059
名無し娘。suzuka 投稿日: 2001/04/26(木) 18:55
加護「ねーねー、お兄ちゃん遊ぼう―!」
兄「えーっ、辻ちゃんとは遊ばないのかい?」
加護「ののとは明日、今日はお兄ちゃんと遊ぶの!」
兄「ハイハイ、何しよっか?」私の近所には7歳年上のお兄ちゃんがいる。
小さいころからずーっと遊んでもらっている、中学生になった今でも。兄「でもさぁ僕なんかでいいの?同じクラスの子とかのほうがいいんじゃ…」
加護「いいの!うちはずーっと兄ちゃんと遊んでもらうの!」
兄「ずーっと?いつまで?」
加護「うーんと………………ずーっと、ずーっと!」
兄「ハハハ…いいよ、お兄ちゃんとずーっと遊ぼうな。」
加護「ホントに?約束やで、指切りしよっ!」
兄「ハイハイ、指きりげんまん……………」私がちっちゃいころこんな約束をお兄ちゃんとした、
中学生になった今でも遊んでもらっているせいか
私は今でもお兄ちゃんはこれからもずーっと遊んでくれると思っていた…そんなある日…
母「なあ亜依、隣のお兄ちゃん4月になったら家を出て行くって知ってるか?」
加護「え…知らない……」
母「なんか大学を辞めたって言うし…」
加護「ウ…ウソや!お兄ちゃんがいなくなるなんて!」私は家を飛び出して隣のお兄ちゃんの家へ飛んでいった、
お母さんの言っている事なんてウソだと言う事を確かめに…兄「どうしたの、急に?」
加護「4月になったらここからいなくなるなんてウソだよね!?」
兄「………」
加護「ねえ、ウソだって言ってよ!」
兄「……ごめん、ウソじゃないんだ………」
加護「何でや!ずーっと遊んでくれるって言ったやん!」
兄「………」
加護「お兄ちゃんのバカーっ!」私はあまりにもの辛さに泣きながらその場を後にした、
お兄ちゃんに裏切られたという気持ちでいっぱいだった。次の日、お兄ちゃんが私の家にやって来た。
兄「亜依ちゃん、ちょっと話を聞いてくれるかな……」
加護「……」私はスネていてお兄ちゃんの方を向かなかった、
兄「僕ね4月16日にここを離れるんだ…もし見送ってくれるんなら…」
加護「そんなの行くわけないじゃん!うちはお兄ちゃんのことなんて
嫌いや!」
兄「ごめん………でも…………」
加護「言い訳なんて聞きたない!出てけ!」私は抱きかかえていたクッションをお兄ちゃんに投げつけた、
兄「………分かった、じゃあ…」
そう言い残してお兄ちゃんは出て行った、
それから私はお兄ちゃんとは全く遊ばなくなった…そして4月15日、お兄ちゃんがここを去る前日の夜のことだった、
私はその間頭を冷やし、見送りくらい最後に行こうと思っていた。加護「ねぇ、お兄ちゃんって明日何時にここを出て行くの?」
母「え?何言っているの?お兄ちゃんは今日の夜行に乗って行くよ。」
加護「え………?明日じゃあ……」
母「違うよ、確か11時くらいのやつに乗っていくって聞いたけど。」私はその言葉を聞いて一目散に玄関に向かった。
母「ちょっとどこ行くのよ?」
加護「お兄ちゃんのとこ。」
母「もう10時30分よ、夜遅いから止めなさい。」
加護「嫌や、うちは行く!」私は母親の制止を振り切ってパジャマ姿のまま外へ出た、
お兄ちゃんの家へ行ったが一歩遅く、すぐに後を追いかけた。加護「待って……まだ行かんといて………」
私は何度も何度もこう呟いてお兄ちゃんのあとを追った。
必死に走ったおかげか、公園前の道路でお兄ちゃんの後ろ姿を発見した。
加護「お兄ちゃん待ってぇ!」
兄「(え?亜依ちゃんの声……まさか……)」夜遅くにもかかわらず私は腹から力一杯の声を出した、
そのおかげかお兄ちゃんがこっちを向いた、
それを確認するとお兄ちゃんの元に駆け込んだ。兄「???どうしたのパジャマ姿のままで?」
加護「はぁ…はぁ………それより……どうしてウソなんかついたの?」
兄「え……」
加護「お兄ちゃん、今までうちに一回もウソなんか付いた事無かったやん…」私は息を整え、お兄ちゃんの回答を待った。
兄「……別れるのが辛かったんだ………」
加護「え……」
兄「ごめん、亜依ちゃんの気持ちなんて考えていなかったね…」
加護「ううん、うちこそあんなこと……」予期しないお兄ちゃんの回答に私は少し戸惑った、
