街れす

 

とある街で暮らす8人の娘が主人公。

安倍なつみ…?
矢口真里…?
後藤真希…?
石川梨華…?
吉澤ひとみ…?
辻希美…落ちこぼれ刑事
高橋愛…?
市井沙耶香…?

クックデュックデュー
午前8時、ニワトリ目覚ましが鳴り響く。
「ふわー、あと10分らけ寝るれす…」
朝はどうも苦手だ。なかなか布団から抜け出せない。
おかげで遅刻の常習犯である。今日も飯田さんに怒られそうだ。
10分だけのつもりが目を覚ましたら、時計は9時を指している。
「まずい、遅刻なのれす!」
私は大急ぎで着替え、食パンをくわえて家を飛び出した。
ここは新しい日本をモチーフに作られた『つんくタウン』
この街に唯一ある警察署、そこが私の職場である。
といってもまだ新米で、先輩の足を引っ張ってばかりなのだが・・
いずれは、この街を救う様なりっぱな刑事になるつもりでいる。
ドスン!
玄関を飛び出すと、道につっ立ていた旅人風の娘とぶつかった。
「ご、ごめんなさいれす。」
「いや、こっちこそごめん。」
私はすぐに立ち上がり、仕事場へ急ごうとした。
「ちょっと待って、聞きたい事があるの。ここはどこ?」
刑事である以上、一般人の質問は無視できない。私は簡潔に答えた。
「街れす。」
午前9時半、ようやく職場に到着。
「おはようろらいまーす。」
「今何時だと思ってるの、辻ちゃん。」
先輩の飯田さんが待ち構えていた。口調はやさしいが顔は笑っていない。
「と、途中で場所を尋ねられて、おくれらした。」
「へー、1時間以上も教えてたんだ。今日中に始末書ね。」
「ふぁい。」
もはや遅刻の始末書は日課となっている。
私が所属するのは雑務課、他の部署が扱わない変な事件を担当している。
もっともこの街でそんな事件はほとんどなく、ほとんどは雑用ばかりだ。
他の部署からは、落ちこぼれの巣窟と呼ばれている。
職員も私と飯田さんの二人しかいない。
私はいつもの様に始末書を仕上げ、パトロールに出ようとした。
リンリンリン。
私のデスクの電話が鳴った。事件か!
「へい、こちらモーニング警察雑務課れす。」
「…」
ガチャン
切られた。間違い電話の様だ。
リンリンリン。
するとまた私のデスクの電話が鳴った。今度こそ事件か!
「へい、こちらモーニング警察雑務課れす。」
機械で声質を変化させてある男とも女とも分からない無機質な声が返ってきた。
「俺の名はジェロニモ。この街のどこかに爆弾を仕掛けた。」
「ばくらん!」
私の声に飯田さんが立ち上がった。
「タイムリミットは今夜8時。それまでに探してみな。」
それで電話は切れた。
「辻、爆弾ってどうゆうことだ、おい!」
飯田さんがあわてて聞いてくる。私にも訳がわからない。
その時、部屋にあるFAXから1枚の紙が届いた。
『ヒント@ あんた只似た滝竹 ジェロニモより狸へ』
電話の主からの爆弾場所ヒントの様だった。
「誰がタヌキれすか!失礼なのれす!」
「ばか、そんなことで怒ってる場合か。暗号みたいだぞ。」
「いいらさん、ののはもうわかってるのれす。犯人は滝竹さんれす!」
「それは違う気がする。もっと真面目に考えろよ!」
私は真面目に考え、暗号からある人物を割り出した。

安倍さん
石川さん 
加護さん 
後藤さん 
保田さん 
矢口さん 
吉澤さん 
その他

私は街の住民一覧から、安倍さんが怪しいと睨んだ。
「あから始まるから、あのつく安倍さんじゃないれすか?」
飯田さんはあきれて、がっくりとした。
「全然理由になってない!あんたただにたたきたけ、からタヌキだから・・」
「わかったのれす。安倍さんがタヌキなのれす。」
「た抜きでしょ。つまりこの暗号は、あんだにきけ、となるの。」
「いいらさんすごいのれす。天才れすね。れも、あんだって誰れすか?」
「そうなのよ、この街にそんな名前の人いないしね〜。」
私達はしばし考え込んだ。
「あんだ・・安打」
「わかった、安打記録のイチローれす!」
「それは違うだろ。えーと、あんだ・・安田」
「それれす、やすだれす。この街に住むやすださんは一人!」
「2丁目のカフェテラスを経営してる保田か。」
「さっそく、ののが行ってくるのれす!」
「おう、何かあったらすぐ連絡しろよ。」
「へい!」
私は警察署を飛び出し、カフェテラス保田へと急いだ。
午前10時半、カフェテラス保田,到着
午前中ということもあり、人気はまばらであった。
「いらっしゃいませ〜ご注文は」
店長の保田自ら、注文をとりにきた。
「警察れす。保田圭、爆弾魔で逮捕れす!」
「えー!ちょっと待ってよ。あたし爆弾なんて知らないよ!」
「あれ、のののかんちがいれすかね。」
「やめてよ人騒がせなこと、それより注文は?」
「え〜と、アロエヨーグルトおねがいするのれす。」
大好物のアロエヨーグルト、パトロールをさぼって毎日食べている。
「はいはい、いつものやつね。」
「ア〜イ」
実は私はこの店の常連だったりする。
しばらくすると、特製の8段アロエヨーグルトがでてきた。
私は爆弾の事など、もうすっかり忘れていた。

ZAPPING

辻希美→石川梨華

安倍なつみ…?
矢口真里…?
後藤真希…?
石川梨華…売れっ子小説家
吉澤ひとみ…?
辻希美…アロエヨーグルトに夢中
高橋愛…?
市井沙耶香…?

「ではチャーミーさん。原稿の締め切りは、今夜8時ということで・・」
「はい。」
カントリー出版社からの電話を切り、ため息をひとつ。
チャーミー石川、それが私のペンネーム。
たまたま応募した処女作「いじめないで」が大ヒット。
たちまち売れっ子作家となり、続く2作目「友達がいない」はベストセラー。
両方共、自分の経験を書いただけなのに・・
ところが、3作目に恋愛物を書いて欲しいという依頼が来てしまった。
私そんな経験ないのに・・どうしよう。
またため息をひとつはく。
「やっぱり恋愛経験をしなくちゃ駄目ね。」
私は覚悟を決めた。そして初恋の人、吉澤ひとみを思い出す。
あの人に電話しよう。私は震える手でよっすぃーの番号にかけた。
プルルルルルルルル・・
あの人は出てくれるかな?
「へい、こちらモーニング警察雑務課れす。」
ガチャン!
咄嗟に受話器をおろす。間違えて警察にかけてしまった。
「こ、今度こそ・・」
プルルルルルルルル・・
最初に何て言おうかな?
「オス、関東矢口組だ。何の様じゃい!」
ガチャン!
咄嗟に受話器をおろす。間違えてヤクザにかけてしまった。
「やっぱり電話は駄目ねー、直接会いに行かなくちゃ。」
私はあきらめて外に出る事にした。
さて、今日は日曜だ。どこに行けばあの人に会えるだろう。

外に出たのはいいものの、ずっと誰かに後をつけられている気がする。
私は怖くなって、ダッシュして逃げた。
ようやく振り切り、気が付くと関東矢口組総本山入り口にいた。
「こ、こんな所に愛しのあの人はいないわよね〜」
すぐにまわれ右したが、何者かに肩をつかまれた。
「こんな所とは聞き捨てならんのーお嬢ちゃん。」
「奴等のスパイじゃないデスか。あいぼんの姉貴。」
どうみても組関係の人お二人に絡まれちゃいました。
スパイって何?私はただの小説家よ。
「とりあえず、矢口の親分に報告や。」
「え〜!」
この街の影の支配者、関東矢口組の組長、そんな恐ろしい人に!
私、どうなるんですか〜!

ZAPPING

石川梨華→矢口真里

安倍なつみ…?
矢口真里…関東矢口組の組長
後藤真希…?
石川梨華…関東矢口組に拉致される
吉澤ひとみ…?
辻希美…アロエヨーグルトに夢中
高橋愛…?
市井沙耶香…?

この街で私に逆らえる者はいない。
当然、普段は私の家に近づく命知らず等そうはいない。
ところが、この日は違った。やけに来客の多い一日であった。
早朝にいきなり、中澤という怪しい女が訪ねてきた。
「あなたの天下も今日まで、この街は我々が頂きます。」
それだけを言うと、そいつはいつのまにかいなくなっていた。
この関東矢口組にケンカを売る奴がまだいたとは・・おもしろい。
どんな組か知らんが、相手になってやらんでもない。
リンリンリン
電話が鳴る。さっきの女からの宣戦布告か?
加護が勇んで受話器を取る。
「オス、関東矢口組だ。何の様じゃい!」
「…」ガチャン
加護が受話器を投げ飛ばす。無言のイタズラ電話だったらしい。
そんな事もあり、若頭の加護や組員のミカ辺りも朝からピリピリしている。
私はとりあえず、奴等の出方を伺うことにした。
しばらくして、二人が怪しい女を見つけたと言い、連れてきた。
幸の薄そうな娘だった。
「矢口親分、こいつスパイやで〜。」
加護はそう言うが、とてもそんな大層な者には見えない。
「殺っちゃいましょうデス。」
ミカもそう言うが、さてどうしたものか?

この女、よく見たらかわいい顔をしている。加護の嫁にしてはどうか。
いずれ加護は私の跡を継いで2代目組長となる娘、
ここらで身を固めておくのも悪くない。
「親分、拷問ならうちに任せてや。たっぷり可愛がってやるで〜」
「私も手伝うデス。」
「いや〜!私スパイなんかじゃないですよー。助けてー!」
私は加護に押さえつけられた娘に近寄った。
「おいお前、名はなんていう?」
「チャーミ・・いや、石川梨華です。」
「そうか、石川さん。条件次第で助けてやらんでもない。」
「私、なんでもします。どうか命だけは・・」
「今あんたの上にいる娘、若頭の加護ってんだが、度胸もあっていい娘だ。」
「はい、それが何か・・」
「あんたがこの加護と結婚するってんなら、助けてやる。」
「えー!結婚!」
「ちょっと親分、うちも嫌やで、こんな奴と結婚なんて・・」
「黙れ、これは組長命令だ。よしそうと決まれば式の準備だ。ミカ!」
「アイアイサー」
私は得意の強引押しで話しを、進めていった。
「うち絶対嫌やで、まだ結婚なんかしたくなーい!」
加護は大声をあげて、屋敷を飛び出して行った。
「追いましょうデスか?」
「ほっとけ、どうせ他に行く所なんかない。すぐに戻ってくる。」
そして私は脅える石川の方へ向き直した。
「断ればどうなるかわかってるよな。石川さん。」
石川はうずくまって泣き止まない。
「まあ、返事は加護が戻って来てからでもいいか。」
私は石川を客室へ案内した。
「しばらく、ここで待っててね。」
逃げ出せない様にしっかり鍵をかける。
「ようし、ミカ、式場を予約しろ。特上の所でな。」
「アイアイサー」
今日はめでてえ日になりそうだ。

ZAPPING

矢口真里→高橋愛

安倍なつみ…?
矢口真里…結婚式の準備中
後藤真希…?
石川梨華…関東矢口組に監禁される
吉澤ひとみ…?
辻希美…アロエヨーグルトに夢中
高橋愛…アイドル
市井紗耶香…?

