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関西人Z 投稿日:2002/02/21(木) 21:03

短編第3弾 「通学電車での出会い」

電車通学で、朝のラッシュ時の登校ほど辛いモノはない。
しかし僕は、ある女の子と出会ったお陰で辛い登校も楽しくなった。
その娘は僕が乗る駅の次で乗ってくる。

プシュー、ガララ(電車が駅に着きドアが開いた音

「・・・おはようございます」
「あ、おはよう、紺野さん」

この娘の名前は紺野あさみ。
僕が通ってる高校の近くの中学に通っている。

知り合うキッカケとなったのは、半年前。
いつも通り満員電車に乗っていると、誰かが袖を掴んできて、
一体誰だと思い見てみると、顔色を悪くした紺野さんだった。
「どうしたの?」と訊くと「・・・気分が、悪いんです」と答えた。
汗もかいていたので、額に手をやるとすごい熱があり、
次の駅で急いで連れて降りた。
家まで送りたかったが、僕も学校があったので、
駅員に後のことを頼んで、次に来た電車に乗って学校へ行った。

1週間後、僕たちは再会し「あの・・・、あの時はありがとうございました」と
頭を下げられた。

それ以来、お互い毎日同じ時間に電車内で会うくらい仲良くなった。

「どう?最近体調悪くしてない?」
「・・・はい、大丈夫です」

こう言うのもなんだけど、紺野さんはテンポが少しズレている。
そこがかわいいんだけど。

しばらく喋っていると、
「!!」
紺野さんの顔つきが変わり、僕の服をギュッと握ってきた。

どうしたの?と声をかけようとすると、『助けて』と目で合図を送ってきた。
(もしかして・・・)

僕は紺野さんの後ろに慎重に目線をやった。

サラリーマン風の少し禿げた男が片手に新聞を持って読んでいる。
しかし空いたもう片方の腕は、
「・・・・・・」
少しわかりにくいが、紺野さんのお尻の辺りにあると思えた。

そう思うと同時に、男の腕を掴んだ。
「おい、あんた今痴漢行為したろ」
そう言うと、男は明らかに動揺した。
「な、何を言ってるんだ君は。そんな事するはず無いだろ」
その騒ぎは満員電車なので、当然すぐ大きくなってくる。
「言い訳は後でいい。紺野さん大丈夫?」
「はい・・・、ありがとうございます」
少し涙目だが、笑顔で言ってくれた。

駅に着くと、僕は男を引っぱり出した。
「いい加減にしろ!私は何もやってないといってるだろう!!」
「しらばっくれんな!さっさと来い!」
駅員室に連れていこうと、力を込めて引っ張っていると、
「クソガキがー!!」

ガツッ!!

捕まえている左腕の反対、つまり空いている右で僕は殴られた。

「ぐあ!」
殴られた反動で手を離してしまった。
すると男は走って逃げようとすると、その先には紺野さんがいた。

「ガキが、どけー!!」
殴ろうと拳を握っている。
「紺野さん、逃げるんだ!」
僕は叫んだ。

「・・・ゆるさない」
呟くと、紺野さんはある構えを見せた。
そして、
「チェストー!!」
男が殴りかかる寸前に、紺野さんは男の腹に1発拳を入れた。

「ぐ!」
あまりに苦しいのだろう、男は声もあまり出ない。

騒ぎを聞いて駆けつけた駅員によって男は連れて行かれた。

「大丈夫ですか?」
ボー然としている僕の所へ、紺野さんがやってきた。
「え?あ、うん大丈夫。でも」
「?」
「紺野さん、強いんだね」
「あ・・・」
恥ずかしいのだろう、顔が赤い。
「何かやってたの?」
「あ、えっと・・・、空手を少々」
通りで強いはずだ。

「でも僕格好悪いよな。殴られた上に逃げられかけてるし」
「そ、そんなこと、ないですよ」
「え?」
「だって・・・、私が痴漢にあって、あなたがそれを止めてくれた時、
とても格好良かったです」
顔を赤くしながらそう言ってくれた。
「あ、ありがとう・・・」
嬉しいやら恥ずかしいやら。

『2番線電車が到着いたします』
アナウンスが聞こえた。
「と、とりあえず学校行こうか」
「・・・はい」
僕たちは電車に飛び乗った。

いつもと変わらないはずなのに、いつもと違った。

それは、僕と紺野さんが手を繋いでいたから・・・。

〜エンド〜