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MOROPA 投稿日: 02/01/14 16:44

はじめて煙草を吸ったのは6年前、小学校5年生の時だった。
塾から帰って、テーブルに置いてあった煙草を何気に吸ってみた。
当然むせるだろうと思いきや、真希のからだはすんなりとそれを受け付けた。
だから、真希が高校に入学して初めてやった事は安全な喫煙場所探しだった。

結果ベストな場所は、剣道場の裏側に有る女子トイレだった。そこは敷地の
隅に有り、ほとんど人が通らず、利用者なんて見た事が無かった。
こうして私の快適喫煙ライフが始まって、ちょうど1年。2年生になった
有る日の出来事。

【ラクガキスルベカラズ】

といゆう落書きが個室のタイルに書かれていた。落書きするなと主張してるの
にそれ自体が落書きなのだ。次の日。

【誰が落書きしてるのか知らないけど、やってるのは
あなたじゃない? H.Y】

私の考えと同じだ、このH.Yというのはイニシャルであろう。知り合えば
仲良くなれそうな気がする。同じ日の夕方もう一度トイレに良くとさらに2
つ。

【くだらないけど、こうゆう落書き結構好き。特に全部カタカナな所が、
キャハハ〜。 金髪ギャル】
【学校の建物に落書きするのはよくないと思います。( ^▽^)】

きれいなタイルに4つの落書きは目立っていた。偶然私のポケットにも
水生ペンが有ったので私も書いた。

【あなた達いったい何者なの? M.G】

次の日、缶コーヒーとタバコを持ってトイレに入ると、ラクガキスルベカラズ
の文字が消されていて、新たな文字が書かれていた。

【ワタシハナニモノデモナイ ダレデモアリダレデモナク ドコニデモイル】

私に対しての応えであろう。金髪ギャルやH.Yのも新しくなっていた。

【ご想像におまかせ、なんか面白くなりそうだわ〜☆ 金髪ギャル】
【かっけー!ワタシハナニモデモナイだってさ! H.Y】

これで少なくとも5人がここを使用してるのが分かった。私がトイレに入る
際にそれらしき人を見た事は無い。それ以来、1日か半日で落書き内容が更新
され、煙草を吸っている間退屈しなくなった。

【古文のテスト帰ってきた〜最悪。昔の言葉なんて知らなくても生きて行け
るよ、ことわざなんてもってのほか! 金髪ギャル】
【馬鹿だね〜M.G】
【国語は得意ですよ〜キャスターになるのが夢なんです。( ^▽^)】

これらの内容は学校での出来事や愚痴が大半だった。お互い顔も声も知らない
人と好きな事が言える、この状況がすごくよかった。

【数学、福田の問題はいんしつだね。G.M】

福田は私の受け持ちの先生で、真面目だが、髪がぼさぼさしてて女子生徒
からの人気は薄い。トイレは完全に掲示板と化していた。

【コンビニで3組の飯田さんを見た、ジュース買ってたよ。やっぱり学校に自
販機が1つしかないのは不便ね。もっと増えれば良いのに。 金髪ギャル】
【ジュースなんて買わなくても水があるでしょう!倹約倹約。 H.Y】
【自販機が増えると空き缶の処理が大変になりますね。( ^▽^)】
【H.Y&( ^▽^)、アナタタチイイコトイウ コノガッコウニハ
アキカンガオオスギル】

カタカナの文章は少なかったが、圧倒的に存在感があった。次の日
『後藤ちゃん後藤ちゃん、事件やで〜!自動販売機が何者かに壊されたん
やて』
1年時からの友達の加護が息を切らせながらこっちにやってくる。友達以上に
あちらが私をなぜか慕ってくるという感じ。
『壊されたの?壊れたのじゃなく?』
『そうや、ウチうそなんかついてへん。電源のケーブルがスッパリ切られて
たらしいんやて』
この事はなにか私の頭に引っかかった。