安倍なつみ、高橋愛、新垣里沙の3人から成る“ナッチモニ”
この街を代表する売れっ子アイドルグループである。
今日はこの街で一番広い公園、ピース公園にてドラマの撮影の予定。
だったのだが、リーダーのなつみがいつまでたっても姿を見せない。
私は里沙と二人でベンチに座って待っていた。
そこへ下っ端ADの窪塚君がやってきた。
「すいません、高橋さん、新垣さん。もうしばらく待ってて下さい。」
「何分待ってると思ってんだ、とっとと呼んでこいゴルァ!」
里沙がキレて窪塚君を蹴り倒す。
「す、すいません。それが家に電話してもでないみたいで・・」
「もういい、私が直接なつみを呼びに行く!」
そう言うと里沙は、一目散に走っていった。
正直、仕事に嫌気が差していた私は、この事態をラッキーと思っていた。
これで仕事をしないで、のんびりできる。

へこんでいる窪塚君を誘って、デートしよう。
「ねえ窪塚君、私とぉデートしてもらえませんか。」
彼はびっくりして後ずさる。
「だ、だめっすよ。天下のスーパーアイドルとデートなんて・・
 監督やマネージャーにばれたら、俺殺されますよ。」
「ふーん、怖いんや。」
あまりに動揺する彼がおかしくて、ちょっといじわるな事を言ってみる。
「こ、怖くなんかねーっすよ。ああ、もういい辞めてやる。こんな仕事。」
窪塚君は何かに吹っ切れた様だ。
「もうADじゃないから関係ねー。行きましょう、デート!」
「フフ・・行きましょう!」
私は窪塚君とピース公園の出口へ歩き出した。
「でも、どうして下っ端ADの俺なんかに声かけてくれたんすか?」
「んー実は誰でも良かったんやー。」
「はぁー、やっぱそうすか。」
「冗談やって、なんか〜君は将来ビックになるって気がしたんでー。」
「マジすか、高橋さんにそう言われると、俺すげー自信沸いてきたっす。」
「がんばんねや、AD君。」
「こら〜窪塚!何遊んでる!安倍への連絡はついたんか!」
「やっべ、見つかった。」
監督さんがものすごい形相で怒っている。
「ごめん、デートはここまで、俺ビックになるため仕事に戻るっす。」
「うん。」
彼は元気を取り戻して走っていった。私も少し元気が出た。
そして気持ちが固まった。ナッチモニを辞めよう。
このまま惰性でアイドルを続けては駄目。本当にやりたいことを探すんだ。
私は走り出した、無限に広がる未来へ!
そしてぶつかった。
「なんや痛いのぉー!あいぼんなめると許さんでー!」
「ごめんなさい、私・・うっかりしてて」
「どっかで見た顔やの、もしかしてあんた、ナッチモニの愛ちゃんか?」
「いや、今ナッチモニは辞めようと思っていた所で・・」
「うちも亜依言うんや、今ヤクザ辞めよう思ってた所やで。」
「え、亜依さんも・・」
愛と亜依の出会い、これが私の人生を大きく変える出来事となる。

ZAPPING

高橋愛→安倍なつみ

安倍なつみ…ダイエットを始める娘
矢口真里…結婚式の準備中
後藤真希…?
石川梨華…関東矢口組に監禁される
吉澤ひとみ…?
辻希美…アロエヨーグルトに夢中
高橋愛…加護亜依と出会う
市井紗耶香…?

ナッチモニはリーダーの私の人気でブレイクした。
ところが、ちょっと私がポッチャリしてくると、人気を高橋に奪い取られる。
あまつにはセンターの座にドラマの主役の座まで、許せない。
それで私はダイエットを決意した。
昔のスマートなっちに戻って、センターに帰り咲くのよ。
それまでは仕事も休む。ダイエットに専念する。
なっちの決意は固いべさ。
さて、そのダイエットの方法は・・

サウナに居座るべさ。
私がよく愛用している超超超サウナにやってきた。
「ここのサウナは超超超超いい感じだべ!」
ところが、なっちの指定席に見慣れない娘が一人座っている。
鋭い眼光、ただ者とは思えぬ気配、この街の人間ではなさそうだ。
私はあえて、そいつの隣に座りこむ。
上等だべ、こうなったら我慢比べだべさ!
30分後
「もう駄目〜」
私はあっさり敗北を喫する。
それどころか、眩暈すら感じる。
何か飲み物と食べ物をとらないと死んでしまいそうだ。
サウナを出た私は、匂いにつられてふらふらとカフェテラス保田に到着。
うまそうな8段アロエヨーグルトをむさぼる娘を発見。
「うう〜、なっちがこんなツライ目にあっているっていうのに〜」
もう我慢できない、食ってやる!
「ああ、なにするんれすか。」
私はその少女から、アロエヨーグルトを奪い取りかぶりついた。
隣のテーブルの客が、変な目で見ている。
もういいよ、なっちにダイエットは無理だべさ〜。

ZAPPING

安倍なつみ→吉澤ひとみ

安倍なつみ…ダイエットをあきらめる
矢口真里…結婚式の準備中
後藤真希…?
石川梨華…関東矢口組に監禁される
吉澤ひとみ…七曜会に勧誘される
辻希美…アロエヨーグルトを奪われる
高橋愛…加護亜依と出会う
市井紗耶香…?

午前10時、カフェテラス保田
私のテーブルに一人の女性が座る。
「貴方が中澤さんですね。話しって何ですか?」
その女性は足を組み、きれいな顔で笑みを浮かべる。
「吉澤さん、あなたを脅迫に来たのよ。」
「きょ、脅迫!」
「これををごらんなさい。」
中澤さんはカバンから一枚の写真を取り出す。
「うわ、ブサイク。白目向いてるし!」
私の恥ずかしい写真だ。いつのまに撮られたのだろう。
「これを世間に公表されたくないなら、私の言う事に従って。」
「いや、別にいっすよ。へるもんじゃないし…じゃ、そゆことで」
とっとと帰りたかった。
「え、待ちなさい吉澤さん。ベーグルおごるから。」
私の耳がピクリと動く。
「な〜んだ、そうゆうことなら先に言って下さいよ、中澤さん。」
私は店長の保田さんにベーグルを追加オーダーした。
「で、用件は何すか?」
「フウ、貴方に七曜会に入って欲しいのよ。」

七曜会、何だそりゃ?
「選りすぐりの7人のメンバーで、この街を支配するのよ。」
「この街を支配、かっけー!」
「貴方は今日から金曜日よ、私の事は日曜日と呼びなさい。」
「はい、日曜日。」
おもしろそうだから、しばらくこの遊びに付き合ってやろう。
私は日曜日に質問した。

「日曜日のスリーサイズはいくつなんですか?」
私は個人的に興味のある質問をした。
「そうやね〜見事この街を支配することができたら、直接測ってもいいわよ。」
少しやる気が出てきた。
「わかりました。で、何をすればいいですか?」
「とりあえずメンバー集めしてもらおうか、」
「え、もう7人そろってるんじゃないんですか?」
「吉澤さん、いや、金曜日。あんたで3人目や。あと4人頼むわ。」
少しやる気がなくなってきた。
その時、隣のテーブルに異変が・・
「のののアロエヨーグルト、返してくらはい!」
「もうなっちの胃袋の中だべさ。」
太目の娘が二人、食べ物の事で騒いでいる。
巻き込まれたくないので、私達は場所を変えることにした。
「七曜会の本部へ案内するわ。そこに貴方の先輩、水曜日がいるよ。」
どんな人だろう、私はドキドキしながら日曜日の後をついていった。

ZAPPING

吉澤ひとみ→市井紗耶香

安倍なつみ…ダイエットをあきらめる
矢口真里…結婚式の準備中
後藤真希…?
石川梨華…関東矢口組に監禁される
吉澤ひとみ…七曜会の本部へ
辻希美…アロエヨーグルトを奪われる
高橋愛…加護亜依と出会う
市井紗耶香…帰ってきた娘

私はこの街に帰ってきた。
何年ぶりになるだろうか、街並みはすっかり様変わりしている。。
ここがいったいどの辺りなのかも思い出せない。
物思いにふけ、立ち尽くしていると一人の少女がぶつかってきた。
「ご、ごめんなさいれす。」
「いや、こっちこそごめん。」
少女はすぐに立ち上がり、立ち去ろうとする。
「ちょっと待って、聞きたい事があるの。ここはどこ?」
少女は簡潔に答えてくれた。
「街れす。」
そんなことはわかっている。
いや、それが正しいのかもしれない、ここは街だ。
私はあの戦場から、この平和な街へ帰ってきたのだ。
でも一体何のために?
この街に私は必要なのだろうか?
自分自身に疑問を投げつけ、私は朝もやの街を歩き出した。

右手に超超超サウナという看板が見える。
戦場で汚れた体を洗い流すのも悪くない。私はそこに入ることにした。
朝早いので、他に人はいなかった。一番乗りだ。
しばらくすると一人の娘が入って隣に座り込んできた。
この太めの娘、心なしか私の事を睨んでいる。
ただの勘違いだろう、知らない娘にうらまれる覚えはない。
30分程で、その娘は出ていった。
私もそろそろ出るとするか。
とはいえ、特に目的もする事も無い。
そうだ、まず目的を決めるとしよう。

姉貴の顔が見たくなってきた。
この街には、何年も前に別れた家族、親父とお袋と姉貴が住んでいる。
だが家に帰る気はなかった。喧嘩別れした親父と会いたくないからだ。
この時間なら姉貴は仕事中のはず、仕事場へ行ってみよう。
たんぽぽ銀行、ここが姉貴の仕事場のはずだ。
直接顔を合わせると面倒な事になりそうなので、外から覗いて調べる。
いた、ひさしぶりにみる姉貴、元気そうだ。
私はそれだけで満足し立ち去ろうとしたが、ふいに目と目が合ってしまった。
「…紗耶香!」
しまった、気付かれた。姉貴はすぐに外へ飛び出してきた。
「本当に紗耶香なの、どこに行ってたのあんた?」
「…」
戦場だなんて言えない。
石黒姉さんは私の腕をつかんで引っ張る。
「家に帰りましょう。父さんも待ってるわ。」
振りほどこうと思えばできたが、姉貴の顔を見てなぜかそれができなかった。
二度と帰ることのないと思っていた実家へ・・

ZAPPING

市井紗耶香→後藤真希

後藤は眠っている。

ZAPPING

後藤真希→?

安倍なつみ…ダイエットをあきらめる
矢口真里…結婚式の準備中
後藤真希…眠っている
石川梨華…関東矢口組に監禁される
吉澤ひとみ…七曜会の本部へ
辻希美…アロエヨーグルトを奪われる
高橋愛…加護亜依と出会う
市井紗耶香…石黒に連れられ、実家へ

こうして8人の物語は始まった。

 

 

好物を横取りされた悔しさで、私はカフェテラス保田を出た。
「もうパトロールはやめて、帰るのれす。」
ショックでこれ以上仕事をする気にはなれなかったのだ。
歩道をとぼとぼ歩いていると、一人の娘に絡まれた。
「おー辻、やっと見つけたよー。」
知らない人なのに、私の事を呼んでいる。
「あんた、誰れすか?」
「何言ってるの辻〜。私だよ、後藤。」
後藤?そんな名前の知り合いはいない。
「ほら、つんくさんも待ってるから、帰ろう。」
つんくさん?初めて聞く名だ。
「知らない人に付いていったら、駄目なのれす!」
私は危険を感じ、一目散に逃げ出した。
「あ、ちょっと待ちなさいよー、辻―!」
刑事が誘拐される訳にはいかねーのれす。
私はなんとか逃げ切って、警察署にたどり着いた。
「あぶないところだったのれす。」
さてと、飯田さんにパトロールの報告だ。
「それで、アロエヨーグルト取られて泣いて帰ってきたって訳。」
「・・へい。」
飯田さんはあきれて怒る気も失せた様子だ。
「保田さんは犯人じゃないって言ってたのれす。」
「当たり前だ、自分が犯人ですなんて言う訳ないだろ。」
「あ、そうか・・」
「…ったく、あんたに行かせた私がバカだったよ。」
その時、FAXが再び動き出す。
「また、なんか届いたのれす。」
「見せてみろ。」
私はその紙を飯田さんに渡す。
『ヒントA 152332天85小13 ジェロニモより』
やはり、犯人からだった。
「また暗号みたいれすね。」
「ああ、数字が並んでるな。それに漢字もある。」
「ののはもうわかったのれす。」
「おお辻、やるじゃん。」
「犯人は天小さんなのれす!」
「もういい・・」
「真面目に考えろって!」
「ラジャーれす!」
私は頭をフル回転し、この暗号を解いた。

