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中澤家の一族

1 名前:JJ 投稿日:2001年09月06日(木)19時19分28秒
『中澤家の一族』
  〜落ち武者平家の伝説〜
2 名前:JJ 投稿日:2001年09月06日(木)20時02分42秒
 二週間ぶりに「保真希澤探偵事務所」のドアの前に立った。『死霊の館連続殺人事件』として世を騒がせた
猟奇的殺人事件を解決したその足で、事務所に戻ってきたのだった。
 ところが事務所には鍵がかかっていた。保田さんもごっちんも出払っているようだ。鍵を開け、中に入ると、二人の机にそれぞれメモがあった。
「急きょ依頼受けた。いずれ連絡する。保田」
「いらいがきたのでおでかけ。ごとー」
 突然電話が鳴り響いた。やたら元気な女性の声がした。
「もしもし。探偵の吉澤さんはいらっしゃいますか」
「ええ、わたしですが」
「おー。実はお願いがあるんだけどー」
 いきなりため口になってる。しかしそのお願いとやらは、わたしの頭脳を刺激するに足る内容だった。
3 名前:JJ 投稿日:2001年09月06日(木)20時03分51秒
「依頼あり。面白そうなので引き受けた。ひとみ」
 メモを残すと事務所を飛び出した。新幹線、在来線を乗り継ぎ、1時間に1本のバスに乗り、最後はタクシーに乗り込んだ。途中保田さんから携帯に電話がかかってきた。
「突然の依頼が来たわ。わたしひとりでできそうだから、大丈夫よ」
「あれ、ごっちんは一緒じゃないんですか」
「後藤には留守番頼んだはずだけど。あいつめ、勝手に飛び出したな」
「わたしも面白そうな依頼受けたんで、今現地に向かっているところです」
「いま……に……るので……ら……」
 電波が届かなくなったのか、最後のほうは聞き取れなかった。
「お客さん、喪弐村なんて辺ぴなところへとは珍しいね」
「中澤家の奥さんに呼ばれたんですよ」
 ミラーに映る運転手の顔がこわばったのが見えた。それ以降運転手はタクシー代の請求以外、一言も話さなかった。
 山と田んぼののどかな風景が広がっている。途中、畑を耕している老人に中澤家までの道を尋ねると、やはりけげんな顔をされた。
4 名前:JJ 投稿日:2001年09月06日(木)20時04分21秒
 教わった通りの道を進むと、大きな旧家が見えてきた。中澤家はかなり裕福な家のようだ。門の引き戸をたたくと使用人らしい中年の女性が顔を出した。
「どなた?」
「ええ、こちらの奥さんに呼ばれた吉澤という者ですが」
「どの奥さんですか?」
 思いがけない言葉に返事できないでいたが、その女性は「ああ、そういうことね」とひとり合点した様子で案内してくれることになった。
 大きな家をどのような順路で進んだのかあやしくなってきたころ、「こちらです」とふすまを開けて通された。
 大きな仏壇の前でお坊さんがお経を上げている。左側に女性が並び、右側には白衣を着た医者と、スーツ姿の女性が二人座っていた。そして真ん中には、白い布を顔にかぶせられ、布団にねかせられたモノがあった。
5 名前:JJ 投稿日:2001年09月06日(木)20時04分52秒
「失礼ですが、どちら様ですか」
 着物を着た、髪の長い女性が尋ねてきた。
「吉澤という者です。この家の奥さんに呼ばれたのですが」
 見ると、着物姿の女性は三人いた。それぞれ傍らには少女が正座している。その中のひときわ小さい女性が立ちあがった。
「先生、来てくれたんですね」
 さすがに臨終の場であるからか、電話のぶしつけな様子とは違って、ていねいな言葉づかいで話しかけてきた。
「どういうこと」
 今度は少々ふっくらした女性がつっかかるように尋ねた。
「なっちさん、かおりさんと同じですよ」
 その小さな女性は対面のスーツ姿の女性二人に目をやった。保田さんとごっちんが座っていた。どうやらこの三人の女性から、それぞれ別々に依頼を受けたらしい。
 お坊さんのお経がとうとうと流れ続けた。
6 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月06日(木)21時27分48秒
2chから流れてきました。なかなか面白そうですね。
『死霊の館連続殺人事件』と言う作品も存在するんですか?
あるんなら、読んでみたいです。教えて下さい。
7 名前:JJ 投稿日:2001年09月07日(金)20時12分08秒
>>6
すいません。存在しません。
森板で短編書いてるのでそっちもよろしく!
(コテハンではないですが)
8 名前:JJ 投稿日:2001年09月07日(金)22時51分11秒
 お経が終わると、わたしは依頼主に別室に連れて行かされた。一人の少女とともにである。
「先生、ありがとう! こんな遠いところだから本当に来てくれるとは思ってなかったよ」
 またざっくばらんな口調に戻っている。
「約束は守ります。ところで、依頼のことですが」
 系統だった話に直すと、以下のような内容である。
 この中澤家の当主は裕子といい、この地方有数の富豪である。富豪のやることは誰でも同じで、お妾さんを三人も養っていた。
「わたしはもともとお妾さんになるつもりはなかったんだ。もう先に二人もいたし。でも子供が生まれちゃって、最初は一人で育てていこうと思ったんだけど、生活が苦しくなってそれで」
 それでこの小さな女性、まりは子供ともども裕子のもとに転がり込んだ。裕子は子供が生まれていたと聞いていい顔をしなかった。どうやら子供好きとは言い難かったようだ。やることやったんだから仕方がないのだが。
9 名前:JJ 投稿日:2001年09月07日(金)22時52分16秒
 先にいたお妾さんも、新しいお妾さんには苦々しい思いをしたようだ。
「なっちもかおりも、女の子が一人づついるんだ。なっちの子が亜依、かおりの子が希美。そしてこの子が梨華」
 梨華と呼ばれた少女はびくっと体を震わせたあと、おずおずとおじぎした。なんとなく話が見えてきた。
「いろいろとつらい目にはあったけど、裕ちゃんも認知してくれたし、優しくしてくれたので、不安はなかったんだ。でもおとといの晩突然倒れて」
「何か不自然な点でもあったのですか?」
 まりは病状については否定した。少々呆け気味だった上、もともと心臓が悪かったらしく、医者もそれを認めているようだ。
「ただ、倒れたときに変な言葉を口走ったんだ」
「変な言葉とは?」
「意味がよくわからないんだけど、『大阪弁じゃ、いんじゃんぴょい』って」
10 名前:JJ 投稿日:2001年09月07日(金)22時53分10秒
 わたしはこの出来事に深い興味を持った。依頼の電話でこのことを聞いたからこそ、わざわざこの僻地にまで足を伸ばす気になったのだ。
「不可思議な言葉ですね」
 わたしは小さくうなり声をあげた。
「『いんじゃんぴょい』とは『じゃんけんぽん』の大阪弁です。今朝方亡くなられたようですが、それまでに意識が戻った様子はありましたか?」
「ずーっと昏睡状態」
「すると最後の言葉というわけですね。『じゃんけんぽん』とはご存知の通り、グーとチョキとパーで勝ち負けを争う遊びです。グーは石、チョキはハサミ、パーは紙をそれぞれ指し示していると言われていますが、異論もあります。そもそも……」
 ひとしきりじゃんけんに関するうんちくを垂れ流した後、本題に切りこんだ。
「そうそう、忘れていました。主人の裕子さんは遺言状を残しませんでしたか?」
「それが、どこにも見当たらないんだ。弁護士のソニンが探しているところ」
11 名前:JJ 投稿日:2001年09月07日(金)22時53分52秒
 ようやく核心に近づいてきた。その遺言状を探せというのだ。しかも弁護士が見つけるまでに。見つからない限り、遺産はそれぞれの母子に3等分される。もしかしたら遺言状には自分に有利な内容が書かれているかもしれない。そのときはそれを公にする。不利な内容だったら握りつぶす。真里は照れ笑いを浮かべた。
「お願い! 悪いようにはしないからさあ」
 まりが突然抱きついてきたが、軽くそれをかわした。
「わたしにはそんな気はありませんよ。だが裕子さんの死に際の言葉が気になります。これはわたしに対する挑戦である、そのように受け取っています」
「じゃあ」
「依頼をお受けします。この家の遺産がどうなろうと、わたしにはかかわりのないことですがね」
12 名前:JJ 投稿日:2001年09月08日(土)16時59分18秒
 部屋を後にすると、携帯電話が鳴った。
「よっすぃ〜?」
「ごっちん。今どこ」
「トイレ」
「あたりに誰もいないよね。ここはお互い知らないふりをしたほうがよさそうだから」
「よっすぃ〜が来たから驚いちゃった」
「こっちもだよ。遺言状のことでしょ。ごっちんの依頼主は」
「なっちさんだよ」
「じゃあ、保田さんはかおりさんね。いいね。顔あわせても他人のふりするんだよ」
 弁護士のソニンを探していると、廊下で保田さんにぶつかった。
「奇遇ですね」
「ばかいってんじゃないの。どうする?」
「事務所の名前を出したわけじゃないみたいですね。できるなら他人のふりを続けて情報を交換していきましょう」
「そのほうがいいわね……あんた、余計なまねは慎んだほうがいいよ」
13 名前:JJ 投稿日:2001年09月08日(土)17時00分04秒
 突然保田さんの口調が変わった。少し驚いたが、目的の人物が近づいてくるのがわかったので調子を合わせた。
「何がおっしゃりたいのか見当がつきませんが、わたしは依頼人のためにできるかぎりのことをするだけです」
「ふん」
 保田さんは弁護士のソニンとすれ違って去っていった。ソニンに声をかけた。
「はじめまして。吉澤ひとみといいます」
 はじめソニンは値踏みするような目をくれていたが、やがて手を打った。
「ああ、思い出しました。あなたが『吸血島連続殺人事件』で大活躍された名探偵吉澤ひとみさんですね。かねてからそのご高名はうかがっております」
「いえいえ、鳴かないニワトリの存在に気づけば、なんてことはない事件でしたよ」
 とお決まりの会話を続けた後、くだんの遺言状について尋ねた。
「裕子様が倒れる三日前までは、遺言状はありました。心臓が悪いのは当人もご存知でしたので、かねてから用意してあったのです。ところが、いきなりそれまでの遺言状は破棄せよ、後日作り直すとの命令を受けたのです」
14 名前:JJ 投稿日:2001年09月08日(土)17時00分44秒
「前の遺言状はありますか」
「いえ、もう焼却しました。ただ、あなたになら話していいと思うのですが、内容は裕子様のお子様、希美様、亜依様、梨華様の3人に等分して与えるという内容でした。もちろん土地や家屋などありますから、概算で等分するのですが」
 わたしはあまり興味のない様子を見せた。
「ふーん。作り直した新しい遺言状はあるのですか」
「それが、裕子様の書斎を探しても、どこにも見当たらないのです。しかし倒れたその日に新しい遺言状があったのは事実です。内容までは教えていただけませんでしたが、確かに書いたとうかがっております」
と、ソニンは胸をはって断言した。。
 ソニンの話によると、本葬が終わっても新しい遺言状が見つからない場合は、法に従って、つまり均等に遺産をそれぞれの母子に3等分する手続を始めるとのことだった。莫大な遺産であるから、母子はじゅうぶん裕福に暮らしていける。
15 名前:JJ 投稿日:2001年09月08日(土)17時01分33秒
 それをまりにそれとなくほのめかすと、顔色を変えた。
「それじゃだめだよ。本葬が終わるまでに必ず遺言状を見つけ出してよ」
 やれやれ、と目線をまりから外すと、梨華のかわいらしい容貌が目に飛び込んできた。人見知りするのか、今まで一言も話していなかったのだが、わたしと目が合うと、くすっと微笑んだ。
「梨華、うるさい!」
 それを聞きとがめたまりは一喝した。梨華は小さくなってまた黙り込んだ。この親子は仲がよくないのだろうか。
 しらじらとした空気が流れてきたので、いったんその場を退散した。
 廊下に出て、携帯電話のメールをチェックした。ごっちんから入っていた。
「よっすぃ〜助けて〜」
 どうやら、ごっちんもなっちに色仕掛けを食らったようだ。
16 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月09日(日)19時46分33秒
 その晩のお通夜はほどほどにつきあった後、ソニンの許可を得て裕子の書斎に入れてもらった。
「何も出てこないと思いますが」
「ヒントくらいは見つかるかもしれない」
 机の引き出しはもちろん、本棚の奥、じゅうたんの裏までひっくり返してみたが、収穫は一切なかった。腕時計を見る。午前2時。もういい加減、ひきあげようかと思った。
 犬の遠吠えがした。
 携帯が鳴った。
「吉澤! 離れにすぐ来い!」
17 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)19時47分44秒
 わたしはソニンを置いてすぐに走り出した。本宅を中心に、離れが三つ取り囲むように建てられている。本宅には主人の裕子とその使用人たち、離れには母子たちが寝泊りしているのだ。知らない建物の中でとまどいながらも、靴を履いて玄関を飛び出した。どの離れで問題が起こったのかは、火を見るより明らかだ。数人が一つの離れを取り巻いている。保田さんとごっちんもいた。
「何かありましたか!」