授業が終わって例のトイレにむかった。煙草を取り出し、火をつけた。

【今日学校で自動販売機が壊されました。壊したのはもしかしてアキカンガオオスギル
と書いた人ですか?もしそうなら自首してください ( ^▽^)】

私も書いた。

【( ^▽^)に同意。M.G】

その時だった、誰かがトイレに入ってくる気配がした。私は急いで煙草を便器に捨てた。
コンコンとノックの音、私もノックする事で応えた。心臓は激しく鼓動していたが、
相手もかなり動揺していたのか、走って去っていく気配が読み取れた。
私も少し時間を置き、その場を立ち去った。ここを利用している他の者に顔を見られたく
無いという想いが強かった。教室に戻り、荷物を持って帰ろうとしたその時、
『後藤さん、あなた少し煙草くさいわよ』
福田だ、真面目過ぎていちいち細かい。20前半のくせに40ぐらいの雰囲気だ。
『私、弟が居るんですけど中学生のくせに家で煙草吸ってるんです。だから制服に染みつい
ちゃうんです。私の家、父親居ないし母は夜居酒屋なんで、注意する人がいないんです。
私が言っても…』
何とかごまかしその場を逃れた。歩きながらなんか無性に煙草が吸いたくなった。
あれ?ライターが無い、トイレで落としたのだろう。とりあずコンビニに…ん?
あれは飯田佳織だ。金髪ギャルの書いてたコンビニはここか。
飯田の事をマジマジと見たのははじめてだった。加護が『モデルみたいなスタイルやわ〜』
と話してたのも納得する。(私も胸は自信が有るんだけどね)
飯田は何を買うわけでもなく、店内を歩いている。と、飯田は手に取ったライターをポケットの
中に入れ店を立ち去った。私はすぐに追いかけ話し掛けた。
『ちょっとあなた!』
飯田は驚いているというより何か違うものを受信している感じに私には見えた。
『見てたの?ワタシニチカズカナイデ!』
そう言い放ち走って去っていった。

次の日の朝、トイレに行くとさらに書き込みがしてあった。

【ちょっと!誰がやったのか知らないけど自販機なんて壊して楽しいの? 金髪ギャル】
【悪い事はやめましょう。でも( ^▽^)さんって正義感強いですね H.Y】

この2つはもちろん事件についての書きこみだろう。しかし気になるのはその後に書かれた
書き込みだ。

【サギョウカンリョウ アキカンガナクナルヨイコト
キノウワタシハココデライターヲミツケタ】

作業完了って…一体何を考えてるのか?あ!もう授業の時間だ、昼休みにでも来よう。
昼食後、背の高い女がやってきた、飯田佳織だ。
『話があるんだけどいいかな?』
トイレに行きたかったが仕方が無い、二人で屋上に向かった。
『煙草を吸ったのは一度だけなの、私コーラス部だし喉を傷めちゃいけないって分かってる。
両親が別れて、北海道から一人ここの親戚の家にやってきて、ちょっと参ってたの』
何か別に聞きたくない事まで飯田は話してくる。話は続く。
『だから煙草を吸ったこの屋上に来るのも嫌なの、だからね…』
『あ〜別に誰にも言わないわよ。私、無干渉主義だし。逆にあの時あなたに声を掛けた事
少し後悔してる。それじゃ!』
あ〜金髪ギャルが余計な書き込みしてなければ、こんな事に巻き込まれなかったのに…
って変な逆恨み。

放課後になってトイレにやっと行けた。

【作業完了…ってさ!カタカナ野郎!許さないんだから〜もう!! 金髪ギャル】
【もしかしてここで煙草吸ってる人がいるんですか?将来健康な赤ちゃんが産めなく
なるかもしれません、是非やめて下さい。 ( ^▽^)
追伸 私は小さい頃にかなり太っていていじめられていました。そんな私を守ってくれた
正義感の強い女の先生がいました。その先生に憧れ強い人になりたいと思っています。関西弁
を聞くといつもその先生を思い出してしまいます。】

カタカナから新たな書き込みがあった。

【タバコスウヨクナイコト ハイジョスル】
【もう勝手にしなさい M.G】

今となってはこのトイレの書きこみに参加したのを少し後悔してる…。トイレから出て廊下を
少し歩くと。
『後藤さん、ちょっといいかしら?』
また福田だ、トイレから出てくるのを張られていたのだろうか?
『あなたの生活環境について親御さんとお話がしたいです。弟さんも煙草を吸っているという
話ですし…』
『分かりました、母に伝えておきます』
あ〜次から次へと…大変だ。

次の日の朝、加護がやって来て小さな声で話し始めた。
『加護ちゃんです♪ってゆうてる場合ちゃうわ。後藤ちゃん、3組の飯田さん知ってる?
職員室で聞こえたんやけどな、昨日の夕方誰かに後ろから棒かなんかで殴られたらしいんやわ。
怪我はたいした事無いらしいないんやけど、一応入院したらしいで。多分もうすぐ先生来るから
何かしらの報告が有ると思うんやけど…』
『へぇ〜飯田さん?私あまり知らないからさぁ〜』
動揺を隠すのに必死だった。一体何がどうなってるのか?トイレに行けばその答えがわかるはずだ。

【イイダカオリハ ガッコウノオクジョウデタバコヲスッテイタ
ワタシガショバツシタ ガッコウノチツジョヲマモルタメ】

何てことだ!飯田は偶然にもカタカナに煙草を吸っているのを見られてしまったのだ!
だからってなぜ?決定的な要因など無いだろう、自販機を壊すような奴だから。
今までのトイレの書きこみ、落としたライター、飯田の喫煙、色んな要素が絡んでカタカナ
にこのような行動に走らせてしまったのだ。
私に直接の原因が有る訳ではないが、何か罪悪感がよぎった。カタカナを食い止めれたのではないかと。

