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名無し募集中。。。 投稿日:2002/02/23(土) 20:54
「ん…んんんーー」
いつの間にか寝ていてしまったらしい。俺はグッと伸びをした。
しかし高校ともなると自習時間に真面目に課題をやるヤツはごく少数だ。大抵が騒ぐか、俺のように寝ているのが現実だ。
「あれ?」
そこはいつもの見慣れた教室ではなかった。かといって美術室でも理科室でも、勿論体育館でもない。あ、それから保健室でもない。俺は仮病は使わない。えらいから。
会議室?まさかねぇ。会議室は放課後自習室として開放されているのだが、今はまだ昼前だ。
「どこだここ?」
と、その時女の声がした。ここは男子校。オンナといっても数人のババア先生しかいない。
「女子高生でも来てんのかな?」
と、言った俺の声に女の声がシンクロした。女子高生が男子校に来て『女子高生でも来てんのかな?』なんて言うか?
異変に感じた俺は、改めて部屋を見回した。何処だここ?全く見覚えがない。
意識的に腕時計を見たとき、おれはパニックに陥った。
時計をしていない!それだけじゃない。ガクランを来ていたはずの俺の腕は、薄い色のドレスの様な袖に通されていた。
「ああ?」
その時気がついた。俺の声だったんだ。さっきの女のような声は。
「風邪でも引いたかな?」
そんなことより今の格好だ。視線を下に落とすと、やはりだ、どう見てもガクランじゃない。「え?あ?うあ?い?」
混乱状態の俺は、司会の隅に鏡を見つけ、近づいた。
「――――なんじゃこりゃあ」
どっかの刑事が殉職した時みたいな声をあげたが、ムリは無いという物。
そこに移ってるのは俺じゃなかった。女だった。
それも良く知った女だ。
クラスで、
「モームスで誰が1番好き?」
と聞かれたら必ずこの女の名を答えている。――吉澤ひとみだった。
右手を挙げてみた。鏡の中の吉澤ひとみは左手を挙げている。
口を開けて見た。彼女も口を開けた。
その場でツイストを踊ってみた。彼女も踊った。
握り拳を股間の前で前後に動かしてみた。彼女も同行為を行う。
――いたずらでもこんな恥ずかしいことしないよな。
第1、芸能人でもなく、なんの接点もない、せいぜい同じ埼玉県民という俺にこんなイタズラする訳がない。
両手で顔にさわってみても間違いなかった。「どうなってるんだ」
と言う声は、TVやラジオで聴く彼女の声そのものだった。
「よっすぃー!」
反射的に振り向くと、ドアを開け、矢口真里が立っていた。
「なにんしてんのよ?もう本番始まるよ」
彼女は、どう見ても俺に向かって言っていた。
「オレっすか?」
「そーよ。なにオレとか言ってんの、早くね!」
とだけ言うと、すぐに行ってしまった。
しばらくの間オレはポカンとしていた。
我に返ったのは、再びドアが開いたときだ。今度は、
「忘れた。忘れた」
後藤真希は、そう言うと、なにやら荷物をゴソゴソし始めた。それをポカンと見つめていると、
「よっすぃどうしたの?一緒にいこ!」
「え」
彼女は、とまどう俺の手を取った。
「早くいこ」
異変には当然気が付いていない。俺は、なすすべもなく、彼女に手を引かれていった。どうしよう…。
俺はトイレに座って悩んでいた。
地獄に仏とはこのことか、機械の不具合で撮影が延び、早めの昼休憩になったのだ。
男子トイレに入ろうとした自分に気が付き、少々テレながら女子トイレに入り、今にいたる。
「どうなってんの?」
あれ?何だ今のは。
いまよっすぃーの声がした気がする。っていま俺がよっすぃーなんだが、俺は声を発していない。
「今の何?」
と、声に出してみる。
「こっちが聞きたいわよ」
お?もしかしてこれは――