「あんたに答える義理はない、と言いたいが、今はそんなことをしている状況じゃなさそうだ」
「ふん、ってやりたいけど、そうもいかないみたいだねー」
 一応芝居を続けながら、様子をうかがった。離れの玄関に入り、慎重に歩みを進めた。手前のふすまを開けると、血まみれの女性が座り込んでいた。女性の腕には少女が抱かれていた。
「希美、希美!」
 かおりは返事をしないわが子に声をかけ続けていた。
18 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)19時48分48秒
 警察のパトカーが慌しく門前に止まった。使用人が近くの駐在にかけこみ、そこから県警に連絡が入ったのだ。
「ふーん、これがかの中澤家か。田舎とはいえ豪勢な家だこと」
「アヤカ警部、第一発見者を連れてきました」
 わたしは腕をつかまれ、前に出された。
「レファ、ご苦労。君がそうか」
「いや、わたしは2番目。最初に見つけたのは死んだ子の母親ですよ」
 レファと呼ばれた刑事はアヤカににらまれて肩をすくめた。
「その母親であるかおりさんは、気が動転していてしばらくは事情を聞けそうになかったものですから」
「わかった。で、君の名前は」
「吉澤ひとみ」
「知っていることを話しなさい」
「犬の遠吠えのようなものが聞こえたので、何事かと外に飛び出したら、離れに人が集まっているようなので、飛び込んだら、子供を抱えた女性を見つけた」
 できるだけアホっぽく話した。今の段階で、探偵であるということを悟られるのは好ましくない。
19 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)19時49分45秒
「人が集まっていたというが、その連中は中に入ったのか」
「わたしが入るまでは、外で様子をうかがっていたみたい」
 続いて、レファ刑事がその連中を連れてきた。
「叫び声が聞こえたから見にいっただけ」
「そこの人が入るまではわたしたち中に入ってないよ−」
 保田さんとごっちんが答えた。相変わらずお互いを知らないふりを続けている。
「君たちは、何の用事でこの家に来たのかね。見たところ地元の人間ではなさそうだが」
「弔問だよ。亡くなられたご主人にはお世話になったことがあったから」
「わたしもー」
 依頼については隠すことにしたらしい。わたしも調子をあわせた。
20 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)19時51分33秒
「もしかして、危うく迷宮入りしかけた『快速アクティ1/100000000の謎』事件で犯人のアリバイトリックを見事に見破った保田探偵ではないですか」
 どうやら保田さんの名前は県警にまで及んでいるようだ。アリバイ崩しが得意で、足で捜査するタイプの保田さんは警察には評判がいい。密室トリックだの入れ替わりトリックだのが得意なわたしや、いきあたりばったりのごっちん(本人に言わせると『はーどぼいるど』らしい)は警察にうけがよくない。
「いやいや、これは失礼致しました。こんなところで天下の保田探偵に出会えるとは。よろしければ、捜査にご協力願えますでしょうか」
 保田さんは少ししぶってから承諾した。警察の情報が入るのはありがたい。やがて簡単な検視の報告が入ってきた。死因は頚部からの出血多量、大型のナイフで一突きらしい。
21 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)19時52分12秒
「返り血を浴びているはずだ。本部に連絡を入れて、検問するんだ」
「かわいそうに。まだ中学生でしょう」
「私情ははさむな、といいたいが、気持ちはわかる。レファにも同じくらいの子供がいたな」
「……ええ、やりきれません」
 やがて、刑事の聞き込みにより、この家の複雑な事情が警察に明らかとなった。ただわたしたちが依頼を受けてやってきたということはふせられているらしい。
「すると、この家の遺産問題が背景にあるかもしれないわけだ。検問は無駄足だったか」
22 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)22時53分39秒
 翌朝まで捜査は続けられたのだが、保田さんに後はまかせて、わたしとごっちんは一眠りすることにした。一晩たてば警察があらかた調べ尽くすだろうし、それまで頭を休めることにしよう。何よりごっちんがいっしょに寝よう、寝ようとうるさかったのだ。
 そして朝起きると、わたしとごっちんの依頼人は容疑者になっていた。
「事情は弁護士から聞きました。相続人が一人減れば、分け前がその分増えるのですから、動機は十分です」
 アヤカの言葉になっちとまりがかみついた。
「なんでだよー。わたしがやったって言うのか」
「ひどーい。人殺しなんてなっちやってない」
 そこに長髪を振り乱した、幽鬼のようなかおりがからんでいった。
「あんたたちだったのね。希美をあんな目にあわせたのは」
 三人の取っ組み合いを横目で見ながら、わたしはレファに聞いた。
「わかったこと教えてくれる?」
23 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)22時54分14秒
 レファはとまどったが、保田さんが教えてやれと促したので話し始めた。
「犯行時刻は午前2時。これはあなたがたの証言によります。検問での成果はなし。この村から犯人が逃亡した可能性はまずないでしょう。動機の点から言えば、なっちさんかまりさんが怪しいのですが」
「ですが?」
「二人ともアリバイがあります。なっちさんはお通夜の席でお坊さんの横にいましたし、まりさんは使用人といっしょにお通夜の客に出す食事の準備をしていました」
「じゃーふたりともむりなんだねー」
 他の人間にもアリバイがあった。かおりはその時間には本宅の玄関で弔問客の相手をしていた。使用人は対応でてんてこまい。3人の子供たちは12時には就寝してたとのこと。
24 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)22時55分55秒
「その子供たちがやった可能性は?」
「離れと本宅は飛び石でつながっているのですが、離れどうしは柔らかい土の地面を通るしかありません。希美さんの離れにはいろいろ足跡がありました。おそらく犯人のものもまじっているでしょう。しかし他の二人の離れには、足跡が全くありませんでした」
「いったん本宅を通ってそれから犯行現場に向かったのでは?」
「その場合、使用人や客に見られずに通れたのかどうか。もちろんそのような証言はありません。弁護士のソニン、そしてあなたがたを含む弔問客も一人一人調べましたが、午前2時に犯行現場にいることは不可能です」
 アリバイ崩しといえば保田さんである。それで先ほどから熱心に手帳に何か書きこんでいるのだろう。だがポケットJR時刻表は何に使うのか、わたしにはわからない。
「じゃあ外部犯?」
「村の人間たちはほとんど弔問に来ているのです。人口の少ない村ですから」
「今子供たちはどうしてるんですか?」
「使用人たちが面倒を見ているようです。現場にはいないほうがいいでしょう」
25 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)22時56分43秒
 レファから聞くだけ聞くと、わたしとごっちんはその場を離れた。わたしはというと、この事件にさほど興味がわかなかった。
「んーどして?」
「だってだって、密室でもないし、猟奇的なバラバラ殺人でもないし、絶海の孤島でもないし、橋げたを落とされた山荘でもないし、迷路みたいな館でもないし、つまんないだもん」
「そんなこといったらごとーだって、繁華街でもないし、ピストルも出てこないし、ギャングたちの抗争もないし、むちむち金髪ギャルもいないし、つまんないよー」
 お互いの認識不足を確認した後、それぞれ興味のあることに取り組むことにした。わたしは隠された遺言状と「いんじゃんぴょい」の謎、ごっちんはお昼寝。
26 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)23時32分38秒
 まずは、この謎を残して死んでいった裕子のひととなりを知らなければならない。こういうことには本人のくせが出ていることが多いのだ。
 本宅に入り、お通夜の席だった大広間に入った。こんな事件が起きてはしばらくはお通夜どころではない。がらんとした畳の部屋には、裕子の死体の前に座ったかおりがいた。
「かおりさん」
「……」
「かおりさん」
「……」
「かおりさん」
「……」
 愛娘が惨殺されたのだから、呆けているのも無理はない。わたしは黙ってその場を後にした。ふすまを閉めたときに聞こえた「でぃあ〜」という声は、聞かなかったことにする。
27 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)23時33分39秒
 次は台所でつまみ食いをしているなっち。ライバルの雇った探偵には、なかなか口を開こうとしなかった。
「なっちさん」
 もぐもぐ。
「なっちさん。わたしはね、誰が遺産を手にしようがまったく興味はないんですよ」
 もぐもぐ。
「遺言状を見つけたとき、内容によってはまりさんに見せないほうがいいかも、と判断するかも知れませんよ」
 なっちは目を輝かせた。
「そうね。いくらで雇われたのかしれないけど、遺言状をなっちに渡してくれたらたっぷりはずむわよ」
と、なっちは手で自分のお腹をはずませた。
「表の金は規程の料金しかいただきませんが、わたし個人へのお小遣いは別ですよ」
 わたしたちはがっちり握手した。なっちは裕子のことを話し始めた。
28 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)23時34分17秒
「裕ちゃんはねえ。裸一貫、場末のキャバクラから始めて、ここまでの財産を築き上げた苦労人なんだ。わたしとかおりといっしょにやってきたんだ」
「かおりさんも?」
「そう。だから、かおりとはぶつかることもあったけど、いっしょに暮らすことには抵抗なかった。でもあのまりが来てから……」
 話がずれそうになったので、あわててとどめた。
「そうだった。で、裕ちゃんは仕事一筋だったけど、唯一の趣味は演歌を歌うことだった。村のカラオケ大会に飛び入りで参加して、いつも優勝するくらいうまかったよ」
 そりゃ村の一番の実力者を無下に扱うことはできないよなあ、と心の中で思った。
「一つ聞きたいんですが、裕子さんは村の外に親しい友人はいませんでしたか?」
 なっちは首を振った。
「裕ちゃんは若い頃人にだまされてからは、簡単には他人を信じなくなった。信じてたのは、なっちとかおり……くやしいけどまり、それくらいのはず」
 わたしは、台所を後にする前に、警告をしておいた。
「誰が犯人かはわかりませんが、もしかしたらあなたのお子さんを狙っているかもしれません。注意してください」
29 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)23時35分13秒
 まりの部屋に行くと、彼女は丸椅子の上に立って、棚の箱を取ろうとしていた。が、いかんせん身長が足りないらしく、手がとどかないでいた。
「何してるんです?」
「お母さん、わたしが手伝おうとすると怒るんです」
 梨華ちゃん(そう呼ぶことにする)が微笑んだ。まりはそれを聞いてやっぱり顔を真っ赤にして怒鳴った。
「梨華、うるさい!」
 やれやれ、とわたしはまりを椅子から下すと、かわりに棚の箱を取って渡した。
「ありがとう。よっすぃ〜かっこいいなあ」
「よっすぃ〜?」
「なっちに雇われた探偵がそう呼んでるの聞いたんだ。知り合い?」
 その質問を軽くかわすと、本題にとりかかった。
30 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)23時35分55秒
「ちょうどよかった。この箱の中には裕ちゃんとの思い出がつまってるんだ」
 中には写真が入っていた。二人で仲良く抱き合っている写真が大半で、梨華ちゃんと裕子がいっしょに写っている写真は少なかった。
「やはり裕子さんは子供が嫌いだったのでしょうか」
「……うん」
 まりはうつむいた。梨華ちゃんも申し訳なさそうな顔をした。話題を変えよう。
「どこで知り合ったのですか?」
「証券会社でOLやってたんだ。で、投資の相談にきた裕ちゃんにひとめぼれ」
「すぐにいっしょになろうとは思わなかった?」
「なっちとかおりが先にいたのは知ってたし」
 部屋を出る前に、同じ警告をしておいた。すると梨華ちゃんは眉をひそめて怖がっていた。ちょっと脅かしすぎたか。
 使用人に聞くと、裕子はかなり厳しい人だったが、努力している人には優しくしてくれたそうだ。やはり演歌が大好きで、『カラスの女房』が十八番だったらしい。悪いが聞いたことがない曲だ。
31 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)23時36分37秒
 庭に出ると、保田さんとアヤカ、レファがいた。状況はかんばしくないらしい。
「外部犯の可能性が若干強まったかな」
「というと」
「裏木戸にべったりと血がついている」
