁもぉ、そんなにうれしそうに笑わないでよ。
ごとーが見てないと思ってそぉいうことしちゃっていいわけ?梨華ちゃん。
ごとーのこと、ずっと好きでいてくれるって言ってくれたのに‥‥。
191 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時18分46秒
一人だけ離れてブルー入ってるアタシに、梨華ちゃん達の隣にいたカオリ
がとどめの一言。

「ヨッスィ−と石川ってさ、お似合いだよね。
 こう寄り添ってるところを見ると、か弱いお姫様と男前な騎士(ナイト)
 って感じしない?」

ツージーと『へんがおゴッコ』してたはずのかぼ(加護)ちゃんも余計な
合いの手をいれちゃって。

「リカちゃんがお姫様でぇ〜、ヨッスィーがナイトやねんなぁ。」

そんなふうに言われて梨華ちゃんってば、すごくうれしそうにヨシコと
見つめあってるんだよ。

「やだ、どうしよう、ヨッスィー。(笑)」
「いいんじゃない?『お姫様、お手をどうぞ。』
 なんちゃって。アッハッハ。」

だーもぉっ。
梨華ちゃんってば“はっぽーびじん”なんだからっ。
192 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時22分00秒
隅っこでアタシがやきもきしてるのも知らないで、カオリはニヤニヤし
て話を続ける。

「この間のMUSIX!の心理テストでも相性ピッタリだったっしょ?
 カオリ憶えてるもん。石川が『恋人には守ってもらいたいタイプ』で、
 ヨッスィーが『包容力があって恋人をぐいぐいひっぱっていくタイプ』
 だっけ。」

ちょ……冗談やめてよ、カオリ。
あん時だってそんな結果が出て、ごとーは超嫌なかんじだったんだから。
不機嫌なのが画面から伝わっちゃいそーなくらい。
(ちなみにアタシも梨華ちゃんと同じ『恋人には守ってもらいたいタイプ』
 だった)
193 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時22分54秒
梨華ちゃんはポラを選ぶ手を止めて、苦笑いしながらカオリに言った。

「でも飯田さん、あれは恋人との相性のテストだったじゃないですか。
 石川はお仕事のこととか、よくヨッスィーに話を聞いてもらっては、
 いますけど‥‥。」

「ホラホラ、聞いてもらってるんでしょ?
 やっぱ、ふたりは運命の赤い糸で結ばれちゃってるのかもね〜?」

カオリ、何言ってんの?
そんなの即否定するんだから。梨華ちゃんは。
梨華ちゃんにはごとーっていうスバラシイ恋人がいるんだから。
194 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時24分37秒

「やだ、飯田さん。うふふ。(笑)」

おいおい、そいだけ?
ってゆーか、笑ってるし。

「梨華ちゃん、この際、飯田さんの言う通りカップルになってみる?」
「まぁ、ヨッスィーったら。(笑)」

ブチッ。(怒)

梨華ちゃんはやさしくてとてもイイコだけど、こーゆーところがごとーは
許せない!だれにでも愛想良すぎ!(泣)
ヨシコが本気にしたらどぉすんの?
ヨシコもっ。薔薇の花とか背負って得意そうに抱き寄せてるんじゃないよ!

ごとーはテキトーだから‥‥んぁ、ちがった広い心の持ち主だからめったに
怒らないけど今度ばかりは、怒ってるんだからね‥‥。
195 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時25分49秒

「すいませーん、モーニング娘。さん、スタジオ入りお願いしまーす!」

スタッフの人から出番の声がかかった。
ばたばたと出ていくメンバー。
アタシは嫉妬を抑えられなくって、楽屋を出ていこうとした梨華ちゃんの
後ろから低い声で囁いた。

「りがじゃ〜ん、悪いけど、今の会話、全部ぎごえでだよー?
 たのしそうだったね‥‥。お・ぼ・え・と・い・て!」

「えっ、後藤さん!?」
196 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時27分06秒
アタシが「覚えといて」と言ったのにはワケがあるのだ。
今日のハロモニの収録は『王女様を救え』。ボックスに閉じ込められた
王女様をめぐってお助け娘。とお邪魔娘。が勝負をするゲームなんだけど、
今回の王女様役は梨華ちゃんに決定していて、ナント、ごとーがお邪魔娘。
なんだよぉ。

お助け娘。が勝てば王女様は解放されるけど、アタシのいるお邪魔娘。が
勝ったら王女様の梨華ちゃんは天から降ってくるカラーボールの乱れ打ち
にあっちゃうんだもんね。

ごとー、今、超やる気かも。1年に一回ぐらいの。
だってお仕置きするんだもん。しちゃうんだもん。
ヨッスィーといい感じだったこと後悔させちゃうんだからねっ。
梨華ちゃん、覚悟!
197 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時28分47秒
収録が始まると打ち合わせ通り王女様の梨華ちゃんはボックスの中に入れ
られて。お助け娘。に指名されたのは(これも打ち合わせ通り)お姉さん
チームのやぐっつあん、圭ちゃん、カオリの3人。お邪魔娘。はごとーと
ヨシコとかぼ(加護)ちゃんとツージー。
なっちはものもらいで欠席。

誰が考えたんだか知らないけど、一回戦はゼリー早食い競争だって。
制限時間内にゼリーを多く食べたチームが勝ち。

司会をしている裕ちゃんの合図でゲームが始まった。
チームに分かれて、テーブルの上に並べられたたくさんのゼリーをリレー
形式で食べていく。

ゼリーを1個食べきれば交代で、もう4周目に入ってる。

あ、ツージーってば、おいしいとか言ってゆっくり味わってんじゃないよぉ!
お助け娘。チームに負けてんじゃんっ。
198 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時30分27秒
ツージーが食べ終わって、やっとアタシと交代した。
なりふり構わず、大きなゼリーをひとくちで口の中に放り込む。
口からはみ出しそうになるゼリーを手で抑えて、上を向いて一気に飲み
こんだ。

これにはスタジオも爆笑で。‥‥う〜特技だとは思われたくない。

アタシの思惑なんて誰にもわかるはずなく。

アタシは7コ目のゼリーもひとくちで飲んだ。
みんなもいい加減キツそうだ。
いったいいつまで続くのー?
199 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時31分54秒
「はい、終了〜。」

裕ちゃんがやっとストップをかけた。
結果は、お邪魔娘。チームの逆転勝ち!やったね!

負けチームのやぐっつぁんが苦しそうにお腹をかかえてる。
かかえながら、悔しそうにアタシに言った。

「もう食えない〜。ごっつぁんの一人勝ちだよ。
 口の中ど〜ぉなってんの?今回、もうめっちゃ張り切ってたでしょ。
 どうしたの?」

それは梨華ちゃんにお仕置きをしたいから。
           ‥‥おっとっと。あぶない。あぶない。

「あー、ごとーおなかすいててぇ〜。」

アタシはへらへらと、どーでもいい答えでごまかした。
200 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時34分08秒
一回戦はお邪魔娘。が勝ったから、ボックスの中の梨華ちゃんはごとー達
お邪魔娘。のスイッチでカラーボールのシャワーを浴びるハメになった。
すいっち、お〜ん♪

どどどどど。

「痛っ、イタタ‥‥!」

カラーボールは梨華ちゃんの腰のあたりまで降ってきて、下半身をうめつ
くした。痛がる梨華ちゃん。でも笑ってる。
まだまだ。よ〜し、次も勝ってもっとボールを落とさなきゃ。
201 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時35分27秒
2回戦は、風船割りゲーム。
風船を素手でたくさん割ったチームの勝ちだって。
梨華ちゃんの(お仕置きの)ためだもんね。ごとーはがんばるよ。

よ〜い、スタート!
枠の中に放たれた風船をメンバーが追いかけて必死に割っていく。

バンッ!

割れる時に手が痛いじゃないのさ。
でも負けない。ごとー負けるのは大嫌い。


ばんばんばんばん
アタシは次から次へと割っていった。




202 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時36分43秒
「はい、終了〜。
 おい、ストップやて。ごっちん!」

裕ちゃんに止められちったよー。まだいけたのに。
でも結果はまたまたお邪魔娘。の勝ち。ヤッホ〜ぅ!
カオリってば怖くって、風船2個しか割れなかったんだって。
ごとーは10個は割ってたよ。
気合いがちがうっての。

よゆうの連勝で、梨華姫はお邪魔娘。のエジキになっちゃうことが大決定。
ボックスの中では梨華ちゃんが不安そうに上を覗いて、降ってくるカラー
ボールを待っている。
さあ、ごとーが梨華ちゃんにお仕置きするんだからねっ。

「ごとーにやらせて。」

アタシはボールを落とすスイッチをツージーから奪い取った。
203 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時37分57秒
「きゃーやめてぇー!」

腰までカラーボールに埋まって、かわいらしい声で絶叫する梨華ちゃん。
そんなこと言ったって、やめないよ?

「いや〜。(泣)」

梨華ちゃんがまゆげを八の字にして嫌そうにさけぶのを聞いてると、
アタシはなぜだかウキウキしちゃって、なんかもぉ、アドレナリンが
大放出って感じで。
とびっきりの笑顔で梨華ちゃんを見た。

ごとーが梨華ちゃんのこと、どんなに怒ってるか、思い知ってよ!

「梨華ちゃーん、愛してるよ〜!」

アタシはハイになって叫ぶと、スイッチを押した。
204 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時38分42秒
どどどどど。

「きゃ〜痛い、痛いです。ごめんなさい!」

もっと、聞かせてよ。
そのかわいらしい声で、『ごめんなさい』って。
そしたら許してあげる。

どどどどど。

「いや〜、 助けて!」

ねぇ、アタシを見てよ。
潤んだ瞳で、『助けて!』って。
そしたらごとーが騎士(ナイト)になって、助けてあげる。
205 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時40分06秒
落ちてくるカラーボールは梨華ちゃんを頭まで埋めつくしちゃった。
すぐに「ぷは〜」とカラーボールの海から頭を出して無事だったんだけど。
ごとーもさすがにちょっとびびった。でもさ、カラーボールを梨華ちゃん
に落とすのはすごく快感だったりしちゃって。
って、アタシってば、実はそぉいう趣味があったの?
どーしよ。そのうち梨華ちゃんのこと、ムチでぶちたくなったり、縄で
しばりたくなったりしたら。

「なんだかんだゆーても、石川うれしそうやんか。
 痛いですーとかゆうて、ほんまは喜んでるんちゃうか?」
「梨華ちゃんはM(マゾ)だから。イジられててもうれしそうだし。」

裕ちゃんとやぐっつぁんがしゃべってる。
それってヤバイよ。ごとー危ない道に走っちゃうかも。
206 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時40分52秒
収録が終わると、ヨシコがまっ先に梨華ちゃんを心配してそばに駆け寄った。
ゲームとはいえ、誰も頭まで埋まっちゃうなんて思わなかったから。

「梨華ちゃん、大丈夫?
 ごめんね、痛かったでしょ?」
「ううん、平気。こうみえてもテニスで鍛えてたもの。(笑)」
「っか〜、麗しいねェ、アンタ達は。ごちそーさま。」

ちょっと圭ちゃんまでそーゆうこと言う?
アタシは梨華ちゃんのそばに寄りそこねて、しらんぷりしていた。
207 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時43分44秒
そりゃあ、ヨシコは親友としては最高にいい奴だよ。
ごとーはヨシコがモーニングに入ってきた時から、仲良くしてるし。
よく知ってる。裏表がなくて、頼れる奴だし。

でも心配なことがひとつ。それはごとーとヨシコの趣味が似てるってこと。
今日のお昼はピザが食べたいと思ってたら、ヨシコも食べたいと思ってた
とか。考えてることが一緒だったりする時があんだよね。
服の趣味だって一緒でさ、だからよく買い物とか一緒にいくんだけど。
この間も、お揃いのヒスの服を持ってたことがあったっけ。ぐーぜんにも
同じのを同じ日に着てきちゃって、お互いビックリしたことがあった。


ってことはよ?
ごとーが好きな梨華ちゃんを、ヨシコが好きになる可能性って超高くない?
それって超ヤバイよ。

でも、梨華ちゃんのことは譲れないから。いくら親友のヨシコでも。
208 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時44分53秒
その後、ごとーはレコーディングがあって、梨華ちゃんとは別行動になった。
レコーディングはイマイチ調子が出なくて、つんくさんやスタッフの人に
迷惑をかけちゃった。
209 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時46分48秒
夜10時すぎ。
アタシは気を取り直して、梨華ちゃんのマンションに帰ってきた。

ピンポ〜ン。

「だだいま〜。」
「お帰りなさい。お疲れさま。」

いつものように梨華ちゃんが明るく迎えてくれる。
ごとーの心配はとりこし苦労なのかな?