152332天85小13

「数字をひらがなに置きかえれそうだな。」
「どうゆことれすか?」
「15ならあの段の5番目、つまり【お】」
「なるほろ、23は、かの段の3番目らから【く】れすね。れも天は?」
「天は点、つまり濁点を付けるってことだよ。32天は【じ】だ。」
「じゃあ85小は、よを小さくして【ょ】れすか。」
「そうだ。そんで最後は13で【う】になる。」
暗号が解けた。
「答えは【おくじょう】れすね!」
「そうだ、よし辻、屋上を探してこい。」
「れもどこの屋上れすか?」
「ばーか、それを【保田に聞け】だろ。」
「わかったのれす。」
私は再びカフェテラス保田へと走った。
店内はさっきとは異なり、昼時で忙しそうだった。
「やすらさーん、おくじょうはろこれすかー?」
私は厨房で料理を作っている保田さんを、大声で呼んだ。
「何だよ、またお前か。この忙しい時に。」
「どこのおくじょうか、教えてくらはい。」
「は?なにそれ。」
「いいからどこのおくじょうか教えるのれす!」
「屋上って言われても、この店から見えるのはあそこくらいよ。」
保田さんの指差した先に、ムーンライトビルがそびえたっていた。
「あそこれす!保田さん、ありらとう。」
「はぁ?」
私は再び走り出した。
多くの企業が入り、この街のシンボルともいわれるムーンライトビル。
爆弾を仕掛けるにはうってつけれすね。
私は素早くエレベーターに乗りこむ。

私は迷わず屋上へあがった。
そこで衝撃的なものを発見する。
「なんれすか・・これ」
それはある意味、爆弾より恐ろしい物だった。
ムーンライトビルの隣にある、たんぽぽ銀行社員の制服。
胸に付けられたネームプレートにある文字、紺野あさ美。
彼女が横になって眠っている。
首から下だけの姿で・・
「いやぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」
私は恐怖のあまり悲鳴をあげた。
屋上に置かれていたのは爆弾ではない、首なし死体だった。
腕もある。足もある。胴体もある。顔がない。
こんな事信じたくなかった、嘘であっって欲しかった。

しかし残念ながらこれは、これからこの街を襲う恐怖の始まりでしかない。
この惨劇を止めるには、今の辻希美はあまりにも無力すぎた。

ZAPPING

辻希美→吉澤ひとみ

安倍なつみ…ダイエットをあきらめる
矢口真里…結婚式の準備中
後藤真希…眠っている
石川梨華…関東矢口組に監禁される
吉澤ひとみ…七曜会の本部へ
辻希美…ムーンライトビル屋上にて、紺野あさ美の死体発見
高橋愛…加護亜依と出会う
市井紗耶香…石黒に連れられ、実家へ

その頃ムーンライトビル7Fでは、金曜日こと吉澤ひとみが、
日曜日こと中澤裕子の紹介で、七曜会メンバーの水曜日と対面していた。
目の前に、首から笛を下げたセーラー服の美少女が立っている。
「彼女が小川麻琴、いや水曜日や。」
中澤さんが紹介してくれた。
「よろしく。」
水曜日が手を差し伸べてきた。私も握手しようと手を出す。
「ども、吉澤ひとみだよ。よろしく!」
ビシッ!突然はりせんで引っ叩かれた。
「いってー。な〜にすんすか!」
ピー!
水曜日は黄色い紙を出して、突然笛を鳴らす。
「七曜会掟その1、先輩には敬語を使う。」
掟?聞いてねえっす。
「イエローカードが三枚で、超超超お仕置きだからね。」
超超超お仕置き、ちょっとおもしろそうと思ったが、ここはおとなしく従う。
「吉澤ひとみです。よろしくお願いします。」
「うん、よろしい。」
私より小っちゃいくせに小生意気な娘、でもちょっとタイプだ。
挨拶が済んだ所で、日曜日が本題に入る。
「水曜日、金曜日、あなた達に最初の指令よ。残り4人の同士を探しなさい!」
「はい、わかりました。」
水曜日は淡々と指令を受ける。
「は、はい、私もわかりました。」
納得いかない事はたくさんあったが、私もとりあえずそれに従う。
「あの〜日曜日さんは手伝ってくれないんですか?」
「私は他にやらなくちゃいけない事が、山ほどあるの。おわかり?」
「はあ・・」
まだ納得いかなかったが、水曜日が隣で睨むのでそれだけにした。
「ほら、行くわよ。」
私は水曜日に引っ張られ、ムーンライトビルを後にした。
上から変な悲鳴が聞こえたが、それ所ではなかった。
「水曜日さん、後の4人って当てはあるんですか?」
正直、一人一人誘っていくのは面倒だ。(作者的にも)
そう質問すると、3枚の紙を渡された。
それぞれに4人組の写真とプロフィールが載っている。
「あなたは、どれがいい?」

私はメロン記念日のプロフィールを見て、運命を感じた。

柴田 あゆみ
生年月日 1984年2月22日 出身地 神奈川県
スリーサイズ B:81 W:60 H:85 身長 155cm

大谷雅恵
生年月日 1982年2月25日 出身地 北海道
スリーサイズ B:82 W:63 H:90 身長 158cm

村田めぐみ
生年月日 1981年3月3日 出身地 宮城県
スリーサイズ B:80 W:60 H:84 身長 160cm

斉藤瞳
生年月日 1981年10日31日 出身地 新潟県
スリーサイズ B:83 W:61 H:85 身長 155cm

「この柴田って娘も私好みだよー。よし、この4人に決めた。」
私は俄然やる気がでてきた。

ZAPPING

吉澤ひとみ→高橋愛

安倍なつみ…ダイエットをあきらめる
矢口真里…結婚式の準備中
後藤真希…眠っている
石川梨華…関東矢口組に監禁される
吉澤ひとみ…小川と共にメロン記念日を脅迫しに行く
辻希美…ムーンライトビル屋上にて、紺野あさ美の死体発見
高橋愛…加護亜依と出会う
市井紗耶香…石黒に連れられ、実家へ

私と亜依は人目に着かない所に隠れ、互いの事情を話し合った。
同じアイどうし、妙に通ずる所があったのだ。
一通り互いの話しが終った所で、亜依がとんでもない話をもちかけた。
「なあ、うちと入れ替わらへんか。」
「えっ、なんやって、もっかい言って。」
「あんた、アイドル辞めて新しい人生歩みたいんやろ。うちと替わろう。」
私がヤクザの若頭になって結婚する!
突拍子もない話だったが、実は少しあこがれた世界でもあった。
スケジュールに追われて寝る暇もない、そんな生活から解放され自由にしたい放題。
なによりアイドルは恋が出来ない、それがいきなり結婚まで・・
「いいよ、替わる。」
「おし決まりや。実はうちもアイドルっちゅーのにあこがれとったんや。」
私達は互いの服を交換し、髪型を変えるため美容院へ向かった。
亜依はストレートパーマをかけ、私はお団子頭にする。
「金に糸目はつけへん、完璧にしてや。」
「金なら私もいっぱい持ってるって、アイドルやでの。」
完成、亜依はもうどこから見てもアイドル高橋愛にしか見えず、
私はどこからみても矢口組若頭、加護亜依そのものであった。
私達は出会った公園に戻って来た。
「うまくやれや、愛。」
「お互いがんばろうの、亜依ちゃん。」
私は亜依と堅く握手を交わした。
この事は二人だけの秘密、自分ともう一人の自分だけの・・
「高橋さーん、安倍さんがやっと見つかったんで、撮影始めまーす。」
遠くで窪塚君が呼んでいる。
「これでお別れやな、愛。」
「バイバイ、亜依。」
手を解き、亜依は撮影現場へと走り去る。
私はピース公園の外へ走る。
もう振り返らない。
なつみ、里沙、窪塚君、ナッチモニ、みんな、さよなら。
私の前に、輝ける新しい道が開いていた。

その前にカフェテラス保田で腹ごしらえ。
アイドルのときは、こんな所で堂々と食事なんてできなかった。
それが今は、むしろ人が避けて通る。
私は感動を覚えながら、食事を済ませた。
店を出た所で、一人の娘と目が合った。
「加護発見!あんたまで私の事わかんないじゃないでしょうね。」
「は?」
「もーう、後藤よ、後藤真希。」
そうだ私はもう加護亜依なんだ。この人はきっと亜依の知り合いなのだろう。
私はうまく話しを合わせてみる事にした。
「ああ、後藤さんね。ひさしぶり。」
途端に後藤さんの顔が引きつる。
「あれその声、あんたよく見たら高橋じゃん。何でそんな格好してるの?」
この人、私の事まで知っている。
それよりこんな所でバレル訳にはいかない。
私はダッシュで逃げることにした。
「ちょ、ちょっと何であんたまで逃げるの〜」
なんとか振り切った。おとなしく矢口邸へ向かおう。

ZAPPING

高橋愛→矢口真里

安倍なつみ…ダイエットをあきらめる
矢口真里…結婚式の準備中
後藤真希…眠っている
石川梨華…関東矢口組に監禁される
吉澤ひとみ…小川と共にメロン記念日を脅迫しに行く
辻希美…ムーンライトビル屋上にて、紺野あさ美の死体発見
高橋愛…加護亜依と入れ替わり、矢口邸に向かう
市井紗耶香…石黒に連れられ、実家へ

つんくタウンの中央に位置し、街のシンボルとも言われているハピサマ教会。
「加護と石川の結婚式はやっぱりここだね。」
式は午後八時開始に決定、私は手下の全員を準備に当らせ教会を眺めていた。
その時だ、背中からあの声が聞こえた。
「結婚式とはのん気なものねぇ、矢口さん。」
今朝、ウチらに宣戦布告してきた女だ。
「性懲りもなくまた現われたな。お前何者だ?」
「いずれこの街の頂点に君臨する者、日曜日よ。」
日曜日?おかしな名前だ。
「もうすぐよ、もうすぐ選ばれし7人の仲間がそろう。その時が貴方の最期。」
「うるせえ、面倒な事しねえで今ここでケリつけようぜ。」
私が身構えると、日曜日はすばやく間を空けた。
「組長さん、貴方を殺るのは私じゃない。とびきりいい娘を用意してあるの。」
「ああ!何だって!」
「楽しみに待っていなさい。」
そう言うと、日曜日は姿を消した。
私は屋敷への帰り道、車の中で考えた。
今の戦力でも、あんな奴等に負ける気はしないが、
跡継ぎの加護と石川の結婚式だけは絶対に邪魔はさせたくない。
「念のために切り札を用意しておくか・・」
組長の私にすら手に余るほどの化け物を。
私は携帯を取り出し、その化け物に連絡を入れた。

現役最強にして暴走荒武者の異名をもつ松浦亜弥。
「もしもし、こちらミニモニ留守番電話サービスセンター」
「あ〜ら、その寒いギャグは矢口組の親分さんじゃないですか。」
むかつく奴だが、ここは冷静に・・
「松浦、あんたにちょっと頼みたい仕事があるんだ。」
「私のギャラは高いですよ〜」
「ウチらにちょっかい出してくる7人組がいてさ、手を貸して欲しいんだけど。」
「そいつら、殺しちゃってよいのかな〜♪」
「ああ、好きにしていいよ。」
「わかりました、今からそっち行くね。」
電話を切り、日曜日の顔を思い浮かべる。
松浦を呼んだことで、あいつの死はもはや決定した。
私に逆らうからこういうことになるのだ。
「矢口親分、着きましたデス。」
運転手のミカの声で我に返る。
車を降りると、玄関で加護が待っていた。
「お、お、お、おかえりなさいませ、組長様。」
「な〜に言ってんだバカヤロー。まあ戻ってくるってわかってたよ。」
加護も無事戻って来た、矢口の前にもはや障害は何一つとしてない。