「もしかして『RACHE』とか『怨』とか書いてありません?」
「書いてねえよ。犯人の足跡は、使用人のものと混じってしまって、あるのかどうかもわからない」
「それってあやしいなあ。そんなにわかりやすい証拠残しますかねえ。フェイクっぽいなあ。あ、保田さん、もしかしてアリバイ崩せないもんだから、外部犯にしたがってるんでしょ」
 いたずらっぽく流し目をくれると、保田さんは動揺した。
「な、なによ。わたしにくずせないアリバイはないわ!」
 時刻表で殴られる前に退散した。ああなると誰にも止められない。
32 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)23時37分21秒
 走って逃げていると、小さな置物にぶつかった。置物かと思ったら、それは駐在のミカ巡査だった。
「ごめんなさい」
「たたり……」
「へ?」
「たたりだ。落ち武者平家のたたりだー」
 駐在によると、千年ほど前、源氏に敗れた平氏の一族がこの村に落ちのびてきたが、賞金に目がくらんだ村のものたちに惨殺されたという。裕子や希美はその村のものの子孫で、そのたたりによって呪い殺されたのだ。
「あのねえ、そんなどこかで聞いた話はもううんざり。そういうのは金田一か浅見にでも任せておきなさい」
「……たたりをあなどっちゃいかんです。次はきっと梨華か亜依が呪い殺されるのです」
 その駐在を蹴飛ばし、本宅に向かった。なーんで呪い殺すのに千年たたなきゃいけないのか。
33 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)23時38分00秒
 途中、まりと梨華ちゃんに出会った。まりは軽く会釈し、梨華ちゃんは愛嬌のある笑顔を投げかけてきた。離れに向かっているようだった。
 裕子の書斎に入った。やはりこの部屋のどこかにちがいない。遺言状を預けられる信頼のおける人物がいないとすれば、手元に置いておくはずだ。外から自動車の排気音が聞こえてきた。窓からのぞくと、数台のパトカーが走り去っていく。保田さんの携帯電話にかけた。
「警察は外部犯と判断したわ。今はやりの精神異常者か変質者の犯行にするみたいね」
「誰も残らないんですか」
「レファが残るそうだ」
34 名前:JJ 投稿日:2001年09月09日(日)23時38分30秒
 電話を切ると、椅子の上に乗った。天井をいろいろさわってみるが、ほこりが口の中に入ってきただけだった。思わず咳き込むと、足元がふらつき、椅子が横に倒れた。
 派手にお尻をうってしまった。痛くてしばらくあお向けで寝そべった。壁には額縁がずらりと並んでいる。カラオケ大会の表彰状だった。
「表彰状。中澤裕子様。貴方様は第1回喪弐村カラオケ大会において、古今まれに聞く美声で聴衆を魅了されました。よってこれを永劫に称え、末代まで伝えることを誓います」
 追従がひどくて、読むに耐えない表彰状だ。
35 名前:JJ 投稿日:2001年09月10日(月)20時20分49秒
 ゆっくり立ちあがると、書斎を後にした。廊下でごっちんとぶつかった。頭同士がぶつかり、わたしたちはその場にうずくまった。
「いたーい」
「ごっちん、ひどいよー」
「よっすぃ〜こそー。あ、そうだ。たいへんだよ〜。今度は梨華ちゃんが殺されちゃったー」
 ごっちんが言うと真実味が薄れるような気がする。現場はやはり離れだった。離れに飛び込むと、梨華ちゃんの死体に泣きながらすがりつくまりがいた。やはり、折り合いが悪いようでも親子なのだ。
 わたしはまりの肩に手をかけた。よっすぃ〜と力ない声が聞こえた。保田さんがまりから梨華ちゃんの死体を離させ、まりを抱きかかえるようにしてそのまま出ていった。
 後頭部が陥没している。頭蓋骨骨折が死因だろう。凶器はわかりやすいことに、ひびの入った花びんが転がっている。部屋に荒らされた痕跡はない。
36 名前:JJ 投稿日:2001年09月10日(月)20時21分20秒
 一時間後、アヤカが血相を変えてやってきた。
「レファはどこへいった!」
 ぷりぷりしながら刑事たちに指示を出した。保田さんもアヤカにくっついて情報を得ようとやっきになっている。わたしとごっちんは、
「つまんなーい、密室(以下略)」
「つまんなーい、繁華街(以下略)」
と不満をぶちまけながら、その場から消えた。
37 名前:JJ 投稿日:2001年09月10日(月)20時23分24秒
 とはいうものの、胸がむかむかする。子供にはなんの罪があるというのだ。特に梨華ちゃんはあんなにかわいらしい少女だったのに、といくぶんピントのずれた怒りを胸にしながら、本宅のまりの部屋に向かった。
 途中、疾走してくるレファにぶつかった。
「また殺人事件がおこったのですか!」
「あんたはどこいってたんだい。持ち場を離れた、って警部がカンカンだったよ」
「そ、それは、あやしい人物がいないか、この周辺をパトロールしてたから……」
「言い訳はわたしじゃなくて上司にするんだね」
 玄関を開けようとすると、腰のあたりをつかまれる感じがして振り向いた。例の駐在だった。
「へっへっへっ、落ち武者平家のたたりじゃあ」
 ごっちんのぐーパンチがクリーンヒットした。
38 名前:JJ 投稿日:2001年09月10日(月)20時23分58秒
 まりの部屋に入ると、まりを寝かせようとするソニンもいた。
「あ、吉澤さん。いいところにきました」
 まりはしばらく暴れていたが、「梨華、梨華、どこに……」とぶつぶつ言いながら布団に横たわり、やがて寝静まった。
「いや、たいへんでした。保田さんがこの部屋に連れてきた後、突然暴れ出して『梨華!』と叫びながら、あちこちの部屋に走りこんでいたんです。かなりの錯乱状態です」
「しょーがないよー」
 まりは寝言でも「りか、りか、帰っておいで」とうめき、ソニンやごっちんの涙をさそっていた。わたしはやることがある。
39 名前:JJ 投稿日:2001年09月10日(月)20時24分32秒
 廊下で携帯の電源を切ると、保田さんが現れた。ぬっと顔を出したので妖怪かと思った。
「どうでしたか」
「殺害方法はあなたの見たとおり、花びんで後頭部を一撃。頭蓋骨骨折と脳挫傷で死んでるわ」
 わたしは意地悪く聞いた。
「お得意のアリバイのほうはどうなんです?」
 保田さんは苦い顔をした。
「なっちさんは台所で娘の亜依さんといっしょにいた。使用人も認めている。かおりさんはお坊さんといっしょにお経をあげていたそうよ」
「はい、これ」
 ポケット時刻表を手渡した。
40 名前:JJ 投稿日:2001年09月10日(月)20時25分35秒
「よっすぃ〜ほっぺたが腫れてるー」
「いたたた。これはもともと。保田さん手加減しないんだもんなー」
 一息ついたのか、アヤカがみけんにしわを寄せながらこっちにやってきた。
「おやおや、探偵さん方、商売敵同士と聞いていましたが、ずいぶん仲のよいことですね」
「まあ、事態が事態ですから、呉越同舟でやっていこうと」
 アヤカは胸倉をつかんできた。
「あんたたちが保真希澤探偵事務所に所属していると、本部から連絡があった。あんたたち、何か隠していることがあるんじゃないか?」
 ばれてる。ごっちんがアヤカの腕をつかんだ。
「よっすぃ〜になにするんだよ!」
 アヤカは顔をしかめて、わたしのシャツをつかんでいた腕をはなした。
41 名前:JJ 投稿日:2001年09月10日(月)20時26分19秒
「わたしたち3人は、それぞれの奥さんから依頼を受けてきたのです」
「どんな依頼です」
「遺言状を探してほしいと」
 アヤカはうなずいた。
「遺言状は見つかっていない様子ですね。やはりこの犯行は財産絡みの可能性が強いな。犯人は遺言状を盗んだ。おそらく犯人に都合の悪い内容だったのでしょう。当主の裕子に遺言を書き換えさせようにも、急死してしまった。そこで、自分の取り分を増やすために犯行を繰り返した」
 アヤカはわたしたちの返事も聞かずに立ち去った。アヤカの推理は、なっちか亜依の犯行をほのめかしている。しかしなっちも亜依も鉄壁のアリバイがあるのだ。まあ、そのあたりは警察か保田さんがむりやりアリバイを崩して捕まえてしまおうという算段なのだろうが。
42 名前:JJ 投稿日:2001年09月10日(月)20時27分05秒
「たたりじゃ〜」
 例の気味の悪い駐在が現れた。ごっちんのパンチのせいで、片目が大きく腫れている。
「いいかげんにしないとひだりめもいくよー」
「ごっちん、ちょっと待って。聞きたいことがあるの」
 わたしはミカの肩に腕をまわした。
「ずいぶん落ち武者のたたりにこだわるようだけど、根拠はなんなの?」
「見たんだ」
 ミカは両手を前に垂らした。幽霊のポーズ。
「裕子様が亡くなる前日の夜、そこの小山の道を巡回していた。近所のガキが幽霊を見た見たとうるさくてな。本官だって幽霊など信じちゃいなかった。だが、見たんだよ」
「何を」
「落ち武者の幽霊だよ。落ち武者平家の霊を祭っている祠があるんだが、そのあたりで懐中電灯を照らすと……」
 ミカが突然顔を前に突き出した。思わず出したアッパーカットでミカは沈んだ。
43 名前:JJ 投稿日:2001年09月10日(月)20時27分46秒
「ねえねえ、行ってみようよ」
「はーどぼいるど」なごっちんが執拗に誘うので、落ち武者が出たという祠に行くことにした。道というよりけもの道に近い。自分から誘ったくせに、ごっちんはスーツのすそをつかんで離さなかった。
「昼間だってのにけっこう暗いね。ほんとに出そうだね」
「よっすぃ〜おどかさないでよー」
 祠というからお地蔵さんが飾れるくらいのものを想像したら、それは祠というよりお堂だった。
「開けてみようか」
「よっすぃ〜そんなことしてだいじょうぶー?」
 木の段を上って、扉を左右に開いた。懐中電灯をつけた。天井にはくもの巣が張っていて、くもがぶら下がっていた。
「なるほどね」
44 名前:JJ 投稿日:2001年09月10日(月)20時28分36秒
 けもの道を戻ると、ミカのいっていた子供に出くわした。
「おばさん……! お姉さん、おばけ見た?」
 子供は涙目でコブをさすった。
「残念だけどいなかったよ」
「おいらこの前見たんだよ。中澤さんとこの梨華お嬢さんみたいにきれいな女の人の幽霊」
 ごっちんが鼻で笑った。
「どーせなにかのみまちがえでしょ」
「はじめはそう思ったんだけど、昨日の夜中も見たんだ。顔がまっかっかで、ちびりそうだったよ」
 わたしはごっちんと目を見合わせた。
「もしかして、梨華ちゃん?」
「でもー梨華ちゃんは寝てたんでしょー」
「そうだよね。抜け出した様子もないし」
45 名前:JJ 投稿日:2001年09月10日(月)20時29分38秒
 中澤家に戻ると、保田さんが寄ってきた。
「警察は、はじめなっちさんをしょっぴくつもりだったんだけど、アリバイが崩れなくて断念したみたいね。変質者がいないかどうか、近所を聞きまくっているわ」
「残念ですね、保田さん」
「あんたのほうこそ、遺言状は見つかった?」
 わたしは肩をすくめてみせた。
「もう興味がなくなりました」
「あんた、淡白すぎるわよ」
 まりはまだ寝ているようだ。聞きたいことがいくつかあるのだが、起きるのを待つしかない。
 おなかがすいたので、何かわけてもらおうと台所に行くと、なっちと亜依がいた。
「そばに置いてないと不安でしょうがないわ」
 亜依も何が起きたのか、うすうす感じ取っているのだろう。顔面は蒼白だ。ごっちんはよしよしと亜依の頭をなでた。
46 名前:JJ 投稿日:2001年09月10日(月)20時30分19秒
「かおりとまりには本当に気の毒だわ。警察は何やってるの」
 使用人の女性が返事した。
「レファという刑事さんが、梨華様を護衛していたんですけれどもねえ。ちょっと目を離した隙に……」
「護衛してたんだー」
「ええ。手を引いて庭を歩いているのを見かけましたよ。散歩くらいはさせてあげないとねえ」
「警察はもう信用できないわ。亜依、お母さんのそばを離れちゃだめよ」
 亜依はうなずいた。
 わたしはソニンを探した。ソニンはアヤカに尋問されていた。
「あなたは弁護士だそうだが、この家にどのくらいかかわっているのかね」
「遺言状の管理のみですよ。財産管理などは裕子様がじきじきに行っていました」
「どこかの奥さんから袖の下をもらって、遺言状に細工したりしてないなだろうね」
 ソニンは怒り出した。
「失敬な! これ以上わたしを侮辱すると、法的手段に訴えますよ」
47 名前:JJ 投稿日:2001年09月10日(月)20時30分56秒
読者への挑戦状(笑)
 この『中澤家の一族』事件の謎と手がかりはすべて揃いました。
 ごめんなさい、嘘です。一部隠してますが、想像力でどうとでもなります。

 謝っておきます。
 つっこみどころ満載ですが怒らないでね。
48 名前:JJ 投稿日:2001年09月10日(月)23時25分21秒
見てる人いるかどうかわかりませんが、
推理とかしてみてください。
(だいたい見当はつくと思いますが)
49 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月11日(火)20時59分09秒
う〜ん。
犯人っぽい人は1人しか思いつかんが・・・。
50 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月11日(火)22時49分00秒
 理詰めで解けるのか?