熱いシャワーを浴びて一息ついてから、居間のソファーに座って2人で
テレビを見た。あの圭ちゃんが涙するっていう『あいのり』。
でも疲れてるせいか内容は頭に入ってこない。
アタシは猫のように寝転がって、梨華ちゃんのハリのある太ももに頭を
のせた。だって、これがソファーでのごとーの定位置なんだも。
210 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時47分50秒
眠気も入って、きもちよ〜くなってきた頃、梨華ちゃんが話しだした。

「この番組、ヨッスィーも毎回見てるんですって。」

テレビの画面を見ながら、何気なく言ったみたいで。
でもどぉしてよりによってヨシコなの?わざと?
ごとーはお昼のこととか、悔しくなって、むくりと頭を起こすと、梨華
ちゃんの口を唇で強引に塞いだ。

「……んっ……。」

「‥‥ごとーと2人の時に、ヨシコの話はしないで。」

目もあわせることができないで
いじけた口調のアタシ。
駄々をこねてるみたいでちょっと恥ずかしくなった。
ごとーは梨華ちゃんみたいに大人になれないよ。
211 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時49分51秒
それでも梨華ちゃんはいつもの高くて甘い声でやさしく言った。

「今日のこと‥‥まだ怒ってるんですか?あの時は、話を合わせなきゃ
 その場の雰囲気を壊しちゃうかもって思って‥‥。」

きっと梨華ちゃんはごとーのことをまっすぐに見て話してる。
その視線から逃げるように、アタシはテレビの方を見て投げやりに言った。

「ヨシコとイチャイチャすることが、その場の雰囲気を壊さない
 ことなんだ!?」

「‥‥‥‥‥。」

梨華ちゃんは 一瞬言葉を詰まらせた後、
少し哀しそうな声で言った。

「ねぇ、私たちの関係って、絶対に秘密じゃないですか。
 表面なんでもないフリをして。だから、お互い誤解しちゃうこともあると
 思うの。」

「‥‥うん。」

ごとーは梨華ちゃんのいる方を向けないまま、おとなしくうなずいた。
212 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時51分40秒
「それって不幸なことですよね。
 でも私はふしあわせだと思ったことはないですよ?
 だって、私たちにしかわからないこともあるんだもの。」

言葉が終わらないうちに梨華ちゃんはアタシの手を握ると、自分の頬に
当てた。

そうされると、とっても弱い。
それだけで、ごとー達にしかわからないこと、わかりすぎるほどわかるから。

「‥‥ね?
 今日のお仕事だって、後藤さんがとどめを押してくれて石川は、本当は
 うれしかったんです。落ちてくるたくさんのボールが、あなたの愛情だ
 と思えて。だから‥‥。」

「え?」
213 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時52分52秒
頬をほんのりとさくら色に染めて告(い)う、梨華ちゃんがもう愛しくて。
あ〜、ごとーのバカバカ!梨華ちゃんがそんなふうに思ってくれてたのに、
気づかないなんて。

「くすっ。でも、あんなに大きなゼリーを一口で食べちゃって。(笑)
 石川は本当にびっくりしちゃいましたよ?」

かぁ。(赤面)
だってごとー必死だったんだもん。もしかして、かなりアホだった?
そうだよ。シラフで『愛してるよ〜』なんて、絶対言えないって。
ううう〜、恥ずかしい‥‥。顔から火が出そうだよ。
アタシは梨華ちゃんを上目遣いで見ながら、恐る恐る聞いてみた。

「‥‥ごとー、子どもっぽい?」

梨華ちゃんは返事の代わりに、アタシをギュってすると、こめかみに優しく
キスしてくれた。
214 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時54分21秒
だいたいカオリが梨華ちゃんとヨシコがお姫様と騎士(ナイト)みたいだ
なんて言うから、こんなことになったんじゃないか。

「梨華ちゃんの騎士(ナイト)は‥‥ごとーだから。」

梨華ちゃんは笑みを浮かべてうなずいてくれた。
アタシはうれしくなって、ソファーから床に降りると、梨華ちゃんの前で
かしこまって片ヒザをついた。そいで、いつか本で読んだ騎士(ナイト)
みたいに、梨華ちゃんの指をとって手の甲に軽くキスをした。
( その時、親指と人さし指と小指がしっかりと伸びていたのが梨華ちゃん
 らしいと思った。)

こぉなったら、普段はいえないクサイせりふ、ゆっちゃうんだもんね。

“お姫様のためならどんなことだって、してみせましょう”
215 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時55分20秒
「うふふ。じゃあ、後藤さん、私のお願いごとを一つ聞いてくれますか?」

ずるっ。
アタシは思わず、ずっこけた。

「あのさぁ、梨華ちゃん。お姫様が『後藤さん』はないんじゃない?
 ほらもっと他にふさわしーい呼び方があるでしょ?」

梨華ちゃんは人さし指を鍵みたいなカタチにして(微妙に小指も立っている)、
あごに当てると、すこし考えた。

「‥‥ごっちん?」

がくっ。

「なんかそれじゃ調子狂うよぉ。頼りなさげだしー。」

「‥‥ごっつあん?」

あははー。
もしかして梨華ちゃん、ふざけてる?(怒)

「あの‥‥真希‥‥は?」

ビンゴ!

「最初っからそれでしょ。やっぱ。」
「うふふ。」
216 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時58分05秒
“真希、わたくしを抱いてベッドまで連れていってくださる?”

“かしこまりました。お姫様”

なりきってお姫様のセリフを言う梨華ちゃんってば、もぉさ、ホントに‥‥。
えーと、なんて言うんだ?そうそう、気高くてユウガ(優雅)で。
まるでホンモノのお姫様みたい。

アハッ、ごとーゾクゾクしてきちゃたよぉ。(笑)


“おそれながら‥‥しつれいします!”

アタシは梨華ちゃんの背中とヒザの裏に手をまわして抱えると、ひょいっと
持ち上げた。梨華ちゃんはまさか本当に自分が持ち上げられるとは思ってな
かったらしくて「きゃっ」と小さくびっくりして。けどすぐ首に手をまわし
て、アタシの顔をじっとみつめた。

“しっかりつかまっててください。お姫様”
“はい”

あぁもぉ、ごとーアドレナリン大放出(再)って感じ!
アタシはもうすっかりなりきっちゃって。
217 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)01時59分30秒
わ〜い、お姫様抱っこだぁ。
ごとーが梨華ちゃんをお姫様抱っこしてる!

こぉみえても、ごとーは小さい頃、お相撲大会で横綱になったことがある
んだから。ひょっとしてこーゆー時のために、アタシは力持ちに生まれた
のかな?

うれしくって、抱っこしたままクルクルって回っちゃったり。

「きゃ〜〜〜!」
「カルイカルイ♪ 」
「ご、後藤さんっ。めっ、目が回っちゃいますぅ〜。
 もうストップして‥‥怖いっ。怖いのっ。(泣)」
「あははー。後藤さんじゃないもんね〜。」

“真希、やめて。やめなさいっ”

「はぁい、お姫様♪」

アタシにぎゅっとしがみついてくれるから、ほんとは止まりたくなかった
んだけどね。
218 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時00分26秒
アタシは梨華ちゃんを抱っこしてベッドまで運ぶと、ゆっくりと降ろして
あげた。

“あ、ありがとう”
“どういたしまして、お姫様”

でさ、ついいつもの調子で、梨華ちゃんにおやすみのキスをしようと思
ったんだけど、ちょっと待てよって思って。

「うぁ。騎士(ナイト)はチュ−ジツ(忠実)なシモベ(僕)だから、
 お姫様に手を出したりしちゃイケナイんだ。」


ってことは、キスどころかえっちも‥‥?
今日のお姫さまな梨華ちゃんには、ごとー超そそられてるのに。
‥‥‥クゥ〜ン。おあずけ?
219 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時01分43秒
「あの‥‥えっと‥‥後藤さん?」

そわそわしてるアタシに、梨華ちゃんが耳を真っ赤にして小さな声で言った。

“今は、二人っきり‥‥だから‥‥。
 あなたが何をしても‥‥その‥‥わたくしが許します”

梨華ちゃんの吸い込むような眼差しに捕らえられて、アタシは思わず息を
飲んだ。

「騎士(ナイト)を誘惑するなんて、イケナイお姫様だ‥‥。(笑)」

アタシは胸をどきどきさせながら、自分の服を脱ぎ捨てると、
梨華ちゃんの上に覆いかぶさって、その艶やかな唇にむしゃぶりついた。
220 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時03分32秒
唇のせわしない動きとは対照的に、薄手のカーディガンをゆっくりと
脱がせる。そして、その下に着ていたピンクのチェック柄のパジャマ
のボタンを外していく。しっとりとした肌が露わになって、そこから
する石鹸の清らかな匂いに、アタシは気が遠くなる。

思わず、躊躇してしまう。
侵しちゃイケナイ気がして。

これも、お姫様梨華ちゃんのマジックなのかな?
221 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時12分14秒
手のひらにあまる胸の膨らみにキスを浴びせながら、左手でやさしく
撫でる。膨らみから可愛らしく突き出たものに、指が、てのひらが、
唇が触れるたび、梨華ちゃんは身体を震わせた。

熱い吐息がアタシの髪にかかる。
目を閉じて、何かに耐えてる表情の梨華ちゃんがたまんない。
悩ましげな眉間や、長い睫毛のあたりから、吸い込みたくなるような
色気がふわっと匂ってくる。

『ねえ、何か言ってよ。
 お姫様はお上品だから、何も言わないの?
 おまじない、しなきゃダメなのかなー?』 
 
おまじない、と聞いただけで、梨華ちゃんは耳を背けながら、アタシの
背中にまわしていた腕をぎゅっと強く締め付けた。

汗ばんだ肌に爪が食い込む。
急かされているようで、アタシの呼吸も早くなる。

「 ‥‥ホラ、こんなに感じてるくせに。ふふン。」
222 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時13分52秒
アタシは梨華ちゃんのわき腹を撫でていた右手を、そのまま下に降ろして
薄ピンク色の下着の中にしのばせた。
その身体の、いちばん露を含んだ部分を弄ぶ。

「‥あ‥‥‥‥。」

反射的に梨華ちゃんは、腰を浮かせると、片ヒザを少し立てて股を閉じ
ようとして。

『恥ずかしがらないで。』

アタシは梨華ちゃんの両脚をゆっくりと押し開いた。

「‥‥ぃやっ‥‥‥。」
『いや?(クスっ)もっと正直になりなよ。
 何をしてもいいって言ったのは梨華ちゃんだよ。』
223 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時14分40秒
アタシは梨華ちゃんを言葉と指で弄ぶ。
梨華ちゃんのそこはあたたかい泉みたいで。

『ねぇ、溢れちゃう?』
「やっ‥‥そんな恥ずかしいこと‥‥聞かない‥‥で。」

梨華ちゃんは赤みが差した顔を、両手で隠すようにを覆って。
身をよじって、羞恥と快楽に耐えてる。

ねぇ、もっとねだってみせてよ。
もっと欲しがってみせてよ。
もっとごとーに甘えてよ‥‥‥。

アタシはここ(ベッド)で、全部を出してるのに。

どんどんいぢわるを言いたくなっちゃうよ。
アタシは舌も使って、もっと梨華ちゃんを責めた。

『ここが、溢れちゃうんでしょ?』
「……あンっ……!」

そぉだよ。
その甘い声に、アタシはいつもとろけそうになるんだ。
224 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時15分30秒
『ごとーのも‥‥すごい溢れてるよ‥‥?』