ZAPPING

矢口真里→安倍なつみ

安倍なつみ…ダイエットをあきらめる
矢口真里…切り札に松浦亜弥を呼び、結婚式の準備は万全。
後藤真希…眠っている
石川梨華…関東矢口組に監禁される
吉澤ひとみ…小川と共にメロン記念日を脅迫しに行く
辻希美…ムーンライトビル屋上にて、紺野あさ美の死体発見
高橋愛…加護亜依と入れ替わり、矢口邸に向かう
市井紗耶香…石黒に連れられ、実家へ

ちび娘のせいでアロエヨーグルトに目がいってしまい、ダイエットは失敗。
仕方なく家に帰ろうとしている所を撮影スタッフに見つかり、結局仕事場へ。
遅刻のせいで、いろんな人に怒られる。
今日はほんとにろくな事がない。
落ち込んでいると、ナッチモニメンバーの高橋愛が励ましに来た。
「まあ、遅刻なんか気にせんことやで。」
あれ、愛の訛りってそんなんだったっけか。
いやきっと、ダイエット失敗のせいで耳までおかしくなったんだべさ。
「はぁ〜。あれ、そう言えば里沙はどうしたの?」
「うち知らへんで。」
ちょうど小道具を運んでいた窪塚君に聞いてみる。
「新垣さんなら、安倍さんを探しに行くっていったきりっす。」
他のスッタフも騒ぎ出した。今度は新垣が行方不明だと。
結局、スッタフ総動員で探すことになった。
「なんやなんや、せっかくアイドルなったゆうのに・・」
愛が妙な事を言うが、私は特に気にしなかった。
ダイエット失敗と遅刻の事で頭がいっぱいだったからだ。
じっと待っているのは退屈だったので、私達も里沙を探す事にした。
「ぶりんこうんこでもしとるんとちゃうん。」
いつもお上品な愛が、こんな下品な言葉を使うのはめずらしい。
愛も私の様に悩みがあって、ちょっと頭がおかしくなったのだろうか。
だがトイレしているというのは一理あるかも。
愛の意見に沿って、私達はピース公園内の公衆便所を探すことにした。
すると、一番奥の個室から里沙のスカートのすそがはみ出ていた。
「なーんだ、ほんとにトイレにいたべさ。」
「ほら、うちのいったとおりや。」
私は駆け寄って、そのドアをノックする。
「おーい、里沙、皆待ってるから早くするべさ。」
ガタン!
個室の扉が開く。里沙が無造作に転がり落ちる。
ただ、それに首はついていなかった。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
私は恐怖のあまりその場を逃げ出し、愛の胸に飛び込んで泣いた。
里沙が死んでいる。それも首を切り取られて!
「せっかくアイドルなったゆうのに・・なんでや。」
愛も泣いていた。(別の理由で)

ZAPPING

安倍なつみ→?

安倍なつみ…ピース公園公衆便所にて、新垣里沙の死体発見
矢口真里…切り札に松浦亜弥を呼び、結婚式の準備は万全
後藤真希…眠っている
石川梨華…関東矢口組に監禁される
吉澤ひとみ…小川と共にメロン記念日を脅迫しに行く
辻希美…ムーンライトビル屋上にて、紺野あさ美の死体発見
高橋愛…加護亜依と入れ替わり、矢口邸に向かう
市井紗耶香…石黒に連れられ、実家へ

衝撃の第2の殺人。
平和だった街に少しずつズレが生じる。
さあ、あなたは次に誰を選択する?

市井は姉の石黒に連れられて数年ぶりの実家に戻っていた。
「明日香父さん、紗耶香が戻って来たよ。」
数年前喧嘩別れした親父、福田明日香。
「何しに戻って来たんだ、馬鹿娘が。」
ふてぶてしい態度は相変わらずだ。戻りたくて来たんじゃねえよ。
私はもう嫌気がさして、家を出ようとした。
「お父さん、どうしてそういうこと言うの。ほら紗耶香も・・」
石黒姉さんが間を取り持つ。
もういいよ姉さん、こんな奴と話す事などない。
「そうだ、とっとと出て行け。二度とこの家の敷居をまたぐなよ!」
私の中に殺意の様なものが沸き上がってきた。
気がつくと、私は親父に殴り掛かっていた。
「やめて、もうやめてよ!紗耶香!」
姉さんが大声で止めに入る。
親父は顔を腫らして、倒れている。
我に返った私は走り出し、家を飛び出した。
私は何をやっているんだ。
こんなことをするために、この街に戻ったというのか。
家を飛び出し、ピース公園という広い穏やかな公園にやってきた私は、
手近なベンチに座りしばらく頭を冷やすことにした。
どれくらい時間が経っただろうか、そろそろ日も暮れようとしている。
黒いケースを持った怪しげな娘が、私の前を通り過ぎる。
「トロピカ〜ル、道に迷って〜る。」
その娘が私の方に近づいてきた。
「すいません、ハピサマ教会にはどう行けばいいんでしょうか?」
「ハピサマ教会・・」
その時、私の全身に悪寒が走る。
一見して只の可愛らしい少女にしか見えないこの女、ただ者ではない。
激しい戦場を経験してきた私だからわかる。
私は咄嗟に身を翻しベンチから離れ、間合いを置いた。
相手が先手を取っても反撃できる間合い、私の間合いだ。
「へ〜あなたみたいな人もいるんだぁ。」
その娘の口元に、一転して笑みが浮かぶ。
穏やかな公園の空気が、一瞬にして緊張に変わった。
「私、ドッキドキしてきちゃったよ〜。」
少女は薄く笑みを浮かべたまま、振り返る。
正直、素手での戦いなら、どんな奴にも遅れをとる気はない。だが…
右手に持つ黒いケースが気になる、あれを使わせてはいけない。
いやそれ以前にこの娘が敵と決まった訳ではない。
どうする、ここでの選択ミスは命に関わる気がしてならない。

「ハピサマ教会ならこっちだよ。」
私は彼女を案内して様子を伺うことにした。
彼女は拍子抜けした感じで目を丸めたが、やがて笑顔に戻りうなずいた。
「ありがとう親切なお姉さん。私は松浦亜弥、あなたのお名前は?」
「・・市井紗耶香よ。」
「そう、市井さん。このお礼は必ずしますわ。」
「いいよ、気にするな。」
この娘が何者なのか、敵か味方かすらわからない。
ハピサマ教会までの道のり、私は一時も油断することはなかった。

ZAPPING

市井紗耶香→石川梨華

安倍なつみ…ピース公園公衆便所にて、新垣里沙の死体発見
矢口真里…切り札に松浦亜弥を呼び、結婚式の準備は万全
後藤真希…眠っている
石川梨華…関東矢口組に監禁される
吉澤ひとみ…小川と共にメロン記念日を脅迫しに行く
辻希美…ムーンライトビル屋上にて、紺野あさ美の死体発見
高橋愛…加護亜依と入れ替わり、矢口邸に向かう
市井紗耶香…松浦をハピサマ教会へ案内している

「ああ、愛しいあの人、お昼ご飯、何食べたんだろう。」
私はというと、かれこれ5時間近く、この部屋に閉じ込められたままです。
時計はもう午後3時を回っています。
これじゃあ原稿の締め切りに間に合わせるのはもう絶望的です。
編集長のりんねと担当のあさみ、怒るだろうな。
いやそれどころか、怖い人と結婚させられそうです。
極道の妻になっちゃうんです。
どうして私の人生はいつもこうなんだろう・・
小さい頃からいじめられて、友達もいなくて、何をやっても失敗ばかりだった。
寂しさを紛らわすために書いた小説で初めて成功を手にしたと言うのに、
今度はヤクザに監禁されて、好きでもない人と結婚なんて。
考えれば考えるほど、涙が止まらなくなる。
思い出すのは初恋のあの人の事ばかり。
「会いたいよ、よっすぃー。」
あのヤクザ達を打ち倒して、私の事を助けに来てくれないかしら。
そんな、ありえない夢ばかりみている。
コンコン
扉からノックの音がした。
「あいぼんの姉貴が戻ってきたデス。石川さん。」
ミカさんに連れられ、組長の間へ。
「待たせたな石川さん。そこに座りなさい。」
上座に組長さんが座っている。怖すぎてまともに顔も見れない。
「うちの加護も、あんたとの結婚を受けると考え直したみたいでな。」
そんな・・
「おい加護、お前もこっち来い。」
矢口さんに呼ばれて、奥の間から式衣装に着替えた加護が姿を見せる。
かっこいい。
さっき見た加護さんとは雰囲気もまるで違う。
「石川さん、貴方の様な綺麗な人と結婚なんて、夢の様です。」
こんな言葉をかけられたのは初めて、やさしさが胸にしみる。
「一緒にあったかい家庭を作っていこうね。」
私の心は揺れた。

それでも、私はごっちんじゃなきゃ駄目なんだ。
え、ごっちん?
ていうかごっちんって誰。私の知り合いにそんな人いないよ。
私どうしちゃったんだろう。
この状況でパニくって勝手に知らない人を妄想しちゃったのかな。
(僕にはわかる・・)
その時、頭の中で聞き覚えのある声を感じた。
なんなのこの感じ、私わかんないよ・・
「石川さんも、結婚の意志は固まったかな。」
矢口組長の言葉で我に返る。
結婚なんて嫌だよ、断るのよ梨華。いいえって言うのよ。
「…はい」
「そうか、良かった。よーし式場へ出発だ。」
違うよー。何ではいって言っちゃうのよ。梨華のバカバカバカ。
「行きましょう、梨華さん。」
加護さんに手をとられ、高級車に乗せられる。
こうして矢口、加護(高橋)、石川もハピサマ教会へと向かう。

ZAPPING

石川梨華→辻希美

安倍なつみ…ピース公園公衆便所にて、新垣里沙の死体発見
矢口真里…加護と石川の結婚式を行うため、ハピサマ教会へ
後藤真希…眠っている
石川梨華…加護と結婚させられる事になり、ハピサマ教会へ
吉澤ひとみ…小川と共にメロン記念日を脅迫しに行く
辻希美…ムーンライトビル屋上にて、紺野あさ美の死体発見
高橋愛…加護亜依と入れ替わり石川との結婚のため、ハピサマ教会へ
市井紗耶香…松浦亜弥を案内するため、ハピサマ教会へ

街中にパトカーのサイレンが鳴り響く。
警察署内も、2件の連続殺人のため慌ただしい。
紺野の死体の第一発見者である落ちこぼれ刑事辻希美は、
同じく新垣の死体の第一発見者である安倍と高橋を取り調べのために呼んでいた。
だが、一向に犯人の目処はたたない。
「他に何か変わった事はなかったれすか。」
「ないべさ。」
「あらへんよ。」
これ以上続けても、手がかりは得られそうにない。
そう思った時、三度、あのFAXが届いた。
「いいらさん!これ!」
「ああ、犯人からだ。辻、見せてみろ。」
安倍と高橋の二人は何事かと驚きをかくせないでいる。
『ヒント3 さのそなさあけせそさあせお ジェロニモより』
今まで以上に訳の分からない文が書かれてある。
「何だよこれ、ちっともわかんねえぞ。」
飯田さんでもお手上げの様だ。
「ののにはもうわかったのれす。犯人はジェロニモれす!」
もはや誰もつっこんではくれなかった。
果たしてこの暗号の意味は?