 犯人っぽいのはやっぱ一人しかいないけど・・・。
 想像力でしか出てこない。
 これで当たってたら、怒る(笑)
51 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月12日(水)07時30分51秒
一人って誰?
52 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月13日(木)04時56分23秒
推理してみてってことは、書いてもいいのかな?
オイラも犯人っぽいのが一名……
53 名前:JJ 投稿日:2001年09月13日(木)06時39分59秒
解決編はほぼできています。
犯人変えるなんてことしないので、
名前を挙げて推理してみてください。
54 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月16日(日)11時24分00秒
せっかくなんでメール欄に書いときます。
根拠は……カンです(w
55 名前:JJ 投稿日:2001年09月16日(日)12時29分18秒
では解決編。
怒らないよーに。
56 名前:解決編 投稿日:2001年09月16日(日)12時31分14秒
 わたしはごっちんの手を握った。
「どうしたの、よっすぃ〜」
「やばいよ、ごっちん。まりさんのところに急ごう!」
 仮説だらけで確証はないが、事件の真実が見えてきたのだ。まりさんの部屋に飛び込んだが、布団はもぬけの空だった。
 台所から悲鳴が聞こえてきた。使用人は台所の前の廊下で腰を抜かしていた。
「警察を呼んできなさい」
 使用人はほとんど四つんばいの格好で走り去った。台所に入ると、おはしを手にして何やら叫んでいるなっちと、亜依に包丁をつきつけたまりが立っていた。
「まりさん、その子は何の関係もないはずだ。放しなさい」
「梨華を返して。すぐに返せ!」
 まりは包丁を亜依の喉元にあてた。なっちが悲鳴を上げる。
57 名前:解決編 投稿日:2001年09月16日(日)12時32分16秒
「大丈夫です。梨華ちゃんはちゃんと生きてますから」
 まりは呆然とした様子で包丁を下に向けた。亜依はなっちのもとにかけこんだ。
「よっすぃ〜どーゆーこと?」
「どうしたんだ、吉澤」
 保田さんがアヤカ警部、レファ刑事といっしょに飛び込んできた。アヤカがまりに近寄ろうとするが、まりが包丁を振り回すのでかなわない。
「みなさん、わたしがこれから話すことをよく聞いてください。まりさん、わたしの話におかしなところがあったら、訂正してください」
 なんだか無性にベーグルを食べたくなってきた。帰ったら好きなだけ頬ばってやる。
「すべては、梨華ちゃんが生まれた日から始まったことなのです」
58 名前:解決編 投稿日:2001年09月16日(日)12時32分58秒
 まりがはっとして顔をあげた。
「よっすぃ〜やめろ!」
「その日に生まれてきたのは、梨華ちゃんだけではなかった。まりさんが産んだのは双子だったんです。生活の苦しかったまりさんは、もう一人の子を育てることができずに、施設に預けるか、捨てるかした。そうですね、まりさん」
「……施設の前に置いてきた。梨華だけなら、わたし一人でも育てられると思ってたんだ」
「しかし、やはり働きながら女手一つで乳児を育てるのは無理があったのでしょう。まりさんは裕子さんのもとに身を寄せました。もう一人のわが子を案じながら」
「いつも、いつも亜弥のことが気になってた。でも、時間をみつけて施設に行ったときには亜弥はもういなかった。養子にもらわれていたんだ」
「赤ん坊を捨てたという後ろ暗さから、それ以上のことを聞き出すのはきっとできなかたったのでしょう」
59 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月16日(日)12時33分35秒
 ごっちんが腕をひっぱった。
「よっすぃ〜はどうしてわかったの?」
「例の駐在がしつこく言ってた、落ち武者平家の伝説だよ。梨華ちゃんそっくりの幽霊がうろついているって子供が言ってたでしょ。もちろん梨華ちゃんが出歩いているわけじゃないから、梨華ちゃんとうりふたつの少女がいることになる。そこから双子がいるんじゃないかと思ったんだ」
 アヤカが横から口出しした。
「そんなお昼1時からやってるドラマのような話なんかどうでもいい。犯人は誰なんだ」
「どうでもよくはないですよ。その子は、亜弥という名前ですか、成長してから実はこの富豪の家の子どもだということを知った。きっとこう思ったのでしょう。自分にも中澤家の遺産を受け継ぐ資格があると」
60 名前:解決編 投稿日:2001年09月16日(日)12時34分36秒
「じゃあ、その子が希美と梨華を殺したのか!」
 わたしは少しうんざりしてきた。
「がまんして最後まで話を聞いてください。希美さんを殺したのは亜弥です。お通夜の喧騒と夜の闇に紛れて離れに行き、希美さんを刺し殺したのです。そして裏木戸から出ていった」
「そのあとどこにかくれたのー?」
「もちろん、あの祠にだよ。村からは一歩も出ていない。あの時間にはみなさんアリバイがあった。村の人々には動機がない。アリバイがなくて、遺産相続に絡んでいる人間は、双子のかたわれしかいないのです」
「うーむ、それでは梨華さん殺しは?」
「当然警察が来ていますから、亜依さんと梨華ちゃんにはおいそれと近づけない。そこで、亜弥はまりさんを利用することを思いついたのです。そうですね、まりさん」
61 名前:解決編 投稿日:2001年09月16日(日)12時35分38秒
「……亜弥は突然わたしの目の前に現れた。わたしは、亜弥が希美さんを殺したのだと直感でわかったよ。あの子は、梨華には手を出さないから亜依さんを殺すのに手を貸せと脅迫してきた。それはきっと嘘。梨華にも手をかけようと思っていたにちがいないんだから」
「まりさんは梨華ちゃんのいる離れに連れていきました。そしてそこで花びんで殴り殺したのです」
「ちょっと待てよ、吉澤。まりさんはどうして梨華ちゃんの離れに連れて行ったんだ?」
「さあ。それはまりさんに聞かないとわからない。どうなんです?」
「まさか、本当に亜依さんの離れに行けるわけないでしょ。梨華はそのとき離れにいないのはわかっていた。その辺を散歩してくるって言って別れていたから」
「その時には亜弥をあやめようと決意していたんでしょうね。しかしそれでも、亜弥はまりさんのおなかを痛めたわが子なんです。わたしたちが飛び込んだときには、冷たくなったわが子にとりすがって泣いていました」
62 名前:解決編 投稿日:2001年09月16日(日)12時36分52秒
「亜弥……梨華、梨華はどこに!?」
「それはあの人に聞けばわかります」
 わたしはレファを指差した。
「おそらく、亜弥を引き取っていたのはレファ刑事です。レファが梨華ちゃんの手を引いて護衛していると、使用人が言っていました。レファは、なぜだか知らないが亜弥がこんなところにいる、と思い、急いで連れて帰った。それでレファは持ち場を離れたのです。おそらくこの事件に亜弥がからんでいることに感づいていたんじゃないいですか」
「あれは……亜弥だ。梨華じゃない!」
 突然レファが暴れ出したが、保田さんとアヤカに取り押さえられた。アヤカは部下の刑事に、レファの家を捜索するよう指示を出した。
63 名前:解決編 投稿日:2001年09月16日(日)12時39分03秒
「以上が事件のあらましです。どうですか、みなさん」
 なっちが尋ねてきた。
「遺言状はどこにあるんです?」
 わたしは口を閉ざした。どう話したらいいのか、わからなかったからだ。
「『大阪弁じゃ、いんじゃんぴょい』よ」
 保田さんだった。わたしはこの場を保田さんにまかせた。
「これはミニモニ。というグループの歌っている『ミニモニ。ジャンケンぴょん!』の一節よ。ミニモニは少女4人のグループ。女の子4人で仲良く暮らしなさい、というのが裕子さんの遺言だったのよ」
 まりはぽろぽろと涙を流し始めた。
「裕ちゃん、気づいてたんだ……ごめんよ、裕ちゃん!」
 あわてて手を出そうとしたが、遅かった。包丁がまりの首筋を走った。真っ赤な血が飛び散り、わたしの頬にも降りそそいだ。
64 名前:解決編 投稿日:2001年09月16日(日)14時54分23秒
 わずか2両の電車に乗り込むと、わたしたちは並んで座った。
「やれやれ、とんだ無駄折り損だったわね」
 保田さんが自分の肩をぽんぽんと叩いた。
「『遺言の内容を、他人に知られることなく依頼主に知らせる』という依頼を、結局こなせなかったですからね」
「甘かったわ。途中で依頼内容を変更するんだった」
「けっきょく電車賃しかもらえなかったもんねー。よっすぃ〜は別のものをもらったみたいだけど」
 わたしの隣では、梨華ちゃんが寝息を立てていた。あの家にはこれ以上いづらそうなので、わたしが後見人として引き取ることにしたのだ。
65 名前:解決編 投稿日:2001年09月16日(日)14時54分56秒
「この事件はどう考えても保田さん向きでしょう。何やってたんです?」
「きっとごはんにみそしるかけてたべてたんだよー」
「ばか言ってんじゃないの。松本清張の刑事じゃないんだから」
 保田さんはごっちんを殴るふりをした。
「遺産はどうなるんだろうね」
「多分、かおりさん、なっちさん、亜依さんで分け合うことになるでしょう」
「梨華ちゃんは?」
 わたしは黙り込んだ。
「親が遺産がらみで殺人を犯したとなるとねえ」
 保田さんが結論づけた。やはり黙ってはいられなかった。
66 名前:解決編 投稿日:2001年09月16日(日)14時55分30秒
「そのう、遺言状なんですけれど、わたし見つけたんですよ」
 保田さんとごっちんが身を乗り出してきた。
「何、いつの間に?」
「裕子さんの書斎でねっころがっていたら、壁にカラオケ大会の表彰状がずらりと並んでいるのを見つけたんですよ。その中にこれが飾ってあったんです。呆けてきたって言ってましたからねえ」
 わたしは紙切れをひらひらさせた。
「どうして早く言わないの!」
「だってだって、推理で見つけたわけじゃないからかっこ悪いじゃないですかあ」
「なんだったんだろー『いんじゃんぴょい』って」
 ただのミニモニ好きだったのか……。
67 名前:解決編 投稿日:2001年09月16日(日)14時56分17秒
「ねえねえ、なんて書いてあるの? 置いてこなくてよかったの?」
「後で郵送するつもり。見ないほうがいいんだろうけど」
 保田さんとごっちんに紙を渡した。
『ごめん。株の投資に失敗して、全財産を失いました。家も土地も全て担保がついています』
「……なにこれー」
「遺産なんてないのかよ」
「そうですね。かおりさんたちは、借金を分け合うことになるんですよ」
「梨華ちゃんは?」
「とっとと相続放棄すませてきました」
 二人は肩を落とし、それきり口を閉ざした。
 梨華ちゃんがわたしの肩にもたれかかってきた。わたしも目を閉じて、しばし眠りに落ちることにした。
68 名前:JJ 投稿日:2001年09月16日(日)14時56分52秒
『中澤家の一族』
  〜落ち武者平家の伝説〜

おしまい
69 名前:JJ 投稿日:2001年09月16日(日)14時57分56秒
石を投げないで下さい
70 名前:JJ 投稿日:2001年09月16日(日)14時58分32秒
次は保田所長主人公……かな
71 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月16日(日)21時03分49秒
おもしろかったよ。
次も期待。
72 名前:54 投稿日:2001年09月16日(日)23時03分09秒
惜しかった(のか?)