アタシは梨華ちゃんの右手をそっと握ると、
アタシの溢れてるトコロに導いた。

「‥‥‥あっ‥‥‥」

恐る恐る動かす指は、まるで暗い海を潜るような手つき。
アタシのいるトコロはココだよ?
探って、探って。
もうすぐたどり着くよ。

もうすぐ‥‥ホラ。

『……あっ……はぁっ……!』

見つかっちゃった!(笑)

『ごとー‥‥梨華ちゃんの指で‥‥すごく感じてる‥‥。』
225 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時16分22秒
じゃあ、もっと深いところまで来て。

『梨華ちゃんが‥‥欲しい‥‥。』

手をのばして。

『……ん……うぅっ……!』

もっと深いところまで。

『……あぁ……いいっ……!』

一番奥にいるアタシがビクンって震えた。
梨華ちゃんをもっと感じたくて自分から腰を動かす。

『…う…ふぁっ……もっとぉ……。』

まるで熱にうかされるみたいに。

226 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時17分31秒
『はあっ……梨華ちゃんは?‥‥ごとーのこと、欲しい?』

乱れた息のまま、梨華ちゃんの耳元に囁く。
身体を震わせて、ほんの少しだけうなずく。

『ちゃんと言ってくんなきゃ、やだ。』
「‥‥私も‥‥真希が‥‥欲し‥‥。」

濡れた唇が、かすかに動いた。
梨華ちゃんのすがるような瞳をカクニンする。

『ふふ、じゃあ、いくよ?』

恥ずかしさと、歓びで、泣き出しそうになっている梨華ちゃんの顔を
見つめながら、アタシの指はどんどん深いところへ分け入っていく。
227 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時18分19秒
『もっと力を抜いて‥‥。』

指が梨華ちゃんを探してる。
右のほうかな?左のほうかな?
それとも、もっとずっと奥?

「‥‥‥んっ‥‥‥」

どこにいるの?

「‥‥真希‥‥ここ‥‥」

はやく見つけたいよ。

「……お…ぅ……くっ……」
228 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時19分28秒

アタシもたどり着きたい。
梨華ちゃんの深いところまで。

「……はっ…あっ……」

もう少し?
じゃあもっと擦ってみるよ?

「……はっ……ぁ……真希っ……んぅぅ……!」

アハッ、見つけた!
一番奥にいる梨華ちゃん。
ビクンビクンって、すごくおっきく震えてる。

「…ぃ……あっ…ああーっ……!」

浅い呼吸をハッハッと繰り返しながら
アタシの髪をくしゃくしゃにして、迸(ほとばし)るような声を上げる。
229 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時21分57秒
人前で乱れるってことは、とても怖い。
だって無防備になって自分をさらけだすことだから。

でもね、恥ずかしくなんかないよ。
ごとーだって怖いけど、梨華ちゃんの前だと平気になっちゃうんだ。

あぁ‥‥梨華ちゃん。

アタシにしか見せない表情(かお)。
アタシにしか聞かせない声。
アタシにしか見せない激しさ。

アタシの前で全部をさらけ出してくれてるって思えて凄くうれしい。
230 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時23分29秒
‥‥アタシ達は天辺をつきぬけるような勢いで上り詰めて、
 真っ白な世界に浮かんだ。



身体の力が一気に抜けていく。
アタシはそのまま体重を全部預けて、梨華ちゃんの上に舞い降りた。

ほてった身体をまだ離したくない。
ぴったりと重なった胸から、まだ激しく打っている2つの鼓動を感じつつ
アタシはシーツに顔をうずめて大きく息を吐いた。

『………ふぅ。』

お互いの汗がからみついて、余熱が伝わってくる。

「汗、びっしょり‥‥。」
231 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時25分32秒
ふと、シーツにうずめた顔の向きを変えて、すぐ隣にある梨華ちゃんの
耳元にささやいた。

『今日はごとー頑張っちゃった。梨華ちゃん、お姫様だから。(笑)』
「じゃあ、いつもは‥‥?」
『あぅ、いつも頑張ってるケド‥‥!』

なんで梨華ちゃんってば、こんな時にネガティブになるかな。あはは。

『‥‥そんなの、知ってるでしょ?』

梨華ちゃんは瞼を閉じたままで。

『ごめん。重い?』
「ううん。ずっとこうしていたい。」

アタシを受け止めているせいで、梨華ちゃんは力むような声で返事をする。
自分だけが気持ちいいのは悪いなぁって思ってたら
「あなたの温もりと重みが身体全体に伝わって気持ちいいから」
って言ってくれた。

なんかアレだね。お風呂でさ、湯舟に浸かって「あ゛〜」ってなった時
みたい。じわじわ気持ちよくなんの。

でも、ずっとこぉしてたらつぶれちゃうから、アタシは右肘を梨華ちゃん
の腋の下に挟んで、右ひざを付いて、体重を分散させた。

もぉちょこっとダイエットしなきゃ‥‥。
232 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時27分20秒
アタシ達は身体を重ねたまま、お互いの耳にささやきあう。
実はこうしてる時が、アタシが一番好きな時間。意外?
終わった後、すぐに寝ちゃうなんて信じらんない。

「……髪、伸びましたよね。」
『うん。アタシはねー、長いのスキなんだ。』
「……私も、伸ばしたいな。」

耳元でささやく梨華ちゃんの声がくすぐったい。
アタシは照れ隠しに自分の長い髪をひとふさ手にとって、鼻の下に当てた。

『見て見て。ヒゲ〜。』
「やだ。ふふふっ。」

笑わせるとお腹が動いて、重なってるアタシの身体もくすぐったくなる。

『ンフフフッ。』
233 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時28分09秒
2人だけの幸せな時間。
大切な大切な時間。



梨華ちゃんを抱きしめながら、アタシは誓う。
ちゃんと、お姫様を守ってみせるって。
この先、なにがあってもこの秘密の恋を守るって。
だってごとーは梨華ちゃんの騎士(ナイト)なんだから。




‥‥朝、目がさめるとコーヒーのいい香りがした。
234 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時29分14秒
今日もあいかわらず仕事がいそがしく。
モーニングのみんなは、収録の出番を待っている間に、楽屋でわいわい
騒いでる。アタシも今日はその輪に入っていた。梨華ちゃんからは離れた
ところだったけど。

収録の時間になって、スタッフの人から出番の声がかかって。

「すいませーん、モーニング娘。さん、スタジオ入りお願いしまーす!」

バタバタと出ていくメンバー。
梨華ちゃんは最後に出ていこうとして、床のでっぱりにつまずいた。

「きゃっ。」

「危ない!」

とっさにアタシが後ろから腕を引っぱる。
引っぱったはずみで、梨華ちゃんはクルッと向きを変えてアタシの両腕
の中にストンと収まった。

「あ、ありがとう。」

やたっ。
お姫様を守ったよ。ごとーえらい?
235 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時29分55秒
梨華ちゃんの匂いを鼻の奥で感じながら、ごとーはひらめいた。
だって部屋には2人っきりだったんだもん。
抱きしめたまま、おねだりしちゃった。

「(囁き声で)お礼よりも、御褒美のキスがほし〜な〜。」
「(小さい声で)え!?ここじゃダメですっ。」
「(囁き声で)‥‥ねぇ、ダメ?ほら今二人っきりだしぃ〜。」

アタシが耳元で囁くと、梨華ちゃんは困った顔をしてしまった。
でもアタシだって引き下がれないもん。当然のように目を閉じて待った。

「(小さい声で)‥‥‥『チュッ』ってするだけですよ?(笑)」

わ〜い御褒美だ♪

んー。(はあと)
236 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時30分36秒


バタバタバタ!

「忘れ物、忘れ物〜!」

ガチャッ。
237 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時31分19秒
やばっ!
アタシと梨華ちゃんは大慌てで顔を離した。
部屋に戻ってきたヨシコは怪訝そうにごとーたちを見てる。

「ごっちんと梨華ちゃん、なにしてるの?」

「ご、後藤さん、目のゴミ、取れました?」
「え、あ?、う、うん。もーバッチリ。」
「なんか2人、アヤスィ〜ぞ〜。
 ピーターにカクシゴトはナシデスヨー。」
「んぁ、わけわかんないことゆってんじゃないよ。ヨシコ。」
「目のゴミをとってあげてたの。
 後藤さんは睫毛が長いから逆さ睫毛になってよく目に入るんですって。」
「そーそーそー。」
「なーんだァ。ごっちん、目をこするからそーゆうことになるんだって。
 気をつけなよ。」
 「サ、サンキュー、ヨシコ。」
「おおっと、早く行かないとさぁー、保田さんに怒られちゃうYO!」
238 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時32分55秒
ごとー達はあわてて収録スタジオに走った。
なんとかごまかせたからほっとしたけど、嫌な汗が吹き出ちゃった。
ヨシコはなんの疑問もなく、今日の収録のことを話してる。

ヨシコの“よし”はお人よしの“よし”かもしんない。うん。
そこがいいところなんだな。素直ってゆーか。人を疑わないってゆーか。
親友を騙してるのは少し後ろめたいけど、腹に背は代えられないもんね。
ありゃ?背に腹だっけ。どっちでもいーや。

アタシは梨華ちゃんと目をあわせるとぺロっと舌を出した。
梨華ちゃんは人さし指を唇に当てて(微妙に小指も立っている)
『しー。』って内緒のポーズをした。
239 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月10日(土)02時35分39秒

ねぇ、梨華ちゃん。
ホントは梨華ちゃんが、いつもごとーのこと守ってくれてるんだよ。
ごとー、子どもだし。わがままだし。いっぱい困らせるし。
上手く言えないけど、感謝してる。

あ・り・が・とっ。(はあと)

お姫様と騎士(ナイト) おわり。
240 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月10日(土)20時10分31秒
イイ!!!
241 名前:aki 投稿日:2001年11月10日(土)20時38分56秒
いしごまでこんなラブラブはかなり嬉しいです!
私は書けないのでうらやましいです(w
これからも頑張ってください^^
242 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月11日(日)03時51分57秒
こりゃマイッタな〜!!
感想の言葉も出てこないヨ。
243 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月12日(月)10時30分23秒
>240さん、感想有難うございます。

>241さん、感想有難うございます。
 ここの後藤さん視点を意識して書いていたらいつのまにかこんな‥‥。
 ラブラブととっていただけて良かったです。(汗) 

>242さん、感想有難うございます。


次回作で『おまじない』シリーズ(?)、完結にしたいと思っております。
244 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月03日(月)00時51分32秒
短めのものを書きたいと思います。

『おまじない』の2人の話ではありませんので御了承ください。
243で申し上げたことと違えて申し訳ありません。
連作とはいえ、冷静に考えてみて、力不足なのに無理矢理ひっぱって
『完結』を書く必要があるだろうか?と思っているところです。
いつか書けたら書きたいと思っておりましたが、申し訳ありません。

とりあえず、以後はこれまでとは別の石川×後藤でいきます。
石川さんが後藤さんと(飯田さんと吉澤さんと)スキーに行ってという
話です。石川さんと吉澤さんのスキーの実力はわかりませんでしたので、
勝手に決めてしましました。
それほど長くはなりませんが少しずつ更新していく予定です。
それでは、以下、『snowstorm』です。


245 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月03日(月)00時54分31秒
『snowstorm』

長野行きの夜行列車。
乗客のほとんどがスキー客だ。
対面式椅子に、真っ白なコートを着たカオリとピンクのフリースを
着た梨華。その向いに同じような茶色い皮のコートを着た真希と
ひとみが座っている。

