かわらないもの。
「ののとか梨華ちゃんとか、まこっちゃんとか。飯田さんも、あっちなんだぁ」
あいぼんに会うのは二週間ぶり。
彼女は楽屋に入ってあたしを見つけると、始めは最近あったコトなんかを楽しげに語ってたんだけど…
しばらくして”その話”を自分から切り出すと、話すうちにだんだんと沈んでった。
あたしは昨夜それを、よっすぃーがくれた電話で知った。
まぁ、増えすぎたモン半分に割っちゃえなんて、誰もが考えつくコトだし。
まっぷたつにするコトよりもそれ以前に、増えすぎちゃったコトが問題なんじゃないの?
なんて、あたしがまるで他人事みたく言うと、よっすぃーは電話の向こうで小さなため息を吐いた。
そして、
『みんなはどうか知んないけどさぁ…やっぱ何回やってもこういうのって、慣れないんだよね』
近いうちに目にすることになるだろう、記者会見やら、テレビとか雑誌のインタビュー。
みんなのコメントは大体、想像がつく。
楽しみです頑張りますワクワクします、などなど、絵に描いたよーなポジティブコメントのオンパレード。
よっすぃーだってきっと、例外ではないハズ。
あたしも、そうだったし。
あやっぺのとき、いちーちゃんのとき、裕ちゃんのとき、それから、自分のとき。
ショックとか寂しさの度合いはどれも同じぐらいなのに、あたしは少しずつ、それを表に出すことをしなくなってったと思う。
そうやって本当の気持ちを閉じ込めるのが上手くなっていくことを”慣れ”と言うなら、あたしはもうとっくに、”超慣れっこ”の域だ。
なんて、あたしがまるで他人事みたく言えるようになってから、まだ3ヶ月ちょいしか経ってないってのに…
こんなの他人事になる前からだけど、そうなってからも、なんだかいろんなコトありすぎでしょって、ちょっと呆れた。
「でさぁ、オバちゃんだけ名前呼ばれなくて…そんときはもういないから、当たり前なんだけど。なんか、あー、そうなんだぁって」
あいぼんは小さく鼻をすすると、ごまかすみたく、テーブルに広げたスナック菓子を口に放り込んだ。
あたしは、それには気付かないフリをして、膝の上の雑誌をめくりながら、
「でも、まだ先じゃん」
「…だよね」
”まだ先”は、ホントにあっという間に来ちゃうこと、あいぼんもあたしもよく知ってる。
あと数ヶ月もすれば圭ちゃんがいなくなって、それからその先にある寂しい出来事も、ぜんぶ決められていて。
それでもそこへ向かって進んでかなきゃいけない気持ちって、いったいどんなんだろ?
なんて考えてると、あたしとおんなじで泣き虫なあいぼんのコトが少し、心配になった。
「まだあんまり、実感ないもん」
ずぅっ、と今度はさっきよりも少し、大きめな音。
上を向いて口を大きく開けると、鷲掴みにしたお菓子を放り込む。
”実感ない”だなんて、まったくあいぼんは大ウソつきだ。
タノシミデスガンバリマスワクワクシマス。
あたしたちはいったいあとどれぐらい、強がりを言えば、”変わらない幸せ”ってやつを手に入れることができるんだろう?
「ねぇ。今度また、ごっちんの家、遊びに行ってもいい?」
「いーよ」
こんな会話、前にもあったと思う。
社交辞令とまでは言わないけど、ただでさえ忙しい上に今はまったく別々のスケジュールで動いてるあたしとあいぼんにとって、
いつ果たせるのかもわかんない、全くアテにならない約束。
「あいぼん食べすぎー」
「だっておいしいよ、コレ」
あいぼんもきっとアテにはしてないし、あたしもいつもなら軽く流しちゃうトコだけど、でも今日は。
「でー、さぁ」
「ん?」
「今度って、いつ?」
あたしが尋ねると、あいぼんは一瞬きょとんとして、でもすぐに笑顔になって、
「待ってっ」
タタタッ、って部屋の隅まで駆けてくと、またすぐに戻ってきた。
「今月がねぇ、コレまた忙しいんだなあ」
スケジュール帳をめくりながら困った風な口調で言うけど、そのカオには思いっきり『楽しい!』って書いてある。
「あいぼんは働き者だねぇ」
いつだって、前に向かって進んでかなきゃいけないコトは、ちゃんとわかっていて。
だけど、立ち止まるのが、そんなにイケナイコトだとは思わない。
「よっすぃーも連れてこー」
「なんかおみやげ持ってきてよ」
「うん。持ってくさ」
今のあたしたちには、”変わらないモノ”ってやつが、ひとつでも多くあったほうが良いんだ、きっと。
<おわり>