『ヒント3 さのそなさあけせそさあせお ジェロニモより』
私と飯田さんが頭をひねっていると、横から安倍が顔を出してきた。
「なになに、クイズ?私にもやらせてよ。」
遊びではないのだが、まあいいか。
高橋もおもしろそうに、その紙を覗き込んでいる。
刑事の私達に解けなかった物を、素人の彼女達にできるわけない。そう思っていたが。
「解けたべさ。」
なんと解いてしまった。
「答えはKYOUKAINOKANEやでー。」
「ろうしてそうなるんれすか?」
「“さ”は11番目の平仮名だから、11番目のアルファベット“K”になる。
 同じ様に一文字ずつ変えていけば、答えはでるって要領だべさ。」
教会の鐘、それが答え!
「辻、この街にある教会っていったら、あそこしかない。」
「ハピサマ教会れすね。すぐに行ってくるのれす!」
「いや、お前一人じゃ心配だ。今回は私も行く。」
「なんやおもしろそうやで、うちらも付いていこうや。」
「そうだね。」
こうして辻、飯田、安倍、高橋(加護)もハピサマ教会へ

ZAPPING

辻希美→吉澤ひとみ

安倍なつみ…なんだかおもしろそうなので、ハピサマ教会へ
矢口真里…加護と石川の結婚式を行うため、ハピサマ教会へ
後藤真希…眠っている
石川梨華…加護と結婚させられる事になり、ハピサマ教会へ
吉澤ひとみ…小川と共にメロン記念日を脅迫しに行く
辻希美…犯人のヒントを解き明かし、ハピサマ教会へ
高橋愛…加護亜依と入れ替わり石川との結婚のため、ハピサマ教会へ
市井紗耶香…松浦亜弥を案内するため、ハピサマ教会へ

脅迫なんてうまくできるのだろうか。そう心配していたのだが、
脅迫相手のメロン記念日は意外にもあっさり申し出に応じてくれた。
どうやら中澤の名に、相当ビビっているようだ。
何はともあれ、これで七曜会の七人がそろった。
私達は再びムーンライトビル7F、七曜会本部に戻って来た。
 日曜日 中澤裕子
 月曜日 村田めぐみ
 火曜日 大谷雅恵
 水曜日 小川麻琴
 木曜日 斎藤瞳
 金曜日 吉澤ひとみ
 土曜日 柴田あゆみ
「以上、七名、これより作戦を開始する!」
日曜日が私達を前に高らかに声をあげる。
「作戦って、何をするんですか?」
私は素直に疑問をぶつけた。
「その名も結婚式襲撃大作戦!全員でハピサマ教会に乗り込むんだ!」
おお、なんかかっけー。
「いくぞみんな!邪魔する奴等はぶった倒せ。」
日曜日の掛け声と共に私達はハピサマ教会へと走り出した。

ZAPPING

吉澤ひとみ→?

安倍なつみ…なんだかおもしろそうなので、ハピサマ教会へ
矢口真里…加護と石川の結婚式を行うため、ハピサマ教会へ
後藤真希…眠っている
石川梨華…加護と結婚させられる事になり、ハピサマ教会へ
吉澤ひとみ…七曜会の結婚式襲撃大作戦決行、ハピサマ教会へ
辻希美…犯人のヒントを解き明かし、ハピサマ教会へ
高橋愛…加護亜依と入れ替わり石川との結婚のため、ハピサマ教会へ
市井紗耶香…松浦亜弥を案内するため、ハピサマ教会へ

こうして後藤を除く全ての主人公がハピサマ教会へと集結する。
眠りつづける後藤真希。彼女が目を覚ます時、本当の真実が明らかとなる。
未来はあなたの選択に委ねられた。

純白のウエディングドレスを身に纏った石川が教会の扉を開く。
その美しさに、居並ぶもの全員が感嘆を露わにする。
そしてこれまた美しい娘、高橋が石川の手をとる。
二人は神父の前に並ぶ。
「加護亜依、貴方は石川梨華を一生愛し抜くことを誓いますか。」
高橋は一呼吸置き、これまでの事を思い出す。
これが私の新しい人生の始まり、彼女と二人で生きていくんだ。
「誓います。」
加護亜依として生きる事を決めた高橋愛の瞳に迷いはもうない。
「石川梨華、貴方は加護亜依を一生愛し抜くことを誓いますか。」
石川の脳裏にも、これまでの思い出が巡った。
ほとんどがつらく悲しい思い出ばかりだ。
その中でたった一つだけ色あせない思い出がある。
まだ幼かったあの日、いじめられていた私を助けてくれたあの人・・
泣きじゃくる私を、おもしろい顔して笑わせてくれたあの人・・
届くことのなかったこの想い・・
さよなら、よっすぃー。
「誓います。」
石川の頬を一筋の涙が通った。
「それでは誓いのキスを」
神父の言葉に、二人は顔を見合わせお互いを見詰め合う。
高橋が石川の肩をやさしく包む。
異変に一番最初に気付いたのは最前列にいた矢口組長だった。
「何をしてるんだ、あいつら?」
二人の動きが止まったままだ。一向に動こうとしない。
泣いている!?
高橋は石川に顔を近づけ、彼女の涙を見た。
抱き寄せた肩が小刻みに震えている。
石川の涙で高橋は気付いた。
ああ、そうなんだ。
彼女は私の事を愛してはいない。
そして私も彼女のことを…
こんなのは新しい人生なんていえない、誰かに乗せられたレールだ。
私が夢見ていたことは、こんなものじゃない。
「やめた!」
高橋は石川の体を突き放した。
石川が、矢口が、その場にいた全員が、突然の出来事に言葉を失った。
その時だ!
教会のステンドグラスが一斉に砕け散る。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
教会に集まった人々が悲鳴をあげ、一気に場はパニック状態となる。
「何事だぁ!」
矢口が大声を張り上げ、上空を見上げる。
「お邪魔させて頂くわ、組長さん。」
あの女の姿が見える。後ろには手下の様な6人が従っている。
「日曜日、お前・・!」
「七曜会の力、とくと思い知りなさい!」
中澤が合図をすると、後ろに控えていた5つの影が飛び出す。
「ヤロウドモ、返り討ちにしてやれ!」
矢口は組の下っ端達に激を飛ばした。
だが、小川とメロンの4人は矢口組下っ端構成員を次々と打ち倒していく。
「こいつら、かなりできる!」
私は場の劣勢に気付き、舌打ちをした。
「松浦の奴、まだかよ・・」
もうあんな奴を待ってはいられない、私自ら相手してやる。
「せっかくの結婚式を台無しにしてくれた代償、高くつくぜ!」
私は昔の血を思い出し、熱くなっていた。
「うっひょー、皆すげーっすよ!」
ただ一人出遅れた金曜日、吉澤は争いの行方を見守っていた。
「こりゃー私もこんなところでのんびりしてらんねー。」
吉澤も勢いを付けて飛び出した。
雑魚なんかどうでもいいや、やっぱ強え人と闘りてえな。
吉澤の目に幹部大将クラスの3人が映った。

教会の最前部、決意を秘めた面構えをしている娘が一人。
この式の主役にして、矢口組跡取り、若頭の加護亜依。
こいつとはいい勝負ができそうだ。
私は雑魚には目もくれず、彼女の元へと向かった。
「行かせないデス!」
矢口組ナンバー3、ミカが私の行く手を塞ぐ。
バコッ
水曜日、小川麻琴が飛び蹴りでミカをふっ飛ばした。
「こいつは私に任せて、とっとと行け。」
「水曜日さん!」
「負けたら、レッドカードだからな。」
私は親指を突き立てて、笑顔を返した。
「ぶっ殺すデス」
ぶっ飛ばされたミカが激しい形相で、ゆっくりと起き上がる。
私はその場を水曜日に任せ、自分の相手の元へ向かった。
不適に立ち尽くす加護亜依。
「さあ、勝負だ!」
ところが、相手の口から出た言葉は私の想像外のものだった。
「私の負けだ。」
「へ?」
加護は無防備に近寄って来る。
「彼女を幸せにするんやよ。」
意味がわからない、どうゆうこと?
そう言うと彼女は教会の出口の方へ去っていった。
ふと前方を振り返ると、ウエディングドレスを纏った娘が一人立っている。
「よっすぃー・・」
石川はまるで夢の中にいる様な心地だった。
そこにいるのはまぎれもない、思いつづけた初恋の人。
奇跡が起きた。
愛しのあの人が、私の事を助けに来てくれた。
よっすぃーがこんな危険を冒してまで、私のために…
石川は吉澤の胸に飛び込んだ。
「???」
飛び込まれた方の吉澤は、混乱をさらに増すばかりだった。
ど、どうなってるの?
襲撃した結婚式の花嫁さんが、私に抱き着いて泣きじゃくっている。
でもこの娘、すげえ綺麗だったなぁ。
抱き着かれて悪い気はしない。
それに、どっかで会ったことある様な気がする。
このトイレっぽい匂い、誰だったろう。
私の心は揺れ始めていた。

このトイレ臭い娘に、運命を感じる。
何だろう、この感じ、私どうしちゃったんだ。
とまどう吉澤の腕の中で、石川がそっと顔をあげる。
「また助けてもらっちゃった。」
泣きながら微笑むその顔は、確かに見覚えがあった。
小さい頃一緒に遊んだナキムシの女の子。
「梨華ちゃん・・」
無意識に私の口がその名を出す。
「うれしい、覚えていてくれたんだね。」
どうして?この胸のドキドキは、彼女を思うと止まらなくなる。
「あのね、よっすぃーにずっと言えなかったことがあるんだ。」
梨華がうつむきながら、ぽつりぽつりと話し出す。
「私ね、ずっと、ずーっと、あなたのことが・・」
私は梨華の言葉をかき消すように、彼女を思い切り抱きしめた。
「行こう!」
「え、よっすぃ・・」
「君は絶対に私が守る。だから、二人で行こう!」
私は梨華の手をとって、走り出した。
もう誰にも私達を止めさせはしない、止まらない。
「どちらへお出かけかな、お嬢ちゃん。」
私達の前に、一人の娘が立ちはだかる。
その足元には水曜日、小川麻琴が転がっている。
矢口組ナンバー3ミカは小川にやられた様で、壁際で気絶している。
「この程度の奴にやられるとは、どいつもこいつも使えねえ。」
この街の影の支配者、関東矢口組の組長、矢口真里その人だった。
どうやら、この人を倒さなければ道は開かないみたいだ。
「下がってろ。」
私は梨華が巻き込まれない様、後ろに避難させた。
「うちの花嫁を連れ去ろうなんて、いい度胸じゃねえか、ボウズ。」
「ボウズじゃない!金曜日・・いや、吉澤ひとみだ!」
「私が誰か知ってて、喧嘩売ろうってのかい。」
十分知っている。この街で最恐にして最強の人物。
逆らえる者など誰一人としていない。
本来なら、平凡な一市民である私には目の前に立つ事すらできない相手だ。
それでも私は引き下がる訳にはいかない。
もう決めたんだ、もう約束したんだ。梨華を守るって。
「売る!」
誰が相手だろうと、負ける訳にはいかない。
ガタガタン!
激しく弾き飛ばされた吉澤が、思い切り地面に打ち付けられる。
大概の奴なら、これで終わりのはずだ。矢口は勝利を確信した。だが…
「へへ、まだまだ・・っすよ。」
これで三度目だ。
もう三度も決定的な打撃を与えているにも関わらず、こいつは立ち上がってくる。
今までいたか、いやいなかった、こんな奴。
私の一撃をまともに受けて、立ち上がってこれた奴など・・
それも三回も!
私は昼間に現われた日曜日の言葉を思い出した。
「組長さん、貴方を殺るのは私じゃない。とびきりいい娘を用意してあるの。」
あれはこいつの事だったのか!
「確かに、とびきりだぜ。」
おもしろい。やれるもんならやってみろ。
私の中で忘れていた熱い血が、再び燃え上がってきた。
「うらぁ!」
これが四度目のダウン。お前はそれでも起き上がるんだろう。
いいぜ、とことん付き合ってやる!
もうやめて、よっすぃー!
それが言葉になることはなかった。
傷ついて、血を吐いて、それでも立ち上がる吉澤を見て、
石川は彼女の気持ちを遮ることをできないでいた。
でも、このままじゃ、よっすぃーが死んじゃうよ。
石川は祈った。
「誰かよっすぃーを助けて、神様でも悪魔でもいい、よっすぃーを!」
皮肉にも、本物の悪魔が今まさに教会の前にたどり着いたとも知らずに・・
「そこまでよ、組長さん!」
中澤が、そしてメロン記念日が矢口を取り囲む。
「貴方の部下はもう全員片付けたわ、残るわあなた一人よ。」
「降参しなさい、もうあなたに勝ち目はないわ。」
だが、矢口の表情に変わりはない。むしろこの状況を楽しんでいるかの様だ。
「勝ち目がないのはお前等だ。もう降参しても許してもらえないよ。」
教会の扉が開く。