窓の外は真っ暗。
明るければ、もうまわりは一面の銀世界のはずだ。
そこには、忙しいいつもの世界とは別世界が広がっている。
246 名前:『snowstorm』 投稿日:2001年12月03日(月)01時09分31秒
ひとみが浮かれた調子で切り出した。

「でもほんとにツイてたですねぇ〜。
 オフが丸1日もらえるなんて。」

「まぁね。こんなことさ、めったにないよね。
 カオリ、スキーは半分冗談のつもりだったんだけど・・・。
 ま、メンバーのストレスを解消させるのもリーダーの務めでしょ。」

2週間程前、スキーの計画を言い出したのは、カオリだった。
とある番組で得意なウインタースポーツを質問され、カオリがスキーを
挙げたのがキッカケで、ボードをやっていた真希とひとみとで話が盛り
上がった時のこと。
たまたま軽い気持ちでカオリが「長野にいる親戚がペンションやってる
から格安でスキーしに行こう。休みが出来たらの話だけどね。」と言っ
たことが発端だった。

もちろんびっしり詰まった自分達のスケジュールを考えれば、誰も実現
するなどとは考えもしていなかったわけで―。
247 名前:『snowstorm』 投稿日:2001年12月03日(月)01時13分10秒
しかし、2月のある日。
急な変更で丸1日、オフができたのだ。
そんなわけで、カオリと真希とひとみと‥‥そして梨華の4人は、
夜行列車で長野県のとあるスキー場に向かっている。

「ごとー、スキーなんて何年ぶりかなぁ。
 デビュー前に、よくボードをしには行ってたけどさ。
 ふ、とにかくカオリに感謝するよ。“格安”だし。」

「なんか後藤に感謝されると
 ・・・カオリ吹雪が来るような気がする。」

「フハハ‥‥。それ、どぉいう意味?」

「冗談だって。ジョークジョーク。
 他のメンバーとマネージャーにはスキーのこと、絶対内緒だからね。
 いい!?」
248 名前:『snowstorm』 投稿日:2001年12月03日(月)01時18分22秒
梨華とひとみと真希は黙ってうなずいた。

アイドルに怪我はさせられない、と車の運転免許さえ自由に取ること
が許されない世界である。ましてスキーをや、ということだ。
以前、真希が事務所には内緒で友達とスノボに行ったことがバレた時
のマネージャーの怒りようったらなかった。「自覚がない」だの
「怪我をしたらどうする」だの。自由のなさを嘆いているのはメンバ
ー共通の悩みだった。そのうっぷんがいつか爆発するのではないかと、
リーダーのカオリは以前から心配していたのである。
249 名前:『snowstorm』 投稿日:2001年12月03日(月)01時23分15秒
「あの、あたし‥‥いいんでしょうか?
 みんな滑れる人ばかりなのに、あたしだけ初心者で‥‥。」

梨華は一人心細そうに聞いた。
この人だけは、突然カオリにスキーに誘われて、はっきりと返事を
する間もなく連れてこられたのだった。

「石川、またネガティブになってる。もうずっと前から直そうって
 言ってるっしょ。心配しなくてもカオリ教えてあげる。」

タンポポでもリーダー格のカオリは「オオブネに乗ったつもりで
まかせなさい」と言いながら胸の辺りをポンとたたいた。
しかし梨華は浮かない顔をしている。

「はぁ‥‥でも‥‥。」

「でももイモもなーい!
 だってさ、芸能人になったからってスキーもできないまま
 青春を過ごすなんて淋しいと思わないのか、チミ(君)は!?」

「そ、そうでしょうか。」
250 名前:『snowstorm』 投稿日:2001年12月03日(月)01時27分03秒
カオリ的には、梨華を誘ったのはお姉さん的心配(お節介)から
だったようだ。梨華の両手をがっしりとつかんで、カオリは大きな
瞳から“念のようなもの”を発生させている。

その勢いに梨華は圧倒されてしまった。
すぐ人の言うことをうのみにしてしまうのは梨華の良いところでも
あり悪いところでもある。

「石川、がんばります。」
「そうそう。ポジティブにな!」
251 名前:『snowstorm』 投稿日:2001年12月03日(月)01時33分10秒
「あのさあ、梨華ちゃん。滑らなきゃって思うんじゃなくて、
 楽しもうとすればいいんだって。(笑)」

ぷくっとしたほっぺたをニコニコさせながらひとみが言う。
彼女は梨華とは同期でもあるので、いろいろと心配してくれるのだ。
のんびり屋さんではあるものの、頼もしく、メンバーみんなに好かれ
る存在である。

梨華はひとみと目を合わせるとほっとした。


‥‥そのまま、ふと、ひとみの隣にいた真希とも目が合った。
真希はつまらなさそうな顔をしていた。
スッと視線をそらすと、無愛想に言った。

「ごとー、着くまでもう一眠りするから。
 よすぃこ、着いたら起こして。」

「はいよー。」
252 名前:『snowstorm』 投稿日:2001年12月03日(月)01時35分56秒
視線をそらされるのは、もう慣れていた。
そのたびに胃の奥あたりがキュって痛くなるのだけれど。

正直なことを言うと、梨華が戸惑っていたのはスキーのことだけでは
なかった。

近寄り難い、とでも言うのだろうか。
梨華は真希が少し苦手だった。
あの醒めた目で見られると何を言っていいのかわからなくなる。
真希は同じ年齢のひとみ以外とはあまり打ち解けて話すことをして
いなかった。

とくに仕事以外のこととなれば。
真希は自分には笑ってもくれないような気がする。
253 名前:『snowstorm』 投稿日:2001年12月03日(月)01時38分52秒
(プライベートで一緒なのは初めて。
 後藤さんと上手くやれるかな、あたし。)

瞼を閉じて寝息をたて始めた真希を見つめながら、梨華は小さなため息
をついた。

モーニング娘。に入る前の梨華にとって、真希は歌もダンスも格好良く
て、ずっとずっと遠いところにいる憧れの人だった。
その思いは今でも変わっていない。

しかし、どこかでボタンをかけ違えてしまったようなぎこちなさが
今の梨華と真希の間にはあった。

「石川、あんまり考え過ぎちゃダメだよ。
 カオリ起こしてあげるから、ちょっと寝な。ね?」

「‥‥‥はい。」

梨華の考えていることを、わかっているのかわかっていないのか、
カオリはそう言ってやわらかに笑った。
254 名前:『snowstorm』 投稿日:2001年12月03日(月)01時43分26秒
‥‥と、言いながら先に眠ってしまったのはカオリだったのだけど。

「ぐおー。」

(‥‥こ、怖いよ飯田さん。目、半分開いてる!?)

「すー。」

(あ、よっすいーも眠っちゃったみたい。
 じゃあ、あたしが起きていよう‥‥。)

梨華は独り真っ暗な窓の外を眺めた。
何も見えない。

(こうやって一緒にスキーに行けることになったのも
 神様がくれたきっかけなのかもしれない。)

そう思うと、梨華は眠っている真希の横顔を祈るように見つめた。
 
(後藤さん。
 あたしたち、今は何も見えなくても、このスキーから帰る頃には
 明るい景色(ひかり)が見えてるといいな‥‥。)
255 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月03日(月)01時45分48秒
今回の更新はここまでです。
256 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月04日(火)00時25分12秒
やったー、新作だ!!
「おまじない」の二人が大好きなので、今回の新しい
石川と後藤にも期待してます!!
楽しみにしてますので、これからも頑張ってください。
257 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年12月04日(火)22時18分19秒
はじめまして。
新しい話が始まっていたのですね。
ここで書かれている石川さんが好きなので、
この物語のこの先の展開を楽しみにしております。
258 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月05日(水)23時39分15秒
おおっ!新作始まっていたんですね。
続き楽しみにしてます。

今度のいしごまどうやってラブラブになるのか楽しみ楽しみ♪
259 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)03時01分34秒
>256さん、レス有難うございます。嬉しいです。
 前シリーズの2人の存在がある分、今回は変なプレッシャーを自分
 の中で感じています。楽しんで書くが一番なのですが‥‥。
 冬なのでスキーを思いついただけという安易さでスタートさせてし
 まいましたが、終わらせられるよう頑張ります。
 新しい2人もどうぞ宜しくお願い致します。


>257さん、レス有難うございます。
 はじめまして。拙い作ですが、読んでいただけて嬉しく思います。
 壊れるチャーミーさんやポジティブすぎる石川梨華さんも好きな
 のですがいざ書くとなると、やはり真面目な感じになります。
 ‥‥真面目なところは共通なんですが、今回の石川さんは前回と
 はちょっと違うイメージかもしれません。そのあたりどう取って
 いただけるか気掛かりです。 まだ話が全然先に進んでいないと
 いうのに、こんな再レスで御免なさい。(汗)
 

>258さん、レス有難うございます。
 楽しみにしていただけて嬉しいです。
 ラブラブな話は書いていて楽しいので今回もいつかは‥‥?
 更新がゆっくりになってしまいそうですがどうぞよろしく
 お願い致します。

260 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月20日(木)23時28分52秒
こんな二人がどうやって結ばれるのか・・・期待です
261 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月07日(月)16時38分25秒
明けまして(遅っ
続き待ってますよ!!
262 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月10日(木)21時03分03秒
待ってます!!!!!
263 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)03時14分30秒
>260さん、レス有難うございます。
 再レスが遅くなって申し訳ありません。
 支えです。がんばります。 
 
>261さん、明けましておめでとうございます。(激遅)
 今年も当方の駄作につきあってくださってうれしいです。

>262さん、レス有難うございます。
 お待たせ致しました。続きを更新致します。
 御期待に添えるか不安ですがどうぞ宜しくお願い致します。
 

申し訳ありませんが訂正です。
253 後藤さんと  →ごっちんと

あと254も大部分訂正です。申し訳ございません。
264 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)03時24分35秒
254

‥‥と、言いながら先に眠ってしまったのはカオリだったのだけど。

「ぐおー。」

(‥‥こ、怖いよ飯田さん。目、半分開いてる!?)

「すー。」

(あ、よっすいーも眠っちゃったみたい。
 じゃあ、あたしが起きていよう。)

梨華は独り真っ暗な窓の外を眺めた。
何も見えない。

(ダメだよ、あたし、ネガティブになったら。
 ‥‥‥でも‥‥。)

梨華はただ不安そうに、眠っている真希の横顔を見つめるのだった――。

265 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)03時28分38秒
カオリの親戚がやっているというペンションに着いたのは、午前7時
だった。そこでスキーウェアに着替えさせてもらって、歩いてゆける
距離のスキー場へ向かった。スキー板を肩に担いで、たっぷりと雪の
積もった白樺林を通り抜ける。

4人はベースステーション(リフト乗り場)にたどりついた。

見渡す限りの銀世界。
雪が3メートルぐらいは積もっているのだろうか。
寒さで空気はピンと澄み渡り、 陽の照り返しに雪面はキラキラと輝く。
ゲレンデを取り囲む木々が雪を纏って、静かにスキーヤー達を見守って
いる。

スキー場は平日のせいか割とすいていた。
ほとんど無人でゆっくりとまわっているペアリフト。
近くのカフェテラスには休憩している人たちの色とりどりなスキー板が
立て掛けられている。
266 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)03時33分13秒
色とりどりと言えば、4人もそれぞれ個性のはっきりとした格好を
していた。

黒のキャップをかぶり、大人びた豹柄のウェアを着こなすカオリは
スタイルも抜群に良いのでかなりイイ女風である。

花柄のウェアにピンクの毛糸帽子をかぶっていかにも女の子らしい
のは梨華だ。

ひとみは遠くからでも一目でわかるイエローのウェアに同色のキャ
ップ、ブラックの耳あてをカッコ良く着こなしている。

ボード派の真希は、スノーボーダーっぽいお洒落なデザインの赤い
ウェアを着ていた。真希なりにこだわりのあるブランドらしい。
267 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)03時35分05秒
「やっぱりね、雪はね、いいよ。
 冬はね、これじゃなきゃね。」