「もしかして…吉澤ひとみさんですか?」
『あたりまえじゃない。あんた誰?』
「名乗るほどのもんじゃないです」つまりだ。吉澤ひとみの体の中に、本人と俺と両方の意志が入っちゃってるわけだ。
その後の会話で、なんとか、実際他人にも聞こえるのは、俺が発した言葉だけ、俺の声は実際にじゃべらないと、よっすぃーには聞こえない、体を動かすなどの動作は俺の感覚、5感中視覚・聴覚は共有、味覚・臭覚・感覚などは俺のみということが判った。
『どうしてこんなことになってんの?』
そんなの俺の方が聞きたい。
「さあ」
『さあって…男でしょ!』
「関係ない気がするんですけど…」
『ともかく…早く出て、何時までもトイレ入ってるわけにも行かないでしょ』
「でも」
『いいから。私が言うようにじゃべりなさいよ』
「はい」
――たっくもう。さっき言ったように心の中までは聞こえていないようだから、口に出さずに愚痴った。「あ」
個室を出ると、目の前にいたのは石川梨華だった。
「よっすぃー何ぶつぶつ言ってたの?」
「べ、別に…」
「今日のよっすぃー何か変だよ」
「んなことないよ」
『もっと自然に』
んなこと言ったって…。
「なんか悩み事?」
出た。すぐそう言う話に持っていく女っているんだよな。石川なんかもろそのタイプだと思ってたけど。
「何でもねーから」
『もうちょっと女の子っぽくじゃべりなさいよ』
もう、頭の中でうるさくすんじゃねえ!
「よっすぃー?」
「うるせえな!ほっとけっつてんだろ!!」
あ、やばい!非常にヤバイ!!
「よっすぃー…なんで…あたしただ…」
今にも泣き出しそうだ。俺の頭の中でパトランプが点灯した。
『ちょっとなにやってんのよ!!』
「す…すいません!」
俺は慌ててトイレから飛び出した。(どうしたらいんだ…)
俺の今の状況を端的に説明すると以下になる。俺の隣には辻加護が座り、後ろにはなっちが座り、前には新メンと後藤が座っている。そしてその隣には石橋貴明…。
もうお分かりだろう。うたばんの収録だ…。
さっき新メン&辻加護以外が遅れてくるという訳の分からない画を録り、今に至る。
『ちょっと!私の言うように喋りなさいよ!』
と、よっすぃの声が聞こえた。
わかってるようっせえな!
と口に出そうなのを辛うじてこらえた。
最初からうたばんパワー炸裂で、保田大明神だの、人形だの、今回は又一段とすごい。
俺は普通に爆笑を続けていたので、その間よっすぃも口出しはしてこなかった。
その後、108体の(最初割れた4体は含むのだろうか?)保田人形が現れた。ここまで来ると爽快とも思える。「これかわいー!」
という声のした方を向くと、後藤が1つの人形を指さしている。その時気が付いた。俺
ってかなり美味しい状況にいる。吉澤なら多少男っぽさが出ても、怪しまれないだろう。
現在コンサート中のはずだから、宿泊先で、後藤や矢口なんかをたべちゃうこともでき
ちゃったりすんのか!?え?どうなのよ奥さん!?
まあ、ずっとこのままの状態だったらの話だけどね…
「宛先はこちら」
あ?なんだ?
我に返ると、保田人形プレゼントの話になっていた。もっともジョークだったが…
あれ?なんだよ?なんで俺にカメラがむいてるんだよ!?
「よっしー?おい?」
石橋がなんかせかしてきやがる。言い忘れたが、俺は部活が忙しく、うたばんは勿論、
ほとんど娘。関係のテレビを見ていない。よって後で知った。「い〜な〜!」ってやつも知らなかったのだ。
(なんだよ?おい!吉澤!何か言えよ!)
さっきからよっすぃは黙っていてなんにも助言を出してこない。ったく肝心なときに。
(どうしよう…)
正味10秒くらい考えていただろうか、このままじゃ放送事故になっちまう…
しかたない!
(これでもくらえ!)