前半、麻耶雄嵩みたいでおもろかったです。
次も楽しみにしてます。
73 名前:50 投稿日:2001年09月16日(日)23時07分10秒
 てっきり、平家の呪いだと思ってた。
 平家みちよのね。
 愛人は私よー!!!ていう。
 でも、当たってたら、怒ってた。

 つうか、こんなの解けるかー!!!
74 名前:49 投稿日:2001年09月16日(日)23時50分30秒
お、半分(?)当たってた。
最後の殺人はやっぱり矢口が犯人か。
それしか読んでてわからんかった。
亜弥の存在はまったくの予想外。ていうか、想像不可…。

や、でも、おもしろかったっす。
次回も期待。

75 名前:JJ 投稿日:2001年09月17日(月)20時22分07秒
ごめんなさい、ごめんなさい。
刑事が「梨華」を連れているくだりをもっと細かく書けばよかったのです。
左の頬も右の頬も差し出すからご勘弁を。
76 名前:インターバル 投稿日:2001年09月17日(月)20時23分07秒
『保田所長の憂鬱』
〜保真希澤探偵事務所の一日〜
77 名前:インターバル 投稿日:2001年09月17日(月)20時24分01秒
「ごっちんおはよー」
「よっすぃ〜おはよー」
「うーっす」
「うーっす」
 ここ、保真希澤探偵事務所は朝から騒がしい。吉澤と後藤の会話は脳に悪い影響を与える。
「後藤、吉澤! ミーティング始めるわよ」
 朝のミーティングでは、各々のその日の活動予定を報告しあう。所員がそれぞれどんな事件を担当し、どこに出向くのか把握しなければならない
78 名前:インターバル 投稿日:2001年09月17日(月)20時25分22秒
「ごとーは、赤色金融に行ってきます」
「それはなんの用件だっけ」
「赤色金融に借金して、娘を風俗に売られたサラリーマンの件です」
「警察沙汰にならない程度に締め上げてきなさい。吉澤は?」
「わたしは、青色館に行ってきます」
「そこから依頼なんてあったっけ」
「きっと不可解な連続殺人事件が起きます。そこで館の主人か招待客に事件の解決を売りこみます」
「二、三人死ぬまでがまんしなさいよ」
 二人は慌しく事務所を飛び出していった。私はというと、今日は急ぎの依頼は入っていなかった。
79 名前:インターバル 投稿日:2001年09月17日(月)20時26分19秒
「ひさびさにのんびりできるわね」
 しかし、そうは問屋がおろさなかった。いろいろな電話がかかってくるが、大半は二人の後始末だ。
「おたくの探偵の蹴破ったドアの修理代、払ってもらいますよ」
「あんたのところの探偵が雇った浮浪者がいついて困ってんだけど」
 適当に返事をしておく。この稼業はきれいごとだけではやっていけない。
 警察からの電話もあった。
「もしもし、ああ、大阪府警の服部さんね。アリバイ崩し? 電話で済む話? 一分一万円だからね。何言ってんのよ。ただで助けてもらおうなんて甘いわよ。どうせパチンコか何かで裏金しっかり作ってるんでしょ。ふんふん。そう。ちょっと待ってて」
 ポケットJR時刻表を机に広げた。
80 名前:インターバル 投稿日:2001年09月17日(月)20時28分07秒
「ああ、なるほどね。高槻駅を8時に出た各駅停車にそいつは確かに乗ってたのね。高槻駅の駅員が見ていた。はーん。それじゃ大阪につくのは8時30分だから犯行時刻に間に合わないと。少しは頭使いなさいよ。拷問の腕だけ鍛えたって市民は納得しないわよ。そいつは茨木駅で降りて、逆の高槻行き快速に乗り換えたのよ。そして高槻から新快速に乗れば、大阪にはもっと早くつけるでしょ。ええ? 不可能? 若いのに試させなさい。10回に1回くらいは成功させなさい。それなら公判のりきれるわよ。礼金は口座に振り込んどいて。振込手数料はそっち持ちよ」
81 名前:インターバル 投稿日:2001年09月17日(月)20時29分18秒
 お昼過ぎに貧相な男が来た。とりあえず話をきくことにする。
「実は私の家で不思議な出来事が頻繁に起こるのです」
「不思議な出来事というと?」
「まず、物がよくなくなります。例えば、野球のボール、妻のサンダルの片方、犬の首輪、傘の骨、壁掛け時計の長針」
「ほうほう」
「それから、物が壊れていたりもします。花びん、車のサイドミラー、ゴルフクラブのシャフト、玄関のドアフォン」
82 名前:インターバル 投稿日:2001年09月17日(月)20時29分59秒
「不思議ですねえ」
「妻と子供のために買ったばかりの家なのに。もしかして呪われているのでしょうか」
「そのようですね。ここに来たのは筋違いですが、評判のまじない師を紹介しましょう。紹介料は勉強させていただきます」
 男は喜んで帰っていった。悪ガキの仕業などと教えると、自分の教育方針について悩むことになるだろうから、私の親切心は度を超している。
83 名前:インターバル 投稿日:2001年09月17日(月)20時30分44秒
「ただいま」
「ただいまー」
 二人が帰ってきた。どうせろくな話じゃないだろうから、報告は明日聞くことにしよう。今日も何ら刺激のない、単調な一日が終わる。
84 名前:インターバル 投稿日:2001年09月17日(月)20時31分17秒
『保田所長の憂鬱』
〜保真希澤探偵事務所の一日〜

おしまい
85 名前:JJ 投稿日:2001年09月17日(月)20時36分07秒
次は・・・
86 名前:JJ 投稿日:2001年09月17日(月)20時36分37秒
ごとうー主役のはーどぼいるどの予定です。
87 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月18日(火)22時15分33秒
『さばくのはあたしだ』
   〜ごとーのはーどぼいるど探偵修行〜
88 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月18日(火)22時16分34秒
 わたしの名はごとーまき。保真希澤探偵事務所ゆいいつの「はーどぼいるど」探偵だ。「はーどぼいるど」というのは、つまり固ゆでたまごのことだ。よっすぃ〜がゆでたまごを食べながら、そう教えてくれた。
 はーどぼいるどな探偵なわけだから、腕っぷしがものをいう。圭ちゃんに「ピストルちょうだい」と言ったら殴られた。よっぽど圭ちゃんのほうがはーどぼいるどだ。
 ふだんは事務所でぼーっと一日を過ごしている。電話番ともいう。圭ちゃんやよっすぃ〜は忙しく飛び回っているが、あたしはこれでいいのだ。ずのーをつかう依頼は二人にまかせていればいい。それがはーどぼいるどなのだ。
89 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月18日(火)22時17分48秒
 今一人の女性が来ていて、圭ちゃんとよっすぃ〜が相手をしている。あいのばかやろーとつぶやいていると、よっすぃ〜が応接室から出てきた。
「ごっちん、保田さんが呼んでるよ」
 入れ替わりに入ると、圭ちゃんが手で招いて座らせた。
「この依頼はわたくしや吉澤より後藤向きだと思いますので、彼女にまかせたいと思います。ご要望通り、頭よりは腕っぷしが自慢の探偵です。それでは、はじめから事情の説明をお願いします」
 女性の名前はいちーさやかといった。彼女はしんがーそんぐらいたーをめざす歌手のたまごなんだそうだが、さいきん妙なできごとが多いのだという。
90 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月18日(火)22時18分22秒
「夜、レッスンから帰ると、跡をつけられているんです。気持ち悪いからすぐにアパートに駆け込むのですが、様子がおかしいんです」
「といいますと」
「微妙に物が動かしてあるんです。なくなったり壊れたりした物はないんですが、誰かがさわったような感じがして」
「ほかには」
 なるべく長い単語は使わない。長い言葉をしらないわけではない。それがはーどぼいるどなのだ。
「朝、新聞受けを見ると、折りこみチラシにいたずら書きがされていたことがあります。無言電話がかかってきたことや、『ハァハァ』とだけ書かれた手紙が投げ込まれていたこともあります」
91 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月18日(火)22時18分54秒
 わたしが変な顔をしたのだろう。圭ちゃんがつけたした。
「一見、ストーカーのしわざに見えるけれど、それだけじゃないんですよね」
「そうなんです。今朝この手紙が郵便受けに入ってたんです」
 あたしは封筒をひらいた。
「ころーす」
「多分、『殺す』ってことなんでしょうね。そこで、後藤。あなたは当分の間市井さんを護衛しなさい。警察にも知らせてはおくけど、多分あまり本気で相手されないだろうからね」
「はーい」
 というわけで、あたしはか弱き女性をごえーするという、まことにはーどぼいるどな依頼を受けることになったのだ。
92 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月19日(水)19時28分28秒
承太郎かい。
最後はごとーのバカ力でストーカーはボロボロになるんだね。
93 名前:JJ 投稿日:2001年09月19日(水)22時21分22秒
>>92
当然そんなことはありません。
これはごとーの成長の物語になるはずです。
ちなみにこのごとーはそーとーのへたれです。
94 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月19日(水)22時22分26秒
 力仕事が得意とはいっても、変態くんが武器を持っておそってきたらどうするのだ。だからピストルちょうだいといったのに、圭ちゃんはごとーならだいじょうぶといって相手にしてくれない。あたしだってふつーの人間なのに。
「いちーさん、今日はこれからどーするんですか」
「さやかでいいですよ、後藤さん」
「ごっちんと呼んでください」
 交渉の結果、それぞれ間をとって、いちーちゃん、ごとーと呼びあうことになった。ついでに敬語もやめにした。敬語を話すのはもぐらだけでいいのだ。
95 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月19日(水)22時23分00秒
 いちーちゃんは、これからレッスンがあるといった。あたしもそれについていった。レッスンは3時間ほどだった。その間、あたしは興味なさそーに、一つしかないドアの外にパイプいすを出して、そこで昼寝した。これもはーどぼいるど。
「ごとー、それって護衛になってるの?」
「えーと、レッスン場は一つしか入り口がないから、ここで見張ってたんだよ。それにやばいのは夜なんだから、ごとーはそれに備えて体力をおんぞんしてたんだよ」
「そうなんだ。ごとーもいろいろ考えてるんだ」
 せいいっぱい考えたでまかせが通じたようだ。
96 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月19日(水)22時23分33秒
 6時頃、レストランで食事をとった。いちばん奥のテーブルを選び、店内を見まわせるように座った。
「ちょっと行儀が悪いぞ、ごとー」
「これなら、いつ襲われてもたいしょすることができます」
「人がいっぱいだから襲ってきたりはしないんだろ」
 ごるご13を参考にしたのはまずかった。てきとーにごまかそうと、えへへーと笑った。
「しょうーがないなあ、ごとーは」
 いちーちゃんは、にっこりと微笑みを返してくれた。
97 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月19日(水)22時24分23秒
 いちーちゃんの住んでいるアパートへの道を歩いた。バス通りから二本外れていて、道幅はせまく、街灯も薄暗い。いちーちゃんを先に歩かせ、あたしはその後ろをついていった。ときどきふりかえってみたが、猫いっぴきいなかった。
「今日はいないようだね」
 いちーちゃんはほっとした様子で、アパートに入り、ドアの鍵穴に鍵を差し込んだ。
「あれ?」
 いちーちゃんは鍵を回して、ドアノブを回したが、押しても引いてもドアはびくともしなかった。
「もしかして閉めちゃった?」
「じゃあ、最初から開いてたってこと? わたしはちゃんと鍵かけてきたぞ」
98 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月19日(水)22時24分58秒
 いちーちゃんに代わってあたしがもう一度鍵を回し、ドアをゆっくりと開いた。中に変態くんがいるかもしれないのだ。すきまからのぞくが、電気はついていないので、真っ暗でよくわからない。耳をすますが、何も聞こえてこない。