寒さで白い息を吐きながらも、カオリはサラサラのパウダースノーを
愛おしそうに触ってまったりとしていた。ふるさとではさんざん見慣
れた雪だが、東京に来てからは滅多にお目にかかれないので嬉しいら
しい。上機嫌で隣にいた梨華をからかう。

「おっ、白い雪に石川の黒さが生えるねェ。(笑)」

みんな雪焼け止めのクリーム(白っぽくなる)を顔に塗っているはず
だが、梨華の場合あまり変わっていない。
カオリに言われてしまって地黒なのを素直に認めた。

「うぅ……石川は冬でも地黒なんですぅ。(泣)」

カオリとひとみがニヤリと笑って目を合わせる。
すかさず、梨華に顔を近付けて、色男風の声色で台詞を吐くひとみ。

「梨華ちゃん、その黒さはいいね。」

「え、何!?」

「その黒さはいいよ。」

今度はカオリの台詞だ。
思いきり動揺している梨華を見て、カオリも負けじとセマる。
潤んだ瞳と厚い唇が妙になまめかしくてちょっと怖い。

「きゃぁぁぁ〜っ。」
268 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)03時41分50秒
これは、2人でせまっては梨華が困る姿を楽しんでいるというちょっと
悪趣味な遊び。“その黒さはいいね”と言いながらセマるのは梨華いじ
りにおける、カオリ&ひとみの持ちネタなのだった。

悪ふざけがエスカレートして、梨華の頬をひとみが人さし指でたどる。
もちろんからかっているだけなのだが、そういうことにウブな梨華は頬
を赤くして身体をこわばらせている。

「娘。でいちばん女の子だもんな〜石川は。」

カオリは愉快そうな笑顔を浮かべて『その辺にしといたら?』という目
でひとみを見た。

触れていた手が離れて、梨華はホッとした。小さく息を吐く。
そして曖昧な笑みを浮かべてその場を取り繕うとした。

カオリとひとみの後ろにいた、真希と目が合った。
彼女は案の定、おもしろくなさそうな表情で横を向いた。

いつのまにか真希だけが会話から取り残されていることに、ひとみが
気づいた。

「ごっちん、梨華ちゃんのほっぺ柔らかいよ〜。
 つついてみる?(笑)」

(え!?)

ひとみが真希に話をフッた一瞬の間(ま)。
梨華は自分にはよそよそしい真希の反応が怖くて、視線を足元の雪に
落とした。
269 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)03時45分23秒



「……よすぃこにカオリ、遊んでないでさぁ、はやく滑ろーよ。」

真希はさっさとスキー板をはきだした。

「はいはい、ごっちん。(笑)」
「後藤! ……かわいくなぁい。(哀)」

ひとみは笑っていたが、カオリは哀しそうな表情をオーバーに作って
自分達のノリについてこない真希に皮肉を言った。

(はぁ、やっぱりあたし嫌われてるのかなぁ……。)

梨華にとってはまた胃が痛くなる真希のクールな態度なのだった。
このひとはみんなで話している時、こんなふうに妙に冷めていたりする。
低い声でポツリと何か言った後、興味なさそうに視線をそらす。

真希からしてみれば、そういう態度は素直に自分をだせないことの
裏返しだった。だけど、真希に嫌われていると思い込んでしまって
いる梨華には、まだわからない―。
270 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)03時48分49秒
さっさとスキー板をはいてしまった真希に続いて3人も、組んであった
スキー板を外して雪の上に並べた。板のビンディング(締め具)にロボ
ットのようなスキー靴をバシンっとはめこめば準備完了だ。
梨華は初級者なのでスキー板を装着するのに少し時間がかかった。

リフトの1日券をカオリの親戚(ペンションのオーナー)がプレゼント
してくれたので今日は思いっきりすべることができるはず。

「じゃあ、カオリ石川のコーチするから、後藤と吉澤は適当に滑ってて。
 馴れてきたらケータイに連絡するから合流しよう。」

「あい。了解。」
「梨華ちゃん、がんばって。」
「ありがとう、よっすいー。」

真希とひとみはリフトに乗ってゲレンデの上の方へ上がっていった。
271 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)03時50分02秒
空は快晴。
目の前に広がる白銀の世界が眩しい。

(ほんとに、雪焼けしちゃいそう‥‥。
 またよっすいーや飯田さんに黒いって言われちゃうかも。)

梨華は眩しそうに目を細めながらサングラスをかけた。
いよいよ、飯田コーチのレッスン開始だ。

「石川はボーゲン(板をハの字にして曲がる)はできるんだよね?」
「……あやしいですけど。ボーゲンっぽいのだったら……。
 小学校の頃、お姉ちゃんたちとスキーに来た時やった記憶が……。」
「なんだ、じゃあ大丈夫だよ。どんな上手い人もさ、基本はボーゲン。
 上級者向けコースだってボーゲンができれば滑れるんだから。」

「じゃ、少し登ってすべってきて。」
「はい。」

カオリの言う通りに、梨華はカニ歩きで斜面を登って少し滑ってみた。
緩い斜面で転ばずに滑ることはできたものの、お世辞にもうまいとは言
えない。
272 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)03時52分09秒
「石川‥‥下手くそ。」

「〜〜〜〜〜〜。(泣)」(やっぱりあたしダメなんだ‥‥。)
「こーらーネガテブになるんでなーい! 
 ぐずぐずしてないでもっとすべーる!」
「は、はいっ。」

2人は一番ゆるやかで滑りやすいゲレンデで何度も滑った。

「体重を外足の裏全体に乗せるようにして曲がる。」
「は、はい!」
「ストックを持つ時は小指を立てちゃダメ。」
「は、はい。」
「ストック着くタイミングが早い。
 ってゆーかまだストック使っちゃダメ。」
「は、はいっ。」
「腰が引けてる! お尻、もっと引っ込めて。」
「はいっ。」
「今滑ったところ、10回繰り返して滑るよ。」
「はいっ。」
273 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)03時59分41秒
その頃。
リフトに乗り込んで上にあがっていくひとみと真希は、高いところから
カオリと梨華の様子を観察していた。

「ごっちんごっちん、あれさぁ梨華ちゃんだよ〜。」
「んぁー?」
「Oh〜。見て、なんかオモシロイ滑り方してるよ〜。
 おっかなびっくりって感じがなんか梨華ちゃんっぽいっていうかさァ。
 いいなぁ〜。」
「‥‥ふーん。」

ひとみは下を見てニコニコしている。
真希は黙って梨華のほう見た。

その時。

「あっ!」
「うわ〜木の方に突っ込んでっちゃったYO!」
「あぶないなぁ……。」
「飯田さんに起こしてもらってるよ。
 梨華ちゃんだいじょうぶかなァ。(笑)」
「大きなケガしなきゃいいけど。」
「ほんと。でも帰ったらそ〜と〜アザだらけだね。(笑)」
「よすぃことカオリのことだからそのアザはいいね、なんてさ、また
 言うんじゃないのー?」
274 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)04時26分54秒
リフトは終点に近付いていた。

「ごっちんさぁ、どうしてさっき知らんぷりしたの?
 梨華ちゃんかわいそうだったよ。ちょっと。」

ひとみはゆっくりとまばたきをしながら聞いた。
この人はいつものんびりと話すのでトゲがない。

「‥‥ごとーはそぉいうの苦手なの!
 梨華ちゃんだって困った顔してたじゃん。」

「そうかなぁ? う〜ん。
 あたしの時は梨華ちゃんうれしそうだったよ?」(←天然)

「う。(グサッ)」

「どうしたんダヨ、ごっちん。」

「あのさ、アレ、よすぃこってさぁ、梨華ちゃんのこと‥‥。
 ん、やっぱいい。」

真希はめずらしく自信がなさそうにポツリと言って、終点に到着した
リフトから立ち上がった。

「へんなごっちん。」

ひとみは頭に『?』マークをつけてリフトから滑り降りた。
275 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年01月11日(金)08時33分26秒
はじめまして、いしごま防衛条約機構です。
ごっちんは梨華ちゃんのことが好きなんでしょうか?
素直になれないだけなのだろうか。梨華ちゃんとごっちんにはうまくいってほしいなあ。

応援しています。頑張ってください。
276 名前:aki 投稿日:2002年01月11日(金)14時31分58秒
待ってました(w
新作嬉しいです。
作者さんの書くいしごまがとても好きなので^^
2人がこれからどうなっていくのか楽しみですっ。
がんばって下さい。
277 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月12日(土)00時31分29秒
わーい、待ってました!
ごっちんの本心が気になりますね、ごっちんはどう思ってるんだろ??
私もいしごま人間としてふたりを応援します〜!

今年もこちらの小説とても楽しみにしてます。
作者さん、マターリ頑張ってくださいね。
いつでも待ってますので。
278 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月12日(土)12時26分30秒
待ってました!!!
ごっちんはひょっとして梨華っちを気にしているのでしょうか?
これからどうなるのか楽しみです♪(w
いしごまふぁんとしては楽しみです〜。
がんばってください
279 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月15日(火)04時55分08秒
お待ちしてました〜♪
スキー場でいったいどのような展開になるのか、
ごっちんの気持ちがどこら辺にあるのか、
梨華ちゃんの想いは通じるのか、
とってもこの先の成り行きが気がかりです。
280 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月22日(火)02時53分57秒
>275さん、はじめまして。レス有難うございます。
 後藤さんの本心は次(の次?)の更新で明らかになる‥‥かもしれません。
 ゆっくりな更新ですが、どうぞ見守っていただければと思います。

>276さん、レス有難うございます。
 akiさんの作品、読ませて頂いております。後藤さんカッコよすぎです!
 とても切ないです。感想を伝えるのに表現力なくて申し訳ありません。(汗)
 一読者として続きをとても楽しみにしております。
 こちらの「いしごま」もどうぞ宜しくお願い致します。

>277さん、レス有難うございます。
 2人への応援、よろしくお願い致します。必ずここの後藤石川さんに
 届くと思いますので。激遅の更新を待っていただけて感謝しております。
 もっと早く更新ができれば良いのですが‥‥。

>278さん、レス有難うございます。
 これからどうなるのか‥‥御期待に外れないよう頑張ります。(汗)
 どうぞ宜しくお願い致します。
281 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月22日(火)02時55分39秒
>279さん、レス有難うございます。
 スキー場の話なのに、その描写が乏しくて‥‥。(苦笑)
 マターリな展開ですが、どうぞ見守っていただければと思います。
 
 

森板の『おまじない』が過去ログに移動しておりますのでリンクを。
http://mseek.obi.ne.jp/kako/wood/999364408.html 

今回2人の間の緊張感をもっと出したかったのですが、書いていくうちに
飯田さん(コミカル風味)がどんどん出てきてしまいました。(言い訳)
中途半端な作風ですが、よろしければどうぞ最後までおつき合いください。
282 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時13分20秒
梨華がなんとか滑リの感覚を覚えてきたので、カオリはいよいよリフト
に乗って初級者コースを滑ることにした。
リフトはイスに腰かけて運ばれてゆくだけなのだが、初級者の梨華に
とってはそれに乗ることも大仕事。案の定、スキー板をうまく滑らせて
歩くことができなくてリフトの手前で留まり、半分泣きそうな顔であた
ふたしている。

(もうどうしてスキー板さんは言うことを聞いてくれないの?)

先に進んでいるカオリがこちらを振り向いて急かす。

「石川! はやく!」
「ごめんなさい、飯田さん、石川の足がうまく動かないんです!」
「ストック使うの!」
「えっ!?」

順番が来たギリギリのところでリフト監視員のおじさんが回ってきたイス
の位置まで梨華をぐいっとひっぱってくれて、なんとか転倒せずに乗るこ
とができた。

ピンポーン。
ウィ〜ン。

(ほっ、良かった。おじさんありがとうございます!)