「ちわ〜っす、ご注文のケーキお届けにまいりました。」
保田、降臨。
「…」
全員の視線が突然現われた場違いな娘に注がれる。
悶絶して倒れる人々、あちこちにまき散っているおびただしい血の匂い。
どうやら保田もようやく状況を察知した様だ。
「ま、間違えました〜。」
閉められる扉。
パン!
帰ろうとした保田が、扉の向こうから飛び出してきた。
まるで人形の様に無造作に転がり落ち、あおむけに倒れこむ。
その額には黒い風穴が開いている。
「DEATH、涙色〜♪」
本当の悪魔、松浦亜弥、降臨。
その右手には黒いショットガンが握られている。
中澤も、メロン記念日の4人も、その圧倒的な威圧感にあせりを覚える。
「おっせえぞ、松浦!」
矢口がどなり声をあげる。
「ごめんね親分さん、道に迷っちゃってて〜」
その口調に、まったく反省の色は見られない。
「あいつがうちらの切り札だ。どう日曜日さん。」
矢口が日曜日に視線を合わせる。
予想外の事に、中澤は顔をしかめる。
「メロン、遠慮はいらん。殺っちまえ!」
その言葉と同時に、メロン記念日の4人は四方に散らばり、松浦を囲む。
あの小娘がどれだけ強いか知らんが、4対1で負けるはずがない。
誰もがそう思いこんでいた。
松浦の恐ろしさを、知らないでいたからだ。
メロン記念日が一斉に松浦に飛び掛かる。
松浦の顔がほころぶ。
「ドッキドキ、DEATHメール♪」
パンパンパンパン!
銃声が四つ。
勝負は一瞬で終った。
メロン記念日の4人は、もう二度と動く事はなかった。
吉澤は圧倒されていた。
メロン記念日は、一人一人が矢口組の下っ端を一蹴できる程の実力者である。
そんな4人を瞬きするほどの間に、惨殺せしめた娘。
こいつはヤバすぎる・・
あまりの恐ろしさのために震えた梨華が、私の背中にしがみつく。
いや震えているのは梨華だけじゃない。私も・・
常に強気で傲慢な態度だった、あの中澤さんまでもが・・
味方であるはずの矢口組長すら、顔色が青ざめている。
「さーて、次は誰かしら?」
松浦が室内を見渡す。
「決ぃめた。一番後ろに隠れてる、あんただ。」
石川はどこまでもついていない。
こんな時に、あの化け物と目を合わせてしまうなんて・・
宝くじなんかは全然当らないのに、こういう時はいつも選ばれる。
「私、あんたみたいなのが、一番ムカツクんだよね〜。」
松浦が、石川と吉澤の方へ歩き出した。
松浦をこのハピサマ教会まで案内してきた娘、市井は愕然としていた。
どうなっているの、何が起こっているの?
到着するといきなり、松浦は持っていたケースからショットガンを取り出し、
カフェテラスの店員らしき人物を射殺。
さらに、中に入りショットガンを連射、4人ほどをためらいもなく殺す。
ここは平和な街だったはず、戦場ではないはず・・
とんでもない奴に関わってしまった。
私はどうすればいい?

ほおっておくことはできない、責任もってあの女を倒す。
市井は自らに意思で、惨劇の場へと踏み込んだ。
「やめろっ!」
私は松浦とか言う殺人鬼に向かって、怒りを露わにした。
松浦の足がピタッと止まる。
奴はゆっくりとこちらに振り返る。
「何か?親切なお姉さん。」
「もうやめろと言っているんだ!」
「え〜でも、こんな楽しい事やめられませんよ〜。」
「じゃあ、やめさせてやる。力ずくでもね。」
私は完全に戦闘態勢に入っていた。
ここは戦場だ。戦場の感覚を思い出すんだ。
「残念だな、貴方は最後の楽しみにとっておきたかったのに・・」
松浦は口をとんがらせ、ショットガンを構える。
パンパン!
私は体ごと右に転がり、そのまま教会の机の影に隠れた。
「さっすが、ちゃんとよけてるね。」
あのショットガンをなんとかしないと、近づくこともできやしない。
だが、あいつにそんなスキがあるか?
石川は傷ついた吉澤を支えながら、この戦いを見入っていた。
中澤はこの隙になんとか脱出しようと模索している。
矢口は複雑な表情を浮かべている。
松浦は市井に夢中になって、ショットガンを連発している。
市井は身を翻しながら、なんとかそれを避けている。
だが、それもいつまでもつか。
私がなんとかしなきゃ、吉澤は傷だらけの体を再び動かした。
「よっすぃー、どうする気?」
「今あいつは、助けに来てくれたあの人に夢中で、こっちを見ていない。」
私達の位置から、松浦は背を向けている。
「だから後ろから飛び掛かって、あいつを押え込む。」
「無理だよ、よっすぃー、そんな体で・・」
吉澤は石川の手を握り、優しく微笑む。
「無理でも何でも、やるしかないんだ。私しかいないんだ。」
今、松浦の死角にいるのは私達二人だけ、やれるのは私だけなんだ。
吉澤が再び体に力を込め、立ち上がろうとする。
だが少し動こうとしただけでも、体中に激痛が走る。
さすが矢口組長の攻撃だ、半端じゃない。
でも痛いなんていってられない、チャンスは今しかないんだ。
ああ、よっすぃーが行こうとしている。
私を助ける為に傷ついた体を引きずって・・
いつも、いつもこうだ。
いつも私は助けられてばかりだ。
相手はあんな怪物なんだよ、失敗したら間違いなく殺されちゃうんだよ。
私にもっと勇気があったら・・
ヒヨコでさえ怖い臆病な私だけど、もっと勇気があったら・・
石川が動く。

よっすぃーの代わりに私がやる!
お願い神様、私にほんの少しでいい、小さな勇気を下さい。
私はよっすぃーを指し抜いて、走り出した。
「梨華ちゃ・・」
吉澤は信じられないといった表情で固まる。
松浦は完全に油断していた。
背後から突っ込んできた石川に、首と腕を掴まれる。
「てめえ!」
松浦はすごい力で石川を振りほどこうとする。
チャンス、市井は松浦に向かって突撃を開始した。
しかし…
非力な石川はあっという間に投げ飛ばされ、気が付けば・・
「残念だったなぁ。」
目の前に銃口を突きつけられていた。
パン
石川の右のふとももから赤い血がほとばしる。
「いやあああああ!!!」
人質をとられ、市井は動く事ができなくなっていた。
「動くなよ、動いたらこいつを殺すからな。」
痛い。
撃たれた右足から、止めど無く血が流れ出す。
せっかく勇気を振り絞ったのに、どうしてこうなっちゃうの。
「やめろぉ!やるなら私をやれ!」
吉澤が吠える。だが・・
パン!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
今度は石川の左のふとももに風穴が開く。
「動くなっつっただろ。」
吉澤は歯ぎしりをする。絶体絶命。
もう誰にもあいつを止める事はできない。
市井にも、もう策はなくなっていた。
両足を打ち抜かれた石川は、痛みで体中が麻痺している。
中澤も作戦の失敗を悟り、顔をしかめている。
吉澤は自分の力のなさに苛立ちさえ覚えていた。
結局、あいつを守る事すらできなかった。
もう松浦を止められない・・
悲観にくれたその時、再び教会の扉を開く者達がいた。
辻、飯田、安倍、加護だ!
タイムリミットは午後8時。
『教会の鐘』
真犯人の暗号を解いた4人が、ようやくこの場所にたどり着いたのだ。
だが、もう時間は残されていない。
何事かと驚く一同を尻目に辻は大声で叫んだ。

「らってみんな自慢するんらも〜ん!」
意味不明。
ゴ〜ンゴ〜ン
タイムリミットの午後8時。
聖なる鐘が鳴り響く夜。
ハピサマ教会は爆破した。

ZAPPING

?→後藤真希

安倍なつみ…?
矢口真里…?
後藤真希…目覚める
石川梨華…?
吉澤ひとみ…?
辻希美…?
高橋愛…?
市井沙耶香…?

長き眠りから後藤真希が目を覚ます。
「んあ〜、よく寝た。」
まだ寝起きで頭がボーっとしている。
ここはどこだっけ?いつもの自分の部屋ではない。
薄暗くて辺りがよく見えない。
隣の部屋で、男の人の話し声が聞こえる。
誰かが誰かを怒っている様子だ。声が荒い。
どうしよう?

隣の部屋にいる男の人達に声をかけてみる。
「あの〜」
「ぬお!後藤!お前無事やったんか。」
聞き覚えのある声だと思ったらやっぱりつんくさんだった。
もう一人のおじさんはえーと・・思い出せない。
「つーか、何でお前だけなんともないねん!」
「え、えーと、何の事ですか?」
「他のメンバーはどうや、見に行ってみよ。」
私はつんくさんに付いて行き、元の部屋に戻った。
知らないおじさんも、申し訳なさそうに後を付いてくる。
「やっぱり眠ったままや。」
電気が点いて、その部屋をあらためて見て、私はびっくりした。
巨大な機械を囲んで、モーニング娘。12人のメンバーが輪になって寝ている。
「な、何ですかこれ?」
「モーニングドリーム。」
すると、それまで黙っていたおじさんが語り始めた。
「これは我が社が最新の技術を結集して作り上げた壮大なプロジェクト、
 眠りながら夢の世界で別の自分を体験できるという画期的なマシーンです。
 モーニング娘さんをイメージキャラクターに抜擢し今春発売予定だったのですが」
夢の世界!?私はまたびっくりした。
「それでモーニング娘さんにも一度体験して頂こうということになったのです。」
「ところがや、重大な欠点が見つかってもうた。」
おじさんの話につんくさんが割り込む。
「プレイヤーの一人でもむこうの世界で死亡してまうとな、
 戻ってこれん様になるんや、夢の世界から現実世界へな。」
「え!」
つまり私を除く12人の娘は、このまま夢の世界に閉じ込められたまま・・
「でも、どうして私だけ助かったんだろ?」
やっぱり私はソロで生きなさいという神のお告げかしら。
「後藤さんはどうやら眠りが深すぎて、夢も入りこむ余地がなかったみたいですね。」
ああ、そう。
「おっさん、こいつらを何とか助ける方法はないんかい!」
つんくさんがおじさんにつかみ掛かる。
「ええ、後藤さんが無事だったことで望みができました。」
なーんか嫌な予感がするんですけど・・
「後藤さんが夢の世界に入り込み、皆を助けるんです。」
「そんなことができるんかい、よっしゃそれでいこう!」
ああ、勝手に話しが進んでいく・・
ほぼ無理矢理、私は再び専用のシートに乗せられる。
「午前8時からスタート出来る様に設定しておきました。
 後藤さん、殺人が起こる前に犯人を捜し出して止めて下さい。」
「頼んだでぇ後藤!」
とてもそんなうまい事できるとは思えない。
「無理ですよぉ私なんかじゃ!」
「大丈夫や後藤、お前ならできる。」
本当に大丈夫って思うんならお前行けよ。
「それでは、再起動します。」
さっきまで落ち込んでいたおじさんが、やけに生き生きとしているのがムカツク。
ちょっと待って、もしかしてこれって、
「失敗したら、私も戻れなくなるんじゃ…」
つんくさんが笑顔で答えてくれた。
「安心しろ、そんときはまたオーディションして新モーニング娘作るから。」
殺す!
てめえを殺すために絶対生きて帰ってやるからな!
薄れゆく意識の中、私は復讐を誓った。
クックデュックデュー
午前8時、ニワトリ目覚ましが街に鳴り響く。
私は民家のとある一室で目を覚ました。
先の事を考えると憂鬱でしょうがない。
私は顔を洗って、外に出た。
とりあえず他のメンバーと合流しないことには話は始まらない。
とはいえ、初めての街、どこに行けば皆と会えるのか見当もつかない。
地理的状況を掴むため、とにかく歩き回ることに決めた。
1時間以上歩き回った所で、ついに一人目の娘を発見!
あの後ろ姿は梨華ちゃんだ。
私は急いで追いかけようとするが、梨華ちゃんは猛ダッシュで逃げた。
「なんなの〜あいつ、ちょっと感じ悪くない。」
ずっと歩き回って疲れていたので、私は追うのをあきらめた。
さらに1時間以上探索を続ける。
歩道をとぼとぼ歩いていると、二人目の娘を発見!
「おー辻、やっと見つけたよー。」
ところが、辻から帰ってきた返事は予想外のものだった。
「あんた、誰れすか?」
「何言ってるの辻〜。私だよ、後藤。」
もう私がわからないって、ほんとしょうがない子ね。
「ほら、つんくさんも待ってるから、帰ろう。」
「知らない人に付いていったら、駄目なのれす!」
辻は一目散に逃げ出した。
「あ、ちょっと待ちなさいよー、辻―!」
これで石川に続き、またしても逃げられてしまった。
もー嫌、疲れたよー!