「大丈夫だとは思うけど、用心してね」
 逆にいちーちゃんに心配されてしまった。はーどぼいるどはむずかしい。
 くつを脱いで、そーっと廊下を歩き、電灯のスイットを探した。なかなか見つからずいらだっていると、急に明るくなった。いちーちゃんがつけてくれたのだった。
 キッチンとリビングに入った。おかしなところはないようだ。
「次はいちーちゃんの部屋ね」
「なんか嬉しそうだな」
99 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月19日(水)22時25分35秒
 いちーちゃんの部屋に入り、電気をつけようと、ぶらさがっているというひもを探った。何回か腕をまわすと、かすかに指をかすった。あったと思い、一歩前に進んだ。足は何かものにぶつかり、あたしは前に転んでしまった。
「いたーい」
 くやしいので転んだままでいると、電気がついた。
「ごとーだいじょうきゃー!」
 いちーちゃんの金切り声がこまくにひびいた。あたしの横にもう一人、知らない人ががうつぶせに倒れていた。あたしも思わず立ちあがり、いっしょになって叫んだ。
 はーどぼいるどは、やっぱり難しい。
100 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時16分29秒
 あたしは圭ちゃんとよっすぃ〜に電話をかけた。
「そー。がんばりな」
「密室? 館? そうじゃないならいいや」
 くやしくて涙が出そうになったが、いちーちゃんにはげまされた。
「がんばれ、ごとー。応援するぞ」
 すぐに警察がやってきた。いやーなやつがいた。
「おや、後藤じゃないか」
「こんばんはー、ゆーこ刑事」
 ふん、と鼻であしらわれた。あたしたちはこの刑事にしばらく事情を聞かれることとなった。
101 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時17分17秒
「この部屋の住人やな」
「ええ」
「あたしはちがうよー」
「何時にこの部屋に帰った?」
「10時過ぎ」
「そーだよー」
「こいつは知り合いか?」
「ぜんぜん知らない人」
「あたしもー」
「おまえは黙れ!」
 頭を殴られた。訴えてやる。いちーちゃんはそのほかいろいろなことを答えた。鍵があいていたこと、最近ストーカー被害にあっていたこと。
「それで、警察には知らせずに、こんな探偵を雇ったゆうわけやな」
「こんなってなんだよー」
「警察は、被害にあうまでは守ってくれないでしょうが」
 いちーちゃんの一撃で、ゆーこはむっとした顔をしたが、死体のほうに体をむけた。
102 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時18分04秒
「遺留品はどうや」
「上着のポケットに鍵がありました。この部屋の合い鍵のようです。ズボンの尻ポケットに財布がありました」
 ゆーこは部下の刑事から出された財布をひったくった。
「免許証があるな。飯田圭織。知ってるな」
「はい。この近辺に勢力をはっているタンポポ会の会長です」
「死体を見たときはびっくりしたわあ。東京のマル暴でも有数の団体の親玉さかいな。まさか思うたが」
 けんし官が簡単なけんしを行った。推定しぼー時刻は夕方4時頃。前後1時間は誤差があるかもしれない。頭部への強烈な一打がちめいしょうとのことだった。
103 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時18分40秒
「武闘派の飯田がこうもあっさりやられるとは、相当の腕の持ち主か、あるいは油断するくらいの人間の仕業か」
「組を洗いますか」
「そうやなあ。まずはミニモニ組やな。それとカントリー会。ちっこいかもしれんがココナッツ組とイージャン会もや。まあイージャン会は若頭ぱくられてからは活気はないがな。それと」
「はい」
「内部抗争の可能性もある。身内を洗うのも忘れるな」
「はっ」
「それからな。なんで飯田がこんな部屋におったんか、や。あの女何か隠してるかもわからん。いいな」
 む。いちーちゃんが疑われているじゃないか。はーどぼいるどな探偵としてはほうっておけない。
104 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時19分22秒
 死体は運ばれていったが、現場けんしょーはまだまだ続く。あたしたちは連絡先を教えて解放された。泊まる先は事務所しかない。
 小さなビルの1フロアーを借り切っている。事務所と応接室、それとあたしたちの寝る部屋。部屋のすみを間仕切り工事して、3つの小さな部屋を作っている。事務所は暗く、圭ちゃんもよっすぃ〜ももう寝てしまっているらしい。いちーちゃんをあたしのベッドに案内した。
「ここで寝て」
「ごとーは?」
「応接室のそふぁで寝る」
「それはだめ」
 結局、いっしょにベッドで寝ることになった。いちーちゃんのぬくもりは温かかった。
105 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時20分26秒
 朝、いちーちゃんに起こされた。眠い目をこすりながら、圭ちゃんとよっすぃ〜に相談した。
「けーさつはヤクザのこーそーという線で調べてるみたいなんだけど、どんな関係なの?」
 圭ちゃんは苦笑いした。というか笑われた。
「ごとーはもう少し新聞読んだほうがいいぞ。このあたりでは、ハロプロ会というおおまかなヤクザの組織がある。その会を率いているのがタンポポ会だ。ミニモニ組やカントリー会はその傘下の組。しかし一枚板ではないらしく、いろいろごたごたがあるらしい」
「ハロプロ会自体とこーそーしている組はないの?」
「あらかたたたきつぶしたようだからねえ。あるかしら」
 よっすぃ〜がいたずらっぽく圭ちゃんをひじでつっついた。
「あるじゃないですか、保田さん。プッチ組」
「あー、あれねえ。解散したんじゃないの」
106 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時21分33秒
 いちーちゃんのレッスンは午後2時から3時間である。それまでは作詞や作曲の勉強をしているという。
「ごめんね、いちーちゃん。お勉強はこの事務所でやって」
「かまわないよ。いい詞が思いつくかもしれないし」
 いちーちゃんはさっき事務所を出ていった圭ちゃんのつくえでノートを広げた。あたしはよっすぃ〜にいろいろ質問した。
「ねえねえ。プッチ組って?」
「ごっちんは知らないかな。その昔猛威を奮ったというプッチ組。組員は『ほんのちょこっとなんだけど』って叫びながら抗争相手をぷすぷす刺しまくったという噂があるくらいの武闘集団だったんだけど、タンポポ会の会長が飯田になってからはその勢いにおされて、自然と消えていったみたい」
 なんだか知らないけど、えきせとりっくな暴力団だったようだ。わたしは小声で聞いた。
107 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時22分30秒
「ねえねえ。それでさあ、ごとーとしてはどうしたらいいと思う?」
 よっすぃ〜は少し吹き出した。
「ごっちん、何にも考えてないの? そうだね、じゃあ少し整理してみようよ。不思議なところがいくつかあるんだ」
 1.いちーちゃんにつきまとう変態くんは誰か。それは飯田なのか。
 2.変態くんが飯田だとしたら、なぜそんなことをしたのか。
 3.変態くんが飯田じゃないとしたら、なぜ飯田はいちーちゃんの部屋いにたのか。
 4.飯田が殺されたのはなぜか。
「大事なのは、ごっちんの受けた依頼がストーカーから市井さんを護衛するというところ。もしストーカーが飯田なら、もう護衛を続ける必要はなくなる」
「そうなの? いちーちゃんが飯田殺しのよーぎを受けるかもしれないんだよ」
「容疑を晴らしてくれ、っていう依頼は受けてないから。その仕事はどちらかというと探偵より弁護士向きだしね」
 よっすぃ〜は冷たいことを言う。でも、それもはーどぼいるどかもしれない。
108 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時23分07秒
「もしストーカーが飯田じゃないとしたら、市井さんにまたつきまとうかもしれない。しかし警察がうろうろしている中ではやりにくいんじゃないかなあ」
「じゃあ、ごとーはどうすればいいの?」
「まず、市井さんに依頼内容について再確認すること。それから動いても遅くはないよ。間違ってもヤクザの抗争に首つっこんじゃだめ」
 というわけで、いちーちゃんに確認してみた。
「護衛は当分続けてほしいな。殺された人がストーカーだって決まったわけじゃないし」
109 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時23分50秒
 2時になったのでレッスン場にいちーちゃんといっしょに行った。レッスン場は小さなビルの1階の一番奥。中をのぞいたが変態くんはいなかった。中はピアノが一台あるだけ。アパートでは練習できないので、ここを借りているらしい。
「殺風景だけど安いからね。事務所もお金ないんだ」
 いちーちゃんが練習を始めたので、あたしは部屋を出た。となりの部屋には『シスコムーン』という会社の事務所らしい。ドアは閉めきっていて誰かいるのかどうかわからない。ビルを出て一周してみたけど、あやしい人間はいなかった。
110 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時24分49秒
 レッスン場の部屋の前に戻ってパイプ椅子に座った。けーさつはいちーちゃんを疑っている。依頼人の危機を救うのが探偵の役目だ。2時間ほどうんうんうなった。そうだ。タンポポ会の会長が殺されたのは4時頃。そのときいちーちゃんはレッスン中じゃないか。あたしはけーさつに電話した。
「知ってますよ。隣の部屋の『シスコムーン』の事務員にも確認とりました。2時から5時までずっとピアノを練習する音が聞こえていたそうですから」
 あたしはがっくりと肩を落とした。せっかく2時間もあたまつかったのに。いちーちゃんが出てきた。
「どうした、ごとー? 涙目になってるぞ」
 いちーちゃんにけーさつから、現場けんしょーがすんだのでアパートに帰っていいと連絡が入った。レッスン場からそれほど歩かずにアパート『サンフラン』についた。護衛するのだから、夜もいっしょに泊まるのだ。
111 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時25分51秒
 一週間たったが、変態くんはあらわれなかった。
「やっぱり飯田が変態くんだったのかなあ」
「警察はどうなの?」
 あたしは圭ちゃんがゆーこから聞き出した話を教えた。圭ちゃんはゆーこと友達らしい。あたしはいつもどなられてばかりいるのでごめんだ。
「けーさつはヤクザがやったと思ってるみたい。ミニモニ組やカントリー会にガサ入れしたそうだよ」
「ごとーさあ、もう一つ依頼受けてくれる?」
「なに?」
「飯田って人が、どうしてわたしのうちで殺されたのかってこと。なんか気味悪いし」
「おーけい」
 よっすぃ〜の忠告を無視して、あたしはヤクザを相手にすることになった。うーん、はーどぼいるど。
112 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時26分52秒
 保真希澤探偵事務所は、その筋ともかかわりはある。ゆちゃくしてるのではなく、情報収集のため。きれいごとだけではやっていけないのだ。
 タンポポ会はこの街のまんなかに大きいビルを持っている。表の顔は建設会社だ。受け付けの女を無視してエレベーターに乗る。一番上の階のボタンを押した。エレベーターから出るとふかふかのじゅうたんだ。こげ茶色のドアをノックなしに開いた。
「誰だ! ……後藤じゃないか」
「やぐっつぁんどーも」
 タンポポ会ナンバー2だ。幹部のりかっちとあいぼんもいる。このクラスの幹部とは顔をあわせたことがある。会長の飯田だけはあったことがなかった。
「たいへんみたいだねー」
「たいへんどころじゃねーよ。頭消されててんやわんやだよ」
 あたしはそふぁに腰をおろした。りかっちとあいぼんはあたしをにらんでいる。
113 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時27分52秒
「ところで何の用だ? くだらない用事だったら後藤でもただじゃすまんぞ」
「会長が殺された場所知ってるっしょ。あそこの住人がごとーの依頼人なんだよ」
「それで?」
「気味悪いんで、どうしてそんなところにいたのか調べてくれって」
 やぐっつぁんは黙りこんだ。あいぼんがこっちに寄ってきた。