心の中で梨華はお礼を言った。
283 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時15分42秒
ところが一難去ってまた一難。今度はスキー板が外れそうな気がする。
外れて落ちてしまったらどうするんだろう???
 
「……あのですね、飯田さん。
 石川のスキー板がブーツから外れそうな気がするんですけど大丈夫
 なんでしょうか?」
「板が重いからそんな気がするだけ。さっきはめる時『バシっ』って音
 してたでしょ?落ちても監視員の人が滑っていって拾ってくれるから
 心配いらないの。」
「は、はい。」

何をするにも不安でいっぱいの梨華なのだった。
2人を乗せたリフトはゆっくりと山を上がっていく。
美しい雪山の景色を眺めながら、冷たく澄んだ空気を胸いっぱいに吸うと
さっきあたふたしてかいた汗もスッと引いていく。
梨華はやっと落ち着きを取り戻した。

「飯田さんはスキーお上手なんですね。」
「まぁね。カオリ北海道出身じゃん。
 小学校の体育の授業でスキーがあったからもうまかせとけって感じ。」
「え〜授業でスキーなんですかぁ!?」
284 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時18分25秒
雪にはめったに縁のない神奈川出身の梨華は口を大きく開けて驚いている。
別にそんな驚くことじゃないけどね、とカオリは格好をつけて言った。

「それにしてもさ、ゲレンデにカップル多くない?」
「そ、そうですかぁ?」
「ちょっとうらやましくない?(ニヤニヤ)」
「と、特には‥‥。(苦笑)」
「ふ〜ん、石川はさ、恋愛とか興味ないの?」

このごろ特によくされる質問。
この前は矢口さんからだったかしら? 安倍さんからだったかしら?
でも梨華はこの手の話題が本当に苦手なのだ。

「あ、あたしはお仕事が恋人なんですっ。」
「ぷっ。石川らしい模範回答だよね……。(笑)」
「だって、石川はまだまだお仕事しっかりしなきゃいけないし。」
「まぁうちらはアイドルやってるからリーダーのカオリとしてもみんな
 に堂々と恋愛しなさいとは言えないんだけどさ、でも恋はしてたほう
 がいいと思うよ?」
「はぁ‥‥。」
285 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時21分14秒
カオリの会話が恋愛に関してのお説教(長い)になりそうだったので、
梨華はそれとな〜く話題をそらそうとした。

「よっすいー達はどこを滑ってるのかなぁ‥‥?」

わざとらしくさっき別れた2人を探して、キョロキョロと下を見渡す。
カオリはため息をついた。

「(石川にとって恋愛は)まだまだ先の話みたい。
 まぁそんな真面目なところがお姉さんとしては可愛いんだけどね。」
「あは……は。」
「恋人が出来たらリーダーのカオリに絶対教えるんだからね?
 わかった? 石川にふさわしいかどうかチェックしてあげる。」

カオリはにっこりと微笑んだ。
微笑みとは裏腹にそのチェックはかなり厳しそうではある。

「(苦笑)はぁ、その時はお願いします。でも‥‥。」

ごめんなさい、飯田さん。
石川にはまだ恋ってよくわからないんです。

『恋、しちゃいました!』って歌っては、いるんですけど……。
だって今はお仕事が忙しくてそんな余裕ないし。中学の時はテニス
(部活動)に夢中だったし。

でもいつかあたしの前にもあらわれてくれるのかな?
そばにいるだけで胸がドキドキしてしまうような
“王子様みたいな人”が‥‥‥。
286 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時22分35秒
カオリと梨華の2人はリフトを降りて、ゲレンデの少し平らな場所に
やってきた。これから滑るコースを見下ろす。点在している色とりどり
のスキーヤーが見えた。

そんなことよりも―。

(思ってたよりも、坂がきつい‥‥?)

雪をかぶった立て看板を見てみると、しっかりと『中級者向けコース』
と書いてあった。

「飯田さん、これ!」
「ちっ、バレちまったか。ゴホン。ここは中級者向けコースだから。」
「ええ!? さっきは初級者向けコースへ行こうって言いましたよね!?」
「いいの。難しいところが滑れたら上達も早いから。」

当たり前のように言い切るカオリ。

(そ、そうなのかな‥‥?)

「細かいことは気にしなーい。いい?大きくターンして滑ってくからね。
 大丈夫。カオリの滑ってる後をちゃんとついてきて。」
「は‥‥はい。(泣)」

(ついていけるかしら‥‥。
 うぅ、でもついていかなきゃ。)

梨華はストックを握ったまま両手を胸に当てて3度深呼吸をした。

(‥‥恐くないよ大丈夫。ポジティブポジティブ!)
287 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時25分59秒
その時、なんとなく上のコースを見上げたカオリは素頓狂な声をあげた。

「ちょっと、あれ、後藤と吉澤じゃない!?」
「え、どこですか?」
「ほら、上見て。あの斜面のきついところ、2人で降りてくるの。」
「???」
「後藤の赤いウェアと吉澤の黄色のウェア。絶対そーだよ。
 後藤サングラスで、吉澤黄色いキャップに耳当てしてたでしょ。」

まるで壁のような急斜面を、きれいなシュプールを描きながら息もぴったり
で降りてくる。ゲレンデを右に左に、とくに真希はスピーディーかつ繊細な
滑りで、他のスキーヤー達を圧倒していた。すぐ後ろを滑るひとみが美しい
パラレル(板を平行に揃えて滑る)で真希の動きと合わせている。

2人のスキー板から煙のように雪が舞い上がる。
梨華は立ち尽くして息を呑んだ。

(すごい‥‥。二人ともすごくカッコイイよ。)

同じ年ぐらいなのに、どうしてこんなに違うんだろう?
もちろんスキー経験のない自分が2人とは比べようもないぐらい
下手なのは仕方のないことなのだけれど―。

当たり前のように息を合わせて滑る2人に、 梨華は自分だけが取り残され
ているようで少し悲しかった。
288 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時28分55秒
「梨華ちゃ〜ん!」

ひとみがこちらに気づいたようだ。ストックを振りながら滑り降りてくる。
梨華も笑みを浮かべて手を振った。

ひとみは滑り降りてくると、梨華の側でストップした。
一方でカオリと梨華の横を、赤いウェアの真希があっという間に通り抜けた。

「ごっちん! あたし、(勝負)降りるよっ。」

ひとみの声もあのスピードでは届かない。

ザッ。

唇をきゅっと横一文字に結んで真剣な表情で。
そのひとは、どんどん先に進んで見えなくなる。

(はぁ、あんな風に滑れるようになりたいなぁ‥‥。)

知らず知らずのうちにため息が出ていた。
そっけない態度をとられても、ゲレンデでひときわ目立つ真希の滑りには
憧れの感情が自然とわいてくる。それほど、真希はスキーが上手だった。
 
(いいなぁ。あんな風に上手だったら、あたしもよっすいーみたいに
 ごっちんと滑れてたかもしれない。きっとごっちんから見たら石川
 なんて下手すぎてあきれちゃうんだろうな‥‥。)
289 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時34分18秒
一方、真希にしらんぷりされたカオリは呆れ笑いを浮かべていた。

「つーかさ、後藤、こっち見もしなかったじゃん。(笑)」

カオリがちょっとムッとしているようだったので、ひとみはゴーグルを外
して申し訳なさそうに言った。

「はあっ、すいません。勝負してたから多分止まんなかったんだと思う。
 ごっちん集中してて2人がいるの気が付かなかったんですよ。」

「何、吉澤達、勝負してたの?」

「一番てっぺんの上級者コースからどっちが先に下に着けるかってやって
 たんですよ〜。はぁぁぁぁ〜そ〜と〜キツかった〜。」

ひとみの息がゼイゼイと上がっている。
梨華は漠然とどんなコースを滑ってきたのだろう?と思った。
290 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時36分56秒
「へえ。あんたらがそこまで上手いとはね。」

梨華はカオリの思考回路をずっとタンポポで一緒にいる経験上知っていた
のでその言葉を聞いた途端、少々嫌な予感がしていた。
苦笑いのまま、無駄とはわかっていても声をかけてみた。

「あのー、飯田さーん?」

「カオリの中のもう一人のカオリが言ってる。
 プッチチームには負けちゃダメって。うん、わかった。
 タンポポの意地を賭けて、石川、オレらもがんばろうぜっ。」

カオリは急に男言葉になってハリキリだした。
普段からタンポポがプッチモニにあと一歩で負けてしまう(オリコン順位、
売り上げ枚数)ことをカオリは結構気にしているのだ。グループの方向性
が全く違うのでこだわることなどないのだが、しかしこうなると誰にも
彼女を止めることはできない。
歌いながら、勢いよく雪を蹴って滑り出した。

「気合いの入った〜女同士、やるときゃやるのさーあっ」

(飯田さん、それタンポポじゃなくて青色7じゃないですかぁ?
 あたしたち、青色7で間違いじゃないですけど‥‥。)
291 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時41分50秒
梨華はフに落ちないものを感じつつも、素直にカオリに従って滑り出した。
なんとか後をついていこうと思ったが、プッチに負けられないと息を巻い
ている上に、滑るのが上手なカオリは梨華のことなどお構いなしですいすい
と滑っていってしまった。

ひとみが梨華のそばで半ばあきれたような顔をして。

「飯田さんってさ〜‥‥なんかそ〜と〜大変なことになってる?
 無理しないでいいよ、梨華ちゃん。あたしと一緒に滑ろうよ。」

ひとみに同情されて、梨華は眉毛を八の字に困らせて笑った。

「でもよっすいー、飯田さんはとっても良い人なの。」
「あはは。梨華ちゃんならそ〜言うと思った。じゃ、ゆっくり行きますか。」
292 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時42分52秒
その30秒後。

「きゃ〜〜〜〜!
 どうしよう、よっすいー、曲がれないよ〜!(泣)」
「梨華ちゃん、下見ちゃダメだよ。遠くを見ないとさぁ!」
「いや〜〜〜〜!
 よっすいー助けて〜!(泣)」
「た、助けてって言われてもっ。ダメだと思ったらお尻から転ぶんだって。
 あっ、山側に倒れないと‥‥!」

ずささささっ。
梨華は脇のほうの圧雪されてない雪に突っ込んで転んでしまった。

(イタタ。また転んじゃった。
 あたしって本当に下手‥‥。)

「梨華ちゃん、大丈夫?」
「あはは‥‥。うん、大丈夫。よいしょ。
 でもこんなんじゃ、よっすいー達に全然追いつけないね。」
293 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時43分41秒
笑顔は作ってみたものの、梨華はすっかり自信を失っていた。
ひとみは梨華のウェアについた雪をはらってあげた。

「もっところべばいいんだよ。一回派手に転ぶと気が楽になるしさ。
 バァーーーンってね。怖がって滑るほうがよっぽど危ないんだから。
 お手本、見せてあげるよ。せ〜の!」

ひとみは『バーン』と叫ぶと、雪の上で大袈裟に寝転んでみせた。

「あははぁ〜、雪冷(つめ)てぇ!」

ストックを握っている手とスキー板をはいている足をおもしろおかしく
バタバタさせて笑っている。ひとみの何気ない優しさが梨華は嬉しかった。

「くすっ。ありがと、よっすいー。
 がんばってみるね。」

「さァ、みんな待ってるよ。いこっか。」

梨華とひとみは再び雪の斜面を滑り出した。
294 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時45分43秒
その30秒後。

「きゃ〜〜〜〜!
 どうしようっ、よっすいーっ、止まれないの!」
「梨華ちゃん、足の裏の内側に体重かけて板をハの字に押し出すんだよっ。」
「やってるけど、止まらないの!」

そうは言うものの実際のところ梨華のスキーは直滑降になっており
そのせいでかなりのスピードを出していた。


「きゃぁぁぁ!
 どいてくださっっっきゃ〜〜〜!!!」

「!」

どしんっ。




梨華は赤いウェアの‥‥真希とぶつかった。
先に滑り降りていったように見えたけれど、
ひとみが降りてこないので徐行しながら途中で待っていたらしい。
295 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時48分20秒
「いたたたぁ‥‥。」
「‥‥‥‥‥。」