俺は得意のウインクを2連発した。過去に女を落としたこともあるヤツだ。
爆笑を誘い、石橋もなんかニヤニヤしながら座った。
――セーフ!「ふーーーーっ!」
なんとかトークを取り終えた俺は、いち早く楽屋に戻り、息をついた。
なんでも、歌の方は別日に録ってあるので、今日はトークだけとのこと。
助かった――いくら何でも歌となるとまずいからな。
「よっすぃ!」
さっきからよっすぃの声が聞こえない。うたばんでは何とか窮地を乗り越えた物の、こ
の先助言無しではやばいぞ…。
「ねってば!」
と、突然後ろから抱きすくめられた俺は、とっさに相手を流し、投げ伏せた。格闘技な
らお手の物だ…。
まちがいに気が付いたときは、目の前に後藤が尻をさすりながら顔をしかめているのが
目に入ってからだった。
(やっべ!何やってんだ俺!)
「も〜よっすぃーなにすんのさ〜」
そういう後藤の声は半分泣いているみたいで、目にもちょっと涙がたまっている。
「ご、ごめん!」
「ん〜〜。さっきは女の子っぽくて可愛かったのに、急に男らしくなるんだから…」
後藤はぶつぶつ言いながら、立ち上がり、
「でも、そんなよしこ好きだよ」
と言い、チュっと頬に口を付けてきた。(マジで?)
マジでか!?こんなことホントにしちゃってんのか?!え?こいつらは。考えてみると、
後藤真希にキスされるなんてすごいことしてる気がする。
「よっすぃ?どうしたのさ?キスくらいいつもしてんじゃん」
いつもだあ?ってことは、さっきは冗談半分に思っていた食べちゃうなんてことも…
1人でニヤニヤしている俺を、いぶかしげな表情で後藤がのぞき込んでいた。
「は〜い!みんな移動だよ〜!!」
飯田がパンパンと手を鳴らしていった。
次?今度は何だ?
「次ってなんだっけ?」
と、俺は後藤に聞いた。
「日テレだよ。FANのトーク収録」
またかよ!まあ幸いにもトークだけだったら何とかなるかな…移動中は俺を含む、何人かも眠っていたので、幸いなにもなく過ぎた。
時間がぎりぎりだったらしく、すぐにカメラの入った部屋に通された。しかしそこはス
タジオではない。俺は困惑していたが、
「はい。これお願いしま〜す」
と、変なフリップと、紙を渡された。なんでも「モーニング娘。期末テスト」なんてく
だらない企画らしい。
「期末ってまだ2月始めなのにね」
と、言うと、
「オンエアは3月だから」とのこと。
ああ、そうか、テレビだもんな。
まあいいか。なになに?
『料理のさしすせそとは?』
『次の地図記号は何か?』
などだ。その他も、屁が出るような簡単な問題。
「なめんなよ」
俺はすべての問題を2〜3分でスラスラと解き、ボケーとしていた。
『ちょっとなにやってんのよ!』
ん?なんだ?ああやっとか…。
「なんだよ?」
『何満点答案つくってんのよ?』
「いくらなんでも高校生には簡単すぎるぞコレ」
『そーじゃなくって!私は最近バカキャラで通ってんだから!』
「ああ?」
『赤点にしなさいよ!』
「なんで?」
『いいから!早く!梨華ちゃんが見てるじゃない!』
言葉の通り、石川が俺の答案をのぞき込んでいる。「よっすぃーすごーい!もう終わったの?」
「え?いや…」
ったくめんどくせー。俺は石川を無視して、解答を直そうとしたが、マジックで書いて
るので、どうしたもんだか。
「しゃあねえか」
余白が多く残っているフリップの解答を塗りつぶし、適当な言葉をならべた。
「え〜次は」
『キリンの首は何故長いか自分で考えて〜』
「んなもん、高いトコの葉を食うために進化したに決まってんだろ」
『そんなんじゃだめ!』
「あ?」
『古代エジプトの…』
「なんだそれ意味わかんねー」
『いいから言ったとおりに書きなさいって!』
「はいはい」
頭の中で吉澤が言うように解答を並べた。ふと視線に気が付き、顔を上げると、まだ石
川がのぞき込んでいやがった。
「何?」
「よっすぃーさっきからなに1人でブツブツ言ってるの?」
「気にすんな」
『ちょっと!言葉使い気を付けなさいよ!』
「うるせえな!」
あ…やば!