「そんなことはあんたの知ったこっちゃねえ」
「そーおー? 会長を誰がやったのか知りたくない?」
「知ってるの?」
 りかっちが聞いてきた。むかしは飯田の愛人だったとのうわさも聞いている。
「いや」
「ふざけんな」
 あいぼんがすごんできた。
114 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時28分51秒
「だからさー。会長があそこにいたわけを調べれば、誰がやったのかもわかってくるんじゃないかと思ってるわけ」
「……そうだな」
 やぐっつぁんが口をひらいた。
「おいらたちも会長をやった人間を探している。ここはお互い知ってることを腹割って話そうや」
 あたしはけーさつの話をそのまま話した。
「しかしうちらに歯向かうやつなんかいるかあ?」
「いますよ。ミニモニ組とか」
 りかっちのひとことで部屋はこおりついた。あいぼんが叫んだ。
「なんやと!」
「だって、タンポポ会が頭はってるけど、しのぎの多いミニモニ組ではそれがおもしろくない人もいるんじゃないんですかー?」
115 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時30分06秒
 やぐっつぁんはあいぼんを手でやめるように合図した。
「言いたいことはわかる。だが、おいらもあいぼんもミニモニ組に出向いて指揮とってるんだから、めったなことは口にするな」
「りかちゃんかってカントリー会のほうがかわいいんじゃん。あっちなら頭はれるし」
「なんですって」
「もうやめろ」
 内輪もめをしている。ミニモニ組というのがあって、そっちのほうが今は勢いがあるらしいというのはわかった。そしてタンポポ会の幹部の二人はそっちのほうにもかかわりがあり、もう一人はカントリー会につながっている。会長の飯田がいなくなった今、タンポポ会はぶんれつのききにあるのだ。
116 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時31分14秒
「あのー、プッチ組はどう?」
 さわぎがおさまってきたところで聞いてみた。
「プッチ組……」
 やぐっつぁんはなんとなくあおざめているように見えた。
「昔はともかく、今はあまり聞かねえなあ」
「それが」
 あいぼんが横から口を出した。
「なんだ?」
「最近、みかじめ料が減ってきてるんで、調べてみるとプッチ組におさめている店が増えてきてるそうなんですよ」
「何……」
「あー、カントリーのシマでもそう。プッチに納めてるから払わないって。むかつく」
「お前ら、それでのこのこひきさがったのか?」
「暴れてやろうとしたら誰かが警察呼びやがって」
 やぐっつぁんは舌うちした。
「プッチ組か。やつらが復活してるんだったら、うちの会長を狙ったのかもしれん。いやきっとそうだ」
 やぐっつぁんはプッチ組のしわざにした。外部の敵が出てくればタンポポ会のないぶぶんれつをさけあれると思ったのだろう。それにしてもプッチ組ってなんだろう。
「後藤、警察の動き、また教えてくれよな」
「おーけい。そっちもたのむよ」
117 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時32分13秒
 こんどはミニモニ組。こっちははじめてだ。幹部は四人で、うち二人はやぐっつぁんとあいぼん。残る二人はののとミカというらしい。やぐっつぁんの紹介状があったので、らんぼうなあつかいは受けなかった。
「上のかいちょーがやられて、下っぱはあたふたしてるのれす」
「上ももっとしっかりしてほしいですね」
 ののはあたし以上に漢字を知らなさそうだ。あたしはタンポポ会上層部の中に、ミニモニ組を怪しんでいるものがいることをほのめかした。
「……あのいろぐろれすね。くだらんことをふきこんでいるのは」
「やぐちさんはミニモニ組の組長だから、そんな戯れ言に聞く耳はないでしょう」
「いや、ゆだんはできないのれす。やぐちさんも、ねんれいてきにミニモニはきついとおもっているのかもしれないれす。まあ、へんなうごきがあればあいぼんがしらせてくるれしょう……」
118 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時33分26秒
 プッチ組について聞いてみた。
「さいきん、ちょろちょろうごいているようれすね。そのうちたたきつぶします」
「やぐっつぁんはプッチがやったと思ってるようだけど」
「そのかのうせいもあるのれす。まあ、そのうちかいちょうをばらしたやつにおしおきしますよ」
 さいごに、ハロプロ会でも小さな組である、イージャン会に行った。
「すんません、お茶も出せなくて」
 ソニンという幹部があたまをさげた。ひどく低姿勢なヤクザだ。
「ユウキがぱくられてから、どこの店にも相手されません。そのうち解散するかもしれません」
「それはそれは」
「タンポポの会長がやられたって聞いても、正直どうでもいいんです」
「はあ」
「ただ」
「ただ?」
「殺された場所が気になりますね。2、3年前あの部屋には前会長の石黒さんの愛人が住んでた部屋なんですよ。愛人になる前ですがね。愛人になったらもっといいところにうつりましたから」
 もしかしたらゆーえきなてがかりを手にしたのかもしれない。しかし残念なことに、あたしははーどぼいるどなので頭をつかうことにはてーこーを感じてしまうのだ。
119 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時34分10秒
 事務所に帰ると圭ちゃんにこっぴどくしかれた。
「勝手な依頼は受けるなって、口すっぱくして言ってるでしょうが!」
 しゅんとしてるとよっすぃ〜がとりなしてくれた。
「まあまあ、保田さん。もう受けてしまったものはしょうがないでしょう」
「そうそう」
 いたい。なぐられた。
「前会長の愛人が住んでいたというのは有力な情報ですよ。もちろん警察はこのことをつかんでいるはずです。それを隠しているということは、逆に言えば会長殺しにかかわりがあることを示しているんです」
 さすがよっすぃ〜。こういうことには頭がまわる。
120 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時35分02秒
「何か価値のあるものがあの部屋に隠されている。そう思った飯田はあの部屋にしのびこんだ。というシナリオか。その価値のあるものが何かが問題ね」
「おー、なんだか『マルタの鷹』っぽくなってきたぞ」
 読んだことある。主人公がぱーとなーに嫁さんを寝取られる話だ。
 しばらくは、いちーちゃんは午前中は事務所でお勉強している。あたしがそーさしているときに圭ちゃんかよっすぃ〜が護衛するためだ。午後はレッスン場であたしが護衛。夜は、12時頃までいちーちゃんの部屋へ行き、あやしい様子がなければあたしは事務所に戻る。
 夜、いちーちゃんにそーさの進みぐあいを話した。
121 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時35分44秒
「だんだん真相に近づいてきていると思う」
「がんばれよ、ごとー。危ないまねはするなよ」
「でさあ、前会長の愛人が何かかうせるようなところある?」
「さあ。わたしがその人のあとにこの部屋にはいったんだけど、それらしいものは見てないなあ」
 あたしは肩を落とした。
「ごめん、ごとー。力になれなくて」
 力にならなきゃいけないのはごとーのほうなのに、なんだか立場が逆転している。
「いちーちゃんはすごいね。毎日いっしょーけんめー練習して」
「そんなことはないさ」
「そんなことあるよ。いちーちゃんがうらやましい。うちこめるものがあって」
「ごとーだってあるだろ」
122 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時36分22秒
 あたしがめざしているのは、はーどぼいるどな探偵だ。でも、理想とちがってぜんぜんあたしははーどぼいるどになれない。探偵とはいうものの、圭ちゃんやよっすぃ〜みたいにこなせていない。
「泣くなよ、ごとー。なりたいっていう気持ちが強ければ、そのうちなんとかなるもんさ」
 このあと、いちーちゃんは自分がどれだけしんがーそんぐらいたーになりたいかを熱弁した。だから毎日の練習もつらくならないのだと。
「だからごとーもがんばれ」
「うん、がんばる」
 はげまされた。はーどぼいるどをめざしてがんばるのだ。
123 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時37分02秒
 翌朝、いやだったけどけーさつに行った。ゆーこに話を聞くためだ。圭ちゃんは今日は一日出張だからしょうがない。
「後藤か。何しにきた」
「うー。飯田殺しの捜査について来ました」
「教える義務はないぞ」
 だからいやなんだ。圭ちゃんにだったらすぐに教えてくれるくせに。
「依頼人は家宅侵入の被害者でもあるんです。被害者にも知る権利はあると思います」
 むずかしい言葉を使うとくたびれる。ゆーこは笑った。
「わかった、わかった。市井だったっけ、彼女は事件とは関係ない。そうわたしたちは判断した」
 ほんのちょっとほっとした。
124 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時38分27秒
「ほんとうは極秘情報なんだが、圭ちゃんの顔をたてて教えてあげよう。これは内部抗争だ。タンポポ会の中に犯人がいる」
「例の、前会長の愛人が隠したものをめぐって?」
 ゆーこはにやりと笑った。
「まあ、そういうことだ。これでじゅうぶんだろう」
 帰り際、ゆーこの声が聞こえた。
「これから探偵かい。タンポポ会にもいくんだろ?」
 やぐっつぁんはこの情報に顔色を変えた。
「なに、ほんとうか、それは」
「けーさつは自信まんまんだったよ」
 この場にはりかっちとあいぼんはいなかった。やぐっつぁんは、二人には話すなと言ってきた。あたしは約束した。
125 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時39分31秒
 二人には話さなかったが、ののには話した。
「ふーん。そうれすか。それならはなしははやいのれす」
 ののはうれしそうに笑った。
 昼過ぎになったので事務所に帰り、いちーちゃんとレッスン場に向かった。けーさつの見解を話すといちーちゃんはほっとした様子を見せた。
 レストランで夕食を食べたあと、いちーちゃんのアパートに帰った。
「ごとー、また鍵があいてる」
 中は荒らされていた。タンスの引き出しはぜんぶあけられ、中味があちこちに散らばっている。
「鍵を変えたばかりなのに」
「例のものを探しに来たんだ、きっと」
 あたしはすぐに事務所に帰った。いちーちゃんは、やがて来たけーさつに事情を話すために残った。
126 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)20時40分31秒
 よっすぃ〜がもう寝ていたところを、むりやり起こした。
「ふーん。それはおもしろいね」
「おもしろいねじゃないよー、よっすぃ〜」
「ごめん、ごめん。でも実際おもしろいところがあるんだよ。特に裕子刑事。わざわざごっちんをタンポポ会に行かせるように仕向けてたでしょ。あれはね、ごっちんを使って警察の情報を流させたんだよ」
「どーゆーこと?」
「警察はね、これを機会にタンポポ会をぶっつぶそうと企んでるんだ。ごっちんが情報を流せば、いやでもタンポポの幹部は疑心暗鬼にとらわれる。だから矢口さんは口止めしたんだ」
「じゃあ、ミニモニ組のののに話したのはまずかった?」
 よっすぃ〜はにっこりほほえんだ。
「矢口さんからすればね。ごっちんははーどぼいるどだから、それでいいんだよ」
 最後の言葉はよく意味がわからなかった。
「それからね、ごっちん」
127 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時44分01秒
 翌朝、いちーちゃんがやってきた。しばらくしたらあの部屋を引っ越すつもりらしい。
「それがいいでしょう。これ以上騒ぎにまきこまれるのはごめんでしょう」
「はあ」
 よっすぃ〜の言葉にいちーちゃんはそっけなく答えた。
「警察はタンポポ会の内輪もめとふんでいますね。跡目争いとかたいへんだろうね」
 ほとんどよっすぃ〜一人でしゃべっている。
「自分はこの事件にタッチしていないんで、単なる憶測ですが、わたしは警察と見解が異なります」
「どーゆーこと?」
 よっすぃ〜の意見は聞いておいたほうがいい。
128 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時44分53秒