梨華は真希とぶつかって止まった。
まともにぶつかって倒れた真希は雪に顔をうずめて何も言わない。
すぐ後ろを滑ってきたひとみも少し慌てた。

「ご、ごめんなさ‥‥!」
「‥‥‥‥‥。」
「梨華ちゃん、ごっちんは!?」
「どうしよう、よっすいーっ。」

悲鳴のような梨華の声。真希の手がなんでもないという風に動いた。
梨華とひとみはほっとした。真希はゆっくりと顔をあげて言った。

「平気…それより……そっちは大丈夫みたいだね。」

上体を起こしたものの、お互いの長いスキー板が絡んで起き上がれない。
ひとみが2人のスキー板を外してやって、やっと起き上がることができた。

「人にぶつかりそうになったらその前に転ばなきゃダメだよ。
 これで切ったりしたらまじでシャレになんないよ。」

真希の言い方は無愛想なのでよりキツく聞こえた。
ぶつかれば、スキー板のエッジはするどい刃物にもなる。
一歩間違えれば自分はともかく他人を傷つけることになっていたかもしれ
ない怖さを知って梨華は涙ぐんだ。 震える手を、いや、スキーグローブを
口に当てて何度も真希に謝る。

「ごっごめんなさい……。」
296 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時52分45秒
一瞬、空気が硬くなる。

「あのえっと……ほらさぁ、ごっちんも大丈夫だったんだよね?
 誰もケガしなかったし、オッケーだよ梨華ちゃん。
 もう大丈夫だから落ち着いて。」

ひとみは涙ぐんでいる梨華を抱きしめて、背中を優しくぽんぽんとたたいた。
真希は思わずキツくなってしまった自分の言葉を後悔したのか何か言いたげ
な表情を一瞬見せたが、ひとみも梨華も気がつかなかった。
真希は2人から目をそらすとゲレンデを見渡した。

「ねぇ、カオリはどこへ行ったの?」
297 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)03時53分33秒
その頃。
カオリはぶつぶつとつぶやきながらリフトに乗っていた。

「だいたい今日のゲレンデの音楽だってさ、なんでプッチのほうがたくさん
 かかるわけ? カオリ達、がんばってるのに‥‥。」

「飯田さぁ〜ん。どこいくんですか〜?」

大声で自分を呼ぶひとみの声が聞こえた。
声のした方を見てみると、登っていくリフトの下でひとみが手を振っている。
梨華もいる。真希だけはそっぽを向いてどうでもよさそうな態度をしていた。

カオリはやっと我に返った。

「あっ。カオリ、石川のこと忘れてた!」
298 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)04時36分01秒


カオリがもう一度滑ってきて、やっと梨華たちと合流した。
カオリ・梨華、ひとみ・真希のペアでリフトに乗り、再び上のゲレンデに
向かう。

リフトを降りて林間コース(ゆるやかなロングコース)を滑る。
滑りながら、ひとみがさっき派手にぶつかった梨華の体を心配してくれた。

「どっか痛いところとかない?」

「うん。あたし体だけは丈夫にできてるみたい。
 あたしなんかよりごっちんのほうが‥‥。」

「あはは、梨華ちゃんはずっと気にしすぎだYO。」

「でも‥‥あたしのせいで痛い思いさせちゃって怒ってる‥‥かも‥‥。」

「んなことないって。さっきさぁリフトでゆってたもん、ごっちん。
 自分の後ろに子どもがいたから梨華ちゃんがそっちにぶつからなくって
 良かったって。もしケガさせてたら大変なことになっちゃうしさ。
 そーいうのがあったからついついキツイ口調になっちゃったんじゃない
 かなぁ。」

梨華は(え?)という表情をした。
そして、前方でカオリと並んで滑っている真希の背中に視線を移した。

(もしかしてごっちんはわざと避けなかったのかな‥‥。)
299 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)04時37分19秒
「ごっちんはだいたいいつも言葉が足らないんだよ。そこが格好イイん
 だけどさぁ。でも他人には誤解されやすいかもしんない。」

ひとみの言葉の意味とさっきのクラッシュを合わせて考えてみる。

(そうだよね、あんなに上手なんだもの。避けることぐらい簡単だった筈。)

“人にぶつかりそうになったらその前に転ばなきゃダメだよ。
 これで切ったりしたらまじでシャレになんないよ。”

真希の言葉を梨華は胸にしっかりと受け止めた。
そしてこの時から、梨華の心の中で真希への苦手なイメージが少しずつ
変わりはじめたのだった―。
300 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)04時39分43秒
それから4人はいろいろなコースを滑った。
カオリはさっき梨華を忘れてしまった後ろめたさもあったらしく、ずっと
梨華に付き添って簡単なコースを滑っていた。申し訳なくなった梨華が
自分は休憩しているから上級者向けコースへ行ってきてほしいと何度頼ん
でもカオリは聞かなかった。

「あっ雪が降ってきましたよ?」
「山の天気は変わりやすいからね〜。」
301 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)04時42分59秒
降りしきる細かい雪で景色は真っ白になりつつあった。
何回か滑って、ひとみが休憩したいと言いだした。

「あの〜、飯田さん。」
「何? 吉澤手あげて。」
「あの〜吉澤としてはですね〜、ちょっと吹雪いてきたんで休憩したい
 な〜なんて。もう一回リフトで登って今滑ってきた途中にあるロッジ
 でお茶でもしませんか?」
「あーそれカオリも今思ってた。」
「実はそこのべーグルが美味しいって評判なんですよぉ!」
「吉澤こんなトコまで来てべーグル食べんの? まぁいいけどさ。」
「梨華ちゃんいいよね!?」
「うんって言わなかったら一人でも食べに行っちゃうんでしょう?
 よっすいーってばべーグルに目がないもんね。(笑)」
「ひゃはは。じゃ、オッケーね。ごっちんは? どう思う〜?」

真希は悪天候で唇が荒れるのを気にして、リップをポケットから取り出して
唇に塗っていた。実は結構肌が弱いのだ。

「ん、ごとーもお腹すいたし。いいよ。」
「じゃ、決まり!」

吹雪は少しずつ強くなってきた。この後思いがけない事故が起こることに
なるなんて、考えもしない4人だった―。
302 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月22日(火)04時46分47秒
降りしきる細かい雪で景色は真っ白になりつつあった。
何回か滑って、ひとみが休憩したいと言いだした。

「あの〜、飯田さん。」
「何? 吉澤手あげて。」
「あの〜吉澤としてはですね〜、ちょっと吹雪いてきたんで休憩したい
 な〜なんて。もう一回リフトで登って今滑ってきた途中にあるロッジ
 でお茶でもしませんか?」
「あーそれカオリも今思ってた。」
「実はそこのべーグルが美味しいって評判なんですよぉ!」
「吉澤こんなトコまで来てべーグル食べんの? まぁいいけどさ。」
「梨華ちゃんいいよね!?」
「うんって言わなかったら一人でも食べに行っちゃうんでしょう?
 よっすいーってばべーグルに目がないもんね。(笑)」
「ひゃはは。じゃ、オッケーね。ごっちんは? どう思う〜?」

真希は悪天候で唇が荒れるのを気にして、リップをポケットから取り出して
唇に塗っていた。実は結構肌が弱いのだ。

「ん、ごとーもお腹すいたし。いいよ。」
「じゃ、決まり!」

吹雪は少しずつ強くなってきた。この後思いがけない事故が起こることに
なるなんて、考えもしない4人だった―。
303 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月23日(水)19時43分40秒
ごっちんのことを分かってきた梨華っち
これから何か起きるようですが
それで2人がどうなっていくのか・・・
気になります(w
304 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月25日(金)13時27分28秒
カオリがカオリらしくって面白いですね。
それにしても、この後いったい何が起ころうと言うのですか?
305 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月28日(月)01時41分24秒
>303さん、レス有難うございます。
 ありがちな展開、かもしれません。(汗)

>304さん、レス有難うございます。
 らしくて、とおっしゃっていただけて嬉しく思います。
 かなりデフォルメしているのでどうかな〜と思ったのですが。
 
それでは、続きを更新いたします。
306 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月28日(月)01時44分38秒


べーグルを食べるために、4人は早速リフト乗り場へやってきた。
ひとみは気を利かせて(?)カオリの隣にサッと並んだ。
梨華のほうを振り返って、大丈夫とウインクして。

必然的に梨華と真希がペアになる。
娘。にいるときは誰かが2人のまん中にいて、2人っきりになることは
未だかつてなかった。ほんの少しの間2人っきりになる、梨華は自分が
緊張していくのがわかった。

(ごっちんと2人っきり‥‥。
 何話したらいいんだろう‥‥。)

真希の表情はサングラスに隠されてわからなかった。
乗り場に回ってくるリフトをじっと見つめている。

順番が来た。
真希はなんでもなさそうにアッサリとリフトに腰かけた。
一方、梨華は転倒しないように気を配ってリフトにお尻を乗せた。

スキー板がふわっと浮く。
とまどいを乗せて、リフトは進みだした。
307 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月28日(月)01時47分11秒
真っ白な細かい雪が降りしきる中を、リフトはゆっくりと上へ進んでいく。

「あの、雪、たくさん降ってきたね!」
「……んん。」
「今日はみんなに迷惑ばかりかけちゃって。
 スキー、どうしたらごっちんみたいに……上手くなれるんだろう。」

ごっちんみたいに、と言ったところで2人の目が合った。
真希は寒さで赤くなった鼻をすすって目を伏せた。

「ごとーはそんなに上手じゃないよ。」
「そ、そんなことないよ!
 あたし、ごっちんみたいに上手になりたいもん!」
「ごとーみたいに?」
「うん。」

「……うそだよ。」

「なんで? 嘘じゃないよ。あたしは本当に‥‥。
 さっきのごっちんの言葉だって‥‥ちゃんと受け止めなきゃって
 思って‥‥。」

308 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月28日(月)01時52分31秒
一つ前のリフトに乗っていたひとみが振り向いて梨華達に手を振った。

「ごっち〜ん、梨華ちゃあ〜ん!」
「コラ吉澤、動くなっつーの。」

バタバタと動くひとみをカオリが押さえ付けている。
意味不明なことも叫んでいるようだが雪と風が強くてよく聞き取れない。


「手、振んなくっていーの?」

「どうして‥‥?」

「だって、梨華ちゃんはよすぃこのこと……ってゆーかさ、さっきも
 よすぃこと楽しそうに滑ってたじゃん。
 アタシみたいに滑れるようになりたいとか言っちゃってさ、
 梨華ちゃんってけっこうテキトーだよね。」

テキトーと言われて、梨華は言葉に窮した。いつもそんなようなことは
カオリや真里に言われ慣れているはずだが、真希の言葉だけに軽く返せ
なかった。

(ごっちん、なんか誤解してる……。)

ただ哀しそうな顔をして黙っている梨華を見て、真希はこんなこと言う
はずじゃなかったのにと後悔した。

2人は気まずい雰囲気でリフトを降りた。
309 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月28日(月)01時56分38秒
先についたカオリとひとみが待っている。

「ごっちんに梨華ちゃん、あたしが手振ったの、見えなかったのかよっ。」

「ごめんね、よっすいー。」

「なーんてね、吹雪がきつかったしね〜。
 リフトが止まるんじゃないかって内心まじでヒヤヒヤしたって。」

「よすぃこ、しゃべってるとカオリに置いていかれるよ。」

「おっと、やべ!
 飯田さ〜ん、置いてかないでくださいよ〜!」

4人は林間コース(山道を抜けていく緩やかなコース)の手前までやって
きた。このコースを降りていって広いコースに合流すると、べーグルのロ
ッジはすぐだ。

「吹雪がひどくなってきたから、お互い見失わないように気をつけて。」

「OK! べーグルまで一直線っす〜!」
「吉澤さぁ、そればっかじゃん!(笑)」
310 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月28日(月)01時59分06秒
カオリが先頭を滑り、ひとみが続いた。
梨華はひとみのウェアを見失わないようにしっかりついていかなくてはと
思った。雪が強くなってきたせいだろう、他に滑っている人はあまりいな
かった。

ビュウゥゥゥ………ゴゴゴ………。

冷たい吹雪が容赦なく皮膚を突き刺す。まわりは吹雪が吹き荒れ、視界は
遮られ、あっというまに一面が“白の世界”になってしまった。

(すごい吹雪! まわりが全然見えないよ!
 よっすいーの黄色いウェアはすごく目立つはずなのに‥‥!)