【飯田さんの事はあまり知らない、優等生のイメージがあったね。煙草吸うなんて人は見かけに
よらないね。そうそう、学校が終わった夜8時頃カップルが忍び込んで、化学室でHな事してる
って噂だけどホントかな? M.G】

これは完全なうその書き込みだ、カタカナをおびき寄せればなんでもいい。私が直接この手で
捕まえてやる。

6時過ぎに化学室に忍び込んで、1時間ほど経っただろうか。もう学校の電気はほとんど消されて
真っ暗な状態だ。
『待つってのも大変だね〜』
一人ぼやきながら、携帯のサイトを適当に見てまわる。さらに1時間ほど経っただろうか。
『あ〜携帯の電池が切れそう。やっぱりあんな書き込みじゃ来ないか〜』
真っ暗な化学室を歩き回りながら窓の方に向かい、街の夜景を見た。1〜2分程見とれていたその時。

ガツッ

何者かに肩を捕まれた。
『後藤さん?こんな時間に何をしてるのですか?』
『うわぁぁ〜福田先生!!』
普段はクールの私でもさすがに感情を表に出さずにはいられなかった。(相手にはあまり伝わって
ないだろうけど)
『え、あの〜無くし物探していたんです(懐中電灯も持たず苦しい言い訳…)』
『探し物なら朝でも出来ます。あなたも知っている通り同じ学年の生徒が何者かに襲われたのですよ。
部活が終わればすぐ帰る様に朝伝えたはずです。ヘタをするとこんな時間に学校にいるあなたが
疑われるのですよ。
この事は教頭先生に伝えます、明日何かしらの注意があると思います。とりあえず私と職員室
へ来なさい』

まずい相手に見つかってしまった、教頭に報告だなんて!ここで見逃してくれればいいのに。
でも、カタカナは現れなかったみたい。トイレの書き込みを見ただろうか?今すぐ消してくるのが
賢明だ。
『先生、ちょっとトイレに行ってきます。逃げたりしませんから』
例のトイレは遠いので行くのに時間がチョイかかる。階段を降りて…

きゃあぁぁーー!!

あれは福田の声!?

確かに福田の声だ!!声は職員室の方だ、急いで階段を上がる。
『うぅ…』
『福田先生!大丈夫ですか!?』
職員室前の廊下に倒れ、気絶している感じだ。やったのはカタカナか?

パチッ

職員室に幾つか付いていた蛍光灯が消され真っ暗となった。ん!?人の気配。
その気配は凄い勢いで私に近づいて、棒のような物を振りかざしてきた。
(意外と良い)運動神経のよさので素早く避けるも、足首をひねって転んでしまった。

『ガッコウノチツジョ マモル』

カタカナは倒れた私に乗りかかり、両手で首を絞めてきた。
『うぅ、くるし…』
暗い苦しい状況の中、カタカナの顔が拝めた。
何と酷く老けた老婆の顔がそこにはあった。しかも着ている服装は学校の清掃員の服ではないか!!
胸の名札にはカタカナで「ナカザワ」と記してある。
カタカナは腕の力をさらに強めてきた。

シュッ

ポケットに有ったライターに火を付け、背中をあぶってやった!
『ギャアー』
さすがのカタカナも体を仰け反らせて、私から離れた。さあ、いよいよ反撃。
と、思いきやカタカナは凄い勢いでこの場を逃げ出してしまった。
『待て!あ!!福田先生は!?』
福田の元に行って大事を確かめる。携帯の電池は無いので、職員室の電話で救急車を呼んだ。

とりあえず福田に別に異常は無かった。それよりもこんな事件になってしまったので、
警察をはじめ先生達からも色々尋問された。
単に忘れ物を取りに行ったら変質者に襲われた事にした。トイレの書き込みやカタカナの事は黙っていた。
なぜそうしたのかは自分でも分からない。
数日が経って、清掃員の一人に遠回しに話をした。ナカザワという人はいないし、最近やめた人も
いないと言われた。
じゃあ、あのカタカナは一体なんだったのか?学校関係者になりすまし、捻じ曲がった正義感を旗印に
狂った行動の数々…。確かに老婆だったし、なにか色々あってああなったのか?高2の私に考えられるのは
そこまでだった。ただもう学校には現れないだろうと思った。

あれ以来例のトイレには行ってないし、煙草もほとんど吸ってない。
月日も10ヶ月過ぎた。久しぶりにトイレに行くと。

【卒業しま〜す☆みんな元気でね〜♪ 金髪ギャル】
【大学が決まりました。キャスターも良いけど小学校の先生になろうと思います ( ^▽^)】
【じゃあ、ここの書き込みも終了だね。あ〜来年受験か H.Y】

金髪ギャルと( ^▽^)の書き込みはなかなか消せないよう油性マジックで書かれていた。
次の日に行ってみると、書き込みは消されていた。何度何度も異常な執念で消された痕が有り、1つ
だけ落書きがあった。

【ラクガキスルベカラズ】

私は久々に煙草に火をつけた。