「警察はタンポポ会をつぶそうとしている。これは昨日も言ったよね。だけどそれは真実とは縁遠い策略にすぎない。あくまでも警察にとってこの事件はきっかけにすぎない」
「警察はやる気がないわけ?」
「タンポポをつぶすことにかけては本気だよ。ただ飯田殺しについて真剣に捜査していない。大きな悪をたたくために小さな悪はひとまず保留するわけ」
 あたしは警察の悪どさに腹をたてた。
「タンポポ以外にも、暴力団は多いからね。ハロプロ会の中でも跡目争いに静観を決め込んでいるココナッツ組、最近孤立しているがその勢力はあなどれないなっち組がのさばってるし」
129 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時45分33秒
「で、よっすぃ〜はどこの組がやったと思ってるわけ?」
「今までうわさがちらほら流れてるのに、警察が一言もふれていないプッチ組。わざと泳がせておいて、タンポポ会をばっさりやったら返す刀でこっちも、ってシナリオを描いているはずだよ」
 あたしはよっすぃ〜の話に関心してしまった。横でちょいちょい話を聞いているだけなのに、あたし以上のことを推理している。
 がっくりしてると二人になぐさめられた。
「がんばってるよ、ごとーは」
「そうそう。はーどぼいるどなんだから」
130 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時46分19秒
 今日はいちーちゃんの護衛をパスすることにした。よっすぃ〜によれば、例のものはすでにプッチか誰かが持っていってしまってるはずだということだ。もう護衛の必要がないのだ。
 昼、いちーちゃんがレッスンに行ったあと、わたしはよっすぃ〜に銃を渡された。
「これはね、スミス&ウエッソンっていう拳銃だよ。弾は渡さない。お守り代わり」
 ぶーぶーいったがよっすぃ〜は折れなかった。
 もう寝ようかというとき、ゆーこ刑事が事務所に入ってきた。
「お取り込み中すまないが」
 ゆーこはあたしを指さした。
「後藤を少し貸してくれ」
131 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時47分18秒
 有無を言わさずぱとかーに入れられた。逮捕、というわけではないらしい。
「夕方、ミニモニ組の幹部、辻の死体が見つかった」
「ののが?」
「ビルの路地裏で至近距離から撃たれた」
「顔見知りの犯行ってわけだね」
 ゆーこはうれしそうにうなずいた。あたしが連れて行かされるのは、これら一連の事件に関心があるから。ゆーこの好意というわけだ。
「拳銃はコルトだ。こんなの、一般人が持ってたら珍しい」
「手に入れやすいのはヤクザ屋さんだろーね」
「……あとなあ、変なうわさ聞いた。プッチ組ってなんや? あんなもん、もう存在せえへんやろ」
「プッチがどうかしたの?」
「なんか知らんが、警察に匿名の投書が来た。プッチの仕業やってな」
 ゆーこは迷惑そうな顔をした。
132 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時48分18秒
 ゆーこからいろいろ話を聞かされたあと、解放された。目の前はミニモニ組。ここでいろいろしゃべってこいというわけだ。
 中は武装した組員であふれていた。中には「ののたん命」「ののたんあーい」と墨で書かれたはちまきをしめている者もいる。
 あたしはミカにゆーこから聞いたことを話した。ミカはコルトという言葉に反応した。タンポポ会本部に向かうと言ったら、あいぼんに渡してくれと、袋を手渡された。
133 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時48分59秒
 タンポポ会では、やぐっつぁん、りかっち、あいぼんが額をよせあって相談していた。
「おっす、やぐっつぁん」
「後藤か。まずいことになった。ミニモニ組の若いもんが暴発しそうだ」
 あたしはゆーこの話を三人に聞かせた。
「コルトか」
 やぐっつぁんとあいぼんはりかっちのほうをにらんだ。
「お前の好きなやつだったな」
「あたしがやったっていうの? ふざけないでよ」
「……証拠はない。まあいい。今はそんなことを詮索してる場合じゃない」
「あ、そうそう」
 あたしはあいぼんに、ミカからもらった袋を手渡した。
134 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時49分57秒
 窓の外で、車のライトが光った。これはやばそう。あたしは何気なく壁によると、スイッチを押した。
 急に暗闇が広がり、叫び声がひびいた。あたしは部屋を飛び出すと、廊下を駆け出した。らせん状の非常階段を駆け下りると、ミカにぶつかった。ミカでよかった。
「タンポポの連中は?」
「中にいるよ。あたしは逃げるからね」
 ビルのあちこちで銃声がこだました。
 そのあと、どこをどう走ったのか覚えていない。息が苦しくて、つぶれたバーの裏口に座り込んだ。はーどぼいるどは息が切れるのだ。
135 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時50分45秒
 靴音が聞こえた。立ちあがり、壁からそっとのぞいた。やぐっつぁんとあいぼんだった。
「石川は?」
「ミカに撃たれた」
「……そうか。やっぱり石川がののを殺したのか。ミニモニの力を削いで、カントリーの立場を強くしようと企んだんだ」
「あまいですよ、矢口さん。そんなシナリオが通じると思ったんですか?」
 あいぼんはやぐっつぁんに銃をつきつけていた。
「……加護」
「のの殺しだけならそれで話は通じますわ。だけどそれじゃ会長殺しの説明はつきません。りかちゃんに飯田さん殺す理由ありますか?」
136 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時51分57秒
 やぐっつぁんは壁まで下がった。
「ののはミニモニ組の生え抜きや。うちらタンポポ会のしめつけに難儀してた。いつかは牙剥く時期がきたと思います。そして今回がそうやった。そう判断した。矢口さん、違いますか?」
「ののは過ぎた野望を持っていた。おいらじゃ止めるのは無理だったんだ」
「認めましたね。ついでにカントリー会を掌握して勢いのあるりかちゃんを貶めるために、わざわざりかちゃんの愛用しているコルトで殺した。矢口さん、そんなにタンポポが必要なんですか。石黒さんや飯田さんが固執したものって何です?」
 銃声が響いた。やぐっつぁんが暗闇に消えた。
「ミカ、やってもうた。タンポポとミニモニの二足のわらじは、しょせん無理やったんや」
 加護は、ミカから渡されたらしい、ミニモニテレフォンをぶらぶらさせた。警官たちが加護を囲み、連れ去った。一部始終見ていたようだ。
137 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時52分39秒
 ゆーこが出てきた。やぐっつぁんの死体を確認すると、ぶつぶつつぶやきだした。
「すまんの、矢口。おかげでタンポポ、ミニモニ、おまけにカントリーもつぶすことができたわ。ハロプロ会はなっちがまとめるから、安心して成仏せえや。なっちは手がかかるけど、あたしがついてるかぎり大丈夫や」
 すべてがよっすぃ〜の話した通りだった。ゆーこの動きは不自然過ぎるのだった。でも、手を出すことはできない。それははーどぼいるどではない。
138 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時53分28秒
 いちーちゃんのアパートに行った。もう変態くんは二度と出ないことを告げた。
「解決したんだ。すごいじゃん、ごとー」
「……うん」
 二人で夜の公園を散歩することにした。薄暗い街灯の下、ベンチに座った。
「いちーちゃん、否定してよ」
「えっ?」
「変態くんなんて最初からいなかったんだ。あたしはいちーちゃんのアリバイ作りに利用されただけ。だから、よっすぃ〜や圭ちゃんじゃなく、力ばかりで頭のたりないあたしを指名したんでしょ」
「ごとー……」
139 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時54分12秒
「未熟なあたしがドアの前で眠りこけてるとき、窓から抜け出してアパートに戻った。ピアノの音はカセットテープでも流しておいたのかな。アパートにはいちーちゃんに呼び出されていた飯田会長がいた。油断しているところを殴り殺すと、またレッスン場にひきかえした」
「……ふーん、それから?」
 いちーちゃんは立ちあがり、ブランコをこぎ始めた。
「あとは自分に容疑がかからないよう、捜査をかく乱するだけ。前に住んでた人が前会長の愛人だとわかり、何か隠してるんじゃないかといううわさが出れば、自分で自分の部屋を荒らした。プッチ組がからんでるという話を聞いたら、警察に匿名でちくった」
「それから?」
140 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時54分52秒
「……プッチ組なんて、ほんとは存在しないんだ。圭ちゃんやよっすぃ〜が、街の暴力団対策のためにでっちあげた組織。プッチの名前は恐れられているから、それだけで効果があった。ヤクザがいちゃもんつけようとしたら、警察に連絡が入るというシステム。警察でも上のほうしか知らないことが、なぜ投書という形で? ヤクザが警察に投書するなんてある?」
 いちーちゃんはブランコをこぐのをやめた。
「否定してよ、いちーちゃん」
「吉澤の入れ知恵なんだね。まいったなあ。わなにひっかかったわけだ」
141 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時55分36秒
 いちーちゃんは立ちあがった。
「飯田さんとはね、ほんの少しだけつきあってたことがあるんだ。でもシンガーソングライターになりたかったから別れた。ヤクザの女が表舞台にたてるわけがないだろ。飯田さんはしつこくよりをもどそうとせまった。じゃないとヤクザの女だったことを事務所にばらすって」
「だから殺した?」
「そう、だから殺した。自分の夢のために。そう決めたんだ。夢のためなら何でもやると。今でもその決意はかわらないよ」
142 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時56分23秒
 いちーちゃんが近寄ってくる。あたしはよっすぃ〜にもらった拳銃をかまえたが、遅かった。殴られ、拳銃が転がった。いちーちゃんがそれを拾った。
「弾入ってないからね」
「ご心配なく。弾は持ってるよ。ごとーが今死んだら、ヤクザの抗争に巻き込まれたって思われるよね」
 いちーちゃんは弾を一発こめた。
「悪い、ごとー。ほんとうにすまない」
 悪いですむわけないだろー。あたしは目をつむった。爆発音がした。目をあけると、いちーちゃんが血まみれでおなかをおさえていた。
143 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時57分06秒
「いちーちゃん!」
「いたたた。やっぱ悪いことはできないな。ごめんな」
 いちーちゃんは手を軽く振って、目を閉じた。よっすぃ〜がいつのまにかそばにいた。
「ごっちん!」
「よっすぃ〜。やっぱり全部よっすぃ〜の言ってたとおりだった」
 拳銃の銃身には鉛が溶接されていた。そんな状態で撃てば拳銃は暴発する。
「ごめんよ、ごっちん」
 あたしは首を振った。涙がこぼれそうになったが、あたしはこらえた。
 それがはーどぼいるどなんだ。
144 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月24日(月)00時57分41秒
おしまい
145 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月24日(月)00時58分13秒
後半、少し
146 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月24日(月)00時58分46秒
急ぎすぎた
147 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月11日(日)15時30分29秒
>>1-144
148 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月16日(金)22時21分50秒
>>147
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