私はカフェテラスで休む事にした。
「いらっしゃいませ。」
あ、圭ちゃんだ。よく見たら看板にカフェテラス保田の文字がある。
でも私を見ても反応がないってことは・・
「あのぉ、私が誰だかわかる?」
「は?お客さんだと思いますけど…」
やっぱりわかんないのね、もうこれじゃどうしようもないよー。
「ご注文は?」
まあいいや、悩むのはご飯食べてからにしよう。
「ペペロンチーノ。あ、チーズはかけないで。」
「へ、チーズ?」
「あはは、何でもないよー。」
やっぱりわかんないか。ちくしょー。
私ははやい昼食をとりながら、考えをまとめてみることにした。
午前中の探索で、闇雲に動いてもどうしようもないと気付いたからだ。
まずは、誰が犯人かという点。
現時点でこれはちょっとわかりそうにない。
次に、誰が殺されるのかという点。
よっすぃーや、やぐっつぁんは、殺されるようなヘマはしない気がする。
圭ちゃんも、こんな人目に付く所で働く役ならまず安全だろう。
かおりんも、一応リーダーだし、最近しっかりしてきたし、大丈夫かな。
辻と加護は殺しても死ななそうだ。
なっちは・・微妙だよ〜
梨華ちゃんは、文句無しに殺されそうだなぁ。
新メンはよくわかんないからなあ、心配だ。
とりあえず、なっちと梨華ちゃんと新メンの6人を探すか。
はぁ〜
私はあらためて事の大切さを思い知り、深くため息をついた。
誰がどこで何をしているのかさっぱりわからない。
そうだ、圭ちゃんに色々聞いてみよう。
店の店長だから、他の娘と違って逃げたりしないし。
「圭ちゃーん、こっちこっち。」
「はい、お会計ですか。」
「あのー私この街初めてで、色々と聞きたい事があるんですけど」
圭ちゃんはちょっと困った顔したが、いいですよと返事してくれた。
「安倍、石川、小川、新垣、高橋、紺野、この6人を探してるんですけど。」
私は面倒くさいのでストレートに聞いてみた。
「安倍ちゃん、新垣ちゃん、高橋ちゃんってナッチモニの3人じゃないの。」
意外にもあっさり答えてくれた。
こっちの世界でも有名人なのかよ。
にしてもナッチモニって何よ。プッチのパクリ?
「どこにいるか、わかりますか?」
「ナッチモニは今日ドラマの撮影でピース公園に来てるって噂よ。」
ピース公園ね、私は記憶に留めた。
「後はよくわかんね。」
「わかった、圭ちゃん、ありがとね。」
「はぁ、そういや私いつ名前教えたっけ?」
「まあまあ、気にしない気にしない。」
さーて、それじゃあピース公園って所に行ってみようかな。
ふと、外を見ると紺野がいた。

後を付けてみよう。
私はカフェテラス保田を飛び出した。
ところが店を出た所で、一人の娘と目が合った。
「加護発見!あんたまで私の事わかんないじゃないでしょうね。」
「は?」
うー、やっぱりわかんないのか。
「もーう、後藤よ、後藤真希。」
「ああ、後藤さんね。ひさしぶり。」
何よその返事。ていうかこいつ加護じゃないぞ。
「あれその声、あんたよく見たら高橋じゃん。何でそんな格好してるの?」
その途端、加護のコスプレした高橋は逃げていってしまった。
「ちょ、ちょっと何であんたまで逃げるの〜」
ああもういいや、紺野の後を付けるんだった。
えーと、見失ってないよな。
紺野はちょうど大きなビルの中に入っていく所だった。
「ムーンライトビルか。」
私は見失わない様に、急いで後を追った。
紺野の乗ったエレベーターは屋上で止まった。
私もすぐに後を追って屋上へと向かう。
屋上の扉を開く。
そこに映る光景は、すぐには信じられない物であった。
足で踏みつけられて、うつ伏せに倒れている紺野。
その首筋に光る刃物。
今まさに首を切り落とさんと言わんばかりの状況。
まさか、彼女が犯人だっていうの・・

加護亜依。
紺野を足蹴にし、彼女が傲岸不遜と立ち尽くしていた。
いや、違う。こいつは加護じゃない。
ただ一人、教会の爆発を逃れ、生き延びた娘。
現実世界の窪塚の成功を知っている娘。
ただひたすらに、新しい自分を追い求めた娘。
「高橋!」
そこにいるのはモーニング娘の高橋愛本人であった。
信じられない、後藤は衝撃を受ける。
誰より優しく、可愛かったあの高橋が犯人。
「あんた、何やってるかわかってるの?」
高橋は不敵な笑みを浮かべて私を睨み付けた。
「なんでやって、後藤さん、あんたならわかるやろ?」
私の事がわかる。やっぱり彼女は夢の世界の高橋ではなく、現実の・・
「こんなクズは、いらんがのー。」
刃物を持つ手と逆の手で、紺野を指差す。
目の前の刃物に、紺野は肩を震わせて縮まり込む。
「高橋、それマジで言ってんの?」
「マジやよ。」
笑みを浮かべる高橋の、目は笑っていなかった。
「私達は他の雑魚と違って、ソロで十分やっていけるやろ。
 足を引っ張る奴等は殺しちゃってもいい。そう思うやろ、先輩。」
「ふざけるな!あんた、見損なったよ。」
「見損なったのはこっちやよ、先輩。そんな甘っちょろい人だったなんて。」
「うるさい、とにかく紺野を離せ!」
すると、高橋は何かを思い付いた様に後ろに下がる。
「もう鐘は止まらない、どうせ死ぬ運命にある。」
なんだって?
「後藤さん、止めれるもんなら止めてみな。」
シワシワシワ〜
白い煙と共に、高橋の姿は消えた。
「嘘、消えた。」
何なの?瞬間移動?そんなのあり?ずるいよ。止めれる訳ないじゃん。
いや、まてよ。ここは夢の世界なんだ。それなら私にもなにかできるかも。
「ハマミエ!」
なんと股間から、特大のビームが発射された。
特大ビームは彼方へと飛んでいった。
「うそぉー、勘弁してよ。」

次はうざいコネガキでも殺すか。
そう思って、ピース公園のトイレ前に現われた高橋の上に特大ビームが落ちる。
そのおかげで新垣は難を逃れる事ができた。
「おのれ後藤、もう許さん。ケリは教会でつけてやるでの〜。」
高橋は新たな殺意を燃やし、ひとまず矢口邸に向かうことにした。
そして日は暮れ、再び悪夢の結婚式は幕を開ける。
石川、矢口、吉澤、小川、辻、飯田、安倍、加護・・
何も知らずに夢の物語を演じつづける娘達が集結する舞台。
教会の鐘に仕掛けられた爆弾は、刻一刻とその瞬間を待ち続ける。
最後の希望、後藤真希は・・
結局、高橋を見つけることはできず、カフェテラス保田に戻っていた。
すると保田店長が巨大なケーキを持って、厨房から出てくる。
「ハピサマ教会から注文があって、持って行くんだ。」
圭ちゃんがそう教えてくれた。

「私が代わりに持っていってあげるよ。」
「ほんと?じゃあお願いするね。」
圭ちゃんは快く応じてくれた。
「正直、ヤクザの結婚式なんか行きたくなかったんだよねー。」
え、ヤクザ!聞いてないよー!
まあでも結婚式なんだし、いくらなんでも乱闘なんか起こらないだろう。
私はそんな甘い考えを抱きつつ、ハピサマ教会へと向かった。
扉を開く。
「んあ〜、ケーキの到着だよ〜。」
悶絶して倒れる人人人。辺りにまき散るおびただしい血の匂い。
乱闘どころじゃねー!
中央部では、やぐっつぁんをメロン記念日と裕ちゃんが取り囲んでいる。
皆すごい形相でにらみ合っている。
よく見たら、倒れている人の中に小川の姿もある。
誰かにやられたのかな、でも死んではいなそうだからいいや。
さらに奥には、傷だらけのよっすぃーと梨華ちゃんがいる。
ああ、よっすぃー痛そう。大丈夫かなぁ。
ていうか、この状況、私が大丈夫かなぁ・・
その時、後ろから、とてつもない殺気を感じた。
どうやら大丈夫ではなさそうだ。
私は咄嗟に前方へ倒れる様に伏せる。
パン!
頭の上、ギリギリを弾丸が走る。
その弾丸はそのままメロン記念日柴田の背中にヒット!
柴田は断末魔をあげ、絶命する。
「殺しちゃって よいのかな〜♪」
いい訳ねーだろ!
聞き覚えのあるこの声は、やっぱりあいつ。
地獄からの使者、松浦亜弥、再び!
「柴田の敵討ちだ。お前等殺っちまえ!」
裕ちゃんの命令で、メロン記念日の残り3人が松浦に突撃する。
私はあわてて、入り口付近から離れる。
「トロピカ〜ル 殺して〜る♪」
結果は皆さんのご承知の通り。たったの3発で勝負は着いた。
もーなんなのよ、こいつは!
モーニング娘でもないくせに、勝手にしゃしゃり出てくるんじゃないわよ!
殺人犯高橋だけで手一杯だってのにさ。
そういえばここにも高橋の姿はない。ほんと、あいつどこ隠れてんの?
あー考えてたら、もう嫌になってきた。なんで私がこんな苦労しなくちゃいけないのよ!
私がパニックに陥っていると、メロン記念日を全滅させた松浦が動き出した。
「次のターゲットはー、決〜めた。」
嗚呼、可哀相…やっぱり石川だよ。
いやいや、梨華ちゃん死んだら、あたしも夢から戻れなくなるんだ。
そりゃ困る。なんとかして守らないと。
「やめろ!」
そのピンチを救ったのは、意外な人物だった。
「市井ちゃん。」
彼女も、この夢に登場していたとは・・でも嬉しい。
市井ちゃんが勇敢に、松浦に戦いを挑む。相変わらずかっこいい。
でも相手はショットガンを装備している。
素手の市井ちゃんはかなり分がわるそうだ。
そしたら、何を考えているのか、梨華ちゃんが後ろから松浦を押え込み・・
ほら、やっぱり、逆に押え込まれた。
しまいには両足を撃たれて、もうお手上げ状態。
そのせいで市井ちゃんも手出しできなくなってしまった。
あいつがでしゃばると、ほんとろくな事がない。
もう駄目だと誰もが思ったその時・・
教会に、最後の訪問者達が現われた。
ハピサマ教会を向かいのビルの屋上から眺める娘が一人。
殺人犯にして爆弾魔、全てを操った真犯人、高橋愛だ。
爆破予告時刻、午後8時十秒前、計画に狂いはない。
タイマーでFAXを自動送信してヒントを与え、辻達も教会へと呼んだ。
加護と入れ替わり、強引に結婚の話しを推し進めた。
夢の世界の登場人物、中澤を裏で操り、吉澤と小川も教会へと導いた。
そしてうまく話を合わせて、私は教会を抜け出すこともできた。
予定になかった娘が二人、松浦と後藤がいるが、それもさして問題でない。
ぜんいんいっしょに爆死〜爆死〜♪
ぜんいんいっしょにミラクルナイト♪
最後に残った私が晴れて、ソロデビューよ。
確かに、高橋の思惑は成功したはずであった。
だが今回は、あの時と唯一つだけ異なる点がある。
それが予定外分子、後藤真希の存在。
そして、鍵を握ったのは、あの娘のあのセリフであった。
「らってみんな自慢するんらもーん!」
意味不明。
ただ一人を除いて。
唯一現実世界の記憶を持つ後藤だけが、その意味を理解する。
辻の暴言の後は、必ず状況が一変する。
ここが、この状況におけるターニングポイントだ。
賭けに出た私は、最後の切り札を放った。