自分が今どこを滑っているのかわからない。前後も見えない状態では止ま
っていた方が良いと考えるのが賢明だが、とにかくおいていかれないよう
にひとみの後をついていかなければと思っていた梨華は、止まることなく
スキーを滑らせた。
311 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月28日(月)02時00分58秒
その時、もっとも強い風が激しい雪とともに吹いた。
まるで山が唸っているようなすごい音に、梨華は気をとられた。

ウォ〜〜〜ヒュ〜〜〜ゥ。
ビュウゥウッ。

(きゃあぁぁぁぁっ……!)

ズササササァ!

道のスミを滑っていたのが致命的だった―。


312 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月28日(月)02時02分39秒
梨華の姿が見えなくなったことに、気がついたのは後ろを滑っていた
真希だった。慌てて手持ちのケータイでカオリに連絡をとる。

「カオリっ
 梨華ちゃんが‥‥アレ‥‥いないみたいなんだけど!
 そっち、ついていってる!?」

>吉澤は一緒だけど‥‥こっちにもいない!

「どこいっちゃったん‥‥。」

>吉澤が石川のケータイにコールしてみたけど出ないの!
 どうしよう、後藤!

「まさか‥‥!」

>落ち‥‥た‥‥?

「一瞬すごい風が吹いたからもしかしたら‥‥。
 とにかく捜してみる!」

>ごっちん、あたし(吉澤)だけどっ。
 レスキューの人呼ぼう! 捜すなんて無理だよ!
 こんな吹雪でコース外れるのは危険すぎだって!
313 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月28日(月)02時04分30秒
「……んなことゆってる場合じゃ……
 梨華ちゃん!
 ……どこっ……梨華ちゃん!」

>ごっちん! 落ち着きなよぉっ。
 あたし、下行って助け呼んでくるからっ。

ひとみはケータイを切って、カオリに言った。

「飯田さん、吉澤は下へ行って助けを呼んできます!
 飯田さんはここにいてください! すぐに戻ってきますから!」

「えっカオリを独りにしないでよっ。吉澤〜っ。
 どうしよう、カオ、どうしたらいいの!?石川どこいっちゃったの!?」

カオリは大きな瞳をウルウルさせながら頭を抱えた。
梨華が無事でいることを祈るしかなかった。
314 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月28日(月)02時06分01秒
ビュウゥゥゥ………ゴゴゴ………。

「梨華ちゃん!
 どこっ!? 返事してよ!」

スキー板を脱いで、真希は梨華を捜した。
考えたくないけど考えられるのは、コース下への転落。

吹雪のせいで視界は最悪だった。
真希は必死で目を凝らす。
雪のたっぷり積もった崖下に梨華のスキー板がぼんやりと見えた。

「………あ………」

サーッと青ざめていく自分。
ひざがガクガクして、震えが止まらない。

「梨華ちゃんっ!!!!」

金切り声のような叫び。
風で唸る山がそんな真希を嘲笑っているかのようだった。

ビュウウウウウ!!!!!!

(絶対に、助けるから!
 だから無事でいて……!)
315 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月28日(月)02時09分04秒
真希は歩きにくいブーツのまま、コース下へ飛び下りた。雪が深くて、
スキー板のある場所にたどりつくまではかなりの危険がともなう。

「梨華ちゃん!」

吹雪の中、必死で梨華の名前を呼ぶ。

嫌な予感がした。



“ねぇ、おかーさん。おとーさんってほんとに山登りが好きだよねー”

“え〜また山に行くの?日曜日は遊んでくれるって約束したじゃん” 

“どうしてユウキは連れていってくれるのにあたしはダメなの?”

“危ないから?
 あたし運動神経いいんだよぉ。連れてってよ”

“どうして連れてってくれないの?おとーさんのバカ!”

316 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月28日(月)02時11分29秒
“真希、落ち着いて聞きなさい。
 お父さんが山で連絡がとれなくなったらしいの。
 今、救助隊のみなさんが全力で捜してくれてる。
 大丈夫、きっと見つかるから、真希もお祈りしてて。”

“おとーさん!
 早く帰ってきてっ あたし待ってるから!”





「はぁ……はぁ……くっ……」

頬に降りかかるものが、雪なのか涙なのか真希にはもうわからなかった。
さっきぶつかった時なんでもなかったヒザが今になってじんじんと痛み
だしてきた。

ガクリとヒザをつく。

「……んでこんな時に……ちくしょう!」

雪を拳で叩き付けた。
それでも痛む左足を庇って進む。

「梨華ちゃん! どこなの!? 返事してよぉ!
 ‥‥‥‥うぁ‥‥ッッ‥‥!!!!」

ズササササァ!

雪に足をとられて、そのまま転がるように下に転落してしまった。
雪に埋もれてうつぶせのまま、動けない。

(……痛っー……おとーさん……アタシもうダメなのかな……。
 梨華ちゃんを絶対助けるって……いったのに……くっ……。)
317 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年01月28日(月)02時13分11秒
なんとか体を仰向けにするのが精一杯だった。
冷たい雪がまるでスローがかかったように顔じゅうに降りかかってくる。
薄れる意識の中、梨華の顔が浮かんだ。

“どうしたらごっちんみたいに……上手くなれるんだろう”

ほんとはうれしかったんだ。
なのにくだらない嫉妬をして。

ずっとそうだった。

梨華ちゃんはよすぃこと仲が良くて。
素直じゃないアタシは目をそらすことしかできなかった。

いつだって自分の気持ちをうまく言葉で表わせなくて。
じれったくて、苦しくて。

梨華ちゃんを傷つけてばかりいたと思う。

「……ふ……ごめん……助けられな……くて……」

そこで真希の意識は途切れた。

318 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月28日(月)06時39分14秒
だっ、だめだ!寝ちゃだめだぁ〜!!
319 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月30日(水)15時13分37秒
うわ〜急展開!
ごっちん頑張れー!!
320 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月11日(月)19時38分24秒
こ・・・これからどうなるんだ!
ごっちん頑張れ!寝るなぁ!
321 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月26日(火)16時06分03秒
復活に気付いてるかな?
待ってます。
322 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月04日(月)22時55分37秒
作者さ〜ん
冬が終わる前に復活キボン
323 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月09日(土)23時05分09秒
作者さん待ってます
324 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月13日(水)02時59分51秒
>318さん、319さん、320さん、321さん、322さん、
 323さん、レス有難うございます。再レスが遅れて申し訳ありません
 でした。書き込みができなくなってからこっち、いろいろあって、更新
 もできず‥‥。少し離れておりましたので、不備な点が多々あるかもし
 れませんが、このような話を見捨てずレスしてくださった方に、深く感
 謝いたしております。(読んでくださっている方にも)

 吹雪の話なのに……もう春ですね。(汗)
325 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年03月13日(水)03時03分42秒
ビュウゥゥゥ………ゴゴゴ………。

雪の中で倒れてどのくらいの時間がたっただろう?
背中や足が雪の冷たさで痺れてる。感じるのは耳を擦る風の音だけ。

(アタシ、どうしたんだっけ‥‥? まだ生きてる?)

“ごっちん助けて”

助けを呼ぶ声が聞こえたような気がして、真希は閉じていた瞼を見開いた。

「はっ」

(梨華ちゃん‥‥アタシが助けなきゃ‥‥だけどどこを探したら‥‥)

真っ白の吹雪の中で真希は独り絶望していた。
ちょっとやそっとのことでは弱音を吐かない真希だが、自分の無力さが
無性に腹立たしく、涙が溢れてくるのだった。

(助けるなんてカッコつけたって結局なんもできないんじゃん。)
326 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年03月13日(水)03時05分24秒
その時だった。

<泣いてたらどうにかなるのか?>

(……ん……誰?……)

涙を拭きながら起き上がってキョロキョロと周りを見渡す。
しかし、凍った睫毛の奥にある瞳に映るのは一面の「白」だけだった。

<泣き虫なのはちっとも変わってないな。だが後藤真希はそんな弱い
 人間じゃないはずだ。ここからがいつものお前の本当の力なんじゃ
 ないのか? さぁ、来なさい。こっちだ>

猛吹雪で人の声なんか聞こえないハズなのに、真希の耳にはしっかりと
男の人の声が聞こえた。導かれるままに、声のする方角へ痛い足を引き
ずりながら歩いていく。

<俺にできることはここまでだ……後は……娘を信じる>
327 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年03月13日(水)03時08分32秒
「……あっ……」

真希の目に映ったのは、雪の中で倒れている花柄のスキーウェア。
足が痛むことも忘れて、夢中で走った。

「梨華ちゃん!」

駆け寄って何度もその人の名前を呼ぶ。
吹雪は容赦なく2人の髪や頬を凍らせた。

ビュウゥゥゥ………ゴゴゴ………。

「梨華ちゃん!!! 
 ねぇ、起きて! 目ぇ開けてよっ」  

頬を叩きながら、 声の限りを尽くして叫ぶ。
もうそれは悲鳴に近かった。

「………っく……はやく起きてよっ……ねぇっ……
 ………なんで黙ってんのっ……」
328 名前:『snowstorm』 投稿日:2002年03月13日(水)03時09分59秒
雪の上に横たわる身体はぴくりともしない。

「……お願い……もう一度アタシの顔を見てよ……」

凍り付いた頬に、顔を寄せて。真希の熱い息がかかる。
祈りが通じたのだろうか、雪に埋もれていたその人は呼び覚まされ
るようにゆっくりと瞼をひらいた。

「……あれ?……あたし……」

紫色になった唇が微かに動いた。
声が聞こえた途端、真希は梨華をきつく抱きしめた。
言葉にできない気持ちが熱い涙とともに溢れ出してもう止まらなかった。

(梨華ちゃん……ああよかった……無事だった……!)

抱き締められて安心したのか、梨華は笑みを浮かべたまま再び気を失った。
329 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年03月13日(水)03時59分49秒
導かれて・・・

ああ、よかった〜。
330 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月13日(水)16時01分09秒
梨華っちよかった・・・(泣
331 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年03月14日(木)23時19分51秒
ごっちんのお父さんそしてごっちんすごいぜ。
梨華ちゃん助かってよかった。でもまだ油断はできないようですな。
332 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月15日(金)00時18分34秒
マッテマシタ!!
ゴッチンイケ―!!!
333 名前: 投稿日:2002年03月16日(土)00時43分08秒
ごっちんかっけ〜〜!!
ごっちんパパありがとぅ!!
梨華ちゃん死ぬなぁ!!

更新待ってました!がんばってください!
334 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月02日(火)21時31分38秒
待ってます。
お早めの更新を・・・
335 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年04月03日(水)10時50分39秒
待っています。
336 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月18日(木)20時51分21秒
( ´D`)<夏になってもまつのれす・・・ 
337 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月19日(金)16時57分24秒
まさか梨華ちゃんはもう…
338 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月10日(金)20時26分08秒
(;^▽^)<しないよ
待ってるYO!!返事くれYO!!
339 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月17日(金)22時05分07秒
待ってるよ〜〜〜
340 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月03日(月)23時13分41秒
楽しい日がきそうな予感♪
ハゲシクまってます
341 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月24日(月)20時11分29秒
待ってますよーーー!!!!!!!!
342 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月16日(火)01時49分02秒
待ってます

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