全員が突然声を上げた俺の方を見ていた。そりゃそうだわな。
「いや…あの…その…どうも失礼をば…」
――嫌な沈黙
「きゃははは!どうしたのさよっすぃー!」
矢口の笑い声で(といか奇声)なんとかごまかすことが出来た。
――セーフだ。「どうだ?完璧だろ?」
『すっごい!信じられない!!』
俺は、額に付いた汗を腕で拭うと、ペットボトルの水をラッパ飲みした。
――現在午前4時。夜明けまであと数時間。
もし、その先なかなか元に戻れなかったらの為、娘。の主要曲の振り付けを練習していたのだ。
幸運なことに、今日の仕事は、FANの収録で終わり、午後3時半頃に、解散となった。吉澤に言われ、レッスン場にて、ビデオ見ながら、ひたすら練習していたのだ。
不眠不休。およそ12時間。
『すごいよ!なんでそんな覚えるの早いの?』
「運動神経は鋭い方だからな。軽いもんさ」
当分の間、ライブでやる曲の振りは、完全にマスターした。
「しかし…さすがに疲れた…明日っつーか今日か…何時集合だ?」
『え〜とね…8時。だから…7時にはここでないと』
「3時間しかねぇのかよ…しゃあねえな。ちょっと寝るな」
『――ごめんね。私の為に』
「気持ち悪いこと言うなよ」
『何よ!』
「だって、お前すごかったぞ、練習中。バカだとか、早くしろとか」
『だってぇ…』
「ま、いいから。寝るぞ」
俺は、その場に横になると、ものの1分としないうちに眠りに落ちた。「ちくしょう…眠い…」
目が覚めても、思考回路合体は解けず、俺は眠い目をこすりながら、レッスン場からでようとした。
『ちょっと待って!』
「何だよ?」
『そんな格好でいく気?髪直して、少しメイクして服着替えてから!』
「女ってのはめんどくせえんだな」
俺は、言われるままに、脱ごうとした。
『見ないでよ!』
ったく無茶苦茶を言う。俺は、目をつぶり、服を脱ぐと、手探りでシャワールームへ向かった。
「あっちゃ!」
何と呼ぶのだろうか、シャワーの根本の部分に触ってしまい、思わず目を開けた。
2つの膨らみが視界の下部にあった。
「けっこうでかいんだな…」
『バカ!見るな!!』
「んなこといったって」
俺は、極力見ないようにし、シャワーを浴びた。
――しっかし変な気分だ。いつもより胸部が重いし、股ぐらはスースーする。
『エッチなこと考えてないでしょうね?』
「考えてない、考えてない」
俺は、寝ぼけなまこなため、かなり美味しい状況だと言うことも忘れ、機械的に、髪やメイクを直し、1時間後には、集合場所のロケバスへ向かっていた。「なあ」
『何?』
「俺が寝ちまうと、お前の意識はどうなるんだ?」
『私が寝ない限り、意識はある。耳も聞こえてるけど』
「じゃあ、俺寝るから、着いたら起こして」
ここは、電車内。集合場所のバスがあるところまで、この線で一本だ。
比較的空いていたため、席の端に腰を下ろしていた。
うつら、うつらしていると、不意に肩を揺り動かされた。
――なんだよ、畜生!
12時間運動の後、3時間も寝てないってのに…
俺が目を開けると、見知らぬおばさん、しかも化粧が濃くてプンプン臭う、オバタリアンとしか言い様のない代物(?)だ。
「何か?」
「あんた、テレビ出てるでしょ?!テレビ!なんかみたことあるもん。ちょっと!誰だか知らないけど、サインしなさいよ」
断っておくと、この時俺は、寝ぼけ眼で、吉澤との合体を完全に忘れていた。
俺の本物の体の顔は、某タレントに似ているとよく言われ、サインを求められたこともある。よって俺のその後の対処は正しかったと言える。
つまりだ、俺の安眠を馬鹿な理由で妨げ、されに失礼極まりない態度。
そのおばはんおれの左ストレートを、顔面にくらい、のびてしまった…。