辻希美に向かって「ハマミエ!」
例のごとく私の股間から、ごっちんビームが発射!
ごっちんビームは一直線に辻に向かって飛ぶ。
ばい〜ん!
辻のお腹に当って、跳ね返されたごっちんビームが天井へ・・
「いたいのれす。」
そこにあるものは教会の鐘だった。
ごっちんビームは屋根を突き破り、鐘ごと上空へ弾け飛ぶ。
そして午後八時。
ドーン!
街の中央に大きな花火が打ち上がる。
メモリー病院の病室にて、その花火を見上げる者が二人。
「お父さん、見て。きれいだよ。」
石黒の言葉に、ベッドで寝込む福田明日香は体を起こす。
「花火か・・あいつも小さい頃、花火好きだったなぁ。」
福田は遠い過去の出来事を思い出していた。
夏の夜、市井紗耶香と花火で遊んだ事、青春の光・・
福田の頬に一筋の涙が落ちた。
Never Forget
高橋の頬には、一筋の汗が流れ落ちていた。
「なんやってそれ、私の作戦が失敗したってゆうんか!」
後藤真希、あいつを甘く見ていた私の負けってこと・・
いいや、まだ終っちゃいない。
こうなったらもうなりふり構ってはいられない。
この私自らの手で、奴等を皆殺しにしてやる。
高橋は再び、旋風巻き荒れるハピサマ教会へと足を踏み出した。
「何をした、貴様!」
松浦がすごい形相で後藤に銃を向け吠える。
「悪いけどさ、あんたの相手は私じゃないんだよね。」
「なんだと、てめ・・」
その言葉を遮るように、よっすぃーの怒りの拳が松浦の顔面をとらえる。
松浦はそのまま教会の道を転がり、市井ちゃんの足元へ。
「終わりだよ。」
市井ちゃんの手刀が松浦の首裏に叩き込まれる。
松浦はそのまま気絶した。
「梨華ちゃん、大丈夫?」
吉澤は両足を打たれ瀕死の石川に駆け寄る。
「よっすぃー、私だめかも・・死んじゃうかも・・」
「ばか!死ぬなんて言うな。」
吉澤は自分の服を破り、梨華の傷口に包帯代わりに巻いた。
せっかく助かったっていうのに、こんなのってないよ。
どうして梨華がこんなに苦しまなくちゃならないんだ。
吉澤は痛みに悶える石川を抱き上げた。
「すぐに病院に連れていくからな。梨華!」
「ごめんね、よっすぃー」
神様、最後によっすぃーに出会わせてくれて、ありがとう・・
生まれ変わっても、また一緒にいたいな。
石川は、吉澤の腕の中で眠りに落ちた。
教会の前方の広場、月明かりの下、二人の娘が立ち尽くす。
後藤真希と高橋愛。
共にこの世界の住人ではない。現実世界の記憶を持つ者。
「最後に残るのはあなたか私か、ケリつけようや。」
高橋が先に踏み出す。
「私はね、あんたも一緒に全員助けるつもりだよ。」
「笑わせるのー」
「もちろん、おしおきはするつもりだけどね。」
もうすっかりおなじみとなった、あのポーズを決める。
全てを解決するあの言葉・・

全てを解決する言葉、ハマミエ!
つんくタウン全体が光りに包まれる。
長い夢が終焉をむかえる。
こうして、娘達の物語は幕を閉じた。

安倍なつみ…目覚める
矢口真里…目覚める
後藤真希…目覚める
石川梨華…目覚める
吉澤ひとみ…目覚める
辻希美…目覚める
高橋愛…目覚める
市井沙耶香…夢の世界でその物語は続く

【エンディング 辻】
長い眠りから、私は目を覚ました。
目の前でつんくさんと知らないおっちゃんが喜び跳ねている。
グゥ〜
長時間寝ていたのでお腹がからっぽだ。
私は立ち上がり、うーんと背伸びをして、隣であくびしている飯田さんに甘えた。
「メシおごっれくらはい。」
飯田さんは、まあいいかとOKサインを出してくれた。
どうやら彼女もお腹がすいているみたいだ。
「なんかさ、ずっと辻の面倒みてる夢見てた気がするんだけど。」
「そうなんれすか。ののも何か夢を見ていた様な…」
「へえ、どんな夢?」
グゥ〜
また、お腹が鳴った。
「はらへって、おぼえてないのれす。」
飯田さんが軽くこけた。
さーて、今日は何食べよっかなぁ〜。

【エンディング 安倍】
長い眠りから、私は目を覚ました。
目の前でつんくさんと知らないおじちゃんが喜び跳ねている。
よく思い出せないけど、ちょっと怖い夢を見ていた様だ。
体中が汗でびっしょりになっている。
全力で走ったりサウナに長時間いた感じだ。
でもそのおかげで、ちょっと痩せた気がする。
寝ながらダイエットできたなんて、なんかラッキーだべさ。
今日のお仕事は、なぜかつんくさんの計らいで全部なくなった。
またラッキー。
いい気分で私は外に出た。
朝もやの街に真ん丸の太陽が昇る。
今日もいい天気になりそうだ。
グチョ!
上ばかり見ていたら、犬のうんちを踏んでしまった。
「なっち、微妙だよ〜」

P.S「なっち、主役の一人の割には後半出番少ないのが微妙だよ〜。」

【エンディング 矢口】
長い眠りから、私は目を覚ました。
目の前でつんくさんと知らないおっさんが喜び跳ねている。
朝っぱらからうるさいなぁ、もう。
周りを見渡すと娘、全員が集まっている。
ていうか、私達なんでこんな所で寝てたんだっけか?
頭がごちゃごちゃしていて、良く思い出せない。
それにしても、なぜか体のあちこちが痛い。
大暴れした後みたいな感じだ。
「おやびんの夢、みたで〜」
隣の加護は寝起きでも元気におしゃべりしてくる。
「おやびんって呼ぶな!」
私はなぜか、そう呼ばれるのが気に食わなかった。
起き上がって、下への階段を降りる途中、松浦亜弥のポスターが貼ってあった。
私はさらに寒気がした。

【エンディング 市井】
本当に長い一日だった。
生まれ育ったこの街に数年ぶりに戻り、姉貴に会い、親父を殴り、
そしてあんな事件に巻き込まれることになっってしまった。
まあ、こうして無事に新しい朝を迎える事ができたのだ。よしとするか。
私は止まったホテルをチェックアウトし、外に出た。
さーて、これからどうしようかな。
あてもなく旅に出るのもいいだろう。
おそらく、この街に戻る事は二度とない、私はそう確信していた。
ホテルの玄関前でタクシーを止める。
乗り込もうとしたその時、見覚えのある娘の姿が…
昨日警察につかまったはずのあいつが、私に突進してきた。
その手には鋭いナイフが握られている。
瞬間、私の意識が遠のいてゆく。
小さい頃、親父と花火をした思い出・・
記憶が走馬灯の様に流れる。
「トロピカ〜ル♪」
それが私の最後に耳にした言葉だった。

【エンディング 高橋】
私はとんでもない罪を犯した。
後藤さんが他の娘に全てを話したら、私はきっともう娘ではいられない。
いや、皆にあわせる顔なんてもうない。
紺野ちゃんを殺して、新垣ちゃんを殺して、爆弾で先輩達までも殺そうと…
クズは私の方だ。
足を引っ張っているのは私の方じゃないか。
「鬱だ死のう」
私はもう生きてはいれない。

【エンディング 石川】
長い眠りから、私は目を覚ました。
目の前でつんくさんと知らないおじさんが喜び跳ねている。
私はゆっくりと手を伸ばした。
その手を、あったかい手が握り返してくれる。
「よっすぃー」
私、生きてるよ。
私、覚えてるよ。
私、しないよ。
夢に見た愛しいあの人が隣で笑ってくれている。
これはもう夢じゃないんだ。
現実なんだよね。
石川は極上の幸せを噛み締めてた。
今日はお仕事休みだって、よっすぃー。一日ずっと一緒にデートしようね。
「そやそや、モーニングは休みやけど、カントリーは今日仕事あるんや。」
「えー!」
嗚呼、可哀相な梨華ちゃん、幸せは当分おあずけみたいだね。

【エンディング 吉澤】
長い眠りから、私は目を覚ました。
目の前でつんくさんと知らない人が喜び跳ねている。
隣のシートから、梨華の手が伸びてきた。
私はその手を強く、握り返した。
生きているんだ私達。
夢のこと、曖昧だがかすかに記憶がある。
梨華ちゃんを助けるために、闘ったこと。
ちょっと怖かったけど、でもすっげーおもしろかった。
特に最後の、ごっちんビーム、かっけかったなぁ。
そんなことを思い出し、私は微笑んでいた。
その話をしようと、ごっつぁんを探したが、その姿はどこにもなかった。

【エンディング 後藤】
ビルの屋上から飛び降りようとする娘が一人。
「やめろ!」
「来ないで、私なんか・・死んだ方がいいんや。」
夢の世界から目覚めた私は、まず一番に高橋愛の姿を探した。
彼女が逃げ出すようにその場を離れるのが見えた。
嫌な予感がした私は、すぐに起き上がり彼女を追った。
嫌な予感は的中した。
高橋は屋上のへりを越えた所に立っていた。
彼女は死ぬ気だ。
ここから飛び降りる気だ。
「やめろ!」
「来ないで、私なんか・・死んだ方がいいんや。」
高橋が泣いて叫ぶ。
「どうして?死んだ方がいいの?」
私は彼女に問う。
「だって、私、人殺しだよ・・そんな人がモーニング娘なんて・・」
「殺してねーじゃん。」
私は笑顔で答えた。
「誰も死んじゃいないよ。人殺しじゃないじゃん。」
高橋は驚いき、目を丸くする。
「で、でも・・それは後藤さんが止めてくれたからで・・」
「その私がいいって言ってんの、許すってさ。」
「で、でも・・」
高橋はどうしていいのかわからない様子だ。
「ほら!早くこっち来ないと許すの辞めるよ!」
「えっ!」
「十秒以内、1、2、3、4・・」
「ま、待って下さい!」
大慌てで高橋は屋上の柵を登る。
急ぎ過ぎて、降りる時バランスを崩し、つまずき転んだ。
その姿が妙におかしくて、私は声をあげて笑った。
「わ、笑わないでくださいよー!」
「アハハハ…だってさ、アハハハ!」
恥ずかしそうにふくれながら、高橋が私の前に立つ。
「本当に、許してくれるんですか?」
「ブー、もう十秒過ぎてるよ。許すのやーめた。」
「そ、そんなー。」
私は困り顔の高橋のおでこを突ついて、忠告した。
「いいか、許して欲しかったら、モーニング娘。がんばれよ!
 みんなと協力して、仕事もがんばって、一緒に日本一目指そうぜ。
 そしたら、その時は今度こそ本当に許してあげるよ。」
愛は顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
「はい…」
何度もうなづく愛を見て、私も微笑んだ。
「よろしい。」
「後藤さん・・一生ついてゆきます。」
そう言うと愛は勢い良く私の胸に飛び込んできた。
やれやれ・・
「愛のバカヤロウ」
秋空は優しく私達を包み込んでいた。