でも今の私には正直そんな事ドーでも良かった。加護「うち、お兄ちゃんから教えてもらった事とか忘れへんよ。」
兄「そう、例えば何?」
加護「床屋の3色のストライプは何やとか…ファーストフードの
看板は赤が多いのは何やとか……」
兄「アッハッハッハッ…別にそんな事……」
加護「うちにとっては大事なことや!失礼や…」
兄「ごめん、ごめん。」こんな他愛も無い会話をしていたらあっという間に時間が過ぎていた。
兄「もう時間だ……じゃあ…」
加護「うん…」お兄ちゃんは駅へ向かおうとした。
しかし、私はお兄ちゃんの手を握ったまま離さなかった。
いや、離す事が出来なかった…兄「亜依ちゃん…」
加護「………」お兄ちゃんを困らしているのは分かっているのだが、
どうしても手を離すことが出来なかった。と、
兄「…じゃあ……目を閉じてくれない?」
加護「え…?」その言葉に思わず握っていた手が離れた。
加護「うん……じゃあ…閉じるよ……」
私は素直に目を閉じた、お兄ちゃんは”アレ”をしてくれるんだと…
加護「(お兄ちゃん………)」
私は待った、お兄ちゃんは躊躇してるんだと思って……
加護「(お兄ちゃん…?)」
いつまでたっても何もしてくれないお兄ちゃんに私は業を煮やして、
私は目を開けてしまった。加護「アレ……お兄ちゃん…?」
私の視界にはお兄ちゃんの姿は無かった……
加護「お兄ちゃん…どこ……お兄ちゃん………」
私は公園などの周りを探し回った………………いなかった……
私はようやく理解した。
目を閉じている時にお兄ちゃんは去ってしまったと……加護「………ウッ………グスッ…グスッ……」
その場で泣いてしまった、あまりの悲しさに動けなかった。
加護「おにい…ちゃんの………バ……カ………ァ………」
声にならない言葉を発し、私はその場で泣きくずれてしまった……
―そして数年後、
加護「ただいま〜」
私は外へ出かけ家に帰ってきた、
加護「(ん、なんやこの靴…)」
玄関には見慣れない靴が置いてあった。
加護「(誰か来てんやろ)帰ったで〜」
とその来客は……
兄「やあ亜依ちゃん、久しぶり。」
加護「えっ!お、お、お、お兄ちゃん!?」なんと来客はお兄ちゃんだった、玄関の靴は確か男物だった。
加護「いつ帰ってきたん〜?」
兄「今日だよ。」私は久々のお兄ちゃんとの会話に胸を弾ませていた、
その時…
女「すいませんありがとうございました。」
母「いえいえ。」奥の方から赤ん坊を抱いた女の人が出てきた。
兄「あ、亜依ちゃん紹介するよ、この人僕の妻の裕子と娘の亜弥。」
加護「……え……………」
裕子「よろしくー、ほら亜弥も挨拶しぃ」
亜弥「ンバー」この赤ん坊はまだ言葉を話せないのか、なん語で話しかけてきた。
私も愛想笑いで挨拶を返した。加護「(結婚したんや……)」
私はショックを隠しきれなかった、
数年たったというのに私の心の中にはまだお兄ちゃんがいたようだった…
お兄ちゃんたちが帰った後、私は久々にあの公園前の道路まで行った。加護「(もう何年たったんやろ……)」
昔と全くといっていいほど何も変わっていなかった、
私はあれ以来、一度もここを訪れていない。加護「(あの時……いっぱい泣いたな………)」
私は泣き崩れた場所に立ってみた、
延々泣いてた私を母親が探しに来ておんぶされて帰ったと言う経緯があった。
走ったのと泣き疲れたのがあってか母親の背中で寝てしまった事を覚えている。加護「(お兄ちゃん……)」
私はあの時のように目を閉じた……
なぜか分からないけど。加護「(あの時目を閉じていなかったどうなっていたんやろ?)」
今考えてみるとそう思うのだが仮にその時そう思っていても、
お兄ちゃんに言われた以上、やっぱり目を閉じていたのかもしれない。もうここにお兄ちゃんはいない、でもまぶたにお兄ちゃんの姿が浮かぶ、
なぜだろう?今までこんな事は無かったのに……?私はしばらくしてその場を後にした、
何か何とも言えない晴れがましい気持ちになっていた、
私の中でこの悲しい場所が変わろうとしていた………もう一度ここを訪れよう、
そして再びあそこで目を閉じたら何か生まれ変われそうな気がする……加護「じゃあね、お兄ちゃん……」
数年前に言えなかったこの言葉が言えそうな気が……………
〜おしまい〜